相違点の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決が取り消されました。
他方,引用発明は,本願発明の従来技術であるスリットによる変形作用を
前提として,スリットに相当する溝孔6の長さ方向中央部に応力的に弱い部分とし
て拡大溝部6aを形成することにより,狭幅部4aを形成して,狭幅部4aをスリ
ット(溝孔6)間の軸部の変形の中心点(起点)としたものである。そして,変形
区域については,軸の長さ方向でいえば,本願発明が,穴(7)を挟んで頭部(3)
から雌ねじ(4)の間である(変形区域(5))のに対して,引用発明は,従来技術
におけるスリットに相当する溝孔6のある領域であると認められるところ,引用発
明は,「軸部壁の弱体化部」に相当する溝孔6のある領域全体の中で,特に応力的に
弱い部分として拡大溝部6aにより狭幅部4aを形成して,軸部の変形の中心点(起
点)としたのであって,従来技術のスリットと同様,狭幅部4aの上下に位置する
溝孔6と溝孔6の間の軸部壁6が“く”の字状に折れ曲がることにより,拡開部9
が形成されるものである。
すなわち,引用発明は,従来技術のスリット(溝孔6)において,拡大溝部6a
により特に応力的に弱い部分を形成して,スリット(溝孔6)間の管状部材4を折
り曲げやすくしたものに相当すると認められる。他方,本願発明は,変形区域の中
央の周範囲に穴を設けることによって,応力的に弱い部分を形成し,折り曲げる際
の起点とするものである。そして,本願発明にいう「穴」とは,閉じられた線図で
画された部分をいい,これが応力的に弱体化部を形成するところ,これに該当する
のは,引用発明では,溝孔6と拡大溝部6a両方で構成される部分ということにな\nる。
この点,被告は,引用発明の「複数の溝孔6が形成された領域」は「変形区域(5)」
に,「複数の狭幅部4a」は本願発明の「軸部壁(6)の弱体化部」に相当すると主
張するところ,本願発明における「穴」及び「穴」と「弱体化部」の関係に関する
解釈を必ずしも明確に主張していないが,少なくとも,弱体化部に相当する「複数
の狭幅部4a」は,拡大溝孔6aのみによって形成される前提と解される。しかし
ながら,このような被告の主張は,「穴」全部ではなく,その一部にのみ着目し,「弱
体化部」に相当するとするものであって,前提において採用できない。
したがって,引用発明は,変形区域全体が弱体化部であり,本願発明のように,
「変形区域(5)の中央の周範囲にのみ,・・・軸部壁(6)の弱体化部を持ってい
る」ものではない。よって,この点において,審決の一致点の認定には誤りがあり,
変形区域と穴の位置関係に関する相違点の看過があると認められる。
◆判決本文