2023.04.27
令和4(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年4月20日 知的財産高等裁判所
無効理由なしとした審決が維持されました。なお、別訴の本特許に基づく特許権侵害については技術的範囲に属しないと判断されています。
(1) 本件審決が前記第2の3(1)アのとおり甲1発明を認定し、同(2)アのとおり
本件発明1と甲1発明における茶葉の移送方法を対比して一致点及び相違点1を認
定したのに対し、原告は、本件審決は、本件発明1と甲1発明が、「負圧吸引作用を
奏する背面風(W)を前記刈刃(22)の直後方から移送ダクト(6)に送り込む
こと」で一致していることを看過したと主張する。原告の上記主張は、甲1発明の内容として、1)送風ダクト52からの吹出口が刈刃34の「直後方」から風を送り込むものであることと、2)送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風が「負圧吸引作用を有すること」が認められるべき旨をいうものと解されるが、次のとおり、甲1発明の内容として、上記1)及び2)のいずれも認めることができない。
ア(ア) まず、原告は、甲1の「なお刈刃34は、摘採機フレーム基板32の前方
ほぼ延長上に設けられるものである。そしてこの摘採機体3における摘採機フレー
ムパイプ31と摘採機フレーム基板32とにより区画され、摘採された茶葉Aが中
継移送装置5によって上昇移送されるまでの部分を摘採作用部36とする。」との
記載(【0013】)及び「送風ダクト52は、摘採した茶葉Aを摘採作用部36た
る刈刃34後方部から収容部4まで風送するものであり、具体的には吹き上げファ
ン51から送り出された風が、茶葉摘採機1の側部を回り込むようにして摘採作用
部36に達し、この部分で茶葉Aと合流し、合流後この茶葉Aを茶葉移送路52a
を経由させて収容部4まで風送するものである。」との記載(【0016】)を指摘し
て、「刈刃34」で刈り取られた茶葉が直接「摘採作用部36」に送り込まれること
から、「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位置することは明らかであると
主張する。
(イ) しかし、甲1の【0013】の上記記載は、「摘採作用部36」を区画するも
のの一つである「摘採機フレーム基盤32」と「刈刃34」との位置関係について、
刈刃34が摘採機フレーム基盤32の「前方ほぼ延長上に設けられる」と示すにと
どまり、摘採作用部36と刈刃34の位置関係について具体的に特定するものとは
みられない。
また、同【0016】の上記記載も、「摘採作用部36たる刈刃34後方部」とい
う部分において、摘採作用部36が刈刃34の後方に位置することを示しているも
のの、摘採作用部36が刈刃34の後方のどの程度の距離にあるものか等について、
具体的に示すものとはみられない。
その他、甲1において、「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位置するこ
とを認めるべき記載は見当たらない。
(ウ) また、仮に、甲1において、「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位
置することが認められるとした場合に、そのことから直ちに、「送風ダクト52風」
が「刈刃34」の直後方から送り込まれることが認められるものでもない。
この点、甲1に、吹き上げファン51から送り出された風が、送風ダクト52を
介して、刈刃34の後方に位置する摘採作用部36のどの部分に達するのかを具体
的に特定する記載は見当たらない。
むしろ、甲1の【図1】の左下部の丸枠内及び【図5】によると、送風ダクト5
2は、刈刃34の後方に位置するとされる摘採作用部36の後端部に位置付けられ
ているところである。そして、【図4】によると、刈刃34と送風ダクト52との間
に少なからず距離が存することは、明らかである。
(エ) したがって、甲1発明について、送風ダクト52からの吹出口が刈刃34の
「直後方」から風を送り込むものであることが認められるべき旨をいう原告の主張
は、採用することができない。
イ(ア) 次に、原告は、「送風ダクト52からの吹出口は、摘採機フレーム基板32
後端部と茶葉移送路52aの下端部との間に開口」しており(甲1の【図5】等)、
この吹出口から送り込まれた「送風ダクト52風」が、「摘採作用部36」に達し、
「この部分で茶葉Aと合流し、合流後にこの茶葉Aを茶葉移送路52aを経由させ
て収容部4まで風送する」(同【0016】)ところ、「摘採作用部36」において「送風ダクト52風」に負圧吸引作用がなければ、このような事象を説明することはで
きない、甲1の【0016】の上記記載は、「摘採作用部36」が密閉又は半密閉状
態のダクトでなければ説明できない内容であるなどと主張する。
(イ) しかし、甲1の【0019】及び【図5】によると、摘採された茶葉は、ま
ず、送風ダクト35から排出される風によって摘採作用部36の後方に送られ、次
いで、送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風により茶葉
移送路52a内を上昇移送されるのであって、送風ダクト52を介して吹き上げフ
ァン51から吹き出された風に負圧吸引作用がなくとも、送風ダクト35から排出
される風により、上昇移送が可能となる位置まで茶葉が送られることは容易に理解される。\n
この点、同【0013】には、摘採作用部36について、摘採機フレームパイプ
31と摘採機フレーム基盤32とにより「区画」される旨が記載されているのみで、
それが密閉構造を有することはもとより、閉鎖的な構\造を有することも明記されて
おらず、他に、甲1に、摘採作用部36の構造について特定する記載も見られない。そうすると、摘採作用部36は、送風ダクト35から排出される風によって茶葉\nを摘採作用部36の後方に送ることが可能な構\造となっていれば足り、原告の主張
するように、密閉又は半密閉状態にあることを要するものではないと解される。
(ウ) 上記に関し、原告は、摘採作用部36が密閉又は半密閉状態でないとすると、
送風ダクト35から排出される風によって周辺に分散して回収不能になってしまう茶葉が生じ、甲1発明における茶葉の中継移送機能\が低下することになるなどと主張するが、茶葉の分散を避けるためには、茶葉が通過しない程度の空隙を有する部
材で摘採作用部36を構成することで足りるといえるし、茶葉の損傷を避けるためという観点を更に考慮したとしても、直ちに摘採作用部36が密閉又は半密閉状態\nであることまで要するものとは解されない。
(エ) したがって、甲1発明について、送風ダクト52を介して吹き上げファン5
1から吹き出された風が「負圧吸引作用を有すること」が認められるべき旨をいう
原告の主張は、採用することができない。
(2) 前記2の甲1の記載事項によると、甲1には、前記第2の3(1)アのとおり本
件審決が認定した甲1発明が記載されていると認められる。その上で、本件発明1と甲1発明における茶葉の移送方法を対比すると、それらの間には、前記第2の3(2)アのとおり本件審決が認定した一致点及び次の相違点1が認められるというべきである
・・・・
(2) 前記3(3)で認定説示した点に照らし、新規性及び進歩性の判断の誤りをいう原告の主張は、採用することができない。
◆判決本文
同特許についての侵害訴訟です。
1審
「圧力風の作用のみによって」を備えず、構成要件Aを充足しない
◆令和2(ワ)17423
控訴審
均等主張もしましたが、第1要件を満たさないとして、控訴棄却。
◆令和4(ネ)10071
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2022.07.31
令和3(行ケ)10070 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年6月28日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決を取り消しました。理由は引用文献の認定誤りです。
本件審決は、甲2において、制御端末110から複数の家電機器に対す
る制御命令は、家電機器の制御部に対して実行されるものであるから、制
御端末110は家電機器の駆動部に接続して制御する装置ではなく、また、
甲3において、AV用集中制御装置(12)から複数のAV用機器(14)に対す
る制御命令は、家電機器の制御部に対して実行されるものであるから、A
V用集中制御装置(12)はAV用機器の駆動部に接続して制御する装置では
ないので、いずれも、本件発明1の「駆動部に接続されたマイクロコント
ローラ」に相当するものではないと解釈した。しかし、甲2及び甲3に記
載された技術的事項は、前記(3)ア(イ)、イ(イ)のとおり認定されるものであ
って、本件審決のように、制御端末110が家電機器の駆動部に接続して
制御する装置ではないこと、AV用集中制御装置(12)がAV用機器の駆動
部に接続して制御する装置ではないことと限定的に解釈すべき根拠はな
く、本件審決による甲2及び甲3の記載事項から把握される技術の認定に
は誤りがある。したがって、被告の上記主張は採用することはできない。
イ 以上のとおり、甲2及び甲3に記載された技術的事項は、前記(3)ア(イ)、
イ(イ)のとおり認定されるものであって、本件審決による認定は誤りであ
るから、取消事由8は理由がある。
◆判決本文
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2022.05.19
令和3(行ケ)10080 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年5月11日 知的財産高等裁判所
審判では無効理由無しと判断されましたが、裁判所は、甲4には「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されているとして、進歩性無しと判断しました。
(3) 上記(1)イ及びウの「Reflective ... Film」との用語に加え、上記(1)エ及
び(2)のとおり通常光下では黒色であった商品サンプルがフラッシュ光下では肌色
様に見えることや弁論の全趣旨も併せ考慮すると、甲4に貼付された黒色の商品サ\nンプルは、「黒色の再帰反射フィルム」であると認めるのが相当である。
また、上記(1)ウの「従来の印刷手法に加え、溶剤及びUVインクジェットに対
応しています」との記載は、甲4の黒色の再帰反射フィルムに溶剤インクジェット
印刷を施すことが可能であることを意味するものと解され、溶剤インクジェット印\n刷が施されれば、黒色の再帰反射フィルムの上に印刷層が形成されることは明らか
であるから、甲4には「溶剤インクジェット印刷を施すことにより印刷層を形成す
ることができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されているといえる。
(4) そこで進んで、甲4に「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性
の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されているかに
つき検討する。
ア 上記(1)ウのとおり、印刷層の形成に関し、甲4には「従来の印刷手法に加
え、溶剤及びUVインクジェットに対応しています」との記載があるのみであり、
溶剤インクジェット印刷が非透光性のインクを用いたものに限られるとの記載又は
示唆はみられない。
イ ここで、溶剤インクジェット印刷の意義等に関し、下記の各証拠には、それ
ぞれ次の記載がある。
(ア) 甲18(全日本印刷工業組合連合会(教育・労務委員会)編「印刷技術」
(平成20年7月発行))
「カラー印刷では基本的にCMYKの4色によって原稿の色を再現している。こ
の4色をプロセスセットインキと呼び、このうちCMYは透明インキとなっている
ので刷り重ねで印刷した場合、下のインキの色が一緒になり2次色、3次色が発色
する。」
(イ) 甲19(高橋恭介監修「インクジェット技術と材料」(平成19年5月2
4日発行))
「インクの色剤としては染料、顔料を挙げることができる。・・・
染料は媒体である水に可溶であり、分子状態でインク媒体中に存在している。個
々の分子が置かれた環境はほぼ同一であるため、吸収スペクトルは非常にシャープ
であり、透明性の高い印刷物が得られる。・・・
従来、インクジェットプリンタ用色材としては、上記特徴とインク設計が容易で
あるということで、染料が用いられた。」
(ウ) 甲20(Janet Best 編「Colour design Theories and applications」
(2012年発行))
「CMYK:印刷業界で画像の再現に使用される減法混色プロセスであって、純
度の高い透光性プロセスカラーインク(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)
が網点様に重ね刷りされて、様々な色及びトーンを表現する。」\n
(エ) 甲21(特開2012−242608号公報)
「【0033】ここで、第1の装飾層20aを形成する印刷インクとしては、光
透過性を有し、屋外使用にも耐えられる有機溶剤系のアクリル樹脂インク、例えば、
市販のエコソルインクMAXのESL3−CY、ESL3−MG、ESL3−YE、\nESL3−BK(それぞれローランド社製)を用いることが望ましい。
そして、かかる第1の装飾層20aを形成するには、例えば、インクジェットプ
リンタなどのインクジェット装置に、印刷インクをセットし、これを微滴化して表\n面フィルム12h上の所定場所に、吹き付け処理して行なうことが好ましい。」
ウ 上記イによれば、本件出願日当時、溶剤インクジェット印刷においては、透
光性(透明性)を有するCMYのインクが広く用いられていたものと認められるか
ら、仮に、本件出願日当時、溶剤インクジェット印刷において非透光性のインクが
用いられることがあったとしても、溶剤インクジェット印刷に対応しており、かつ、
前記アのとおり、溶剤インクジェット印刷が非透光性のインクを用いたものに限ら
れるとの記載も示唆もみられない甲4の記載に接した当業者は、甲4は透光性を有
するインクを用いた溶剤インクジェット印刷に対応しているものと容易に理解した
といえる。
エ 以上によると、甲4には「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性
の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されていると認
められるから、甲4発明は、そのように認定するのが相当である。これと異なる本
件審決の認定は誤りである。
オ この点に関し、被告は、甲4発明の用途(トラックを始めとする車両に貼付\nされるステッカー等)に照らすと、甲4発明に透光性の印刷層を設けることは考え
られないと主張する。確かに、前記(1)ウのとおり、甲4には消防自動車様の車両を撮影した写真が掲
載されているが、車両に貼付して用いる黒色の再帰反射フィルムの上に透光性の印\n刷層を形成すると甲4発明の目的が阻害されるものと認めるに足りる証拠はないし、
また、甲4には甲4発明の用途が車両に貼付して用いるステッカー等に限られると\nする記載も示唆もないから、被告の上記主張を採用することはできない。
◆判決本文
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2022.03.29
令和3(行ケ)10058 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年3月23日 知的財産高等裁判所
コメント表示装置(CS関連発明)について、進歩性違反なしとした審決が維持されました。FC2(無効審判請求人)vsドワンゴ(特許権者)です。争点は引用文献の開示です。
甲5技術は、コンテンツの映像(主映像)及び主映像を補足するなどの理由で表\n示される字幕等の映像(副映像)を表示することができるようにした復号装置に係\nる技術である。甲5技術においては、主映像及び副映像は、表示装置の画面(甲5\nの第19図参照)上に設けられた各画枠の内部に表示されるところ、主映像の画枠\nのサイズは、表示装置のアスペクト比及び主映像のアスペクト比に基づいて変換さ\nれ、副映像の画枠のサイズも、表示装置のアスペクト比及び副映像のアスペクト比\nに基づいて変換される。このようにしてサイズが変換された主映像及び副映像の各
画枠は、表示装置の画面上に配置されるが、その際、例えば表\示装置のアスペクト
比が16:9であり、主映像のアスペクト比が4:3であるなどの条件を満たす場
合、副映像の画枠の一部は、主映像の画枠と重なり合い、副映像の一部は、主映像
の画枠の内側に表示されるが、その余の部分は、主映像の画枠の外側に表\示される
という事象が生じるものである。
そして、甲5技術によると、主映像の画枠は、主映像が表示される領域であると\n解されるから、これが本件発明1の構成1E及び1Fにいう「第1の表\示欄」(動
画を表示する領域)に相当するものであることは明らかである。\nしかしながら、甲5技術によると、副映像の画枠に表示される副映像の例として\n挙げられているのは字幕であり、甲4技術の「データコンテンツ」と同様、主映像
の配信時に既に存在するものである(なお、甲5によると、甲5技術の副映像に当
たる字幕は、映像データであることがうかがわれる。甲5には、字幕がテキストデ
ータであるとの開示又は示唆はない。)。これに対し、本件発明1のコメントは、
前記のとおり、動画に対し任意の時間にユーザが付与するものである。
また、甲5の記載(明細書1頁5行目〜2頁11行目)によると、従来、副映像
のアスペクト比は、主映像のアスペクト比に関連付けられており、例えば、表示装\n置のアスペクト比が16:9であり、主映像のアスペクト比が4:3であるとき、
副映像(字幕)のアスペクト比は必ず4:3となるため、小型の電子機器において
は字幕が見えづらくなってしまうという問題があったところ、甲5技術は、主映像
のアスペクト比から独立したアスペクト比で副映像を表示することにより、副映像\nを見やすくすることを目的とするものであると認められる。これに対し、本件発明
1は、前記のとおり、動画と重なって表示されたコメントが動画に含まれるもので\nはないこと及びこれがユーザによって書き込まれたものであることをユーザが把握
できるようにすることを目的とするものである。
以上のとおり、甲5技術の「副映像の画枠」は、本件発明1の「コメント」を表\n示する領域ではないから、これが本件発明1の構成1E及び1Fにいう「第2の表\
示欄」に相当するということはできない。また、甲5技術において、副映像の画枠
の一部が主映像の画枠と重なり、副映像の一部が主映像の画枠の内側に表示され、\nその余の部分が主映像の画枠の外側に表示されるという事象を生じさせるのは、副\n映像のアスペクト比が主映像のアスペクト比と関連付けられていたことから来る副
映像の見づらさを解消するためであり、本件発明1のようにコメントが動画に含ま
れるものではないこと及びこれがユーザによって書き込まれたものであることをユ
ーザが把握できるようにすることを目的とするものではなく、この点からも、甲5
技術の上記内容が本件発明1の構成1E及び1Fに相当するということはできない。\nしたがって、甲5技術も、本件発明1の構成1E及び1Fに相当する構\成を有する
ものではない。
エ 原告の主張について
原告は、甲5技術の「字幕」はユーザが入力するものでないものの、これを端末
に表示させる局面においては本件発明1と同様に文字列データとして処理されるも\nのであるし、本件原出願日当時にWEB2.0が技術常識であったことからしても、
甲5に接した当業者にとって、甲5技術の「字幕」を本件発明1の「コメント」に
置換することは容易であったと主張する。
しかしながら、甲5技術の「字幕」と本件発明1の「コメント」の技術的意義の
相違は、前記ウにおいて説示したとおりであるところ、仮に、甲5技術及び本件発
明1において「字幕」及び「コメント」が文字列データとして処理される場面があ
るとしても(ただし、甲5に甲5技術の字幕がテキストデータであるとの開示又は
示唆がないことは、前記ウにおいて説示したとおりである。)、そのことにより上
記相違の本質が解消されるものではない。また、前記(2)エ(ア)において説示した
ところに照らすと、仮に、本件原出願日当時、原告が主張するような内容のWEB
2.0という社会現象が生じていたとしても、そのことから直ちに、甲5技術にい
う「字幕」(副映像)と本件発明1にいう「コメント」につき、これらが相互に置
換可能であると認めることはできない。よって、原告の上記主張は失当である。\n
(4) 前記(2)及び(3)のとおり、甲4技術及び甲5技術は、いずれも本件発明1
の構成1E及び1Fに相当する構\成を有するものではないから、甲1発明に甲4技
術及び甲5技術を適用しても、相違点1−1に係る本件発明1の構成を得ることは\nできない。
(5) なお、原告は、相違点1−1に係る本件発明1の構成は甲1発明において\nふきだしの大きさ並びにふきだし中のコメント(テキスト注釈)の文字長、フォン
トの大きさ及び表示位置を適宜変更することにより得られるものであるから、設計\n的事項にすぎないと主張する。
しかしながら、甲1の図18によると、甲1発明においては、ふきだしが映像表\n示部の枠の外側にはみ出すこととされる一方、テキスト注釈については、それが3
行にわたる場合を含め、ふきだし中の上側、下側、左側及び右側にあえて十分な余\n白を設けて、テキスト注釈が映像表示部の枠の外側にはみ出さないようにしている\nと認められるから、ふきだしの大きさ並びにふきだし中のテキスト注釈の文字長及
びフォントの大きさをどのようにするかが設計的事項であるとしても、ふきだしと
映像表示部との位置関係及びテキスト注釈の表\示位置につき、これを相違点1−1
に係る本件発明1の構成(構\成1E及び1F)とすることについてまで設計的事項
であるということはできない。よって、原告の上記主張を採用することはできない。
(6) 小括
以上のとおりであるから、相違点1−1についての本件審決の判断に誤りはない。
そして、前記2(4)のとおり、本件発明9と甲1プログラム発明との間にも、相違
点1−1と同様の相違点が存在するといえるところ、上記説示したところに照らす
と、この相違点についての本件審決の判断にも誤りはない。取消事由5は理由がな
い。よって、無効理由2−1は理由がない。
◆判決本文
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2022.02. 1
令和2(行ケ)10128 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年1月11日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は引用文献の認定誤りです。
(2) 引用発明における「検出部ID」の技術的意義
上記認定に係る引用発明の「検出部ID」が,「電源タップ4」の住居内
での設置箇所を識別するものであるか否かについて検討する。
引用発明の「検出部ID」は,住居内で「電源タップ4」を一意に識別す
る符号であるものの,引用文献1には,前記「検出部ID」が「電源タップ
4」の設置箇所を表す情報と関連するものであることは一切記載されていな\nい。また,電源タップの一般的な使用形態を参酌すると,電源タップを住居
内のどこに設置してどのような電気機器に接続するかは,当該電源タップを
利用する者が任意に決められるものと解される。
引用文献1では,「電源タップ4」に照明器具が接続される態様も開示さ
れているものの(【図6】),照明器具は,居間,トイレ,寝室等,住居内
のあらゆる箇所で用いられるものであり,よって,当該照明器具に接続され
る電源タップの設置箇所も住居内のあらゆる場所が想定されるものであるか
ら,「検出部ID」により「電源タップ4」を一意に識別しても,それは
「電源タップ4」の識別にとどまるものであって,当該「電源タップ4」の
設置箇所も識別できるとする根拠は見出せない。
すなわち,「電源タップ4」の「検出部ID」から住居内の設置箇所を識
別するためには,「検出部ID」と当該「電源タップ4」の住居内での設置
箇所とを対応付けた何らかの付加的情報が必要である。「電源タップ4」の
「検出部ID」という,電源タップを一意に識別する符号から,当該「電源
タップ4」の設置箇所を識別することができる,と認めることはできない。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,本願明細書等の段落【0024】において,照明装置から発信
されるID番号としては「位置ID番号」のみが開示されているところ,
位置ID番号に紐づけられる位置情報に設置箇所(個々の部屋)が含まれ
るか否かが明らかでないと指摘する。
しかしながら,次の(ア)ないし(ウ)に照らすと,本願発明の「位置ID
番号」には,居宅内の各部屋を特定する「内部管理ID番号」が含まれる,
と理解されるから,被告の上記指摘は上記認定を覆すものではない。
(ア) 段落【0026】及び【0027】においては,情報を受信するク
ラウドサーバの側のデータベース内に,居宅内の各部屋を特定する「内
部管理ID番号」が登録されることが記載されており,段落【002
9】以下では,安否確認システムの動作によって,居宅内のどの部屋
(設置箇所)において異常が生じているのかを判定する仕組みが詳細に
説明されている。そうすると,発信装置から発信される「位置ID番
号」が,クラウドサーバの保有する「内部管理ID番号」を含むものと
解しないと,本願明細書等の記載全体を合理的に理解することができな
い。
(イ) 段落【0035】,【0040】及び【0042】には,段落【0
024】と異なり,「位置ID番号」が照明装置の設置箇所(居間,ト
イレ,寝室等の各部屋)を特定することが明示されている。
(ウ) 段落【0024】において,「位置ID番号」に紐づけられる「位
置情報」は,「設置箇所が存在する施設の住所,並びに設置箇所の緯度
経度及び施設の設置する階数等」(下線付加)である。この「等」に,
設置箇所となる各部屋の名称(居間,トイレ,寝室等)を含めることに
よって,位置ID番号が,設置箇所を特定する情報(クラウドサーバの
「内部管理ID番号」に対応する情報)を含むものと解釈することが許
されないとはいえない。
また,設置箇所となる各部屋の名称を「等」に含めることが許されな
い,あるいは位置情報をクラウドサーバへ登録する旨について述べたも
のにとどまる,と解釈し,当該施設の中での「設置箇所」(各部屋)の
位置情報は,利用者が照明装置の設置後にアプリを用いてクラウドサー
バに登録する,と理解することも可能である。段落【0019】の「利\n用者は,取得したアプリにしたがい,・・・照明装置の設置箇所・・・
の設定登録を行う」との記載も参酌すると,むしろ,かかる理解が本筋
であるともいえる。
前記(1)のとおり,照明装置から発信される「ID番号」とクラウドサ
ーバに登録される「ID番号」とを相互に対照することができて初めて
本願発明は所期の作用効果を奏することができるのであるから,本願明
細書等に接する当業者の理解は,上記のいずれかであると考えられる。
イ 被告は,電源タップに接続される電気機器の設置箇所(部屋)は,電気
機器の種別によって通常定まるから,引用発明の「検出部ID」は,単に
「電源タップ4を一意に識別する符号」,すなわち,住居内の「どれ」か
ということを識別する符号にとどまるものでもなく,住居内で「どこ」に
設置されているのかを識別する符号であって,位置情報として意味を有し,
本願発明の「内部管理ID番号」と同じ役割を有している旨主張する。
たしかに,被告がその主張の根拠とする引用文献1の【図5】において,
「住居ID」,「検出部ID」(図5の「計測部ID」との記載は「検出
部ID」の誤記と認められる。),「機器種類」,「稼働状況」などから
なる機器稼働データが例示されており,たとえば,「検出部ID」が“i
d13”の場合は,「住居ID」が“hid7”の場合も“hid2”の
場合も「機器種類」が“電気炊飯器”であること,「検出部ID」が“i
d17”の場合は,「機器種類」が“PC”,“アイロン”,あるいは
“ポット”であることが例示されており,「検出部ID」と電気機器の種
類,ひいては「電源タップ4」の設置箇所との間に何らかの相関関係があ
ることも推測される。
しかしながら,引用文献1の【図5】におけるこれらの例示は,利用者
が住居内に各電源タップを任意に設置して電気機器に接続した結果として
生じる,「検出部ID」と接続されている電気機器との対応関係を示して
いるにすぎないというべきであって,たとえば,前記ポットは,台所,居
間,ダイニング,寝室のいずれでも利用されることに鑑みると,【図5】
の記載をもってして,「電源タップ4」の「検出部ID」と当該「電源タ
ップ4」の設置箇所との間に何らかの対応関係が定められているとするこ
とはできない。
また,引用文献1の段落【0075】ないし【0078】には,実施の
形態3に係る生活状況監視システムにおいて,「電源タップ4」に機器種
類を設定する「スライドスイッチ20a」を設けることが記載されており,
【図16】には,機器種類として,「冷蔵庫」,「炊飯器」,「テレビ」,
「アイロン」,「レンジ」,「その他」が例示されており,「スライドス
イッチ20a」がこれらの機器種類の中から任意に機器種類を選択するこ
とが示されている。
してみると,引用文献1に記載の「電源タップ4」は,「冷蔵庫」,
「炊飯器」,「テレビ」等を含め,種々の電気機器に接続されることを前
提としたものであり,当該「電源タップ4」が設置される箇所も,台所,
居間等,住居内の様々な箇所が想定されるものであるから,「電源タップ
4」の「検出部ID」と当該「電源タップ4」の設置箇所との間には,元
来関連性はない。
以上によれば,引用文献1に,「電源タップ4」を一意に識別するため
の「検出部ID」に基づいて,当該「電源タップ4」の設置箇所を識別す
るという技術思想が開示されているとは認められず,被告の上記主張は採
用することができない。
ウ 被告は,住居内の電源タップ及びそれに接続される家電機器は,いった
ん設置されれば移動しないのが通常であること,引用発明においては「電
源タップ4」の設置箇所が判明しているからこそ警戒すべき状況か否かの
判定ができること,を考慮すれば,「電源タップ4」の「検出部ID」は
設置箇所を識別し得る情報であり,本願発明の位置情報(設置箇所の情報
を含む。)と相違しない旨主張する。
しかしながら,以下のとおり,被告の上記主張は採用することができな
い。
(ア) 引用文献1の【図13】には,警戒すべき状況か否かを判定するた
めの条件の例が記載されている。この記載からは,電気機器の種別(テ
レビ,炊飯器,アイロン等)と稼働状況(稼働中か停止中か)に応じて
警戒状況を判定するという技術思想は読み取れるものの,電気機器の種
別が同一である場合に,当該電気機器の設置箇所に応じて判定する条件
を異ならせる(例えば,居間と寝室のテレビとで判定条件を異ならせ
る)という技術思想を読み取ることはできない。
例えば,【図13】に記載された判定条件のうち,「3日以上,『電
気炊飯器』の『停止』が続いた場合」は,住人が食事をとっていないと
いう事態をうかがわせるから,かかる場合をもって段落【0057】等
にいう「警戒すべき稼働状況」として登録する,というのが引用発明の
技術思想であると解される。電気炊飯器の設置箇所は,通常,「台所」
という住居内の特定の部屋であるが,その間に住人が台所に立ち入った
か否かが,警戒状況か否かを判定するための条件とされているものでは
ない。
このように,引用発明においては,警戒すべき状況か否かを判定する
ための情報として,特定の電源タップに接続された電気機器の種別を用
いているが,当該電源タップ及びそれに接続された電気機器の設置箇所
と関連する情報を用いることの開示又は示唆はない。
(イ) 引用文献1の【図6】には,二つの部屋のそれぞれにおいて,同一
の種別の電気機器である照明装置が「電源タップ4」に接続される態様
が開示されており,二つの部屋にそれぞれ設けられた「電源タップ4」
が,「検出部ID」を「遠隔監視装置1」に送信するものと認められる
が,この場合であっても,上記(ア)に示したとおり,「検出部ID」は,
各々の電源タップ及びこれに接続された電気機器を一意に識別するため
の符号であるにとどまり,「電源タップ4」の設置箇所を示す情報では
ないから,「検出部ID」により各部屋を識別できるとする技術的根拠
は見出せない。
(4) 以上によれば,引用発明の「検出部ID」は,「電源タップ4」の住居内
での設置箇所を識別するものではないから,本願発明の位置情報のうち,住
居内における設置箇所を特定する「内部管理ID番号」(具体的には居間,
トイレ,寝室等の各部屋)とは技術的意義を異にする。
それにもかかわらず,本件審決は,引用発明の「検出部ID」は本願発明
の「内部管理ID番号」に相当するとして,「施設内での設置箇所に係るI
D番号」が安否確認に用いられることを一致点の認定に含めており,この認
定には誤りがあるといわざるを得ない。その結果,本件審決は,原告の主張
に係る相違点5を看過しており,上記一致点の認定誤りは本件審決の結論に
影響を及ぼす誤りである。
◆判決本文
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2021.10.19
令和2(行ケ)10103 特許権 行政訴訟 令和3年10月6日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として、動機付けがないとして取り消されました。引用文献における「演色性」は本件とは意味が異なるという認定です。
ア 甲1発明の課題の認定について
(ア) 黄色の発色
甲1には,「イエロー系」,「イエローとライトイエローの違いが分かり
づらいです。」(4頁の上から5枚目の写真の上下)と記載されていると
ころ,この記載からは,甲1製品において,「イエロー」と「ライトイエ
ロー」の色の相違が判別し難いという問題があることは認められる。し
かし,上記の記載の前提として,「イエロー」は,色票等ではなくペンラ
イトの「ライトイエロー」との比較がされているにとどまる上(上記写
真),色の相対的な判別の問題と,一般的に各色の基準とされている色(色
票の該当色)にどれだけ近い色を出しているかという発色の問題は異な
るから,「イエロー」と「ライトイエロー」の色の相違が判別し難いとい
う上記の問題は,「イエロー」が一般的に黄色の基準とされている色にど
れだけ近い色を出しているかという発色の問題とは異なる。
本件審決は,「それら『イエロー』及び『ライトイエロー』の各発色に
ついて検討するに,p.4-写真には,写真中央に位置する4本のペンライ
トの他に,その左側に2本(『亜美・真美』及び『小鳥』),右側に2本(『ル
ミスティック』及び『大電光改』)の計4本の他のペンライトが色比較の
ために配置されているところ,上記写真中央の4本(甲1発明)の『イ
エロー』の発色は,上記他の4本のペンライトの黄色の発色とは異なり,
むしろ p.4-6 写真((摘示(1q))示されるオレンジ系の色に近い発色
となっている。」(本件審決第6,2,2−1(2)(2−1)ア(ア) 〔本件
審決47頁〕)と述べ,甲1の写真を根拠として,甲1製品の「イエロー」
とされる黄色の発色自体に問題があるという認定をしている。本件審決
が,甲1サイトのアドレスにアクセスの上,ディスプレイ上に表示され\nた写真(画像)に基づいて上記認定をしたのか,又は用紙に印刷された
写真に基づいて上記認定をしたのかは,本件審決の記載からは直ちには
明らかでないが,仮に,前者であるとした場合,ディスプレイに表示さ\nれる色の発色は,ディスプレイ自体の性能や調整に依存するものである\nし,また,後者であるとした場合でも,紙に印刷される色の発色は,紙
の品質やプリンタの性能や調整に依存するものであり,さらにいえば,\n写真を撮影したカメラの性能や調整によっても発色は相違するものであ\nるから,いずれにしても,実際の甲1製品の発色とディスプレイ上の表\n示又は印刷されたものの発色は,必ずしも同じとは限らない。また,甲
1製品と対比された他社のペンライトが,甲1製品よりも,一般的に黄
色の基準とされている色に近いことを裏付ける客観的な証拠はない。そ
のため,甲1の写真に基づいて,「イエロー」が一般的に黄色の基準とさ
れている色にどれだけ近い色を出しているかを判断することはできず,
甲1の写真を根拠に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題がある
と認定することはできない。
その他の甲1の記載によっても,甲1に,「イエロー」とされる黄色の
発色自体に問題が内在しているという課題が示されていると認めること
はできない。
そうすると,「イエロー」と「ライトイエロー」の各発色の色の違いを
明確に識別することができないという問題は,「イエロー」とされる黄色
の発色自体に問題が内在しているということもできるとする本件審決の
判断(前記(3)ア(ア))は誤りである。
(イ) 演色性
本件審決が甲1発明の課題に関して認定する「演色性」は,発色のバ
ランスを崩れないようにすることや,全体が綺麗に光るようにすること
(前記(3)ア(イ)),多くの色彩の選択肢を提供すること(前記(3)(ウ)。
本件審決は,第6,2,2−1(2)(2−1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で,
甲10に記載されているように周知の課題といえると認定する。)であり,
甲2に記載された技術事項として認定された「演色性」,すなわち,照明
された物体の色が自然光で見た場合に近いか否かという,一般的な意味
での「演色性」(前記(3)イ(イ))とは異なる。
イ 甲2に記載された技術事項の認定
前記(3)イ(イ)のとおり,甲2に記載された技術事項として認定された「演
色性」は,照明された物体の色が自然光で見た場合に近いか否かという,
一般的な意味での「演色性」であるものと認められる。
ウ 相違点1に係る本件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及び\nその「発光色」の容易想到性
前記(2)のとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項は,技術分野が
完全に一致しているとまではいえず,近接しているにとどまるから,甲1
発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を想到すること
が容易であるというためには,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採
用するについて,相応の動機付けが必要であるというべきである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付け
があり,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を容
易に想到することができたと判断する前提として,甲1発明に,「イエロー」
とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課題があり(前記(3)
ア(ア)),甲1発明に,演色性を向上させるという,甲2と共通の課題があ
ると認定した(前記(3)ア(イ),(ウ))。しかし,前記ア(ア)のとおり,甲1発
明に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課
題があるとする本件審決の認定は誤りであるし,また,本件審決が甲1発
明の課題に関して認定する「演色性」(本件審決が第6,2,2−1(2)(2
−1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で,甲10に記載されているように周知の
課題といえると認定する事項を含む。)は,甲2に記載された技術事項とし
て認定された「演色性」,すなわち,照明された物体の色が自然光で見た場
合に近いか否かという,一般的な意味での「演色性」とは異なる(前記ア
(イ))。
そうすると,本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用
する動機を基礎づける甲1発明の課題の認定を誤っているものであり,ま
た,甲2に記載された技術事項の内容(前記(1)),甲1発明と甲2に記載さ
れた技術事項の技術分野相互の関係(前記(2))を考慮すると,甲1発明に
は,甲2に記載された技術事項と共通する課題があるとは認められず,そ
のため,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがある
とは認められない。
したがって,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲
10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ
とができたとは認められず,これを容易に想到することができたとする本
件審決の判断(前記(3)ウ(ア))は誤りである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲
10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ
とができた(前記(3)ウ(ア))という判断を前提として,甲1発明に甲2に記
載された技術事項及び周知の課題(甲10)を採用し,本件発明1の構成\nのうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容易に想到するこ
とができた(本件審決第6,2,2−1(2)(2−1)イ(ア)〔本件審決48
〜50頁〕)と判断するところ,その前提とする判断が誤っているから,本
件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容\n易に想到することができたという判断も誤りである。
エ 黄色発光ダイオードの単独発光色及び混合発光色の容易想到性
前記ウのとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項との間には課題
の共通性がなく,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付
けがあるとは認められないが,念のため,仮にそのような動機付けがある
として,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用することにより,黄
色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及
び前記黄色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオード
から発せられる光が混合することにより得られる発光色という,相違点1
に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかについて検討\nする。
甲2には,前記(1)認定のとおり,カード型LED照明光源10に実装さ
れるLEDを,相関色温度が低い光色用又は相関色温度が高い光色用や青,
赤,緑,黄など個別の光色を有するものとすることができること(段落【0
080】)が記載されているが,当該事項に係る実施の形態1に関連する段
落【0076】ないし【0080】の記載全体をみても,青,赤,緑,黄
など個別の光色のうちからいずれか1色の単色LEDのみを搭載したLE
D光源により青,赤,緑,黄などいずれかの個別の光色を発光するという
意味なのか,複数色のLED光源を搭載して青,赤,緑,黄などの個別の
光色となるように制御するという意味なのか必ずしも判然としない。段落
【0080】に続いて,段落【0081】の前半において「更に,多発光
色(2種以上の光色)のLEDをカード型LED照明光源10に実装する
ことにより,・・・この場合,2種の光色を用いた2波長タイプのときには」
との記載が続くことに照らせば,段落【0080】の上記記載は,前者の
意味,すなわち,1種の光色を用いた1波長タイプを意味し,黄色の単色
LEDを搭載したLED光源により黄色の光色を有するという意味と解す
ることはできる。しかし,本件発明1は,赤色発光ダイオード,緑色発光
ダイオード,青色発光ダイオード,黄色発光ダイオード及び白色発光ダイ
オードを備え,複数得られる特定の発光色として,少なくとも,黄色発光
ダイオードから単独で発せられる光により得られる発光色の他に,黄色発
光ダイオードから発せられる光とそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオー
ドから発せられる光とを混合して得られる発光色が得られなければならな
いところ(相違点1),前者の意味であるとすれば,上記の混合して得られ
る発光色が容易想到であるとはいえない。他方,仮に後者の意味だとして
も,甲2には,複数色のLED光源に黄色のLEDを含んでいるとの直接
的な記載はないから,黄色以外のLED光源によって黄色の光色を得てい
る可能性も否定できず,黄色のLEDの単独発光が容易想到であるとはい\nえない。
さらに,前記(1)イで認定したとおり,甲2には,3種の光色を用いた3
波長タイプの場合は青と青緑(緑)と赤発光の組合せ,4種の光色を用い
た4波長タイプの場合は青と青緑(緑)と黄(橙)と赤発光の組合せが望
ましく,特に4波長タイプのときには平均演色評価数が90を超える高演
色な光源を実現できること(段落【0081】)が記載されており,演色性
を向上させるためにRGBY(赤,緑,青,黄)4種類のLEDを用いる
ことが記載されているが,これらの記載は,一般的な意味での演色性の向
上に関するものであるから,これらの記載からは,RGBY4種類のLE
Dを用いた照明装置において,黄色のLEDを単独発光させることが客観
的かつ具体的に把握できるものとは認められない。
また,甲2には,RGBWY(赤,緑,青,白,黄)の5種類のLED
を用いることが,段落【0065】や【0189】に記載されているが,
具体的な記載としては電源に関する説明があるのみで,これらの記載から
は,RGBWYの5種類のLEDを用いた照明装置において,黄色LED
を単独で発光させることやその他の色と混ぜて発光色を制御することは,
客観的かつ具体的に把握することはできない。
そうすると,仮に甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機
付けがあり,甲2に記載された技術事項を甲1発明において採用し,甲1
発明において黄色発光ダイオードを備えたとしても,黄色発光ダイオード
が単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及び,前記黄色発光
ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる
光が混合することにより得られる発光色という,相違点1に係る本件発明
1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n
なお,本件発明1は,黄色LEDを追加した上で,白色LEDとそれ以
外の1つ又は2つのLEDから発せられる光が混合して発光色を得,黄色
LEDとそれ以外の1つ又は2つのLEDから発せられる光が混合して
発光色を得るとの構成をとることによって,電圧が低下した状態において\nも発色のバランスを保つことができるもの(本件特許の明細書の段落【0
007】,【0009】,【0010】,【0013】〜【0017】,【002
1】,【0033】,【0034】)であり,このような発明の効果は,甲1発
明及び甲2に記載された技術事項から予測できるものとはいえないから,\nこの点からしても,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用すること
によって本件発明1を容易に想到することができたとは認められない。
◆判決本文
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2021.10.14
令和2(行ケ)10123 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年10月7日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、進歩性無しとした審決が取り消されました。
イ 引用発明の「電界効果トランジスタ」は,甲3における「第1の条件」にお
いて,「不良燃料セルのアノードとカソードの間の電流を短絡し,よってその不良燃料電池のための電流側路を設ける」もの(甲3の段落【0009】)であり,甲3の\n【図3】において,電気的なスイッチ124(nチャネルMOSFET)として示
されているもので,開放電気状態と閉鎖電気状態とを有する(同【0020】〜【0
022】)。そして,引用発明においては,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低
くなるような場合に,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされる(同【002
3】)。
この点,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた場合,ドレインからソース,ソ\ースからドレインのいずれの方向にも電流が流れ得ることは,技術常識であるから,直ちに引用発明の電界効果トランジスタが整流器に相当するものとはいえ
ない。
そこで,上記のように,引用発明の電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされ
た場合の電流の流れについて検討すると,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低
くなるような状態となって電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた時点では,
燃料電池のアノード,カソード間の電位差により,電界効果トランジスタでは,カソ\ード53側からアノード52側へ電流が流れ,その後,燃料電池の電位差が低下することによって,アノード52側からカソード53側へ電流が流れるに至るものと解するのが相当である。そうすると,甲3において,好適実施例として記載され\nている【図3】の構成においても,電界効果トランジスタを流れる電流は一方向に限定されているものではない。\n
ウ 以上によると,本願発明における第1の整流器が飽くまで一方向にのみ電流
を流すものであるのに対し,引用発明における電界効果トランジスタは,双方向に
電流を流すものであるから,引用発明の電界効果トランジスタが本願発明の第1の
整流器に相当するとはいえず,この点において,本件審決には誤りがある。
エ(ア) これに対し,被告は,引用発明においては,電界効果トランジスタが閉鎖
電気状態とされた場合であっても,電流は電界効果トランジスタをアノード52側
からカソード53側に流れると主張し,その根拠として,甲3の段落【0023】の記載を指摘する。\n
しかし,上記イのように,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた時点で
は,カソード53側からアノード52側へ電流が流れるとしても,その後,アノード52側からカソ\ード53側へ電流が流れるに至るのであって,同段落の記載はそのような理解と矛盾するものとはいえない。甲3の段落【0001】,【0005】,
【0008】及び【0009】の記載や,【図4】(上記各段落の記載内容に照らし,
引用発明に係る甲3の「第1の条件」の際の動作は,同図の「欠陥は重大か?」に
対する答えが肯定(Y)の場合の動作,すなわち同図の「燃料電池への水素供給遮
断及び燃料電池の両端を永久的に短絡」という動作に当たるものと認められる。)を
踏まえると,段落【0023】は,引用発明において電界効果トランジスタが閉鎖
電気状態とされた場合に最終的に至る,引用発明の構成においてより重要な電流の流れについてのみ記載したものと理解することができ,そこに至るまでに一旦電流\nが反対方向に流れることを否定するものとは解されない。
したがって,甲3の段落【0023】の記載は被告の上記主張の根拠とはならず,
乙13(前記3(5))の記載や,燃料電池を迂回する経路をMOSFETで形成する
ことに係る周知技術(乙13[前記3(5)],乙14[同(6)]参照)など,その他被
告の主張する点は,いずれも上記認定判断を左右する事情ではない。
なお,被告は,本件第1回口頭弁論期日における技術説明会のための資料におい
て,甲3の【図3】における電界効果トランジスタについて,ドレインとソースの表\記が逆である旨を指摘するが(乙15の10頁),上記認定判断のとおり,同図の記載と段落【0023】の記載が直ちに矛盾しているとはいえず,相当とはいえな
い。
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2021.06.16
令和2(行ケ)10092 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年5月31日 知的財産高等裁判所
知財高裁3部は、進歩性無しとした審決を取り消しました。理由は、引用文献の認定誤りです。
上記(1)の記載によれば,引用技術2の「油性ゲル状」「粘着シート製剤」
は,上記(1)イの従来技術である「架橋アクリル系粘着剤」の組成を調整する
ことによって,粘着性を維持しつつ薬剤の溶解性を高めたシートであって,
皮膚への粘着性は,従来技術と同様に,専らアクリル系粘着剤に依存してい
ることが認められる。
3 相違点についての審決の判断の当否
上記1(3)のとおり,本願発明の技術的意義に照らすと,本願発明の「オイル
ゲル」は,アクリル系粘着剤等の粘着性ではなく,ゲル化したオイルの粘着性
によって,皮膚に対して粘着するものである。これに対し,引用技術2の「油
性ゲル状粘着製剤」は,上記2(2)のとおり,アクリル系粘着剤の粘着性によっ
て,皮膚に対して粘着するものである。
このように,引用技術2の「油性ゲル状粘着製剤」は,本願発明の「オイル
ゲル」とは技術的意義を異にするから,引用発明に引用技術2を適用しても,
相違点に係る本願発明の構成には至らない。\nしたがって,容易想到性に関する審決の判断には誤りがある。
4 被告の主張について
被告は,「オイルゲル」は有機溶剤を溶媒とするゲルの総称であるとの技術
常識が存在し,本願発明の「オイルゲル」の意義や組成について本件明細書に
は記載がないから上記技術常識に沿って解釈すべきであり,上記技術常識によ
れば引用技術2の「油性ゲル」は「オイルゲル」に含まれる旨主張する。
たしかに,乙1(特許庁「周知・慣用技術集(香料)第I部香料一般」1999
年1月29日発行)等によれば,「ゲル」を流体(溶媒)の違いという観点から
「ヒドロゲル」「オイルゲル」「キセロゲル」の3種類に分類することが一般
的に承認されている事実は認められ,また,乙6(権英淑ほか「実効感を発現
するためのスキンケア製剤設計」FRAGRANCE JOURNAL Vol.34 No.1 pp.52-55
(2006))等には,この分類を前提として,アクリル系材料を基剤とした「オイ
ルゲル」の粘着剤に言及する記載も見られる。しかしながら,他方,甲7(柴
田雅史「化粧品におけるオイルの固化技術」J.Jpn. Soc. Colour Mater., 85
[8] 339-342 (2012))では,冒頭に「有機溶剤(オイル)を少量の固化剤を用
いて固形もしくは半固形状にしたものは一般に油性ゲルと呼ばれ,・・・・・・メイク
アップ化粧品を中心に幅広い製品の基剤として用いられている」と記載されて
おり,化粧品の分野において,「オイルゲル」の用語をこのような意味で用い
ることも一般的であったと認められるから,「オイルゲル」という用語が,当
然に被告主張のような意味に用いられると断定することはできない。
そうすると,本願発明の「オイルゲル」の技術的意義は,特許請求の範囲の
記載だけからは一義的に明確ではない。そこで,明細書の発明の詳細な説明の
うち,従来技術に関する記載及び解決課題に関する記載を参酌し,上記1のと
おり,「オイルゲルシート」を「アクリル系粘着剤等の粘着性ではなく,ゲル
化したオイルの粘着性によって,皮膚に対して粘着するシート」と解釈すべき
である。
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2021.06. 4
令和2(行ケ)10102等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年5月20日 知的財産高等裁判所
10日ほど前に、新聞を賑わしたユニクロのセルフレジの特許についての無効審判事件です。知財高裁は特許無効とした審決を、引用文献の認定誤りがあるとして、取り消しました。
ウ また,甲1の「読取り/書込みデバイス102」は単独で機能するもの\nである。
(ア) 甲1発明は,RFIDタグの読取り/書込みを行うデバイスと,この
デバイスを利用する会計端末に関するものである(甲1の訳文3頁4行〜6行)が,
一般に,RFID読取りデバイスにより情報が読み取られる対象物には,液体を含
む物や水分量が多い物もあるが,そうでない物もある。こうした液体を含む物や水
分量が多い物を取り扱わない店舗も多々あるが,甲1発明の発明者は,スーパーマ
ーケットのように,液体を含む物や水分量が多い物も販売する店舗に着目し,その
ような店舗においては,「FR 2 966 954 A1号」として公開されてい
る特許公開公報(乙30)の図に示された装置では,効率的な読取りを実施するこ
とができないと考えており(甲1の訳文3頁10行〜26行),甲1発明は,「液体
を含む物や水分量の多い物についてもRFIDタグが効率的に読みとれること」,
「対象物のタイプにかかわらず,RFIDタグが効率的に読みとれること」を目的
とするものであることを,当業者は理解する。
そして,当業者は,甲1の具体的構成(甲1の訳文3頁35行〜47行)により,\n「本発明によるデバイスによって,載置キャビティ内において,端末の近傍に置か
れた製品,特に端末に隣接する棚に置かれた製品に貼付されたRFIDタグが通電\nされ,したがって読み取られるリスクを伴わずに,読取り/書込み動作を実施する
のに使用される電波の出力を増加させることが可能になり,またしたがって,キャ\nビティ内に載置されたタグを,液体を含む対象物に貼付されたタグであっても,よ\nり良好に読み取ることが可能になる。」という効果を有すること(甲1の訳文4頁1\n4〜19行)を理解する。
甲1の具体的構成と,乙30に記載されているRFID読取りデバイスの相違は,\n1)「前記挿入アパーチャの周りに配置され,前記挿入アパーチャから上方に延在し,
前記載置キャビティと外部との間の電波を減衰することができる,防壁と呼ばれる
少なくとも1つの壁」(「防壁」)と,2)「前記少なくとも1つの防壁を通して前記挿
入アパーチャにアクセスするための,アクセス開口部と呼ばれる少なくとも1つの
開口部」(「アクセス開口部」)のみである。
2)の「アクセス開口部」は,1)の「防壁」がある場合に,載置キャビティに物を
入れるため(「防壁を通して前記挿入アパーチャにアクセスするため」)の開口部で
あるから,防壁があれば必然的に存在することになるものであり,水分を含む物で
も情報が効率的に読み取れることとは関係しない。甲1の具体的構成が,乙30に\n係る発明と異なり,水分を含む物でも情報が効率的に読み取れるのは,「防壁」があ
るからであると当業者は理解する。
したがって,当業者は,水分を含まない物や対象物が軽い物を読み取るのであれ
ば,電波を低量にするから,「防壁」のない装置で十分であると理解する。\nそして,甲1では,「防壁」のないものとして,「読取り/書込みモジュール20
0」が,[図2]に示され,甲1の訳文10頁1〜19行に具体的な構成が記載され\nており,当業者は,「読取り/書込みモジュール200」は,「防壁」を備えるもの
ではなく,よりシンプルな構成であるが,読取装置に必要な要素をすべて備えるも\nのであり,水分を含まない対象物については,問題なく動作することを理解する。
このように,甲1には[図1]に示されている読取装置と,[図2]に示されてい
る読取装置の二つが開示されており,[図1]の読取装置は,水分を含む物も含まな
い物も,効率よく読み取ることができるものであり,[図2]の読取装置は,水分を
含まない物に使用することができると,当業者は理解する。
甲1発明2のように,読取装置を独立した発明として把握する公知文献,公知技
術は枚挙に暇がない(甲2,乙28〜37)。
(イ) 原告らは,水分を含まない物を読み取るものとして,甲1発明2を単
体で利用することについては甲1に何ら記載がないと主張している。
しかし,被告は,読取対象物が水分の少ない場合については従来技術と同様に甲
1発明2が単体の読取装置として機能することを説明しているのであるから,これ\nに対する反論となっていない。当業者が甲1文献の記載を読めば,読取対象物が水
分の少ない物を取り扱う店舗においては,水分の多い物を読み取るために創作され
た甲1発明1全体を実施するのは無駄であり,従来技術に近い甲1発明2を実施す
べきであると考えるのが当然である。
また,原告らは,電波の出力を下げると金属に貼られたタグも読み取りできなく\nなると主張する。
しかし,そのような事実があるかは不明であるし,仮にそうであるとしても,読
取対象物が金属製でない場合は,従来技術と同様に,甲1発明2が単体の読取装置
として機能し,使用可能\である。本件明細書には,電波強度や金属に貼られたタグ\nを読み取る点について記載がなく,本件発明が金属に貼られたタグが読めるものと\nは解釈できないから,甲1発明2と対比できるものではない。
エ 原告らは,防壁及びアクセス開口部は,甲1に記載される目的を達成す
るために必須の構成であると主張する。\nしかし,上記ウのとおり,甲1の[図2]の読取装置は,水分を含まない物につ
いては読取装置として十分に使用することができると,当業者は理解する。本件審\n決は,甲1に記載されたこれらの発明のうち,水分を含まない物に使用することが
できる[図2]の読取装置を「甲1発明2」と認定したものであるから,誤りはな
い。
オ 原告らは,甲1の実施例に重量計が使われていることを指摘するが,読
取対象物が水分の少ない場合については,重量計が存在しても,従来技術と同様に,
甲1発明2が単体の読取装置として機能することに変わりはない。\n
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2021.05.10
令和2(行ケ)10041 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月25日 知的財産高等裁判所
薬品の特許について、公知文献の記載は技術的な裏付けがない仮説にすぎないとして、進歩性違反なしとした審決を維持しました。
(ア) ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動に関する本件優先日当時
の知見について
前記ア(ウ),(エ),(カ),(ケ)の各記載からすると,本件優先日当時までに,Co
wanらは,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みの間には関連性が
あることを提唱していたものと認められる。
しかし,これらの証拠によっても,本件優先日当時,Cowanらが,ボンベシ
ン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みには関連性があることを実験等により実
証していたとは認められないし,また,その作用機序等も説明していない。さらに,
甲4には,「この行動,及びその行動の発生におけるボンベシンの考え得る役割に
ついては,更に研究する必要がある。」と記載されており,ボンベシン誘発グルー
ミング・引っ掻き行動と痒みには関連性があると断定まではされていない。
加えて,前記ア(ア)のとおり,昭和35年に発表された甲25では,そもそもラッ\nトのグルーミングの実施形態,目的,又は,これを支配する状況等は,ほとんど何
も知られていないとされており,前記ア(キ)のとおり,平成4年に発表された甲27\nでも,ボンベシンにより誘発される行動が,痛み等の侵害刺激に基づく可能性があ\nるとの指摘がされており,前記(2)ア(オ)のとおり,平成7年に発表された甲9にお\nいても,信頼性のある痒みの動物モデルは存在しない,マウスは起痒剤Compo
und48/80を皮下注射されても引っ掻き行動をせず,マウスがグルーミング
中に耳及び体の引っ掻き行動するのが痒みに関連した行動とは考えられないなどと
されており,Cowanら以外の研究者は,ボンベシンやそれ以外の原因により誘
発されるグルーミング・引っ掻き行動が,痒み以外の要因によって生じているとの
見解を有していたと認められる。
そして,前記(2)ア(オ)のとおり,甲9は,Compound48/80やサブス
タンスPを起痒剤として取り扱っており,本件明細書の実施例12でも起痒剤とし
てボンベシンではなく,Compound48/80が使用されている一方,ボン
ベシンは,本件優先日当時,起痒剤として当業者に広く認識されて用いられていた
ものであるとは,本件における証拠上認められない。
以上からすると,本件優先日当時,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動
と痒みの間に関連性があるということは,技術的な裏付けがない,Cowanらの
提唱する一つの仮説にすぎないものであったと認められる。
(イ) オピオイドκ受容体作動性化合物とボンベシン誘発グルーミング・引
っ掻き行動との関係について
前記ア(イ)〜(カ),(ケ),(コ)の記載を総合すると,本件優先日当時までに,ベンゾモ
ルファン,エチルケタゾシン,チフルアドム,U−50488,エナドリンといっ
たオピオイドκ受容体作動性化合物が,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行
動を減弱すること,他方で,同じオピオイドκ受容体作動性化合物であっても,S
KF10047,ナロルフィン,ICI204448といったものは,ボンベシン
誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱しないこと,さらに,オピオイドμ受容体
作動性化合物であるフェナゾシン,オピオイドκ受容体作動作用を有することにつ
いて報告がされていない化合物(乙6〜11)であるメトジラジン,トリメプラジ
ン,クロルプロマジン,ジアゼパムのようなものであっても,ボンベシン誘発グル
ーミング行動が減弱されることが,Cowanらによって明らかにされていたとい
える。
また,前記ア(エ),(カ)の記載及び弁論の全趣旨を総合すると,上記のボンベシン
誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱するオピオイドκ受容体作動性化合物の基
本構造は,それぞれ異なっており,エチルケタゾシンはベンゾモルファン骨格,チ\nフルアドムはベンゾジアゼピン骨格,U−50488及びエナドリンはアリールア
セトアミド構造をそれぞれ有しており,甲1発明の化合物Aとはそれぞれ化学構\造
(骨格)を異にするものであった。そして,前記ア(ク)のとおり,化学構造の僅かな\n違いは,薬理学的特性に重大な影響を及ぼし得るものである。
以上からすると,本件優先日当時,オピオイドκ受容体作動性化合物が,ボンベ
シン誘発グルーミング・引っ掻き行動を抑制する可能性が,Cowanらによって\n提唱されていたものの,甲1の化合物Aがボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き
行動を減弱するかどうかについては,実験によって明らかにしてみないと分からな
い状態であったと認められる上,上記(ア)のとおり,ボンベシンが誘発するグルーミ
ング・引っ掻き行動の作用機序が不明であったことも踏まえると,なお研究の余地
が大いに残されている状況であったと認められる。
(ウ) 上記(ア),(イ)を踏まえて判断するに,前記ア(イ)〜(カ),(ケ)のとおり,
本件優先日当時,Cowanらは,1)ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動
が,痒みによって引き起こされているものであるという前提に立った上で,2)オピ
オイドκ受容体作動性化合物のうちのいくつかのものが,ボンベシン誘発グルーミ
ング・引っ掻き行動を減弱することを明らかにしていた。
しかし,上記1)の点については,上記(ア)のとおり,技術的裏付けの乏しい一つの
仮説にすぎないものであった。
上記2)の点についても,上記(イ)のとおり,本件優先日当時において研究の余地が
大いに残されていた。
そうすると,本件優先日当時,当業者が,Cowanらの研究に基づいて,オピ
オイドκ受容体作動性化合物が止痒剤として使用できる可能性があることから,甲\n1発明の化合物Aを止痒剤として用いることを動機付られると認めることはできな
いというべきである。
(エ) 小括
以上からすると,当業者が,甲1発明に甲2〜9,12などから認定できる一連
のボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動とオピオイドκ受容体作動性化合物
に関する知見を適用し,本件発明1を想到することが容易であったということはで
きないというべきであり,取消事由1は理由がない。
ウ 原告の主張について
原告は,これまで認定判断してきたところに加え,1)本件審決は,技術常識が存
在しないことから直ちに動機付けを否定してしまっており,公知文献から認められ
る仮説や推論からの動機付けについて検討しておらず,裁判例に照らしても誤りで
ある,2)甲63によると,ダイノルフィンAと同じオピオイドκ作動作用を持つ化
合物は,痒みや痛みを抑制することが容易に予測でき,甲1の化合物Aを使用して\n止痒剤としての効果を奏するかを確認してみようという動機付けも肯定できると主
張する。
しかし,上記1)について,仮説や推論であっても,それらが動機付けを基礎付け
るものとなる場合があるといえるが,本件においては,Cowanらの研究に基づ
いて,甲1発明の化合物Aを止痒剤として用いることが動機付けられるとは認めら
れないことは,前記イで認定判断したとおりであり,原告が指摘する各裁判例もこ
の判断を左右するものとはいえず,原告の上記1)の主張は採用することができない。
上記2)について,本件明細書には,前記1(1)イのとおり,甲63にダイノルフィ
ンと共に挙げられているエンドルフィン,エンケファリン(前記ア(サ))が,痒みを
惹起することが記載されている上,前記ア(サ)のとおり,甲63が,痒みと痛みの関
係は明確ではなく,研究を更に行わなければならないと結論付けているところから
すると,甲63の記載が,ダイノルフィン,エンドルフィン,エンケファリン等の
内因性オピオイドが,止痒剤の用途を有することを示唆するものであるとは認めら
れず,甲63の記載から,当業者が,甲1の化合物Aについて,止痒剤としての効
果を奏するかを確認することを動機付けられるとは認められない。
そして,その他,原告が主張するところを考慮しても,前記イの認定判断は左右
されないというべきである。
◆判決本文
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2021.04.23
令和2(行ケ)10110 決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月18日 知的財産高等裁判所
加圧トレーニングに関する発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。
これに対して,原告は,前記第3の1(1)のとおり,甲1に引用された実
施例と本件発明3の実施例は,全く同一であり,自然締付け力を付与され
ていない状態とする効果を生じさせるための新たな構成要素が付加されて\nいるわけでもないし,仮に,本件優先日当時,自然締付け力を皆無にする
施術が広く実施されていなかったとしても,加圧力の範囲は,身体に対す
る負担や得られる効果を勘案しつつ適宜決定し得る程度の事項である旨主
張する。
原告の主張は,本件明細書と甲1の明細書を対比すれば,本件明細書の
図1ないし図7が甲1の明細書の図1ないし図7と同一であること,すな
わち,本件発明3と甲1−3発明でそれぞれ用いられる緊締具,加除圧制
御装置及び加除圧制御システムが同一であることを指摘するものと解さ
れるが,そうであるとしても,甲1−3発明には,加圧工程と除圧工程を
交互に繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに
緊締具が所定の部位に与える締付け力について,特定部分を締付ける加圧
力を付与しない状態,すなわち,自然締付け力による加圧力も付与しない
状態に制御することについての記載も示唆もないことは前記(1)のとおり
である。
また,甲1−3発明は,四肢の所定の部位の締付け力の上げ下げを行い
ながら,その所定の部位よりも下流側に流れる血流を阻害し,それによっ
て筋肉に疲労を生じさせ,筋肉の効率的な増強を図ることを目的とするも
のである(【0003】,【0004】,【0009】,【0010】)から,甲
1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に繰り返す圧力調整手段
を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締具が所定の部位に与え
る締付け力について,自然締付け力による加圧力も付与しない状態にして
血流を阻害しないようにする構成とする動機付けがあるとはいえない。\nなお,原告は,甲2発明は,筋肉トレーニングの方法を応用することに
よって動脈硬化,つまり,血管のメタボリック症候群状態を改善すること
を目的としており,血管を強化する方法の1つを示している旨主張してい
るところ,上記主張の趣旨は明らかではないが,要するに,甲2発明にお
いて筋肉トレーニング方法を応用することで血管強化も実現できること
が示されている以上,本件発明3と同じ緊締具,加除圧制御装置及び加除
圧制御システムが用いられている甲1−3発明において,血管強化も実現
するために,除圧工程により加圧動作によって付与された加圧力が完全に
除去された状態において特定部分を締め付ける加圧力が付与されていな
い構成にすることは,設計的事項であると主張するものと解される。\nしかし,甲2の発明の詳細な説明には,「メタボリック症候群は,・・・動
脈硬化,心筋梗塞,或いは脳卒中を起こしやすい状態である」(【0005】)
との記載があるのみで,メタボリック症候群が動脈硬化の状態にあると記
載されているわけではなく,また,「加圧トレーニング方法は,四肢の少な
くとも1つで流れる血流を阻害することによりその効果を生じさせるも
のである・・・加圧トレーニング方法を,メタボリック症候群の治療に用い
ようとした場合には,・・一般的には中高年であるメタボリック症候群の患
者は血管の強度,柔軟性が低下していることが多いため,四肢の付根付近
の締付けを行うことにより四肢に与える圧力の制御に最大限の注意が必
要である」(【0007】),「加圧トレーニングは,・・・四肢の付根付近の所
定の部位を締付けて加圧することにより,四肢に血流の阻害を生じさせ,
それにより運動したのと同様の効果を生じさせるものである。・・・しかし
ながら,メタボリック症候群の患者のような,血管の強度,柔軟性が低下
している者の四肢を締付ける場合には,動脈まで閉じさせるような大きな
圧力を与えることは適切ではない。他方,静脈をある程度閉じさせるよう
な圧力で締付けを行わなければ,メタボリック症候群の患者の治療を十分\nには行うことができない。そこで,本願発明における治療システムでは,
四肢の付け根付近の締付けを本格的に行う通常処理に先立って前処理を
行い,その前処理で,四肢の付根付近を締付ける際に与える適切な圧力と
しての最大脈波圧を特定することとしている。・・・本願発明の治療システ
ムは,メタボリック症候群の患者を含む血管の弱い者の治療に適したもの
となる。」(【0009】)との記載がある。そうすると,甲2発明は,加圧
トレーニング方法の機序を応用した,血管の弱いメタボリック症候群の患
者に対する治療装置等に関する発明であって,血管強化方法に関するもの
ではないというべきであるから,甲2に血管強化方法が開示されていると
の原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,その他の点につき判断
するまでもなく,この点に関する原告の主張は理由がない。
イ また,原告は,甲6には,ベルト(あるいはカフ)を外すことにより締
付け力を皆無にする方法が記載されているところ,本件発明3においては,
「自然締付け力」を皆無にするための付加的な構成要素は示されておらず,\n具体的な方法すら示されていないから,ベルトを単に緩める,あるいは外
すという方法もその「自然締付け力」を皆無にする方法として本件発明3
に包含されている旨主張する。
上記主張の趣旨は明らかではないが,甲6に記載されたベルトを外すこ
とにより締め付け力を皆無にするという技術事項を,自然締め付け力によ
る加圧力を付与しない方法として甲1−3発明に適用すれば,本件発明3
の相違点2の構成に容易に想到するというものと解される。\n しかし,そもそも甲1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に
繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締
具が所定の部位に与える締付け力について,自然締付け力による加圧力も
付与しない状態として血流を阻害しない状態とする構成にする動機付け\nがあるとはいえないことは前記アのとおりである。
また,甲6には,1)「(バラコンバンドの効能)・・・2.血管内を清掃し
血管にも弾力がでる。バンドを強く締めると,そこで血流が止まる。心臓
からは絶え間なく血液は送られてくる。血液は,バンドの所で滞留し,血
量はその部で倍加される。バンドをはずすと,血は倍の速力で血管内を流
れる。その時血管壁を掃除し,動脈硬化を治し,血管そのものも弾力がで
る。」(74頁7行目〜75頁5行目),2)「足裏指巻き ●まず親指と第2
指の間を通してかかとにひっかけ,次に第2指と第3指を通して,またか
かとへ巻き,指の間を通した余りで足の甲をこの停止部分にバンドを巻く。
一つでも関節を越したほうがよく効くので,手の場合なら肘の下の二つの
腕にバンドを巻くといい。(肘の上から巻き込んでいてもかまわない)きつ
めに巻いて我慢できなくなったらはずそう。すると,ダムの水門を開いた
ように,血液がどっと流れ込み,これまで充分にいきわたっていなかった
ところまで勢いよく入り込む。」(120頁上段8行目〜121頁2行目)
との記載があるが,これらは,血流を一時的に止めた後にバンドを外した
場合の効果が記載されているに止まる。したがって,これらの記載に基づ
き,緊締具を付けたままの状態で,「ガス袋120へ空気を送って締付け部
位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位
への加圧を行わない下ピークと,を繰り返す加除圧方法」を採用する甲1
−3発明に,下ピークにする度に緊締具(甲6でいえば「バンド」)を外し,
上ピークにする前にこれを付け直すような変更を施すことは想定できず,
この点からも,甲1−3発明に甲6に記載された事項を適用する動機付け
はない。
◆判決本文
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2021.04.23
令和1(行ケ)10140 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月16日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。
ア 本件発明1の「利用者データベース」について
(ア) 前記第2の2の特許請求の範囲の記載のとおり,構成要件1Bの「利\n用者データベース」は,管理コンピュータ側に備えられるものであり,
「監視端末側に対して付与されたIPアドレスを含む監視端末情報」が,
「利用者ID」に「対応付けられて登録」されているものと規定されて
いる。
また,管理コンピュータ側は,「利用者の電話番号,ID番号,アド
レスデータ,パスワード,さらには暗号などの認証データの内少なくと
も一つからなる利用者IDである特定情報」を入手し(構成要件1Di),\n「この入手した特定情報が,前記利用者データベースに予め登録された\n監視端末情報に対応するか否かの検索を行」い(構成要件1Dii),「前
記特定情報に対応する監視端末情報が存在する場合,…この抽出された
監視端末情報に基づいて監視端末側の制御部に働きかけていく」(構成\n要件1Diii)と規定されている。
そうすると,特許請求の範囲の記載からは,「利用者データベース」
は,記憶媒体の種類や構成等の限定は付されていないものの,入手する\n特定情報から,あらかじめ登録された監視端末情報を検索することがで
き,入手した特定情報に対応する監視端末情報が存在する場合に当該監
視端末情報に含まれるIPアドレスを抽出し得る程度に,IPアドレス
を含む監視端末情報が利用者IDに「対応付けられて登録されている」
ものと理解することが相当である。
(イ) そこで,次に,本件明細書の記載をみると,前記1のとおり,本件発
明の実施例において,「利用者データベース」は,磁気ディスクや光磁
気ディスクからなる記憶装置35に記憶され,利用者の電話番号,ID
番号,アドレスデータ,パスワード,暗号,指紋等を基にした利用者を
識別可能な符号である利用者IDに,該利用者の暗証番号並びに該利用\n者が監視したい場所に設置されている監視端末に付与されているIPア
ドレスを対応付けているものであり(【0020】,【0021】,【図
5】),利用者の認証の際に参照されるとともに,利用者がアクセス可
能な監視端末のグローバルIPアドレスを検索抽出するために参照され\nるものとされている(【0026】,【0029】,【0030】,【図
7】)。
本件明細書の記載によっても,「利用者データベース」は,利用者を
識別できる情報(「利用者ID」)に,当該利用者が監視したい場所に
設置されている監視端末に付与されたグローバルIPアドレス(「監視
端末情報」)が検索できる程度に対応付けられることを要するものと理
解される(なお,実施例における記憶媒体の種類は単なる例示であるこ
とが明らかであるから,やはり,本件発明1において,「利用者データ
ベース」の記憶媒体の種類や構成等に限定が付されたものと理解するこ\nとはできない。)。
(ウ) 以上からすると,本件発明1の「利用者データべース」は,利用者を
識別できる情報に監視端末側に付与されたIPアドレス等の情報が,検
索できる程度に対応付けられて登録されていることを要するものの,そ
れで足り,記憶媒体の種類や構成等が具体的に限定されているものでは\nないと解されるが,利用者を識別できる情報とIPアドレスが関連性な
く記憶され,両者がシステム動作中に単にあい続いて利用されているだ
けの関連性しか有しない場合には,前記(ア)において説示した意味合い
において,当該監視端末情報に含まれるIPアドレスを抽出し得る程度
に,IPアドレスを含む監視端末情報が利用者IDに「対応付けられて
登録されている」ものということはできないから,「利用者データベー
ス」が構成されているとはいえないと解するのが相当である。\n
◆判決本文
こちらは原告被告の同じ関連事件です。
◆令和1(行ケ)10141
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2021.04.21
令和1(行ケ)10159 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年4月15日 知的財産高等裁判所
審決は、複数のカメラの一方の表示を回転させることは、周知として進歩性なしと判断しました。これに対して、知財高裁は、主引例にはそのような課題が存在しないとして、動機付けなしとして審決を取り消しました。
前記2(1)イのとおり,引用発明は,医師等が観察して診断を行う診断用
画像モニタ装置と離れて,操作者が被検者に対してX線装置のコリメータ
やTVカメラの調整等を行う際の被検者及び操作者のX線被爆を避ける
ために,X線曝射しない状態でコリメータやカメラの操作ができ,簡単か
つ安価で操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供することを目的とするものである。\nそして,引用文献1は,こうした課題を解決するために,医師等が観察
する診断用画像モニタ装置とは別に,1対の平行コリメータ位置マーカ2
4,24や円形コリメータ位置マーカ25,カメラ画像正立位置マーカ2
6の画像を,制御ユニット18の制御の下で,X線照射停止直前に撮像さ
れ画像メモリ19に格納されたX線透視像を画像と重ねて操作用液晶デ
ィスプレイ装置21に表示し,マーカ24,25,26上を指などで触れてドラッグすると,その位置情報が制御ユニット18に取り込まれて演算\nされて新たな表示位置が求められ,その位置へ各マーカが動いていくような表\示がされ,この入力情報に応じて制御ユニット18が指令をコリメータ12及びTVカメラ15へ出し,コリメータ12の遮蔽板の位置や方向
が変更され,TVカメラ15の回転角度が調整され,現実に動いた位置・
方向の情報が制御ユニット18に返され,これに応じて制御ユニット18
が平行コリメータ位置マーカ24,24又は円形コリメータ位置マーカ2
5の表示位置を固定するとともに,表\示されたX線透視像23及びカメラ
画像正立位置マーカ26を回転させる(【0018】,【0019】)という
構成を開示している。このように,引用発明は,あくまで,医師等が観察して診断を行う診断用画像モニタ装置とは別に,X線被爆を避けるために,X線曝射しない状\n態で操作ができ,画像を操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供することを目的とするものであって,こうした技術的意義を有す\nる引用発明において,引用文献1には,操作者が医師等の術者が被検者を
見る方向と異なる方向から被検者を見ることにより,操作者が被検者を見
る方向と操作用画像表示装置に表\示される患部の方向とが一致しないと
いう課題(課題B2)があるといった記載や示唆は一切ない。
イ この点につき,被告は,前記第3の2(1)のとおり,当業者であれば,課
題B2の存在を理解し,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置に
おいて,「操作者」が異なる方向から被検者に対向する場合,各々の被検者
を見る向き(視認方向)に一致させるという周知の課題(乙3,4)を参
照し,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプ
レイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致
させるという課題を当然に把握し,引用発明に技術事項2を適用する動機
づけがある旨主張する。
しかし,当業者であれば,課題B2の存在を当然に理解するという点に
ついては,これを裏付けるに足りる証拠の提出はなく,むしろ,原告が主
張するように,術者と操作者との力関係や役割の違いに照らせば,操作者
は,従前は,このような課題を具体的に意識することもなく,術者の指示
に基づきその所望する方向に画像を調整することに注力していたもので
あるのに対して,本願発明は,その操作者の便宜に着目して,操作者の観
点から画像の調整を容易にするための問題点を新たに課題として取り上
げたことに意義があるとの評価も十分に可能\である。
また,乙3には,「本発明の手術用顕微鏡システムでは,前記画像表示手段を複数備え,少なくとも一つの画像表\示手段で表示される画像の向きが\n変更可能であることが望ましい。このような構\成では,術者と助手とが向
き合って手術する時のように,撮像部分を異なる方向から見る場合におい
ても,それぞれの見る方向に応じて画像の向きを変えることにより,撮像
部分を見るのと同じ向きの画像を表示することが可能\となり,より手際の
よい手術が行えるようになる。」(【0007】),「本発明の手術用顕微鏡シ
ステムは,・・・前記画像処理装置は,各電気光学撮像手段からの撮像信号に
基づいて,基準画像信号を生成して,基準画像を前記画像表示手段に表\示
させる基準画像生成部と,前記各撮像信号に基づいて,基準画像と上下ま
たは左右が反転した反転画像信号を生成して,前記画像表示手段に表\示さ
せる反転画像生成部とを備えることを特徴とする。」(【0008】)との記
載があるように,術者とそれを補助する術者が向き合って手術をするとき
のように撮像部分を異なる方向から見る場合でも,画像表示手段で表\示さ
れる画像の向きをそれぞれの見る方向に応じて変更する構成により,撮像部分を見るのと同じ向きの画像を表\示することが可能となり,より手際の\nよい手術が行えるようになるとの課題が示されているにとどまり,術者と
X線撮影装置の操作者についてそのような課題があると開示するもので
はない。
さらに,乙4には,「本実施例の装置の動作について,図を参照して説明
する。まず,図1において術者Aは第1モニタ4を見て,術者Bは第2モ
ニタ7を見て手技を行っている。ここで術者Bは内視鏡2に対向している
ので,内視鏡2の原画像をそのまま第2のモニタ7に表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてしまう。このため,画像処理装置8にて,第2モニ\nタ7の画面のみを上下左右反転させた倒立像を映し出す。」(【0022】),
「本実施例では,第2モニタ7を倒立像にすることで,術者Bが上下左右
逆の感覚で手技を行うことがないので,スムーズに手技を行うことができ
る。また,第1モニタ4及び第2モニタ7のいずれでも倒立像にできるの
で,内視鏡2の向きや術者の位置が変わっても,容易に対応できる。」(【0
025】)との記載があるように,術者Aと術者Bがそれぞれ異なるモニタ
を見て手技を行う場合において,術者Bが見ている第2のモニタ7に内視
鏡2の原画像を見てそのまま表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてしまうという課題が示されているにとどまり,術者とX線撮影装置の操作者\nについてそのような課題があると開示するものではない。
そうすると,上記の乙3,4の各文献に記載された課題は,あくまで術
者と助手又は術者と術者がそれぞれ異なるモニタを見ることによって生
じる課題を指摘するにとどまり,術者とは異なる操作者が操作を行うとい
う引用発明の場合において,操作者の便宜のために,操作者が見る患部の
向きの方向と,操作者が見る操作用液晶ディスプレイの患部の向きとを一
致させるという課題を示唆するものとはいえないから,当業者がこのよう
な課題を当然に把握するともいえない。
(2) また,仮に,引用発明について,前記課題B2の存在を認識し,異なる方
向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の
向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題を
把握して,操作用液晶ディスプレイ装置21に表示されるX線画像のみを回転させるという相違点の構\成とする動機づけがあると仮定しても,前記2(2)
のとおり,技術事項2’は,HMDを装着し操作者を兼ねた術者が見るHM
Dの画像表示部に表\示されるX線画像と実際の患者の患部の位置把握を容易
にするために,上記術者の床面上の位置情報に基づいて上記X線画像の回転
処理を行うものであるから,回転処理がされるX線画像はHMDの画像表示部であり(引用文献2の【0014】,【0020】,図14等),また,画像\n回転処理の基になる位置情報は,床面に設けられた感圧センサによるもので
ある(引用文献2の【0022】)。
こうした技術事項2’の構成は,キャビネット43に設置された診断用画像モニタ17は術者である医師が使用し,台車41に設けられた操作用液晶\nディスプレイ装置21は撮像装置のセッティング等のために操作者が状況に
応じて自由に移動し,また台車41に様々な立ち位置を取ることができる引
用発明の具体的な構成と大きく異なるものであるから,引用発明と引用文献2に記載されたX線装置は同一の技術分野に属し,X線画像を表\示する装置を有する点で共通するとしても,HMDに表示されるX線画像の回転処理が行われるという技術事項のみを抽出して引用発明に適用する動機づけがある\nとはいえない。
さらに,技術事項2’は,操作者を兼ねた術者が装着したHMDに表示されるX線透視像を床面の位置情報に基づいて回転させるという構\成を有するものであるから,こうした構成を無視して,表\示されたX線画像のみを回転させるという技術事項のみを適用し,本願発明の相違点の構成に想到するとはいえない。\n
(3) 以上によれば,本願発明と引用発明との相違点は,本願発明は「前記X線
画像のうち,前記表示部に表\示されるX線画像のみを回転させる画像回転機
構を備え」ているのに対し,引用発明は,そのような特定がない点に尽きるが(本願発明における画像回転機構\自体については目新しいものとはいえない。),引用文献1には,「操作用液晶ディスプレイ装置21」を見て操作する「操作者」の視認方向が「診断用画像モニタ装置17」を見る「術者」の「被検者」の視認方向と一致しないという課題(課題B2)について記載も示唆もなく,被告が提出した文献からは,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置において,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題があると認めるに足りないから,こうした課題があることを前提として,引用発明との相違点の構成にする動機づけがあるとはいえず,また,本件審決の技術事項2の認定に誤りがあり,引用文献2に記載された事項(技術事項2’)から引用発明との相違点の構\成に想到するともいえないから,結局のところ,本願発明は,引用発明及び引用文献2に記載された技術事項2’に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものとはいえず,これと異なる本件審決の判断は,その余の点につき判断するまでもな
く,誤りである。
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2021.02.23
令和2(行ケ)10011 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年2月17日 知的財産高等裁判所
引用文献の開示認定に誤りありとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
上記記載から,隔壁の遠位部に備えたスリットは,隔壁の遠位部を通る
イントロデューサ針の位置決めをし,その挿入を簡単にするために設けら
れたものであることを理解できる。
さらに,図1,23,25ないし27から,延長チューブの遠位端が,
カテーテル・アダプタの近位端と遠位端との間で,かつ,隔壁の遠位部の
遠位端よりも更に遠位側に開口した中空部分に接続していることを看取
できるから,引用文献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセン
ブリにおいては,患者への流体の注入及び患者の循環系からの流体の除去
は,延長チューブを通じてカテーテル・アダプタの上記中空部分を介して
行うものであることを理解できる。
ウ 以上によれば,引用文献1記載の隔壁は,針の保管及び使用中に針の周
りにシールを提供し,針が引き出された場合に密閉されるように隔壁アセ
ンブリ内に設けられたものであって,隔壁の遠位部に備えたスリットは,
そこを通るイントロデューサ針の挿入を簡単にするために設けられたも
のであるから,隔壁の遠位部は,流体の「該流入及び流出を可能とするよ\nうに開口可能なスリットを有して」いると認めることはできない。\nそうすると,引用文献1記載の「隔壁」の遠位部は,本願発明の「前記
第2弁部材は,二方弁であり,流体が,前記カテーテルハブの前記内室を
通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように\n開口可能であ」るとの構\成(本件構成)に相当するものといえず,引用文\n献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリは,本件構成を\n有しない点で本願発明と相違するから,この点において,本件審決には,
一致点の認定の誤り及び相違点の看過があるものと認められる。
(2) これに対し被告は,1)引用文献1には,カテーテル及びイントロデューサ
針アセンブリについて,従来より,流体を患者に注入することができるとと
もに,患者の循環系からの流体の除去を可能にするものであることが述べら\nれていること(【0002】),2)流体の患者への注入及び患者の循環系からの
流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された,「二方弁」として機能\nする「スリットを備えた隔壁」を介してされることが技術常識であること(例
えば,甲3,乙6)からすれば,当業者は,引用文献1記載のカテーテル及
びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,本件構成に相当す\nると当然把握するから,本件審決における一致点の認定に誤りはない旨主張
する。
ア 1)について
引用文献1の【0002】には,「医療では,このようなカテーテル及び
ントロデューサ針アセンブリは,患者の脈管系内に適切にカテーテルを配
置するのに使用される。定位置になると,静脈(すなわち,「IV」)カテ
ーテルなどのカテーテルを使用して,生理食塩水,医療化合物,及び/ま
たは栄養組成(完全非経口栄養,すなわち「TPN」を含む)を含む流体
をこのような治療を必要とする患者に注入することができる。カテーテル
は加えて,循環系からの流体の除去,及び患者の脈管系内の状態の監視を
可能にする。」との記載がある。\n上記記載から,カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリのカテー
テルは,「循環系からの流体の除去,及び患者の脈管系内の状態の監視」を
可能にすることを理解できるが,上記記載は,隔壁の遠位部又はその遠位\n部に設けられたスリットが流体の「流入及び流出を可能とするように開口\n可能」な構\成であることを示唆するものとはいえない。
イ 2)について
乙6(国際公開第2008/052791号)には,バルブ組立体の具
体的構造として,側部のポートに沿って配置され,ポートを閉じる弁であ\nって,ポート内の加圧された流体の作用により開口可能となる第1バルブ\n要素(チューブ要素5),流体が遠位方向又は近位方向のいずれかに流れる
ことを可能にする二方向バルブとして形成されるスロット6aを備えたバ\nルブディスク6(原文4枚目7行〜5枚目3行(訳文5枚目),原文5枚目
17行〜20行(訳文6枚目),図1,2等)の記載がある。
引用文献3(甲3・訳文乙5)には,1)スリットを有する隔壁と隔壁作動
体とを含み,使用中は,隔壁作動体が隔壁のスリットを通って前進し,隔
壁を通る流体経路を形成する血液制御バルブと,カテーテルアセンブリ内
の流体がサイドポートから漏れることを防止できるポートバルブ(【000
2】,【0003】),2)「カテーテルアダプタは,隔壁作動体と隔壁とを含
む血液制御バルブを収容する。隔壁は,管腔の一部を封止する。1つ以上
のスリットが隔壁を貫通して延在することで,隔壁を通る選択的なアクセ
スを提供できる。よって,ポートバルブは,ポートを介してカテーテルア
ダプタの内部管腔に対する一方向の選択的なアクセスを提供し得る。」(【0
005】)との記載がある。
上記記載から,カテーテル組立体において,流体の患者への注入及び患
者の循環系からの流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された「二
方弁」として機能する「スリットを備えた隔壁」を介してされ得る技術が,\n本願優先日当時,一般に知られていたことが認められる。
一方で,上記記載から,カテーテルハブの中空部に配置された「スリッ
トを備えた隔壁」が常に「二方弁」として機能するとまで認めることはで\nきないから,上記技術が一般に知られていたことを踏まえても,前記⑴ウ
の認定を左右するものではなく,当業者は,引用文献1記載のカテーテル
及びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,本件構成に相\n当すると当然把握するものと認めることはできない。
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2020.10.29
令和1(行ケ)10130 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年10月22日 知的財産高等裁判所(3部)
無効審判の審理で訂正し、無効理由無しとされましたが、これについては、審決取消訴訟(前訴)で取り消されました。再開した審理で、訂正がなされ、無効理由無しと判断されました。知財高裁は審決を維持しました。争点は新規性・進歩性、サポート要件です。概要は、先行公報に記載された事項については前訴の拘束力化あり、また阻害要因ありと判断されました。
本件訂正発明1と甲1発明の相違点の認定の誤りについて
ア 甲1の【0016】には,「図1にホットプレスにより作製したターゲッ
トの断面組織写真を示す。これによれば,微細な黒い点(SiO2)が均質
に分布しているのが観察され,・・・以上の結果より,このターゲット組織は
SiO2がCo−Cr−Ta合金中に分散した微細混合相からなっている
ことがわかった。」との記載があるから,甲1の図1の黒い点はSiO2と
認められる。そして,甲1の図1によれば,SiO2の黒い点は粒子状をな
しており,いずれも半径2µmの仮想円よりも小さいと認められる。したが
って,甲1の図1のSiO2粒子はいずれも,SiO2粒子内の任意の点を
中心に形成した半径2µmの全ての仮想円よりも小さいと認められ,形状2
の粒子の存在を確認することはできないから,本件訂正発明1が必ず形状
2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否かが
一見して明らかではないと認められる。
前訴判決は,審決を取り消す前提として,甲1発明の図1の全ての粒子
は形状1であると認定しており(甲30,61頁),この点について拘束力
が生じているものと認められ,この点からしても,本件訂正発明1が必ず
形状2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否
かが一見して明らかではないということができる。
そうすると,本件訂正発明1が形状2の粒子を含むのに対し甲1発明に
おいて形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでないとの本件審
決の相違点(相違点2)の認定に誤りはないものと認められる。
イ(ア) この点につき,原告は,甲3に記載された再現実験は,甲1の実施
例1の再現実験であり,甲3で確認される非磁性材料粒子の組織は,甲
1の実施例1の組織と同じであるとして,甲3の断面組織写真である図
6の画面右下には形状2の粒子が存在するから(甲47),本件訂正発明
1と同じく,甲1発明にも形状2の粒子が存在するということができ,
形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでない点をもって,本件
訂正発明1と甲1発明の相違点ということはできないと主張する。
(イ) 前記2(2)アのとおり,メカニカルアロイングは,高エネルギー型ボ
ールミルを用いて,異種粉末混合物と硬質ボールを密閉容器に挿入し,
機械的エネルギーを与えて,金属,セラミックス,ポリマー中に金属や,
セラミックスなどを超微細分散化,混合化,合金化,アモルファス化さ
せる手法で,セラミックス粒子を金属マトリクス内に微細に分散させる
ことを可能とするものであり,このようなメカニカルアロイングの仕組\nみに照らすと,メカニカルアロイングにおいては,ボールミルのボール
の衝突により異種粉末混合物にどのような力が加えられるかにより,生
成物の組織が異なってくるものと認められる。また,甲52に「一般に
粉末のミリング時には衝撃,剪断,摩擦,圧縮あるいはそれらの混合し
たきわめて多様な力が作用するがメカニカルアロイングにおいて最も重
要なものはミリング媒体の硬質球の衝突における衝撃力とされている。
衝撃圧縮により粉末粒子は鍛造変形を受け加工硬化し,破砕され薄片化
する。・・・薄片化および新生金属面の形成に加え,新生面の冷間圧接およ
びたたみ込みが重なるいわゆる Kneading 効果により,次第に微細に混
じり合い,ついには光学顕微鏡程度では成分の見分けがつかないほどに
なってしまう。」(前記2(1)オ)との記載があることからすると,メカニ
カルアロイングにおいて最も重要なものはミリング媒体の硬質球の衝突
における衝撃力であると認められる。そうすると,ボールミルのボール
の材質や大きさ,ボールミルの回転速度等の条件が異なれば,メカニカ
ルアロイングによって得られる粉末の物性は異なり,そのような粉末か
ら得られるスパッタリングターゲットの研磨面で観察される組織の形態
も異なると認められる。
そうであるとすれば,少なくともボールミルのボールの材質や大きさ,
ボールミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件が明らかにされな
ければ,どのような組織の生成物ができるかが明らかにならないものと
いうべきである。
そこで本件についてみると,甲1には,甲1発明のスパッタリングタ
ーゲットを製造する際の,ボールミルのボールの材質や大きさ,ボール
ミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件についての記載はなく,
甲3のメカニカルアロイングの条件が,甲1発明のスパッタリングター
ゲットを製造する際のメカニカルアロイングの条件と同じであったとい
う根拠はない。そうすると,甲3に記載されたスパッタリングターゲッ
トが形状2の粒子を含んでいたとしても,このことのみから,甲1発明
のスパッタリングターゲットも形状2の粒子を含むということはできな
い。そして,その他に,甲1発明のスパッタリングターゲットが形状2
の粒子を含むことを認めるに足りる証拠はない。
・・・
(2) 本件訂正発明1〜6の進歩性についての判断の誤りについて
ア 本件訂正発明1と甲1発明の相違点2,本件訂正発明2と甲1発明の相
違点2’の容易想到性について検討する。
甲1発明は,ハードディスク用の酸化物分散型 Co 系合金スパッタリン
グターゲット及びその製造方法に関する発明であり(【0001】【産業上
の利用分野】),発明の目的は,保磁力に優れ,媒体ノイズの少ない Co 系合
金磁性膜をスパッタリング法によって形成するために,結晶組織が合金相
とセラミックス相が均質に分散した微細混合相であるスパッタリングタ
ーゲット及びその製造方法を提供することにある(【0009】【発明が解
決しようとする課題】)。そして,発明者らは,Co 系合金磁性膜の結晶粒界
に非磁性相を均質に分散させれば,保磁力の向上とノイズの低減が改善さ
れた Co 系合金磁性膜が得られることから,そのような磁性膜を得るため
には,使用されるスパッタリングターゲットの結晶組織が合金相とセラミ
ックス相が均質に分散した微細混合相であればよいことに着目し,セラミ
ックス相として酸化物が均質に分散した Co 系合金磁性膜を製造する方法
について研究し,甲1記載の発明を発明した(【0010】【課題を解決す
るための手段】)。そして,甲1には,急冷凝固法で作製した Co 系合金粉末
と酸化物とをメカニカルアロイングすると,酸化物が Co 系合金粉末中に
均質に分散した組織を有する複合合金粉末が得られ,この粉末をモールド
に入れてホットプレスすると非常に均質な酸化物分散型 Co 系合金ターゲ
ットが製造できる(【0013】(課題を解決するための手段))と記載され
ており,甲1発明のスパッタリングターゲットは,アトマイズ粉末とSi
O2粉末を混合した後メカニカルアロイングを行い,その後のホットプレ
スにより製造されたものであり,SiO2が Co−Cr−Ta 合金中に分散した
微細混合相からなる組織を有する(【0015】,【0016】(実施例1))。
他方,メカニカルアロイングについては,本件特許の優先日当時,前記
2(2)記載の技術常識が存在したと認められ,当業者は,甲1発明のスパッ
タリングターゲットを製造する際も,原料粉末粒子が圧縮,圧延により扁
平化する段階(第一段階),ニーディングが繰り返され,ラメラ組織が発達
する段階(第二段階),結晶粒が微細化され,酸化物などの分散粒子を含む
場合は,酸化物粒子が取り込まれ,均一微細分散が達成される段階(第三
段階)の三段階で,メカニカルアロイングが進行すること自体は理解して
いたものと解される。
そして,メカニカルアロイングが上記第一ないし第三の段階を踏んで進
行することからすると,メカニカルアロイングが途中の段階,例えば,第
二段階では,ラメラ組織が発達し,形状2の粒子も存在するものと考えら
れ,甲49(実験成績報告書「甲3の混合過程で形状2の非磁性材料粒子
が存在すること(1)」)及び甲50(実験成績報告書「甲3の混合過程で
形状2の非磁性材料粒子が存在すること(2)」)も,メカニカルアロイン
グの途中の段階においては,形状2の粒子が存在することを示している。
しかし,甲1には,形状2のSiO2粒子について,記載も示唆もされて
いない。むしろ,本件特許の優先日当時のメカニカルアロイングについて
の前記技術常識(前記2(2))に照らすと,メカニカルアロイングは,セラ
ミックス粒子等を金属マトリクス内に微細に分散させるための技術であ
り,第二段階は進行の過程にとどまり,均一微細分散が達成される第三段
階に至ってメカニカルアロイングが完了すると認識されていたものと推
認されるところであり,前記2(1)の技術文献の記載に照らして,メカニカ
ルアロイングをその途中の第二段階で止めることが想定されていたとは
認められない。メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階までで終
了することについて,甲1には何ら記載も示唆もされておらず,その他に,
これを示唆するものは認められない。むしろ,甲1には,合金相とセラミ
ックス相が均質に分散した微細混合相である結晶組織を得ることが,課題
を解決するための手段として書かれており,セラミックス相が均質に分散
した微細混合相を得るためには,均一微細分散が達成される第三段階まで
メカニカルアロイングを進めることが必要であるから,甲1は,メカニカ
ルアロイングをその途中の第二段階で止めることを阻害するものと認め
られる。
そうすると,当業者は,メカニカルアロイングについて前記2(2)記載の
技術常識を有していたものではあるが,甲1発明のスパッタリングターゲ
ットを製造する際に,メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階ま
でで終了することにより,SiO2粒子の形状を形状2(形状2’)の粒子
を含むようにすることを動機付けられることはなかったというべきであ
る。
したがって,相違点2及び相違点2’に係る事項は,当業者が容易に想
到し得たものとは認められない。
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2020.09.17
令和1(行ケ)10150 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年9月15日 知的財産高等裁判所
新規性・進歩性違反については、一致点と相違点の認定を誤っているとして取り消しました。その他の記載要件(実施可能要件・サポート要件)については無効理由無しについても判断しています。\n
イ 本件審決は,引用発明1を前記第2の3(2)アのとおり,低純度酸素の生成に
関し,「高純度酸素が側塔から抜き取られる位置よりも15〜25平衡段高い位置で
側塔から液体として抜き出され,液体ポンプを通過することにより高い圧力に圧送
され,主熱交換器を通過することによって気化され」るものと認定した。
原告は,上記認定を争い,引用発明1は,低純度酸素を専ら液体として抜き出す
ものではないと主張し,その根拠として記載Aを指摘する。
ウ 記載Aは,「Either or both of the lower purity oxygen and the higher
purity oxygen may be withdrawn from side column 11 as liquid or vapor for
recovery.」というものである(甲1の1。5欄8行〜10行)。引用例1の他の箇所
(例えば,5欄11行〜22行,23行〜32行,33行〜39行)において,
“recover”の用語が最終的な製品を得ることという意味で用いられていることから
すると,記載A文末の“recovery”も最終製品の回収のことを意味し,他方で文中の
“withdrawn”は,中間的な生成物の抜き出しのことを意味するものと解される(4
欄40行の“withdrawn”,5欄43行の“withdrawal”も同様である。)。そうすると,記載Aは,前記ア gのとおり,低純度酸素及び高純度酸素のいずれか又は両方は,
回収のために,液体又は気化ガスとして側塔11から抜き出されてもよいと訳すの
が相当である。
そうだとすると,記載Aからは,引用発明1が低純度酸素を専ら液体として抜き
出すもので,気体としての抜き出しは排除されている,と理解するのは困難である。
しかも,引用例1の全体をみると,引用発明1が解決しようとする課題は,低純
度酸素及び高純度酸素の両方を高回収率で効果的に精製することができる極低温精
留システムを提供することであり ,課題を解決する手段は,空気成分の
沸点の差,すなわち低沸点の成分は気化ガス相に濃縮する傾向があり,高沸点の成
分は液相に濃縮する傾向があることを利用したものである(同 と認められ,図
1に示されたのは,あくまで,好ましい実施形態にすぎない 。図1の説明
においては,低純度酸素を液体として抜き出し,それにより大量の高純度酸素を得
られるとしても,それは,最も好ましい実施形態を示したものであって,引用例1
に側塔11から低純度酸素を気体として抜き出すことが記載されていないとはいえ
ない。
エ また,証拠(甲2,3の1,4,7の1,8)によれば,本件発明1の出願当
時,空気分離装置又は方法において,高純度酸素と区別して低純度酸素を回収する
ことができ,その際に,精留塔から,低純度酸素を気体として抜き出す方法も液体
として抜き出す方法もあることは,技術常識であったと認められる。上記認定の技
術常識に照らしても,引用例1には,低純度酸素を液体として抜き出すことのみな
らず,気体として抜き出すことが記載されているに等しいというべきである。
オ そうすると,本件審決が,引用発明1を,低純度酸素を専ら液体として抜き
出すものと認定し,これを一致点とせずに相違点1と認定したことは,誤りといわ
ざるを得ない。
本件審決は,その余の相違点及び本件発明2〜4と引用発明1との相違点につい
て判断せず,原告被告ともにこれを主張立証していないから,これらの点に係る新
規性及び進歩性については,再度の審判により審理判断が尽くされるべきである。
・・・
事案に鑑み,取消事由3についても判断する。
(1) 実施可能要件適合性\n
ア 本件各発明に係る「空気分離方法」のための「空気分離装置」は,2種以上の
純度の酸素を取り出すものであり,そのうち1種を低純度のガス酸素で取り出すこ
とによって,低圧精留塔内の主凝縮器に必要な酸素の純度を低減でき,その結果,
空気圧縮機の吐出圧の低減を図り,該圧縮機の消費動力を低減し,「空気分離装置」
の稼動コストを従来よりも小さくすることができるものである。
イ 本件各発明において用いられる装置は,「空気圧縮機」,「吸着器」,「主熱
交換器」,「高圧精留塔」,「低圧精留塔」,「低圧精留塔」内に設けられた「主凝
縮器」,「昇圧圧縮機」,「液酸ポンプ」,「空気凝縮器容器」及び「空気凝縮器容
器」内に設けられた「空気凝縮器」を主として備える「空気分離装置」であり,それ
ぞれの意味するところは,図面をもって具体的に示されている(【0023】,図
1)。
工程についても,1)「低圧精留塔」内で精留分離された液体酸素が,「空気凝縮器
容器」内に供給され,「空気凝縮器容器」内で気化したガス酸素(低純度酸素)が,
供給ライン(ガス酸素供給ライン)により「主熱交換器」に送られて常温に戻された
後,必要に応じて空気が混合されて酸素富化燃焼用酸素として外部(酸素富化炉)
に供給されること(【0027】〜【0029】),2)「空気凝縮器容器」内の液体
酸素は,供給ラインにより「液酸ポンプ」に送られて必要圧に昇圧された後,「主熱
交換器」で蒸発及び昇温されることによりガス酸素(高純度酸素)となり,酸化用酸
素として外部(酸化炉)に供給されること(【0030】),3)「空気凝縮器容器」
内の液体酸素(高純度酸素)の抜き出し量は,例えば10%〜80%の間とするこ
と(【0059】,【表3〜5】),以上のことが,具体的に示されている。\nそして,以上のような「空気分離装置」によれば,必要とされる高純度酸素が全体
の酸素の一部である場合に,必要とされる高純度酸素の純度を確保しつつ,「低圧
精留塔」の「主凝縮器」から取り出す液体酸素の純度を低減し,低減分の酸素の沸点
を下げることが可能となり,また,「低圧精留塔」内で液体酸素とガス窒素との間で\n行われる熱交換の温度差を大きくすることにより,「高圧精留塔」内の必要圧力を
下げることができ,これにより,「空気圧縮機」の吐圧力を低減し,ひいては該圧縮
機の消費動力の低減が可能となるので,「空気分離装置」の稼動コストを従来より\nも抑えることができるとして,効果及びその機序の説明もされている(【0018】,
【0035】,【0036】)。
ウ 本件明細書の発明の詳細な説明には,前記ア,イのことがその具体的な実施
の形態も含めて記載されており,当業者は,これをみれば,過度の試行錯誤を要す
ることなく,本件各発明を実施することができる。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合する。\n
◆判決本文
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2020.09.17
令和1(行ケ)10091 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年9月10日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が維持されました。争点の1つが引用文献の認定です。裁判所は、引用文献から発明を抽出する点について、「発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認定すれば足りる」と判断しました。
ア 原告は,審決が事項1)(ボルトの本数)及び事項2)(三角部材)を構成\nに含めずに引用発明を認定したことは誤りである旨主張するので,検討す
る。
(ア) 引用発明の認定に際しては,ひとまとまりの技術的思想を構成する要\n素のうち,本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない
限度で認定すれば足り,特段の事情がない限り,本件補正発明の発明特
定事項との対応関係を離れて,引用発明を必要以上に限定して認定する
必要はないと解される。
審決の認定した引用発明は,「操作コントロールとバランス感覚を養
う上で支援となる自転車を提供すること」及び「走行練習の期間を短縮
させる自転車を提供すること」という考案の課題(引用文献1の【00
03】)に照らし,「接続部品を車体上の接続部の収納空間内から取り
外し,前記ペダルユニットを車体上から分離させる」こと(同【000
7】)及び「ペダルユニットが枢設されている接続部品を車体上の接続
部の収納空間内に固設する」こと(同【0008】)に対応する構成を\n含めて「走行練習用の自転車」の構成要素を特定したものであるから,\n課題を解決するために必須の構成を,ひとまとまりの技術的思想として\n把握できるように特定したものということができる。
(イ) 事項1)(ボルトの本数)を捨象したことについて
a ボルトの本数について,引用文献1の実施例を示した【図1】【図
2】【0006】では2本とされているものの,【実用新案登録請求
の範囲】においてボルトの本数は特定されていない上に,【考案の詳
細な説明】においても,実施例においてボルトを2本としたことの理
由やその作用効果,自転車の機能との関係等についての記載や示唆は\nみられない。そうすると,引用発明において,ボルトの本数(それが
2本であること)は,発明の本質的要素には当たらないというべきで
あるから,事項1)を欠くことによって,引用文献1に開示された考案
の技術的思想を把握できなくなるものではない。
したがって,引用文献1において,ボルトの本数には特段の技術的
意義はないと解するのが当業者の通常の理解であると考えられるから,
「ひとまとまりの技術的事項」としての引用発明を認定するに当たっ
て,ボルトの本数に関する事項1)を捨象することは妨げられないとい
える。
b なお,本件補正発明は,ボルトの本数を,発明特定事項として何ら
限定するものでないから,引用発明の認定に当たって事項1)を捨象し
ても,本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限
度で認定しているといえ,この点からしても,原告の主張は失当であ
る。
また,原告の主張中には,本件補正発明の意義の中には,組立てを
容易にすることが含まれているとする部分があり,この主張は,本件
補正発明は,組立てを容易にするという観点から,ボルトの本数(1
本)を本質的な要素とするという趣旨であると考えられないでもない。
しかしながら,本件補正発明の請求項の範囲には,ボルトの本数は含
まれていないし,本件明細書を検討しても,ボルトの本数が1本であ
ることが,本件補正発明の本質的要素であることが記載されていると
理解することはできないから,上記のような理解は成り立たない。
(ウ) 事項2)(三角部材)を捨象したことについて
a 引用文献1の【図1】〜【図3】には三角部材らしき図示がなされ
ているものの,考案の詳細な説明では言及がないし,同種の形状を有
する自転車車体において三角部材が必須の部材であるとの技術常識が
あるとも認めがたい。そうすると,引用文献1に接した当業者が三角
部材に特段の技術的意義があると理解することは想定し難いから,ひ
とまとまりの技術的事項としての引用発明を認定するに当たって事項
2)を捨象することは妨げられない。
b 他方,本件補正発明は,三角部材に相当する部材を備えることを発
明の構成要素とするものではなく(本件明細書において発明の一実施\n形態として【0018】で言及され,本願図1ないし3に図示されて
いるにとどまる。),それを除外することを構成要素とするものでも\nない。したがって,引用発明の認定に当たって事項2)を捨象しても,
本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認
定しているといえ,この点からしても原告の主張は失当である。
(エ) 以上によれば,事項1)及び2)を捨象した審決の引用発明の認定は,引
用文献1に開示された考案の有するひとまとまりの技術的思想につき,
本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認定
したものということができる。かかる認定が,引用文献1に記載された
技術内容から必須の一部構成を捨象したとも,不当に抽象化・一般化・\n上位概念化したともいえない。
したがって,引用発明の認定に誤りがあるとの原告の主張は採用する
ことができない。
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2020.09. 1
令和1(行ケ)10155 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年8月26日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が維持されました。ただ、知財高裁は、引用文献に記載の発明について誤りがあるが、結論は妥当としました。
「袋」の辞書的な意味は,「中に物を入れて,口をとじるようにした入れ物。」
とされている(広辞苑第七版)。そして,本件発明においても「袋」の語がそのよ
うなものとして扱われている(本件明細書の段落【0052】,【0055】,【0
058】,【0059】参照)と認められ,「袋」について上記辞書的意味を超え
て,それを限定する記載はない。
他方,甲1の段落【0053】の「・・・複数の区画室28には,少なくとも2
種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,
別々に収容されている・・・」,「・・・壁材39の内壁面同士を剥離可能に熱溶\n着した弱シールからなる隔離部43により下端部が収容室24と隔離され・・・」
との記載,段落【0054】の「・・・収容容器30の隔離部43は,区画室28
の壁材39を押圧することにより,剥離して開放できる・・・」との記載及び【図
6】からすると,甲1発明の区画室28は,内部にビタミン等を収容することが予\n定されたものであり,隔離部43が閉じたり,開いたりして「口」としての役割を
果たすものであると認められるし,【図6】に表れた区画室28の形状からしても\n区画室28は「袋」と呼んで差し支えないものである。
そうすると,甲1発明の区画室28の形態は,本件発明1にいう「袋」に相当す
るものであり,この点を否定した審決の認定は相当ではない。
・・・
本件発明1では,輸液製剤は,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されてお
り,上記外袋内の酸素を取り除いたものであるのに対して,甲1輸液製剤発明では,
そのような特定のない点。
イ 前記(1)イ(エ)bのとおり,当業者は,甲1から,収容室23にシステイ
ン,またはその塩,エステルもしくはN−アシル体を収容し,区画室28に微量金
属元素を収容するという構成を認識することができないところ,本件発明1の「ア\nセチルシステイン」は,システインのN−アシル体であるから,相違点1−1及び
相違点1−2は,実質的な相違点ということができる。
(3) 小括
以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1が甲1輸
液製剤発明と同一ではないとした審決は結論において相当であり,原告が主張する
取消事由1は理由がない。
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2020.04. 2
平成31(行ケ)10019等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年3月25日 知的財産高等裁判所(2部)
サポート要件・実施可能要件、さらに進歩性について無効主張をしましたが、理由無しとした審決が維持されました。
1997年(平成9年)に執筆された甲8の共同執筆者の一人は,クラマー博士
であるところ,甲8は,上記乙39,40を引用し,後述のとおり,甲8の実験で
観察されたグルタミン酸の排出が担体によるものであるとの結論を導いている(甲
8,乙39,40,42)。
イ 上記アに関連し,原告らは,証拠(甲47〜50)からすると,本件優
先日当時,コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて,グルタミン酸が,浸透圧
に応じて浸透圧調節チャネルから排出されることが周知となっていたと主張する。
しかし,甲47には,「特別な条件下で,大腸菌がトレハロースを排出した観察結
果(StyrvoldとStrem 1991)およびコリネバクテリウム・グル
タミカムがグルタミン酸を排出した観察結果(Shiioら 1962)は我々の
研究と関連している。」との記載があるにすぎず,これだけで,原告らが主張するよ
うな技術常識があったと認めるには足りない。
また,甲48,49はいずれも大腸菌に関する文献であって,そこからコリネバ
クテリウム・グルタミカムをはじめとするコリネ型細菌におけるグルタミン酸排出
の技術常識の存在を認めることはできない。
甲50には,その5頁の図に関して,コリネバクテリウム・グルタミカムの低浸
透圧における相溶性溶質の排出が,少なくとも3種類の機械受容チャネル(浸透圧
調節チャネル)を通じて起こる旨の記載がある。しかし,後述する甲8の記載から
すると,浸透圧調節チャネルを通じた排出は全ての溶質について等しく行われるも
のではなく,特定の溶質について選択的に行われるのであると認められるから,上
記排出されるべき「相溶性の溶質」の中にグルタミン酸が含まれるのかは,上記図
だけからでは必ずしも明らかになっているとはいえず,甲50から原告らの主張す
る技術常識の存在を認めることはできない。
以上からすると,原告らの上記主張を認めるに足りる証拠はない。
(2) 甲8発明の認定の誤りについて(取消事由2)
前記(1)の事実関係を踏まえて,甲8において,原告らが主張するように,グルタ
ミン酸が浸透圧調節チャネルから排出されたと認定できるかについて検討する。
・・・
甲8のTable 1.には,上記のとおり,低浸透圧の状態になった際にグルタ
ミン酸が排出されていることが記載されているが,beforeの値を基準にその
排出量を検討すべきとする原告らの主張を前提としても,グルタミン酸は,浸透圧
が540mOsmになるまでほとんど排出されず,540mOsmになって20%
が排出されているにすぎないところ,これは,全部で11種類検討されている溶質
の中でATPに次いで小さな値である。そして,上記のようなTable 1.の
結果を受けて,クラマー博士をはじめとする甲8の執筆者らは,グリシンベタイン
など多くが排出されている溶質については浸透圧調節チャネルから排出されたとし
つつ,グルタミン酸の排出については,浸透圧調節チャネルではなく,担体による
排出であるとの結論を導いている。
Table 1.でグルタミン酸に次いで排出が制限されていることが観察された
リジンについては,前記(1)アで認定したとおり,本件優先日当時までに,その輸
送を担う担体がクラマー博士らによって発見されており,グルタミン酸の排出につ
いてもリジンなどと同様に担体によるものであるとの説がクラマー博士らによって
提唱されていた。そのクラマー博士が,自ら実験をした上でTable 1.の結果
を分析し,甲8の共同執筆者の一人として上記のような結論を導いていることから
すると,甲8に接した当業者が,それと異なる結論を敢えて着想するとは通常は考
え難いところである。
以上からすると,原告らが主張するように,当業者が,Table 1.の結果を
受けて,甲8に記載された浸透圧調節チャネルをグルタミン酸の排出と関連付けて
認識すると認めることはできないというべきである。
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2020.02.25
令和1(行ケ)10093 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年2月20日 知的財産高等裁判所
異議申し立てがなされて、訂正されました。審決は異議理由を認めて特許を取り消しましたが、知財高裁は異議決定を取り消しました。争点は引用文献の認定誤りです。\n
本件発明1と引用発明との対比について
本件決定は,前記第2の3(2)イのとおり,本件発明1と引用発明の一致点
及び相違点を認定するところ,甲1に記載された発明として,引用発明’を
認定するのが相当であることについては,前記(3)のとおりである。
ここで,引用発明’の「経編地」は,一定の伸縮性を有することが明らか
であるから,本件発明1の「伸縮性経編地」に相当し,引用発明’の「非弾
性糸10からなる,ジャカード運動により振りが入れられている組織」は,
本件発明1の「ジャカード編成組織」に相当するものといえる。また,引用
発明’の「弾性糸12からなる組織」は,全ての編目位置においてループを
形成している点で,本件発明1の「弾性糸のみで構成されて全ての編目位置\nにおいてループが形成されている支持組織」と共通する。
したがって,本件発明1と引用発明’の一致点及び相違点は,以下のとお
りであると認められる。
・・・
(5) 相違点の容易想到性の判断について
前記(4)のとおり,本件発明1は,「非弾性糸が全ての編目位置でループを形
成する組織を含まない」のに対し,引用発明’は,「全ての編目位置において
ループを形成している非弾性糸11からなる,ジャカード編からなる経編で
編まれる組織」を含むものである。
この点に関し,本件決定は,甲1の図10に相違点に係る本件発明1の構\n成が開示されている旨の認定を前提にして,かかる構成を引用発明の構\成と
置換することは容易である旨判断した。そこで,この点について検討する。
ア 図10の組織図の意義
(ア) 甲1には,(1)図7〜図9は,「本発明で用いるサテン調トリコット組
織の表側の代表\的な組織図」であり,1繰り返し単位中にジャカード運
動により,図7は3つのコースに3針の振りを,図8は1つのコースに
3針の振りを,図9は1つのコースに1針の振りを入れたものを,それ
ぞれ示すものであること(【0064】,【0066】,【0068】,【00
69】),(2)図10は,「本発明で用いるメッシュ調トリコット組織の表側\nの代表的な組織図の一例」であって,メッシュ調トリコット組織は,サ\nテン調トリコット組織に比べて,空間部分が大きく,単位面積当たりの
糸の密度が小さいことから,図7〜図9よりも緊迫力が弱いこと(【00
70】,【0072】),(3)甲7〜図10のような態様により,表側に現れ\nる地編トリコット組織をコントロールすることによって,比較的緊迫力
の強い部分と比較的緊迫力の弱い部分とを,所定部分にパターン状に設
けることができること(【0073】),(4)弾性糸の編み込み態様と,図7
〜図10のような地編トリコット組織による緊迫力の強弱の態様とを組
み合わせることにより,種々の強さの緊迫力を有する部分を,1つの経
編トリコット生地上に実現できること(【0097】),(5)図28の下着の
表側に現れる地編組織は,図7で説明した様なサテン調トリコット組織\n(133a,133c),図9で説明した様なサテン調トリコット組織(1
33b,133d),図10で示した様なメッシュ調トリコット組織(1
31a)などから構成され,133cの部分が最も緊迫力が強く,13\n1aの部分が最も緊迫力が弱くなること(【0151】,【0152】)が
記載されている。
そして,これらの記載によれば,図7〜図10に示された組織図は,
いずれも,本発明で用いるサテン調又はメッシュ調トリコット組織の表\n側の組織を示したものであることを理解でき,また,これらの図では,
いずれも全てのウェールに糸が供給されていることが示されているので,
2枚1組の「ジャカード筬」を2枚とも用いて編成されたものであるこ
とを理解できる。
以上によれば,甲1の図10には,次の事項(以下「甲1に記載され
た事項’」という。)が記載されていると認められる。
「図7〜図9に示されるサテン調トリコット組織と同様,2枚1組の
ジャカード筬を2枚とも用いて編成される,ループが形成されていない
編目位置が存在するメッシュ調トリコット組織の表側の組織。」\n
(イ) これに対し被告は,甲1の図10は,メッシュ調トリコット組織と
して,地編の表側と裏側の両方の組織を図示したものである旨主張し,\nその根拠として,(1)甲1の図9が表側の組織の調整によって緊迫度を下\nげた限界であること,(2)甲1に記載された様々な実施態様に示される経
編地は,特開平6−166934号に例示される2枚のジャカード筬と
1枚の地筬を具備した経編機で編成されるものであるところ,図10の
組織の編成には,2枚1組のジャカード筬を2枚とも必要とするから,
「ジャカード編からなる地編」として,それ以外の「裏側の組織」を編
成することができないことを挙げる。
まず,上記(1)の点について,図9に示したサテン調トリコット組織に
おいては,1繰り返し単位中,1針の振りしか入っていないコースがX
7の1箇所存在するが(【0069】),当業者であれば,1針の振りしか
入っていないコースを2箇所以上にすることにより,更に緊迫力が低下
することを理解できるから,図9が表側の組織の調整によって緊迫度を\n下げた限界であるとは解されない。
そして,甲1に,「メッシュ調トリコット組織は,図10からも明らか
な様にサテン調トリコット組織に比べて,空間部分が大きく,単位面積
あたりの糸の密度が小さく,従って,上述した図7〜図9のサテン調ト
リコット組織に比べて,緊迫力が弱くなる。」(【0072】)との記載が
あることに照らすと,図10は,地編の表側の組織の緊迫力の強弱を変\nえる方法として,図7〜図9のように,ガイドの振りの大きさ及びガイ
ドの振りが入った割合を調整することとは別の方法として,空間部分の
大きさ及び単位面積当たりの糸の密度を調整することを示したものであ
ると理解できる。
次に,上記(2)の点について,甲1の「ジャカード編からなる地編」と
は,ジャカード筬と地筬とを備えるジャカード制御装置を有する経編機
を用いて編まれるものであるが,ジャカード筬のみを用いて編んだもの
に限定されるものではなく,表側はジャカード筬を用いて編み,裏側は\n地筬を用いて編んだものも含まれることを理解できることについては,
前記(3)ウ(ウ)のとおりである。
そして,甲1には,「本発明で用いる経編生地は,実際にはジャカード
制御装置を有する経編機(例えば特開平6−166934号など参照)
などを用いて,これらの経編機に地編用の非弾性糸と挿入糸用及び/又
は編み込み用の弾性糸とを供給して同時に編まれるのであるが,理解を
容易にするために,地編の部分をまず説明する。」(【0034】)との記
載があるが,上記記載をもって,甲1の各実施形態に示される経編地が
2枚のジャカード筬と1枚の地筬のみを具備した経編機で編成されるも
のであることを記載したものとは解されない。むしろ,上記特開平6−
166934号は,具体的な装置としてRSJ4/1を挙げているとこ
ろ,同装置は,2枚1組でフルゲージを構成するジャカード筬のほかに,\n3枚の地筬を備えるものであるから(甲10),かかる事実に照らしても,
被告の主張するような解釈を採ることはできないというべきである。
以上によれば,被告の上記主張を採用することはできない。
イ 引用発明’と甲1に記載された事項’との組合せについて
前記アのとおり,甲1の図10は,メッシュ調トリコット組織の表側の\n組織のみを示すものであって,表側と裏側の両方の組織を示すものではな\nいと理解できる。
そうすると,仮に,引用発明’に甲1に記載された事項’を適用しても,
引用発明’の「非弾性糸10からなる組織」が,甲1に記載された事項’
の「ループが形成されていない編目位置が存在するメッシュ調トリコット
組織」と置換されるだけであって,引用発明’の「全ての編目位置におい
てループを形成している非弾性糸11からなる組織」は残ることとなるか
ら,相違点’に係る本件発明1の構成(「非弾性糸が全ての編目位置でルー\nプを形成する組織を含まない」構成)に至るものではない。\nそして,そのほかに,甲1には,「全ての編目位置においてループを形成
している非弾性糸11」を含まないようにすることについて,これを示す
記載も,これを示唆する記載も存在しない。
したがって,当業者が,甲1に記載された発明に基づき,相違点’に係
る本件発明1の構成を容易に想到することができたものとは認められない。\n
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2020.02. 5
平成30(行ケ)10175 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年12月4日 知的財産高等裁判所
漏れていましたので、追加します。引用例の認定誤りがあり、相違点の認定に誤りありと判断されました。ただ、相違点の評価については、容易相当として、進歩性無しとした審決は維持されました。
被告らは,引用例1に記載された東レポートという発明の構成の内容を理解する\nために,東レポートの添付文書である引用例2を参照することは許容され,本件審
決が引用例1と引用例2の2つから甲9発明を認定したことに,誤りはないと主張
する。
しかし,「刊行物に記載された発明」(特許法29条1項3号)の認定に当たり,特
定の刊行物の記載事項とこれとは別個独立の刊行物の記載事項を組み合わせて認定
することは,新規性の判断に進歩性の判断を持ち込むことに等しく,新規性と進歩
性とを分けて判断する構造を採用している特許法の趣旨に反し,原則として許され\nないというべきである。
よって,東レポートを用いた耐圧性能に関する実験結果を記載した論文である引\n用例1と,これと作成者も作成年月日も異なる,東レポートの仕様や使用条件を記
載した添付文書である引用例2の記載から,甲9発明を認定することはできない。
そして,引用例1には,東レポートの具体的な構成についての記載はなく,東レポ\nートの具体的な構成が本件出願の優先日時点において技術常識であったとまでは認\nめられないから,甲9発明が,引用例1に実質的に開示されているということもで
きない。
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2020.01.11
平成30(行ケ)10174 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年12月26日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が取り消されました。理由は一致点を相違点と認定した引用発明の認定誤りです。
原告は,本件審決が認定した本件発明2と甲5発明との相違点Aのうち,
甲5には,「頂部に設けられた横線シールは,前面パネルよりも裏面パネルに
近い側に位置し,かつ,裏面パネル側に倒され」る構成が開示されており,こ\nの構成に係る部分は相違点ではなく,一致点であるから,本件審決の上記認\n定は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 前記(1)の甲5の記載事項によれば,甲5には,「前面,裏面,側面,上
面及び底面を有し,上面が前面に向けて傾けられており,縦シール部分は
前面に設けられ,横シール部分が上面に設けられて裏面側に倒され,厚紙
の成形による折り込み片が上面上に折り畳まれている,厚紙の折り畳み式
包装容器」(甲5発明)が記載されていることが認められる。
また,甲5の「図1〜図4に示された包装容器1は,それ自体公知のよう
に底と側壁と上壁領域とを有する被覆2からなる。包装容器は,上面が傾
けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器の形態で示されている。この
包装容器は,上面の領域に開口領域3を有している。」(5頁4行〜8行,
訳文5頁10行〜13行)との記載から,甲5の図1及び図4記載の包装
容器1は,「上面が傾けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器」である
ことを理解できる。
そして,甲5の図1及び図4(別紙甲5図面参照)から,図4において左
右の三角形の折り込み片の頂点の上側に描かれている2個の小さな三角形
(別紙3−1の図4の拡大図参照)は,「横シール部分」を示したものと
認められる。
もっとも,甲5の図4には,2個の小さな三角形の間には「横シール部
分」は図示されていないが,一方で,(1)図4記載の包装容器1は,「上面が
傾けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器」であること,(2)本件優先
日当時(本件優先日平成12年7月31日),紙製包装容器において,横線
シールを横方向に横断的に設け,横線シールをする際に対向するシール領
域同士が同じ長さとなるような構造とすることは,技術常識であったこと\n(前記(2)イ),(3)甲5の記載によれば,甲5の包装容器は,「蓋要素によ
り再閉鎖可能な開口を備え,該開口は,最初の充填後に初めて開放する前\nには,前記開口を取り囲む前記被覆材料と少なくとも接続された実質的に
平たい封印要素によって閉鎖されている包装容器」に関する考案(実用新
案登録請求の範囲の請求項1ないし14)であり,「横シール部分」は,請
求項1ないし14の考案特定事項とされていないから,図4において「横
シール部分」の図示が省略されたとしても不自然ではないことに照らすな
らば,甲5の図4の2個の小さな三角形の間の下側には,横方向に横断的
に設けられた「横シール部分」が存在するが,その描写が省略されていると
理解できる。
加えて,甲5発明のように片流れ屋根形状(「前面」の高さが「裏面」の
高さよりも低い形状のもの)であって,「横シール部分」が横方向に横断的
に形成されている場合には,横線シールをする際に形成される折り込み片
(フラップ)において対向するシールが同じ長さとなるので(例えば,別紙
3−2の展開図中の「横線シール位置」との記載の直下の青色の点の両側
のシール部分(「30」及び「30」の記載に対応する部分)参照),設計
上,必ず「横シール部分」は後方寄り(「裏面」に近い位置)に位置するこ
とになるものと認められることに照らすと,甲5には,甲5発明において
相違点Aに係る本件発明2の構成のうち,「頂部に設けられた横線シール\nは,前面パネルよりも裏面パネルに近い側に位置し,かつ,裏面パネル側に
倒され」る構成を備えていることが開示されているものと認められる。\nしたがって,相違点Aのうち,上記構成は,相違点ではなく,一致点であ\nるから,本件審決の相違点Aの認定には誤りがある。
イ これに対し被告は,別紙4のとおり,「横線シール」が前方寄りに位置す
る「片流れ屋根形状」の容器の例が多数存在することからすると,「片流れ
屋根形状」であれば,設計上,必ず横線シールが後方寄りに位置することに
なるものとはいえないから,甲5において,甲5発明の「横シール部分」が
「前面」よりも「裏面」に近い側に位置していることの開示があるものとは
いえない旨主張する。
そこで検討するに,前記ア認定のとおり,甲5の図4記載の包装容器1
は「上面が傾けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器」であることに
照らすと,甲5発明の上面(「頂部」)の形状は,本件優先日当時の折り畳
み式包装容器の一般的な形状のものと理解するのが自然である。
しかるところ,別紙4の説明資料1の展開図により紙製包装容器を製造
するには,折り目線に沿って折り畳むに際して,水色の部分を内側に折り
込む工程がさらに必要となるものであり,甲5の記載を全体としてみても,
甲5記載の包装容器1において,このような展開図をあえて選択する必要
性は認められない。また,本件優先日当時,説明資料1に係る紙製包装容器
の形態が公知であったものと認めるに足りる証拠はない。
同様に,説明資料2の展開図により紙製包装容器を製造するには,折り
目線に沿って折り畳むに際して,折目線に沿って折り畳むに際して,紫色
の部分を外側に折り込む工程がさらに必要となるものであって,甲5の記
載を全体としてみても,甲5記載の包装容器1において,このような展開
図をあえて選択する必要性は認められない。また,本件優先日当時,説明資
料2に係る紙製包装容器の形態が公知であったものと認めるに足りる証拠
はない。
次に,説明資料3ないし5の展開図は,通常の長方形の形状の展開図と
比べ,複雑な形状の展開図である上,説明資料3ないし5の展開図により
紙製包装容器を製造するには,側面パネル上の三角形で示される折り込み
片を液体充填物が漏れないように接着するための工程がさらに必要となる
ものであり,甲5の記載を全体としてみても,甲5記載の包装容器1にお
いて,このような展開図をあえて選択する必要性は認められない。また,本
件優先日当時,説明資料3ないし5に係る紙製包装容器の形態が公知であ
ったものと認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
(4) 相違点Aの容易想到性の判断の誤りについて
本件審決は,相違点Aについて,(1)甲5発明の上面の横シール部分は,裏面
側に倒されているものの,前面よりも裏面側に位置するものではないし,甲
5の記載においても,展開図等で上面の横シール部分が裏面側に近い側に位
置することを示唆する記載はなく,しかも,「折り込み片」を上面に折り畳む
ものであり,容器の裏面側の2隅を補強することについての記載もない,(2)
本件発明2は,片流れ屋根形状の頂部から「頂部成形による折り込み片が側
面パネル上に斜めに折り込まれ」るだけではなく,「頂部に設けられた横線シ
ールは,前面パネルよりも裏面パネルに近い側に位置し,かつ,裏面パネル側
に倒され」という構成を合わせて備えることにより,裏面パネル側に倒され\nた「横線シール」を,容器頂部の背面側の2隅若しくはその近傍に対して近接
させて補強するものであり,単に,甲5発明において横線シールを側面側に
折り込むことのみで,本件発明2の構成に到達できるというものではないな\nどとして,本件発明2の相違点Aに係る構成は,当業者が容易に想到するこ\nとができたものではない旨判断した。
しかしながら,前記(3)認定のとおり,甲5には,甲5発明において,相違
点Aのうち,「頂部に設けられた横線シールは,前面パネルよりも裏面パネル
に近い側に位置し,かつ,裏面パネル側に倒され」る構成を備えていることが\n開示されているものと認められるから,上記構成に係る部分は,相違点では\nなく,一致点であるから,本件審決の上記判断には,その前提において誤りが
ある。
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2020.01. 8
平成30(行ケ)10161 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年10月2日 知的財産高等裁判所
新規性無し(29条1項3号)とした審決が維持されました。3号で審取までいくのは珍しいですね。
原告は,引用例から,「待機状態」から「操作可能状態」に遷移することは観念で\nきず,遷移を実行するための構成の開示もないから,本願発明に係る「遷移手段」を\n認定することはできないと主張する。
そこで判断するに,本願明細書の【0045】の記載によれば,本願発明の「待機
状態」とは,「例えば電源ケーブルを介して通電されているが,操作ができる状態と
はなっていない場合」,又は,「利用者によりベッド動作の制限が行われている状態」
であると解される。
そして,引用発明の「キー6aが解放されず押し続けられている場合は,解放さ
れるまで待機し,リモコン6のキー6aが解放され,さらに任意のキー6aを押し
たときに,アクチュエータ4を起動する(STEP3)」構成によれば,電源を投入\nした後,STEP2で「キー6aが解放され」るまでの間は,本願発明の「待機状
態」に相当するということができる。
引用発明は,「キー6aが解放され」た後に,任意のキー6aを押せばアクチュエ
ータ4を起動できる状態,すなわち,ベッドの操作が可能な状態になるから,キー\n6aの解放の前後で,「待機状態」から「操作可能状態」に遷移するということがで\nきる。また,本願発明の「遷移手段」は,「待機状態」から「操作可能状態」に遷移\nすることを手段として記載したものということができる。
したがって,引用発明が,キー6aの解放の前後で,「待機状態」から「操作可能\n状態」に遷移しているということができ,引用発明のリモコン6は,「遷移手段」に
相当する構成も当然に備えている。\n以上によれば,引用例には,本願発明における「待機状態から,操作可能状態に遷\n移させる遷移手段」の開示があることになるので,引用例から本願発明の「遷移手
段」を認定することができる。これと異なる旨をいう原告の主張は理由がない。
オ 構成要件B(待機状態)について\n
(ア) 引用発明の「リモコン6」が,「電源を投入した後」,STEP1及び2を経
て,「リモコン6のキー6aが解放され」るまでの間は,「アクチュエータ4を起動
する」ことができない状態であることは,本願発明の「ベッド操作装置は,通電され
ると待機状態とな」ることに相当する。
(イ) 本願発明との対比判断の誤りをいう原告の主張について
原告は,引用例には本願発明の「待機状態」の開示がないと主張する。
しかしながら,本願発明の「待機状態」とは,前記エ(ウ)で説示したとおり,「例
えば電源ケーブルを介して通電されているが,操作ができる状態とはなっていない
場合」,又は,「利用者によりベッド動作の制限が行われている状態」であると解さ
れる。これまでに説示したとおり,本件審決の引用発明の認定には誤りがないと認
められるところ,引用発明の「キー6aが解放されず押し続けられている場合は,
解放されるまで待機し,リモコン6のキー6aが解放され,さらに任意のキー6a
を押したときに,アクチュエータ4を起動する(STEP3)」構成によれば,電源\nを投入した後,STEP2で「キー6aが解放され」,その後「さらに任意のキー6
aを押」すまでの間は,アクチュエータ4の動作を行うことができない。このよう
に,電源を投入した後,STEP2で「キー6aが解放され」るまでの間は,アクチ
ュエータ4の操作ができる状態にないのであるから,この間,リモコン6は「待機
状態」にあるということができる。
したがって,引用例には,本願発明における「待機状態」の開示があるものと認め
られ,これと異なる旨をいう原告の主張は理由がない。
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2019.10. 3
平成30(行ケ)10161 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年10月2日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定を争いましたが、記載ありとした審決が維持されました。化学分野でもない発明で新規性違反が争点となるので、珍しいです。
原告は,引用発明の「押されたか確認」する構成が本願発明の「選択状態検出手\n段」に該当しないと主張する。
そこで検討するに,引用発明の従来の技術(【0002】以下)に係る引用例の記
載は,前記(1)イのとおりであり,このうち【0003】においては,同別紙の図2に
基づき,引用発明のリモコン6が,ベッド本体2の上半身部の昇降動作させるアク
チュエータ4にケーブル5によって接続され,アクチュエータ4の動作を操作,制
御するものであることが記載されている。このように,引用例には,リモコン6が
アクチュエータ4の動作を操作,制御するものであり,アクチュエータ4がリモコ
ン6によって操作,制御されるものであることが記載されている。
また,同別紙の図2は,引用例の実施例の説明においても参照されている(【00
10】【0011】)ところ,そこでいう,リモコン6の任意のキー6aが押されたか
の確認とは,アクチュエータ4の動作の操作,制御の内容を構成するものであるか\nら,上記確認動作を行うものはリモコン6であり,そうすると,リモコン6は「押さ
れたか確認」(STEP1)するための構成を有しているものということができる。\nそして,本願発明のベッド操作装置における「選択状態検出手段」とは,操作入力
手段が選択されている状態を検出するための構成であることからすれば,本願発明\nの「選択状態検出手段」と引用発明の「押されたか確認」(STEP1)する手段と
が異なることはない。よって,原告の主張は理由がないというべきである。
ウ 構成要件E(選択解除検出手段)について\n
(ア) 引用発明の「STEP2」の「リモコン6のキー6aが押された時は,その
後,リモコン6のキー6aが解放されたか確認」することは,本願発明の「前記選択
状態検出手段により選択された状態が解除されたことを検出する」ことに相当し,
引用発明の当該「解放されたか確認」する構成は,本願発明の「選択解除検出手段」\n(構成要件E)に相当する。\n(イ) 本願発明と引用発明との対比判断の誤りをいう原告の主張について
原告は,引用発明の当該「解放されたか確認」する構成は本願発明の「選択解除検\n出手段」に該当しないと主張する。
しかしながら,リモコン6は,前記イ(ウ)で述べたのと同様の理由により,「解放
されたか確認」する構成を有しているということができる。\nしたがって,本願発明の「選択解除検出手段」と引用発明の「解放されたか確認」
(STEP2)する手段とが異なることはなく,原告の主張は理由がない。
エ 構成要件F(遷移手段)について\n
(ア) 引用発明の「キー6aが解放されず押し続けられている場合は,解放され
るまで待機し,リモコン6のキー6aが解放され,さらに任意のキー6aを押した
ときに,アクチュエータ4を起動する(STEP3)」構成においては,電源を投入\nした後,STEP2で「キー6aが解放され」るまでの間は,本願発明の「待機状
態」に相当する。
そして,引用発明は,「キー6aが解放され」た後に,任意のキー6aを押せばア
クチュエータ4を起動できる状態,すなわち,ベッドの操作が可能な状態になるか\nら,キー6aの解放の前後で,「待機状態」から「操作可能状態」に遷移するものと\nいうことができる。
その上で,本願発明の「遷移手段」が,「待機状態」から「操作可能状態」に遷移\nすることを手段として記載したものといえることを踏まえると,引用発明は,キー
6aの解放の前後で,「待機状態」から「操作可能状態」に遷移しているといえるか\nら,引用発明の「リモコン6」は,「遷移手段」に相当する構成も当然に備えている\nということができる。
以上によれば,引用発明の「リモコン6」は,「リモコン6のキー6aが解放され」
たときに,「リモコン6」を待機状態から操作可能状態に遷移させているといえると\nころ,引用発明の「リモコン6のキー6aが解放され」たときは,本願発明の「前記
選択解除検出手段により選択された状態が解除されたことを検出したとき」に相当
し,引用発明の「リモコン6のキー6aが解放され」たときに「リモコン6」を待機
状態から操作可能状態に遷移させる構\成は,本願発明の「前記選択解除検出手段に
より選択された状態が解除されたことを検出したときに,前記ベッド操作装置を前
記待機状態から,操作可能状態に遷移させる遷移手段」(構\成要件F)に相当する。
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2019.09.22
平成30(行ケ)10151 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年9月18日 知的財産高等裁判所
引用発明は,引用文献1に接した当業者が特段の「深読み」を要せずして把握し得る構成を備えたものであるから,引用発明の認定に誤りなしとして、進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。
原告は,審決で認定した引用発明は,必須の構成要件である1)ないし4)
の各事項(上記第3の1(1)に記載)を欠いており,誤りである旨主張する。
確かに,原告が主張するように,引用文献1の【0128】ないし【0
142】で開示される実施例(以下「引用実施例」という。)においては,
マットレス装置を構成する複数の部材の堅さの選択及び組合せとして多種\n多様な選択肢があり得るところ,審決は,そのうちの一つを取り出した構\n成を引用発明として認定している。また,この一つの例についても,頭部
と足部を入れ替え,又は表と裏とを入れ替えることによって,当該構\成の
マットレス装置は更に4通りの堅さ分布による使用が可能であるところ,\n審決は,このことに言及していない。そして,原告の上記主張は,審決に
よるこのような引用発明の認定の手法について,引用発明の課題(目的)
を無視し,本願発明1との相違点を予め減らすべく事後分析的な認定をし\nたものであって誤っている旨主張するのである。
イ よって検討するに,引用文献1の記載によれば,引用実施例に係るマッ
トレス装置452が上記のように多種多様な部材の選択及び組合せや4通
りの使用方法を開示しているのは,引用実施例が「小売用テスト装置とし
て」利用され【0142】,「小売業者は店舗内のテスト用マットレスの
台数を減ずることで床面積を節約し得ると共に,ユーザは小売業者から購
入しようとするマットレスの感触を適合調整し得る」【0128】ように,
店舗内のテスト用マットレスに特化した課題(目的)又は作用効果に関す
る事項を強調するためであると解される。しかし,引用文献1には,「マ
ットレス装置452は家庭または他の療養施設での個人使用の為にユーザ
により購入されることもある」【0142】と記載されており,このよう
に個人が使用する場合には,適切な感触を得られる硬さの部材の組合せが
既に決定されているのであるから,多種多様な部材の選択及び組合せ並び
に4通りの使用方法があることは想定されない。
したがって,小売用テスト装置(店舗内のテスト用マットレス)に用途
を限定しない引用実施例のマットレス装置452において,多種多様な部
材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法があることは,一体不可分の
必須の技術思想に当たらず,その中から一つの組合せ及び使用方法を抽出
した例を引用発明とすることに支障はない。引用発明は,引用例に記載さ
れたひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握可能\であれば足りる
ところ,審決で認定された引用発明は,この要件を充たしているといえる。
ウ もっとも,審決が,引用文献1に開示された多種多様な部材の選択及び
組合せ並びに4通りの使用方法の中から,引用文献1に具体的には全く例
示されていない例を抽出したのであれば,原告のいうように,本願発明1
の相違点を予め減らすべく事後分析的な認定をしたといえることもあろう。\nしかしながら,審決が認定した引用発明は,部材の選択及び組合せ(認
定に係る構成のK,O及びQ)については,引用文献1に「所望であれば」\n「好適には」として具体的に例示された構成を採用している。また,使用\n方法については,引用文献1の【図24】に具体的に示された例をそのま
ま用いており,頭部と足部とを入れ替えることも,表と裏とを入れ替える\nこともしていない。このように,引用発明は,引用文献1に接した当業者
が特段の「深読み」を要せずして把握し得る構成を備えたものであるから,\n審決に,事後分析的な認定をしたという誤りもない。また,引用文献1の
例示に基づいて具体的に認定した引用発明に,例示であることを示す「所
望であれば」「好適には」という文言を加えなければならない理由もない。
エ なお,部材の選択及び組合せについて審決が認定した構成(K,O及び\nQ)をとるとき,頭部端ブロック490と足部端ブロック492の堅さは
等しいから,頭部側と足部側とを入れ替えたとしてもベッド使用者の身体
の各部位に相当するコア458の各部位の堅さは変わらない。また,引用
文献1において,トッパ発泡体の上側と下側及びキルティングパネルの頂
部と底部につき,厚さ又は堅さを違えることに関する言及は何らみられな
いから,マットレス装置452を裏返すことに技術的意義があるとは考え
難い。これらの点からしても,4通りの使用方法があることを引用発明1
の認定において考慮しなかったことに誤りがあるとはいえない。
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2019.08.26
平成30(行ケ)10094 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成31年4月25日 知的財産高等裁判所
引用文献の発明認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決が取り消されました。
前記2(1)で認定した引用文献3の記載によると,引用文献3には以下の
発明(引用発明)が開示されているものと認められる。
「医療用ガイドワイヤを摺動可能に受け入れるガイドワイヤ内腔を備える遠位ス\nリーブと,遠位スリーブに結合され,患者の生理的パラメータを測定して生理的パラメータを表す信号を生成するように適合されたセンサと,
遠位スリーブに結合され,患者の外部の位置へのセンサからの信号を通信するた
めの通信チャネルを成し,患者の解剖学的構造内のセンサの位置決めを容易にする\nために適用される近位部分と,
近位部分を移動させるための手段と,
を備え,
センサは,遠位スリーブを,医療用ガイドワイヤ上を所望の位置に摺動させるこ
とによって,患者内に配置することができ,
センサは,遠位血圧Pdを測定する狭窄病変部の下流の位置に配置することがで
き,次いでセンサは,近位血圧Ppを測定する狭窄病変部の上流の位置に配置する
ことができ,
処理装置が,センサからの生理的パラメータ信号を処理し,
FFRは,単に遠位血圧の近位血圧に対する比,すなわちFFR=(Pd/Pp)
とされ,
FFRをPdの平均値とPpの平均値に基づいて求め,
FFRにより血管中の狭窄病変部の重症度の評価が行われるシステム。」
(2) したがって,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとな
る。
ア 一致点
「流体で満たされた管内の狭窄部を評価するシステムであって,
前記管に沿った様々な位置で圧力測定を行う第1の測定センサを有する消息子と,
前記管を通して前記消息子を牽引する機構と,\n前記圧力測定から,前記管に沿った様々な位置で行われた圧力測定の比を計算す
るプロセッサと
を含む,システム。」
イ 相違点
(ア) 相違点1
血管内の二つの位置の血圧の比の計算において,本願発明は,一つの測定センサ
によって,瞬間的に各位置の血圧の測定を行い,同測定によって得られた各血圧の
比を計算するのに対して,引用発明は,一つ又は複数の測定センサによって,継続
して遠位血圧Pdと近位血圧Ppの測定を行い,各血圧の平均値を測定し,同測定
によって得られたPdの平均値のPpの平均値に対する比を計算する点。
(イ) 相違点2
血管内の二つの位置の血圧の比の計算において,本願発明は,薬剤を投与して血
流を最大に増加させた状態ではない通常の状態で,各位置の血圧を測定するのに対
して,引用発明は,薬剤を投与して血流を最大に増加させた状態で,各位置の血圧
を測定する点。
(ウ) 相違点3
本願発明は,第1の測定センサにより各即時圧力測定が行われる位置に対する位
置データを供給する位置測定器を有するのに対して,引用発明は,その点が不明で
ある点。
(エ) 相違点4
管を通して前記消息子を牽引する機構に関して,本願発明は,前記機構\は電動機
構であるのに対して,引用発明は,その点が不明である点。\n
(3) 相違点1の容易想到性について検討する。
ア 前記(2)イ(ア)のとおり,引用発明は,Pdの平均値とPpの平均値の比を
計算するものであるところ,本願発明は,各位置における瞬間の血圧を測定し,そ
の比を計算するものである。しかるところ,当業者において,引用文献3に記載さ
れた事項から,引用発明の構成について,血管の各位置の瞬間の血圧を測定し,そ\nの比を計算するという構成を具備するものとすることを容易に想到できるというべ\nき事情は認められない。
イ 被告は,引用文献3の段落【0073】の「システム1200は,時間
平均やその他の信号処理を用いてFFR計算の数学的な変形(例えば,平均,最大,
最小,等)を生成できる。」,段落【0096】の「FFR=Pp/Pdであり,P
pとPdは平均値,又は他の統計学的表現又は数値表\現であってよい」との記載か
らすると,引用文献3には,引用発明に加えて,Pd及びPpの瞬間的な圧力(収
縮期血圧及び拡張期血圧)を求めることが記載されており,FFR計算のPpとP
dがPpとPdの最大値(収縮期血圧)又は最小値(拡張期血圧)でもよいことが
示唆されているといえるから,Pdの平均値とPpの平均値に代えて,即時圧力測
定されたPd及びPpの内の最大値(収縮期血圧)又は最小値(拡張期血圧)を採
用することは,引用文献3の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たと主張する。
しかし,被告が指摘する引用文献3の上記各段落のPd及びPpの最大値又は最
小値を測定するには,血圧が最大又は最小となるタイミングを特定するために,1
心周期以上継続して血圧を測定し続ける必要があるから,この場合の血圧測定は,
1心周期以上継続した測定であり,瞬間的な測定ということはできない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
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2019.08.26
平成30(行ケ)10091 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年8月22日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした不服審決が維持されました。争点は、本願発明の「三次元リア
ルタイムMR画像下での手術システム」とは何か?です。
本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には,本願発明の「三次元リア
ルタイムMR画像下での手術システム」にいう「三次元リアルタイムMR
画像」の意義を規定した記載はないが,その文言上,「三次元」の「リア
ルタイムMR画像」であることを理解できる。そして,本願発明の特許請
求の範囲(請求項1)の記載から,「リアルタイムMR画像」は,「MR
I装置からのMR画像を連続的に伝送することにより」生成される画像で
あること,「三次元リアルタイムMR画像下での手術システム」は,術者
がリアルタイムに生体の内部状況とマイクロ波デバイスの位置を画像(「三
次元リアルタイムMR画像」)によって確認し,処置する生体物及びマイ
クロ波デバイスの位置を確認しながら手術できる手術システムであること
を理解できる。
次に,本願明細書には,「三次元リアルタイムMR画像」の用語を定義
した記載はないが,【0015】には,「例えば特許文献「特開2008−
167793」が開示する画像ソフトでは,縦型オープンMRI装置の術\n前3Dデータをリアルタイム画像と組み合わせ,デバイス位置のリアルタ
イム情報として,三次元画像とともにモニターにして手術支援に用いる画
像ナビゲーションを可能とする。この場合の3次元とは生体や臓器表\面の
立体化だけでなく,内部構造を透視状態でみられる(深部情報)立体化で\nある。これにより,MR画像を身体のどの位置においても立体的にリアル
タイムモニター画像として使うことができる。…」との記載がある。本願
明細書の上記記載によれば,本願明細書では,「三次元画像」にいう「三
次元」とは,生体や臓器表面の立体化だけでなく,「内部構\造を透視状態
でみられる(深部情報)立体化」を意味する語として用いていることを理
解できる。また,本願明細書の【0021】には,「実施例2」に関し,
「加えて,3DリアルタイムMR画像にて…手術機器の位置確認が可能で\nあり,さらに軟性導体内視鏡下に直接術野が見え,デバイスの先端部分の
生体内位置と共に隣接内部構造もMR画像として同時に確認できる。」,\n「加えて,実施例1で示したように,本発明のシステムでは,臓器の内部
構造も切る前に確認できる。」との記載がある。\n
イ 以上の本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本願明細書の
開示事項を総合すると,本願発明の「三次元リアルタイムMR画像下での
手術システム」は,手術機器の位置,生体や臓器の表面のみならず,臓器\nの内部構造を透視状態でみられる立体的なリアルタイムMR画像によって,\n術者がリアルタイムに生体の内部状況とマイクロ波デバイスの位置を画像
(「三次元リアルタイムMR画像」)によって確認し,処置する生体物及
びマイクロ波デバイスの位置を確認しながら手術できる手術システムを意
味するものと解するのが相当である。
(2) 引用発明の手術支援装置について,
引用文献5の記載事項(【0023】,【0028】,【0033】)に
よれば,引用発明の「術具815を含む Volume Rendering 画像814」は,
「患者60をMRI装置10の撮像空間に配置し」,「術具位置を含む断面
の撮像を行」うことで得られたMR画像であって,「手術時には,三次元位
置検出装置を用いて術具位置を追随することにより,時系列的に変化」(【0
033】)するから,リアルタイム画像である。
次に,乙1(笠井俊文ほか「診療画像機器学」平成18年12月5日第1
版第1刷発行)には,1)「(b)ボリュームレンダリング法(VR)…体内
の三次元表示である,三次元表\示の主役であり,SR処理も行える。」(2
03頁),2)「「3) 三次元表示(3D表\示)」 三次元表示(画像)とい\nってもホログラフィなどとは異なり,あくまでも二次元であるモニタやフィ
ルム上で立体的に見えるよう表示するものである。厳密には疑似三次元表\示,
2.5次元表示とでもいうべきものである。三次元表\示作成手順は一般に「モ
デリング…」と「レンダリング…」という作業が必要である。モデリング→
三次元の立体形状のデータを作成,編集する作業,レンダリング→三次元立
体形状データをもとに立体的に見える二次元画像を作成する作業。」(20
5頁),3)「(b)ボリュームレンダリング法(VR) VR法 volume rendering
は物体の表面形状ばかりか内部形状をも三次元的に表\示する方法である。…
さらに,不透明度や色・色彩の情報もボクセルに与えられるためデータが膨
大となる。高性能のコンピュータが必要となるが内部形状を透かして表\現す
ることができ,しかもボリュームレンダリング法で作成した表面像はSR法\nよりも緻密で優れている処理法である。」,「処理手順 ア) モデリング(ボ
リュームデータを作成する) イ) 不透明度の設定:ボリュームレンダリン
グ法では不透明度(オパシティ opacity)が導入される。ボリュームデータ
を構成するボクセルすべてに対し不透明度が設定される。不透明度とはボク\nセルに背後から光を当てたときに光を通す程度を表すもので,0〜1までの\n数値で示される。… ウ) レンダリング(投影変換):観察する視点を決め,
視点から見た形状の位置や前後関係を計算する。そして投影経路上に存在す
るボクセル全てについて不透明度や色彩が計算される。この操作をα−ブレ
ンディングと呼ぶ。投影方向として平行投影法と遠近投影法がある。エ) 画
像表示処理:処理が完了すれば,拡大表\示や視点を変えて表示することも可\n能である(図6.109)」(207頁〜208頁)との記載がある。上記\n記載によれば,「Volume Rendering 画像」は,「物体の表面形状ばかりか内\n部形状をも三次元的に表示」し,「内部形状を透かして表\現することができ」
るボリュームレンダリング法で作成した画像であるから,生体や臓器の表面\nのみならず,「臓器の内部構造を透視状態でみられる」三次元画像であるも\nのと認められる。
以上によれば,引用発明の「術具815を含む Volume Rendering 画像81
4」は,本願発明の「三次元リアルタイムMR画像」に相当するものと認め
られる。
したがって,引用発明の手術支援装置は,術具の位置,生体や臓器の表面\nのみならず,臓器の内部構造を透視状態でみられる三次元リアルタイムMR\n画像である「術具815を含む Volume Rendering 画像814」によって,術
者がリアルタイムに生体の内部状況と術具の位置を確認し,処置する生体物
及び術具の位置を確認しながら手術できる手術システムであるものと認めら
れる。
そして,本願発明のマイクロ波デバイスも術具の一種であることに照らす
と,術具の位置,生体や臓器の表面のみならず,臓器の内部構\造を透視状態
でみられる立体的なリアルタイムMR画像によって,術者がリアルタイムに
生体の内部状況と術具の位置を確認し,処置する生体物及び術具の位置を確
認しながら手術できる手術システムである点において,本願発明と引用発明
は,実質的に一致するものと認められるから,両発明が「三次元リアルタイ
ムMR画像下での手術システム」である点で一致するとした本件審決の認定
に誤りはない。
(3) 原告の主張について
原告は,1)本願発明の「三次元リアルタイムMR画像下での手術システム」
とは,術者(医師等)が,処置する生体物の位置及びマイクロ波デバイス
の位置を,予め取得した生体内画像と比較しながら,生体の内部構\造を透
視状態でみられる立体画像でリアルタイムに確認しながら手術できる手術
システムをいうものである,2)引用発明の「術具」は,引用発明の課題を
解決するための手段である「警告手段」を達成するために,術具の処理によ
り目的物の位置や形状を大きく変化させない,マイクロ波デバイスではなく
かつ先端の形状が単純な穿刺針・カテーテルであることを要すること,引用
発明の「術具815を含む Volume Rendering 画像814」は,術前画像を含
まない,術中の3軸2次元画像を単に結合した Volume Rendering 画像であっ
て,生体の内部構造を透視状態で見られる立体画像ではないことからすると,\n引用発明の手術支援装置は,術具の種類,警告手段の有無,術前画像の有
無及び立体画像の種類が本願発明と異なるから,本願発明の「三次元リア
ルタイムMR画像下での手術システム」であるとはいえない旨主張する。
しかしながら,上記1)の点については,本願発明の特許請求の範囲(請求
項1)の記載には,「術者がリアルタイムに生体の内部状況とマイクロ波デ
バイスの位置を画像によって確認し,処置する生体物及びマイクロ波デバイ
スの位置を確認しながら手術できる手術システム」との記載はあるが,処置
する生体物の位置及びマイクロ波デバイスの位置を「予め取得した生体内\n画像と比較しながら」との記載はない。また,本件明細書の実施例1に
は,「好ましくは,術者は,「前もって撮像した画像をもとに,メインワー
クステーションに術中の画像を再構成して得られた三次元リアルタイム画\n像」を確認しながら,内視鏡・手術デバイスの操作・制御を実視できる。」
(【0020】)との記載があるところ,この記載から,「三次元リアルタ
イム画像」は,「前もって撮像した画像をもとに」再構成して得られたこと\nを理解することができるが,術者が生体の内部状況とマイクロ波デバイスの
位置を「前もって撮像した画像」自体と比較しながら,手術を行うことを示
したものとはいえない。
したがって,上記1)の点は,本願発明の特許請求の範囲の記載に基づか
ないものであって採用することはできない。
次に,上記2)の点については,前記(2)認定のとおり,術具の位置,生
体や臓器の表面のみならず,臓器の内部構\造を透視状態でみられる立体的な
リアルタイムMR画像によって,術者がリアルタイムに生体の内部状況と術
具の位置を確認し,処置する生体物及び術具の位置を確認しながら手術でき
る手術システムであれば,術具がマイクロ波デバイスでなくても,本願発明
の「三次元リアルタイムMR画像下での手術システム」であるものと認めら
れ,また,引用発明の「術具815を含む Volume Rendering 画像814」は,
本願発明の「三次元リアルタイムMR画像」に相当するものと認められるか
ら,上記2)の点は理由がない。
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2019.08. 7
平成30(行ケ)10055 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年7月22日 知的財産高等裁判所(3部)
引用文献の認定誤りを理由として、進歩性違反とした審決が取り消されました。
2 取消事由1(引用発明の認定の誤りに基づく相違点の看過)について
(1) 甲1文献の記載
甲1文献には,次の記載がある
・・・
しかし,仮にα<0.3に近い領域においては散乱光強度が粒径の
3乗に比例する関係が成立し,α>5に近い領域においては散乱光強
度が粒径に反比例する関係が成立するとしても,その間における散乱
光強度と粒径との関係については,審決は何ら明らかにしていないの
であるから,これによって,常に長波長光に比べ短波長光は,相対的
に等しい振幅信号を生成するといえるかどうかは明らかではないとい
わざるを得ない。この点について,被告は,「レイリー散乱領域から
ミー散乱領域よりもαが大きい条件の領域に向かって,レイリー散乱
領域に近い側では,αが大きくなるに従って散乱強度が大きくなり,
いずれかで必ず極大値に達し,その後αが大きくなるに従って散乱強
度が小さくなって,ミー散乱領域よりも大きい条件の領域に近づく。」
と主張するが,この主張は,散乱強度の大きさの変化を説明している
のにとどまるから,散乱強度と粒径と間の定量的な関係について説明
がないという問題は,依然として解消されていない。
また,審決の見解は,散乱角の違いによるばらつきを考慮していな
いという点においても問題があるものといわざるを得ない。すなわち,
レイリー散乱領域よりαが大きい領域においては,上記(ア)b,cのと
おり,散乱光強度は散乱角に依存して大きく変化し,αが変化した場
合の散乱光強度の変化の仕方や程度は,散乱角θによってまちまちで
あることがわかる。そうすると,散乱光強度に対する粒径の影響は,
散乱角θによって異なるといわざるを得ないのであるから,この点を
考慮していない審決の見解には問題があるものといわざるを得ないの
である(なお,引用発明の争いのない構成においては,第1の照明か\nら照射される光と第2の照明から照射される光とでは,散乱角が異な
ることになるから,散乱角θによる影響はより一層複雑なものになら
ざるを得ないものと予想される。)。\nそうすると,審決の上記理解には問題があるといわざるを得ないか
ら,ミー散乱領域を考慮したとしても,「長波長光が,小さな粒子の
場合に小さな振幅信号を生成し,大きな粒子の場合に大きな振幅信号
を生成するのに対し,短波長光が,大小の粒子いずれの場合にも相対
的に等しい振幅信号を生成する」ということはできない。
c そして,他に記載4)が成り立つことを裏付けるに足りるような根拠
を見出すこともできないから,結局,記載4)を記載3)及び記載5)と整
合的に説明することはできないものといわざるを得ない。
そうすると,当業者は,甲1文献から,引用発明の争いのない構成\nにおいて「長波長光からの振幅信号と短波長光からの振幅信号との比
を比較することにより煙粒子の大きさを判定」するという技術的思想
を認識することはできないものというべきである。
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2019.02. 4
平成30(行ケ)10027 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成31年1月28日 知的財産高等裁判所
訂正の可否が争われて、知財高裁は特許庁の判断を取り消しました。争点は引用発明の認定誤りです。
本件発明1における揮発性作業流体は,ストリッピング処理過程に付
す前に海産油に添加される液体であって,当該ストリッピング処理過程
において,海産油中に存在するある量の環境汚染物質が当該揮発性作業
流体と一緒に該海産油から分離されるものである。また,当該揮発性作
業流体はC10〜C22の遊離脂肪酸を含む。さらに,当該揮発性作業
流体はストリッピング処理過程で油から分離されるものであるから,「揮
発性」とはトリグリセリド等の油よりも揮発性が高いことを意味すると
解される(本件明細書の段落【0014】,【0021】,【0057】,
【0059】〜【0061】)。
これに対し,甲2発明1におけるリノール酸は,ストリッピング処理
過程に付す前にサケ頭油に添加される液体であって,当該ストリッピン
グ処理過程において,コレステロールと共に蒸留されるものである(上
記(1)ウ)。そして,リノール酸はC18の不飽和脂肪酸であって,トリ
グリセリドと比較すると揮発性が高い(上記(1)ア)。
そうすると,本件発明1における揮発性作業流体と,甲2発明1にお
けるリノール酸とは,除去対象物質が環境汚染物質であるかコレステロ
ールであるかとの点で違いがあるものの,いずれもトリグリセリドと比
較して揮発性が高く,除去対象物質と共に蒸留される液体であるとの点
で共通する。また,リノール酸は,本件明細書において揮発性作業流体
として例示された「C10〜C22の遊離脂肪酸」に該当する。
したがって,甲2発明1におけるリノール酸は,本件発明1における
揮発性作業流体に当たると認めるのが相当である。
よって,この点についての本件審決の認定には誤りがある。
(オ) 小括
以上によれば,本件審決には,相違点6について,リノール酸が揮発
性作業流体といえるのか否かが明らかではないと認定した点において,
誤りがあるというべきである。
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2018.12. 9
平成29(行ケ)10230 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年11月28日 知的財産高等裁判所
特許異議申立がなされて審決は取消決定をしました。知財高裁は、「モノマーとして,着色の少ないジアミン誘導体を使用することが周知であるとしても,そのことから,本件光透過率が80%〜90%以上となるジアミン誘導体を使用することまでも周知であるということはできない」として、進歩性なしとした審決を取り消しました。\n
ア 前記(1)で認定した甲3文献の【請求項1】,段落【0006】,【007
2】,甲7文献の段落【0043】,【0061】,乙2文献の【請求項2】,段落【0187】,【0246】の各記載によると,本件特許の出願当時,光透過性に優れた
ポリイミドを得るために,波長400nm,光路長1cmの光透過率が80%以上
のテトラカルボン酸誘導体を使用することは,当業者にとって周知であったと認め
られる。
イ また,前記(1)で認定した甲3文献の段落【0102】,甲7文献の段落
【0055】,甲8文献の段落【0027】,甲9文献の「1.2.2」,乙3文
献のS93頁の概要(Abstract)の欄の1行〜7行,S94頁29行〜3
4行,S105頁3行〜6行によると,本件特許の出願当時,光透過性に優れたポ
リイミドを得るために,モノマーとして,着色の少ないジアミン誘導体を使用する
ことは,当業者にとって周知であったと認められる。
ウ しかし,光透過性に優れたポリイミドを得るために,純水又はN,N−
ジメチルアセトアミドに10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長4
00nm,光路長1cmの光透過率(以下「本件光透過率」という。)が90%以
上である芳香環を有しないジアミン誘導体又は本件光透過率が80%以上である芳
香環を有するジアミン誘導体を使用することは,当業者にとって周知であったとは
いえない。理由は以下のとおりである。
(ア) 確かに,着色の少ないジアミン誘導体を使用するということは,光透
過性の高いジアミン誘導体を使用することを意味するものと理解できる。
しかし,本件証拠上,モノマーとして,本件光透過率が80%〜90%以上のジ
アミン誘導体を使用することについて記載した文献は一切ない(なお,被告は,光
透過性に優れたポリイミドの指標として,「フィルムとしたときの波長400nm
の光透過率」を用いることは周知であると主張するが,同周知事項は,モノマーの
光透過性の指標として用いられるものではない。)。
(イ) また,前記(1)のとおり,甲9文献には,「モノマーの純度も重要なフ
ァクターであり,見た目きれいな結晶をしていても僅かな不純物が光透過性を悪化
する原因となる。図8には用いたジアミンの再結晶前後の光透過性について示した
ものである。活性炭を用いて再結晶した後のモノマーを用いた方が光透過性にやや
優れている。光透過性では僅かな差ではあるが,着色の差としてはっきりと表れる。\n」との記載があり,同記載からすると,着色の度合いと光透過性との間の相関の程
度は不明といわざるを得ず,他にこの点を認めるに足りる証拠もない。したがって
,モノマーとして,着色の少ないジアミン誘導体を使用することが周知であるとし
ても,そのことから,本件光透過率が80%〜90%以上となるジアミン誘導体を
使用することまでも周知であるということはできないというべきである。
エ このように,光透過性に優れたポリイミドとするために,モノマーとし
て,本件光透過率が80%〜90%以上のジアミン誘導体を使用することが周知で
あったということはできないから,甲4発明に本件証拠によって認められる周知技
術を適用しても,本件発明1の構成に到らず,したがって,本件発明1は進歩性が\nないということはできない。
オ 被告の主張について
被告は,1)可視光領域(可視域)の吸収をなくして,光透過性に優れたポリイミドを
合成することは,当業界における周知の課題である,2)光透過性に優れたポリイミ
ドの指標として,「フィルムとしたときの波長400nmの光透過率」を用いること
は周知である,3)光透過性に優れたポリイミドとするためには,可視光を吸収する
要因を排除すればよく,そのためには,光透過性を悪化する原因となる不純物がな
いよう,充分に精製した純度の高いモノマーを用いることは周知である,4)ポリイ
ミド原料モノマーのうち,少なくともテトラカルボン酸二無水物において,上記の
「光透過性を悪化する原因となる不純物がないよう,充分に生成した純度の高いモ
ノマー」であることの指標として,当該モノマーを適当な溶媒に溶解したときに波
長400nmの光透過率(溶媒にモノマーを溶解させた溶液の光路長1cmの光透
過率)がなるべく高いものであることを用いることは周知である,5)ポリイミドの
原料モノマーのうち,ジアミン誘導体についても,再結晶や蒸留等により精製して,
純度が高く,着色の少ないものを用いることは周知であるとした上で,甲4発明に
上記各周知技術を適用することにより,相違点1−1に係る構成を備えた本件発明\n1は容易に想到できる旨主張する。
(ア) しかし,前記ウのとおり,光透過性に優れたポリイミドとするために,
モノマーとして,着色の少ないジアミン誘導体を使用することが周知であったとし
ても,同周知技術から,本件光透過率が80%〜90%以上のジアミン誘導体を使
用することを導き出すことはできないところ,このことは,被告の指摘する上記の
すべての周知技術を考慮しても変わるものではない。
(イ) この点,被告は,ジアミンに含まれる光透過性を悪化する原因となる
不純物が,そのままポリイミドにも含まれることとなり,ポリイミドの光透過性に
影響することから,光透過性に優れたポリイミドとするために,テトラカルボン酸
二無水物を溶媒に溶解した溶液の波長400nmの光透過率が90%以上のものを
用いるのであれば,ポリイミドを構成するもう一方のモノマーであるジアミンにつ\nいても,テトラカルボン酸二無水物と同程度の光透過率のものとすることは,当業
者であれば当然に理解する旨主張する。
a 被告の上記主張は,透明性の優れたポリイミドを製造するためには,
ポリイミドの純度を高める必要があり,そのためには,モノマーであるジアミン誘
導体の純度も高める必要がある,そのジアミン誘導体の純度を光透過率に置き換え
ると,もう一つのモノマーであるテトラカルボン酸誘導体に要求される光透過率と
同程度であるというものと理解できるが,本件証拠上,ジアミン誘導体及びテトラ
カルボン酸誘導体のそれぞれの純度と光透過率との間の相関の程度は明らかではな
く,後記bのような実験結果もあるから,透過性に優れたポリイミドの製造のため
に,ジアミン誘導体の光透過率をテトラカルボン酸誘導体の光透過率と同程度とす
ることが導き出されるということはできず,また,当業者もそのような理解をする
とは認められない。
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2018.10.26
平成29(行ケ)10133 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年10月24日 知的財産高等裁判所
引用発明の認定を争いましたが、引用文献には開示がないとして、無効でないとした審決が維持されました。
原告は,「個人的に記録されたカセット」においては,オーバーライト
の可能性がない場合には記録が可能\とされ,オーバーライトの可能性が発\n見された場合には,3つの態様(1)「記録機能は全く阻止される」,2)「問
い合わせおよび確認の後トリガされ得る」,3)「更に個々の記録に対して
記録機能の全くのブロッキングを付加データに対して設けられたメモリ\nの箇所における相応のエントリにより行なわせることもできる」)のいず
れかによって「既に存在している記録の不本意乍らのオーバーライトない
し消去の防止」が図られること,そのうちの1)の「記録機能は全く阻止さ\nれる」の態様の場合には,第2バイトの情報によって,カセット全体につ
いて「追加記録または再生のみ可能」という用途に応じた記録の制御が行\nわれることが記載されているとして,引用発明1の第2バイトの情報(「x
01」)は,「追加記録または再生のみ可能」という用途を指示する「用\n途識別情報」(構成要件F)に該当する旨主張する。
(ア) そこで検討するに,甲1の記載事項(前記(2)ア(ア),(エ)ないし
(キ),図2)によれば,甲1には,1)甲1記載の「磁気テープカセット
用メモリ装置」は「制御データを含んでおり,該制御データによっては
記録および/又は再生機器の動作モードの選択的ブロッキングが可制
御であることを特徴とする」こと(請求の範囲1項),2)「個人的に記
録されたカセット」の場合,「第2のメモリ領域にてカセットが個人的
使用のものであることが当該識別子により指示される場合次のメモリ
領域の分割も規定」され,また,第2バイトの「次のメモリ領域」(第
3バイト以降)には,初期時間及び終了時間と付加的に情報に対する複
数のバイトからなるデータセットが設けられていること,3)個人的に記
録されたカセット」の「2.1記録上の保護」として,「既に存在して
いる記録の不本意乍らのオーバーライトないし消去の防止は次のよう
にして達成される,即ち実際のテープ位置とメモリにおけるエントリと
の比較を記録装置が常に行うようにするのである。当該比較によりオー
バーライトの可能性のないことが指示された際のみ記録機能\がトリガ
される。但しオーバーライトの可能性が発見されると,記録機能\は全く
阻止されるか,又は問い合わせおよび確認の後トリガされ得る」こと,
4)個人的に記録されたカセット」の「2.2チャイルドプルーフのブロ
ック」として,「さらなる機能はそれぞれの個々の記録に対する再生の\nブロックの初期の解放(レリーズ)である。このことは同様に付加デー
タに対して設けられた箇所にてエントリにて行われ得る。そのようにし
て,正当な権限のないものに対する再生を例えば子どもによる不当な操
作に対する防止保護の形態で阻止することができる」ことが記載されて
いるものと認められる。
上記記載を総合すれば,甲1には,「個人的に記録されたカセット」
の「第2バイト」(第2のメモリ領域)に記憶されている識別子により
カセットが「個人的使用のもの」であることが指示され,それに対応し
た用途として記録及び再生の双方が可能となることを前提として,第2\nバイトの「次のメモリ領域」(第3バイト以降)に設けられた「エント
リ」によって「既に存在している記録の不本意乍らのオーバーライトな
いし消去の防止」といった記録再生機器の記録動作の制御や「正当な権
限のないもの」に対する「再生のブロック」といった記録再生機器の再
生動作の制御を可能(「可制御」)としたことが開示されているものと\n認められる。
そうすると,引用発明1(「個人的に記録されたカセット」による発
明)の「第2バイト」に記憶されている情報(「x01」)は,記録再
生機器に対して,記録及び再生の双方が可能というカセットの用途に対\n応した記録動作又は再生動作の制御内容を示す情報に相当するものと
いえるから,本件発明の「用途識別情報」に該当することが認められる。
また,甲1の記載事項(前記(2)ア(キ),図2)によれば,引用発明
1においては,追加記録のみ可能,すなわち,上書き禁止の制御は,「第\n2バイト」の次のメモリ領域(第3バイト以降)の付加データに対して
「エントリ」(図2記載の第13バイトの「付加データ 本例 オーバ
ライト阻止」)を設けることによって行われていることからすると,第
2バイトの「x01」は,「追加記録または再生のみ可能」の用途を示\nすものとはいえない。
さらに,「個人的に記録されたカセット」においては,「既に存在し
ている記録の不本意乍らのオーバーライトないし消去の防止」の態様と
して,2)及び3)の態様もあり得ることに照らすと,「個人的に記録され
たカセット」であることを示す第2バイトの識別子のみによって,1)な
いし3)の態様を区別することは困難である。
(イ) 以上によれば,引用発明1の第2バイトの情報(「x01」)は,
「追加記録または再生のみ可能」という用途を指示する情報であるとの\n原告の前記主張は採用することができない。
イ 以上によれば,引用発明1は,構成要件Fの「ユーザが改変することが\nできず,前記磁気テープに対して追加記録または再生のみ可能」とされて\nいる「用途識別情報」に相当する構成を備えていない点において,本件発\n明と相違するから,結論において,本件審決における相違点2の認定に誤
りはない。
◆判決本文
関連事件です。
◆平成29(行ケ)10134
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2018.10. 4
平成29(行ケ)10173 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年9月26日 知的財産高等裁判所
新規性・進歩性が争点となった無効審判の取消訴訟です。特許図面の正確性は従前と同じく、正確性はそれほど要求されないとして、本件発明の技術思想が開示されていると判断されました。
なお、判決文1ページに「被告は,平成17年9月30日,発明の名称を「ドライブスプロケット支持構造」とする発明につき,特許を出願し(特願2005−287276号),平成24年2月24日,設定登録(特許第4933764号)を受けた(請求項の数3。甲1。以下「本件特許」という。)。被告は,平成27年3月23日,本件特許の請求項1〜3に係る発明について特許無効審判を請求した(無効2015−800071号。甲16,乙1)。」とありますが、冒頭の「被告は,平成17年・・」は、「原告は,平成17年・・・」の誤記と思われます。
前記の2の甲2の図1及び2において,ドライブスプロケット21
の左側張出部の外側は,変速機ハウジング51にボルト52aで固定されたカバー
52の内側に接しているよう図示されており,ドライブスプロケット21の右側張
出部の外側の右端は,変速機ハウジング張出部の内側に接しているよう図示されて
いる。
しかし,甲2は,公開特許公報であり,甲2に掲載された前記2の図1及び2は
いずれも特許出願の願書に添付された図面に描かれたものであるところ,一般に,
特許出願の願書に添付される図面は,明細書の記載内容を補完し,特許を受けよう
とする発明の技術内容を当業者に理解させるための説明図であるから,当該発明の
技術内容を理解するために必要な程度の正確さを備えていれば足り,設計図面に要
求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。
甲2において,図1は「本発明に係るポンプハブ支持構造を有したトルクコンバ\nータおよび油圧ポンプ駆動系を示す断面図」であり,図2は,「上記ポンプハブ支持
構造部分を示す断面図」であるところ,前記2認定の甲2の記載に鑑みると,これ\nらの図面は,トルクコンバータのポンプハブの支持構造に関し,ポンプハブ11を\nステータシャフト6にニードルベアリング12によって支持し,このニードルベア
リング12に対して,径方向にほぼ重なるようにして,すなわち,軸方向にほぼ同
位置において,ドライブスプロケット21がスプライン結合して,ドライブスプロ
ケット21に作用する径方向力をドライブスプロケット21の内径側に位置するニ
ードルベアリング12により受けるようにしたことを示すために,その位置関係を
示すべく,甲2に記載されたものであって,設計図面に要求されるような正確性を
もって描かれているとは考えられない。
(イ) 前記2のとおり,甲2には,「ドライブスプロケット21に作用する
径方向力は,ドライブスプロケット21の内径側に位置するニードルベアリング1
2により受ける。このように,ニードルベアリング12およびドライブスプロケッ
ト21を軸方向ほぼ同じ位置に重なるように配設することにより,ドライブスプロ
ケット21に作用する力をニードルベアリング12により確実に受けることができ
るだけでなく,この部分の軸方向寸法を短縮してこの部分の構造をコンパクト化す\nることができる。」(【0010】)と記載されている。したがって,甲2発明は,ド
ライブスプロケット21に作用する径方向力は,ドライブスプロケット21の内径
側に位置するニードルベアリング12により受けるものである。この記載のみでは,
ドライブスプロケット21に作用する径方向力を外径側でも受けるかどうかは必ず
しも明らかでないものの,そのような必要性があるというべき事情は認められない
上,全体として一体化したケースに対し,ドライブスプロケットのような回転する
部材を,内周面及び外周面で同時に軸受等により支持することは,回転する部材や
周囲の部材の寸法誤差の許容範囲を狭めることになり,過度の工作精度を要求する
ことになるから,通常行われるものとは考え難い(全体として一体化したケースに
対し,ドライブスプロケットのような回転する部材を,内周面及び外周面で同時に
軸受等により支持する例があることを認めるに足りる証拠もない。)。
また,回転する部材と回転しない部材が,回転する部材の回転中,一時的にしろ,
接触するような状態となることがあれば,回転する部材の円滑な回転が損なわれ,
異音が発生したり,部材の摩耗が生じるといった不具合を生じることも想定される
のであって,当業者は,回転する部材であるドライブスプロケット21が,回転し
ない部材であるカバー及び変速機ハウジングと接触するという設計を,通常は行わ
ないと解される。
さらに,甲2の図2には,ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカ
バー52の内周面との間の対向面,及び,ドライブスプロケット21の右側張出部
の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面との間の対向面の軸方向の長さ
は,ニードルベアリング12の長さに比べて著しく短いものとして記載されている。
仮に,ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面との
間の対向面,及び,ドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速
機ハウジング張出部の内周面との間の対向面がすべり軸受として接するように設定
されているとするならば,ドライブスプロケットにかかる径方向の負荷が,当該接
触面である対向面にも負荷されることになるところ,この場合には,小さい接触面
に対して集中した負荷がかかることになると考えられる。そして,このような局所
的に集中した負荷は,当該接触面である対向面に潤滑油の介在があるとしても,早
期の摩耗等の不具合が生じるおそれがあるといえるから,通常行われるものではな
いと解される。
以上によると,甲2発明におけるドライブスプロケット21は,その内周面がポ
ンプハブ11を介してニードルベアリング12で支持されるのであって,ドライブ
スプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面,及び,ドライブス
プロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面は,
ドライブスプロケット21の静止時のみならず回転中も接触することがないように
間隙を設定することが前提になっている,すなわち,原告が主張する技術思想2)に
よるものと解することができる。
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2018.04.17
平成28年(行ケ)第10182号 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年4月13日 知的財産高等裁判所(特別部)
知財高裁大合議の判断です。「無効審判不成立の審決に対する取消の訴えの利益は,特許権消滅後であっても,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り,失なれない。」および「刊行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合には,特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず,これを引用発明と認定できない。」と判断しました。
本件審判請求が行われたのは平成27年3月31日であるから,審判
請求に関しては同日当時の特許法(平成26年法律第36号による改正前の特許法)
が適用されるところ,当時の特許法123条2項は,「特許無効審判は,何人も請求
することができる(以下略)」として,利害関係の存否にかかわらず,特許無効審判
請求をすることができる旨を規定していた(なお,冒認や共同出願違反に関しては
別個の定めが置かれているが,本件には関係しないので,触れないこととする。こ
の点は,以下の判断においても同様である。)。
このような規定が置かれた趣旨は,特許権が独占権であり,何人に対しても特許
権者の許諾なく特許権に係る技術を使用することを禁ずるものであるところから,
誤って登録された特許を無効にすることは,全ての人の利益となる公益的な行為で
あるという性格を有することに鑑み,その請求権者を,当該特許を無効にすること
について私的な利害関係を有している者に限定せず,広く一般人に広げたところに
あると解される。
そして,特許無効審判請求は,当該特許権の存続期間満了後も行うことができる
のであるから(特許法123条3項),特許権の存続期間が満了したからといって,
特許無効審判請求を行う利益,したがって,特許無効審判請求を不成立とした審決
に対する取消しの訴えの利益が消滅するものではないことも明らかである。
イ 被告は,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する特許権の存続期
間満了後の取消しの訴えについて,東京高裁平成2年12月26日判決を引用して,
訴えの利益が認められるのは当該特許権の存在による審判請求人の法的不利益が具
体的なものとして存在すると評価できる場合のみに限られる旨主張する。
しかし,特許権消滅後に特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの
訴えの利益が認められる場合が,特許権の存続期間が経過したとしても,特許権者
と審判請求人との間に,当該特許の有効か無効かが前提問題となる損害賠償請求等
の紛争が生じていたり,今後そのような紛争に発展する原因となる可能性がある事実関係があることが認められ,当該特許権の存在による審判請求人の法的不利益が\n具体的なものとして存在すると評価できる場合のみに限られるとすると,訴えの利
益は,職権調査事項であることから,裁判所は,特許権消滅後,当該特許の有効・
無効が前提問題となる紛争やそのような紛争に発展する可能性の事実関係の有無を調査・判断しなければならない。そして,そのためには,裁判所は,当事者に対し\nて,例えば,自己の製造した製品が特定の特許の侵害品であるか否かにつき,現に
紛争が生じていることや,今後そのような紛争に発展する原因となる可能性がある事実関係が存在すること等を主張することを求めることとなるが,このような主張\nには,自己の製造した製品が当該特許発明の実施品であると評価され得る可能性がある構\成を有していること等,自己に不利益になる可能\性がある事実の主張が含ま\nれ得る。
このような事実の主張を当事者に強いる結果となるのは,相当ではない。
ウ もっとも,特許権の存続期間が満了し,かつ,特許権の存続期間中にさ
れた行為について,何人に対しても,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われた
り,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存する場合,例えば,特許権の存続期間が満了してから既に20年が経過した場合等\nには,もはや当該特許権の存在によって不利益を受けるおそれがある者が全くいな
くなったことになるから,特許を無効にすることは意味がないものというべきであ
る。したがって,このような場合には,特許無効審判請求を不成立とした審決に対す
る取消しの訴えの利益も失われるものと解される。
エ 以上によると,平成26年法律第36号による改正前の特許法の下にお
いて,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益は,特許
権消滅後であっても,特許権の存続期間中にされた行為について,何人に対しても,
損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り,失われることはない。\nオ 以上を踏まえて本件を検討してみると,本件において上記のような特段
の事情が存するとは認められないから,本件訴訟の訴えの利益は失われていない。
(2) なお,平成26年法律第36号による改正によって,特許無効審判は,「利
害関係人」のみが行うことができるものとされ,代わりに,「何人も」行うことがで
きるところの特許異議申立制度が導入されたことにより,現在においては,特許無効審判請求をすることができるのは,特許を無効にすることについて私的な利害関\n係を有する者のみに限定されたものと解さざるを得ない。
しかし,特許権侵害を問題にされる可能性が少しでも残っている限り,そのような問題を提起されるおそれのある者は,当該特許を無効にすることについて私的な\n利害関係を有し,特許無効審判請求を行う利益(したがって,特許無効審判請求を
不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益)を有することは明らかであるから,
訴えの利益が消滅したというためには,客観的に見て,原告に対し特許権侵害を問
題にされる可能性が全くなくなったと認められることが必要であり,特許権の存続期間が満了し,かつ,特許権の存続期間中にされた行為について,原告に対し,損\n害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存することが必要であると解すべきである。\n
・・・
特許法29条1項は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる
発明を除き,その発明について特許を受けることができる。」と定め,同項3号とし
て,「特許出願前に日本国内又は外国において」「頒布された刊行物に記載された発
明」を挙げている。同条2項は,特許出願前に当業者が同条1項各号に定める発明
に基づいて容易に発明をすることができたときは,その発明については,特許を受
けることができない旨を規定し,いわゆる進歩性を有していない発明は特許を受け
ることができないことを定めている。
上記進歩性に係る要件が認められるかどうかは,特許請求の範囲に基づいて特許
出願に係る発明(以下「本願発明」という。)を認定した上で,同条1項各号所定の
発明と対比し,一致する点及び相違する点を認定し,相違する点が存する場合には,
当業者が,出願時(又は優先権主張日。以下「3 取消事由1について」において
同じ。)の技術水準に基づいて,当該相違点に対応する本願発明を容易に想到するこ
とができたかどうかを判断することとなる。
このような進歩性の判断に際し,本願発明と対比すべき同条1項各号所定の発明
(以下「主引用発明」といい,後記「副引用発明」と併せて「引用発明」という。)
は,通常,本願発明と技術分野が関連し,当該技術分野における当業者が検討対象
とする範囲内のものから選択されるところ,同条1項3号の「刊行物に記載された
発明」については,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明
をすることができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行
物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。そして,当該刊
行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する
場合には,当業者は,特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を積極的あるいは優
先的に選択すべき事情がない限り,当該刊行物の記載から当該特定の選択肢に係る
具体的な技術的思想を抽出することはできない。
したがって,引用発明として主張された発明が「刊行物に記載された発明」であ
って,当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選
択肢を有する場合には,特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に
選択すべき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出す
ることはできず,これを引用発明と認定することはできないと認めるのが相当であ
る。
この理は,本願発明と主引用発明との間の相違点に対応する他の同条 1 項3号所
定の「刊行物に記載された発明」(以下「副引用発明」という。)があり,主引用発
明に副引用発明を適用することにより本願発明を容易に発明をすることができたか
どうかを判断する場合において,刊行物から副引用発明を認定するときも,同様で
ある。したがって,副引用発明が「刊行物に記載された発明」であって,当該刊行
物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場
合には,特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を積極的あるいは優先的に選択す
べき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出すること
はできず,これを副引用発明と認定することはできないと認めるのが相当である。
そして,上記のとおり,主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明
を容易に発明をすることができたかどうかを判断する場合には,1)主引用発明又は
副引用発明の内容中の示唆,技術分野の関連性,課題や作用・機能の共通性等を総\n合的に考慮して,主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に至る動機付けがあ
るかどうかを判断するとともに,2)適用を阻害する要因の有無,予測できない顕著\nな効果の有無等を併せ考慮して判断することとなる。特許無効審判の審決に対する
取消訴訟においては,上記1)については,特許の無効を主張する者(特許拒絶査定
不服審判の審決に対する取消訴訟及び特許異議の申立てに係る取消決定に対する取\n消訴訟においては,特許庁長官)が,上記2)については,特許権者(特許拒絶査定
不服審判の審決に対する取消訴訟においては,特許出願人)が,それぞれそれらが
あることを基礎付ける事実を主張,立証する必要があるものということができる。
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2018.04.13
平成29(行ケ)10130 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年3月29日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由に、異議理由ありとした審決が取り消されました。異議理由ありとの審決自体が珍しいですが、さらにそれが取り消されたので珍しいケースです。
イ 上記アによれば,本件訂正明細書には,アナターゼ型酸化チタンは光触
媒作用が強いため,熱可塑性樹脂等の高分子化合物に添加されるとそれを分解等し
てしまうことから,SiO2などで表面処理を行うのが好ましいこと,すなわち,\n本件訂正発明1の表面処理に用いられるSiO2は,光触媒作用が強いアナターゼ\n型酸化チタンが,熱可塑性樹脂等の高分子化合物を分解等しないようにするための
ものであることが記載されているものと認められる。
・・・
上記イによれば,SiO2(シリカ)とシロキサンは,共に酸化チタン
を被覆するものであること,SiO2(シリカ)は,Si−O−Si結合を有して
いるものの,テトラアルコキシシランが加水分解及び重合し,反応すべきものが全
て反応したときの反応物であるのに対して,シロキサンは,Si−O−Si結合を
含むものの総称であって,化学式SiO2で表されるものではないこと,したがっ\nて,SiO2(シリカ)とシロキサンは,化学物質として区別されるものであるこ
とが認められる。
エ 前記認定のとおり,本件訂正発明1の「SiO2で表面処理された・・・\n酸化チタン粒子」とは,文言上,「酸化チタン粒子」が,「SiO2(シリカ)」で表\n面処理されているものであることは明らかである。
これに対し,甲1文献には,酸化チタン粉末の表面処理のいずれの方法によって\nも,甲1発明の酸化チタン粉末の表面にシロキサンの被膜が形成されたことが記載\nされていることが認められるものの,甲1文献の上記記載は,甲1発明の酸化チタ
ン粉末の表面に「Si−O−Si結合」を含有する被膜が形成されていることを示\nすにとどまるものであって,「SiO2(シリカ)」の被膜が形成されていることを
推認させるものではない(前記認定のとおり,シロキサンは,Si−O−Si結合
を含むものの総称であって,SiO2(シリカ)とは化学物質として区別されるも
のである。)。また,その他,甲1発明の酸化チタン粉末の表面に「SiO2(シリ\nカ)」が生成されていることを認めるに足りる証拠はない。
さらに,甲1文献には,テトラアルコキシシラン及び/又はテトラアルコキシシ
ランの部分加水分解縮合物について反応すべきものが全て反応したことについては,
記載も示唆もされていないのであるから,この点においても,甲1発明の酸化チタ
ン粉末の表面に「SiO2(シリカ)」が生成されていると認めることはできない。\nしたがって,甲1発明において,酸化チタン粉末の表面に,「SiO2(シリカ)」\nが生成されているとは認めることができず,甲1発明の酸化チタン粉末が「SiO
2(シリカ)」で表面処理されているということはできない。\n
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2018.04.11
平成29(行ケ)10120等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年4月4日 知的財産高等裁判所
引用発明の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決を取り消しました。
イ 前記アのとおり,甲4には,ブロックパターンの改良に関し,耐摩耗性能を\n向上せしめるとともに,乾燥路走行性能,湿潤路走行性能\及び乗心地性能をも向上\nせしめた乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供することを目的とする発明が記載
されている(前記ア(イ)b)。
そして,タイヤ踏面の幅方向センター部に踏面幅の50%以内の領域において3
本のストレート溝をタイヤ周方向に環状に設けるとともに,これらのストレート溝
からタイヤ幅方向に延びる複数の副溝を配置したブロックパターンにおいて,1)全
溝面積比率を25%とし,かつ,領域W(タイヤ踏面の幅方向(タイヤ径方向)F
F’のセンター部における踏面幅Tの50%以内)の全溝面積比率を残りの領域の
全溝面積比率の3倍とすること,2)ストレート溝aと副溝bとにより区画されたブ
ロック1の表面に独立カーフcをタイヤ幅方向FF’に形成すること,3)ブロック
1の各辺とカーフcの各辺のタイヤ幅方向FF’全投影長さ(LG)とタイヤ周方
向EE’全投影長さ(CG)との比を「LG/CG=2.5」とすることにより,
良好な耐摩耗性及び乗心地性能を享受し,かつ,湿潤路運動性能\も低下しないよう
にしたものである(前記ア(イ)c)。
したがって,甲4には,「センター領域を含めた全ての領域が溝により複数のブ
ロックに区画されたブロックパターンについて,1)全溝面積比率を25%とし,か
つ,前記領域(タイヤ踏面の幅方向(タイヤ径方向)FF’のセンター部における
トレッド踏面幅Tの50%以内の領域)の全溝面積比率を残りの領域の全溝面積比
率の3倍となし,2)前記ストレート溝と前記副溝とにより区画されたブロックに独
立カーフをタイヤ幅方向に形成し,3)前記ブロックの各辺と前記カーフの各辺のタ
イヤ幅方向全投影長さLGとタイヤ周方向の全投影長さCGとの比LG/CG=2.
5とする。」との技術的事項,すなわち,甲4技術Aが記載されていると認められ
る。
ウ 本件審決の認定について
本件審決は,甲4に甲4技術が記載されていると認定した。
しかし,前記アのとおり,甲4には,特許請求の範囲にも,発明の詳細な説明に
も,一貫して,ブロックパターンであることを前提とした課題や解決手段が記載さ
れている。また,前記イのとおり,甲4には,前記イ1)ないし3)の技術的事項,す
なわち,溝面積比率,独立カーフ,タイヤ幅方向全投影長さとタイヤ周方向全投影
長さの比に関する甲4技術Aが記載されている。
そこで,これらの記載に鑑みると,上記イ1)ないし3)の技術的事項は,甲4に記
載された課題を解決するための構成として不可分のものであり,これらの構\成全て
を備えることにより,耐摩耗性能を向上せしめるとともに,乾燥路走行性能\,湿潤
路走行性能及び乗心地性能\をも向上せしめた乗用車用空気入りラジアルタイヤを提
供するという,甲4記載の発明の課題を解決したものと理解することが自然である。
したがって,甲4技術Aから,ブロックパターンを前提とした技術であることを
捨象し,さらに,溝面積比率に係る技術的事項のみを抜き出して,甲4に甲4技術
が開示されていると認めることはできない。よって,本件審決における甲4記載の
技術的事項の認定には,上記の点において問題がある。
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2018.03.28
平成29(行ケ)10148 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年3月26日 知的財産高等裁判所(4部)
CS関連発明の進歩性なしとした審決について、引用発明の認定に誤りはあるが、結論としては妥当として審決が維持されました。
本件審決は,引用発明の「仮情報」は「固定情報」であることが示唆され
ている旨判断した。
a この点について,被告は,本願発明の「固定情報」は,複数の取引ごとに変
化しない情報であればよく,取引のたびごとに生成削除されたとしても,生成のた
びに同じ値の「仮情報」が生成されていれば「固定情報」であるといえる,実際,
引用発明において,仮情報は,口座取引の内容と無関係に生成される値であり,口
座取引内容に応じて値を変化させる必要がない旨主張する。
しかし,引用例1の【図3】のステップS310〜S311には,「仮情報」を
口座情報に基づいて生成することの記載はないし,「仮情報」はセキュリティの観
点から取引ごとに異なるものとすることが通常であるところ,引用例1にこれを同
じにすることを示唆する記載もない。したがって,引用発明において,生成のたび
に同じ値の「仮情報」が生成されることが示唆されているとはいえない
い。
b 被告は,引用例1の「ホストコンピュータ30においては,事前に仮情報デ
ータと顧客口座情報の対応を検証し,ホスト側データ保管部302に保管しておい
ても構わない。」(【0045】)との記載は,「仮情報」を複数の取引にまたが\nって用い得ることを示唆している旨主張する。
しかし,前記イ(イ)のとおり,事前に仮情報データと顧客口座の対応が検証され
る場合であっても,「仮情報」は取引終了時に削除されることからすれば,「仮情
報」が複数の取引にまたがって用い得ることが示唆されているとはいえない。
c 被告は,引用例1の「仮情報使用の有効期限と有効回数を設けることも可能\nである。」(【0086】),「仮情報に有効期限と有効回数を設けることにより,
第3者等による不正利用防止のセキュリティを向上させることができる。」(【0
087】)との記載によれば,引用発明の「仮情報」を有効期限や有効回数が設け
られた情報のような固定情報として生成することが示唆されている旨主張する。
しかし,「有効期限」(【0086】【0087】)は,携帯端末装置が仮情報
を受け取ってから,現金自動取引装置に仮情報を入力するまでの期限のことと解さ
れ,「有効期限」の定めがあるからといって,1回の取引を超えて「仮情報」が使
用されることを示唆するとはいい難い。そして,「有効回数」(【0086】【0
087】)は,仮情報の使用回数を,1回限りではなく,数回としたものと解され
るが,前記イ(イ)のとおり,引用発明は,課題解決手段として,顧客口座情報を用
いない手段を採用しているのであるから,「有効回数」の定めがあるからといって,
「固定情報」であることが示唆されているとはいい難い。
d したがって,引用発明の「仮情報」は「固定情報」であることが示唆されて
いる旨の本件審決の判断には誤りがあるが,相違点2を容易に想到することができ
た旨の本件審決の判断は,結論において正当である。
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2018.01.11
平成29(行ケ)10072 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年12月21日 知的財産高等裁判所
異議理由あり(進歩性)との審決が、引用文献の認定誤りを理由に取り消されました。異議の成立自体が低く、かつそれが取り消されるのはかなりレアな事例です。
以上より,甲5文献記載の発明は,ポリメチルシルセスキオキサンの製
造方法に関するものであり(前記ア2)),塩素原子の含有量が少なく,アルカリ土類
金属やアルカリ金属を含有せず,自由流動性の優れた粉末状のポリメチルシルセス
キオキサンの製造方法を提供することを目的とし(前記ア3)),アンモニアまたはア
ミン類を,原料であるメチルトリアルコキシシラン中に残存する塩素原子の中和剤,
並びに,メチルトリアルコキシシランの加水分解及び縮合反応の触媒として用いる
という製造方法を採用したものである(前記ア4))と認められる。
(2) 引用発明の粉末のシラノール基量及び撥水性を甲4実験に基づき認定し
た点について
ア 甲1文献の実施例1において用いたポリメチルシルセスキオキサン粉末
は,「甲5文献記載の方法により得た平均粒子径5μm」のものである。決定は,甲
4実験は,甲1文献の実施例1を追試したものであり,甲4実験のポリメチルシル
セスキオキサン粒子は,シラノール基量が0.08%であること,及び,撥水性の
程度が「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間
攪拌後において,粒子が分散しない程度」であることを示していると認定した上で,
引用発明のポリメチルシルセスキオキサン粒子のシラノール基量及び撥水性を認定
した。
しかし,甲1文献の実施例1にいう,甲5文献記載の方法によることが,甲5文
献の実施例1によることで足りるとしても,以下のとおり,甲4実験は甲1文献の
実施例1を再現したものとは認められない。
イ 甲5文献の実施例1を含む甲1文献の実施例1の方法と,甲4実験とを
比較すると,少なくとも,1)攪拌条件,及び,2)原料メチルトリメトキシシランの
塩素含有量において,甲4実験は,甲1文献の実施例1の方法を再現したとは認め
られない。
(ア) 攪拌条件について
真球状ポリメチルシルセスキオキサンの粒子径をコントロールするために,反応
温度,攪拌速度,触媒量などの反応条件を選定すること(乙2 489頁左欄6行
〜11行),ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の製造方法として,オルガノトリ
アルコキシシランを有機酸条件下で加水分解し,水/アルコール溶液,アルカリ性
水溶液を添加した後,静止状態で縮合する方法において,弱攪拌又は攪拌せずに縮
合反応させることによって,低濃度触媒量でも凝集物を生成しない粒子を得ること
ができるが,粒径が1μm以上の粒子を製造するのに不適切であることが本件発明
の従来技術であったこと(本件明細書【0006】)からすると,ポリメチルシルセ
スキオキサン粒子の製造においては,攪拌条件により,粒子径の異なるものが得ら
れるものといえる。
甲5文献の実施例1には,攪拌速度は記載されておらず,甲4実験においても,
攪拌速度が明らかにされていない。したがって,実験条件から,得られたポリメチ
ルシルセスキオキサン粒子の平均粒径を推測することはできない。加えて,甲4実
験においては,甲5文献の実施例1で追試して得られたとするポリメチルシルセス
キオキサン粒子の粒径は計測されていない。したがって,甲4実験において甲5文
献の実施例1を追試して得られたとするポリメチルシルセスキオキサン粒子の平均
粒子径が,甲1文献の実施例1で用いられたポリメチルシルセスキオキサン粉末と
同じ5μmのものであると認めることはできない。
(イ) 原料メチルトリメトキシシランの塩素含有量について
甲5文献記載の発明は,前記(1)イのとおり,塩素原子の含有量が少ないポリメチ
ルシルセスキオキサンの製造方法を提供するものであり,塩素原子を中和するため
にアンモニア又はアミン類を用いるものである。そして,アンモニア及びアミン類
の使用量は,アルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物中に存在する塩素原子
を中和するのに十分な量に触媒量を加えた量であるが,除去等の点で必要最小限に\nとどめるべきであり,アンモニア及びアミン類の使用量が少なすぎると,アルコキ
シシラン類の加水分解,さらには縮合反応が進行せず,目的物が得られない(前記
(1)ア4))。実施例1〜5及び比較例1〜3においては,原料に含まれる塩素原子濃
度並びに使用したアンモニア水溶液の量及びアンモニア濃度が記載されている(前
記(1)ア5)6))。以上の点からすると,塩素原子の中和に必要な量でありかつ除去等
の点で最小限である量のアンモニア及びアミン類を使用するために,塩素原子の量
とアンモニア及びアミン類の量を確認する必要があり,そのために,甲5文献の実
施例1においては,用いたメチルトリメトキシシランのメチルトリクロロシランの
含有量が塩素原子換算で5ppmであることを示したものと理解される。
ところが,甲4実験で甲5文献の実施例1の追試のために原料として用いたメチ
ルトリメトキシシランの塩素原子含有量は計測されていない。したがって,甲4実
験で用いられたメチルトリメトキシシランに含有される塩素原子含有量と甲5文献
の実施例1で用いられたメチルトリメトキシシランに含有される塩素原子含有量と
が同一であると認めることはできない。そうすると,甲4実験において,甲5文献
の実施例1と同様にアルコキシシラン類の加水分解,縮合反応が進行したと認める
ことはできず,その結果,得られたポリメチルシルセスキオキサン粒子が,甲5文
献の実施例1で得られたものと同一と認めることはできない。
ウ 以上より,甲4実験で用いたポリメチルシルセスキオキサン粒子は,甲
1文献の実施例1で用いられたものと同一とはいえないから,甲4実験で得られた
ポリメチルシルセスキオキサン粒子のシラノール基量及び撥水性を,甲1文献の実
施例1のそれと同視して,引用発明の内容と認定することはできない。
◆判決本文
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2017.12.22
平成29(行ケ)10058 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年12月21日 知的財産高等裁判所(4部)
審決は、進歩性違反無しとしましたが、知財高裁はこれを取り消しました。理由は、「当業者は,引用例に記載された凹部のピッチと凹部の深さ及び直径Dについて,放熱効果を向上させるという観点からその関係を理解する」というものです。
引用発明と甲2技術は,いずれも空気入りタイヤに関するものであり,技術分野
が共通する。
また,引用発明は,ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強ゴムから発生
した熱をより早く表面部に移動させて放熱効果を高め,カーカスやサイド補強ゴム\nの破壊を防止することを課題とする。甲2技術は,空気入りタイヤのブレーカ端部
の熱を逃がし,ブレーカ端部に亀裂が生じるのを防止することを課題とする。した
がって,引用発明と甲2技術の課題は,空気入りタイヤの内部に発生した熱を迅速
に逃すことにより当該部位の破壊を防止するという点で共通する。
さらに,引用発明は,タイヤの外側表面の一定部位を,適当な表\面パターン形状
にすることによって,タイヤの回転軸方向の投影面積の表面積を大きくし,サイド\n補強層ゴムから発生した熱をより早く外部表面に移動させ,外気により効果的に拡\n散させるものである。甲2技術は,タイヤの外側表面の一定の領域に,多数の凹部\nを形成することによって,その領域で広い放熱面積を形成して,温度低下作用を果
たさせるものである。したがって,引用発明と甲2技術の作用効果は共通する。
加えて,甲2技術は,多数の凹部を形成することによって温度低下作用を果たさ
せるに当たり,引用発明のように表面積の拡大だけではなく,乱流の発生も考慮す\nるものである。
よって,引用発明に甲2技術を適用する動機付けは十分に存在するというべきで\nある。
イ 引用発明における凹凸のパターン12の具体的な構造として,甲2技術を適\n用した場合,その凹凸部の構造は,「5≦p/h≦20,かつ,1≦(p−w)/\nw≦99の関係を満足する」ことになり,これは,相違点2に係る本件発明1の構\n成,すなわち「10.0≦p/h≦20.0,かつ,4.0≦(p−w)/w≦3
9.0の関係を満足する」という構成を包含する。\nそして,本件明細書(【0078】【0079】)には,「乱流発生用凹凸部で
は,1.0≦p/h≦50.0の範囲が良く,好ましくは2.0≦p/h≦24.
0の範囲,更に好ましくは10.0≦p/h≦20.0の範囲がよい」「1.0≦
(p−w)/w≦100.0,好ましくは4.0≦(p−w)/w≦39.0の関
係を満足することが熱伝達率を高めている」との記載があり,「1.0≦p/h≦
50.0」「1.0≦(p−w)/w≦100.0」というパラメータを満たす場
合においても放熱効果が高まる旨説明されている。「10.0≦p/h≦20.0」
「4.0≦(p−w)/w≦39.0」という数値範囲に特定する根拠は,「好ま
しくは」と,単に好適化である旨説明するにとどまる。
また,本件明細書の【表1】【表\2】には,p/h及び(p−w)/wと耐久性
の関係についての実験結果が記載されているところ,本件発明1の数値範囲のうち
p/hのみを満たさない実施例3(p/h=8)の耐久性は,本件発明1の数値範
囲を全て満たす実施例8,11,12,18,19の耐久性よりも高く,本件発明
1の数値範囲のうち(p−w)/wのみを満たさない実施例13,15,16((p
−w)/w=44,99,59)の耐久性は,本件発明1の数値範囲を全て満たす
実施例8,11,12,18,19の耐久性よりも高いという結果が出ている。
加えて,本件明細書の【図29】には,p/hと熱伝達率の関係についてのグラ
フが記載され,【図30】には,(p−w)/wと熱伝達率の関係についてのグラ
フが記載されているところ,これらのグラフは,p/h又は(p−w)/wの各パ
ラメータと熱伝達率の関係を示すにとどまり,両パラメータの充足と熱伝達率の関
係を示すものではない。そして,タイヤ表面の凹凸部によって発生する乱流により,\n流体の再付着点部分の放熱効果の向上に至るという機序によれば,凹凸部のピッチ
(p),高さ(h)及び幅(w)の3者の相関関係によって放熱効果が左右される
というべきであって,本件発明1において特定されたピッチと高さ,ピッチと幅と
いう2つの相関関係のみを充足する凹凸部の放熱効果が,これらを充足しない凹凸
部の放熱効果と比較して,向上するといえるものではない。そうすると,p/h又
は(p−w)/wの各パラメータと熱伝達率の相関関係を示すグラフ(【図29】
【図30】)から,「10.0≦p/h≦20.0,かつ,4.0≦(p−w)/
w≦39.0の関係を満足する」凹凸部の構造が,これを満足しない凹凸部の構\造
に比して,熱伝達率を向上させるということはできない。
そうすると,本件発明1は,凹凸部の構造を,「10.0≦p/h≦20.0,\nかつ,4.0≦(p−w)/w≦39.0」の数値範囲に限定するものの,当該数
値範囲に限定する技術的意義は認められないといわざるを得ない。
よって,引用発明に甲2技術を適用した構成における凹凸部の構\造について,パ
ラメータp/hを,「10.0≦p/h≦20.0」の数値範囲に特定し,かつ,
パラメータ(p−w)/wを,「4.0≦(p−w)/w≦39.0」の数値範囲
に特定することは,数値を好適化したものにすぎず,当業者が適宜調整する設計事
項というべきである。
・・・
(ア) 被告は,引用例2は,放熱効果を向上させるための凹部のピッチと凹部の
深さ及び直径Dとの関係について全く開示しないと主張する。
しかし,引用例2には,多数の凹部によって生じる乱流によって温度低下作用が
果たされる旨記載があり(【0007】【0014】),また,引用例2はそのよ
うな凹部について,ピッチ(p),深さ(d)及び直径(D)のサイズの範囲が具
体的に記載されている(【0009】【0010】【0012】)。そして,前記
(3)ウ(ア)のとおり,本件特許の優先日当時,当業者は,乱流による放熱効果の観点
から,タイヤ表面の凹凸部における,突部のピッチ(p)と突部の高さ(h)との\n関係及び溝部の幅(p−w)と突部の幅(w)との関係について,当然に着目する
ものである。したがって,当業者は,引用例2に記載された凹部のピッチと凹部の
深さ及び直径Dについて,放熱効果を向上させるという観点からその関係を理解す
るというべきである。
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2017.12. 5
平成28(行ケ)10225 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年11月29日 知的財産高等裁判所
特許異議が申し立てられ、取消決定の審決がなされましたが、知財高裁はこれを取り消しました。理由は公知文献に記載されているとは認められないというものです。異議が認められる率が低く(15%程度)、かつ、それが取り消されるというレアなケースです。
前記(2)イのとおり,乙1,乙2及び甲1の各記載から,ジヨード化合物
と固体硫黄と,更に「重合停止剤」とを含む混合物を溶融重合させること
によって製造されるPAS樹脂について,ヨウ素含有量が1,200pp
m以下のものが得られること,上記のいずれの例においても重合禁止剤(重
合停止剤)が添加されていることが理解でき,このような,ヨウ素含有量
が少ないPAS樹脂を製造することができること自体は,優先日において
周知の技術的事項であったといえる。
しかしながら,上記各文献からは,このような,1,200ppm以下
の低ヨウ素量のPAS樹脂を製造するために必要な条件,すなわち,重合
時の温度や圧力,重合時間等は必ずしも明らかでない。また,前記(2)ウの
技術常識からは,重合禁止剤の種類や添加の割合のみならず,添加の時期
(タイミング)によっても,得られる樹脂の重合度や不純物としてのヨウ
素含有量が異なることが予測されるところ,それらとの関係についても一\n切明らかにされていない。してみると,これらの各文献に記載された事項
から,直ちに先願明細書(甲5)にヨウ素含有量が1,200ppm以下
であるPAS樹脂組成物が記載されているとの結論を導くことはできない
というべきである。
この点,被告は,1)先願明細書発明Bも本件発明4と同様の目的・問題
意識の下で,ジヨード芳香族化合物と硫黄元素とを含む反応物を溶融重合
する方法を改良するものであり,重合禁止剤を添加してポリマー鎖末端の
ヨウ素量を減じることで低ヨウ素含有量を達成していること,2)重合禁止
剤の添加時期はヨウ素含有量と無関係であること(本件発明4において特
定されているヨウ素含有量の範囲が,重合開始直後から重合禁止剤を添加
する製造方法により得られるとの原告主張は誤りであること),3)先願明
細書発明Bでは,重合禁止剤(実施例においては,4−ヨード安息香酸,
2,2’−ジチオビス安息香酸など)に加えて,(重合鎖の成長を止める
という点において重合禁止剤と同じ機能を有する)重合中止剤(ベンゾチ\nアゾール類など。実施例においては,2,2’−ジチオビスベンゾトリア
ゾール。ただし,被告は,「2,2’−ジチオビスベンゾチアゾール」の
誤記であると主張する。)を併用したことによってヨウ素量がより減少し
ていると考えられること等を挙げて,先願明細書発明Bに係るPAS樹脂
のヨウ素含有量は,本件発明4と同程度に少ないものであると主張する。
しかしながら,上記1)については,例えば,上記各文献(乙1,乙2及
び甲1)から,ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を溶融重合
するPAS樹脂の製造方法において,重合禁止剤を添加することのみによ
って必ず相違点1に係る低ヨウ素含有量を実現できることが導き出せると
はいえず,ほかにこれを認めるに足る証拠もない。したがって,先願明細
書発明Bと本件発明4は,必ずしも,同じ方法で,同じ程度に低ヨウ素含
有量を実現しているとはいえず,その前提自体に誤りがある。
上記2)についても,被告自身,「本件明細書の記載からは,本件発明4
のヨウ素含有量が得られるのは,重合禁止剤の添加時期によらないと理解
される」と述べているように,飽くまで,本件明細書の記載からは関係が
読み取れないというだけで,およそ重合禁止剤の添加時期がヨウ素含有量
に影響を与えないことについての主張立証まではなされていない。むしろ,
前記のとおり,技術常識を踏まえると,重合禁止剤の種類や添加の割合の
みならず,添加の時期(タイミング)によっても,得られる樹脂の重合度
や不純物としてのヨウ素含有量が異なることが予測されるのであって,こ\nれによれば,重合禁止剤の添加時期と本件発明4のヨウ素含有量が無関係
であるとは,直ちに断定できない(本件発明の製造方法で起こる化合物等
の反応工程として原告が説明する工程が本件明細書に記載されている反応
工程とは異なるとの被告の主張も,この点を左右するものではない。)。
上記3)についても,被告の主張は,本件明細書の実施例1ないし4で重
合禁止剤(4,4’−ジチオビス安息香酸)の使用量(添加量)が増えれ
ばPAS樹脂中の残留ヨウ素量が減るとの関係があることを前提とするも
のであると解されるが,先願明細書発明Bと本件明細書の実施例とでは,
(重合禁止剤に関する誤記の点は措くとしても)少なくとも重合禁止剤の
添加時期が異なることから,先願明細書発明Bにおいても重合禁止剤の添
加量とヨウ素含有量との間に(本件発明4におけるそれと)同様の関係が
導き出せるとは限らない。
結局のところ,先願明細書発明Bに記載されたPAS樹脂のヨウ素含有
量を具体的に推測できるだけの根拠は,先願明細書の記載や本件特許の出
願時における技術常識を参酌しても導き出すことができず,ほかに先願明
細書発明Bに係るPAS樹脂のヨウ素含有量が本件発明4と同程度に少な
いことを認めるに足りる証拠はない。
イ 実験報告書(甲9実験)について
決定は,甲9の実験報告書によれば,甲5の実施例5と同様に製造した
PAS樹脂のヨウ素含有量が850ppmであると認められることから,
本件発明4で特定するPAS樹脂組成物のヨウ素含有量は,先願明細書発
明BにおけるPAS樹脂のヨウ素原子含有量と重複一致する蓋然性が高い
と判断している。
しかしながら,まず,異議申立人による上記実験報告書では,重合反応\nが80%程度進んだ段階で,「重合禁止剤2,2’−ジチオビスベンゾト
リアゾル」を25g添加したとされているが,異議申立人自身が,先願の\n国内移行出願において,かかる物質名で定義される化合物は存在せず,誤
記である旨を主張(自認)して,当初明細書である甲5の記載を正しい記
載に訂正する手続補正を行っており(甲30),それにもかかわらず,な
ぜ追試である上記実験報告書にあえて存在しない化合物名がそのまま記載
されているのか,疑問がないとはいえない(この点は,上記実験報告書を
作成するに当たり,当初明細書の誤記をそのまま引き写してしまっただけ
の単純ミスである可能性も否定できないが,重合禁止剤として実在しない\n化合物名が記載されているということは,その内容の杜撰さを示す一例と
みざるを得ないのであって,実験報告書全体の信用性を疑わせる一つの事
情となることは否定できない。)。
また,この点は措くとしても,上記実験報告書の「1.実験方法」の欄
には,「「5)Chip cutting:反応完了した樹脂をN2加圧して,小型スト
ランドカッターを使用したpellet形態に製造。」との記載があり,かかる
記載が,甲5の実施例5における,「反応が完了した樹脂を,小型ストラ
ンドカッター機を用いてペレット形態で製造した。」との記載に対応する
ものであって,同実施例と同様に,反応が完了した樹脂を小型ストランド
カッターによってペレット形態とすることを示すものであることは理解で
きるが,「N2加圧」処理を行うことの技術的な意味は明らかではないし
(すなわち,いかなる状態の樹脂に対して,何のために行うのか,例えば,
溶融状態の樹脂に対して加圧処理を行うのか,ストランド〔細い棒状〕に
形成するための押し出しをN2による加圧で行うのか,形成されたストラ
ンドに対して行うのかなどの点が不明である。),少なくともカッティン
グの前に樹脂を「N2加圧」することが当該技術分野における技術常識で
あるとはいえない。また,高温の樹脂に対しN2加圧を行うことによって,
樹脂中のヨウ素が抜ける可能性がないとはいえず(少なくともその可能\性
が全くないことを示す証拠はない。),かかる「N2加圧」がヨウ素含有
量に対してどのような影響を及ぼすのかも不明である。
この点,被告は,上記ストランド押し出しを窒素加圧下で行うことが記
載されている乙9ないし12を引用して,N2加圧が周知の技術的事項で
ある旨反論するが,仮にストランドを形成するための押し出しをN2加圧
によって行うことが周知の手段であっても,上記実験報告書における「N
2加圧」がこれらの乙号証に記載された工程と同じものを意味するものと
は限らないし,結局,かかる「N2加圧」がヨウ素含有量に対してどのよ
うな影響を及ぼすのかが不明であることに変わりはない。
以上によれば,実験報告書(甲9)は,必ずしも甲5の実施例5を忠実
に追試したものであるとはいえず,かかる実験報告書(甲9実験)に基づ
いて,甲5の実施例5と同様に製造したPAS樹脂のヨウ素含有量が85
0ppmであるとか,本件発明4で特定するPAS樹脂組成物のヨウ素含
有量は,先願明細書発明BにおけるPAS樹脂のヨウ素原子含有量と重複
一致する蓋然性が高いなどと認めることはできないというべきである。
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2017.10. 4
平成28(行ケ)10183 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年10月3日 知的財産高等裁判所(4部)
進歩性違反なしとした審決が維持されました。興味深いのは、引用文献に記載の発明の認定は誤りであるが、いずれにしても容易ではないとして、審決維持です。
引用例1には,黒鉛粉末とリチウム金属粒子とを混合粉砕することにより,リチ
ウム粒子が微粉末になると同時に,その一部が微粉末化された黒鉛の層間にインタ
ーカレートし,リチウム元素微粒子をゲストとする層間化合物を形成すること,実
施例3で形成された層間化合物の層間距離が3.71Å(0.371nm)であり,
これはリチウムが黒鉛の層間に入って形成された層間化合物の公知の層間距離3.
72Å(0.372nm)にほぼ一致するものであることが記載されている(【0
026】〜【0028】)。また,証拠(甲22)によれば,リチウムをゲストと
するステージ1の黒鉛層間化合物における層間距離は3.706Åであることが認
められる。
そうすると,本件引用発明1における「層間化合物」は,ホストである黒鉛の層
間に,リチウム元素微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた,
黒鉛層間化合物であるといえる。
したがって,本件審決が,引用例1には金属の元素微粒子が金属層となっている
ことは記載も示唆もされていないとして,相違点1は実質的な相違点であると認定
したことについては,誤りがある。
・・・・
ア 本件各発明は,高容量と長いサイクル寿命とを共に実現することを可能にす\nる負極及びこの負極を用いた二次電池を提供することを目的とし,構成として,負\n極活物質が,ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能なSn,Si,P\nb,Al又はGaから選択される金属の微粒子がゲストとしてインターカレートさ
れた,黒鉛層間化合物から成ることにより,リチウムと合金化可能な金属が黒鉛の\n層間という導電性マトリックス内にあるようにし,これにより,金属と黒鉛との電
気的な接触が充分になされ電気伝導性を確保することができ,また金属を微粒子化
しても,導電性マトリックス内に囲われているので,金属の微粒子によって電解液
が分解しないように抑制することができ,そして,負極活物質がリチウムと合金化
可能な金属を有するので,負極を備えた電池の容量を高めることが可能\になる,と
いうものである。
これに対し,本件引用発明1は,従来技術である,金属を加熱して気相で黒鉛と
接触反応させる方法や電気化学的な方法を用いて製造された黒鉛複合物には,黒鉛
中に層間化合物と金属とが十分に微細分散されておらず,リチウム二次電池の負極\n材料として使用した場合に,充放電を繰り返すうちに上記金属が剥離して負極活物
質として作用しなくなるという不具合があったことから,粉砕法によって,黒鉛粒
子,金属微粒子及び層間化合物とが微細に分散した黒鉛複合物を形成し,それによ
り,層間に多量のリチウムイオンをインターカレート可能な黒鉛粒子を使用可能\と
したり,微細化により導電性を高めようとしたりするものである。
このように,本件引用発明1においては,粉砕法によって黒鉛複合物を形成する
ことが中核を成す技術的思想ということができる。また,引用例1には,リチウム
と合金化可能な金属が黒鉛の層間という導電性マトリックス内にあるようにするこ\nとにより,電気伝導性を確保し,金属を微粒子化しても電解液が分解しないように
抑制することができ,負極を備えた電池の容量を高めるという,本件各発明の技術
思想は開示されていない。
したがって,引用例1に接した当業者が,本件引用発明1におけるゲストとして
インターカレートされる「リチウム金属の微粒子」を「リチウムと合金化可能なS\nn,Si,Pb,Al又はGaから選択される金属の微粒子」に置き換えた上で,
さらに,黒鉛層間化合物の製造方法について,本件引用発明1において中核を成す
粉砕法に換えて,微細分散工程のない塩化物還元法や気体法その他の方法を採用す
ることを容易に想到できたということはできない。
イ また, 前記2(2)のとおり,Si及びAlは,単体金属原子として黒鉛の層間
にインターカレートすることはできないことから,これらの元素微粒子と黒鉛粒子
とを粉砕法により混合粉砕しても,黒鉛層間化合物を製造することはできないもの
と認められ,証拠(甲6)によれば,Gaについても,Si及びAlと同様に,こ
の元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕しても,黒鉛層間化合物を製造
することはできないものと認められる。そして,Sn及びPbについても,本件特
許の出願当時,これらを単体金属原子として黒鉛の層間にインターカレートするこ
とができるなど,これらの元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕するこ
とにより,黒鉛層間化合物を製造することができるとの知見が存在したとは認めら
れない。
したがって,引用例1に接した当業者が,本件引用発明1におけるゲストとして
インターカレートされる「リチウム金属の微粒子」を「リチウムと合金化可能なS\nn,Si,Pb,Al又はGaから選択される金属の微粒子」に置き換えて,これ
らの金属の微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕することにより,これらの
金属をゲストとする黒鉛層間化合物を製造することを容易に想到できたということ
もできない。
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2017.09.23
平成29(行ケ)10001 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年9月19日 知的財産高等裁判所
引用発明の認定誤りを理由として、進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。
引用発明の「柱状物」「柱先端部」「柱状物構造」は,それぞれ,本件補正発明\nの「支柱」「先端部分」「鋼管ポール」に相当する。また,引用発明の「炭素鋼を
使用し」「柱状物を支持する支持基礎」は,本件補正発明の「前記支柱の下端部を
固定する鋼製基礎」に相当する。
そして,前記検討によれば,引用発明の「ベース」及び「平板状の羽根」は,別
の部材により「支柱」を固定し,支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受ける
ことにより,「支柱の下端部を固定する」部材であって,引用発明の,「ベースの
パイプの取付部に貫通穴を設けることにより,柱状物は,柱先端部が」「ベースを
貫通して土中に突出している」構成は,本件補正発明の「前記支柱は前記基礎体を\n貫通して先端部分が地中に突出していること」に相当し,引用発明の「土中に埋込
んで」は,本件補正発明の「地中に埋設され」に相当し,さらに,これらによれば,
引用発明の「ベース」及び「平板状の羽根」は,本件補正発明の「基礎体」に相当
する。一方,「パイプ」が,本件補正発明の「基礎体」に相当するということはで
きない。
したがって,本件補正発明と引用発明とは,「支柱と,前記支柱の下端部を固定
する鋼製基礎とを有する鋼管ポールであって,前記鋼製基礎は基礎体から構成され,\n前記基礎体は地中に埋設され,前記支柱は前記基礎体を貫通して先端部分が地中に
突出している鋼管ポール」である点で一致し,相違点1及び2(前記第2の3(2)
イ(イ)及び(ウ))のほか,以下の点で相違する(原告主張に係る相違点3に同じ)。
「基礎体」に関して,本件補正発明は「上下に貫通した筒状」であるのに対し,
引用発明は「中央部にパイプを溶接で強固に突設し」た「ベース」と当該「ベース
のパイプ取付面の四隅に配設し」た「平板状の羽根」とからなる点。
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2017.08.17
平成28(行ケ)10119 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年8月3日 知的財産高等裁判所
審決(無効)は進歩性ありと判断しましたが、知財高裁は、当業者なら公報記載事項から相違点に関する技術が読み取れるとして、これを取り消しました。
甲2には,上記のようにブラシを減らすことができる原理を説明する明示的な記
載はないが,甲2の【0033】における「従来の電動モータ1では,第1のブラ
シ11a及び第3のブラシ11cを介して電流が流れるが,この実施の形態では第
1のブラシ89aを介して電流が流れ,ブラシ89aを通じて流れる電流量が従来
のものと比較して2倍となる。」との記載からすると,甲2においてブラシを減らす
ことができるのは,均圧線を設けたことの結果として,1個のブラシから供給され
た電流が,そのブラシに当接する整流子片に供給されるとともに,均圧線を通じて
同電位となるべき整流子片にも供給されることによって,対となる他方のブラシが
なくとも従来モータと同様の電流供給が実現できるためであることが理解できる。
この点について,被告は,甲2には,均圧線の使用とブラシ数の削減とを結び付け
る記載がないことを理由に,接続線を使用してブラシの数を半減する技術が開示さ
れていない旨主張するが,そのような明示的な記載がなくとも,甲2の記載から上
記のとおりの理解は可能というべきである。また,被告は,甲2の4ブラシモータの電気回路図(図16)と2ブラシモータの電気回路図(図2)を対比すると,そ\nの配線が完全に一致すると主張するが,4ブラシモータの電気回路図(図16)に
おいても,2ブラシモータの電気回路図(図2)においても,整流子片1,2,1
2及び13が+電位となり,整流子片6〜8及び17〜19が−電位になっており,
その結果,ブラシ以外の電気回路(巻線及び均圧線の接続関係)に変化を加えなく
とも両者がモータとして同じ電気的特性を持つことが理解できるところ,2ブラシ
モータの電気回路図においては,前記の整流子片が同電位となるために均圧線の存
在が必須であることが理解できるから,甲2の4ブラシモータの電気回路図と2ブ
ラシモータの電気回路図との配線が一致することは,均圧線の存在によってブラシ
数の削減が可能になることを示すものであって,このことが,甲2には接続線を使用してブラシの数を半減する技術が開示されていないことの根拠となり得るもので\nはない。
イ そうすると,甲2の記載に接した当業者は,甲2には,4極重巻モータ
において,同電位となるべき整流子間を均圧線で接続することにより,同電位に接
続されている2個のブラシを1個に削減し,もって,ブラシ数の多さから生じるロ
ストルク,ブラシ音及びトルクリップルが大きくなるという問題を解決する技術が
開示されていることを理解するものといえる。
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2017.08.11
平成28(行ケ)10038 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年7月26日 知的財産高等裁判所(3部)
無効審判に対して、訂正請求を行いました。審決は訂正は認める、特許は無効とすると判断しました。これに対して、知財高裁は、引用発明の認定誤りによる一致点の認定誤りを理由に、進歩性無しとした審決を取り消しました。
本件発明1についての一致点の認定の誤り・相違点の看過について
原告は,本件審決が,甲11発明1は,「第一成分」と「第二成分」とを総和
として液晶組成物の全重量に基づき「10重量%から100重量%」含有する
ものであるとした上で,「成分として,一般式(II−1)及び(II−2)・・・
で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有し,その含\n有量が20から80質量%であり」との構成を本件発明1と甲1発明1の一致\n点と認定したのは誤りであり,その結果,本件審決は相違点を看過している旨
主張するので,以下検討する(ただし,本件審決の「甲1発明1」の認定に不
備があることは上記2のとおりであるから,以下の判断においては,甲1発明
1が上記2(2)ア(ウ)のとおりのものであることを前提に検討を進める。)。
(1) 本件審決は,甲1発明1における「第一成分として式(1−1)及び式(1
−2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」が,\n本件発明1における「第二成分として,・・・一般式(II−1)・・・で表される\n化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物」を包含すること,及び甲
1発明1における「第二成分として式(2−1)で表される化合物の群から\n選択された少なくとも1つの化合物」が,本件発明1における「第二成分と
して,・・・一般式・・・(II−2)・・・で表される化合物群から選ばれる1種又は\n2種以上の化合物」を包含することを前提として,甲1発明1において,液
晶組成物の全重量に基づいて,第一成分の重量が「5重量%から60重量%」
であり,第二成分の重量が「5重量%から40重量%」であることは,第一
成分と第二成分の総和としての重量が「10重量%から100重量%」であ
ることを意味するから,本件発明1と甲1発明1は,「一般式(II−1)
及び(II−2)・・・で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化\n合物を含有し,その含有量が20から80質量%であり」との点において一
致する旨認定する(別紙審決書48,49頁)。
しかしながら,1)甲1発明1における「式(1−1)及び式(1−2)で
表される化合物」と2)本件発明1における「一般式(II−1)で表される\n化合物」とを対比すると,2)のR1及びR2は,「それぞれ独立的に炭素原子
数1から10のアルキル基,炭素原子数1から10のアルコキシル基,炭素
原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオ
キシ基」であるのに対し,1)のR6及びR5は,「R5は,炭素数1から12を
有する直鎖のアルキルまたは炭素数1から12を有する直鎖のアルコキシで
あり,R6は,炭素数1から12を有する直鎖のアルキルまたは炭素数2から
12を有する直鎖のアルケニルである」ことから明らかなとおり,両者の関
係は,本件審決がいうように1)の化合物が2)の化合物を包含するという関係
にあるものではなく,1)の化合物の一部と2)の化合物の一部が一致するとい
う関係にあるものにすぎない(例えば,式(1−1)又は式(1−2)にお
いてR6が炭素数11を有する直鎖のアルキルである1)の化合物は,2)の化合
物には含まれないし,他方,一般式(II−1)においてR1がアルコキシル
基である2)の化合物は,1)の化合物には含まれない。)。そして,このこと
は,甲1発明1における「式(2−1)で表される化合物」と,本件発明1\nにおける「一般式(II−2)で表される化合物」の関係にも同様に当ては\nまることである。
してみると,甲1発明1が,「式(1−1)及び式(1−2)で表される\n化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」及び「式(2−1)で
表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」を含有するこ\nとをもって,本件発明1における「一般式(II−1)及び(II−2)…
で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有」するこ\nとと一致するということはできないのであって,この点について,本件審決
が本件発明1と甲1発明1の一致点と認定したことは誤りである。
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2017.07. 5
平成28(行ケ)10220 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年7月4日 知的財産高等裁判所(4部)
CS関連発明について、認定については誤っていないとしたものの、
引用例には、本願発明の具体的な課題の示唆がなく、相違点5について、容易に想到するものではないとして、進歩性無しとした審決が取り消されました。
確かに,引用例には,発明の目的は,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士
のような専門知識を持った複数の専門家が,給与計算やその他の処理を円滑に行う
ことができるようにするものであり(【0005】),同発明の給与計算システム及び
給与計算サーバ装置によれば,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士のような
専門知識を持った複数の専門家を,情報ネットワークを通じて相互に接続すること
によって,給与計算やその他の処理を円滑に行うことができること(【0011】),
発明の実施の形態として,複数の事業者端末と,複数の専門家端末と,給与データ
ベースを有するサーバ装置とが情報ネットワークを通じて接続された給与システム
であり,専門家端末で給与計算サーバ装置にアクセスし,給与計算を行うための固
定項目や変動項目のデータを登録するマスター登録を行い(【0018】〜【002
1】),マスター登録された情報とタイムレコーダ5から取得した勤怠データとに基
づき,給与計算サーバ装置で給与計算を行い,給与担当者が,事業者端末で給与明
細書を確認した上で,給与振り込みデータを金融機関サーバに送信する(【0022】
〜【0025】,【0041】〜【0043】,図7のS11〜S20)ほか,専門家
が専門家端末を介して給与データベースを閲覧し(【0031】〜【0033】),社
会保険手続や年末調整の処理を行うことができる(【0026】〜【0030】,【0
044】,【0045】,図7のS21〜S28)とする構成が記載されていることが\n認められる。
しかし,引用文献が公開公報等の特許文献である場合,当該文献から認定される
発明は,特許請求の範囲に記載された発明に限られるものではなく,発明の詳細な
説明に記載された技術的内容全体が引用の対象となり得るものである。よって,引
用文献の「発明が解決しようとする課題」や「課題を解決するための手段」の欄に
記載された事項と一致しない発明を引用発明として認定したとしても,直ちに違法
とはいえない。
そして,引用例において,社労士端末や税理士端末に係る事項を含まない,給与
計算に係る発明が記載されていることについては,上記(2)のとおりであるから,こ
の発明を引用発明として認定することが誤りとはいえない。
・・・・
ウ 以上のとおり,周知例2,甲7,乙9及び乙10には,「従業員の給与支払
機能を提供するアプリケーションサーバを有するシステムにおいて,企業の給与締\nめ日や給与支給日等を含む企業情報及び従業員情報を入力可能な利用企業端末のほ\nかに,1)従業員の取引金融機関,口座,メールアドレス及び支給日前希望日払いの
要求情報(周知例2),2)従業員の勤怠データ(甲7),3)従業員の出勤時間及び退
勤時間の情報(乙9)及び4)従業員の勤怠情報(例えば,出社の時間,退社の時間,
有給休暇等)(乙10)の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること」\nが開示されていることは認められるが,これらを上位概念化した「上記利用企業端
末のほかに,およそ従業員に関連する情報(従業員情報)全般の入力及び変更が可
能な従業者の携帯端末機を備えること」や,「上記利用企業端末のほかに,従業員\n入力情報(扶養者情報)の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること」\nが開示されているものではなく,それを示唆するものもない。
したがって,周知例2,甲7,乙9及び乙10から,本件審決が認定した周知技
術を認めることはできない。また,かかる周知技術の存在を前提として,本件審決
が認定判断するように,「従業員にどの従業員情報を従業員端末を用いて入力させ
るかは,当業者が適宜選択すべき設計的事項である」とも認められない。
(3)動機付けについて
本願発明は,従業員を雇用する企業では,総務部,経理部等において給与計算ソ\nフトを用いて給与計算事務を行っていることが多いところ,市販の給与計算ソフト\nには,各種設定が複雑である,作業工程が多いなど,汎用ソフトに起因する欠点も\nあることから,中小企業等では給与計算事務を経営者が行わざるを得ないケースも
多々あり,大きな負担となっていることに鑑み,中小企業等に対し,給与計算事務
を大幅に簡便にするための給与計算方法及び給与計算プログラムを提供することを
目的とするものである(本願明細書【0002】〜【0006】)。
そして,本願発明において,各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業
員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて,同端末から扶養者情報等の給与\n計算を変動させる従業員情報を入力させることにしたのは,扶養者数等の従業員固
有の情報(扶養者数のほか,生年月日,入社日,勤怠情報)に基づき変動する給与
計算を自動化し,給与計算担当者を煩雑な作業から解放するためである(同【00
35】)。
一方,引用例には,発明の目的,効果及び実施の形態について,前記2(1)のとお
り記載されており,引用例に記載された発明は,複数の事業者端末と,複数の専門
家端末と,給与データベースを有するサーバ装置とが情報ネットワークを通じて接
続された給与システムとし,専門家端末で給与計算サーバ装置にアクセスし,給与
計算を行うための固定項目や変動項目のデータを登録するマスター登録を行うこと
などにより,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士のような専門知識を持った
複数の専門家が,給与計算やその他の処理を円滑に行うことができるようにしたも
のである。
したがって,引用例に接した当業者は,本願発明の具体的な課題を示唆されるこ
とはなく,専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて,各従業員\nの従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成とすることにより,相違\n点5に係る本願発明の構成を想到するものとは認め難い。\nなお,引用発明においては,事業者端末にタイムレコーダが接続されて従業員の
勤怠データの収集が行われ,このデータが給与計算サーバ装置に送信されて給与計
算が行われるという構成を有するから,給与担当者における給与計算の負担を削減\nし,これを円滑に行うということが,被告の主張するように自明の課題であったと
しても,その課題を解決するために,上記構成に代えて,勤怠データを従業員端末\nのウェブブラウザ上に表示させて入力させる構\成とすることにより,相違点5に係
る本願発明の構成を採用する動機付けもない。\n
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2017.06.23
平成28(行ケ)10071 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年6月14日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は、相違点の認定誤りです。
ア 本件審決は,「保護方法データベース」に記憶された「入力元のアプ
リケーション」が保護対象データである「ファイル」を処理するのは自明
であり,機密事項を保護対象データとして扱うことは当該技術分野の技術
常識であることから,引用発明の「入力元のアプリケーション」,「識別
子」はそれぞれ,本願発明の「機密事項を扱うアプリケーション」,「機
密識別子」に相当し,また,引用発明の「保護方法データベース」に「入
力元のアプリケーション」の「識別子」が記憶されていることは明らかで
あるから,引用発明の「保護方法データベース」は本願発明の「機密事項
を扱うアプリケーションを識別する機密識別子が記憶される機密識別子記
憶部」に相当する旨認定・判断した。
イ(ア) しかし,前記認定に係る本願明細書及び引用例1の記載によれば,
本願発明における「機密識別子」は「機密事項を扱うアプリケーション
を識別する」ものとして定義されている(本願明細書【0006】等)
のに対し,引用発明におけるアプリケーションの「識別子」は,アプリ
ケーションを特定する要素(アプリケーション名,プロセス名等)とし
て位置付けられるものであって(引用例1【0037】等),必ずしも
直接的ないし一次的に機密事項を扱うアプリケーションを識別するもの
とはされていない。
(イ) また,本願発明は,「すべてのアプリケーションに関して同じ保護
を行うと,安全性は高くなるが,利便性が低下するという問題が生じ
る」(本願明細書【0004】)という課題を解決するために,「当
該アプリケーションが,前記機密識別子記憶部で記憶されている機密
識別子で識別されるアプリケーションであり,送信先がローカル以外
である場合に」「送信を阻止」するという構成を採用したものである。\nこのような構成を採用することによって,「機密事項を含むファイル\n等が送信によって漏洩することを防止することができ」,かつ,「機
密識別子で識別されるアプリケーション以外のアプリケーションにつ
いては,自由に送信をすることができ,ユーザの利便性も確保するこ
とができる」という効果が奏せられ(本願明細書【0007】),前
記課題が解決され得る。このことに鑑みると,本願発明の根幹をなす
技術的思想は,アプリケーションが機密事項を扱うか否かによって送
信の可否を異にすることにあるといってよい。
他方,引用発明において,アプリケーションは,機密事項を扱うか否
かによって区別されていない。すなわち,そもそも,引用例1には機密
事項の保護という観点からの記載が存在しない。また,引用発明は,柔
軟なデータ保護をその解決すべき課題とするところ(【0008】),
保護対象とされるデータの保護されるべき理由は機密性のほかにも考え
得る。このため,機密事項を保護対象データとして取り扱うことは技術
常識であったとしても,引用発明における保護対象データが必ず機密事
項であるとは限らない。しかも,引用発明は,入力元のアプリケーショ
ンと出力先の記憶領域とにそれぞれ安全性を設定し,それらの安全性を
比較してファイルに保護を施すか否かの判断を行うものである。このた
め,同じファイルであっても,入力元と出力先との安全性に応じて,保
護される場合と保護されない場合とがあり得る。
これらの点に鑑みると,引用発明の技術的思想は,入力元のアプリケ
ーションと出力先の記憶領域とにそれぞれ設定された安全性を比較する
ことにより,ファイルを保護対象とすべきか否かの判断を相対的かつ柔
軟に行うことにあると思われる。かつ,ここで,「入力元のアプリケー
ションの識別子」は,それ自体として直接的ないし一次的に「機密事項
を扱うアプリケーション」を識別する作用ないし機能は有しておらず,\n上記のようにファイルの保護方法を求める上で比較のため必要となる
「入力元のアプリケーション」の安全性の程度(例えば,その程度を示
す数値)を得る前提として,入力元のアプリケーションを識別するもの
として作用ないし機能するものと理解される。\nそうすると,本願発明と引用発明とは,その技術的思想を異にするも
のというべきであり,また,本願発明の「機密識別子」は「機密事項を
扱うアプリケーションを識別する」ものであるのに対し,引用発明の
「アプリケーションの識別子」は必ずしも機密事項を扱うアプリケーシ
ョンを識別するものではなく,ファイルの保護方法を求める上で必要と
なる安全性の程度(例えば,数値)を得る前提として,入力元のアプリ
ケーションを識別するものであり,両者はその作用ないし機能を異にす\nるものと理解するのが適当である。
(ウ) このように,本願発明の「機密識別子」と引用発明の「識別子」が
相違するものであるならば,それぞれを記憶した本願発明の「機密識
別子記憶部」と引用発明の「保護方法データベース」も相違すること
になる。
ウ 以上より,この点に関する本件審決の前記認定・判断は,上記各相違点
を看過したものというべきであり,誤りがある。
エ これに対し,被告は,相違点AないしBの看過を争うとともに,仮に相
違点Bが存在するとしても,その点については,本件審決の相違点1に
関する判断において事実上判断されている旨主張する。
このうち,相違点AないしBの看過については,上記ア及びイのとお
りである。
また,本件審決の判断は,1)引用例2に記載されるように,ファイル
を含むパケットについて,内部ネットワークから外部ネットワークへの
持ち出しを判断し,送信先に応じて許可/不許可を判定すること,すな
わち,内部ネットワーク(ローカル)以外への送信の安全性が低いとし
てセキュリティ対策を施すことは,本願出願前には当該技術分野の周知
の事項であったこと,2)参考文献に記載されるように,機密ファイルを
あるアプリケーションプログラムが開いた後は,電子メール等によって
当該アプリケーションプログラムにより当該ファイルが機密情報保存用
フォルダ(ローカル)以外に出力されることがないようにすることも,
本願出願前には当該技術分野の周知技術であったことをそれぞれ踏まえ
て行われたものである。
しかし,1)に関しては,本件審決の引用する引用例2には,送信の許
可/禁止の判定は送信元及び送信先の各IPアドレスに基づいて行われ
ることが記載されており(【0030】),アプリケーションの識別子
に関する記載は見当たらない。また,前記のとおり,引用発明における
識別子は,アプリケーションが機密事項を扱うものか否かを識別する作
用ないし機能を有するものではない。\n2)に関しては,参考文献記載の技術は,機密情報保存用フォルダ内の
ファイルが当該フォルダの外部に移動されることを禁止するものである
ところ(【0011】),その実施の形態として,機密情報保存用フォ
ルダ(機密フォルダ15A)の設定につき,「システム管理者は,各ユ
ーザが使用するコンピュータ10内の補助記憶装置15内に特定の機密
ファイルを保存するための機密フォルダ15Aを設定し,ユーザが業務
で使用する複数の機密ファイルを機密フォルダ15A内に保存する。」
(同【0018】)との記載はあるものの,起動されたアプリケーショ
ンプログラムが機密事項を扱うものであるか否かという点に直接的に着
目し,これを識別する標識として本願発明の機密識別子に相当するもの
を用いることをうかがわせる記載は見当たらない(本件審決は,参考文
献の記載(【0008】,【0009】,【0064】)に言及するも
のの,そこでの着目点は機密ファイルをあるアプリケーションプログラ
ムが開いた後の取扱いであって,その前段階として機密ファイルを定め
る要素ないし方法に言及するものではない。)。このように,当該周知
技術においては,アプリケーションが機密事項を扱うものであるか否か
を識別する機密識別子に相当するものが用いられているとはいえない。
なお,参考文献の記載(【0032】等)によれば,アプリケーショ
ンプログラムのハンドル名がアプリケーションの識別子として作用する
ことがうかがわれるが,参考文献記載の技術は,アプリケーションが実
際に機密ファイルをオープンしたか否かによって当該アプリケーション
によるファイルの外部への格納の可否が判断されるものであり,入力元
と出力先との安全性の比較により処理の可否を判断する引用発明とは処
理の可否の判断の原理を異にする。また,扱うファイルそのものの機密
性に着目して機密ファイルを外部に出すことを阻止することを目的とす
る点で,扱うファイルそのものの機密性には着目していない引用発明と
は目的をも異にする。このため,引用発明に対し参考文献記載の技術を
適用することには,動機付けが存在しないというべきである。
そうすると,相違点Bにつき,引用発明に,引用例2に記載の上記周
知の事項を適用しても,本願発明の「機密識別子」には容易に想到し得
ないというべきであるし,参考文献記載の周知技術はそもそも引用発明
に適用し得ないものであり,また,仮に適用し得たとしても,本願発明
の「機密識別子」に想到し得るものではない。そうである以上,相違点
Bにつき,本件審決における相違点1の判断において事実上判断されて
いるとはいえない。
◆判決本文
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2017.06.16
平成28(行ケ)10037 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年6月14日 知的財産高等裁判所
審決は、新規性無し(29条1項3号違反)で無効と判断しましたが、知財高裁はこれを取り消しました。
1 本件審決の判断構造と原告の主張の理解
本件審決が認定した本件発明と引用発明(甲1発明)は,いずれも多数の選
択肢から成る化合物に係る発明であるところ,本件審決は,両発明の間に一応
の相違点を認めながら,いずれの相違点も実質的な相違点ではないとして,本
件発明と甲1発明が実質的に同一であると認定判断し,その結果,本件発明に
は新規性が認められないとの結論を採用した。
その理由とするところは,本件発明1に関していえば,相違点に係る構成は\nいずれも単なる選択を行ったにすぎず,相違点に係る化合物の選択使用に格別
の技術的意義が存するものとはいえない(相違点1ないし3),あるいは,引
用発明(甲1発明A)が相違点に係る構成態様を包含していることは明らかで\nあり,かつ,その構成態様を選択した点に格別な技術的意義が存するものとは\n認められない(相違点4)というものであり,本件発明1を引用する本件発明
2ないし14,本件発明14を引用する本件発明15ないし17についても,
それぞれ,引用発明(甲1発明A又はB)との間に新たな相違点が認められな
いか,新たな相違点が認められるとしても,各相違点に係る構成が甲1に記載\nされているか,その構成に格別な技術的意義が存するものとは認められないか\nら,いずれも実質的な相違点であるとはいえないというものである。
要するに,本件審決は,引用発明である甲1発明と本件発明との間に包含関
係(甲1発明を本件発明の上位概念として位置付けるもの)を認めた上,甲1
発明において相違点に係る構成を選択したことに格別の技術的意義が存するか\nどうかを問題にしており,その結果,本件発明が甲1発明と実質的に同一であ
るとして新規性を認めなかったのであるから,本件審決がいわゆる選択発明の
判断枠組みに従って本件発明の特許性(新規性)の判断を行っていることは明
らかである。
これに対し,原告は,取消事由として,引用発明認定の誤り(取消事由A)
や一致点認定の誤り(取消事由1)を主張するものの,本件審決が認定した各
相違点(相違点1ないし4)それ自体は争わずに,本件審決には,「特許発明
と刊行物に記載された発明との相違点に選択による格別な技術的意義がなけれ
ば,当該相違点は実質的な相違点ではない」との前提自体に誤りがあり(取消
事由2),また,仮にその前提に従ったとしても,相違点1ないし4には格別
な技術的意義が認められるから,特許性の有無に関する相違点の評価を誤った
違法があると主張している(取消事由3)。
これによれば,原告は,本件審決が採用した特許性に関する前記の判断枠組
みとその結論の妥当性を争っていることが明らかであり,取消事由2及び3も
そのような趣旨の主張として理解することができる。
また,本件発明2ないし17はいずれも本件発明1を更に限定したものと認
められるから,本件発明1の特許性について判断の誤りがあれば,本件発明2
ないし17についても同様に,結論に重大な影響を及ぼす判断の誤りがあると
いえる。
以上の観点から,まず,本件発明1に関し,本件審決が認定した各相違点(相
違点1ないし4)を前提に,各相違点が実質的な相違点ではないとして特許性
を否定した本件審決の判断の当否について検討することとする。
・・・・
本件訂正後の特許請求の範囲の記載(前記第2の2)及び本件明細書の記
載(前記(1))によれば,本件発明は,次の特徴を有すると認められる。
・・・
(1) 特許に係る発明が,先行の公知文献に記載された発明にその下位概念とし
て包含されるときは,当該発明は,先行の公知となった文献に具体的に開示
されておらず,かつ,先行の公知文献に記載された発明と比較して顕著な特
有の効果,すなわち先行の公知文献に記載された発明によって奏される効果
とは異質の効果,又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏する場合
を除き,特許性を有しないものと解するのが相当である 。
ここで,本件発明1が甲1発明Aの下位概念として包含される関係にある
ことは前記3のとおりであるから,本件発明1は,甲1に具体的に開示され
ておらず,かつ,甲1に記載された発明すなわち甲1発明Aと比較して顕著
な特有の効果を奏する場合を除き,特許性を有しないというべきである。
そして,甲1に本件発明1に該当する態様が具体的に開示されているとま
では認められない(被告もこの点は特に争うものではない。)から,本件発
明1に特許性が認められるのは,甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を
奏する場合(本件審決がいう「格別な技術的意義」が存するものと認められ
る場合)に限られるというべきである。
(2) この点に関し,本件審決は次のとおり判断した。
・・・・
エ 以上によれば,本件審決は,
(1) 甲1発明Aの「第三成分」として,甲1の「式(3−3−1)」及び
「式(3−4−1)」で表される重合性化合物を選択すること,\n(2) 甲1発明Aの「第一成分」として,甲1の「式(1−3−1)」及び「式
(1−6−1)」で表される化合物を選択すること,\n(3) 甲1発明Aの「第二成分」として,甲1の「式(2−1−1)」で表さ\nれる化合物を選択すること,
(4) 甲1発明Aにおいて,「塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない」
態様を選択すること,
の各技術的意義について,上記(1)の選択と,同(2)及び(3)の選択と,同(4)の
選択とをそれぞれ別個に検討した上,それぞれについて,格別な技術的意
義が存するものとは認められないとして,相違点1ないし4を実質的な相
違点であるとはいえないと判断し,本件発明1の特許性(新規性)を否定
したものといえる。
(3) 本件審決の判断の妥当性
本件発明1は,甲1発明Aにおいて,3種類の化合物に係る前記(1)ないし
(3)の選択及び「塩素原子で置換された液晶化合物」の有無に係る前記(4)の選
択がなされたものというべきであるところ,証拠(甲42)及び弁論の全趣
旨によれば,液晶組成物について,いくつかの分子を混ぜ合わせること(ブ
レンド技術)により,1種類の分子では出せないような特性を生み出すこと
ができることは,本件優先日の時点で当業者の技術常識であったと認められ
るから,前記(1)ないし(4)の選択についても,選択された化合物を混合するこ
とが予定されている以上,本件発明の目的との関係において,相互に関連す\nるものと認めるのが相当である。
そして,本件発明1は,これらの選択を併せて行うこと,すなわち,これ
らの選択を組み合わせることによって,広い温度範囲において析出すること
なく,高速応答に対応した低い粘度であり,焼き付き等の表示不良を生じな\nい重合性化合物含有液晶組成物を提供するという本件発明の課題を解決する
ものであり,正にこの点において技術的意義があるとするものであるから,
本件発明1の特許性を判断するに当たっても,本件発明1の技術的意義,す
なわち,甲1発明Aにおいて,前記(1)ないし(4)の選択を併せて行った際に奏
される効果等から認定される技術的意義を具体的に検討する必要があるとい
うべきである。
ところが,本件審決は,前記のとおり,前記(1)の選択と,同(2)及び(3)の選
択と,同(4)の選択とをそれぞれ別個に検討しているのみであり,これらの選
択を併せて行った際に奏される効果等について何ら検討していない。このよ
うな個別的な検討を行うのみでは,本件発明1の技術的意義を正しく検討し
たとはいえず,かかる検討結果に基づいて本件発明1の特許性を判断するこ
とはできないというべきである。
以上のとおり,本件審決は,必要な検討を欠いたまま本件発明1の特許性
を否定しているものであるから,上記の個別的検討の当否について判断する
までもなく,審理不尽の誹りを免れないのであって,本件発明1の特許性の
判断において結論に影響を及ぼすおそれのある重大な誤りを含むものという
べきである。
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2017.06.16
平成28(行ケ)10168 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年6月12日 知的財産高等裁判所(3部)
進歩性なしとした審決が取り消されました。なお、相違点3については認定は誤りであるが、他の争点で審決の判断は取り消されるべきものとして、取消理由にはならないと判断されています。
以上のとおり,本件審決には,本件特許発明1と甲1発明の相違点3の一
内容として相違点3−1を認定した点に誤りがあるものといえる。
しかしながら,後記4で述べるとおり,本件審決認定の相違点3のうち,
相違点3-1以外の部分に係る本件特許発明1の構成についての容易想到性\nは否定されるべきであり,そうすると,本件審決の相違点3−1に係る認定
の誤りは,本件特許発明1の進歩性欠如を否定した本件審決の結論に影響を
及ぼすものではない。
・・・・
原告は,相違点3に係る本件特許発明1の構成のうち,「第1(あるいは\n第2)の係止片が枠体の後端より後ろ向きに突設し枠体の上辺(あるいは
下辺)よりも内側に設けられ」るとの構成についての容易想到性を否定し\nた本件審決の判断は誤りである旨主張する。しかるところ,上記構成のう\nち,「係止片が枠体の後端より後ろ向きに突設」する構成が本件特許発明1\nと甲1発明の相違点といえないことは,上記3(2)で述べたとおりであるか
ら,以下では,上記構成のうち,「第1(あるいは第2)の係止片が枠体の\n上辺(あるいは下辺)よりも内側に設けられ」るとの構成(以下「相違点\n3−2に係る構成」という。)についての容易想到性を否定した本件審決の\n判断の適否について検討することとする。
ア 原告は,部材を取り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも
少し内側に設ける構成は,甲1(図39(a)及び図49),16,17及
び63に記載され,審判検甲1及び2が現に有するとおり,スロットマ
シンの技術分野において周知な構成であるとした上で,甲1発明に上記\n周知な構成を適用し,相違点3−2に係る構\成とすることは,当業者が
容易に想到し得たことである旨主張するので,以下検討する。
(ア) 甲1の図39(a)及び図49について
甲1の図39(a)(別紙2参照)は,スロットマシンの飾り枠本体に
取り付けられる第4ランプカバーの斜視図であるところ,同図に示さ
れた第4ランプカバー423は,側方形状L字状に形成され,その一
辺の両サイドから後方に係止爪424が突設されている(甲1の段落
【0158】)。また,甲1の図49(別紙2参照)は,スロットマシ
ンのメダル受皿の分解斜視図であるところ,同図に示されたメダル受
皿12の両サイドには,係止爪620が後方に向かって突設されてい
る(甲1の段落【0205】)。
しかしながら,上記係止爪424と第4ランプカバー423の最外周
面との位置関係及び上記係止爪620とメダル受皿12の最外周面との
位置関係については,甲1には記載されておらず,何らの示唆もされて
いない。
この点,原告は,これらの図面において,係止片に相当する部分とそ
の取付け端の境界に実線が記載されていることから,当業者は,係止片
が部材の最外周面よりも少し内側に設けられていると理解する旨主張す
る。しかし,甲1の上記図面は,特許出願の願書に添付された図面であ
り,明細書を補完し,特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業
者に理解させるための説明図であるから,当該発明の技術内容を理解す
るために必要な程度の正確さを備えていれば足り,設計図面に要求され
るような正確性をもって描かれているとは限らない。そして,甲1は,
遊技部品を収容する収容箱と収容箱に固定される連結部材を介して収容
箱の前面に開閉自在に設けられる前面扉とから構成されるスロットマシ\nンについての発明を開示するものであり(段落【0001】),特に,連
結部材を前面扉に取り付ける取付部に載置部及び被載置部を形成するこ
とによって前面扉を連結部材に組付ける際の作業性を向上させたスロッ
トマシンに係る発明を開示するものであるから(段落【0002】〜
【0008】),甲1の図面において,上記取付部に関係しない部材であ
る第4ランプカバー423の係止爪424やメダル受皿12の係止爪6
20の詳細な構造についてまで正確に図示されているものと断ずること\nはできない。してみると,甲1の明細書中に何らの記載がないにもかか
わらず,上記図面中の実線の記載のみから,係止片が部材の最外周面よ
りも少し内側に設けられている構成の存在を読み取ることはできないと\nいうべきであり,原告の上記主張は採用できない。
したがって,甲1の図39(a)及び図49には,そもそも,部材を取
り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも少し内側に設ける構\n成が記載されているとはいえない。
・・・
以上によれば,原告が,「部材を取り付けるための係止片を当該部材
の最外周面よりも少し内側に設ける構成」が記載されているものとして\n挙げる文献のうち,甲1及び63については,そもそもそのような構成\nが記載されているとはいえない(なお,仮に,原告主張のとおり,甲1
及び63に上記構成が記載されていることを認めたとしても,これらの\n文献には,甲16及び17と同様に当該構成が採用される理由について\nの記載や示唆はないから,後記の結論に変わりはない。)。
他方,甲16及び17には,上記構成が記載され,また,審判検甲1\n及び2のパチスロ機も上記構成を有することが認められる。しかしなが\nら,これらの文献の記載や本件審判における審判検甲1及び2の検証の
結果によっても,これらの装置等において上記構成が採用されている理\n由は明らかではなく,結局のところ,当該構成の目的,これを採用する\nことで解決される技術的課題及びこれが奏する作用効果など,当該構成\nに係る技術的意義は不明であるというほかはない。
してみると,甲16及び17の記載や審判検甲1及び2の存在から,
上記構成がスロットマシンの分野において周知な構\成であるとはいえる
としても,その技術的意義が不明である以上,当業者がこのような構成\nをあえて甲1発明に設けようと試みる理由はないのであって,甲1発明
に当該周知な構成を適用すべき動機付けの存在を認めることはできない。\nしたがって,甲1発明に上記周知な構成を適用し,相違点3−2に係\nる構成とすることは,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。\n
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2017.06.16
平成28(ネ)10083 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成29年5月18日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は特許権侵害を認め、無効理由無しと判断しましたが、知財高裁(2部)はこれを取り消しました。結論が変わったのは、引用文献の認定により進歩性欠如です。
(1) 相違点の認定について
被控訴人らは,乙1公報には「治療用マーカー」について何らの記載も示唆もな
いから,本件発明が「治療用マーカー」であるのに対し,乙1発明は「治療用マー
カー」ではない点も相違点として認定すべきである,と主張する。
しかし,前記1(2)ウのとおり,乙1発明は,皮膚用の入れ墨転写シールを含めた
各種用途の転写シールである。乙1公報には,乙1発明の転写シールが治療用マー
カーに用いられることは明示されていないものの,皮膚用の入れ墨転写シールの用
途については限定を設けていないから,乙1発明が治療用マーカーではないとはい
えない。本件発明と乙1発明との相違点4として,「本件発明が治療用マーカーであ
るのに対し,乙1発明では皮膚用の入れ墨転写シールを含めた各種用途の転写シー
ルである点」と認定するのが相当である。
(2) 相違点1,2及び4の判断について
被控訴人らは,乙9発明の「台紙」は「基材」と訳されるべきものであり,患者
の皮膚に接触したままにされるから,治療用の目印となるインク層を皮膚に接着さ
せた後すぐに皮膚から剥がされることになる本件発明の「基台紙」とは,構造を全\nく異にし,乙1発明に乙9発明を組み合わせたとしても,本件発明との相違点4に
係る構成に想到するのは容易ではなく,また,乙9発明には「基台紙」がないから,\n乙1発明に乙9発明を組み合わせても,インク層と同一のマークを基台紙に印刷す
ることを容易に想到できない,と主張する。
しかし,前記1(4)イ,ウのとおり,乙9発明の装置は,被控訴人ら主張のとおり,
「台紙」を患者の皮膚に接触したままにしておく使用方法もあるが,「台紙」が剥が
れた場合のことをも想定しており,「台紙」が剥がれた場合には,「台紙」は,本件
発明において同じく皮膚から剥がされる「基台紙」と同様の機能を有するというこ\nとができる。したがって,乙9発明の「substrate」を「台紙」と訳すこ
とは誤りとはいえず,また,本件発明との相違点1,2及び4についての容易想到
性についての被控訴人らの上記主張を採用することはできない。
(3) 相違点3の判断について
ア 被控訴人らは,乙1発明は,「水転写タイプ」を含む従来の入れ墨転写シ
ールの課題を解決するために,「粘着転写タイプ」のシールを記載したものであって,
「水転写タイプ」を動機付けるものではなく,むしろ「水転写タイプ」を不具合あ
るものとして排除している,と主張する。
しかし,乙1文献に明示的に記載されている実施例は「粘着転写タイプ」である
ものの,「粘着転写タイプ」と「水転写タイプ」との違いは,セパレーターを取り除
いた後に,転写シールの粘着層をそのまま皮膚に貼り付けるか,転写シールを水で\n湿してから皮膚に押さえ付けるかの点にある(乙3)にすぎないから,乙1文献記
載の従来技術の問題点である「絵柄がひび割れる,剥離が困難」といった点は,水
転写タイプに特有のものとは認められない。また,乙1発明が課題解決の方法とし
て採用した特性を持つ透明弾性層が,転写シールの粘着層を皮膚に貼り付ける前に\n水で湿すことによってその効果を発揮しないとか,その他乙1発明を水転写タイプ
とすることが技術的に困難である事情は認められない。したがって,乙1発明が水
転写タイプを排除しているとはいえず,被控訴人らの上記主張を採用することはで
きない。
イ 被控訴人らは,乙9発明は「基材」そのものが治療用の目印として皮膚
に転写されるから,水転写タイプを想起させるものではない,と主張する。
しかし,前記(2)のとおり,乙9発明の装置は,「台紙」が剥がれた場合のことを
想定しており,「台紙」が剥がれる場合には,「台紙」の皮膚に接着する側に配置さ
れた第1インク層が皮膚に転写され,「台紙」は治療用の目印ではなくなり,インク
層のみが皮膚に転写されることとなるところ,水転写タイプもこのような構成を採\n用するものである(乙3)から,被控訴人らの主張を採用することはできない。
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◆原審はこちらです。平成26年(ワ)第21436号
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2017.02.28
平成28(行ケ)10039 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年2月23日 知的財産高等裁判所
引用文献について、課題が明記されていなくても発明として把握ができるとして、進歩性無しとした審決が維持されました。
(1) 特許法29条2項は,「特許出願前にその発明の属する技術の分野におけ
る通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることが
できたときは,その発明については,同項の規定にかかわらず,特許を受けること
ができない。」と定めるから,引用発明は,本件発明の属する技術分野の当業者が検
討対象とする範囲内の技術的思想であることを要する。また,同法29条1項各号
に掲げる発明から進歩性判断の対象となる発明を容易に発明をすることができたか
否かを判定するに当たっては,前者と後者の構成上の一致点と相違点を見出し,相\n違点に係る上記後者の構成を採用することが当業者にとって容易であるか否かを検\n討するから,上記前者の発明は,上記後者の発明の構成と比較し得るものであるこ\nとを要する。
そこで検討するに,前記1(2)のとおり,本件発明は,2以上の薬剤を投与直前に
混合して患者に投与するための医療用複室容器に関するものであり,前記2(2)のと
おり,引用発明も,2以上の薬剤を投与直前に混合して患者に投与するための医療
用複室容器に関するものであるから,本件発明と技術分野を共通にし,本件発明の
属する技術分野の当業者が検討対象とする範囲内の技術的思想であるといえる。ま
た,本件発明と引用発明とは,前記3のとおり,「可撓性材料により作製され,内部
空間が剥離可能な仕切用弱シール部により第1の薬剤室と第2の薬剤室に区分され\nた容器本体と,該容器本体の下端側シール部に固定され,前記第1の薬剤室の下端
部と連通する排出ポートと,前記第1の薬剤室に収納された第1の薬剤と,前記第
2の薬剤室に収納された第2の薬剤と,前記第1の薬剤室と前記排出ポートとの連
通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部とを備える医療用複室容器であり,\n前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成され,
空室となっている空間内および前記空間を形成する内面が滅菌されている医療用複
室容器。」という点で一致するから,引用発明は,本件発明の構成と比較し得るもの\nであるといえる。よって,引用発明は,本件発明の進歩性を検討するに当たっての
基礎となる,公知の技術的思想といえる。
(2) これに対し,原告は,引用文献には,本件明細書に記載された,「連通阻
害用弱シール部を設けることにより形成される空間内を確実に滅菌できる医療用複
室容器を提供する」という課題が記載されていないから,引用発明は,引用発明と
しての適格性がない,と主張する。
しかし,引用発明は,上記のとおり,本件発明と,技術分野を共通にし,かつ,
相当程度その構成を共通にするから,引用文献に本件発明の課題の記載がなくとも,\n本件発明の技術分野における当業者が,技術的思想の創作の過程において当然に検
討対象とするものであるといえる。当該課題が引用文献に明示的に記載されていな
いことを理由として,引用文献に記載された発明の引用発明としての適格性を否定
することはできない。
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2017.02. 8
平成28(行ケ)10068 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年2月7日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として取り消されました。
ア 次に,引用例2に記載された技術事項を適用した引用発明は,外側ベルトの
切断端部を,タイヤの赤道面から0.15〜0.35Wの範囲に位置させるという
本願発明の構成を備えるものになるかについて検討する。
イ 引用例2に記載された技術事項における「トレッドのショルダー部」の領域
引用例2には,「トレッドのショルダー部」が航空機タイヤのどの部分を具体的
に指すのかについて記載はない。そして,「ショルダー」が「肩」の意味であるこ
とからすれば,「トレッドのショルダー部」とは,トレッドの肩のような形状の部
分を指すと解するのが自然である。そして,引用例2の【図1】によれば,かかる
形状の部分は,トレッドの中でもサイドウォールに近い部分,すなわち,トレッド
の端部をいうものと解される。
また,引用例2には,「高速回転時のトレッド部の変形を抑制するための採用す
る0°バンドは,トレッド両端部における拘束力が少ないので,トレッドショルダ
ー部の膨張変形に対する効果は少ない。」と記載され(【0026】),トレッド
両端部における拘束力とトレッドのショルダー部の膨張変形に対する効果との間に
直接の因果関係がある旨説明されており,引用例2における「トレッドのショルダ
ー部」とは,0°バンドによる拘束力が少ない部分である,トレッドの端部と解す
るのが自然である。
さらに,航空機用タイヤに関する特開昭63−235106号公報(乙11)に
おいては,タイヤのトレッドの端部がショルダー部とされており,それ以外の部分
とは区別されている。すなわち,同公報には,タイヤのトレッドのショルダー部に
2段溝状の縦溝を設けてなる航空機用タイヤに関する発明が記載されているところ
(特許請求の範囲(1)),その実施例である航空機用タイヤ1(第1図)では,トレ
ッド6に設けられた縦溝20,21,22のうち,サイドウォール部4の最も近く
にある縦溝22は(トレッド6の)ショルダー部を通って延びる直線溝であり,2
段溝状をなすとされているのに対し,それ以外の縦溝20,21はトレッド6のク
ラウン部を通って延びる直線溝であり,略V字溝状をなす(3頁右下欄1行〜14
行)とされている。このように,航空機用タイヤのトレッド6において,そのサイ
ドウォール部4に近い部分であるトレッド6の端部がショルダー部と呼ばれ,それ
以外の部分であるクラウン部から区別されている。
したがって,引用例2に記載された技術事項における「トレッドのショルダー部」
とは,トレッドの端部を意味するものと認められ,同技術事項は,ベルトプライの
両端の折り返し部を,トレッドの端部に位置するように形成するものということが
できる。
ウ このように,引用例2に記載された技術事項は,ベルトプライの両端の折り
返し部を,トレッドの端部に位置するように形成するものであって,引用発明に引
用例2に記載された技術事項を適用しても,折り返し部が形成されるのは「トレッ
ドゴム26」の端部である。したがって,引用発明に引用例2に記載された技術事
項を適用しても,外側ベルトの切断端部を,タイヤの赤道面から0.15〜0.3
5Wの範囲に位置させるという本願発明の構成には至らないというべきである。\n
◆判決本文
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2017.01.11
平成28(行ケ)10023 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成28年12月26日 知的財産高等裁判所(第2部)
進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。理由は、引用文献の実施例を本件の特徴部分としては認識できないというものです。
しかしながら,引用例の【0017】の実施例において,「文書処理プログラム
24での低電力消費」と対比して,高いクロック周波数を選択することが考えら
れるものは「回転する3次元画像の総天然色表示34を形成するなど高度な計算\n要求」であって,「回転する3次元画像の総天然色表示34を形成するなど高度な\n計算要求を必要とするアプリケーションプログラム」などと記載されているもの
ではなく,「回転する3次元画像の総天然色表示34を形成するなど高度な計算要\n求」が「文書処理プログラム24」とは異なるアプリケーションプログラムでの
計算要求であることは記載されていない。そして,本願優先日当時,文書処理プ
ログラムにはグラフィック機能が組み込まれているのが一般的であり,文書処理\nプログラムに組み込まれたグラフィック機能において回転する3次元画像の総天\n然色表示の形成が行えないものではないことからすると,高いクロック周波数を\n選択する「回転する3次元画像の総天然色表示34を形成するなど高度な計算要\n求」は,アプリケーションプログラムの実際の動作に応じた「計算条件」を示す
ものであるとみることもでき,引用例の【0017】の記載に接した本願優先日
当時の当業者において,そこに記載された実施例が「アプリケーションプログラ
ムのタイプに対応する動作モード」に基づいてクロック周波数を選択するもので
あると認識するものということはできない。
また,引用例の【0022】の実施例において,「高度または高速の計算能力を\n必要とするアプリケーションプログラムを検出した場合」と対比して,低いクロ
ック周波数を選択することが考えられるものは「タイムアウト周期について活動
していないことを検出」した場合であり,例えば,「高度または高速の計算能力を\n必要としないアプリケーションプログラムを検出した場合」のような類型のアプ
リケーションプログラムを検出した場合と対比されているものではないし,「高度
または高速の計算能力を必要とするアプリケーションプログラム」を起動中に,\n「タイムアウト周期について活動していないことを検出」した場合には,高いク
ロック周波数が選択されるべき「高度または高速の計算能力を必要とするアプリ\nケーションプログラム」の起動中でありながら,低いクロック周波数を選択する
ことになるから,引用例の【0022】の記載に接した本願優先日当時の当業者
において,そこに記載された実施例が「アプリケーションプログラムのタイプに
対応する動作モード」に基づいて「特定の高クロック周波数で前記中央演算処理
装置12を動作させる」ものであると認識するものということはできない。
さらに,引用例の【0012】をみても,低いクロック周波数が選択される「モ
デムによる通信,新しい命令が入力されない待機状態,およびその他の日常的で
単純な計算機能を実行する動作の間」と,高いクロック周波数が選択される「回\n転する3次元オブジェクトの表示を形成する,大量のデータベースの検索を実行\nする,などのさらに複雑な計算が要求される場合」とが異なったアプリケーショ
ンプログラムに対応したものであることは記載されていないし,「回転する3次元
オブジェクトの表示を形成する」ことができるアプリケーションプログラムにお\nいて「単純な計算機能を実行する動作」のみを行っている間を想定すれば明らか\nなように,両者が異なったアプリケーションプログラムでしか奏し得ないことが
自明であるともいえないから,引用例の【0012】の記載に接した本願優先日
当時の当業者において,引用発明が「アプリケーションプログラムのタイプに対
応する動作モード」に基づいてクロック周波数を選択するものであると認識する
ものということはできない。
そうすると,引用例の【0012】,【0017】,【0022】等の記載を総合
しても,これらに接した本願優先日当時の当業者において,引用発明が「アプリ
ケーションプログラムのタイプに対応する動作モードを決定し,前記動作モード
に応答して,・・・中央演算処理装置12を動作させる」ものであると認識するこ
とはできないと認められ,このことは,引用発明が,利用可能な電池電力が限ら\nれており,その有効な管理への要求が最優先課題となっている可搬型コンピュー
タにおいて当該課題を解決することを目的とするものであることをも考慮すれば,
一層明らかというべきである。
よって,引用発明が「アプリケーションプログラムのタイプに対応する動作モ
ードを決定し,前記動作モードに応答して,・・・中央演算処理装置12を動作さ
せる」構成を有するとした審決の認定には誤りがあり,これに起因して,審決は,\n「アプリケーション・プログラムのタイプに対応する動作モードを決定し,前記
動作モードに応答して,・・・回路を動作させる」点を一致点として過大に認定し,
相違点として看過した結果,この点に対する判断をしておらず,結論に影響を及
ぼす違法があるものと認められる。
◆判決本文
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2017.01.10
平成28(行ケ)10026 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成28年12月26日 知的財産高等裁判所(第2部)
進歩性違反なしとした審決が取り消されました。理由は、先行技術は周知技術であったというものです。
上記各記載のとおり,地盤注入の施工前に地盤抵抗圧力(注入圧力)を測定する
ことは,通常のことであり,その地盤抵抗圧が工事現場のものでなければならない
のは当然であるから,その測定は,注入対象範囲内そのものであるかはともかくと
して,工事現場と認められる範囲で行われているといえる(本件発明1も,注入対
象範囲内そのもので地盤抵抗圧力が測定される場合に限定されるものではない。)。
そして,前記(1)のとおり,本件発明1の「流量」は,単位時間当たりの注入量(注
入速度)のことであるところ,建設省(国土交通省)の通達等である上記3)に,施
工計画時に「注入速度」を定めなければならないと記載されていることや,業界団
体の指針である上記5)にも,施工計画時に注入速度が定まっていることを前提とす
る記載があることからみて,「流量」(注入速度)は,工事現場の状況等によって変
更される余地はあるとしても,注入施工の前にあらかじめ定まっているものと理解
できる。そして,「流量」(注入速度)と地盤抵抗圧力とは関連しているから(甲1
の【図26】,甲2【図2】【図3】参照)),地盤抵抗圧力を測定することは,所定
の「流量」(注入速度)を前提にしたものである。
また,地盤抵抗圧の測定が,薬液を用いて行うことが通常であるか,あるいは,
水を用いて行うことが通常であるかが上記各記載からは明確ではないにしても,上
記各記載は,薬液を用いて地盤抵抗圧の測定を行うことを排除はしていない。かえ
って,上記2)には,「薬液のかわりに水を用いた注入試験における注入圧と注入速度
の関係から注入形態を予測する簡便な方法が近年提案されている。」との記載があり,\nこの記載の当然の前提として,従来から,薬液を用いた注入試験が広く行われてい
たことがうかがわれる。
以上からすると,本件発明1の「(a)予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」\nとの構成,すなわち,注入施工に先立ち,同じ注入材(グラウト)を用いて現場試\n験注入を行い,あらかじ流量を決めて注入圧力(地盤抵抗圧力)を測定することは,
本件特許の出願時点において,測定方法の一つとして当業者に広く知られていた周
知の事項であったと認められる。
・・・
(3) 容易想到性について
本件発明1は,前記(1)のとおり,(a)(b1)(b2)の構成を有しているとこ\nろ,試験注入において,地盤抵抗圧力をどのように測定するかという点と,本施工
において,測定された地盤抵抗圧力をどのように用いてグラウト注入を行うかとい
う点は,それぞれ独立の技術的事項であるから,少なくとも,地盤抵抗圧力をどの
ように測定するかという(a)の構成と,本施工において,測定された地盤抵抗圧\nをどのように用いるかという(b1)(b2)の構成とは,その容易想到性を別々に\n考慮してよいものである。そうすると,上記(2)イのとおり,本件発明1の(a)の
構成は,周知技術であるから,地盤抵抗圧力(注入圧力)を限界注入圧力Prfの\n限界内で設定する甲1発明において,その注入圧力の決定について,周知技術であ
る相違点2に係る本件発明1の(a)の構成を採用することは,当業者が適宜なし\n得ることである。
また,前記(1)のとおり,甲1には,審決が甲1発明を構成するものとして認定す\nる(A1)(B1)の構成のほか,(A2)(A3)(B2)の構\成が開示されている。
本件発明1の「地盤抵抗圧力」に相当する甲1発明の分岐圧力計P11の圧力値は,
2kgf/cm2であり,本件発明1の「地盤抵抗圧力よりも高い強制圧力」に相当する
甲1発明の送液圧力計P0の圧力値は,30kgf/cm2であるから,甲1発明において
は,地盤抵抗圧力よりも高い強制圧力となるようにグラウトが負荷されている。そ
うすると,甲1の(A1)〜(A3)(B1)(B2)の構成は,本件発明1の(b\n1)(b2)の構成を開示しているものといえる(審決も,本件発明2に係る無効理\n由の判断中で,甲1発明の(A1)(B1)に相当する構成が,本件発明1の(b1)\n(b2)に相当する本件発明2の構成に相当すると判断している。)。\n以上によれば,本件発明1の(b1)(b2)の構成が,甲1の記載に基づいて,\n当業者において容易に想到できるものであることも,明らかであり,審決の相違点
2の判断には,誤りがある。
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2016.12.14
平成28(行ケ)10047 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟 平成28年10月31日 知的財産高等裁判所
登録実用新案について、審決は進歩性なしと判断していましたが、裁判所は、引用発明の認定を誤ったとして、これを取り消しました。
ウ 以上によれば,甲1考案は,以下のとおり,認定すべきである(なお,下線部は,審決の認定した甲1考案と相違する箇所である。)。「 高電圧を流した針電極28から電子を発生させるイオン化室23の先端に,内部に3重電極33が配設され,コイル18が巻かれたイオン回転室24を設け,イオン化室23の中に流し込まれた酸素ガスを励起して,O2+,O2(W),O(1D),O,O2(b1Σg+),O−,O2(a1Δg),O−を生成し,イオン回転室24において,生成したO−に対し,3重電極33及びコイル18によって発生した回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え,酸素分子と衝突させてオゾンを生成する酸素ガスのオゾン発生装置。」
エ したがって,審決の甲 1 考案の認定には,誤りがある。
・・・
(3) 以上によれば,本件考案と甲1考案の一致点及び相違点は,以下のとおり
であると認められる。
【一致点】
高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管を有し,活性酸素種を生成さ
せることができる装置。
【相違点】
本件考案は,空気中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性
酸素種を生成させることができる空気の電子化装置であって,励起の手段が電磁コ
イルであるのに対して,
甲1考案は,イオン化室23に流し込まれた酸素ガスを励起して生成したO−に
対し,イオン回転室24において,3重電極33及びコイル18によって発生した
回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え,酸素分子と衝突させてオゾンを生成す
る酸素ガスのオゾン発生装置である点。
・・・
イ 前記アのとおり,甲2及び甲3(甲45)のいずれにも,空気又は酸素
ガスに電界と磁界を同時に印加してオゾン等を発生させる装置が記載されているこ
とが認められるものの,磁界のみを単独で印加することは記載されていない。
(2)ア 前記(1)イによれば,甲2又は甲3(甲45)に基づき,磁界のみを単
独で印加してオゾン等を発生させるという周知技術は認められない。
そうすると,甲1考案と甲2及び3から認められる周知技術を組み合わせても,
「回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え」るという構成が,磁界のみをかけて回\n転運動を与えるという構成になるとは認められない。\n
・・・・
エ 以上のとおりであって,甲1考案において,励起の対象が「酸素ガス」
であり,その励起手段が「3重電極」及び「コイル」であるという構成に替えて,\n励起の対象が「空気中の酸素分子」であり,その励起手段が「電磁コイル」である
という構成を適用することは,動機付けを欠き,本件考案1は,甲1考案並びに甲\n2及び3に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすること
ができたとはいえない。
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2016.11.22
平成28(行ケ)10079 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成28年11月16日 知的財産高等裁判所
技術思想として異なるとして、進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。
ア 本願発明は,トレッドに発泡ゴムを適用したタイヤにおいて,氷路面におけ
るタイヤの制動性能及び駆動性能\を総合した氷上性能が,タイヤの使用開始時から\n安定して優れたタイヤを提供するため,タイヤの新品時に接地面近傍を形成するト
レッド表面のゴムの弾性率を好適に規定して,十\分な接地面積を確保することがで
きるようにしたものである。これに対し,引用発明は,スタッドレスタイヤやレー
シングタイヤ等において,加硫直後のタイヤに付着したベントスピューと離型剤の
皮膜を除去する皮むき走行の走行距離を従来より短くし,速やかにトレッド表面に\nおいて所定の性能を発揮することができるようにしたものである。\n以上のとおり,本願発明は,使用初期においても,タイヤの氷上性能を発揮でき\nるように,弾性率の低い表面ゴム層を配置するのに対し,引用発明は,容易に皮む\nきを行って表面層を除去することによって,速やかに本体層が所定の性能\を発揮す
ることができるようにしたものである。したがって,使用初期においても性能を発\n揮できるようにするための具体的な課題が異なり,表面層に関する技術的思想は相\n反するものであると認められる。
イ よって,引用例1に接した当業者は,表面外皮層Bを柔らかくして表\面外皮
層を早期に除去することを想到することができても,本願発明の具体的な課題を示
唆されることはなく,当該表面外皮層に使用初期においても安定して優れた氷上性\n能を得るよう,表\面ゴム層及び内部ゴム層のゴム弾性率の比率に着目し,当該比率
を所定の数値範囲とすることを想到するものとは認め難い。また,ゴムの耐摩耗性
がゴムの硬度に比例すること(甲8〜13)や,スタッドレスタイヤにおいてトレ
ッドの接地面を発泡ゴムにより形成することにより氷上性能あるいは雪上性能\が向
上すること(甲14〜16)が技術常識であるとしても,表面ゴム層を非発泡ゴム,\n内部ゴム層を発泡ゴムとしつつ,表面ゴム層のゴム弾性率を内部ゴム層のゴム弾性\n率より小さい(表面を内部に比べて柔らかくする。)所定比の範囲として,タイヤ\nの使用初期にトレッドの接地面積を十分に確保して,使用初期においても安定して\n優れた氷上性能を得るという技術的思想は開示されていないから,本願発明に係る\n構成を容易に想到することができるとはいえない。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,本願発明の実施例と引用発明はともに従来例「100」に対して
「103」という程度でタイヤの使用初期の氷上での制動性能が向上するものであ\nり,また,引用例1の比較例と実施例を比較すると,比較例が実施例に対して表面\nゴム層(表面外皮層)を有していない点のみが異なることから,使用初期の性能\向
上は,表面ゴム層(表\面外皮層)に由来することが明らかである,そうすると,本
願発明の実施例と引用発明の性能向上はともに,タイヤ表\面に本体層のゴムよりも
柔らかいゴムを用いることにより使用初期の氷上での性能を向上させる点で同種の\nものであるから,結局,表面ゴム層(表\面外皮層)に関して,本願発明と引用発明
の所期する条件(機能)は変わるものではなく,引用例1に接した当業者は,引用\n発明の表面ゴム層(表\面外皮層)が,早期に摩滅させることのみを目的としたもの
でなく,氷上性能の初期性能\が得られることを認識する旨主張する。
しかし,前記(2)のとおり,引用例1に記載された課題を踏まえると,引用発明は,
あくまで早く摩耗する皮むき用の表面外皮層を設けて,ベントスピューと離型剤を\n表面外皮層とともに除去することにより,本来のトレッド表\面を速やかに出現させ
るものであり,引用例1は,走行開始から表面外皮層が除去されるまでの間の氷上\n性能について何ら開示するものではない。よって,引用例1に接した当業者が,氷\n上性能の初期性能\が得られることを認識するものとは認められない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
イ 被告は,引用発明において,表面外皮層Bの硬度は,本体層Aのそれより小\nさく(引用例1の表1),硬度の小さいゴムが,ゴム弾性率の小さいゴムである旨\nの技術常識(甲4,甲5)を考慮すれば,「引用発明の「表面ゴム層(表\面外皮
層)」のゴム弾性率が「内部ゴム層(本体層)」のゴム弾性率に比し低いものとい
え,「表面ゴム層のゴム弾性率」/「内部ゴム層のゴム弾性率」の値を0.01以\n上1.0未満程度の値とすることは,具体的数値を実験的に最適化又は好適化した
ものであって,当業者の通常の創作能力の発揮といえるから,当業者にとって格別\n困難なことではない旨主張する。
しかし,本願発明と引用発明とでは,具体的な課題及び技術的思想が相違するた
め,引用例1には,表面ゴム層のゴム弾性率を内部ゴム層のゴム弾性率より小さい\n所定比の範囲として,使用初期において,接地面積を確保するという本願発明の技
術的思想は開示されていないのであるから,引用発明から本願発明を想到すること
が,格別困難なことではないとはいえない。
また,表面外皮層BのHs(−5℃)/本体層AのHs(−5℃)が,0.77
(=46/60),表面外皮層Bのピコ摩耗指数/本体層Aのピコ摩耗指数が,0.
54(=43/80)であるとしても,本願発明が特定するゴム弾性率とHs(−5
℃)又はピコ摩耗指数との関係は明らかでないので,引用例1の表1に示すHs\n(−5℃)又はピコ摩耗指数の比率が,本願発明の特定する,「比Ms/Miは0.
01以上1.0未満」に含まれ,当該比率について本願発明と引用発明が同一であ
るとも認められない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
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2016.10.28
平成28(行ケ)10058 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成28年10月26日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決が取り消されました。被告は、原告の主張する引用発明の認定の誤りは認めたうえ、結論に影響がないと争っていました。審決書をみると、原告はどうやら弁理士です。異議申し立て制度が復活して、条文上は、無効審判では利害関係要件が復活したけど、その点は実務上は問題とならないのかもしれません。\n
本件発明1は,その請求項1の文言からして,少なくとも,ドライブスプロケッ
トと回転軸が相互に軸方向に移動自在であるドライブスプロケット支持構造である\nと認められる。これに対し,審決は,上記1(3)のとおり,甲2発明において,ドラ
イブスプロケット21がポンプハブ11に対して軸方向に移動自在でないとし,こ
の点を両発明の実質的な相違点とする。この審決の判断は,甲2発明の認定を誤っ
た結果,相違点の認定を誤ったものである。
そうすると,かかる相違点の認定を前提とする相違点の判断も誤りであり,これ
らの誤りは,審決の結論に影響を及ぼすといえる。
◆判決本文
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2016.10.28
平成28(行ケ)10049 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成28年10月26日 知的財産高等裁判所
宅配ボックスと中食配送システムについて、組み合わせの動機付けありと認定し、拒絶審決が維持されました。裁判所は、利用者宛ての荷物について,システムから利用者に対しメール通知を行う点で共通の技術分野に属すると言及しました。
(2) 引用例2(甲3)には,以下のとおり,引用発明2が開示されている。
好きな食事を任意に摂取できる食環境について,より低コストかつ迅速な配送が
可能で,管理や作業が容易であり,かつ,発送者,受取者の利用者双方の要求に臨\n機応変に適応できるような,便利で効率のよい配送システムを提供するために
(【0007】【0008】),権限を有する所定の配送作業者及び利用者のみが
荷物を出し入れすることができるボックスなどの収容手段を複数有する集合住宅の
玄関などに設置された配送中継装置と,利用者端末装置と,管理装置と,中食提供
者端末装置とを備え,利用者が利用者端末装置を操作して,中食の内容,当該中食
を利用者が受け取る時間及び配送中継装置を指定した注文を管理装置に送信し,管
理装置が,上記受信した注文について,中食提供者端末装置に対して,指定された
内容の中食を製造することを指示するとともに,中食配送者端末装置に対して,上
記指定された時間までに指定された配送中継装置に中食を配送することを指示し,
中食配送者が,中食配送者端末装置が受けた指示を基に,中食提供者から受け取っ
た中食を,上記指定された時間までに,指定された配送中継装置の所定のロッカー
に保管されるよう配送し,配送中継装置は,所定の管理期間が経過しても利用者が
中食を取りにこないと判断した場合には,利用者のメールアドレスにその旨を通知
する,中食配送システム(【0029】【0032】【0054】〜【006
6】)。
(3) 引用発明1は,前記2(2)のとおり,集合住宅内に設置された宅配ボックス
から成り,受取人宛ての荷物が配達され宅配ボックスに保管されると,通信サーバ
が,荷物の受取人宅宛てに電子メールを送信する宅配ボックスシステムである。そ
して,引用発明2は,前記(2)のとおり,ボックス等の収納手段を有する集合住宅の
玄関などに設置された配送中継装置から成り,利用者の注文した中食が配送され配
送中継装置に保管され,その後所定の管理時間が経過しても中食が取られない場合
には,配送中継装置が,中食の受取人である利用者のメールアドレスに通知を送る
中食配送システムというものである。
したがって,引用発明1と引用発明2は,ともに,集合住宅に設置された保管ボ
ックスから成り,配達され保管された利用者宛ての荷物について,システムから利
用者に対しメール通知を行う荷物の配送システムという,共通の技術分野に属する
ものである。そして,引用発明1と引用発明2は,いずれも,荷物の配送システム
において,インターネット等を利用して発送者,受取者等の利用者の利便性を向上
させるという課題を解決するものということができ,引用発明1のシステムの利便
性を向上させるために,利用者端末装置や管理装置を含む引用発明2の構成を組み\n合わせる動機付けがあるというべきである。
(4) 他方,引用発明1は,自分宛ての荷物の注文が,誰によりどのようになされ
たものであるのか何ら特定していないから,自分宛ての荷物の配達として,利用者
自らの注文によらない場合の配達サービス(具体的には,他者による注文に基づく
荷物の配達)に限定されないと解するのが自然であり,また,引用例1の【001
9】における「…たとえば最近のインターネット通販などによる高価な宅配物の増
加に対して極めて有効なセキュリティシステムとなる。」との記載には「インター
ネット通販」が例示として挙げられているのであって,引用発明1が,インターネ
ット通販のような,利用者自らが自分宛ての荷物を注文し,当該注文した荷物を配
送業者等により自身宛てに配達してもらう形態を排除していないと解するのが相当
である。
そうすると,引用発明1に対し,共通の技術分野に属し,共通の課題を有する引
用発明2を適用する上での阻害要因は何ら認められないというべきである。
(5) 原告らの主張について
原告らは,引用例1では,高価な宅配物を対象とするインターネット通販におい
て,高いセキュリティシステムを適用することが開示されているにすぎないのに対
し,引用例2では,インターネットを介して中食を発注するシステムが開示されて
いるものの,高価な宅配物を対象とするものではなく,また,二つの暗証番号を入
力するといった高度なセキュリティを必要とするものではないから,引用例1と引
用例2が対象とする宅配物は全く異なるものであり,単にインターネット通販に係
るものであるからといって,引用発明1に引用発明2を組み合わせる動機付けは一
切存しないと主張する。
しかし,引用例1自体,高度のセキュリティを備えることを必然の構成としてい\nるわけではないし(甲2の【0016】〜【0019】),配送対象の荷物が高価
であるか否かや,高度なセキュリティを要するか否かが,技術分野及び課題の共通
性を阻害し動機付けを失わせるとはいえないから,原告らの上記主張は理由がない。
(6) したがって,引用発明1に対し,共通の技術分野に属し,課題においても共
通する引用発明2を適用することの動機付けがあり,かつ,適用する上での阻害要
因が何ら認められないのであるから,引用発明1におけるユーザのモバイル端末に
おいて,引用発明2の技術を適用することで,発注機能を備えるよう構\成して相違
点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。\n
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2016.03.25
平成27(行ケ)10129 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成28年3月16日 知的財産高等裁判所
引用発明の認定を誤ったとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。
原告は,審決が引用発明の「枠体」は本願補正発明の「仕切りにより区画された
開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」に相当する
と認定したことが,誤りであると主張する。
審決は,引用発明の枠体が本願補正発明の測定領域形成部に相当する部分を形成
しているとした上で,パーティクルがシート状の空間Sを通過し得るのであれば,
開口部42の開口面に直交して気体が流れ得ることは当業者にとって明らかである,
と認定している。
しかしながら,次のとおり,引用発明の枠体は,「仕切りにより区画された開口内
部を直交して気体が相対的に流れるようにした」ものではないから,審決の上記認
定は,誤りである。
すなわち,前記1(2)のとおり,引用発明は,従来の浮遊パーティクル検出装置が
パーティクルの位置及び飛来のタイミングはある程度検出できるものの,パーティ
クルの飛来方向は検出できないという問題を踏まえてされたものであり,その目的
は,パーティクルの飛来方向を検出できる浮遊パーティクル検出装置を提供するこ
とにある。つまり,引用発明は,パーティクルの飛来方向が不明であるからこそ,
その飛来方向を検出しようとするものである。そして,引用発明の検出対象である
浮遊パーティクルとは,前記1(2)のとおり,クリーンルーム内等の空気中に浮遊す
るパーティクル,すなわち,気流によって運ばれる微粒子であるから,その飛来方
向は,実質的に,気流の方向に一致すると認められる。そうすると,引用発明は,
パーティクルを運ぶ気流の方向が不明であることを前提とするものであり,特定の
方向からの気流を前提とはしていないものである。
一方,本願補正発明の測定領域形成部は,特許請求の範囲の記載において,仕切
りにより区画された開口内部を「直交して」気体が相対的に流れるようにしたもの
と特定され,さらに,粒子濃度cを算出する際の気流の容積(分母)がr×v×T
(r:計測領域面積,v:気流速度,T:計測時間T)で算定され,rとは開口内
部の面積にほかならず,この算出方法で粒子濃度を算出できるのは,開口内部を通
過する気体の流れの方向が開口面に直交する方向のみの場合であるから(気体の流
れが開口面に直交していない場合に気流の容積を算定する際の基準面積r´は,開
口内部の計測領域面積rよりも小さな値である。),本願補正発明は,仕切りにより
区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにしたものに限定されて
いると認められる。
以上からすれば,引用発明の枠体の開口部42の開口面を通過する気流の方向は,
あらかじめ特定されないのに対し,本願補正発明の開口内部を通過する気体の流れ
の方向は,開口面に直交する方向に限定されている。したがって,引用発明の「枠
体」は,本願補正発明の「仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対
的に流れるようにした測定領域形成部」には相当しない。
◆判決本文
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2016.02.21
平成26(行ケ)10272 特許権 行政訴訟 平成28年2月17日 知的財産高等裁判所
一致点の認定誤りを前提として、進歩性なしとした審決が取り消されました。また、審判手続にも違反ありと認定されました。
ア そこで,検討するに,上記のとおり,固体分散体(固体分散製剤)には,
薬物の微結晶を含むものと,薬物が分子サイズで均一に分散(非晶質化・分子分散)
しているもの(固溶体)の両方があるから,引用発明が,固体分散製剤であるから
といって,直ちに,薬物の結晶を含まないということはできない。
そして,引用発明のうち,薬物を脂肪酸等に「溶解させた溶液」を用いる場合に
ついて検討すると,薬物を脂肪酸等に溶解させた溶液の段階では,薬物が脂肪酸等
の中に分子分散され,結晶を含まない状態といえるが,それを,(溶融した)水溶性
ポリマーマトリックスに混合し,冷却した後,乾燥工程(具体的には,12時間以
上オーブン中で乾燥する工程)を経た後においても,薬物の結晶を含まない状態が
維持されるか否かについての技術常識は存在せず,乾燥工程後の状態として薬物の
結晶を含まないことについて,具体的な技術的根拠があるとはいえない。一般的に,
薬物が非晶質化された固体分散体は,熱力学的に高エネルギーな準安定系であり,
安定な結晶形に転移しやく経時的に薬物の結晶化が起こり得るという上記技術常識
に照らすと,(溶融した)水溶性ポリマーマトリックスと混合する工程,及び(12
時間以上のオーブン中での)乾燥工程において,薬物が結晶化する可能性は否定で\nきない。
したがって,引用発明のうち,薬物を脂肪酸等に「溶解させた溶液」を用いた発
明は,当該「溶解させた溶液」を用いることのみを理由としては,薬物の結晶を実
質的に含まないものと認めることはできない。
他方,引用発明のうち,薬物を脂肪酸等に「分散させた溶液」を用いる場合につ
いて検討すると,薬物を脂肪酸等に分散させた溶液では,薬物は,溶解することな
く,ある程度の大きさの結晶で存在している状態の場合もあり得ると認められる。
そうすると,それを水溶性ポリマーマトリックスに混合し,冷却した後,乾燥工程
を経た後で,結晶を含まない状態となることについて,具体的な技術的根拠がある
とはいえない。
イ 以上によれば,引用発明は,「本質的に活性物質の結晶を含まない」もの
であるとはいえず,審決が,この点を補正発明と引用発明の一致点とし,相違点5
として認定しなかった判断には誤りがあるというべきである。
・・・
以上の点を考慮すると,拒絶査定不服審判において,本件のように審判請求時の
補正として限定的減縮がなされ独立特許要件が判断される場合に,仮に査定の理由
と全く異なる拒絶の理由を発見したときには,審判請求人に対し拒絶の理由を通知
し,意見書の提出及び補正をする機会を与えなければならないと解される。
イ そこで,検討するに,本件拒絶査定の理由は,補正前発明は,当業者が
引用文献1に記載した発明であるというものであるのに対し,審決は,補正発明は,
引用文献1に記載された発明に周知技術を適用して容易に発明をすることができた
というものであり,両者の違いは,審決では,引用発明における脂質成分及び結合
剤成分が分子分散体を形成しているか否かは特定されていないとして,補正発明と
の相違点であると認定した上で,分子分散体を形成するための技術は周知であると
して,これを引用文献1に記載された発明に適用することによって,相違点に係る
構成に想到できると判断した点にある。\nそして,分子分散体を形成するための溶融押出し等の技術が本件優先日当時に周
知であったことは,審決の説示したとおりである。しかしながら,本願発明は,本
件補正前後を問わず,発明の効果を奏する上で,自己乳化性を具備することが特に
重要であるところ,少なくとも,補正発明においては,自己乳化性の有無に関し,
脂質成分及び結合剤成分が分子分散体を形成するか否かが一定の影響を与える前提
に立っているから,相違点3及び4に係る構成,特に相違点4に係る構\成を具備す
るために適用する必要がある技術の有無やその具体的内容は,補正発明の進歩性判
断を左右する重要な技術事項というべきである。しかも,結果的にみれば,上記周
知技術に関する甲6〜8の文献は,あくまでも,脂質成分のない水溶性ポリマーと
活性成分の2成分系に関するものであって,そこで示された技術を,水溶性ポリマ
ーと脂質成分を含む場合に利用すれば,当然に全体が分子分散体を形成する効果を
奏するか否かは明らかではなく,適用すれば,試行錯誤なしに相違点に係る構成に\n想到できる技術とはいえない。本願明細書に記載された脂質成分が一般的な添加剤
であることは,被告が指摘するとおりであるが,溶融押出しにおいて脂質成分を添
加した場合に,最終的な製剤において,水難溶性薬物の結晶を含まず,自己乳化性
を帯びやすいと,当然にはいえない。そうすると,上記各文献は,溶融押出しとい
う製剤化手段に関する周知な技術に関するものではあるが,当業者にとって引用発
明に適用すれば,試行錯誤なしに相違点3及び4の構成を具備できるような技術と\nいえない以上,審決が,審判手続において,相違点3及び4の存在を指摘せず,溶
融押出しの技術に関する上記各文献を示すこともなく,判断を示すに至って,初め
て相違点3及び4の存在を認定し,それに当該技術を適用して,不成立という結論
を示すのは,実質的には,査定の理由とは全く異なる理由に基づいて判断したに等
しく,当該技術の周知性や適用可能性の有無,これらに対応した手続補正等につい\nて,特許出願人に何らの主張の機会を与えないものといわざるを得ず,特許出願人
に対する手続保障から許されないというべきである。
◆判決本文
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2016.01.30
平成27(行ケ)10066 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成28年1月27日 知的財産高等裁判所
引用例認定の誤りを理由に、進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。出願人はクアルコムです。
上記(1)ア(ウ)のとおり,甲7文献において,コンパイラ技術は,「コンパイラ技術
/合成技術」と記され,また,上記(1)ア(オ)のとおり,「3 コンパイラ技術」とし
て,すべての再構成可能\なインストラクションセットプロセッサの命令生成は,主
に二つのステップを含み,そのうちの一つが再構成可能\アレイ用の様々なコンフィ
グレーションの合成であること,甲7文献の研究で用いられたコンパイラは,トラ
イマランコンパイラをベースとしており,再構成可能\なプロセッサにおいて,粗粒
度結合型再構成可能\なユニットを利用して開発することができ,ループの命令生成
は,ソフトウエアのパイプライン処理に基づいており,この処理は,「FPGAの\n“place and route”(配置配線)と同じである」こと,また,このコンパイラは,各
ループ処理を分析し,必要なスライス数を割り出すことができ,再構成時間と消費\n電力の双方を削減するため,必要なスライス数しか使わない,「消費電力を考慮し,
さらに処理性能を低下することなく動作させるスライスの数を最小限にするインテ\nリジェントコンパイラ」であること(上記(1)ア(キ))が示されている。
ウ 以上によれば,甲7文献に記載された「コンパイラ」は,PLDの開発
段階で,ROMに格納するコンフィグレーション・データを作成するために用いら
れるものであり,上記の第2の意義を示すものと認められる。
そうすると,前記のとおり,引用発明の「プロセッサ」は,スライスのデータ経
路コンポーネントのための構成をロードされたコンフィグレーションメモリを備え,\n「主演算装置」は,クロスバー及び処理エレメントを直接コントロールするもので
あるところ,甲7文献の「コンパイラ」は,PLDの開発手順において,上記コン
フィグレーションメモリへロードされるデータコンポーネントを生成するために用
いられるものであるから,審決の述べるように,引用発明の主演算装置に「トライ
マランをベースとしたコンパイラであって,再構成可能\なアレイを異なる構成へと\n統合させるステップを有するプロセッサ用命令セットを生成するコンパイラを含
む」と解する余地はない。
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2016.01.14
平成27(行ケ)10116 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年12月24日 知的財産高等裁判所
無効理由なしとした審決が取り消されました。理由は先行公報の記載の認定誤りです。
被告は,1)甲4発明は,転位がコンタクト抵抗を増大させるとの認識の下に転位
を除去しようとするものではない,2)鏡面仕上げをしてもなお存在する程度の転位
がコンタクト抵抗増大の原因となることは,容易に分かることではない,3)加工に
よって完全結晶から少しでも変化した加工変質層は,除去の必要性が認識されてい
なくても完全に除去するのが技術常識であるなどとはいえない旨を主張する。
しかしながら,甲4に,甲4発明がコンタクト抵抗を減少するために転位に着目
したとの明示的な記載はないとしても,技術常識等を踏まえた上で先行文献に接す
る当業者は,甲4発明から,機械加工により生じた転移の除去によるコンタクト抵
抗の低減という機序を読み取ることができる。また,鏡面仕上げ後のエッチング処
理によりコンタクト抵抗を低減させた甲4発明は,同時に,コンタクト抵抗増大の
原因が鏡面仕上によってはすべて解消できないことを示唆しているのであり,上記
技術常識等を踏まえれば,転位を除去すれば更にコンタクト抵抗を低減させられる
との知見に達するのは容易といえる。なお,加工変質層をどの程度除去すべきかは,
要求される用途等の必要性に応じて適宜に定めることであり,その必要性がないの
に常にすべての加工変質層を除去すべきものではないが,コンタクト抵抗の低減の
ために加工変質層を除去する選択をすること自体が容易であることに変わりはない。
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2015.12.14
平成27(行ケ)10042 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年12月10日 知的財産高等裁判所
引用例の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決が取り消されました。
この点に関し,本件審決は,引用例【0005】,【0030】,【0067】
及び【0086】の記載から,骨形成を促進する目的のためには,カルシウム化合
物粒子の露出の程度が大きい方が好ましいことは,明らかであると判断した。
しかし,前記2のとおり,これらの段落には,リン酸カルシウム化合物粒子が基
材シートに完全に埋入していたり,露出量が極端に少ない場合は,リン酸カルシウ
ムと骨との結合が図られず,骨の補填が効率良く進行しないおそれがあること
(【0005】),基材シートの片面側にリン酸カルシウム化合物粒子の一部を露出
させることにより,リン酸カルシウムと骨との結合が図られ,骨形成性が促進され
ること(【0030】,【0067】,【0086】)が記載されているにとどまり,露出の程度については,言及されていないし,示唆もない。
ウ なお,引用例【0046】には,「リン酸カルシウム系化合物からなる粒子
と基材シートを構成する生体吸収性高分子物質とを予\め混合し,かかる混合物から
成形されたシート状物に比べ,基材シートの表面から露出する粒子の密度や割合が\n多く,リン酸カルシウム系化合物と骨との接触・結合を積極的に図ることができる。
このように露出したリン酸カルシウム系化合物の粒子は骨形成の核となって骨形成
を促進することができる。さらに,露出する粒子は骨との結合が可能であるため,\n体内への散在を抑制することができる。」との記載がある。しかし,【0046】の
記載は,リン酸カルシウム化合物粒子と生体吸収性高分子物質との混合物から成形
されたシート状の物と,リン酸カルシウム化合物粒子を基材シートの面上に付着さ
せ,プレスによって同粒子の一部は基材シートに埋入させ,その余は露出した状態
である引用発明に係る骨補填用シートとを比較するものである。前記シート状の物
において,リン酸カルシウム化合物粒子は,それ自体がシート状の物の面上にある
わけではなく,シート状の物を構成する混合物の成分として存在することに鑑みる\nと,「基材シートの表面から露出する粒子の密度や割合が多く」とは,各粒子が基\n材シートの表面から露出する程度ではなく,粒子全体に対して基材シートの表\面か
ら露出する粒子の密集度やそのような粒子が占める割合が多いことを指すものと解
される。また,引用例【0047】には,「プレスすることにより粒子を固定させる方法によれば,基材シート4の表面において,部分的に粒子の露出量や粒子密度,さら\nに粒子の大きさ,構成材料等を変えることが容易であり,自由度が非常に大きい。」\nとの記載がある。しかし,【0047】の記載は,【0046】の記載に続くもので
あることから,「部分的に粒子の露出量や粒子密度」「を変えることが容易であり,
自由度が非常に大きい。」という記載も,前記の粒子全体に対して基材シートの表\n面から露出する粒子の密集度やそのような粒子が占める割合を容易に変えられるこ
とを意味し,各粒子が基材シートの表面から露出する程度を容易に変えられること\nを意味するものではない。
したがって,【0046】及び【0047】の記載はいずれも,前記のとおり本
願発明と引用発明との相違点に係る個々のカルシウム系化合物粒子が基材シートか
ら露出する程度に関わるものではない。
エ また,本件審決は,引用例【0048】から【0051】には,基材シート
と粒子を直接付着する方法等が記載されており,必ずしも「プレス」による付着方
法のみが記載されているわけではなく,しかも,「粒子の露出の程度」は,それら
の方法に応じて様々なものになることは技術常識であるとして,粒子の露出の程度
を適宜変更するべくプレス以外の付着方法を採用することも当業者が容易になし得
た旨判断した。
しかし,前記2のとおり,引用例においては,従来技術の課題を解決する手段と
して,1)基材シートの少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子
を付着させること及び2)その粒子をプレスして基材シートに埋入させることが開示
されており,本件審決が指摘する【0048】から【0051】は,前記1)の「付
着」の方法に関するものである。また,前記2によれば,前記2)の「プレス」は,
前記課題を解決する手段として不可欠なものというべきである。
したがって,引用例に接した当業者において,前記2)の「プレス」を実施しない
ことは,通常,考え難い。
オ 以上のとおり,引用例の記載において,露出の程度に触れているものはない
ことに照らすと,引用例には,個々のカルシウム化合物粒子が基材シートから露出
する程度につき,大きい方が好ましいことが示されているということはできない。
(3) 相違点2の容易想到性
前記(2)のとおり,引用例には,個々のカルシウム化合物粒子が基材シートから露
出する程度につき,大きい方が好ましいことが示されているということはできない。
また,本願優先日当時においてそのような技術常識が存在していたことを示す証拠
もない。したがって,本願優先日当時において,引用例に接した当業者が,個々のカルシウム化合物粒子が基材シートから露出する程度をより大きくしようという動機付け
があるということはできない。
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2015.12. 5
平成27(行ケ)10093 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年11月30日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について審決は進歩性有りと判断しましたが、知財高裁は引用文献の認定誤りを理由に、これを取り消しました。
甲1発明3の「データ管理部」に格納されている「安全管理情報」
は,「工事にかかる安全情報で,事故歴等を入力しておくと,同じ工事
を次に行う場合に参考になる」情報であり(甲1の段落【0024】),
例えば,「代表作業用キーワード(細別)」が「コンクリート打設」で\n「規格」が「大」の場合は,「ポンプ車等車の出入りと通行人を誘導す
る管理人 1」であり,「代表作業用キーワード(細別)」が「コンク\nリート打設」で「規格」が「小」の場合は,「1輪車運転中,障害物に
よるバランスに注意」である(甲1の段落【0041】,【0044】,
図2及び3)。
しかるところ,上記「安全管理情報」の「ポンプ車等車の出入りと通
行人を誘導する管理人 1」とは,「大規模コンクリート打設」には,
「ポンプ車,コンクリートミキサー車,砂利運搬車の出入り等に関する
安全を確保するために交通整理を行う管理人が必要になる。」(甲1の
段落【0044】)というものであり,「ポンプ車等車の出入り」とい
う「危険有害要因」に対応して発生し得る交通事故(「事故型分類」)
に対する予防策として交通整理を行う管理人が必要であることを示した\nものといえるから,上記「安全管理情報」は,本件発明1の「危険有害
要因および事故型分類を含む危険情報」に該当することが認められる。
また,上記「安全管理情報」の「1輪車運転中,障害物によるバラン
スに注意」とは,「障害物」という「危険有害要因」に対応して「1輪
車運転中に障害物によってバランスを崩すことによる事故」(「事故型
分類」)が発生し得ることを示したものといえるから,上記「安全管理
情報」も,本件発明1の「危険有害要因および事故型分類を含む危険情
報」に該当することが認められる。
そして,甲1発明3の「データ管理部」に格納されている「原価管理
情報」及び「安全管理情報」は,甲1の図1ないし図3に示すように,
いずれも「代表作業用キーワード(細別)」(「コンクリート打設」)\n及びその各「規格」(「大」,「中」,「小」)ごとに関連付けられて
格納されていることが認められ,「安全管理情報」の格納の態様は,「工
事名称」(「代表作業用キーワード(細別)」)に関連付けられた「要\n素」(「規格」)に関連付けられたものといえるから,甲1発明3の「デ
ータ管理部」には,本件発明1の「前記要素に関連付けられた危険有害
要因および事故型分類を含む危険情報が規定されている危険源評価マス
ターテーブル」(相違点2に係る本件発明1の構成)が格納されている\nものと認められる。
(ウ) この点に関し,本件審決は1)甲1発明3においては,本件発明1
の「歩掛マスターテーブル」と「危険源評価マスターテーブル」に共通
に格納される「要素」に相当するものが存在しないから,本件発明1の
「要素」の構成を有するものではない,2)甲1の記載をみても,「デー
タ管理部」に格納される情報をが「テーブル」として格納するとの記載
はなく,そのことが自明ともいえない,3)甲1発明3の「安全管理情報」
は,本件発明1のように工事にかかるリスクを抽出する目的で,各作業
工程において発生しうる危険としての「有害要因」とその「事故型分類」
とに整理分類して設定したものではないから,本件発明1の「危険有害
要因」及び「事故型分類」に相当する情報は含まれておらず,本件発明
1とは「危険情報」である点で共通するに留まるとして,本件発明1の
「危険源評価マスターテーブル」が存在しない旨認定した。
しかしながら,上記1)の点については,甲1発明3において,「歩掛
マスターテーブル」と「危険源評価マスターテーブル」に共通に格納さ
れる「要素」に相当するものが存在することは,前記ア(カ)認定のとお
りである。
また,上記2)の点については,前記(イ)認定のとおり,甲1発明3に
おける「安全管理情報」の格納の態様は,「工事名称」(「代表作業用\nキーワード(細別)」)に関連付けられた「要素」(「規格」)に関連
付けられたものであるから,複数のデータ項目が関連付けられて「表」\n形式で記憶されているものと認められ,「テーブル」に該当するものと
いえる。
さらに,上記3)の点については,本件発明1の特許請求の範囲(請求
項1)には,「事故型分類」に係る「分類」の方式や態様を規定した記
載はなく,本件明細書にも,「事故型分類」の語を定義した記載はない
ことに照らすと,甲1発明3の「安全管理情報」は,工事にかかるリス
クを抽出する目的で,各作業工程において発生しうる危険としての「有
害要因」とその「事故型分類」とに整理分類して設定したものではない
からといって,本件発明1の「危険有害要因」及び「事故型分類」に相
当する情報に該当しないということはできない。
以上によれば,本件審決の上記認定は,誤りである。
◆判決本文
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2015.12. 5
平成26(ネ)10102 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成27年11月30日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明について、進歩性がないので104条の3により権利できないとした1審判断が維持されました。
相違点に係る本件発明1の構成は,「危険源評価データ生成手段」が「前\n記演算手段を使用して,前記危険源評価マスターテーブルを参照して,前
記内訳データ生成手段により生成された内訳データに含まれる各要素に基
づき,当該各要素に関連する危険有害要因および事故型分類を抽出し,該
抽出した危険有害要因および事故型分類を含む危険源評価データを生成す
る」(構成要件2−E)というものである。\n本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載には,「危険源評価デ
ータ」が抽出した危険有害要因及び事故型分類を含むことのみが特定され
ており,その形式や態様等が特定されているわけではないから,「危険源
評価データ」は,抽出した危険有害要因及び事故型分類を含むものであり
さえすれば足りるものと解される。
他方,乙5発明において,「内訳データ」に含まれる「要素」である「規
格」に基づき,「危険源評価マスターテーブル」を参照し,「当該要素に
関連する危険有害要因及び事故型分類」(「安全管理情報」)を抽出して
いることは,前記(4)オ認定のとおりである。
そして,乙5発明において,上記抽出した「安全管理情報」を利用する
ためにこれをデータとして出力し,「危険有害要因及び事故型分類を含む
危険源評価データ」を「生成」するように構成することは,当業者であれ\nば格別の困難なく行うことができたことが認められる。
したがって,乙5に接した当業者であれば,相違点に係る本件発明の構\n成(構成要件2−Eの構\成)を容易に想到することができたものと認めら
れる。
◆判決本文
◆原審はこちらです。平成25(ワ)19768
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2015.10.27
平成26(行ケ)10148 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年9月28日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決が取り消されました。
前記(2)のとおり,甲11発明では,GaN基板を研磨機により研磨する
ことによって生じた表面歪み及び酸化膜を除去してn型電極のコンタクト抵\n抗の低減を図り,また,電極剥離を防止するために,ウエハーをフッ酸又は
熱燐酸を含む硫酸からなる混合溶液でエッチング処理するものとされている。
そうすると,甲11発明においては,GaN基板では,必要とするコンタク
ト抵抗を確保するためには,研磨機による研磨及び鏡面出しのみでは不十分\nであり,表面歪み等を除去する必要があることが示唆されているものといえ\nる。しかしながら,他方で,甲11には,表面歪みの程度や除去すべき範囲\nについての具体的な記載はない。そうすると,甲11発明に接した当業者は,
甲11発明において,研磨機による研磨後,ウエハーのエッチング処理を行
う際に,コンタクト抵抗の低減を図るために,上記表面歪みをどの程度の範\n囲のものととらえてこれを除去する必要があるかについて検討する必要性が
あることを認識するものといえる。
そして,かかる認識をした当業者であれば,前記(3)アないしウにおいて
認定した技術常識等に基づいて,甲11発明においても,研磨機による研磨
によって加工変質層と呼ばれる層に転位が生じているため,この転位がキャ
リアである電子をトラップしてキャリア濃度が低下し,それによってコンタ
クト抵抗が高くなるという作用機序は容易に想起できるものといえる。さら
に,前記(3)エにおいて認定したとおり,少なくともシリコンについては,
転位を含む加工変質層は完全に除去すべきものとされていたところ,前記
(3)イのとおり,上記の転位を含む加工変質層がコンタクト抵抗に与える影
響についてはシリコンにおいてもGaN系化合物半導体においても同様であ
る上に,コンタクト抵抗は低いほど望ましいことに鑑みると,当業者として
は,甲11発明における表面歪み(なお,ひずみ層も加工変質層に含まれ\nる。)を,研磨機による研磨で生じ,透過型電子顕微鏡で観察可能な転位を\n含む加工変質層としてとらえ,あるいは,表面歪みのみならず加工変質層の\n除去についても考慮して,コンタクト抵抗上昇の原因となる加工変質層を全
て除去できるまで上記のエッチング処理を行って,基板に当初から存在して
いた転位密度の値に戻すことで,キャリア濃度が低下する要因を最大限に排
除し,コンタクト抵抗の低減を図ることは,容易に想到できたことと認めら
れる。
・・・
ア 被告は,1)GaN以外の化合物半導体では,電極形成における合金化に
よって,コンタクト抵抗増大という課題が発生することはなかったのであ
るから,基板裏面の機械研磨によって転位が生じ,これによりコンタクト
抵抗が増大するという問題は,GaN基板において初めて発見された現象
であり,本件特許発明によって初めて得られた知見であるから,当然,G
aN基板において,電極形成面における転位が除去すべきものであること
も知られていなかったし,このような知見がなければ,発生した転位を電
極形成前に除去して元の基板裏面の状態に戻すという問題意識も生じない,
2)原告は,GaN基板裏面の機械研磨によって転位が生じることが技術常
識であることを示す証拠を提出していないし,原告が提出したどの文献に
も,GaN基板の電極を形成する裏面を機械研磨すると,原子レベルの線
状の欠陥である転位が生成して,コンタクト抵抗が上昇することや,転位
に着目し,これを電極形成前に除去することの記載はない,3)このように,
除去すべき必要性や課題が認識されていない加工変質層について完全に除
去するなどという周知技術は存在しない,などと主張する(前記第4の1
(1))。
しかし,前記(3)イ及びウにおいて説示したところに照らし,甲11発
明に接した当業者において,転位がキャリアである電子をトラップしてキ
ャリア濃度が低下し,それによってコンタクト抵抗が高くなるという作用
機序を容易に想起できるといえることは,前記(4)において説示したとお
りである。
そして,GaNを含む窒化物半導体においても,機械研磨により,転位
を含む加工変質層が生じることが本件優先日当時の当業者の技術常識であ
ったことは前記(3)アにおいて説示したとおりであり,この点が窒化物半
導体の裏面を機械研磨した場合において異なると理解すべき根拠もない。
また,前記(3)エにおいて説示したとおり,少なくともシリコンについ
ては,電気的特性に悪影響を及ぼすことや,ウエハーの反りやクラック発
生の原因となることから,加工変質層は完全に除去すべきものとされてい
るところ,研磨機による研磨によって加工変質層と呼ばれる層に転位が生
じ,この転位がキャリアである電子をトラップしてキャリア濃度が低下し,
それによってコンタクト抵抗が高くなるという作用機序を想起した当業者
であれば,GaNから成る窒化物半導体についても,転位を含む加工変質
層を全て除去する必要があることは容易に想到し得たものというべきであ
ることは前記(4)において説示したとおりである。
◆判決本文
関連事件です。こちらは請求棄却です(無効理由なしとした審決維持)
◆平成26(行ケ)10147
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2015.10.25
平成27(行ケ)10024 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟 平成27年10月22日 知的財産高等裁判所
めずらしく実用新案権についての無効判断です。審決は無効理由なしと判断しましたが、知財高裁は引用文献から理解できるとして、これを取り消しました。
上記記載によれば,甲1考案で分解反応に用いる酸素は,有機性廃棄物と無機性
廃棄物との混合物中の水分に溶解した形で供給されるものであるから,有機性廃棄
物の効率的な分解のために,上記混合物中の水分に溶解した酸素の量が多い方が望
ましいことは,当業者にとって明らかである。
一方,前記1(3)のとおり,甲2考案は,密閉型の発酵槽を使用した発酵処理装置
において,発酵槽の上下部に複数の開口を有する吸気管及び送気管を配置し,循環
路に送風機及び外気取り入れ口を設け,発酵槽内を空気循環による好気雰囲気に保
持する空気循環機構である。甲2考案の空気循環機構\を用いた場合には,発酵槽の
下部に配置された送気管から送出された空気が有機性廃棄物を通過するから,有機
性廃棄物中の水分に空気中の酸素を溶解させる上で好都合であることは,当業者で
あれば容易に理解できることである。
そうすると,甲1考案において,分解反応を促進するために,有機性廃棄物と無
機性廃棄物との混合物中の水分に溶解する酸素量を多くして,甲2考案の空気循環
機構を採用して相違点4に係る本件考案の構\成とすることは,きわめて容易である
といえる。
甲1には,上記のとおり,「空気の供給量は,有機性廃棄物の混合物1Kg当たり,
一般に,10〜500L/分好ましくは50〜100L/分である。10L/分未満で
は,水に溶解する酸素量が少なく,500L/分より大では,反応混合物の温度を下
げ,乾燥させすぎて分解反応を阻害することとなる。」(【0025】)との記載があ
るが,この記載は,空気の供給量の許容範囲を定めたものにすぎず,当業者が,こ
の記載に基づき,甲1考案において,空気の供給方法は通気口からのものに限定さ
れているとか,通気口からの空気のみでその供給量が十分なものとされていると理\n解するとはいえない。
(3) 被告の主張について
被告は,甲1には水に溶解される酸素の量をできる限り大きくすることが好まし
いとの記載はない旨を主張するが,上記(2)(3)のとおり,その主張は失当である。
また,被告は,本件考案における空気の循環は,槽内空気の流速(線速度)を速
めたり,過酸化水素の生成をもたらせることが目的であり,空気の溶解量を増やす
ためのものではない旨を主張するが,本件明細書にはそのような目的から空気を循
環させる旨の記載はない。被告の上記主張は,明細書に基づかないものであるから,
失当である。
さらに,被告は,甲1考案は微生物を利用したものではなく,微生物の発酵処理
に適した好気雰囲気を保持する課題は存しないから,甲2考案を組み合わせる動機
付けはない旨を主張する。しかしながら,空気循環による好気雰囲気を保持するこ
とによって有機性廃棄物中の水分に溶解する酸素量を多くするとの技術事項を適用
するに当たり,有機性廃棄物の分解機序が相違することは,その適用の妨げとなる
ものではない。被告の上記主張は,採用することができない。
なお,甲2考案は,被処理物の保湿分布を均一にして処理反応を均一かつ効率的
に起こさせるという技術課題を直接の対象とするものであり(【0004】),この課
題の解決のため,甲2考案は,前記1(3)のとおり,発酵槽内の上下部に吸気管及び
送気管を配置して,発酵槽内を空気循環による好気雰囲気に保持させていた従来技
術に加えて,上記保湿分布の均一との技術課題の観点から,発酵槽内の上下部にあ
るパイプに送吸気を兼ねさせて,発酵槽を上下に反転操作できるようにしたもので
ある。そうすると,空気循環による好気雰囲気を保持するための空気循環機構を適\n用するに当たり,保湿分布の均一化のための機構を必ずしも要するものでないこと\nは,当業者であれば,甲2から容易に読み取ることができる。したがって,甲1考
案に保湿分布を均一にするという技術課題がないからといって,甲1考案に甲2考
案の上記にいう空気循環機構を適用することが妨げられるものではない。\n
◆判決本文
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2015.10. 2
平成26(行ケ)10240 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年9月30日 知的財産高等裁判所
進歩性判断において、引用文献記載の発明認定は、請求の範囲に限定されないと判断されました。
進歩性の有無を判断する基礎となる引用発明が「刊行物に記載された発明」の場
合,当該発明は,当該刊行物に接した当業者が把握し得る先行公知技術としての技
術的思想である。そうすると,当該刊行物が甲1文献のような公開実用新案公報の
場合には,考案の詳細な説明なども含め,当該公報全体に記載された内容に基づい
て引用発明が認定されるべきであって,実用新案登録請求の範囲に記載された技術
的思想に限定しなければならない理由はない。
そして,引用発明の認定は,これを本件発明と対比させて,本件発明と引用発明
との相違点に係る技術的構成を確定させることを目的としてされるものであるから,\n本件発明との対比に必要な技術的構成について過不足なくされなければならない。\nその際,刊行物に記載された技術的思想ないし技術的構成を不必要に抽象化,一般\n化すると,恣意的な認定,判断に陥るおそれがあることに鑑みれば,当該刊行物に
記載されている事項の意味を,当該技術分野における技術常識を参酌して明らかに
するとか,当該刊行物には明記されていないが,当業者からみると当然に記載され
ていると解される事項を補ったりすることは許容され得るとしても,引用発明の認
定は,当該刊行物の記載を基礎として,客観的,具体的にされるべきである。
上記アにおいて認定した甲1文献の記載内容によれば,審決における甲1発明の
認定は,本件発明との対比に必要な技術的構成について過不足なくされているし,\n甲1文献の記載を基礎として,客観的,具体的にされたものといえるから,この認
定に誤りがあるということはできない。
◆判決本文
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2015.07.23
平成26(行ケ)10186 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年6月25日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。デシテックスと延伸率を,同時に,本願発明の数値範囲まで大きくすることは示唆されていないとしたものの、一般的な糸のサイズを利用しているにすぎないと判断されました。
他方,両発明は,使用する裸スパンデックス糸のデシテックスの値及びエストラマー材料の供給時における延伸率の制御値が異なっている。そこで,これらを前提に,相違点として,何を認定すべきかを検討する。
確かに,本願発明の延伸率は2.5倍以下であり,引用発明の延伸率は2倍以下
であり,ともに上限を定めていないから,延伸率の値自体を比較すると,引用発明
の範囲である2倍以下は,必ず2.5倍以下という意味において,本願発明の数値
範囲に含まれている。
しかしながら,本願発明と引用発明は,ともに,ヒートセットを不要にするとい
う目的を達成するために,一定の回復張力を目指して,糸のスパンデックスと延伸
率という2つのパラメータの組合せを提示するものであるが,甲1【0096】〜
【0099】の実施例8,12,13,35〜37,41〜43,48〜51,5
6,57を見ると,同じスパンデックス数であっても,収縮率が異なっている結果
が出ていることからも明らかなとおり,回復張力は,糸のスパンデックスだけでな
く,延伸率や,共に使用される硬質糸の種類やサイズといった諸要素によって決せ
られるから,スパンデックスと延伸率は相互に関係するパラメータといえ,単純に,
同一の延伸率値が常に同一の技術的意義を有するとはいえないし,数値として重な
り合っている範囲が,常に同一の技術内容を示しているともいえない。他方,スパ
ンデックスと延伸率の値は,同一回復張力を前提とする限りにおいて,相互に独立
したパラメータとして,設定できるわけではない。また,延伸率とデシテックスの
関係は,相互に関連するとはいえるが,それ以上の技術的関係が明らかでない以上,
重なり合いの範囲も定かではないから,本願発明と引用発明において,エラストマ
ー材料を延伸させる製法である点において一致すると認定できるとしても,延伸率
の数値の点を相違点の認定からおよそ外し,容易想到性の判断から除外することは
できないというべきである。
したがって,被告の主張するように,単純に延伸率の値の重なりをもって,本願
発明と引用発明の一致点というべきではないが,他方,原告の主張するように,延
伸率の違いをデシテックスの値と関連しない独立した相違点として挙げることも相
当ではなく,本願発明と引用発明の相違点は,「本願発明の裸スパンデックス糸が4
4〜156デシテックスで,その延伸率が元の長さの2.5倍以下であるのに対し,
引用発明の裸スパンデックス糸が17〜33デシテックスであり,その延伸率が元
の長さの2倍以下である点」と認定した上で,相互に関連したパラメータの変更の
容易想到性を判断すべきである。
・・・
(2) 確かに,デシテックスを大きくすることと,延伸率を大きくすることは,
ともに回復張力を大きくする作用を有するものであるから,同程度の回復張力にす
るためには,デシテックスを大きくした場合には,延伸率を小さくし,逆に,延伸
率を大きくした場合は,デシテックスを小さくする必要がある。したがって,引用
発明のデシテックスと延伸率を,同時に,本願発明の数値範囲まで大きくするとい
う動機付けや示唆は,引用発明が前提としている回復張力を前提にする限りは,当
然には生じてこないというべきである。
しかしながら,本願発明における「44〜156デシテックス」という糸のサイ
ズと,引用発明における「17〜33デシテックス」という糸のサイズとは,共に,
市場で普及している20〜400デシテックスという範囲内にあり(乙2〜5,弁
論の全趣旨),両発明は,一般的な糸のサイズを利用しているにすぎないから,この
範囲内にある糸のサイズの変更には,格別,技術的な意義はなく,当業者にとって,
予定した収縮率等に応じて適宜設定できるものといえる。したがって,デシテック\nスの範囲を本願発明の範囲の数値まですることは,当業者が容易に想到できる事項
である。
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2015.07.20
平成26(行ケ)10232 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年7月16日 知的財産高等裁判所
翻訳時に誤りがあった公報を基礎としてなした引用文献に記載の発明の認定に誤りがあったとして拒絶審決が取り消されました。
ところで,審決は,甲1の[0096]の上記記載について,甲2の【0094】の記載を訳文としてそのまま参照し,「一実施形態において,このプロセスはタッチセンサ式パネルのおそらくは所定の箇所または複数箇所に触れているユーザにより作動させることができる。」と翻訳して,これに基づいて引用発明を前記3(1)のとおり認定し,「触覚による感覚を生成するプロセスは,センサ式パネルの所定の箇所または複数箇所に触れているユーザにより作動させることができる,」と認定した。この表現によれば,引用発明の「複数箇所に触れているユーザにより作動させる」とは,触覚による感覚を生成するプロセスの作動が,ユーザによるタッチセンサ式パネルへの接触が併発,すなわち,ユーザによる同パネルのある箇所への接触と他の箇所への接触とが少なくともある一時点において併存している(当該一時点で見れば,同時に接触していることになる。)ことにより生じる状態を示すと理解するのが通常である。\nそうすると,審決が,仮に,被告の主張するようにユーザが同パネルの複数箇所を同時に接触する状態を示すことを意図していないとしても,上記の表現では,審決が意図しない状態が認識されるから,当該認定は,不適切であったといわざるを得ない。前記の下線部分は,「一実施形態において,このプロセスは,センサ式パネルに触れているユーザにより,所定の箇所又は複数箇所で,作動させることができる。」と翻訳し,これに基づいて,引用発明の該当部分は,「触覚による感覚を生成するプロセスは,センサ式パネルに触れているユーザにより,所定の箇所又は複数箇所で作動させることができる,コンピュータシステム。」と認定すべきであったと解される。\nもっとも,引用文献が外国文献である場合に,引用発明の認定を適切な訳文で表現するのが難しいことは容易に推測できるところであり,十\分に適切な表現ができていない場合に,直ちにそれが引用発明の誤認や審決の取消理由となるものではないから,引用発明の正しい認定を前提として,審決が理解した引用発明に基づく本願発明との相違点及び相違点に関する判断についても検討する必要がある。\n
・・・
したがって,タッチの感知に応答して動的な触覚効果を生成する手段について,本願発明では,「少なくとも2つの実質的に同時に起こるタッチの感知に応答して動的な触覚効果を生成する」もので,動的な触覚効果を生成する原因となるものが,「タッチスクリーン上の少なくとも2つの実質的に同時に起こるタッチ」の感知であるが,引用発明では,そのようなタッチの感知ではない点で異なるものであるから,原告の主張する上記相違点2)は,相違点と認定すべきであり,審決には,この点において相違点の看過があったと認められる。
◆判決本文
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2015.07.10
平成26(行ケ)10241 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年6月30日 知的財産高等裁判所
公知文献の認定誤りを理由に無効理由無しとした審決が取り消されました。興味深いのは、「半円形状」のものに限定されそれ以外は排除されているとの認定を先行技術の課題解決との関係で取り消したことです。
そこで検討するに,本件先願当初明細書等(甲24)中,「凹溝条」を
なす「通気胴縁部」,すなわち,「突条部10a」の具体的形状については,
図1から図3及び図9において「半円形状」の「突条部10a」が描かれ
ているのみであり,他に上記具体的形状を示す記載も図面もない。
本件先願発明の課題及びその解決の点からみると,前記2(2)よれば,
モルタル塗り外壁通気工法につき,従来技術においては,建築物の外壁内
に通気層を形成するに当たり,別部材を要したことから,本件先願発明は,
別部材を用いずに通気層を形成することを課題とし,リブラスに防水シー
トを貼着した部材,すなわち,「平板状の複合ラス素材」において「貼\着
された防水シート側に向けて突出させて」「凹溝条」を形成し,「凹溝条」
をなす「通気胴縁部」,すなわち,「突条部10a」を備え,その「通気胴
縁部」の「凹溝条」の凸部分,すなわち,「突条部10a」の頂部を建物
の外壁に当接させることによって通気層を形成することにより,別部材を
用いずに通気層を形成し,前記課題を解決するものである。
この点に関し,通気層を形成するためには,「通気胴縁部」の「凹溝条」
の凸部分,すなわち,「突条部10a」の頂部が建物の外壁に接すること
により,「凹部分」に通気層となるべき空間が形成されれば足りるといえ
る。このことから,従来技術の課題を解決するためには,「通気胴縁部」
が凹凸部分を備えた「凹溝条」をなしていれば足り,その「凹溝条」の
「凹部分」の底が平面であるか否かなどという具体的形状は,上記課題解
決の可否自体を左右する要因ではない。
そして,本件先願当初明細書等において,「半円形状」の「突条部10
a」,すなわち,「半円形状」の「凹溝条」をなす「通気胴縁部」について
は,前記のとおり図示されているのみであり,「半円形状」とする意義に
ついては記載も示唆もされていない。
加えて,前記2⑴のとおり,本件先願当初明細書の段落【0033】に
おいては,「以上,実施例を図面に基づいて説明したが,本発明は,図示
例の限りではない。本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において,当業
者が通常に行う設計変更,応用のバリエーションの範囲を含むことを念の
ために言及する。」と記載されており,同記載によっても,「突条部10
a」,すなわち,「凹溝条」をなす「通気胴縁部」が,本件先願当初明細書
等に図示されている「半円形状」のものに限られないことは,明らかとい
える。
以上によれば,本件先願当初明細書等においては,「凹溝条」をなす
「通気胴縁部」,すなわち,「突条部10a」の具体的形状は限定されてお
らず,図示された「半円形状」のもののみならず,その他の形状のものも
記載されているに等しいというべきである。前述したとおり,本件先願当
初明細書等とほぼ同様の内容を有する甲5明細書等についても,同様のこ
とがいえる。
したがって,本件審決が,本件先願当初明細書等においては,「凹溝条」
をなす「通気胴縁部」,すなわち,「突条部10a」が半円形状のもののみ
に限定されており,その他の形状のものは排除されていると解したことは,
誤りである。
◆判決本文
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2015.05.13
平成26(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年5月12日 知的財産高等裁判所
「・・姿勢にあるとき,〜後縁の最後方位置が,〜〜と比較して前方に位置するものではない」という相違点があるとして、進歩性違反なしとした審決が維持されました。
以上のことから,相手コネクタ33は,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接している状態(甲1の第3図の状態)では,コネクタ突合方向の軸線に対してある角度をもった状態,すなわち,相手コネクタ33の前端がもち上がって,上向き傾斜姿勢にある状態であり,この状態から相手コネクタ33を回転させ,嵌合終了状態にしていることがわかる。このときの回転の中心は回転中心突起53であるから,回転中心突起53の断面が円形であるとすると,相手コネクタ33の回転の前後で,回転中心突起53の最後方位置(ケーブル44側の位置)は変わらないことになる。そして,甲1の第3図の記載,回転中心突起56は,肩部56の中で回転するときの中心となるものであり,相手コネクタ33が円滑に回転するように形成されていると解されることや,回転させる前後及びその途中において,相手コネクタ33がコネクタ31に対して上下左右方向に移動できるような隙間が回転中心突起53と肩部56との間に生じるのはコネクタ同士の確実な嵌合という観点から見て望ましいものではないことを考慮すると,回転中心突起53の断面の形状は,基本的には円形が想定されていると考えられる。
もっとも,円滑な回転動作やコネクタの確実な嵌合に支障が出ない限度で,回転
中心突起53の断面が円形以外の形状となることも許容されているものと解される。そして,回転中心突起の断面が円形でない場合には,その形状に応じて回転中心突起53の最後方位置が相手コネクタ33の回転の前後で変わることになるが,甲1にはそのような事項は記載されていないのであって,回転によって,回転中心突起53の最後方位置が回転前に比較して後方に位置するという技術思想が記載されているとはいえない。
したがって,甲1発明は,コネクタ31から相手コネクタ33が外れることを防止するために,回転中心突起53が肩部56の上面に当接して,相手コネクタ33がコネクタ31に対して上方へ動くのを防いでいるものであるが,回転中心突起53の上方に肩部56の上面が位置するように,相手コネクタ33が傾斜している状態で肩部56の前側から後側(ケーブル側)へ回転中心突起53を移動させているものであって,相手コネクタ33の回転により回転中心突起56の最後方位置が後方(ケーブル側)へ移動するものではないから,甲1発明は回転中心突起56の断面形状に関する事項を特定した発明ではないと考えられる。
イ 対比
以上を前提に,本件発明3と対比すると,甲1発明は,「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケープルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置」するものではないという点において,本件発明3と相違する。したがって,回転中心突起53の形状を円柱状に限定した審決の甲1発明の認定の当否にかかわらず,相違点を肯定した審決の判断に誤りはない。
◆判決本文
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2015.03.18
平成25(行ケ)10115 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年2月26日 知的財産高等裁判所
引用文献に記載の発明の認定に誤りがあるとして、拒絶審決が取り消されました。
本件審決は,引用発明を前記のとおり認定しながら,本件訂正発明1と対比するに当たって,1)刊行物1に「2次元画像検出手段」として「TVカメラ」が例示されていることや,2次元コードを読み取る際の撮像手段としては一般的には「TVカメラ」が採用されていたこと,このようなカメラで用いられるCCDは通常は二次元アレイであること等を勘案すれば,引用発明における「CCD」は「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列される」ものであることは明らかであり,引用発明における「CCD」と本件訂正発明1における「光学的センサ」とは「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列される光学的センサ」である点で共通するといえる,2)引用発明の如き光学情報読取装置において,その撮像素子上に被写体の
像を結像せしめるための結像レンズを設ける事は須く採用される技術常識であるとともに,カメラでも結像レンズを設ける事は技術常識であるから,引用発明も当然結像レンズを備えているはずであり,引用発明と本件訂正発明1とは「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」を備える点で共通するといえる,3)光学情報読取装置において絞りを設ける事も技術常識であるとともに,カメラでも絞りを設ける事は技術常識であるから,引用発明も本件訂正発明1と同様に「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」を備えることは明らかである,4)光学情報読取装置においてセンサ出力を増幅してから2値化等の処理を行うことは技術常識であり,引用発明における「2値化手段」は本件訂正発明1における「2値化」に,引用発明における「周波数成分比検出回路」は本件訂正発明1における「所定の周波数成分比を検出」することにそれぞれ相当する処理を行うものであるから,引用発明も本件訂正発明1における「カメラ部制御装置」に相当するものを備えているといえるなどとして,前記のとおり,刊行物1は2次元コード読取装置において用いられる光学的センサ(CCD)に存する課題やその解決手段としての光学的センサの構成や構\造を何ら開示するものではないにもかかわらず,光学系に係る技術常識であるとして,刊行物1に記載がないために引用発明として認定していない構成を,本件訂正発明1と引用発明の一致点として認定したものである。このような一致点の認定手法は,本件訂正発明1と引用発明とを適切に対比したものとはいえず,相当でないというべきである。\n
◆判決本文
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2015.03. 3
平成26(行ケ)10027 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年2月25日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、無効理由無しとした審決が取り消されました。
審決は,甲1の請求の範囲の請求項1の「Bは,アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2〜60の複素環基又は置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基である。」との発明特定事項は,「Bは,アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2〜60の複素環基又はアルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基である」と理解するのが自然であると判断した。
しかし,前記の発明特定事項の文言の構造上,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2〜60の複素環基」の部分と「置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基」との部分と\n
は,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」の部分の後に特に読点による区切りもなく,両部分が「又は」で並列的に記載されているものであって,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」との部分が,「置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基」の部分に係るものではないと見るのが自然である。
このことは,甲1の請求の範囲の請求項1の記載を引用し,請求項1の下位概念であって,請求項1の範囲を限定したものと解される請求項2の記載において,「前記一般式(A)において,Bは,アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2〜60の複素環基又はアルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数5〜60のアリール基である請求項1に記載の新規芳香族化合物」とされ,請求項1の記載と同様に,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2〜60の複素環基」の部分と「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数5〜60のアリール基」の部分とが「又は」で並列的に記載される構成とされているところ,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」との部分が「又は」の前後において繰り返され,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」の部分が「炭素数5〜60のアリール基」の部分に係ることが明確にされていることの対比からも裏付けられる。 さらに,審決が認定したように,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基である」と理解すべきであるとすると,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」との部分と「無置換の」と部分が存在し,矛盾が生じるものと解される。仮に,矛盾がないように「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した(さらに)置換もしくは(その余は)無置換の」などと解するとすると,その文言上,「アルケニル基も
しくはアリールアミノ基が1置換した」との発明特定事項のみでは,アリール基の他の部分が置換しているか無置換であるかが限定されないため,これを限定する発明特定事項を付加したものと解するほかないが,そうであれば,重ねて「置換もしくは無置換の」との同内容の発明特定事項を加えることとなり不自然である。実際に,甲1の請求の範囲の請求項1の「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2〜60の複素環基」の部分に関し,複素環基には「置換もしくは無置換の」との文言は付されていないにもかかわらず,甲1の明細書(8頁16行以下)の複素環基の例が記載された部分では,「Bの置換又は無置換の複素環基としては,例えば,・・・」とされており,請求項1の複素環基は,何らの文言が付されていないのにかかわらず,「置換又は無置換」,すなわち,置換しているか無置換であるかが限定されないものであることが前提の記載となっている。 以上によれば,甲1の請求の範囲の請求項1の上記発明特定事項は,その記載上,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2〜60の複素環基」と「置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基」との双方を含むものと理解できるものと認められる。
・・・・
前記エ記載の本件発明1の一応の相違点に係る構成は,その文言上,甲1’発明1の「置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基」に包含されるものを含むものであると認められる。\nそして,本件特許の優先日当時,有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料としてアントラセン誘導体が広く用いられており,発光効率,輝度,寿命,耐熱性,薄膜形成性等を改良する目的で,用いるべき置換基の検討がなされていたことが認められるから(甲3〜5,10,11),当業者において,甲1’発明1の置換基の選択肢の中から,本件発明1に係る構成を選択することも十\分に可能であったものというべきであり,同構\成が甲1’発明1の置換基として選択され得ないようなものとは認められない。
そうすると,前記エ記載の本件発明1の一応の相違点に係る構成は,甲1’発明1の「置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基」に包含されるものを含むものであり,上記一応の相違点は,実質的な相違点ではないものというべきである。\n以上によれば,審決の甲1発明1の認定には誤りがあり,この誤った甲1発明1の認定に基づいてなされた相違点1の認定にも誤りがある。
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2015.01.30
平成25(行ケ)10285 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年1月22日 知的財産高等裁判所
先願発明の認定の誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
ところで,証拠(乙1〜3)によれば,一般に,医薬化合物等の結晶に含まれる水は水和物を形成する結晶水と結晶表面に付着する付着水とに大別されるところ,医薬化合物等の結晶のTGAにおいて,付着水による重量減少はTGA測定の昇温開始と同時に生じ始め,緩慢と進行する場合が多く,重量減少量も湿度等に影響を受けるが,結晶水による重量減少は,一定の決まった温度範囲で生じ,その量は湿度等の影響を受けず,化合物の分子量に対し一定の比となること,当該医薬品化合物等の結晶についてDSC測定(示差走査熱量法。先願明細書の段落【0110】参照。)を行うと,付着水の場合には吸熱ピークが観測されないのに対し,結晶水の場合には,結晶から水が離脱する際の熱的変化のピークが観測される場合があることから,熱分析で付着水か結晶水かの推定を行うことが可能\とされていることが認められる。
そうすると,先願発明において,フォームTのTGAによる重量損失に関わった水が,付着水か結晶水のいずれであるかは,非等温的TG曲線の解析やDSC測定の解析をするなどして,重量減少と温度の関係を観察しなくては推定することができない。したがって,上記のようなフォームTの調製方法や熱重量分析の結果を検討しただけでは,フォームTが一水和物であると認めることはできない。
以上によれば,本件審決が,先願発明であるフォームTを一水和物と認定したことには誤りがあるというほかない。
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2015.01.13
平成26(行ケ)10107 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年12月24日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、進歩性違反なしとした審決が取り消されました。
上記周知技術に鑑みると,甲15に接した当業者においては,別紙6の図2の保護素子の外部ケース(外側ケース9)が基板に対して接着剤で接着していることにより,外部ケースの内部と外部とで気体が流通しないように密閉された気密状態となっており,これにより低融点金属体及びフラックスが外部ケースの外側の外気環境から保護されていると理解するものと認められる。
もっとも,甲15には,図2の外部ケースが基板と接着していることにより外部ケースの内部と外部とで気体が流通しないように密閉された状態となる構造となっていることについては,明示的な記載はないが,他方で,そのような構\造となっていてないことをうかがわせる記載もないことに照らすと,かかる明示的な記載がないことは,上記認定を妨げるものではない。
そうすると,甲15の図2の保護素子は,その外部ケースが基板に対して接着剤で接着していることにより気密に密着してフラックスを外気環境から保護しているものと理解することができるから,甲15には,相違点2に係る本件発明1の構成が開示されているものと認められる。
ウ この点に関し,本件審決は,甲15の外部ケースは,低融点金属体及び内側封止部とともに発熱体を覆うものであるから,本件明細書の段落【0007】,【0008】に従来技術として記載されているとおり,発熱体,低融点金属体及び内側封止部を完全に密封するものではなく,場合によってはカバーの一部に穴を開けて暴発を防ぐ構\造となっていると理解するのが相当であり,相違点2に係る本件発明1の構成のものとは異なる旨認定した。\n本件審決が引用する本件明細書の段落【0007】には,抵抗付温度ヒューズの従来の技術の説明として,基板(181)の片面に発熱抵抗体(183)と低融点合金体(182)とが絶縁層(189)を介して積層配置された構造のもの(別紙1の図11(a))に関し,基板上に配置された発熱抵抗体と低融点合金体とのショートが生じた場合,「また一般に低融点合金体は周囲にフラックスを伴っているため,このようなショートが起こった場合には,そのスパークによってフラックスが爆発的に化学反応を起こし,大量のガスを発生して抵抗付温度ヒューズがケースごと暴\発するというような問題も生じる。かかる観点から,図には示さないが,これにカバーをして内部の低融点合金体乃至はその周囲に配置されたフラックスを外部の環境から完全に密封するということが困難になっており,場合によってはケースでこの低融点合金体や低融点合金体やその周囲のフラックスを覆うもののカバーの一部に穴を開けてそのような暴発を防ぐ構\造を採用しているものもある。」との記載がある。
しかしながら,本件出願前に甲15に接した当業者は,本件出願後に公開された本件明細書の記載事項を参酌して甲15記載の保護素子の外部ケースの構造を理解することはない。\nまた,本件明細書に従来技術として記載されている事項は,本件出願の発明者が従来技術として認識していたことを意味するが,そのことから直ちに本件出願時の当業者も同様に従来技術として認識していたものと認めることはできない。
さらに,本件明細書には,「すなわち図12に示すように,基板上に配置された発熱抵抗体と低融点合金体とのショート190が生じるのである。これは特に発熱抵抗体193と低融点合金体192との電位差が大きくなればなるほど生じやすくなり,また両者を隔てている絶縁薄膜の厚みが薄くなればなるほど生じやすい。」(段落【0006】)との記載があることからすると,発熱抵抗体と低融点合金体とのショートが生じるかどうかは,発熱抵抗体と低融点合金体との電位差や,発熱抵抗体と低融点合金体との間の絶縁層の厚みにも影響されるものであり,これらを適宜調整することによりショートの発生を抑制することも可能であるものとうかがわれる。\nそうすると,基板の片面に発熱抵抗体と低融点合金体とが絶縁層を介して積層配置され,かつ,低融点合金体の周囲にフラックスが配置され,さらにそのフラックスがケースのカバーで覆われた構造の抵抗付温度ヒューズであるからといって直ちに外部ケースの内部と外部とで気体が流通しないように密閉された気密状態とすることが困難であるとはいえないし,また,カバーの一部に穴を開けて暴\発を防ぐ構造となっているものとはいえ\nない。
以上によれば,本件審決の上記認定は誤りである。
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2014.10.31
平成25(行ケ)10303 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年10月23日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、新規性無しとした審決が取り消されました。
特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明は,その発明について特許を受けることができない(特許法29条1項3号)。\nここにいう「刊行物に記載された発明」の認定においては,刊行物において発明の構成について具体的な記載が省略されていたとしても,それが当業者にとって自明な技術事項であり,かつ,刊行物に記載された発明がその構\\成を備えていることを当然の前提としていると当該刊行物自体から
理解することができる場合には,その記載がされているに等しいということができる。しかし,そうでない場合には,その記載がされているに等しいと認めることはできないというべきである。
そうすると,本件において,「ポリエステル組成物Aからなる白色ポリエステルフィルム」が甲1公報に記載されているに等しいというためには,ポリエステル組成物Aについてフィルムを成形したものが当業者にとって自明な技術事項であり,かつ,同公報に記載された発明が,ポリエステル組成物Aについてフィルムを成形したものであることを当然の前提としていると同公報自体から理解することができることが必要というべきである。
しかるに,本件においては,ポリエステル組成物Aについてフィルムを成形したものが当業者にとって自明な技術事項であることを認めるに足りる証拠はない。したがって,これを自明な技術事項であるということはできない。また,甲1公報の記載を検討しても,実施例12のポリエステル組成物Aは白色二軸延伸フィルムを製造するポリエステル組成物Bを得るための中間段階の組成物にすぎず,同実施例がポリエステル組成物Aについてフィルムを成形するものでないことはいうまでもないし,さらに,同公報のその他の記載をみても,ポリエステル組成物Aについてフィルムを成形することを示す記載や,そのことを当然の前提とするような記載はない。
以上のとおり,ポリエステル組成物Aについてフィルムを成形したものが当業者にとって自明な技術事項であるとはいえず,また,甲1公報に記載された発明が,ポリエステル組成物Aについてフィルムを成形したものであることを当然の前提としていると同公報自体から理解することができるともいえない。そうすると,「ポリエステル組成物Aからなる白色ポリエステルフィルム」は,甲1公報に記載されているに等しい事項であると
認めることはできないものというべきである。
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2014.10.29
平成26(行ケ)10030 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年10月20日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が維持されました。
(2) 以上のとおり,甲1においては,第1実施の形態として,段落【0013】〜【0020】,図1〜6において,・・・可能としたものが記載されている。\nところが,第2実施の形態において,「カードサイズ紙片」を加えた構成について,本文中の記載及び図面にも直接的に記載したものはなく,これを窺わせる記載も存在しない。そして,甲1発明の目的は,上記(1)アに記載したとおり,重ね合わせた部分が不必要時には不用意に開封しないようにして,かつ,必要なときには重ね合わせた部分を容易に開封できるようにした重ね合わせ郵便はがきを提供することであり,発明の効果として,隅部にカットラインを入れて,隅部を切り取ることなく一方の片葉に残したために,従来技術のように段差を形成することはないため,重ね合わせ郵便はがきに他の郵便はがきが引っかかって不用意に開封されることがなく,剥がすときには,片葉あるいは二葉の両端に形成した隅部をカットラインから切離して取り除くことにより段差を形成することができ,その段差から一方の片葉を容易に引き剥がすことができる(【0026】〜【0029】)と記載されているのみである。これらの記載から見て,甲1の請求項に記載された発明の本質的部分は,隅部にカットラインを入れた構成に存するものであることは明らかである。したがって,第1実施の形態に記載された「カードサイズ紙片」は,甲1全体を通じて理解される技術思想であるとは理解できず,単に,用紙を中央で二葉に折り曲げて,二葉同士を重ね合わせ,剥離可能\に接着剤で密着して形成した重ね合わせ郵便はがきを第1実施の形態とし,その一例の構成として示されたものにすぎない。よって,第1の実施の形態における「カードサイズ紙片」は,第2の実施の形態と関連性を有するものではなく,第2の実施例において「カードサイズ紙片」を設けることが自明であるとも,記載されているに等しいものと認めることもできない。\n
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2014.09.25
平成25(行ケ)10227 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年9月17日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、無効理由無しとした審決が取り消されました。
相違点13−2は,要するに,本件発明7では,光検出器において,第二の次元の共焦点作用をもたらすのに対し,甲13発明では,PS−PMT検出器において,そのような共焦点作用をもたらしているか否か不明である,というものである。
しかるところ,空間フィルタを使用しないで,光検出器において共焦点作用をもたらすことが本件優先日前に周知の事項であったことは,審決において認定するところであり(27頁10〜14行目),被告も,そのこと自体を争っているものとは認められない。
したがって,甲13に接した当業者は,甲13発明のPS−PMT検出器において共焦点作用を生じるに足るものであれば,少なくとも共焦点作用がもたらされていること自体は,認識するといえる。
これについて,審決は,上記周知の空間フィルタを使用しない共焦点作用は,2次元の共焦点作用をもたらすものの代替であり,1次元の共焦点作用をもららすものではないと認定している。
そこで,まず,甲13発明のPS−PMT検出器が共焦点作用をもたらしているか,そして,その共焦点作用がいかなるものかを,次に検討する。
・・・・
すると,甲13発明では,スリットの長さ方向(Y軸方向)に広がる光を非点収差補正光学系で光検出器の位置で結像させ,PS−PMTのY方向の5ピクセルの領域のみを加算しているから,「光検出器の所与の領域で受ける光が,前記所与の領域外で受ける光を含まずに」「所与の領域は第一の次元(X軸方向)を横切る第二の次元(Y軸方向)で共焦点作用をもたらすように形成されて」いるといえる。
したがって,相違点13−2は,実質的な相違点ではない。
・・・・
以上2及び3によれば,相違点13−1及び相違点13−2は,実質的な相違点ではなく,相違点13−3及び相違点13−4は,容易に想到し得たものといえる。
したがって,本件発明7は,甲13発明及び周知技術に基づいて容易に想到することができたから,本件発明7を甲13発明から容易に想到できないとした審決の認定判断には誤りがあり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
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2014.09.16
平成25(行ケ)10209 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年9月10日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が取り消されました。
前述したとおり,補正発明と引用発明の相違点は,薬剤の用途が,補正発明においては,「血管内皮の収縮・拡張機能改善及び血管内膜の肥厚抑制の少なくとも一方の作用を有する剤」であるのに対して,引用発明においては,「ACE阻害活性を示す,抗高血圧剤」である点である。\nイ(ア) 引用例2から引用例4には,前記のとおり,ACE阻害剤であるシラザプリル,キナプリル,カプトプリルを,本態性高血圧症や内皮機能障害の疾患を有するヒト,バルーンカテーテル処理によって頸動脈の内皮剥離,損傷を受けたラットに投与した実験の結果,血管内皮の拡張能\の向上,血管内膜の肥厚抑制等が見られた旨が記載されており,引用例5には,血管壁肥厚の抑制と改善,内皮細胞機能の改善等がACE阻害薬の効果としてヒトで証明されている旨が記載されている。これらの記載によれば,シラザプリル等のACE阻害剤を人体や動物に投与した実験において,血管内皮の機能\改善作用,血管内膜の肥厚抑制作用が確認されたことを読み取ることができる。
(イ) しかしながら,前述のとおり,本願優先日当時においては,上記と異なる実験結果を示す複数の技術文献が存することから,ACE阻害剤であれば原則として血管内皮の収縮・拡張機能改善作用又は血管内膜の肥厚抑制作用のうち少なくともいずれか一方を有するとまではいえず,個々のACE阻害剤が実際にこれらの作用を有するか否かは,各別の実験によって確認しなければ分からないというのが,当業者の一般的な認識であった。\n(ウ) しかも,IPP及びVPPと,引用例2から引用例5に記載されたシラザプリル等のACE阻害剤との間には,以下のとおり,性質,構造において大きな差異が存在する。他方,IPP及びVPPと上記ACE阻害剤との間に,ACE阻害活性を有すること以外に特徴的な共通点は見当たらない。\na すなわち,シラザプリル等はいずれも典型的なACE阻害剤であるのに対し,IPP及びVPPは確かにACE阻害活性を有しているものの,下記の比較によれば,その強度は上記ACE阻害剤よりもかなり弱いものにとどまるといえる。現に,本件に証拠として提出されている公刊物中には,IPP及びVPPをACE阻害剤として紹介する記載は見当たらない。
・・・
ウ 前述した本願優先日当時の当業者の一般的な認識に鑑みれば,当業者
が,ACE阻害活性の有無に焦点を絞り,引用発明においてIPP及びVPPがA
CE阻害活性を示したことのみをもって,引用例2から引用例5に記載されたAC
E阻害剤との間には,前述したとおりACE阻害活性の強度及び構造上の差異など\n種々の相違があることを捨象し,IPP及びVPPも上記ACE阻害剤と同様に,
血管内皮の機能改善作用,血管内膜の肥厚抑制作用を示すことを期待して,IPP\n及び/又はVPPを用いることを容易に想到したとは考え難い。
また,仮に,当業者において,引用例2から引用例5に接し,前記一般的な認識
によれば必ずしも奏功するとは限らないとはいえ,ACE阻害活性を備えた物質が
上記作用を示すか否か試行することを想起したとしても,前述したとおり,IPP
及びVPPは,性質,構造において上記ACE阻害剤と大きく異なり,特にIPP\n及びVPPのACE阻害活性は上記ACE阻害剤よりもかなり低いものといえるから,試行の対象としてIPP及び/又はVPPを選択することは,容易に想到するものではないというべきである。
以上によれば,引用発明と引用例2から引用例5とを組み合わせて補正発明を想到することは容易とはいえず,本件審決が,「相当程度の確立した知見」を前提として,引用発明と引用例2から引用例5とを組み合わせ,これらを併せ見た当業者であれば,引用発明においてACE阻害活性を有することが確認されたIPP及び/又はVPPを,血管内皮の収縮・拡張機能改善及び血管内膜の肥厚抑制の少なくとも一方の作用を有する剤として用いることに,格別の創意を要したものとはいえないと判断した点は誤りである。\n
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2014.09.16
平成25(行ケ)10209 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年9月10日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が取り消されました。
前述したとおり,補正発明と引用発明の相違点は,薬剤の用途が,補正発明においては,「血管内皮の収縮・拡張機能改善及び血管内膜の肥厚抑制の少なくとも一方の作用を有する剤」であるのに対して,引用発明においては,「ACE阻害活性を示す,抗高血圧剤」である点である。\nイ(ア) 引用例2から引用例4には,前記のとおり,ACE阻害剤であるシラザプリル,キナプリル,カプトプリルを,本態性高血圧症や内皮機能障害の疾患を有するヒト,バルーンカテーテル処理によって頸動脈の内皮剥離,損傷を受けたラットに投与した実験の結果,血管内皮の拡張能\の向上,血管内膜の肥厚抑制等が見られた旨が記載されており,引用例5には,血管壁肥厚の抑制と改善,内皮細胞機能の改善等がACE阻害薬の効果としてヒトで証明されている旨が記載されている。これらの記載によれば,シラザプリル等のACE阻害剤を人体や動物に投与した実験において,血管内皮の機能\改善作用,血管内膜の肥厚抑制作用が確認されたことを読み取ることができる。
(イ) しかしながら,前述のとおり,本願優先日当時においては,上記と異なる実験結果を示す複数の技術文献が存することから,ACE阻害剤であれば原則として血管内皮の収縮・拡張機能改善作用又は血管内膜の肥厚抑制作用のうち少なくともいずれか一方を有するとまではいえず,個々のACE阻害剤が実際にこれらの作用を有するか否かは,各別の実験によって確認しなければ分からないというのが,当業者の一般的な認識であった。\n(ウ) しかも,IPP及びVPPと,引用例2から引用例5に記載されたシラザプリル等のACE阻害剤との間には,以下のとおり,性質,構造において大きな差異が存在する。他方,IPP及びVPPと上記ACE阻害剤との間に,ACE阻害活性を有すること以外に特徴的な共通点は見当たらない。\na すなわち,シラザプリル等はいずれも典型的なACE阻害剤であるのに対し,IPP及びVPPは確かにACE阻害活性を有しているものの,下記の比較によれば,その強度は上記ACE阻害剤よりもかなり弱いものにとどまるといえる。現に,本件に証拠として提出されている公刊物中には,IPP及びVPPをACE阻害剤として紹介する記載は見当たらない。
・・・
ウ 前述した本願優先日当時の当業者の一般的な認識に鑑みれば,当業者
が,ACE阻害活性の有無に焦点を絞り,引用発明においてIPP及びVPPがA
CE阻害活性を示したことのみをもって,引用例2から引用例5に記載されたAC
E阻害剤との間には,前述したとおりACE阻害活性の強度及び構造上の差異など\n種々の相違があることを捨象し,IPP及びVPPも上記ACE阻害剤と同様に,
血管内皮の機能改善作用,血管内膜の肥厚抑制作用を示すことを期待して,IPP\n及び/又はVPPを用いることを容易に想到したとは考え難い。
また,仮に,当業者において,引用例2から引用例5に接し,前記一般的な認識
によれば必ずしも奏功するとは限らないとはいえ,ACE阻害活性を備えた物質が
上記作用を示すか否か試行することを想起したとしても,前述したとおり,IPP
及びVPPは,性質,構造において上記ACE阻害剤と大きく異なり,特にIPP\n及びVPPのACE阻害活性は上記ACE阻害剤よりもかなり低いものといえるから,試行の対象としてIPP及び/又はVPPを選択することは,容易に想到するものではないというべきである。
以上によれば,引用発明と引用例2から引用例5とを組み合わせて補正発明を想到することは容易とはいえず,本件審決が,「相当程度の確立した知見」を前提として,引用発明と引用例2から引用例5とを組み合わせ,これらを併せ見た当業者であれば,引用発明においてACE阻害活性を有することが確認されたIPP及び/又はVPPを,血管内皮の収縮・拡張機能改善及び血管内膜の肥厚抑制の少なくとも一方の作用を有する剤として用いることに,格別の創意を要したものとはいえないと判断した点は誤りである。\n
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2014.08. 5
平成25(行ケ)10310 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟 平成26年7月9日 知的財産高等裁判所
登録実用新案について、無効理由無しとした審決が取り消されました。
甲1及び甲2対象品は,その形状等からみて,いずれも審決が甲1考案として認定したとおりの構成を有するものと認められ,本件考案1との相違点も,審決の認定のとおり,甲1及び甲2対象品が「付箋紙の積重ね層の中間部分に位置している色の付箋紙だけを剥離しても,他の付箋紙が分離してばらばらになることのないように,個々の上記付箋紙束が,多数枚の上記付箋紙の端縁の集まりによって形成されている上記付箋紙束の面状の端面に剥離可能\に接合された帯状の連結材によって連結されている」との構成(本件連結構\成)を有するか否が明らかでない点である。
そこで,甲1及び甲2対象品が,本件連結構成を有するか否かについて検討する。\n技術的効果証明写真(甲16)及び係争付箋紙の機能説明用DVD(甲27)によれば,甲1及び甲2対象品を各々構\成する一塊となった4色組付箋紙束が実験に用いられているところ,4色組付箋紙束ブロックをそれぞれ広げると,一端は繋がったまま各色の付箋紙束が角度をなして離間した状態となること,これらの4色組付箋紙束ブロックの両側最外層に一対のクリップを取り付け,両クリップを持って付箋紙束ブロックを持ち上げると,一端は繋がったまま各色の付箋紙束が角度をなして離間した状態となることが認められ,甲1及び甲2対象品の4色組付箋紙束ブロックにおいて,各色の付箋紙束が一端にて連結されているといえる。そして,前記のとおり,甲1及び甲2対象品は同一製品であるところ,甲1又は甲2対象品内の4色組付箋紙束ブロックのうち,中間部分の色束を数十枚剥離しても,付箋紙束は繋がったままであり,実験後の付箋紙束の両側最外層に一対のクリップを取り付け,両クリップを持って付箋紙束ブロックを持ち上げても,一端が繋がったままである様子が認められ,中間部分に位置している色の付箋紙を剥離しても,残った付箋紙が分離してばらばらにならないといえる。さらに,複数枚の付箋紙を剥離した後の付箋紙束の面状の端面,すなわち,付箋紙束が連結されている部分を見ると,膜状の層を認識でき,この膜状の層は,付箋紙束の面状の端面全体に亘っていることが認められ,各色の付箋紙束の一端を連結するのが,各色の付箋紙束の一端の端面に跨って接合された膜状の層であるといえる。\n以上を総合すれば,甲1及び甲2対象品の4色付箋紙束ブロックは,各色の付箋紙束の一端の端面に跨って剥離可能に接合された膜状の層によって,各色の付箋紙束が一端にて連結されることで,中間部分に位置している色の付箋紙を剥離しても,残った付箋紙が分離してばらばらにならない構\成を有することが認められる。上記の「膜状の層」は本件考案1の「帯状の連結材」に相当するものであるから,両構成は一致しており,甲1及び甲2対象品の4色付箋紙束ブロックは,本件考案1の本件連結構\成を備えているといえる。
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2014.08. 4
平成25(行ケ)10245 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年7月17日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が、相違点の認定に誤りありとして取り消されました。
引用文献においては,「Refining(精細)して再利用可能な程度の可塑性と粘着性を与える工程」については,「再生は脱硫のみならずRefiningに依つても行われる」,「(Refiningを)をおろそかにしている工場の殆ど總ては・・・出来上つた再生ゴムは粒子が粗く著しい見劣りが感ぜられた」,「何れにしてもRefiningは斯くの如く重要なもの」等とされており,「Refining(精細)して再利用可能な程度の可塑性と粘着性を与える工程」を重視すべきことが強調されている(甲2)。そうすると甲2発明に接した当業者は,再生(本願発明の「脱硫」)に際して「Refining(精細)して再利用可能な程度の可塑性と粘着性を与える工程」を強化するべきことを想到するとしても,「Refining(精細)して再利用可能な程度の可塑性と粘着性を与える工程」を必須としない構\成については,これを容易に想到し得ない。(3) 本願発明の「54〜100%の架橋を破壊して,加硫ゴム中の硫黄含量を減少するに十分な量のテルピン溶液」とは,本願発明の意味での「脱硫」,すなわち,使用済みの加硫ゴムを再利用できる形態まで「再生」すること,を基本的に完了するに足りる量のテルピン溶液を意味すると解される。一方,甲2発明の「再生方法」では,松根油と共に加熱する工程のみならず,可塑性及び粘着性を強めるRefining工程も必須であって,松根油と共に加熱する工程のみで「再生」が行われるわけではないから,松根油の量は,加硫ゴムを再利用できる可塑性及び粘着性を有する形態まで「再生」するのに十分な量であるとは認められない。むしろ,引用文献には,前記のとおり油の量を多くし加熱時間を長くすると再生ゴムの腰が弱くなるので,そうせずにRefiningを十分に行うことで十\分な可塑性と粘着性を有し,腰の強い再生ゴムが得られる旨が記載されているので,油の量を多くすることには阻害要因があるというべきである。(4) したがって,本願発明と甲2発明との間の上記各相違点に係る構成は,当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないから,審決の容易想到性判断には誤りがある。そして,この誤りは結論に影響を及ぼすものであるから,原告主張の取消事由4は理由がある。\n
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2014.06. 3
平成25(行ケ)10248 審決取消訴訟 特許権 行政訴訟 平成26年05月26日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、進歩性無しとした審決が取り消されました。
甲1発明は,前記(1)イに認定したとおりであるから,甲1発明における,排気ガスの酸素濃度が低下したとき(リッチ燃焼運転時)に,「HCが部分酸化されて活性化され,NOxの還元反応が進みやすくなり,結果的に,HC及びNOx浄化率が高まる」という作用効果は,NOx吸収材と貴金属とを含む排気ガス浄化用触媒に追加した「Ce−Zr−Pr複酸化物」によって奏したものであって,排気ガスの酸素濃度を前記段落【0058】のように「2.0%以下,あるいは0.5%以下」となるように制御することによって奏したものではない。すなわち,「Ce−Zr−Pr複酸化物」は,前記作用効果を奏するための必須の構成要件であるというべきであり,排気ガスの酸素濃度を「2.0%以下,あるいは0.5%以下」となるように制御した点は,単に,実施例の一つとして,リーン燃焼運転時に「例えば4〜5%から20%」,リッチ燃焼運転時に「2.0%以下,あるいは0.5%以下」との数値範囲に制御したにとどまり,前記作用効果を奏するために施した手段とは認められない。したがって,引用発明において,「HCが部分酸化されて活性化」されるのは,NOx吸収材と貴金属とを含む排気ガス浄化用触媒において,「Ce−Zr−Pr複酸化物」を含むように構\成したことによるものであるから,引用例1に,「排気ガス浄化用触媒1の入口側の排気ガスの酸素濃度は2.0%以下に制御」(段落【0058】)することにより,HCの部分酸化をもたらすことを内容とする発明が,開示されていると認めることはできない。そうすると,審決は,引用発明の認定において,「酸素濃度は2.0%以下に制御され,HCが部分酸化されて活性化されNOxの還元反応が進みやすくなり,結果的にHC及びNOx浄化率が高まる,排気ガス浄化装置」と認定しながら,そのような作用効果を奏する必須の構成である「Ce−Zr−Pr複酸化物」を排気ガス浄化用触媒に含ませることなく,欠落させた点において,その認定は誤りであるといわざるを得ない。\n
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2014.05. 1
平成25(行ケ)10259 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年04月24日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が、共通の技術分野に属するものであるとして、取り消されました。
本件特許発明1は,帯電微粒子水を食品収納庫内の空気中に浮遊させて当該帯電微粒子水に含まれる活性種とエチレンガスを反応させ,二酸化炭素と水に分解するエチレンガスの除去方法であるのに対し,甲1発明1は,帯電微粒子水を室内の空気中に浮遊させて当該帯電微粒子水に含まれる活性種とアセトアルデヒドを反応させて消臭するものではあるが,いずれも,活性種を用いて対象物を除去し空気を清浄する点では共通するものである。さらに,前記・・・において認定した甲2公報ないし甲5公報に記載された技術は,その生成方法や生成された活性種の状態について本件特許発明1や甲1発明1のものと同一とはいえないものも含まれるものの,いずれも活性種を利用し空気等を清浄した点では共通する。そうすると,原出願時の当業者は,本件特許発明1,甲1発明1及び・・・において認定した各技術につき「活性種を利用した空気清浄技術」という共通の技術分野に属するものと認識するものと認められる。さらに,前記イにおいて認定した技術も,その内容に照らし,いずれも「活性種を利用した空気清浄技術」に属するものと認められる。そして,前記・・・において認定したところに照らすと,「活性種を利用した空気清浄技術」という技術分野において,同一の活性種の発生方法(発生装置)を,空気清浄機や食品収納庫やエアコンや加湿器等の異なる機器の間で転用したり,脱臭や除菌やエチレンガスの分解等の異なる目的の用途に利用することは,原出願時において,当業者において通常に行われていた技術常識であると認められる。さらに,前記・・・において認定したところに照らすと,一般に,植物の成長促進成分として野菜や果実からエチレンガス及びアセトアルデヒドが出ることが知られており,このエチレンガス及びアセトアルデヒドを活性種により分解することは,原出願時において周知の技術であるものと認められる。加えて,・・・とおり,甲2公報ないし甲5公報には,食品収納庫において活性種が食品から出るエチレンガスを分解することが記載されているほか,甲4公報には,OHラジカルがエチレンを炭酸ガス(CO2)と水に分解することが記載されていることに照らすと,食品収納庫内のエチレンガスを除去することが求められており,そのために活性種を用いる技術が存在したことが認められる。また,前記・・・において認定したところに照らすと,甲1発明1並びに甲2公報及び甲3公報に記載された技術は,いずれも,活性種が水と結合している状態のものを利用して空気等を清浄する点で共通するものと認められる。以上によれば,甲1発明1において,帯電微粒子水に含まれる活性種につき,アセトアルデヒドと反応させて消臭することに代えて,エチレンガスの除去に用いること,その際,帯電微粒子水を室内の空気中に浮遊させ,アセトアルデヒドを消臭することに代えて,帯電微粒子水を食品収納庫内の空気中に浮遊させて当該帯電微粒子水に含まれる活性種とエチレンガスを反応させ,二酸化炭素と水に分解することは,原出願時の当業者において容易に想到することができたものと認められる。よって,甲1発明1に甲2公報ないし甲5公報記載の技術並びに技術常識及び周知技術を適用して,本件特許発明1との相違点に係る構成とすることは,原出願時の当業者において,容易に想到することができたものと認められる。\n
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2014.02.10
平成25(行ケ)10163 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年01月30日 知的財産高等裁判所
審判では訂正を認めた上で無効であると判断されましたが、裁判所はこれを取り消しました。理由は、引用文献の認定誤りです。
以上の甲11公報の記載に照らすと,放電によって発生するマイナスの極小イオンは,その後,「水の分子に極小イオンが結合して,水分子のクラスターを核とする0.001μm(判決注・1nm)程度の大きさの動きやすい小イオン」となるものとされているにとどまる。また,上記図3には「O2―(H2O)n」が示されているが,これも上記の小イオンに該当するものである。そうすると,甲11公報に,高電圧により大気中で水を静電霧化して生成された帯電微粒子水にラジカルが含まれることが開示されているとは認められない。・・・・以上によれば,本件優先日において,高電圧により大気中で水を静電霧化して生成された帯電微粒子水にラジカルが含まれることが技術常識であったとも,当業者が上記の事項を認識できたともいえない。なお,ラジカルにより臭気を除去できることが本件優先日時の技術常識であったとしても,臭気を除去するものとして水粒子に溶解させること (甲8,20参照)など他の方法も存在するものである以上,上記の点のみをもって甲1発明1の帯電微粒子水による消臭効果がラジカルによるものであると認識することができるものということはできない。そうすると,甲4公報の記載及び技術常識に基づき,甲1発明1の帯電微粒子水にラジカルが含まれ,これにより消臭がなされたと認識することが容易であるということはできない。
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2014.01. 8
平成25(行ケ)10109 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年12月25日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性無しとした審決が取り消されました。
本願発明は,車等の移動体に搭載されたナビゲーション装置を介して,移動体が走行する経路等の周辺の施設等に関する広告情報を提供する移動体広告システムにおける経路広告枠設定装置に関する発明である。従来の移動体広告システムは,移動体の位置や,予めユーザが目的地を登録することにより決定された経路に応じて広告情報を配信するものであったが,配信する広告情報が地図上の各エリアに対応付けられていたため,移動体が所定の経路を外れても,エリア内であれば,エリアに対応付けられた広告情報が配信されてしまうという解決課題があった。本願発明は,エリアに代えて地図上の経路に応じて広告情報を配信可能\な経路広告枠設定装置を提供することを目的とするものである。本願発明における経路広告枠設定装置は,通信ネットワークを介して広告主の端末と接続しており,この広告主の端末から,地図上の経路に関する,線描写によって設定された経路情報を受信し,受信した前記経路情報に広告枠を設定し,記憶部に有する経路データベースに記憶するとの構成を有するものであり,広告主は,地図上の様々な経路に広告枠を設定することができるとするものである。そして,ユーザの端末からユーザの位置情報を取得し,当該位置情報を含む経路を特定して,当該経路に関連する広告枠の広告情報をユーザの端末に送信する。\n
(2) 容易想到性の有無
引用例1発明は,広告枠を地図上のエリアに設定し,広告主が供給する広告情報と地図上のエリア情報の対応関係をデータベースに記憶し,現在位置が含まれる地図上のエリアに対応した広告情報をデータベースから読み出して,ナビゲーション装置に送信するという,移動体広告システムの発明であり,本願明細書が言及するとおり,移動体が所定の経路を外れても,エリア内であれば,エリアに対応付けられた広告情報が配信されてしまうとの未解決の課題を残した発明である。他方,引用例2は,車載ナビゲーション・システム等を使用した,位置に基づく広告の提供方法に関する発明を記載したものである。引用例2には,広告メッセージを伝えることができる位置として,通行可能な道路沿いの特定位置を「仮想広告掲示板」の位置として指定し,ナビゲーション・サービス・プロバイダは広告主との契約に基づき,設けられた「仮想広告掲示板」の位置を通過するエンドユーザに広告メッセージを伝えるとの技術事項が記載開示されている。引用例2に記載された上記技術は,通行可能\な道路沿いの特定位置を通過するユーザに対して,広告メッセージを伝えるものであり,広告メッセージが送信されるのは,ユーザが特定の位置を通過した時点である。広告枠を地図上のエリアに設定し,広告主が供給する広告情報と地図上のエリア情報の対応関係をデータベースに記憶し,現在位置が含まれる地図上のエリアに対応した広告情報をデータベースから読み出して,ナビゲーション装置に送信するという発明である引用例1発明と,通行可能な道路沿いの特定位置を「仮想広告掲示板」の位置として指定し,位置を通過するエンドユーザに広告メッセージを伝えるとの引用例2に記載された技術事項を組み合わせたとしても,本願発明における地図上の経路に広告枠を設定するとの構\成に至ることはない。また,引用例1発明に引用例2の記載事項を組み合わせても本願発明における上記構成に至らない以上,経路を線描写によって設定することが周知事項であったとしても,引用例1発明に引用例2の記載事項及び上記周知事項を組み合わせることにより本願発明の上記構\成に至ることはない。したがって,広告枠を地図上の経路に対して設定することが引用例2の段落【0060】及び【0061】の記載並びに図11から出願前公知であるとして,経路を線描写によって設定することが周知事項であることを考慮し,引用例1発明の地図上のエリアとして引用例2の記載事項にあるような道路区間(経路)を採用し,相違点の構成とすることが当業者において容易になし得ることであるとした審決の判断には誤りがある。
(3) 被告の主張に対して
被告は,引用例2における「道路区間」は本願発明における「経路」に相当し,引用例2には「道路(経路)に対して広告を設定すること」が記載されているのであるから,引用例1発明に引用例2に記載の技術事項を採用して,相違点に係る構成に至るのは容易であると主張する。しかし,引用例2に記載された「道路区間」の語は,仮想広告掲示板を設定する「道路区間」沿いの位置を特定する文脈の中で用いられたものであって,広告枠を設定する対象を意味するものとして用いられた語ではない。したがって,引用例2における「道路区間」と本願発明における「経路」とは,技術的意義において相違する。引用例2においては,移動体が当該道路区間上を移動中であったとしても,当該特定位置に至らない限り,広告メッセージは配信されないのであるから,「広告枠を経路情報に設定」することが記載されているとはいえず,被告の主張は失当である。\n
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2014.01. 8
平成25(行ケ)10109 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年12月25日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性無しとした審決が取り消されました。
本願発明は,車等の移動体に搭載されたナビゲーション装置を介して,移動体が走行する経路等の周辺の施設等に関する広告情報を提供する移動体広告システムにおける経路広告枠設定装置に関する発明である。従来の移動体広告システムは,移動体の位置や,予めユーザが目的地を登録することにより決定された経路に応じて広告情報を配信するものであったが,配信する広告情報が地図上の各エリアに対応付けられていたため,移動体が所定の経路を外れても,エリア内であれば,エリアに対応付けられた広告情報が配信されてしまうという解決課題があった。本願発明は,エリアに代えて地図上の経路に応じて広告情報を配信可能\な経路広告枠設定装置を提供することを目的とするものである。本願発明における経路広告枠設定装置は,通信ネットワークを介して広告主の端末と接続しており,この広告主の端末から,地図上の経路に関する,線描写によって設定された経路情報を受信し,受信した前記経路情報に広告枠を設定し,記憶部に有する経路データベースに記憶するとの構成を有するものであり,広告主は,地図上の様々な経路に広告枠を設定することができるとするものである。そして,ユーザの端末からユーザの位置情報を取得し,当該位置情報を含む経路を特定して,当該経路に関連する広告枠の広告情報をユーザの端末に送信する。\n
(2) 容易想到性の有無
引用例1発明は,広告枠を地図上のエリアに設定し,広告主が供給する広告情報と地図上のエリア情報の対応関係をデータベースに記憶し,現在位置が含まれる地図上のエリアに対応した広告情報をデータベースから読み出して,ナビゲーション装置に送信するという,移動体広告システムの発明であり,本願明細書が言及するとおり,移動体が所定の経路を外れても,エリア内であれば,エリアに対応付けられた広告情報が配信されてしまうとの未解決の課題を残した発明である。他方,引用例2は,車載ナビゲーション・システム等を使用した,位置に基づく広告の提供方法に関する発明を記載したものである。引用例2には,広告メッセージを伝えることができる位置として,通行可能な道路沿いの特定位置を「仮想広告掲示板」の位置として指定し,ナビゲーション・サービス・プロバイダは広告主との契約に基づき,設けられた「仮想広告掲示板」の位置を通過するエンドユーザに広告メッセージを伝えるとの技術事項が記載開示されている。引用例2に記載された上記技術は,通行可能\な道路沿いの特定位置を通過するユーザに対して,広告メッセージを伝えるものであり,広告メッセージが送信されるのは,ユーザが特定の位置を通過した時点である。広告枠を地図上のエリアに設定し,広告主が供給する広告情報と地図上のエリア情報の対応関係をデータベースに記憶し,現在位置が含まれる地図上のエリアに対応した広告情報をデータベースから読み出して,ナビゲーション装置に送信するという発明である引用例1発明と,通行可能な道路沿いの特定位置を「仮想広告掲示板」の位置として指定し,位置を通過するエンドユーザに広告メッセージを伝えるとの引用例2に記載された技術事項を組み合わせたとしても,本願発明における地図上の経路に広告枠を設定するとの構\成に至ることはない。また,引用例1発明に引用例2の記載事項を組み合わせても本願発明における上記構成に至らない以上,経路を線描写によって設定することが周知事項であったとしても,引用例1発明に引用例2の記載事項及び上記周知事項を組み合わせることにより本願発明の上記構\成に至ることはない。したがって,広告枠を地図上の経路に対して設定することが引用例2の段落【0060】及び【0061】の記載並びに図11から出願前公知であるとして,経路を線描写によって設定することが周知事項であることを考慮し,引用例1発明の地図上のエリアとして引用例2の記載事項にあるような道路区間(経路)を採用し,相違点の構成とすることが当業者において容易になし得ることであるとした審決の判断には誤りがある。
(3) 被告の主張に対して
被告は,引用例2における「道路区間」は本願発明における「経路」に相当し,引用例2には「道路(経路)に対して広告を設定すること」が記載されているのであるから,引用例1発明に引用例2に記載の技術事項を採用して,相違点に係る構成に至るのは容易であると主張する。しかし,引用例2に記載された「道路区間」の語は,仮想広告掲示板を設定する「道路区間」沿いの位置を特定する文脈の中で用いられたものであって,広告枠を設定する対象を意味するものとして用いられた語ではない。したがって,引用例2における「道路区間」と本願発明における「経路」とは,技術的意義において相違する。引用例2においては,移動体が当該道路区間上を移動中であったとしても,当該特定位置に至らない限り,広告メッセージは配信されないのであるから,「広告枠を経路情報に設定」することが記載されているとはいえず,被告の主張は失当である。\n
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2013.12.12
平成25(行ケ)10358等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年12月05日 知的財産高等裁判所
無効審判では、請求項1〜3,6,7は無効、請求項4,5については有効とした審決について、双方が争いました。知財高裁は、引用文献の認定誤りを理由として、請求項1〜3,6,7も有効と判断しました。
本件発明1における「基台」とは,試験するべき内燃機関と駆動機械若しくは負荷機械とが配置され,その上に支持構造体が配置される部材である。前記アの甲3の記載によれば,甲3発明は,内燃機関を検査するための性能\検査装置において,従来,建物の床や基礎に検査装置が固定設置されていたところ,設置面積が比較的大きいため,建物の基礎や床への阻害的な固体伝送音の伝達が生じるという課題を解決するために,性能検査装置の完全な性能\を維持して,あるいはそれを改良して所要面積を低減すること,固体伝送音振動の阻害的な伝達を少なくとも大幅に抑制すること,さらにその使用上の方法を改善することを目的とし,建物天井又は天井に対応するような支持台から試験するべき内燃機関と駆動機械若しくは負荷機械との双方をそれぞれ吊り下げる構成を採用するものであって,本件発明1の基台に相当する構\成を備える余地はない。したがって,甲3発明は,相違点1−3−1の構成を採用する前提を欠き,当該構\成を採用する動機付けを認めることはできない。
(イ) 原告は,甲3発明において支持構造体の下部が基台であると評価することも可能\である,甲3には,「建物天井または対応する支持台」と記載されており,図1でも,建物ではない支持構造体が明記されているから,建物天井と一体的でなければならないという技術的意義は記載されておらず,逆に,別紙5の図1に図示された構\成で,1つの完結した検査装置を開示しているものであるなどと主張する。しかしながら,甲3発明は,建物の基礎や床への阻害的な固体伝送音の伝達が生じるという課題を解決するために内燃機関及び検査装置を吊り下げる構成を採用するものである以上,支持構\造体が建物とは別個の部材であったとしても,支持構造体の下部を基台であると評価することができないことは明らかである。原告の上記主張は採用することができない。
ウ 相違点1−3−2について
原告は,エンジンには排気装置が必須であり,排気管がエンジンの側方へ出て下に下がり,後方へと延びるものであることは技術常識であるから,当業者は甲3発明の排気管も当然に常用ブレーキの下方空間を通ることになるものと認識する,甲3発明は,コンパクトな性能検査装置を提供し得ることを目的とするから,常用ブレーキの下方空間が広く確保されている以上,技術常識からすれば,当該空間しか排気管・排気装置を位置させることはないなどと主張する。しかしながら,前記イ(ア)のとおり,甲3発明の課題はエンジンの排気装置の配置とは無関係であるから,甲3には,エンジンにより発生する排気ガスやエンジンが備える排気ガス装置をどのような態様で配置するかについて,何ら示唆する記載はなく,原告が主張する上記構成を採用することの示唆を認めることもできない。したがって,当業者が相違点1−3−2の構\成を容易に想到し得るものということはできない。
エ 以上のとおり,当業者が相違点1−3−1及び相違点1−3−2の構成を容易に想到し得るものということはできない以上,甲3発明に基づいて,当業者が本件発明4に容易に想到し得るものということもできない。\n
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2013.11.29
平成25(行ケ)10086 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年11月14日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は引用文献の認定誤りです。
審決は,刊行物1の記載(99頁右欄2行〜100頁右欄1行目,100頁表1)から,「・・・・・4種類のアクセス先の区別によるサイトの設定によって決定されていることから,そのために当該Webページに関連付けられたActiveX コントロールが4種類のアクセス先の区別のどれにより『設定されている』かの『判断』を当然に行っているといえ,・・・・・『複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別がWebページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,前記与えられた実行条件に関する区別に基づいて前記ActiveX コントロールを抑制すること』がよみとれる。」と認定し(審決5頁21行〜6頁11行目),刊行物1発明は,「複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別が前記Webページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,前記与えられた実行条件に関する区別に基づいて前記ActiveX コントロールを抑制すること」との構成(【II】)を有していると認定した(6頁33行〜7頁9行目)。しかしながら,上記アにて認定判断のとおり,刊行物1において登録されるのはActiveX コントロールではなくWebページであり,アクセス先の区別もWebページの区別により設定されるものであるから,刊行物1に,「複数の実行条件に関する区別がWebページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられる」との記載があるとはいえない。そうすると,刊行物1発明が,「複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別が前記Webページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,前記与えられた実行条件に関する区別に基づいて前記ActiveX コントロールを抑制すること」との構成(【III】)を有しているとはいえない。したがって,上記審決の認定は誤りである。
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2013.11. 6
平成24(行ケ)10314 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年10月31日 知的財産高等裁判所
引用発明の認定誤りを理由として、進歩性違反(無効理由)ありとした審決が取り消されました。
前記1のとおり,本件審決が認定する引用発明が,引用例1に記載された発明といえるためには,引用例1に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,本件優先権主張日(平成9年10月9日)当時の技術常識に基づいて,「常温でリン光を発光する有機電界発光素子」を見いだすことができる程度に,引用例1にその技術事項が開示されているといえなければならない。(2) しかるに,前記2のとおり,引用例1には,様々な表示素子の中で,2枚の電極の間に有機色素薄膜からなる発光層を設けた構\造の有機電界発光素子は,フルカラーの表示素子を実現できる可能\性が高く,大きな期待が寄せられているが,有機色素分子が固体凝集状態の場合には,発光が生じにくいという問題があり,また,発光波長が長波長側にシフトするという問題があるところ,・・・ことを見いだしたというものであり,実施例としては,・・・の範囲が最適であったことが記載されている。しかしながら,上記実施例に示された有機電界発光素子から得られた発光にリン光が含まれていたことについては一切記載されていない。そして,確かに引用例1には,有機電界発光素子の発光層に常温でリン光発光する色素を第2の有機色素として使用した場合,発光効率が高く,しかも第2の有機色素からの発光波長特性が得られるという技術的思想が記載されているということはできるものの,引用例1には,「常温でもリン光が観測される有機色素があり,これを第2の有機色素として用いることにより,第1の有機色素の励起三重項状態のエネルギーを効率よく利用することができる。このような有機色素としては,カルボニル基を有するもの,水素が重水素に置換されているもの,ハロゲンなどの重元素を含むものなどがある。これらの置換基はいずれもリン光発光速度を速め,非発光速度を低下させる作用を有する。」という程度の記載しかなく,「常温でリン光を発光する有機電界発光素子」に該当する化学物質の具体的構成等,上記技術的思想を実施し得るに足りる技術事項について何らかの説明をしているものでもない。(3) また,本件優先権主張日当時,有機ELデバイスにおいて,いかなる化学物質が,常温でもリン光が観測される有機色素として第2の有機色素に選択され,この第2の有機色素が,第1の有機色素の非放射性の励起三重項状態からエネルギーを受け取り,励起三重項状態に励起して,この励起三重項状態から基底状態に遷移する際に室温でリン光を発光するのかが,当業者の技術常識として解明されていたと認めるに足りる証拠もない。そして,被告が本件優先権主張日当時において「常温でリン光を発光する有機電界発光素子」が知られていたことの根拠として挙げる各文献(甲12・・・)の記載内容は,前記3のとおりであるから,上記各文献によっても,本件優先権主張日当時,常温でリン光を発光する有機電界発光素子が当業者の技術常識として解明されていたと認めるには足りない。
◆判決本文
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2013.11. 6
平成25(行ケ)10036 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年10月30日 知的財産高等裁判所
引用発明の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決が取り消されました。
当裁判所は,引用発明に「各デマンド時限のエネルギ消費量の実績値を表示するエネルギ消費量の実績値についての棒グラフによる表\示」があるとした審決の認定には,誤りがあると判断する。本願発明は,従来技術においては,各日の各デマンド時限のデマンド値を把握しつつ,他の複数の日のデマンド値と比較することが困難であったとの課題を解決するための発明である。本願明細書には,「デマンド時限」とは電力会社などが設定した時間の区切りであって,例えば「0〜30分,30〜60分」の30分間の単位が考えられるとされ,「デマンド値」とはデマンド時限における平均使用電力を指し,「デマンド値」が,電気料金の基本料金の計算に使用されたり,契約電力の基準とされたりするため,過去所定期間(例えば,過去12カ月)の最大値を更新しないように対策を立てる必要がある旨が記載されている。他方,引用例1には,「所定の時間」について,電力会社などが設定した時間の区切りであることや,「所定の時間毎のエネルギ消費量の実績値」が,電気料金の基本料金の計算に使用されることや契約電力の基準となることについての記載及び示唆はない。のみならず,引用例1では「一例として,以下では1時間毎のエネルギ消費量を計測可能であるとする」としており,電力会社で通常採用される30分単位のデマンド時限(甲9)と異なる単位時間を例示していることからすれば,引用発明においては,当該「所定の時間」としてデマンド時限を採用することは示されていないと解するのが相当である。そうすると,引用発明に,「各日の区画にて各軸の目盛に従って各デマンド時限のエネルギ消費量の実績値を表\示するエネルギ消費量の実績値の棒グラフによる表示と,を有する」との構\成中の「各デマンド時限のエネルギ消費量の実績値を表示する」との技術事項が記載,開示されているとした審決の認定には,誤りがある。以上に対して,被告は,乙1ないし乙4を提出し,「電力量計で計測する単位時間をデマンド時限として設定すること」及び「デマンド時限として1時間を単位とすること」は周知慣用であるから,引用例1の記載に接した当業者は,デマンド時限を単位時間として行うことも認識すると主張する。しかし,これらの事項が周知慣用であったとしても,引用例1において,「所定の時間」及び「所定の時間毎のエネルギ消費量の実績値」との記載が,デマンド時限及びデマンド値として認識され,開示されるものではない。このように,デマンド時限及びデマンド値を開示しない引用例1の記載に接した当業者は,デマンド時限を単位時間として行うことを認識するともいえないから,被告の主張は採用の限りではない。\n
◆判決本文
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2013.10. 1
平成24(行ケ)10435 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年09月19日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。判決文の最後に、審決を前提とする当事者系の取消審判の留意点について付言されています。
以上の各記載によれば,引用発明は,従来の窒化物半導体レーザ装置において,レーザダイオードの端面に設けた保護層(SiO2又はTiO2)と窒化物半導体レーザダイオードとの間における格子不整合や熱膨張係数が異なること等に起因して,結晶層中に格子欠陥を生じ,特に高出力時の寿命が短くなるという課題を解決するために,保護層の材料を窒化物半導体レーザダイオードが発振するレーザ光に対して透明である上記一般式から選択することで,窒化物半導体レーザダイオードと格子定数及び熱膨張係数の整合をとることができ,格子不整合及び熱応力による欠陥発生を抑制できるため,低出力時は勿論のこと,歪みや欠陥の影響が大きい高出力発振時においても高信頼性で長寿命の窒化物半導体レーザ装置が得られるものであることが開示されている。他方で,審決が,引用発明の技術的意義であると認定した「保護層の格子定数とMQW活性層の格子定数との差をMQW活性層の格子定数の約3%以下,保護層の熱膨張係数とMQW活性層の熱膨張係数との差をMQW活性層の熱膨張係数の約20%以下とすること」に関しては,上記段落【0042】,【0043】の記載に照らすと,いずれも上記の条件を満たすように「選択することが好ましい」と記載されていること,格子定数の差に関して,段落【0042】のなお書には,「約3%を超える格子不整合があっても,寿命が低下しない場合がある。」と記載されていることに照らすと,引用発明における上記条件については,好ましい条件とされているにすぎず,必須の条件であると見ることはできない。そして,刊行物1に示された従来の保護層(SiO2又はTiO2)がアモルファス層であり,結晶構造をとっていないのに対し,「Al1−x−y−zGaxInyBzN(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)」の一般式で示されるものは,必ずNを含む窒化物系半導体としての結晶構\造を有することから,従来の保護層(SiO2又はTiO2)よりも窒化物半導体レーザダイオードとの格子定数の整合がとれることは当業者に自明の事項である。また,後記のとおり,熱膨張係数も窒化物系半導体と相当に異なるものであったことからすると,従来の保護層との比較において,窒化物系半導体である保護層が熱膨張係数において,一般的に整合がとれるものであることも,当業者に自明の事項である(段落【0024】参照)。そうすると,上記のような引用発明における従来技術の問題点及び解決課題に,上記段落【0011】,【0024】,【0026】,【0039】,【0040】の各記載を合わせて考慮すれば,引用発明は,保護層の材料をレーザ光に対して透明であり,かつ,上記の一般式を満たす材料を選択することで,従来の保護層(SiO2又はTiO2)よりも,窒化物半導体レーザダイオードと格子定数及び熱膨張係数の整合をとることができるものであるといえる。以上により,引用発明において,「保護層の材料をAl1−x−y−zGaxInyBzN(以下「一般式」という。)から選択する技術的意義は,単に,レーザの発振光に対して透明になるようにするのみならず,保護層の格子定数とMQW活性層の格子定数との差をMQW活性層の格子定数の約3%以下,保護層の熱膨張係数とMQW活性層の熱膨張係数との差をMQW活性層の熱膨張係数の約20%以下とすることにあるものと解される」とした審決の判断は誤りである。
(3) 次に,引用発明における保護層の材料として,「AlN」が開示されているか否かについて見るに,刊行物1には,GaN及びIn0.02Ga0.98N層(ただし,In0.02Ga0.98N層については,窒化物半導体レーザダイオードの後面の保護層のみ)は記載されているが,「AlN」を保護層の材料として選択した実施例に関する記載はない。しかし,AlNがレーザ光に対して透明であることは当事者間に争いがなく,上記一般式においてx=y=z=0を代入した場合には,保護層の材料が「AlN」となることは明らかである。そして,段落【0039】には,Alを含有した窒化物半導体材料を用いることが開示されており,刊行物1中において,特段,x=y=z=0を代入することを阻む事情についての記載はない。また,刊行物1には,窒化物半導体レーザダイオードの活性層及び従来の保護層の熱膨張係数について,「例えば,上述のMQW活性層64の熱膨張係数(3.15×10−6K−1)と保護層69の熱膨張係数(1.6×10−7K−1)とは大きく異なる。」(段落【0009】)との記載及び「保護層20aおよび20bを形成するGaNの熱膨張係数は3.17×10−6K−1であり,MQW活性層14の熱膨張係数(3.15×10−6K−1)と非常に近い」(段落【0033】)との記載があり,また,AlNの熱膨張係数については,文献(甲14,乙3ないし6)によってばらつきがあるものの,2.227×10−6K−1ないし6.09×10−6K−1の範囲に収まっているから,いずれの数値をとるにせよ,AlNの熱膨張係数は,従来の保護層の熱膨張係数(1.6×10−7K−1)と比較して,活性層の熱膨張係数(3.15×10−6K−1)に近く,そのことからも,一般式において,x=y=z=0を代入した材料であるAlNからなる保護層は,従来の保護層(SiO2又はTiO2)よりも窒化物半導体レーザダイオードと熱膨張係数の整合がとれているといえる。さらに,AlNが窒化物系半導体であることから,前記のとおり,従来の保護層(SiO2又はTiO2)に比べて窒化物半導体レーザダイオードの活性層との格子整合がとれることも明らかである。以上によれば,刊行物1において,保護層の材料として「AlN」が除外されているとはいえず,刊行物1には,レーザ光に対して透明であり,かつ,AlNを含む一般式からなる材料が開示されていると認められる。したがって,審決が,「甲1に,保護層の材料として「AlN」が開示されていると認めることはできない」としたのは,誤りである。
・・・・・
そうすると,相違点2”に関し,引用発明における保護層としてAlNを含むAl1−x−y−zGaxInyBzN(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなる層」の中から「AlN」を選択することについての容易想到性の有無,並びに保護層の材料としてAlNを選択したとして,それを積層すること及び光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層することについての容易想到性の有無について検討し,同様に相違点3”に関する本件発明1の構成についての容易想到性,さらには,相違点1に関する本件発明1の構\成についての容易想到性の有無を判断して,本件発明1が引用発明から容易に発明することができたか否かの結論に至る必要がある。ここまで至って,引用発明を主たる公知技術としたときの本件発明1の容易想到性を認めなかった審決の結論に誤りがあるか否かの判断に至ることができる。しかし,本件においては,審決が,認定した相違点1及び3に関する本件発明1の構成の容易想到性について判断をしていないこともあって,当事者双方とも,この点の容易想到性の有無を本件訴訟において主張立証してきていない。相違点2(当裁判所の認定では相違点2”)に関する本件発明1の構\成については,原告がその容易想到性を主張しているのに対し,被告において具体的に反論していない。このような主張立証の対応は,特許庁の審決の取消訴訟で一般によく行われてきた審理態様に起因するものと理解されるので,当裁判所としては,当事者双方の主張立証が上記のようにとどまっていることに伴って,主張立証責任の見地から,本件発明1の容易想到性の有無についての結論を導くのは相当でなく,前記のとおりの引用発明の認定誤りが審決にあったことをもって,少なくとも審決の結論に影響を及ぼす可能性があるとして,ここでまず審決を取り消し,続いて検討すべき争点については審判の審理で行うべきものとするのが相当と考える。本件のような態様の審決取消訴訟で審理されるのは,引用発明から当該発明が容易に想到することができないとした審決の判断に誤りがあるか否かにあるから,その判断に至るまでの個別の争点についてした審決の判断の当否にとどまらず,当事者双方とも容易想到性の有無判断に至るすべての争点につき,それぞれの立場から主張立証を尽くす必要がある。本件については,上記のように考えて判決の結論を導いたが,これからの審決取消訴訟においては,そのように主張立証が尽くすことが望まれる。なお,本件発明3〜7の容易想到性判断も,本件発明1についてのそれを前提とするものであり,これについても本件発明1に関する判断と同様である。\n
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2013.10. 1
平成24(行ケ)10435 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年09月19日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。判決文の最後に、審決を前提とする当事者系の取消審判の留意点について付言されています。
以上の各記載によれば,引用発明は,従来の窒化物半導体レーザ装置において,レーザダイオードの端面に設けた保護層(SiO2又はTiO2)と窒化物半導体レーザダイオードとの間における格子不整合や熱膨張係数が異なること等に起因して,結晶層中に格子欠陥を生じ,特に高出力時の寿命が短くなるという課題を解決するために,保護層の材料を窒化物半導体レーザダイオードが発振するレーザ光に対して透明である上記一般式から選択することで,窒化物半導体レーザダイオードと格子定数及び熱膨張係数の整合をとることができ,格子不整合及び熱応力による欠陥発生を抑制できるため,低出力時は勿論のこと,歪みや欠陥の影響が大きい高出力発振時においても高信頼性で長寿命の窒化物半導体レーザ装置が得られるものであることが開示されている。他方で,審決が,引用発明の技術的意義であると認定した「保護層の格子定数とMQW活性層の格子定数との差をMQW活性層の格子定数の約3%以下,保護層の熱膨張係数とMQW活性層の熱膨張係数との差をMQW活性層の熱膨張係数の約20%以下とすること」に関しては,上記段落【0042】,【0043】の記載に照らすと,いずれも上記の条件を満たすように「選択することが好ましい」と記載されていること,格子定数の差に関して,段落【0042】のなお書には,「約3%を超える格子不整合があっても,寿命が低下しない場合がある。」と記載されていることに照らすと,引用発明における上記条件については,好ましい条件とされているにすぎず,必須の条件であると見ることはできない。そして,刊行物1に示された従来の保護層(SiO2又はTiO2)がアモルファス層であり,結晶構造をとっていないのに対し,「Al1−x−y−zGaxInyBzN(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)」の一般式で示されるものは,必ずNを含む窒化物系半導体としての結晶構\造を有することから,従来の保護層(SiO2又はTiO2)よりも窒化物半導体レーザダイオードとの格子定数の整合がとれることは当業者に自明の事項である。また,後記のとおり,熱膨張係数も窒化物系半導体と相当に異なるものであったことからすると,従来の保護層との比較において,窒化物系半導体である保護層が熱膨張係数において,一般的に整合がとれるものであることも,当業者に自明の事項である(段落【0024】参照)。そうすると,上記のような引用発明における従来技術の問題点及び解決課題に,上記段落【0011】,【0024】,【0026】,【0039】,【0040】の各記載を合わせて考慮すれば,引用発明は,保護層の材料をレーザ光に対して透明であり,かつ,上記の一般式を満たす材料を選択することで,従来の保護層(SiO2又はTiO2)よりも,窒化物半導体レーザダイオードと格子定数及び熱膨張係数の整合をとることができるものであるといえる。以上により,引用発明において,「保護層の材料をAl1−x−y−zGaxInyBzN(以下「一般式」という。)から選択する技術的意義は,単に,レーザの発振光に対して透明になるようにするのみならず,保護層の格子定数とMQW活性層の格子定数との差をMQW活性層の格子定数の約3%以下,保護層の熱膨張係数とMQW活性層の熱膨張係数との差をMQW活性層の熱膨張係数の約20%以下とすることにあるものと解される」とした審決の判断は誤りである。
(3) 次に,引用発明における保護層の材料として,「AlN」が開示されているか否かについて見るに,刊行物1には,GaN及びIn0.02Ga0.98N層(ただし,In0.02Ga0.98N層については,窒化物半導体レーザダイオードの後面の保護層のみ)は記載されているが,「AlN」を保護層の材料として選択した実施例に関する記載はない。しかし,AlNがレーザ光に対して透明であることは当事者間に争いがなく,上記一般式においてx=y=z=0を代入した場合には,保護層の材料が「AlN」となることは明らかである。そして,段落【0039】には,Alを含有した窒化物半導体材料を用いることが開示されており,刊行物1中において,特段,x=y=z=0を代入することを阻む事情についての記載はない。また,刊行物1には,窒化物半導体レーザダイオードの活性層及び従来の保護層の熱膨張係数について,「例えば,上述のMQW活性層64の熱膨張係数(3.15×10−6K−1)と保護層69の熱膨張係数(1.6×10−7K−1)とは大きく異なる。」(段落【0009】)との記載及び「保護層20aおよび20bを形成するGaNの熱膨張係数は3.17×10−6K−1であり,MQW活性層14の熱膨張係数(3.15×10−6K−1)と非常に近い」(段落【0033】)との記載があり,また,AlNの熱膨張係数については,文献(甲14,乙3ないし6)によってばらつきがあるものの,2.227×10−6K−1ないし6.09×10−6K−1の範囲に収まっているから,いずれの数値をとるにせよ,AlNの熱膨張係数は,従来の保護層の熱膨張係数(1.6×10−7K−1)と比較して,活性層の熱膨張係数(3.15×10−6K−1)に近く,そのことからも,一般式において,x=y=z=0を代入した材料であるAlNからなる保護層は,従来の保護層(SiO2又はTiO2)よりも窒化物半導体レーザダイオードと熱膨張係数の整合がとれているといえる。さらに,AlNが窒化物系半導体であることから,前記のとおり,従来の保護層(SiO2又はTiO2)に比べて窒化物半導体レーザダイオードの活性層との格子整合がとれることも明らかである。以上によれば,刊行物1において,保護層の材料として「AlN」が除外されているとはいえず,刊行物1には,レーザ光に対して透明であり,かつ,AlNを含む一般式からなる材料が開示されていると認められる。したがって,審決が,「甲1に,保護層の材料として「AlN」が開示されていると認めることはできない」としたのは,誤りである。
・・・・・
そうすると,相違点2”に関し,引用発明における保護層としてAlNを含むAl1−x−y−zGaxInyBzN(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなる層」の中から「AlN」を選択することについての容易想到性の有無,並びに保護層の材料としてAlNを選択したとして,それを積層すること及び光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層することについての容易想到性の有無について検討し,同様に相違点3”に関する本件発明1の構成についての容易想到性,さらには,相違点1に関する本件発明1の構\成についての容易想到性の有無を判断して,本件発明1が引用発明から容易に発明することができたか否かの結論に至る必要がある。ここまで至って,引用発明を主たる公知技術としたときの本件発明1の容易想到性を認めなかった審決の結論に誤りがあるか否かの判断に至ることができる。しかし,本件においては,審決が,認定した相違点1及び3に関する本件発明1の構成の容易想到性について判断をしていないこともあって,当事者双方とも,この点の容易想到性の有無を本件訴訟において主張立証してきていない。相違点2(当裁判所の認定では相違点2”)に関する本件発明1の構\成については,原告がその容易想到性を主張しているのに対し,被告において具体的に反論していない。このような主張立証の対応は,特許庁の審決の取消訴訟で一般によく行われてきた審理態様に起因するものと理解されるので,当裁判所としては,当事者双方の主張立証が上記のようにとどまっていることに伴って,主張立証責任の見地から,本件発明1の容易想到性の有無についての結論を導くのは相当でなく,前記のとおりの引用発明の認定誤りが審決にあったことをもって,少なくとも審決の結論に影響を及ぼす可能性があるとして,ここでまず審決を取り消し,続いて検討すべき争点については審判の審理で行うべきものとするのが相当と考える。本件のような態様の審決取消訴訟で審理されるのは,引用発明から当該発明が容易に想到することができないとした審決の判断に誤りがあるか否かにあるから,その判断に至るまでの個別の争点についてした審決の判断の当否にとどまらず,当事者双方とも容易想到性の有無判断に至るすべての争点につき,それぞれの立場から主張立証を尽くす必要がある。本件については,上記のように考えて判決の結論を導いたが,これからの審決取消訴訟においては,そのように主張立証が尽くすことが望まれる。なお,本件発明3〜7の容易想到性判断も,本件発明1についてのそれを前提とするものであり,これについても本件発明1に関する判断と同様である。\n
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2013.09. 5
平成24(行ケ)10386 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年08月28日 知的財産高等裁判所
メールサーバに関する発明について、引用文献の認定誤りと認定したものの、やはり進歩性なしとして、拒絶審決維持されました。
以上によると,受信側のメールサーバは,音声,動画像をメディア情報格納サーバに格納する際,アイコンの作成とともに,このアイコンと受信した音声,動画像の格納場所等の情報とのリンク付けを行っていることが認められる。しかし,引用例には,受信側のユーザがメールの再生要求をした場合に,音声,動画像アイコンを含むメール本体がクライアント端末へ転送されることは記載されているものの,メール本体に音声,動画像に関わる何らかの情報も含まれているか否か,それがどのような情報であるかについては,明確な記載はない。また,引用例に係る特許出願がされた平成8年7月当時,引用例に記載されたマルチメディアメール送信及び受信において,音声・動画像アイコンと共に,「ユーザにより指定されることによりリアルタイム再生を行い,音声と動画像を検索できるようにする情報」がメール本体に含まれており,受信側のクライアント端末に転送されるという方法が当業者に周知の技術であったと認めるに足りる証拠はない。したがって,引用例発明においては,音声・動画像アイコンと共に「ユーザにより指定されることによりリアルタイム再生を行い,音声と動画像を検索できるようにする情報」がメール本体に含まれており,受信側のクライアント端末に転送されるとした審決の認定には,誤りがある。
・・・
以上のとおり,審決のした相違点4の認定には誤りがあり,相違点4は上記3(3)のとおり認定されるべきであるが,このような認定を前提とする相違点4も,容易想到であったと解される。その理由は,以下のとおりである。
・・・
イ 上記文献の記載によると,本願優先日当時,ストリーミングにおいては,RTSPのプロトコルが標準化されており,RTSPでは,クライアントからのDESCRIBEメソッドに応じて,サーバから,SDPなどを用いて,ストリーミング可能\なメディアのURL等のセッション記述がクライアントに送信され,これに対して,クライアントがSETUPメソッド,PLAYメソ\ッドを送信することにより,ストリーミング・セッションが開始され,指定されたメディアが検索され,そのデータの伝送が開始されて,再生が開始されると認められる。そして,上記「セッション記述」は,ストリーミング可能なメディアを送信するために作成されるものであり,ストリーミング・セッションを開始させ,また,該当するメディアを検索できるようにする情報を含むものであると認められ,本願発明の「セッション記述ファイル」に相当するといえる。前記のとおり,引用例発明は,リアルタイム再生(ストリーミング)に関する発明であり,引用例発明では,音声,動画像のデータの代わりに,音声,動画像とリンク付けされたアイコンが含まれたメール本体が受信側のクライアント端末に転送されるが,ユーザが再生要求の対象となる音声,動画像のアイコンを指定することにより,再生プログラムが起動し,当該音声,動画像が検索され,リアルタイム再生が行われる。そして,上記アイコンは,ユーザがアイコンを指定した際,音声,動画像の検索を可能\にするために音声,動画像とリンク付けされているものである。したがって,引用例に接した当業者が,ストリーミングにおける本願優先日当時の上記周知技術に基づいて,音声,動画像アイコンをメール本体に含めて受信側クライアント端末に転送するとともに,音声,動画像の検索情報等を含んだ上記「セッション記述」をメール本体に含めて転送することにより,本願発明の相違点4に係る構成を採用することは容易であると認められる。\n
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2013.05.10
平成24(行ケ)10322 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月26日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として、取り消されました。出願人は、フィリップスから特許を受ける権利を譲り受けたサムソンです。\n
前記1で認定したとおり,本願発明は,「GPSアドバイスタイプと,GPSアドバイスレンジと,GPSアドバイスとを含む複数のGPSアドバイスデータセットを格納するメモリ媒体を備え」,「前記GPSデバイスの前記中央演算処理装置は,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置を,前記複数のGPSアドバイスデータセットと比較し,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る場合は,前記出力デバイスへの出力のために前記GPSアドバイスデータセットを選択」するものである。そして,本願発明における「GPSアドバイスレンジ」は,あるGPSアドバイスデータセットを,経度,緯度及び高度の所定のレンジの組(セット)によって識別するものであり,あるGPSデバイスの計算された或いはユーザ入力された緯度,経度及び高度が,それぞれGPSアドバイスデータセットの緯度,経度及び高度の所定のレンジ内に概ね入る場合に,あるGPSアドバイスレンジ内に入ると判定されるものである。ここで,「レンジ」とは,広辞苑(甲5)によれば,「1)幅。範囲。領域。」を意味すると解される。そうすると,本願発明における,「GPSアドバイスレンジ」とは,GPS座標を表す経度,緯度及び高度の,それぞれの範囲を規定する,上限及び下限を示す情報の組(セット)と解するのが相当である。そして,本願発明の「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る場合は,前記出力デバイスへの出力のために前記GPSアドバイスデータセットを選択し,」との発明特定事項における,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る場合」とは,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置」が,「前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ」により規定される,経度,緯度及び高度で表\されるGPS座標の範囲内に入る場合と解するのが相当である。
(2)これに対し,引用発明は,前記2で認定したとおり,現在のポータブル情報システムの位置を計算し,また,前記ポータブル情報システムのユーザが入力した所望の場所の緯度/経度を受け入れ,現在の位置に対応するデータを検索するために,例えば,興味ある場所のGPS用の緯度/経度座標がデータベースに記録格納されるものである。ここで,「座標」とは,広辞苑(甲6)によれば,点の位置をx軸,y軸等に関して一意的に決定する数値の組を意味すると解される。また,引用刊行物1には,一般的にユーザの現在位置を中心とする所定半径内の,ユーザにとって興味のある特定の事項に関するデータベースの自動検索を開始することや,新しいGPSデータをキーとして使用して,データベースをサーチし,新しいGPSパラメータと非直接的に適合または関連する任意のデータ記録を検索することは記載されているが,そのための具体的な構成及び方法が明示されているとは認められない。そうすると,引用刊行物1には,現在のポータブル情報システムの位置を計算し,また,前記ポータブル情報システムのユーザが入力した所望の場所の緯度/経度を受け入れ,現在の位置に対応するデータを検索する際に,記録格納された,興味ある場所のGPS用の緯度/経度座標,すなわち緯度及び経度により一意的に決定する座標点と解される,所定の固定のGPS座標と比較することは,記載されているが,GPS座標の所定の範囲を規定する,経度,緯度それぞれの上限及び下限を示す情報の組(セット)と比較することが記載又は示唆されているとは認められない。\n
(3)一致点及び相違点に係る審決の認定について
審決は,本願発明と引用発明は,「データを格納するメモリ媒体を備える装置であって,前記メモリ媒体は,中央演算処理装置と,出力デバイスとを有するGPSデバイスに動作可能に接続され,現在のGPSデバイス位置が計算され,かつ前記GPSデバイスのユーザから任意の位置および前記任意の位置に対するデータのタイプを受け入れ,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置を,前記データと比較し,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記データと一致する場合は,前記出力デバイスへの出力のために前記データを選択」する点で一致すると認定している(前記第2の3(2))。なるほど,引用発明は,現在のポータブル情報システムの位置を計算し,また,前記ポータブル情報システムのユーザが入力した所望の場所の緯度/経度を受け入れ,現在の位置に対応するデータを検索する際に,記録格納された,興味ある場所のGPS用の緯度/経度座標,すなわち所定の固定のGPS座標と比較するものであるから,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置を,前記データ(メモリ媒体に格納されたデータ)と比較し,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記データと一致する」ことを検出するものといえる。しかし,前記(1)のとおり,本願発明は,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る」ことを検出して,「前記出力デバイスへの出力のために前記GPSアドバイスデータセットを選択」するものであって,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置を,前記データ(メモリ媒体に格納されたデータ)と比較し,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記データと一致する」ことを検出するものではない。そして,本願発明と引用発明とは,本願発明が,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る」ことを検出して,「前記出力デバイスへの出力のために前記GPSアドバイスデータセットを選択」するとの構成を備えるのに対し,引用発明は,現在のポータブル情報システムの位置を計算し,また,前記ポータブル情報システムのユーザが入力した所望の場所の緯度/経度を受け入れ,現在の位置に対応するデータを検索する際に,本願発明の上記の構\成を備えていない点で相違するというべきであり(以下「相違点3」という。),審決がこの点を含めて一致点として認定したことは誤りである。以上のとおり,審決は,相違点3を看過したため,一致点及び相違点の認定を誤ったものである。
(4)被告の主張について
ア 被告は,引用刊行物1の9頁13〜15行の「歴史的な建物,城,村,公園,湖,山,全景の見渡せる地点等の興味ある場所のGPS用の緯度/経度座標が,地図からまたは位置調査によってディジタル化される。」との記載から,当該箇所に記載されている「緯度/経度座標」を「緯度/経度座標点」の意味に限定解釈することはできないと主張する。しかし,前記認定のとおり,「座標」とは,点の位置をx軸,y軸等に関して一意的に決定する数値の組を意味するものと解されるところ,これは,文字どおりの解釈であって,限定解釈ではない。被告の主張は採用することができない。
イ 被告は,例えば,村や山を「点」で識別した場合,引用刊行物1には,村役場や山頂にまで行かなければ村内や山の近くのホテルの案内が行われない極めて不親切な装置が開示されているという,不合理な理解を強いられることになると主張する。しかし,引用発明は,前記2で認定したとおり,現在のポータブル情報システムの位置を計算し,また,前記ポータブル情報システムのユーザが入力した所望の場所の緯度/経度を受け入れ,現在の位置に対応するデータを検索するために,例えば,興味ある場所のGPS用の緯度/経度座標が,地図からまたは位置調査によってディジタル化され,興味のある場所のそれぞれを説明する音声が,対応するGPS座標と共に,コンパクトディスク(GPS−CD)のデータベースに,圧縮された形態で記録格納されるものである。そうすると,村や山がGPS用の緯度/経度座標で表される「点」で識別される場合でも,引用発明では,ホテルのように村内や山の近くにある興味ある場所について,そのGPS用の緯度/経度座標と説明する音声が,コンパクトディスク(GPS−CD)のデータベースに記録格納されることで,村内や山の近くにある興味ある場所の案内が行われると理解できるから,引用刊行物1には極めて不親切な装置が開示されているという,不合理な理解を強いられることにはならない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。\n
ウ被告は,引用刊行物1の「北,南,東または西からある村に到達するような場合,いくつかの場所で,広く同様なメッセージを適用できる場合がある。」との記載(9頁下から2及び1行),「一般的な航空モードを選択した場合,システムは,空港,規定された領域,危険領域,軽飛行機ルート,上空交通制御境界等の航空関連ポイントとの関連で,GPSによる位置,高度及び速度をユーザに識別させる。」との記載(12頁11〜13行)を根拠として,引用刊行物1において「緯度/経度座標」は,「緯度/経度座標領域」の意味で用いられていると主張する。しかし,引用刊行物1の9頁下から2及び1行の上記記載は,「設定経路(イーエヌルート:enroute)モード」に関するものであるところ,当該記載の前には,「設定経路モード」について,「GPSデータを常にモニタすることによって,装置は,場所1−6のそれぞれに何時到達したかを決定し,その後,対応する音声フレーズがGPS−CDデータベースまたは放送データから検索され,受話器口またはスピーカーを介してユーザに再生される。」と記載されている。この記載によれば,「設定経路モード」では,「場所1−6」及び「いくつかの場所」のような,緯度及び経度により一意的に決定する特定の場所に到達すると音声フレーズが検索され,再生されると解するのが相当である。「場所1−6」及び「いくつかの場所」が,経度,緯度それぞれの上限及び下限を示す情報の組(セット)として表され,GPS座標の所定の範囲を規定する「緯度/経度座標領域」を意味するものとはいえない。また,引用刊行物1の12頁11〜13行の上記記載から,「緯度/経度座標」が,経度,緯度それぞれの上限及び下限を示す情報の組(セット)として表\され,GPS座標の所定の範囲を規定する「緯度/経度座標領域」であると,直ちに解することもできない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
エ 被告は,引用刊行物1の図2が示すとおり,引用発明は,現在の位置或いは所望の場所がデータベースに格納されたGPS座標と適合する場合にデータを選択するもので,「適合」ではなく「一致」という用語を用いた点においては審決の一致点の認定は不正確であったとしても,審決の一致点及び相違点の認定に誤りはないとも主張するが,いずれの用語を用いるかにかかわらず,審決の認定に誤りがあることは前示のとおりであり,被告の主張は採用することができない。
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2013.04.25
平成24(行ケ)10270 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月24日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。
ア 本願発明1の特許請求の範囲に「この高温炉の中で高温の超微粒子又は化合物と高温の水又は溶液の霧に分解し,前記高温の水又は溶液の霧を排出しながら,前記高温の超微粒子又は化合物を基板表面上に結晶を成長させて,結晶薄膜を作る気相成長結晶薄膜製造方法」と記載されていること,及び本願明細書の【0003】,【0004】,【0006】等の記載を参照するならば,本願発明1においては,高温炉は,その炉自体が,超微粒子化合物が分解する温度より低く,また超微粒子と水(溶剤)が分離する温度以上の範囲の温度に加熱されるものであり,超微粒子を含んだ霧粒が,高温炉の壁に接触することによって,高温の超微粒子と高温の水蒸気(又は溶剤)に分解し,高温の超微粒子は基板表\面に結晶薄膜を形成するものであると認められる。このように,本願発明1の高温炉は,その壁に接触した超微粒子を含んだ霧粒を加熱して分解するためのものである。他方,引用発明のチャンバーについては,チャンバー自体が加熱されることや,霧がチャンバーの壁に接触して分解されることに関する記載はないそして,これらの技術的内容は,第2の1のとおり,確定した前回判決において,既に認定,判断された事項である。本願発明1と引用発明の間の相違点についての容易想到性の有無を判断するに当たっては,前回判決が指摘した本願発明1の「高温炉」と引用発明の「チャンバー」との相違点の技術的意義が考慮されてしかるべきである。
イ
上記の点を踏まえて,引用発明に,引用文献2に記載された発明を組み合わせることにより,相違点Dに係る構成に至ることができるかを検討する。前記1(3)のとおりの引用文献2の記載(特に【0008】,【0009】,【0017】)からすると,引用文献2に記載された発明は,微粒子化された溶液中の化合物を,ヒータにより加熱される搬送ベルトからの伝熱とマッフル炉内からの輻射熱によりあらかじめ加熱した膜形成用基板の表面に接触させることにより,基板表\面又は基板近傍で熱分解させるものである。したがって,引用文献2に記載された発明のマッフル炉は,輻射熱によって膜形成用基板を加熱するためのものであって,引用文献2には,マッフル炉の壁面に接触した超微粒子を含んだ霧粒が加熱されて分解されることについての記載はない。このように,引用文献2に記載された発明のマッフル炉は,輻射熱によって膜形成用基板を加熱するためのもので,その壁に接触した超微粒子を含んだ霧粒を加熱して分解するためのものではないから,引用発明に引用文献2に記載された発明(及び周知の技術的事項)を組み合わせることによっては,相違点Dに係る構成に,容易に至ることはない。
ウ
審決は,「(引用文献2の)マッフル炉が温度的にも加熱の原理からも本願発明1でいう高温炉に相当することは明らかであって」とのみ述べて,「相違点Dは,当業者であれば容易に想到し得る設計事項の採用というべきである。」との結論を導いているが,上記のとおり,審決の判断には,誤りがある。
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2013.04. 3
平成24(行ケ)10296 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月19日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が引用文献の発明認定の誤りを理由に取り消されました。本件発明は遺体処理に用いる器具です。
(1)の記載によれば,甲32公報では,遺体の体液漏出防止処置用具に関し,段落【0012】〜【0019】及び【図1】によって第1の実施形態が
説明されており,段落【0020】,【0021】及び【図2】によって第2の実施形態が説明されているものと認められる。そして,これらの説明を総合すると,第1の実施形態の処置用具は,可撓性チューブ1の後端部より通気性の塊2を押し込み,このチューブ1の先端部から高吸水性ポリマーの粉末又は顆粒3を入れたのち,チューブ1の両端に防湿用キャップ5を被せたものであるから,【請求項3】の構成に対応するものと認められ,第2の実施形態の処置用具は,可撓性チューブ1の後端部より通気性の塊2を押し込み,このチューブ1の先端部から高吸水性のポリマーの粉末又は顆粒3を入れたのち,先端部を通気性のないスポンジの小片4で封じ,チューブ1の後端に防湿用キャップ5を被せたものであるから,「スポンジの小片」の構\成を有する【請求項4】に対応するものと認められる。ところで,上記(1)の段落【0017】は,その内容や,前後の段落との整合性等の観点からして,第1の実施形態の処置用具の使用方法を説明する記載であると認められるところ,そこには,「...可撓性チューブ1の...先端部を遺体の口,耳,鼻などの孔に深く挿入して圧縮気体源を作動させると,先端部を軽く封じているスポンジの小片4を押し出したのち,高吸水性ポリマーの粉末または顆粒を注入することができる。」との記載がある。審決は,この記載を根拠にして,「吸水剤である高吸水性ポリマー粉末を収容し,スポンジ部材により開口部を閉塞した遺体の体液漏出防止処置用具について,使用時にスポンジ部材を有する端部を遺体の孔部に挿入した後,押し出し操作を行い,当該スポンジ部材とともに吸水剤粉末を押し出すようにすることも当業者に周知であるか,少なくとも公知の技術である。」と認定した。
しかしながら,上記(1)の記載に照らすと,第1の実施形態の処置用具の構成及びその製造方法に関して説明している段落【0012】〜【0016】には,「スポンジの小片4」に関する説明がないまま,使用方法を説明する段落【0017】だけに唐突に「スポンジの小片4」に関しての記載が登場している。また,第1の実施形態の処置用具に関するその他の記載箇所である段落【0018】,【0019】,【図1】にも,「スポンジの小片4」についての説明はなく,図示もない。「スポンジの小片4」が図示されているのは,第2の実施形態についての【図2】においてのみである。しかも,「スポンジの小片4」について明示する第2の実施形態において,このスポンジの小片4は,遺体の孔部に挿入する前に可撓性チューブ1の先端から抜き取られるものとして説明されている。このように,段落【0017】におけるスポンジの小片4に関する記載は,第1の実施形態の処置用具に関するその他の記載と整合せず,この段落にだけ浮き上がって触れられているものであり,しかも,第2の実施形態の処置用具において明示された「スポンジの小片4」の使用方法とも整合しないことになる。当業者が,甲32公報の記載に接し,その記載を整合的に理解しようとすれば,段落【0017】におけるスポンジの小片4の記載は,明細書の編集上のミスと認めざるを得ない。すなわち,第1の実施形態の処置用具は,スポンジの小片4を有していないと理解するのが自然である。少なくとも,このような他の記載と整合しない断片的な記載から,「可撓性チューブの一端開口部に(防湿用キャップ5に加えて)スポンジの小片4を有する第1の実施形態の処置用具であって,一端開口部を遺体の孔部に挿入した後にスポンジの小片4を押し出す」という構\成が甲32公報に開示されていると認めることはできない。
したがって,甲32公報の段落【0017】の記載を根拠に,「吸水剤である高吸水性ポリマー粉末を収容しスポンジ部材により開口部を閉塞した遺体の体液漏出防止処置用具について,使用時にスポンジ部材を有する端部を遺体の孔部に挿入した後,押し出し操作を行い,当該スポンジ部材とともに吸水剤粉末を押し出すようにすることも当業者に周知であるか,少なくとも公知の技術である。」とした審決の認定は誤りであり,また,他に上記の技術的事項が当業者にとって周知であると認めるに足りる的確な証拠もないから,そのような技術的事項を甲5発明,甲7発明,甲12発明に適用することにより,相違点3,6,9に係る本件発明の構成が容易に想到し得るとした審決の判断は誤りである。\n
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2013.04. 3
平成24(行ケ)10241 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月21日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。取消理由は引用発明の認定誤りです。
前記のとおり,刊行物1に記載の針刺部分組成物は,当該組成物から得た針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形することが,液漏れのない針刺し止栓を得るために必要であるのに対し,補正発明の構成物は,ゴム栓組成物の成形物が針の針刺方向に撓ませて止栓本体と一体化して成形されていなくとも,特許請求の範囲で特定された組成及び硬さを有するものであれば,使用時に液漏れを生じないものとして発明されたものである。具体的には,本願明細書で実施例1ないし3及び比較例1ないし5として記載された8種のゴム栓組成物は,いずれも刊行物1において補正発明と対比すべき発明に係る針刺し止栓の針刺部分の組成及び硬さを満たすものであるところ,刊行物1の記載によれば,これら8種の組成物を使用して製造した針刺部分は,これを針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形する構\成を伴うことにより,液漏れが生じない針刺し止栓を得ることができる。一方,本願明細書の記載によれば,これら8種の組成物の中で,実施例として記載の3種の組成物,ひいては特許請求の範囲に記載されたベースポリマーの種類及び分子量,軟化剤及びポリプロピレンの配合量,並びに硬さに特定された組成物のみが,針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形するという手法を用いなくとも,液漏れのない医療用ゴム栓を得ることができるというものである。そうすると,補正発明は,当裁判所が認定した刊行物1に記載の上記組成物におけるベースポリマーの種類及び分子量,軟化剤及びポリプロピレンの配合量,並びに組成物の硬さを特定の範囲に限定することにより,針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形するという手法を用いなくとも,液漏れのない医療用ゴム栓を得ることができる効果を見出したものということができる。そして,針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形することを液漏れのない針刺し止栓を得るために必要とする刊行物1記載の針刺部分組成物のベースポリマーの種類及び分子量,パラフィン系オイル及びポリオレフィンの配合量,並びに硬さの範囲の中から,針刺部分を針の針刺方向に撓ませることが不要な特定の組成を見出すという発想は,刊行物1の記載から見出すことができず,刊行物1に記載の事項と補正発明とでは前提とする技術的思想が異なるものである。すなわち,補正発明の構成は,前記の技術的課題からの発想に伴うものであり,そのような発想である技術的思想が上記のとおり刊行物1には記載も示唆もない以上,そのような発想と離れた組成物が刊行物1に記載されているとしても,そこに,補正発明の構\成が容易想到であると認めるまでの発明としての構成が記載されているということはできない。審決は,補正発明の技術的課題と刊行物1に記載の技術的課題の対比を誤り,補正発明と対比すべき技術的思想がないのに刊行物1に記載の事項を漫然と抽出して補正発明と対比すべき引用発明として認定した誤りがあり,ひいては補正発明を刊行物1に記載の引用発明から容易に想到しうるものと誤って判断したものというべきである。\n
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2013.03.28
平成24(行ケ)10077 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月25日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、本件発明は引用発明とは技術的に異なるとして、取り消されました。
補正発明に係る特許請求の範囲では,「陽極キャッピング層」について,「Pd,Mg,又はCrを含む」ことが特定され,他の限定はない。ところで,本願明細書の記載によれば,補正発明の「陽極キャッピング層」は,輝度安定性の向上等,OLEDの1つ以上の特性を向上させる目的で設けられるものである。補正発明に係る有機発光素子において,「陽極キャッピング層」は,基本的には電子受容層と陽極との間に配列され,陽極の一部とみなすこともできるものであり,1層以上存在し,「陽極キャッピング層」が電子受容層及び陽極の少なくとも一方に接触している実施形態が示されている。電子受容層と「陽極キャッピング層」との間,「陽極キャッピング層」と陽極との間に1層以上の付加的な層が挿入される場合も含まれる。これに対し,引用発明における「バリア層」は,陽極形成時に有機化合物層の表面に与えられるダメージを防止するため,有機化合物と陽極との間に設けられるものであり,金,銀等の仕事関数の大きい材料や正孔注入性を有するCu−Pc等の材料から形成される。以上によると,引用発明の「バリア層」は,陽極形成時のダメージ防止の目的で設置されるものであるのに対し,補正発明の「陽極キャッピング層」は,輝度安定性の向上等,OLEDの1つ以上の特性を向上させる目的で設けられるものであって,両発明では,上記各構\成を採用した目的において相違する。引用発明の「バリア層」は,上記設置目的から,陽極と有機化合物層との間に,これらに接して設置されるものであると認められる。陽極と「バリア層」の間,又は「バリア層」と有機化合物層の間に別の層が存在する場合には,その層が有機化合物層の表面に与えられるダメージを防止する効果を奏することから,そのような層に重複して「バリア層」を設ける必要性はない。これに対し,補正発明の「陽極キャッピング層」は,陽極と電子受容層との間にあり,陽極に接している場合を含むが,陽極と接することに限定されるものではない。また,引用発明の「バリア層」を形成する材料は,金,銀等の仕事関数の大きい材料や正孔注入性を有するCu−Pc等であるのに対し,補正発明の「陽極キャッピング層」は,Pd,Mg,又はCrを含むことを必須とする。以上のとおり,引用発明の「バリア層」と補正発明の「陽極キャッピング層」とは,その設置目的や技術的意義が異なり,設置位置も常に共通するものではなく,材料も異なることからすると,引用発明における「バリア層」が補正発明における「陽極キャッピング層」に相当するとは認められない。
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2013.02. 7
平成24(行ケ)10126 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成25年01月31日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、「周知文献には問題となる周知技術の開示がない」として取り消されました。
以上のとおり,本件補正発明は,シリンダ油の供給について正確なタイミングを設定することが困難であったことや,その困難性を解決するために供給量を増やしても,シリンダ油が消失してしまうなどの問題を解決しようとするために,シリンダ油を特定の時間に各部に供給し,そのシリンダ油は,ピストンが上方向に移動する際,ピストンが潤滑箇所を通過する前にシリンダの表面上に分散されるようにして,シリンダ周面上にオイルを一層良く分散させ,オイルをより有効に利用することができるとともに,シリンダ寿命とオイル消費との関係を期待どおり改善することができるというものである。・・・周知例3の記載(【0001】〜【0009】【0012】【0013】)によれば,周知例3に記載された技術は,従来の2サイクルディーゼル機関においては,シリンダライナにおけるピストンストローク方向に対して1つの位置に注油孔が設けられていたところ,その注油位置が変化すると,シリンダライナにおけるピストンストローク方向に対する摩耗パターンが異なってしまうなどの問題点を解決するために,内燃機関におけるシリンダライナ摺動面の摩耗量を低減できるとともに,その摩耗量のピストンストローク方向に対する平滑化を図ることができる内燃機関の注油装置を提供することを目的としたものである。そのために,シリンダライナにおけるピストンストローク方向に互いに異なる位置に上段注油孔と下段注油孔とを設け,また,上段注油孔と下段注油孔との注油タイミングを個別に調整し,上段注油孔からはピストン上昇行程中に注油し,下段注油孔からは上昇行程のピストンが下段注油孔を通過した後で下降行程のピストンが下段注油孔を通過する前の間に注油するものである。そうすると,シリンダ油を注油することが噴射に相当するとしても,シリンダ油を噴射する時期については,ピストンリング手段がシリンダの噴射ノズルが取り付けられるリング領域を通過する直前の段階で潤滑油を噴射する構\成が含まれているものの,その構成のみが独立して周知例3記載の技術の持つ課題を解決するものではないから,上記構\成をまとまりのある1個の技術として周知であると認定することはできない。したがって,周知例3によって,周知技術2を認定することはできない。・・以上のとおり,周知例3及び4によって周知技術2を認定することはできないから,引用発明に周知技術2を適用することにより,相違点2に係る本件補正発明を想到することが容易であるとはいえない。イ 被告は,引用発明における注油タイミングは,噴射したオイルが,シリンダのスワールに存在し,遠心力によって,シリンダの表面に分散されるタイミングを意味することが明らかであるから,本件補正発明の注油タイミングと変わるものでないと主張する。しかし,前記2(3)のとおり,引用発明はシリンダ油が最初にピストンリングに接触することを意図したものであるから,ピストンが潤滑箇所を通過する前にシリンダ油をシリンダの表面上に分散されるようにする本件補正発明とは,技術的思想として明らかに差異があり,被告の上記主張は失当である。\n
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2013.02. 6
平成24(行ケ)10233 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月30日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は、引用文献の認定誤りです。
上記のとおり,引用例1には,溶解性ガラスが全て溶けるまで,水処理材としての効果を大幅に変化させずに持続させることを解決課題とした,Ag+を溶出する溶解性ガラスからなる硝子水処理材を提供する技術が開示されており,特許請求の範囲の請求項1及び実施例の記載によれば,溶解性ガラスとして「P2O5を含む燐酸塩系ガラス」のみが記載され,他の溶解性ガラスの記載はない。請求項1には,溶解性ガラスは,形状,最長径,金属イオンの含有量などと共に,P2O5の含有量が特定されており,発明の詳細な説明には,溶解性ガラスの形状及び組成を厳選した旨の記載がある(段落【0012】)。以上によると,引用例1の請求項1及び実施例1において,溶解性ガラスとして硼珪酸塩系ガラスを含んだ技術に関する開示はない。したがって,請求項1及び実施例1に基づいて,引用例1発明について「硼珪酸塩系の溶解性硝子からなる硝子水処理材」であるとした審決の認定には誤りがある。
(3) 被告の主張に対して被告は,引用例1の発明の詳細な説明中に「本発明で使用する溶解性ガラスは,硼珪酸塩系及び燐酸塩系の内,少なくとも1種類である」(段落【0006】)との記載があることを根拠として,引用例1に硼珪酸塩系ガラスが開示されていると主張する。しかし,被告の上記主張は,以下のとおり,採用できない。前記のとおり,引用例1の請求項1では,溶解性ガラスを燐酸塩系ガラスに限定している以上,上記記載から,硼珪酸塩系ガラスが示されていると認定することはできない(請求項2では「硝子物」の組成は限定されておらず,上記記載は,請求項2における「硝子物」に関する記載であると解することができる。)。次に,被告は,引用例1の発明の詳細な説明によると,引用例1発明の溶解性ガラスは,従来技術である乙1文献に記載された溶解性ガラスを前提とする発明であり,乙1文献には,実施例として,硼珪酸塩系ガラスと燐酸塩系ガラスが記載されているのであって,引用例1の実施例1の結果を踏まえれば,乙1文献に記載されている硼珪酸塩系ガラスにおいても,最大径を10mm以上とすることにより,銀イオンの溶出量を維持する効果が得られると理解することができると主張する。しかし,以下のとおり,被告の上記主張も失当である。引用例1には,引用例1に先立つ従来技術として,乙1文献が挙げられており(段落【0003】),同文献には,水溶性ガラスとして,硼珪酸塩系ガラスと燐酸塩系ガラスの両者が記載されているが,そのような文脈を根拠として,溶解性ガラスを燐酸塩系ガラスに限定した引用例1発明の「溶解性ガラス」について,硼珪酸塩系ガラスと燐酸塩系ガラスの両者を共に含むと理解することは無理があり,採用できない。
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2012.12.17
平成24(行ケ)10038 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月11日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として、取り消されました。
審決の認定,すなわち,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」の構成は,「【図11】に示すような構\成であると解するのが自然である」との認定に誤りがあるかどうかを検討する。「書庫」について,本件訂正発明1では,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する」と特定されているのみである。この点,1)特許請求の範囲の記載として,「図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有する異なる複数の棚領域」(及びこれに対応するコンテナ)とするのであれば(これでも特定は不十分かもしれないが),審決が認定するような構\成を導くことも可能であろうが,本件訂正発明1の上記記載では,そのようにはなっておらず,構\成の特定方法が十分ではないと解する余地がある。他方,2)「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域」という構成の内容が必ずしも明確でないので,発明の詳細な説明を参酌することができるところ,本件訂正発明1は,サイズ別フリーロケーション方式を採用した図書の保管管理装置に係る発明であり,この方式は,「例えば,A4版の図書を収容するコンテナ,B5版の図書を収容するコンテナ及びA5版以下の図書を収容するコンテナのように,収容する図書の寸法に応じてそれぞれ大きさの異なる複数種類のコンテナを用意しておき,それぞれのコンテナを大きさ別に分類して書庫に収容するようにしたものである。」(甲32【0009】)とあるので,図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有するコンテナ(及びこれに対応する棚領域)の構\成であると解する余地もある。そこで検討するに,原告の主張は,基本的に1)の立場によるものであり,例えば,参考資料の図1(及び図2のコンテナを含む。)に記載されている書庫のように,図書の寸法別に分類された,幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫であれば(具体的には,棚領域がA4版用,B5版用,A5版用というように分類されていれば),図書のA4版,B5版,A5版の「幅及び高さ」より棚領域の「幅及び高さ」のそれぞれの長さが長い書庫であっても,本件訂正発明1の「書庫」の特定事項を満たしているというのである。しかし,この主張は,やや理屈が勝った議論であって,収容(収納)効率の向上という観点からは,実際に図2のコンテナを含む図1のような書庫が使用されるものとは考えにくい。これに対し,被告の主張は,基本的に2)の立場によるものであり,審決も,実際の図書の保管管理状況を念頭において判断しているように思われる。しかし,本件訂正発明1の特許請求の範囲の解釈に関しては,上記1)か2)かという点で明確でないところがあり,また,発明の詳細な説明においても,明確に「図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有する」と規定されていないことに照らして判断すると,審決の上記認定が,本件訂正発明1の「書庫」の構成として,参考資料の図1に記載されているような書庫は本件訂正発明1の「書庫」には含まれないとの趣旨のものであるとすれば,その限りにおいて認定は正確でないということになる。イ 「コンテナ」の構成について「コンテナ」について,本件訂正発明1では,「この書庫の各棚領域に収容されるもので,それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナ」と特定されているのみである。そうすると,上記アの説示に照らして,参考資料の図2に記載されているようなコンテナ,すなわち,複数の同じサイズの図書を収容するコンテナであれば,例えば,コンテナがA4版用,B5版用,A5版用というように分類されていれば,図書のA4版,B5版,A5版の「幅及び高さ」よりコンテナの「幅及び高さ」のそれぞれの長さが長いコンテナであっても,本件訂正発明1の「コンテナ」の特定事項を満たしているといえる。したがって,「参考資料の図2のような構\成ではな」いとの審決の認定が,参考資料の図2に記載されているようなコンテナは,本件訂正発明1の「コンテナ」には含まれないとの趣旨のものであるとすれば,その限りにおいて認定は正確でないということになる。
・・・
エ 以上のとおり,審決の認定には正確性を欠くところがあるが,審決は,相違点1の容易想到性判断において,後記2(1)ウのとおり述べるにとどまり,「書庫」の構成に関して,図書の幅及び高さと棚領域との大小関係については何ら言及していない。そこで,原告主張の審決の認定の誤りが取消事由にどこまで影響を与えるかについては,次項以下で,実質的な検討を進める。
・・・
イ 被告は,周知技術の属する倉庫(自動倉庫)の技術分野においては,その寸法に対応した,幅及び高さがそれぞれ異なる収納容器(コンテナ)や,当該収納容器のみを集積した「棚領域」という概念を観念することはできず,自動倉庫の分野において,幅及び高さが異なる棚領域を設けることが周知であったとしても,それは,そこに収容する物品の寸法に対応したものではなく,棚領域が「荷物の寸法別に分類された」構成は開示されていないという点で,本件訂正発明1とは異なると主張する。しかし,甲第22号証及び同第29号証に記載されているように,自動倉庫に格納される収容物がコンテナ又は容器に収納した状態で格納されることは,周知の事項であり,また,例えば甲第29号証に記載されているように,収容物の寸法に応じて大きさの異なる容器を使い分けることも,従来から一般的に行われていることである。そして,この収容容器(コンテナ)が収容される棚領域は,当然のことながら,収容物の大きさ(寸法)に対応したものになる(なお,原告が当該構\成を端的に示した文献の存在を主張立証していない,との被告の非難は当たらない。)。したがって,倉庫(自動倉庫)の技術分野においては,その寸法に対応した,幅及び高さがそれぞれ異なる収納容器(コンテナ)や,当該収納容器のみを集積した「棚領域」という概念を観念することができないとの被告の主張は理由がない。そして,本件の場合,図書は,その幅及び高さが複数種類に限定されているため,収容物が図書に限定された場合には,限定のない場合と比較して収容効率が向上するという効果が予想されるが,収容効率を更に向上させるために,荷物の大きさを揃えて,それに対応するコンテナに収容する方がよいことは,当業者が技術常識に照らして容易に予\測し得るところであって,図書の場合は,規格上,それが更にA4版,B5版等に特定されたものというべきである。被告は,本件訂正発明1が採用したフリーロケーション方式では,複数の分類にかかる同じサイズの図書を一つのコンテナに混在させることができるから,空間の利用効率が高くなり,収容効率が向上すると主張するが,このような効果は,収容物の大きさに応じた収納容器を用いることで収容効率が向上するという効果から当業者が予測し得る程度のものであり,それ以上に格別なものとはいえない。\n
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2012.12.10
平成23(行ケ)10425 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年11月29日 知的財産高等裁判所
APPLEが、めずらしく審取まで争っています。裁判所は進歩性なしとした審決を取り消しました。
上記のとおり,本件審決が周知技術の認定に当たって例示した甲2〜甲4は,「複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」ものではない。また,甲5は,円環状に配置された部分以外に表\示されないアイコンがあり,「複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」ことが記載されているとはいえない。したがって,本件審決が証拠として引用した甲2〜甲5からは,「複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表\示する」ことが周知技術であると認定することはできず,本件審判において,ほかに上記事項を周知技術と認めることができる証拠はない。被告は,甲3〜甲5の記載を引用し,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示させることにより,図形が回転移動されてスクリーンに順次表\示され1回転すると元に戻るようにして,ユーザが図形を選択できるようにすることは,周知技術であると主張するが,甲3の【0044】の記載は「装置が回転すると,メニューが画面内を移動する」のであって,メニューが回転するものではないし,【0048】の記載は「ドラム状のメニュー」の回転であって,「平面内で回転する」ものではなく,甲4及び甲5も「複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」ものでないことは上記のとおりである。
(6) 以上検討したところによれば,「複数の図形の一部を表示するために,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表\示すること」が周知技術であるとした本件審決の認定は誤りであり,取消事由2は理由がある。上記のとおり,引用発明の「円筒」は仮想的なものであって,本願補正発明の「仮想的な環」に相当すると認められるが,本願補正発明においては,「前記仮想的な環を,前記スクリーンを含む平面内で回転させるように構成され」ているから,スクリーンに表\示されるアイコンがスクリーンを含む平面内で回転移動する様子から,環の大きさの直感的な把握が可能となる(効果2)。これに対し,引用発明においては,スクリーンに表\示されるメニューアイテムは,平面内で回転移動するものではなく,円筒形に配置されて,円周方向に回転移動するものであるから,円筒の大きさの直感的な把握が可能(効果2)となるものではない。そして,仮に,「複数の図形の一部を表\示するために,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」との先行技術が存在するとしても(ただし,本件においては認定できない。),引用発明は,「2次元的なユーザインタフェースには,表\現力に限界がある」という認識に基づき,「複数のメニューを3次元的に表示」するものであるから,引用発明に上記先行技術を適用する動機づけはなく,引用刊行物の「2次元的なユーザインタフェースには,表\現力に限界がある」との記載は,引用発明に「2次元的なユーザインタフェース」に係る上記先行技術を適用するに当たって,阻害要因になるものと認められる。したがって,「上記周知技術に基づいて,引用発明の仮想的な環をスクリーンを含む平面内で回転させるように構成し,前記仮想的な環の一部は前記スクリーン内に含まれるようにして本願補正発明のように構\成することは当業者が容易になし得ることである」(7頁14行〜17行)とした本件審決の判断は,仮に,本件審決の認定した周知技術と同様の先行技術が存在するとしても,誤りである。
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2012.11. 3
平成23(行ケ)10432 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月25日 知的財産高等裁判所
引用文献は本願の作用を想定した装置ではないとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。
上記ア(ア) 認定の事実によれば,本件特許発明1は,特に,シザー組立体を相互に連結しかつシザー組立体の端部を捕獲するソケットを有する非圧縮性のマウントの形態の構\造用装置に関するものであり,また,支持面の上方にキャノピーカバーを支持することができ,展開状態において4個の直立した支持部材のみによって支持され,支持部材の下端部各々がプレート状部材により支持面と係合する構成を有していること,隣接した支持部材の間に延びる端縁シザー組立体が横方向の力をしばしば受けるが,シザー組立体が相互にかつ隅の支持部材と連結されている場合,締め付けられれば,シザーの作用を阻止し,横方向にたわむときに剪断力をうけるため,連結ボルトが過大な横方向のたわみにより曲り,又は破断し得ること,そのため,本発明の目的は,「トラス組立体のシザー要素のための連結装置であって,シザー構\成要素を自由に枢動させると共に,シザー要素の横方向の変形およびねじりによる変形を阻止するように非圧縮性の連結装置を提供すること」や,「構造体を構\成する要素を相互に連結するための新規の有用なマウントを設け,そしてさらに複雑な構造体に統合することができる最小限の異なる部品を有する連結装置を使用することにより,折畳み可能\なキャノピー構造体を簡単にすること」,「構\造上の結合性または強度を有意に損なうことなく重量がより軽い隅の支持部材およびシザーバーを使用することができるキャノピーのための折畳み可能でありかつ展開可能\な骨組構造体を提供すること」であること,端縁シザー組立体を直立支持部材に留めるために,支持部材に配置された複数個の新規のマウントは,隔置された向き合う側壁部分によりソ\ケットが形成され,それにより端縁シザー組立体の外側端部を向き合う側壁部分の間に締り嵌め係合するようにソケットのそれぞれ内に捕獲することができ,マウントの平行な側壁部は,平面状の接触面に沿って外側端部に作用し,シザー組立体自体の横方向のたわみ及びねじりによるたわみを阻止する作用をすることが認められる。すなわち,本件特許発明1は,支持部材の下端部が支持面である地面に係合され,上端付近(支持面の上方)にキャノピーカバー等が配置される骨組構\造体であることから,風力等によりシザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を生じ得るという課題を有するものであり,マウント(連結装置)の「平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結されて」いる構成は,シザー要素の上記の変形を阻止する作用を有するものであり,連結部分の構\造を改良・強化することにより,課題を解決する手段であるといえる。一方,上記ア(イ) 認定の事実によれば,甲1には,引用発明の「優点」として,「任意に移位可能で定位できる」,「風に吹き倒されるおそれがない」ことが記載され,伸縮支柱(2)下端が一つの底台片(21)に溶接固定されること,第12図には底台片(21)に孔があることが記載されている。そうすると,引用発明は,止め孔を通じて支持面に定位され,風圧等による横方向の力の影響を受けやすい構\造体の上部に屋根等が配置される(第1図ないし第6図)ことから,風圧等によるシザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形をも考慮して,構造体の補強を指向するものと一応認められる。しかし,引用発明の上固定支えバー軸体,下活動支えバー軸体(本件特許発明1のマウントに相当すると認められる。)は,端縁シザー組立体の外側端部がソ\ケットを有し,上記バー軸体が当該ソケット内に受け入れられるものとなっており,かつ,ソ\ケットの平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結されていない構成であるところ,甲1には,かかる構\成が,シザー要素の上記の変形を阻止する作用を有すること及びそのために連結部分の構造を改良・強化するものであること(本件特許発明1の課題と解決)については,記載も示唆もされていないというべきである。
また,上記ア(ウ) 認定の事実によれば,甲5,甲7及び甲9には,ソケットの平行な側壁部分が上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結されている構\成が示されておらず(この点は,被告も特に争っていない。),また,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を生じさせるような力に対する考慮も示唆されていない。また,甲4及び甲8には上記構成と同様の構\成が示されているが,以下のとおり,本件特許発明1や引用発明において想定される,シザー要素の上記の変形を生じさせるような力の作用を考慮した連結装置を開示するものとはいえない。すなわち,甲4記載の折畳み式ベンチは,交錯状に集交した脚管の端部の連結器具として軸受け盤の軸受けは平行な向き合った側壁部分を有し,その下端部が相互に連結されているが(第4図),携行収蔵に至便,組立て作製も容易なように,脚の下端が接地面(支持面)に固定される構成は有さず,脚の上下端に脚管が連結されて骨格を構\成してベンチに作用する力を支持し,傾倒破損を防止する効果を有するものといえる。
また,甲8記載の折り畳み式腰掛けは,その脚部が,筒体の下部で筒体の内部に上下に摺動可能に嵌挿された脚部保持体を有し,脚部保持体は,平行な向き合った側壁部分の下端部が相互に連結されているが(第7図),より一層軽量且つ小型に構\成され,簡便に携帯可能なようにしたものである。そうすると,上記ベンチ及び上記腰掛けは,上記の構\成,目的及び用途からして,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を生じさせるような態様の力が作用することは想定しがたいものであって,甲4及び甲8に,そのような作用を想定した連結装置が開示ないし示唆されているとは認められない。以上によれば,甲1には,本件特許発明1のマウントに相当する上固定支えバー軸体,下活動支えバー軸体の構成により,シザー要素の横方向の変形およびねじりによる変形を阻止する作用を有することは格別記載も示唆もされていないから,甲1に接した当業者が,かかる変形を阻止するために,さらに,上記軸体の構\成を,相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることに容易に想到するとは言い難い。また,仮に,甲1の記載から,引用発明における上記軸体の構\成を変更することの示唆を得たとしても,上記のとおり,甲4,甲5,甲7ないし甲9は,ソケットの平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結された構\成は示されていないか,シザー要素の上記の変形を阻止する作用を考慮したものではないから,これらに記載された技術を引用発明に適用することが容易とはいえない。したがって,甲4,甲5,甲7ないし甲9には,骨組み構造のたわみやねじりに対する強度を向上するための枢軸構\造として「ソケットの平行な側壁部分の一端を水平な壁部で相互に連結」された構\造は開示されていないとして,引用発明において,連結装置を,側壁部分が水平な壁部で相互に連結される構成に置換して,相違点1に係る本件特許発明1の構\成とすることは困難である旨の原告らの主張には理由がある。
これに対し,被告は,i)折り畳み可能な骨組構\造体の技術分野における通常の知識を有する当業者にとって,折り畳み可能な椅子の骨組構\造体に関する技術知識を有していたと合理的に判断でき,その技術知識に基づけば,甲4及び甲8記載の水平な壁部での連結構造を引用発明に適用するのは極めて容易である,ii)「側壁部分が水平な壁部で相互に連結される構成」は,たわみを阻止するという作用効果を発揮させる上で特段の意味を持つとはいえず,引用発明において,強度の向上を図るため当業者により適宜採用される設計事項にすぎない旨主張する。しかし,上記i)の主張につき,甲4及び甲8には,ソケットの平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結された構\成が記載されているとしても,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を阻止する作用を考慮したものではないから,当業者が,甲4及び甲8記載の技術知識を有していたとしても,それを引用発明に適用することを容易に想到し得たとは認められない。また,上記ii)の主張につき,本件特許発明1において,連結装置に関する「側壁部分が水平な壁部で相互に連結される構成」は,平行な側壁部分を連結してこれを補強するものであることは当業者にとって明らかであるから,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を阻止するという課題の解決手段であり,発明の特徴点といえる。甲1,甲4,甲5,甲7ないし甲9において,構\造体の強度の向上を図るとの課題は示唆されるとしても,かかる一般的な課題から,シザー要素の上記の変形を阻止するとの課題が当然に発想され得ることを裏付ける証拠はないから,連結装置に関して上記構成を採用することを,当業者が適宜採用する設計事項と認めることはできない。よって,被告の主張は失当である。したがって,本件特許発明1と引用発明との相違点1に関する審決の容易想到性の判断には誤りがある。\n
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2012.10.22
平成23(行ケ)10338 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月11日 知的財産高等裁判所
原告は、原告周知技術が本件特許出願当時,技術分野を問わない周知技術として存在していたと認められるべきであると主張しましたが、これは認められず、進歩性違反無しとした審決が維持されました。
原告は,周知技術I〜IIIを前提とすれば,技術分野を問わず「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めている「尖って危険な先端部」を,手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより,その一時的に止めている「尖って危険な先端部」をバネの力により筒や管に収納する技術」(原告主張周知技術)が周知技術であったと認定すべきであると主張する。しかしながら,原告主張周知技術を周知技術として認定することはできない。その理由は以下のとおりである。
(2)ア 周知技術Iについて
・・・上記記載及び図面からすると,甲10のナイフは,刃先端部だけではなく,刃体全体を収納するものである。すなわち,甲10から認定できる周知技術Iは,ナイフの技術分野における技術であるところ,ナイフの場合,刃体の先端だけが危険なのではなく,刃体全体が危険であるので,かかる危険性を排除するために,刃先端部だけではなく刃体全体を筒や管に収納するとしたものであるとみるのが自然であり,ナイフにおいてこそ用いられる技術であって,刃体全体の危険性を度外視して,「尖って危険な先端部」のみに着目し,かかる先端部によって生じる危険を避けることができるという抽象的に独立した技術を把握することはできない。このことは甲5(「ナイフ,くし等のとび出し機構」の発明に係る特開昭50−27200号公報),甲6(「とび出しナイフ」の考案に係る実願昭55−15351号(実開昭56−116961号公報)のマイクロフィルム)を参照しても同様である。よって,周知技術Iから,「……「尖って危険な先端部」を,……筒や管に収納する技術」という特定の技術の存在を認めることはできず,そのような技術が存在しない以上,原告主張周知技術を認定することはできない。
イ 周知技術IIについて
・・(エ) 上記(ア)〜(ウ)の記載によれば,甲23〜25から,本件審決認定の周知技術II「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めているペン先を,手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより,ペン先先端部をバネの力により筒や管に収納する技術」を認定することができる。しかしながら,周知技術IIは,ボールペンや万年筆等の筆記具の技術分野における技術であるところ,ボールペンや万年筆等の筆記具の場合,ペン先先端部をバネの力により筒や管に収納する意義は,使用後にインクが漏れて衣服等を汚すことがないようにするためのものであり,そのことは,上記のとおり甲23〜25自体に記載されている。もっとも,ペン先先端部は尖っているから,人に向けて動かせば危険であるといえなくもないが,周知技術IIは,かかる危険性を排除するために用いられるものではないから,「尖って危険な先端部」に着目し,かかる先端部によって生じる危険を避けることができる一般的な独立した技術として抽象的に把握することはできない。このことは,甲29(昭和51年度グッドデザイン賞受賞の三菱鉛筆株式会社製ボールペン「ボクシーBX−100」の写真)を参照しても同様である。よって,周知技術IIから,「……「尖って危険な先端部」を,……筒や管に収納する技術」という特定の技術の存在を認めることはできず,そのような技術が存在しない以上,原告主張周知技術としても認定することもできない。
ウ 周知技術IIIについて
・・・以上の記載からすると,甲2に記載された注射器は,患者の身体から組織や体液のサンプルを抽出するバイオプシー用の皮下注射器であって,1人の操作者によってバイオプシーを可能にすることを目的としたものであり,医療関係者の操作により,圧縮されていたスプリング21等によってプランジャが自動的に戻され,可動コア(内針)が皮下注射針から引き抜かれて,発生した負圧により少量の組織又は流体が皮下注射針7から吸い込まれるものと理解される。そして,この注射器が,可動コアが針内に異物が侵入するのを防止するために設けられており,医療関係者の操作により可動コア(内針)が皮下注射針から引き抜かれて発生した負圧により少量の組織又は流体が皮下注射針7から吸い込まれる,というものであることに鑑みれば,図面1〜4に記載されたとおり,可動コアの先端6(図示右手側側)の長さは,皮下注射針7の先端(図示右手側)を超えないものと認められ,可動コアが皮下注射針より引き抜かれることは,皮下注射針7の先端部が露出されていることによる使用者の危険性の回避に対して何ら関与しないものである。したがって,甲2は,周知技術IIIの「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めている針を,手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより,針先端部をバネの力により筒や管に収納する技術」との構成を備えているが,「尖って危険性のある先端部」の安全に関しては何ら示唆するものではないから,甲2から原告主張周知技術の存在を認定することはできない。
(イ) 甲22(米国特許第4105030号明細書)
・・・以上の記載によれば,甲22に記載された装置においては,キャリッジ10及びトラック4は,楕円形,「u」字形又は円形の断面のような,より流線型の形状を利用するのが望ましいとされており,その場合には,ロッド20またはリップ17及び溝15のような安定化手段を用いない座面を利用するために設計されていても良いとされている。したがって,「筒」や「管」との明示的な記載はないが,実質的に「筒」や「管」と同様に円形等の断面が支承面となるようなトラックの中で,針を保持するキャリッジが後退するものと推認できる。しかし,甲22に記載された装置の機序に従えば,針50を引き戻してトラック4内に収納することの意義は,薬物含有ペレットを通路内に格納する針50が動物に皮下挿入された後に,ペレットの周りから引き戻されることによりペレットを動物の皮下に残留させる点にあることが分かる。そうすると,針50を引き戻すことは,針50の先端部が露出されていることによる使用者への危険性の回避するものであるとはいえない。したがって,甲22は,周知技術IIIの「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めている針を,手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより,針先端部をバネの力により筒や管に収納する技術」の構成を備えているが,「尖って危険性のある先端部」の安全に関しては何ら示唆するものではないから,甲22から原告主張周知技術の存在を認定することはできない。\n
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2012.10.16
平成23(行ケ)10396 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月10日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として取り消されました。
ところで,乙第2号証の図1,2,4には静翼の内側シュラウド(12)の半径方向内側にハニカムシール(16,17)を設け,これと対向する動翼の端部にシールフィン(22,32)を設けてシール構造を成す構\成が図示されているが,これは静翼と動翼やディスク(5)とが成す空間(18,19)から流路に向かって同空間内の冷却用空気が流れ出すのを防止するためのものであり(段落【0001】),他方,乙第6号証(特許第2640783号公報)の第1図にも同様に静翼の端部に摩減性表面(55)を設け,これと対向する動翼の端部に刃形シール(24,32)を設けてシール構\造を成す構成が図示されているが,これは上記と反対に作動流体(ガス)が流路(13)からシール空洞(64,66)に漏れ出すのを防止するためのものである(6頁12欄32〜37行)。これらのとおり,軸流タービンの動翼プラットフォーム付近(静翼内側バンド周辺)に設けられたシール構\造には,物理的にはほぼ同様の構成であるにもかかわらず,流出を阻害すべき流れの方向が正反対で,機能\が大きく異なるものが存在するから,シール構造(装置)の構\成のみから直ちにその機能を認識することは当業者にとっても必ずしも容易でないというべきである。しかるに,引用文献1の図3には,静翼の内側バンドよりさらに半径方向内側に,上流・下流方向で合わせて4箇所の突出部を設け,これと対向する動翼(ベーン,バケット)に上流・下流方向で合わせて4箇所の突出部を設けてシール構\造を成す構成が図示されているが,かかるシール構\造が,流路からホイール(33)と静翼が成す空間へ主流が漏洩する流れを減少させるために設けられたとは図面からは必ずしも断定できず,他の目的(機能)を果たすために設けられた可能\性を排斥できない。そうすると,当業者の技術常識を踏まえて考えたとしても,審決がした引用文献1記載発明の認定のうち,「前記突出部Bが,前記突出部Aと共に前記1つのロータホイールと前記1つのノズル列との間にあるホイールスペース内に流入する,前記流路からの漏洩流を減少させるためのシールを形成している」との点は,引用文献1の記載に基づくものではなく,誤りがあるといわざるを得ない。したがって,上記認定を受けた,補正発明と引用文献1記載発明の一致点及び相違点に係る審決の認定にも誤りがある。
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2012.10. 8
平成23(行ケ)10258 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月27日 知的財産高等裁判所
無効理由有りとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として、取り消されました。
審決は,甲4及び甲5から,「幅広の不織布として,伸びる(伸縮する)と共に合成樹脂繊維からなるものを使用するとき,伸ばすことによる縮みができる限り抑制されたものをフィルター部材として伸ばして使用する」との事項が示されていると認定,判断する。しかし,当裁判所は,以下のとおり,甲4及び甲5には,「伸ばすことによる縮みができる限り抑制されたものを」使用することが記載又は示唆されておらず,したがって,甲1発明に甲4及び甲5に記載の技術を適用しても,本件訂正発明の相違点に係る構成に到達することはないと判断するものである。・・・以上によれば,甲4及び甲5には,「伸ばすことによる縮みができる限り抑制されたものを」使用することは,記載又は示唆されているものではないから,甲1発明に甲4及び甲5に記載の技術を適用しても,本件訂正発明の相違点に係る構\成に到達することはない。
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◆関連事件です。平成24年(行ケ)第10128号判決本文
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2012.10. 8
平成23(行ケ)10201 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月27日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決について、「進歩性判断の基礎となる先行技術の認定が誤っている」として取り消されました。
以上のとおり,甲1文献には,単一モード・ファイバーに多重モード・ファイバー増幅器を適用する光学増幅器において,単一モード・ファイバーと多重モード・ファイバー増幅器との間に,ファイバーモードを整合するためのインターフェース光学部品が設置され,多重モード・ファイバー増幅器に,入力信号を入力する入力信号源とポンプ光を入力するポンプ源が接続されていること,高品質の導波路及び適切なモード整合光学部品を使用して,多重モード・ファイバー増幅器の入力ポートにその基本モードの信号を入力し,多重モード・ファイバー増幅器によって増幅されたこの基本モードの信号エネルギーを,当該多重モード・ファイバー増幅器の全体を通して,その出力ポートまで保存することが開示されており,本件特許の優先日当時の当業者の技術水準によれば,その当時,インターフェース光学部品の構成や,基本モードの入射・保存のための方法などを含め,上記光学増幅器の構\成は,当業者が理解可能な程度に明らかになっていたといえる。したがって,甲1文献には,本件発明と対比可能\な程度に技術事項が開示されており,甲1文献に記載された発明は,特許法29条1項3号に規定する「刊行物に記載された発明」に該当するというべきである。
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2012.06.15
平成23(行ケ)10228 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年06月13日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、引用文献に認定誤りを理由に、進歩性なしとした審決が取り消されました。
すなわち,上記(2)で検討したとおり,引用発明2において,音声出力手段による文章の読み上げが進む間,ディスプレイ手段の画面には,データ入力可能位置指標によって読み上げ位置が示されるだけで,データ入力可能\位置を指示するカーソルが別に表\示されるとは認められず,また,文章中の表記の誤りが検知され,操作者による停止指示があった時は,文章の読み上げが停止されるとともに,上記データ入力可能\位置指標は,少し戻されて停止され,その位置がデータ入力可能位置として示されるだけで,音声出力手段による文章の読み上げ位置を示すカーソ\ルが別に表示されるとは認められない。そうすると,引用発明2において,「入力可能\位置指標」は,「文書読み上げにおいて,読み上げ位置を指示し(本願発明の「音声カーソル」に相当する。)」ているとしても,文書読み上げにおいて,データ入力可能\位置を指示しているとは認められず,また,「両者は読み上げ中は同じ位置で連動させる連動手段を有し」,「停止指示がなされると所定の距離だけ離間して両カーソルが位置する」とも認められないから,審決における引用発明2の上記の認定には,誤りがある。そして,引用刊行物2の技術と同様,引用発明2は,単一のカーソ\ルを備え,このカーソルの機能\を,本願発明における「音声カーソル」としての機能\と「テキストカーソル」としての機能\とに選択的に切り替えるものである。
5 相違点に係る構成の容易想到性の判断について
上記2で検討したとおり,引用発明1において,音響的に再生されている言語の強調表示(本願発明の「音声カーソ\ル」に相当。)とは別に,表示画面上の検出誤りがある言語にカーソ\ルが配置及び表示され,この言語を操作者が訂正できるとは認められず,また,引用発明1は「音声カーソ\ルと同じ位置で連動するテキストカーソル,あるいはテキストカーソ\ルと同じ位置で連動する音声カーソルを有して」いるとも認められない。そして,上記3及び4で検討したとおり,引用刊行物2の技術及び引用発明2は,いずれも,単一のカーソ\ルを備えるものであるから,テキストの編集に際してテキストカーソルを表\示することが本件優先日における周知技術であるとしても,音響的に再生されている言語の強調表示とは別に,表\示画面上の検出誤りがある言語にカーソルが配置及び表\示されない引用発明1と,単一のカーソルを備え,このカーソ\ルの機能を,本願発明における「音声カーソ\ル」としての機能と「テキストカーソ\ル」としての機能とに選択的に切り替える,引用刊行物2の技術及び引用発明2とからは,「表\示手段に表示される前記認識テキスト情報の誤ったワードにテキストカーソ\ルを配置及び表示し,ユーザにより入力された編集情報に従って前記誤ったワードを編集する」ようにし,「前記テキストカーソ\ルと前記音声カーソルとを同じ位置又は所定の距離だけ離間した位置に配置するため,前記表\示されたテキストカーソルを前記表\示された音声カーソルに,あるいは前記表\示された音声カーソルを前記表\示されたテキストカーソルに連動させる」本願発明の構\成とすることを,当業者が容易に想到し得たとは認められない。
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2012.05.31
平成23(行ケ)10273 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年05月28日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。
そうすると,引用刊行物の図1の面発光レーザアレイ100は,上記の各素子列の単位からなるものであり,また,上記のとおり,図8の面発光レーザアレイ400は,図1の面発光レーザアレイ100の面発光レーザ素子をジグザグ配置したものであるから,図8の面発光レーザアレイ400は,素子列401,405,409,・・・437からなっているということができ,各素子列は,主走査方向にほぼ等間隔に並んでいる。そして,メサ間(発光スポット)の間隔は,格子列間隔のことを意味するものであるから,各素子列が主走査方向にほぼ等間隔に並んでいる図8の記載からは,「発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない」とはいえない。したがって,図8の記載から,引用刊行物に「その発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない2次元面発光レーザアレイ」が記載されているとはいえない。引用刊行物の図9におけるメサ間(発光スポット)の間隔についてみるに,図1の面発光レーザアレイ100は,上記の素子列の単位からなるものであり,これに引用刊行物の段落【0111】の記載を合わせると,図9の面発光レーザアレイ400Aも同様の素子列の単位からなると認めることができる。そうすると,図9の面発光レーザアレイ400Aの各素子列も,主走査方向にほぼ等間隔に並んでいる。メサ間(発光スポット)の間隔は,格子列間隔のことを意味するものであるから,各素子列が主走査方向にほぼ等間隔に並んでいる引用刊行物の図9の記載から,「発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない」とはいえない。したがって,図9の記載からも,引用刊行物に「その発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない2次元面発光レーザアレイ」が記載されているとはいえない。
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2012.05.11
平成23(行ケ)10091 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年05月07日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決について、前提が誤っているとして取り消されました。
上記(イ),(エ),(オ)には,甲2に示される化合物,すなわち上記(ウ)に記載される化合物が,血中コレステロールを低下させる,高コレステロール血症の治療剤として有用であり,上記(キ)には製剤化され,経口投与されることも記載されている。 上記(オ)には,甲2に示される化合物について,まず塩の製造方法が記載され,塩形態の使用は,酸またはラクトン形態の使用に等しいことが記載され,続けて,適当な塩がいかなるものか説明され,さらに酸の製造方法に関しても説明されている。そしてCI−981半カルシウム塩に該当する化合物が「最も好ましい態様」であることが記載されている。
4 そうすると,審決が判断の前提としたように,CI−981半カルシウム塩がラクトン体に比べて有利な化合物であり,そのことは本件発明において見出された,と評価することはできないのであり,本件発明1は,単に「最も好ましい態様」としてCI−981半カルシウム塩を安定化するものと認めるべきである。 したがって,甲1発明との相違点判断の前提として審決がした開環ヒドロキシカルボン酸の形態におけるCI−981半カルシウム塩についての認定は,本件発明1においても,また甲2に記載された技術的事項においても,硬直にすぎるということができる。この形態において本件発明1と甲2に記載された技術的事項は実質的に相違するものではなく,この技術的事項を,甲1発明との相違点に関する本件発明1の構成を適用することの可否について前提とした審決の認定は誤りであって,甲1発明との相違点の容易想到性判断の前提において,結論に影響する認定の誤りがあるというべきである。
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2012.05. 6
平成23(行ケ)10186 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月11日 知的財産高等裁判所
無効理由なしとした審決が、前提事実の認定に誤りありとして取り消されました。
審決は,本件発明と甲4発明との間の相違点3は容易想到でないと判断した(60頁)。しかしながら,この判断は誤りであり,その理由は次のとおりである。なお,以下の判断の前提事実として,無効理由5,6で主張された公用物件についても触れるが,無効理由2を裏付ける補強事実として認定するものである。
(1) ・・・・・この点,審決は,「・・・公用物件1は『本件に係る出願の実際の出願日前に製造された』ものといえるが,『2010年1月15日〜2010年3月11日の間において大気暴露試験を行』ったものであることは明らかであり,その大気暴\露試験の結果が本件に係る出願の出願前に公然実施された発明における『Δσ』の値であるといえるためには,『Δσ』の値が変化するものではないことを請求人は証明することが必要であるといえるが,請求人が提出した第1回口頭審理陳述要領書ないし第3回口頭審理陳述要領書には『Δσ』の値が変化するものではないとの説明もないし,一般的に残留応力は時間の変化に応じて変わるものであることは技術常識といえるものである。」として,公用物件1に係る硬質塩化ビニルパイプが本件に係る出願日前に式(1)で規定される特性を有していたとは認定できないとした(62頁4行〜23行)。しかし,硬質塩化ビニル系樹脂管は比較的安定で劣化が起こりにくいが,熱,紫外線,化学薬品,応力の影響により,性質,機能,特性の低下が起こる可能\性があり(甲27,33,47,71,105,弁論の全趣旨),また,公用物件1の保管方法が推奨されている千鳥積み等ではなく敷物として利用されていたり,物置内に放置されていたりしたものであったとしても,森定興商株式会社大阪支店の屋内の資材置場又はB宅内の物置において保管されていたものであって,塩化ビニル樹脂に大きな影響を及ぼす日射のほか,熱,紫外線,化学薬品による影響を受けた形跡はない上(甲9の1,9の3−1・2),暴露試験時において公用物件1−1・4・8〜12がJIS規格に定められた性能\(引張降伏強さ,耐圧性,偏平性,ビカット軟化温度)を満たす状態であったということができるし(甲38),かつ,時間の経過や推奨された方法ではない保管方法により応力緩和が進みΔσ の値が大きくなることはあっても小さくなるとは考えがたい。そうすると,平成22年1月15日〜同年3月11日の間,公用物件1を,3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の式(1)から算出される周方向応力σ の最大値と最小値の差Δσ は2.94MPa以下であったことからは,本件出願前において,公用物件1は相違点である構成BのΔσ の値を満たすものであったと推認するのが相当である。
(2) また,証拠(甲10の3−1)によれば,公用物件2は相違点である構成BのΔσ の値を満たすものであると推認することができる。この点,被告は,原告らにおける公用物件2の再現実験の条件(甲39)は,本件出願日前に存在した公用物件2の製造条件を示すものではないと主張する。しかし,本件出願前から使用されていた押出機を使用していることや,従来技術と考えられる水による冷却を行っていること(甲109)などからすると,再現実験は概ね本件出願日前に存在した公用物件2の製造条件を守って行われたと認めるのが相当である。そうすると,本件出願時において,構成BのΔσ の値を満たす硬質塩化ビニル樹脂管(黒色の顔料としてカーボンブラックが使用されたもの)は存在していたと認めるのが相当である。加えて,公用物件2の再現実験が本件出願前の製造条件等を完全に再現したものではないとしても,証拠(甲10の3−1)によれば,少なくともカーボンブラックを黒色顔料として添加した硬質塩化ビニル樹脂管で本件発明の構成Bを満たすものが本件出願時に存在したことは推認することができる。\n
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2012.04.18
平成23(行ケ)10148 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月11日 知的財産高等裁判所
当業者であれば、作用効果についても想到したであろうとして、進歩性違反無しとした審決が、取り消されました。
本件各発明の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によれば,本件各発明は,糖尿病治療に当たって,薬剤の単独の使用には,十分な効果が得られず,あるいは副作用の発現などの課題があった一方で,インスリン感受性増強剤でありほとんど副作用がないピオグリタゾンを,消化酵素を阻害して,澱粉や蔗糖の消化を遅延させる作用を有するα−グルコシダーゼ阻害剤(アカルボース,ボグリボース又はミグリトール)と組み合わせた医薬については知られていなかったことから,ピオグリタゾンとそれ以外の作用機序を有するα−グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせることで,薬物の長期投与においても副作用が少なく,かつ,多くの糖尿病患者に効果的な糖尿病予\防・治療薬とすることをその技術的思想とするものであるといえる。
・・・・
前記(1)エに認定のとおり,当業者は,引用例3の図3からピオグリタゾン又はその薬理学的に許容し得る塩とアカルボース,ボグリボース及びミグリトールをから選ばれるα−グルコシダーゼ阻害剤の併用投与という構成及びそこから血糖値の降下という作用効果が発現することと認識するものと認められるが,ここで発現する作用効果についてみると,前記(1)ウに認定のとおり,作用機序が異なる薬剤を併用する場合,通常は,薬剤同士が拮抗するとは考えにくいから,併用する薬剤がそれぞれの機序によって作用し,それぞれの効果が個々に発揮されると考えられる。しかも,前記1(3)アないしオに記載のとおり,引用例1は,SU剤による二次的無効に対処するためにピオグリタゾン等の作用機序の異なる経口剤の併用について言及し,引用例2は,個々の患者の病態に即したより有用な治療としてのピオグリタゾンやα−グルコシダーゼ阻害剤であるアカルボース等の薬剤の併用投与について言及し,引用例3は,α−グルコシダーゼ阻害剤であるボグリボースとSU剤との併用による血糖値の低下という成果を紹介するほか,図3の説明に引き続いて個々の病態に応じたきめ細かい治療の必要性に言及し,引用例4は,糖尿病患者の空腹時血糖量に応じたα−グルコシダーゼ阻害剤及びそれとは作用機序を異にする薬剤(インスリン感受性増強剤を含む。)との単独投与や併用投与の組合せについて説明しており,さらに,乙17(甲22)は,インスリン感受性増強剤であるトログリタゾンの単独投与群とSU剤又はビグアナイド剤との併用投与群で血糖調節について同じ改善率があったことを記載していることからすると,本件優先権主張日当時の当業者は,これらの作用機序が異なる糖尿病治療薬の併用投与により,いわゆる相乗的効果の発生を予測することはできないものの,少なくともいわゆる相加的効果が得られるであろうことまでは当然に想定するものと認めることができる。\n
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◆関連事件です。平成24(行ケ)10147等
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2012.03. 5
平成23(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月06日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決が取り消されました。
このように,刊行物1においては,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を成形型内で加工する技術が密接に関連したひとまとまりの技術として開示されているというべきであるから,そこから鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出し引用発明の技術的思想として認定することは許されない。しかるに,審決は,引用発明として,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという上記の技術事項に触れることをせずに,したがってこれを結び付けることなく,単に成形型内で加工する技術のみを抜き出して認定したものであって,審決の引用発明の認定には誤りがある。これに伴い,審決には,成形型内で加工する点を一致点として認定するに当たり,これと関連する相違点として,本願発明は,「成形後に金型中にて冷却して焼入れを行い高強度の部品を製造する際に,…剪断加工を施す」のに対して,引用発明では,「成形品形状部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却」する点,「得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させ,剛性低下部を形成」する点,「剛性低下部にピアス加工を施す」点を看過した誤りがある。
(2) そこで,上記の誤りが審決の結論に影響を及ぼすかどうかについて検討するに,上記(1)で説示したとおり,刊行物1記載の引用発明は,焼入れ硬度を低下させた部位を設けることで加工を容易にすることを中心的な技術的思想としているのであって,これを前提として成形型内で加工を行う技術事項も開示されているにとどまると理解すべきであるから,これらの技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出しそこにのみ着眼して,看過された相違点に係る本願発明の構成とすることができるかの視点に基づく判断は,容易推考性判断の手法として許されない。\n
◆判決本文
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2012.03. 1
平成23(行ケ)10191 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月28日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が取り消されました。最後に差し戻し後の審判における認定手法について、付言がなされています。
以上の記載によれば,甲1(甲6−2)には,オゾン層に悪影響を与えるHCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfc(特に,HFC−365mfc)を発泡剤としての使用が提案されていることが認められる。なお,HCFC−141bを,その熱的性能,防火性能\を理由として,依然として含有させるべきであるとの見解が示されているわけではないと解される。そうすると,甲1(甲6−2)において,HCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfcが好ましいとの記載から,混合気体からHCFC−141bを除去し,その代替物としてHFC−245faないしHFC−365mfcを使用した発泡剤組成物を得ることが,当業者に予測できないとした審決の判断は,合理的な理由に基づかないものと解される。
・・・
5 付言
当裁判所は,審決には,上記2ないし4において判断した他,次の点に問題があると解する。すなわち,一般に,審決が,「本件訂正発明が甲1に記載された発明に基づいて容易に想到することができたか否か」を審理の対象とする場合,i)引用例(甲1)から,引用発明(甲1に記載された発明)の内容の認定をし,ii)本件訂正発明と甲1記載の発明との一致点及び相違点の認定をした上で,iii)これらに基づいて,本件訂正発明の相違点に係る構成について,他の先行技術等を適用することによって,本件訂正発明1に到達することが容易であったか否か等を判断することが不可欠である。特に,本件においては,引用例の記載事項のいかなる部分を取捨・選択して,引用発明(甲1に記載された発明)を認定するかの過程は,引用発明として認定した結果が,本件訂正発明と引用発明との相違点の有無,技術的内容を大きく左右するという意味において,極めて重要といえる。しかし,本件において,審決では,引用発明の内容についての認定をすることなく(甲1の記載を掲げるのみである。),また本件訂正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定をすることなく(相違点が何であるか,相違点が1個に限るのか複数あるのか等),甲1の文献の記載のみを掲げて,本件訂正発明1の容易想到性の有無の判断をしている。当裁判所は,審決には,原告主張に係る取消事由2及び4の誤りがあるとして,審決を取り消すべきものと判断したが,差し戻した後に再開される審判過程において,引用例記載の発明の認定及び本件訂正発明と引用例記載の発明との相違点等について,別途の主張ないし認定がされた場合には,その認定結果を前提として,改めて,相違点に係る容易想到性の有無の判断をした上で,結論を導く必要が生じることになる旨付言する。
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2012.02. 9
平成23(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月06日 知的財産高等裁判所
引用発明の認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
上記2のとおり,刊行物1記載の発明は,加熱状態の鋼板をプレス成形により急冷・焼入れし,その後に加工するという従来技術においては,焼入れにより硬度が上昇してその後の加工が困難になるなどといった問題点があったことから,これを解消するために,焼入れの際,部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させる,すなわち,加工が必要な部位の焼入れ硬度を低下させ,その部位の加工を容易にすること(【請求項1】,第1実施形態に係る発明)を中心的な技術的思想とするものである。そして,プレス成形に引き続き成形品が冷却され硬化する前に成形型内で加工を行うという構成(【請求項9】,第4実施形態に係る発明)についても,【請求項9】が【請求項1】を全部引用していることに加え,「第9の発明では,第1の発明の効果に加えて…」(段落【0012】),「本実施の形態(判決注:第4実施形態)においては,第1実施形態における効果…に加えて,下記に記載した効果を奏することができる。」(段落【0076】)などの記載があることに照らすと,成形型内で加工を行うに当たっても,焼入れの際,部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工することが前提となっているものと認められる。このように,刊行物1においては,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を成形型内で加工する技術が密接に関連したひとまとまりの技術として開示されているというべきであるから,そこから鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出し引用発明の技術的思想として認定することは許されない。しかるに,審決は,引用発明として,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという上記の技術事項に触れることをせずに,したがってこれを結び付けることなく,単に成形型内で加工する技術のみを抜き出して認定したものであって,審決の引用発明の認定には誤りがある。これに伴い,審決には,成形型内で加工する点を一致点として認定するに当たり,これと関連する相違点として,本願発明は,「成形後に金型中にて冷却して焼入れを行い高強度の部品を製造する際に,…剪断加工を施す」のに対して,引用発明では,「成形品形状部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却」する点,「得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させ,剛性低下部を形成」する点,「剛性低下部にピアス加工を施す」点を看過した誤りがある。
(2) そこで,上記の誤りが審決の結論に影響を及ぼすかどうかについて検討するに,上記(1)で説示したとおり,刊行物1記載の引用発明は,焼入れ硬度を低下させた部位を設けることで加工を容易にすることを中心的な技術的思想としているのであって,これを前提として成形型内で加工を行う技術事項も開示されているにとどまると理解すべきであるから,これらの技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出しそこにのみ着眼して,看過された相違点に係る本願発明の構成とすることができるかの視点に基づく判断は,容易推考性判断の手法として許されない。\n
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2011.12.28
平成22(行ケ)10407 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年12月26日 知的財産高等裁判所
引用発明の認定に誤りありとして、拒絶審決が取り消されました。
上記によれば,引用例1には,以下の技術が記載されていると解される。風力発電設備(本願発明の「風力発電装置」に該当する。)は,風力によって発電する設備であることから,気象条件や立地条件によって発電量が異なり,全ての風力発電設備から常に最大電力出力が得られるとは限らない。したがって,従来の複数の風力発電設備を備えた風力発電施設(本願発明の「ウインドパーク」に該当する。)では,施設全体の最大電力出力を連続して出すことができなかった。そこで,風力発電施設が,送電網の最大許容送電量(可及的最大送電網出力電力)よりも高い全出力電力が出せるようにした上で,全出力電力が送電網の最大許容送電量を超過する場合には,風力発電施設調整が働き,常に送電網の最大許容送電量となるように個々の風力発電設備を調整するとの構成を採用することにより,上記課題の解決を図った。具体的には,風力発電施設の全出力電力が送電網の最大許容送電量となるように,少なくとも1基,又は全ての風力発電設備の出力電力が,定格出力電力の0から100%の範囲内で調整され,全ての風力発電設備を同様に調整することも,風力発電設備によって調整の程度が異なることも可能\である。そして,送電網の電圧に応じて,風力発電設備の発電機の出力を制御することも可能である。また,個々の風力発電設備を調整するには,発電設備のデータ入力と接続してデータ処理装置を接続することも可能\である。これにより,送電網の送電網構成部品が最適化された態様で利用されることができる。以上によると,引用例1には,「複数の風力発電設備を備えた風力発電施設であって,上記風力発電施設に接続されている送電網に,発生した電力を供給する風力発電施設の運転方法は,上記風力発電施設により供給される電力をそれぞれの風力発電設備のデータ入力に接続されたデータ処理装置で制御可能\として,全ての風力発電設備の出力電力を上記データ処理装置で定格出力電力の0から100%の範囲内で調節することができると共に,風力発電施設が送電網の最大許容送電量よりも高い全出力電力を出せるようにしたうえで,送電網の電圧に応じて風力発電施設全体の出力電力が送電網の最大許容送電量となるように調整するステップからなる運転方法。」との技術が開示されているといえるが(下線部分は,審決における引用発明の内容の認定と異なる部分である。),「送電網の電圧に応じて風力発電施設全体の出力電力を(その定格出力電力の)0から100%の範囲内の所望値に設定する」との技術は,開示されていない。
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2011.11. 4
平成23(行ケ)10100 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年10月31日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由に、進歩性なしとした審決が取り消されました。
ところで,合金においては,それぞれの合金ごとに,その組成成分の一つでも含有量等が異なれば,全体の特性が異なることが通常であって,所定の含有量を有する合金元素の組合せの全体が一体のものとして技術的に評価されると解すべきである。本件全証拠によっても,「個々の合金を構成する元素が他の元素の影響を受けることなく,常に固有の作用を有する」,すなわち,「個々の元素における含有量等が,独立して,特定の技術的意義を有する」と認めることはできない。したがって,引用例に,複数の鋼(鋼1ないし鋼5)が実施例として示されている場合に,それぞれの成分ごとに,複数の鋼のうち,別個の鋼における元素の含有量を適宜選択して,その最大含有量と最小含有量の範囲の元素を含有する鋼も,同様の作用効果を有するものとして開示がされているかのような前提に立って,引用発明の内容を認定した審決の手法は,技術的観点に照らして適切とはいえない。上記1(2) カないしサによれば,引用例には,成分間の相互作用を前提とした各種機構により鋼の強化を図るため,一般に,鋼成分として,Si,Mn,P,Ti,Nb等の元素が添加され,これらの添加元素のうち,Siは特にめっき性を阻害する元素であるので,鋼板には積極的には含有させないか,含有させる場合でも少量のみとすれば,めっき性への阻害要因を排除できること,Pは,強化作用は大きいが合金化を遅滞させるという不利な影響も有しているので,鋼板中の含有量を低下させることで対処できること,Mnは,強化元素として一般的に多用されるが,高Mn量を含有する高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板では,合金化めっき層中のMn濃度の上昇を生じて,溶融めっき性や耐パウダリング性への悪影響が顕在化すること,鋼板のMn含有量が1.0 質量%以上の高い量であっても,合金化しためっき層中のMn量を100mg/m2以下,好ましくは60mg/m2以下に抑制することができれば,溶融めっき性や耐パウダリング性における問題点を解消することができること等が開示されていると認められる。そして,上記1(2) ウ,エによれば,引用例記載の発明は,高Mn系の高張力溶融亜鉛めっき鋼板における不めっき等の溶融めっき性不良や耐パウダリング性不良の問題を解決するものであり,優れた溶融めっき性や耐パウダリング性を安定して得られる高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の提案を目的とすることも認められる。以上によれば,引用発明は,優れた溶融めっき性や耐パウダリング性を安定して得られる高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の提案を目的とするところ,鋼においては,一般に,成分として添加される元素間の相互作用が高く,1つの鋼を組成する元素の組合せ及び含有量(含有する質量割合)が,一体として,鋼の特性を決定する上で重要な技術的意義を有することが認められる。引用例の上記説明は,各元素ごとに,5つの独立した任意の鋼の中から含有量の最大値と最小値の範囲の含有量により組成される,あたかも1種の鋼において,特定の性質(優れた溶融めっき性や耐パウダリング性を安定して得られる高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板)を有することを開示したことを意味するものでもなく,具体的な鋼の組成及び性質を特定したものと理解することもできない。したがって,審決のした引用発明の認定は,誤りというべきである。
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2011.10.26
平成22(行ケ)10245 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年10月24日 知的財産高等裁判所
「CMITを含まない」との限定がなされた請求項にかかる発明について、無効審判では進歩性なしとの判断がなされました。これに対して、裁判所は、「引用文献1には、CMITが含有されたことによる問題点(解決課題)及び解決手段等の言及は一切なく,したがって「CMITを含まない」との技術的構成によって限定するという技術思想に関する記載又は示唆は何らされていない」として、進歩性なしとした審決を取り消しました。
当該発明と出願前に公知の発明等(以下「公知発明」という場合がある。)を対比して,公知発明が,当該発明の特許請求の範囲に記載された構成要件のすべてを充足する発明である場合には,当該発明は特許を受けることができないのはいうまでもない(当該発明は新規性を有しない。)。これに対して,公知発明が,当該発明の特許請求の範囲に記載された構\成要件の一部しか充足しない発明である場合には,当該発明は特許を受けることができる(当該発明は新規性を有する。)。ただし,後者の場合には,公知発明が,「一部の構成要件」のみを充足し,「その他の構\成要件」について何らの言及もされていないときは,広範な技術的範囲を包含することになるため,論理的には,当該発明を排除していないことになる。したがって,例えば,公知発明の内容を説明する刊行物の記載について,推測ないし類推することによって,「その他の構成要件についても限定された範囲の発明が記載されているとした上で,当該発明の構\成要件のすべてを充足する」との結論を導く余地がないわけではない。しかし,刊行物の記載ないし説明部分に,当該発明の構成要件のすべてが示されていない場合に,そのような推測,類推をすることによってはじめて,構\成要件が充足されると認識又は理解できるような発明は,特許法29条1項所定の文献に記載された発明ということはできない。仮に,そのような場合について,同法29条1項に該当するとするならば,発明を適切に保護することが著しく困難となり,特許法が設けられた趣旨に反する結果を招くことになるからである。上記の場合は,進歩性その他の特許要件の充足性の有無により特許されるべきか否かが検討されるべきである。上記の観点から,新規性を否定した審決の当否を検討する。
・・・・
甲1に上記の記載があったとしても,上記アで認定したとおり,甲1に接した当業者は,「CMITを含まない」との構成によって限定された範囲の発明が記載されていると認識することはないというべきである。すなわち,i)甲1発明には,上記のとおり,CMITが含まれたことによって生じる問題点に関する指摘は,全くされていないこと,ii)のみならず,甲1発明では,CMITが一般式(2)で示される化合物の具体例(2−2)として記載されていること,iii)本件優先日において,当業者が利用可能なMITとしては,CMITとの混合物しか市販されていなかったこと(甲7,甲34ないし39,乙6),iv)甲1の表2に示される実施例として用いられたMITにCMITが含まれるか否かを,原告において追試により確認した結果によれば,実施例は,純粋なMITからなるものではなく,むしろMITにCMITが含まれたものであると推測されること(甲25,28,42,43),v)甲1の出願人と同一の出願人の特許出願に係る明細書において,「MITの合成法では,CMITの生成が避けられず,仕方なくこれまで両者の混合物を使用してきた」,「MITを単一に得ることは難しく,製造コストの点からわざわざ分離してまで使用することはしなかったからである。」(甲46,平成16年3月出願)などの記述があり,本件発明の出願日(優先日)当時においても,一般に,上記明細書に記述されていたとおりの認識がされていたと推認されること等の諸事実を総合すれば,当業者であれば,甲1発明において使用されるMITは,当然にCMITを含有するものであり,製造コストをかけて,CMITを除去するような化合物を使用することはないと認識していたものと解するのが合理的である。そうすると,甲1には,MIT及びBITからなる実施例が示されていたとしてもなお,同実施例の記載から直ちに,「CMITを含まない」との構成要件を充足する発明が記載,開示されていると認定することはできない。\n
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2011.10.25
平成23(行ケ)10048 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年10月20日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、一致点の認定誤りがあるとして取り消されました。
前記(1)エのとおり,引用発明における撮影処理は,撮影開始ボタンが操作されてから(ステップS5),撮影終了ボタンが操作されるまで(ステップS13)に行われるものであるところ,「編集対象の画像として選択したキープ画像」は,ステップS5からステップS13の間に行われるステップS11よって表示されるものであるから,撮影処理中に表\示される画像であると認められる。イ 他方,本件補正発明の「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」は,編集用モニタに表示される「編集対象画像」に対応するものであるが(本件明細書【0083】),編集用モニタに編集対象画像を表\示するステップS32は,編集処理中に行われるものである。したがって,本件補正発明の「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」は,編集処理中に表示される画像であると認められる。 以上によれば,引用発明の「編集対象の画像として選択したキープ画像」は,撮影処理中に表\示される画像であり,他方,本件補正発明の「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」は,編集処理中に表示される画像であって,両者は異なる処理中に表\示される画像であるから,引用発明の「編集対象の画像として選択したキープ画像」は,本件補正発明の「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」に相当するということはできない。
・・・
以上からすると,本件補正発明と引用発明は,「表示領域が複数設けられる表\示手段」を有している点では一致しているものの,引用発明の操作パネル(13−1)は,「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像と,前記編集対象の画像に施す編集を支持するとき操作される操作画像のうちの少なくともいずれかを表示」するものではないし,また,引用発明は,「前記撮影処理が終了した後の編集処理中,前記表\示手段に設けられる複数の表示領域のうち,前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表\示していない表示領域に,前記編集処理が終了した後に行われる,前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表\示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示させることと並行して表\示させる」機能を有しないから,本件審決の一致点の認定は誤りであるといわなければならない。\n
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2011.10.25
平成22(行ケ)10405 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年10月24日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、引用例の認定誤りがあるとして取り消されました。
審決は,引用刊行物2の段落【0010】,【0017】の記載及び図1(別
紙図面8)に基づき,組立体の各端部を受容シリンダ8に取り付けて,組立体の各
端部を取り付けることが補償シリンダ6及び結合リング7の各端部の近くにおいて
組立体の各端部に接続フランジ10を取り付けることからなるようにした構成が示\nされていると認定する。しかし,審決の上記認定も,以下のとおり誤りがある。すなわち,引用刊行物2には,コリオリ導管1,補償シリンダ6及び結合リング7に,接続導管11を含めた組立体は記載されていない。また,引用刊行物2の【請求項14】,【請求項15】,段落【0017】の記載及び図1,2(別紙図面8,9)によれば,接続導管11は,結合リング9を貫通して接続フランジ10内に突き出るものであって,それ以上に,接続フランジ10或いは受容シリンダ8に何らかの手段により結合することなどの取り付けを想定しているとは解されない。仮に,引用刊行物2において,第1の補完手段を採用した場合,組立体の端部に位置する接続導管11は,補強シリンダ12に対し,有利には真空ろう付けによって,かつ有利には約1000℃のろう付け温度で結合されるが(段落【0019】),その場合であっても,結合された補強シリンダ12が,接続フランジ10或いは受容シリンダ8とどのように接続されるかは明らかでなく,また,コリオリ導管は,チタン又はチタン合金ではなく,ニッケル合金を使用するとされている(甲9の段落【0013】)。したがって,引用刊行物2には,組立体の各端部を受容シリンダ8に取り付けることは記載されておらず,審決の上記認定には誤りがある。
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2011.10.21
平成22(行ケ)10282 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年10月12日 知的財産高等裁判所
進歩性欠如により無効である、とした審決が取り消されました。
以上によれば,本件訂正発明1の「液体供給空間」は,単に「ディスク状」であるだけでなく,さらに,上記i)ないしv)の構成を一体的に備えることによって,課題を解決できるという技術的意義を有するものと認められる。この点に関して,審決は,相違点1について,「『ディスク状』の『液体供給空間』それ自体は,甲第13,14号証にみられるごとく周知である。」(審決62頁5〜6行)と判断している。しかし,本件訂正発明1は,前記(1) イで認定したとおり,収束されるレーザービームによる材料加工方法であってレーザービームを導く液体ビームがノズルにより形成されて加工すべき加工片へ向けられる加工方法における「ディスク状」の「液体供給空間」を対象とする発明であるところ,甲13文献は,前記(3) アのとおり,内燃機関に用いられる燃料用の噴出ノズルに関し,従来この技術分野で達成できないと考えられていたような噴出比を得ることを課題とするものであり,本件訂正発明1とは技術分野もその機序も相違している。しかも,甲13文献に記載されたものは,前記課題を解決するために,カバープレートが旋回室によって区画されたノズル体の芯部の端面と共に円板状の間隙15を形成し,カバープレートに存する出口開口部が円板状の間隙15を介して旋回室と通じ,出口開口部の断面が間隙の周面よりも数倍大きく構成することを中核的解決手段としているものであって,「円板状の間隙15」のみを取り出せば「ディスク状」と呼べないこともないが,出口開口部の断面が間隙の周面よりも数倍大きく構\成されていることに鑑みれば,「円板状の間隙15」のみを独立した空間と捉えるのは不自然であり,むしろ,出口開口部と一体の空間,そして,好ましくはさらに出口開口部と整列して形成される孔も含めた一体の空間として課題を解決するものである。さらに,「円板状の間隙15」を実際上「零」に等しいように対接させる態様もあり得るものとされており,もはや「ディスク状」の形状の空間を備えているものとはいえないというべきである。また,甲14文献に記載された発明も,燃焼装置やエンジンに用いられる,燃料のような液状媒体のための噴出ノズルに関し,噴射精度を改善するというものであり,本件訂正発明1とは技術分野もその機序も相違する。しかも,甲14文献に記載されたものは,前記課題を解決するために,被覆板の直径がノズル本体の直径よりも小さく,ノズル本体がその出口側の端面に,被覆板を形状補完的に収容するための中央の窪みを備え,窪みの深さが被覆板の厚さよりも浅く構成することを中核的解決手段としているものであって,その実施例に記載された「円板状の隙間15」のみを取り出せば「ディスク状」と呼べないこともないが,円板状の隙間15の外周面積は被覆板12内の中央の出口16の横断面積よりもはるかに小さく構\成されていることに鑑みれば,「円板状の隙間15」のみを独立した空間と捉えるのは不自然であり,むしろ,出口と一体の空間として所要の機序を備えるものであり,さらには,静止位置で「円板状の隙間15」の厚さが「零」であり,適当な噴射圧力のときに初めてほんの少し大きくなるように接触する態様もあり得るものとされており,もはや「ディスク状」の形状の空間を備えているものとはいえないというべきである。以上によれば,本件訂正発明1の「ディスク状」「液体供給空間」について甲13文献及び甲14文献から周知とした審決の判断は誤りである。
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2011.10. 7
平成22(行ケ)10329 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年10月04日 知的財産高等裁判所
周知技術の認定誤りを理由として進歩性なしとした審決が取り消されました。
被告は,乙17〜乙24を提示し,バーコードを読み取る際に,「透明基材を通してバーコードを読み取る」ことは,印刷の技術分野においても広く知られている旨主張する。 しかし,乙17,乙19〜乙22,乙24は,いわゆる複写機やプリンタ,ファクシミリなどの電子写真方式による印刷技術に関するものであり,乙23は,画像プリンタ用インクリボンを用いた印刷技術に関するものであるから,印刷という点では補正発明の技術分野と関連性はないとはいえないが,いずれの証拠も刷版を用いた印刷技術に関するものではなく,機能・原理・使用される機械等が全く異なるから,補正発明の技術分野と同じ技術分野に関するものであるとは認められない。また,乙18は,バーコード付き包装体に関するものであって,補正発明の技術分野とは明らかに異なる技術分野のものである。 したがって,バーコードを読み取る際に,「透明基材を通してバーコードを読み- 19 -取る」ことが,補正発明の技術分野において周知とはいえないから,被告の主張は採用できない。
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2011.10. 7
平成22(行ケ)10235 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年10月04日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。
そうすると,本件優先日当時(平成15年8月8日),VA型(垂直配向型)液晶表示装置等に用いる重畳フィルムを作製するために,偏光フィルムの吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とが直交(偏光フィルムの透過軸と位相差フィルムの遅相軸が平行)するように両フィルムを貼\り合わせるという条件の下で,ロールtoロールの方法で両フィルムを貼り合わせるためには,引用発明のように,横方向に延伸して遅相軸が横方向に現れる位相差フィルムを作製し,他方でフィルムを縦方向に延伸し,吸収軸が縦方向に現れる偏光フィルムを作製して,両フィルムを貼\り合わせる方法を採用するか,又は縦方向に遅相軸を有する位相差フィルムをロールから切り離して,縦方向に吸収軸を有する偏光フィルムのロールと貼り合わせる方法を採用するのが当業者の一般的な技術常識であったと認められる。だとすると,本件優先日当時,縦方向に延伸して位相差フィルムを作製する方法や横方向に延伸して偏光フィルムを作製する方法が存在したとしても,これらの方法をすべて採用し,引用発明に適用して相違点を解消するには,当業者の上記の技術常識を超越して新たな発想に至る必要があるのであって,当業者にとってかかる創意工夫が容易であったかは極めて疑問である。そうすると,前記のとおり,引用文献2ないし6にはロールtoロールの方法で偏光フィルムと位相差フィルムを貼\り合わせる発明に対して各文献に記載された事項を当業者が適用する可能性及びその効果が教示されていない点を併せ考えてみると,本件優先日当時,当業者が引用発明に引用文献2ないし6に記載された事項を適用して,補正発明と引用発明の相違点1,2に係る構\成に想到することが容易であったと認めることはできない。
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2011.08.22
平成22(行ケ)10381 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年07月25日 知的財産高等裁判所
審決の引用文献の認定には妥当性を欠く点があるが、結論に影響がないとして、進歩性なしとした審決が維持されました。
原告は,審決が,引用例(甲1)の第2図,第4図の記載に基づいて,引用発明のコーティングが「吊ロープ3の太さの半分より実質的に小さい厚さを有する」と認定したことが誤りである旨主張する。確かに,引用例(甲1)において,「高摩擦弾性体6」又は「高摩擦弾性体8」が「吊ロープ3」の太さの半分より実質的に小さいか否かについては,特段の記載がない。そして,特許出願に係る図面は,設計図面のように具体的な寸法などが正確に描かれるものではないので,審決が,引用例(甲1)の第2図,第4図の記載のみから,引用発明におけるコーティングが「吊ロープ3の太さの半分より実質的に小さい厚さを有する」といった具体的な定量的事項を認定したことは妥当でない。もっとも,上記のような特許出願に係る図面も,技術文献の図面である以上,概略的かつ定性的な事項については大きな誤りはなく記載されているというべきであって,単なる大小関係等については十分に読み取ることができるところ,引用例(甲1)の第2図,第4図からすれば,「高摩擦弾性体」が十\分に薄いことが読み取れる。また,引用例(甲1)の「高摩擦弾性体6」は巻上シーブ5の溝にコーティングされるものであって(甲1,2頁),表面を処理するという「コーティング」の性質上,「吊ロープ3の太さの半分」との大小関係はともかく,十\分に薄いものというべきである。そして,前記(1)イのとおり,本願発明における「ロープの太さの半分より実質的に小さい厚さ」を有するとの事項は,コーティングが十分に薄いこと,すなわち薄さの程度を概略的に規定したものにすぎない。そうすると,審決の認定は,引用発明において「高摩擦弾性体6」又は「高摩擦弾性体8」が「吊ロープ3」の太さに比べ十\分に薄いものであるとする限度において,誤りはない。さらに,審決も,コーティングの綱溝の底部における具体的な厚さ(「最小で約0.5mm,最大で約2mmの厚さ」であること)につき,相違点2として認定し,別途検討している(そして,後記エのとおり,この点に関する審決の判断に誤りはない。)のであるから,審決による引用発明の認定に妥当性を欠く点があるとしても,審決の結論に影響を及ぼすものではない。なお,被告は,乙1(特開平7−259441号公報),乙2(特開平10−150887号公報)により「高摩擦弾性体6」又は「高摩擦弾性体8」が薄いことの立証を試みているが,乙1は「建築用ガスケット及びその製造方法」に関する発明で,乙2は「釣り・スポーツ用具用部材」に関する発明であって,いずれも本願発明及び引用発明とは技術分野が異なるから,「高摩擦弾性体6」又は「高摩擦弾性体8」の薄さを具体的に解釈する上で参考とできるものではない。
イ 取消事由2(一致点認定の誤り)について
原告は,取消事由1と同様の理由により,審決の一致点の認定には誤りがある旨主張するが,前記アのとおり,審決による引用発明の認定には妥当性を欠く点があるものの,審決の結論に影響を及ぼすものではないから,同様に,審決による一致点の認定にも,審決の結論に影響を及ぼすほどの誤りはないというべきである。
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2011.03. 1
平成22(行ケ)10162 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年02月24日 知的財産高等裁判所
一致点の認定に誤りがあるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
原告らは,引用発明1の皮革片はカップ状の裾の部分しか接合しておらず,本件発明1の接合部とは異なっているので,「接合部」が設けられる点を一致点とした審決の認定に誤りがあると主張する。上記1で認定したとおり,本件発明1は,皮革片の周縁部を折り曲げ,折り曲げ部に設けられる接合部において,隣接する皮革パネルと接着するという構成をとるものである。このように,本件発明1における「接合部」は,接着するための部位であるから,一定の領域を有する「面接触」を要するものと解される。これに対し,上記2のとおり,引用発明1は,カップ状の皮革パネルの裾部分(周辺端面)のみを接触させたものであり,接触している部分は線接触であると認めるのが自然である。そうすると,引用発明1における皮革片の接触部は,接着するための接合部とはいえず,本件発明1における接合部に相当するということはできないから,この点を一致点とした審決の認定は誤りである。そして,「接合部」の有無は,皮革パネルの接着に関する相違点2の前提となるものであって,この点の相違も含めて相違点2についての本件発明1の構\成の容易想到性を判断すべきなのに,審決はこれを怠っている。したがって,取消事由1は,理由がある。
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2011.01.14
平成22(行ケ)10063 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年01月13日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が維持されました。
そうすると,本件発明において解決すべき課題は,ボイラ等に用いられる,外表面に表\面拡大要素たるピンを設けた熱交換チューブにおいて(段落【0002】),ピンとチューブとの間の溶接接合部やピンの溶接接合部に隣接する部分等に亀裂が生じる結果(溶接割れ),ピンがチューブから破断,脱落する事態を防止するという点にあるものであり,上記課題を解決するための手段として,ピンの材料である炭素鋼の炭素含有率を,チューブ本体の材料である炭素鋼の炭素含有率よりも小さくする等の構成が採用されたものである。したがって,本件発明と審決引用発明とは,当該発明によって解決すべき技術的課題が,前者では溶接接合部等の亀裂防止にあり,後者では酸腐食に対する耐久性の向上等にあって,両者は耐久性の向上というごく抽象的な観点で共通するにすぎず,技術的には相違するものというべきである。また,審決引用発明では表\面拡大要素にほうろう被膜を施すことが大きな要点となっているが,本件発明では表面拡大要素にほうろう被膜を施すことは予\定されていない。そして,審決引用発明においてフィンの材料に炭素含有率が小さい炭素鋼が採用された趣旨も,前記のとおり熱交換性能を損なわないことを前提に,ほうろう被膜の欠陥等の発生を防止し,熱交換チューブの耐久性を発揮することができるようにする点にあるものであって,本件発明でピンの材料の炭素鋼の炭素含有率がチューブ本体の材料の炭素鋼の炭素含有率よりも小さくされた趣旨である溶接接合部等の亀裂防止の点は,審決引用文献においては開示も示唆もされていない。\n
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2011.01.13
平成22(行ケ)10173 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年01月11日 知的財産高等裁判所
引用文献には記載されていないとして、無効理由無しとした審決が維持されました。
原告は,引用例1には無機着色顔料に白色を混ぜ合わせる際に,石灰に加えて白色顔料である酸化チタンを加えることが示されている旨を主張する。 しかしながら,引用例1は,前記のとおり有色顔料を白色顔料及び体質顔料と並列して記載するにとどまり(【0023】),消石灰等に加える顔料の好例とされる酸化チタンについては消石灰に対する配合割合を詳細に記載しているものの(【0027】),消石灰に無機着色顔料を配合した上で,更に無機白色顔料を配合する場合を想定した具体的な記載がなく(【0024】参照),現に,その記載に係る実施例は,いずれも顔料としては酸化チタンのみを配合したものに尽きている(【0065】〜【0094】)。しかも,消石灰は,それ自体に隠蔽力があり(乙10,17),かつ,白色を呈していることに加えて,無機着色顔料は,一般に白色顔料よりも高い隠蔽力を有する(乙19)。したがって,引用発明1における顔料の配合が,「所望の隠蔽力並びに色彩(明度,色度,彩度)に応じて適宜選択調整することができる」(【0024】)ものであるとしても,消石灰等に無機着色顔料を配合して当該調整を行った場合,隠蔽力及び色彩の調整という目的は,当該配合により達成されてしまうから,これに加えて,あえて無機白色顔料を配合する理由に乏しい。そして,引用例1には,この場合に無機白色顔料を配合することについて,これを示唆するものも含めて,何ら記載がない。したがって,引用例1には,消石灰等に無機着色顔料を配合するに当たり,更に無機白色顔料(酸化チタンを含む。)を配合することについては記載がないものというべきである。 以上によれば,引用例1には,消石灰に酸化チタン(無機白色顔料)を配合することや,消石灰に無機着色顔料を配合することについては記載があるものの,これに加えて,無機着色顔料を消石灰に配合するに当たり,無機白色顔料も配合する旨の記載があるとはいえない。よって,これと同旨の本件審決に誤りはない。
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2010.11.21
平成21(行ケ)10253 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年11月17日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
以上の引用例9の記載によると,引用例9には,ゼラチンカプセルの機械的性質は,可塑剤の種類とその添加量・含有水分などの影響により変化するが,基本的には,基剤のゼラチンフィルムのレオロジー的性質によること,フィルムの粘性要素が小さいとカプセルは脆くなるところ,低湿度下では,粘性要素が小さくなって,外力によって破壊されやすくなること,カプセルの粘弾性のような基本的強度は,カプセルと同一組成のシートによって測定されるという知見が開示されている。そして,当業者であれば,かかる知見に接した場合,低湿度の環境下ではゼラチンカプセルは外力によって破壊されやすくなること,粘性に優れたシートを与えるゼラチン基剤から製造されたゼラチンカプセルは,外力によって破壊されにくいことに加え,機械的強度を測定する粘弾性測定装置により硬カプセルの底部の衝撃に対する抵抗力を測定する記載等から,カプセルの外力による変形や破壊は,ゼラチン基剤の粘弾性と関連するものであると理解するものということができる。したがって,当業者は,引用例9から,カプセルが外力により破壊されるか否かという耐衝撃性等の機械的強度も,カプセルと同一組成のフィルムで試験することができることを理解することができるというべきである。この点について,医薬用硬質カプセルに関する特開昭61−100519号公報(甲22)においても,衝撃強度や引張り強度等の機械的強度について,ゼラチン基剤フィルムの状態で測定されているものであり,本件審決が「カプセルの機械的強度はフィルムの粘性要素と関連性を有しており,カプセルの機械的強度はカプセルと同一組成のフィルムで試験するものである」とするとおり,当業者における技術常識であったものということができる。・・・・以上からすると,低湿度下におけるハードゼラチンカプセルの機械的強度を向上するために,可塑剤として,#4000のポリエチレングリコールを3〜15重量%の割合で添加することは,当業者であれば容易に想到し得るものということができる。同様に,ゼラチンを水に溶解した溶液に,かかる割合で#4000のポリエチレングリコールを添加してジェリーを得た後,浸漬法により非フォーム状ハードゼラチンカプセルを製造する方法の発明である本件発明2も,当業者が,引用例9と引用例2により開示された技術的知見を組み合わせることにより,容易に想到し得るものということができる。
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2010.11.19
平成21(行ケ)10253 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年11月17日 知的財産高等裁判所
無効でないとした審決が取り消されました。
以上からすると,本件審決が,引用例2には,ゼラチン単独フィルムの耐衝撃強度の向上には,グリセリンよりも特定のポリエチレングリコールの方がよいことについて開示されているとは認められないとした判断は誤りといわざるを得ない。この点について,被告は,引用例2に応用分野として例示されている「マイクロカプセル」は,カプセル剤とは全く異なるものであり,「医薬」という広範な指摘についても,直ちにハードゼラチンカプセルへの適用が記載されているということもできないなどと主張する。しかしながら,引用例2は,「固体ゼラチンの構造と特性及びそれらの改質の原理」と題する論文で,ゼラチン自体の物理,機械的特性に関する一般的な知見を開示するものであって,特定の用途におけるゼラチンの性質に限定して記述されているものではない。実際,引用例2は,ハードゼラチンカプセルに関する専門書である引用例6(甲6)にも引用されており,ゼラチンカプセルの技術分野に属する文献であるということができる。被告の主張は採用できない。\n
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2010.10.29
平成22(行ケ)10024 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年10月28日 知的財産高等裁判所
新規事項でないとした審決の判断は維持されましたが、進歩性ありとした判断は取り消されました。
前記(4),(5)によれば,本件基準明細書又は図面に記載された発明は,回路基板改造による不正行為の防止を課題とし,上記不正行為を効果的に防止して不正行為を受けにくくする遊技機を提供することを目的としており(前記段落【0006】【0007】),遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とする信号伝達方向規制手段を表\示制御基板に設けるとともに,表示制御基板への信号の出力のみを可能\とする信号伝達方向規制手段を遊技制御基板に搭載する構成とし(図16),更に信号伝達方向規制手段をバッファIC回路で構\成していることが認められる(前記段落【0060】)。これにより,本件基準明細書又は図面に記載された発明は,表示制御基板側から遊技制御基板側に信号が伝わることなく,確実に信号の不可逆性を達成することができるようにしており,表\示制御基板改造による不正行為を効果的に防止するものである(前記段落【0094】【0095】【0096】)。そうすると,本件基準明細書又は図面のすべての記載を総合すると,本件基準明細書又は図面に記載された遊技機は,当業者において,不正行為を防止するため,遊技制御基板から表示制御基板への信号の伝達のみを可能\とし,表示制御基板側から遊技制御基板側に信号が伝わる余地がないよう,確実に信号の不可逆性を達成することができるように構\成していること,すなわち,信号の不可逆性に例外を設けないとの技術的事項が記載されていると認定するのが合理的である。そうすると同技術的事項との関係において,「遊技制御基板と表示制御基板との間のすべての信号について,信号の伝達方向を前記遊技制御基板から前記表\示制御基板への一方向に規制する」ことは,新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。これに対し,原告は,甲3記載の発明について,メイン制御部からサブ制御部へのすべての信号を規制の対象としていないと解釈するならば,本件基準明細書についても同様に解釈するべきであり,本件訂正は,新たな技術的事項を導入するものに当たると主張する。しかし,前記のとおり,訂正の適否の判断において,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内」であるか否かは,当業者において,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべてを総合することによって,認識できる技術的事項との関係で,新たな技術的事項を導入するものであるか否かを基準に判断すべきものであり,他の公知文献等の解釈により判断が左右されるものではないから,上記原告の主張は採用することができない。したがって,遊技制御基板と表示制御基板との間の「信号」を「全ての信号」と限定する本件訂正は,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内」においてするものということができるので,審決が本件訂正を認めた点に違法はない。
・・・
以上によれば,審決が認定する技術事項Cが前記段落【0071】の記載に基づくものであるとしても,同段落の記載は,甲9の他の部分の記載や甲9記載の発明が解決しようとする課題及びその解決手段と整合しないか,又は,技術的に解決不可能な内容を含むものであって,誤った記載と解される。したがって,前記段落【0071】の記載のみから,甲9には技術事項Cが実質的に開示されていると認めることはできない。審決が,技術事項Cを根拠に,甲9において,「遊技制御基板199」から「払出制御回路基板152」へ伝達される信号は賞球個数信号D0〜D3がすべてであるとは認定できないと判断したことは誤りである。
・・・
前記(2)のとおり,甲3には,サブ制御部6からメイン制御部1へのデータ信号入力を禁止し,サブ制御部6からメイン制御部1への不正信号の入力を防止するため,メイン制御部1とサブ制御部6との間のすべての信号について,信号の伝達方向を前記遊技制御基板から前記表示制御基板への一方向に規制するための信号伝達方向規制手段を設けることが実質的に記載されているものと認められる。そうすると,本件訂正発明1と甲3記載の発明との相違点は,本件訂正発明1は表\示制御基板内及び遊技制御基板内の各々に信号伝達方向規制手段が実装されているのに対し,甲3記載の発明は,メイン制御部1(「遊技制御基板」に相当)及びサブ制御部6(「表示制御基板」に相当)の各々に信号伝達方向規制手段が実装されていないこととなる。また,前記(3)のとおり,甲9には,遊技機に関し,メイン制御部からサブ制御部への一方向通信とした構\成を採用することにより,サブ制御部からメイン制御部へ入力される情報の入力部を利用した不正なデータの入力による不正改造等を防止することが記載されており,その具体的手段として,信号の伝達方向を遊技制御基板(メイン基板)からサブ基板への一方向に規制するために,前記遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とし,前記遊技制御基板への信号の出力を不能\とする信号伝達方向規制手段である信号回路209を遊技制御基板199(メイン基板)に設けるとともに,信号の伝達方向を前記遊技制御基板(メイン基板)からサブ基板への一方向に規制するために,前記サブ基板への信号の出力のみを可能とし,前記サブ基板からの信号の入力を不能\とする信号伝達方向規制手段である信号回路217を払出制御回路基板152(サブ基板)に設けることが開示されていると認められる。さらに,甲9に記載された技術事項は,甲3記載の発明と同様に遊技機に関する技術分野において,不正信号の入力を防止するという目的を達成するためのものであり,甲3記載の発明においては1つであった一方向データ転送手段を,甲9のように入力側基板と出力側基板のそれぞれに設けることにより,より高い効果が期待できることは当然のことであるから,甲9記載の技術事項を甲3記載の発明に適用することは,当業者において容易であるといえる。なお,前記(3)のとおり,審決が技術事項Cとして認定した事項は,甲9記載の技術的思想に基づく適切な開示事項とは認められず,甲9記載の技術事項を甲3記載の発明に適用する際の阻害要因とはならない。したがって,甲9記載の技術事項を甲3記載の発明に適用することにより,本件訂正発明1の構成(ε)及び構\成(ζ)を得ることは当業者が容易に想到し得ることといえる。以上によれば,本件訂正発明1は,甲3に記載された発明に甲9記載の技術事項及び周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到することができるものであるから,本件訂正発明1の進歩性を肯定した審決の判断は誤りであり,取消事由2は理由がある
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2010.10.19
平成22(行ケ)10029 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年10月12日 知的財産高等裁判所
進歩性の基礎となる公知技術か否かが争われました。裁判所は、公知であるとした審決を取り消ししました。
「刊行物に記載された発明」とは,刊行物に記載されている事項又は記載されているに等しい事項から当業者(その発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者)が把握できる発明をいう,と解するのを相当とするところ,本件においては,本願発明が「L612として同定され,アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(AmericanType Culture Collection)にATCC受入番号CRL10724として寄託されているヒトのBリンパ芽腫細胞系」であるのに,本願優先日前に刊行された引用例1及び2には「L612を分泌する細胞系」と記載されているだけで,ATCC受入番号の記載がないことから,引用例1及び2における上記記載だけで「刊行物に記載されているに等しい事項」といえるかということを検討する必要がある。
・・・
以上のとおり,本願優先日前,A 博士(及び共同研究者)は,L612細胞系につき,第三者から分譲を要求されても,同要求に応じる意思はなかったものと認められ,その結果,L612細胞系は,第三者にとって入手可能ではなかったことになり,「引用例1,2に記載されるL612細胞系は,第三者から分譲を請求された場合には,分譲され得る状態にあったものと推定することができる」とした審決の認定判断は誤りであって,同誤りが審決の結論に影響を及ぼすおそれがあることは明らかである。\n
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2010.10. 1
平成21(行ケ)10353 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年09月30日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由に進歩性なしとした審決が取消されました。
以上によれば,甲1発明において,トリュフ入りブリーチーズが,熟成後,「上側のチーズと下側のチーズが分離せずに一体となった状態にある」との構成が開示されているものと認定することはできない。したがって,審決が,甲1発明について,「チーズどうしが結びつくことにより,上側のチーズと下側のチーズとが分離せずに一体となった状態にある。」と認定したことは誤りであり,同認定を基礎として,相違点Bについて,「本件発明1と甲1発明との間で,チーズカードどうしの「結着」の程度,「一体化」させられている点に差異は見出せないため,この点は実質的な相違点とはいえない」とした容易想到性の判断も誤りというべきである。\n
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2010.08.29
平成21(行ケ)10422 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年08月19日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。
そこで,上記理解に基づいて,引用例に記載された「シランコーチング剤」と「シランカップリング剤」とをその成分の化学構造の観点から比較すると,両者の成分は,いずれも「有機シラン化合物」である点では共通するものの,「シランコーチング剤」の成分は,「水素化ケイ素の水素原子が炭化水素基などで置換した有機化合物」に止まるものであって,その具体的な化学構\造は,引用例の記載からは明らかではなく,甲27,乙5,甲31の記載を総合しても,一般的に「シラン」には,ガラスなどの無機物質と結合するためのアルコキシル基などの無機官能基を有していることは認められない。したがって,上記(2) カ(甲28)に記載されるような特定の化学構造を有する化学物質である「シランカップリング剤」は,化学構\造が特定のものである点において,「シランコーチング剤」と相違していると認められる。次に,その使用形態について比較すると,「コーチング剤」とは,一般的に,その言葉どおり,被膜を形成する材料を含有する塗料や被覆材などを基材上にコート(塗布,被覆)するための剤を意味する用語であると認められるから,「シランコーチング剤」とは,「シラン」を成分として含み,何らかの基材上にコートされる剤と解される。一方,「シランカップリング剤」については,例えば,上記(2) エ(乙3)に,「使用方法」として,カップリング剤を水溶液中に分散してガラス繊維や目の粗い充填剤に適用することが記載され,また,「接着の性質」の記載から,この使用方法によって,ガラス繊維や充填剤の表面とカップリング剤の無機官能\基とが反応して,結合することは理解されるものの,「カップリング剤」を「コート(塗布,被覆)」して使用することについては,何ら示されていないし,前述のとおり,引用例の「シランコーチング剤」に関する記載を総合しても,引用例においては「シラン」若しくは「シランコーチング剤」を「カップリング剤」として使用していることを示す記載はないから,引用例の記載からは「シランコーチング剤」が「シランカップリング剤」であると認めることはできない。以上によれば,引用例に記載された「シランコーチング剤」の「シラン」を,特定の化学構造を有する「シランカップリング剤」と限定して解釈することはできないし,「コート」という使用形態を特定する「シランコーチング剤」と,その使用方法が専ら「コート」であるとはいえない「シランカップリング剤」とを同一視することもできないというべきである。この点について,被告は,引用例の「シランコーチング剤」は,モノマー注入前に,セラミック焼成体に注入されて,焼成体表\面に被覆処理が施され,その結果,表面が改質されることから,「カップリング剤」と同等の目的で使用されているといえるなどと主張するが,引用例には,「シランコーチング剤」を使用する目的については何ら記載されていないから,引用例記載の発明の目的は明らかでなく,また他に被告が同等であるという根拠も見出せない。よって,審決が前記第2の3(1)クにおいて認定したように,引用例に「シランカップリング剤」を用いることが示されているということはできないから,審決の引用例の記載事項の認定には誤りがある。
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2010.08.29
平成21(行ケ)10180 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年08月19日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。裁判所は、新規物質については単に構成が記載されているだけでは足りず、製造方法を理解し得る程度の記載があることを要するとしました。
本件発明6及び7における本件3水和物が新規の化学物質であること,甲7文献には,本件3水和物と同等の有機化合物の化学式が記載されているものの,その製造方法について記載も示唆もされていないこと,以上の点については当事者間に争いがなく,かつ審決も認めるところである。そこで,このような場合,甲7文献が,特許法29条2項適用の前提となる29条1項3号記載の「刊行物」に該当するかどうかがまず問題となる。ところで,特許法29条1項は,同項3号の「特許出願前に‥‥頒布された刊行物に記載された発明」については特許を受けることができないと規定するものであるところ,上記「刊行物」に「物の発明」が記載されているというためには,同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていることを要することはいうまでもないが,発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項参照)にかんがみれば,当該刊行物に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能\力を発揮するまでもなく,特許出願時の技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に,当該発明の技術的思想が開示されていることを要するものというべきである。特に,当該物が,新規の化学物質である場合には,新規の化学物質は製造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから,刊行物にその技術的思想が開示されているというためには,一般に,当該物質の構成が開示されていることに止まらず,その製造方法を理解し得る程度の記載があることを要するというべきである。そして,刊行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には,当該刊行物に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能\力を発揮するまでもなく,特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要であるというべきである。
(2) 本件については,上記のとおり,本件発明6及び7における本件3水和物が新規の化学物質であること,甲7文献には,本件3水和物と同等の有機化合物の化学式が記載されているものの,その製造方法について記載も示唆もされていないところ,前記1(2) の記載内容を検討しても,甲7文献には製造方法を理解し得る程度の記載があるとはいえないから,上記(1) の判断基準に従い,甲7文献が特許法29条1項3号の「刊行物」に該当するというためには,甲7文献に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,特許出願時の技術常識に基づいて本件3水和物の製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要であるということになる。この点,審決は,前記第2の4(1) 記載のとおり,まず,甲5文献の開示内容から,4−アミノ−1−ヒドロキシブタン−1,1−バイホスホン酸モノナトリウム塩が生成していることが窺える等の事情があること,甲12ないし甲14の各文献の開示内容から,水和物の製法としては,水溶液から晶出することが一般的であり,結晶水は,加熱あるいは乾燥により離脱し,加熱あるいは乾燥の条件を強くすることにより,順次離脱することは周知であるといえること,及び4−アミノ−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジホスホン酸モノナトリウム塩の3水和物が存在することは甲7文献に記載されていることを根拠に,当業者は,4−アミノ−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジホスホン酸モノナトリウム塩を水溶液から晶出させることにより,3水和物が得られること,そして,もし水溶液からの晶出により得られた4−アミノ−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジホスホン酸モノナトリウム塩の水和数が3を超えていれば,適宜条件を選択し,加熱,乾燥することにより水和数を減ずることにより,容易に,本件3水和物を得ることができると考えるのが自然であると判断しているところ,その論理は必ずしも明確ではないが,前記第2の4(4)記載のとおり,さらに,審決は,原告の主張に対する判断において,「有機化合物によって水和物が存在し得る場合があることは明らかであり,‥‥,甲7文献において既に3水和物が目的物として明示され,その存在を疑うべき特段の事情が無いことを考慮すれば,技術常識を勘案し3水和物の製造条件を検討することに格別の困難性は無いというべきであ」ると判断していることから,これを善解すれば,甲7文献の記載を前提として,これに接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,甲5及び甲12ないし甲14の各文献に記載されている特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見いだすことができるものと判断したと解される。
(3) そうすると,本件においては,本件出願当時,甲7文献の記載を前提として,これに接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,本件3水和物の製造方法その他の入手方法を見いだすことができるような技術常識が存在したか否かが問題となるが,次のとおり,本件においては,本件出願当時,そのような技術常識が存在したと認めることはできないというべきである。\n
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2010.07. 7
平成21(行ケ)10361 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年05月27日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。
前記のとおり,引用刊行物A記載の発明は,擬似油汚れについて特定量を滴下し,乾燥工程を設けないとする相違点(い)に係る構成を欠くものである。同発明は,本願発明における時間,労力,価格を抑えることを目的として,手順を簡略化しようとする解決課題を有していない点で,異なる技術思想の下で実施された評価試験に係る技術であるということができる。このように,本願発明における解決課題とは異なる技術思想に基づく引用刊行物A記載の発明を起点として,同様に,本願発明における解決課題とは異なる技術思想に基づき実施された評価試験に係る技術である引用刊行物C記載の発明の構\成を適用することによって,本願発明に到達することはないというべきである。(ウ) 本願発明は,決して複雑なものではなく,むしろ平易な構成からなる。したがって,耐油汚れに対する安価な評価方法を得ようという目的(解決課題)を設定した場合,その解決手段として本願発明の構\成を採用することは,一見すると容易であると考える余地が生じる。本願発明のような平易な構成からなる発明では,判断をする者によって,評価が分かれる可能\性が高いといえる。このような論点について結論を導く場合には,主観や直感に基づいた判断を回避し,予測可能\性を高めることが,特に,要請される。その手法としては,従来実施されているような手法,すなわち,当該発明と出願前公知の文献に記載された発明等とを対比し,公知発明と相違する本願発明の構成が,当該発明の課題解決及び解決方法の技術的観点から,どのような意義を有するかを分析検討し,他の出願前公知文献に記載された技術を補うことによって,相違する本願発明の構\成を得て,本願発明に到達することができるための論理プロセスを的確に行うことが要請されるのであって,そのような判断過程に基づいた説明が尽くせない限り,特許法29条2項の要件を充足したとの結論を導くことは許されない。本件において,審決は,上記のとおり,本願発明と引用刊行物A記載の発明と対比し,擬似油汚れについて特定量を滴下し,乾燥工程を経由しないで水洗するとの構成を相違点と認定している。しかし,審決は,本願発明と,解決課題及び解決手段の技術的な意味を異にする引用刊行物A記載の発明に,同様の前提に立った引用刊行物C記載の事項を組み合わせると本願発明の相違点に係る構\成に到達することが,何故可能であるかについての説明をすることなく,この点を肯定したが,同判断は,結局のところ,主観的な観点から結論を導いたものと評価せざるを得ない。\n
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2010.07. 3
平成21(行ケ)10257 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年06月29日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は、引例に記載に技術の認定誤りです。カラー刷りの別紙が判決文に添付されてます。本件発明についてで技術説明書です。審判で提出したものかもしれませんが、事案によっては、裁判所に対してはこのような資料提出が好ましいですね。
すなわち,引用例1の記載事項から得られる知見は,単に,フラットタイプリニアモータにおいては,磁気シールド板は,推力向上に寄与しないことを示しているにすぎない。引用例1には,推進力向上に寄与しないフラットタイプリニアモータに,ロッドタイプリニアモータを適用することの動機付けが示されているわけではなく,また,磁気シールド板が推力向上の効果が生じることを予測できることが示されているわけではない。のみならず,引用例1のフラットタイプリニアモータに周知技術であるロッドタイプリニアモータを適用すると,フラットタイプリニアモータにおいては磁束の分路として機能\することから推力を減少させる方向で作用していた磁気シールド板が,逆に推力を向上させる方向で作用することを当業者において予測できたことを認めるに足りる記載又は示唆はない。そうすると,ロッドタイプリニアモータが周知の技術であったか否かにかかわらず,引用例1に,ロッドタイプリニアモータを適用する示唆等が何ら記載されていない以上,当業者が,周知技術を適用することにより,相違点1,2及び6に係る本願発明の構\成とすることを容易に想到し得たものであるということはできない。
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2010.06.17
平成21(行ケ)10310 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年06月16日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性違反理由無しとした審決が維持されました。
原告は,本件発明1は複数ユーザの個人認証に限定されるものではないから,引用発明1における「URL」は,本件発明1の「管理マスタID」に相当すると主張する。しかし,上記(1)イ,ウのとおり,本件発明1の「管理マスタID」は,複数のユーザが存在することを前提に,第1のシステムのユーザと第2のシステムのユーザとを関連付けるために,ユーザごとに設定されたユーザ固有の識別コードであるのに対し,引用発明1の「URL」は,複数のユーザが存在することを前提としているともいえないし,ユーザごとに設定されたユーザ固有のものともいえないから,引用発明1における「URL」が,本件発明1の「管理マスタID」に相当するということはできない。
◆判決本文
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2010.05. 7
平成21(行ケ)10163 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年04月28日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性なしとした審決が維持されました。
上記記載によれば,引用例1に記載された発明(引用発明1)の半導体製造装置は,半導体製造ラインの進捗管理及び工程管理において,工程管理用電子ファイルの作成及び管理を容易にすることを基本的な課題とし,そのために次の構成を備えたものであることが認められる。・・・そして,引用発明1は,上記構\成を備えることにより,管理部署と半導体製造ライン間における工程管理情報の作成が容易になる,複数の設備群管理計算機と複数の部署別管理計算機との間の電子ファイルの流れを効率良く管理できる,半導体製造ライン及び管理部署のハード構成並びにプログラムの簡素化を図ることができる等の効果が得られるものである。・・・・そこで検討するに,引用例1には,前記のとおりの技術的事項が記載されているところ,半導体製造ラインシステムの複数の設備群管理計算機及び製品管理計算機は通信回線により情報転送可能\に接続されており,管理部署システムの複数の部署別管理計算機も通信回線により情報転送可能に接続されている。また,電子ファイル管理計算機は,半導体製造ラインシステムと管理部署システムとを接続し,複数の設備群管理計算機と複数の部署別管理計算機との間の送受信先を指定してそれぞれの電子ファイルの情報転送を管理する機能\を備えることから,電子ファイル管理計算機と半導体製造ラインシステムとの間,及び電子ファイル管理計算機と管理部署システムとの間にも,情報の転送を行う通信回線が存在するということができる。そして,計算機を通信回線により情報転送可能に接続する場合,送受信機能\を有する装置を介在させることは,コンピュータネットワークの技術分野における技術常識といえる事項であり,電子ファイル管理計算機,管理部署システムの部署別管理計算機,半導体製造ラインシステムの設備群管理計算機及び製品管理計算機は,いずれも通信回線により情報転送可能に接続されているのであるから,それぞれ送受信機能\を有する装置,すなわち「送信・受信装置」を介して情報転送可能に接続されていると認めることができる。」\n
◆判決本文
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2010.03.31
平成21(行ケ)10144 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年03月30日 知的財産高等裁判所
引用発明の認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
前記1(2)の記載によれば,引用例2記載発明は,音響装置や映像装置などの特別の機器を必要とせず,また睡眠薬や鎮静剤のような副作用や習慣性のない,日常的に摂取可能で,嗜好性にも優れた,α波を効果的に増強してリラックス状態をもたらすことのできるα波増強剤及びα波増強用食品を提供することを課題とするものである。引用例2には,「ストレス」という語が数多く用いられている。すなわち,「α波を増強させてストレスを解消してリラックス状態にする」(【0001】),「α波はリラックス時(安静・閉眼時)に増加し,ストレスがかかると減少する」,「α波の出現状態はリラックス度の指標としてしばしば用いられており,近年のストレス社会において,α波を積極的に増強させてリラックスさせようとする試みが色々なされている。」(【0002】),「優れたα波増強作用を有していてマラクジャ果汁を摂取するとストレスが解消されてリラックス状態を出現させることができる」(【0006】),「マラクジャ果汁の投与によってストレスの解消に有効なα波(特にα1波とα2波)の増強がなされる」(【0027】),「摂取して約1時間後にはストレスが低減してリラックスした精神状態になった。」(【0030】),「摂取して約40分後にはストレスが低減してリラックスした精神状態になった。」(【0031】),「本発明のα波増強剤またはα波増強用食品を摂取した場合には,α波が誘導増強されて,ストレスが解消されリラックスした状態を得ることができる。」,「時間的および場所的に制約されずにいつでも必要な時に摂取して,ストレスの解消を図ることができる。」(【0032】)との記載がある。これらの記載からは,ストレスの解消・低減がリラックスと同義に用いられており,α波が増強してリラックスした状態を指すものとして用いられていると合理的に理解される。また,実施例1の実験(脳波の記録)の内容をみても,実験開始時あるいはそれより前に,被験者にストレッサーが負荷されているのと記載はない。なお,実施例2のフリッカーテスト及び実施例3の刺激反応時間測定は,「マクラジャ果汁に中枢抑制作用があるか否か,あるとして作業能\力を障害するほどのものであるか否か」を確認したものにすぎず(【0027】),ストレスの解消・増減に係る効果を確認することを目的とする実験ではない。そうすると,引用例2発明は,マラクジャ果汁を含有する増強剤等により,脳のα波を増強させ,人の精神状態をリラックスさせる発明であり,そこにストレスの解消,低減という語が用いられているとしても,それは,単に,リラックスした状態を表すために用いられているにすぎないのであって,引用例2がストレスの解消,低減に係る技術を開示していると認定することはできない。これに対し,審決は,「引用例2に,α波が,リラックス時に増加し,ストレスがかかると減少することが知られていること,そこで,α波を積極的に増強させて,リラックスさせることによって,ストレスを予\防又は軽減しようとする試みがなされていることが記載・・・されているように,ストレスの予防,軽減機作として,α波の増強があることは公知である。また,引用例2には,低周波数のα波を10%程度増強することで被験者の内省に変化を与えるとする報告例も記載・・・されている。上記のとおり,ストレスの予\防,軽減とα波の増強の程度とが密接に関係することは明らかである」(審決書4頁1行〜9行)とする。しかし,上記のとおり,引用例2の「ストレスを予防又は軽減」との記述は,その技術的な裏付けがなく,単に,リラックス状態への移行を述べたにすぎないと理解するのが合理的であり,また,実施例を含めた引用例2全体の記載からみても,引用例2に,ストレスを予\防,軽減する技術が開示されていると判断することはできない。(2) 以上のとおり,引用例2発明に関する審決の認定は誤りである。審決は,引用例1発明及び引用例2発明の「ストレス」の意義についての誤った理解を前提として,両者の解決課題が共通であり,引用例1発明には引用例2発明を適用する示唆があると判断した点において,審決の上記認定の誤りは,結論に影響を及ぼす誤りであるというべきである。・・・・前記1(1)の,引用例1における,「本発明者らは,このような抗ストレス作用を有する物質を,ラットにアドレナリンのβ−受容体のアゴニストであるイソプロテレノールを投与した時の心拍数上昇に対する抑制効果を指標に,鋭意スクリーニングを行い,L−テアニンが,イソ\プロテレノールによって誘起される心拍数上昇を著しく抑制することを見出した」等の記載に照らすならば,引用例1発明は,L−テアニンを有効成分とする抗ストレス剤によりストレスの予防,軽減を図るというものであり,イソ\プロテレノールによって誘起される心拍数上昇を抑制したり,計算作業のストレス負荷時における心拍数の増加及び血圧の上昇を抑える効果があることからみて,心血管系に作用して,ストレスを予防,軽減する発明であり,自律神経系に作用して血圧又は心拍数の上昇を抑制することによりストレスの予\防・軽減を図るものである。これに対し,前記1(2)によれば,引用例2発明は,脳のα波を増強してリラックス状態を発生させる発明であり,同発明は,中枢神経系である脳に作用して脳のα波を増強させ,リラックス状態を発生させるものであると解される点で,両者に相違がある。ところで,前記(1)の記載によれば,自律神経系の作用と中枢神経系の作用は区別して認識されるのが技術常識であり,証拠を総合するも,自律神経系に作用する食品等が,当然に中枢神経系にも作用するという技術的知見があることを認めることはできない。そうすると,自律神経系に作用する引用例1発明は中枢神経系に作用する引用例2発明とは技術分野を異にする発明であることから,当業者は,引用例1発明に引用例2発明を適用することは考えないというべきであって,両発明を組み合わせることには阻害要因があるというべきである。イこの点,被告は,抗ストレス作用を「自律神経系の活動を反映する血管,心拍数などの心臓血管系の反応の点からみた作用」としてとらえるか,あるいは「中枢神経系の活動を反映する脳波からみた作用」としてとらえるかは,ストレスの程度やリラックスの程度を確認するための指標として何に着目するかという差異にすぎず,引用例1と引用例2の技術が質的に異なることを意味しないから,阻害要因とならないと主張する。しかし,前記のとおり,自律神経系に作用するか,中枢神経系に作用するかは,基本的な作用機序に係るものであり,単なる測定のための指標にすぎないとの証拠はなく,したがって,被告の主張は採用することができない。以上のとおり,阻害事由を看過して,当業者が引用例1発明に引用例2発明を適用することにより,容易に補正発明1に想到することができるとした審決の判断には誤りがある。
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2010.03.15
平成20(行ケ)10467 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年03月10日 知的財産高等裁判所
進歩性ありとして無効としなかった審決が、取り消されました。
上記記載によると,引用例2には,入賞態様決定手段で決定されたビッグボーナスゲーム当選,ボーナスゲーム当選その他の入賞態様に応じ,遊技効果ランプの点灯の有無とリーチ音の発生の有無という異なる複数の報知態様の種類の組合せを選択し報知するとの構成が開示されているということができる。この点に関し,本件審決は,引用例2に記載された技術は音の発生若しくは遊技効果ランプの表\示又はその両方を用いた形態で入賞態様を報知するにとどまると判断したが,引用例2のスロットマシンにおいて,【0050】に記載されるように,ビッグボーナスゲーム当選の際にのみリーチ音を発生させるとした場合には,ビッグボーナスゲーム当選のときは,遊技効果ランプが点灯するとともに,リーチ音も発生し,ボーナスゲーム当選のときは,遊技効果ランプは点灯するものの,リーチ音は発生せず,その他のときは,遊技効果ランプは点灯せず,リーチ音も発生しないことになるのであるから,引用例2のスロットマシンに,遊技効果ランプの点灯の有無とリーチ音の発生の有無とを組み合わせて入賞態様を報知するものが含まれることは明らかであり,したがって,本件審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。b そうすると,「入賞態様決定手段で決定された入賞態様に対応した報知情報を遊技者に報知する報知手段を備え」との構成,「報知手段は,…音発生手段によって発生される効果音の種類,および連動演出手段によって演出されるランプによる連動表\示態様の種類を,それぞれ選択する報知態様選択手段…から構成され」との構\成及び「報知態様選択手段により選択された効果音の態様の種類からなる報知情報および連動表示態様の種類からなる報知情報をそれぞれ報知する」との構\成をそれぞれ有する引用発明(3)において,引用例2に開示された上記構成(入賞態様決定手段で決定された入賞態様に応じ,異なる複数の報知態様の種類の組合せを選択し報知するとの構\成)を適用し,報知態様選択手段により選択される報知情報について,「音発生手段によって発生される効果音の種類,および連動演出手段によって演出される連動表示態様の種類の組合せを,入賞態様決定手段で決定された入賞態様に応じて選択する」との構\成を採用し,また,報知する報知情報について,「報知態様選択手段により選択された,効果音の種類及び連動表示態様の種類の組合せからなる」との構\成を採用すること,すなわち,本件訂正発明3の報知態様選択手段等に係る構成を採用することは,本件優先日当時の当業者において容易に想到し得たものと認めるのが相当である。\n
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2010.03. 5
平成21(行ケ)10133 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年03月03日 知的財産高等裁判所
訂正要件違反かが争われました。新規事項でないとした判断は維持しましたが、当該構成要件を採用することは容易と判断して、無効理由なしとした審決を取り消しました。\n
本件明細書における「台板」の構成は,埋込用アタッチメントの一部を構\成する四角形の板状部材であって,その上部にフレーム及び振動装置を固定し,その下面中央部には杭の上部に嵌め込むための円筒状の嵌合部が設けてあるものとして記載されているということができるが,本件図面における振動装置の油圧モーターの油圧式ショベル系掘削機側の端は,台板とは別の部材である三角柱の3つの側面のうちの1つの面を開放状態としたような形状の部材によってカバーされており,同図面上は同油圧モーターの端がどこに位置するのかを確認することはできないから,台板の四辺のうち油圧式ショベル系掘削機側の辺が,油圧式ショベル系掘削機側にある振動装置の油圧モーターの端よりも油圧式ショベル系掘削機側にあることについて,本件明細書又は本件図面に直接的に記載されているとまで認めることはできない。もっとも,訂正が,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができるので,本件訂正のうち特許請求の範囲に「上記台板(14)の四辺のうち油圧式ショベル系掘削機(9)側の辺は,油圧式ショベル系掘削機(9)側にある上記振動装置(2)の油圧モーター(21)の端よりも油圧式ショベル系掘削機(9)側にあり,」との記載を付加する部分が,本件明細書及び図面の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものかどうかを判断するに当たっては,この種の杭埋込装置における前記説示した意味での台板の存在及び形状についての当業者の認識を踏まえる必要がある。・・・・ 以上によると,本件特許出願時における当業者にとって,油圧式ショベル系掘削機のアーム先端部に取り付ける埋込用アタッチメントとして,四角形の台板の上部に振動装置を備えるとともに,その下部略中央部に杭との嵌合部を備えるものはよく知られており,振動装置,四角形の台板及び嵌合部相互の関係については,四角形の台板を油圧モーターを含む振動装置が納まる程度の大きさとし,振動装置が隠れるように配置する構成のものが知られ,作業現場において長年にわたって使用されてきたものとして周知であったということができる。そうすると,本件訂正のうち,特許請求の範囲の【請求項1】及び【請求項2】について「上記台板(14)の四辺のうち油圧式ショベル系掘削機(9)側の辺は,油圧式ショベル系掘削機(9)側にある上記振動装置(2)の油圧モーター(21)の端よりも油圧式ショベル系掘削機(9)側にあり,」との限定を加える部分は,本件特許出願時において既に存在した「台板の上部に振動装置を設けるとともに,下面中央部に嵌合部を設ける」という基本的な構成を前提として,「振動装置の油圧モーターが油圧式ショベル系掘削機側にある」という当業者に周知の構\成のうちの1つを特定するとともに,「台板」と「振動装置」の関係について,同様に当業者に周知の構成のうちの1つである「四角形の台板の上に油圧モーターが隠れるように振動装置を配置するという構\成」に限定するものである。そして,上記イ(ア)ないし(ク)で認定した技術状況に照らすと,上記周知の各構成はいずれも設計的事項に類するものであるということができる。したがって,本件明細書及び図面に接した当業者は,当該図面の記載が必ずしも明確でないとしても,そのような周知の構\成を備えた台板が記載されていると認識することができたものというべきであるから,本件訂正は,特許請求の範囲に記載された発明の特定の部材の構成について,設計的事項に類する当業者に周知のいくつかの構\成のうちの1つに限定するにすぎないものであり,この程度の限定を加えることについて,新たな技術的事項を導入するものとまで評価することはできないから,本件訂正は本件明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものとした本件審決の判断に誤りはない。・・・・そして,上記1(3)ウにおいて認定した本件特許出願時における当業者の認識を踏まえると,この種の杭打込装置において,「台板の上部に振動装置を設けるとともに,下面中央部に嵌合部を設ける」という構成は基本的な構\成のうちの1つであると認められるから,引用例1に接した当業者は,同記載の図面から台板の存在を認識することができるというべきである。したがって,台板の有無及びその構成について,本件発明1と引用発明1との相違点2を認定した本件審決には,原告主張の誤りがあるといわなければならない。(2) しかしながら,本件審決は,引用発明1には台板の上部にあるものを保護するという技術思想を認めることができないとの理由により,引用発明1と本件発明1との相違点2に係る構成を導き出すことは当業者にとって容易であるということはできないと判断しているのであって,引用例1における台板の存在を認定したとしても,その判断が異なる結果となったとは解されず,本件審決による相違点2の認定の前記誤りは,結局,本件審決の結論に影響を及ぼすものということはできないから,原告主張の取消事由2も採用することができない。\n
◆判決本文
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2010.01.29
平成21(行ケ)10265 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月28日 知的財産高等裁判所
引用文献には、示唆がないとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
刊行物1の第4図によれば,切り欠ぎ部と対称の位置にあり電機子の軸方向における両側面に他の部材7(錘)を取り付けることが開示されているのみであり,環状のコアレス電機子コイルの内側に錘を入れることについては記載も示唆もないし,コイルの内側に錘を配置することが本件発明を含む軸方向空隙型電動機の技術分野で周知の技術的事項であると認めるに足りる証拠はない。また,径方向空隙型電動機である甲1発明から軸方向空隙型電動機である本件発明を想到するに当たって,甲1発明において径方向空隙型を軸方向空隙型に変更したことに伴い,甲1発明における錘の配置位置を軸方向から径方向に変更した場合は,電機子の軸方向の側面に代えて電機子の径方向の側面に錘を配置することとなり,これは電機子の外周に錘を設けることとなるから,当業者において電機子コイルの環の内側に錘を入れることを想到させるものではない。さらに,前記刊行物2の記載によれば,軸方向空隙型電動機である甲3発明において,その電機子に対して厚みのある部材を付加することは排除されるべき技術的事項であって,たとえ甲1発明に不平衡荷重効果を増大させるための部材を取り付けることが開示されているとしても,不平衡荷重効果を増大させるような部材は,一般に密度が高く所定の厚みを有するものであるし,また,電機子巻線の近傍にこのような部材を配置することは,従来行われてきた加圧成形等の妨げにもなり得る。したがって,甲1発明の電動機の各構成要素を,軸方向空隙型電動機である甲3発明の構\成のものに改変したものにおいて,電機子に錘となる部材を取り付けることを想到することは困難であるというべきである。
◆判決本文
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2010.01.29
平成21(行ケ)10112 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月28日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤まりがあるとして、進歩性なしとした無効審決が取り消されました。
甲1の前記記載によれば,甲1発明Aは,本来接着力が低い含フッ素ポリマーの接着力を改善するために,含フッ素エチレン性重合体の官能基に着目し,含フッ素エチレン性重合体がポリマー鎖末端又は側鎖に特定数以上のカーボネート基及び/又はカルボン酸ハライド基を有するようにすることによって接着力の向上を図ったものであるといえる。含フッ素エチレン性重合体のカルボニル基含有官能\基については,「カーボネート基および/またはカルボン酸ハライド基を総称して,単に『カルボニル基含有官能基』という。」(明細書4頁2行〜4行)とされて,カルボニル基含有官能\基がカーボネート基及び/又はカルボン酸ハライド基を意味するものとされ,カーボネート基及びカルボン酸ハライド基以外のカルボニル基についての記載はない。他方,カーボネート基及びカルボン酸ハライド基については,具体的な化学式を示して,その例が示されている(4頁25行〜5頁5行)。そうすると,引用例(甲1)において,「カルボニル基含有官能基」との文言が用いられているとしても,これを甲1の記載に即して検討すれば,甲1には,含フッ素エチレン性重合体の官能\基として,カーボネート基及びカルボン酸ハライド基のみが開示されているにすぎず,それ以外のカルボニル基含有官能基についての開示はない。したがって,甲1発明Aのカーボネート基及びカルボン酸ハライド基について,その上位概念である「カルボニル基」と認定した審決の認定に誤りがある。3 相違点1についての容易想到性判断の誤り(取消事由1の2)について前記2のとおり,審決には,甲1発明Aを認定するに当たり,上位概念である「カルボニル基」を用いて認定した点において誤りがあり,審決は,その結果,甲1発明Aに甲6の3発明を誤って適用し,相違点1の容易想到性について判断を誤ったものであると判断する。・・・前記1で認定した引用例(甲1)の記載によれば,甲1発明Aは,含フッ素エチレン性重合体について,ポリマー鎖末端又は側鎖にカーボネート基及び/又はカルボン酸ハライド基を有するようにすることで,ポリアミド系樹脂と含フッ素エチレン性重合体との層間接着力を向上させたものであり,ポリマー鎖末端又は側鎖に有するのは,カーボネート基及び/又はカルボン酸ハライド基であり,これをカルボニル基と認定することはできないことは前記2で判断したとおりである。また,引用例(甲1)には,ポリアミドについて,発明の対象となった含フッ素エチレン性重合体と接着性のよい既存のポリアミド材料を選択するという視点からの記載がされているだけであり,ポリアミドの側の特定の官能基又は極性基に注目し,アミン価,酸価を調整して,含フッ素接着性材料との接着力を増加させることについての記載はない。したがって,当業者が甲1の記載を見たとしても,フッ素性接着材料との接着性のよい材料としてポリアミドを認識し,そのポリアミドの中からより接着力の強い材料を選択することについての示唆を与えられることはあるとしても,そこから,ポリアミドの官能\基又は極性基に着目し,アミン価,酸価を調整することにより接着性を向上させるということについてまで示唆を与えられるということはできない。
◆判決本文
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2010.01.29
平成21(行ケ)10136 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月28日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、無効理由なしとした審決が取り消されました。
上記の記載によれば,プランタ3より高い仕切部5は,バルコニーなどに立つ者から,プランタ3を隠すために設けられるものであり,甲2−1発明は,仕切部5を設けることにより,植物2を花壇に植えられたかのように見せ,美しい景観を造り出すことができるようにした発明である。このような甲2−1発明の目的に照らすならば,突出部5aは,プランタ3をバルコニーなどに立つ者から隠れるような位置に配置されることは必須であるが,それをもって足りるのであって,プランタ3の外周縁の上端部を被覆しないことまでも必須であると解することはできない。このような理解は,「建物の屋上,バルコニー等を容易に緑化する・・・ことができる」(甲2の1【0004】)と記載され,「容易」に作業ができることが強調されていることに照らすならば,突出部5aをプランタ3の外周縁の上端部を被覆しないような位置のみに配置することを必須のものと解することは,不自然であること,実願平2−63005号(実開平4−21242号)のマイクロフィルム(甲4,第2図)の「上板121」,特開平8−89088号公報(甲7,【図2】)の「鉤部12a」,実開昭59−130593号公報(甲8,第2図)の「笠木部5」及び実開昭63−167843号公報(甲9,第3図)の「張出し状被覆部3」が示されていることに照らすならば,被覆対象物の外周縁の上端部より被覆対象物側の領域を被覆することの方が自然であることと整合する。
◆判決本文
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2010.01. 8
平成20(行ケ)10425 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年12月22日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、引用の構成,作用及び機能\の点において,本件発明の検知の構成と大きく異なるとして、取り消されました。
上記記載によると,引用例4には,吸入用穴と排気弁とを備えた覆い等から成る鼻被覆具において,排気弁の一方の端部を覆いに固定して,排気弁が片開きの状態で開くようにした上,排気弁の他方の端部に接点を取り付けるとともに,鼻被覆具の対応する位置(排気弁が閉じた際に当該接点が接触することとなる覆いの部分)にも接点を取り付け,これら2つの接点によりセンサを構成し,排気弁が閉じた時(2つの接点が接触した時)に信号を発するとの構\成(以下「引用例4の検知の構成」という。)が開示されており,これは,排気弁の開閉の有無をセンサで検知するものということができる。しかしながら,上記記載によると,引用例4の鼻被覆具は,吸気を加湿したり,清浄化したりすることのできる鼻又は鼻及び口の双方を覆うマスクに係る従来技術の問題点(飲食時,会話時等における煩わしさ,呼吸時の息苦しさ等)を克服するとともに,更に引用例4の検知の構\成を付加することにより,無呼吸症候群の病状に係るデータ(呼吸停止状態が生じた回数等)を取得することができ,その他,呼吸を感知する必要のある病気の診断等に活用することができるというものであるし,また,引用例4の鼻被覆具は,送風(吸気の補助)のためのブロワーを備えるものではなく,したがって,ブロワー送風を制御するとの構成を有するものでもない。そうすると,本件発明の検知の構\成が,消費電力の増加を抑制するために呼吸連動制御の構成を採用する前提として,呼吸の状態(排気又は吸気)を検知し,これにより,呼吸に連動したブロワー送風の切替えを行うものであるのに対し,引用例4の検知の構\成は,無呼吸症候群の病状をモニターするなどするため,呼吸の状態(呼吸停止の有無)を検知するものの,これを単にデータとして取得するのみであり,これによって呼吸に連動したブロワー送風の切替えその他の呼吸に連動した何らかの制御を行うものではないから,引用例4の検知の構成は,その作用及び機能\の点において,本件発明の検知の構成と大きく異なるものであるし,また,その解決課題の点においても,呼吸連動制御の構\成と大きく異なるものであるというべきである。さらに,上記のとおり,引用例4には,同引用例記載の鼻被覆具を防じん防毒用のマスクとしても使用することができるとの記載がみられるものの,引用例4の検知の構成を付加した目的に照らすと,同構\成を付加した引用例4の鼻被覆具は,防じん防毒用のマスクとして用いられるものではなく,加えて,上記のとおり,引用例4の鼻被覆具がブロワーを備えないものであることをも併せ考慮すると,引用例4の検知の構成を備えた同引用例の鼻被覆具は,その属する技術分野の点においても,呼吸連動制御の構\成を有する呼吸用保護具(モータで駆動されるブロワーを設置したもの)と異なる面を有するものといわざるを得ない。したがって,引用発明において,呼吸連動制御の構成を採用し得ると仮定しても,本件出願当時の当業者において,その構\成を実現する具体的な方法として,引用例4の検知の構成を適用し,本件発明の検知の構\成に容易に想到することができたとまで認めることはできない。この点に関し,被告らは,引用例4記載の発明が属する国際特許分類を根拠に,引用例4の検知の構成を備えた同引用例の鼻被覆具と本件発明とが同一の技術分野に属すると主張するが,発明の属する国際特許分類が同じであることから直ちに,発明の構\成の組合せ,置換等の容易性を判断する際の考慮要素の1つとなる技術分野の異同に関し,各発明の属する技術分野に異なる面がある場合を否定することはできないというべきである。
◆判決本文
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2010.01. 4
平成21(ネ)10046 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成21年12月28日 知的財産高等裁判所
第1審は、進歩性なしを理由として104条の3により権利行使不能と認定しました。控訴人は、引用文献に記載の技術は、基本原理が異なると控訴しましたが、知財高裁は原審の判断を維持しました。
すなわち,確かに,同じ断面の管路に同じ速さで液体を流すことを前提とするならば,粘性の高い液体にはその分だけ高い圧力を必要とすることとなる。しかし,実際の装置における液体の流速は,ノズルの長さ,大きさや液体の粘性などの諸条件に応じて異なり,液体に加えられる圧力も異なるものと認められ,乙22に記載された「0.1から5bar」という圧力は,一概に低いとは言い切れないとしても,高いとも断言できないものである。また,前記a(b)のとおり,乙22記載の発明において分析液体7が圧力チャンバー1内で加圧下に保持されていたとしても,そのことから直ちに,乙22記載の発明が液体供給源の圧力によって液体が放出されることを基本原理とするものとは認められない。・・・前記(ア)bのとおり,乙22の記載(【0021】等)によれば,液圧加速とは,閉鎖領域19がノズル放出口3より広いことにより,閉鎖素子13の移動の速さよりもノズル放出口3から放出される液体の速さが速くなることを意味するものと認められ,原告主張のように,閉鎖素子の移動によってバルブの開きが小さくなったときに流量が減少するという問題に対して流量を補うものとは認められない。以上によれば,乙22記載の発明は,閉鎖素子の移動によって液体が放出されるものと認められ,液体供給源の圧力によって液体が放出されることを基本原理とするものとは認められない。
◆判決本文
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2010.01. 4
平成21(行ケ)10125 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年12月28日 知的財産高等裁判所
引用発明の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決を取り消しました。
前記(1)で認定した刊行物1の記載によれば,引用発明は,長時間座って作業をする人の腋の下を支えて腕と腰の疲れを防ぐ軽快具であり,支棒(2)に巻かれ,パイプ(4)がはめ込まれているスプリング(5)が,腋下によって圧迫されることで生じる復元力によって腋下が押し上げられることによって上体を支持して腕と腰の負担を軽くし,楽にするという効果を有する器具であるといえる。しかし,パイプ(4)が略水平方向に移動することができる旨の記載はない。刊行物1の第3図によれば,パイプ(4)は略中央部から外側に湾曲しているものの,パイプ(4)の上端は,下端のほぼ真上に位置し,水平方向に移動していない態様で示されていることからすれば,同図は,使用者の体重(の一部)が腋下支にかかることにより撓んだ状態を示しており,パイプ(4)が弾力性を有してその上端の腋下支(6)を略水平方向に移動可能とすることを示したものと解することはできない。\n
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2009.12. 2
平成21(行ケ)10070 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年12月02日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、引用文献に記載された発明の認定誤りを理由として
取り消されました。
そこで,本願出願時の技術常識を踏まえて,引用例1に,マイクロカプセル中に封入された硬化剤が,さらにパトローネ中に入れられた態様のものが記載されているといえるかにつき,以下検討する。イ引用例1における本件記載Cの直前の記載である本件記載B,すなわち「しかし,大部分の場合に,反応性樹脂および硬化剤を,単一体,例えば,一個のパトローネ中に2個の室に分けて入れる。…パトローネは穿孔中に導入した後にだぼまたはアンカーボルトを挿入,回転させることによって破壊され,この際パトローネの壁材料は充塡剤として作用することができ,充塡剤の部分に加えられる。」との記載は,パトローネを破壊することで,パトローネの各室に収納されていた硬化剤と反応性樹脂が混合されることを説明するものである。そして,これに続く本件記載Cが,「しかし」に始まり,「マイクロカプセルの壁材料が破壊される。」で終わっていることからすれば,パトローネの破壊によって硬化剤と反応性樹脂との混合を行うことに代えてマイクロカプセルの破壊によっても上記両成分の混合を行うことができる旨を説明しているにすぎず,マイクロカプセル中に封入された硬化剤がさらにパトローネ中に入れられた構成までが開示されているとみることはできない。そして,本件記載Cにおいては,単にマイクロカプセルの壁材料の破壊が記載されるにとどまり,パトローネの(壁材料の)破壊についての記載がないことも上記結論を裏付けるものである。・・・・エ 以上のとおり,引用例1には,マイクロカプセル中に封入された硬化剤をさらにパトローネ中に収納する形態について記載されているとはいえず,パトローネを用いる場合には,2個の室を有するパトローネのいずれかの室に,マイクロカプセル中に封入されていない硬化剤を入れる方法が記載されている(本件記載B)にすぎない。他方,マイクロカプセル中に封入された硬化剤を使用する形態については,パトローネ中に入れられず,直接穿孔中に導入する方法が記載されている(本件記載C)にとどまる。そうであるとすれば,審決は,引用発明につき,「エポキシ基を有するビスフェノール化合物および/またはノボラック化合物を使用してアクリル酸またはアクリル酸誘導体を転化させることによって得られる反応生成物である硬化性アクリル化合物と,促進剤と,過酸化ジベンゾイルからなる重合開始剤を含有する硬化剤とを,2個の室を有するパトローネ中に入れたものであり,パトローネおよび室は穿孔中に導入した後にアンカーボルトを挿入,回転させることによって破壊されるものである,アンカーボルトを固定するために使用するパトローネ」と認定すべきであって,「硬化剤をマイクロカプセル中に封入した上で,これをさらにパトローネ中に入れた」旨認定した審決には誤りがあるといわざるを得ない。
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2009.11.29
平成21(行ケ)10153 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年11月26日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとの審決が、引用文献の認定誤りを理由として取り消されました。
「以上によれば,旋盤用切削工具を形成する方法に関し,引用文献には,切削体に溝,蟻継ぎ等を成す幾何学的特徴が形成される点,及び硬質金属をダイキャスト,プレス成形,成型,又は鋳造によって保持部材に密に固定する,との点は記載されている。しかし,硬質金属を鋳造等で保持部に固定するに先立って,保持部に溝,蟻継ぎ等をなす幾何学的特徴が形成されるとまで記載されているということはできないというべきである。そうすると,引用文献には,幾何学的特徴を有する保持部材を提供し,この提供された保持部材をその幾何学的特徴を介して切削体に接合するとの一連の工程が記載されているということはできない。・・・そして,上記「それぞれの前記互いに結合可能な幾何学的特徴を介して,前記硬い金属体を前記基台に接合する工程」とあるところ,この「前記互いに結合可能\な幾何学的特徴を介して」とある部分の「前記」の語は,その前段の「それぞれが互いに結合可能な幾何学的特徴を有する…硬い金属体と基台とを提供する工程」により提供された硬い金属体と基台とが既に有する「それぞれが互いに結合可能\な幾何学的特徴」を指すことが明らかである。これは,審決が,本願発明と引用発明との一致点を上記第3,1(3)イのとおり,「切削工具インサートを形成する方法であって,それぞれが互いに結合可能な幾何学的特徴を有するチップとインサート本体とを提供する工程と,それぞれの前記互いに結合可能\な幾何学的特徴を介して,前記チップを前記インサート本体に接合する工程とを有する方法において,前記チップを前記インサート本体に前記接合する工程は,前記インサート本体を前記チップの周囲に鋳造することにより生じるものである」こととして,チップとインサート本体とが,それぞれ互いに結合可能な幾何学的特徴を有する旨認定していることからも明らかである。そうすると,審決は,引用発明を,それぞれが互いに結合可能\な幾何学的特徴を有する硬い金属体と基台とを提供し,これら提供された硬い金属体と基台とを,それらが有する互いに結合可能な幾何学的特徴を介して接合する方法と認定したということができる。しかし,上記アによれば,引用文献(甲4)には,保持部材(基台)について,切削体(硬い金属体ないし硬質金属)と接合する工程に先立ち,切削体の幾何学的特徴と結合可能\な幾何学的特徴を有する保持部材(基台)を提供する工程が記載されているということはできない。そうすると,審決の引用発明の内容の認定には誤りがあり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。」
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2009.11.12
平成20(行ケ)10483 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年11月11日 知的財産高等裁判所
特29−2の適用について先願公報にどの程度の記載が必要であるかについて争われました。裁判所は、具体的な実施例までは必要としないものの、化学物質発明の有用性をその化学構造だけから予\測することは困難であるとして、記載されていたとした審決を取り消しました。
いわゆる化学物質の発明は,新規で,有用,すなわち産業上利用できる化学物質を提供することにその本質が存するから,その成立性が肯定されるためには,化学物質そのものが確認され,製造できるだけでは足りず,その有用性が明細書に開示されていることを必要とする。そして,化学物質の発明の成立のために必要な有用性があるというためには,用途発明で必要とされるような用途についての厳密な有用性が証明されることまでは必要としないが,一般に化学物質の発明の有用性をその化学構造だけから予\測することは困難であり,試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識しているところである。したがって,化学物質の発明の有用性を知るには,実際に試験を行い,その試験結果から,当業者にその有用性が認識できることを必要とする。・・・(3) そこで,本件について検討すると,前記1(2)のとおり,化合物No.II-10 については,先願明細書等の【請求項9】【化5】に一般式が記載されるとともに,【0104】【化37】に一般式が,【0105】【化38】に具体的な構造が,それぞれ示されている。そして,先願明細書等の【0263】ないし【0345】において,化合物No.I-1,No.II-1,No.VII-1,No.X-10,No.X-3 を用いた実施例(ここには,上記各化合物の製造方法についても記載されている。なお,化合物No.X-10,No.X-3 につき,具体的なデータの記載に乏しいとしても,実施例として記載されていることは否定できない。)が記載され,【0346】【0347】において,これらの化合物が,「融点やガラス転移温度が高く,その蒸着等により成膜される薄膜は,透明で室温以上でも安定なアモルファス状態を形成し,平滑で良好な膜質を示す。従って,バインダー樹脂を用いることなく,それ自体で薄膜化することができる。」「ムラのない均一な面発光が可能であり,高輝度が長時間に渡って安定して得られ,耐久性・信頼性に優れる。」との効果が記載されている。確かに,先願明細書等には,化合物No.II-10 それ自体の製造方法や,これを用いた実施例の記載はないが,先願の化合物一般につきウルマン反応によって得られることが記載されている(【0170】参照)上,前記1(3) カの各公報記載の事実からすれば,正孔輸送材料ないし電荷輸送材料として用いられる化合物の製造方法としてウルマン反応を用いることは,本願出願当時,周知技術であったというべきであって,化合物No.II-10 を製造する道筋は示されているといえる。また,同化合物の有機EL素子としての有用性についても,同化合物が,その構造上,実施例とされた化合物No.II-1 と,相当程度類似していること(先願明細書等に化合物No.II-10 の構造が具体的に記載されていることからすれば,ここで求められる類似性は,後述の,特許法29条の2の適用が問題となる場合とは自ずから異なるものである。)等からすれば,実施例の記載から,当業者に同化合物の有用性が認識できるものといえ,同化合物を用いた具体的な実施例の記載がないことは,上記結論に影響を及ぼすものではないというべきである。・・・また,前記1(3) エ,オからすれば,乙4,5で開示された,それぞれ同族列の関係にある各化合物の化学的性質(有機EL素子としての性質を含む。)が類似していることが認められるが,これが直ちに,化合物No.II-10 と「先願発明」化合物の関係にも適用できるか明らかではない上,特許法29条2項の進歩性を判断する場合であれば格別,同法29条の2第1項により先願発明との同一性を判断するに当たっては,化合物双方が同族列の関係にあることをもって,一方の化合物の記載により他方の化合物が「記載されているに等しい」と解するのは相当ではない(前述のとおり,一般に化学物質発明の有用性をその化学構造だけから予\測することは困難であり,試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識するところであるからである。)。・・・・確かに,前記1(3) ア,イのとおり,「正孔注入輸送を司る本質的部位が分子中のN−フェニル基である」旨の被告の主張に整合する文献(乙1,2)が存在するほか,先願明細書等には「分子中にN−フェニル基等の正孔注入輸送単位を多く含み,R 1 〜R4にフェニル基を導入してビフェニル基にすることでπ共役系が広がり,キャリア移動に有利になり,正孔注入輸送能にも非常に優れる」旨の記載がある(【0058】)。しかし,前述のとおり,特許法29条の2第1項による先願発明との同一性の判断は,同法29条2項の進歩性の判断とは異なるから,上記のような「公知技術」を安易に参酌して先願明細書等の記載を補充するのは相当ではなく,メチル基の有無を捨象して化合物No.II-10 と「先願発明」化合物を同視し,「先願発明」化合物が先願明細書等に実質的に記載されていたとみることは相当ではない。」
◆判決本文
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2009.10. 3
平成20(行ケ)10468 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年09月30日 知的財産高等裁判所
引用例の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決を取り消しました。
「前記のとおり,引用文献2記載の発明における課題解決のための技術思想の特徴は,最初のN個目までの修正から得られた修正係数及び修正角度の平均を用いて,適切な補正係数及び補正角度を獲得し,N+1個目からはその補正係数及び補正角度による修正のみによって不釣合い量を所定値内に抑えるものであって,2回目までの修正を行う場合にも,1回目と同様の手順で2回目までの補正係数及び補正角度を算出するものである。段落【0022】における「2次修正まで行なうものにも本発明を適用できる。」との記載部分は,これに続く「その場合,修正係数は1次測定結果と2次測定結果のベクトル差に加えて2次測定結果と3次測定結果のベクトル差を用いることができる。」と記載部分を併せて読むならば,N個目までの回転供試体の2次測定結果と3次測定結果のベクトル差の平均から獲得した2次修正用の補正係数及び補正角度をもって,N+1個目以降の回転供試体の2次修正を行い,2回の修正をもって不釣合い量を所定値内に抑えて試験効率(修正効率)を改善させることを意味するものであると理解するのが自然な解釈である。被告は,引用文献2には,「同一回転供試体の不釣合いを2回の修正で仕上げる際に1回目は補正数値を用いずに修正を行い,この1回目の修正から算出された補正数値をもって2回目の修正を行い,残留不釣合いを極めて小さい数値にする」という発明の技術思想も開示されていると解すべきであると主張する。しかし,「2次修正まで行なうものにも本発明を適用できる。」との記載部分のみを根拠として,引用文献2記載の発明の技術思想を,上記のようにn=1の場合も含めて広く理解することは,引用文献2の発明の前記技術思想の特徴と整合を欠く理解であって賛同できるものではない。」
◆平成20(行ケ)10468 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年09月30日 知的財産高等裁判所
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2009.08.10
平成20(行ケ)10259 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年07月07日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした無効審決が取り消されました。理由は、引用文献に記載された発明の認定誤りです。
「以上によると,引用発明において,2つ以上のコイルを用いる意義は,液体の流れ方向の上流側と下流側に配置した複数のコイルに異なる方向の磁場を形成させ,コイルとコイルの間の仮想平面(分割線Sで示される)付近に,より大きなローレンツ力を発生させることにあるものと認められ,摘記事項(お)の記載は,そのような構成を前提として,コイルの電気的な接続の仕方を記載するものであると認められる。そして,大きなローレンツ力を発生させるためには,複数のコイルを液体の流れ方向の上流側と下流側に並べて配置する必要があるはずであって,被告の主張するように,複数のコイルを同じ箇所に重ねて配置するとすれば,引用発明の特徴とする仮想平面が形成できない結果とならざるを得ないのであるから,このようなコイルの配置が引用刊行物に示唆されているなどということはできない。そうすると,本件審決が,摘記事項(お)の記載から,「巻き方向が同じ複数のコイル」を「2重に巻き付ける態様」を適宜に設計できることが示唆されているとし,これを前提として,相違点1について,「2つの通電により磁束を形成するコイルを装置に取り付ける使用の態様として,『巻き方向が同じ複数のコイル』を,2つの通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に2重に巻き付ける態様を採用することは,当業者が容易に想到しえることであると認められる。」と判断したのは誤りであるといわざるを得ないし,引用発明において,複数のコイルを重ねて配置し,分割線Sで示される仮想平面を形成することができない構\成を採用することは,そもそも,その技術思想に反するものであるから,引用発明から本件発明の構成を想到することが容易であるということは到底できない。」
◆平成20(行ケ)10259 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年07月07日 知的財産高等裁判所
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2009.07.23
◆平成21(行ケ)10036 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成21年07月21日 知的財産高等裁判所
実案公報に記載の意匠と類似するとした審決が取り消されました。
「本願意匠も引用意匠も,周側面において,開口部が四つ設けられている点やゴム素材が占める割合が開口部が占める割合よりも大きい点は共通しているものの,その開口部の「位置,範囲,大きさ」は,上記認定のとおりかなり異なっており,本願意匠では,開口部が周側面において大きな部分を占めているとの印象を与えるが,引用意匠では,開口部は周側面の一部であるとの印象しか与えない。そして,この開口部の「位置,範囲,大きさ」は,本願意匠及び引用意匠に係る物品では,非常に目立つ部分であり,需要者の注目を惹くということができる。乙3(三洋電機株式会社がインターネットに掲載した「MoMAstore」のページ)によれば,寸法及び色彩の違う輪ゴムがワンセットで販売されていることが認められるが,そうであるからといって,需要者が輪ゴムの開口部の「位置,範囲,大きさ」の違いに着目しないということはできない。・・・以上によると,本願意匠では,開口部が周側面において大きな部分を占めているとの印象を与えるが,引用意匠では,開口部は周側面の一部であるとの印象しか与えないという,需要者に注目される大きな違いがあるということができるのであって,「本願意匠と引用意匠の開口部における差異は,意匠全体から観れば一部位における僅かな程度の差異である」とか「本願意匠と引用意匠の開口部における差異は,輪ゴムの分野において従前からみられる態様であるため,格別看者の注意を惹くものではない」ということはできない。したがって,その旨の審決の判断には誤りがあり,取消事由1,2は理由がある。」
◆平成21(行ケ)10036 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成21年07月21日 知的財産高等裁判所
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2009.07.19
◆平成21(行ケ)10002 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年06月24日 知的財産高等裁判所
29条1項3号の「刊行物に記載された」には該当しないと判断されました。
審決は,仮に,引用例の図3,4の図示内容ではスリーブの末端部分とステントの大小関係が明らかとはいえないとしても,スリーブの末端部分の外径をどの程度の寸法にするかは,当業者が必要に応じて決定し得る単なる設計事項にすぎず,引用例には,本願発明と実質的に同一の発明が記載されているとした上で,本願発明は特許法29条1項3号に該当する旨判断している。しかし,同号所定の「刊行物に記載された」というためには,当業者がその刊行物を見れば,特別の思考を要することなく実施し得る程度にその内容が開示されている必要がある。本件において,引用例のスリーブの末端部分の内径寸法は,前述のとおり,通常1.524mmであるところ,被告は,肉厚が0.1mm以下の管状部材の作成が可能であることは当業者にとって周知である旨主張し,その根拠として乙1,2を挙げるので,以下,検討する。・・・・このように,乙1,2に記載された,血管内に挿入するカテーテル管に関する技術と,白内障の手術等に用いるスリーブに関する引用発明や本願発明とは,医療器具に関する点で共通性を有するものの,器具の属性,使用状況,求められる強度等において異なる(これらの点は,肉厚にも影響を与えるものと解される。)ことを否定できず,引用例におけるスリーブの末端部分(その内径寸法は,前述のとおり,通常1.524mmである。)につき,約0.1mm以下の肉厚の素材を用いることにより,その外径寸法を1.72mm以下にするためには,なお相当程度の思考を要するというべきであって,当業者が引用例を見れば,特別の思考を要することなく実施し得る程度に本願発明の内容が開示されていたとまでは認められない。以上のとおり,乙1,2上の記載を前提としても,引用例に本願発明が記載されているとはいえない。(3) 本件での結論は以上のとおりであるが,被告は,「2.5mmの切開創口(引用例において使用可能とされているサイズ)から挿入できる最大限の外径は,計算上1.592mmとなる」旨の原告の主張を前提とすれば,切開創口から挿入される部分である引用発明のスリーブの末端部分の外径は1.592mm以下となり,引用例上に本願発明が記載されていることになる旨主張しているところ,念のため,この点についても検討する。確かに,引用例では,2.5mmの切開創口でスリーブを用いることが可能\とされているから,原告の主張どおり,2.5mmの切開創口に挿入可能なスリーブの外径の上限値が1.592mmであるならば,引用例上に,本願発明の範囲に含まれるもの(内径寸法1.524mm,外径寸法1.592mmのスリーブの末端部分)が記載されているものと解し得る。しかし,被告が指摘する原告の主張は,前記第3.2(2)のとおり,「引用例における装置を2.5mmの切開創口に用いるのは不可能である」旨の主張を構\成する一部分にすぎず,当該部分だけを抽出するのは妥当でない。また,1.592mmという数値も,単に2.5mmに2を乗じて円周率で除して得られたにすぎないものと解され,これが実施可能性等を考慮した上での主張であるとは認められない。このように,いずれにしても,原告の主張の一部分に基づいて「引用発明のスリーブの末端部分の外径寸法が1.592mm以下である」などと認定できないことは明らかであり,この点に関する被告の主張は採用できない。(4) 以上のとおり,引用例上,外径寸法が1.40mm以上,1.72mm以下の範囲のスリーブの末端部分(本願発明における灌流スリーブと同じ範囲の寸法のもの)が記載されていると認めることはできず,本願発明が引用例上に記載されているとはいえない。2 このように,本願発明につき特許法29条1項3号を適用することはできず,審決に,この点に関する誤りがあることは明らかである(なお,本判決は,本願発明が進歩性など他の特許要件を満たすか否かについては,何ら判断を示すものではない。)から,その余の点について判断するまでもなく,審決を取り消すこととする。
◆平成20(ワ)12952 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成21年07月10日 東京地方裁判所
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2009.07. 9
◆平成20(行ケ)10259 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年07月07日 知的財産高等裁判所
引用文献における認定誤りを理由として、進歩性なしとした無効審決を取り消しました。
「以上によると,引用発明において,2つ以上のコイルを用いる意義は,液体の流れ方向の上流側と下流側に配置した複数のコイルに異なる方向の磁場を形成させ,コイルとコイルの間の仮想平面(分割線Sで示される)付近に,より大きなローレンツ力を発生させることにあるものと認められ,摘記事項(お)の記載は,そのような構成を前提として,コイルの電気的な接続の仕方を記載するものであると認められる。そして,大きなローレンツ力を発生させるためには,複数のコイルを液体の流れ方向の上流側と下流側に並べて配置する必要があるはずであって,被告の主張するように,複数のコイルを同じ箇所に重ねて配置するとすれば,引用発明の特徴とする仮想平面が形成できない結果とならざるを得ないのであるから,このようなコイルの配置が引用刊行物に示唆されているなどということはできない。そうすると,本件審決が,摘記事項(お)の記載から,「巻き方向が同じ複数のコイル」を「2重に巻き付ける態様」を適宜に設計できることが示唆されているとし,これを前提として,相違点1について,「2つの通電により磁束を形成するコイルを装置に取り付ける使用の態様として,『巻き方向が同じ複数のコイル』を,2つの通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に2重に巻き付ける態様を採用することは,当業者が容易に想到しえることであると認められる。」と判断したのは誤りであるといわざるを得ないし,引用発明において,複数のコイルを重ねて配置し,分割線Sで示される仮想平面を形成することができない構\成を採用することは,そもそも,その技術思想に反するものであるから,引用発明から本件発明の構成を想到することが容易であるということは到底できない。」
◆平成20(行ケ)10259 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年07月07日 知的財産高等裁判所
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2009.06.26
◆平成21(行ケ)10002 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年06月24日 知的財産高等裁判所
引用文献に記載の発明の認定誤りを理由として、29条1項3号違反とした拒絶審決が取り消されました。
「もっとも,引用例には,スリーブの末端部分の外径寸法や,スリーブの肉厚に関する具体的な数値の記載はないため,引用例上のスリーブの末端部分の外径寸法は明らかではない。エ審決は,引用例の明細書上の記載に加え,図3,4を参酌し,「図3及び4には,スリーブの末端部分26の外径寸法がステント32の外形寸法よりも小さい点が図示されている」として,スリーブとステントの大小関係から,(前記ウのとおり,通常,ステントの外径寸法が1.651mmであることを前提として)スリーブの末端部分の外径寸法が1.651mm以下であると認定している。しかし,特許出願に際して,願書に添付された図面は,設計図ではなく,特許を受けようとする発明の内容を明らかにするための説明図にとどまり,同図上に,当業者に理解され得る程度に技術内容が明示されていれば足り,これによって当該部分の寸法や角度等が特定されるものではない。本件では,前記ウのとおり,ステントの内径寸法は,通常,スリーブの末端部分の内径寸法より小さい1.397mmとなるべきところ,引用例の図3では,ステントの内径がスリーブの末端部分の内径よりも大きく図示されている。以上を前提とすると,引用例上の図面が,部材の大小関係を正確に踏まえて作成されたか否かは不明といわざるを得ず,このような図面のみに基づいて,引用例における部材の大小関係を認定することは適切ではない。・・・・(2)ア 審決は,仮に,引用例の図3,4の図示内容ではスリーブの末端部分とステントの大小関係が明らかとはいえないとしても,スリーブの末端部分の外径をどの程度の寸法にするかは,当業者が必要に応じて決定し得る単なる設計事項にすぎず,引用例には,本願発明と実質的に同一の発明が記載されているとした上で,本願発明は特許法29条1項3号に該当する旨判断している。しかし,同号所定の「刊行物に記載された」というためには,当業者がその刊行物を見れば,特別の思考を要することなく実施し得る程度にその内容が開示されている必要がある。本件において,引用例のスリーブの末端部分の内径寸法は,前述のとおり,通常1.524mmであるところ,被告は,肉厚が0.1mm以下の管状部材の作成が可能であることは当業者にとって周知である旨主張し,その根拠として乙1,2を挙げるので,以下,検討する。・・・・・このように,乙1,2に記載された,血管内に挿入するカテーテル管に関する技術と,白内障の手術等に用いるスリーブに関する引用発明や本願発明とは,医療器具に関する点で共通性を有するものの,器具の属性,使用状況,求められる強度等において異なる(これらの点は,肉厚にも影響を与えるものと解される。)ことを否定できず,引用例におけるスリーブの末端部分(その内径寸法は,前述のとおり,通常1.524mmである。)につき,約0.1mm以下の肉厚の素材を用いることにより,その外径寸法を1.72mm以下にするためには,なお相当程度の思考を要するというべきであって,当業者が引用例を見れば,特別の思考を要することなく実施し得る程度に本願発明の内容が開示されていたとまでは認められない。以上のとおり,乙1,2上の記載を前提としても,引用例に本願発明が記載されているとはいえない。」
◆平成21(行ケ)10002 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年06月24日 知的財産高等裁判所
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2009.05. 8
◆平成20(行ケ)10119 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年04月28日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとされた審決が取り消されました。
「そこで,上記観点に立って刊行物1発明について検討すると,前記(3)に認定した明細書の【図10】及び【図12】の記載から明らかなとおり,刊行物1発明においてはシステムバス42に一時的記憶装置であるRAM23が接続されているから,通信制御装置39において受信されたファクシミリデータ(符号化された画像情報)はRAM23に一旦格納され,その後RAM23から読み出されてシステムバス42を介して符号化復号化装置65へ伝送され,そこで直ちに復号化された後,内部バス69を介してVRAM63へ伝送され,復号化された画像データがVRAM63に蓄積されると解するのが自然であり,符号化復号化装置65を経由しているにもかかわらず,これを復号化することなく符号化したままでVRAM63に記憶させる必然性を認めることはできないというべきである。また,このようなデータの流れは,符号化されたデータを復号化する処理であり,かつ,当該処理作業に当たって符号化されたデータをメモリ(RAM23)に記憶した上で復号化するものである点で,前記乙1〜乙3公報の開示と矛盾するものでもない。・・・以上によれば,刊行物1発明のVRAM63は符号化した画像情報を記憶するものではないから,審決が「符号化されている画像情報は,復号化する前に,ワークメモリとしてのVRAM63に一時記憶されるものと理解される」(審決6頁)と認定したことは誤りであり,したがって,VRAM63は,「上記画像を表わすディジタル・データと上記グラフィック画像を表\わすディジタル・データの両方を記憶する単一のメモリ」といえる限りにおいて本願発明と相違しないとした審決の一致点の認定も誤りであり,その誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。」
◆平成20(行ケ)10119 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年04月28日 知的財産高等裁判所
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2009.03.26
◆平成20(行ケ)10305 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年03月25日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした無効審決を取り消しました。
「引用発明は,シール帯域内に合成樹脂溜まり部を設けて,熱融着に寄与するポリエチレン樹脂の量を確保することにより,「接合強度を維持」するようにしたものであるから,単に,「溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とする」ことを開示する周知例(甲2,3)を指摘することによって,その周知の技術を適用して,引用発明とは異なる解決課題と解決手段を示した本願発明の構成に至ることが容易であるということはできない。引用発明は,接合強度維持を目的とした技術であるのに対し,周知技術は,接合強度維持に寄与することとは関連しない技術であるから,本願発明と互いに課題の異なる引用発明に周知技術を適用することによって「本願発明の構\成に達することが容易であった」という立証命題を論理的に証明できたと判断することはできない。」
◆平成20(行ケ)10305 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年03月25日 知的財産高等裁判所
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2009.03.26
◆平成20(行ケ)10153 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年03月25日 知的財産高等裁判所
認定するための証拠が不十分であるとして、審決を取り消しました。
「かえって,刊行物1(甲1)の「必要であれば,図2に示すように,シートの長手方向にも1本または2本以上の切断用のミシン目(2B)を設けることができる。」(段落【0008】)との記載に照らすならば,「エァセルラー緩衝シートのような積層構造体においても延伸された方向へ引き裂かれる特性があること」は何ら意識されていないことがうかがわれ,刊行物1に係る特許出願がされた当時(平成9年5月7日),「従来のエァセルラー緩衝シートは,長手方向(巻付け方向)へは比較的に真っ直ぐに引き裂くことができた」ことや「エァセルラー緩衝シートのような積層構\造体においても延伸された方向へ引き裂かれる特性があること」は,当業者にとって,周知の知見ではなかったことが推認される。そして,本件記録を検討しても,刊行物1に係る特許出願がされた後,本件特許が出願されるまでの間に,上記の各知見が周知となったことをうかがわせる証拠は見当たらず,その他,本件特許の出願当時(平成14年4月18日),「エァセルラー緩衝シートのような積層構造体においても延伸された方向へ引き裂かれる特性があることがよく知られていた」との事実を認めるに足りる証拠は,これを見いだすことができない。・・・上記検討したところによれば,本件審決の事実認定(エ)のうち,「エァセルラー緩衝シートのような積層構造体においても延伸された方向へ引き裂かれる特性があることがよく知られていた」との点は,証拠に基づかないものであって,誤りというべきである。」
◆平成20(行ケ)10153 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年03月25日 知的財産高等裁判所
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2009.03.26
◆平成20(行ケ)10261 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年03月25日 知的財産高等裁判所
引用文献に記載された事項の認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
「上記(A)ないし(D)には,引用例2は,専ら「感染部位」を「気道下部」とする疾患を対象とした治療方法が開示され,また,上記(E)ないし(G)には,抗炎症剤及び抗感染剤が感染部位である「気道下部」に直接的に投与されることが,好ましい治療態様であることが開示されている。そうすると,上記(G)「好ましい態様においては,上記の抗炎症剤及び上記の抗感染剤は,上記宿主の気道下部に直接的に投与される。上記の抗炎症剤及び/又は上記の抗感染剤は,鼻の中に投与されることができる。上記の抗炎症剤及び/又は上記の抗感染剤は,エアロゾル粒子の形態で鼻の中に投与されることができる。」における「鼻の中に投与されることができる。」との記載部分は,エアロゾル粒子を,抗炎症剤及び/又は抗感染剤を感染部位である「気道下部」に直接的に投与するために,通過経路の入り口に当たる鼻孔から「鼻の中」に向けて投与されることができるという意味に理解すべきであり,鼻自体が感染部位であることを前提として,鼻を治療する目的等で,鼻に抗炎症剤及び/又は抗感染剤を投与するという意味に理解することはできない。したがって,「引用例2には,・・・感染剤を・・・感染部位である鼻に投与できることが記載されている(摘記事項(G))。」とした審決の前記認定は誤りである。」
◆平成20(行ケ)10261 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年03月25日 知的財産高等裁判所
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2009.02.21
◆平成20(行ケ)10209 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年02月18日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。
「そうすると,前記(2)の甲17,甲18に記載された技術は,マスク全体の外周が固定されているもののマスクの内方(中心方向)は固定されておらず,外周からマスクを引っ張ることによって,マスクを緊張させ撓み等を除去し得ることを前提とするものであるところ,これを引用発明に適用しようとしても,引用発明においては,金属薄膜がマスク基板の粗いマスクパターンに密着し固定されているため,外周から金属薄膜を引っ張ることによっては,直ちに金属薄膜を緊張させその撓み等を除去し得るとは認められず,金属薄膜に外周縁へ向かう均一な張力をかけることができるとは認められない。また,本願発明のマスク本体に相当する引用発明の金属薄膜は,マスク基板上に蒸着により成膜されるものであって,マスク基板上に蒸着(すなわち,一体化)する前においては,金属薄膜としての形態を有していないから,マスクを引っ張ることによる張力付与技術を,金属薄膜のみに適用することはできない。したがって,甲17,甲18に記載の張力付与技術を,引用発明に適用して,「マスク本体に外周縁に向う均一な張力をかけた状態で」一体化することは,容易になし得るということはできない。」
◆平成20(行ケ)10209 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年02月18日 知的財産高等裁判所
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2009.02.17
◆平成20(行ケ)10026 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年02月17日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。
「ア 上記(1)によれば,相違点1に係る本願発明3の構成は,乗物の実際の前進加速により乗客が経験する加速度の感覚を強調するために,乗物を更に加速することに代えて,前進中の乗物に加速度感を生起させる動きを加え,それによるシミュレーション効果により擬似的に実際の加速以上の加速度感を乗客に体験させるとともに,安全性を十\分に確保するという点に技術的意義があるものと認められる。これに対し,上記(2)のとおり,刊行物記載発明は,カプセル内部のスクリーン上の映像に対応して座席等に動きを与え,乗客に映像上の出来事を擬似的に体感させるというものであり,同発明におけるシミュレーション効果は,乗物の実際の動きがもたらす乗客の感覚とは無関係である。また,引用刊行物には,設計技術上及び安全性の問題から乗物の急激な加・減速や急速度での急カーブの曲がりなどの実際の動きが制限されるという事情の下で,動的な乗物に臨場感や大きなスリルなどを求める乗客に対して急激な加速や減速,高速での急カーブの曲がりの感覚を提供するという本願発明3の課題についての記載も示唆もなく,シミュレーション効果の利用という点においては,引用刊行物が従来技術として記載している「従来のシミュレーション式遊戯装置」と同一の技術的思想であるといえる。したがって,刊行物記載発明は,動的な乗物においてシミュレーション効果を利用するという点では本願発明3と共通するものの,シミュレーション効果の利用状況についての着想及びそれにより実現される効果の点で本願発明3とは技術的思想を異にするものというべきであって,刊行物記載発明と本願発明3とでは,シミュレーションを利用することの技術的意義が相違するものと認められる。そして,本願発明3におけるシミュレーションの利用の技術的意義については,引用刊行物に記載も示唆も認め難いところ,本願発明3におけるシミュレーションの利用の点が,相違点1に係る構成に当たるから,結局,引用刊行物には,相違点1に係る構\成の技術的意義について,記載及び示唆があるものと認めることはできない。以上によれば,引用刊行物には,相違点1に係る本願発明3の構成を想到する契機ないしは動機付けとなる記載や示唆があるものと認めることはできない。・・・
(エ) 上記(ア)ないし(ウ)によれば,乗物を実際には移動させることなく(上記(ア),(ウ)),あるいは乗物の実際の動きとは異なる態様で(上記(イ)),乗物を運転する際に感じる運転感覚や体感を擬似的に体験させるシミュレーション装置はよく知られた技術であると認められる。しかしながら,周知例甲2ないし5には,乗物が実際に前進加速している時に,乗客が経験する加速度感を更に強調するために,当該乗物に加速度感を生起させる実際の動きを加え,乗客の前進加速感を擬似的に強調し高めるシミュレーションを行うとの技術的事項が記載されているとは認められないし,これを示唆する記載も見い出すことがことができない。そうすると,周知例甲2ないし5によって,擬似的な前進加速感を乗客に与えるシミュレーションを行うことが周知技術であることは認められるものの,前記アに認定した本願発明3におけるシミュレーション利用の技術的意義についてまで周知であったと認めることはできず,また,これが当業者にとって技術常識であったことを認めるに足りる証拠もない。さらに,前記アに説示したところに照らせば,上記周知のシミュレーション技術は,本願発明3におけるシミュレーション利用の技術的意義を示唆するものとは認め難いから,相違点1に係る本願発明3の構成を示唆するものとも認められない。(オ) 以上のとおり,引用刊行物には,相違点1に係る本願発明3の構成を想到する契機ないしは動機付けとなる記載も示唆もないこと,また,周知例甲2ないし5によっては,単に擬似的な前進加速感を乗客に与えるシミュレーションを行うことが周知技術であったと認められるにすぎず,同シミュレーション技術は相違点1に係る構\成を示唆するものでもないこと等に照らすならば,刊行物記載発明において上記周知技術を考慮したとしても,当業者において,本願発明3におけるシミュレーション利用の技術的意義を容易に着想し,また,それによる効果を容易に想到し得たとは認められないから,当業者が相違点1に係る本願発明3の構成を容易に想到し得たとは認められない。」
◆平成20(行ケ)10026 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年02月17日 知的財産高等裁判所
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2008.12.26
◆平成20(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年12月24日 知的財産高等裁判所
周知技術の認定誤りとして、無効審決が取り消されました。
「・・・これらの事実から,本件出願当時には,ウエハの位置認識・露光機の位置合わせ機構が,「コ」字状部材となることは,当該技術分野における周知技術であったと認められる。そして,甲第1号証記載の発明においても,周辺露光を正確に行うためには,周辺露光機9をウエハ3の周辺部の露光処理をすべき位置に正確に配置することが必要であることは自明であるから,同号証の周辺レジスト除去装置においても,ウエハの位置認識をする手段が設けられているものと考えるのが自然である。そうすると,上記周知技術に照らせば,周辺露光機9が貫通する如く設けられている本件コ字状部材は,単なるホルダーではなく,ウエハの位置認識・露光機の位置合わせ機構\であると認めるのが相当である。
ウ この点,審決は,・・・と判断しているが,上記イで説示したとおり,上記周知技術に照らすならば,本件コ字状部材は,単なるホルダーではなく,ウエハの位置認識・露光機の位置合わせ機構であると認められるから,審決の判断は上記周知技術を考慮せずにされたものであって,誤りというべきである。」
◆平成20(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年12月24日 知的財産高等裁判所
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2008.12.12
◆平成20(行ケ)10099 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年12月11日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由に、拒絶審決が取り消されました。
「ウ ところで,大きさの異なる角型基板の偏向保持は,甲1に明示的に記載されていないところ,それにもかかわらず,この保持形態が甲1に実質的に記載されていると認定することができるのは,これが,甲1の記載を総合してみることによって認められる場合又は当業者にとって周知技術又は技術常識といえる事項を補って認められる場合である。しかしながら,審決は,「引用発明1の前記構成によれば」とし,甲1の記載の内容のみから,大きさの異なる角型基板の偏向保持とそれに対するクリーニングヘッドの変位が可能\であると結論付けており,このような角型基板の保持形態が,当業者にとって周知技術又は技術常識といえる事項を補って認められるものであることは何ら示していない。そして,甲1の記載を総合してみても,大きさの異なる角型基板の偏向保持について記載されているとは認められない。なお,審判手続ないし当審において証拠として提出された書証によっても,偏向保持が当該技術分野の周知技術又は技術常識であると認めることはできず,大きさの異なる角型基板の偏向保持が甲1に実質的に記載されているとの審決の認定を首肯することはできない。」
◆平成20(行ケ)10099 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年12月11日 知的財産高等裁判所
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2008.10. 1
◆平成19(行ケ)10065 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年09月30日 知的財産高等裁判所
引用例の認定に誤りがあるとして、拒絶審決を取り消しました。
「前記ア(イ)のとおり,引用例2(甲2)に記載された連結部材は,「周方向に各々空間33により離間されて,環状列に配置された複数の弓形突出部32」を具えることにより,公知の連結部材に比べて,より柔軟な連結部を構成することを目的とするものと認められる。このような目的に照らせば,引用例2に記載された連結部材は,「周方向に各々空間33により離間されて環状列に配置された複数の弓形突出部32」に「フック部34」を形成したものとして開示されており,「周方向に空間33により離間されたフック部34」単独からなる構\成が開示されているとは認められない。引用例2には,フック部34に関して,「各突出部材32は第1図から明らかな如く弓形で,それぞれ内方へ面するフツク部34を有する。これは各弓形突出部32の全周辺長さに沿つて延びていてよい。」(4頁右上欄7ないし10行)との記載があり,この記載から,引用例2には,各突出部材32の周囲方向の全長にわたってフック部34が形成されているものばかりでなく,その周囲方向の一部にフック部34が形成されているものも示唆されているといえる。しかし,それも,突出部材32にフック部34が形成されていることを前提とするものであって,そのような示唆があることを考慮しても,「周方向に空間33により離間されたフック部34」単独からなる構成が開示されているとは認められない。」
◆平成19(行ケ)10065 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年09月30日 知的財産高等裁判所
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2008.09. 1
◆平成19(行ケ)10422 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年08月06日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、引例の認定誤りを理由として取り消されました。
「したがって,引用発明について「環状の粉末成形体の成形方法であって,ダイ3,下コアロッド1を上げて,あるいは下パンチ2を下げ形成される空隙71に粉末Aを充填する第1工程と,さらにダイ3,下コアロッド1を上げ,あるいは下パンチ2を下げて前記粉末Aの上に空隙7を形成する工程と,粉末Aを圧縮して成形する工程であって,上パンチ5及び円筒状突出部41を有する上コアロッド4が下降し,円筒状突出部41で下コアロッド1を押し下げ粉末Aを圧縮して成形する第3工程と,を包含する環状の粉末成形体の成形方法。」とした審決の認定は,引用文献に記載された粉末成形方法の発明を構成する要素として,円錐形状部を備えない上コアロッドを認定した点において,引用発明の認定を誤ったものというべきである。」
◆平成19(行ケ)10422 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年08月06日 知的財産高等裁判所
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2008.08.28
◆平成19(行ケ)10412 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年08月26日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、引用例の認定誤りとして取り消されました。
「引用発明は,ボールジョイントにより「支竿(2)」を揺動させることで,「支竿(2)」の上端に設けた「腕受け(1)」を略水平方向に移動可能とするものであるのに対し,本願発明は,弾性的支柱の弾性変形により,弾性的支柱の上端に設けたアームレストを略水平方向に移動可能\とするものであり,両者は課題に対する解決方法を異にするものであるから,引用発明は,本願発明に係る技術を示唆するものではない。」
◆平成19(行ケ)10412 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年08月26日 知的財産高等裁判所
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2008.08. 8
◆平成19(行ケ)10422 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年08月06日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決を一致点の認定誤りがあるとして取り消しました。
「上記(1)イのとおり,引用発明の上コアロッドは円錐形状部を有し,この円錐形状部が粉末上面に対して「くさび効果的な作用」をすることによって,円錐状部を高密度で成形することができるという効果を奏するというのであるから,このような形状の上コアロッド及び上パンチの下向きの移動は,少なくとも上コアロッドの円錐形状部においては,粉末に対して軸線方向下方と半径方向外方の中間方向に向かう力(長手軸線に対して斜め下外方向に働く力)が作用することは明らかである。したがって,引用発明は「粉末を圧縮する段階であって,圧縮の間中,粉末と型の間の摩擦力と,粉末とマンドレルの間の摩擦力とが,長手軸線に対して平行でかつ正反対の方向に作用するように長手軸線に対して平行な力を加える」ものでないというべきである。そうすると,審決が,「粉末を圧縮する段階であって,圧縮の間中,粉末と型の間の摩擦力と,粉末とマンドレルの間の摩擦力とが,長手軸線に対して平行でかつ正反対の方向に作用するように長手軸線に対して平行な力を加える」点を含めて本願発明と引用発明の一致点と認定したことは誤りであるといわざるを得ない。」
◆平成19(行ケ)10422 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年08月06日 知的財産高等裁判所
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2008.08. 1
◆平成20(行ケ)10062 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年07月30日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした拒絶審決が、引例との一致点・相違点の認定が異なるものの結論に影響がないとして維持されました。
「本願発明は,「自動車運転用の模擬教習機器」に関するものであるところ,前記2で述べたところによると,ここでいう「自動車運転用の模擬教習機器」とは,実際に自動車の運転をすることができるように教習するために用いる機器という意味であると認められる。これに対し,引用発明は,上記のとおり,子供が遊ぶための玩具であるから,この点において,本願発明と引用発明は相違するということができる。審決は,本願発明と引用発明は,「自動車運転用の模擬機器」という点で一致すると判断しているが,本願発明において「自動車運転用の模擬教習機器」は,上記のような一つの技術的な意義を有するものと認められるのであり,これを「自動車運転用の模擬機器」と「学習」とに分けて引用発明と対比することは相当でないというべきである。引用発明が「自動車運転用の模擬機器」でない旨の原告の主張(取消事由1)は,上記の限度では理由があり,相違点3は,「本願発明が自動車運転用の模擬教習機器であるのに対して,引用発明はハンドル玩具である点。」と認定すべきである。しかし,後記7のとおり,この一致点認定の誤りは,結論に影響するものではない。・・・・前記4(2)のとおり,相違点3は,「本願発明が自動車運転用の模擬教習機器であるのに対して,引用発明はハンドル玩具である点。」と認定すべきであるが,この相違点は,次のとおり当業者が容易に想到することができるというべきである。ア 前記5及び6で述べたところからすると,当業者は,引用発明に相違点1,2に係る本願発明の発明特定事項を採用したもの,すなわち,助手席の前面に取り付けまたは取り外しができるように配置される支持体に対して,模造ハンドル,模造ブレーキ,模造アクセル及び模造方向指示器(MT車の場合は,以上に加えて,模造クラッチ)が取り付けられており,これらは,実際のものと同一サイズであって,支持体を助手席の前面に配置したとき,運転席における実際のものが占めるべき位置と同じところに位置するように,かつ実際のものの動きに類似した動きができるように,支持体に取り付けられており,さらに,これらの動きは,運転席に配備された実際のものの動きとは,何らの関係をも持たないように構成されたハンドル玩具を容易に想到することができるというべきである。イ 上記アのものは,玩具である点で本願発明とは異なるが,運転者の運転をまねして同様の操作をすることができる点では,本願発明の自動車運転用の模擬教習機器と共通する。そして,次のとおり,自動車運転を指導者から学ぶ目的又は運転教習の目的で用いられるものが,遊戯装置としても用いられることが知られている。・・・ウ 以上によると,当業者は,上記アのものを自動車運転用の模擬教習機器として使用することを容易に想到することができるのであって,上記相違点3に係る本願発明の構\成は,当業者が容易に想到することができるというべきである。」
◆平成20(行ケ)10062 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年07月30日 知的財産高等裁判所
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2008.03.31
◆平成19(行ケ)10279 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年03月27日 知的財産高等裁判所
先願明細書には〜の発明が記載されているので,相違点に係る本件発明の構成も記載されていることは自明であるとした審決の認定は誤りであるとして、無効審決を取り消しました。
「もっとも,先願明細書には,甲2(特開平6−22604号公報)記載の従来の整畦機として,「水平状の回転軸に畦上面を形成する円筒状の回転体並びにこの回転体の両端部に畦の内外側面を形成する円錐面を有する内側回転板及び外側回転板を固着する構成」及び「前記水平状の回転軸に外側回転板を省略して前記回転体及びこの回転体の内端部に固着した円錐面を有する内側回転板を固着する構\成」が開示されている(上記(ア)c)。しかし,「水平状の回転軸に円錐面を有する回転板及び回転体が固着され,かつ,この回転体は円筒状」との構成は,【発明が解決しようとする課題】として言及されているにすぎず(上記(ア)d),先願明細書記載の整畦機が採用した構成と異なることは明らかである。また,上記構\成の一部である「水平状の回転軸に円錐面を有する回転板及び回転体が固着」するとの構成のみを切り離して,先願明細書記載の整畦機において適用できることや,これを適用した場合の具体的配置構\成についての記載は一切ない。そして,上記(イ)のとおり,先願明細書には,先願明細書記載の整畦機の実施例として,畦塗り体30の駆動軸である回転軸31の「上部に」,回転機構(回転伝達機構\)が連設された構成以外の構\成の記載がなく,他の構成が適用できることを明示的に示唆する記載もないことに照らすならば,先願明細書に接した当業者が,先願明細書記載の整畦機に,甲2記載の従来の整畦機の構\成の一部である「水平状の回転軸に円錐面を有する回転板及び回転体が固着」するとの構成,ひいては,審決にいう「回転軸の一端側に回転伝達機構\を連設し,該回転軸の他端側に回転整畦体を設けるようにした配置構成」が実質的に記載されていると理解すべき事情があるとはいえない。
◆平成19(行ケ)10279 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年03月27日 知的財産高等裁判所
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2007.05. 2
◆平成18(行ケ)10435 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年04月26日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。
「(5) 以上を総合すると,上記(1)イの「従来,上記の粘着クリーナー用テープには,テープ状または長尺シート状の片面粘着テープに長さ方向の一定間隔ごとにミシン目状の切り目を施し,これを粘着面を外側に向けて芯管上に巻回したものを用いている。」との記載について,「最後に使用する場合でも,切れ目間の粘着面で全周にわたりゴミを付着できるよう,粘着テープの巻き始め部分において,切れ目間の一定の間隔を周長を360°となるよう,切れ目間の一定間隔を選定するもの」(態様(2)「内径基準」)が包含されているものと解することはできない。
(6) 被告は,甲3にかかる出願が審査され公告決定を受けて発行された公報(平1−11167号。乙1)の4欄9行〜14行の「(なお,従来,ミシン目の間隔を一定としたものが公知(間隔はほぼ上記の2πD)であるが,この構成では,上記?@式のΔLを負にしなければならず,これは巻回体外周にミシン目が表出することを意味する。)」との記載に基づいて,上記(1)イの「従来,上記の粘着クリーナー用テープには,テープ状または長尺シート状の片面粘着テープに長さ方向の一定間隔ごとにミシン目状の切り目を施し,これを粘着面を外側に向けて芯管上に巻回したものを用いている。」との記載には,審決の「態様(2)(内径基準)」が包含されているものと主張するが,乙1は,甲3とは別の文献であるから,甲3にはない乙1の記載を根拠として審決取消訴訟において上記のような主張をすることはできないし,乙1においても,審決のいう「態様(2)(内径基準)」によった場合,切れ目が実質上重なることにより,「ロール状粘着クリーナー用テープの切り目個所を硬い床面等に強く衝突させた場合,その切れ目個所が割れ易く,問題がある。」ということはできないことは,甲3と変わりがないから,乙1の記載を考慮したとしても,上記(5)の結論が左右されることはない。」
◆平成18(行ケ)10435 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年04月26日 知的財産高等裁判所
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2007.04.23
◆平成18(行ケ)10499 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年04月25日 知的財産高等裁判所
請求理由なしとした無効審決を取り消しました。
「そうすると,審決は,結果として,引用例2の中から,引用発明1に無用の事柄を抽出し,これを引用発明2Aに結合させることによって,引用発明1と相容れない公知技術を創出したものといわざるを得ない。本件相違点についての判断において,引用発明1に引用発明2Aを適用する動機付けが問題となるのであれば,その時点で,引用例2の記載の全体を観察して,動機付けの有無,阻害事由の有無などを検討すべきである。審決のような引用発明2の認定の手法は,正確性を欠き,容易想到性の判断を誤らせる要因となるものであって,誤りというべきである。このように,引用発明2の認定の誤りは,それ自体で取消事由となるのではなく,これが相違点についての認定判断に結び付いて,審決の結論に影響を及ぼすときに初めて取消事由となるものと解すべきである。」
◆平成18(行ケ)10499 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年04月25日 知的財産高等裁判所
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2007.02. 6
◆平成18(行ケ)10138 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年01月30日 知的財産高等裁判所
引用例の認定が誤っているとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
「以上のとおり,引用例1(甲1)には,「位相差板とミラーを有しない反射型直線偏光素子を備えた液晶表示素子の発明」が記載されていると認めることはできないのであるから,引用例1の液晶表\示素子から,必須の構成である反射型直線偏光素子とミラーとの間に配置された位相差板を除外し,反射型偏光子のみを単独で取り出し,「液晶表\示素子であって,光源,表示モジュール,及び,一方の偏光を透過し,他の一方の偏光を反射する反射型直線偏光素子を含む,液晶表\示素子。」の発明(審決のいう引用発明)が開示されているとした審決の認定は,誤りであるというほかない。審決は,本願発明と引用発明との相違点1の判断において,「引用例2には,光源と隣接する端を有し,前記光源からの光が,導光器の端に入り,前記導光器の出口表面を通って前記導光器を出る導光器が示唆されていると言える。そして,引用発明及び引用例2に記載された発明は,いずれも表\示装置という同一技術分野に属している。したがって,引用発明に引用例2に記載された発明の導光器を適用して相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である」(審決5頁第1段落〜第2段落)とのみ判断し,引用例1の液晶表\示素子の「位相差板,光源,ミラー」に替えて引用例2(甲2)記載の「導光器」とすること,すなわち,引用例1の液晶表示素子を「位相差板,ミラー」を有しないものとすることについての想到容易性を何ら検討をすることなく,本願発明の進歩性について判断したことは明らかであり,審決の判断はこの点の検討を看過した誤りがあるというほかない。」
◆平成18(行ケ)10138 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年01月30日 知的財産高等裁判所
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2006.10. 6
◆平成18(行ケ)10053 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成18年09月28日 知的財産高等裁判所
引例の認定が誤っていることを前提として、進歩性無しとした審決を取り消しました。
「乙1技術は,両屈折片を起立させ係止が完了したときに,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むようにするというものであるが,そもそも,乙1技術は,二つの舌片を互いに共辺部の一点で押し合うことによってはじめて掛止させるものであり,このことは,共辺部の全域が直接である場合に限らず,両端に湾曲部分あるいは折れ曲がり部分を形成する場合も同様であって,乙1技術において,二つの舌片を互いに共辺部の一点で押し合うようにすることは,二つの舌片を掛止させるための必須の構成であり,不安定な掛止をより確実なものとするようなものではない。これに対し,本願補正発明は,上側係止片及び下側係止片で構\成される係止部を有する構成において,その係止部の「最奥部」を係止点として係止し,係止時において,「各屈折片側に食い込む係止部」の「最奥部」が,それぞれ,対向する係止部の最奥部において,単に,相互に接触して係止するのみならず,屈折片の若干のたわみにより,相互に押し合う状態を生じさせる構\成であり,その結果,屈折片の最終的な係止状態において,より強固な係止力を発揮させるというものであって,係止のための技術的思想が異なるものであり,係止方法につき,乙1技術においては,本願補正発明のような技術的思想はない。加えて,引用例1発明の認定には争いがないところ,引用例1(甲7)の・・・との記載によれば,引用例1発明は,揚支片の基点が対面する位置において張出部の谷間で揚支片が交叉することにより二つの揚支片を掛止させるものと認められる。そうすると,引用例1発明と,乙1技術とは,揚支片ないし舌片を掛止させるための作用においてそもそも異なるのであり,仮に,乙1技術のような,二つの舌片を互いに共辺部の一点で押し合うことによって掛止させる技術が本件出願時に周知のものであったとしても,この技術をいかにして引用例1発明に適用するのかということ自体,想定することが困難であり,動機付けを欠くというべきである。」
◆平成18(行ケ)10053 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成18年09月28日 知的財産高等裁判所
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2005.05.17
◆H17. 5.12 知財高裁 平成17(行ケ)10300 特許権 行政訴訟事件
電子マネー関係の特許(CS関連発明?)について、「残高を読取り,出金後にそれを更新するとの記載はないものの,そのような動作を行っているとするのが自然であり合理性がある。」と推断した審決を取り消しました。
◆H17. 5.12 知財高裁 平成17(行ケ)10300 特許権 行政訴訟事件
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2005.04.15
◆H17. 4.12 知財高裁 平成17(行ケ)10091 特許権 行政訴訟事件
一部の請求項について、29条2項の判断につき、その論理付けに誤りがあるとして、特許取消決定が取り消されました。
「当業者が相違点に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たというためには,・・・特定の課題の解決や効果の発現と関連性を有することを,当業者が容易に想到し得たことが必要であるというべきところ,決定の引用する・・公報の記載を考慮しても,そうした関連性の存在が,本件出願当時,当業者にとって周知の事項であったと認めるに足りないことは,上記(4)のとおりである。そうとすれば,決定は,上記関連性の点を何ら明らかにしないまま,相違点に係る本件発明1の構成の容易想到性を肯定したものであって,その論理付けには,結論に影響を及ぼすべき誤りがあるものといわざるを得ないから,原告の取消事由1の主張は理由がある。」
◆H17. 4.12 知財高裁 平成17(行ケ)10091 特許権 行政訴訟事件
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2004.06.11
◆H16. 6.16 東京高裁 平成14(行ケ)638 特許権 行政訴訟事件
裁判所は、引用例の認定が誤っているとして、拒絶審決を取り消しました。
「引用例1の記載は「信頼性の向上等により弾性表面波フィルタのチップ実装が可能\になった場合には」というものであり,・・・チップ実装においては,アイソレーションやチップ表\面へのごみの付着等,種々の解決すべき技術的課題があることが認められるところ,本件全証拠によっても,引用例1の刊行物頒布当時の技術水準において,引用例1がいう「信頼性の向上等により弾性表面波フィルタのチップ実装が可能\になった」状況にあったことを認めるには足りない。したがって,引用例1の上記記載によって,引用例1に「チップ上に設けられ,それぞれ異なる帯域通過特性を有し,かつ,それぞれ信号入出力端子及び接地端子の設けられた第1及び第2の弾性表面波フィルタと,前記第1及び第2の弾性表\面波フィルタを同一キャビティに収納する一つの長方体のパッケージ」という本願発明の構成が記載されているものと認めることはできない。」と述べました。
◆H16. 6.16 東京高裁 平成14(行ケ)638 特許権 行政訴訟事件
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2004.04.22
◆H16. 4.20 東京高裁 平成14(行ケ)393 特許権 行政訴訟事件
先願発明の製造工程に関する開示では当該物が製造できないという場合でも、物の発明については、先願(特29条の2)としての記載があると判断されました。
「先願明細書に,シアノ体からアミド体を硫酸存在下で加熱加水分解で製造することが記載され,そしてその具体的反応条件,さらに生成物の分離手段,そして生成物の融点が数値を伴って記載されているのであるから,当業者であれば,シアノ体からアミド体を製造することができるものであることを理解でき,その記載のまま実施して反応が進行しないときであっても,そこに記載された反応条件を適宜強める調整をすることによりアミド体を製造することができると認められる。以上のとおりであるから,先願明細書の参考例1の(?A)の反応工程は,アミド体を製造することができることを理解し得る程度に記載されているということができる。原告らは,特許法29条の2の後願排除効が認められる先願発明というためには,当該発明が「完成された発明」として先願明細書に記載されていなければならないとし,先願明細書には,これをそのまま追試しても,本件生成物を全く得ることができないから,完成された発明として,先願明細書に記載されているということはできない,と主張する。しかしながら,先願明細書について,これをそのまま追試することによっては本件生成物が得られなかったとしても,当業者が本件生成物を得られないということはできないことは,上に説示したところから明らかである。」
◆H16. 4.20 東京高裁 平成14(行ケ)393 特許権 行政訴訟事件
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2003.02. 3
◆H15. 1.28 東京高裁 平成13(行ケ)551 特許権 行政訴訟事件
裁判所は、進歩性の基準となった引用例の認定が間違っているとして、審決を取り消しました。
裁判所は、「被告は,いずれもレンチキュラーレンズを用いた透過型スクリーンに関する発明であるから,第1引用例発明と周知技術を組み合わせる動機付けはある旨主張するが,技術分野が同一であったり関連するとしても,複数の発明を組み合わせることを妨げる要因がある場合には,複数の発明を結びつけることが容易でないことは当然である。被告の主張は,採用することができない。」と述べました。
◆H15. 1.28 東京高裁 平成13(行ケ)551 特許権 行政訴訟事件
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