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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

阻害要因

平成30(行ケ)10108  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月2日  知的財産高等裁判所

  技術分野の関連性、課題の共通性および作用・機能の共通性の全てありだが、阻害要因があるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。\n

(ア) 技術分野の関連性について 引用発明は,「医療系廃棄物,家庭廃棄物,産業廃棄物等に含まれる有機系廃棄物 を高温高圧の蒸気を用いて処理し,処理後には,処理した廃棄物と液体とを分離し た状態で取出せる…液体分離回収方法」に関するものである(甲 1【0001】)。 他方,甲2技術は,「重金属を含有する土壌や焼却灰」のような「廃棄物」の「水 熱処理」を行うものである(甲2【0004】,【0005】)。 そうすると,両者の技術分野はいずれも水熱反応を利用した廃棄物の処理に関す るものであり,互いに関連するものといえる。
(イ) 課題の共通性について
a 引用発明は,一台の装置だけで,廃棄物を高温高圧の蒸気を用いて安全に処 理できるとともに,その処理に連続して処理された廃棄物と液体とを簡単な操作で 分離して回収できるようにするとの課題を解決することを目的とするものであるが (甲1【0004】),引用例1には,処理の対象となる有機系廃棄物として,「合成 樹脂製の注射器,血液の付着したガーゼ,紙おむつ,手術した内臓等の医療関係機 関等から廃棄された医療系廃棄物,生ごみ,プラスチック等の合成樹脂製容器等の 一般家庭から廃棄された家庭系廃棄物,食品加工廃棄物,農水産廃棄物,各種工業 製品廃棄物,下水汚泥等の産業廃棄物等に含まれる有機系廃棄物」(甲1【0035】)が挙げられている。 特開2006−55761号公報(甲3)には「有機廃棄物には,生物に有害な重 金属類を含んでいることが多く重金属類を不溶化あるいは除去する必要がある。」 (【0003】)との記載,特開2011−31180号公報(甲4)には「本発明に よれば,土壌,肥料,水,焼却灰,家畜の糞尿,工場排水,汚泥,下水等に含まれる 重金属,ダイオキシン,硝酸塩,及び農薬を効果的に分解し,無害化することができ る。」(【0011】)との記載,特開2004−24969号公報(甲5)には「重金属は,これらの都市ゴミや産業廃棄物の中に混じっていることが多い。そのため, 都市ゴミや産業廃棄物を焼却すると,燃焼排ガスに同伴して飛散する煤塵や焼却灰 中に,都市ゴミや産業廃棄物中の揮発性金属化合物に由来する重金属,例えば,亜 鉛,鉛,ニッケル,カドミウム,銅などの重金属,…が含まれている。このように, 重金属の拡散による弊害が大きな社会問題として指摘されている…」(【0003】),「従来,廃棄物の焼却時に発生する煤塵や焼却灰の処分には,飛散を防止するため に加湿処理をおこなったり,セメントやアスファルトで固形化して埋め立てに用い るか又は海洋投棄するなどの方法が採られてきた。海洋投棄する場合には,セメン トなどによって固定化するとともに,重金属が溶出しないように処理することが法 律に定められているが,これらの方法によって煤塵や焼却灰からの有害金属の溶出 を完全に抑制するには種々の問題がある。すなわち,上記の方法では,煤塵や焼却 灰中に含まれる重金属は可溶態のままであるため,煤塵や焼却灰を固形化しても重 金属が経時的に溶出し,二次公害が発生する恐れが残っている。…」(【0004】) との記載,特開2006−167509号公報(甲6)には「この発明は食品加工工 程で廃棄される魚介類残渣,鶏糞・豚糞,牛糞などの家畜の糞尿,野菜屑などの農産 廃棄物,更には生ゴミなどの動植物性食品残渣といった有機系廃棄物の処理システ ムに関する」(【0001】),「…魚介類残渣にはカドミウム,水銀,砒素当の重金属類が少なからず含まれており,これが発酵後の堆肥に含まれていると,事実上農作 物に使用することができなくなってしまう。…」(【0005】)との記載,特開20 08−155179号公報(甲7)には「…工場汚泥,工事汚泥,又は下水汚泥,生 活排水汚泥等の汚泥,並びに家畜糞尿等の汚水を含む被処理物…の熱処理方法であ って,…被処理物中の有機物の炭化及び/又は熱分解を介して,該被処理物中の重 金属等の異物を分離貯留するとともに,…ことを特徴とした環境に優しい被処理物 の熱処理方法。」(【請求項1】)との記載がある。 これらの記載によれば,産業廃棄物に限らず,土壌,肥料,水,焼却灰,家畜の糞 尿,工場排水,工場や工事の汚泥,下水や生活排水汚泥,都市ゴミ,魚介類残渣等の 種々の廃棄物が有機系廃棄物とともに重金属を含んでいること,廃棄物に含まれる 重金属を放置すると,堆肥等として使用することもできなくなるばかりか,その拡 散による弊害が大きな社会問題として指摘されていること,廃棄物の焼却時に発生 する煤塵や焼却灰の処分には,飛散を防止するため,加湿処理,固形化,あるいは海 洋投棄が行われてきたが,海洋投棄する場合には,セメントなどによって固定化す るとともに,重金属が溶出しないように処理することが法律に定められていること は,本願出願時において周知の事項であったものと認められる。 そうすると,引用発明において処理の対象となる「有機系廃棄物」にも,重金属が 含まれ得ること,及びその溶出を防止することは,引用発明が属する技術分野にお いて,当業者が当然に考慮すべき課題であると認められ,処理後の廃棄物と液体と の分離に焦点を当てた引用例1にそのことが明示的に記載されていなくても,引用 発明の自明の課題として内在しているものというべきである。
b 他方,甲2技術は,金属を含有する廃棄物の水熱処理の際に発生する重金属 を含有する排水を,排水処理設備を設けることなく,処理することができる廃棄物 の処理方法および処理装置を提供することを目的とするものであり(【0005】), シリカとカルシウム化合物とを反応させ,トバモライトなどの結晶性カルシウムシ リケートを発生させることによって,「重金属は,内部に閉じこめられ(固定化され),外部への溶出が抑制されるようになる」(【0031】)というものであるから,水熱 処理後の重金属含有排水からの重金属の溶出を防止することを課題とするものであ る。
c そうすると,引用発明と甲2技術とは,廃棄物中の重金属の溶出を防止する という点で,解決すべき課題が共通するものといえる。
(ウ) 作用・機能の共通性について\n
引用発明は,閉鎖空間を有する密閉容器内に有機系の廃棄物を収容して,固形状 の有機系廃棄物を破砕しつつ撹拌し,高温高圧の蒸気を噴出して炭化させるもので あるところ,水熱処理の条件として,「温度180〜250℃,圧力15〜35at m程度(判決注:1.5〜3.5MPa)」(【0040】)との開示がある。 一方,甲2技術は,水熱処理によりトバモライトなどの結晶性カルシウムシリケ ートを形成させるものであるところ,水熱処理の条件として,「130〜300℃程 度での飽和蒸気(判決注:同温度での飽和蒸気圧を計算すると0.28〜9.41M Pa)」(【0034】)との開示がある。 そうすると,引用発明では有機物が炭化されるのに対し,甲2技術では,トバモ ライト結晶が形成されるのであって,水熱反応によって起こる現象が異なるから, 引用発明に甲2技術を組み合わせる動機となるような,作用・機能の共通性は認め\nられない。もっとも,水熱処理における温度・圧力の条件自体は重複している以上, 組合せを阻害する要因となるものでもないと解される。
(エ) 以上によれば,引用発明と甲2技術とは,廃棄物の水熱処理という技術分野 において関連性があり,廃棄物から重金属の溶出を防止するという課題が共通して いるということができる。
イ 引用発明への甲2技術の適用
しかしながら,仮に引用発明に甲2技術を適用しても,甲2には,前記有機系廃 棄物の固形物上にトバモライト構造が層として形成されることの記載はないから,\n相違点2’に係る「前記重金属類が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモ ライト)構造」が「前記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されると\nの構成には至らない。\nこの点につき,本件審決は,引用発明に甲2技術が適用されれば,「前記重金属類 が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造」が「前記有機系廃\n棄物の固形物上に」いくらかでも「層」として「形成」されて,重金属の溶出抑制を 図ることができるものになる旨判断し,被告は,生成した造粒物の表面全体をトバ\nモライト結晶層で覆うことになるのは当業者が十分に予\測し得ると主張する。しか しながら,特開2002−320952号公報(甲8)にトバモライト生成によっ て汚染土壌の表面を被覆することの開示があるとしても(【0028】,図1。図1\nは別紙甲8図面目録のとおり。),かかる記載のみをもって,トバモライト構造が「前\n記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されることが周知技術であった とは認められず,被告の主張を裏付ける証拠はないから,引用発明1に甲2技術を 適用して相違点2’に係る本願発明の構成に至るということはできない。\n

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平成31(行ケ)10005  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年9月19日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、進歩性なしとした審決が取り消されました。出願人は銀行です。取り消し理由は、「引用発明に周知技術を適用することの動機付けがない」というものです。 なお、対象となったクレームは以下です。  携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータに応じて,前記携帯通信端末において実行されるアプリケーションの,前記携帯通信端末の動きに伴う動作を規定する設定ファイルを設定する設定部と,\n前記設定ファイルに基づいてアプリケーションパッケージを生成する生成部と, を有するアプリケーション生成支援システム。

 本件審決は,引用発明に引用文献2〜5及び参考文献1記載の技術(同技術に乙 3文献記載の技術を併せて,以下「被告主張周知技術」という。)を適用することに より,本件補正発明に想到し得ると判断していることから,引用発明に被告主張周 知技術を適用する動機付けの有無について検討する。
ア 引用発明
前記2(1)のとおり,引用文献1には,「近年,コンテンツマネジメントシステム (以下,CMS(Content Management System)という) によりウェブアプリケーションとして公開するコンテンツを構築し,管理すること\nが行われている(例えば,特許文献1参照)。ところで,近年,ネイティブアプリケ ーションをダウンロードしてインストールすることができるスマートフォンが普及 している。スマートフォンのユーザは,ネイティブアプリケーションをインストー ルする場合,アプリケーションを提供する所定のアプリケーションサーバにアクセ スし,所望のネイティブアプリケーションを検索する。しかしながら,CMSによ って構築されるウェブアプリケーションは,ウェブサイトとして構\築されるため, 検索サイトの検索結果として表示されることがあるものの,アプリケーションサー\nバから検索することができない。したがって,アプリケーションサーバにおいてネ イティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開発したウェブアプ リケーションを利用してもらうことができないという問題がある。これに対して, CMSによって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブ アプリケーションを開発し,当該ネイティブアプリケーションをアプリケーション サーバにアップロードすることも考えられる。しかしながら,ネイティブアプリケ ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要であった。本発明は,ネイ ティブアプリケーションを容易に生成することができるアプリケーション生成装置, アプリケーション生成システム及びアプリケーション生成方法を提供することを目 的とする。」(段落【0002】,【0004】〜【0007】)と記載されており,同記載からすると,引用発明は,CMSによって構築されるウェブアプリケーション\nは,アプリケーションサーバから検索することができないため,アプリケーション サーバにおいてネイティブアプリケーションを検索したユーザに,CMSにより開 発したウェブアプリケーションを利用してもらうことができないこと及びCMSに よって構築したウェブアプリケーションと同等の機能\を有するネイティブアプリケ ーションを新規に開発するには,多大な開発工数が必要となることを課題とし,同 課題を解決するためのネイティブアプリケーションを生成する装置であることが認 められる。
引用発明は,上記課題を解決するために,前記(1)アで認定したとおり,既存のウ ェブアプリケーションのロケーションを示すアドレスや所望の背景画像を示すアド レス等の情報を入力するだけで,当該ウェブアプリケーションの表示態様を変更し\nて,同ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブアプリケーシ ョンを生成できるようにしたものと認められる。
イ 被告は,携帯通信端末の動きに伴う動作を行うネイティブアプリケーシ ョンを生成すること,特に,PhoneGapに係る技術が周知であると主張する。
(ア) 前記アのとおり,引用発明は,アプリケーションサーバにおいて検索で きるネイティブアプリケーションを簡単に生成することを課題として,同課題を, 既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入力するだけで,同ウェブア プリケーションが表示する情報を表\示できるネイティブアプリケーションを生成す ることができるようにすることによって解決したものであるから,ブログ等の携帯 通信端末の動きに伴う動作を行わないウェブアプリケーションの表示内容を表\示す るネイティブアプリケーションを生成しようとする場合,生成しようとするネイテ ィブアプリケーションを携帯通信端末の動きに伴う動作を行うようにする必要はな く,したがって,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネ イティブ機能を実行するためのパラメータ」とする必要はない。もっとも,引用文\n献1の段落【0024】には,ブログ等と並んで「ゲームサイト」が掲げられてお り,ゲームにおいては,加速度センサにより横画面と縦画面が切り替わらないよう に制御する必要がある場合が考えられる(引用文献5参照)が,ウェブアプリケー ションとして提供されるゲームは,1)常に携帯通信端末の表示画面を固定する必要\nがあるとはいえないこと,2)加速度センサにより,携帯通信端末の姿勢に対応した 画面回転表示を制御する機能\は携帯通信端末側に備わっており,端末側の操作によ って,表示画面を固定することができ,そのような操作は一般的に行われているこ\nと,3)引用文献1の段落【0024】の「ゲームサイト」は,携帯通信端末の表示\n画面を固定する必要のないブログ,ファンサイト,ショッピングサイトと並んで記 載されており,また,引用文献1には,加速度センサについて何らの記載もないこ とからすると,当業者は,上記の「ゲームサイト」の記載から,パラメータを「携 帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行するためのパラメータ」とすることの必\n要性を認識するとまではいえないというべきである。 また,引用発明によって生成されるネイティブアプリケーションは,HTMLや JavaScriptで記述されるウェブページを表示できるから,引用発明によ\nり,乙4に記載されたHTML5 APIのGeolocationを用いて携帯 通信端末の動きに伴う動作を行うウェブアプリケーションの表示内容を表\示するネ イティブアプリケーションを生成しようとする場合も,生成されるネイティブアプ リケーションは,設定情報に含まれているウェブアプリケーションのアドレスに基 づいて,同ウェブアプリケーションに対応するウェブページを取得し,取得したウ ェブページのHTMLやJavaScriptの記述に基づいて,同ウェブアプリ ケーションの内容を表示でき,したがって,ネイティブアプリケーションの生成に\n際して,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネイティブ 機能を実行させるためのパラメータ」とする必要はない。\nさらに,被告主張周知技術に係る各種文献にも,引用発明の上記の構成の技術に\nおいて,「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に\n応じて設定ファイルを設定することの必要性等については何ら記載されていない (甲2〜5,7,8,乙1〜3)。
(イ) 前記アのとおり,引用発明は,簡易にネイティブアプリケーションを生 成することを課題として,既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入 力するだけで,当該ウェブアプリケーションが表示する情報を表\示するネイティブ アプリケーションを生成できるようにしたのであり,具体的には,前記(1)アのとお り,入力しようとするウェブアプリケーションのロケーションを示すアドレス及び 表示態様に基づいて,テンプレートアプリケーション111に含まれる設定情報の\n内容を書き換えるだけで目的とするウェブアプリケーションの表示する情報を表\示 できるネイティブアプリケーションを生成でき,テンプレートアプリケーション1 11に含まれるプログラムファイル113については,新たにソースコードを書く\n必要はないところ,証拠(甲3,5,7,乙1〜3)によると,PhoneGap によってネイティブアプリケーションを生成するためには,HTMLやJavaS cript等を用いてソースコード(プログラム)を書くなどする必要があるもの\nと認められるから,引用発明に,上記のように,新たにソースコードを書くなどの\n行為が要求されるPhoneGapに係る技術を適用することには阻害事由がある というべきである。
被告は,1)PhoneGapでは,PhoneGapのプラグインの仕組みを使 って,GPSなど端末のネイティブ部分にアクセス可能であり,端末のGPS機能\ にアクセスすることで,GPSで取得した端末の現在位置が中心となるように地図 を表示することが可能\となるから,引用発明において地図表示アプリケーションを\n生成する際に,PhoneGapのフレームワークを採用することで,ネイティブ 機能であるGPS機能\が利用可能となり,携帯通信端末の動きに伴う動作を設定可\n能となり,また,2)AndroidManifest.xmlに「android: screenOrientation =”landscape”」の1行を追加し たり(Androidの場合),「Landscape Right」又は「Lan dscape Left」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,スマー トフォンの画面を横画面に固定可能となり,縦画面に固定する設定を施す場合,A\nndroidManifest.xmlに「android:screenOri entation =”portrait”」の1行を追加したり(Android の場合),「portrait」のアイコンを選択すること(iOSの場合)で,ス マートフォンの画面を縦画面に固定可能となるから,引用発明において,アプリケ\nーションを生成する際に,PhoneGapのフレームワークを利用することで, 「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に応じて,\n携帯通信端末において実行される「アプリケーションの,携帯通信端末の動きに伴 う動作」を規定する設定ファイルを備えることとなると主張する。 しかし,上記のとおり,引用発明にPhoneGapの技術を適用することの動 機付けはないから,被告の上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。

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平成30(行ケ)10090  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月14日  知的財産高等裁判所

 タイヤの発明について、引用文献1および周知技術から、進歩性ナシとした審決が維持されました。

 (6)周知技術の認定 前記(1)〜(5)によると,本願出願日当時,タイヤの技術分野において,クラウン部 の外周にタイヤ周方向に巻き付ける被覆コード部材の断面形状を略四角形状とする こと,また,上記断面形状は略四角形状,円形状又は台形状等から選択可能である\nことが周知技術であったことを認定することができる。
(7) 甲1発明に周知技術を適用することの可否
ア 前記(6)のとおり,本願出願日当時,クラウン部の外周にタイヤ周方向に 巻き付ける被覆コード部材の断面形状は,略四角形状,円形状又は台形状等から選 択可能であることは周知技術であった。\nまた,前記(2),(3)のとおり,周知文献3の【0007】には,「本発明の請求項1 に記載のタイヤでは,タイヤ周方向に螺旋状に巻かれる補強コード部材のタイヤ軸 方向に隣接する部分同士を接合していることから,例えば,補強コード部材のタイ ヤ軸方向に隣接する部分同士を接合しないものと比べて,タイヤ骨格部材に接合さ れる補強コード部材で構成される層(以下,適宜「補強層」と記載する。)の剛性が\n向上する。これにより,上記補強層が接合されるタイヤ骨格部材の剛性を向上させることができる。」と記載され,また,周知文献3の【0049】には,「補強コー ド部材22のタイヤ軸方向に隣接する部分同士の接合は,一部分でも全部でも構わ\nないが,接合面積が広いほど補強コード部材22で構成される補強層28の剛性が\n向上する。」と記載され,周知文献2の【0063】にも,「補強コード部材22の タイヤ軸方向に隣接する部分同士の接合は,一部分でも全部でも構わないが,接合\n面積が広いほど補強コード部材22(補強層28)によるタイヤケース17の補強 効果が向上する。」と記載されている。そうすると,本願出願日当時,タイヤ軸方向 に隣接する補強コード部材同士を接合しないものに比べて,これを接合したものは 補強コード部材で構成される補強層の剛性を向上させることができ,その接合面積\nが広いほど補強層の剛性が向上し,補強層が接合されるタイヤ骨格部材の剛性を向 上させることができることが知られていた。そして,補強コード部材(被覆コード 部材)の断面形状が円形状のものよりも,略四角形状のものの方が,タイヤ軸方向に隣接する補強コード部材同士の接合面積を広くし得ることは,明らかである。
以上によると,タイヤ軸方向に隣接する被覆コード部材同士を溶融接合している 甲1発明において,前記(6)の周知技術を適用して,断面形状が円形状の被覆コード 部材に代えて,これと適宜選択可能な関係にある断面形状が略四角形状の被覆コー\nド部材を採用することは,当業者が容易に想到し得るものと認められる。 イ 前記(2),(3)のとおり,周知文献3には,断面形状が略四角形状であり, タイヤ軸方向に隣接する部分同士が接合(溶着)された補強コード部材22につい て,クラウン部16に一部が埋め込まれても構わないことが記載され(【0046】,\n【0049】,【0050】,【0053】),また,周知文献2には,断面形状が略四角形状であり,タイヤ軸方向に隣接する部分同士が接合(溶着)された補強コード 部材22について,長手方向の両端部22Aがクラウン部16に埋め込まれて長手 方向の中間部22Bよりもクラウン部16の内周面16B側に配置されるのであれ ば,長手方向の中間部22Bがクラウン部16に埋め込まれても構わないことが記\n載されている(【0057】,【0058】,【0061】,【0063】)。 そうすると,タイヤ軸方向に隣接する被覆コード部材同士を溶融接合している甲 1発明において,前記(6)の周知技術を適用して,断面形状が円形状の被覆コード部 材に代えて,これと適宜選択可能な関係にある断面形状が略四角形状の被覆コード\n部材を採用することに,製造上の阻害要因があるものとは認められない。

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平成30(行ケ)10078  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月20日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、「甲1発明の目的を達成できなくなるので、阻害要因あり」として、進歩性違反無しとした審決を維持しました。

 前記2(1)イ〜エ,カの記載によれば,甲1発明は,「発泡作用によりマッ サージ効果を得る化粧料について,最高度に気泡が発生することを色によっ て判断できるようにすること」を課題とし,当該課題を,「炭酸水素ナトリ ウムを含む第1剤と,前記炭酸水素ナトリウムと水の存在下で混合したとき に気泡を発生するクエン酸,酒石酸,乳酸及びアスコルビン酸のうちの1又 は2以上の成分を含む第2剤と,前記第1剤と第2剤に夫々分散された異色 のものからなり,混合により色調を変え,使用可能な状態になったことを知\nらせるための2色の着色剤A,Bと,前記第1剤又は第2剤の一方又は双方 に含まれた,化粧料としての有効成分とからなる組成」を有する「常態では 粉状」の化粧料とし,これにより,「2色の着色剤A,Bを第1剤,第2剤 に夫々混合し,使用前,個有(原文のまま)の色分けを行なうとともに使用 時第1,第2両剤を混合し,一定の色調になったときに良く混合したことが 判断できかつ,最適の反応が行なわれる」ようにすることで,解決しようと したものである。すなわち,甲1発明は,最高度に気泡が発生することを色 によって判断できるようにするために,炭酸塩を含む第1剤と酸を含む第2 剤に分けてあえて異色の構成とし,これらを混合することによって色調が変\nわるようにしたものであると認められる。 そうすると,たとえ,アルギン酸ナトリウムが水に溶けにくい性質を持つ ことや,一般的な用時調製型の化粧料において,ジェルと固体(顆粒や粉末 等)の2剤型のものが周知であったとしても,甲1発明において,炭酸塩と 酸が2剤に分離されてそれぞれが異色のものとされている構成を,甲2記載事項の「粉末パーツ」のようにあえていずれか一方(1剤)に統合して複合\n粉末剤等とすると,そもそも甲1発明の目的(2剤の色分けと混合による色 調の変化を利用して最高の発泡状態か否かを判断する)を達成できなくなる ことは明らかであるから,そのような変更を当業者が容易に想到し得るとは いい難く,その意味で,甲1発明に甲2に記載された技術(甲2記載事項) 等を組み合わせようとすることについては動機付けがなく,むしろ阻害要因 があるといえる。
(3) これに対し,原告は,甲1発明は,気泡状の二酸化炭素(炭酸ガス)を経 皮吸収させることを機能の一つとする化粧剤であるから,拡散問題(炭酸ガ\nスが大気中に拡散すること)は甲1発明に内在する自明の課題であるとした上で,甲1発明に対しアルギン酸ナトリウム慣用技術(甲2記載事項)を適 用することについては,自明の課題である拡散問題を軽減するために,閉じ 込め効果(アルギン酸ナトリウムを事前に水に添加して万遍なく行き渡らせ ることにより,網目状の高分子化合物が形成され,気泡状の二酸化炭素〔炭 酸ガス〕を水溶液中に閉じ込めることが可能となること)を利用するという\n積極的な動機付けがある,などと主張する。
しかしながら,甲1発明は,前記のとおり,発泡作用(炭酸ガスの発泡, 破裂作用)によりマッサージ効果を得る化粧料について,最高度に気泡が発 生することを色によって判断できるようにすることを目的とするものであっ て,そこに炭酸ガスを体内に取り込もうとする技術的思想はない(二酸化炭 素の泡がはじけることによる物理的な刺激を効果的に得ようとしているにす ぎない)から,「気泡状の二酸化炭素(炭酸ガス)を経皮吸収させることを 機能の一つとする化粧料」であるとはいえず,原告の主張はそもそもその前\n提において誤りがある。そうである以上,原告主張の拡散問題が甲1発明に 内在する自明の課題であるとはいえないし,甲1発明におけるアルギン酸ナ トリウムは飽くまで気泡発生を助成するための起泡助長剤として添加されて いるにすぎないから(甲1【0013 】),アルギン酸ナトリウムが含まれ ているからといって,それだけで直ちに事前に水に添加して利用する技術(アルギン酸ナトリウム慣用技術)を適用することについての積極的な動機付け があるともいえない。この点,原告は,アルギン酸ナトリウムが増粘剤とし ても機能するものであることを根拠に甲1発明におけるアルギン酸ナトリウ\nムが気泡の発生とその安定化の双方に寄与するものであることを当業者は当 然に認識するとも主張するが,甲1発明の目的を離れた主張であって,論理 に飛躍があり,採用できないというべきである。
また,原告は,阻害要因に関して,甲1は,技術分野の同一性を理由とし て本件発明の課題を解決するための主引例として選択されたものであり,容 易想到性の判断に際して,甲1に記載された目的に反する方向での変更か否 かは関係がない,などとも主張するが,特定の公知文献(公知技術)からの 容易想到性の問題である以上,当該公知文献に記載された目的を度外視した 判断はできないというべきであり,上記主張は,やはり採用できないという べきである。

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◆平成30(行ケ)10077

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平成30(行ケ)10048  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月6日  知的財産高等裁判所

 動機付けがなく、むしろ阻害要因があるとして、無効理由なしとした審決が維持されました。
(4) 相違点3の容易想到性について
ア 前記認定に係る各文献の記載によれば,まず,甲9の軸受保持部材28は, 鍔部及び係止爪と類似する構成であるフランジ34と突起32とを有するものの,\n当該軸受保持部材28は,回転するカッター軸38を回転自在に支持するものでは なく,オイルシール40と,ころがり軸受であるオイルレスベアリング42とを支 持するものであり,軸受け部材に相当するものではない。 他方,甲5〜8,10〜16及び18は,いずれも,軸受け部材に関する技術が 記載されたものと認められるところ,弾性変形可能な係止爪が外周に突出し,基端\n側に鍔部を有し,また,係止爪は先端側に向かうほど当該軸受け部材における軸の 回転中心との距離が短くなる斜面を有している軸受け部材を,固定された板状体に 対して装着し,当該板状体に設けられた穴に軸を回転自在に支承するものである点 で共通するものの,固定された板状体以外の部材に装着することについての記載や 示唆はない。 また,甲17においては,軸受Aが装着されるボス(6)自体は板状体ではないもの の,ボス(6)は板状のベース(5)に固定されたものであり,軸受Aのフランジ板(1)と爪 片(4)の係合突起(4a)との間にのみボス(6)が配置されるものである。そうすると, 甲17と甲5〜8,10〜16及び18とは,直接に装着する対象そのものが板状 体であるか否かという点で違いはあるものの,いずれも装着される部材は板状体又 は板状のものに固定された部材であり,これをフランジと爪片との間で狭持するよ うにして固定する軸受け部材である点で共通するといえる。 以上を踏まえると,甲5〜8及び10〜18により,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する,滑り軸受けである軸受け部材において,弾性変形可能な\n係止爪が外周に突出しており,基端側に鍔部を有しており,同係止爪は先端側に向 かうほど軸受け部材における軸の回転中心との距離が短くなる斜面を有している軸 受け部材。」を周知技術として認定することができる。これは,本件審決認定に係 る周知軸受け部材に相当する。なお,甲5〜18の全ての文献から,軸受け部材に 関する周知技術というべき共通の技術事項を認めることはできない。
イ また,その余の文献の記載を見ても,まず,甲2〜4は,いずれもY字形を なし,二股に分かれた部分の先端付近に一対の回転体を設けて構成される美容器に\nおいて,回転体が非貫通状態で軸に支持されることを開示するものの,当該回転体 の支持構造として,本件発明1のような「係止爪」及び「段差部」を用いるものではない。\n次に,甲19の1のマッサージローラーは,その内装面に周囲を巡る凹部を備え, 「段差部」に類似する構成を有するものといい得るものの,マッサージローラー自\n体が弾性材料より構成されることにより,鞘の外装面の周囲を巡る隆起との間でス\nナップ結合をすることができるようにしたものである点で,本件発明1とは異なる。 他方,甲20の1のプラグ200は,フランジ201及びラッチアーム204に 突起205を有する点で,本件発明1の軸受け部材に類似する構成を有するものと\nいい得るものの,プラグ200は,2つのモジュールを固定するものであって,支 持軸に設けられる軸受け部材として機能するものではない。加えて,プラグ200\nは,モジュール140の貫通した孔からロックピン240を挿入することにより, プラグ200のラッチアーム204がモジュールの開口のラッチ凹部から離脱する のを防止するものであるから,非貫通状態の回転体を支持するために用いることを 前提としないことは明らかである。 そうすると,軸受け部材を用いて軸に対して非貫通状態の回転体を支持する際に, 回転体の内面に段差部を設けるとともに,軸受け部材には当該段差部に係止する係 合爪を用いる構成が開示されていることを認めるに足りる証拠はない。\n
ウ そもそも引用発明1は,ベアリング12及びL型ベアリング13という2つ の軸受け部材を用いることによって,ローラー4を回転自在に支承するものであるところ,これを1つの軸受け部材に置き換えることが可能であることを記載ないし\n示唆する証拠は見当たらない。 また,仮に引用発明1のベアリング12及びL型ベアリング13を1つの軸受け 部材に置き換えることが可能であったとしても,引用発明1のローラー4は,顔面\nに接触させて回転させるものであり,その長手方向と直交する方向に荷重がかかる ことは明らかであるところ,1つの軸受け部材に置き換えてしまうと,ローラーを その根元の部分でのみ支承することとなってしまい,ローラーを安定して回転させ ることが困難となることは容易に推察される。 そうすると,引用発明1のベアリング12及びL型ベアリング13を1つの軸受 け部材に置き換える動機付けはなく,むしろ阻害要因が存するといえる。
エ 以上より,引用発明1に甲2〜20の1記載の事項を適用することによって, 相違点3に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者にとって容易に想到し\n得ることとはいえない。
オ 原告の主張について
(ア) 原告は,甲5〜18記載の事項を引用発明1に適用することが容易である ことを理由として無効理由の主張を行っているのではなく,これらの文献から共通して抽出される構成が周知の軸受け部材であるとし,これを引用発明1に適用する\nことが容易であったと主張しているにもかかわらず,本件審決は,各文献記載の事 項を個別に判断しており,その判断手法に誤りがあるなどと主張する。 しかし,甲5〜18の全ての文献から軸受け部材に関する周知技術というべき共 通の技術事項を見出すことはできないことは,前記のとおりである。本件審決は, その記載を通じて見れば,そのような理解を前提とした上で,個々の証拠における 軸受け部材を引用発明1に適用できるかを検討したものと理解されるのであり,そ の判断手法に違法があるものとはいえない。
(イ) 原告は,本件審決による周知軸受け部材の認定には誤りがある旨主張する けれども,この点に関する本件審決の判断に誤りがないことは前記のとおりである。
(ウ) 原告は,本件審決につき,実施可能要件適合性の判断においては甲5〜1\n8の記載を参酌し,板状体ではない回転体に使用する軸受け部材に係る係止片を弾 性変形させる場合に所定のクリアランスを設けることは技術常識であると認定する 一方で,進歩性の判断においては,甲5〜18の周知技術の認定として,これが技 術常識でないことを前提として判断しており,その認定・判断に矛盾があるなどと 主張する。 この点に関する原告の主張の趣旨は,やや判然としないが,そもそも,本件審決 は,実施可能要件適合性の判断の際,「係止爪を弾性変形させるために所定のクリ\nアランスを設けること」を技術常識として認定するにあたり,甲5〜18を参酌し たものではない。また,上記技術常識が認められるか否かと,甲5〜18の記載か ら原告主張に係る周知軸受け部材を認定し得るか否かとは,直接的な関係はない。 すなわち,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する,滑り軸受けである 軸受け部材において,弾性変形可能な係止爪が外周に突出しており,基端側に鍔部\nを有しており,同係止爪は先端側に向かうほど軸受け部材における軸の回転中心と の距離が短くなる斜面を有している軸受け部材」(本件審決認定に係る周知軸受け 部材)において,「固定された板状体の穴に軸を回転自在に支承する」ことは,係 止爪が弾性変形するためのクリアランスを設けることを前提とするか否かとは直接 的な関係がないことから,仮に係止爪が弾性変形するためのクリアランスを有する ことが技術常識であることを前提としても,その認定が異なることはない。
(エ) その他原告がるる指摘する点を考慮しても,この点に関する原告の主張は 採用できない。
(5)小括
以上のとおり,少なくとも,引用発明1に甲2〜20の1記載の事項を適用する ことによって,相違点3に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者にとっ\nて容易に想到し得たものとはいえない。そうである以上,その余の点を論ずるまで もなく,本件発明1を容易に発明することができたとはいえない。

◆判決本文

関連事件です。

◆平成30(行ケ)10049

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