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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

0030 新規性

令和3(ネ)10086 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年4月25日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 パナソニックの知財信託会社による侵害訴訟の控訴審判決です。1審は技術的範囲外または新規性なしとして権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。該当特許は7件あり、判決文は400頁を超えます。

イ 上記各認定事実を総合的に考慮すると、402W製品は、遅くとも被控訴人 からカナデンに納品された平成24年4月17日頃には、同社に譲渡されたことに よりその構造が解析可能\な状態に至ったものと認められる。 これに対し、控訴人パナソニックは、上記アの認定事実を認めるに足りる証拠が\nないことを指摘すると共に、仮に平成24年4月17日頃に被控訴人からカナデン に対して402W製品が納品されたとしても、被控訴人とカナデンとの間に秘密を 保持することが暗黙のうちに求められていたため、公然実施されたとはいえないな どと主張する。
しかし、本件申請書は、その書面の体裁等に鑑みると、被控訴人において内部的\nに定形化された書式に基づき作成されたものと見られ、日常的な業務の一環として 作成されたものであることがうかがわれる。また、その記載内容並びに「申請者印」\n欄及び「完了印」欄の押印は、平成24年4月16日付け「見本品引取書」(乙7 8)及び同月17日付け「判取票」(乙88)の記載又は押印と一致ないし整合す ることから、本件申請書の作成日は、上記認定のとおり、同年2月10日と認めら\nれる(なお、同様の理由及び筆跡の字体そのものから、判取票の作成日付は、同年 9月17日ではなく同年4月17日であることも認められる。)。また、上記「判 取票」は、カナデン担当者(乙148)の姓と同一の印影が存在することから、平 成24年4月17日に同社に402W製品が納品されたことを裏付けるものといえ る。
また、本件申請書には、「処理方法」の「渡し切りサンプル(点灯試験・分解テ\nスト)」欄にチェックがされているものの、カナデンは、電気工事業等の建設業許 可を得ている事業会社であり(乙76)、また、被控訴人による402W製品の商 品開発に共同研究その他の形で関与していたことをうかがわせる事情も見当たらな いこと、本件チラシ及び本件カタログの記載からは、カナデンに納品された平成2 4年4月頃又はこれに極めて近接した時点で、402W製品は既に一般向けに販売 されていたことがうかがわれることによると、カナデンに対する402W製品の納 品が、その構成等につき同社に守秘義務を負わせることを前提として行われたもの\nであるとは考え難い。その他控訴人パナソニックが主張する点を考慮しても、この点に関する控訴人パナソ\ニックの主張は採用できない。
ウ 小括
以上によると、402W発明は、本件原出願日2より前に日本国内において公然 実施された発明といえる。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)1390

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令和5(行ケ)10034  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年3月27日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。知財高裁は、新規性違反、冒認出願違反であると判断しました。

(2) 甲53の1文書について
ア 甲53の1文書は、ベルベット織りの立毛シートの製造工程を示すものとし て交付されたものであり、別紙2のとおり、「「生機投入」→「スチームセット」→ 「ドライセット」→「糊抜き」→「脱水」→「染色」→「脱水」→「乾燥(ブラシ)」 →「ブラシ※ブイテック様」」との工程が記載されている。
イ 「生機投入」の部分により、製織工程と切断工程が開示されているといえる かという点について争いがあるので検討するに、「生機」とは「織り上げて織機から はずしたままの織物」を意味するところ(甲114・大辞林第四版)、ベルベット織 りの織り機は、織ると同時に切断も行うことから一度に2枚分が織り上がるもので あって、「織り機からはずしたままの織物」は、切断後の織物であると認められるか ら(甲40、112)、「生機投入」との記載から、甲53の1文書を受領した当業 者は、当然に、製織工程と切断工程を経た生機が投入されると理解すると認めるの が相当である。そして、甲53の1文書の「生機投入」の使用機器欄に記載された 「ZQ40 4mm」はパイル長4mmのポリエステル製パフ用の立毛シートの生 機の品番を意味するものと認められ(証人C〔28頁〕)、ポリエステルは熱可塑性 繊維であるから(本件明細書【0020】等)、甲53の1文書の「生機投入」工程 の記載により、本件各発明の製織工程と切断工程が開示されていると認められる。
ウ そして、甲53の1文書の「スチームセット」は本件各発明の「蒸し工程」 に、「ドライセット」は本件各発明の「プレセット工程」に、「糊抜き」は本件各発 明の「精練工程」にそれぞれ相当する(証人A〔5〕)。また、「染色」は本件各発明の「染色工程」に相当し、「染色」の次に記載された「脱水」は、真空脱水とあるか ら脱水機を用いたものであることが明らかであって、本件各発明の「脱水機により 前記染料を脱水する脱水工程」に相当する。さらに、「乾燥(ブラシ)」はドライセ ッターで150゜C)で乾燥させるものであるから、本件各発明の「前記立毛シートを 熱風で乾燥させる乾燥工程」に相当する。なお、特許請求の範囲の記載及び本件明 細書の記載を総合しても、本件発明1の乾燥工程から、ブラシを用いるものが除外 されているとは認められない。
エ そうすると、甲53の1文書に記載された工程は、本件発明1を構成する工\n程を全て含むものであるから、本件発明1を開示するものといえる。 オ この点、被告は、甲53の1文書記載の工程では、精練工程の後に脱水をし ていること、タンブラー乾燥をしていないこと、使用液剤に酸性の液剤が含まれて いないこと等から、本件各発明とは異なると主張する。しかしながら、本件発明1 の特許請求の範囲の記載に照らすと、請求項1に記載された工程を全て含む必要が あるとはいえるものの、同工程のみを含むものに限定されており、別の工程が付加 されたものが除外されているものと理解することはできない。そして、本件明細書 の記載に照らしても、本件発明1は、請求項1に記載された工程のみを含むものに 限定されていると理解することはできない。そうすると、「精練工程の後に脱水」を していることをもって本件各発明とは異なるということはできない。また、タンブ ラー乾燥は本件発明3を構成する要素ではあるものの、本件発明1を構\成するもの ではない(なお、前記2(5)(8)のとおり、タンブラーを利用した乾燥工程は、平成 18年頃から新栄染色で行われていたものと認められるが、当時、当該乾燥工程の 存在及び内容が秘密事項として管理されていたことをうがわせるような主張立証は ない。そもそも、甲12(パイル織編物の仕上げ方法に関する公開特許公報(昭6 2−191566号))中にもパイル織物の染色加工後、タンブラー乾燥機で乾燥す る旨の記載があることにも照らすと、本件各発明の出願時において、少なくとも、 熱可塑性繊維のパイル織物についてタンブラーを利用して乾燥する工程自体は公知 であったと考えられる。)。さらに、酸性の液剤を使用することは本件各発明の技術 的範囲に含まれるものではなく、その他の被告の指摘する事項はいずれも本件各発 明を構成する事項ではない。したがって、上記被告の主張はいずれも前記エの判断\nを左右するものではない。 被告は、甲53の1文書の工程は開発途中のものであって技術として確立してい なかったとも主張するが、前記2(9)のとおり、同工程は、平成23年10月頃、新 栄染色において、現に商品の製造に用いられていた工程なのであるから、これが発 明に当たるとすれば、発明として完成していたのは明白である。
(3) 甲2文書について
甲2文書は、前記2(11)のとおり、ベルベット織りによる立毛シートの製造工程 を示すものとして交付されたものであり、別紙3のとおり、「織り」→「蒸しセット」→「PS」→「精練」→「染色」→「乾燥」の各工程が記載されたものである。甲 2文書に記載された工程について前記(2)と同様に検討すると、甲53の1文書に 記載された工程と同じであり、本件発明1を開示するものであると認められる。な お、「織り」が製織工程と切断工程を含むことについては前記(2)イと同様であり、 「PS」はプレセットを意味するものと認められる(証人A〔34頁〕)。また、甲 2文書の工程には「乾燥」の前の「脱水」が記載されていないものの、乾燥する前 に脱水を行うことは当然であるから、当業者は、甲2文書により、脱水工程を含む ものが開示されているものと理解すると認められる。
(4) 小括
そうすると、本件発明1は、平成23年10月頃には公然知られていたと認めら れるから、本件発明1に係る特許は特許法29条1項1号の規定に違反してされた ものであって、特許法123条1項2号の無効理由がある。 したがって、甲2生産工程(甲2文書に記載された工程であり、かつ甲53の1 文書に記載された工程)が公然知られたものとはいえず、本件発明1が特許法29 条1項1号に該当しないとする本件審決の判断には誤りがあるから、取消しを免れ ない。
4 取消事由4(冒認出願についての判断の誤り)について
(1) 冒認出願を理由として無効審判請求をすることができるのは特許を受ける権 利を有する者に限られるから(特許法123条2項、1項6号)、原告は、自らが特 許を受ける権利を有する者であることを証明する必要がある。そして、原告が主張 する本件各発明に係る特許を受ける権利は、Bが発明者として有していた本件各発 明に係る特許を受ける権利に由来するものであるから、原告が特許を受ける権利を 有する者であるといえるためには、Bが本件各発明の発明者であると認められる必 要がある。
(2) ここで、発明者とは、発明の技術的思想の創作行為に現実に加担したもので あって、課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与した者をいう ところ、前記1(2)によると、本件各発明の特徴的部分は、蒸し工程と乾燥工程の双 方を用いることにより、高い立毛性を得ることにあり、本件発明3については、こ れに加えて、タンブラーを使用することでブラッシング付き乾燥機を要しないもの となったことにあると認められる。
(3) 前記2(9)及び前記3(2)のとおり、本件発明1は平成23年10月までに完 成していたということができる。前記2の経緯及びAが、新栄染色のAとして作成 した平成21年7月1日付け文書(甲128の3)に、「現況のB流を60点とする と80点迄は持っていける」と記載していたことからすると、新栄染色では、平成 21年7月当時、Bが指導した工程により染色加工が行われていたことが認められ、 これに反する証拠はない。そして、前記2のBの職歴や本件訴訟に提出されたBが 作成したメモ(甲132)、Bが、新栄染色設立以前にも昌和染色に対し染色工程を 指導するなどしていたこと(甲1の1、証人C〔29頁〕)に照らすと、Bは、立毛 シートの染色加工に関し、創意工夫を凝らして発明をするに足る十分な知見を有し\nていたことが推認されるのであり、Bが、その陳述書(甲1の1)において、昭和 40年代の後半、プレセットの前に蒸し工程をするという工程を開発した経緯等と して、株式会社杣長からポリエステルなど合成繊維のパフ用ベルベット織物(立毛 シートの半製品)の製造委託を受けたが、ポリエステルでは、シルクやレーヨンと は異なり、ピン式ヒートセッターでピン止めして吊るしてプレセットを行うとピン 付近とそれ以外の部分が不均質になるという問題があったことから、プレセット前 に蒸し工程を行い、ポリエステルを収縮させてからプレセットをしたところ、パイ ルが立毛になるという効果があったこと、蒸しは蒸し箱内にベルベット織物を垂下 させて高温水蒸気で蒸すものであり、Bが条件を90〜110゜C)、2時間と指示し て行ったこと、パイル長が2〜3mmであったことなど、開発の経緯及び内容を具 体的に陳述していることは、これと整合するものである。
また、Bは、昭和50年代から、京都において、日本化工有限会社の従業員とし てハセガワベルベットから委託を受けた染色加工工程に関与し、平成元年に有限会 社新栄テキスタイルを設立した後も、同社において被告から染色加工の委託を受け ていたこと、同年頃までにBが作成したとされるメモ(甲132の2)には、染色、 脱水後の乾燥をタンブラーで行う旨の記載があること、平成18年に、新栄染色が 設立された際、BはAからの誘いにより代表取締役に就任したこと、その頃、Bが\n京都からタンブラー乾燥機を新栄染色に持ち込んで設置したこと、新栄染色におい ても、Bは染色加工業務を担当し、被告代表者であったCに対し、染色加工の具体\n的内容を指導していたことは、前記2(3)から(6)までのとおりである。以上を総合 すると、Bは、遅くとも新栄染色を退職する平成21年3月よりも前に、本件各発 明をいずれも完成させていたものと推認するのが相当である。 なお、被告は、Bの陳述書(甲1の1)にパイル長が2〜3mmであったとある から、Bには短いパイル長のものに係る知見しかなかったと主張するが、本件各発 明の特許請求の範囲(請求項4)には「切断工程後のパイル糸の長さを、織物基布 から3〜10mmの範囲で突出させる」とあるから、パイル長が3mmのものは、 本件各発明の技術的範囲に含まれるものであり、上記被告の主張は、Bが本件各発 明をするに必要な知見を有していたとする上記判断を左右しない。
(4) これに対し、Aは、本件の審判手続における尋問では、本件各発明のキーポ イントは蒸し工程であり、蒸し工程の後にヒートセット(プレセット)を加えるこ とにたどり着いた、長い間、蒸し工程をいれないでやっていた(甲74の3・06 4項目、130項目、131項目、149項目)と述べ、本件訴訟においても、被 告は、令和5年11月8日付け被告準備書面(2)2頁においては、本件各発明をする 前の短いパイル糸のベルベットに関する新栄染色の染色工程には蒸し工程及びプレ セットが含まれておらず、長いパイル糸のベルベットを製造することができなかっ た旨主張し、それに沿う内容のAの陳述書(乙8)を提出した。ところが、被告は、 同年12月19日付け被告準備書面(3)5頁では、本件各発明をする前にも新栄染 色では長いパイル糸のベルベットの製造をしており、その工程には蒸し工程が含ま れていたがプレセットが含まれていなかったと主張を変更し、更に、令和6年1月 22日付け被告準備書面(4)では、短いパイル糸の染色工程にも蒸し工程が含まれ ていたと主張を変更し、変更後の主張に沿う内容のAの陳述書(乙11)を改めて 提出した。この主張内容及び陳述内容の変更は、発明の課題そのものや発明の必要 性、発明の創作過程に極めて大きな影響を与えるものであるから、真にAが発明者 であるのであれば、単なる記憶違いなどによって上記のごとくその内容を変遷させ るとはおよそ考え難い。なお、前記2(6)のとおり、新栄染色では当初は外注により、 遅くとも平成19年からは自社で蒸し工程を実施していたのであるから、新栄染色 が以前は「蒸し工程をしていなかった」との被告の従前の主張は事実とは認められ ない。
さらに、被告の主張によると、従前の新栄染色の染色工程においてはプレセット を行っていなかったことになるが、Aが述べる試行錯誤の内容は、プレセットにつ いては、それを行う順番を試行錯誤したというものであって、プレセットを入れる こととした理由については何ら説明をしていない。このことは、当時、既にプレセ ット工程自体は存在しており、Aは専らその工程の順番について試行錯誤していた ことをうかがわせるものである。また、Aが蒸し工程について試行錯誤した内容と して述べる条件は、「90゜C)の蒸気で、0分、30分、60分、120分」と試した というものであって、「95〜110゜C)で2〜3時間蒸す」(【0022】)という本 件明細書の記載と合致しない。Aは、本件の審判手続の尋問において、自ら発明ノ ートを作成したことはないことを前提とした発言をしているが(甲74の3・13 5項目)、これは試行錯誤を繰り返していたはずの発明者としておよそ不自然とい うほかない。
被告は、本件各発明においては乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いることが重要 である旨主張する。しかし、前記2(5)(8)のとおり、新栄染色には、平成18年頃 から既にタンブラー乾燥機が設置されており、平成23年頃にはその台数が3台に 増加していたことが認められる。Bらが作成し、平成21年8月20日に被告大阪 営業所からFAX送信されたものと認められるメモ(甲106)によっても、遅く とも同日までには、新栄染色では、乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いていたこと がうかがえる。前記2(10)のとおり、A自身が作成した平成24年1月10日付け メモ(甲100の3)にも、新栄染色に関し、タンブラー方式はコストが高いこと から平成24年中旬にテンター方式へ変更する旨の記載がある。これらの点に照ら すと、遅くとも、平成24年までには、ベルベット織物の製造分野において乾燥工 程にタンブラー乾燥機を利用することは普通に行われていたと認めるのが相当であ るから、本件各発明において創作されたものとは認められない。Aは、中和剤を用 いることで精練工程の後の脱水工程を省略し、ウィンス機で精練工程と染色工程が できるようになったと証言しているが(証人A〔6頁〕)、そもそも中和剤を用いる ことは本件各発明の特許請求の範囲に記載された事項ではなく、本件明細書には「ウ ィンス機を使用して、」「立毛シートを処理液(例えば、アルカリ剤、非イオン活性 剤)中に順次送り込んで洗浄する」(【0024】)との記載があるものの、中和剤を 用いることで脱水工程を省略することができる旨の記載はないから、結局、上記A の証言は、それが発明について述べたものだとしても、本件各発明とは関係のない 別の発明について述べるものにすぎない。Aは、小型、大型、中型のタンブラーで 試し、中型のタンブラーを用いることで目的を達成することができたとも証言して いるが(証人A〔9頁〕)、本件発明3の特許請求の範囲にはタンブラーの大きさに ついての言及はなく、本件明細書の記載を考慮しても、「タンブラー」の大きさは不 明であり、特許請求の範囲に記載された「タンブラー」が「中型のタンブラー」で あり、タンブラーの大きさが何らかの技術的意義を有するものであると解すること ができるような記載もない。
以上を総合すると、Aが染色工程につき様々な工夫をしたことがあったとしても、 いずれも本件各発明に係る特許請求の範囲の内容に含まれるものではないから、本 件各発明の発明者がAであるとの被告の主張を採用することはできない。他にBが 平成21年3月よりも前に本件各発明をいずれも完成させていた旨の前記認定を覆 すに足りる主張立証はない。
(5) したがって、本件各発明に係る発明者はBであると認めるのが相当であるか ら、本件の出願は冒認出願に当たり、本件特許には特許法123条1項6号の無効 理由がある。また、原告は、Bから特許を受ける権利の一部について譲渡を受け(甲 16)、残部はBの相続人の全員が相続放棄したことにより原告に帰属したから(甲 110、111)、本件各発明に係る特許を受ける権利を有する。 よって、本件特許について冒認出願の無効理由がないとした本件審決の判断には 誤りがある。

◆判決本文

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令和5(ネ)10026  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和6年1月31日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

特許権侵害訴訟の控訴審判決です。原審は、被告製品は本件発明2の技術的範囲に属さない、本件発明1は公然実施発明Bであって新規性を欠くとして請求棄却しました。控訴審も同様です。

ア 控訴人は、構成要件2Bを「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であることを要する」と解する根拠は、特許請求の範囲の文言にも本件発明2の課題にも なく、当業者の技術常識等からみても非現実的である旨主張する。
イ しかし、構成要件2Bは「前記排水溝の壁面の表\面粗さが、算術平均粗 さ(Ra)で、2.0μm以下であることを特徴とする」と規定してお り、本件発明2の特許請求の範囲の文言全体をみても、排水溝壁面の表面粗さについて、一部は2.0μmを超えるが製品の一定範囲や所定の\n測定箇所が2.0μm以下であるものを含む、あるいは全体の算術平均 粗さ(Ra)の平均値が2.0μm以下であるものを含むと解すべき文 言はない。
この点は、本件明細書2の記載をみても同様である。控訴人が指摘す る本件明細書2の記載や図面は、従来技術や実施例に係る排水溝の性状 等を特に留保なく説明するものであり、控訴人が主張するように、作業 過程で異常(イレギュラー)が発生した箇所があることを前提とし、こ れを除いた「任意の箇所」を示すものであることを窺わせる記載はない。 控訴人は、1)製紙用弾性ベルトの排水溝は、作業前に設定した加工条 件に基づいて均一的に連続加工されるものであること、2)作業時の諸要 因によって加工結果にばらつきが生じることが避けられないこと、3)排 水溝の壁面を全長にわたって測定する作業は現実的に不可能であり、任意に選定された排水溝の壁面を測定する作業によって製品の性状を把握\nするという、当業者の技術常識を考慮すべき旨主張する。
しかし、上記のとおり明確な構成要件2Bの文言について、明細書にも記載がなく、その範囲も不明確な例外を含むと解することは、不当な\n拡張解釈というべきであって、特許請求の範囲の解釈に当たって当業者 の技術常識を考慮するという枠組みを超えるものといわざるを得ない。 控訴人の主張は、当業者が定める自社製品の品質基準としてはともかく、 独占権が付与される特許請求の範囲の解釈としては採り得ない。 なお、控訴人が指摘する大阪地方裁判所平成15年(ワ)第10959号 同17年2月28日判決は、控訴人の主張を裏付けるものではない。
ウ したがって、原判決判示のとおり、構成要件2Bは「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であること」を要すると解するのが相当である。
そうすると、控訴人が主張する<ステップ1>から<ステップ2の2 B>まで、すなわち「各測定結果に係る9溝ないし18溝のデータ数値 を参照し、特定の溝壁面の表面粗さ数値が他の溝の同一壁面に比して突出して高くなっている」ものを「当業者からみて明らかに溝加工作業時\nに生じた異常(イレギュラー)」として除外すること、及び「測定結果 に係る各壁面の表面粗さの平均値が算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下である結果が得られているか否か」(控訴人の他の主張と併せると、\n任意の測定箇所の算術平均粗さの「平均値」が2.0μm以下であるこ とを意味すると解される。)により充足性を判断する判断手法は、構成要件2Bを逸脱する独自の解釈に基づくものといわざるを得ず、採用で\nきない。
・・・
(2) 公然実施発明Bに基づく本件発明1の新規性欠如の有無について
イ 公然実施をされた発明に当たるかについて
(ア) 控訴人は、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面にD MTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可能な分析方法によって知ることができなかった旨主張する。\n
(イ) しかし、まず、証拠(乙37、124、128、129)によれば、 エタキュアー300は、本件特許1の出願前から実用化され、ウレタン 用の硬化剤として注目されていたことが認められる(原判決44頁〜)。 控訴人は、上記文献等はシュープレス用ベルトに使用される硬化剤に ついて言及するものでないと主張するが、上記文献等はポリウレタン全 般向けの硬化剤としてエタキュアー300を説明するものであるところ、 シュープレス用ベルトに利用される硬化剤が他の一般的なポリウレタン の硬化剤と異なるとみるべき根拠はない(上記文献等には、代表的な従来品が本件明細書1【0003】に従来のシュープレス用ベルトの硬化\n剤として記載されているMOCAである旨の記載も複数ある。)。
また、被控訴人は、遅くとも平成9年7月時点ではエタキュアー30 0を使用していたところ(原判決45頁)、上記ア(イ)の認定事実によ れば、被控訴人は硬化剤としてDMTDAを使用することを独自に見出 したのではなく、エタキュアー300を製造販売するアルベマール社の 国内関連会社との取引を契機として知ったと認められる。この事情は、 他の当業者が硬化剤の候補としてエタキュアー300に着目する蓋然性 を裏付ける事情となることは明らかである。 控訴人は、さらに、ポリウレタンの硬化剤はDMTDAの他にも約8 0種類存在し(甲43)、その全てについて標準品を準備して分析依頼 を行うことは非現実的であると主張する。
しかし、「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(乙128)に「実用化 されている熱硬化PUエラストマー用芳香族ジアミン架橋剤」として記 載された5種類、あるいは特開2000−248040号公報(乙12 7)にポリウレタンプレポリマーと反応させるアミン硬化剤組成物とし て記載された芳香族ポリアミンの15種類、その中でも好ましいと記載 された4種類には、いずれもエタキュアー300又はDMTDAが含ま れており、当業者は、従来用いられているMOCA(本件明細書1【0 003】)と同類であるこれらの硬化剤を想定するとみるのが自然であ る。
(ウ) 控訴人は、ベルトの外周面に着目し、外周面のみを切り出して分析を 依頼することは、当業者が通常に利用可能な分析技術とはいえない旨主張する。\nしかし、本件特許1の出願日前において、外周層、内周層等の複数の 層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリマーと硬化剤と を混合してベルトの弾性材料とすることは技術常識であり(原判決44 頁)、自由に解析等をなし得る状態に置かれたベルトを解析して構造等を特定することは可能\であったと認められる(このことは甲25に記載された断面写真から明らかであり、原判決の認定に問題はない。)。 したがって、ベルトBの外周層を切り出して分析を依頼することは、 本件訴訟において控訴人(甲10の1〜4)及び被控訴人(乙1〜3) が行ったのと同様、本件特許1出願前の当業者にも可能であったと認められる。\n
なお、当業者が仮に外周層と内周層に異なる硬化剤を用いる製造方法 を認識せず、これらを区別せずに分析を依頼した場合、全体について硬 化剤としてDMTDAが使用されているという分析結果を知ることにな り、この結果はベルトBの正しい構成なのであるから(乙32)、「外周面を構\成するポリウレタンは、」「ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている」との構成を含め、本件発明1の内容を知り得たといえることに変わりはない。\n
(エ) したがって、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面に DMTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可 能な分析方法によって知ることができたと認められる。ベルトBが公然実施された発明とはいえない旨をいう控訴人の主張は採用できない。\n

◆判決本文

原審はこちら。

◆大阪地裁平成29(ワ)4178
原審では、被告は、一旦、損害論に入ってから、2.0μm以下である」との構成要件を充足しないとして、非侵害の主張を行いましたが、これは「時機に後れた」とは認定されませんでした。
原告は、第15回弁論準備手続期日から損害論の審理が開始されたにもかかわ らず、被告は、被告製品1〜3及び5と同じシリーズの製品等における排水溝壁 面の表面粗さの測定結果(乙152〜159)を新たに証拠提出するとともに、非侵害の主張を行ったことが時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨を主張する。\nしかし、被告が前記証拠等を提出したのは、原告が、訴状においてはイ号製品 が本件発明2の技術的範囲に属する旨を主張しつつも、被告製品1〜3及び5の 排水溝壁面の表面粗さに限定して立証活動をしていたが、裁判所が本件発明2については損害論に入る旨の心証開示を行ったことを受けて、被告製品1〜3及び\n5の各製品と同じシリーズの製品等についても本件発明2の技術的範囲に属する 旨を改めて主張したことに対応するものであって、必ずしも時機に後れたものと は認められない。したがって、原告の前記主張は採用できない。

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