進歩性なしとした審決が、動機付けなし・阻害要因ありとして、取り消されました。
引用例2には,そこに記載された加湿器が,給水部の水位を検知する検知装置を
備えた加湿器において,表示部が,給水部の水位が一定の水位よりも低くなると,\nあらかじめ定めた第1表示内容を表\示し,モーターが所定時間以上回転した後,モ
ーターを停止し,あらかじめ定めた第2表示内容を表\示するものであることが記載
され(【0005】),かかる構成にしたことにより,給水部の水位が一定の水位\nよりも低くなった後,給水を促す表示をするが,モーターが所定時間の5分間以上\n回転しているため,モーターが回転している間に使用者が給水を促す表示に気が付\nき,給水を行えば,加湿運転を停止させて部屋を乾燥させてしまうことがない,ま
た,モーターの回転を低速回転とするため,加湿量が減って給水部の水位が一定の
水位よりも低くなった後はゆっくりと水位が下がり,長時間加湿できることから,
その間に給水を促す表示に気が付きやすいなどと記載されている(【0009】,\n【0010】)。また,【0036】ないし【0038】には,給水部2の水位が
基準の水位よりも低くなると,ファン3を低速回転とし,ヒーター8をOFFとし,
タイマーに所定時間の5分間以上の時間を設定し,表示部6には第1の表\示内容で
ある「給水」及びタイマー残時間の表示をして,タイマーの減算を開始すること,\nタイマーの残時間が0となったらファン3を停止し,表示部6には第2の表\示内容
である「給水」点滅の表示をすることが記載されている。\nこれらの記載によれば,引用例2に記載の加湿器は,部屋の乾燥を防止するため
に,水位が「一定の水位」より低くなった後も,モーターが所定時間以上回転し,
さらに,低速回転とすることで長時間加湿をすることが可能なものである。そして,\n「第1表示内容」が「給水」という文字及びタイマー残時間を表\示するものである
から,「一定の水位」は,給水が一応求められる水位であるといえるものの,タイ
マー残時間分のファンの継続運転によって,上記「一定の水位」よりさらに低くな
った水位における「第2の表示内容」が「給水」という文字を含む点滅表\示である
ことに照らせば,上記「一定の水位」は,タイマー残時間分の加湿運転の余地があ
る水位を意味するものと理解される。
したがって,引用例2における「一定の水位」は,それを下回る水位でも加湿機
能が適正に動作して加湿空気を生成することができ,それを下回る水位が検出され\nた後も加湿機能の動作を行わせることを前提とするものであるということができる。\n(ウ) 以上によれば,引用例2に記載された技術事項における,給水部の水位を
検知する検知装置が検知する「一定の水位」は,引用発明におけるフロートスイッ
チ14の「第1の基準位置における接点」とは,水位の性質,すなわち,それを下
回る水位でも加湿機能が適正に動作できるか否か及び加湿機能\の動作を行わせるこ
とを前提としているか否かという点において,明らかに相違する。
加えて,引用発明において,液面検出手段を構成するフロートスイッチ14は,\n「第1の基準位置H1における接点」のみならず,「第2の基準位置H2における
接点」を有するところ,「第2の基準位置H2における接点」が検出する液面高さ
の「第2の基準位置」は,加湿機の運転時の場合には,水面高さ(液面高さ)が第
1の基準位置H1以上の場合には運転が継続される,すなわち,液面高さが「第2
の基準位置」を下回っても,第1の基準位置を上回る限りにおいて,加湿機の運転
が継続されるものである(【0028】)。そうすると,所定の水位を下回る液面
高さでも加湿機能が動作して加湿空気を生成することができ,それを下回る水位が\n検出された後も加湿機能の動作を行わせるものである点において,引用例2におけ\nる「一定の水位」と引用発明の「第2の基準位置H2における接点」は共通するも
のであるということができる。
このように,引用例2の「一定の水位」は,フロートスイッチ14の「第1の基
準位置における接点」とは水位の性質(それを下回る水位でも加湿機能が適正に動\n作できるか否か及び加湿機能の動作を行わせることを前提としているか否かという\n点)において明らかに相違し,かつ,引用発明には,上記性質において共通する
「第2の基準位置H2における接点」が既に構成として備わっているにもかかわら\nず,引用発明において,フロートスイッチ14の「第1の基準位置における接点」
を引用例2の「一定の水位」を検知する構成に置き換える動機付けがあるというこ\nとはできない。
(エ) さらに,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置H1
における接点」を,引用例2に記載された技術事項(それを下回る水位が検出され
た後も加湿機能の動作を行われせることを前提した「一定の水位」を検出対象とす\nるもの)に置き換えると,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準
位置H1における接点」は,液面高さが「第1の基準位置」を下回ったことを検出
しても加湿機能を引き続き動作させることになるから,引用発明におけるフロート\nスイッチ14の「第1の基準位置H1における接点」に係る構成により奏するとさ\nれる,加湿部の動作を自動的に停止して液体収容槽の液体の残量がないときにファ
ンを無駄に動作させることを防止できるという効果(【0009】)は,損なわれ
ることになる。
そうすると,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置H1に
おける接点」を,引用例2に記載された技術事項である,「一定の水位」を検知す
る構成に置き換えることには,阻害要因があるというべきである。\n
◆判決本文
◆関連事件です。平成28(行ケ)10008
2016.10. 4
進歩性を認定する阻害要因にはならないとして、進歩性ありとした審決が取り消されました。
(ア)a 本件発明1と甲1発明の相違点として,前記第2,4(1)イ(イ)b記載
のとおりの相違点2がある(当事者間に争いはない。)ところ,前記認定事実(1(2))
によれば,甲1発明は,それぞれ要冷蔵品を収納する保存室を有する上下2つの断
熱箱体により構成された業務用横型冷蔵庫に関する発明であるから,断熱箱体の内\n箱及び外箱並びにその間に充填された断熱材により区画された上下2つの保存室を
有する業務用横型冷蔵庫,すなわち,庫内が断熱材により複数に区画された業務用
横型冷蔵庫に関する発明であるといえる。
一方,前記認定事実(1(3))によれば,甲7には,断熱性の仕切壁によって区画
された,冷蔵室,冷凍室及び野菜室がある家庭用冷蔵庫における冷却の実施例が記
載されているが,家庭用冷蔵庫に限らず,庫内を複数に区画してそれぞれ異なる温
度で管理する各種冷蔵庫に有効な発明であることが記載されている。
以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項は,少なくとも,複数の保存室
を有する冷蔵庫に関するものという点で,技術分野が共通である。
b 前記1(2)のとおり,甲1には,特に使用用途の拡大のため,庫内に
収容できる商品の幅を広げることを目的とする断熱箱体の改良に関する発明である
旨が記載されている。そうすると,甲1発明の課題は,使用用途の拡大,収容でき
る要冷蔵品の幅を広げることということができる。
一方,前記認定事実(1(3))によれば,甲7に記載された事項の課題は,温度が
低い冷気の循環による冷蔵室内や野菜室内の乾燥の防止,高湿状態である冷蔵室や
野菜室内の水分が霜となって冷却器に付着することによる冷却能力の低下の防止,\n冷却器の大型化及び背面ダクト等の設置による冷凍室,冷蔵室及び野菜室の有効容
積の圧迫の防止であるといえる。これらは,庫内の複数の区画の存在を前提として
いるが,冷凍が必要な食品等については冷凍室,冷蔵が必要な食品等については冷
蔵室,特に高湿状態が望ましい野菜については野菜室の各区画を設け,冷蔵室及び
野菜室については,高湿状態に保つことを課題としていると解することができるの
であって,各食品等に応じた適切な冷蔵状態を提供することで,庫内に収容できる
要冷蔵品の幅を広げることを課題としていると評価することができる。
以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項は,使用用途の拡大,収容でき
る要冷蔵品の幅を広げることという点で,課題が共通であるということができる。
c 前記認定事実(1(2))によれば,甲1発明は,断熱箱体からなる横
型冷蔵庫の天面に,別の断熱箱体を据え付け,下の断熱箱体の内箱の内部に,圧縮
機及び凝縮器と連結されて冷媒を循環させている蒸発器を設け,前記蒸発器により
冷却された冷気を,下の断熱箱体だけではなく,上の断熱箱体にも循環させること
によって,上下2つの断熱箱体を冷却するものである。
一方,前記認定事実(1(3))によれば,甲7には,圧縮機及び凝縮器と連結され
た
室用冷却パイプ及び野菜室用冷却パイプを設けて冷媒を循環させ,冷凍室は,冷凍
室用冷却器により冷却された冷気を循環させることによって冷却し,冷蔵室及び野
菜室は,冷蔵室用冷却パイプ及び野菜室用冷却パイプの内部を循環する冷媒の蒸発
により,各室の内壁面を冷却し,冷気の自然対流により各室内を冷却することが記
載されている。
以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項は,蒸発器を 1 つ設けるか複数
設けるかという違いはあるものの,1つの圧縮機及び1つの凝縮器を,冷却器ない
し冷却パイプと連結し,その中に冷媒を循環させ,冷媒の蒸発により,冷蔵庫内の
複数の保存室を冷却するという作用・機能において,共通する。\nd 前記1(2)のとおり,甲1には,上の断熱箱体の保存室の外側に冷却
空間を形成するように伝熱パネルを設け,前記冷却空間に冷気を循環させることに
より前記伝熱パネルを冷却し,前記伝熱パネルの自然対流熱伝達及び輻射冷却作用
により,保存室の内部を冷却する方法(実施例3及び4)が記載されており,また,
前記方法を採用することにより,下の断熱箱体を通常の横型冷蔵庫,上の断熱箱体
を高湿度で保存する必要のある寿司ネタや野菜などを保存することができる恒温高
湿ショーケースとして使用することが可能であることが記載されている。そうする\nと,甲1は,食品の乾燥防止のため,高湿状態を維持できる,冷気の強制対流以外
の冷却方法を採用することを記載したものといえるから,甲 1 発明の上の断熱箱体
の保存室の内部の冷却方法を,食品の乾燥を防止し得る別の冷却方法に変更するこ
とにつき,示唆があるといえる。
一方,前記1(3)のとおり,甲7には,冷蔵室内や野菜室内に低温となる冷凍室用
冷却器からの冷気を供給しないので,冷蔵室内や野菜室内に収納した食品が乾燥す
ることもないとの記載があり,冷蔵室用及び野菜室用冷却パイプを循環する冷媒の
蒸発による冷却が,食品の乾燥防止のため,高湿状態を維持できる冷却方法である
ことが記載されているといえる。そうすると,甲7には,甲1発明の前記の上の断
熱箱体の保存室を高湿度で保存する必要のある寿司ネタや野菜などを保存するため
に利用する場合には,その内部の冷却方法を,甲7に記載された冷却パイプの設置
による冷媒の蒸発による冷却方法に変更することにつき,示唆があるといえる。
また,前記aのとおり,甲7には,家庭用冷蔵庫に限らず,庫内を複数に区画し
てそれぞれ異なる温度で管理する各種冷蔵庫に有効な発明であることが記載されて
おり,甲1発明は,複数の保存室を有する冷蔵庫であるから,甲7には,甲7に記
載された事項を甲1発明に適用する示唆があるといえる。
e 以上によれば,甲1発明と甲7に記載された事項とは,一般的な技
術分野及び課題等を共通にするだけでなく,甲1に記載された実施例3及び4と甲
7に記載された事項とにおいて,上の断熱箱体における冷却中の保存品の乾燥を防
止するという具体的課題も共通するものであるから,甲1発明につき,上の断熱箱
体の保存室の内部の冷却方法として,甲7に記載された冷却パイプの設置による冷
媒の蒸発による冷却方法を適用する動機付けがあるといえる。
(イ) 前記1(2)のとおり,甲1発明には,「断熱箱体本体の天面開口部と合
致する間口を底面に備え」る「断熱箱体」という構成が含まれるが,この「天面開\n口部」及び「間口」は,庫内ファンによって冷却室の上部に設けられた冷気吹出口
から送られる冷気を,上の断熱箱体に送ってこれを冷却し,その後,下の断熱箱体
に送ってこれを冷却するための,冷気用の開口部である。
そして,冷気を上下の断熱箱体に循環させてこれを冷却する方法においては,上
下の断熱箱体の間に冷気を通すための開口部を要するが,冷媒を上下の断熱箱体に
循環させてこれを冷却する方法においては,上下の断熱箱体の間に冷気を通すため
の開口部を必要としない代わりに,冷却パイプを通すための開口部を要するのであ
って,他に冷気用の開口部を設けるべき理由はないから,上下の断熱箱体の間に冷
気用の開口部を要するか否かは,上の断熱箱体を下の断熱箱体からの冷気の循環に
より冷却するか否かという冷却方法の選択の問題にほかならない。
また,甲1には,前記1(2)のとおり,上下の断熱箱体を1つの「冷却ユニット」
で冷却することが可能であることが記載されており,弁論の全趣旨によれば,「冷却\nユニット」は,少なくとも,圧縮機,凝縮機及び蒸発器により構成されることが認\nめられるところ,冷却器及び冷却パイプは,冷媒の蒸発により,冷却を行う機能を\n有するものであり,前記の蒸発器に該当するものと認められるから,甲1発明に,
甲7に記載された前記の冷却方法を適用すれば,上の断熱箱体用の冷却パイプと下
の断熱箱体用の冷却器を,別途に設けることになるから,上下の断熱箱体を1つの
「冷却ユニット」で冷却することはできなくなる。
しかしながら,前記1(2)のとおり,甲1発明の目的は,業務用横型冷蔵庫の構造\nを改良し,特に使用用途の拡大のため,庫内に収容できる要冷蔵品の幅を広げるこ
とにある。上下の断熱箱体を1つの「冷却ユニット」で冷却するため,蒸発器を1
つしか設けないことは,この目的と関係がない。また,前記認定事実(1(3))によ
れば,甲7には,冷却パイプ内の冷媒の蒸発により冷却される保存室の内部の乾燥
を防止できることのほか,1)冷却器に湿気の多い冷蔵室や野菜室内の水分が霜とな
って付着し,冷却器の冷却能力が低下することを防げること,2)冷却器を大型化し
なくてよくなり,これを収納する区画を小容量化して,冷凍室の有効容積を広くす
ることができること,3)冷気循環のためのダクト等を設ける必要がなくなり,冷凍
室,冷蔵室及び野菜室の区画の有効容積を広くすることができることが記載されて
いる。そうすると,蒸発器を複数にして各保存室を冷却する方式を採用するか,蒸
発器を1つにして全保存室に当該蒸発器で冷却した冷気を循環させて冷却する方式
を採用するかは,当業者が設計に際して効果を考慮して適宜採用し得る設計的事項
に該当する。
以上によれば,上下の断熱箱体の間に冷気を通すための開口部がない構成になる\nことや,蒸発器を複数有する構成になることが,甲1発明に甲7に記載された事項\nを適用することの阻害事由たり得るとは認められない。
◆判決本文
進歩性なしとした審決が取り消されました。「引用発明1に基づいて,2つの段階を経て相違点に係る本件発明1の構成に想到することは,格別な努力が必要であり,当業者にとって容易であるということはできない。」という理由です。
ア したがって,仮に,引用発明1に引用発明2を適用したとしても,後部カバ
ー13に弾性部材を設け,その弾性部材をその進行方向後方側の位置で固定すると
ともに,固定部を除いて前方側を自由な状態とし,主カバー12に対する土付着防
止部材20の固定位置において,その土付着防止部材20と互いに重なるようにす
る結果,引用発明1の主カバー12に固定された各土付着防止部材20は,その固
定位置全てが隣接する他の土付着防止部材20と互いに重なるようにはなるものの,
引用発明1の後部カバー13に引用発明2の弾性部材23として設けられた土付着
防止部材20は,その進行方向前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるもので
はないから,本件発明1には至らない。
イ 本件審決は,仮に引用発明2の弾性部材23の前端部23aが前方に延設さ
れた(前方)端部寄りの部分が自重で垂れ下がるものでないとしても,エプロンに
固定された土除け材を,その端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のもの
とすることは,当業者が適宜になし得る程度のことにすぎないと判断した。
(ア) しかし,引用発明2の弾性部材23の前端部23aが前方に延設された
(前方)端部寄りの部分を自重で垂れ下がるものとすることを想到した上で,これ
を引用発明1に適用することによって,引用発明1の後部カバー13に引用発明2
の弾性部材23として設けられた土付着防止部材20の進行方向前方側の端部寄り
の部分を自重で垂れ下がるものとするというのは,引用発明1を基準にして,更に
引用発明2から容易に想到し得た技術を適用することが容易か否かを問題にするこ
とになる。このように,引用発明1に基づいて,2つの段階を経て相違点に係る本
件発明1の構成に想到することは,格別な努力が必要であり,当業者にとって容易\nであるということはできない。
(イ) また,引用例2には,弾性部材23の前端部23aはブラケット19に密
着しており,リヤカバー13が上方へ回動したときであっても飛散した土が入り込
むことがなく,前端部23aを更に前方へ延設して低摩擦係数の部材14と重ね合
わせた状態にしたときは,飛散した土の侵入がより一層防止できる旨の記載がある
(【0015】)。このように,前端部23aが飛散した土の侵入を防止するという
作用効果を奏するのは,前端部23aがブラケット19に密着しているからであり,
前端部23aを更に前方に延設して低摩擦係数の部材14と重ね合わせた状態にす
るのは,その作用効果を強めるためである。
ここで,仮に,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がったと
すると,弾性部材23の固定部(座24)から自由端(前端部23a)までのどの
部分がどの程度垂れ下がるにしても,前端部23aは,下方,すなわち,ブラケッ
ト19との密着を保つことが困難になる方向に移動することになる。さらに,リヤ
カバー13が上方へ回動すると,前端部23aとブラケット19との密着はさらに
困難になる。その結果,前端部23aがブラケット19と密着することによって奏
する飛散した土の侵入防止という上記の作用効果が減殺されることは,明らかであ
る。
すなわち,引用例2の【0004】,【0006】の記載に照らすと,リヤカバー
に固着された土付着防止部材(弾性部材)を自重で垂れ下がるように構成すると,\nリヤカバーの枢着部分では,メインカバーに取り付けた低摩擦係数の部材と,リヤ
カバーに取り付けた弾性部材との接合部に間隙が生じるため,ここに土がたまりや
すくなるという引用発明2の課題を解決できない。したがって,引用発明2の弾性
部材23について端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のものに変更する
ことは,引用発明2の目的に反する。特に,引用発明2で,リヤカバー13を下降
させた状態において,既に前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような弾性
部材23を用いた場合,リヤカバー13を上方へ回動させると,弾性部材23の垂
れ下がり位置はリヤカバー下降時よりさらに下方になるため,リヤカバーの枢着部
分では,メインカバーに取り付けた低摩擦係数の部材と,リヤカバーに取り付けた
弾性部材との接合部にさらに間隙が生じ,ここに土がたまりやすくなってしまい,
飛散した土の侵入防止という引用発明2の上記作用効果を奏することができない。
そのため,上記作用効果を奏するためには,リヤカバー13を下降させた状態にお
いて,既に前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるような弾性部材23を用い
ることはできない。
そうすると,引用発明2において,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分を自
重で垂れ下がるようにすることには,そもそも阻害要因があると認められる。弾性
部材23の前端部23aを更に前方に延設して低摩擦係数の部材14と重ね合わせ
た状態にした場合も,同様の理が妥当することから,前端部23aを前方に延設し
た弾性部材23の前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるようにすることは,
当業者が適宜になし得る程度のものということはできない。
したがって,本件審決の上記判断は,誤りというべきである。
(ウ) 被告は,引用発明2のリヤカバー側の弾性部材23について前方側の端部
寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のものに変更することは,メインカバー
に固着された土付着防止部材が自重で垂れ下がることによる不都合を課題とする引
用発明2の目的に反するものではないから,弾性部材23を,進行方向前方側の端
部寄りの部分が自重で垂れ下がるような材質のものとすることは,当業者が適宜に
なし得る程度のことにすぎない旨主張するが,同主張に理由がないことは,前記
(イ)において説示したとおりである。
・・・
しかし,前記(イ)のとおり,弾性部材23の前端部23aは,ブラケット19に
密着することによって,リヤカバー13が上方へ回動したときでも飛散した土が入
り込むことがないという作用効果を奏するものであるから,前端部23aがブラケ
ット19に密着するのを妨げるような変更を加えることには阻害要因がある。そし
て,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるようにすることは,
前端部23aをブラケット19との密着を困難にする方向に移動させることを意味
するから,当業者が適宜になし得るものということはできない。
◆判決本文