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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

要旨認定

令和2(行ケ)10103 特許権 行政訴訟 令和3年10月6日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として、動機付けがないとして取り消されました。引用文献における「演色性」は本件とは意味が異なるという認定です。

ア 甲1発明の課題の認定について
(ア) 黄色の発色
甲1には,「イエロー系」,「イエローとライトイエローの違いが分かり づらいです。」(4頁の上から5枚目の写真の上下)と記載されていると ころ,この記載からは,甲1製品において,「イエロー」と「ライトイエ ロー」の色の相違が判別し難いという問題があることは認められる。し かし,上記の記載の前提として,「イエロー」は,色票等ではなくペンラ イトの「ライトイエロー」との比較がされているにとどまる上(上記写 真),色の相対的な判別の問題と,一般的に各色の基準とされている色(色 票の該当色)にどれだけ近い色を出しているかという発色の問題は異な るから,「イエロー」と「ライトイエロー」の色の相違が判別し難いとい う上記の問題は,「イエロー」が一般的に黄色の基準とされている色にど れだけ近い色を出しているかという発色の問題とは異なる。 本件審決は,「それら『イエロー』及び『ライトイエロー』の各発色に ついて検討するに,p.4-写真には,写真中央に位置する4本のペンライ トの他に,その左側に2本(『亜美・真美』及び『小鳥』),右側に2本(『ル ミスティック』及び『大電光改』)の計4本の他のペンライトが色比較の ために配置されているところ,上記写真中央の4本(甲1発明)の『イ エロー』の発色は,上記他の4本のペンライトの黄色の発色とは異なり, むしろ p.4-6 写真((摘示(1q))示されるオレンジ系の色に近い発色 となっている。」(本件審決第6,2,2−1(2)(2−1)ア(ア) 〔本件 審決47頁〕)と述べ,甲1の写真を根拠として,甲1製品の「イエロー」 とされる黄色の発色自体に問題があるという認定をしている。本件審決 が,甲1サイトのアドレスにアクセスの上,ディスプレイ上に表示され\nた写真(画像)に基づいて上記認定をしたのか,又は用紙に印刷された 写真に基づいて上記認定をしたのかは,本件審決の記載からは直ちには 明らかでないが,仮に,前者であるとした場合,ディスプレイに表示さ\nれる色の発色は,ディスプレイ自体の性能や調整に依存するものである\nし,また,後者であるとした場合でも,紙に印刷される色の発色は,紙 の品質やプリンタの性能や調整に依存するものであり,さらにいえば,\n写真を撮影したカメラの性能や調整によっても発色は相違するものであ\nるから,いずれにしても,実際の甲1製品の発色とディスプレイ上の表\n示又は印刷されたものの発色は,必ずしも同じとは限らない。また,甲 1製品と対比された他社のペンライトが,甲1製品よりも,一般的に黄 色の基準とされている色に近いことを裏付ける客観的な証拠はない。そ のため,甲1の写真に基づいて,「イエロー」が一般的に黄色の基準とさ れている色にどれだけ近い色を出しているかを判断することはできず, 甲1の写真を根拠に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題がある と認定することはできない。
その他の甲1の記載によっても,甲1に,「イエロー」とされる黄色の 発色自体に問題が内在しているという課題が示されていると認めること はできない。 そうすると,「イエロー」と「ライトイエロー」の各発色の色の違いを 明確に識別することができないという問題は,「イエロー」とされる黄色 の発色自体に問題が内在しているということもできるとする本件審決の 判断(前記(3)ア(ア))は誤りである。
(イ) 演色性
本件審決が甲1発明の課題に関して認定する「演色性」は,発色のバ ランスを崩れないようにすることや,全体が綺麗に光るようにすること (前記(3)ア(イ)),多くの色彩の選択肢を提供すること(前記(3)(ウ)。 本件審決は,第6,2,2−1(2)(2−1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で, 甲10に記載されているように周知の課題といえると認定する。)であり, 甲2に記載された技術事項として認定された「演色性」,すなわち,照明 された物体の色が自然光で見た場合に近いか否かという,一般的な意味 での「演色性」(前記(3)イ(イ))とは異なる。
イ 甲2に記載された技術事項の認定
前記(3)イ(イ)のとおり,甲2に記載された技術事項として認定された「演 色性」は,照明された物体の色が自然光で見た場合に近いか否かという, 一般的な意味での「演色性」であるものと認められる。
ウ 相違点1に係る本件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及び\nその「発光色」の容易想到性
前記(2)のとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項は,技術分野が 完全に一致しているとまではいえず,近接しているにとどまるから,甲1 発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を想到すること が容易であるというためには,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採 用するについて,相応の動機付けが必要であるというべきである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付け があり,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を容 易に想到することができたと判断する前提として,甲1発明に,「イエロー」 とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課題があり(前記(3) ア(ア)),甲1発明に,演色性を向上させるという,甲2と共通の課題があ ると認定した(前記(3)ア(イ),(ウ))。しかし,前記ア(ア)のとおり,甲1発 明に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課 題があるとする本件審決の認定は誤りであるし,また,本件審決が甲1発 明の課題に関して認定する「演色性」(本件審決が第6,2,2−1(2)(2 −1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で,甲10に記載されているように周知の 課題といえると認定する事項を含む。)は,甲2に記載された技術事項とし て認定された「演色性」,すなわち,照明された物体の色が自然光で見た場 合に近いか否かという,一般的な意味での「演色性」とは異なる(前記ア (イ))。
そうすると,本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用 する動機を基礎づける甲1発明の課題の認定を誤っているものであり,ま た,甲2に記載された技術事項の内容(前記(1)),甲1発明と甲2に記載さ れた技術事項の技術分野相互の関係(前記(2))を考慮すると,甲1発明に は,甲2に記載された技術事項と共通する課題があるとは認められず,そ のため,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがある とは認められない。 したがって,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲 10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ とができたとは認められず,これを容易に想到することができたとする本 件審決の判断(前記(3)ウ(ア))は誤りである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲 10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ とができた(前記(3)ウ(ア))という判断を前提として,甲1発明に甲2に記 載された技術事項及び周知の課題(甲10)を採用し,本件発明1の構成\nのうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容易に想到するこ とができた(本件審決第6,2,2−1(2)(2−1)イ(ア)〔本件審決48 〜50頁〕)と判断するところ,その前提とする判断が誤っているから,本 件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容\n易に想到することができたという判断も誤りである。
エ 黄色発光ダイオードの単独発光色及び混合発光色の容易想到性
前記ウのとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項との間には課題 の共通性がなく,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付 けがあるとは認められないが,念のため,仮にそのような動機付けがある として,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用することにより,黄 色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及 び前記黄色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオード から発せられる光が混合することにより得られる発光色という,相違点1 に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかについて検討\nする。
甲2には,前記(1)認定のとおり,カード型LED照明光源10に実装さ れるLEDを,相関色温度が低い光色用又は相関色温度が高い光色用や青, 赤,緑,黄など個別の光色を有するものとすることができること(段落【0 080】)が記載されているが,当該事項に係る実施の形態1に関連する段 落【0076】ないし【0080】の記載全体をみても,青,赤,緑,黄 など個別の光色のうちからいずれか1色の単色LEDのみを搭載したLE D光源により青,赤,緑,黄などいずれかの個別の光色を発光するという 意味なのか,複数色のLED光源を搭載して青,赤,緑,黄などの個別の 光色となるように制御するという意味なのか必ずしも判然としない。段落 【0080】に続いて,段落【0081】の前半において「更に,多発光 色(2種以上の光色)のLEDをカード型LED照明光源10に実装する ことにより,・・・この場合,2種の光色を用いた2波長タイプのときには」 との記載が続くことに照らせば,段落【0080】の上記記載は,前者の 意味,すなわち,1種の光色を用いた1波長タイプを意味し,黄色の単色 LEDを搭載したLED光源により黄色の光色を有するという意味と解す ることはできる。しかし,本件発明1は,赤色発光ダイオード,緑色発光 ダイオード,青色発光ダイオード,黄色発光ダイオード及び白色発光ダイ オードを備え,複数得られる特定の発光色として,少なくとも,黄色発光 ダイオードから単独で発せられる光により得られる発光色の他に,黄色発 光ダイオードから発せられる光とそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオー ドから発せられる光とを混合して得られる発光色が得られなければならな いところ(相違点1),前者の意味であるとすれば,上記の混合して得られ る発光色が容易想到であるとはいえない。他方,仮に後者の意味だとして も,甲2には,複数色のLED光源に黄色のLEDを含んでいるとの直接 的な記載はないから,黄色以外のLED光源によって黄色の光色を得てい る可能性も否定できず,黄色のLEDの単独発光が容易想到であるとはい\nえない。 さらに,前記(1)イで認定したとおり,甲2には,3種の光色を用いた3 波長タイプの場合は青と青緑(緑)と赤発光の組合せ,4種の光色を用い た4波長タイプの場合は青と青緑(緑)と黄(橙)と赤発光の組合せが望 ましく,特に4波長タイプのときには平均演色評価数が90を超える高演 色な光源を実現できること(段落【0081】)が記載されており,演色性 を向上させるためにRGBY(赤,緑,青,黄)4種類のLEDを用いる ことが記載されているが,これらの記載は,一般的な意味での演色性の向 上に関するものであるから,これらの記載からは,RGBY4種類のLE Dを用いた照明装置において,黄色のLEDを単独発光させることが客観 的かつ具体的に把握できるものとは認められない。 また,甲2には,RGBWY(赤,緑,青,白,黄)の5種類のLED を用いることが,段落【0065】や【0189】に記載されているが, 具体的な記載としては電源に関する説明があるのみで,これらの記載から は,RGBWYの5種類のLEDを用いた照明装置において,黄色LED を単独で発光させることやその他の色と混ぜて発光色を制御することは, 客観的かつ具体的に把握することはできない。 そうすると,仮に甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機 付けがあり,甲2に記載された技術事項を甲1発明において採用し,甲1 発明において黄色発光ダイオードを備えたとしても,黄色発光ダイオード が単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及び,前記黄色発光 ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる 光が混合することにより得られる発光色という,相違点1に係る本件発明 1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n
なお,本件発明1は,黄色LEDを追加した上で,白色LEDとそれ以 外の1つ又は2つのLEDから発せられる光が混合して発光色を得,黄色 LEDとそれ以外の1つ又は2つのLEDから発せられる光が混合して 発光色を得るとの構成をとることによって,電圧が低下した状態において\nも発色のバランスを保つことができるもの(本件特許の明細書の段落【0 007】,【0009】,【0010】,【0013】〜【0017】,【002 1】,【0033】,【0034】)であり,このような発明の効果は,甲1発 明及び甲2に記載された技術事項から予測できるものとはいえないから,\nこの点からしても,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用すること によって本件発明1を容易に想到することができたとは認められない。

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令和2(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年10月7日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決に対して、知財高裁は一致点の認定誤りを理由として審決を取り消しました。

(3) 本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御回路」の対比
ア(ア) 本願発明の制御装置は,「燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再 水和間隔を提供するために」,「燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように 構成される」ものである。\n
(イ) 本願発明の特許請求の範囲の請求項1の文言や本願発明が燃料電池に係るも のであることのほか,前記1(2)の本願発明の概要からして,上記のうち「燃料電池 スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」については,燃 料電池の良好な動作のために,膜/電極接合体(MEA)が好適に水和された状態 とすべく,MEA内の水分量を積極的に増加させるという目的をいうものと解され る。この点,本願明細書の段落【0036】及び【0037】には,「再水和間隔」 が,燃料電池カソードにおいて過剰な水を産生して燃料電池における膜の水分量を\n増加させる短い期間であって,燃料電池上の外部電気負荷及び温度などのその環境 動作条件に基づき有効であるレベルを超えて,水和レベルを増加させるために,燃 料電池アセンブリがその動作環境を能動的に制御する期間である旨が記載されてい\nるところである。 そして,「燃料電池スタックを通る空気流動を調節する」については,上記目的の ために,膜の含水量の低下等をもたらし得る空気流動を調節することをいうものと 解される。
イ 引用発明の短絡制御回路は,「燃料電池の負の水和降下現象を防止するため に」,「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」ものであるところ,このうち「負 の水和降下現象」の意味内容については,前記2(3)イで検討したとおりである。そ して,その意味内容を踏まえると,「負の水和降下現象を防止する」とは,基本的に, MEAにおける水和の損失が,熱の発生につながり,それが薄膜電極アセンブリの 乾燥につながるといった状態を停止させる,又は抑制することをいうものと解され る。 そして,「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」については,上記目的のため に,燃料電池の発熱につながる燃料ガスの供給を停止することをいうものと解され る。
ウ(ア) 上記ア及びイによると,本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御 回路」は,MEA内の水分量を積極的に増加させることを目的とするか,MEAに おける水和の損失等を停止させる,又は抑制することを目的とするにとどまるかと いった点において異なるとともに,燃料電池のカソード側で水分の低下につながり\n得る空気流動を調節するか,アノード側で熱の発生につながる燃料ガスの供給を停 止するかといった点においても異なっている。
(イ) もっとも,上記のうち後者の点については,本件審決は,「空気流動を調節す る」ことと「燃料ガスの供給を停止する」ことを「気体流動を調節する」とした上 で,相違点2を認定しており,その認定判断に誤りがあるとはいえない。
エ 他方で,本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路について,「所定条件 で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して」,気体流動を調節するよ うに構成される「制御装置」であるという点で一致するとした本件審決の判断に誤\nりがあるとは認められない。
オ 以上によると,本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路が,「水和レベ ルを増加させる再水和間隔を提供するために」という点で一致しているとした点に おいて,本件審決には誤りがある。
カ 原告は,本願発明の制御装置が短絡制御を行うものではない旨を主張するが, 短絡制御の点は一致点として認定されておらず,原告の上記主張は当を得ないもの である。また,原告は,引用発明における燃料ガスの供給の停止が「流動を調節す る」に当たらないと主張するが,甲3の段落【0023】には,燃料電池10への 燃料ガス105の供給を停止するような位置にバルブ104をすると同時に,電気 的スイッチ124を閉鎖電気状態にする旨の記載がある一方,本願明細書の段落【0 010】には空気流動をゼロまで減少させることについて記載があり,これらの記 載も踏まえると,両者は,対象となる気体以外の点で実質的に相違するものとは認 められず,いずれも気体流動の調整を行うとの概念の範囲で一致するものといえる。 さらに,原告は,「所定条件」の内容が本願発明と引用発明とで全く異なる旨を主張 するが,本件審決が認定した相違点1及び2のほか,前記ウ(ア)で指摘した本願発明 の制御装置と引用発明の短絡制御回路の目的の相違があることに加え,別途,それ らの動作に係る所定条件に関して相違点を認定すべきものとは認められない。
キ(ア) 被告は,燃料電池においてイオン交換膜の含水量が減少する一般的な原因 について主張した上で,引用発明においても,薄膜電極アセンブリの水和レベルが 増加することは明らかであると主張する。 しかし,被告の上記の主張のうち,単に薄膜電極アセンブリの含水量の減少量が 小さくなることをいうにすぎないもの(含水量の積極的な増加を意図した制御を行 っているものではない。)は,前記ウ(ア)の判断を左右するものではない。この点, 被告は,燃料電池内の発熱が収まることで,それまでの発電で生じた水や空気中に 含まれる水蒸気によって水和レベルが増加することも主張するが,当該主張を裏付 ける証拠や,そのような技術常識を直ちに認めるに足りる証拠は見当たらない。
(イ) 被告は,本願発明における水和レベルの増加のメカニズムが明確でなく,本 願の実施例で実行される制御で水和レベルが増加するのであれば,引用発明でも同 様であるという旨を主張するが,本願発明における「燃料電池スタックの水和レベ ルを増加させる再水和間隔を提供するために」の意味内容については,前記ア(イ)で 認定判断したとおりであって,そのメカニズムが明確か否かという点は,直ちに本 願発明と引用発明の一致点及び相違点の判断に影響を与えるものではない。
(4) まとめ
ア 以上によると,本願発明と引用発明は,次の一致点で一致し,本件審決が認 定した相違点1及び2のほか,次の相違点3及び4で相違するというべきである。
(一致点)
「燃料電池システムであって,
第1の燃料電池スタックと,
前記第1の燃料電池スタックと直列の,第2の燃料電池スタックと,
前記第1の燃料電池スタックと並列の,第1の電子部品と,
前記第1の燃料電池スタックの水和状態を調整するために,所定条件で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記第1の燃料電池スタックを通る気体流動を調節するように構成される,制御装置と,
を備える,前記燃料電池システム。」
(相違点1)
所定条件に関し,本願発明は,「定期的に」であるのに対し,引用発明は,「燃料 電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合」である点。
(相違点2)
気体流動の調節に関し,本願発明は,気体は空気であるのに対し,引用発明は, 気体は燃料ガスである点。
(相違点3)
第1の電子部品に関し,本願発明は,電子部品は整流器であるのに対し,引用発 明は,電子部品は電界効果トランジスタである点。
(相違点4)
燃料電池スタックの水和状態を調整するために関し,本願発明は,水和レベルを 増加させる再水和間隔を提供するためであるのに対し,引用発明は,負の水和降下 現象を防止するためである点。
イ その上で,後記5の点も踏まえると,少なくとも相違点4の看過は,本件審 決の取消事由に当たるというべきである。
5 容易想到性の判断について
(1) 相違点1,2及び4は,いずれも本願発明の「制御装置」又は引用発明の「短 絡制御回路」に関するもので,技術的構成として相互に関連するものといえるから,\n以下,一括して検討する。
(2)ア 前記4(3)イからすると,引用発明が「燃料電池の出力電圧が0.4Vよ り低くなる場合」に「燃料ガス」を調節する目的は,主として熱の発生を抑えるこ とで「負の水和降下現象を防止する」ためであり,これは,甲3にいう「第1の動 作条件」(甲3の段落【0024】)に係るものである。 他方で,甲3には,「第2の動作条件」として,燃料電池の特性パラメータを回復 させる構成が記載されている(甲3の段落【0025】〜【0027】)。\nこのように,二つの条件に係る構成があることに加え,甲3の段落【0001】,\n【0009】,【0023】,【0029】及び【0030】の記載並びに【図4】に 照らし,上記「第1の動作条件」が,基本的に,「燃料電池が故障した際」(同【0 001】。【図4】にいう「欠陥は重大」である場合である。)に係るものとみられる ことからすると,相違点1,2及び4に係る引用発明の構成は,燃料電池の故障を\n示すものとみ得る状態を具体的に検知し,負の水和降下現象を防止するために,燃 料ガスの供給を停止して熱の発生を抑えるためのものと解するのが相当である。 イ 上記のような燃料電池の故障を示すものとみ得る状態を具体的に検知したと の引用発明に係る「燃料電池の出力電圧が0.4Vより低くなる場合」の動作につ いて,実際の出力が閾値以上に変化しているか否かにかかわらず,これを「定期的 に」行うことを想到することが,当業者において容易であるとはいい難いというべ きである。甲3に,引用発明に係る燃料ガスの供給の停止を定期的に行うこととす る動機付けや示唆があるとは認められない。甲3の段落【0024】には,第1の 動作条件について,「約0.4Vより低い範囲に低下する場合」以外の記載があるが, そこで挙げられている他の特性パラメータも,燃料電池の故障を示すものとみ得る 状態の検知の範疇に止まるものである。燃料電池の保湿レベルを周期的に増加させ ることに係る周知の事項(甲4[前記3(1)],甲5[前記3(2)])を参照しても, 上記判断は左右されない。 上記判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。
ウ また,引用発明が,上記アのように,主として熱の発生を抑えることを目的 としたものであることを考慮すると,「気体流動を調節する」ことについて,引用発 明から,燃料電池の乾燥につながり得る一方で冷却効果をも有する空気の流動(本 願明細書の段落【0006】参照)を停止することを,当業者が容易に想到し得た ということも困難である。甲3に,空気の流動を調節することの動機付けや示唆が あるとは認められない。 上記判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。
(3) 以上によると,相違点1,2及び4に係る本願発明の構成が引用発明に基づ\nいて容易に想到できたものとは認められないから,相違点1及び2について容易想 到と判断した点において,本件審決には誤りがあるというべきである。

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令和2(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年10月7日  知的財産高等裁判所

 引用文献の認定誤りを理由として、進歩性無しとした審決が取り消されました。

 イ 引用発明の「電界効果トランジスタ」は,甲3における「第1の条件」にお いて,「不良燃料セルのアノードとカソードの間の電流を短絡し,よってその不良燃料電池のための電流側路を設ける」もの(甲3の段落【0009】)であり,甲3の\n【図3】において,電気的なスイッチ124(nチャネルMOSFET)として示 されているもので,開放電気状態と閉鎖電気状態とを有する(同【0020】〜【0 022】)。そして,引用発明においては,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低 くなるような場合に,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされる(同【002 3】)。 この点,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた場合,ドレインからソース,ソ\ースからドレインのいずれの方向にも電流が流れ得ることは,技術常識であるから,直ちに引用発明の電界効果トランジスタが整流器に相当するものとはいえ ない。 そこで,上記のように,引用発明の電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされ た場合の電流の流れについて検討すると,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低 くなるような状態となって電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた時点では, 燃料電池のアノード,カソード間の電位差により,電界効果トランジスタでは,カソ\ード53側からアノード52側へ電流が流れ,その後,燃料電池の電位差が低下することによって,アノード52側からカソード53側へ電流が流れるに至るものと解するのが相当である。そうすると,甲3において,好適実施例として記載され\nている【図3】の構成においても,電界効果トランジスタを流れる電流は一方向に限定されているものではない。\n
ウ 以上によると,本願発明における第1の整流器が飽くまで一方向にのみ電流 を流すものであるのに対し,引用発明における電界効果トランジスタは,双方向に 電流を流すものであるから,引用発明の電界効果トランジスタが本願発明の第1の 整流器に相当するとはいえず,この点において,本件審決には誤りがある。
エ(ア) これに対し,被告は,引用発明においては,電界効果トランジスタが閉鎖 電気状態とされた場合であっても,電流は電界効果トランジスタをアノード52側 からカソード53側に流れると主張し,その根拠として,甲3の段落【0023】の記載を指摘する。\n
しかし,上記イのように,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた時点で は,カソード53側からアノード52側へ電流が流れるとしても,その後,アノード52側からカソ\ード53側へ電流が流れるに至るのであって,同段落の記載はそのような理解と矛盾するものとはいえない。甲3の段落【0001】,【0005】, 【0008】及び【0009】の記載や,【図4】(上記各段落の記載内容に照らし, 引用発明に係る甲3の「第1の条件」の際の動作は,同図の「欠陥は重大か?」に 対する答えが肯定(Y)の場合の動作,すなわち同図の「燃料電池への水素供給遮 断及び燃料電池の両端を永久的に短絡」という動作に当たるものと認められる。)を 踏まえると,段落【0023】は,引用発明において電界効果トランジスタが閉鎖 電気状態とされた場合に最終的に至る,引用発明の構成においてより重要な電流の流れについてのみ記載したものと理解することができ,そこに至るまでに一旦電流\nが反対方向に流れることを否定するものとは解されない。 したがって,甲3の段落【0023】の記載は被告の上記主張の根拠とはならず, 乙13(前記3(5))の記載や,燃料電池を迂回する経路をMOSFETで形成する ことに係る周知技術(乙13[前記3(5)],乙14[同(6)]参照)など,その他被 告の主張する点は,いずれも上記認定判断を左右する事情ではない。 なお,被告は,本件第1回口頭弁論期日における技術説明会のための資料におい て,甲3の【図3】における電界効果トランジスタについて,ドレインとソースの表\記が逆である旨を指摘するが(乙15の10頁),上記認定判断のとおり,同図の記載と段落【0023】の記載が直ちに矛盾しているとはいえず,相当とはいえな い。

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令和2(行ケ)10092 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月31日  知的財産高等裁判所

 知財高裁3部は、進歩性無しとした審決を取り消しました。理由は、引用文献の認定誤りです。

 上記(1)の記載によれば,引用技術2の「油性ゲル状」「粘着シート製剤」 は,上記(1)イの従来技術である「架橋アクリル系粘着剤」の組成を調整する ことによって,粘着性を維持しつつ薬剤の溶解性を高めたシートであって, 皮膚への粘着性は,従来技術と同様に,専らアクリル系粘着剤に依存してい ることが認められる。
3 相違点についての審決の判断の当否
上記1(3)のとおり,本願発明の技術的意義に照らすと,本願発明の「オイル ゲル」は,アクリル系粘着剤等の粘着性ではなく,ゲル化したオイルの粘着性 によって,皮膚に対して粘着するものである。これに対し,引用技術2の「油 性ゲル状粘着製剤」は,上記2(2)のとおり,アクリル系粘着剤の粘着性によっ て,皮膚に対して粘着するものである。 このように,引用技術2の「油性ゲル状粘着製剤」は,本願発明の「オイル ゲル」とは技術的意義を異にするから,引用発明に引用技術2を適用しても, 相違点に係る本願発明の構成には至らない。\nしたがって,容易想到性に関する審決の判断には誤りがある。
4 被告の主張について
被告は,「オイルゲル」は有機溶剤を溶媒とするゲルの総称であるとの技術 常識が存在し,本願発明の「オイルゲル」の意義や組成について本件明細書に は記載がないから上記技術常識に沿って解釈すべきであり,上記技術常識によ れば引用技術2の「油性ゲル」は「オイルゲル」に含まれる旨主張する。 たしかに,乙1(特許庁「周知・慣用技術集(香料)第I部香料一般」1999 年1月29日発行)等によれば,「ゲル」を流体(溶媒)の違いという観点から 「ヒドロゲル」「オイルゲル」「キセロゲル」の3種類に分類することが一般 的に承認されている事実は認められ,また,乙6(権英淑ほか「実効感を発現 するためのスキンケア製剤設計」FRAGRANCE JOURNAL Vol.34 No.1 pp.52-55 (2006))等には,この分類を前提として,アクリル系材料を基剤とした「オイ ルゲル」の粘着剤に言及する記載も見られる。しかしながら,他方,甲7(柴 田雅史「化粧品におけるオイルの固化技術」J.Jpn. Soc. Colour Mater., 85 [8] 339-342 (2012))では,冒頭に「有機溶剤(オイル)を少量の固化剤を用 いて固形もしくは半固形状にしたものは一般に油性ゲルと呼ばれ,・・・・・・メイク アップ化粧品を中心に幅広い製品の基剤として用いられている」と記載されて おり,化粧品の分野において,「オイルゲル」の用語をこのような意味で用い ることも一般的であったと認められるから,「オイルゲル」という用語が,当 然に被告主張のような意味に用いられると断定することはできない。
そうすると,本願発明の「オイルゲル」の技術的意義は,特許請求の範囲の 記載だけからは一義的に明確ではない。そこで,明細書の発明の詳細な説明の うち,従来技術に関する記載及び解決課題に関する記載を参酌し,上記1のと おり,「オイルゲルシート」を「アクリル系粘着剤等の粘着性ではなく,ゲル 化したオイルの粘着性によって,皮膚に対して粘着するシート」と解釈すべき である。

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令和2(行ケ)10102等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月20日  知的財産高等裁判所

 10日ほど前に、新聞を賑わしたユニクロのセルフレジの特許についての無効審判事件です。知財高裁は特許無効とした審決を、引用文献の認定誤りがあるとして、取り消しました。

 ウ また,甲1の「読取り/書込みデバイス102」は単独で機能するもの\nである。
 (ア) 甲1発明は,RFIDタグの読取り/書込みを行うデバイスと,この デバイスを利用する会計端末に関するものである(甲1の訳文3頁4行〜6行)が, 一般に,RFID読取りデバイスにより情報が読み取られる対象物には,液体を含 む物や水分量が多い物もあるが,そうでない物もある。こうした液体を含む物や水 分量が多い物を取り扱わない店舗も多々あるが,甲1発明の発明者は,スーパーマ ーケットのように,液体を含む物や水分量が多い物も販売する店舗に着目し,その ような店舗においては,「FR 2 966 954 A1号」として公開されてい る特許公開公報(乙30)の図に示された装置では,効率的な読取りを実施するこ とができないと考えており(甲1の訳文3頁10行〜26行),甲1発明は,「液体 を含む物や水分量の多い物についてもRFIDタグが効率的に読みとれること」, 「対象物のタイプにかかわらず,RFIDタグが効率的に読みとれること」を目的 とするものであることを,当業者は理解する。
そして,当業者は,甲1の具体的構成(甲1の訳文3頁35行〜47行)により,\n「本発明によるデバイスによって,載置キャビティ内において,端末の近傍に置か れた製品,特に端末に隣接する棚に置かれた製品に貼付されたRFIDタグが通電\nされ,したがって読み取られるリスクを伴わずに,読取り/書込み動作を実施する のに使用される電波の出力を増加させることが可能になり,またしたがって,キャ\nビティ内に載置されたタグを,液体を含む対象物に貼付されたタグであっても,よ\nり良好に読み取ることが可能になる。」という効果を有すること(甲1の訳文4頁1\n4〜19行)を理解する。
甲1の具体的構成と,乙30に記載されているRFID読取りデバイスの相違は,\n1)「前記挿入アパーチャの周りに配置され,前記挿入アパーチャから上方に延在し, 前記載置キャビティと外部との間の電波を減衰することができる,防壁と呼ばれる 少なくとも1つの壁」(「防壁」)と,2)「前記少なくとも1つの防壁を通して前記挿 入アパーチャにアクセスするための,アクセス開口部と呼ばれる少なくとも1つの 開口部」(「アクセス開口部」)のみである。 2)の「アクセス開口部」は,1)の「防壁」がある場合に,載置キャビティに物を 入れるため(「防壁を通して前記挿入アパーチャにアクセスするため」)の開口部で あるから,防壁があれば必然的に存在することになるものであり,水分を含む物で も情報が効率的に読み取れることとは関係しない。甲1の具体的構成が,乙30に\n係る発明と異なり,水分を含む物でも情報が効率的に読み取れるのは,「防壁」があ るからであると当業者は理解する。 したがって,当業者は,水分を含まない物や対象物が軽い物を読み取るのであれ ば,電波を低量にするから,「防壁」のない装置で十分であると理解する。\nそして,甲1では,「防壁」のないものとして,「読取り/書込みモジュール20 0」が,[図2]に示され,甲1の訳文10頁1〜19行に具体的な構成が記載され\nており,当業者は,「読取り/書込みモジュール200」は,「防壁」を備えるもの ではなく,よりシンプルな構成であるが,読取装置に必要な要素をすべて備えるも\nのであり,水分を含まない対象物については,問題なく動作することを理解する。 このように,甲1には[図1]に示されている読取装置と,[図2]に示されてい る読取装置の二つが開示されており,[図1]の読取装置は,水分を含む物も含まな い物も,効率よく読み取ることができるものであり,[図2]の読取装置は,水分を 含まない物に使用することができると,当業者は理解する。 甲1発明2のように,読取装置を独立した発明として把握する公知文献,公知技 術は枚挙に暇がない(甲2,乙28〜37)。
(イ) 原告らは,水分を含まない物を読み取るものとして,甲1発明2を単 体で利用することについては甲1に何ら記載がないと主張している。 しかし,被告は,読取対象物が水分の少ない場合については従来技術と同様に甲 1発明2が単体の読取装置として機能することを説明しているのであるから,これ\nに対する反論となっていない。当業者が甲1文献の記載を読めば,読取対象物が水 分の少ない物を取り扱う店舗においては,水分の多い物を読み取るために創作され た甲1発明1全体を実施するのは無駄であり,従来技術に近い甲1発明2を実施す べきであると考えるのが当然である。 また,原告らは,電波の出力を下げると金属に貼られたタグも読み取りできなく\nなると主張する。 しかし,そのような事実があるかは不明であるし,仮にそうであるとしても,読 取対象物が金属製でない場合は,従来技術と同様に,甲1発明2が単体の読取装置 として機能し,使用可能\である。本件明細書には,電波強度や金属に貼られたタグ\nを読み取る点について記載がなく,本件発明が金属に貼られたタグが読めるものと\nは解釈できないから,甲1発明2と対比できるものではない。
エ 原告らは,防壁及びアクセス開口部は,甲1に記載される目的を達成す るために必須の構成であると主張する。\nしかし,上記ウのとおり,甲1の[図2]の読取装置は,水分を含まない物につ いては読取装置として十分に使用することができると,当業者は理解する。本件審\n決は,甲1に記載されたこれらの発明のうち,水分を含まない物に使用することが できる[図2]の読取装置を「甲1発明2」と認定したものであるから,誤りはな い。
オ 原告らは,甲1の実施例に重量計が使われていることを指摘するが,読 取対象物が水分の少ない場合については,重量計が存在しても,従来技術と同様に, 甲1発明2が単体の読取装置として機能することに変わりはない。\n

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令和2(行ケ)10041  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月25日  知的財産高等裁判所

 薬品の特許について、公知文献の記載は技術的な裏付けがない仮説にすぎないとして、進歩性違反なしとした審決を維持しました。

(ア) ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動に関する本件優先日当時 の知見について
前記ア(ウ),(エ),(カ),(ケ)の各記載からすると,本件優先日当時までに,Co wanらは,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みの間には関連性が あることを提唱していたものと認められる。 しかし,これらの証拠によっても,本件優先日当時,Cowanらが,ボンベシ ン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みには関連性があることを実験等により実 証していたとは認められないし,また,その作用機序等も説明していない。さらに, 甲4には,「この行動,及びその行動の発生におけるボンベシンの考え得る役割に ついては,更に研究する必要がある。」と記載されており,ボンベシン誘発グルー ミング・引っ掻き行動と痒みには関連性があると断定まではされていない。 加えて,前記ア(ア)のとおり,昭和35年に発表された甲25では,そもそもラッ\nトのグルーミングの実施形態,目的,又は,これを支配する状況等は,ほとんど何 も知られていないとされており,前記ア(キ)のとおり,平成4年に発表された甲27\nでも,ボンベシンにより誘発される行動が,痛み等の侵害刺激に基づく可能性があ\nるとの指摘がされており,前記(2)ア(オ)のとおり,平成7年に発表された甲9にお\nいても,信頼性のある痒みの動物モデルは存在しない,マウスは起痒剤Compo und48/80を皮下注射されても引っ掻き行動をせず,マウスがグルーミング 中に耳及び体の引っ掻き行動するのが痒みに関連した行動とは考えられないなどと されており,Cowanら以外の研究者は,ボンベシンやそれ以外の原因により誘 発されるグルーミング・引っ掻き行動が,痒み以外の要因によって生じているとの 見解を有していたと認められる。 そして,前記(2)ア(オ)のとおり,甲9は,Compound48/80やサブス タンスPを起痒剤として取り扱っており,本件明細書の実施例12でも起痒剤とし てボンベシンではなく,Compound48/80が使用されている一方,ボン ベシンは,本件優先日当時,起痒剤として当業者に広く認識されて用いられていた ものであるとは,本件における証拠上認められない。 以上からすると,本件優先日当時,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動 と痒みの間に関連性があるということは,技術的な裏付けがない,Cowanらの 提唱する一つの仮説にすぎないものであったと認められる。
(イ) オピオイドκ受容体作動性化合物とボンベシン誘発グルーミング・引 っ掻き行動との関係について
前記ア(イ)〜(カ),(ケ),(コ)の記載を総合すると,本件優先日当時までに,ベンゾモ ルファン,エチルケタゾシン,チフルアドム,U−50488,エナドリンといっ たオピオイドκ受容体作動性化合物が,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行 動を減弱すること,他方で,同じオピオイドκ受容体作動性化合物であっても,S KF10047,ナロルフィン,ICI204448といったものは,ボンベシン 誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱しないこと,さらに,オピオイドμ受容体 作動性化合物であるフェナゾシン,オピオイドκ受容体作動作用を有することにつ いて報告がされていない化合物(乙6〜11)であるメトジラジン,トリメプラジ ン,クロルプロマジン,ジアゼパムのようなものであっても,ボンベシン誘発グル ーミング行動が減弱されることが,Cowanらによって明らかにされていたとい える。
また,前記ア(エ),(カ)の記載及び弁論の全趣旨を総合すると,上記のボンベシン 誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱するオピオイドκ受容体作動性化合物の基 本構造は,それぞれ異なっており,エチルケタゾシンはベンゾモルファン骨格,チ\nフルアドムはベンゾジアゼピン骨格,U−50488及びエナドリンはアリールア セトアミド構造をそれぞれ有しており,甲1発明の化合物Aとはそれぞれ化学構\造 (骨格)を異にするものであった。そして,前記ア(ク)のとおり,化学構造の僅かな\n違いは,薬理学的特性に重大な影響を及ぼし得るものである。 以上からすると,本件優先日当時,オピオイドκ受容体作動性化合物が,ボンベ シン誘発グルーミング・引っ掻き行動を抑制する可能性が,Cowanらによって\n提唱されていたものの,甲1の化合物Aがボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き 行動を減弱するかどうかについては,実験によって明らかにしてみないと分からな い状態であったと認められる上,上記(ア)のとおり,ボンベシンが誘発するグルーミ ング・引っ掻き行動の作用機序が不明であったことも踏まえると,なお研究の余地 が大いに残されている状況であったと認められる。
(ウ) 上記(ア),(イ)を踏まえて判断するに,前記ア(イ)〜(カ),(ケ)のとおり, 本件優先日当時,Cowanらは,1)ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動 が,痒みによって引き起こされているものであるという前提に立った上で,2)オピ オイドκ受容体作動性化合物のうちのいくつかのものが,ボンベシン誘発グルーミ ング・引っ掻き行動を減弱することを明らかにしていた。 しかし,上記1)の点については,上記(ア)のとおり,技術的裏付けの乏しい一つの 仮説にすぎないものであった。 上記2)の点についても,上記(イ)のとおり,本件優先日当時において研究の余地が 大いに残されていた。 そうすると,本件優先日当時,当業者が,Cowanらの研究に基づいて,オピ オイドκ受容体作動性化合物が止痒剤として使用できる可能性があることから,甲\n1発明の化合物Aを止痒剤として用いることを動機付られると認めることはできな いというべきである。
(エ) 小括
以上からすると,当業者が,甲1発明に甲2〜9,12などから認定できる一連 のボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動とオピオイドκ受容体作動性化合物 に関する知見を適用し,本件発明1を想到することが容易であったということはで きないというべきであり,取消事由1は理由がない。
ウ 原告の主張について
原告は,これまで認定判断してきたところに加え,1)本件審決は,技術常識が存 在しないことから直ちに動機付けを否定してしまっており,公知文献から認められ る仮説や推論からの動機付けについて検討しておらず,裁判例に照らしても誤りで ある,2)甲63によると,ダイノルフィンAと同じオピオイドκ作動作用を持つ化 合物は,痒みや痛みを抑制することが容易に予測でき,甲1の化合物Aを使用して\n止痒剤としての効果を奏するかを確認してみようという動機付けも肯定できると主 張する。 しかし,上記1)について,仮説や推論であっても,それらが動機付けを基礎付け るものとなる場合があるといえるが,本件においては,Cowanらの研究に基づ いて,甲1発明の化合物Aを止痒剤として用いることが動機付けられるとは認めら れないことは,前記イで認定判断したとおりであり,原告が指摘する各裁判例もこ の判断を左右するものとはいえず,原告の上記1)の主張は採用することができない。 上記2)について,本件明細書には,前記1(1)イのとおり,甲63にダイノルフィ ンと共に挙げられているエンドルフィン,エンケファリン(前記ア(サ))が,痒みを 惹起することが記載されている上,前記ア(サ)のとおり,甲63が,痒みと痛みの関 係は明確ではなく,研究を更に行わなければならないと結論付けているところから すると,甲63の記載が,ダイノルフィン,エンドルフィン,エンケファリン等の 内因性オピオイドが,止痒剤の用途を有することを示唆するものであるとは認めら れず,甲63の記載から,当業者が,甲1の化合物Aについて,止痒剤としての効 果を奏するかを確認することを動機付けられるとは認められない。 そして,その他,原告が主張するところを考慮しても,前記イの認定判断は左右 されないというべきである。

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令和2(行ケ)10110 決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月18日  知的財産高等裁判所

 加圧トレーニングに関する発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。

 これに対して,原告は,前記第3の1(1)のとおり,甲1に引用された実 施例と本件発明3の実施例は,全く同一であり,自然締付け力を付与され ていない状態とする効果を生じさせるための新たな構成要素が付加されて\nいるわけでもないし,仮に,本件優先日当時,自然締付け力を皆無にする 施術が広く実施されていなかったとしても,加圧力の範囲は,身体に対す る負担や得られる効果を勘案しつつ適宜決定し得る程度の事項である旨主 張する。 原告の主張は,本件明細書と甲1の明細書を対比すれば,本件明細書の 図1ないし図7が甲1の明細書の図1ないし図7と同一であること,すな わち,本件発明3と甲1−3発明でそれぞれ用いられる緊締具,加除圧制 御装置及び加除圧制御システムが同一であることを指摘するものと解さ れるが,そうであるとしても,甲1−3発明には,加圧工程と除圧工程を 交互に繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに 緊締具が所定の部位に与える締付け力について,特定部分を締付ける加圧 力を付与しない状態,すなわち,自然締付け力による加圧力も付与しない 状態に制御することについての記載も示唆もないことは前記(1)のとおり である。
また,甲1−3発明は,四肢の所定の部位の締付け力の上げ下げを行い ながら,その所定の部位よりも下流側に流れる血流を阻害し,それによっ て筋肉に疲労を生じさせ,筋肉の効率的な増強を図ることを目的とするも のである(【0003】,【0004】,【0009】,【0010】)から,甲 1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に繰り返す圧力調整手段 を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締具が所定の部位に与え る締付け力について,自然締付け力による加圧力も付与しない状態にして 血流を阻害しないようにする構成とする動機付けがあるとはいえない。\nなお,原告は,甲2発明は,筋肉トレーニングの方法を応用することに よって動脈硬化,つまり,血管のメタボリック症候群状態を改善すること を目的としており,血管を強化する方法の1つを示している旨主張してい るところ,上記主張の趣旨は明らかではないが,要するに,甲2発明にお いて筋肉トレーニング方法を応用することで血管強化も実現できること が示されている以上,本件発明3と同じ緊締具,加除圧制御装置及び加除 圧制御システムが用いられている甲1−3発明において,血管強化も実現 するために,除圧工程により加圧動作によって付与された加圧力が完全に 除去された状態において特定部分を締め付ける加圧力が付与されていな い構成にすることは,設計的事項であると主張するものと解される。\nしかし,甲2の発明の詳細な説明には,「メタボリック症候群は,・・・動 脈硬化,心筋梗塞,或いは脳卒中を起こしやすい状態である」(【0005】) との記載があるのみで,メタボリック症候群が動脈硬化の状態にあると記 載されているわけではなく,また,「加圧トレーニング方法は,四肢の少な くとも1つで流れる血流を阻害することによりその効果を生じさせるも のである・・・加圧トレーニング方法を,メタボリック症候群の治療に用い ようとした場合には,・・一般的には中高年であるメタボリック症候群の患 者は血管の強度,柔軟性が低下していることが多いため,四肢の付根付近 の締付けを行うことにより四肢に与える圧力の制御に最大限の注意が必 要である」(【0007】),「加圧トレーニングは,・・・四肢の付根付近の所 定の部位を締付けて加圧することにより,四肢に血流の阻害を生じさせ, それにより運動したのと同様の効果を生じさせるものである。・・・しかし ながら,メタボリック症候群の患者のような,血管の強度,柔軟性が低下 している者の四肢を締付ける場合には,動脈まで閉じさせるような大きな 圧力を与えることは適切ではない。他方,静脈をある程度閉じさせるよう な圧力で締付けを行わなければ,メタボリック症候群の患者の治療を十分\nには行うことができない。そこで,本願発明における治療システムでは, 四肢の付け根付近の締付けを本格的に行う通常処理に先立って前処理を 行い,その前処理で,四肢の付根付近を締付ける際に与える適切な圧力と しての最大脈波圧を特定することとしている。・・・本願発明の治療システ ムは,メタボリック症候群の患者を含む血管の弱い者の治療に適したもの となる。」(【0009】)との記載がある。そうすると,甲2発明は,加圧 トレーニング方法の機序を応用した,血管の弱いメタボリック症候群の患 者に対する治療装置等に関する発明であって,血管強化方法に関するもの ではないというべきであるから,甲2に血管強化方法が開示されていると の原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,その他の点につき判断 するまでもなく,この点に関する原告の主張は理由がない。
イ また,原告は,甲6には,ベルト(あるいはカフ)を外すことにより締 付け力を皆無にする方法が記載されているところ,本件発明3においては, 「自然締付け力」を皆無にするための付加的な構成要素は示されておらず,\n具体的な方法すら示されていないから,ベルトを単に緩める,あるいは外 すという方法もその「自然締付け力」を皆無にする方法として本件発明3 に包含されている旨主張する。 上記主張の趣旨は明らかではないが,甲6に記載されたベルトを外すこ とにより締め付け力を皆無にするという技術事項を,自然締め付け力によ る加圧力を付与しない方法として甲1−3発明に適用すれば,本件発明3 の相違点2の構成に容易に想到するというものと解される。\n しかし,そもそも甲1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に 繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締 具が所定の部位に与える締付け力について,自然締付け力による加圧力も 付与しない状態として血流を阻害しない状態とする構成にする動機付け\nがあるとはいえないことは前記アのとおりである。 また,甲6には,1)「(バラコンバンドの効能)・・・2.血管内を清掃し 血管にも弾力がでる。バンドを強く締めると,そこで血流が止まる。心臓 からは絶え間なく血液は送られてくる。血液は,バンドの所で滞留し,血 量はその部で倍加される。バンドをはずすと,血は倍の速力で血管内を流 れる。その時血管壁を掃除し,動脈硬化を治し,血管そのものも弾力がで る。」(74頁7行目〜75頁5行目),2)「足裏指巻き ●まず親指と第2 指の間を通してかかとにひっかけ,次に第2指と第3指を通して,またか かとへ巻き,指の間を通した余りで足の甲をこの停止部分にバンドを巻く。 一つでも関節を越したほうがよく効くので,手の場合なら肘の下の二つの 腕にバンドを巻くといい。(肘の上から巻き込んでいてもかまわない)きつ めに巻いて我慢できなくなったらはずそう。すると,ダムの水門を開いた ように,血液がどっと流れ込み,これまで充分にいきわたっていなかった ところまで勢いよく入り込む。」(120頁上段8行目〜121頁2行目) との記載があるが,これらは,血流を一時的に止めた後にバンドを外した 場合の効果が記載されているに止まる。したがって,これらの記載に基づ き,緊締具を付けたままの状態で,「ガス袋120へ空気を送って締付け部 位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位 への加圧を行わない下ピークと,を繰り返す加除圧方法」を採用する甲1 −3発明に,下ピークにする度に緊締具(甲6でいえば「バンド」)を外し, 上ピークにする前にこれを付け直すような変更を施すことは想定できず, この点からも,甲1−3発明に甲6に記載された事項を適用する動機付け はない。

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令和1(行ケ)10140 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月16日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。

ア 本件発明1の「利用者データベース」について
(ア) 前記第2の2の特許請求の範囲の記載のとおり,構成要件1Bの「利\n用者データベース」は,管理コンピュータ側に備えられるものであり, 「監視端末側に対して付与されたIPアドレスを含む監視端末情報」が, 「利用者ID」に「対応付けられて登録」されているものと規定されて いる。 また,管理コンピュータ側は,「利用者の電話番号,ID番号,アド レスデータ,パスワード,さらには暗号などの認証データの内少なくと も一つからなる利用者IDである特定情報」を入手し(構成要件1Di),\n「この入手した特定情報が,前記利用者データベースに予め登録された\n監視端末情報に対応するか否かの検索を行」い(構成要件1Dii),「前 記特定情報に対応する監視端末情報が存在する場合,…この抽出された 監視端末情報に基づいて監視端末側の制御部に働きかけていく」(構成\n要件1Diii)と規定されている。 そうすると,特許請求の範囲の記載からは,「利用者データベース」 は,記憶媒体の種類や構成等の限定は付されていないものの,入手する\n特定情報から,あらかじめ登録された監視端末情報を検索することがで き,入手した特定情報に対応する監視端末情報が存在する場合に当該監 視端末情報に含まれるIPアドレスを抽出し得る程度に,IPアドレス を含む監視端末情報が利用者IDに「対応付けられて登録されている」 ものと理解することが相当である。
(イ) そこで,次に,本件明細書の記載をみると,前記1のとおり,本件発 明の実施例において,「利用者データベース」は,磁気ディスクや光磁 気ディスクからなる記憶装置35に記憶され,利用者の電話番号,ID 番号,アドレスデータ,パスワード,暗号,指紋等を基にした利用者を 識別可能な符号である利用者IDに,該利用者の暗証番号並びに該利用\n者が監視したい場所に設置されている監視端末に付与されているIPア ドレスを対応付けているものであり(【0020】,【0021】,【図 5】),利用者の認証の際に参照されるとともに,利用者がアクセス可 能な監視端末のグローバルIPアドレスを検索抽出するために参照され\nるものとされている(【0026】,【0029】,【0030】,【図 7】)。 本件明細書の記載によっても,「利用者データベース」は,利用者を 識別できる情報(「利用者ID」)に,当該利用者が監視したい場所に 設置されている監視端末に付与されたグローバルIPアドレス(「監視 端末情報」)が検索できる程度に対応付けられることを要するものと理 解される(なお,実施例における記憶媒体の種類は単なる例示であるこ とが明らかであるから,やはり,本件発明1において,「利用者データ ベース」の記憶媒体の種類や構成等に限定が付されたものと理解するこ\nとはできない。)。
(ウ) 以上からすると,本件発明1の「利用者データべース」は,利用者を 識別できる情報に監視端末側に付与されたIPアドレス等の情報が,検 索できる程度に対応付けられて登録されていることを要するものの,そ れで足り,記憶媒体の種類や構成等が具体的に限定されているものでは\nないと解されるが,利用者を識別できる情報とIPアドレスが関連性な く記憶され,両者がシステム動作中に単にあい続いて利用されているだ けの関連性しか有しない場合には,前記(ア)において説示した意味合い において,当該監視端末情報に含まれるIPアドレスを抽出し得る程度 に,IPアドレスを含む監視端末情報が利用者IDに「対応付けられて 登録されている」ものということはできないから,「利用者データベー ス」が構成されているとはいえないと解するのが相当である。\n

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こちらは原告被告の同じ関連事件です。

◆令和1(行ケ)10141

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令和2(行ケ)10073  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月24日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。

(1) 一致点及び相違点
上記1及び2によれば,本件各発明と甲1発明との一致点及び相違点は, 本件審決が認定したとおり(前記第2の3(2)イ)であると認められる(なお, 以下において,「医療情報取得情報」とは,患者の医療情報を取得するため に,端末装置から取得され,又は情報処理装置の記憶部にあらかじめ記憶さ れた情報をいう。)。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,甲1発明の「ベッドサイド端末識別子」は患者名を取得するた めの識別情報であり,本件発明1の「第1識別情報」に相当するから,相 違点1−1は存在しない旨主張する。 しかしながら,本件明細書1及び甲1公報の記載内容からすれば,本件 発明1の「第1識別情報」は,患者ごとに付された患者ID等であるのに 対し,甲1電子カルテサーバの「ベッドサイド端末識別子」は,ベッドサ イド端末ごとに付されたIPアドレス等であり,両者が識別する対象は異 なるというべきである。また,甲1電子カルテサーバの「ベッドサイド端 末識別子」は,患者IDと関連付けられて記憶されることによって初めて 患者を識別する情報として用いることが可能となるにすぎないものであ\nり,それのみによって直接に患者が識別されるものではない。 これらの事情を考慮すると,本件発明1の「第1識別情報」と甲1電子 カルテサーバの「ベッドサイド端末識別子」とは,異なる概念であるとい うべきであるから,相違点1−1を認定することができる。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ なお,原告が主張する相違点は,上記相違点1−2と実質的に同じ内容 である(原告が指摘するとおり,相違点1−2の第2段落及び第3段落は, 第1段落に伴って形式的に生じる相違点にすぎない。)。

◆判決本文

こちらは関連発明です。

◆令和2(行ケ)10074

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令和2(行ケ)10032  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月30日  知的財産高等裁判所

 引用文献1との一致点の認定が誤っているとして、進歩性無しとした審決が取り消されました。

 これに対し,被告は,前記第3の1(2)ア(ア)のとおり,甲1発明におい ては,撮像装置を光軸まわりに回転させる方向が「ロール方向」の傾きで あることは技術常識であるから,表示部の回転した角度である「天地方向\nの向き」,すなわち「天地方向の情報を示す矢印の角度」が「ロール方向の 傾き」であると主張する。 しかし,「画像撮像装置1000が,右に30度傾いた状態である場合の, 報知画像600Aを示す図」である図13の「矢印512」は,「天地方向 の情報を示す」(【0112】)ものであるところ,「天地方向算出手段22 2は,傾斜測定部250が算出した重力加速度の方向と大きさに基づいて」 天地方向を判定し(【0079】,【0087】,【0088】,【0107】), 「傾斜測定部250」は,直交する2軸の重力加速度センサーが,【007 2】の式(3)で求められる,「方向D303と水平面P302とが成す角度」 (【0069】)であるθの値を算出し,平面P302の傾斜度を測定する (【0073】,【0074】)ものである。そして,前記(1)ア(イ)のとおり, こうした直交する2軸の重力加速度センサーと水平面との角度がなす傾 斜度により判定される角度は,光軸が水平面と平行である場合を除き,撮 像装置を光軸まわりに回転させる方向の傾きの角度とは異なるから,「矢 印512」で示される「天地方向の情報を示す矢印の角度」が「ロール方 向の傾き」であるということはできない。
イ また,被告は,前記第3の1(2)ア(イ)のとおり,甲1発明は,第1傾斜 度及び第2傾斜度の両方に基づいて画像撮像装置の前後方向の傾き,すな わち,ピッチ方向の傾きを検出するものといえる旨主張する。
確かに,甲1には,1)天地方向算出手段222は,第1傾斜度及び第2 傾斜度のいずれかが所定値A(例えば,30〜60の範囲の値)以上であ るか否かを判定(ステップS120)し(【0105】),所定値A以上であ れば,天地方向算出手段222が,傾斜測定部250が測定した第1傾斜 度及び第2傾斜度に基づいて画像撮像装置1000の天地方向の算出を 行い(【0107】),制御部が画像撮像装置1000の天地方向の算出結果 に基づく情報を表示した報知画像を生成し,表\示部150に表示する(【0\n108】),2)ステップS120において,所定値A未満であれば,天地方 向算出手段222が傾斜測定部250が測定した第1傾斜度及び第2傾 斜度に基づいて,画像撮像装置1000の天地方向の算出を行う(【011 8】)ところ,図14のように画像撮像装置1000が水平面に対して平行 である場合,天地方向算出手段222は,傾斜測定部250が測定した第 1傾斜度及び第2傾斜度に基づいて画像撮像装置の天地方向の判定はで きない(【0119】)が,画像撮像装置が図14の状態になる前に必ず第 1傾斜度及び第2傾斜度のいずれかが所定値A以上(ステップS120に おいてYESの場合)の状態にあり,天地方向が判定できる状態にあって (【0121】),傾斜度及び天地方向が記憶(ステップS126)する処理 が行われており(【0122】),こうした場合,天地方向算出手段222は, 記憶されている傾斜度データ及び天地方向のデータの少なくとも一方に 基づいて画像撮像装置1000の天地方向の判定を行い(【0123】),こ の算出結果に基づく情報を報知した報知画像を表示部150に表\示させ る(【0124】),3)【図16】は,画像撮像装置1000が水平面P30 2に対し平行である場合の報知画像を示す図である(【0126】)ことが それぞれ開示されている。
しかし,天地方向算出手段222は,傾斜測定部250が算出した重力 加速度の方向を大きさに基づいて天地方向を判定し(【0079】,【008 7】,【0088】,【0107】),画像撮像装置に内蔵された2軸の重力加 速度センサーである傾斜測定部250は,【0072】の式(3)により求め られる重力加速度センサーと水平面とが成す角度θ(D301,303と 同じ軸上にある重力加速度センサーと水平面P302とが成す角度)の値 を算出することによって傾斜度を測定するものであるから,甲1で測定さ れる第1傾斜度及び第2傾斜度は,撮像装置の水平軸が水平面と平行であ る場合を除き,撮像装置を水平軸周りの傾き度合いであるピッチ方向の傾 きを算出するものではないことは前記(1)イ(イ)のとおりである。また,【図16】について,画像撮像装置の水平軸が水平面と平行であることを前提として,画像撮像装置を水平軸周りに前後に回転(変位)させて画像撮像装置が水平面P302に平行になった状態であると仮定したとしても,上記の開示事項からは,「画像撮像装置が水平面に対し平行である場合」かどうかの判定に際し,第1傾斜度及び第2傾斜度が用いられる ことは読み取ることができるものの,ピッチ方向の傾きを検出し,判定に 用いることを開示しているとはいえない。

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令和1(行ケ)10159  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月15日  知的財産高等裁判所

 審決は、複数のカメラの一方の表示を回転させることは、周知として進歩性なしと判断しました。これに対して、知財高裁は、主引例にはそのような課題が存在しないとして、動機付けなしとして審決を取り消しました。

 前記2(1)イのとおり,引用発明は,医師等が観察して診断を行う診断用 画像モニタ装置と離れて,操作者が被検者に対してX線装置のコリメータ やTVカメラの調整等を行う際の被検者及び操作者のX線被爆を避ける ために,X線曝射しない状態でコリメータやカメラの操作ができ,簡単か つ安価で操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供することを目的とするものである。\nそして,引用文献1は,こうした課題を解決するために,医師等が観察 する診断用画像モニタ装置とは別に,1対の平行コリメータ位置マーカ2 4,24や円形コリメータ位置マーカ25,カメラ画像正立位置マーカ2 6の画像を,制御ユニット18の制御の下で,X線照射停止直前に撮像さ れ画像メモリ19に格納されたX線透視像を画像と重ねて操作用液晶デ ィスプレイ装置21に表示し,マーカ24,25,26上を指などで触れてドラッグすると,その位置情報が制御ユニット18に取り込まれて演算\nされて新たな表示位置が求められ,その位置へ各マーカが動いていくような表\示がされ,この入力情報に応じて制御ユニット18が指令をコリメータ12及びTVカメラ15へ出し,コリメータ12の遮蔽板の位置や方向 が変更され,TVカメラ15の回転角度が調整され,現実に動いた位置・ 方向の情報が制御ユニット18に返され,これに応じて制御ユニット18 が平行コリメータ位置マーカ24,24又は円形コリメータ位置マーカ2 5の表示位置を固定するとともに,表\示されたX線透視像23及びカメラ 画像正立位置マーカ26を回転させる(【0018】,【0019】)という 構成を開示している。このように,引用発明は,あくまで,医師等が観察して診断を行う診断用画像モニタ装置とは別に,X線被爆を避けるために,X線曝射しない状\n態で操作ができ,画像を操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供することを目的とするものであって,こうした技術的意義を有す\nる引用発明において,引用文献1には,操作者が医師等の術者が被検者を 見る方向と異なる方向から被検者を見ることにより,操作者が被検者を見 る方向と操作用画像表示装置に表\示される患部の方向とが一致しないと いう課題(課題B2)があるといった記載や示唆は一切ない。
イ この点につき,被告は,前記第3の2(1)のとおり,当業者であれば,課 題B2の存在を理解し,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置に おいて,「操作者」が異なる方向から被検者に対向する場合,各々の被検者 を見る向き(視認方向)に一致させるという周知の課題(乙3,4)を参 照し,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプ レイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致 させるという課題を当然に把握し,引用発明に技術事項2を適用する動機 づけがある旨主張する。
しかし,当業者であれば,課題B2の存在を当然に理解するという点に ついては,これを裏付けるに足りる証拠の提出はなく,むしろ,原告が主 張するように,術者と操作者との力関係や役割の違いに照らせば,操作者 は,従前は,このような課題を具体的に意識することもなく,術者の指示 に基づきその所望する方向に画像を調整することに注力していたもので あるのに対して,本願発明は,その操作者の便宜に着目して,操作者の観 点から画像の調整を容易にするための問題点を新たに課題として取り上 げたことに意義があるとの評価も十分に可能\である。
また,乙3には,「本発明の手術用顕微鏡システムでは,前記画像表示手段を複数備え,少なくとも一つの画像表\示手段で表示される画像の向きが\n変更可能であることが望ましい。このような構\成では,術者と助手とが向 き合って手術する時のように,撮像部分を異なる方向から見る場合におい ても,それぞれの見る方向に応じて画像の向きを変えることにより,撮像 部分を見るのと同じ向きの画像を表示することが可能\となり,より手際の よい手術が行えるようになる。」(【0007】),「本発明の手術用顕微鏡シ ステムは,・・・前記画像処理装置は,各電気光学撮像手段からの撮像信号に 基づいて,基準画像信号を生成して,基準画像を前記画像表示手段に表\示 させる基準画像生成部と,前記各撮像信号に基づいて,基準画像と上下ま たは左右が反転した反転画像信号を生成して,前記画像表示手段に表\示さ せる反転画像生成部とを備えることを特徴とする。」(【0008】)との記 載があるように,術者とそれを補助する術者が向き合って手術をするとき のように撮像部分を異なる方向から見る場合でも,画像表示手段で表\示さ れる画像の向きをそれぞれの見る方向に応じて変更する構成により,撮像部分を見るのと同じ向きの画像を表\示することが可能となり,より手際の\nよい手術が行えるようになるとの課題が示されているにとどまり,術者と X線撮影装置の操作者についてそのような課題があると開示するもので はない。
さらに,乙4には,「本実施例の装置の動作について,図を参照して説明 する。まず,図1において術者Aは第1モニタ4を見て,術者Bは第2モ ニタ7を見て手技を行っている。ここで術者Bは内視鏡2に対向している ので,内視鏡2の原画像をそのまま第2のモニタ7に表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてしまう。このため,画像処理装置8にて,第2モニ\nタ7の画面のみを上下左右反転させた倒立像を映し出す。」(【0022】), 「本実施例では,第2モニタ7を倒立像にすることで,術者Bが上下左右 逆の感覚で手技を行うことがないので,スムーズに手技を行うことができ る。また,第1モニタ4及び第2モニタ7のいずれでも倒立像にできるの で,内視鏡2の向きや術者の位置が変わっても,容易に対応できる。」(【0 025】)との記載があるように,術者Aと術者Bがそれぞれ異なるモニタ を見て手技を行う場合において,術者Bが見ている第2のモニタ7に内視 鏡2の原画像を見てそのまま表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてしまうという課題が示されているにとどまり,術者とX線撮影装置の操作者\nについてそのような課題があると開示するものではない。
そうすると,上記の乙3,4の各文献に記載された課題は,あくまで術 者と助手又は術者と術者がそれぞれ異なるモニタを見ることによって生 じる課題を指摘するにとどまり,術者とは異なる操作者が操作を行うとい う引用発明の場合において,操作者の便宜のために,操作者が見る患部の 向きの方向と,操作者が見る操作用液晶ディスプレイの患部の向きとを一 致させるという課題を示唆するものとはいえないから,当業者がこのよう な課題を当然に把握するともいえない。
(2) また,仮に,引用発明について,前記課題B2の存在を認識し,異なる方 向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の 向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題を 把握して,操作用液晶ディスプレイ装置21に表示されるX線画像のみを回転させるという相違点の構\成とする動機づけがあると仮定しても,前記2(2) のとおり,技術事項2’は,HMDを装着し操作者を兼ねた術者が見るHM Dの画像表示部に表\示されるX線画像と実際の患者の患部の位置把握を容易 にするために,上記術者の床面上の位置情報に基づいて上記X線画像の回転 処理を行うものであるから,回転処理がされるX線画像はHMDの画像表示部であり(引用文献2の【0014】,【0020】,図14等),また,画像\n回転処理の基になる位置情報は,床面に設けられた感圧センサによるもので ある(引用文献2の【0022】)。
こうした技術事項2’の構成は,キャビネット43に設置された診断用画像モニタ17は術者である医師が使用し,台車41に設けられた操作用液晶\nディスプレイ装置21は撮像装置のセッティング等のために操作者が状況に 応じて自由に移動し,また台車41に様々な立ち位置を取ることができる引 用発明の具体的な構成と大きく異なるものであるから,引用発明と引用文献2に記載されたX線装置は同一の技術分野に属し,X線画像を表\示する装置を有する点で共通するとしても,HMDに表示されるX線画像の回転処理が行われるという技術事項のみを抽出して引用発明に適用する動機づけがある\nとはいえない。 さらに,技術事項2’は,操作者を兼ねた術者が装着したHMDに表示されるX線透視像を床面の位置情報に基づいて回転させるという構\成を有するものであるから,こうした構成を無視して,表\示されたX線画像のみを回転させるという技術事項のみを適用し,本願発明の相違点の構成に想到するとはいえない。\n
(3) 以上によれば,本願発明と引用発明との相違点は,本願発明は「前記X線 画像のうち,前記表示部に表\示されるX線画像のみを回転させる画像回転機 構を備え」ているのに対し,引用発明は,そのような特定がない点に尽きるが(本願発明における画像回転機構\自体については目新しいものとはいえない。),引用文献1には,「操作用液晶ディスプレイ装置21」を見て操作する「操作者」の視認方向が「診断用画像モニタ装置17」を見る「術者」の「被検者」の視認方向と一致しないという課題(課題B2)について記載も示唆もなく,被告が提出した文献からは,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置において,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題があると認めるに足りないから,こうした課題があることを前提として,引用発明との相違点の構成にする動機づけがあるとはいえず,また,本件審決の技術事項2の認定に誤りがあり,引用文献2に記載された事項(技術事項2’)から引用発明との相違点の構\成に想到するともいえないから,結局のところ,本願発明は,引用発明及び引用文献2に記載された技術事項2’に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものとはいえず,これと異なる本件審決の判断は,その余の点につき判断するまでもな く,誤りである。

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令和2(行ケ)10011  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月17日  知的財産高等裁判所

 引用文献の開示認定に誤りありとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。

 上記記載から,隔壁の遠位部に備えたスリットは,隔壁の遠位部を通る イントロデューサ針の位置決めをし,その挿入を簡単にするために設けら れたものであることを理解できる。 さらに,図1,23,25ないし27から,延長チューブの遠位端が, カテーテル・アダプタの近位端と遠位端との間で,かつ,隔壁の遠位部の 遠位端よりも更に遠位側に開口した中空部分に接続していることを看取 できるから,引用文献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセン ブリにおいては,患者への流体の注入及び患者の循環系からの流体の除去 は,延長チューブを通じてカテーテル・アダプタの上記中空部分を介して 行うものであることを理解できる。 ウ 以上によれば,引用文献1記載の隔壁は,針の保管及び使用中に針の周 りにシールを提供し,針が引き出された場合に密閉されるように隔壁アセ ンブリ内に設けられたものであって,隔壁の遠位部に備えたスリットは, そこを通るイントロデューサ針の挿入を簡単にするために設けられたも のであるから,隔壁の遠位部は,流体の「該流入及び流出を可能とするよ\nうに開口可能なスリットを有して」いると認めることはできない。\nそうすると,引用文献1記載の「隔壁」の遠位部は,本願発明の「前記 第2弁部材は,二方弁であり,流体が,前記カテーテルハブの前記内室を 通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように\n開口可能であ」るとの構\成(本件構成)に相当するものといえず,引用文\n献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリは,本件構成を\n有しない点で本願発明と相違するから,この点において,本件審決には, 一致点の認定の誤り及び相違点の看過があるものと認められる。
(2) これに対し被告は,1)引用文献1には,カテーテル及びイントロデューサ 針アセンブリについて,従来より,流体を患者に注入することができるとと もに,患者の循環系からの流体の除去を可能にするものであることが述べら\nれていること(【0002】),2)流体の患者への注入及び患者の循環系からの 流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された,「二方弁」として機能\nする「スリットを備えた隔壁」を介してされることが技術常識であること(例 えば,甲3,乙6)からすれば,当業者は,引用文献1記載のカテーテル及 びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,本件構成に相当す\nると当然把握するから,本件審決における一致点の認定に誤りはない旨主張 する。
ア 1)について
引用文献1の【0002】には,「医療では,このようなカテーテル及び ントロデューサ針アセンブリは,患者の脈管系内に適切にカテーテルを配 置するのに使用される。定位置になると,静脈(すなわち,「IV」)カテ ーテルなどのカテーテルを使用して,生理食塩水,医療化合物,及び/ま たは栄養組成(完全非経口栄養,すなわち「TPN」を含む)を含む流体 をこのような治療を必要とする患者に注入することができる。カテーテル は加えて,循環系からの流体の除去,及び患者の脈管系内の状態の監視を 可能にする。」との記載がある。\n上記記載から,カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリのカテー テルは,「循環系からの流体の除去,及び患者の脈管系内の状態の監視」を 可能にすることを理解できるが,上記記載は,隔壁の遠位部又はその遠位\n部に設けられたスリットが流体の「流入及び流出を可能とするように開口\n可能」な構\成であることを示唆するものとはいえない。
イ 2)について
乙6(国際公開第2008/052791号)には,バルブ組立体の具 体的構造として,側部のポートに沿って配置され,ポートを閉じる弁であ\nって,ポート内の加圧された流体の作用により開口可能となる第1バルブ\n要素(チューブ要素5),流体が遠位方向又は近位方向のいずれかに流れる ことを可能にする二方向バルブとして形成されるスロット6aを備えたバ\nルブディスク6(原文4枚目7行〜5枚目3行(訳文5枚目),原文5枚目 17行〜20行(訳文6枚目),図1,2等)の記載がある。 引用文献3(甲3・訳文乙5)には,1)スリットを有する隔壁と隔壁作動 体とを含み,使用中は,隔壁作動体が隔壁のスリットを通って前進し,隔 壁を通る流体経路を形成する血液制御バルブと,カテーテルアセンブリ内 の流体がサイドポートから漏れることを防止できるポートバルブ(【000 2】,【0003】),2)「カテーテルアダプタは,隔壁作動体と隔壁とを含 む血液制御バルブを収容する。隔壁は,管腔の一部を封止する。1つ以上 のスリットが隔壁を貫通して延在することで,隔壁を通る選択的なアクセ スを提供できる。よって,ポートバルブは,ポートを介してカテーテルア ダプタの内部管腔に対する一方向の選択的なアクセスを提供し得る。」(【0 005】)との記載がある。 上記記載から,カテーテル組立体において,流体の患者への注入及び患 者の循環系からの流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された「二 方弁」として機能する「スリットを備えた隔壁」を介してされ得る技術が,\n本願優先日当時,一般に知られていたことが認められる。 一方で,上記記載から,カテーテルハブの中空部に配置された「スリッ トを備えた隔壁」が常に「二方弁」として機能するとまで認めることはで\nきないから,上記技術が一般に知られていたことを踏まえても,前記⑴ウ の認定を左右するものではなく,当業者は,引用文献1記載のカテーテル 及びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,本件構成に相\n当すると当然把握するものと認めることはできない。

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