2015.12.14
平成27(行ケ)10042 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年12月10日 知的財産高等裁判所
引用例の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決が取り消されました。
この点に関し,本件審決は,引用例【0005】,【0030】,【0067】
及び【0086】の記載から,骨形成を促進する目的のためには,カルシウム化合
物粒子の露出の程度が大きい方が好ましいことは,明らかであると判断した。
しかし,前記2のとおり,これらの段落には,リン酸カルシウム化合物粒子が基
材シートに完全に埋入していたり,露出量が極端に少ない場合は,リン酸カルシウ
ムと骨との結合が図られず,骨の補填が効率良く進行しないおそれがあること
(【0005】),基材シートの片面側にリン酸カルシウム化合物粒子の一部を露出
させることにより,リン酸カルシウムと骨との結合が図られ,骨形成性が促進され
ること(【0030】,【0067】,【0086】)が記載されているにとどまり,露出の程度については,言及されていないし,示唆もない。
ウ なお,引用例【0046】には,「リン酸カルシウム系化合物からなる粒子
と基材シートを構成する生体吸収性高分子物質とを予\め混合し,かかる混合物から
成形されたシート状物に比べ,基材シートの表面から露出する粒子の密度や割合が\n多く,リン酸カルシウム系化合物と骨との接触・結合を積極的に図ることができる。
このように露出したリン酸カルシウム系化合物の粒子は骨形成の核となって骨形成
を促進することができる。さらに,露出する粒子は骨との結合が可能であるため,\n体内への散在を抑制することができる。」との記載がある。しかし,【0046】の
記載は,リン酸カルシウム化合物粒子と生体吸収性高分子物質との混合物から成形
されたシート状の物と,リン酸カルシウム化合物粒子を基材シートの面上に付着さ
せ,プレスによって同粒子の一部は基材シートに埋入させ,その余は露出した状態
である引用発明に係る骨補填用シートとを比較するものである。前記シート状の物
において,リン酸カルシウム化合物粒子は,それ自体がシート状の物の面上にある
わけではなく,シート状の物を構成する混合物の成分として存在することに鑑みる\nと,「基材シートの表面から露出する粒子の密度や割合が多く」とは,各粒子が基\n材シートの表面から露出する程度ではなく,粒子全体に対して基材シートの表\面か
ら露出する粒子の密集度やそのような粒子が占める割合が多いことを指すものと解
される。また,引用例【0047】には,「プレスすることにより粒子を固定させる方法によれば,基材シート4の表面において,部分的に粒子の露出量や粒子密度,さら\nに粒子の大きさ,構成材料等を変えることが容易であり,自由度が非常に大きい。」\nとの記載がある。しかし,【0047】の記載は,【0046】の記載に続くもので
あることから,「部分的に粒子の露出量や粒子密度」「を変えることが容易であり,
自由度が非常に大きい。」という記載も,前記の粒子全体に対して基材シートの表\n面から露出する粒子の密集度やそのような粒子が占める割合を容易に変えられるこ
とを意味し,各粒子が基材シートの表面から露出する程度を容易に変えられること\nを意味するものではない。
したがって,【0046】及び【0047】の記載はいずれも,前記のとおり本
願発明と引用発明との相違点に係る個々のカルシウム系化合物粒子が基材シートか
ら露出する程度に関わるものではない。
エ また,本件審決は,引用例【0048】から【0051】には,基材シート
と粒子を直接付着する方法等が記載されており,必ずしも「プレス」による付着方
法のみが記載されているわけではなく,しかも,「粒子の露出の程度」は,それら
の方法に応じて様々なものになることは技術常識であるとして,粒子の露出の程度
を適宜変更するべくプレス以外の付着方法を採用することも当業者が容易になし得
た旨判断した。
しかし,前記2のとおり,引用例においては,従来技術の課題を解決する手段と
して,1)基材シートの少なくとも片面側にリン酸カルシウム系化合物からなる粒子
を付着させること及び2)その粒子をプレスして基材シートに埋入させることが開示
されており,本件審決が指摘する【0048】から【0051】は,前記1)の「付
着」の方法に関するものである。また,前記2によれば,前記2)の「プレス」は,
前記課題を解決する手段として不可欠なものというべきである。
したがって,引用例に接した当業者において,前記2)の「プレス」を実施しない
ことは,通常,考え難い。
オ 以上のとおり,引用例の記載において,露出の程度に触れているものはない
ことに照らすと,引用例には,個々のカルシウム化合物粒子が基材シートから露出
する程度につき,大きい方が好ましいことが示されているということはできない。
(3) 相違点2の容易想到性
前記(2)のとおり,引用例には,個々のカルシウム化合物粒子が基材シートから露
出する程度につき,大きい方が好ましいことが示されているということはできない。
また,本願優先日当時においてそのような技術常識が存在していたことを示す証拠
もない。したがって,本願優先日当時において,引用例に接した当業者が,個々のカルシウム化合物粒子が基材シートから露出する程度をより大きくしようという動機付け
があるということはできない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 要旨認定
>> 引用文献
▲ go to TOP
2015.12. 5
平成27(行ケ)10093 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年11月30日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について審決は進歩性有りと判断しましたが、知財高裁は引用文献の認定誤りを理由に、これを取り消しました。
甲1発明3の「データ管理部」に格納されている「安全管理情報」
は,「工事にかかる安全情報で,事故歴等を入力しておくと,同じ工事
を次に行う場合に参考になる」情報であり(甲1の段落【0024】),
例えば,「代表作業用キーワード(細別)」が「コンクリート打設」で\n「規格」が「大」の場合は,「ポンプ車等車の出入りと通行人を誘導す
る管理人 1」であり,「代表作業用キーワード(細別)」が「コンク\nリート打設」で「規格」が「小」の場合は,「1輪車運転中,障害物に
よるバランスに注意」である(甲1の段落【0041】,【0044】,
図2及び3)。
しかるところ,上記「安全管理情報」の「ポンプ車等車の出入りと通
行人を誘導する管理人 1」とは,「大規模コンクリート打設」には,
「ポンプ車,コンクリートミキサー車,砂利運搬車の出入り等に関する
安全を確保するために交通整理を行う管理人が必要になる。」(甲1の
段落【0044】)というものであり,「ポンプ車等車の出入り」とい
う「危険有害要因」に対応して発生し得る交通事故(「事故型分類」)
に対する予防策として交通整理を行う管理人が必要であることを示した\nものといえるから,上記「安全管理情報」は,本件発明1の「危険有害
要因および事故型分類を含む危険情報」に該当することが認められる。
また,上記「安全管理情報」の「1輪車運転中,障害物によるバラン
スに注意」とは,「障害物」という「危険有害要因」に対応して「1輪
車運転中に障害物によってバランスを崩すことによる事故」(「事故型
分類」)が発生し得ることを示したものといえるから,上記「安全管理
情報」も,本件発明1の「危険有害要因および事故型分類を含む危険情
報」に該当することが認められる。
そして,甲1発明3の「データ管理部」に格納されている「原価管理
情報」及び「安全管理情報」は,甲1の図1ないし図3に示すように,
いずれも「代表作業用キーワード(細別)」(「コンクリート打設」)\n及びその各「規格」(「大」,「中」,「小」)ごとに関連付けられて
格納されていることが認められ,「安全管理情報」の格納の態様は,「工
事名称」(「代表作業用キーワード(細別)」)に関連付けられた「要\n素」(「規格」)に関連付けられたものといえるから,甲1発明3の「デ
ータ管理部」には,本件発明1の「前記要素に関連付けられた危険有害
要因および事故型分類を含む危険情報が規定されている危険源評価マス
ターテーブル」(相違点2に係る本件発明1の構成)が格納されている\nものと認められる。
(ウ) この点に関し,本件審決は1)甲1発明3においては,本件発明1
の「歩掛マスターテーブル」と「危険源評価マスターテーブル」に共通
に格納される「要素」に相当するものが存在しないから,本件発明1の
「要素」の構成を有するものではない,2)甲1の記載をみても,「デー
タ管理部」に格納される情報をが「テーブル」として格納するとの記載
はなく,そのことが自明ともいえない,3)甲1発明3の「安全管理情報」
は,本件発明1のように工事にかかるリスクを抽出する目的で,各作業
工程において発生しうる危険としての「有害要因」とその「事故型分類」
とに整理分類して設定したものではないから,本件発明1の「危険有害
要因」及び「事故型分類」に相当する情報は含まれておらず,本件発明
1とは「危険情報」である点で共通するに留まるとして,本件発明1の
「危険源評価マスターテーブル」が存在しない旨認定した。
しかしながら,上記1)の点については,甲1発明3において,「歩掛
マスターテーブル」と「危険源評価マスターテーブル」に共通に格納さ
れる「要素」に相当するものが存在することは,前記ア(カ)認定のとお
りである。
また,上記2)の点については,前記(イ)認定のとおり,甲1発明3に
おける「安全管理情報」の格納の態様は,「工事名称」(「代表作業用\nキーワード(細別)」)に関連付けられた「要素」(「規格」)に関連
付けられたものであるから,複数のデータ項目が関連付けられて「表」\n形式で記憶されているものと認められ,「テーブル」に該当するものと
いえる。
さらに,上記3)の点については,本件発明1の特許請求の範囲(請求
項1)には,「事故型分類」に係る「分類」の方式や態様を規定した記
載はなく,本件明細書にも,「事故型分類」の語を定義した記載はない
ことに照らすと,甲1発明3の「安全管理情報」は,工事にかかるリス
クを抽出する目的で,各作業工程において発生しうる危険としての「有
害要因」とその「事故型分類」とに整理分類して設定したものではない
からといって,本件発明1の「危険有害要因」及び「事故型分類」に相
当する情報に該当しないということはできない。
以上によれば,本件審決の上記認定は,誤りである。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 引用文献
>> コンピュータ関連発明
▲ go to TOP
2015.12. 5
平成26(ネ)10102 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成27年11月30日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明について、進歩性がないので104条の3により権利できないとした1審判断が維持されました。
相違点に係る本件発明1の構成は,「危険源評価データ生成手段」が「前\n記演算手段を使用して,前記危険源評価マスターテーブルを参照して,前
記内訳データ生成手段により生成された内訳データに含まれる各要素に基
づき,当該各要素に関連する危険有害要因および事故型分類を抽出し,該
抽出した危険有害要因および事故型分類を含む危険源評価データを生成す
る」(構成要件2−E)というものである。\n本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載には,「危険源評価デ
ータ」が抽出した危険有害要因及び事故型分類を含むことのみが特定され
ており,その形式や態様等が特定されているわけではないから,「危険源
評価データ」は,抽出した危険有害要因及び事故型分類を含むものであり
さえすれば足りるものと解される。
他方,乙5発明において,「内訳データ」に含まれる「要素」である「規
格」に基づき,「危険源評価マスターテーブル」を参照し,「当該要素に
関連する危険有害要因及び事故型分類」(「安全管理情報」)を抽出して
いることは,前記(4)オ認定のとおりである。
そして,乙5発明において,上記抽出した「安全管理情報」を利用する
ためにこれをデータとして出力し,「危険有害要因及び事故型分類を含む
危険源評価データ」を「生成」するように構成することは,当業者であれ\nば格別の困難なく行うことができたことが認められる。
したがって,乙5に接した当業者であれば,相違点に係る本件発明の構\n成(構成要件2−Eの構\成)を容易に想到することができたものと認めら
れる。
◆判決本文
◆原審はこちらです。平成25(ワ)19768
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 要旨認定
>> 引用文献
>> 104条の3
>> コンピュータ関連発明
▲ go to TOP
2015.10.27
平成26(行ケ)10148 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年9月28日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決が取り消されました。
前記(2)のとおり,甲11発明では,GaN基板を研磨機により研磨する
ことによって生じた表面歪み及び酸化膜を除去してn型電極のコンタクト抵\n抗の低減を図り,また,電極剥離を防止するために,ウエハーをフッ酸又は
熱燐酸を含む硫酸からなる混合溶液でエッチング処理するものとされている。
そうすると,甲11発明においては,GaN基板では,必要とするコンタク
ト抵抗を確保するためには,研磨機による研磨及び鏡面出しのみでは不十分\nであり,表面歪み等を除去する必要があることが示唆されているものといえ\nる。しかしながら,他方で,甲11には,表面歪みの程度や除去すべき範囲\nについての具体的な記載はない。そうすると,甲11発明に接した当業者は,
甲11発明において,研磨機による研磨後,ウエハーのエッチング処理を行
う際に,コンタクト抵抗の低減を図るために,上記表面歪みをどの程度の範\n囲のものととらえてこれを除去する必要があるかについて検討する必要性が
あることを認識するものといえる。
そして,かかる認識をした当業者であれば,前記(3)アないしウにおいて
認定した技術常識等に基づいて,甲11発明においても,研磨機による研磨
によって加工変質層と呼ばれる層に転位が生じているため,この転位がキャ
リアである電子をトラップしてキャリア濃度が低下し,それによってコンタ
クト抵抗が高くなるという作用機序は容易に想起できるものといえる。さら
に,前記(3)エにおいて認定したとおり,少なくともシリコンについては,
転位を含む加工変質層は完全に除去すべきものとされていたところ,前記
(3)イのとおり,上記の転位を含む加工変質層がコンタクト抵抗に与える影
響についてはシリコンにおいてもGaN系化合物半導体においても同様であ
る上に,コンタクト抵抗は低いほど望ましいことに鑑みると,当業者として
は,甲11発明における表面歪み(なお,ひずみ層も加工変質層に含まれ\nる。)を,研磨機による研磨で生じ,透過型電子顕微鏡で観察可能な転位を\n含む加工変質層としてとらえ,あるいは,表面歪みのみならず加工変質層の\n除去についても考慮して,コンタクト抵抗上昇の原因となる加工変質層を全
て除去できるまで上記のエッチング処理を行って,基板に当初から存在して
いた転位密度の値に戻すことで,キャリア濃度が低下する要因を最大限に排
除し,コンタクト抵抗の低減を図ることは,容易に想到できたことと認めら
れる。
・・・
ア 被告は,1)GaN以外の化合物半導体では,電極形成における合金化に
よって,コンタクト抵抗増大という課題が発生することはなかったのであ
るから,基板裏面の機械研磨によって転位が生じ,これによりコンタクト
抵抗が増大するという問題は,GaN基板において初めて発見された現象
であり,本件特許発明によって初めて得られた知見であるから,当然,G
aN基板において,電極形成面における転位が除去すべきものであること
も知られていなかったし,このような知見がなければ,発生した転位を電
極形成前に除去して元の基板裏面の状態に戻すという問題意識も生じない,
2)原告は,GaN基板裏面の機械研磨によって転位が生じることが技術常
識であることを示す証拠を提出していないし,原告が提出したどの文献に
も,GaN基板の電極を形成する裏面を機械研磨すると,原子レベルの線
状の欠陥である転位が生成して,コンタクト抵抗が上昇することや,転位
に着目し,これを電極形成前に除去することの記載はない,3)このように,
除去すべき必要性や課題が認識されていない加工変質層について完全に除
去するなどという周知技術は存在しない,などと主張する(前記第4の1
(1))。
しかし,前記(3)イ及びウにおいて説示したところに照らし,甲11発
明に接した当業者において,転位がキャリアである電子をトラップしてキ
ャリア濃度が低下し,それによってコンタクト抵抗が高くなるという作用
機序を容易に想起できるといえることは,前記(4)において説示したとお
りである。
そして,GaNを含む窒化物半導体においても,機械研磨により,転位
を含む加工変質層が生じることが本件優先日当時の当業者の技術常識であ
ったことは前記(3)アにおいて説示したとおりであり,この点が窒化物半
導体の裏面を機械研磨した場合において異なると理解すべき根拠もない。
また,前記(3)エにおいて説示したとおり,少なくともシリコンについ
ては,電気的特性に悪影響を及ぼすことや,ウエハーの反りやクラック発
生の原因となることから,加工変質層は完全に除去すべきものとされてい
るところ,研磨機による研磨によって加工変質層と呼ばれる層に転位が生
じ,この転位がキャリアである電子をトラップしてキャリア濃度が低下し,
それによってコンタクト抵抗が高くなるという作用機序を想起した当業者
であれば,GaNから成る窒化物半導体についても,転位を含む加工変質
層を全て除去する必要があることは容易に想到し得たものというべきであ
ることは前記(4)において説示したとおりである。
◆判決本文
関連事件です。こちらは請求棄却です(無効理由なしとした審決維持)
◆平成26(行ケ)10147
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 要旨認定
>> 引用文献
▲ go to TOP
2015.10.25
平成27(行ケ)10024 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟 平成27年10月22日 知的財産高等裁判所
めずらしく実用新案権についての無効判断です。審決は無効理由なしと判断しましたが、知財高裁は引用文献から理解できるとして、これを取り消しました。
上記記載によれば,甲1考案で分解反応に用いる酸素は,有機性廃棄物と無機性
廃棄物との混合物中の水分に溶解した形で供給されるものであるから,有機性廃棄
物の効率的な分解のために,上記混合物中の水分に溶解した酸素の量が多い方が望
ましいことは,当業者にとって明らかである。
一方,前記1(3)のとおり,甲2考案は,密閉型の発酵槽を使用した発酵処理装置
において,発酵槽の上下部に複数の開口を有する吸気管及び送気管を配置し,循環
路に送風機及び外気取り入れ口を設け,発酵槽内を空気循環による好気雰囲気に保
持する空気循環機構である。甲2考案の空気循環機構\を用いた場合には,発酵槽の
下部に配置された送気管から送出された空気が有機性廃棄物を通過するから,有機
性廃棄物中の水分に空気中の酸素を溶解させる上で好都合であることは,当業者で
あれば容易に理解できることである。
そうすると,甲1考案において,分解反応を促進するために,有機性廃棄物と無
機性廃棄物との混合物中の水分に溶解する酸素量を多くして,甲2考案の空気循環
機構を採用して相違点4に係る本件考案の構\成とすることは,きわめて容易である
といえる。
甲1には,上記のとおり,「空気の供給量は,有機性廃棄物の混合物1Kg当たり,
一般に,10〜500L/分好ましくは50〜100L/分である。10L/分未満で
は,水に溶解する酸素量が少なく,500L/分より大では,反応混合物の温度を下
げ,乾燥させすぎて分解反応を阻害することとなる。」(【0025】)との記載があ
るが,この記載は,空気の供給量の許容範囲を定めたものにすぎず,当業者が,こ
の記載に基づき,甲1考案において,空気の供給方法は通気口からのものに限定さ
れているとか,通気口からの空気のみでその供給量が十分なものとされていると理\n解するとはいえない。
(3) 被告の主張について
被告は,甲1には水に溶解される酸素の量をできる限り大きくすることが好まし
いとの記載はない旨を主張するが,上記(2)(3)のとおり,その主張は失当である。
また,被告は,本件考案における空気の循環は,槽内空気の流速(線速度)を速
めたり,過酸化水素の生成をもたらせることが目的であり,空気の溶解量を増やす
ためのものではない旨を主張するが,本件明細書にはそのような目的から空気を循
環させる旨の記載はない。被告の上記主張は,明細書に基づかないものであるから,
失当である。
さらに,被告は,甲1考案は微生物を利用したものではなく,微生物の発酵処理
に適した好気雰囲気を保持する課題は存しないから,甲2考案を組み合わせる動機
付けはない旨を主張する。しかしながら,空気循環による好気雰囲気を保持するこ
とによって有機性廃棄物中の水分に溶解する酸素量を多くするとの技術事項を適用
するに当たり,有機性廃棄物の分解機序が相違することは,その適用の妨げとなる
ものではない。被告の上記主張は,採用することができない。
なお,甲2考案は,被処理物の保湿分布を均一にして処理反応を均一かつ効率的
に起こさせるという技術課題を直接の対象とするものであり(【0004】),この課
題の解決のため,甲2考案は,前記1(3)のとおり,発酵槽内の上下部に吸気管及び
送気管を配置して,発酵槽内を空気循環による好気雰囲気に保持させていた従来技
術に加えて,上記保湿分布の均一との技術課題の観点から,発酵槽内の上下部にあ
るパイプに送吸気を兼ねさせて,発酵槽を上下に反転操作できるようにしたもので
ある。そうすると,空気循環による好気雰囲気を保持するための空気循環機構を適\n用するに当たり,保湿分布の均一化のための機構を必ずしも要するものでないこと\nは,当業者であれば,甲2から容易に読み取ることができる。したがって,甲1考
案に保湿分布を均一にするという技術課題がないからといって,甲1考案に甲2考
案の上記にいう空気循環機構を適用することが妨げられるものではない。\n
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 要旨認定
>> 引用文献
▲ go to TOP
2015.10. 2
平成26(行ケ)10240 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年9月30日 知的財産高等裁判所
進歩性判断において、引用文献記載の発明認定は、請求の範囲に限定されないと判断されました。
進歩性の有無を判断する基礎となる引用発明が「刊行物に記載された発明」の場
合,当該発明は,当該刊行物に接した当業者が把握し得る先行公知技術としての技
術的思想である。そうすると,当該刊行物が甲1文献のような公開実用新案公報の
場合には,考案の詳細な説明なども含め,当該公報全体に記載された内容に基づい
て引用発明が認定されるべきであって,実用新案登録請求の範囲に記載された技術
的思想に限定しなければならない理由はない。
そして,引用発明の認定は,これを本件発明と対比させて,本件発明と引用発明
との相違点に係る技術的構成を確定させることを目的としてされるものであるから,\n本件発明との対比に必要な技術的構成について過不足なくされなければならない。\nその際,刊行物に記載された技術的思想ないし技術的構成を不必要に抽象化,一般\n化すると,恣意的な認定,判断に陥るおそれがあることに鑑みれば,当該刊行物に
記載されている事項の意味を,当該技術分野における技術常識を参酌して明らかに
するとか,当該刊行物には明記されていないが,当業者からみると当然に記載され
ていると解される事項を補ったりすることは許容され得るとしても,引用発明の認
定は,当該刊行物の記載を基礎として,客観的,具体的にされるべきである。
上記アにおいて認定した甲1文献の記載内容によれば,審決における甲1発明の
認定は,本件発明との対比に必要な技術的構成について過不足なくされているし,\n甲1文献の記載を基礎として,客観的,具体的にされたものといえるから,この認
定に誤りがあるということはできない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 要旨認定
>> 引用文献
▲ go to TOP
2015.07.23
平成26(行ケ)10186 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年6月25日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。デシテックスと延伸率を,同時に,本願発明の数値範囲まで大きくすることは示唆されていないとしたものの、一般的な糸のサイズを利用しているにすぎないと判断されました。
他方,両発明は,使用する裸スパンデックス糸のデシテックスの値及びエストラマー材料の供給時における延伸率の制御値が異なっている。そこで,これらを前提に,相違点として,何を認定すべきかを検討する。
確かに,本願発明の延伸率は2.5倍以下であり,引用発明の延伸率は2倍以下
であり,ともに上限を定めていないから,延伸率の値自体を比較すると,引用発明
の範囲である2倍以下は,必ず2.5倍以下という意味において,本願発明の数値
範囲に含まれている。
しかしながら,本願発明と引用発明は,ともに,ヒートセットを不要にするとい
う目的を達成するために,一定の回復張力を目指して,糸のスパンデックスと延伸
率という2つのパラメータの組合せを提示するものであるが,甲1【0096】〜
【0099】の実施例8,12,13,35〜37,41〜43,48〜51,5
6,57を見ると,同じスパンデックス数であっても,収縮率が異なっている結果
が出ていることからも明らかなとおり,回復張力は,糸のスパンデックスだけでな
く,延伸率や,共に使用される硬質糸の種類やサイズといった諸要素によって決せ
られるから,スパンデックスと延伸率は相互に関係するパラメータといえ,単純に,
同一の延伸率値が常に同一の技術的意義を有するとはいえないし,数値として重な
り合っている範囲が,常に同一の技術内容を示しているともいえない。他方,スパ
ンデックスと延伸率の値は,同一回復張力を前提とする限りにおいて,相互に独立
したパラメータとして,設定できるわけではない。また,延伸率とデシテックスの
関係は,相互に関連するとはいえるが,それ以上の技術的関係が明らかでない以上,
重なり合いの範囲も定かではないから,本願発明と引用発明において,エラストマ
ー材料を延伸させる製法である点において一致すると認定できるとしても,延伸率
の数値の点を相違点の認定からおよそ外し,容易想到性の判断から除外することは
できないというべきである。
したがって,被告の主張するように,単純に延伸率の値の重なりをもって,本願
発明と引用発明の一致点というべきではないが,他方,原告の主張するように,延
伸率の違いをデシテックスの値と関連しない独立した相違点として挙げることも相
当ではなく,本願発明と引用発明の相違点は,「本願発明の裸スパンデックス糸が4
4〜156デシテックスで,その延伸率が元の長さの2.5倍以下であるのに対し,
引用発明の裸スパンデックス糸が17〜33デシテックスであり,その延伸率が元
の長さの2倍以下である点」と認定した上で,相互に関連したパラメータの変更の
容易想到性を判断すべきである。
・・・
(2) 確かに,デシテックスを大きくすることと,延伸率を大きくすることは,
ともに回復張力を大きくする作用を有するものであるから,同程度の回復張力にす
るためには,デシテックスを大きくした場合には,延伸率を小さくし,逆に,延伸
率を大きくした場合は,デシテックスを小さくする必要がある。したがって,引用
発明のデシテックスと延伸率を,同時に,本願発明の数値範囲まで大きくするとい
う動機付けや示唆は,引用発明が前提としている回復張力を前提にする限りは,当
然には生じてこないというべきである。
しかしながら,本願発明における「44〜156デシテックス」という糸のサイ
ズと,引用発明における「17〜33デシテックス」という糸のサイズとは,共に,
市場で普及している20〜400デシテックスという範囲内にあり(乙2〜5,弁
論の全趣旨),両発明は,一般的な糸のサイズを利用しているにすぎないから,この
範囲内にある糸のサイズの変更には,格別,技術的な意義はなく,当業者にとって,
予定した収縮率等に応じて適宜設定できるものといえる。したがって,デシテック\nスの範囲を本願発明の範囲の数値まですることは,当業者が容易に想到できる事項
である。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 引用文献
>> 動機付け
▲ go to TOP
2015.07.20
平成26(行ケ)10232 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年7月16日 知的財産高等裁判所
翻訳時に誤りがあった公報を基礎としてなした引用文献に記載の発明の認定に誤りがあったとして拒絶審決が取り消されました。
ところで,審決は,甲1の[0096]の上記記載について,甲2の【0094】の記載を訳文としてそのまま参照し,「一実施形態において,このプロセスはタッチセンサ式パネルのおそらくは所定の箇所または複数箇所に触れているユーザにより作動させることができる。」と翻訳して,これに基づいて引用発明を前記3(1)のとおり認定し,「触覚による感覚を生成するプロセスは,センサ式パネルの所定の箇所または複数箇所に触れているユーザにより作動させることができる,」と認定した。この表現によれば,引用発明の「複数箇所に触れているユーザにより作動させる」とは,触覚による感覚を生成するプロセスの作動が,ユーザによるタッチセンサ式パネルへの接触が併発,すなわち,ユーザによる同パネルのある箇所への接触と他の箇所への接触とが少なくともある一時点において併存している(当該一時点で見れば,同時に接触していることになる。)ことにより生じる状態を示すと理解するのが通常である。\nそうすると,審決が,仮に,被告の主張するようにユーザが同パネルの複数箇所を同時に接触する状態を示すことを意図していないとしても,上記の表現では,審決が意図しない状態が認識されるから,当該認定は,不適切であったといわざるを得ない。前記の下線部分は,「一実施形態において,このプロセスは,センサ式パネルに触れているユーザにより,所定の箇所又は複数箇所で,作動させることができる。」と翻訳し,これに基づいて,引用発明の該当部分は,「触覚による感覚を生成するプロセスは,センサ式パネルに触れているユーザにより,所定の箇所又は複数箇所で作動させることができる,コンピュータシステム。」と認定すべきであったと解される。\nもっとも,引用文献が外国文献である場合に,引用発明の認定を適切な訳文で表現するのが難しいことは容易に推測できるところであり,十\分に適切な表現ができていない場合に,直ちにそれが引用発明の誤認や審決の取消理由となるものではないから,引用発明の正しい認定を前提として,審決が理解した引用発明に基づく本願発明との相違点及び相違点に関する判断についても検討する必要がある。\n
・・・
したがって,タッチの感知に応答して動的な触覚効果を生成する手段について,本願発明では,「少なくとも2つの実質的に同時に起こるタッチの感知に応答して動的な触覚効果を生成する」もので,動的な触覚効果を生成する原因となるものが,「タッチスクリーン上の少なくとも2つの実質的に同時に起こるタッチ」の感知であるが,引用発明では,そのようなタッチの感知ではない点で異なるものであるから,原告の主張する上記相違点2)は,相違点と認定すべきであり,審決には,この点において相違点の看過があったと認められる。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 要旨認定
>> 引用文献
▲ go to TOP
2015.07.10
平成26(行ケ)10241 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年6月30日 知的財産高等裁判所
公知文献の認定誤りを理由に無効理由無しとした審決が取り消されました。興味深いのは、「半円形状」のものに限定されそれ以外は排除されているとの認定を先行技術の課題解決との関係で取り消したことです。
そこで検討するに,本件先願当初明細書等(甲24)中,「凹溝条」を
なす「通気胴縁部」,すなわち,「突条部10a」の具体的形状については,
図1から図3及び図9において「半円形状」の「突条部10a」が描かれ
ているのみであり,他に上記具体的形状を示す記載も図面もない。
本件先願発明の課題及びその解決の点からみると,前記2(2)よれば,
モルタル塗り外壁通気工法につき,従来技術においては,建築物の外壁内
に通気層を形成するに当たり,別部材を要したことから,本件先願発明は,
別部材を用いずに通気層を形成することを課題とし,リブラスに防水シー
トを貼着した部材,すなわち,「平板状の複合ラス素材」において「貼\着
された防水シート側に向けて突出させて」「凹溝条」を形成し,「凹溝条」
をなす「通気胴縁部」,すなわち,「突条部10a」を備え,その「通気胴
縁部」の「凹溝条」の凸部分,すなわち,「突条部10a」の頂部を建物
の外壁に当接させることによって通気層を形成することにより,別部材を
用いずに通気層を形成し,前記課題を解決するものである。
この点に関し,通気層を形成するためには,「通気胴縁部」の「凹溝条」
の凸部分,すなわち,「突条部10a」の頂部が建物の外壁に接すること
により,「凹部分」に通気層となるべき空間が形成されれば足りるといえ
る。このことから,従来技術の課題を解決するためには,「通気胴縁部」
が凹凸部分を備えた「凹溝条」をなしていれば足り,その「凹溝条」の
「凹部分」の底が平面であるか否かなどという具体的形状は,上記課題解
決の可否自体を左右する要因ではない。
そして,本件先願当初明細書等において,「半円形状」の「突条部10
a」,すなわち,「半円形状」の「凹溝条」をなす「通気胴縁部」について
は,前記のとおり図示されているのみであり,「半円形状」とする意義に
ついては記載も示唆もされていない。
加えて,前記2⑴のとおり,本件先願当初明細書の段落【0033】に
おいては,「以上,実施例を図面に基づいて説明したが,本発明は,図示
例の限りではない。本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において,当業
者が通常に行う設計変更,応用のバリエーションの範囲を含むことを念の
ために言及する。」と記載されており,同記載によっても,「突条部10
a」,すなわち,「凹溝条」をなす「通気胴縁部」が,本件先願当初明細書
等に図示されている「半円形状」のものに限られないことは,明らかとい
える。
以上によれば,本件先願当初明細書等においては,「凹溝条」をなす
「通気胴縁部」,すなわち,「突条部10a」の具体的形状は限定されてお
らず,図示された「半円形状」のもののみならず,その他の形状のものも
記載されているに等しいというべきである。前述したとおり,本件先願当
初明細書等とほぼ同様の内容を有する甲5明細書等についても,同様のこ
とがいえる。
したがって,本件審決が,本件先願当初明細書等においては,「凹溝条」
をなす「通気胴縁部」,すなわち,「突条部10a」が半円形状のもののみ
に限定されており,その他の形状のものは排除されていると解したことは,
誤りである。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 要旨認定
>> 引用文献
▲ go to TOP
2015.05.13
平成26(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年5月12日 知的財産高等裁判所
「・・姿勢にあるとき,〜後縁の最後方位置が,〜〜と比較して前方に位置するものではない」という相違点があるとして、進歩性違反なしとした審決が維持されました。
以上のことから,相手コネクタ33は,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接している状態(甲1の第3図の状態)では,コネクタ突合方向の軸線に対してある角度をもった状態,すなわち,相手コネクタ33の前端がもち上がって,上向き傾斜姿勢にある状態であり,この状態から相手コネクタ33を回転させ,嵌合終了状態にしていることがわかる。このときの回転の中心は回転中心突起53であるから,回転中心突起53の断面が円形であるとすると,相手コネクタ33の回転の前後で,回転中心突起53の最後方位置(ケーブル44側の位置)は変わらないことになる。そして,甲1の第3図の記載,回転中心突起56は,肩部56の中で回転するときの中心となるものであり,相手コネクタ33が円滑に回転するように形成されていると解されることや,回転させる前後及びその途中において,相手コネクタ33がコネクタ31に対して上下左右方向に移動できるような隙間が回転中心突起53と肩部56との間に生じるのはコネクタ同士の確実な嵌合という観点から見て望ましいものではないことを考慮すると,回転中心突起53の断面の形状は,基本的には円形が想定されていると考えられる。
もっとも,円滑な回転動作やコネクタの確実な嵌合に支障が出ない限度で,回転
中心突起53の断面が円形以外の形状となることも許容されているものと解される。そして,回転中心突起の断面が円形でない場合には,その形状に応じて回転中心突起53の最後方位置が相手コネクタ33の回転の前後で変わることになるが,甲1にはそのような事項は記載されていないのであって,回転によって,回転中心突起53の最後方位置が回転前に比較して後方に位置するという技術思想が記載されているとはいえない。
したがって,甲1発明は,コネクタ31から相手コネクタ33が外れることを防止するために,回転中心突起53が肩部56の上面に当接して,相手コネクタ33がコネクタ31に対して上方へ動くのを防いでいるものであるが,回転中心突起53の上方に肩部56の上面が位置するように,相手コネクタ33が傾斜している状態で肩部56の前側から後側(ケーブル側)へ回転中心突起53を移動させているものであって,相手コネクタ33の回転により回転中心突起56の最後方位置が後方(ケーブル側)へ移動するものではないから,甲1発明は回転中心突起56の断面形状に関する事項を特定した発明ではないと考えられる。
イ 対比
以上を前提に,本件発明3と対比すると,甲1発明は,「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケープルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置」するものではないという点において,本件発明3と相違する。したがって,回転中心突起53の形状を円柱状に限定した審決の甲1発明の認定の当否にかかわらず,相違点を肯定した審決の判断に誤りはない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 要旨認定
>> 引用文献
▲ go to TOP
2015.03.18
平成25(行ケ)10115 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年2月26日 知的財産高等裁判所
引用文献に記載の発明の認定に誤りがあるとして、拒絶審決が取り消されました。
本件審決は,引用発明を前記のとおり認定しながら,本件訂正発明1と対比するに当たって,1)刊行物1に「2次元画像検出手段」として「TVカメラ」が例示されていることや,2次元コードを読み取る際の撮像手段としては一般的には「TVカメラ」が採用されていたこと,このようなカメラで用いられるCCDは通常は二次元アレイであること等を勘案すれば,引用発明における「CCD」は「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列される」ものであることは明らかであり,引用発明における「CCD」と本件訂正発明1における「光学的センサ」とは「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列される光学的センサ」である点で共通するといえる,2)引用発明の如き光学情報読取装置において,その撮像素子上に被写体の
像を結像せしめるための結像レンズを設ける事は須く採用される技術常識であるとともに,カメラでも結像レンズを設ける事は技術常識であるから,引用発明も当然結像レンズを備えているはずであり,引用発明と本件訂正発明1とは「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」を備える点で共通するといえる,3)光学情報読取装置において絞りを設ける事も技術常識であるとともに,カメラでも絞りを設ける事は技術常識であるから,引用発明も本件訂正発明1と同様に「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」を備えることは明らかである,4)光学情報読取装置においてセンサ出力を増幅してから2値化等の処理を行うことは技術常識であり,引用発明における「2値化手段」は本件訂正発明1における「2値化」に,引用発明における「周波数成分比検出回路」は本件訂正発明1における「所定の周波数成分比を検出」することにそれぞれ相当する処理を行うものであるから,引用発明も本件訂正発明1における「カメラ部制御装置」に相当するものを備えているといえるなどとして,前記のとおり,刊行物1は2次元コード読取装置において用いられる光学的センサ(CCD)に存する課題やその解決手段としての光学的センサの構成や構\造を何ら開示するものではないにもかかわらず,光学系に係る技術常識であるとして,刊行物1に記載がないために引用発明として認定していない構成を,本件訂正発明1と引用発明の一致点として認定したものである。このような一致点の認定手法は,本件訂正発明1と引用発明とを適切に対比したものとはいえず,相当でないというべきである。\n
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 要旨認定
>> 引用文献
▲ go to TOP
2015.03. 3
平成26(行ケ)10027 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年2月25日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、無効理由無しとした審決が取り消されました。
審決は,甲1の請求の範囲の請求項1の「Bは,アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2〜60の複素環基又は置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基である。」との発明特定事項は,「Bは,アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2〜60の複素環基又はアルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基である」と理解するのが自然であると判断した。
しかし,前記の発明特定事項の文言の構造上,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2〜60の複素環基」の部分と「置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基」との部分と\n
は,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」の部分の後に特に読点による区切りもなく,両部分が「又は」で並列的に記載されているものであって,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」との部分が,「置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基」の部分に係るものではないと見るのが自然である。
このことは,甲1の請求の範囲の請求項1の記載を引用し,請求項1の下位概念であって,請求項1の範囲を限定したものと解される請求項2の記載において,「前記一般式(A)において,Bは,アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2〜60の複素環基又はアルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数5〜60のアリール基である請求項1に記載の新規芳香族化合物」とされ,請求項1の記載と同様に,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2〜60の複素環基」の部分と「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数5〜60のアリール基」の部分とが「又は」で並列的に記載される構成とされているところ,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」との部分が「又は」の前後において繰り返され,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」の部分が「炭素数5〜60のアリール基」の部分に係ることが明確にされていることの対比からも裏付けられる。 さらに,審決が認定したように,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基である」と理解すべきであるとすると,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した」との部分と「無置換の」と部分が存在し,矛盾が生じるものと解される。仮に,矛盾がないように「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した(さらに)置換もしくは(その余は)無置換の」などと解するとすると,その文言上,「アルケニル基も
しくはアリールアミノ基が1置換した」との発明特定事項のみでは,アリール基の他の部分が置換しているか無置換であるかが限定されないため,これを限定する発明特定事項を付加したものと解するほかないが,そうであれば,重ねて「置換もしくは無置換の」との同内容の発明特定事項を加えることとなり不自然である。実際に,甲1の請求の範囲の請求項1の「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2〜60の複素環基」の部分に関し,複素環基には「置換もしくは無置換の」との文言は付されていないにもかかわらず,甲1の明細書(8頁16行以下)の複素環基の例が記載された部分では,「Bの置換又は無置換の複素環基としては,例えば,・・・」とされており,請求項1の複素環基は,何らの文言が付されていないのにかかわらず,「置換又は無置換」,すなわち,置換しているか無置換であるかが限定されないものであることが前提の記載となっている。 以上によれば,甲1の請求の範囲の請求項1の上記発明特定事項は,その記載上,「アルケニル基もしくはアリールアミノ基が1置換した炭素数2〜60の複素環基」と「置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基」との双方を含むものと理解できるものと認められる。
・・・・
前記エ記載の本件発明1の一応の相違点に係る構成は,その文言上,甲1’発明1の「置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基」に包含されるものを含むものであると認められる。\nそして,本件特許の優先日当時,有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料としてアントラセン誘導体が広く用いられており,発光効率,輝度,寿命,耐熱性,薄膜形成性等を改良する目的で,用いるべき置換基の検討がなされていたことが認められるから(甲3〜5,10,11),当業者において,甲1’発明1の置換基の選択肢の中から,本件発明1に係る構成を選択することも十\分に可能であったものというべきであり,同構\成が甲1’発明1の置換基として選択され得ないようなものとは認められない。
そうすると,前記エ記載の本件発明1の一応の相違点に係る構成は,甲1’発明1の「置換もしくは無置換の炭素数5〜60のアリール基」に包含されるものを含むものであり,上記一応の相違点は,実質的な相違点ではないものというべきである。\n以上によれば,審決の甲1発明1の認定には誤りがあり,この誤った甲1発明1の認定に基づいてなされた相違点1の認定にも誤りがある。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 要旨認定
>> 引用文献
▲ go to TOP
2015.01.30
平成25(行ケ)10285 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年1月22日 知的財産高等裁判所
先願発明の認定の誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
ところで,証拠(乙1〜3)によれば,一般に,医薬化合物等の結晶に含まれる水は水和物を形成する結晶水と結晶表面に付着する付着水とに大別されるところ,医薬化合物等の結晶のTGAにおいて,付着水による重量減少はTGA測定の昇温開始と同時に生じ始め,緩慢と進行する場合が多く,重量減少量も湿度等に影響を受けるが,結晶水による重量減少は,一定の決まった温度範囲で生じ,その量は湿度等の影響を受けず,化合物の分子量に対し一定の比となること,当該医薬品化合物等の結晶についてDSC測定(示差走査熱量法。先願明細書の段落【0110】参照。)を行うと,付着水の場合には吸熱ピークが観測されないのに対し,結晶水の場合には,結晶から水が離脱する際の熱的変化のピークが観測される場合があることから,熱分析で付着水か結晶水かの推定を行うことが可能\とされていることが認められる。
そうすると,先願発明において,フォームTのTGAによる重量損失に関わった水が,付着水か結晶水のいずれであるかは,非等温的TG曲線の解析やDSC測定の解析をするなどして,重量減少と温度の関係を観察しなくては推定することができない。したがって,上記のようなフォームTの調製方法や熱重量分析の結果を検討しただけでは,フォームTが一水和物であると認めることはできない。
以上によれば,本件審決が,先願発明であるフォームTを一水和物と認定したことには誤りがあるというほかない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 要旨認定
>> 引用文献
▲ go to TOP
2015.01.13
平成26(行ケ)10107 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年12月24日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、進歩性違反なしとした審決が取り消されました。
上記周知技術に鑑みると,甲15に接した当業者においては,別紙6の図2の保護素子の外部ケース(外側ケース9)が基板に対して接着剤で接着していることにより,外部ケースの内部と外部とで気体が流通しないように密閉された気密状態となっており,これにより低融点金属体及びフラックスが外部ケースの外側の外気環境から保護されていると理解するものと認められる。
もっとも,甲15には,図2の外部ケースが基板と接着していることにより外部ケースの内部と外部とで気体が流通しないように密閉された状態となる構造となっていることについては,明示的な記載はないが,他方で,そのような構\造となっていてないことをうかがわせる記載もないことに照らすと,かかる明示的な記載がないことは,上記認定を妨げるものではない。
そうすると,甲15の図2の保護素子は,その外部ケースが基板に対して接着剤で接着していることにより気密に密着してフラックスを外気環境から保護しているものと理解することができるから,甲15には,相違点2に係る本件発明1の構成が開示されているものと認められる。
ウ この点に関し,本件審決は,甲15の外部ケースは,低融点金属体及び内側封止部とともに発熱体を覆うものであるから,本件明細書の段落【0007】,【0008】に従来技術として記載されているとおり,発熱体,低融点金属体及び内側封止部を完全に密封するものではなく,場合によってはカバーの一部に穴を開けて暴発を防ぐ構\造となっていると理解するのが相当であり,相違点2に係る本件発明1の構成のものとは異なる旨認定した。\n本件審決が引用する本件明細書の段落【0007】には,抵抗付温度ヒューズの従来の技術の説明として,基板(181)の片面に発熱抵抗体(183)と低融点合金体(182)とが絶縁層(189)を介して積層配置された構造のもの(別紙1の図11(a))に関し,基板上に配置された発熱抵抗体と低融点合金体とのショートが生じた場合,「また一般に低融点合金体は周囲にフラックスを伴っているため,このようなショートが起こった場合には,そのスパークによってフラックスが爆発的に化学反応を起こし,大量のガスを発生して抵抗付温度ヒューズがケースごと暴\発するというような問題も生じる。かかる観点から,図には示さないが,これにカバーをして内部の低融点合金体乃至はその周囲に配置されたフラックスを外部の環境から完全に密封するということが困難になっており,場合によってはケースでこの低融点合金体や低融点合金体やその周囲のフラックスを覆うもののカバーの一部に穴を開けてそのような暴発を防ぐ構\造を採用しているものもある。」との記載がある。
しかしながら,本件出願前に甲15に接した当業者は,本件出願後に公開された本件明細書の記載事項を参酌して甲15記載の保護素子の外部ケースの構造を理解することはない。\nまた,本件明細書に従来技術として記載されている事項は,本件出願の発明者が従来技術として認識していたことを意味するが,そのことから直ちに本件出願時の当業者も同様に従来技術として認識していたものと認めることはできない。
さらに,本件明細書には,「すなわち図12に示すように,基板上に配置された発熱抵抗体と低融点合金体とのショート190が生じるのである。これは特に発熱抵抗体193と低融点合金体192との電位差が大きくなればなるほど生じやすくなり,また両者を隔てている絶縁薄膜の厚みが薄くなればなるほど生じやすい。」(段落【0006】)との記載があることからすると,発熱抵抗体と低融点合金体とのショートが生じるかどうかは,発熱抵抗体と低融点合金体との電位差や,発熱抵抗体と低融点合金体との間の絶縁層の厚みにも影響されるものであり,これらを適宜調整することによりショートの発生を抑制することも可能であるものとうかがわれる。\nそうすると,基板の片面に発熱抵抗体と低融点合金体とが絶縁層を介して積層配置され,かつ,低融点合金体の周囲にフラックスが配置され,さらにそのフラックスがケースのカバーで覆われた構造の抵抗付温度ヒューズであるからといって直ちに外部ケースの内部と外部とで気体が流通しないように密閉された気密状態とすることが困難であるとはいえないし,また,カバーの一部に穴を開けて暴\発を防ぐ構造となっているものとはいえ\nない。
以上によれば,本件審決の上記認定は誤りである。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 引用文献
▲ go to TOP