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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

動機付け

令和4(行ケ)10021  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月16日  知的財産高等裁判所

「吹矢の矢」の特許についての審決取消請求事件です。特許庁が無効理由無しとした審決が維持されました。侵害訴訟については1審は侵害と認定しましたが、知財高裁は技術的範囲に属しないと判断しています。

ア 事案の内容に鑑み、まず、相違点2−1−cに関する容易想到性について検 討する。
イ 前記4(1)及び(2)によると、甲2及び3には、前記第2の3(3)ア(ア)aのよ うに本件審決が認定する「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方 に延びる円柱部とからなるピンを備えた吹矢に使用する矢」(甲2・3技術事項) が記載されていると認められるが、それら甲2及び3に記載された矢は、いずれも、 (円錐形の)フィルムを備えたものではない。 また、前記4(3)によると、甲4において、重りの釘2)は頭部を矢の後方(プラス ティックフィルム1)が巻かれた側)に位置しており、フィルムに釘の円柱部全てが 差し込まれているものではなく、フィルムの先端部に重りの釘2)の頭部が接続され ているものでもない。 したがって、仮に、甲1発明に甲2〜4を適用しても、相違点2−1−cに係る 本件発明の構成には至らないから、甲2〜4は相違点2−1−cについての容易想\n到性を基礎付けるものではない。
ウ(ア) これに対し、甲5発明の矢については、釘4の円柱状部分全てがスカート 部6に差し込まれて固着されるとともに、スカート部6の先端部に連続して釘4の 丸い頭部4aが接続されているといえる。
(イ) しかし、甲1発明の矢は、矢軸5の後方に中空円錐状の羽根部6が篏合固着 されており、矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着することについて、甲1に これを示唆し、又は動機付ける記載があるとは認められない。 この点、甲1において、矢じりは金属製とされ、標的台は台板と紙とクッション ボードから成るものとされ、クッションボードについては所定厚さ(約20mm)が 明記され、全長約10cmの吹矢の約5分の1程度を矢じり4及び矢軸5が占める第 3図が掲載され、吹矢の当たった状態を示すとされる第6図においては矢じり4の 先端が台板8に接している状態が示されていることを考慮すると、甲1において吹 矢が標的面に当たり「小気味の良い音」を発するについては、矢じり4の先端が台 板に到達することが少なからず寄与していることが窺われる。それにもかかわらず、 仮に矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着した場合、第6図のように矢じり4 の先端が台板に到達するかには疑問を差し挟む余地がある。このことは、甲1発明 の矢について、矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着するという構成を採用す\nることを阻害する事情となり得るところである。
(ウ) そうすると、甲1発明に甲5発明を適用することについては、示唆も動機付 けもなく、むしろ阻害要因があるともいえるから、甲1及び5に基づいて、当業者 において相違点2−1―cに係る本件発明の構\成とすることが容易になし得たもの とはいえない。
エ したがって、相違点2−1のうちその余の点について判断するまでもなく、 相違点2−1に係る本件発明の構成が容易想到であるとはいえない。\n
オ 原告の主張について
(ア) 原告は、羽根部分がピンから外れ、又は前側(円頭形部分側)にフィルムが ずれてしまうことから、甲1に接した当業者であれば、甲5に開示のようにフィル ムに円柱部を全て差し込む構成とする必要があり、動機付けがある旨を主張する。\n原告の上記主張は、動機付けとして、甲1や甲5の記載を根拠とするものではな く、物理法則ないし技術常識を指摘するものと解されるところ、原告が上記主張の 根拠として提出する実験結果報告書(甲12)については、実験に用いられた吹矢 の矢の素材や寸法等も明らかでなく(なお、甲1においては、羽根は、紙又は合成 樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより形成された最大外径10〜12mmの軽量 なものとされ、矢の全長は約10cmであるとされている。)、甲1発明の矢を適切 に再現した上でされた実験であることが担保されているとはみられない。また、そ の内容に沿わない被告提出の報告書(乙1)も存在する。さらに、接着剤の詳細に ついても不明であり、より強固な接着力を有する接着剤を選択するという方法が存 在しないことも裏付けられていない。したがって、前記報告書(甲12)に基づい て原告の主張するような動機付けがあると認めることはできず、その他、甲1発明 について矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着するという構成を採る動機付け\nとなり得るような技術常識等を認めるべき証拠もない。 したがって、原告の上記主張は前記イ〜エの判断を左右するものではない。
(イ) 原告は、1)矢軸の途中にフィルムを巻き付ける構成とした場合、ピンの軸が\nフィルムの中央を通るように固定することが困難となり、上下方向で重心のブレを 生じ、命中精度に影響し得ること、2)上記構成とすると、吹矢を量産する際に差し\n込む部分の長さを一定にするための位置決めが困難であるのに対し、フィルムに円 柱部を全て差し込む構成とすると、同じ長さの吹矢を容易に製造することが可能\と なるといった点を踏まえても、甲1発明に甲5発明を適用する動機付けがあると主 張するが、命中精度や製造の容易性に関して甲1に示唆や動機付けというべき記載 は認められず、他に上記1)及び2)の点に関して甲1発明に甲5発明を適用する動機 付けとなり得るような技術常識等を認めるべき証拠もない。

◆判決本文

侵害訴訟の控訴審はこちら。

◆令和3(ネ)10049等

1審はこちら。

◆平成31(ワ)2675

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令和3(行ケ)10165 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月30日  知的財産高等裁判所

 動機づけなし・阻害要因ありとして、進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。

ア 本件発明1と甲2発明1との相違点1ないし4は、前記第2の3(3)イの とおりであるところ、これらはいずれも本件発明1における伸縮部を備え ているか否かをその内容とするものといえる。 そこで、以下、本件特許が出願された当時の当業者が、甲2発明1、甲 4発明及び甲5公報ないし甲7公報から認定される周知技術に基づいて、 甲2発明1について上記伸縮部を備えることを容易に想到し得たか否か について検討する。
イ まず、主引用発明である甲2発明1について検討するに、甲2公報にお いて、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能なものとすることが記載又は示唆\nされているというべき記載は見当たらない。 また、前記(1)のとおり、甲2発明1は、盗難防止用連結ワイヤの一方を ドアノブや玄関周り固定物に接続し、他方を宅配容器本体に接続するもの であるところ、甲2公報の段落【0022】並びに図3及び図4の記載に よれば、甲2発明1の盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側のドアノブや建 物内部の玄関周り固定物に接続するものであるといえる。さらに、甲2公 報の段落【0022】及び図3の記載によれば、甲2発明1において、配 達物を収納していないときの形態の宅配容器本体をドアノブに掛ける際 には、宅配容器本体に備えられた「宅配容器取っ手」を使用することとさ れている。
このように、甲2発明1においては、配達物を収納していないときの形 態の宅配容器は、「宅配容器取っ手」を使用して玄関外側のドアノブに掛け られ、他方で、宅配容器に接続された盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側 のドアノブや建物内部の玄関周り固定物に接続することとなるのである から、同ワイヤは、これを可能とするのに十\分な長さを確保する必要があ るといえる。そうすると、配達物を収納していないときの形態における甲 2発明1においては、盗難防止用連結ワイヤの長さを、ドアの一部に吊り 下げられるように短縮する構成は採用し得ず、そのような構\成を採る動機 付けは存しないというべきである。
以上によれば、甲2発明1において、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能\nなものとすることは動機付けられないというべきである。なお、上記に照 らすと、甲2発明1においては、少なくとも相違点3に係る本件発明1の 構成を採ることについて、阻害要因が存するというべきである。\n

◆判決本文

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令和3(行ケ)10136等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月31日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(2部)は、進歩性判断における動機付けについて「当該構成を得るためにフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用しようとする動機付けはない」として、進歩性無しとした審決を取り消しました。

 前記1(2)のとおり、本件発明1は、溶融前の半田片をノズルの内壁及び端 子の先端に必ず当接させるとともに、溶融した半田片を必ず真球にならないまま端 子の上に載った状態で下方に移動しないように停止させ、ノズルからの熱伝導等に より半田片及び端子を十分に加熱し、これにより適正温度での半田付けを実現する\n結果、半田付け不良の防止という効果を奏するものである。これに対し、甲1には、 ランドに接地した糸半田が貫通孔の周壁から輻射熱、伝導熱及び対流熱により加熱 され、遜色なく溶解され、より的確な半田付けが可能になった旨の記載はみられる\nものの(段落【0023】及び【0042】)、溶融した半田が必ず真球にならな いまま停止すること、すなわち、溶融後も半田がノズルの内壁に当接し続けること により半田片及び端子が十分に加熱されることについての記載及び示唆はないから、\n甲1に接した当業者にとって、溶融した半田が必ず真球にならないとの構成が解決\nしようとする課題及び当該構成が奏する作用効果を知らないまま、当該構\成を得る ためにフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用しようとする動機付け はないものといわざるを得ない。
(6) なお、証拠(甲39)及び弁論の全趣旨によると、フラックスの含有量が 小さい半田を用いると、半田付け不良の原因になるものと認められる。
(7) 以上によると、使用する半田に含有されるフラックスの量についての記載 及び示唆がない甲1に接した当業者にとって、甲1発明においてフラックスの含有 量が1wt%の半田をわざわざ採用し、溶融した半田が必ず真球にならないとの構\n成を得ることが容易になし得たものであったと認めることはできず、その他、当業 者が甲1発明に基づいて溶融した半田が必ず真球にならないとの構成を得ることが\n容易になし得たものであったと認めるに足りる証拠はない。 なお、乙3(技術説明資料・17頁)には、甲1発明においてフラックスの含有 量が2wt%以下の半田を用いても必ず真球にならないとの構成を得ることができ\nる旨の記載があるが、半田が溶融した際に形成される球の直径を求めるに当たって は、フラックスの組成、半田の組成、半田の熱膨張、ノズルの熱膨張等の諸般の要 素につき詳細な検討が必要であるから、乙3が引用する甲33(原告の特許庁審判 長に対する回答書)の計算結果並びに残存するフラックスの影響及び半田の熱膨張 の影響のみを考慮することによっては、甲1発明においてフラックスの含有量が2 wt%以下の半田を用いた場合に必ず真球にならないとの構成を得るものと認める\nことはできない。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10131  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月22日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。原告は阻害要因ありを主張しましたが、「専門の技術者がこれを行うことを常に想定しているということはできない」としてこれを否定しました。

(3) 前記(2)の記載によると、甲4の「スクリーン保護膜30」が本件発明1の 「保護シート」に相当し、「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」が それぞれ本件発明1の「第2剥離部」及び「第1剥離部」に相当することは明らか である。そして、甲4の「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」は、 それぞれ「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」から、「スクリーン 保護膜30」の外側に延びるように設けられ、「第一の離型膜341」及び「第二 の離型膜342」を剥がす際に手で持つ部分であるから(段落【0025】、【0 026】、【図4】〜【図6】)、いずれも本件発明1の「延出部」に相当すると いえる。
ここで、甲4において「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」を設 けたのは、手で「第一の突起部343」又は「第二の突起部344」を持って、そ れぞれ「第一の離型膜341」又は「第二の離型膜342」を便利に剥がせるよう にするためである(段落【0025】)。そうすると、甲4に記載された発明とそ の属する技術分野を同じくする甲3−1発明(その内容は、前記第2の3(2)ア (ア)のとおり)においても、そのような利便性を図るため、甲4に記載された「第 一の突起部343」及び「第二の突起部344」の構成を適用して本件発明1の\n「延出部」を設けることは、本件優先日当時の当業者において容易に想到し得たこ とであると認められる。
(4) この点に関し、原告は、甲3−1発明に甲4に記載された「第一の突起部 343」及び「第二の突起部344」の構成を適用することには、阻害要因がある\n旨主張するが、以下のとおり、これを採用することはできない。
ア 原告は、まず、甲3−1発明はその貼付の対象として超大型のディスプレイ\nパネル(最低でも17インチのものであり、適するのは82インチのものであり、 更にそれより大きいものを含む。)を想定しており、その貼付を行うのは専門の技\n術者であるから、本件発明1の「延出部」のような部材は不要である旨主張する。 そこで検討するに、前記(1)のとおり、甲3には、甲3−1発明の光学フィルム を貼付する対象が「大型ディスプレイパネル」であり、「大型」とは17インチか\nら82インチ程度までのものをいう旨の記載がある(前記(1)イ、ケ等)。また、 特許請求の範囲においては、保護フィルムの貼付の対象となる大型ディスプレイパ\nネルが少なくとも17インチのものである旨の特定がされている(前記(1)ツ)。
さらに、実施例1においては、甲3−1発明の光学フィルムは40インチの大型液 晶テレビに貼付され、実施例2においては、甲3−1発明の光学フィルムは23イ\nンチのコンピュータディスプレイに貼付されている(前記(1)ソ及びタ)。これら\n甲3全体の記載を参酌すると、甲3の「要約」に、「この方法は、対角線208c m(82インチ)の可視領域を有するような大型ディスプレイパネルでの使用に適 している。」との記載があること(前記(1)ア)を考慮しても、甲3−1発明が8 2インチ程度の大型ディスプレイパネルのみをその貼付の対象としていると認める\nことはできず、甲3−1発明は、幅広い大きさの範囲(17インチないし82イン チ程度)のディスプレイパネルをその貼付の対象とするものであると認めるのが相\n当である。そして、17インチ程度の大きさのディスプレイパネルに光学フィルム を貼付することが専門の技術者でなければ行えないとみるべき事情もない。そうす\nると、甲3−1発明の光学フィルムの貼付については、専門の技術者がこれを行う\nことを常に想定しているということはできないから、原告の上記主張は、その前提 を欠くものとして失当である(なお、原告が主張する「把持部」(本件発明1の 「延出部」に相当する部材)は、甲4における「第一の離型膜341」及び「第二 の離型膜342」を剥がすのに便利な「第一の突起部343」及び「第二の突起部 344」と同様の機能を有するものであるところ(甲4の段落【0025】等参\n照)、甲4の「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」は、甲3―1発\n明の分離剥離ライナーである「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」に対 応するものである。専門の技術者であったとしても、分離剥離ライナーを剥がすた めに「把持部」を設けることは便利となるものであって、仮に、甲3−1発明の光 学フィルムがその貼付を専門の技術者が行うことを想定しているとしても、そのこ\nとから直ちに、甲3−1発明の光学フィルムにおいて、分離剥離ライナーである 「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」を剥がすのに便利な「把持部」を 設けることが不要になるわけではない。)。
イ 原告は、また、甲3−1発明の光学フィルムの貼付作業に利用できるように\n「把持部」を形成する場合、最低でも10cm程度の大きさ(これは、「把持部」 と「第1の部分38a」又は「第2の部分38b」が接する部分の長さをいうもの と解される。)が必要になるところ、そのような大きさの「把持部」が形成される と、甲3が想定する精度で貼付作業を行うことができなくなる旨主張する。\nしかしながら、甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を形成する場合、最低 でも10cm程度の大きさを必要とするとの原告の主張は、何ら客観的な根拠を有 するものではないし、上記アのとおり、甲3−1発明の光学フィルムは、17イン チのディスプレイパネルをもその貼付の対象とするものであるから、その場合にも、\n「把持部」を形成するのであれば最低でも10cm程度のものが必要であるという ことはできない(なお、原告の上記主張は、甲3−1発明の光学フィルムの貼付の\n対象として、82インチ程度の超大型ディスプレイパネルのみが想定されているこ とを前提とするものと解されるが、その前提が成り立たないことは、前記アのとお りである。)。したがって、原告の上記主張も、前提を誤るものとして失当である。 ウ 原告は、さらに、甲3−1発明の光学フィルムは、ディスプレイパネルの周 囲に大きな段差のあるフレームがあるような場合に使用されることを想定している ところ(甲3の図面)、そのような場合に「把持部」を形成すると、フレームと 「把持部」が干渉してしまい、甲3−1発明の光学フィルムの位置決めが不可能に\nなる旨主張する。
確かに、甲3の図面の中には、ディスプレイパネルの周囲にフレームがあり、段 差が生じていると見て取れるもの(図7a等)がある。しかしながら、実施例1に おいては、甲3−1発明の光学フィルムは大型液晶テレビに貼付され、実施例2に\nおいては、甲3−1発明の光学フィルムはコンピュータディスプレイに貼付されて\nいるところ(前記(1)ソ及びタ)、大型液晶テレビやコンピュータのディスプレイ\nパネルの周囲に必ず段差のあるフレームが存在するわけではないから、甲3−1発 明の光学フィルムが、常にディスプレイパネルの周囲に大きな段差のあるフレーム があるような場合に使用されることを想定しているということはできない。したが って、原告の上記主張も、その前提を誤るものとして失当である。
エ なお、原告は、実験報告書(甲28の3、甲36)を根拠に、甲3−1発明 の光学フィルムを巨大なディスプレイパネルに貼付する場合、「把持部」があると、\nかえって作業に支障を来す旨主張する。
しかしながら、上記実験において用いられたのは、82インチの光学フィルムの みであるところ、前記アのとおり、甲3−1発明は、常に82インチ程度の光学フ ィルムであることを前提としているわけではないから、82インチよりも小さいサ イズの光学フィルムを用いた実験を省略する上記実験は、17インチないし82イ ンチ程度といった幅広い大きさの範囲でディスプレイパネルに貼付することを前提\nとする甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を設けることの不都合さを示す実 験としては、十分なものではない。加えて、23インチのディスプレイパネル及び\n82インチのディスプレイパネルに貼付することのできる2種類の光学フィルムを\n用いた被告の実験結果(「延出部」を設けても貼付作業に支障を来さず、むしろ有\n用であったとするもの。乙1、2)にも照らすと、原告の上記実験結果によっても、 甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を設けると貼付作業に支障を来すことに\nなると認めることはできず、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。

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令和3(行ケ)10082  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年5月31日  知的財産高等裁判所

 引用発明では、本願発明と共通する課題が異なる別の手段によって既に解決されているので、組み合わせの動機付けがないとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。。

しかしながら、前記1 で検討したとおり、本願発明は、被覆層を除 去してコア電線を露出させる作業の作業性に関し、コア材の外周面に粉 体が塗布された従来のケーブルには、コア材を取り出す作業の際に粉体 が周囲に飛散し、作業性が低下してしまうという課題があったことから、 コア電線と被覆層との間に、コア電線に巻かれた状態で配置されたテー プ部材を備える構成とすることにより、テープ部材を除去することによ\nって容易にコア電線と被覆層とを分離することができるようにして、上 記課題を解決しようとする点に技術的意義を有するものである。 他方で、前記2 イで検討したとおり、引用発明は、線心の取り出し を容易に行うことができるようにすることを課題の一つとする発明で あり、この点で本願発明と課題を共通にするものといえるが、電源用線 心及び信号用線心の外周をシースで覆うのみの形で被覆する構成とす\nることによって上記課題を解決しようとするものであり、本願発明とは 課題を解決する手段を異にするものといえる。
このように、引用発明においては、本願発明と共通する課題が本願発 明とは異なる別の手段によって既に解決されているのであるから、当該 課題解決手段に加えて、両線心をテープ部材で巻き、その結果、両線心 とシースとの間にテープ部材が配置される構成とする必要はないという\nべきである。そして、引用発明に上記のような構成を加えると、線心を\n取り出そうとする際に、シースを除去する作業のみでは足りず、更にテ ープ部材を除去する作業が必要となることから、かえって作業性が損な われ、引用発明が奏する効果を損なう結果となってしまうものといえる。 加えて、甲1公報をみても、引用発明の効果を犠牲にしてまで両線心を テープ部材で巻くことに何らかの技術的意義があることを示唆するよう な記載は存しない。 以上によれば、引用発明に上記周知技術を適用することには阻害要因 があるというべきであるから、相違点3に係る「前記コア電線のみを巻 くテープ部材」という構成の意義について検討するまでもなく、本件原\n出願日当時の当業者が、引用発明及び上記周知技術に基づいて、相違点 3に係る本願発明の構成を容易に想到し得たものとはいえない。\n
イ 相違点4に係る容易想到性
相違点4に係る本願発明の構成は、相違点3に係る本願発明の構\成であ る「テープ部材」を含むものであるところ、上記アで検討したところによ れば、相違点4に係る「前記テープ部材上に形成された被覆層」という構\n成の意義について検討するまでもなく、本件原出願日当時の当業者が、引 用発明及び上記周知技術に基づいて、相違点4に係る本願発明の構成を容\n易に想到し得たものとはいえない。
ウ 相違点6に係る容易想到性
相違点6に係る本願発明の構成は、相違点3に係る本願発明の構\成であ る「テープ部材」を含むものであるところ、上記アで検討したところによ れば、本件原出願日当時の当業者が、引用発明及び上記周知技術に基づい て、相違点6に係る本願発明の構成を容易に想到し得たものとはいえない。\n
エ 相違点3、4及び6に係る被告の主張に対する判断
被告は、相違点3に関し、1)甲1公報には引用発明が簡素な構成を課\n題解決手段としたものであることについては何も記載されていない、2) 甲1公報に記載された電源用線心及び信号用線心の取り出しが容易に行 えるという効果は従来例と比較しての記載にすぎない上、線心がシース 内に埋め込まれている従来例及び線心をシースで覆う引用発明のいずれ が簡素な構成であるかは不明である、3)甲1公報に記載された実施例に ついて、両線心の外周がシースで覆われているのみであるとしても、甲 1公報には両線心の上に何らかの部材を介在させることを排除する記載 はないことを理由に、引用発明にテープ部材を介在させることについて、 原告が主張するような阻害要因があるとはいえない旨主張する(前記第 3の〔被告の主張〕3 エ)。
しかしながら、前記2 イで検討したとおり、引用発明は、線心の取 り出しを容易に行うことができるようにすることを課題の一つとする発 明であり、電源用線心及び信号用線心の外周をシースで覆うのみの形で 被覆する構成とすることによってこの課題を解決しようとするものであ\nるといえることからすれば、上記1)の主張は理由がないというべきであ る。 また、上記周知技術の適用が引用発明の効果に及ぼす影響については、 引用発明の構成を前提に検討すべきものであって、従来例と対比して検\n討すべきものではないから、上記2)の主張は理由がないというべきであ る。 さらに、甲1公報には、線心上に何らかの部材を介在させることを排 除する明示的な記載はないものの、上記アで検討したとおり、引用発明 における課題解決手段及びその効果を考慮すれば、引用発明に上記周知 技術を適用すると、線心の取り出しを容易に行うことができるようにす るという引用発明の効果を損なう結果となってしまうというべきである から、上記3)の主張も理由がないというべきである。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
 被告は、相違点4及び6に係る容易想到性についても縷々主張するが、 これまで検討したとおり、当業者が相違点3に係る本願発明の構成であ\nる「テープ部材」を容易に想到し得たものとはいえない以上、相違点4 及び6に係る本願発明の構成も容易に想到し得たものとはいえないから、\nいずれの主張も前記の判断を左右するものではないというべきである。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10055 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年3月28日  知的財産高等裁判所

 スマホの操作関連の発明について、公然実施発明から進歩性無しと判断した審決が維持されました。無効審判請求人(本件被告)はApple Japanです。

 公然実施発明と甲3発明1は、技術分野や作用機能を共通にし、甲3文献に接した当業者であれば、公然実施発明には、スリープ状態にお\nいてホームボタンを押してから認証を経てデバイスにアクセスできるま での一連の動作に関して、デバイスのホームスクリーン又はメニューを 表示する前に、本人認証のためにパスコードの入力を要求することは、パスコードが知られたり、パスワードを忘れたりするという、甲3発明\n1と共通の技術課題が存在することを想起するものといえ、公然実施発 明において、許可されていない人物がユーザの個人情報にアクセスし、 閲覧することを防ぐため、デバイス機能を有効にする前又はデバイスリソ\ースにアクセスする前の起動時に、デバイスが迅速にユーザを認証することを目的とした甲3発明1を適用する動機付けがあるといえる。
(イ) 原告は、前記第3の1(1)イ(イ)のとおり、公然実施発明では、本件 発明1のように、使用者識別機能を、使用者の操作以外の追加の操作をすることなく、実行するという技術思想は全くない旨主張するが、前記\n(ア)のとおり、甲3発明1に接した当業者であれば、公然実施発明が有 する技術課題及び甲3発明1の適用を想起するものといえ、原告の主張 する当初の技術思想の相違は、その後の技術適用の動機付けの有無と直 接関係するものとはいえないから、原告の上記主張は当を得ないという べきである。
また、原告は、公然実施発明において、ディスプレイがオンにされた 後に、更にディスプレイ上のスライダをドラッグすることで初めて認証 を実行することには、ユーザの誤操作(意図せざる操作等)による誤動 作を防止するという意義があるから、これを改変して本件発明1のよう に構成することは、公然実施発明の技術的意義・機能\を損なう旨の主張 もするが、甲3発明1の使用者識別機能を採用し、指紋によるユーザ認証をしても、認証に係る誤操作は防止できるから、公然実施発明の技術\n的意義・機能を損なうことにはならない。なお、仮に、原告がホーム画面の誤作動防止に係る機能\をも指摘しているとしても、そもそも本件発明1においては、ロック画面からホーム画面への移行の仕方については 何ら規定していないから、操作入力を行った使用者が正当な使用者と認 証された場合に、ディスプレイ上のスライダをドラッグすることで初め てホーム画面に移行する構成も本件発明1の構\成に含まれることにな り(現に本件明細書の図1等においてもスライダが表示されているところである。)、スライダを取り除く改変をしなければ本件発明 1 の構成に至らないわけではないから、原告の主張は前提を誤るものといえる。\nしたがって、原告の主張は、いずれにしても採用できない。
エ 公然実施発明に甲3発明1を適用した場合に、本件発明1の構成に容易に想到するかについて\n
(ア) 甲3発明1において、指紋による認証の結果を得るには一定の時間 を要することは、明らかである。また、公然実施発明に甲3発明1を適 用することで、ホームボタンを押下すると、起動によりディスプレイが オンになり、それと同時に指紋認証を行い(別紙4のA図右及びB図1 左)、認証が成功すれば、追加の操作を要することなく、更にホーム画面 に移行するという構成を得ることが可能\である(別紙4のB図1右)。 そして、本件発明1で特定されるロック画面は、「前記非活性状態の際 になされた前記活性化ボタンに対する使用者の操作に基づいて」「表示され」るものであって、ロックが解除されていない状態を表\示する機能以\n外は特定されていない。そうすると、公然実施発明に甲3発明1を適用 したものにおいて、ホームボタンの押下後、オンになったディスプレイ にホーム画面に移行する前に表示される画面も、客観的にロックが解除されていない状態を表\示するものであり、これを「ロック画面」ということができる。したがって、公然実施発明に甲3発明1を適用した場合、使用者によ る追加の操作なしに、指紋認識による使用者識別機能が、非活性状態からロック画面が表\示された活性状態への切り替えのための操作入力により行われるという、本件発明1の構成に容易に想到するということができる。\n
(イ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)aのとおり、甲3発明1においても、 ロックを解除するために画面上のスライダのドラッグ操作を受け付け る構成となっているから、公然実施発明に甲3発明1を組み合わせた場合には、当業者は、公然実施発明と甲3発明1の共通の技術思想をなす\n上記構成を残しつつ甲3発明1の指紋認証を行うことを想到することになり、ディスプレイが活性化された後にスライダのドラッグという追\n加の操作を要することになるから、本件発明1の構成とはならない旨主張する。しかし、前記イ(ア)aのとおり、甲3文献からは、ホームボタンの背 後にセンサを配置し、ユーザが当該ホームボタンを押下した時に、ユー ザからの明示的な入力を要求することなく、指紋による認証を行う構成も、甲3発明1として認定することができるのであるから、原告の主張\nは採用できない。
(ウ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)bのとおり、公然実施発明の構成においては、ロック状態の画面を表\示させ、その画面上に表示されるスラ\nイダがドラッグされたときに初めて、次のパスコードの入力画面に移行 し、パスコードを入力させて認証を行う、という一連の認証操作を行わ せるものであるから、公然実施発明の使用者識別機能に係る手順のうちロック状態の画面上でのスライダをドラッグする処理を排除するので\nあれば、ロック画面も用いない構成しか想到できない旨主張する。しかし、前記(ア)のとおり、「ロック画面」自体は、ロックが解除さ れていない状態を示す画面であり、スライダのドラッグ操作とロック画 面の表示を不可分一体のものとして捉えなければならない理由はないから、原告の主張は採用できない。\n
(エ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)cのとおり、公然実施発明のロック 画面は、パスコードの入力における意図せぬ誤操作を防止する意義・機 能があるとした上で、甲3発明1の「シームレス」に使用者識別機能\を 行う構成とは両立しない旨主張する。しかし、公然実施発明において、甲3発明1の使用者識別機能\を採用し、ロック解除する時に指紋によるユーザ認証をしても、偶発的な誤操作等は防止できることは前記ウ(イ) のとおりであって、原告の主張は採用できない。
(オ) 原告は、前記第3の1(1)イ(ウ)dのとおり、別紙4のB図1左には スライダが表示されているところ、指紋認証に成功した場合に「当該成功後に直ちにホーム画面に遷移する構\成」であるとされる以上、スライダの機能は利用されず、当業者がそのように何ら機能\を発揮しないスラ イダをあえて表示させる構\成を考え付くとすれば、本件発明1を見た上 での後知恵である旨主張する。
原告の主張の真意は判然としないが、そもそも本件発明1においては、 ロック画面からホーム画面への移行の仕方については何ら規定してい ない(したがって、この場面におけるスライダの表示の有無やその利用の有無等についても何も限定はない)ことは前記ウ(イ)において説示し たとおりであるところ、被告の主張如何にかかわらず、公然実施発明に 甲3発明1を組み合わせた場合に、正当な使用者と認証されたときに、 スライダを利用しようとしなかろうと、どちらにしてもロック画面から ホーム画面へ移行させることが可能であること自体は明らかであるから、原告の主張は失当というほかない。\n
(4) 小括
その他原告がるる主張する点は、いずれもその前提に誤りがある、あるい は理由がないものであり、採用できない。 以上によれば、相違点1についての容易想到性を認めた本件審決の判断に 誤りはないから、原告主張の取消事由1は理由がない。

◆判決本文

関連事件です。

◆令和3(行ケ)10054
本件の侵害事件です。

◆令和3(ネ)10081
上記控訴審の1審です。104条の3で権利行使不能と判断されています。

◆平成31(ワ)647

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令和2(行ケ)10071  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年2月2日  知的財産高等裁判所

 訂正後の発明について無効理由なしとした審決が取り消されました。理由は基準日当時の骨粗鬆症に関する技術常識から動機付けありというものです。

 (イ) 前記(ア)の各記載によると,本件基準日当時の骨粗鬆症に関する技術 常識は,次のとおりである。すなわち,1)骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折の危険性が増大した骨疾患であり,その治療の目的は,骨折を予防し,QOL(qu\nality of life)の維持改善を図ることである,2)骨粗鬆症は,加齢とと もに発生が増加する,3)骨粗鬆症による骨折の複数の危険因子の中で, わが国では,低骨密度,既存骨折,年齢に関するエビデンスがある,4) 骨粗鬆症の診断基準に関して,1990年当時,厚生省シルバーサイエ ンスプロジェクト「老人性骨粗鬆症の予防および治療に関する総合的研\n究班」により提唱された診断基準(1989年診断基準)があったが, 1996年に診断基準が改訂され(1996年診断基準),その後,20 00年に更に改訂された(2000年診断基準),5)骨強度は骨密度と骨 質の2つの要因からなり,骨密度が骨強度のほぼ70%を,骨質が残り の30%を説明することが知られていたといえる。
イ 本件3条件について
(ア) 甲7発明と本件発明1とは,「1回当たり200単位のPTH(1− 34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする」との用量の点 において一致するが,その投与の対象となる骨粗鬆症患者の範囲を一応 異にする。
(イ) 甲7発明で投与対象とされた患者は,前記(1)のとおり,1989年診 断基準で骨粗鬆症と診断された患者であるところ,より新しい基準を参 酌しながらその患者を選別することは,当業者がごく普通に行うことで あるから,甲7発明に接した当業者が,甲7発明のPTH200単位週 1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する対象患者を選択するのであれば, 1989年診断基準とともに,より新しい,1996年診断基準又は2 000年診断基準を参酌するといえる。 そして,前記ア(ア)b及びcのとおり,1996年診断基準で骨粗鬆 症と診断される者は,1)骨萎縮度I度以上又は骨密度値がYAMの8 0%以下の低骨量で非外傷性椎体骨折を有する者か,2)X線上椎体骨折 を認めないが,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度値がYAMの70%未 満である者であり,2000年診断基準で骨粗鬆症と診断される者は, 3)骨萎縮度II)度以上又は骨密度がYAMの80%未満の低骨量が原因で, 軽微な外力による非外傷性椎体骨折等(脆弱性骨折)を有する者か,4) 脆弱性骨折がないものの,骨萎縮度II)度以上,又は,骨密度値がYAM の70%未満の者である。
本件条件(2)及び本件条件(3)は,上記1)と同じであるから(「既 存椎体骨折」は「非外傷性椎体骨折」を含む。),当業者が甲7発明の2 00単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する骨粗鬆症患者を本件条 件(2)及び本件条件(3)で選別するのには何ら困難を要しない。 また,前記ア(イ)のとおり,骨粗鬆症は,加齢とともに発生が増加す るとの技術常識があり,高齢者は加齢を重ねた者であるのは明らかであ るところ,高齢者として65歳以上の者を選択するのは常識的なことで あり,高齢者の医療の確保に関する法律32条でも65歳以上が高齢者 とされている。したがって,これらを参酌し,骨粗鬆症による骨折の複 数の危険因子として,低骨密度及び既存骨折に並んで年齢が掲げられて いることに着目して投与する骨粗鬆症患者を65歳以上として,本件条 件(2)及び本件条件(3)に加えて本件条件(1)のように設定する ことはごく自然な選択であって,何ら困難を要しない。 そうすると,甲7発明に接した当業者が,投与対象患者を本件3条件 を全て満たす患者と特定することは,当業者に格別の困難を要すること ではない。
ウ 被告の主張について
(ア) 被告は,前記第3の3(2)ア(イ)a及びbのとおり,本件3条件は, 層別解析により初めて,本件条件(1)ないし本件条件(3)を組み合 わせるとPTHの骨折抑制効果が高いという新規な知見を得たことに基 づくものであり,本件3条件は一般的な指標ではなく,甲7文献の開示 事項からは導かれず,むしろ甲7文献にはサブグループ間で薬物に対す る応答は同程度であった旨の記載があり,甲7発明から本件3条件を選 択する動機付けは否定される旨主張する。
しかしながら,前記イにおいて判示したように,本件基準日における 技術常識に照らせば,甲7発明に接した当業者が投与対象患者を本件3 条件を全て満たす患者とすることに格別の困難はない。また,本件3条 件の組合せについても,客観的観点からその選択において格別なもので ある,あるいは,他の骨折リスク因子等も含めた様々な組合せが想定さ れる中で本件3条件を組み合わせること自体に特別の意味合いがあると 認めるに足りる証拠はない(被告が主張する層別解析は,後述するよう に,あくまで本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)のグルー プと,本件3条件の全部又は一部を満たさない患者(低リスク患者)の グループのうちごく一部のグループとを比較するものにすぎず,また, その結果自体も被告主張の顕著な効果が認められると即断できるもので はない。)。 そして,確かに甲7文献には,別紙2のとおり,「年齢が64歳以下と 65歳以上,体重が49kg以下と50kg以上,閉経後10年未満,10 から20年,20年以上,および脊椎骨折が0,1および2箇所以上を 有するサブグループに被験者を分類して比較したところ,サブグループ 間で薬物に対する応答は同程度であった。」との記載があることは認めら れるものの(300頁左欄11行ないし右欄6行目),当該記載は,上記 記載中の条件によってサブグループ化されたサブグループ間の薬物効果 の比較について述べているにすぎず,当該記載により,甲7発明の投与 対象患者をサブグループ化すること全般が阻害されるとはいえない。 したがって,被告の上記主張は,いずれも採用することができない。
(イ) また,被告は,前記第3の3(2)ア(イ)cのとおり,甲7発明におけ る200単位投与群には,副作用が多発しており,200単位は副作用 脱落率が高い用量と認識されているから,当業者はこれを試みない旨主 張する。
確かに,別紙2のとおり,甲7文献には,PTH200単位週1回投 与のH群の副作用発生率は42%であり,72人のうち16人(約22%) が副作用により脱落していて,副作用発生率及び副作用による脱落率は, 50単位を投与したL群(副作用発生率19%)及び100単位を投与 したM群(副作用発生率19%)のいずれと比べても高いことが記載さ れており(表6),骨粗鬆症の治療は長期間にわたるため,臨床使用にお\nいて患者の症状や治療継続意思に直接に影響する副作用が起こることは 望ましくはないから(甲70ないし72,100),甲7文献の上記記載 に接した当業者は,この点に限っていえば,200単位の投与よりも1 00単位の投与の方がより適当であると認識することが考えられる。 しかしながら,他方,甲7文献には,重篤な有害事象は認められない と記載されており(301頁左欄1行ないし右欄4行目),さらに,20 0単位の投与が腰椎骨密度を48週間後に8.1%増加させたこと,及び, その増加の程度は,100単位投与の3.6%,及び,50単位投与の0. 6%のいずれよりも高いことが記載され,PTHは腰椎骨密度を48週 という比較的短期間で用量に依存して増加させる極めて有望なものと評 価されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目,301頁右欄5 行ないし303頁右欄23行目。有望とされた対象から200単位の投 与のみが排除されているとは理解し難い。)。そして,前記ア(イ)のとお り,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することであるところ,骨密度\nが低いことは,既存骨折,年齢とともに,わが国でエビデンスがある骨 折危険因子であり,骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常 識がある。
以上によれば,甲7文献に接した当業者は,200単位週1回投与と 100単位週1回投与とを対比した場合に,副作用の面と効果の面を総 合考慮して,いずれを選択するか判断するものと考えられ,200単位 週1回投与がその選択が排除されるほど劣位したものと見られるとはい えず,これを選択することもまた十分に動機付けられているというべき\nである。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) さらに,被告は,前記第3の3(2)ア(イ)dのとおり,PTH製剤が 高齢者には効きにくいということは技術常識であったから,PTH製剤 を高齢者に特に使用しようとする積極的な動機付けは生じない旨主張す る。
被告は,関係文献(乙29)を挙げて,PTH製剤が高齢者には効き にくいということは技術常識であるとするが,「フォルテオ皮下注キット 600μg フォルテオ皮下注カート600μg「2.7.3臨床的有 効性の概要」」(乙29)における記載(213頁)として,プラセボ投 与群,テリパラチド20μg投与群(連日投与)及びテリパラチド40 μg投与群(連日投与)に分けてフォルテオを投与をした際の新規椎体 骨折発生率の結果が示されているところ,65歳以上75歳未満の患者, 及び,75歳以上の患者いずれに対しても,テリパラチド投与群におけ る椎体骨折発生率は,プラセボ投与群の椎体骨折発生率より低くなって いるから,これらの記載をもって,フォルテオが高齢者,すなわち65 歳以上の患者に効きにくいなどとはいえない。また,被告は,20μg投与群又は40μg投与群のプラセボ投与群に対する骨折相対リスク減少率は,患者が75歳以上の場合には,65歳以上75歳未満の場合よりも低くなっている旨を指摘するが,75歳 以上の患者群の骨折相対リスク減少率が65歳以上75歳未満の患者群 の骨折相対リスク減少率よりも低いとしても,それは,投与対象を75 歳以上の高齢者とすることの動機付けの有無の問題にはなるとしても, 投与対象を65歳以上の高齢者とすることの動機付けには何らの影響を 与えない。したがって,上記各文献をもって,200単位のPTH製剤を65歳 以上の高齢者に投与することが妨げられ,動機付けが生じないとはいえ ない。

◆判決本文

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