2006.10. 6
引例の認定が誤っていることを前提として、進歩性無しとした審決を取り消しました。
「乙1技術は,両屈折片を起立させ係止が完了したときに,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むようにするというものであるが,そもそも,乙1技術は,二つの舌片を互いに共辺部の一点で押し合うことによってはじめて掛止させるものであり,このことは,共辺部の全域が直接である場合に限らず,両端に湾曲部分あるいは折れ曲がり部分を形成する場合も同様であって,乙1技術において,二つの舌片を互いに共辺部の一点で押し合うようにすることは,二つの舌片を掛止させるための必須の構成であり,不安定な掛止をより確実なものとするようなものではない。これに対し,本願補正発明は,上側係止片及び下側係止片で構\成される係止部を有する構成において,その係止部の「最奥部」を係止点として係止し,係止時において,「各屈折片側に食い込む係止部」の「最奥部」が,それぞれ,対向する係止部の最奥部において,単に,相互に接触して係止するのみならず,屈折片の若干のたわみにより,相互に押し合う状態を生じさせる構\成であり,その結果,屈折片の最終的な係止状態において,より強固な係止力を発揮させるというものであって,係止のための技術的思想が異なるものであり,係止方法につき,乙1技術においては,本願補正発明のような技術的思想はない。加えて,引用例1発明の認定には争いがないところ,引用例1(甲7)の・・・との記載によれば,引用例1発明は,揚支片の基点が対面する位置において張出部の谷間で揚支片が交叉することにより二つの揚支片を掛止させるものと認められる。そうすると,引用例1発明と,乙1技術とは,揚支片ないし舌片を掛止させるための作用においてそもそも異なるのであり,仮に,乙1技術のような,二つの舌片を互いに共辺部の一点で押し合うことによって掛止させる技術が本件出願時に周知のものであったとしても,この技術をいかにして引用例1発明に適用するのかということ自体,想定することが困難であり,動機付けを欠くというべきである。」
◆平成18(行ケ)10053 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成18年09月28日 知的財産高等裁判所
2006.07. 4
進歩性無しとされた審決が取り消されました。
「そもそも,本願発明の相違点1ないし3は,正確にいうと,相違点1及び2であることを特徴とする相違点3に係る光学検出部と言い換えることもでき,相違点1及び2は,相違点3に係る光学検出部であることを前提としている。しかも,審決が相違点3として摘示するとおり,本願発明は「紙葉類識別装置」に係る発明であるのに対し,引用発明は,紙葉類の積層状態検知用装置に係る技術であって,発明の課題及び目的が相違しており,このことは被告も認めるところである。したがって,本願発明の構成を把握する上で,相違点1及び2と相違点3とを分説するのはよいとしても,相違点1ないし3の相互の関係を考慮しながら,本願発明の進歩性について検討しなければならない。」 「確かに,本件周知装置においては,上記(2)ウのとおり,紙葉類の識別を行う際に,紙葉類の特徴箇所を選んで識別することは,当業者が容易に想到し得たことということができる。しかし,このことから,上記(3)のような,複数本の検出ラインの技術的思想のない引用発明について,複数本の検出ラインの技術的思想を前提とし,一対の発光・受光素子によって一括して検出を行うという相違点1及び3に係る本願発明の構成を付加することが容易であるとか,あるいは,単なる設計変更であるということは困難である。」
◆平成17(行ケ)10490 審決取消請求事件 平成18年06月29日 知的財産高等裁判所
2006.06. 8
進歩性無しとした審決を取り消しました。事例を検討してみると、最近の進歩性判断の判断基準が1つできるかもしれませんね。
「被告は,乙1〜8を挙げて,二以上の部品を一体に成形することにより,作業の効率化を図り,部品点数の低減を図ることは,極めて広範囲の技術分野において広く採用されている周知の技術であり,本件発明の効果は,二以上の部品を一体に成形することにより考えられる効果,
すなわち「作業の効率化」及び「部品点数の低減」という効果以上の格別の効果を意味するものではないから,本件発明は,周知のキー変換式ピンタンブラー錠に,極めて周知な部品の一体化という技術を寄せ集めただけにすぎず,当業者であれば,相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得る旨主張する。しかしながら,前記(1)ウ(イ)で説示したとおり,二以上の部品を一体に成形することにより,作業の効率化を図り,部品点数の低減を図るという技術思想から,直ちに相違点に係る本件発明の構成に想到するものと認めることはできない。
◆平成17(行ケ)10729 審決取消請求事件 平成18年06月06日 知的財産高等裁判所
2006.02. 8
拒絶審決について、「式I化合物と,式?U〜?W化合物のいずれかを含有し,該混合物のしきい値電圧が 1.6ボルト以下であることを特徴とする液晶媒体。」という請求項の要旨認定が争われました。原告(出願人)は、この請求項の記載は「化合物Iと化合物?U〜?Wのいずれかを含有することにより,その機能によりしきい値電圧を1.6ボルト以下まで低下させることができる」と主張しましたが、裁判所は、拒絶審決を維持しました。
「発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎないものというべきである(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁)。そこで,本願発明1の特許請求の範囲請求項1の記載をみると前判示のとおりであって,要するに,「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基礎とする液晶媒体であって,一般式I…,および一般式?U,?Vおよび?W…から成る群から選択される1種またはそれ以上の化合物をさらに含有し,該混合物のしきい値電圧が1.6ボルト以下であることを特徴とする液晶媒体。」(下線は当裁判所が付した。)というものである。この記載について,技術的意義が一義的に明確に理解することができないなどということはないことは明らかである。
そして,この記載から理解されるところによれば,本願発明1が,「…含有することにより,…1.6ボルト以下まで低下させる」,すなわち,「…含有することにより,その機能により…1.6ボルト以下まで低下させる」とか,「…含有するという構成により,その効果として,…1.6ボルト以下まで低下させる」ということまでを意味するものとは解されないし,「実質的に『シアノ化合物』の使用を,少なくとも多量の『シアノ化合物』の使用を排除している」と解することは到底できない。」
◆H18. 2. 6 知財高裁 平成17(行ケ)10390 特許権 行政訴訟事件