2017.07. 5
CS関連発明について、認定については誤っていないとしたものの、
引用例には、本願発明の具体的な課題の示唆がなく、相違点5について、容易に想到するものではないとして、進歩性無しとした審決が取り消されました。
確かに,引用例には,発明の目的は,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士
のような専門知識を持った複数の専門家が,給与計算やその他の処理を円滑に行う
ことができるようにするものであり(【0005】),同発明の給与計算システム及び
給与計算サーバ装置によれば,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士のような
専門知識を持った複数の専門家を,情報ネットワークを通じて相互に接続すること
によって,給与計算やその他の処理を円滑に行うことができること(【0011】),
発明の実施の形態として,複数の事業者端末と,複数の専門家端末と,給与データ
ベースを有するサーバ装置とが情報ネットワークを通じて接続された給与システム
であり,専門家端末で給与計算サーバ装置にアクセスし,給与計算を行うための固
定項目や変動項目のデータを登録するマスター登録を行い(【0018】〜【002
1】),マスター登録された情報とタイムレコーダ5から取得した勤怠データとに基
づき,給与計算サーバ装置で給与計算を行い,給与担当者が,事業者端末で給与明
細書を確認した上で,給与振り込みデータを金融機関サーバに送信する(【0022】
〜【0025】,【0041】〜【0043】,図7のS11〜S20)ほか,専門家
が専門家端末を介して給与データベースを閲覧し(【0031】〜【0033】),社
会保険手続や年末調整の処理を行うことができる(【0026】〜【0030】,【0
044】,【0045】,図7のS21〜S28)とする構成が記載されていることが\n認められる。
しかし,引用文献が公開公報等の特許文献である場合,当該文献から認定される
発明は,特許請求の範囲に記載された発明に限られるものではなく,発明の詳細な
説明に記載された技術的内容全体が引用の対象となり得るものである。よって,引
用文献の「発明が解決しようとする課題」や「課題を解決するための手段」の欄に
記載された事項と一致しない発明を引用発明として認定したとしても,直ちに違法
とはいえない。
そして,引用例において,社労士端末や税理士端末に係る事項を含まない,給与
計算に係る発明が記載されていることについては,上記(2)のとおりであるから,こ
の発明を引用発明として認定することが誤りとはいえない。
・・・・
ウ 以上のとおり,周知例2,甲7,乙9及び乙10には,「従業員の給与支払
機能を提供するアプリケーションサーバを有するシステムにおいて,企業の給与締\nめ日や給与支給日等を含む企業情報及び従業員情報を入力可能な利用企業端末のほ\nかに,1)従業員の取引金融機関,口座,メールアドレス及び支給日前希望日払いの
要求情報(周知例2),2)従業員の勤怠データ(甲7),3)従業員の出勤時間及び退
勤時間の情報(乙9)及び4)従業員の勤怠情報(例えば,出社の時間,退社の時間,
有給休暇等)(乙10)の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること」\nが開示されていることは認められるが,これらを上位概念化した「上記利用企業端
末のほかに,およそ従業員に関連する情報(従業員情報)全般の入力及び変更が可
能な従業者の携帯端末機を備えること」や,「上記利用企業端末のほかに,従業員\n入力情報(扶養者情報)の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること」\nが開示されているものではなく,それを示唆するものもない。
したがって,周知例2,甲7,乙9及び乙10から,本件審決が認定した周知技
術を認めることはできない。また,かかる周知技術の存在を前提として,本件審決
が認定判断するように,「従業員にどの従業員情報を従業員端末を用いて入力させ
るかは,当業者が適宜選択すべき設計的事項である」とも認められない。
(3)動機付けについて
本願発明は,従業員を雇用する企業では,総務部,経理部等において給与計算ソ\nフトを用いて給与計算事務を行っていることが多いところ,市販の給与計算ソフト\nには,各種設定が複雑である,作業工程が多いなど,汎用ソフトに起因する欠点も\nあることから,中小企業等では給与計算事務を経営者が行わざるを得ないケースも
多々あり,大きな負担となっていることに鑑み,中小企業等に対し,給与計算事務
を大幅に簡便にするための給与計算方法及び給与計算プログラムを提供することを
目的とするものである(本願明細書【0002】〜【0006】)。
そして,本願発明において,各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業
員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて,同端末から扶養者情報等の給与\n計算を変動させる従業員情報を入力させることにしたのは,扶養者数等の従業員固
有の情報(扶養者数のほか,生年月日,入社日,勤怠情報)に基づき変動する給与
計算を自動化し,給与計算担当者を煩雑な作業から解放するためである(同【00
35】)。
一方,引用例には,発明の目的,効果及び実施の形態について,前記2(1)のとお
り記載されており,引用例に記載された発明は,複数の事業者端末と,複数の専門
家端末と,給与データベースを有するサーバ装置とが情報ネットワークを通じて接
続された給与システムとし,専門家端末で給与計算サーバ装置にアクセスし,給与
計算を行うための固定項目や変動項目のデータを登録するマスター登録を行うこと
などにより,複数の事業者と,税理士や社会保険労務士のような専門知識を持った
複数の専門家が,給与計算やその他の処理を円滑に行うことができるようにしたも
のである。
したがって,引用例に接した当業者は,本願発明の具体的な課題を示唆されるこ
とはなく,専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて,各従業員\nの従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成とすることにより,相違\n点5に係る本願発明の構成を想到するものとは認め難い。\nなお,引用発明においては,事業者端末にタイムレコーダが接続されて従業員の
勤怠データの収集が行われ,このデータが給与計算サーバ装置に送信されて給与計
算が行われるという構成を有するから,給与担当者における給与計算の負担を削減\nし,これを円滑に行うということが,被告の主張するように自明の課題であったと
しても,その課題を解決するために,上記構成に代えて,勤怠データを従業員端末\nのウェブブラウザ上に表示させて入力させる構\成とすることにより,相違点5に係
る本願発明の構成を採用する動機付けもない。\n
◆判決本文
無効理由なしとした審決が取り消されました。取消理由は、引用文献の認定誤りです。
そして,上記のように相違点1´を認定した場合,仮に同相違点に係る構\n成(移動体の位置検出を行うために複数の起動信号発信器を出入口の一方側
と他方側に設置する構成)が本件特許の出願時において周知であったとすれ\nば,引用発明Aとかかる周知技術とは,移動体の位置検出を目的とする点に
おいて,関連した技術分野に属し,かつ,共通の課題を有するものと認めら
れ,また,引用発明Aは,複数の固定無線機の設置位置を特定(限定)しな
いものである以上,前記の周知技術を適用する上で阻害要因となるべき事情
も特に存しないことになる(前記のとおり,第1図に関連する「施設の所定
の部屋」を固定無線機の設置位置とする実施例の記載は,飽くまで発明の一
実施態様を示したものにすぎず,そのことにより刊行物1から「施設の各部
屋」を設置位置とする以外の他の態様による実施が読み取れないとはいえな
い。)。
したがって,以上の相違点の認定(相違点1´)を前提とすれば,上記技
術分野の関連性及び課題の共通性を動機付けとして,引用発明Aに対し前記
の周知技術を適用し,相違点1´に係る本件訂正発明1の構成を採ることは,\n当業者であれば容易に想到し得るとの結論に至ることも十分にあり得ること\nというべきである。
(3) ところが,本件審決は,かかる相違点を,前記第2の3(3)イ(ア)のとおり,
「第1起動信号発信器が設けられる『第1の位置』及び第2起動信号発信器
が設けられる『第2の位置』に関し,本件訂正発明1では,『第1の位置』
が『出入口の一方側である第1の位置』であり,また,『第2の位置』が『
出入口の他方側である第2の位置』であるのに対し,引用発明Aでは,『第
1の位置』,『第2の位置』の各位置が施設の各部屋に対応する位置である
点」(相違点1。なお,下線は相違点1´との対比のために便宜上付したも
のである。)と認定した上,「引用発明Aによる移動体の位置の把握は,ビ
ルの各部屋単位での把握に留まる」と断定し,「刊行物1には,移動体の位
置の把握を各部屋の出入口単位で行うこと,即ち,相違点1における本件訂
正発明1に係る事項である,第1起動信号発信器が設けられる第1の位置を
『出入口の一方側』とし,第2起動信号発信器が設けられる第2の位置を『
出入口の他方側』とする点については,記載も示唆もない」から,他の相違
点について検討するまでもなく,本件訂正発明1が刊行物1発明(引用発明
A)から想到容易ではないと結論付けたものである。
これは,本来,複数の固定無線機の設置位置を特定(限定)しない(「施
設の各部屋」は飽くまで例示にすぎない)ものとして認定したはずの引用発
明Aを,本件訂正発明1との対比においては,その設置位置が「施設の各部
屋」に限定されるものと解した上で相違点1を認定したものであるから,そ
の認定に誤りがあることは明らかである。
また,本件審決は,上記のように相違点1の認定を誤った結果,引用発明
Aによる移動体の位置の把握が「ビルの各部屋単位での把握に留まる」など
と断定的に誤った解釈を採用した上(刊行物1にはそのような記載も示唆も
ない。),刊行物1には相違点1に係る構成を適用する動機付けについて記\n載も示唆もない(から想到容易とはいえない)との結論に至ったのであるか
ら,かかる相違点の認定の誤りが本件審決の結論に影響を及ぼしていること
も明らかである。
(4) 以上によれば,原告が主張する取消事由2は理由がある。
(5) 被告の主張について
これに対し,被告は,刊行物1発明によって実現される作用効果からすれ
ば,同発明が実現を意図しているのは,移動体がどの「部屋」(あるいは固
定無線機の設置箇所を含む一定領域)に所在するのかを把握することであり,
言い換えれば,同発明は,「固定無線機からの電波受信可能領域」(検知エ\nリア)と「その固定無線機が置かれた部屋の領域」とが,ほぼイコールであ
るという認識を前提とした発明である(取消事由2に関し)とか,刊行物1
発明は大まかな範囲で対象者(物)の所在を把握することを目的とするもの
である(取消事由3に関し)などと指摘して,本件訂正発明と刊行物1発明
の違いを強調し,本件審決の認定判断に誤りがない旨を主張する。
しかし,いずれの指摘も刊行物1の記載に基づかないものであり,その前
提が誤っていることは,これまで説示したところに照らして明らかであるか
ら,上記被告の主張はその前提を欠くものであって採用できない。
3 以上のとおり,本件審決は,本件訂正発明1に係る相違点1の認定を誤って
同発明が想到容易ではないとの結論を導いているところ,本件審決は,本件訂
正発明2ないし7についても,実質的に同じ理由に基づいて(すなわち,本件
訂正発明2ないし5については,本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むこ
とを理由に,本件訂正発明6及び7については,相違点1と実質的に差異がな
い相違点が認定できることを理由に),本件訂正発明1におけるのと同じ結論
を導いているのであるから,結局のところ,本件訂正発明全部について本件審
決の判断に取り消すべき違法が認められることは明らかである。
◆判決本文