2020.10.29
令和1(行ケ)10126 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年10月22日 知的財産高等裁判所
本件特許についての第三次取消訴訟で無効理由無しの審決が取り消されました。第一次、第二次はいずれも、「無効理由無し、審決維持」でした。
正規状態での施工の利点(上記(2)ア)及び2枚目クランプ状態での施工の
問題点(同イ)にかんがみると,甲1発明において,400mmの場合に2
枚目クランプ状態で施工すると,地盤が硬い場合や鋼矢板が長い場合には施
工不能となるおそれがあるから,正規状態での施工が可能\になるように構成\nすることを当業者は動機付けられるといえる。
ここで,600mm用のチャック装置のままで400mmの鋼矢板を正規
状態で施工すると,チャック装置が大きすぎるために干渉問題が生じる(上
記(2)ウ)。この干渉問題を解決するために,上記(3)の周知事項を適用して,
必要に応じて圧入機に仕様変更を加えつつ,600mm用のチャック装置よ
りも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用のチャック装置を備え\nる一体型チャックフレームに交換することにより,あるいは,600mm用
の着脱式チャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm\n用の着脱式チャック装置に交換することにより,400mmの場合でも正規
状態での施工が可能になるように構\成することは,当業者が容易に想到し得
たことといえる。
なお,本件特許の明細書の【0027】には,従来技術の説明として,溶
接事項記載に相当する記載があるが,溶接の工程にはそれなりの手間や費用
を要する上に,溶接した鋼矢板は,その再利用にも支障が生じ得ることなど
を踏まえると,鋼矢板の溶接は,あくまでも次善の策にすぎず,当業者とし
ては,より抜本的な解決策の採用に向けて動機付けられるであろうことは否
定できない。そうすると,溶接事項記載の存在により,相違点に係る本件発
明1の構成を採用することが阻害されるとはいえない。\n
2 第2次審決(甲7−1)との関係について
なお,甲7の1,2によれば,本件審判手続と第2次審決に係る無効審判手
続とでは,類似の無効理由が主張されていたことが認められるので,第2次審
決との抵触等が問題にならないではないが,同証拠によれば,両者で主張され
た無効理由は,主引例が異なる上に,その根拠として提出された証拠にも違い
があることが認められるから,本件において,原告が,甲1発明に基づく進歩
性欠如を主張することが,第2次審決の効力に違反するものではないし,また,
その主張が既に決着済みの問題を蒸し返すものであって信義則に違反するとま
で認めるに足りる証拠もない。
◆判決本文
1次判決はこちら
◆平成28(行ケ)10161
2次判決はこちら
◆平成30(行ケ)10030
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2020.10.29
令和1(行ケ)10130 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年10月22日 知的財産高等裁判所(3部)
無効審判の審理で訂正し、無効理由無しとされましたが、これについては、審決取消訴訟(前訴)で取り消されました。再開した審理で、訂正がなされ、無効理由無しと判断されました。知財高裁は審決を維持しました。争点は新規性・進歩性、サポート要件です。概要は、先行公報に記載された事項については前訴の拘束力化あり、また阻害要因ありと判断されました。
本件訂正発明1と甲1発明の相違点の認定の誤りについて
ア 甲1の【0016】には,「図1にホットプレスにより作製したターゲッ
トの断面組織写真を示す。これによれば,微細な黒い点(SiO2)が均質
に分布しているのが観察され,・・・以上の結果より,このターゲット組織は
SiO2がCo−Cr−Ta合金中に分散した微細混合相からなっている
ことがわかった。」との記載があるから,甲1の図1の黒い点はSiO2と
認められる。そして,甲1の図1によれば,SiO2の黒い点は粒子状をな
しており,いずれも半径2µmの仮想円よりも小さいと認められる。したが
って,甲1の図1のSiO2粒子はいずれも,SiO2粒子内の任意の点を
中心に形成した半径2µmの全ての仮想円よりも小さいと認められ,形状2
の粒子の存在を確認することはできないから,本件訂正発明1が必ず形状
2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否かが
一見して明らかではないと認められる。
前訴判決は,審決を取り消す前提として,甲1発明の図1の全ての粒子
は形状1であると認定しており(甲30,61頁),この点について拘束力
が生じているものと認められ,この点からしても,本件訂正発明1が必ず
形状2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否
かが一見して明らかではないということができる。
そうすると,本件訂正発明1が形状2の粒子を含むのに対し甲1発明に
おいて形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでないとの本件審
決の相違点(相違点2)の認定に誤りはないものと認められる。
イ(ア) この点につき,原告は,甲3に記載された再現実験は,甲1の実施
例1の再現実験であり,甲3で確認される非磁性材料粒子の組織は,甲
1の実施例1の組織と同じであるとして,甲3の断面組織写真である図
6の画面右下には形状2の粒子が存在するから(甲47),本件訂正発明
1と同じく,甲1発明にも形状2の粒子が存在するということができ,
形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでない点をもって,本件
訂正発明1と甲1発明の相違点ということはできないと主張する。
(イ) 前記2(2)アのとおり,メカニカルアロイングは,高エネルギー型ボ
ールミルを用いて,異種粉末混合物と硬質ボールを密閉容器に挿入し,
機械的エネルギーを与えて,金属,セラミックス,ポリマー中に金属や,
セラミックスなどを超微細分散化,混合化,合金化,アモルファス化さ
せる手法で,セラミックス粒子を金属マトリクス内に微細に分散させる
ことを可能とするものであり,このようなメカニカルアロイングの仕組\nみに照らすと,メカニカルアロイングにおいては,ボールミルのボール
の衝突により異種粉末混合物にどのような力が加えられるかにより,生
成物の組織が異なってくるものと認められる。また,甲52に「一般に
粉末のミリング時には衝撃,剪断,摩擦,圧縮あるいはそれらの混合し
たきわめて多様な力が作用するがメカニカルアロイングにおいて最も重
要なものはミリング媒体の硬質球の衝突における衝撃力とされている。
衝撃圧縮により粉末粒子は鍛造変形を受け加工硬化し,破砕され薄片化
する。・・・薄片化および新生金属面の形成に加え,新生面の冷間圧接およ
びたたみ込みが重なるいわゆる Kneading 効果により,次第に微細に混
じり合い,ついには光学顕微鏡程度では成分の見分けがつかないほどに
なってしまう。」(前記2(1)オ)との記載があることからすると,メカニ
カルアロイングにおいて最も重要なものはミリング媒体の硬質球の衝突
における衝撃力であると認められる。そうすると,ボールミルのボール
の材質や大きさ,ボールミルの回転速度等の条件が異なれば,メカニカ
ルアロイングによって得られる粉末の物性は異なり,そのような粉末か
ら得られるスパッタリングターゲットの研磨面で観察される組織の形態
も異なると認められる。
そうであるとすれば,少なくともボールミルのボールの材質や大きさ,
ボールミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件が明らかにされな
ければ,どのような組織の生成物ができるかが明らかにならないものと
いうべきである。
そこで本件についてみると,甲1には,甲1発明のスパッタリングタ
ーゲットを製造する際の,ボールミルのボールの材質や大きさ,ボール
ミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件についての記載はなく,
甲3のメカニカルアロイングの条件が,甲1発明のスパッタリングター
ゲットを製造する際のメカニカルアロイングの条件と同じであったとい
う根拠はない。そうすると,甲3に記載されたスパッタリングターゲッ
トが形状2の粒子を含んでいたとしても,このことのみから,甲1発明
のスパッタリングターゲットも形状2の粒子を含むということはできな
い。そして,その他に,甲1発明のスパッタリングターゲットが形状2
の粒子を含むことを認めるに足りる証拠はない。
・・・
(2) 本件訂正発明1〜6の進歩性についての判断の誤りについて
ア 本件訂正発明1と甲1発明の相違点2,本件訂正発明2と甲1発明の相
違点2’の容易想到性について検討する。
甲1発明は,ハードディスク用の酸化物分散型 Co 系合金スパッタリン
グターゲット及びその製造方法に関する発明であり(【0001】【産業上
の利用分野】),発明の目的は,保磁力に優れ,媒体ノイズの少ない Co 系合
金磁性膜をスパッタリング法によって形成するために,結晶組織が合金相
とセラミックス相が均質に分散した微細混合相であるスパッタリングタ
ーゲット及びその製造方法を提供することにある(【0009】【発明が解
決しようとする課題】)。そして,発明者らは,Co 系合金磁性膜の結晶粒界
に非磁性相を均質に分散させれば,保磁力の向上とノイズの低減が改善さ
れた Co 系合金磁性膜が得られることから,そのような磁性膜を得るため
には,使用されるスパッタリングターゲットの結晶組織が合金相とセラミ
ックス相が均質に分散した微細混合相であればよいことに着目し,セラミ
ックス相として酸化物が均質に分散した Co 系合金磁性膜を製造する方法
について研究し,甲1記載の発明を発明した(【0010】【課題を解決す
るための手段】)。そして,甲1には,急冷凝固法で作製した Co 系合金粉末
と酸化物とをメカニカルアロイングすると,酸化物が Co 系合金粉末中に
均質に分散した組織を有する複合合金粉末が得られ,この粉末をモールド
に入れてホットプレスすると非常に均質な酸化物分散型 Co 系合金ターゲ
ットが製造できる(【0013】(課題を解決するための手段))と記載され
ており,甲1発明のスパッタリングターゲットは,アトマイズ粉末とSi
O2粉末を混合した後メカニカルアロイングを行い,その後のホットプレ
スにより製造されたものであり,SiO2が Co−Cr−Ta 合金中に分散した
微細混合相からなる組織を有する(【0015】,【0016】(実施例1))。
他方,メカニカルアロイングについては,本件特許の優先日当時,前記
2(2)記載の技術常識が存在したと認められ,当業者は,甲1発明のスパッ
タリングターゲットを製造する際も,原料粉末粒子が圧縮,圧延により扁
平化する段階(第一段階),ニーディングが繰り返され,ラメラ組織が発達
する段階(第二段階),結晶粒が微細化され,酸化物などの分散粒子を含む
場合は,酸化物粒子が取り込まれ,均一微細分散が達成される段階(第三
段階)の三段階で,メカニカルアロイングが進行すること自体は理解して
いたものと解される。
そして,メカニカルアロイングが上記第一ないし第三の段階を踏んで進
行することからすると,メカニカルアロイングが途中の段階,例えば,第
二段階では,ラメラ組織が発達し,形状2の粒子も存在するものと考えら
れ,甲49(実験成績報告書「甲3の混合過程で形状2の非磁性材料粒子
が存在すること(1)」)及び甲50(実験成績報告書「甲3の混合過程で
形状2の非磁性材料粒子が存在すること(2)」)も,メカニカルアロイン
グの途中の段階においては,形状2の粒子が存在することを示している。
しかし,甲1には,形状2のSiO2粒子について,記載も示唆もされて
いない。むしろ,本件特許の優先日当時のメカニカルアロイングについて
の前記技術常識(前記2(2))に照らすと,メカニカルアロイングは,セラ
ミックス粒子等を金属マトリクス内に微細に分散させるための技術であ
り,第二段階は進行の過程にとどまり,均一微細分散が達成される第三段
階に至ってメカニカルアロイングが完了すると認識されていたものと推
認されるところであり,前記2(1)の技術文献の記載に照らして,メカニカ
ルアロイングをその途中の第二段階で止めることが想定されていたとは
認められない。メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階までで終
了することについて,甲1には何ら記載も示唆もされておらず,その他に,
これを示唆するものは認められない。むしろ,甲1には,合金相とセラミ
ックス相が均質に分散した微細混合相である結晶組織を得ることが,課題
を解決するための手段として書かれており,セラミックス相が均質に分散
した微細混合相を得るためには,均一微細分散が達成される第三段階まで
メカニカルアロイングを進めることが必要であるから,甲1は,メカニカ
ルアロイングをその途中の第二段階で止めることを阻害するものと認め
られる。
そうすると,当業者は,メカニカルアロイングについて前記2(2)記載の
技術常識を有していたものではあるが,甲1発明のスパッタリングターゲ
ットを製造する際に,メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階ま
でで終了することにより,SiO2粒子の形状を形状2(形状2’)の粒子
を含むようにすることを動機付けられることはなかったというべきであ
る。
したがって,相違点2及び相違点2’に係る事項は,当業者が容易に想
到し得たものとは認められない。
◆判決本文
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2020.09.17
令和1(行ケ)10070 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年9月10日 知的財産高等裁判所
進歩性違反の無効理由無しとした審決が維持されました。裁判所は「性質の異なる泥土を,発明の対象とすることの動機付けはないというべきである」と述べました。
エ 進歩性の判断について
原告は,原告甲1発明は,シールド工法により発生する泥土の処理方法
に関する発明であるから,仮に,その泥土に気泡シールド工法により発生
する泥土が含まれないとしても,気泡シールド工法がシールド工法の典型
例であることなどを考慮すれば,気泡シールド工法によって発生した泥土
を原告甲1発明の対象とすることは容易に想到することができると主張す
る。
しかしながら,原告甲1発明に開示された発明は,「推進工事,シール
ド工事,基礎工事,浚渫工事のような建設工事等で発生する泥土」であっ
て,高い含水比により流動性が高い反面,気泡の存在は想定されていない
ものを対象とし,これに凝集剤を適切に供給することよって「凝集された
無数の土粒子間に自由水を満遍なく抱合して,粒状化した状態に処理」
【0049】するという発明である。これに対し,気泡シールド工法によ
って発生する泥土は,含水比が低く,気泡を有している点において,原告
甲1発明が想定する泥土とは性質が異なるのであるから,当業者には,こ
のように性質の異なる泥土を,原告甲1発明の対象とすることの動機付け
はないというべきである。このことは,気泡シールド工法がシールド工法
の典型例であるとしても,それによって左右されるものではない(問題は,
泥土の性質であるからである。)。
原告は,気泡シールド工法とその他の泥土圧シールド工法とは技術分野
に親近性があり適宜の互換性があること,両工法には発生する泥土の流動
性という課題の共通性があることなども指摘している。しかし,前者に関
していえば,問題は,泥土の性質であって,工法の種類ではないことは既
に指摘したとおりである。また,後者についていえば,気泡を有する泥土
の場合には,流動性をなくすために気泡を消滅させなければならないとい
う固有の課題が存在するのであるから,流動性という表面的な現象面にお\nいて共通性があるからといって,直ちに,気泡を有する泥土を原告甲1発
明の対象とすることが容易であるということはできない。
よって,原告甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の構成とす\nることは,当業者が容易に想到できたものとはいえない。したがって,本
件発明1が進歩性を欠くとはいえず,審決の同旨の判断には結論において
誤りはない。
◆判決本文
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2020.09. 1
令和1(行ケ)10139 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年8月27日 知的財産高等裁判所(3部)
無効審判に対して訂正請求がなされ、無効理由無しとの審決がなされました。知財高裁もかかる判断を維持しました。理由は、動機付け無し、阻害要因ありです。
前記2(1)のとおり,甲1発明は,プリント配線板との位置合わせ用
のマークであるアライメントマーク(認識マーク)を備えた金属製の印
刷用マスクに関する発明である(甲1【0001】ないし【0003】)。
また,アライメントマークは,印刷用マスクをプリント配線板に対して
正しい位置に配置するためのものであり,カメラで読み取られるなどし
てその位置座標が正確に認識されることによって位置合わせ用のマーク
としての機能を果たすものといえる(甲1【0003】,【0004】)か\nら,形成されるアライメントマークには,その形状や記載内容に係る精
度よりも,マークの位置や輪郭の寸法に係る精度が強く求められるもの
ということができる。
他方で,上記(1)のとおり,甲3文献には,高速度鋼や超鋼合金製の工
具類に文字や数字等のパターンをマーキングする方法として,甲3記載
技術が従来の技術として挙げられるとともに,その課題を解決する手段
として湿式鍍金法を用いたマーキング方法が記載されている。そして,
甲3文献に記載されたこれらの技術は,高精度を要求されるドリル等の
工具類に識別情報としての文字や数字等を表示するためのものであるか\nら,マーキングされる文字や数字等には,その位置や大きさに係る精度
よりも,文字や数字等としての明瞭さや高い解像度が強く求められるも
のということができる。
これらの事情を考慮すると,甲1発明及び甲3記載技術は,各技術が
属する分野が異なるものである上,技術の適用対象や要求される機能も\n異なるというべきである。
これに加え,前記2(1)のとおり,甲1発明における被加工品は,金属
製の印刷用マスクであるところ,その材料としてはニッケル合金やニッ
ケル−コバルト合金等が好ましいとされている(甲1【0012】)のに
対し,上記(1)によれば,甲3文献における被加工品は,高速度鋼や超硬
合金性の工具類であるから,甲1発明及び甲3記載技術は,被加工品の
材料も異なる。
以上によれば,甲1発明及び甲3記載技術は,技術分野や技術の適用
対象,要求される機能,材料がいずれも異なるというべきである。\n
・・・
オ 原告は,欠点(1)ないし(4)につき,甲3記載技術を甲1発明に適用する
ことの阻害要因とはなり得ないなどと主張する。
しかしながら,上記(1)のとおりの甲3文献の記載内容によれば,欠点
(1)ないし(4)は,電解マーキング法一般を念頭に置いた欠点を列挙したも
のと読むことができるのであって,そうであれば,同文献に接した当業者
が,電解めっき法に劣るマーキング方法であると否定的に評価されている
甲3記載技術を,電解めっき法を採用するのが好ましいとされている甲1
発明に敢えて適用しようとすることは考え難いというべきである。また,
欠点(1)ないし(4)につき,本件出願時の時点において既に克服された欠点
であることが技術常識又は周知の事項であったと認めるに足りる証拠は
存しない。
したがって,欠点(1)ないし(4)は,甲3記載技術を甲1発明に適用する
ことについての阻害要因となり得るというべきである。
◆判決本文
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2020.08.18
令和1(行ケ)10084 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年8月5日 知的財産高等裁判所
無効理由(進歩性)無しとした審決が維持されました。理由は引例には、動機付けがないというものです。
上記記載によれば,甲1発明のパック剤は,皮膚に塗布し,乾燥後に
皮膜となったものを剥離して使用するものであって,使用時に皮膚上で
皮膜を形成して作用するものと理解できるから,甲1には,甲1発明の
A剤に含まれる「ポリビニルアルコール」及び「カルボキシメチルセル
ロースナトリウム」は,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増粘剤」である
ことの開示があるものと認められる。
他方で,甲1には,「本発明のパック剤には上記必須成分のほかに,
通常のパック剤に使用される・・・増粘剤・・・などを適宜配合することができ
る。」(前記2(1)カ)との記載はあるが,「アルギン酸ナトリウム」に
ついての記載はなく,「アルギン酸ナトリウム」が皮膚上の皮膜形成に
寄与する「増粘剤」であることを示唆する記載もない。
(イ) 原告は,甲87ないし89を根拠として挙げて,本件優先日当時,
アルギン酸ナトリウムが,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増粘剤」とし
て周知であった旨主張する。
そこで検討するに,甲87(特開平成9−278926号公報)には,
「【発明の属する技術分野】本発明は,主として,青果物や加工食品等
を高品質な状態に保存するのに使用されるガス透過性フィルムに関す
る。」(【0001】),「【課題を解決するための手段】本発明のガ
ス透過性フィルムは,アルギン酸と水溶性化合物とを含む水溶液で皮膜
を形成し,この皮膜をカルシウ塩等の多価金属塩の水溶液に接触させて
アルギン酸を不溶化させアルギン酸凝固フィルムとし,不溶化したアル
ギン凝固フィルムを水洗して水溶性化合物を溶解し,溶解される水溶性
化合物でガス透気度を調整することを特徴とする。」(【0010】),
「皮膜を形成するアルギン酸を含む水溶液は,アルギン酸を酸やアルカ
リに溶解させた水溶液,水にアルギン酸ナトリウムやアルギン酸カリウ
ムやアルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩を溶解させた水溶液が使
用できる。」(【0011】),「本発明のガス透過性フィルムは,ア
ルギン酸と水溶性化合物を含む水溶液で皮膜を形成し,この皮膜をカル
シウム塩等の多価金属塩で凝固させて,不溶化されたアルギン酸凝固フ
ィルムを水洗してガス透気度を調整する。アルギン酸と水溶性化合物と
を含む水溶液は,たとえば,段ボール箱や食品等の被コーティング物の
表面に塗布して皮膜とし,あるいは,スリットから多価金属塩の水溶液中に押し出して皮膜とする。」(【0015】),「被コーティング物\nに塗布される皮膜は,アルギン酸ナトリウムの濃度で調整できる。アル
ギン酸を含む水溶液は,アルギン酸の濃度を高くすると粘土も高くなる。
粘土の高いアルギン酸水溶液を含む水溶液を使用すると,被コーティン
グ物の表面に付着される膜厚が厚くなる。たとえば,アルギン酸ナトリウムの水溶液は,濃度を高くすると粘度も高くなるので,被コーティン\nグ物を濃度の高いアルギン酸ナトリウムの水溶液に浸漬して,厚い皮膜
を形成し,あるいは,アルギン酸を含む水溶液を噴霧して,被コーティ
ング物の表面に厚い皮膜を形成する。」(【0016】),「[実施例1]下記の工程でガス透過性フィルムを製造する。」,「1) 1wt%
のアルギン酸と,1wt%のプルランを含む水溶液を,5×5cmの段
ボールライナーの片面にに塗布し,段ボールライナーの表面にアルギン酸とプルランを含む水溶液の皮膜,膜厚500μmを形成する。」(【0\n019】)との記載がある。上記記載から,アルギン酸を含む水溶液を
段ボール箱や食品等の被コーティング物の表面に塗布することにより皮膜が形成されることを理解できるが,他方で,甲87には,アルギン酸\n又はアルギン酸を含む水溶液が人体の皮膚上の皮膜形成に寄与すること
についての記載も示唆もない。
また,甲88及び89(「機能性包装資材の開発技術の形成−機能\性
段ボール箱の開発」徳島県立工業技術センター研究報告Vol.4)に
おいても,アルギン酸又はアルギン酸を含む水溶液が人体の皮膚上の皮
膜形成に寄与することについての記載も示唆もない。
そうすると,原告の上記主張は採用することができない。他に本件優
先日当時,アルギン酸ナトリウムが,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増
粘剤」として周知であったことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 以上によれば,甲1に接した当業者において,甲1発明のA剤に含
まれる,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増粘剤」であるポリビニルアル
コール又はカルボキシメチルセルロースを,このような機能を有する「増粘剤」であるとはいえないアルギン酸ナトリウムに置換する動機付けが\nあるものと認めることはできないから,原告の前記主張は採用すること
ができない。
◆判決本文
関連事件です。
◆令和1(行ケ)10082
本件特許の侵害訴訟事件です。特別部の判断です。
◆平成30(ネ)10063
原審はこちら
◆平成27(ワ)4292
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2020.08.12
平成31(行ケ)10047 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年7月22日 知的財産高等裁判所
進歩性違反の無効理由なしとした審決が維持されました。相違点4の容易相当性(1)の判断に誤りはあるが,容易相当性(2)の判断について誤りはないから,進歩性違反なし、と判断されました。
相違点4の容易想到性の判断(1)の誤りの有無について
原告は,1)甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」は,
予め一体とされた後,一体となった状態のまま,ベース2に取り付けられ,\n「回路遮断器の取り付け構造」における「回路遮断器」として用いられるも\nのであり,本件訂正発明の「回路遮断器」とその機能及び用途において相違\nするものではないから,本件審決における相違点2の認定には誤りがある,
2)本件審決における相違点4の容易想到性の判断(1)は,本件訂正発明と甲1
発明との間に相違点2が存在することを前提とするから,その前提において
誤りがある旨主張する。
ア(ア) そこで検討するに,本件訂正発明の「取付用板側に設けられた母線
とねじ無しで接続を行うためのプラグイン端子を電源側に設けたプラグ
インタイプの回路遮断器」,「取付用板」と「回路遮断機の取付構造」\nとの文言からすると,本件訂正発明の「取付用板側に設けられた母線と
ねじ無しで接続を行うためのプラグイン端子を電源側に設けたプラグイ
ンタイプの回路遮断器」における「回路遮断器」は,取付用板に取り付
けられる取付機構を有するものと理解できる。\nそして,「回路遮断器」の構成の一部である取付機構\は,回路遮断機
能を有する機器そのものと予\め一体不可分に作製する場合のほかに,回
路遮断機能を有する機器と別部材の取り付け部材とを一体化して作製す\nる場合などが考えられる。
しかるところ,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項2)には,「回
路遮断器」の取り付け機構について,回路遮断機能\を有する機器そのも
のと予め一体不可分に作製されたものに限定する記載はない。また,本\n件明細書においても,そのような限定をする趣旨の記載はない。
そうすると,別部材の取付部材を有する回路遮断器は,本件訂正発明
の「回路遮断器」に含まれるものと解すべきである。
(イ) これに対し被告は,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項2)に
は,「回路遮断器を分電盤などの母線が設けられた取付板に取り付ける
ための前記回路遮断器と取付板の構造」,「前記回路遮断器の前記母線\nとは反対側の負荷側には…ロックレバーを設け」,「前記取付板と前記
回路遮断器とに夫々対応して設けられた嵌合部と被嵌合部」との記載が
あること,本件訂正明細書には,本件発明の実施形態として,凹部やロ
ックレバーを含む1つの部材として回路遮断器が構成されている実施形\n態のみが記載されていることからすると,本件訂正発明は,回路遮断器
を取付板に直接取り付けることを前提にした発明であるといえる旨主張
する。
しかしながら,前記(ア)認定のとおり,本件発明1の「回路遮断器」
は,取付板に取り付けられる取付機構を有するものであるところ,本件\n訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)には,「回路遮断器」の取り
付け機構について,回路遮断機能\を有する機器そのものと予め一体不可\n分に作製されたものに限定する記載はなく,また,本件訂正明細書にお
いても,そのような限定をする趣旨の記載はないから,被告の上記主張
は採用することができない。
イ(ア) 次に,甲1には,取り付け部材5に関し,「各分岐開閉器4の下に
は夫々取り付け部材5を配置してあり,この取り付け部材5を介して分
岐開閉器4をベース2を取り付けるようになっている。取り付け部材5
は図6に示すように上片5aと両側の側片5bとで略コ字状に形成され
ている。取り付け部材5の長手方向の両端には上記引っ掛け凹所8に引
っ掛け係止する引っ掛け爪9を設けてある。両端の引っ掛け爪9のうち
導電バー3側の引っ掛け爪9は変位可能な形状にした係脱用引っ掛け爪\n9aとなっており,他方の引っ掛け爪9は略剛体になっている。取り付
け部材5の上には分岐開閉器4が配置され,両端の引っ掛け爪9を分岐
開閉器4の引っ掛け凹所8に引っ掛け係止することで取り付け部材5の
上に分岐開閉器4を取り付けてある。」(【0013】),「そして分
岐開閉器4を取り付け部材5に取り付けた状態で取り付け部材5と一緒
に分岐開閉器4が次のように装着される。取り付け部材5をベース2の
上に配置して係止爪23が長孔23に挿入され,分岐開閉器4と一緒に
取り付け部材5が導電バー3の方にスライドさせられる。分岐開閉器4
と取り付け部材5をスライドさせると,接続端子16が導電バー3に差
し込まれて電気的に接続される。…このとき板ばね25の先端部25a
が係止孔24に係止して取り付け部材5が動かないように止められる。
このように分岐開閉器4を取り付けたとき,係脱用引っ掛け爪9aが導
電バー3側に位置するため,導電バー3と接続端子16の係止にて係脱
用引っ掛け爪9aと引っ掛け凹所8との係止が外れにくくなり,分岐開
閉器4が外れにくいように取り付けることができる。また板ばね25の
先端部25aの係止を外して上記と逆にスライドさせることで分岐開閉
器4と一緒に取り付け部材5を取り外すことができる。」(【0014】)
との記載がある。この記載によれば,甲1発明の取り付け部材5と分岐
開閉器4は,別部材ではあるが,分岐開閉器4を取り付け部材5に取り
付けた状態で,ベース2の上に配置し,取り付け部材5と一緒に分岐開
閉器4を導電バー3の方向にスライドさせていくと前記導電バー3が接
続端子16に差し込まれていき,ベース2に分岐開閉器4を取り付けた
取り付け部材5が取り付けられること,板ばね25の先端部25aの係
止を外して上記と逆にスライドさせることで分岐開閉器4と一緒に取り
付け部材5を取り外すことができることからすると,「分岐開閉器4を
取り付けた取り付け部材5」は,予め一体とされた後一体となった状態\nのまま,ベース2に取り付けられ,また,一体となった状態のままベー
スから取り外されるのであるから,「分岐開閉器4を取り付けた取り付
け部材5」における取り付け部材5は,分岐開閉器4と一体化された分
岐開閉器4の取付機構としての機能\を有するものと認められる。
そうすると,甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」
は,本件訂正発明の「取付用板側に設けられた母線とねじ無しで接続を
行うためのプラグイン端子を電源側に設けたプラグインタイプの回路遮
断器」における「回路遮断器」に相当するものと認められる。
したがって,甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」
は,本件発明の「回路遮断器」に相当するものでないとした本件審決の
認定は誤りであるから,本件審決における相違点4の容易想到性の判断
(1)も誤りである。
(イ) これに対し被告は,1)甲1の記載によれば,甲1発明は,取り付け
部材を介在させて分岐開閉器をベースに取り付ける場合に生じる問題
(【0003】)を課題とし,取り付け部材を介在させて分岐開閉器を
ベースに取り付けることを前提にした発明である,2)甲1には分岐開閉
器が同じ構成で取り付け部材の高さが違う実施形態が記載されており,\n取り付け部材は,分岐開閉器をベースに取り付けるためのスペーサとし
て機能する別部材であるから,取り付け部材は,回路遮断器の一部を構\
成するものではない,3)甲1発明において,分岐開閉器は協約形ブレー
カであり,取り付け部材はそれに用いられる分岐取付台であるから,「分
岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」を本件発明の回路遮断器とみ
なすことはできないなどとして,甲1発明の「分岐開閉器4を取り付け
た取り付け部材5」は,本件発明の「回路遮断器」に相当するものとい
えない旨主張する。
しかしながら,前記(1)イ認定の甲1の開示事項によれば,甲1には,
「本発明」は,差し込み式の分岐開閉器の取り付けがしやすく,しかも
取り付けた後の分岐開閉器が外れにくい分電盤を提供することを課題と
し,本件審決認定の甲1発明は,「請求項4の分電盤」に係る構成を採\n用することにより,分岐開閉器の接続端子が導電バーから外れる方向に
取り付け部材が移動するのを抑えることができ,分岐開閉器を強固に固
定できるという効果を奏するとともに,「請求項5の分電盤」に係る構\n成を採用することにより,弾性体を変形させることにより取り付け部材
をベースから外すことができ,分岐開閉器の交換作業が容易にできると
いう効果を奏することが開示されているものと認められることに照らす
と,甲1発明は,取り付け部材を介在させて分岐開閉器をベースに取り
付ける場合に生じる問題のみを課題としたものとはいえない。
次に,甲1には,分岐開閉器の一定の寸法に限定することを示す記載
や導電バーを分岐開閉器の寸法に合わせた位置に配置することができな
いことを示す記載はなく,取り付け部材が,所定形状の分岐開閉器を導
電バーの異なる高さに合わせるためのスペーサとして機能することを示\nす記載はない。また,前記(ア)認定のとおり,「分岐開閉器4を取り付
けた取り付け部材5」における取り付け部材5は,分岐開閉器4と別部
材であるが,分岐開閉器4と一体化された分岐開閉器4の取付機構とし\nての機能を有するものであるから,取り付け部材5が別部材であること\nは,「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」が本件発明の「回路
遮断器」に該当しないことの根拠となるものではない。
さらに,甲1には,甲1発明において分岐開閉器は協約形ブレーカで
あり,取り付け部材はそれに用いられる分岐取付台であることについて
の記載はないし,また,仮に分岐開閉器と取り付け部材がそのような関
係にあるからといって,「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」
が本件発明の「回路遮断器」に該当しないことの根拠となるものではない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
ウ 以上のとおり,本件審決における相違点4の容易想到性の判断(1)には誤
りがある。
(4) 相違点4の容易想到性の判断(2)の誤りの有無について
原告は,1)甲1及び2に接した当業者においては,甲1発明及び甲2発明
は技術分野,課題及び作用・機能において共通すること,甲1発明において\nは,プラグコネクタの接続を解除する方向に分岐開閉器をスライドさせる際
においては,板ばねの先端部25aが底面から突出しない状態に維持(ロッ
クを外した状態に維持)させなければならないという課題があることを認識
するといえるから,甲1発明において,この課題を解決し,分岐開閉器の取
り外しを容易にするために,甲1発明の板ばねに係る構成部分に甲2発明の\n係止アーム及び操作用取手(ロックを外した状態を維持できる構造)を適用\nすることを試みる動機付けがあるといえる,2)甲1発明に甲2発明を適用す
るに当たっては,甲2に記載された機器の底面から突出することによって機
器のスライドを防止するための部材を,突出する状態と突出しない状態のそ
れぞれにおいて択一的に選択「保持」可能な構\成とするという技術的思想を
甲1発明に適用すれば足りるものであり,例えば,別紙原告主張書面記載の
図1ないし図5に示した構成が考えられ,甲2に記載された選択保持可能\と
いう技術的思想を甲1発明に適用することは可能であり,かつ,その適用に\nおいて特段の技術的困難はない,3)そうすると,甲1及び甲2に接した当業
者は,甲1発明において,プラグコネクタの接続を解除する方向に分岐開閉
器をスライドさせる際に,板ばねの先端部25aが底面から突出しない状態
に維持(ロックを外した状態に維持)させなければならないという課題があ
ることを認識し,この課題を解決し,分岐開閉器の取り外しを容易にするた
めに,甲1発明の板ばねに係る構成部分に甲2発明の係止アーム及び操作用\n取手(ロックを外した状態を維持できる構造)を適用し,相違点4に係る本\n件訂正発明の構成(本件訂正発明におけるレバーは,「前記突出部が回路遮\n断器の取付面から突出しない状態で保持されるように構成され」る構\成)と
することを容易に想到することができたものである旨主張する。
ア しかしながら,甲1には,甲1発明の板ばねの係止が解除された状態(上
方に撓んだ状態)で保持されることについての記載や示唆はない。また,
甲1の【0014】の記載によれば,甲1発明においては,取り付け部材
5の側片5bの下面から板ばね25が自動的に突出してベース2の係止
孔24に係止することにより取り外し方向の規制が行われるから,取り外
し方向の規制を行う際に,規制部材を突出した位置に保持する必要もない。
そうすると,甲1発明において,甲2発明の構造を適用して,機器の底\n面から突出して機器のスライドを防止するための部材を,操作用取手を用
いることで突出する状態と突出しない状態のそれぞれにおいて択一的に
選択保持可能な構\成とするという動機付けがあるものと認めることはで
きない。
イ また,仮に原告が主張するように甲1発明において,プラグコネクタの
接続を解除する方向に分岐開閉器をスライドさせる際においては,板ばね
の先端部25aが底面から突出しない状態に維持(ロックを外した状態に
維持)させなければならないという課題があることを認識し,当業者が,
甲1発明において,甲2発明の係止アーム及び操作用取手(ロックを外し
た状態を維持できる構造)の構\成を適用することを検討しようとしたとし
ても,具体的にどのように適用すべきかを容易に想い至ることはできない
というべきであるから,結局,甲1発明に甲2発明の上記構成を適用する\n動機付けがあるものと認めることはできない。
この点に関し,原告は,甲1発明に甲2発明の上記構成を適用する具体\n例として,別紙原告主張図面の図1ないし5で示した構成が考えられる旨\n主張するが,板ばねや分岐開閉器のような小さな部材にさらに操作用取手
や突起等を設け,その精度を保つ構造とすることを想起することが容易で\nあったものとは考え難い。
ウ 以上によれば,甲1発明における板ばねに係る構成部分に,甲2に記載\nされた発明の係止アーム及び操作用取手(ロックを外した状態を維持でき
る構造)を適用する動機付けがあるものと認めることはできないから,本\n件審決における相違点3の容易想到性(2)の判断に誤りはない。
したがって,原告の前記主張は理由がない。
(5) 小括
以上のとおり,本件審決における相違点4の容易想到性(1)の判断に誤りは
あるが,相違点4の容易相当性(2)の判断について誤りはないから,その余の
点について判断するまでもなく,本件訂正発明は,甲1発明及び甲2発明に
基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはでき
ない。
◆判決本文
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◆平成31(行ケ)10046
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2020.08.12
令和1(行ケ)10129 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年7月29日 知的財産高等裁判所
無効審判が請求され、訂正請求がなされました。審決は無効理由なしと判断しました
裁判所も「背面カバー部材31との間に隙間1,2を設けることを明示又は示唆する記載は,全く存在しない」として、審決を維持しました。
原告は,甲1発明には,隙間1,2が存在し,隙間1,2は,甲1発明
において,本件発明1にいう「開口」に相当する部分(ボンベ装填部8の背面部の
開放された部分)の一部をなしているから,甲1発明は,「専用小型ガスボンベ2
A」を器具本体にセットしたときに「上記開口を含む空気導入口」を備えており,
仮に,隙間1,2が本件発明1いう「開口」に含まれないものであるとしても,隙
間1,2は,外部からボンベ装填部8の内部に空気を導入する機能を有するから,\n本件発明1と甲1発明が同一である旨主張する(原告の主張1)ので,まず,この
点について判断する。
a 前記1(2)で認定したとおり,本件発明は,小型ガス容器を器具本体
にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を,空気導入口
として活用し,そのような開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入する空冷機構を備えることで,ガス器具の小型化に伴う発熱の問題を解決し,標準型ガ\nス容器によるガス器具とほぼ同等の熱量を発生可能で,熱害の心配のない安全性の\n高い小型ガス器具を提供するというものである。
また,本件明細書の【発明の実施の形態】には「・・・上記の開口27を,器具
本体10内へ空気を導入する空気導入口28としても利用し,冷却性能を向上させ\nるための空冷機構を構\成する。・・・小型ガス器具では,その分冷却性能の向上を図\nることが好ましいのに対して,前記の開口27を空冷機構の一部として活用するこ\nとができるという特徴を発揮する。」(段落【0017】),「・・・後部開口27や小開口29よりなる空気導入口28から流入する多量の空気が排出部32へ抜け
る・・・」(段落【0023】)との記載がある。
以上からすると,標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出すための開口を,小型
ガス容器を器具本体にセットしたときには,空気導入口として活用し,器具本体内
に十分な空気の流れを生じさせて冷却性能\の向上を図るというのが本件発明の技術
思想であると認められる。そうすると,本件発明にいう「開口」とは,小型ガス容
器を器具本体にセットしたときに,器具本体内に十分な空気の流れを生じさせて冷\n却性能を向上させるような「空気導入口」として機能\し得る程度のものである必要
があるというべきである。
b 上記aを踏まえて,甲1について検討するに,確かに甲1の【図6】
や【図8】には,原告の主張する隙間1,2らしきものが記載されている。しかし,
特許公報に添付された図面は,発明の技術内容を理解しやすくするためのものにす
ぎず,部材の大きさや位置関係が正確に記載されているとは限らないものであると
ころ,甲1の【発明の詳細な説明】には,カバー部材5・仕切板9と背面カバー材6又は背面カバー部材31との間に隙間1,2を設けることを明示又は示唆する記載は,全く存在しない。
特に,隙間2に関しては,甲1の段落【0037】の「・・・背面カバー部材3
1には,その両側縁に係合凸部32が形成されており,この係合凸部32が仕切板
9及びシャーシ3に立設した図示しない支持柱部材とに形成した高さ方向の係合溝
に相対係合される。」との記載及び【図8】からすると,被告が主張するように係合
凸部32と図示されていない支持柱部材に形成された係合溝により,ボンベ装填部
8の背面部が閉塞され,隙間2は生じないとも考えられる。
そうすると,甲1の【図6】及び【図8】から直ちに原告が主張するような隙間
1,2の存在を認めることはできないというべきであるから,原告の主張1はその
点からして採用することができない。
c 仮に,甲1の【図6】や【図8】から隙間1,2の存在が認められ
るとしても,甲1には,隙間1,2から空気を導入して冷却性能の向上を図るとい\nう技術思想については全く記載も示唆もない上,【図6】や【図8】に描かれた隙間
1,2はいずれもごく小さいものであるから,それらに接した当業者が,隙間1,
2から空気を導入することで,器具本体内に十分な空気の流れを生じさせて冷却性\n能の向上を図ることができると認識すると認めることはできない。したがって,隙\n間1,2が,原告が主張する本件発明1にいう「開口」に相当する部分(甲1発明
におけるボンベ装填部8の背面部における開放された部分)に含まれるかどうかに
かかわらず,原告の主張1を採用することはできない。
(イ) 原告は,甲1発明は,ボンベ装填部8の背面側を開放するという使用形態が可能な機械的構\成を備えているから,本件発明1と甲1発明は同一又は実質的に同一であると主張する(原告の主張2)。
しかし,前記アの甲1の記載事項からすると,甲1発明には,標準型ガス容器を
器具本体にセットするときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出すための開口
を,小型ガス容器を器具本体にセットした際に空気導入口として活用し,器具本体
内に十分な空気の流れを生じさせて冷却性能\の向上を図るという技術思想は存在せ
ず,かえって,甲1発明では,専用小型ガスボンベ2Aの使用中にボンベ装填部8
の背面部を閉塞するために,敢えて部品点数を増やしてまで背面カバー部材6又は
背面カバー部材31を設けている(甲1の段落【0019】,【0025】〜【00
28】,【0034】,【0037】,【0038】)のであり,甲1には,専用小型ガスボンベ2Aの使用中に背面カバー部材を開放することについては何ら記載されてお
らず,そのことは全く想定されていないというべきである。このことは,甲1にお
いて,背面カバー部材6にトーションスプリング等を使わない態様が記載されてい
るとしても変わるものではない。
また,甲1発明のうち,背面カバー部材6がシャーシ3に取り付けられている実
施形態の場合,背面カバー部材6を開放すると,背面カバー部材6分だけガスコン
ロ装置の設置スペースが増大することになり,大きな設置スペースを必要としない
小型のガスコンロ装置を提供するという甲1発明の目的(甲1の段落【0005】
〜【0008】)とも反することになる。
そうすると,甲1発明が,ボンベ装填部8の背面側を開放するという使用形態が
可能な機械的構\成を備えているとしても,そのことをもって,本件発明1と甲1発
明が同一又は実質的に同一であるということはできず,原告の主張2は採用するこ
とができない。このことは,ボンベ装填部8の背面側を開放するという使用形態が
周知・慣用技術であったとしても変わるものではない。
(ウ) 以上の検討及び弁論の全趣旨からすると,本件発明1と甲1発明と
の間には,審決が認定した前記第2の3(2)イ記載の一致点及び相違点1があるこ
とが認められる上,相違点1は実質的な相違点であって,本件発明1と甲1発明は
同一又は実質的に同一とはいえない。
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2020.08. 7
令和1(行ケ)10068 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年7月15日 知的財産高等裁判所
動機付けなしとして進歩性違反の無効理由なしとした審決が維持されました。
前記(ア)からすると,甲3発明は,「マウント1及びLEDユニット2からなり,
マウント1はLEDユニット2を収容する凹部10aを備えるLED照明装置A1
において,LEDユニット2が複数のLEDモジュール20,支持部材3及び電力
変換部5を備え,コの字状とされた支持部材3に電力変換部5を収容する照明器具」
というもので,天井からの突出量を低減することによって室内がスマートであると
の印象を与え得るLED照明装置を提供するものであると認められる。
イ 甲2発明に甲3発明を適用して,点灯装置を器具本体側ではなく,光源
ユニット側へと配置するように変更する動機付けがあるかどうかについて判断する。
前記(1)イのとおり,甲2発明は,器具本体に設けられた収容凹部に点灯装置を配
置することで,点灯装置を効率的に配置するという課題を解決したことに技術的意
義がある発明であるが,点灯装置を光源ユニット側に配置することは,配置可能な\n点灯装置のサイズ(幅方向の長さ)が取付部材21の取付面21a の長さ程度のも
のとなってしまい,収容凹部の収容スペースを有効に活用できなくなるから,甲2
発明の課題解決手段と相容れないものである。
また,甲2の段落【0024】の「・・・点灯装置3は,箱状のケース内に回路
基板及びこの基板に実装された回路部品を収容して構成されており,商用交流電源\nACに接続されていて,この交流電源ACを受けて直流出力を生成するものである。
点灯装置3は,例えば,全波整流回路の出力端子間に平滑コンデンサを接続し,こ
の平滑コンデンサに直流電圧変換回路及び電流検出手段を接続して構成されてい\nる。・・・」との記載からすると,甲2発明の点灯装置は,複数の部品から構成され\nる一定の重量のある部材であると認められ,甲2発明では,器具本体側にそのよう
な重量のある点灯装置を配置することを前提として,光源ユニットは,簡易な係止
部材で取り付けられているが,仮に点灯装置を光源ユニット側に配置するとした場
合,器具本体と光源ユニットの係止機構を中心として甲2発明全体の構\造を再検討
する必要がある。
したがって,甲3発明を甲2発明に適用する動機付けがあるとは認められない。
ウ 原告は,1)甲2発明と甲3発明が課題や課題解決手段を共通にしている,
2)器具本体と光源ユニットが分離されるLED照明器具にあって,光源ユニット側
に甲2発明の点灯装置のような電源装置を配置することは周知慣用技術であり,点
灯装置を光源ユニットに配置することに伴う設計変更は当業者にとって通常の創作
力の範囲内の設計事項であると主張する。
(ア) 上記1)について
前記ア(ア)のとおり,甲3発明は,本件発明1と同様に天井からの突出量の低減を
課題としているものと認められる。他方,甲2発明の課題は,前記(1)イのとおり,
施工作業の省力化と点灯装置等の部品の効率的な配置である上,甲2からは甲3発
明にあるような天井からの突出量の低減という技術思想を読み取ることはできず,
甲2発明と甲3発明とが課題を共通にしているとはいえず,原告の主張はその前提
を欠くものである。
この点について,原告は,かさばる部材である点灯装置(甲3発明の電力変換部)
の効率的な配置という限度で甲2発明と甲3発明が課題を共通にしている旨主張す
るが,発明の課題をあまりに抽象化して捉えており,相当ではないので,採用する
ことができない。
(イ) 上記2)について
証拠(甲1の12・13,甲3〜5)によると,審決が認定したとおり,「光源
としてLEDを用いた照明器具において,光源ユニット側に電源装置を配置する」
ことは本件出願日当時,周知慣用技術(周知慣用技術1)であったと認められる。
しかし,前記イのとおり,甲2発明において,点灯装置を光源ユニット側に配置
することは甲2発明の技術的意義を没却するものである上,甲2発明の構造を大き\nく変える必要があるから,当業者の通常の創作力の範囲内の設計事項であるという
ことはできない。
この点について,原告は,甲2発明の「収容凹部」において,電源装置を光源ユ
ニット側に取付配置した場合でも,器具本体側に取付配置した場合でも,発明の目
的とした照明器具全体での高さ寸法,天井からの突出量は変わらないと主張するが,
直ちにそのように認めることはできないのみならず,仮にそうであるとしても,上
記で述べた理由により,甲2発明において,点灯装置を光源ユニット側に配置する
ことが当業者の通常の創作力の範囲内の設計事項であるとはいえない。
また,原告は甲2発明の係止部材の構造等は特定されておらず,甲3発明の係止\n機構は,甲2発明の係止部材と同様に簡易なものであると主張するが,甲2発明に\nおいて,「係止部材4」は,「取付部材21」,「発光素子22」,「基板23」及び「カバー部材24」からなる光源部を係合保持するものである(甲2の段落【0023】,【0027】,【0028】,【図3】,【図4】)が,甲3発明の係止機構であるホルダ11は,LEDモジュール20,支持部材3,カバー4及び重量のある電力変換部\n5からなるLEDユニット2を保持するもの(甲3の段落【0026】,【0027】,【図2】,【図4】)であり,甲2発明の係止部材の方が,甲4発明のホルダより簡易
なものであれば足りることはその役割から明らかであるから,甲2発明において,
点灯装置を光源ユニット側に配置することが当業者の通常の創作力の範囲内の設計
事項であるとはいえない。
(4) 小括
以上のとおり,相違点について,甲2発明に甲3発明を適用する動機付けがある
とは認められないから,阻害事由の点について判断するまでもなく,本件発明1は,
甲2発明及び甲3発明又は周知慣用技術1から容易想到なものとはいえない。
◆判決本文
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2020.08. 7
平成31(行ケ)10040 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年7月2日 知的財産高等裁判所
審決は想到容易と判断しましたが、知財高裁は、「主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に想到することを動機付ける記載又は示唆を見出せない」としして審決を取り消しました。
(ア) 甲1又は甲2の内容中の示唆について
a 甲1及び甲2には,次の(a)及び(b)の事項が開示されているので,以
下,これらが,引用発明において,単層カーボンナノチューブとして
甲2実施例1CNTを適用することの示唆となるか否かについて検討
する。
(a) 引用発明における導電剤としての単層カーボンナノチューブは,
「直径が0.5〜10nmであり,長さが10μm以上であり,炭
素純度が重量基準で99.9%以上である」単層カーボンナノチュ
ーブである。一方,上記(2)ア(ア)及び(オ)によれば,甲2実施例1CN
Tは引用発明の単層カーボンナノチューブの純度,直径,長さの規
定を満たすものといえる。(以下「事項(a)」という。)
(b)甲2には,上記(2)ア(イ)〜(エ)より,単層カーボンナノチューブの用
途として,導電体,電極材料が挙げられ,甲2の単層カーボンナノ
チューブが優れた電子・電気特性を有すること,単層カーボンナノ
チューブ・バルク構造体を導電体として使用することも記載されて\nいる。(以下「事項(b)」という。)
b 事項(a)について
甲20,21,23には以下の記載がある(引用に当たり,文意に
影響しない範囲で記載の一部を省略又は変更した。)。
[甲20](ドージンニュース新連載「新しいナノ材料としてのカー
ボンナノチューブ−最近の展開(バイオからエネルギーまで)1)」
URL省略,令和元年6月6日検索)
「2.カーボンナノチューブの構造,特性\n
CNTはグラフェンシートを円筒状に丸めた構造をしている。\n円筒が一本のみからなるCNTをSWNTと呼ぶ。SWNTは直
径0.5〜数nmとかなり細いが・・・CNTの合成後の長さは
数十nmから,長いものでは数mmに及ぶものがあり,合成法に\nより様々な長さ分布を持つ混合物として得られる。」(2頁)
「2012年現在,30社以上のメーカーがCNTを製造販売して
いる。それぞれ製造法,直径分布,純度,結晶化度等に差があり,
一口にCNTと言っても多様性があることを認識して使わなけれ
ばならない。表1に代表\的なCNTメーカー(2012年1月現
在)を挙げた。」(4頁。表1には代表\的なCNTメーカーとし
て8社が列挙されている。)
[甲21](「雑科学ノート−カーボンナノチューブの話−」URL
省略,令和元年6月6日検索)
「CNTの直径は,これまで書いてきた巻きの強さや層の数によっ
ていろいろですが,SWCNTの場合は1〜3nm,MWCNT
の場合は10〜20nmぐらいのものが一般的です。髪の毛が5
0〜100μmぐらいですから,その数千分の一から数万分の一,
ということですね。長さは,一般的な大量生産品では0.1〜数
十μm程度ですが,基板の上に垂直に成長させる方法では数百μ\nm以上のものも作られています。」(4頁)
[甲23](末金皇ら「ブラシ状カーボンナノチューブの高速成長技
術の開発」大陽日酸技報 No.23(2004),URL省略 )
「CNTは,直径が数nm程度,長さが数μmから数百μmと極め
て高いアスペクト比を持つ構造物である。」(8頁左欄13〜1\n5行)
甲20,21,23の上記各記載によれば,本願特許出願当時,単
層カーボンナノチューブの直径や長さは製品によって様々であり,そ
の中で,0.5〜10nmの直径,10μm以上の長さは,単層カー
ボンナノチューブの直径や長さとしてごく一般的であったと認められ
る。そうすると,事項(a)のとおり,甲2実施例1CNTが引用発明の
単層カーボンナノチューブの純度,直径,長さの規定を満たすことが
開示されているからといって,そのことが,多数存在する単層カーボ
ンナノチューブから甲2実施例1CNTを選択し,引用発明のカーボ
ンナノチューブとして使用することを示唆するものとはいえない。
c 事項(b)について
甲2は,甲2に記載された発明の単層カーボンナノチューブが種々
の技術分野や用途へ応用できることを開示しているが(上記(2)ア(イ)),
電池の電極材料への応用としては,負極の材料として用いることが挙
げられているのみであり(同(エ)),正極の導電助剤として用いること
の記載又は示唆はない。また,導電性を生かした応用としては,電子
部品の銅配線に代えて用いることの記載はあるものの(同(ウ)),これ
が電池の正極の導電助剤としての応用を示唆するものとはいえない。
d 以上によれば,事項(a)又は事項(b)が,引用発明の導電助剤の単層カ
ーボンナノチューブとして甲2実施例1CNTを適用することの示唆
となるとはいえない。そして,他に,甲1又は甲2に,引用発明の導
電助剤の単層カーボンナノチューブとして甲2実施例1CNTを使用
することの示唆となる記載も見当たらない。
以上によれば,甲1及び2のいずれにも,引用発明の導電助剤の単
層カーボンナノチューブとして甲2実施例1CNTを使用することの
示唆はない。
(イ) 技術分野の関連性について
引用発明は,リチウムイオン二次電池正極用導電剤を用いたリチウム
イオン二次電池の技術分野に属するものである【0001】。一方,甲
2に開示された発明は,導電体,電極材料,電池等の技術分野に属する
ものである(上記(2)ア(イ)〜(エ))。
そうすると,両発明は,導電体,電極材料または電池という限りにお
いて,関連する技術分野に属するといえるにとどまる。
(ウ) 課題の共通性について
引用発明は,正極に混合する導電剤の量を低減して,リチウムイオン
二次電池を大容量化し,かつ,高出力におけるリチウムイオン二次電池
容量の劣化を抑制することを課題とする【0012】。一方,甲2に開
示された発明は,従来にみられない高純度,高比表面積のカーボンナノ\nチューブ(特に配向した単層カーボンナノチューブ・バルク構造体)を\n提供することを課題とする(上記(2)ア(ア))。
よって,両発明の課題は共通しない。
(エ) 作用・機能の共通性について\n
引用発明において,単層カーボンナノチューブは,リチウムイオン二
次電池正極用の導電剤として用いられ,ここで,導電剤は,導電性の低
い正極活物質に混合することにより電池の容量を大きくすることができ
るという作用・機能を有する【0003】。一方,甲2に開示された発\n明の単層カーボンナノチューブは,導電体,電極材料,電池等の用途に
用いられるものであるところ(上記(2)ア(イ)及び(エ)),導電体として使用
される際には,配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体として,\n電子部品の縦配線,横配線に代えることにより微細化,安定化を図ると
いう作用・機能を有し(同(ウ)),電極材料として使用される際には,配
向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体として,リチウム二次電池\nの電極材料,燃料電池や空気電池等の電極(負極)材料という作用・機
能を有するが(同(エ)),いずれの作用・機能も,導電性の低い正極活物\n質に混合することにより電池の容量を大きくすることができるという作
用・機能には当たらない。\nよって,両発明の作用・機能が共通しているとはいえない。\n
(オ) 以上のとおり,甲1及び甲2には,引用発明において,導電助剤とし
て用いるカーボンナノチューブとして甲2実施例1CNTを適用するこ
とを動機付ける記載又は示唆を見出すことができない。
ウ 上記イのとおり,主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に想到す
ることを動機付ける記載又は示唆を見出せない以上,上記アに説示したと
ころに照らして,かかる想到を阻害する事由の有無や,本願発明の効果の
顕著性・格別性について検討するまでもなく,その想到が容易であるとし
た審決の判断には誤りがある。
◆判決本文
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2020.08. 7
令和1(行ケ)10124 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年8月4日 知的財産高等裁判所
異議申し立てで取り消し決定がなされましたが、知財高裁(1部)は、引用文献には当該記載がないとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。また、複数の引用文献からの周知の認定も否定されました。
以上によれば,甲2文献には,プローブ装置において,1)プローブ装置筺体
内から外に向かってガイドレールを設け,プローブカードを交換する際に,プロー
ブカードをガイドレールに沿って引き出すこと,2)プローブ装置本体の上面に被検
査体に対向して載置されたテストヘッドのメンテナンスやパフォーマンスボードの
交換については,テストヘッドをプローブ装置本体から分離して上昇させて別の場
所に移動することが記載され,検査室の内部から整備空間側にテストヘッドを引き
出すことの記載はない。
・・・・
被告は,甲2文献や乙1〜3の記載によれば,メンテナンスの対象物を引き
出してメンテナンスをすること,また,その際に,スライドレールにより引き出す
構成とすることは周知技術であると主張する。\n前記(1)ア及び上記ア(ア)のとおり,引用例及び甲2文献には,プローブ装置におい
て,メンテナンスの際に検査室からプローブカードを引き出すこと及びその際ガイ
ドレールに沿って引き出す構成とすることの記載がある。しかし,本件原出願の当\n時,テストヘッドの重量は25kgから300kgを超えるものが知られ(本件明
細書【0022】,甲5【0003】・【0043】,甲6【0014】,甲7,乙3【0005】),テストヘッドとプローブカードとは重量や大きさにおいて相違すること
は明らかである。したがって,プローブカードに関する上記記載から,テストヘッ
ドを含むメンテナンスの対象物一般について,メンテナンスの対象物を引き出して
メンテナンスをすること,また,その際に,スライドレールにより引き出す構成と\nすることが周知技術であったということはできない。
また,乙1〜3には,検査室に収容されたテストヘッドの構成は開示されておら\nず,テストヘッドを引き出すものではないから,被告の主張する周知技術を裏付け
るものではない。
以上によれば,被告の主張する各文献の記載から,メンテナンスの対象物を引き
出してメンテナンスをすること,また,その際に,スライドレールにより引き出す
構成とすることが周知技術であったということはできず,ほかにこれを認めるに足\nりる証拠はない。
(イ) 被告は,乙3(【0024】)にも記載があるとおり,テストヘッドを引き出
した方が作業性に優れることは自明であるから,メンテナンスの対象物をスライド
レールにより引き出してメンテナンスを行う方が,作業が容易であることを動機付
けとして,引用発明において,相違点1に係る構成を想到することは容易であると\n主張する。
しかし,前記ア(イ)cのとおり,乙3はテストヘッドが検査室に収容されたプロー
ブ装置を開示するものではなく,同段落の「超重量級のテストヘッドであってもテ
ストヘッド4を安全且つ円滑に反転させ,前後,上下に移動させることができ,テ
ストヘッド4をメンテナンス等の作業性に優れた位置へ移動させることができる。」
との記載から,テストヘッドを引き出した方が作業性に優れていることを読み取る
ことはできない。
また,引用例には,1)試験対象の仕様及び試験内容に応じて行うピンエレクトロ
ニクスの交換や,その他のテストヘッドのメンテナンスは収容室の背面扉を開けて
行うこと(【0029】,【0036】,【0063】,【0080】,【0085】),2)レイアウトの異なるウエハに対応するためのプローブカードの交換や,その他のプローブカードのメンテナンスは収容室のメンテナンスカバーを開けて行い,プローブ
カードは収容室の外部に引き出すことができること(【0028】,【0029】,【0030】,【0037】,【0080】,【0085】),3)背面扉はテストヘッドのメンテナンスが容易な位置に配置され,メンテナンスカバーはプローブカードのメンテ
ナンスが容易な位置に配されていること(【0029】)が記載されている。
このように,引用発明においては,テストヘッドのメンテナンスは背面扉を開け
て行うものとされ,背面扉はメンテナンスを行うのに容易な位置に配置されている
のであるから,検査室が整備空間側にテストヘッドを引き出すスライドレールを備
え,テストヘッドを引き出す構成を採用することの動機付けは見いだせない。\n
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2020.07.14
令和1(行ケ)10096 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年6月3日 知的財産高等裁判所
異議申し立てにて、登録取り消し決定が取り消されました。添加目的が異なるので組み合わせる動機付けがないというものです。\n
甲2において,シランカップリング剤は,金属アルコキシドやその他の物質のポ
リイミド系重合体の前駆体であるポリアミック酸系重合体への分散性,混合性を向
上させ,熱膨張率などの特性にもとづく寸法安定性を改善することを目的とするも
のであり,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的\nな方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発明2とは異なる目的の
ために配合されている。
甲3において,アルコキシシラン化合物は,透明性を損なわずに,寸法安定性に
優れ,かつ無機化合物基板との密着性が高いシリカ粒子が分散してなる新規なポリ
イミド組成物及びその製造方法を提供するために,ポリイミド溶液に添加し,ポリ
イミド溶液において水の存在下で反応させるものであり,本件発明2において,ア
ルコキシシランが,ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の組成物に配合されるの
とは,配合対象が異なっている上,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」\nを有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発
明2とは異なる目的のために配合されている。
甲4は,ポリイミド銅張積層板のポリイミド層と銅箔との間の接着性を高めるた
めに,ポリイミド前駆体コーティング溶液中に,アルコキシシランを組み込むとい
うもので,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的\nな方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発明2とは異なる目的の
ために配合されている。
甲5は,良好な熱伝導性と接着性を有し,さらに,良好な耐熱性を有する樹脂組
成物を提供することを目的とするものであるが,(C)成分の例として,3−ウレイ
ドプロピルトリエトキシシランを含む組成物が,ポリイミド樹脂と無機フィラーの
相溶性を高め,ボイド(空隙)を抑制し,少ない無機フィラー含量でも高い熱伝導
性が得られると記載されており,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」を\n有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発明
2とは異なる目的のために配合されている。
甲6は,電子部品の絶縁膜又は表面保護膜用樹脂組成物,パターン硬化膜の製造\n方法及び電子部品に関するものであり,最終加熱時においてメルトを起こすことな
く,最終加熱以降の加熱においても架橋成分等の昇華及びガス成分の発生が少ない
層間絶縁膜又は表面保護膜を製造するために,3−ウレイドプロピルトリエトキシ\nシランを添加することができる(段落【0057】)というものであり,シリコン基
板に対する接着性増強剤として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,ビ
ス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアル
コキシシラン化合物を含むことができる(段落【0069】)との記載があるが,「支
持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離すること」が可能\
なポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供するという本件発明\n2とは添加目的が異なっている。
g 以上によると,甲2〜6によって,甲2〜6にされたアルコキシシ
ラン化合物を本件発明2のために用いるという動機付けがあるとは認められないか
ら,相違点3が容易想到であると認めることはできない。
なお,甲2〜6には,ポリイミド前駆体に添加するシランカップリング剤として,
本件発明2における4種のアルコキシシラン化合物のうちの少なくとも1種と甲1
記載の他種のものが並列的に列挙されているとしても,甲2〜6は,アルコキシシ
ラン化合物を使用する目的や対象が本件発明2とは異なるから,本件発明2におい
て,甲2〜6に記載するアルコキシシラン化合物を用いることが容易想到であると
は認められない。
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2020.06.19
令和1(行ケ)10118 審決(無効・不成立)取消 令和2年6月17日判決 請求棄却(2部)特許権 (アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン訪導体を含有する局所的眼科用処方物)進歩性,顕著な効果の有無,判決の拘束力
進歩性の判断に誤りがあるとして、最高裁で取り消された事件の差戻審の判断です。予測できない効果ありとして進歩性ありと判断されました。\n
まず,本件優先日当時,本件化合物について,ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率が30〜2000μMまでの濃度範囲において濃度依存的に上昇し,最大で92.6%となり,この濃度の間では,阻害率が最大値に達した用量(濃度)より高用量(濃度)にすると,阻害率がかえって低下するという現象が生じないことが明らかであったことを認めることができる証拠はない。
(イ)次に,ケトチフェンの効果から,本件化合物の効果を予測することができたかどうかについて判断する。\n
a 甲1によると,Ketotifen(ケトチフェン)とKW−4679(本件化合物のシス異性体の塩酸塩)は,いずれも,モルモットの結膜からのヒスタミンの遊離抑制効果については有意でないと評価がされているが,甲32には,Ketotifen(HC)(ケトチフェン)点眼液のヒスタミンの遊離抑制効果をスギ花粉症患者の眼球への投与実験によって検討したところ,アレルギー反応の誘発後,5分及び10分後の涙液中ヒスタミン量は,対照眼と比べて,有意なヒスタミン遊離抑制効果がみられ,ヒスタミン遊離抑制率は,誘発5分後で67.5%,誘発10分後で67.2%であったことが記載されている。これらによると,ケトチフェンは,ヒトの場合においては,モルモットの実験結果(甲1)とは異なり,ヒト結膜肥満細胞安定化剤としての用途を備えており,ヒスタミン遊離抑制率は,誘発5分後で67.5%,誘発10分後で67.2%であることが認められる。
もっとも,本件優先日当時,ケトチフェンがヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制率について30μM〜2000Mの間で濃度依存的な効果を有するのか否かが明らかであったと認めることができる証拠はない。なお,甲39は,本件優先日後に公刊された刊行物であって,その記載を参酌してケトチフェンが上記で認定したものを超える効果を有していると認めることはできない。b甲1において,Ketotifen(ケトチフェン)及び本件化合物と同様に,モルモットの結膜におけるヒスタミンの遊離抑制効果を有しないとされているChlorpheniramine(クロルフェニラミン)については,本件優先日当時,ヒト結膜肥満細胞の安定化効果を備えることが当業者に知られていたと認めることができる証拠はない。また,本件化合物やケトチフェンと同様に三環式骨格を有する抗アレルギー剤には,アンレキサクノス(甲1のAmelexanox),ネドクロミルナトリウムが存在する(甲1,11,19,31,弁論の全趣旨)ところ,アンレキサクノスは有意なモルモットの結膜からのヒスタミン遊離抑制効果を有している(甲1)が,本件化合物は有意な効果を示さないこと(甲1),ネドクロミルナトリウムは,ヒト結膜肥満細胞を培養した細胞集団に対する実験においてヒトの結膜肥満細胞をほとんど安定化しない(本件明細書の表1)が,本件化合物は同実験においてヒトの結膜肥満細胞に対して有意の安定化作用を有することからすると,三環式化合物という程度の共通性では,ヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果につき,当業者が同種同程度の薬効を期待する根拠とはならない。さらに,ケトチフェンは各種実験において本件化合物(又はその上位概念の化合物)との比較に用いられており(甲208〜210。ただし,甲210は,本件優先日後の文献である。),甲1では,ケトチフェンは本件化合物と並べて記載されているが,ケトチフェンと本件化合物の環構\造や置換基は異なるから,上記のとおり比較に用いられていたり,並べて記載されているからといって,当業者が,ケトチフェンのヒスタミン遊離抑制効果に基づいて,本件化合物がそれと同種同程度のヒスタミン遊離抑制効果を有するであろうことを期待するとはいえない。
原告は,ケトチフェンが,三環式骨格を有する抗アレルギー剤である点で本件化合物に共通し,本件化合物の上位概念の化合物やKW−4679などの効果において,比較対象とされている(甲208〜210)ことから,ケトチフェンの効果の程度から,KW−4679(本件化合物)の効果の程度を推認することは可能であったと主張するが,原告の主張を採用することはできない。したがって,甲1の記載に接した当業者が,ケトチフェンの効果から,本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する効果について,前記アのような効果を有することを予\測することができたということはできない。
(ウ)さらに,本件優先日当時,甲20,34及び37の文献があったことから,本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果をこれらの文献から予測できたかについて判断する。a甲20には,スギ花粉症患者の眼球への投与実験における塩酸プロカテロ−ル点眼液のヒスタミン遊離抑制率が,誘発5分後で0.003%点眼液が平均81.7%,0.001%点眼液が平均81.6%,0.0003%点眼液が平均79.0%,誘発10分後で0.003%点眼液が平均90.7%,0.001%点眼液が平均89.5%,0.0003%点眼液が平均82.5%であることが記載されている。また,甲34には,スギ花粉症患者の眼球への投与実験におけるDSCG(クロモグリク酸二ナトリウム)2%点眼液のヒスタミン遊離抑制率が,誘発5分後で平均73.8%,誘発10分後で平均67.5%であることが記載されている。\nさらに,甲37には,スギ花粉症患者への眼球の投与実験におけるペミロラストカリウム点眼液のヒスタミン遊離抑制率が,誘発5分後で0.25%点眼液が平均71.8%,0.1%点眼液が平均69.6%,誘発10分後で0.25%点眼液が平均61.3%,0.1%点眼液が平均69%であることが記載されている。
b しかし,本件化合物と,塩酸プロカテロ−ル(甲20),クロモグリク酸二ナトリウム(甲34),ペミロラストカリウム(甲37)は,化学構造を顕著に異にするものであり,前記(イ)bのとおり,三環式骨格を同じくするアンレキサクノスと本件化合物のモルモットの結膜からのヒスタミンの遊離抑制効果が異なり,ネドクロミルナトリウムと本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果が異なることからすると,ヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果も,その化学構造に応じて相違することは,当業者が知り得たことであるから,前記aの実験結果に基づいて,当業者が,本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果を,前記a記載の化合物と同様の程度であると予\測し得たということはできない。また,前記aの各記載から,塩酸プロカテロ−ル(甲20),クロモグリク酸二ナトリウム(甲34),ペミロラストカリウム(甲37)がヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率について30μM〜2000Mの間で濃度依存的な効果を有するのか否かが明らかであると認めることはできず,他に,これらの薬剤がヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率について30μM〜2000Mの間で濃度依存的な効果を有するのか否かが明らかであると認めることができる証拠はない。
したがって,前記aの各記載から,本件化合物のヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害について前記アのような効果を有することを予測することができたということはできない。\n
ウ 原告は,本件発明1の顕著な効果が認められるためには,本件化合物が0.0001〜5w/v%の濃度の全範囲で,かつ,本件明細書の表1に記載された29.6%〜92.6%というヒスタミン放出阻害率の全範囲でヒスタミン放出阻害率が顕著な効果を有しなければならないと主張する。しかし,本件発明1の効果は,30μM〜2000μMの間でヒスタミン放出阻害率が濃度依存的に上昇し,最大値92.6%となり,この濃度の間では,阻害率が最大値に達した用量(濃度)より高用量(濃度)にすると,阻害率がかえって低下するという現象が生じていないことにあるから,0.0001〜5w/v%の濃度の全範囲で,かつ,本件明細書の表\1に記載された29.6%〜92.6%というヒスタミン放出阻害率の全範囲で,他の薬物のヒスタミン放出阻害率を上回るなどの効果を有することが必要とされるものではない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
エ 以上によると,本件発明1の効果は,当該発明の構成が奏するものとして当業者が予\測することができた範囲の効果を超える顕著なものであると認められるから,当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
◆判決本文
最高裁判決はこちら
平成30(行ヒ)69 審決取消請求事件 令和元年8月27日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄差戻 知的財産高等裁判所
◆判決本文
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2020.06.12
令和1(行ケ)10085 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年6月4日 知的財産高等裁判所(3部)
ゲームの特許について進歩性無しとした審決が取り消されました。理由は「「ゲーム上の取決めにすぎない」として,他の公知技術等を用いた論理付けを示さないまま容易想到と判断できない」というものです。出願人は「グリー(株)」です。
相違点6に係る構成が容易想到であると判断するに当たっての審決の論理構\成は,次のとおりである。(1)「手持ちのカード」が他のフィールド又は領域への移動に伴いその数を減
じたときに「手持ちのカード」を補充するという構成を採用するに当たって,どのフィールド又は領域への移動を補充の契機とするかはゲーム上の\n取決めにすぎない。
(2) よって,第7領域への移動をカードの補充の契機とする引用発明の構成を,第3領域(敵ヒーローへの攻撃を行うための領域)への移動を補充の\n契機とする本願発明の構成に変更することは,ゲーム上の取決めを変更することにすぎない。\n(3) よって,引用発明の構成を本願発明における構\成とすることも,ゲーム
上の取決めの変更にすぎず,当業者が容易に想到し得た。
(2) しかしながら,審決の上記論理構成は,次のとおり不相当である。ア 審決は,引用発明の認定に当たって「カード」の種類に言及していない
が,CARTEによれば,第10領域から第11領域へのカードの補充の
契機となるのは,「シャードカード」(深緑の地色に白抜きで円形と三日
月形が表示されているカード)の第11領域から第7領域への移動及び第7領域から第6領域への移動である(00分39秒〜40秒,00分49\n秒〜50秒等)。
そして,「シャードカード」は,専ら「マナ」(カードのセッティング
やスキルの発動に必要不可欠なエネルギー<00分42秒>)を増やすため
に用いられるカードであり,その移動先はシャードゾーン(第7領域)又
はマナゾーン(第6領域)に限られ,敵との直接の攻防のためにアタック
ゾーン(第3領域)又はディフェンスゾーン(第4領域)に移動させられ
ることはない。これに対し,「クリーチャーカード」は,敵のクリーチャ
ーやヒーローとの攻防に直接用いられるものであって,第11領域から適
宜アタックゾーン(第3領域)又はディフェンスゾーン(第4領域)に移
動させられ,攻防の能力を表\す「APの値」及び「HPの値」を有してい
る。
イ このように,引用発明におけるカードの補充は,本願発明におけるそれ
との対比において,補充の契機となるカードの移動先の点において異なる
ほか,移動されるカードの種類や機能においても異なっており,相違点6は小さな相違ではない。そして,かかる相違点6の存在によって,引用発\n明と本願発明とではゲームの性格が相当程度に異なってくるといえる。し
たがって,相違点6に係る構成が「ゲーム上の取決めにすぎない」として,他の公知技術等を用いた論理付けを示さないまま容易想到と判断すること\nは,相当でない。
(3) 被告の主張について
被告は,手持ちのカードの数が減じたときにこれを補充する構成(乙7,乙8)とするかこれを補充しない構\成(乙9,乙10)とするかは,ゲーム制作者がゲームのルールを決める際に適宜決めるべき設計的な事項にすぎな
いから,引用発明において,第3領域(アタックゾーン)にカードを配置し
た場合でも第11領域の手持ちカードが補充されるようにすることは,何ら
技術的な困難性があることではなく,まさに,提供しようとするゲーム性に
応じたゲーム上の取決めにすぎない旨主張する。
しかしながら,相違点6は,ゲームの性格に関わる重要な相違点であって,
単にルール上の取決めにすぎないとの理由で容易想到性を肯定することはで
きないことは,(2)において説示したとおりである。。
◆判決本文
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2020.06.12
令和1(行ケ)10075 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年5月28日 知的財産高等裁判所
一部のクレームについて、審決は進歩性ありと判断しましたが、知財高裁(1部)は、これを取り消しました。
イ 相違点2−4について
本件明細書には,「樹脂層40の原料は,低温接着性樹脂(低融点樹脂)であって,
熱ラミネート(熱融着)が可能なものであれば制限されない」(【0043】)との記載があるところ,かかる記載によれば,本件発明7の「熱ラミネート」との用途は,\n「熱封着樹脂層」に基づくものである。
一方,引用例2の「接着層となる…エチレン・メタクリル酸共重合体の金属塩な
どの,融点が85〜135℃のヒートシール性樹脂よりなるフィルム層」との記載
によれば,引用発明2Bの「融点が90℃のエチレン・メタクリル酸共重合体(C)
からなるC層」は,「ヒートシール性樹脂よりなるフィルム層」であり,熱封着樹脂
層である。
そうすると,本件発明7の「熱封着樹脂層」と引用発明2Bの「融点が90℃のエ
チレン・メタクリル酸共重合体(C)からなるC層」とは,ともに熱封着樹脂層であ
るから,「熱ラミネート」用であるとの点において,相違はないものと認められる。
したがって,相違点2−4は,実質的な相違点ではない。
ウ 小括
以上によれば,本件発明7は,当業者が引用発明2Bに基づいて容易に発明をす
ることができたものである。
(4) 本件発明8の容易想到性について
本件発明8は,本件発明7の「第1のスキン外層」をポリエチレン系樹脂,「コア
層」をポリプロピレン系樹脂,「第2のスキン内層」をポリプロピレン樹脂及びポリ
エチレン系樹脂から選択された1種以上,「熱封着樹脂層」をエチレンビニルアセテ
ート,エチレンメチルアセテート,エチレンメタクリル酸,エチレングリコール,エ
チレン酸ターポリマー,及びエチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマーより
なる群から選択された1種以上に,それぞれ限定したものである。
引用発明2Bの「融点が90℃のエチレン・メタクリル酸共重合体(C)からなる
C層」は,「ヒートシール性樹脂よりなるフィルム層」,すなわち,「熱封着樹脂層」
であるから,「エチレンメタクリル酸」を原料とする「熱封着樹脂層」が開示されて
いる。
また,引用発明2の基材層として,従来技術(甲33)に開示された構成を採用する動機付けがあることは,前記(2)アのとおりであるところ,甲33に開示された複
合フィルムは,ポリプロピレン,ポリプロピレン,ポリエチレンからなるから,「第
1のスキン外層」をポリエチレン系樹脂,「コア層」をポリプロピレン系樹脂,「第2
のスキン内層」をポリプロピレン樹脂及びポリエチレン系樹脂から選択された1種
以上にすることも容易に想到できる。
他方,阻害事由の主張はない。
したがって,引用発明2Bの層構成を本件発明8のものとすることは,当業者が容易に想到することであるから,本件発明8は,当業者が引用発明2Bに基づいて\n容易に発明をすることができたものである。
(5) まとめ
本件発明6は,引用例2に記載された発明から容易に発明できたものではないが,
本件発明7,8は,いずれも,引用例2に記載された発明から容易に発明できたも
のであり,取消事由2は,本件発明7,8に係る部分に限り,理由がある。
◆判決本文
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2020.03.30
平成31(行ケ)10032 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年3月25日 知的財産高等裁判所(4部)
特別部、いわゆる大合議の判断がなされた事件(平成31(ネ)10003)の関連事件です。無効理由無しとした審決が維持されました。
原告は,(1)甲7の1には,甲7の1記載のマッサージ器の開き角度の
構成により,一対のローラを用いて,マッサージ器をある一方向に移動\nさせることで,一対のローラが,皮膚をひだよせしたり,押し曲げたり,
引っ張ったりし,逆方向にマッサージ器を移動させることで,皮膚が弛
緩したり,ほぐしたりする効果を奏することの開示があること,(2)甲7
の1記載のマッサージ器のローラによって,筋肉が引っ張られ,押して
ほぐされるのであれば,それと並行して毛穴が収縮し,毛穴の中の汚れ
が押し出される効果も認められるから,甲1−1発明の油分の浮き上が
らせ効果及びゲルマニウムの浸透効果がより促進されることに照らすと,
当業者は,甲1−1発明において,甲7の1記載のマッサージ器の前記
(ア)bの構成を適用する動機付けがあるといえるから,「ローラの回転\n軸が,柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ,一対のローラ
の回転軸のなす角が鈍角に設けられ」た構成(相違点2に係る本件特許\n発明1の構成)とすることを容易に想到することができたものである旨\n主張する。
そこで検討するに,前記ア(イ)a認定のとおり,甲1−1発明のロー
ラ支持部200は,別紙2の図1に示すとおり,横軸部210と縦軸部
220とで形成された「T字形状」であり,2つのローラ100,10
0が単一の横軸部210の両端に取り付けられているから,2つのロー
ラの回転軸が共通する一軸の構成であり,これにより2つのローラ10\n0,100は平行な位置関係にあることを理解できる。
他方で,甲7の1記載のマッサージ器は,別紙5の正面図及び背面図
に示すように,「一対のローラの回転軸が,柄の長軸方向の中心線とそ
れぞれ鋭角に設けられ,一対のローラの回転軸のなす角が鈍角」に設け
られており,一対のローラの回転軸は,別異の軸で構成された2軸の構\
成であり,これにより2つのローラは,甲1−1発明と比べて接近した
位置関係にあることを理解できる。
このように甲1−1発明と甲7の1記載のマッサージ器は,2つのロ
ーラの回転軸の構成が異なるところ,甲1には,2つのローラ100,\n100の回転軸を1軸から2軸とすることについての記載も示唆もない。
かえって,甲1には,「前記ローラ支持部は二股になっており,2つの
ローラが離れて支持されていると,皮膚に与える機械的な刺激が大きく
なるというメリットがある。」(【0015】)との記載があり,2つ
のローラが離れていることが望ましいことを示唆する記載がある。
また,甲7の1の「意匠の創作内容の要点」欄には,「本願マッサー
ジ器は,人体の部位を引っ張り,押して筋肉をほぐすマッサージ器であ
って,安定感と立体感を強調し,新しい美感を生じさせるようにしたこ
とを創作内容の要点とする。」との記載があるが,一方で,甲7の1に
は,ローラの材質,表面の構\成等についての記載はなく,「人体の部位
を引っ張り,押して筋肉をほぐす」ことによって皮膚に対していかなる
効果が生じるかについての具体的な開示はない。
そうすると,甲1及び甲7の1に接した当業者において,甲1−1発
明において,2つのローラの回転軸が1軸より複雑な構造である2軸の\n甲7の1記載のマッサージ装置の上記構成を適用する動機付けがあるも\nのと認めることはできない。
以上によれば,当業者が甲1−1発明と甲7の1に記載された発明に
基づいて,相違点2に係る本件特許発明1の構成を容易に想到すること\nができたものと認めることはできない。
◆判決本文
関連する審決取消訴訟はこちらです。
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◆令和1(行ケ)10066
◆平成31(行ケ)10057
◆平成30(行ケ)10160
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◆平成29(行ケ)10201
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◆平成28(ワ)6400
◆平成31(ネ)10003
原審
◆平成28(ワ)5345
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2020.03.26
平成31(行ケ)10018等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年3月19日 知的財産高等裁判所
無効理由として、実施可能要件、サポート要件、進歩性が争われました。裁判所は、無効理由無しとした審決を維持しました。\n
前記(1)イのとおり,甲2には,C.グルタミカムプロモーターの核酸
配列(図1)が記載されており,コリネ型細菌の染色体上の,GDH
遺伝子のプロモーター配列の−35領域に「TGGTCA」配列及び−10
領域に「CATAAT」配列を有し,CS遺伝子のプロモーター配列の−3
5領域に「TGGCTA」配列及び−10領域に「TAGCGT」配列を有するこ
とが示されている。また,甲2には,C.グルタミカムプロモーターの
セットにおいて,最もよく保存されている配列は-35 領域の「ttGcca.a」
及び-10 領域の「ggTA.aaT」であることが記載されている(図5)。
一方,甲2には,コリネ型細菌を用いた発酵法によるグルタミン酸
の製造方法において,グルタミン酸生合成系遺伝子であり,コリネ型
細菌の染色体上の特定の遺伝子であるGDH遺伝子及びCS遺伝子の
プロモーター配列について,その−35領域及び−10領域の塩基配
列をコリネ型細菌のコンセンサス配列に改変することの動機付けとな
るような記載はない。
したがって,甲2発明に接した当業者は,甲2の原告ら指摘箇所を
認識していたとしても,甲2発明において,GDH遺伝子のプロモー
ター配列の−35領域及び−10領域の配列と目的遺伝子の発現量の
強化の程度及びそれによるグルタミン酸生産能の向上との関係に着目\nし,グルタミン酸を高収率で生産する能力を有する変異株を得るため\nに,GDH遺伝子のプロモーター配列の−35領域及び−10領域の
配列を本件発明1−1の配列に置換する動機付けはないから,当業者
は上記構成を容易に想到できたものとは認められない。\nb これに対し原告らは,(1)L−グルタミン酸の生産を増強するために
は,L−グルタミン酸に至るまでの各反応に関与する酵素(CS,G
DH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいことは,本件優
先日前において技術常識であったこと,(2)E.coli において,プロモー
ターの−10領域及び−35領域をコンセンサス配列に変更ないし近
づけることによって,目的遺伝子の発現を強化できることも,本件優
先日前において技術常識であったこと,(3)甲2には,コリネ型細菌と
E.coli のコンセンサス配列が同等であることや,コリネ型細菌のプロ
モーターの−10領域のコンセンサス配列が「TA.aaT」であり,この
3番目の塩基「.」として,相対的に「T」が最も頻度が高いことが記
載されていることからすると,甲2の記載は,当業者に対し,甲2発
明のGDH遺伝子のプロモーター配列の−10領域(CATAAT)の1番
目の塩基「C」を「T」に変異して,コンセンサス配列,すなわち本件
発明1−1の構成(「TATAAT」)とし,同−35領域(「TGGTCA」)
の1番目〜3番目の塩基を保存性の高い「TTG」にするために,2番目
の塩基「G」を「T」に変異して,本件発明1−1の構成(「TTGTCA」)
とすることを示唆するものである旨主張する。
しかしながら,仮に,本件優先日前において,L−グルタミン酸の
生産を増強するために,L−グルタミン酸の生成反応に関与する酵素
(CS,GDH,ICDH等)の発現を強化することが望ましいこと
が知られていたとしても,当該酵素の遺伝子を増強する具体的な方法
は,相当多数のものが想定し得たものと考えられるのであって,かか
る方法として,本件発明1のように,目的遺伝子のプロモーターの特
定の領域に変異を導入する方法が知られていたことは認められない。
また,E.coli において,プロモーターの−10領域及び−35領域
をコンセンサス配列に変更ないし近づけることによって,目的遺伝子
の発現を強化できる場合があることが,本件優先日前において知られ
ていたとしても,コリネ型細菌について,これと同様の知見が存在し
ていたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,前記(1)イのとお
り,甲2には,C.グルタミカムにおけるプロモーターの活性と-35 及
び-10 のコンセンサス配列との類似性の間には,E.coliと異なり,相
関は確認できなかった旨が記載されている。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
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2020.03.26
令和1(行ケ)10097 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年3月19日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が、動機付け無し・阻害要因ありとして取り消されました。
本件審決は,引用発明1及び甲4発明の装身具は,いずれも,装身
具を簡単にシャツの第一ボタンに装着できるようにするという共通の課
題を有し,また,これを着用するに当たり,切欠き状の部分にボタンが
はまり込むことで装着するという共通の機能を有するから,引用発明1\nのボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的な形状として,甲
4発明の係止導孔を有する円形の釦挿通孔の態様を採用し,相違点2に
係る本件補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得た\nことである旨判断した。
しかしながら,前記(2)イのとおり,引用発明1は,簡易型のネクタイ
本体を取付ける着用具を改良することによって,着用状態における位置
ずれや傾きを生じ難く,低コストで生産でき,そして着用操作も容易で
ある簡易着用具付きネクタイを提供することを課題とするものである。
一方,前記ア(イ)のとおり,甲4に記載された考案は,襟飾り,生花
等の種々の装飾小物,殊に襟前に止着する装身具について,着脱が簡単
であり,かつ,衣服の損傷がほとんどない装身具取付台を提供すること
を課題とするものであるが,かかる装身具として,蝶ネクタイやネクタ
イを例示するものではなく,蝶ネクタイやネクタイを着用する際に固有
の問題があることを指摘するものでもない。
したがって,引用発明1と甲4発明は,その具体的な課題において,
大きく異なるものといえる。
また,発明の作用・機能をみても,引用発明1は,基板部,ネクタイ\n取付部及び一対の突出片から成る簡易着用具を備え,ネクタイ取付部の
裏側に位置する基板部に,その下縁を凹状に切り欠いたボタン係合部を
設け,その切欠きにシャツの第一ボタンを係合させるとともに,一対の
突片を襟下へ挿入することで,簡易蝶ネクタイの良好な着用状態及び簡
単な着用操作を実現するものである(前記(2)ア(オ))。
そして,甲1には,引用発明1に関し,(1)「ボタン係合部19」の奥
部は,ボタン取付け糸の部分を丁度跨ぐことができる程度の小円弧状を
なすものとし,その幅は,ボタンとの係合状態において横方向にほとん
ど移動しない程度のものとすること,(2)着用時にボタンとの係合を容易
にするとともに,着用時に基板部2の片側がボタン穴に入り込むことを
防ぐために,「ボタン係合部19」の下方を,ラッパ状に下方へ拡大し
て基板部2の下縁に達するものとすることの記載(前記(2)ア(エ)a)が
ある。これは,結び目の陰に隠れて見えない状態のボタン係合部を,上
方から探りながらも容易に装着できるようにするための工夫といえるか
ら,簡易着用具1の基板部2における,ボタン係合部19の配置位置及
びその形状を引用発明1の構成とすることは,引用発明1の課題を解決\nするために,重要な技術的意義を有するものであることを理解できる。
他方,甲4発明は,取付台主板に対して上方に係止導孔を連続形成し
た釦挿通孔を穿設すると共に,他の一部に背面方向に突出するピンを突
設し,ピン先端にピン挟持機構を有するピン挿入キャップを冠着するこ\nとで,釦の確実な止着と,各種装身用小物の衣類への簡単な着脱を実現
するものであって(前記ア(イ)b),第1ボタンへの係合方法,衣類への
確実な止着及び簡単な着脱の実現手段において,引用発明1と大きく異
なるものであるから,発明の具体的な作用・機能も,引用発明1とは大\nきく異なるものといえる。
加えて,甲4の記載事項(前記ア(ア)c)によれば,甲4発明の装身
具取付台は,衣類に装着する際に,第1ボタンの前部からアプローチし
て,釦挿通孔(2)に挿入した後,装身具取付台を鉛直方向の下部に移
動させ,係止導孔(3)を第1ボタンの取付糸に係合するものであるか
ら,当業者であれば,第1ボタンを釦挿通孔(2)に挿入する際に,こ
れらを視認できる状態でないと,ボタンの着脱動作が困難となることを
理解できる。
そうすると,仮に,引用発明1のボタン係合部19における切欠き状
の部分の具体的な形状として,甲4発明の「細幅の係止導孔(3)を有する
円形の釦挿通孔(2)」の態様を採用した場合には,ボタン係合部19の前
側に位置し,その前側にネクタイが取り付けられるネクタイ取付部3が
存在するため,簡易蝶ネクタイを着用する際に,簡易蝶ネクタイ及びネ
クタイ取付部に隠されて,第1ボタン及びボタン穴を視認することがで
きないことになる。そのため,ボタン係合部を切欠き状にする場合より
も,着用具へのボタンの係合が困難となることは明らかであるといえる。
(イ) 以上によれば,引用発明1と甲4発明とは,発明の課題や作用・機
能が大きく異なるものであるから,甲1に接した当業者が,甲4の存在\nを認識していたとしても,甲4に記載された装身具取付台の構成から,\n「細幅の係止導孔(3)を有する円形の釦挿通孔(2)」の形状のみを取り出し,
これを引用発明1のボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的
な形状として採用することは,当業者が容易に想到できたものであると
は認め難く,むしろ阻害要因があるといえる。
したがって,本件補正発明は,引用発明1に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたものであるとはいえないから,これに反する本
件審決の判断には誤りがあり,同判断を前提とする本件審決の補正却下
の決定にも誤りがある。
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2020.03.26
令和1(行ケ)10100 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年3月19日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとして異議申立が認められましたが、知財高裁3部は、かかる審決を取り消しました。理由は、「後知恵に基づく議論といわざるを得ず,これを周知の技術的事項であると認めることはできない」というものです。
以上のとおり,引用文献4から6に記載された発光素子は,いずれもA
lGaN層又はAlGaAs層を組成傾斜層とするものであるが,引用
文献4では緩衝層及び活性層における結晶格子歪の緩和を目的として緩
衝層に隣接するガイド層を組成傾斜層とし,引用文献5では,隣接する
2つの層(コンタクト層及びクラッド層)の間のヘテロギャップの低減
を目的として当該2つの層自体を組成傾斜層とし,引用文献6では,隣
接する2つの半導体層の間のヘテロギャップの低減を目的として2つの
層の間に新たに組成傾斜層を設けるものである。このように,被告が指
摘する引用文献4から6において,組成傾斜層の技術は,それぞれの素
子を構成する特定の半導体積層体構\造の一部として,異なる技術的意義
のもとに採用されているといえるから,各引用文献に記載された事項か
ら,半導体積層体構造や技術的意義を捨象し上位概念化して,半導体発\n光素子の技術分野において,その駆動電圧を低くするという課題を解決
するために,AlGaN層のAlの比率を傾斜させた組成傾斜層を採用
すること(本件技術)を導くことは,後知恵に基づく議論といわざるを
得ず,これを周知の技術的事項であると認めることはできない。
よって,本件技術が周知の技術的事項であるとして,相違点1,2に係
る構成に想到することが容易であるとした本件取消決定の判断には誤りが\nある。
イ なお,乙6の3及び引用文献5から,AlGaN半導体積層体において,
隣接する2つの層の間のヘテロギャップを低減させることで駆動電圧を
低減させること目的として,当該層を組成傾斜層とするという限度では,
周知の技術的事項を認める余地はある。
しかし,引用発明Aにおいて,アンドープ層とドーピング層は,いずれ
もAl0.6Ga0.4Nから構成されており,両者の間にヘテロギャップは\n存在しないと考えられる。また,超格子バッファとアンドープ層との間の
ヘテロギャップに着目するとしても,引用発明Aにおいて,n側電極はコ
ンタクト層であるドーピング層又はアンドープ層に形成されるから,それ
より下層(p側電極とは反対側)にある超格子バッファとの間のヘテロギ
ャップは,駆動電圧にほとんど影響しないと考えられる。
よって,引用発明Aのアンドープ層について,隣接するドーピング層と
の関係においても,超格子バッファとの関係においても,駆動電圧の低下
を目的としてヘテロギャップの低減を図るために,組成傾斜層とする動機
付けがあるとは認められない。そのため,上記技術が周知であるとしても,
少なくとも相違点1に係る構成に想到することは容易とはいえない。\nこの点について,被告は,アンドープ層及びドーピング層はいずれもコ
ンタクト層であるから一体として考えるべきである旨主張する。しかし,
両層はドーピングの有無が異なることに加え,引用文献1の本文において,
両層それぞれについて膜厚が記載されていることや,図1でも2つの層は
区別して記載されていることからすれば,両層は別個の層として取り扱わ
れていることは明らかであり,いずれもコンタクト層であるとの一事をも
って,当業者が両者をともに組成変更するとの動機を持つとは考え難いか
ら,被告の主張は採用できない。
4 格子不整合との主張について
被告は,半導体積層体の格子不整合を緩和するために組成傾斜層を用いるこ
とが周知の技術事項であり,また,当業者であれば,引用発明Aの半導体積層
体に格子不整合が生じていることを認識し得るから,引用発明Aにおいて,か
かる格子不整合を緩和するために,アンドープ層及びドーピング層を組成傾斜
層にする動機付けがある旨主張する。
しかし,半導体積層体では,通常,組成の異なる半導体層を積層した構造を\n採るため,格子定数差がない半導体層だけで素子を構成することができないこ\nとは技術常識であるところ,かかる半導体積層体に組成傾斜層を採用すること
が常に行われていると認めるに足る証拠はなく,かえって引用文献4及び5で
は,組成傾斜層は付加的な構成とされているにすぎず,これが設けられていな\nい実施例が大半を占める。また,弁論の全趣旨によれば,組成傾斜層を設ける
ことには成膜が難しいといった弊害もあり,膜厚の厚薄及び格子定数差の大小
を踏まえ,格子定数差を許容した設計とすることや,応力緩和層を設けるなど
組成傾斜層以外の手段を採ることもあると認められる。そうだとすれば,半導
体積層体において,組成傾斜層を用いることにより半導体層間の格子定数差を
緩和すること自体は周知の技術事項であるとしても,当業者にとって,半導体
層間の格子定数差はおよそ許容できないものであり,これがあれば組成傾斜層
の適用が当然に試みられるとまでは認められず,組成傾斜層の適用が容易想到
というためには,引用発明Aにおいて格子定数差に基づく問題が発生している
ことなど,そのための契機が必要というべきである。
引用文献1には,超格子バッファが,「応力を緩和する」ために採用されて
いることは記載されているものの,かかる超格子バッファを備えた半導体積層
体において,さらに各半導体層間の格子定数差を課題として認識するような記
載は見当たらない。また,そうであるのに,被告が主張するように,各半導体
層の組成比を仮定しさらに場合分けをしてまで半導体層間の格子定数の差を顕
在化させることを当業者が行うとは考え難いし,仮に被告が主張するとおりの
格子定数差を当業者が認識したとしても,それが,組成傾斜層を用いて格子不
整合を緩和する必要があると考えるほどの差であるのかも明らかではない。さ
らに,被告は,超格子バッファとアンドープ層の間に格子定数差がない可能性\nがあるとしているところ,かかる場合に,ドーピング層を電子供給層との格子
整合のために組成傾斜層とするにしても,前記3(4)イに記載のとおり,ドー
ピング層とは別の層であるアンドープ層まで組成傾斜層とする動機付けはない。
以上によれば,引用発明Aに接した当業者が,格子定数差の緩和を目的とし
て,アンドープ層及びドーピング層の双方を組成傾斜層とする動機付けがある
とは認められない。
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2020.03.25
令和1(行ケ)10102 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年3月24日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が維持されました。理由は技術分野は共通するが、動機付け無し、さらに阻害要因ありというものです。
(ア) 引用発明1は,大口径の鋼管杭(ケーシング)の圧入,引抜きを行うための
回転式ケーシングドライバに関し,引用発明2’は,種々の径のケーシングに対応す
ることができ,現場打杭に使用される回転式ボーリングマシンに関するから,両発
明の技術分野は共通する。
しかし,引用発明1では,小さく分割することでその輸送を容易にしながら,ケ
ーシングドライバの大型化を図ることのできる構造の,昇降フレームを提供するこ\nとを目的とするのに対し,引用発明2’では,種々のケーシングチユーブに適用し,
掘削排土及びケーシングチユーブの回転の両操作を同時に行うことのできる回転式
ボーリングマシンを提供することを目的とするので,両発明の目的は異なる。
また,引用例1には,引用発明1の把持機構(旋回ベアリング6,回転リング7,\n及びバンド装置14)に代えて,引用発明2’の把持機構(クランプ部2)を採用す\nることに関する記載も示唆も認められない。
そうすると,引用発明1に引用発明2’を適用することについて,直ちに動機付け
があると評価することはできない。
(イ) そこで,更に両発明の構成をみると,引用発明1の「旋回ベアリング6,回\n転リング7,及びバンド装置14」と引用発明2’の「クランプ部2」は,いずれも
ケーシングの回転及び把持の機能を有する点において共通する。\nしかし,上記の目的の相違に対応して,引用発明1の「昇降フレーム4」は,旋回
ベアリング6を取り付ける「取付座4a」を分断するように分割する構成を有し,\nその「取付座4a」のサイズは一定であり,種々の径の旋回ベアリング6を固定で
きるよう拡大や縮小が可能なものではないのに対し,引用発明2’の割ライナー4及\nび割クランプ3は,種々の径のケーシングチユーブをクランプするために締付拡大
可能なものであり,回転駆動される割ライナー4,及び割ライナー4を回転可能\に
支承する側の割クランプ3の両者が,締付ジヤツキ5の動作によってその径を変更
することのできるものである。このような引用発明2’の割ライナー4及び割クラン
プ3を,旋回ベアリング6の径の変更に対応するための構成を有しない引用発明1\nの「昇降フレーム4」上の「取付座4a」にそのまま取り付けることはできないか
ら,引用発明1に引用発明2’を組み合わせるためには,分割可能な「昇降フレーム\n4」及び「取付座4a」という引用発明1の構成自体を変更する必要が生じる。\nそうすると,引用発明1に引用発明2’を組み合わせることについては,これを阻
害する要因があるというべきである。
イ 原告らの主張について
原告らは,(1)旋回ベアリングを分割することは周知の技術であり,また,土木機
械である立杭構築機について,その運搬時の作業性を勘案して各種構\成部材を分割
することも引用例2から容易に発想できるから,引用発明1に引用発明2’を適用す
る動機付けがある,(2)引用発明1に引用発明2’を適用するに際しては,引用発明1
の「取付座4a」に所定の径の旋回ベアリング6が固定できるように,サイズの合
う部材を現場において選択すれば足り,阻害要因はないと主張する。
しかし,(1)については,前記アで述べたとおりの理由により適用の動機付けがな
いし,(2)についても,引用発明1に引用発明2’を適用する場合には,「取付座4a」
のサイズに応じた部材のほかに,「旋回ベアリング6の外歯歯車6cに噛合する出力
歯車11」のサイズや配置の変更も必要となることからすれば,適用することに阻
害要因があると評価すべきである。原告らの主張は理由がない。
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2020.03.18
令和1(行ケ)10072 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年3月17日 知的財産高等裁判所
CS関連発明「ホストクラブ来店勧誘方法及びホストクラブ来店勧誘装置」について、進歩性無しとした拒絶審決が取り消されました。
引用発明の販売促進の対象を「ホストクラブ」のサービスとし,ホストクラブへ
の「来店」の「勧誘」の目的で使用した場合,「仮想現実動画」は,潜在顧客を対象
とした,ホストクラブで提供するサービスを疑似体験する動画となり得ると解され
る。しかしながら,引用例1には,「仮想現実動画」について,「メンタルケア」を行うものとすることや,「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応
じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる」仮想現実動画ファイルとすることに
ついて,記載も示唆もない。また,かかる事項が周知であったと認めるに足りる証拠もない。そうすると,引用発明に基づき,相違点2’に係る「潜在顧客の心理状態に応じて
選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホス
トクラブ仮想現実動画ファイル」の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。\nよって,相違点2’に係る本件補正発明の構成は,当業者が容易に想到し得たもの\nではない。
ウ 相違点4’の容易想到性について
前記イのとおり,相違点2’に係る「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧
客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現
実動画ファイル」の構成を当業者が容易に想到することができたとはいえない以上,\n「異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選\n択される複数のコマンドボタン」を「各ホストクラブ仮想現実動画ファイル」に「対
応」させることを,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
よって,相違点4’に係る本件補正発明の構成は,当業者が容易に想到し得たも\nのではない。
エ 被告の主張について
被告は,(1)引用発明におけるサービスの販促活動の内容は,広告代理店と広告主
であるサービス提供者との間の取決めに即したものとならざるを得ず,「仮想現実動
画」を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」となる内容として「心理状態に応じ
て選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う」ものとするこ
とは,引用発明の販促活動を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」とすることに
伴って生ずることにすぎず,また,(2)コマンドボタンに動画の内容を表記すること\nは周知技術であるところ,かかる動画の内容としてサービスの「メンタルケア的な
側面」を捉えた表示を行うことも,周知技術の採用に当たって,広告代理店とサー\nビスの提供者との間の取決めに即して,適宜決定すべきことである旨主張する。
しかし,引用例1には,テーマパークへの来場を勧誘したいサービスの提供者が,
テーマパークの魅力を潜在顧客に伝える目的で,来場すると体験できるアトラクシ
ョンを疑似体験するための仮想現実動画を提供することの記載はあるものの,その
際に,当該サービスのメンタルケア的な側面に応じた複数の異なる仮想現実動画を
サーバーに記憶させておき,潜在顧客が疑似体験したいサービスを自由に選択でき
るようにすることや,当該サービスのメンタルケア的な側面を仮想現実動画のタイ
トル等として表記した複数のボタンを設けることの記載はなく,かかる示唆もない。\nそして,引用発明を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」に適用した場合に,
販促支援の内容は,販促支援をする広告代理店とこれを受ける広告主との間の取決
めに即したものとなるとしても,「仮想現実動画」を,「心理状態に応じて選択され
潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる」ものにする
ことが必然とはいえない。
また,コマンドボタンに動画の内容を表記することが周知技術であるとしても,\n取決めの下でなされる販促活動がかかる周知技術を踏まえたものになることが,必
然とはいえない上,仮にかかる周知技術を適用したとしても,前記ウのとおり,「潜
在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケ
アを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の構成を当業者が容易\nに想到することができたとはいえない以上,「異なる心理状態の表記が各々されてい\nるとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタン」を「各
ホストクラブ仮想現実動画ファイル」に「対応」させるとの構成を,当業者が容易に\n想到することができたとはいえない。
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2020.03.12
平成30(行ケ)10163 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年1月21日 知的財産高等裁判所
動機付け無しとして、進歩性違反無しとした審決が維持されました。
引用発明1は,薄肉の鋼管を梁鉄骨のウェブに設けた貫通孔に挿入して溶接によ
り固着し,貫通孔の周辺のウェブ両面に補強プレートを溶接により固着する従来技
術において,溶接量と部品点数を少なくし,加工や品質管理をしやすくすることを
目的として,貫通孔を貫通する厚肉鋼管2の外周部の中央部をウェブ1aに溶接固
着する際に,その片面からリング状の裏当て体3aを一体形成して当接する構成を\n採用したものである。したがって,引用発明1の裏当て体3a(フランジ部)が厚肉
鋼管2と一体に形成される部位は,溶接部位である厚肉鋼管2のほぼ中央部であり,
引用例1には,これを端部に設けることについて記載も示唆もない。そうすると,
引用発明1には,裏当て体3aを外周部の軸方向の片面側の端部に設ける構成を採\n用する動機付けがないというべきである。
また,甲2,3,6〜10,23〜25の記載及び後記甲5(引用例2)の記載に
よれば,フランジと呼ばれる部分が種々の分野で用いられていること自体は周知技
術であるとしても,相違点2に係る構成は,甲2,3,5〜10,23〜25のいず\nれにも開示も示唆もない。甲2,3は,梁補強金具の外周にフランジを設ける構成\nであるが,フランジを端部に設けることの記載はなく,甲5には,スリーブ管にフ
ランジを設けることの記載はない。甲6,7には,フランジを端部に形成すること
が記載されているが,甲6に記載されたフランジはボルト締め用の管フランジであ
り,甲7に記載されたものは一般的なH形鋼のフランジであって,梁貫通孔構造用\nの厚肉鋼管である引用発明1とは技術分野が異なる。甲23〜25は,いずれも,
梁に配管を通すための構造において,それぞれ対となる2つの部材を用いた梁の補\n強やスリーブ材の固定に関する技術を開示したものであって,一体的な構成を有す\nる1つの金具を用いて梁の補強等を行う引用発明1とは,技術分野が異なる。した
がって,これらの文献の記載によって,引用発明1の技術分野において,フランジ
部を端部に形成することが周知技術であったとは認められない。
以上によれば,引用発明1について,相違点2に係る構成を容易に想到すること\nはできない。
ウ 原告の主張について
原告は,引用例1は,貫通孔1bより外径が大きい裏当て体3aが,厚肉鋼管2
の外周部の軸方向の中央より軸方向の片側にて厚肉鋼管2と一体に形成されること
を開示しているのであるから,引用発明1において,裏当て体3aの形成箇所を,
厚肉鋼管2の外周部の軸方向の中央より軸方向の片側に位置する領域のうち片側の
端部とすることも設計事項として選択し得るものであるところ,フランジ部を相違
点2の構成とすることで,引用発明1と比較して優れた作用効果をもたらすもので\nはないから,甲6,7のように端部に形成された「フランジ」を引用発明1の裏当て
体3a(フランジ部)に適用できない理由はないなどと主張する。
しかし,引用発明1において,裏当て体3aを設ける位置は,厚肉鋼管2の外周
部のほぼ中央部であるから,軸方向の片側に形成されることが開示されているから
といって,片側の端部に設けることの動機付けがあるとはいえないこと,また,甲
6,7は,引用発明1とは技術分野を異にし,これらの文献の記載によって,引用発
明1の技術分野において,フランジを端部に形成することが周知技術であったとは
認められないことは,前記イのとおりであるから,引用発明1に甲6,7のように
端部に形成された「フランジ」を適用し,裏当て体3aの位置を,梁補強金具の軸方
向の片側の端部とすることが設計事項として選択し得るものとはいえない。
・・・
(2) 相違点3の容易想到性
ア 容易想到性の判断
引用発明2は,スリーブ管の幅・肉厚を変えた試験体を用いて,そのせん断及び
せん断+曲げ耐力を実験的に調査した結果等を開示するものであり,そもそも梁補
強金具の外周にフランジ部がないことを前提とした技術であって,そのスリーブ管
にフランジ部を設けることの記載も示唆もない。したがって,引用発明2において
は,甲1〜3に記載された,梁補強金具の外周にフランジ部を設ける構成を適用し\nて,フランジ部を設ける動機付けはない。
また,仮に,引用発明2に甲1〜3に記載された事項を適用してフランジ部を設
けたとしても,甲1〜3に記載されたフランジ部は,いずれも,梁補強金具の中央
部に設けられたものであり,フランジを設けた方面側が面一に形成されるものでは
ないから,相違点3に係る構成には至らない。\nさらに,甲1〜3,6〜10,23〜25の記載によれば,フランジと呼ばれる部
分が種々の分野で用いられていること自体は周知技術であるとしても,相違点3に
係る構成は,いずれの文献にも開示も示唆もない。前記のとおり,甲1〜3には,フ\nランジを設けた片面側を面一にすることの記載はなく,甲6,7には,フランジを
設けた片側面が面一になることが記載されているとしても,甲6に記載されたフラ
ンジはボルト締め用の管フランジであり,甲7に記載されたものは一般的なH形鋼
のフランジであって,梁補強用のスリーブ管についての引用発明2とは技術分野が
異なる。また,甲23〜25は,いずれも梁に配管を通すための構造において,それ\nぞれ対となる2つの部材を用いて梁の補強やスリーブ材の固定に関する技術を開示
したものであって,梁補強金具の外側にフランジを設けない引用発明2とは,技術
分野が異なる。したがって,これらの文献の記載によって,引用発明2の技術分野
において,フランジ部を外周部の軸方向の片面側の端部に形成し,当該面を梁補強
金具の内周から外周部の一部であるフランジ部の外周まで平面である構成とするこ\nとが周知技術であったとは認められない。
よって,引用発明2について,甲1〜3のフランジ部を適用し,周知技術(甲1〜
3,6〜10,23〜25)を適用して,相違点3に係る構成を容易に想到すること\nはできない。
イ 原告の主張について
原告は,引用発明2と甲1〜3に記載された発明とは,梁のウェブの貫通孔に挿
入され,かつ,かかる梁を補強するための梁補強金具であるという点で共通してい
るので,適用の動機付けがないとはいえないと主張する。しかし,前記のとおり,引
用発明2にフランジ部を設ける理由がない以上,適用の動機付けがないことは明ら
かであり,原告の主張は採用できない。
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2020.03.11
令和1(行ケ)10083 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年2月18日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決について、知財高裁1部は動機付けなしとしてこれを維持しました。
ア アルギン酸ナトリウムに置換する動機付けについて
(ア) 原告は,気泡状の二酸化炭素を効率的に発生・保持するとの本件発明1の課
題は,周知の課題であったところ,アルギン酸ナトリウムが起泡剤としても利用す
ることができるもので,発生した気泡状の二酸化炭素を閉じ込める効果を有するこ
とは周知であり,粘性を高めることにより気泡の安定性が増すこと,界面活性剤が
気泡の発生・保持に効果的に作用することも技術常識であったから,増粘剤として
アルギン酸ナトリウムを選択することは容易である旨主張する。
しかし,気泡状の二酸化炭素の持続性が周知の課題であることの根拠として原告
が挙げる文献のうち,特開平9−206001(甲5)には,「このゲル状食品は,
製造時に,膠質水溶液と炭酸ガスとを混合した後に加熱する。この加熱によって炭
酸ガスは激しく発泡すると同時に膠質水溶液から逃散してしまう」(【0002】),
「その目的とするところは,発泡成分の発泡によって生成した気泡が,ゼリー中に
多数内包され,しかもこの気泡中の炭酸ガスが長時間保持され,喫食時に口中で強
い発泡感が感じられる発泡性ゼリーを,家庭で簡単に手作りできる発泡性ゼリー用
粉末およびこれを用いた発泡性ゼリーの製法を提供するにある」(【0004】)との
記載があるものの,同文献に記載されているのは,ゲル状食品であって,引用発明
のパック剤とは異なる技術分野に関するものである。
また,特開昭63−310807号公報(甲18)は,炭酸ガスのガス保留性につ
いて,特開平3−161415号公報(甲63)は,炭酸ガスを高濃度で長時間保持
することについて,特開昭63−280799号公報(甲64)及び特開昭62−
294604号公報(甲65)は,炭酸ガスの発生による発泡の持続性について,特
開昭61−43102号公報(甲66)は,化粧料の炭酸ガスの滞留時間について,
特開昭61−43101号公報(甲67)及び特開昭61−40205号公報(甲
68)は,炭酸ガスが化粧料に溶けて配合されていることについて,それぞれ記載
したものであるが,これらの文献のいずれにも,気泡状の二酸化炭素を保持するこ
とが周知の課題であると読み取れる記載はない。
したがって,本件優先日当時において,パック剤の技術分野において気泡状の二
酸化炭素を保持するとの本件発明1の課題が周知であったとは認められず,引用発
明の増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを適用する動機付けがあるとはいえないか
ら,原告の主張は採用できない。
(イ) 原告は,アルギン酸ナトリウムを含む水溶液が皮膜を形成するから,引用
発明の増粘剤をアルギン酸ナトリウムに置換しても,皮膜形成作用を維持すること
はでき,引用発明におけるポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロース
ナトリウムをアルギン酸ナトリウムに置き換えることは可能である旨主張する。\n特開平9−278926号公報(甲86)には, アルギン酸を含む水溶液は,皮
膜を形成すること(【0011】,【0015】),被コーティング物に塗布される皮膜は,アルギン酸の濃度で調整できること(【0016】)が,「機能性包装資材の開発\n技術の形成 −機能性段ボール箱の開発−」と題する文献(1995年。甲87)に\nは,アルギン酸ナトリウム(G−I)と天然多糖類プルラン(PI−20)を(1:
1)で混合した5wt%溶液を,秤量220g/m2の段ボールライナー表面に塗工\nし,5wt%塩化カルシウム水溶液を噴霧し凝固させ,フィルムを形成させたこと
が,「機能性包装資材の開発技術の形成 −機能性無機粉体の開発−」と題する文献\n(1995年。甲88)には,アルギン酸ナトリウムとプルランを混合してフィル
ムを形成した場合,両者の混合比を変化させると酸素透過量と炭酸ガス透過量が変
化することが,それぞれ記載されていることが認められる。
しかし,これらの文献に開示されているのは,内容物を保護する目的で使用され
る包装材料としてのフィルムやコーティング被膜をアルギン酸ナトリウムによって
形成することであるところ,引用発明のパック剤の膜は,その造膜過程において皮
膚に刺激を与えて血行を促進すると共に,皮膚表面の汚れを吸着して清浄するもの\nであって,造膜後には皮膚から剥がして除去されるものであって,その適用対象や,
使用目的・作用効果が異なる。
したがって,甲86〜88を考慮しても,引用発明におけるポリビニルアルコー
ル及びカルボキシメチルセルロースナトリウムをアルギン酸ナトリウムに置き換え
可能であるということはできず,原告の主張は採用できない。\n
イ 酸を「顆粒(細粒,粉末)剤」に含ませる点について
原告は,二酸化炭素を適切に発生させるための徐放化技術として,炭酸塩と酸を
一つの固形物に含有させることは慣用技術であるところ,どのような剤型を選択す
るかは,化粧品についての一般的な課題であり,美容目的の化粧品については,当
該化粧品の効能や作用機序等が異なっていても同一の剤型のものが存在していたの\nであるから,剤型の選択の局面においては,技術分野を狭く解することは誤りであ
り,慣用技術を適用できる旨主張する。
特開平6−179614号公報(甲6)には,アルギン酸水溶性塩類を含有する
ゲル状パーツからなる第一剤と,前記アルギン酸水溶性塩類と反応しうる二価以上
の金属塩類および前記反応の遅延剤を含有する粉末パーツからなる第二剤との二剤
からなることを特徴とする,剥がすタイプのパック剤が,化粧品製造製品届書(香
椎化学工業株式会社,平成13年1月11日。甲7)に係る化粧品製造品目追加許
可書(厚生大臣,平成3年11月12日。甲8)には,2剤を使用前に混合して肌に
塗布し,膜が乾燥したら剥がすパック剤が,特開平7−53324号公報(甲9)
には,美白や保湿を目的として,粉末あるいは顆粒状の組成物を,使用する直前に
化粧水や乳液に分散せしめ,皮膚に塗布する用時混合タイプのものが,「化粧品成分
ガイド」第5版(フレグランスジャーナル社,2009年2月25日。甲10)に
は,化粧品の剤形タイプとして,溶液タイプ,ジェルタイプ,乳化タイプ,固体タイ
プ,液体タイプ,ペーストタイプ,皮膜タイプ,エアゾールタイプがあることが,そ
れぞれ記載されていることが認められる。
しかしながら,甲6ないし8に記載されているのは,剥がすタイプのパック剤,
甲9に記載されているのは,化粧水や乳液など肌に塗布する化粧品であり,甲10
には,剤型タイプの分類が記載されているにすぎず,これらの文献のいずれも,炭
酸ガスを発生させ,発生する炭酸ガスによる血行促進作用により,皮膚の血流を良
くし皮膚にしっとり感を与えるパック剤に関するものではないから,これらによっ
て,引用発明の技術分野において炭酸塩と酸を一つの固形物に含有させることが慣
用技術であったとは認められない。そして,化粧品の剤型は,その効能や使用目的\nに応じて個別に検討されるものであることは当然であり,分野の異なる技術を引用
発明に適用できるとはいえないから,原告の主張は採用できない。
◆判決本文
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2020.03.11
平成30(行ケ)10165 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年2月19日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした無効審決が、動機付けあり、特段の効果無しとして取り消されました。
(ア) 甲3には,引用発明2−2−1’(実施例4記載の用時混合型の医療
溶液)が「血液浄化用薬液」であることを明示した記載はない。
一方で,甲3には,前記(1)イ(イ)認定のとおり,「本発明」の目的の1
つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り良好な安
定性を保証する「医療溶液」(血液透析,血液透析濾過,血液濾過及び腹
膜透析用の透析液,腎疾患集中治療室内での透析用の溶液,通常は緩衝
物質を含む置換液又は輸液,並びに栄養目的のための溶液)を提供する
ことにあることの開示がある。この「医療溶液」中の「腎疾患集中治療
室内での透析用の溶液」とは,救急・集中治療領域において,急性腎不
全の患者に対して行う持続的な血液浄化のための透析用の溶液を含むこ
とは自明である。
また,甲3には,前記(1)イ(ア)及び(イ)認定のとおり,(1)急性腎不全に
罹患している患者に適応となる治療法は,数週間を通しての持続的腎機
能代替療法(CRRT)であり,血液濾過が用いられるが,血清リンレ\nベルが正常な患者からリンを効率的に除去してしまう結果,定期的な週
3回の血液透析治療を受けている患者よりも高い頻度で,低リン血症が
起こり得るものであること,(2)低リン血症は,リンの投与によって予防,\n治療されるが,医療溶液にリンを導入する場合,沈殿する様々なリン酸
カルシウムの形成の問題があり,生理的pHに等しいpH値を有する生
理溶液では,リン酸カルシウムの沈殿の危険性が高くなるという問題が
あること,(3)「本発明」の発明者らは,特定のpH範囲等の如き一定の
条件下では,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを重炭酸塩及び
リン酸塩重炭酸塩と共に保持し得ることができ,滅菌の安定なリン酸塩
含有医療溶液を提供できることを見出したことの開示があることからす
ると,「本発明」の実施例である引用発明2−2−1’の「医療溶液」は,
急性腎不全に罹患している患者に適応し得るものと理解できる。
以上の点に照らすと,甲3に接した当業者においては,甲3記載の実
施例4(引用発明2−2−1’)において,当該「医療溶液」を「血液浄
化用薬液」にすることを試みる動機付けがあるものと認められる。
したがって,当業者は,引用発明2−2−1’において,相違点(甲
3−3−b”)に係る本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到す\nることができたものと認められる。
これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(イ) これに対し被告らは,引用発明2−2−1’は,単なる「医療溶液」
にすぎず,これを「血液浄化用薬液」として使用することができると解
すべき技術常識は存在しないことなどからすると,甲3に「医療溶液」
として記載された引用発明2−2−1’を「血液浄化用薬液」とするこ
とは,当業者が容易に想到し得たことではない旨主張する。
しかしながら,前記(ア)のとおり,甲3の記載事項に照らすと,当業
者は,引用発明2−2−1’において,相違点(甲3−3−b’’)に係る
本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到することができたもの\nと認められるから,被告らの上記主張は採用することができない。
イ 相違点(甲3−3−d”)について
(ア) 引用発明2−2−1’(実施例4記載の用時混合型の医療溶液)にお
ける第一単一溶液と第二単一溶液を混合した即時使用溶液の各成分の
イオン濃度は,「K+」(カリウムイオン濃度)が「4.0mM」(4.0
mEq/L),「HPO4 2-」(リン酸イオン濃度)が「1.20mM」(無
機リン濃度3.72mg/dL),「Ca2+」(カルシウムイオン濃度)
が「1.25mM」(2.50mEq/L),「Mg2+」(マグネシウムイ
オン濃度)が「0.6mM」(1.2mEq/L),「HCO₃⁻」(炭酸水
素イオン濃度)が「30.0mM」(30.0mEq/L)である。
一方,前記(1)イ(イ)の認定事実によれば,甲3には,(1)「本発明」の
目的の1つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り
良好な安定性を保証する「医療溶液」を提供することにあること,(2)「本
発明」の発明者らは,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンは,特
定のpH範囲等の如き一定の条件下では,重炭酸塩と共に保持し得るも
のであり,一定の条件下では,リン酸塩とも一緒に保持することができ,
特定の環境,濃度,pH範囲及びパッケージングにおいて,滅菌の安定
なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出したこと,(3)「本発明」
は,上記課題を解決するため,「即時使用溶液」が,1.0〜2.8mM
の濃度(無機リン濃度に換算すると「3.1〜8.7mg/dL」)のリ
ン酸塩を含み,滅菌され,かつ6.5〜7.6のpHを有するという構\n成を採用したことの開示があることが認められる。
加えて,甲3には,(4)「本明細書で述べる現在好ましい実施形態への
様々な変更および修正は当業者に明らかであることが理解されるべきで
ある。そのような変更および修正は,本発明の精神および範囲から逸脱
することなくおよびその付随する利点を減じることなく実施することが
できる。」(前記(1)ア(ケ))との記載があることに照らすと,甲3に接し
た当業者は,引用発明2−2−1’における上記即時使用溶液の各成分
のイオン濃度を最適なものに変更し得るものと理解するものといえる。
しかるところ,前記(2)イ認定のとおり,本件優先日当時,「急性血液
浄化」のための血液濾過(透析)用に使用され得る,市販されている透
析液及び補充液において,カルシウムイオン濃度を「2.5〜3.5m
Eq/L」,マグネシウムイオン濃度を「1.0〜1.5mEq/L」,
炭酸水素イオン濃度を「30mEq/L」前後の範囲の中で調整するこ
とは,技術常識又は周知であったものである。
そして,上記技術常識又は周知技術を踏まえると,引用発明2−2−
1’における上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度(「1.2mE
q/L」)を市販されている透析液及び補充液の数値範囲の中で調整する
ことは,当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。
そうすると,甲3に接した当業者は,引用発明2−2−1’における
上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度を市販されている透析液及
び補充液の上記数値範囲内の「1.0mEq/L」(相違点(甲3−3−
d”)に係る本件訂正発明12の構成)にすることを容易に想到すること\nができたものと認められる。
したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(イ) これに対し被告らは,(1)不溶性微粒子の形成を抑制する溶液を実現
するためには,リン酸塩の濃度のみならず,溶液に含まれる他の成分及
び各イオン濃度の組合せが調整される必要があるから,これらの組合せ
が1個の不可分のまとまりのある技術事項となるところ,本件訂正発明
12は,配合及び混合液の各成分の濃度が所定の組合せであることによ
って,混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性炭酸塩の生成
を抑制することができる用時混合型急性血液浄化用薬液を実現したも
のであるから,混合液の各成分の濃度は,成分ごとに区々別々に対比す
るのではなく,各成分の濃度の組合せを一つの単位として認定して,引
用発明2−2−1’と対比するのが相当である,(2)引用発明2−2−1’
は,「所定のリン酸塩の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制され
る,混合時の即時使用溶液のpHの範囲を特定した発明」であり,本件
訂正発明12とは,技術的意義を異にする発明であるから,各成分の濃
度の相違は,設計事項となるものではなく,また,引用発明2−2−1’
に基づき,その各成分の濃度を変更して本件訂正発明12に到達しよう
とする動機付けは,そもそも観念できない,(3)引用発明2−2−1’は,
低リン血症を防止するとともに粒子の形成を抑制する旨の課題に対し,
所定の配合及び各成分の濃度を定めるとともに,「溶液混合時のpHの
範囲を定めることにより」既に上記課題を解決しているものであるから,
引用発明2−2−1’に接した当業者が,上記課題を解決するために引
用発明2−2−1’の各成分の濃度を変更する動機付けもない,(4)一定
の濃度の範囲内で各成分の濃度を適宜に変動することができるのは,あ
くまで,「一般の透析液・補充液」限りのものであって,これは,リン
酸塩を含む溶液に妥当するものではないなどとして,当業者は,引用発
明2−2−1’において,相違点(甲3−3−d”)に係る本件訂正発
明12の構成(マグネシウムイオン濃度を「1.0mEq/L」)とす\nることを容易に想到し得たものではない旨主張する。
しかしながら,前記(ア)のとおり,甲3に接した当業者においては,
甲3記載の実施例4(引用発明2−2−1’)において,マグネシウム
イオン濃度を市販されている透析液及び補充液の数値範囲の中で調整
することは,当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。
そうすると,当業者は,引用発明2において,相違点(甲3−3−d”)
に係る本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到することができ\nたものと認められる。このことは,混合液の各成分の濃度の組合せをひ
とまとまりの相違点と認定した場合であっても同様である。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
ウ 相違点(甲3−3−a”)について
(ア) 本件訂正発明12の特許請求の範囲(請求項12)の記載中には,
本件訂正発明12の「当該薬液調製後少なくとも27時間にわたって不
溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」との構成の意義を規定し\nた記載はない。
次に,本件明細書(甲11)には,「時間の経過と共に補充液中のカル
シウムイオンおよびマグネシウムイオンと炭酸水素イオンが反応し,不
溶性の炭酸塩の微粒子や沈殿が生じる」こと(【0007】),「当該薬液
中には,カルシウムイオンやマグネシウムイオンが存在するにも拘わら
ず,リン酸イオンを含有させても不溶性のリン酸塩を生じない。また,
リン酸イオンの存在により,炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグ
ネシウムイオンが共存し,pHが7.5を超えるような長時間後であっ
ても,不溶性炭酸塩の生成が抑制される」こと(【0023】),「不溶性
微粒子や沈澱の生成が長時間にわたって抑制される」とは,投与対象に
適用すべき最終薬液の調製後,たとえば上記A液とB液の混合後,少な
くとも27時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されること,
またはpHが7.5以上になっても不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制さ
れること」を意味すること(【0057】)の記載がある。
また,本件明細書には,本件訂正発明12に規定するオルトリン酸の
濃度の範囲内である「リン酸イオン濃度が4.0mg/dL」の薬液と
「リン酸イオンを含有しない薬液」との対比実験を行ったところ,「7日
間でpHが7.23〜7.29から7.89〜7.94までほぼ直線的
に上昇し,その間にリン酸イオン不含有薬液では不溶性微粒子の粒径も
数も顕著に増加したが,リン酸イオン含有薬液ではpHの上昇にもかか
わらず,不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった。」(【008
8】)との記載があり,この記載は,本件訂正発明12に規定するオルト
リン酸の濃度の範囲内である「リン酸イオン濃度が4.0mg/dL」
の薬液では,「7日間」にわたって「リン酸イオン含有薬液ではpHの上
昇にもかかわらず,不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった」
ことを示すものである。もっとも,本件明細書には,本件訂正発明12
の「用時混合型血液浄化用薬液」が「27時間」にわたって不溶性微粒
子や沈殿の形成が実質的に抑制されたことを明示した記載はない。
以上の本件訂正発明12の特許請求の範囲(請求項12)の記載及び
本件明細書の記載を総合すると,本件訂正発明12の「そして当該薬液
調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質
的に抑制され」との構成は,本件訂正発明12のA液及びB液の成分組\n成及びそれらのイオン濃度を請求項12に記載されたものに特定するこ
とによって実現されるものと理解できる。
(イ) そして,前記ア及びイのとおり,甲3に接した当業者は,引用発明
2−2−1’において,「血液浄化用薬液」として使用すること(相違点
(甲3−3−b”)に係る本件訂正発明12の構成)及びマグネシウムイ\nオン濃度を本件訂正発明12の濃度とすること(相違点(甲3−3−d”)
に係る本件訂正発明12の構成)を容易に想到することができたもので\nある。
加えて,引用発明2−2−1’のカリウムイオン濃度と本件訂正発明
12のカリウムイオン濃度は「4.0mM」(4.0mEq/L),引用
発明2−2−1’の炭酸水素イオン濃度と本件訂正発明12の炭酸水素
イオン濃度は「30.0mEq/L」であって,いずれも一致する。
以上によれば,本件訂正発明12の「少なくとも27時間にわたって
不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という構成は,引用\n発明2−2−1’において,相違点(甲3−3−b”)及び(甲3−3−
d”)に係る本件訂正発明12の構成とした場合に,自ずと備えるものと\n認められる。
したがって,引用発明2−2−1’において,相違点(甲3−3−a”)
に係る本件訂正発明12の構成とすることは,当業者が容易に想到する\nことができたものと認められる。
したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(ウ) これに対し被告らは,引用発明2−2−1’は,「所定のリン酸塩
の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制される,混合時の即時使用
溶液のpHの範囲を特定した発明」にすぎず,24時間を超える長時間
の経過によるpHの上昇は,全く想定されていないこと,粒子の形成が
24時間抑制されれば,pHの上昇にかかわらず,少なくとも27時間
にわたって,不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されるとする技術常識は
ないことからすると,引用発明2−2−1’には,同発明から,混合後
長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈澱の生成を抑制
することができる血液浄化用薬液を想到する基礎がないから,相違点(甲
3−3−a”)に係る本件訂正発明12の構成は,引用発明2−2−1’\nに基づいて容易に想到し得たものではない旨主張する。
しかしながら,前記(ア)及び(イ)で説示したとおり,引用発明2−2−
1’において,相違点(甲3−3−a”)に係る本件訂正発明12の構成\nとすることは容易に想到することができたものと認められるから,被告
らの上記主張は採用することができない。
(4) 本件訂正発明12の顕著な効果について
被告らは,(1)本件訂正発明12は,「混合後長時間が経過してpHが上昇し
ても,不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制することができる用時混合型急性血
液浄化用薬液」を実現した発明であるのに対し,引用発明2−2−1’は,
「所定のリン酸塩の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制される,混合
時の即時使用溶液のpHの範囲を特定した発明」にすぎず,また,用時混合
型急性血液浄化用薬液の技術分野では,本件優先日当時,所定の配合により,
混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑
制することができる旨の技術常識はなかったことからすると,本件明細書の
【0088】に係る「混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微
粒子や沈殿の生成を抑制することができる」という本件訂正発明12の効果
は,引用発明2−2−1’に比して,質的に差のある当業者が予測できない\n格別の効果である,(2)被告らが,本件明細書記載の実施例2の検体と甲3記
載の実施例4(表9)の検体について行った不溶性微粒子の形成の対比試験\nの結果(甲20の参考資料3)によると,両検体のpHは,混合後,同様の
上昇推移を経て,54時間経過後に約8.7まで上昇したところ,本件明細
書記載の実施例2の検体では,10μmの微粒子が,混合後27時間経過時
に8個,54時間経過時に12個形成されるにとどまり,25μmの微粒子
が,混合後54時間経過時でも1個形成されるにとどまったのに対し,甲3
の実施例4(表9)の検体では,10μmの微粒子が,混合後27時間経過\n時に17個,54時間経過時に78個も形成され,25μmの微粒子が,混
合後54時間経過時には5個も形成されていたことからすると,「混合後長時
間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑制すること
ができる」という本件訂正発明12の効果は,甲3の記載から予測できない\n格別の効果であるのみならず,引用発明2−2−1’の配合や各成分の濃度
では実現することができない,当業者の予測を超えた顕著な効果である旨主\n張する。
そこで検討するに,被告らが主張する「混合後長時間が経過してpHが上
昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑制することができる」という本件
訂正発明12の効果は,「当該薬液調整後少なくとも27時間にわたってpH
7.5以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」ること(【0
057】)に相当する効果であるものと認められる。一方で,本件明細書には,
本件訂正発明12の成分組成及びイオン濃度を有する用時混合型急性血液浄
化用薬液において,「混合後27時間経過時」及び「54時間経過時」のpH
の推移,微粒子の形成状況について明示した記載はないから,上記対比試験
の結果(甲20の参考資料3)に基づく効果は,本件明細書に記載された本
件訂正発明12の効果であるとは認められない。
そして,上記「当該薬液調整後少なくとも27時間にわたってpH7.5
以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」るという効果は,
前記(3)ウで説示したところと同様に,引用発明2−2−1’において,相違
点(甲3−3−b”)及び(甲3−3−d”)に係る構成とした場合に,自ず\nと備えるものと認められるから,当業者の予測を超えた顕著な効果であると\nいうことはできない。
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2020.02.28
平成31(行ケ)10038 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年2月19日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性無効理由無しとした審決が維持されました。原告FC2、被告ドワンゴです。
以上によると,甲2及び3から共通して把握できる技術は,「テレビ放
送の受像機において,メインのテレビ放送の映像とともに,文字放送を受信して文
字放送の文字をプログラム制御によりスクロール表示する際に,メインのテレビ放\n送の映像に文字が含まれている場合,メインのテレビ放送の映像の文字と重ならな
いように文字放送の文字の表示位置を変更してスクロール表\示する技術」であり,
甲19及び25から共通して把握できる技術は,「FlashのActionSc
riptのhitTestを用いることにより,ムービークリップの領域判定を行
う技術」である。
このように,甲2及び3から把握できる技術と,甲19及び25から把握できる
技術は共通するものではないから,甲2,3,19及び25に共通する慣用技術を
把握することはできない。
カ 原告は,甲1発明と甲2等技術は,プログラミングという技術分野に属
するとともに,動画と文字情報とを配信するという技術分野に属することで共通す
るため,甲1発明に甲2等技術を適用する動機付けがあると主張する。
甲1発明は,ライブ映像とライブ閲覧者からのコミュニケーション情報(例えば,
チャット〔テキスト文による情報〕)とを一つの画面でリアルタイムで同期表示する\n機能を有するライブ配信サーバ(構\成1a)と,クライアントであるライブ閲覧者
の複数のライブ閲覧者端末(構成1b)とが,通信ネットワークを介して接続され\nて構成されるライブ配信システム(構\成1c)に関する発明である。そして,甲1
発明の前記ライブ閲覧者端末が再生するマルチメディアコンテンツは,「ライブ映
像データ」であり(構成1a,構\成1a2,構成1a5,構\成1b4),前記ライブ
閲覧者端末が表示する複数のチャット文は,ライブ閲覧者が入力した「テキスト文\nによる情報」(構成1a,構\成1a5,構成1b5)である。\n他方,甲2及び3に記載された技術事項は,上記オ(オ)のとおり,テレビ放送の受
像機において,メインのテレビ放送の映像とともに,文字放送を受信して文字放送
の文字をプログラム制御によりスクロール表示する際に,メインのテレビ放送の映\n像に文字が含まれている場合,メインのテレビ放送の映像の文字と重ならないよう
に文字放送の文字の表示位置を変更してスクロール表\示する技術である。
そうすると,甲1発明は,ライブ配信サーバとライブ閲覧者端末とが通信ネット
ワークを介して接続されて構成されるライブ配信システムに関する発明であるのに\n対して,甲2及び3に記載された技術事項は,テレビの文字放送の受信機の技術で
あるから,両者は,その前提となるシステムが異なる。
また,甲1発明と甲2及び3に記載された技術事項とは,文字を表示する点では\n共通するものの,表示される文字は,甲1発明では,ライブ閲覧者が入力するチャ\nット文であるのに対し,甲2及び3に記載された技術事項は,メインのテレビ放送
の映像に含まれる文字と文字放送の文字であるから,対象とする文字が異なる。
したがって,甲1発明と甲2及び3に記載された技術とは,技術が大きく異なる
といえるのであり,プログラミングに関するものであることや動画と文字情報を配
信するものであるということ,文字と文字の重なり合いが生じないようにする技術
であることだけでは,甲1発明に甲2及び3に記載された技術を適用する動機付け
があると認めることはできないから甲1発明に甲2及び3に記載された技術を適用
して本件特許発明1を容易に発明することができたとはいえない。
また,甲19及び25には,文字列情報の表示位置の制御については何ら開示さ\nれていないから,甲1発明に甲19及び25に記載された技術を適用して本件特許
発明1を容易に発明することができたとはいえない。
キ 原告は,甲1発明と甲2等技術は,視認性の低下という課題が共通する
と主張するが,前記のとおり,甲1発明は視認性の低下という課題を有しないため,
甲1発明と甲2等技術が課題において共通するとは認められない。
ク 以上によると,その余の点を判断するまでもなく,甲1発明に甲2等技
術を適用して本件特許発明1を容易に発明をすることができたと認められないから,
本件審決の判断に誤りはない。
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2020.02.28
平成31(行ケ)10039 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年2月19日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性無効理由無しとした審決が維持されました。原告FC2、被告ドワンゴです。
上記(1)によると,本件特許発明は,「放送されたテレビ番組などの動画に
対してユーザが発言したコメントをその動画と併せて表示するシステム」という背\n景技術を前提とし(段落【0002】),「コメントの読みにくさを低減させる」とい
う課題を解決するための発明であり(段落【0005】),動画を再生するとともに,
前記動画上にコメントを表示する表\示装置であって,前記コメントと,当該コメン
トが付与された時点における,動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画\n再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記
憶部と,前記動画を表示する領域である第1の表\示欄に当該動画を再生して表示す\nる動画再生部と,前記再生される動画の動画再生時間に基づいて,前記コメント情
報記憶部に記憶されたコメント情報のうち,前記動画の動画再生時間に対応するコ
メント付与時間に対応するコメントを前記コメント情報記憶部から読み出し,当該
読み出されたコメントを,前記コメントを表示する領域である第2の表\示欄に表示\nするコメント表示部とを有し,前記第2の表\示欄のうち,一部の領域が前記第1の
表示欄の少なくとも一部と重なっており,他の領域が前記第1の表\示欄の外側にあ
り,前記コメント表示部は,前記読み出したコメントの少なくとも一部を,前記第\n2の表示欄のうち,前記第1の表\示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表\
示することを特徴とするものであり(段落【0006】),本件特許発明により,「オ
ーバーレイ表示されたコメント等が,動画の画面の外側でトリミングするようにし\nて,コメントそのものが動画に含まれているものではなく,動画に対してユーザに
よって書き込まれたものであることが把握可能となり,コメントの読みにくさを低\n減させることができる」(段落【0012】)という効果を奏するものであることが
認められる。
(3) 本件特許発明における「コメント」について検討すると,本件特許発明1
は,「(1A)動画を再生するとともに,前記動画上にコメントを表示する表\示装置
であって,(1B)前記コメントと,当該コメントが付与された時点における,動画
の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と\nを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部と,」を構成要件としている。\n構成要件1Bによると,「コメント」が付与された時点で,「動画の最初を基準と\nした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間」が記憶されるこ\nとになるから,「コメント」は,それが表示される表\示装置において,動画を再生す
る時に付与され,付与された時点の動画再生時間が,コメント付与時間としてコメ
ント情報記憶部に記憶されるものであると解される。そして,「コメント」は,「動
画を再生するとともに,前記動画上にコメントを表示する表\示装置」(1A)におい
て,動画を再生する時に付与されるものであるから,コメントを付与する者は,表\n示装置において,動画を再生して閲覧するユーザであることを読み取ることができ
る。
そうすると,本件特許発明における「コメント」とは,表示装置において,動画\nを閲覧するユーザが,動画の再生開始後の任意の時点に,動画に対して付与するも
のと解することができる。
・・・・
これに対し,原告は,相違点1について,甲1の「テキスト」は,ユ
ーザが発言するものが排除されることはなく,「コメント」を含むから,本件審決の
相違点1の認定には誤りがあると主張する。
甲1には,ユーザとの双方向の情報伝達が行える環境が整ってきたとの記載はあ
る(段落【0002】)ものの,甲1発明は,前記ア認定のとおりのものであって,
動画コンテンツ作製者側が「動画コンテンツ」の個々の動画に応じて,または1つ
の動画内でも個々の場面に応じて表示されるように予\め作成した「データコンテン
ツ」が,「動画コンテンツ」とともに「コンテンツ」を構成し,その「データコンテ\nンツ」はインターネットのホームページのデータに対応するものであり,代表的に\nはテキストや静止画を含み,場合によっては音声などのデータを含むものであるか
ら,甲1発明の「テキスト」とは,コンテンツ作製者側が「動画コンテンツ」の個々
の動画に応じて,または1つの動画内でも個々の場面に応じて指定した「テキスト」
であり,ユーザの投稿したテキストデータをその構成に含むとは認められない。\n原告は,甲1について,ユーザからのコメントが付与されたデータコメントを配
信することも予定されているというべきであると主張するが,甲1発明の「データ\nコンテンツ」は上記認定のとおりのものであって,そこにユーザからのコメントが
含まれると認めることはできない。
また,原告は,インターネットで公開されるインタラクティブなサービスではテ
キスト情報の送受信を行う場合,ユーザが投稿したコメントの送受信に容易に拡張
可能であることは当業者の常識であるとも主張するが,甲1発明が前記のような内\n容であり,甲1には,ユーザがコメントを投稿することについての記載があるとは
認められないことからすると,甲1発明がユーザが送信したコメントをその構成に\n含むものであると認めることはできない。
さらに,原告は,甲22,24及び25はユーザが送信したデータをテキストデ
ータと表記しているから,「テキスト」であることをもって「コメント」を排除する\nと解することはできないと主張するが,上記のとおり,甲1発明は,ユーザが送信
したデータをその構成に含むものではなく,原告の指摘することは,上記判断を左\n右するものではない。
したがって,本件特許発明1と甲1発明の相違点として,相違点1を認めること
ができる。
・・・
本件特許発明1における「コメント」は,表示装置において,ユーザ\nが動画を再生している時に付与され,表示装置から,ユーザによりいつでも付与可\n能であるのに対し,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」は,コンテン\nツ作製者側で「データコンテンツ」として予め作成されたものであって,ユーザに\nより表示装置で付与されるものではないし,表\示装置において再生している時に付
与されるものでもない。
したがって,本件特許発明1における「コメント」と,甲1発明における「デー
タコンテンツ」の「テキスト」とは,ユーザによる付与が可能か否か,付与を行う\n装置,付与を行う時において異なり,このように異なる「データコンテンツ」の「テ
キスト」を「コメント」に置き換えることは,甲1発明の前提となる装置構成の変\n更を必要とするものであって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」を
ユーザが付与する「コメント」に容易に置き換えることができるものとは認められ
ない。
よって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」を「コメント」に置き
換えることは,当業者が容易に想到し得た事項とはいえない。
(イ) これに対し,原告は,甲1の段落【0002】の記載や,WEB2.
0という技術常識によると,「テキスト」を利用者からの情報伝達を可能とする「コ\nメント」に置換することができる旨主張する。
しかし,甲1には,ユーザがコメントを投稿することについての記載は全くなく,
段落【0002】の記載があり,誰もがウェブサイトを通して自由に情報を発信で
きるように変化したウェブの利用状態であるWeb2.0が知られていたとしても,
甲1発明の「データコンテンツ」をユーザが付与する「コメント」に置き換えるこ
とが容易であるとは認められない。
(ウ)a 原告は,甲22に基づき,動画配信において,その魅力を高めるた
めに,コンテンツ作製側で,個々の動画に応じて,または,1つの動画内でも個々
の場面において指定される「テキスト」を利用者からの情報伝達を可能とする「コ\nメント」に置換することには十分な動機付けがあると主張する。\n甲22は,発明の名称を「ストリーミング配信方法」とする発明の公開特許公報
であり,「動画コンテンツをネットワークを介して利用者端末にストリーミング配
信するストリーミングサーバと,ストリーミング配信中の動画コンテンツに関連付
けられたウェブ掲示板又はチャット領域をネットワークを介して利用者端末に提供
するウェブサーバと,動画コンテンツの配信を受け,ウェブ掲示板又はチャット領
域のテキスト書込部にテキストデータからなるメッセージを書き込む利用者端末と
からなるストリーミング配信システムにおいて,ストリーミングサーバは,ウェブ
サーバの書込ログファイルに格納されたテキストデータを収集し,収集されたテキ
ストデータをストリーミング配信中の動画コンテンツに重畳し,テキストデータの
重畳された動画コンテンツを利用端末に配信するストリーミング配信システム」を
採用することにより,「利用者は,非常に便利であり,会場の客席の様な雰囲気を味
わうことができる」技術(以下,「甲22技術」という。)が記載されていることが
認められる。
他方,甲1発明は,「ネットワーク環境」をユーザへのデータコンテンツの配信に
用いたものであり,「データコンテンツ」を双方向に情報伝達するものではないから,
甲22技術があることをもって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」
をユーザが付与する「コメント」に置換する動機付けがあるということはできない。
b 原告は,動画とユーザが入力した文字データ(コメント)を同期表\n示させることは,本件原出願日の時点において慣用技術であった(甲26〜34)
から,甲1発明に当該慣用技術を適用して甲1の「テキスト」を「コメント」に置
換することは容易であると主張する。
甲26〜34には,映像を見ながらユーザがリアルタイムでテキストによるコミ
ュニケーションを行う技術(以下,「甲26等技術」という。)が開示されているこ
とが認められる。
しかし,甲1発明は,「ネットワーク環境」をユーザへのデータコンテンツの配信
に用いたものであり,「データコンテンツ」を双方向に情報伝達するものではないか
ら,原告の主張する甲26等技術が慣用技術であるとしても,甲1発明の「データ
コンテンツ」の「テキスト」をユーザが付与する「コメント」に置換する動機付け
があるとは認められない。
c 原告は,動画と同時に表示するデータコンテンツはユーザが指定す\nるのでなければ,コンテンツ作製者側で指定するのが通常であり,甲22や甲26
〜34には,甲 1 発明における「コンテンツ作製者側で,個々の動画に応じて,ま
たは,1つの動画内でも個々の場面に応じて相応しいデータコンテンツおよび表示\n態様が指定される」ことの記載も示唆もないということはできないと主張する。
しかし,甲26〜34は,ユーザがデータコンテンツを指定することを前提とし
たものであるから,原告の主張は失当である。原告は,甲33「コメントを表示す\nる際には,入力する際に指定された場所を指し示すように,指定された場所毎にコ
メントを表示する,映像コメント入力・表\示方法を提案する。」(段落【0008】),甲34「提供された増補は,配置の命令と,持続時間の命令とを有してもよい」(段
落【0006】)の記載も指摘するが,いずれもユーザ側が指定する場合に関する記
載であるから,甲1発明における「コンテンツ作製者側で,個々の動画に応じて,
または,1つの動画内でも個々の場面に応じて相応しいデータコンテンツおよび表\n示態様が指定される」が記載又は示唆されていると読み取ることはできない。
なお,甲22技術の内容は,コンテンツ作製者側が,利用者端末から収集したテ
キストデータを,ストリーミング配信中の動画コンテンツに重畳し,テキストデー
タの重畳された動画を利用者端末に配信するものであるが,このような甲22技術
があるからといって,甲1発明の「データコンテンツ」の「テキスト」を「コメン
ト」に置換する動機付けがあるとはいえないことは,前記(1)イ(ウ)aのとおりであ
る。
◆判決本文
原告被告の異なる別特許の審取事件です。
こちらも無効理由無しとした審決が維持されています。
◆平成31(行ケ)10038
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2020.02.25
平成31(行ケ)10045 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年2月20日 知的財産高等裁判所
訂正後の発明について、進歩性ありとした審決が維持されました。
これによれば,甲1文献においては,被覆層を貫通する「孔60」は,
傷からの体液を吸収層へ移動させるように機能するものであり,創傷を湿\n潤状態に保ち,傷の治癒を促進することができるのは,上記「孔」の機能\nによってではなく,吸収層において必要とされる吸収量にあわせて吸水性
の高い材料の量を調整し,特に,水吸収時にゲルを形成する物質を含ませ
ることによってであると理解できる。
・・・
これによれば,甲10文献においては,創傷被覆材の,第1層と第3層
との間に第2層を挟み互いに分離しないようにすることは,甲10文献の
「創傷からの浸出液による適切な湿潤環境を維持しながら治療する方法に
好適な,さらに改良された創傷被覆材を提供する」という課題([000
9])の解決のために必須の構成であるというべきであり,甲10文献の\n第1層の貫通孔は,第1層を第2層と一体化させることで貯留空間を設け
て滲出液を保持する機能を担わせることを前提とする構\成であることが理
解できる。
エ 容易想到性について
以上のとおり,甲1文献においては,甲1−1発明の被覆層ではなく,
組み合わされる吸収層が創傷を湿潤状態に保つ機能を有しているのであり,\n体液を吸収層へ移動させる機能を有する被覆層の「孔」に,さらに滲出液\nを保持する機能を担わせる改良を加えるべきことを示唆する記載はない。\nまた,甲10文献においては,第1層を第2層と一体化させることで貯
留空間を設けることを前提としているのに対し,甲1文献の傷手当用品は
被覆層と一体化する第2層に相当する構成を有しない。\nこのような甲1文献に記載された傷手当製品と甲10文献に記載された
創傷被覆材の構成の相違や,甲1−1発明の被覆層と甲10文献の第1層\nの有する機能の相違に照らせば,甲10文献から第1層の貫通孔に関する\n構成のみを取り出して,甲1−1発明における被覆層の「孔」に適用する\nことの動機付けは見出せない。
また,甲3〜12,14〜16,18文献にも,甲1−1発明における
「孔」に滲出液を保持する機能を担わせることについての記載ないし示唆\nはなく,これらの文献の記載を考慮しても,本件優先日当時の当業者が,
甲1−1発明に,甲10文献記載の技術事項を組み合わせ,相違点1cに
係る構成を採用することを容易に想到し得たということはできない。\nよって,甲1文献,甲3〜12,14〜16,18文献に基づいて,本
件発明1が進歩性を欠如するとはいえない。
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2020.02.12
平成31(行ケ)10023 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年10月31日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が維持されました。
本件訂正発明1は,前記1(2)のとおり,(1)作業者が天板の突出方向と反対側で作
業を行う場合には,天板の端を目視で確認しながら作業を行わなければならず,作
業の効率が低下してしまうという問題や(2)天板の突出方向の反対側にも同様の手摺
を取り付けたとしても,作業者が可搬式作業台を昇降する際に手摺を乗り越えたり,
手摺をくぐったりしなければならないことから,天板と主脚との間の移動を自由に
行うことができず,かえって作業の効率が低下してしまう問題を解決し,作業空間
を包囲することにより作業の効率化を図るとともに,天板と主脚との間の移動を容
易に行うことができる脚立式作業台を提供することを目的とするものであって,特
許請求の範囲請求項1の構成をとることによって,「作業の効率化を図ると共に,天\n板と主脚との間の移動を容易に行うことができる」という作用効果を奏するもので
ある。本件訂正発明1の相違点1に係る構成も,上記のような課題を解決し,作用\n効果を奏させるための構成であるということができる。\nこれに対して,甲3発明は,容易に運搬できないかさばった構造のプラットフォ\nームラダーにおいて,高い安全性を損なわないようにしつつ,容易に運搬できるよ
うにすることを課題として,その解決のために,前記(1)イのような構成をとったも\nのである。
そして,本件訂正発明1の相違点1に係る構成である,一対の前方バーについて,\n「作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認
識させる」ものであること,第1の状態において,「互いの先端部が隙間を介して対
向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持され」ること,「前記軸着部
に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動可能であって,前記第1の\n状態となる位置と,前記第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可
能」であることについては,甲3には,それらの構\成を示唆する記載はなく,甲3
発明の上記技術的意義に照らしても,それらの構成が想起されるということはでき\nない。また,原告が周知技術と主張する甲5〜8,11及び12を併せて考慮して
も,甲5〜8,11及び12には,周知技術としては,作業台の「軸支ピンを中心
に回動可能な手すり部材」が開示されているにすぎず,当業者が甲3発明及び周知\n技術に基づいて本件訂正発明1を容易に発明することができたとは認められない。
・・・
甲3発明の「前方バー107」及び甲4発明の「ゲート42,44」
は,共に,それぞれ略左右対称に回動可能であって,互いの先端部が対向して略直\n列に位置するように支持される状態と,作業者が作業空間へ移動可能な状態と,に\n変形可能な部材である点で共通する。\nしかし,甲3発明の「前方バー107」は,プラットフォーム50に登った作業
者の安全性を確保するためのレールの一部となるものであるのに対して,甲4発明
の「ゲート42,44」は,ラダーが不正に使用されないようにアクセスをブロッ
クするためのものであるから,甲3発明の「前方バー107」の構成に代えて,甲\n4発明の「ゲート42,44」の構成を適用する動機付けはない。そして,甲3発\n明と甲4発明に原告が周知技術と主張する甲5〜8,11及び12を併せて考慮し
ても,当業者が甲3発明と甲4発明に基づいて本件訂正発明1を容易に発明するこ
とができたとは認められない。
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2020.02. 6
平成31(行ケ)10057 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年1月31日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決について、知財高裁4部は、動機付けなし、阻害要因ありとして、審決を維持しました。
原告は,甲1−1発明のマッサージ具の代表的な使用方法は,回転体8,\n9の回転軸を鈍角にし,人体の凸部分(皮膚10)に使用するものであると
ころ,「一対のローラやマッサージ球の回転軸のなす角度を鈍角とし,柄に
相当する部材の長軸方向の中心線と回転軸との間の角度を鋭角にしたマッサ
ージ器具」及びそのマッサージ器具の作用効果は,本件出願当時,周知であ
ったから,当業者は,甲1−1発明において,上記周知技術を適用し,甲1
−1発明の回転体8,9を揺動しないように固定した状態とする構成を採用\nすることの動機付けがあり,また,甲1−1発明のマッサージ具の回転体8,
9のなす角を鈍角に限定したとしても,甲1−1発明の全ての技術的意義が
失われるものではなく,技術的意義が縮小されることがあったとしても,そ
の程度は極めて限定的なものであって,上記マッサージ器具の一定の作用効
果を得られる上,人体のほとんどの部分をマッサージすることが可能であり,\n甲1−1発明に上記周知技術を適用することに阻害要因があるとはいえない
から,当業者が相違点2に係る構成に想到することは容易であり,これと異\nなる本件審決の判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 甲1には,甲1−1発明のマッサージ具について,「回転体軸が旋回軸
によって把手に旋回可能に接続されたフォーク形部の把手側に配置される\nこと,及び旋回軸がフォーク形部の中央に,したがって回転体に関して中
央に延びているという構造を採用した」(【0006】)との開示がある。\n一方で,甲7,8,9の1及び10の1によれば,本件出願当時,「一
対のローラの回転軸のなす角度を鈍角とし,柄に相当する部材の長軸方向
の中心線と回転軸との間の角度を鋭角にした」マッサージ器具の構成は周\n知であったことが認められる(以下,上記マッサージ器具の構成を「本件\n周知の構成」という。)。本件周知の構\成は,相違点2に係る本件特許発
明1の構成に相当するものと認められる。\n しかしながら,甲1には,甲1−1発明において,本件周知の構成を適\n用することについての記載も示唆もないから,甲1に接した当業者におい
て,甲1−1発明において,本件周知の構成を適用する動機付けがあるも\nのと認めることはできない。
イ また,甲1の記載(【0007】,【0008】,【0018】,【0
019】)によれば,甲1−1発明は,「回転体軸が旋回軸によって把手
に旋回可能に接続されたフォーク形部の把手側に配置され,旋回軸がフォ\nーク形部の中央に回転体に関して中央に延びている」構成を採用すること\nにより,回転体を支持するフォーク形部が旋回軸周りで揺動可能となり,\n回転体をマッサージ中にマッサージされる皮膚部分の輪郭に適合して接触
させ,多数の凸面部と凹面部,例えば眼窩,突出した頬骨,鼻,顎及び唇
のような部分がある顔面を処置するのに特に適するという効果を奏するこ
とに技術的意義があることが認められる。
しかるところ,甲1−1発明における「回転体を支持するフォーク形部
が旋回軸周りで揺動可能」となるように把手に接続する構\成に代えて,本
件周知の構成(「一対のローラの回転軸のなす角度を鈍角とし,柄に相当\nする部材の長軸方向の中心線と回転軸との間の角度を鋭角にした」構成)\nを採用した場合には,「回転体を支持するフォーク形部」が固定され,旋
回軸周りで揺動可能」とならなくなる結果,回転体をマッサージ中にマッ\nサージされる皮膚部分の輪郭に適合して接触させることができなくなり,又は接触させる範囲が制限され,多数の凸面部と凹面部,例えば眼窩,突
出した頬骨,鼻,顎及び唇のような部分がある顔面を処置するのに適さな
くなるから,甲1−1発明に本件周知の構成を適用することには阻害要因\nがあるものと認められる。
ウ 以上によれば,当業者が甲1−1発明に本件周知の構成を適用する動機\n付けがあるものと認めることはできず,かえって,その適用には阻害要因
があることが認められるから,当業者が甲1−1発明及び周知技術に基づ
いて,相違点2に係る本件特許発明1の構成を容易に想到することができ\nたものと認めることはできない。
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2020.01.30
平成31(行ケ)10031 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年1月28日 知的財産高等裁判所
動機付け無しとして、知財高裁1部は、進歩性無しとした審決を取り消しました。
本願発明は,管状に成形された鋼板の突き合せ部をサブマージアーク溶接で
内面外面の順に内外面それぞれ一層溶接したラインパイプ用溶接鋼管において,溶
接による熱影響部(HAZ)で優れた低温靭性を得るため,溶接部において,内面側
溶融線と外面側溶融線との会合部を内外面溶融線会合部とした際,内面側の前記鋼
板表層から前記内外面溶融線会合部までの板厚方向距離L1と,外面側の前記鋼板\n表層から前記内外面溶融線会合部までの板厚方向距離L2とが0.1≦L2/L1\n≦0.86を満足し,前記鋼管の周方向を引張方向とした際,前記鋼板の引張強度
が570〜825MPaであるように規定したものである。
一方,引用発明は,管状に成形された鋼板の突き合せ部をサブマージアーク溶接
で内面外面の順に内外面それぞれ一層シーム溶接した,ラインパイプに用いられる
UO鋼管において,シーム溶接部に発生する低温割れを防止するため(【0014】),溶接部において,先行するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW1,後
続するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さをW2とする場合に,0.6≦
W2/W1≦0.8,あるいは1.2≦W2/W1≦2.5の関係を満足し,鋼板の
引張強度が850MPa以上1200MPa以下と規定したものである。
そうすると,本願発明と引用発明とは,いずれも,管状に成形された鋼板の突き
合せ部をサブマージアーク溶接で内面外面の順に内外面それぞれ一層溶接したライ
ンパイプ用溶接鋼管に関するものであり,技術分野において共通する。
しかしながら,本願発明は,外面入熱を大幅に低減して外面溶接熱影響部の低温
靭性を向上させ,内面溶接熱影響部の低温靭性を劣化させない範囲に内面入熱を制
御することで,十分な溶け込みを得ながら内外面両方の溶接熱影響部で優れた低温\n靭性を得ることを目的として(【0015】),内面側の前記鋼板表層から前記内外面\n溶融線会合部までの板厚方向距離L1と,外面側の前記鋼板表層から前記内外面溶\n融線会合部までの板厚方向距離L2の比を検討し,内外面両方の溶接熱影響部の低
温靭性を向上させることができるよう,L2/L1の上限及び下限を設定したもの
である。これに対し,引用発明は,シーム溶接部に発生する低温割れを防止するた
め,先行するシーム溶接の溶接金属内に発生する溶接線方向の残留応力の変化に着
目して,先行するシーム溶接の溶接金属の厚さW1と後続するシーム溶接の溶接金
属の厚さW2の比を検討し(引用例1【0041】),残留応力が大きくならない範
囲であり,かつ,低温における吸収エネルギーの低値の発生頻度が大きくない範囲
において,W2/W1の上限及び下限を設定したものである(引用例1【0042】)。
そうすると,本願発明と引用発明とは,本願発明が,外面溶接熱影響部における
低温靭性の向上を課題として,L2/L1の上限及び下限を規定しているのに対し,
引用発明は,内面溶接金属内におけるシーム溶接部に発生する低温割れの防止を課
題として,W2/W1の上限及び下限を規定しているのであるから,両者はその解
決しようとする課題が異なる。また,その課題を解決するための手段も,本願発明
は,外面熱影響部において,外面入熱を低減して粒径の粗大化を抑制するものであ
るのに対し,引用発明は,先行するシーム溶接(内面)の溶接金属に発生する溶接線
方向の引張応力を低減するものである。したがって,引用例1には,外面溶接熱影
響部における低温靭性の向上のため,W2/W1をL2/L1に置き換えることの
記載も示唆もない。
そして,溶接ビード幅中央の位置における溶接金属の厚さであるW2/W1と,
母材表面から内外面溶融線会合部までの距離の比であるL2/L1とは,余盛部分\nの厚さや,内外面溶融線会合部から外面溶接金属の先端までの距離を考慮するか否
かにおいて,技術的意義が異なるところ,引用発明においてW2/W1に替えてL
2/L1を採用するなら,余盛部分の厚さや内外面溶融線会合部から外面溶接金属
の先端までの距離を含む溶接金属の厚さが考慮されないことになる。
また,W2/W1が一定であっても,内面側溶接金属の溶け込み量が変化すると,
L2/L1は変動するから,W2/W1とL2/L1とは相関がなく,W2/W1
に対してL2/L1は一義的に定まるものではない。
以上によれば,引用発明のW2/W1をL2/L1に置き換える動機付けがある
とはいえないというべきである。
イ 引用発明のW2/W1は,鋼板の引張強度が850MPa以上1200MP
a以下という条件下での溶接金属内での残留応力を根拠として最適化されたもので
あり,引用例1には,これを850MPa未満のものに変更することの記載も示唆
もない。
そうすると,本願出願時において,鋼管の周方向に対応する引張強度が600〜
800MPaの鋼板について,その突合せ部を内外面から1パスずつサブマージド
アーク溶接することで,低温靭性に優れたラインパイプ用溶接鋼管を製造すること
が知られていたこと(引用例2【0002】,【0009】,【0059】,【0071】)
を考慮しても,鋼板の引張強度が850MPa以上1200MPa以下という条件
下でW2/W1を最適化した引用発明において,鋼板の引張強度が570〜825
MPaのものに変更することについて,動機付けがあるとはいえない。
ウ よって,相違点1及び2は,引用発明及び引用例2の技術事項に基づいて,
当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
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2020.01.13
平成31(行ケ)10005 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年9月19日 知的財産高等裁判所
周知技術を適用する動機付けなしとして、CS関連発明について、知財高裁2部は、拒絶審決を取り消しました。
前記2(1)のとおり,引用文献1には,「近年,コンテンツマネジメントシステム
(以下,CMS(Content Management System)という)
によりウェブアプリケーションとして公開するコンテンツを構築し,管理すること\nが行われている(例えば,特許文献1参照)。ところで,近年,ネイティブアプリケ
ーションをダウンロードしてインストールすることができるスマートフォンが普及
している。スマートフォンのユーザは,ネイティブアプリケーションをインストー
ルする場合,アプリケーションを提供する所定のアプリケーションサーバにアクセ
スし,所望のネイティブアプリケーションを検索する。しかしながら,CMSによ
って構築されるウェブアプリケーションは,ウェブサイトとして構\築されるため,
検索サイトの検索結果として表示されることがあるものの,アプリケーションサー\nバから検索することができない。したがって,アプリケーションサーバにおいてネ
イティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開発したウェブアプ
リケーションを利用してもらうことができないという問題がある。これに対して,
CMSによって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブ
アプリケーションを開発し,当該ネイティブアプリケーションをアプリケーション
サーバにアップロードすることも考えられる。しかしながら,ネイティブアプリケ
ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要であった。本発明は,ネイ
ティブアプリケーションを容易に生成することができるアプリケーション生成装置,
アプリケーション生成システム及びアプリケーション生成方法を提供することを目
的とする。」(段落【0002】,【0004】〜【0007】)と記載されており,同記載からすると,引用発明は,CMSによって構築されるウェブアプリケーション\nは,アプリケーションサーバから検索することができないため,アプリケーション
サーバにおいてネイティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開
発したウェブアプリケーションを利用してもらうことができないこと及びCMSに
よって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブアプリケ
ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要となることを課題とし,同
課題を解決するためのネイティブアプリケーションを生成する装置であることが認
められる。
引用発明は,上記課題を解決するために,前記(1)アで認定したとおり,既存のウ
ェブアプリケーションのロケーションを示すアドレスや所望の背景画像を示すアド
レス等の情報を入力するだけで,当該ウェブアプリケーションの表示態様を変更し\nて,同ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブアプリケーシ
ョンを生成できるようにしたものと認められる。
イ 被告は,携帯通信端末の動きに伴う動作を行うネイティブアプリケーシ
ョンを生成すること,特に,PhoneGapに係る技術が周知であると主張する。
(ア) 前記アのとおり,引用発明は,アプリケーションサーバにおいて検索で
きるネイティブアプリケーションを簡単に生成することを課題として,同課題を,
既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入力するだけで,同ウェブア
プリケーションが表示する情報を表\示できるネイティブアプリケーションを生成す
ることができるようにすることによって解決したものであるから,ブログ等の携帯
通信端末の動きに伴う動作を行わないウェブアプリケーションの表示内容を表\示す
るネイティブアプリケーションを生成しようとする場合,生成しようとするネイテ
ィブアプリケーションを携帯通信端末の動きに伴う動作を行うようにする必要はな
く,したがって,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネ
イティブ機能を実行するためのパラメータ」とする必要はない。もっとも,引用文\n献1の段落【0024】には,ブログ等と並んで「ゲームサイト」が掲げられてお
り,ゲームにおいては,加速度センサにより横画面と縦画面が切り替わらないよう
に制御する必要がある場合が考えられる(引用文献5参照)が,ウェブアプリケー
ションとして提供されるゲームは,(1)常に携帯通信端末の表示画面を固定する必要\nがあるとはいえないこと,(2)加速度センサにより,携帯通信端末の姿勢に対応した
画面回転表示を制御する機能\は携帯通信端末側に備わっており,端末側の操作によ
って,表示画面を固定することができ,そのような操作は一般的に行われているこ\nと,(3)引用文献1の段落【0024】の「ゲームサイト」は,携帯通信端末の表示\n画面を固定する必要のないブログ,ファンサイト,ショッピングサイトと並んで記
載されており,また,引用文献1には,加速度センサについて何らの記載もないこ
とからすると,当業者は,上記の「ゲームサイト」の記載から,パラメータを「携
帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行するためのパラメータ」とすることの必\n要性を認識するとまではいえないというべきである。
また,引用発明によって生成されるネイティブアプリケーションは,HTMLや
JavaScriptで記述されるウェブページを表示できるから,引用発明によ\nり,乙4に記載されたHTML5 APIのGeolocationを用いて携帯
通信端末の動きに伴う動作を行うウェブアプリケーションの表示内容を表\示するネ
イティブアプリケーションを生成しようとする場合も,生成されるネイティブアプ
リケーションは,設定情報に含まれているウェブアプリケーションのアドレスに基
づいて,同ウェブアプリケーションに対応するウェブページを取得し,取得したウ
ェブページのHTMLやJavaScriptの記述に基づいて,同ウェブアプリ
ケーションの内容を表示でき,したがって,ネイティブアプリケーションの生成に\n際して,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネイティブ
機能を実行させるためのパラメータ」とする必要はない。\nさらに,被告主張周知技術に係る各種文献にも,引用発明の上記の構成の技術に\nおいて,「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に\n応じて設定ファイルを設定することの必要性等については何ら記載されていない
(甲2〜5,7,8,乙1〜3)。
(イ) 前記アのとおり,引用発明は,簡易にネイティブアプリケーションを生
成することを課題として,既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入
力するだけで,当該ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブ
アプリケーションを生成できるようにしたのであり,具体的には,前記(1)アのとお
り,入力しようとするウェブアプリケーションのロケーションを示すアドレス及び
表示態様に基づいて,テンプレートアプリケーション111に含まれる設定情報の\n内容を書き換えるだけで目的とするウェブアプリケーションの表示する情報を表\示
できるネイティブアプリケーションを生成でき,テンプレートアプリケーション1
11に含まれるプログラムファイル113については,新たにソースコードを書く\n必要はないところ,証拠(甲3,5,7,乙1〜3)によると,PhoneGap
によってネイティブアプリケーションを生成するためには,HTMLやJavaS
cript等を用いてソースコード(プログラム)を書くなどする必要があるもの\nと認められるから,引用発明に,上記のように,新たにソースコードを書くなどの\n行為が要求されるPhoneGapに係る技術を適用することには阻害事由がある
というべきである。
被告は,(1)PhoneGapでは,PhoneGapのプラグインの仕組みを使
って,GPSなど端末のネイティブ部分にアクセス可能であり,端末のGPS機能\
にアクセスすることで,GPSで取得した端末の現在位置が中心となるように地図
を表示することが可能\となるから,引用発明において地図表示アプリケーションを\n生成する際に,PhoneGapのフレームワークを採用することで,ネイティブ
機能であるGPS機能\が利用可能となり,携帯通信端末の動きに伴う動作を設定可\n能となり,また,(2)AndroidManifest.xmlに「android:
screenOrientation =”landscape”」の1行を追加し
たり(Androidの場合),「Landscape Right」又は「Lan
dscape Left」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,スマー
トフォンの画面を横画面に固定可能となり,縦画面に固定する設定を施す場合,A\nndroidManifest.xmlに「android:screenOri
entation =”portrait”」の1行を追加したり(Android
の場合),「portrait」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,ス
マートフォンの画面を縦画面に固定可能となるから,引用発明において,アプリケ\nーションを生成する際に,PhoneGapのフレームワークを利用することで,
「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に応じて,\n携帯通信端末において実行される「アプリケーションの,携帯通信端末の動きに伴
う動作」を規定する設定ファイルを備えることとなると主張する。
しかし,上記のとおり,引用発明にPhoneGapの技術を適用することの動
機付けはないから,被告の上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
(ウ) 以上からすると,引用発明に,被告主張周知技術を適用することの動機
付けは認められないというべきである。
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2020.01. 8
平成30(行ケ)10108 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年10月2日 知的財産高等裁判所
動機付けありと認定されたものの、組み合わせても本件発明の構成までは想到しないとして、進歩性無しとした拒絶審決が取り消されました。\n
イ 引用発明への甲2技術の適用
しかしながら,仮に引用発明に甲2技術を適用しても,甲2には,前記有機系廃
棄物の固形物上にトバモライト構造が層として形成されることの記載はないから,\n相違点2’に係る「前記重金属類が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモ
ライト)構造」が「前記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されると\nの構成には至らない。\nこの点につき,本件審決は,引用発明に甲2技術が適用されれば,「前記重金属類
が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造」が「前記有機系廃\n棄物の固形物上に」いくらかでも「層」として「形成」されて,重金属の溶出抑制を
図ることができるものになる旨判断し,被告は,生成した造粒物の表面全体をトバ\nモライト結晶層で覆うことになるのは当業者が十分に予\測し得ると主張する。しか
しながら,特開2002−320952号公報(甲8)にトバモライト生成によっ
て汚染土壌の表面を被覆することの開示があるとしても(【0028】,図1。図1\nは別紙甲8図面目録のとおり。),かかる記載のみをもって,トバモライト構造が「前\n記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されることが周知技術であった
とは認められず,被告の主張を裏付ける証拠はないから,引用発明1に甲2技術を
適用して相違点2’に係る本願発明の構成に至るということはできない。\n
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2020.01. 8
令和1(行ケ)10074 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和元年12月23日 知的財産高等裁判所
訂正要件を満たすとともに、進歩性違反無しとした審決が維持されました。
本件訂正は,請求項1における「前記LED基板に搭載されるLEDの個
数を,順方向電圧の異なるLED毎に定まるLED単位数の最小公倍数とし
ている光照射装置。」を,「前記LED基板に搭載されるLEDの個数を,順
方向電圧の異なるLED毎に定まるLED単位数の最小公倍数とし,複数の
前記LED基板を前記ライン方向に沿って直列させてある光照射装置。」に訂
正するものである。
そして,原告は,本件訂正は,本件訂正前は1枚のLED基板についての
発明であったものを,複数のLED基板をライン状に直列させて所望の長手
方向の長さの製品を得るという発明に変質させるものであり,実質上特許請
求の範囲を拡張し,又は変更するものであるから,特許法126条6項に違
反する旨主張する。
そこで,この点について検討する。
ア 本件特許の特許請求の範囲(請求項1)の「LED基板」の意義
(ア) 本件訂正前の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,「LED
基板」とは,「ライン状の光を照射する光照射装置」に「備え」られた「基
板収容空間を有する筐体」に「収容」され,「複数の同一のLEDを搭載
した」ものであって,「搭載されるLEDの個数を,順方向電圧の異なる
LED毎に定まるLED単位数の最小公倍数と」するものであることを
理解できる。
一方,本件訂正前の特許請求の範囲(請求項1)には,「LED基板」
の個数について定義した記載はなく,「LED基板」の個数を単数に限定
して解釈すべき根拠となる記載はない。
(イ) 次に,前記(1)イのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本
発明」は,複数の同一のLEDを搭載したLED基板と,前記LED基
板を収容する基板収容空間を有する筐体とを備えた光照射装置であっ
て,電源電圧とLEDを直列に接続したときの順方向電圧の合計との差
が所定の許容範囲となるLEDの個数をLED単位数とし,前記LED
基板に搭載するLEDの個数を,順方向電圧の異なるLED毎に定まる
LED単位数の公倍数とする構成を採用することにより,LED基板の\nサイズを同一にして,部品点数及び製造コストを削減できるという効果
を奏するものであり,さらに,上記LED基板に搭載するLEDの個数
を,上記LED単位数の最小公倍数とすることにより,LED基板の大
きさを同じにするだけでなく,その大きさを可及的に小さくして,汎用
性を向上させるという効果を奏する旨が記載されており,この点に本件
訂正前の特許請求の範囲(請求項1)の発明(以下「本件訂正前発明1」
という。)の技術的意義があると認められる。
また,当業者であれば,上記「汎用性を向上させる」とは,可及的に
小さな大きさのLED基板の直列枚数を変えることにより,LED基板
を様々な長さの光照射装置に用いることのできるようにすることなど
を意味するものであることを理解できるものといえる。
そして,本件訂正前発明1の上記技術的意義に照らすと,上記LED
基板の個数を単数に限定する必然性はみいだし難い。
むしろ,本件明細書の【発明を実施するための最良の形態】に関する
記載は,複数の上記LED基板をライン方向に沿って直列させることが
可能であることを理解できるものであって(【0017】,【0041】,\n図1),このことも,上記理解を裏付けるものといえる。
(ウ) 以上の本件訂正前発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び
本件明細書の記載を総合すれば,本件訂正前発明1の「LED基板」は
個数が単数のものに限定されないと解される。
イ 訂正の適否について
本件訂正による訂正事項は,前記柱書のとおりであり,本件訂正前にお
いては,LED基板の枚数や具体的な配置の特定がなかったものを,本件
訂正後においては,「複数の前記LED基板を前記ライン方向に沿って直列
させてある」ことを特定するものである。
そして,本件明細書には,2つのLED基板をライン方向に沿って直列
させること(【0017】,【0019】,図1)及びLED基板の直列させ
る数を変更して,光照射装置の長さを変更させること(【0041】)が記
載されていることから,本件訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の
範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であると認められる。
また,本件訂正前発明1の「LED基板」は個数が単数のものに限定さ
れないと解されることについては,前記アのとおりであり,本件訂正は,
訂正前に特定されていなかった基板の枚数や配置を特定するものに過ぎな
いから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと認
められる。
したがって,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものではな
く,訂正要件に適合するとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主
張の取消事由1は理由がない。
・・・・
前記(1)のとおり,原告製品「IDB−L600/20RS」及び「ID
B−L600/20WS」(甲5)として,本件出願前に公然実施をされた
甲5発明は,LED基板に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異な
るLED毎に定まるLED単位数の公倍数である,ライン状の光を照射す
る照射装置であって,上記LED基板を2枚,上記ライン方向に沿って直
列させるものであるといえる。
しかしながら,上記の原告製品からは,いかなる技術思想に基づき,1
枚のLED基板に搭載されるLEDの個数を定めたのか,また,そのよう
なLED基板を2枚長手方向に直列させることにしたのかは,明らかでな
い(前記(1))。
また,前記2(1)及び3のとおり,本件出願当時,原告製品「IDB−1
1/14R」及び「IDB11/14W」(甲3)として甲3発明が,原告
製品「IDB−C11/14R」及び「IDB−C11/14B」(甲4)
として甲4発明が,いずれも公然実施されており,これらの発明は,1枚
のLED基板に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異なるLED毎
に定まるLED単位数の最小公倍数であるものであるが,他方で,上記の
原告製品からは,いかなる技術思想に基づき,同製品のLED基板に搭載
されるLEDの個数を定めたのかは,明らかでない(前記2(1),3)。
さらに,前記2(2)ウのとおり,本件出願当時,LED基板の設計におけ
る技術分野では,故障を防ぎ,品質を保持し,作業を効率化するために,
LED基板間の配線及び半田付けを極力減らすようにすることが技術常識
であった。
そうすると,甲5発明に接した当業者は,仮に,当該プリント基板(L
ED基板)に搭載されるLEDの個数が,赤色LEDを直列に接続する場
合の個数と白色LEDを直列に接続する場合の個数の公倍数であることを
認識し,かつ,原告製品として公然実施されていた,1枚のプリント基板
(LED基板)に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異なるLED
毎に定まるLED単位数の最小公倍数である甲3発明及び甲4発明を認識
していたとしても,甲5発明において,2枚のLED基板を長手方向に直
列させるという構成を維持したまま,1枚のプリント基板に搭載するLE\nDの個数を174個から,直列接続されている赤色LEDの個数「6」と
直列接続されている白色LEDの個数「3」の最小公倍数である6個に変
更する(相違点3に係る本件発明1の構成とする)ことの動機付けはなく,\nかかる構成とすることを容易に想到することができたものと認めることは\nできず,むしろ,1枚のプリント基板に搭載するLEDの個数を減らして,
同一数のLEDを配設するのに必要なプリント基板数を増やすことには阻
害要因があったと認められる。
イ 以上のとおり,当業者において,甲5発明に基づき,又は,甲5発明に
甲3発明ないし甲4発明を適用して,相違点3に係る本件発明1の構成に\n容易に想到することができるものとは認められない。
◆判決本文
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