特許法上の発明に該当するか争われました。知財高裁は発明でないとした審決を維持しました。
本願発明は,前記1(2)のとおり,1)省エネ行動をリストアップして箇条書にし
た表などを利用する者が,各省エネ行動によってどれくらいの電力量等を節約でき\nるのかを一見して把握することが難しいことや,どの省エネ行動を優先的に行うべ
きかを把握することが難しいことを「前提とする技術的課題」とし,2)「建物内の
場所名と,軸方向の長さでその場所での単位時間当たりの電力消費量とを表した第\n三場所軸」,「時刻を目盛に入れた時間を表す第三時間軸」及び「省エネ行動により\n節約可能な単位時間当たりの電力量を第三場所軸方向の軸方向の長さ,省エネ行動\nの継続時間を第三時間軸の軸方向の長さとする第三省エネ行動識別領域」を設けた
「省エネ行動シート」において,「該当する第三省エネ行動識別領域に示される省
エネ行動を取ることで節約できる概略電力量(省エネ行動により節約可能な単位時\n間当たりの電力量と省エネ行動の継続時間との積算値である面積によって把握可能\nな電力量)を示すこと」を「課題を解決するための技術的手段の構成」として採用\nすることにより,3)利用者が,省エネ行動を取るべき時間と場所を一見して把握す
ることが可能になり,かつ,各省エネ行動を取ることにより節約できる概略電力量\n等を把握することが可能になるという「技術的手段の構\成から導かれる効果」を奏
するものである。
そうすると,本願発明の技術的意義は,「省エネ行動シート」という媒体に表示\nされた,文字として認識される「第三省エネ行動識別領域に示される省エネ行動」
と,面積として認識される「省エネ行動を取ることで節約できる概略電力量」を利
用者である人に提示することによって,当該人が,取るべき省エネ行動と節約でき
る概略電力量等を把握するという,専ら人の精神活動そのものに向けられたもので
あるということができる。
なお,本願発明においては,上記のとおり,媒体として「省エネ行動シート」を
構成として含むものであるが,本願明細書の【0065】には,「以上の省エネ行\n動シート作成装置により出力された省エネ行動シートのデータは,プリンタ装置に
対してデータ出力して印刷された状態で取り出すことも可能であるし,ディスプレ\nイ装置に対してデータ出力して画面上に表示させることも可能\である。また,記録
媒体に記録したり,通信装置を利用してネットワーク上の他の装置にデータ送信し
たりすることも可能である。」と記載されているように,「省エネ行動シート」とい\nう媒体自体の種類や構成を特定又は限定していないから,本願発明の技術的意義は,\n「省エネ行動シート」という「媒体」自体に向けられたものとはいえない。
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ア 原告は,自然法則の利用があるかどうかは,発明の作用,効果ではなく,特
許請求の範囲の請求項に記載された構成要件自体(発明特定事項)が自然法則に従\nう要素であるか否かによって判断すべきであり,本願発明においては,シートは典
型的には紙であり,領域や領域名は典型的にはインクによって構成されており,請\n求項には,紙とインクという自然物によって線画を所定位置に配置するという工夫
のみが記載され,本願発明の構成要件のいずれにも精神活動等である構\成要件は含
まれていないから,本願発明が自然法則を利用した技術的思想の創作に該当しない
ということはできない旨主張する。
しかし,前記(1)のとおり,特許を受けようとする発明が,自然法則を利用した
技術的思想の創作に該当するか否かの判断は,前提とする技術的課題,課題を解決
するための技術的手段の構成及び技術的手段の構\成から導かれる効果等の技術的意
義に照らし,全体として考察した結果,「自然法則を利用した技術的思想の創作」
に該当するといえるか否かによって判断すべきものである。そして,明細書の「発
明の詳細な説明」の記載に関して,特許法36条4項1号が,「発明が解決しよう
とする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術分野における通常の知
識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」(特許法施行規
則第24条の2)により「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有す
る者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるこ\nと」と定めていることからすれば,特許を受けようとする発明の技術上の意義の把
握は,同法36条5項が定める特許請求の範囲の請求項に記載された発明の発明特
定事項(構成要件)だけではなく,明細書の発明の詳細な説明をも参酌すべきであ\nる。
◆判決本文