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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

本件発明

平成25(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年11月27日 知的財産高等裁判所 

 新規性違反なしとした審決について、要旨認定に誤りがあるとして、審決が取り消されました。
 上記アによると,本件訂正発明と甲7発明との一応の相違点は,審決が認定するとおり,本件訂正発明では,目的物質が「基剤に保持され」ているのに対して,甲7発明では,目的物質が基剤からなる医療用針内に設けられたチャンバに封止されているか,縦孔に収容されることにより保持されている点となる。審決は,この一応の相違点について,「目的物質が,基剤にではなく,基剤に設けられた空間に保持されている点で,両者は,相違する。したがって,本件訂正発明は,甲第7号証に記載された発明であるとはいえない。」と判断した。この審決の判断は,請求項1の記載を当業者が読めば,「基剤に保持された目的物質とを有し」とは,目的物質が基剤に混合されて基剤とともに存在していると理解されること,及び,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確ではないとして,本件訂正明細書の記載(【0005】【0006】【0008】〜【0010】【0070】等)をみても,同様に解されることを前提とするものである。しかし,請求項1の「基剤に保持された目的物質」との記載は,目的物質が基剤に保持されていることを規定しているのであり,その保持の態様について何らこれを限定するものでないことは,その記載自体から明らかである。そして,「保持」とは,広辞苑(甲12)にあるとおり,たもちつづけること,手放さずに持っていることを意味する用語であり,その意味は明確である。したがって,請求項1の「保持」の技術的意義は,目的物質を基剤で保持する(たもちつづける)という意味のものとして一義的に明確に理解することができるのであるから,審決が,請求項1の「基剤に保持された目的物質」との記載について,目的物質が基剤に混合されて基剤とともに存在していると理解されることと解したのは,請求項1を「基剤に混合されて保持された目的物質」と解したのと同義であって,誤りであるといわざるを得ない。また,本件訂正発明の請求項1の記載は,上記のとおり,請求項の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないなど,発明の詳細な説明を参酌することができる特段の事情がある場合にも当たらないから,少なくとも請求項1の要旨認定については,発明の詳細な説明を参酌する必要はないところである(最高裁判所平成3年3月8日第二小法廷判決民集45巻3号123頁参照)。そうすると,甲7発明の,目的物質が基剤からなる医療用針内に設けられたチャンバに封止されていることや縦孔に収容されていることは,本件訂正発明の目的物質が「基剤に保持された」構成に含まれているといえる。そうすると,本件訂正発明は,甲7公報に記載された発明といえるから,特許法29条1 項3号の規定により特許を受けることができないものであり,この点に関する審決の判断は誤りである。

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平成24(行ケ)10433 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年09月19日 知的財産高等裁判所

 両者は技術的思想としては異なるとして、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
 前記2によると,先願基礎発明は,従来,はんだ付けの際に半導体基板に生じる熱応力を軽減し,半導体基板の薄肉化によるクラックの発生を防止するために,半導体材料と熱膨張差の小さい導電性材料からなるクラッド材を用いると,体積抵抗率が比較的高い合金材によって中間層が形成されるため,電気抵抗が高くなり,太陽電池の発電効率が低下するという問題を解決課題とするものである。先願基礎発明は,芯材の体積抵抗率を2.3μΩ・cm(23μΩ・mm)以下とすることにより,優れた導電性及び発電効率を得ることができるとともに,耐力を19.6ないし49MPaとすることによって,過度に変形することがなく,取扱い性が良好であり,半導体基板にはんだ付けする際に凝固過程で生じた熱応力により自ら塑性変形して熱応力を軽減解消することができるので,半導体基板にクラックが生じ難いという効果を奏するものである。
⑶ 耐力に係る数値範囲について
ア 前記(1)及び(2)によれば,本願発明と先願基礎発明とは,体積抵抗率が23μΩ・mm以下である太陽電池用平角導体である点で一致する(その点で,体積抵抗率が50μΩ・mm以下で,かつ引張り試験における0.2%耐力値が90MPa以下で一致するとする本件審決の認定は相当ではない。)にすぎず,引張り試験における0.2%耐力値については,本願発明は90MPa以下で,かつ49MPa以下を除いているため,先願基礎発明の耐力に係る数値範囲(19.6〜49MPa)を排除している。したがって,本願発明と先願基礎発明とは,耐力に係る数値範囲について重複部分すら存在せず,全く異なるものである。イ 先願基礎発明は,耐力に係る数値範囲を19.6ないし49MPaとするものであるが,先願基礎明細書(甲10)には,太陽電池用平角導体の0.2%耐力値を,本願発明のように,90MPa以下(ただし,49MPa以下を除く)とすることを示唆する記載はない。また,半導体基板に発生するクラックが,半導体基板の厚さにも依存するものであるとしても,耐力に係る数値範囲を本願発明のとおりとすることについて,本件出願当時に周知技術又は慣用技術であると認めるに足りる証拠はないから,先願基礎発明において,本願発明と同様の0.2%耐力値を採用することが,周知技術又は慣用技術の単なる適用であり,中間層の構成や半導体基板の厚さ等に応じて適宜決定されるべき設計事項であるということはできない。したがって,本願発明と先願基礎発明との相違点に係る構\成(耐力に係る数値範囲の相違)が,課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。
ウ 本願発明は,前記(1)のとおり,耐力に係る数値範囲を90MPa以下(ただし,49MPa以下を除く)とすることによって,はんだ接続後の導体の熱収縮によって生じるセルを反らせる力を平角導体を塑性変形させることで低減させて,セルの反りを減少させるものである。これに対し,先願基礎発明は,前記(2)のとおり,耐力に係る数値範囲を19.6ないし49MPaとすることによって,半導体基板にはんだ付けする際に凝固過程で生じた熱応力により自ら塑性変形して熱応力を軽減解消させて,半導体基板にクラックが発生するのを防止するというものである。そうすると,両発明は,はんだ接続後の熱収縮を,平角導体(芯材)を塑性変形させることで低減させる点で共通しているものの,本願発明は,セルの反りを減少させることに着目して耐力に係る数値範囲を決定しており,他方,先願基礎発明は,半導体基板に発生するクラックを防止することに着目して耐力に係る数値範囲を決定しているのであって,両発明の課題が同一であるということはできない。
⑷ 被告の主張について
被告は,本願発明及び先願基礎発明は,いずれもシリコン結晶ウェハを薄板化した際に生じる問題を解決するために,平角導体(芯材)を塑性変形させることによって,はんだ付けする際の熱応力を低減させる点において,共通の技術的思想に基づく発明であるところ,本願発明の耐力に係る数値範囲から49MPa以下を除くことに格別の技術的意義を見いだすことはできないから,当該事項について設計的事項を定めた以上のものということはできず,先願基礎発明の耐力に係る数値範囲も,設計上適宜に定められたものにすぎないから,当該数値範囲に限られるものではなく,本願発明及び先願基礎発明における耐力に係る数値範囲の特定についての相違は,発明の実施に際し,適宜定められる設計的事項の相違にとどまるものであって,発明として格別差異を生じさせるものではないと主張する。しかしながら,前記のとおり,本願発明はセルの反りを減少させることに,先願基礎発明はクラックを防止することに,それぞれ着目して,耐力に係る数値範囲を決定しているのであるから,両発明の課題は異なり,共通の技術的思想に基づくものとはいえないから,被告の主張は,その前提自体を欠くものである。また,前記のとおり,本願発明の耐力に係る数値範囲から49MPa以下を除くことが,設計上適宜に定められたものにすぎないということはできず,先願基礎発明の耐力に係る数値範囲についても,同様に,設計上適宜に定められたものにすぎないということはできない。

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平成24(行ケ)10412 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年08月09日 知的財産高等裁判所

 本件発明における用語「化粧用チップ」が、引用発明の「アイライナーの芯」と対応するとした前提が誤っていると判断し、進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。
 本願補正発明の「化粧用チップ」と引用発明の「アイライナーの芯2」とは,化粧料を化粧部位に塗布する化粧用具の先端部という点では共通するものの,本願補正発明の「化粧用チップ」は,まぶたや二重の幅にアイシャドー等を付するために,化粧料を面状に付着させたり,塗布したり塗り拡げたり,ぼかしてグラデーションを作るなどするための化粧用具の先端部であると共に,これを目の際に使用して線状のアイラインを描くためにも用いることができるものであるのに対し,引用発明の「アイライナーの芯2」は,まぶたの生え際(目の際)に線状のアイラインを描くためにのみ使用する化粧用具の先端部であり,本願補正発明の「化粧用チップ」のように,化粧料をまぶたや二重の幅に面状に塗布したり塗り拡げたりして,アイシャドー等を付するとの機能を備えた用具の先端部ではない点で異なるものである(化粧用チップは,面状のアイシャドー等及び線状のアイライン形成のいずれのためにも使用することができるのに対し,アイライナーの芯2は線状のアイライン形成のためにのみ使用することができるものであり,面状のアイシャドー等を形成するために使用されるものではない。)。したがって,化粧用チップとアイライナーの芯2とは,一部において用途が共通するとしても,その主たる用途は異なるものであり,これを化粧用具の先端部として同一のものとみることはできない。してみると,審決が,引用発明の「アイラインを描くためのアイライナーの芯2」又は「芯2」が,文言の意味,形状又は機能\からみて本願補正発明の「化粧用チップ」に相当すると判断し,これを本願補正発明と引用発明との相違点として認定せずに,両者は,「塗布部先端の端縁部を線状又は面状にしてなる化粧用チップ」である点で共通すると認定したことは誤りである。そして,審決は,本願補正発明と引用発明との上記相違点を看過した上で,その一致点及び相違点1及び2を認定し,相違点1については,引用発明のアイライナーの「芯2」の先端部の「略直線状又は略平面状」の形状を化粧用チップの「直線状又は平面状」の形状とすることは「当業者であれば適宜なし得た」と判断したものである。しかし,引用発明の「アイライナーの芯2」は,化粧用チップと異なり,まぶたや二重の幅に化粧料を面状に塗布したり,これを塗り広げるなどしてアイシャドー等を施すとの機能を奏さず,線状にアイラインを描くとの機能\のみを奏するものであるから,そのような「アイライナーの芯2」の塗布部先端の形状を,まぶたや二重の幅に化粧料を面状に塗布したり,これを塗り拡げるなどしてアイシャドー等を施すとの機能を奏する化粧用チップの塗布部先端の形状として転用し得るものか否かは直ちには明らかではなく,本来であるならば,審決は,このような相違点も踏まえて容易想到性についての判断をすることを要するのに,これをせずに,アイライナーの芯と化粧用チップとの上記相違点を看過して容易想到性の判断をしたものである。よって,審決の上記相違点の看過は,審決の容易想到性の判断に実質的な影響を与える誤りであるといわざるを得ず,審決は取消しを免れない。\n(2) 被告は,「化粧用チップ」は,英語の「tip」や日本語の「チップ」の語義に照らして,「化粧料の塗布用の先端部材」と解されること,本願の特許請求の範囲に「化粧用チップ」の具体的用途や使用方法について何らの特定のないこと,本願明細書の記載によれば,本願補正発明の「化粧用チップ」はアイラインを引くことにも使用されると理解されること,化粧用具に関する技術分野においては,化粧料を化粧部位に塗るために使用されるチップが,化粧料を含浸させるチップを排除するものではないことに照らせば,引用発明の「アイライナーの芯2」が本願補正発明の「化粧用チップ」に相当するとの審決の認定に誤りはないと主張する。しかし,本願補正発明の「化粧用チップ」は,その特許請求の範囲に具体的な用途や使用方法についての特定がないとしても,まぶたや二重の幅に化粧料を付着させ,これを塗布したり塗り拡げたりする化粧用具の先端部であり,またアイラインを引くことにも使用され得るものであることが,本願明細書の記載から優に認められるものであることは,前記のとおりである。また,本願補正発明の「化粧用チップ」が化粧料を含浸させるタイプのものも排除するものではないことも前記認定のとおりであるものの,引用発明の「アイライナーの芯2」が,まぶたや二重の幅に化粧料を付着させ,これを面状に塗布したり塗り拡げたりするアイシャドー等用の化粧用具のための先端部ではないことも刊行物1の前記記載から明らかである以上,本願補正発明の「化粧用チップ」と引用発明の「アイライナーの芯2」は,化粧用具の先端部として同一のものであるとはいえず,被告の上記主張を斟酌しても,引用発明の「アイライナーの芯2」を本願補正発明の「化粧用チップ」とみることができないことも前記認定判断のとおりである。被告の上記主張は採用することができない。

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平成24(行ケ)10239 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月21日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、一致点認定誤りを理由に、取り消されました。
 以上によれば,本願発明は,特に高融点ガラス材料に対して公知の清澄剤を添加しても清澄効果が十分ではなく,毒性を有するものを含む清澄剤を多量に添加する必要があったという課題を解決するため,従来の温度(せいぜい1700°C)よりも高い温度(1700°Cないし2800°C)にガラス材料を加熱することとし,かつ,当該温度に加熱されたガラス材料において清澄ガスを発生させるような清澄剤を添加するという手段を採用して,化学的清澄方法及び物理的清澄方法の双方の作用機序を組み合わせる結果,公知の清澄剤の潜在力を活用可能とし,新規な清澄剤の使用を可能\とし,特に高融点ガラス材料の清澄を改善し,毒性を有する清澄剤の大量使用を回避し,溶融ガラスの再沸騰の危険性が減少し,添加される清澄剤を減少させ,清澄時間を従来技術の約3時間から約30分に著しく短縮し,小さな清澄容積を可能とするという作用効果を有するものであるといえる。
イ なお,本願発明の特許請求の範囲の記載にいう「清澄ガス」の技術的意義は,一義的に明確とはいえないところ,本願明細書の記載を参酌すると,清澄ガスは,物理的清澄方法及び化学的清澄方法の双方で発生するものであるとされているものの,物理的清澄方法において清澄の対象となるガス気泡については専ら「気泡」という用語が用いられ,併せて吹き込みガスを使用する方法についての言及がある一方,化学的清澄方法においてはガラス材料に清澄剤を添加することにより発生するガスであって,それによりガラス材料中に溶けているCO2などの異質ガス(清澄の対象となる気泡)の除去を促進するものを「清澄ガス」をして記載している(前記イ,ウ,オ)。そして,本願明細書には,本願発明について物理的清澄方法における吹き込みガスを使用する旨の記載はない一方,本願発明は,「溶融ガラス中の清澄剤により清澄ガスが発生する溶融ガラスの清澄方法」であって,前記アに説示のとおり,課題解決のために清澄剤を添加するに当たり,従来の温度よりも高い温度にガラス材料を加熱することとし,かつ,当該温度に加熱されたガラス材料において清澄ガスを発生させるような清澄剤を添加するという手段を採用するものであるから,本願発明の特許請求の範囲の記載にいう「清澄ガス」は,専ら化学的清澄方法において溶融ガラスに清澄剤を添加することにより発生するガスを意味するものと解するのが相当である。
・・・・
ウ 以上によれば,本願発明と引用発明とは,「溶融ガラスの清澄方法」である点のほか,「溶融ガラスは1800°C〜2000°Cの温度に加熱される」ものである点では一致するものの,「溶融ガラス中より清澄ガスが発生する」点で一致するとはいえず,この点で相違するというべきである。また,引用発明が「溶融ガラス中より清澄ガスが発生する」ものではない以上,「この溶融ガラスについて清澄ガスの放出が1800°C〜2000°Cの温度で生起する」点で一致するということもできず,この点においても相違するというべきである。

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平成24(行ケ)10077 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月25日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、本件発明は引用発明とは技術的に異なるとして、取り消されました。
 補正発明に係る特許請求の範囲では,「陽極キャッピング層」について,「Pd,Mg,又はCrを含む」ことが特定され,他の限定はない。ところで,本願明細書の記載によれば,補正発明の「陽極キャッピング層」は,輝度安定性の向上等,OLEDの1つ以上の特性を向上させる目的で設けられるものである。補正発明に係る有機発光素子において,「陽極キャッピング層」は,基本的には電子受容層と陽極との間に配列され,陽極の一部とみなすこともできるものであり,1層以上存在し,「陽極キャッピング層」が電子受容層及び陽極の少なくとも一方に接触している実施形態が示されている。電子受容層と「陽極キャッピング層」との間,「陽極キャッピング層」と陽極との間に1層以上の付加的な層が挿入される場合も含まれる。これに対し,引用発明における「バリア層」は,陽極形成時に有機化合物層の表面に与えられるダメージを防止するため,有機化合物と陽極との間に設けられるものであり,金,銀等の仕事関数の大きい材料や正孔注入性を有するCu−Pc等の材料から形成される。以上によると,引用発明の「バリア層」は,陽極形成時のダメージ防止の目的で設置されるものであるのに対し,補正発明の「陽極キャッピング層」は,輝度安定性の向上等,OLEDの1つ以上の特性を向上させる目的で設けられるものであって,両発明では,上記各構\成を採用した目的において相違する。引用発明の「バリア層」は,上記設置目的から,陽極と有機化合物層との間に,これらに接して設置されるものであると認められる。陽極と「バリア層」の間,又は「バリア層」と有機化合物層の間に別の層が存在する場合には,その層が有機化合物層の表面に与えられるダメージを防止する効果を奏することから,そのような層に重複して「バリア層」を設ける必要性はない。これに対し,補正発明の「陽極キャッピング層」は,陽極と電子受容層との間にあり,陽極に接している場合を含むが,陽極と接することに限定されるものではない。また,引用発明の「バリア層」を形成する材料は,金,銀等の仕事関数の大きい材料や正孔注入性を有するCu−Pc等であるのに対し,補正発明の「陽極キャッピング層」は,Pd,Mg,又はCrを含むことを必須とする。以上のとおり,引用発明の「バリア層」と補正発明の「陽極キャッピング層」とは,その設置目的や技術的意義が異なり,設置位置も常に共通するものではなく,材料も異なることからすると,引用発明における「バリア層」が補正発明における「陽極キャッピング層」に相当するとは認められない。

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平成24(行ケ)10165 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月28日 知的財産高等裁判所

 本件発明とは技術的意義が異なるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 本件補正発明は,本願明細書(【0008】)の記載のとおり,ティシュペーパーの取出し性の改善を図ることを課題としたものであるが,この取出し性は,以下のとおり,ティシュペーパー束が圧縮された状態で収納箱に収納されていることを前提としたものということはできず,むしろ,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提としたものであると解される。(ア) すなわち,本願明細書の表1には,本件補正発明の実施例1ないし7及び比較例1ないし4が挙げられている。そして,表\1には,「窓フィルムとウェブの間隙」という項目があるが,フィルムは収納箱の上面の内側に貼着されていることから,これは,収納箱の上面と,ティシュペーパー束(ウェブ)の上面との間隔を意味するものと解される。7つの実施例のうち,実施例3ないし7については,「窓フィルムとウェブの間隙」が1mmないし3mmであることから,収納箱上面とティシュペーパー束との間に隙間が存在することを示しており,ティシュペーパー束が圧縮されていないことになる。また,実施例1及び2については,「窓フィルムとウェブの間隙」が0mmであり,この項目だけでは,ティシュペーパー束が圧縮されて収納箱上面に押し付けられた結果としての0mmなのか,ティシュペーパー束の高さ(ウェブ嵩)を収納箱の高さにそろえた結果としての0mmなのかが明らかではないが,1)「箱高さ」及び2)「ウェブ嵩」の項目については,実施例1については,上記1)2)共に50mm,実施例2については,上記1)2)共に55mmである。実施例1ないし7における1)「箱高さ」,2)「ウェブ嵩」及び3)「窓フィルムとウェブの間隙」の数値の関係に照らせば,3)「窓フィルムとウェブの間隙」は,1)「箱高さ」と2)「ウェブ嵩」との差であることは明らかである。よって,実施例1及び2は,ティシュペーパー束の高さ(ウェブ嵩)を収納箱の高さにそろえた結果として,「窓フィルムとウェブの間隙」が0mmになったものであることを理解することができ,ティシュペーパー束が実質的に圧縮されていないものであるということができる。そうすると,本件補正発明の全ての実施例1ないし7は,ティシュペーパー束の高さを収納箱の高さにそろえることによって,ティシュペーパー束が実質的に圧縮されないようにしたものである。他方,表1には,ティシュペーパー束を収納箱よりも高くすることによって,ティシュペーパー束が圧縮されている実施例は挙げられていない。また,本願明細書には,表\1及び表2の記載事項も含めて,ティシュペーパー製品の詳細なパラメータの値が具体的に記載されているが,収納箱の静摩擦係数については記載されていない。
(イ) さらに,ティシュペーパーの取出しのメカニズムとして,ティシュペーパー束が圧縮された状態で収納箱に収納されている場合,ティシュペーパー束は,自己の弾力性によって,本来の高さ(ウェブ嵩)に戻ろうとする復元力を有する。しかしながら,収納箱の高さは一定なので,ティシュペーパー束は,本来の高さに戻ることはできず,圧縮による変形分の力で,ティシュペーパー束の上面の大半(取出し口に対応する部位を除く。)が収納箱上面(内上面)に押し付けられる。ティシュペーパー束の復元力は,ティシュペーパー束が最も圧縮された初期状態,換言すれば,ティシュペーパーの取出し初めが最も大きく,ティシュペーパーを取り出すに従って徐々に低下していく。そして,ティシュペーパーを更に取り出して,ティシュペーパー束が圧縮されなくなった時点で,ティシュペーパー束の復元力は消失し,以後,ティシュペーパー束と収納箱上面との間に隙間が生じた状態(ティシュペーパー束が実質的に圧縮されていない状態)では,復元力は生じない。圧縮されたティシュペーパー束からティシュペーパーを取り出す場合,ティシュペーパーの取出しを妨げる力(静摩擦力)として,ティシュペーパーを取り出すための外力に起因した成分に加えて,ティシュペーパー束の復元力に起因した成分も作用するため,比較的大きな静摩擦力が生じることになる。ティシュペーパー束の復元力は,ティシュペーパー束の上面全体をほぼ均一に上方に押し上げる。よって,圧縮されたティシュペーパー束を前提にティシュペーパーの取出し性を論じる場合には,ティシュペーパーの取出し口を被覆するフィルム面のみならず,フィルムの周囲に露出した収納箱の内上面も含めて,ティシュペーパーと接する全ての接触面の静摩擦係数を考慮する必要がある。他方,ティシュペーパー束が圧縮されていない場合,上記のようなティシュペーパー束の復元力は存在しない。この状態でティシュペーパーを取り出す場合,ティシュペーパーの取出しを妨げる力としては,ティシュペーパーを取り出すための外力に起因した成分のみが作用するので,ティシュペーパー束が圧縮されている場合と比較して静摩擦力は小さくなる。また,ティシュペーパーの取出しに際して,ティシュペーパーが摺り付けられる部分は,ティシュペーパーの面全体ではなく,取出し口近傍に集中する。よって,圧縮されていないティシュペーパー束を前提にティシュペーパーの取出し性を論じる場合には,取出し口を被覆するフィルム面の静摩擦係数を実質的に考慮すれば足り,ティシュペーパーの摺付けがほとんど生じない収納箱上面の静摩擦係数を重視する必要はない。
 (ウ) 以上のメカニズムに基づき本願明細書の記載事項を総合的に参酌すると,本件補正発明において,収納箱の静摩擦係数に言及することなく,ティシュペーパーの取出し性の改善を意図しているということは,収納箱の静摩擦係数がティシュペーパーの取出し性に関与しない形態,すなわち,ティシュペーパー束が圧縮されていない状態を前提としたものであるというべきである。
 エ 相違点2の容易想到性前記のように,引用例2は,ティシュペーパーの取出し性の改善を目的とする点では本件補正発明と共通するものの,ティシュペーパー束が圧縮されていることを前提とするもので,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提とする本件補正発明と,前提において相違する。そして,このような前提の相違に起因して,両者は,ティシュペーパーの取出しを妨げる静摩擦力の発生メカニズムが相違し,その大きさも異なるものである。そうすると,静摩擦力を規定する静摩擦係数についても,引用例2における板紙とティシュペーパーとの静摩擦係数の範囲を定めた意義は,本件補正発明におけるティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数の範囲を定めた意義とは全く異なるものである。このような静摩擦係数の意義の相違に鑑みれば,引用発明に,引用例2に記載された「ティシュペーパーと板紙との静摩擦係数0.4〜0.5」を組み合わせて,本件補正発明における「ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数0.20〜0.28」を導き出すことは,困難である。よって,引用例2記載の「ティシュペーパーと板紙との静摩擦係数0.4〜0.5」という構成から,本件補正発明の「ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数の範囲0.2〜0.28」を導き出した上で,引用発明と組み合わせて,本件補正発明に係る相違点2の構\成を容易に想到できるとした本件審決の判断には,誤りがある。

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