2013.12.13
平成25(行ケ)10016 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年12月10日 知的財産高等裁判所
パチンコ機について進歩性なしとした審決が、動機付け無しとして取り消されました。
(ア) 前記アの引用例2の記載(段落【0004】【0018】【0023】【0037】【0041】【0052】【0055】)によれば,引用発明2は,第一種の遊技と第二種の遊技とが行われる遊技機であり,これらの遊技が行われる順番について遊技者が把握できるようにする発明であるということができる。
(イ) 引用発明2において,遊技が行われる順番について遊技者が把握できるようにするためだけであれば,第一種の遊技と第二種の遊技の行われる順番を表示すれば足りるが,引用例2には,保留に関する残りの上限数である「予\」を併せて表示することも記載されている(段落【0041】【0049】〜【0051】)。当該記載によれば,引用発明2は,第一種の遊技の保留の上限数が4である場合,第一種の遊技,第二種の遊技,第一種の遊技,第一種の遊技の順に保留が行われているときには,「1→2→1→1→予\」と保留の状態が表示され,第二種の遊技,第一種の遊技,第一種の遊技,第一種の遊技,第一種の遊技の順に保留が行われているときには,「2→1→1→1→1」(「予\」の表示は第一種の遊技が上限に達しているのでない。)と表\示され,第一種の遊技,第一種の遊技,第一種の遊技,第一種の遊技の順に保留が行われているときには,「1→1→1→1」と表示されるものである。しかし,引用発明2は,第一種の遊技と第二種の遊技の2種類の変動表\示ゲームの確定タイミングに時間差を設け,遊技者が同時に行われる複数の変動表示ゲームの結果を気にすることなく,わかりやすいゲーム進行が可能\な遊技機を提供することを目的としており,発明の効果としては,第一の特別遊技に関連した識別情報の変動と,第二の特別遊技に関連した可変大入賞口の開閉が同時に達成することがないので,双方の遊技を存分に楽しむことが可能になること,第一の入賞口への入賞に基づく保留と第二の入賞口の入賞に基づく保留が,保留記憶手段に記憶されたことが一目瞭然なので,遊技者は保留状態を即座に把握できるとともに,これを受け,保留状況に応じた最適な遊技を行うことが可能\になることが挙げられている。また,第二種の遊技の留保について保留可能な上限に達していない場合に,第一種の遊技と異なって,「予\」といった表示を行わない理由については,何らこれを示唆する記載はないが,引用例2に記載された実施例については,第一種の遊技の留保数は4個であるのに対し,第二種の遊技の留保数は1個であることからすると,引用発明2は,これを前提として,第一種の遊技については,保留可能\な上限を「予」という形で示す必要があるが,第二種の遊技については,留保数は1 個しかないので,留保状態だけを表示することにすれば,遊技者は第二種の遊技の留保状態について確実に把握できることを前提としたものであり,第一種の遊技と異なって,あえて第二種の遊技について留保の上限を表\示しないことにしたものではないと理解することができる。そうすると,本件審決が認定した技術的事項Aについては,「第一留保手段による留保上限情報」について,「前記第1所定数に対応する数の第1空表示態様を一列に並べて表\示する第1空表示制御手段」が記載されているということはできるが,引用例2の記載から,「第1留保手段による留保上限情報と第2留保手段による留保上限情報とのうち前記第1留保手段による留保上限情報のみを表\示すべく」という技術的事項が開示されていると認めることはできない。また,技術的事項Bについては,「第2留保表示態様を,前記一列に並べて表\示された前記第1空表示態様のもっとも端の位置に表\示する」ことが記載されているということができるが,「前記第2留保手段による留保上限情報を表示することなく,」という技術的事項が開示されていると認めることはできない。
(ウ) さらに,引用発明1は,2種類の第一種の遊技について,確定タイミングに時間差を設け,遊技者が同時に行われる複数の変動表示ゲームの結果を気にすることなく,わかりやすいゲーム進行が可能\な遊技機を提供することを目的としており,変動表示装置は,2種類の変動表\示ゲームについて,いずれも,留保上限情報と現在の留保状態の有無と数を明示するものであり,本願発明のように,第2留保手段による留保上限情報をあえて表示しないことにより,遊技者から見れば留保上限が増えたように感じることができ,興趣が高められるといった目的,手段,効果を示唆する記載は見当たらない。そして,引用発明2についても,その目的,効果は,引用発明1と同様であり,変動表\示装置は,実施例についていえば,第一種の遊技と第二種の遊技の留保上限数を前提として,遊技者から見て留保状態の有無及び数と留保上限数との関係が明確に分かるように表示しており,本願発明のように,第2留保手段による留保上限情報をあえて表\示しないことにより,遊技者から見れば留保上限が増えたように感じることができ,興趣が高められるといった目的,手段,効果を示唆する記載は見当たらない。そうすると,引用発明1及び引用発明2は,実質的に「わかりやすいゲーム進行が可能な遊技機を提供する」という共通の目的を有しているものの,引用発明1に,本願発明のような第2留保手段による留保上限情報をあえて表\示しないことにより,遊技者から見れば留保上限が増えたように感じることができ,興趣が高められるといった目的を達成し,またこのような効果を得るために,相違点1ないし3について,引用発明2を適用する動機付けはないといわざるを得ない。
(エ) 以上によれば,引用例2には,相違点1ないし3に関する全ての技術的事項の開示があるとはいえず,引用発明1に引用例2に開示された技術的事項を適用する動機付けも認められないから,本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたと認めることはできない。
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2013.12.12
平成25(行ケ)10358等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年12月05日 知的財産高等裁判所
無効審判では、請求項1〜3,6,7は無効、請求項4,5については有効とした審決について、双方が争いました。知財高裁は、引用文献の認定誤りを理由として、請求項1〜3,6,7も有効と判断しました。
本件発明1における「基台」とは,試験するべき内燃機関と駆動機械若しくは負荷機械とが配置され,その上に支持構造体が配置される部材である。前記アの甲3の記載によれば,甲3発明は,内燃機関を検査するための性能\検査装置において,従来,建物の床や基礎に検査装置が固定設置されていたところ,設置面積が比較的大きいため,建物の基礎や床への阻害的な固体伝送音の伝達が生じるという課題を解決するために,性能検査装置の完全な性能\を維持して,あるいはそれを改良して所要面積を低減すること,固体伝送音振動の阻害的な伝達を少なくとも大幅に抑制すること,さらにその使用上の方法を改善することを目的とし,建物天井又は天井に対応するような支持台から試験するべき内燃機関と駆動機械若しくは負荷機械との双方をそれぞれ吊り下げる構成を採用するものであって,本件発明1の基台に相当する構\成を備える余地はない。したがって,甲3発明は,相違点1−3−1の構成を採用する前提を欠き,当該構\成を採用する動機付けを認めることはできない。
(イ) 原告は,甲3発明において支持構造体の下部が基台であると評価することも可能\である,甲3には,「建物天井または対応する支持台」と記載されており,図1でも,建物ではない支持構造体が明記されているから,建物天井と一体的でなければならないという技術的意義は記載されておらず,逆に,別紙5の図1に図示された構\成で,1つの完結した検査装置を開示しているものであるなどと主張する。しかしながら,甲3発明は,建物の基礎や床への阻害的な固体伝送音の伝達が生じるという課題を解決するために内燃機関及び検査装置を吊り下げる構成を採用するものである以上,支持構\造体が建物とは別個の部材であったとしても,支持構造体の下部を基台であると評価することができないことは明らかである。原告の上記主張は採用することができない。
ウ 相違点1−3−2について
原告は,エンジンには排気装置が必須であり,排気管がエンジンの側方へ出て下に下がり,後方へと延びるものであることは技術常識であるから,当業者は甲3発明の排気管も当然に常用ブレーキの下方空間を通ることになるものと認識する,甲3発明は,コンパクトな性能検査装置を提供し得ることを目的とするから,常用ブレーキの下方空間が広く確保されている以上,技術常識からすれば,当該空間しか排気管・排気装置を位置させることはないなどと主張する。しかしながら,前記イ(ア)のとおり,甲3発明の課題はエンジンの排気装置の配置とは無関係であるから,甲3には,エンジンにより発生する排気ガスやエンジンが備える排気ガス装置をどのような態様で配置するかについて,何ら示唆する記載はなく,原告が主張する上記構成を採用することの示唆を認めることもできない。したがって,当業者が相違点1−3−2の構\成を容易に想到し得るものということはできない。
エ 以上のとおり,当業者が相違点1−3−1及び相違点1−3−2の構成を容易に想到し得るものということはできない以上,甲3発明に基づいて,当業者が本件発明4に容易に想到し得るものということもできない。\n
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2013.12.12
平成25(行ケ)10019 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年12月05日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が取り消されました。理由は、請求項における数値範囲は、設計事項の範囲であるとはいえないというものです。
そうすると,乙1及び乙2における,ビタミンB12のヒトに対する1日当たりの通常の投与量約1〜1500μgとの記載(前記3(1)カ,前記3(2)カ)は,いずれも,ビタミンB12が何らかの方法で安定化されている組成物をヒトに投与する場合のビタミンB12の量を示しているものであって,このように投与するビタミンB12が安定化されているという条件の下において,ヒトに対する1日当たりの通常の投与量を約1〜1500μgとしているものである。しかしながら,乙1及び乙2によって,本願優先日当時,投与されるビタミンB12が安定化されているという条件の下において,ヒトに対する1日当たりの通常の投与量が約1〜1500μgであることが公知技術であったことが認められるとしても,それ以上に,これが本願優先日当時の当業者の技術常識であったことまでは認めるに足りず,他に当該事項が本願優先日当時の技術常識であったことを認めるに足りる証拠はない。したがって,ビタミンB12のヒトに対する通常の投与量は1日当たり約1〜1500μgであることが本願優先日当時の技術常識であることを前提として,引用発明に当該技術常識を適用し,それをクエン酸の含有量の乾燥重量1g当たりに計算した1μg/6.25g〜1500μg/6.25g,すなわち,0.16〜240μg/g程度とすることは容易になし得たとする被告の前記エの主張は,前提を欠くものであり,失当である
・・・・
このように,引用発明においては,ビタミンB12の安定化について何らの記載もない以上,そこに含有されるビタミンB12は,安定化されておらず,保存中にビタミンB12を不安定化する成分によって分解等を受け,その残存率が低下するものと認められる。そうすると,投与するビタミンB12が安定化されているとの条件の下においてヒトへの1日当たりのビタミンB12の投与量を約1〜1500μgとする乙1及び乙2の技術事項を,ビタミンB12が安定化されていない引用発明に直ちに適用することは困難である。したがって,引用発明の目的を達成するために必要十分な各栄養素の摂取量や配合比を詳細に検討し最適化を図った場合,ビタミンB12の量が,必ず,本願補正発明の発明特定事項であるサプリメント中の純カルボン酸の含有量の乾燥重量1g当たり1〜1500μgの範囲内となるということはできない。\n
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2013.12.12
平成25(行ケ)10066 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年11月28日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が維持されました。
以上の刊行物1及び2の開示事項を前提とすると,刊行物1及び2に接した当業者は,1)刊行物1記載の多層構造重合体及び刊行物2記載の多層構\造のグラフト共重合体は,いずれも添加対象樹脂の耐衝撃性改良剤として耐衝撃性及び耐熱性の両者に優れた効果を奏し,刊行物1記載の多層構造重合体を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物を添加して得られる熱可塑性樹脂組成物と刊行物2記載の多層構\造のグラフト共重合体を添加して得られる熱可塑性樹脂組成物は,いずれも自動車用部品,OA機器等の用途に有用であること,2)刊行物1の記載からは,多層構造重合体のコア層を構\成するゴム層が肥大化しているかどうかは不明であるのに対し,刊行物2には,肥大化したブタジエン系ゴム重合体ラテックスを含有する多層構造のグラフト共重合体は,肥大化していないブタジエン系ゴム重合体ラテックスを含有する多層構\造のグラフト共重合体よりも耐衝撃性に優れており,さらに,肥大化剤として酸基含有共重合体を用いて肥大化した場合には,耐衝撃性に優れるとともに,熱安定性を低下させることなく,耐熱性にも優れていることが示されていることを理解するものといえるから,刊行物1記載の多層構造重合体を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物において,組成物の耐熱性を維持したまま,より耐衝撃性の向上した組成物を得ることを目的として,刊行物1記載の多層構\造重合体に代えて刊行物2記載の肥大化したブタジエン系ゴム重合体ラテックスを含有する多層構造のグラフト共重合体を置換することを試みる動機付けがあるものと認められる。したがって,刊行物1及び2に接した当業者であれば,刊行物1及び2に基づいて,相違点に係る本願発明の構\成を容易に想到することができたものと認められる。
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2013.12. 7
平成25(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年11月27日 知的財産高等裁判所
新規性違反なしとした審決について、要旨認定に誤りがあるとして、審決が取り消されました。
上記アによると,本件訂正発明と甲7発明との一応の相違点は,審決が認定するとおり,本件訂正発明では,目的物質が「基剤に保持され」ているのに対して,甲7発明では,目的物質が基剤からなる医療用針内に設けられたチャンバに封止されているか,縦孔に収容されることにより保持されている点となる。審決は,この一応の相違点について,「目的物質が,基剤にではなく,基剤に設けられた空間に保持されている点で,両者は,相違する。したがって,本件訂正発明は,甲第7号証に記載された発明であるとはいえない。」と判断した。この審決の判断は,請求項1の記載を当業者が読めば,「基剤に保持された目的物質とを有し」とは,目的物質が基剤に混合されて基剤とともに存在していると理解されること,及び,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確ではないとして,本件訂正明細書の記載(【0005】【0006】【0008】〜【0010】【0070】等)をみても,同様に解されることを前提とするものである。しかし,請求項1の「基剤に保持された目的物質」との記載は,目的物質が基剤に保持されていることを規定しているのであり,その保持の態様について何らこれを限定するものでないことは,その記載自体から明らかである。そして,「保持」とは,広辞苑(甲12)にあるとおり,たもちつづけること,手放さずに持っていることを意味する用語であり,その意味は明確である。したがって,請求項1の「保持」の技術的意義は,目的物質を基剤で保持する(たもちつづける)という意味のものとして一義的に明確に理解することができるのであるから,審決が,請求項1の「基剤に保持された目的物質」との記載について,目的物質が基剤に混合されて基剤とともに存在していると理解されることと解したのは,請求項1を「基剤に混合されて保持された目的物質」と解したのと同義であって,誤りであるといわざるを得ない。また,本件訂正発明の請求項1の記載は,上記のとおり,請求項の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないなど,発明の詳細な説明を参酌することができる特段の事情がある場合にも当たらないから,少なくとも請求項1の要旨認定については,発明の詳細な説明を参酌する必要はないところである(最高裁判所平成3年3月8日第二小法廷判決民集45巻3号123頁参照)。そうすると,甲7発明の,目的物質が基剤からなる医療用針内に設けられたチャンバに封止されていることや縦孔に収容されていることは,本件訂正発明の目的物質が「基剤に保持された」構成に含まれているといえる。そうすると,本件訂正発明は,甲7公報に記載された発明といえるから,特許法29条1 項3号の規定により特許を受けることができないものであり,この点に関する審決の判断は誤りである。
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2013.11.29
平成25(行ケ)10086 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年11月14日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は引用文献の認定誤りです。
審決は,刊行物1の記載(99頁右欄2行〜100頁右欄1行目,100頁表1)から,「・・・・・4種類のアクセス先の区別によるサイトの設定によって決定されていることから,そのために当該Webページに関連付けられたActiveX コントロールが4種類のアクセス先の区別のどれにより『設定されている』かの『判断』を当然に行っているといえ,・・・・・『複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別がWebページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,前記与えられた実行条件に関する区別に基づいて前記ActiveX コントロールを抑制すること』がよみとれる。」と認定し(審決5頁21行〜6頁11行目),刊行物1発明は,「複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別が前記Webページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,前記与えられた実行条件に関する区別に基づいて前記ActiveX コントロールを抑制すること」との構成(【II】)を有していると認定した(6頁33行〜7頁9行目)。しかしながら,上記アにて認定判断のとおり,刊行物1において登録されるのはActiveX コントロールではなくWebページであり,アクセス先の区別もWebページの区別により設定されるものであるから,刊行物1に,「複数の実行条件に関する区別がWebページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられる」との記載があるとはいえない。そうすると,刊行物1発明が,「複数の実行条件に関する区別のうちのどの区別が前記Webページに関連付けられたActiveX コントロールに与えられるかを査定し,前記与えられた実行条件に関する区別に基づいて前記ActiveX コントロールを抑制すること」との構成(【III】)を有しているとはいえない。したがって,上記審決の認定は誤りである。
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2013.11. 6
平成24(行ケ)10314 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年10月31日 知的財産高等裁判所
引用発明の認定誤りを理由として、進歩性違反(無効理由)ありとした審決が取り消されました。
前記1のとおり,本件審決が認定する引用発明が,引用例1に記載された発明といえるためには,引用例1に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,本件優先権主張日(平成9年10月9日)当時の技術常識に基づいて,「常温でリン光を発光する有機電界発光素子」を見いだすことができる程度に,引用例1にその技術事項が開示されているといえなければならない。(2) しかるに,前記2のとおり,引用例1には,様々な表示素子の中で,2枚の電極の間に有機色素薄膜からなる発光層を設けた構\造の有機電界発光素子は,フルカラーの表示素子を実現できる可能\性が高く,大きな期待が寄せられているが,有機色素分子が固体凝集状態の場合には,発光が生じにくいという問題があり,また,発光波長が長波長側にシフトするという問題があるところ,・・・ことを見いだしたというものであり,実施例としては,・・・の範囲が最適であったことが記載されている。しかしながら,上記実施例に示された有機電界発光素子から得られた発光にリン光が含まれていたことについては一切記載されていない。そして,確かに引用例1には,有機電界発光素子の発光層に常温でリン光発光する色素を第2の有機色素として使用した場合,発光効率が高く,しかも第2の有機色素からの発光波長特性が得られるという技術的思想が記載されているということはできるものの,引用例1には,「常温でもリン光が観測される有機色素があり,これを第2の有機色素として用いることにより,第1の有機色素の励起三重項状態のエネルギーを効率よく利用することができる。このような有機色素としては,カルボニル基を有するもの,水素が重水素に置換されているもの,ハロゲンなどの重元素を含むものなどがある。これらの置換基はいずれもリン光発光速度を速め,非発光速度を低下させる作用を有する。」という程度の記載しかなく,「常温でリン光を発光する有機電界発光素子」に該当する化学物質の具体的構成等,上記技術的思想を実施し得るに足りる技術事項について何らかの説明をしているものでもない。(3) また,本件優先権主張日当時,有機ELデバイスにおいて,いかなる化学物質が,常温でもリン光が観測される有機色素として第2の有機色素に選択され,この第2の有機色素が,第1の有機色素の非放射性の励起三重項状態からエネルギーを受け取り,励起三重項状態に励起して,この励起三重項状態から基底状態に遷移する際に室温でリン光を発光するのかが,当業者の技術常識として解明されていたと認めるに足りる証拠もない。そして,被告が本件優先権主張日当時において「常温でリン光を発光する有機電界発光素子」が知られていたことの根拠として挙げる各文献(甲12・・・)の記載内容は,前記3のとおりであるから,上記各文献によっても,本件優先権主張日当時,常温でリン光を発光する有機電界発光素子が当業者の技術常識として解明されていたと認めるには足りない。
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2013.11. 6
平成25(行ケ)10036 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年10月30日 知的財産高等裁判所
引用発明の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決が取り消されました。
当裁判所は,引用発明に「各デマンド時限のエネルギ消費量の実績値を表示するエネルギ消費量の実績値についての棒グラフによる表\示」があるとした審決の認定には,誤りがあると判断する。本願発明は,従来技術においては,各日の各デマンド時限のデマンド値を把握しつつ,他の複数の日のデマンド値と比較することが困難であったとの課題を解決するための発明である。本願明細書には,「デマンド時限」とは電力会社などが設定した時間の区切りであって,例えば「0〜30分,30〜60分」の30分間の単位が考えられるとされ,「デマンド値」とはデマンド時限における平均使用電力を指し,「デマンド値」が,電気料金の基本料金の計算に使用されたり,契約電力の基準とされたりするため,過去所定期間(例えば,過去12カ月)の最大値を更新しないように対策を立てる必要がある旨が記載されている。他方,引用例1には,「所定の時間」について,電力会社などが設定した時間の区切りであることや,「所定の時間毎のエネルギ消費量の実績値」が,電気料金の基本料金の計算に使用されることや契約電力の基準となることについての記載及び示唆はない。のみならず,引用例1では「一例として,以下では1時間毎のエネルギ消費量を計測可能であるとする」としており,電力会社で通常採用される30分単位のデマンド時限(甲9)と異なる単位時間を例示していることからすれば,引用発明においては,当該「所定の時間」としてデマンド時限を採用することは示されていないと解するのが相当である。そうすると,引用発明に,「各日の区画にて各軸の目盛に従って各デマンド時限のエネルギ消費量の実績値を表\示するエネルギ消費量の実績値の棒グラフによる表示と,を有する」との構\成中の「各デマンド時限のエネルギ消費量の実績値を表示する」との技術事項が記載,開示されているとした審決の認定には,誤りがある。以上に対して,被告は,乙1ないし乙4を提出し,「電力量計で計測する単位時間をデマンド時限として設定すること」及び「デマンド時限として1時間を単位とすること」は周知慣用であるから,引用例1の記載に接した当業者は,デマンド時限を単位時間として行うことも認識すると主張する。しかし,これらの事項が周知慣用であったとしても,引用例1において,「所定の時間」及び「所定の時間毎のエネルギ消費量の実績値」との記載が,デマンド時限及びデマンド値として認識され,開示されるものではない。このように,デマンド時限及びデマンド値を開示しない引用例1の記載に接した当業者は,デマンド時限を単位時間として行うことを認識するともいえないから,被告の主張は採用の限りではない。\n
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2013.10.25
平成25(行ケ)10107 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟 平成25年10月17日 知的財産高等裁判所
実用新案について、周知技術とは認められないとして、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
上記認定によれば,甲5刊行物に係る考案は,繋ぎ側部分の一方に嵌入溝をあらかじめ形成しておくことによって,配管カバー用エルボによる配管の被覆作業時において,嵌入溝を形成するための折り曲げ作業を不要とすることにあり,繋ぎ側部分の端部がすべて同一の横幅で一定であることを看て取ることはできるものの,繋ぎ側部分の端部の幅を部分ごとに変えて各々を一定の横幅とすることについては何ら開示されておらず,その示唆もない。したがって,審決が「エルボカバーのエルボ結合部を一定の横幅とすること」が周知技術であると認定したこと自体は誤りではないが,それは本件考案における第1の結合板,第2の結合板及び係合片の各々が一定の横幅であることに相応するにすぎない。
イ 周知技術の適用
以上のとおり,甲5刊行物から認められる周知技術が,繋ぎ側部分の端部がすべて同一の横幅で一定であるという事項にとどまる以上,当該周知事項が,第2の結合板及び係合片だけを第1の結合板とは異なる(狭い)一定の横幅にするといった事項に及ぶものとはいえない。そうすると,審決が認定した周知技術は,本件考案1とは直接の関連性がないものであって,これを先願発明に適用しても本件考案と実質的に同一となるものではない。なお,審決が周知技術の例示として挙げたのは甲5刊行物のみであり,本件証拠上も,第2の結合板及び係合片に相当する部分のみを一定の横幅にする周知技術の存在を認めるに足りる証拠はない。
◆判決本文
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2013.10.22
平成24(行ケ)10419 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年10月16日 知的財産高等裁判所
特許要件を満たしているとした審決が取り消されました。
上記のとおり,甲8文献には「心不全の治療は…2)生命予後の改善を目的とする。」(上記(3)カ)との記載があり,甲9文献には「慢性心不全の治療の目的は…予後を良くすることである。」(同キ)との記載があり,甲11文献には「心不全治療の目的は,最終的には患者の生存率を増大させることになる。」(同ケ(ア))との記載があり,これらの記載によれば,心不全治療の目的の一つが生命予後を改善すること,すなわち,生存率を増大させることである点は,本件特許の優先権主張日において当業者に周知であったことが認められる。そして,甲5文献には,心不全と左心室機能\不全に関するカルベジロール投与の効果について,死亡率を第一エンドポイントとする大規模臨床試験がニュージーランド及びオーストラリアで計画され,その予備試験は既に開始されていたことが記載されており(上記(3)ウ),甲4文献にも同趣旨の記載があり(同イ),これらの記載によれば,カルベジロールによる心不全治療の目的も生存率の増大であることが理解できる。一方,甲10文献には,β遮断薬について,「β遮断薬が…有効とする報告では投与期間は長く,多くは数ヶ月以上である。」,「長期効果の発現には数ヶ月以上の長期投与が必要と考えられている。また,年単位で投与した報告では生命予後の改善も認められている…」(上記(3)ク(イ))との記載があり,これによれば,β遮断薬を使用して心不全治療の目的すなわち生存率の増大を達成するためには,少なくとも数か月から年単位で投与することが必要であることが理解できる。そうすると,カルベジロールの8週間の投与により虚血性のうっ血性心不全患者の血行動態パラメータが改善することが記載された甲1文献に接した当業者であれば,カルベジロールを使用して虚血性のうっ血性心不全の治療を行う場合,カルベジロールの投与期間については,甲1文献に記載された血行動態パラメータの改善効果が示された8週間に限定して理解するものではなく,虚血性のうっ血性心不全患者の生命予後の改善という治療目的を達成するためには,数か月から年単位の期間が必要であると理解するものといえる。したがって,本件発明1と甲1発明の相違点のうち,カルベジロールの投与期間の点については,甲1発明に甲4文献,甲5文献及び甲10文献並びに周知技術を勘案することにより当業者が容易に想到可能\な事項であるといえる。
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2013.10.11
平成24(行ケ)10402 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年10月07日 知的財産高等裁判所
単なる設計事項であるとして、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
上記(ア)〜(ウ)認定の各公報等の記載事項に照らすと,水などの液中で切断加工を行う装置において,水槽などの加工槽内の液面(水位)を調節する装置を切断加工領域を除く領域(外側)に備えることは,本件出願日以前において周知であったものと認められる。
ウ 相違点3に係る容易想到性について
後記3(1)認定のとおり,甲7公報記載の水中切断装置において用いられているプラズマ・アーク・トーチ・システムに代えて,ノズルから噴射されるアブレシブによりワークの切断加工を行う水中切断用アブレシブ切断装置とすることは当業者が容易に想到し得ることである。そして,上記イ認定のとおり,水などの液中で切断加工を行う装置において,水槽などの加工槽内の液面(水位)を調節する装置(本件発明における「液位調整タンク」に該当する。)を,切断加工領域を除く領域(外側)に備えることは,本件出願日以前において周知であったこと,及び,アブレシブ切断装置においては,ノズルから噴射された研磨材を含む高圧水は水中でも減衰が少なく,ワークに衝突し加工を行った後の下流領域においても,かなりの衝撃加工エネルギーを保有しているものであることは本件出願日において周知であったこと(甲28,29,33)に照らすと,甲第7号証記載の発明において,切断方法としてアブレシブ切断を採用した際に,液位調整タンクなど損傷してはいけないものを,アブレシブジェットが直撃してしまう場所を避けて切断加工領域を除く領域(外側)に配置することは,当業者が容易に考えることであり,そのように考える動機付けがあるといえる。そして,甲第7号証記載の発明に関し,上記の構造とすることが技術的に困難であるとは認められない(甲7,19,30,32)ことからすれば,液位調整タンクを切断加工領域の下側から切断領域を除く領域(外側)に配置することは設計的な変更事項であるといえる。以上によれば,甲第7号証記載の発明において,切断方法としてアブレシブ切断を採用した際に,上記周知技術を適用して,相違点3に係る発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たものであると認められる。\n
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2013.10. 8
平成24(行ケ)10373 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年09月30日 知的財産高等裁判所
裁判所は予測し得なかった効果があるとして、進歩性欠如とした無効審決が取り消されました。
以上によれば,原出願日当時,当業者において,半導体キャリア用フィルムにおいて,端子間の絶縁抵抗を維持するため,マイグレーションの発生を抑制する必要があると考えられていたこと,マイグレーションの発生を抑制するため,吸湿防止のための樹脂コーティングを行ったり,水に難溶な不動態皮膜を形成したり,半導体キャリア用フィルムを高温高湿下におかないようにしたりする方法が採られていたことは認められる。しかし,原出願日当時,本件発明1のように,ニッケル−クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を調整することにより,バリア層の表面抵抗率・体積抵抗率を向上させ,また,バリア層の表\面電位を標準電位に近くすることによって,マイグレーションの発生を抑制することについて記載した刊行物,又はこれを示唆した刊行物は存在しない。そうすると,甲2文献に接した当業者は,原出願日当時の技術水準に基づき,引用発明において本件発明1に係る構成を採用することにより,バリア層の溶出によるマイグレーションの発生を抑制する効果を奏することは,予\測し得なかったというべきである。したがって,本件発明1が容易想到であるとした審決の判断には誤りがある。
(4) 被告の主張に対する判断
この点,被告は,ニッケル−クロム合金層におけるマイグレーションの課題は周知ないしは技術課題であり,また,バリア層の溶出成分がNiであることも周知であり,マイグレーションの発生を抑制するために,バリア層としてクロムの含有量を高めた抵抗値の高いニッケル−クロム層材料を選択するという技術事項も周知であったと主張する。しかし,上記認定のとおり,原出願日当時,半導体キャリア用フィルムにおいてマイグレーションの問題があることは,当業者に周知であったと認められるが,マイグレーションの発生を抑制するために,バリア層としてクロムの含有量を高めた抵抗値の高いニッケル−クロム層材料を選択するという技術が周知であったと認めるに足りる証拠はない。したがって,上記のとおり,当業者が,ニッケル−クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を15〜50重量%とすることにより,マイグレーションの発生を抑制する効果を奏すると予測し得たとは認められない。\n
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2013.10. 1
平成24(行ケ)10435 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年09月19日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。判決文の最後に、審決を前提とする当事者系の取消審判の留意点について付言されています。
以上の各記載によれば,引用発明は,従来の窒化物半導体レーザ装置において,レーザダイオードの端面に設けた保護層(SiO2又はTiO2)と窒化物半導体レーザダイオードとの間における格子不整合や熱膨張係数が異なること等に起因して,結晶層中に格子欠陥を生じ,特に高出力時の寿命が短くなるという課題を解決するために,保護層の材料を窒化物半導体レーザダイオードが発振するレーザ光に対して透明である上記一般式から選択することで,窒化物半導体レーザダイオードと格子定数及び熱膨張係数の整合をとることができ,格子不整合及び熱応力による欠陥発生を抑制できるため,低出力時は勿論のこと,歪みや欠陥の影響が大きい高出力発振時においても高信頼性で長寿命の窒化物半導体レーザ装置が得られるものであることが開示されている。他方で,審決が,引用発明の技術的意義であると認定した「保護層の格子定数とMQW活性層の格子定数との差をMQW活性層の格子定数の約3%以下,保護層の熱膨張係数とMQW活性層の熱膨張係数との差をMQW活性層の熱膨張係数の約20%以下とすること」に関しては,上記段落【0042】,【0043】の記載に照らすと,いずれも上記の条件を満たすように「選択することが好ましい」と記載されていること,格子定数の差に関して,段落【0042】のなお書には,「約3%を超える格子不整合があっても,寿命が低下しない場合がある。」と記載されていることに照らすと,引用発明における上記条件については,好ましい条件とされているにすぎず,必須の条件であると見ることはできない。そして,刊行物1に示された従来の保護層(SiO2又はTiO2)がアモルファス層であり,結晶構造をとっていないのに対し,「Al1−x−y−zGaxInyBzN(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)」の一般式で示されるものは,必ずNを含む窒化物系半導体としての結晶構\造を有することから,従来の保護層(SiO2又はTiO2)よりも窒化物半導体レーザダイオードとの格子定数の整合がとれることは当業者に自明の事項である。また,後記のとおり,熱膨張係数も窒化物系半導体と相当に異なるものであったことからすると,従来の保護層との比較において,窒化物系半導体である保護層が熱膨張係数において,一般的に整合がとれるものであることも,当業者に自明の事項である(段落【0024】参照)。そうすると,上記のような引用発明における従来技術の問題点及び解決課題に,上記段落【0011】,【0024】,【0026】,【0039】,【0040】の各記載を合わせて考慮すれば,引用発明は,保護層の材料をレーザ光に対して透明であり,かつ,上記の一般式を満たす材料を選択することで,従来の保護層(SiO2又はTiO2)よりも,窒化物半導体レーザダイオードと格子定数及び熱膨張係数の整合をとることができるものであるといえる。以上により,引用発明において,「保護層の材料をAl1−x−y−zGaxInyBzN(以下「一般式」という。)から選択する技術的意義は,単に,レーザの発振光に対して透明になるようにするのみならず,保護層の格子定数とMQW活性層の格子定数との差をMQW活性層の格子定数の約3%以下,保護層の熱膨張係数とMQW活性層の熱膨張係数との差をMQW活性層の熱膨張係数の約20%以下とすることにあるものと解される」とした審決の判断は誤りである。
(3) 次に,引用発明における保護層の材料として,「AlN」が開示されているか否かについて見るに,刊行物1には,GaN及びIn0.02Ga0.98N層(ただし,In0.02Ga0.98N層については,窒化物半導体レーザダイオードの後面の保護層のみ)は記載されているが,「AlN」を保護層の材料として選択した実施例に関する記載はない。しかし,AlNがレーザ光に対して透明であることは当事者間に争いがなく,上記一般式においてx=y=z=0を代入した場合には,保護層の材料が「AlN」となることは明らかである。そして,段落【0039】には,Alを含有した窒化物半導体材料を用いることが開示されており,刊行物1中において,特段,x=y=z=0を代入することを阻む事情についての記載はない。また,刊行物1には,窒化物半導体レーザダイオードの活性層及び従来の保護層の熱膨張係数について,「例えば,上述のMQW活性層64の熱膨張係数(3.15×10−6K−1)と保護層69の熱膨張係数(1.6×10−7K−1)とは大きく異なる。」(段落【0009】)との記載及び「保護層20aおよび20bを形成するGaNの熱膨張係数は3.17×10−6K−1であり,MQW活性層14の熱膨張係数(3.15×10−6K−1)と非常に近い」(段落【0033】)との記載があり,また,AlNの熱膨張係数については,文献(甲14,乙3ないし6)によってばらつきがあるものの,2.227×10−6K−1ないし6.09×10−6K−1の範囲に収まっているから,いずれの数値をとるにせよ,AlNの熱膨張係数は,従来の保護層の熱膨張係数(1.6×10−7K−1)と比較して,活性層の熱膨張係数(3.15×10−6K−1)に近く,そのことからも,一般式において,x=y=z=0を代入した材料であるAlNからなる保護層は,従来の保護層(SiO2又はTiO2)よりも窒化物半導体レーザダイオードと熱膨張係数の整合がとれているといえる。さらに,AlNが窒化物系半導体であることから,前記のとおり,従来の保護層(SiO2又はTiO2)に比べて窒化物半導体レーザダイオードの活性層との格子整合がとれることも明らかである。以上によれば,刊行物1において,保護層の材料として「AlN」が除外されているとはいえず,刊行物1には,レーザ光に対して透明であり,かつ,AlNを含む一般式からなる材料が開示されていると認められる。したがって,審決が,「甲1に,保護層の材料として「AlN」が開示されていると認めることはできない」としたのは,誤りである。
・・・・・
そうすると,相違点2”に関し,引用発明における保護層としてAlNを含むAl1−x−y−zGaxInyBzN(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなる層」の中から「AlN」を選択することについての容易想到性の有無,並びに保護層の材料としてAlNを選択したとして,それを積層すること及び光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層することについての容易想到性の有無について検討し,同様に相違点3”に関する本件発明1の構成についての容易想到性,さらには,相違点1に関する本件発明1の構\成についての容易想到性の有無を判断して,本件発明1が引用発明から容易に発明することができたか否かの結論に至る必要がある。ここまで至って,引用発明を主たる公知技術としたときの本件発明1の容易想到性を認めなかった審決の結論に誤りがあるか否かの判断に至ることができる。しかし,本件においては,審決が,認定した相違点1及び3に関する本件発明1の構成の容易想到性について判断をしていないこともあって,当事者双方とも,この点の容易想到性の有無を本件訴訟において主張立証してきていない。相違点2(当裁判所の認定では相違点2”)に関する本件発明1の構\成については,原告がその容易想到性を主張しているのに対し,被告において具体的に反論していない。このような主張立証の対応は,特許庁の審決の取消訴訟で一般によく行われてきた審理態様に起因するものと理解されるので,当裁判所としては,当事者双方の主張立証が上記のようにとどまっていることに伴って,主張立証責任の見地から,本件発明1の容易想到性の有無についての結論を導くのは相当でなく,前記のとおりの引用発明の認定誤りが審決にあったことをもって,少なくとも審決の結論に影響を及ぼす可能性があるとして,ここでまず審決を取り消し,続いて検討すべき争点については審判の審理で行うべきものとするのが相当と考える。本件のような態様の審決取消訴訟で審理されるのは,引用発明から当該発明が容易に想到することができないとした審決の判断に誤りがあるか否かにあるから,その判断に至るまでの個別の争点についてした審決の判断の当否にとどまらず,当事者双方とも容易想到性の有無判断に至るすべての争点につき,それぞれの立場から主張立証を尽くす必要がある。本件については,上記のように考えて判決の結論を導いたが,これからの審決取消訴訟においては,そのように主張立証が尽くすことが望まれる。なお,本件発明3〜7の容易想到性判断も,本件発明1についてのそれを前提とするものであり,これについても本件発明1に関する判断と同様である。\n
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2013.10. 1
平成24(行ケ)10435 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年09月19日 知的財産高等裁判所
引用文献の認定誤りを理由として、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。判決文の最後に、審決を前提とする当事者系の取消審判の留意点について付言されています。
以上の各記載によれば,引用発明は,従来の窒化物半導体レーザ装置において,レーザダイオードの端面に設けた保護層(SiO2又はTiO2)と窒化物半導体レーザダイオードとの間における格子不整合や熱膨張係数が異なること等に起因して,結晶層中に格子欠陥を生じ,特に高出力時の寿命が短くなるという課題を解決するために,保護層の材料を窒化物半導体レーザダイオードが発振するレーザ光に対して透明である上記一般式から選択することで,窒化物半導体レーザダイオードと格子定数及び熱膨張係数の整合をとることができ,格子不整合及び熱応力による欠陥発生を抑制できるため,低出力時は勿論のこと,歪みや欠陥の影響が大きい高出力発振時においても高信頼性で長寿命の窒化物半導体レーザ装置が得られるものであることが開示されている。他方で,審決が,引用発明の技術的意義であると認定した「保護層の格子定数とMQW活性層の格子定数との差をMQW活性層の格子定数の約3%以下,保護層の熱膨張係数とMQW活性層の熱膨張係数との差をMQW活性層の熱膨張係数の約20%以下とすること」に関しては,上記段落【0042】,【0043】の記載に照らすと,いずれも上記の条件を満たすように「選択することが好ましい」と記載されていること,格子定数の差に関して,段落【0042】のなお書には,「約3%を超える格子不整合があっても,寿命が低下しない場合がある。」と記載されていることに照らすと,引用発明における上記条件については,好ましい条件とされているにすぎず,必須の条件であると見ることはできない。そして,刊行物1に示された従来の保護層(SiO2又はTiO2)がアモルファス層であり,結晶構造をとっていないのに対し,「Al1−x−y−zGaxInyBzN(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)」の一般式で示されるものは,必ずNを含む窒化物系半導体としての結晶構\造を有することから,従来の保護層(SiO2又はTiO2)よりも窒化物半導体レーザダイオードとの格子定数の整合がとれることは当業者に自明の事項である。また,後記のとおり,熱膨張係数も窒化物系半導体と相当に異なるものであったことからすると,従来の保護層との比較において,窒化物系半導体である保護層が熱膨張係数において,一般的に整合がとれるものであることも,当業者に自明の事項である(段落【0024】参照)。そうすると,上記のような引用発明における従来技術の問題点及び解決課題に,上記段落【0011】,【0024】,【0026】,【0039】,【0040】の各記載を合わせて考慮すれば,引用発明は,保護層の材料をレーザ光に対して透明であり,かつ,上記の一般式を満たす材料を選択することで,従来の保護層(SiO2又はTiO2)よりも,窒化物半導体レーザダイオードと格子定数及び熱膨張係数の整合をとることができるものであるといえる。以上により,引用発明において,「保護層の材料をAl1−x−y−zGaxInyBzN(以下「一般式」という。)から選択する技術的意義は,単に,レーザの発振光に対して透明になるようにするのみならず,保護層の格子定数とMQW活性層の格子定数との差をMQW活性層の格子定数の約3%以下,保護層の熱膨張係数とMQW活性層の熱膨張係数との差をMQW活性層の熱膨張係数の約20%以下とすることにあるものと解される」とした審決の判断は誤りである。
(3) 次に,引用発明における保護層の材料として,「AlN」が開示されているか否かについて見るに,刊行物1には,GaN及びIn0.02Ga0.98N層(ただし,In0.02Ga0.98N層については,窒化物半導体レーザダイオードの後面の保護層のみ)は記載されているが,「AlN」を保護層の材料として選択した実施例に関する記載はない。しかし,AlNがレーザ光に対して透明であることは当事者間に争いがなく,上記一般式においてx=y=z=0を代入した場合には,保護層の材料が「AlN」となることは明らかである。そして,段落【0039】には,Alを含有した窒化物半導体材料を用いることが開示されており,刊行物1中において,特段,x=y=z=0を代入することを阻む事情についての記載はない。また,刊行物1には,窒化物半導体レーザダイオードの活性層及び従来の保護層の熱膨張係数について,「例えば,上述のMQW活性層64の熱膨張係数(3.15×10−6K−1)と保護層69の熱膨張係数(1.6×10−7K−1)とは大きく異なる。」(段落【0009】)との記載及び「保護層20aおよび20bを形成するGaNの熱膨張係数は3.17×10−6K−1であり,MQW活性層14の熱膨張係数(3.15×10−6K−1)と非常に近い」(段落【0033】)との記載があり,また,AlNの熱膨張係数については,文献(甲14,乙3ないし6)によってばらつきがあるものの,2.227×10−6K−1ないし6.09×10−6K−1の範囲に収まっているから,いずれの数値をとるにせよ,AlNの熱膨張係数は,従来の保護層の熱膨張係数(1.6×10−7K−1)と比較して,活性層の熱膨張係数(3.15×10−6K−1)に近く,そのことからも,一般式において,x=y=z=0を代入した材料であるAlNからなる保護層は,従来の保護層(SiO2又はTiO2)よりも窒化物半導体レーザダイオードと熱膨張係数の整合がとれているといえる。さらに,AlNが窒化物系半導体であることから,前記のとおり,従来の保護層(SiO2又はTiO2)に比べて窒化物半導体レーザダイオードの活性層との格子整合がとれることも明らかである。以上によれば,刊行物1において,保護層の材料として「AlN」が除外されているとはいえず,刊行物1には,レーザ光に対して透明であり,かつ,AlNを含む一般式からなる材料が開示されていると認められる。したがって,審決が,「甲1に,保護層の材料として「AlN」が開示されていると認めることはできない」としたのは,誤りである。
・・・・・
そうすると,相違点2”に関し,引用発明における保護層としてAlNを含むAl1−x−y−zGaxInyBzN(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなる層」の中から「AlN」を選択することについての容易想到性の有無,並びに保護層の材料としてAlNを選択したとして,それを積層すること及び光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層することについての容易想到性の有無について検討し,同様に相違点3”に関する本件発明1の構成についての容易想到性,さらには,相違点1に関する本件発明1の構\成についての容易想到性の有無を判断して,本件発明1が引用発明から容易に発明することができたか否かの結論に至る必要がある。ここまで至って,引用発明を主たる公知技術としたときの本件発明1の容易想到性を認めなかった審決の結論に誤りがあるか否かの判断に至ることができる。しかし,本件においては,審決が,認定した相違点1及び3に関する本件発明1の構成の容易想到性について判断をしていないこともあって,当事者双方とも,この点の容易想到性の有無を本件訴訟において主張立証してきていない。相違点2(当裁判所の認定では相違点2”)に関する本件発明1の構\成については,原告がその容易想到性を主張しているのに対し,被告において具体的に反論していない。このような主張立証の対応は,特許庁の審決の取消訴訟で一般によく行われてきた審理態様に起因するものと理解されるので,当裁判所としては,当事者双方の主張立証が上記のようにとどまっていることに伴って,主張立証責任の見地から,本件発明1の容易想到性の有無についての結論を導くのは相当でなく,前記のとおりの引用発明の認定誤りが審決にあったことをもって,少なくとも審決の結論に影響を及ぼす可能性があるとして,ここでまず審決を取り消し,続いて検討すべき争点については審判の審理で行うべきものとするのが相当と考える。本件のような態様の審決取消訴訟で審理されるのは,引用発明から当該発明が容易に想到することができないとした審決の判断に誤りがあるか否かにあるから,その判断に至るまでの個別の争点についてした審決の判断の当否にとどまらず,当事者双方とも容易想到性の有無判断に至るすべての争点につき,それぞれの立場から主張立証を尽くす必要がある。本件については,上記のように考えて判決の結論を導いたが,これからの審決取消訴訟においては,そのように主張立証が尽くすことが望まれる。なお,本件発明3〜7の容易想到性判断も,本件発明1についてのそれを前提とするものであり,これについても本件発明1に関する判断と同様である。\n
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2013.09.20
平成24(行ケ)10433 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年09月19日 知的財産高等裁判所
両者は技術的思想としては異なるとして、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
前記2によると,先願基礎発明は,従来,はんだ付けの際に半導体基板に生じる熱応力を軽減し,半導体基板の薄肉化によるクラックの発生を防止するために,半導体材料と熱膨張差の小さい導電性材料からなるクラッド材を用いると,体積抵抗率が比較的高い合金材によって中間層が形成されるため,電気抵抗が高くなり,太陽電池の発電効率が低下するという問題を解決課題とするものである。先願基礎発明は,芯材の体積抵抗率を2.3μΩ・cm(23μΩ・mm)以下とすることにより,優れた導電性及び発電効率を得ることができるとともに,耐力を19.6ないし49MPaとすることによって,過度に変形することがなく,取扱い性が良好であり,半導体基板にはんだ付けする際に凝固過程で生じた熱応力により自ら塑性変形して熱応力を軽減解消することができるので,半導体基板にクラックが生じ難いという効果を奏するものである。
⑶ 耐力に係る数値範囲について
ア 前記(1)及び(2)によれば,本願発明と先願基礎発明とは,体積抵抗率が23μΩ・mm以下である太陽電池用平角導体である点で一致する(その点で,体積抵抗率が50μΩ・mm以下で,かつ引張り試験における0.2%耐力値が90MPa以下で一致するとする本件審決の認定は相当ではない。)にすぎず,引張り試験における0.2%耐力値については,本願発明は90MPa以下で,かつ49MPa以下を除いているため,先願基礎発明の耐力に係る数値範囲(19.6〜49MPa)を排除している。したがって,本願発明と先願基礎発明とは,耐力に係る数値範囲について重複部分すら存在せず,全く異なるものである。イ 先願基礎発明は,耐力に係る数値範囲を19.6ないし49MPaとするものであるが,先願基礎明細書(甲10)には,太陽電池用平角導体の0.2%耐力値を,本願発明のように,90MPa以下(ただし,49MPa以下を除く)とすることを示唆する記載はない。また,半導体基板に発生するクラックが,半導体基板の厚さにも依存するものであるとしても,耐力に係る数値範囲を本願発明のとおりとすることについて,本件出願当時に周知技術又は慣用技術であると認めるに足りる証拠はないから,先願基礎発明において,本願発明と同様の0.2%耐力値を採用することが,周知技術又は慣用技術の単なる適用であり,中間層の構成や半導体基板の厚さ等に応じて適宜決定されるべき設計事項であるということはできない。したがって,本願発明と先願基礎発明との相違点に係る構\成(耐力に係る数値範囲の相違)が,課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。
ウ 本願発明は,前記(1)のとおり,耐力に係る数値範囲を90MPa以下(ただし,49MPa以下を除く)とすることによって,はんだ接続後の導体の熱収縮によって生じるセルを反らせる力を平角導体を塑性変形させることで低減させて,セルの反りを減少させるものである。これに対し,先願基礎発明は,前記(2)のとおり,耐力に係る数値範囲を19.6ないし49MPaとすることによって,半導体基板にはんだ付けする際に凝固過程で生じた熱応力により自ら塑性変形して熱応力を軽減解消させて,半導体基板にクラックが発生するのを防止するというものである。そうすると,両発明は,はんだ接続後の熱収縮を,平角導体(芯材)を塑性変形させることで低減させる点で共通しているものの,本願発明は,セルの反りを減少させることに着目して耐力に係る数値範囲を決定しており,他方,先願基礎発明は,半導体基板に発生するクラックを防止することに着目して耐力に係る数値範囲を決定しているのであって,両発明の課題が同一であるということはできない。
⑷ 被告の主張について
被告は,本願発明及び先願基礎発明は,いずれもシリコン結晶ウェハを薄板化した際に生じる問題を解決するために,平角導体(芯材)を塑性変形させることによって,はんだ付けする際の熱応力を低減させる点において,共通の技術的思想に基づく発明であるところ,本願発明の耐力に係る数値範囲から49MPa以下を除くことに格別の技術的意義を見いだすことはできないから,当該事項について設計的事項を定めた以上のものということはできず,先願基礎発明の耐力に係る数値範囲も,設計上適宜に定められたものにすぎないから,当該数値範囲に限られるものではなく,本願発明及び先願基礎発明における耐力に係る数値範囲の特定についての相違は,発明の実施に際し,適宜定められる設計的事項の相違にとどまるものであって,発明として格別差異を生じさせるものではないと主張する。しかしながら,前記のとおり,本願発明はセルの反りを減少させることに,先願基礎発明はクラックを防止することに,それぞれ着目して,耐力に係る数値範囲を決定しているのであるから,両発明の課題は異なり,共通の技術的思想に基づくものとはいえないから,被告の主張は,その前提自体を欠くものである。また,前記のとおり,本願発明の耐力に係る数値範囲から49MPa以下を除くことが,設計上適宜に定められたものにすぎないということはできず,先願基礎発明の耐力に係る数値範囲についても,同様に,設計上適宜に定められたものにすぎないということはできない。
◆判決本文
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2013.09.14
平成24(行ケ)10364 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年09月11日 知的財産高等裁判所
珍しいケースです。引例Aから進歩性なしとした拒絶審決が、平成22(行ケ)10388で取り消されて、拒絶査定不服審判に係属し、引例Bから進歩性なしとして、拒絶審決がなされました。裁判所は、拒絶審決を維持しました。
原告は,CSMA/CDアクセス制御手順の代わりに「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」を採用した場合,高負荷時に優先順位の低いデータの待ち時間が無限に長くなるため,有効平均待ち時間を低減できない上に,待ち時間が無限になるデータが発生してしまうから,引用発明のCSMA/CDアクセス制御手順に代えて「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」を採用する動機付けはないと主張する。しかし,引用発明においては,高負荷状態が推定される高負荷時には決定論的であるトークンパッシングアクセス制御手順によるデータ伝送が行われるから,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」の高負荷状態における欠点が,上記の動機付けに影響するとはいい難いし,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」に原告の指摘する課題があるとしても,かかる課題はCSMA/CDアクセス制御手順においても共通しており,一方で,事象指向のアクセス制御手順のうちいずれを採用するかは,送信されるデータの特性や適用されるシステムの特徴等に応じて適宜選択されるべきものといえるのは前記のとおりであるから,原告の指摘する事情が,引用発明のCSMA/CD方式に代えて「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」の構成を採用するに当たっての阻害事由になるとは認められない。
(ウ) 原告は,引用例には,各端末装置が送信するデータに優先順位を付与することの記載も示唆もなく,技術分野の異なる本願発明の「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」を採用する動機付けが存在しないと主張する。しかしながら,引用発明のCSMA/CDアクセス制御手順に代えて「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」を採用することが,特段の示唆がなくても当業者にとって容易想到であるといえるのは前記のとおりである。また,引用発明と本願発明は,バスシステムに接続された端末装置間のアクセス方式という技術分野において共通しており,送信されるデータの特性や適用されるシステムの特徴等を踏まえて異なる通信方式が採用されているにすぎないから,両発明について上記の容易想到性を否定すべき技術分野の違いがあるとはいえない。
(エ) 原告は,「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」は,バスシステムの負荷が低い状態において,優先順位に従って待ち時間が保証されるため,CSMA/CD方式のように全ての端末装置から送信されるデータに衝突による待ち時間が発生することがなく,同方式からは到底得ることのできない効果を奏するものであると主張する。しかしながら,CSMA/CD方式に代えて「優先順位に基づいて前記バスシステムへの一義的なアクセスが行われる事象指向」を採用することが当業者にとって容易に想到できるものであるということができることは前記のとおりであり,これにより当業者の予期することのできない顕著な効果が奏されるとまでいうことはできない。\n
◆判決本文
◆前回の取消訴訟事件はこちらです。平成22(行ケ)10388
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2013.09. 5
平成24(行ケ)10400 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年08月28日 知的財産高等裁判所
人間の筋力増強方法について、成立性、進歩性違反などを主張して無効請求をしましたが、無効理由無しとした審決が維持されました。
上記の各記載によれば,本件発明は,推測されるべき機序及び効果が示されており,その技術内容は,当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして示されているといえる。また,本件発明は,緊締具の周の長さを減少させ,筋肉に流れる血流の阻害とそれに対する生理反応を利用するものであって,生理反応は自然法則に基くものであるから,発明全体として自然法則を利用しているというべきである。したがって,本件発明が,具体性・客観性を有しないこと,及び自然法則の利用がないことを理由として,特許法2条1項所定の「発明」に該当しないとする原告の主張は,採用の限りでない。(2) 原告は,本件発明は,「筋肉増強」という新たな効果の発見にすぎず,特許法2条1項の「発明」に該当しないとも主張する。しかし,この点の原告の主張も,採用の限りでない。原告の主張は,要するに,本件特許の出願前に,筋肉を加圧するトレーニング運動療法に関連した文献(甲44文献)が存在した点を指摘するにすぎないのであって,同主張に係る事実によっては,本件発明が特許法2条1項所定の「発明」に該当しない根拠とはなり得ない。本件発明は,前記のメカニズムにより,目的筋肉を増強できるとの着想に基づき,特許請求の範囲の請求項1に記載した構成を採用したことによって,一定の効果を得る方法を開示するものであるから,単なる自然法則の発見ではない。この点に係る原告の主張は採用できない。3 取消事由2(本件発明の,特許法1条及び29条1項柱書所定の「産業の発達に寄与する」,「産業上利用することができる」との要件充足性を肯定した判断の誤り)に対して
(1) 産業上利用可能性について
本件発明は,特定的に増強しようとする目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより,疲労を効率的に発生させて,目的筋肉をより特定的に増強できるとともに関節や筋肉の損傷がより少なくて済み,さらにトレーニング期間を短縮できる筋力トレーニング方法を提供するというものであって,本件発明は,いわゆるフィットネス,スポーツジム等の筋力トレーニングに関連する産業において利用できる技術を開示しているといえる。そして,本件明細書中には,本件発明を医療方法として用いることができることについては何ら言及されていないことを考慮すれば,本件発明が,「産業上利用することができる発明」(特許法29条1項柱書)であることを否定する理由はない。
(2) 医療行為方法について
原告は,被告が本件発明を背景にして医療行為を行っている等と縷々主張する。本件発明が,筋力の減退を伴う各種疾病の治療方法として用いられており(甲17,29等),被告やその関係者が本件発明を治療方法あるいは医業類似行為にも用いることが可能であることを積極的に喧伝していたこと(甲63,67,68等)が認められる。しかし,本件発明が治療方法あるいは医業類似行為に用いることが可能\であったとしても,本件発明が「産業上利用することができる発明」(特許法29条1項柱書)であることを否定する根拠にはならない。
◆判決本文
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2013.09. 5
平成24(行ケ)10386 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年08月28日 知的財産高等裁判所
メールサーバに関する発明について、引用文献の認定誤りと認定したものの、やはり進歩性なしとして、拒絶審決維持されました。
以上によると,受信側のメールサーバは,音声,動画像をメディア情報格納サーバに格納する際,アイコンの作成とともに,このアイコンと受信した音声,動画像の格納場所等の情報とのリンク付けを行っていることが認められる。しかし,引用例には,受信側のユーザがメールの再生要求をした場合に,音声,動画像アイコンを含むメール本体がクライアント端末へ転送されることは記載されているものの,メール本体に音声,動画像に関わる何らかの情報も含まれているか否か,それがどのような情報であるかについては,明確な記載はない。また,引用例に係る特許出願がされた平成8年7月当時,引用例に記載されたマルチメディアメール送信及び受信において,音声・動画像アイコンと共に,「ユーザにより指定されることによりリアルタイム再生を行い,音声と動画像を検索できるようにする情報」がメール本体に含まれており,受信側のクライアント端末に転送されるという方法が当業者に周知の技術であったと認めるに足りる証拠はない。したがって,引用例発明においては,音声・動画像アイコンと共に「ユーザにより指定されることによりリアルタイム再生を行い,音声と動画像を検索できるようにする情報」がメール本体に含まれており,受信側のクライアント端末に転送されるとした審決の認定には,誤りがある。
・・・
以上のとおり,審決のした相違点4の認定には誤りがあり,相違点4は上記3(3)のとおり認定されるべきであるが,このような認定を前提とする相違点4も,容易想到であったと解される。その理由は,以下のとおりである。
・・・
イ 上記文献の記載によると,本願優先日当時,ストリーミングにおいては,RTSPのプロトコルが標準化されており,RTSPでは,クライアントからのDESCRIBEメソッドに応じて,サーバから,SDPなどを用いて,ストリーミング可能\なメディアのURL等のセッション記述がクライアントに送信され,これに対して,クライアントがSETUPメソッド,PLAYメソ\ッドを送信することにより,ストリーミング・セッションが開始され,指定されたメディアが検索され,そのデータの伝送が開始されて,再生が開始されると認められる。そして,上記「セッション記述」は,ストリーミング可能なメディアを送信するために作成されるものであり,ストリーミング・セッションを開始させ,また,該当するメディアを検索できるようにする情報を含むものであると認められ,本願発明の「セッション記述ファイル」に相当するといえる。前記のとおり,引用例発明は,リアルタイム再生(ストリーミング)に関する発明であり,引用例発明では,音声,動画像のデータの代わりに,音声,動画像とリンク付けされたアイコンが含まれたメール本体が受信側のクライアント端末に転送されるが,ユーザが再生要求の対象となる音声,動画像のアイコンを指定することにより,再生プログラムが起動し,当該音声,動画像が検索され,リアルタイム再生が行われる。そして,上記アイコンは,ユーザがアイコンを指定した際,音声,動画像の検索を可能\にするために音声,動画像とリンク付けされているものである。したがって,引用例に接した当業者が,ストリーミングにおける本願優先日当時の上記周知技術に基づいて,音声,動画像アイコンをメール本体に含めて受信側クライアント端末に転送するとともに,音声,動画像の検索情報等を含んだ上記「セッション記述」をメール本体に含めて転送することにより,本願発明の相違点4に係る構成を採用することは容易であると認められる。\n
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2013.08.23
平成24(行ケ)10305 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年07月31日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が維持されました。
(1)ア 本件発明1と甲1発明とは,いずれも,被覆材を表面に設けた被加工物を,アシストガスを用いたレーザ光により加工するレーザ加工方法に関するものであり,両発明の技術分野は共通する(本件明細書の【0001】,甲1公報の【0001】)。また,本件発明1と甲1発明とは,レーザ加工中に,被加工物と被覆材との間にアシストガスが侵入して被覆材が剥離するのを防止するために,第1加工工程として,最終加工とは異なる加工条件により被覆材を処理する点でも共通する(本件明細書の【0002】〜【0008】,【0014】,【0050】,甲1公報の【0002】〜【0006】,【0008】,【0018】)。しかし,本件発明1は,被覆材をあらかじめ除去するものであるのに対し,甲1発明は,保護シート(被覆材)が剥離するのを防止するために,ワーク(被加工物)にあらかじめ保護シートを焼付けるものであり,この点において,両発明は相違する。甲1公報には,保護シートをあらかじめ除去することについては記載も示唆もなく,甲1発明の保護シートが剥離するのを防止するために,保護シートをあらかじめ除去することを動機付けるものはない。かえって,甲1公報には,保護シートがワーク上に貼\付されたままであることが望ましい(【0003】)が,保護シート付きワークにレーザビーム及びアシストガスを照射して切断加工を行うと,保護シートが剥離してしまうため,保護シートをワーク上に残すことを目的とするレーザによる切断加工は実際には行われていなかった(【0005】)ことが記載されている。このような記載に照らすと,甲1発明は,保護シートをあらかじめ除去してワークを露出させることは,望ましくないとの認識を前提とするものと解される。そうすると,甲1発明においては,保護シートをあらかじめ除去してワークを一定範囲にわたり露出させることは,保護シートが剥離するのを防止するためであるとはいえ,そもそも意図するところではないともいえる。
イ 一方,甲2公報には,表面を合成樹脂等の保護材で覆った状態の金属材に対して,レーザによる溶断加工を実施すると,保護材が金属材に溶着して表\面を汚すこと(甲2・1頁右下欄16行〜2頁左上欄8行),また,このような溶着を防止するために,低い出力のレーザ光エネルギで保護材を溶断した後,高い出力のレーザ光エネルギで金属部材を加工すること(同・特許請求の範囲)が記載されている。また,甲3公報には,ステンレスなどの金属からなる母材の表面に合成樹脂の被膜を付着させた材料を,レーザ光で切断する際に,これらを同時に切断すると,被膜が炭化した状態で母材の表\面に焼付いてしまうこと(甲3・1頁左下欄18行〜2頁左上欄2行),また,このような被膜の炭化を防止するために,弱いエネルギのレーザ光で被膜だけ切断してから,強いエネルギのレーザ光で母材を切断すること(同・特許請求の範囲)が記載されている。甲2公報及び甲3公報の上記記載によれば,被覆材を表面に設けた被加工物をレーザ光により加工する際に,被覆材が被加工物に溶着したり,被覆材が炭化して被加工物に焼付いたりするのを防止するために,低いエネルギのレーザ光で被覆材をあらかじめ除去した後,高いエネルギのレーザ光で被加工物を加工することは,周知技術であると認められる。しかし, 甲1発明は,ワークと保護シートとの間にアシストガスが流入して保護シートが剥離するのを防止するために,ワークにあらかじめ保護シートを焼付けるものであるのに対し,上記周知技術において,被覆材の除去は,被覆材が被加工物に溶着すること等を防止するために行われるものであり,被加工物と被覆材との間にアシストガスが侵入して被覆材が剥離するのを防止するために行われるものではない。そもそも,甲2公報及び甲3公報には,アシストガスについての記載はなく,アシストガスが被加工物と被覆材との間に侵入して,被覆材が剥離することについても何ら記載はない。そうすると,上記周知技術における「被覆材を除去する」ことと,甲1発明における「ワークに保護シートを焼付ける」ことは,相互に置換可能な手段であるとはいえないから,甲1発明において,ワークにあらかじめ保護シートを焼付けることに代えて,保護シートをあらかじめ除去する動機付けがあるということはできない。\n
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2013.08.23
平成24(行ケ)10412 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年08月09日 知的財産高等裁判所
本件発明における用語「化粧用チップ」が、引用発明の「アイライナーの芯」と対応するとした前提が誤っていると判断し、進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。
本願補正発明の「化粧用チップ」と引用発明の「アイライナーの芯2」とは,化粧料を化粧部位に塗布する化粧用具の先端部という点では共通するものの,本願補正発明の「化粧用チップ」は,まぶたや二重の幅にアイシャドー等を付するために,化粧料を面状に付着させたり,塗布したり塗り拡げたり,ぼかしてグラデーションを作るなどするための化粧用具の先端部であると共に,これを目の際に使用して線状のアイラインを描くためにも用いることができるものであるのに対し,引用発明の「アイライナーの芯2」は,まぶたの生え際(目の際)に線状のアイラインを描くためにのみ使用する化粧用具の先端部であり,本願補正発明の「化粧用チップ」のように,化粧料をまぶたや二重の幅に面状に塗布したり塗り拡げたりして,アイシャドー等を付するとの機能を備えた用具の先端部ではない点で異なるものである(化粧用チップは,面状のアイシャドー等及び線状のアイライン形成のいずれのためにも使用することができるのに対し,アイライナーの芯2は線状のアイライン形成のためにのみ使用することができるものであり,面状のアイシャドー等を形成するために使用されるものではない。)。したがって,化粧用チップとアイライナーの芯2とは,一部において用途が共通するとしても,その主たる用途は異なるものであり,これを化粧用具の先端部として同一のものとみることはできない。してみると,審決が,引用発明の「アイラインを描くためのアイライナーの芯2」又は「芯2」が,文言の意味,形状又は機能\からみて本願補正発明の「化粧用チップ」に相当すると判断し,これを本願補正発明と引用発明との相違点として認定せずに,両者は,「塗布部先端の端縁部を線状又は面状にしてなる化粧用チップ」である点で共通すると認定したことは誤りである。そして,審決は,本願補正発明と引用発明との上記相違点を看過した上で,その一致点及び相違点1及び2を認定し,相違点1については,引用発明のアイライナーの「芯2」の先端部の「略直線状又は略平面状」の形状を化粧用チップの「直線状又は平面状」の形状とすることは「当業者であれば適宜なし得た」と判断したものである。しかし,引用発明の「アイライナーの芯2」は,化粧用チップと異なり,まぶたや二重の幅に化粧料を面状に塗布したり,これを塗り広げるなどしてアイシャドー等を施すとの機能を奏さず,線状にアイラインを描くとの機能\のみを奏するものであるから,そのような「アイライナーの芯2」の塗布部先端の形状を,まぶたや二重の幅に化粧料を面状に塗布したり,これを塗り拡げるなどしてアイシャドー等を施すとの機能を奏する化粧用チップの塗布部先端の形状として転用し得るものか否かは直ちには明らかではなく,本来であるならば,審決は,このような相違点も踏まえて容易想到性についての判断をすることを要するのに,これをせずに,アイライナーの芯と化粧用チップとの上記相違点を看過して容易想到性の判断をしたものである。よって,審決の上記相違点の看過は,審決の容易想到性の判断に実質的な影響を与える誤りであるといわざるを得ず,審決は取消しを免れない。\n(2) 被告は,「化粧用チップ」は,英語の「tip」や日本語の「チップ」の語義に照らして,「化粧料の塗布用の先端部材」と解されること,本願の特許請求の範囲に「化粧用チップ」の具体的用途や使用方法について何らの特定のないこと,本願明細書の記載によれば,本願補正発明の「化粧用チップ」はアイラインを引くことにも使用されると理解されること,化粧用具に関する技術分野においては,化粧料を化粧部位に塗るために使用されるチップが,化粧料を含浸させるチップを排除するものではないことに照らせば,引用発明の「アイライナーの芯2」が本願補正発明の「化粧用チップ」に相当するとの審決の認定に誤りはないと主張する。しかし,本願補正発明の「化粧用チップ」は,その特許請求の範囲に具体的な用途や使用方法についての特定がないとしても,まぶたや二重の幅に化粧料を付着させ,これを塗布したり塗り拡げたりする化粧用具の先端部であり,またアイラインを引くことにも使用され得るものであることが,本願明細書の記載から優に認められるものであることは,前記のとおりである。また,本願補正発明の「化粧用チップ」が化粧料を含浸させるタイプのものも排除するものではないことも前記認定のとおりであるものの,引用発明の「アイライナーの芯2」が,まぶたや二重の幅に化粧料を付着させ,これを面状に塗布したり塗り拡げたりするアイシャドー等用の化粧用具のための先端部ではないことも刊行物1の前記記載から明らかである以上,本願補正発明の「化粧用チップ」と引用発明の「アイライナーの芯2」は,化粧用具の先端部として同一のものであるとはいえず,被告の上記主張を斟酌しても,引用発明の「アイライナーの芯2」を本願補正発明の「化粧用チップ」とみることができないことも前記認定判断のとおりである。被告の上記主張は採用することができない。
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2013.08. 7
平成24(行ケ)10180 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年07月17日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
当裁判所は,本件発明1の相違点に係る構成は,甲1発明から容易に想到することはできないとした審決には誤りがあると判断する。その理由は次のとおりである。(1) 甲1発明は,希土類元素の種類を特定するものではない。もっとも,甲1には,希土類元素について,「希土類元素(Ln)としては,Y,La,Ce,Pr,Sm,Eu,Gd,Dy,Er,Yb,Nd等があり,これらのなかでもNdが最も良い。そして,本発明では,希土類元素(Ln)は2種類以上であっても良い。比誘電率の温度依存性の点からは,Y,Ce,Pr,Sm,Eu,Gd,Dy,Er,Ybが好ましい。」(【0016】)と記載されており,希土類元素としてLaを使用できることが記載されており,希土類元素としてLaを単独で使用した実施例(【表2】の試料No35)が記載されている。以上によれば,甲1には,甲1発明において,希土類元素としてLaを単独で使用すること,すなわち,Laを希土類元素のうちモル比で100%含有するものを使用することについての示唆があるといえる。甲1において希土類元素としてLaを単独で使用したもの(【表2】の試料No35)については,Q値は39000とされ,本件発明1の下限値に近接する値が示されている。また,甲1発明の組成と一致し,希土類元素としてLaを単独で使用した誘電体磁器において,40000以上のQ値が得られることは,当業者において広く知られた事項である(甲21(【表4】の試料No103,127,【表5】の試料No165),甲37(図1の試料1〜7))から,甲1発明のうち,希土類元素としてLaを単独で使用したものにおいて,40000以上のQ値が得られることは,当業者が十分に予\測し得るといえる。以上によれば,甲1発明において,希土類元素としてLaを単独で使用する(すなわち,Laを希土類元素のうちモル比で90%以上含有するものを使用する)とともに,Q値を40000以上とすることに,困難性はないというべきである。
◆判決本文
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2013.08. 7
平成24(行ケ)10300 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年07月17日 知的財産高等裁判所
サポート要件に違反する(36条6項1号)、新規性なし(29条1項3号)とした審決が、取り消されました。
審決は,1)引用発明のポリウレタンは,ショア硬度が10より低いものであるから,技術常識から,本願発明1におけるポリウレタンの性質である「94未満のショアA硬度」の要件(構成e)と重複一致し,また,2)引用発明のポリウレタンは,ショア硬度が十分に低い(つまり,軟らかい)ことから,本願発明1の構\成c及び構成dを満たす蓋然性が高いと解され,相違点1は実質的な相違点ではないと判断する。しかし,以下のとおり,審決の実質的な相違点でないとした判断には誤りがある。ポリウレタンには,「ショア10Aから90D」までの硬度(硬さ)があるとされている(乙1)。他方,前記のとおり,引用発明のポリウレタンは,「シヨア硬度が10より低い」と記載されているが,同記載における「シヨア硬度」が「ショアA硬度」を指すか否か,「シヨア硬度10」がどの程度の硬度であるか明確でない。したがって,引用発明のポリウレタンが「シヨア硬度が10より低い」と記載されていることのみから,本願発明1におけるポリウレタンの性質である「94未満のショアA硬度」の要件と重複一致し,また,本願発明1の構\成c及びdを満たす蓋然性が高く,相違点1は実質的な相違点でないと判断したことには,誤りがあるというべきである。
(4) 小括
以上のとおり,引用発明のポリウレタンが,本願発明1の構成eと一致し,また,構\成c及び構成dを満たす蓋然性が高く,相違点1が実質的な相違点でないとした審決の判断には,十\分な根拠がなく,是認することができない。
3 記載要件不備についての判断の誤り(取消事由2)について
本願発明1の構成要件を再載すると,次のとおりである。
「a 第1級脂肪族イソシアネート架橋を有し,\nb また,少なくとも25重量%の第1級ポリイソシアネート架橋を有しており,\nc かつ1.0×108パスカル以下の曲げ弾性率,
d 1.0×108パスカル以下の貯蔵弾性率,
e および94未満のショアA硬度を呈する
f ポリウレタンであって,
g さらにそのポリウレタンは,
h 2以下のホフマン引掻硬度試験結果,
i および1ΔE以内のカラーシフト(熱老化試験ASTM D2244−79に準拠)のj いずれか一方または両方の性質を呈するか,または呈しない
k ポリウレタン。」
しかるに,審決は,以下のとおり判断する。すなわち,特許請求の範囲の記載において,本願発明1におけるポリウレタンは,「構成gないし構\成k」の部分に係る「要件a及び/又は要件b」,あるいは,「要件c」を満たすことが必要であるところ,本願明細書の発明の詳細な説明には,「要件a及び要件b」を満足する具体例,並びに「要件a」を満足する具体例の記載はあるが,「要件bのみ」及び19「要件c」を満足する具体例の記載がなく,当業者が,本願明細書の記載に基づいて,「要件bのみ」及び「要件c」を満足するポリウレタンがその発明の課題を解決できると認識できるとは認められないから,特許法36条6項1号を充足しないと判断した。しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。本願発明1に係る特許請求の範囲の記載は,「構成aないし構\成f」と「構成gないし構\成k」からなる。このうち「構成gないし構\成k」の部分は,「2以下のホフマン引掻硬度試験結果,および1ΔE以内のカラーシフト(熱老化試験ASTM D2244−79に準拠)のいずれか一方または両方の性質を呈するか,または呈しない」と記載されており,その記載振りからも明らかなように,同記載部分は,発明の専有権の範囲を限定する何らの文言を含むものではないので,格別の意味を有するものではない。「構成gないし構\成k」の部分は,限定的な意味を有するものではないことから,本願発明1の技術的範囲は,「構成aないし構\成f」の記載によって限定される範囲であると合理的に解釈される。そして,本願明細書の段落【0049】【0050】【0059】ないし【0061】並びに表3,表\5及び表6には,本願発明1の構\成aないし構成fを充足する実施例1,13及び14が記載されていると理解される。以上のとおりであるから,本願発明1については,本願明細書の発明の詳細な説明において,「構\成gないし構成k」の部分に係る「要件bのみ」及び「要件c」を満足する具体例を記載開示しなかったことが,少なくとも,特許法36条6項1号の規定に反すると評価することはできない。したがって,「要件bのみ」及び「要件c」を満足する具体例の記載がないことを理由として,特許法36条6項1号の要件を充足しないとした審決の判断には,誤りがある。\n
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2013.08. 7
平成24(行ケ)10244 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年07月18日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
引用発明は,基板の搬送時間の短縮及び基板処理装置のスループットの向上並びに基板処理装置のクリーンルーム内に占める面積の減少を目的として,一側面が相対向するようにして上下にロボットが配設される構成を採用するものであるところ,引用例には,ハンドが二次元的にしか動作できないものに限らず,「ハンドがアーム部に対して昇降する機能\や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有してもよい旨が記載されており,しかも,引用例の特許請求の範囲に記載された発明特定事項にチャンバは含まれていないから,相対向するロボットに上下移動機構\を採用し,作業範囲を増加させることについて,動機付けが認められる。また,前記2(2)によれば,本件特許の出願当時,コラム型を有する産業用ロボットは,周知技術であったということができる。したがって,当業者が,引用例の記載から,実施例において開示された搬送チャンバ内に上下一対に配設されたロボットについて,搬送チャンバとは無関係に,「ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能\」を有する構成を実現するため,アーム部とハンド部とを支持部材を介して上下移動機構\に組み合わせる際に,周知技術であるコラム型の上下移動装置を採用することも,容易に想到し得るものということができる。(イ) 被告は,引用発明は搬送チャンバ内における基板搬送装置を前提とする発明であり,当然に上板部材及び下板部材が存在しているものであるところ,その作用効果は,各チャンバ内のあらゆる位置に任意の方向に向けて順次移動可能になることであって,コラム型を採用すると,コラムがアーム動作の障害物となって,引用発明の課題を解決することができなくなるから,引用発明にコラム型を採用する動機付け自体が存在せず,むしろ阻害事由が存在する,引用発明においてコラム型を採用し,任意の方向に向けて順次移動可能\とする機能を維持するためには,コラムに旋回機能\を適用することに伴う様々な技術的課題を解決しなければならないから,当業者は技術的課題を解決する必要のないテレスコピック型の上下移動機構を採用するはずである,仮にコラム型を採用した場合,本件発明2と同様の構\成を実現するためには,二つの支持部材とコラムとを含む移動機構としては,周知例1ないし3に記載されている上面載置構\造を採用するものである,引用発明において,肘の出る方向は俯瞰図的には別々であるところ,アームを支持部材の対向面に設けたまま,本件発明2と同様の構成を採用する場合,肘の出る方向が揃うように,システム構\成から変更する必要が生じるなどと主張する。しかしながら,引用例の特許請求の範囲に記載された発明特定事項にチャンバは含まれておらず,チャンバの存在を前提とする「エッチング」についても,従来技術においてロボットが用いられている工程の例示として指摘されているにすぎないこと,引用発明の目的は,クリーンルーム内等でのロボットの占有面積を減少させる点において本件発明と共通するところ,当該目的自体は,チャンバの有無とは無関係であることからすると,引用例には搬送チャンバ内における基板搬送装置を前提とする発明のみが開示されているとする被告の主張は,その前提自体を欠く。また,引用例には,各チャンバ内のあらゆる位置に任意の方向に向けて順次移動可能になることが,引用発明の解決課題として記載されているものではないし,当該機能\を実現するために,当業者が当然にテレスコピック型を採用するとまでいうことはできない。なお,被告は,コラムに旋回機能を適用することに伴う様々な技術的課題の詳細について具体的に主張しないが,テレスコピック型かコラム型かにかかわらず,旋回機能\を設ける周知技術(甲7〜9,19〜21)を採用すれば足りるものである。また,引用発明において,肘の出る方向を揃えるための変更が必要であったとしても,そのこと自体が引用発明にコラム型を採用する場合の阻害事由となるとまでいうことはできない。
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平成24(行ケ)10370
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2013.08. 7
平成24(行ケ)10409 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年07月24日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性無しとした審決が維持されました。
上記記載によれば,本願発明において,「売却対象受電量」を「最大電力消費量以下」又は「発電増加量分以下」に設定することは,売却対象となる余剰の受電権を確保することを意味するにすぎず,それ以上の意義を有するものではなく,また,「購入対象受電量」を「最大電力消費量以上」又は「発電低下量分以上」に設定することは,購入対象となる不足の受電権を受け入れ可能にすることを意味するにすぎず,それ以上の意義を有するものではないことが認められる。そうすると,本願発明の「売却対象受電量」とは,余剰であるために売却対象となる将来の「電力量」を意味するにすぎないから,引用発明1の「余剰電力」とは,将来において売却対象となる「電力量」という点において一致し,また,本願発明の「購入対象受電量」とは,不足するために購入対象となる将来の「電力量」を意味するにすぎないから,引用発明1の「不足電力」とは,将来において購入対象となる「電力量」という点において一致する。\n
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2013.08. 5
平成24(行ケ)10349 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年07月18日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が維持されました。
刊行物1発明において,連通気孔の体積率を「少なくとも50体積%」に高める動機付けがないとはいえない。刊行物1には,砥石に形成される気孔の体積率に関し,「気孔形成用物質の粒径・・・があまり小さ過ぎると砥石の自生効果が少なくなり,一方,あまり大き過ぎると砥石が脆くなってしまうので好ましくない。又,砥石中に形成される気孔の体積率(気孔率)は約5〜50%であるのが好ましく,約10〜40%であるのがより好ましい。この体積率が上記範囲外であると,上述したと同様の理由により好ましくない。」との記載があり,気孔の体積率が50%を超えると,砥石が脆くなってしまうので好ましくないことが記載されていると認められる。しかし,補正発明の数値は50体積%を含むし,刊行物1の特許請求の範囲は,気孔の体積率が50%を下回る数値に限定していないから,刊行物1に記載された発明を全体としてみれば,気孔の体積率は50%を上回らないのが好ましいというにとどまるものであり,そこに上限値を規定する趣旨はなく,50%を超える体積率が除外されているとまではいえない。そして,上記のとおり,そもそも,気孔の体積率をどの程度とするかは,砥石の用途や使用態様のほか,砥粒及び結合材の材質や割合,砥石の各種特性と耐久性のバランス等も考慮して,当業者が適宜決定し得る事項であるといってよい。そうすると,砥石の特定の用途や使用態様の下で,砥粒及び結合材として特定の材質のものを特定の割合で用いる場合等においては,気孔の体積率が50%を超えると,砥石が脆くなることがあるとしても,砥石の用途や使用態様のほか,砥粒及び結合材の材質や割合等によっては,また,砥石の各種特性と耐久性をどのようにバランスさせるかによっては,50%以上の体積率を設定し得ることは,当業者にとって明らかである。以上によれば,刊行物1発明において,連通気孔の体積率を「少なくとも50体積%」に高める動機付けを肯定することができる。
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2013.08. 5
平成24(行ケ)10207 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年07月24日 知的財産高等裁判所
無効理由(進歩性違反)無しとした審決が維持されました。
本件明細書(甲9)には,ヒスタミンショック死抑制作用試験において(S)-エステルが(R)-エステルより約43倍強い活性を示したこと,homologousPCA反応抑制作用試験において(S)-エステルが(R)-エステルより約100倍以上強い作用を示したことが記載されている(【0030】〜【0035】)ところ,本件明細書は,この本件化合物のエステルによる(S)体と(R)体の比較を根拠に,本件化合物の(S)体がより優れた光学活性体であり,生体内で活性本体として作用すると結論づけている(【0048】)。そして,このことは,甲8の3に添付された実験成績証明書に,モルモットから摘出した回腸におけるヒスタミン誘発収縮に対する薬理試験(試験3)の結果,本件化合物の(S)体のベンゼンスルホン酸塩がそのラセミ体に対して約7倍の活性を示したことが記載されており,また,本件明細書に記載のヒスタミンショック死抑制作用試験と同様の試験(試験4)の結果,本件化合物の(S)体のベンゼンスルホン酸がラセミ体に対して約3倍の生存率を示したことが記載されていることからも裏付けられる。そうすると,本件化合物の(S)体は,その(R)体と比較して,当業者が通常考えるラセミ体を構成する2種の光学異性体間の生物活性の差以上の高い活性を有するものということができる。したがって,本件化合物の(S)体のベンゼンスルホン酸は,審決が認定した甲1発明であるラセミ体の本件化合物のベンゼンスルホン酸塩と比較して,当業者が予\測することのできない顕著な薬理効果を有するものといえる。
・・・
以上によれば,本件特許発明1の進歩性に係る審決の判断は,本件化合物をHPLC法により光学分割する際にキラル固定相としてCHIRALCEL ODやCHIRALPAK ADを採用することは当業者が最初に検討するとした点に誤りはないものの(前記(3)),本件化合物の光学分割を行う際に当業者がジアステレオマー法をまず最初に検討するとした点及び本件化合物の光学分割に当たりヘキサン/イソプロパノール/トリフルオロ酢酸(0.1%)を含む移動相を選択することは当業者が容易に想到できるとはいえないと判断した点に誤りがあり(前記(1),(2)),したがって,絶対配置が(S)体である本件化合物は,本願出願時の技術常識を考慮しても,当業者が容易に製造すること(光学分割すること)ができなかったものであるとしたことは誤りであるけれども(前記(4)),本件特許発明1の絶対配置が(S)体である本件化合物は,審決が認定した甲1発明における本件化合物と比較して当業者が予測することのできない顕著な薬理効果を有するものであると認定判断した点に誤りはなく(前記(5)),結局のところ,本件特許発明は甲1発明に対して進歩性を有するものとした審決の判断は,結論において誤りはない。
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2013.07. 5
平成24(行ケ)10056 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月17日 知的財産高等裁判所
少し前の事件ですが、挙げておきます。主引例の差し替え(周知技術として例示されていた引例を主引例とした)について、手続違背があるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
一般に,本願発明と対比する対象である主引用例が異なれば,一致点及び相違点の認定が異なることになり,これに基づいて行われる容易想到性の判断の内容も異なることになる。したがって,拒絶査定と異なる主引用例を引用して判断しようとするときは,主引用例を変更したとしても出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情がない限り,原則として,法159条2項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるものとして法50条が準用されるものと解される。
イ 前記(2)ウ,(3)ウのとおり,本件においては,引用例1又は2のいずれを主引用例とするかによって,本願発明との一致点又は相違点の認定に差異が生じる。拒絶査定の備考には,「第1及び第2のインバータを,電源に接続されるコンバータに接続することは,周知の事項であって(必要があれば,特開平7−213094号公報を参照。)…」と記載されていることから(甲17),審判合議体も,主引用例を引用例2から引用例1に差し替えた場合に,上記認定の差異が生じることは当然認識していたはずである。
ウ そして,前記(3)エのとおり,引用発明2を主引用例とする場合には,交流発電機(交流電源)を用いた場合の問題点の解決を課題として考慮すべきであるのに対し,引用発明1を主引用例として本願発明の容易想到性を判断する場合には,引用例2のような交流/直流電源の相違が生じない以上,上記解決課題を考慮する余地はない。そうすると,引用発明1又は2のいずれを主引用例とするかによって,引用発明2の上記解決課題を考慮する必要性が生じるか否かという点において,容易想到性の判断過程にも実質的な差異が生じることになる。
エ 本件において,新たに主引用例として用いた引用例1は,既に拒絶査定において周知技術として例示されてはいたが,原告は,いずれの機会においても引用例2との対比判断に対する意見を中心にして検討していることは明らかであり(甲1,16,20),引用例1についての意見は付随的なものにすぎないものと認められる。そして,主引用例に記載された発明と周知技術の組合せを検討する場合に,周知例として挙げられた文献記載の発明と本願発明との相違点を検討することはあり得るものの,引用例1を主引用例としたときの相違点の検討と同視することはできない。また,本件において,引用例1を主引用例とすることは,審査手続において既に通知した拒絶理由の内容から容易に予測されるものとはいえない。なお,原告にとっては,引用発明2よりも不利な引用発明1を本件審決において新たに主引用例とされたことになり,それに対する意見書提出の機会が存在しない以上,出願人の防御権が担保されているとはいい難い。よって,拒絶査定において周知の技術事項の例示として引用例1が示されていたとしても,「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるといわざるを得ず,出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情が存在するとはいえない。
オ 被告は,審判請求書において原告が引用例1を詳細に検討済みであると主張する。しかし,一般に,引用発明と周知の事項との組合せを検討する場合,周知の事項として例示された文献の記載事項との相違点を検討することはあり得るのであり,したがって,審判請求書において,引用例1の記載事項との相違点を指摘していることをもって,これを主引用例としたときの相違点の検討と同視することはできない。
(5) 小括
以上のとおり,本件審決が,出願人に意見書提出の機会を与えることなく主引用例を差し替えて本願発明が容易に発明できると判断したことは,「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるにもかかわらず,「特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならない」とする法159条2項により準用される法50条に違反するといわざるを得ない。そして,本願発明の容易想到性の判断に係る上記手続違背は,審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。よって,取消事由3は,理由がある。
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2013.06.17
平成24(行ケ)10271 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年06月11日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が維持されました。
審決は,相違点1,3に係る本件発明1,6の構成は容易想到と判断したが,相違点2,4に係る本件発明1,6の構\成は容易不想到とした。原告は,この後者の審決判断を争っているので,相違点2,4に係る容易想到性についてみると,超音波モータと振動ジャイロとをカメラに同時に搭載する際に,振動検出素子の共振周波数と超音波モータが与える不要な振動の周波数とがともに超音波周波数域であるとしても,それらが重なる蓋然性が高く,重なる場合には振動ジャイロは誤出力してしまうという,それらの振動の周波数に関わる特有の課題が存在することについては,これを開示する証拠はない。そして,上記特有の課題を開示する証拠がない以上,それを解決するための手段を採用する動機付けがあるとは認められない。また,所定の帯域あるいは範囲を含め,超音波モータの共振周波数あるいは駆動周波数を,励振センサの共振周波数に関係した帯域に関連して設定することが,公知であったことを示す証拠もない。一般的に,関連する技術分野の発明や技術事項を組み合わせることは,当業者が容易に着想し得ることであるから,ともにカメラに用いられる甲10記載のような振動ジャイロや甲11記載のような超音波モータを,引用発明(甲4)のカメラに適用することを,当業者は着想し得るといえる。しかし,モータや振動を検出するセンサには様々な態様のものが存在しているのであって,超音波モータも多種多様に存在しており,甲11はその一例に過ぎず,また,圧電振動ジャイロも多種多様のものが存在しており,甲10はその一例に過ぎない。上記(3)に判示したとおり,甲10には,振動ジャイロを,超音波モータを備えたカメラに用いることの記載はなく,振動ジャイロ(振動検出素子)の共振の半値幅帯域と超音波モータの周波数制御範囲とを別の帯域に設定したことは何ら記載されておらず,また,上記(3)に判示したとおり,甲11には,励振された振動検出素子からなるセンサについては記載がなく,振動検出素子の共振の半値幅帯域と超音波モータの周波数制御範囲とを別の帯域に設定したことは記載されておらず,さらに,超音波モータがすでに備えられている引用発明に,甲11記載発明の超音波モータを適用しようとする動機があるとはいえず,超音波モータと振動ジャイロとをカメラに同時に搭載する際の特有の課題,解決手段,及びそれを採用する動機のいずれも公知とは認められないことを踏まえると,個別特定の公知技術である甲10記載発明と甲11記載発明とをともに適用することが,当業者にとって容易に想到し得ることであるとはいえない。原告が主張するように,甲10記載発明の振動ジャイロと甲11記載発明の超音波モータとをともに適用すれば,超音波モータの周波数制御範囲が振動ジャイロの1次と2次の共振の半値幅帯域に重ならないものとなり,上記相違点2に係る本件発明2の構成を満足することとなるが,甲10記載発明と甲11記載発明とを単に事後分析的に選択したに過ぎないといえる。したがって,引用発明において,上記相違点2に係る本件発明2の構\成とすることは,引用発明(甲4)並びに甲10記載発明及び甲11記載発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。相違点4に係る本件発明6の構成は,本件発明2において単に「振動検出素子の共振の半値幅帯域と別の帯域」と特定していたものを,本件発明6においては「振動検出素子の1次の共振の半値幅帯域と2次の共振の半値幅帯域との間」と更に限定して特定したものに相当すると解される。よって,本件発明6のこの構\成も,当業者が容易になし得たものとすることはできない。
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2013.06.10
平成24(行ケ)10335 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年06月06日 知的財産高等裁判所
動機づけが無いとして、裁判所は、進歩性なしとした審決を取り消しました。
甲2,3(周知例1,2)によれば,1)填料としての炭酸カルシウム及び/又は古紙由来の炭酸カルシウムが存在する製紙工程は周知のものと認められ,また,2)炭酸カルシウムが存在する製紙工程では,微生物が繁殖しやすいこと,3)微生物の繁殖により,微生物を主体とし填料等を含むスライムデポジットが生成され,紙に斑点が発生する等の問題を生じること,4)このような問題を防止するために,製紙工程水にスライムコントロール剤を添加し,微生物の繁殖を抑制し又は殺菌することは,いずれも周知の事項と認められる。しかし,上記の斑点は,微生物を主体とするスライムデポジットによるものであり,ニンヒドリン反応では陽性を示すもの(本願明細書【0008】,甲19)と考えられる。また,補正発明における炭酸カルシウムを主体とする斑点が,従来のスライムコントロール剤では,その濃度を高くしたとしても十分に防止できず,上記反応物によれば防止できるものであることも考慮すれば,上記の斑点は,填料を含むものではあるものの,補正発明における炭酸カルシウムを主体とする斑点とは異なるものと認めるのが相当である。周知例1,2にも,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,微量スライムが炭酸カルシウムを凝集させることにより,紙に炭酸カルシウムを主体とする斑点が発生すること,また,製紙工程水に上記反応物を添加することにより,このような斑点を防止できることについては記載も示唆もない。周知例1,2も,引用発明に係る方法を,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において実施することにより,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止することを動機づけるものではない。以上のとおり,周知例1,2には,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,製紙工程水に上記反応物を添加することにより,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止できることについて記載も示唆もない以上,引用発明に係る方法を,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において実施することにより,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止する動機づけは認められない。\n
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2013.06. 3
平成24(行ケ)10219 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年05月29日 知的財産高等裁判所
訂正後の請求項3について無効理由無しとした審決が維持されました。
以上の事実を総合すると,公知発明は,各社の遊技機の構造に合わせて回胴式遊技機の主基板収納ケース及び同ケースの遊技機本体への取付けに関する技術と組み合わせて実施するか,あるいは新たな技術を開発して実施することが前提とされていた発明である。その観点からは,公知発明は,引用例12発明を含めて,他の発明と組み合わせることについての動機付けが存在するといえる。しかし,公知発明と引用例12発明とを組み合わせた上で,さらに,1)本件特許発明3の相違点10に係る構成(「前記収納ケースの短寸の他端側に設けた係止部は前記収納ケースの短寸の長手方向に突設する係止ピンにて形成され(る)」との構\成)を採用することにより,可変表示装置の上部で前面パネルの枢支側である箱状の本体の他側端部である奥まった位置に配置された取付部材に,略L字状の切欠溝と係止ピンを利用して収納ケースを取付部材に回動可能\に係止できるようにし,かつ,2)「前記取付部材(が)前記係止ピンを挿通可能な略L字状の切欠溝を備え(る)」との構\成を採用することにより,収納ケースの回動側である他端部(側)の取付作業が簡素化できるようにする目的で,周知技術を適用することが容易であると解することはできない。以上のとおりであり,公知発明及び引用例12発明から,当業者が相違点10及び12に係る構成を容易に想到するものではないとした審決の判断に誤りはない。\n
(2) 周知例Bに関して
前記1(4)のとおりの周知例Bの記載によれば,周知例Bには,「蝶着部40」を中心として「基板ボックス15」の「上蓋部材26」の一端側を回動させるようにして,「上蓋部材26」に設けられた「上方結合部61」と「ベース部25」に設けられた「下方結合部63」と当接させると,「上方結合部61」に形成された「突起41」と「下方結合部63」に形成された「門型の係止片42」が弾性係合され,「上方結合部61」に形成された「通し穴64」と「下方結合部63」に形成された「穴69」とが互いに合致した状態となり,該互いに合致した「通し穴64」と「穴69」に「ワンウェイネジ65等(締結部材)」を挿通することにより前記「上方結合部61」と「下方結合部63」とを固着する技術が開示されていると認められる。しかし,このような周知例B発明は,収納ケースを封止するための構成に係るものであって,収容ケースを本体側に固定するための構\成に係るものではない。したがって,仮に周知例B発明の「蝶着部40」に他の周知技術を組み合わせたとしても,本件特許発明3の相違点10,12に係る構成には到達し得ない。よって,周知例B発明からは相違点14に係る本件特許発明3の構\成を導き出すことはできず,審決に原告主張に係る違法はない。
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2013.06. 3
平成24(行ケ)10289 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年05月29日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決が取り消されました。
本件特許発明1は,ダイナマイトのような許可を要する火薬類の代替として,非火薬の「グロー燃料」の燃焼による膨張圧を破壊力として使用して,岩盤やコンクリート構造物を破砕することを目的とする発明である(本件明細書の【0006】)。「グロー燃料」の破壊力は,「主成分」とされるニトロメタンの燃焼による膨張圧により生じると解するのが自然である。他方,本件明細書には,その他の成分である「メタノールおよびオイル」の作用については,何らの記載がない。この点,被告は,「メタノールおよびオイル」には,ニトロメタンと均一に分散混合された状態で気化してニトロメタンの燃焼反応に作用するので,ニトロメタンの燃焼反応の進行を穏やかにする効果があると主張する。しかし,そのような効果については本件明細書に何ら説明がなく,ニトロメタンの燃焼反応の進行が穏やかになることが当業者にとって自明であるとも認められないから,被告の主張は採用できない。
ところで,破砕対象に見合ったニトロメタンの量や含有率を選択して使い分けることは,解体現場において一般的に行われている(当事者間に争いはない)。他方,請求項1記載の「主成分のニトロメタンと,メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」は,ニトロメタンの含有率が高い市販の「主成分のニトロメタンと,メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」に限定されるものではなく,ニトロメタンの含有率の低い市販の「ニトロメタンと,メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」にニトロメタンを添加することによって得られる「主成分のニトロメタンと,メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」を含むものと解するのが相当である。そして,前記のとおり,破砕対象に見合ったニトロメタンの量や含有率を選択して使い分けることが,解体現場において一般的に行われていることに照らすならば,ニトロメタンの含有率の低い市販の「ニトロメタンと,メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」にニトロメタンを添加することによって調整された「主成分のニトロメタンと,メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」も,解体現場において用いられていることが合理的に認められる。
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2013.05.10
平成24(行ケ)10322 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月26日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として、取り消されました。出願人は、フィリップスから特許を受ける権利を譲り受けたサムソンです。\n
前記1で認定したとおり,本願発明は,「GPSアドバイスタイプと,GPSアドバイスレンジと,GPSアドバイスとを含む複数のGPSアドバイスデータセットを格納するメモリ媒体を備え」,「前記GPSデバイスの前記中央演算処理装置は,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置を,前記複数のGPSアドバイスデータセットと比較し,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る場合は,前記出力デバイスへの出力のために前記GPSアドバイスデータセットを選択」するものである。そして,本願発明における「GPSアドバイスレンジ」は,あるGPSアドバイスデータセットを,経度,緯度及び高度の所定のレンジの組(セット)によって識別するものであり,あるGPSデバイスの計算された或いはユーザ入力された緯度,経度及び高度が,それぞれGPSアドバイスデータセットの緯度,経度及び高度の所定のレンジ内に概ね入る場合に,あるGPSアドバイスレンジ内に入ると判定されるものである。ここで,「レンジ」とは,広辞苑(甲5)によれば,「1)幅。範囲。領域。」を意味すると解される。そうすると,本願発明における,「GPSアドバイスレンジ」とは,GPS座標を表す経度,緯度及び高度の,それぞれの範囲を規定する,上限及び下限を示す情報の組(セット)と解するのが相当である。そして,本願発明の「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る場合は,前記出力デバイスへの出力のために前記GPSアドバイスデータセットを選択し,」との発明特定事項における,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る場合」とは,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置」が,「前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ」により規定される,経度,緯度及び高度で表\されるGPS座標の範囲内に入る場合と解するのが相当である。
(2)これに対し,引用発明は,前記2で認定したとおり,現在のポータブル情報システムの位置を計算し,また,前記ポータブル情報システムのユーザが入力した所望の場所の緯度/経度を受け入れ,現在の位置に対応するデータを検索するために,例えば,興味ある場所のGPS用の緯度/経度座標がデータベースに記録格納されるものである。ここで,「座標」とは,広辞苑(甲6)によれば,点の位置をx軸,y軸等に関して一意的に決定する数値の組を意味すると解される。また,引用刊行物1には,一般的にユーザの現在位置を中心とする所定半径内の,ユーザにとって興味のある特定の事項に関するデータベースの自動検索を開始することや,新しいGPSデータをキーとして使用して,データベースをサーチし,新しいGPSパラメータと非直接的に適合または関連する任意のデータ記録を検索することは記載されているが,そのための具体的な構成及び方法が明示されているとは認められない。そうすると,引用刊行物1には,現在のポータブル情報システムの位置を計算し,また,前記ポータブル情報システムのユーザが入力した所望の場所の緯度/経度を受け入れ,現在の位置に対応するデータを検索する際に,記録格納された,興味ある場所のGPS用の緯度/経度座標,すなわち緯度及び経度により一意的に決定する座標点と解される,所定の固定のGPS座標と比較することは,記載されているが,GPS座標の所定の範囲を規定する,経度,緯度それぞれの上限及び下限を示す情報の組(セット)と比較することが記載又は示唆されているとは認められない。\n
(3)一致点及び相違点に係る審決の認定について
審決は,本願発明と引用発明は,「データを格納するメモリ媒体を備える装置であって,前記メモリ媒体は,中央演算処理装置と,出力デバイスとを有するGPSデバイスに動作可能に接続され,現在のGPSデバイス位置が計算され,かつ前記GPSデバイスのユーザから任意の位置および前記任意の位置に対するデータのタイプを受け入れ,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置を,前記データと比較し,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記データと一致する場合は,前記出力デバイスへの出力のために前記データを選択」する点で一致すると認定している(前記第2の3(2))。なるほど,引用発明は,現在のポータブル情報システムの位置を計算し,また,前記ポータブル情報システムのユーザが入力した所望の場所の緯度/経度を受け入れ,現在の位置に対応するデータを検索する際に,記録格納された,興味ある場所のGPS用の緯度/経度座標,すなわち所定の固定のGPS座標と比較するものであるから,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置を,前記データ(メモリ媒体に格納されたデータ)と比較し,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記データと一致する」ことを検出するものといえる。しかし,前記(1)のとおり,本願発明は,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る」ことを検出して,「前記出力デバイスへの出力のために前記GPSアドバイスデータセットを選択」するものであって,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置を,前記データ(メモリ媒体に格納されたデータ)と比較し,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記データと一致する」ことを検出するものではない。そして,本願発明と引用発明とは,本願発明が,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る」ことを検出して,「前記出力デバイスへの出力のために前記GPSアドバイスデータセットを選択」するとの構成を備えるのに対し,引用発明は,現在のポータブル情報システムの位置を計算し,また,前記ポータブル情報システムのユーザが入力した所望の場所の緯度/経度を受け入れ,現在の位置に対応するデータを検索する際に,本願発明の上記の構\成を備えていない点で相違するというべきであり(以下「相違点3」という。),審決がこの点を含めて一致点として認定したことは誤りである。以上のとおり,審決は,相違点3を看過したため,一致点及び相違点の認定を誤ったものである。
(4)被告の主張について
ア 被告は,引用刊行物1の9頁13〜15行の「歴史的な建物,城,村,公園,湖,山,全景の見渡せる地点等の興味ある場所のGPS用の緯度/経度座標が,地図からまたは位置調査によってディジタル化される。」との記載から,当該箇所に記載されている「緯度/経度座標」を「緯度/経度座標点」の意味に限定解釈することはできないと主張する。しかし,前記認定のとおり,「座標」とは,点の位置をx軸,y軸等に関して一意的に決定する数値の組を意味するものと解されるところ,これは,文字どおりの解釈であって,限定解釈ではない。被告の主張は採用することができない。
イ 被告は,例えば,村や山を「点」で識別した場合,引用刊行物1には,村役場や山頂にまで行かなければ村内や山の近くのホテルの案内が行われない極めて不親切な装置が開示されているという,不合理な理解を強いられることになると主張する。しかし,引用発明は,前記2で認定したとおり,現在のポータブル情報システムの位置を計算し,また,前記ポータブル情報システムのユーザが入力した所望の場所の緯度/経度を受け入れ,現在の位置に対応するデータを検索するために,例えば,興味ある場所のGPS用の緯度/経度座標が,地図からまたは位置調査によってディジタル化され,興味のある場所のそれぞれを説明する音声が,対応するGPS座標と共に,コンパクトディスク(GPS−CD)のデータベースに,圧縮された形態で記録格納されるものである。そうすると,村や山がGPS用の緯度/経度座標で表される「点」で識別される場合でも,引用発明では,ホテルのように村内や山の近くにある興味ある場所について,そのGPS用の緯度/経度座標と説明する音声が,コンパクトディスク(GPS−CD)のデータベースに記録格納されることで,村内や山の近くにある興味ある場所の案内が行われると理解できるから,引用刊行物1には極めて不親切な装置が開示されているという,不合理な理解を強いられることにはならない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。\n
ウ被告は,引用刊行物1の「北,南,東または西からある村に到達するような場合,いくつかの場所で,広く同様なメッセージを適用できる場合がある。」との記載(9頁下から2及び1行),「一般的な航空モードを選択した場合,システムは,空港,規定された領域,危険領域,軽飛行機ルート,上空交通制御境界等の航空関連ポイントとの関連で,GPSによる位置,高度及び速度をユーザに識別させる。」との記載(12頁11〜13行)を根拠として,引用刊行物1において「緯度/経度座標」は,「緯度/経度座標領域」の意味で用いられていると主張する。しかし,引用刊行物1の9頁下から2及び1行の上記記載は,「設定経路(イーエヌルート:enroute)モード」に関するものであるところ,当該記載の前には,「設定経路モード」について,「GPSデータを常にモニタすることによって,装置は,場所1−6のそれぞれに何時到達したかを決定し,その後,対応する音声フレーズがGPS−CDデータベースまたは放送データから検索され,受話器口またはスピーカーを介してユーザに再生される。」と記載されている。この記載によれば,「設定経路モード」では,「場所1−6」及び「いくつかの場所」のような,緯度及び経度により一意的に決定する特定の場所に到達すると音声フレーズが検索され,再生されると解するのが相当である。「場所1−6」及び「いくつかの場所」が,経度,緯度それぞれの上限及び下限を示す情報の組(セット)として表され,GPS座標の所定の範囲を規定する「緯度/経度座標領域」を意味するものとはいえない。また,引用刊行物1の12頁11〜13行の上記記載から,「緯度/経度座標」が,経度,緯度それぞれの上限及び下限を示す情報の組(セット)として表\され,GPS座標の所定の範囲を規定する「緯度/経度座標領域」であると,直ちに解することもできない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
エ 被告は,引用刊行物1の図2が示すとおり,引用発明は,現在の位置或いは所望の場所がデータベースに格納されたGPS座標と適合する場合にデータを選択するもので,「適合」ではなく「一致」という用語を用いた点においては審決の一致点の認定は不正確であったとしても,審決の一致点及び相違点の認定に誤りはないとも主張するが,いずれの用語を用いるかにかかわらず,審決の認定に誤りがあることは前示のとおりであり,被告の主張は採用することができない。
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2013.04.25
平成24(行ケ)10270 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月24日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。
ア 本願発明1の特許請求の範囲に「この高温炉の中で高温の超微粒子又は化合物と高温の水又は溶液の霧に分解し,前記高温の水又は溶液の霧を排出しながら,前記高温の超微粒子又は化合物を基板表面上に結晶を成長させて,結晶薄膜を作る気相成長結晶薄膜製造方法」と記載されていること,及び本願明細書の【0003】,【0004】,【0006】等の記載を参照するならば,本願発明1においては,高温炉は,その炉自体が,超微粒子化合物が分解する温度より低く,また超微粒子と水(溶剤)が分離する温度以上の範囲の温度に加熱されるものであり,超微粒子を含んだ霧粒が,高温炉の壁に接触することによって,高温の超微粒子と高温の水蒸気(又は溶剤)に分解し,高温の超微粒子は基板表\面に結晶薄膜を形成するものであると認められる。このように,本願発明1の高温炉は,その壁に接触した超微粒子を含んだ霧粒を加熱して分解するためのものである。他方,引用発明のチャンバーについては,チャンバー自体が加熱されることや,霧がチャンバーの壁に接触して分解されることに関する記載はないそして,これらの技術的内容は,第2の1のとおり,確定した前回判決において,既に認定,判断された事項である。本願発明1と引用発明の間の相違点についての容易想到性の有無を判断するに当たっては,前回判決が指摘した本願発明1の「高温炉」と引用発明の「チャンバー」との相違点の技術的意義が考慮されてしかるべきである。
イ
上記の点を踏まえて,引用発明に,引用文献2に記載された発明を組み合わせることにより,相違点Dに係る構成に至ることができるかを検討する。前記1(3)のとおりの引用文献2の記載(特に【0008】,【0009】,【0017】)からすると,引用文献2に記載された発明は,微粒子化された溶液中の化合物を,ヒータにより加熱される搬送ベルトからの伝熱とマッフル炉内からの輻射熱によりあらかじめ加熱した膜形成用基板の表面に接触させることにより,基板表\面又は基板近傍で熱分解させるものである。したがって,引用文献2に記載された発明のマッフル炉は,輻射熱によって膜形成用基板を加熱するためのものであって,引用文献2には,マッフル炉の壁面に接触した超微粒子を含んだ霧粒が加熱されて分解されることについての記載はない。このように,引用文献2に記載された発明のマッフル炉は,輻射熱によって膜形成用基板を加熱するためのもので,その壁に接触した超微粒子を含んだ霧粒を加熱して分解するためのものではないから,引用発明に引用文献2に記載された発明(及び周知の技術的事項)を組み合わせることによっては,相違点Dに係る構成に,容易に至ることはない。
ウ
審決は,「(引用文献2の)マッフル炉が温度的にも加熱の原理からも本願発明1でいう高温炉に相当することは明らかであって」とのみ述べて,「相違点Dは,当業者であれば容易に想到し得る設計事項の採用というべきである。」との結論を導いているが,上記のとおり,審決の判断には,誤りがある。
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2013.04.17
平成24(行ケ)10328 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月10日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、組み合わせる動機づけ無しとして取り消されました。
本願発明は,上記特許請求の範囲及び本願明細書の記載によれば,飲食物廃棄物の処分のための容器であって,液体不透過性壁と,液体不透過性壁の内表面に隣接して配置された吸収材と,吸収材に隣接して配置された液体透過性ライナーとを備え,吸収材上に被着された効果的な量の臭気中和組成物を持つものである。本願発明は,上記構\成により,一般家庭において,ゴミ収集機関により収集されるまで,飲食物廃棄物からの液体の流出を防止し,腐敗に伴う不快な臭気を中和する,経済的なプラスチック袋を提供することができるものである。これに対し,引用発明は,上記引用例1(甲8)の記載によれば,厨芥など水分の多いごみを真空輸送する場合などに適用されるごみ袋に関するものであるところ,これらのごみをごみ袋に詰めて真空輸送すると,輸送途中で破袋により,ごみが管壁に付着したり,水分が飛散して他の乾燥したごみを濡らして重くするなどのトラブルの原因となっていたという課題を解決するために,水分を透過する内面材と,水分を透過させない表面材と,上記内面材と上記表\面材とに挟まれ水分を吸収して凝固させる水分吸収体との多重構造のシート材でごみ袋を構\成することにより,厨芥などのごみの水分を吸収して凝固させ袋内に閉じ込めるようにしたものである。
ところで,上記引用例1(甲8)の記載等に照らすと,真空輸送とは,住宅等に設置されたごみ投入口とごみ収集所等とを輸送管で結び,ごみ投入口に投入されたごみを収集所側から吸引することにより,ごみを空気の流れに乗せて輸送,収集するシステムであって,通常,ごみ投入口は随時利用でき,ごみを家庭等に貯めておく必要がないものと解される。そうすると,引用発明に係るごみ袋は,真空輸送での使用における課題と解決手段が考慮されているものであって,住宅等で厨芥等を収容した後,ごみ収集時まで長期間にわたって放置されることにより,腐敗し,悪臭が生じるような状態で使用することは,想定されていないというべきである。これに対し,被告は,引用発明は,厨芥,すなわち,腐敗しやすく悪臭を発生することが想定されるごみを収容するごみ袋であり,腐敗臭,悪臭の発生を抑制すべき技術課題を内在すると主張する。しかし,上記のとおり,引用発明は,厨芥等を真空輸送に適した状態で収容するためのごみ袋であり,厨芥等を長期間放置しておくと腐敗して悪臭を生じるという問題点は,上記真空輸送により解決されるものと理解することができ,引用例1の「厨房内などに水切り設備を設置して事前に水切りを行えるなどの場合は,本ごみ袋の下部に水切り用孔6を穿設してもよく,この場合はより一層効果的にごみの水分を取り除くことができる」(甲8・段落【0008】)との記載からしても,引用発明が厨芥等から発生する腐敗臭,悪臭の発生を抑制すべき技術課題を内在していると解することはできない。
以上のとおり,引用発明には,腐敗に伴う不快な臭気を中和するという課題がなく,引用発明に臭気中和組成物を組み合わせる動機付けもないので,本願発明と引用発明との相違点について,引用発明において,効果的な量の臭気中和組成物を吸収材上に被着して相違点に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは,引用例2記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるとした本件審決の判断には誤りがある。
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2013.04. 5
平成24(行ケ)10284 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月27日 知的財産高等裁判所
動機づけなしとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
上記1(1)イ 認定の事実によれば,引用例1記載の発明は,美肌作用やアトピー性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,色素沈着症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角化腫,火傷などの皮膚疾患の改善作用,発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の生体活動の改善や,人体機能の発現に関与する物質群の補給システムを中心とした生体活動の更なる改善手段(生体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用も含む。)を提供することを課題とし(【0005】,【0006】,【0010】),体内から体外に向かって形成された水の流れを媒体とした人体機能\の発現に関与する物質の能動的な移送を真の目的とする津液作用と,酸素,栄養などのエネルギーを中心とする補給の活性化作用である補血及び活血作用が,同時に促進されることが,人体にとって極めて有用であることから,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分から選ばれる1種ないし2種以上と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスから選ばれる1種ないし2種以上とを組み合わせて使用することにより,上記課題を解決するものであること(【0002】ないし【0004】,【0007】)が認められる。また,引用例1には,実施例においてシムノールサルフェート,ダイズイン等を含む健康食品で,環境ホルモンの排出が促進されたことが記載される(【0029】,【0033】)が,アルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に対する効果を示唆する記載はない。
一方,上記(1)ウ,エ 認定の事実によれば,引用例2ないし4には,大豆イソフラボン等が,アルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患等に効果があり,甲6には,コクダイズが運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に効果があり得ることが開示されているといえる。しかし,引用例2は,COX-2,NFκB,ならびにCOX-2およびNFκBの両者の生合成阻害剤であるフラボン化合物を開示するもの,引用例3は,ダイズ,および,その他,クローバーなどの植物の成分であるイソフラボノイドを単離したものを,アルツハイマー型痴呆,および加齢に伴うその他の認識機能\低下を治療および予防するために使用することを特徴とする発明を開示するもの,引用例4は,イソ\フラボン,リグナン,サポニン,カテキン,および/またはフェノール酸を,栄養補給剤としてまたはより伝統的なタイプの食物中の成分として各自が摂取する便利な方法を提供する発明を開示するもの,甲6は,コクダイズの成分,薬効等を開示するものであって,いずれも引用例1記載の上記課題と共通する課題,とりわけ,生体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用について記載しているとは認められない。そうすると,引用例1に接した当業者は,引用発明に含まれるダイズインが,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用を有することを予期し,そのような生理的作用を向上させるべく,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスを組み合わせて使用することに想到するとは考えられるが,ダイズインが,環境ホルモン排出促進と関連性のない生理的作用を有することにまで,容易に想到するとは認められない。そして,当業者にとって,引用例2ないし4及び甲6に記載されるアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に対する効果が,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用であると認めるに足りる証拠はないから,当業者が,引用例1の記載から,ダイズインが,上記の各効果をも有することに容易に想到すると認めることはできない。
イ これに対し,被告は,ダイズインのアグリコンであるダイゼイン等の大豆イソフラボンがアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患の処置に有効であることが公知であり,ダイズインを有効成分とする大豆には,脳梗塞後の運動障害,運動麻痺,及び筋肉の引きつりに効果があり,また視力を良くする効果もあることが周知であることから,ダイズインを含む引用発明の組成物の具体的用途として,「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能\性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得る旨主張する。しかし,上記のとおり,引用発明は,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスとを組み合わせて使用することにより,課題を解決しようとするものであるから,引用例1に接した当業者が,引用発明の1成分にすぎないダイズインにことさら着目することの動機づけを得るとはいえない。そうすると,たとえ,引用例2ないし4及び甲6により,大豆イソフラボンないし大豆が被告主張の効果を有することが周知ないし公知といえるとしても,当業者において,引用発明から出発して,当該周知ないし公知の知見を考慮する動機づけがあるとはいえず,相違点2に係る本願発明の構\成(「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」)に想到することが容易であるとはいえない(まして,本願発明は,引用発明の組成物に加えてクルクミンを含むものであるところ,そのような3成分を含む組成物について,強筋肉剤等の用途が容易想到であることの理由も明らかでない。)。\n
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2013.04. 4
平成24(行ケ)10275 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月29日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が維持されました。別紙として公知発明と本件発明の構成が記載されています。最近は、裁判所も図面を添付してくれるようになったのでわかりやすいですね。
(ア) 上記ア(ア) 認定の事実によれば,甲6発明は,連続発振して,長寿命を保持できる新規な窒化物半導体の構造を提供することを目的としており(【0004】),そのため,レーザ素子のp型窒化物半導体層側には正電極と,n型窒化物半導体層側には負電極(7)とが形成されて,その正電極と負電極とが同一面側にあり,さらに前記リッジストライプ幅の中央線が,活性層幅の中央線よりも負電極側に接近していることを特徴とするが(【0007】),甲6において,正電極の形状,負電極の形状及びそれらの技術的関連性についての記載ないし示唆があるとは認められない(【0014】,【0015】,【0017】)。また,上記ア(イ) 認定の事実によれば,甲3には,第1の薄膜層が,ストライプ長さと同一の長さでp電極全面を覆って形成されているから(【0029】),少なくとも,第1の薄膜層は,共振器端面と面一に形成されていること,スクライブイン上及び/または劈開面上にn電極が存在しないようにパターンをつけてn電極を形成することによりスクライブし易くなり,劈開性が向上すること(【0032】)が記載されているといえるが,n電極の形状とp電極の形状とが互いに技術的関連性をもって決定されることは,記載も示唆もされていない。さらに,上記ア(ウ) 認定の事実によれば,甲2には,比較的局所的な力が掛かりにくい,リッジやストライプ状導波路領域とは離れた平坦な絶縁層上のパッド電極を介してワイヤボンディングさせることができ,絶縁層のパッド電極を伝って,リッジ上に設けられた電極のみに集中して電力を供給することにより,闘値の低下及び信頼性とを同時に満たす発明を開示すること(【0009】),第2のオーミック電極がパッド電極及び第1電極からなる窒化物系半導体レーザ素子において,劈開時にパッド電極が延び積層した窒化物半導体層を被覆することで窒化物半導体レーザーを短絡することがないようにし,また,該窒化物系半導体レーザ素子が,第1電極からストライプ状導波路領域に形成された窒化物系半導体に均一に電力を供給するために,「第1電極がストライプ状導波路領域の端面に設けられた劈開面上まで延びていると共にパッド電極のストライプ状導波路領域と平行な方向は第1電極より短く劈開部まで達していない」構成を採用すること(【0012】,【0013】,【0025】,【0026】),n型電極(第2電極103)からなる第1のオーミック電極は,格子状のフォトレジストを用いて形成され,導電性基板を介して第1電極と対向して設けられること(【0029】,【0051】)が記載されているといえるが,第1のオーミック電極(n電極)の形状と第2のオーミック電極(p電極)の形状とが,互いに技術的関連性をもって決定されることは記載も示唆もされていない。そうすると,甲6,甲3,甲2において,いずれもn電極の形状とp電極の形状は,互いに技術的関連性をもって決定されることは記載も示唆もされていないから,当業者において,甲6発明を改良するために,n電極の形状については甲3を,p電極の形状については甲2を,それぞれ独立に参照することが不合理とはいえない。なお,本件明細書をみても,本件発明1ないし4に関する限り,n電極の形状とp電極の形状が互いに技術的関連性を有することや,それらの形状の組合せによる特別な作用効果を示す記載は見当たらない。
(イ) 以上によれば,甲6発明と甲3記載の技術,甲6発明と甲2記載の技術を,それぞれ独立して組み合わせ,相違点5,6に係る本件発明1の構成に想到することが容易であるとした審決の容易想到性の判断方法に誤りはなく,原告の上記1)の主張は採用できない。
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2013.04. 4
平成24(行ケ)10312 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月29日 知的財産高等裁判所
無効理由(進歩性違反)無しとした審決が維持されました。
上記ア(ア) 認定の事実によれば,本件発明1は,液体インク収納容器の状態に関する報知をLEDなどの発光手段によって行う構成で用いられる液体インク収納容器,液体インク供給システムおよび液体インク収納カートリッジに関し,配線数を削減するためにはバス接続といった共通の信号線の構\成が有効であるが,そのような共通の信号線を用いる構成では,インクタンクもしくはその搭載位置を特定することができないという問題があることから(【0001】,【0009】),複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表\示器の発光制御を行い,インクタンクなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発光制御をすることを可能\とすることを目的(解決課題)とした発明であること(【0010】),記録装置の本体側の接点(コネクタ)と接続する液体インク収納容器であるインクタンクの接点(パッド)を介して入力される信号と,そのインクタンクの色情報とに基づいて発光部の発光を制御するので,複数のインクタンクが共通の信号線によってその同じ制御信号を受け取ったとしても,色情報に合致するインクタンクのみがその発光制御を行うことができ,インクタンクを特定した発光部の点灯など発光制御が可能となり,例えば,キャリッジに搭載された複数のインクタンクについて,その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を発光させるとともに,上記所定の位置での発光を検出するようにすることにより,発光が検出されないインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識でき,ユーザに対してインクタンクを正しい位置に再装着することを促す処理をすることができ,インクタンクごとにその搭載位置を特定することができるという効果を奏するものであること(【0019】)が認められる。すなわち,本件発明1は,共通バス接続方式のような共通の信号線を用いた場合でも,インクタンクがインク色に従ってキャリッジの所定の位置に搭載されているかを識別することを目的(解決課題)とした発明であるといえる。
(イ) 一方,甲1発明の内容は,上記第2の3(2)ア のとおりであり(当事者間に争いがない。),共通バス接続方式の下で,液体インク収納容器が誤りなく装着されているかを検出するための機構を備えているものである。しかし,上記ア(イ) 認定の事実によれば,複数色のインクカートリッジを備えるカラープリンタにおいて,インクカートリッジの交換時における誤装着を防止するため,インク色毎にインクカートリッジの外形形状を変更し,誤ったインクカートリッジが物理的に装着できないようにする技術や,同一の外形形状を有するインクカートリッジを用い,1個のインクカートリッジのみが脱着可能な開口部を有するカバーをプリンタ上に設け,交換されるべきインクカートリッジを開口部まで移動させて,交換されるべきインクカートリッジのみの脱着を許容する技術が知られるところ,前者の技術には,リサイクル効率が悪い等の問題があり,後者の技術では,交換されるべきでないインクカートリッジの誤った取り外しは防止できても,装着されたインクカートリッジが正しいインクカートリッジであるか否かまでは検出できないという問題があったことから,甲1発明は,外形的な識別形状を用いることなく,交換時における誤装着や交換されるべきでないカートリッジの誤った取り外しを防止することを目的とするものであることが認められる。すなわち,甲1発明は,(1回につき)1個のインクカートリッジのみが脱着可能\であることを前提として,交換時における誤装着や交換されるべきでないカートリッジの誤った取り外しを防止することを目的したものと認められる。そして,同発明の記憶装置は,クロック信号端子CT,データ信号端子DT,リセット信号端子RTと接続されており,データ信号端子DTを介して入力されたデータ列に含まれる識別データとメモリアレイ201に格納されている識別データとが一致するか否かを判定するのであって,電気配線を通じて液体インク収納容器からインク色等に係る情報(信号)を取得するものにすぎない。そうすると,甲1発明は,「共通バス接続方式のような共通の信号線を用いた場合でも,インクタンクがインク色に従ってキャリッジの所定の位置に搭載されているかを識別する」という本件発明1と同様の解決課題を有するものではなく,また,光を利用して液体インク収納容器の識別を行う本件発明1の構成は開示も示唆もされていないというべきである。なお,甲1には,搭載されているインクカートリッジCAに対応する数だけキャリッジ101上にLED18が備えられた実施例が開示されているが,このLEDは,交換の対象となるインクカートリッジの搭載位置をユーザに視覚的に指し示すにすぎず,その機能\は受動的なものであり,本件発明1のように,液体インク収納容器の識別を行うために動作するものではない。したがって,甲1に接した当業者が,共通バス接続方式のような共通の信号線を用いた場合でもインクタンクがインク色に従ってキャリッジの所定の位置に搭載されているかを識別できるようにするために,甲1発明に,他の公知技術を組み合わせようとする動機付けを得るとは認められない。
(ウ) また,上記ア(ウ)ないし(オ)認定の事実に照らすと,以下のとおり,甲2,甲3,甲5のいずれにも本件発明1の上記解決課題と同様の解決課題は開示ないし示唆されていない。すなわち,甲2記載の発明は,インクカートリッジの誤装着を電気的に検出でき,こわれにくく,作製費用が少ない検出手段を有するインクジェット記録装置を提供することを目的とし,インクジェット記録装置にインクカートリッジが装着されると,インクジェット記録装置は,インクカートリッジに設けられている導体または抵抗体があらかじめ定められたものであるか否かを電気的に検出し,導体または抵抗体があらかじめ定められたものである場合は,印字制御を実行するが,導体の位置や抵抗体の抵抗値が異なっている場合は,警告を発するというものであり,共通バス接続方式のような共通の信号線を用いた場合を前提としたものではなく,インクタンクがインク色に従ってキャリッジの所定の位置に搭載されているかを識別することを意図したものでもない。甲3記載の発明は,インクタンクに配線などを引き回したりする必要のない,簡易な構成で,インクタンク内の情報の検出などの外部との双方向の情報のやり取りを非常に効率良く行える立体形半導体素子を配したインクタンク,および該インクタンクを備えたインクジェット記録装置を提供することを目的とし,立体形半導体素子は,外部とのやり取りを行うものである。伝達先はインクジェット記録装置のみでなく,特に光,形,色や音などの場合は人の視覚や聴覚に伝達してもよいとの記載があり(【0049】),立体形半導体素子からの情報伝達手段として,光を用いることは示されているといえるが,これは,外部に情報を伝達する手段として光を用いることが開示されているにすぎず,光の受光結果に基づいて液体収納インク容器の搭載位置を検出するという相違点1に係る本件発明1の構\成が示されているとはいえない。甲5記載の発明は,光を用いてインク残量やインク色を検出する構成を有するが,同発明は,発光体と受光体とで構\成される光学的検出手段を,インク容器の一部位を略鉛直方向から挟んで配置し,インク容器の一部位およびインク容器中のインクに光を透過させて,その強弱や透過率によって,インク容器内のインク量やインク色を検出するというのであるから,相違点1に係る本件発明1の構成を有するものではない。
(エ) 以上のとおり,相違点1に係る本件発明1の構成は,甲5記載の技術事項に,甲3記載の技術事項を組み合わせることにより,当業者であれば容易に想到できる,甲1発明に甲5,甲3記載の技術事項を組み合わせる動機付けもあるとの原告らの主張は理由がない。\n
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2013.04. 3
平成24(行ケ)10245 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月25日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は、結論に至る論理付けが不十分というものです。
審決は,相違点4について,周知例4〜6の記載からみて,フェノールと3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンやアセトン等のカルボニル化合物を反応させてビスフェノール類を製造する技術において,分離された濾液を製造目的化合物であるビスフェノール類を含んだ状態で上記「反応」を行う工程に「循環」させることが周知であることを前提として,引用発明における「再結晶ろ液を繰り返し使用する」工程において,再結晶濾液の少なくとも一部を,製造目的物である「1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン」を含む状態で,フェノールと3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる工程に循環させることは,当業者が容易になし得たものであると判断する。この点,確かに,上記周知例4ないし6,乙2によれば,一般に,化学物質の製造工程において,目的物質を主に含む画分以外の画分にも目的物質や製造反応に有用な物質が含まれる場合には,それをそのまま,あるいは適切な処理をした後に製造工程で再利用して無駄を減らすことは周知の技術思想であって,実際,フェノールとカルボニル化合物からビスフェノール類を製造する場合においても,さまざまな具体的製造方法において,途中工程で得られた有用物質を含む画分が再利用されているものと認められる。
しかし,ある製造方法のある工程で得られた,有用物質を含む画分を,製造方法のどの工程で再利用するかは,製造方法や画分の種類に応じて異なるものと認められる。この点,引用発明においては,再結晶濾液を再利用できる工程として,フェノールと3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる前反応及び後反応のみならず,中和後の結晶化工程や再結晶工程が想定されるところ,審決には,フェノールと3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる工程に循環させるという構成に至る理由が示されていない(なお,乙2を参照してもこの点が\n明らかになるとはいえない。)。
これに対し,被告は,周知例4〜6が引用発明と目的物質や反応に有用な物質が同様であることから,引用発明における「再結晶ろ液を繰り返し使用する」工程において,再結晶濾液の少なくとも一部を,製造目的物である「1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン」を含む状態で,フェノールと3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる工程に循環させることは,当業者が容易になし得たものであると主張する。しかし,目的物質や反応に有用な物質が同様であったとしても,具体的な製造方法が異なれば,再利用すべき画分も,その再利用方法も異なり,それぞれの場合に応じた検討が必要となるから,被告の上記主張は採用することができない。
(3) 以上のとおり,引用発明に周知例4〜6に示されるような周知技術を適用することにより,相違点4に係る構成に容易に想到できたとはいえず,審決の相違点4に係る容易想到性判断には誤りがある。\n
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2013.04. 3
平成24(行ケ)10162 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月25日 知的財産高等裁判所
進歩性違反および新規事項であると無効主張しましたが、無効でないとした審決が維持されました。
(3) 上記記載によれば,当初明細書等においては,「番組表を利用した視聴や録画がどの程度行われているのか」を知るために調査された「視聴率」及び「録画率」を番組表\に記載する旨,及び番組表に記載されるものとして,これらは「例示」であって,これら以外に「番組を視聴した平均人数など」が記載されるように構\成してもよい旨が明示されている。したがって,【0079】に記載された「平均人数など」が,視聴率及び録画率と併記されるか又は単独で記載されるかにかかわらず,「視聴率」及び「録画率」のみならず,「番組表を利用した視聴や録画がどの程度行われているのか」を知るための情報を記載し得ることは,当初明細書等に記載されていると認められる。そして,「どの程度行われているのか」を「多少を把握可能\な」と表現すること,及び番組表\に記載される情報を「指標」と表現することは,普通に行われているところであって,このように表\現することによって何らかの技術的な意義が追加されるものではないから,「視聴者数の多少を把握可能な」「指標」及び「録画予\約数の多少を把握可能な」「指標」という表\現が用いられたことによって,当初明細書等に記載された事項に対して新たな技術的事項が導入されたものでもない。したがって,補正事項1,2について,いずれも新規事項ということはできず,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないということはできないとした本件審決の判断に誤りはなく,取消事由2,3は理由がない。
・・・・
(3) 上記記載によれば,当初明細書等においては,番組表の提供を受けた利用者が番組表\を利用した視聴や録画がどの程度行われているのかを知りたいという課題について,利用者側端末20から番組表の要求を受けた調査者側装置10が視聴率及び録画率が記載された番組表\を作成して利用者側端末20に送信し,この番組表を受信した利用者側端末20において視聴率及び録画率が記載された番組表\を表示することによって解決することが記載されている。以上を踏まえれば,「前記利用者装置によって表\示される番組表上の番組に対応づけられて表\示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予\約指標とを送信する指標送信手段」(補正事項7)は,当初明細書等に記載された課題に対応するものとして当初明細書等に記載された解決手段を特定する記載であって,当初明細書等に記載された事項に対して新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。
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2013.04. 3
平成24(行ケ)10296 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月19日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が引用文献の発明認定の誤りを理由に取り消されました。本件発明は遺体処理に用いる器具です。
(1)の記載によれば,甲32公報では,遺体の体液漏出防止処置用具に関し,段落【0012】〜【0019】及び【図1】によって第1の実施形態が
説明されており,段落【0020】,【0021】及び【図2】によって第2の実施形態が説明されているものと認められる。そして,これらの説明を総合すると,第1の実施形態の処置用具は,可撓性チューブ1の後端部より通気性の塊2を押し込み,このチューブ1の先端部から高吸水性ポリマーの粉末又は顆粒3を入れたのち,チューブ1の両端に防湿用キャップ5を被せたものであるから,【請求項3】の構成に対応するものと認められ,第2の実施形態の処置用具は,可撓性チューブ1の後端部より通気性の塊2を押し込み,このチューブ1の先端部から高吸水性のポリマーの粉末又は顆粒3を入れたのち,先端部を通気性のないスポンジの小片4で封じ,チューブ1の後端に防湿用キャップ5を被せたものであるから,「スポンジの小片」の構\成を有する【請求項4】に対応するものと認められる。ところで,上記(1)の段落【0017】は,その内容や,前後の段落との整合性等の観点からして,第1の実施形態の処置用具の使用方法を説明する記載であると認められるところ,そこには,「...可撓性チューブ1の...先端部を遺体の口,耳,鼻などの孔に深く挿入して圧縮気体源を作動させると,先端部を軽く封じているスポンジの小片4を押し出したのち,高吸水性ポリマーの粉末または顆粒を注入することができる。」との記載がある。審決は,この記載を根拠にして,「吸水剤である高吸水性ポリマー粉末を収容し,スポンジ部材により開口部を閉塞した遺体の体液漏出防止処置用具について,使用時にスポンジ部材を有する端部を遺体の孔部に挿入した後,押し出し操作を行い,当該スポンジ部材とともに吸水剤粉末を押し出すようにすることも当業者に周知であるか,少なくとも公知の技術である。」と認定した。
しかしながら,上記(1)の記載に照らすと,第1の実施形態の処置用具の構成及びその製造方法に関して説明している段落【0012】〜【0016】には,「スポンジの小片4」に関する説明がないまま,使用方法を説明する段落【0017】だけに唐突に「スポンジの小片4」に関しての記載が登場している。また,第1の実施形態の処置用具に関するその他の記載箇所である段落【0018】,【0019】,【図1】にも,「スポンジの小片4」についての説明はなく,図示もない。「スポンジの小片4」が図示されているのは,第2の実施形態についての【図2】においてのみである。しかも,「スポンジの小片4」について明示する第2の実施形態において,このスポンジの小片4は,遺体の孔部に挿入する前に可撓性チューブ1の先端から抜き取られるものとして説明されている。このように,段落【0017】におけるスポンジの小片4に関する記載は,第1の実施形態の処置用具に関するその他の記載と整合せず,この段落にだけ浮き上がって触れられているものであり,しかも,第2の実施形態の処置用具において明示された「スポンジの小片4」の使用方法とも整合しないことになる。当業者が,甲32公報の記載に接し,その記載を整合的に理解しようとすれば,段落【0017】におけるスポンジの小片4の記載は,明細書の編集上のミスと認めざるを得ない。すなわち,第1の実施形態の処置用具は,スポンジの小片4を有していないと理解するのが自然である。少なくとも,このような他の記載と整合しない断片的な記載から,「可撓性チューブの一端開口部に(防湿用キャップ5に加えて)スポンジの小片4を有する第1の実施形態の処置用具であって,一端開口部を遺体の孔部に挿入した後にスポンジの小片4を押し出す」という構\成が甲32公報に開示されていると認めることはできない。
したがって,甲32公報の段落【0017】の記載を根拠に,「吸水剤である高吸水性ポリマー粉末を収容しスポンジ部材により開口部を閉塞した遺体の体液漏出防止処置用具について,使用時にスポンジ部材を有する端部を遺体の孔部に挿入した後,押し出し操作を行い,当該スポンジ部材とともに吸水剤粉末を押し出すようにすることも当業者に周知であるか,少なくとも公知の技術である。」とした審決の認定は誤りであり,また,他に上記の技術的事項が当業者にとって周知であると認めるに足りる的確な証拠もないから,そのような技術的事項を甲5発明,甲7発明,甲12発明に適用することにより,相違点3,6,9に係る本件発明の構成が容易に想到し得るとした審決の判断は誤りである。\n
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2013.04. 3
平成24(行ケ)10262 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月21日 知的財産高等裁判所
ある処理については周知で有っても、温度条件までは知られていなかったとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
本願発明の解決しようとする課題は,ガラスを溶融し,純化しかつ均質化する方法を,白金からなる構成部分を使用する場合でも酸素リボイルが防止されるように構\成することである(本願明細書である本件出願の公開特許公報(甲7)【0004】)のに対して,引用発明の解決しようとする課題は,溶解に高温度(特に1700℃以上)を要するガラスを,不純物や泡・異物等の無い高品質なガラスとして製造する技術を提供することであり(甲1【0006】),本願発明と引用発明とでは,解決しようとする課題が相違する。また,引用発明は,上記のとおり,粗溶解したガラスを高周波誘導直接加熱により直接加熱して,溶解・均質化・清澄するものであるが,清澄は,ガラス中に発生する誘導電流に伴う強制対流混合によりなされるものであり(甲1【0013】),一種の物理的清澄と解される(乙4)。引用文献1には,溶融ガラスに清澄剤を添加して清澄ガスを発生させて清澄すること,すなわち化学的清澄(甲4,乙4)については記載も示唆もない。引用文献1は,物理的清澄を行う引用発明において化学的清澄を併用する動機付けがあることを示すものとはいえない。また,引用発明は,1850℃で清澄が行われるものであるが,以下のとおり,このような高温において化学的清澄を行うことが通常のこととはいえず,また,このような高温で使用できる清澄剤が知られているともいえない。引用文献4には,清澄剤としてFe2O3,SnO2等を用いることが記載されているが(【0012】,【0013】),清澄は1200〜1500℃で行われている(【0018】)。特開平11−21147号公報(甲5)には,清澄剤としてFe2O3等を用いることが記載され,1600℃を超える温度でも清澄剤としての効果が発揮されることが示唆されているといえるが(【0013】〜【0015】),それでも高々1600℃を超える温度であり,実施例では1600℃で溶融しているにすぎない。特開平10−45422号公報(甲6)には,清澄剤としてFe2O3,SnO2等を用いることが記載され(【0025】),処理の対象となる無アルカリガラスは,粘度が102ポイズ以下となる温度が1770℃以下であることが記載されている(【0029】)ものの,実施例では1500〜1600℃で溶解しているにすぎない。また,甲4〜6に記載の各清澄剤が,1850℃での清澄においても清澄剤として使用できることが当業者にとって自明のことともいえない。以上のとおり,1850℃という高温において化学的清澄を行うことが通常のこととはいえず,また,このような高温で使用できる清澄剤が知られているともいえない以上,1850℃という高温において物理的清澄が行われる引用発明において,化学的清澄を併用する動機付けがあるとはいえない。以上のとおりであるから,引用発明において,引用文献4に記載されるFe2O3,SnO2等を清澄剤として用いる化学的清澄を併用して,「溶融物内に少なくとも0.5重量%の割合を有する高い電子価段階を持つ多価のイオンが存在する」ものとすることは,当業者が容易に想到し得ることとはいえない。被告は,溶融ガラスを清澄する際に,清澄剤を添加することは化学的清澄として当業者にとって周知であり,物理的清澄と化学的清澄とは相乗的効果が期待できることから,1850℃で物理的清澄を行う引用発明において,清澄剤として引用文献4の「Fe2O3」を0.01〜2.0重量%添加して化学的清澄を行うことは,当業者が容易になし得ることであると主張する。しかし,化学的清澄が当業者にとって周知であるとしても,上記のとおり,1850℃という高温において化学的清澄を行うことが通常のこととはいえず,また,このような高温で使用できる清澄剤が知られているともいえない以上,1850℃という高温において物理的清澄が行われる引用発明において,化学的清澄方法を併用する動機付けがあるとはいえない。
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2013.04. 3
平成24(行ケ)10241 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月21日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。取消理由は引用発明の認定誤りです。
前記のとおり,刊行物1に記載の針刺部分組成物は,当該組成物から得た針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形することが,液漏れのない針刺し止栓を得るために必要であるのに対し,補正発明の構成物は,ゴム栓組成物の成形物が針の針刺方向に撓ませて止栓本体と一体化して成形されていなくとも,特許請求の範囲で特定された組成及び硬さを有するものであれば,使用時に液漏れを生じないものとして発明されたものである。具体的には,本願明細書で実施例1ないし3及び比較例1ないし5として記載された8種のゴム栓組成物は,いずれも刊行物1において補正発明と対比すべき発明に係る針刺し止栓の針刺部分の組成及び硬さを満たすものであるところ,刊行物1の記載によれば,これら8種の組成物を使用して製造した針刺部分は,これを針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形する構\成を伴うことにより,液漏れが生じない針刺し止栓を得ることができる。一方,本願明細書の記載によれば,これら8種の組成物の中で,実施例として記載の3種の組成物,ひいては特許請求の範囲に記載されたベースポリマーの種類及び分子量,軟化剤及びポリプロピレンの配合量,並びに硬さに特定された組成物のみが,針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形するという手法を用いなくとも,液漏れのない医療用ゴム栓を得ることができるというものである。そうすると,補正発明は,当裁判所が認定した刊行物1に記載の上記組成物におけるベースポリマーの種類及び分子量,軟化剤及びポリプロピレンの配合量,並びに組成物の硬さを特定の範囲に限定することにより,針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形するという手法を用いなくとも,液漏れのない医療用ゴム栓を得ることができる効果を見出したものということができる。そして,針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形することを液漏れのない針刺し止栓を得るために必要とする刊行物1記載の針刺部分組成物のベースポリマーの種類及び分子量,パラフィン系オイル及びポリオレフィンの配合量,並びに硬さの範囲の中から,針刺部分を針の針刺方向に撓ませることが不要な特定の組成を見出すという発想は,刊行物1の記載から見出すことができず,刊行物1に記載の事項と補正発明とでは前提とする技術的思想が異なるものである。すなわち,補正発明の構成は,前記の技術的課題からの発想に伴うものであり,そのような発想である技術的思想が上記のとおり刊行物1には記載も示唆もない以上,そのような発想と離れた組成物が刊行物1に記載されているとしても,そこに,補正発明の構\成が容易想到であると認めるまでの発明としての構成が記載されているということはできない。審決は,補正発明の技術的課題と刊行物1に記載の技術的課題の対比を誤り,補正発明と対比すべき技術的思想がないのに刊行物1に記載の事項を漫然と抽出して補正発明と対比すべき引用発明として認定した誤りがあり,ひいては補正発明を刊行物1に記載の引用発明から容易に想到しうるものと誤って判断したものというべきである。\n
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2013.04. 3
平成24(行ケ)10239 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月21日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、一致点認定誤りを理由に、取り消されました。
以上によれば,本願発明は,特に高融点ガラス材料に対して公知の清澄剤を添加しても清澄効果が十分ではなく,毒性を有するものを含む清澄剤を多量に添加する必要があったという課題を解決するため,従来の温度(せいぜい1700°C)よりも高い温度(1700°Cないし2800°C)にガラス材料を加熱することとし,かつ,当該温度に加熱されたガラス材料において清澄ガスを発生させるような清澄剤を添加するという手段を採用して,化学的清澄方法及び物理的清澄方法の双方の作用機序を組み合わせる結果,公知の清澄剤の潜在力を活用可能とし,新規な清澄剤の使用を可能\とし,特に高融点ガラス材料の清澄を改善し,毒性を有する清澄剤の大量使用を回避し,溶融ガラスの再沸騰の危険性が減少し,添加される清澄剤を減少させ,清澄時間を従来技術の約3時間から約30分に著しく短縮し,小さな清澄容積を可能とするという作用効果を有するものであるといえる。
イ なお,本願発明の特許請求の範囲の記載にいう「清澄ガス」の技術的意義は,一義的に明確とはいえないところ,本願明細書の記載を参酌すると,清澄ガスは,物理的清澄方法及び化学的清澄方法の双方で発生するものであるとされているものの,物理的清澄方法において清澄の対象となるガス気泡については専ら「気泡」という用語が用いられ,併せて吹き込みガスを使用する方法についての言及がある一方,化学的清澄方法においてはガラス材料に清澄剤を添加することにより発生するガスであって,それによりガラス材料中に溶けているCO2などの異質ガス(清澄の対象となる気泡)の除去を促進するものを「清澄ガス」をして記載している(前記イ,ウ,オ)。そして,本願明細書には,本願発明について物理的清澄方法における吹き込みガスを使用する旨の記載はない一方,本願発明は,「溶融ガラス中の清澄剤により清澄ガスが発生する溶融ガラスの清澄方法」であって,前記アに説示のとおり,課題解決のために清澄剤を添加するに当たり,従来の温度よりも高い温度にガラス材料を加熱することとし,かつ,当該温度に加熱されたガラス材料において清澄ガスを発生させるような清澄剤を添加するという手段を採用するものであるから,本願発明の特許請求の範囲の記載にいう「清澄ガス」は,専ら化学的清澄方法において溶融ガラスに清澄剤を添加することにより発生するガスを意味するものと解するのが相当である。
・・・・
ウ 以上によれば,本願発明と引用発明とは,「溶融ガラスの清澄方法」である点のほか,「溶融ガラスは1800°C〜2000°Cの温度に加熱される」ものである点では一致するものの,「溶融ガラス中より清澄ガスが発生する」点で一致するとはいえず,この点で相違するというべきである。また,引用発明が「溶融ガラス中より清澄ガスが発生する」ものではない以上,「この溶融ガラスについて清澄ガスの放出が1800°C〜2000°Cの温度で生起する」点で一致するということもできず,この点においても相違するというべきである。
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2013.03.28
平成24(行ケ)10077 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月25日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、本件発明は引用発明とは技術的に異なるとして、取り消されました。
補正発明に係る特許請求の範囲では,「陽極キャッピング層」について,「Pd,Mg,又はCrを含む」ことが特定され,他の限定はない。ところで,本願明細書の記載によれば,補正発明の「陽極キャッピング層」は,輝度安定性の向上等,OLEDの1つ以上の特性を向上させる目的で設けられるものである。補正発明に係る有機発光素子において,「陽極キャッピング層」は,基本的には電子受容層と陽極との間に配列され,陽極の一部とみなすこともできるものであり,1層以上存在し,「陽極キャッピング層」が電子受容層及び陽極の少なくとも一方に接触している実施形態が示されている。電子受容層と「陽極キャッピング層」との間,「陽極キャッピング層」と陽極との間に1層以上の付加的な層が挿入される場合も含まれる。これに対し,引用発明における「バリア層」は,陽極形成時に有機化合物層の表面に与えられるダメージを防止するため,有機化合物と陽極との間に設けられるものであり,金,銀等の仕事関数の大きい材料や正孔注入性を有するCu−Pc等の材料から形成される。以上によると,引用発明の「バリア層」は,陽極形成時のダメージ防止の目的で設置されるものであるのに対し,補正発明の「陽極キャッピング層」は,輝度安定性の向上等,OLEDの1つ以上の特性を向上させる目的で設けられるものであって,両発明では,上記各構\成を採用した目的において相違する。引用発明の「バリア層」は,上記設置目的から,陽極と有機化合物層との間に,これらに接して設置されるものであると認められる。陽極と「バリア層」の間,又は「バリア層」と有機化合物層の間に別の層が存在する場合には,その層が有機化合物層の表面に与えられるダメージを防止する効果を奏することから,そのような層に重複して「バリア層」を設ける必要性はない。これに対し,補正発明の「陽極キャッピング層」は,陽極と電子受容層との間にあり,陽極に接している場合を含むが,陽極と接することに限定されるものではない。また,引用発明の「バリア層」を形成する材料は,金,銀等の仕事関数の大きい材料や正孔注入性を有するCu−Pc等であるのに対し,補正発明の「陽極キャッピング層」は,Pd,Mg,又はCrを含むことを必須とする。以上のとおり,引用発明の「バリア層」と補正発明の「陽極キャッピング層」とは,その設置目的や技術的意義が異なり,設置位置も常に共通するものではなく,材料も異なることからすると,引用発明における「バリア層」が補正発明における「陽極キャッピング層」に相当するとは認められない。
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2013.03.24
平成24(行ケ)10231 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月13日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が維持されました。争点の一つが、請求項の文言を誤記として認定した点です。
原告は,審決には,本願発明に係る請求項1記載の「逆対数応答空間」を「対数応答空間」と読み替えた上で,本願発明を認定した誤りがあると主張する。この点,確かに,本願発明に係る請求項1の「逆対数応答空間」との記載が,文言上直ちに「対数応答空間」の誤記であると解することはできない。また,本願明細書の段落【0031】,【0051】の記載によれば,「逆対数」は,「対数−反対」を意味するものであり,このうち「反対」は,「反対チャネル」と称される「白−黒の指標」,「赤および緑の指標」,「黄色青色の指標」に対応するものと認められる。そうすると,「逆対数応答空間」とは,入力画像を「対数−反対座標に変換した空間」を意味し,「対数応答空間」とは意味を異にするものと解される。これに対し,被告は,本願発明の入力画像信号は,信号の輝度を表す測定値を含むLab系色空間信号であり,3色の測定値を含むRGB系色空間信号ではないと主張する。しかし,本願発明に係る請求項1の「(a)前記入力画像信号の測定値を得るステップ,ここで,前記測定値は,少なくとも前記信号の輝度i(x,y)を表\す測定値を含み」との記載は,画像信号の測定値から輝度i(x,y)を算出可能であるという画像信号の一般的な性質を確認的に記載したものにすぎず,入力画像信号の「測定値」には,RGB系色空間信号及びLab系色空間信号を含み得るものであるから,本願発明の対象がLab系色空間信号に限定されていると解することはできない。したがって,本願発明に係る請求項1記載の「逆対数応答空間」は,「対数応答空間」の誤記とはいえない(なお,明細書の記載と異なる解釈を採るのであれば,誤記として扱うのではなく,その理由を説示すべきである。)。イ 以上のとおり,審決が,本願発明に係る請求項1記載の「逆対数応答空間」を「対数応答空間」と読み替えた上で,本願発明を認定したことは相当でないが,以下のとおり,審決の結論に影響を及ぼすものとはいえない。16すなわち,上記のとおり,本願発明に係る請求項1のステップ(a)において,「前記測定値は,少なくとも前記信号の輝度i(x,y)を表す測定値を含み」との記載は,画像信号の測定値から輝度i(x,y)を算出可能\であるという画像信号の一般的な性質を確認的に記載したにすぎず,「前記測定値」には,RGB系色空間信号だけではなく,Lab系色空間信号をも含み得るものと解される。そうすると,本願発明に係る請求項1のステップ(b)の「逆対数応答空間に変換して,変換された座標を得る」とは,入力画像信号の「測定値」を,変換後の空間が逆対数応答空間(「対数−反対座標に変換した空間」)となるように変換することを意味すると解され,「対数応答空間に変換」及び「反対応答空間に変換」の2つの構成を必然的に含むとまではいえない。そして,審決は,後述のとおり,相違点1について,「画像処理の技術分野において,入力画像をRGB座標空間のカラー画像信号として入力し,当該RGB座標空間から輝度と2つのクロミナンスによる色空間に座標変換することにより,輝度値を算出し,画像の輝度を補正する技術は慣用技術にすぎない」として,入力されたカラー画像信号を反対座標の色空間となるように変換して輝度値を算出し,画像の輝度を補正する技術は慣用技術であると認定した上で,「刊行物発明に用いられた技術を慣用技術であるカラー画像の輝度値の補正に採用することに格別困難な点はない」との判断を示しており,本願発明が反対座標の色空間となるように変換することを含むことについても,実質的な判断をしているといえる。\n
ウ
以上によれば,審決が本願発明と刊行物発明の対比に当たり,本願発明に係る請求項1記載の「逆対数応答空間」は「対数応答空間」の誤記であるとして,読み替えを行った上で,本願発明を認定した点は相当でないが,これにより審決の結論に影響を及ぼすものとはいえない。
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2013.03.24
平成24(行ケ)10232 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月13日 知的財産高等裁判所
無効であるとした審決が、阻害要因有りとして、取り消されました。
本件明細書の記載を参酌すれば,当業者は,本件各発明の「パッドに形成された中実な材料からなるプラグ」ないし「パッドに形成された(中実な光透過性の)プラグ」とは,第3の構成のように,プラーテンに形成されることなく,「プラーテンホール30」の上の領域におけるパッド材料を「パッドに形成された中実な材料からなるプラグ」ないし「パッドに形成された(中実な光透過性の)プラグ」に置き換えた態様のものであると理解すると認められる。イ一方,甲1発明の内容は,上記第2の3(2)ア 記載のとおりである(この点については原告も争わない。)ところ,上記(1)イ 認定の事実によれば,甲1記載の発明は,「透明窓材とウエハとの間にできる研磨液の膜を通してウエハの研磨面に照射した光の反射光を観察あるいは評価する」(【0015】)もので,「研磨布窓6」は,「ウエハ7」の中心が該「研磨布窓6」の上にあるときの一部の間,光のための通路を与えるものであるが,「研磨布にだけ研磨布窓を設けたのでは,研磨液に空気が混じる恐れがあり,空気が混じると観察が困難となるので,研磨液を十分保持できるようにし,空気が混じらないようにするため」に,「定盤1」内に「溝2」が形成され,当該「溝2」には「研磨液を十\分保持させる」(【0016】)ものであることが認められる。また,「貫通孔3」の「溝2」側には,透明ガラス製の中実な材料からなる「透明窓材4」が嵌め込まれ,「プローブ9」からウエハの研磨面へ照射される照射光とその反射光とを通すとともに,研磨液が漏れないようにしている(【請求項4】,【0022】)ことも認められる。そうすると,甲1発明(2ないし6,8)は,「SOIウエハ7」をケミカルメカニカルポリシング(CMP)により研磨するに際し,赤色の範囲を含む光を「ウエハ7」に向けて照射し,その反射光を観察あるいは評価して,研磨状態の終点を知ることができるようにしたもので,「定盤1」内に「溝2」を形成し,当該「溝2」に研磨液を十分保持させることで,研磨液に空気が混じらないようにして,上記反射光の観察あるいは評価を容易にし,また,「透明窓材4」を上記「溝2」に設けられた「貫通孔3」に嵌め込むことにより,上記「ウエハ7」への照射光とその反射光とを通すとともに,研磨液が漏れないようにしたものといえる。\n
ウ 以上のことからすれば,甲1発明(2ないし6,8)において,上記「溝2」に研磨液を十分保持させ,上記「溝2」に形成された「貫通孔3」に,上記「ウエハ7」への照射光とその反射光とを通すためには,透明ガラス製の中実な材料からなる「透明窓材4」を上記「貫通孔3」に嵌め込む構\成とするほかはないから,甲1発明(2ないし6,8)において,上記「透明窓材4」の設置位置を「研磨布5」に変更する動機付けがあるとはいえず,むしろ阻害要因があるというべきである。
また,甲2には,「ポリシングパッド1による貼り合わせウェーハ11の研磨において,ポリシングパッド1を透明体とし,ポリシングパッド1を透過してレーザ光を照射するもの。」が,甲3には,「被加工物1の被加工面6をポリシャ3で研磨するにあたり,石英からなるポリシャ3を透明なものとし,レーザ光線11を照射し,透明なポリシャ3を透過してレーザ光線を照射するもの。」が,甲4には,「被加工物2をポリシャ4で研摩するにあたり,合成樹脂からなるポリシャ4を透明なものとし,レーザ光を照射し,透明なポリシャ4を透過してレーザ光を照射するもの。」がそれぞれ記載されていると認められるところ(甲2ないし甲4にこれらの記載があるとの審決の認定について,原告も争わない。),甲2ないし4には,全体を同じ材料からなる透明な研磨面とすることが記載されているにとどまり,本件各発明の「パッドに形成された中実な材料からなるプラグ」ないし「パッドに形成された(中実な光透過性の)プラグ」を備えること,すなわち,プラグが,プラーテンに形成されることなく,プラーテンホールの上の領域におけるパッド材料を置き換えるように形成されることが,甲2ないし4に開示されているとも認められない。なお,甲5は,もとより,プラグを,プラーテンホールの上の領域におけるパッド材料を置き換えるように形成することを開示するものではない。\n
以上から,甲1発明(2ないし6,8)において,上記「透明窓材4」の設置位置を変更する動機付けがあるとはいえず,また,甲2ないし甲5には,本件各発明の「パッドに形成された中実な材料からなるプラグ」ないし「パッドに形成された(中実な光透過性の)プラグ」について開示されていないから,甲1発明(2ないし6,8)において,上記「透明窓材4」を,上記「定盤1」に形成されることなく,上記「貫通孔3」の上の領域における「研磨布5」(本件各発明における「パッド」に相当する。)材料を置き換えるように形成されたものとすること,すなわち,上記「透明窓材4」を上記「研磨布5」に形成することが,当業者が容易に想到し得たものとはいえない
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2013.03.24
平成24(行ケ)10175 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月13日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、相違点の認定に誤りはあるものの、結論に影響無しとして、進歩性なしとした審決が維持されました。
原告は,審決が,引用発明は,「更新された行程の基本所要時間を表すデジタル情報を少なくとも含む,所定の幾つかの無線メッセージを認知」し,「受信された前記デジタルデータに応じて,前記行程の基本所要時間を表\す,記憶された前記デジタルデータを更新」するという構成において,本願発明と相違がないと認定した点(審決書12頁11行〜21行)について,引用発明と本願発明との間には,前者が,道路網のうち,現在地点から進行方向に存在する近隣の限られた区間における更新された行程の所要時間(通過所要時間)を表\すデジタルデータを受信するのに対して,後者が,現在地点や進行方向に関係なく所定の道路網の各区間における更新された行程の所要時間を表すデジタルデータを受信するという相違点が存在するにもかかわらず,審決はこれを看過していると主張する。確かに,引用発明は,所定の道路網の全ての区間のリンク旅行時間を受信するものではないことから,審決の上記認定は正確ではない。しかし,引用発明と本願発明とは,引用発明の「外部から現在の道路状況,所定の交差点間の道路(リンク)ごとの通過所要時間(リンク旅行時間)を受」する態様と,本願発明の「更新された行程の基本所要時間を表\すデジタル情報を少なくとも含む,所定の幾つかの無線メッセージを認知」する態様とが,「更新された所定の行程の基本所要時間を表すデジタル情報を少なくとも含む,所定の幾つかの無線メッセージを認知」するとの概念で共通するから,本願発明と引用発明との相違点は,原告が主張する点ではなく,被告が主張する点,すなわち,「更新された行程の基本所要時間を表\すデジタル情報を少なくとも含む,所定の幾つかの無線メッセージを認知」する態様」に関し,本願発明は,更新された行程の基本所要時間を表すデジタル情報を少なくとも含む,所定の幾つかの無線メッセージを認知するものであるのに対し,引用発明は,外部から現在の道路状況,所定の交差点間の道路(リンク)ごとの通過所要時間(リンク旅行時間)を受信するものであって,道路網の全ての区間を含むことは特定されていない点。」(相違点9)と認定すべきである。そうすると,審決には,相違点9を看過した誤りがあることになる。しかし,相違点9は,相違点8(記憶されたデジタルデータおよび受信されたデジタル情報には,当該道路網の所定の区間ごとの行程の基本所要時間が含まれている態様に関し,本願発明は,当該道路網の「各区間ごとの」行程の基本所要時間が含まれているのに対し,引用発明は,「所定の区間の」行程の基本所要時間が含まれるが,全ての区間の行程の基本所要時間が含まれることまでは特定されていない点。)に含まれており,相違点8に係る審決の進歩性判断に誤りはないから(後記3のとおり),相違点9の看過が審決の結論に影響を及ぼすことはない。\n
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2013.03.18
平成24(行ケ)10278 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月06日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、動機づけ無しを理由に取り消されました。
すなわち,発明Aは,「『不織布21およびフィルタ本体22からなる交換用フィルタ23』の交換時期になったとき,『不織布21およびフィルタ本体22からなる交換用フィルタ23』のみを交換してこれを廃棄するタイプ」であるから,フィルター材交換タイプであって,このフィルター材交換タイプにおいて,交換用フィルタを換気扇又はレンジフードに取付けた状態では,汚れの付着状態を正確に判定するのが困難であるということを解決課題とし,フィルタ本体の所定位置に,使用状態に応じて目視による識別性が変わる不織布21(インジケータ)を設けることを解決手段とした発明であるということができる。ウ上記ア,イからすると,発明Aは,フィルター材のみを廃棄するフィルター材交換タイプの換気扇フィルターであって,フィルター材とフィルター枠を共に廃- 26-棄する全部廃棄タイプの本件発明1とはタイプが異なる上,両発明は,解決課題及びその解決手段も全く異なるものである。そして,発明Aは,フィルター材交換タイプの換気扇フィルターについて,交換用フィルタの交換時期になったとき,フィルタ本体の汚れの程度を,フィルタを通気口から取り外すことなく簡単に判定することができることを特徴とするものであって,引用例1の記載からしても,これに接した当業者が,発明Aのフィルター材交換タイプを本件発明1の全部廃棄タイプに変更しようとする動機付けや示唆を得るとはいえない。また,フィルター材交換タイプの換気扇フィルターである発明Aにおいて,全部廃棄タイプの換気扇フィルターである本件発明1が解決課題としている「通常の状態では強固に接着されているが,使用後は容易に両者を分別し得るようにして,素材毎に分離して廃棄することを可能すること」と同様の解決課題が当然に存在するともいえない。そうすると,全部廃棄タイプの換気扇フィルターを使用することが周知の事項であって(この点は原告らも争わない。),物品を分別(分離)して廃棄すること自体,日常生活において普通に行われていることであったとしても,本件発明1は,発明A及び上記周知の事項から容易に想到し得るものとはいえないし,使用した後,廃棄する際に,水に浸漬すれば,金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを手指で容易に剥離することができ,金属と不織布とを分別廃棄することができるという本件発明1の作用効果は,発明Aの及び上記周知の事項から容易に予\測できるものともいえない。したがって,発明Aについて,全部廃棄タイプの換気扇フィルターにすることは,当業者であれば容易になし得ることであり,その際,不織布製フィルター材と金属製フィルター枠を分離することができる全部廃棄タイプの換気扇フィルターとし,不織布製フィルター材と金属製フィルター枠を分離(分別)して廃棄することは,当業者であれば適宜行う設計事項であるということができるとした審決の判断は誤りであり,これを前提とした本件発明1に関する容易想到性の判断も誤りである。
エ これに対し,被告は,引用例1に記載されるフィルター材交換タイプの換気扇フィルターとは,フィルター材をフィルター枠ごと取り外した後,フィルター枠からフィルター材を取り外して廃棄するものであり,全部廃棄タイプの換気扇フィルターと引用例1記載のフィルター材交換タイプの換気扇フィルターは,両者ともにフィルター材をフィルター枠ごと取り外すという点で一致するところ,原告らは,フィルター材交換タイプの換気扇フィルターの定義を「フィルター枠を備え付けたままとしフィルター材のみを廃棄するものである」としており,この定義は,引用例1の記載とは異なっており,誤りであると主張する。しかし,フィルター材交換タイプの換気扇フィルターも全部廃棄タイプの換気扇フィルターも,フィルター材をフィルター枠ごと取り外すことができる点では一致するが,フィルター材交換タイプの換気扇フィルターに関する原告らの上記定義の趣旨は,「備え付けられたフィルター枠はそのまま使用し,フィルター材のみを廃棄する」というものであり,フィルター材交換タイプの換気扇フィルターと全部廃棄タイプの換気扇フィルターとでは,フィルター材のみを廃棄するかフィルター枠をフィルター材と共に廃棄するかという点で相違する。そうすると,発明Aが,フィルター材交換タイプの換気扇フィルターであって,本件発明1とはタイプが異なる上,解決課題及びその解決手段も本件発明1とは異なることに変わりはなく,上記ウの判断は左右されない。よって,被告の主張は採用できない。
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2013.03. 8
平成23(ネ)10087 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成25年03月05日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決が、動機づけ有りとして取り消されました。
上記乙第1,第8,第11号証の1ないし5によれば,交通事故の発生前後の所定時間にわたって車両の挙動に係る情報を収集,記録すること,車両に設けられた加速度センサが検出する加速度が所定の閾値を超えるか否かやエアバッグ作動信号の有無に代えて,車両の加速度等が所定の閾値を超えたか否かによって交通事故が発生したか否かを判定する程度の事柄は,本件優先日当時における車両の挙動に係る情報を収集,記録する装置の技術分野の当業者の周知技術にすぎないものと認められる。本件訂正発明1にいう「特定挙動」は前記のとおり「事故につながるおそれのある危険な操作に伴う車両の挙動」であって交通事故の発生を前提とするものではない(交通事故が発生しない場合も含む)が,本件訂正発明1においても,例えばセンサ部から得られる角速度等のデータが所定の閾値を超えたか否かによって「特定挙動」の有無が判定されるから(本件訂正明細書の段落【0030】,【0034】,【0050】,図2,3等),装置の機能の面に着目すれば,本件訂正発明1において「特定挙動」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構\成は,上記周知技術において「交通事故」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構成と実質的に異なるものではない。加えて,上記周知技術と引用発明1とは,属する技術分野が共通し,前者を後者に適用するに当たって特段障害はないから,本件優先日当時,かかる適用を行うことにより,当業者が本件訂正発明1,2にいう「特定挙動」の発生前後の所定時間分の車両の挙動に係る情報を収集,記録する構\成に想到することは容易であるということができる。以上のとおり,乙第6号証記載の引用発明1に,「特定挙動」の発生前後の車両の挙動に係る情報を収集する条件を記録媒体に記録,設定する乙第2号証記載の発明と,「特定挙動」に相当する一定の契機(交通事故等)の発生前後所定時間分の車両の挙動に係る情報収集をする乙第1,第8,第11号証の1ないし5記載の周知技術を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,相違点Aに係る構成に容易に想到することができたというべきであり,本件訂正発明1は進歩性を欠く。
3 本件訂正後の請求項15の本件訂正発明2と乙第6号証記載の引用発明2とは,移動体の挙動を特定挙動と判定して当該挙動に関わる情報が記録された記録媒体からその記録情報を読み出す処理,読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理をコンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録された,コンピュータ読取可能な記録媒体である点で一致し,本件訂正発明2が,特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報を所定時間分収集するための収集条件を記録媒体に設定する処理をコンピュータ装置に実行させるものであるのに対して,引用発明2は,そのようなものでない点(相違点B)で相違することが認められる。乙第3号証は,自動車の操作に関するイベント(事象)を記録する自動車レーダシステムに関する発明に係る文献であるところ,段落【0008】,【0018】,【0043】,【0047】によれば,上記レーダシステムに用いる自動車用イベント(事象)記録装置(ERA)において,コンピュータ装置及び着脱可能\なRAMカードを用い,前方間隔,警告閾値や,自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータを設定する発明,すなわちRAMカードに記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータをERAに適用する発明が記載されているということができる。そして,上記発明は,車両の挙動に関する情報を収集,記録する装置に関するもので,引用発明2と技術分野が共通するし,コンピュータ装置に処理を実行させて,着脱可能なRAMカード等の記録媒体に記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータを上記収集・記録装置に適用する程度の事柄であれば,事故分析に有用な情報を記録するブラックボックス的機能\を有する,車両の挙動に係る情報の記録装置(乙3の段落【0001】〜【0007】)とは不可分のものではない。したがって,乙第6号証や乙第2号証に接した当業者であれば,「スピードの出し過ぎや急発進・急制動の有無乃至その回数を予め設定された基準値を基に自動判定し,また走行距離を用途別(私用,公用,通勤等)に区分して把握してドライバーの運転管理データを得るシステムを提供する」こと等を技術的課題とする引用発明2に,乙第3号証記載の発明を適用する動機付けがある。\n
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2013.03. 8
平成24(行ケ)10216 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月28日 知的財産高等裁判所
引用発明とは実質的に異なるとして、新規性なしとした審決が取り消されました。
刊行物1は,原告自身が出願したポジトロンCT装置の発明の特許出願に係る公報であるが,その請求項1,3の特許請求の範囲には,光子検出器が検出した光子対の計測結果を変換して投影データに利用できるようにする座標変換手段を具備することや,被写体の輪郭形状を検出する輪郭検出手段を具備すること,輪郭検出手段が検出した輪郭形状に基づいて,座標変換手段が行う変換において用いる粗密分布を形成すること等が記載されているのみで,光子検出器が計測したデータを被検体が光子を吸収するという問題に対応して補正する(吸収補正)手段に関する記載はない。また,刊行物1の発明の詳細な説明では,主として光子の散乱補正の問題について記載されているところ,光子の吸収補正についての具体的な記載は,段落【0052】の「なお,再構成画像のS/N比を劣化させる要因として,上述した散乱同時計数の他に,被写体10における光子吸収や,リング20を構\\成する多数の光子検出器間の感度の不均一がある。したがって,散乱補正に加えて,トランスミッション計測やブランク測定を行って吸収補正および感度補正を行うのも好適である。」との記載,段落【0054】の「トランスミッション計測とは,エミッション計測(RI線源を投与された被写体10から発生する光子対の測定)時と同じ位置にRI線源が投与されていない被写体10を置き,リング20の中心軸を中心として被写体10の周囲で校正用RI線源12を回転させて行う計測を言う。また,トランスミッション・データとは,このトランスミッション計測によりt−θメモリ60に蓄積された投影データを言い,被写体10における光子吸収を補正する際に用いられるデータである。」との記載にとどまっている。そうすると,少なくとも刊行物1のポジトロンCT装置における光子の吸収補正として明示的に予定されているのは,いわゆるトランスミッション計測によるものだけであることが明らかである。そして,刊行物1の段落【0053】には,「次に,被写体10の輪郭検出の方法について説明する。被写体10の輪郭を検出する方法として,光学式3Dスキャナを利用するのも好適である。また,トランスミッション計測で得られるトランスミッション・データを利用して被写体10の輪郭を検出する方法も好適である。・・・」との記載があるが,これは電子と陽電子の結合によって生じる一対の光子の一方又は双方が散乱された結果,光子検出器が同時検出したデータから推定される上記結合位置が誤ったものとなる散乱同時計数の問題にかんがみ(段落【0023】),かかる散乱同時計数に係るデータ(散乱データ)を控除して再構\成画像のS/N比を向上させるため散乱補正を行う観点からなされた記載にすぎない(段落【0022】,【0025】,【0026】)。すなわち,かかる散乱補正を行う上で,散乱データを効率よく推定するため,測定空間のうち被検体が占めない空間の投影データのサンプリング密度を粗とするべく(逆に,被検体が占める空間の投影データのサンプリング密度は従来どおり密とする。),光学式3Dスキャナを利用して検出した輪郭形状を用いることや,トランスミッション計測の結果得られたトランスミッション・データ(被検体の当該部分の光子吸収の度合いに係るデータ)を用いることを意味するにすぎず(段落【0027】,【0029】,【0030】,【0031】),段落【0053】を含む発明の詳細な説明には,被検体の輪郭形状から吸収補正を行うことは記載も示唆もない。したがって,引用発明の光学式3Dスキャナもトランスミッション・データと同様に被検体(被写体10)による光子吸収を補正する際に用いられているとする審決の認定は誤りである。この点,被告は,刊行物1では光学式3Dスキャナの利用とトランスミッション・データの利用とが同等に取り扱われているとか,段落【0053】では,光学式3Dスキャナの利用法が輪郭形状検出用途に限定されていないと主張するが,上記のとおり,被検体の輪郭形状から吸収補正を行うことは記載も示唆もないし,上記段落の記載から,光子の吸収補正の点に関して,光学式3Dスキャナの利用とトランスミッション・データの利用とが同等に取り扱われているということもできない。また,被告は,刊行物1に記載された被検体(被写体)は均一な光子吸収体として既知の頭部であり,被検体の輪郭形状に基づいて吸収補正を行う構成は当業者に周知であるから,刊行物1に接した当業者であれば,光学式3Dスキャナを利用して得られた被検体の輪郭形状データを吸収補正に利用する構\\成が記載されていると認識するなどと主張する。しかしながら,刊行物1に人の頭部の内部をポジトロンCT装置で観察することが記載されているとしても(段落【0003】,【0097】〜【0101】,図13),刊行物1に記載された発明は人の頭部を観察するための構成に限定されているわけではない。また,被検体内部の光子吸収率が一様であると仮定して,被検体の輪郭形状に基づいて吸収補正を行うことが,本件出願当時の当業者に広く知られた事柄であったとしても(乙2〜5),被告が提出する乙第2ないし第5号証には,光学式3Dスキャナを用いて被検体の輪郭形状を検出することは記載も示唆もされていない(乙2ではエミッション・データを利用し,乙3では透過放射線源を用いたスキャン又は手入力で,乙4ではX線CT像を利用し,乙5では測定用ベルトを利用してそれぞれ被検体の輪郭形状を検出する。)。そうすると,刊行物1に接した当業者が,光学式3Dスキャナを利用して得られた被検体の輪郭形状データを吸収補正に利用する構\成を読み取ることはできない。
なお,刊行物1に記載の引用発明は,光子検出器を配して成る同時計数回路に,RI線源から放出された陽電子と近傍の電子が結合した結果,互いに正反対の方向に向けて生じる1対の光子が成す直線である同時計数ラインのうち,測定空間内の被検体が占める領域を通過する同時係数ラインに係るサンプリング密度と,被検体が占めない領域を通過する同時計数ラインに係るサンプリング密度との間に粗密の差を設けることや,かかるサンプリング密度の差を考慮した同時計数ラインの座標値の投影データへの変換手段を具備すること等により,データの量(メモリの容量)を増やすことなく高解像度の再構成画像を得るものであって(段落【0009】,【0021】〜【0031】,【0104】,【0105】),本願発明とは異なり,RI線源を投与する前の被検体の被曝を避けるため,X線CT計測や校正用RI線源を用いたトランスミッション計測を省略すること(本願明細書(甲4)の段落【0005】,【0006】)を目的としていない。審決が認定した本願発明と引用発明の相違点は,上記のとおりの目的の違いに由来するもので,上記相違点が実質的なものであることは,かかる観点からしても明らかである。以上のとおり,本願発明と引用発明の相違点は実質的なもので,両発明は実質的に同一ではないから,これに反して本願発明の新規性を否定した審決の認定・判断は誤りである。したがって,この旨をいう原告が主張する取消事由2は理由があり,取消事由1について判断するまでもなく,審決は取消しを免れない。\n
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2013.03. 8
平成24(行ケ)10165 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月28日 知的財産高等裁判所
本件発明とは技術的意義が異なるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
本件補正発明は,本願明細書(【0008】)の記載のとおり,ティシュペーパーの取出し性の改善を図ることを課題としたものであるが,この取出し性は,以下のとおり,ティシュペーパー束が圧縮された状態で収納箱に収納されていることを前提としたものということはできず,むしろ,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提としたものであると解される。(ア) すなわち,本願明細書の表1には,本件補正発明の実施例1ないし7及び比較例1ないし4が挙げられている。そして,表\1には,「窓フィルムとウェブの間隙」という項目があるが,フィルムは収納箱の上面の内側に貼着されていることから,これは,収納箱の上面と,ティシュペーパー束(ウェブ)の上面との間隔を意味するものと解される。7つの実施例のうち,実施例3ないし7については,「窓フィルムとウェブの間隙」が1mmないし3mmであることから,収納箱上面とティシュペーパー束との間に隙間が存在することを示しており,ティシュペーパー束が圧縮されていないことになる。また,実施例1及び2については,「窓フィルムとウェブの間隙」が0mmであり,この項目だけでは,ティシュペーパー束が圧縮されて収納箱上面に押し付けられた結果としての0mmなのか,ティシュペーパー束の高さ(ウェブ嵩)を収納箱の高さにそろえた結果としての0mmなのかが明らかではないが,1)「箱高さ」及び2)「ウェブ嵩」の項目については,実施例1については,上記1)2)共に50mm,実施例2については,上記1)2)共に55mmである。実施例1ないし7における1)「箱高さ」,2)「ウェブ嵩」及び3)「窓フィルムとウェブの間隙」の数値の関係に照らせば,3)「窓フィルムとウェブの間隙」は,1)「箱高さ」と2)「ウェブ嵩」との差であることは明らかである。よって,実施例1及び2は,ティシュペーパー束の高さ(ウェブ嵩)を収納箱の高さにそろえた結果として,「窓フィルムとウェブの間隙」が0mmになったものであることを理解することができ,ティシュペーパー束が実質的に圧縮されていないものであるということができる。そうすると,本件補正発明の全ての実施例1ないし7は,ティシュペーパー束の高さを収納箱の高さにそろえることによって,ティシュペーパー束が実質的に圧縮されないようにしたものである。他方,表1には,ティシュペーパー束を収納箱よりも高くすることによって,ティシュペーパー束が圧縮されている実施例は挙げられていない。また,本願明細書には,表\1及び表2の記載事項も含めて,ティシュペーパー製品の詳細なパラメータの値が具体的に記載されているが,収納箱の静摩擦係数については記載されていない。
(イ) さらに,ティシュペーパーの取出しのメカニズムとして,ティシュペーパー束が圧縮された状態で収納箱に収納されている場合,ティシュペーパー束は,自己の弾力性によって,本来の高さ(ウェブ嵩)に戻ろうとする復元力を有する。しかしながら,収納箱の高さは一定なので,ティシュペーパー束は,本来の高さに戻ることはできず,圧縮による変形分の力で,ティシュペーパー束の上面の大半(取出し口に対応する部位を除く。)が収納箱上面(内上面)に押し付けられる。ティシュペーパー束の復元力は,ティシュペーパー束が最も圧縮された初期状態,換言すれば,ティシュペーパーの取出し初めが最も大きく,ティシュペーパーを取り出すに従って徐々に低下していく。そして,ティシュペーパーを更に取り出して,ティシュペーパー束が圧縮されなくなった時点で,ティシュペーパー束の復元力は消失し,以後,ティシュペーパー束と収納箱上面との間に隙間が生じた状態(ティシュペーパー束が実質的に圧縮されていない状態)では,復元力は生じない。圧縮されたティシュペーパー束からティシュペーパーを取り出す場合,ティシュペーパーの取出しを妨げる力(静摩擦力)として,ティシュペーパーを取り出すための外力に起因した成分に加えて,ティシュペーパー束の復元力に起因した成分も作用するため,比較的大きな静摩擦力が生じることになる。ティシュペーパー束の復元力は,ティシュペーパー束の上面全体をほぼ均一に上方に押し上げる。よって,圧縮されたティシュペーパー束を前提にティシュペーパーの取出し性を論じる場合には,ティシュペーパーの取出し口を被覆するフィルム面のみならず,フィルムの周囲に露出した収納箱の内上面も含めて,ティシュペーパーと接する全ての接触面の静摩擦係数を考慮する必要がある。他方,ティシュペーパー束が圧縮されていない場合,上記のようなティシュペーパー束の復元力は存在しない。この状態でティシュペーパーを取り出す場合,ティシュペーパーの取出しを妨げる力としては,ティシュペーパーを取り出すための外力に起因した成分のみが作用するので,ティシュペーパー束が圧縮されている場合と比較して静摩擦力は小さくなる。また,ティシュペーパーの取出しに際して,ティシュペーパーが摺り付けられる部分は,ティシュペーパーの面全体ではなく,取出し口近傍に集中する。よって,圧縮されていないティシュペーパー束を前提にティシュペーパーの取出し性を論じる場合には,取出し口を被覆するフィルム面の静摩擦係数を実質的に考慮すれば足り,ティシュペーパーの摺付けがほとんど生じない収納箱上面の静摩擦係数を重視する必要はない。
(ウ) 以上のメカニズムに基づき本願明細書の記載事項を総合的に参酌すると,本件補正発明において,収納箱の静摩擦係数に言及することなく,ティシュペーパーの取出し性の改善を意図しているということは,収納箱の静摩擦係数がティシュペーパーの取出し性に関与しない形態,すなわち,ティシュペーパー束が圧縮されていない状態を前提としたものであるというべきである。
エ 相違点2の容易想到性前記のように,引用例2は,ティシュペーパーの取出し性の改善を目的とする点では本件補正発明と共通するものの,ティシュペーパー束が圧縮されていることを前提とするもので,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提とする本件補正発明と,前提において相違する。そして,このような前提の相違に起因して,両者は,ティシュペーパーの取出しを妨げる静摩擦力の発生メカニズムが相違し,その大きさも異なるものである。そうすると,静摩擦力を規定する静摩擦係数についても,引用例2における板紙とティシュペーパーとの静摩擦係数の範囲を定めた意義は,本件補正発明におけるティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数の範囲を定めた意義とは全く異なるものである。このような静摩擦係数の意義の相違に鑑みれば,引用発明に,引用例2に記載された「ティシュペーパーと板紙との静摩擦係数0.4〜0.5」を組み合わせて,本件補正発明における「ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数0.20〜0.28」を導き出すことは,困難である。よって,引用例2記載の「ティシュペーパーと板紙との静摩擦係数0.4〜0.5」という構成から,本件補正発明の「ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数の範囲0.2〜0.28」を導き出した上で,引用発明と組み合わせて,本件補正発明に係る相違点2の構\成を容易に想到できるとした本件審決の判断には,誤りがある。
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2013.02.19
平成24(行ケ)10199 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月14日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性なしとした審決が維持されました。
引用文献2には,ユーザ自身が作成した音声,画像(静止画),動画,テキスト等を含むコンポーズドメディアを,インターネットを介して相手に送信するグリーティングカード(カードページ)に盛り込むことができる旨が記載され,引用文献3でも,ユーザが作成した画像や音楽のデータ(ファイル)をインターネットを介して相手に送信するデジタルポストカードに盛り込むことができる旨が記載されているから,審決が認定するとおり,本件優先日当時,サーバを用いてイメージデータを第三者と共用するサービスにおいて,ユーザのコンピュータに記憶されているデータをサーバに記憶させるようにすること,またかかるデータをサーバで運用されるデジタルのポストカード(電子情報で構成され,ネットワークを介して送受信されるポストカード)で利用できるようにする程度の事柄は,当業者の周知技術にすぎなかったと認められる。そうすると,本件優先日当時,引用文献1記載発明に上記周知技術を適用することにより,当業者において相違点2を解消することは容易であったということができ,この旨をいう審決の判断に誤りはない。
この点,原告は,引用文献1のサービスは美しい料理の写真を送ることを目的としており,サービス提供者側の装置が送信コンピュータから料理の写真を受信する構成に改める動機付けがないなどと主張する。しかしながら,引用文献2において既存の画像(ファイル)に加えてユーザが保有する画像ファイルをサービス提供者のサーバに送信し,後者の画像(ファイル)もデジタルのポストカードで利用できるようにして,ポストカード作成の自由度,サービスの利便性を高めることが記載されているように,ユーザの画像(ファイル)も利用可能\とすることでポストカード作成の自由度,サービスの利便性を高めることは当業者の常識に属する事柄である。したがって,引用文献1に接した当業者において,サービス提供者側の装置が送信コンピュータから料理の写真を受信する構成に改める動機付けに欠けるところはない。仮に引用文献1のサービスが美しい料理の写真を盛り込んだデジタルのポストカードの提供を長所の一つにしているとしても,当業者が引用文献1の料理の写真をユーザのコンピュータから送信(アップロード)される写真一般に改める上で阻害事由とまではならず,当業者にとってかように構\成を改めることは容易である。また,引用文献1ではユーザがメールアドレスやメッセージの入力欄に文字情報(テキスト)を入力したり,画像を選択したりして情報(データ)をサービス提供者側の装置に送信するが,前記のとおりの周知技術を引用文献1記載発明に適用したときにユーザのコンピュータからサービス提供者側の装置(サーバ)に送信されることになるのは,文字情報等に止まらず,画像等のデータ(ファイル)が含まれることが明らかである。結局,相違点2に係る構成に当業者が想到することが容易でないとする原告の主張は採用できない。\n
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2013.02.12
平成24(行ケ)10198 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月07日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が維持されました。理由は動機づけ無しです。
本件明細書の前記2(1)エの記載によれば,本件発明1においては,袋本体の前側と後ろ側の対向する頂部シール部同士又は底部シール部同士を,頂点の接着部分と連続的又は不連続的に接着することによって,袋体の頂部側又は底部側に左右一対の吊り下げ部を形成していることから,内容物を充填した袋体の重量を支えるために,接着される頂部シール又は底部シールを構成する三角形状のフィン部に強度が求められることは当然であって,その際,三角形状のフィン部において対向する袋本体の内面同士が,閉鎖シール部の接着部分と連続的に接着され,また,全面的にではなく,部分的ないし断続的に接着されている構\成は,吊り下げ部の機能を向上させるために有用であることは,当業者にとって自明である。したがって,本件発明1においては,吊り下げ部を形成するためにフィン部の内面同士を接着する構\成が特定されているものである。
イ 引用発明の吊り下げ部について
他方,引用発明は,袋体の上縁を構成する各シール部の外側のフィルム及びガセット折込体については,開口以外の部分についてシールすることが記載されていないだけでなく,そもそも,不要の構\成と理解される。また,仮にその不要の構成が残されているとしても,フィルム及びガセット折込体のコーナの部分は内袋の直方体の上面上に沿うとされているから,吊り下げのために,不要な構\成をあえて残し,さらに直方体の上面に沿わない構成として,吊り下げ用の空間を形成することは,引用発明における阻害要因となる。また,引用発明では,内容物を注入した後に内袋のみを運搬するようなことが想定されておらず(【0014】【0026】),内袋を吊り下げて運ぶための構\成を採用する動機付けがない。
ウ 引用例2,引用例4等の吊り下げ部について
(ア) 引用例2記載の発明は,非熱接着性外面層と熱接着性内面層を有する本体フィルムと該各折込みフィルムの上,下縁部の近傍に設けた透孔は,一体不可分の構成である。また,そのような構\成である以上,袋体の上縁の全体を接着するという構成を採用する選択肢は採り得ない。他方,引用例4(図7,8),周知例1(図23),周知例2(図1〜3)の頂部シールはいずれも頂部の全体をシールするものであることが,少なくとも各図面の記載に照らして明らかである。そうすると,引用例2と,引用例4等とは,頂部シールの構\成を異にするから,接着位置をいずれとするかを設計事項であるということはできず,また,引用例2において,引用例4等の頂部シールの構成を参酌する余地はない。したがって,引用例2について,引用例4等をどのように参酌しても,吊り下げ用に用いることは導き出せない。\n
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2013.02. 7
平成24(行ケ)10149 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月30日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性なしとした審決が維持されました。
上記(1) ア認定の事実によれば,本願発明は,バーコード等を利用した認証方法等に関するものであり,従来とは全く異なった方式で個人の身元確認等の認証を行うことができる認証方法等を提供することを目的とし,認証用のバーコードの付与を求める顧客が,認証装置に対して顧客の携帯電話から通信回線を介してバーコード要求信号を発すると,認証装置が発信者番号を受信し,認証装置で,受信した顧客の発信者番号が顧客データベースに記録されているか否かを判定し,受信した顧客の発信者番号が顧客データベース内に存在していた場合には,バーコード信号を,通信回線を介して,顧客の携帯電話に伝送するというものである。すなわち,本願発明は,被認証者(顧客)の携帯電話のバーコード要求信号に含まれる発信者番号と認証装置の顧客データベースに記録されている発信者番号との同一性の有無を確認することによるものであって,当該携帯電話を所持し,提示した者が,被認証者自身であるか否かを照合の対象とするものとはいえない。一般に,携帯電話は,顧客本人のものを使用する可能性が高いため,被認証者の携帯電話のバーコード要求信号に含まれる発信者番号と認証装置の顧客データベースに記録されている発信者番号とが一致すれば,当該携帯電話を所持し,提示した者が顧客データベースに記録されている者である可能\性が高いとはいえるが,他人に貸与することが全くあり得ないとまではいえないから(原告も,他人に貸与することが全くあり得ないことは前提としていない。),本願発明における個人認証は,生体認証のような高い正確性を前提とするものではないと解される。一方,上記(1) イ認定の事実によれば,引用文献1には,記録媒体は,紙及び携帯型記録媒体のうちの少なくともいずれか一方であり,携帯型記録媒体としては,フロッピーディスク,100MB以上の大容量磁気ディスク等のような磁気記録媒体,メモリーカード,ICカード,切手サイズメモリーカード,PCカード等のカード型記録媒体,光磁気,相変化等を記録した光記録媒体,手のひらサイズ等の超小型PC等の小型電子機器等を用いることが可能であること(【0019】,【0021】)が記載され,上記の「記録媒体」とは,通常ユーザー装置に含まれるものであって,必ずしもユーザー装置そのものではないが(【請求項1】,【請求項4】),これを認証のための技術的手段を搭載する媒体としてみるときには,上記の携帯型記録媒体は,本願発明の携帯電話と同様の技術的意義を有するものということができる。また,携帯電話通信回線を使用する場合のユーザー装置は必然的に携帯電話になると考えられるから,ここでは,ユーザー装置として携帯電話を使用することが開示されていると認められる(【0078】)。さらに,上記の携帯型記録媒体には,「手のひらサイズ等の超小型PC」のように,携帯電話と同様に一身専属性の高いものが含まれるといえる。加えて,引用文献1には,記録媒体が宿泊券という紙の形式で利用される場合が示され,この場合にも,乱数によって発生される数字列及び文字列の少なくともいずれか一方を用いたコード情報により第三者による券の偽造を困難にする方法(【0159】,【0160】),券に暗号情報を表\示する方法(【0162】),券発行装置から送信された暗号鍵で暗号化されたパスワード情報を紙に印刷する方法(【0163】)が示される。そうすると,引用文献1には,券の発行を受けたユーザーとの同一性の確認,すなわち個人認証の方法が記載されているから,引用発明においても,一身専属性の高い携帯型記録媒体を用い,上記のような個人認証の方法を行う場合,券の発行を受けた者が券を利用できる者「顧客」である可能性が高いとはいえるが,認証の正確性は,生体認証ほどではないと理解される。したがって,引用発明が,「前記券使用装置は,前記券発行装置から受信した前記照合結果に基づいて,前記ユーザーコード情報が記録されたユーザー装置の記録媒体を持参したユーザーがその記録媒体に記録された券情報の真の利用者であるか否かを判別し,・・・前記ユーザーは,当該券を利用できる『顧客』であり,かつ当該券の利用に当たって,その真の利用者であると認証されるものであり,」との構\成を備えるとした,審決の認定に誤りがあるとはいえず,個人認証を行う点について,本願発明と引用発明との相違点の看過があるとは認められない。これに対し,原告は,引用文献1の段落【0161】に,券を持参したユーザーに身分証明書等を提示してもらい,ユーザーの名前情報と身分証明書の名前とを比較して,券の正規の使用者であるか否かを確認する旨の記載があることから,引用発明では,個人認証はできない旨主張する。しかし,同段落は,引用発明の1つの実施形態を示すものにすぎず,上記のように,引用文献1の他の記載を参照すれば,引用発明においても個人認証を行い得ることが認められるから,原告の主張は理由がない。
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2013.02. 7
平成24(行ケ)10168 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月30日 知的財産高等裁判所
動機づけまたは示唆がないとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。
ア 上記(1)ア 認定の事実によれば,本願補正発明は,「皮内注射を行うのに使用する皮下ニードルアセンブリであって,薬剤容器に取り付け可能なハブ部分と,前記ハブ部分によって支持され,前記ハブ部分から突出する前端を有する中空本体を備えた皮下注射用の針,・・・前記針の前端の方に予\め選択された距離だけ突出するリミッタ部分と,を具え,・・・前記針の前端は,動物の皮膚を突き刺すことができる量を前記リミッタ部分が制限するように,予め選択された距離だけ皮膚接触面を越えて突出している」との構\成を有すること,皮下注射針は各皮膚層と皮下組織を貫通して筋肉組織内に突き刺さるが,或る状況下では,針が真皮層を越えて突き刺さることのないように皮内注射を行なうことが望ましいこと,皮内注射を行なう技術の一つとして,Mantoux 法が知られているが,比較的複雑で,注射を行なう医療専門家や患者に熟練が必要であり,特に経験のない人が注射を行なう場合には,注射を受ける患者が苦痛を感じることが判っていること,従来の針のサイズに比べて短い針を用いて皮内注射を行なうための装置が提案されているが,これらの装置は,非常に特殊化された注射器であって適用性と用途が限られていたり,特別に設計された注射器を必要とし,種々のタイプの注射器と共に使うわけにはいかず,経済的な大量生産向きではないという欠点や不都合があること,そこで,本願補正発明においては,熟練や経験のない人が皮内注射を行う場合でも患者が苦痛を感じることなく,かつ,種々の注射器本体と共に使用するのに適した皮内注射装置に対する要望,大量生産規模で経済的に製造可能な皮内注射装置に対する要望に対処することを解決課題として,上記の構\成が採用されたこと,そのため,単に皮膚に垂直に装置を押し付けることにより物質を注入できるので,薬剤やワクチン等の物質を皮内に注射する場合などに適し,かつ,リミッタ部分とハブ部分により患者の皮膚に突き刺す針の有効長さより全長の大きい針の使用が可能となるので,小径の皮下注射針を使用するなどして,薬剤注入装置を安価な構\成にて提供することができるとの効果を奏することが認められる。
イ 一方,上記(1)イ 認定の事実によれば,引用発明は,注射器用の針の透過深度をコントロールするための装置に関するものであり,発明の目的は,注射器針の透過深度をコントロールするか調節するための装置を提供することであって,注射が最適のやり方で行なわれることを可能にする皮内注射の注射器のために特に設計されていること,装置1の表\面20の端部が患者の皮膚8と接触させられるように用いられ,装置1は針3が所定長さ皮膚に入ることを可能にするために皮膚8をわずかに変形するためにわずかに押され,表\面20の端部または縁が,患者の皮膚8にわずかに押し付けられるから,それは,針3刺し傷を囲む領域を敏感にすることができ,それにより,皮内注射の間に患者に作用する軽い痛覚はより減少され,一方で,主として,繰り返される注射の場合に,患者に対する,より大きな痛み除去を確実にするように構成されていることが認められる。すなわち,引用発明においては,注射が最適のやり方で行なわれることを可能\にする皮内注射の注射器のために特に設計されているというのであるから,使用される針は,皮下注射用の針ではなく,皮内注射に適した針であると理解される。また,引用発明は,注射器針の透過深度をコントロールするか調節するための装置を提供することを目的とし,それによって,皮内注射の間に患者に作用する軽い痛覚はより減少され,主として,繰り返される注射の場合に,患者に対する,より大きな痛み除去を確実にする効果を奏するものであることが認められる。ウ 上記の認定によれば,本願補正発明は,熟練や経験のない人が皮内注射を行う場合でも患者が苦痛を感じることなく,かつ,経済的合理性に対する要望にも対処することを目的(解決課題)として.皮下注射用の針を用いて皮内注射を行うニードルアセンブリであるのに対し,引用発明は,皮内注射に適した針を用いて注射器針の透過深度をコントロールするか調整することにより,皮内注射の際の患者の苦痛を緩和ないし除去することを目的とした装置であるということができる。そして,上記の引用発明の目的からすると,引用例に接した当業者が,引用発明の「皮内注射を行うのに使用する針」,すなわち皮内注射に適した針を,敢えて,本願補正発明の「皮下注射用の針」に変更しようと試みる動機付けや示唆を得るとは認め難いから,当業者にとって,相違点に係る本願補正発明の構成を容易に想到し得るとはいえない。\n
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2013.02. 7
平成24(行ケ)10126 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成25年01月31日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、「周知文献には問題となる周知技術の開示がない」として取り消されました。
以上のとおり,本件補正発明は,シリンダ油の供給について正確なタイミングを設定することが困難であったことや,その困難性を解決するために供給量を増やしても,シリンダ油が消失してしまうなどの問題を解決しようとするために,シリンダ油を特定の時間に各部に供給し,そのシリンダ油は,ピストンが上方向に移動する際,ピストンが潤滑箇所を通過する前にシリンダの表面上に分散されるようにして,シリンダ周面上にオイルを一層良く分散させ,オイルをより有効に利用することができるとともに,シリンダ寿命とオイル消費との関係を期待どおり改善することができるというものである。・・・周知例3の記載(【0001】〜【0009】【0012】【0013】)によれば,周知例3に記載された技術は,従来の2サイクルディーゼル機関においては,シリンダライナにおけるピストンストローク方向に対して1つの位置に注油孔が設けられていたところ,その注油位置が変化すると,シリンダライナにおけるピストンストローク方向に対する摩耗パターンが異なってしまうなどの問題点を解決するために,内燃機関におけるシリンダライナ摺動面の摩耗量を低減できるとともに,その摩耗量のピストンストローク方向に対する平滑化を図ることができる内燃機関の注油装置を提供することを目的としたものである。そのために,シリンダライナにおけるピストンストローク方向に互いに異なる位置に上段注油孔と下段注油孔とを設け,また,上段注油孔と下段注油孔との注油タイミングを個別に調整し,上段注油孔からはピストン上昇行程中に注油し,下段注油孔からは上昇行程のピストンが下段注油孔を通過した後で下降行程のピストンが下段注油孔を通過する前の間に注油するものである。そうすると,シリンダ油を注油することが噴射に相当するとしても,シリンダ油を噴射する時期については,ピストンリング手段がシリンダの噴射ノズルが取り付けられるリング領域を通過する直前の段階で潤滑油を噴射する構\成が含まれているものの,その構成のみが独立して周知例3記載の技術の持つ課題を解決するものではないから,上記構\成をまとまりのある1個の技術として周知であると認定することはできない。したがって,周知例3によって,周知技術2を認定することはできない。・・以上のとおり,周知例3及び4によって周知技術2を認定することはできないから,引用発明に周知技術2を適用することにより,相違点2に係る本件補正発明を想到することが容易であるとはいえない。イ 被告は,引用発明における注油タイミングは,噴射したオイルが,シリンダのスワールに存在し,遠心力によって,シリンダの表面に分散されるタイミングを意味することが明らかであるから,本件補正発明の注油タイミングと変わるものでないと主張する。しかし,前記2(3)のとおり,引用発明はシリンダ油が最初にピストンリングに接触することを意図したものであるから,ピストンが潤滑箇所を通過する前にシリンダ油をシリンダの表面上に分散されるようにする本件補正発明とは,技術的思想として明らかに差異があり,被告の上記主張は失当である。\n
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2013.02. 6
平成24(行ケ)10036 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月30日 知的財産高等裁判所
日清食品とサンヨー食品との侵害訴訟がらみ(?)の無効審判の審決取消訴訟です。
甲1発明は,本件発明1と同様,高温熱風乾燥による即席麺の製造方法において,蒸煮した麺線を均一に膨化乾燥することができるという効果を奏するものである。しかし,甲1発明においては,このような均一な膨化乾燥は,高温熱風で二次膨化乾燥する前に,予め80℃の熱風で一次乾燥し水分を24%程度に調整することにより達成されるものである。他方,本件発明1における均一な膨化発泡は,粉末油脂により麺線内部及び麺線表\面に形成した穴を利用して,麺線内部の水分をスムーズに蒸発,乾燥させることにより実現されるものである。
イ 甲1発明は「原料粉にパーム食用油を添加混合」するものであるが,甲1には,この「パーム食用油」の形状についての記載はない。原料粉にパーム食用油を添加する際に,粉末又は粒状の状態で添加することも,液体の状態で添加することも
,いずれも従来から行われていたことであり(甲4,55,乙6,7),甲1には,「パーム食用油」により麺線内部及び麺線表面に穴が形成されること,また,その穴を利用して麺線内部の水分をスムーズに蒸発,乾燥させることにより,均一に膨化乾燥させることについても何ら記載も示唆もない。他方,甲2には,蒸煮工程において麺の表\面及び内部に無数の微小孔を生じることが記載されているものの,その微小孔による効果としては,麺の復元が極めて早いということが記載されているに留まる。甲2には,その微小孔を利用して麺線内部の水分をスムーズに蒸発,乾燥させることにより,均一に膨化乾燥させることについては何ら記載も示唆もなく,甲2の記載から当業者にとって自明の事項であるということもできない。また,そのようなことは,その他のいずれの証拠にも記載されていない。
ウ 以上によると,甲1に接した当業者が,粉末油脂を添加することで麺線内部及び麺線表面に形成した穴を利用して,麺線内部の水分をスムーズに蒸発,乾燥させることを容易に想到するとすることはできない。したがって,取消事由3及び4に係る審決の判断に誤りはない。なお,当業者において,甲1発明について,甲2の記載に従い,復元が極めて早い麺を得るために,原料粉に,粉末油脂を添加し,混合することを想到することができたとしても,130℃の高温熱風での二次膨化乾燥において,麺線内部の水分をスムーズに蒸発,乾燥させることができるため,高温熱風乾燥方法において通常問題となる「麺線の割れ」を効果的に防止し,麺線断面積をより均一に膨化乾燥することができるという効果は,当業者といえども予\測することができない顕著なものともいえる。
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◆関連事件はこちら。平成24(行ケ)10048 サンヨー食品の特許は無効であるとした審決が維持されました
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2013.02. 6
平成24(行ケ)10233 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月30日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は、引用文献の認定誤りです。
上記のとおり,引用例1には,溶解性ガラスが全て溶けるまで,水処理材としての効果を大幅に変化させずに持続させることを解決課題とした,Ag+を溶出する溶解性ガラスからなる硝子水処理材を提供する技術が開示されており,特許請求の範囲の請求項1及び実施例の記載によれば,溶解性ガラスとして「P2O5を含む燐酸塩系ガラス」のみが記載され,他の溶解性ガラスの記載はない。請求項1には,溶解性ガラスは,形状,最長径,金属イオンの含有量などと共に,P2O5の含有量が特定されており,発明の詳細な説明には,溶解性ガラスの形状及び組成を厳選した旨の記載がある(段落【0012】)。以上によると,引用例1の請求項1及び実施例1において,溶解性ガラスとして硼珪酸塩系ガラスを含んだ技術に関する開示はない。したがって,請求項1及び実施例1に基づいて,引用例1発明について「硼珪酸塩系の溶解性硝子からなる硝子水処理材」であるとした審決の認定には誤りがある。
(3) 被告の主張に対して被告は,引用例1の発明の詳細な説明中に「本発明で使用する溶解性ガラスは,硼珪酸塩系及び燐酸塩系の内,少なくとも1種類である」(段落【0006】)との記載があることを根拠として,引用例1に硼珪酸塩系ガラスが開示されていると主張する。しかし,被告の上記主張は,以下のとおり,採用できない。前記のとおり,引用例1の請求項1では,溶解性ガラスを燐酸塩系ガラスに限定している以上,上記記載から,硼珪酸塩系ガラスが示されていると認定することはできない(請求項2では「硝子物」の組成は限定されておらず,上記記載は,請求項2における「硝子物」に関する記載であると解することができる。)。次に,被告は,引用例1の発明の詳細な説明によると,引用例1発明の溶解性ガラスは,従来技術である乙1文献に記載された溶解性ガラスを前提とする発明であり,乙1文献には,実施例として,硼珪酸塩系ガラスと燐酸塩系ガラスが記載されているのであって,引用例1の実施例1の結果を踏まえれば,乙1文献に記載されている硼珪酸塩系ガラスにおいても,最大径を10mm以上とすることにより,銀イオンの溶出量を維持する効果が得られると理解することができると主張する。しかし,以下のとおり,被告の上記主張も失当である。引用例1には,引用例1に先立つ従来技術として,乙1文献が挙げられており(段落【0003】),同文献には,水溶性ガラスとして,硼珪酸塩系ガラスと燐酸塩系ガラスの両者が記載されているが,そのような文脈を根拠として,溶解性ガラスを燐酸塩系ガラスに限定した引用例1発明の「溶解性ガラス」について,硼珪酸塩系ガラスと燐酸塩系ガラスの両者を共に含むと理解することは無理があり,採用できない。
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2013.02. 6
平成24(行ケ)10111 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成25年01月28日 知的財産高等裁判所
無効理由(進歩性違反)なしとした審決が取り消されました。
確かに,甲第1号証には,放射線吸収性蛍光体層は蒸着膜でもよく,蒸着膜などのように放射性吸収蛍光体の凝集体からなる場合の例としてCsI:Tlなどの針状結晶膜があること(【0051】及び【0053】),拡散反射層が支持体と放射線吸収性蛍光体層との間に設けられ,拡散反射層は,二酸化チタンなどの微粒子状の光反射性物質及び結合材を溶剤中に混合分散して塗布液を調整した後,これを支持体上に塗布乾燥することにより形成することができること(【0084】〜【0088】)は記載されているが,二酸化チタンなどの微粒子状の光反射性物質及び結合材を溶剤中に混合分散して塗布液を調整した後,これを支持体上に塗布乾燥することにより形成した拡散反射層の表面にCsI:Tlなどの柱状結晶体膜を蒸着により成長させて放射線吸収性蛍光体層を形成することについては記載されていない。また,前記1(1)イのとおり,「蒸着により膜形成を行う場合,蒸着させる対象の表面の材質,構\造により膜の成長がうまくいくかどうかが左右されること」は,常識的な事項である。そうすると,一見すると,甲1発明に甲第7号証記載の技術を適用すること,すなわち,甲1発明に,反射膜としてのAl膜上に,蒸着法によって成長させたT1ドープのCsIが用いられている柱状結晶構造のシンチレータを形成するという技術を適用して,本件発明1と甲1発明の相違点1に係る本件発明1の構\成を得ることは,当業者にとって容易になし得たことではないようにも見える。ウ しかし,上記(4)のとおり,基板と蒸着により形成された蛍光体層との間に反射層が設けられている蛍光体パネル/スクリーンにおいて,蛍光体層を反射層の表面に蒸着により形成することは,周知技術であり,バインダー樹脂を含んだ反射層の表\面又は反射機能を有する樹脂基板の表\面に,蛍光体層を蒸着により形成することも,周知技術である。そして,甲第7号証及び甲第39号証には,柱状結晶構造のCsI:Tlを蒸着する際の具体的な条件については何ら記載されておらず,このことからすると,Al膜や樹脂基板上に柱状結晶構\造のCsI:Tlを蒸着することは,格別の困難を伴わずに普通に行われている事項であると認められる。また,本件発明1のシンチレータ層も,格別特殊な条件で形成されているものとは認められない。すなわち,本件明細書には,本件発明1のシンチレータ層を形成するための条件として次の記載があるが,何ら格別特殊な条件は要求されていない。「【0108】(シンチレータ層の形成)上述した反射層試料1〜13を形成した基板の反射層側にシンチレータ蛍光体(CsI:TlI(0.3mol%))を,図3に示す蒸着装置を使用して蒸着させシンチレータ(蛍光体)層をそれぞれ形成した。【0109】すなわち,まず,上記蛍光体原料を蒸着材料として抵抗加熱ルツボに充填し,また回転する支持体ホルダに支持体を設置し,支持体と蒸発源との間隔を400mmに調節した。【0110】続いて蒸着装置内を一旦排気し,Arガスを導入して0.5Paに真空度を調整した後,10rpmの速度で支持体を回転しながら基板の温度を150℃に保持した。次いで,抵抗加熱ルツボを加熱して蛍光体を蒸着しシンチレータ層の膜厚が500μmとなったところで蒸着を終了させ表1に示すシンチレータパネル(放射線像変換パネル)を得た。」エ 以上によれば,甲1発明,すなわち,放射線吸収性蛍光体層22bが,CsI:Tlの針状結晶膜である蒸着膜からなり,支持体21bと放射線吸収性蛍光体層22bとの間に,拡散反射層を設け,拡散反射層は,二酸化チタンおよび結合剤を溶剤中に混合分散して塗布液を調製した後,これを支持体上に塗布乾燥することにより形成する発明において,上記拡散反射層上にCsI:Tlを蒸着によって柱状結晶を成長させることは,当業者にとって格別の創意工夫を要するものとは認められない。
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2013.02. 6
平成24(行ケ)10166 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月17日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、動機づけ無しとして、取り消されました。
ア 引用発明1及び2は,いずれも運動靴の靴底(表底)に関するものであって,技術分野を同一にする。しかしながら,引用発明1は,前記1イに説示のとおり,スパイク付き運動靴が,接地の際に急速に停止する機能\を有していることを前提として,その機能に起因する課題を解決し,靴底の上部辺が幾分揺れるようにして徐々に停止するという作用効果を有するものであるのに対し,引用発明2は,前記イに説示のとおり,ランニングシューズの靴底が接地の際に弾性を備えていることを前提として,その機能\に起因する課題を解決し,上層に設けられた突起が直ちに下層に接することで足を内側に巻き込むローリング現象を防止するという作用効果を有するものである。このように,引用発明1は,運動靴の接地に伴う急速な安定性を解消して弾性をもたらそうとするものであるのに対し,引用発明2は,運動靴の接地に伴う弾性を解消して安定性をもたそうとするものであって,その解決課題及び作用効果が相反している。したがって,引用例1には,引用発明1に引用発明2を組み合わせることについての示唆も動機付けもない。
イ また,前記1ア及びイに説示のとおり,本願発明の「変形臨界点」とは,弾性変形体を備える表底に荷重が掛かった場合に,無視可能\な程度を除けば,荷重により圧着した(上層と下層とが相互接触した)弾性可変部材が当該荷重によりそれ以上変形できない状態となる限界を意味しており,「剛性」とは,弾性可変部材が「変形臨界点」に達したことにより,本願発明(表底)が,やはり無視可能\な程度を除き,それ以上接線方向に平行変形できない状態となることを意味しているものと解され,本願発明は,このようにして得られる「剛性」によって,靴底の弾性を解消するものである。他方,引用発明2は,前記イに説示のとおり,上層に設けられた突起が直ちに下層に接することで靴底の弾性を解消するものであって,本願発明とは弾性を解消する作用機序が異なるから,引用例2の記載(前記アウ)によれば,突起を含む各部材は,いずれも弾性可変材料で構成されているものと認められるものの,それが荷重により下層に接した場合に,当該突起及びこれを含む靴底が,当該荷重によりそれ以上変形できない状態となっているか否かは,不明であるというほかない。したがって,仮に引用発明1に引用発明2を組み合わせたとしても,それによって本願発明の本件相違点に係る構\成が実現されるものではない。
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2013.01.28
平成24(行ケ)10196 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月21日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決が、取り消されました。理由は動機づけ無しです。
以上によれば,伸縮部材を含む使い捨て吸収性物品に関し,単層エラストマーフィルムを備える剥離ライナーを使用して伸縮積層体の製造を試みる場合,フィルム材をさらに加工する際に,大抵,剥離ライナーはエラストマーフィルムから分離され,除去され,巻き上げられるため,剥離ライナーと組み合わされたエラストマー単分子層又は単層フィルムの操作は,不織布とのその後の積層における層の操作を促進する他の機構を次に必要とするとの課題があり,本願発明は,上記の課題を解決するため,不織布層を含むかかるフィルムの積層プロセスを促進するのに必要とされるブロッキング防止を助ける機構\を備えるものであることが認められる。また,本願発明における伸縮部材は,「前記エラストマー層を得る工程と,当該エラストマー層の1以上の表面への粉末の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施す工程と,当該エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程」の3つの工程を,このとおりの順序で含む方法により得られるものであると解される。一方,上記(1)イ 認定の事実によれば,引用刊行物1には,引用発明が,伸張性繊維基材の特定領域に伸張性を持たせるために,伸張性繊維基材の少なくとも1つの領域に配置されたエラストマー部材を有する伸縮性複合体ないしその製造方法に関するものであること(上記(1)イ 【0001】),使い捨て吸収製品は,一般に腰部区域やカフ区域に伸縮可能な材料を含み,これらの区域に望ましい弾性特性を提供するには種々の方法があるが(同【0002】,【0003】),伸縮性積層体は別々に製造されるところ,伸縮性積層体は適当な大きさ及び形状に切断され,「カット・アンド・スリップ」プロセスと呼ばれることのあるプロセスで,製品の望ましい位置に粘着剤で貼\り付けられる必要があり,異なる伸縮性の伸縮性積層体を用いたり,これらの積層体を製品の異なる位置に貼り付けたりするには,複数のカット・アンド・スリップユニットが必要なことがあるため,プロセスが厄介で複雑なものになるとの課題があること(同【0006】),課題解決手段として,製品の使用中に望ましい利点を提供するように,特定の部分にのみ特定の伸縮性を持たせて配置したエラストマー材を有する,費用効率の高い伸縮性複合体,間隔を置いて別個に配置した構\成成分の間の特定の部分で伸縮性を発揮する伸縮性複合体,物品の構成成分内で特定の伸縮性を発揮する伸縮性複合体の実現が望ましく,また,複数の工程,装置を必要とせず,吸収製品の様々な部分で伸縮特性を実現させるための有効かつ費用効率の高いプロセスの実現が望ましいこと(同【0007】,【0008】),発明を実施する形態として,エラストマー構\成成分を形成する工程とエラストマー構成成分を基材に結合する工程とが1つの工程の連続したプロセスに組み合わされた,新しいプロセスを提供するものであり,1つの連続したプロセスで,おむつの別個の弾性構\成成分に対応する複数の部分にエラストマー部材を直接付加することができること,異なる弾性を有する複数のエラストマー部材を,吸収性の物品の1つの構成要素の隣接した部分に付加することができることも意図されること(同【0028】),エラストマー部材は繊維性ウェブに直接付加されることも,又は最初に中間体の表\面に配置されることにより,間接的に繊維性ウェブに付加されることもできるが,エラストマー組成物の粘度は慎重に選択する必要があり,組成物,温度,及び/又は濃度は,特定の処理方法及び操作条件に好適な粘度を与えるために変更できること(同【0042】,【0043】)が記載されているといえる。
以上によれば,引用発明は,エラストマー部材を有する伸縮性複合体ないしその製造方法に関するものであって,伸縮性積層体が「カット・アンド・スリップ」プロセスで,製品の望ましい位置に粘着剤で貼り付けられる必要があり,異なる伸縮性の伸縮性積層体を用いたり,これらを製品の異なる位置に貼\り付けたりするには,複数のカット・アンド・スリップユニットが必要なことがあるため,プロセスが厄介で複雑なものになるとの課題があり,これを解決する手段として,エラストマー構成成分を形成する工程とエラストマー構\成成分を基材に結合する工程とが1つの工程の連続したプロセスに組み合わされた,新しいプロセスを提供するものであることが認められる。すなわち,引用発明の課題及びその解決手段は,異なる伸縮性の伸縮性積層体を「カット・アンド・スリップ」プロセスで製品の望ましい位置に貼り付ける工程を効率化する目的で,エラストマー構\成成分を形成する工程と基材に結合する工程を1つの工程の連続したプロセスに組み合わせるというものであって,本願発明の課題及びその解決手段である,エラストマーフィルムから剥離ライナーを分離,除去し,巻き上げるためのプロセスを促進する目的で,不織布層を含むかかるフィルムの積層プロセスを促進するのに必要とされるブロッキング防止を助ける機構を備えることとは全く異なるというべきである。また,引用刊行物1には,エラストマー材をグラビア印刷等により基材に直接付加する方法と,エラストマー材を中間体の表\面に配置した後,オフセット印刷のように間接的に基材に移す方法が挙げられるところ,前者の方法は,流体状のエラストマー材が基材に直接付加されるため,エラストマー層がブロッキングすることはなく,後者の方法は,エラストマー材はいったん中間体の表面に配置されるものの,引き続き中間層ごと基材に圧着,転写されるため,やはりエラストマー層がブロッキングすることはないから,引用発明における伸縮性複合体の製造方法で,エラストマー構\成成分を形成した後,基材に結合する前にブロッキングが生じるおそれはないといえる。そうすると,引用発明における伸縮性複合体の製造方法において,エラストマー構成成分を形成後,基材に結合する前に,ブロッキング防止処理を適用する動機付けはないというべきであり,これにブロッキング防止処理工程を含むとすることは,当業者が容易に想到することではないから,引用発明から,相違点2に係る本願発明の構\成である「当該エラストマー層の1以上の表面への粉末の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施す工程を含む方法によって得られ」との構\成に至ることは,当業者にとっても容易ではないというべきである。したがって,相違点2について,「引用発明において,伸縮部材を得る方法についての特定に,エラストマー層表面へのブロッキング防止処置工程を含むとすることは,当業者が容易に想到しうる」とした審決の判断は誤りである。イ これに対し,被告は,引用刊行物1には,伸縮性複合体を製造するのに,エラストマー構成成分の形成工程と基材への結合工程とが連続している製造に関して,より適した方法であるとの記載があるとしても,一般的な製造方法としてエラストマー形成工程後に保存して基材に結合する方法も当然認識され,記載される旨主張するとともに,吸収性物品の技術分野や多層積層樹脂フィルム製造においては,各種ブロッキング防止処理が周知慣用技術である旨主張する。しかし,上記ア認定のとおり,引用発明は,異なる伸縮性の伸縮性積層体を「カット・アンド・スリップ」プロセスで製品の望ましい位置に貼\り付ける工程を効率化することを目的(課題)とするものであって,引用刊行物1において,当該発明が,伸縮性複合体の製造方法に関する一般的課題を解決しようとするものであることが記載ないし示唆されているとは認められないから,引用刊行物1記載の発明における製造方法に,エラストマー構成成分を形成後,基材に結合する前にブロッキング防止処理を適用する動機付けがあるとはいえない。そして,引用刊行物1記載の発明における製造方法に,ブロッキング防止処理を適用する動機付けが認められない以上,ブロッキング防止処理が周知慣用技術として存在するとしても,引用発明に,当該周知慣用技術を適用して本願発明に想到することが容易であると判断することはできないというべきである。\n
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2013.01.18
平成23(行ケ)10414 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月10日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が取り消されました。理由は適用できないとした判断の誤りです。
本件審決は,浚渫用のグラブバケットである引用発明1に,荷役用のグラブバケットに係る技術を適用することは,操縦者が対象物を目視できるために想定外の荷重がシェルにかかるおそれが少ない荷役用グラブバケットと,掴み物を目視できず,掴み物の種類や形状も安定しないため,荷役用と比較して,グラブバケットの強度を高く設定する必要がある浚渫用グラブバケットとでは,使用態様に基づいて要求される特性の相違から,当業者が容易に想到することができたものとはいえないとする。しかしながら,グラブバケットは,荷役用又は浚渫用のいずれの用途であっても,重量物を掬い取り,移動させる用途に用いられるものであるから,技術常識に照らし,ある程度の強度が必要となることは明らかであって,必要とされる強度は想定される対象物やその量,設計上の余裕(いわゆる安全係数)等によって定められる点において変わりはないものというべきである。確かに,浚渫用グラブバケットは,上記各観点に加えて,掴み物を目視できない点をも考慮した上で強度を高く設定する必要があることは否定できないが,ここでいう強度とは,想定される対象物(掴み物)に対してどの程度の強度上の余裕を確保すべきかという観点から決せられるべきものである。本件リーフレット(甲25)には,本件製品に関する照会の際には掴み物の種類や大きさを連絡することを求める旨の記載があり,荷役用グラブバケットにおいても,対象物に応じて強度を設定する必要があることは明らかである。したがって,荷役用のグラブバケットに係る技術を浚渫用のグラブバケットに適用する際には,浚渫用のグラブバケットにおいて特に考慮すべき強度上の余裕を確保することに支障を生ずるか否かについて,十分配慮する必要があるとしても,浚渫用グラブバケットの上記特性とは直接関連しない,対象物を掬い取って移動させるという両目的に共通する用途に係る技術について,一律に適用を否定することは相当ではない。
イ 本件構成1及び2の技術的意義等について
本件審決は,荷役用グラブバケットに係る本件構成1及び2を,浚渫用グラブバケットに係る引用発明1に適用することを否定する。しかしながら,前記1(4)アによると,本件発明は,シェルを爪無しの平底幅広構成とするとともに,本件構\成1及び2を採用することにより,従来の丸底爪付きグラブバケットと比較してバケット本体の実容量が大きく,かつ,掴み物の切取面積を大きくして掴みピッチ回数を下げることにより作業能率を高めるとともに水の含有量を減らし,しかも掘り後が溝状とならずにヘドロを完全に浚渫することが可能\となるという作用効果を実現したものであって,本件構成1及び2は,むしろバケットの本体の実容量及び掴み物の切取面積を大きくすることを実現するために採用された構\成であるということができる。また,証拠(甲25,甲32の3)によれば,本件リーフレットに記載された本件製品の図面及び主要寸法から,本件製品は本件構成1及び2を有するものと認められるところ,被告光栄は,荷役用グラブバケットである本件製品を,浚渫用グラブバケットとして実際に使用している状況を撮影した写真を本件広告に掲載した上で,本件製品の製品名(「グラブバケット(WS型)」)を明記していることが認められる。したがって,引用発明1に,引用例3が開示する本件構\成1及び2を適用することについて,動機付けが存在する一方,阻害事由を認めることはできない。
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