2023.10.14
令和5(ネ)10047 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年10月3日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は、進歩性無しとして権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。\n
◆本件特許6865989号
については、無効審判で無効判断がなされてますが、確定前に取り下げられています。無効審判請求人は、被告ではありません。
控訴人は、授乳室は最適の場所に設置されるものであり、通常は移動が考
えられないから、乙6発明に授乳室の移動を容易にするという動機付けが内
在しているとはいえない旨主張する。
しかし、乙6文献の記載によれば、乙6発明に係る授乳室は設置場所の
壁と床から独立した部材からなる筐体であり、これを既存の建物内に搬入す
る形で設置したものと認められるから、設置場所の変更や一時的な退避等の
理由による移動を行うことも十分想定されるものである。乙6発明は移動を\n容易にするという動機付けを内在しているというべきであり、控訴人の主張
は採用できない。
(2) 控訴人は、乙6発明と本件各引用文献記載の技術事項は技術分野が異なり、
乙6発明の属する「プライバシーに配慮した筐体内部に保育空間を形成する」
技術分野においては、筐体にキャスターを付けることが周知技術であるとは
いえない旨主張する。
しかし、本件発明と乙6発明の相違点である「筐体を移動させるキャス
ターを備えること」(本件発明の構成要件E)の技術的意義についてみると、\n本件明細書の記載(【0009】「キャスターを利用して授乳用ユニットを
適切な位置に移動させるという作業を行うだけで、授乳用空間が形成された
授乳エリアを設置することができる。」、「キャスターを利用して授乳用ユ
ニットを移動させるだけで…授乳用空間のレイアウトの変更を容易に行うこ
とができる。」、【0032】「…このように筐体4の底面7にキャスター
36が設けられているため、キャスター36を利用して、地面上で授乳用ユ
ニット1を簡易に移動させることができる。」、【0033】「このように、
本実施形態に係る授乳用ユニット1は、キャスター36を利用して地面上を
移動させることができると共に、固定部材37により任意の位置に固定する
ことができる。この構成のため、以下の効果を奏する。…本実施形態によれ\nば、所定の空間に、授乳用ユニット1を持ち込み、キャスター36を利用し
て、適切な位置に授乳用ユニット1を移動させて、固定部材37で位置を固
定するという簡単な作業を行うのみで、授乳者がプライバシーが完全に保護
された状態で授乳を行うことが可能な授乳用空間3を設けることができ\nる。」、【0034】「さらに、本実施形態によれば、授乳用ユニット1は、
キャスター36を利用して地面上を移動させることができるため、授乳エリ
アのレイアウトの変更も容易である。」)によれば、本件発明においても、
授乳中に筐体を移動させることまで想定しているとは認められず、単に内部
の空間に利用者が入ることが可能な筐体を簡易に移動させることができるよ\nうにすることにあると認められる。
このような構成要件Eの技術的意義からみると、本件各文献記載の技術\n事項において、筐体に人を収容する目的が異なるからといって本件発明と技
術分野が異なるなどということはできない。
さらに、本件各引用文献のうち、乙5公報に記載された発明の内容は、
「少なくとも周囲の人の視線を遮ると共に、内部に保育空間を画成する遮蔽
体からなる本体」と「扉」が取り付けられたものであるから(乙5)、「プ
ライバシーに配慮した筐体内部に保育空間を形成する」ものと認められるし、
その他の本件各引用文献の記載内容も、筐体に人を収容する目的はそれぞれ
異なるものの(乙13公報は感染性疾患を有する患者の治療、乙14文献は
内部で仕事や読書をするためのパーソナル空間、乙15文献は高気圧酸素環\n境での有酸素運動、乙16公報は浴室、乙17公報は居室内の個室)、いず
れも外部の視線を遮り、プライバシーを守る目的又は効果を有する筐体に関
するものである。控訴人の上記主張は、いずれにせよ採用できない。
(3) 控訴人は、乙6発明には、授乳室を当初設置した場所から移動することに
よる利用者の利便性の低下、スペースが十分に確保されていない場所への移\n動による人の動線の悪化、人目の届かない場所等への設置による利用者の安
全性の低下又は巡回のための町役場職員の業務増加等、移動による支障が非
常に大きいという阻害要因がある旨主張する。
しかし、控訴人の主張する内容は不適切な場所に移動した場合の弊害に
すぎないから、乙6発明に適切な場所への移動を容易にするための移動手段
を設けることについての阻害要因があるとはいえない。
(4) 控訴人は、本件発明は予測できない顕著な効果を有する旨主張する。\n しかし、1)簡易迅速な授乳室の移動を可能・容易にすること、2)授乳用空
間の増設やレイアウト変更を実現することは、いずれもキャスターを付ける
ことによる通常の効果であり、3)利用者による授乳室周辺への回遊の促進を
実現すること(例えば、フードコート付近に設置することによるフードコー
トの利用者の増加〔甲33〕)は、適切な場所に授乳室を設置することによ
る効果であり、いずれも予測できない顕著な効果ということはできない。\n
(5) 以上のとおり、控訴人の当審における補充的主張はいずれも採用できず、
原審が判断するとおり、本件発明は、当業者が乙6発明に周知技術を組み合
わせることにより容易に発明をすることができたものと認められ、本件発明
は特許無効審判により無効にされるべきものである。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和4(ワ)16934
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2023.08.23
令和4(行ケ)10108 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年8月10日 知的財産高等裁判所
出願人ディズニーの拒絶査定不服審判の審取です。審決維持です。争点は周知技術への置換の動機づけがあるかです。
(2) 本件周知技術の甲1発明への適用に係る動機付けについて
甲1の記載及び弁論の全趣旨によると、甲1発明は、HDRビデオにおけるトー
ンマッピングの方法に関する発明であると認められる。これに対し、甲2ないし4
の記載及び弁論の全趣旨によると、本件周知技術も、HDRビデオにおけるトーン
マッピングの方法に関する技術であると認められるから、甲1発明と本件周知技術
は、その属する技術分野を同一にするといえる。
また、甲1の記載及び弁論の全趣旨によると、甲1発明は、トーンマッピングさ
れたビデオの各フレームの間の輝度の差を小さくし、受信画像をより自然なものに
するため、トーンマッピング関数を徐々にしか変化させないものとするとの課題を
有すると認められる。これに対し、本件周知技術は、その内容に照らし、トーンマ
ッピングするビデオの各フレームに適用されるトーンマッピング関数を徐々に変化
させるための技術であると認められるから、本件周知技術は、甲1発明の上記課題
を解決するための技術であるといえる。
加えて、甲3の記載によると、本件周知技術(甲3にいうトーンカーブ補正部1
42の第2の構成例に係るもの)は、甲1発明のようにあらかじめ用意されている\nルックアップテーブル(LUT)により時間的な変化が小さいトーンマッピング関
数を使用するとの構成(甲3にいうトーンカーブ補正部142の第1の構\成例に係
るもの)に代えて採用し得るものと認められる。
以上によると、本件周知技術を甲1発明に適用することについては、十分な動機\n付けがあるものと認められる。
そして、本件全証拠によっても、本件周知技術を甲1発明に適用することについ
て、これを阻害する要因があるものと認めることはできないから、当業者は、甲1
発明に本件周知技術を適用することができたものと認めるのが相当である。
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2023.08.23
令和4(行ケ)10118 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年8月10日 知的財産高等裁判所
進歩無しとした審決が維持されました。原告は、技術分野が異なるので組み合わせ困難と主張しましたが、裁判所は「無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術に係るものであり、その属する技術分野を共通にする」と判断しました。
(1) 技術分野
ア 前記3(5)イにおいて説示したところは、甲4に記載された技術のみならず、
リモートコントローラ3(制御端末装置)が無線通信を利用して再生装置1等の制
御を行うことを内容とする引用発明(前記2)についても同様に当てはまるといえ
るから、引用発明及び本件技術は、いずれも無線通信を利用して電子機器の制御を
行うとの技術に係るものであり、その属する技術分野を共通にするものと認めるの
が相当である。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は、「甲1に記載された発明と甲4に記載された技術は、制御主体、
操作場所、制御対象機器及び制御内容を異にするものであるところ、甲1に記載さ
れた発明及び甲4に記載された技術が共に無線通信を利用して電子機器の制御を行
うとの技術分野に属するとすることは、技術分野を極めて抽象的なレベルで捉える
ものであって相当でないから、甲1に記載された発明が属する技術分野と甲4に記
載された技術が属する技術分野との間に関連性又は共通性はない」と主張する。
しかしながら、前記3(5)イにおいて説示したとおり、無線を利用して電子機器
の制御を行うとの技術においては、制御主体、操作場所、制御対象機器及び無効な
ものとされる操作の内容が具体的に何であるかにつき特段の技術的意義はないとい
うべきであるから、当該技術において、制御主体、操作場所、制御対象機器又は無
効なものとされる操作の内容が異なれば、当該技術が属する技術分野が異なること
になるということはできない。
原告は、無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術において、制御主体、
操作場所、制御対象機器又は制御内容が異なれば、当該技術に係る当業者が異なる
とも主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない(かえって、前記3
(2)ないし(4)のとおりの乙1ないし3の記載(特に、前記(2)エ、前記(3)ア及びイ、
乙3の段落[0080]等)によると、無線通信を利用して電子機器の制御を行う
との技術においては、制御主体又は制御対象機器が異なっても、当該技術に係る当
業者を異にしないことがうかがわれる。)。
(イ) 原告は、甲1に記載された発明が属する技術分野と甲4に記載された技術
が属する技術分野の関係を検討するに当たり、甲1及び4とは別の文献である乙1
ないし3の記載を参酌するのは相当でないと主張する。
しかしながら、ある発明ないし技術が属する技術分野が何であるかを認定するに
当たり、当該発明ないし技術の意義を検討するのは当然であるところ、当該意義に
係る証拠として、当該発明ないし技術が記載された文献以外の文献の記載を参酌す
るのが相当でないということはできない。
(ウ) 原告は、特許庁における担当技術分野によると、スピーカとテレビは異な
る技術分野に属すると主張するが、仮に、特許庁における担当技術分野が原告主張
のとおりであったとしても、そのことをもって、引用発明及び本件技術につき、無
線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術に係るものとして、その属する技
術分野を共通にするとの前記判断を左右するものではない。
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2023.07.20
令和4(行ケ)10064 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年7月13日 知的財産高等裁判所
進歩性違反・サポート違反として無効審判を請求しました。審決は無効理由無し、裁判所も同様です。進歩性については、「非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを考慮すると、・・・結晶の平均粒径を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであったと認めることはできない」と判断しました。
(イ) また、甲7、9、52、61、63、71及び73並びに乙7によると、
薬物の安定性を高める方法として、結晶の結晶化度を高めること、遮光、湿気の遮
断等を目的として薬剤に保護コーティングを形成すること、遮光を目的として遮光
剤(酸化チタン)を含むコート液をコーティングすることなどは、本件優先日当時
の周知技術であったと認められる。
(ウ) しかしながら、甲5、7、52、54及び61によると、本件優先日当時、
非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在し、そのため、水難溶
性の薬物の溶解性を改善するとの目的で、かえって結晶化度を低くすることが一般
に行われていたものと認められるところ、前記(ア)及び(イ)のとおり、本件優先日当
時、経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術として、結晶
の粒子径を小さくすること以外の方法も存在し、また、薬物の安定性を高めるため
の周知技術として、結晶の結晶化度を高めること以外の方法も存在していたのであ
るから、化合物1の溶解性及び安定性を高めるとの課題を認識していた本件優先日
当時の当業者において、化合物1の溶解性を追求するとの観点から、経口投与され
る水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術(結晶の粒子径を小さくすると
の周知技術)を採用し、かつ、化合物1の安定性を追求するとの観点から、薬物の
溶解性を低下させる結果となり得る周知技術(結晶の結晶化度を大きくするとの周
知技術)をあえて採用することが容易に想到し得たことであったと認めることはで
きない。
(エ) この点に関し、原告らは、結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持するこ
とは特段の処理が不要で薬剤をそのまま使用するという最も基本的な態様を含むも
のであり、他の手段よりはるかに容易な態様のものであると主張する。しかしなが
ら、前記(ア)のとおり、本件優先日当時、結晶の粒子径を小さくするための主たる
手段として、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル等を利用した粉砕が考えら
れていたところ、甲52によると、粉砕により結晶の結晶化度が低下し、結晶が非
晶質化することは、よく経験される事象であったものと認められるから、結晶の結
晶化度を一定の数値以上に維持することが特段の処理を要しないものであるという
ことはできず、原告らの上記主張は、前提を誤るものというべきである。
また、原告らは、本件優先日の当業者であれば、薬物の安定性を向上させるとの
課題に基づいて結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持することを検討しつつ、粒
子の微細化等の手段により溶解度を向上させるなど、結晶の結晶化度や平均粒径と
いったパラメータを適宜調整することを十分に動機付けられると主張するが、上記\nのとおり、非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを
考慮すると、原告らの上記主張によっても、本件優先日当時の当業者において、相
反する効果を生ずる事項同士であると認識されていた、化合物1の結晶の平均粒径
を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであっ
たと認めることはできないといわざるを得ない(この点に関し、本件明細書には、
実施例(試験例2、実施例2)として、化合物1の微細結晶Aの結晶化度が84.
6%であり、粒径がD100=8.7μmである場合(後記5(4)ア(ア)のとおり、化
合物1の平均粒径が数μmである場合)においても、結晶が凝集することなく、良
好な溶解性及び分散性を示したとの記載があるが、前記(2)イ(ウ)において認定した
技術常識(非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識)並びに甲6及び
52によって認められる技術常識(特に薬物が疎水性のものである場合には、結晶
の粒子径を小さくすればするほど凝集が起こやすくなり、その有効表面積がかえっ\nて小さくなる結果、溶解性が低下することがあるとの技術常識)に照らすと、上記
実施例が示す効果は、甲1結晶発明及び本件優先日当時の技術常識から予測し得な\nかったものといえる。)。
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2023.07.13
令和4(行ケ)10099 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年7月6日 知的財産高等裁判所
審決は、周知技術であっても主引例にはそのような動機付けがないとして、進歩性違反の無効理由なしと判断しました。知財高裁も同様です。
イ 前記(1)イの相違点に係る構成を甲1発明において採用することが容易想到といえるか検討するに、甲1には、加工対象物の反りや、X、Y軸ステージの振動等\nにより、レーザ光の焦点ずれが生じ得ることについての記載はなく、加えて、前記
2(1)エのとおり、甲1(105頁)には「図98に示すクラック領域9は、パルス
レーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面(入射面)3に近い位置に調節して形成されたものである。クラック領域9は加工\n対象物1の内部中の表面3側に形成される。」「パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より表\面3に遠い位置に調節してクラック領域9を形成することもできる。」といった記載があり、甲1発明においては、
シリコンウエハ内部の改質領域の位置は、シリコンウエハの厚み方向において厚み
の半分の位置よりも表面に近い位置から、同半分の位置よりも表\面に遠い位置まで
の、ある程度の幅をもった範囲に設定され得るものであると理解されることからす
ると、甲1の記載に触れた当業者が、直ちに、X、Y軸ステージの振動等の外的要
因や加工対象物であるシリコンウエハの反りのために、レーザ光の集光点のZ軸方
向の位置がずれ、改質領域の位置がずれることによって、シリコンウエハの割れに
大きな影響を及ぼして品質低下を生じさせると理解するとはいえない。
そうすると、甲1発明において、AF制御をする動機付けがあると認めることは
できない。また、周知の技術的事項1は半導体ウエハの表面の加工についてのAF制御をいうものであるところ、これが周知であるからといって、動機付けがないに\nもかかわらず、甲1発明のようなステルスダイシングに適用できるとはいえない。
したがって、甲1発明において「前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿
って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成する」構成を採用することについて、当業者が容易に想到できたと認めることはできない。\n
ウ(ア) 原告は、レーザ加工の技術分野において、加工時におけるレーザビームの
振動やテーブルの振動などの外的要因や加工対象物の凹凸や反りが、レーザ光の焦
点ずれの原因となることが知られており、高さ方向(Z軸方向)の集光点をAF制
御することは当然のことであり技術常識であったから、Z軸方向のAF制御をする
ことは甲1に記載されているに等しく、少なくとも容易想到であると主張する。
しかしながら、甲1には、加工時に、レーザ光Lの集光点Pについて、Z軸方向
の制御をすることについての記載はない。また、前記2(1)ウのとおり、甲1(2頁)
には「本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせ
てレーザ光を照射しかつ多光子吸収という現象を利用することにより、加工対象物
の内部に改質領域を形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があ
ると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明に係る
レーザ加工方法によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的小さ\nな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予\定ライ
ンから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。」との記載があり、同記載に照らすと、甲1発明は、加工対象物であるシリコンウエ\nハの内部に改質領域を形成して、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物を割るというものである。そして、前記アのとおり、周知の技術的事項1\nは、半導体ウエハの表面を加工する際に、半導体ウエハに反りがあると加工位置に対して加工用レーザ光の焦点がずれることから、表\面の変位に基づいてAF制御をして表面を加工するというものであるところ、シリコンウエハの内部に改質領域を形成する際に、このような半導体ウエハの表\面加工に係る周知の技術的事項1をそのまま適用できるとはいえない。
(イ) 当業者が、甲1の記載から、甲1発明において、加工中の集光点AF制御が
当然に採用されるものと理解するといえるには、甲1発明において、シリコンウエ
ハの反りやX、Y軸ステージの振動により、集光点のZ軸方向の位置がずれ、その
結果、改質領域が形成される位置がずれることとなり、その改質領域の位置のZ軸
方向のずれに起因して割断精度が悪くなる等の品質低下の問題を生じることが明ら
かであり、そのために、AF制御が必要であることまでを当業者が認識することを
要するものと考えられる。ところが、当業者にとって、上記のような問題が生じる
ことが明らかであると認識できたと認めるに足りる証拠はなく、そのような技術常
識は認められないところ、前記のとおり、甲1には、改質領域が形成される位置が、
ある程度の幅をもった範囲に設定され得ることを示唆する記載があるから、周知の
技術的事項1を考慮しても、また、甲1発明の加工対象物として、30㎛程度まで
の薄いシリコンウェアが対象となり得ることを考慮しても、当業者が、甲1の記載
から、甲1発明において加工中の集光点のAF制御が当然に採用されると理解する
とはいえない。
(ウ) 原告は甲1の「クラック領域9と表面3の距離が比較的長いと、表\面3側に
おいてクラック91の成長方向のずれが大きくなる。これにより、クラック91が
電子デバイス等の形成領域に到達することがあり、この到達により電子デバイス等
が損傷する。クラック領域9を表面3付近に形成すると、クラック領域9と表\面3
の距離が比較的短いので、クラック91の成長方向のずれを小さくできる。よって、
電子デバイス等を損傷させることなく切断が可能となる。但し、表\面3に近すぎる
箇所にクラック領域9を形成するとクラック領域9が表面3に形成される。このため、クラック領域9そのもののランダムな形状が表\面3に現れ、表面3のチッビン\nグの原因となり、割断精度が悪くなる。」との記載(105頁15〜23行)をもっ
て、比較的厚いウエハの場合には、改質領域のZ軸方向の位置が割断精度に影響を
与えるものであることが甲1に明記されていると主張するが、同記載をもって、シ
リコンウエハの反りやX、Y軸ステージの振動に起因する改質領域の形成される位
置のZ軸方向のずれが、品質低下の問題を生じる程度のものであることが明らかと
なるものではないから、上記記載部分を踏まえても、当業者が、甲1の記載から甲
1発明において加工中の集光点のAF制御が当然に採用されると理解するとはいえ
ない。
(エ) 原告は、本件明細書(【0004】)に、従来技術に加工対象物の端部におい
てレーザ光の集光点がずれる場合があるとの課題があると記載されていることから
も、一般的なレーザ加工技術の課題として、甲1発明においても、加工中の集光点
のAF制御が必要であると主張するが、本件明細書の上記記載を踏まえても、前記
(イ)のとおり、当業者が、甲1発明において、加工対象物の内部に改質領域を形成す
るために、加工時におけるAF制御としての加工中のZ軸方向の位置の制御が必要
であるとの課題を認識するとはいえない。また、原告が指摘する証拠はいずれも、
加工対象物の内部に改質領域を形成する甲1発明において、加工中のZ軸方向の位
置の制御が必要であることが技術常識であることを裏付けるものとはいえない。
そして、原告主張に係る被告の本件以外の出願の状況が、本件発明の進歩性の判
断を左右するものではない。
◆判決本文
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2023.06.22
令和1(行ケ)10114 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年9月24日 知的財産高等裁判所
漏れていたのでアップします。動画配信における視聴者からのギフトの処理(CS関連発明)について、審判で進歩性無しと判断されました。知財高裁も同様です。
「・・・(D1)前記動画を視聴する視聴ユーザから前記動画の配信中に前記動画へ
の装飾オブジェクトの表示を要求する第1表\示要求がなされ,(D2)前記動画の配信中に前記動画の配信をサポートするサポーター又は前記アクターによって前記装飾オブジェクトが選択された場合に,(D3)前記装飾オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる前記キャラクタオブジェクトの部位に関連づけて、(D4)前記装飾オブジェクトを前記動画に表示させる,(A)動画配信システム。」というクレームです。\n
原告は,甲2には,視聴者から配信者へギフトを贈ること(ユーザーギ
フティング)が動画配信中に行われるとの記載はないので,引用発明に甲
2記載の技術を追加したとしても「動画配信中に行われた表示要求に応じ\nて,装飾オブジェクトを表示する」という本願発明の構\成には至らない旨
主張する。しかしながら,甲2には,CGキャラクターへのユーザーギフティング
を動画配信中に行うことについての記載はないものの,これを排除する旨
の記載もなく,この点は,配信時間の長さ,ギフト装着のための準備,予\n想されるギフトの数等を踏まえて,配信者が適宜決定し得る運用上の取り
決め事項といえるから,甲2のユーザーギフティング機能において,CG\nキャラクターが装着するための作品を贈る時期は,配信開始前に限定され
ているとはいえない。したがって,引用発明に上記ユーザーギフティング
機能を追加することによって,相違点1に係る「前記動画を視聴する視聴\nユーザから前記動画の配信中に前記動画への装飾オブジェクトの表示を要\n求する第1表示要求がなされ」るという構\成を得ることができる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ なお,原告は,甲2記載のCGキャラクター「東雲めぐ」が登場する実
際の番組において,ユーザーギフティングが配信開始前に締め切られてい
ること(甲9の2,甲10)を指摘する。しかしながら,そのことは,当
該番組における運用上の取り決め事項として,ユーザーギフティングの時
期を配信開始前と定めたことを示すにとどまり,上記アの判断を左右しな
い。
(3) 動機付けについて
ア 甲2には,配信も可能なVRアニメ作成ツール「AniCast」にユーザー
ギフティング機能を追加することが記載されている。一方,引用発明は,\n声優の動作に応じて動くキャラクタ動画を生成してユーザ端末に配信する
ものであるから,引用発明も「配信も可能なVRアニメ作成ツール」とい\nえる。また,ユーザーギフティング機能のような新たな機能\を追加することに
よって,動画配信システムの興趣が増すことは明らかである。
そうすると,当業者にとって,「配信も可能なVRアニメ作成ツール」\nである引用発明に対して,甲2記載の技術であるユーザーギフティング機
能を追加することの動機付けがあるといえる。\n
イ 原告は,甲1には創作したギフトを配信者に贈ることの開示はないから,
引用発明に甲2記載のユーザーギフティング機能を組み合わせる動機付け\nはない旨主張する。しかしながら,動画配信システムの興趣を増すことは当該技術分野において一般的な課題であると考えられるから,甲1自体にユーザーギフティ
ング機能又はこれに類する技術の開示又は示唆がないとしても,引用発明\nを知った上で甲2の記載に接した当業者は,興趣を増す一手段として甲2
記載のユーザーギフティング機能を引用発明に適用することを動機付けら\nれるといえる。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
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2023.05.19
令和4(行ケ)10003 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年4月27日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決が維持されました。
(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1のうち、甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換
する動機付けがあることについては、一次判決の拘束力が及び、当事者間
に争いもない。
イ 甲1発明と甲5文献記載事項の組合せにより、相違点1のうち、本件数
値範囲を容易に想到することができるかについて
甲5発明は、前記(2)のとおり、甲1発明における塩素剤の添加により
トリハロメタン類が生成されるという課題があることを前提として、工
業用海水冷却水系にあらかじめ過酸化水素剤を特定の濃度で分散させた
後、塩素剤を特定の濃度で添加するという解決手段を採用しているので
あり、かつ、各特定の濃度について、過酸化水素剤は「0.01〜2mg
/l」、塩素剤は「トリハロメタン類の生成を防止しうる濃度又はそれ以
下の濃度」である「使用される過酸化水素の1モル当り、0.03〜0.
8モル(ただし、有効塩素として)に相当する濃度で、かつ、海水冷却水
に対して0.01〜1.0mg/l(ただし、有効塩素として)」として
いるのである(別紙3の【請求項1】及び【請求項2】参照)。そうする
と、甲5発明は、甲1発明における上記課題を、それ自体で解決しており、
かつ、塩素剤の使用を前提としているのであるから、当業者において、甲
1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に甲5
発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえない。
また、甲5文献は、二酸化塩素の添加を想定していないから、二酸化塩
素の特定の濃度割合を開示するものでもない。
したがって、当業者が、甲1発明と甲5文献の組合せにより、相違点1
のうち、本件数値範囲を容易に想到することができるとはいえない。
原告は、前記第3の1(1)ウ のとおり、甲5文献の実施例の16ない
し20には、甲1発明における有効塩素発生剤濃度及び過酸化水素濃度
を、それぞれ「0.02〜0.4mg/L」及び「0.18〜1.05m
g/L」とすることで、充分な海生生物の付着防止効果が得られること
が開示されており、当業者が、これについて本件換算(有効塩素発生剤濃
度を2.6で除する。)により、有効塩素発生剤から置換した二酸化塩素
の濃度を「0.01〜0.15mg/L」という範囲とすることは容易で
ある旨主張する。
甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に
甲5発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえないことは前記
のとおりであるから、そもそも原告の上記主張は前提を異にするもの
というべきであるが、この点は措くにしても、以下の理由で原告の主張
はいずれにしても採用し得ない。
甲5文献の【表3】及び【表\4】には、過酸化水素溶液と有効塩素発生
剤として次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用して、両者の併用によるムラ
サキイガイの成長度合いを調査するため、実施例16ないし20では別
紙3の図1(過酸化水素の拡散器あり)、比較例21ないし24では別紙
3の図2(過酸化水素の拡散器なし)の塩化ビニル管のモデル水路を用
いて、塩化ビニル管に海水を一過式に通水する方法で試験を行い、ムラ
サキイガイの殻長を計測して、試験前後の殻長差より成長度合いを求め
た結果が示されている。
実施例16では過酸化水素0.35ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.
40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm。小数点3桁以
下四捨五入。以下同じ)、実施例17では過酸化水素0.35ppm、次
亜塩素酸ナトリウム0.07ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.0
3ppm)、実施例18では過酸化水素0.70ppm、次亜塩素酸ナト
リウム0.40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm)、
実施例19では過酸化水素1.05ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.2
0ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.08ppm)、実施例20で
は過酸化水素0.18ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.02ppm(本
件換算をすると二酸化塩素0.01ppm)で試験が行われているとこ
ろ(なお、溶媒が比重1の水である場合には、ppmとmg/Lの数値は
同等。)、確かに、これらの実施例については、本件換算をすれば、相違
点1に係る本件特許発明1の構成のうち、二酸化塩素0.01〜0.15\nmg/L、過酸化水素0.18〜1.05mg/Lとなるような組合せが
開示されているといえる。しかしながら、これらは、甲5発明の実施例で
あり、その課題解決手段である過酸化水素の拡散器を備えたことを前提
とするものであって、当業者が、このような拡散器を備えないまま、実施
例16ないし20に係る本件換算後の二酸化塩素濃度と過酸化水素濃度
の数値のみを甲1発明に単純に適用しようと考えるとは認められない。
かえって、過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムの添加量が同じである、
実施例18と比較例23を比較すると、1m3/hの海水を一過式に通水
し、その間両薬剤を所定濃度になるように24時間添加し、40日間試
験をした後におけるムラサキイガイの成長度(殻長mm)が、実施例18
では、注入点から0.5、4、8、16、24、48mのいずれの距離で
も0.1mmであったのに対し、比較例23では、1.0mmから4.5
mmの範囲となっており、ムラサキイガイの成長度抑制結果において、
比較例23が実施例18より劣ることが示されているから、当業者は、
甲5発明のような改良がされる前の甲1発明について、甲5文献に記載
の数値範囲のみを適用しようとすると、比較例23のような結果しか得
られないと認識することになるといえる。
仮に、原告が、甲1発明において、甲5文献に記載の数値範囲を、過酸
化水素の拡散手段等、甲5発明の特定手段と併せて適用することの容易
想到性をも主張しているのであるとすれば、それは、甲5発明に基づき
本件数値範囲の容易想到性を主張しているのに等しい。そして、甲5発
明に基づき本件数値範囲が容易想到であるとの主張が採用できないこと
は後記3のとおりである。
◆判決本文
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2023.05.19
令和4(行ケ)10003 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年4月27日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決が維持されました。
(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1のうち、甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換
する動機付けがあることについては、一次判決の拘束力が及び、当事者間
に争いもない。
イ 甲1発明と甲5文献記載事項の組合せにより、相違点1のうち、本件数
値範囲を容易に想到することができるかについて
甲5発明は、前記(2)のとおり、甲1発明における塩素剤の添加により
トリハロメタン類が生成されるという課題があることを前提として、工
業用海水冷却水系にあらかじめ過酸化水素剤を特定の濃度で分散させた
後、塩素剤を特定の濃度で添加するという解決手段を採用しているので
あり、かつ、各特定の濃度について、過酸化水素剤は「0.01〜2mg
/l」、塩素剤は「トリハロメタン類の生成を防止しうる濃度又はそれ以
下の濃度」である「使用される過酸化水素の1モル当り、0.03〜0.
8モル(ただし、有効塩素として)に相当する濃度で、かつ、海水冷却水
に対して0.01〜1.0mg/l(ただし、有効塩素として)」として
いるのである(別紙3の【請求項1】及び【請求項2】参照)。そうする
と、甲5発明は、甲1発明における上記課題を、それ自体で解決しており、
かつ、塩素剤の使用を前提としているのであるから、当業者において、甲
1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に甲5
発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえない。
また、甲5文献は、二酸化塩素の添加を想定していないから、二酸化塩
素の特定の濃度割合を開示するものでもない。
したがって、当業者が、甲1発明と甲5文献の組合せにより、相違点1
のうち、本件数値範囲を容易に想到することができるとはいえない。
原告は、前記第3の1(1)ウ のとおり、甲5文献の実施例の16ない
し20には、甲1発明における有効塩素発生剤濃度及び過酸化水素濃度
を、それぞれ「0.02〜0.4mg/L」及び「0.18〜1.05m
g/L」とすることで、充分な海生生物の付着防止効果が得られること
が開示されており、当業者が、これについて本件換算(有効塩素発生剤濃
度を2.6で除する。)により、有効塩素発生剤から置換した二酸化塩素
の濃度を「0.01〜0.15mg/L」という範囲とすることは容易で
ある旨主張する。
甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に
甲5発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえないことは前記
のとおりであるから、そもそも原告の上記主張は前提を異にするもの
というべきであるが、この点は措くにしても、以下の理由で原告の主張
はいずれにしても採用し得ない。
甲5文献の【表3】及び【表\4】には、過酸化水素溶液と有効塩素発生
剤として次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用して、両者の併用によるムラ
サキイガイの成長度合いを調査するため、実施例16ないし20では別
紙3の図1(過酸化水素の拡散器あり)、比較例21ないし24では別紙
3の図2(過酸化水素の拡散器なし)の塩化ビニル管のモデル水路を用
いて、塩化ビニル管に海水を一過式に通水する方法で試験を行い、ムラ
サキイガイの殻長を計測して、試験前後の殻長差より成長度合いを求め
た結果が示されている。
実施例16では過酸化水素0.35ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.
40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm。小数点3桁以
下四捨五入。以下同じ)、実施例17では過酸化水素0.35ppm、次
亜塩素酸ナトリウム0.07ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.0
3ppm)、実施例18では過酸化水素0.70ppm、次亜塩素酸ナト
リウム0.40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm)、
実施例19では過酸化水素1.05ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.2
0ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.08ppm)、実施例20で
は過酸化水素0.18ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.02ppm(本
件換算をすると二酸化塩素0.01ppm)で試験が行われているとこ
ろ(なお、溶媒が比重1の水である場合には、ppmとmg/Lの数値は
同等。)、確かに、これらの実施例については、本件換算をすれば、相違
点1に係る本件特許発明1の構成のうち、二酸化塩素0.01〜0.15mg/L、過酸化水素0.18〜1.05mg/Lとなるような組合せが\n開示されているといえる。しかしながら、これらは、甲5発明の実施例で
あり、その課題解決手段である過酸化水素の拡散器を備えたことを前提
とするものであって、当業者が、このような拡散器を備えないまま、実施
例16ないし20に係る本件換算後の二酸化塩素濃度と過酸化水素濃度
の数値のみを甲1発明に単純に適用しようと考えるとは認められない。
かえって、過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムの添加量が同じである、
実施例18と比較例23を比較すると、1m3/hの海水を一過式に通水
し、その間両薬剤を所定濃度になるように24時間添加し、40日間試
験をした後におけるムラサキイガイの成長度(殻長mm)が、実施例18
では、注入点から0.5、4、8、16、24、48mのいずれの距離で
も0.1mmであったのに対し、比較例23では、1.0mmから4.5
mmの範囲となっており、ムラサキイガイの成長度抑制結果において、
比較例23が実施例18より劣ることが示されているから、当業者は、
甲5発明のような改良がされる前の甲1発明について、甲5文献に記載
の数値範囲のみを適用しようとすると、比較例23のような結果しか得
られないと認識することになるといえる。
仮に、原告が、甲1発明において、甲5文献に記載の数値範囲を、過酸
化水素の拡散手段等、甲5発明の特定手段と併せて適用することの容易
想到性をも主張しているのであるとすれば、それは、甲5発明に基づき
本件数値範囲の容易想到性を主張しているのに等しい。そして、甲5発
明に基づき本件数値範囲が容易想到であるとの主張が採用できないこと
は後記3のとおりである。
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2023.04. 7
令和4(ワ)16934 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年3月28日 東京地方裁判所
実案を基礎としてした特許出願について登録となりました。権利者が権利行使しましたが、無効主張がなされ、進歩性無しと判断されました(特104-3)。
本件特許はこれです。
◆本件特許
「本発明」は、前記アの課題を解決するため、授乳者のプライバシーが
保護された状態で授乳を行うことができる授乳用空間が形成された授乳
エリアを簡易に設置できるようにすると共に、授乳用空間のレイアウト
の変更を容易にできるようにすることを目的とするものであり、「本発明」
の授乳用ユニットは、内部に空間が形成された箱状の筐体と、筐体に形
成された開口状の出入口と、出入口に設けられ、閉状態のときに出入口
を塞ぎ、筐体の内部の空間を遮蔽するドアと、筐体の内部の空間に設け
られ、授乳者が着座可能な1つの一人着座用の椅子と、筐体を移動させるキャスターと、を備えることにより、ドアを閉状態とすれば、筐体の内部の空間が遮蔽され、外部から筐体の内部が視認できない状態となる\nため、授乳者は、筐体の内部で、他人に見られることなく、プライバシ
ーが保護された状態で授乳を行うことができ、授乳エリアとなる空間に
授乳用ユニットを持ち込み、キャスターを利用して授乳用ユニットを適
切な位置に移動させるという作業を行うだけで、授乳用空間が形成され
た授乳エリアを設置することができることから、授乳エリアの設置に際
し、綿密な設計の下、各設備を適切な位置に固定的に設ける必要がなく、
授乳エリアの設置が簡易化し、キャスターを利用して授乳用ユニットを
移動させるだけで、授乳エリアにおける授乳空間のレイアウトの変更を
行うことができるため、授乳用空間のレイアウトの変更を容易に行うこ
とができるとの効果を奏する(【0007】ないし【0009】)。
・・・
a 原告は、乙6発明の技術分野は、「プライバシーに配慮した筐体内
部に保育空間を形成する技術」に関するものであり、前記(ア)の公報
及び文献に記載の発明の技術分野とは異なっているから、筐体の移動
を容易ならしめるため、筐体にキャスターをつけることは、乙6発明
の技術分野における周知技術であるとは認められないと主張する。
しかし、前記(ア)において認定したとおり、少なくとも利用者と機
器等を収納する筐体に係る技術分野においては、当該筐体の具体的な
用途にかかわらず、広く当該筐体の移動を容易ならしめる手段として
のキャスターが利用されている。そのような利用状況からすると、移
動対象が授乳室という「プライバシーに配慮した筐体内部に保育空間
を形成する」用途の筐体であるからといって、当業者において、当該
技術分野における周知慣用技術である筐体にキャスターを設けるとい
う構成を乙6発明に係る授乳室に適用することが困難であるとはいえない。
b 原告は、1)乙6発明に係る授乳室にキャスターを取り付けると、
設置面と授乳室の床面との間に段差が生じ、授乳室の安全な利用を図
るという目的に反する、2)乙6発明に係る授乳室においては、授乳用
チェア等の室内装備が固定・固着されていないから、乙6発明に係る
授乳室にキャスターを取り付けて移動可能にすると、授乳等を安全に行うことができなくなる、3)乙6発明に係る授乳室の安全性を保ちつ
つ、キャスターを取り付けることには技術的ハードルがあるとして、
乙6発明に係る授乳室に、キャスターを適用することを妨げる特段の
事情があると主張する。
しかし、1)については、乙6文献の記載から、乙6発明に係る授乳
室は、ロビーの床面と授乳室の床面との間の段差があり、これによる
弊害を解消するため、乙6発明に係る授乳室の出入口付近の床面から、
ロビーの床面に延びるスロープを備えているものと認められ、段差に
よる弊害は、同スロープの設置により解消することができるといえる。
また、技術常識に照らし、取り付けるキャスターのサイズや取付方法
を工夫することにより、上記のような段差が生じることを抑制するこ
とが困難であるとは考え難い。したがって、段差が生じることが乙6
発明に係る授乳室にキャスターを取り付ける阻害要因になるとは認め
られない。
次に、2)については、授乳者を授乳室に収容したまま授乳室を移動
させない限り、乙6発明に係る授乳室内の設備が固定されていない
ことによる授乳者の安全性への影響が生じるとは考え難く、実際に
そのような影響が生じると認めるに足りる証拠もない。むしろ、授
乳者を乙6発明に係る授乳室に収容したまま授乳室を移動させるこ
とは通常の使用方法ではないというべきである。したがって、室内
装備が固定・固着されていないことが乙6発明に係る授乳室にキャ
スターを取り付ける阻害要因になるとは認められない。
さらに、3)については、筐体にキャスターを取り付けることによ
って、不意に筐体が動き出すとの事象が生じ得ることは、容易に想定
できるところ、これによる弊害は、キャスターにストッパーを取り付
けることにより回避することができる。そして、筐体にキャスターを
取り付け、同キャスターにストッパーを取り付ける構成は、前記(ア)
e及び同fのとおり、乙16公報及び17公報において開示されてお
り、周知技術であると認められるから、当業者であれば、筐体にスト
ッパー付きのキャスターを取り付けるという周知技術を適用し、容易
に克服できる弊害であるといえる。したがって、安全性を保つ必要が
あることが乙6発明に係る授乳室にキャスターを取り付ける阻害要因
になるとは認められない。
◆判決本文
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2023.03.24
令和4(行ケ)10037 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年2月7日 知的財産高等裁判所
空調服に関する特許について、公然実施発明との組み合わせる動機づけありとして、無効理由なしとした審決を取り消しました。
前記aないしdの各記載によると、本件出願日当時、被服の技術分野におい
ては、2つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、そもそも2つの紐
状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容易ではないとの周知かつ自明の
課題が存在したものと認められる(なお、前記1(1)のとおり、本件明細書にも、
本件出願日当時に存在した課題として、一組の調整紐を結んで所望の長さになるよ
うにすることは非常に難しく、ほとんどの着用者は空気排出口の開口度を適正に調
整することができないとの記載がみられるところである。)。
そうすると、被服の技術分野に属する本件公然実施発明の構成(「前記空調服の\n服地の内表面であって前記襟又はその周辺の第一の位置に取り付けられた紐1と」、\n「前記紐1が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟又はその周辺の第二
の位置に取り付けられた紐2とを備え」、「2本の紐(1、2)を結ぶことによっ
て、空気排出量を調節することができる」との構成)自体からみて、また、甲41\nに「首と襟足の間隔を広くし」との記載(前記(1)イ(イ))及び紐が首の後ろにあ
る旨の図示(同)があることからすると、本件公然実施発明に接した本件出願日当
時の当業者は、上記の課題を認識するものと認めるのが相当である。
(イ) 甲30発明’が解決する課題
前記(3)アの記載のとおり、甲30発明’は、「帯紐6a」に「ボタン7a」を、
「帯紐6b」に複数の「ボタン7b」をそれぞれ設け、「ボタン7a」を複数ある
「ボタン7b」のいずれか一つにはめ込むとの構成を採用することにより、「帯紐\n6a」及び「帯紐6b」の装着長さを調整し、もって、個人差のある腰回りの大き
さに応じて介護用パンツ1を装着することを可能にするというものであるところ、\n甲30に装着の容易さについての記載(段落【0008】、【0009】、【00
11】)があることや、前記(ア)eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願日当
時に被服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件出願日当時
の当業者は、甲30発明’につき、これを2つの紐状部材を結んでつないで長さを
調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手段として認識するものと
認めるのが相当である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)のとおりであるから、本件公然実施発明から認識される
課題と甲30発明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当である。
(エ)a この点に関し、被告は、本件公然実施発明の課題は空気排出口の開口部
を形成することであり、甲30に記載された技術事項とは異質のものであり、かつ、
異なると主張する。
しかしながら、前記(1)ア及びイの各記載のとおり、本件公然実施発明は、空調
服の服地の内表面であって襟又はその周辺の第一の位置に取り付けられた「紐1」\nと、「紐1」が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟又はその周辺の第
二の位置に取り付けられた「紐2」とを備え、「紐1」及び「紐2」を結ぶことに
よって、首と襟足との間に形成される空気排出スペースの大きさを調整するもので
あるところ、前記(ア)eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願日当時に被服の
技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件公然実施発明に接した
本件出願日当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調整するための手段であ
る「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調整することが手間で容易ではな
いことが本件公然実施発明の課題であると認識するのに対し、前記(イ)のとおり、
本件出願日当時の当業者は、甲30発明’につき、これを2つの紐状部材を結んで
つないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手段として
認識するものと認められるから、本件公然実施発明から認識される課題と甲30発
明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当である。本件公然実施発明が空
調服の首回りの空気排出スペースの大きさを調整するものであるのに対し、甲30
発明’が介護用パンツの腰回りの大きさを調整するものであること、すなわち、両
者が何を調整するのかにおいて異なることは、課題の共通性に係る上記結論を左右
するものではない(両者は、紐状の部材の締結により被服が形成する空間の大きさ
を調整するとの目的ないし効果において異なるものではない。)。
したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
b 被告は、本件発明3の課題は斬新であり、これは本件公然実施発明の課題と
甲30に記載された技術事項の課題との共通性を否定する事情となると主張する。
しかしながら、仮に、本件発明3の課題が斬新であったとしても、そのことによ
り、本件公然実施発明から認識される課題や甲30発明’が解決する課題に影響を
及ぼすものではないから、被告の上記主張を採用することはできない。
ウ 本件公然実施発明に甲30発明’を適用することについての動機付けの有無
(ア) 前記ア及びイのとおりであるから、被服の技術分野に属する本件公然実施
発明に接した本件出願日当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調整するた
めの手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調整することが手間
で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するため、同じ被服の技術分野に
属する甲30発明’を採用するよう動機付けられたものと認めるのが相当である。
(イ) この点に関し、被告は、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度を
調整できるとの技術常識は存在しなかったから、本件公然実施発明に甲30に記載
された技術事項を組み合わせることはできなかったと主張し、その根拠として、本
件明細書の段落【0006】の記載を挙げる。
しかしながら、前記1(1)のとおり、本件明細書の段落【0006】には、一組
の調整紐を結んで所望の長さになるようにすることは非常に難しく、ほとんどの着
用者は空気排出口の開口度を適正に調整することができなかったことなどが記載さ
れているにすぎず、この記載から、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度
を調整することはおよそできないとの技術常識が存在したものと認めることはでき
ない。その他、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度を調整することはお
よそできないとの技術常識が存在したものと認めるに足りる証拠はない。
◆判決本文
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2023.03. 1
令和4(行ケ)10012等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年2月16日 知的財産高等裁判所
齋藤創造研究所の特許についてAppleが無効審判を請求し、特許庁は無効理由なしと判断しました。知財高裁は、審決を維持しました。被告は、IPOD関連のクリックホイールの発明について特許権を有しており、別訴でAppleから不存在確認訴訟を提起され、反訴請求し、約3億円の損害が認められています(平成19(ワ)2525)。
甲1発明は、前記(1)のとおり、従来の制御信号供給装置では、制御信号
を継統的に発生させることができず、 磁気テープに対する連続的な走行
制御が行えないという課題を解決するため、接触操作面を有するととも
にこれに関連して円環状に配列された複数の接触操作検出区分が設けら
れ、各接触操作検出区分から出力されるタッチパネルとの構成を採用し、\nテープ駆動系に供給される制御信号を、特殊変速再生モード状態におい
て磁気テープを所望の一方向に、所望の速度で走行させる制御を任意の
時間だけ連続的に行えるようにしたものである。
一方、周知技術1は、タッチ位置検知手段(タッチパネル)により一次
元又は二次元座標上の位置データを検出することで画面上のカーソル等\nの位置データが設定され、プッシュスイッチ手段により当該設定された
位置データが確定されて入力情報となるものと理解できる。そうすると、
周知技術1は、位置データを入力する装置に関する技術であって、タッ
チパネルとプッシュスイッチが協働して位置データを入力する機能を果\nたすものであるといえる。
磁気テープの走行方向や走行速度を制御するための甲1発明のタッチ
パネルと、走行方向や走行速度という要素を含まない位置データを入力
する装置に関する周知技術1とは、制御する対象が異なるし、たとえ両
者がタッチパネルという共通の構成を有するとしても、磁気テープの制\n御信号供給装置である甲1発明において、位置データを入力する装置に
関するものである周知技術1を適用することが容易であるとはいえない。
結局のところ、甲1発明に、周知技術1を適用できるとする原告らの
主張は、実質的に異なる技術を上位概念化して適用しようとするもので
あり、相当でない。
仮に、周知技術1を、タッチパネルによる選択をプッシュスイッチで
確定して何らかの入力情報を生成する技術であると上位概念化して理解
したとしても、甲1発明は、プッシュスイッチに割り当てるべき機能(選\n択を確定する機能)をそもそも有さないし、甲1文献には、タッチパネル\nにより磁気テープの走行方向や走行速度を連続制御することは記載され
ているが、タッチパネルにより選択された走行方向や走行速度を確定す
る操作や、当該操作に対応するボタン等の構成は記載も示唆もないから、\n甲1発明に、周知技術1を適用する動機付けがない。
原告らは、前記第3の1(1)ア のとおり、甲1発明のタッチパネル1
1も接触点を一次元座標上の位置データDpとして検出するものである
し、本件特許発明であれ周知技術1であれ、タッチパネルの下にプッシ
ュスイッチを設けることの作用効果は、タッチパネルの下にプッシュス
イッチを設けること自体に由来するものであって、プッシュスイッチの
上にあるタッチパネルの形状等や操作態様等にも依存しないから、周知
技術1は、上位概念化するまでもなく甲1発明に適用可能であり、当該\n適用は、先行技術の単なる寄せ集め又は設計変更である旨主張する。
しかし、原告らの主張は、前記 において説示した、甲1発明において
選択を確定する機能がない点等を看過しているものであるし、周知技術\n1において、位置データを入力する機能はタッチパネルの形状や操作態\n様等には依存しないとしても、そのことが同周知技術におけるタッチパ
ネルとプッシュスイッチの機能的又は作用的関連を否定する根拠とはな\nらないし、機能的又は作用的関連が否定できない以上、周知技術1を甲\n1発明に適用することが単なる寄せ集め又は設計変更とはいえない。し
たがって、原告らの上記主張は採用できない。
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2023.02.17
令和4(行ケ)10007 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年1月18日 知的財産高等裁判所
容易想到性の判断に当たり、主引用例の選択の場面では、請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決すべき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している必要はないとして、進歩性なしとした審決が維持されました。
原告らは、本願発明は、多数の作用効果を有機的に組み合わせた統合
システムの発明であるのに対し、引用発明は、圧縮機の吸込容積を可変
とするものにすぎず、その具体的な課題や作用・機能は全く異なってお\nり、この観点からも、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想
到するための動機付けはないと主張するので(前記第3の3〔原告らの
主張〕(2)ウ)、この点について検討する。
原告らの上記主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、容易想到性の判
断に当たり、請求項に係る発明と主引用発明との間に具体的な課題や作
用・効果の共通性を要するという主張であるとすれば、主引用例の選択
の場面では、そもそも請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決す
べき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している
必要はないというべきである。これを本件についてみるに、本願発明の
課題は、「冷媒が循環する冷媒回路と水(熱搬送媒体)が循環する水回路
(媒体回路)とを有しており、熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させて
室内の空調を行うチラーシステム(熱搬送システム)において、媒体循
環を構成する配管を小径化するとともに、環境負荷の低減及び安全性の\n向上を図ること」(段落【0005】)であって、格別新規でもなく、い
わば自明の課題というべきものであり、二酸化炭素を熱搬送媒体として
採用した引用発明においては解決されているといえるものである。
また、原告らは、本願発明が奏する効果についても主張するので、こ
の点について検討すると、本願発明の、冷房と暖房が可能であるという\n効果(段落【0007】及び【0061】)、及び複数の室内の冷房及び
暖房をまとめて切換可能であるという効果(段落【0062】)は、本願\n発明が、冷媒流路切換機及び第1媒体流路切換機を備えることによる効
果であるところ、引用発明においても、第1四方弁150と第2四方弁
250を備えるから、冷房と暖房が可能であるし、複数の室内空気熱交\n換器(相違点2に係る本願発明の構成)を備える場合には、第2四方弁\n250と連結された室内熱交換機の数が増えるのみであると考えられる
から、複数の室内の冷房及び暖房をまとめて切換可能であるという効果\nも当然に奏されることになる。そして、1次側にR32冷媒(相違点1
に係る本願発明の構成)を採用した場合でも、そのような効果を奏する\nことに変わりはない。配管小径化、省スペース化・配管施工及びメンテ
ナンス省力化、媒体使用量削減を図ることができるという本願発明の効
果(段落【0008】、【0063】)は、本願発明が熱搬送媒体として二
酸化炭素を採用したことによって奏するものであり、これは、引用発明
も、熱搬送媒体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏する
ものである。着火事故を防止できるという本願発明の効果(段落【00
09】及び【0064】)は、室内側に配置される媒体回路に二酸化炭素
を用いていることによるものであるが、これは、引用発明も、熱搬送媒
体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏するものである(甲
11の段落【0062】)。また、本願明細書等には、HFC−32(R
32)を冷媒として採用する冷媒回路を構成する配管を室内側まで設置\nする必要がないとの記載もある(段落【0009】及び【0064】)が、
本願の特許請求の範囲の請求項1の記載及びその記載により認定される
本願発明では、冷媒回路が室内側に設置されていないことは特定されて
いないので、上記の効果は、本願発明の特許請求の範囲の請求項1の記
載に基づくものとは認められない。さらに、技術常識D及びFに照らせ
ば、引用発明のプロパンは強燃性であるのに対し、本願発明のR32は
微燃性であることから、着火事故を防止できるという効果は、引用発明
に比べると本願発明が優れていると解されるが、引用発明において相違
点1に係る本願発明の構成を採用することにより、自ずと奏するように\nなる効果である。環境負荷を低減するという本願発明の効果(段落【0
010】及び【0065】)は、R32と二酸化炭素を採用したことによ
るものであるところ、引用発明において相違点1に係る本願発明の構成\nを採用することにより自ずと奏されるものである。そうすると、原告ら
が本願発明の効果として主張するものは、引用発明も奏するものである
か、又は相違点1に係る本願発明の構成を採用することにより自ずと奏\nするものであり、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想到す
るための動機付けを否定するに足りるような顕著なものではない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 組み合わせの阻害要因について
原告らは、プロパンは、冷媒の能力として、寒冷地での使用が困難であ\nるから、これをR32に代替することには阻害要因があると主張する(前
記第3の3〔原告らの主張〕(3))。
しかし、本願発明においては、寒冷地での使用の可否など冷房又は暖房
の能力に関連する特定はなく、引用文献1にも、引用発明において、特に\n寒冷地での使用が困難なプロパンのような冷媒を採用することに技術的
意味があることをうかがわせるような記載はないから、引用発明のプロパ
ンをR32に代替することに阻害事由があるとは認められない。
また、原告らは、着火事故の防止というビル用マルチの決定的課題に反
する選択となるので、引用発明をビル用マルチに使用することには阻害要
因があると主張する(前記第3の3〔原告らの主張〕(3))。
しかし、本願発明がビル用マルチに限定されたものでないことは前記3
(1)イのとおりであるし、仮に本願発明がビル用マルチに適用されるとして
も、引用発明で採用されている強燃性のプロパンを微燃性のR32に置き
換えることは、ビル用マルチに要請される性能に必ずしも反するものでは\nなく、むしろそれにそう面もあるから、原告らの上記主張は採用すること
ができない。
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2023.01.12
令和4(行ケ)10039 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年12月21日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性無しとした審決が維持されました。出願人はぐるなびです。
ア 前記(1)のとおり、相違点3は、施設端末に予約内容を通知した後、ユーザー\n端末に第2施設の情報を通知する処理を行うことにつき、本願補正発明では、前記
施設端末からの返信を有効に受け付ける期間として予め設定された待機期間内に前\n記施設端末からの返信がない場合であるのに対し、引用発明では、施設端末から受
信する予約結果情報の予\約登録可否の結果がNGであった場合である点で相違する
というものである。
イ ところで、施設の予約は、利用日又は利用日時を指定して行うものであり、\n予定される利用日又は利用日時よりも前に予\約を完了するという本来的な要請があ
る。そして、引用発明は、ある特定の施設の予約を目的とするものではなく、利用\n者の希望する条件に合致した複数の施設を対象とし、一つの施設の予約ができなか\nった場合に、別の施設の予約をすることが可能\であるような施設予約システムにお\nける予約方法であるところ、前記2(1)イのとおり、引用発明における施設予約シス\nテムは、「施設予約情報サーバ30から、当該予\約情報に基づく、自動的、あるいは
宿泊施設の予約担当者により判断される予\約登録可否(OKかNG)の予約結果情\n報を受信し、」「受信した予約結果情報の予\約登録可否の結果がNGであった場合」
に、次の候補となる施設の検索をしてユーザーに送信して、ユーザーが別の施設の
予約を行うものとされているから、施設端末に当たる「施設予\約情報サーバ」から
の予約結果情報の受信は、宿泊施設の予\約担当者による判断の時期によっては、相
当程度に遅くなる場合も想定され、その間に、当初の検索条件に合致する別候補の
施設の予約枠が埋まってしまうこともある。\nそうすると、引用発明には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者\nの希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができ\nないおそれがあるといえる。
ウ 次に、前記2(2)イの引用文献2記載技術をみると、宿泊施設の仮予約におい\nて、「ホテル端末103が宿泊可否の通知を一定時間経過(タイムアウト)しても行
わなかった場合、ホテル端末103に対して、キャンセルの通知を送信し、次のホ
テルへ空き問い合わせ情報を送信する」ものであるから、甲2には、施設端末が、
一定時間を経過しても予約可否の回答をしなかった場合には、キャンセルとして扱\nい(以下「タイムアウト処理」という。)、次の施設に問い合わせるという技術が開
示されているといえる。そして、予定される利用日又は利用時間よりも前に、タイ\nムアウト処理をして、次の施設に問合せをすることで、最初に問合せをした施設か
らの回答を待っていたために、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者\nの希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができ\nなくなるという事態を回避するのに、一定の効果があると認められる。
エ ところで、引用発明と引用文献2記載技術とは、複数の施設を対象とした施
設予約システムにおける施設予\約方法という共通の技術分野に属するものであって、
第1施設に対して予約可否の問合せを行い、第1施設から予\約不可の返信を受けた
場合には第1施設に類似する他の施設を抽出するという手法も共通するところ、前
記イのとおり、引用発明において、第1施設から予約可否の返信が長時間送信され\nない場合には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件\nに合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができないおそれがあ\nるところ、上記本来的な要請を満たすために、第1施設からの予約可否の返信を長\n時間待ち続けるという事態を回避しようとすることは、当業者であれば当然に着想
するものと認められるから、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を
適用する動機付けがあるといえる。
そして、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を適用すると、引用
発明は、施設端末からの返信を有効に受け付ける期間としてあらかじめ設定された
待機期間内に前記施設端末からの返信がない場合には、予約結果情報の予\約登録可
否の結果がNGであった場合と同様に、予約内容に基づいて第1施設を除く一又は\n複数の第2施設を抽出し、前記抽出された一又は複数の前記第2施設の情報を前記
ユーザー端末に通知する処理を行うことになる。
そうすると、相違点3に係る構成は、引用発明に引用文献2記載技術を適用する\nことより、当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。
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