技術思想として異なるとして、進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。
ア 本願発明は,トレッドに発泡ゴムを適用したタイヤにおいて,氷路面におけ
るタイヤの制動性能及び駆動性能\を総合した氷上性能が,タイヤの使用開始時から\n安定して優れたタイヤを提供するため,タイヤの新品時に接地面近傍を形成するト
レッド表面のゴムの弾性率を好適に規定して,十\分な接地面積を確保することがで
きるようにしたものである。これに対し,引用発明は,スタッドレスタイヤやレー
シングタイヤ等において,加硫直後のタイヤに付着したベントスピューと離型剤の
皮膜を除去する皮むき走行の走行距離を従来より短くし,速やかにトレッド表面に\nおいて所定の性能を発揮することができるようにしたものである。\n以上のとおり,本願発明は,使用初期においても,タイヤの氷上性能を発揮でき\nるように,弾性率の低い表面ゴム層を配置するのに対し,引用発明は,容易に皮む\nきを行って表面層を除去することによって,速やかに本体層が所定の性能\を発揮す
ることができるようにしたものである。したがって,使用初期においても性能を発\n揮できるようにするための具体的な課題が異なり,表面層に関する技術的思想は相\n反するものであると認められる。
イ よって,引用例1に接した当業者は,表面外皮層Bを柔らかくして表\面外皮
層を早期に除去することを想到することができても,本願発明の具体的な課題を示
唆されることはなく,当該表面外皮層に使用初期においても安定して優れた氷上性\n能を得るよう,表\面ゴム層及び内部ゴム層のゴム弾性率の比率に着目し,当該比率
を所定の数値範囲とすることを想到するものとは認め難い。また,ゴムの耐摩耗性
がゴムの硬度に比例すること(甲8〜13)や,スタッドレスタイヤにおいてトレ
ッドの接地面を発泡ゴムにより形成することにより氷上性能あるいは雪上性能\が向
上すること(甲14〜16)が技術常識であるとしても,表面ゴム層を非発泡ゴム,\n内部ゴム層を発泡ゴムとしつつ,表面ゴム層のゴム弾性率を内部ゴム層のゴム弾性\n率より小さい(表面を内部に比べて柔らかくする。)所定比の範囲として,タイヤ\nの使用初期にトレッドの接地面積を十分に確保して,使用初期においても安定して\n優れた氷上性能を得るという技術的思想は開示されていないから,本願発明に係る\n構成を容易に想到することができるとはいえない。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,本願発明の実施例と引用発明はともに従来例「100」に対して
「103」という程度でタイヤの使用初期の氷上での制動性能が向上するものであ\nり,また,引用例1の比較例と実施例を比較すると,比較例が実施例に対して表面\nゴム層(表面外皮層)を有していない点のみが異なることから,使用初期の性能\向
上は,表面ゴム層(表\面外皮層)に由来することが明らかである,そうすると,本
願発明の実施例と引用発明の性能向上はともに,タイヤ表\面に本体層のゴムよりも
柔らかいゴムを用いることにより使用初期の氷上での性能を向上させる点で同種の\nものであるから,結局,表面ゴム層(表\面外皮層)に関して,本願発明と引用発明
の所期する条件(機能)は変わるものではなく,引用例1に接した当業者は,引用\n発明の表面ゴム層(表\面外皮層)が,早期に摩滅させることのみを目的としたもの
でなく,氷上性能の初期性能\が得られることを認識する旨主張する。
しかし,前記(2)のとおり,引用例1に記載された課題を踏まえると,引用発明は,
あくまで早く摩耗する皮むき用の表面外皮層を設けて,ベントスピューと離型剤を\n表面外皮層とともに除去することにより,本来のトレッド表\面を速やかに出現させ
るものであり,引用例1は,走行開始から表面外皮層が除去されるまでの間の氷上\n性能について何ら開示するものではない。よって,引用例1に接した当業者が,氷\n上性能の初期性能\が得られることを認識するものとは認められない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
イ 被告は,引用発明において,表面外皮層Bの硬度は,本体層Aのそれより小\nさく(引用例1の表1),硬度の小さいゴムが,ゴム弾性率の小さいゴムである旨\nの技術常識(甲4,甲5)を考慮すれば,「引用発明の「表面ゴム層(表\面外皮
層)」のゴム弾性率が「内部ゴム層(本体層)」のゴム弾性率に比し低いものとい
え,「表面ゴム層のゴム弾性率」/「内部ゴム層のゴム弾性率」の値を0.01以\n上1.0未満程度の値とすることは,具体的数値を実験的に最適化又は好適化した
ものであって,当業者の通常の創作能力の発揮といえるから,当業者にとって格別\n困難なことではない旨主張する。
しかし,本願発明と引用発明とでは,具体的な課題及び技術的思想が相違するた
め,引用例1には,表面ゴム層のゴム弾性率を内部ゴム層のゴム弾性率より小さい\n所定比の範囲として,使用初期において,接地面積を確保するという本願発明の技
術的思想は開示されていないのであるから,引用発明から本願発明を想到すること
が,格別困難なことではないとはいえない。
また,表面外皮層BのHs(−5℃)/本体層AのHs(−5℃)が,0.77
(=46/60),表面外皮層Bのピコ摩耗指数/本体層Aのピコ摩耗指数が,0.
54(=43/80)であるとしても,本願発明が特定するゴム弾性率とHs(−5
℃)又はピコ摩耗指数との関係は明らかでないので,引用例1の表1に示すHs\n(−5℃)又はピコ摩耗指数の比率が,本願発明の特定する,「比Ms/Miは0.
01以上1.0未満」に含まれ,当該比率について本願発明と引用発明が同一であ
るとも認められない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
◆判決本文
進歩性違反なしとした審決が取り消されました。理由は本件発明の認定誤りです。
ア 本件発明のロック突部は,特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,平
坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間して
いる形状のものである。そして,本件発明は,前記1(2)のとおり,ロック機構につ\nいて,1)ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの一方が,平坦面部分を有する
突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間しているロック突部を
側壁面に有し,2)他方が前後方向でロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後
縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,3)ロック溝部には溝部前縁または溝部
後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられ,4)ロック突部が嵌合方向でロック溝
部内に進入し,ケーブルコネクタが前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合
終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態では,上記姿勢の変化に応じて,突出部に対
するロック突部の位置が変化する,という構成を採用することにより,コネクタ嵌\n合状態にある間は,ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動さ
れようとしたときであっても,ロック突部が抜出方向で突出部と当接し,ケーブル
コネクタの抜出を阻止するようにしたものである。
他方で,本件発明は,特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載
において,ロック突部の突部前縁及び突部後縁が有する平坦面部分について,その
大きさ,両面の離間の程度やその成す角度,ロック溝部やその突出部など他の構成\nとの関係などについては,特に規定していない。
そうすると,本件発明のロック突部は,平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部
分を有する突部後縁とが前後方向に離間している形状を有し,ケーブルコネクタの
ケーブルに上向き方向の成分の力が作用しても,ロック突部が抜出方向でロック溝
部の突出部と当接することにより,ケーブルコネクタの抜出を阻止するものであれ
ば足り,その断面形状には,円形に近似するような,角数の多い多角形状も含まれ
るものと解される。
イ 引用発明は,前記2(2)のとおり,軸方向の挿抜によってではなく,一方のハ
ウジングを他方のハウジングに対し回動させることで接続又は切離しの作用を得る
ことのできるコネクタであって,コネクタ31に形成された溝部49に挿入される
相手コネクタ33の回転中心突起53を支点として相手コネクタ33を回転させて,
コネクタ31と相手コネクタ33を嵌合させるものである。
上記のとおり,引用発明の回転中心突起は,相手コネクタ33を回転させる際の
支点(回転中心)となるものであること,回転を円滑に行うためには,その支点の
断面は円形状であることが好ましいこと及び引用例の第3図には回転中心突起53
の断面がほぼ円形状に描かれていることに照らせば,基本的には,その断面の形状
として円形が想定されているものといえる。
しかし,引用発明において,回転中心突起の回転は,相手コネクタ33は,その
前端が持ち上がって上向き傾斜姿勢にある状態(第3図)から,コネクタ31と嵌
合した状態(第5図)までの,せいぜい90度以内のものにすぎず,引用例には,
回転中心突起53やその断面の形状が円形に限られるものであることについては何
らの記載も示唆もないから,その断面の形状は,円形に限られず,相手コネクタ3
3の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない限り,円形以外の形状に
することも許容されるものと解される。
ウ 引用発明においては,前記イのとおり,回転中心突起53の形状は,相手コ
ネクタ33の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない限り,その断面
の形状を円形以外の形状にすることも許容されるものと解されるところ,相手コネ
クタ33の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない範囲で,回転中心
突起53の形状を適宜変更し,その断面が,円形に近似するような,角数の多い多
角形状となるものとすることは,当業者の通常の推考の範囲内のことであるという
ことができる。
そして,本件発明のロック突部の形状には,その断面形状が,円形に近似するよ
うな,角数の多い多角形状となるものも含まれるものと解されることは,前記アの
とおりである。
したがって,引用発明において,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,\n当業者が容易に想到することができたことである。
◆判決本文
進歩性違反なしとした審決が取り消されました。
次に,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,実施例2
に関して,「本例は,図4に示すごとく,アルミナシート3の両表\n面に,アルミナシート3よりも薄く,電気絶縁性を有するアルミナ
材料からなる一対の表面アルミナ層35を積層して,固体電解質シ\nート2を形成した例である。…開口用貫通穴351は,ジルコニア
充填部4(充填用貫通穴31)よりも小さく,ジルコニア充填部4
における電極5よりも大きな形状に形成してある。」との記載があ
り,図4のガスセンサ素子の断面図では,表面アルミナ層の開口用\n貫通穴351の内周と電極の外周との間に隙間が形成されている態
様が示されていることが認められる。
しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1
について,表面アルミナ層の開口用貫通穴が電極の側面が露出する\n程度に電極よりも大きな形状であることを要する旨の記載はなく,また前記1(2)オで述べた本件発明1が奏する作用効果(ガスセン
サ素子の早期活性化と共に,強度向上を図ることができること及び
ジルコニア充填部が充填用貫通穴内から抜け出してしまうことを防
止すること)との関係からみても,電極の側面が露出する態様のも
のに限定されるべき理由はない。
他方,図4に示されたガスセンサ素子は,実施例の一態様を示す
ものにすぎないから,当該図面に表面アルミナ層の開口用貫通穴3\n51の内周と電極の外周との間に隙間が形成されている態様が示さ
れているからといって,直ちに本件発明1の構成が当該態様のもの\nに限定されると解すべきものとはいえない。
(C) さらに,本件審決は,「ガスセンサ素子において,電極はできる
限り広い面積で測定ガスに接することが好ましいことが技術常識で
あること」を前記解釈の根拠とする。
しかしながら,上記のような技術常識があるからといって,本件
発明1のガスセンサ素子における電極が,常にその上面のみならず
側面まで露出するものであることを要するとの解釈が直ちに導き出
されることにはならない。
(d)以上によれば,本件発明1の表面アルミナ層に設けられた開口用\n貫通穴は「上記電極よりも大きな形状に形成してあ」るとの構成に\nついて,電極の側面が露出する程度に開口用貫通穴が電極よりも大
きな形状に形成してあることを意味するとした本件審決の解釈は,
根拠を欠くものであって誤りであり,これを前提とする本件審決の
前記判断も誤りというべきである。
b 上記aで検討したところによれば,本件発明1における「該開口用
貫通穴は,上記電極よりも大きな形状に形成してあ」るとの構成には,\n電極の側面が露出する程度に開口用貫通穴が電極よりも大きな形状に
形成してあるもののみならず、前記a(a)で述べたとおり、表面アルミ\nナ層の開口用貫通穴の側面とその内側に配置される電極の側面が隙間
なく接しているものも含まれると解すべきである。
してみると,本件アルミナ接着剤層が第1電極404及び第2電極
406の側面に接して形成される態様は,相違点に係る本件発明1の
構成のうち,「該開口用貫通穴は,上記電極よりも大きな形状に形成\nしてあ」るとの構成を満たすものといえる。\nウ 以上のア及びイによれば,甲2発明(1)に甲3技術を適用することは当業者が容易に想到し得たことであり,かつ,その結果得られるガスセンサ
素子は,相違点に係る本件発明1の構成をすべて備えるものといえるから,\n成とすることは,本件出願当時の当業者において容易に想到し得たものと
認められる。
◆判決本文
本件発明認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
原告は,本願発明は,較正液の加熱前の溶液温度のばらつきによって生じる目標
温度までの加熱時間のばらつきをなくすものであるとし,これに応じて,被告は,
本願発明にはそのような作用効果はないと反論する。
そこで,検討するに,本願発明は,較正液導入前にセンサ部の温度に応じてセン
サ部を予熱するものであり,少なくとも,センサ部の温度差により生じる加熱時間\nの差は解消される。ただし,本願発明は,実際に導入された較正液の溶液温度の温
度差により,更に分析時までの加熱時間に差が生じることの解消を目的とするもの
ではない。原告の上記主張は,前者の趣旨をいうものと解され,本願発明は,較正
液導入時におけるセンサ部の温度差により生じる加熱時間の差の解消という効果を
奏するものであるから,被告の上記主張は,採用することができない。
また,被告は,引用発明2は溶液の有無に関係なく温度制御を開始するものであ
り,引用発明に引用発明2の加熱動作を適用すれば,予熱後に較正をする態様を採\n用すると主張する。
しかしながら,被告が上記に主張するように,引用発明2は,使い捨てカートリ
ッジが挿入されると自動的に温度制御システムが起動するものであるとしても,引
用例2は,試料を電気化学セル中に入れずに温度制御を開始し,一定の加熱がなされ
た後に当該セル中に試料溶液を導入するような態様を開示するものではなく,また,
そのような例外的態様が示唆されているわけでもない。したがって,引用発明に引
用発明2の加熱動作を適用しても,相違点2に係る本願発明の構成には至らない。\n被告の上記主張は,採用することができない。
なお,被告は,当審において,引用発明2に加えて周知例(乙2〜7)を提出し,
較正に先立って予熱を行う態様が周知である旨の主張立証をするが,実質的に審決\nが全く取り上げていない周知技術を新たに追加するものであって,許されない。し
かも,上記各文献からは,センサ部の温度にかかわらず較正前に自動的に一定時間
の予熱を行う態様のものしか認められず,センサ部の温度によって較正前に予\熱を
行うかどうかを選択する態様のものが周知の技術であったとは認めるに足りない。
◆判決本文