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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

阻害要因

令和1(行ケ)10114 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月24日  知的財産高等裁判所

 漏れていたのでアップします。動画配信における視聴者からのギフトの処理(CS関連発明)について、審判で進歩性無しと判断されました。知財高裁も同様です。

「・・・(D1)前記動画を視聴する視聴ユーザから前記動画の配信中に前記動画へ の装飾オブジェクトの表示を要求する第1表\示要求がなされ,(D2)前記動画の配信中に前記動画の配信をサポートするサポーター又は前記アクターによって前記装飾オブジェクトが選択された場合に,(D3)前記装飾オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる前記キャラクタオブジェクトの部位に関連づけて、(D4)前記装飾オブジェクトを前記動画に表示させる,(A)動画配信システム。」というクレームです。\n 原告は,甲2には,視聴者から配信者へギフトを贈ること(ユーザーギ フティング)が動画配信中に行われるとの記載はないので,引用発明に甲 2記載の技術を追加したとしても「動画配信中に行われた表示要求に応じ\nて,装飾オブジェクトを表示する」という本願発明の構\成には至らない旨 主張する。しかしながら,甲2には,CGキャラクターへのユーザーギフティング を動画配信中に行うことについての記載はないものの,これを排除する旨 の記載もなく,この点は,配信時間の長さ,ギフト装着のための準備,予\n想されるギフトの数等を踏まえて,配信者が適宜決定し得る運用上の取り 決め事項といえるから,甲2のユーザーギフティング機能において,CG\nキャラクターが装着するための作品を贈る時期は,配信開始前に限定され ているとはいえない。したがって,引用発明に上記ユーザーギフティング 機能を追加することによって,相違点1に係る「前記動画を視聴する視聴\nユーザから前記動画の配信中に前記動画への装飾オブジェクトの表示を要\n求する第1表示要求がなされ」るという構\成を得ることができる。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イ なお,原告は,甲2記載のCGキャラクター「東雲めぐ」が登場する実 際の番組において,ユーザーギフティングが配信開始前に締め切られてい ること(甲9の2,甲10)を指摘する。しかしながら,そのことは,当 該番組における運用上の取り決め事項として,ユーザーギフティングの時 期を配信開始前と定めたことを示すにとどまり,上記アの判断を左右しな い。 (3) 動機付けについて ア 甲2には,配信も可能なVRアニメ作成ツール「AniCast」にユーザー ギフティング機能を追加することが記載されている。一方,引用発明は,\n声優の動作に応じて動くキャラクタ動画を生成してユーザ端末に配信する ものであるから,引用発明も「配信も可能なVRアニメ作成ツール」とい\nえる。また,ユーザーギフティング機能のような新たな機能\を追加することに よって,動画配信システムの興趣が増すことは明らかである。 そうすると,当業者にとって,「配信も可能なVRアニメ作成ツール」\nである引用発明に対して,甲2記載の技術であるユーザーギフティング機 能を追加することの動機付けがあるといえる。\n イ 原告は,甲1には創作したギフトを配信者に贈ることの開示はないから, 引用発明に甲2記載のユーザーギフティング機能を組み合わせる動機付け\nはない旨主張する。しかしながら,動画配信システムの興趣を増すことは当該技術分野において一般的な課題であると考えられるから,甲1自体にユーザーギフティ ング機能又はこれに類する技術の開示又は示唆がないとしても,引用発明\nを知った上で甲2の記載に接した当業者は,興趣を増す一手段として甲2 記載のユーザーギフティング機能を引用発明に適用することを動機付けら\nれるといえる。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10012等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年2月16日  知的財産高等裁判所

齋藤創造研究所の特許についてAppleが無効審判を請求し、特許庁は無効理由なしと判断しました。知財高裁は、審決を維持しました。被告は、IPOD関連のクリックホイールの発明について特許権を有しており、別訴でAppleから不存在確認訴訟を提起され、反訴請求し、約3億円の損害が認められています(平成19(ワ)2525)。

甲1発明は、前記(1)のとおり、従来の制御信号供給装置では、制御信号 を継統的に発生させることができず、 磁気テープに対する連続的な走行 制御が行えないという課題を解決するため、接触操作面を有するととも にこれに関連して円環状に配列された複数の接触操作検出区分が設けら れ、各接触操作検出区分から出力されるタッチパネルとの構成を採用し、\nテープ駆動系に供給される制御信号を、特殊変速再生モード状態におい て磁気テープを所望の一方向に、所望の速度で走行させる制御を任意の 時間だけ連続的に行えるようにしたものである。 一方、周知技術1は、タッチ位置検知手段(タッチパネル)により一次 元又は二次元座標上の位置データを検出することで画面上のカーソル等\nの位置データが設定され、プッシュスイッチ手段により当該設定された 位置データが確定されて入力情報となるものと理解できる。そうすると、 周知技術1は、位置データを入力する装置に関する技術であって、タッ チパネルとプッシュスイッチが協働して位置データを入力する機能を果\nたすものであるといえる。
磁気テープの走行方向や走行速度を制御するための甲1発明のタッチ パネルと、走行方向や走行速度という要素を含まない位置データを入力 する装置に関する周知技術1とは、制御する対象が異なるし、たとえ両 者がタッチパネルという共通の構成を有するとしても、磁気テープの制\n御信号供給装置である甲1発明において、位置データを入力する装置に 関するものである周知技術1を適用することが容易であるとはいえない。 結局のところ、甲1発明に、周知技術1を適用できるとする原告らの 主張は、実質的に異なる技術を上位概念化して適用しようとするもので あり、相当でない。 仮に、周知技術1を、タッチパネルによる選択をプッシュスイッチで 確定して何らかの入力情報を生成する技術であると上位概念化して理解 したとしても、甲1発明は、プッシュスイッチに割り当てるべき機能(選\n択を確定する機能)をそもそも有さないし、甲1文献には、タッチパネル\nにより磁気テープの走行方向や走行速度を連続制御することは記載され ているが、タッチパネルにより選択された走行方向や走行速度を確定す る操作や、当該操作に対応するボタン等の構成は記載も示唆もないから、\n甲1発明に、周知技術1を適用する動機付けがない。
原告らは、前記第3の1(1)ア のとおり、甲1発明のタッチパネル1 1も接触点を一次元座標上の位置データDpとして検出するものである し、本件特許発明であれ周知技術1であれ、タッチパネルの下にプッシ ュスイッチを設けることの作用効果は、タッチパネルの下にプッシュス イッチを設けること自体に由来するものであって、プッシュスイッチの 上にあるタッチパネルの形状等や操作態様等にも依存しないから、周知 技術1は、上位概念化するまでもなく甲1発明に適用可能であり、当該\n適用は、先行技術の単なる寄せ集め又は設計変更である旨主張する。
しかし、原告らの主張は、前記 において説示した、甲1発明において 選択を確定する機能がない点等を看過しているものであるし、周知技術\n1において、位置データを入力する機能はタッチパネルの形状や操作態\n様等には依存しないとしても、そのことが同周知技術におけるタッチパ ネルとプッシュスイッチの機能的又は作用的関連を否定する根拠とはな\nらないし、機能的又は作用的関連が否定できない以上、周知技術1を甲\n1発明に適用することが単なる寄せ集め又は設計変更とはいえない。し たがって、原告らの上記主張は採用できない。

◆判決本文

平成19(ワ)2525はこちら。

◆判決本文

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令和4(行ケ)10007  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月18日  知的財産高等裁判所

 容易想到性の判断に当たり、主引用例の選択の場面では、請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決すべき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している必要はないとして、進歩性なしとした審決が維持されました。

原告らは、本願発明は、多数の作用効果を有機的に組み合わせた統合 システムの発明であるのに対し、引用発明は、圧縮機の吸込容積を可変 とするものにすぎず、その具体的な課題や作用・機能は全く異なってお\nり、この観点からも、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想 到するための動機付けはないと主張するので(前記第3の3〔原告らの 主張〕(2)ウ)、この点について検討する。 原告らの上記主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、容易想到性の判 断に当たり、請求項に係る発明と主引用発明との間に具体的な課題や作 用・効果の共通性を要するという主張であるとすれば、主引用例の選択 の場面では、そもそも請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決す べき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している 必要はないというべきである。これを本件についてみるに、本願発明の 課題は、「冷媒が循環する冷媒回路と水(熱搬送媒体)が循環する水回路 (媒体回路)とを有しており、熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させて 室内の空調を行うチラーシステム(熱搬送システム)において、媒体循 環を構成する配管を小径化するとともに、環境負荷の低減及び安全性の\n向上を図ること」(段落【0005】)であって、格別新規でもなく、い わば自明の課題というべきものであり、二酸化炭素を熱搬送媒体として 採用した引用発明においては解決されているといえるものである。
また、原告らは、本願発明が奏する効果についても主張するので、こ の点について検討すると、本願発明の、冷房と暖房が可能であるという\n効果(段落【0007】及び【0061】)、及び複数の室内の冷房及び 暖房をまとめて切換可能であるという効果(段落【0062】)は、本願\n発明が、冷媒流路切換機及び第1媒体流路切換機を備えることによる効 果であるところ、引用発明においても、第1四方弁150と第2四方弁 250を備えるから、冷房と暖房が可能であるし、複数の室内空気熱交\n換器(相違点2に係る本願発明の構成)を備える場合には、第2四方弁\n250と連結された室内熱交換機の数が増えるのみであると考えられる から、複数の室内の冷房及び暖房をまとめて切換可能であるという効果\nも当然に奏されることになる。そして、1次側にR32冷媒(相違点1 に係る本願発明の構成)を採用した場合でも、そのような効果を奏する\nことに変わりはない。配管小径化、省スペース化・配管施工及びメンテ ナンス省力化、媒体使用量削減を図ることができるという本願発明の効 果(段落【0008】、【0063】)は、本願発明が熱搬送媒体として二 酸化炭素を採用したことによって奏するものであり、これは、引用発明 も、熱搬送媒体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏する ものである。着火事故を防止できるという本願発明の効果(段落【00 09】及び【0064】)は、室内側に配置される媒体回路に二酸化炭素 を用いていることによるものであるが、これは、引用発明も、熱搬送媒 体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏するものである(甲 11の段落【0062】)。また、本願明細書等には、HFC−32(R 32)を冷媒として採用する冷媒回路を構成する配管を室内側まで設置\nする必要がないとの記載もある(段落【0009】及び【0064】)が、 本願の特許請求の範囲の請求項1の記載及びその記載により認定される 本願発明では、冷媒回路が室内側に設置されていないことは特定されて いないので、上記の効果は、本願発明の特許請求の範囲の請求項1の記 載に基づくものとは認められない。さらに、技術常識D及びFに照らせ ば、引用発明のプロパンは強燃性であるのに対し、本願発明のR32は 微燃性であることから、着火事故を防止できるという効果は、引用発明 に比べると本願発明が優れていると解されるが、引用発明において相違 点1に係る本願発明の構成を採用することにより、自ずと奏するように\nなる効果である。環境負荷を低減するという本願発明の効果(段落【0 010】及び【0065】)は、R32と二酸化炭素を採用したことによ るものであるところ、引用発明において相違点1に係る本願発明の構成\nを採用することにより自ずと奏されるものである。そうすると、原告ら が本願発明の効果として主張するものは、引用発明も奏するものである か、又は相違点1に係る本願発明の構成を採用することにより自ずと奏\nするものであり、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想到す るための動機付けを否定するに足りるような顕著なものではない。 したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 組み合わせの阻害要因について
原告らは、プロパンは、冷媒の能力として、寒冷地での使用が困難であ\nるから、これをR32に代替することには阻害要因があると主張する(前 記第3の3〔原告らの主張〕(3))。 しかし、本願発明においては、寒冷地での使用の可否など冷房又は暖房 の能力に関連する特定はなく、引用文献1にも、引用発明において、特に\n寒冷地での使用が困難なプロパンのような冷媒を採用することに技術的 意味があることをうかがわせるような記載はないから、引用発明のプロパ ンをR32に代替することに阻害事由があるとは認められない。 また、原告らは、着火事故の防止というビル用マルチの決定的課題に反 する選択となるので、引用発明をビル用マルチに使用することには阻害要 因があると主張する(前記第3の3〔原告らの主張〕(3))。
しかし、本願発明がビル用マルチに限定されたものでないことは前記3 (1)イのとおりであるし、仮に本願発明がビル用マルチに適用されるとして も、引用発明で採用されている強燃性のプロパンを微燃性のR32に置き 換えることは、ビル用マルチに要請される性能に必ずしも反するものでは\nなく、むしろそれにそう面もあるから、原告らの上記主張は採用すること ができない。

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