2023.12.14
令和4(ワ)5553 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年12月7日 大阪地方裁判所
特許は公然実施による新規性違反があるとして、権利行使不能と判断されました。時期に後れたとの主張は認められず、また、訂正の再抗弁も認められませんでした。
前記認定事実アによれば、本件プレイヤードの部材Aは本件発明の縦枠に、
部材Bは側面シートに、部材Cは底面シートにそれぞれ相当し、部材Gに固定され
た部材Aの下端部分は、部材Cの六角形の頂点にあたる部分に部材Dを介して固定
され、外側への移動が制限されているものと認められる。そうすると、本件プレイ
ヤードは、「環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の部材A(縦枠)と、
隣り合う部材Aを渡すように張られメッシュ部B1を有する部材B(側面シート)
と、底面に位置する非伸縮性の部材C(底面シート)と、を備え、部材Cは平面視
において多角形の形状を有しており、各部材Aの下端部分は非伸縮性の部材Cの多
角形の頂点にあたる部分に(部材Dを介して)固定され外側への移動が制限されて
いる、プレイヤード」との構成を有するものということができるから、本件発明の\n各構成要件を充足する。\n
そして、特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多
数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記認定事実イ
のとおり、被告は、本件特許出願前の平成17年頃、カタログに本件プレイヤード
を掲載して需要者に対して販売していたから、その内容を不特定多数の者が知り得
る状況で本件発明を実施したものと認められる。
(4) 原告は、本件無効審判事件の進行状況等に照らすと、被告による乙第12
号証を証拠とする無効理由の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下される
べきである旨の申立て(民訴法157条1項に基づくものと理解される。)をする。\nしかし、攻撃防御方法の提出について時機に後れたかどうかは、本件訴訟の具体的
な進行状況等に即して判断されるべきである。そして、原告の訂正の再抗弁等に対
するものとして、乙第12号証及びこれに基づく無効理由を主張する被告の準備書
面(1)が令和5年2月15日に提出されたところ、その時点では、書面による準備
手続における協議が重ねられ、争点及び証拠の整理手続中(いわゆる心証開示前)
であり、被告が故意又は重大な過失により当該攻撃防御方法を提出したとか、それ
により訴訟の完結が遅延するなどの客観的な事情があったとは認められないから、
原告の前記申立ては理由がないものとして却下する。\n
(5) 以上のとおり、本件発明は、本件特許出願前に日本国内において公然実施
された発明であって、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきものである
から、後記3で検討する訂正の再抗弁が成り立たない限り、原告は、被告に対し、
本件特許権を行使することができない(特許法123条1項、104条の3第1項、
29条1項2号)。
3 訂正の再抗弁の成否(争点3)について
本件訂正により、本件プレイヤードに基づく新規性欠如(前記2)の無効理由が
解消されるか否かにつき検討する。
(1) 原告は、本件訂正発明と本件プレイヤードを対比すると、1)本件訂正発明
の接続テープは各縦枠に対して取外しできるように構成されているのに対し、本件\nプレイヤードの部材Dは部材Aに対して取外しできるように構成されていない点、\n2)本件訂正発明の側面シート及び底面シートは各縦枠に対して取外し可能に構\成さ
れているのに対し、本件プレイヤードの部材B及び部材Cは部材Aに対して取外し
可能に構\成されていない点の2つの相違点があるから、本件訂正により本件プレイ
ヤードに基づく新規性欠如の無効理由は解消される旨主張する。
(2) しかしながら、前記2(2)ア認定のとおり、本件プレイヤードにおいては、
各部材Aの下端部分は、接地部材Gが受けて固定しているところ、部材Cに取り付
けられた部材D(テープバンド)が部材Gに挟み込まれて2か所でねじ止めされて
(以下「本件ねじ止め」という。)、各部材Aの下端部分が(部材Dを介して)部
材Cに固定されている。そして、本件ねじ止めは、タッピングねじによるものであ
るが、ねじの取外しをすることは可能であり、このねじを取り外せば、部材Dを部\n材Aの下端部分が固定されている部材Gから取り外すことができるから、部材Dは、
部材Aに対して取外し可能であると認められる。\nまた、前記のように部材Dを部材Aから取り外せば、部材Dが取り付けられてい
る部材C及びこれと一体に形成されている部材B(前記2(2)ア)も部材Aから取
り外すことができるものと認められる。
そうすると、本件訂正発明と本件プレイヤードの対比において、原告が主張する
前記(1)の1)及び2)の相違点はいずれも認めることができない。
(3) これに対し、原告は、本件ねじ止めはタッピングねじによるものであると
ころ、同ねじは、日常的に繰り返し取り外す必要がある部位には使用されないもの
であるから、本件プレイヤードは、使用者が再組立できなくなる等のリスクを冒し
てまで、部材Dや部材B及び部材Cの「取外し」を行うことは想定されていない旨
主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件Xは「…各縦枠に対して取外しできる\nように構成されている接続テープを備え」、構\成要件Yは「前記側面シート及び前
記底面シートが…各縦枠に対して取外し可能に構\成されている」というものである
ところ、取外しの具体的な態様や頻度等について何ら限定をしていない。そうする
と、タッピングねじによる本件ねじ止めは、その構造上も実際上も取外し可能\であ
る以上、本件プレイヤードの構成につき、本件訂正発明の前記各構\成要件との相違
点を認めることはできず、原告の主張は採用できない。
また、原告は、本件プレイヤードは「WATERPROOF」、つまり防水性の
製品であって、洗濯機での洗濯や脱水は危険であることから、市販製品の一般的な
意味での「取外し」はできず、このような製品を「取外し可能」と評価することは\nできない旨主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件X及びYにおいて、「取外\nし」の目的が特定されているものではないし、本件明細書の段落【0013】の記載
(「この構成によれば、側面シートと底面シートを縦枠から取り外して洗うことが\nできるため、幼児用サークルを清潔に保つことができる。」)を参酌するとしても、
その洗い方が洗濯機によるものに限定されているものではないから、原告の主張は
採用できない。
(4) したがって、本件訂正によっても、本件プレイヤードに基づく新規性欠如
の無効理由は解消されないから、原告の訂正の再抗弁は成り立たない。
◆判決本文
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2023.10.14
令和5(ネ)10047 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年10月3日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
1審は、進歩性無しとして権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。\n
◆本件特許6865989号
については、無効審判で無効判断がなされてますが、確定前に取り下げられています。無効審判請求人は、被告ではありません。
控訴人は、授乳室は最適の場所に設置されるものであり、通常は移動が考
えられないから、乙6発明に授乳室の移動を容易にするという動機付けが内
在しているとはいえない旨主張する。
しかし、乙6文献の記載によれば、乙6発明に係る授乳室は設置場所の
壁と床から独立した部材からなる筐体であり、これを既存の建物内に搬入す
る形で設置したものと認められるから、設置場所の変更や一時的な退避等の
理由による移動を行うことも十分想定されるものである。乙6発明は移動を\n容易にするという動機付けを内在しているというべきであり、控訴人の主張
は採用できない。
(2) 控訴人は、乙6発明と本件各引用文献記載の技術事項は技術分野が異なり、
乙6発明の属する「プライバシーに配慮した筐体内部に保育空間を形成する」
技術分野においては、筐体にキャスターを付けることが周知技術であるとは
いえない旨主張する。
しかし、本件発明と乙6発明の相違点である「筐体を移動させるキャス
ターを備えること」(本件発明の構成要件E)の技術的意義についてみると、\n本件明細書の記載(【0009】「キャスターを利用して授乳用ユニットを
適切な位置に移動させるという作業を行うだけで、授乳用空間が形成された
授乳エリアを設置することができる。」、「キャスターを利用して授乳用ユ
ニットを移動させるだけで…授乳用空間のレイアウトの変更を容易に行うこ
とができる。」、【0032】「…このように筐体4の底面7にキャスター
36が設けられているため、キャスター36を利用して、地面上で授乳用ユ
ニット1を簡易に移動させることができる。」、【0033】「このように、
本実施形態に係る授乳用ユニット1は、キャスター36を利用して地面上を
移動させることができると共に、固定部材37により任意の位置に固定する
ことができる。この構成のため、以下の効果を奏する。…本実施形態によれ\nば、所定の空間に、授乳用ユニット1を持ち込み、キャスター36を利用し
て、適切な位置に授乳用ユニット1を移動させて、固定部材37で位置を固
定するという簡単な作業を行うのみで、授乳者がプライバシーが完全に保護
された状態で授乳を行うことが可能な授乳用空間3を設けることができ\nる。」、【0034】「さらに、本実施形態によれば、授乳用ユニット1は、
キャスター36を利用して地面上を移動させることができるため、授乳エリ
アのレイアウトの変更も容易である。」)によれば、本件発明においても、
授乳中に筐体を移動させることまで想定しているとは認められず、単に内部
の空間に利用者が入ることが可能な筐体を簡易に移動させることができるよ\nうにすることにあると認められる。
このような構成要件Eの技術的意義からみると、本件各文献記載の技術\n事項において、筐体に人を収容する目的が異なるからといって本件発明と技
術分野が異なるなどということはできない。
さらに、本件各引用文献のうち、乙5公報に記載された発明の内容は、
「少なくとも周囲の人の視線を遮ると共に、内部に保育空間を画成する遮蔽
体からなる本体」と「扉」が取り付けられたものであるから(乙5)、「プ
ライバシーに配慮した筐体内部に保育空間を形成する」ものと認められるし、
その他の本件各引用文献の記載内容も、筐体に人を収容する目的はそれぞれ
異なるものの(乙13公報は感染性疾患を有する患者の治療、乙14文献は
内部で仕事や読書をするためのパーソナル空間、乙15文献は高気圧酸素環\n境での有酸素運動、乙16公報は浴室、乙17公報は居室内の個室)、いず
れも外部の視線を遮り、プライバシーを守る目的又は効果を有する筐体に関
するものである。控訴人の上記主張は、いずれにせよ採用できない。
(3) 控訴人は、乙6発明には、授乳室を当初設置した場所から移動することに
よる利用者の利便性の低下、スペースが十分に確保されていない場所への移\n動による人の動線の悪化、人目の届かない場所等への設置による利用者の安
全性の低下又は巡回のための町役場職員の業務増加等、移動による支障が非
常に大きいという阻害要因がある旨主張する。
しかし、控訴人の主張する内容は不適切な場所に移動した場合の弊害に
すぎないから、乙6発明に適切な場所への移動を容易にするための移動手段
を設けることについての阻害要因があるとはいえない。
(4) 控訴人は、本件発明は予測できない顕著な効果を有する旨主張する。\n しかし、1)簡易迅速な授乳室の移動を可能・容易にすること、2)授乳用空
間の増設やレイアウト変更を実現することは、いずれもキャスターを付ける
ことによる通常の効果であり、3)利用者による授乳室周辺への回遊の促進を
実現すること(例えば、フードコート付近に設置することによるフードコー
トの利用者の増加〔甲33〕)は、適切な場所に授乳室を設置することによ
る効果であり、いずれも予測できない顕著な効果ということはできない。\n
(5) 以上のとおり、控訴人の当審における補充的主張はいずれも採用できず、
原審が判断するとおり、本件発明は、当業者が乙6発明に周知技術を組み合
わせることにより容易に発明をすることができたものと認められ、本件発明
は特許無効審判により無効にされるべきものである。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和4(ワ)16934
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2023.10.11
令和5(行ケ)10023 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年10月3日 知的財産高等裁判所
特許異議申立で取消審決がなされましたが、特許権者は知財高裁に取消訴訟を提起しました。知財高裁は、請求項の「内接」の意義を定義した上、審決を維持しました。出願人は「ドクター中松」で、本人訴訟です。
本件特許はこれです。多数の分割出願があります。
◆本件特許
(1) 本件発明は、上昇下降用プロペラの回転軌跡を複数の翼に内接させるこ
とでプロペラガードとして兼用するとの構成を備えるものであるところ、個別の取消事由の検討に入る前に、ここでいう「内接」及び「プロペラガード\nとして兼用」の意義を明らかにしておく。
(2) 「内接」とは、国語辞典に「多角形の各辺がその内部にある一つの円に
接する時、その円は多角形に内接する…」との用例が挙げられているとおり
(甲11)、図形の各辺とその内部の円などが接していることを表す用語である。\n
本件明細書の【0013】には、「図8は本発明第5の実施例で、上下用
プロペラ4つの回転軌跡39を全部内接させ、プロペラガードを設けずに4
枚の主翼24と先尾翼28と尾翼29をプロペラガードに兼用させたもので
ある」との説明が記載され、図8には、上昇下降用の4つのプロペラが示さ
れ、うち翼の間に配置された左右2つのプロペラの回転軌跡がそれぞれ前後
の主翼24と接するように示されている。
同様に、図7、9においても、翼の間に配置された上昇下降用の複数のプ
ロペラの回転軌跡が前後の翼に接するように示されており、これに本件明細
書の【0012】〜【0014】(前記第2の2(2)イ)の記載を総合すれ
ば、図7〜9に係る第4〜6実施例は、上昇下降用プロペラの回転軌跡を複
数の翼に内接させることでプロペラガードとして兼用するとの構成を示すものと解される。\nもっとも、プロペラの回転軌跡と翼が文字通り接する(接触する)場合、
プロペラの回転が妨げられることが明らかであるから、本件発明の「内接」
とは、プロペラの回転軌跡が翼と接触するには至らない限度で十分に近接していることを意味するものと解される。\n
(3) そして、本件発明の「プロペラガードとして兼用」とは、特許請求の範
囲の記載に示されているとおり、複数の翼の間に配置された上昇下降用プロ
ペラの回転をガードする機能をいうものであり、この機能\は、複数の翼の間
に配置された上昇下降用プロペラの回転軌跡を前方又は後方の複数の翼に内
接させることによって生じるものであると認められる。また、本件発明の上記第4〜6実施例(図7〜9)では、複数の翼の間に配置された上昇下降用プロペラの回転軌跡の一部のみが翼に内接する構成が示されていることから、上昇下降用プロペラの回転軌跡の少なくとも一部が翼に内接していれば、翼がプロペラガードとして機能\するものと解される。
(4) 原告は、「内接」とは「プロペラ軌跡が両翼に挟まれ、かつ両翼端部を結んだ線を出ないことを意味する」とも主張するが(上記第3の1(2)ア)、図7〜9の実施例がそのような構成を有するものだとしても、特許請求の範囲に当該構\成を加える訂正(減縮)をしたわけでもないのに、「内接」という文言自体をそのような限定的な意味で解釈することは許されないというべきである。
◆判決本文
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2023.10.10
令和4(ネ)10094 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年10月5日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、分割の遡及効が認められず、親出願から新規性違反の無効理由有りと判断していましたが、知財高裁はサポート要件違反ありとして権利行使不能と判断しました。
当裁判所は、本件発明に係る特許請求の範囲の記載には、分割出願が適法である
か否かにかかわらず、サポート要件違反があり、本件訂正が有効であったとしても、
サポート要件違反があることが認められるから、結局、本件特許は特許法36条6
項1号違反により無効にされるべきものであり、同法104条の3第1項により、
原告は被告に対し、本件特許権を行使することはできないと判断する。その理由は、
以下のとおりである。
(2) 本件についてみると、本件明細書(以下、原出願当初明細書も同じ。)には、
「発明が解決しようとする課題」として、「出願人は、1234yf等の新たな低地
球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在すること
を見出した。」(【0003】)との記載がある。また、「本発明によれば、HFO−1234yfと、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HCFC−243
db、・・・caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化
合物とを含む組成物が提供される。組成物は、少なくとも1つの追加の化合物の約
1重量パーセント未満を含有する。」(【0004】)、「HFO−1234yfには、いくつかある用途の中で特に、冷蔵、熱伝達流体、エアロゾル噴霧剤、発泡膨張剤
としての用途が示唆されてきた。また、HFO−1234yfは、V.C.Pap
adimitriouらにより、Physical Chemistry Che
mical Physics、2007、9巻、1−13頁に記録されているとお
り、低地球温暖化係数(GWP)を有することも分かっており有利である。このよ
うに、HFO−1234yfは、高GWP飽和HFC冷媒に替わる良い候補である。」
(【0010】)といった記載に、【0013】、【0016】、【0019】、【0022】、【0030】、【図1】の記載を総合すると、本件明細書には、HFO−1234yfが低地球温暖化係数(GWP)を有することが知られており、高GWP飽和HF
C冷媒に替わる良い候補であること、HFO−1234yfを調製する際に特定の
追加の化合物が少量存在すること、本件発明の組成物に含まれる追加の化合物の一
つとして約1重量パーセント未満のHFC−143aがあること、HFO−123
4yfを調製する過程において生じる副生成物や、HFO−1234yf又はその
原料(HCFC−243db、HCFO−1233xf、HCFC−244bb)
に含まれる不純物が、追加の化合物に該当することが記載されているということが
できる。
しかるところ、HFO−1234yfは、原出願日前において、既に低地球温暖
化係数(GWP)を有する化合物として有用であることが知られていたことは、【0
010】の記載自体からも明らかである。したがって、HFO−1234yfを調
製する際に追加の化合物が少量存在することにより、どのような技術的意義がある
のか、いかなる作用効果があり、これによりどのような課題が解決されることにな
るのかといった点が記載されていなければ、本件発明が解決しようとした課題が記
載されていることにはならない。しかし、本件明細書には、これらの点について何
ら記載がなく、その余の記載をみても、本件明細書には、本件発明が解決しようと
した課題をうかがわせる部分はない。本件明細書には、「技術分野」として、「本開
示内容は、熱伝達組成物、エアロゾル噴霧剤、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニ
ング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよ
びポリウレタンの膨張剤、ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にあ
る消火剤として有用な組成物の分野に関する。特に、本開示内容は、2,3,3,
3,−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)また
は2,3−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243db
または243db)、2−クロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−
1233xfまたは1233xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフ
ルオロプロパン(HCFC−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有
用な組成物に関する。」(【0001】)との記載があるが、同記載は、本件発明が属
する技術分野の説明にすぎないから、この記載から本件発明が解決しようとする課
題を理解することはできない。
そうすると、本件明細書に形式的に記載された「発明が解決しようとする課題」
は、本件発明の課題の記載としては不十分であり、本件明細書には本件発明の課題が記載されていないというほかない。そうである以上、当業者が、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することができるというこ\nともできない。
(3) 仮に、上記【0001】の記載をもって本件発明の課題を説明したものと理
解したとしても、次に述べるとおり、本件明細書の記載をもって、当業者が当該課
題を解決することができると認識することができるとは認められない。
すなわち、この場合の本件発明の課題は、「2,3,3,3,−テトラフルオロプ
ロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)または2,3−ジクロロ−1,
1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243dbまたは243db)、2−ク
ロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xfまたは123
3xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(HCFC
−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有用な組成物を提供すること」
と理解されることとなるはずである。
そして、本件発明は、1)HFO−1234yf、2)0.2重量パーセント以下の
HFC−143a、3)1.9重量パーセント以下のHFC−254ebを含む組成
物によって、当該課題を解決するものということになる。
しかるところ、本件明細書には、上記1)〜3)を含む組成物についての記載がされ
ているとはいえない。すなわち、【0121】〜【0123】(表5(【表\6】))には、実施例15として、HCFC−244bbからHFO−1234yfへ、触媒無しで変換したところ生じた、HFO−1234yf、HFC−143a及びHFC−
254ebを含む組成物が4例記載されており(加熱された温度(゜C))がそれぞれ
550、574、603、626)、当該組成物に含まれるHFC−143aの量が
それぞれ、0.1、0.1、0.2、0.2モルパーセントであること、及び同H
FC−254ebの量がそれぞれ1.7、1.9、1.4、0.7モルパーセント
であることが記載されている。しかしながら、表5(【表\6】)に記載された組成物
には「未知」のものが含まれており、その分子量を知ることができないから、同表において、モルパーセントの単位をもって記載されたHFC−143a及びHFC−254ebの含有量を、重量パーセントの含有量へと換算することはできない。\nそうすると、本件明細書には、上記1)〜3)の構成を有する組成物についての記載がされていないというほかない。それのみならず、本件明細書には、このような構\成を有する組成物が、HFO−1234yfの前記有用性にとどまらず、いかなる意
味において「有用」な組成物になるのか、という点について何ら記載されておらず、
示唆した部分もない。したがって、当業者が、本件明細書の記載から、上記1)〜3)
の構成を有する組成物が、熱伝達組成物として「有用な」組成物であるものと理解することもできない。したがって、当業者は、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することはない。
(4) 以上のとおり、分割出願が有効であり、出願日が原出願日(平成21年5月
7日)となると考えたとしても、本件発明に係る特許請求の範囲の記載が、サポー
ト要件に適合するということができないから、本件発明に係る特許は、無効審判請
求により無効とされるべきものである(特許法123条1項4号、36条6項1号)。
そして、このことは、分割出願が無効であり、出願日が分割出願の日(令和元年9
月4日)となる場合でも同様である。
3 争点3(訂正の再抗弁の成否)について
本件訂正発明についても、本件発明に係る請求項1のHFO−1234yfにつ
いて「77.0モルパーセント以上」という下限が設定されただけで、本件訂正後
の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合しても、当該下限にどのような技術
的意義があり、これによりどのような課題を解決することができるのかは明らかに
されていない。また、前記2(2)及び(3)と同様、本件訂正発明に係る組成物の構成により解決しようとしている課題や、その解決方法が本件明細書に記載されていないことには変わりはない。したがって、訂正が有効だとしても、本件訂正発明に係\nる特許請求の範囲の記載には、前記2(2)及び(3)と同じ理由により、サポート要件
違反の無効理由が存在することとなるので、訂正の再抗弁によりサポート要件違反
の無効理由を解消することはできない。
そうすると、本件訂正の適法性及びその余の争点につき判断するまでもなく、特
許法104条の3第1項により、原告は被告に対し、本件特許権を行使することが
できない。
本件特許の無効審決審決取消訴訟です。
◆令和4(行ケ)10126
◆令和4(行ケ)10125
侵害訴訟の1審はこちらです。
1審は、新規性違反を理由として、権利行使不能と判断していました(特104-3)。
◆令和3(ワ)29388
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2023.08.23
令和4(行ケ)10108 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年8月10日 知的財産高等裁判所
出願人ディズニーの拒絶査定不服審判の審取です。審決維持です。争点は周知技術への置換の動機づけがあるかです。
(2) 本件周知技術の甲1発明への適用に係る動機付けについて
甲1の記載及び弁論の全趣旨によると、甲1発明は、HDRビデオにおけるトー
ンマッピングの方法に関する発明であると認められる。これに対し、甲2ないし4
の記載及び弁論の全趣旨によると、本件周知技術も、HDRビデオにおけるトーン
マッピングの方法に関する技術であると認められるから、甲1発明と本件周知技術
は、その属する技術分野を同一にするといえる。
また、甲1の記載及び弁論の全趣旨によると、甲1発明は、トーンマッピングさ
れたビデオの各フレームの間の輝度の差を小さくし、受信画像をより自然なものに
するため、トーンマッピング関数を徐々にしか変化させないものとするとの課題を
有すると認められる。これに対し、本件周知技術は、その内容に照らし、トーンマ
ッピングするビデオの各フレームに適用されるトーンマッピング関数を徐々に変化
させるための技術であると認められるから、本件周知技術は、甲1発明の上記課題
を解決するための技術であるといえる。
加えて、甲3の記載によると、本件周知技術(甲3にいうトーンカーブ補正部1
42の第2の構成例に係るもの)は、甲1発明のようにあらかじめ用意されている\nルックアップテーブル(LUT)により時間的な変化が小さいトーンマッピング関
数を使用するとの構成(甲3にいうトーンカーブ補正部142の第1の構\成例に係
るもの)に代えて採用し得るものと認められる。
以上によると、本件周知技術を甲1発明に適用することについては、十分な動機\n付けがあるものと認められる。
そして、本件全証拠によっても、本件周知技術を甲1発明に適用することについ
て、これを阻害する要因があるものと認めることはできないから、当業者は、甲1
発明に本件周知技術を適用することができたものと認めるのが相当である。
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2023.08.23
令和4(行ケ)10118 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年8月10日 知的財産高等裁判所
進歩無しとした審決が維持されました。原告は、技術分野が異なるので組み合わせ困難と主張しましたが、裁判所は「無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術に係るものであり、その属する技術分野を共通にする」と判断しました。
(1) 技術分野
ア 前記3(5)イにおいて説示したところは、甲4に記載された技術のみならず、
リモートコントローラ3(制御端末装置)が無線通信を利用して再生装置1等の制
御を行うことを内容とする引用発明(前記2)についても同様に当てはまるといえ
るから、引用発明及び本件技術は、いずれも無線通信を利用して電子機器の制御を
行うとの技術に係るものであり、その属する技術分野を共通にするものと認めるの
が相当である。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は、「甲1に記載された発明と甲4に記載された技術は、制御主体、
操作場所、制御対象機器及び制御内容を異にするものであるところ、甲1に記載さ
れた発明及び甲4に記載された技術が共に無線通信を利用して電子機器の制御を行
うとの技術分野に属するとすることは、技術分野を極めて抽象的なレベルで捉える
ものであって相当でないから、甲1に記載された発明が属する技術分野と甲4に記
載された技術が属する技術分野との間に関連性又は共通性はない」と主張する。
しかしながら、前記3(5)イにおいて説示したとおり、無線を利用して電子機器
の制御を行うとの技術においては、制御主体、操作場所、制御対象機器及び無効な
ものとされる操作の内容が具体的に何であるかにつき特段の技術的意義はないとい
うべきであるから、当該技術において、制御主体、操作場所、制御対象機器又は無
効なものとされる操作の内容が異なれば、当該技術が属する技術分野が異なること
になるということはできない。
原告は、無線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術において、制御主体、
操作場所、制御対象機器又は制御内容が異なれば、当該技術に係る当業者が異なる
とも主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない(かえって、前記3
(2)ないし(4)のとおりの乙1ないし3の記載(特に、前記(2)エ、前記(3)ア及びイ、
乙3の段落[0080]等)によると、無線通信を利用して電子機器の制御を行う
との技術においては、制御主体又は制御対象機器が異なっても、当該技術に係る当
業者を異にしないことがうかがわれる。)。
(イ) 原告は、甲1に記載された発明が属する技術分野と甲4に記載された技術
が属する技術分野の関係を検討するに当たり、甲1及び4とは別の文献である乙1
ないし3の記載を参酌するのは相当でないと主張する。
しかしながら、ある発明ないし技術が属する技術分野が何であるかを認定するに
当たり、当該発明ないし技術の意義を検討するのは当然であるところ、当該意義に
係る証拠として、当該発明ないし技術が記載された文献以外の文献の記載を参酌す
るのが相当でないということはできない。
(ウ) 原告は、特許庁における担当技術分野によると、スピーカとテレビは異な
る技術分野に属すると主張するが、仮に、特許庁における担当技術分野が原告主張
のとおりであったとしても、そのことをもって、引用発明及び本件技術につき、無
線通信を利用して電子機器の制御を行うとの技術に係るものとして、その属する技
術分野を共通にするとの前記判断を左右するものではない。
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2023.08. 9
令和4(ワ)9716 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年7月28日 東京地方裁判所
特許侵害訴訟で差止請求が認められました(損害賠償請求なし)。無効主張についても「新規化合物については引用例にその製造方法に関する記載がない」として、無効ではなぽしと判断しています。並行進行している無効審判および審決取消訴訟でも、同様です。
(ア) 特許法29条1項は、同項3号の「特許出願前に」「頒布された刊
行物」については特許を受けることができない旨規定する。当該規定の
「刊行物」に物の発明が記載されているというためには、同刊行物に発
明の構成が開示されているだけでなく、発明が技術的思想の創作である\nこと(同法2条1項参照)にかんがみれば、当該刊行物に接した当業者
が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の\n技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技
術的思想が開示されていることを要するというべきである。
特に、当該物が新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製
造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないか
ら、刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に、
当該物質の構成が開示されていることにとどまらず、その製造方法を理\n解し得る程度の記載があることを要するというべきである。そして、刊
行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に
接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、\n特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見出
すことができることが必要であるというべきである。
ここで、5−ALAホスフェートは、新規の化合物であり、上記アの
とおり、本件引用例には、列挙された化合物の中に5−ALAホスフェ
ートが含まれているものの、本件引用例にその製造方法に関する記載は
見当たらない(乙2)。
したがって、5−ALAホスフェートを引用発明として認定するため
には、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、思考や試行錯誤
等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技術常識に基づ\nいて、5−ALAホスフェートの製造方法その他の入手方法を見出すこ
とができたといえることが必要である。
(イ) 被告は、乙16文献から乙18文献の記載からすれば、本件優先日
当時、5−アミノレブリン酸単体の製造方法は周知であった上、5−ア
ミノレブリン酸をリン酸溶液に溶解すれば、弱塩基と強酸の組合せとな
り、5−アミノレブリン酸リン酸塩を得ることができることは技術常識
であり、このことからすれば、本件優先日当時の当業者は、5−ALA
ホスフェートの製造を容易になし得た旨主張する。
確かに、上記第2の1(5)イ及びエのとおり、乙16文献及び乙18文
献には、甲13の1文献を引用しつつ、「ALA生産が確立されてい
る」、「ALAの産生に成功した」、「発酵の下流では、イオン交換樹
脂を使用するALA精製プロセスも確立されて」いるなどと記載されて
いる。しかしながら、甲13の1文献には、同オのとおり、「発酵液か
らのALAの精製」の項において、ALAが塩基性水溶液中では非常に
不安定であり、種々の検討の結果、5−アミノレブリン酸塩酸塩結晶を
得るプロセスを確立することに成功した旨が記載されているにすぎない。
そうすると、乙16文献及び乙18文献においては、細菌を培養して発
酵液中にALA(5−アミノレブリン酸)を産生させる技術は開示され
ているものの、5−アミノレブリン酸単体を得る技術は開示されていな
いといえる。
また、上記第2の1(5)ウのとおり、乙17文献には、発酵液中に培地
成分と混合した状態で存在するALAの濃度が開示されているにすぎな
い。そうすると、乙17文献においても、5−アミノレブリン酸単体を
得る技術は開示されていないといえる。
以上のとおり、乙16文献から乙18文献までにおいて、5−アミノ
レブリン酸単体を得る技術が開示されているとはいえない。これに加え、
上記第2の1(5)アのとおり、本件引用例においても「5−ALAは・・
・化学的にきわめて不安定な物質である」、「5−ALAHClの酸性
水溶液のみが充分に安定であると示される」と記載されていて(【00
07】)、これらの事項が本件優先日当時の技術常識であったと認めら
れることも考慮すると、本件優先日当時において、5−アミノレブリン
酸単体を得る技術が周知であったとは認められない。
この点に関し、原告は、5−アミノレブリン酸リン酸塩を製造する上
で、5−ALAが物質として取り出されている必要はなく、発酵液中に
培地成分等と混合した状態であってもよい旨主張する。
しかしながら、本件優先日当時、種々の成分を含む混合液に酸又は塩
基を添加するという方法が、化合物である塩の製造方法として技術常識
であったとは認められないことからすれば、本件引用例に接した本件優
先日当時の当業者が、化合物である5−アミノレブリン酸リン酸塩を製
造する方法として、培地成分等と混合した状態で5−アミノレブリン酸
が存在する発酵液にリン酸を添加する方法(又はこの発酵液をリン酸溶
液に添加する方法)を、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮することな\nく見出すことができたとはいえない。
また、上記第2の1(5)ウのとおり、乙17文献において、培地に酵母
抽出物やトリプトン等が含まれることが記載されていることからも明ら
かなように、培地成分等と混合した状態にある発酵液には種々のイオン
が夾雑物として含まれているのであるから、このような発酵液にリン酸
を添加したとしても、等しい物質量の酸及び塩基の中和反応によって5
−アミノレブリン酸リン酸塩という化合物が製造されたと評価すること
はできないというべきである。したがって、原告の上記各主張はいずれも採用することができない。そして、このほか、本件優先日当時の当業者が、5−ALAホスフェー
トの製造方法その他の入手方法を見出すことができたというべき事情は
存しない。
(ウ) 以上によれば、本件引用例に接した本件優先日当時の当業者が、思
考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技\n術常識に基づいて、5−ALAホスフェートの製造方法その他の入手方
法を見出すことができたとはいえない。したがって、本件引用例から5−ALAホスフェートを引用発明として認定することはできない。
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本件特許についての審決取消訴訟です。
◆令和4(行ケ)10091
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2023.07.31
令和4(行ケ)10111 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年7月25日 知的財産高等裁判所
知財高裁(二部)は、「ほぼ水平に・・・」について、何らかの技術的意義があるとは認められないとして、進歩性なしと判断しました。
審判では、被請求人(特許権者)は、「ほぼ水平に延びる段差部(13c)はモールをアウタパネルの上縁部に組み込む際に引掛けフランジ部(13)とモール本体部(11)との間隔(挟持力)を維持するのに重要となります。」と主張して、先行技術から容易ではないと判断されていました。
ア 相違点1
(ア) 相違点1は、「縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部」が、本件発
明1においては、縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びる段差部
であるのに対して、甲1発明1においては、縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス
側方向に「やや下方に」延びる段差部であるというものである。甲1発明1のモー
ルディングが取り付けられるドアパネルが、アウタパネルであることについては当
事者間に争いがなく、甲1発明1の「昇降窓ガラス側方向」は、本件発明1の「内
側方向」(車内側を指す。)と同じ方向を意味するものと認められるから、相違点1
においては、段差部が「ほぼ水平」に延びるか「やや下方」に延びるかという点の
みが問題となる。
(イ) そこで検討するに、本件明細書には、段差部が縦フランジ部の下部から内側
方向に「ほぼ水平に」延びることの技術的意義についての記載はない。また、前記
1(2)のとおり、本件発明は、端末の剛性に優れるベルトラインモールを提供するた
めに、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して、水切りリップ\nや引掛けフランジ部を切除できるようにし、モール本体部と縦フランジ部とで略C
断面形状を形成しつつ断面剛性を確保したというものであり、ベルトラインモール
の端末では、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して切除され\nるものであって、段差部も切除されるのであるから、段差部が「ほぼ水平に」に延
びても「やや下方」に延びても、本件発明の作用効果に何ら影響するものではない。
そうすると、段差部が「ほぼ水平に」延びるものとすることについて何らかの技術
的意義があるとは認められない。
そして、甲1発明1においても、段差部が縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス
側方向(内側方向)に「やや下方に」延びることに何らかの技術的意義があるとは
認められず、甲1発明1において「やや下方に」延びる段差部を「ほぼ水平に」延
びるように構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないというべ\nきである。
そうすると、甲2記載事項について検討するまでもなく、甲1発明1において段
差部に設計的変更を加え、これを「ほぼ水平に」することは、当業者が容易に想到
できたものと認めるのが相当である。
(ウ) したがって、本件審決には、相違点1に係る容易想到性の判断に誤りがある。
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2023.07.20
令和4(行ケ)10064 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年7月13日 知的財産高等裁判所
進歩性違反・サポート違反として無効審判を請求しました。審決は無効理由無し、裁判所も同様です。進歩性については、「非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを考慮すると、・・・結晶の平均粒径を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであったと認めることはできない」と判断しました。
(イ) また、甲7、9、52、61、63、71及び73並びに乙7によると、
薬物の安定性を高める方法として、結晶の結晶化度を高めること、遮光、湿気の遮
断等を目的として薬剤に保護コーティングを形成すること、遮光を目的として遮光
剤(酸化チタン)を含むコート液をコーティングすることなどは、本件優先日当時
の周知技術であったと認められる。
(ウ) しかしながら、甲5、7、52、54及び61によると、本件優先日当時、
非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在し、そのため、水難溶
性の薬物の溶解性を改善するとの目的で、かえって結晶化度を低くすることが一般
に行われていたものと認められるところ、前記(ア)及び(イ)のとおり、本件優先日当
時、経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術として、結晶
の粒子径を小さくすること以外の方法も存在し、また、薬物の安定性を高めるため
の周知技術として、結晶の結晶化度を高めること以外の方法も存在していたのであ
るから、化合物1の溶解性及び安定性を高めるとの課題を認識していた本件優先日
当時の当業者において、化合物1の溶解性を追求するとの観点から、経口投与され
る水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術(結晶の粒子径を小さくすると
の周知技術)を採用し、かつ、化合物1の安定性を追求するとの観点から、薬物の
溶解性を低下させる結果となり得る周知技術(結晶の結晶化度を大きくするとの周
知技術)をあえて採用することが容易に想到し得たことであったと認めることはで
きない。
(エ) この点に関し、原告らは、結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持するこ
とは特段の処理が不要で薬剤をそのまま使用するという最も基本的な態様を含むも
のであり、他の手段よりはるかに容易な態様のものであると主張する。しかしなが
ら、前記(ア)のとおり、本件優先日当時、結晶の粒子径を小さくするための主たる
手段として、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル等を利用した粉砕が考えら
れていたところ、甲52によると、粉砕により結晶の結晶化度が低下し、結晶が非
晶質化することは、よく経験される事象であったものと認められるから、結晶の結
晶化度を一定の数値以上に維持することが特段の処理を要しないものであるという
ことはできず、原告らの上記主張は、前提を誤るものというべきである。
また、原告らは、本件優先日の当業者であれば、薬物の安定性を向上させるとの
課題に基づいて結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持することを検討しつつ、粒
子の微細化等の手段により溶解度を向上させるなど、結晶の結晶化度や平均粒径と
いったパラメータを適宜調整することを十分に動機付けられると主張するが、上記\nのとおり、非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを
考慮すると、原告らの上記主張によっても、本件優先日当時の当業者において、相
反する効果を生ずる事項同士であると認識されていた、化合物1の結晶の平均粒径
を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであっ
たと認めることはできないといわざるを得ない(この点に関し、本件明細書には、
実施例(試験例2、実施例2)として、化合物1の微細結晶Aの結晶化度が84.
6%であり、粒径がD100=8.7μmである場合(後記5(4)ア(ア)のとおり、化
合物1の平均粒径が数μmである場合)においても、結晶が凝集することなく、良
好な溶解性及び分散性を示したとの記載があるが、前記(2)イ(ウ)において認定した
技術常識(非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識)並びに甲6及び
52によって認められる技術常識(特に薬物が疎水性のものである場合には、結晶
の粒子径を小さくすればするほど凝集が起こやすくなり、その有効表面積がかえっ\nて小さくなる結果、溶解性が低下することがあるとの技術常識)に照らすと、上記
実施例が示す効果は、甲1結晶発明及び本件優先日当時の技術常識から予測し得な\nかったものといえる。)。
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2023.07.13
令和4(行ケ)10099 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年7月6日 知的財産高等裁判所
審決は、周知技術であっても主引例にはそのような動機付けがないとして、進歩性違反の無効理由なしと判断しました。知財高裁も同様です。
イ 前記(1)イの相違点に係る構成を甲1発明において採用することが容易想到といえるか検討するに、甲1には、加工対象物の反りや、X、Y軸ステージの振動等\nにより、レーザ光の焦点ずれが生じ得ることについての記載はなく、加えて、前記
2(1)エのとおり、甲1(105頁)には「図98に示すクラック領域9は、パルス
レーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面(入射面)3に近い位置に調節して形成されたものである。クラック領域9は加工\n対象物1の内部中の表面3側に形成される。」「パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より表\面3に遠い位置に調節してクラック領域9を形成することもできる。」といった記載があり、甲1発明においては、
シリコンウエハ内部の改質領域の位置は、シリコンウエハの厚み方向において厚み
の半分の位置よりも表面に近い位置から、同半分の位置よりも表\面に遠い位置まで
の、ある程度の幅をもった範囲に設定され得るものであると理解されることからす
ると、甲1の記載に触れた当業者が、直ちに、X、Y軸ステージの振動等の外的要
因や加工対象物であるシリコンウエハの反りのために、レーザ光の集光点のZ軸方
向の位置がずれ、改質領域の位置がずれることによって、シリコンウエハの割れに
大きな影響を及ぼして品質低下を生じさせると理解するとはいえない。
そうすると、甲1発明において、AF制御をする動機付けがあると認めることは
できない。また、周知の技術的事項1は半導体ウエハの表面の加工についてのAF制御をいうものであるところ、これが周知であるからといって、動機付けがないに\nもかかわらず、甲1発明のようなステルスダイシングに適用できるとはいえない。
したがって、甲1発明において「前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿
って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成する」構成を採用することについて、当業者が容易に想到できたと認めることはできない。\n
ウ(ア) 原告は、レーザ加工の技術分野において、加工時におけるレーザビームの
振動やテーブルの振動などの外的要因や加工対象物の凹凸や反りが、レーザ光の焦
点ずれの原因となることが知られており、高さ方向(Z軸方向)の集光点をAF制
御することは当然のことであり技術常識であったから、Z軸方向のAF制御をする
ことは甲1に記載されているに等しく、少なくとも容易想到であると主張する。
しかしながら、甲1には、加工時に、レーザ光Lの集光点Pについて、Z軸方向
の制御をすることについての記載はない。また、前記2(1)ウのとおり、甲1(2頁)
には「本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせ
てレーザ光を照射しかつ多光子吸収という現象を利用することにより、加工対象物
の内部に改質領域を形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があ
ると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明に係る
レーザ加工方法によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的小さ\nな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予\定ライ
ンから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。」との記載があり、同記載に照らすと、甲1発明は、加工対象物であるシリコンウエ\nハの内部に改質領域を形成して、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物を割るというものである。そして、前記アのとおり、周知の技術的事項1\nは、半導体ウエハの表面を加工する際に、半導体ウエハに反りがあると加工位置に対して加工用レーザ光の焦点がずれることから、表\面の変位に基づいてAF制御をして表面を加工するというものであるところ、シリコンウエハの内部に改質領域を形成する際に、このような半導体ウエハの表\面加工に係る周知の技術的事項1をそのまま適用できるとはいえない。
(イ) 当業者が、甲1の記載から、甲1発明において、加工中の集光点AF制御が
当然に採用されるものと理解するといえるには、甲1発明において、シリコンウエ
ハの反りやX、Y軸ステージの振動により、集光点のZ軸方向の位置がずれ、その
結果、改質領域が形成される位置がずれることとなり、その改質領域の位置のZ軸
方向のずれに起因して割断精度が悪くなる等の品質低下の問題を生じることが明ら
かであり、そのために、AF制御が必要であることまでを当業者が認識することを
要するものと考えられる。ところが、当業者にとって、上記のような問題が生じる
ことが明らかであると認識できたと認めるに足りる証拠はなく、そのような技術常
識は認められないところ、前記のとおり、甲1には、改質領域が形成される位置が、
ある程度の幅をもった範囲に設定され得ることを示唆する記載があるから、周知の
技術的事項1を考慮しても、また、甲1発明の加工対象物として、30㎛程度まで
の薄いシリコンウェアが対象となり得ることを考慮しても、当業者が、甲1の記載
から、甲1発明において加工中の集光点のAF制御が当然に採用されると理解する
とはいえない。
(ウ) 原告は甲1の「クラック領域9と表面3の距離が比較的長いと、表\面3側に
おいてクラック91の成長方向のずれが大きくなる。これにより、クラック91が
電子デバイス等の形成領域に到達することがあり、この到達により電子デバイス等
が損傷する。クラック領域9を表面3付近に形成すると、クラック領域9と表\面3
の距離が比較的短いので、クラック91の成長方向のずれを小さくできる。よって、
電子デバイス等を損傷させることなく切断が可能となる。但し、表\面3に近すぎる
箇所にクラック領域9を形成するとクラック領域9が表面3に形成される。このため、クラック領域9そのもののランダムな形状が表\面3に現れ、表面3のチッビン\nグの原因となり、割断精度が悪くなる。」との記載(105頁15〜23行)をもっ
て、比較的厚いウエハの場合には、改質領域のZ軸方向の位置が割断精度に影響を
与えるものであることが甲1に明記されていると主張するが、同記載をもって、シ
リコンウエハの反りやX、Y軸ステージの振動に起因する改質領域の形成される位
置のZ軸方向のずれが、品質低下の問題を生じる程度のものであることが明らかと
なるものではないから、上記記載部分を踏まえても、当業者が、甲1の記載から甲
1発明において加工中の集光点のAF制御が当然に採用されると理解するとはいえ
ない。
(エ) 原告は、本件明細書(【0004】)に、従来技術に加工対象物の端部におい
てレーザ光の集光点がずれる場合があるとの課題があると記載されていることから
も、一般的なレーザ加工技術の課題として、甲1発明においても、加工中の集光点
のAF制御が必要であると主張するが、本件明細書の上記記載を踏まえても、前記
(イ)のとおり、当業者が、甲1発明において、加工対象物の内部に改質領域を形成す
るために、加工時におけるAF制御としての加工中のZ軸方向の位置の制御が必要
であるとの課題を認識するとはいえない。また、原告が指摘する証拠はいずれも、
加工対象物の内部に改質領域を形成する甲1発明において、加工中のZ軸方向の位
置の制御が必要であることが技術常識であることを裏付けるものとはいえない。
そして、原告主張に係る被告の本件以外の出願の状況が、本件発明の進歩性の判
断を左右するものではない。
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2023.07.10
令和4(ネ)10070 特許権侵害損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年5月16日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
CS関連発明についての特許権侵害事件です。1審の東京地裁40部は、無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。控訴人は、請求項17に基づく侵害主張、および訂正の再抗弁を追加しました。知財高裁は、時機に後れた攻撃防御方法には該当しないとして判断自体はおこないましたが、最終的には無効として、控訴棄却しました。
事案に鑑み、争点7(乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁の当否)について、まず判断する。
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)イ のとおり、乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁は、時機に後れた攻撃防御方法であるとしてその却下を求めるが、この防御方法の提出が訴訟の完結を遅延させるものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討する。
(2) 無効理由の解消の有無等について
事案に鑑み、仮に、本件訂正が適法であり、本件訂正により本件訂正発明と乙22発明との間に当事者の主張に係る相違点が全て生じるとした場合、乙22発明に基づく進歩性欠如の無効理由が解消されるかをまず検討する。
ア 本件訂正発明1
相違点22−6ないし相違点22−8の容易想到性
相違点22−6ないし相違点22−8は、前記第2の4(1)イ aのと
おり、本件訂正発明1において、1)閲覧者がWebブラウザに対して閲
覧指示を行った段階においては、Webブラウザは閲覧指示に対応する
HTMLをサーバに要求するだけであること(相違点22−6)、2)サー
バはWebブラウザからの要求に従い、画像表示に必要な演算を実行す\nる、HTMLに記述されたJavaScriptをWebブラウザに送信すること
(相違点22−7)、3)WebブラウザがHTMLに記述されたJavaScr
iptを受信する前に表示領域内に表\示する分割画像を特定する演算を行
わないこと(相違点22−8)というものであるのに対し、乙22発明
は、地図データの要求をサーバに送信するまでの間に、ディスプレイに
表示する地図データ(メッシュ地図)を特定する演算を行っているとい\nうものである。
Webブラウザを用いた表示では、閲覧者がWebブラウザに対して\n閲覧指示を行うと、Webブラウザが閲覧指示に対応するHTMLをサ
ーバに要求し、サーバが要求に対応するHTMLをWebブラウザに送
信し、Webブラウザが受信したHTMLに基づいて表示を行うという\n表示ステップを経るというようなプログラム上の取決めがあることは顕\n著な事実であるところ、このようなHTMLを用いるWebブラウザの
処理におけるプログラム上の取決めがある以上、閲覧者がWebブラウ
ザに対して閲覧指示を行った段階では、Webブラウザは閲覧指示に対
応するHTMLをサーバに要求するだけであり、WebブラウザがHT
MLを受信する前の段階では、Webブラウザによって当該HTMLに
基づくいかなる処理も実行されることがないことは、上記取決めから生
じる当然の帰結にすぎない。
そして、JavaScriptは、HTMLに直接記述されるか、あるいはHT
MLによって読み出される外部ファイルに記述されるかのいずれでもよ
いものであることは、本件特許出願時の技術常識と認められるから(甲
46、48、49)、当業者は適宜それを使い分ければよく、Webブラ
ウザにおいてJavaScriptを用いたときにJavaScriptがHTMLに直接記述されることは当業者の自然な選択の一つにすぎず、その選択をした場
合、WebブラウザがHTMLを受信する前に当該HTMLに直接記述
されたJavaScriptを実行しないことはいうまでもない。
そうすると、Webブラウザを採用して動的表示をJavaScriptを用い\nて実行しようとするならば、当業者が適宜になす自然な選択の結果、ほ
ぼ必然的に相違点22−6ないし相違点22−8に係る本件訂正発明1
の構成をとることになるのであって、当該構\成についてとりたてて創意
を発揮する余地はない。そうであるところ、前記2(1)のとおり、本件特
許出願当時において、Webクライアントによる動的表示を行う処理を\nWebブラウザでJavaScriptを用いて行うことは周知慣用技術であり、
そして、この周知慣用技術を適用すればそれに起因して相違点22−6
ないし22−8の本件訂正発明1の構成となるというのであれば、上記\n相違点に係る本件訂正発明1の構成は容易に想到し得るものというほか\nない。
・・・
時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)ア のとおり、被告地図表示方法の本件\n発明17の充足性に関する主張は、時機に後れた攻撃防御方法であると
してその却下を求めるが、この攻撃方法の提出が訴訟の完結を遅延させ
るものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討
する。
相違点22−17−1の容易想到性について
a 本件訂正発明17は、本件訂正発明1について、1)同じ内容の画像
データを2)複数の倍率で有すること、3)各倍率の画像を構成する分割\n画像の画素数は表示倍率に関わらず一定であること、4)分割画像の分
割数は倍率が低い画像ほど少なく、倍率が高い画像ほど多いこととの
限定を付したものであるところ、乙22発明は、上記のような構成を\n有するとは特定されていない。
b 乙10文献には別紙9のとおりの記載がある。これによると、乙10技術として、次のような技術が記載されているものと認められる。
クライアントから要求される画像の指定、表示範囲の指定の変化に\n関わらず、高速かつ一定時間内に高精細画像を表示するためのデータ\n構造を備える高精細画像表\示装置を提供することを目的とするもので
あって(【0006】)、
サーバに格納される画像データのデータ構造が、複数段階の解像度\nの画像を有するものであり(【0024】ないし【0026】、【図2】)、
それぞれ解像度の画像はそれぞれpピクセル×pピクセルのブロッ
クに分割されて保持され、個々のブロックを単位としてアクセスされ
るものであって、個々のブロックを構成する画素数は解像度に関わら\nず同じであり(【0028】、【0029】、【図3】)、
ブロックの分割数は解像度が少ない画像ほど少なく、解像度が高い
画像ほぼ多い状態であり(【図3】)、
クライアント側の表示装置において表\示される表示枠に関連する各\nブロックの画像データを、サーバからクライアントに伝送して表示す\nる技術(【0031】、【0032】)。
c 本件訂正発明1が乙22発明により容易に想到できるものであるこ
とは、前記アにおいて判示したとおりであるところ、乙10技術は、
相違点22−17−1の構成に係る分割画像の格納形態を開示するも\nのであり、本件訂正発明17と乙10技術は、分野を同一とするもの
であって表示領域より大きい画像データを領域分割し、表\示装置に対
応する分割画像を送信して表示することにより表\示を高速化するとい
う機能も共通するものであるから、乙22発明の分割画像の格納形態\nとして、乙10文献記載の分割画像の格納形態を採用して、相違点2
2−17−1に係る本件訂正発明17の構成とすることは容易に想到\nできる。
控訴人らの主張について
控訴人らは、前記第2の4(1)イ e(g)のとおり、乙10技術は、個々
の分割画像(ブロック)を送信しているわけでもないし、同じ画像を複
数の倍率でかつ倍率ごとにそれぞれ複数の領域で分割してサーバから送
信しているわけではないから、乙22発明に乙10技術を適用して本件
訂正発明17の構成とすることは容易に想到できない旨主張するが、乙\n10技術の分割画像の送信手法と分割画像の格納形態とは、特に必須に
結合しているわけではなく、それぞれ独立した技術事項であるから、乙
10技術の送信手法までを乙22発明に適用する必要はなく、乙10の
分割画像の格納形態のみを採用することに阻害要因も見当たらない。
したがって、上記主張を採用することはできない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和1(ワ)21901
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2023.06.22
令和1(行ケ)10114 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和2年9月24日 知的財産高等裁判所
漏れていたのでアップします。動画配信における視聴者からのギフトの処理(CS関連発明)について、審判で進歩性無しと判断されました。知財高裁も同様です。
「・・・(D1)前記動画を視聴する視聴ユーザから前記動画の配信中に前記動画へ
の装飾オブジェクトの表示を要求する第1表\示要求がなされ,(D2)前記動画の配信中に前記動画の配信をサポートするサポーター又は前記アクターによって前記装飾オブジェクトが選択された場合に,(D3)前記装飾オブジェクトに設定されている装着位置情報に基づいて定められる前記キャラクタオブジェクトの部位に関連づけて、(D4)前記装飾オブジェクトを前記動画に表示させる,(A)動画配信システム。」というクレームです。\n
原告は,甲2には,視聴者から配信者へギフトを贈ること(ユーザーギ
フティング)が動画配信中に行われるとの記載はないので,引用発明に甲
2記載の技術を追加したとしても「動画配信中に行われた表示要求に応じ\nて,装飾オブジェクトを表示する」という本願発明の構\成には至らない旨
主張する。しかしながら,甲2には,CGキャラクターへのユーザーギフティング
を動画配信中に行うことについての記載はないものの,これを排除する旨
の記載もなく,この点は,配信時間の長さ,ギフト装着のための準備,予\n想されるギフトの数等を踏まえて,配信者が適宜決定し得る運用上の取り
決め事項といえるから,甲2のユーザーギフティング機能において,CG\nキャラクターが装着するための作品を贈る時期は,配信開始前に限定され
ているとはいえない。したがって,引用発明に上記ユーザーギフティング
機能を追加することによって,相違点1に係る「前記動画を視聴する視聴\nユーザから前記動画の配信中に前記動画への装飾オブジェクトの表示を要\n求する第1表示要求がなされ」るという構\成を得ることができる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ なお,原告は,甲2記載のCGキャラクター「東雲めぐ」が登場する実
際の番組において,ユーザーギフティングが配信開始前に締め切られてい
ること(甲9の2,甲10)を指摘する。しかしながら,そのことは,当
該番組における運用上の取り決め事項として,ユーザーギフティングの時
期を配信開始前と定めたことを示すにとどまり,上記アの判断を左右しな
い。
(3) 動機付けについて
ア 甲2には,配信も可能なVRアニメ作成ツール「AniCast」にユーザー
ギフティング機能を追加することが記載されている。一方,引用発明は,\n声優の動作に応じて動くキャラクタ動画を生成してユーザ端末に配信する
ものであるから,引用発明も「配信も可能なVRアニメ作成ツール」とい\nえる。また,ユーザーギフティング機能のような新たな機能\を追加することに
よって,動画配信システムの興趣が増すことは明らかである。
そうすると,当業者にとって,「配信も可能なVRアニメ作成ツール」\nである引用発明に対して,甲2記載の技術であるユーザーギフティング機
能を追加することの動機付けがあるといえる。\n
イ 原告は,甲1には創作したギフトを配信者に贈ることの開示はないから,
引用発明に甲2記載のユーザーギフティング機能を組み合わせる動機付け\nはない旨主張する。しかしながら,動画配信システムの興趣を増すことは当該技術分野において一般的な課題であると考えられるから,甲1自体にユーザーギフティ
ング機能又はこれに類する技術の開示又は示唆がないとしても,引用発明\nを知った上で甲2の記載に接した当業者は,興趣を増す一手段として甲2
記載のユーザーギフティング機能を引用発明に適用することを動機付けら\nれるといえる。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
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2023.05.19
令和4(行ケ)10003 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年4月27日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決が維持されました。
(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1のうち、甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換
する動機付けがあることについては、一次判決の拘束力が及び、当事者間
に争いもない。
イ 甲1発明と甲5文献記載事項の組合せにより、相違点1のうち、本件数
値範囲を容易に想到することができるかについて
甲5発明は、前記(2)のとおり、甲1発明における塩素剤の添加により
トリハロメタン類が生成されるという課題があることを前提として、工
業用海水冷却水系にあらかじめ過酸化水素剤を特定の濃度で分散させた
後、塩素剤を特定の濃度で添加するという解決手段を採用しているので
あり、かつ、各特定の濃度について、過酸化水素剤は「0.01〜2mg
/l」、塩素剤は「トリハロメタン類の生成を防止しうる濃度又はそれ以
下の濃度」である「使用される過酸化水素の1モル当り、0.03〜0.
8モル(ただし、有効塩素として)に相当する濃度で、かつ、海水冷却水
に対して0.01〜1.0mg/l(ただし、有効塩素として)」として
いるのである(別紙3の【請求項1】及び【請求項2】参照)。そうする
と、甲5発明は、甲1発明における上記課題を、それ自体で解決しており、
かつ、塩素剤の使用を前提としているのであるから、当業者において、甲
1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に甲5
発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえない。
また、甲5文献は、二酸化塩素の添加を想定していないから、二酸化塩
素の特定の濃度割合を開示するものでもない。
したがって、当業者が、甲1発明と甲5文献の組合せにより、相違点1
のうち、本件数値範囲を容易に想到することができるとはいえない。
原告は、前記第3の1(1)ウ のとおり、甲5文献の実施例の16ない
し20には、甲1発明における有効塩素発生剤濃度及び過酸化水素濃度
を、それぞれ「0.02〜0.4mg/L」及び「0.18〜1.05m
g/L」とすることで、充分な海生生物の付着防止効果が得られること
が開示されており、当業者が、これについて本件換算(有効塩素発生剤濃
度を2.6で除する。)により、有効塩素発生剤から置換した二酸化塩素
の濃度を「0.01〜0.15mg/L」という範囲とすることは容易で
ある旨主張する。
甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に
甲5発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえないことは前記
のとおりであるから、そもそも原告の上記主張は前提を異にするもの
というべきであるが、この点は措くにしても、以下の理由で原告の主張
はいずれにしても採用し得ない。
甲5文献の【表3】及び【表\4】には、過酸化水素溶液と有効塩素発生
剤として次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用して、両者の併用によるムラ
サキイガイの成長度合いを調査するため、実施例16ないし20では別
紙3の図1(過酸化水素の拡散器あり)、比較例21ないし24では別紙
3の図2(過酸化水素の拡散器なし)の塩化ビニル管のモデル水路を用
いて、塩化ビニル管に海水を一過式に通水する方法で試験を行い、ムラ
サキイガイの殻長を計測して、試験前後の殻長差より成長度合いを求め
た結果が示されている。
実施例16では過酸化水素0.35ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.
40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm。小数点3桁以
下四捨五入。以下同じ)、実施例17では過酸化水素0.35ppm、次
亜塩素酸ナトリウム0.07ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.0
3ppm)、実施例18では過酸化水素0.70ppm、次亜塩素酸ナト
リウム0.40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm)、
実施例19では過酸化水素1.05ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.2
0ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.08ppm)、実施例20で
は過酸化水素0.18ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.02ppm(本
件換算をすると二酸化塩素0.01ppm)で試験が行われているとこ
ろ(なお、溶媒が比重1の水である場合には、ppmとmg/Lの数値は
同等。)、確かに、これらの実施例については、本件換算をすれば、相違
点1に係る本件特許発明1の構成のうち、二酸化塩素0.01〜0.15\nmg/L、過酸化水素0.18〜1.05mg/Lとなるような組合せが
開示されているといえる。しかしながら、これらは、甲5発明の実施例で
あり、その課題解決手段である過酸化水素の拡散器を備えたことを前提
とするものであって、当業者が、このような拡散器を備えないまま、実施
例16ないし20に係る本件換算後の二酸化塩素濃度と過酸化水素濃度
の数値のみを甲1発明に単純に適用しようと考えるとは認められない。
かえって、過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムの添加量が同じである、
実施例18と比較例23を比較すると、1m3/hの海水を一過式に通水
し、その間両薬剤を所定濃度になるように24時間添加し、40日間試
験をした後におけるムラサキイガイの成長度(殻長mm)が、実施例18
では、注入点から0.5、4、8、16、24、48mのいずれの距離で
も0.1mmであったのに対し、比較例23では、1.0mmから4.5
mmの範囲となっており、ムラサキイガイの成長度抑制結果において、
比較例23が実施例18より劣ることが示されているから、当業者は、
甲5発明のような改良がされる前の甲1発明について、甲5文献に記載
の数値範囲のみを適用しようとすると、比較例23のような結果しか得
られないと認識することになるといえる。
仮に、原告が、甲1発明において、甲5文献に記載の数値範囲を、過酸
化水素の拡散手段等、甲5発明の特定手段と併せて適用することの容易
想到性をも主張しているのであるとすれば、それは、甲5発明に基づき
本件数値範囲の容易想到性を主張しているのに等しい。そして、甲5発
明に基づき本件数値範囲が容易想到であるとの主張が採用できないこと
は後記3のとおりである。
◆判決本文
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2023.05.19
令和4(行ケ)10003 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年4月27日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした審決が維持されました。
(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1のうち、甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換
する動機付けがあることについては、一次判決の拘束力が及び、当事者間
に争いもない。
イ 甲1発明と甲5文献記載事項の組合せにより、相違点1のうち、本件数
値範囲を容易に想到することができるかについて
甲5発明は、前記(2)のとおり、甲1発明における塩素剤の添加により
トリハロメタン類が生成されるという課題があることを前提として、工
業用海水冷却水系にあらかじめ過酸化水素剤を特定の濃度で分散させた
後、塩素剤を特定の濃度で添加するという解決手段を採用しているので
あり、かつ、各特定の濃度について、過酸化水素剤は「0.01〜2mg
/l」、塩素剤は「トリハロメタン類の生成を防止しうる濃度又はそれ以
下の濃度」である「使用される過酸化水素の1モル当り、0.03〜0.
8モル(ただし、有効塩素として)に相当する濃度で、かつ、海水冷却水
に対して0.01〜1.0mg/l(ただし、有効塩素として)」として
いるのである(別紙3の【請求項1】及び【請求項2】参照)。そうする
と、甲5発明は、甲1発明における上記課題を、それ自体で解決しており、
かつ、塩素剤の使用を前提としているのであるから、当業者において、甲
1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に甲5
発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえない。
また、甲5文献は、二酸化塩素の添加を想定していないから、二酸化塩
素の特定の濃度割合を開示するものでもない。
したがって、当業者が、甲1発明と甲5文献の組合せにより、相違点1
のうち、本件数値範囲を容易に想到することができるとはいえない。
原告は、前記第3の1(1)ウ のとおり、甲5文献の実施例の16ない
し20には、甲1発明における有効塩素発生剤濃度及び過酸化水素濃度
を、それぞれ「0.02〜0.4mg/L」及び「0.18〜1.05m
g/L」とすることで、充分な海生生物の付着防止効果が得られること
が開示されており、当業者が、これについて本件換算(有効塩素発生剤濃
度を2.6で除する。)により、有効塩素発生剤から置換した二酸化塩素
の濃度を「0.01〜0.15mg/L」という範囲とすることは容易で
ある旨主張する。
甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した上で、更に
甲5発明を組み合わせるという動機付けがあるとはいえないことは前記
のとおりであるから、そもそも原告の上記主張は前提を異にするもの
というべきであるが、この点は措くにしても、以下の理由で原告の主張
はいずれにしても採用し得ない。
甲5文献の【表3】及び【表\4】には、過酸化水素溶液と有効塩素発生
剤として次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用して、両者の併用によるムラ
サキイガイの成長度合いを調査するため、実施例16ないし20では別
紙3の図1(過酸化水素の拡散器あり)、比較例21ないし24では別紙
3の図2(過酸化水素の拡散器なし)の塩化ビニル管のモデル水路を用
いて、塩化ビニル管に海水を一過式に通水する方法で試験を行い、ムラ
サキイガイの殻長を計測して、試験前後の殻長差より成長度合いを求め
た結果が示されている。
実施例16では過酸化水素0.35ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.
40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm。小数点3桁以
下四捨五入。以下同じ)、実施例17では過酸化水素0.35ppm、次
亜塩素酸ナトリウム0.07ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.0
3ppm)、実施例18では過酸化水素0.70ppm、次亜塩素酸ナト
リウム0.40ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.15ppm)、
実施例19では過酸化水素1.05ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.2
0ppm(本件換算をすると二酸化塩素0.08ppm)、実施例20で
は過酸化水素0.18ppm、次亜塩素酸ナトリウム0.02ppm(本
件換算をすると二酸化塩素0.01ppm)で試験が行われているとこ
ろ(なお、溶媒が比重1の水である場合には、ppmとmg/Lの数値は
同等。)、確かに、これらの実施例については、本件換算をすれば、相違
点1に係る本件特許発明1の構成のうち、二酸化塩素0.01〜0.15mg/L、過酸化水素0.18〜1.05mg/Lとなるような組合せが\n開示されているといえる。しかしながら、これらは、甲5発明の実施例で
あり、その課題解決手段である過酸化水素の拡散器を備えたことを前提
とするものであって、当業者が、このような拡散器を備えないまま、実施
例16ないし20に係る本件換算後の二酸化塩素濃度と過酸化水素濃度
の数値のみを甲1発明に単純に適用しようと考えるとは認められない。
かえって、過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムの添加量が同じである、
実施例18と比較例23を比較すると、1m3/hの海水を一過式に通水
し、その間両薬剤を所定濃度になるように24時間添加し、40日間試
験をした後におけるムラサキイガイの成長度(殻長mm)が、実施例18
では、注入点から0.5、4、8、16、24、48mのいずれの距離で
も0.1mmであったのに対し、比較例23では、1.0mmから4.5
mmの範囲となっており、ムラサキイガイの成長度抑制結果において、
比較例23が実施例18より劣ることが示されているから、当業者は、
甲5発明のような改良がされる前の甲1発明について、甲5文献に記載
の数値範囲のみを適用しようとすると、比較例23のような結果しか得
られないと認識することになるといえる。
仮に、原告が、甲1発明において、甲5文献に記載の数値範囲を、過酸
化水素の拡散手段等、甲5発明の特定手段と併せて適用することの容易
想到性をも主張しているのであるとすれば、それは、甲5発明に基づき
本件数値範囲の容易想到性を主張しているのに等しい。そして、甲5発
明に基づき本件数値範囲が容易想到であるとの主張が採用できないこと
は後記3のとおりである。
◆判決本文
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2023.04.27
令和4(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年4月20日 知的財産高等裁判所
無効理由なしとした審決が維持されました。なお、別訴の本特許に基づく特許権侵害については技術的範囲に属しないと判断されています。
(1) 本件審決が前記第2の3(1)アのとおり甲1発明を認定し、同(2)アのとおり
本件発明1と甲1発明における茶葉の移送方法を対比して一致点及び相違点1を認
定したのに対し、原告は、本件審決は、本件発明1と甲1発明が、「負圧吸引作用を
奏する背面風(W)を前記刈刃(22)の直後方から移送ダクト(6)に送り込む
こと」で一致していることを看過したと主張する。原告の上記主張は、甲1発明の内容として、1)送風ダクト52からの吹出口が刈刃34の「直後方」から風を送り込むものであることと、2)送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風が「負圧吸引作用を有すること」が認められるべき旨をいうものと解されるが、次のとおり、甲1発明の内容として、上記1)及び2)のいずれも認めることができない。
ア(ア) まず、原告は、甲1の「なお刈刃34は、摘採機フレーム基板32の前方
ほぼ延長上に設けられるものである。そしてこの摘採機体3における摘採機フレー
ムパイプ31と摘採機フレーム基板32とにより区画され、摘採された茶葉Aが中
継移送装置5によって上昇移送されるまでの部分を摘採作用部36とする。」との
記載(【0013】)及び「送風ダクト52は、摘採した茶葉Aを摘採作用部36た
る刈刃34後方部から収容部4まで風送するものであり、具体的には吹き上げファ
ン51から送り出された風が、茶葉摘採機1の側部を回り込むようにして摘採作用
部36に達し、この部分で茶葉Aと合流し、合流後この茶葉Aを茶葉移送路52a
を経由させて収容部4まで風送するものである。」との記載(【0016】)を指摘し
て、「刈刃34」で刈り取られた茶葉が直接「摘採作用部36」に送り込まれること
から、「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位置することは明らかであると
主張する。
(イ) しかし、甲1の【0013】の上記記載は、「摘採作用部36」を区画するも
のの一つである「摘採機フレーム基盤32」と「刈刃34」との位置関係について、
刈刃34が摘採機フレーム基盤32の「前方ほぼ延長上に設けられる」と示すにと
どまり、摘採作用部36と刈刃34の位置関係について具体的に特定するものとは
みられない。
また、同【0016】の上記記載も、「摘採作用部36たる刈刃34後方部」とい
う部分において、摘採作用部36が刈刃34の後方に位置することを示しているも
のの、摘採作用部36が刈刃34の後方のどの程度の距離にあるものか等について、
具体的に示すものとはみられない。
その他、甲1において、「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位置するこ
とを認めるべき記載は見当たらない。
(ウ) また、仮に、甲1において、「摘採作用部36」が「刈刃34」の直後方に位
置することが認められるとした場合に、そのことから直ちに、「送風ダクト52風」
が「刈刃34」の直後方から送り込まれることが認められるものでもない。
この点、甲1に、吹き上げファン51から送り出された風が、送風ダクト52を
介して、刈刃34の後方に位置する摘採作用部36のどの部分に達するのかを具体
的に特定する記載は見当たらない。
むしろ、甲1の【図1】の左下部の丸枠内及び【図5】によると、送風ダクト5
2は、刈刃34の後方に位置するとされる摘採作用部36の後端部に位置付けられ
ているところである。そして、【図4】によると、刈刃34と送風ダクト52との間
に少なからず距離が存することは、明らかである。
(エ) したがって、甲1発明について、送風ダクト52からの吹出口が刈刃34の
「直後方」から風を送り込むものであることが認められるべき旨をいう原告の主張
は、採用することができない。
イ(ア) 次に、原告は、「送風ダクト52からの吹出口は、摘採機フレーム基板32
後端部と茶葉移送路52aの下端部との間に開口」しており(甲1の【図5】等)、
この吹出口から送り込まれた「送風ダクト52風」が、「摘採作用部36」に達し、
「この部分で茶葉Aと合流し、合流後にこの茶葉Aを茶葉移送路52aを経由させ
て収容部4まで風送する」(同【0016】)ところ、「摘採作用部36」において「送風ダクト52風」に負圧吸引作用がなければ、このような事象を説明することはで
きない、甲1の【0016】の上記記載は、「摘採作用部36」が密閉又は半密閉状
態のダクトでなければ説明できない内容であるなどと主張する。
(イ) しかし、甲1の【0019】及び【図5】によると、摘採された茶葉は、ま
ず、送風ダクト35から排出される風によって摘採作用部36の後方に送られ、次
いで、送風ダクト52を介して吹き上げファン51から吹き出された風により茶葉
移送路52a内を上昇移送されるのであって、送風ダクト52を介して吹き上げフ
ァン51から吹き出された風に負圧吸引作用がなくとも、送風ダクト35から排出
される風により、上昇移送が可能となる位置まで茶葉が送られることは容易に理解される。\n
この点、同【0013】には、摘採作用部36について、摘採機フレームパイプ
31と摘採機フレーム基盤32とにより「区画」される旨が記載されているのみで、
それが密閉構造を有することはもとより、閉鎖的な構\造を有することも明記されて
おらず、他に、甲1に、摘採作用部36の構造について特定する記載も見られない。そうすると、摘採作用部36は、送風ダクト35から排出される風によって茶葉\nを摘採作用部36の後方に送ることが可能な構\造となっていれば足り、原告の主張
するように、密閉又は半密閉状態にあることを要するものではないと解される。
(ウ) 上記に関し、原告は、摘採作用部36が密閉又は半密閉状態でないとすると、
送風ダクト35から排出される風によって周辺に分散して回収不能になってしまう茶葉が生じ、甲1発明における茶葉の中継移送機能\が低下することになるなどと主張するが、茶葉の分散を避けるためには、茶葉が通過しない程度の空隙を有する部
材で摘採作用部36を構成することで足りるといえるし、茶葉の損傷を避けるためという観点を更に考慮したとしても、直ちに摘採作用部36が密閉又は半密閉状態\nであることまで要するものとは解されない。
(エ) したがって、甲1発明について、送風ダクト52を介して吹き上げファン5
1から吹き出された風が「負圧吸引作用を有すること」が認められるべき旨をいう
原告の主張は、採用することができない。
(2) 前記2の甲1の記載事項によると、甲1には、前記第2の3(1)アのとおり本
件審決が認定した甲1発明が記載されていると認められる。その上で、本件発明1と甲1発明における茶葉の移送方法を対比すると、それらの間には、前記第2の3(2)アのとおり本件審決が認定した一致点及び次の相違点1が認められるというべきである
・・・・
(2) 前記3(3)で認定説示した点に照らし、新規性及び進歩性の判断の誤りをいう原告の主張は、採用することができない。
◆判決本文
同特許についての侵害訴訟です。
1審
「圧力風の作用のみによって」を備えず、構成要件Aを充足しない
◆令和2(ワ)17423
控訴審
均等主張もしましたが、第1要件を満たさないとして、控訴棄却。
◆令和4(ネ)10071
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2023.04.18
令和4(行ケ)10010 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年4月6日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとの審決がなされました。知財高裁も結論は同様です。なお、審判では基礎出願2に基づく優先権は認められていましたが、知財高裁はこれを否定しました。
6 取消事由1(優先権に関する認定判断の誤り)について
(1) 優先権について
ア 本件出願について、被告が基礎出願1又は2に基づく優先権を主張できるか
否かについて検討する。
イ(ア) 基礎出願1及び2がされた平成22年6月ないし7月頃時点で、一定のリ
ソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素の一定量をリソソ\ーム蓄積症の患者のし
かるべき組織等に送達することができれば、治療効果を生ずること自体は技術常識
となっていた一方で、どのような方法で補充酵素を有効に送達することができるか
について検討が重ねられており、本件出願がされた平成29年9月においても、そ
のような状況がなお継続していたものと認められる(甲1〜4、16、17、55、
56、弁論の全趣旨)。
本件発明1は、リソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物
であって、脳室内投与されることを特徴とするものであるところ、上記の技術常識
及び前記1(2)の本件発明の概要を踏まえると、本件発明1の薬学的組成物につい
ても、中枢神経系(CNS)への活性作用物質の送達をいかに有効に行うかという
点がその技術思想において一つの重要部分を占めているものというべきである。
(イ) この点、本件明細書の【0005】には、「髄腔内(IT)注射または脳脊髄
液(CSF)へのタンパク質の投与・・・の処置における大きな挑戦は、脳室の上
衣内張りを非常に堅く結合する活性作用物質の傾向であって、これがその後の拡散
を妨げた」、「脳の表面での拡散に対するバリア・・・は、任意の疾患に関する脳に\nおける適切な治療効果を達成するには大きすぎる障害物である、と多くの人々が考
えていた」との記載があり、【0009】には、「リソソ\ーム蓄積症のための補充酵
素が高濃度・・・での治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接的に導
入され得る、という予期せぬ発見」という記載がある。\nまた、甲17の「発明の背景」においても、高用量の治療薬を必要とする疾患に
ついて髄腔内ルートの送達に大きな制限があり、濃縮された組成物の調製にも問題
がある旨が記載されていた(前記5(2)カ及びキ)。
さらに、基礎出願2がされた翌年である平成23年に発行された乙6(「Drug
transport in brain via the cerebrospinal fluid」Pardridge et al., Fluids
and Barriers of the CNS 2011 8:7)においても、CSFから脳実質への薬物浸透
は極めて僅かであり、脳への薬物の浸透がCSF表面からの距離とともに指数関数\n的に減少するため、高濃度の薬物を投与する必要があるが、上位表面は非常に高い\n薬物濃度にさらされており有毒な副作用を示す可能性があることなどが記載されて\nいた。その更に翌年である平成24年に発行された乙13(「CNS Penetration of
Intrathecal-Lumbar Idursulfase in the Monkey, Dog and Mouse: Implications
for Neurological Outcomes of Lysosomal Storage Disorder」 Calias P. et al.
PLoS One, Volume 7, Issue 1, e30341)には、「本研究は、組換えリソソ\ームタン
パク質の直接的なCNS投与によって、投与されたタンパク質の大多数が脳に送達
され、カニクイザル、イヌ両方の脳および脊髄のニューロンに広範囲に沈着するこ
とを、初めて示した研究である。」と記載されている。
そうすると、少なくとも基礎出願2がされた平成22年7月頃においては、CN
S送達のための組成物として特定の組成物の組成等が開示された場合であっても、
当該組成等から直ちにその脳への送達の程度や治療効果を推測等することは困難で
あることが技術常識であったものと認められる。
このことは、甲17に、「本明細書で用いる場合、「中枢神経系への送達に適して
いる」という語句は、それが本発明の薬学的組成物に関する場合、一般的に、この
ような組成物の安定性、耐(忍)容性および溶解度特性、ならびに標的送達部位(例
えば、CSFまたは脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのよう
な組成物の能力を指す。」(前記5(5)ナ)として、「標的送達部位(例えば、CSF
または脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのような組成物の能\n力」が「送達に適している」ということの意味内容に含まれることが明記されてい
ることとも整合するものといえる。
(ウ) 他方で、本件明細書の【0085】には、「いくつかの実施形態では、本発明
による髄腔内送達は、末梢循環に進入するのに十分な量の補充酵素を生じた。その\n結果、いくつかの場合には、本発明による髄腔内送達は、肝臓、心臓および腎臓の
ような末梢組織における補充酵素の送達を生じた。この発見は予期せぬものであ・・・\nる。」との記載があり、標的組織への送達について、【0132】には、「本発明の意
外な且つ重要な特徴の1つは、本発明の方法を用いて投与される治療薬、特に補充
酵素、ならびに本発明の組成物は、脳表面全体に効果的に且つ広範囲に拡散し、脳\nの種々の層または領域、例えば深部脳領域に浸透し得る、という点である。さらに、
本発明の方法および本発明の組成物は、現存するCNS送達方法、例えばICV注
射では標的化するのが困難である脊髄の出の組織、ニューロンまたは細胞、例えば
腰部領域に治療薬(例えば、補充酵素)を効果的に送達する。さらに、本発明の方
法および組成物は、血流ならびに種々の末梢器官および組織への十分量の治療薬(例\nえば、補充酵素)を送達する。」との記載があり、【0133】においては、実施形
態により、「治療用タンパク質(例えば、補充酵素)」が、対象の「中枢神経系」に
送達され、あるいは「脳、脊髄および/または末梢期間の標的組織のうちの1つ以
上」に送達され、また、「標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織および/または末
梢標的組織であり得る。」などと記載された上で、【0134】以下で特に「脳標的
組織」について説明がされ、そして、実施例においても、例えば、実施例1ではI
T投与が、実施例3ではICV投与及びIP(腹腔内)投与が、実施例5、実施例
10及び実施例13ではIT投与及びICV投与が用いられるなどしている。
そして、証拠(甲2〜5。後記7(1)〜(4)参照)のほか、本件明細書の記載内容
に照らしても、CNSへの酵素の送達においては、ICV投与とIT投与とは、そ
れぞれ別個の投与態様として取り扱われ、組織への酵素の送達に関する実験やその
結果の評価においても、それらは別個に取り扱われること、換言すると、ICV投
与とIT投与の相応に密接な関連性を考慮しても、ICV投与による実験データと
IT投与による実験データとを直ちに同一視することはできないことが、平成22
年7月頃における技術常識であったことが認められるというべきである。
(エ) 前記(イ)及び(ウ)の技術常識を踏まえると、本件発明1が甲17に記載されて
いた発明であると認められるためには、甲17に、本件発明1の組成物が実質的に
記載されていたものと認められるのみならず、甲17に、本件発明1の組成物によ
る送達の効果が、ICV投与した場合のものとして、実質的に記載されていたと認
められる必要があるというべきである。
ウ(ア) その上で、甲17の記載を見るに、まず、「発明の背景」の記載(前記5(2))
は、専ら背景技術について説明するものである。「発明の概要」の記載(同(3))に
は、本件発明1の組成物に含まれる組成物の記載があるといえるが、当該組成物が
どのように送達されて治療効果を奏するのかについては記載がない。そして、「発明
の詳細な説明」(同(5))を見ても、組成物の構成やその使用方法に関する一般的な\n記載はみられるものの、どのように送達されて治療効果を奏するのかについて具体
的な記載はない。
(イ) 甲17の実施例1(前記5(6))には、15mg/mLのタンパク質濃度のリ
ソソ\ーム酵素を含む組成物で、pH6〜7であってリン酸塩を含むものが記載され
ていると見ることができるが、具体的にどのような酵素が用いられたかは不明であ
り、また、どのような領域まで送達されて治療効果を奏するかについても記載がな
い。
(ウ) 甲17の実施例2(前記5(7))には、「酵素治療薬の使用による繰り返しI
T−脊椎投与の毒性及び安全性薬理を評価」や「酵素投与群」との記載はあるが、
酵素の種類も濃度も不明であり、また、どのような領域まで送達されて治療効果を
奏するかについても記載がない(なお、対照群との差異もみられていない。)。
(エ) 甲17の実施例3(前記5(8))には、用量1.0mL中酵素14mgとして
調製された酵素と、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0.
005%のポリソルベート20をpH7.0で含むビヒクルにより作成された製剤\nが髄腔内投与されたことの記載があるが、図5を含めて見ても、主に有害な副作用
の有無等が検討されたものと解され、治療効果については記載がない。
(オ) なお、甲17の図2には、30mg用量の髄腔内投与後のリソソ\ーム酵素の
ニューロンへの分布が示され、尾状核のニューロンにリソソ\ーム酵素が認められた
ことが示されているが、どのような組成物が投与されたのかも不明である。
(カ) さらに、甲17には、投与の態様としてICV投与とIT投与とが選択的な
ものである旨は記載されているといえる一方で、いずれの方法によっても同様に送
達され得る旨等を明らかにする記載もないから、前記(ウ)〜(オ)は、ICV投与した
場合のものとして、本件発明1の組成物による送達の効果を記載するものでもない。
エ 以上によると、甲17には、本件発明1が記載されているものとは認められ
ず、本件発明2〜8及び12についてこれと異なって解すべき事情も認められない
から、本件出願について、基礎出願2に基づく優先権を主張することはできない。
基礎出願1についても、基礎出願2と異なって解すべき事情はない。
これと異なる被告の主張は、いずれも採用することができない。ICV投与とI
T投与において、組成物はいずれの場合でもCSFに投与されるものであり、その
ためそれらの間に処方としての共通性や標的組織等への送達における相応の関連性
があるということができたとしても、そのことをもって、具体的な送達の程度や治
療効果についてまで、一方の投与態様についての実験結果等の記載をもって直ちに
他方についての記載と実質的に同視することができるとの技術常識は認められない。
被告の主張は、甲16及び17の記載内容を、本件明細書の記載内容を前提にしな
がら解釈しようとするものであって相当でない。
(2) 甲6が公知文献とされなかったことが直ちに取消事由に当たるかについて
ア 原告は、取消訴訟の審理範囲を根拠として、本件審決に当たり甲6を副引用
例として考慮しなかった本件審決は、優先権に係る判断の誤りによって直ちに取り
消されるべきである旨を主張するので検討する。
イ(ア) 証拠(甲61、62)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件審判請求においては、本件発明1の進歩性に係る無効理由として、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ甲5〜10を適用すること(甲5の適用については、甲5技術と実質的に同一の内容が主張されていた。)により容易想到である旨を主張し、その中で、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を主張する一方、甲6発明(ビヒクル)については主張していなかったことが認められる。本件審決は、基礎出願2に基づく優先権の主張を認めたことから、副引用例としての甲6記載の発明の適用について検討するには至らなかったが、上記のとおり、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を副引用例とする範囲で、審判手続においても審理の対象となっていたものであって、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ上記副引用例を組み合わせることにより進歩性を欠くという無効理由自体は、審判手続において審理対象となっていたものである。
(イ) そして、本件審決は、甲2発明ないし甲4発明と本件発明の相違点について、
甲5及び7〜10を適用して容易想到であるといえるか否かについて判断した一方、
優先権主張を認めたことから甲6は除外し、それゆえ相違点に係る本件発明の構成\nについての甲6発明(製剤)の適用について具体的には判断しなかったものの、甲
2発明ないし甲4発明に甲6発明(製剤)を適用することにより本件発明は容易想
到であるという旨の原告の主張自体については、これを認めることができないとの
判断を示したものである。
(ウ) 原告は、本件訴訟において、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とした上で、
前記(ア)及び(イ)のとおり本件審決で排斥された甲5技術の適用による容易想到性の
主張のほか、甲6に基づき、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を副引用
例として主張するとともに、甲6が技術常識(エリオットB溶液の技術常識及び高
濃度化の技術常識)を補足するものである旨を主張しているところ、本件訴訟にお
いて、容易想到性が争いとなっている本件発明の構成(甲2発明ないし甲4発明と\nの間の各相違点)は、本件審決で判断されたものと基本的に同じであり、甲6発明
(製剤)や甲6発明(ビヒクル)の適用に当たり、本件審決で判断されたもの以外
の相違点が問題になるなどといった事情はない。
(エ) 前記(ア)のとおり、甲6の適用については審判手続においても問題とされ、当
事者双方において攻撃防御を尽くす機会はあったといえる。この点、証拠(甲6、
16、17、乙14、24。なお、訳文として甲6の2・3、乙36)及び弁論の
全趣旨によると、甲6は、基礎出願1及び2がされて間もない平成22年7月2日
に公衆に利用可能となった雑誌「注射可能\なドラッグデリバリー2010:製剤フ
ォーカス」に掲載された「CNSが関与する遺伝学的疾患を治療するためのタンパ
ク質治療薬の髄腔内送達」と題する論文であるところ、同論文は、基礎出願1及び
2に関わった研究者も関与して行われた研究発表に係るものであって、本件発明と\n同様の技術分野に属するもの、すなわち、酵素補充療法において、中枢神経系(C
NS)病因を有する疾患の処置に係るリソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素
を含む薬学的組成物に関連するもの(前記1(2)ア)と解されるほか、その記載内容
は、かなりの部分甲16及び17と重なり合うものである。そのような甲6の性質
や、甲16及び17と本件発明との関係についても優先権主張の可否という形では
あるが各当事者において攻撃防御を尽くす機会があったというべきことを考慮する
と、上記のように審判手続において各当事者に与えられていた甲6の適用について
攻撃防御を尽くす機会は、実質的な機会であったといえる。
(オ) 以上の事情の下では、本件審決においては副引用例としての甲6発明(製剤)
の適用が具体的には判断されるに至らず、また、甲6発明(ビヒクル)については
そもそも審判段階で問題となっていなかったこと(この点、被告は、甲6発明(ビ
ヒクル)を適用しての容易想到性に係る原告の主張について、特にそれが審理範囲
外であるとして争ってはいない。)を考慮しても、本件訴訟において、審判手続にお
いて審理判断されていた甲2発明ないし甲4発明との対比における無効原因の存否
の認定に当たり、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を適用することによ
って容易想到性の有無を判断することが、当事者に不測の損害を与えるものではな
く、違法となるものではない。最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月1
0日大法廷判決・民集30巻2号79頁は、本件のような場合について許されない
とする趣旨とは解されない。
(3) 以上によると、取消事由1は、優先権の判断の誤りという限度において理由
があるが、それをもって直ちに本件審決を取り消すべきという結論において、理由
がない。そこで、以下、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とする容易想到性の主張に係る取消事由5〜7について、検討する。
◆判決本文
当事者が同じ関連事件です。
◆令和4(行ケ)10022
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2023.04.12
令和3(ワ)28206 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年3月16日 東京地方裁判所
原告「ホンダ」VS被告「マツダ」の特許権侵害訴訟です。裁判所は進歩性無しの無効理由があるとして、権利行使不能と判断しました(特104-3)
当裁判所は、本件発明は、進歩性を欠くものとして無効であると判断するものであり(争点2−1−2)、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。以下、進歩性については、争点2−1−2(後記7)を先に判断することとし、構成要件充足性については、当事者双方の主張立証の経緯及び内容を踏まえ、次のとおり、念のため必要な限度で判断の理由を示すこととする。なお、原告は、予\備的に訂正の再抗弁を主張するものの、弁論の全趣旨によれば、現実に訂正請求をするものではなくその予定もないというのであるから、その要件を欠くものであり、後記7において説示するところによれば、上記進歩性に係る判断を左右しないことは明らかである。\n
・・・
上記認定事実によれば、乙9発明と乙10発明は、共に安全性の観点から、
原動機付車両における車両停止時にブレーキがかかった状態を保持すると
いう技術思想が共通するものといえる。そして、乙9発明は、安全性の観点
から、エンジン自動停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不可分性を
必須の特徴とするものであるところ、乙9(11頁2〜18行)によれば、
「ステツプS24では、ブレーキペダル信号の有無によりブレーキペダルが
踏込まれているか否かが判断される。・・・運転者が車両を停止させる意思
があると判断するためである。」、「更にステツプS25では、エンジンを
自動停止させるための他の停止条件、例えばターンシグナルが出されていな
いこと、ヘツドランプが点灯していないこと、エアコンデイシヨナが作動し
ていないこと、水温が所定以上であること、等が、ターン信号、ライト信号、
エアコン信号、水温信号等により判断される。」、「これらのステツプS2
1〜S25がすべて肯定判断されれば、エンジン自動停止条件が満足された
こととなる・・・」が記載されていることからすると、乙9発明は、エンジ
ン自動停止始動装置を安全な状態で作動させる観点から、各種検出信号を用
いていることが認められる。
そうすると、エンジン自動停止始動装置を安全な状態で作動させるために、
各種検出信号の一つとして、乙9発明に対し、制動保持装置の異常を検出す
る乙10を適用する動機付けを認めるのが相当である。
したがって、エンジン自動停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不
可分性を必須の特徴とする乙9発明の技術的思想に鑑みると、制動保持装置
の異常を検出した場合には、安全性を欠くことは自明であるから、安全性の
観点から各作動の一体不可分性を確保するために、エンジン自動停止始動装
置を安全な状態で作動させるための判断用各種検出信号の一つとして制動
保持装置異常検出信号を加えた場合において、制動保持装置の異常が検出さ
れたときは、乙9発明にいうステップS21〜S25が肯定判断されず、エ
ンジン自動停止条件が満足されなくなる。
そのため、上記場合には、制動保持装置異常検出信号が、エンジン自動停
止始動装置を作動させないことになり、もってその作動を禁止することにな
る。したがって、乙9発明に乙10発明を適用してエンジン自動停止始動装置
の作動を禁止することが、当業者の適宜なし得る設計事項の範疇であること
は、上記一体不可分性に照らし、明らかである。
以上によれば、制動保持装置の異常を検出した場合には、エンジン自動停
止始動装置の作動を禁止する構成(相違点1に係る構\成)を容易に想到でき
るものと認めるのが相当である。
実質的にみても、本件発明は、原動機停止装置の実行を判断するための各
種検出信号の一つとしてブレーキ液圧保持装置の故障検出信号を備えるも
のであり、乙9発明に乙10発明を適用した構成との間に、技術思想におい\nて異なるところはない。
◆判決本文
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2023.04. 7
令和4(ワ)16934 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年3月28日 東京地方裁判所
実案を基礎としてした特許出願について登録となりました。権利者が権利行使しましたが、無効主張がなされ、進歩性無しと判断されました(特104-3)。
本件特許はこれです。
◆本件特許
「本発明」は、前記アの課題を解決するため、授乳者のプライバシーが
保護された状態で授乳を行うことができる授乳用空間が形成された授乳
エリアを簡易に設置できるようにすると共に、授乳用空間のレイアウト
の変更を容易にできるようにすることを目的とするものであり、「本発明」
の授乳用ユニットは、内部に空間が形成された箱状の筐体と、筐体に形
成された開口状の出入口と、出入口に設けられ、閉状態のときに出入口
を塞ぎ、筐体の内部の空間を遮蔽するドアと、筐体の内部の空間に設け
られ、授乳者が着座可能な1つの一人着座用の椅子と、筐体を移動させるキャスターと、を備えることにより、ドアを閉状態とすれば、筐体の内部の空間が遮蔽され、外部から筐体の内部が視認できない状態となる\nため、授乳者は、筐体の内部で、他人に見られることなく、プライバシ
ーが保護された状態で授乳を行うことができ、授乳エリアとなる空間に
授乳用ユニットを持ち込み、キャスターを利用して授乳用ユニットを適
切な位置に移動させるという作業を行うだけで、授乳用空間が形成され
た授乳エリアを設置することができることから、授乳エリアの設置に際
し、綿密な設計の下、各設備を適切な位置に固定的に設ける必要がなく、
授乳エリアの設置が簡易化し、キャスターを利用して授乳用ユニットを
移動させるだけで、授乳エリアにおける授乳空間のレイアウトの変更を
行うことができるため、授乳用空間のレイアウトの変更を容易に行うこ
とができるとの効果を奏する(【0007】ないし【0009】)。
・・・
a 原告は、乙6発明の技術分野は、「プライバシーに配慮した筐体内
部に保育空間を形成する技術」に関するものであり、前記(ア)の公報
及び文献に記載の発明の技術分野とは異なっているから、筐体の移動
を容易ならしめるため、筐体にキャスターをつけることは、乙6発明
の技術分野における周知技術であるとは認められないと主張する。
しかし、前記(ア)において認定したとおり、少なくとも利用者と機
器等を収納する筐体に係る技術分野においては、当該筐体の具体的な
用途にかかわらず、広く当該筐体の移動を容易ならしめる手段として
のキャスターが利用されている。そのような利用状況からすると、移
動対象が授乳室という「プライバシーに配慮した筐体内部に保育空間
を形成する」用途の筐体であるからといって、当業者において、当該
技術分野における周知慣用技術である筐体にキャスターを設けるとい
う構成を乙6発明に係る授乳室に適用することが困難であるとはいえない。
b 原告は、1)乙6発明に係る授乳室にキャスターを取り付けると、
設置面と授乳室の床面との間に段差が生じ、授乳室の安全な利用を図
るという目的に反する、2)乙6発明に係る授乳室においては、授乳用
チェア等の室内装備が固定・固着されていないから、乙6発明に係る
授乳室にキャスターを取り付けて移動可能にすると、授乳等を安全に行うことができなくなる、3)乙6発明に係る授乳室の安全性を保ちつ
つ、キャスターを取り付けることには技術的ハードルがあるとして、
乙6発明に係る授乳室に、キャスターを適用することを妨げる特段の
事情があると主張する。
しかし、1)については、乙6文献の記載から、乙6発明に係る授乳
室は、ロビーの床面と授乳室の床面との間の段差があり、これによる
弊害を解消するため、乙6発明に係る授乳室の出入口付近の床面から、
ロビーの床面に延びるスロープを備えているものと認められ、段差に
よる弊害は、同スロープの設置により解消することができるといえる。
また、技術常識に照らし、取り付けるキャスターのサイズや取付方法
を工夫することにより、上記のような段差が生じることを抑制するこ
とが困難であるとは考え難い。したがって、段差が生じることが乙6
発明に係る授乳室にキャスターを取り付ける阻害要因になるとは認め
られない。
次に、2)については、授乳者を授乳室に収容したまま授乳室を移動
させない限り、乙6発明に係る授乳室内の設備が固定されていない
ことによる授乳者の安全性への影響が生じるとは考え難く、実際に
そのような影響が生じると認めるに足りる証拠もない。むしろ、授
乳者を乙6発明に係る授乳室に収容したまま授乳室を移動させるこ
とは通常の使用方法ではないというべきである。したがって、室内
装備が固定・固着されていないことが乙6発明に係る授乳室にキャ
スターを取り付ける阻害要因になるとは認められない。
さらに、3)については、筐体にキャスターを取り付けることによ
って、不意に筐体が動き出すとの事象が生じ得ることは、容易に想定
できるところ、これによる弊害は、キャスターにストッパーを取り付
けることにより回避することができる。そして、筐体にキャスターを
取り付け、同キャスターにストッパーを取り付ける構成は、前記(ア)
e及び同fのとおり、乙16公報及び17公報において開示されてお
り、周知技術であると認められるから、当業者であれば、筐体にスト
ッパー付きのキャスターを取り付けるという周知技術を適用し、容易
に克服できる弊害であるといえる。したがって、安全性を保つ必要が
あることが乙6発明に係る授乳室にキャスターを取り付ける阻害要因
になるとは認められない。
◆判決本文
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2023.04. 7
令和4(ワ)3847 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年3月23日 大阪地方裁判所
本件特許には無効原因があるにもかかわらず、被告が税関に輸入禁止の申立てを行った行為が不法行為に該当するとして、不法行為に基づく損害賠償が請求されました。大阪地裁は「理由無し」と判断しました。税関で、特許権に基づく輸入禁止認定がなされる例があるんですね。該当特許は、形状がユニークなトレーニング機器です。無効審判も理由無しと判断されています。
◆該当特許
原告は、甲7公報の記載からバー10を抽出し、別紙「主張一覧表」の「無効理由1」の「原告の主張」欄記載の構\成a〜gを有するとして、これを引用発明(甲7発明)とし、本件各発明は甲7発明の構成を全て備える、本件各発明の構\成要件Fが甲7発明の構成fと相違するとしても、バー10を用いてトレーニングすることは可能\であるから相違点は軽微である旨主張する。しかし、甲7公報の記載から、バー10のみを分離して独立の運動器具としての発明と理解することは相当でない。すなわち、前記(2)イ認定のとおり、甲7
公報には、従来のバーベル機材およびダンベル機材において、比較的長いバーを
有する装置はバランスをとることが困難であり、重りを使用しない装置は本格的
なボディビルダーに対しては限定的な有効性しか有さないとの欠点や、三頭筋を
働かせるのに使用されるほとんどの器具が手のひらを上に向けることを必要とす
るが、このようなタイプのハンド・ポジションは、特に重い重りを持ち上げなが
ら肘を内側で維持することを困難にするとの欠点があったこと、甲7公報記載の
発明は、三頭筋をエクササイズするためのウエイトリフティング装置を提供する
ことにより従来技術の短所を解消するものであり、バランスをとることの問題を
有意に低減する中央に位置する重りプレート固定手段を有し、複数のハンド・ポ
ジションおよび間隔を可能にする三頭筋伸展装置を開示すること、装置は、バー・ハンドル組立体および支持クランプ組立体である2つの主要構\成要素を有すること、重り支持プラットフォーム26および解除可能なクランプ手段28が支持クランプ組立体を形成し、バー10が、中央に位置する重り支持プラットフォーム26に固定されること、プラットフォーム26をバー10に取り付けることが、\n好適には、故障を引き起こす可能性を排除するために、溶接によって達成されること、重り又は重りプレート40をプラットフォーム26上で位置決めするのに直立ポスト38が使用され、クランプ部材28がポスト38の周りで固定的に留\nめられ、それにより重りをプラットフォーム26上に固着することが記載される。
これらの記載からすると、甲7公報記載の発明において、重り支持プラットフォー
ム26を含む支持クランプ組立体はバー10とともに装置の主要構成要素であり、バー10は溶接等の方法によりプラットフォーム26に固定され、バー10は重り支持プラットフォーム26等と物理的に一体であることが前提となっていると\nいえる。また、甲7公報記載の発明は、従来のバーベル機材等における、比較的
長いバーを有する装置はバランスをとることが困難であり、重りを使用しない装
置は本格的なボディビルダーに対しては限定的な有効性しか有さないとの欠点を
解消するため、バランスをとることの問題を有意に低減する中央に位置する重り
プレート固定手段を有し、複数のハンド・ポジションおよび間隔を可能にする三頭筋伸展装置を提供するものであり、バー10は支持クランプ組立体と一体となって作用効果を奏するといえる。そして、バー10のみが独立してウエイトリフティ\nング・エクササイズにおける運動器具としての作用効果を発揮することは、甲7
公報には記載も示唆もされていない。
以上によれば、三頭筋運動器具の発明に関する甲7公報の記載から、その部材
の一つにすぎないバー10のみを抽出して独立の運動器具としての引用発明(甲
7発明)と理解することはできず、本件各発明の構成要件Fと甲7発明の構\成f
は明らかに相違する。
・・・
原告は、甲7公報の記載からバー10を抽出した甲7発明を主引用発明と
して、公知技術(甲8、9)を適用することにより、本件各発明は、当業者が容
易に発明することができる旨主張する。
しかし、前記(3)アのとおり、甲7公報の記載から、部材の一つにすぎないバー
10のみを分離して独立の運動器具の発明と理解することは相当でなく、トレー
ニング器具の発明である本件各発明とは技術的内容・性質の異なる甲7発明を主
引用発明として、本件各発明が進歩性を欠如する旨の原告の主張は認められない。
イ 前記(3)ウのとおり、被告は、本件各発明と甲7発明(被告)を対比する
と、少なくとも、相違点1)及び2)が相違する旨主張するところ、原告は、被告主
張の相違点を前提としても、相違点に係る本件各発明の構成は、公知技術(甲8、9)から容易想到である旨主張するので、以下、検討する。
ウ 容易想到性の検討
(ア) 相違点1)(本件各発明は、重り支持部分を備えないのに対し、甲7発明
(被告)は、重り支持部分を備える点)について
前記(3)アのとおり、甲7公報記載の発明は、ウエイトリフティング装置とし
て、バー10に重り支持部分(重り支持プラットフォーム26、クランプ部材2
8、直立ポスト38)を固定し、重り又は重りプレート40を重り支持プラット
フォーム26に固着して使用することを前提とした発明である。すなわち、バー
10は、重り支持プラットフォーム26等により形成される支持クランプ組立体
と物理的に一体となって作用効果を奏するものであるし、バー10が独立して運
動器具としての作用効果を発揮することは、甲7公報に記載も示唆もされていな
いから、甲7公報に接した当業者に、甲7公報記載の発明から重り支持部分を取
り外す動機付けがあるとは考え難い。したがって、相違点1)に係る本件各発明の
構成は甲7発明(被告)から容易想到であるとはいえない。
これに対し、原告は、甲7公報の明細書に溶接前の単独のバー10が記載され
ていること、甲7発明(被告)は重りのついた状態でも本件各発明と同様の作用
効果を奏すること、バー10の状態でも一定の三頭筋エクササイズの効果は得ら
れるところ、よりエクササイズの幅を広げる目的で甲7発明(被告)から重り支
持部分を取り外す動機付けはあることを根拠として、甲7発明(被告)から重り
支持部分を取り外すことは容易想到である旨主張する。しかし、前示のとおり、
甲7公報には、バー10が単独で運動器具としての作用効果を奏することは何ら
開示されていない。仮に甲7発明(被告)が本件各発明と同様の作用効果を奏す
るとして、甲7発明(被告)は、ウエイトリフティング装置として、バー10に
固定された重り支持部分を構成する重り支持プラットフォーム26に重り又は重りプレート40を固着して使用することを前提とした発明であるから、よりエクササイズの幅を広げる目的で重りを取り外して使用する可能\性はあるとしても、重り支持部分全体を取り外す動機付けがあるとはいえない。したがって、原告の主張は採用できない。
・・・
以上より、原告が主張する無効理由1〜3はいずれも認められず、本件各発明
について無効原因があるとはいえない。したがって、被告が本件特許権に基づい
て行った本件申立てが違法なものであるとは認められず、本件申\立てについて、
不法行為は成立しない。
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2023.04. 4
令和4(行ケ)10092 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年3月27日 知的財産高等裁判所
知財高裁は、ゲームプログラムについて、新規事項である&進歩性なしとした判断は誤りであるとして、拒絶審決を取り消しました。
当初明細書等及び第2次補正後の明細書等に記載の発明の技術的意義は、前
記2(1)イ及び(2)記載のとおり、ユーザの強さの段階を基準として所定範囲内の
強さの段階にある対戦相手を抽出することにより、従来のように対戦相手をラ
ンダムに抽出する場合に比べて、対戦相手間の強さに大差が出て勝敗がすぐに
ついてしまう戦いの数を低減することができ、また、対戦相手の強さに一定の
ばらつきを含ませて対戦ゲームの難度を変化させ、ユーザのゲームに対する興
味を増大させることにある。
そして、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユーザ」の「強さ」に、
攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が含まれることが
本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間に争いがない(本件審決第
2の2(2)イ(ウ)〔本件審決12頁〕参照)。
上記のような、対戦ゲームにおいて、強さに大差のある相手ではなく、ユー
ザに適した対戦相手を選択するという発明の技術的意義に鑑みれば、当初明細
書等記載の「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りると解するのが相当で\nあり、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」とすることは、発明の一実施形態
としてあり得るとしても、技術常識上「強さ」に含まれる要素の中から、あえ
て体力、俊敏さ、所持アイテム数等を除外し、「強さ」を「攻撃力と防御力の合
計値」に限定しなければならない理由は見出すことができない。言い換えれば、
「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定するか否かは、発明の技術的
意義に照らして、そのようにしてもよいし、しなくてもよいという、任意の付
加的な事項にすぎないと認められる。
そうすると、当初明細書等には、「強さ」の実施形態として、文言上は「攻撃
力及び防御力の合計値」としか記載されていないとしても、発明の意義及び技
術常識に鑑みると、第2次補正により、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」
に限定せずに、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータ」と補正したことによって、さらに技術的事項が追加されたも\nのとは認められず、第2次補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認め
られない。そうすると、第2次補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内
においてされたものであると認められ、特許法17条の2第3項の規定に違反
するものではないというべきである。
したがって、本件審決が、第1次補正発明の「強さ」について、第2次補正
により「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」と補正したことは新たな技術的事項を導入するものである\nとして、第2次補正は特許法17条の2第3項の規定に違反すると判断して第
2次補正を却下した(本件審決第2)のは誤りであると認められ、本件審決に
は、原告主張の取消事由が認められる。
4 被告の主張に対する判断
(1) 被告は、当初明細書等の記載から、「強さ」が「攻撃力及び防御力の合計値」
に限定されるものであることは明らかである旨主張する(前記第3〔被告の
主張〕2(1)ア)。
しかし、前記3のとおり、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユ
ーザ」の「強さ」に、攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテ
ム数等が含まれることが本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間
に争いがない。そして、当初明細書等に、「強さ」について「攻撃力及び防御
力の合計値」と記載された箇所があるとしても、発明の技術的意義に鑑みれ
ば、「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りるものと解され、「強さ」から\n「攻撃力及び防御力の合計値」以外の要素を除外する理由は見出されない。
対戦ゲームには様々な形態があり得るものであり、技術常識に照らすと、ゲ
ームの形態に応じて勝敗に影響する「強さ」についても種々のパラメータが
想定されるものと認められ、段落【0028】に記載の「攻撃力及び防御力
等」における「等」や図2(b)における「…」が、「強さ」の要素のうち、
攻撃力及び防御力以外の体力、俊敏さ、所持アイテム数等の要素を示すと解
することは十分に可能\である。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(2) また、被告は、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」という第2次補正後の請求項1、7及び8の\n文言によっては、「強さ」にどのようなパラメータが包含されるのかが具体的
に特定できず、第三者に不測の不利益を生じると主張する(前記第3〔被告
の主張〕2(1)イ)。
確かに、対戦ゲームには様々の形態があり得るものであり、技術常識に照
らすと、ゲームの形態に応じて勝敗に影響する「強さ」についても種々のパ
ラメータが想定されるものと認められる。
しかし、各形態のゲームにおいてどのような「強さ」のパラメータを設定
するのが適当かは、当業者であれば適宜判断し得るものと推認され、ユーザ
の強さを基準として所定範囲内の強さを有する他のユーザを対戦相手として
選択することにより、ユーザのゲームに対する興味の低下を防ぐという発明
の技術的意義に照らせば、ある形態の対戦ゲームにおいて「強さ」にどのよ
うなパラメータが含まれるかは、当業者であれば想定し得るものと推認され
る。そうすると、「強さ」が「攻撃力と防御力の合計値」に限定されていない
としても、第三者に不測の不利益をもたらすものとは認められない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(3) 被告は、第2次補正によって「強さ」が広範な概念へと拡張され、新たな
技術的事項を追加するものとなったこと、「数値が高い程前記対戦ゲームを
有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」という第2次補正後の請求項1、7及び8の文言には、どのようなパラメータが包含されるの\nかが具体的に特定できず、第三者に不測の不利益をもたらすことから、第2
次補正は認めるべきでない旨主張する(前記第3〔被告の主張〕3)。
しかし、前記(1)及び(2)において述べたとおり、被告の上記主張は採用する
ことができない。
(4) また、被告は、当初明細書等の記載から、「強さ」が「攻撃力及び防御力の
合計値」に限定されるものであることは明らかであると主張するが(前記第
3〔被告の主張〕4)、前記(1)のとおり、このような被告の主張は採用するこ
とができない。
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2023.04. 4
令和4(行ケ)10009 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年3月27日 知的財産高等裁判所
知財高裁は、異議申立の特許取り消し決定について、判断を誤っているとして取り消しました。
本件決定は、相違点1に関し、1)甲2技術的事項に接した当業者であれば、
「複数本数の容器弁付き窒素ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1
発明において、「窒素ガス」が、過剰圧力がかかった状態で防護区画へ放出さ
れ得ることを防ぐために、窒素ガスが、過剰圧力がかからないように制御さ
れた速度で、防護区画に順次放出されるようにすればよいことを容易に認識
するといえる、2)甲2技術的事項では、「メインバルブ22」と、「ラプチャ
ーディスク16a」と、「ラプチャーディスク16b」の開放時間をずらすこ
とで、「過剰圧力がかからないように制御された速度で、保護された部屋14
に順次放出されるようにする」ことを実現しているが、「複数本数の容器弁付
き窒素ガス貯蔵容器」を備えた「自動起動式の」甲1発明において、窒素ガ
スの過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順次放出す
るには、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすこ
とによって実現でき、ラプチャーディスク等を用いるまでもないことは、当
業者であれば普通に予測し得たことである、3)本件明細書の【0025】の
記載を参酌すると、本件発明の「前記一つの容器の容器弁の第一の開弁タイ
ミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであって前記第一
の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防止す
る前記第二の開弁タイミングとを決定し」にいう「決定し」とは、制御部か
らの信号により開弁のタイミングが決定づけられているということ以上を意
味していないと解さざるを得ず、そのタイミングを「前記一つの容器の容器
弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミン
グであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が
重なることを防止する前記第二の開弁タイミング」とすることは、窒素ガス
の過剰圧力がかからないように、制御された速度で防護区画に順次放出する
ことを、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすこ
とによって実現するための必然的なタイミングでしかないから、「前記一つ
の容器の容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の
開弁タイミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスの
ピーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し、
前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える」ことも当業者が容易に想
到し得たことである、4)甲7及び8の記載事項からみて、「複数の消火ガス容
器を備え、防護区画へ配管等の導入手段を介して消火ガスを導入する消火設
備において、複数の消火ガス容器のうちの一つの容器の容器弁と別の容器の
容器弁との開弁時期をずらして、防護区画へ消火ガスを導入し、容器弁の開
弁時期は制御部により決定づけられること」は、ガス系消火設備の技術分野
において、本件出願前、周知技術であったといえる、5)甲2技術的事項に接
した当業者であれば、甲1発明において、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた
「容器弁」の開弁時期をずらすことで、相違点1に係る本件発明の発明特定
事項(構成)とすることは、当業者が容易に想到し得たというべきである旨\n判断した。
しかしながら、本件決定の判断は、以下のとおり誤りである。
ア 1)及び2)について
・・・
(ウ) 以上のとおり、甲1記載の「容器弁」付き窒素ガス貯蔵容器の「容器
弁」と甲2技術的事項の「ラプチャーディスク」は、動作及び機能が異\nなること、甲1及び2のいずれにおいても貯蔵容器の容器弁又はガスシ
リンダーのバルブの開閉時期をずらして複数のガスシリンダーからそ
れぞれ順次ガスを放出することによって保護区域又は保護された部屋
の加圧を防止することについての記載や示唆はないことに照らすと、甲
1及び2に接した当業者は、甲1発明において、保護区域又は保護され
た部屋の加圧を防止するために甲2記載のラプチャーディスクを適用
することに思い至ることがあり得るとしても、ラプチャーディスクを用
いることなく、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期
をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出するこ
とよって加圧を防止することが実現できると容易に想到することがで
きたものと認めることはできない。
したがって、本件決定の1)及び2)の判断は誤りである。
イ 3)について
本件決定の2)の判断は、本件発明の「前記一つの容器の容器弁の第一の
開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであっ
て前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重な
ることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し」にいう「決定し」
とは、制御部からの信号により開弁のタイミングが決定づけられていると
いうこと以上を意味していないと解さざるを得ないことを根拠として、容
器弁に接続される制御部を備える甲1発明において、「前記一つの容器の
容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タ
イミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピ
ーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し、
前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える」こと(相違点1に係る
本件発明1の構成の一部)も当業者が容易に想到し得たことをいうものと\n解されるところ、本件発明1の「決定し」の用語のクレーム解釈から直ち
にそのような結論を導き出すことには論理的に無理があり、論理付けが不
十分である。\n
ウ 4)について
仮に本件決定が述べるように甲7及び8の記載から、「複数の消火ガス
容器を備え、防護区画へ配管等の導入手段を介して消火ガスを導入する消
火設備において、複数の消火ガス容器のうちの一つの容器の容器弁と別の
容器の容器弁との開弁時期をずらして、防護区画へ消火ガスを導入し、容
器弁の開弁時期は制御部により決定づけられること」は、ガス系消火設備
の技術分野において、本件出願前、周知であったことが認められるとして
も、当業者が、甲1発明において、上記周知技術を適用することについて
の動機付けがあることを認めるに足りる証拠や論理付けがない。
エ まとめ
以上によれば、当業者は、甲1、甲2技術的事項及び前記周知技術に基
づいて、甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることを\n容易に想到することができたものと認めることはできないから、これと異
なる本件決定の判断は誤りである。
◆判決本文
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2023.03.31
令和4(行ケ)10029 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年3月27日 知的財産高等裁判所
特許異議申し立てにより、取り消された特許権について、知財高裁は、審判の判断を破棄しました。特許異議申\立で取り消しが成立することも珍しいですが、さらにその審決が取り消されることも珍しいです。争点は、進歩性、サポート要件・実施可能要件です。\n
発明の詳細な説明が物の発明について実施可能要件を満たすためには、当\n業者が発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の
試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の
記載があることを要するものと解される。
(2) 本件では、長細状凸部ループ構造を有し、光学三特性を有する防眩層を備\nえる第1実施形態に係る防眩フィルムにより本件各発明を実施できることは
当事者間に争いはない。しかし、本件各発明は、光学三特性を満たす防眩層
を備えることを要するものの、特許請求の範囲においては、その構造は限定\nされておらず、長細状凸部ループ構造以外の構\造のものも本件各発明に含ま
れるものと解される。そこで、本件明細書等の記載に長細状凸部ループ構造\n以外の構造のものが含まれているといえるか否かを検討する。\nまず、本件明細書等の段落【0034】には、[防眩層の構造]として、「第\n1実施形態の防眩層3は、複数の樹脂成分の相分離構造を有する。防眩層3\nは、一例として、複数の樹脂成分の相分離構造により、複数の長細状(紐状\n又は線状)凸部が表面に形成されている。長細状凸部は分岐しており、密な\n状態で共連続相構造を形成している。」と記載されている。それに続く段落\n【0035】には、「防眩層3は、複数の長細状凸部と、隣接する長細状凸部
間に位置する凹部とにより防眩性を発現する。防眩フィルム1は、このよう
な防眩層3を備えることで、ヘイズ値と透過像鮮明度(写像性)とのバラン
スに優れたものとなっている。防眩層3の表面は、長細状凸部が略網目状に\n形成されることにより、網目状構造、言い換えると、連続し又は一部欠落し\nた不規則な複数のループ構造を有する。」として、長細状凸部ループ構\造につ
いて記載されているが、この段落【0035】の記載は、第1実施形態の防
眩層として、長細状凸部ループ構造以外の相分離構\造を否定しているものと
は認められない。
また、本件明細書等には、第1実施形態において、共連続相構造だけから\nなる形状のほかに、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構\造(球
状、真球状、円盤状や楕円体状等の独立相の海島構造)との中間的構\造も形
成できることが記載されているし(段落【0072】)、相分離により層表面\nに微細な凹凸を形成することで、防眩層中に微粒子を分散させなくても防眩
層のヘイズ値を調整できることが記載されており(段落【0073】)、共連
続相構造に限定しない微細な凹凸を形成することが示唆されているといえる。\nそして、本件明細書等の段落【0134】には「実施例1〜6は、相分離
構造を基本構\造として防眩層3を形成するものである。」と記載されている
ものの、全ての実施例が長細状凸部ループ構造であるとは記載されていない\nし、甲47(実施例3及び6の防眩フィルムの顕微鏡写真)の実施例3の防
眩フィルムの表面形状・構\造を撮影した写真からは、長細状凸部ループ構造\nとまではいえない凹凸形状が形成されていることが認められるから、第1実
施形態の凹凸構造として、長細状凸部ループ構\造以外の凹凸構造をも製造す\nることができると認められる。さらに、長細状凸部ループ構造以外の凹凸構\
造が形成され、かつ光学三特性を備える防眩フィルムとして、甲47の実施
例3の凹凸構造しか製造できないことを示す証拠はない。\nそうすると、第1実施形態の防眩層には、長細状凸部ループ構造以外の凹\n凸構造のものが含まれており、そのようなものも含め、当業者であれば、少\nなくとも第1実施形態により、光学三特性を満たす本件各発明に係る防眩層
を、過度の試行錯誤なく製造できるものと認められる。
したがって、本件明細書等には、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出
願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を
製造し、使用することができる程度の記載があると認められる。
(3) この点に関し、被告は、本件各発明は、第1構造防眩層を備えた防眩フィ\nルムのみならず、第2構造防眩層及び第3構\造防眩層を備えた防眩フィルム
を含むにもかかわらず、本件明細書等には、実施例として第1構造防眩層に\nついて示されているにすぎず、第2構造防眩層及び第3構\造防眩層について
は、具体的製造例や光学三特性の測定結果等の記載はなく、凹凸をどのよう
に形成すればよいか等について何らの示唆もない旨、原告が光学三特性を得
るための構造として主張する構\造は、第1構造防眩層を上位概念化したもの\nであり、それによって直ちに光学三特性を得られるものではない旨主張し、
そのため、光学三特性のパラメータの数値範囲を満たす第2構造防眩層及び\n第3構造防眩層を製造するには過度の試行錯誤を要すると主張する(前記第\n3の2〔被告の主張〕)。
しかし、第2実施形態または第3実施形態により、第1実施形態では製造
できない防眩フィルムを製造することは、本件明細書等には記載されていな
い。むしろ、本件明細書等の段落【0079】には、「第1実施形態において
前述したスピノーダル分解によって、このような凹凸を防眩層に形成できる
が、その他の方法によっても、このような凹凸を防眩層に形成できる。例え
ば第2実施形態のように、防眩層の表面の凹凸を形成するために複数の微粒\n子を使用する場合でも、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤と
の斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことによって、微粒子の適
度な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形\n成できる。」と記載され、第1実施形態のような凹凸を他の方法で形成できる
とした上で、その一例として第2実施形態の方法で形成することが示されて
いるし、また、本件明細書等の段落【0079】には、上記の記載に続けて、
「そこで以下では、その他の実施形態の防眩層について、第1実施形態との
差異を中心に説明する。」と記載され、以下に、第2実施形態(段落【008
0】ないし【0102】)、第3実施形態(段落【0103】ないし【011
5】)の説明が続けてされているから、第3実施形態は、第1実施形態によっ
て得られる凹凸を形成する「その他の方法」の一つであると解するのが自然
である。そして、本件各発明に含まれる防眩フィルムであって、第1実施形
態以外の方法により作成できない防眩フィルムの存在やその態様を裏付ける
証拠はない。そうすると、第1実施形態により作成できる防眩フィルムを、
第2実施形態や第3実施形態によっても作成できるものと認められ、仮に、
第1実施形態により作成できる防眩フィルムの中に、第2実施形態や第3実
施形態により作成できないものがあったとしても、それにより、第1実施形
態により本件各発明が実施可能であることが否定されるものではない。\n
なお、第2実施形態により製造された第2構造防眩層、第3実施形態によ\nり製造された第3構造防眩層の中に、第1構\造防眩層とは異なる形状・構造\nを有するものがあり、それらが本件各発明の光学三特性を満たさなかったと
しても、それらは本件各発明を実施するものではないというにとどまり、そ
れによって本件各発明の実施可能性が否定されるわけではない。\n
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2023.03.24
令和4(ネ)10087 特許権侵害損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月28日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
特許権侵害として、1審で約800万円の損害賠償が認められました。双方控訴しましたが、控訴棄却されました。原告(控訴人)は代理人なしの本人訴訟です。
(1) 業界における実施料等の相場について
ア 一審原告は、前記第2の4(4)ア aのとおり、原判決が、甲55報告書
の例外的事象における実施料率を理由に、電気等の分野の実施料率の平均
値を採用しなかったのは不当である旨主張する。
しかし、原判決は、一つのデバイスが関連する特許が膨大な量となると
いう甲55報告書の指摘に着目して、電気等の分野の実施料率の平均値を
採用しないとしたのであり、その判断は首肯できるものである。
イ 一審原告は、前記第2の4(4)ア bのとおり、乙13陳述書における実
施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。
しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙13陳述書は、具体
的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示したものと
理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を吟味する必要
があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や分割出願制度等を
利用した出願を全てまとめて1パテントファミリーとして、パテントファ
ミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、1件当たりのライセンス
料率が過少にならない工夫をしていること等に鑑みると、その信用性が否
定されるべきものとはいえない上、そもそも原判決は、乙13陳述書にお
ける料率をそのまま採用しているのではなく、その他の各種事情を総合勘
案した上で、料率を決定しているのであるから、一審原告の主張は採用で
きない。
(2) 代替品の不存在について
一審原告は、前記第2の4(4)ア のとおり、本件訂正発明によらずに、
本件訂正発明の効果を奏することは経済的に現実的ではなかった旨主張す
る。
しかし、これを的確に裏付けるに足りる証拠はないし、その他の各種事
情を総合考慮すると、そもそもこの点のみをもって本件結論が左右すると
はいい難いから、一審原告の上記主張は採用できない。
・・・
一審被告は、「本来解像度」の用語の意義について、本件明細書等【00
32】に「「本来解像度」とは「本来画像」の解像度をする。」と定義され
ているので、「本来画像」の意義が問題となるところ、「本来画像」の用語
の意義、内容は不明確であるから、本件特許明細書には、構成要件G’にお\nける「本来解像度」の意義を理解するための記載がなく、サポート要件に反
する旨、当審において新たに主張するが、本件明細書等の「本来画像」及び
「本来解像度」に関する関係記載(【0006】、【0032】、【007
9】、【0115】、【0118】、【0119】、【0124】ないし
【0126】、【0128】ないし【0130】等)を総合すれば、当業者
は、「本来画像」及び「本来解像度」が何を意味するかにつき十分に理解で\nきるというべきであるから、本件訂正発明は本件明細書等の発明の詳細な説
明に記載したものといえる。
その他にも、両当事者はるる主張するが、いずれも本件結論を左右し得な
い。
第4 結論
以上によれば、一審原告の請求は、主位的請求である不法行為に基づく損害
賠償請求権に基づき819万9458円及びこれに対する令和元年12月13
日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める限度で理由があり、その余の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由\nがないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、一審原告及
び一審被告の控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとお
り判決する。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和1(ワ)32239
関連審決取消訴訟事件です。
◆令和3(行ケ)10139
◆平成28(行ケ)10257
同一特許についての別侵害訴訟の控訴審と1審です
◆令和4(ネ)10031
◆令和2(ワ)5616
◆令和3(ネ)10023
◆平成30(ワ)36690
◆令和4(ネ)10056
◆令和2(ワ)29604
この事件では、知財高裁は、損害額の算定について以下のように言及されています。
一審原告は、前記第2の3(4)ア aのとおり、甲26報告書の79頁
は、デバイスに関して、クロスライセンスの方式による場合において、
実施料率の相場が1%未満すなわち0.数%であることを示すにすぎ
ないから、原判決のこの点に係る認定には誤りがある旨主張する。
しかし、甲26報告書の79頁によれば、デバイス等においては、製
品が数百ないし数千の要素技術で成り立っていること、互いの代表特\n許をライセンスし合い、実施料率の相場は1%未満であることといっ
た一般的な事情が認められところ、これに加えて、引用に係る原判決
第4の11(3)イ 及び のとおり、一審被告が被告製品の製造販売の
ためにした複数のライセンス契約におけるアプリ特許(標準必須特許
以外の特許)に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率
は平均●●●●●●●%であり、これを画像処理に関連する発明に限
定すると1件当たりのライセンス料率は、平均●●●●●●●●%と
なること等、本件特有の事情も考慮すれば、原判決の相当実施料率の
認定に誤りがあるとはいえない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア bのとおり、ライセンス料は、主
として「代表特許」の価値によって決まるので、乙14陳述書の計算\nにおける標準必須特許を除く「全ての特許の件数で除した1件当たり
のライセンス料率」は不当にディスカウントされたものである旨主張
する。
しかし、乙14陳述書は、代表特許(甲26の79頁にいう「相互\nの代表的な特許」)ではなく、標準必須特許(携帯電話事業分野の標\n準規格の実施に不可欠な特許)と、アプリ特許(通信規格に適合する
ために不可欠とはいえない特許)を分けて扱っているのであり、それ
自体は合理的なことであって、このような方式を採ることが不当なデ
ィスカウントに当たるともいえないから、一審原告の主張は採用でき
ない。
一審原告は、前記第2の3(4)ア cのとおり、乙14陳述書におけ
る実施料相当額の算定には信用性がない旨主張する。
しかし、仮にそのような不明点があるとしても、乙14陳述書は、
具体的な数値自体に意味があるというよりは、一つの算出手法を示し
たものと理解すべきであるから、個々のライセンス契約の内容自体を
吟味する必要があるものとは解し得ないし、優先権主張を伴う出願や
分割出願制度等を利用した出願を全てまとめて1パテントファミリー
として、パテントファミリー当たりのライセンス料率を算定するなど、
1件当たりのライセンス料率が過少にならない工夫をしていること等
に鑑みると、その信用性が否定されるべきものとはいえない上、そも
そも原判決は、乙14陳述書における料率をそのまま採用しているの
ではなく、その他の各種事情を総合勘案した上で、料率を決定してい
るのであるから、一審原告の主張は採用できない。
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2023.03.24
令和4(行ケ)10037 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年2月7日 知的財産高等裁判所
空調服に関する特許について、公然実施発明との組み合わせる動機づけありとして、無効理由なしとした審決を取り消しました。
前記aないしdの各記載によると、本件出願日当時、被服の技術分野におい
ては、2つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、そもそも2つの紐
状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容易ではないとの周知かつ自明の
課題が存在したものと認められる(なお、前記1(1)のとおり、本件明細書にも、
本件出願日当時に存在した課題として、一組の調整紐を結んで所望の長さになるよ
うにすることは非常に難しく、ほとんどの着用者は空気排出口の開口度を適正に調
整することができないとの記載がみられるところである。)。
そうすると、被服の技術分野に属する本件公然実施発明の構成(「前記空調服の\n服地の内表面であって前記襟又はその周辺の第一の位置に取り付けられた紐1と」、\n「前記紐1が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟又はその周辺の第二
の位置に取り付けられた紐2とを備え」、「2本の紐(1、2)を結ぶことによっ
て、空気排出量を調節することができる」との構成)自体からみて、また、甲41\nに「首と襟足の間隔を広くし」との記載(前記(1)イ(イ))及び紐が首の後ろにあ
る旨の図示(同)があることからすると、本件公然実施発明に接した本件出願日当
時の当業者は、上記の課題を認識するものと認めるのが相当である。
(イ) 甲30発明’が解決する課題
前記(3)アの記載のとおり、甲30発明’は、「帯紐6a」に「ボタン7a」を、
「帯紐6b」に複数の「ボタン7b」をそれぞれ設け、「ボタン7a」を複数ある
「ボタン7b」のいずれか一つにはめ込むとの構成を採用することにより、「帯紐\n6a」及び「帯紐6b」の装着長さを調整し、もって、個人差のある腰回りの大き
さに応じて介護用パンツ1を装着することを可能にするというものであるところ、\n甲30に装着の容易さについての記載(段落【0008】、【0009】、【00
11】)があることや、前記(ア)eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願日当
時に被服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件出願日当時
の当業者は、甲30発明’につき、これを2つの紐状部材を結んでつないで長さを
調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手段として認識するものと
認めるのが相当である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)のとおりであるから、本件公然実施発明から認識される
課題と甲30発明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当である。
(エ)a この点に関し、被告は、本件公然実施発明の課題は空気排出口の開口部
を形成することであり、甲30に記載された技術事項とは異質のものであり、かつ、
異なると主張する。
しかしながら、前記(1)ア及びイの各記載のとおり、本件公然実施発明は、空調
服の服地の内表面であって襟又はその周辺の第一の位置に取り付けられた「紐1」\nと、「紐1」が取り付けられた前記第一の位置とは異なる前記襟又はその周辺の第
二の位置に取り付けられた「紐2」とを備え、「紐1」及び「紐2」を結ぶことに
よって、首と襟足との間に形成される空気排出スペースの大きさを調整するもので
あるところ、前記(ア)eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願日当時に被服の
技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件公然実施発明に接した
本件出願日当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調整するための手段であ
る「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調整することが手間で容易ではな
いことが本件公然実施発明の課題であると認識するのに対し、前記(イ)のとおり、
本件出願日当時の当業者は、甲30発明’につき、これを2つの紐状部材を結んで
つないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手段として
認識するものと認められるから、本件公然実施発明から認識される課題と甲30発
明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当である。本件公然実施発明が空
調服の首回りの空気排出スペースの大きさを調整するものであるのに対し、甲30
発明’が介護用パンツの腰回りの大きさを調整するものであること、すなわち、両
者が何を調整するのかにおいて異なることは、課題の共通性に係る上記結論を左右
するものではない(両者は、紐状の部材の締結により被服が形成する空間の大きさ
を調整するとの目的ないし効果において異なるものではない。)。
したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
b 被告は、本件発明3の課題は斬新であり、これは本件公然実施発明の課題と
甲30に記載された技術事項の課題との共通性を否定する事情となると主張する。
しかしながら、仮に、本件発明3の課題が斬新であったとしても、そのことによ
り、本件公然実施発明から認識される課題や甲30発明’が解決する課題に影響を
及ぼすものではないから、被告の上記主張を採用することはできない。
ウ 本件公然実施発明に甲30発明’を適用することについての動機付けの有無
(ア) 前記ア及びイのとおりであるから、被服の技術分野に属する本件公然実施
発明に接した本件出願日当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調整するた
めの手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調整することが手間
で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するため、同じ被服の技術分野に
属する甲30発明’を採用するよう動機付けられたものと認めるのが相当である。
(イ) この点に関し、被告は、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度を
調整できるとの技術常識は存在しなかったから、本件公然実施発明に甲30に記載
された技術事項を組み合わせることはできなかったと主張し、その根拠として、本
件明細書の段落【0006】の記載を挙げる。
しかしながら、前記1(1)のとおり、本件明細書の段落【0006】には、一組
の調整紐を結んで所望の長さになるようにすることは非常に難しく、ほとんどの着
用者は空気排出口の開口度を適正に調整することができなかったことなどが記載さ
れているにすぎず、この記載から、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度
を調整することはおよそできないとの技術常識が存在したものと認めることはでき
ない。その他、本件出願日当時に空調服の空気排出口の開口度を調整することはお
よそできないとの技術常識が存在したものと認めるに足りる証拠はない。
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2023.03.22
令和4(ネ)10061 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月9日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審は29-2違反の無効理由有りとして、権利行使不能と判断しました。本件特許1を再訂正しましたが、知財高裁も再訂正後の発明について29-2違反の無効理由有りと判断しました。なお、再訂正発明については、審判では先願との同一性なしと判断されています。
(3) 争点3−1(引用発明1−1に基づく本件再訂正後発明1の拡大先願要件違
反の有無)について
ア 構成要件1D−1及び1D−4−1について\n
(ア) 控訴人は、引用発明1−1の押さえ部は可動であり、仮に可動ではない場合
を含むとしても、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体を巻き出
す又は巻き取る構成は乙10公報に開示されていないと主張する。\n
(イ) しかしながら、乙10公報には、押さえ部を固定する場合を排除するような
記載はない。そして、「スクリーン本体4が被磁着体90に近接した位置にあると、
スクリーン本体4が被磁着体90に磁着しやすくて引き出し操作をスムーズに行い
難いし、スクリーン本体4の表面に傷が付くことがあることから、引き出しを開始\nする前に、図4に示すように、ベース板11に可動片12を重ね合わせた状態(ロ
ック状態)にして、押さえ部5を被磁着体90から離した態様(第1配置態様)に
固定する。」(【0043】)との記載は、特許請求の範囲の請求項3に係る発明の実
施例に係るものと認められる。また、上記記載からすると、スクリーン本体4の引
き出し操作をスムーズに行うことができ、スクリーン本体4の表面に傷が付くおそ\nれがない場合には、引き出し時に、押さえ部を非磁着体(本件再訂正後発明1にお
ける「設置面」)から離す必要がないものと読み取ることができる。さらに、乙1
0公報には、請求項3に係る発明の実施例についての説明として、「前記押さえ部
5を被磁着体90から離した第1配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着
体90との離間間隔(距離)は、20mm〜70mmに設定されるのが好ましい
(図4参照)。」(【0049】)、「前記押さえ部5を被磁着体90に近接させた第2配置態様において、前記押さえ部5と前記被磁着体90との離間間隔(距離)は、
1mm〜15mmに設定されるのが好ましく、中でも2mm〜8mmに設定される
のが特に好ましい(図3、5参照)。」(【0050】)との記載があることからして、引用発明1−1においても、押さえ部と被磁着体との位置関係にはある程度の幅が
あることが想定されているといえるところ、押さえ部と被磁着体との間の距離を調
整することによって、スクリーン本体の引き出し操作をスムーズに行うことができ、
かつ、スクリーン本体の表面に傷が付くおそれがないようにすることが可能\である
ことは、当業者にとって明らかであるといえる。
そうすると、乙10公報には、押さえ部を固定した構成が開示されていると認め\nるのが相当である。
(ウ) 上記を前提とすると、乙10公報の【図5】のような構成で押さえ部を固定\nすることも当然に想定されるから、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリ
ーン本体を巻き出す又は巻き取る構成も、乙10公報に開示されていると認められ\nる。乙10公報の【図1】〜【図6】は、いずれも押さえ部を可動とした場合(す
なわち請求項3に係る発明)の実施例であると認められるのであって、これらの図
をもって、乙10公報に、押さえ部を被磁着体に近接させた態様でスクリーン本体
を巻き出す又は巻き取る構成が開示されていないということはできない。\n
(エ) したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
イ 構成要件1D−4−2について\n
・・・
(ウ) ところで、乙10公報には、「前記可動体24の先端部26の横断面視での
外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面に形成さ
れているので(図10参照)、引き出し操作の際のスクリーン本体4の傷付きを十\n分に防止することができる。」(【0062】)、「前記可動体24の先端部26の横断面視での外形形状は、少なくとも前記スクリーン本体4と接触し得る部分が円弧面
に形成されているので(図10参照)、巻き取り操作の際のスクリーン本体4の傷
付きを十分に防止することができる。」(【0066】)との記載があり、これらの記\n載における「稼働体24の先端部26」は引用発明1−1の「押さえ部」に相当す
る部分であることから、引用発明1−1において、押さえ部の横断面視の形状を円
弧面としているのは、引き出し操作及び巻き取り操作の際に、スクリーン本体が傷
付くことを防止するためであるものと認められる。そうすると、乙10公報には、
押さえ部の構成を工夫することによって、引き出し操作及び巻き取り操作の際にス\nクリーン本体が傷付くことを防止することが開示されているといえる。
(エ) そして、シートと接触する部分を回転可能とすることによる効果も、シート\nの移動時にシートが傷付くことを防止するというものである。
そうすると、引用発明1−1において、横断面視の形状が円弧面である押さえ部
を回転可能とし、その結果、押さえ部に接触しながら巻き出され又は巻き取られる\nスクリーンの摺動接触に起因して押さえ部が回転するものとすることは、当業者が
押さえ部の構成の工夫として適宜選択する範囲のものにすぎないと認めるのが相当\nである。
・・・・
ウ 構成要件1D−4−3について\n
・・・
(イ) 乙31(平成24年12月18日付けの株式会社ケイアイシーの商品カタロ
グ)、乙32(特開2006−178916号公報)及び乙33公報には、ケース
から巻き出す形態のスクリーン装置において、ケースに取手が設けられているもの
が開示されており、本件特許1の出願当時、本件再訂正後発明1のようなマグネッ
トスクリーン装置の技術分野において、ケースに取手を設けることは周知・慣用手
段であったと認められる。そして、引用発明1−1において収納ケースに取手を設
けることは、当業者が、運搬の便宜等のため、必要に応じて適宜選択できることで
あると認められる。
(ウ) 控訴人は、本件再訂正後発明1においては、ケーシングを移動させてシート
を巻き出す使用態様のために「取手部」が必須であるのに対し、引用発明1−1で
は収納ケースを移動させてシートを巻き出すような使用形態は想定されていないか
ら、収納ケースに「取手部」に相当する部材を設けることについては開示も示唆も
ないと主張するが、本件再訂正後発明1においても、ケーシングではなく「操作バ
ー」側を移動させてスクリーンを巻き出す態様も想定されているし(本件明細書1
の【0051】、【図12】)、また、取手部ではなく、ケーシング自体を保持して移
動させることが可能であることは明らかであるから、ケーシングを移動させてシー\nトを巻き出すために「取手部」が必須であるという上記控訴人の主張は採用できな
い。
(エ) したがって、引用発明1−1は、構成要件1D−4−3に相当する構\成を含
むものと認めるのが相当である。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和2年(ワ)3297号
本件特許1は以下です。
◆第6422800号
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2023.03.20
令和4(ネ)10078 不当利得返還請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年2月21日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
任天堂に2画面表示ゲーム器に対する特許侵害訴訟の控訴審判決です。1審の東京地裁40部は、特許発明は公知技術から進歩性無し、第2次訂正は新規事項、第3次訂正は訂正目的違反(減縮・明瞭化のいずれでもない)ので、訂正要件満たさず、権利行使不能と判断しました。\n控訴審において、控訴人(1審原告)は訂正の再抗弁をしました。知財高裁(4部)は、「本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加える」として、訂正の再抗弁について、判断がなされています。
ア 時機に後れた攻撃防御方法に当たるかについて
控訴人は、第4次訂正に係る訂正の再抗弁は、特許庁による令和4年4
月21日付けの審決の予告を受けてした第4次訂正請求に係るものであ\nって、本件特許に係る特許権侵害訴訟における手続においても当然に主張
できるものと考えるようである(同主張によって第3次訂正に係る訂正の
再抗弁が取下げ擬制されたとも主張している。)が、特許権侵害訴訟におい
て無効の抗弁とその対抗主張ともいうべき訂正の再抗弁は、特許権の侵害
に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で迅速に解決するため、
特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことなく主張することが
できるものとされたにすぎず、特許無効審判とは別の手続である民事訴訟
手続内でのものであるから、審理の経過に鑑みて、審理を不当に遅延させ
るものであるときは、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下
されるべきである。
そこで、原審における審理経過についてみると、控訴人は、原審におい
て、第1回弁論準備手続期日(令和元年11月18日)における本件特許
が新規性及び進歩性を欠く旨の無効の抗弁の主張(被告第1準備書面)を
受けて、第3回弁論準備手続期日(令和2年7月27日)までに、第2次
訂正に係る訂正の再抗弁に係る原告第2準備書面を提出したが、本件無効
審判の手続における訂正請求に合わせて、第3次訂正に係る訂正の再抗弁
を記載した令和3年3月3日付け原告第5準備書面及び同年5月27日
付け原告第6準備書面を提出した(これらの準備書面は、第4回弁論準備
手続期日(令和3年12月16日)において、訂正書面を含めて陳述され
た。)。原判決は、第2次訂正及び第3次訂正に係る訂正の再抗弁はいずれ
も訂正要件を充足せず、本件特許は特許無効審判により無効とすべきもの
と判断したところ、控訴人は、控訴理由書で、第4次訂正に係る訂正の再
抗弁の主張を追加したものである。
こうした原審での審理経過に鑑みると、第4次訂正は、時機に後れて提
出された攻撃防御方法に当たり、その提出が後れたことについて控訴人に
は重過失があるから、本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4
次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る
訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅
延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加えることとす
る。
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2023.03. 1
令和4(行ケ)10012等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年2月16日 知的財産高等裁判所
齋藤創造研究所の特許についてAppleが無効審判を請求し、特許庁は無効理由なしと判断しました。知財高裁は、審決を維持しました。被告は、IPOD関連のクリックホイールの発明について特許権を有しており、別訴でAppleから不存在確認訴訟を提起され、反訴請求し、約3億円の損害が認められています(平成19(ワ)2525)。
甲1発明は、前記(1)のとおり、従来の制御信号供給装置では、制御信号
を継統的に発生させることができず、 磁気テープに対する連続的な走行
制御が行えないという課題を解決するため、接触操作面を有するととも
にこれに関連して円環状に配列された複数の接触操作検出区分が設けら
れ、各接触操作検出区分から出力されるタッチパネルとの構成を採用し、\nテープ駆動系に供給される制御信号を、特殊変速再生モード状態におい
て磁気テープを所望の一方向に、所望の速度で走行させる制御を任意の
時間だけ連続的に行えるようにしたものである。
一方、周知技術1は、タッチ位置検知手段(タッチパネル)により一次
元又は二次元座標上の位置データを検出することで画面上のカーソル等\nの位置データが設定され、プッシュスイッチ手段により当該設定された
位置データが確定されて入力情報となるものと理解できる。そうすると、
周知技術1は、位置データを入力する装置に関する技術であって、タッ
チパネルとプッシュスイッチが協働して位置データを入力する機能を果\nたすものであるといえる。
磁気テープの走行方向や走行速度を制御するための甲1発明のタッチ
パネルと、走行方向や走行速度という要素を含まない位置データを入力
する装置に関する周知技術1とは、制御する対象が異なるし、たとえ両
者がタッチパネルという共通の構成を有するとしても、磁気テープの制\n御信号供給装置である甲1発明において、位置データを入力する装置に
関するものである周知技術1を適用することが容易であるとはいえない。
結局のところ、甲1発明に、周知技術1を適用できるとする原告らの
主張は、実質的に異なる技術を上位概念化して適用しようとするもので
あり、相当でない。
仮に、周知技術1を、タッチパネルによる選択をプッシュスイッチで
確定して何らかの入力情報を生成する技術であると上位概念化して理解
したとしても、甲1発明は、プッシュスイッチに割り当てるべき機能(選\n択を確定する機能)をそもそも有さないし、甲1文献には、タッチパネル\nにより磁気テープの走行方向や走行速度を連続制御することは記載され
ているが、タッチパネルにより選択された走行方向や走行速度を確定す
る操作や、当該操作に対応するボタン等の構成は記載も示唆もないから、\n甲1発明に、周知技術1を適用する動機付けがない。
原告らは、前記第3の1(1)ア のとおり、甲1発明のタッチパネル1
1も接触点を一次元座標上の位置データDpとして検出するものである
し、本件特許発明であれ周知技術1であれ、タッチパネルの下にプッシ
ュスイッチを設けることの作用効果は、タッチパネルの下にプッシュス
イッチを設けること自体に由来するものであって、プッシュスイッチの
上にあるタッチパネルの形状等や操作態様等にも依存しないから、周知
技術1は、上位概念化するまでもなく甲1発明に適用可能であり、当該\n適用は、先行技術の単なる寄せ集め又は設計変更である旨主張する。
しかし、原告らの主張は、前記 において説示した、甲1発明において
選択を確定する機能がない点等を看過しているものであるし、周知技術\n1において、位置データを入力する機能はタッチパネルの形状や操作態\n様等には依存しないとしても、そのことが同周知技術におけるタッチパ
ネルとプッシュスイッチの機能的又は作用的関連を否定する根拠とはな\nらないし、機能的又は作用的関連が否定できない以上、周知技術1を甲\n1発明に適用することが単なる寄せ集め又は設計変更とはいえない。し
たがって、原告らの上記主張は採用できない。
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平成19(ワ)2525はこちら。
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2023.02.17
令和4(行ケ)10007 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年1月18日 知的財産高等裁判所
容易想到性の判断に当たり、主引用例の選択の場面では、請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決すべき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している必要はないとして、進歩性なしとした審決が維持されました。
原告らは、本願発明は、多数の作用効果を有機的に組み合わせた統合
システムの発明であるのに対し、引用発明は、圧縮機の吸込容積を可変
とするものにすぎず、その具体的な課題や作用・機能は全く異なってお\nり、この観点からも、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想
到するための動機付けはないと主張するので(前記第3の3〔原告らの
主張〕(2)ウ)、この点について検討する。
原告らの上記主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、容易想到性の判
断に当たり、請求項に係る発明と主引用発明との間に具体的な課題や作
用・効果の共通性を要するという主張であるとすれば、主引用例の選択
の場面では、そもそも請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決す
べき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している
必要はないというべきである。これを本件についてみるに、本願発明の
課題は、「冷媒が循環する冷媒回路と水(熱搬送媒体)が循環する水回路
(媒体回路)とを有しており、熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させて
室内の空調を行うチラーシステム(熱搬送システム)において、媒体循
環を構成する配管を小径化するとともに、環境負荷の低減及び安全性の\n向上を図ること」(段落【0005】)であって、格別新規でもなく、い
わば自明の課題というべきものであり、二酸化炭素を熱搬送媒体として
採用した引用発明においては解決されているといえるものである。
また、原告らは、本願発明が奏する効果についても主張するので、こ
の点について検討すると、本願発明の、冷房と暖房が可能であるという\n効果(段落【0007】及び【0061】)、及び複数の室内の冷房及び
暖房をまとめて切換可能であるという効果(段落【0062】)は、本願\n発明が、冷媒流路切換機及び第1媒体流路切換機を備えることによる効
果であるところ、引用発明においても、第1四方弁150と第2四方弁
250を備えるから、冷房と暖房が可能であるし、複数の室内空気熱交\n換器(相違点2に係る本願発明の構成)を備える場合には、第2四方弁\n250と連結された室内熱交換機の数が増えるのみであると考えられる
から、複数の室内の冷房及び暖房をまとめて切換可能であるという効果\nも当然に奏されることになる。そして、1次側にR32冷媒(相違点1
に係る本願発明の構成)を採用した場合でも、そのような効果を奏する\nことに変わりはない。配管小径化、省スペース化・配管施工及びメンテ
ナンス省力化、媒体使用量削減を図ることができるという本願発明の効
果(段落【0008】、【0063】)は、本願発明が熱搬送媒体として二
酸化炭素を採用したことによって奏するものであり、これは、引用発明
も、熱搬送媒体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏する
ものである。着火事故を防止できるという本願発明の効果(段落【00
09】及び【0064】)は、室内側に配置される媒体回路に二酸化炭素
を用いていることによるものであるが、これは、引用発明も、熱搬送媒
体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏するものである(甲
11の段落【0062】)。また、本願明細書等には、HFC−32(R
32)を冷媒として採用する冷媒回路を構成する配管を室内側まで設置\nする必要がないとの記載もある(段落【0009】及び【0064】)が、
本願の特許請求の範囲の請求項1の記載及びその記載により認定される
本願発明では、冷媒回路が室内側に設置されていないことは特定されて
いないので、上記の効果は、本願発明の特許請求の範囲の請求項1の記
載に基づくものとは認められない。さらに、技術常識D及びFに照らせ
ば、引用発明のプロパンは強燃性であるのに対し、本願発明のR32は
微燃性であることから、着火事故を防止できるという効果は、引用発明
に比べると本願発明が優れていると解されるが、引用発明において相違
点1に係る本願発明の構成を採用することにより、自ずと奏するように\nなる効果である。環境負荷を低減するという本願発明の効果(段落【0
010】及び【0065】)は、R32と二酸化炭素を採用したことによ
るものであるところ、引用発明において相違点1に係る本願発明の構成\nを採用することにより自ずと奏されるものである。そうすると、原告ら
が本願発明の効果として主張するものは、引用発明も奏するものである
か、又は相違点1に係る本願発明の構成を採用することにより自ずと奏\nするものであり、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想到す
るための動機付けを否定するに足りるような顕著なものではない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 組み合わせの阻害要因について
原告らは、プロパンは、冷媒の能力として、寒冷地での使用が困難であ\nるから、これをR32に代替することには阻害要因があると主張する(前
記第3の3〔原告らの主張〕(3))。
しかし、本願発明においては、寒冷地での使用の可否など冷房又は暖房
の能力に関連する特定はなく、引用文献1にも、引用発明において、特に\n寒冷地での使用が困難なプロパンのような冷媒を採用することに技術的
意味があることをうかがわせるような記載はないから、引用発明のプロパ
ンをR32に代替することに阻害事由があるとは認められない。
また、原告らは、着火事故の防止というビル用マルチの決定的課題に反
する選択となるので、引用発明をビル用マルチに使用することには阻害要
因があると主張する(前記第3の3〔原告らの主張〕(3))。
しかし、本願発明がビル用マルチに限定されたものでないことは前記3
(1)イのとおりであるし、仮に本願発明がビル用マルチに適用されるとして
も、引用発明で採用されている強燃性のプロパンを微燃性のR32に置き
換えることは、ビル用マルチに要請される性能に必ずしも反するものでは\nなく、むしろそれにそう面もあるから、原告らの上記主張は採用すること
ができない。
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2023.02.17
平成29(ワ)4178 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和5年1月31日 大阪地方裁判所
出願前に納品されたことにより、公然実施されたとして、特104条3に基づき、権利行使不能と判断されました。\n
被告は、平成11年5月から平成12年4月までの間に、日本製紙八代工場に
ベルト4反(ベルトB)を納品し、ベルトBが同工場において平成11年6月1
1日から平成12年5月9日までの間に使用開始されており、ベルトBの構成は\n本件発明1の構成要件と一致し、納品によってその構\成が日本製紙に知り得る状
態となり、また、当業者はDMTDAの同定が可能であったとして、本件特許1\nの出願前にベルトBに係る発明が公然実施された旨主張するので、以下検討する。
(1)ア 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(なお、
原告は乙32が真に平成11年に作成されたのか不明である旨を主張するが、そ
の体裁等に照らすと、作成日等に関する疑義は認められない。)。
(ア) 被告は、昭和63年からベルトを製造していたところ、平成8年4月に新
工場を新設して、ベルトの製造を集約することとなった。それに伴い、被告では、
品質を一定の水準以上に維持するために、製造工程の一連の流れ、各ステップの
管理項目、品質特性(品質保証項目)及び管理方法を明確にしたルールを作成す
ることとなり、平成11年2月26日、QC工程図が作成された。(以上につき、
乙32、83)
QC工程図には、樹脂コーティング工程に関し、1)ビス(メチルチオ)−2,
4−トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン及びメ
チルチオトルエンジアミンの混合物であるエタキュアー300(硬化剤)のほか、
イソシアネート基を末端に有するプレポリマーである、タケネートL2390及\nびタケネートL2395を受け入れ、10)1)の樹脂を調合し、11)基布(ベース)の
シュー側(内周面側)にコートしてキュアし、その後、15)反転して、18)1)で受け
入れた樹脂を調合し、19)基布(ベース)のフェルト側(外周面側)にもコートし
てキュアする旨の記載がある(乙32〜36、130〜132。なお、数字は工
程番号を指す。)。
(イ) 被告は、QC工程図に従って、平成11年3月1日から同月4日の間に反
番51+01349のベルト、同年8月5日から同月10日の間に反番51+0
4750のベルト、同年10月1日から同月5日の間に反番51+06801の
ベルト及び平成12年2月15日から同月22日の間に反番52+00481の
ベルトの各樹脂コーティング工程作業を行い、その頃、基布面を完全に被覆する
両面樹脂構造であり、かつ、排水溝を有するベルトBの製造を完了させ、日本製\n紙に対し、平成11年5月14日、同年9月3日、同年10月21日及び平成1
2年4月27日、それぞれ納品した(乙25、27〜31、83)。
イ 前記ア(ア)及び(イ)によれば、ベルトBは、ポリウレタンにより基布が完全
に被覆されており、内周面及び外周面のポリウレタンは、末端にイソシアネート\n基を有するウレタンプレポリマーとDMTDAを含有する硬化剤とを含んでおり、
熱硬化性であることが認められる。そうすると、公然実施発明Bは、基布を熱硬
化性ポリウレタンが完全に被覆してなり、前記基布が前記ポリウレタン中に埋設
され(構成B−a)、フェルト側およびシュー側が前記ポリウレタンで構\成され
たシュープレス用ベルトにおいて(構成B−b)、フェルト側を構\成するポリウ
レタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ビス(メ\nチルチオ)−2,4−トルエンジアミンおよびビス(メチルチオ)−2,6−トル
エンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている(構成B−\nc)、シュープレス用ベルト(構成B−d)という構\成を有していることが認め
られ、本件発明1の各構成要件を充足する。\n(2) 特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数
の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)ア(イ)の
とおり、被告は、本件特許1出願前の平成11年5月14日から平成12年4月
27日までの間、日本製紙に対し、ベルトBを納品し、その内容を不特定多数の
者が知り得る状況で公然実施発明Bを実施したものと認められる。
(3) 原告の主張について
原告は、ベルトの現物自体からは当該ベルトが幾つの層によって構成されてい\nるか等を把握することは不可能であること、ベルトを構\成するポリウレタンは様々
な化学物質で構成されているから、外周面を構\成するポリウレタンに含有される
硬化剤に着目した分析が行われたとはいえないこと、当時、硬化剤として考え得
る候補物質は極めて多数存在していた上に、エタキュアー300を用いることで
クラックの発生を抑制できることは当業者においてすら知られていなかったから、
硬化剤としてDMTDAに着目し、これをわざわざ入手してサンプルとして分析
機関に送付し、分析を依頼したとは到底いえないことを指摘して、ベルトBを日
本製紙に納品したとしても、ベルトBの外周面に硬化剤としてDMTDAが含有
されていたことが特定できたとはいえない旨を主張する。
しかし、前記(1)アのとおり、ベルトBは、日本製紙に納品され、自由に解析等
をなされ得る状態におかれたものであり、解析等によりベルトの構造等を特定す\nることは可能であるほか(甲25等参照)、本件特許1の出願日前において、外\n周層、内周層等の複数の層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリ
マーと硬化剤とを混合してポリウレタンとし、ベルトの弾性材料とすることは、
技術常識に属する事項であった(甲2、乙26、27)。これに加え、証拠(乙
37、124、127〜133)及び弁論の全趣旨によれば、1)昭和62年に発
行された書籍において、実用化されている硬化剤として、MOCAのほかにエタ
キュアー300が紹介されていたこと、2)米国の会社が平成2年に発行したエタ
キュアー300のカタログにおいて、エタキュアー300は、新しいウレタン用
硬化剤であり、TDI(トルエンジイソシアナート。主にポリウレタンの原料と\nして使用される化学物質)系プレポリマーに使用した場合、MBCA(MOCA
と同義。乙140、141)の代替品として、現在最も優れたものであると確信
している旨が記載されていたこと、3)米国の別の会社は、平成10年に日本向け
のエタキュアー300のカタログを発行したこと、4)平成11年に日本国内で発
行された雑誌には、MOCAには発がん性があることが指摘されており、より安
全性の高い材料が求められていたが、1980年代後半には、既にMOCAに代
わる新しい硬化剤としてエタキュアー300が開発された旨の記事が掲載されて
いたこと、5)被告は、平成3年頃からエタキュアー300の研究を開始し、遅く
とも平成9年7月時点では、製紙用ポリウレタンベルトの硬化剤としてエタキュ
アー300を使用していたこと、6)本件特許1の出願前に、エタキュアー300
と同様にウレタン用に使用された主要な硬化剤は、10種類前後であったことが
認められる。これらの事実関係に照らすと、本件特許1の出願前に、エタキュアー
300は、ウレタン用の硬化剤として注目され、実用化されていたものと認めら
れ、分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが登録されていなかっ
たとしても(平成29年時点において、ライブラリにDMTDAのマススペクト
ルを登録している分析機関と登録していない分析機関がある(甲11、24)。)、
エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼した蓋然性
があったといえ、当業者は、公然実施発明Bの内容を知り得たものと認められる。
証拠(甲39、40)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、平成30年6月、
分析機関に対し、組成を明らかにすることなく被告製品3及び4のサンプルを送
付し、ポリウレタンの定性分析を依頼したところ、硬化剤について特定すること
ができなかったことが認められる。しかし、同分析機関が硬化剤を特定すること
ができなかったのは、同分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが
登録されていなかったこと(甲24の3)によるものと認められるところ、前記
のとおり、エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼
した蓋然性があったといえることに照らすと、前記結果(甲39、40)は、当
業者が公然実施発明Bの内容を知り得たという結論に影響を与えるものではない。
したがって、原告の前記主張は採用できない。
(4) 以上から、本件発明1は、本件特許1の出願前に日本国内において公然実
施された発明であるから、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきもの
であって、原告は、被告に対し、本件特許権1を行使することができない(特許
法123条1項、104条の3第1項、29条1項2号)。
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2023.01.25
令和4(行ケ)10013 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年1月18日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について進歩性なしと判断されました。本人出願・本人訴訟です。多くの分割出願があります。
【請求項1】は以下です
コンピュータによって実行される方法であって、
サービスの要求を受けるステップと、
前記要求を処理するために指示情報を使用するステップと、を含み、
前記指示情報が認証情報に基づいて設定された情報であり、
25 前記認証情報が物品から取得される情報であり、
前記物品が前記認証情報を利用者に提供する物品である、方法。
上記記載によれば、引用発明においては、利用者が、自分が所持する携
帯電話機1に店舗ID、暗証番号、決裁(決済)方法、商品の購入金額を
入力し、QR決裁証明鍵発行要求として認証サーバ41に送信し、QR決
裁証明鍵発行要求を受信した認証サーバ41は、店舗及び利用者の認証処
理を行い、認証が認められる場合、決済方法の情報を含むQR決裁証明鍵
を生成し、これを携帯電話機1に送信し、その後、利用者が店舗において
購入希望商品の発注を行う際、店舗端末22に付属したQRコード読取装
置21は、携帯電話機1の表示部11に表\\示されたQR決裁証明鍵120
1を読み取るとともに、携帯電話機1の正面あるいは側面に印刷された標
識19,20から携帯電話製造番号と携帯電話番号を読み取り、その読取
結果を店舗端末22に転送し、店舗端末22は、携帯電話機1から読み
取った携帯電話製造番号、携帯電話番号及びQR決裁証明鍵1201を決
裁承認要求として認証サーバ41に送信し、認証サーバ41が、携帯電話
製造番号及び携帯電話番号が正当か否かを利用者情報DB44の登録内
容と照合して調べ、この結果、いずれか一方の番号が未登録のものである
か、登録された番号と異なる場合には、不正利用であるものと判断し不正
利用情報データベースに登録した後、不正利用メッセージを店舗端末22
及び携帯電話機1に送信し、一方、携帯電話製造番号及び携帯電話番号の
両方が正当なものであり、しかも店舗端末22から受信したQR決裁証明
鍵1201の情報(全部または一部)が自分自身で発行した正規のもので
あると認められた場合には、認証サーバ41は詳細決裁承認を店舗端末2
2に返信し、店員が、利用者本人に購入意思を確認した上で、決済処理が
行われていることを理解できる。
しかるところ、前記アのとおり、引用発明において、認証サーバ41が
「決済承認要求」(引用例1記載の「決裁承認要求」。以下同じ。)を受け付
けることは、本願発明の「サービスの要求を受けるステップ」に相当する
ものである。そして、認証サーバ41は、決裁承認要求を受け付けると、
決裁承認要求に含まれる携帯電話製造番号及び携帯電話番号の両方が正
当であることを利用者情報DB44の登録内容と照合して確認し、かつ、
QR決裁証明鍵が自ら発行した正規のものであると認めた場合、決裁承認
要求に係る決裁承認を店舗端末22に返信していることからすれば、認証
サーバ41が、利用者情報登録DB44に登録された携帯電話機1の携帯
電話製造番号及び携帯電話番号と紐づけて自らが発行したQR決裁証明
鍵の情報を管理し、店舗端末22から送信された決裁承認要求に含まれる
携帯電話製造番号、携帯電話番号及びQR決裁証明鍵の情報が上記情報と
一致する場合には、決裁承認の処理を行い、そうでない場合には、決裁承
認の処理を行わない制御を行うための情報を有していることは自明であ
り、また、利用者情報登録DB44に登録された携帯電話製造番号及び携
帯電話番号が携帯電話機1から取得されたことも自明である。
そうすると、かかる制御を行うための情報は、「コンピュータ」である認
証サーバ41が、「サービスの要求」としてのQR決裁承認要求を認めるか
否かを処理するために使用する情報であって、「物品」である携帯電話機1
から取得される「認証情報」である携帯電話製造番号及び携帯電話番号に
基づいて設定された情報であるといえるから、本願発明の「指示情報」に
相当するものと認められる。
以上によれば、引用例1に接した当業者は、引用発明において、かかる
制御を行うための情報を有しているものと理解するから、相違点1に係る
本願発明の構成(「(QR決裁承認要求に係る)前記要求を処理するために指示情報を使用するステップ」の構\成)及び相違点2に係る本願発明の構\n成(「前記指示情報が認証情報に基づいて設定された指示情報」であるとの
構成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。\n
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2023.01.12
令和4(行ケ)10039 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年12月21日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、進歩性無しとした審決が維持されました。出願人はぐるなびです。
ア 前記(1)のとおり、相違点3は、施設端末に予約内容を通知した後、ユーザー\n端末に第2施設の情報を通知する処理を行うことにつき、本願補正発明では、前記
施設端末からの返信を有効に受け付ける期間として予め設定された待機期間内に前\n記施設端末からの返信がない場合であるのに対し、引用発明では、施設端末から受
信する予約結果情報の予\約登録可否の結果がNGであった場合である点で相違する
というものである。
イ ところで、施設の予約は、利用日又は利用日時を指定して行うものであり、\n予定される利用日又は利用日時よりも前に予\約を完了するという本来的な要請があ
る。そして、引用発明は、ある特定の施設の予約を目的とするものではなく、利用\n者の希望する条件に合致した複数の施設を対象とし、一つの施設の予約ができなか\nった場合に、別の施設の予約をすることが可能\であるような施設予約システムにお\nける予約方法であるところ、前記2(1)イのとおり、引用発明における施設予約シス\nテムは、「施設予約情報サーバ30から、当該予\約情報に基づく、自動的、あるいは
宿泊施設の予約担当者により判断される予\約登録可否(OKかNG)の予約結果情\n報を受信し、」「受信した予約結果情報の予\約登録可否の結果がNGであった場合」
に、次の候補となる施設の検索をしてユーザーに送信して、ユーザーが別の施設の
予約を行うものとされているから、施設端末に当たる「施設予\約情報サーバ」から
の予約結果情報の受信は、宿泊施設の予\約担当者による判断の時期によっては、相
当程度に遅くなる場合も想定され、その間に、当初の検索条件に合致する別候補の
施設の予約枠が埋まってしまうこともある。\nそうすると、引用発明には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者\nの希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができ\nないおそれがあるといえる。
ウ 次に、前記2(2)イの引用文献2記載技術をみると、宿泊施設の仮予約におい\nて、「ホテル端末103が宿泊可否の通知を一定時間経過(タイムアウト)しても行
わなかった場合、ホテル端末103に対して、キャンセルの通知を送信し、次のホ
テルへ空き問い合わせ情報を送信する」ものであるから、甲2には、施設端末が、
一定時間を経過しても予約可否の回答をしなかった場合には、キャンセルとして扱\nい(以下「タイムアウト処理」という。)、次の施設に問い合わせるという技術が開
示されているといえる。そして、予定される利用日又は利用時間よりも前に、タイ\nムアウト処理をして、次の施設に問合せをすることで、最初に問合せをした施設か
らの回答を待っていたために、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者\nの希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができ\nなくなるという事態を回避するのに、一定の効果があると認められる。
エ ところで、引用発明と引用文献2記載技術とは、複数の施設を対象とした施
設予約システムにおける施設予\約方法という共通の技術分野に属するものであって、
第1施設に対して予約可否の問合せを行い、第1施設から予\約不可の返信を受けた
場合には第1施設に類似する他の施設を抽出するという手法も共通するところ、前
記イのとおり、引用発明において、第1施設から予約可否の返信が長時間送信され\nない場合には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件\nに合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができないおそれがあ\nるところ、上記本来的な要請を満たすために、第1施設からの予約可否の返信を長\n時間待ち続けるという事態を回避しようとすることは、当業者であれば当然に着想
するものと認められるから、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を
適用する動機付けがあるといえる。
そして、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を適用すると、引用
発明は、施設端末からの返信を有効に受け付ける期間としてあらかじめ設定された
待機期間内に前記施設端末からの返信がない場合には、予約結果情報の予\約登録可
否の結果がNGであった場合と同様に、予約内容に基づいて第1施設を除く一又は\n複数の第2施設を抽出し、前記抽出された一又は複数の前記第2施設の情報を前記
ユーザー端末に通知する処理を行うことになる。
そうすると、相違点3に係る構成は、引用発明に引用文献2記載技術を適用する\nことより、当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。
◆判決本文
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2023.01.11
令和3(ワ)4920 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年12月22日 大阪地方裁判所
技術的範囲に属すると認定されたものの、特許権者自らが販売していたとして、新規性違反の無効理由有りと判断されました。
ア 前記(1)アによれば、リベラル社は、平成30年7月5日時点において、別
件特許(「活量調質水溶液及び活量調質媒体の製造方法」)により、水酸化物イ
オン活量調質水溶液を製造し、これを希釈して、旧ATWのほか「ATW−1、
ATW−001」を製造していたことが認められるところ、前記(1)イのとおり、
被告は、当初、リベラル社から購入した旧ATWをそのままボトルに詰め、又は、
ラベルを貼り替える方法により、旧被告製品や無限七星FISHを製造し、販売\nしていたのであるから、これらの製品は、前記水溶液を希釈したものであると認
められる。一方、前記(1)エ及びオのとおり、被告は、原告の本件特許出願の後か
らは、リベラル社から購入した本件特許に規定される組成を有する現ATWを1
0倍希釈して被告製品や無限七星FISHを製造、販売するようになったところ、
本件代理店契約においては、現ATWを含めたATW水溶液は、別件特許の製造
方法による旨の合意がなされている。
また、原告が代表取締役を務めるATW社は、別件訴訟において、旧ATWと\n現ATWは、いずれもアミノ基という原子団を含んだ水溶液で、現ATWを10
倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した準備書面を提出しているところ、リ
ベラル社が発行した請求書では、現ATWの1リットル当たりの単価は旧ATW
の同単価の10倍になっていること、本件代理店契約においてATW水溶液の品
質として標準仕様と10倍濃縮仕様がある旨の記載があることのほか、原告も、
本件訴訟において、現ATWは旧ATWの10倍の濃度である旨を主張している
(原告準備書面(4)第2の2(3)イ)。これらの事実関係に照らすと、旧ATW及び現ATWは、一貫して、同様の製造方法により製造された、アミノ基を含む成分が水溶、濃縮された水酸化物イオン活量調質水溶液を希釈したものであり、本件特許に規定される組成を有する現ATWを10倍希釈したものが旧ATWであると認められる。
イ また、証拠(乙2、18、24、25、33、36、37)及び弁論の全
趣旨によれば、次の事実が認められる。
すなわち、被告が平成30年11月10日にリベラル社に対して発注し同月1
2日に納品された旧ATWのボトル20本のうち、開封せずに保管していたもの
(以下「保管ボトル」という。)について、被告がそのうち1本を開封し、10
0ml分(以下「分析対象物」という。)を小分けにして、愛媛大学のP2名誉
教授に提供した。同教授は、令和3年9月30日、分析対象物について、乙18
分析をした結果、分析対象物の含有成分はポリアリルアミンであることが判明し
た。また、被告は、保管ボトルのうち1本(被告が「無限七星FISH」のラベ
ルを貼付したもの)を、株式会社東ソ\ー分析センターに提供し、前記センターは、
同年10月19日、保管ボトルの内容物について乙24分析をした結果、その重
量平均分子量は、4.5×10⁴であった。
ウ 前記(1)イ及びウのとおり、無限七星FISHは、鮮魚の鮮度を保持する機
能があり、魚の鮮度保持を主な用途として販売されており、また、証拠(乙19)\n及び弁論の全趣旨によれば、リベラル社が被告に販売した旧ATWの成分表記に\nは「重合アミン、水」との記載があったことが認められる。
エ 前記ア〜ウの事実関係に照らすと、現ATWが10倍に希釈化された旧A
TWと同一成分である無限七星FISHに係る引用発明は、ポリアリルアミン又
はその塩を機能成分として含有し、水、ポリアリルアミンの総含有量が95重量%\n以上である水であって(a’)、ポリアリルアミンの重量平均分子量が500〜
50000であって(b’)、魚介類の鮮度保持の機能を有する(c’)、機能\
水(d’)という構成を有するものと認められるから、被告製品のみならず、旧\n被告製品や無限七星FISHも本件発明の各構成要件を充足するものと認められ\nる。したがって、引用発明は、本件発明の各構成要件を充足する。\n
(3) 公然実施について
特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者
が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)イのとおり、
被告は、本件特許の優先日前の平成30年10月から、無限七星FISHを製造
及び販売して、引用発明を実施した。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、旧ATWは、別件特許に基づく方法により製造されているのに対
し、現ATWは、ポリアリルアミンを使用して製造されているから、両者の成分
は異なる旨を主張する。
しかし、両者の成分の違いを明らかにする証拠はなく、前記(1)オ及びキのとお
り、被告は、本件代理店契約において、リベラル社及びATW社との間で、AT
W水溶液の仕様は、別件特許の製造方法によることを合意したことや、ATW社
が、別件訴訟において、旧ATWと現ATWは、いずれもアミノ基という原子団
を含んだ水溶液で、現ATWを10倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した
準備書面を提出したのであるから、旧ATWと現ATWの製造方法が異なる旨や
両者の成分が異なる旨の原告の主張は直ちに採用することはできず、その他、原
告の主張事実を裏付ける証拠はない。
イ また、原告は、乙18分析及び乙24分析は、いずれも、測定対象の水溶
液がどの時期に製造、販売され、どういう形で試験に供されたのか全く不明であ
ることを指摘し、さらに、乙18分析の内容については、1)乙18のFig.1の
スペクトルの面積比を理由に高分子化合物の繰り返し構造をCH₂−CH−CH₂
と推定することが困難なこと、2)3ppm付近のシグナルの変化を理由に当該シ
グナルがアミン(CH₂−NH₂)であると推定できる根拠が不明であること、3)
Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なることといった疑問点があるから、
いずれも信用性がない旨を主張する。
しかし、前記(1)認定の事実からすれば、乙18にいう「2018年10月に販
売が始まった初代無限七星」とは、旧ATWと成分を同じくする旧被告製品又は
無限七星FISHであると理解できるし、乙24は保管ボトルのうち1本を分析
した結果であることが明らかであり、これに反する証拠はない。そして、乙18
分析は、核磁気共鳴分光法及び質量分析法により、分析対象物の含有成分がポリ
アリルアミンであることを推定した上で、それを踏まえて、分析対象物と市販の
ポリアリルアミンの水溶液について核磁気共鳴分光法のスペクトルを比較して、
分析対象物の含有成分がポリアリルアミンであると結論づけているところ、原告
の主張1)について、原告主張のように、ポリマーのNMRはピーク(スペクトル)
がブロードになりやすく、面積比を算出する切断箇所の設定によって面積比の値
が異なり得ることから、Fig.1のスペクトルの面積比「1.00:0.55:
0.80」が完全に「2:1:2」に一致しなくとも、同一環境の水素の数の比
を「2:1:2」とみなし、CH₂−CH−CH₂の部分構造が考えられるとする\nことは不合理ではない。また、原告の主張2)について、3ppm近辺のCH₂に対
応するシグナルの位置は、隣に窒素原子が繋がっていることを示唆するところ、
トリフルオロ酢酸を加えると、2.7〜3.3ppmのシグナルが3.0ppm
のシグナルに変化したというのであるから、分析対象物にトリフルオロ酢酸によ
り塩を形成するアミン(CH₂−NH₂)が存在すると考えて矛盾はないというべ
きである。さらに、原告の主張3)については、確かに、Fig.1とFig.4a)
のスペクトルは一致していないが、一方で、トリフルオロ酢酸塩のスペクトルで
あるFig.2a)とFig.4b)は、ほぼ一致している(乙18、25)。こ
の点について、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、ポリアリルアミンは、
共存物の影響でアミン部位が塩の状態になっている場合、スペクトルのピーク位
置の出現がシフトする可能性があり、ポリアリルアミンの塩の形成状況によって\nスペクトルの形状が変化し、複雑になるものと認められ、一方で、強い酸である
トリフルオロ酢酸を加えて、全てのアミノ基をアンモニウムに変換し、均一な状
況にすることにより、一定の分析結果を得ることができたものと認められるから、
Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なるからといって、乙18分析の信
用性に疑義を生じさせることにはならない。
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