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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

新規性・進歩性

平成30(ワ)3018  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年11月29日  東京地方裁判所(46部)

 美容器について、特許権に基づく差止が認められました。争点は、「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さえる」の技術的意義の解釈です。
 本件発明は,前記1のとおり,「ホルダ」に該当する部材によって回転体を支 持する支持軸を固定するものであるところ,原告は,被告製品のソーラーパネ\nル取付台が支持軸を固定していると主張するのに対し,被告はこれを否定する。 証拠(甲10,14)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,回転体の支 持軸の本体側先端部分にフランジが形成されていること,被告製品の本体内部 のソーラーパネル取付台の支持軸側先端部分には一対の段差及び半円形状の\n凹部が形成され,それらは回転体の支持軸及び支持軸に形成されたフランジの 形状に係合すること,ソーラーパネル取付台の先端部で回転体の支持軸を覆っ\nてソーラーパネル取付台を被告製品本体にネジで固定するとソ\ーラーパネル 取付台に支持軸のフランジが引っかかり,支持軸の先端部分がソーラーパネル\n取付台の段差及び半円形状の凹部に組み付けられること,その組付け後は回転 体を支持する支持軸に接着剤の塗布などはなかった被告製品においても支持 軸が本体から直ちには外れることがなかったことが認められる。これらによれ ば,被告製品のソーラーパネル取付台の先端部分の段差及び半円形状の凹部は,\n回転体の支持軸を固定するための構成であり,同部分が回転体の支持軸を覆い,\n支持軸を押し付けることによって支持軸を固定し,支持軸が抜けないようにし ていると認められる。
そうすると,被告製品のソーラーパネル取付台は構\成要件B及び構成要件C\nの「ホルダ」に該当し,被告製品は構成要件Bの「前記各支持軸の基端側をホ\nルダの両端部で押さえる」及び構成要件Cの「ホルダ」を充足するといえる。\nこれに対し,被告は,ソーラーパネル取付台の半円形状の凹部はリード線の\nハンダ付け部分をカバーするためのものであり,ソーラーパネル取付台をかぶ\nせただけでは支持軸は固定されず,支持軸を接着剤で被告製品本体内部に接着 固定しなければ,支持軸は簡単に抜けることからもソーラーパネル取付台は支\n持軸を固定する機能を有していないなどと主張する。\nしかしながら,ソーラーパネル取付台の段差及び半円形状の凹部の形状は,\n回転体の支持軸に係合する形状に形成されていて,リード線のハンダ付け部分 をカバーするために形成されていると認めるに足りる証拠はない。また,回転 体の支持軸を固定するために接着剤が塗布されている被告製品があるとして も,その塗布がされたことをもってソーラーパネル取付台が回転体の支持軸を\n固定する機能を有していることが直ちに否定されるものではなく,前記のとお\nりのソーラーパネル取付台の先端部の構\造,接着剤の塗布がなかった場合の回 転体の支持軸の被告製品本体からの着脱の状況等からすれば,ソーラーパネル\n取付台は回転体の支持軸を固定する機能を有しているということができ,被告\nの主張は採用することができない。

3 争点 −ア(乙11文献に基づく新規性欠如)
争点を検討するに当たり,まず,本件発明の「前記各支持軸の基端側をホル ダの両端部で押さえる」(構成要件B)の意義について検討する。\nア 「押さえる」とは,物に力を加えて,動かないように固定するという意味 を一般的に有する(乙3の1ないし3)。 そして,本件明細書には,前記1 アないしオの記載のほか,「発明を実施 するための形態」として,「図4及び図5に示すように,前記ベース体13の 両支持筒18には,金属製の一対の支持軸20がシールリング21を介して, 交差軸線L1,L2上に位置するとともに外側に突出した状態で嵌合支持さ れている。このシールリング21は,支持軸20の周りからハンドル12の 内部へ向かう水の侵入を防止している。各支持軸20の基端には,大径状の 抜け止め頭部20aが形成されている。図4及び図9に示すように,両支持 軸20の基端部間においてベース体13上には,ホルダ22が配置されてい る。このホルダ22の両端部には,各支持軸20の基端側を押さえるための ほぼ半円筒状の押さえ部22aが形成されている。ホルダ22の中間部には, 円筒状のネジ止め部22bが形成されている。そして,ホルダ22の両端の 押さえ部22aにより両支持軸20の基端が押さえられた状態で,ホルダ2 2の中間のネジ止め部22bがネジ23によりベース体13に固定される ことによって,各支持軸20がベース体13の支持筒18に対する嵌合支持 状態に抜け止め固定されている。すなわち,支持軸20の組み付け時には, ハンドル12のベース体13に形成された一対の支持筒18に外側(図4の 左側)から支持軸20をそれぞれ嵌挿して,交差軸線L1,L2上に位置す るように配置する。次に,図5及び図9に示すように,両支持軸20の基端 間におけるベース体13上にホルダ22を配置し,そのホルダ22の両端の 押さえ部22aにより両支持軸20の基端側を押さえる。これにより,図4 及び図9に示すように,各支持軸20の基端の抜け止め頭部20aが押さえ 部22aの端縁に係合される。この状態で,ホルダ22の中間のネジ止め部 22bをネジ23によりベース体13に固定すると,一対の支持軸20がベ ース体13に対して同時に抜け止め固定される。」(段落【0013】),「従っ て,この実施形態によれば,以下のような効果を得ることができる。(1)こ の美容器においては,ハンドル12の先端部に交差軸線L1,L2上に位置 する一対の支持軸20が設けられている。各支持軸20の先端側には回転体 27が回転可能に支持され,それらの回転体27により身体に対して美容的\n作用が付与されるようになっている。前記ハンドル12における両支持軸2 0の基端部間の位置には,ホルダ22がその中間部において固定されている。 そして,このホルダ22の両端の押さえ部22aにより,各支持軸20の基 端側がハンドル12に対して押し付け保持されるようになっている。このた め,1つのホルダ22からなる簡単な固定構成により,一対の支持軸20を\nハンドル12に対して容易に固定することができて,製造コストの低減を図 ることができる。」(段落【0019】)との記載がある。
上記のとおり,本件明細書の段落【0013】,【0019】には,ホルダ の両端部に各支持軸の基端側を押さえるためのほぼ半円筒状の押さえ部が 形成され,この押さえ部が支持軸の基端に接し,それをハンドルに押し付け ることによって支持軸を保持し,支持軸が抜けることがないように固定する という実施形態が記載されており,これは,前記のとおりの「押さえる」の 一般的な意味とも整合する。 そうすると,本件発明の「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さ える」とは,支持軸の基端部をホルダの両端部に接するようにし,ホルダの 両端部から支持軸の基端部に対して押し付けること,すなわち力を加えるこ とによって,支持軸を抜けることがないように固定することを意味するもの と解するのが相当である。
イ これに対し,被告は,本件明細書の【図4】や段落【0013】の記載か ら,「押さえる」とは,支持軸の基端に設けられた抜け止め頭部や押さえ部, その他支持筒等の部材との勘合・係合によって固定される構成を包含するも\nのであると主張する。 しかし,本件明細書の段落【0013】の記載は前記アのとおりであり, ホルダが支持軸に力を加えずに,部材の勘合・係合のみによって固定する態 様が記載されているとはいえず,本件明細書のその他の記載中にも被告の主 張するような固定態様に関する記載はない。また,本件明細書の【図4】か らもそのような固定態様を看取することはできない。被告の主張は,「押さ える」の一般的な意味と一致するものでは必ずしもなく,かつ,本件明細書 にその主張を裏付ける記載はないといえるのであり,採用することができな い。
(2)。乙11発明と本件発明の対比
ア 本件特許の出願日前に公開されていた乙11文献には,1)ハンドルの先端 部に交差軸上に位置する一対の支持軸が設けられていること(乙11文献の 【図6】〜【図8】),2)腕部の先端側にマッサージを行うためのローラが回 転可能に支持されていること(乙11文献の段落【0001】【0013】),\n3)ローラ取付部材の左右両端部にそれぞれ腕部を含むローラ連結部の一端 を回転軸により軸支固定すること及び当該回転軸をローラ取付部材の穴に 挿通してEリングによって抜け止めすること(乙11文献の段落【0008】 〜【0010】),4)ローラ取付部材の中間部をローラ連結部を介してハンド ルに固定すること(乙11文献の段落【0008】【図1】【図2】),5)以上 の構成を有する美容器である乙11発明が開示されていることは当事者間\nで争いはない。 そこで,本件発明と乙11発明を対比すると,本件発明は,支持軸の基端 部をホルダの両端部で力を加えて支持軸を抜けないように固定する構成で\nあるのに対し(構成要件B),乙11発明の支持軸の固定方法はそのような\n構成を有していない点で相違する。
イ 被告は,本件発明の構成要件Bの「押さえる」とは支持軸の基端に設けら\nれた抜け止め頭部や押さえ部,その他支持筒等の部材との勘合・係合によっ て固定される構成を包含するものであることを前提として,本件発明の構\成 要件Bと乙11発明の構成3)とが同一であると主張する。 しかし,構成要件Bの「押さえる」に関する被告の主張を採用することが\nできないことは とおりであり,乙11発明の構成3)が本件発明の構\n成要件Bと同じであるということはできない。 したがって,乙11文献には構成要件Bの構\成が開示されているとはいえず, 乙11発明と本件発明は同一ではないから,本件発明が新規性を欠くというこ とはできない。

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平成30(行ケ)10041  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年12月6日  知的財産高等裁判所

 サポート要件および進歩性について、いずれも誤りであるとして拒絶審決を取り消しました。
 (1) 審決は,本願発明1は,少なくともセシウム及びストロンチウムを含む放 射性物質を,1382℃未満の温度(例えば1000℃)で焼成する場合を 含むと解され得るが,1382℃未満の温度で焼成をすると,「前記放射性 物質として含まれるセシウム及びストロンチウム」のうちのセシウム(沸点 671℃)が気化するため,本願発明1の効果である「放射性物質の気化温 度未満で焼成」し,「放射性物質や灰分が残渣として残り,放射性物質が気 化されて大気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しく は無機化させること」を実現できないとして,特許請求の範囲の記載はサポ ート要件に適合しないと判断した。
(2)ア そこで検討するに,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか 否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対 比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載され た発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記 載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を 解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のと解される。
イ 本件についてみると,本願発明1は,焼成汚染材を「測定下限値を超え る放射能濃度で放射性物質を含んだ動植物類,焼却灰,汚泥スラッジ,海\n洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき,汚染水,土砂のうちの何 れか一つ以上を含む汚染材を,前記放射性物質として含まれるセシウム及 び/又はストロンチウムの気化温度未満で焼成した放射性物質を含有する」 ものと特定するものである。 そうすると,本願の請求項1にいう,「汚染材に放射性物質として含ま れるセシウム及び/又はストロンチウム」には,汚染材に放射性物質とし て「セシウム及びストロンチウム」の両者が含まれる場合のみならず,「セ シウム又はストロンチウム」,すなわち「セシウム」,「ストロンチウム」 のいずれか一方のみが含まれる場合も含まれているというべきである。
ウ また,本願明細書には,前記1(1)カのとおり,「前処理工程1001で は,図15に示すように,汚染材を地殻様組成体20の原料として使用す る前に,汚染材の焼成処理を行う。ここでの焼成温度は,放射性物質の気 化温度未満とし,放射性物質や灰分が残渣として残り,放射性物質が気化 されて大気中に放出されないようにする。このように,汚染材は,焼成処 理されることで,有機物を気化若しくは無機化させることが出来る。」(【0 133】),「セシウム−134は,沸点が671℃である。従って,例 えば,焼成温度を671℃未満としたときには,大分部分(判決注:原文 のまま)の放射性物質が気化することを防止することが出来る。」(【0 135】)と,焼成温度を汚染材に含まれる放射性物質の気化温度未満と することにより,放射性物質の気化を防止できることが記載されている。 これに対し,本願明細書には,汚染材に含まれる放射性物質の気化温度以 上の温度で焼成することについての記載はない。 このような本願明細書の記載に鑑みれば,本願発明1の上記特定事項に ついては,セシウム及びストロンチウムを放射性物質として含む,すなわ ち,セシウムとストロンチウムの両者を同時に放射性物質として含む場合 には,セシウム及びストロンチウムの気化温度未満で汚染材を焼成,すな わち,両者の気化温度に共通する部分となる(より低い気化温度である) セシウムの気化温度未満で焼成するものと解するのが自然である。また, セシウム又はストロンチウムのいずれか一方のみを放射性物質として含む 場合には,当該放射性物質の気化温度未満で焼成するものと解される。
エ したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載さ れた発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解 決できると認識できる範囲のものであるというべきである。
4 取消事由2(引用発明の認定の誤り)について
(1) 審決は,引用文献には引用発明が記載されていると認定し,本願発明1は 引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたと判断した。
(2)ア そこで検討するに,進歩性の判断に際し,本願発明と対比すべき特許法 29条1項各号所定の発明は,通常,本願発明と技術分野が関連し,当該 技術分野における当業者が検討対象とする範囲内のものから選択されると ころ,同条1項3号の「刊行物に記載された発明」は,当業者が,出願時 の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明をすることができたかどうか を判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し 得る具体的な技術的思想でなければならない。
イ 本件についてみると,引用文献は,その表題から,放射性物質が検出さ\nれた下水汚泥焼却灰等の処分に向けた検討状況を1枚の資料にまとめたも のと認められる。 そして,引用文献の「1 これまでの経緯と今後の予定」の項の記載か\nら,1)平成23年9月から,「放射性物質対策検討特別部会」において下 水汚泥焼却灰等の安全な処分に向けた検討が開始されたこと,2)同年10 月から,下水汚泥焼却灰等の処分に関する安全性評価検討業務委託がされ, 委託先の有識者委員会である汚染焼却灰等処分安全性評価委員会が3回開 催されたこと,3)平成24年3月に東日本大震災対策本部会議が開催又は 予定され,処分に向けた検討の方向性について確認されること,4)同年4 月以降,実現に向けた課題の抽出や整理が行われる予定であることが理解\nできる。
また,「2 第1〜3回汚染焼却灰等処分安全性評価委員会での有識者 からの主な意見」の項の記載は,上記有識者委員会での主な意見をまとめ たものと理解できるところ,「(前提)」の欄に,「今回の安全性評価の 中では,セシウム(Cs134,Cs137)を対象としたことを前提条 件として明示することが望ましい」との記載があることから,放射性物質 としてセシウムが検討対象になっていたことが把握できる。 さらに,「(方針)」の欄に,「再利用(下水汚泥焼却灰のセメント原 料化)の再開を目指すことは望ましい」,「めやす値より低いからそれで 良しとするのではなく,さらに,できる限り影響が小さくなるよう対策す る姿勢が重要」との記載があることから,上記有識者委員会において,放 射性物質としてセシウムを含む下水汚泥焼却灰のセメント原料化の再開を 目指すこと,放射線の影響はできる限り小さくするよう対策すべきことが, 方針に関する有識者の意見として存在したことをそれぞれ理解できる。 その一方で,引用文献には,放射性物質が検出された下水汚泥をどのよ うに焼却するか,下水汚泥焼却灰はどの程度の放射性物質を含むものであ るか,下水汚泥焼却灰をセメント原料化する際,できる限り影響が小さく なるようにどのような対策をするのか等,下水汚泥焼却灰を処分するに当 たっての具体的な方法,手順,条件など,技術的思想として観念するに足 りる事項についての記載は一切存在しない。
そうすると,引用文献には,単に放射性物質が検出された下水汚泥焼却 灰等の処分に向けた方針,及び当該方針に関する有識者の意見が断片的に 記載されているにすぎず,下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法というひと まとまりの具体的な技術的思想が記載されているとはいえない。
ウ したがって,その余の点について認定,判断するまでもなく,引用文献 に審決が認定した引用発明が記載されているとはいえない。
(3) 被告の主張について
被告は,引用文献の記載から,「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」が再 開されていないことがうかがわれるからといって,引用文献に「下水汚泥焼 却灰のセメント原料化」を行う方法が開示されていないことにはならないし, 「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」を行う方法は一般的に確立されていた 技術といえるから,原告の主張は失当であると主張する。 しかし,引用文献中の「再開を目指すことが望ましい」との記載からは, 下水汚泥焼却灰のセメント原料化が引用文献の作成時点において中止されて いたことが明らかであるところ,上記(2)のとおり,引用文献には下水汚泥焼 却灰を処分するに当たっての具体的な方法など,技術的思想として観念する に足りる事項についての記載は一切存在しないのであるから,同文献に「下 水汚泥焼却灰のセメント原料化」を行う方法が開示されているとはいえない。 また,被告が証拠として提出した乙4〜6は,いずれも「下水汚泥焼却灰 のセメント原料化」技術に関する刊行物であるものの,放射性物質を含む下 水汚泥焼却灰のセメント原料化についての記載はないから,これらの証拠を もって,引用文献が対象とする「放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等」 におけるセメント原料化が確立された技術ということはできない。

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平成29(行ケ)10230  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年11月28日  知的財産高等裁判所

 特許異議申立がなされて審決は取消決定をしました。知財高裁は、「モノマーとして,着色の少ないジアミン誘導体を使用することが周知であるとしても,そのことから,本件光透過率が80%〜90%以上となるジアミン誘導体を使用することまでも周知であるということはできない」として、進歩性なしとした審決を取り消しました。\n
 ア 前記(1)で認定した甲3文献の【請求項1】,段落【0006】,【007 2】,甲7文献の段落【0043】,【0061】,乙2文献の【請求項2】,段落【0187】,【0246】の各記載によると,本件特許の出願当時,光透過性に優れた ポリイミドを得るために,波長400nm,光路長1cmの光透過率が80%以上 のテトラカルボン酸誘導体を使用することは,当業者にとって周知であったと認め られる。
イ また,前記(1)で認定した甲3文献の段落【0102】,甲7文献の段落 【0055】,甲8文献の段落【0027】,甲9文献の「1.2.2」,乙3文 献のS93頁の概要(Abstract)の欄の1行〜7行,S94頁29行〜3 4行,S105頁3行〜6行によると,本件特許の出願当時,光透過性に優れたポ リイミドを得るために,モノマーとして,着色の少ないジアミン誘導体を使用する ことは,当業者にとって周知であったと認められる。
ウ しかし,光透過性に優れたポリイミドを得るために,純水又はN,N− ジメチルアセトアミドに10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長4 00nm,光路長1cmの光透過率(以下「本件光透過率」という。)が90%以 上である芳香環を有しないジアミン誘導体又は本件光透過率が80%以上である芳 香環を有するジアミン誘導体を使用することは,当業者にとって周知であったとは いえない。理由は以下のとおりである。
(ア) 確かに,着色の少ないジアミン誘導体を使用するということは,光透 過性の高いジアミン誘導体を使用することを意味するものと理解できる。 しかし,本件証拠上,モノマーとして,本件光透過率が80%〜90%以上のジ アミン誘導体を使用することについて記載した文献は一切ない(なお,被告は,光 透過性に優れたポリイミドの指標として,「フィルムとしたときの波長400nm の光透過率」を用いることは周知であると主張するが,同周知事項は,モノマーの 光透過性の指標として用いられるものではない。)。
(イ) また,前記(1)のとおり,甲9文献には,「モノマーの純度も重要なフ ァクターであり,見た目きれいな結晶をしていても僅かな不純物が光透過性を悪化 する原因となる。図8には用いたジアミンの再結晶前後の光透過性について示した ものである。活性炭を用いて再結晶した後のモノマーを用いた方が光透過性にやや 優れている。光透過性では僅かな差ではあるが,着色の差としてはっきりと表れる。\n」との記載があり,同記載からすると,着色の度合いと光透過性との間の相関の程 度は不明といわざるを得ず,他にこの点を認めるに足りる証拠もない。したがって ,モノマーとして,着色の少ないジアミン誘導体を使用することが周知であるとし ても,そのことから,本件光透過率が80%〜90%以上となるジアミン誘導体を 使用することまでも周知であるということはできないというべきである。
エ このように,光透過性に優れたポリイミドとするために,モノマーとし て,本件光透過率が80%〜90%以上のジアミン誘導体を使用することが周知で あったということはできないから,甲4発明に本件証拠によって認められる周知技 術を適用しても,本件発明1の構成に到らず,したがって,本件発明1は進歩性が\nないということはできない。
オ 被告の主張について
被告は,1)可視光領域(可視域)の吸収をなくして,光透過性に優れたポリイミドを 合成することは,当業界における周知の課題である,2)光透過性に優れたポリイミ ドの指標として,「フィルムとしたときの波長400nmの光透過率」を用いること は周知である,3)光透過性に優れたポリイミドとするためには,可視光を吸収する 要因を排除すればよく,そのためには,光透過性を悪化する原因となる不純物がな いよう,充分に精製した純度の高いモノマーを用いることは周知である,4)ポリイ ミド原料モノマーのうち,少なくともテトラカルボン酸二無水物において,上記の 「光透過性を悪化する原因となる不純物がないよう,充分に生成した純度の高いモ ノマー」であることの指標として,当該モノマーを適当な溶媒に溶解したときに波 長400nmの光透過率(溶媒にモノマーを溶解させた溶液の光路長1cmの光透 過率)がなるべく高いものであることを用いることは周知である,5)ポリイミドの 原料モノマーのうち,ジアミン誘導体についても,再結晶や蒸留等により精製して, 純度が高く,着色の少ないものを用いることは周知であるとした上で,甲4発明に 上記各周知技術を適用することにより,相違点1−1に係る構成を備えた本件発明\n1は容易に想到できる旨主張する。
(ア) しかし,前記ウのとおり,光透過性に優れたポリイミドとするために, モノマーとして,着色の少ないジアミン誘導体を使用することが周知であったとし ても,同周知技術から,本件光透過率が80%〜90%以上のジアミン誘導体を使 用することを導き出すことはできないところ,このことは,被告の指摘する上記の すべての周知技術を考慮しても変わるものではない。
(イ) この点,被告は,ジアミンに含まれる光透過性を悪化する原因となる 不純物が,そのままポリイミドにも含まれることとなり,ポリイミドの光透過性に 影響することから,光透過性に優れたポリイミドとするために,テトラカルボン酸 二無水物を溶媒に溶解した溶液の波長400nmの光透過率が90%以上のものを 用いるのであれば,ポリイミドを構成するもう一方のモノマーであるジアミンにつ\nいても,テトラカルボン酸二無水物と同程度の光透過率のものとすることは,当業 者であれば当然に理解する旨主張する。 a 被告の上記主張は,透明性の優れたポリイミドを製造するためには, ポリイミドの純度を高める必要があり,そのためには,モノマーであるジアミン誘 導体の純度も高める必要がある,そのジアミン誘導体の純度を光透過率に置き換え ると,もう一つのモノマーであるテトラカルボン酸誘導体に要求される光透過率と 同程度であるというものと理解できるが,本件証拠上,ジアミン誘導体及びテトラ カルボン酸誘導体のそれぞれの純度と光透過率との間の相関の程度は明らかではな く,後記bのような実験結果もあるから,透過性に優れたポリイミドの製造のため に,ジアミン誘導体の光透過率をテトラカルボン酸誘導体の光透過率と同程度とす ることが導き出されるということはできず,また,当業者もそのような理解をする とは認められない。

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平成29(ネ)10055  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年11月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 控訴審で新規性違反の証拠が提出されて、原審の判断が取り消されました。なお、証拠の提出が遅れたことについては、時機に後れた攻撃防御には該当するが、訴訟の完結を遅延させるとはいえないと判断されました。
 争点2−3−1(時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立て)について
ア 証拠(甲4,乙69の4・5)及び弁論の全趣旨によると,控訴人らは, 被控訴人外1名を原告,控訴人ら外3名を被告とする商標権侵害差止等請求事件に おいて,当該事件の原告訴訟代理人弁護士G及び同Hが平成19年5月22日に東 京地方裁判所に証拠として提出した乙69の4及び証拠説明書として提出した乙6 9の5を,その頃受領していること,乙69の5には,乙69の4の説明として, 「被告シンワのチラシ(2006年用)(写し)」,作成日「2006(平成18) 年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原告むつ家電得意先へ営業 した事実を立証する。」旨記載されていることが認められる。 したがって,控訴人らは,平成19年5月22日頃には,乙69の4・5の存在 を知っていたものと認められる。
イ 控訴人らは,控訴人シンワ代表者Aが,平成21年1月13日〜19日,\n控訴人シンワが平成17年7月6日〜8日頃に噴火湾の漁民らにサンプルを示して 本件明細書等の図8(a)と同一形状の製品を販売していたことにつき,陳述書(乙 38の1〜13)を集め,控訴人進和化学工業の代表者であった故Eに送付したと\n主張している。 上記主張によると,控訴人らは,平成21年1月頃には,上記陳述書の存在を 知っていたものと認められる。
ウ 本件は,平成28年6月24日に東京地方裁判所に提訴され,平成29 年1月26日に口頭弁論が終結され,その後和解協議が行われたところ,上記ア, イの事実によると,控訴人らは,無効理由3(新規性欠如)に係る抗弁を,遅くと も平成29年1月26日までに提出することは可能であったといえるから,これは\n「時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法」(民訴法157条1項)に該当する ことが認められる。 しかし,控訴人らは,本件の控訴審の第1回口頭弁論期日(平成29年8月3日) において,控訴人シンワは,本件特許が出願されたとみなされる日より前に,本件 各発明の構成要件を充足する製品を販売したので,本件特許は新規性を欠く旨の主\n張をしたものであって,上記期日において,次回期日が指定され,更なる主張,立 証が予定されたことからすると,この時点における上記主張により,訴訟の完結を\n遅延させることとなると認めるに足りる事情があったとは認められない。
エ したがって,上記主張に係る時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立ては,認められない。\n
(3) 争点2−3−2(新規性欠如)について
ア(ア) 前記(2)アのとおり,控訴人らは,被控訴人外1名を原告,控訴人ら 外3名を被告とする商標権侵害差止等請求事件において,当該事件の原告訴訟代理 人弁護士G及び同Hが平成19年5月22日に東京地方裁判所に証拠として提出し た乙69の4及び証拠説明書として提出した乙69の5を,その頃受領しているこ と,乙69の5には,乙69の4の説明として,「被告シンワのチラシ(2006 年用)(写し)」,作成日「2006(平成18)年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原告むつ家電得意先へ営業した事実を立証する。」旨記載され ていることが認められるところ,乙69の4には,「2006年販売促進キャン ペーン」,「キャンペーン期間 ・予約5月末まで ・納品5月20日〜9月末」, 「有限会社シンワ」,「つりピンロールバラ色 抜落防止対策品」,「サンプル価格」, 「早期出荷用グリーンピン 特別感謝価格48000円」などの記載があり,複数 の種類の「つりピン」が添付されており,その中には,5本のピンが中央付近にお いてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を 2本の直線状の部分が連通する形で連結された形状のもの(つりピンロールバラ色 と記載された部分の直近下に写し出されているもの)があることが認められる。 上記「つりピン」の形状は,上記事件の上記原告訴訟代理人が,平成19年5月 22日に,乙69の4とともに,上記商標権侵害差止等請求事件において,東京地 方裁判所に証拠として提出した乙69の3に「つりピンロール(バラ色)抜落防止 対策品」として記載されているピンク色の「つりピン」と,その形状が一致してい ると認められる。乙69の3は,乙69の4と同じ証拠説明書による説明を付して, 提出されたものであり,「2006年度 取扱いピンサンプル一覧」,「有限会社シ ンワ」,「早期出荷用」などの記載がある。 また,乙69の4は,上記事件の上記原告訴訟代理人が,平成19年5月22日 に,乙69の4とともに,「被告シンワのチラシ(2005年用)(写し)」,作成日 「2005(平成17)年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原 告むつ家電得意先へ営業した事実を立証する。」旨の証拠説明書による説明を付し て,上記商標権侵害差止等請求事件において,東京地方裁判所に提出した乙69の 1と,レイアウトが類似しているところ,乙69の1には,「2005年開業キャ ンペーン 下記価格は2005年4月25日現在の価格(税込)です。」,「有限会 社シンワ」,「当社では売れ残り品は販売しておりません。お客様からの注文後製造 いたします。」などの記載がある。 以上によると,乙69の3及び4は,いずれも,控訴人シンワが,被控訴人の顧 客であった者に交付したものを,平成19年5月22日までに,被控訴人が入手し, 控訴人シンワらが,被控訴人の得意先へ営業した事実を裏付ける証拠であるとして, 上記事件において,提出したものであると認められる。 そして,乙69の4の上記記載内容,特に「販売促進キャンペーン」,「納品5月 20日〜」と記載されていることからすると,乙69の4と同じ書面が,平成18 年5月20日以前に,控訴人シンワにより,ホタテ養殖業者等の相当数の見込み客 に配布されていたことを推認することができる。
(イ) また,前記(ア)の認定事実及び弁論の全趣旨によると,乙69の4に 記載されている,5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハの字型の1対 の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連通す る形で連結された形状のものは,控訴人シンワにより見込み客に配布されていた前 記(ア)の乙69の4と同じ書面にも添付されていたと認められる。
(ウ) 前記の5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハの字型の 1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連 通する形で連結された形状のものの形状は,両端部において折り返した部分の端部 の形状が,乙69の4では,下から上へ曲線を描いて跳ね上がっているのに対し, 本件明細書等の図8(a)では,釣り針状に下方に曲がっている以外は,本件明細 書の図8(a)記載の形状と一致している。 そして,本件明細書等の図8(a)は,本件各発明に係るロール状連続貝係止具 の実施の形態として記載されたものである。
(エ) そうすると,前記(ア)及び(イ)の5本の「つりピン」が中央付近にお いてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を 2本の直線が連通する形で連結された形状のものは,形状については,本件発明1 の構成要件1A〜Hにある形状をすべて充足する。そして,証拠(乙69の1〜5)\n及び弁論の全趣旨によると,その材質は,樹脂であり,「つりピンロール」とされ ていることから,ロール状に巻き取られるものであり,その連結材は,ロール状に 巻き取られることが可能な可撓性を備えているものと認められる。したがって,乙\n69の4に記載されている「つりピン」は,本件発明1の構成要件1A〜Hを,す\nべて充足すると認められる。 また,上記の「つりピン」は,ロープ止め突起の先端と連結部材とが極めて近接 した位置にあり,2本のロープ止め突起の先端の間隔よりも一定程度狭い縦ロープ との関係では,2本の可撓性連結材の間隔が,貝係止具が差し込まれる縦ロープの 直径よりも広くなるから,本件発明2の構成要件である2Aも充足すると認められ\nる。 さらに,上記の「つりピン」が,ロール状に巻き取られるものであることは,上 記のとおりであるから,上記の「つりピン」は,本件発明3の構成要件である3A\n及び3Bも充足すると認められる。
(オ) そうすると,本件発明1〜3は,本件特許が出願されたとみなされ る日である平成18年5月24日よりも前に日本国内において公然知られた発明で あったということができ,新規性を欠き,特許を受けることができない。
イ 被控訴人は,乙69の4につき,平成19年5月22日に手元にあった ことを認めつつ,誰が,いつ,どこで入手したのかは記憶がなく,控訴人ら提出の 証拠によって,本件特許が出願されたとみなされる日前にこれが配布されていたこ とが立証されたとはいえないと主張する。 しかし,乙69の5に記載された立証趣旨に鑑みると,平成19年5月22日当 時,被控訴人は,乙69の4が控訴人シンワにより被控訴人の得意先への営業に用 いられたと認識していたことが認められるのであって,被控訴人がそれ以前にその 顧客から原本又は写しを入手したものと認められる。 乙69の4の記載内容に,販売の申出のためのチラシとして不自然なところはな\nく,上記のとおり,その記載内容によって,平成18年5月20日以前にこれが控 訴人シンワにより見込み客に配布されたことが推認される。 被控訴人は,平成18年5月24日以前に乙69の4のピンと同様の形状のピン が見込み客に配布されたことを裏付けるものとして控訴人らが提出した陳述書等の 書証の成立及び信用性について主張するが,乙69の4が上記の東京地方裁判所に おける事件において平成19年5月22日に上記のとおり被控訴人から提出された ことは動かし難い事実であり,被控訴人がその成立又は信用性を争うその他の書証 が存在しなくとも,前記アのとおりの認定をすることができる。また,被控訴人が その成立又は信用性を争う書証は,前記アの認定と矛盾するものではなく,むしろ, 間接的にこれを裏付けるものということができる。そして,これらに記載された供 述内容について,矛盾や曖昧な点があるとしても,それらは記憶の希薄化等により 起こり得ることであって,これらをもって,乙69の4等に基づき認定し得る前記 アの事実の認定を左右するに足りるものではない。さらに,特許庁における控訴人 シンワ代表者A,証人C,証人Iの各供述(乙146)についても,同様に,矛盾\nや曖昧な点や変遷があるとしても,これらをもって,乙69の4等に基づき認定し 得る前記アの事実の認定を左右するに足りるものではない。

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 原審はこちらです。

◆平成28(ワ)20818

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平成30(行ケ)10024  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年11月14日  知的財産高等裁判所(2部)

 動機付けなしとした審決が維持されました。原告はソニーで、被告(特許権者)は富士フイルムです。
 原告は,甲3発明に甲4技術事項を適用し,さらに甲4技術事項を適用し た甲3発明に原告主張甲2技術事項を適用して,本件発明1を容易に想到すること ができた旨主張するので,同主張について検討する。 ア 前記2(3)のとおり,甲3発明は,テープ・ドライブのサーボ系を安定化 させる目的で(段落【0007】),テープ・カートリッジがテープ・ドライブに挿 入されるたびに,該テープ・ドライブのサーボ制御用低域通過フィルタの係数を, 挿入されたテープ・カートリッジに応じて設定し直すようにした発明(段落【00 09】)であって,甲3文献には,テープに記録されるサーボ・パターン自体はタイ ミング・ベース・サーボの基礎をなす既知のものだとされているが(段落【002 0】),サーボ・パターンによって何等かの情報を符号化して埋め込むことについて の記載はなく,また,そのような符号化が必要であるとの示唆もなく,ましてや, サーボバンド識別情報を同一のサーボバンド内に符号化することの必要性について の示唆はない。
 したがって,甲3発明にサーボバンド上に各種の情報を符号化する技術である甲 4技術事項やサーボバンド識別情報を同一のサーボバンド内に符号化する技術であ る原告主張甲2技術事項を適用する動機付けがあると認めることはできない。 また,甲3発明に甲4技術事項を適用した上で,さらに原告主張甲2技術事項を 適用することは,タイミング・ベース・サーボを前提として,サーボバンド上に情 報の符号化をすることについて何らの開示がない上記の甲3発明に,甲4文献で開 示されているタイミング・ベース・サーボにおける情報の符号化の方法を示した甲 4技術事項と,アンプリチュード・サーボにおいて同一のサーボバンド内にサーボ バンド識別情報を符号化することを示した原告主張甲2技術事項を重ねて適用する ものであるが,甲3文献には,サーボバンド上に情報を符号化することの記載すら ないのであるから,そのような状況で,同一のサーボバンド内にサーボバンド識別 情報を符号化することを示した技術を適用することが容易であったということはで きないというべきである。
イ 原告の主張について
原告は,甲3発明は複数のサーボバンドを有する磁気テープである点で原告主張 甲2技術事項と共通すること及び複数のサーボバンドを有する磁気テープにおいて は,サーボ読取りヘッドが自らが位置するサーボバンドを何らかの方法によって特 定する必要があるという課題が存在し,この課題は周知であることから,上記動機 付けが存在することは認められる旨主張する。 しかし,甲3発明は複数のサーボバンドを有する磁気テープであり,また,複数 のサーボバンドを有する磁気テープにおいて,サーボ読み取りヘッドが自らが位置 するサーボバンドを何らかの方法によって特定する必要があることは周知であると しても,甲3発明は,前記アのようなものであるから,甲3発明に甲4技術事項を 適用した上で,さらに原告主張甲2技術事項を適用することが動機付けられるとい うことはできない。このことは,タイミング・ベース・サーボにおいて,非平行な 縞を構成する線の位置をテープ長手方向にずらすことによりデータを符号化するこ\nとが,当業者にとって周知となっていたとしても,左右されるものではない。

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平成29(行ケ)10117  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年11月6日  知的財産高等裁判所

 引用文献にはそのものが作れるレベルでは記載されていないので、29条1項3号の「記載された発明」には該当しないと判断されました。
 よってまず,引用例1から本件取消決定が認定した引用発明1を認定する ことができるかどうかについて検討する。 特許法29条1項3号の「刊行物に記載された発明」は,当業者が,出願 時の技術水準に基づいて本願発明(本件特許発明)を容易に発明することが できたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記 載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。また,本件特許 発明は物の発明であるから,進歩性を検討するに当たって,刊行物に記載さ れた物の発明との対比を行うことになるが,ここで,刊行物に物の発明が記 載されているといえるためには,刊行物の記載及び本件特許の出願時(以下 「本件出願時」という。)の技術常識に基づいて,当業者がその物を作れる ことが必要である。
かかる観点から本件について検討すると,引用例1の記載及び本件出願時 の技術常識を考慮しても,引用発明1のデバイスを当業者が作れるように記 載されているとはいえない。理由は以下のとおりである。 ア 本件取消決定は,引用発明1をP1タンパク質に対するモノクローナル 抗体を用いて,患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出を 行うラテラルフローデバイスに関する発明として認定しているところ,ラ テラルフローデバイスは,イムノクロマトグラフィー法に基づく検出デバ イスであり,イムノクロマトグラフィー法による抗原検出においては,抗 体と抗原がサンドイッチ複合体を形成する必要があると認められ(甲8〜 10,弁論の全趣旨),また,モノクローナル抗体の場合には,抗原を挟 み込む二つの抗体が同じものでは不都合であり,少なくとも,二つの異な る抗体を用いることが必要であると認められる(この点は特に当事者に争 いがない。)。 その一方で,異なる二つのモノクローナル抗体でありさえすれば,抗体 と抗原がサンドイッチ複合体を形成するとの本件出願時の技術常識も見当 たらず,また,サンドイッチ複合体を形成しさえすれば,必ず患者サンプ ル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出できると直ちにいうこともで きない。
たとえば,引用例2の199頁図1には,捕獲抗体として特異性の異な る二つのポリクローナル抗体を用い,ペルオキシダーゼ標識モノクローナ ル抗体(検出抗体)を変えてマイコプラズマ・ニューモニエ抗原の捕獲ア ッセイを行った試験の結果を表す二つのグラフが示されている。捕獲抗体\nが抗Mp−IgG(右)の場合,試験されたペルオキシダーゼ標識抗体で は,いずれも,標識抗体100ngで450nmにおける吸光度が2を超 え,標識抗体1μgにおいて,450nmにおける吸光度が3を超えてい る。これに対し,捕獲抗体が抗P1−IgG(左)の場合には,標識抗体 がP1.25又はM74では,1μgで450nmにおける吸光度が3を 超えていても,標識抗体がM57では,1μgでも吸光度が1に満たない。 このように,同じ捕獲抗体を用いた場合であっても,検出抗体によって検 出感度が異なり,サンドイッチ複合体の形成に基づく検出は,抗体の組合 せによって,検出感度が大きく異なる場合があると理解されるから,モノ クローナル抗体を用いてサンドイッチ複合体の形成に基づく検出を行う場 合には,適切な抗体を組み合わせて用いる必要があると認められる。 本件取消決定が認定した引用発明1のラテラルフローデバイスも,サン ドイッチ複合体の形成に基づく抗原の検出デバイスであるから,P1タン パク質に対するモノクローナル抗体を用いて,患者サンプル中のマイコプ ラズマ・ニューモニエを検出するラテラルフローデバイスを作るためには, 第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体として適切な組合 せのモノクローナル抗体を用いる必要があると認められる。 そこで,第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体の組合 せに関して引用例1の記載を検討するに,引用例1には,ラテラルフロー デバイスに用いる二つの抗体について,具体的なモノクローナル抗体の組 合せを示す記載は見当たらない。また,本件出願時において,ラテラルフ ローデバイス等のサンドイッチ複合体を形成できる具体的なモノクローナ ル抗体の組合せが周知であったことを示す証拠もない(引用例2の199 頁図1の左側のグラフに示されている実験において,P1.25とM74 は,それぞれ,抗P1−IgG又は抗Mp−IgGを捕獲抗体とした場合 に,抗原を検出可能としていることから,当該捕獲抗体と抗原とからなる\nサンドイッチ複合体を形成するものと考えられるが,引用例2に記載され ていることをもって,直ちにこれらの抗体が周知であるということはでき ないし,そもそも,当該捕獲抗体はいずれもポリクローナル抗体であるか ら,異なる二つのモノクローナル抗体の組合せが明らかにされているとは いえない。ほかにサンドイッチ複合体を形成できる具体的なモノクローナ ル抗体の組合せを明らかにする証拠はない。)。 次に,引用例1に記載された具体的なイムノクロマトグラフィー(IC T)デバイスについての唯一の実施例である実施例4は,抗rCARDS 抗体を用いたもので,P1タンパク質に対する抗体を用いたものではない。 また,引用例1におけるP1タンパク質に対する抗体に関する具体的な記 載は,実施例3のみであるが,実施例3における抗原の検出は,サンドイ ッチ複合体の形成とは異なる,市販の二次抗体である抗ウサギ又は抗マウ ス抗体を用いた方法によるものである。したがって,これらの実施例の記 載から,サンドイッチ複合体を形成可能なモノクローナル抗体を知ること\nはできない。
さらに,引用例1には,P1タンパク質に対するモノクローナル抗体と して,マウスのモノクローナル抗真正P1タンパク質抗体H136E7(【0 012】)とrP1に対するモノクローナル抗体(【0096】)に関す る記載があるが,P1タンパク質に対する具体的なモノクローナルは,H 136E7が記載されているにとどまり,rP1に対するモノクローナル 抗体については,その当該モノクローナル抗体を生産する細胞株も,モノ クローナル抗体のアミノ酸配列等の情報も,H136E7とのサンドイッ チ複合体の形成の有無に関する手掛かりとなる情報も記載されていない。 このような引用例1の記載に基づいて,ラテラルフローデバイスを作るた めには,モノクローナル抗体として一つはH136E7を用いるとしても, もう一つ,H136E7とサンドイッチ複合体を形成可能な別のモノクロ\nーナル抗体を用いる必要があるが,引用例1には,そのようなモノクロー ナル抗体の構造について手掛かりとなる記載がなく,何らかの方法でモノ\nクローナル抗体を入手し,それらのモノクローナル抗体が,H136E7 とサンドイッチ複合体を形成可能であるかを調べ,試行錯誤によって,H\n136E7と組み合わせて患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニ エを検出するラテラルフローデバイスを構成できるモノクローナル抗体を\n見つけ出す必要がある。
以上を踏まえれば,たとえ様々なモノクローナル抗体を得る技術自体は 周知技術であるとしても,本件取消決定が認定した引用発明1のラテラル フローデバイスは,引用例1の記載及び本件出願時の技術常識から,直ち に作ることができるものとはいえない。 したがって,引用例1に引用発明が記載されている(あるいは,記載さ れているに等しい)ということはできない。

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平成29(ワ)22884  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年10月5日  東京地方裁判所

 特許に無効理由があるとして、104条の3で権利行使不能と判断されました。原告はアイリスオーヤマです。
 相違点1−2’は,単に公然実施品1において,「補強板」であるサッシュを金 属板からなる補強板とサッシュに分けて,補強板をサッシュに当接させるようにす れば実現される構成にすぎない。
また,公知技術である特開2002−270353号(乙13。以下「乙13公 報」という。)や公知技術である特開平7−6869号(乙11。以下「乙11公 報」という。)には,誘導加熱調理器においてサッシュと本体ケース連結金属板と を別部材により構成して両者を当接させてねじで接合することが記載されている。\n製造コストが高い機械加工により製造した部品を,製造コストが安い機械加工であ るプレス加工により製造するために金属板部品に置き換えることは,原告も主張す るとおり,機械加工分野における技術常識であるから,公然実施品1において製造 コストを下げるために乙13公報及び乙11公報に示されたプレス加工可能な金属\n板を採用することは当業者における単なる設計的事項の適用の問題にすぎず,極め て容易になし得ることである。 なお,原告は,相違点1−2は,トッププレートの幅を本体ケースよりも大きく したことに関連して新たに見出した課題に関するものであると主張するが,これは 相違点1−1の存在を前提とした主張であって前提において誤りである。また,原 告は,公然実施品1のサッシュをサッシュと金属板とに分けることに想到し得たと しても,金属板を長くする理由はなかったと主張するが,公然実施品1のガラス板 を長くすれば,それに伴い,サッシュと本体ケースを接続する金属板を長くするこ とは当然であるから,原告の主張は失当である。
c 小括
以上によれば,本件発明は,公然実施品1と同一であるか,本件出願日当時,当 25 業者が公然実施品1に基づいて容易に発明をすることができたものであって,新規 性又は進歩性を欠く。よって,本件特許は特許法29条1項2号又は同条2項に違 反してされたものであって,同法123条1項2号の無効理由があるから,特許無 効審判により無効とされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(特許 法104条の3第1項)。

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平成29(行ケ)10133  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年10月24日  知的財産高等裁判所

 引用発明の認定を争いましたが、引用文献には開示がないとして、無効でないとした審決が維持されました。
 原告は,「個人的に記録されたカセット」においては,オーバーライト の可能性がない場合には記録が可能\とされ,オーバーライトの可能性が発\n見された場合には,3つの態様(1)「記録機能は全く阻止される」,2)「問 い合わせおよび確認の後トリガされ得る」,3)「更に個々の記録に対して 記録機能の全くのブロッキングを付加データに対して設けられたメモリ\nの箇所における相応のエントリにより行なわせることもできる」)のいず れかによって「既に存在している記録の不本意乍らのオーバーライトない し消去の防止」が図られること,そのうちの1)の「記録機能は全く阻止さ\nれる」の態様の場合には,第2バイトの情報によって,カセット全体につ いて「追加記録または再生のみ可能」という用途に応じた記録の制御が行\nわれることが記載されているとして,引用発明1の第2バイトの情報(「x 01」)は,「追加記録または再生のみ可能」という用途を指示する「用\n途識別情報」(構成要件F)に該当する旨主張する。
(ア) そこで検討するに,甲1の記載事項(前記(2)ア(ア),(エ)ないし (キ),図2)によれば,甲1には,1)甲1記載の「磁気テープカセット 用メモリ装置」は「制御データを含んでおり,該制御データによっては 記録および/又は再生機器の動作モードの選択的ブロッキングが可制 御であることを特徴とする」こと(請求の範囲1項),2)「個人的に記 録されたカセット」の場合,「第2のメモリ領域にてカセットが個人的 使用のものであることが当該識別子により指示される場合次のメモリ 領域の分割も規定」され,また,第2バイトの「次のメモリ領域」(第 3バイト以降)には,初期時間及び終了時間と付加的に情報に対する複 数のバイトからなるデータセットが設けられていること,3)個人的に記 録されたカセット」の「2.1記録上の保護」として,「既に存在して いる記録の不本意乍らのオーバーライトないし消去の防止は次のよう にして達成される,即ち実際のテープ位置とメモリにおけるエントリと の比較を記録装置が常に行うようにするのである。当該比較によりオー バーライトの可能性のないことが指示された際のみ記録機能\がトリガ される。但しオーバーライトの可能性が発見されると,記録機能\は全く 阻止されるか,又は問い合わせおよび確認の後トリガされ得る」こと, 4)個人的に記録されたカセット」の「2.2チャイルドプルーフのブロ ック」として,「さらなる機能はそれぞれの個々の記録に対する再生の\nブロックの初期の解放(レリーズ)である。このことは同様に付加デー タに対して設けられた箇所にてエントリにて行われ得る。そのようにし て,正当な権限のないものに対する再生を例えば子どもによる不当な操 作に対する防止保護の形態で阻止することができる」ことが記載されて いるものと認められる。
上記記載を総合すれば,甲1には,「個人的に記録されたカセット」 の「第2バイト」(第2のメモリ領域)に記憶されている識別子により カセットが「個人的使用のもの」であることが指示され,それに対応し た用途として記録及び再生の双方が可能となることを前提として,第2\nバイトの「次のメモリ領域」(第3バイト以降)に設けられた「エント リ」によって「既に存在している記録の不本意乍らのオーバーライトな いし消去の防止」といった記録再生機器の記録動作の制御や「正当な権 限のないもの」に対する「再生のブロック」といった記録再生機器の再 生動作の制御を可能(「可制御」)としたことが開示されているものと\n認められる。
そうすると,引用発明1(「個人的に記録されたカセット」による発 明)の「第2バイト」に記憶されている情報(「x01」)は,記録再 生機器に対して,記録及び再生の双方が可能というカセットの用途に対\n応した記録動作又は再生動作の制御内容を示す情報に相当するものと いえるから,本件発明の「用途識別情報」に該当することが認められる。 また,甲1の記載事項(前記(2)ア(キ),図2)によれば,引用発明 1においては,追加記録のみ可能,すなわち,上書き禁止の制御は,「第\n2バイト」の次のメモリ領域(第3バイト以降)の付加データに対して 「エントリ」(図2記載の第13バイトの「付加データ 本例 オーバ ライト阻止」)を設けることによって行われていることからすると,第 2バイトの「x01」は,「追加記録または再生のみ可能」の用途を示\nすものとはいえない。
さらに,「個人的に記録されたカセット」においては,「既に存在し ている記録の不本意乍らのオーバーライトないし消去の防止」の態様と して,2)及び3)の態様もあり得ることに照らすと,「個人的に記録され たカセット」であることを示す第2バイトの識別子のみによって,1)な いし3)の態様を区別することは困難である。
(イ) 以上によれば,引用発明1の第2バイトの情報(「x01」)は, 「追加記録または再生のみ可能」という用途を指示する情報であるとの\n原告の前記主張は採用することができない。
イ 以上によれば,引用発明1は,構成要件Fの「ユーザが改変することが\nできず,前記磁気テープに対して追加記録または再生のみ可能」とされて\nいる「用途識別情報」に相当する構成を備えていない点において,本件発\n明と相違するから,結論において,本件審決における相違点2の認定に誤 りはない。

◆判決本文

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◆平成29(行ケ)10134

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平成30(ネ)10020 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年10月18日  知的財産高等裁判所(1部)  大阪地方裁判所

1審と同様に、29条1項3号違反の無効理由ありとして、権利行使不能と判断されました。控訴人(1審原告)は、訂正の再抗弁を主張しませんでした。
(エ) 以上より,乙1公報には,以下の乙1発明が記載されていると認められる。
携帯用光学式カード1などの表面の所定領域を白色に形成した情報記録領域2を,一方向に等間隔で複数の単位情報記録領域2−1〜2−nに区分けし,単位情報記\n録領域2−1〜2−nそれぞれを,マトリクス状に2×2の四つの単位領域a〜d に区分けし,各単位情報記録領域は,隣接する四つの単位領域a〜dごとに「マー ク無し」,「マーク有り」の二つの状態を記録するカルラコードにおいて,隣接す る四つの単位領域a〜dに対して,「マーク有り」の状態の単位領域には,赤色の 第1のマークMK1,緑色の第2のマークMK2及び黄色の第3のマークMK3の いずれかを印刷し,上記三色のマークに加え白色の四色で4値の情報を一の単位領 域に対して与えることで,2×2のマトリクスを形成する隣接する四つの単位領域 からなる一の単位情報記録領域2−1では4値の組合せで44=256種類の情報 の記録が可能なコード。
(3) 本件発明と乙1発明との対比
ア 「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域を二次元的な配列で並べて形成され」(構\成要件A)について
(ア) 乙1発明の「単位領域」は,「単位領域a〜dごとに『マーク無し』, 『マーク有り』の二つの状態を記録するものである。ここで,乙1発明の「マーク」 は,「赤色の第1のマークMK1,緑色の第2のマークMK2及び黄色の第3のマ ークMK3のいずれかを印刷し」たものであるから,「マーク有り」の状態の単位 領域は,「赤色,緑色,黄色の三色」のうちいずれかの色を表示するものである。また,乙1発明の「単位領域」は「白地に形成した情報記録領域2」を区分けした\nものであるから,「マーク無し」の状態の単位領域は「白色」を表示するものである。\nしたがって,乙1発明の「単位領域」は,第1のマークMK1,第2のマークM K2及び第3のマークMK3のいずれか又はマークなしを表示する「表\示領域」に 相当する。
(イ) また,乙1公報の「単位領域」に赤色(第1のマークMK1),緑色(第 2のマークMK2),黄色(第3のマークMK3)及びマーク無し(白色)のいず れが表示されているかを判別する手法として,乙1公報には,第1の光源及び第2の光源のそれぞれから波長の異なる放射光を単位領域に照射し,単位領域により反\n射された光のレベルによって,上記放射光に対する吸収率ないし反射率の高いマー クが記録されているものと判定して単位領域の色を判別する手法(【0030】〜 【0033】,【0035】〜【0038】,【0040】,【0041】,【0 043】)が記載されている。この記載に鑑みれば,乙1発明は,色ごとに反射の 波長特性が異なることを利用した技術であることが理解できる。そうすると,乙1 発明の「単位領域」は,反射の波長特性が異なる4種の色のいずれかを表示する領域といえることから,本件発明の「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表\示領域」に相当する。
(ウ) さらに,乙1発明の「単位領域」は,一つの単位情報記録領域を「マトリ クス状に2×2の四つの単位領域a〜dに区分け」したものであるから,乙1発明 の単位情報記録領域は,四つの「単位領域」をマトリクス状に2×2に配列したも のといえる。同様に,乙1発明の単位情報記録領域は,「情報記録領域」を一方向 に等間隔で複数(n個)に区分けしたものであるから,乙1発明の「情報記録領域」 は,単位情報記録領域を一方向に等間隔で複数(n個)配列したものといえる。 そうすると,乙1発明の「情報記録領域」は,「単位領域」をマトリクス状に2 ×2に配列した単位情報記録領域を一方向に等間隔で複数(n個)配列したもの, すなわち,「単位領域」をマトリクス状に2×2nに配列したものといえるところ, 表示領域に相当する「単位領域」をマトリクス状に2×2nに配列することは,「単位領域」を縦方向に2行,横方向に2n列に並べること,すなわち,縦方向及\nび横方向からなる二次元的な配列で並べることにほかならない。
(エ) したがって,乙1発明と本件発明とは,「反射(又は放射)の波長特性が 異なる3種以上の表示領域を二次元的な配列で並べて形成され」ている点で共通する。
イ 「この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表\示の要素とした」 (構成要件B)について
(ア) 乙1発明の「単位情報記録領域」のそれぞれは,「44 =256種類の 情報の記録が可能」であるから,256種類の情報のうち1種類を表\示する「情報 表示の要素」といえる。
(イ) また,乙1発明では「2×2のマトリクスを形成する隣接する四つの単位 領域からなる一の単位情報記録領域では4値の組み合わせで44 =256種類の 情報の記録が可能」となるところ,当該「4値」は,「単位領域」に記録された「第1のマークMK1」,「第2のマークMK2」及び「第3のマークMK3」並\nびに「マーク無し」の状態に対応するそれぞれ異なった反射の波長特性を持つ4色 によって単位領域に与えられたものである。そうすると,乙1発明の「4値の組み 合わせ」は,本件発明の「表示領域の波長特性の組み合せ」に相当する。
(ウ) したがって,乙1発明の反射の波長特性が異なる「三色のマークに加え白 色の四色で4値の情報を一の単位領域に対して与えることで,2×2のマトリクス を形成する隣接する四つの単位領域からなる一の単位情報記録領域2−1では4値 の組合せで44=256種類の情報の記録が可能」であることは,本件発明の「この配列における表\示領域の波長特性の組み合せを情報表\示の要素とした」ことに相\n当する。
ウ 「ことを特徴とする二次元コード」(構成要件C)について
上記アによれば,乙1発明の「コード」は,「反射(又は放射)の波長特性が異 なる3種以上の表示領域を二次元的な配列で並べて形成され」たものであって,四つの単位領域からなる単位情報記録領域に対して「44 =256種類の情報の記 録が可能」であるから,情報を4色の単位領域の二次元的な配列によって記録したものである。\n「コード」には「情報を表現する記号・符号の体系。また,情報伝達の効率・信頼性・守秘性を向上させるために変換された情報の表\現,また変換の規則。」といった意味があるところ,本件明細書及び乙1公報は,いずれも「コード」につき上 記の意味において使用しているものと理解される。 そうすると,乙1発明の「コード」は,4色のうち1色を取る単位領域を二次元 的に配列したコードであるといえ,本件発明の「二次元コード」に相当する。この ことは,乙1公報に「本発明は,カルラコードなどマーク状に情報が記録された光 学式カードおよびその読取装置に関するものである。」(【0001】)との記載 や,カルラコードが二次元バーコードの一種であること(本件明細書【0048】, 甲25)とも整合する。
エ 小括
以上を総合すると,本件発明と乙1発明とは,「反射又は放射の波長特性が異な る3種以上の表示領域を二次元的な配列で並べて形成され,この配列における表\示 領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素としたことを特徴とする二次元コード。」である点で一致し,相違するところがない。\n(4) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,本件発明は,一次元コードでは多くの情報を表示するためにはバーコードラベルが大型化し実用的でなくなるという課題を解決するためのものであ\nり,二次元コードにおける「二次元」とは,単に表示領域が二次元方向に幾何学的に配列されているのみではなく,この組合せにより二方向に情報表\示の要素を有することを意味するなどと主張する。 しかし,そもそも,本件発明の構成要件において二次元的に配列されるとするのは「表\示領域」であって,「情報表\示の要素」を二次元的に配列にすることは規定\nされていない。そして,乙1発明においては,本件発明の「表示領域」に相当する「単位領域」が「2×2nに配列」されていることは,上記のとおりである。\nまた,本件明細書は,「バーの本数を増加したロングバーコードと標準型のバー コードを並べて印刷することにより,情報表示量の不足をカバーしようと」する方法は「根本的な解決策にはなっていない。」(【0005】),「モノクロ…のバ\nーコードで,このような多くの情報を表示しようとすると,表\\示パターンが複雑化 すると共にバーコードラベルが大型化し,実用的でなくなる」(【0006】), 及び「モノクロの情報コードの情報表示量の限界のため実用的なシステムを作ることは困難」(【0008】)との問題点を指摘した上で,「本発明は,表\示パターンを変えなくても表示できる情報量を大幅に増大して,上記問題を解決できる情報コードを提供することを目的とする。」(【0009】)として,本件発明の課題\nを提示している。これらによれば,本件発明はモノクロのバーコードで多くの情報 を表示するためにはバーコードラベルが大型化し実用的でなくなるという課題を解決するためのものであって,必ずしも一次元コードにおける課題を解決するための\nものではないと認められる。そうすると,控訴人の主張は,本件発明の課題につい ての誤った認定に基づいたものというべきである。 その点をおくとしても,情報表示の要素を一次元に並べた場合(乙1発明)と二次元的に並べた場合(控訴人主張に係る本件発明)とで,必要な情報表\示の要素数及び表示領域の数に変化はない。そうである以上,情報表\\示の要素を二次元的に並 べた二次元コードにより控訴人主張に係る本件発明の課題が解決されるとは必ずし も認められない。控訴人の主張は,本件発明の課題解決手段についての誤った前提 に基づいたものである。 さらに,控訴人は,乙1発明におけるコードの読取方法から,乙1発明のコード の情報表示の要素は水平方向のみにしかないと指摘する。しかし,前記のとおり,本件発明が二次元的に配列していると規定するのは「情報表\示の要素」ではなく「表示領域」である。また,乙1発明の読取装置が,光学式カードを長手方向に間欠送りするという動作と,カード送り方向と直交する方向に走査するという動作と\nを共に必要とするということは,当該カードに記録されたコードは,二つの方向で, すなわち二次元的に読み取る必要があることを示すものであり,当該コードの表示領域は二次元的な配列で並べられているものと理解するほかない。
イ 控訴人は,本件発明の「コード」とは,独立コード,すなわち,コード化の 対象となる情報を表すシンボル(有意情報)と,バーコードに記載されているデータを読み取るために必要な取り決め(構\造情報)の二つの要素を含むものを意味するなどと主張する。 しかし,本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書のいずれの記載にも,「二次 元コード」ないし「コード」を限定する趣旨の規定はない。また,本件明細書【0 048】においては,本件発明の「二次元コード」の例示としてカルラコードが挙 げられていることからすると,かえって,本件発明にいう「二次元コード」又は 「コード」は,それが構造情報を有するものか否かは問わないものであると解するのが相当である。\nさらに,本件発明が「構造情報」を有しないコードであるカルラコードが普及しなかったことを受けて開発されたものであることは,本件明細書に記載されておら\nず,立証もされていない。有意情報と構造情報とを共に備えない限りコードが発明として成立しないことも,何ら立証されていない。\nその他控訴人がるる指摘する点を考慮しても,この点に関する控訴人の主張は採 用し得ない。
ウ 控訴人は,乙1発明では波長特性の組合せが情報表示の要素とされていないなどと主張する。\nしかし,前記認定のとおり,乙1発明は,反射の波長特性が異なる「三色のマー クに加え白色の四色で4値の情報を一の単位領域に対して与えることで,2×2の マトリクスを形成する隣接する四つの単位領域からなる一の単位情報記録領域2− 1では4値の組合せで44=256種類の情報の記録が可能」なものであり,「この配列における表\示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素とした」ものであ\nるから,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。 エ 控訴人は,本件発明と乙1発明とは技術方式における相違があるなどと主張 する。 しかし,その指摘に係る情報波長特性の組合せ組成方式,情報領域に記録される 情報記録方式,情報領域に記録された情報の読み取り方式のいずれについても,本 件発明に係る特許請求の範囲に記載されたものではなく,また,本件明細書にも, 本件発明につきそのような限定がされていることをうかがわせる記載が見当たらな いことなどから,この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

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◆平成29(ワ)780

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平成29(行ケ)10106  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年10月22日  知的財産高等裁判所

 知財高裁2部は、進歩性違反無しとした審決を取り消しました。審決は予測できない効果があると認定しましたが、裁判所は、比較対象や有効性の程度を当業者が推論できないと判断しました。\n
 甲1発明の医薬は,治療的有効量の抗HER2抗体を含有する医薬で あるが,前記2(1)オによると,本件優先日当時,1)抗HER2抗体は,HER2蛋 白の細胞外領域に対し結合することにより,HER2蛋白を過剰発現する乳がん細 胞の増殖を抑制するとともに,抗体依存性細胞障害(ADCC)を示すこと,2)H ER2蛋白の過剰発現は,転移性乳がんに限らず,初期乳がんの25%〜30%で 観察されること,3)HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有する転移性乳がん患者の 臨床試験では,パクリタキセルを含む特定の化学療法剤の単独投与群に比べて,そ の化学療法剤と抗HER2抗体の併用投与群の方が病勢進行の期間(無増悪期間) が長期化し,全奏効率(ORR)が向上し,反応期間の中央値が長期化し,1年間 の生存率が高まるなど,抗腫瘍効果が増強されることが観察されたこと,4)抗HE R2抗体の臨床試験では,単剤投与においても,化学療法剤との併用投与において も,HER2蛋白をより強く発現している症例の方が抗腫瘍効果,無増悪期間とも に優れている傾向にあったことは,いずれも技術常識であったものと認められる。 また,前記2(3)エによると,本件優先日当時,乳がんの治療薬の開発においては, 転移性乳がんの患者に対する抗がん効果を踏まえて,手術可能乳がんの患者に対す\nる抗がん効果を確認することになることは,技術常識であったものと認められる。 そして,これらに,本件優先日前に頒布された刊行物であり,「乳がんのための術 前補助療法の将来的方向」を表題とする甲2には,抗HER2抗体とドキソ\ルビシ ン,シクロホスファミドを転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介し た直後に,「一次化学療法と組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がん の患者で評価されるべきものである」と記載されている(前記2(1)イ(ア)(カ))ことを 総合すると,甲1に接した当業者は,HER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がん\nの治療のために,治療的有効量の抗HER2抗体を含有する医薬である甲1発明の 医薬を適用することを容易に想到するものと認められる。
(イ) 前記2(1)オ,(2)エによると,本件優先日当時,1)乳がんにおいて,乳 房温存の成否は一般に女性のQOL(生活の質)に大きな影響を与えるところ,術 前補助療法は,手術をより容易とし,乳房温存も高率に可能とすることが示されて\nいたこと,2)手術可能乳がんにおいて,術前化学療法,次いで外科的に腫瘍を除去\nし,更に術後補助化学療法を行うことは,一般的治療法として行われていること, 3)HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有する転移性乳がん患者の臨床試験では,パ クリタキセルを含む特定の化学療法剤の単独投与群に比べて,その化学療法剤と抗 HER2抗体の併用投与群の方が病勢進行の期間(無増悪期間)が長期化し,全奏 効率(ORR)が向上し,反応期間の中央値が長期化し,1年間の生存率が高まる など,抗腫瘍効果が増強されることが観察されたことは,技術常識であったと認め られる。また,本件優先日前に頒布された刊行物である甲3には,HER2過剰発 現の転移性乳がん患者に対する抗HER2抗体とパクリタキセルなどの化学療法剤 の併用投与が化学療法剤の単独投与に比べて全寛解率,進行までの中央値時間とも 優れた効果を発揮したことを紹介した上で,「転移性状況や術後補助状況で成功す ることが分かっている新規の化学療法戦略はまた,術前処置においても潜在的に適 用されうる」と記載されている(前記2(1)ウ(オ)(カ))。 そして,これらに,本件優先日前に頒布された刊行物であり,「乳がんのための術 前補助療法の将来的方向」を表題とする甲2には,抗HER2抗体とドキソ\ルビシ ン,シクロホスファミドを転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介し た直後に,「一次化学療法と組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がん の患者で評価されるべきものである」と記載されている(前記2(1)イ(ア)(カ))ことを 総合すると,甲1に接した当業者が,HER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がん\nの治療のために,手術前に甲1発明の医薬を化学療法剤と併用投与し,手術を行い, 更に手術後に甲1発明の医薬を化学療法剤と併用投与することは,容易に想到し得 たものと認められる。
イ(ア) 被告は,本件優先日当時,トラスツズマブの生体内における作用機序は 未だ研究対象であり,化学療法についても投与計画について検討が続けられており, いずれの文献にも,乳がんの治療において,抗体を術前投与するという記載は全く 存在していなかったから,未だ承認されたばかりの新規の抗体を,その奏効が確認 されつつあった化学療法剤の術前投与に代えて,又は加えて,投与してみることは, 当業者であればこそ考えないなどと主張する。 しかし,前記アのとおり,抗HER2抗体である甲1発明の医薬を手術前に化学 療法剤と併用投与することは,当業者が容易に想到し得たものである。 また,前記2(1)オのとおり,抗HER2抗体には心毒性があり,投与により心室 機能不全及びうっ血性心不全が起こり得るものと認められるが,甲1発明の医薬は\n転移性乳がんの患者を対象とした医薬製剤として承認されているものであり,手術 可能乳がんの患者に対する適用をためらわせるほどに安全性に問題があるものとは\n認められない。
(イ) 被告は,甲2について,論文全体を通じて,最適な治療レジメンにおい ては,まず化学療法が行われ,他の治療法は時間的に後で実施されると明確に述べ ているなどと主張するが,甲2は,「乳がんのための術前補助療法の将来的方向」と いう表題の論文であり,抗HER2抗体とドキソ\ルビシン,シクロホスファミドを 転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介した直後に「一次化学療法と 組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がんの患者で評価されるべきも のである」と記載されているのであるから,早期乳がんの患者に対して抗HER2 抗体と化学療法を組み合わせて術前に処方することが示唆されているということが でき,前記アのとおり,甲2の記載は抗HER2抗体である甲1発明の医薬を手術 前に化学療法剤と併用投与することを動機付けるものということができる。
(ウ) 被告は,転移リスクの高いがん(既に転移したがん)の細胞は,原発部 位に留まるがんの細胞とは性質が異なるなどと主張する。 しかし,前記2(3)ウのとおり,本件優先日当時,がんにおいて,転移巣の組織像 は基本的には原発巣と同一であると考えられていたところ,被告は,HER2蛋白 を過剰発現した転移性乳がんの細胞とHER2蛋白を過剰発現した手術可能乳がん\nの細胞とのいかなる性質の違いが,どのような理由によりHER2蛋白の細胞外領 域に対し結合する抗HER2抗体(標的化治療薬)をHER2蛋白を過剰発現した 手術可能乳がんの細胞に適用することの支障となり得るのかを具体的に主張してお\nらず,HER2蛋白を過剰発現した転移性乳がんの細胞とHER2蛋白を過剰発現 した手術可能乳がんの細胞との性質の違いが,HER2蛋白の細胞外領域に対し結\n合する抗HER2抗体(標的化治療薬)をHER2蛋白を過剰発現した手術可能乳\nがんの細胞に適用することの支障となることを示す証拠も見当たらない。 したがって,被告の上記主張は,前記アの判断を左右するものとは認められない。
(4) 本件特許発明1の効果について
ア 前記1のとおり,本件訂正明細書には,本件特許発明1の効果として, 臨床試験の結果などは示されておらず,「上記の治療方法に従って治療された患者 は,全体的に改善された生存者,及び/又は腫瘍の進行時間(TTP)の延長を示 すであろう。」(【0119】)との記載があるにとどまる。 ところで,前記2(1)(2)の各刊行物の記載からすると,乳がんにおいて,生存率及 び腫瘍の進行時間(TTP)は,抗がん剤の効果を図る一般的な指標であると認め られるところ,上記の本件訂正明細書の記載は,生存率の改善及び腫瘍の進行時間 (TTP)の延長がいかなる対象(例えば,手術のみを行った場合か,手術と術後 化学療法を行った場合か,術前化学療法と手術と術後化学療法を行った場合か,術 前化学療法と手術と抗HER2抗体の術後投与を行った場合か,手術可能乳がんに\n対し抗HER2抗体投与のみを行った場合か)と比較して達成されるものであるの かという比較対象や,生存率の改善や腫瘍の進行時間(TTP)の延長がいかなる 程度達成されるのかという有効性の程度については,何ら記載されていない。また, 本件訂正明細書の記載から,その比較対象や有効性の程度を当業者が推論できるも のとも認められない。 そうすると,本件特許発明1の効果は,本件特許発明1の医薬がこれを投与しな い場合と比較して生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的 効果を有することにとどまるものとするのが相当である。 そして,前記2(1)アのとおり,甲1には,HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有 する転移性乳がん患者に対し,甲1発明の医薬を特定の化学療法剤(1)パクリタキ セル,2)アントラサイクリン〔ドキソルビシン又はエピルビシン〕及びシクロホス\nファミド)と併用投与すると,その化学療法剤を単独投与された患者に比べ,病勢 進行の期間が著しく長期化し,1年間の生存率が高まることが記載されているから, 当業者は,甲1発明の医薬が,HER2蛋白を過剰発現する転移性乳がん患者に対 し,生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果を有する ことを理解することができ,この甲1発明の医薬を本件特許発明1の工程によりH ER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がんに適用した場合に,これを投与しない場\n合と比較して生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果 を有することは,当業者が予測可能\なものである。
イ 被告は,本件訂正明細書の発明の効果の定性的な記載に基づき,具体的 な実験データを参照することは妥当であるから,甲17,19〔審判乙1,3〕に 基づき本件特許発明1には顕著な効果があるなどと主張する。 しかし,前記アのとおり,本件訂正明細書の記載及びこれから推論できる本件特 許発明1の効果は,本件特許発明1の医薬がこれを投与しない場合と比較して生存 率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果を有することにと どまる。そこで,本件優先日後の刊行物である甲17,19〔審判乙1,3〕の実 験データを,本件訂正明細書の記載の範囲で,上記定性的効果を示すという限度に おいて参酌するとしても,前記アのとおり,上記定性的効果は当業者が予測可能\な ものであるから,顕著な効果を示すものということはできない。他方,甲17,1 9〔審判乙1,3〕の実験データを,上記定性的効果を超えて参酌することは,本 件訂正明細書の記載の範囲を超えるものであるから,これを本件特許発明1の効果 として参酌することはできない。その余の本件優先日後の刊行物である甲18,2 0,21〔審判乙2,4,5〕についても,同様である。 したがって,本件優先日後の刊行物である甲17〜21〔審判乙1〜5〕につい ては,その具体的内容を検討するまでもなく,本件特許発明1に顕著な効果がある ことを示すものということはできない。

◆判決本文

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平成29(行ケ)10165等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年10月11日  知的財産高等裁判所

 進歩性有りとした審決が取り消されました。理由は動機付けあり+特段の効果が無いというものです。
 業者が,相違点2に係る本件発明6の構成,すなわち,引用発明2−1\nに係る4/2/1投与計画による本件抗体の投与を,本件発明6に係る8/6/3 投与計画による本件抗体の投与とすることを,容易に想到することができたか否か について検討する。
(イ) 前記のとおり,当業者は,本件優先日当時,乳がんの治療薬を含む一般的 な医薬品において,投与量を多くすれば,投与間隔を長くできる可能性があり,医\n薬品の開発の際には,投与量と投与間隔を調整して,効能と副作用を観察すること,\n抗がん剤治療において,投与間隔を長くすることは,患者にとって通院の負担や投 薬時の苦痛が減ることになり,費用効率,利便性の観点から望ましいということを 技術常識として有していたものである。 そして,引用例2には,本件抗体の薬物動態を観察するに当たり,本件抗体が週 1回10〜500mgの短持続期間の静脈注入が行われた旨記載されている。ここ で,週1回10〜500mgの投与は,患者の体重が60kgの場合は0.167 〜8.33mg/kg,70kgの場合は0.143〜7.14mg/kgに相当 する。そうすると,引用例2には,本件抗体を週1回8mg/kg程度までの投与 量で投与できることは,示唆されているといえる。 また,引用例2には,本件抗体の臨床試験において,本件抗体の毎週の投与と化 学療法剤の3週間ごとの投与を組み合わせるという治療方法が記載されている。 さらに,引用例2には,本件抗体の薬物動態として,本件抗体は投与量依存的な 薬物動態を示し,投与量レベルを上昇させれば,半減期が長期化する旨記載されて いる。
そうすると,上記のとおりの技術常識を有する当業者は,引用発明2−1のとお り本件抗体を4/2/1投与計画によって投与するだけではなく,本件抗体の投与 量と投与間隔を,その効能と副作用を観察しながら調整しつつ,本件抗体の投与期\n間について,費用効率,利便性の観点から,併用される化学療法剤の投与期間に併 せて3週間とすることや,本件抗体の投与量について,8mg/kg程度までの範 囲内で適宜増大させることは容易に試みるというべきである。そして,当業者が, このように通常の創作能力を発揮すれば,本件抗体を8/6/3投与計画によって\n投与するに至るのは容易である。
(ウ) 被告の主張について 被告は,本件優先日前には,4/2/1投与計画のみが臨床的に用いられ,本件 抗体の半減期も1週間程度と考えられていたから,8/6/3投与計画のように投 与間隔について半減期を大きく超える3週間にすることなどは,技術の最適化とは いえないと主張する。 しかし,引用例2には,本件抗体を週1回8mg/kg程度までの投与量で投与 できることが示唆され,また,本件抗体の投与量レベルを上昇させれば,半減期が 長期化する旨記載されている。さらに,丙323の1には,投与間隔が半減期に比 べて長い場合を前提とした留意事項が記載されている。そして,前記のとおりの技 術常識を有する当業者が通常の創作能力を発揮すれば,4/2/1投与計画による\n本件抗体の投与を,8/6/3投与計画による本件抗体の投与とすることは容易に 想到し得るものである。なお,A博士の宣誓書(乙8)には,がん専門臨床医は, 未試験の投与レジメンを実験することは患者の生命をリスクにさらすことになるか ら,本件抗体を8/6/3投与計画で投与することを動機付けられないなどと記載 されているが,臨床医が薬剤の新たな用法用量を臨床的に試みる動機付けがないこ とをもって,薬剤の新たな用法用量の開発を試みる動機付けを否定するものにはな らない。
(エ) よって,当業者は,引用例2の記載及び技術常識に基づき,相違点2に係 る本件発明6の構成を容易に想到することができたというべきである。\n
イ 効果について
(ア) 引用発明2−1に基づく本件発明6の進歩性を判断するに当たっては,相 違点2に係る本件発明6の構成に至ることが容易かどうかだけではなく,本件発明\n6が予測できない顕著な効果を有するか否かについても併せ考慮すべきであり,本\n件発明6に予測できない顕著な効果があることを基礎付ける事実は,特許権者であ\nる被告において,主張,立証する必要がある。 そして,本件において,被告は,本件抗体を8/6 可能である。そうすると,8/6/3投与計画は,相応の治療効果を維持しつつ,\n引用発明2−1と比較して投与間隔を3倍にするものということはできる。 しかし,引用例2には,本件抗体は投与量依存的な薬物動態を示し,投与量レベ ルを上昇させれば半減期が長期化すること,本件抗体を4/2/1投与計画で投与 すれば約79μg/mlのトラフ血清濃度を維持できたことが記載されている。そ して,この記載から,本件抗体を8/6/3投与計画で投与すれば,17μg/m l程度のトラフ血清濃度を維持できるであろうことは予測できる。\nそうすると,実施可能要件やサポート要件に関しては格別,進歩性に関しては,\n本件発明6が過去の臨床試験で求められる程度の治療効果を有しつつ,単に投与間 隔が3倍になったことをもって,本件発明6の治療効果が引用発明2−1と比較し て予測できない顕著なものということはできない。
(ウ) 治療効果
a 引用例2には,本件抗体を4/2/1投与計画で投与した場合の治療効果と して,16週と32週の間で,トラスツズマブ血清濃度は,定常期に達し,平均ト ラフ濃度及び平均ピーク濃度は,それぞれ,約79μg/ml,123μg/ml となったこと,化学療法剤単独の場合と比較すれば,病勢進行の期間が著しく長期 化し,1年間の生存率が高まったことが記載されている。 b 他方,本件明細書には,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合,「お よそ10−20μg/mlのトラフ血清濃度を維持」される(【0114】),「血 清中濃度が過去のハーセプチンIV臨床試験の目標トラフ血清濃度の範囲(10− 20mcg/ml)で,17mcg/mlとなることを示唆している。」(【01 16】)と記載されている。もっとも,本件明細書には,本件抗体を8/6/3投 与計画で投与した場合における,病勢進行の期間の長期化や生存率に関する具体的 な記載はない。
c ところで,本件明細書には,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合 における,病勢進行の期間の長期化や生存率に関する具体的な記載はないから,本 件発明6の治療効果は不明であって,引用発明2−1と同等の治療効果を有すると は直ちにはいえない。 また,一般にトラフ血清濃度は,一連の薬剤投与における最少の持続した有効薬 剤濃度であるから(本件明細書【0044】),一連の薬剤投与において維持され るトラフ血清濃度が高い場合には,それだけ有効薬剤濃度が高く,治療効果も高い と評価することは可能である。しかし,引用発明2−1と本件発明6のトラフ血清\n濃度を比較するに,引用発明2−1において維持されるトラフ血清濃度は約79μ g/mlであるのに対し,本件発明6において維持されるトラフ血清濃度はせいぜ い17μg/mlにとどまる。そうすると,トラフ血清濃度において比較した場合 においても,本件発明6の治療効果は引用発明2−1と同等の治療効果を有すると はいえない。 なお,本件明細書には,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合における 副作用の抑制効果に関する記載もないから,副作用の抑制という観点からも,本件 発明6は,引用発明2−1と同等の治療効果を有するとはいえない。 d よって,本件発明6が引用発明2−1と同等の治療効果を有すると認めるこ とはできない。

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平成29(行ケ)10229  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年10月3日  知的財産高等裁判所

 異議で取消決定されました。知財高裁は、引用文献の認定には誤りがあるが結論に影響しないとして、審決を維持しました。阻害要因の主張も認められませんでした。
 上記認定事実及び甲1の【0034】ないし【0036】の記載事項に よれば,甲1記載のゴルフシャフト設計装置における「スイング応答曲面」 は,ゴルファーが,シャフトの3つの設計因子である曲げ剛性,ねじれ剛 性及び曲げ剛性分布が異なる複数のゴルフクラブを使用して試打した時の 計測データから算出された移動軌跡(3次元座標データ),軸回転データ と,シャフトの設計因子(ねじり剛性,曲げ剛性及び曲げ剛性分布)の関 係式であって,「スイング応答曲面」を算出するには,シャフトの設計因 子の異なる複数のゴルフクラブを使用することが必要であるものと認めら れる。なお,甲1の【0026】の「ゴルファーは,スイングを行う際に 使用したクラブの曲げ剛性やねじれ剛性などを考慮に入れ,そのクラブ特 性にあわせたスイングを行うため,所定の特性を有する1本のゴルフクラ ブを使用してスイングの計測データを取得して,スイングの解析を行って も妥当な解析結果を得ることができない場合がある。」との記載は,ゴル フクラブが1本の場合にはシャフトの設計因子が一定のものであるためス イングの計測データから適切な「スイング応答曲面」を算出することがで きない結果,妥当な解析結果を得ることができないことを示唆するものと 認められる。 しかるところ,本件決定が認定した引用発明1においては,試打に使用 されるゴルフクラブがシャフトの設計因子の異なる複数のゴルフクラブで あることが特定されていないため,ゴルフクラブが1本のみの場合も含ま れることになるから,甲1に記載された発明の認定としては不適切であり, この点において,本件決定には誤りがあるといえる。 そして,前記アの記載事項を総合すると,甲1には,原告主張の原告引 用発明1(前記第3の1(1)ア(イ))が記載されているものと認めるのが相 当である。 しかしながら,本件発明1と原告引用発明1との一致点及び相違点は, 本件決定が認定した本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点と同様で あり(争いがない。),本件決定は相違点の容易想到性について判断を示 しているから,本件決定における上記認定の誤りは,本件決定の結論に直 ちに影響を及ぼすものではない。
・・・
これに対し原告は,原告引用発明1においてセンサーユニットをグリッ エンドに対して着脱可能に取り付ける構\成とした場合,1)試打に用いら れるゴルフクラブの総重量や重心が変わるため,原告引用発明1が意図す る本来のスイング((試打用ではない)通常のゴルフクラブを使用してス イングした際のスイング)の計測データが得られなくなる(阻害要因1)), 2)ゴルフクラブ全体の外観が変化し,試打者の視界も悪化するため,原告 引用発明1が意図する本来のスイングの計測データが得られなくなる(阻 害要因2)),3)ゴルフクラブと6軸センサとの対応関係が乱される結果, 原告引用発明1の課題を解決できなくなるおそれがある(阻害要因3))と いった重大な弊害が生じるため,原告引用発明1に相違点2に係る本件発 明1の構成を適用することに阻害要因がある旨主張する。\nしかしながら,甲1には,「ゴルフシャフトの最適設計を行う際にはゴ ルフクラブを使用するゴルファーのスイング特性を考慮に入れて,ゴルフ ァーの技量や癖を確実に把握して,技量や癖に合致したゴルフシャフトの 設計を行う必要がある。」(【0008】),「9本のゴルフクラブ1は, 6軸センサ11,送信部12等をシャフト内に挿入することによりゴルフ クラブ1の総重量が重くならないように,6軸センサ11,送信部12及 びこれらを動作させるために必要な機器全体の重量を20gに抑えている。 これにより,市販の軽量グリップを用いることで総重量の増加を抑えるこ とができるためクラブの重量増加によるスイングへの悪影響を与えないよ うにしている。」(【0029】)との記載があることに照らすと,甲1 に接した当業者であれば,原告引用発明1の6軸センサ及び送信部(セン サーユニット)をグリップエンドに対して着脱可能に取り付ける構\成とす る場合,ゴルフクラブの総重量や重心の変化によりスイングへの悪影響を 与えないようにしたり,試打者の視界を妨げないようにすることは,ゴル ファーの技量や癖を確実に把握するために当然に配慮し,通常期待される 創作活動を通じて実現できるものと認められるから,原告主張の阻害要因 1)及び2)は採用することができない。
次に,原告引用発明1の6軸センサ及び送信部をグリップエンドに対し て着脱可能に取り付ける構\成とする場合,ゴルフクラブと6軸センサとの 対応関係が乱される結果がないように設計することも,上記と同様に,当 業者が通常期待される創作活動を通じて実現できる事柄であり,また,試 打者が,複数のゴルフクラブを使用して試打を行う場合であっても,実際 に試打を行う際に使用するゴルフクラブは特定の1本であることからする と,システムの使用時に6軸センサ及び送信部の取り付けの誤りによって 上記対応関係が乱されるおそれがあるものとは考え難いし,仮にそのよう なおそれがあるとしても,それを回避する措置を適宜とることも可能であ\nるものと認められるから,原告主張の阻害要因3)も採用することができな い。
したがって,原告引用発明1に相違点2に係る本件発明1の構成を適用\nすることに阻害要因があるとの原告の上記主張は,理由がない。

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平成29(行ケ)10173  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年9月26日  知的財産高等裁判所

 新規性・進歩性が争点となった無効審判の取消訴訟です。特許図面の正確性は従前と同じく、正確性はそれほど要求されないとして、本件発明の技術思想が開示されていると判断されました。
 なお、判決文1ページに「被告は,平成17年9月30日,発明の名称を「ドライブスプロケット支持構造」とする発明につき,特許を出願し(特願2005−287276号),平成24年2月24日,設定登録(特許第4933764号)を受けた(請求項の数3。甲1。以下「本件特許」という。)。被告は,平成27年3月23日,本件特許の請求項1〜3に係る発明について特許無効審判を請求した(無効2015−800071号。甲16,乙1)。」とありますが、冒頭の「被告は,平成17年・・」は、「原告は,平成17年・・・」の誤記と思われます。
 前記の2の甲2の図1及び2において,ドライブスプロケット21 の左側張出部の外側は,変速機ハウジング51にボルト52aで固定されたカバー 52の内側に接しているよう図示されており,ドライブスプロケット21の右側張 出部の外側の右端は,変速機ハウジング張出部の内側に接しているよう図示されて いる。 しかし,甲2は,公開特許公報であり,甲2に掲載された前記2の図1及び2は いずれも特許出願の願書に添付された図面に描かれたものであるところ,一般に, 特許出願の願書に添付される図面は,明細書の記載内容を補完し,特許を受けよう とする発明の技術内容を当業者に理解させるための説明図であるから,当該発明の 技術内容を理解するために必要な程度の正確さを備えていれば足り,設計図面に要 求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。 甲2において,図1は「本発明に係るポンプハブ支持構造を有したトルクコンバ\nータおよび油圧ポンプ駆動系を示す断面図」であり,図2は,「上記ポンプハブ支持 構造部分を示す断面図」であるところ,前記2認定の甲2の記載に鑑みると,これ\nらの図面は,トルクコンバータのポンプハブの支持構造に関し,ポンプハブ11を\nステータシャフト6にニードルベアリング12によって支持し,このニードルベア リング12に対して,径方向にほぼ重なるようにして,すなわち,軸方向にほぼ同 位置において,ドライブスプロケット21がスプライン結合して,ドライブスプロ ケット21に作用する径方向力をドライブスプロケット21の内径側に位置するニ ードルベアリング12により受けるようにしたことを示すために,その位置関係を 示すべく,甲2に記載されたものであって,設計図面に要求されるような正確性を もって描かれているとは考えられない。
(イ) 前記2のとおり,甲2には,「ドライブスプロケット21に作用する 径方向力は,ドライブスプロケット21の内径側に位置するニードルベアリング1 2により受ける。このように,ニードルベアリング12およびドライブスプロケッ ト21を軸方向ほぼ同じ位置に重なるように配設することにより,ドライブスプロ ケット21に作用する力をニードルベアリング12により確実に受けることができ るだけでなく,この部分の軸方向寸法を短縮してこの部分の構造をコンパクト化す\nることができる。」(【0010】)と記載されている。したがって,甲2発明は,ド ライブスプロケット21に作用する径方向力は,ドライブスプロケット21の内径 側に位置するニードルベアリング12により受けるものである。この記載のみでは, ドライブスプロケット21に作用する径方向力を外径側でも受けるかどうかは必ず しも明らかでないものの,そのような必要性があるというべき事情は認められない 上,全体として一体化したケースに対し,ドライブスプロケットのような回転する 部材を,内周面及び外周面で同時に軸受等により支持することは,回転する部材や 周囲の部材の寸法誤差の許容範囲を狭めることになり,過度の工作精度を要求する ことになるから,通常行われるものとは考え難い(全体として一体化したケースに 対し,ドライブスプロケットのような回転する部材を,内周面及び外周面で同時に 軸受等により支持する例があることを認めるに足りる証拠もない。)。 また,回転する部材と回転しない部材が,回転する部材の回転中,一時的にしろ, 接触するような状態となることがあれば,回転する部材の円滑な回転が損なわれ, 異音が発生したり,部材の摩耗が生じるといった不具合を生じることも想定される のであって,当業者は,回転する部材であるドライブスプロケット21が,回転し ない部材であるカバー及び変速機ハウジングと接触するという設計を,通常は行わ ないと解される。 さらに,甲2の図2には,ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカ バー52の内周面との間の対向面,及び,ドライブスプロケット21の右側張出部 の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面との間の対向面の軸方向の長さ は,ニードルベアリング12の長さに比べて著しく短いものとして記載されている。 仮に,ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面との 間の対向面,及び,ドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速 機ハウジング張出部の内周面との間の対向面がすべり軸受として接するように設定 されているとするならば,ドライブスプロケットにかかる径方向の負荷が,当該接 触面である対向面にも負荷されることになるところ,この場合には,小さい接触面 に対して集中した負荷がかかることになると考えられる。そして,このような局所 的に集中した負荷は,当該接触面である対向面に潤滑油の介在があるとしても,早 期の摩耗等の不具合が生じるおそれがあるといえるから,通常行われるものではな いと解される。 以上によると,甲2発明におけるドライブスプロケット21は,その内周面がポ ンプハブ11を介してニードルベアリング12で支持されるのであって,ドライブ スプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面,及び,ドライブス プロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面は, ドライブスプロケット21の静止時のみならず回転中も接触することがないように 間隙を設定することが前提になっている,すなわち,原告が主張する技術思想2)に よるものと解することができる。

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平成29(行ケ)10193  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年9月25日  知的財産高等裁判所

 審決では進歩性なしと判断されましたが、知財高裁は「固体電解質体の表\n面が露出する程度の隙間を設定することは,記載も示唆もされていない」として これを取り消しました。
 本件審決は,本件発明1における相違点1のうち,構成要件1I) の「ジル コニア充填部に設けた電極と開口用貫通穴との隙間から,ジルコニア充填部 の表面を露出させること」に関し,引用発明2の1に甲3技術1を適用して\n接着剤表面アルミナ層とするに当たり,1) 甲3の記載から,接着剤表面アルミナ層が,第1電極や第2電極の表\面の周縁部と重複してしまうと,第1電極又は第2電極の他の部分,及び,接着剤表面アルミナ層の他の部分と比較して厚くなってしまうことから,\nアルミナからなる接着剤の層を導体層の平坦部と略面一にすることによって,各未焼成シート又は各未焼成スペーサに亀裂が発生することを防止するという目的が果たせなくなることは当業者にとって明らかであるから,アルミナからなる接着剤の層と導体層が略面一であることが必須であるのに対して,アルミナからなる接着剤の層と導体層の側面とが隙間を空けることなく接することは必須ではないことは,当業者にとって明らかである, 2) 第1電極又は第2電極の表面の周縁部に,接着剤表\面アルミナ層を隙間なく接触させるように設計又は製造を行うと,避けることのできない製造誤差により,第1電極又は第2電極と接着剤表面アルミナ層が重複することがあり得るので,そのような事態を回避するために,第1電極及び第2電極と接着剤アルミナ層との間に隙間を設けることによって余裕を持たせ,第1電極及び第2電極と接着剤表\面アルミナ層との重複を回避することは,当業者が適宜なし得ることである, 3) そして,その隙間をどの程度にするかは,製造誤差の程度等を勘案して 当業者が適宜設定し得るものであって,固体電解質体の表面が露出する程\n度の隙間とすることも適宜設定し得る範囲内のものである, と判断した。
(5) そこで検討するに,本件審決が認定したとおり,甲3には,甲3技術1が 記載されており,本件特許に係る出願当時,積層タイプのガスセンサ素子に おいて,これを構成する各未焼成シートをアルミナからなる接着剤を介して\n積層することは,当業者にとって周知の技術であったと認められる。しかし, 甲3には,1)接着剤が導体層の周縁部に重複すると,亀裂の発生を防止する ことができないから,導体層と接着剤とが隙間なく接することは必須ではな いことや,2)避けることのできない製造誤差により,接着剤が導体層の周縁 部に重複すること,また,3)製造誤差の程度を勘案して,固体電解質体の表\n面が露出する程度の隙間を設定することは,記載も示唆もされていないし, 上記1)〜3)の事項が,当業者にとって当然の技術常識であると認めるに足り る証拠も見当たらない。 仮に,「製造誤差」を考慮して接着剤の量を調整することが,当業者の技 術常識であるとしても,甲3の段落【0049】及び【0050】の記載, 及び当該段落が引用する図6〜9に接した当業者は,接着剤の量は,導体層 に設けられた平坦部と略面一となるように,すなわち,当該平坦部との間に できるだけ隙間を生じないように調整するものと理解すると認めるのが相当 である。 そうすると,引用発明2の1に甲3技術1を適用するに当たり,当業者が 「電極と接着剤との間に隙間を設ける」構成を採用する動機付けがあると認\nめることはできず,構成要件1I)に係る「上記ジルコニア充填部に設けた上記 電極と上記開口用貫通穴との隙間から,上記ジルコニア充填部の表面を露出\nさせる」構成を,当業者が容易に想到できたということはできない。
(6) 原告の主張について
この点に関連して,原告は,甲3に導体層等の周りを接着剤で埋めること についての記載はないから,導体層と接着剤とを隙間なく密着させることま でが必要とされているのではないと主張する。 甲3に,導体層等の周りを接着剤で埋めるとの文言が明記されていないの は原告が主張するとおりであるが,甲3に,上記(5)の1)〜3)の事項が記載も 示唆もされていないことは,上記(5)において説示したとおりである。 そして,甲3の段落【0049】には,接着剤を導体層における平坦部と 略面一になるように塗布したと記載されている上に,当該段落が引用する図 6及び7,並びに段落【0050】が引用する図8及び9には,当該接着剤 が導体層に隙間なく接するように塗られている図が描かれていることからす ると,これらの記載に接した当業者は,接着剤を当該平坦部との間にできる だけ隙間を生じないように塗布するものと理解するのが自然というべきであ る。

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平成29(行ケ)10171  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年9月19日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。出願時の技術常識又は周知技術に照ら調製を試みる動機付けがあるというものです。
   前記アの記載事項を総合すると,本件出願の優先日(平成7年3月25 日)当時,1)乾燥温度等の乾燥条件の調節により,水和水の数の異なる炭 酸ランタン水和物を得ることができること,2)水和物として存在する医薬 においては,水分子(水和水)の数の違いが,薬物の溶解度,溶解速度及 び生物学的利用率,製剤の化学的安定性及び物理的安定性に影響を及ぼし 得ることから,医薬の開発中に,検討中の化合物が水和物を形成するかど うかを調査し,水和物の存在が確認された場合には,無水物や同じ化合物 の水和水の数の異なる別の水和物と比較し,最適なものを調製することは, 技術常識又は周知であったものと認められる。
(4) 相違点1の容易想到性の有無について ア 甲1には,慢性腎不全患者におけるリンの排泄障害から生ずる高リン血 症の治療のための「リン酸イオンに対する効率的な固定化剤,特に生体に 適応して有効な固定化剤」の発明として,「希土類元素の炭酸塩あるいは 有機酸化合物からなることを特徴とするリン酸イオンの固定化剤」が開示 され,その実施例の一つ(実施例11)として開示された炭酸ランタン1 水塩(1水和物)のリン酸イオン除去率が90%であったことは,前記(2) イのとおりである。
前記(3)イ認定の本件出願の優先日当時の技術常識又は周知技術に照ら すと,甲1に接した当業者においては,甲1記載の炭酸ランタン1水和物 (甲1発明)について,リン酸イオン除去率がより高く,溶解度,溶解速 度,化学的安定性及び物理的安定性に優れたリン酸イオンの固定化剤を求 めて,水和水の数の異なる炭酸ランタン水和物の調製を試みる動機付けが あるものと認められる。
そして,当業者は,乾燥温度等の乾燥条件を調節することなどにより, 甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)を,水和水の数が3ないし 6の範囲に含まれる炭酸ランタン水和物の構成(相違点1に係る本件発明1の構\成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。これと異なる本件審決の判断は,前記(3)イ認定の本件出願の優先日当時 の技術常識又は周知技術を考慮したものではないから,誤りである。
イ これに対し被告は,1)甲1には,水和水の数の違いにより,リン酸イオ ン除去率に違いが生じることについての記載も示唆もないし,また,本件 出願の優先日当時,炭酸ランタン水和物の水和水の数を変更すると,リン 酸(塩)結合能力に影響が出るであろうことを示唆する技術常識又は周知技術は存在しない,2)甲1に接した当業者は,水和水の数を変更すること に着目することはなく,むしろ,甲1に列挙された各種の有機酸を含む希 土類元素の有機酸化合物を調製するか,あるいはアルカリ金属やアルカリ 土類金属を含有する複塩を調製し,リン酸イオン除去率を調べるはずであ る,3)甲1には,炭酸ランタン1水和物を用いた実施例11について,問 題となる点が何ら記載されておらず,完結した発明として記載されている から,この実施例を見た当業者は,炭酸ランタン1水和物で充分と考え, 炭酸ランタン1水和物における水和水の数を変更しようなどとは考えなか ったはずである,4)炭酸ランタン水和物は,水又は有機溶媒にほとんど溶 解しないから(甲51),溶解特性の面から水和水の数の違いについて検 討を試みる動機付けはないなどとして,甲1に接した当業者においては, 甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)を相違点1に係る本件発明 1の構成に置換する動機付けはないから,相違点1は当業者が容易に想到し得たものとはいえない旨主張する。
しかしながら,上記1)ないし3)の点については,前記(3)イのとおり,水 和物として存在する医薬においては,水分子(水和水)の数の違いが,薬 物の溶解度,溶解速度及び生物学的利用率,製剤の化学的安定性及び物理 的安定性に影響を及ぼし得ることから,医薬の開発中に,検討中の化合物 が水和物を形成するかどうかを調査し,水和物の存在が確認された場合に は,無水物や同じ化合物の水和水の数の異なる別の水和物と比較し,最適 なものを調製することが,本件出願の優先日当時,技術常識又は周知であ ったことに照らすと,甲1自体には,水和水の数の違いによりリン酸イオ ン除去率に違いが生じることや炭酸ランタン1水和物を用いた実施例11 について問題点の記載がないからといって,甲1に接した当業者において, 甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)について水和水の数の異な る炭酸ランタン水和物の調製を試みる動機付けがあることを否定すること はできない。また,リン酸(リン酸イオン)の固定化反応は,炭酸ランタ ン水和物が溶解して生成されたランタンイオンがリン酸イオンと反応する ことにより固定化するものであるところ(前記(2)ア(エ)の甲1記載事項), 上記のとおり,水和物として存在する医薬については,水分子(水和水) の数の違いが,薬物の溶解度及び溶解速度に影響を及ぼし得るのであるか ら,溶解度又は溶解速度の向上によりランタンイオンの溶存濃度を高め, ひいてはリン酸(リン酸イオン)の固定化反応の促進(リン酸結合能力)に影響を及ぼし得ることは自明である。
次に,上記4)の点については,仮に被告が主張するように炭酸ランタン 水和物は水又は有機溶媒にほとんど溶解しないとしても,上記のとおり, リン酸イオンの固定化反応は,炭酸ランタン水和物が溶解して生成された ランタンイオンがリン酸イオンと反応することにより固定化するものであ る以上,炭酸ランタン水和物が水又は有機溶媒に全く溶解しないものとは いえないこと,溶解度が低い水和物についても,無水物や水和水の数が異 なる化合物の調製の検討が行われていること(例えば,甲9では,「水に 極めて溶けにくい」エリスロマイシン(甲54)について,1水和物,2 水和物及び無水物の比較検討をしている。)(前記(3)ア(ア)bの「(1)」) に照らすと,炭酸ランタン水和物においても,水和水の数の違いが溶解度, 溶解速度,化学的安定性及び物理的安定性に影響を及ぼし得るものといえ るから,甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)について水和水の 数の異なる炭酸ランタン水和物の調製を試みる動機付けがあることを否定 することはできない。

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平成30(行ケ)10018  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年9月10日  知的財産高等裁判所

 海苔異物除去装置の無効不成立の審決が維持されました。争点は、被告が試験依頼先に配布した文書によって公然知られたか?です。
 被告は,産業機械器具等の製造等を業とする株式会社であり,平成7年頃から生 海苔異物除去装置の製造販売業に参入する方針を立て,同年8月,株式会社親和製 作所(以下「親和製作所」という。)との間で,業務提携契約を締結し,同契約に基 づき,親和製作所製造に係る生海苔異物除去装置を「ダストール」との商品名を付 して販売することになったが,平成9年秋頃から,親和製作所との関係が悪化し, 上記業務提携契約の解消を検討するようになった。 そこで,被告は,その頃,独自に,生海苔異物分離除去装置の製造をすることと し,ダストールの新型の開発に取りかかり,平成10年2月頃から,その試験機の 試験運転をするようになった。上記開発には,海苔生産者の協力が必要であったた め,被告は,上記の開発に当たって,被告の地元であるF地区で海苔生産機械等の 販売店を営み,同地区の海苔生産者とのつながりが強い西部機販の代表取締役であ\nるBに対し,上記装置の開発についての協力を依頼し,Bは,同依頼を受け,被告 に,試験運転を行う生産者を紹介し,試験機の試験運転に立ち会うなど,同開発に 協力した。 なお,西部機販は,被告が本件発明共回り防止構成を有したダストールを製造す\nるようになってからは,同ダストールを被告から仕入れて販売するようになり,A ダストールも,西部機販が被告から仕入れて,Aに販売したものである。
(イ) 本件会議の開催
平成10年4月28日,被告の技研工場において,本件会議が開催された。Bは, 被告から本件会議への出席を要請され,本件会議に出席した。 本件会議では,出席者に,本件文書が配布されたが,本件文書には,「ダストール の試験機,展示会機から新型への変更点」,「1998年4月28日 フルタ電機(株) 技研工場」との表示の下,「選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつける 選別タン ク内の海苔濃度を濃くできる事により良品タンクへの海苔濃度が濃くできる」等の 記載がある。
(ウ) 甲52特許
被告の子会社であるフルテックは,平成10年1月26日に,甲52特許の特許 出願をし,被告は,同年6月12日に,本件特許の特許出願をした。 甲52公報には,本件発明基本構成に相当する「生海苔排出口を有する選別ケー\nシング,回転板及び異物排出口を設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混 合液槽を有する生海苔異物分離除去装置」の構成が開示されている。
(エ) Aダストール及び九研ダストール
Aダストールの写真を掲載した甲第15号証には,Aダストールの型番は「ダス トールFD380D−2K」,同製品が納入された日は平成12年1月18日,同写 真の撮影日は平成28年12月3日であると記載されている。同証拠に掲載されて いるAダストールの回転板には,L字形をした板状の金具(L字金具)が取り付け られており,L字の短い方の金具の一部が回転板からはみ出している。 また,九研ダストールの写真を掲載した甲第31号証には,九研ダストールの型 番は「ダストールFD−380S」,同製品が納入された日は平成10年,同写真の 撮影日は平成29年4月25日であると記載されている。同証拠に掲載されている 九研ダストールの選別ケーシングの外周には共回り防止ゴムを取り付けるための穴 があり,また,回転板にはL字金具を取り付けるためのネジが付いている。また, 共回り防止ゴムとL字金具が袋入りで保管されている状況の写真があり,L字金具 の形状は,AダストールのL字金具の形状と同じである。
(オ) 被告と西部機販との紛争
被告は,平成27年及び平成28年に,東京地方裁判所に対し,それぞれ,西部 機販等を被告として,本件特許権の侵害を理由に,差止め及び損害賠償等を求める 訴えを提起した。なお,被告の各請求は,いずれも一部が認容され,また,同判決 に対する西部機販の各控訴はいずれも棄却された。
イ 以上の認定に対し,原告は,Bは,被告のダストールの新型の開発に協 力するよう依頼されておらず,試験運転をする海苔生産者の紹介を依頼されただけ であると主張する。 しかし,B作成の陳述書には,「G氏より開発協力を依頼された」との記載のほか, 被告に試験運転を行う生産者を紹介したこと,試験機の問題点及びその対策の具体 的内容,並びに試験機に問題が発生すると,被告の関係者を現場に呼んで,その現 象を確認してもらったことが記載されており(甲27),また,Bは,証人尋問(当 審)において,ダストールの改良のために色々とアイデアを出した旨証言しており, 上記陳述書の記載及び証言からすると,Bが被告からダストールの新型の開発の協 力を依頼され,同依頼に基づき,同開発に協力したことは明らかである。
ウ また,被告は,本件文書は,本件会議において配布されたものではなく, 本件会議の議事録を基に作成された文書である可能性が極めて高い旨主張する。\nしかし,Bは証人尋問(当審)において,平成10年4月28日に被告の技研工 場において開催された本件会議に参加して,本件文書の交付を受けた旨証言すると ころ,実際に,本件訴訟において,本件文書は,Bの保管していた資料ファイルの 一部であるとして,証拠(甲8)として提出されていること,Bが作成した日記(甲 9,25)には,本件文書に記載されている日付と同じ平成10年4月28日の欄 に,「フルタ本社より技研工場まで送ってもらう」,「フルタ本社」,「フルタ技研」,「ダストルー会議」などの記載があり,同記載は,Bの上記証言を裏付けているこ とから,Bの上記証言は信用できるというべきである。 この点について,被告は,本件文書は,その内容からすると,本件会議前に作成 されたものではなく,事後的に作成されたものであると主張するが,本件文書は, 「新型への変更点」について記載したものであるから,本件会議の前から,変更予\n定事項等によって期待できる効果や今後の対策が記載されていても不自然ではない。 したがって,本件文書は本件会議において配布されたものと認められ,被告の上 記主張は採用できない。
(2) 以上を前提に,本件文書の配布によってBに対して,本件発明の構成が開\n示されたといえるかについて検討するが,それに当たっては,特許出願時の技術常 識を考慮することができることはもとより,Bがそれまで有していた知識も考慮す ることができるというべきである。
ア まず,本件発明共回り防止構成が開示されたといえるかについて検討す\nる。
(ア) 本件文書の記載について
前記(1)ア(イ)のとおり,本件文書には,「選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつ ける 選別タンク内の海苔濃度を濃くできる事により良品タンクへの海苔濃度が濃 くできる」との記載があるが,同記載からは,「共回り防止ゴム」の形状は明らかで はなく,共回り防止ゴムの設置方法としては,例えば,選別ケースの外周全体を囲 むように付ける方法や,選別ケースの外周の一定の箇所に極めて薄いゴムを付ける 方法等種々の方法が考えられる以上,「共回り防止ゴム」を選別ケースの外周に付け た場合,同「共回り防止ゴム」の形状が突起物状のものとなるとは限らないから, 同記載から,共回り防止ゴムの形状が突起物状のものであるとの構成が開示された\nということはできない。
(イ) 技術常識及びBの知識について
本件特許出願時において,本件文書に記載された「共回り防止ゴム」の形状が突 起物であるとの技術常識があったことを認めるに足りる証拠はないし,B及びC作 成の各陳述書(甲27,29,32,70),Bの証人尋問(当審)における証言並 びにその他の証拠を検討しても,Bが,上記「共回り防止ゴム」の形状が突起物状 のものであることを理解していたとは認められない。 この点につき,Bは,共回り防止ゴムの大きさ及び形状について,主尋問におい て,「選別インペラーと選別ケースのクリアランスに入った海苔を取り除くための ものですから,それなりの大きさ,形状が必要だと思いました。」と証言し,また, 再主尋問において,「大きさとしては,・・・ドライバーの先端くらいの大きさだと 思います。」と証言する。 しかし,Bの主尋問における上記証言は,抽象的であり,前記(ア)のとおり,選別 ケースの外周に取り付ける共回り防止ゴムの形状及び大きさは種々のもの考えらえ ることからすると,同証言内容からは,共回り防止ゴムの形状が突起物状のもので あると認識していたとは認められない。また,Bの再主尋問における上記証言につ いても,本件文書が交付されたのは,Bの証人尋問が行われた日の20年以上も前 のことであり,Bが,その頃の認識を正確に記憶しているとは考え難いこと,Bは, 本件会議後に本件発明共回り防止構成を備えたダストールの販売をしており,その\n構造についての知識があること,Bは,L字金具を取り付けたAダストールを販売\nしており,「ドライバーの先端くらいの大きさ」という証言も,上記L字金具を念頭 に置いたものと考えると,形状の点で整合することからすると,Bは,本件会議後 に得た認識と本件会議における認識とを混同している可能性も十\分考えられるとい うべきである。また,そもそも,前記ア(オ)のとおり,Bが代表者を務める西部機販\nは,被告から,本件特許権の侵害を理由とした損害賠償請求等の訴えを提起された ことがあり,このようなBの立場を考慮すると,この点からしても,Bの上記証言 の信用性には疑義があるというべきである。 以上の点を考慮すると,Bの上記証言から,Bが,本件会議の時点で同証言のと おりの認識を有していたと認めることはできない。
(ウ) なお,本件会議における説明を考慮するとしても,本件会議は本件特 許が出願された平成10年6月12日の1か月半前の同年4月28日に開催されて いるが,本件会議が開催された時点では,本件発明の具体的内容が固まっていない ことも十分考えられるから,共回り防止ゴムの具体的な形状等の本件発明共回り防\n止構成のうちの具体的な構\成については本件会議で説明されなかったことも十分考\nえられるというべきである。そして,本件会議に出席したBも,証人尋問(当審) において,本件会議で共回り防止ゴムの形状や大きさについての話がされたか否か は覚えていない旨証言しており,また,C陳述書にも,本件会議で共回り防止ゴム の形状が突起物状のものであるとの説明があった旨の記載がなく,その他,本件会 議における説明内容について認定できる的確な証拠はない。
(エ) したがって,Bが,本件文書の配布によって,共回り防止ゴムの形状 が突起物状であると認識したと認めることはできないというべきである。
イ 以上より,本件文書の配布によって,本件発明共回り防止構成のすべて\nが開示されたと認めることはできないから,本件文書の配布によって,本件発明が, 公然知られた発明となったと認めることはできない。

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平成29(行ケ)10213  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年9月10日  知的財産高等裁判所

 本件発明の認定誤りを理由として、進歩性無しとした審決が取り消されました。 争点となった用語は「特定演出」です。
 前記第2の2(2)のとおり,本願補正発明の「特定演出」は,「前記有利 量付与決定手段により決定された有利量の付与」を「前記有利状態中」において「報 知可能」なものである(構\成要件E)。 そして,「前記有利量付与決定手段」は,「有利量を付与すること」を決定するも のであるから(構成要件C),「特定演出」における報知の対象は,有利量付与決定\n手段により有利量を付与することが決定されたという事実であると解するのが相当 である。 もっとも,「特定演出」は,「前記有利状態中」に実行されるものであるが,「前記 有利状態」は,「付与された有利量を消費することによって・・・制御」されるもの であるから(構成要件D),「特定演出」における報知の対象が,「特定演出」を実行\nする際の有利状態を制御するために消費中の有利量を付与することが決定されたと いう事実を指すのか,この消費中の有利量の付与とは別に,有利量を付与すること が決定されたという事実を指すのかは,特許請求の範囲の記載のみにより一義的に 明確に理解することはできない。
(イ) そこで,本願明細書を参酌すると,「課題を解決するための手段」欄に おいて,「特定演出(連続演出)」は,1)所定期間(50ゲーム)における残り期間 が特定期間(5ゲーム)となるまでに,前記所定期間が経過した後においても継続 して,複数種類の入賞について発生を許容するか否かを決定する事前決定手段(内 部抽選処理)の決定結果に応じた決定結果情報を報知する(ATモード中における ナビ演出を実行するための処理)か否かを決定する継続決定手段(継続抽選,図2 5)により,継続すると決定したときに,前記特定期間において実行される(図3 0,図31参照)とともに,2)前記継続決定手段で継続しないと決定したときであ っても,前記所定期間における残り期間が特定期間(5ゲーム)となってからその 所定期間が経過するまでに,所定の特別条件(特別条件,イチゴ当選)が成立した ことを条件に,前記決定結果情報を報知する期間を,前記所定期間以上の期間(5 0ゲーム,60ゲーム)延長する第2延長手段により,前記所定期間以上の期間延 長する場合に実行される(図31(c)(d)参照)とされている(【0009】,【0036】)。また,「特定演出」によって,所定期間における残り期間が特定期間とな ったときには,所定期間が経過した後においても継続して決定結果情報が報知され るか否かを煽ることができるとされている(【0037】)。 また,「発明を実施するための形態」欄においては,RTであるときであって,演 出状態がATモードであるときに,所定期間として50ゲームにわたり制御される ATモードの残りゲーム数が5ゲームとなったときに実行される「連続演出」(【0 244】,【0436】,【0440】,【図30】,【図31】)が,「特定演出」に相当するとされており(【0459】),ATモードの残りゲーム数が6ゲーム以上存在する場合に,所定表示領域の右上にATモードの残りゲーム数を表\示するAT用演出 (【0437】,【図29】)は,「特定演出」に相当するものとはされていない。そして,「特定演出」に相当するとされる上記「連続演出」は,ATモードの残り5ゲー ムにわたり一連の物語を展開する演出を行った後に,物語の結末としてATモード が継続するか否かを報知する演出であり,これにより,ATモードの残り5ゲーム にわたって,ATモードが継続することに対する遊技者の期待感を煽ることができ るとされ,味方キャラクタと敵キャラクタとが戦う演出を行った後,敵キャラクタ が倒れるとともに「WIN +1set」といったメッセージが表示されて,AT\nモードが継続することが報知されるとされている(【0443】,【0446】,【0449】,【0459】,【図30】,【図31】)。 このような本願明細書の記載によると,本願補正発明における「特定演出」は, 有利状態が継続する所定期間における残り期間が特定期間となったときに,上記所 定期間が経過した後においても上記有利状態が継続することに対する遊技者の期待 感を煽ることを目的とするものであって,「特定演出」を実行する際の有利状態を制 御するために消費中の有利量を付与することが決定されたという事実を報知するも のを含むものではなく,上記所定期間経過後に継続して有利状態を制御するための 有利量など,現に消費中の有利量とは別の有利量を付与することが決定されたとい う事実を報知するものであると解するのが相当である。
イ 引用発明1の「チャンスゾーン演出」について 引用発明1の「チャンスゾーン演出」(構成e1)は,その具体的な演出内容は刊\n行物1に記載されていないものの,遊技状態がRT1〜RT3に制御されてから開 始され,ボーナスに入賞するか又はゲームが所定回数(RT1は50回,RT2は 40回,RT3は5回)行われることにより終了するものである(前記(2)イ(エ)c)。 そうすると,「チャンスゾーン演出」は,RT1〜RT3に制御されたゲームを所定 回数行える状態にあることを報知するにとどまるものと認められ,現に消費中の有 利量(ゲーム数)とは別の有利量を付与することが決定されたという事実を報知す るものであるとは認められない。

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平成29(行ケ)10218  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年8月9日  知的財産高等裁判所

 UFJ銀行の出願(CS関連発明)について、拒絶審決が維持されました。争点は、進歩性です。
 引用発明1はコンピュータ上の対話型処理を行うシステムである。また,当業者 は,本願出願日時点において,コンピュータ上の対話型処理システムである引用発 明1には,コンピュータによる対話型処理の「円滑化を図る」という周知の課題が あることを理解し,引用発明1の通信端末に,キャラクタが動いているような表示\nをするとの周知の解決手段の適用を試みるということができる。 一方,引用発明2はコンピュータ上の対話型処理を行うナビゲーション装置であ る(引用例2【0038】【0050】【0051】)。また,引用発明2は,表\n示装置にエージェントを表示し,回答時に当該エージェントの口が開くというもの\nであるから,当業者は,かかる構成を,コンピュータによる対話型処理の「円滑化\nを図る」という周知の課題を解決するための,周知の解決手段の一つ,すなわち通 信端末にキャラクタが動いているような表示をする構\成の一つであると理解する。 そうすると,引用発明1に上記周知の課題があることを認識し,これに上記周知 の解決手段の適用を試みる当業者は,同じ技術分野に属し,かかる課題を解決する 手段である引用発明2を,引用発明1に適用することを動機付けられるというべき である。
ウ 原告の主張について
(ア) 原告は,周知の課題として「メディアコミュニケーションの円滑化を図る」 などと認定することは,課題を殊更に上位概念化するものであると主張する。 しかし,引用発明1及び2は,いずれもコンピュータ上の対話型処理システムの 技術分野に関するものである。そして,このような技術分野に関する前記各文献に は,「ユーザが自然に計算機へ音声入力できる雰囲気」(周知例1・97頁),「反 応のない機械に対して発話するために間が掴み辛い」(甲6【0002】),「ユ ーザと電子機器とがコミュニケーションを取り易い環境を構築」(乙9【0019】),\n「人間を相手にしているかのような自然なコミュニケーションを通じた情報入力」 (乙10【0008】),「より自然な対話を実現」(乙11・31頁右欄)など と,コンピュータ上の対話型処理システムにおいて,対話型処理の「円滑化を図る」 必要性が複数指摘されている。 したがって,本願出願日時点において,コンピュータによる対話型処理の「円滑 化を図る」ことは,周知の課題であったと認定することができ,これは課題を殊更 に上位概念化するものということはできない。
(イ) 原告は,引用例1には本件補正発明の課題が記載されていないから,当業 者には,引用発明1に基づき相違点に係る本件補正発明の構成に到達しようという\n動機付けがないと主張する。 しかし,前記のとおり,引用発明1及び2は,コンピュータ上の対話型処理シス テムの技術分野に関するものであって,このような技術分野では,本願出願日時点 において,コンピュータによる対話型処理の「円滑化を図る」ことは周知の課題で あったものである。そして,本件補正発明は,システム上で仮想オペレータとユー ザが対話を行うというものであり(本件補正明細書【0001】【0046】), コンピュータ上の対話型処理システムの技術分野に関するものであるから,本件補 正発明は,引用発明1及び2と同様に,上記周知の課題を含むものである。また, そもそも,引用発明1を出発点として本件補正発明の構成に到達するか否かを検討\nするに当たり,引用発明1が本件補正発明の課題を必ず有していなければならない ということはできない。 したがって,引用例1には本件補正明細書に記載された本件補正発明の課題と同 じ課題が記載されていないから動機付けを欠く,との原告の主張は採用することが できない。
(4) 引用発明2を適用した引用発明1の構成
ア 前記(2)ウ(ウ)のとおり,引用発明2には,「現実の事業者のオペレータを模 造した人物を表示装置に表\示するナビゲーション装置において,当該模造した人物 が話しているように表示するため,待機中と比較して,回答側センターの応答音声\nデータをスピーカから出力させる際に,当該模造した人物の口を開くように当該模 造した人物を表示すること。」との具体的な構\成が含まれている。 イ 一方,本件補正発明の構成は,通信端末において,回答メッセージ等を再生\nする際,これを再生しない時と比較し,仮想オペレータの「一部が大きな動作を行 うように」仮想オペレータを表示するというものである。そして,仮想オペレータ\nの一部の大きな動作がどのようなものであるかについて,本件補正明細書において 何ら特定されていない。 また,仮想オペレータの一部の大きな動作について,本件補正明細書【0071】 には,「仮想オペレータの口や目を動かすようにしてもよい。あるいは手を動かす など,説明を行うジェスチャーをするようにしてもよい。すなわち,メッセージが 再生されていない時と比較し,仮想オペレータの一部がより大きな動作を行うよう にプログラムを構成してもよい。」と記載されている。したがって,待機中と比較\nして模造された人物が「口を開く」との構成は,本件補正発明における「一部」の\n「大きな動作」に含まれるものである。 さらに,仮想オペレータの一部が大きな動作をすることによって得られる効果に ついて,本件補正明細書【0072】には,「音声合成技術を活用して仮想オペレ ータと対話するため,ユーザは無機質な対話を強制されることなく,自然な対話を 行うことができる」と記載されている。もっとも,「自然な対話」の程度について は何ら特定されておらず,回答時に模造された人物が「口を開」けば,回答時にお いても待機中と同様に口を閉じている場合と比較して,円滑なコミュニケーション が図られているような印象を与えることができる。したがって,回答時に模造され た人物が「口を開く」との引用発明2の構成によって,「自然な対話を行う」とい\nう本件補正発明の効果を奏することができる。
ウ したがって,引用発明2における前記具体的な構成を引用発明1に適用すれ\nば,本件補正発明の構成に至るというべきである。\n

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平成29(行ケ)10174  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年7月19日  知的財産高等裁判所

 ゲームに関する特許について、無効理由なしとした審決が維持されました。審決では、公知技術+周知で無効と主張していたのを、公知技術+公知で無効と主張変更することは認められませんでした。
  原告は,本件審決が甲8発明に相違点1に係る構成が記載されていると認\n定しながら,公知発明(主引用発明)と甲8発明の組合せによる本件発明1 及び8の容易想到性の有無を判断していない点において,判断遺漏の違法が ある,と主張する。 しかしながら,主引用発明が同一であったとしても,主引用発明に組み合 わせる技術が公知発明における一部の構成か,あるいは,周知技術であるか\nによって,通常,論理付けを含む発明の容易想到性の判断における具体的な 論理構成が異なることとなるから,たとえ公知技術や周知技術認定の根拠と\nなる文献が重複するとしても,上記二つの組合せは,それぞれ異なる無効理 由を構成するものと解するのが相当である。\n
しかるところ,本件審判手続において,原告は,「本件発明1及び8は, 公知発明及び周知技術Y1に基づいて,当業者が容易に発明できた」という 無効理由1−2の主張に関連して,「キャラクタの置かれている状況に応じ て間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」技術が「周知技術」である と主張し,その根拠の一つとして甲8発明の内容を主張立証するにとどまっ ており,更に進んで,動機付けを含む公知発明と甲8発明それ自体との組合 せによる容易想到性については一切主張していない。 そうすると,原告が本件訴訟において主張する無効理由(公知発明と甲8 発明の組合せによる容易想到性)は,本件審判手続において主張した無効理 由1−2(公知発明と甲8発明を含む周知技術Y1の組合せによる容易想到 性)とは異なる別個独立の無効理由に当たるというべきである。 したがって,本件審決が,公知発明と甲8発明との組合せによる容易想到 性について判断していないとしても,本件審決の判断に遺漏があったとは認 められない。
(2) これに対し,原告は,審判において審理された公知事実に関する限り,複 数の公知事実が審理判断されている場合に,その組合せにつき審決と異なる 主張をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対 比の枠を超えるということはできず(知財高裁平成28年(行ケ)第100 87号同29年1月17日判決),甲8発明の内容については本件審決にお いて具体的に審理されていることから,被告による防御という観点からも問 題はなく,また,紛争の一回的解決の観点からも,公知発明と甲8発明の組 合せによる容易想到性を本件訴訟において判断することは許される,と主張 する。
しかしながら,この主張が,本件審決の手続上の違法(判断の遺漏)を主 張するものではなく,実体判断上の違法(進歩性の判断の誤り)を主張する ものであるとしても,本件審判手続において,甲8発明の内容を個別に取り 上げて公知発明に適用する動機付けの有無やその他公知発明と甲8発明の組 合せの容易想到性を検討することは何ら行われていない。したがって,かか る組合せによる容易想到性の主張は,専ら当該審判手続において現実に争わ れ,かつ,審理判断された特定の無効原因に関するものとはいえないから, 本件審決の取消事由(違法事由)としては主張し得ないものである(最高裁 昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2 号79頁〔メリヤス編機事件〕参照)。 なお,原告が指摘する上記知財高裁判決は,審判手続で主張されていない 引用例の組合せについて,審決取消訴訟において審理判断することを当事者 双方が認め,なおかつ,その主張立証が尽くされている事案であるから,本 件訴訟とは事案を異にするというべきである。 また,原告は,特許法167条の「同一の事実及び同一の証拠」の意義に ついて,特許無効審判の一回的紛争解決を図るという趣旨をより重視して広 く解釈されてしまうと,本件審決が確定した後に公知発明と甲8発明の組合 せによる容易想到性を争うことが同条により許されないと解釈されるおそれ があり(知財高裁平成27年(行ケ)第10260号同28年9月28日判 決),その場合,原告による本件特許の無効を争う機会を奪うことになり不 当であるから,本件訴訟で公知発明と甲8発明の組合せによる容易想到性に 関する本件審決の判断の遺漏及び違法を争うことは許される,とも主張する。 しかしながら,本件審判手続においても,本件訴訟手続においても,公知 発明と甲8発明の組合せによる容易想到性という無効理由の有無については 何ら審理判断されていないのであるから,特許法167条の「同一の事実及 び同一の証拠」に当たるということはないというべきである。
(3) 以上によれば,本件訴訟手続において,公知発明と甲8発明の組合せによ る本件発明1及び8の容易想到性を判断することは許されないというべきで ある。

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平成29(ワ)14142  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年6月28日  東京地方裁判所(47部)

 Appleに対する特許侵害訴訟です。裁判所は新規性違反の無効理由ありとして、請求棄却しました。また、口頭弁論の再開申し出も、原告にはより早い時期に訂正の再抗弁を主張する機会が十\分にあったとして認めませんでした。
 乙8文献の段落【0053】「検知器32は,感圧方式,電磁誘導方式, 静電容量方式等のセンサにより,ユーザが検知器32に触れたこと,及び, 離れたことを検知することができる。」及び【0056】「ユーザ側に板状 の検知器32が配置され,ユーザが指で触れた操作をその位置と共に検知す ることができるようになっている。」との記載によれば,乙8文献には,構\n成要件A「表示画面にスライドせずに接触したオブジェクトの力入力を,直\n接的または間接的に検出する力入力検出手段と,」及び構成要件B「前記オ\nブジェクトが前記表示画面に接触した位置を検出する位置入力手段と,」の\n各構成が開示されているといえる。\nまた,乙8文献の段落【0061】の「オンルートスクロールというのは, 経路上を移動する点(移動点)を表示面上の基準点に一致させた地図をスク\nロールさせるものである」,段落【0073】の「ユーザから見れば「指で 触れている自車位置マークCが移動(スクロール)を開始し,経路関連情報 の存在する地点に自車位置マークCが到達したため,自車位置マークCが振 動する」というように感じることができ」との各記載に併せて図7の記載も 考慮すれば,乙8文献記載の発明(図7から認定される発明)は,「地図」 (本件発明の「表示対象以外」に相当)が移動すること(本件発明の「表\示 態様を変更」に相当)で,あたかも「自車位置マーク」(本件発明の「表示\n対象」に相当)が移動しているように見えるよう制御されているといえる。 したがって,乙8文献には,構成要件C「前記位置入力手段にて検出された\n位置の表示対象を前記位置に保持しつつ,」,構\成要件D「前記力入力検出 手段により検出された前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表\示態様を 変更することにより,」及び構成要件E「当該表\示対象を相対的に変更さ せ,」の各構成が開示されているというべきである。\nさらに,乙8文献の段落【0065】には,「検知器32は未検知状態に あると判定した場合に進むS140では,オンルートスクロールを一旦停止 し,上述したS105に処理を戻す」と記載されていることから,乙8文献 記載の発明においても,「自車位置マーク」に対する「地図」の変更結果を 記憶部に記憶していることは自明のことというべきである。したがって,乙 8文献には,構成要件F「当該変更結果を当該表\示対象に対する入力として 記憶部に記憶させる変更手段と,」の構成が開示されているといえる。\nまた,乙8が情報処理装置(構成要件G)を開示していることは明らかで\nある。 以上によれば,乙8文献に記載された発明と本件発明とは同一であると認 められる。
原告の主張について
ア これに対し,原告は,本件明細書の段落【0039】には,表示画面へ\nの接触による力の有無を検出する手段が記載されているが,当該手段は, 表示画面に加えられた力の有無を間接的に検出する手段であって,乙8文\n献に開示されている単なる接触の有無を検出する手段とは異なるから,乙 8文献には,本件発明の構成要件A「表\示画面にスライドせずに接触した オブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段 と,」(ひいては構成要件D及びFも)の構\成が開示されていない旨主張 する。
イ 本件明細書の段落【0039】には,次の記載がある。 「なお,上記のように検出装置112が機械的に直接,摩擦力または押 下力を検出することに限られず,間接的に摩擦力または押下力が検出され てもよい。例えば,後述する制御部102が,タッチパネルへの接触によ る入力位置の占める領域が,所定の形状から変化した場合に,所定の摩擦 力を検出してもよい。(判決注:中略)また,検出装置112は,表示画\n面への接触による力の強さを検出することに限られず,表示画面への接触\nによる力の有無を検出してもよい。この場合,表示画面に対して非接触の\n場合に,所定の押下力または摩擦力が検出されないものとし,表示画面に\n対して接触があった場合に,所定の押下力または摩擦力があったものとし て検出してもよい。」
ウ 原告が主張するように,上記段落【0039】の記載が,「力の強さ又 は有無を間接的に検出する手段」について述べたものであるとしても,該 「力の強さ又は有無を間接的に検出する手段」の一例として,「表示画面\nに対して非接触の場合に,所定の押下力または摩擦力が検出されないもの とし,表示画面に対して接触があった場合に,所定の押下力または摩擦力\nがあったものとして検出」する手段が記載されていることは明らかである。
エ そして,本件発明の構成要件Aは「表\示画面にスライドせずに接触した オブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段 と,」というものであるところ,そこにおいては,「力入力」の「検出」 に関し,それ以上に具体的な規定は何らされておらず,また,上記「力の 強さ又は有無を間接的に検出する手段」の一例である,「表示画面に対し\nて非接触の場合に,所定の押下力または摩擦力が検出されないものとし, 表示画面に対して接触があった場合に,所定の押下力または摩擦力があっ\nたものとして検出」する手段を排除する格別な理由も見当たらないことか らすれば,構成要件Aは,「表\示画面への接触・非接触による力の有無を 検出」することも含むと解すべきである。
オ したがって,乙8文献に開示されている接触の有無を検出する手段が, 本件発明の構成要件A「表\示画面にスライドせずに接触したオブジェクト の力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段と,」の構成\nと異なることを前提とする原告の上記主張は,その前提を欠くものであり, 採用できない。 (4)小括 以上のとおり,乙8文献に記載された発明は本件発明と同一であるから, 本件特許には乙8文献に基づく新規性欠如の無効理由が存すると認められる。
・・・
(なお,原告は,本件特許について訂正審判を請求したとして平成30年6月21日付けで口頭弁論の再開を申し立てたが,当裁判所は,原告にはより早い時期に訂正の再抗弁を主張する機会が十\分にあったこと等を考慮して,口頭弁論を再開しない。)。

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平成29(行ケ)10178  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年6月27日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反、サポート要件違反、明確性違反の無効主張について、「無効理由無し」とした審決が維持されました。
(1) サポート要件の適合性について
ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1に関し,「医薬品や食品 のような経口投与用組成物等の品質を損なわずに優れた識別性を有する経 口投与用組成物を得ることができ,かつ,生産性にも優れたマーキング方 法を開発するという課題」を解決するための手段として,「本発明」は,酸 化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少な くとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の表面に,所\n定のレーザー光を走査することにより,変色誘起酸化物を凝集させること に起因した変色が生じるようにした構成を採用したことの記載があること\nは,前記1(1)イ認定のとおりである。
イ 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,1)実施例1ないし16にお いて,表1のレーザー装置及び照射条件(波長355nm,平均出力8W),\n表3のレーザー装置及び照射条件(波長266nm,平均出力3W)又は表\ 4のレーザー装置及び照射条件(波長532nm,平均出力12W)で,酸 化チタン,黄色三二酸化鉄又は三二酸化鉄錠剤を配合した,フィルムコー ト錠等に対し,文字又は中心線をマーキングしたこと(【0038】〜【0 056】,表1,表\3及び表4),2)表1のレーザー装置及び照射条件かつ\n走査速度1000mm/secで,実施例13のフィルム錠にレーザー照 射を行い,レーザー照射前後の二酸化チタンの粒子の状態を透過型電子顕 微鏡(TEM)により観測した結果,レーザー照射後に二酸化チタンの粒子 が凝集していることが確認されたこと(【0057】〜【0059】,図3, 図4),3)レーザー波長に関し,レーザーは,その波長が200〜1100 nmを有するものを用いることができ,好ましくは1060〜1064n m,527〜532nm,351〜355nm,263〜266nm又は2 10〜216nmの波長であり,より好ましくは527〜532nm,3 51〜355nm又は263〜266nmの波長であること(【0022】), 4)レーザー出力に関し,レーザーを走査する際の平均出力は,対象とする 経口投与用組成物の表面がほとんど食刻されない範囲で使用することがで\nき,例えば,その平均出力は,0.1W〜50Wであり,好ましくは1W〜 35Wであり,より好ましくは5W〜25Wであるが,単位時間あたりの レーザー照射エネルギーが強すぎると,アブレーションにより錠剤表面で\n食刻が発生し,変色部分まで剥がれてしまい,また,出力が弱いと変色が十\n分ではないこと(【0023】),5)レーザーの走査速度(スキャニング速 度)に関し,スキャニング速度は,特に限定されるものではないが,20m m/sec〜20000mm/secであり,また,スキャニング速度は, 高いほどマークの識別性に影響を与えることなく生産性を上げることがで きることから,例えば,レーザー出力5Wでは,スキャニング速度は,80 mm/sec〜10000mm/sec,好ましくは90mm/sec〜 10000mm/sec,より好ましくは100mm/sec〜1000 0mm/secであり,レーザー出力が8Wの場合には,スキャニング速 度は,250mm/sec〜20000mm/sec,好ましくは500 mm/sec〜15000mm/sec,より好ましくは1000mm/ sec〜10000mm/secであること(【0024】),6)単位面積 当たりのエネルギーに関し,単位面積当たりのレーザーのエネルギーは, マーキングの可否及び経口投与用組成物の食刻の有無の観点から,390 〜21000mJ/cm2であり,好ましくは400〜20000mJ/c m2,より好ましくは450〜18000mJ/cm2であり,また,390 mJ/cm2より低い場合には,マークを施すことができないのに対し,2 1000mJ/cm2より大きい場合には,食刻が生じるため,好ましくな いこと(【0025】)の記載がある。 上記1)ないし6)の記載を総合すると,本件明細書に接した当業者は,請 求項1記載の波長(200nm〜1100nm),平均出力(0.1W〜5 0W)及び走査工程の走査速度(80mm/sec〜8000mm/se c)の各数値範囲内で,波長,平均出力及び走査速度を適宜設定したレーザ ー光で,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択 される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の 表面を走査することにより,変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させ\nてマーキングを行い,「医薬品や食品のような経口投与用組成物等の品質 を損なわずに優れた識別性を有する経口投与用組成物を得ることができ, かつ,生産性にも優れたマーキング方法を開発する」という本件発明1の 課題を解決できることを認識できるものと認められる。 したがって,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載され たものといえるから,請求項1の記載は,サポート要件に適合するものと 認められる。同様に,請求項2ないし22の記載も,サポート要件に適合す るものと認められる。

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平成29(行ケ)10096  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年5月15日  知的財産高等裁判所

 数値限定の範囲を変えることについて動機付けありとして、進歩性違反無しとした審決が、取り消されました。
 本件訂正発明1と甲1発明との相違点である,甲1発明におけるSiO2粒 子(非磁性材)の含有量を「3重量%」(3.2mol%)から「6mol%以上」とする ことについて,当業者が容易に想到できるといえるか否かを検討する。
イ 動機付けの有無について
(ア) 上記3(1)において認定したとおり,本件特許の優先日当時,垂直磁 気記録媒体において,非磁性材であるSiO2を11mol%あるいは15〜40vol% 含有する磁性膜は,粒子の孤立化が促進され,磁気特性やノイズ特性に 優れていることが知られており,非磁性材を6mol%以上含有するスパッタ リングターゲットは技術常識であった。 そして,本件特許の優先日前に公開されていた甲4(特開2004− 339586号公報)において,従来技術として甲2が引用され,甲2 に開示されている従来のターゲットは「十分にシリカ相がCo基焼結合金 相中に十分に分散されないために,低透磁率にならず,そのために異常\n放電したり,スパッタ初期に安定した放電が得られない,という問題点 があった」(段落【0004】)と記載されていることからも,優れた スパッタリングターゲットを得るために,材料やその含有割合,混合条 件,焼結条件等に関し,日々検討が加えられている状況にあったと認め られる。 そうすると,甲1発明に係るスパッタリングターゲットにおいても, 酸化物の含有量を増加させる動機付けがあったというべきである(磁気 記録方式の違いが判断に影響を及ぼさないことについては,後記オ(ア) に説示するとおりである。)。
(イ) 次に,具体的な含有量の点についてみると,被告も,非磁性材の含有 量を「6mol%以上」と特定することで何らかの作用効果を狙ったものでは ないと主張している上,証拠に照らしても,6mol%という境界値に技術的 意義があることは何らうかがわれない。 さらに,本件明細書の段落【0016】及び【0017】に記載され ているスパッタリングターゲットの作製方法は,本件特許の優先日当時, 一般的に使用・利用可能であった通常の強磁性材及び非磁性材を用い,\n様々な原料粉の形状,粉砕・混合方法,混合時間,焼結方法,焼結温度 を選択することにより,本件訂正発明に係る形状及び寸法を備えるよう にできるというものであるから,甲1発明に基づいて非磁性材である酸 化物の含有量が6mol%以上であるターゲットを製造することに技術的困難 性が伴うものであったともいえない。 そうすると,磁気特性やノイズ特性に優れたスパッタリングターゲッ トの作製を目的として,甲1発明に基づいて,その酸化物の含有量を6mol% 以上に増加させる動機付けがあったと認めるのが相当である。
ウ 阻害要因の有無について
(ア) 審決は,ターゲットの組成を変化させるとターゲット中のセラミック 相の分散状態も変化することが推測され,例えば,当該セラミック相を 増加させようとすれば,均一に分散させることが相対的に困難になり, ターゲット中のセラミック相粒子の大きさは大きくなる等,分散の均一 性は低下する方向に変化すると考えるのが自然であって,実施例1の「3 重量%」(3.2mol%)から本件訂正発明1の「6mol%以上」という2倍近い値 まで増加させた場合に,ターゲットの断面組織写真が甲1の図1と同様 のものになるとはいえず,本件訂正発明1における非磁性材の粒子の分 散の形態を変わらず満たすものとなるか不明であると判断した。 被告も,甲1発明において酸化物含有量を「3重量%」(3.2mol%)から 「6mol%以上」に増加させた場合に,組織が維持されると当業者は認識し ない,すなわち,組織が維持されるかどうか不明であることは,甲1発 明において酸化物含有量を増やすことの阻害要因になると主張する。
(イ) この点について,上記2(2)オにおいて認定したとおり,甲1には, 実施例4(酸化物の含有量は1.46mol%)について,「このターゲットの 組織は,図1に示した酸化物(SiO2)が分散した微細混合相とほぼ同様 であった。」(段落【0022】),実施例5(同1.85mol%)及び同6 (同3.19mol%)についても「このターゲットの組織は,図1に示した組 織とほぼ同様であった。」(段落【0024】及び【0026】)との 各記載があるように,非磁性材である酸化物の含有量が1.46mol%(実施 例4)から3.19mol%(実施例6)まで2倍以上変化しても,ターゲット の断面組織写真が甲1の図1と同様のものになることが示されている。 さらに,上記3(2)において認定したとおり,メカニカルアロイングに おける混合条件の調整,例えば,十分な混合時間の確保等によってナノ\nスケールの微細な分散状態が得られることも,本件特許の優先日当時の 技術常識であった。 そうすると,甲1に接した当業者は,甲1発明において酸化物の含有 量を増加させた場合,凝集等によって図1に示されている以上に粒子の 肥大化等が生じる傾向が強まるとしても,金属材料(強磁性材)及び酸 化物(非磁性材)の粒径,性状,含有量などに応じてメカニカルアロイ ングにおける混合条件等を調整することによって,甲1発明と同程度の 微細な分散状態を得られることが理解できるというべきである。 また,上記イのとおり,甲1発明に基づいて非磁性材である酸化物の 含有量が6mol%以上であるターゲットを製造することが,何かしらの技術 的困難性を伴うものであると認めることはできない。 したがって,甲1発明において酸化物の含有量を「3重量%」(3.2 mol%) から「6mol%以上」に増加した場合に,分散状態が変化する可能性がある\nとか,上記本件組織が維持されるかどうかが不明であることが,直ちに 非磁性材の含有量を増やすことの阻害要因になるとはいえない。

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平成28(ワ)27057  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成30年4月13日  東京地方裁判所

 特許侵害訴訟において、進歩性無しとして、請求棄却されました。
 以上のとおり,乙9〜12によれば,光学的センサの周辺部に位置す る受光素子に入射する光束の光量が減少するのを防止するため,「読み 取り対象からの反射光が絞りを通過した後に結像レンズに入射するよう, 絞りを配置することによって,光学的センサから射出瞳位置までの距離 を相対的に長く設定」するという構成とすることは,本件特許出願当時,ビデオカメラ等の分野において周知であったと認めることができる。
(イ) 原告は,ビデオカメラ等と2次元バーコードリーダーの技術的意義は 異なるので,当業者がビデオカメラ分野の技術(乙9〜12)を当然の こととして2次元コードリーダの読取装置に適用することを考えるもの ではないと主張する。 しかし,その主たる目的が色彩等の再現性にあるか2次元バーコード の読取りにあるかという点で異なる面があるとしても,集光レンズ付き CCDエリアセンサを通常の目的で使用する限りは,光学的センサの周 辺部に位置する受光素子に入射する光束の光量が減少することにより光 学素子に入射する光束の光量が低下して検出感度が低下するという課題 は共通しており,当業者であれば,2次元バーコードリーダーにおける 同課題の解決のため,光学系の近接した技術分野であるスチルカメラ, デジタルカメラ,ビデオカメラ等の技術を適用することについての動機 付けを得ることは容易であるというべきである。 そして,前記(1)ウのとおり,ICX084ALデータシート(乙39) には,ICX084ALが2次元バーコードリーダー,PCインプット カメラに適している旨の記載が,1995年9月25日付けの日経エレ クトロニクス(乙64の3)には,ICX084ALを含むソニーの全画素読出し方式CCDが電子スチルカメラ,2次元バーコードリーダー\n等に適している旨の記載があり,また,平成9年7月13日付け日経産 業新聞(乙57)には,「バーコード読み取り手持ち型機器を発売・・・ デジタルカメラの技術を応用し」との記載があることも,バーコードリ ーダーとデジタルカメラとが技術を共通にする関係にあることを裏付け るものということができる。

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平成29(行ケ)10180  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月28日  知的財産高等裁判所

 審決では動機付け無しとして進歩性違反なしと判断されていました。知財高裁(2部)は動機付けありとして、審決を取り消しました。
 登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け,剥離すること\nを繰り返すと,粘着剤層が多数積層して,登記識別情報を読み取りにくくなるとい う登記識別情報保護シールにおける本件課題は,登記識別情報保護シールを登記識 別情報通知書に何度も貼り付け,剥離することを繰り返すと必然的に生じるもので\nあって,登記識別情報保護シールの需要者には当然に認識されていたと考えられる (甲15)。現に,本件原出願日の5年以上前である平成21年9月30日には, 登記識別情報保護シールの需要者である司法書士に認識されていたものと認められ る(甲26の3)。そして,登記識別情報保護シールの製造・販売業者は,需要者 の要求に応じた製品を開発しようとするから,本件課題は,本件原出願日前に,当 業者において周知の課題であったといえる。 そうすると,本件課題に直面した登記識別情報保護シールの技術分野における当 業者は,粘着剤層の下の文字(登記識別情報)が見えにくくならないようにするた めに,粘着剤層が登記識別情報の上に付着することがないように工夫するものと認 められる。甲3発明は,秘密情報に対応する部分には実質的に粘着剤が設けられて いないものであり,甲3発明と甲1発明は,秘密情報保護シールであるという技術 分野が共通し,一度剥がすと再度貼ることはできないようにして,秘密情報の漏洩\nがあったことを感知するという点でも共通する。したがって,甲1発明に甲3発明 を適用する動機付けがあるといえる。 甲1発明に甲3発明を適用すると,粘着剤層が登記識別情報の上に付着すること がなくなり,本件課題が解決される。したがって,甲1発明において,甲3発明を 適用し,相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到するものと認められ\nる。
ウ 被告の主張について
(ア) 被告は,甲3発明には,シールを何度も貼り付け,剥離することを繰\nり返すという課題は存在せず,その使用目的から容器又はシールを使い回すことは 倫理上許されないから本件課題とは矛盾し,阻害要因がある,と主張する。 しかし,甲3発明のシールは何度も貼り付け,剥離することを予\定されていない としても,一度剥がした後に新たなシールを貼付することは可能\である。また,甲 3発明が,医療,保健衛生分野において使用される検体用容器等に使用される場合 には,何度も貼り付け,剥離することはないのは,検体用容器等の用途がそのよう\nなものであるからであって,甲3発明自体の作用,機能に基づくものではなく,甲\n3発明は保健,衛生分野に限って使用されるものではないから,甲1発明と組み合 わせるのに阻害要因があるとはいえない。したがって,被告の主張には,理由がな い。

◆判決本文

同じ特許発明に関する別の無効審判の取消事件です。 こちらも進歩性無しと判断されました。

◆平成29(行ケ)10176

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平成29(行ケ)10139  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年4月16日  知的財産高等裁判所

 条件判断を入れ替えると、技術的意義に変動が生じるので単なる設計事項ではないとして、進歩性なしとした拒絶審決を知財高裁は取り消しました。
 引用発明の衝突対応車両制御は,衝突対応制御プログラムが実行されることによ って行われる。同プログラムは,S1の自車線上存在物特定ルーチン及びS2のA CC・PCS対象特定ルーチンにおいて,自車線上の存在物であるか否かという条 件の充足性が判断され,その後に処理されるS5のACC・PCS作動ルーチンに おいて,自車両の速度,ブレーキ操作部材の操作の有無,自車両と直前存在物との 衝突時間や車間時間等の条件に応じて,特定のACC制御やPCS制御が開始され, 又は開始されないというものである。
(イ) 条件判断の順序の入替えについて
本願補正発明では,ターゲット物体との相対移動の検知に応答してアクションを 始動するように構成された後に,自車線上にある存在物を特定し,アクションの始\n動を無効にするという構成が採用されている。したがって,引用発明を,相違点に\n係る本願補正発明の構成に至らしめるためには,少なくとも,まず,自車線上の存\n在物であるか否かという条件の充足性判断を行い,続いて,特定のACC制御やP CS制御を開始するために自車両の速度等の条件判断を行うという引用発明の条件 判断の順序を入れ替える必要がある。 しかし,引用発明では,S1及びS2において,自車線上の存在物であるか否か という条件の充足性が判断される。この条件は,ACC制御,PCS制御の対象と なる前方存在物を特定するためのものである(引用例【0091】)。そして,引 用発明は,これにより,多数の特定存在物の中から,自車線上にある存在物を特定 し,ACC制御,PCS制御の対象となる存在物を絞り込み,ACC制御,PCS 制御のための処理負担を軽減することができる。一方,ACC制御,PCS制御の 対象となる存在物を絞り込まずに,ACC制御,PCS制御のための処理を行うと, その処理負担が大きくなる。このように,引用発明において,自車線上の存在物で あるか否かという条件の充足性判断を,ACC制御,PCS制御のための処理の前 に行うか,後に行うかによって,その技術的意義に変動が生じる。 したがって,複数の条件が成立したときに特定のアクションを始動する装置にお いて,複数の条件の成立判断の順序を入れ替えることが通常行い得る設計変更であ ったとしても,引用発明において,まず,特定のACC制御やPCS制御を開始す るために自車両の速度等の条件判断を行い,続いて,自車線上の存在物であるか否 かという条件の充足性判断を行うという構成を採用することはできない。\nよって,引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが,単なる設計変更 であるということはできないから,相違点に係る本願補正発明の構成は,容易に想\n到することができるものではない。
(ウ) 本件周知技術の適用
a 引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが単なる設計変更であっ たとしても,条件判断の順序を入れ替えた引用発明は,まず,自車両の速度等の条 件判断がされ,続いて,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断 され,その後,特定のACC制御やPCS制御が開始され,又は開始されないもの になる。そして,これに本件周知技術を適用できたとしても,本件周知技術を適用 した引用発明は,まず,自車両の速度等の条件判断がされ,続いて,自車線上の存 在物であるか否かという条件の充足性が判断され,その後,特定のACC制御やP CS制御が開始され,又は開始されないものになり,加えて,特定の条件を満たし た場合には,当該ACC制御やPCS制御の始動が無効になるにとどまる。 ここで,本件周知技術を適用した引用発明は,特定の条件を満たした場合に,P CS制御等の始動を無効にするものである。そして,本件周知技術を適用した引用 発明においては,PCS制御等の開始に当たり,既に,自車線上の存在物であるか 否かという条件の充足性が判断されているから,自車線上の存在物であるか否かと いう条件を,再度,PCS制御等の始動を無効にするに当たり判断される条件とす ることはない。 これに対し,相違点に係る本願補正発明の構成は,「横方向オフセット値に基づ\nいて」,すなわち,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断に基づ いて,少なくとも1のアクションの始動を無効にするものである。 したがって,引用発明に本件周知技術を適用しても,相違点に係る本願補正発明 の構成には至らないというべきである。
b なお,本件周知技術を適用した引用発明は,自車両の速度等の条件判断と, それに続く,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断をもって,P CS制御等を開始するものである。PCS制御等の開始を,自車線上の存在物であ るか否かという条件の充足性判断よりも前に行うことについて,引用例には記載も 示唆もされておらず,このことが周知慣用技術であることを示す証拠もない。 したがって,引用発明に本件周知技術を適用しても,その発明は相違点に係る本 願補正発明の構成には至らないところ,さらに,PCS制御等の開始を,自車線上\nの存在物であるか否かという条件の充足性判断よりも前に行うことにより,当該発 明を,相違点に係る本願補正発明の構成に至らしめることができるものではない。
c そもそも,本願補正発明では,ターゲット物体との相対移動の検知に応答し てアクションを始動するように構成された後に,自車線上にある存在物を特定し,\nアクションの始動を無効にするという構成が採用されている。本願補正発明は,タ\nーゲット物体との相対移動の検知に応答してアクションを始動するという既存の構\n成に,当該構成を変更することなく,単に,自車線上の存在物であるか否かという\n条件の充足性判断を付加することによって,アクションの始動を無効にするという ものであり,引用発明とは技術的思想を異にするものである。
(エ) 以上のとおり,引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが単な る設計変更ということはできず,また,引用発明に本件周知技術を適用しても,相 違点に係る本願補正発明の構成には至らないというべきであるから,相違点に係る\n本願補正発明の構成は,引用発明に基づき,容易に想到できたものとはいえない。\n

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平成28年(行ケ)第10182号 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年4月13日 知的財産高等裁判所(特別部)

 知財高裁大合議の判断です。「無効審判不成立の審決に対する取消の訴えの利益は,特許権消滅後であっても,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り,失なれない。」および「刊行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合には,特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず,これを引用発明と認定できない。」と判断しました。
 本件審判請求が行われたのは平成27年3月31日であるから,審判 請求に関しては同日当時の特許法(平成26年法律第36号による改正前の特許法) が適用されるところ,当時の特許法123条2項は,「特許無効審判は,何人も請求 することができる(以下略)」として,利害関係の存否にかかわらず,特許無効審判 請求をすることができる旨を規定していた(なお,冒認や共同出願違反に関しては 別個の定めが置かれているが,本件には関係しないので,触れないこととする。こ の点は,以下の判断においても同様である。)。 このような規定が置かれた趣旨は,特許権が独占権であり,何人に対しても特許 権者の許諾なく特許権に係る技術を使用することを禁ずるものであるところから, 誤って登録された特許を無効にすることは,全ての人の利益となる公益的な行為で あるという性格を有することに鑑み,その請求権者を,当該特許を無効にすること について私的な利害関係を有している者に限定せず,広く一般人に広げたところに あると解される。 そして,特許無効審判請求は,当該特許権の存続期間満了後も行うことができる のであるから(特許法123条3項),特許権の存続期間が満了したからといって, 特許無効審判請求を行う利益,したがって,特許無効審判請求を不成立とした審決 に対する取消しの訴えの利益が消滅するものではないことも明らかである。
イ 被告は,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する特許権の存続期 間満了後の取消しの訴えについて,東京高裁平成2年12月26日判決を引用して, 訴えの利益が認められるのは当該特許権の存在による審判請求人の法的不利益が具 体的なものとして存在すると評価できる場合のみに限られる旨主張する。 しかし,特許権消滅後に特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの 訴えの利益が認められる場合が,特許権の存続期間が経過したとしても,特許権者 と審判請求人との間に,当該特許の有効か無効かが前提問題となる損害賠償請求等 の紛争が生じていたり,今後そのような紛争に発展する原因となる可能性がある事実関係があることが認められ,当該特許権の存在による審判請求人の法的不利益が\n具体的なものとして存在すると評価できる場合のみに限られるとすると,訴えの利 益は,職権調査事項であることから,裁判所は,特許権消滅後,当該特許の有効・ 無効が前提問題となる紛争やそのような紛争に発展する可能性の事実関係の有無を調査・判断しなければならない。そして,そのためには,裁判所は,当事者に対し\nて,例えば,自己の製造した製品が特定の特許の侵害品であるか否かにつき,現に 紛争が生じていることや,今後そのような紛争に発展する原因となる可能性がある事実関係が存在すること等を主張することを求めることとなるが,このような主張\nには,自己の製造した製品が当該特許発明の実施品であると評価され得る可能性がある構\成を有していること等,自己に不利益になる可能\性がある事実の主張が含ま\nれ得る。 このような事実の主張を当事者に強いる結果となるのは,相当ではない。
ウ もっとも,特許権の存続期間が満了し,かつ,特許権の存続期間中にさ れた行為について,何人に対しても,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われた り,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存する場合,例えば,特許権の存続期間が満了してから既に20年が経過した場合等\nには,もはや当該特許権の存在によって不利益を受けるおそれがある者が全くいな くなったことになるから,特許を無効にすることは意味がないものというべきであ る。したがって,このような場合には,特許無効審判請求を不成立とした審決に対す る取消しの訴えの利益も失われるものと解される。
エ 以上によると,平成26年法律第36号による改正前の特許法の下にお いて,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益は,特許 権消滅後であっても,特許権の存続期間中にされた行為について,何人に対しても, 損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り,失われることはない。\nオ 以上を踏まえて本件を検討してみると,本件において上記のような特段 の事情が存するとは認められないから,本件訴訟の訴えの利益は失われていない。
(2) なお,平成26年法律第36号による改正によって,特許無効審判は,「利 害関係人」のみが行うことができるものとされ,代わりに,「何人も」行うことがで きるところの特許異議申立制度が導入されたことにより,現在においては,特許無効審判請求をすることができるのは,特許を無効にすることについて私的な利害関\n係を有する者のみに限定されたものと解さざるを得ない。 しかし,特許権侵害を問題にされる可能性が少しでも残っている限り,そのような問題を提起されるおそれのある者は,当該特許を無効にすることについて私的な\n利害関係を有し,特許無効審判請求を行う利益(したがって,特許無効審判請求を 不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益)を有することは明らかであるから, 訴えの利益が消滅したというためには,客観的に見て,原告に対し特許権侵害を問 題にされる可能性が全くなくなったと認められることが必要であり,特許権の存続期間が満了し,かつ,特許権の存続期間中にされた行為について,原告に対し,損\n害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存することが必要であると解すべきである。\n
・・・
特許法29条1項は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる 発明を除き,その発明について特許を受けることができる。」と定め,同項3号とし て,「特許出願前に日本国内又は外国において」「頒布された刊行物に記載された発 明」を挙げている。同条2項は,特許出願前に当業者が同条1項各号に定める発明 に基づいて容易に発明をすることができたときは,その発明については,特許を受 けることができない旨を規定し,いわゆる進歩性を有していない発明は特許を受け ることができないことを定めている。
上記進歩性に係る要件が認められるかどうかは,特許請求の範囲に基づいて特許 出願に係る発明(以下「本願発明」という。)を認定した上で,同条1項各号所定の 発明と対比し,一致する点及び相違する点を認定し,相違する点が存する場合には, 当業者が,出願時(又は優先権主張日。以下「3 取消事由1について」において 同じ。)の技術水準に基づいて,当該相違点に対応する本願発明を容易に想到するこ とができたかどうかを判断することとなる。
このような進歩性の判断に際し,本願発明と対比すべき同条1項各号所定の発明 (以下「主引用発明」といい,後記「副引用発明」と併せて「引用発明」という。) は,通常,本願発明と技術分野が関連し,当該技術分野における当業者が検討対象 とする範囲内のものから選択されるところ,同条1項3号の「刊行物に記載された 発明」については,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明 をすることができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行 物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。そして,当該刊 行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する 場合には,当業者は,特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を積極的あるいは優 先的に選択すべき事情がない限り,当該刊行物の記載から当該特定の選択肢に係る 具体的な技術的思想を抽出することはできない。 したがって,引用発明として主張された発明が「刊行物に記載された発明」であ って,当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選 択肢を有する場合には,特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に 選択すべき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出す ることはできず,これを引用発明と認定することはできないと認めるのが相当であ る。
この理は,本願発明と主引用発明との間の相違点に対応する他の同条 1 項3号所 定の「刊行物に記載された発明」(以下「副引用発明」という。)があり,主引用発 明に副引用発明を適用することにより本願発明を容易に発明をすることができたか どうかを判断する場合において,刊行物から副引用発明を認定するときも,同様で ある。したがって,副引用発明が「刊行物に記載された発明」であって,当該刊行 物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場 合には,特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を積極的あるいは優先的に選択す べき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出すること はできず,これを副引用発明と認定することはできないと認めるのが相当である。 そして,上記のとおり,主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明 を容易に発明をすることができたかどうかを判断する場合には,1)主引用発明又は 副引用発明の内容中の示唆,技術分野の関連性,課題や作用・機能の共通性等を総\n合的に考慮して,主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に至る動機付けがあ るかどうかを判断するとともに,2)適用を阻害する要因の有無,予測できない顕著\nな効果の有無等を併せ考慮して判断することとなる。特許無効審判の審決に対する 取消訴訟においては,上記1)については,特許の無効を主張する者(特許拒絶査定 不服審判の審決に対する取消訴訟及び特許異議の申立てに係る取消決定に対する取\n消訴訟においては,特許庁長官)が,上記2)については,特許権者(特許拒絶査定 不服審判の審決に対する取消訴訟においては,特許出願人)が,それぞれそれらが あることを基礎付ける事実を主張,立証する必要があるものということができる。

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平成29(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月29日  知的財産高等裁判所

 引用文献の認定誤りを理由に、異議理由ありとした審決が取り消されました。異議理由ありとの審決自体が珍しいですが、さらにそれが取り消されたので珍しいケースです。
イ 上記アによれば,本件訂正明細書には,アナターゼ型酸化チタンは光触 媒作用が強いため,熱可塑性樹脂等の高分子化合物に添加されるとそれを分解等し てしまうことから,SiO2などで表面処理を行うのが好ましいこと,すなわち,\n本件訂正発明1の表面処理に用いられるSiO2は,光触媒作用が強いアナターゼ\n型酸化チタンが,熱可塑性樹脂等の高分子化合物を分解等しないようにするための ものであることが記載されているものと認められる。
・・・
上記イによれば,SiO2(シリカ)とシロキサンは,共に酸化チタン を被覆するものであること,SiO2(シリカ)は,Si−O−Si結合を有して いるものの,テトラアルコキシシランが加水分解及び重合し,反応すべきものが全 て反応したときの反応物であるのに対して,シロキサンは,Si−O−Si結合を 含むものの総称であって,化学式SiO2で表されるものではないこと,したがっ\nて,SiO2(シリカ)とシロキサンは,化学物質として区別されるものであるこ とが認められる。
エ 前記認定のとおり,本件訂正発明1の「SiO2で表面処理された・・・\n酸化チタン粒子」とは,文言上,「酸化チタン粒子」が,「SiO2(シリカ)」で表\n面処理されているものであることは明らかである。 これに対し,甲1文献には,酸化チタン粉末の表面処理のいずれの方法によって\nも,甲1発明の酸化チタン粉末の表面にシロキサンの被膜が形成されたことが記載\nされていることが認められるものの,甲1文献の上記記載は,甲1発明の酸化チタ ン粉末の表面に「Si−O−Si結合」を含有する被膜が形成されていることを示\nすにとどまるものであって,「SiO2(シリカ)」の被膜が形成されていることを 推認させるものではない(前記認定のとおり,シロキサンは,Si−O−Si結合 を含むものの総称であって,SiO2(シリカ)とは化学物質として区別されるも のである。)。また,その他,甲1発明の酸化チタン粉末の表面に「SiO2(シリ\nカ)」が生成されていることを認めるに足りる証拠はない。 さらに,甲1文献には,テトラアルコキシシラン及び/又はテトラアルコキシシ ランの部分加水分解縮合物について反応すべきものが全て反応したことについては, 記載も示唆もされていないのであるから,この点においても,甲1発明の酸化チタ ン粉末の表面に「SiO2(シリカ)」が生成されていると認めることはできない。\nしたがって,甲1発明において,酸化チタン粉末の表面に,「SiO2(シリカ)」\nが生成されているとは認めることができず,甲1発明の酸化チタン粉末が「SiO 2(シリカ)」で表面処理されているということはできない。\n

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平成29(行ケ)10097  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月29日  知的財産高等裁判所

 ゲームプログラムについて、進歩性ありとした審決が維持されました。
 前記1(1)の認定事実によれば,本件発明は,ユーザがシリーズ化された一連のゲ ームソフトを買い揃えるだけで,標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容\nを楽しむことを可能とすることによって,シリーズ化された後作のゲームの購入を\n促すという技術思想を有するものと認められる。 これに対し,前記1(2)の認定事実によれば,公知発明は,前作と後作との間でス トーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラ クタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイ を有利にすることによって,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編である 後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購 入を促すという技術思想を有するものと認められる。 そうすると,公知発明は,少なくとも,前作において実際にプレイしたキャラク タをセーブするとともに,前作のゲームにおいてキャラクタのレベルが16以上と なるまでプレイしたという実績(以下「プレイ実績」という。)をセーブすることが, その技術思想を実現するための必須条件となる。そのため,前作において実際にプ レイしたキャラクタ及びプレイ実績に係る情報をセーブできない記憶媒体を採用し た場合には,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをした り,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることが できなくなる。このことは,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編のゲー ムをプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すと いう公知発明の技術思想に反することになる。 したがって,当業者は,公知発明1のディスクについて,前作において実際にプ レイしたゲームのキャラクタ及びプレイ実績をセーブできない記憶媒体,すなわち, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更しよう\nとする動機付けはなく,かえって,このような記憶媒体を採用することには,公知 発明の技術思想に照らし,阻害要因があるというべきである。 仮に,先行技術発明A等(甲20の1及び2,甲21の1及びの2,甲91,甲 92のゲーム等を含む。以下同じ。)のように,2本のゲームのROMカセットを所 有し,ゲーム機のスロットに挿入するのみで拡張されたゲーム内容を楽しめるゲー ムが周知技術であったとしても,これを公知発明1に対して適用するに当たり,公 知発明1のディスクを,ゲームのプレイ実績をセーブできない記憶媒体,すなわち, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更すると,\n上記のとおり,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをし たり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすること ができなくなるから,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,後作のゲームの購 入を促すという公知発明の技術思想に反することになる。 また,仮に,ゲームに登場するキャラクタをゲームプログラムにプリセットして おき,プレイヤーがキャラクタを適宜選択できるようにすることが,本件特許の出 願当時において,技術常識であったとしても,公知発明1の「キャラクタのレベル が16以上である」というゲームのプレイ実績を,プリセットされたキャラクタに 係る情報に変えると,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレ イをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にす ることができなくなるから,上記と同様に,公知発明の技術思想に反することにな る。 以上によれば,公知発明1において,所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能\nな記憶媒体,一の記憶媒体及び二の記憶媒体を,ディスクから「記憶媒体(ただし, セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更して相違点1ないし3に係る\n構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえないとした審決の\n判断に誤りはなく,取消事由1は,理由がない。
(3) 原告の主張について
原告は,公知発明1の技術思想について,魔洞戦紀DDI(前作ゲーム)に記憶 された切換キーがゲーム装置で読み込まれている場合に,勇士の紋章DDII(後作 ゲーム)で,標準ゲームプログラムに加えて,拡張ゲームプログラムでもゲーム装 置を作動させるものであり,これによりゲーム内容を豊富化してユーザに前作の購 入を促すというものであるから,本件発明の技術思想と同じであると主張する。そ して,原告は,上記主張を前提とした上で,上記切換キーには,「魔洞戦紀DDIが 装填された」という条件1に係る情報と「キャラクタのレベルが16以上である」 という条件2に係る情報とが含まれているところ,公知発明1の技術思想である「ユ ーザに前作の購入を促す」ことは,切換キーのうち「魔洞戦紀DDI」が装填され たという条件1に係る情報のみで達成できるのであるから,当業者であれば,その 目的を達成するために,「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係 る情報を切換キーから除くなどして,記憶媒体についてもセーブデータが記憶可能\nな記憶媒体としないことは容易であり,かえって,このような場合には,よりユー ザの負担なく拡張ゲームプログラムが楽しめるようになるのであるから,前作の購 入を促すことが可能であるともいえ,公知発明1の切換キーに「キャラクタのレベ\nルが16以上である」という条件2に係る情報であるセーブデータを含ませるか否 かは,当業者が適宜選択できる設計事項であると主張する。 しかしながら,上記(2)のとおり,公知発明は,前作と後作との間でストーリーに 連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレ イをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にす ることによって,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編である後作のゲー ムもプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すと いう技術思想を有するものと認められる。 そうすると,公知発明は,少なくとも,前作のキャラクタをセーブするとともに, キャラクタのプレイ実績をセーブすることが,その技術思想を実現するための必須 条件となるから,キャラクタ及びプレイ実績に係る情報をセーブできない記憶媒体 を採用した場合には,公知発明の技術思想に反することになる。 したがって,「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報を 切換キーから除くなどして,記憶媒体についてセーブデータが記憶可能な記憶媒体\nとしないことは,公知発明を都合よく分割してその必須条件を省略しようとするも のであるから,上記のとおり,公知発明の技術思想に反することは明らかである。 以上によれば,原告の主張は,その余の点を含め,公知発明の技術思想を正解し ないものに帰し,採用することができない。

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平成29(行ケ)10120等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年4月4日  知的財産高等裁判所

 引用発明の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決を取り消しました。
 イ 前記アのとおり,甲4には,ブロックパターンの改良に関し,耐摩耗性能を\n向上せしめるとともに,乾燥路走行性能,湿潤路走行性能\及び乗心地性能をも向上\nせしめた乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供することを目的とする発明が記載 されている(前記ア(イ)b)。 そして,タイヤ踏面の幅方向センター部に踏面幅の50%以内の領域において3 本のストレート溝をタイヤ周方向に環状に設けるとともに,これらのストレート溝 からタイヤ幅方向に延びる複数の副溝を配置したブロックパターンにおいて,1)全 溝面積比率を25%とし,かつ,領域W(タイヤ踏面の幅方向(タイヤ径方向)F F’のセンター部における踏面幅Tの50%以内)の全溝面積比率を残りの領域の 全溝面積比率の3倍とすること,2)ストレート溝aと副溝bとにより区画されたブ ロック1の表面に独立カーフcをタイヤ幅方向FF’に形成すること,3)ブロック 1の各辺とカーフcの各辺のタイヤ幅方向FF’全投影長さ(LG)とタイヤ周方 向EE’全投影長さ(CG)との比を「LG/CG=2.5」とすることにより, 良好な耐摩耗性及び乗心地性能を享受し,かつ,湿潤路運動性能\も低下しないよう にしたものである(前記ア(イ)c)。 したがって,甲4には,「センター領域を含めた全ての領域が溝により複数のブ ロックに区画されたブロックパターンについて,1)全溝面積比率を25%とし,か つ,前記領域(タイヤ踏面の幅方向(タイヤ径方向)FF’のセンター部における トレッド踏面幅Tの50%以内の領域)の全溝面積比率を残りの領域の全溝面積比 率の3倍となし,2)前記ストレート溝と前記副溝とにより区画されたブロックに独 立カーフをタイヤ幅方向に形成し,3)前記ブロックの各辺と前記カーフの各辺のタ イヤ幅方向全投影長さLGとタイヤ周方向の全投影長さCGとの比LG/CG=2. 5とする。」との技術的事項,すなわち,甲4技術Aが記載されていると認められ る。
ウ 本件審決の認定について
本件審決は,甲4に甲4技術が記載されていると認定した。 しかし,前記アのとおり,甲4には,特許請求の範囲にも,発明の詳細な説明に も,一貫して,ブロックパターンであることを前提とした課題や解決手段が記載さ れている。また,前記イのとおり,甲4には,前記イ1)ないし3)の技術的事項,す なわち,溝面積比率,独立カーフ,タイヤ幅方向全投影長さとタイヤ周方向全投影 長さの比に関する甲4技術Aが記載されている。 そこで,これらの記載に鑑みると,上記イ1)ないし3)の技術的事項は,甲4に記 載された課題を解決するための構成として不可分のものであり,これらの構\成全て を備えることにより,耐摩耗性能を向上せしめるとともに,乾燥路走行性能\,湿潤 路走行性能及び乗心地性能\をも向上せしめた乗用車用空気入りラジアルタイヤを提 供するという,甲4記載の発明の課題を解決したものと理解することが自然である。 したがって,甲4技術Aから,ブロックパターンを前提とした技術であることを 捨象し,さらに,溝面積比率に係る技術的事項のみを抜き出して,甲4に甲4技術 が開示されていると認めることはできない。よって,本件審決における甲4記載の 技術的事項の認定には,上記の点において問題がある。

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平成29(行ケ)10062  取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月26日  知的財産高等裁判所(4部)

 異議理由ありとした審決が取り消されました。進歩性なしとの審決について、動機付けがないとの理由です。異議申立が認められる割合が低いのですが、それが取り消される事件は、さらに低いですね。
 引用発明Aでは,第1のワイヤが接続されるpn接合ダイオードの一の電 極及びショットキーバリアダイオードの一方の電極は,いずれもカソード電極とな\nる。 そして,引用例には,IGBT4とダイオード5との組合せを,SiCMOSF ETとショットキーバリアダイオードとの組合せに置き換える場合,置換えの前後 で動作を異ならせる旨の記載や示唆はない。 また,引用発明Aは,「トランスファーモールド樹脂で封止した電力用半導体装 置には,主端子に大電流を流すことができるブスバーの外部配線が,ねじ止めやは んだ付けで固定されるため,電力用半導体装置の組み立て時において,主端子部に おおきな応力が働き,この応力により,主端子の外側面とトランスファーモールド 樹脂との接着面に隙間が発生したり,トランスファーモールド樹脂本体に微細なク ラックが発生する等の不具合を主端子部に生じ,電力用半導体装置の歩留まりが低 くなり生産性が低下するとともに,信頼性も低下する」ことを課題とし,「トラン スファーモールド樹脂により封止された電力用半導体装置であって,主回路に接続 される主端子に大電流を流すことのできる外部配線を接続しても,外部配線の接続 により主端子部に発生する不良を低減でき,歩留まりが高く生産性に優れるととも に,信頼性の高い電力用半導体装置を提供すること」を目的とする発明であって(【0 007】,【0008】),この目的を達成することと,SiCMOSFETの型 や並列接続するショットキーバリアダイオードの接続方向を変更することは,無関 係である。 したがって,当業者が,引用発明Aにおいて,上記目的を達成するために,「前 記PN接合ダイオードの一の電極」及び「前記ショットキーバリアダイオードの一 方の電極」をカソード電極からアノード電極に変更する動機付けがあるとはいえな\nいから,相違点1’に係る本件発明1の構成を当事者が容易に想到できたものであ\nるとは認められない。
(イ) さらに,本件発明は,MOSFETに寄生しているpn接合ダイオードに 電流が流れると,MOSFETの結晶欠陥が拡大してデバイス特性が劣化し,特に, SiCMOSFETでは,寄生pn接合ダイオードに電流が流れると,オン抵抗が 増大するという課題があったが,ショットキーバリアダイオードを並列接続しても pn接合ダイオードに電流が流れてしまう現象が生じていることから(【0002】 〜【0004】,【0006】),本件発明1の構成を採用し,第2のワイヤに寄\n生するインダクタンスによって,pn接合ダイオードの順方向立ち上がり電圧以上 の逆起電力が発生しても,pn接合ダイオードに電流が流れないようにする(【0 014】)との作用効果を奏するものである。 しかし,引用発明Aの課題及び目的は,前記(ア)のとおりであり,引用例には, ダイオード5やワイヤーボンド7にインダクタンスが寄生することについての記載 や示唆はないことから,引用例に接した当業者が,引用発明Aに本件発明の作用効 果が期待されることを予想できたとはいえない。\n

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平成29(行ケ)10085  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月26日  知的財産高等裁判所(4部)

 異議理由ありとした審決が取り消されました。訂正は新規事項であるとした審決の判断は維持されましたが、訂正前の発明について、明確性違反および進歩性違反との判断は取り消されました。
 本件決定は,本件発明1の特許請求の範囲のうち「寄生ダイオード(131)の 立ち上がり電圧」は「上記ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高」いとの記載が, いかなる電流が流れる場合のことを表したものであるか不明であるから,明確性要\n件に適合しないと判断した。
(2) 前記2(3)イのとおり,請求項1において,寄生ダイオード(131)の「立 ち上がり電圧は,上記ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高く」と特定されてい るのは,本件発明1の構成として,同期整流を行う際,寄生ダイオード(131)\nの立ち上がり電圧を,ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高くするという技術的 事項を採用する旨特定するものである。 そして,本件発明1に係る電力変換装置において使用される還流電流の程度が限 定されていないことと,同期整流を行う際には,常に,寄生ダイオード(131) の立ち上がり電圧を,ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高くすることとは,関 係がない。
(3) したがって,「寄生ダイオード(131)の立ち上がり電圧」は「上記ユニ ポーラ素子本体のオン電圧よりも高」いとの本件発明1の特許請求の範囲の記載が, 第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。同記載 が明確ではないから,本件各発明の特許請求の範囲の記載は,明確性要件に適合し ないとする本件決定の判断は誤りである。
・・・・
引用発明は,モータの回生モードにおいて,回生電力の消費能力を高めると\nいう課題に対して,順方向電圧降下が高いボディダイオードに電流を流し,回生電 力を消費させるというものである。 このように,引用発明は,モータの回生モードにおいて,ボディダイオードに電 流を流し,ボディダイオードにおいて回生電力を損失させるという課題解決手段を 採用したものである。一方,本件周知技術は,寄生ダイオード側に電流を流さず, 発熱損失を低減させるというものであるから,引用発明の課題解決手段と正反対の 技術思想を有するものである。したがって,当業者は,引用発明におけるモータの 回生モードにおいて,正反対の技術思想を有する本件周知技術を適用することはな い。 そして,引用例には,引用発明の電力変換装置において,力行モードを回生モー ドから切り離し,力行モードの動作のみを変更することを示唆するような記載はな いから,当業者は,力行モードにおける動作のみを変更することを容易に想到する ことはない。 したがって,引用発明に本件周知技術を適用する動機付けはないというべきであ る。

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平成29(行ケ)10148  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年3月26日  知的財産高等裁判所(4部)

 CS関連発明の進歩性なしとした審決について、引用発明の認定に誤りはあるが、結論としては妥当として審決が維持されました。
 本件審決は,引用発明の「仮情報」は「固定情報」であることが示唆され ている旨判断した。
a この点について,被告は,本願発明の「固定情報」は,複数の取引ごとに変 化しない情報であればよく,取引のたびごとに生成削除されたとしても,生成のた びに同じ値の「仮情報」が生成されていれば「固定情報」であるといえる,実際, 引用発明において,仮情報は,口座取引の内容と無関係に生成される値であり,口 座取引内容に応じて値を変化させる必要がない旨主張する。 しかし,引用例1の【図3】のステップS310〜S311には,「仮情報」を 口座情報に基づいて生成することの記載はないし,「仮情報」はセキュリティの観 点から取引ごとに異なるものとすることが通常であるところ,引用例1にこれを同 じにすることを示唆する記載もない。したがって,引用発明において,生成のたび に同じ値の「仮情報」が生成されることが示唆されているとはいえない い。
b 被告は,引用例1の「ホストコンピュータ30においては,事前に仮情報デ ータと顧客口座情報の対応を検証し,ホスト側データ保管部302に保管しておい ても構わない。」(【0045】)との記載は,「仮情報」を複数の取引にまたが\nって用い得ることを示唆している旨主張する。 しかし,前記イ(イ)のとおり,事前に仮情報データと顧客口座の対応が検証され る場合であっても,「仮情報」は取引終了時に削除されることからすれば,「仮情 報」が複数の取引にまたがって用い得ることが示唆されているとはいえない。
c 被告は,引用例1の「仮情報使用の有効期限と有効回数を設けることも可能\nである。」(【0086】),「仮情報に有効期限と有効回数を設けることにより, 第3者等による不正利用防止のセキュリティを向上させることができる。」(【0 087】)との記載によれば,引用発明の「仮情報」を有効期限や有効回数が設け られた情報のような固定情報として生成することが示唆されている旨主張する。 しかし,「有効期限」(【0086】【0087】)は,携帯端末装置が仮情報 を受け取ってから,現金自動取引装置に仮情報を入力するまでの期限のことと解さ れ,「有効期限」の定めがあるからといって,1回の取引を超えて「仮情報」が使 用されることを示唆するとはいい難い。そして,「有効回数」(【0086】【0 087】)は,仮情報の使用回数を,1回限りではなく,数回としたものと解され るが,前記イ(イ)のとおり,引用発明は,課題解決手段として,顧客口座情報を用 いない手段を採用しているのであるから,「有効回数」の定めがあるからといって, 「固定情報」であることが示唆されているとはいい難い。
d したがって,引用発明の「仮情報」は「固定情報」であることが示唆されて いる旨の本件審決の判断には誤りがあるが,相違点2を容易に想到することができ た旨の本件審決の判断は,結論において正当である。

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平成29(行ケ)10063  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年2月20日  知的財産高等裁判所

 進歩性ありとした審決が、顕著な効果が見いだせないとして取り消されました。
 本件明細書の記載(【0003】,【0004】,【001 8】)のほか,証拠(甲9,14,76,77,乙3,8,15)及び 弁論の全趣旨によれば,リフロープロセスにおいては,プリヒート時の 熱によりはんだ粉末の表面に酸化物が生成されると,その酸化物に覆わ\nれたはんだ粉末は,ぬれ性が悪く,溶融した部分と一体化せず,また, はんだ粉末を構成する金属の酸化物は融点が1000℃に近く,はんだ\n粉末の融点付近の温度では溶融しないため,未溶融物を生じ,はんだ付 け不良を起こすことは,本件特許出願当時の技術常識であったことが認 められる。 この技術常識によれば,本件発明1,甲1発明いずれにおいても,は んだ付け性が低下する原因は加熱に伴うはんだの再酸化にあるというこ とができるところ,甲1文献記載のはんだ広がり試験は,プリヒートを 行うものではなく,また,共晶はんだも対象とされているためそれほど 高い温度に加熱する必要はない点において,本件明細書におけるはんだ 付け性試験とは異なるとしても,両試験は,はんだの再酸化が防止され ているかどうかを確認したものである点で共通するものということがで きる。
(イ) 前記のとおり,甲1文献には分子内に第3ブチル基のついたフェノ ール骨格を含む酸化防止剤がはんだ粉末の再酸化を防止することが記 載されているところ,本件発明1におけるヒンダードフェノール系化 合物からなる酸化防止剤は,分子内に第3ブチル基のついたフェノー ル骨格を含む酸化防止剤に該当するものである。このため,分子内に 第3ブチル基のついたフェノール骨格を含む酸化防止剤を含みさえす れば,はんだ粉末の再酸化が防止され,はんだ付け性が向上すること は,甲1文献及び技術常識から,当業者が予測し得たことといってよ\nい。
(ウ) また,本件発明1においては,酸化防止剤の分子量が少なくとも5 00であるとの限定を有するが,以下のとおり,このような限定を付 すことによって格別の効果が得られたことを裏付けるに足りる証拠は ないから,本件発明1の効果は,甲1文献及び本件特許出願当時の技 術常識から当業者にとって予測し得ない格別顕著なものであるとは認\nめられない。

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平成29(ネ)10089  虚偽事実の告知・流布差止等本訴請求,特許権侵害差止等反訴請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年2月22日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 プロバイダー宛ての特許侵害であるとの通知書の送付が、営業誹謗行為かが争われました。知財高裁(3部)は公然実施の無効理由があるとして、営業誹謗行為であると判断しました。
 控訴人は,縷々理由を述べて,控訴人による本件ニフティ宛文書の送付は, 社会通念上必要と認められる範囲のものであり,正当な権利行使の一環とし て違法性が阻却されるべき行為であるとか,これについて控訴人に過失はな いなどと主張する。 しかしながら,控訴人が本件ニフティ宛文書の送付に当たり無効理由の有 無について何ら調査検討を行っていないことは,控訴人自身が認めていると ころ,本件特許権1等の出願の経緯や,NTTコムのプロジェクト(本件サ ービスの開発に係る本件プロジェクト)に控訴人自身が参画していた経緯に 照らせば,本件発明1については,本件サービスや甲11発明等の関係で拡 大先願(特許法29条の2)や公然実施(特許法29条1項2号)などの無 効理由が主張され得ることは容易に予測できることであって,たまたま被控\n訴人との間の事前交渉において,かかる無効主張がなされなかったとしても, そのことだけで直ちにかかる無効理由についての調査検討を全く行わなくて もよいということにはならないというべきである。 また,証拠(甲12の1,15の1,16の1,18等)及び弁論の全趣 旨によれば,控訴人は,本件ニフティ宛文書の送付に先立つ平成22年11 月頃から平成23年5月頃にかけて,数か月にわたり,被控訴人との間で, 弁護士・弁理士等の専門家を交えて,被控訴人製品の使用等が本件特許1等 に抵触するものであるか否かについて交渉を行っており,その後,抵触を否 定する被控訴人との間で交渉が暗礁に乗り上げていたにもかかわらず,被控 訴人に対して再度交渉を求めたり,あるいは,訴訟提起を行ったりすること なく,平成26年3月頃から,被控訴人の顧客等に対して控訴人とのライセ ンスを持ちかける文書を送付するようになり,被控訴人から同文書の送付を 直ちに中止するよう求められても,これを中止するどころか,ニフティに対 し,明示的な侵害警告文書である本件ニフティ宛文書を送付するに至ったも のと認められる。 上記のような事情に照らせば,本件ニフティ宛文書の送付は,特許権侵害 の有無について十分な法的検討を行った上でしたものとは認められず,その\n経過も,要するに,被控訴人との交渉では埒が明かないことから,その取引 先に対し警告文書を送ることによって,事態の打開を図ろうとした(すなわ ち,侵害の成否について公権的な判断を経ることなく,いわば既成事実化す ることによって,競争上優位に立とうとした)ものであるといえる(なお, 控訴人は,本件書状3を送った時点では,ニフティが被控訴人の取引先であ るとは知らなかったとも主張するが,事実経過に照らして直ちに信用するこ とはできないし,少なくとも,本件書状4及び本件メールを送った時点では, 既にこれを明確に認識していた〔甲16〕のであるから,かかる事由をもっ て,違法性がないとか,過失がないということもできない。)。 このような控訴人の行為が,社会通念上必要と認められる範囲のものであ り,正当な権利行使の一環として違法性が阻却されるべき行為であるといえ ないことは明らかであり,また,これについて控訴人に過失が認められるこ とも明らかである。 したがって,本件ニフティ宛文書の送付は違法であり,かつ,控訴人には 少なくとも過失が認められるというべきであるから,これに反する控訴人の 主張は採用できない。

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平成29(行ケ)10121  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成30年2月14日  知的財産高等裁判所(2部)

 進歩性ありとした審決が取り消されました。理由は、引用文献に記載の数値を本件の範囲とする動機付けありというものです。
 引用文献の【0027】には,はんだ合金に,Biを添加することで,さらに温 度サイクル特性を向上させることができ,添加するBiの量は,1.5〜5.5質 量%が好ましいことが記載されている。したがって,引用発明1〜3のビスマスの 量を,上記好ましい量の範囲内である,4.8質量%を超過し,5.5質量%まで の範囲とする動機付けがあるといえる。 そして,本件発明2〜8においてビスマスの含有割合が所定の範囲内であること の効果は,「優れた耐衝撃性を得ることができ,また,比較的厳しい温度サイクル条 件下に曝露した場合においても,優れた耐衝撃性を維持することができる」(本件明 細書【0031】)ことにある。引用発明1〜3においてビスマスの含有割合を上記 好ましい範囲内とすることの効果は,温度サイクル特性を向上させること(引用文 献【0027】)であるが,ここにいう温度サイクル特性とは,「−40℃から+1 25℃の温度サイクル試験を3000サイクル近く繰り返しても,微量なはんだ量 のはんだ接合部にもクラックが発生せず,また,クラックが発生した場合において も,クラックがはんだ中を伝播することを抑制」する(引用文献【0021】)とい う性質である。温度サイクル試験後のはんだ接合部にクラックが発生せず,クラッ クが発生してもその伝播を抑制する効果が高まれば,厳しい温度サイクル条件下の 耐衝撃性も高まるものといえる。そして,厳しい温度サイクル条件下の耐衝撃性が 高ければ,そのような厳しい条件下にない場合の耐衝撃性も高いことが予想される。\nしたがって,本件発明2〜8におけるビスマスの含有割合を所定の範囲内とするこ との上記効果は,引用発明1〜3のビスマスの量を4.8質量%を超過し,5.5 質量%までの範囲とする上記効果と比較して,格別顕著な効果であるとはいえない。 以上より,引用発明1〜3において,Bi:3.2質量%の数値を,相違点2に 係る,「4.8質量%を超過し,5.5質量%まで」の範囲の本件発明2〜8の構成\nとすることは,当業者が容易になし得たものである。 イ 相違点4について 引用文献の【0028】には,はんだ合金に,Coを添加することで,Niの効 果を高めることができ,添加する量は,0.001〜0.1質量%が好ましいこと が記載されている。したがって,引用発明4〜6にコバルトを添加し,その量を0. 001質量%〜0.1質量%とする動機付けがあるといえる。 本件発明2〜8においてコバルトの含有割合が所定の範囲内であることの効果は, 「優れた耐衝撃性を得ることができ,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝 露した場合においても,優れた耐衝撃性を維持することができる」(本件明細書【0 037】)ことにある。そして,引用発明4〜6においてコバルトの含有割合を上記 好ましい範囲内とすることの効果は,Niの効果を高めること,すなわち,はんだ 付け界面付近に発生する金属間化合物層の金属管化合物を微細化して,クラックの 発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制する働きをする(引 用文献【0024】,【0028】)という効果を高めることである。クラックの発生 を抑制し,一旦発生したクラックの伝播を抑制すれば,耐衝撃性がより優れ,これ が維持されるといえる。したがって,本件発明2〜8におけるコバルトの含有割合 が所定の範囲内であることの効果は,引用発明4〜6においてコバルトを添加し, その含有割合を0.001質量%〜0.1質量%とすることの効果と比較して,格 別顕著なものであるとはいえない。 以上より,引用発明4〜6にコバルトを添加し,その量を0.001質量%〜0. 1質量%として,相違点4に係る,「コバルトの含有割合が,0.001質量%以上 0.1質量%以下(本件発明6については0.003質量%以上0.01質量%以 下)」の本件発明2〜8の構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。\n ウ 被告の主張について 被告は,本件発明2〜8と,引用発明1〜6との間には,ビスマスの含有量又は コバルトの含有量について明確な相違点があり,これを容易想到とする理由はない, と主張する。 しかし,前記ア及びイのとおり,引用発明1〜3において相違点2に係る構成を\n採用すること,及び引用発明4〜6において相違点4に係る構成を採用することの\n動機付けがあり,本件発明2〜8のビスマスの含有量及びコバルトの含有量につい て格別顕著な効果があるともいえないから,引用発明1〜6に相違点2及び4の構\n成を採用することは,容易想到である。

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平成29(行ケ)10025  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年12月21日  知的財産高等裁判所

 外為オンラインVSマネースクウェアの侵害訴訟の対象となった特許(特5650776号)についての無効審判の審決取消訴訟です。マネースクウェアの保有する特許について無効理由無しとした審決が維持されました。
 本件発明1と引用発明とを対比すると,少なくとも,1)「金融商品の売 買取引を管理する金融商品取引管理装置であること,2)前記金融商品の売買注文を 行うための売買注文申込情報を受け付ける注文入力手段を備えること,3)該注文入 力受付手段が受け付けた前記売買注文申込情報に基づいて金融商品の注文情報を生\n成する注文情報生成手段を備えること,及び,4)一の前記売買注文申込情報に基づ\nいて,所定の前記金融商品の売り注文又は買い注文の一方を成行又は指値で行う第 一注文情報と,該金融商品の売り注文又は買い注文の他方を指値で行う第二注文情 報と,を含む注文情報群を複数回生成することで共通し,5)引用発明が,「前記金融 商品の売り注文又は買い注文の前記他方を逆指値で行う逆指値注文情報」を生成し ていない点で相違している。
イ 本件発明1の構成1Gは,「前記第二注文情報に基づく該指値注文が約定\nされたとき,次の注文情報群の生成を行うと共に,該生成された注文情報群の前記 第一注文情報に基づく前記成行注文の価格と同じ前記価格の指値注文を有効に」(1 G前段)するとともに,「以後,前記第一注文情報に基づく前記指値注文の約定と, 前記第一注文情報に基づく前記指値注文の約定が行われた後の前記第二注文情報に 基づく前記指値注文の約定と,前記第二注文情報に基づく前記指値注文の約定が行 われた後の,次の前記注文情報群の生成とを繰り返し行わせる」(1G後段)という ものである。構成1G前段は,売買取引開始時において,同じ注文情報群に含まれ\nる第一注文情報に基づく成行注文が約定した後で,第二注文情報に基づく該指値注 文が約定されたときに,次の注文情報群の前記第一注文情報に基づく注文が,上記 売買取引開始時に約定された成行注文の価格と同じ価格の「指値注文」として有効 に生成されることとを意味するものである。 これに対し,引用発明は,前記2(2)のとおり,代替実施形態においては,パート 1注文とパート2注文とで形成されるLOCK注文を再度自動的に繰り返すもので ある。このことは,引用文献の図6では,代替実施形態において情報を入力する際 に「指値注文」と「成行注文」を選択する欄しかない上,引用文献の[0085] には,「『サイクル数44』の追加によって,投資家は,より多くの利益を得ること を望んで,LOCK処理に自動的に再入力できるようになるであろう。」と記載され ており,図7には,サイクル数選択「44」を経て同じ注文が繰り返される旨の矢 印が記載されていることからしても,明らかであるということができる。したがっ て,1回目のLOCK注文の第一注文が成行注文である場合には,繰り返されるL OCK注文の第一注文も成行注文であり,1回目のLOCK注文の第一注文が指値 注文である場合には,繰り返されるLOCK注文の第一注文も指値注文であるとい うことができる。
ウ 以上より,本件発明1と引用発明とは,本件発明の構成1Gの点におい\nて相違している。

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◆関連発明(特5525082号)についての審決取消訴訟です。こちらも権利有効維持です。

平成29(行ケ)10024

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平成29(行ケ)10072  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年12月21日  知的財産高等裁判所

 異議理由あり(進歩性)との審決が、引用文献の認定誤りを理由に取り消されました。異議の成立自体が低く、かつそれが取り消されるのはかなりレアな事例です。
 以上より,甲5文献記載の発明は,ポリメチルシルセスキオキサンの製 造方法に関するものであり(前記ア2)),塩素原子の含有量が少なく,アルカリ土類 金属やアルカリ金属を含有せず,自由流動性の優れた粉末状のポリメチルシルセス キオキサンの製造方法を提供することを目的とし(前記ア3)),アンモニアまたはア ミン類を,原料であるメチルトリアルコキシシラン中に残存する塩素原子の中和剤, 並びに,メチルトリアルコキシシランの加水分解及び縮合反応の触媒として用いる という製造方法を採用したものである(前記ア4))と認められる。
(2) 引用発明の粉末のシラノール基量及び撥水性を甲4実験に基づき認定し た点について
ア 甲1文献の実施例1において用いたポリメチルシルセスキオキサン粉末 は,「甲5文献記載の方法により得た平均粒子径5μm」のものである。決定は,甲 4実験は,甲1文献の実施例1を追試したものであり,甲4実験のポリメチルシル セスキオキサン粒子は,シラノール基量が0.08%であること,及び,撥水性の 程度が「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間 攪拌後において,粒子が分散しない程度」であることを示していると認定した上で, 引用発明のポリメチルシルセスキオキサン粒子のシラノール基量及び撥水性を認定 した。 しかし,甲1文献の実施例1にいう,甲5文献記載の方法によることが,甲5文 献の実施例1によることで足りるとしても,以下のとおり,甲4実験は甲1文献の 実施例1を再現したものとは認められない。
イ 甲5文献の実施例1を含む甲1文献の実施例1の方法と,甲4実験とを 比較すると,少なくとも,1)攪拌条件,及び,2)原料メチルトリメトキシシランの 塩素含有量において,甲4実験は,甲1文献の実施例1の方法を再現したとは認め られない。
(ア) 攪拌条件について
真球状ポリメチルシルセスキオキサンの粒子径をコントロールするために,反応 温度,攪拌速度,触媒量などの反応条件を選定すること(乙2 489頁左欄6行 〜11行),ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の製造方法として,オルガノトリ アルコキシシランを有機酸条件下で加水分解し,水/アルコール溶液,アルカリ性 水溶液を添加した後,静止状態で縮合する方法において,弱攪拌又は攪拌せずに縮 合反応させることによって,低濃度触媒量でも凝集物を生成しない粒子を得ること ができるが,粒径が1μm以上の粒子を製造するのに不適切であることが本件発明 の従来技術であったこと(本件明細書【0006】)からすると,ポリメチルシルセ スキオキサン粒子の製造においては,攪拌条件により,粒子径の異なるものが得ら れるものといえる。 甲5文献の実施例1には,攪拌速度は記載されておらず,甲4実験においても, 攪拌速度が明らかにされていない。したがって,実験条件から,得られたポリメチ ルシルセスキオキサン粒子の平均粒径を推測することはできない。加えて,甲4実 験においては,甲5文献の実施例1で追試して得られたとするポリメチルシルセス キオキサン粒子の粒径は計測されていない。したがって,甲4実験において甲5文 献の実施例1を追試して得られたとするポリメチルシルセスキオキサン粒子の平均 粒子径が,甲1文献の実施例1で用いられたポリメチルシルセスキオキサン粉末と 同じ5μmのものであると認めることはできない。
(イ) 原料メチルトリメトキシシランの塩素含有量について
甲5文献記載の発明は,前記(1)イのとおり,塩素原子の含有量が少ないポリメチ ルシルセスキオキサンの製造方法を提供するものであり,塩素原子を中和するため にアンモニア又はアミン類を用いるものである。そして,アンモニア及びアミン類 の使用量は,アルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物中に存在する塩素原子 を中和するのに十分な量に触媒量を加えた量であるが,除去等の点で必要最小限に\nとどめるべきであり,アンモニア及びアミン類の使用量が少なすぎると,アルコキ シシラン類の加水分解,さらには縮合反応が進行せず,目的物が得られない(前記 (1)ア4))。実施例1〜5及び比較例1〜3においては,原料に含まれる塩素原子濃 度並びに使用したアンモニア水溶液の量及びアンモニア濃度が記載されている(前 記(1)ア5)6))。以上の点からすると,塩素原子の中和に必要な量でありかつ除去等 の点で最小限である量のアンモニア及びアミン類を使用するために,塩素原子の量 とアンモニア及びアミン類の量を確認する必要があり,そのために,甲5文献の実 施例1においては,用いたメチルトリメトキシシランのメチルトリクロロシランの 含有量が塩素原子換算で5ppmであることを示したものと理解される。 ところが,甲4実験で甲5文献の実施例1の追試のために原料として用いたメチ ルトリメトキシシランの塩素原子含有量は計測されていない。したがって,甲4実 験で用いられたメチルトリメトキシシランに含有される塩素原子含有量と甲5文献 の実施例1で用いられたメチルトリメトキシシランに含有される塩素原子含有量と が同一であると認めることはできない。そうすると,甲4実験において,甲5文献 の実施例1と同様にアルコキシシラン類の加水分解,縮合反応が進行したと認める ことはできず,その結果,得られたポリメチルシルセスキオキサン粒子が,甲5文 献の実施例1で得られたものと同一と認めることはできない。
ウ 以上より,甲4実験で用いたポリメチルシルセスキオキサン粒子は,甲 1文献の実施例1で用いられたものと同一とはいえないから,甲4実験で得られた ポリメチルシルセスキオキサン粒子のシラノール基量及び撥水性を,甲1文献の実 施例1のそれと同視して,引用発明の内容と認定することはできない。

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