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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

阻害要因

最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、裁判所がおもしろそうな(?)意見を述べている判例を集めてみました。
内容的には詳細に検討していませんので、詳細に検討してみると、検討に値しない案件の可能性があります。
日付はアップロードした日です。

令和5(行ケ)10146  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年7月25日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決(拒絶査定不服審判)が維持されました。

 原告は、甲1には卵パックの搬送方向を変更することにつき、記載も示唆もない と主張する。しかし、上記(2)イのとおり、引用発明に係る装置において、コンベア や関連する装置の配置を最適化することは、当業者において自明の課題といえると ころ、同一の技術分野及び作用機能に係る甲2には、パックの搬送方向を変更でき\nる旨が明記されているから、引用発明及び甲2に接した当業者が、引用発明におけ る卵パックの搬送方向につき、甲2に記載された構成を適用する動機付けが認めら\nれる。原告の主張は採用することができない。 原告は、引用発明ではラベルが空気抵抗の影響を受けて挙動が不安定になり落下 位置がずれやすいのに対し、甲2発明ではラベルが空気抵抗の影響をほとんど受け ないとして、前提の異なる甲2記載の構成を引用発明に採用することはできないと\n主張する。しかし、甲1には、従来の装置の課題として「ラベルを水平方向にしたま ま落下させるとラベルは空気抵抗でどこに落下するか予測できない」(明細書2頁1\n3〜15行目)ことを挙げ、引用発明は「ラベルを水平方向にしたまま落下させな いで、ラベルを斜めにした状態で落下させると、ラベルはその傾斜の下方延長方向 に確実に落下すると云う原理に基(づ)いている」(同3頁1〜4行目)として課題 を解決する旨が記載されている。甲1の記載を総合しても、このようにして課題を 解決することとした引用発明において、それにもかかわらず、ラベルが空気抵抗の 影響を受けて挙動が不安定になり、ラベルの落下位置がずれやすいと認められるも のではなく、少なくとも、引用発明における卵パックの搬送方向を変更することに 阻害要因があるとは認められない。原告の主張は採用することができない。
原告は、引用発明では、ラベルが落下していく傾斜の下方延長方向と、コンベア による卵パックの搬送方向とが交わるようにすることで、発明の目的を達成してい るところ、卵パックの搬送方向を変更することはその目的に反することになり、阻 害要因があると主張する。しかし、甲1には、ラベルが落下していく方向と卵パッ クの搬送方向とが交わるようにすることにより発明の目的を達成している旨の記載 はないし、甲1の記載を総合しても、卵パックの搬送方向が変更された場合に、引 用発明の目的が達成されないと認めることはできない。また、パックが輸送される タイミングに合わせてラベルを投入することは、当該技術分野における技術常識と いえ、パックの搬送方向を変更させた上で、タイミングに合わせてラベルを投入で きるようにすることは、当業者が通常採用し得る事項といえる。引用発明における 卵パックの搬送方向を変更することに阻害要因があるとはいえない。 原告の主張は採用することができない。
・・・
原告は、本件審決が引用発明につき、「ラベルLは、保持を解除された後も、上ベ ルト3と接してベルトの駆動方向に押し出されるようになる」とした点につき、ラ ベルLは、上下ベルト3、4の挟持が解除された後、再び上ベルト3に接すること はないから、本件審決の認定は誤りであると主張する。しかし、本件審決の上記認 定部分は、ラベルLが上ベルト3との接触を離れた後に再び上ベルト3に接触する 旨をいうものとは解されない。引用発明において、ラベルLは、上下ベルト3、4の 運動によって輸送されていくから、その前端部分から後端部分にかけて、徐々に上 下ベルト3、4の挟持から離脱していくこととなるが、その間も、少なくとも後端 部分は上ベルト3に接してその運動により駆動方向に押し出されていく。本件審決 の上記認定部分は、これと同旨をいうものと理解できる。原告の主張は採用するこ とができない。
原告は、卵パックにラベルを投入する直前にラベルを一旦保持する構成は技術常\n識であるから、引用発明においても、ラベルLの後端部がプーリ7、10の位置に 到達した際、上下ベルト3、4は駆動を止めてラベルLを一旦保持し、その後、上下 ベルト3、4が駆動を再開することで保持が解除され、ラベルLは、傾斜の下方延 長方向(ラベルの短辺に沿った方向)に落下すると主張する。しかし、仮に引用発明 において上下ベルト3、4が駆動を止めてラベルLを保持し、その後駆動を再開し てラベルLの保持を解除するとしても、上下ベルト3、4の駆動の再開により、ラ ベルLには上下ベルト3、4の駆動による同駆動方向への駆動力が働くのであるか ら、ラベルLがその長辺に沿った方向に押し出されることは否定できない。原告の 主張は採用することができない。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10084等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年7月17日  知的財産高等裁判所

審判では訂正要件充足、訂正後の発明について進歩性違反無しと判断されました。知財高裁は、訂正自体は有効だが、進歩性無しと判断しました。 被告(特許権者)は、「甲2発明に甲1発明を適用して、甲2発明のインナロータ型モータをアウタロータ型モータに置き換え、さらに周知技術を適用して磁石を筒缶部の内周面に貼設されるようにするという複数のステップを求めるものであり、容易の容易として認められない。」と主張していました。

甲8文献は、平成15年9月19日公開された発明の名称を「ロータおよびその製造方法」とする特許出願の公開公報(特開2003−264963)である。甲8文献に記載された技術は、ロータ軸に接着剤を用いて焼結磁石を固定したロータおよびその製造方法に関するものであり(甲8文献の段落【0001】)、甲8文献の図1(a)及び(b)には、ロータ10は、ロータ軸12の外周面上に周方向に沿って配列された複数の磁石片20と、複数の磁石片20を外周面に固定する接着剤層14とを備えていること(甲8文献の段落【0021】)が記載され、甲8文献の図1において、複数の磁石片20がロータ10に互いに隙間を空けて貼設されていることが記載されている。\n
(エ) 甲9文献(日本接着学会誌 Vol.39、No.9〔2003/9/1〕「構造接着技\n術の応用展開と最適化技術の構築」原賀康介)には、モーターの磁石接\n着について、甲9文献の図7は、モーターのロータ―の構\造を示してお り、スパイダーにセグメント状の永久磁石が接着されており、磁石の接 着には、従来から加熱硬化型エポキシ系接着剤が使用されてきたが、ネ オジウム系磁石は線膨張係数が0からマイナスであるため、加熱硬化では熱応力が大きく耐ヒートサイクル性に劣ることや加熱硬化で作業性に劣るため、最近は生産性に優れた2液室温硬化型の耐熱性アクリル系接着剤に変わりつつあることが記載されている。
(オ) 甲5文献は、平成17年6月2日公開された発明の名称を「回転電機 のロータ」とする特許出願の公開公報(特開2005−143248) である。甲5文献に記載された技術は、発電機やモータ等の回転電機に 使用されるロータに関するものであり(甲5文献の段落【0001】)、 その実施形態である甲5文献の図1及び図3のアウターロータ5は、ロ ータ本体50と、ロータ本体50に固定された複数個の磁石部7とを有 し、磁石部7は、ロータ本体50のリング部55の内周領域57におい て周方向に間隔を隔てて保持された永久磁石で形成されていること(甲 5文献の段落【0030】〜【0034】、図3)、磁石部7は接着剤 等により 方向に間隔を隔てて形成された着座溝61に接合されている (甲5文献の段落【0034】)、上記実施形態は、回転電機として働 くモータのアウターロータ、インナーロータに適用しても良いこと(甲 5文献の段落【0072】)が記載されている。そして、甲5文献の図 1には実施形態の発電機の断面図が、甲5文献の図3には発電機のアウ ターロータのうち磁石部をリング部が保持している状態の異なる方向の 部分断面図が、それぞれ記載されている(甲5文献の段落【007 8】)。
(カ) すなわち、甲5文献においては、磁石を保持する態様として、アウタ ロータ型電動モータでは、ステータの外周側(ロータの内周側)に複数 の磁石が相互に隙間を空けて配置されることが記載されている。また、 甲8、9文献においては(甲70、71文献にも同様の記載があること から、当時の技術常識と認められる。)、接着剤固定法では、通常、エ ポキシ系やアクリル系などの接着剤で固定する方法により貼設されるこ\nとが、それぞれ記載されている。
イ 以上を踏まえ、相違点II)について検討すると、アウタロータ型電動モー タにおいて、磁石を保持するために、複数の磁石をステータの外周側(ロ ータの内周側)に沿って配置し、接着剤固定法等により「貼設」すること\nは、周知技術であると認められる(甲5、8、9)。したがって、上記周知技術を適用して、相違点II)の構成とすることは当業者にとって容易想到であったというべきである。\n
ウ この点について、被告は、主引例の甲1発明と、副引例(甲5、8、9) の各技術の課題は相互間でも異なるから、組み合わせることに動機付けを 肯定する余地はないなどと主張する。しかしながら、前記のとおり、これ らの副引例(甲5、8、9)に記載された磁石の配置及び固定方法は、周 知技術であると認められるから、これを適用することの動機付けを肯定す ることが困難ということはできない。

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令和6(行ケ)10002  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年5月23日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした無効審決が取り消されました。審決では、設計書で定まっている事項を変更することには阻害要因がありと判断されていましたが、裁判所はこれを否定しました。

本件明細書等における、白色繊維と黒色繊維の混合比率を変えた実施例 1ないし7と比較例1及び2による試験によれば、この混合比率と、繊維 の縦及び横の強度及び伸度とは、相関関係はないといえる(段落【004 8】の試験結果)。また、光の反射性は、黒色繊維の混合比率を高めるほど 眩しさを感じにくくなる(段落【0050】)。そして、本件明細書等にお いて、黒色繊維を10%未満の割合で混合した比較例との対比は行われて おらず、比較例1及び2は、全て白色繊維のもの及び全て黒色繊維のもの であるから、白色繊維と黒色繊維の混合比率を、10ないし90%の範囲 とした場合と、10%未満とした場合との効果の差異は、本件明細書等に 記載された実施例及び比較例による試験からは明らかでない。
以上によれば、本件発明2について、黒色繊維の混合比率を高めると、 1)斑が形成され、これを用いて不織布の伸び率を把握することが可能とな\nり、2)光の反射を抑えて眩しさを感じにくくなり、3)耐候性及び耐摩耗性 が高まり、他方、黒色繊維の混合比率を高くしすぎると、全体の色が濃く なって斑を識別するのが困難になるという結果が生じるが、本件発明2に おいて黒色繊維の混合比率を10ないし90%の範囲としたことに特段 の技術的意義があるとは認められない。
エ 上記ア及びイのとおり、カーボンブラックが、耐候性、耐摩耗性及び遮 光性の向上、光の反射による作業者への作業上の障害の防止、景観を損な うことの防止等を目的として、所望の効果が発揮できる量で土木工事用不 織布を含む土木工事用シートに添加されているものであること、及び、土 木工事用の防砂シート(不織布又は織布)として用いられる製品の色の濃 さが一様でなく、白色の製品、灰色の斑模様の製品とともに濃灰色ないし 黒色の製品も使用されていることが、本件出願日の時点における技術常識 であったと認められ、白色繊維と黒色繊維を混合した土木工事用不織布に おける黒色繊維の混合比率が多様なものであると当業者が認識していた ということができる。
また、上記ウのとおり、本件発明2についても、黒色繊維の混合比率を 10ないし90%の範囲としたことに特段の技術的意義があるとは認め られない。
そうすると、引用発明1の土木工事用不織布において、耐候性、耐摩耗 性及び遮光性の向上、光の反射による作業者への作業上の障害の防止、景 観を損なうことの防止、並びに不織布の伸び率測定のための斑模様の明確 さを好適なものとするために、カーボンブラックにより着色した黒色繊維 の比率を増減することは、当業者の設計事項にすぎないというべきである。 また、白色繊維と、カーボンブラックにより着色した黒色繊維を混合し た土木工事用不織布において、黒色繊維の割合を高めれば、斑模様が濃く なって、斑点の間の距離の測定に基づく不織布の伸び率の測定が容易にな るほか、耐候性、耐摩耗性及び遮光性の向上、光の反射の抑制といった効 果があることが、上記のとおり本件出願日の時点における技術常識であっ たといえるから、黒色繊維の比率を7.5%より高める動機付けがあった ということができる。
以上によれば、引用発明1について、黒色繊維の混合比率が7.5%と されているところ、これを10ないし90%の範囲とすることによって、 相違点2に係る構成を導くことは、当業者が容易に想到することができた\nものというべきである。
オ 本件審決は、800Z製品は一定の品質を保って製造されるものであり、 白色繊維と黒色繊維の比率を変えるような設計変更は通常行わないとか、 800Z製品の製品仕様書(甲22)では黒色の綿の混率が5%と記載さ れていることを指摘した上で、製品仕様における黒色繊維の比率5%を桁 の異なる10%以上にすることには阻害要因があると判断している。 しかし、800Z製品について、製品の同一性あるいはその品質を維持 するために、仕様書で定められた仕様の遵守が求められるとしても、同製 品を基に、仕様の一部を変更して、新たな仕様の土木工事用不織布の製品 を開発、製造しようとすることは当然に行われることであって、800Z 製品の仕様として黒色繊維の比率が特定の値に定められているからとい って、この値を変更することに阻害要因があると認められることにはなら ず、800Z製品の使用における黒色繊維の比率が1桁である5%とされ ていることから、この比率を2桁の10%にすることに阻害要因があると 解することもできない。
そして、前記ウ及びエのとおり、黒色繊維の比率を特定の割合又は特定 の範囲に定めることについて特段の技術的意義があるとは認められず、か つ、カーボンブラックにより着色した黒色繊維の比率を高める動機付けが あったといえることからすれば、引用発明1について、その黒色繊維の比 率を、上記仕様書に記載された数値から変更することに阻害要因があると は認められない。

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令和1(ワ)24736  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和6年3月15日  東京地方裁判所

 空調服の特許について、進歩性無しとして、権利行使不能と判断されました。\n

前記aないしdの各記載によると、本件出願当時、被服の技術分野 においては、二つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、 そもそも二つの紐状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容 易ではないとの周知かつ自明の課題が存在したものと認められる(な お、前記1(1)のとおり、本件明細書にも、本件出願当時に存在した課 題として、一組の調整紐を結んで所望の長さになるようにすることは 非常に難しく、ほとんどの着用者は空気排出口の開口度を適正に調整 することができないとの記載がみられるところである。)。 そうすると、被服の技術分野に属する本件公然実施発明の構成\n(「前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第\n一の位置に取り付けられた紐1と」、「前記紐1が取り付けられた前記 第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付 けられた紐2とを備え」、「2本の紐(1、2)を結ぶことによって、 空気排出量を調節することができる」との構成)自体からみて、また、\n乙46説明書に「首と襟足の間隔を広くし」との記載及び紐が首の後 ろにある旨の図示(前記(1)イ )があることからすると、本件公然実 施発明に接した本件出願当時の当業者は、上記の課題を認識するもの と認めるのが相当である。
乙33発明’が解決する課題
前記(3)アの記載のとおり、乙33発明’は、「帯紐6a」に「ボタン 7a」を、「帯紐6b」に複数の「ボタン7b」をそれぞれ設け、「ボタ ン7a」を複数ある「ボタン7b」のいずれか一つにはめ込むとの構成\nを採用することにより、「帯紐6a」及び「帯紐6b」の装着長さを調 整し、もって、個人差のある腰回りの大きさに応じて介護用パンツ1を 装着することを可能にするというものであるところ、乙33公報に装着\nの容易さについての記載(【0008】、【0009】、【0011】)があ ることや、前記 eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願当時に被 服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件出願当 時の当業者は、乙33発明’につき、これを二つの紐状部材を結んでつ ないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手 段として認識するものと認めるのが相当である。
課題の共通性についての結論
前記 及び のとおりであるから、本件公然実施発明から認識される 課題と乙33発明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当であ る。
ウ 本件公然実施発明に乙33発明’を適用することについての動機付けの 有無
前記ア及びイのとおりであるから、被服の技術分野に属する本件公然実 施発明に接した本件出願当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調 整するための手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調 整することが手間で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するた め、同じ被服の技術分野に属する乙33発明’を採用するよう動機付けら れたものと認めるのが相当である。
エ 原告の主張について
原告は、本件公然実施発明は、排出する空気の量に応じて、中に支え る物体がない、空気を排出するスペースを調整するのに対して、乙33 発明’は、体型等に応じて中に支える物体があるものの周りを調整する ものであるから、その目的や機能が異なると主張する。\nしかしながら、本件公然実施発明と乙33発明’とは、紐状の部材の 締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし する。
しかしながら、本件公然実施発明と乙33発明’とは、紐状の部材の 締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし機能\nにおいて異なるものではないから、本件公然実施発明が空調服の首回り の空気排出スペースの大きさを調整するものであるのに対し、乙33発 明’が介護用パンツの腰回りの大きさを調整するものであること、すな わち、両者が何を調整するのかにおいて異なることは、前記ウに係る結 論を左右するものではない。 また、原告は、1)空調服は、世の中に存在しなかった革新的技術であ ることや、2)本件発明1は従来技術に比して有利な効果を有しており、 本件公然実施発明と異なる技術的意義を有することを主張している。 しかし、上記1)について、本件発明1は、本件公然実施発明等によっ て既に実用化されている空調服における空気排出口の開口度の調節方法 に係る発明であり、従来技術の延長線上に位置付けられるものと評価で きるところ、上記の調節方法が被服の技術分野で周知といえることは前 記(3)で説示したとおりである。そうだとすれば、空調服という製品自体 が革新的技術であることは、本件発明1の進歩性を基礎付ける事情とは ならないというべきである。 上記2)について、本件全証拠によっても、本件発明1がその進歩性を 基礎付けるほどの有利な効果や技術的意義を有しているとは認められな い。

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令和5(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和6年1月31日  知的財産高等裁判所

進歩性無しとした審決が維持されました。争点は、相違点の認定誤り、動機付け、阻害要因です。

(1) 原告は、引用例2及び引用例3に開示されたイメージファイバを介して照 明光を導く周知の方法はイメージファイバを振動させないものであるのに対 して、引用発明はイメージガイド2の接眼側の端部を振動させるものである から、イメージファイバの前提構成が異なるものであって、引用発明に上記\nの周知の手法を適用する動機付けがあるとはいえない旨主張する。
(2) しかし、引用例2及び引用例3によれば、集光レンズを介して入射した光 源からの光をイメージファイバにより伝送することは、本件審決が認定する とおり周知の手法であると認められるところ、引用例3の【0008】、及 び特開2000−121460号公報(乙2)の【0018】、【001 9】、【0029】の記載によれば、内視鏡の技術分野において挿入部を細 径化することは周知の課題であると認められるから、その課題は引用発明に も内在していると認められる。 そして、本件審決の認定する周知の手法は、引用発明にも内在する上記の 課題の解決手段となるものであるから、引用発明にこれを適用する動機付け はあるというべきである。
(3) 原告は、さらに、照明光を被観察物体に導くイメージガイド2の接眼側の 端部を振動させると、被観察物体の撮像にどのような影響を与えるのかが不 明であることを考慮すれば、上記周知の方法を引用発明に採用することには 阻害要因がある旨主張する。 しかし、イメージファイバを振動させる技術と、光源からの光をイメージ ファイバにより伝送する技術とを同時に採用できないとする技術的根拠は見 当たらず、上記(2)のとおり周知の課題を解決する手段である周知の方法を 採用することは、当業者であれば容易に着想して試みるものと認められる。
(4) したがって、引用発明に引用例2及び引用例3の周知の手法を適用するこ とによって、相違点1及び相違点2に係る構成は容易に想到し得るとした本\n件審決に誤りは認められず、原告主張の取消事由2は理由がない。

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令和1(行ケ)10114 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月24日  知的財産高等裁判所

 漏れていたのでアップします。動画配信における視聴者からのギフトの処理(CS関連発明)について、審判で進歩性無しと判断されました。知財高裁も同様です。

「・・・(D1)前記動画を視聴する視聴ユーザから前記動画の配信中に前記動画へ の装飾オブジェクトの表示を要求する第1表\示要求がなされ,(D2)前記動画の配信中に前記動画の配信をサポートするサポーター又は前記アクターによって前記装飾オブジェクトが選択された場合に,(D3)前記装飾オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる前記キャラクタオブジェクトの部位に関連づけて、(D4)前記装飾オブジェクトを前記動画に表示させる,(A)動画配信システム。」というクレームです。\n 原告は,甲2には,視聴者から配信者へギフトを贈ること(ユーザーギ フティング)が動画配信中に行われるとの記載はないので,引用発明に甲 2記載の技術を追加したとしても「動画配信中に行われた表示要求に応じ\nて,装飾オブジェクトを表示する」という本願発明の構\成には至らない旨 主張する。しかしながら,甲2には,CGキャラクターへのユーザーギフティング を動画配信中に行うことについての記載はないものの,これを排除する旨 の記載もなく,この点は,配信時間の長さ,ギフト装着のための準備,予\n想されるギフトの数等を踏まえて,配信者が適宜決定し得る運用上の取り 決め事項といえるから,甲2のユーザーギフティング機能において,CG\nキャラクターが装着するための作品を贈る時期は,配信開始前に限定され ているとはいえない。したがって,引用発明に上記ユーザーギフティング 機能を追加することによって,相違点1に係る「前記動画を視聴する視聴\nユーザから前記動画の配信中に前記動画への装飾オブジェクトの表示を要\n求する第1表示要求がなされ」るという構\成を得ることができる。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イ なお,原告は,甲2記載のCGキャラクター「東雲めぐ」が登場する実 際の番組において,ユーザーギフティングが配信開始前に締め切られてい ること(甲9の2,甲10)を指摘する。しかしながら,そのことは,当 該番組における運用上の取り決め事項として,ユーザーギフティングの時 期を配信開始前と定めたことを示すにとどまり,上記アの判断を左右しな い。 (3) 動機付けについて ア 甲2には,配信も可能なVRアニメ作成ツール「AniCast」にユーザー ギフティング機能を追加することが記載されている。一方,引用発明は,\n声優の動作に応じて動くキャラクタ動画を生成してユーザ端末に配信する ものであるから,引用発明も「配信も可能なVRアニメ作成ツール」とい\nえる。また,ユーザーギフティング機能のような新たな機能\を追加することに よって,動画配信システムの興趣が増すことは明らかである。 そうすると,当業者にとって,「配信も可能なVRアニメ作成ツール」\nである引用発明に対して,甲2記載の技術であるユーザーギフティング機 能を追加することの動機付けがあるといえる。\n イ 原告は,甲1には創作したギフトを配信者に贈ることの開示はないから, 引用発明に甲2記載のユーザーギフティング機能を組み合わせる動機付け\nはない旨主張する。しかしながら,動画配信システムの興趣を増すことは当該技術分野において一般的な課題であると考えられるから,甲1自体にユーザーギフティ ング機能又はこれに類する技術の開示又は示唆がないとしても,引用発明\nを知った上で甲2の記載に接した当業者は,興趣を増す一手段として甲2 記載のユーザーギフティング機能を引用発明に適用することを動機付けら\nれるといえる。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

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令和4(行ケ)10012等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年2月16日  知的財産高等裁判所

齋藤創造研究所の特許についてAppleが無効審判を請求し、特許庁は無効理由なしと判断しました。知財高裁は、審決を維持しました。被告は、IPOD関連のクリックホイールの発明について特許権を有しており、別訴でAppleから不存在確認訴訟を提起され、反訴請求し、約3億円の損害が認められています(平成19(ワ)2525)。

甲1発明は、前記(1)のとおり、従来の制御信号供給装置では、制御信号 を継統的に発生させることができず、 磁気テープに対する連続的な走行 制御が行えないという課題を解決するため、接触操作面を有するととも にこれに関連して円環状に配列された複数の接触操作検出区分が設けら れ、各接触操作検出区分から出力されるタッチパネルとの構成を採用し、\nテープ駆動系に供給される制御信号を、特殊変速再生モード状態におい て磁気テープを所望の一方向に、所望の速度で走行させる制御を任意の 時間だけ連続的に行えるようにしたものである。 一方、周知技術1は、タッチ位置検知手段(タッチパネル)により一次 元又は二次元座標上の位置データを検出することで画面上のカーソル等\nの位置データが設定され、プッシュスイッチ手段により当該設定された 位置データが確定されて入力情報となるものと理解できる。そうすると、 周知技術1は、位置データを入力する装置に関する技術であって、タッ チパネルとプッシュスイッチが協働して位置データを入力する機能を果\nたすものであるといえる。
磁気テープの走行方向や走行速度を制御するための甲1発明のタッチ パネルと、走行方向や走行速度という要素を含まない位置データを入力 する装置に関する周知技術1とは、制御する対象が異なるし、たとえ両 者がタッチパネルという共通の構成を有するとしても、磁気テープの制\n御信号供給装置である甲1発明において、位置データを入力する装置に 関するものである周知技術1を適用することが容易であるとはいえない。 結局のところ、甲1発明に、周知技術1を適用できるとする原告らの 主張は、実質的に異なる技術を上位概念化して適用しようとするもので あり、相当でない。 仮に、周知技術1を、タッチパネルによる選択をプッシュスイッチで 確定して何らかの入力情報を生成する技術であると上位概念化して理解 したとしても、甲1発明は、プッシュスイッチに割り当てるべき機能(選\n択を確定する機能)をそもそも有さないし、甲1文献には、タッチパネル\nにより磁気テープの走行方向や走行速度を連続制御することは記載され ているが、タッチパネルにより選択された走行方向や走行速度を確定す る操作や、当該操作に対応するボタン等の構成は記載も示唆もないから、\n甲1発明に、周知技術1を適用する動機付けがない。
原告らは、前記第3の1(1)ア のとおり、甲1発明のタッチパネル1 1も接触点を一次元座標上の位置データDpとして検出するものである し、本件特許発明であれ周知技術1であれ、タッチパネルの下にプッシ ュスイッチを設けることの作用効果は、タッチパネルの下にプッシュス イッチを設けること自体に由来するものであって、プッシュスイッチの 上にあるタッチパネルの形状等や操作態様等にも依存しないから、周知 技術1は、上位概念化するまでもなく甲1発明に適用可能であり、当該\n適用は、先行技術の単なる寄せ集め又は設計変更である旨主張する。
しかし、原告らの主張は、前記 において説示した、甲1発明において 選択を確定する機能がない点等を看過しているものであるし、周知技術\n1において、位置データを入力する機能はタッチパネルの形状や操作態\n様等には依存しないとしても、そのことが同周知技術におけるタッチパ ネルとプッシュスイッチの機能的又は作用的関連を否定する根拠とはな\nらないし、機能的又は作用的関連が否定できない以上、周知技術1を甲\n1発明に適用することが単なる寄せ集め又は設計変更とはいえない。し たがって、原告らの上記主張は採用できない。

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令和4(行ケ)10007  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月18日  知的財産高等裁判所

 容易想到性の判断に当たり、主引用例の選択の場面では、請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決すべき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している必要はないとして、進歩性なしとした審決が維持されました。

原告らは、本願発明は、多数の作用効果を有機的に組み合わせた統合 システムの発明であるのに対し、引用発明は、圧縮機の吸込容積を可変 とするものにすぎず、その具体的な課題や作用・機能は全く異なってお\nり、この観点からも、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想 到するための動機付けはないと主張するので(前記第3の3〔原告らの 主張〕(2)ウ)、この点について検討する。 原告らの上記主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、容易想到性の判 断に当たり、請求項に係る発明と主引用発明との間に具体的な課題や作 用・効果の共通性を要するという主張であるとすれば、主引用例の選択 の場面では、そもそも請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決す べき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している 必要はないというべきである。これを本件についてみるに、本願発明の 課題は、「冷媒が循環する冷媒回路と水(熱搬送媒体)が循環する水回路 (媒体回路)とを有しており、熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させて 室内の空調を行うチラーシステム(熱搬送システム)において、媒体循 環を構成する配管を小径化するとともに、環境負荷の低減及び安全性の\n向上を図ること」(段落【0005】)であって、格別新規でもなく、い わば自明の課題というべきものであり、二酸化炭素を熱搬送媒体として 採用した引用発明においては解決されているといえるものである。
また、原告らは、本願発明が奏する効果についても主張するので、こ の点について検討すると、本願発明の、冷房と暖房が可能であるという\n効果(段落【0007】及び【0061】)、及び複数の室内の冷房及び 暖房をまとめて切換可能であるという効果(段落【0062】)は、本願\n発明が、冷媒流路切換機及び第1媒体流路切換機を備えることによる効 果であるところ、引用発明においても、第1四方弁150と第2四方弁 250を備えるから、冷房と暖房が可能であるし、複数の室内空気熱交\n換器(相違点2に係る本願発明の構成)を備える場合には、第2四方弁\n250と連結された室内熱交換機の数が増えるのみであると考えられる から、複数の室内の冷房及び暖房をまとめて切換可能であるという効果\nも当然に奏されることになる。そして、1次側にR32冷媒(相違点1 に係る本願発明の構成)を採用した場合でも、そのような効果を奏する\nことに変わりはない。配管小径化、省スペース化・配管施工及びメンテ ナンス省力化、媒体使用量削減を図ることができるという本願発明の効 果(段落【0008】、【0063】)は、本願発明が熱搬送媒体として二 酸化炭素を採用したことによって奏するものであり、これは、引用発明 も、熱搬送媒体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏する ものである。着火事故を防止できるという本願発明の効果(段落【00 09】及び【0064】)は、室内側に配置される媒体回路に二酸化炭素 を用いていることによるものであるが、これは、引用発明も、熱搬送媒 体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏するものである(甲 11の段落【0062】)。また、本願明細書等には、HFC−32(R 32)を冷媒として採用する冷媒回路を構成する配管を室内側まで設置\nする必要がないとの記載もある(段落【0009】及び【0064】)が、 本願の特許請求の範囲の請求項1の記載及びその記載により認定される 本願発明では、冷媒回路が室内側に設置されていないことは特定されて いないので、上記の効果は、本願発明の特許請求の範囲の請求項1の記 載に基づくものとは認められない。さらに、技術常識D及びFに照らせ ば、引用発明のプロパンは強燃性であるのに対し、本願発明のR32は 微燃性であることから、着火事故を防止できるという効果は、引用発明 に比べると本願発明が優れていると解されるが、引用発明において相違 点1に係る本願発明の構成を採用することにより、自ずと奏するように\nなる効果である。環境負荷を低減するという本願発明の効果(段落【0 010】及び【0065】)は、R32と二酸化炭素を採用したことによ るものであるところ、引用発明において相違点1に係る本願発明の構成\nを採用することにより自ずと奏されるものである。そうすると、原告ら が本願発明の効果として主張するものは、引用発明も奏するものである か、又は相違点1に係る本願発明の構成を採用することにより自ずと奏\nするものであり、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想到す るための動機付けを否定するに足りるような顕著なものではない。 したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 組み合わせの阻害要因について
原告らは、プロパンは、冷媒の能力として、寒冷地での使用が困難であ\nるから、これをR32に代替することには阻害要因があると主張する(前 記第3の3〔原告らの主張〕(3))。 しかし、本願発明においては、寒冷地での使用の可否など冷房又は暖房 の能力に関連する特定はなく、引用文献1にも、引用発明において、特に\n寒冷地での使用が困難なプロパンのような冷媒を採用することに技術的 意味があることをうかがわせるような記載はないから、引用発明のプロパ ンをR32に代替することに阻害事由があるとは認められない。 また、原告らは、着火事故の防止というビル用マルチの決定的課題に反 する選択となるので、引用発明をビル用マルチに使用することには阻害要 因があると主張する(前記第3の3〔原告らの主張〕(3))。
しかし、本願発明がビル用マルチに限定されたものでないことは前記3 (1)イのとおりであるし、仮に本願発明がビル用マルチに適用されるとして も、引用発明で採用されている強燃性のプロパンを微燃性のR32に置き 換えることは、ビル用マルチに要請される性能に必ずしも反するものでは\nなく、むしろそれにそう面もあるから、原告らの上記主張は採用すること ができない。

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令和3(行ケ)10164  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月16日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、進歩性なしとした審決を、阻害要因ありとして取り消しました。また、手続き違背についても認めました。

 (1) 引用発明1を含む甲8に記載された発明は、特に、「被膜を有しないSn耐食 性に優れた合金材料、この合金材料からなるコンタクトプローブおよび接続端子を 提供することを目的とする」ものである(甲8の段落[0006])ところ、銀の添加に ついては「Sn耐食性」の向上については触れられていない(同[0018])一方で、 ニッケルの添加は「Sn耐食性の向上・硬度上昇に効果がある」ことが明記されて いる(同[0019])。 そして、実施例においても、硬度等とともに「Sn耐食性」が独立の項目として 評価され(同[0036])、甲8に係る発明の実施例には全てニッケルが添加され、い ずれも「Sn耐食性」において「○」と評価されている(同[0038]及び[表1]。\nなお、同[0003]及び[0047]等の記載のほか、同[0040]〜[0045]の比較例1 〜6に対する評価に係る記載をみても、甲8に係る発明は、硬度とSn耐食性を含 む複数の要請をいずれも満たすことを目的としたものであると認められる。)。 この点、比較例7のみにおいては、ニッケルの添加がされていないが、「Sn耐食 性」において「×」と評価され、かつ、「Snはんだ等低硬度材向けのコンタクトプ ローブ用途として好ましくないといえる」と明記されている(同[0046]及び[表\n1])。 以上の点に照らすと、引用発明1においては、ニッケルの添加が課題解決のため の必須の構成とされているというべきであり、引用発明1の「合金材料」について、\nニッケルの添加を省略して銅銀二元合金とすることには、阻害要因があるというべ きである。そして、甲8の記載に照らしても、引用発明1の「合金材料」について、ニッケルの添加を省略して銅銀二元合金とすることの動機付けとなる記載は認められず、 他にそのようにすることが当業者において容易想到であるというべき技術常識等も 認められない。 したがって、引用発明1に基づいて、相違点1に係る本願補正発明の構成とする\nことについて、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。
(2) 被告の主張について
ア 被告は、一次特性と二次特性の区別を前提として、甲8の記載に接した当業 者においては、導電性と硬度という最優先の二大特性が最低限満たされたベース合 金のコンタクトプローブも意識するはずであるから、相違点1に係る本願補正発明 の構成に容易に想到し得る旨を主張する。\nしかし、一次特性と二次特性についての被告の主張を前提としても、前記(1)で指 摘した諸点に照らすと、甲8の記載に接した当業者においては、導電性と硬度とい う最優先の二大特性を最低限満たした銅銀二元合金に、ニッケルをどのような割合 で添加すること等によって、「Sn耐食性」を向上させ、それや硬度を含めたコンタ クトプローブとしての要請をどのように実現させるかという観点から引用発明1を みるものといえるから、「Sn耐食性」が専ら二次特性に係るものであるという理解 を前提としても、そのことから直ちにニッケルの省略が動機付けられるものとはい えず、相違点1に係る本願補正発明の構成に容易に想到し得るとの被告の主張は採\n用できない。
・・・・
(2) 特許法50条本文や同法17条の2第1項1号又は3号による出願人の防御 の機会の保障の趣旨は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由 を発見した場合にも及ぶものと解される(同法159条2項)。 また、同法53条1項(同法159条1項により読み替えて準用される場合を含 む。)において、同法17条の2第1項3号による補正や審判請求時にされた補正が 独立特許要件に違反しているときはその補正を却下しなければならない旨が定めら れ、同法50条ただし書(同法159条2項により読み替えて準用される場合を含 む。)において、上記により補正の却下の決定をするときは拒絶理由通知を要しない 旨が定められたのは、平成5年法律第26号による特許法の改正によるものである ところ、同改正の際には、審判請求時にされた補正の判断に当たって審査段階にお ける先行技術調査の結果を利用することが想定されていたものとみられるととも に、同改正の趣旨は、再度拒絶理由が通知されて審理が繰り返し行われることを回 避する点にあったものと解される。 以上の点に加え、新たな引用文献に基づいて独立特許要件違反が判断される場合、 当該引用文献に基づく拒絶理由を回避するための補正については当該引用文献を示 されて初めて検討が可能になる場合が少なくないとみられること等も考慮すると、\n特許法159条2項により読み替えて準用される同法50条ただし書に当たる場合 であっても、特許出願に対する審査手続や審判手続の具体的経過に照らし、出願人 の防御の機会が実質的に保障されていないと認められるようなときには、拒絶理由 通知をしないことが手続違背の違法と認められる場合もあり得るというべきであ る。
(3) 本件においては、次の各事情が認められる。
ア 証拠(甲3、7、13)及び弁論の全趣旨によると、甲16(引用文献5) については、審査段階で指摘されることはなく、本件審判手続に至っても予め指摘\nされることなく、本件審決で初めて指摘された文献であると認められる。
イ 本願の特許請求の範囲の請求項1については、進歩性に関し、1)令和2年6 月22日起案の拒絶理由通知書(甲7)において、甲8が引用文献として指摘され、 「銅銀合金を製造する上で、銅に対する銀の添加量をどのような値とするのかは、 当業者が適宜行う設計的事項にすぎない」という理解が示された上で、甲8に記載 された発明と本願発明との相違点は一点(本件審決にいう相違点2に相当するもの) に限られることが指摘され、その相違点に係る本願発明の構成が容易想到である旨\nが指摘されたこと、2)原告は、同年8月19日付け意見書において、上記拒絶理由 通知書における上記理解が誤りである旨を指摘し、甲8に記載された合金はニッケ ルを含むもので、甲8の銅銀ニッケル合金において銀の添加量を変更しても本願発 明には至らないことなどを主張したこと(甲11)、3)同年10月22日付けで上記 拒絶理由通知書の記載に沿う拒絶査定がされたこと(甲13)、4)原告は、令和3年 2月3日付けで本件審判請求及び合金の組成に係る本件補正をしたこと(甲14、 15)、5)令和元年12月9日付けの補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1に おいても、本願発明の合金は「銅銀合金体」と記載されており、それと上記2)の意 見書における原告の主張を併せて考慮すると、本願発明の「銅銀合金体」がニッケ ルを含むものではないことを原告が前提としていることは、同意見書の提出の時点 で理解できたことが認められるところであり、原告においては、上記のとおり審査 段階において本願発明について進歩性欠如の根拠とされた唯一の文献である甲8に 対し、合金の材料に係る他の相違点が存在するという点に専らその主張を集中させ て争い、本件審判請求の際にもそれに沿う趣旨の本件補正をしたものである。 しかるに、前記2(1)及び(2)のほか、本願発明と引用発明1の対比によると、本 願補正発明と引用発明5との相違点である相違点3は、本願補正発明と引用発明1 の相違点2及び本願発明と引用発明1の相違点4と実質的に全く同一のものである と認められる一方、本願補正発明と引用発明1との相違点1は、本願補正発明と引 用発明5の相違点としては認められないものである。それゆえ、拒絶理由通知をも って甲16(引用文献5)を示されていた場合には、原告においては、審査段階や 審判段階において、引用発明5の認定並びに本願補正発明と引用発明5の一致点及 び相違点について争ったり、相違点2及び相違点3をより重視した反論をしたり、 あるいは相違点3に係る本願発明の構成に関して補正することを検討するなどして\nいた可能性もあるものとみられ、原告の方針には重大な影響が生じていたものとい\nうべきである。
(4) 前記(2)を前提として、前記(3)の諸事情を踏まえた場合、相違点3と同一の 相違点2については審査段階で原告に反論の機会が与えられていたこと等を考慮し ても、なお、引用発明5を主引用例として本願補正発明の進歩性を判断することは、 原告の手続保障の観点から許されないというべきである。

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令和4(行ケ)10021  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年11月16日  知的財産高等裁判所

「吹矢の矢」の特許についての審決取消請求事件です。特許庁が無効理由無しとした審決が維持されました。侵害訴訟については1審は侵害と認定しましたが、知財高裁は技術的範囲に属しないと判断しています。

ア 事案の内容に鑑み、まず、相違点2−1−cに関する容易想到性について検 討する。
イ 前記4(1)及び(2)によると、甲2及び3には、前記第2の3(3)ア(ア)aのよ うに本件審決が認定する「長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方 に延びる円柱部とからなるピンを備えた吹矢に使用する矢」(甲2・3技術事項) が記載されていると認められるが、それら甲2及び3に記載された矢は、いずれも、 (円錐形の)フィルムを備えたものではない。 また、前記4(3)によると、甲4において、重りの釘2)は頭部を矢の後方(プラス ティックフィルム1)が巻かれた側)に位置しており、フィルムに釘の円柱部全てが 差し込まれているものではなく、フィルムの先端部に重りの釘2)の頭部が接続され ているものでもない。 したがって、仮に、甲1発明に甲2〜4を適用しても、相違点2−1−cに係る 本件発明の構成には至らないから、甲2〜4は相違点2−1−cについての容易想\n到性を基礎付けるものではない。
ウ(ア) これに対し、甲5発明の矢については、釘4の円柱状部分全てがスカート 部6に差し込まれて固着されるとともに、スカート部6の先端部に連続して釘4の 丸い頭部4aが接続されているといえる。
(イ) しかし、甲1発明の矢は、矢軸5の後方に中空円錐状の羽根部6が篏合固着 されており、矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着することについて、甲1に これを示唆し、又は動機付ける記載があるとは認められない。 この点、甲1において、矢じりは金属製とされ、標的台は台板と紙とクッション ボードから成るものとされ、クッションボードについては所定厚さ(約20mm)が 明記され、全長約10cmの吹矢の約5分の1程度を矢じり4及び矢軸5が占める第 3図が掲載され、吹矢の当たった状態を示すとされる第6図においては矢じり4の 先端が台板8に接している状態が示されていることを考慮すると、甲1において吹 矢が標的面に当たり「小気味の良い音」を発するについては、矢じり4の先端が台 板に到達することが少なからず寄与していることが窺われる。それにもかかわらず、 仮に矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着した場合、第6図のように矢じり4 の先端が台板に到達するかには疑問を差し挟む余地がある。このことは、甲1発明 の矢について、矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着するという構成を採用す\nることを阻害する事情となり得るところである。
(ウ) そうすると、甲1発明に甲5発明を適用することについては、示唆も動機付 けもなく、むしろ阻害要因があるともいえるから、甲1及び5に基づいて、当業者 において相違点2−1―cに係る本件発明の構\成とすることが容易になし得たもの とはいえない。
エ したがって、相違点2−1のうちその余の点について判断するまでもなく、 相違点2−1に係る本件発明の構成が容易想到であるとはいえない。\n
オ 原告の主張について
(ア) 原告は、羽根部分がピンから外れ、又は前側(円頭形部分側)にフィルムが ずれてしまうことから、甲1に接した当業者であれば、甲5に開示のようにフィル ムに円柱部を全て差し込む構成とする必要があり、動機付けがある旨を主張する。\n原告の上記主張は、動機付けとして、甲1や甲5の記載を根拠とするものではな く、物理法則ないし技術常識を指摘するものと解されるところ、原告が上記主張の 根拠として提出する実験結果報告書(甲12)については、実験に用いられた吹矢 の矢の素材や寸法等も明らかでなく(なお、甲1においては、羽根は、紙又は合成 樹脂材及び金属箔の単独又は組合せにより形成された最大外径10〜12mmの軽量 なものとされ、矢の全長は約10cmであるとされている。)、甲1発明の矢を適切 に再現した上でされた実験であることが担保されているとはみられない。また、そ の内容に沿わない被告提出の報告書(乙1)も存在する。さらに、接着剤の詳細に ついても不明であり、より強固な接着力を有する接着剤を選択するという方法が存 在しないことも裏付けられていない。したがって、前記報告書(甲12)に基づい て原告の主張するような動機付けがあると認めることはできず、その他、甲1発明 について矢軸5を羽根部6に全て差し込む形で固着するという構成を採る動機付け\nとなり得るような技術常識等を認めるべき証拠もない。 したがって、原告の上記主張は前記イ〜エの判断を左右するものではない。
(イ) 原告は、1)矢軸の途中にフィルムを巻き付ける構成とした場合、ピンの軸が\nフィルムの中央を通るように固定することが困難となり、上下方向で重心のブレを 生じ、命中精度に影響し得ること、2)上記構成とすると、吹矢を量産する際に差し\n込む部分の長さを一定にするための位置決めが困難であるのに対し、フィルムに円 柱部を全て差し込む構成とすると、同じ長さの吹矢を容易に製造することが可能\と なるといった点を踏まえても、甲1発明に甲5発明を適用する動機付けがあると主 張するが、命中精度や製造の容易性に関して甲1に示唆や動機付けというべき記載 は認められず、他に上記1)及び2)の点に関して甲1発明に甲5発明を適用する動機 付けとなり得るような技術常識等を認めるべき証拠もない。

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侵害訴訟の控訴審はこちら。

◆令和3(ネ)10049等

1審はこちら。

◆平成31(ワ)2675

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令和3(行ケ)10165 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月30日  知的財産高等裁判所

 動機づけなし・阻害要因ありとして、進歩性なしとした拒絶審決が維持されました。

ア 本件発明1と甲2発明1との相違点1ないし4は、前記第2の3(3)イの とおりであるところ、これらはいずれも本件発明1における伸縮部を備え ているか否かをその内容とするものといえる。 そこで、以下、本件特許が出願された当時の当業者が、甲2発明1、甲 4発明及び甲5公報ないし甲7公報から認定される周知技術に基づいて、 甲2発明1について上記伸縮部を備えることを容易に想到し得たか否か について検討する。
イ まず、主引用発明である甲2発明1について検討するに、甲2公報にお いて、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能なものとすることが記載又は示唆\nされているというべき記載は見当たらない。 また、前記(1)のとおり、甲2発明1は、盗難防止用連結ワイヤの一方を ドアノブや玄関周り固定物に接続し、他方を宅配容器本体に接続するもの であるところ、甲2公報の段落【0022】並びに図3及び図4の記載に よれば、甲2発明1の盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側のドアノブや建 物内部の玄関周り固定物に接続するものであるといえる。さらに、甲2公 報の段落【0022】及び図3の記載によれば、甲2発明1において、配 達物を収納していないときの形態の宅配容器本体をドアノブに掛ける際 には、宅配容器本体に備えられた「宅配容器取っ手」を使用することとさ れている。
このように、甲2発明1においては、配達物を収納していないときの形 態の宅配容器は、「宅配容器取っ手」を使用して玄関外側のドアノブに掛け られ、他方で、宅配容器に接続された盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側 のドアノブや建物内部の玄関周り固定物に接続することとなるのである から、同ワイヤは、これを可能とするのに十\分な長さを確保する必要があ るといえる。そうすると、配達物を収納していないときの形態における甲 2発明1においては、盗難防止用連結ワイヤの長さを、ドアの一部に吊り 下げられるように短縮する構成は採用し得ず、そのような構\成を採る動機 付けは存しないというべきである。
以上によれば、甲2発明1において、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能\nなものとすることは動機付けられないというべきである。なお、上記に照 らすと、甲2発明1においては、少なくとも相違点3に係る本件発明1の 構成を採ることについて、阻害要因が存するというべきである。\n

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令和3(行ケ)10131  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和4年8月22日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。原告は阻害要因ありを主張しましたが、「専門の技術者がこれを行うことを常に想定しているということはできない」としてこれを否定しました。

(3) 前記(2)の記載によると、甲4の「スクリーン保護膜30」が本件発明1の 「保護シート」に相当し、「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」が それぞれ本件発明1の「第2剥離部」及び「第1剥離部」に相当することは明らか である。そして、甲4の「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」は、 それぞれ「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」から、「スクリーン 保護膜30」の外側に延びるように設けられ、「第一の離型膜341」及び「第二 の離型膜342」を剥がす際に手で持つ部分であるから(段落【0025】、【0 026】、【図4】〜【図6】)、いずれも本件発明1の「延出部」に相当すると いえる。
ここで、甲4において「第一の突起部343」及び「第二の突起部344」を設 けたのは、手で「第一の突起部343」又は「第二の突起部344」を持って、そ れぞれ「第一の離型膜341」又は「第二の離型膜342」を便利に剥がせるよう にするためである(段落【0025】)。そうすると、甲4に記載された発明とそ の属する技術分野を同じくする甲3−1発明(その内容は、前記第2の3(2)ア (ア)のとおり)においても、そのような利便性を図るため、甲4に記載された「第 一の突起部343」及び「第二の突起部344」の構成を適用して本件発明1の\n「延出部」を設けることは、本件優先日当時の当業者において容易に想到し得たこ とであると認められる。
(4) この点に関し、原告は、甲3−1発明に甲4に記載された「第一の突起部 343」及び「第二の突起部344」の構成を適用することには、阻害要因がある\n旨主張するが、以下のとおり、これを採用することはできない。
ア 原告は、まず、甲3−1発明はその貼付の対象として超大型のディスプレイ\nパネル(最低でも17インチのものであり、適するのは82インチのものであり、 更にそれより大きいものを含む。)を想定しており、その貼付を行うのは専門の技\n術者であるから、本件発明1の「延出部」のような部材は不要である旨主張する。 そこで検討するに、前記(1)のとおり、甲3には、甲3−1発明の光学フィルム を貼付する対象が「大型ディスプレイパネル」であり、「大型」とは17インチか\nら82インチ程度までのものをいう旨の記載がある(前記(1)イ、ケ等)。また、 特許請求の範囲においては、保護フィルムの貼付の対象となる大型ディスプレイパ\nネルが少なくとも17インチのものである旨の特定がされている(前記(1)ツ)。
さらに、実施例1においては、甲3−1発明の光学フィルムは40インチの大型液 晶テレビに貼付され、実施例2においては、甲3−1発明の光学フィルムは23イ\nンチのコンピュータディスプレイに貼付されている(前記(1)ソ及びタ)。これら\n甲3全体の記載を参酌すると、甲3の「要約」に、「この方法は、対角線208c m(82インチ)の可視領域を有するような大型ディスプレイパネルでの使用に適 している。」との記載があること(前記(1)ア)を考慮しても、甲3−1発明が8 2インチ程度の大型ディスプレイパネルのみをその貼付の対象としていると認める\nことはできず、甲3−1発明は、幅広い大きさの範囲(17インチないし82イン チ程度)のディスプレイパネルをその貼付の対象とするものであると認めるのが相\n当である。そして、17インチ程度の大きさのディスプレイパネルに光学フィルム を貼付することが専門の技術者でなければ行えないとみるべき事情もない。そうす\nると、甲3−1発明の光学フィルムの貼付については、専門の技術者がこれを行う\nことを常に想定しているということはできないから、原告の上記主張は、その前提 を欠くものとして失当である(なお、原告が主張する「把持部」(本件発明1の 「延出部」に相当する部材)は、甲4における「第一の離型膜341」及び「第二 の離型膜342」を剥がすのに便利な「第一の突起部343」及び「第二の突起部 344」と同様の機能を有するものであるところ(甲4の段落【0025】等参\n照)、甲4の「第一の離型膜341」及び「第二の離型膜342」は、甲3―1発\n明の分離剥離ライナーである「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」に対 応するものである。専門の技術者であったとしても、分離剥離ライナーを剥がすた めに「把持部」を設けることは便利となるものであって、仮に、甲3−1発明の光 学フィルムがその貼付を専門の技術者が行うことを想定しているとしても、そのこ\nとから直ちに、甲3−1発明の光学フィルムにおいて、分離剥離ライナーである 「第1の部分38a」及び「第2の部分38b」を剥がすのに便利な「把持部」を 設けることが不要になるわけではない。)。
イ 原告は、また、甲3−1発明の光学フィルムの貼付作業に利用できるように\n「把持部」を形成する場合、最低でも10cm程度の大きさ(これは、「把持部」 と「第1の部分38a」又は「第2の部分38b」が接する部分の長さをいうもの と解される。)が必要になるところ、そのような大きさの「把持部」が形成される と、甲3が想定する精度で貼付作業を行うことができなくなる旨主張する。\nしかしながら、甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を形成する場合、最低 でも10cm程度の大きさを必要とするとの原告の主張は、何ら客観的な根拠を有 するものではないし、上記アのとおり、甲3−1発明の光学フィルムは、17イン チのディスプレイパネルをもその貼付の対象とするものであるから、その場合にも、\n「把持部」を形成するのであれば最低でも10cm程度のものが必要であるという ことはできない(なお、原告の上記主張は、甲3−1発明の光学フィルムの貼付の\n対象として、82インチ程度の超大型ディスプレイパネルのみが想定されているこ とを前提とするものと解されるが、その前提が成り立たないことは、前記アのとお りである。)。したがって、原告の上記主張も、前提を誤るものとして失当である。 ウ 原告は、さらに、甲3−1発明の光学フィルムは、ディスプレイパネルの周 囲に大きな段差のあるフレームがあるような場合に使用されることを想定している ところ(甲3の図面)、そのような場合に「把持部」を形成すると、フレームと 「把持部」が干渉してしまい、甲3−1発明の光学フィルムの位置決めが不可能に\nなる旨主張する。
確かに、甲3の図面の中には、ディスプレイパネルの周囲にフレームがあり、段 差が生じていると見て取れるもの(図7a等)がある。しかしながら、実施例1に おいては、甲3−1発明の光学フィルムは大型液晶テレビに貼付され、実施例2に\nおいては、甲3−1発明の光学フィルムはコンピュータディスプレイに貼付されて\nいるところ(前記(1)ソ及びタ)、大型液晶テレビやコンピュータのディスプレイ\nパネルの周囲に必ず段差のあるフレームが存在するわけではないから、甲3−1発 明の光学フィルムが、常にディスプレイパネルの周囲に大きな段差のあるフレーム があるような場合に使用されることを想定しているということはできない。したが って、原告の上記主張も、その前提を誤るものとして失当である。
エ なお、原告は、実験報告書(甲28の3、甲36)を根拠に、甲3−1発明 の光学フィルムを巨大なディスプレイパネルに貼付する場合、「把持部」があると、\nかえって作業に支障を来す旨主張する。
しかしながら、上記実験において用いられたのは、82インチの光学フィルムの みであるところ、前記アのとおり、甲3−1発明は、常に82インチ程度の光学フ ィルムであることを前提としているわけではないから、82インチよりも小さいサ イズの光学フィルムを用いた実験を省略する上記実験は、17インチないし82イ ンチ程度といった幅広い大きさの範囲でディスプレイパネルに貼付することを前提\nとする甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を設けることの不都合さを示す実 験としては、十分なものではない。加えて、23インチのディスプレイパネル及び\n82インチのディスプレイパネルに貼付することのできる2種類の光学フィルムを\n用いた被告の実験結果(「延出部」を設けても貼付作業に支障を来さず、むしろ有\n用であったとするもの。乙1、2)にも照らすと、原告の上記実験結果によっても、 甲3−1発明の光学フィルムに「把持部」を設けると貼付作業に支障を来すことに\nなると認めることはできず、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。

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令和3(行ケ)10006  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年10月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。阻害要因についても無しと判断されました。

 ア 前記1(3)によれば,引用文献2技術事項は,物質に特有な高吸収X線を 利用することにより,荷物や人体内に隠匿した麻薬,あるいは爆薬や象牙 などの禁制品の有無を検査できるものであるから,人体用だけでなく,荷 物の中の見えない物体の有無を検査するX線荷物検査装置でもあるとい える。そうすると,食品等の異物検査を行うX線検出装置である引用発明 1の技術分野と,医療検査や荷物検査を行う引用文献2技術事項の技術分 野は,X線検査装置が用いられる技術分野として関連するものであるとい える。 また,引用発明1においては,判定部24において「各ライン走査ごと のデータ中の最大画素濃度のデータを所定の閾値と比較してX線吸収率 が大きい金属異物等の混入の有無が検出濃度レベルと閾値との比較によ り判定される」(M)ものであり,ワークWのX線画像の検出濃度レベルと 所定の閾値とを比較することにより,金属異物等の混入が有る場合の濃度 レベルと混入が無い場合の濃度レベルとを判定する必要があるから,ワー クWのX線画像における金属異物等の混入の有無の濃度レベルの間の差 異を明確にしなければならず,X線画像において目的とする物体を透過し たX線の検出出力と前記目的とする物体以外の部分を透過したX線の検 出出力との間に明確な差異を有するX線画像を生成するという課題を有 している。一方,引用文献2においては,従来のX線撮影装置では「目的 とする臓器などを明瞭に表示するようにしたコントラストの高いX線像\nを得ることが難しい」(【0002】)という課題を有し,また,異なる波長 の単色X線を用いて得られたX線像の差分から目的とする部分を際立た せて表示する方法を用いる場合,「異なる時刻に撮影したX線像の差分を\n取ると,位置がずれてしまい明瞭な動脈像を生成することができない」 (【0004】)という課題を有しているところ,引用文献2技術事項によ り「それぞれピクセルへの入射X線量をカウントしカウント値の差分を取 ると,軟部組織や骨に吸収されたX線が相殺され血管部分のみに差が現れ て冠状動脈のコントラストの大きな鮮明な映像を得ることができる」(【0 021】)としている。コントラストが大きなX線画像は,物体を透過した X線の検出出力と目的とする物体以外の部分を透過したX線の検出出力 との間に明確な差異を有するものであるから,引用発明1と引用文献2技 術事項とは課題を共通するといえる。 さらに,引用発明1と引用文献2技術事項は,いずれも被測定物の中の 外から見えない物体を検出するために用いられるX線画像を形成し,当該 X線画像に基づいて検査を行うという作用・機能が共通するといえ,加え\nて,引用文献2には,「X線検出部11に1次元のリニアアレイを用いて1 次元走査して測定することもできる」【0014】ことが記載され,被測定 物を1次元走査してX線画像を得ることも示唆されており,引用発明1の X線ラインセンサにより搬送される被測定物のX線画像とは,X線画像を 被測定物を1次元走査して生成するという点においても共通する。 以上のように,引用発明1と引用文献2技術事項との間に,技術分野, 解決課題及び作用機能に密接な関連性・共通性があることからすると,引\n用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせることに強い動機付けがあ るといえる。
イ 前記第3の1(1)イ(ア)bのとおり,原告は,引用発明1のX線検査装置 は異物の有無を低コストで検査する分野の装置であり,簡易な検査作業の 実現を目的とするのに対し,引用文献2技術事項のX線検査装置は,コス トを度外視して検査する分野の装置であり,被曝防止を目的とするもので あるから,当業者は,異物検出の精度向上のためにわざわざ引用発明1に 引用文献2技術事項とを組み合わせたりする動機付けない旨主張する。 まず,引用文献2には,「撮影は1度で済み」(【0010】),「エネルギ ーを変えて検査するときにも1度の撮影で済むので検査時間が短縮する 利点がある。」(【0022】)との記載があるが,それは副次的なものにす ぎず,引用文献2技術事項の課題は,複雑で高価な装置を用いずにコント ラストの高いX線像を得ることである(【0003】ないし【0007】, 【0010】,【0022】,【0024】)。したがって,引用文献2技術事 項のX線検査装置は,コストを度外視して検査する分野の装置であると認 めることはそもそも相当でない。また,引用発明1が,コンベア搬送路上 のワークの金属異物等の混入の有無を検査する異物検査装置であること からして,引用発明1が製品製造現場用の装置であり,引用文献2の記載 上は,引用文献2技術事項が直接には医療用検査装置に用いることを想定 しているとしても,コストをどの程度かけるかということと技術分野とは 直結しないところ,製品の性質,製造現場の規模,製品の販路等も度外視 して,製品製造現場用の装置であれば,おしなべて性能の低い製品で足り,\n当業者は性能の向上には意を払わず,医療検査装置用の技術には関知しな\nいなどとは当然にいえることではなく,そのようにいえる証拠は提出され ていない。
異物検査装置の異物検査の性能を向上させることは自明の要請ともいう\nべきところであり,前記アのとおり,引用発明1の異物検査装置に,技術 分野,課題・解決手段,作用・機能,効果とも密接に関連ないし共通する\n引用文献2技術事項を適用する強い動機付けがあるというべきである。
ウ 前記第3の1(1)イ(イ)aのとおり,原告は,1つの「設定時X線画像」 を基準とする引用発明1に,複数個の画像を基準とし,その基礎とする技 術的思想を異にする引用文献2技術事項を適用することには阻害要因が ある旨主張する。 ここで,「設定時X線画像」とは,実検査前にサンプルを使用した検査に おいて得られたX線画像データとして設定情報記憶部23に保持された 初期設定データの1つであり(引用文献1の【0052】ないし【005 5】),当該品種に設定された各種パラメータや検出条件及び判定条件にお ける検査における代表画像とされ(【0042】),実検査時に実検査時のX\n線画像Wiと共に表示器26に表\示され,実検査中に両者を照合すること により,検査の条件に実検査品が適合したものか否かを判定することや (【0046】,【0059】ないし【0061】),品種選択操作を視覚的に 容易に把握することに役立てるものである(【0062】,【0063】)。 したがって,検査の目的に合わせたX線画像を得られるならば「設定時 X線画像」も同時に得られる関係にあるところ,引用文献2技術事項によ ると複数のX線画像を生成することができ得るが,特に感度のよいエネル ギー領域を選択して目的部位の像を鮮明化したり,異なるX線エネルギー 領域における出力信号の差分に基づいて画像化するなどして,最適な条件 で選んだ画像を1つ生成できることも明らかである。そして,当業者が, 異物検査の目的に応じて最適な画像を選択してそれを代表画像とするこ\nとができないとする理由もない。 そうすると,引用発明1のX線画像を得る手段として引用文献2技術事 項を適用することには,阻害要因はない。
エ 前記第3の1(1)イ(イ)bのとおり,原告は,低コストでの簡便・容易化 を目指す引用発明1に,高精度で複雑・高度な引用文献2技術事項を適用 することには,甲1発明の目的から乖離・矛盾するから阻害要因がある旨 主張する。 しかしながら,前記イにて説示したとおり,技術分野としての観点から 見た場合に,あたかもX線検査装置が低コストでの簡便・容易化を目指す 装置の分野の技術と複雑・高精度で複雑・高度な装置の分野の技術に二極 化していて,両者の技術が相容れないとは認められない。その上,引用文 献2技術事項の課題は,前記イのとおり,複雑で高価な装置を用いずにコ ントラストの高いX線像を得ることであり,前記アのように,被測定物を 1次元走査して測定するような簡易な方法も示唆されている。また,引用 文献2に禁制品の有無を検査することもできるとの示唆があるからとい って,引用文献2技術事項が空港や税関等で用いる検査装置のみに用いら れる技術ととらえることは,同技術の正しい理解とはいい難い。 したがって,原告の上記主張は前提を欠くものであって,採用すること ができない。
オ 以上のとおり,引用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせる動機付 けがあり,阻害要因があることもうかがわれないところ,引用発明1にお いて,引用文献2技術事項に基づき,相違点1に係る本件発明1の発明特 定事項を得ることが容易であることは,本件決定が引用する取消理由通知 書が説示するとおりであり,誤りは認められない。

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令和2(行ケ)10115 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年6月24日  知的財産高等裁判所

 阻害要因ありとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。

 甲1には,請求項1に「任意の形状の中央ハンドル」との記載があり,発 明の詳細な説明中に,ユーザが握る中央ハンドルは「球,あるいは他のあら ゆる任意の形状とすることが可能である。」と記載があることから,長尺状の\nハンドルを排除するものではないと理解することはできる。しかし,「球,あ るいは他のあらゆる任意の形状とすることが可能である。」との記載ぶりか\nらすれば,まずは「球」が念頭に置かれていると理解するのが自然であり, しかも甲1の添付図(FIG.1,FIG.2)は,いずれも器具の正面図 であり,実施例を表すとされているが,そこに描かれたハンドルの形状や全\n体のバランスに照らして,球状のハンドルが開示されているとしか理解でき ないものである。 また,甲1には,甲1発明のマッサージ器具は,ユーザがハンドル(1)を握 り,これを傾けて,ハンドルに2つの軸で固定された2つの回転可能な球を\n皮膚に当てて回転させると,球が進行方向に対して非垂直な軸で回転するこ とにより,球の対称な滑りが生じ,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集め て皮膚に沿って動き,引っ張る代わりに押圧すると,球の滑りと皮膚に沿っ た動きによって皮膚が引き伸ばされることが開示されているところ,こうし た2つの球がハンドルに2つの軸に固定され,2つの軸が70〜100度を なす角度で調整された甲1発明において,球が進行方向に対して非垂直な軸 で回転し,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿った動きをさ せるためには,ハンドルを進行方向に向かって倒す方向に傾けることが前提 となる。
ハンドルが球状のものであれば,後述するハンドルの周囲に軸で4個の球 を固定した場合を含めて,把持したハンドル(1)の角度を適宜調整して進行方 向に向かって倒す方向に傾けることが可能である。しかし,ハンドルを長尺\n状のものとし,その先端部に2つの球を支持する構成とすると,球状のハン\nドルと比較して傾けられる角度に制約があるために進行方向に傾けて引っ張 る際にハンドルの把持部と肌が干渉して操作性に支障が生じかねず,こうし た操作性を解消するために長尺状の形状を改良する(例えば,本件発明のよ うに,ボールの軸線をハンドルの中心軸に対して前傾させて構成させる(相\n違点3の構成)。)必要が更に生じることになる。そうすると,甲1の中央ハ\nンドルを球に限らず「任意の形状」とすることが可能であるとの開示がある\nといっても,甲1発明の中央ハンドルをあえて長尺状のものとする動機付け があるとはいえない。 また,甲1においては,「マッサージする面に適合させるために,より大き な直径を持つ1つまたは2つの追加球をハンドルが受容可能である」形態も\n開示されており,FIG.2には,小さい直径の球(2)を2つ,大きな直径球
(3)を2つそれぞれハンドル(1)に軸によって固定された図が開示されている。 このような実施例において,ハンドル(1)を球状から長尺状とすると,前記の とおり,甲1発明のマッサージ器具は,ユーザがハンドル(1)を握り,これを 傾けて,ハンドルに2つの軸で固定された2つの回転可能な球を皮膚に当て\nて回転させると,球が進行方向に対して非垂直な軸で回転することにより, 球の対称な滑りが生じ,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿 って動き,引っ張る代わりに押圧すると,球の滑りと皮膚に沿った動きによ って皮膚が引き伸ばされるとの作用効果を生じるところ,例えば,大きい球 (3)を皮膚に当てることを想定し,長尺状のハンドルを中心軸に前傾させて構\n成させると,小さい球(2)を皮膚に当てるときには,ハンドルを進行方向に対 して傾けて小さい球(2)の球を引っ張ることができなくなる。したがって,こ うした点からすると,甲1のハンドル(1)を長尺状のものとすることには,む しろ阻害要因があるといえる。
(2) これに対し,被告は,1)甲1のFIG.1の正面図は,ハンドルが円形で 図示されているが,ハンドルが円柱状(長尺状)の形状であるとしても整合 する,2)同FIG.2においては,4つの球をハンドルに取り付けて,皮膚 が吸引される使用方法が記載されており,こうした使用方法を前提とすると, ハンドルが長尺状であればローラ(球)と接触することなくハンドルを握る ことができるから,ハンドルの形状は,球体と理解するよりも長尺状(円柱 状)のハンドルと理解するのが自然である旨主張する。 しかし,正面図であるFIG.1やFIG.2において図示されている円 形が球状ではなく円柱状(長尺状)の形状を示すものと理解することが困難 なことは,前記(1)において判示したところから明らかである。また,4つの 球をハンドルに取り付けて使用する形態であっても,FIG.2の実施例の 記載によると,使用されるのは2つの球であり,ハンドルを把持する際には 軸を避けて指でハンドルを把持すれば足り,ハンドルを長尺状(円柱状)の ハンドルと解するのが自然であるともいえず,かえって,上記のとおりハン ドルを長尺状とすることについては阻害要因があるというべきである。そう すると,甲1の実施例(FIG.1,FIG.2)には球状のものしか開示 されていないと認められ,被告の上記主張は採用し得ない。 また,被告は,甲1において,ハンドル(1)は,握って引っ張るものである という使用方法が明記され,ハンドルの形状としてあらゆる任意の形状とす ることができると記載されているのであるから,当然ながら握りやすい長尺 状の形状が想定された形状であり,甲1発明のハンドルは,握って傾けなが ら引っ張るものであるから,ハンドルの先端部に球を設けることは当業者で あれば容易に想到するものであるから,本件審決の判断に誤りはない旨主張 する。
しかし,たとえハンドルを球に限らず任意の形状とすることは可能である\nとしても,甲1発明の球状のハンドルを長尺状のものとした場合における操 作性の問題があることから,球状の実施形態しか開示されていない甲1発明 の中央ハンドルを長尺状のものとする動機付けがあるとはいえないことは前 記(1)のとおりであり,一般的に長尺状のハンドルが握りやすいものであると いえたとしても,そのことは結論を左右し得ない。また,小さい球(2)を2つ, 大きい球(3)を2つそれぞれハンドル(1)に軸によって固定された場合に,ハン ドル(1)を長尺状とすると,甲1発明の作用効果との関係でその操作に支障が 生じることから,甲1発明のハンドル(1)を長尺状のものとすることにはむし ろ阻害要因があることも前記(1)のとおりである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3) そうすると,甲1発明のハンドルが長尺状のハンドルを排除するものでは ないとして,当業者が長尺状のハンドルを容易に想起し得るものとはいえな いし,ましてや,長尺状のハンドルが甲1に記載されたに等しい事項である と認めることはできないから,甲1発明のハンドルには長尺状のものが含ま れ,長尺状のハンドルが甲1の1に記載されたに等しい事項であることを前 提として,相違点1については,ハンドルを長尺状のものとした場合には, 一対の回転可能な球を先端部に配置することは甲1発明,又は甲1発明及び\n周知技術1に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものであり,また, 相違点3については実質的な相違点にならないとした本件審決の判断は誤り というほかない。

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こちらは審決の判断維持ですが無効理由なしとの審決が維持されています。 原告・被告が入れ替わってます

◆令和2(行ケ)10045

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令和1(行ケ)12020 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月19日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。同じ先行技術について審決は阻害要因あり、裁判所は阻害要因無しとの判断です。

(イ) 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手 段1)の採用と甲1発明の技術思想について
a 空所134への液体の集約
被告は,甲1は,甲1発明が,「改良された液体分布機構」として,ポンプ140によって液体を加圧し,さらに,この加圧した液体をい\nったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個 所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用したことを明らかにしており,甲1発明の「改良された液体分布機構\」においては,ポンプ140により加圧された液体が,中間ハウジング 30に形成された空所134を介することなく供給される個所は,コ ンプレツサ内に存在しないとし,したがって,スラストピストン室6 0についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体を空所13 4を介することなく供給するなどという構成は,甲1発明の技術思想に反するものであって,適用が排斥されていると主張する(前記第3,\n1(2)イ(イ)c(a))。
甲1には,空所134に関し,「中間ハウジング30はまた,圧力の かかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有して いる。」(9欄35〜37行),「空所134は,コンプレツサベアリン グおよびシール,スラストピストン,交叉する穴18と20により形 成された作動室,および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70 に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働 く。圧力のかかつた液体は,パイプ148,150通路152および パイプ154を介して空所134から室70に供給される。」(10欄 6〜13行)と記載され,ポンプ140によって加圧した液体の供給 について,いったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必 要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するとい う構成を採用することが記載されているにとどまる。そうすると,ポンプ140により加圧された液体を供給する経路の一部を,あえて空\n所134を経由しない別の経路として設けるように変更することは, 甲1の技術思想に反するものとして,その適用が排斥されているとい う余地があるとしても,ポンプにより圧力が加えられない液体をスラ ストピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に,これを, ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが 排斥されていると解することはできない。したがって,被告の上記主 張を採用することはできない。
被告は,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける と,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂 回することになるので,異物(ロータ同士の接触により生ずる金属く ず・鉄粉,液体の化学反応により生ずる不物等)がスラストピストン 室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり,ひいて はコンプレツサ10が機能不全に陥るとし,甲1発明において,スラストピストン室60に液体を供給する構\成を,ポンプ140・フイルタ146・空所134を迂回するものの他のフイルタを通過してスラ ストピストン室60に至る構成に改変しようとすると,フイルタ146とは別個のフイルタの追加が必要となり,更にはそれに応じた液体\nパイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため,甲1発明がコン プレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としようとしている趣旨等 に反し,そのような構成を採用することには,やはり阻害要因があると主張する(前記第3,1(2)イ(イ)d(b))。
しかし,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ14 6を迂回したとしても,圧縮機全体での液体の循環が繰り返される中 で,大部分の異物はいずれはフイルタ146を通って除去されること になるし,必要であれば,ポンプの前にフイルタを経由するように構成を変更し,ポンプにより圧力を加えられる液体も,圧力を加えられ\nない液体もフイルタを通過するようにするなどの対応を取ることもで きるから,コンプレツサ10が機能しなくなるとは認められない。また,このように構\成を変更するとしても,それによってコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数が著しく増えるとする根拠はない。したが って,被告の上記主張を採用することはできない。
・・・
。このように,甲1発明に ついても,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題を 認識できることから,そのような課題を解決するために,逆スラスト 荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けも生じるもの と認められる。そうすると,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が 発生するという技術的課題やその課題の解消について甲1に直接の言 及がないとしても,そのような課題を解決するために甲1発明に非加 圧の経路を設けるという動機付けが生じるものと認められる。したが って,被告の上記主張を採用することはできない。
3 以上によれば,本件特許発明は,甲1発明に,甲2ないし甲5に記載された 周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許 法29条2項の規定により特許を受けることができず,本件特許は特許法12 3条1項2号の規定により無効とすべきものであると認められ,取消事由1(無 効理由1に関する進歩性の判断の誤り)は理由がある。

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令和1(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月22日  知的財産高等裁判所(3部)

 無効審判の審理で訂正し、無効理由無しとされましたが、これについては、審決取消訴訟(前訴)で取り消されました。再開した審理で、訂正がなされ、無効理由無しと判断されました。知財高裁は審決を維持しました。争点は新規性・進歩性、サポート要件です。概要は、先行公報に記載された事項については前訴の拘束力化あり、また阻害要因ありと判断されました。

   本件訂正発明1と甲1発明の相違点の認定の誤りについて
 ア 甲1の【0016】には,「図1にホットプレスにより作製したターゲッ トの断面組織写真を示す。これによれば,微細な黒い点(SiO2)が均質 に分布しているのが観察され,・・・以上の結果より,このターゲット組織は SiO2がCo−Cr−Ta合金中に分散した微細混合相からなっている ことがわかった。」との記載があるから,甲1の図1の黒い点はSiO2と 認められる。そして,甲1の図1によれば,SiO2の黒い点は粒子状をな しており,いずれも半径2µmの仮想円よりも小さいと認められる。したが って,甲1の図1のSiO2粒子はいずれも,SiO2粒子内の任意の点を 中心に形成した半径2µmの全ての仮想円よりも小さいと認められ,形状2 の粒子の存在を確認することはできないから,本件訂正発明1が必ず形状 2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否かが 一見して明らかではないと認められる。
前訴判決は,審決を取り消す前提として,甲1発明の図1の全ての粒子 は形状1であると認定しており(甲30,61頁),この点について拘束力 が生じているものと認められ,この点からしても,本件訂正発明1が必ず 形状2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否 かが一見して明らかではないということができる。 そうすると,本件訂正発明1が形状2の粒子を含むのに対し甲1発明に おいて形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでないとの本件審 決の相違点(相違点2)の認定に誤りはないものと認められる。 イ(ア) この点につき,原告は,甲3に記載された再現実験は,甲1の実施 例1の再現実験であり,甲3で確認される非磁性材料粒子の組織は,甲 1の実施例1の組織と同じであるとして,甲3の断面組織写真である図 6の画面右下には形状2の粒子が存在するから(甲47),本件訂正発明 1と同じく,甲1発明にも形状2の粒子が存在するということができ, 形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでない点をもって,本件 訂正発明1と甲1発明の相違点ということはできないと主張する。
(イ) 前記2(2)アのとおり,メカニカルアロイングは,高エネルギー型ボ ールミルを用いて,異種粉末混合物と硬質ボールを密閉容器に挿入し, 機械的エネルギーを与えて,金属,セラミックス,ポリマー中に金属や, セラミックスなどを超微細分散化,混合化,合金化,アモルファス化さ せる手法で,セラミックス粒子を金属マトリクス内に微細に分散させる ことを可能とするものであり,このようなメカニカルアロイングの仕組\nみに照らすと,メカニカルアロイングにおいては,ボールミルのボール の衝突により異種粉末混合物にどのような力が加えられるかにより,生 成物の組織が異なってくるものと認められる。また,甲52に「一般に 粉末のミリング時には衝撃,剪断,摩擦,圧縮あるいはそれらの混合し たきわめて多様な力が作用するがメカニカルアロイングにおいて最も重 要なものはミリング媒体の硬質球の衝突における衝撃力とされている。 衝撃圧縮により粉末粒子は鍛造変形を受け加工硬化し,破砕され薄片化 する。・・・薄片化および新生金属面の形成に加え,新生面の冷間圧接およ びたたみ込みが重なるいわゆる Kneading 効果により,次第に微細に混 じり合い,ついには光学顕微鏡程度では成分の見分けがつかないほどに なってしまう。」(前記2(1)オ)との記載があることからすると,メカニ カルアロイングにおいて最も重要なものはミリング媒体の硬質球の衝突 における衝撃力であると認められる。そうすると,ボールミルのボール の材質や大きさ,ボールミルの回転速度等の条件が異なれば,メカニカ ルアロイングによって得られる粉末の物性は異なり,そのような粉末か ら得られるスパッタリングターゲットの研磨面で観察される組織の形態 も異なると認められる。 そうであるとすれば,少なくともボールミルのボールの材質や大きさ, ボールミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件が明らかにされな ければ,どのような組織の生成物ができるかが明らかにならないものと いうべきである。 そこで本件についてみると,甲1には,甲1発明のスパッタリングタ ーゲットを製造する際の,ボールミルのボールの材質や大きさ,ボール ミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件についての記載はなく, 甲3のメカニカルアロイングの条件が,甲1発明のスパッタリングター ゲットを製造する際のメカニカルアロイングの条件と同じであったとい う根拠はない。そうすると,甲3に記載されたスパッタリングターゲッ トが形状2の粒子を含んでいたとしても,このことのみから,甲1発明 のスパッタリングターゲットも形状2の粒子を含むということはできな い。そして,その他に,甲1発明のスパッタリングターゲットが形状2 の粒子を含むことを認めるに足りる証拠はない。
・・・
(2) 本件訂正発明1〜6の進歩性についての判断の誤りについて
ア 本件訂正発明1と甲1発明の相違点2,本件訂正発明2と甲1発明の相 違点2’の容易想到性について検討する。 甲1発明は,ハードディスク用の酸化物分散型 Co 系合金スパッタリン グターゲット及びその製造方法に関する発明であり(【0001】【産業上 の利用分野】),発明の目的は,保磁力に優れ,媒体ノイズの少ない Co 系合 金磁性膜をスパッタリング法によって形成するために,結晶組織が合金相 とセラミックス相が均質に分散した微細混合相であるスパッタリングタ ーゲット及びその製造方法を提供することにある(【0009】【発明が解 決しようとする課題】)。そして,発明者らは,Co 系合金磁性膜の結晶粒界 に非磁性相を均質に分散させれば,保磁力の向上とノイズの低減が改善さ れた Co 系合金磁性膜が得られることから,そのような磁性膜を得るため には,使用されるスパッタリングターゲットの結晶組織が合金相とセラミ ックス相が均質に分散した微細混合相であればよいことに着目し,セラミ ックス相として酸化物が均質に分散した Co 系合金磁性膜を製造する方法 について研究し,甲1記載の発明を発明した(【0010】【課題を解決す るための手段】)。そして,甲1には,急冷凝固法で作製した Co 系合金粉末 と酸化物とをメカニカルアロイングすると,酸化物が Co 系合金粉末中に 均質に分散した組織を有する複合合金粉末が得られ,この粉末をモールド に入れてホットプレスすると非常に均質な酸化物分散型 Co 系合金ターゲ ットが製造できる(【0013】(課題を解決するための手段))と記載され ており,甲1発明のスパッタリングターゲットは,アトマイズ粉末とSi O2粉末を混合した後メカニカルアロイングを行い,その後のホットプレ スにより製造されたものであり,SiO2が Co−Cr−Ta 合金中に分散した 微細混合相からなる組織を有する(【0015】,【0016】(実施例1))。 他方,メカニカルアロイングについては,本件特許の優先日当時,前記 2(2)記載の技術常識が存在したと認められ,当業者は,甲1発明のスパッ タリングターゲットを製造する際も,原料粉末粒子が圧縮,圧延により扁 平化する段階(第一段階),ニーディングが繰り返され,ラメラ組織が発達 する段階(第二段階),結晶粒が微細化され,酸化物などの分散粒子を含む 場合は,酸化物粒子が取り込まれ,均一微細分散が達成される段階(第三 段階)の三段階で,メカニカルアロイングが進行すること自体は理解して いたものと解される。
そして,メカニカルアロイングが上記第一ないし第三の段階を踏んで進 行することからすると,メカニカルアロイングが途中の段階,例えば,第 二段階では,ラメラ組織が発達し,形状2の粒子も存在するものと考えら れ,甲49(実験成績報告書「甲3の混合過程で形状2の非磁性材料粒子 が存在すること(1)」)及び甲50(実験成績報告書「甲3の混合過程で 形状2の非磁性材料粒子が存在すること(2)」)も,メカニカルアロイン グの途中の段階においては,形状2の粒子が存在することを示している。 しかし,甲1には,形状2のSiO2粒子について,記載も示唆もされて いない。むしろ,本件特許の優先日当時のメカニカルアロイングについて の前記技術常識(前記2(2))に照らすと,メカニカルアロイングは,セラ ミックス粒子等を金属マトリクス内に微細に分散させるための技術であ り,第二段階は進行の過程にとどまり,均一微細分散が達成される第三段 階に至ってメカニカルアロイングが完了すると認識されていたものと推 認されるところであり,前記2(1)の技術文献の記載に照らして,メカニカ ルアロイングをその途中の第二段階で止めることが想定されていたとは 認められない。メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階までで終 了することについて,甲1には何ら記載も示唆もされておらず,その他に, これを示唆するものは認められない。むしろ,甲1には,合金相とセラミ ックス相が均質に分散した微細混合相である結晶組織を得ることが,課題 を解決するための手段として書かれており,セラミックス相が均質に分散 した微細混合相を得るためには,均一微細分散が達成される第三段階まで メカニカルアロイングを進めることが必要であるから,甲1は,メカニカ ルアロイングをその途中の第二段階で止めることを阻害するものと認め られる。
そうすると,当業者は,メカニカルアロイングについて前記2(2)記載の 技術常識を有していたものではあるが,甲1発明のスパッタリングターゲ ットを製造する際に,メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階ま でで終了することにより,SiO2粒子の形状を形状2(形状2’)の粒子 を含むようにすることを動機付けられることはなかったというべきであ る。 したがって,相違点2及び相違点2’に係る事項は,当業者が容易に想 到し得たものとは認められない。

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令和1(行ケ)10139  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年8月27日  知的財産高等裁判所(3部)

 無効審判に対して訂正請求がなされ、無効理由無しとの審決がなされました。知財高裁もかかる判断を維持しました。理由は、動機付け無し、阻害要因ありです。

 前記2(1)のとおり,甲1発明は,プリント配線板との位置合わせ用 のマークであるアライメントマーク(認識マーク)を備えた金属製の印 刷用マスクに関する発明である(甲1【0001】ないし【0003】)。 また,アライメントマークは,印刷用マスクをプリント配線板に対して 正しい位置に配置するためのものであり,カメラで読み取られるなどし てその位置座標が正確に認識されることによって位置合わせ用のマーク としての機能を果たすものといえる(甲1【0003】,【0004】)か\nら,形成されるアライメントマークには,その形状や記載内容に係る精 度よりも,マークの位置や輪郭の寸法に係る精度が強く求められるもの ということができる。 他方で,上記(1)のとおり,甲3文献には,高速度鋼や超鋼合金製の工 具類に文字や数字等のパターンをマーキングする方法として,甲3記載 技術が従来の技術として挙げられるとともに,その課題を解決する手段 として湿式鍍金法を用いたマーキング方法が記載されている。そして, 甲3文献に記載されたこれらの技術は,高精度を要求されるドリル等の 工具類に識別情報としての文字や数字等を表示するためのものであるか\nら,マーキングされる文字や数字等には,その位置や大きさに係る精度 よりも,文字や数字等としての明瞭さや高い解像度が強く求められるも のということができる。 これらの事情を考慮すると,甲1発明及び甲3記載技術は,各技術が 属する分野が異なるものである上,技術の適用対象や要求される機能も\n異なるというべきである。 これに加え,前記2(1)のとおり,甲1発明における被加工品は,金属 製の印刷用マスクであるところ,その材料としてはニッケル合金やニッ ケル−コバルト合金等が好ましいとされている(甲1【0012】)のに 対し,上記(1)によれば,甲3文献における被加工品は,高速度鋼や超硬 合金性の工具類であるから,甲1発明及び甲3記載技術は,被加工品の 材料も異なる。 以上によれば,甲1発明及び甲3記載技術は,技術分野や技術の適用 対象,要求される機能,材料がいずれも異なるというべきである。\n
・・・
オ 原告は,欠点(1)ないし(4)につき,甲3記載技術を甲1発明に適用する ことの阻害要因とはなり得ないなどと主張する。 しかしながら,上記(1)のとおりの甲3文献の記載内容によれば,欠点 (1)ないし(4)は,電解マーキング法一般を念頭に置いた欠点を列挙したも のと読むことができるのであって,そうであれば,同文献に接した当業者 が,電解めっき法に劣るマーキング方法であると否定的に評価されている 甲3記載技術を,電解めっき法を採用するのが好ましいとされている甲1 発明に敢えて適用しようとすることは考え難いというべきである。また, 欠点(1)ないし(4)につき,本件出願時の時点において既に克服された欠点 であることが技術常識又は周知の事項であったと認めるに足りる証拠は 存しない。
したがって,欠点(1)ないし(4)は,甲3記載技術を甲1発明に適用する ことについての阻害要因となり得るというべきである。

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令和1(行ケ)10118  審決(無効・不成立)取消 令和2年6月17日判決 請求棄却(2部)特許権 (アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン訪導体を含有する局所的眼科用処方物)進歩性,顕著な効果の有無,判決の拘束力

 進歩性の判断に誤りがあるとして、最高裁で取り消された事件の差戻審の判断です。予測できない効果ありとして進歩性ありと判断されました。\n  まず,本件優先日当時,本件化合物について,ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率が30〜2000μMまでの濃度範囲において濃度依存的に上昇し,最大で92.6%となり,この濃度の間では,阻害率が最大値に達した用量(濃度)より高用量(濃度)にすると,阻害率がかえって低下するという現象が生じないことが明らかであったことを認めることができる証拠はない。
(イ)次に,ケトチフェンの効果から,本件化合物の効果を予測することができたかどうかについて判断する。\n
 a 甲1によると,Ketotifen(ケトチフェン)とKW−4679(本件化合物のシス異性体の塩酸塩)は,いずれも,モルモットの結膜からのヒスタミンの遊離抑制効果については有意でないと評価がされているが,甲32には,Ketotifen(HC)(ケトチフェン)点眼液のヒスタミンの遊離抑制効果をスギ花粉症患者の眼球への投与実験によって検討したところ,アレルギー反応の誘発後,5分及び10分後の涙液中ヒスタミン量は,対照眼と比べて,有意なヒスタミン遊離抑制効果がみられ,ヒスタミン遊離抑制率は,誘発5分後で67.5%,誘発10分後で67.2%であったことが記載されている。これらによると,ケトチフェンは,ヒトの場合においては,モルモットの実験結果(甲1)とは異なり,ヒト結膜肥満細胞安定化剤としての用途を備えており,ヒスタミン遊離抑制率は,誘発5分後で67.5%,誘発10分後で67.2%であることが認められる。
 もっとも,本件優先日当時,ケトチフェンがヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制率について30μM〜2000Mの間で濃度依存的な効果を有するのか否かが明らかであったと認めることができる証拠はない。なお,甲39は,本件優先日後に公刊された刊行物であって,その記載を参酌してケトチフェンが上記で認定したものを超える効果を有していると認めることはできない。b甲1において,Ketotifen(ケトチフェン)及び本件化合物と同様に,モルモットの結膜におけるヒスタミンの遊離抑制効果を有しないとされているChlorpheniramine(クロルフェニラミン)については,本件優先日当時,ヒト結膜肥満細胞の安定化効果を備えることが当業者に知られていたと認めることができる証拠はない。また,本件化合物やケトチフェンと同様に三環式骨格を有する抗アレルギー剤には,アンレキサクノス(甲1のAmelexanox),ネドクロミルナトリウムが存在する(甲1,11,19,31,弁論の全趣旨)ところ,アンレキサクノスは有意なモルモットの結膜からのヒスタミン遊離抑制効果を有している(甲1)が,本件化合物は有意な効果を示さないこと(甲1),ネドクロミルナトリウムは,ヒト結膜肥満細胞を培養した細胞集団に対する実験においてヒトの結膜肥満細胞をほとんど安定化しない(本件明細書の表1)が,本件化合物は同実験においてヒトの結膜肥満細胞に対して有意の安定化作用を有することからすると,三環式化合物という程度の共通性では,ヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果につき,当業者が同種同程度の薬効を期待する根拠とはならない。さらに,ケトチフェンは各種実験において本件化合物(又はその上位概念の化合物)との比較に用いられており(甲208〜210。ただし,甲210は,本件優先日後の文献である。),甲1では,ケトチフェンは本件化合物と並べて記載されているが,ケトチフェンと本件化合物の環構\造や置換基は異なるから,上記のとおり比較に用いられていたり,並べて記載されているからといって,当業者が,ケトチフェンのヒスタミン遊離抑制効果に基づいて,本件化合物がそれと同種同程度のヒスタミン遊離抑制効果を有するであろうことを期待するとはいえない。
 原告は,ケトチフェンが,三環式骨格を有する抗アレルギー剤である点で本件化合物に共通し,本件化合物の上位概念の化合物やKW−4679などの効果において,比較対象とされている(甲208〜210)ことから,ケトチフェンの効果の程度から,KW−4679(本件化合物)の効果の程度を推認することは可能であったと主張するが,原告の主張を採用することはできない。したがって,甲1の記載に接した当業者が,ケトチフェンの効果から,本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する効果について,前記アのような効果を有することを予\測することができたということはできない。
(ウ)さらに,本件優先日当時,甲20,34及び37の文献があったことから,本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果をこれらの文献から予測できたかについて判断する。a甲20には,スギ花粉症患者の眼球への投与実験における塩酸プロカテロ−ル点眼液のヒスタミン遊離抑制率が,誘発5分後で0.003%点眼液が平均81.7%,0.001%点眼液が平均81.6%,0.0003%点眼液が平均79.0%,誘発10分後で0.003%点眼液が平均90.7%,0.001%点眼液が平均89.5%,0.0003%点眼液が平均82.5%であることが記載されている。また,甲34には,スギ花粉症患者の眼球への投与実験におけるDSCG(クロモグリク酸二ナトリウム)2%点眼液のヒスタミン遊離抑制率が,誘発5分後で平均73.8%,誘発10分後で平均67.5%であることが記載されている。\nさらに,甲37には,スギ花粉症患者への眼球の投与実験におけるペミロラストカリウム点眼液のヒスタミン遊離抑制率が,誘発5分後で0.25%点眼液が平均71.8%,0.1%点眼液が平均69.6%,誘発10分後で0.25%点眼液が平均61.3%,0.1%点眼液が平均69%であることが記載されている。
b しかし,本件化合物と,塩酸プロカテロ−ル(甲20),クロモグリク酸二ナトリウム(甲34),ペミロラストカリウム(甲37)は,化学構造を顕著に異にするものであり,前記(イ)bのとおり,三環式骨格を同じくするアンレキサクノスと本件化合物のモルモットの結膜からのヒスタミンの遊離抑制効果が異なり,ネドクロミルナトリウムと本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果が異なることからすると,ヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果も,その化学構造に応じて相違することは,当業者が知り得たことであるから,前記aの実験結果に基づいて,当業者が,本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果を,前記a記載の化合物と同様の程度であると予\測し得たということはできない。また,前記aの各記載から,塩酸プロカテロ−ル(甲20),クロモグリク酸二ナトリウム(甲34),ペミロラストカリウム(甲37)がヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率について30μM〜2000Mの間で濃度依存的な効果を有するのか否かが明らかであると認めることはできず,他に,これらの薬剤がヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率について30μM〜2000Mの間で濃度依存的な効果を有するのか否かが明らかであると認めることができる証拠はない。  したがって,前記aの各記載から,本件化合物のヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害について前記アのような効果を有することを予測することができたということはできない。\n
 ウ 原告は,本件発明1の顕著な効果が認められるためには,本件化合物が0.0001〜5w/v%の濃度の全範囲で,かつ,本件明細書の表1に記載された29.6%〜92.6%というヒスタミン放出阻害率の全範囲でヒスタミン放出阻害率が顕著な効果を有しなければならないと主張する。しかし,本件発明1の効果は,30μM〜2000μMの間でヒスタミン放出阻害率が濃度依存的に上昇し,最大値92.6%となり,この濃度の間では,阻害率が最大値に達した用量(濃度)より高用量(濃度)にすると,阻害率がかえって低下するという現象が生じていないことにあるから,0.0001〜5w/v%の濃度の全範囲で,かつ,本件明細書の表\1に記載された29.6%〜92.6%というヒスタミン放出阻害率の全範囲で,他の薬物のヒスタミン放出阻害率を上回るなどの効果を有することが必要とされるものではない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
エ 以上によると,本件発明1の効果は,当該発明の構成が奏するものとして当業者が予\測することができた範囲の効果を超える顕著なものであると認められるから,当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。

◆判決本文

最高裁判決はこちら 平成30(行ヒ)69  審決取消請求事件 令和元年8月27日  最高裁判所第三小法廷  判決  破棄差戻  知的財産高等裁判所

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令和1(行ケ)10097  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月19日  知的財産高等裁判所

 発明の具体的な作用・機能も,引用発明1とは大きく異なるので、阻害要因ありとして進歩性無しとした審決が取り消されました。

 本件審決は,引用発明1及び甲4発明の装身具は,いずれも,装身 具を簡単にシャツの第一ボタンに装着できるようにするという共通の課 題を有し,また,これを着用するに当たり,切欠き状の部分にボタンが はまり込むことで装着するという共通の機能を有するから,引用発明1のボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的な形状として,甲\n4発明の係止導孔を有する円形の釦挿通孔の態様を採用し,相違点2に 係る本件補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得たことである旨判断した。\nしかしながら,前記(2)イのとおり,引用発明1は,簡易型のネクタイ 本体を取付ける着用具を改良することによって,着用状態における位置 ずれや傾きを生じ難く,低コストで生産でき,そして着用操作も容易で ある簡易着用具付きネクタイを提供することを課題とするものである。 一方,前記ア(イ)のとおり,甲4に記載された考案は,襟飾り,生花 等の種々の装飾小物,殊に襟前に止着する装身具について,着脱が簡単 であり,かつ,衣服の損傷がほとんどない装身具取付台を提供すること を課題とするものであるが,かかる装身具として,蝶ネクタイやネクタ イを例示するものではなく,蝶ネクタイやネクタイを着用する際に固有 の問題があることを指摘するものでもない。 したがって,引用発明1と甲4発明は,その具体的な課題において, 大きく異なるものといえる。 また,発明の作用・機能をみても,引用発明1は,基板部,ネクタイ取付部及び一対の突出片から成る簡易着用具を備え,ネクタイ取付部の\n裏側に位置する基板部に,その下縁を凹状に切り欠いたボタン係合部を 設け,その切欠きにシャツの第一ボタンを係合させるとともに,一対の 突片を襟下へ挿入することで,簡易蝶ネクタイの良好な着用状態及び簡 単な着用操作を実現するものである(前記(2)ア(オ))。 そして,甲1には,引用発明1に関し,(1)「ボタン係合部19」の奥 部は,ボタン取付け糸の部分を丁度跨ぐことができる程度の小円弧状を なすものとし,その幅は,ボタンとの係合状態において横方向にほとん ど移動しない程度のものとすること,(2)着用時にボタンとの係合を容易 にするとともに,着用時に基板部2の片側がボタン穴に入り込むことを 防ぐために,「ボタン係合部19」の下方を,ラッパ状に下方へ拡大し て基板部2の下縁に達するものとすることの記載(前記(2)ア(エ)a)が ある。これは,結び目の陰に隠れて見えない状態のボタン係合部を,上 方から探りながらも容易に装着できるようにするための工夫といえるか ら,簡易着用具1の基板部2における,ボタン係合部19の配置位置及 びその形状を引用発明1の構成とすることは,引用発明1の課題を解決するために,重要な技術的意義を有するものであることを理解できる。\n他方,甲4発明は,取付台主板に対して上方に係止導孔を連続形成し た釦挿通孔を穿設すると共に,他の一部に背面方向に突出するピンを突 設し,ピン先端にピン挟持機構を有するピン挿入キャップを冠着することで,釦の確実な止着と,各種装身用小物の衣類への簡単な着脱を実現\nするものであって(前記ア(イ)b),第1ボタンへの係合方法,衣類への 確実な止着及び簡単な着脱の実現手段において,引用発明1と大きく異 なるものであるから,発明の具体的な作用・機能も,引用発明1とは大きく異なるものといえる。\n
加えて,甲4の記載事項(前記ア(ア)c)によれば,甲4発明の装身 具取付台は,衣類に装着する際に,第1ボタンの前部からアプローチし て,釦挿通孔(2)に挿入した後,装身具取付台を鉛直方向の下部に移 動させ,係止導孔(3)を第1ボタンの取付糸に係合するものであるか ら,当業者であれば,第1ボタンを釦挿通孔(2)に挿入する際に,こ れらを視認できる状態でないと,ボタンの着脱動作が困難となることを 理解できる。
そうすると,仮に,引用発明1のボタン係合部19における切欠き状 の部分の具体的な形状として,甲4発明の「細幅の係止導孔(3)を有する 円形の釦挿通孔(2)」の態様を採用した場合には,ボタン係合部19の前 側に位置し,その前側にネクタイが取り付けられるネクタイ取付部3が 存在するため,簡易蝶ネクタイを着用する際に,簡易蝶ネクタイ及びネ クタイ取付部に隠されて,第1ボタン及びボタン穴を視認することがで きないことになる。そのため,ボタン係合部を切欠き状にする場合より も,着用具へのボタンの係合が困難となることは明らかであるといえる。
(イ) 以上によれば,引用発明1と甲4発明とは,発明の課題や作用・機 能が大きく異なるものであるから,甲1に接した当業者が,甲4の存在を認識していたとしても,甲4に記載された装身具取付台の構\成から,「細幅の係止導孔(3)を有する円形の釦挿通孔(2)」の形状のみを取り出し, これを引用発明1のボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的 な形状として採用することは,当業者が容易に想到できたものであると は認め難く,むしろ阻害要因があるといえる。

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令和1(行ケ)10097  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月19日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が、動機付け無し・阻害要因ありとして取り消されました。

 本件審決は,引用発明1及び甲4発明の装身具は,いずれも,装身 具を簡単にシャツの第一ボタンに装着できるようにするという共通の課 題を有し,また,これを着用するに当たり,切欠き状の部分にボタンが はまり込むことで装着するという共通の機能を有するから,引用発明1\nのボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的な形状として,甲 4発明の係止導孔を有する円形の釦挿通孔の態様を採用し,相違点2に 係る本件補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得た\nことである旨判断した。 しかしながら,前記(2)イのとおり,引用発明1は,簡易型のネクタイ 本体を取付ける着用具を改良することによって,着用状態における位置 ずれや傾きを生じ難く,低コストで生産でき,そして着用操作も容易で ある簡易着用具付きネクタイを提供することを課題とするものである。 一方,前記ア(イ)のとおり,甲4に記載された考案は,襟飾り,生花 等の種々の装飾小物,殊に襟前に止着する装身具について,着脱が簡単 であり,かつ,衣服の損傷がほとんどない装身具取付台を提供すること を課題とするものであるが,かかる装身具として,蝶ネクタイやネクタ イを例示するものではなく,蝶ネクタイやネクタイを着用する際に固有 の問題があることを指摘するものでもない。 したがって,引用発明1と甲4発明は,その具体的な課題において, 大きく異なるものといえる。
また,発明の作用・機能をみても,引用発明1は,基板部,ネクタイ\n取付部及び一対の突出片から成る簡易着用具を備え,ネクタイ取付部の 裏側に位置する基板部に,その下縁を凹状に切り欠いたボタン係合部を 設け,その切欠きにシャツの第一ボタンを係合させるとともに,一対の 突片を襟下へ挿入することで,簡易蝶ネクタイの良好な着用状態及び簡 単な着用操作を実現するものである(前記(2)ア(オ))。 そして,甲1には,引用発明1に関し,(1)「ボタン係合部19」の奥 部は,ボタン取付け糸の部分を丁度跨ぐことができる程度の小円弧状を なすものとし,その幅は,ボタンとの係合状態において横方向にほとん ど移動しない程度のものとすること,(2)着用時にボタンとの係合を容易 にするとともに,着用時に基板部2の片側がボタン穴に入り込むことを 防ぐために,「ボタン係合部19」の下方を,ラッパ状に下方へ拡大し て基板部2の下縁に達するものとすることの記載(前記(2)ア(エ)a)が ある。これは,結び目の陰に隠れて見えない状態のボタン係合部を,上 方から探りながらも容易に装着できるようにするための工夫といえるか ら,簡易着用具1の基板部2における,ボタン係合部19の配置位置及 びその形状を引用発明1の構成とすることは,引用発明1の課題を解決\nするために,重要な技術的意義を有するものであることを理解できる。 他方,甲4発明は,取付台主板に対して上方に係止導孔を連続形成し た釦挿通孔を穿設すると共に,他の一部に背面方向に突出するピンを突 設し,ピン先端にピン挟持機構を有するピン挿入キャップを冠着するこ\nとで,釦の確実な止着と,各種装身用小物の衣類への簡単な着脱を実現 するものであって(前記ア(イ)b),第1ボタンへの係合方法,衣類への 確実な止着及び簡単な着脱の実現手段において,引用発明1と大きく異 なるものであるから,発明の具体的な作用・機能も,引用発明1とは大\nきく異なるものといえる。
加えて,甲4の記載事項(前記ア(ア)c)によれば,甲4発明の装身 具取付台は,衣類に装着する際に,第1ボタンの前部からアプローチし て,釦挿通孔(2)に挿入した後,装身具取付台を鉛直方向の下部に移 動させ,係止導孔(3)を第1ボタンの取付糸に係合するものであるか ら,当業者であれば,第1ボタンを釦挿通孔(2)に挿入する際に,こ れらを視認できる状態でないと,ボタンの着脱動作が困難となることを 理解できる。 そうすると,仮に,引用発明1のボタン係合部19における切欠き状 の部分の具体的な形状として,甲4発明の「細幅の係止導孔(3)を有する 円形の釦挿通孔(2)」の態様を採用した場合には,ボタン係合部19の前 側に位置し,その前側にネクタイが取り付けられるネクタイ取付部3が 存在するため,簡易蝶ネクタイを着用する際に,簡易蝶ネクタイ及びネ クタイ取付部に隠されて,第1ボタン及びボタン穴を視認することがで きないことになる。そのため,ボタン係合部を切欠き状にする場合より も,着用具へのボタンの係合が困難となることは明らかであるといえる。
(イ) 以上によれば,引用発明1と甲4発明とは,発明の課題や作用・機 能が大きく異なるものであるから,甲1に接した当業者が,甲4の存在\nを認識していたとしても,甲4に記載された装身具取付台の構成から,\n「細幅の係止導孔(3)を有する円形の釦挿通孔(2)」の形状のみを取り出し, これを引用発明1のボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的 な形状として採用することは,当業者が容易に想到できたものであると は認め難く,むしろ阻害要因があるといえる。 したがって,本件補正発明は,引用発明1に基づいて当業者が容易に 発明をすることができたものであるとはいえないから,これに反する本 件審決の判断には誤りがあり,同判断を前提とする本件審決の補正却下 の決定にも誤りがある。

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令和1(行ケ)10102  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月24日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。理由は技術分野は共通するが、動機付け無し、さらに阻害要因ありというものです。

(ア) 引用発明1は,大口径の鋼管杭(ケーシング)の圧入,引抜きを行うための 回転式ケーシングドライバに関し,引用発明2’は,種々の径のケーシングに対応す ることができ,現場打杭に使用される回転式ボーリングマシンに関するから,両発 明の技術分野は共通する。 しかし,引用発明1では,小さく分割することでその輸送を容易にしながら,ケ ーシングドライバの大型化を図ることのできる構造の,昇降フレームを提供するこ\nとを目的とするのに対し,引用発明2’では,種々のケーシングチユーブに適用し, 掘削排土及びケーシングチユーブの回転の両操作を同時に行うことのできる回転式 ボーリングマシンを提供することを目的とするので,両発明の目的は異なる。 また,引用例1には,引用発明1の把持機構(旋回ベアリング6,回転リング7,\n及びバンド装置14)に代えて,引用発明2’の把持機構(クランプ部2)を採用す\nることに関する記載も示唆も認められない。 そうすると,引用発明1に引用発明2’を適用することについて,直ちに動機付け があると評価することはできない。
(イ) そこで,更に両発明の構成をみると,引用発明1の「旋回ベアリング6,回\n転リング7,及びバンド装置14」と引用発明2’の「クランプ部2」は,いずれも ケーシングの回転及び把持の機能を有する点において共通する。\nしかし,上記の目的の相違に対応して,引用発明1の「昇降フレーム4」は,旋回 ベアリング6を取り付ける「取付座4a」を分断するように分割する構成を有し,\nその「取付座4a」のサイズは一定であり,種々の径の旋回ベアリング6を固定で きるよう拡大や縮小が可能なものではないのに対し,引用発明2’の割ライナー4及\nび割クランプ3は,種々の径のケーシングチユーブをクランプするために締付拡大 可能なものであり,回転駆動される割ライナー4,及び割ライナー4を回転可能\に 支承する側の割クランプ3の両者が,締付ジヤツキ5の動作によってその径を変更 することのできるものである。このような引用発明2’の割ライナー4及び割クラン プ3を,旋回ベアリング6の径の変更に対応するための構成を有しない引用発明1\nの「昇降フレーム4」上の「取付座4a」にそのまま取り付けることはできないか ら,引用発明1に引用発明2’を組み合わせるためには,分割可能な「昇降フレーム\n4」及び「取付座4a」という引用発明1の構成自体を変更する必要が生じる。\nそうすると,引用発明1に引用発明2’を組み合わせることについては,これを阻 害する要因があるというべきである。
イ 原告らの主張について
原告らは,(1)旋回ベアリングを分割することは周知の技術であり,また,土木機 械である立杭構築機について,その運搬時の作業性を勘案して各種構\成部材を分割 することも引用例2から容易に発想できるから,引用発明1に引用発明2’を適用す る動機付けがある,(2)引用発明1に引用発明2’を適用するに際しては,引用発明1 の「取付座4a」に所定の径の旋回ベアリング6が固定できるように,サイズの合 う部材を現場において選択すれば足り,阻害要因はないと主張する。 しかし,(1)については,前記アで述べたとおりの理由により適用の動機付けがな いし,(2)についても,引用発明1に引用発明2’を適用する場合には,「取付座4a」 のサイズに応じた部材のほかに,「旋回ベアリング6の外歯歯車6cに噛合する出力 歯車11」のサイズや配置の変更も必要となることからすれば,適用することに阻 害要因があると評価すべきである。原告らの主張は理由がない。

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平成31(行ケ)10043  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月20日  知的財産高等裁判所

 無効理由(進歩性)無しとした審決が取り消されました。

 ア 甲1発明に甲2文献の記載事項を適用することの難易及びその際の構成
(ア) 甲1発明は,タイヤのサイドウォール面に設けた表示マークの識別\n性を向上させることを目的とするものであるから(甲1段落【0001】, 【0006】),当業者であれば,表示マークの識別性をさらに向上さ\nせることを検討すると考えられる。また,「近年は,特に乗用車用タイ ヤにおいて外観に優れたタイヤが好まれ,表示マークの見映えの向上も\n要望されるようになった」との記載(甲1段落【0002】)からすれ ば,表示マークの識別性向上は,タイヤの外観を優れたものとするため\nの一手段であり,甲1発明のタイヤの外観をさらに向上させる手段があ るのであれば,それが望ましいことといえる。 ここで,甲2文献は,空気入りタイヤを技術分野としているから(甲 2段落【0001】),本件発明と技術分野が共通しており,しかも甲 2文献は外観を向上することを目的とするとされているから,甲1発明 に接した当業者であれば,甲2文献に記載された内容を検討対象とする と考えられる。 そして,甲2文献の記載を具体的に見ると,時間の経過によって,タ イヤのゴムに添加されたワックス等の油分や老化防止剤などの添加剤が タイヤの外表面に移行して滲み出し,外観を損ねるという現象を課題と\nして認識し,これを解決するための技術的事項が記載されたものである ことがわかる(前記(2)イ)。このような現象は,甲1発明のタイヤ全 体に生じうるものといえるが,そうなれば甲1発明のタイヤの外観を損 なうことになる。また,このような現象は,甲1発明の表示マーク部分\nにも生じうるものであり,そうなれば表示マークの識別性の低下をもた\nらす。 よって,甲2文献の記載事項は,表示マーク部分を含む,甲1発明の\nタイヤの外観をさらに向上させるのに適した内容と考えられるから,当 業者であれば,甲1発明に甲2文献の記載事項を組み合わせることを試 みる十分な動機付けがあるといえる。\n甲2文献には,コントラストを高めるという発想はないが,そうであ っても,別の理由から,甲1発明との組み合わせが試みられることは, 以上に述べたところから明らかである。
(イ) そして,甲1発明に甲2文献の記載事項を適用するにあたっては, 甲2文献には,標章等の模様をも粗面部とすること(甲2段落【001 0】),タイヤ1の外表面全体あるいはサイドウォール部を粗面部とす\nることが望ましいこと(甲2段落【0016】,【0030】)が記載 されているから,甲1発明のタイヤの細溝によって形成された表示マー\nク(甲2文献の「標章等の模様」に相当する。)を含めたサイドウォー ル面全体に,甲2文献所定の表面粗さを設ける構\成とすることが考えら れる。
ここで,甲2文献では,表面粗さはJIS−B−0601の規定の十\点 平均粗さで5μmから100μmとされているが(甲2段落【000 5】,【0006】),それに加え,下限を5μmとすべきであり,こ れより小さな表面粗さでは,タイヤが白っぽく見え,しかも油分などの\nぎらつきなどが目立ちやすくなること,特に好ましくは15〜35μm であること(甲2段落【0012】)が記載され,さらに,それぞれ表\n面粗さを10μm,30μmとする実施例1,2が開示され,特に30 μmの実施例2が,新品時外観及び暴露時外観の双方で最高得点と評価\nされていること(甲2段落【0028】,【0029】)からすれば, 甲1発明に組み合わせるにあたって,表面粗さを5μm〜30μmとす\nることは,当業者が適宜設計する事項の範囲内であるといえる。 なお,表面粗さについて,本件発明3はDIN4768(199\n0)規格であるのに対し,甲2文献は,JIS−B−0601の規定の 十点平均粗さである。しかし,本件明細書は,5μm「よりも小さな\n値は,タフト又はブレードの表面が「滑らか」になり,かくして入射\n光を反射する」(段落【0035】)とし,甲2文献も「5μm未満 であると,光が良い加減に乱反射せず」(段落【0012】)とし て,類似の理由に基づきいずれも5μmを下限としていること,両規 格で表面粗さの数値に大きな差異が生じると認めるに足りる証拠はな\nく,当事者も規格の違いを特に問題としていないことに照らすと,こ の点は実質的な相違点とはならないと解される。
(ウ) 被告らは,甲1発明の表示マークを設けた領域以外のサイドウォー\nル面にも甲2文献の粗面部を適用した場合,サイドウォール面でタイヤ に当たる光を乱反射し黒っぽくなり,表示マークの識別性が低下するか\nら,甲1発明の目的に反することとなるので,甲1発明に甲2文献の記 載事項を適用することには阻害事由が存在する旨主張する。 しかし,前記(イ)のとおり,甲2文献に記載の技術は,標章等の模様 9と外表面3の双方に一定の表\面粗さを設けるものであるが(甲2段落 【0010】),標章等が視認不能になってしまうならばこれを設ける\n意味がなくなってしまうから,このような構成としても,模様9が視認\n可能であることは,当然の前提となっていると解される。\nまた,甲1発明においては,表示マークが細溝で形成されている一\n方,表示マーク以外の領域は細溝が設けられていないことによって,す\nでにコントラストが生じている。そのため,表示マークとそれ以外の領\n域の双方を粗面部とした場合,それ以外の領域が黒っぽくなるととも に,表示マークも,より黒っぽくなることも想定されるから,必ずしも\n表示マークのコントラストが低下しないとも考えられる。\n以上のとおり,甲1発明に甲2文献の粗面部を適用しても,表示マー\nクの識別性が低下するとは限らないから,被告らが指摘する点は,前記 (ア)のとおり,十分な動機づけに基づく甲1発明と甲2文献とを組み合\nわせるとの試みを,阻害するまでの事由とは認められない。
(エ) 以上のとおり,甲1発明と甲2文献の記載事項を組み合わせる動機 づけがあり,当業者であれば,両者を組み合わせ,細溝を含むサイドウ ォール面全体に,5μm〜30μmの表面粗さを設ける構\成に容易に想 到すると認められる。
(オ) そして,前記(エ)の構成は,相違点2に係る本件発明3の構\成に含 まれるといえる。 すなわち,本件発明3は,「前記ブレード(22)の壁は,その面積 の少なくとも1/4にわたり,5μm〜30μmの平均粗さRzを有 し,この平均粗さを有する前記ブレードの前記壁は,前記ブレードの高 さの下四分の一に位置している」という発明特定事項を有するが,ブレ ードの高さの下四分の一より上側や,ブレードを設けたパターン以外の 可視面の表面粗さについては,何ら特定していない。かえって,「少な\nくとも」とあるので,ブレード部分については,面積の1/4より広い 範囲において5μm〜30μmの平均粗さRzを有することが想定され ているといえる。 他方,本件発明3は,「可視面は,該可視面とコントラストをなすパ ターン(2)を有し,」との発明特定事項(以下「発明特定事項(2)」と いう。)を有するところ,非常にコントラストの高い印を備えた車両用 タイヤを製造するという本件発明の意義(前記1(3))に照らせば,パ ターン部分の表面粗さが,パターン以外の部分の表\面粗さより大きい方 が,コントラストが高まると考えられ,したがって,発明特定事項(2) は,パターン部分とパターン以外の部分とで表面粗さが異なる構\成のみ を含めるものとしているのではないかとの疑問も生じないではない。し かし,パターン以外の部分の表面粗さについて,発明特定事項(2)はもと より,本件明細書中にも具体的な記載はなく,かえって,「コントラス トは、パターンの表面が光沢のある表\面に隣接して位置する場合により 高い。」(段落【0013】)との記載によれば,本件明細書は,パタ ーンの表面に隣接する部分が,光沢のある表\面でない場合をも想定して いるものと考えられる。なお,パターンとそれ以外の双方を粗面として も,コントラストが生じると解されることは,前記(ウ)のとおりであ る。 そうだとすれば,本件発明3の「可視面」について,一定の表面粗さ\nであるものに限定して解することはできない。 よって,ブレードの高さの下四分の一より上側や,ブレード以外の可 視面にも,ブレードの高さの下四分の一と同様に5μm〜30μmの平 均粗さRzを有するようにした構成,例えばブレードを含む可視面全体\nについて,5μm〜30μmの平均粗さRzを有するようにした構成\nも,本件発明3に含まれると解すべきである。 なお,被告らは,本件発明3が上記のとおり解されるとの原告の主張 に対し,明示的な反論をしていない。
イ 被告らの主張について
(ア) 発明の目的について
被告らは,甲1発明のパターンを含むサイドウォール面のすべてを粗 面部とすると,コントラスト効果が当然に高まることはなく,本件発明 の目的を達成できないと主張する。 しかし,本件発明3には,ブレードを含む可視面全体を5μm〜30 μmの平均粗さRzを有するようにした構成,すなわち,甲1発明に甲\n2文献の粗面部を適用した構成も含まれることは,前記ア(オ)のとおり である。そして,構成が同一であれば効果も同一であると考えられる。\nよって,本件発明3には,甲1発明に甲2文献の粗面部を適用した構\n成と同程度のコントラストしか生じないものが含まれているのであるか ら,甲1発明に甲2文献の粗面部を適用した構成が,本件発明の目的を\n達成できていないとはいえない。また,以上によれば,本件発明3に, 顕著な作用効果があるとも認められない。
(イ) 数値範囲について
被告らは,本件発明3の表面粗さの範囲には臨界的意義があるとも主\n張する。 しかし,本件発明3における5μmという下限は,これよりも小さい とタフト又はブレードの表面が「滑らか」になり,入射光を反射してし\nまうことを考慮して定められたものであるが(段落【0035】),甲 2文献の段落【0012】にも,5μm未満であると,光が良い加減に 乱反射しないことが記載されているから,下限について,新たな臨界を 発見したというものではない。 また,上限は,タフトについてすら,成形中に引きちぎれるのを阻止 する限度として,目安として与えられている(段落【0036】)にす ぎないとされるにとどまり,ブレードについては特段の説明はないか ら,臨界的意義があるとはいえない。
(4) 小括
以上のとおり,甲1発明に甲2文献に記載された事項を適用することによ り相違点2に係る本件発明3の構成とすることは,当業者が容易に想到し得\nたものと認められるから,この容易想到性が認められないことを理由に,本 件発明3について無効理由が成り立たないものとした本件審決の判断は誤り である。
・・・
ア 相違点3−2の容易想到性について判断するに,甲3発明は,タイヤな どのマーキングの視認性を改善させることを目的とするものであり,甲2 文献は,時間の経過とともに,タイヤのゴムに添加されたワックス等の油 分や老化防止剤などの添加剤がタイヤの外表面に移行して滲み出し,外観\nを損ねるという課題を解決することを目的とするものであるから,両者 は,タイヤの外観を向上させるという点で目的が一致している。そして, 時間の経過とともに,タイヤのゴムに添加されたワックス等の油分や老化 防止剤などの添加剤がタイヤの外表面に移行して滲み出し,外観を損ねる\nという甲2文献の課題は,甲3発明においても生じうるものであるし, 「充分な長い持続性を有するマーキングが望ましい。」(甲3段落【00 05】)との甲3発明の示唆にもかなうものである。 甲2文献に,コントラストを高めるという発想はないが,そうであって も,別の理由から,甲3発明との組み合わせが試みられることは,前記3 (3)ア(ア)と同様である。 よって,当業者であれば,甲3発明に甲2文献の記載事項を組み合わせ ることは,容易に想到することというべきである。 イ 組み合わせにあたって,マーキング部分を含むタイヤの目に見える表面\n全体に所定の表面粗さを設けること,表\面粗さの範囲を5μm〜30μm とすることは,前記3(3)ア(イ)と同様である。 また,本件発明1は,タフトを含む可視面全体について,5μm〜30 μmの平均粗さRzを有するようにした構成も含むことは,前記3(3)ア (オ)と同様である。 よって,甲3発明に甲2文献の記載事項を組み合わせた構成は,相違点\n3−2に係る本件発明1の構成に含まれることになる。\n
(3) 小括
以上のとおり,甲3発明に甲2文献に記載された事項を適用することによ り相違点3−2に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到\nし得たものと認められるから,この容易想到性が認められないことを理由 に,本件発明1について無効理由が成り立たないものとした本件審決の判断 は誤りである。 また,審決は,本件発明2,4ないし6について,本件発明1をさらに限 定した構成であることから直ちに容易想到ではないとしているが,前記のと\nおり本件発明1に関する審決の判断は誤りであるから,本件発明2,4ない し6についての前記判断も誤りであることは明らかである。 よって,取消事由4は理由がある。

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平成31(行ケ)10057  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年1月31日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決について、知財高裁4部は、動機付けなし、阻害要因ありとして、審決を維持しました。

 原告は,甲1−1発明のマッサージ具の代表的な使用方法は,回転体8,\n9の回転軸を鈍角にし,人体の凸部分(皮膚10)に使用するものであると ころ,「一対のローラやマッサージ球の回転軸のなす角度を鈍角とし,柄に 相当する部材の長軸方向の中心線と回転軸との間の角度を鋭角にしたマッサ ージ器具」及びそのマッサージ器具の作用効果は,本件出願当時,周知であ ったから,当業者は,甲1−1発明において,上記周知技術を適用し,甲1 −1発明の回転体8,9を揺動しないように固定した状態とする構成を採用\nすることの動機付けがあり,また,甲1−1発明のマッサージ具の回転体8, 9のなす角を鈍角に限定したとしても,甲1−1発明の全ての技術的意義が 失われるものではなく,技術的意義が縮小されることがあったとしても,そ の程度は極めて限定的なものであって,上記マッサージ器具の一定の作用効 果を得られる上,人体のほとんどの部分をマッサージすることが可能であり,\n甲1−1発明に上記周知技術を適用することに阻害要因があるとはいえない から,当業者が相違点2に係る構成に想到することは容易であり,これと異\nなる本件審決の判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 甲1には,甲1−1発明のマッサージ具について,「回転体軸が旋回軸 によって把手に旋回可能に接続されたフォーク形部の把手側に配置される\nこと,及び旋回軸がフォーク形部の中央に,したがって回転体に関して中 央に延びているという構造を採用した」(【0006】)との開示がある。\n一方で,甲7,8,9の1及び10の1によれば,本件出願当時,「一 対のローラの回転軸のなす角度を鈍角とし,柄に相当する部材の長軸方向 の中心線と回転軸との間の角度を鋭角にした」マッサージ器具の構成は周\n知であったことが認められる(以下,上記マッサージ器具の構成を「本件\n周知の構成」という。)。本件周知の構\成は,相違点2に係る本件特許発 明1の構成に相当するものと認められる。\n しかしながら,甲1には,甲1−1発明において,本件周知の構成を適\n用することについての記載も示唆もないから,甲1に接した当業者におい て,甲1−1発明において,本件周知の構成を適用する動機付けがあるも\nのと認めることはできない。
イ また,甲1の記載(【0007】,【0008】,【0018】,【0 019】)によれば,甲1−1発明は,「回転体軸が旋回軸によって把手 に旋回可能に接続されたフォーク形部の把手側に配置され,旋回軸がフォ\nーク形部の中央に回転体に関して中央に延びている」構成を採用すること\nにより,回転体を支持するフォーク形部が旋回軸周りで揺動可能となり,\n回転体をマッサージ中にマッサージされる皮膚部分の輪郭に適合して接触 させ,多数の凸面部と凹面部,例えば眼窩,突出した頬骨,鼻,顎及び唇 のような部分がある顔面を処置するのに特に適するという効果を奏するこ とに技術的意義があることが認められる。 しかるところ,甲1−1発明における「回転体を支持するフォーク形部 が旋回軸周りで揺動可能」となるように把手に接続する構\成に代えて,本 件周知の構成(「一対のローラの回転軸のなす角度を鈍角とし,柄に相当\nする部材の長軸方向の中心線と回転軸との間の角度を鋭角にした」構成)\nを採用した場合には,「回転体を支持するフォーク形部」が固定され,旋 回軸周りで揺動可能」とならなくなる結果,回転体をマッサージ中にマッ\nサージされる皮膚部分の輪郭に適合して接触させることができなくなり,又は接触させる範囲が制限され,多数の凸面部と凹面部,例えば眼窩,突 出した頬骨,鼻,顎及び唇のような部分がある顔面を処置するのに適さな くなるから,甲1−1発明に本件周知の構成を適用することには阻害要因\nがあるものと認められる。
ウ 以上によれば,当業者が甲1−1発明に本件周知の構成を適用する動機\n付けがあるものと認めることはできず,かえって,その適用には阻害要因 があることが認められるから,当業者が甲1−1発明及び周知技術に基づ いて,相違点2に係る本件特許発明1の構成を容易に想到することができ\nたものと認めることはできない。

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令和1(行ケ)10074  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月23日  知的財産高等裁判所

 訂正要件を満たすとともに、進歩性違反無しとした審決が維持されました。

 本件訂正は,請求項1における「前記LED基板に搭載されるLEDの個 数を,順方向電圧の異なるLED毎に定まるLED単位数の最小公倍数とし ている光照射装置。」を,「前記LED基板に搭載されるLEDの個数を,順 方向電圧の異なるLED毎に定まるLED単位数の最小公倍数とし,複数の 前記LED基板を前記ライン方向に沿って直列させてある光照射装置。」に訂 正するものである。 そして,原告は,本件訂正は,本件訂正前は1枚のLED基板についての 発明であったものを,複数のLED基板をライン状に直列させて所望の長手 方向の長さの製品を得るという発明に変質させるものであり,実質上特許請 求の範囲を拡張し,又は変更するものであるから,特許法126条6項に違 反する旨主張する。 そこで,この点について検討する。
ア 本件特許の特許請求の範囲(請求項1)の「LED基板」の意義
(ア) 本件訂正前の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,「LED 基板」とは,「ライン状の光を照射する光照射装置」に「備え」られた「基 板収容空間を有する筐体」に「収容」され,「複数の同一のLEDを搭載 した」ものであって,「搭載されるLEDの個数を,順方向電圧の異なる LED毎に定まるLED単位数の最小公倍数と」するものであることを 理解できる。 一方,本件訂正前の特許請求の範囲(請求項1)には,「LED基板」 の個数について定義した記載はなく,「LED基板」の個数を単数に限定 して解釈すべき根拠となる記載はない。
(イ) 次に,前記(1)イのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本 発明」は,複数の同一のLEDを搭載したLED基板と,前記LED基 板を収容する基板収容空間を有する筐体とを備えた光照射装置であっ て,電源電圧とLEDを直列に接続したときの順方向電圧の合計との差 が所定の許容範囲となるLEDの個数をLED単位数とし,前記LED 基板に搭載するLEDの個数を,順方向電圧の異なるLED毎に定まる LED単位数の公倍数とする構成を採用することにより,LED基板の\nサイズを同一にして,部品点数及び製造コストを削減できるという効果 を奏するものであり,さらに,上記LED基板に搭載するLEDの個数 を,上記LED単位数の最小公倍数とすることにより,LED基板の大 きさを同じにするだけでなく,その大きさを可及的に小さくして,汎用 性を向上させるという効果を奏する旨が記載されており,この点に本件 訂正前の特許請求の範囲(請求項1)の発明(以下「本件訂正前発明1」 という。)の技術的意義があると認められる。 また,当業者であれば,上記「汎用性を向上させる」とは,可及的に 小さな大きさのLED基板の直列枚数を変えることにより,LED基板 を様々な長さの光照射装置に用いることのできるようにすることなど を意味するものであることを理解できるものといえる。 そして,本件訂正前発明1の上記技術的意義に照らすと,上記LED 基板の個数を単数に限定する必然性はみいだし難い。 むしろ,本件明細書の【発明を実施するための最良の形態】に関する 記載は,複数の上記LED基板をライン方向に沿って直列させることが 可能であることを理解できるものであって(【0017】,【0041】,\n図1),このことも,上記理解を裏付けるものといえる。
(ウ) 以上の本件訂正前発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び 本件明細書の記載を総合すれば,本件訂正前発明1の「LED基板」は 個数が単数のものに限定されないと解される。 イ 訂正の適否について 本件訂正による訂正事項は,前記柱書のとおりであり,本件訂正前にお いては,LED基板の枚数や具体的な配置の特定がなかったものを,本件 訂正後においては,「複数の前記LED基板を前記ライン方向に沿って直列 させてある」ことを特定するものである。 そして,本件明細書には,2つのLED基板をライン方向に沿って直列 させること(【0017】,【0019】,図1)及びLED基板の直列させ る数を変更して,光照射装置の長さを変更させること(【0041】)が記 載されていることから,本件訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の 範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であると認められる。 また,本件訂正前発明1の「LED基板」は個数が単数のものに限定さ れないと解されることについては,前記アのとおりであり,本件訂正は, 訂正前に特定されていなかった基板の枚数や配置を特定するものに過ぎな いから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと認 められる。 したがって,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものではな く,訂正要件に適合するとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主 張の取消事由1は理由がない。
・・・・
前記(1)のとおり,原告製品「IDB−L600/20RS」及び「ID B−L600/20WS」(甲5)として,本件出願前に公然実施をされた 甲5発明は,LED基板に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異な るLED毎に定まるLED単位数の公倍数である,ライン状の光を照射す る照射装置であって,上記LED基板を2枚,上記ライン方向に沿って直 列させるものであるといえる。 しかしながら,上記の原告製品からは,いかなる技術思想に基づき,1 枚のLED基板に搭載されるLEDの個数を定めたのか,また,そのよう なLED基板を2枚長手方向に直列させることにしたのかは,明らかでな い(前記(1))。 また,前記2(1)及び3のとおり,本件出願当時,原告製品「IDB−1 1/14R」及び「IDB11/14W」(甲3)として甲3発明が,原告 製品「IDB−C11/14R」及び「IDB−C11/14B」(甲4) として甲4発明が,いずれも公然実施されており,これらの発明は,1枚 のLED基板に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異なるLED毎 に定まるLED単位数の最小公倍数であるものであるが,他方で,上記の 原告製品からは,いかなる技術思想に基づき,同製品のLED基板に搭載 されるLEDの個数を定めたのかは,明らかでない(前記2(1),3)。 さらに,前記2(2)ウのとおり,本件出願当時,LED基板の設計におけ る技術分野では,故障を防ぎ,品質を保持し,作業を効率化するために, LED基板間の配線及び半田付けを極力減らすようにすることが技術常識 であった。
そうすると,甲5発明に接した当業者は,仮に,当該プリント基板(L ED基板)に搭載されるLEDの個数が,赤色LEDを直列に接続する場 合の個数と白色LEDを直列に接続する場合の個数の公倍数であることを 認識し,かつ,原告製品として公然実施されていた,1枚のプリント基板 (LED基板)に搭載されるLEDの個数が,順方向電圧の異なるLED 毎に定まるLED単位数の最小公倍数である甲3発明及び甲4発明を認識 していたとしても,甲5発明において,2枚のLED基板を長手方向に直 列させるという構成を維持したまま,1枚のプリント基板に搭載するLE\nDの個数を174個から,直列接続されている赤色LEDの個数「6」と 直列接続されている白色LEDの個数「3」の最小公倍数である6個に変 更する(相違点3に係る本件発明1の構成とする)ことの動機付けはなく,\nかかる構成とすることを容易に想到することができたものと認めることは\nできず,むしろ,1枚のプリント基板に搭載するLEDの個数を減らして, 同一数のLEDを配設するのに必要なプリント基板数を増やすことには阻 害要因があったと認められる。
イ 以上のとおり,当業者において,甲5発明に基づき,又は,甲5発明に 甲3発明ないし甲4発明を適用して,相違点3に係る本件発明1の構成に\n容易に想到することができるものとは認められない。

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平成30(行ケ)10108  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月2日  知的財産高等裁判所

  技術分野の関連性、課題の共通性および作用・機能の共通性の全てありだが、阻害要因があるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。\n

(ア) 技術分野の関連性について 引用発明は,「医療系廃棄物,家庭廃棄物,産業廃棄物等に含まれる有機系廃棄物 を高温高圧の蒸気を用いて処理し,処理後には,処理した廃棄物と液体とを分離し た状態で取出せる…液体分離回収方法」に関するものである(甲 1【0001】)。 他方,甲2技術は,「重金属を含有する土壌や焼却灰」のような「廃棄物」の「水 熱処理」を行うものである(甲2【0004】,【0005】)。 そうすると,両者の技術分野はいずれも水熱反応を利用した廃棄物の処理に関す るものであり,互いに関連するものといえる。
(イ) 課題の共通性について
a 引用発明は,一台の装置だけで,廃棄物を高温高圧の蒸気を用いて安全に処 理できるとともに,その処理に連続して処理された廃棄物と液体とを簡単な操作で 分離して回収できるようにするとの課題を解決することを目的とするものであるが (甲1【0004】),引用例1には,処理の対象となる有機系廃棄物として,「合成 樹脂製の注射器,血液の付着したガーゼ,紙おむつ,手術した内臓等の医療関係機 関等から廃棄された医療系廃棄物,生ごみ,プラスチック等の合成樹脂製容器等の 一般家庭から廃棄された家庭系廃棄物,食品加工廃棄物,農水産廃棄物,各種工業 製品廃棄物,下水汚泥等の産業廃棄物等に含まれる有機系廃棄物」(甲1【0035】)が挙げられている。 特開2006−55761号公報(甲3)には「有機廃棄物には,生物に有害な重 金属類を含んでいることが多く重金属類を不溶化あるいは除去する必要がある。」 (【0003】)との記載,特開2011−31180号公報(甲4)には「本発明に よれば,土壌,肥料,水,焼却灰,家畜の糞尿,工場排水,汚泥,下水等に含まれる 重金属,ダイオキシン,硝酸塩,及び農薬を効果的に分解し,無害化することができ る。」(【0011】)との記載,特開2004−24969号公報(甲5)には「重金属は,これらの都市ゴミや産業廃棄物の中に混じっていることが多い。そのため, 都市ゴミや産業廃棄物を焼却すると,燃焼排ガスに同伴して飛散する煤塵や焼却灰 中に,都市ゴミや産業廃棄物中の揮発性金属化合物に由来する重金属,例えば,亜 鉛,鉛,ニッケル,カドミウム,銅などの重金属,…が含まれている。このように, 重金属の拡散による弊害が大きな社会問題として指摘されている…」(【0003】),「従来,廃棄物の焼却時に発生する煤塵や焼却灰の処分には,飛散を防止するため に加湿処理をおこなったり,セメントやアスファルトで固形化して埋め立てに用い るか又は海洋投棄するなどの方法が採られてきた。海洋投棄する場合には,セメン トなどによって固定化するとともに,重金属が溶出しないように処理することが法 律に定められているが,これらの方法によって煤塵や焼却灰からの有害金属の溶出 を完全に抑制するには種々の問題がある。すなわち,上記の方法では,煤塵や焼却 灰中に含まれる重金属は可溶態のままであるため,煤塵や焼却灰を固形化しても重 金属が経時的に溶出し,二次公害が発生する恐れが残っている。…」(【0004】) との記載,特開2006−167509号公報(甲6)には「この発明は食品加工工 程で廃棄される魚介類残渣,鶏糞・豚糞,牛糞などの家畜の糞尿,野菜屑などの農産 廃棄物,更には生ゴミなどの動植物性食品残渣といった有機系廃棄物の処理システ ムに関する」(【0001】),「…魚介類残渣にはカドミウム,水銀,砒素当の重金属類が少なからず含まれており,これが発酵後の堆肥に含まれていると,事実上農作 物に使用することができなくなってしまう。…」(【0005】)との記載,特開20 08−155179号公報(甲7)には「…工場汚泥,工事汚泥,又は下水汚泥,生 活排水汚泥等の汚泥,並びに家畜糞尿等の汚水を含む被処理物…の熱処理方法であ って,…被処理物中の有機物の炭化及び/又は熱分解を介して,該被処理物中の重 金属等の異物を分離貯留するとともに,…ことを特徴とした環境に優しい被処理物 の熱処理方法。」(【請求項1】)との記載がある。 これらの記載によれば,産業廃棄物に限らず,土壌,肥料,水,焼却灰,家畜の糞 尿,工場排水,工場や工事の汚泥,下水や生活排水汚泥,都市ゴミ,魚介類残渣等の 種々の廃棄物が有機系廃棄物とともに重金属を含んでいること,廃棄物に含まれる 重金属を放置すると,堆肥等として使用することもできなくなるばかりか,その拡 散による弊害が大きな社会問題として指摘されていること,廃棄物の焼却時に発生 する煤塵や焼却灰の処分には,飛散を防止するため,加湿処理,固形化,あるいは海 洋投棄が行われてきたが,海洋投棄する場合には,セメントなどによって固定化す るとともに,重金属が溶出しないように処理することが法律に定められていること は,本願出願時において周知の事項であったものと認められる。 そうすると,引用発明において処理の対象となる「有機系廃棄物」にも,重金属が 含まれ得ること,及びその溶出を防止することは,引用発明が属する技術分野にお いて,当業者が当然に考慮すべき課題であると認められ,処理後の廃棄物と液体と の分離に焦点を当てた引用例1にそのことが明示的に記載されていなくても,引用 発明の自明の課題として内在しているものというべきである。
b 他方,甲2技術は,金属を含有する廃棄物の水熱処理の際に発生する重金属 を含有する排水を,排水処理設備を設けることなく,処理することができる廃棄物 の処理方法および処理装置を提供することを目的とするものであり(【0005】), シリカとカルシウム化合物とを反応させ,トバモライトなどの結晶性カルシウムシ リケートを発生させることによって,「重金属は,内部に閉じこめられ(固定化され),外部への溶出が抑制されるようになる」(【0031】)というものであるから,水熱 処理後の重金属含有排水からの重金属の溶出を防止することを課題とするものであ る。
c そうすると,引用発明と甲2技術とは,廃棄物中の重金属の溶出を防止する という点で,解決すべき課題が共通するものといえる。
(ウ) 作用・機能の共通性について\n
引用発明は,閉鎖空間を有する密閉容器内に有機系の廃棄物を収容して,固形状 の有機系廃棄物を破砕しつつ撹拌し,高温高圧の蒸気を噴出して炭化させるもので あるところ,水熱処理の条件として,「温度180〜250℃,圧力15〜35at m程度(判決注:1.5〜3.5MPa)」(【0040】)との開示がある。 一方,甲2技術は,水熱処理によりトバモライトなどの結晶性カルシウムシリケ ートを形成させるものであるところ,水熱処理の条件として,「130〜300℃程 度での飽和蒸気(判決注:同温度での飽和蒸気圧を計算すると0.28〜9.41M Pa)」(【0034】)との開示がある。 そうすると,引用発明では有機物が炭化されるのに対し,甲2技術では,トバモ ライト結晶が形成されるのであって,水熱反応によって起こる現象が異なるから, 引用発明に甲2技術を組み合わせる動機となるような,作用・機能の共通性は認め\nられない。もっとも,水熱処理における温度・圧力の条件自体は重複している以上, 組合せを阻害する要因となるものでもないと解される。
(エ) 以上によれば,引用発明と甲2技術とは,廃棄物の水熱処理という技術分野 において関連性があり,廃棄物から重金属の溶出を防止するという課題が共通して いるということができる。
イ 引用発明への甲2技術の適用
しかしながら,仮に引用発明に甲2技術を適用しても,甲2には,前記有機系廃 棄物の固形物上にトバモライト構造が層として形成されることの記載はないから,\n相違点2’に係る「前記重金属類が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモ ライト)構造」が「前記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されると\nの構成には至らない。\nこの点につき,本件審決は,引用発明に甲2技術が適用されれば,「前記重金属類 が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造」が「前記有機系廃\n棄物の固形物上に」いくらかでも「層」として「形成」されて,重金属の溶出抑制を 図ることができるものになる旨判断し,被告は,生成した造粒物の表面全体をトバ\nモライト結晶層で覆うことになるのは当業者が十分に予\測し得ると主張する。しか しながら,特開2002−320952号公報(甲8)にトバモライト生成によっ て汚染土壌の表面を被覆することの開示があるとしても(【0028】,図1。図1\nは別紙甲8図面目録のとおり。),かかる記載のみをもって,トバモライト構造が「前\n記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されることが周知技術であった とは認められず,被告の主張を裏付ける証拠はないから,引用発明1に甲2技術を 適用して相違点2’に係る本願発明の構成に至るということはできない。\n

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平成31(行ケ)10005  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月19日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が取り消されました。出願人は銀行です。取り消し理由は、「引用発明に周知技術を適用することの動機付けがない」というものです。 なお、対象となったクレームは以下です。  携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータに応じて,前記携帯通信端末において実行されるアプリケーションの,前記携帯通信端末の動きに伴う動作を規定する設定ファイルを設定する設定部と,\n前記設定ファイルに基づいてアプリケーションパッケージを生成する生成部と, を有するアプリケーション生成支援システム。

 本件審決は,引用発明に引用文献2〜5及び参考文献1記載の技術(同技術に乙 3文献記載の技術を併せて,以下「被告主張周知技術」という。)を適用することに より,本件補正発明に想到し得ると判断していることから,引用発明に被告主張周 知技術を適用する動機付けの有無について検討する。
ア 引用発明
前記2(1)のとおり,引用文献1には,「近年,コンテンツマネジメントシステム (以下,CMS(Content Management System)という) によりウェブアプリケーションとして公開するコンテンツを構築し,管理すること\nが行われている(例えば,特許文献1参照)。ところで,近年,ネイティブアプリケ ーションをダウンロードしてインストールすることができるスマートフォンが普及 している。スマートフォンのユーザは,ネイティブアプリケーションをインストー ルする場合,アプリケーションを提供する所定のアプリケーションサーバにアクセ スし,所望のネイティブアプリケーションを検索する。しかしながら,CMSによ って構築されるウェブアプリケーションは,ウェブサイトとして構\築されるため, 検索サイトの検索結果として表示されることがあるものの,アプリケーションサー\nバから検索することができない。したがって,アプリケーションサーバにおいてネ イティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開発したウェブアプ リケーションを利用してもらうことができないという問題がある。これに対して, CMSによって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブ アプリケーションを開発し,当該ネイティブアプリケーションをアプリケーション サーバにアップロードすることも考えられる。しかしながら,ネイティブアプリケ ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要であった。本発明は,ネイ ティブアプリケーションを容易に生成することができるアプリケーション生成装置, アプリケーション生成システム及びアプリケーション生成方法を提供することを目 的とする。」(段落【0002】,【0004】〜【0007】)と記載されており,同記載からすると,引用発明は,CMSによって構築されるウェブアプリケーション\nは,アプリケーションサーバから検索することができないため,アプリケーション サーバにおいてネイティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開 発したウェブアプリケーションを利用してもらうことができないこと及びCMSに よって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブアプリケ ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要となることを課題とし,同 課題を解決するためのネイティブアプリケーションを生成する装置であることが認 められる。
引用発明は,上記課題を解決するために,前記(1)アで認定したとおり,既存のウ ェブアプリケーションのロケーションを示すアドレスや所望の背景画像を示すアド レス等の情報を入力するだけで,当該ウェブアプリケーションの表示態様を変更し\nて,同ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブアプリケーシ ョンを生成できるようにしたものと認められる。
イ 被告は,携帯通信端末の動きに伴う動作を行うネイティブアプリケーシ ョンを生成すること,特に,PhoneGapに係る技術が周知であると主張する。
(ア) 前記アのとおり,引用発明は,アプリケーションサーバにおいて検索で きるネイティブアプリケーションを簡単に生成することを課題として,同課題を, 既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入力するだけで,同ウェブア プリケーションが表示する情報を表\示できるネイティブアプリケーションを生成す ることができるようにすることによって解決したものであるから,ブログ等の携帯 通信端末の動きに伴う動作を行わないウェブアプリケーションの表示内容を表\示す るネイティブアプリケーションを生成しようとする場合,生成しようとするネイテ ィブアプリケーションを携帯通信端末の動きに伴う動作を行うようにする必要はな く,したがって,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネ イティブ機能を実行するためのパラメータ」とする必要はない。もっとも,引用文\n献1の段落【0024】には,ブログ等と並んで「ゲームサイト」が掲げられてお り,ゲームにおいては,加速度センサにより横画面と縦画面が切り替わらないよう に制御する必要がある場合が考えられる(引用文献5参照)が,ウェブアプリケー ションとして提供されるゲームは,1)常に携帯通信端末の表示画面を固定する必要\nがあるとはいえないこと,2)加速度センサにより,携帯通信端末の姿勢に対応した 画面回転表示を制御する機能\は携帯通信端末側に備わっており,端末側の操作によ って,表示画面を固定することができ,そのような操作は一般的に行われているこ\nと,3)引用文献1の段落【0024】の「ゲームサイト」は,携帯通信端末の表示\n画面を固定する必要のないブログ,ファンサイト,ショッピングサイトと並んで記 載されており,また,引用文献1には,加速度センサについて何らの記載もないこ とからすると,当業者は,上記の「ゲームサイト」の記載から,パラメータを「携 帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行するためのパラメータ」とすることの必\n要性を認識するとまではいえないというべきである。 また,引用発明によって生成されるネイティブアプリケーションは,HTMLや JavaScriptで記述されるウェブページを表示できるから,引用発明によ\nり,乙4に記載されたHTML5 APIのGeolocationを用いて携帯 通信端末の動きに伴う動作を行うウェブアプリケーションの表示内容を表\示するネ イティブアプリケーションを生成しようとする場合も,生成されるネイティブアプ リケーションは,設定情報に含まれているウェブアプリケーションのアドレスに基 づいて,同ウェブアプリケーションに対応するウェブページを取得し,取得したウ ェブページのHTMLやJavaScriptの記述に基づいて,同ウェブアプリ ケーションの内容を表示でき,したがって,ネイティブアプリケーションの生成に\n際して,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネイティブ 機能を実行させるためのパラメータ」とする必要はない。\nさらに,被告主張周知技術に係る各種文献にも,引用発明の上記の構成の技術に\nおいて,「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に\n応じて設定ファイルを設定することの必要性等については何ら記載されていない (甲2〜5,7,8,乙1〜3)。
(イ) 前記アのとおり,引用発明は,簡易にネイティブアプリケーションを生 成することを課題として,既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入 力するだけで,当該ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブ アプリケーションを生成できるようにしたのであり,具体的には,前記(1)アのとお り,入力しようとするウェブアプリケーションのロケーションを示すアドレス及び 表示態様に基づいて,テンプレートアプリケーション111に含まれる設定情報の\n内容を書き換えるだけで目的とするウェブアプリケーションの表示する情報を表\示 できるネイティブアプリケーションを生成でき,テンプレートアプリケーション1 11に含まれるプログラムファイル113については,新たにソースコードを書く\n必要はないところ,証拠(甲3,5,7,乙1〜3)によると,PhoneGap によってネイティブアプリケーションを生成するためには,HTMLやJavaS cript等を用いてソースコード(プログラム)を書くなどする必要があるもの\nと認められるから,引用発明に,上記のように,新たにソースコードを書くなどの\n行為が要求されるPhoneGapに係る技術を適用することには阻害事由がある というべきである。
被告は,1)PhoneGapでは,PhoneGapのプラグインの仕組みを使 って,GPSなど端末のネイティブ部分にアクセス可能であり,端末のGPS機能\ にアクセスすることで,GPSで取得した端末の現在位置が中心となるように地図 を表示することが可能\となるから,引用発明において地図表示アプリケーションを\n生成する際に,PhoneGapのフレームワークを採用することで,ネイティブ 機能であるGPS機能\が利用可能となり,携帯通信端末の動きに伴う動作を設定可\n能となり,また,2)AndroidManifest.xmlに「android: screenOrientation =”landscape”」の1行を追加し たり(Androidの場合),「Landscape Right」又は「Lan dscape Left」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,スマー トフォンの画面を横画面に固定可能となり,縦画面に固定する設定を施す場合,A\nndroidManifest.xmlに「android:screenOri entation =”portrait”」の1行を追加したり(Android の場合),「portrait」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,ス マートフォンの画面を縦画面に固定可能となるから,引用発明において,アプリケ\nーションを生成する際に,PhoneGapのフレームワークを利用することで, 「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に応じて,\n携帯通信端末において実行される「アプリケーションの,携帯通信端末の動きに伴 う動作」を規定する設定ファイルを備えることとなると主張する。 しかし,上記のとおり,引用発明にPhoneGapの技術を適用することの動 機付けはないから,被告の上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。

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平成30(行ケ)10090  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月14日  知的財産高等裁判所

 タイヤの発明について、引用文献1および周知技術から、進歩性ナシとした審決が維持されました。

 (6)周知技術の認定 前記(1)〜(5)によると,本願出願日当時,タイヤの技術分野において,クラウン部 の外周にタイヤ周方向に巻き付ける被覆コード部材の断面形状を略四角形状とする こと,また,上記断面形状は略四角形状,円形状又は台形状等から選択可能である\nことが周知技術であったことを認定することができる。
(7) 甲1発明に周知技術を適用することの可否
ア 前記(6)のとおり,本願出願日当時,クラウン部の外周にタイヤ周方向に 巻き付ける被覆コード部材の断面形状は,略四角形状,円形状又は台形状等から選 択可能であることは周知技術であった。\nまた,前記(2),(3)のとおり,周知文献3の【0007】には,「本発明の請求項1 に記載のタイヤでは,タイヤ周方向に螺旋状に巻かれる補強コード部材のタイヤ軸 方向に隣接する部分同士を接合していることから,例えば,補強コード部材のタイ ヤ軸方向に隣接する部分同士を接合しないものと比べて,タイヤ骨格部材に接合さ れる補強コード部材で構成される層(以下,適宜「補強層」と記載する。)の剛性が\n向上する。これにより,上記補強層が接合されるタイヤ骨格部材の剛性を向上させることができる。」と記載され,また,周知文献3の【0049】には,「補強コー ド部材22のタイヤ軸方向に隣接する部分同士の接合は,一部分でも全部でも構わ\nないが,接合面積が広いほど補強コード部材22で構成される補強層28の剛性が\n向上する。」と記載され,周知文献2の【0063】にも,「補強コード部材22の タイヤ軸方向に隣接する部分同士の接合は,一部分でも全部でも構わないが,接合\n面積が広いほど補強コード部材22(補強層28)によるタイヤケース17の補強 効果が向上する。」と記載されている。そうすると,本願出願日当時,タイヤ軸方向 に隣接する補強コード部材同士を接合しないものに比べて,これを接合したものは 補強コード部材で構成される補強層の剛性を向上させることができ,その接合面積\nが広いほど補強層の剛性が向上し,補強層が接合されるタイヤ骨格部材の剛性を向 上させることができることが知られていた。そして,補強コード部材(被覆コード 部材)の断面形状が円形状のものよりも,略四角形状のものの方が,タイヤ軸方向に隣接する補強コード部材同士の接合面積を広くし得ることは,明らかである。
以上によると,タイヤ軸方向に隣接する被覆コード部材同士を溶融接合している 甲1発明において,前記(6)の周知技術を適用して,断面形状が円形状の被覆コード 部材に代えて,これと適宜選択可能な関係にある断面形状が略四角形状の被覆コー\nド部材を採用することは,当業者が容易に想到し得るものと認められる。 イ 前記(2),(3)のとおり,周知文献3には,断面形状が略四角形状であり, タイヤ軸方向に隣接する部分同士が接合(溶着)された補強コード部材22につい て,クラウン部16に一部が埋め込まれても構わないことが記載され(【0046】,\n【0049】,【0050】,【0053】),また,周知文献2には,断面形状が略四角形状であり,タイヤ軸方向に隣接する部分同士が接合(溶着)された補強コード 部材22について,長手方向の両端部22Aがクラウン部16に埋め込まれて長手 方向の中間部22Bよりもクラウン部16の内周面16B側に配置されるのであれ ば,長手方向の中間部22Bがクラウン部16に埋め込まれても構わないことが記\n載されている(【0057】,【0058】,【0061】,【0063】)。 そうすると,タイヤ軸方向に隣接する被覆コード部材同士を溶融接合している甲 1発明において,前記(6)の周知技術を適用して,断面形状が円形状の被覆コード部 材に代えて,これと適宜選択可能な関係にある断面形状が略四角形状の被覆コード\n部材を採用することに,製造上の阻害要因があるものとは認められない。

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平成30(行ケ)10078  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月20日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、「甲1発明の目的を達成できなくなるので、阻害要因あり」として、進歩性違反無しとした審決を維持しました。

 前記2(1)イ〜エ,カの記載によれば,甲1発明は,「発泡作用によりマッ サージ効果を得る化粧料について,最高度に気泡が発生することを色によっ て判断できるようにすること」を課題とし,当該課題を,「炭酸水素ナトリ ウムを含む第1剤と,前記炭酸水素ナトリウムと水の存在下で混合したとき に気泡を発生するクエン酸,酒石酸,乳酸及びアスコルビン酸のうちの1又 は2以上の成分を含む第2剤と,前記第1剤と第2剤に夫々分散された異色 のものからなり,混合により色調を変え,使用可能な状態になったことを知\nらせるための2色の着色剤A,Bと,前記第1剤又は第2剤の一方又は双方 に含まれた,化粧料としての有効成分とからなる組成」を有する「常態では 粉状」の化粧料とし,これにより,「2色の着色剤A,Bを第1剤,第2剤 に夫々混合し,使用前,個有(原文のまま)の色分けを行なうとともに使用 時第1,第2両剤を混合し,一定の色調になったときに良く混合したことが 判断できかつ,最適の反応が行なわれる」ようにすることで,解決しようと したものである。すなわち,甲1発明は,最高度に気泡が発生することを色 によって判断できるようにするために,炭酸塩を含む第1剤と酸を含む第2 剤に分けてあえて異色の構成とし,これらを混合することによって色調が変\nわるようにしたものであると認められる。 そうすると,たとえ,アルギン酸ナトリウムが水に溶けにくい性質を持つ ことや,一般的な用時調製型の化粧料において,ジェルと固体(顆粒や粉末 等)の2剤型のものが周知であったとしても,甲1発明において,炭酸塩と 酸が2剤に分離されてそれぞれが異色のものとされている構成を,甲2記載事項の「粉末パーツ」のようにあえていずれか一方(1剤)に統合して複合\n粉末剤等とすると,そもそも甲1発明の目的(2剤の色分けと混合による色 調の変化を利用して最高の発泡状態か否かを判断する)を達成できなくなる ことは明らかであるから,そのような変更を当業者が容易に想到し得るとは いい難く,その意味で,甲1発明に甲2に記載された技術(甲2記載事項) 等を組み合わせようとすることについては動機付けがなく,むしろ阻害要因 があるといえる。
(3) これに対し,原告は,甲1発明は,気泡状の二酸化炭素(炭酸ガス)を経 皮吸収させることを機能の一つとする化粧剤であるから,拡散問題(炭酸ガ\nスが大気中に拡散すること)は甲1発明に内在する自明の課題であるとした上で,甲1発明に対しアルギン酸ナトリウム慣用技術(甲2記載事項)を適 用することについては,自明の課題である拡散問題を軽減するために,閉じ 込め効果(アルギン酸ナトリウムを事前に水に添加して万遍なく行き渡らせ ることにより,網目状の高分子化合物が形成され,気泡状の二酸化炭素〔炭 酸ガス〕を水溶液中に閉じ込めることが可能となること)を利用するという\n積極的な動機付けがある,などと主張する。
しかしながら,甲1発明は,前記のとおり,発泡作用(炭酸ガスの発泡, 破裂作用)によりマッサージ効果を得る化粧料について,最高度に気泡が発 生することを色によって判断できるようにすることを目的とするものであっ て,そこに炭酸ガスを体内に取り込もうとする技術的思想はない(二酸化炭 素の泡がはじけることによる物理的な刺激を効果的に得ようとしているにす ぎない)から,「気泡状の二酸化炭素(炭酸ガス)を経皮吸収させることを 機能の一つとする化粧料」であるとはいえず,原告の主張はそもそもその前\n提において誤りがある。そうである以上,原告主張の拡散問題が甲1発明に 内在する自明の課題であるとはいえないし,甲1発明におけるアルギン酸ナ トリウムは飽くまで気泡発生を助成するための起泡助長剤として添加されて いるにすぎないから(甲1【0013 】),アルギン酸ナトリウムが含まれ ているからといって,それだけで直ちに事前に水に添加して利用する技術(アルギン酸ナトリウム慣用技術)を適用することについての積極的な動機付け があるともいえない。この点,原告は,アルギン酸ナトリウムが増粘剤とし ても機能するものであることを根拠に甲1発明におけるアルギン酸ナトリウ\nムが気泡の発生とその安定化の双方に寄与するものであることを当業者は当 然に認識するとも主張するが,甲1発明の目的を離れた主張であって,論理 に飛躍があり,採用できないというべきである。
また,原告は,阻害要因に関して,甲1は,技術分野の同一性を理由とし て本件発明の課題を解決するための主引例として選択されたものであり,容 易想到性の判断に際して,甲1に記載された目的に反する方向での変更か否 かは関係がない,などとも主張するが,特定の公知文献(公知技術)からの 容易想到性の問題である以上,当該公知文献に記載された目的を度外視した 判断はできないというべきであり,上記主張は,やはり採用できないという べきである。

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◆平成30(行ケ)10077

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平成30(行ケ)10048  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月6日  知的財産高等裁判所

 動機付けがなく、むしろ阻害要因があるとして、無効理由なしとした審決が維持されました。
(4) 相違点3の容易想到性について
ア 前記認定に係る各文献の記載によれば,まず,甲9の軸受保持部材28は, 鍔部及び係止爪と類似する構成であるフランジ34と突起32とを有するものの,\n当該軸受保持部材28は,回転するカッター軸38を回転自在に支持するものでは なく,オイルシール40と,ころがり軸受であるオイルレスベアリング42とを支 持するものであり,軸受け部材に相当するものではない。 他方,甲5〜8,10〜16及び18は,いずれも,軸受け部材に関する技術が 記載されたものと認められるところ,弾性変形可能な係止爪が外周に突出し,基端\n側に鍔部を有し,また,係止爪は先端側に向かうほど当該軸受け部材における軸の 回転中心との距離が短くなる斜面を有している軸受け部材を,固定された板状体に 対して装着し,当該板状体に設けられた穴に軸を回転自在に支承するものである点 で共通するものの,固定された板状体以外の部材に装着することについての記載や 示唆はない。 また,甲17においては,軸受Aが装着されるボス(6)自体は板状体ではないもの の,ボス(6)は板状のベース(5)に固定されたものであり,軸受Aのフランジ板(1)と爪 片(4)の係合突起(4a)との間にのみボス(6)が配置されるものである。そうすると, 甲17と甲5〜8,10〜16及び18とは,直接に装着する対象そのものが板状 体であるか否かという点で違いはあるものの,いずれも装着される部材は板状体又 は板状のものに固定された部材であり,これをフランジと爪片との間で狭持するよ うにして固定する軸受け部材である点で共通するといえる。 以上を踏まえると,甲5〜8及び10〜18により,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する,滑り軸受けである軸受け部材において,弾性変形可能な\n係止爪が外周に突出しており,基端側に鍔部を有しており,同係止爪は先端側に向 かうほど軸受け部材における軸の回転中心との距離が短くなる斜面を有している軸 受け部材。」を周知技術として認定することができる。これは,本件審決認定に係 る周知軸受け部材に相当する。なお,甲5〜18の全ての文献から,軸受け部材に 関する周知技術というべき共通の技術事項を認めることはできない。
イ また,その余の文献の記載を見ても,まず,甲2〜4は,いずれもY字形を なし,二股に分かれた部分の先端付近に一対の回転体を設けて構成される美容器に\nおいて,回転体が非貫通状態で軸に支持されることを開示するものの,当該回転体 の支持構造として,本件発明1のような「係止爪」及び「段差部」を用いるものではない。\n次に,甲19の1のマッサージローラーは,その内装面に周囲を巡る凹部を備え, 「段差部」に類似する構成を有するものといい得るものの,マッサージローラー自\n体が弾性材料より構成されることにより,鞘の外装面の周囲を巡る隆起との間でス\nナップ結合をすることができるようにしたものである点で,本件発明1とは異なる。 他方,甲20の1のプラグ200は,フランジ201及びラッチアーム204に 突起205を有する点で,本件発明1の軸受け部材に類似する構成を有するものと\nいい得るものの,プラグ200は,2つのモジュールを固定するものであって,支 持軸に設けられる軸受け部材として機能するものではない。加えて,プラグ200\nは,モジュール140の貫通した孔からロックピン240を挿入することにより, プラグ200のラッチアーム204がモジュールの開口のラッチ凹部から離脱する のを防止するものであるから,非貫通状態の回転体を支持するために用いることを 前提としないことは明らかである。 そうすると,軸受け部材を用いて軸に対して非貫通状態の回転体を支持する際に, 回転体の内面に段差部を設けるとともに,軸受け部材には当該段差部に係止する係 合爪を用いる構成が開示されていることを認めるに足りる証拠はない。\n
ウ そもそも引用発明1は,ベアリング12及びL型ベアリング13という2つ の軸受け部材を用いることによって,ローラー4を回転自在に支承するものであるところ,これを1つの軸受け部材に置き換えることが可能であることを記載ないし\n示唆する証拠は見当たらない。 また,仮に引用発明1のベアリング12及びL型ベアリング13を1つの軸受け 部材に置き換えることが可能であったとしても,引用発明1のローラー4は,顔面\nに接触させて回転させるものであり,その長手方向と直交する方向に荷重がかかる ことは明らかであるところ,1つの軸受け部材に置き換えてしまうと,ローラーを その根元の部分でのみ支承することとなってしまい,ローラーを安定して回転させ ることが困難となることは容易に推察される。 そうすると,引用発明1のベアリング12及びL型ベアリング13を1つの軸受 け部材に置き換える動機付けはなく,むしろ阻害要因が存するといえる。
エ 以上より,引用発明1に甲2〜20の1記載の事項を適用することによって, 相違点3に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者にとって容易に想到し\n得ることとはいえない。
オ 原告の主張について
(ア) 原告は,甲5〜18記載の事項を引用発明1に適用することが容易である ことを理由として無効理由の主張を行っているのではなく,これらの文献から共通して抽出される構成が周知の軸受け部材であるとし,これを引用発明1に適用する\nことが容易であったと主張しているにもかかわらず,本件審決は,各文献記載の事 項を個別に判断しており,その判断手法に誤りがあるなどと主張する。 しかし,甲5〜18の全ての文献から軸受け部材に関する周知技術というべき共 通の技術事項を見出すことはできないことは,前記のとおりである。本件審決は, その記載を通じて見れば,そのような理解を前提とした上で,個々の証拠における 軸受け部材を引用発明1に適用できるかを検討したものと理解されるのであり,そ の判断手法に違法があるものとはいえない。
(イ) 原告は,本件審決による周知軸受け部材の認定には誤りがある旨主張する けれども,この点に関する本件審決の判断に誤りがないことは前記のとおりである。
(ウ) 原告は,本件審決につき,実施可能要件適合性の判断においては甲5〜1\n8の記載を参酌し,板状体ではない回転体に使用する軸受け部材に係る係止片を弾 性変形させる場合に所定のクリアランスを設けることは技術常識であると認定する 一方で,進歩性の判断においては,甲5〜18の周知技術の認定として,これが技 術常識でないことを前提として判断しており,その認定・判断に矛盾があるなどと 主張する。 この点に関する原告の主張の趣旨は,やや判然としないが,そもそも,本件審決 は,実施可能要件適合性の判断の際,「係止爪を弾性変形させるために所定のクリ\nアランスを設けること」を技術常識として認定するにあたり,甲5〜18を参酌し たものではない。また,上記技術常識が認められるか否かと,甲5〜18の記載か ら原告主張に係る周知軸受け部材を認定し得るか否かとは,直接的な関係はない。 すなわち,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する,滑り軸受けである 軸受け部材において,弾性変形可能な係止爪が外周に突出しており,基端側に鍔部\nを有しており,同係止爪は先端側に向かうほど軸受け部材における軸の回転中心と の距離が短くなる斜面を有している軸受け部材」(本件審決認定に係る周知軸受け 部材)において,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する」ことは,係 止爪が弾性変形するためのクリアランスを設けることを前提とするか否かとは直接 的な関係がないことから,仮に係止爪が弾性変形するためのクリアランスを有する ことが技術常識であることを前提としても,その認定が異なることはない。
(エ) その他原告がるる指摘する点を考慮しても,この点に関する原告の主張は 採用できない。
(5)小括
以上のとおり,少なくとも,引用発明1に甲2〜20の1記載の事項を適用する ことによって,相違点3に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者にとっ\nて容易に想到し得たものとはいえない。そうである以上,その余の点を論ずるまで もなく,本件発明1を容易に発明することができたとはいえない。

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◆平成30(行ケ)10049

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平成29(行ケ)10229  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年10月3日  知的財産高等裁判所

 異議で取消決定されました。知財高裁は、引用文献の認定には誤りがあるが結論に影響しないとして、審決を維持しました。阻害要因の主張も認められませんでした。
 上記認定事実及び甲1の【0034】ないし【0036】の記載事項に よれば,甲1記載のゴルフシャフト設計装置における「スイング応答曲面」 は,ゴルファーが,シャフトの3つの設計因子である曲げ剛性,ねじれ剛 性及び曲げ剛性分布が異なる複数のゴルフクラブを使用して試打した時の 計測データから算出された移動軌跡(3次元座標データ),軸回転データ と,シャフトの設計因子(ねじり剛性,曲げ剛性及び曲げ剛性分布)の関 係式であって,「スイング応答曲面」を算出するには,シャフトの設計因 子の異なる複数のゴルフクラブを使用することが必要であるものと認めら れる。なお,甲1の【0026】の「ゴルファーは,スイングを行う際に 使用したクラブの曲げ剛性やねじれ剛性などを考慮に入れ,そのクラブ特 性にあわせたスイングを行うため,所定の特性を有する1本のゴルフクラ ブを使用してスイングの計測データを取得して,スイングの解析を行って も妥当な解析結果を得ることができない場合がある。」との記載は,ゴル フクラブが1本の場合にはシャフトの設計因子が一定のものであるためス イングの計測データから適切な「スイング応答曲面」を算出することがで きない結果,妥当な解析結果を得ることができないことを示唆するものと 認められる。 しかるところ,本件決定が認定した引用発明1においては,試打に使用 されるゴルフクラブがシャフトの設計因子の異なる複数のゴルフクラブで あることが特定されていないため,ゴルフクラブが1本のみの場合も含ま れることになるから,甲1に記載された発明の認定としては不適切であり, この点において,本件決定には誤りがあるといえる。 そして,前記アの記載事項を総合すると,甲1には,原告主張の原告引 用発明1(前記第3の1(1)ア(イ))が記載されているものと認めるのが相 当である。 しかしながら,本件発明1と原告引用発明1との一致点及び相違点は, 本件決定が認定した本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点と同様で あり(争いがない。),本件決定は相違点の容易想到性について判断を示 しているから,本件決定における上記認定の誤りは,本件決定の結論に直 ちに影響を及ぼすものではない。
・・・
これに対し原告は,原告引用発明1においてセンサーユニットをグリッ エンドに対して着脱可能に取り付ける構\成とした場合,1)試打に用いら れるゴルフクラブの総重量や重心が変わるため,原告引用発明1が意図す る本来のスイング((試打用ではない)通常のゴルフクラブを使用してス イングした際のスイング)の計測データが得られなくなる(阻害要因1)), 2)ゴルフクラブ全体の外観が変化し,試打者の視界も悪化するため,原告 引用発明1が意図する本来のスイングの計測データが得られなくなる(阻 害要因2)),3)ゴルフクラブと6軸センサとの対応関係が乱される結果, 原告引用発明1の課題を解決できなくなるおそれがある(阻害要因3))と いった重大な弊害が生じるため,原告引用発明1に相違点2に係る本件発 明1の構成を適用することに阻害要因がある旨主張する。\nしかしながら,甲1には,「ゴルフシャフトの最適設計を行う際にはゴ ルフクラブを使用するゴルファーのスイング特性を考慮に入れて,ゴルフ ァーの技量や癖を確実に把握して,技量や癖に合致したゴルフシャフトの 設計を行う必要がある。」(【0008】),「9本のゴルフクラブ1は, 6軸センサ11,送信部12等をシャフト内に挿入することによりゴルフ クラブ1の総重量が重くならないように,6軸センサ11,送信部12及 びこれらを動作させるために必要な機器全体の重量を20gに抑えている。 これにより,市販の軽量グリップを用いることで総重量の増加を抑えるこ とができるためクラブの重量増加によるスイングへの悪影響を与えないよ うにしている。」(【0029】)との記載があることに照らすと,甲1 に接した当業者であれば,原告引用発明1の6軸センサ及び送信部(セン サーユニット)をグリップエンドに対して着脱可能に取り付ける構\成とす る場合,ゴルフクラブの総重量や重心の変化によりスイングへの悪影響を 与えないようにしたり,試打者の視界を妨げないようにすることは,ゴル ファーの技量や癖を確実に把握するために当然に配慮し,通常期待される 創作活動を通じて実現できるものと認められるから,原告主張の阻害要因 1)及び2)は採用することができない。
次に,原告引用発明1の6軸センサ及び送信部をグリップエンドに対し て着脱可能に取り付ける構\成とする場合,ゴルフクラブと6軸センサとの 対応関係が乱される結果がないように設計することも,上記と同様に,当 業者が通常期待される創作活動を通じて実現できる事柄であり,また,試 打者が,複数のゴルフクラブを使用して試打を行う場合であっても,実際 に試打を行う際に使用するゴルフクラブは特定の1本であることからする と,システムの使用時に6軸センサ及び送信部の取り付けの誤りによって 上記対応関係が乱されるおそれがあるものとは考え難いし,仮にそのよう なおそれがあるとしても,それを回避する措置を適宜とることも可能であ\nるものと認められるから,原告主張の阻害要因3)も採用することができな い。
したがって,原告引用発明1に相違点2に係る本件発明1の構成を適用\nすることに阻害要因があるとの原告の上記主張は,理由がない。

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平成29(行ケ)10096  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年5月15日  知的財産高等裁判所

 数値限定の範囲を変えることについて動機付けありとして、進歩性違反無しとした審決が、取り消されました。
 本件訂正発明1と甲1発明との相違点である,甲1発明におけるSiO2粒 子(非磁性材)の含有量を「3重量%」(3.2mol%)から「6mol%以上」とする ことについて,当業者が容易に想到できるといえるか否かを検討する。
イ 動機付けの有無について
(ア) 上記3(1)において認定したとおり,本件特許の優先日当時,垂直磁 気記録媒体において,非磁性材であるSiO2を11mol%あるいは15〜40vol% 含有する磁性膜は,粒子の孤立化が促進され,磁気特性やノイズ特性に 優れていることが知られており,非磁性材を6mol%以上含有するスパッタ リングターゲットは技術常識であった。 そして,本件特許の優先日前に公開されていた甲4(特開2004− 339586号公報)において,従来技術として甲2が引用され,甲2 に開示されている従来のターゲットは「十分にシリカ相がCo基焼結合金 相中に十分に分散されないために,低透磁率にならず,そのために異常\n放電したり,スパッタ初期に安定した放電が得られない,という問題点 があった」(段落【0004】)と記載されていることからも,優れた スパッタリングターゲットを得るために,材料やその含有割合,混合条 件,焼結条件等に関し,日々検討が加えられている状況にあったと認め られる。 そうすると,甲1発明に係るスパッタリングターゲットにおいても, 酸化物の含有量を増加させる動機付けがあったというべきである(磁気 記録方式の違いが判断に影響を及ぼさないことについては,後記オ(ア) に説示するとおりである。)。
(イ) 次に,具体的な含有量の点についてみると,被告も,非磁性材の含有 量を「6mol%以上」と特定することで何らかの作用効果を狙ったものでは ないと主張している上,証拠に照らしても,6mol%という境界値に技術的 意義があることは何らうかがわれない。 さらに,本件明細書の段落【0016】及び【0017】に記載され ているスパッタリングターゲットの作製方法は,本件特許の優先日当時, 一般的に使用・利用可能であった通常の強磁性材及び非磁性材を用い,\n様々な原料粉の形状,粉砕・混合方法,混合時間,焼結方法,焼結温度 を選択することにより,本件訂正発明に係る形状及び寸法を備えるよう にできるというものであるから,甲1発明に基づいて非磁性材である酸 化物の含有量が6mol%以上であるターゲットを製造することに技術的困難 性が伴うものであったともいえない。 そうすると,磁気特性やノイズ特性に優れたスパッタリングターゲッ トの作製を目的として,甲1発明に基づいて,その酸化物の含有量を6mol% 以上に増加させる動機付けがあったと認めるのが相当である。
ウ 阻害要因の有無について
(ア) 審決は,ターゲットの組成を変化させるとターゲット中のセラミック 相の分散状態も変化することが推測され,例えば,当該セラミック相を 増加させようとすれば,均一に分散させることが相対的に困難になり, ターゲット中のセラミック相粒子の大きさは大きくなる等,分散の均一 性は低下する方向に変化すると考えるのが自然であって,実施例1の「3 重量%」(3.2mol%)から本件訂正発明1の「6mol%以上」という2倍近い値 まで増加させた場合に,ターゲットの断面組織写真が甲1の図1と同様 のものになるとはいえず,本件訂正発明1における非磁性材の粒子の分 散の形態を変わらず満たすものとなるか不明であると判断した。 被告も,甲1発明において酸化物含有量を「3重量%」(3.2mol%)から 「6mol%以上」に増加させた場合に,組織が維持されると当業者は認識し ない,すなわち,組織が維持されるかどうか不明であることは,甲1発 明において酸化物含有量を増やすことの阻害要因になると主張する。
(イ) この点について,上記2(2)オにおいて認定したとおり,甲1には, 実施例4(酸化物の含有量は1.46mol%)について,「このターゲットの 組織は,図1に示した酸化物(SiO2)が分散した微細混合相とほぼ同様 であった。」(段落【0022】),実施例5(同1.85mol%)及び同6 (同3.19mol%)についても「このターゲットの組織は,図1に示した組 織とほぼ同様であった。」(段落【0024】及び【0026】)との 各記載があるように,非磁性材である酸化物の含有量が1.46mol%(実施 例4)から3.19mol%(実施例6)まで2倍以上変化しても,ターゲット の断面組織写真が甲1の図1と同様のものになることが示されている。 さらに,上記3(2)において認定したとおり,メカニカルアロイングに おける混合条件の調整,例えば,十分な混合時間の確保等によってナノ\nスケールの微細な分散状態が得られることも,本件特許の優先日当時の 技術常識であった。 そうすると,甲1に接した当業者は,甲1発明において酸化物の含有 量を増加させた場合,凝集等によって図1に示されている以上に粒子の 肥大化等が生じる傾向が強まるとしても,金属材料(強磁性材)及び酸 化物(非磁性材)の粒径,性状,含有量などに応じてメカニカルアロイ ングにおける混合条件等を調整することによって,甲1発明と同程度の 微細な分散状態を得られることが理解できるというべきである。 また,上記イのとおり,甲1発明に基づいて非磁性材である酸化物の 含有量が6mol%以上であるターゲットを製造することが,何かしらの技術 的困難性を伴うものであると認めることはできない。 したがって,甲1発明において酸化物の含有量を「3重量%」(3.2 mol%) から「6mol%以上」に増加した場合に,分散状態が変化する可能性がある\nとか,上記本件組織が維持されるかどうかが不明であることが,直ちに 非磁性材の含有量を増やすことの阻害要因になるとはいえない。

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平成28(行ケ)10119  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年8月3日  知的財産高等裁判所

 審決(無効)は進歩性ありと判断しましたが、知財高裁は、当業者なら公報記載事項から相違点に関する技術が読み取れるとして、これを取り消しました。
 甲2には,上記のようにブラシを減らすことができる原理を説明する明示的な記 載はないが,甲2の【0033】における「従来の電動モータ1では,第1のブラ シ11a及び第3のブラシ11cを介して電流が流れるが,この実施の形態では第 1のブラシ89aを介して電流が流れ,ブラシ89aを通じて流れる電流量が従来 のものと比較して2倍となる。」との記載からすると,甲2においてブラシを減らす ことができるのは,均圧線を設けたことの結果として,1個のブラシから供給され た電流が,そのブラシに当接する整流子片に供給されるとともに,均圧線を通じて 同電位となるべき整流子片にも供給されることによって,対となる他方のブラシが なくとも従来モータと同様の電流供給が実現できるためであることが理解できる。 この点について,被告は,甲2には,均圧線の使用とブラシ数の削減とを結び付け る記載がないことを理由に,接続線を使用してブラシの数を半減する技術が開示さ れていない旨主張するが,そのような明示的な記載がなくとも,甲2の記載から上 記のとおりの理解は可能というべきである。また,被告は,甲2の4ブラシモータの電気回路図(図16)と2ブラシモータの電気回路図(図2)を対比すると,そ\nの配線が完全に一致すると主張するが,4ブラシモータの電気回路図(図16)に おいても,2ブラシモータの電気回路図(図2)においても,整流子片1,2,1 2及び13が+電位となり,整流子片6〜8及び17〜19が−電位になっており, その結果,ブラシ以外の電気回路(巻線及び均圧線の接続関係)に変化を加えなく とも両者がモータとして同じ電気的特性を持つことが理解できるところ,2ブラシ モータの電気回路図においては,前記の整流子片が同電位となるために均圧線の存 在が必須であることが理解できるから,甲2の4ブラシモータの電気回路図と2ブ ラシモータの電気回路図との配線が一致することは,均圧線の存在によってブラシ 数の削減が可能になることを示すものであって,このことが,甲2には接続線を使用してブラシの数を半減する技術が開示されていないことの根拠となり得るもので\nはない。
イ そうすると,甲2の記載に接した当業者は,甲2には,4極重巻モータ において,同電位となるべき整流子間を均圧線で接続することにより,同電位に接 続されている2個のブラシを1個に削減し,もって,ブラシ数の多さから生じるロ ストルク,ブラシ音及びトルクリップルが大きくなるという問題を解決する技術が 開示されていることを理解するものといえる。

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平成28(行ケ)10106  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年4月25日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。動機付けあり、阻害要因もなしとの判断です。
   以上のとおり,引用発明1も,引用発明2も,蒸発(揮発)したニコチンを,肺 へ送給するに当たり,好ましい送給量を実現できるよう調整するという同一の目的 を有するものであり,また,タバコ代替品として用いられる装置に関するものであ って同一の用途を有するものである。そして,引用発明1と引用発明2とは,ニコ チン源の相違という点をもって作用が異なると評価することもできない。 よって,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けはあるというべきである。
キ 阻害事由
原告は,引用発明1の目的は,タバコ(天然物ニコチン源)の使用をやめさせる ことであるとして,引用発明1のニコチン源を,天然物ニコチン源とすることには 阻害事由がある旨主張する。しかし,前記エのとおり,引用発明1に係る装置は, タバコをベースとした製品の代わりになるものであって,タバコ代替品としても用 いられるものであるから,引用発明1の目的を,タバコの使用をやめさせることの みにあるということはできない。原告の阻害事由の主張は,その前提において誤り である。

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平成28(行ケ)10076  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年3月14日  知的財産高等裁判所

 阻害要因ありとして、進歩性ありとした審決が維持されました。
 引用発明及び甲2発明は,共に,建築の際に用いられる羽子板ボルトに関するも のであるから,その技術分野を共通にし,横架材等を相互に緊結するという機能も\n共通している。 しかし,引用発明に回動不能構\成を採用することには,引用発明の技術的意義を 損なうという阻害事由がある。 引用発明は,前記2(2)のとおり,従来の羽子板ボルトが有する,ボルト穴の位置 がずれた場合に羽子板ボルトを適切に使用することができないという課題を解決す るために,ボルト81が摺動自在に係合する係合条孔92を有する補強係合部10b を,軸ボルト4を中心として回動可能にするという手段を採用して,補強係合具10bが軸ボルト4を中心に回動し得る横架材16面上の扇形面積部分19内のいず\nれの部分にボルト穴171が明けられても,補強係合具10bの係合条孔92にボル ト81を挿入することができるようにしたものである。引用発明に相違点2に係る 構成を採用し,引用発明の補強係合具10bを,軸ボルト4を中心として回動可能\ なものから回動不能なものに変更すると,補強係合具10bの係合条孔92にボルト81を挿入することができるのは,ボルト穴171が係合条孔92に沿った位置に\n明けられた場合に限定される。すなわち,引用発明は,横架材16面上の扇形面積 部分19内のいずれの部分にボルト穴171が明けられても,補強係合具10bの 係合条孔92にボルト81を挿入することができるところに技術的意義があるにも かかわらず,回動不能構\\成を備えるようにすると,係合条孔92に沿った位置以外 の横架材16面上の扇形面積部分19内に明けられたボルト穴171にはボルト8 1を挿入することができなくなり,上記技術的意義が大きく損なわれることとなる。 そして,引用発明の技術的意義を損なってまで,引用発明の補強係合具10bを 回動不能なものに変更し,係合条孔92に沿った位置にボルト穴171を明けない限りボルト81を挿入することができないようにするべき理由は,本件の証拠上,認\nめることができない。 そうすると,引用発明の補強係合具10bを回動不能なものに変更することには,阻害要因があるというべきである。したがって,引用発明が相違点2に係る本件発\n明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。\nそして,甲3文献に記載された事項は,「垂直材」(柱)と「横架材」(土台梁)と を接合する「羽子板ボルト」であって,上記阻害事由があるという判断に影響する ものではないから,引用発明に相違点2に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。\n

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平成27(行ケ)10190  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月22日  知的財産高等裁判所(3部)

 進歩性無しとした審決が取り消されました。理由は阻害要因ありです。
 そこで,以上の理解を踏まえて,本件審決の相違点2についての判断の当 否につき検討するに,本件審決は,甲1発明1において,エステル交換によ って脂肪酸エステルを含む油組成物を生成することと,本件訂正発明1に おいて,揮発性作業流体を混合物に添加することとは,環境汚染物質を除去 するために分子蒸留に付すべき脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する という操作目的の点で技術的に軌を一にすることを理由として,甲1発明 1における「リパーゼを用いた選択的エステル交換を行って脂肪酸エステ ルを含む油組成物を生成する」構成を,周知技術である「揮発性作業流体を\n油組成物に外部から添加する」構成に置換することの容易想到性を認める\n判断をする。
しかしながら,上記エで述べたとおり,甲1公報に記載された発明は,上 記エ1)ないし3)の各課題を解決することを目的とする発明であると理解さ れるところ,このうち,上記エ1)及び3)の課題の解決のためには,「リパー ゼを用いた選択的エステル交換を行って脂肪酸エステルを含む油組成物を 生成」し,その上で分子蒸留を行うことにより,所望でない飽和および単不 飽和脂肪酸を実質的に有しないグリセリドの残余画分を得ることが不可欠 であり,この工程を,「揮発性作業流体を油組成物に外部から添加」した上 で分子蒸留を行う工程に置換したのでは,上記発明における上記エ2)の課 題は解決できたとしても,これとともに解決すべきものとされる上記エ1) 及び3)の課題の解決はできないことになる。 してみると,甲1公報に記載された発明において,「リパーゼを用いた選 択的エステル交換を行って脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する」構\n成に代えて,周知技術である「揮発性作業流体を油組成物に外部から添加す る」構成を採用することは,当該発明の課題解決に不可欠な構\成を,あえて 当該課題を解決できない他の構成に置換することを意味するものであって,当業者がそのような置換を行うべき動機付けはなく,かえって阻害要因\nがあるものというべきである。
なお,このことは,甲1公報の記載のうち,「トリグリセリドの形態で飽 和および不飽和脂肪酸を含有する油組成物からの環境汚染物質の除去のた めの方法」に係る特許請求の範囲請求項22で特定される発明に専ら着目 してみても,異なるものではない。すなわち,当該発明においても,「(a) 該油組成物を,実質的に無水の条件下,かつ飽和および単不飽和脂肪酸のエ ステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に,…エステル 交換反応に供する工程」を要し,かつ,「(b)工程(a)において得られ た生成物を…分子蒸留に供して多不飽和脂肪酸のグリセリドに富み,かつ 環境汚染物質が優先的に除去された残余画分を回収する工程」を要するも のとされているのであるから,上記エ2)の課題とともに,上記エ1)及び3)の 課題をも解決するために,「リパーゼを用いた選択的エステル交換を行って 脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する」構成を不可欠の構\成としてい ることは明らかといえる。

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平成28(行ケ)10102  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年2月21日  知的財産高等裁判所(第4部)

 阻害要因ありとして、進歩性違反無しとした審決が維持されました。
 そこで,引用発明2において,相違点4に係る本件発明1の構成を備えるように\nすること,すなわち,油圧導入路を備え,油室の油圧によって弁体を出力部材側に 進出させた状態に保持することを,当業者が容易に想到することができたか否かに ついて検討する。
イ 引用例2には,通孔58からの加圧エアの押圧機能に関して,「上記ピスト\nン24が後退(判決注:【図3】の左方へ移動)すると,弁操作具44は,バネ5 0の作用及び/又は従道部分68の対応面積に作用する加圧エアの力によってリリ ースされ,その弁操作具44は,【図3】のノーマル外方位置へ戻る。」(3欄9 〜13行),「図示のように圧力入口と出口及び排気孔が位置されることにより, 入口孔58からの流体圧力は,バネ50の付勢力と協働して,シリンダ12の中空 体の内部から弁操作具44及び弁部材46に作用する圧力流体の力に抗して上記の 操作具44が外方位置へ移動するのを防止する。」(3欄37〜43行)と記載さ れている。 このように弁部材46を左方に押圧する力について,通孔58からの加圧エアに よる作用とバネ50による作用とが並列して記載され,さらに「協働」する旨記載 されていることからすれば,当業者は,通孔58からの加圧エアによる作用には, 弁部材46を左方に押圧するものが含まれていると当然に理解するというべきであ る。そうであるにもかかわらず,引用発明2において,弁部材46に油圧導入路を 備えて,油室の油圧によって弁部材46を押圧するような状態にすることは,通孔 58からの加圧エアによる作用を失わせることになるから,このような状態にする ことには阻害事由があるというべきである。
ウ また,引用発明2において,弁部材46に油圧導入路を備えて,油室の油圧 によって弁部材46を押圧するような状態にすることは,弁孔53などに油圧を導 入することになり,空圧バルブ16の作用が失われることになるから,かかる点か らも,このような状態にすることには阻害事由がある。

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平成28(行ケ)10087  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年1月17日  知的財産高等裁判所

 審判では審理されていない従たる引用例を主たる引用例とし,主たる引用例との組合せによる容易想到性について取消審判で判断することについて、知財高裁(4部)は「当事者双方が,・・・本件訴訟において審理判断することを認め・・・・紛争の一回的解決の観点からも,許されると解する」のが相当であると判断しました。
 ア 引用例2を主たる引用例とする主張の可否について
 特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては,審判で審理判断されなかった 公知事実を主張することは許されない(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51 年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁)。 しかし,審判において審理された公知事実に関する限り,審判の対象とされた発 明との一致点・相違点について審決と異なる主張をすること,あるいは,複数の公 知事実が審理判断されている場合にあっては,その組合せにつき審決と異なる主張 をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超 えるということはできないから,取消訴訟においてこれらを主張することが常に許 されないとすることはできない。 前記のとおり,本件審決は,1)引用発明1を主たる引用例として引用発明2を組 み合わせること及び2)引用発明3を主たる引用例として引用発明1又は2を組み合 わせることにより,本件特許発明を容易に想到することはできない旨判断し,その 前提として,引用発明2についても認定しているものである。原告は,上記1)及び 2)について本件審決の認定判断を違法であると主張することに加えて,予備的に,\n引用発明2を主たる引用例として引用発明1又は3を組み合わせることにより本件 特許発明を容易に想到することができた旨の主張をするところ,被告らにおいても, 当該主張について,本件訴訟において審理判断することを認めている。 引用発明1ないし3は,本件審判において特許法29条1項3号に掲げる発明に 該当するものとして審理された公知事実であり,当事者双方が,本件審決で従たる 引用例とされた引用発明2を主たる引用例とし,本件審決で主たる引用例とされた 引用発明1又は3との組合せによる容易想到性について,本件訴訟において審理判 断することを認め,特許庁における審理判断を経由することを望んでおらず,その 点についての当事者の主張立証が尽くされている本件においては,原告の前記主張 について審理判断することは,紛争の一回的解決の観点からも,許されると解する のが相当である。 なお,本判決が原告の前記主張について判断した結果,請求不成立審決が確定す る場合は,特許法167条により,当事者である原告において,再度引用発明2を 主たる引用例とし,引用発明1又は3を組み合わせることにより容易に想到するこ とができた旨の新たな無効審判請求をすることは,許されないことになるし,本件 審決が取り消される場合は,再開された審判においてその拘束力が及ぶことになる。
イ 相違点について
前記(4)イのとおり,引用発明2において,「有色塗装層」は装飾上,必須のもの である。また,引用発明2において,「有色塗装層」の形成対象は,釣竿又はゴル フシャフトに特定されている。 したがって,本件特許発明1と引用発明2との相違点は,「本件特許発明1は, 基材を透光性を有する透明又は半透明とし,基材の表裏に金属被膜層を形成すると\nともに,金属被膜層の一部にレーザー光を照射することにより剥離部を表裏面で対\n称形状に設けるのに対して,引用発明2は,釣竿又はゴルフシャフトにおいて,有 色塗装層を形成された基材の片面に金属被膜層を形成する際にマスキング処理を行 って剥離部を設ける」ものと認められる。
ウ 相違点の容易想到性について
(ア) 前記(4)イのとおり,引用発明2は有色塗装層を必須の構成とするのである\nから,引用発明2に,全光線透過率が80%以上である高分子フィルム基材を有す る引用発明1を組み合わせることには阻害要因が認められる。さらに,引用発明2 は,管状の部材の装飾に係るものであって,金属層を管の内側と外側の両面に設け ることは,相応の困難を伴うというべきである。
(イ) また,引用発明3は,前記(5)イ(イ)のとおり,レーザー光を透過し得るよ うな基板の表裏を有するのであるから,有色塗装層を必須の構\成とする引用発明2 に対し,引用発明3を組み合わせることには阻害要因があると認められる。

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平成28(行ケ)10009  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年10月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、動機付けなし・阻害要因ありとして、取り消されました。
 引用例2には,そこに記載された加湿器が,給水部の水位を検知する検知装置を 備えた加湿器において,表示部が,給水部の水位が一定の水位よりも低くなると,\nあらかじめ定めた第1表示内容を表\示し,モーターが所定時間以上回転した後,モ ーターを停止し,あらかじめ定めた第2表示内容を表\示するものであることが記載 され(【0005】),かかる構成にしたことにより,給水部の水位が一定の水位\nよりも低くなった後,給水を促す表示をするが,モーターが所定時間の5分間以上\n回転しているため,モーターが回転している間に使用者が給水を促す表示に気が付\nき,給水を行えば,加湿運転を停止させて部屋を乾燥させてしまうことがない,ま た,モーターの回転を低速回転とするため,加湿量が減って給水部の水位が一定の 水位よりも低くなった後はゆっくりと水位が下がり,長時間加湿できることから, その間に給水を促す表示に気が付きやすいなどと記載されている(【0009】,\n【0010】)。また,【0036】ないし【0038】には,給水部2の水位が 基準の水位よりも低くなると,ファン3を低速回転とし,ヒーター8をOFFとし, タイマーに所定時間の5分間以上の時間を設定し,表示部6には第1の表\示内容で ある「給水」及びタイマー残時間の表示をして,タイマーの減算を開始すること,\nタイマーの残時間が0となったらファン3を停止し,表示部6には第2の表\示内容 である「給水」点滅の表示をすることが記載されている。\nこれらの記載によれば,引用例2に記載の加湿器は,部屋の乾燥を防止するため に,水位が「一定の水位」より低くなった後も,モーターが所定時間以上回転し, さらに,低速回転とすることで長時間加湿をすることが可能なものである。そして,\n「第1表示内容」が「給水」という文字及びタイマー残時間を表\示するものである から,「一定の水位」は,給水が一応求められる水位であるといえるものの,タイ マー残時間分のファンの継続運転によって,上記「一定の水位」よりさらに低くな った水位における「第2の表示内容」が「給水」という文字を含む点滅表\示である ことに照らせば,上記「一定の水位」は,タイマー残時間分の加湿運転の余地があ る水位を意味するものと理解される。 したがって,引用例2における「一定の水位」は,それを下回る水位でも加湿機 能が適正に動作して加湿空気を生成することができ,それを下回る水位が検出され\nた後も加湿機能の動作を行わせることを前提とするものであるということができる。\n(ウ) 以上によれば,引用例2に記載された技術事項における,給水部の水位を 検知する検知装置が検知する「一定の水位」は,引用発明におけるフロートスイッ チ14の「第1の基準位置における接点」とは,水位の性質,すなわち,それを下 回る水位でも加湿機能が適正に動作できるか否か及び加湿機能\の動作を行わせるこ とを前提としているか否かという点において,明らかに相違する。 加えて,引用発明において,液面検出手段を構成するフロートスイッチ14は,\n「第1の基準位置H1における接点」のみならず,「第2の基準位置H2における 接点」を有するところ,「第2の基準位置H2における接点」が検出する液面高さ の「第2の基準位置」は,加湿機の運転時の場合には,水面高さ(液面高さ)が第 1の基準位置H1以上の場合には運転が継続される,すなわち,液面高さが「第2 の基準位置」を下回っても,第1の基準位置を上回る限りにおいて,加湿機の運転 が継続されるものである(【0028】)。そうすると,所定の水位を下回る液面 高さでも加湿機能が動作して加湿空気を生成することができ,それを下回る水位が\n検出された後も加湿機能の動作を行わせるものである点において,引用例2におけ\nる「一定の水位」と引用発明の「第2の基準位置H2における接点」は共通するも のであるということができる。 このように,引用例2の「一定の水位」は,フロートスイッチ14の「第1の基 準位置における接点」とは水位の性質(それを下回る水位でも加湿機能が適正に動\n作できるか否か及び加湿機能の動作を行わせることを前提としているか否かという\n点)において明らかに相違し,かつ,引用発明には,上記性質において共通する 「第2の基準位置H2における接点」が既に構成として備わっているにもかかわら\nず,引用発明において,フロートスイッチ14の「第1の基準位置における接点」 を引用例2の「一定の水位」を検知する構成に置き換える動機付けがあるというこ\nとはできない。 (エ) さらに,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置H1 における接点」を,引用例2に記載された技術事項(それを下回る水位が検出され た後も加湿機能の動作を行われせることを前提した「一定の水位」を検出対象とす\nるもの)に置き換えると,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準 位置H1における接点」は,液面高さが「第1の基準位置」を下回ったことを検出 しても加湿機能を引き続き動作させることになるから,引用発明におけるフロート\nスイッチ14の「第1の基準位置H1における接点」に係る構成により奏するとさ\nれる,加湿部の動作を自動的に停止して液体収容槽の液体の残量がないときにファ ンを無駄に動作させることを防止できるという効果(【0009】)は,損なわれ ることになる。 そうすると,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置H1に おける接点」を,引用例2に記載された技術事項である,「一定の水位」を検知す る構成に置き換えることには,阻害要因があるというべきである。\n

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◆関連事件です。平成28(行ケ)10008

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平成28(行ケ)10020  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年9月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性を認定する阻害要因にはならないとして、進歩性ありとした審決が取り消されました。
 (ア)a 本件発明1と甲1発明の相違点として,前記第2,4(1)イ(イ)b記載 のとおりの相違点2がある(当事者間に争いはない。)ところ,前記認定事実(1(2)) によれば,甲1発明は,それぞれ要冷蔵品を収納する保存室を有する上下2つの断 熱箱体により構成された業務用横型冷蔵庫に関する発明であるから,断熱箱体の内\n箱及び外箱並びにその間に充填された断熱材により区画された上下2つの保存室を 有する業務用横型冷蔵庫,すなわち,庫内が断熱材により複数に区画された業務用 横型冷蔵庫に関する発明であるといえる。 一方,前記認定事実(1(3))によれば,甲7には,断熱性の仕切壁によって区画 された,冷蔵室,冷凍室及び野菜室がある家庭用冷蔵庫における冷却の実施例が記 載されているが,家庭用冷蔵庫に限らず,庫内を複数に区画してそれぞれ異なる温 度で管理する各種冷蔵庫に有効な発明であることが記載されている。 以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項は,少なくとも,複数の保存室 を有する冷蔵庫に関するものという点で,技術分野が共通である。 b 前記1(2)のとおり,甲1には,特に使用用途の拡大のため,庫内に 収容できる商品の幅を広げることを目的とする断熱箱体の改良に関する発明である 旨が記載されている。そうすると,甲1発明の課題は,使用用途の拡大,収容でき る要冷蔵品の幅を広げることということができる。 一方,前記認定事実(1(3))によれば,甲7に記載された事項の課題は,温度が 低い冷気の循環による冷蔵室内や野菜室内の乾燥の防止,高湿状態である冷蔵室や 野菜室内の水分が霜となって冷却器に付着することによる冷却能力の低下の防止,\n冷却器の大型化及び背面ダクト等の設置による冷凍室,冷蔵室及び野菜室の有効容 積の圧迫の防止であるといえる。これらは,庫内の複数の区画の存在を前提として いるが,冷凍が必要な食品等については冷凍室,冷蔵が必要な食品等については冷 蔵室,特に高湿状態が望ましい野菜については野菜室の各区画を設け,冷蔵室及び 野菜室については,高湿状態に保つことを課題としていると解することができるの であって,各食品等に応じた適切な冷蔵状態を提供することで,庫内に収容できる 要冷蔵品の幅を広げることを課題としていると評価することができる。 以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項は,使用用途の拡大,収容でき る要冷蔵品の幅を広げることという点で,課題が共通であるということができる。 c 前記認定事実(1(2))によれば,甲1発明は,断熱箱体からなる横 型冷蔵庫の天面に,別の断熱箱体を据え付け,下の断熱箱体の内箱の内部に,圧縮 機及び凝縮器と連結されて冷媒を循環させている蒸発器を設け,前記蒸発器により 冷却された冷気を,下の断熱箱体だけではなく,上の断熱箱体にも循環させること によって,上下2つの断熱箱体を冷却するものである。 一方,前記認定事実(1(3))によれば,甲7には,圧縮機及び凝縮器と連結され た 室用冷却パイプ及び野菜室用冷却パイプを設けて冷媒を循環させ,冷凍室は,冷凍 室用冷却器により冷却された冷気を循環させることによって冷却し,冷蔵室及び野 菜室は,冷蔵室用冷却パイプ及び野菜室用冷却パイプの内部を循環する冷媒の蒸発 により,各室の内壁面を冷却し,冷気の自然対流により各室内を冷却することが記 載されている。
以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項は,蒸発器を 1 つ設けるか複数 設けるかという違いはあるものの,1つの圧縮機及び1つの凝縮器を,冷却器ない し冷却パイプと連結し,その中に冷媒を循環させ,冷媒の蒸発により,冷蔵庫内の 複数の保存室を冷却するという作用・機能において,共通する。\nd 前記1(2)のとおり,甲1には,上の断熱箱体の保存室の外側に冷却 空間を形成するように伝熱パネルを設け,前記冷却空間に冷気を循環させることに より前記伝熱パネルを冷却し,前記伝熱パネルの自然対流熱伝達及び輻射冷却作用 により,保存室の内部を冷却する方法(実施例3及び4)が記載されており,また, 前記方法を採用することにより,下の断熱箱体を通常の横型冷蔵庫,上の断熱箱体 を高湿度で保存する必要のある寿司ネタや野菜などを保存することができる恒温高 湿ショーケースとして使用することが可能であることが記載されている。そうする\nと,甲1は,食品の乾燥防止のため,高湿状態を維持できる,冷気の強制対流以外 の冷却方法を採用することを記載したものといえるから,甲 1 発明の上の断熱箱体 の保存室の内部の冷却方法を,食品の乾燥を防止し得る別の冷却方法に変更するこ とにつき,示唆があるといえる。 一方,前記1(3)のとおり,甲7には,冷蔵室内や野菜室内に低温となる冷凍室用 冷却器からの冷気を供給しないので,冷蔵室内や野菜室内に収納した食品が乾燥す ることもないとの記載があり,冷蔵室用及び野菜室用冷却パイプを循環する冷媒の 蒸発による冷却が,食品の乾燥防止のため,高湿状態を維持できる冷却方法である ことが記載されているといえる。そうすると,甲7には,甲1発明の前記の上の断 熱箱体の保存室を高湿度で保存する必要のある寿司ネタや野菜などを保存するため に利用する場合には,その内部の冷却方法を,甲7に記載された冷却パイプの設置 による冷媒の蒸発による冷却方法に変更することにつき,示唆があるといえる。 また,前記aのとおり,甲7には,家庭用冷蔵庫に限らず,庫内を複数に区画し てそれぞれ異なる温度で管理する各種冷蔵庫に有効な発明であることが記載されて おり,甲1発明は,複数の保存室を有する冷蔵庫であるから,甲7には,甲7に記 載された事項を甲1発明に適用する示唆があるといえる。
e 以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項とは,一般的な技 術分野及び課題等を共通にするだけでなく,甲1に記載された実施例3及び4と甲 7に記載された事項とにおいて,上の断熱箱体における冷却中の保存品の乾燥を防 止するという具体的課題も共通するものであるから,甲1発明につき,上の断熱箱 体の保存室の内部の冷却方法として,甲7に記載された冷却パイプの設置による冷 媒の蒸発による冷却方法を適用する動機付けがあるといえる。
(イ) 前記1(2)のとおり,甲1発明には,「断熱箱体本体の天面開口部と合 致する間口を底面に備え」る「断熱箱体」という構成が含まれるが,この「天面開\n口部」及び「間口」は,庫内ファンによって冷却室の上部に設けられた冷気吹出口 から送られる冷気を,上の断熱箱体に送ってこれを冷却し,その後,下の断熱箱体 に送ってこれを冷却するための,冷気用の開口部である。 そして,冷気を上下の断熱箱体に循環させてこれを冷却する方法においては,上 下の断熱箱体の間に冷気を通すための開口部を要するが,冷媒を上下の断熱箱体に 循環させてこれを冷却する方法においては,上下の断熱箱体の間に冷気を通すため の開口部を必要としない代わりに,冷却パイプを通すための開口部を要するのであ って,他に冷気用の開口部を設けるべき理由はないから,上下の断熱箱体の間に冷 気用の開口部を要するか否かは,上の断熱箱体を下の断熱箱体からの冷気の循環に より冷却するか否かという冷却方法の選択の問題にほかならない。 また,甲1には,前記1(2)のとおり,上下の断熱箱体を1つの「冷却ユニット」 で冷却することが可能であることが記載されており,弁論の全趣旨によれば,「冷却\nユニット」は,少なくとも,圧縮機,凝縮機及び蒸発器により構成されることが認\nめられるところ,冷却器及び冷却パイプは,冷媒の蒸発により,冷却を行う機能を\n有するものであり,前記の蒸発器に該当するものと認められるから,甲1発明に, 甲7に記載された前記の冷却方法を適用すれば,上の断熱箱体用の冷却パイプと下 の断熱箱体用の冷却器を,別途に設けることになるから,上下の断熱箱体を1つの 「冷却ユニット」で冷却することはできなくなる。 しかしながら,前記1(2)のとおり,甲1発明の目的は,業務用横型冷蔵庫の構造\nを改良し,特に使用用途の拡大のため,庫内に収容できる要冷蔵品の幅を広げるこ とにある。上下の断熱箱体を1つの「冷却ユニット」で冷却するため,蒸発器を1 つしか設けないことは,この目的と関係がない。また,前記認定事実(1(3))によ れば,甲7には,冷却パイプ内の冷媒の蒸発により冷却される保存室の内部の乾燥 を防止できることのほか,1)冷却器に湿気の多い冷蔵室や野菜室内の水分が霜とな って付着し,冷却器の冷却能力が低下することを防げること,2)冷却器を大型化し なくてよくなり,これを収納する区画を小容量化して,冷凍室の有効容積を広くす ることができること,3)冷気循環のためのダクト等を設ける必要がなくなり,冷凍 室,冷蔵室及び野菜室の区画の有効容積を広くすることができることが記載されて いる。そうすると,蒸発器を複数にして各保存室を冷却する方式を採用するか,蒸 発器を1つにして全保存室に当該蒸発器で冷却した冷気を循環させて冷却する方式 を採用するかは,当業者が設計に際して効果を考慮して適宜採用し得る設計的事項 に該当する。 以上によれば,上下の断熱箱体の間に冷気を通すための開口部がない構成になる\nことや,蒸発器を複数有する構成になることが,甲1発明に甲7に記載された事項\nを適用することの阻害事由たり得るとは認められない。

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平成27(行ケ)10094  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月30日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。「引用発明1に基づいて,2つの段階を経て相違点に係る本件発明1の構成に想到することは,格別な努力が必要であり,当業者にとって容易であるということはできない。」という理由です。
 ア したがって,仮に,引用発明1に引用発明2を適用したとしても,後部カバ ー13に弾性部材を設け,その弾性部材をその進行方向後方側の位置で固定すると ともに,固定部を除いて前方側を自由な状態とし,主カバー12に対する土付着防 止部材20の固定位置において,その土付着防止部材20と互いに重なるようにす る結果,引用発明1の主カバー12に固定された各土付着防止部材20は,その固 定位置全てが隣接する他の土付着防止部材20と互いに重なるようにはなるものの, 引用発明1の後部カバー13に引用発明2の弾性部材23として設けられた土付着 防止部材20は,その進行方向前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるもので はないから,本件発明1には至らない。 イ 本件審決は,仮に引用発明2の弾性部材23の前端部23aが前方に延設さ れた(前方)端部寄りの部分が自重で垂れ下がるものでないとしても,エプロンに 固定された土除け材を,その端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のもの とすることは,当業者が適宜になし得る程度のことにすぎないと判断した。
(ア) しかし,引用発明2の弾性部材23の前端部23aが前方に延設された (前方)端部寄りの部分を自重で垂れ下がるものとすることを想到した上で,これ を引用発明1に適用することによって,引用発明1の後部カバー13に引用発明2 の弾性部材23として設けられた土付着防止部材20の進行方向前方側の端部寄り の部分を自重で垂れ下がるものとするというのは,引用発明1を基準にして,更に 引用発明2から容易に想到し得た技術を適用することが容易か否かを問題にするこ とになる。このように,引用発明1に基づいて,2つの段階を経て相違点に係る本 件発明1の構成に想到することは,格別な努力が必要であり,当業者にとって容易\nであるということはできない。
(イ) また,引用例2には,弾性部材23の前端部23aはブラケット19に密 着しており,リヤカバー13が上方へ回動したときであっても飛散した土が入り込 むことがなく,前端部23aを更に前方へ延設して低摩擦係数の部材14と重ね合 わせた状態にしたときは,飛散した土の侵入がより一層防止できる旨の記載がある (【0015】)。このように,前端部23aが飛散した土の侵入を防止するという 作用効果を奏するのは,前端部23aがブラケット19に密着しているからであり, 前端部23aを更に前方に延設して低摩擦係数の部材14と重ね合わせた状態にす るのは,その作用効果を強めるためである。 ここで,仮に,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がったと すると,弾性部材23の固定部(座24)から自由端(前端部23a)までのどの 部分がどの程度垂れ下がるにしても,前端部23aは,下方,すなわち,ブラケッ ト19との密着を保つことが困難になる方向に移動することになる。さらに,リヤ カバー13が上方へ回動すると,前端部23aとブラケット19との密着はさらに 困難になる。その結果,前端部23aがブラケット19と密着することによって奏 する飛散した土の侵入防止という上記の作用効果が減殺されることは,明らかであ る。 すなわち,引用例2の【0004】,【0006】の記載に照らすと,リヤカバー に固着された土付着防止部材(弾性部材)を自重で垂れ下がるように構成すると,\nリヤカバーの枢着部分では,メインカバーに取り付けた低摩擦係数の部材と,リヤ カバーに取り付けた弾性部材との接合部に間隙が生じるため,ここに土がたまりや すくなるという引用発明2の課題を解決できない。したがって,引用発明2の弾性 部材23について端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のものに変更する ことは,引用発明2の目的に反する。特に,引用発明2で,リヤカバー13を下降 させた状態において,既に前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような弾性 部材23を用いた場合,リヤカバー13を上方へ回動させると,弾性部材23の垂 れ下がり位置はリヤカバー下降時よりさらに下方になるため,リヤカバーの枢着部 分では,メインカバーに取り付けた低摩擦係数の部材と,リヤカバーに取り付けた 弾性部材との接合部にさらに間隙が生じ,ここに土がたまりやすくなってしまい, 飛散した土の侵入防止という引用発明2の上記作用効果を奏することができない。 そのため,上記作用効果を奏するためには,リヤカバー13を下降させた状態にお いて,既に前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような弾性部材23を用い ることはできない。 そうすると,引用発明2において,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分を自 重で垂れ下がるようにすることには,そもそも阻害要因があると認められる。弾性 部材23の前端部23aを更に前方に延設して低摩擦係数の部材14と重ね合わせ た状態にした場合も,同様の理が妥当することから,前端部23aを前方に延設し た弾性部材23の前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるようにすることは, 当業者が適宜になし得る程度のものということはできない。 したがって,本件審決の上記判断は,誤りというべきである。
(ウ) 被告は,引用発明2のリヤカバー側の弾性部材23について前方側の端部 寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のものに変更することは,メインカバー に固着された土付着防止部材が自重で垂れ下がることによる不都合を課題とする引 用発明2の目的に反するものではないから,弾性部材23を,進行方向前方側の端 部寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のものとすることは,当業者が適宜に なし得る程度のことにすぎない旨主張するが,同主張に理由がないことは,前記 (イ)において説示したとおりである。
・・・
しかし,前記(イ)のとおり,弾性部材23の前端部23aは,ブラケット19に 密着することによって,リヤカバー13が上方へ回動したときでも飛散した土が入 り込むことがないという作用効果を奏するものであるから,前端部23aがブラケ ット19に密着するのを妨げるような変更を加えることには阻害要因がある。そし て,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるようにすることは, 前端部23aをブラケット19との密着を困難にする方向に移動させることを意味 するから,当業者が適宜になし得るものということはできない。

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平成27(行ケ)10018  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年12月17日  知的財産高等裁判所

 阻害要因有りとして、進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。
 周知例3及び4には,周知技術A,すなわち,端末装置の種類(通常画面 サイズも異なる)に対応する複数のスタイルシート(CSS)をあらかじめ用意 しておき,そのうちの1つを選択するようにすることが開示されているものと認 められる(甲4,甲5)。 したがって,周知技術Aは,周知性の有無はともかく,本願優先日当時におい て公知の技術であったことは明らかである。 そこで,以下では,引用発明に周知技術Aを適用することにつき,阻害要因の 存否を検討する。 イ(ア) 前記2(2)のとおり,従来,サーバ装置から提供されるコンテンツデー タは,端末装置の種類等の違いにかかわらず,同一の表示形式で提供されていた\nので,端末装置の画像解像度によっては,必ずしも提供されたコンテンツデータ を適切に表示することができないという問題があった。その対策として,様々な\n種類の端末装置ごとに別々のコンテンツデータを製作(制作)し,それらのコンテ ンツデータを端末装置の種類ごとに分けてサーバ装置に用意しておく方法等があっ たものの,そのような方法においては,サーバ装置側に,バッチファイル等の複数 の選択肢(例えば,バッチファイル等)をあらかじめ用意しておく必要があること から,端末装置の種類や機種の増加に伴って,サーバ装置側の製作負荷が膨大なも のとなり,コストも増大するという問題がある。 (イ) そこで,引用発明は,これらの問題をいずれも解決すること,すなわち, 端末装置の特性や能力等に応じて別々のコンテンツ及び選択肢を用意することなく,\nコンテンツのメンテナンスに要する負担やコスト等を軽減しつつ,端末装置に応じ た最適なコンテンツを提示することができる情報提示装置の提供を課題とした。 そして,引用発明は,前記課題解決手段として,ユーザに対して情報を提示す る端末装置の表示画面サイズを含む端末情報を取得し,コンテンツを構\成するペー ジに対応する構造化データに規定された素材データの提示形式を,前記端末情報に\n基づいて前記端末装置に合った提示形式に調整した上で,前記素材データをフォー マット変換してXHTML文書とCSSから成るページデータを生成するという構\n成を採用した。引用発明は,同構成を採用して,各コンテンツに係る素材データに\nつき,前記調整,変換を行い,最終的に各端末装置に合った提示形式を備えたペー ジデータにすることにより,各端末装置の特性等に応じて複数のコンテンツ及び選 択肢を用意しなくても,各端末装置に応じた最適なコンテンツを提供できるように して,前記課題を解決するものである。
ウ 他方,周知技術Aは,端末装置の種類(通常画面サイズも異なる)に対応 する複数のスタイルシート(CSS)をあらかじめ用意しておき,そのうちの1 つを選択するようにすることであり,これは,前記イ(ア)において従来技術の一 例として挙げた「様々な種類の端末装置ごとに別々のコンテンツデータを製作(制 作)し,それらのコンテンツデータを端末装置の種類ごとに分けてサーバ装置に用 意しておく方法」と同様に,サーバ装置側に複数の選択肢をあらかじめ用意してお く必要があることから,端末装置の種類や機種の増加に伴って,サーバ装置側の製 作負荷が膨大なものとなり,コストも増大するという問題を生じさせるものである。 そして,この問題は,引用発明がその解決を課題とし,前記イ(イ)の課題解決手段 の採用によって解決しようとした問題にほかならない。 したがって,引用発明に周知技術Aを適用すれば,引用発明の課題を解決するこ とができなくなることは明らかであるから,上記適用については,阻害要因がある ものというべきである。

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平成26(行ケ)10186  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年6月25日  知的財産高等裁判所

 数値限定発明について、値を変更することは設計事項であるとして、拒絶審決が維持されました。
 本願発明における「44〜156デシテックス」という糸のサイ ズと,引用発明における「17〜33デシテックス」という糸のサイズとは,共に, 市場で普及している20〜400デシテックスという範囲内にあり(乙2〜5,弁 論の全趣旨),両発明は,一般的な糸のサイズを利用しているにすぎないから,この 範囲内にある糸のサイズの変更には,格別,技術的な意義はなく,当業者にとって, 予定した収縮率等に応じて適宜設定できるものといえる。したがって,デシテック\nスの範囲を本願発明の範囲の数値まですることは,当業者が容易に想到できる事項 である。 そこで,デシテックスの変更と同時に,延伸率を本願発明の範囲内に設定できる かについて,検討する。まず,回復張力の大きさは,商業的に許されている収縮率 に依存するものというべきであるところ,収縮率は,衣類の種類,すなわち,生地 が使用される用途に応じて,許容範囲は異なるものであり,特に,セーターなどに 使用されるゆったりとした生地においては,大きな収縮率が許容されると解されて いる(弁論の全趣旨)。したがって,原告が主張し,引用発明が前提とするように, すべての生地について,収縮率の上限値として7%が必ずしも要求されているとは いえない。そして,大きな収縮率を想定した場合には,許容される延伸率もまた大 きくなることになるところ,本願発明における延伸率である2.5倍という上限値 は,一般的な糸の使用を前提とすれば,その糸の太さにかかわらず,本願出願時に おいて特別に高い値ではない(乙5)。現に,引用文献(甲4及び5)の実施例1で, 本願発明に入るデシテックス数の44デシテックスで,商業上許容される範囲の収 縮率を実現する上で,延伸率として2.7倍を選択していることからすれば,2. 7倍よりも小さい2.5倍以下という延伸率を設定することに,技術的困難性はな い。そうすると,引用発明において想定されている収縮率は,本願出願時の技術水 準上,限界値であったわけではないから,引用発明のデシテックスを大きくするの と同時に,延伸率を大きくすること自体に阻害要因はないし,その場合における「2. 5倍以下」という数値設定も,当業者が容易になし得る程度の設計事項といえる。 したがって,上記相違点は,当業者であれば,容易に想到できるものである。

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平成25(行ケ)10234  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年11月27日  知的財産高等裁判所

 阻害要因有りとして、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
 審決は,刊行物1発明におけるカーボンナノチューブ層のパターニング方法を刊行物3発明における「カーボンナノチューブ層の形成後にカーボンナノチューブ層をリソグラフィ技術でパターニングするという方法」に変更して,相違点1に係る本願発明の構\成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである旨判断した。 しかし,刊行物1発明は,「ナノチューブ薄膜は固着性が悪く,接触や空気の流れ(たとえば空気掃除機)により容易に除かれるほどである。」(【0003】)ため,「適切な固着性を有し,より有用で堅固なデバイス構造の形成を可能\にするより便利で,融通のきく方法」(【0005】)を開発することを課題とし,これを実現するため,パターン形成材料にカーボン分解材料,カーバイド形成材料,低融点金属などを用いてパターン形成し,これにナノチューブを堆積させた上でアニールすることによって,カーボン分解,カーバイド形成又は溶融を誘発させて,固着性(「ASTMテープ試験D3359−97で,2A又は2Bスケールを十分越える固着強度を指す。」(【0006】【0013】))を確保するものである。\nしたがって,固着性の確保は刊行物1発明の必須の課題であって,刊行物1発明におけるパターニングの方法については,刊行物1発明と同程度の固着性を確保できなければ,他のパターニングの方法に置き換えることはできないというべきである。そして,刊行物3発明のパターニング方法におけるカーボンナノチューブの固着性についてみると,刊行物3発明は,「カーボンナノチューブを塗布,圧着,埋込み等の方法で合成樹脂製の支持基板12上に供給する」と記載しているのみであって,固着性について特段の配慮はされておらず,カーボンナノチューブ層が支持基板12に対して,いかなる程度の固着強度を有するかも不明である。 よって,刊行物1発明に刊行物3発明を適用することには阻害要因があるから, 刊行物1発明に刊行物3発明を適用して相違点1に係る本願発明の構成とすることを当業者が容易に想到し得るとした審決の判断には誤りがある。\n

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平成26(行ケ)10005  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年9月17日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。争点は阻害要因です。
 以上のとおり,1)引用発明において,「リード線の端部」と「太陽電池素子の電極」との「接着」について,はんだによる処理が許容されていること,2)原出願優先日当時,異方導電熱硬化型フィルム接着剤がはんだに代わる接続手段として用いられることは,当業者にとって周知の技術事項であったこと,3)原出願優先日当時,異方導電熱硬化型フィルム接着剤は,種々の対象物の接続に幅広く使用し得ることも,当業者にとって周知の技術事項であり,上記対象物には太陽電池も含まれることが認められる。上記事実によれば,原出願優先日当時,1)引用発明においてはんだによる処理が許容されていた「リード線の端部」と「太陽電池素子の電極」との「接着」に,2)はんだに代わる接続手段として,太陽電池も含む種々の対象物に幅広く使用し得ることが当業者に周知されていた,異方導電熱硬化型フィルム接着剤を使用することは,当業者にとって容易に想到し得たものといえる。そして,前述のとおり,補正発明と引用発明との実質的相違点は,結晶系太陽電池セルと接続部材との接続に,補正発明は異方導電熱硬化型フィルム接着剤を用い,引用発明は熱硬化型の導電性接着剤を用いることであるから,引用発明において,接続部材である「リード線」の端部と,結晶系太陽電池セル,すなわち,「太陽電池素子」の電極との接着に異方導電熱硬化型フィルム接着剤を使用することにより,補正発明の構成に至ることは明らかである。したがって,原出願優先日当時,当業者において,引用発明から補正発明に想到することは容易であったものと認められる。\n

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平成25(行ケ)10242  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年7月17日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が阻害要因ありとして取り消されました。
,甲16発明は,上記(1)ウのとおり,従来の技術では,照射面のうち,LEDアレイの並設方向(横方向)の照度にも,これと直交する方向(縦方向)の照度にも偏りが生じ,縦方向の有効照射巾が狭く,かつ均一な照度を得られないという課題を解決するため,光を無指向に散乱させる散乱シート2(ポリエステルフィルム上に微粉末からなる光拡散層)を設けることにより,光をLEDアレイの並設方向にも,これと直交する方向(縦方向)にも散乱させ,照射面については均一な照度となるようにし,その縦方向については有効照射巾を拡大できるようにしたものである。そうすると,甲16発明は,主としてLEDアレイの並設方向に光を集中的に拡散させることを課題とするものではなく,かえって,これと直交する方向にも光を拡散させることを課題とするものであるから,光を特定の1つの方向にのみ集中的に拡散させるという機能を有する光拡散体である甲17発明を,甲16発明に組み合わせることは,その動機付けを欠くものであり,当業者が容易に想到することができるものとは認められないというべきである(なお,甲17公報には,微小凹凸形状が転写されたモールドを,2つの方向に引き伸ばしてから,同モールドに硬化性樹脂を流し込んで製造する光拡散体も開示されていると認められるから,微小凹凸形状を2つの直交する方向に引き伸ばしたモールドから製造した光拡散体であれば,当業者が,甲16発明の課題を解決するために,甲16発明の散乱シート2に代えて組み合わせることは容易であると考える余地があるが,かかる光拡散体は,そもそも,「各凸レンズ部を,各LEDの並設方向への曲率半径が各LEDの並設方向と直交する方向への曲率半径よりも小さい曲面状に形成し」た構\成を備えているとは認められないから,甲16発明と組み合わせても本件発明1の構成にはなり得ない。)。また,甲16発明と本件発明1との関係をみても,甲16発明と本件発明1とは,照射面における光のむらを解消することを課題の一部とする点では共通するが,甲16発明は,照度のユラギを改善して照射面全体における照度を均一とすることを目的とし,これに加えて,有効照射巾の拡大のため,縦方向にも光を散乱させることを課題とするものであり,かつ,その結果として,照射面における一定程度の照度の低下はやむを得ないことを前提とし(【実施例】),これを防止することは解決課題とはしていないのに対し,本件発明1は,各LEDの並設方向と直交する方向への光の拡散は課題としておらず,かえって,同方向へはほとんど拡散させずに,光を無用に減衰させることなく主に各LEDの並設方向に集光させ,かつ,照度の低下を防止することを必須の課題とするものであるから,両発明の解決課題は全体として異なるものである。それだけではなく,本件発明1は,各LEDの並設方向と直交する方向への光の拡散はほとんどさせないことにより,光を無用に減衰させることなく集光することを解決手段の1つとするものであるから,これとは逆に,同方向への光の拡散を課題の一部とする甲16発明には,本件発明1を想到することについての阻害要因が存するというべきである。\n

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平成25(行ケ)10242 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年07月17日 知的財産高等裁判所

 阻害要因ありとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 甲16発明は,上記(1)ウのとおり,従来の技術では,照射面のうち,LEDアレイの並設方向(横方向)の照度にも,これと直交する方向(縦方向)の照度にも偏りが生じ,縦方向の有効照射巾が狭く,かつ均一な照度を得られないという課題を解決するため,光を無指向に散乱させる散乱シート2(ポリエステルフィルム上に微粉末からなる光拡散層)を設けることにより,光をLEDアレイの並設方向にも,これと直交する方向(縦方向)にも散乱させ,照射面については均一な照度となるようにし,その縦方向については有効照射巾を拡大できるようにしたものである。そうすると,甲16発明は,主としてLEDアレイの並設方向に光を集中的に拡散させることを課題とするものではなく,かえって,これと直交する方向にも光を拡散させることを課題とするものであるから,光を特定の1つの方向にのみ集中的に拡散させるという機能を有する光拡散体である甲17発明を,甲16発明に組み合わせることは,その動機付けを欠くものであり,当業者が容易に想到することができるものとは認められないというべきである(なお,甲17公報には,微小凹凸形状が転写されたモールドを,2つの方向に引き伸ばしてから,同モールドに硬化性樹脂を流し込んで製造する光拡散体も開示されていると認められるから,微小凹凸形状を2つの直交する方向に引き伸ばしたモールドから製造した光拡散体であれば,当業者が,甲16発明の課題を解決するために,甲16発明の散乱シート2に代えて組み合わせることは容易であると考える余地があるが,かかる光拡散体は,そもそも,「各凸レンズ部を,各LEDの並設方向への曲率半径が各LEDの並設方向と直交する方向への曲率半径よりも小さい曲面状に形成し」た構\成を備えているとは認められないから,甲16発明と組み合わせても本件発明1の構成にはなり得ない。)。また,甲16発明と本件発明1との関係をみても,甲16発明と本件発明1とは,照射面における光のむらを解消することを課題の一部とする点では共通するが,甲16発明は,照度のユラギを改善して照射面全体における照度を均一とすることを目的とし,これに加えて,有効照射巾の拡大のため,縦方向にも光を散乱させることを課題とするものであり,かつ,その結果として,照射面における一定程度の照度の低下はやむを得ないことを前提とし(【実施例】),これを防止することは解決課題とはしていないのに対し,本件発明1は,各LEDの並設方向と直交する方向への光の拡散は課題としておらず,かえって,同方向へはほとんど拡散させずに,光を無用に減衰させることなく主に各LEDの並設方向に集光させ,かつ,照度の低下を防止することを必須の課題とするものであるから,両発明の解決課題は全体として異なるものである。それだけではなく,本件発明1は,各LEDの並設方向と直交する方向への光の拡散はほとんどさせないことにより,光を無用に減衰させることなく集光することを解決手段の1つとするものであるから,これとは逆に,同方向への光の拡散を課題の一部とする甲16発明には,本件発明1を想到することについての阻害要因が存するというべきである。
・・・・
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,甲16発明の課題の1つである「有効照射巾を広げる」とは,光を照射面で線状に収束させるにあたり,光軸の近傍で有効照射巾をほとんど確保することができない箇所が生じてセンサー出力のバラツキが生じないよう,光軸の近傍でセンサ機能等に必要な有効照射巾を十\分に確保し,以て必要な光量を確保する意義,と解するのが相当であり,他方,本件発明1の課題は,光軸近傍で必要な有効照射巾を確保することを否定するものではなく,乱反射により無用に光量が減衰することを防止する趣旨のものであるから,甲16発明と本件発明1の課題とは相反するものではないし,甲16発明から本件発明1を想到する阻害要因はなく,両発明は,照射面の照度の均一化・光量のむらの低減,光量の確保について,具体的な課題を共通にするものであり,甲16発明から本件発明1に到達する動機付けは十分にあると主張する。 しかし,甲16発明の対象とするセンサの性質上,甲16発明が,各LEDと直交する方向(縦方向)へ無限定に光を拡散することを課題とするものではないことは当然であるとしても,甲16発明は,照射面における縦方向の有効照射巾が狭いということを解決課題とするものである以上,縦方向に光を拡散させることを必須とするものであるし,甲16発明の採用する光拡散体は,縦方向へ無限定に光を拡散させることを可能とする構\成でもない。そして,甲16公報の記載全体によっても,光の拡散を主に各LEDの並設方向へ行うということを課題とすることを示唆する記載はない。他方,本件発明1は,光軸近傍で必要な有効照射巾を確保することを否定するものではないとしても,集光位置の縦方向における照度の確保(有効照射巾の確保)を従前の技術についての解決が必要な課題としてとらえているとは認められない(甲39,45)。したがって,本件発明1は,各LEDの並設方向と直交する方向へはほとんど光を拡散させないことを前提としているのに対し,甲16発明は,集光位置の縦方向における照度の確保(有効照射巾の確保)を解決課題として,各LEDの並設方向と直交する方向にも,同並設方向と同程度に光を拡散させるものであるから,甲16発明と本件発明1の課題とは異なるものであり,甲16発明から本件発明1を想到する阻害要因があるというべきである。したがって,被告の上記主張は採用できない。

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平成25(行ケ)10229 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年05月12日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、動機付けなしとして取り消されました。
 ところで,甲2発明において,「ウェール数を多めに編成する」のは,あくまでも甲1の「まち部20」と同じ効果をもたらすためであるから,当業者が,靴下の内側又は外側に対し,甲2発明の構成を適用しようとするのは,甲1発明の「まち部20」が形成されるのと同じ側,すなわち踵部の内側である。したがって,甲2の「ウェール数を多めに編成する」構\成を甲1発明に適用したとしても,それは,減らし目及び増やし目工程を二工程ずつ行う側とウェール数を多めに編成する側とが踵部において同じ側になることが明らかであり,両方の側が互いに反対となる本件発明の構成,「踵部の内側すなわち着用者の第一趾側は減らし目,増やし目,減らし目ついで増やし目の順に編成・・・すると共に外側方向にウェール数を多めに編成する」には至らないから,相違点2を解消できない。
イ 仮に,「まち部20」が形成される側と反対側,例えば,踵部の内側に「まち部20」を形成しつつ,踵部の外側の「ウェール数を多めに編成」した場合には,相違点2そのものは解消されることになる。しかしながら,かかる構成を採用した場合,踵部の内側に「まち部20」による余裕ができる一方で,踵部の外側に「ウェール数を多めに編成」することによる余裕ができてしまい,踵部の両側に余裕ができることになるため,踵部の内側と外側とが対称形に近づいてしまい,踵部が左右非対称形に形成された靴下を提供するという甲1発明の目的や課題に反することとなってしまう。したがって,「ウェール数を多めに編成すること」を甲1発明の「まち部20」が形成される側とは反対側に適用することには,阻害事由があるということになる。\n

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平成25(行ケ)10176 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年03月26日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。裁判所は「複数の課題が示されている場合に,その優劣関係や関連性などを考慮した上で,ある課題の解決を優先して別の構成を採用することが当業者が適宜試みるものである」として、動機付けあり、および阻害要因無しと判断しました。

ア 動機付けについて
原告は,引用例1には,「構造も極めて簡単かつ強固」にするという課題があり,「接着剤や締結部材等を要することなく弾性的に密嵌合した状態で確実かつ強固に係止される」という作用効果を奏するためには,環状後端面3Dが内側環状面7Cに係合されることが必要であるから,引用発明は,環状後端面3Dが形成されること,すなわち,本願発明でいえば,第1の直径が第2の直径よりも小さい構\成でなければならないし,引用例1には,直径の大きさを上記構成と逆にする設計思想は開示も示唆もない,また,引用例2や引用例3の構\成も図面から特定されているだけで,具体的な設計思想はないから,引用発明と,引用例2又は引用例3の記載事項を組み合わせる動機付けはないと主張する。しかしながら,引用例1に「組立作業の大部分を占める電極部材の取り付けが極めて容易であるばかりでなく,構造も極めて簡単かつ強固で・・・」(段落【0004】)と記載されているように,環状後端面3Dを備えた電極素材は,強固な固着の作用をもたらすと同時に電極部材の取付けの容易性を導き出すための構\成でもある。したがって,引用発明は,部品を減らすこと,固着を強固にすることという課題のみならず,電極部材の取付けを容易なものとするという課題をも解決したものといえ,引用発明において電極部材の取付けやすさという課題が示唆されている以上,同じ課題を解決するための手段や技術と組み合わせることについて示唆があるといえる。そして,当業者は,引用発明に複数の課題が示されているような場合には,その優劣関係や関連性の程度,一方を優先した場合の他方への影響の度合いや得失などを考慮した上で,特定の課題の解決をいったん留保して異なる課題の解法の観点から,発明が採用している構成の一部を変更することも適宜試みるものというべきである。これを本件に当てはめると,筒状体の両端部に嵌める電極部材の形状として,第1の直径と第2の直径の大小関係をどのようにするかという点についても,固着を強固にするという課題を留保して電極部材の取付けを容易にするという課題の解決のために,当業者が適宜決定できる設計事項を採用して,構\成の変更を行うことについての示唆があるというべきである。そして,引用例2又は引用例3における電極部材の構成は,いずれも,第1の直径が第2の直径よりも大きい構\成であるところ,かかる構成は,筒状の物体の端の孔を部材でふさぐ場合において,センサという技術分野に限られずに用いられる,一般的なありふれた形状であって,いわば周知技術といえ(乙3,4参照),しかも,その構\造は筒状体に取り付けやすい形状であることは明らかであるから,これを取付けやすさを課題の1つとした引用発明に組み合わせることには動機付けがある。したがって,「筒状体B」に嵌まる部分の第2の直径を変更することなく,「筒状体B」に嵌まらない部分の第1の直径を「筒状体B」に嵌まる部分の第2の直径よりも大きく構成することで,本願発明と引用発明の相違点に係る構\成(第2の直径を第1の直径よりも小さくする構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得るものである。\n
イ 阻害要因について
原告は,引用例1において,仮に,第1の直径を第2の直径よりも大きく設定しようとすると,環状突起7及び9を除去して筒状体Bの内径を増大させなければならないから係止できず(仮定A),仮に,電極部材A1とA2の向きを逆にして対向させても頸部1同士が突き当たるし,距離をとっても取り外すことは困難であり(仮定B),仮に,第1の直径を第2の直径よりも大きく設定する場合,センサ自体が大型化し,小型化という引用発明の目的に反する(仮定C)から,引用発明に,引用例2又は引用例3の構成を採用すると,引用発明の本来の目的を放棄することになるから,組合せに阻害要因があると主張する。しかしながら,そもそも審決は仮定A,Bについての判断を示していない。また,引用発明は,従来技術(乙1,2)が有していた必要な部品の点数が多く,各種の組立工程が多いという課題に鑑みて,少ない部品で取り付けやすく固着の強固なセンサを目指して発明されたものであって,複数の課題が示されている場合に,その優劣関係や関連性などを考慮した上で,ある課題の解決を優先して別の構\成を採用することが当業者が適宜試みるものであることは,上記アで説示したとおりであり,このような試みに阻害要因があるとはいえない。したがって,電極部材を筒状体に係止する必要性がない場合には,係止のための工夫を取り除いて,第1の直径と第2の直径の大小関係を逆転させることや内部の環状突起を除外すること,電極部材同士がぶつかりあわないような筒状体の長さを設けたり,電極部材の頸部の長さを短縮したりすること,電極部材の取外しが容易な部材を用いた形状にすることは,当業者が適宜決定できる設計事項であって,上記仮定A,Bは阻害要因にはならないというべきである。さらに,第1の直径を第2の直径よりも大きく設定する場合には,第1,2のいずれの直径も従前より小さくしさえすれば,従来技術と比較してセンサ自体が大型化することもない。

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平成24(行ケ)10426 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年12月26日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が阻害要因ありとして維持されました。
 原告は,引用発明1はその従来技術である引用発明2の有する課題を解決するため,「半導体発光素子」と「光半導体結晶基板」とを金属を介して貼り合わせるという技術を用いて,従来技術とは層形成の順番を逆にして半導体発光素子を形成する発明であると主張する。しかしながら,引用発明2は,前記のとおり,従来,高輝度青色LEDを実現するために必要である,バンドギャップが例えば2.7eV以上と大きく,pn制御が可能\で,結晶の質も良い,という条件を満たす半導体材料は存在しなかったので,新しい化合物半導体材料を用いた青色発光LEDを提供することを目的とするものであり,GaP基板91上に超格子構造の反射層92を形成し,その上にp型GaAlN/BP混晶層
・・・
及びGaNコンタクト層95が順次形成されたLED(別紙3の図10参照)において,超格子構造反射層92が良好なバッファ層として働く結果,良好なpn接合が得られ,また,高い光取出し効率が得られて,高輝度青色発光が認められるというものである。上記のような半導体発光素子の構\成を有する引用発明2について,引用発明1の「半導体発光素子」と「光半導体結晶基板」とを金属を介して貼り合わせるという技術を用いて,従来技術とは層形成の順番を逆にして半導体発光素子を形成することを考慮した場合には,ダミー基板上に,GaNコンタクト層95,・・・の順に形成することになるが,この積層過程では,本来であれば,良好なpn接合を形成するためのバッファ層となる「超格子構\造の反射層92」が形成されないため,n型,アンドープ及びp型GaAlN/BP混晶層は,良好なpn接合を得ることができず,発光素子として十分な特性が得られないものとなる。そうすると,引用発明2について,層形成の順番を逆にして半導体発光素子を形成することには,阻害要因があるものというべきである。\n

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平成24(行ケ)10244 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年07月18日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
 引用発明は,基板の搬送時間の短縮及び基板処理装置のスループットの向上並びに基板処理装置のクリーンルーム内に占める面積の減少を目的として,一側面が相対向するようにして上下にロボットが配設される構成を採用するものであるところ,引用例には,ハンドが二次元的にしか動作できないものに限らず,「ハンドがアーム部に対して昇降する機能\や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有してもよい旨が記載されており,しかも,引用例の特許請求の範囲に記載された発明特定事項にチャンバは含まれていないから,相対向するロボットに上下移動機構\を採用し,作業範囲を増加させることについて,動機付けが認められる。また,前記2(2)によれば,本件特許の出願当時,コラム型を有する産業用ロボットは,周知技術であったということができる。したがって,当業者が,引用例の記載から,実施例において開示された搬送チャンバ内に上下一対に配設されたロボットについて,搬送チャンバとは無関係に,「ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能\」を有する構成を実現するため,アーム部とハンド部とを支持部材を介して上下移動機構\に組み合わせる際に,周知技術であるコラム型の上下移動装置を採用することも,容易に想到し得るものということができる。(イ) 被告は,引用発明は搬送チャンバ内における基板搬送装置を前提とする発明であり,当然に上板部材及び下板部材が存在しているものであるところ,その作用効果は,各チャンバ内のあらゆる位置に任意の方向に向けて順次移動可能になることであって,コラム型を採用すると,コラムがアーム動作の障害物となって,引用発明の課題を解決することができなくなるから,引用発明にコラム型を採用する動機付け自体が存在せず,むしろ阻害事由が存在する,引用発明においてコラム型を採用し,任意の方向に向けて順次移動可能\とする機能を維持するためには,コラムに旋回機能\を適用することに伴う様々な技術的課題を解決しなければならないから,当業者は技術的課題を解決する必要のないテレスコピック型の上下移動機構を採用するはずである,仮にコラム型を採用した場合,本件発明2と同様の構\成を実現するためには,二つの支持部材とコラムとを含む移動機構としては,周知例1ないし3に記載されている上面載置構\造を採用するものである,引用発明において,肘の出る方向は俯瞰図的には別々であるところ,アームを支持部材の対向面に設けたまま,本件発明2と同様の構成を採用する場合,肘の出る方向が揃うように,システム構\成から変更する必要が生じるなどと主張する。しかしながら,引用例の特許請求の範囲に記載された発明特定事項にチャンバは含まれておらず,チャンバの存在を前提とする「エッチング」についても,従来技術においてロボットが用いられている工程の例示として指摘されているにすぎないこと,引用発明の目的は,クリーンルーム内等でのロボットの占有面積を減少させる点において本件発明と共通するところ,当該目的自体は,チャンバの有無とは無関係であることからすると,引用例には搬送チャンバ内における基板搬送装置を前提とする発明のみが開示されているとする被告の主張は,その前提自体を欠く。また,引用例には,各チャンバ内のあらゆる位置に任意の方向に向けて順次移動可能になることが,引用発明の解決課題として記載されているものではないし,当該機能\を実現するために,当業者が当然にテレスコピック型を採用するとまでいうことはできない。なお,被告は,コラムに旋回機能を適用することに伴う様々な技術的課題の詳細について具体的に主張しないが,テレスコピック型かコラム型かにかかわらず,旋回機能\を設ける周知技術(甲7〜9,19〜21)を採用すれば足りるものである。また,引用発明において,肘の出る方向を揃えるための変更が必要であったとしても,そのこと自体が引用発明にコラム型を採用する場合の阻害事由となるとまでいうことはできない。

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◆関連事件です。 平成24(行ケ)10370

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平成24(行ケ)10232 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月13日 知的財産高等裁判所

 無効であるとした審決が、阻害要因有りとして、取り消されました。
 本件明細書の記載を参酌すれば,当業者は,本件各発明の「パッドに形成された中実な材料からなるプラグ」ないし「パッドに形成された(中実な光透過性の)プラグ」とは,第3の構成のように,プラーテンに形成されることなく,「プラーテンホール30」の上の領域におけるパッド材料を「パッドに形成された中実な材料からなるプラグ」ないし「パッドに形成された(中実な光透過性の)プラグ」に置き換えた態様のものであると理解すると認められる。イ一方,甲1発明の内容は,上記第2の3(2)ア 記載のとおりである(この点については原告も争わない。)ところ,上記(1)イ 認定の事実によれば,甲1記載の発明は,「透明窓材とウエハとの間にできる研磨液の膜を通してウエハの研磨面に照射した光の反射光を観察あるいは評価する」(【0015】)もので,「研磨布窓6」は,「ウエハ7」の中心が該「研磨布窓6」の上にあるときの一部の間,光のための通路を与えるものであるが,「研磨布にだけ研磨布窓を設けたのでは,研磨液に空気が混じる恐れがあり,空気が混じると観察が困難となるので,研磨液を十分保持できるようにし,空気が混じらないようにするため」に,「定盤1」内に「溝2」が形成され,当該「溝2」には「研磨液を十\分保持させる」(【0016】)ものであることが認められる。また,「貫通孔3」の「溝2」側には,透明ガラス製の中実な材料からなる「透明窓材4」が嵌め込まれ,「プローブ9」からウエハの研磨面へ照射される照射光とその反射光とを通すとともに,研磨液が漏れないようにしている(【請求項4】,【0022】)ことも認められる。そうすると,甲1発明(2ないし6,8)は,「SOIウエハ7」をケミカルメカニカルポリシング(CMP)により研磨するに際し,赤色の範囲を含む光を「ウエハ7」に向けて照射し,その反射光を観察あるいは評価して,研磨状態の終点を知ることができるようにしたもので,「定盤1」内に「溝2」を形成し,当該「溝2」に研磨液を十分保持させることで,研磨液に空気が混じらないようにして,上記反射光の観察あるいは評価を容易にし,また,「透明窓材4」を上記「溝2」に設けられた「貫通孔3」に嵌め込むことにより,上記「ウエハ7」への照射光とその反射光とを通すとともに,研磨液が漏れないようにしたものといえる。\n
ウ 以上のことからすれば,甲1発明(2ないし6,8)において,上記「溝2」に研磨液を十分保持させ,上記「溝2」に形成された「貫通孔3」に,上記「ウエハ7」への照射光とその反射光とを通すためには,透明ガラス製の中実な材料からなる「透明窓材4」を上記「貫通孔3」に嵌め込む構\成とするほかはないから,甲1発明(2ないし6,8)において,上記「透明窓材4」の設置位置を「研磨布5」に変更する動機付けがあるとはいえず,むしろ阻害要因があるというべきである。 また,甲2には,「ポリシングパッド1による貼り合わせウェーハ11の研磨において,ポリシングパッド1を透明体とし,ポリシングパッド1を透過してレーザ光を照射するもの。」が,甲3には,「被加工物1の被加工面6をポリシャ3で研磨するにあたり,石英からなるポリシャ3を透明なものとし,レーザ光線11を照射し,透明なポリシャ3を透過してレーザ光線を照射するもの。」が,甲4には,「被加工物2をポリシャ4で研摩するにあたり,合成樹脂からなるポリシャ4を透明なものとし,レーザ光を照射し,透明なポリシャ4を透過してレーザ光を照射するもの。」がそれぞれ記載されていると認められるところ(甲2ないし甲4にこれらの記載があるとの審決の認定について,原告も争わない。),甲2ないし4には,全体を同じ材料からなる透明な研磨面とすることが記載されているにとどまり,本件各発明の「パッドに形成された中実な材料からなるプラグ」ないし「パッドに形成された(中実な光透過性の)プラグ」を備えること,すなわち,プラグが,プラーテンに形成されることなく,プラーテンホールの上の領域におけるパッド材料を置き換えるように形成されることが,甲2ないし4に開示されているとも認められない。なお,甲5は,もとより,プラグを,プラーテンホールの上の領域におけるパッド材料を置き換えるように形成することを開示するものではない。\n
以上から,甲1発明(2ないし6,8)において,上記「透明窓材4」の設置位置を変更する動機付けがあるとはいえず,また,甲2ないし甲5には,本件各発明の「パッドに形成された中実な材料からなるプラグ」ないし「パッドに形成された(中実な光透過性の)プラグ」について開示されていないから,甲1発明(2ないし6,8)において,上記「透明窓材4」を,上記「定盤1」に形成されることなく,上記「貫通孔3」の上の領域における「研磨布5」(本件各発明における「パッド」に相当する。)材料を置き換えるように形成されたものとすること,すなわち,上記「透明窓材4」を上記「研磨布5」に形成することが,当業者が容易に想到し得たものとはいえない

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平成24(行ケ)10205 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月28日 知的財産高等裁判所

 動機づけなし、阻害要因有りとして進歩性なしとした審決が取り消されました。
 本願発明は,喫煙以外の手段で喫煙の満足感を与えることを目的として,ニコチンをスプレーにより専ら口腔粘膜経由で取り込ませるための液体医薬製剤であって,唾液中のニコチンが優先的に吸収される形態である遊離塩基に保つことを可能とするために薬剤自体をアルカリ性化することにより,ニコチンの急速な経口腔粘膜取り込みを実現するものである。(イ) 他方,前記2(1)によれば,引用発明1は,本願発明と同様の目的を有する液体薬剤に係る発明ではあるが,単にニコチンを摂取するだけではなく,喫煙という行為を再現する方法でニコチンを摂取させることを意図しており,喫煙時と同様に,使用者の好みに応じてニコチンの含有量を選択した上で,口腔粘膜,鼻腔粘膜,肺などから吸入されるものである。引用発明1において,薬剤は様々なニコチン含有量のアンプルとして提供され,使用者が好みの銘柄のたばこに対応するニコチン含有量のアンプルを選択し,好みの方法により吸入するものであるから,各アンプル中の薬剤は,口腔粘膜,鼻腔粘膜及び肺などの吸入経路のいずれにも対応できる液体であって,ニコチン含有量についてのみ,多様性を有するものということができる。
イ 引用発明1に引用発明2及び3を組み合わせる動機付けについて (ア) 引用例2(甲2)は,経皮ニコチンシステム及びニコチンの経粘膜投与のためのシステムに係る文献であるところ,同文献には,口腔内でのアルカリ環境がニコチンの頬側吸収を促進することが記載されている。(イ) 引用例3(甲3)は,ニコチン含有流動物質を含む口経投与用カプセルに係る文献であるところ,同文献には,カプセルの内容物以外で重要なのは,ニコチンの吸収速度を左右する溶液のpHであり,ニコチン溶液のpHが6ないし10,好ましくは7ないし9,特に6ないし8の範囲が好ましいことが記載されている。(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば,引用例2及び3には,口腔粘膜からのニコチン吸収がアルカリ環境で促進されることが開示されているということができる。しかしながら,引用発明1は,使用者の好みに応じて,口腔粘膜のみならず鼻腔粘膜や気道などからもニコチンが吸入されることを念頭においた薬剤であるから,口腔粘膜からの吸収を特に促進する必要性を認めることはできないし,引用例1には,口腔粘膜からの吸収を特に促進させる点に関する記載や示唆も存在しない。したがって,引用発明1に,引用発明2及び3を組み合わせることについて,動機付けを認めることはできない。
ウ 阻害事由について
・・・
(カ) 以上によると,本願優先日当時,鼻腔や肺に投与されるニコチン溶液は通常pH5ないし6程度の酸性であって,ニコチンが遊離塩基になりやすいアルカリ性では,生理的に悪影響があることが周知であったということができる。したがって,引用発明1の薬剤をアルカリ性化することには,阻害事由が認められる。

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平成23(行ケ)10414 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月10日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。理由は適用できないとした判断の誤りです。
 本件審決は,浚渫用のグラブバケットである引用発明1に,荷役用のグラブバケットに係る技術を適用することは,操縦者が対象物を目視できるために想定外の荷重がシェルにかかるおそれが少ない荷役用グラブバケットと,掴み物を目視できず,掴み物の種類や形状も安定しないため,荷役用と比較して,グラブバケットの強度を高く設定する必要がある浚渫用グラブバケットとでは,使用態様に基づいて要求される特性の相違から,当業者が容易に想到することができたものとはいえないとする。しかしながら,グラブバケットは,荷役用又は浚渫用のいずれの用途であっても,重量物を掬い取り,移動させる用途に用いられるものであるから,技術常識に照らし,ある程度の強度が必要となることは明らかであって,必要とされる強度は想定される対象物やその量,設計上の余裕(いわゆる安全係数)等によって定められる点において変わりはないものというべきである。確かに,浚渫用グラブバケットは,上記各観点に加えて,掴み物を目視できない点をも考慮した上で強度を高く設定する必要があることは否定できないが,ここでいう強度とは,想定される対象物(掴み物)に対してどの程度の強度上の余裕を確保すべきかという観点から決せられるべきものである。本件リーフレット(甲25)には,本件製品に関する照会の際には掴み物の種類や大きさを連絡することを求める旨の記載があり,荷役用グラブバケットにおいても,対象物に応じて強度を設定する必要があることは明らかである。したがって,荷役用のグラブバケットに係る技術を浚渫用のグラブバケットに適用する際には,浚渫用のグラブバケットにおいて特に考慮すべき強度上の余裕を確保することに支障を生ずるか否かについて,十分配慮する必要があるとしても,浚渫用グラブバケットの上記特性とは直接関連しない,対象物を掬い取って移動させるという両目的に共通する用途に係る技術について,一律に適用を否定することは相当ではない。
イ 本件構成1及び2の技術的意義等について
本件審決は,荷役用グラブバケットに係る本件構成1及び2を,浚渫用グラブバケットに係る引用発明1に適用することを否定する。しかしながら,前記1(4)アによると,本件発明は,シェルを爪無しの平底幅広構成とするとともに,本件構\成1及び2を採用することにより,従来の丸底爪付きグラブバケットと比較してバケット本体の実容量が大きく,かつ,掴み物の切取面積を大きくして掴みピッチ回数を下げることにより作業能率を高めるとともに水の含有量を減らし,しかも掘り後が溝状とならずにヘドロを完全に浚渫することが可能\となるという作用効果を実現したものであって,本件構成1及び2は,むしろバケットの本体の実容量及び掴み物の切取面積を大きくすることを実現するために採用された構\成であるということができる。また,証拠(甲25,甲32の3)によれば,本件リーフレットに記載された本件製品の図面及び主要寸法から,本件製品は本件構成1及び2を有するものと認められるところ,被告光栄は,荷役用グラブバケットである本件製品を,浚渫用グラブバケットとして実際に使用している状況を撮影した写真を本件広告に掲載した上で,本件製品の製品名(「グラブバケット(WS型)」)を明記していることが認められる。したがって,引用発明1に,引用例3が開示する本件構\成1及び2を適用することについて,動機付けが存在する一方,阻害事由を認めることはできない。

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平成24(行ケ)10129 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月17日 知的財産高等裁判所

   知財高裁は、無効理由無しとした審決を取り消しました。関連する侵害訴訟で104条の3で権利公使不能と判断されています。\n
 前記(イ)ないし(オ)を総合すれば,交通事故の発生前後の所定時間にわたって車両の挙動に係る情報を収集,記録すること,車両に設けられた加速度センサーが検出する加速度が所定の閾値を超えるか否かやエアバッグ作動信号の有無に代えて,車両の加速度等が所定の閾値を超えたか否かによって交通事故が発生したか否かを判定する程度の事柄は,本件優先日当時における車両の挙動に係る情報を収集,記録する装置の技術分野の当業者の周知技術にすぎないということができる。そして,訂正発明1,2にいう「特定挙動」は前記のとおり「事故につながるおそれのある危険な操作に伴う車両の挙動」であって交通事故の発生を前提とするものではない(交通事故が発生しない場合も含む)が,訂正明細書の段落【0030】,【0034】,【0050】,図2,3等の記載によれば,訂正発明1,2にあっても,例えばセンサ部から得られる角速度等のデータが所定の閾値を超えたか否かによって「特定挙動」の有無が判定されるから,装置の機能の面に着目すれば,訂正発明1,2において「特定挙動」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構\成は,上記周知技術において「交通事故」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構成と実質的に異なるものではないということができる。加えて,上記周知技術と甲3発明とは,属する技術分野が共通し,前者を後者に適用するに当たって特段障害はないから,本件優先日当時,かかる適用を行うことにより,当業者が訂正発明1,2にいう「特定挙動」の発生前後の所定時間分の車両の挙動に係る情報を収集,記録する構\成に想到することは容易であるということができる。さらに,甲第4号証にも,車両内部のセンサから得られた横加速度等の情報から,運転に係る要因による異常又は異常に近い状況の発生の有無を認定し,かかる状況の発生前後の所定時間分の車両の挙動に関する情報を収集,記録する技術的事項が開示されているところ(前記(ア)),上記と同様に装置の機能面の共通性に着目すれば,上記の結論に至ることが可能\である。
エ 以上によれば,甲3発明に,「特定挙動」の発生前後の車両の挙動に係る情報を収集する条件を記録媒体に記録,設定する甲1発明と,「特定挙動」に相当する一定の契機(交通事故等)の発生前後所定時間分の車両の挙動に係る情報収集をする甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明1の相違点に係る構成(「特定挙動」発生前後の車両の挙動に係る情報を所定時間分収集するための収集条件に適合する挙動の情報を記録媒体に記録,設定する構\成)に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。オ そして,審決がした甲3発明と訂正発明1の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明1は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明1に関して理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。
・・・
イ そうすると,甲第2号証には,自動車用イベント(事象)記録装置(ERA)において,コンピュータ装置及び着脱可能なRAMカード(20)を用いて,前方間隔,警告閾値や,自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータを設定する発明すなわちRAMカードに記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータをERAに適用する発明(甲2発明)が記載されているということができる。ここで,甲2発明は,車両の挙動に関する情報を収集,記録する装置に関するもので,甲3発明と技術分野が共通する。そして,コンピュータ装置に処理を実行させて,着脱可能\なRAMカード等の記録媒体に記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータを上記収集・記録装置に適用する程度の事柄であれば,甲2発明の技術的課題である事故分析に有用な情報を記録するブラックボックス的機能を有する,車両の挙動に係る情報の記録装置(甲第2号証の段落【0001】〜【0007】)とは不可分のものではなく,甲第1ないし3号証に接した当業者であれば,「スピードの出し過ぎや急発進・急制動の有無乃至その回数を予\め設定された基準値を基に自動判定し,また走行距離を用途別(私用,公用,通勤等)に区分して把握してドライバーの運転管理データを得るシステムを提供する」こと等を技術的課題とする甲3発明に,甲2発明を適用する動機付けがあると解して差し支えない。 ウ したがって,甲3発明に甲1発明,甲2発明と甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術(前記(1)ウ(カ))を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明2の相違点に係る構成に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。そして,審決がした甲3発明と訂正発明2の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明2は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明2に関しても理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。なお,無効理由4には甲第2号証が引用例として明示的に挙げられていないが,審決は,原告が審判請求で証拠として挙げたのに応じて,甲第2号証も引用例として取り上げており(20,21頁),本件訴訟で,当事者双方ともにこの審決判断を前提にして,審決の判断の誤りの有無を主張しているので,上記のように甲第2号証も引用例(副引用例)に加えて訂正発明2の上記相違点に係る判断に至ることができるというべきである。\n

◆判決本文

◆関連事件はこちらです。平成22年(ワ)第40331号

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平成24(行ケ)10129 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月17日 知的財産高等裁判所

   知財高裁は、無効理由無しとした審決を取り消しました。関連する侵害訴訟で104条の3で権利公使不能と判断されています。
 前記(イ)ないし(オ)を総合すれば,交通事故の発生前後の所定時間にわたって車両の挙動に係る情報を収集,記録すること,車両に設けられた加速度センサーが検出する加速度が所定の閾値を超えるか否かやエアバッグ作動信号の有無に代えて,車両の加速度等が所定の閾値を超えたか否かによって交通事故が発生したか否かを判定する程度の事柄は,本件優先日当時における車両の挙動に係る情報を収集,記録する装置の技術分野の当業者の周知技術にすぎないということができる。そして,訂正発明1,2にいう「特定挙動」は前記のとおり「事故につながるおそれのある危険な操作に伴う車両の挙動」であって交通事故の発生を前提とするものではない(交通事故が発生しない場合も含む)が,訂正明細書の段落【0030】,【0034】,【0050】,図2,3等の記載によれば,訂正発明1,2にあっても,例えばセンサ部から得られる角速度等のデータが所定の閾値を超えたか否かによって「特定挙動」の有無が判定されるから,装置の機能の面に着目すれば,訂正発明1,2において「特定挙動」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構\成は,上記周知技術において「交通事故」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構成と実質的に異なるものではないということができる。加えて,上記周知技術と甲3発明とは,属する技術分野が共通し,前者を後者に適用するに当たって特段障害はないから,本件優先日当時,かかる適用を行うことにより,当業者が訂正発明1,2にいう「特定挙動」の発生前後の所定時間分の車両の挙動に係る情報を収集,記録する構\成に想到することは容易であるということができる。さらに,甲第4号証にも,車両内部のセンサから得られた横加速度等の情報から,運転に係る要因による異常又は異常に近い状況の発生の有無を認定し,かかる状況の発生前後の所定時間分の車両の挙動に関する情報を収集,記録する技術的事項が開示されているところ(前記(ア)),上記と同様に装置の機能面の共通性に着目すれば,上記の結論に至ることが可能\である。
エ 以上によれば,甲3発明に,「特定挙動」の発生前後の車両の挙動に係る情報を収集する条件を記録媒体に記録,設定する甲1発明と,「特定挙動」に相当する一定の契機(交通事故等)の発生前後所定時間分の車両の挙動に係る情報収集をする甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明1の相違点に係る構成(「特定挙動」発生前後の車両の挙動に係る情報を所定時間分収集するための収集条件に適合する挙動の情報を記録媒体に記録,設定する構\成)に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。オ そして,審決がした甲3発明と訂正発明1の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明1は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明1に関して理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。
・・・
イ そうすると,甲第2号証には,自動車用イベント(事象)記録装置(ERA)において,コンピュータ装置及び着脱可能なRAMカード(20)を用いて,前方間隔,警告閾値や,自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータを設定する発明すなわちRAMカードに記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータをERAに適用する発明(甲2発明)が記載されているということができる。ここで,甲2発明は,車両の挙動に関する情報を収集,記録する装置に関するもので,甲3発明と技術分野が共通する。そして,コンピュータ装置に処理を実行させて,着脱可能\なRAMカード等の記録媒体に記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータを上記収集・記録装置に適用する程度の事柄であれば,甲2発明の技術的課題である事故分析に有用な情報を記録するブラックボックス的機能を有する,車両の挙動に係る情報の記録装置(甲第2号証の段落【0001】〜【0007】)とは不可分のものではなく,甲第1ないし3号証に接した当業者であれば,「スピードの出し過ぎや急発進・急制動の有無乃至その回数を予\\め設定された基準値を基に自動判定し,また走行距離を用途別(私用,公用,通勤等)に区分して把握してドライバーの運転管理データを得るシステムを提供する」こと等を技術的課題とする甲3発明に,甲2発明を適用する動機付けがあると解して差し支えない。 ウ したがって,甲3発明に甲1発明,甲2発明と甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術(前記(1)ウ(カ))を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明2の相違点に係る構成に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。そして,審決がした甲3発明と訂正発明2の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明2は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明2に関しても理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。なお,無効理由4には甲第2号証が引用例として明示的に挙げられていないが,審決は,原告が審判請求で証拠として挙げたのに応じて,甲第2号証も引用例として取り上げており(20,21頁),本件訴訟で,当事者双方ともにこの審決判断を前提にして,審決の判断の誤りの有無を主張しているので,上記のように甲第2号証も引用例(副引用例)に加えて訂正発明2の上記相違点に係る判断に至ることができるというべきである。\n

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平成23(行ケ)10320 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月27日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、動機づけ無し、阻害要因有りとして、取り消されました。
 審決は,相違点1に関して,引用発明において,本願発明のように,メモリにアクセスするアドレスを含む命令ポインタを,全て命令トレースコントローラに送っておき,不連続なアドレスを示す制御信号により命令トレースコントローラによって選択するようにすることは当業者が容易になし得たことであると認定,判断する。しかし,審決の上記認定,判断には,誤りがある。・・・そもそも,引用発明は,上記のとおり,分岐先アドレスを出力することで,出力される実行情報の量を抑制することを目的とするものであるから,引用発明において,この目的を達成することが可能なアドレス計算部の出力する分岐先アドレスを用いるのに代えて,実行する命令のアドレス全てを出力するとの構\成に至る動機付けがない。むしろ,引用文献1の上記記載によれば,引用発明は,内蔵キャッシュがヒットしている場合,命令の実行状況がマイクロプロセッサのアドレスバスやデータバスに出力されない構成である上,常にマイクロプロセッサの実行情報をプロセッサの外部に出力することは,バスの競合が発生し,マイクロプロセッサの性能\の低下を招くとの認識を前提としており,引用発明において,実行する命令のアドレス全てを出力するように構成することには,阻害事由があるといえる(なお,本願発明は,命令ポインタレジスタから出力され,CPUによって実行されるアドレス(命令ポインタ)のうち,命令トレースに必要な不連続アドレス(分岐先アドレス)のみを,アドレスの不連続を示す制御信号を用いて抽出するものである。これに対し,引用発明においては,命令実行部がアドレス計算部を備え,分岐先アドレスを計算して出力するが,分岐が発生しない場合には,命令プリフェッチ部10において,次サイクルにおいて実行する命令のアドレスが計算され,命令キャッシュ内にある命令が読み出されるものであって,アドレス計算部から出力されるのは,不連続な分岐先アドレスのみであり,CPUによって実行される命令のアドレス全てを出力するものではないから,引用発明におけるアドレス計算部は,本願発明における命令ポインタレジスタに対応するものともいえない。)。これに対し,審決は,本願発明において,制御信号によって不連続であることが通知されたアドレス以外は,命令トレースコントローラで何ら使用されることなく,捨てられるだけであり,全ての命令ポインタを命令トレースコントローラに送ることによって格別の効果を生ずるものではないとして,相違点1は格別のものではないと認定,判断するが,不連続でないアドレスが利用されないからといって,引用発明から本願発明を容易に想到できたとはいえない。以上によれば,引用発明において,本願発明のように,メモリにアクセスするアドレスを含む命令ポインタを,全て命令トレースコントローラに送っておき,不連続なアドレスを示す制御信号により命令トレースコントローラによって選択するようにすることは当業者が容易になし得たことであるとの審決の認定,判断には,誤りがある。\n

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平成23(行ケ)10358 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年08月08日 知的財産高等裁判所

 本件発明の事実認定が誤りであるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 ア 本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している構成(解釈1)と2つのみ有している構\成(解釈2)の2つの解釈があり得るとした上,解釈1の場合の相違点3は,容易に想到することができると判断した。イ しかしながら,そもそも,特許請求の範囲には,「2つの半導体スイッチ」と記載され,本願明細書の発明の詳細な説明にも,2つの半導体スイッチ(トランジスタ)がある場合の実施例が記載されており,それを超える数の半導体スイッチがある場合についての記載はない。したがって,本願発明は,保護回路が2つの半導体スイッチを有しているのであって,保護回路が2つ以上の半導体スイッチを有していることを前提とする解釈1は,保護回路が2つのみの半導体スイッチを有していることを前提とする解釈2と別個に判断する必要がなく,あえて解釈1に基づく判断をした本件審決の認定判断は,その点において,誤りである。
 ウ 仮に,本願発明について,保護回路が半導体スイッチを2つ以上有していると解釈したとしても,その場合の相違点3の判断については,以下のとおり,誤りがある。(ア) 本願発明は,前記1のとおり,励磁電流の遮断によって生じる励磁巻線に誘導される逆電圧を「過電圧」として保護しようとするものではなく,発電機の負荷が極めて迅速に低減される動作状態において,発電機の出力電圧に発生するロード・ダンプ電圧を「過電圧」として迅速に低下(保護)させるものである。すなわち,本願発明の「過電圧保護」は,発電機として動作するのに必要な励磁回路の電流を遮断することによって,発電機の出力電圧を下げる作用を奏するものと解すべきである。これに対し,引用発明は,前記2のとおり,高速回転時や低負荷時にもバッテリの充電電圧以上に直流発電電圧がならないように逆方向に界磁巻線電流を流すように制御し保護するものである。(イ) 本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している構成(解釈1)があり得るとした上,解釈1の場合の相違点3は,容易に想到することができたと判断した。そして,被告は,引用発明は,通常動作時の発電機の界磁側の磁場の制御が目的であって,発電機の負荷開放時における発電機出力の過電圧に対処することを目的としておらず,過電圧保護は,コイルに並列にダイオードを接続することで対処することが技術常識であると主張する。しかしながら,引用発明のように永久磁石を配置すると,界磁巻線電流を零にしても発電電圧が発生するため,一方向にのみ電流を流す構\成では高速回転時や低負荷時に発電電圧が上昇する危険がある。そこで,高速回転時や低負荷時にもバッテリの充電電圧以上に直流発電電圧がならないように逆方向に界磁巻線電流を流すように制御し保護するものであるから,被告の上記主張は理由がない。そして,仮に引用発明に被告のいう技術常識を適用し,界磁巻線(又は半導体スイッチ)に並列にダイオードを接続して,界磁巻線に発生する過電圧を急速に低減させて,界磁巻線に流れる電流を遮断するように構成しても,永久磁石によって生じる磁界により発電機出力が発生するから,発電機の出力電圧の過電圧を低減させることはできず,本願発明にいう「過電圧保護」にはならない。エ よって,解釈1に基づく本件審決の判断は,誤りである。
(2) 解釈2に基づく判断について
ア 本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している構成(解釈1)と2つのみ有している構\成(解釈2)の2つの解釈があり得るとし,解釈2の場合の相違点3(本願発明は,励磁巻線に,2つの半導体スイッチを有し,第1の半導体スイッチ及び前記励磁巻線の直列回路に対して並列に第1のダイオードが配置され,さらに第2の半導体スイッチ及び前記励磁巻線の直列回路に対して並列に第2のダイオードが配置された保護回路が配属され,電気的負荷が迅速に低減する際に前記励磁巻線に蓄積された磁気エネルギが電気エネルギに変換されてバッテリへフィードバックされ,前記励磁巻線が遮断されるのに対し,引用発明は,そのような構成とされていない点)は,容易に想到することができると判断した。そして,被告は,引用発明においても,過電圧保護はコイルにダイオードを接続することで対処する技術常識の下,解釈2に基づいてスイッチング素子の個数を2個として周知技術(乙1〜3)のように第1,2のダイオードから構\成されるフィードバック回路とすることは当業者が容易に考えられたことである旨主張する。イ しかしながら,引用発明の「4つの半導体スイッチを有するH型ブリッジ回路」を「2つの半導体スイッチを有する回路」に変更すると,増磁電流と減磁電流を流すために用いられるH型ブリッジ回路とした引用発明の基本構成が変更され,減磁電流を流すことができなくなり,引用発明の課題を解決することができなくなるから,仮に被告主張の周知技術があったとしても,このような変更には阻害要因がある。そして,4つのスイッチング素子を用いる引用発明に対して,スイッチング素子の数を変更することなく周知例2に記載された周知技術を適用すると,4つのスイッチング素子に4つのダイオードが逆方向に並列接続される構\成になり,解釈2に係る本願発明(保護回路が半導体スイッチを2つのみ有しているもの)の構成とならないことは明らかである。\n

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平成23(行ケ)10389 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟 平成24年07月25日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。実用新案権ですが、花芯のみから芳香を発散させるという考案が対象です。
 以上の記載事項によれば,従来,芳香剤発散容器の気散管は,芳香剤を上昇浸透し発散させる機能を有する繊維素材が棒状のまま使用されていたため,その外観から外的美観を損なうという問題があったところ,引用考案は,気散管の上端部をすそ広がり状に形成し,その上端部を着色することによって人造花芯,すなわち,花の一部として装飾するとともに,キャップに花弁等を取り付けることによって,外的美観をもたらすものである。そして,引用考案は,気散管の上端部をほぐすことによって形成された花芯のみから芳香を発散させることを技術的思想の中核とするものということができる。 
ア 前記2によれば,引用考案の気散管は,芳香剤を上昇浸透させて上端部に導き,すそ広がり状に形成された上端部から芳香を発散させ,当該上端部を着色し人造花芯(人工花芯)とし,花の一部として装飾する,という機能を有する。気散管は,中空のノズル内に収容され,キャップに取り付けられた花弁等と接することはない。芳香の発散は,専ら気散管の上端部のみによって行われ,花弁の材質にかかわりなく,花弁からは芳香が発散されない。このように,引用考案は,芳香剤は気散管から気散するものであって,花形の形態から気散するものではない。これに対し,ソ\ラの木の皮で形成されたソラフラワーは,花全体に芳香剤が浸透して,花全体から芳香が発散されるものと解され,ソ\ラの木の皮から成る花弁部の細かい組織により,液体芳香剤が緩やかな速度で根本から先端の方へ浸透していくのであるから,芳香を発散しない引用考案の花弁とは機能的に相違する。
 イ また,引用考案において,花の一部となる人造花芯は,気散管を形成する繊維をほぐして線状化することによって形成されるものであるところ,このような手法では,繊維をほぐしても線状にしかならず面状にはできないから,花弁のような面状のものを形成することはできない。このように,引用考案は,気散管の上端部の繊維をほぐして花の一部とすることを前提とし,気散管の上端部をほぐすことによって形成された花芯のみから芳香を発散させることを技術的思想の中核とするものである。したがって,引用考案においては,芳香の発散も,花の一部から行われるにとどまり,花弁や花全体から芳香を発散させるという技術的思想は存在しない。
 ウ しかも,引用考案における気散管が,花弁等と接しないように構成されているのは,気散管を挿抜する際,気散管中の芳香剤が花弁等に付着しないようにするという積極的な理由に基づくものであり,そのために,気散管を敢えて中空のノズル内に収容しているものと認められる。花弁への芳香剤の付着を防止することは,花弁を含む花全体からの芳香の発散を否定することを意味するのであるから,この点において,花弁を含む花全体から芳香を発散させるソ\ラフラワーを適用することの阻害要因が存在する。
 エ 以上のように,機能及び技術的思想が異なることに照らせば,仮にソ\ラフラワーが周知であったとしても,これを引用考案に適用することの動機付けがないばかりか,むしろ阻害要因があるというべきである。したがって,本件考案1は,引用考案に基づいてきわめて容易に想到できたものということができず,これをきわめて容易に想到できるとした本件審決は誤りである。

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◆関連案件はこちらです。平成23年(行ケ)第10390号

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平成23(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年07月17日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、阻害要因ありとして破棄されました。
 上記(2)のとおり,刊行物1記載の発明は,ストロボライト20を間欠発光させると同時に,ゴルフクラブ34及びゴルフボール13を,プレイヤー1の正面前方及び上方の2台のCCDカメラ14,15によって高速多重撮影するものであるところ,ゴルフクラブ34又はゴルフボール13に,刊行物3記載の再帰反射体を取り付けた場合,ストロボライト20の間欠発光を再帰反射体によって反射させ,その反射光を2台のCCDカメラ14,15で高速多重撮影することになる。ここで,上記(4)ウのとおり,再帰反射体は,光源から入射した光を,この光源に完全に一致する方向,及び光源の近傍周囲の方向に反射させるものであるから,ストロボライト20の反射光を正面前方のCCDカメラ14に入射させようとすると,正面前方のCCDカメラ14の近傍にストロボライト20を配置することになるが,そのようにすると,上方のCCDカメラ15は,ストロボライト20の近傍周囲には配置されていないから,再帰反射体からの反射光を上方のCCDカメラ15に入射させることはできない。そこで,ストロボライト20の反射光を上方のCCDカメラ15に入射させようとして,このCCDカメラ15の近傍にストロボライト20を配置させると,今度は,正面前方のCCDカメラ14が,ストロボライト20の近傍周囲には配置されなくなるから,再帰反射体からの反射光を正面前方のCCDカメラ14に入射させることはできなくなる。そして,ストロボライト20を,正面前方のCCDカメラ14の近傍以外の位置や上方のCCDカメラ15の近傍以外の位置に配置すると,再帰反射体からの反射光は,2台のCCDカメラ14,15のいずれにも入射させることはできない。そうすると,刊行物1記載の発明のゴルフボール13又はゴルフクラブ34に再帰反射体を取り付けた場合に,ストロボライト20をどのように配置しても,再帰反射体からの反射光を2台のCCDカメラ14,15の両方に入射させることはできないし,また,再帰反射体を採用したことによって,対象物と他の画像とのコントラストが更に強調されるため,安価な構成で検出精度を高めることが可能\となるという本願発明の効果(段落【0008】)も得られない。なお,ストロボライトの配置する場所によっては,一方のCCDカメラに再帰反射体からの反射光が入射し,かつ,他方のCCDカメラに再帰反射体からの微弱な光が入射するようにできたり,また,両方のCCDカメラに再帰反射体からの微弱な光が入射するようにできるかもしれないが,再帰反射体からの微弱な光がCCDカメラに入射しても,対象物と他の画像とのコントラストは強調されないから,再帰反射体を採用したことによる上記効果は得られない。イ したがって,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の技術を適用することには,阻害要因があるといえる。よって,相違点3について,「刊行物1記載の発明において,対象物の位置の検出を容易に行うために,刊行物3記載の技術の対象物が『再帰反射体を含む』事項を適用することは,当業者が容易に想到し得たことである」(9頁18〜21行)とした本件審決の判断は誤りである。

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平成23(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月05日 知的財産高等裁判所

 技術的思想に反するもので本件発明の構成に改める発想が生じるはずがないとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 前記のとおり,引用発明のガスケット(6)に設けられた突条部17の役割は,その弾性力(反発力)で,可動側板(可動形側板4)を歯車端面側に押し付けることにあり,突条部17と可動側板の間に作動液(高圧流体)が侵入して,液圧でガスケットをケーシング(1)に押し付ける(押し上げる)こと等は想定されていないが,本願発明のガスケット又は可動側板に設けられる「凹欠」は,可動側板の溝の底部の隅(隅部)の「Rをとっている部位」すなわち曲面状の部位(部分)にまで達するように,例えば溝状の部分を設け,この部分に作動液が侵入できるようにして,ガスケットが作動液によって低圧側の溝壁に押し付けられたときでも,作動液の液圧で,ガスケットをケーシングに向かって押し付け,また可動側板を歯車端面に向かって押し付けて,可動側板の圧力バランス及び歯車端面に対する封止機能(シール)を確保できるようにするものである。そうすると,本願発明のガスケットの「Rをとっている部位」や「凹欠」が果たす機能\と引用発明のガスケットの突状部17等が果たす機能は異なり,引用発明のガスケットでは,可動側板(可動形側板4)の溝底隅部でガスケットと可動側板との間に作動液が侵入して可動側板の圧力バランスをとることが想定されていない。したがって,引用発明ではガスケットと可動側板(可動形側板4)との間の隙間10が可動側板の溝底隅の曲面状の部位(Rをとっている部位)にまで及ぶことが予\定されていない。また,刊行物1の8頁6ないし13行には,「前記隙間10内に導入された高圧流体の圧力によって,前記ガスケット6の帯状部16がボディ7の端壁7bの内面7cに押し付けられ固定されるので,高圧領域Hと低圧領域Lとの圧力差によってガスケット6が低圧領域側へはみだすという不都合も有効に防止されるものであり,該ガスケット6の耐久性を向上させることができる。」との記載があるから,引用発明のガスケット(6)と可動側板(可動形側板4)の構成には,作動液の液圧でガスケットの低圧側の側面を可動側板の溝の側面(内側面)に押し付け密着させて固定することで,ガスケットのそれ以上の低圧側へのはみ出しを有効に防止するという機能\があるということができる。ここで,ガスケットがかかる機能を発揮するためには,可動側板の溝の側面と底面が成す隅部に向かってガスケットが密着するように押し付けられるのが好ましく,上記溝の底面から離れるように,すなわち上記隅部付近でガスケットが可動側板から離れるように押し上げられると,ガスケットが上記溝の低圧側側面を超えてはみ出すおそれが生じるし,また,上記隅部付近でガスケットが可動側板を歯車端面に向かって押し付ける力を得る必要があるとはいえない。 そうすると,引用発明のガスケットと可動側板の構\成を,可動側板の溝の低圧側側面と底面が成す曲面状の隅部にまで作動液が侵入して可動側板の圧力バランスをとることができるよう,ガスケットと可動側板との間の隙間10が上記の曲面状の部位(Rをとっている部位)にまで及ぶように改めることは,突条部17の機能を害し,またガスケットの低圧側へのはみ出しを防止するという技術的思想に反するものであるから,上記構\成に改める発想が生じるはずはなく,当然のことながら当業者には容易に想到できる事柄ということはできない。
・・・
 また,本願発明のガスケットに相当する乙第3号証のリップシール(24)は,本願発明の可動側板に相当するサイドプレート(12)ではなく,反対側のカバー(14)に装着され,リップシールとサイドプレートの間に設けられたバックアップ(17)を介してサイドプレートを押し付けるもので,本願発明のガスケット及び可動側板と構成が相当異なるから,乙第3号証に記載された技術的事項を根拠に,本願発明のガスケット等の構\成が当業者が容易に行い得る設計変更(設計的事項)の範疇に属するということはできない。乙第4号証の図2,4からも,ガスケットに設けられた凹部の範囲及び形状は必ずしも明確でなく,その余の明細書中の記載でもガスケットに設けられた凹部の技術的意義が明らかでないから,上記図等に記載された技術的事項を根拠に,本願発明のガスケット等の構成が当業者が容易に行い得る設計変更(設計的事項)の範疇に属するということはできない。\n

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平成23(行ケ)10056 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年09月28日 知的財産高等裁判所

 阻害要因ありとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 反転構造を持つ基板を製造するに際し,MgOを添加して光透過率を向上させることや,Mgを添加して,非線形光学定数及び電気光学特性を低下させずに小さな分極反転電圧を得ることは,甲3及び甲4にみられるように周知技術といえる。そして,審決は,引用発明において,本願補正発明の相違点1に係る構\成を備えることは,上記の周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと判断した。しかし,前記(ア)のとおり,引用発明は,Ta過剰で定比組成に近いLT単結晶へのMg又はMgOの添加により生じる前記問題点i)及びii)を解決すべき課題とし,Li過剰で定比組成に近いLT単結晶を用いることで,Mg又はMgOを添加せずに済むようにし,上記問題点を解決したものである。このように,引用発明が,Mg又はMgOの添加によって発生する問題点の解決を課題としていることからすれば,LT単結晶がTa過剰の組成かLi過剰の組成かにかかわらず,定比組成に近いLT単結晶にMg又はMgOを添加することは,上記課題解決の阻害要因になると解するのが自然であって,被告が主張するように,Ta過剰の組成かLi過剰の組成かによって区別して阻害要因を検討するのは不自然である。また,甲3及び甲4には,定比組成に近いLT単結晶からなる周期的分極反転構造を持つ基板を製造するに際し,Mg又はMgOを添加することが記載されているにとどまり,それにより前記問題点i),ii)が生じ得ること及びその解決方法については,記載も示唆もされていない。そうすると,引用発明において,上記の周知技術を適用し,Ta過剰で定比組成に近いLT単結晶又はLi過剰で定比組成に近いLT単結晶にMg又はMgOを添加することには,阻害要因があるといわざるを得ず,引用発明において,相違点1に係る構成とすることが,上記の周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであると認めることはできない。(ウ) なお,被告は,審決の「引用例全体の記載をみても,引用例にはMgを添加してはならない旨の記載はない。」との記載について,「引用例にはMgを添加してはならない旨の記載の事実がないことを指摘するとともに,引用発明として認定したタンタル酸リチウム単結晶全体についてMg添加が除外されているわけではないことを示した」旨主張する。しかし,前記(2)アの記載からすれば,引用例の記載に接した当業者は,Ta過剰で定比組成に近いLT単結晶へのMg又はMgOの添加により生じる問題点i)及びii)を解決するために,Li過剰で定比組成に近いLT単結晶を用いることで,Mg又はMgOを添加せずに済むことに想到するものと解するのが自然かつ合理的であるから,引用例の記載から「引用発明として認定したタンタル酸リチウム単結晶全体についてMg添加が除外されているわけではない」とする被告の主張は合理的でなく,採用することができない。

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平成21(行ケ)10107 審決取消請求事件 特許権 平成23年10月11日 知的財産高等裁判所

 訂正後の発明が進歩性がないとして訂正を認めた審決を取り消しました。
 これによれば,同一のプライマー上にある特定の塩基配列を持つ領域と相補的な塩基配列を持つ領域とが,自己アニールを優先的に行うためには,両者の距離が不必要に離れないほうが望ましく,また,両者があまりにも接近している場合には望ましい状態のループの形成を行うのが不利になるという技術的知見に基づき,プライマーの領域Yの塩基を10〜70とすることによって,新たなプライマーのアニールと,それを合成起点とする鎖置換を伴う相補鎖合成反応が円滑に開始できることが開示されている。すなわち,プライマーの領域Yに着目し,この塩基を10〜70とすると,効率的に核酸を合成できることが開示されており,引用例3の実施例に具体的に記載される,Y=16やY=23のプライマーは,上記のような効率的な核酸の合成ができるプライマーとして開示されているといえる。一方,引用例1に記載された核酸の増幅方法も,鋳型の核酸にアニールし,プライマー伸長反応をすると自己アニールによってループを形成するようなプライマーを使用する方法であり,引用例1の実施例において使用されているプライマーは,特定の配列を有するものであって,配列に含まれる塩基数の観点からみると,X=20,Y=0のものである。そうすると,引用発明1及び引用発明3は,いずれもループを形成するプライマーを使用する核酸の増幅方法であって,核酸の増幅方法において効率的な反応を行うことは,当業者にとって自明の技術課題であるから,より効率的な反応を行うこと目的として,引用発明1に開示されたプライマーの構成である,X=20,Y=0のものに替えて,引用発明3に開示された効率的な反応が可能\\なプライマーの要件,すなわち,「10≦X≦50」,「10≦Y≦70」であるプライマーや,Y=16(このときX=23,Y′=2),Y=23(このときX=19,Y′=2)という要件を満足するプライマーの構成を採用することは,当業者が容易になし得ることである。なお,引用例1には,引用例3に記載されるような要件を満足するプライマーの使用を阻害するような記載は認められない。したがって,訂正発明1は,引用発明1及び引用発明3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。\n

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平成22(行ケ)10404 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年09月08日 知的財産高等裁判所 

 進歩性なしとした無効審決が取り消されました。経緯は複雑で、第2次訂正審決まであります。
 前記のとおり,引用発明は穴明機の制御装置に係る発明であり,周知例1ないし3並びに本件審決が指摘した甲12及び13のいずれにも,本件発明に開示された,被加工物の材質及び板厚に応じてダイの成形位置を変更,補正するパンチプレス機の制御装置に関連する周知技術が開示されていないことは,前記のとおりであるから,穴明機の制御装置に係る引用発明に,上記周知例等を適用しても,パンチとダイという複数の成形金型を制御の対象とし,パンチのみならずダイの成形位置を変更,補正し,パンチとダイとの相対的な制御タイミングを制御パラメータとして規定する本件発明に想到することは容易とはいえない。しかも,当業者が,ドリルしかなく制御パラメータが極めて少ない引用発明の穴明機を出発点として,わざわざ,パンチとダイという複数の成形金型を制御の対象とし,パンチのみならずダイの成形位置を変更,補正し,パンチとダイとの相対的な制御タイミングを制御パラメータとして規定するパンチプレス機における成形金型に置き換える動機付けはないから,引用発明をパンチプレス機に適用することが困難でないとはいえない。なお,本件審決は,相違点1の検討において,甲5及び6を挙げて「打抜加工も可能なパンチプレス機」の制御装置と,「穴明機」の制御装置は,工作機械の数値制御装置である点で共通し,同じような制御方法であれば相互に適用可能\であることは技術常識であったと判断し,被告も,穴明機の制御装置とパンチプレス機の制御装置とが本質的に異ならないものとして,乙2ないし7を提出する。しかし,甲5及び6,乙2ないし7のいずれにも,被加工物の材質及び板厚に応じてダイの成形位置を変更,補正することは記載されていないし,穴明機から出発して,パンチプレス機の制御装置に想到することには,阻害要因があるといわざるを得ない。
・・・・しかしながら,本件発明に係るパンチ及びダイを備えたパンチプレス機の成形金型の制御装置は,成形金型の金型番号に対応してプレス動作を示すプレスモーション番号を設定・記憶し,そのプレスモーション番号ごとに設定された詳細設定データを生成するものであるから,複数の成形金型を使用する際に,共通のプレスモーションがあれば,そのプレスモーション分,詳細設定データを減らすことができ,またその分データの修正の作業量も少なくなる。そして,新たな成形金型を追加する場合でも,既に利用できるプレスモーションがある場合には,そのデータ入力作業が不要になるのであって,成形金型が2つあることによる制御パラメータの増大に加え,パンチとダイのそれぞれについて,他方との相対的な制御タイミングを制御パラメータとして規定する必要があるパンチプレス機において,データ入力作業が不要になることは,格別の作用効果と評価すべきである。ウ また,本件審決は,同一の成形加工を行う金型の保有個数を減らせるということをもって格別の作用効果であるとはいえないと判断した。しかしながら,従来技術において,複数個の金型を準備しておく必要があってコスト高になるほか,収納部分が必要以上に多くなって生産量に限界があったことが本件発明の課題の1つであったのであり(【0003】),本件発明の特許請求の範囲に記載された構成をとることにより,被加工物の多種多様な成形加工や打抜加工のために予\め準備すべき成形金型の数が少なくてすむことになり,金型の調整や試し打ち確認の作業も少なくできる効果を奏するものであり,同一の成形加工を行う金型の保有個数を減らせることによりランニングコストの低減が期待できることも,複雑なパンチプレス機にあっては,格別の作用効果ということができる。エ 本件審決は,金型の調整や交換などの段取り作業を不要にし,無人化・省人化運転が可能となり,生産性の向上を図ることができるものであるとしても,それは,引用発明に本件発明に係る構\成を適用することにより予測し得る作用効果であって,格別の作用効果とはいえないと判断した。しかしながら,そもそも,引用発明に係る穴明機にあっては,ドリルという一つの工具の上下移動のみを制御するものであり,パンチ及びダイといった複数の成形金型を同期制御することを本質とし,制御パラメータが極めて多いパンチプレス機と異なり,制御すべきパラメータが極めて少ないのであるから,パンチプレス機に係る本件発明において,上記のような効果を奏することは,予\測し得る作用効果とはいえない。

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平成22(行ケ)10357 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年07月19日 知的財産高等裁判所 

 引用発明の上記目的は実現できなくなるとの理由で、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 しかし,前記2のとおり,引用発明は,良好な飛び性能及び耐久性と良好な打感及びコントロール性とを同時に満足し得るゴルフボールを提供することを目的とし,コア表\面硬度をコア中心硬度よりも高くしコアの硬度分布を適正化すると共に,中間層硬度をコア表面硬度より高く,カバー硬度を中間層硬度より高く構\成して,ゴルフボールにおける最適の硬度分布を得ようとするものであるから,引用発明に引用例2に記載された事項を適用した場合,すなわち,引用発明のカバーに,該カバーより低い硬度の塗膜(ショアD硬度38)を形成した場合,塗膜形成前と塗膜形成後では,ボール全体の硬度分布は明らかに異なり(引用発明では,ボールのもっとも外側に位置するカバーの硬度が最も高く,次いで中間硬度,コア表面硬度,コア中心硬度の順に硬度が高く,これを最適の硬度分布としているのに対し,引用例2では,ボールのもっとも外側に位置する塗膜よりも,その内側の外装カバーの方が硬度が高いことになる。),塗膜形成前において最適化されていたボール全体の硬度分布は,塗膜形成後においても最適化されているとはいえなくなり,その結果,引用発明の上記目的は実現できないことになる。そして,塗膜形成後において引用発明の上記目的を実現しようとすると,改めてボール全体の硬度分布の最適化(再最適化)することになり,それによって,コア,中間層及びカバーの硬度は変更されるから,再最適化後のゴルフボールの構\成は,本願発明と同様の構成になるとはいえない。そうすると,本願発明は,当業者が引用発明,引用例2に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものとはいえない。なお,引用発明のカバーに該カバーより低い硬度の塗膜(ショアD硬度38)を形成しても,引用発明が元々有する特性はそのまま維持されたままで,塗膜を形成したことによる効果が追加されるだけであれば,硬度分布の再最適化を行う必要はないことになるが,前記のとおり,引用発明のカバーに該カバーより低い硬度の塗膜(ショアD硬度38)を形成することにより,引用発明が最適とした硬度分布が変化してしまう以上,引用発明が元々有する特性はそのまま維持されたままで,塗膜を形成したことによる効果が追加されるだけとは考えられないし,再最適化を行う必要がないということもできない。\n

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平成22(行ケ)10184 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年02月03日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。
 以上のとおり,引用例1及び2には,膨張弁のパワーエレメント部と樹脂製の弁本体の固定に当たり,弁本体の外周部にインサート成形した固着部材に雄ねじを,上端部が屈曲した筒状の連結部材の内側には雌ねじを,それぞれ形成して,両者をねじ結合により螺着させるという本件補正発明の相違点2に係る構成を採用するに足りる動機付け又は示唆がない。むしろ,引用発明は,それに先行する本件先行発明の弁本体が金属製であることによる問題点を解決するためにこれを樹脂製に改め,併せてパワーエレメント部と弁本体とを螺着によって固定していた本件先行発明の有する課題を解決するため,ねじ結合による螺着という方法を積極的に排斥してかしめ固定という方法を採用したものであるから,引用発明には,弁本体を樹脂製としつつも,パワーエレメント部と弁本体の固定に当たりねじ結合による螺着という方法を採用することについて阻害事由がある。しかも,本件補正発明は,上記相違点2に係る構\成を採用することによって,パワーエレメント部の固定に強度不足という問題が発生せず,膨張弁の動作に不具合が生じるおそれもなく,またその強度不足によって生ずる水分の侵入により不都合が生じるというおそれも発生しないという作用効果(作用効果1)を発揮することで,引用発明が有する技術的課題を解決するものである。したがって,当業者は,引用発明,本件オリフィス構成,甲8技術及び周知技術に基づいたとしても,引用発明について相違点2に係る構\成を採用することを容易に想到することができなかったものというべきである。
エ 被告の主張について
以上に対して,被告は,パワーエレメント部の弁本体への固定手段としてどのような手段を用いるかは当業者が適宜選択すべきことにすぎず,螺着という方法が周知技術であり,かしめ固定に様々な問題があることも技術常識であるし,引用例1の本件先行発明に関する記載が,本件先行発明における螺着の不具合を示しているにすぎないから,螺着という方法の採用自体を妨げるものではなく,当業者が,引用発明における固定手段としてかしめ固定に代えて螺着を採用することが容易にできた旨を主張する。しかしながら,ねじ結合による螺着及びかしめ固定にそれぞれ固有の問題があることが周知ないし技術常識であるとしても,引用発明は,そのような技術常識の中で,あえて本件先行発明が採用する螺着の問題点に着目し,これを解決するためにかしめ固定を採用したものである。すなわち,前記認定のとおり,引用例1は,本件先行発明が採用している螺着という方法を積極的に排斥している以上,相違点2に係る構成について引用発明のかしめ固定に代えて同発明が排斥している螺着という方法を採用することについては阻害事由があるのであって,これに反する被告の上記主張をもって,いずれも相違点2についての容易想到性に係る前記判断が妨げられるものではない。\n

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平成22(行ケ)10104 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年11月10日 知的財産高等裁判所

 阻害要因ありとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 引用発明1と引用発明2とその技術分野をみてみると,引用例1には,金属イオン封鎖剤組成物をその金属イオン封鎖組成物が硬表面に付着した汚れ自体に作用して洗浄する旨の記載はないのに対し,引用発明2は,アルカリと錯体形成剤とを硬表\面の洗浄のための有効成分として用いるものであるとの違いがあるが,上記(3)のとおり,金属イオン封鎖剤を含む洗浄剤組成物を硬表面の洗浄のための有効成分として用いることは周知技術であるということができるものであるから,引用発明1も,洗浄作用という技術分野に係る発明であって,引用発明2と技術分野を同じくするものということができる。
ウ しかしながら,引用発明2は,グリコール酸ナトリウムを組成物とする金属イオン封鎖剤組成物の発明ではなく,また,引用発明1も,その発明に係る金属イオン封鎖剤組成物には,グリコール酸ナトリウムが含まれているとはいえ,前記(1)ウのとおり,当該金属イオン封鎖剤組成物にとって,グリコール酸ナトリウムは必須の組成物ではなく,かえって,その必要がない組成物にすぎないのである。そうすると,一般的に,金属イオン封鎖剤を含む洗浄剤組成物を硬表面の洗浄のための有効成分として用いることとし,その際に引用発明1に引用発明2を組み合わせて引用発明1の金属イオン封鎖剤に水酸化ナトリウムを加えることまでは当業者にとって容易に想到し得るとしても,引用発明1の金属イオン封鎖剤組成物にとって必須の組成物でないとされるグリコール酸ナトリウムを含んだまま,これに水酸化ナトリウムを加えるのは,引用例1にグリコール酸ナトリウムを生成する反応式(2)の反応が起こらないようにする必要があると記載されているのであるから,阻害要因があるといわざるを得ず,その阻害要因が解消されない限り,そもそも引用発明1に引用発明2を組み合わせる動機付けもないというべきであって,その組合せが当業者にとって容易想到であったということはできない。

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平成22(行ケ)10068 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年11月08日 知的財産高等裁判所

 進歩性認定誤り無し、手続き違背もなしと判断されました。
 原告は,審決において新たに8つの文献が周知例として追加された,あるいは,審決と拒絶査定とで主たる公知文献が異なっていたにもかかわらず,原告に意見書を提出する機会が与えられなかったことは,手続違背に当たると主張する。(2) 平成5年法律第26号による改正前の特許法159条2項,50条は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合には,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない旨を規定する。その趣旨は,審判官が新たな事由により出願を拒絶すべき旨の判断をしようとするときは,出願人に対してその理由を通知をすることによって,意見書の提出及び補正の機会を与えることにあるから,拒絶査定不服審判手続において拒絶理由を通知しないことが手続上違法となるか否かは,手続の過程,拒絶の理由の内容等に照らして,拒絶理由の通知をしなかったことが出願人(審判請求人)の上記の機会を奪う結果となるか否かの観点から判断すべきである。(3) これを本件についてみるに,なるほど,拒絶査定には,拒絶理由通知書にて引用されていなかった引用例(以下「本件引用例」という。)が挙げられている。すなわち,拒絶理由通知書では,当時の請求項1及び2の発明と特開平3−235116号公報記載の発明とを対比して容易想到性判断をし,拒絶査定でもこの判断枠組みは維持されつつ,本件引用例が引用文献の一つとして付加された。原告はこの拒絶査定に対し,請求項を一つに絞り,前記第2,2の下線部分を付加する補正をするとともに拒絶査定不服の審判請求をした。その請求書で原告は「本願発明が特許されるべき理由」として,「(1)本願発明の説明」,「(2)補正の根拠の明示」,「(3)引用発明の説明」,「(4)本願発明と引用発明の対比」の主張をし,本願発明の特徴である第1〜第3の表示手段と関係する本件引用例の構\成を上記「(3)引用発明の説明」の項で掲げた上,「(4)本願発明と引用発明の対比」の項において,本件引用例の構成を中心にして,上記補正により付加された「第3の表\示手段」と対比主張し,この主張をもって審判請求が成り立つべき理由の中心に据え,さらに,「本願発明の特有の構成である,現況調査手段,電話発信手段及び通話中手段を同時に備える」構\成との関係についても付加しているが,その根拠については抽象的な理由を述べるにとどまっている。審決は,この審判請求書に基づいてなされたものであり,上記付加された補正部分の構成の容易想到性の判断が審判で審理されるべき中心点であることを念頭に置いて本願発明の容易想到性を判断していたであろうことは,上記の経緯から推認されるところである。なるほど,拒絶査定が引用している拒絶理由通知での引用公知文献と,審決で引用した主たる公知文献(本件引用例)とは異なっているが,本件引用例(甲10)は拒絶査定でも挙げられており,審判請求書で原告が主張として中心に据えたのは,本件引用例と対比しての本願発明(特に上記補正で付加された構\成について)の進歩性であった経緯にかんがみると,原告は審判請求時において,本願発明の容易想到性判断で対比されているのは本件引用例であったことを十分に認識していたものといえるのであるから,本件引用例を対比すべき主たる公知文献として本願発明の容易想到性判断をするに際して,改めて拒絶理由を通知しなかったとしても,原告にとって意見書の提出や補正の機会が奪われたということはできず,審判手続には,平成5年法律第26号による改正前の特許法159条2項が準用する同法50条に違反する手続違背があったとすることはできない。さらにいえば,審決は,本件引用例との対比において本願発明との間に相違点を8点認定している。このことは,審決が本件引用例を形式上主たる公知文献としたとはいえ,本願発明が多くの公知技術の組合せによって容易に推考し得たものであることを念頭に置いて判断したものということができるのであり,実質的な判断枠組みは拒絶査定から変化がなく,審判請求とともに補正がされたのに伴い,視点を変えて判断し直したと評価するのが相当である。また,原告は,審決において8つの周知例が付加された点についても主張しているが,これは本願発明が多くの技術を組み合わせた発明であることによるものであるし,上記説示のとおり,審決における実質的な判断枠組みは拒絶査定から変化がないものと評価すべきであるから,原告の上記主張も手続違背を裏付けるものとしては採用することができない。\n

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◆関連事件です。平成22(行ケ)10049

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平成22(行ケ)10038 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年09月15日 知的財産高等裁判所

 進歩性欠如なしとした審決が、阻害要因無しとして取り消されました。
 上記(3)のとおり,引用発明2には,本件特許の出願時点において,食品である納豆に通常含まれるビタミンK2の含有量を少なくすることで,血栓症の発生を予防する抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人にも安心して食することができる食品を提供するとの本件発明1と同様の課題及びその解決を図ることが示されているということができる。そうすると,ナットウキナーゼとビタミンK2とが含まれた納豆菌培養液を含むことを特徴とする液体納豆を含むことを特徴とする食品である引用発明1において,引用発明2を適用して,ビタミンK2の含有量を少なくしようと試みることは,当業者であれば容易に想到することができるということができる。引用発明1において,引用発明2に開示されている納豆に通常含まれるビタミンK2の含有量を少なくするとの課題の適用を阻害する事由を見いだすことはできない。なお,本件発明1における「納豆菌培養液またはその濃縮物」の技術的意義として,本件審決が認定するように,少なくとも納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣など通常の納豆菌培養液由来の種々の栄養分が有意な量含まれているものと解釈されるとしても,引用発明1も,納豆菌とその代謝産物である人体に有益な機能\\性物質とを含有する納豆菌培養液とからなることを特徴とする液体納豆を提供するものであるから,これに引用発明2を適用し,ビタミンK2の含有量を少なくしようと試みたものについても,納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣など通常の納豆菌培養液由来の種々の栄養分が有意な量含まれているものと認められ,上記のとおりの本件発明1における「納豆菌培養液またはその濃縮物」の技術的意義があるとしても,そのことをもって,上記の容易想到性の判断に影響を与えるものではない。

◆判決本文

◆こちらは、同特許に対する審取事件(平成22(行ケ)10240)ですが、こちらは無効でないとした審決維持です

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平成21(行ケ)10376 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年08月04日 知的財産高等裁判所

   進歩性なしとの審決が、動機づけがないとして取り消されました。
 先に指摘したとおり,本願発明の出願前において,照射野ランプが点滅することなどにより,X線撮影装置の作動状態を視覚上明らかにする技術は周知であった。しかしながら,本願発明及び引用発明は,X線撮影装置の作動状態ではなく,「撮影準備完了状態」を視覚的に認識することをその課題とするものであるところ,周知例1及び乙1文献により開示された周知技術は,いずれも照射野ランプの点灯状態の変化により,X線撮影装置の作動状態を視覚上明らかにするにとどまるものであって,照射野ランプによって「撮影準備完了状態」を視覚的に認識させることに関する技術は何ら開示されていない。周知例2についても,同様である。
イ 組合せの動機付けの有無について
引用発明は,操作者は,X線撮影時において,X線被曝を防ぐため,できるだけX線装置から離れた位置で撮影しようとすることを前提として,被検者に不安を与えることなく,操作者に撮影準備完了状態を視覚的に容易に認識させるために,操作者が頭を少し上向きにするだけで容易に視野に入る,操作者からよく見える場所である,天井などの装置の「上方」にレーザー光を当てるものである。そのような引用発明において,X線装置の上方で,かつ,装置から離れている操作者からもよく見える場所として例示されている天井(平面)のほかに,撮影準備完了状態を視認させるレーザー光を当てる場所として,天井とは異なって,装置の上方ではなく,また,平面でもない「被検者の撮影部位」を選択することは,人体にレーザー光線を当てることによって,少なくとも「被検者に不安を与えること」が当然予想されることも併せ考慮すると,当業者にとって想到すること自体が困難であるということができる。しかも,当業者にとって「被検者の撮影部位」を選択することが容易想到であり,さらに,レーザー光照射部をX線装置の適宜の位置に設けることについても当業者にとって容易想到であるとしても,照射野ランプとレーザー光照射部とがX線撮影装置に併設されるというにとどまり,それ以上に,X線照射野を照準し確認するための照射野ランプに撮影準備完了状態を知らせる機能\を併せ持たせることによって,撮影準備完了状態を知らせるレーザー光を照射するためのレーザー光照射部を不要とすることについては,引用例は,そもそも照射野ランプの構成自体を有さない以上,何らの示唆を有するものではない。さらに,既に指摘したとおり,照射野ランプについても,これに撮影準備完了状態を知らせる機能\を併せ持たせる構成は,本願発明の出願前においては,周知ではなかったのであるから,引用発明において,撮影準備完了状態を知らせるレーザー光に代えて,照射野ランプに撮影準備完了状態を知らせる光の光源としての機能\を付加する動機付けを見いだすこともできない。

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平成21(行ケ)10329 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年07月28日 知的財産高等裁判所 

 進歩性違反なしとした審決が取り消されました。
 審決が,引用発明1では,「運転の条件は,被混煉材の種類や温度上昇の制限に合わせて予め設定」されているため,「溶剤等の温度上昇」は運転の条件の設定により制限されて問題とされるものではなく,引用発明1において,他の手法により,「溶剤等の温度上昇」をさらに制御しようとする動機付けは見い出せないと認定した(23頁19行〜36行)ことについて,このような動機付けが存在しないという審決の認定は,当業者による通常の創作能\力を誤解したものであって誤りであると主張する。そこで,検討するに,引用発明1は,前記3(2)認定のとおり,真空状態にある混煉容器を自転・公転させて被混煉材を混煉脱泡する際に,当該容器の温度上昇を制限する必要があるという技術課題を明示しており,これを解決するために,容器の自転数,公転数を含む運転条件を予め設定したものと認められる。また,引用発明2も,前記4(2)認定のとおり,同様に,攪拌混合する対象物の温度上昇を押さえるという技術課題を有しており,これを解決するために,ホッパーの上面に設けた温度センサーにより対象物の温度を検知し,温度が一定の温度まで上昇すると,攪拌する部材の回転数を減少させて温度を低下させ,以後,検知した温度に応じて回転数を制御し,攪拌する部材の回転数の減少,増加を順次繰返すものであると認められる。さらに,本件周知例にも,攪拌により一定以上に温度が上昇するのを防ぐという技術課題と,これを解決するために,検出された温度に応じて攪拌翼の回転数を制御するという技術事項が開示されている。そうすると,引用発明1及び2と本件周知例は,いずれも攪拌により生じる温度上昇を一定温度に止めるという共通の技術課題を有し,それぞれその課題を解決する手段を提供するものであると認められる。したがって,引用発明1において,上記技術課題を解決するために採用した,混煉のための自転数,公転数を含む運転条件を温度上昇の制限などの条件に合わせて予め設定しておくという構\成に代えて,共通する技術課題を有する引用発明2に開示された,温度センサーにより対象物の温度を検知して温度が一定の温度まで上昇すると,攪拌する部材の回転数を制御するという技術思想を採用し,対象物の温度を検知して検知した温度に応じて容器の自転数,公転数を含む運転条件を制御するという構成(審決認定の[特定事項B]の構成)に至ることは,攪拌により一定以上に温度が上昇するのを防ぐという技術課題自体が本件周知例にも示される周知の技術課題であることも考慮すると,当業者にとって,容易に想到することができたものといわなければならない。審決認定のとおり引用例1に「温度の検知」の記載がないとしても,攪拌により生じる温度上昇を一定温度に止めるという技術課題が引用例1自体に開示されており,これが周知の技術課題でもある以上,当該課題解決の観点から,温度を検知してそれに応じて運転条件を制御するという構成を採用することに,格別の困難性はないものということができる。
・・・確かに,引用発明1において,混煉容器を自転・公転させて被混煉材を混煉脱泡する際に,当該容器の温度上昇を制限する必要があるという技術課題が開示されていることは,前記3(2)認定のとおりである。また,引用例1に「温度の検知」の記載がないとしても,攪拌により生じる温度上昇を一定温度に止めるという技術課題が引用例1自体に開示されており,周知の技術課題でもある以上,当該課題解決の観点から,他の解決手段を採用することに格別の困難性がないことも,前記(2)認定のとおりである。そうすると,引用発明1において,同発明と同様の技術課題を有する引用発明2に開示された,ホッパーの上面に設けた温度センサーにより対象物の温度を検知し,温度が一定の温度まで上昇すると攪拌する部材の回転数を制御するという技術思想を採用することは,当業者にとって,容易に想到することができたものといわなければならない。したがって,引用発明1において,引用例2に記載される技術思想を適用する動機付けは,周知技術を加味しても見い出せないとした審決の判断(32頁24行〜25行)は誤りであり,この点に関する原告主張の取消事由3には理由がある。

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平成21(行ケ)10324 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年06月29日 知的財産高等裁判所

 進歩性について争われましたが、示唆もないし阻害要因ありとして、無効理由無しとした審決が維持されました。
 甲2,甲11ないし甲14は,ポッティング後に放熱板を取り外すことや故障した部品を交換することについては,何ら記載されておらず,後記のとおり,甲18,19を考慮したとしても,ポッティング材に埋設されたプリント基板の部品を交換する技術が周知であるとはいえない。したがって,甲1,甲2,甲11ないし甲14には,部品交換を目的とした放熱器の着脱を行う甲1発明に甲2発明を適用することについての示唆はない。
イ 阻害要因
(ア) また,前記(2)イのとおり,甲1発明における作用効果の一つである,部品交換を目的として半導体素子の放熱器の着脱容易な取付けを満足できるようにすることは,プリント基板1の下側より穴6にネジ回しを差し込んで,半導体素子2と放熱器3を固定するネジ4を回して半導体素子2から放熱器3を外すことが可能な状態にあることを前提とするものであるところ,ポッティングが周知の技術であるとしても,プリント基板をポッティング材により覆う場合は,ネジ回しをプリント基板1の下側より穴6に差し込んでネジ4を外すことも,プリント基板に取付けられた部品を交換することも,ポッティングを施さない場合に比べて困難である。したがって,ポッティングを施すことは,甲1発明の作用効果の前提とは相容れない。仮に,甲1発明に甲2発明を適用するならば,甲1発明のプリント基板をケース内に収納し,プリント基板及び電子部品のリードを覆いかつ放熱器の一部を埋設状態とするようにケース内にポッティング材を充填することとなる。そうすると,放熱器の直下にある部品が故障して交換しなければならないような場合,放熱器を固定しているネジを回そうとしても,ケース及びその中に充填されたポッティング材があるため,そのままでは,プリント基板の下側より穴にネジ回しを差し込んでネジを回すことにより放熱器の着脱をすることはできない。プリント基板の下側より穴にネジ回しを差し込んでネジを回すことにより放熱器の着脱をするのであれば,ケースを破壊するなどし,ポッティング材を除去することが必要不可欠となる。しかし,そのような方法では,プリント基板の下側より穴にネジ回しを差し込んでネジを回すことにより放熱器の着脱をすることができるように放熱器を取り付けたことにならず,放熱器の着脱容易な取付けという甲1発明の課題,作用効果は達成されないこととなる。放熱器の着脱容易な取付けという甲1発明の課題,作用効果を達成するのであれば,単にプリント基板の下側より穴にネジ回しを差し込んでネジを回すことにより放熱器の着脱をすることができるように放熱器を取り付けなければならないから,そのような甲1発明の課題,作用効果は,甲1発明に甲2発明を適用し,甲1発明のプリント基板をケース内に収納してケース内にポッティング材を充填することの阻害要因になるものと認められる。\n

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平成21(行ケ)10215 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年03月30日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。
 このように,引用発明や甲6発明が有する課題や技術思想が周知であるとしても,前記(1)のとおり,引用発明の圧電駆動体20と甲6発明の熱応動素子33とは,伸縮する原理も果たす役割も異なる部材である上,前者は流体と隔離された状態に,後者は流体と接触する状態に置く必要があるなど,その環境も相反する。以上からすれば,引用発明の圧電駆動体20に関する構成に,甲6発明の熱応動素子33に関する構\成を適用することは阻害事由があるというべきであって,課題,技術思想がありふれていることが上記阻害事由を解消するものではない。(エ) 仮に,引用発明と甲6発明とが,弁の調整によって流体流量を制御するという点において同一の技術分野に属し,構成,機構\,技術思想等において共通又は類似しているとしても,引用発明は,電圧の供給により伸縮する圧電駆動体20により,これを熱的,電気的に絶縁しつつ,150パルス/秒で閉止弁を上下動させることを実現した技術思想を開示するものであり,甲6発明は,熱によって伸縮する熱応動素子33を,流体に接触させることにより水温を感知させ,流量調整器25の通水路断面積を変える技術思想を開示するものである。以上からすれば,引用発明と甲6発明は,技術思想において共通するとはいえず,圧電駆動体20と熱応動素子33は,全く異なる部材であるから,相互に転用することはできないというべきである。

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平成21(行ケ)10273 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年04月27日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。
 原告は,引用発明は,鑞材塗布と鑞付けによる接合が必須の要件であるから,このことは,鑞材塗布と鑞付けによる接合を省略することに対し,阻害事由となると主張する。しかし,前記1 イ のとおり,甲1の特許請求の範囲の請求項2と実施例には,嵌合されて接合されたヒートシンクが記載されているものの,甲1の記載により,嵌合された後で接合される前の状態は明確に認めることができる。そして,甲2の【0009】の記載によれば,鑞付け等による接合の有無は,コストと熱抵抗との関係で決められる設計的事項にすぎないものと認められるから,引用発明は,鑞材塗布と鑞付けによる接合を省略することに対し,阻害事由とはならないものと認められ,原告の上記主張は,採用することができない。・・・以上によれば,審決が,甲2に,「ヒートパイプを使ったヒートシンクについて,フィンにバーリング加工等によって孔を設け,その孔にヒートパイプを差し込む形態が実用的であることに加え,コスト面で許されれば,熱抵抗を小さくするため,鑞接合する」旨が記載されていることから,「引用発明において,コスト面を考慮して,鑞材塗布と鑞付けによる接合を省略すること,すなわち相違点1を解消することは,甲1,2の記載から当業者が容易に想到することができた」と判断した点に誤りはないものと認められる。

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平成21(行ケ)10111 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年04月20日 知的財産高等裁判所 

 進歩性なしとした無効審決が維持されました。争点は、動機づけがあるか否かです。
 原告は,甲2発明は内槽と外槽の二重槽のタンクを効率よく解体する場合の課題,及び解体工事中のタンクの横振れや移動に伴う事故の解消を課題としているのに対し,甲1発明はそのような課題を考慮しておらず,両発明の課題は異なっており,甲2発明に甲1発明を適用する動機付けはないと主張する。しかし,前記1(2)の〔従来の技術〕欄記載のとおり,甲2には「原油タンクなどの鋼板製のタンクの解体工法としては,従来タンクの上部から順に解体する工法と,下部より解体する工法とがある。上部から解体する工法では,高所作業となるため足場の架設や安全確保に対する配慮が必要で,それに伴って解体費用が増加するという難点がある。……これを避けるため下部解体工法が開発され,その代表的工法としてジヤツキダウン工法がある」との記載がある。また,前記1(3)の<従来の技術>及び<発明が解決しようとする課題>欄記載のとおり,甲1には「従来,建造物の解体作業は,低層建造物から高層建造物に至るまで悉く,屋上等の最上部から聞始され,地下基礎部等の最下部にて終了されていた。……本発明は,以上の諸点に鑑みてなされたもので,その目的とするところは,作業が容易で,工数,工期も短く,しかも周辺への飛散物や,高層階からの落下物のない建造物の新規な解体工法を提案するにある。」との記載がある。そして,前記1(1)イ,ウのとおり,本件特許発明は,ビルを上部からではなく下部から解体する工法に関する発明で,「周囲に与える危害を最小にして,能率よく安全に,さらに経済的に解体できるビルの解体工法を提供する」ことを目的とするものである。上記各記載によれば,甲1発明と甲2発明とは,いずれも,構\造物を,上部ではなく下部から解体するもので,工期や工数(費用)の増加,作業の危険性等といった問題点の解決を課題とするものであり,本件特許発明と共通の解決課題を有しているものである。

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平成21(行ケ)10144 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年03月30日 知的財産高等裁判所

 引用発明の認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
 前記1(2)の記載によれば,引用例2記載発明は,音響装置や映像装置などの特別の機器を必要とせず,また睡眠薬や鎮静剤のような副作用や習慣性のない,日常的に摂取可能で,嗜好性にも優れた,α波を効果的に増強してリラックス状態をもたらすことのできるα波増強剤及びα波増強用食品を提供することを課題とするものである。引用例2には,「ストレス」という語が数多く用いられている。すなわち,「α波を増強させてストレスを解消してリラックス状態にする」(【0001】),「α波はリラックス時(安静・閉眼時)に増加し,ストレスがかかると減少する」,「α波の出現状態はリラックス度の指標としてしばしば用いられており,近年のストレス社会において,α波を積極的に増強させてリラックスさせようとする試みが色々なされている。」(【0002】),「優れたα波増強作用を有していてマラクジャ果汁を摂取するとストレスが解消されてリラックス状態を出現させることができる」(【0006】),「マラクジャ果汁の投与によってストレスの解消に有効なα波(特にα1波とα2波)の増強がなされる」(【0027】),「摂取して約1時間後にはストレスが低減してリラックスした精神状態になった。」(【0030】),「摂取して約40分後にはストレスが低減してリラックスした精神状態になった。」(【0031】),「本発明のα波増強剤またはα波増強用食品を摂取した場合には,α波が誘導増強されて,ストレスが解消されリラックスした状態を得ることができる。」,「時間的および場所的に制約されずにいつでも必要な時に摂取して,ストレスの解消を図ることができる。」(【0032】)との記載がある。これらの記載からは,ストレスの解消・低減がリラックスと同義に用いられており,α波が増強してリラックスした状態を指すものとして用いられていると合理的に理解される。また,実施例1の実験(脳波の記録)の内容をみても,実験開始時あるいはそれより前に,被験者にストレッサーが負荷されているのと記載はない。なお,実施例2のフリッカーテスト及び実施例3の刺激反応時間測定は,「マクラジャ果汁に中枢抑制作用があるか否か,あるとして作業能\力を障害するほどのものであるか否か」を確認したものにすぎず(【0027】),ストレスの解消・増減に係る効果を確認することを目的とする実験ではない。そうすると,引用例2発明は,マラクジャ果汁を含有する増強剤等により,脳のα波を増強させ,人の精神状態をリラックスさせる発明であり,そこにストレスの解消,低減という語が用いられているとしても,それは,単に,リラックスした状態を表すために用いられているにすぎないのであって,引用例2がストレスの解消,低減に係る技術を開示していると認定することはできない。これに対し,審決は,「引用例2に,α波が,リラックス時に増加し,ストレスがかかると減少することが知られていること,そこで,α波を積極的に増強させて,リラックスさせることによって,ストレスを予\防又は軽減しようとする試みがなされていることが記載・・・されているように,ストレスの予防,軽減機作として,α波の増強があることは公知である。また,引用例2には,低周波数のα波を10%程度増強することで被験者の内省に変化を与えるとする報告例も記載・・・されている。上記のとおり,ストレスの予\防,軽減とα波の増強の程度とが密接に関係することは明らかである」(審決書4頁1行〜9行)とする。しかし,上記のとおり,引用例2の「ストレスを予防又は軽減」との記述は,その技術的な裏付けがなく,単に,リラックス状態への移行を述べたにすぎないと理解するのが合理的であり,また,実施例を含めた引用例2全体の記載からみても,引用例2に,ストレスを予\防,軽減する技術が開示されていると判断することはできない。(2) 以上のとおり,引用例2発明に関する審決の認定は誤りである。審決は,引用例1発明及び引用例2発明の「ストレス」の意義についての誤った理解を前提として,両者の解決課題が共通であり,引用例1発明には引用例2発明を適用する示唆があると判断した点において,審決の上記認定の誤りは,結論に影響を及ぼす誤りであるというべきである。・・・・前記1(1)の,引用例1における,「本発明者らは,このような抗ストレス作用を有する物質を,ラットにアドレナリンのβ−受容体のアゴニストであるイソプロテレノールを投与した時の心拍数上昇に対する抑制効果を指標に,鋭意スクリーニングを行い,L−テアニンが,イソ\プロテレノールによって誘起される心拍数上昇を著しく抑制することを見出した」等の記載に照らすならば,引用例1発明は,L−テアニンを有効成分とする抗ストレス剤によりストレスの予防,軽減を図るというものであり,イソ\プロテレノールによって誘起される心拍数上昇を抑制したり,計算作業のストレス負荷時における心拍数の増加及び血圧の上昇を抑える効果があることからみて,心血管系に作用して,ストレスを予防,軽減する発明であり,自律神経系に作用して血圧又は心拍数の上昇を抑制することによりストレスの予\防・軽減を図るものである。これに対し,前記1(2)によれば,引用例2発明は,脳のα波を増強してリラックス状態を発生させる発明であり,同発明は,中枢神経系である脳に作用して脳のα波を増強させ,リラックス状態を発生させるものであると解される点で,両者に相違がある。ところで,前記(1)の記載によれば,自律神経系の作用と中枢神経系の作用は区別して認識されるのが技術常識であり,証拠を総合するも,自律神経系に作用する食品等が,当然に中枢神経系にも作用するという技術的知見があることを認めることはできない。そうすると,自律神経系に作用する引用例1発明は中枢神経系に作用する引用例2発明とは技術分野を異にする発明であることから,当業者は,引用例1発明に引用例2発明を適用することは考えないというべきであって,両発明を組み合わせることには阻害要因があるというべきである。イこの点,被告は,抗ストレス作用を「自律神経系の活動を反映する血管,心拍数などの心臓血管系の反応の点からみた作用」としてとらえるか,あるいは「中枢神経系の活動を反映する脳波からみた作用」としてとらえるかは,ストレスの程度やリラックスの程度を確認するための指標として何に着目するかという差異にすぎず,引用例1と引用例2の技術が質的に異なることを意味しないから,阻害要因とならないと主張する。しかし,前記のとおり,自律神経系に作用するか,中枢神経系に作用するかは,基本的な作用機序に係るものであり,単なる測定のための指標にすぎないとの証拠はなく,したがって,被告の主張は採用することができない。以上のとおり,阻害事由を看過して,当業者が引用例1発明に引用例2発明を適用することにより,容易に補正発明1に想到することができるとした審決の判断には誤りがある。

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平成21(行ケ)10076 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年12月22日 知的財産高等裁判所

 阻害要因ありとして進歩性が争そわれましたが、進歩性なしとした審決が維持されました。
 「原告は,金属が展性を有し,レーザ照射を行っても割断き裂が発生しないとして,引用発明の分断対象物を「金属基板を有する製品」とすることには阻害要因があると主張するが,前記2(2)のとおり,引用発明の技術的思想が,非金属材料基板を加工対象物とすること及びレーザ割断を加工方法とすることに固有のものではなく,金属基板を有する製品を加工対象物とする場合であっても,レーザ切断を加工方法とする場合であっても,十分に妥当するものであることからすると,原告が主張する金属の特性を考慮しても,引用発明の分断対象物を「金属基板を有する製品」とすることに阻害要因があるということはできない。」\n

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平成21(行ケ)10081 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年11月05日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は、引用発明に記載された発明は前提が異なるというものです。
 「引用発明は,利用者側の複合器がスケーラビリティ機能を持たないことを前提としており,基本ビットストリームと付加ビットストリームを含む記録媒体が更新処理器側に配置されていることは必須の構\成であるから,基本ビットストリーム(基本部分)と付加ビットストリーム(補足部分)とがそれぞれ別の記録媒体に蓄積されていたとしても,利用者側に更新処理器(本願発明の併合手段に相当)を配置することやその一方を利用者側に配置し他方を通信ネットワーク(本願発明の伝送ラインに相当)を通じて利用者側にリンクする構成とすることは排除されているというべきであり,前記構\成要件ii)の構成を採用することが引用文献に記載された課題から容易に想到し得たということはできない。
エ なお,引用文献(甲1,乙1)には,「2.ビットスケーラビリティの問題点」(72頁13行〜73頁3行)の欄に,ビットストリームスケーラビリティには,階層符号化・復号器の低解像度用復号器で何らかの復号処理をしなければ高解像度加増を再生することができず処理が複雑であること,復号器での処理量の負担が多くなること等の問題があったことが記載されており,上記引用発明の課題認識に至る過程で,利用者側の復号器が更新処理器の機能を備えた構\成が示唆されているということもできる。しかし,この場合においても,前記イのとおり,基本ビットストリーム及び付加ビットストリームをそれぞれ別の記録媒体に分けて蓄積する構成とする解決課題ないし動機は存在せず,仮に,基本ビットストリーム及び付加ビットストリームがそれぞれ別の記録媒体に分けて蓄積されていたとしても,その一方を利用者側に配置し他方を通信ネットワークを通じて利用者側にリンクする構\成とする解決課題ないし動機も存在しないのであるから,前記構成要件i),ii)の構成を採用することが容易に想到し得たということはできない。オ以上のとおりであるから,引用発明から本願発明の構\成に至ることが当業者にとって容易に想到し得たことであるということはできない。」

◆平成21(行ケ)10081 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年11月05日 知的財産高等裁判所

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平成20(行ケ)10297 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年11月05日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が、取り消されました。理由は、動機づけ無しというものです。
 「上記イ及びウによると,本件発明1の「REDIRECTコマンド」がクライアントにおいて情報ページを自動的に表示させるためのコマンドであって,ディレクトリサーバーによって行われるものであるのに対して,引用発明の「リダイレクト」は,ローカルエリア・ネットワーク内のサーバーに対する「インターネットの至る所」からのクライアントによるアクセスを確立する方法であって,このようなクライアントに対してローカルエリア・ネットワーク内で唯一のホストとなるフラグシップ・ホストによって行われるものであるということができる。そして,一貫してインターネットにおけるアクセスを念頭に置く本件発明1は,ローカルエリア・ネットワーク内のサーバーとのアクセスを実現するためのフラグシップ・ホストに相当するサーバーの存在及びその機能\としての「リダイレクト」によって,その技術的課題を解決しようとするものではないのであり,本件発明1の存在を知らない当業者がこのような引用例の記載に接したとしても,フラグシップ・ホストを必要としないインターネットのアクセス方法において,このような「リダイレクト」の構成を採用して,本件発明1のディレクトリサーバーによる「REDIRECTコマンド」に係る構\成とするように動機付けられるということはできないし,引用例において,フラグシップ・ホストの機能から離れて「リダイレクト」の機能\を採用しようと動機付ける記載も存在しない。そして,仮に,引用例に開示された事項についての技術的意義を離れて,「リダイレクト」という用語の抽象的な意義のみに基づいて本件発明1の「REDIRECTコマンド」と対比することを前提とするならば,排除されるべき「後知恵」の混入を避けることはできないといわなければならない。」

◆平成20(行ケ)10297 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年11月05日 知的財産高等裁判所

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平成20(行ケ)10431 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年09月30日 知的財産高等裁判所

 周知技術を適用するための共通の解決課題ないし動機付けが存在していたか否か,仮に存在していたとして,周知技術を適用するための阻害要因がなかったとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。
 「このように,引用刊行物に記載された技術的事項は,2次コイルとして,環状コイルを用いることを前提としたものであって,引用刊行物には,相互インダクタンス電流トランスジューサーの2次コイルを環状コイル以外のものとする可能性を示唆する記載はない。引用発明は,電流感知トランスジューサーの従来技術を前提としながら,環状コイルにおけるシンメトリー構\造の実現という課題を,環状コイルを多重層構造とすることによって解決しようとしたものである。引用発明と本願発明は,課題解決の前提が異なるから,引用発明の解決課題からは,コイルを多層基板上に形成するための動機付けは生じないものといえる。なお,引用刊行物には,相互インダクタンス電流トランスジューサーを小型化するという課題も記載されているが,環状コイルを前提としたものであって,本願発明における小型化とは,その解決課題において共通するものではない。以上のとおり,引用発明には,環状コイルに代えて,多層基板上に形成されたプリントコイルによりトランスを構\成する前記周知技術を適用する解決課題や動機は存在しないというべきであり,したがって,当業者が本願発明の相違点2に係る構成を想到することが容易であったとはいえない。イ また,引用発明に周知例の技術を適用するに当たっては,以下のとおり,その適用を阻害する要因が存在するともいえる。すなわち,引用発明においては,細長いほぼ直線状の導電体の周囲に同軸的に円筒形のスリーブを配置し,その円筒形スリーブと嵌合するように環状コイルが配置され,環状コイルがほぼ直線状の導電体の周囲を取り囲むという構\成を採用しているのに対し,周知例の技術では1次コイルと2次コイルが平面的に対向するように配置されており,引用発明と周知例の技術は,構造を異にしている。そして,導電体と環状コイルとからなる,引用発明のトランスの構\成に,上記周知例に記載されたトランスの構成を適用する場合,2次コイルである環状コイルは,直線状の導電体に直交する仮想的な平面上に,前記導電体を囲むように配置されることが必要となる。しかし,周知例に記載されたトランスは,平面状コイルを形成した絶縁基板を積層するものであり,平面上の1次コイルと2次コイルは,互いに平行な基板面上に形成され,引用発明の導電体と環状コイルの配置関係と,周知例に記載されたトランスにおける1次コイルと2次コイルの配置は,構\造上の相違が存することから,引用発明に周知例の構成を適用することには,困難性があるというべきである。また,引用発明に周知例に記載された技術を適用することを想定した場合,まず,引用発明においてはほぼ直線状の導電体とすることにより導電体によるインピーダンスの発生が抑制されているのに対し,引用発明の導電体に対応する周知例の1次コイルは渦巻状であって導体長が長く,それ自体がインピーダンスとして働く余地があり,この点でも引用発明に周知例の技術を適用しようとするに当たっての阻害要因となる。さらに,引用発明においては,電力メーター用電流感知トランスジューサーとして,需要家に供給される電力の正確な測定ということが技術的課題とされ,そのために,環状コイルに作用する外因性磁場による悪影響の排除という課題が存在するのに対して,周知例の技術においては,専ら1次コイルと2次コイルの磁気結合の強化ということが技術的課題とされていて,外部磁界による磁気干渉は,格別考慮する必要がない点において,引用発明に周知例の技術を適用しようとするに当たっての阻害要因となり得る。以上のとおり,引用発明に周知例の技術を適用することには,課題の共通性や動機付けがなく,また,その適用には阻害要因があるというべきであるから,当業者が引用発明に周知例の技術を適用して本願発明に至ることが容易であったということはできない。」\n

◆平成20(行ケ)10431 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成21年09月30日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10300 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年04月15日 知的財産高等裁判所

   進歩性なしとした審決が取り消されました。
  「前記(3)ウのとおり,従来から使用されているホースの内管を構成するエラストマー組成物の135℃における50%モジュラスは,約0.98〜2.35MPa程度であり,甲4,甲5記載の技術は,加硫時に発生する補強糸の棚落ちという特定の課題を解消するために,135℃における50%モジュラスが約1.96〜3.92MPaという値のエラストマー組成物を採用したものである。そうすると,繊維補強層を有するホースの内管を構\成するエラストマー組成物を,100℃における50%モジュラスが3.0MPa程度以上のものとすることは,100℃と135℃の温度の差を考慮に入れても,繊維補強層を有するホースに関する技術分野において,普通に採用される範囲のものであるということはできない。しかも,引用発明で繊維補強層に用いられているヘテロ環含有芳香族ポリマーからなる繊維は,前記(2)イのとおり,耐熱性,難燃性であり,その分解温度は600℃以上であり,伸度も3.0%以下である。そうであるとすると,ヘテロ環含有芳香族ポリマーからなる繊維は,600℃を越えて分解温度に達するまでほとんどその形状を維持し強度を保つことになり,100℃程度の温度条件では,ホースの補強に関する性能に特段の影響は生じないと解されるから,引用発明において,ホースの内管を構\成するエラストマー組成物の100℃における50%モジュラスを,敢えて普通に採用される値より大きい3.0MPa程度以上とする必要性はなく,そのようにする契機があるとはいえない。そうすると,繊維補強層を有するホースの内管を構成するエラストマー組成物について,100℃における50%モジュラスを3.0MPa程度以上とすることは,普通に採用される範囲であるとはいえず,更にこれを引用発明に適用して相違点4に係る構\成とすることが,当業者にとって容易想到であるとはいえない。」

◆平成20(行ケ)10300 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年04月15日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10205 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年03月12日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。
 「ところで,引用発明における上記構成は,引用文献2(甲2)の発明の詳細な説明において「極細炭素フィブリル中の凝集体の最長径を0.25mm以下とし,且つ,径が0.10mm〜0.25mmである凝集体の占める割合(含有率)が50重量%以上である…」(4頁左上欄6行〜9行)と記載されているように,「最長径が0.25mm以下」という要件と「径が0.10〜0.25mmの凝集体を50重量%以上含有する」という要件の双方を満たさなければならないものとされている。そして,このような要件が設けられた理由については,・・・と記載されている。
  エ そうすると,引用発明が採用した上記二つの要件は,凝集体の径が0.25mmを超える大きなものを排除するのみならず,径が0.1mmに満たない小さな凝集体が一定以上の割合(50重量%以上)を占めることをも,十分な導電性及び機械的強度を確保するという観点から排除しているものということができる。したがって,引用文献2(甲2)には,炭素フィブリルの凝集体の実質的全部について径の大きさを0.10mm(100μm)よりも小さいものとすることの動機付けは存在しない。そして,引用発明において上記のような要件が定められていることが本願発明を想到する阻害要因になるとまでは直ちにいうことができないとしても,引用文献2(甲2)に接した当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が本願発明の構\成に至るためには,引用発明に定めた要件に反して,炭素フィブリルの凝集体の実質的全部についての径の大きさを0.10mm(100μm)よりも小さくすることの動機付けが必要であり,少なくとも他の公知文献等において,炭素フィブリルの凝集体の実質的全部について径の大きさを0.10mm(100μm)よりも小さくした場合に十分な導電性と機械的強度が得られることの教示ないし示唆が存在することが必要である。」

◆平成20(行ケ)10205 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年03月12日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10154 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年02月04日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした無効審決が取り消されました。
 「以上の(1),(2)を踏まえて取消事由1(相違点Eの判断の誤り)の採否について検討するに,甲1発明の容器は,前記(2)イに説示したとおり,溶湯は受湯口から取鍋内に収納され,使用先の工場では,注湯口を開きフォークリフトにより取鍋を傾動して保持炉や鋳型等に注湯する方式の,いわゆる傾動式の取鍋であると認められるところ,この傾動式の取鍋から,これを,密閉された容器に溶融金属用の配管が設けられ加減圧用の配管が接続されるという構成(いわゆる加圧式)とすること自体は,甲10・・・において,加圧式の場合,注湯精度,溶湯品質等の点で傾動式よりも優れていることが記載されているから,当業者がこれを適用することは容易に想起できるものと認められる。しかし,このことは,当業者が甲1発明から出発してこれにいわゆる加圧式の容器を採用しようと考えた後は,加圧式の容器であれば性質上当然具備するはずの構\成のほかそのすべての個々の具体的構成は当然に適用できることを意味するものではない。そして,甲1発明の傾動式の容器であれば,その傾動式の容器であるという性質自体から,溶湯を出し入れするために注湯口及び受湯口が必要であることが導かれるが,加圧式の容器の場合は,一つの流路を通して溶湯の導入と導出とを行う注湯方式であり加減圧用の配管が容器に接続されていればよいのであるから,傾動式の容器で必要な受湯口及び受湯口小蓋は必須なものではない。したがって,甲1発明の傾動式の容器に接した当業者がこれを加圧式の取鍋にすることを考える際,あえて,必須なものではない受湯口及び受湯口小蓋を具備したままの構\造とするのであれば,そうした構造を採用する十\分な具体的理由が存する必要があるというべきである。」

関連判決はこちらです
    ◆平成20(行ケ)10155号
    ◆平成19(行ケ)10258号
     ◆平成20(行ケ)10154 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成21年02月04日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10004 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年11月28日 知的財産高等裁判所

   阻害要因有りとして、進歩性無しとした審決を取り消しました。
 「そして,前記(2)ウの周知技術(「同じ質量で反対方向に運動する機構を背中合わせに付加することにより,振動を相殺して装置の振動をなくす技術」)を採用した場合,運動する部分の質量が2倍程度になることに照らすならば,上記周知技術は,引用例3,甲4のように「慣性系(静止系又は等速直線運動をしている系)」の装置では振動抑制の効果があるのに対して,引用例1発明のように加速運動をする「加速系」の装置では,質量の増加に起因して加速に伴う外力が大きくなり,振動抑制の設計がより困難となると考えるのが自然である。このように「加速系」の装置である引用例1発明に,上記周知技術を適用することには,これを妨げる事情があり,また,引用例2,引用例3,甲4,甲7,8等を勘案しても,「加速系」の装置における上記振動の問題を解決する手段を示唆する記載はない。ウそうすると,当業者が,引用例1,2に接したとしても,引用例1発明に,上記周知技術を採用しようとするものとは考え難いから,引用例1発明に,引用例2に基づいて,上記周知技術を適用して,相違点(ロ)に係る本願発明の構成(「第2本体,及び前記第1本体の実質的に反対方向に,前記第1スライドに対して前記第2本体を配置するための第2アクチュエータ」の構\成)を容易に想到し得たものとは認められない。」

◆平成19(行ケ)10004 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年11月28日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10007 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年09月12日 知的財産高等裁判所

   進歩性無しとした審決を、阻害要因有りとして取り消しました。
  「まず,審決の相違点1についてした判断の内容は,次のとおりである。引用発明の「金属製」のものも,本件訂正発明1の「カーボングラファイト製」のものも,燃料電池のセパレータとして,周知慣用のものであること,いずれの材料も,電解質膜との間のガスの遺漏を防止する必要があり,比較的肉厚の薄い薄膜のシールをシール材として組み入れようとするときに,薄膜上にシワ,薄膜同志で密着し剥がしづらくなる等の作業性の問題がある点で共通している。このような問題を解決できる引用発明の成形一体化方法におけるセパレータとして,「金属製」のものを「カーボングラファイト製」のものとすることは,当該燃料電池の分野の周知の事項に基づいて当業者であれば容易に想到することができたことと認められるとするものである。しかし,セパレータとしてカーボングラファイト製のものが周知慣用であり,作業性に関する課題が「金属製」のものと共通であるとしても,引用発明が射出成形手段を前提とするものである以上,引用発明におけるセパレータをカーボングラファイトに代えることには,次のとおり阻害要因があったというべきである。この点を詳細に述べる。」 

◆平成19(行ケ)10007 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年09月12日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(行ケ)10493 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成19年08月28日 知的財産高等裁判所

   引用例に記載の技術は2つの条件が一体不可分であると主張しましたが、裁判所はこれを認めませんでした。
   「これに関し原告は,引用例2に記載されたマルチングには土壌を袋状に包むという意味は存在しないから,引用発明の袋の材料として,引用例2に記載の熱可塑性樹脂製不織布を採用することは困難であると主張する。しかし,引用例2の記載上,引用例2に記載の熱可塑性樹脂製不織布を採用することと,植物の栽培方法としてマルチング栽培を採用することが,不可分一体のものとしてひとまとまりの技術的思想を構成していると解すべき事情は見当たらない。このことは,土壌の連続・不連続性や根の伸張やイオン交換体の配合の有無について原告がるる主張する事項を考慮したとしても,左右されるものではない。かえって,上記3(2)エに述べたとおり,袋栽培に関する引用発明とマルチ栽培に関する引用例2記載発明とは,植物の育成に用いる「土」自体の温度上昇を抑制するという基本的な課題において共通し,しかも,両者の差異は,植物の育成という共通の基盤を前提とした上での栽培方法の違いにすぎないことからすれば,マルチングという概念に畑の土壌を袋状に包むという意味が存在しないからといって,引用発明の袋の材料として,引用例2に記載の熱可塑性樹脂製不織布を採用することが,当業者にとって困難になるとは考え難い。したがって,この点に関する原告の主張は採用することができない。」

◆平成18(行ケ)10493 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成19年08月28日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(行ケ)10488 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年07月19日 知的財産高等裁判所

  知財高裁は、進歩性について、「一般的な動機付けがあっても、適用することを妨げる事情がある場合には、容易とはいえない」と判断し、審決を取り消しました。
 「しかし,PWM調光技術,すなわちパルス幅変調(Pulse Width Modulation)を用いて光の強度を調節する方法自体が周知技術であることは,当事者間に争いがなく,本願発明においても長時間の点灯等によりLEDランプのパルス電流が変化して,発光光量が変動するのを抑えることが目的とされており(本願明細書段落【0008】〜【0011】),一般的な動機付けがないわけではない。もっとも,当業者が引用発明にPWM調光技術を適用することが容易であるか否かについては,後記の技術的困難性を検討する必要があり,動機付けのみで判断することはできない。・・・原告が主張するように「電源の破壊」に至らないとしても,審決が引用発明にPWM調光技術を適用することを妨げる事情について十分な検討をしないまま,当業者が引用発明にPWM調光技術を適用することに困難はないと判断したことは誤りである。以上のとおり,発光強度を調節するという一般的要請があり,かつ,その手段としてPWM調光技術が周知であったとしても,引用例の第2又は第3実施形態のLEDランプ装置にPWM調光技術を適用することを妨げる事情があるから,引用例の記載に接した当業者が引用発明にPWM調光技術を適用しようとする動機付けも弱く,相違点に係る構\成に容易に想到することができたとはいえない。」

◆平成18(行ケ)10488 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年07月19日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(行ケ)10484 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年04月26日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。
 「以上検討したところによれば,本件発明1は,ガイドピンが床面に磁力にて突出引退自在に設けられた構成を有するものであって,ガイドピンの大径部が係止ガイド片に当接することにより機械的に保持され,走行溝から下降しないようにした点に主たる技術的意義があるものであるのに対し,刊行物2(甲2)においては,規制ピンは敷居に植設固定されており,突出引退自在に設けられたものではないから,「走行中や停止中において,吊戸本体3の揺れや振動などにてガイドピン4が磁着体Xから外れ,ガイドピン4がその自重で容易に床面下に下降する」(訂正明細書〔甲8の2〕段落【0003】)という本件発明1の従来技術にいう課題を解決する手段として突出引退自在に設けられたガイドピンを係止ガイド片によって機械的に保持する技術を開示するものではない。しかも,刊行物2(甲2)の遊転ローラは,フランジと当接する構\造(フランジがローラーを機械的に保持する構造)であってはならず,引用発明2は,フランジと遊転ローラーとの間の高さ方向において,一定の間隔を設けることを前提とする技術であるから,本件発明1のガイドピンの大径部が係止ガイド片に当接することにより機械的に保持する構\造とは,その技術的意義が異なるものである。したがって,引用発明1における,ガイドピンが突出引退自在である構成を前提としたまま,刊行物2の「フランジ18を有したコの字型案内溝19にビス22の遊転ローラー21を案内させる構\成」を適用することはできないというべきである。」  

◆平成18(行ケ)10484 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年04月26日 知的財産高等裁判所

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◆平成18(行ケ)10184 審決取消請求事件 平成18年09月20日 知的財産高等裁判所

   無効理由無しとした審決が取り消されました。
  「甲第1号証は,キャビネット自体を傾けること,テレビとビデオデッキを一緒に傾けること,以上は想定されていないと言うべきである。・・・そうすると,甲第2号証に「傾動可能に連結する」構\成の開示があるとしてもこれを甲第1号証に適用することはできず,したがって,上記相違点に係る構成は,きわめて容易になし得るとは言えない」(審決13頁第3段落〜下第3段落),すなわち,引用例1はキャビネットを傾けないことを前提とした構\成であるから,引用例2に開示された「傾動可能に連結する」構\成(相違点?@)を適用することには阻害事由があるとするものである。  しかし,引用例1(甲1)には,「詰め部材54」につき,「テレビジョンセットの画面の下方に向かう角度位置を調整するために,セットの後部に,滑ることができる詰め部材54が配置される。詰め部材は,画面角度を視聴に最適な位置に調節することができるように動かすことができる」(審決11頁第2段落の引用による)との記載があり,同記載によれば,「詰め部材54」は,テレビを下方に傾けるものであると認められるが,キャビネットを傾けないことを前提にした構成であるとまでは認められない。そして,テレビを下方に傾ける手法としては,本件遡及出願当時(平成4年10月28日),引用例2の上記「テレビを載置するハンガー本体を前後に傾動可能\に連結したテレビハンガー」が既に公知であったのであるから,引用例1のように「詰め部材54」を使用するか,引用例2のようにハンガー本体を「傾動可能に連結する」構\成を採用するは,当業者が必要に応じ適宜選択し得る程度の事項というべきであり,引用例1の「テレビハンガー」に,引用例2に開示された「傾動可能に連結する」構\成(相違点?@)を適用することに阻害事由があるということはできない。」

◆平成18(行ケ)10184 審決取消請求事件 平成18年09月20日 知的財産高等裁判所

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◆H14.11. 6 東京高裁 平成13(行ケ)286 特許権 行政訴訟事件

 無効理由無しとした審決を取り消しました。
  「審決の「甲第2号証記載の発明(注、引用例発明2)においては・・・流路の閉塞手段を示しているに過ぎないから、機械的に軸線方向にはまり込むのに抵抗できる強度を持つものか否か不明であり、基本的には機械的強度は不要で流路を閉塞すれば足りるものでしかない。確かに熱溶着や接着剤によればなにがしかの機械的強度は期待はできるが、だからといって流路の閉塞手段により機械的強度を持たせるという技術思想が直ちに想到可能と言うこともできない」(審決謄本11頁27行目〜35行目)との判断は、引用例発明2(甲第5号証)における流路閉塞の目的を誤って認定するとともに、引用例2において、引用例発明2が機械的に軸線方向にはまり込むのに抵抗できる強度を有することが明示的に示されていなければ引用例発明2の構\成を引用例発明1(甲第4号証)に適用することが困難であると判断した点において、誤りというべきである。」

 

◆H14.11. 6 東京高裁 平成13(行ケ)286 特許権 行政訴訟事件

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