発明該当性違反および実施可能要件違反として拒絶審決がなされました。知財高裁も同様の判断です。本人出願および本人訴訟です。\n
(1) 原告は、本願発明は、エネルギー保存の法則に反するものの、そもそも
同法則や作用・反作用の法則のような「古典力学」には欠陥があり、本願発
明はそのような古典力学以外の自然法則に従っている旨主張する。
しかし、本願発明に関して本願明細書で説明されている、リニアモーター
カーを等加速度運動させた際、空気抵抗がない等の理想状態であれば、運転
開始からt秒後の消費エネルギーE1が時刻tの一次関数となること(前記
第2の2(2)イ(イ)、(ウ))は、何ら立証されていない。原告が提出する甲2
によっても、「無反動推進機の試作品」なるものが動作する(前進する)こ
とが判明するのみで、その消費電力や運動エネルギーの状況は全く分からず、
上記の古典力学以外の自然法則を証明するものとは到底いえない。
(2) かえって、本願明細書によれば、本願発明は、定格運転角速度からの減
速の際に余剰エネルギーを回収することによって発電するものであり(上記
第2の2(2)イ(カ)〜(ケ))、その原理は、定格運転速度で運動エネルギーが
「損失+発電機出力分消費エネルギー」よりも大きくなるという事象に基づ
くものである(上記第2の2(2)イ(オ))。この事象は、(単位時間当たり
の)消費電力が一定で一方向力Fを発生させることを前提としているが(上
記第2の2(2)イ(ア))、これについては本願明細書【0003】(上記第
2の2(2)イ(イ))に記載のように、
F:リニアモーターがレールに対して発生させる力
m:リニアモーターカーの車体重量
a:リニアモーターカーの加速度
とすると
F=ma
であるから、力Fが一定であれば加速度aも一定となるため、リニアモーターカーは運転開始時刻t=0から等加速度運動を始める。この場合の変位xは
x=1/2at²
と表される(乙18の21頁)。そして、運転開始からの消費電力(消費エ\nネルギー)E1は物体がされた仕事Wに等しいから、
E1=W=Fx=(ma)×(1/2at²)=1/2ma²t²
と表され(乙18の78頁)、一定の力Fを発生させるには、運転開始から\nの消費電力(消費エネルギー)E1を時間tの二次関数に従って増加させる
必要がある。したがって、(単位時間当たりの)消費電力が一定で一方向力
Fを発生させるという前提に誤りがあることは明らかである。
以上のとおり、本願発明はエネルギー保存の法則に反するものであるから、
特許法2条1項でいう「自然法則を利用した」ものではなく、特許法29条
1項柱書に規定される「発明」に該当しない。
(3) よって、発明該当性を否定した本件審決に判断の誤りはなく、原告主張
の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(実施可能要件についての判断の誤り)について\n
上記1のとおり、本願発明は、自然法則に反するものであるから、当業者が
本願発明を実施できないことは明らかである。したがって、本願明細書の発明
の詳細な説明の記載は特許法36条4項1号の実施可能要件を欠く。\n
◆判決本文
2024.02. 9
「患者保有分項目を設けた処方 箋と患者保有の医薬品を含めた投与日数算定の一方式」について、人為的取り決めであるので発明該当性なしとした審決が維持されました。
前記(2)のとおり、本願発明は、患者が医師の診察を受ける際に、前回処方
された医薬品が患者の元に残っている場合であっても、医師がこれを考慮す
ることなく、診察の日を起算日として医薬品の投与期間を定めて処方をして
いたことを課題として、これを解決するため、処方箋に「患者保有分」の項
目、すなわち患者が保有している医薬品に関して記載する項目を設け、既に
患者が保有している医薬品に相当する分を除いた投与期間を算定する方法の
発明であって、これによって、重複処方を防止する効果が得られるとされる
ものである。
しかしながら、本願発明のうち、「処方箋」の記載事項は、医師法施行規則
21条で規定されているから、「分量、用法、用量」の記載は法令に基づく規
定、すなわち人為的な取決めと解され、したがって、「分量、用法、用量」と
して記載される「投与日数」も人為的な取決めであり、本願発明において、
処方箋に「投与日数」として「患者保有分」の項目を設けることもまた、処
方箋に医師が記載する事項を定めた人為的な取決めにすぎず、自然法則を利
用したものであるとはいえない。
また、本願発明は、患者が保有している医薬品に相当する分を除いた投与
期間を算定する方法として、パターン1及びパターン2に分け、さらにパタ
ーン1についてイ、ロa・b・c、パターン2についてイa・b・c、ロa・
b・cにそれぞれ分けて、算定方法を具体化しているが、いずれの算定方法
も、医師が患者に対して医薬品を処方し、投与する際の投与期間の算定の方
法を定めた人為的取決めであって、自然法則を利用したものであるとはいえ
ない。
以上によれば、本願発明は、全体として人為的な取決めであって、自然法
則を利用したものとはいえないから、特許法2条1項にいう「発明」には該
当しない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)ないし(4)のとおり、本願発明は、
人為的な取り決めではなく、自然法則を利用したものであると主張する。
しかし、原告が指摘する内容のうち、医薬品の重複なく投与日数と服用
日数が一致することが継続することで自然法則が成り立つとの点は、本願
発明による投与期間の算定を行うことによる結果を述べているにすぎず、
投与期間の算定方法自体が人為的な取決めであって自然法則を利用した
ものではないとの結論を左右しない。
また、1年が365日であることについても、これが自然法則に該当す
るか否かの問題を措くとしても、本願発明は1年が365日であることを
前提に医薬品の投与日数の算定方法を決めたというにすぎず、1年が36
5日であることを利用して何らかの技術的手段を示したものとはいえな
いから、これによって、本願発明が自然法則を利用したものと解すること
はできない。
さらに、電子処方箋の時代を想定して、本願発明の算定方法をPC用プ
ログラムにして医師のパソコンに取り込んで医薬品及び受診予\約日を入
力すれば自動で処方箋が完成するとの点については、そもそも本願明細書
等には「処方箋」が「電子処方箋」であることについての記載も示唆も一
切ないし、「PC用プログラム」に関する記載も示唆も一切ないから、「電
子処方箋」及び「PC用プログラム」に関する原告の主張は本願発明と関
係がないというべきである。
最後に、本願発明の場合分けによれば医師の判断が入る余地がないとの
点についても、人為的な取決めである本願発明を結果として医師の判断部
分が減少するというにすぎず、この主張によって、本願発明が自然法則を
利用したものであると解すべき理由にはならない。
イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(2)及び(4)のとおり、本願発明が画
期的なものであるから特許として認められるべきであると主張する。
しかし、ある発明が画期的であることによって当該発明が自然法則を利
用したものと解されることにはならず、特許法2条1項の「発明」に該当
するとの結論が導かれることはない。
◆判決本文