進歩性なしとして特許を取り消した審決について、裁判所は、動機付けがないとして、これを取り消しました。
「・・・との各記載があり,これらの記載によれば,刊行物4発明において,一次バインダーには,低酸素雰囲気中できれいに燃焼することが要求されているものと認められるが,エチレン性不飽和側鎖含有アクリル系共重合体が,低酸素雰囲気中できれいに燃焼するものであることを認めるに足りる証拠はない。(7) そうすると,エチレン性不飽和側鎖含有アクリル系共重合体は,上記のとおり,水性処理が可能な感光性樹脂として周知であり,水性処理が可能\である点は,刊行物4発明の一次バインダーとしての目的に沿うものであるが,同様に刊行物4発明の一次バインダーに求められる,高解像度の付与,低酸素雰囲気中できれいに燃焼するものである点については,少なくとも,刊行物4発明のアクリル系共重合体との比較において,適用の動機付けとなるかどうかは明らかではなく,さらに,エチレン性不飽和側鎖含有アクリル系共重合体を刊行物4発明に適用するためには,既存の感光性成分である光硬化性モノマーとの併用に伴って生ずる影響を検討することが不可欠であるから,エチレン性不飽和側鎖含有アクリル系共重合体を刊行物4発明に適用することが,当業者において容易になし得たものと直ちに認めることはできず,決定の相違点(イ)についての判断は,誤りといわざるを得ない。」
◆平成17(行ケ)10531 特許取消決定取消請求事件 特許権行政訴訟 平成18年11月22日 知的財産高等裁判所
2006.07. 4
進歩性無しとされた審決が取り消されました。
「そもそも,本願発明の相違点1ないし3は,正確にいうと,相違点1及び2であることを特徴とする相違点3に係る光学検出部と言い換えることもでき,相違点1及び2は,相違点3に係る光学検出部であることを前提としている。しかも,審決が相違点3として摘示するとおり,本願発明は「紙葉類識別装置」に係る発明であるのに対し,引用発明は,紙葉類の積層状態検知用装置に係る技術であって,発明の課題及び目的が相違しており,このことは被告も認めるところである。したがって,本願発明の構成を把握する上で,相違点1及び2と相違点3とを分説するのはよいとしても,相違点1ないし3の相互の関係を考慮しながら,本願発明の進歩性について検討しなければならない。」 「確かに,本件周知装置においては,上記(2)ウのとおり,紙葉類の識別を行う際に,紙葉類の特徴箇所を選んで識別することは,当業者が容易に想到し得たことということができる。しかし,このことから,上記(3)のような,複数本の検出ラインの技術的思想のない引用発明について,複数本の検出ラインの技術的思想を前提とし,一対の発光・受光素子によって一括して検出を行うという相違点1及び3に係る本願発明の構成を付加することが容易であるとか,あるいは,単なる設計変更であるということは困難である。」
◆平成17(行ケ)10490 審決取消請求事件 平成18年06月29日 知的財産高等裁判所
進歩性が争われました。裁判所は、進歩性無しとした拒絶審決を取り消しました。最近では、動機付けが見いだせないとして審決を取り消した例は少ないと思います。
「仮に本件審決にいう周知技術を前提としても,そのことが,引用発明において「独立した入力端を有する共振周波数の異なる複数個の超音波振動子」を「電気的共振点を複数有し且つ入力端を1個だけ有する1の負荷」に変更する動機付けとなるものと解することはできず(このことは,被告が提出する乙1ないし3によっても何ら変わるものではない。),かかる動機付けが見出せない以上,引用発明に上記周知技術を用いて,「共通の入力端に,各共振周波数に周波数を切り替えた電源を供給するようにする程度のことは,当業者にとって適宜採用しうる構成にすぎない」とすることはできない。」
◆平成17(行ケ)10718 審決取消請求事件 平成18年06月22日 知的財産高等裁判所