2018.12. 1
平成30(行ケ)10024 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年11月14日 知的財産高等裁判所(2部)
動機付けなしとした審決が維持されました。原告はソニーで、被告(特許権者)は富士フイルムです。
原告は,甲3発明に甲4技術事項を適用し,さらに甲4技術事項を適用し
た甲3発明に原告主張甲2技術事項を適用して,本件発明1を容易に想到すること
ができた旨主張するので,同主張について検討する。
ア 前記2(3)のとおり,甲3発明は,テープ・ドライブのサーボ系を安定化
させる目的で(段落【0007】),テープ・カートリッジがテープ・ドライブに挿
入されるたびに,該テープ・ドライブのサーボ制御用低域通過フィルタの係数を,
挿入されたテープ・カートリッジに応じて設定し直すようにした発明(段落【00
09】)であって,甲3文献には,テープに記録されるサーボ・パターン自体はタイ
ミング・ベース・サーボの基礎をなす既知のものだとされているが(段落【002
0】),サーボ・パターンによって何等かの情報を符号化して埋め込むことについて
の記載はなく,また,そのような符号化が必要であるとの示唆もなく,ましてや,
サーボバンド識別情報を同一のサーボバンド内に符号化することの必要性について
の示唆はない。
したがって,甲3発明にサーボバンド上に各種の情報を符号化する技術である甲
4技術事項やサーボバンド識別情報を同一のサーボバンド内に符号化する技術であ
る原告主張甲2技術事項を適用する動機付けがあると認めることはできない。
また,甲3発明に甲4技術事項を適用した上で,さらに原告主張甲2技術事項を
適用することは,タイミング・ベース・サーボを前提として,サーボバンド上に情
報の符号化をすることについて何らの開示がない上記の甲3発明に,甲4文献で開
示されているタイミング・ベース・サーボにおける情報の符号化の方法を示した甲
4技術事項と,アンプリチュード・サーボにおいて同一のサーボバンド内にサーボ
バンド識別情報を符号化することを示した原告主張甲2技術事項を重ねて適用する
ものであるが,甲3文献には,サーボバンド上に情報を符号化することの記載すら
ないのであるから,そのような状況で,同一のサーボバンド内にサーボバンド識別
情報を符号化することを示した技術を適用することが容易であったということはで
きないというべきである。
イ 原告の主張について
原告は,甲3発明は複数のサーボバンドを有する磁気テープである点で原告主張
甲2技術事項と共通すること及び複数のサーボバンドを有する磁気テープにおいて
は,サーボ読取りヘッドが自らが位置するサーボバンドを何らかの方法によって特
定する必要があるという課題が存在し,この課題は周知であることから,上記動機
付けが存在することは認められる旨主張する。
しかし,甲3発明は複数のサーボバンドを有する磁気テープであり,また,複数
のサーボバンドを有する磁気テープにおいて,サーボ読み取りヘッドが自らが位置
するサーボバンドを何らかの方法によって特定する必要があることは周知であると
しても,甲3発明は,前記アのようなものであるから,甲3発明に甲4技術事項を
適用した上で,さらに原告主張甲2技術事項を適用することが動機付けられるとい
うことはできない。このことは,タイミング・ベース・サーボにおいて,非平行な
縞を構成する線の位置をテープ長手方向にずらすことによりデータを符号化するこ\nとが,当業者にとって周知となっていたとしても,左右されるものではない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 動機付け
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2018.10.25
平成29(行ケ)10106 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年10月22日 知的財産高等裁判所
知財高裁2部は、進歩性違反無しとした審決を取り消しました。審決は予測できない効果があると認定しましたが、裁判所は、比較対象や有効性の程度を当業者が推論できないと判断しました。\n
甲1発明の医薬は,治療的有効量の抗HER2抗体を含有する医薬で
あるが,前記2(1)オによると,本件優先日当時,1)抗HER2抗体は,HER2蛋
白の細胞外領域に対し結合することにより,HER2蛋白を過剰発現する乳がん細
胞の増殖を抑制するとともに,抗体依存性細胞障害(ADCC)を示すこと,2)H
ER2蛋白の過剰発現は,転移性乳がんに限らず,初期乳がんの25%〜30%で
観察されること,3)HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有する転移性乳がん患者の
臨床試験では,パクリタキセルを含む特定の化学療法剤の単独投与群に比べて,そ
の化学療法剤と抗HER2抗体の併用投与群の方が病勢進行の期間(無増悪期間)
が長期化し,全奏効率(ORR)が向上し,反応期間の中央値が長期化し,1年間
の生存率が高まるなど,抗腫瘍効果が増強されることが観察されたこと,4)抗HE
R2抗体の臨床試験では,単剤投与においても,化学療法剤との併用投与において
も,HER2蛋白をより強く発現している症例の方が抗腫瘍効果,無増悪期間とも
に優れている傾向にあったことは,いずれも技術常識であったものと認められる。
また,前記2(3)エによると,本件優先日当時,乳がんの治療薬の開発においては,
転移性乳がんの患者に対する抗がん効果を踏まえて,手術可能乳がんの患者に対す\nる抗がん効果を確認することになることは,技術常識であったものと認められる。
そして,これらに,本件優先日前に頒布された刊行物であり,「乳がんのための術
前補助療法の将来的方向」を表題とする甲2には,抗HER2抗体とドキソ\ルビシ
ン,シクロホスファミドを転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介し
た直後に,「一次化学療法と組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がん
の患者で評価されるべきものである」と記載されている(前記2(1)イ(ア)(カ))ことを
総合すると,甲1に接した当業者は,HER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がん\nの治療のために,治療的有効量の抗HER2抗体を含有する医薬である甲1発明の
医薬を適用することを容易に想到するものと認められる。
(イ) 前記2(1)オ,(2)エによると,本件優先日当時,1)乳がんにおいて,乳
房温存の成否は一般に女性のQOL(生活の質)に大きな影響を与えるところ,術
前補助療法は,手術をより容易とし,乳房温存も高率に可能とすることが示されて\nいたこと,2)手術可能乳がんにおいて,術前化学療法,次いで外科的に腫瘍を除去\nし,更に術後補助化学療法を行うことは,一般的治療法として行われていること,
3)HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有する転移性乳がん患者の臨床試験では,パ
クリタキセルを含む特定の化学療法剤の単独投与群に比べて,その化学療法剤と抗
HER2抗体の併用投与群の方が病勢進行の期間(無増悪期間)が長期化し,全奏
効率(ORR)が向上し,反応期間の中央値が長期化し,1年間の生存率が高まる
など,抗腫瘍効果が増強されることが観察されたことは,技術常識であったと認め
られる。また,本件優先日前に頒布された刊行物である甲3には,HER2過剰発
現の転移性乳がん患者に対する抗HER2抗体とパクリタキセルなどの化学療法剤
の併用投与が化学療法剤の単独投与に比べて全寛解率,進行までの中央値時間とも
優れた効果を発揮したことを紹介した上で,「転移性状況や術後補助状況で成功す
ることが分かっている新規の化学療法戦略はまた,術前処置においても潜在的に適
用されうる」と記載されている(前記2(1)ウ(オ)(カ))。
そして,これらに,本件優先日前に頒布された刊行物であり,「乳がんのための術
前補助療法の将来的方向」を表題とする甲2には,抗HER2抗体とドキソ\ルビシ
ン,シクロホスファミドを転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介し
た直後に,「一次化学療法と組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がん
の患者で評価されるべきものである」と記載されている(前記2(1)イ(ア)(カ))ことを
総合すると,甲1に接した当業者が,HER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がん\nの治療のために,手術前に甲1発明の医薬を化学療法剤と併用投与し,手術を行い,
更に手術後に甲1発明の医薬を化学療法剤と併用投与することは,容易に想到し得
たものと認められる。
イ(ア) 被告は,本件優先日当時,トラスツズマブの生体内における作用機序は
未だ研究対象であり,化学療法についても投与計画について検討が続けられており,
いずれの文献にも,乳がんの治療において,抗体を術前投与するという記載は全く
存在していなかったから,未だ承認されたばかりの新規の抗体を,その奏効が確認
されつつあった化学療法剤の術前投与に代えて,又は加えて,投与してみることは,
当業者であればこそ考えないなどと主張する。
しかし,前記アのとおり,抗HER2抗体である甲1発明の医薬を手術前に化学
療法剤と併用投与することは,当業者が容易に想到し得たものである。
また,前記2(1)オのとおり,抗HER2抗体には心毒性があり,投与により心室
機能不全及びうっ血性心不全が起こり得るものと認められるが,甲1発明の医薬は\n転移性乳がんの患者を対象とした医薬製剤として承認されているものであり,手術
可能乳がんの患者に対する適用をためらわせるほどに安全性に問題があるものとは\n認められない。
(イ) 被告は,甲2について,論文全体を通じて,最適な治療レジメンにおい
ては,まず化学療法が行われ,他の治療法は時間的に後で実施されると明確に述べ
ているなどと主張するが,甲2は,「乳がんのための術前補助療法の将来的方向」と
いう表題の論文であり,抗HER2抗体とドキソ\ルビシン,シクロホスファミドを
転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介した直後に「一次化学療法と
組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がんの患者で評価されるべきも
のである」と記載されているのであるから,早期乳がんの患者に対して抗HER2
抗体と化学療法を組み合わせて術前に処方することが示唆されているということが
でき,前記アのとおり,甲2の記載は抗HER2抗体である甲1発明の医薬を手術
前に化学療法剤と併用投与することを動機付けるものということができる。
(ウ) 被告は,転移リスクの高いがん(既に転移したがん)の細胞は,原発部
位に留まるがんの細胞とは性質が異なるなどと主張する。
しかし,前記2(3)ウのとおり,本件優先日当時,がんにおいて,転移巣の組織像
は基本的には原発巣と同一であると考えられていたところ,被告は,HER2蛋白
を過剰発現した転移性乳がんの細胞とHER2蛋白を過剰発現した手術可能乳がん\nの細胞とのいかなる性質の違いが,どのような理由によりHER2蛋白の細胞外領
域に対し結合する抗HER2抗体(標的化治療薬)をHER2蛋白を過剰発現した
手術可能乳がんの細胞に適用することの支障となり得るのかを具体的に主張してお\nらず,HER2蛋白を過剰発現した転移性乳がんの細胞とHER2蛋白を過剰発現
した手術可能乳がんの細胞との性質の違いが,HER2蛋白の細胞外領域に対し結\n合する抗HER2抗体(標的化治療薬)をHER2蛋白を過剰発現した手術可能乳\nがんの細胞に適用することの支障となることを示す証拠も見当たらない。
したがって,被告の上記主張は,前記アの判断を左右するものとは認められない。
(4) 本件特許発明1の効果について
ア 前記1のとおり,本件訂正明細書には,本件特許発明1の効果として,
臨床試験の結果などは示されておらず,「上記の治療方法に従って治療された患者
は,全体的に改善された生存者,及び/又は腫瘍の進行時間(TTP)の延長を示
すであろう。」(【0119】)との記載があるにとどまる。
ところで,前記2(1)(2)の各刊行物の記載からすると,乳がんにおいて,生存率及
び腫瘍の進行時間(TTP)は,抗がん剤の効果を図る一般的な指標であると認め
られるところ,上記の本件訂正明細書の記載は,生存率の改善及び腫瘍の進行時間
(TTP)の延長がいかなる対象(例えば,手術のみを行った場合か,手術と術後
化学療法を行った場合か,術前化学療法と手術と術後化学療法を行った場合か,術
前化学療法と手術と抗HER2抗体の術後投与を行った場合か,手術可能乳がんに\n対し抗HER2抗体投与のみを行った場合か)と比較して達成されるものであるの
かという比較対象や,生存率の改善や腫瘍の進行時間(TTP)の延長がいかなる
程度達成されるのかという有効性の程度については,何ら記載されていない。また,
本件訂正明細書の記載から,その比較対象や有効性の程度を当業者が推論できるも
のとも認められない。
そうすると,本件特許発明1の効果は,本件特許発明1の医薬がこれを投与しな
い場合と比較して生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的
効果を有することにとどまるものとするのが相当である。
そして,前記2(1)アのとおり,甲1には,HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有
する転移性乳がん患者に対し,甲1発明の医薬を特定の化学療法剤(1)パクリタキ
セル,2)アントラサイクリン〔ドキソルビシン又はエピルビシン〕及びシクロホス\nファミド)と併用投与すると,その化学療法剤を単独投与された患者に比べ,病勢
進行の期間が著しく長期化し,1年間の生存率が高まることが記載されているから,
当業者は,甲1発明の医薬が,HER2蛋白を過剰発現する転移性乳がん患者に対
し,生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果を有する
ことを理解することができ,この甲1発明の医薬を本件特許発明1の工程によりH
ER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がんに適用した場合に,これを投与しない場\n合と比較して生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果
を有することは,当業者が予測可能\なものである。
イ 被告は,本件訂正明細書の発明の効果の定性的な記載に基づき,具体的
な実験データを参照することは妥当であるから,甲17,19〔審判乙1,3〕に
基づき本件特許発明1には顕著な効果があるなどと主張する。
しかし,前記アのとおり,本件訂正明細書の記載及びこれから推論できる本件特
許発明1の効果は,本件特許発明1の医薬がこれを投与しない場合と比較して生存
率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果を有することにと
どまる。そこで,本件優先日後の刊行物である甲17,19〔審判乙1,3〕の実
験データを,本件訂正明細書の記載の範囲で,上記定性的効果を示すという限度に
おいて参酌するとしても,前記アのとおり,上記定性的効果は当業者が予測可能\な
ものであるから,顕著な効果を示すものということはできない。他方,甲17,1
9〔審判乙1,3〕の実験データを,上記定性的効果を超えて参酌することは,本
件訂正明細書の記載の範囲を超えるものであるから,これを本件特許発明1の効果
として参酌することはできない。その余の本件優先日後の刊行物である甲18,2
0,21〔審判乙2,4,5〕についても,同様である。
したがって,本件優先日後の刊行物である甲17〜21〔審判乙1〜5〕につい
ては,その具体的内容を検討するまでもなく,本件特許発明1に顕著な効果がある
ことを示すものということはできない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 動機付け
>> 特段の効果
▲ go to TOP
2018.10.18
平成29(行ケ)10165等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年10月11日 知的財産高等裁判所
進歩性有りとした審決が取り消されました。理由は動機付けあり+特段の効果が無いというものです。
業者が,相違点2に係る本件発明6の構成,すなわち,引用発明2−1\nに係る4/2/1投与計画による本件抗体の投与を,本件発明6に係る8/6/3
投与計画による本件抗体の投与とすることを,容易に想到することができたか否か
について検討する。
(イ) 前記のとおり,当業者は,本件優先日当時,乳がんの治療薬を含む一般的
な医薬品において,投与量を多くすれば,投与間隔を長くできる可能性があり,医\n薬品の開発の際には,投与量と投与間隔を調整して,効能と副作用を観察すること,\n抗がん剤治療において,投与間隔を長くすることは,患者にとって通院の負担や投
薬時の苦痛が減ることになり,費用効率,利便性の観点から望ましいということを
技術常識として有していたものである。
そして,引用例2には,本件抗体の薬物動態を観察するに当たり,本件抗体が週
1回10〜500mgの短持続期間の静脈注入が行われた旨記載されている。ここ
で,週1回10〜500mgの投与は,患者の体重が60kgの場合は0.167
〜8.33mg/kg,70kgの場合は0.143〜7.14mg/kgに相当
する。そうすると,引用例2には,本件抗体を週1回8mg/kg程度までの投与
量で投与できることは,示唆されているといえる。
また,引用例2には,本件抗体の臨床試験において,本件抗体の毎週の投与と化
学療法剤の3週間ごとの投与を組み合わせるという治療方法が記載されている。
さらに,引用例2には,本件抗体の薬物動態として,本件抗体は投与量依存的な
薬物動態を示し,投与量レベルを上昇させれば,半減期が長期化する旨記載されて
いる。
そうすると,上記のとおりの技術常識を有する当業者は,引用発明2−1のとお
り本件抗体を4/2/1投与計画によって投与するだけではなく,本件抗体の投与
量と投与間隔を,その効能と副作用を観察しながら調整しつつ,本件抗体の投与期\n間について,費用効率,利便性の観点から,併用される化学療法剤の投与期間に併
せて3週間とすることや,本件抗体の投与量について,8mg/kg程度までの範
囲内で適宜増大させることは容易に試みるというべきである。そして,当業者が,
このように通常の創作能力を発揮すれば,本件抗体を8/6/3投与計画によって\n投与するに至るのは容易である。
(ウ) 被告の主張について
被告は,本件優先日前には,4/2/1投与計画のみが臨床的に用いられ,本件
抗体の半減期も1週間程度と考えられていたから,8/6/3投与計画のように投
与間隔について半減期を大きく超える3週間にすることなどは,技術の最適化とは
いえないと主張する。
しかし,引用例2には,本件抗体を週1回8mg/kg程度までの投与量で投与
できることが示唆され,また,本件抗体の投与量レベルを上昇させれば,半減期が
長期化する旨記載されている。さらに,丙323の1には,投与間隔が半減期に比
べて長い場合を前提とした留意事項が記載されている。そして,前記のとおりの技
術常識を有する当業者が通常の創作能力を発揮すれば,4/2/1投与計画による\n本件抗体の投与を,8/6/3投与計画による本件抗体の投与とすることは容易に
想到し得るものである。なお,A博士の宣誓書(乙8)には,がん専門臨床医は,
未試験の投与レジメンを実験することは患者の生命をリスクにさらすことになるか
ら,本件抗体を8/6/3投与計画で投与することを動機付けられないなどと記載
されているが,臨床医が薬剤の新たな用法用量を臨床的に試みる動機付けがないこ
とをもって,薬剤の新たな用法用量の開発を試みる動機付けを否定するものにはな
らない。
(エ) よって,当業者は,引用例2の記載及び技術常識に基づき,相違点2に係
る本件発明6の構成を容易に想到することができたというべきである。\n
イ 効果について
(ア) 引用発明2−1に基づく本件発明6の進歩性を判断するに当たっては,相
違点2に係る本件発明6の構成に至ることが容易かどうかだけではなく,本件発明\n6が予測できない顕著な効果を有するか否かについても併せ考慮すべきであり,本\n件発明6に予測できない顕著な効果があることを基礎付ける事実は,特許権者であ\nる被告において,主張,立証する必要がある。
そして,本件において,被告は,本件抗体を8/6
可能である。そうすると,8/6/3投与計画は,相応の治療効果を維持しつつ,\n引用発明2−1と比較して投与間隔を3倍にするものということはできる。
しかし,引用例2には,本件抗体は投与量依存的な薬物動態を示し,投与量レベ
ルを上昇させれば半減期が長期化すること,本件抗体を4/2/1投与計画で投与
すれば約79μg/mlのトラフ血清濃度を維持できたことが記載されている。そ
して,この記載から,本件抗体を8/6/3投与計画で投与すれば,17μg/m
l程度のトラフ血清濃度を維持できるであろうことは予測できる。\nそうすると,実施可能要件やサポート要件に関しては格別,進歩性に関しては,\n本件発明6が過去の臨床試験で求められる程度の治療効果を有しつつ,単に投与間
隔が3倍になったことをもって,本件発明6の治療効果が引用発明2−1と比較し
て予測できない顕著なものということはできない。
(ウ) 治療効果
a 引用例2には,本件抗体を4/2/1投与計画で投与した場合の治療効果と
して,16週と32週の間で,トラスツズマブ血清濃度は,定常期に達し,平均ト
ラフ濃度及び平均ピーク濃度は,それぞれ,約79μg/ml,123μg/ml
となったこと,化学療法剤単独の場合と比較すれば,病勢進行の期間が著しく長期
化し,1年間の生存率が高まったことが記載されている。
b 他方,本件明細書には,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合,「お
よそ10−20μg/mlのトラフ血清濃度を維持」される(【0114】),「血
清中濃度が過去のハーセプチンIV臨床試験の目標トラフ血清濃度の範囲(10−
20mcg/ml)で,17mcg/mlとなることを示唆している。」(【01
16】)と記載されている。もっとも,本件明細書には,本件抗体を8/6/3投
与計画で投与した場合における,病勢進行の期間の長期化や生存率に関する具体的
な記載はない。
c ところで,本件明細書には,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合
における,病勢進行の期間の長期化や生存率に関する具体的な記載はないから,本
件発明6の治療効果は不明であって,引用発明2−1と同等の治療効果を有すると
は直ちにはいえない。
また,一般にトラフ血清濃度は,一連の薬剤投与における最少の持続した有効薬
剤濃度であるから(本件明細書【0044】),一連の薬剤投与において維持され
るトラフ血清濃度が高い場合には,それだけ有効薬剤濃度が高く,治療効果も高い
と評価することは可能である。しかし,引用発明2−1と本件発明6のトラフ血清\n濃度を比較するに,引用発明2−1において維持されるトラフ血清濃度は約79μ
g/mlであるのに対し,本件発明6において維持されるトラフ血清濃度はせいぜ
い17μg/mlにとどまる。そうすると,トラフ血清濃度において比較した場合
においても,本件発明6の治療効果は引用発明2−1と同等の治療効果を有すると
はいえない。
なお,本件明細書には,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合における
副作用の抑制効果に関する記載もないから,副作用の抑制という観点からも,本件
発明6は,引用発明2−1と同等の治療効果を有するとはいえない。
d よって,本件発明6が引用発明2−1と同等の治療効果を有すると認めるこ
とはできない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 動機付け
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2018.09.27
平成29(行ケ)10193 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年9月25日 知的財産高等裁判所
審決では進歩性なしと判断されましたが、知財高裁は「固体電解質体の表\n面が露出する程度の隙間を設定することは,記載も示唆もされていない」として
これを取り消しました。
本件審決は,本件発明1における相違点1のうち,構成要件1I) の「ジル
コニア充填部に設けた電極と開口用貫通穴との隙間から,ジルコニア充填部
の表面を露出させること」に関し,引用発明2の1に甲3技術1を適用して\n接着剤表面アルミナ層とするに当たり,1) 甲3の記載から,接着剤表面アルミナ層が,第1電極や第2電極の表\面の周縁部と重複してしまうと,第1電極又は第2電極の他の部分,及び,接着剤表面アルミナ層の他の部分と比較して厚くなってしまうことから,\nアルミナからなる接着剤の層を導体層の平坦部と略面一にすることによって,各未焼成シート又は各未焼成スペーサに亀裂が発生することを防止するという目的が果たせなくなることは当業者にとって明らかであるから,アルミナからなる接着剤の層と導体層が略面一であることが必須であるのに対して,アルミナからなる接着剤の層と導体層の側面とが隙間を空けることなく接することは必須ではないことは,当業者にとって明らかである,
2) 第1電極又は第2電極の表面の周縁部に,接着剤表\面アルミナ層を隙間なく接触させるように設計又は製造を行うと,避けることのできない製造誤差により,第1電極又は第2電極と接着剤表面アルミナ層が重複することがあり得るので,そのような事態を回避するために,第1電極及び第2電極と接着剤アルミナ層との間に隙間を設けることによって余裕を持たせ,第1電極及び第2電極と接着剤表\面アルミナ層との重複を回避することは,当業者が適宜なし得ることである,
3) そして,その隙間をどの程度にするかは,製造誤差の程度等を勘案して
当業者が適宜設定し得るものであって,固体電解質体の表面が露出する程\n度の隙間とすることも適宜設定し得る範囲内のものである,
と判断した。
(5) そこで検討するに,本件審決が認定したとおり,甲3には,甲3技術1が
記載されており,本件特許に係る出願当時,積層タイプのガスセンサ素子に
おいて,これを構成する各未焼成シートをアルミナからなる接着剤を介して\n積層することは,当業者にとって周知の技術であったと認められる。しかし,
甲3には,1)接着剤が導体層の周縁部に重複すると,亀裂の発生を防止する
ことができないから,導体層と接着剤とが隙間なく接することは必須ではな
いことや,2)避けることのできない製造誤差により,接着剤が導体層の周縁
部に重複すること,また,3)製造誤差の程度を勘案して,固体電解質体の表\n面が露出する程度の隙間を設定することは,記載も示唆もされていないし,
上記1)〜3)の事項が,当業者にとって当然の技術常識であると認めるに足り
る証拠も見当たらない。
仮に,「製造誤差」を考慮して接着剤の量を調整することが,当業者の技
術常識であるとしても,甲3の段落【0049】及び【0050】の記載,
及び当該段落が引用する図6〜9に接した当業者は,接着剤の量は,導体層
に設けられた平坦部と略面一となるように,すなわち,当該平坦部との間に
できるだけ隙間を生じないように調整するものと理解すると認めるのが相当
である。
そうすると,引用発明2の1に甲3技術1を適用するに当たり,当業者が
「電極と接着剤との間に隙間を設ける」構成を採用する動機付けがあると認\nめることはできず,構成要件1I)に係る「上記ジルコニア充填部に設けた上記
電極と上記開口用貫通穴との隙間から,上記ジルコニア充填部の表面を露出\nさせる」構成を,当業者が容易に想到できたということはできない。
(6) 原告の主張について
この点に関連して,原告は,甲3に導体層等の周りを接着剤で埋めること
についての記載はないから,導体層と接着剤とを隙間なく密着させることま
でが必要とされているのではないと主張する。
甲3に,導体層等の周りを接着剤で埋めるとの文言が明記されていないの
は原告が主張するとおりであるが,甲3に,上記(5)の1)〜3)の事項が記載も
示唆もされていないことは,上記(5)において説示したとおりである。
そして,甲3の段落【0049】には,接着剤を導体層における平坦部と
略面一になるように塗布したと記載されている上に,当該段落が引用する図
6及び7,並びに段落【0050】が引用する図8及び9には,当該接着剤
が導体層に隙間なく接するように塗られている図が描かれていることからす
ると,これらの記載に接した当業者は,接着剤を当該平坦部との間にできる
だけ隙間を生じないように塗布するものと理解するのが自然というべきであ
る。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 動機付け
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2018.09.25
平成29(行ケ)10171 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年9月19日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が取り消されました。出願時の技術常識又は周知技術に照ら調製を試みる動機付けがあるというものです。
前記アの記載事項を総合すると,本件出願の優先日(平成7年3月25
日)当時,1)乾燥温度等の乾燥条件の調節により,水和水の数の異なる炭
酸ランタン水和物を得ることができること,2)水和物として存在する医薬
においては,水分子(水和水)の数の違いが,薬物の溶解度,溶解速度及
び生物学的利用率,製剤の化学的安定性及び物理的安定性に影響を及ぼし
得ることから,医薬の開発中に,検討中の化合物が水和物を形成するかど
うかを調査し,水和物の存在が確認された場合には,無水物や同じ化合物
の水和水の数の異なる別の水和物と比較し,最適なものを調製することは,
技術常識又は周知であったものと認められる。
(4) 相違点1の容易想到性の有無について
ア 甲1には,慢性腎不全患者におけるリンの排泄障害から生ずる高リン血
症の治療のための「リン酸イオンに対する効率的な固定化剤,特に生体に
適応して有効な固定化剤」の発明として,「希土類元素の炭酸塩あるいは
有機酸化合物からなることを特徴とするリン酸イオンの固定化剤」が開示
され,その実施例の一つ(実施例11)として開示された炭酸ランタン1
水塩(1水和物)のリン酸イオン除去率が90%であったことは,前記(2)
イのとおりである。
前記(3)イ認定の本件出願の優先日当時の技術常識又は周知技術に照ら
すと,甲1に接した当業者においては,甲1記載の炭酸ランタン1水和物
(甲1発明)について,リン酸イオン除去率がより高く,溶解度,溶解速
度,化学的安定性及び物理的安定性に優れたリン酸イオンの固定化剤を求
めて,水和水の数の異なる炭酸ランタン水和物の調製を試みる動機付けが
あるものと認められる。
そして,当業者は,乾燥温度等の乾燥条件を調節することなどにより,
甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)を,水和水の数が3ないし
6の範囲に含まれる炭酸ランタン水和物の構成(相違点1に係る本件発明1の構\成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。これと異なる本件審決の判断は,前記(3)イ認定の本件出願の優先日当時
の技術常識又は周知技術を考慮したものではないから,誤りである。
イ これに対し被告は,1)甲1には,水和水の数の違いにより,リン酸イオ
ン除去率に違いが生じることについての記載も示唆もないし,また,本件
出願の優先日当時,炭酸ランタン水和物の水和水の数を変更すると,リン
酸(塩)結合能力に影響が出るであろうことを示唆する技術常識又は周知技術は存在しない,2)甲1に接した当業者は,水和水の数を変更すること
に着目することはなく,むしろ,甲1に列挙された各種の有機酸を含む希
土類元素の有機酸化合物を調製するか,あるいはアルカリ金属やアルカリ
土類金属を含有する複塩を調製し,リン酸イオン除去率を調べるはずであ
る,3)甲1には,炭酸ランタン1水和物を用いた実施例11について,問
題となる点が何ら記載されておらず,完結した発明として記載されている
から,この実施例を見た当業者は,炭酸ランタン1水和物で充分と考え,
炭酸ランタン1水和物における水和水の数を変更しようなどとは考えなか
ったはずである,4)炭酸ランタン水和物は,水又は有機溶媒にほとんど溶
解しないから(甲51),溶解特性の面から水和水の数の違いについて検
討を試みる動機付けはないなどとして,甲1に接した当業者においては,
甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)を相違点1に係る本件発明
1の構成に置換する動機付けはないから,相違点1は当業者が容易に想到し得たものとはいえない旨主張する。
しかしながら,上記1)ないし3)の点については,前記(3)イのとおり,水
和物として存在する医薬においては,水分子(水和水)の数の違いが,薬
物の溶解度,溶解速度及び生物学的利用率,製剤の化学的安定性及び物理
的安定性に影響を及ぼし得ることから,医薬の開発中に,検討中の化合物
が水和物を形成するかどうかを調査し,水和物の存在が確認された場合に
は,無水物や同じ化合物の水和水の数の異なる別の水和物と比較し,最適
なものを調製することが,本件出願の優先日当時,技術常識又は周知であ
ったことに照らすと,甲1自体には,水和水の数の違いによりリン酸イオ
ン除去率に違いが生じることや炭酸ランタン1水和物を用いた実施例11
について問題点の記載がないからといって,甲1に接した当業者において,
甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)について水和水の数の異な
る炭酸ランタン水和物の調製を試みる動機付けがあることを否定すること
はできない。また,リン酸(リン酸イオン)の固定化反応は,炭酸ランタ
ン水和物が溶解して生成されたランタンイオンがリン酸イオンと反応する
ことにより固定化するものであるところ(前記(2)ア(エ)の甲1記載事項),
上記のとおり,水和物として存在する医薬については,水分子(水和水)
の数の違いが,薬物の溶解度及び溶解速度に影響を及ぼし得るのであるか
ら,溶解度又は溶解速度の向上によりランタンイオンの溶存濃度を高め,
ひいてはリン酸(リン酸イオン)の固定化反応の促進(リン酸結合能力)に影響を及ぼし得ることは自明である。
次に,上記4)の点については,仮に被告が主張するように炭酸ランタン
水和物は水又は有機溶媒にほとんど溶解しないとしても,上記のとおり,
リン酸イオンの固定化反応は,炭酸ランタン水和物が溶解して生成された
ランタンイオンがリン酸イオンと反応することにより固定化するものであ
る以上,炭酸ランタン水和物が水又は有機溶媒に全く溶解しないものとは
いえないこと,溶解度が低い水和物についても,無水物や水和水の数が異
なる化合物の調製の検討が行われていること(例えば,甲9では,「水に
極めて溶けにくい」エリスロマイシン(甲54)について,1水和物,2
水和物及び無水物の比較検討をしている。)(前記(3)ア(ア)bの「(1)」)
に照らすと,炭酸ランタン水和物においても,水和水の数の違いが溶解度,
溶解速度,化学的安定性及び物理的安定性に影響を及ぼし得るものといえ
るから,甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)について水和水の
数の異なる炭酸ランタン水和物の調製を試みる動機付けがあることを否定
することはできない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 動機付け
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2018.08.10
平成29(行ケ)10218 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年8月9日 知的財産高等裁判所
UFJ銀行の出願(CS関連発明)について、拒絶審決が維持されました。争点は、進歩性です。
引用発明1はコンピュータ上の対話型処理を行うシステムである。また,当業者
は,本願出願日時点において,コンピュータ上の対話型処理システムである引用発
明1には,コンピュータによる対話型処理の「円滑化を図る」という周知の課題が
あることを理解し,引用発明1の通信端末に,キャラクタが動いているような表示\nをするとの周知の解決手段の適用を試みるということができる。
一方,引用発明2はコンピュータ上の対話型処理を行うナビゲーション装置であ
る(引用例2【0038】【0050】【0051】)。また,引用発明2は,表\n示装置にエージェントを表示し,回答時に当該エージェントの口が開くというもの\nであるから,当業者は,かかる構成を,コンピュータによる対話型処理の「円滑化\nを図る」という周知の課題を解決するための,周知の解決手段の一つ,すなわち通
信端末にキャラクタが動いているような表示をする構\成の一つであると理解する。
そうすると,引用発明1に上記周知の課題があることを認識し,これに上記周知
の解決手段の適用を試みる当業者は,同じ技術分野に属し,かかる課題を解決する
手段である引用発明2を,引用発明1に適用することを動機付けられるというべき
である。
ウ 原告の主張について
(ア) 原告は,周知の課題として「メディアコミュニケーションの円滑化を図る」
などと認定することは,課題を殊更に上位概念化するものであると主張する。
しかし,引用発明1及び2は,いずれもコンピュータ上の対話型処理システムの
技術分野に関するものである。そして,このような技術分野に関する前記各文献に
は,「ユーザが自然に計算機へ音声入力できる雰囲気」(周知例1・97頁),「反
応のない機械に対して発話するために間が掴み辛い」(甲6【0002】),「ユ
ーザと電子機器とがコミュニケーションを取り易い環境を構築」(乙9【0019】),\n「人間を相手にしているかのような自然なコミュニケーションを通じた情報入力」
(乙10【0008】),「より自然な対話を実現」(乙11・31頁右欄)など
と,コンピュータ上の対話型処理システムにおいて,対話型処理の「円滑化を図る」
必要性が複数指摘されている。
したがって,本願出願日時点において,コンピュータによる対話型処理の「円滑
化を図る」ことは,周知の課題であったと認定することができ,これは課題を殊更
に上位概念化するものということはできない。
(イ) 原告は,引用例1には本件補正発明の課題が記載されていないから,当業
者には,引用発明1に基づき相違点に係る本件補正発明の構成に到達しようという\n動機付けがないと主張する。
しかし,前記のとおり,引用発明1及び2は,コンピュータ上の対話型処理シス
テムの技術分野に関するものであって,このような技術分野では,本願出願日時点
において,コンピュータによる対話型処理の「円滑化を図る」ことは周知の課題で
あったものである。そして,本件補正発明は,システム上で仮想オペレータとユー
ザが対話を行うというものであり(本件補正明細書【0001】【0046】),
コンピュータ上の対話型処理システムの技術分野に関するものであるから,本件補
正発明は,引用発明1及び2と同様に,上記周知の課題を含むものである。また,
そもそも,引用発明1を出発点として本件補正発明の構成に到達するか否かを検討\nするに当たり,引用発明1が本件補正発明の課題を必ず有していなければならない
ということはできない。
したがって,引用例1には本件補正明細書に記載された本件補正発明の課題と同
じ課題が記載されていないから動機付けを欠く,との原告の主張は採用することが
できない。
(4) 引用発明2を適用した引用発明1の構成
ア 前記(2)ウ(ウ)のとおり,引用発明2には,「現実の事業者のオペレータを模
造した人物を表示装置に表\示するナビゲーション装置において,当該模造した人物
が話しているように表示するため,待機中と比較して,回答側センターの応答音声\nデータをスピーカから出力させる際に,当該模造した人物の口を開くように当該模
造した人物を表示すること。」との具体的な構\成が含まれている。
イ 一方,本件補正発明の構成は,通信端末において,回答メッセージ等を再生\nする際,これを再生しない時と比較し,仮想オペレータの「一部が大きな動作を行
うように」仮想オペレータを表示するというものである。そして,仮想オペレータ\nの一部の大きな動作がどのようなものであるかについて,本件補正明細書において
何ら特定されていない。
また,仮想オペレータの一部の大きな動作について,本件補正明細書【0071】
には,「仮想オペレータの口や目を動かすようにしてもよい。あるいは手を動かす
など,説明を行うジェスチャーをするようにしてもよい。すなわち,メッセージが
再生されていない時と比較し,仮想オペレータの一部がより大きな動作を行うよう
にプログラムを構成してもよい。」と記載されている。したがって,待機中と比較\nして模造された人物が「口を開く」との構成は,本件補正発明における「一部」の\n「大きな動作」に含まれるものである。
さらに,仮想オペレータの一部が大きな動作をすることによって得られる効果に
ついて,本件補正明細書【0072】には,「音声合成技術を活用して仮想オペレ
ータと対話するため,ユーザは無機質な対話を強制されることなく,自然な対話を
行うことができる」と記載されている。もっとも,「自然な対話」の程度について
は何ら特定されておらず,回答時に模造された人物が「口を開」けば,回答時にお
いても待機中と同様に口を閉じている場合と比較して,円滑なコミュニケーション
が図られているような印象を与えることができる。したがって,回答時に模造され
た人物が「口を開く」との引用発明2の構成によって,「自然な対話を行う」とい\nう本件補正発明の効果を奏することができる。
ウ したがって,引用発明2における前記具体的な構成を引用発明1に適用すれ\nば,本件補正発明の構成に至るというべきである。\n
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 動機付け
>> コンピュータ関連発明
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2018.05.18
平成29(行ケ)10096 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年5月15日 知的財産高等裁判所
数値限定の範囲を変えることについて動機付けありとして、進歩性違反無しとした審決が、取り消されました。
本件訂正発明1と甲1発明との相違点である,甲1発明におけるSiO2粒
子(非磁性材)の含有量を「3重量%」(3.2mol%)から「6mol%以上」とする
ことについて,当業者が容易に想到できるといえるか否かを検討する。
イ 動機付けの有無について
(ア) 上記3(1)において認定したとおり,本件特許の優先日当時,垂直磁
気記録媒体において,非磁性材であるSiO2を11mol%あるいは15〜40vol%
含有する磁性膜は,粒子の孤立化が促進され,磁気特性やノイズ特性に
優れていることが知られており,非磁性材を6mol%以上含有するスパッタ
リングターゲットは技術常識であった。
そして,本件特許の優先日前に公開されていた甲4(特開2004−
339586号公報)において,従来技術として甲2が引用され,甲2
に開示されている従来のターゲットは「十分にシリカ相がCo基焼結合金
相中に十分に分散されないために,低透磁率にならず,そのために異常\n放電したり,スパッタ初期に安定した放電が得られない,という問題点
があった」(段落【0004】)と記載されていることからも,優れた
スパッタリングターゲットを得るために,材料やその含有割合,混合条
件,焼結条件等に関し,日々検討が加えられている状況にあったと認め
られる。
そうすると,甲1発明に係るスパッタリングターゲットにおいても,
酸化物の含有量を増加させる動機付けがあったというべきである(磁気
記録方式の違いが判断に影響を及ぼさないことについては,後記オ(ア)
に説示するとおりである。)。
(イ) 次に,具体的な含有量の点についてみると,被告も,非磁性材の含有
量を「6mol%以上」と特定することで何らかの作用効果を狙ったものでは
ないと主張している上,証拠に照らしても,6mol%という境界値に技術的
意義があることは何らうかがわれない。
さらに,本件明細書の段落【0016】及び【0017】に記載され
ているスパッタリングターゲットの作製方法は,本件特許の優先日当時,
一般的に使用・利用可能であった通常の強磁性材及び非磁性材を用い,\n様々な原料粉の形状,粉砕・混合方法,混合時間,焼結方法,焼結温度
を選択することにより,本件訂正発明に係る形状及び寸法を備えるよう
にできるというものであるから,甲1発明に基づいて非磁性材である酸
化物の含有量が6mol%以上であるターゲットを製造することに技術的困難
性が伴うものであったともいえない。
そうすると,磁気特性やノイズ特性に優れたスパッタリングターゲッ
トの作製を目的として,甲1発明に基づいて,その酸化物の含有量を6mol%
以上に増加させる動機付けがあったと認めるのが相当である。
ウ 阻害要因の有無について
(ア) 審決は,ターゲットの組成を変化させるとターゲット中のセラミック
相の分散状態も変化することが推測され,例えば,当該セラミック相を
増加させようとすれば,均一に分散させることが相対的に困難になり,
ターゲット中のセラミック相粒子の大きさは大きくなる等,分散の均一
性は低下する方向に変化すると考えるのが自然であって,実施例1の「3
重量%」(3.2mol%)から本件訂正発明1の「6mol%以上」という2倍近い値
まで増加させた場合に,ターゲットの断面組織写真が甲1の図1と同様
のものになるとはいえず,本件訂正発明1における非磁性材の粒子の分
散の形態を変わらず満たすものとなるか不明であると判断した。
被告も,甲1発明において酸化物含有量を「3重量%」(3.2mol%)から
「6mol%以上」に増加させた場合に,組織が維持されると当業者は認識し
ない,すなわち,組織が維持されるかどうか不明であることは,甲1発
明において酸化物含有量を増やすことの阻害要因になると主張する。
(イ) この点について,上記2(2)オにおいて認定したとおり,甲1には,
実施例4(酸化物の含有量は1.46mol%)について,「このターゲットの
組織は,図1に示した酸化物(SiO2)が分散した微細混合相とほぼ同様
であった。」(段落【0022】),実施例5(同1.85mol%)及び同6
(同3.19mol%)についても「このターゲットの組織は,図1に示した組
織とほぼ同様であった。」(段落【0024】及び【0026】)との
各記載があるように,非磁性材である酸化物の含有量が1.46mol%(実施
例4)から3.19mol%(実施例6)まで2倍以上変化しても,ターゲット
の断面組織写真が甲1の図1と同様のものになることが示されている。
さらに,上記3(2)において認定したとおり,メカニカルアロイングに
おける混合条件の調整,例えば,十分な混合時間の確保等によってナノ\nスケールの微細な分散状態が得られることも,本件特許の優先日当時の
技術常識であった。
そうすると,甲1に接した当業者は,甲1発明において酸化物の含有
量を増加させた場合,凝集等によって図1に示されている以上に粒子の
肥大化等が生じる傾向が強まるとしても,金属材料(強磁性材)及び酸
化物(非磁性材)の粒径,性状,含有量などに応じてメカニカルアロイ
ングにおける混合条件等を調整することによって,甲1発明と同程度の
微細な分散状態を得られることが理解できるというべきである。
また,上記イのとおり,甲1発明に基づいて非磁性材である酸化物の
含有量が6mol%以上であるターゲットを製造することが,何かしらの技術
的困難性を伴うものであると認めることはできない。
したがって,甲1発明において酸化物の含有量を「3重量%」(3.2 mol%)
から「6mol%以上」に増加した場合に,分散状態が変化する可能性がある\nとか,上記本件組織が維持されるかどうかが不明であることが,直ちに
非磁性材の含有量を増やすことの阻害要因になるとはいえない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 動機付け
>> 阻害要因
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2018.04.24
平成29(行ケ)10180 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年3月28日 知的財産高等裁判所
審決では動機付け無しとして進歩性違反なしと判断されていました。知財高裁(2部)は動機付けありとして、審決を取り消しました。
登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け,剥離すること\nを繰り返すと,粘着剤層が多数積層して,登記識別情報を読み取りにくくなるとい
う登記識別情報保護シールにおける本件課題は,登記識別情報保護シールを登記識
別情報通知書に何度も貼り付け,剥離することを繰り返すと必然的に生じるもので\nあって,登記識別情報保護シールの需要者には当然に認識されていたと考えられる
(甲15)。現に,本件原出願日の5年以上前である平成21年9月30日には,
登記識別情報保護シールの需要者である司法書士に認識されていたものと認められ
る(甲26の3)。そして,登記識別情報保護シールの製造・販売業者は,需要者
の要求に応じた製品を開発しようとするから,本件課題は,本件原出願日前に,当
業者において周知の課題であったといえる。
そうすると,本件課題に直面した登記識別情報保護シールの技術分野における当
業者は,粘着剤層の下の文字(登記識別情報)が見えにくくならないようにするた
めに,粘着剤層が登記識別情報の上に付着することがないように工夫するものと認
められる。甲3発明は,秘密情報に対応する部分には実質的に粘着剤が設けられて
いないものであり,甲3発明と甲1発明は,秘密情報保護シールであるという技術
分野が共通し,一度剥がすと再度貼ることはできないようにして,秘密情報の漏洩\nがあったことを感知するという点でも共通する。したがって,甲1発明に甲3発明
を適用する動機付けがあるといえる。
甲1発明に甲3発明を適用すると,粘着剤層が登記識別情報の上に付着すること
がなくなり,本件課題が解決される。したがって,甲1発明において,甲3発明を
適用し,相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到するものと認められ\nる。
ウ 被告の主張について
(ア) 被告は,甲3発明には,シールを何度も貼り付け,剥離することを繰\nり返すという課題は存在せず,その使用目的から容器又はシールを使い回すことは
倫理上許されないから本件課題とは矛盾し,阻害要因がある,と主張する。
しかし,甲3発明のシールは何度も貼り付け,剥離することを予\定されていない
としても,一度剥がした後に新たなシールを貼付することは可能\である。また,甲
3発明が,医療,保健衛生分野において使用される検体用容器等に使用される場合
には,何度も貼り付け,剥離することはないのは,検体用容器等の用途がそのよう\nなものであるからであって,甲3発明自体の作用,機能に基づくものではなく,甲\n3発明は保健,衛生分野に限って使用されるものではないから,甲1発明と組み合
わせるのに阻害要因があるとはいえない。したがって,被告の主張には,理由がな
い。
◆判決本文
同じ特許発明に関する別の無効審判の取消事件です。
こちらも進歩性無しと判断されました。
◆平成29(行ケ)10176
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 動機付け
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2018.04.19
平成29(行ケ)10139 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年4月16日 知的財産高等裁判所
条件判断を入れ替えると、技術的意義に変動が生じるので単なる設計事項ではないとして、進歩性なしとした拒絶審決を知財高裁は取り消しました。
引用発明の衝突対応車両制御は,衝突対応制御プログラムが実行されることによ
って行われる。同プログラムは,S1の自車線上存在物特定ルーチン及びS2のA
CC・PCS対象特定ルーチンにおいて,自車線上の存在物であるか否かという条
件の充足性が判断され,その後に処理されるS5のACC・PCS作動ルーチンに
おいて,自車両の速度,ブレーキ操作部材の操作の有無,自車両と直前存在物との
衝突時間や車間時間等の条件に応じて,特定のACC制御やPCS制御が開始され,
又は開始されないというものである。
(イ) 条件判断の順序の入替えについて
本願補正発明では,ターゲット物体との相対移動の検知に応答してアクションを
始動するように構成された後に,自車線上にある存在物を特定し,アクションの始\n動を無効にするという構成が採用されている。したがって,引用発明を,相違点に\n係る本願補正発明の構成に至らしめるためには,少なくとも,まず,自車線上の存\n在物であるか否かという条件の充足性判断を行い,続いて,特定のACC制御やP
CS制御を開始するために自車両の速度等の条件判断を行うという引用発明の条件
判断の順序を入れ替える必要がある。
しかし,引用発明では,S1及びS2において,自車線上の存在物であるか否か
という条件の充足性が判断される。この条件は,ACC制御,PCS制御の対象と
なる前方存在物を特定するためのものである(引用例【0091】)。そして,引
用発明は,これにより,多数の特定存在物の中から,自車線上にある存在物を特定
し,ACC制御,PCS制御の対象となる存在物を絞り込み,ACC制御,PCS
制御のための処理負担を軽減することができる。一方,ACC制御,PCS制御の
対象となる存在物を絞り込まずに,ACC制御,PCS制御のための処理を行うと,
その処理負担が大きくなる。このように,引用発明において,自車線上の存在物で
あるか否かという条件の充足性判断を,ACC制御,PCS制御のための処理の前
に行うか,後に行うかによって,その技術的意義に変動が生じる。
したがって,複数の条件が成立したときに特定のアクションを始動する装置にお
いて,複数の条件の成立判断の順序を入れ替えることが通常行い得る設計変更であ
ったとしても,引用発明において,まず,特定のACC制御やPCS制御を開始す
るために自車両の速度等の条件判断を行い,続いて,自車線上の存在物であるか否
かという条件の充足性判断を行うという構成を採用することはできない。\nよって,引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが,単なる設計変更
であるということはできないから,相違点に係る本願補正発明の構成は,容易に想\n到することができるものではない。
(ウ) 本件周知技術の適用
a 引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが単なる設計変更であっ
たとしても,条件判断の順序を入れ替えた引用発明は,まず,自車両の速度等の条
件判断がされ,続いて,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断
され,その後,特定のACC制御やPCS制御が開始され,又は開始されないもの
になる。そして,これに本件周知技術を適用できたとしても,本件周知技術を適用
した引用発明は,まず,自車両の速度等の条件判断がされ,続いて,自車線上の存
在物であるか否かという条件の充足性が判断され,その後,特定のACC制御やP
CS制御が開始され,又は開始されないものになり,加えて,特定の条件を満たし
た場合には,当該ACC制御やPCS制御の始動が無効になるにとどまる。
ここで,本件周知技術を適用した引用発明は,特定の条件を満たした場合に,P
CS制御等の始動を無効にするものである。そして,本件周知技術を適用した引用
発明においては,PCS制御等の開始に当たり,既に,自車線上の存在物であるか
否かという条件の充足性が判断されているから,自車線上の存在物であるか否かと
いう条件を,再度,PCS制御等の始動を無効にするに当たり判断される条件とす
ることはない。
これに対し,相違点に係る本願補正発明の構成は,「横方向オフセット値に基づ\nいて」,すなわち,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断に基づ
いて,少なくとも1のアクションの始動を無効にするものである。
したがって,引用発明に本件周知技術を適用しても,相違点に係る本願補正発明
の構成には至らないというべきである。
b なお,本件周知技術を適用した引用発明は,自車両の速度等の条件判断と,
それに続く,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断をもって,P
CS制御等を開始するものである。PCS制御等の開始を,自車線上の存在物であ
るか否かという条件の充足性判断よりも前に行うことについて,引用例には記載も
示唆もされておらず,このことが周知慣用技術であることを示す証拠もない。
したがって,引用発明に本件周知技術を適用しても,その発明は相違点に係る本
願補正発明の構成には至らないところ,さらに,PCS制御等の開始を,自車線上\nの存在物であるか否かという条件の充足性判断よりも前に行うことにより,当該発
明を,相違点に係る本願補正発明の構成に至らしめることができるものではない。
c そもそも,本願補正発明では,ターゲット物体との相対移動の検知に応答し
てアクションを始動するように構成された後に,自車線上にある存在物を特定し,\nアクションの始動を無効にするという構成が採用されている。本願補正発明は,タ\nーゲット物体との相対移動の検知に応答してアクションを始動するという既存の構\n成に,当該構成を変更することなく,単に,自車線上の存在物であるか否かという\n条件の充足性判断を付加することによって,アクションの始動を無効にするという
ものであり,引用発明とは技術的思想を異にするものである。
(エ) 以上のとおり,引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが単な
る設計変更ということはできず,また,引用発明に本件周知技術を適用しても,相
違点に係る本願補正発明の構成には至らないというべきであるから,相違点に係る\n本願補正発明の構成は,引用発明に基づき,容易に想到できたものとはいえない。\n
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 動機付け
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2018.04.11
平成29(行ケ)10097 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年3月29日 知的財産高等裁判所
ゲームプログラムについて、進歩性ありとした審決が維持されました。
前記1(1)の認定事実によれば,本件発明は,ユーザがシリーズ化された一連のゲ
ームソフトを買い揃えるだけで,標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容\nを楽しむことを可能とすることによって,シリーズ化された後作のゲームの購入を\n促すという技術思想を有するものと認められる。
これに対し,前記1(2)の認定事実によれば,公知発明は,前作と後作との間でス
トーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラ
クタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイ
を有利にすることによって,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編である
後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購
入を促すという技術思想を有するものと認められる。
そうすると,公知発明は,少なくとも,前作において実際にプレイしたキャラク
タをセーブするとともに,前作のゲームにおいてキャラクタのレベルが16以上と
なるまでプレイしたという実績(以下「プレイ実績」という。)をセーブすることが,
その技術思想を実現するための必須条件となる。そのため,前作において実際にプ
レイしたキャラクタ及びプレイ実績に係る情報をセーブできない記憶媒体を採用し
た場合には,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをした
り,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることが
できなくなる。このことは,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編のゲー
ムをプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すと
いう公知発明の技術思想に反することになる。
したがって,当業者は,公知発明1のディスクについて,前作において実際にプ
レイしたゲームのキャラクタ及びプレイ実績をセーブできない記憶媒体,すなわち,
「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更しよう\nとする動機付けはなく,かえって,このような記憶媒体を採用することには,公知
発明の技術思想に照らし,阻害要因があるというべきである。
仮に,先行技術発明A等(甲20の1及び2,甲21の1及びの2,甲91,甲
92のゲーム等を含む。以下同じ。)のように,2本のゲームのROMカセットを所
有し,ゲーム機のスロットに挿入するのみで拡張されたゲーム内容を楽しめるゲー
ムが周知技術であったとしても,これを公知発明1に対して適用するに当たり,公
知発明1のディスクを,ゲームのプレイ実績をセーブできない記憶媒体,すなわち,
「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更すると,\n上記のとおり,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをし
たり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすること
ができなくなるから,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,後作のゲームの購
入を促すという公知発明の技術思想に反することになる。
また,仮に,ゲームに登場するキャラクタをゲームプログラムにプリセットして
おき,プレイヤーがキャラクタを適宜選択できるようにすることが,本件特許の出
願当時において,技術常識であったとしても,公知発明1の「キャラクタのレベル
が16以上である」というゲームのプレイ実績を,プリセットされたキャラクタに
係る情報に変えると,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレ
イをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にす
ることができなくなるから,上記と同様に,公知発明の技術思想に反することにな
る。
以上によれば,公知発明1において,所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能\nな記憶媒体,一の記憶媒体及び二の記憶媒体を,ディスクから「記憶媒体(ただし,
セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更して相違点1ないし3に係る\n構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえないとした審決の\n判断に誤りはなく,取消事由1は,理由がない。
(3) 原告の主張について
原告は,公知発明1の技術思想について,魔洞戦紀DDI(前作ゲーム)に記憶
された切換キーがゲーム装置で読み込まれている場合に,勇士の紋章DDII(後作
ゲーム)で,標準ゲームプログラムに加えて,拡張ゲームプログラムでもゲーム装
置を作動させるものであり,これによりゲーム内容を豊富化してユーザに前作の購
入を促すというものであるから,本件発明の技術思想と同じであると主張する。そ
して,原告は,上記主張を前提とした上で,上記切換キーには,「魔洞戦紀DDIが
装填された」という条件1に係る情報と「キャラクタのレベルが16以上である」
という条件2に係る情報とが含まれているところ,公知発明1の技術思想である「ユ
ーザに前作の購入を促す」ことは,切換キーのうち「魔洞戦紀DDI」が装填され
たという条件1に係る情報のみで達成できるのであるから,当業者であれば,その
目的を達成するために,「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係
る情報を切換キーから除くなどして,記憶媒体についてもセーブデータが記憶可能\nな記憶媒体としないことは容易であり,かえって,このような場合には,よりユー
ザの負担なく拡張ゲームプログラムが楽しめるようになるのであるから,前作の購
入を促すことが可能であるともいえ,公知発明1の切換キーに「キャラクタのレベ\nルが16以上である」という条件2に係る情報であるセーブデータを含ませるか否
かは,当業者が適宜選択できる設計事項であると主張する。
しかしながら,上記(2)のとおり,公知発明は,前作と後作との間でストーリーに
連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレ
イをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にす
ることによって,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編である後作のゲー
ムもプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すと
いう技術思想を有するものと認められる。
そうすると,公知発明は,少なくとも,前作のキャラクタをセーブするとともに,
キャラクタのプレイ実績をセーブすることが,その技術思想を実現するための必須
条件となるから,キャラクタ及びプレイ実績に係る情報をセーブできない記憶媒体
を採用した場合には,公知発明の技術思想に反することになる。
したがって,「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報を
切換キーから除くなどして,記憶媒体についてセーブデータが記憶可能な記憶媒体\nとしないことは,公知発明を都合よく分割してその必須条件を省略しようとするも
のであるから,上記のとおり,公知発明の技術思想に反することは明らかである。
以上によれば,原告の主張は,その余の点を含め,公知発明の技術思想を正解し
ないものに帰し,採用することができない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 動機付け
>> コンピュータ関連発明
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2018.03.28
平成29(行ケ)10062 取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年3月26日 知的財産高等裁判所(4部)
異議理由ありとした審決が取り消されました。進歩性なしとの審決について、動機付けがないとの理由です。異議申立が認められる割合が低いのですが、それが取り消される事件は、さらに低いですね。
引用発明Aでは,第1のワイヤが接続されるpn接合ダイオードの一の電
極及びショットキーバリアダイオードの一方の電極は,いずれもカソード電極とな\nる。
そして,引用例には,IGBT4とダイオード5との組合せを,SiCMOSF
ETとショットキーバリアダイオードとの組合せに置き換える場合,置換えの前後
で動作を異ならせる旨の記載や示唆はない。
また,引用発明Aは,「トランスファーモールド樹脂で封止した電力用半導体装
置には,主端子に大電流を流すことができるブスバーの外部配線が,ねじ止めやは
んだ付けで固定されるため,電力用半導体装置の組み立て時において,主端子部に
おおきな応力が働き,この応力により,主端子の外側面とトランスファーモールド
樹脂との接着面に隙間が発生したり,トランスファーモールド樹脂本体に微細なク
ラックが発生する等の不具合を主端子部に生じ,電力用半導体装置の歩留まりが低
くなり生産性が低下するとともに,信頼性も低下する」ことを課題とし,「トラン
スファーモールド樹脂により封止された電力用半導体装置であって,主回路に接続
される主端子に大電流を流すことのできる外部配線を接続しても,外部配線の接続
により主端子部に発生する不良を低減でき,歩留まりが高く生産性に優れるととも
に,信頼性の高い電力用半導体装置を提供すること」を目的とする発明であって(【0
007】,【0008】),この目的を達成することと,SiCMOSFETの型
や並列接続するショットキーバリアダイオードの接続方向を変更することは,無関
係である。
したがって,当業者が,引用発明Aにおいて,上記目的を達成するために,「前
記PN接合ダイオードの一の電極」及び「前記ショットキーバリアダイオードの一
方の電極」をカソード電極からアノード電極に変更する動機付けがあるとはいえな\nいから,相違点1’に係る本件発明1の構成を当事者が容易に想到できたものであ\nるとは認められない。
(イ) さらに,本件発明は,MOSFETに寄生しているpn接合ダイオードに
電流が流れると,MOSFETの結晶欠陥が拡大してデバイス特性が劣化し,特に,
SiCMOSFETでは,寄生pn接合ダイオードに電流が流れると,オン抵抗が
増大するという課題があったが,ショットキーバリアダイオードを並列接続しても
pn接合ダイオードに電流が流れてしまう現象が生じていることから(【0002】
〜【0004】,【0006】),本件発明1の構成を採用し,第2のワイヤに寄\n生するインダクタンスによって,pn接合ダイオードの順方向立ち上がり電圧以上
の逆起電力が発生しても,pn接合ダイオードに電流が流れないようにする(【0
014】)との作用効果を奏するものである。
しかし,引用発明Aの課題及び目的は,前記(ア)のとおりであり,引用例には,
ダイオード5やワイヤーボンド7にインダクタンスが寄生することについての記載
や示唆はないことから,引用例に接した当業者が,引用発明Aに本件発明の作用効
果が期待されることを予想できたとはいえない。\n
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 新規性・進歩性
>> 動機付け
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP