進歩性無しとした審決が維持されました。阻害要因についても無しと判断されました。
ア 前記1(3)によれば,引用文献2技術事項は,物質に特有な高吸収X線を
利用することにより,荷物や人体内に隠匿した麻薬,あるいは爆薬や象牙
などの禁制品の有無を検査できるものであるから,人体用だけでなく,荷
物の中の見えない物体の有無を検査するX線荷物検査装置でもあるとい
える。そうすると,食品等の異物検査を行うX線検出装置である引用発明
1の技術分野と,医療検査や荷物検査を行う引用文献2技術事項の技術分
野は,X線検査装置が用いられる技術分野として関連するものであるとい
える。
また,引用発明1においては,判定部24において「各ライン走査ごと
のデータ中の最大画素濃度のデータを所定の閾値と比較してX線吸収率
が大きい金属異物等の混入の有無が検出濃度レベルと閾値との比較によ
り判定される」(M)ものであり,ワークWのX線画像の検出濃度レベルと
所定の閾値とを比較することにより,金属異物等の混入が有る場合の濃度
レベルと混入が無い場合の濃度レベルとを判定する必要があるから,ワー
クWのX線画像における金属異物等の混入の有無の濃度レベルの間の差
異を明確にしなければならず,X線画像において目的とする物体を透過し
たX線の検出出力と前記目的とする物体以外の部分を透過したX線の検
出出力との間に明確な差異を有するX線画像を生成するという課題を有
している。一方,引用文献2においては,従来のX線撮影装置では「目的
とする臓器などを明瞭に表示するようにしたコントラストの高いX線像\nを得ることが難しい」(【0002】)という課題を有し,また,異なる波長
の単色X線を用いて得られたX線像の差分から目的とする部分を際立た
せて表示する方法を用いる場合,「異なる時刻に撮影したX線像の差分を\n取ると,位置がずれてしまい明瞭な動脈像を生成することができない」
(【0004】)という課題を有しているところ,引用文献2技術事項によ
り「それぞれピクセルへの入射X線量をカウントしカウント値の差分を取
ると,軟部組織や骨に吸収されたX線が相殺され血管部分のみに差が現れ
て冠状動脈のコントラストの大きな鮮明な映像を得ることができる」(【0
021】)としている。コントラストが大きなX線画像は,物体を透過した
X線の検出出力と目的とする物体以外の部分を透過したX線の検出出力
との間に明確な差異を有するものであるから,引用発明1と引用文献2技
術事項とは課題を共通するといえる。
さらに,引用発明1と引用文献2技術事項は,いずれも被測定物の中の
外から見えない物体を検出するために用いられるX線画像を形成し,当該
X線画像に基づいて検査を行うという作用・機能が共通するといえ,加え\nて,引用文献2には,「X線検出部11に1次元のリニアアレイを用いて1
次元走査して測定することもできる」【0014】ことが記載され,被測定
物を1次元走査してX線画像を得ることも示唆されており,引用発明1の
X線ラインセンサにより搬送される被測定物のX線画像とは,X線画像を
被測定物を1次元走査して生成するという点においても共通する。
以上のように,引用発明1と引用文献2技術事項との間に,技術分野,
解決課題及び作用機能に密接な関連性・共通性があることからすると,引\n用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせることに強い動機付けがあ
るといえる。
イ 前記第3の1(1)イ(ア)bのとおり,原告は,引用発明1のX線検査装置
は異物の有無を低コストで検査する分野の装置であり,簡易な検査作業の
実現を目的とするのに対し,引用文献2技術事項のX線検査装置は,コス
トを度外視して検査する分野の装置であり,被曝防止を目的とするもので
あるから,当業者は,異物検出の精度向上のためにわざわざ引用発明1に
引用文献2技術事項とを組み合わせたりする動機付けない旨主張する。
まず,引用文献2には,「撮影は1度で済み」(【0010】),「エネルギ
ーを変えて検査するときにも1度の撮影で済むので検査時間が短縮する
利点がある。」(【0022】)との記載があるが,それは副次的なものにす
ぎず,引用文献2技術事項の課題は,複雑で高価な装置を用いずにコント
ラストの高いX線像を得ることである(【0003】ないし【0007】,
【0010】,【0022】,【0024】)。したがって,引用文献2技術事
項のX線検査装置は,コストを度外視して検査する分野の装置であると認
めることはそもそも相当でない。また,引用発明1が,コンベア搬送路上
のワークの金属異物等の混入の有無を検査する異物検査装置であること
からして,引用発明1が製品製造現場用の装置であり,引用文献2の記載
上は,引用文献2技術事項が直接には医療用検査装置に用いることを想定
しているとしても,コストをどの程度かけるかということと技術分野とは
直結しないところ,製品の性質,製造現場の規模,製品の販路等も度外視
して,製品製造現場用の装置であれば,おしなべて性能の低い製品で足り,\n当業者は性能の向上には意を払わず,医療検査装置用の技術には関知しな\nいなどとは当然にいえることではなく,そのようにいえる証拠は提出され
ていない。
異物検査装置の異物検査の性能を向上させることは自明の要請ともいう\nべきところであり,前記アのとおり,引用発明1の異物検査装置に,技術
分野,課題・解決手段,作用・機能,効果とも密接に関連ないし共通する\n引用文献2技術事項を適用する強い動機付けがあるというべきである。
ウ 前記第3の1(1)イ(イ)aのとおり,原告は,1つの「設定時X線画像」
を基準とする引用発明1に,複数個の画像を基準とし,その基礎とする技
術的思想を異にする引用文献2技術事項を適用することには阻害要因が
ある旨主張する。
ここで,「設定時X線画像」とは,実検査前にサンプルを使用した検査に
おいて得られたX線画像データとして設定情報記憶部23に保持された
初期設定データの1つであり(引用文献1の【0052】ないし【005
5】),当該品種に設定された各種パラメータや検出条件及び判定条件にお
ける検査における代表画像とされ(【0042】),実検査時に実検査時のX\n線画像Wiと共に表示器26に表\示され,実検査中に両者を照合すること
により,検査の条件に実検査品が適合したものか否かを判定することや
(【0046】,【0059】ないし【0061】),品種選択操作を視覚的に
容易に把握することに役立てるものである(【0062】,【0063】)。
したがって,検査の目的に合わせたX線画像を得られるならば「設定時
X線画像」も同時に得られる関係にあるところ,引用文献2技術事項によ
ると複数のX線画像を生成することができ得るが,特に感度のよいエネル
ギー領域を選択して目的部位の像を鮮明化したり,異なるX線エネルギー
領域における出力信号の差分に基づいて画像化するなどして,最適な条件
で選んだ画像を1つ生成できることも明らかである。そして,当業者が,
異物検査の目的に応じて最適な画像を選択してそれを代表画像とするこ\nとができないとする理由もない。
そうすると,引用発明1のX線画像を得る手段として引用文献2技術事
項を適用することには,阻害要因はない。
エ 前記第3の1(1)イ(イ)bのとおり,原告は,低コストでの簡便・容易化
を目指す引用発明1に,高精度で複雑・高度な引用文献2技術事項を適用
することには,甲1発明の目的から乖離・矛盾するから阻害要因がある旨
主張する。
しかしながら,前記イにて説示したとおり,技術分野としての観点から
見た場合に,あたかもX線検査装置が低コストでの簡便・容易化を目指す
装置の分野の技術と複雑・高精度で複雑・高度な装置の分野の技術に二極
化していて,両者の技術が相容れないとは認められない。その上,引用文
献2技術事項の課題は,前記イのとおり,複雑で高価な装置を用いずにコ
ントラストの高いX線像を得ることであり,前記アのように,被測定物を
1次元走査して測定するような簡易な方法も示唆されている。また,引用
文献2に禁制品の有無を検査することもできるとの示唆があるからとい
って,引用文献2技術事項が空港や税関等で用いる検査装置のみに用いら
れる技術ととらえることは,同技術の正しい理解とはいい難い。
したがって,原告の上記主張は前提を欠くものであって,採用すること
ができない。
オ 以上のとおり,引用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせる動機付
けがあり,阻害要因があることもうかがわれないところ,引用発明1にお
いて,引用文献2技術事項に基づき,相違点1に係る本件発明1の発明特
定事項を得ることが容易であることは,本件決定が引用する取消理由通知
書が説示するとおりであり,誤りは認められない。
◆判決本文
阻害要因ありとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。
甲1には,請求項1に「任意の形状の中央ハンドル」との記載があり,発
明の詳細な説明中に,ユーザが握る中央ハンドルは「球,あるいは他のあら
ゆる任意の形状とすることが可能である。」と記載があることから,長尺状の\nハンドルを排除するものではないと理解することはできる。しかし,「球,あ
るいは他のあらゆる任意の形状とすることが可能である。」との記載ぶりか\nらすれば,まずは「球」が念頭に置かれていると理解するのが自然であり,
しかも甲1の添付図(FIG.1,FIG.2)は,いずれも器具の正面図
であり,実施例を表すとされているが,そこに描かれたハンドルの形状や全\n体のバランスに照らして,球状のハンドルが開示されているとしか理解でき
ないものである。
また,甲1には,甲1発明のマッサージ器具は,ユーザがハンドル(1)を握
り,これを傾けて,ハンドルに2つの軸で固定された2つの回転可能な球を\n皮膚に当てて回転させると,球が進行方向に対して非垂直な軸で回転するこ
とにより,球の対称な滑りが生じ,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集め
て皮膚に沿って動き,引っ張る代わりに押圧すると,球の滑りと皮膚に沿っ
た動きによって皮膚が引き伸ばされることが開示されているところ,こうし
た2つの球がハンドルに2つの軸に固定され,2つの軸が70〜100度を
なす角度で調整された甲1発明において,球が進行方向に対して非垂直な軸
で回転し,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿った動きをさ
せるためには,ハンドルを進行方向に向かって倒す方向に傾けることが前提
となる。
ハンドルが球状のものであれば,後述するハンドルの周囲に軸で4個の球
を固定した場合を含めて,把持したハンドル(1)の角度を適宜調整して進行方
向に向かって倒す方向に傾けることが可能である。しかし,ハンドルを長尺\n状のものとし,その先端部に2つの球を支持する構成とすると,球状のハン\nドルと比較して傾けられる角度に制約があるために進行方向に傾けて引っ張
る際にハンドルの把持部と肌が干渉して操作性に支障が生じかねず,こうし
た操作性を解消するために長尺状の形状を改良する(例えば,本件発明のよ
うに,ボールの軸線をハンドルの中心軸に対して前傾させて構成させる(相\n違点3の構成)。)必要が更に生じることになる。そうすると,甲1の中央ハ\nンドルを球に限らず「任意の形状」とすることが可能であるとの開示がある\nといっても,甲1発明の中央ハンドルをあえて長尺状のものとする動機付け
があるとはいえない。
また,甲1においては,「マッサージする面に適合させるために,より大き
な直径を持つ1つまたは2つの追加球をハンドルが受容可能である」形態も\n開示されており,FIG.2には,小さい直径の球(2)を2つ,大きな直径球
(3)を2つそれぞれハンドル(1)に軸によって固定された図が開示されている。
このような実施例において,ハンドル(1)を球状から長尺状とすると,前記の
とおり,甲1発明のマッサージ器具は,ユーザがハンドル(1)を握り,これを
傾けて,ハンドルに2つの軸で固定された2つの回転可能な球を皮膚に当て\nて回転させると,球が進行方向に対して非垂直な軸で回転することにより,
球の対称な滑りが生じ,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿
って動き,引っ張る代わりに押圧すると,球の滑りと皮膚に沿った動きによ
って皮膚が引き伸ばされるとの作用効果を生じるところ,例えば,大きい球
(3)を皮膚に当てることを想定し,長尺状のハンドルを中心軸に前傾させて構\n成させると,小さい球(2)を皮膚に当てるときには,ハンドルを進行方向に対
して傾けて小さい球(2)の球を引っ張ることができなくなる。したがって,こ
うした点からすると,甲1のハンドル(1)を長尺状のものとすることには,む
しろ阻害要因があるといえる。
(2) これに対し,被告は,1)甲1のFIG.1の正面図は,ハンドルが円形で
図示されているが,ハンドルが円柱状(長尺状)の形状であるとしても整合
する,2)同FIG.2においては,4つの球をハンドルに取り付けて,皮膚
が吸引される使用方法が記載されており,こうした使用方法を前提とすると,
ハンドルが長尺状であればローラ(球)と接触することなくハンドルを握る
ことができるから,ハンドルの形状は,球体と理解するよりも長尺状(円柱
状)のハンドルと理解するのが自然である旨主張する。
しかし,正面図であるFIG.1やFIG.2において図示されている円
形が球状ではなく円柱状(長尺状)の形状を示すものと理解することが困難
なことは,前記(1)において判示したところから明らかである。また,4つの
球をハンドルに取り付けて使用する形態であっても,FIG.2の実施例の
記載によると,使用されるのは2つの球であり,ハンドルを把持する際には
軸を避けて指でハンドルを把持すれば足り,ハンドルを長尺状(円柱状)の
ハンドルと解するのが自然であるともいえず,かえって,上記のとおりハン
ドルを長尺状とすることについては阻害要因があるというべきである。そう
すると,甲1の実施例(FIG.1,FIG.2)には球状のものしか開示
されていないと認められ,被告の上記主張は採用し得ない。
また,被告は,甲1において,ハンドル(1)は,握って引っ張るものである
という使用方法が明記され,ハンドルの形状としてあらゆる任意の形状とす
ることができると記載されているのであるから,当然ながら握りやすい長尺
状の形状が想定された形状であり,甲1発明のハンドルは,握って傾けなが
ら引っ張るものであるから,ハンドルの先端部に球を設けることは当業者で
あれば容易に想到するものであるから,本件審決の判断に誤りはない旨主張
する。
しかし,たとえハンドルを球に限らず任意の形状とすることは可能である\nとしても,甲1発明の球状のハンドルを長尺状のものとした場合における操
作性の問題があることから,球状の実施形態しか開示されていない甲1発明
の中央ハンドルを長尺状のものとする動機付けがあるとはいえないことは前
記(1)のとおりであり,一般的に長尺状のハンドルが握りやすいものであると
いえたとしても,そのことは結論を左右し得ない。また,小さい球(2)を2つ,
大きい球(3)を2つそれぞれハンドル(1)に軸によって固定された場合に,ハン
ドル(1)を長尺状とすると,甲1発明の作用効果との関係でその操作に支障が
生じることから,甲1発明のハンドル(1)を長尺状のものとすることにはむし
ろ阻害要因があることも前記(1)のとおりである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3) そうすると,甲1発明のハンドルが長尺状のハンドルを排除するものでは
ないとして,当業者が長尺状のハンドルを容易に想起し得るものとはいえな
いし,ましてや,長尺状のハンドルが甲1に記載されたに等しい事項である
と認めることはできないから,甲1発明のハンドルには長尺状のものが含ま
れ,長尺状のハンドルが甲1の1に記載されたに等しい事項であることを前
提として,相違点1については,ハンドルを長尺状のものとした場合には,
一対の回転可能な球を先端部に配置することは甲1発明,又は甲1発明及び\n周知技術1に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものであり,また,
相違点3については実質的な相違点にならないとした本件審決の判断は誤り
というほかない。
◆判決本文
こちらは審決の判断維持ですが無効理由なしとの審決が維持されています。
原告・被告が入れ替わってます
◆令和2(行ケ)10045
無効理由無しとした審決が取り消されました。同じ先行技術について審決は阻害要因あり、裁判所は阻害要因無しとの判断です。
(イ) 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手
段1)の採用と甲1発明の技術思想について
a 空所134への液体の集約
被告は,甲1は,甲1発明が,「改良された液体分布機構」として,ポンプ140によって液体を加圧し,さらに,この加圧した液体をい\nったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個
所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用したことを明らかにしており,甲1発明の「改良された液体分布機構\」においては,ポンプ140により加圧された液体が,中間ハウジング
30に形成された空所134を介することなく供給される個所は,コ
ンプレツサ内に存在しないとし,したがって,スラストピストン室6
0についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体を空所13
4を介することなく供給するなどという構成は,甲1発明の技術思想に反するものであって,適用が排斥されていると主張する(前記第3,\n1(2)イ(イ)c(a))。
甲1には,空所134に関し,「中間ハウジング30はまた,圧力の
かかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有して
いる。」(9欄35〜37行),「空所134は,コンプレツサベアリン
グおよびシール,スラストピストン,交叉する穴18と20により形
成された作動室,および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70
に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働
く。圧力のかかつた液体は,パイプ148,150通路152および
パイプ154を介して空所134から室70に供給される。」(10欄
6〜13行)と記載され,ポンプ140によって加圧した液体の供給
について,いったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必
要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するとい
う構成を採用することが記載されているにとどまる。そうすると,ポンプ140により加圧された液体を供給する経路の一部を,あえて空\n所134を経由しない別の経路として設けるように変更することは,
甲1の技術思想に反するものとして,その適用が排斥されているとい
う余地があるとしても,ポンプにより圧力が加えられない液体をスラ
ストピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に,これを,
ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが
排斥されていると解することはできない。したがって,被告の上記主
張を採用することはできない。
被告は,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける
と,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂
回することになるので,異物(ロータ同士の接触により生ずる金属く
ず・鉄粉,液体の化学反応により生ずる不物等)がスラストピストン
室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり,ひいて
はコンプレツサ10が機能不全に陥るとし,甲1発明において,スラストピストン室60に液体を供給する構\成を,ポンプ140・フイルタ146・空所134を迂回するものの他のフイルタを通過してスラ
ストピストン室60に至る構成に改変しようとすると,フイルタ146とは別個のフイルタの追加が必要となり,更にはそれに応じた液体\nパイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため,甲1発明がコン
プレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としようとしている趣旨等
に反し,そのような構成を採用することには,やはり阻害要因があると主張する(前記第3,1(2)イ(イ)d(b))。
しかし,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ14
6を迂回したとしても,圧縮機全体での液体の循環が繰り返される中
で,大部分の異物はいずれはフイルタ146を通って除去されること
になるし,必要であれば,ポンプの前にフイルタを経由するように構成を変更し,ポンプにより圧力を加えられる液体も,圧力を加えられ\nない液体もフイルタを通過するようにするなどの対応を取ることもで
きるから,コンプレツサ10が機能しなくなるとは認められない。また,このように構\成を変更するとしても,それによってコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数が著しく増えるとする根拠はない。したが
って,被告の上記主張を採用することはできない。
・・・
。このように,甲1発明に
ついても,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題を
認識できることから,そのような課題を解決するために,逆スラスト
荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けも生じるもの
と認められる。そうすると,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が
発生するという技術的課題やその課題の解消について甲1に直接の言
及がないとしても,そのような課題を解決するために甲1発明に非加
圧の経路を設けるという動機付けが生じるものと認められる。したが
って,被告の上記主張を採用することはできない。
3 以上によれば,本件特許発明は,甲1発明に,甲2ないし甲5に記載された
周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許
法29条2項の規定により特許を受けることができず,本件特許は特許法12
3条1項2号の規定により無効とすべきものであると認められ,取消事由1(無
効理由1に関する進歩性の判断の誤り)は理由がある。
◆判決本文