進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
ウ 以上を踏まえ、相違点1について検討する。前記(2)のとおり、甲1発明
において、「加熱コイルを収容するケース」は、「コア10とソールプレ\nート26」から構成されるものと認められるところ、このうち「ソ\ールプ
レート26」は、「アセンブリの底部に適用され、溶接されるべき非金属
複合アセンブリに含まれる金属サセプタに、コイルによって発生した渦電
流を印加するために設けられる」(甲1文献・訳文3頁)ものとされてい
ることからすると、「ソールプレート26」は、コイルを収容するケース\nとしてコイルと加熱対象物との間に置かれ、コイルによって発生した磁束
を加熱対象物である金属サセプタに届かせるため、当該磁束を通過させる
材料で構成されているものと理解される。そして、前記の誘導加熱の原理\nからすると、電気絶縁性の非磁性材は、磁束に何ら影響を与えることなく、
磁束を通過させる性質を有するものであり、前記各文献によれば、電気絶
縁性の非磁性材の構成材料としてはセラミックや樹脂があったことが周知\nであったと認められる。
そうすると、甲1発明の「ケース」を構成する「コア10とソ\ールプレ
ート26」のうち「ソールプレート26」について、磁束を通過させる性\n質を有する電気絶縁性の非磁性材として周知のセラミック又は樹脂を選択
し、「コア10と電気絶縁性を有するセラミックまたは樹脂」で構成され\nる「ケース」とすることは、当業者にとって容易想到であったというべき
である。
エ この点に関し、被告は、本件発明1に係る特許請求の範囲の請求項1の
記載によれば「ケースの全て」や「ケースの一部」などの解釈がされる余
地はなく、本件審決は、フェライト材料又は粉末鉄で作られたコアを請求
項1のケースの構成に置き換えられるかを判断しているだけであるなどと\n主張する。
しかしながら、前記(1)のとおり、本件発明1に係る特許請求の範囲の請
求項1には「電気絶縁性を有するセラミックまたは樹脂で構成され前記加\n熱コイルを収容するケース」と記載されているにとどまるから、ケースの
構成が前記の要素「のみ」からなるものに限定されるものと解することは困難である。\nよって、被告の主張は前提となる本件発明1の特許請求の範囲の解釈を
異にしており、これを採用することはできない。
(5) 小括
以上によれば、本件発明1と甲1発明の相違点1については容易想到であ
ったというべきであり、相違点2から4までについては、前記のとおり進歩
性は否定されるから、結局、本件発明1は、甲1発明に基づいて出願前に当
業者が容易に発明することができたとものと認めるのが相当である。
◆判決本文
異議申立に対する取消訴訟です。裁判所は、本件発明における「RB0.4以上事項の有無」は、相違点であるとして、進歩性有りと判断しました。\n
1 取消事由1、2(引用文献1に基づく新規性、進歩性の判断の誤り)について
原告らが取消事由1、2を通じて主張するところの眼目は、1)引用文献1に
は「自立CNTペリクル膜」の発明が記載されているとはいえない、2)引用発明
1には本件発明のRB0.4以上事項の記載がないところ、これらに係る本件発
明1との相違点は実質的なものであり、かつ、引用発明1にRB0.4以上事項
を持ち込むことは容易想到ともいえないという2点に集約される。
当裁判所は、1)に係る原告らの主張は採用できないが、2)の主張は理由があ
るものと判断する。以下に詳説する。
・・・
(3) RB0.4以上事項の有無は実質的相違点か
ア 本件決定が認定した本件発明1と引用発明1の相違点1A(別紙3「本
件決定の理由」1(2)アの[相違点1A])の中には「引用発明1ではRB0.
4以上事項の構成が明らかでない」点が含まれているところ、本件決定は、\nこのRB0.4以上事項の有無に係る相違点は実質的な相違点ではないと判
断した。
イ しかし、引用文献1には、RBの数値を特定する記載は一切なく、その示
唆もない。また、CNT膜の面内配向性をRBによって特定すること自体も、
引用文献1その他の出願時の文献に記載されていたと認めることはできず、
技術常識であったということもできない。
ウ 本件決定の上記アの判断は、RBの値が、0.40以上では面内配向して
おり、0.40未満では面内配向していないことを表す旨の本件明細書等\nの記載(【0104】)から、本件発明1のRB0.4以上事項が、CNT
のバンドルが面内配向していることを特定するものであり、引用発明1は
面内配向しているものを想定しているから、RB0.4以上事項を満たすこ
とになるとの理解に基づくものと解される。
しかし、本件発明1の特許請求の範囲に照らすと、CNTバンドルが面内配向しているという定性的構成(構\成1C)と、RB0.4以上事項とい
うパラメータによる定量的構成(構\成1D)は独立の構成となっており、本\n件明細書の【0104】等の記載を踏まえても、引用発明1のCNTバンド
ルが面内配向の特性を有しているからといって、RB0.4以上事項を当然
に満たすと判断することはできない。
エ 被告は、通常の発想のもとで、通常の性状のSWCNT及び通常用いら
れるプロセスで製造された薄膜自立無秩序SWCNTシートであれば、膜
厚、バンドル径及び自立性のいずれの観点においても、本件明細書等にお
ける比較例1よりは実施例1に相当程度似通っているといえる上、比較例
1のRBの値(0.353)がRB0.4以上事項の下限である0.4に相
当程度近いこと等を考慮すれば、比較例1よりも実施例1に相当程度似通
っている薄膜自立無秩序SWCNTシートであれば、RB0.4以上事項を
満たしている旨主張する。
しかし、被告の主張する「通常の発想のもとで、通常の性状のSWCNT
及び通常用いられるプロセスで製造された」との薄膜自立無秩序SWCN
Tシートの製造方法や、当該薄膜自立無秩序SWCNTシートの「膜厚、バンドル径及び自立性」について具体的に特定する主張立証はされておらず、
したがって、「比較例1よりも実施例1に相当程度似通っている薄膜自立
無秩序SWCNTシート」の内容も明らかではないというよりほかない。
かえって、原告ら提出に係る甲40によれば、原告らが引用文献2記載
の方法で作製したCNT自立膜(サンプル1、2)ではそれぞれRBが−0.
38、−0.26であったのに対し、本件発明の完成当時に製造されたCN
T自立膜では1.04だったのであり、薄膜自立無秩序SWCNTシート
であれば、RB0.4以上事項を満たしているともいえない。
被告は、甲40について、1)RB測定サンプルの保管が実際にどのような
条件で行われていたか確認できず、サンプルの実在も確認できない、2)本
件明細書等に記載された実施例及び比較例と実験条件が異なる、3)当該各
RB測定サンプルは、特性が位置的にみて不均一となっている、4)RB0.
4以上事項を満たさないとされるサンプル1、2は一部破損がみられるか
ら自立膜とみられないなどと論難するが、1)については、サンプル1、2は
平成29年4月の開発時に作製したものと推認され、2)については、甲4
0は、「面内配向していてRBが0.4未満の膜が存在するかどうか」の点
を検証する実験であるから本件明細書等の実施例及び比較例の条件によら
ねばならないものではない。また、3)については、もともとRBの測定方法
は局所的な断面に対するものであり、RB0.4以上事項は、少なくとも一
つの断面で0.4未満以上となることを意味するのであるから、被告主張
の点をもって甲40に基づく上記判断は左右されない。さらに、4)につい
ては、甲40では、サンプル1、2について製造過程で一部破損があったとしても、自立膜となったものを測定しているのであるから、やはり被告の
主張は採用できない。
(4) 以上のとおりであって、本件決定には、RB0.4以上事項を含む相違点1
Aが実質的なものであることを看過し、引用発明1に基づき本件発明1、3
〜5が新規性を欠くとした誤りがあり、取消事由1は理由がある。
◆判決本文
2024.06. 9
審決は無効理由無しと判断しましたが、知財高裁は本件発明の認定誤りがあるとして、これを取り消しました。
ア 本件発明1について
まず、本件発明1の要旨認定につき当事者間に争いがあるため、以下検討する。
(ア) 本件発明1の特許請求の範囲の記載によると、「取付部材」は、構成要件B\n「前記LED基板が取り付けられる取付部材と」、構成要件C「拡散性を有し且つ前\n記LED基板を覆うようにして前記取付部材に取り付けられるカバー部材とを備え
た」、構成要件E「前記カバー部材は、前記取付部材に取り付けられる一対の突壁部\nと」、構成要件F「を有し」、構\成要件I「前記取付部材は、前記複数のLEDが前
記収容凹部の外側を向くようにして前記LED基板を前記器具本体に取り付けるた
めの部材であり」と特定されているところ、「取付(け)」とは、「1)機器・器具など
をとりつけること。装置すること。」(広辞苑第六版)を意味する名詞であるから、
「取付部材」とは、機器・器具などをとりつけること、装置することに関わる部材
であると理解できる。
また、「取り付ける」とは、「1)機器などを一定の場所に設置したり他の物に装置
したりする。」(広辞苑第六版)を意味する動詞であり、構成要件Bにおいて、「られ\nる」という受け身を表す文言とともに用いられているから、構\成要件Bにより、「取
付部材」は、LED基板が装置される対象物であると理解できる。
さらに、構成要件Cにおいて、「取付部材」は、LED基板を覆うようにしてカバー\n部材が取り付けられる対象物であることが特定されており、そのための構成として、\n構成要件E及び構\成要件Fによると、カバー部材が一対の突壁部を有することが特
定されている。そして、「にして」とは状態を表すものであり、「ため」とは「目的」を意味するものである(広辞苑第六版)から、構\成要件Iによると、「取付部材」は、複数のLEDが収容凹部の外側を向いた状態でLED基板を器具本体に取り付ける
ことを目的とした部材であることが特定されていると理解できる。
以上によると、本件発明1の各構成要件の特定事項から、本件発明1の「取付部\n材」は、カバー部材が装置されて一体となること、及び、LED基板が取り付けら
れ、それが収容凹部の外側を向く状態で器具本体に取り付けることを目的とした部
材であると認められる。
他方、本件発明1では、カバー部材を取付部材に取り付けるための手段として、
カバー部材が一対の突壁部を有することが特定されている(構成要件E)ものの、\n「取付部材」を器具本体に取り付けるための具体的な構成、例えば、ボルトやフッ\nクなどの構成についての特定はされていないものといえる。\n
そうすると、本件発明1では、「取付部材」を器具本体に取り付けるための具体的
な構成の特定がない以上、当業者は、「取付部材」を器具本体に取り付けるための構\
成として、技術水準を踏まえて任意のものを採用し得るものと解される。例えば、
本件出願日前に公開された甲2の図13の「係止部材4」、甲202(実用新案登録
第3126166号公報)の「取付部材4」、甲204(特開2012−18598
1号公報)の「係止部材40」及び「係止穴84」、甲205(ワイドキャッツアイ
器具ERK8775W/WEHP108Mに係る報告書)の「キックバネ3」、乙1
の「取付ばね18」及び「取付金具13」(乙2、3も同様)の取付部材と器具本体
の間に係止又は嵌合させる手段を介在させる構成を含め、カバー部材を介在するよ\nうな態様を排除するものではないと解することができる。
(イ) もっとも、特許請求の範囲の記載の意味内容が、本件明細書において、通常
の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されていれば、異なる解釈をする余
地があるため、以下検討する。
この点、本件明細書によると、「取付部材」については、従来技術の説明(【00
03】)、課題を解決するための手段(【0007】、【0008】、【0012】)、実施形態(【0021】、【0024】〜【0028】、【0030】、【0032】〜【0035】、【0037】、【0044】、【0046】、【0047】、【0051】など)に、それぞれ記載があるが、いずれの記載によっても、前記(ア)の特許請求の範囲の記載の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されているものとはいえない。
ここで、更に本件明細書の実施例についてみると、取付部材について以下のよう
に説明されている。図1に係る実施形態における取付部材21は、複数のLED基板22が取り付けられ、LED基板22を覆うようにしてカバー部材23が取り付けられること(【0021】)、板金に曲げ加工を施すことで形成され、所定の形状、穴、LED基板を取り付けるための係止爪(図示せず)を有すること(【0024】〜【0026】)、電源装置24や端子台ブロック25を取付部材21に取り付けるための構成を有す\nること(【0030】、【0032】〜【0035】)、さらに、例示として、器具本体1と取付部材21にそれぞれ設けた嵌合構造(図示せず)により光源ユニット2を\n器具本体に取り付ける(【0037】)ものである。
また、図5に係る実施形態の別の例における取付部材21は、器具本体として構\n成された反射板5及び取付部材にそれぞれ設けた嵌合構造(図示せず)により光源\nユニット2を反射板5(器具本体)に取り付ける(【0044】)ものである。
このように実施形態では、図示はないものの取付部材21と器具本体には嵌合構\n造が設けられていることが理解でき、「嵌合」とは、「〔機〕軸が穴にかたくはまり合ったり、滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語」(甲201)である
から、取付部材21と器具本体とは、はまり合うための構造を有し、これにより取\nり付けられることが記載されているものと理解できる。もっとも、かかる実施形態
における取付部材21と器具本体が、はまり合うための具体的な構造については図\n示されておらず、何ら具体的な構造が開示されていないことに照らすと、実施形態\nにおいて取付部材21と器具本体との間にカバー部材を介する態様も包含している
といえる。
(ウ) 被告は、本件発明における「取付部材」は、特許請求の範囲の文言上、直接
器具本体にLED基板を取り付ける部材として特定されており、この点に関する本
件審決の認定に何ら誤りはないと主張するが、上記(ア)のとおり、かかる主張は首肯
できない。
また、被告は、実施形態において開示されているのは、カバー部材を介すること
なく、取付部材と器具本体に設けられた嵌合構造により両者が取り付けられている\n構造のみであって、カバー部材を介する構\造は存在しないとも主張するが、上記(イ)
のとおり、かかる実施形態における取付部材21と器具本体が、はまり合うための
具体的な構造については図示されておらず、何ら具体的な構\造が開示されていない
ことに照らすと、実施形態において取付部材21と器具本体との間にカバー部材を
介する態様も包含しているといえるから、被告の上記主張も採用できない。
・・・
(ア) 本件審決は、相違点1−1−3(1)として、「LED基板を器具本体に取り付
けるための部材について、本件発明1では、これが「取付部材」であるのに対して、
甲3−1発明では、これが「蓋部3」であって、絶縁板13は基板10をこの蓋部
3に取り付ける部材である点。」を認定しているところ、原告はこの相違点の認定を
争っていることから、以下検討する。
(イ) 相違点1−1−3(1)について
本件審決は、本件発明1と甲3―1発明との対比において「後者の「絶縁板13」\nと前者の「取付部材」とは「部材」において共通する。」としながらも(本件審決8
3頁末から2行目〜末行)、相違点1―1―\3(1)の判断において「甲3−1発明で
は、「絶縁板13」は、基板10を蓋部3に取り付けるためのものであって、器具本
体に取り付けるための部材(取り付ける機能を有する部材)は「蓋部3」である。」\n(同86頁4〜7行目)と認定・判断しており、本件発明1では、「器具本体」と「取
付部材」との間に取り付けに資する構造が介在することが排除されていることを前\n提としている。
しかしながら、前記(1)の本件発明1の要旨認定のとおり、「器具本体」と「取付
部材」との間に取り付けに資する構造が介在することを含むものであってこれが排\n除されていると解することはできない。
以上を前提とすると、本件発明1は、甲3−1発明のように「絶縁板13」と「取
付ベース1」との間に「蓋部3」が介在する取付構造を排除するものではないし、\n甲3−1発明の「絶縁板13」には、LED2を配設した基板10が配設されてい
るのであるから、「絶縁板13」が存在しなければ、LED2は「取付ベース1」に
配設することができないことに照らしても、「絶縁板13」は、「LED基板を器具
本体に取り付けるための部材」に相当するものと認められる。
そうすると、本件発明1と甲3−1発明と対比において、相違点1−1−3(1)は、
相違点とはいえない。
(ウ) 相違点2−1−3(1)について
次に、カバー部材に関して、本件発明1では、「拡散性を有」するのに対して、甲
3−1発明では、「アクリル樹脂やガラス等の透明な絶縁材料からできて」いるもの
の、拡散性を有するか否かは不明であるとの相違点2−1−3(1)についてみると、
LED照明器具のカバー部材が拡散性を備えることは周知技術であり(甲1[00
32]、甲2【0022】、甲6)、甲3−1発明において、適宜採用して相違点2−
1−3(1)に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることで\nある。
(エ) 小括
そうすると、本件発明1は、甲3−1発明に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものと認められるから、本件審決は、進歩性の判断において、結論に
影響を及ぼす誤りがあったものといえる。
987/092987
◆判決本文
一致点・相違点の認定に誤りがあるものの、動機付けなしとの審決が維持されました。
カ 甲8発明と本件発明1との相違点として本件審決が認定したもの(前記
第2の4(2)ア(イ))のうち、甲8相違点2は、前記エの説示によれば、甲8
発明と本件発明1との相違点となるとは認められない。
また、甲8相違点3は、甲8発明における台車用安全カバー及び本件発
明1における保護部材の用途を特定する物としての手押部材の違いを述
べるものであって、甲8発明における台車用安全カバーと本件発明1にお
ける保護部材との相違点とはいえない。したがって、甲8発明と本件発明
1との相違点は、甲8相違点1及び取付位置に係る相違点のみであると認
められる。
キ 前記第2の2(3)のとおり、1)本件発明2は、本件発明1の構成要件1A\nないし1Fを全て含み、2)本件発明3は、本件発明1の構成要件のうち、\n1Eを「前記保護部は、円板状である。」(構成要件2E)に変更したもの\nであり、3)本件発明4ないし7は、本件発明1の構成要件1Aないし1F\nを全て含むか、又は本件発明3の構成要件1Aないし1D、2E及び1F\nを全て含むものである。
そうすると、本件発明2ないし7は、いずれも、甲8発明との関係で、
甲8相違点1及び取付位置に係る相違点があると認めることができる。
ク 以上のとおり、甲8発明と本件各発明との一致点及び相違点に係る本件
審決の判断には相当でない部分があるものの、これによって直ちに本件審
決の判断が違法となることはなく、甲8相違点1を前提に、当業者が、本
件優先日の技術水準に基づいて、これらの相違点に対応する本件各発明を
容易に想到することができたかどうかを判断すべきである。
(3) 容易想到性について
前記(1)のとおりである甲8発明の内容によれば、甲8発明の台車用安全カ
バーは、その本体、すなわち甲8発明の全体が保護部を構成しており、作業\n者の手挟み事故を防止するとともに、手押部材の掌握部、すなわち台車のコ
字状のハンドルのグリップ部の位置を使用者に認識させる作用をもつもので
あるといえる。このことは、甲8商品2と同一の構成の商品を含む甲8商品\n1に係るパンフレット(甲8の2)に、「台車に取り付けることで、作業員の
手挟み事故を防止!掌握部もわかりやすくなり、安全指導がしやすくなりま
す」との記載があることからも裏付けられる。
このように、甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルの水平部
分をグリップ部とすることを前提として、コ字状のハンドルのカーブ部分に
取り付ける台車用安全カバー(保護部材)であって、これによって手挟み事
故の防止を図るものであるから、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)
にグリップ部を設けることは全く想定されていないといえる。
そうすると、仮に、台車の手押部材にグリップ部を設けること、又は台車
等の保護部をグリップ部と一体化したものとすることが、本件優先日の時点
で周知技術であったとしても、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)に
接した当業者において、これらの周知技術を甲8発明に適用する動機付けが
あったとは認められない。
したがって、引用発明である甲8発明に基づいて、甲8相違点1に係る本
件各発明の構成が容易に想到できたとは認められず、甲8発明を前提とする\n進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとは認められない。
(4) 前記第3の1〔原告の主張〕について
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)のとおり、甲8発明の台車用安
全カバーは、直線の棒にも装着可能であり、コ字状のハンドルのカーブ部\n分に対してのみ取り付け可能な製品ではないから、本件審決における甲8\n発明の認定は誤りであると主張する。
この点、長岡産業代表取締役である甲の陳述書(甲53)には、甲8商\n品2は、甲8商品1とともに、カーブ部分に装着することに特化した形状
(特に孔の形状)となっておらず、曲がっていない直線の棒にも装着可能\nなものであった旨の陳述がある。
しかし、甲8商品2の本体及び取付穴の形状から、物理的には直線の棒
に装着することが可能であるとしても、甲8商品2のパンフレット(甲8\nの3)及び甲8商品2と同一の構成の商品が含まれる甲8商品1のパンフ\nレット(甲8の2)の各記載及び掲載された写真からすれば、甲8商品2、
すなわち甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルのカーブ部分
に取り付けることにより、使用者の手がハンドルの上下方向の直線部分に
掛からないように規制し、これによって手挟み事故を防止するものである
と認められる。
上記各パンフレットに掲載された、各商品が台車のハンドルに装着され
た状態の写真は、いずれもコ字状のハンドルのカーブ部分に装着されたも
のを撮影したものであって、直線の部分に装着した写真ではないと認めら
れる。また、甲8の2には、「ハンドルのカーブ部分に挟み込み、テープを
はがして包むだけ!」と表記されているのであって、カーブ部分に挟み込\nむことが単なる使用の一例にすぎない旨の記載はされていない。
以上のとおり、甲8発明に関する本件審決の認定に誤りがあるとは認め
られない。
◆判決本文