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新規性・進歩性 > 0030 新規性

知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

0030 新規性

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和3(ネ)10086 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年4月25日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 パナソニックの知財信託会社による侵害訴訟の控訴審判決です。1審は技術的範囲外または新規性なしとして権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。該当特許は7件あり、判決文は400頁を超えます。

イ 上記各認定事実を総合的に考慮すると、402W製品は、遅くとも被控訴人 からカナデンに納品された平成24年4月17日頃には、同社に譲渡されたことに よりその構造が解析可能\な状態に至ったものと認められる。 これに対し、控訴人パナソニックは、上記アの認定事実を認めるに足りる証拠が\nないことを指摘すると共に、仮に平成24年4月17日頃に被控訴人からカナデン に対して402W製品が納品されたとしても、被控訴人とカナデンとの間に秘密を 保持することが暗黙のうちに求められていたため、公然実施されたとはいえないな どと主張する。
しかし、本件申請書は、その書面の体裁等に鑑みると、被控訴人において内部的\nに定形化された書式に基づき作成されたものと見られ、日常的な業務の一環として 作成されたものであることがうかがわれる。また、その記載内容並びに「申請者印」\n欄及び「完了印」欄の押印は、平成24年4月16日付け「見本品引取書」(乙7 8)及び同月17日付け「判取票」(乙88)の記載又は押印と一致ないし整合す ることから、本件申請書の作成日は、上記認定のとおり、同年2月10日と認めら\nれる(なお、同様の理由及び筆跡の字体そのものから、判取票の作成日付は、同年 9月17日ではなく同年4月17日であることも認められる。)。また、上記「判 取票」は、カナデン担当者(乙148)の姓と同一の印影が存在することから、平 成24年4月17日に同社に402W製品が納品されたことを裏付けるものといえ る。
また、本件申請書には、「処理方法」の「渡し切りサンプル(点灯試験・分解テ\nスト)」欄にチェックがされているものの、カナデンは、電気工事業等の建設業許 可を得ている事業会社であり(乙76)、また、被控訴人による402W製品の商 品開発に共同研究その他の形で関与していたことをうかがわせる事情も見当たらな いこと、本件チラシ及び本件カタログの記載からは、カナデンに納品された平成2 4年4月頃又はこれに極めて近接した時点で、402W製品は既に一般向けに販売 されていたことがうかがわれることによると、カナデンに対する402W製品の納 品が、その構成等につき同社に守秘義務を負わせることを前提として行われたもの\nであるとは考え難い。その他控訴人パナソニックが主張する点を考慮しても、この点に関する控訴人パナソ\ニックの主張は採用できない。
ウ 小括
以上によると、402W発明は、本件原出願日2より前に日本国内において公然 実施された発明といえる。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)1390

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令和5(行ケ)10034  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月27日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。知財高裁は、新規性違反、冒認出願違反であると判断しました。

(2) 甲53の1文書について
ア 甲53の1文書は、ベルベット織りの立毛シートの製造工程を示すものとし て交付されたものであり、別紙2のとおり、「「生機投入」→「スチームセット」→ 「ドライセット」→「糊抜き」→「脱水」→「染色」→「脱水」→「乾燥(ブラシ)」 →「ブラシ※ブイテック様」」との工程が記載されている。
イ 「生機投入」の部分により、製織工程と切断工程が開示されているといえる かという点について争いがあるので検討するに、「生機」とは「織り上げて織機から はずしたままの織物」を意味するところ(甲114・大辞林第四版)、ベルベット織 りの織り機は、織ると同時に切断も行うことから一度に2枚分が織り上がるもので あって、「織り機からはずしたままの織物」は、切断後の織物であると認められるか ら(甲40、112)、「生機投入」との記載から、甲53の1文書を受領した当業 者は、当然に、製織工程と切断工程を経た生機が投入されると理解すると認めるの が相当である。そして、甲53の1文書の「生機投入」の使用機器欄に記載された 「ZQ40 4mm」はパイル長4mmのポリエステル製パフ用の立毛シートの生 機の品番を意味するものと認められ(証人C〔28頁〕)、ポリエステルは熱可塑性 繊維であるから(本件明細書【0020】等)、甲53の1文書の「生機投入」工程 の記載により、本件各発明の製織工程と切断工程が開示されていると認められる。
ウ そして、甲53の1文書の「スチームセット」は本件各発明の「蒸し工程」 に、「ドライセット」は本件各発明の「プレセット工程」に、「糊抜き」は本件各発 明の「精練工程」にそれぞれ相当する(証人A〔5〕)。また、「染色」は本件各発明の「染色工程」に相当し、「染色」の次に記載された「脱水」は、真空脱水とあるか ら脱水機を用いたものであることが明らかであって、本件各発明の「脱水機により 前記染料を脱水する脱水工程」に相当する。さらに、「乾燥(ブラシ)」はドライセ ッターで150゜C)で乾燥させるものであるから、本件各発明の「前記立毛シートを 熱風で乾燥させる乾燥工程」に相当する。なお、特許請求の範囲の記載及び本件明 細書の記載を総合しても、本件発明1の乾燥工程から、ブラシを用いるものが除外 されているとは認められない。
エ そうすると、甲53の1文書に記載された工程は、本件発明1を構成する工\n程を全て含むものであるから、本件発明1を開示するものといえる。 オ この点、被告は、甲53の1文書記載の工程では、精練工程の後に脱水をし ていること、タンブラー乾燥をしていないこと、使用液剤に酸性の液剤が含まれて いないこと等から、本件各発明とは異なると主張する。しかしながら、本件発明1 の特許請求の範囲の記載に照らすと、請求項1に記載された工程を全て含む必要が あるとはいえるものの、同工程のみを含むものに限定されており、別の工程が付加 されたものが除外されているものと理解することはできない。そして、本件明細書 の記載に照らしても、本件発明1は、請求項1に記載された工程のみを含むものに 限定されていると理解することはできない。そうすると、「精練工程の後に脱水」を していることをもって本件各発明とは異なるということはできない。また、タンブ ラー乾燥は本件発明3を構成する要素ではあるものの、本件発明1を構\成するもの ではない(なお、前記2(5)(8)のとおり、タンブラーを利用した乾燥工程は、平成 18年頃から新栄染色で行われていたものと認められるが、当時、当該乾燥工程の 存在及び内容が秘密事項として管理されていたことをうがわせるような主張立証は ない。そもそも、甲12(パイル織編物の仕上げ方法に関する公開特許公報(昭6 2−191566号))中にもパイル織物の染色加工後、タンブラー乾燥機で乾燥す る旨の記載があることにも照らすと、本件各発明の出願時において、少なくとも、 熱可塑性繊維のパイル織物についてタンブラーを利用して乾燥する工程自体は公知 であったと考えられる。)。さらに、酸性の液剤を使用することは本件各発明の技術 的範囲に含まれるものではなく、その他の被告の指摘する事項はいずれも本件各発 明を構成する事項ではない。したがって、上記被告の主張はいずれも前記エの判断\nを左右するものではない。 被告は、甲53の1文書の工程は開発途中のものであって技術として確立してい なかったとも主張するが、前記2(9)のとおり、同工程は、平成23年10月頃、新 栄染色において、現に商品の製造に用いられていた工程なのであるから、これが発 明に当たるとすれば、発明として完成していたのは明白である。
(3) 甲2文書について
甲2文書は、前記2(11)のとおり、ベルベット織りによる立毛シートの製造工程 を示すものとして交付されたものであり、別紙3のとおり、「織り」→「蒸しセット」→「PS」→「精練」→「染色」→「乾燥」の各工程が記載されたものである。甲 2文書に記載された工程について前記(2)と同様に検討すると、甲53の1文書に 記載された工程と同じであり、本件発明1を開示するものであると認められる。な お、「織り」が製織工程と切断工程を含むことについては前記(2)イと同様であり、 「PS」はプレセットを意味するものと認められる(証人A〔34頁〕)。また、甲 2文書の工程には「乾燥」の前の「脱水」が記載されていないものの、乾燥する前 に脱水を行うことは当然であるから、当業者は、甲2文書により、脱水工程を含む ものが開示されているものと理解すると認められる。
(4) 小括
そうすると、本件発明1は、平成23年10月頃には公然知られていたと認めら れるから、本件発明1に係る特許は特許法29条1項1号の規定に違反してされた ものであって、特許法123条1項2号の無効理由がある。 したがって、甲2生産工程(甲2文書に記載された工程であり、かつ甲53の1 文書に記載された工程)が公然知られたものとはいえず、本件発明1が特許法29 条1項1号に該当しないとする本件審決の判断には誤りがあるから、取消しを免れ ない。
4 取消事由4(冒認出願についての判断の誤り)について
(1) 冒認出願を理由として無効審判請求をすることができるのは特許を受ける権 利を有する者に限られるから(特許法123条2項、1項6号)、原告は、自らが特 許を受ける権利を有する者であることを証明する必要がある。そして、原告が主張 する本件各発明に係る特許を受ける権利は、Bが発明者として有していた本件各発 明に係る特許を受ける権利に由来するものであるから、原告が特許を受ける権利を 有する者であるといえるためには、Bが本件各発明の発明者であると認められる必 要がある。
(2) ここで、発明者とは、発明の技術的思想の創作行為に現実に加担したもので あって、課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与した者をいう ところ、前記1(2)によると、本件各発明の特徴的部分は、蒸し工程と乾燥工程の双 方を用いることにより、高い立毛性を得ることにあり、本件発明3については、こ れに加えて、タンブラーを使用することでブラッシング付き乾燥機を要しないもの となったことにあると認められる。
(3) 前記2(9)及び前記3(2)のとおり、本件発明1は平成23年10月までに完 成していたということができる。前記2の経緯及びAが、新栄染色のAとして作成 した平成21年7月1日付け文書(甲128の3)に、「現況のB流を60点とする と80点迄は持っていける」と記載していたことからすると、新栄染色では、平成 21年7月当時、Bが指導した工程により染色加工が行われていたことが認められ、 これに反する証拠はない。そして、前記2のBの職歴や本件訴訟に提出されたBが 作成したメモ(甲132)、Bが、新栄染色設立以前にも昌和染色に対し染色工程を 指導するなどしていたこと(甲1の1、証人C〔29頁〕)に照らすと、Bは、立毛 シートの染色加工に関し、創意工夫を凝らして発明をするに足る十分な知見を有し\nていたことが推認されるのであり、Bが、その陳述書(甲1の1)において、昭和 40年代の後半、プレセットの前に蒸し工程をするという工程を開発した経緯等と して、株式会社杣長からポリエステルなど合成繊維のパフ用ベルベット織物(立毛 シートの半製品)の製造委託を受けたが、ポリエステルでは、シルクやレーヨンと は異なり、ピン式ヒートセッターでピン止めして吊るしてプレセットを行うとピン 付近とそれ以外の部分が不均質になるという問題があったことから、プレセット前 に蒸し工程を行い、ポリエステルを収縮させてからプレセットをしたところ、パイ ルが立毛になるという効果があったこと、蒸しは蒸し箱内にベルベット織物を垂下 させて高温水蒸気で蒸すものであり、Bが条件を90〜110゜C)、2時間と指示し て行ったこと、パイル長が2〜3mmであったことなど、開発の経緯及び内容を具 体的に陳述していることは、これと整合するものである。
また、Bは、昭和50年代から、京都において、日本化工有限会社の従業員とし てハセガワベルベットから委託を受けた染色加工工程に関与し、平成元年に有限会 社新栄テキスタイルを設立した後も、同社において被告から染色加工の委託を受け ていたこと、同年頃までにBが作成したとされるメモ(甲132の2)には、染色、 脱水後の乾燥をタンブラーで行う旨の記載があること、平成18年に、新栄染色が 設立された際、BはAからの誘いにより代表取締役に就任したこと、その頃、Bが\n京都からタンブラー乾燥機を新栄染色に持ち込んで設置したこと、新栄染色におい ても、Bは染色加工業務を担当し、被告代表者であったCに対し、染色加工の具体\n的内容を指導していたことは、前記2(3)から(6)までのとおりである。以上を総合 すると、Bは、遅くとも新栄染色を退職する平成21年3月よりも前に、本件各発 明をいずれも完成させていたものと推認するのが相当である。 なお、被告は、Bの陳述書(甲1の1)にパイル長が2〜3mmであったとある から、Bには短いパイル長のものに係る知見しかなかったと主張するが、本件各発 明の特許請求の範囲(請求項4)には「切断工程後のパイル糸の長さを、織物基布 から3〜10mmの範囲で突出させる」とあるから、パイル長が3mmのものは、 本件各発明の技術的範囲に含まれるものであり、上記被告の主張は、Bが本件各発 明をするに必要な知見を有していたとする上記判断を左右しない。
(4) これに対し、Aは、本件の審判手続における尋問では、本件各発明のキーポ イントは蒸し工程であり、蒸し工程の後にヒートセット(プレセット)を加えるこ とにたどり着いた、長い間、蒸し工程をいれないでやっていた(甲74の3・06 4項目、130項目、131項目、149項目)と述べ、本件訴訟においても、被 告は、令和5年11月8日付け被告準備書面(2)2頁においては、本件各発明をする 前の短いパイル糸のベルベットに関する新栄染色の染色工程には蒸し工程及びプレ セットが含まれておらず、長いパイル糸のベルベットを製造することができなかっ た旨主張し、それに沿う内容のAの陳述書(乙8)を提出した。ところが、被告は、 同年12月19日付け被告準備書面(3)5頁では、本件各発明をする前にも新栄染 色では長いパイル糸のベルベットの製造をしており、その工程には蒸し工程が含ま れていたがプレセットが含まれていなかったと主張を変更し、更に、令和6年1月 22日付け被告準備書面(4)では、短いパイル糸の染色工程にも蒸し工程が含まれ ていたと主張を変更し、変更後の主張に沿う内容のAの陳述書(乙11)を改めて 提出した。この主張内容及び陳述内容の変更は、発明の課題そのものや発明の必要 性、発明の創作過程に極めて大きな影響を与えるものであるから、真にAが発明者 であるのであれば、単なる記憶違いなどによって上記のごとくその内容を変遷させ るとはおよそ考え難い。なお、前記2(6)のとおり、新栄染色では当初は外注により、 遅くとも平成19年からは自社で蒸し工程を実施していたのであるから、新栄染色 が以前は「蒸し工程をしていなかった」との被告の従前の主張は事実とは認められ ない。
さらに、被告の主張によると、従前の新栄染色の染色工程においてはプレセット を行っていなかったことになるが、Aが述べる試行錯誤の内容は、プレセットにつ いては、それを行う順番を試行錯誤したというものであって、プレセットを入れる こととした理由については何ら説明をしていない。このことは、当時、既にプレセ ット工程自体は存在しており、Aは専らその工程の順番について試行錯誤していた ことをうかがわせるものである。また、Aが蒸し工程について試行錯誤した内容と して述べる条件は、「90゜C)の蒸気で、0分、30分、60分、120分」と試した というものであって、「95〜110゜C)で2〜3時間蒸す」(【0022】)という本 件明細書の記載と合致しない。Aは、本件の審判手続の尋問において、自ら発明ノ ートを作成したことはないことを前提とした発言をしているが(甲74の3・13 5項目)、これは試行錯誤を繰り返していたはずの発明者としておよそ不自然とい うほかない。
被告は、本件各発明においては乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いることが重要 である旨主張する。しかし、前記2(5)(8)のとおり、新栄染色には、平成18年頃 から既にタンブラー乾燥機が設置されており、平成23年頃にはその台数が3台に 増加していたことが認められる。Bらが作成し、平成21年8月20日に被告大阪 営業所からFAX送信されたものと認められるメモ(甲106)によっても、遅く とも同日までには、新栄染色では、乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いていたこと がうかがえる。前記2(10)のとおり、A自身が作成した平成24年1月10日付け メモ(甲100の3)にも、新栄染色に関し、タンブラー方式はコストが高いこと から平成24年中旬にテンター方式へ変更する旨の記載がある。これらの点に照ら すと、遅くとも、平成24年までには、ベルベット織物の製造分野において乾燥工 程にタンブラー乾燥機を利用することは普通に行われていたと認めるのが相当であ るから、本件各発明において創作されたものとは認められない。Aは、中和剤を用 いることで精練工程の後の脱水工程を省略し、ウィンス機で精練工程と染色工程が できるようになったと証言しているが(証人A〔6頁〕)、そもそも中和剤を用いる ことは本件各発明の特許請求の範囲に記載された事項ではなく、本件明細書には「ウ ィンス機を使用して、」「立毛シートを処理液(例えば、アルカリ剤、非イオン活性 剤)中に順次送り込んで洗浄する」(【0024】)との記載があるものの、中和剤を 用いることで脱水工程を省略することができる旨の記載はないから、結局、上記A の証言は、それが発明について述べたものだとしても、本件各発明とは関係のない 別の発明について述べるものにすぎない。Aは、小型、大型、中型のタンブラーで 試し、中型のタンブラーを用いることで目的を達成することができたとも証言して いるが(証人A〔9頁〕)、本件発明3の特許請求の範囲にはタンブラーの大きさに ついての言及はなく、本件明細書の記載を考慮しても、「タンブラー」の大きさは不 明であり、特許請求の範囲に記載された「タンブラー」が「中型のタンブラー」で あり、タンブラーの大きさが何らかの技術的意義を有するものであると解すること ができるような記載もない。
以上を総合すると、Aが染色工程につき様々な工夫をしたことがあったとしても、 いずれも本件各発明に係る特許請求の範囲の内容に含まれるものではないから、本 件各発明の発明者がAであるとの被告の主張を採用することはできない。他にBが 平成21年3月よりも前に本件各発明をいずれも完成させていた旨の前記認定を覆 すに足りる主張立証はない。
(5) したがって、本件各発明に係る発明者はBであると認めるのが相当であるか ら、本件の出願は冒認出願に当たり、本件特許には特許法123条1項6号の無効 理由がある。また、原告は、Bから特許を受ける権利の一部について譲渡を受け(甲 16)、残部はBの相続人の全員が相続放棄したことにより原告に帰属したから(甲 110、111)、本件各発明に係る特許を受ける権利を有する。 よって、本件特許について冒認出願の無効理由がないとした本件審決の判断には 誤りがある。

◆判決本文

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令和5(ネ)10026  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年1月31日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

特許権侵害訴訟の控訴審判決です。原審は、被告製品は本件発明2の技術的範囲に属さない、本件発明1は公然実施発明Bであって新規性を欠くとして請求棄却しました。控訴審も同様です。

ア 控訴人は、構成要件2Bを「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であることを要する」と解する根拠は、特許請求の範囲の文言にも本件発明2の課題にも なく、当業者の技術常識等からみても非現実的である旨主張する。
イ しかし、構成要件2Bは「前記排水溝の壁面の表\面粗さが、算術平均粗 さ(Ra)で、2.0μm以下であることを特徴とする」と規定してお り、本件発明2の特許請求の範囲の文言全体をみても、排水溝壁面の表面粗さについて、一部は2.0μmを超えるが製品の一定範囲や所定の\n測定箇所が2.0μm以下であるものを含む、あるいは全体の算術平均 粗さ(Ra)の平均値が2.0μm以下であるものを含むと解すべき文 言はない。
この点は、本件明細書2の記載をみても同様である。控訴人が指摘す る本件明細書2の記載や図面は、従来技術や実施例に係る排水溝の性状 等を特に留保なく説明するものであり、控訴人が主張するように、作業 過程で異常(イレギュラー)が発生した箇所があることを前提とし、こ れを除いた「任意の箇所」を示すものであることを窺わせる記載はない。 控訴人は、1)製紙用弾性ベルトの排水溝は、作業前に設定した加工条 件に基づいて均一的に連続加工されるものであること、2)作業時の諸要 因によって加工結果にばらつきが生じることが避けられないこと、3)排 水溝の壁面を全長にわたって測定する作業は現実的に不可能であり、任意に選定された排水溝の壁面を測定する作業によって製品の性状を把握\nするという、当業者の技術常識を考慮すべき旨主張する。
しかし、上記のとおり明確な構成要件2Bの文言について、明細書にも記載がなく、その範囲も不明確な例外を含むと解することは、不当な\n拡張解釈というべきであって、特許請求の範囲の解釈に当たって当業者 の技術常識を考慮するという枠組みを超えるものといわざるを得ない。 控訴人の主張は、当業者が定める自社製品の品質基準としてはともかく、 独占権が付与される特許請求の範囲の解釈としては採り得ない。 なお、控訴人が指摘する大阪地方裁判所平成15年(ワ)第10959号 同17年2月28日判決は、控訴人の主張を裏付けるものではない。
ウ したがって、原判決判示のとおり、構成要件2Bは「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であること」を要すると解するのが相当である。
そうすると、控訴人が主張する<ステップ1>から<ステップ2の2 B>まで、すなわち「各測定結果に係る9溝ないし18溝のデータ数値 を参照し、特定の溝壁面の表面粗さ数値が他の溝の同一壁面に比して突出して高くなっている」ものを「当業者からみて明らかに溝加工作業時\nに生じた異常(イレギュラー)」として除外すること、及び「測定結果 に係る各壁面の表面粗さの平均値が算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下である結果が得られているか否か」(控訴人の他の主張と併せると、\n任意の測定箇所の算術平均粗さの「平均値」が2.0μm以下であるこ とを意味すると解される。)により充足性を判断する判断手法は、構成要件2Bを逸脱する独自の解釈に基づくものといわざるを得ず、採用で\nきない。
・・・
(2) 公然実施発明Bに基づく本件発明1の新規性欠如の有無について
イ 公然実施をされた発明に当たるかについて
(ア) 控訴人は、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面にD MTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可能な分析方法によって知ることができなかった旨主張する。\n
(イ) しかし、まず、証拠(乙37、124、128、129)によれば、 エタキュアー300は、本件特許1の出願前から実用化され、ウレタン 用の硬化剤として注目されていたことが認められる(原判決44頁〜)。 控訴人は、上記文献等はシュープレス用ベルトに使用される硬化剤に ついて言及するものでないと主張するが、上記文献等はポリウレタン全 般向けの硬化剤としてエタキュアー300を説明するものであるところ、 シュープレス用ベルトに利用される硬化剤が他の一般的なポリウレタン の硬化剤と異なるとみるべき根拠はない(上記文献等には、代表的な従来品が本件明細書1【0003】に従来のシュープレス用ベルトの硬化\n剤として記載されているMOCAである旨の記載も複数ある。)。
また、被控訴人は、遅くとも平成9年7月時点ではエタキュアー30 0を使用していたところ(原判決45頁)、上記ア(イ)の認定事実によ れば、被控訴人は硬化剤としてDMTDAを使用することを独自に見出 したのではなく、エタキュアー300を製造販売するアルベマール社の 国内関連会社との取引を契機として知ったと認められる。この事情は、 他の当業者が硬化剤の候補としてエタキュアー300に着目する蓋然性 を裏付ける事情となることは明らかである。 控訴人は、さらに、ポリウレタンの硬化剤はDMTDAの他にも約8 0種類存在し(甲43)、その全てについて標準品を準備して分析依頼 を行うことは非現実的であると主張する。
しかし、「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(乙128)に「実用化 されている熱硬化PUエラストマー用芳香族ジアミン架橋剤」として記 載された5種類、あるいは特開2000−248040号公報(乙12 7)にポリウレタンプレポリマーと反応させるアミン硬化剤組成物とし て記載された芳香族ポリアミンの15種類、その中でも好ましいと記載 された4種類には、いずれもエタキュアー300又はDMTDAが含ま れており、当業者は、従来用いられているMOCA(本件明細書1【0 003】)と同類であるこれらの硬化剤を想定するとみるのが自然であ る。
(ウ) 控訴人は、ベルトの外周面に着目し、外周面のみを切り出して分析を 依頼することは、当業者が通常に利用可能な分析技術とはいえない旨主張する。\nしかし、本件特許1の出願日前において、外周層、内周層等の複数の 層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリマーと硬化剤と を混合してベルトの弾性材料とすることは技術常識であり(原判決44 頁)、自由に解析等をなし得る状態に置かれたベルトを解析して構造等を特定することは可能\であったと認められる(このことは甲25に記載された断面写真から明らかであり、原判決の認定に問題はない。)。 したがって、ベルトBの外周層を切り出して分析を依頼することは、 本件訴訟において控訴人(甲10の1〜4)及び被控訴人(乙1〜3) が行ったのと同様、本件特許1出願前の当業者にも可能であったと認められる。\n
なお、当業者が仮に外周層と内周層に異なる硬化剤を用いる製造方法 を認識せず、これらを区別せずに分析を依頼した場合、全体について硬 化剤としてDMTDAが使用されているという分析結果を知ることにな り、この結果はベルトBの正しい構成なのであるから(乙32)、「外周面を構\成するポリウレタンは、」「ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている」との構成を含め、本件発明1の内容を知り得たといえることに変わりはない。\n
(エ) したがって、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面に DMTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可 能な分析方法によって知ることができたと認められる。ベルトBが公然実施された発明とはいえない旨をいう控訴人の主張は採用できない。\n

◆判決本文

原審はこちら。

◆大阪地裁平成29(ワ)4178
原審では、被告は、一旦、損害論に入ってから、2.0μm以下である」との構成要件を充足しないとして、非侵害の主張を行いましたが、これは「時機に後れた」とは認定されませんでした。
原告は、第15回弁論準備手続期日から損害論の審理が開始されたにもかかわ らず、被告は、被告製品1〜3及び5と同じシリーズの製品等における排水溝壁 面の表面粗さの測定結果(乙152〜159)を新たに証拠提出するとともに、非侵害の主張を行ったことが時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨を主張する。\nしかし、被告が前記証拠等を提出したのは、原告が、訴状においてはイ号製品 が本件発明2の技術的範囲に属する旨を主張しつつも、被告製品1〜3及び5の 排水溝壁面の表面粗さに限定して立証活動をしていたが、裁判所が本件発明2については損害論に入る旨の心証開示を行ったことを受けて、被告製品1〜3及び\n5の各製品と同じシリーズの製品等についても本件発明2の技術的範囲に属する 旨を改めて主張したことに対応するものであって、必ずしも時機に後れたものと は認められない。したがって、原告の前記主張は採用できない。

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平成29(ワ)4178  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年1月31日  大阪地方裁判所

出願前に納品されたことにより、公然実施されたとして、特104条3に基づき、権利行使不能と判断されました。\n

被告は、平成11年5月から平成12年4月までの間に、日本製紙八代工場に ベルト4反(ベルトB)を納品し、ベルトBが同工場において平成11年6月1 1日から平成12年5月9日までの間に使用開始されており、ベルトBの構成は\n本件発明1の構成要件と一致し、納品によってその構\成が日本製紙に知り得る状 態となり、また、当業者はDMTDAの同定が可能であったとして、本件特許1\nの出願前にベルトBに係る発明が公然実施された旨主張するので、以下検討する。 (1)ア 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(なお、 原告は乙32が真に平成11年に作成されたのか不明である旨を主張するが、そ の体裁等に照らすと、作成日等に関する疑義は認められない。)。 (ア) 被告は、昭和63年からベルトを製造していたところ、平成8年4月に新 工場を新設して、ベルトの製造を集約することとなった。それに伴い、被告では、 品質を一定の水準以上に維持するために、製造工程の一連の流れ、各ステップの 管理項目、品質特性(品質保証項目)及び管理方法を明確にしたルールを作成す ることとなり、平成11年2月26日、QC工程図が作成された。(以上につき、 乙32、83) QC工程図には、樹脂コーティング工程に関し、1)ビス(メチルチオ)−2, 4−トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン及びメ チルチオトルエンジアミンの混合物であるエタキュアー300(硬化剤)のほか、 イソシアネート基を末端に有するプレポリマーである、タケネートL2390及\nびタケネートL2395を受け入れ、10)1)の樹脂を調合し、11)基布(ベース)の シュー側(内周面側)にコートしてキュアし、その後、15)反転して、18)1)で受け 入れた樹脂を調合し、19)基布(ベース)のフェルト側(外周面側)にもコートし てキュアする旨の記載がある(乙32〜36、130〜132。なお、数字は工 程番号を指す。)。
(イ) 被告は、QC工程図に従って、平成11年3月1日から同月4日の間に反 番51+01349のベルト、同年8月5日から同月10日の間に反番51+0 4750のベルト、同年10月1日から同月5日の間に反番51+06801の ベルト及び平成12年2月15日から同月22日の間に反番52+00481の ベルトの各樹脂コーティング工程作業を行い、その頃、基布面を完全に被覆する 両面樹脂構造であり、かつ、排水溝を有するベルトBの製造を完了させ、日本製\n紙に対し、平成11年5月14日、同年9月3日、同年10月21日及び平成1 2年4月27日、それぞれ納品した(乙25、27〜31、83)。
イ 前記ア(ア)及び(イ)によれば、ベルトBは、ポリウレタンにより基布が完全 に被覆されており、内周面及び外周面のポリウレタンは、末端にイソシアネート\n基を有するウレタンプレポリマーとDMTDAを含有する硬化剤とを含んでおり、 熱硬化性であることが認められる。そうすると、公然実施発明Bは、基布を熱硬 化性ポリウレタンが完全に被覆してなり、前記基布が前記ポリウレタン中に埋設 され(構成B−a)、フェルト側およびシュー側が前記ポリウレタンで構\成され たシュープレス用ベルトにおいて(構成B−b)、フェルト側を構\成するポリウ レタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ビス(メ\nチルチオ)−2,4−トルエンジアミンおよびビス(メチルチオ)−2,6−トル エンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている(構成B−\nc)、シュープレス用ベルト(構成B−d)という構\成を有していることが認め られ、本件発明1の各構成要件を充足する。\n(2) 特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数 の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)ア(イ)の とおり、被告は、本件特許1出願前の平成11年5月14日から平成12年4月 27日までの間、日本製紙に対し、ベルトBを納品し、その内容を不特定多数の 者が知り得る状況で公然実施発明Bを実施したものと認められる。
(3) 原告の主張について
原告は、ベルトの現物自体からは当該ベルトが幾つの層によって構成されてい\nるか等を把握することは不可能であること、ベルトを構\成するポリウレタンは様々 な化学物質で構成されているから、外周面を構\成するポリウレタンに含有される 硬化剤に着目した分析が行われたとはいえないこと、当時、硬化剤として考え得 る候補物質は極めて多数存在していた上に、エタキュアー300を用いることで クラックの発生を抑制できることは当業者においてすら知られていなかったから、 硬化剤としてDMTDAに着目し、これをわざわざ入手してサンプルとして分析 機関に送付し、分析を依頼したとは到底いえないことを指摘して、ベルトBを日 本製紙に納品したとしても、ベルトBの外周面に硬化剤としてDMTDAが含有 されていたことが特定できたとはいえない旨を主張する。
しかし、前記(1)アのとおり、ベルトBは、日本製紙に納品され、自由に解析等 をなされ得る状態におかれたものであり、解析等によりベルトの構造等を特定す\nることは可能であるほか(甲25等参照)、本件特許1の出願日前において、外\n周層、内周層等の複数の層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリ マーと硬化剤とを混合してポリウレタンとし、ベルトの弾性材料とすることは、 技術常識に属する事項であった(甲2、乙26、27)。これに加え、証拠(乙 37、124、127〜133)及び弁論の全趣旨によれば、1)昭和62年に発 行された書籍において、実用化されている硬化剤として、MOCAのほかにエタ キュアー300が紹介されていたこと、2)米国の会社が平成2年に発行したエタ キュアー300のカタログにおいて、エタキュアー300は、新しいウレタン用 硬化剤であり、TDI(トルエンジイソシアナート。主にポリウレタンの原料と\nして使用される化学物質)系プレポリマーに使用した場合、MBCA(MOCA と同義。乙140、141)の代替品として、現在最も優れたものであると確信 している旨が記載されていたこと、3)米国の別の会社は、平成10年に日本向け のエタキュアー300のカタログを発行したこと、4)平成11年に日本国内で発 行された雑誌には、MOCAには発がん性があることが指摘されており、より安 全性の高い材料が求められていたが、1980年代後半には、既にMOCAに代 わる新しい硬化剤としてエタキュアー300が開発された旨の記事が掲載されて いたこと、5)被告は、平成3年頃からエタキュアー300の研究を開始し、遅く とも平成9年7月時点では、製紙用ポリウレタンベルトの硬化剤としてエタキュ アー300を使用していたこと、6)本件特許1の出願前に、エタキュアー300 と同様にウレタン用に使用された主要な硬化剤は、10種類前後であったことが 認められる。これらの事実関係に照らすと、本件特許1の出願前に、エタキュアー 300は、ウレタン用の硬化剤として注目され、実用化されていたものと認めら れ、分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが登録されていなかっ たとしても(平成29年時点において、ライブラリにDMTDAのマススペクト ルを登録している分析機関と登録していない分析機関がある(甲11、24)。)、 エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼した蓋然性 があったといえ、当業者は、公然実施発明Bの内容を知り得たものと認められる。 証拠(甲39、40)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、平成30年6月、 分析機関に対し、組成を明らかにすることなく被告製品3及び4のサンプルを送 付し、ポリウレタンの定性分析を依頼したところ、硬化剤について特定すること ができなかったことが認められる。しかし、同分析機関が硬化剤を特定すること ができなかったのは、同分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが 登録されていなかったこと(甲24の3)によるものと認められるところ、前記 のとおり、エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼 した蓋然性があったといえることに照らすと、前記結果(甲39、40)は、当 業者が公然実施発明Bの内容を知り得たという結論に影響を与えるものではない。 したがって、原告の前記主張は採用できない。
(4) 以上から、本件発明1は、本件特許1の出願前に日本国内において公然実 施された発明であるから、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきもの であって、原告は、被告に対し、本件特許権1を行使することができない(特許 法123条1項、104条の3第1項、29条1項2号)。

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令和3(ワ)4920 特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年12月22日  大阪地方裁判所

 技術的範囲に属すると認定されたものの、特許権者自らが販売していたとして、新規性違反の無効理由有りと判断されました。

ア 前記(1)アによれば、リベラル社は、平成30年7月5日時点において、別 件特許(「活量調質水溶液及び活量調質媒体の製造方法」)により、水酸化物イ オン活量調質水溶液を製造し、これを希釈して、旧ATWのほか「ATW−1、 ATW−001」を製造していたことが認められるところ、前記(1)イのとおり、 被告は、当初、リベラル社から購入した旧ATWをそのままボトルに詰め、又は、 ラベルを貼り替える方法により、旧被告製品や無限七星FISHを製造し、販売\nしていたのであるから、これらの製品は、前記水溶液を希釈したものであると認 められる。一方、前記(1)エ及びオのとおり、被告は、原告の本件特許出願の後か らは、リベラル社から購入した本件特許に規定される組成を有する現ATWを1 0倍希釈して被告製品や無限七星FISHを製造、販売するようになったところ、 本件代理店契約においては、現ATWを含めたATW水溶液は、別件特許の製造 方法による旨の合意がなされている。 また、原告が代表取締役を務めるATW社は、別件訴訟において、旧ATWと\n現ATWは、いずれもアミノ基という原子団を含んだ水溶液で、現ATWを10 倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した準備書面を提出しているところ、リ ベラル社が発行した請求書では、現ATWの1リットル当たりの単価は旧ATW の同単価の10倍になっていること、本件代理店契約においてATW水溶液の品 質として標準仕様と10倍濃縮仕様がある旨の記載があることのほか、原告も、 本件訴訟において、現ATWは旧ATWの10倍の濃度である旨を主張している (原告準備書面(4)第2の2(3)イ)。これらの事実関係に照らすと、旧ATW及び現ATWは、一貫して、同様の製造方法により製造された、アミノ基を含む成分が水溶、濃縮された水酸化物イオン活量調質水溶液を希釈したものであり、本件特許に規定される組成を有する現ATWを10倍希釈したものが旧ATWであると認められる。
イ また、証拠(乙2、18、24、25、33、36、37)及び弁論の全 趣旨によれば、次の事実が認められる。 すなわち、被告が平成30年11月10日にリベラル社に対して発注し同月1 2日に納品された旧ATWのボトル20本のうち、開封せずに保管していたもの (以下「保管ボトル」という。)について、被告がそのうち1本を開封し、10 0ml分(以下「分析対象物」という。)を小分けにして、愛媛大学のP2名誉 教授に提供した。同教授は、令和3年9月30日、分析対象物について、乙18 分析をした結果、分析対象物の含有成分はポリアリルアミンであることが判明し た。また、被告は、保管ボトルのうち1本(被告が「無限七星FISH」のラベ ルを貼付したもの)を、株式会社東ソ\ー分析センターに提供し、前記センターは、 同年10月19日、保管ボトルの内容物について乙24分析をした結果、その重 量平均分子量は、4.5×10⁴であった。
ウ 前記(1)イ及びウのとおり、無限七星FISHは、鮮魚の鮮度を保持する機 能があり、魚の鮮度保持を主な用途として販売されており、また、証拠(乙19)\n及び弁論の全趣旨によれば、リベラル社が被告に販売した旧ATWの成分表記に\nは「重合アミン、水」との記載があったことが認められる。
エ 前記ア〜ウの事実関係に照らすと、現ATWが10倍に希釈化された旧A TWと同一成分である無限七星FISHに係る引用発明は、ポリアリルアミン又 はその塩を機能成分として含有し、水、ポリアリルアミンの総含有量が95重量%\n以上である水であって(a’)、ポリアリルアミンの重量平均分子量が500〜 50000であって(b’)、魚介類の鮮度保持の機能を有する(c’)、機能\ 水(d’)という構成を有するものと認められるから、被告製品のみならず、旧\n被告製品や無限七星FISHも本件発明の各構成要件を充足するものと認められ\nる。したがって、引用発明は、本件発明の各構成要件を充足する。\n
(3) 公然実施について
特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者 が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)イのとおり、 被告は、本件特許の優先日前の平成30年10月から、無限七星FISHを製造 及び販売して、引用発明を実施した。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、旧ATWは、別件特許に基づく方法により製造されているのに対 し、現ATWは、ポリアリルアミンを使用して製造されているから、両者の成分 は異なる旨を主張する。 しかし、両者の成分の違いを明らかにする証拠はなく、前記(1)オ及びキのとお り、被告は、本件代理店契約において、リベラル社及びATW社との間で、AT W水溶液の仕様は、別件特許の製造方法によることを合意したことや、ATW社 が、別件訴訟において、旧ATWと現ATWは、いずれもアミノ基という原子団 を含んだ水溶液で、現ATWを10倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した 準備書面を提出したのであるから、旧ATWと現ATWの製造方法が異なる旨や 両者の成分が異なる旨の原告の主張は直ちに採用することはできず、その他、原 告の主張事実を裏付ける証拠はない。
イ また、原告は、乙18分析及び乙24分析は、いずれも、測定対象の水溶 液がどの時期に製造、販売され、どういう形で試験に供されたのか全く不明であ ることを指摘し、さらに、乙18分析の内容については、1)乙18のFig.1の スペクトルの面積比を理由に高分子化合物の繰り返し構造をCH₂−CH−CH₂ と推定することが困難なこと、2)3ppm付近のシグナルの変化を理由に当該シ グナルがアミン(CH₂−NH₂)であると推定できる根拠が不明であること、3) Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なることといった疑問点があるから、 いずれも信用性がない旨を主張する。
しかし、前記(1)認定の事実からすれば、乙18にいう「2018年10月に販 売が始まった初代無限七星」とは、旧ATWと成分を同じくする旧被告製品又は 無限七星FISHであると理解できるし、乙24は保管ボトルのうち1本を分析 した結果であることが明らかであり、これに反する証拠はない。そして、乙18 分析は、核磁気共鳴分光法及び質量分析法により、分析対象物の含有成分がポリ アリルアミンであることを推定した上で、それを踏まえて、分析対象物と市販の ポリアリルアミンの水溶液について核磁気共鳴分光法のスペクトルを比較して、 分析対象物の含有成分がポリアリルアミンであると結論づけているところ、原告 の主張1)について、原告主張のように、ポリマーのNMRはピーク(スペクトル) がブロードになりやすく、面積比を算出する切断箇所の設定によって面積比の値 が異なり得ることから、Fig.1のスペクトルの面積比「1.00:0.55: 0.80」が完全に「2:1:2」に一致しなくとも、同一環境の水素の数の比 を「2:1:2」とみなし、CH₂−CH−CH₂の部分構造が考えられるとする\nことは不合理ではない。また、原告の主張2)について、3ppm近辺のCH₂に対 応するシグナルの位置は、隣に窒素原子が繋がっていることを示唆するところ、 トリフルオロ酢酸を加えると、2.7〜3.3ppmのシグナルが3.0ppm のシグナルに変化したというのであるから、分析対象物にトリフルオロ酢酸によ り塩を形成するアミン(CH₂−NH₂)が存在すると考えて矛盾はないというべ きである。さらに、原告の主張3)については、確かに、Fig.1とFig.4a) のスペクトルは一致していないが、一方で、トリフルオロ酢酸塩のスペクトルで あるFig.2a)とFig.4b)は、ほぼ一致している(乙18、25)。こ の点について、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、ポリアリルアミンは、 共存物の影響でアミン部位が塩の状態になっている場合、スペクトルのピーク位 置の出現がシフトする可能性があり、ポリアリルアミンの塩の形成状況によって\nスペクトルの形状が変化し、複雑になるものと認められ、一方で、強い酸である トリフルオロ酢酸を加えて、全てのアミノ基をアンモニウムに変換し、均一な状 況にすることにより、一定の分析結果を得ることができたものと認められるから、 Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なるからといって、乙18分析の信 用性に疑義を生じさせることにはならない。

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令和4(ネ)10055 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和4年12月13日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 用途発明について、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められるのかが争われました。知財高裁は、新規性無しとして、権利行使不能とした1審の判断を維持しました。

(ア) 前記(2)のとおり、本件発明と乙1発明との相違点は、「医薬組成物につ いて、本件発明では、『非外傷性である前腕部骨折を抑制するため』のも のであると特定されているのに対して、乙1発明では、『骨粗鬆症治療薬』 であると特定されている点。」にある(相違点1)ところ、控訴人は、本 件発明につき、前腕部骨折の抑制が特に求められる患者群において予測されていなかった顕著な効果を奏するものであり、エルデカルシトール\nの新たな属性を発見し、それに基づく新たな用途への使用に適すること を見出した医薬用途発明であるから、相違点1に係る本件発明の用途 (「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」)は乙1発明の「骨粗 鬆症治療薬」の用途とは区別される旨主張する。
(イ) そこで検討するに、公知の物は、原則として、特許法29条1項各号 により新規性を欠くこととなるが、当該物について未知の属性を発見し、 その属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出した 発明であるといえる場合には、当該発明は、当該用途の存在によって公 知の物とは区別され、用途発明としての新規性が認められるものと解さ れる。 そして、前記1(2)のとおり、本件発明の医薬組成物は、高齢者や骨粗 鬆症患者等の骨がもろくなっている者が転倒等した際に、前腕部である 橈骨又は尺骨に軽微な外力がかかって生じる骨折のリスク、すなわち前 腕部における非外傷性骨折のリスクに着目して、その用途が「非外傷性 である前腕部骨折を抑制するため」と特定されている(相違点1)もの である。
(ウ) しかしながら、前記(3)イの技術常識によれば、当業者は、乙1発明の 「骨粗鬆症治療薬」につき、椎体、前腕部、大腿部及び上腕部を含む全 身の骨について骨量の減少及び骨の微細構造の劣化による骨強度の低下が生じている患者に対し、各部位における骨折リスクを減少させるた\nめに投与される薬剤であると認識するものといえる。また、前記(3)ア、 エ及びオの各技術常識によれば、当業者は、エルデカルシトールの効果 は海綿骨及び皮質骨のいずれに対しても及ぶと期待するものであり、海 綿骨及び皮質骨からなる前腕部の骨に対してもその効果が及ぶと認識 するものといえる。さらに、前記(3)イ及びウの技術常識によれば、当業 者は、骨粗鬆症においては身体のいずれの部位も外力によって骨折が生 じるものであり、また、前腕部における骨折リスクは、骨強度が低下す ることによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他 の部位における骨折リスクと共通するものであると認識するものとい える。
以上の事情を考慮すると、当業者は、骨粗鬆症患者における前腕部の 骨の病態及びこれに起因する骨折リスクについて、他の部位の骨の病態 及び骨折リスクと異なると認識するものではなく、また、乙1発明の「骨 粗鬆症治療薬」としてのエルデカルシトールを投与する目的及びその効 果についても、前腕部と他の部位とで異なると認識するものではないと いうべきである。
(エ) さらに、本件優先日前に公開された乙12の文献には、エルデカルシ トールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑制す ることが第III)相臨床試験において確認されたことが記載されているこ とに加え、前記(3)エ及びオの技術常識によれば、エルデカルシトールに よる前腕部を含む全身の骨折リスクの減少作用は、経口投与されて体内 に吸収されたエルデカルシトールが、骨に対して直接的又は間接的に何 らかの作用を及ぼすことによって達成されるものであるといえるとこ ろ、本件明細書には、骨折リスクを減少させようとする部位が前腕部で ある場合と他の部位である場合とで、エルデカルシトールが及ぼす作用 に相違があることを示す記載は存しない。そして、前記(3)ウ及びオの技 術常識を考慮しても、本件明細書の記載から、エルデカルシトールの作 用に関して上記の相違があると把握することはできない。 そうすると、当業者は、前腕部の骨折リスクを減少させるために投与 する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデカルシトールの作 用が相違すると認識するものではないというべきである。
(オ) 以上によれば、エルデカルシトールの用途が「非外傷性である前腕部 骨折を抑制するため」と特定されることにより、当業者が、エルデカル シトールについて未知の作用・効果が発現するとか、骨粗鬆症治療薬と して投与されたエルデカルシトールによって処置される病態とは異な る病態を処置し得るなどと認識するものではないというべきである。 そうすると、本件発明については、公知の物であるエルデカルシトー ルの未知の属性を発見し、その属性により、エルデカルシトールが新た な用途への使用に適することを見出した用途発明であると認めることは できないから、相違点1に係る用途は乙1発明の「骨粗鬆症治療薬」の 用途と区別されるものではない。
(カ) したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
イ 控訴人の原審における主張(原判決「事実及び理由」の第2の4(2)及び
(3))及び当審における補充主張に対する判断
(ア) 前記第2の3(1)〔控訴人の主張〕アの主張について
a 控訴人は、前腕部骨折は他の部位の骨折とは異なる特徴を有するこ と、乙1文献には前腕部骨折を抑制する骨粗鬆症治療薬が開示されて いるものではないことなどを理由に、本件発明の用途は乙1発明の用 途と客観的に区別することができる旨主張する。 しかしながら、前記(3)ウの技術常識によれば、前腕部骨折は、身体 的活動性が比較的高い前期高齢者等において好発する特徴があるとい えるものの、上記アで検討したとおり、前腕部の骨と他の部位の骨と で病態が異なるものとはいえず、また、前腕部の骨折リスクを減少さ せるために投与する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデ カルシトールの作用が相違するともいえないことからすれば、前腕部 骨折に上記の特徴があるからといって、本件発明の用途は乙1発明の 用途と客観的に区別することができるものとはいえない。
また、前記(1)のとおり、乙1文献には、エルデカルシトールにつき、 動物実験において、骨密度増加効果がアルファカルシドールよりも強 力であるところ、骨密度の増加は骨強度の増加を伴っていると考えら れること、第II)相臨床試験において、腰椎骨及び大腿骨の骨密度の増 加が認められ、ビタミンD補充効果に依存せずに強力に骨密度を増加 させたものと考えられること、新規椎体骨折発生頻度を主要評価項目 としてアルファカルシドールの効果と比較する更なる臨床試験が進行 中であることが記載されているところ、前記(3)ウないしオのとおり、 エルデカルシトールがアルファカルシドールに比して有意に優れた骨 強度改善効果等を有していることや、前腕部の骨折リスクは他の部位 と同様に骨強度が低下することによって増加するものであることが技 術常識であったこと、上記ア(エ)のとおり、本件優先日当時、エルデカ ルシトールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑 制することが第III)相臨床試験において確認されたことが記載されてい る文献(乙12)が存在したことを併せ考慮すれば、当業者は、乙1 文献の記載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前 腕部についても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制 するものであることを、合理的に予測し得たものといえる。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 同イの主張について
a 控訴人は、一般に患者群の特徴に応じて薬剤が選択されており、骨 粗鬆症においても個々の患者の状態に応じて様々な薬剤が使い分けら れているところ、本件発明は、前腕部骨折の抑制が特に求められる患 者という限定された患者群に対して顕著な効果を奏するものとして、 従来技術とは区別された新規性を有する旨主張する。しかしながら、上記アで検討したとおり、前腕部の骨折リスクは、骨強度が低下することによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他の部位における骨折リスクと共通するものであるか ら、骨粗鬆症患者のうち、全身の骨折の抑制が必要とされる者と前腕 部の骨折の抑制が特に必要とされる者とを客観的に区別することはで きないというべきである。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 同ウの主張について
a 控訴人は、本件試験に係る結果において、エルデカルシトールが、 既存薬剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制 が特に求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されている旨主張する。\n
そこで検討するに、本件明細書には、アルファカルシドールを比較 薬とした無作為割付二重盲検群間比較試験である本件試験において、 非外傷性の前腕部骨折の3年間の発生頻度が、アルファカルシドール 投与群においては523例中17例(骨折確率3.63%)であり、 エルデカルシトール投与群においては526例中5例(骨折確率1. 07%)であったこと、これらの骨折発生頻度を層化ログランク検定 及び層化コックス回帰により比較した結果、アルファカルシドール投 与群の骨折確率を1とした際のエルデカルシトール投与群の骨折確率、 すなわちハザード比は0.29であったこと、これにより、エルデカ ルシトール投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したことが 判明したこと、これらの試験結果の結論として、アルファカルシドー ル投与群に対するエルデカルシトール投与群の明らかな優越性が認め られたことが記載されている。
しかしながら、上記アで検討したとおり、当業者は、乙1文献の記 載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前腕部につ いても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制するもの であることを、合理的に予測し得たものといえることからすれば、エルデカルシトール投与群における前腕部骨折危険率が減少することも\n予測し得たというべきである。また、ハザード比を用いた解析においては、対照群におけるイベントの発生率が小さい場合には、臨床上の\nわずかな差が大きな数値に置き換えられてしまうことがあることが知 られているところ(乙20、22)、本件試験においては、対照群であ るアルファカルシドール投与群における骨折確率が3.63%と小さ かったことからすれば、ハザード比の値に基づいてエルデカルシトー ル投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したと算定されたこ とについては、臨床上のわずかな差が大きな数値に置き換えられてし まった結果である可能性を否定することができない。また、本件試験において、アルファカルシドール投与群における骨\n折確率とエルデカルシトール投与群における骨折確率との差(絶対リ スク減少率)は、前腕部骨折については2.56%、椎体骨折につい ては4.1%であり、椎体骨折の方が前腕部骨折よりも大きな値とな る。
以上の事情を考慮すると、上記のハザード比の値のみに基づいて、 エルデカルシトールの前腕部骨折の抑制効果が、アルファカルシドー ルに比して格別顕著であり、当業者の予測し得る範囲を超えるものであると直ちに評価することはできないというべきである。\nb 以上によれば、このほかに控訴人が本件試験に関して縷々主張する 点を考慮しても、本件試験において、エルデカルシトールが、既存薬 剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制が特に 求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されたものということはできない。\n

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◆令和2(ワ)13326

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令和2(ワ)13326  特許権侵害差止等請求事件 令和4年5月27日  東京地方裁判所

 用途発明について、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認められるのかが争われました。東京地裁46部は、新規性無しとして、権利行使不能と判断しました。\n

ア 本件発明1は、「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部 骨折を抑制するための医薬組成物」であるところ、前記(1)によれば、乙1文 献には、エルデカルシトールを骨粗鬆症治療薬として用いることが記載され ており、本件発明1と乙1発明とは、構成要件1A、1Cにおいて一致して\nいる。他方、本件発明1は、「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」 (構成要件1B)医薬組成物であるところ、乙1発明は骨粗鬆症治療薬であ\nり、この点において本件発明1と乙1発明が相違するといえるかが問題にな る。 イ 本件明細書によれば、「非外傷性骨折とは、転倒などの一般的な日常生活 で起こる軽微な外力により生じた骨折を示す」(【0035】)とあり、「前腕 部は、橈骨と尺骨からなる」(【0022】)とされ、また、「抑制あるいは予\n防は、骨粗鬆症にり患していない者あるいは骨粗鬆症患者のいずれにおいて も、新たな骨折が発生しないことを意味する。」(【0022】)とされている。 したがって、本件発明1の「非外傷性である前腕部骨折を抑制する」とは、 骨粗鬆症にり患していない者及び骨粗鬆症患者のいずれについても、転倒な どの一般的な日常生活で起こる軽微な外力によって橈骨又は尺骨に新たな 骨折が発生しないようにすることを意味しているといえる。
ここで、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴として骨折のリスクが増大しや すくなる骨格疾患であり(前記2(1)ア)、骨粗鬆症治療薬は、骨粗鬆症を治療 することを目的とする薬物なのであるから、骨折のリスクを低下させること、 すなわち、新たな骨折を発生させないようにすることを目的としているとい える。そして、本件優先日当時、骨粗鬆症においては、骨強度の低下により、 通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで生ずる骨折である脆弱性骨折 が生ずることが問題とされており、骨折が生ずることがある具体的な部位と しては、大腿骨、椎体等と並んで、橈骨が含まれていたことが知られていた と認められる(前記2(1)イ)。 そうすると、乙1発明の骨粗鬆症治療薬とは、骨強度の低下によって通常 は骨折を生じさせない些細なきっかけで大腿骨、椎体、橈骨等に新たな骨折 を発生させないようにすることを目的とする治療薬であり、この中には、骨 粗鬆症患者に対する、通常は骨折を生じさせない些細なきっかけで橈骨に新 たな骨折を発生させないようにすることについても用途として含まれるこ とは明らかである。
これに対し、乙1発明の骨粗鬆症治療薬について、原告は、エルデカルシ トールに骨折抑制効果があることは知られていなかったと主張する。しかし、 乙1文献の表題は「骨粗鬆症治療薬」というものであり、その表\題からも、 そこに記載されたエルデカルシトールが骨粗鬆症の治療薬であること、すな わち、エルデカルシトールが骨粗鬆症患者に対する骨折抑制効果があること に関する文献であることが理解できる。そして、乙1発明のエルデカルシト ールは活性型ビタミンDの誘導体であり、活性型ビタミンDが体内のビタミ ンD受容体と結合して作用するのと同様にビタミンD受容体に結合して作 用するという、活性型ビタミンDと同一の機序によって骨粗鬆症に作用する ことが想定されていた。活性型ビタミンDは、前腕部を含む骨における骨形 成を促進し、骨破壊を抑制することによって骨量を増やして骨密度骨強度を 増加させるとともに、転倒自体を抑制するといった作用を有することが知ら れており(前記2(3)ア、(4))、実際に、乙1文献には、エルデカルシトール が骨密度を上昇させる効果を有することが記載されている。さらに、当時、 一般に、骨量が多いほど骨折しにくくなり、骨量の多寡が骨折リスクの指標 になると考えられていた(前記2(2) )。これらからすると、当業者は、乙1 発明の骨粗鬆症治療薬について、前腕部骨折予防効果があると理解すると認\nめられる。原告が指摘する文献や記載は、上記技術常識等に照らし、当業者 に対して乙1発明のエルデカルシトールが上記骨折抑制効果を有すること に対して疑念を抱かせるものとは認められない。
以上によれば、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において一般的な日常生 活で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用 途とする構成は、乙1発明のエルデカルシトールの用途と一致すると認めら\nれる。
ウ 原告は、公知の用途であってもその用途を限定することにより新規性が認 められると主張する。 しかし、本件発明1のうち、骨粗鬆症患者において、一般的な日常生活で 起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことを用途と する構成について、前記イに述べたところにより、乙1発明のエルデカルシ\nトールにおいても、当然に当該部位に係る骨折予防についても有効であるこ\nとが具体的に想定されていたと認められる。また、乙1文献には、エルデカ ルシトールを活性型ビタミンD3製剤であると記載されていて、乙1発明に おいても、既存の活性型ビタミンD製剤と同様の機序、すなわち、ビタミン D受容体への作用による骨強度の上昇及び転倒防止(前記2 ア、 )が想 定されていたと認められる。本件明細書には、本件発明1について、技術常 識から認められる上記機序と異なる機序によって作用していることについ ての記載もなく、本件発明1も、乙1発明と同一の作用機序を前提にしてい ると認められる。仮に年齢等によって第1選択として投与される薬剤の種類 が異なるとしても、エルデカルシトールが投与されたとき、乙1発明のエル デカルシトールが投与されたのか、本件発明1のエルデカルシトールが投与 されたのかを区別することができるものではない。本件発明1の一部の用途 は、作用機序の点からも、乙1発明の用途と区別することはできない。
なお、原告は、本件発明1において、エルデカルシトールの前腕部骨折抑 制に関する顕著な効果が初めて見出されたとも主張する。原告が本件明細書 で明らかにされた医学的に有用であると主張する具体的な知見は、1)前腕部 の骨折予防の観点からは、アルファカルシドールよりもエルデカルシトール\nの方が顕著に優れていること、2)前腕部以外の部位においては、エルデカル シトールとアルファカルシドールの効果の差は前腕部における差ほど顕著 ではないという2点である。しかし、仮に原告が主張する上記評価が統計学 上正当であると認められるとしても、1)については、本件明細書で明らかに されているのは、エルデカルシトールがアルファカルシドールに比べて骨折 抑制効果が高いことのみであり、このことのみからは、エルデカルシトール がプラシーボに比べて顕著に優れている可能性も、アルファカルシドールが\nプラシーボに比べて顕著に劣っている可能性も、どちらともいえない可能\性 もある。さらに、乙1発明において、エルデカルシトールの骨折抑制効果が アルファカルシドールを上回ること自体が想定されていたことも認められ る(前記3)。2)についても、本件明細書の実施例で記載されている前腕部 骨折以外に関する分析結果は椎体骨折に関するもののみ(【0069】)であ り、前腕部についてのみ良好な結果が得られたのか、椎体についてのみ良好 とはいえない結果が得られたのかすら明らかにされていない。これらによれ ば、何らかの顕著な効果の存在を理由に乙1発明に対する新規性等が認めら れる場合があるか否かは措くとしても、本件においてはその前提となる顕著 な効果を認めることはできない。
さらに原告は、65歳の患者群やI型骨粗鬆症患者群においては前腕部に おける骨折抑制が特に求められており、独立の用途を構成するなどと主張す\nる。しかし、乙1発明のエルデカルシトールにおいても、一般的な日常生活 で起こる軽微な外力によって橈骨に新たに骨折が生じさせないことに有効 であることが具体的に想定されていたと認められるなど、上記に述べた事情 に照らせば、原告が主張する上記知見は、本件において、乙1発明の用途を 前腕部の骨折予防に限定することに新規性を付与すべき事情に当たるとは\nいえない。
エ 以上によれば、本件発明1は、乙1発明で想定される橈骨の骨折抑制、大 腿骨の骨折抑制といった複数の骨折抑制部位に係る用途のうち、前腕部の効 果に着目したものと認められる。本件発明1において「非外傷性である前腕 部骨折を抑制するための」と限定した部分は乙1発明との相違点になるとは いえず、本件発明1は、乙1発明と同一であり、本件発明1は、新規性が欠 如しているといえる。

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令和4(ワ)3374  特許権侵害行為差止等請求事件(承継参加)  特許権  民事訴訟 令和4年6月20日  大阪地方裁判所

 技術的範囲に属しない、さらに、乙36発明から新規性がないと判断されました。前者については原告被告の双方から実験結果が提出されており、被告のものが採用されました。

このように、甲6食品実験等と乙12実験等の結果は異なっているところ、 前記2(1)において認定したとおり、主たる青色光源であるLED5)が青色 発光するのは、パーシャル室を(チルドではなく)微凍結パーシャル状態と し、かつオート急冷中のときであって、この場合、パーシャル室内は約−3度 から約−1度に保たれることになるから、乙12ないし乙15の各実験の結 果にみられるとおり、培地の一部や豚肉が凍結していたとする結果と整合的 に理解できるものであり、乙12、13実験における黄色ブドウ球菌や枯草 菌のコロニーが見られなかったという結果も、黄色ブドウ球菌の一般的な増 殖可能温度域は5〜47.8度(至適増殖温度は30〜37度)であり、枯\n草菌の一般的な増殖可能温度域は5〜55度(最適発育温度帯は20〜4\n5度)であること(乙12、13に添付の参考資料)と矛盾なく理解するこ とができる。
これに対し、甲6実験等は、そもそも本件製品の冷蔵室やパーシャル室内 の温度設定ないし機能設定が明らかでない上、甲15食品実験及び甲15培\n地実験にあっては、試料設置後、冷蔵室扉を封印したというのであるから、 青色光の照射時間は扉の開閉を所定時間行った乙12実験等におけるもの よりも短いものと推認されるのに、青色光照射区で有意に細菌の生長が抑制 されていると評価されて結果が報告されるなどしており、本件製品の冷蔵室 内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長を抑制する効果があるかを判 定するについての実験条件の統制が的確に取れていたのかについて大きな 疑義を生じさせるものというべきである。 以上によると、本件製品の冷蔵室内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の 生長を抑制する効果があるかを判定するについては、甲6食品実験等を採用 することはできず、乙12実験等によるべきである。 そして、乙12、13実験等によると、そもそも本件製品において青色L EDが発光する状態となったパーシャル室内では、黄色ブドウ球菌及び枯草 菌は遮光の有無にかかわらず生長しないことが認められ、乙15実験の結果 によると、豚肉中の細菌量が6つに分けた各試料でおおむね一定であり、ま た結果の判定につき(本件測定器具の精度については議論があるものの)精 度が十分で誤差がないと仮定すると、青色光の照射を受けた豚肉よりも青色\n光の照射を受けなかった豚肉の方が3日後の細菌数が少ないものもあると いう結果も見て取れる。加えて、そもそも本件製品が食品等に照射する光の 強度(光量子束密度)は、白色光等他の波長域の光も含めて最大7μE/m2/s 程度であって(乙8)、この光は冷蔵庫の扉が開いたときに照射されるが、通 常の用法において冷蔵庫の扉を開けるのは短時間にとどまることからする と、本件明細書の実施例等で示される光の強度や照射時間と対比するとごく わずかにすぎないと見込まれること、そもそも冷蔵庫は、一般常識に照らし、 庫内の食品を微生物の活動が抑制される程度の低温に保つことで食品を保 存する機器であることを併せ考えると、本件製品において、LED4)や同5) の青色光の照射が、黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長が抑制されることに影響 を与えているとは認められないというべきである。
(4) まとめ
以上によると、本件製品が、青色光の照射により枯草菌、黄色ブドウ球菌等 の微生物の生長を抑制しているとは認められず、他に、前記(2)の本件製品の 使用方法による青色光の照射の影響によって微生物の生長が抑制されている こと(光の照射と微生物の生長抑制させることとの間に直接的な関連性がある こと)を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件製品の使用方法は、「光 の照射下で」(構成要件B)を充足せず、本件発明の技術的範囲に属しない。\n争点1についての原告の主張(請求原因)は、理由がない。
・・・
(1) 当裁判所は、前記2のとおり、本件製品の使用方法は、本件発明の技術的範 囲に属しないと判断するが、さらに、本件特許は、少なくとも新規性が欠如し ているから特許無効審判により無効にされるべきものと判断する。以下、事案 に鑑み、争点3−7(乙36公報記載の乙36発明に基づく新規性欠如の有無) を検討する。
・・・・
これに対し、原告は、乙36公報に記載された「FL-40SB(東芝電気(株))」 は、混在する光を発することを指摘して、乙36公報には青色光に着目した 記載はないから、「およそ400nm から490nm までの光波長領域にある光 の照射下で培養して、この微生物の生長を抑制させる」こと(構成要件B)\nは開示されていない旨や、近紫外線が必須の構成となっていることを主張す\nる。 しかし、前記(2)によれば、乙36公報の特許請求の範囲第2項は「500 nm から近紫外線の波長域に含まれる光線を実質的に含有する光線」を微生物 に照射することを明示しており、また乙36公報に記載の発明は、「従来の 殺菌及び滅菌方法では、対象菌体のみならず、人体、家畜類及び各種製品を 損傷させるという弊害があり、これらの弊害なく簡便な菌体の繁殖抑制方法」 を課題とし、この課題の解決手段として、「微生物に少くとも500nm から 近紫外線の波長域に含まれる光線を照射することにより、微生物の繁殖を抑 制する」方法を開示したものである。また、「近紫外線」の意義については 「本発明における「近紫外線」とは、(中略)更に好ましくは、360nm か ら400nm の波長域に含まれる光線を意味する。」とされ、400nm にごく 近い波長の光線が好ましい近紫外線に含まれていることが前提となってい るし、光源−2についてはおよそ400nm〜500nm で発光する蛍光灯であ ることがその定義及び分光エネルギー分布図によって明らかである。そして、 実施例−11にあっては、枯草菌に前記光源−2を照射した結果、他の波長 の光源とは有意に異なる微生物の生長抑制効果があったことが記載されて いる。このような開示がされている乙36公報に接した当業者は、波長が400 nm〜500nm の範囲の青色光が微生物のうち枯草菌の繁殖を抑制するとす る乙36発明が開示されていると容易に理解し得るものである。

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令和1(ワ)25121 特許権 令和3年12月9日  東京地方裁判所

 CS関連発明について、技術的範囲に属すると認められるが、無効理由あり(新規性なし)として権利行使不能(特104-3)と判断されました。

 このように,乙8発明は,ユーザから入力された情報から抽出したキーワードに 基づいてそれに関連するウェブページを収集し,そのリンク情報を取得して記憶し, ユーザ端末にキーワードに関連するウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力する ものである。しかして,かかるウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力すること は,ユーザに対してユーザの関心のある事項に関連するウェブサイトの閲覧を勧め るものであるといえ,当該リンクを出力することは,ユーザに対する提案を行うも のということができ,また,当該リンクはウェブ上から取得されるものであるから, ウェブサイトからユーザに対して提案すべき情報を取得しているということができ る。 そうすると,乙8発明がユーザコメントに基づいてリンクを出力するアバター管 理部及び情報収集部は,構成要件1Eの「前記第1又は第2受付手段によって受け\n付けられた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行う提案手段」に相当し, また,乙8発明の,アバター管理部及び情報収集部によりユーザコメントに基づい てウェブサイトのリンクをユーザ端末に出力する機能は,構\成要件5Eの「前記受 け付けた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行うステップ」に相当する。 さらに,乙8発明における,ウェブ上からキーワードに関連するウェブページのリ ンクを取得する情報収集部は,構成要件1Fの「前記個人情報に基づいてウェブサ\nイトから前記ユーザに対して提案すべき情報を取得する手段」に相当し,上記情報 収集部によりウェブ上からキーワードに関連するウェブページのリンクを取得する 機能は,構\成要件5Fの「前記個人情報に基づいてウェブサイトから前記ユーザに 対して提案すべき情報を取得するステップ」に相当する。 その他,構成要件E及びFと乙8発明の間に,相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件E及びFは,乙8発明の構\成と同一のものといえる。
エ 構成要件G(「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段と,を有する」「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促すステップと,を更に有する」)につき,\n乙8発明と対比する。 構成要件Gに関し,本件明細書の記載をみると,「飲みすぎないように!」などの\nアドバイスのメッセージを出力する旨の記載があり(【0119】),かかる記載内容 からすると,構成要件Gにおける「注意を促す」とは,気を付けるように仕向ける,\n気を配るように仕向けるとの意であると解することができる。 しかして,乙8発明は,スケジュールが未完了であることが確認すると,アバタ ーから,「スケジュールが未完了だよ。代わりのスケジュールを入力してね」のよう な,スケジュールの修正を依頼するアバターコメントを出力する機能を有する(【0\n043】)。そして,乙8発明の学習・生活支援サーバ内にはアバターコメントを出 力するアバター管理部が実装されている(【0024】等)ところ,上記機能は,ユ\nーザに対してスケジュールが完了していないことに気を付けるように仕向け,又は, スケジュールに気を配るように仕向けるものであるといえる。 そうすると,乙8発明の,アバターコメントの出力を実行するアバター管理部は, 構成要件1Gの「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段」に相当し,ま\nた,乙8発明の,ユーザに対して上記の趣旨のアバターコメントを出力するアバタ ー管理部の機能は,構\成要件5Gの「前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す ステップ」に相当する。 その他,構成要件Gと乙8発明の間に,相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件Gは,乙8発明の構\成と同一のものといえる。
オ 構成要件H(「情報提供装置。」「を情報提供装置に実行させる情報提供プロ\nグラム。」につき,乙8発明と対比する。 乙8発明のアバター管理部によるアバターコメントの出力は,情報の提供に当た るため,この点をもって既に,アバター管理部を有する乙8発明の学習・生活支援 サーバは,情報を提供する装置(「情報提供装置」)であるということができる。 また,上記サーバは,アバター管理部のほかに,ユーザ情報管理部,テキスト分 析部,情報収集部,コンテンツ管理部で構成される制御部を有しており,制御部は,\n少なくとも一つのCPU等を備え,ROM等に予め記憶されたプログラムを読み込\nんで実行することにより,上記各部の機能を事項することが可能\となるものである (【0021】等)ことから,乙8発明の学習・生活支援サーバは,情報提供装置で あって,各種機能を実行させる情報提供プログラムを有しているといえ,乙8発明\nは,構成要件1Hの「情報提供装置」,構\成要件5Hの「情報提供プログラム」と同 一であるといえる。 その他,構成要件Hと乙8発明の間に,実質的に相違する点は認められない。\n以上によれば,構成要件Hは,乙8発明の構\成と実質的に同一のものといえる。
(4) したがって,本件各発明は,その全ての構成要件が,乙8発明の構\成と実質 的に同一のものであるから,本件各発明は,乙8発明との関係で,新規性を欠くも のといわざるを得ず,いずれも,特許無効審判により無効にされるべきものと認め られる(特許法29条1項3号,123条1項2号)。
(5) 原告らの主張について
原告らは,1)乙8公報に記載されている「スケジュールの修正を依頼する」とは, 構成要件Eにおける,議案や意見を提出するという「提案を行う」こととは相違す\nる,2)乙8公報がユーザ端末に出力するウェブサイトのリンクは,ウェブサイトの 所在を示す情報であって,この所在を示す情報が,「提案を行う」内容である議案や 意見であるはずがなく,乙8発明は構成要件Eと相違し,また,ウェブサイトのリ\nンクはユーザに対して提案すべき情報を規定している構成要件Fの「情報」とも相\n違する,3)乙8発明がユーザのスケジュールが未完了であることを確認した場合に ユーザにスケジュールの修正を依頼することは,構成要件Gの,気を付けるよう仕\n向けることとは相違する,4)乙8発明のユーザ端末は,情報提供をするものではな いから,構成要件Hと相違する,などとして,本件各発明が乙8発明の構\成と実質 的に相違する旨主張する。
しかしながら,原告らの上記各主張は,次のとおり,いずれも理由がないという べきである。 まず,上記1)及び3)の点については,乙8発明において「スケジュールの修正」 を依頼されたユーザは,スケジュールが完了していないことを知り,新たなスケジ ュールを考えて入力するように促されることとなるのであって,「スケジュールの 修正の依頼」も,ユーザに対して新たなスケジュールを組み立てる旨の議案や意見 の提出にも当たるといえるから,構成要件Eの「提案を行う」と実質的に同一の構\ 成であるといえる。また,乙8発明の上記のような働きは,まさにユーザに対しス ケジュールが完了していないことに気を付けるように仕向け,又は,気を配るよう に仕向けることであるといえるから,乙8発明は,構成要件Gの「注意を促す手段」\nないし「注意を促すステップ」と実質的に同一の構成を有するといえる。\nまた,上記2)の点については,構成要件Eの「提案を行う」との文言について,\n特許請求の範囲及び本件明細書の記載に,ユーザに提案すべき情報の具体的内容を 限定する根拠となるものはなく,ウェブページを出力することに限る旨の示唆もな い。その上,前記説示のとおり,キーワードに関連するウェブページのリンクをユ ーザ端末に出力することは,当該リンク先のウェブページを閲覧することをユーザ に勧めることに該当し,まさに,この点が「提案」といえるというべきである。そ うすると,乙8発明のアバター管理部が当該リンクをユーザ端末に出力することは, 構成要件Eが規定するユーザに対する「提案を行う」との構\成と,同一であるとい わなければならない。また,構成要件Fの「情報」との相違を指摘する原告の主張\nも,結局,リンクはあくまでウェブサイトの所在を示す情報に過ぎず,これがユー ザに対して提案すべき情報には当たらないとの主張であると解されるが,前記のと おり,ユーザ端末にユーザの個人情報に基づいてこれに関連するウェブページのリ ンクを出力することは,ユーザに対して当該リンク先のウェブページの閲覧を勧め るという意味において,ユーザに提案すべき情報を表示するものであり,乙8発明\nにおいてユーザ端末に出力されるリンクは,構成要件Fの「情報」と異なるもので\nはないというべきである。 さらに,上記4)の点は,前記説示のとおり,乙8発明の学習・生活支援サーバ及 びプログラムは,構成要件1Hの「情報提供装置」,構\成要件5Hの「情報提供プロ グラム」と同一であるといえる。 以上によれば,原告らの主張はいずれも採用することができない。

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平成31(ワ)7038等  特許権侵害行為差止等請求事件,損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年10月29日  東京地方裁判所

 29条1項2号にいう「公然実施」について、出願前から製造していた物と現在製造している物に変化がないとして、公然実施と認定し、権利行使不能と判断されました。\n

29条1項2号にいう「公然実施」とは,発明の内容を不特定多数の 者が知り得る状況でその発明が実施されることをいい,本件各発明のよう な物の発明の場合には,商品が不特定多数の者に販売され,かつ,当業者 がその商品を外部から観察しただけで発明の内容を知り得る場合はもちろ ん,外部からそれを知ることができなくても,当業者がその商品を通常の 方法で分解,分析することによって知ることができる場合も公然実施とな ると解するのが相当である。
・・・
エ 日本黒鉛らについて
(ア) 日本黒鉛各製品が本件各発明の技術的範囲に属するか
a 日本黒鉛製品2,4及び5に係る日本黒鉛製品結果及び乙A18結 果は近接していること,日本黒鉛製品4及び5に係る乙A18結果の 回折プロファイルにおいて,菱面晶系黒鉛層(3R)の(101)面 及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101)面の各ピークが出現すると される回折線の角度43ないし44°付近のピークは比較的明瞭であ り,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDXLの自動解析機能を使用しても\n適切な解が得られると考えられること,日本黒鉛製品2に係る乙A1 8結果の回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし44°付 近のピークは明瞭とはいい難いが,このような場合に,PDXLの自 動解析機能を使用して得られた解が常に誤っていることを認めるに足\nりる証拠はないことからすると,日本黒鉛製品2,4及び5のRat e(3R)については,日本黒鉛製品結果及び乙A18結果のいずれ も採用することができるというべきである。
他方で,日本黒鉛製品1及び3に係る乙A18結果については,同 じ製品であるにもかかわらず,算出されたRate(3R)にかなり のばらつきがあること,日本黒鉛製品1及び3に係る乙A18結果の 各回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし44°付近のピ ークは必ずしも明瞭ではないこと,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDX Lは,ピークが不明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な解に\n収束したり,解が発散したりすることがあり,このような場合,試料 を考慮した解析条件を手動で入力する必要があること,前記(1)ウ(イ) aのとおり,原告は,自動解析機能によっては不合理な解に収束した\nり,解が発散したりする場合には適宜の解析条件を手動で入力するこ とにより,PDXLを用いて解析を行い,日本黒鉛製品結果を得たこ とからすると,日本黒鉛製品1及び3のRate(3R)については, 日本黒鉛製品結果を採用することができ,乙A18結果は採用するこ とができないというべきである。
b 日本黒鉛製品結果及び乙A18結果によれば,日本黒鉛製品2は本 件各発明の構成要件1B及び2Bを,日本黒鉛製品4及び5は構\成要 件1Bをそれぞれ充足し,日本黒鉛製品結果によれば,日本黒鉛製品 1及び3は構成要件1B及び2Bを充足することとなり,前記2の本\n件各発明の解釈を前提とすると,日本黒鉛製品1ないし3は本件各発 明の,日本黒鉛製品4及び5は本件発明1の各技術的範囲に属すると 認めるのが相当である。
(イ) サンプルのRate(3R)
a 次に,前記(1)ウ(イ)bのとおり,日本黒鉛工業が保管していた日本 黒鉛製品1,2,4及び5の各サンプルのRate(3R)は,サン プル結果3)のとおりである。
そして,日本黒鉛工業の証人Zは,日本黒鉛工業においては,平成 13年10月頃からおおむね10年に1回,製品のサンプルを保管す るようになり,平成20年6月12日に採取した日本黒鉛製品1のサ ンプル,平成13年10月5日に採取した日本黒鉛製品2のサンプル, 平成20年7月30日に採取した日本黒鉛製品4のサンプル及び同年 12月16日に採取した日本黒鉛製品5のサンプルを保管している旨 証言し,Z証人作成の陳述書(乙A120)にも同旨の記載があると ころ,証拠(乙A86,94,95)による裏付けがあることからす ると,Z証人の上記証言は採用することができるというべきである。 したがって,上記日本黒鉛製品1,2,4及び5の各サンプルは上 記各日に採取したものと認めるのが相当である。
b 日本黒鉛製品1に係るサンプル結果3)については,同じ製品である にもかかわらず,算出されたRate(3R)にかなりのばらつきが あること,サンプル結果3)の回折プロファイルにおいて,菱面晶系黒 鉛層(3R)の(101)面及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101) 面の各ピークが出現するとされる回折線の角度43ないし44°付近 のピークは必ずしも明瞭ではないこと,前記2(1)ウ(イ)のとおり,P DXLは,ピークが不明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な\n解に収束したり,解が発散したりすることがあり,このような場合, 試料を考慮した解析条件を手動で入力する必要があることからすると, 日本黒鉛製品1のサンプルのRate(3R)について,サンプル結 果3)は採用することができないというべきである。 他方で,日本黒鉛製品4及び5の各サンプルに係るサンプル結果3) については,複数回算出したRate(3R)にばらつきはほとんど なく,サンプル結果3)の回折プロファイルにおける回折線の角度43 ないし44°付近のピークは比較的明瞭であり,前記2(1)ウ(イ)のと おり,PDXLの自動解析機能を使用しても適切な解が得られると考\nえられることからすると,日本黒鉛製品4及び5の各サンプルのRa te(3R)について,サンプル結果3)を採用することができるとい うべきである。 日本黒鉛製品2のサンプルに係るサンプル結果3)については,複数 回算出したRate(3R)にばらつきはほとんどないこと,そして, サンプル結果3)の回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし 44°付近のピークは必ずしも明瞭ではないものの,本件証拠上,こ のような場合に,PDXLの自動解析機能を使用して得られた解が常\nに誤っているとまでは認められないことからすると,日本黒鉛製品2 のサンプルのRate(3R)について,サンプル結果3)を一応採用 することができるというべきである。
(ウ) 日本黒鉛らが本件特許出願前から本件各発明の技術的範囲に属する日 本黒鉛各製品を製造販売していたか
前記イ(イ)のとおり,菱面晶系黒鉛層の増加に影響を及ぼすと考えられ る要素のほとんどは,黒鉛製品の製造工程及び製造された製品が満たす べき規格に関わるといえるが,具体的に,どのような条件の下,どのよ うな操作をすることにより,単に菱面晶系黒鉛層が増加するだけでなく, 六方晶系黒鉛層との総和における菱面晶系黒鉛層の割合であるRate (3R)がどの程度変動するかは,本件訴訟に現れた全証拠によっても 確定することができない。 そして,前記(1)ウ(ア)のとおり,日本黒鉛工業は,本件特許出願前か ら日本黒鉛各製品を製造しており,本件特許出願前から現在に至るまで, その製造工程及び出荷の基準となる規格値に大きな変更はない。 また,前記前提事実(2)及び(7)アのとおり,原告が日本黒鉛製品結果 をもって日本黒鉛らに対して提訴したのは平成31年3月であり,平成 26年9月9日の本件特許出願からそれほど長い年月が経過しているも のとはいえない。
以上によれば,日本黒鉛らは,本件特許出願前から現在に至るまで, 日本黒鉛各製品の各名称を付した黒鉛製品を製造販売しており,この間, 菱面晶系黒鉛層の増減に影響を与えると考えられるこれらの製品の製造 工程及び規格値に変更はないことから,この間に製造販売された日本黒 鉛各製品は,同じ製造工程を経て,同じ規格を満たすものであると認め られる。そして,他にこれらの製品に対してRate(3R)の増減に 影響を及ぼす事情が存したとは認められず,前記(ア)のとおり,現時点に おいて,日本黒鉛製品1ないし3は本件各発明の,日本黒鉛製品4及び 5は本件発明1の各技術的範囲に属する。これらの事情に照らせば,日 本黒鉛らは,本件特許出願前から,このような日本黒鉛各製品を製造販 売していたと認めるのが相当であり,前記(イ)bのとおり,本件特許出願 前の平成20年に採取した日本黒鉛製品4及び5のRate(3R)が 31%以上であることも,この結論を裏付けるというべきである。
なお,日本黒鉛製品2に係るサンプル結果3)は,乙A18結果と相違 しているが,日本黒鉛製品2は土状黒鉛であり,菱面晶系黒鉛層(3R) の(101)面及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101)面の各ピーク が出現するとされる回折線の角度43ないし44°付近のピークが必ず しも明瞭ではなく,前記2(1)ウ(イ)のとおり,PDXLは,ピークが不 明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な解に収束したり,解が発\n散したりすることがあり,同じく土状黒鉛である日本黒鉛製品1に係る サンプル結果3)及び乙A18結果を見てもばらつきがあることからする と,日本黒鉛製品2に係るサンプル結果3)と乙A18結果が相違するこ とは,日本黒鉛らが本件特許出願前から本件各発明の技術的範囲に属す る日本黒鉛製品2を製造販売していたという上記認定を左右するとはい えない。

◆判決本文

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