2021.10.29
令和3(行ケ)10006 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年10月26日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が維持されました。阻害要因についても無しと判断されました。
ア 前記1(3)によれば,引用文献2技術事項は,物質に特有な高吸収X線を
利用することにより,荷物や人体内に隠匿した麻薬,あるいは爆薬や象牙
などの禁制品の有無を検査できるものであるから,人体用だけでなく,荷
物の中の見えない物体の有無を検査するX線荷物検査装置でもあるとい
える。そうすると,食品等の異物検査を行うX線検出装置である引用発明
1の技術分野と,医療検査や荷物検査を行う引用文献2技術事項の技術分
野は,X線検査装置が用いられる技術分野として関連するものであるとい
える。
また,引用発明1においては,判定部24において「各ライン走査ごと
のデータ中の最大画素濃度のデータを所定の閾値と比較してX線吸収率
が大きい金属異物等の混入の有無が検出濃度レベルと閾値との比較によ
り判定される」(M)ものであり,ワークWのX線画像の検出濃度レベルと
所定の閾値とを比較することにより,金属異物等の混入が有る場合の濃度
レベルと混入が無い場合の濃度レベルとを判定する必要があるから,ワー
クWのX線画像における金属異物等の混入の有無の濃度レベルの間の差
異を明確にしなければならず,X線画像において目的とする物体を透過し
たX線の検出出力と前記目的とする物体以外の部分を透過したX線の検
出出力との間に明確な差異を有するX線画像を生成するという課題を有
している。一方,引用文献2においては,従来のX線撮影装置では「目的
とする臓器などを明瞭に表示するようにしたコントラストの高いX線像\nを得ることが難しい」(【0002】)という課題を有し,また,異なる波長
の単色X線を用いて得られたX線像の差分から目的とする部分を際立た
せて表示する方法を用いる場合,「異なる時刻に撮影したX線像の差分を\n取ると,位置がずれてしまい明瞭な動脈像を生成することができない」
(【0004】)という課題を有しているところ,引用文献2技術事項によ
り「それぞれピクセルへの入射X線量をカウントしカウント値の差分を取
ると,軟部組織や骨に吸収されたX線が相殺され血管部分のみに差が現れ
て冠状動脈のコントラストの大きな鮮明な映像を得ることができる」(【0
021】)としている。コントラストが大きなX線画像は,物体を透過した
X線の検出出力と目的とする物体以外の部分を透過したX線の検出出力
との間に明確な差異を有するものであるから,引用発明1と引用文献2技
術事項とは課題を共通するといえる。
さらに,引用発明1と引用文献2技術事項は,いずれも被測定物の中の
外から見えない物体を検出するために用いられるX線画像を形成し,当該
X線画像に基づいて検査を行うという作用・機能が共通するといえ,加え\nて,引用文献2には,「X線検出部11に1次元のリニアアレイを用いて1
次元走査して測定することもできる」【0014】ことが記載され,被測定
物を1次元走査してX線画像を得ることも示唆されており,引用発明1の
X線ラインセンサにより搬送される被測定物のX線画像とは,X線画像を
被測定物を1次元走査して生成するという点においても共通する。
以上のように,引用発明1と引用文献2技術事項との間に,技術分野,
解決課題及び作用機能に密接な関連性・共通性があることからすると,引\n用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせることに強い動機付けがあ
るといえる。
イ 前記第3の1(1)イ(ア)bのとおり,原告は,引用発明1のX線検査装置
は異物の有無を低コストで検査する分野の装置であり,簡易な検査作業の
実現を目的とするのに対し,引用文献2技術事項のX線検査装置は,コス
トを度外視して検査する分野の装置であり,被曝防止を目的とするもので
あるから,当業者は,異物検出の精度向上のためにわざわざ引用発明1に
引用文献2技術事項とを組み合わせたりする動機付けない旨主張する。
まず,引用文献2には,「撮影は1度で済み」(【0010】),「エネルギ
ーを変えて検査するときにも1度の撮影で済むので検査時間が短縮する
利点がある。」(【0022】)との記載があるが,それは副次的なものにす
ぎず,引用文献2技術事項の課題は,複雑で高価な装置を用いずにコント
ラストの高いX線像を得ることである(【0003】ないし【0007】,
【0010】,【0022】,【0024】)。したがって,引用文献2技術事
項のX線検査装置は,コストを度外視して検査する分野の装置であると認
めることはそもそも相当でない。また,引用発明1が,コンベア搬送路上
のワークの金属異物等の混入の有無を検査する異物検査装置であること
からして,引用発明1が製品製造現場用の装置であり,引用文献2の記載
上は,引用文献2技術事項が直接には医療用検査装置に用いることを想定
しているとしても,コストをどの程度かけるかということと技術分野とは
直結しないところ,製品の性質,製造現場の規模,製品の販路等も度外視
して,製品製造現場用の装置であれば,おしなべて性能の低い製品で足り,\n当業者は性能の向上には意を払わず,医療検査装置用の技術には関知しな\nいなどとは当然にいえることではなく,そのようにいえる証拠は提出され
ていない。
異物検査装置の異物検査の性能を向上させることは自明の要請ともいう\nべきところであり,前記アのとおり,引用発明1の異物検査装置に,技術
分野,課題・解決手段,作用・機能,効果とも密接に関連ないし共通する\n引用文献2技術事項を適用する強い動機付けがあるというべきである。
ウ 前記第3の1(1)イ(イ)aのとおり,原告は,1つの「設定時X線画像」
を基準とする引用発明1に,複数個の画像を基準とし,その基礎とする技
術的思想を異にする引用文献2技術事項を適用することには阻害要因が
ある旨主張する。
ここで,「設定時X線画像」とは,実検査前にサンプルを使用した検査に
おいて得られたX線画像データとして設定情報記憶部23に保持された
初期設定データの1つであり(引用文献1の【0052】ないし【005
5】),当該品種に設定された各種パラメータや検出条件及び判定条件にお
ける検査における代表画像とされ(【0042】),実検査時に実検査時のX\n線画像Wiと共に表示器26に表\示され,実検査中に両者を照合すること
により,検査の条件に実検査品が適合したものか否かを判定することや
(【0046】,【0059】ないし【0061】),品種選択操作を視覚的に
容易に把握することに役立てるものである(【0062】,【0063】)。
したがって,検査の目的に合わせたX線画像を得られるならば「設定時
X線画像」も同時に得られる関係にあるところ,引用文献2技術事項によ
ると複数のX線画像を生成することができ得るが,特に感度のよいエネル
ギー領域を選択して目的部位の像を鮮明化したり,異なるX線エネルギー
領域における出力信号の差分に基づいて画像化するなどして,最適な条件
で選んだ画像を1つ生成できることも明らかである。そして,当業者が,
異物検査の目的に応じて最適な画像を選択してそれを代表画像とするこ\nとができないとする理由もない。
そうすると,引用発明1のX線画像を得る手段として引用文献2技術事
項を適用することには,阻害要因はない。
エ 前記第3の1(1)イ(イ)bのとおり,原告は,低コストでの簡便・容易化
を目指す引用発明1に,高精度で複雑・高度な引用文献2技術事項を適用
することには,甲1発明の目的から乖離・矛盾するから阻害要因がある旨
主張する。
しかしながら,前記イにて説示したとおり,技術分野としての観点から
見た場合に,あたかもX線検査装置が低コストでの簡便・容易化を目指す
装置の分野の技術と複雑・高精度で複雑・高度な装置の分野の技術に二極
化していて,両者の技術が相容れないとは認められない。その上,引用文
献2技術事項の課題は,前記イのとおり,複雑で高価な装置を用いずにコ
ントラストの高いX線像を得ることであり,前記アのように,被測定物を
1次元走査して測定するような簡易な方法も示唆されている。また,引用
文献2に禁制品の有無を検査することもできるとの示唆があるからとい
って,引用文献2技術事項が空港や税関等で用いる検査装置のみに用いら
れる技術ととらえることは,同技術の正しい理解とはいい難い。
したがって,原告の上記主張は前提を欠くものであって,採用すること
ができない。
オ 以上のとおり,引用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせる動機付
けがあり,阻害要因があることもうかがわれないところ,引用発明1にお
いて,引用文献2技術事項に基づき,相違点1に係る本件発明1の発明特
定事項を得ることが容易であることは,本件決定が引用する取消理由通知
書が説示するとおりであり,誤りは認められない。
◆判決本文
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2021.10.19
令和2(行ケ)10123 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年10月7日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決に対して、知財高裁は一致点の認定誤りを理由として審決を取り消しました。
(3) 本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御回路」の対比
ア(ア) 本願発明の制御装置は,「燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再
水和間隔を提供するために」,「燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように
構成される」ものである。\n
(イ) 本願発明の特許請求の範囲の請求項1の文言や本願発明が燃料電池に係るも
のであることのほか,前記1(2)の本願発明の概要からして,上記のうち「燃料電池
スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」については,燃
料電池の良好な動作のために,膜/電極接合体(MEA)が好適に水和された状態
とすべく,MEA内の水分量を積極的に増加させるという目的をいうものと解され
る。この点,本願明細書の段落【0036】及び【0037】には,「再水和間隔」
が,燃料電池カソードにおいて過剰な水を産生して燃料電池における膜の水分量を\n増加させる短い期間であって,燃料電池上の外部電気負荷及び温度などのその環境
動作条件に基づき有効であるレベルを超えて,水和レベルを増加させるために,燃
料電池アセンブリがその動作環境を能動的に制御する期間である旨が記載されてい\nるところである。
そして,「燃料電池スタックを通る空気流動を調節する」については,上記目的の
ために,膜の含水量の低下等をもたらし得る空気流動を調節することをいうものと
解される。
イ 引用発明の短絡制御回路は,「燃料電池の負の水和降下現象を防止するため
に」,「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」ものであるところ,このうち「負
の水和降下現象」の意味内容については,前記2(3)イで検討したとおりである。そ
して,その意味内容を踏まえると,「負の水和降下現象を防止する」とは,基本的に,
MEAにおける水和の損失が,熱の発生につながり,それが薄膜電極アセンブリの
乾燥につながるといった状態を停止させる,又は抑制することをいうものと解され
る。
そして,「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」については,上記目的のため
に,燃料電池の発熱につながる燃料ガスの供給を停止することをいうものと解され
る。
ウ(ア) 上記ア及びイによると,本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御
回路」は,MEA内の水分量を積極的に増加させることを目的とするか,MEAに
おける水和の損失等を停止させる,又は抑制することを目的とするにとどまるかと
いった点において異なるとともに,燃料電池のカソード側で水分の低下につながり\n得る空気流動を調節するか,アノード側で熱の発生につながる燃料ガスの供給を停
止するかといった点においても異なっている。
(イ) もっとも,上記のうち後者の点については,本件審決は,「空気流動を調節す
る」ことと「燃料ガスの供給を停止する」ことを「気体流動を調節する」とした上
で,相違点2を認定しており,その認定判断に誤りがあるとはいえない。
エ 他方で,本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路について,「所定条件
で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して」,気体流動を調節するよ
うに構成される「制御装置」であるという点で一致するとした本件審決の判断に誤\nりがあるとは認められない。
オ 以上によると,本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路が,「水和レベ
ルを増加させる再水和間隔を提供するために」という点で一致しているとした点に
おいて,本件審決には誤りがある。
カ 原告は,本願発明の制御装置が短絡制御を行うものではない旨を主張するが,
短絡制御の点は一致点として認定されておらず,原告の上記主張は当を得ないもの
である。また,原告は,引用発明における燃料ガスの供給の停止が「流動を調節す
る」に当たらないと主張するが,甲3の段落【0023】には,燃料電池10への
燃料ガス105の供給を停止するような位置にバルブ104をすると同時に,電気
的スイッチ124を閉鎖電気状態にする旨の記載がある一方,本願明細書の段落【0
010】には空気流動をゼロまで減少させることについて記載があり,これらの記
載も踏まえると,両者は,対象となる気体以外の点で実質的に相違するものとは認
められず,いずれも気体流動の調整を行うとの概念の範囲で一致するものといえる。
さらに,原告は,「所定条件」の内容が本願発明と引用発明とで全く異なる旨を主張
するが,本件審決が認定した相違点1及び2のほか,前記ウ(ア)で指摘した本願発明
の制御装置と引用発明の短絡制御回路の目的の相違があることに加え,別途,それ
らの動作に係る所定条件に関して相違点を認定すべきものとは認められない。
キ(ア) 被告は,燃料電池においてイオン交換膜の含水量が減少する一般的な原因
について主張した上で,引用発明においても,薄膜電極アセンブリの水和レベルが
増加することは明らかであると主張する。
しかし,被告の上記の主張のうち,単に薄膜電極アセンブリの含水量の減少量が
小さくなることをいうにすぎないもの(含水量の積極的な増加を意図した制御を行
っているものではない。)は,前記ウ(ア)の判断を左右するものではない。この点,
被告は,燃料電池内の発熱が収まることで,それまでの発電で生じた水や空気中に
含まれる水蒸気によって水和レベルが増加することも主張するが,当該主張を裏付
ける証拠や,そのような技術常識を直ちに認めるに足りる証拠は見当たらない。
(イ) 被告は,本願発明における水和レベルの増加のメカニズムが明確でなく,本
願の実施例で実行される制御で水和レベルが増加するのであれば,引用発明でも同
様であるという旨を主張するが,本願発明における「燃料電池スタックの水和レベ
ルを増加させる再水和間隔を提供するために」の意味内容については,前記ア(イ)で
認定判断したとおりであって,そのメカニズムが明確か否かという点は,直ちに本
願発明と引用発明の一致点及び相違点の判断に影響を与えるものではない。
(4) まとめ
ア 以上によると,本願発明と引用発明は,次の一致点で一致し,本件審決が認
定した相違点1及び2のほか,次の相違点3及び4で相違するというべきである。
(一致点)
「燃料電池システムであって,
第1の燃料電池スタックと,
前記第1の燃料電池スタックと直列の,第2の燃料電池スタックと,
前記第1の燃料電池スタックと並列の,第1の電子部品と,
前記第1の燃料電池スタックの水和状態を調整するために,所定条件で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記第1の燃料電池スタックを通る気体流動を調節するように構成される,制御装置と,
を備える,前記燃料電池システム。」
(相違点1)
所定条件に関し,本願発明は,「定期的に」であるのに対し,引用発明は,「燃料
電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合」である点。
(相違点2)
気体流動の調節に関し,本願発明は,気体は空気であるのに対し,引用発明は,
気体は燃料ガスである点。
(相違点3)
第1の電子部品に関し,本願発明は,電子部品は整流器であるのに対し,引用発
明は,電子部品は電界効果トランジスタである点。
(相違点4)
燃料電池スタックの水和状態を調整するために関し,本願発明は,水和レベルを
増加させる再水和間隔を提供するためであるのに対し,引用発明は,負の水和降下
現象を防止するためである点。
イ その上で,後記5の点も踏まえると,少なくとも相違点4の看過は,本件審
決の取消事由に当たるというべきである。
5 容易想到性の判断について
(1) 相違点1,2及び4は,いずれも本願発明の「制御装置」又は引用発明の「短
絡制御回路」に関するもので,技術的構成として相互に関連するものといえるから,\n以下,一括して検討する。
(2)ア 前記4(3)イからすると,引用発明が「燃料電池の出力電圧が0.4Vよ
り低くなる場合」に「燃料ガス」を調節する目的は,主として熱の発生を抑えるこ
とで「負の水和降下現象を防止する」ためであり,これは,甲3にいう「第1の動
作条件」(甲3の段落【0024】)に係るものである。
他方で,甲3には,「第2の動作条件」として,燃料電池の特性パラメータを回復
させる構成が記載されている(甲3の段落【0025】〜【0027】)。\nこのように,二つの条件に係る構成があることに加え,甲3の段落【0001】,\n【0009】,【0023】,【0029】及び【0030】の記載並びに【図4】に
照らし,上記「第1の動作条件」が,基本的に,「燃料電池が故障した際」(同【0
001】。【図4】にいう「欠陥は重大」である場合である。)に係るものとみられる
ことからすると,相違点1,2及び4に係る引用発明の構成は,燃料電池の故障を\n示すものとみ得る状態を具体的に検知し,負の水和降下現象を防止するために,燃
料ガスの供給を停止して熱の発生を抑えるためのものと解するのが相当である。
イ 上記のような燃料電池の故障を示すものとみ得る状態を具体的に検知したと
の引用発明に係る「燃料電池の出力電圧が0.4Vより低くなる場合」の動作につ
いて,実際の出力が閾値以上に変化しているか否かにかかわらず,これを「定期的
に」行うことを想到することが,当業者において容易であるとはいい難いというべ
きである。甲3に,引用発明に係る燃料ガスの供給の停止を定期的に行うこととす
る動機付けや示唆があるとは認められない。甲3の段落【0024】には,第1の
動作条件について,「約0.4Vより低い範囲に低下する場合」以外の記載があるが,
そこで挙げられている他の特性パラメータも,燃料電池の故障を示すものとみ得る
状態の検知の範疇に止まるものである。燃料電池の保湿レベルを周期的に増加させ
ることに係る周知の事項(甲4[前記3(1)],甲5[前記3(2)])を参照しても,
上記判断は左右されない。
上記判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。
ウ また,引用発明が,上記アのように,主として熱の発生を抑えることを目的
としたものであることを考慮すると,「気体流動を調節する」ことについて,引用発
明から,燃料電池の乾燥につながり得る一方で冷却効果をも有する空気の流動(本
願明細書の段落【0006】参照)を停止することを,当業者が容易に想到し得た
ということも困難である。甲3に,空気の流動を調節することの動機付けや示唆が
あるとは認められない。
上記判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。
(3) 以上によると,相違点1,2及び4に係る本願発明の構成が引用発明に基づ\nいて容易に想到できたものとは認められないから,相違点1及び2について容易想
到と判断した点において,本件審決には誤りがあるというべきである。
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2021.10. 8
令和2(行ケ)10038 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年9月28日 知的財産高等裁判所
薬について、動機付け無しとした審決が取り消されました。顕著な効果も記載が無い、実験成績証明書の参酌をしたとしても、顕著な効果とはいえないと判断されました。
前示のとおり,本件訂正発明の構成は容易想到であるが,これに対し,\n被告は,前記第3の5(2)イのとおり,本件訂正発明は,本件3条件を全て
満たす患者に対する顕著な骨折抑制効果(以下「効果1)」という。),2)本
件条件(4)の服薬歴がある患者に投与すると,本件条件(4)の服薬歴
のない患者に対するよりも骨折抑制効果がより増強される効果(以下「効
果2)」という。)を奏し,これらの効果は,当業者が予測をすることができ\nなかった顕著な効果を奏するものである旨主張する。
以下,これらの効果について検討する。
(ア) 効果1)について
a 前記イ(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折
の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予\n防することであり,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり,
骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから,
当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,\n甲7文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(B
MD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄\n10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄\n与することが記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させ
たことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そ
うすると,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏して
いることは,当業者において容易に理解できる。
b 効果1)の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プ
ラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を
指すものであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件を全て満
たす患者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本
件3条件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対
する骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
すなわち,効果1)を確認するためには,高リスク患者に対する骨折
抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があ
るが,前記1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リス
ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体
以外の部位の骨折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位
週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リス
ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体
以外の部位の骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群におけ
る発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにと
どまる(【0086】ないし【0096】,【表6】ないし【表\11】)。
そして,低リスク患者の新規椎体骨折についていえば,100単位週
1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年1月15日
付け被告第1準備書面33頁における再解析の数値による。)について,
それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというものであり,また,椎
体以外の部位の骨折は,上記5単位週1回投与群について,ただ1人
の骨折例数があったというものであって,有意差がなかったことが,
症例数が不足していることによることを否定できない。このように,
低リスク患者において,100単位週1回投与群の新規椎体骨折及び
椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生
率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数
を基に導かれたことからすると,高リスク患者における骨折発生の抑
制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の程度と比較して,
前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。
したがって,実施例1をみても,高リスク患者に対するPTHの骨
折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高
いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他
の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低
リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理
解することはできない。
以上によれば,効果1)は,本件明細書の記載に基づかないものとい
うべきである。
c 被告は,効果1)を明らかにするものとして,別紙4の実験成績証明
書(甲79)を提出する。
しかしながら,本件明細書の記載から,高リスク患者に対するPT
Hの骨折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よ
りも高いということを理解することができず,また,これを推認する
こともできない以上,効果1)は対外的に開示されていないものである
から,上記実験成績証明書を採用して,効果1)を認めることは相当で
ない。
仮に,上記実験成績証明書を参酌するにしても,本件3条件の全て
を満たす患者(高リスク患者)のグループと,本件3条件の全部又は
一部を満たさない患者(低リスク患者)のグループのうちごく一部の
グループとを比較しているものにすぎないから,本件3条件の効果が
明らかになっているとはいえない。また,上記実験成績証明書には,
本件条件(1)を満たし,本件条件(2)又は本件条件(3)のいず
れかを満たさない患者とされる「非3条件充足患者」につき,「非3条
件充足患者においてもPTH投与群ではコントロール群よりも骨折の
発生が抑制されたが,3条件充足患者においては,PTH投与群では
コントロール群よりも骨折の発生が『有意に』抑制された。」旨が記載
されているだけである。すなわち,本件3条件を満たさない患者につ
いては,PTH投与群においてコントロール群よりも骨折発生が抑制
されたものの有意差がなかったことが理解できるのみであり,それら
有意差がなかったとの結論も症例数が少ないことによるものと推認さ
れることからすると,本件3条件の全てを満たす患者の骨折発生の抑
制の程度が本件3条件を満たさない患者に対する骨折発生の抑制の程
度より優れていると結論付けることはできない。そうすると,上記実
験成績証明書をみても,本件3条件を全て満たす患者に対するPTH
の骨折抑制効果が,本件3条件を満たさない患者に対するPTHの骨
折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
d 以上によれば,いずれにしても効果1)を認めることはできないから,
その他の点について判断するまでもなく,効果1)を予測することので\nきない顕著な効果という余地はない。
(イ) 効果2)について
前記ア(ウ)のとおり,効果2)は本件明細書からうかがうことのできな
い効果である。
被告は,骨粗鬆症治療薬の服薬歴が本件3薬剤のいずれか1剤のみの
場合における新規椎体骨折発生数が記載された甲86証明書により本件
訂正発明の顕著な効果が裏付けられると主張する。仮に,上記実験成績
証明書を参酌するにしても,甲86証明書は,本件3薬剤それぞれにつ
いて,服薬歴のある患者につき被験薬(PTH)を投与された場合と対
照薬(プラセボ)を投与された場合との骨密度変化率や新規椎体骨折発
生数を対比しているにすぎず,本件3薬剤のいずれかの服薬歴がある患
者と当該薬剤の服薬歴がない患者との間で,被験薬を投与された場合の
骨密度変化率や新規椎体骨折発生数を対比したものではないから,プラ
セボ投与との対比による被験薬の骨粗鬆症治療に対する効果しか示され
ていない。しかも,各薬剤についての評価例数があまりにも僅少で,そ
のようなデータから算出される骨折相対リスク減少率は,骨折例数が1
件増減するだけで大きくその値を変えることは明らかであり,骨折相対
リスク減少率を対比してその効果を論じることも相当ではない。
◆判決本文
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2021.09.20
令和2(行ケ)10044 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年8月30日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が取り消されました。論点は「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」との動機付けがあるか否かです。
原告は,相違点2に関し,本件審決が,1)刊行物5の記載及び脂質の大量
の摂取を控えることが健康上の技術常識であることを考慮すると,1回の「用
量」でω−6脂肪酸を40gを超えた脂質含有配合物として用いることは考
えられないから,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」であること(相違点
2に係る本願発明の構成)は,刊行物5に記載自体がなくとも記載されてい\nるに等しい事項であるから,相違点2は,実質的な相違点ではないか,刊行
物5発明において,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることは,「用
量」の意味が,1回の「用量」や1日の「用量」であるかにかかわらず当業
者が容易になし得る技術的事項である旨判断したのは誤りである旨主張する
ので,以下において判断する。
ア(ア) 刊行物5(甲24)には,1)「従来の技術」として「最近の日本人の
食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え,
脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の
種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増
加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。これ
らの疾病の原因は,脂肪酸の摂取過多と考えられていた。しかし,研究
が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和脂肪酸の種類の摂取アンバラン\nスによることが判明した。これは肉類に多く含まれるω−6脂肪酸であ
るアラキドン酸から産生される2型のプロスタグランジンやロイコトリ
エンなどが過剰になり,ω−3脂肪酸によって産出される3型のプロス
タグランジンやロイコトリエンとのバランスがくずれる事による。」(前
記(1)エ),2)「発明が解決しようとする課題」として,「ω−6脂肪酸の
過剰摂取は,PGF2α,TXA2などの2型プロスタグランジンやロイ
コトリエンの産生を促し,血小板凝集や血管収縮を起こし動脈硬化や血
栓症を誘発する。しかしω−3脂肪酸は逆に,これらの疾患を抑制した
り,更に,乳癌や大腸癌の発癌率を抑えたり(・・・),癌細胞の転移能を低\n下させる(・・・)ことが報告されている。・・・気をつけなければならないの
は,ω−3脂肪酸ばかりを摂取するのではなく,ω−3脂肪酸とω−6
脂肪酸をバランス良く摂取することである。しかし,前述のように現在
の日本人の食事はω−6脂肪酸の摂取に偏っている。この状態を改善す
るためにω−3脂肪酸などを高濃度に濃縮して添加した食品や栄養補助
剤などが開発された。しかしこれらの製品を過度に摂取した場合,逆に
ω−3脂肪酸の過剰摂取につながり新たな疾病の原因となる。そこでω
−3,ω−6脂肪酸の適正な比率での摂取が必要である。」,「本発明は,
ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,前述
の疾病の予防や改善に効果が期待されるように,脂質の脂肪酸組成を適\n正比率に調整した食品を提供することを目的とする。」(以上,前記(1)オ),
3)「課題を解決するための手段」として,「本発明の食品は,脂肪酸組成
をω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5になるように調
整した高度不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする。」,「本発明の食品の脂
肪酸組成は,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5にな
るように調整する。この範囲よりも小さいときは,ω−3脂肪酸が過剰
になり,この範囲よりも大きいときはω−6脂肪酸が過剰になってしま
い,いずれの場合もω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との摂取バランスが崩
れてしまうので好ましくない。」(以上,前記(1)カ),4)「発明の効果」
として,「本発明によれば,食品に含有される脂質のω−3,ω−6脂肪
酸の比率を適正比率である1:1〜1:5に保つように調製された食品
を提供することができるので,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバランス
良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸
癌などの疾病の予防や改善に効果が期待される。」(以上,前記(1)キ)と
の記載がある。
これらの記載によれば,刊行物5には,刊行物5記載の高度不飽和脂
肪酸を含む食品(「本発明」)の技術的意義に関し,従来は,高血圧,心
臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の原因は,脂肪酸の「摂
取過多」と考えられていたが,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不\n飽和脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明したこと,現在
の日本人の食事はω−6脂肪酸の摂取に偏っており,この状態(ω−6
脂肪酸の「過剰摂取」)を改善するためにω−3脂肪酸などを高濃度に濃
縮して添加した食品や栄養補助剤などが開発されたが,これらの製品を
過度に摂取した場合,逆にω−3脂肪酸の「過剰摂取」につながり新た
な疾病の原因となるため,ω−3,ω−6脂肪酸の適正な比率での摂取
が必要であることから,「本発明」は,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバ
ランス良く摂取することができ,前述の疾病の予防や改善に効果が期待\nされるように,脂質の脂肪酸組成を適正比率に調整した食品を提供する
ことを目的とし,その課題を解決するための手段として,脂肪酸組成を
ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5になるように調整
した高度不飽和脂肪酸を含む構成を採用し,これによりω−3脂肪酸と\nω−6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循
環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の予防や改善の効果が期待される\nことについての開示があることが認められる。また,前記(1)の刊行物5
の記載によれば,刊行物5において,「過剰摂取」の用語は,ω−3脂肪
酸,ω−6脂肪酸が適正比率(1:1〜1:5)の範囲を基準として,
「この範囲よりも小さいときは,ω−3脂肪酸が過剰になり,この範囲
よりも大きいときはω−6脂肪酸が過剰にな」ると述べていること(前
記(1)カ)に照らすと,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との摂取バランス(比
率)が崩れた状態を表現するために用いており,一方で,「摂取量」が多\nい状態を表現するときは「摂取過多」の用語を用い,「摂取量」との関係\nでは,「過剰摂取」の用語を用いていないことが認められる。
以上を前提に検討すると,刊行物5における「最近の日本人の食生活
は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え,脂肪の
摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の種類も
変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増加して,
こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。」との記載は,
それに引き続き「しかし,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和\n脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明した。」などの記載が
あることに照らすと,「脂肪の摂取量」が「一日当り40g」に増加した
こと自体が問題であることを述べたり,それを改善すべきことを示唆す
るものではないと理解するのが自然である。
また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取
量を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」
は,1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や
示唆はない。
(イ) 次に,本件審決が述べるように「脂質の大量の摂取を控えること」
自体が健康上の技術常識であるといえるとしても,脂質の適正な摂取量
は,年齢,性別,エネルギー摂取量等の要素によって変わり得るものと
考えられるから,そのことから直ちに「脂肪の摂取量」を1日当り40
g以下とすることが技術常識であることを導出することはできないし,
それが技術常識であることを前提に「ω−6脂肪酸の用量」は,1日又
は1回当たり「40g以下」とすることが技術常識であるということは
できない。本件においては,他に「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」
とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。
イ(ア) 前記アの認定を総合すると,刊行物5には,本件審決のいう技術常
識を踏まえても,刊行物載5発明に含有する「ω−6脂肪酸の用量は,
40g以下であること」についての実質的な開示があるものと認めるこ
とはできない。
そうすると,刊行物5発明が「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」
であるとの構成(相違点2に係る本願発明の構\成)を有することは認め
られないから,相違点2は実質的な相違点であるものと認められる。
これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(イ) 次に,前記ア認定のとおり,刊行物5には,脂肪の摂取量を1日当
たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」は,1日又
は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆はなく,
また,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることが技術常識であ
ることを認めるに足りる証拠がないことに照らすと,刊行物5に接した
当業者が,刊行物5発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採\n用することの動機付けがあるものと認めることはできないから,上記構\n成とすることを容易に想到することができたものと認められない。
これと異なる本件審決の判断は誤りである。
ウ これに対し被告は,1)刊行物5には,脂肪の摂取量については1日当た
り40gと増加しているとの記載及びそれを問題であると認識している
ことの記載があり,刊行物5発明は,脂質(脂肪)の取り過ぎの抑制を前
提に,ω−6脂肪酸とω−3脂肪酸をバランス良く摂取することを技術思
想とする発明であるから,脂質の一部である不飽和脂肪酸のさらに一部で
あるω−6脂肪酸を一定以下に抑えることは当然であり,脂質全体として
取り過ぎであるとの認識である40gという値以下と特定することには
強い動機付けがある,2)しかも,1日の脂質摂取は,刊行物5発明のドリ
ンク剤組成物以外の食品からも生じるのであるから,1日又は1回当たり
ω−6脂肪酸40g以下との上限を設定することは,当業者が容易になし
得る技術的事項であるから,当業者は,刊行物5発明において,相違点2
に係る本願発明の構成とすることを容易に想到することができた旨主張\nする。
しかしながら,前記ア(ア)で説示したとおり,刊行物5における「最近の
日本人の食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に
増え,脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾
病の種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが
増加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。」との
記載は,「脂肪の摂取量」が「一日当り40g」に増加したこと自体が問題
であることを述べたり,それを改善すべきことを示唆するものではない。
また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取量
を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」は,
1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆は
ない。
加えて,本件においては,他に「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」
とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,刊行物5に接した当業者が刊行物5発明において相違点2
に係る本願発明の構成を採用することの動機付けがあるものと認めるこ\nとはできないから,被告の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
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2021.08.21
令和2(行ケ)10057 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年7月8日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決が取り消されました。
前記(1)のとおり,相違点2は,相違点21)及び相違点23)により構成さ\nれるべきものである。本件審決は,相違点21)は容易に想到できるとして
おり(当裁判所としてもその結論を是認できる。),原告は,相違点23)の
容易想到性を否定した本件審決の判断を争っている。
イ 相違点23)の容易想到性
(ア) 相違点23)は,「『フレームと床との間に介護者又は患者の足が存在
しても,挟み込みが生じないように』,下降スイッチが押し状態であって
もフレームをいったん停止させ,『ブザーを鳴らして警報』すること」で
ある。
原告は,前記第3の2(1)イ(イ)のとおり,「フレームと床との間に,介
護者又は患者の足が存在しても,挟み込みが生じないように」との点が
用途による限定を付すものであり発明の構成とはならないから,相違点\nを構成することもない旨主張するが,上記特定事項は,フレームが停止\nする高さを何に基づいて決定するかを特定するものであるから,発明を
構成する部分であり,その主張は失当である。したがって,本件訂正発\n明1が用途発明になることもない。
そうすると,同(2)イ(ア)の被告の主張につき判断するまでもなく,原
告の上記主張はいずれにせよ採用することができない。
(イ)a 前記第2の3(2)アのとおり,甲1発明における下方中間位置は患
者支持面が床から約14インチ(約356mm)の高さであり,同最
下位置は患者支持面が床から約8インチ(約203mm)の高さであ
るところ,下方中間位置から最下位置に153mm下降できるという
ことは,少なくともフレームの下端が床から153mm以上離れてい
なければならないから,下方中間位置でのメインフレーム12の床か
らの高さは153mmよりは高いことになる。
ここで,甲2技術事項に係る別紙3の記載によると,足が届く範囲
の可動部と床面との間に120mm以上の寸法があれば,足を挟み込
む危険がないものと理解される。
そうすると,甲1発明における下方中間位置でのメインフレーム1
2の床からの高さは,本件訂正発明1の「介護者又は患者の足が存在
しても,挟み込み等が生じないような高さ」(本件訂正明細書【002
1】)であるといえ,また,甲1発明の最下位置は「床に近接して配置
される」ものであり(甲1[0011],FIG−4),足が挟み込まれ
る高さであることは明らかであるから,最下位置に向けて下降する下
方中間位置は「これ以上フレーム1が下降すると,足を挟み込んでし
まうような高さ」(本件訂正明細書【0021】)である。
そして,甲1には,「磁石112のホール効果センサ118に隣接し
た配置までの移動は,下方中間位置でのベッド10の位置付けに相当
し,磁石112のホール効果センサ116に隣接した配置までの移動
は,上方中間位置でのベッド10の位置付けに相当する。」([0036])
との記載があり,そして,甲1発明の管部110は,軸受部材108
に摺動接触して支持された状態でねじ式リニアアクチュータ98のね
じ120に対して直線移動で駆動できるよう構成されており,磁石1\n12は,水平移動に当たり必ずホール効果センサ118及び116に
隣接した位置を通るから,甲1発明のベッドは,必ずフレームが下降
する際に上方中間位置及び下方中間位置で自動的に下降を停止するベ
ッドである。
b ここで,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に,\n人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよう下降を停止させるこ
とは当業者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる
(甲4の【請求項1】,【0003】,甲21の【請求項1】,【0003】,
【0005】参照)。
そして,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に\n人体が挟み込まれないよう警告音で周囲に異常を知らせることも当業
者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる(甲4の
【0014】,【0010】,甲21の【0014】,【0010】参照)。
c そうすると,上記aのように,介護者又は患者の足が存在しても,
足の挟み込みが生じないような下方中間位置においてフレームの下降
は停止するが,それ以上フレームが下降すれば介護者又は患者の足が
挟み込まれてしまうことになる甲1発明に接した場合,昇降機能を有\nするベッドにおいて,人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよ
うにベッドの下降を停止するとの周知技術に従い,その下降を停止す
る高さを「前記フレームと床との間に,介護者又は患者の足が存在し
ても,挟み込みが生じないよう」な意図で設定し,この際,警告音で
フレームと床との間に人体が挟み込まれないよう知らせるとの周知技
術に従い,警告音を発するようにすることは,当業者には格別困難な
ことではないといえる。
(ウ) 被告の主張について
被告は,前記第3の2(2)イ(ウ)のとおり,足を挟んでしまうことの防
止という課題は甲1発明に内在する課題とはいえない旨主張する。しか
しながら,「特開2002−125808号公報」(甲4)及び「特開2
002−125807号公報」(甲21)においては,各【発明の詳細な
説明】の中に,子供が入り込むことの防止に係る記載がされているとこ
ろ,各請求項1には,それぞれ「床部下への人体の侵入を監視して,人
体の侵入ありとした際に」又は「人体が存在する旨の検知信号により」
と記載されているのであり,子供が入り込むことのみに限定されるもの
と解すべき事情も見当たらないことに照らしても,これらの発明の技術
的思想としては,人体が挟み込まれるのを防止するということが抽出で
きるのであり,人体の対象には介護者又は患者も含まれるから,当業者
であれば,甲1に介護者又は患者の足を挟んでしまうことを防止すると
の課題の記載や示唆がなくとも,甲1発明のベッドを介護者又は患者の
足を挟んでしまうことを防止するとの意図の下に設定することは容易と
いうほかない。したがって,上記主張は,採用することができない。
さらに,被告は,同(エ)のとおり,「ブザーを鳴らして警報」すること
は容易想到ではない旨主張するが,上記(イ)cのとおり,昇降機能を有\nするベッドにおいてフレームと床との間に人体が挟み込まれないよう警
告音で周囲に異常を知らせることは周知技術であるところ,人体の挟み
込みの防止のために警報音を鳴らすということの目的は,人体の挟み込
みの防止のためにフレームの下降を停止して実際に挟み込みを防止する
こととは異なり,人体が挟み込まれる前の所定の段階であらかじめ操作
者を含む周囲の者に注意確認を促すことにある(警報音を鳴らすものの
フレームの下降を人体の接触を感知するまで停止しないという選択もあ
り得るから,警報音を鳴らすこととフレームの下降停止とは独立に置換
可能な独立の技術的事項である。)。したがって,フレームと床との間に\n人体があって実際に挟み込みの危険があるか否かは,人体の挟み込みの
防止のために警報音を鳴らすという技術的事項を導入するに際して直接
の関係を有するものではない。そうすると,警告音を発する場面を,異
物を検出した段階とするのか,あるいは,フレームがそれより下降すれ
ば人体の挟み込みの危険が生じ得る高さとするかは,設計的事項にすぎ
ず,「特開2002−125808号公報」(甲4)及び「特開2002
−125807号公報」(甲21)に記載の発明から認められる周知技術
と甲1発明とは,むしろ警報音を鳴らす局面,対象又は目的を共通とす
るといえる。したがって,下方中間停止位置で常に自動的に下降を停止
する甲1発明において,上記周知技術に基づいて下方中間停止位置で停
止した際に「ブザーを鳴らして警報」することは容易に想到できるとい
え,上記周知技術が異常を検知した際に警報音を発するものである点が
甲1発明に同技術を適用することを妨げるものではない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。。
そのほか,被告がるる主張するところも,前記イの判断を左右するも
のではない。
(エ) まとめ
以上によれば,相違点21)に加えて,相違点23)についても容易に想
到できるというべきであるから,本件審決の相違点2の容易想到性判断
には,誤りがある。
◆判決本文
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2021.08.17
令和2(行ケ)10033 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年6月28日 知的財産高等裁判所
無効審判では無効理由無しとされた請求項の一部(請求項7、10)について、知財高裁(3部)は、進歩性違反の無効理由ありとしてこれを取り消しました。
(3) 相違点10−2の容易想到性
ア 本件発明7のステップ(b)について
(ア) 相違点10−2においては,本件発明7のステップ(b)に係る構\n成の容易想到性が問題となるところ,上記1(4)のとおり,本件発明7の
ステップ(b)は,原油組成物を実質的に塩基なしで水性流体処理ステ
ップにかけるステップであり,かつ,相分離を改善するために無機塩を
水性流体に添加するものである。
(イ) そして,上記(2)アのとおり,本件優先日当時,油の精製において,
アルカリ精製による脱酸処理の前に脱ガム処理を経ること,一般的な脱
ガム処理の方法の1つとして,水や水蒸気等の水性流体を油組成物と接
触させ,水和したガム質を含む親水性の不純物を油から分離して除去す
る方法があったことは,いずれも周知の技術であったと認められる。ま
た,証拠(甲3,4,6〔693,700,701頁〕)によれば,本件
優先日当時,蒸留(物理的精製)による脱酸処理の前に脱ガム処理又は
水洗の処理を経ることは,周知であったと認められる上,証拠(甲5〔4
75頁の表2〕,6〔693頁右欄の表\1〕,13〔571頁の右欄〕,1
4〔98頁の図2〕,24〔185頁〕)によれば,水や水蒸気等の水性
流体を油組成物と接触させた後に分離する処理によってタンパク質性化
合物が除去されることも,周知であったと認められる。
(ウ) そうすると,本件発明7のステップ(b)は,タンパク質性化合物
を含む親水性の不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去し得る
点において,上記の水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水
洗の処理と異なるところはないというべきである。
イ 甲2文献における開示
(ア) 上記(1)のとおり,甲2文献においては,油をストリッピング工程の
前に前処理してもよいと記載されている(【0057】)。
(イ) そして,上記アのとおり,ストリッピング処理を行う前に水や水蒸
気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を経ることが周知
であったことからすれば,甲2発明のストリッピング処理の前に,水や
水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を行い,親水性
の不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去することを,当業者
は当然に動機付けられるものといえる。
ウ 解乳化剤としての無機塩の添加が周知技術であったか否か
(ア) 水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理におい
ては,水相と油相との界面が十分に解乳化され,水性流体を油から容易\nに分離することが可能な状態となることが好ましいことは明らかである。\n
(イ) そして,証拠(甲30,31,44ないし46)によれば,一般科
学においては,従来から,塩化ナトリウム等の塩を解乳化剤として用い
ることが広く知られていたと認められることからすれば,水や水蒸気等
の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理においても,水相と油相
との界面を解乳化し,水性流体を油から容易に分離することが可能な状\n態とするために,塩化ナトリウム等の塩を用いることを,当業者は当然
に動機付けられるものといえる。
エ 容易想到性
(ア) 上記アないしウで検討したところによれば,甲2文献に接した本件
優先日当時の当業者は,甲2発明のストリッピング処理の前に,水や水
蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を行い,親水性の
不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去すること,その際に,
水相と油相との界面を解乳化し,水性流体を油から容易に分離すること
が可能な状態とするために,塩化ナトリウム等の塩を用いることを,容\n易に想到することが可能であったといえる。\n
(イ) また,本件発明7のステップ(b)に係るその他の構成について検\n討するに,証拠(甲5,24)によれば,魚油には炭素数16から22
の遊離脂肪酸が必ず含まれていることが認められる。
さらに,粗魚油の一般的な遊離脂肪酸濃度は2重量%ないし5重量%
であると認められる(甲5〔475頁の表1〕)ところ,水や水蒸気等の\n水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理においては,油組成物中の
遊離脂肪酸は中和されず,その量が変化しないことは明らかであるから,
上記処理後の魚油の遊離脂肪酸濃度が,0.5重量%ないし5重量%の
範囲内となることも明らかである。
(ウ) 以上によれば,甲2文献に接した本件優先日当時の当業者は,本件
発明7のステップ(b)に係る構成を,容易に想到することができたも\nのといえる。
オ 被告の主張について
(ア) 被告は,甲2文献には,ストリッピング処理前の前処理過程の一例
として脱臭工程のみが挙げられている上,脱ガム処理のほか,本件発明
7のステップ(b)に係る構成について何らの記載等もされていないか\nら,当業者は同構成を採ることを動機付けられるものではない旨主張す\nる。
しかしながら,甲2文献の段落【0057】には,ストリッピング工
程の前処理の一例として脱臭工程が挙げられているものの,これに限る
旨の記載は存しない上,前記のとおり,水や水蒸気等の水性流体を用い
た脱ガム処理等が周知の技術であり,これをストリッピング処理の前に
行うこともまた周知であったことからすれば,当業者は,ストリッピン
グ工程の前処理として,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理等
を行うことを動機付けられるものといえる。
したがって,被告の主張は,採用することができない。
(イ) 被告は,原告が主張する脱ガム処理には様々な方法によるものが含
まれるから,相違点10−2に係る本件発明7の構成には至らない旨主\n張する。
しかしながら,前記のとおり,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガ
ム処理が,一般的な脱ガム処理の方法の1つとして周知の技術であった
と認められることからすれば,甲2文献に接した当業者は,これを甲2
発明に適用することを動機付けられるものといえるから,被告が指摘す
るとおり,脱ガム処理に様々な方法によるものが存在するとしても,前
記の結論を左右するものではないというべきである。
したがって,被告の主張は,採用することができない。
(ウ) 被告は,エマルジョン形成の解消が容易ではないことは技術常識で
あったこと,甲44文献に記載された有機相及び本件発明7のステップ
(b)における有機相は全く異なるものであること,魚油の精製工程に
おいて無機塩を解乳化剤として用いることに関する文献が本件訴訟にお
いて提出されていないことから,当業者が無機塩を添加して有機相と水
相とを分離させる技術を甲2発明に適用することを動機付けられるもの
ではない旨主張する。
しかしながら,欧州の特許公開公報である甲44文献に対応する日本
の公開特許公報である乙C6文献には,海産動物油等の天然源からEP
A及びDHA混合物等を抽出する方法に関して,脂肪酸混合物を含む相
と水相との分離を高めるために,塩化ナトリウム等の塩類を少量加える
ことが記載されている。また,甲30文献には,魚鯨油を2%程度の塩
化ナトリウム等の塩類水溶液で洗浄する方法が記載されており,脱ガム
処理として魚鯨油を塩類水溶液で洗浄する方法が行われているものと認
められる。このように,魚油の精製工程において,無機塩を添加するこ
とによって相分離を図る方法が記載されている文献が存在するのに対し,
本件各証拠上,このような方法の採用を妨げるような内容の文献は見当
たらない。
そうすると,一般科学において実施されている相分離を改善するため
の無機塩の添加を,魚油の精製工程において実施することが妨げられる
ものではないというべきである。
したがって,被告の主張は,採用することができない。
(エ) 被告は,本件発明7は当業者には予測し得ない顕著な効果を奏する\n旨主張する。
しかしながら,これまで検討したとおり,本件発明7のステップ(b)
に係る構成は,周知技術である水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム\n処理等に,同じく周知技術である相分離を改善するために無機塩を添加
する方法を組み合わせたものであることからすれば,当業者は,同構成\nが塩基を使用しないものであることや,相分離の改善によりトリグリセ
リド油の回収率を高めることができることを当然に予測し得るものとい\nえるから,本件発明7は,予測し得ない顕著な効果を奏するものとは認\nめられない。
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2021.06.15
令和1(行ケ)12020 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年5月19日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決が取り消されました。同じ先行技術について審決は阻害要因あり、裁判所は阻害要因無しとの判断です。
(イ) 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手
段1)の採用と甲1発明の技術思想について
a 空所134への液体の集約
被告は,甲1は,甲1発明が,「改良された液体分布機構」として,ポンプ140によって液体を加圧し,さらに,この加圧した液体をい\nったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個
所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用したことを明らかにしており,甲1発明の「改良された液体分布機構\」においては,ポンプ140により加圧された液体が,中間ハウジング
30に形成された空所134を介することなく供給される個所は,コ
ンプレツサ内に存在しないとし,したがって,スラストピストン室6
0についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体を空所13
4を介することなく供給するなどという構成は,甲1発明の技術思想に反するものであって,適用が排斥されていると主張する(前記第3,\n1(2)イ(イ)c(a))。
甲1には,空所134に関し,「中間ハウジング30はまた,圧力の
かかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有して
いる。」(9欄35〜37行),「空所134は,コンプレツサベアリン
グおよびシール,スラストピストン,交叉する穴18と20により形
成された作動室,および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70
に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働
く。圧力のかかつた液体は,パイプ148,150通路152および
パイプ154を介して空所134から室70に供給される。」(10欄
6〜13行)と記載され,ポンプ140によって加圧した液体の供給
について,いったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必
要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するとい
う構成を採用することが記載されているにとどまる。そうすると,ポンプ140により加圧された液体を供給する経路の一部を,あえて空\n所134を経由しない別の経路として設けるように変更することは,
甲1の技術思想に反するものとして,その適用が排斥されているとい
う余地があるとしても,ポンプにより圧力が加えられない液体をスラ
ストピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に,これを,
ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが
排斥されていると解することはできない。したがって,被告の上記主
張を採用することはできない。
被告は,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける
と,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂
回することになるので,異物(ロータ同士の接触により生ずる金属く
ず・鉄粉,液体の化学反応により生ずる不物等)がスラストピストン
室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり,ひいて
はコンプレツサ10が機能不全に陥るとし,甲1発明において,スラストピストン室60に液体を供給する構\成を,ポンプ140・フイルタ146・空所134を迂回するものの他のフイルタを通過してスラ
ストピストン室60に至る構成に改変しようとすると,フイルタ146とは別個のフイルタの追加が必要となり,更にはそれに応じた液体\nパイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため,甲1発明がコン
プレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としようとしている趣旨等
に反し,そのような構成を採用することには,やはり阻害要因があると主張する(前記第3,1(2)イ(イ)d(b))。
しかし,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ14
6を迂回したとしても,圧縮機全体での液体の循環が繰り返される中
で,大部分の異物はいずれはフイルタ146を通って除去されること
になるし,必要であれば,ポンプの前にフイルタを経由するように構成を変更し,ポンプにより圧力を加えられる液体も,圧力を加えられ\nない液体もフイルタを通過するようにするなどの対応を取ることもで
きるから,コンプレツサ10が機能しなくなるとは認められない。また,このように構\成を変更するとしても,それによってコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数が著しく増えるとする根拠はない。したが
って,被告の上記主張を採用することはできない。
・・・
。このように,甲1発明に
ついても,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題を
認識できることから,そのような課題を解決するために,逆スラスト
荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けも生じるもの
と認められる。そうすると,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が
発生するという技術的課題やその課題の解消について甲1に直接の言
及がないとしても,そのような課題を解決するために甲1発明に非加
圧の経路を設けるという動機付けが生じるものと認められる。したが
って,被告の上記主張を採用することはできない。
3 以上によれば,本件特許発明は,甲1発明に,甲2ないし甲5に記載された
周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許
法29条2項の規定により特許を受けることができず,本件特許は特許法12
3条1項2号の規定により無効とすべきものであると認められ,取消事由1(無
効理由1に関する進歩性の判断の誤り)は理由がある。
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2021.05. 7
令和2(行ケ)10030 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年4月28日 知的財産高等裁判所
進歩性違反ありとした審決が取り消されました。理由は、先行技術甲1に接した当業者は,甲1の構成について,取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識するとはいえないので、甲1に本件周知技術を適用する動機付けがないというものです。\n
原告は,本件審決は,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥
没部の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具
と接続管とで挟持取付けること」(本件周知技術)は,本件出願前の周知技術
にすぎないから,取付けの強固さや水密性等を考慮して,甲1発明の「縁部
2」の構成を,本件周知技術のように,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥\n没部の底部に形成された内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取
付けることによって,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,当業者\nが容易になし得たことである旨判断したが,甲1発明に本件周知技術を適用
する動機付けはないから,本件審決の判断は,誤りである旨主張するので,
以下において判断する。
ア 甲1発明は,「浴槽の底部1は,開口部を有し,その縁部2は,貫通する
方法で湾曲しながら徐々に下側に向かって成形され,この開口部の中には,
排水装置が挿入されており,この排水装置は,おおよそ筒状を呈した排水
ケーシング3を有しており,排水ケーシング3の上端部にはパッキン5を
保持し固定するフランジ4が配置されて,上記縁部2の下端が該パッキン
5に接しており,上側からは,排水カップ6が,排水ケーシング3の中へ
ネジ固定により挿入されて,上部外側の縁部分で浴槽の底部に接しており,
排水カップ6の内側には,排水カップ6の上端の径と略同径の閉塞板7が
挿入されており,タペット8を用いることにより上昇させたり,下降させ
たりすることができ,閉塞板7は,開口部に接触せず,閉鎖時には,浴槽
の底部1に概ね面一とされ,閉塞板7の裏側には,径内方向に凹んだ断面
コ字状の環状の溝部が設けられ,該溝部にパッキンが保持されている,排
水装置」(前記第2の3(2)ア)である。
甲1の図面(別紙2参照)は,排水ケーシング3の円形断面の中心線に
おける断面図であること(前記2(2)イ(イ)),甲1の「ここでは,唯一の図
面が,本発明に基づく排水装置の横断面の形状を示している。ここに示さ
れた一つの浴槽の底部1は,一つの開口部を有しており,その縁部2は,
貫通する方法で下側に向かって成形されている。この開口部の中には,排
水装置が挿入されており,この排水装置は,排水ケーシング3を有してい
る。・・・排水カップ6の内側には,閉塞板7が挿入されており,一本のタペ
ット8を用いることにより上昇させたり,下降させたりすることができる。」
(前記(1)ウ)との記載に照らすと,甲1の図面は,閉塞板7が下降し,開
口部を閉鎖した状態を示した図面であることを理解できる。
そして,甲1の図面から,甲1発明の縁部2は,断面形状が内側に湾曲
しながら徐々に下側に向かって縮径する構成を有し,縁部2の湾曲面に上\n部外側の縁部分が当接する排水カップ6と,縁部2の下端に接するパッキ
ン5を保持し,固定するフランジ4を含む排水ケーシング3とで挟持取り
付けられていることを理解できる。
他方で,甲1には,縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持
取付けられていることやその作用等について明示的に述べた記載はない。
また,甲1の記載事項全体(図面を含む。)をみても,縁部2が排水カップ
6と排水ケーシング3とで挟持取付けられている構成について,取付けの\n強固さや水密性等の観点から,改良すべき課題があることを示唆する記載
もない。
イ 次に,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に
内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と接続管と
で挟持取付けること」(本件周知技術)が,本件出願当時,周知であったこ
とは,前記(1)イのとおりである。
他方で,本件周知技術に係る甲3,5及び8には,円筒状陥没部の底部
に形成した内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構\n成の作用等について述べた記載はない。
また,甲3,5及び8には,取付けの強固さや水密性等の観点から,内
向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構成が,甲1の図\n面記載の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられ
る構成よりも優れていることを示唆する記載はない。\n
ウ 前記ア及びイによれば,甲1に接した当業者は,甲1発明の縁部2の構\n成について,取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識
するとはいえないから,甲1発明の縁部2に本件周知技術の構成を適用す\nる動機付けがあるものと認めることはできない。
したがって,当業者は,甲1及び本件周知技術に基づいて,甲1発明に
おいて,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到すること\nができたものと認めることはできない。
これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,1)本件発明の「内向きフランジ部」は,円筒状陥没部の底部か
ら縮径するように延出させることで排水口金具と接続管とで挟持取付ける
ものである必要があり,かつ,それで足りるところ,甲1発明の縁部2は,
断面形状が内側に凸となる円弧状を呈し,下方向だけでなく内側方向にも
延出することで,開口部を下側に向かって縮径しており,このように開口
部を縮径することによって「排水カップ6」と「排水ケーシング3」とで
挟持取付けられるものである点において,本件発明の「内向きフランジ部」
と甲1発明の縁部2は,構造的に共通する,2)本件明細書の【0013】
の記載に照らすと,本件発明の「内向きフランジ部」は,「円筒状陥没部」
の底部に位置することで排水口金具が「水槽の底部1」に露出しない状態
で排水口金具と接続管とで挟持取付けられるものであるところ,甲1発明
の縁部2も,「開口部」の底部に位置することで排水口金具が「浴槽の底部
1」に露出しない状態で排水口金具と接続管とで挟持取付けられる点にお
いて,本件発明の「内向きフランジ部」と機能及び作用が共通するとして,\n甲1発明の縁部2は,フランジ形状を呈していないとしても,構造,機能\
及び作用が共通しているから,本件発明の「内向きフランジ部」と実質的
に同一であり,相違点1は実質的な相違点ではない旨主張する。
しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明の「内向き
フランジ部」に関し,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状
陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管と
で挟持取付けられて排水口部を形成」されること,「その円筒状陥没部内
を上下動するカバーが,前記排水口金具のフランジ部とほぼ同径である」
ことの記載はあるが,本件発明の「内向きフランジ部」の形状や構造を\n規定する記載はない。また,本件明細書においても,本件発明の「内向
きフランジ部」の用語を定義する記載はない。
一般に,「フランジ」とは,「管を他の管または機械部分と結合する際
に用いる鍔型の部品。」(広辞苑第七版)を意味することからすると,本
件発明の「内向きフランジ部」とは,円筒状陥没部において内側に向け
て形成された鍔状の部分を意味するものと解される。そして,上記結合
の際には鍔状の形状であることに即した作用を奏するものといえる。
しかるところ,甲1発明の縁部2は,湾曲しながら徐々に下側に向か
って形成され,下端部に至るまでなだらかな弧状であり,内側に向けて
形成された鍔状の部分は存在しないから,本件発明の「内向きフランジ
部」に相当するものと認めることはできない。
このように甲1発明の縁部2は,鍔状の部分を備えていない点におい
て,本件発明の「内向きフランジ部」と構造が明らかに異なり,その作\n用にも差異があるといえるから,本件発明の「円筒状陥没部の底部に形
成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられて」
いる構成と,甲1発明の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで\n挟持取付けられている構成とが実質的に同一であるものと認めることは\nできない。
(イ) したがって,相違点1は実質的な相違点でないとの被告の主張は,
理由がない。
イ また,被告は,水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部
の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と
接続管とで挟持取付けること(本件周知技術)は,本件出願当時,周知で
あったことからすると,甲1に接した当業者は,取付けの強固さや水密性
等を考慮し,甲1発明の「縁部2」に本件周知技術を適用することによっ
て,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することがで\nきた旨主張する。
しかしながら,被告の上記主張は,前記⑵で説示したとおり,採用する
ことができない。
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2021.04.23
令和2(行ケ)10110 決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月18日 知的財産高等裁判所
加圧トレーニングに関する発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。
これに対して,原告は,前記第3の1(1)のとおり,甲1に引用された実
施例と本件発明3の実施例は,全く同一であり,自然締付け力を付与され
ていない状態とする効果を生じさせるための新たな構成要素が付加されて\nいるわけでもないし,仮に,本件優先日当時,自然締付け力を皆無にする
施術が広く実施されていなかったとしても,加圧力の範囲は,身体に対す
る負担や得られる効果を勘案しつつ適宜決定し得る程度の事項である旨主
張する。
原告の主張は,本件明細書と甲1の明細書を対比すれば,本件明細書の
図1ないし図7が甲1の明細書の図1ないし図7と同一であること,すな
わち,本件発明3と甲1−3発明でそれぞれ用いられる緊締具,加除圧制
御装置及び加除圧制御システムが同一であることを指摘するものと解さ
れるが,そうであるとしても,甲1−3発明には,加圧工程と除圧工程を
交互に繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに
緊締具が所定の部位に与える締付け力について,特定部分を締付ける加圧
力を付与しない状態,すなわち,自然締付け力による加圧力も付与しない
状態に制御することについての記載も示唆もないことは前記(1)のとおり
である。
また,甲1−3発明は,四肢の所定の部位の締付け力の上げ下げを行い
ながら,その所定の部位よりも下流側に流れる血流を阻害し,それによっ
て筋肉に疲労を生じさせ,筋肉の効率的な増強を図ることを目的とするも
のである(【0003】,【0004】,【0009】,【0010】)から,甲
1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に繰り返す圧力調整手段
を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締具が所定の部位に与え
る締付け力について,自然締付け力による加圧力も付与しない状態にして
血流を阻害しないようにする構成とする動機付けがあるとはいえない。\nなお,原告は,甲2発明は,筋肉トレーニングの方法を応用することに
よって動脈硬化,つまり,血管のメタボリック症候群状態を改善すること
を目的としており,血管を強化する方法の1つを示している旨主張してい
るところ,上記主張の趣旨は明らかではないが,要するに,甲2発明にお
いて筋肉トレーニング方法を応用することで血管強化も実現できること
が示されている以上,本件発明3と同じ緊締具,加除圧制御装置及び加除
圧制御システムが用いられている甲1−3発明において,血管強化も実現
するために,除圧工程により加圧動作によって付与された加圧力が完全に
除去された状態において特定部分を締め付ける加圧力が付与されていな
い構成にすることは,設計的事項であると主張するものと解される。\nしかし,甲2の発明の詳細な説明には,「メタボリック症候群は,・・・動
脈硬化,心筋梗塞,或いは脳卒中を起こしやすい状態である」(【0005】)
との記載があるのみで,メタボリック症候群が動脈硬化の状態にあると記
載されているわけではなく,また,「加圧トレーニング方法は,四肢の少な
くとも1つで流れる血流を阻害することによりその効果を生じさせるも
のである・・・加圧トレーニング方法を,メタボリック症候群の治療に用い
ようとした場合には,・・一般的には中高年であるメタボリック症候群の患
者は血管の強度,柔軟性が低下していることが多いため,四肢の付根付近
の締付けを行うことにより四肢に与える圧力の制御に最大限の注意が必
要である」(【0007】),「加圧トレーニングは,・・・四肢の付根付近の所
定の部位を締付けて加圧することにより,四肢に血流の阻害を生じさせ,
それにより運動したのと同様の効果を生じさせるものである。・・・しかし
ながら,メタボリック症候群の患者のような,血管の強度,柔軟性が低下
している者の四肢を締付ける場合には,動脈まで閉じさせるような大きな
圧力を与えることは適切ではない。他方,静脈をある程度閉じさせるよう
な圧力で締付けを行わなければ,メタボリック症候群の患者の治療を十分\nには行うことができない。そこで,本願発明における治療システムでは,
四肢の付け根付近の締付けを本格的に行う通常処理に先立って前処理を
行い,その前処理で,四肢の付根付近を締付ける際に与える適切な圧力と
しての最大脈波圧を特定することとしている。・・・本願発明の治療システ
ムは,メタボリック症候群の患者を含む血管の弱い者の治療に適したもの
となる。」(【0009】)との記載がある。そうすると,甲2発明は,加圧
トレーニング方法の機序を応用した,血管の弱いメタボリック症候群の患
者に対する治療装置等に関する発明であって,血管強化方法に関するもの
ではないというべきであるから,甲2に血管強化方法が開示されていると
の原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,その他の点につき判断
するまでもなく,この点に関する原告の主張は理由がない。
イ また,原告は,甲6には,ベルト(あるいはカフ)を外すことにより締
付け力を皆無にする方法が記載されているところ,本件発明3においては,
「自然締付け力」を皆無にするための付加的な構成要素は示されておらず,\n具体的な方法すら示されていないから,ベルトを単に緩める,あるいは外
すという方法もその「自然締付け力」を皆無にする方法として本件発明3
に包含されている旨主張する。
上記主張の趣旨は明らかではないが,甲6に記載されたベルトを外すこ
とにより締め付け力を皆無にするという技術事項を,自然締め付け力によ
る加圧力を付与しない方法として甲1−3発明に適用すれば,本件発明3
の相違点2の構成に容易に想到するというものと解される。\n しかし,そもそも甲1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に
繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締
具が所定の部位に与える締付け力について,自然締付け力による加圧力も
付与しない状態として血流を阻害しない状態とする構成にする動機付け\nがあるとはいえないことは前記アのとおりである。
また,甲6には,1)「(バラコンバンドの効能)・・・2.血管内を清掃し
血管にも弾力がでる。バンドを強く締めると,そこで血流が止まる。心臓
からは絶え間なく血液は送られてくる。血液は,バンドの所で滞留し,血
量はその部で倍加される。バンドをはずすと,血は倍の速力で血管内を流
れる。その時血管壁を掃除し,動脈硬化を治し,血管そのものも弾力がで
る。」(74頁7行目〜75頁5行目),2)「足裏指巻き ●まず親指と第2
指の間を通してかかとにひっかけ,次に第2指と第3指を通して,またか
かとへ巻き,指の間を通した余りで足の甲をこの停止部分にバンドを巻く。
一つでも関節を越したほうがよく効くので,手の場合なら肘の下の二つの
腕にバンドを巻くといい。(肘の上から巻き込んでいてもかまわない)きつ
めに巻いて我慢できなくなったらはずそう。すると,ダムの水門を開いた
ように,血液がどっと流れ込み,これまで充分にいきわたっていなかった
ところまで勢いよく入り込む。」(120頁上段8行目〜121頁2行目)
との記載があるが,これらは,血流を一時的に止めた後にバンドを外した
場合の効果が記載されているに止まる。したがって,これらの記載に基づ
き,緊締具を付けたままの状態で,「ガス袋120へ空気を送って締付け部
位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位
への加圧を行わない下ピークと,を繰り返す加除圧方法」を採用する甲1
−3発明に,下ピークにする度に緊締具(甲6でいえば「バンド」)を外し,
上ピークにする前にこれを付け直すような変更を施すことは想定できず,
この点からも,甲1−3発明に甲6に記載された事項を適用する動機付け
はない。
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2021.04.21
令和1(行ケ)10159 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年4月15日 知的財産高等裁判所
審決は、複数のカメラの一方の表示を回転させることは、周知として進歩性なしと判断しました。これに対して、知財高裁は、主引例にはそのような課題が存在しないとして、動機付けなしとして審決を取り消しました。
前記2(1)イのとおり,引用発明は,医師等が観察して診断を行う診断用
画像モニタ装置と離れて,操作者が被検者に対してX線装置のコリメータ
やTVカメラの調整等を行う際の被検者及び操作者のX線被爆を避ける
ために,X線曝射しない状態でコリメータやカメラの操作ができ,簡単か
つ安価で操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供することを目的とするものである。\nそして,引用文献1は,こうした課題を解決するために,医師等が観察
する診断用画像モニタ装置とは別に,1対の平行コリメータ位置マーカ2
4,24や円形コリメータ位置マーカ25,カメラ画像正立位置マーカ2
6の画像を,制御ユニット18の制御の下で,X線照射停止直前に撮像さ
れ画像メモリ19に格納されたX線透視像を画像と重ねて操作用液晶デ
ィスプレイ装置21に表示し,マーカ24,25,26上を指などで触れてドラッグすると,その位置情報が制御ユニット18に取り込まれて演算\nされて新たな表示位置が求められ,その位置へ各マーカが動いていくような表\示がされ,この入力情報に応じて制御ユニット18が指令をコリメータ12及びTVカメラ15へ出し,コリメータ12の遮蔽板の位置や方向
が変更され,TVカメラ15の回転角度が調整され,現実に動いた位置・
方向の情報が制御ユニット18に返され,これに応じて制御ユニット18
が平行コリメータ位置マーカ24,24又は円形コリメータ位置マーカ2
5の表示位置を固定するとともに,表\示されたX線透視像23及びカメラ
画像正立位置マーカ26を回転させる(【0018】,【0019】)という
構成を開示している。このように,引用発明は,あくまで,医師等が観察して診断を行う診断用画像モニタ装置とは別に,X線被爆を避けるために,X線曝射しない状\n態で操作ができ,画像を操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供することを目的とするものであって,こうした技術的意義を有す\nる引用発明において,引用文献1には,操作者が医師等の術者が被検者を
見る方向と異なる方向から被検者を見ることにより,操作者が被検者を見
る方向と操作用画像表示装置に表\示される患部の方向とが一致しないと
いう課題(課題B2)があるといった記載や示唆は一切ない。
イ この点につき,被告は,前記第3の2(1)のとおり,当業者であれば,課
題B2の存在を理解し,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置に
おいて,「操作者」が異なる方向から被検者に対向する場合,各々の被検者
を見る向き(視認方向)に一致させるという周知の課題(乙3,4)を参
照し,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプ
レイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致
させるという課題を当然に把握し,引用発明に技術事項2を適用する動機
づけがある旨主張する。
しかし,当業者であれば,課題B2の存在を当然に理解するという点に
ついては,これを裏付けるに足りる証拠の提出はなく,むしろ,原告が主
張するように,術者と操作者との力関係や役割の違いに照らせば,操作者
は,従前は,このような課題を具体的に意識することもなく,術者の指示
に基づきその所望する方向に画像を調整することに注力していたもので
あるのに対して,本願発明は,その操作者の便宜に着目して,操作者の観
点から画像の調整を容易にするための問題点を新たに課題として取り上
げたことに意義があるとの評価も十分に可能\である。
また,乙3には,「本発明の手術用顕微鏡システムでは,前記画像表示手段を複数備え,少なくとも一つの画像表\示手段で表示される画像の向きが\n変更可能であることが望ましい。このような構\成では,術者と助手とが向
き合って手術する時のように,撮像部分を異なる方向から見る場合におい
ても,それぞれの見る方向に応じて画像の向きを変えることにより,撮像
部分を見るのと同じ向きの画像を表示することが可能\となり,より手際の
よい手術が行えるようになる。」(【0007】),「本発明の手術用顕微鏡シ
ステムは,・・・前記画像処理装置は,各電気光学撮像手段からの撮像信号に
基づいて,基準画像信号を生成して,基準画像を前記画像表示手段に表\示
させる基準画像生成部と,前記各撮像信号に基づいて,基準画像と上下ま
たは左右が反転した反転画像信号を生成して,前記画像表示手段に表\示さ
せる反転画像生成部とを備えることを特徴とする。」(【0008】)との記
載があるように,術者とそれを補助する術者が向き合って手術をするとき
のように撮像部分を異なる方向から見る場合でも,画像表示手段で表\示さ
れる画像の向きをそれぞれの見る方向に応じて変更する構成により,撮像部分を見るのと同じ向きの画像を表\示することが可能となり,より手際の\nよい手術が行えるようになるとの課題が示されているにとどまり,術者と
X線撮影装置の操作者についてそのような課題があると開示するもので
はない。
さらに,乙4には,「本実施例の装置の動作について,図を参照して説明
する。まず,図1において術者Aは第1モニタ4を見て,術者Bは第2モ
ニタ7を見て手技を行っている。ここで術者Bは内視鏡2に対向している
ので,内視鏡2の原画像をそのまま第2のモニタ7に表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてしまう。このため,画像処理装置8にて,第2モニ\nタ7の画面のみを上下左右反転させた倒立像を映し出す。」(【0022】),
「本実施例では,第2モニタ7を倒立像にすることで,術者Bが上下左右
逆の感覚で手技を行うことがないので,スムーズに手技を行うことができ
る。また,第1モニタ4及び第2モニタ7のいずれでも倒立像にできるの
で,内視鏡2の向きや術者の位置が変わっても,容易に対応できる。」(【0
025】)との記載があるように,術者Aと術者Bがそれぞれ異なるモニタ
を見て手技を行う場合において,術者Bが見ている第2のモニタ7に内視
鏡2の原画像を見てそのまま表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてしまうという課題が示されているにとどまり,術者とX線撮影装置の操作者\nについてそのような課題があると開示するものではない。
そうすると,上記の乙3,4の各文献に記載された課題は,あくまで術
者と助手又は術者と術者がそれぞれ異なるモニタを見ることによって生
じる課題を指摘するにとどまり,術者とは異なる操作者が操作を行うとい
う引用発明の場合において,操作者の便宜のために,操作者が見る患部の
向きの方向と,操作者が見る操作用液晶ディスプレイの患部の向きとを一
致させるという課題を示唆するものとはいえないから,当業者がこのよう
な課題を当然に把握するともいえない。
(2) また,仮に,引用発明について,前記課題B2の存在を認識し,異なる方
向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の
向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題を
把握して,操作用液晶ディスプレイ装置21に表示されるX線画像のみを回転させるという相違点の構\成とする動機づけがあると仮定しても,前記2(2)
のとおり,技術事項2’は,HMDを装着し操作者を兼ねた術者が見るHM
Dの画像表示部に表\示されるX線画像と実際の患者の患部の位置把握を容易
にするために,上記術者の床面上の位置情報に基づいて上記X線画像の回転
処理を行うものであるから,回転処理がされるX線画像はHMDの画像表示部であり(引用文献2の【0014】,【0020】,図14等),また,画像\n回転処理の基になる位置情報は,床面に設けられた感圧センサによるもので
ある(引用文献2の【0022】)。
こうした技術事項2’の構成は,キャビネット43に設置された診断用画像モニタ17は術者である医師が使用し,台車41に設けられた操作用液晶\nディスプレイ装置21は撮像装置のセッティング等のために操作者が状況に
応じて自由に移動し,また台車41に様々な立ち位置を取ることができる引
用発明の具体的な構成と大きく異なるものであるから,引用発明と引用文献2に記載されたX線装置は同一の技術分野に属し,X線画像を表\示する装置を有する点で共通するとしても,HMDに表示されるX線画像の回転処理が行われるという技術事項のみを抽出して引用発明に適用する動機づけがある\nとはいえない。
さらに,技術事項2’は,操作者を兼ねた術者が装着したHMDに表示されるX線透視像を床面の位置情報に基づいて回転させるという構\成を有するものであるから,こうした構成を無視して,表\示されたX線画像のみを回転させるという技術事項のみを適用し,本願発明の相違点の構成に想到するとはいえない。\n
(3) 以上によれば,本願発明と引用発明との相違点は,本願発明は「前記X線
画像のうち,前記表示部に表\示されるX線画像のみを回転させる画像回転機
構を備え」ているのに対し,引用発明は,そのような特定がない点に尽きるが(本願発明における画像回転機構\自体については目新しいものとはいえない。),引用文献1には,「操作用液晶ディスプレイ装置21」を見て操作する「操作者」の視認方向が「診断用画像モニタ装置17」を見る「術者」の「被検者」の視認方向と一致しないという課題(課題B2)について記載も示唆もなく,被告が提出した文献からは,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置において,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題があると認めるに足りないから,こうした課題があることを前提として,引用発明との相違点の構成にする動機づけがあるとはいえず,また,本件審決の技術事項2の認定に誤りがあり,引用文献2に記載された事項(技術事項2’)から引用発明との相違点の構\成に想到するともいえないから,結局のところ,本願発明は,引用発明及び引用文献2に記載された技術事項2’に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものとはいえず,これと異なる本件審決の判断は,その余の点につき判断するまでもな
く,誤りである。
◆判決本文
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2021.04.20
令和2(行ケ)10035 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月29日 知的財産高等裁判所
パチンコ機について進歩性無しとした審決が取り消されました。
原告は,本件審決が,相違点1ないし3について,「再変動」(本願発明の
「単位演出」に相当。)の契機となる前回の「変動(再変動)」に基づく仮停
止について,初回の変動においてチャンス目Aが仮停止し,2回目の変動(再
変動)においてチャンス目Bが仮停止するというように,仮停止させるチャ
ンス目を,段階的に大当り信頼度が高いものとしていく引用発明において,
「再変動」の契機となる,前回の「変動(再変動)」に基づく所定のチャンス
目により仮停止させることを節目として,引用文献2に記載の技術である,
遊技図柄の確変図柄の割合を変化させるという演出である「図柄群変化演出」
を適用することにより,所定のチャンス目が仮停止した後の「再変動」にお
いて,当該「図柄群変化演出」により遊技図柄の確変図柄の割合が変化した
後の遊技図柄を用いた変動を実行するとともに,当該「図柄群変化演出」に
おいて,遊技の興趣を向上させるために,遊技図柄の確変図柄の割合を変化
させる態様として,上記周知技術の態様を採用して,非確変図柄を確変図柄
に変更することにより,相違点1ないし3に係る本願発明の構成とすること\nは,当業者が容易になし得たものである旨判断したが,引用発明から出発し
て,相違点1ないし3に係る本願発明の構成に想到することは,当業者にと\nって容易であったということはできない旨主張するので,以下において判断
する。
ア(ア) 引用文献1には,所定の入賞領域(始動入賞口)に遊技媒体が入賞す
る(始動条件が成立する)と識別情報を可変表示(「変動」)可能\な可変
表示装置が設けられ,識別情報の可変表\示の表示結果が特定表\示結果(大
当り図柄)となった場合に遊技者にとって有利な特定遊技状態(大当り
遊技状態)に制御可能に構\成された従来の遊技機において,可変表示が\n実行されるより前に複数回の可変表示に渡って予\告演出を実行し,連続
した予告演出の態様の組合せにより,表\示結果を予告するものも提案さ\nれているが,遊技に有利状態となる可能性が低い予\告演出が実行された
場合には,遊技者が落胆してしまい,遊技の興趣が低下してしまうおそ
れがあったという問題があったため,「本発明」の課題は,上記実情に鑑
み,遊技の興趣を向上させた遊技機を提供することを目的とすることに
ある旨の開示がある(【0002】,【0003】,【0005】,【0006】)。
(イ) 次に,引用発明の遊技機は,1)「特図ゲームの第1開始条件と第2開
始条件のいずれか一方が1回成立したことに対応して,飾り図柄の可変
表示が開始されてから可変表\示結果となる確定飾り図柄が導出表示さ\nれるまでに,「左」,「中」,「右」の飾り図柄表示エリア5L,5C,5R\nにおける全部にて飾り図柄を一旦仮停止表示させた後,全部の飾り図柄\n表示エリア5L,5C,5Rにて飾り図柄を再び変動させる擬似連の可\n変表示演出であって,擬似連の可変表\示演出(「再変動」)は1回の変動
において最大3回まで実行可能になっていて,再変動の回数が多ければ\n多いほど,大当り信頼度が高くなるように変動パターンが決定され,決
定された変動パターンなどに基づいて演出制御パターンとしての特図
変動時演出制御パターンをセットし,演出制御パターンに含まれる,演
出装置における演出動作の制御内容を示し,演出制御の実行を指定する
表示制御データ#1〜表\示制御データ#n(nは任意の整数)の内容に
従って,画像表示装置5の制御を進行させる演出制御用CPU120と\nを備え」(構成b),2)「可変表示結果が「リーチハズレ」,「大当り」の\nいずれであるかによって擬似連予告演出が実行される割合,擬似連予\告
パターンの決定割合が異なり,具体的には,可変表示結果が「大当り」\nである場合には,「リーチハズレ」である場合よりも,擬似連予告演出が\n実行される割合が高くなっていて,チャンス目Aが停止する擬似連予告\nパターンYP1−1の擬似連予告演出が実行された場合よりも,チャン\nス目Bが停止する擬似連予告パターンYP1−2の擬似連予\告演出が
実行された場合の方が,可変表示結果が「大当り」となる割合である大\n当り信頼度が高くなっていて,チャンス目の種別により大当り信頼度が
異なるものとされ,4回の変動及び再変動(擬似連3回の変動パターン)
に渡って実行される擬似連予告演出の擬似連予\告パターンとして,初回
の変動においてチャンス目Aが仮停止し,2回目の変動(再変動)にお
いてチャンス目Bが仮停止し,3回目の変動(再変動)において,背景
画像が特殊な背景画像に変化し,4回目の変動(再変動)においては継
続して特殊な背景画像において変動が実行される擬似連予告パターン\nを設けることで,大当り信頼度が段階的にステップアップしていくよう
な演出を行」い(構成c),3)「所定の通常大当り組合せとなる確定飾り
図柄が停止表示されると,通常開放大当り状態に制御され,その終了後\nには,時短制御が行われる一方,所定の確変大当り組合せとなる確定飾
り図柄が停止表示されると,通常開放大当り状態に制御され,その終了\n後には,時短制御とともに確変制御が行われ,確変制御が行われると,
各回の特図ゲームにおいて可変表示結果が「大当り」となる確率は,通\n常状態に比べて高くなり,確変制御は,大当り遊技状態の終了後に可変
表示結果が「大当り」となって再び大当り遊技状態に制御されるという\n条件が成立したときに終了する」(構成e)との構\成を有している。
引用発明は,構成cのとおり,疑似連予\告演出で仮停止するチャンス
目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似連予告演出の回数と背景画像\nの変化とからなる擬似連予告パターンを設けることによって,大当り信\n頼度が段階的にステップアップしていくような演出を行う構成のもの\nであることが認められる。
そして,引用文献1には,チャンス目に関し,「チャンス目Aは,図2
1(A)に示すように,左図柄と中図柄が同じ数字であり,右図柄のみ
が1つずれた数字の組合せとなっている。また,先読み予告パターンS\nYP1−2に基づく停止図柄予告では,連続演出用のチャンス目として,\n図21(B)に示すチャンス目CB1〜CB6(チャンス目B)のいず
れかが停止する。チャンス目Bは,図21(B)に示すように,並び数
字の組合せとなっている。この実施の形態では,後述するように,チャ
ンス目Aが停止する停止図柄予告が実行された場合よりも,チャンス目\nBが停止する停止図柄予告が実行された場合の方が,大当りとなる可能\
性(大当り信頼度)が高くなっている。このようにすることで,停止図
柄予告が実行されるときに,いずれのチャンス目が停止したかに遊技者\nを注目させることができ,遊技の興趣が向上する。」(【0247】),「ま
た,図35(B)に示す決定割合では,チャンス目Aが停止する擬似連
予告パターンYP1−1の擬似連予\告演出が実行された場合よりも,チ
ャンス目Bが停止する擬似連予告パターンYP1−2の擬似連予\告演出
が実行された場合の方が,可変表示結果が「大当り」となる割合(大当\nり信頼度)が高くなっている。このように,チャンス目の種別により大
当り信頼度が異なるので,遊技者が停止図柄に注目するようになり,遊
技の興趣が向上する。」(【0370】)との記載がある。上記記載から,
「チャンス目」(チャンス目A及びB)は,「飾り図柄」を構成する個々\nの数字ではなく,「数字の組合せ」であり,「数字の組合せ」に着目して
可変表示結果が「大当り」となる割合(大当り信頼度)に差を設けてい\nることを理解できる。
・・・
イ(ア) 引用文献2には,1)複数種類の遊技図柄を変動表示装置において変\n動表示させることで変動表\示遊技を行う従来の遊技機においては,「リー
チ状態」が発生した場合,例えば,遊技者の大当たり状態の発生に対す
る期待感を高めて,遊技の興趣を盛り上げるために,最後に停止状態と
なる変動表示部における遊技図柄の変動表\示速度を変化させたり,変動
表示部に表\示される遊技図柄の背景領域を利用してキャラクタ等による
演出表示を行ったりするのが一般的であるが,既に在り来たりのもので\nあり,それらの演出表示だけでは遊技者は遊技の興趣を得難くなってお\nり,また,未だ変動表示中の変動表\示部において変動表示される遊技図\n柄の中で特定の組合せ態様を成立し得ない遊技図柄の数を減少させて,
特定の組合せ態様が成立し易いような状態を演出表示することにより,\n遊技者の大当たり状態の発生に対する期待感を高めている遊技機もある
が,遊技図柄の数を減少させた状態で行われる変動表示の速度が高速で\nあると,遊技者が遊技図柄の数が減少していることを把握できないまま
遊技を終了してしまうおそれがあるため,変動表示の速度を低速にする\nのが一般的であるが,その場合には,遊技自体にスピード感がなくなり,
変化に乏しい面白みのないものとなり,遊技の興趣を得難いという問題
点があったことから,遊技者の遊技に対する興趣を高める上で斬新な変
動表示を行う遊技機が求められており,2)「本発明」の課題は,上記実
情に鑑み,遊技者の遊技に対する興趣を高めることが可能な遊技機を提\n供することを目的とすることにある旨の開示がある(【0002】ないし
【0004】)。
・・・
ウ 以上を前提に検討するに,前記ア及びイの認定事実によれば,引用発明と
引用文献2に記載の技術は,遊技の興趣の向上という課題が共通し,1回の
変動中に複数段階で演出態様を変化させるという共通の機能を有している\nものと認められるが,一方で,引用発明と引用文献2に記載の技術は,遊技
の興趣の向上のために着目する観点が相違すること(前記イ(イ)),引用発
明の「飾り図柄」は,「基本的態様を示す基本要素部」と「第一属性および
第二属性のいずれが設定されているかを示す属性要素部」の二つの要素部
を有する「識別図柄」であるとはいえず,引用発明の「飾り図柄」のうち
の「確変図柄」は,本願発明の「第一属性が設定された識別図柄」に相当
するものではなく,引用発明の「飾り図柄」のうちの「非確変図柄」は,
本願発明の「第二属性が設定された識別図柄」に相当するものではないこ
と(前記(3)イ)に鑑みると,引用文献1及び2に接した当業者が,数字の
組合せからなるチャンス目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似連予告\n演出の回数と背景画像の変化に着目し,この観点から,大当り信頼度が段
階的にステップアップしていくような演出を行う引用発明において,遊技
の興趣の向上のために,「一連の遊技図柄」に含まれる確変図柄の割合の大
きさに着目する引用文献2に記載の技術を適用して遊技図柄の確変図柄の
割合を変化させる構成とする動機付けがあるものと認めることはできな\nいし,引用発明に引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用する動
機付けがあるものと認めることもできない。
また,仮に引用発明に引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用
しようとした場合に,引用発明において相違点1ないし3に係る本願発明
の各構成をそれぞれどのように備えることになるのかを具体的に想到す\nることは,当業者にとって容易であるということはできない。
そうすると,本件審決の相違点1ないし3の容易想到性に関する前記判
断のうち,「当該「図柄群変化演出」において,遊技の興趣を向上させるた
めに,遊技図柄の確変図柄の割合を変化させる態様として,上記周知技術
の態様を採用して,非確変図柄を確変図柄に変更することにより,相違点
1ないし3に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得た」\nとの部分は,論理付けが不十分であって,採用することができないから,\n本件審決における相違点1ないし3の容易想到性の判断には誤りがある。
エ これに対し被告は,1)引用発明と引用文献2に記載の技術は,遊技者に
段階的に有利となる期待感を高めることで興趣を向上させるという点で
課題が共通し,1回の変動中に複数段階に演出態様を変化させるという点
で作用・機能も共通すること,2)擬似連変動を行うパチンコ機において,
図柄や画像の段階的な変化を仮停止後の再変動を契機に行うことは,広く
一般に周知の技術であること,3)引用文献2の【0074】の「前記一連
の遊技図柄に含まれる確変図柄の割合を変更させることが可能であれば\n如何なる方法であっても良い。」との記載は,引用文献2に記載の技術にお
いて,「図柄群変化演出」により遊技図柄(識別図柄)の確変図柄の割合を
変化させる方法について,実施例に例示した形態以外の他の周知の態様に
置換することを許容していることを示唆するものであり,当該他の周知の
方法の具体例として,本件周知技術である「通常図柄を確変図柄扱いにし
ていく図柄変化演出」が存在することに鑑みると,引用文献1及び2に接
した当業者は,引用発明における「1回の変動」における「擬似連」とし
てその各「仮停止」した後の「再変動」において,「図柄群変化演出」によ
り遊技図柄の確変図柄の割合が変化した後の遊技図柄を用いた変動を実
行する構成とし,当該「図柄群変化演出」において,遊技の興趣を向上さ\nせるために,遊技図柄の確変図柄の割合を変化させる態様として,本件周
知技術の態様(「変化前に表示装置において変動表\示されていた識別図柄
群には含まれていなかった新規の識別図柄となるように設定された図柄
群変化演出を,変化前の非確変図柄を消して替わりに新たな確変図柄を出
現させること」)を適用して,相違点1ないし3に係る本願発明の構成とす\nることを容易になし得たものである旨主張する。
しかしながら,前記ウで説示したとおり,引用発明と引用文献2に記載の
技術は,遊技の興趣の向上のために着目する観点が,引用発明においては,
数字の組合せからなるチャンス目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似
連予告演出の回数と背景画像の変化であるのに対し,引用文献2に記載の\n技術は,「一連の遊技図柄」に含まれる「確変図柄の割合」の大きさである点
において相違すること,引用発明の「飾り図柄」は,「基本的態様を示す基
本要素部」と「第一属性および第二属性のいずれが設定されているかを示
す属性要素部」の二つの要素部を有する「識別図柄」であるとはいえず,
引用発明の「飾り図柄」のうちの「確変図柄」は,本願発明の「第一属性
が設定された識別図柄」に相当するものではなく,引用発明の「飾り図柄」
のうちの「非確変図柄」は,本願発明の「第二属性が設定された識別図柄」
に相当するものではないことに照らすと,上記1)及び2)の点を考慮しても,
引用文献1及び2に接した当業者が,引用発明において,遊技の興趣の向
上のために,引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用して遊技図柄
の確変図柄の割合を変化させる構成とする動機付けがあるものと認める\nことはできない。
◆判決本文
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2021.04. 9
令和2(行ケ)10043 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月30日 知的財産高等裁判所
特許取消審決が取り消されました。争点は動機付けです。裁判所は課題および上限値が知られていたとはいえないと判断しました。
引用発明c−1は,粒子径分布が好適範囲に管理されていても,平均粒
子径から大きく逸脱する粗大粒子が存在する場合には,表示品位の低下や,光学フ\nィルムに欠点が生じる(段落[0005])ため,好適な粒子径を逸脱する粗大な
粒子の含有量が低レベルに低減された微粒子,及び,このような微粒子の製造方法,
並びにこの微粒子を含む樹脂組成物を提供するものであり(段落[0006]),
湿式分級と乾式分級とを組み合わせた方法により処理することで,粒径の好適範囲
から逸脱する粗大粒子や微小粒子を一層効率よく低減するものである(段落〔00
09〕)。
本件発明は,前記(1)アのとおり,架橋アクリル酸系樹脂粒子の揮発分が塗膜表\n面にムラなどを生じさせる結果,塗膜表面の傷付き性能\の低下が生じてしまうこと
を解決することを課題としているところ,甲2−3には,このような本件発明の課
題は現れていない。
また,前記(2)によると,合成樹脂粒子の製造については,水分量を低減させ,
残存モノマーを低減させることにより,その品質を向上させることが知られていた
ことは認められるが,前記(2)の各証拠から,本件発明のように,粒子中の揮発分
が表面ムラの発生や,塗膜表\面の傷付き性低下などを生じさせていたこと(本件明
細書の段落【0005】)という課題や,この課題を解決するために,加熱減量を
減ずるという構成を採用することが,本件優先日当時,当業者に知られていたと認\nめることはできないし,まして,本件発明の「加熱減量のす.5%」が当業
者に知られていたと認めることはできない。
そして,他に,上記の点について動機付けとなる証拠が存するとは認められない
から,甲2−3によって,相違点c−1を容易に想到することができたと認めるこ
とはできず,本件発明1は,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
被告は,合成樹脂粒子の技術分野において,粒子の残存モノマー,水分などの揮
発分が存在することに起因して,何らかの問題が発生する場合に,当該揮発分の量
を一定量以下に低減化させることは,一般的な共通課題であるから,本件発明1は,
引用発明c−1から容易想到であると主張するが,被告の上記主張を採用すること
ができる証拠がないことは,既に説示したところから明らかである。
(4) 以上によると,本件発明1が,当業者が容易に発明をすることができたも
のであるとする本件決定の判断に誤りがある。
そして,本件発明1は,当業者が容易に発明をすることができたものでないから,
本件発明4,8も,当業者が容易に発明をすることができたものではないし,さら
に,本件発明9及び本件発明10も,当業者が容易に発明をすることができたもの
ではない。
◆判決本文
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2021.03.19
令和2(行ケ)10075 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年3月11日 知的財産高等裁判所
進歩性違反有りとした異議決定が動機付け無しとして取り消されました。
甲1発明及び甲3記載事項は,共に,弁当包装体という技術分野に属す
るものであると認められる(甲1の段落【0001】,甲3の段落【0017】)。
しかし,甲1発明は,熱収縮性チューブを使用した弁当包装体について,煩雑な
加熱収縮の制御を実行することなく,包装時の容器の変形やチューブの歪みを防ぎ,
また,店頭で,電子レンジによる再加熱をした際にも弁当容器の変形が生じること
を防ぐことを課題とするものである(甲1の段落【0003】,【0004】)のに対
し,甲3に記載された発明は,ラベルを構成する熱収縮性フィルムについて,主収\n縮方向である長手方向への収縮性が良好で,主収縮方向と直交する幅方向における
機械的強度が高いのみならず,フィルムロールから直接ボトルの周囲に胴巻きした
後に熱収縮させた際の収縮仕上がり性が良好で,後加工時の作業性の良好なものと
するとともに,引き裂き具合をよくすることを課題とするもの(甲3の段落【00
07】,【0008】)である。
そして,上記課題を解決するために,甲1発明は,非熱収縮性フィルム(21)
と熱収縮性フィルム(22)とでチューブ(20)を形成し,熱収縮性フィルム(2
2)の周方向幅はチューブ全周長の1/2以下である筒状体であり,熱収縮性フィ
ルム(22)の熱収縮により,弁当容器の外周長さにほぼ等しいチューブ周長に収
縮して弁当容器に締着されてなるものとしたのに対し,甲3に記載された発明の熱
収縮性フィルムは,甲3の特許請求の範囲記載のとおり,各数値を特定したもので
ある。
これらのことからすると,甲1発明と甲3に記載された発明は,課題においても
その解決手段においても共通性は乏しいから,甲3記載事項を甲1発明に適用する
ことが動機付けられているとは認められない。
イ これに対し,被告は,甲1発明と甲3記載事項は,熱収縮という作用,
機能が共通する旨主張するが,熱収縮は,通常,弁当包装体が持つ基本的な作用,\n機能の一つにすぎないことを考慮すると,被告の上記主張は,実質的に技術分野の\n共通性のみを根拠として動機付けがあるとしているに等しく,動機付けの根拠とし
ては不十分である。\nまた,被告は,甲1発明と甲3記載事項とでは,ポリエステルフィルムを用いて
いる点が共通する旨主張するが,包装体用の熱収縮性フィルムを,ポリエステルと
することは,本件特許の出願前の周知技術(甲1の段落【0010】,甲3の【請求
項7】,段落【0003】,甲6〔特開2008−280371号公報〕の段落【0
001】)であると認められ,ポリエステルは極めて多くの種類があること(乙5)
からすると,材料としてポリエステルという共通性があるというだけでは,甲1発
明において,熱収縮性フィルムとして,甲3記載事項で示される熱収縮性フィルム
を適用することに動機付けがあるということはできない。
ウ 以上によると,甲1発明において,熱収縮性フィルムとして,甲3記載
事項で示される熱収縮性フィルムを適用する動機付けがあると認めることはできな
い。
したがって,甲1発明及び甲3記載事項に基づいて,相違点2に係る本件発明2
の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。\n
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2021.03.12
令和1(ネ)10074 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和3年2月10日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
CS関連発明についての侵害事件で、知財高裁(3部)は、技術的範囲に属するが無効理由ありと判断しました。1審は一部の構成要件の非充足でした。\n
前記(ア)bのとおり,インタ−ネット広告配信の技術分野において,
同じ広告を必要以上に見せることにより起きる「バナ−バ−ンアウト」
(広告に反応がなくなる状態)を防ぐために,利用者一人一人に対する
広告配信の回数をコントロ−ルすることは周知技術であった。
乙5発明は,インタ−ネットにおける広告配信という,上記技術と共
通する技術分野に属する。そして,乙5発明は,「モバイル・ウェブ・
クライアントによりウェブにアクセスしているユ−ザ−に対する広告の
効力を高めること」(乙5【0011】)を目的としており,広告の効
力を高めるという課題は,上記周知技術の課題と共通する。そのため,
乙5発明に,技術分野及び課題が共通する上記周知技術を組み合わせる
ことには動機付けがあるものと認められる。
そして,乙5発明において,特定の広告オブジェクトについて各ユ−
ザ−に配信する回数を1回に制限するためには,ウェブ・サ−バが,受
信したモバイル・ウェブ・クライアントの位置情報と広告オブジェクト
(広告情報)に関連付けられた位置情報が一致したことにより(前記ア
(イ)b4)〔本判決74頁〕)一度供給した広告オブジェクト(前記ア(イ)
b5)〔本判決75頁〕)を,その後,上記モバイル・ウェブ・クライア
ントの位置情報と広告オブジェクト(広告情報)に関連付けられた位置
情報が再度一致しても,上記モバイル・ウェブ・クライアントに送信し
ないようにすればよいことは,明らかである。
したがって,乙5発明に,特定の広告を各利用者に配信する回数を1
回に制限するという周知技術を適用することができたものと認められる。
そうすると,乙5発明に,特定の広告を各利用者に配信する回数を1
回に制限するという周知技術を適用し,構成要件E(「広告情報管理サ\n−バが,無線通信装置が一旦指定地域の外に出た後再び指定地域内に戻
った場合であっても,指定地域内にとどまり続けた場合であっても,同
じ広告情報を無線通信装置に送信しないこと」を特徴とする無線通信サ
−ビス提供システム,前記2(1)ア(ア)〔本判決48頁〕)を容易に想到
することができたものと認められる。
エ 控訴人の反論について
控訴人は,一般的に,広告は目に触れる回数が多ければ多いほど効果が
あるので,乙5発明は,広告情報が関連付けられた位置情報及び時刻と一
致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対し,
可能な限り長い時間,繰り返し広告を表\示することを目的としており,回
数は無制限で広告情報を配信する発明であるとし,広告の配信回数を制限
するという公知技術又は周知技術を乙5発明に適用することには阻害事
由があると主張する(前記第3の4(2)イ(イ)b(b)〔本判決25頁〕)。
しかしながら,前記ウ(ア)b〔本判決83頁〕のとおり,インタ−ネッ
ト広告配信の技術分野において,本件特許の出願時(平成12年9月5日)
には,同じ広告を必要以上に見せることにより起きる「バナ−バ−ンアウ
ト」(広告に反応がなくなる状態)を防ぐために,利用者一人一人に対す
る広告配信の回数をコントロ−ルすることは周知技術であったから,本件
特許の出願時において,一般的に,広告は目に触れる回数が多ければ多い
ほど効果があると認識されていたとは認められない。そして乙5発明は,
広告オブジェクト(広告情報)が関連付けられた位置情報及び時刻と一致
する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対して
広告オブジェクト(広告情報)を配信することにより広告の効果を高める
ものであると認めることはできるが(乙5【0011】,【0012】【0
017】),乙5には,広告オブジェクト(広告情報)が関連付けられた
位置情報及び時刻と一致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェ
ブ・クライアントに対し,可能な限り長い時間,繰り返し広告を表\示する
ことが広告の効力を高めることである旨の記載はなく,かえって,広告の
繰り返しは,その効果を減ずるという認識を前提とする上記周知技術が存
在したことからすると,広告の繰り返しによって,その効力を高めること
が乙5発明の唯一の目的であったということはできない。したがって,広
告の配信数を制限することにより広告の効果を高めることを乙5発明が
排斥するものであったと認めることはできないから,広告の配信回数を制
限するという公知技術又は周知技術を乙5発明に適用することに阻害事
由があるとは認められず,控訴人の上記主張は,採用することができない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆平成30(ワ)7123
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2021.02.16
平成31(行ケ)10041 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年2月4日 知的財産高等裁判所
審決は進歩性違反無しとして無効請求を棄却しました。知財高裁も同じ判断です。
本件発明6は,貫通孔に関し,開孔率が3.07%以上であって,深さが
100〜2000μmであり,50個〜400個/cm2の密度で存在し,開
口面積が直径280〜1400μmの円形であるとの発明特定事項(相違点
6B)を有するところ,前記1(2)のとおり,第1表面のシート材のこの貫通\n孔は,創傷から滲み出した滲出液を貯留し,創傷面との間や上記の貫通孔内
などに滲出液を保持して湿潤環境を良好に維持するものでありながら,その
貫通孔は上記の第1表面側から第2表\面側への液体の透過を許容して,創傷
部位に過剰の滲出液を保持することがないという技術的意義を有するものと
認められる。
これに対し,甲1の発明の詳細な説明には,「被覆層下面側の少なくとも傷
接触表面は疎水性を有する。」(【0028】), 「 次に,液体の移動について
述べる。被覆層のこの疎水性の表面は,吸収層へ体液などの液体が移動し得\nるように形成される。被覆層の下面側を液体透過性とするためには,メッシ
ュ,穿孔フィルム等のプラスチックシートや,編布,織布,不織布等の液体
透過性の繊維状シートを使用することができる。被覆層に疎水性樹脂層を形
成する場合は,被覆層の液体が移動し得る孔を塞がないように疎水性樹脂層
を塗工するか,疎水性樹脂層を塗工した後に疎水性樹脂層ごと被覆層を打ち
抜けば良い。」(【0029】),「 次に,吸収層について述べる。吸収層は,セ
ルロース系繊維,パルプ,高分子吸水ポリマー等の吸水性の高い材料を単独
又は併用して使用することができ,必要とされる吸収量にあわせてこれらの
量を調整すればよい。特に,水吸収時にゲルを形成する物質を含ませること
が好ましく,このようにすることで,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促
進することができる。」(【0034】)との記載がある。これらの記載によれ
ば,甲1発明においては,被覆層を貫通する孔60は,傷からの体液を吸収
層へ移動させるようにする機能を有するものであり,創傷を湿潤状態に保ち,\n傷の治癒を促進することができるのは,必要とされる吸収量にあわせて材料
を調整し,特に水吸収時にゲルを形成する物質を含ませることが好ましい吸
収層によってであり,被覆層を貫通する孔の機能によるものではないと理解\nすることが相当であり,甲1の発明の詳細な説明には,被覆層20に設けら
れた孔60に創傷部位からの滲出液を保持し,創傷面の湿潤状態を保つこと
についての記載や示唆はない。
また,甲7には,甲1発明の被覆層に相当するところの,多数の凸部及び
その周囲に形成される凹部を有し,凸部には厚さ方向に貫通する孔を有する
樹脂製のシート材からなる第1層と水を吸収保持可能な第2層の順に積層さ\nれてなる創傷被覆材が開示されており(【0010】,【0014】),この創傷
被覆材は,創傷部と第1層の凹部との間に滲出液を貯留する空間が形成され
ることにより,創傷部から流出する滲出液を保持し,創傷部の湿潤状態を保
持し,滲出液が多くなると,第1層の凸部に形成された孔を通して第2層の
吸収層に吸収されることが開示されている(【0012】,【0024】)。しか
し,甲7の創傷被覆材は,「 第1シート材は,創傷部と凹部(6)との間に滲
出液の貯留空間を形成する。これは,創傷面と第1層との間における前記貯
留空間に,創傷部からの滲出液を保持することにより創傷部の湿潤状態を保
持できるという点で優れている。また,第1シート材は滲出液が多くなると,
凸部(5)に形成された貫通孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させるこ
とができるため,滲出液が面内方向に広がるのを防止するという点でも優れ
ている。」(【0024】)との記載があるように,創傷部と凹部(6)との間
に滲出液の貯留空間を形成し,創傷部の湿潤状態を保持するものであり,貫
通孔(4)については,「滲出液が多くなると,凸部(5)に形成された貫通
孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させることができる」という機能を果\nたすものである。
そうすると,甲7の貫通孔は,そもそも創傷面からの滲出液を貯留する機
能を有しないから,甲7に記載された貫通孔の開孔率,深さ,密度,直径に\n関する技術的事項を甲1発明に適用しても,第1表面のシート材に創傷から\n滲み出した滲出液を貯留するための貫通孔を設ける本件発明6に想到するこ
とができないし,また,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促進することが
できるのが孔の機能によるものではない甲1発明に甲7に記載された発明を\n適用する動機付けもない。
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2021.02.16
令和2(行ケ)10001 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年2月8日 知的財産高等裁判所
異議申立で進歩性無しとして取り消されましたが、知財高裁は動機付け無しとしてこれを取り消しました。
(ア) 相違点1は,引用例1発明の共重合体が,本件発明とは異なり,d
成分を構成モノマーとして含まないというものであるところ,上記(1)
ア(イ)bのとおり,甲7文献には,第1成分(a成分)及び第2成分(b
成分)又はそのいずれか(特に第1成分)と共重合させる第3成分とし
て,「架橋性の官能基(エポキシ基,水酸基,アミド基及びN−メチロー\nルアミド基の少なくとも1種)を有するもの」が挙げられている。
そこで,引用例1発明における第3成分として,エポキシ基を有する
モノマー(c成分)及び水酸基を有するモノマー(d成分)の2種を併
用することを,当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。
(イ) まず,上記(1)ア(ア),(イ)a及びdのとおり,引用例1発明は,可
塑化ポリ塩化ビニルシート上に積層して使用するのに好適な接着剤組成
物に関する発明であり,共重合体中のカルボキシル基の10%以上をア
ルカリ金属と反応(中和)させることにより,耐ガソリン性及び耐油性\nを向上させることを目的とするものである。
そうすると,化粧シートの粘着剤層に用いる粘着剤組成物用の化合物
の発明である本件発明と引用例1発明とでは,技術分野や発明が解決し
ようとする課題が必ずしも一致するものではないから,もともと引用例
1発明に本件発明の課題を解決するための改良を加える動機付けが乏し
いというべきである。
(ウ) また,上記(1)ア(イ)bのとおり,甲7文献には,第3成分として選
択し得る4種のモノマーの例示として8つのモノマーが挙げられてい
るほか,4種のモノマーの1種のみ又は2種以上を併用して第1成分と
共重合させることができる旨が記載されている。そうすると,引用例1
発明における第3成分は,上記の各モノマーのうち1種のみを選択する
場合のほか,2種ないし4種のモノマーを併用する場合もあり得るとい
うことになるから,その組合せは,異なる官能基に属するモノマーを併\n用する場合に限ったとしても,被告が主張する6通りにとどまるもので
はない。
そして,証拠(甲7)によれば,甲7文献には,エポキシ基を有する
モノマー(c成分)と水酸基を有するモノマー(d成分)を組み合わせ
た合成例は記載されておらず,また,d成分を構成モノマーとして含む\nことによる効果等に関する具体的な記載もされていないものと認められ
る。そうすると,甲7文献には,引用例1発明の技術思想として,複数
の組合せの中からエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有するモノ
マーの2種を選択すべきである旨や,水酸基を有するモノマーを選択す
ることによって特定の効果が得られる旨が開示されているものとはいえ
ない。
これらの事情を併せ考慮すると,甲7文献に接した当業者が,引用例
1発明の第3成分として,複数の組合せの中から敢えてエポキシ基を有
するモノマー及び水酸基を有するモノマーの2種を選択する理由に乏し
いというべきである。
(エ) 以上のとおり,本件発明と引用例1発明とでは技術分野や発明が解
決しようとする課題が必ずしも一致するものではないから,もともと引
用例1発明に本件発明の課題を解決するための改良を加える動機付け
が乏しいことに加え,甲7文献の記載内容からすると当業者が複数の組
合せの中から敢えてエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有する
モノマーの2種を選択する理由に乏しいことからすれば,甲7文献に接
した当業者において,相違点1に係る本件発明の構成に至る動機付けが\nあったということはできない。
したがって,引用例1発明において,構成モノマーとしてd成分を含\nませることを,本件出願時における当業者が容易に想到し得たというこ
とはできない。
・・・
(3) 相違点2の容易想到性
上記(2)のとおり,相違点1について容易想到であるということはできな
いが,事案に鑑み,相違点2の容易想到性についても検討する。
ア 検討
(ア) 相違点2は,(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するモノマ\nーの全量を100質量%としたときのb成分の配合量b及びc成分の配
合量cの値が,本件発明は「10≦b+40c≦26(但し0.05≦
c≦0.45)」であるのに対し,引用例1発明の共重合体においてはc
が0.5,b+40cが26.8であるというものである。
そこで,引用例1発明における上記b及びcの値を変更し,本件発明
における数値範囲内に調整することを,当業者が容易に想到し得たか否
か否かについて検討する。
(イ) まず,上記(2)ア(イ)のとおり,本件発明と引用例1発明とでは技術
分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではない
というべきである。
(ウ) また,上記(1)ア(イ)fのとおり,引用例1発明の実施例には,引用
例1発明における第3成分を,N−メチロールアクリルアミドからアク
リルアミドに量比を変えることなく置き換えた場合に,ピール(g/2
cm)が「1025FA」から「675AF」になり(なお,「ピール」
とは,剥離に要する力をいう(甲7)。),凝集力が「ずれ0.6mm」か
ら「ずれ16mm」になった例が示されている(表−8の実施例6,7)。\nこのことからすれば,架橋性官能基であるエポキシ基,水酸基,アミド\n基及びN−メチロールアミド基は,その種類に応じて異なる粘着力や凝
集力を示すものと考えられるから,各モノマーは,粘着力や凝集力の点
で等価であるとはいえないというべきである(なお,表−8の実施例7\nにおける凝集力の数値(「ずれ16mm」)については,他の実施例にお
ける数値と比較すると,「ずれ1.6mm」の誤記である可能性もあると\nいえるが,誤記であったとしても,実施例6とは3倍弱の違いが生じて
いるのであるから,結論を左右しない。)。
そうすると,当業者において,各モノマーを同量の別のモノマーに置
き換えたり,水酸基を有するモノマー(d成分)を導入した分だけグリ
シジルメタクリレート(c成分)の配合量を減少させて第3成分全体の
配合量を維持したりすることが,自然なことであるとか,容易なことで
あるなどということはできない。
(エ) さらに,上記(1)ア(ア)によれば,引用例1発明においては,第3成
分(グリシジルメタクリレートはこれに当たる。)を第1成分及び第2成
分の合計量100重量部に対して0.5〜15重量部とするとされてい
るから,第1成分ないし第3成分の合計量を100質量%としたときの
第3成分の配合量は,0.5〜13.0質量%となる(0.5/(10
0+0.5)×100〜15/(100+15)×100)。
そうすると,引用例1発明において,グリシジルメタクリレートの配
合量を本件発明における数値範囲内である0.45質量%以下とするた
めには,第3成分の配合量の下限値とされている値である0.5質量%
を下回る量まで減少させる必要があるところ,甲7文献の記載をみても,
このような調整を行うべき技術的理由を見いだすことはできない。
◆判決本文
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2021.01.29
令和2(行ケ)10066 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和3年1月14日 知的財産高等裁判所
知財高裁(2部)は,進歩性なしとした審決について,請求項2,3については動機付けがないとして,取り消しました。
本件審決は,甲1文献には甲1文献記載技術的事項2,すなわち,「2軸式ヒンジ
において,第1回転軸11と第2回転軸12とを平行状態で互いに回転可能となる\nように連結する,一対の支持片511,512の間に,第1位置制限カム521,
第2位置制限カム522及び一対の支持片511,512に対し,両側の短軸53
4により揺動可能である切換片53を設けることにより,第1回転軸11と第2回\n転軸12を交互に回転させるようにする」という技術事項が記載されているところ,
甲2発明において,「接続部材3」を一対とすれば,第1回転軸11及び第2回転軸
21をより安定して平行状態で互いに回転可能に支持できることになるとして,甲\n2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用して,甲2発明の相違点Aに係る構成を\n本件発明1の構成とすることは容易であると判断し,被告も同様の主張をする。\n
しかし,前記2(2)のとおり,甲2文献には,「本考案で開示されている開閉が安定
した2軸ヒンジは,軸スリーブ4及び当該軸スリーブ4を収容するハウジング5を
更に含む。当該軸スリーブ4は,当該接続部材3に接続される接続板41と,当該
接続板41に設置され,それぞれ当該第1回転軸11と当該第2回転軸21とが設
置される第1嵌接部42及び第2嵌接部43とを有する。当該ハウジング5は,収
容空間51及び当該収容空間51に連通する開口52が設けられ,当該軸スリーブ
4と当該接続部材3とを収容し,当該接続板41と当該ハウジング5とに,相互に
対応してガイド凸条411とガイド凹溝53とが設けられ,当該ハウジング5の収
容空間51に配置されるように当該軸スリーブ4をガイドする。」(段落【0016】)との記載があり,同記載と甲2文献の【図2】からすると,甲2発明に係るヒンジ
は,接続部材3に接続される接続板41と,同接続板41に設置され,それぞれ第
1回転軸11及び第2回転軸21とが設置される第1嵌接部42及び第2嵌接部4
3とを有する軸スリーブ4並びに同軸スリーブ4を収容するハウジング5を備えて
いることが認められ,同部材により,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定し
て平行状態で回転可能に支持できるから,甲2発明においては,甲1文献記載技術\n的事項2を適用する必要はない。
また,前記3(1)のとおり,甲1発明における支持片512は,第1自動閉合輪2
13・第2自動閉合輪223と共に自動閉合機能を発揮する部材を構\成すること,
第1位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイ
ドブロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝512c
を備えて,切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していること,第1トルク装\n置21及び第2トルク装置22は,第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223
に接して設けられ,第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223を圧迫しており,
この作用により,上記の自動閉合機能が発揮されることが認められるから,これら\nの部材(第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512,切換片5
3)は,機能的に連動しており,一体的に構\成されているといえる。また,甲1発
明における支持片511は,第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412と一
体となってストッパ機構を構\成すること,第1ストッパ輪411と第1ストッパ凸
点511aとが互いに干渉すると,切換え片53が揺動し,第1位置制限ブロック
531が第1位置制限口521a内に嵌入して,第1回転軸11が回動不能となり,\n第2回転軸12のみが回動可能となるように制限し,第2ストッパ輪412と当該\n第2ストッパ凸点511bとが互いに干渉すると,切換え片53が揺動し,第2位
置制限ブロック532が第2位置制限口522a内に嵌入して,第2回転軸12が
回動不能となり,第1回転軸11のみが回動可能\となるように制限すること,第1
位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイドブ
ロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝511cを備
えて,切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していることが認められるから,\nこれらの部材(切換片53,第1位置制限カム521・第2位置制限カム522,
支持片511,第1ストッパ輪412・第2ストッパ輪411)も,機能的に連動\nしており,一体的に構成されているといえ,さらに,これらの部材と上記の第1自\n動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512も一体的に構成されている\nといえる。そして,上記のとおり,甲2発明は,軸スリーブ4及びハウジング5を
備えることにより,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定して平行状態で回転
可能に支持できる構\成を有しており,甲1文献記載技術事項2を適用する必要がな
いことを考慮すると,上記の一体的に構成された部材から,支持片511及び支持\n片512のみを取り出して,一対の支持片を有するという構成を甲2発明に適用す\nる動機付けはないというべきである。
また,前記(1)のとおり,甲2発明の接続部材3は,第1位置制限部113に当接
して第1回転軸11の回転を制限する第1位置決め部35と,第2位置制限部21
3に当接して第2回転軸21の回転を制限する第2位置決め部36とを有するので
あるから,甲2発明は,甲1発明のストッパ機構に相当する部材を備えていると認\nめられ,また,前記(2)のとおり,甲2発明は,選択的回転規制手段を有していると
ころ,甲1発明の上記の一体的に構成された部材は,ストッパ機構\と選択的回転規
制手段を含むものであるから,甲1発明の上記の一体的に構成された部材を甲2発\n明に適用しようする動機付けもないというべきである。
したがって,甲2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用する動機付けはないと
いうべきであり,甲2発明の相違点Aに係る構成を本件発明2の構\成とすることが
甲1文献により動機付けられているということはできない。
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