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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

本件発明

令和3(行ケ)10056  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年2月10日  知的財産高等裁判所

 サブコンビネーション発明の要旨認定について、発明の構造,機能\等を何ら特定してない場合は,除外して認定すると判断し、審決の判断を維持しました。

(1) 発明の要旨認定
特許出願に係る発明の要旨の認定は,特段の事情がない限り,願書に添付 した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるが,特許請 求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか, あるいは,一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に 照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合は,明細書の発明の詳細 な説明の記載を参酌することが許される(最高裁平成3年3月8日第二小法 廷判決・民集45巻3号123頁参照)。 これを本件補正後発明について検討するに,前記1(3)のとおり,本件補正 後発明は,二つ以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し,組み 合わされる各装置の発明(サブコンビネーション発明)であって,特許請求 の範囲請求項1の記載から,第1ユーザによって操作される情報処理装置に 関する発明であることが理解されるが,特許請求の範囲請求項1の記載中に, 情報処理装置とは別の,他の装置であるサーバにおける処理の内容が記載さ れているため,特許請求の範囲の記載の技術的意義を一義的に明確に理解す ることができない特段の事情がある。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,本件補正 後発明の要旨を認定することとする。
ところで,サブコンビネーション発明においては,特許請求の範囲の請求 項中に記載された「他の装置」に関する事項が,形状,構造,構\成要素,組 成,作用,機能,性質,特性,行為又は動作,用途等(以下「構\造,機能\n等」という。)の観点から当該請求項に係る発明の特定にどのような意味を 有するかを把握して当該発明の要旨を認定する必要があるところ,「他の装 置」に関する事項が当該「他の装置」のみを特定する事項であって,当該請 求項に係る発明の構造,機能\等を何ら特定してない場合は,「他の装置」に 関する事項は,当該請求項に係る発明を特定するために意味を有しないこと になるから,これを除外して当該請求項に係る発明の要旨を認定することが 相当であるというべきである。 以上の観点から,以下,本件補正後発明を検討する。
(2) 構成要件(A)及び(E)について\n
本件補正後発明の構成要件(A)及び(E)は,発明の対象が「第1ユー\nザによって操作される情報処理装置」であることを特定する記載事項である から,これによって,本件補正後発明は「情報処理装置」の発明であること が画定される。
(3) 構成要件(B)について\n
特許請求の範囲請求項1の記載によれば,構成要件(B)における「事業\nに使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権を,前記 第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し,当該知的財産権 に関する公報の情報を,前記サーバに通知する公報通知手段と」の記載は, 情報処理装置が有する公報通知手段を直接的に特定する構成であるといえる。\n一方,「(公報の情報を,)サーバによる第2情報及び第3情報の抽出の 根拠となる情報を含む第1情報として(,前記サーバに通知する)」との記 載は,サーバに通知する公報の情報を更に限定する記載であると認めること はできるが,サーバによって抽出処理を行うことを前提とした限定であって 直接的に情報処理装置を限定する特定事項ではない。 上記第2情報及び第3情報の抽出処理について,請求項の記載をみると 「(C1)前記公報通知手段により通知された前記第1情報により特定される 前記公報に含まれ得る第1書類の内容のうち,所定の文字,図形,記号,又 はそれらの結合が,前記第2情報として抽出され, (C2)当該公報に含まれ得る第2書類の内容のうち,抽出された前記第2 情報と関連する文字,図形,記号又はそれらの結合が,前記第3情報として 抽出され,」 と特定されている。 上記特定事項に対応する発明の詳細な説明の記載を参照すると,構成要件\n(C1)は,特に段落【0023】のクレーム内単語として抽出する構成に,\n構成要件(C2)は段落【0024】の明細書内関連単語として抽出する構成\nに対応すると認められる。 一方,本願明細書等の段落【0021】には,上記「第1情報」に関して, 「特許権者は,活用を希望する特許権の情報(例えば特許番号等)を予めサ\nーバ1に通知しているものとする。即ち,当該特許権の公報(特許掲載公報 若しくは出願公開公報)の内容が公報情報DB61にデータとして記憶され ているものとする。」と記載され,段落【0022】には,「ここで,公報 の内容のデータは,必ずしも公報の謄本のデータである必要は特になく,そ の名称のごとく,公報の内容さえ特定できれば足り,任意の形態のデータで よい。」と記載されていることから,これらの抽出処理に用いられる公報の 情報は,普通に公開されている特許公報の内容であれば足りるといえ,第1 情報としてサーバに通知される知的財産権に関する公報の情報は,普通に公 開されている特許権の公報の内容を表す情報(すなわち,知的財産権に関す\nる公報の情報)以上に格別の内容を含むものではないことは明白である。 すなわち,構成要件(B)における,公報通知手段が「第1情報」としてサ\nーバに通知する公報の情報とは,通常の特許公報又は公開特許公報を示すに すぎないと認められる。そして,本願明細書等を精査しても,当該情報を通 知するに先立って,情報処理装置において,サーバにおける処理(第2情報 及び第3情報の抽出等)に資するため何らかの処理がされること等を開示又 は示唆する記載は,何ら見出すことができない。 そうすると,構成要件(B)の「サーバによる第2情報及び第3情報の抽\n出の根拠となる情報を含む第1情報として」との記載事項は,第1情報の通 知を受けたサーバが当該第1情報から第2情報及び第3情報を抽出するとい う,サーバにおける処理(構成要件(C1)及び(C2))を特定しているにす ぎない。すなわち,上記記載事項は,第1情報自体が,第2情報及び第3情 報を抽出するため通常の公報とは異なる格別の情報を含むことを特定してい るものではない。 このように,本件補正後発明の構成要件(B)のうち「サーバによる第2\n情報及び第3情報の抽出の根拠となる情報を含む第1情報として」の記載事 項は,サーバの処理を特定したものであり,情報処理装置が備える公報通知 手段の内容を特定するものではないから,構成要件(B)によって特定され\nる発明特定事項の認定に当たっては,上記記載事項を除外するのが相当であり,本件審決が(B')のとおり認定したことに誤りはない。
(4) 構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)について
本件補正後発明の構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)は,情報処理装 置から知的財産権に関する公報の情報(第1情報)の通知(送信)を受けた サーバが,第1情報から第2情報を抽出し,さらに第3情報を抽出し,第3 情報と第4情報とから通知対象を決定して当該公報の情報を第5情報として 通知対象者の端末に通知し,その後,通知対象者の端末から第6情報を受信 し第7情報を生成して情報処理装置に送信するという,サーバが行う処理を 特定したものであって,情報処理装置が行う処理を特定するものではない。 すなわち,情報処理装置から通知された情報に対して,どのような処理を行 い,どのような情報を生成して情報処理装置に送信するかという処理は,サ ーバが独自に行う処理であって,情報処理装置が行う処理に影響を及ぼすものではない。 一方,情報処理装置は,第1情報をサーバに送信し,第7情報をサーバか ら受信するものであるところ,かかる情報処置装置の機能は,サーバに所定\nの情報を送信してサーバから所定の情報を受信するという機能に留まり,当\n該機能は,上記構\成要件(C)及び(C1)ないし(C7)によって影響を受け たり制約されるものではない。このように,構成要件(C)及び(C1)ない し(C7)は,情報処理装置の機能,作用を何ら特定するものではない。\nよって,本件補正後発明の認定に当たっては,構成要件(C)及び(C1) ないし(C7)を発明特定事項とはみなさずに本件補正後発明の要旨を認定す べきであり,これと同旨の本件審決に誤りはない。
(5) 構成要件(D)について\n
本件補正後発明の構成要件(D)は,情報処理装置が備える「受付手段」\nが,サーバから送信される「第7情報」を受け付けることを特定するもので ある。 そして,本件補正後発明の構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)の記載 によれば,「第7情報」は,「知的財産権に興味を有する者が存在すること を少なくとも示す情報」であって,「情報処理装置により前記第1情報が (サーバに)通知された結果として生成され」,「(サーバから)情報処理 装置に送信された」情報である。また,同(B)の記載によれば,「前記第 1情報」は「知的財産権に関する公報の情報」である。そして,構成要件\n(C6)及び(C7)に対応する発明の詳細な説明の記載(段落【0029】, 【0040】及び【0041】)も参酌すると,「第7情報」は,サーバの 通知部が特許権者端末に通知する情報であって,特許権者がサーバに登録し た特許掲載公報を見て興味応答を示した事業者のリスト(匿名事業者リス ト)を少なくとも含む情報であるということができ,これは,上記特許請求 の範囲の記載から特定した「第7情報」と格別の相違はない。そうすると, 結局,「第7情報」は,「知的財産権に興味を有する者が存在することを少 なくとも示す情報であって,情報処理装置により知的財産権に関する公報の 情報がサーバに通知された結果として生成され,サーバから情報処理装置に 送信された情報」ということができる。 よって,本件補正後発明の構成要件(D)により特定される事項の認定に\n当たっては,「第7情報」を上記のとおり言い換えるのが相当であり,本件 審決が(D')のとおり認定したことに誤りはない。
(6) 原告の主張に対する判断
ア 原告は,知的財産権を有効活用してくれる候補者を数多くかつ容易に提 示するという本件補正後発明の課題からして,本件補正後発明はサーバと 情報処理装置とを組み合わせたシステムを前提にしたものであって,構成\n要件(C)及び(C1)ないし(C7)によって,情報処理装置の発明の機能\nを特定している旨主張する。 しかしながら,本願明細書等には発明の課題としてそのような記載があ るとしても,親出願についてはともかく,分割出願としての本件補正後発 明は,上記(1)ないし(5)で説示したとおり,システムの発明ではなくあくまで情報処理装置の発明である。そして,上記(4)で説示したとおり,構成要\n件(C)及び(C1)ないし(C7)はサーバの処理を特定するものであって 情報処理装置の機能を特定するものではないから,本件補正後発明を特定\nする事項には含まれない。 よって,原告の前記主張は採用することができない。
イ 原告は,知財高裁平成22年(行ケ)第10056号事件の判決を援用 し,本件補正後発明はサーバと情報処理装置とを組み合わせたシステムを 前提にしたものであってサーバを除外して検討するのは誤りであるとも主 張する。 しかしながら,原告が援用する上記事件は本件とは無関係の全く別の事 件であって,事案も異なるから,上記事件の判決の判断を根拠とする原告 の上記主張はそもそも採用することができない。 なお,付言するに,原告が援用する上記事件に係る発明は,発光部を有 する液体インク収納容器と,前記液体インク収納容器を搭載し前記発光部 の発光を受光する受光手段を備えた記録装置とを組み合わせたシステムに おける液体インク収納容器に関する発明であって,上記システムに専用さ れる特定の液体インク収納容器がこれに対応する記録装置の構成と一組の\nものとして発明を構成するものであることから,容易想到性を検討するに\nあたり,記録装置の存在を除外して検討することはできないとした裁判例 であるところ,原告は,これに関連して,本件補正後発明の情報処理装置 は,第7情報として認識された場合において当該第7情報を受け付ける専 用端末である旨主張する。 しかしながら,本件補正後発明における情報処理装置とサーバからなる システムでは,情報処理装置の機能は,単に,サーバに「公報の情報」\n(第1情報)を送信し,サーバから「知的財産権に興味を有する者が存在 することを少なくとも示す情報」(第7情報)を受信するという機能に留\nまるものであって,サーバに対して情報を送受信する機能を有する情報処\n理装置であればどのような情報処理装置であってもよいから,サーバに対 して専用される特定の情報処理装置とみなすことはできない。また,本願 明細書等には,情報処理装置が種々の情報の中から第7情報を選択して認 識する等の技術事項は開示されておらず,情報処理装置はサーバから送信 された情報を単に第7情報として受け付けるものにすぎないと解されるか ら,原告の上記主張は本願明細書等に開示された技術事項に基づくもので はなく,採用することができない。
ウ 原告は,情報処理装置とサーバが別個のものとしても,本件審決は,発 明の実施形態に強みを有する事業者を選択できるという本件補正後発明の 意義を無視し,「公報通知手段」がサーバに通知する情報について,単に 「当該知的財産に関する公報の情報」と矮小化し,また「受付手段」が受 け付ける情報についても,「知的財産権に興味を有する者が存在すること を少なくとも示す情報」と矮小化して認定しており,本件審決の認定は誤 りである旨主張する。 しかしながら,第1情報を送信するという送信処理自体は,かかる第1 情報からどのようにして第2情報及び第3情報を抽出するのか,その抽出 方法を規定するものではないから,情報処理装置の「公報通知手段」は, 技術的には,知的財産権に関する公報の情報をサーバに送信するものにす ぎないというべきである。また,第7情報は知的財産権に興味を有する者 の情報であるところ,本件補正後発明の構成要件(C5)及び(C6)によれ ば,事業者による選択結果という事業者の自由な意思に基づいた人為的な 情報にすぎないものであって,第1情報と関連するものの第1情報から 「生成された」情報ではない。さらに,情報処理装置の「受付手段」は, サーバから上記第7情報を受け付けるものの,これは単に情報の受信にす ぎないものであって,情報処理装置の側に,当該第7情報を受け付けるた めの特別の構成を有するものでもない。\nしてみると,上記(2)ないし(5)で検討したとおり,本件補正後発明の「公 報通知手段」は,単に「知的財産に関する公報の情報」をサーバに通知す るものにすぎず,本件補正後発明の「受付手段」は「知的財産権に興味を 有する者が存在することを少なくとも示す情報」を受け付けるものにすぎ ないというべきであり,本件審決が「公報通知手段」及び「受付手段」に つき,それぞれ(B')及び(D')のとおり認定したことに誤りはない。

◆判決本文

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