2024.11.13
令和5(行ケ)10148 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年9月12日 知的財産高等裁判所
CS関連発明について、動機付け無しとした審決が維持されました。
上記アないしウによれば、甲2ないし甲4には、構成要件(D)の「前\n記注文情報における、前記団体情報を特定する情報に基づいて前記注文者
の団体を特定して、複数の前記注文情報の中から前記注文者の団体が同一
の前記注文情報を抽出」することや、「抽出された前記注文情報に基づいて、
同じ団体の注文からなる注文リストを、当該団体の担当者が閲覧できる形
式で出力する」ことについて記載されているということはできず、甲3に
は、構成要件(E)の「前記注文リスト出力手段は、前記注文リストとし\nて、各注文について前記注文商品及び注文者を表示するリストを出力する」\nことも記載されていない。
そうすると、甲1発明に甲2ないし甲4に記載された事項を適用したと
しても(原告の主張は、甲2ないし甲4に記載の事項をそれぞれ副引用例
として甲1発明に組み合わせるとするものなのか、それとも周知技術を記
載したものとするのかについて明確ではないが、いずれにしろ甲2ないし
甲4には構成要件(D)及び(E)に関する記載がなく、これを甲1に組\nみ合わせても本件発明1には至らないから、結論を左右しない。)本件発明
1に到達することはできないから、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3) 甲1発明との組み合わせの動機付けについて
甲1には、前記2(1)のとおり、甲1のシステムを介して、販売側(販売店、
メーカー、物流会社、金融機関)が顧客から商品の注文を受注し、注文され
た商品を顧客へ配達し、決済するという取引形態の説明がされ、それにより、
発注、受注、物流及び入金管理を一括処理して販売店の業務負担を軽減する
という目的を達成することが記載されている。また、実施例についても、前
記2(2)のとおり、顧客(学校)からの注文の方法に応じた、販売店の業務管
理についての記載がある。このような甲1の記載内容によれば、甲1には、
販売側と顧客という二者間の関係についての記載しかなく、学校と学生のよ
うな、顧客が帰属する組織内の属性(階層関係)については想定されておら
ず、そのような属性に合わせた情報処理を行うことについては記載も示唆も
されていない。また、仮に甲2や甲4にみられるような、複数の顧客を共通
する属性別にリスト化する処理が周知技術であったとしても、前記第2(1)の
とおり、甲1発明の目的は、販売店の業務負担を軽減するところにあるから、
そのようなリスト化を行い、それを学校の担当者が閲覧できる形式で出力するようにするのは、甲1発明の上記目的とは相容れないから、そうした動機
付けはない。
また、甲1に記載された具体的な実施形態に即して検討すると、顧客(学
校)は、学校名、住所、商品名、商品番号、注文個数を入力した後、学生の
氏名、身長、胸囲、胴囲等を個別に入力する手順で注文を行うことから(図
3及び段落【0028】)、学生の個別注文情報は学校により既に集約されて
おり、学校別に抽出された注文情報は既得のものである。そうすると、販売
店の業務負担軽減を目的とする甲1発明において、学校側が個別注文情報を
集約して注文することに代えて、販売側が学生から個別に注文を受けて集約
し、学校別に抽出された注文情報を学校の担当者に閲覧可能な形式で出力す\nるように変更することは、甲1発明の上記目的に反し、そのような動機付け
はない。
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2024.09.24
令和5(行ケ)10107 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年8月28日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
ウ 以上を踏まえ、相違点1について検討する。前記(2)のとおり、甲1発明
において、「加熱コイルを収容するケース」は、「コア10とソールプレ\nート26」から構成されるものと認められるところ、このうち「ソ\ールプ
レート26」は、「アセンブリの底部に適用され、溶接されるべき非金属
複合アセンブリに含まれる金属サセプタに、コイルによって発生した渦電
流を印加するために設けられる」(甲1文献・訳文3頁)ものとされてい
ることからすると、「ソールプレート26」は、コイルを収容するケース\nとしてコイルと加熱対象物との間に置かれ、コイルによって発生した磁束
を加熱対象物である金属サセプタに届かせるため、当該磁束を通過させる
材料で構成されているものと理解される。そして、前記の誘導加熱の原理\nからすると、電気絶縁性の非磁性材は、磁束に何ら影響を与えることなく、
磁束を通過させる性質を有するものであり、前記各文献によれば、電気絶
縁性の非磁性材の構成材料としてはセラミックや樹脂があったことが周知\nであったと認められる。
そうすると、甲1発明の「ケース」を構成する「コア10とソ\ールプレ
ート26」のうち「ソールプレート26」について、磁束を通過させる性\n質を有する電気絶縁性の非磁性材として周知のセラミック又は樹脂を選択
し、「コア10と電気絶縁性を有するセラミックまたは樹脂」で構成され\nる「ケース」とすることは、当業者にとって容易想到であったというべき
である。
エ この点に関し、被告は、本件発明1に係る特許請求の範囲の請求項1の
記載によれば「ケースの全て」や「ケースの一部」などの解釈がされる余
地はなく、本件審決は、フェライト材料又は粉末鉄で作られたコアを請求
項1のケースの構成に置き換えられるかを判断しているだけであるなどと\n主張する。
しかしながら、前記(1)のとおり、本件発明1に係る特許請求の範囲の請
求項1には「電気絶縁性を有するセラミックまたは樹脂で構成され前記加\n熱コイルを収容するケース」と記載されているにとどまるから、ケースの
構成が前記の要素「のみ」からなるものに限定されるものと解することは困難である。\nよって、被告の主張は前提となる本件発明1の特許請求の範囲の解釈を
異にしており、これを採用することはできない。
(5) 小括
以上によれば、本件発明1と甲1発明の相違点1については容易想到であ
ったというべきであり、相違点2から4までについては、前記のとおり進歩
性は否定されるから、結局、本件発明1は、甲1発明に基づいて出願前に当
業者が容易に発明することができたとものと認めるのが相当である。
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2024.09.16
令和5(行ケ)10053 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年6月24日 知的財産高等裁判所
異議申立に対する取消訴訟です。裁判所は、本件発明における「RB0.4以上事項の有無」は、相違点であるとして、進歩性有りと判断しました。\n
1 取消事由1、2(引用文献1に基づく新規性、進歩性の判断の誤り)について
原告らが取消事由1、2を通じて主張するところの眼目は、1)引用文献1に
は「自立CNTペリクル膜」の発明が記載されているとはいえない、2)引用発明
1には本件発明のRB0.4以上事項の記載がないところ、これらに係る本件発
明1との相違点は実質的なものであり、かつ、引用発明1にRB0.4以上事項
を持ち込むことは容易想到ともいえないという2点に集約される。
当裁判所は、1)に係る原告らの主張は採用できないが、2)の主張は理由があ
るものと判断する。以下に詳説する。
・・・
(3) RB0.4以上事項の有無は実質的相違点か
ア 本件決定が認定した本件発明1と引用発明1の相違点1A(別紙3「本
件決定の理由」1(2)アの[相違点1A])の中には「引用発明1ではRB0.
4以上事項の構成が明らかでない」点が含まれているところ、本件決定は、\nこのRB0.4以上事項の有無に係る相違点は実質的な相違点ではないと判
断した。
イ しかし、引用文献1には、RBの数値を特定する記載は一切なく、その示
唆もない。また、CNT膜の面内配向性をRBによって特定すること自体も、
引用文献1その他の出願時の文献に記載されていたと認めることはできず、
技術常識であったということもできない。
ウ 本件決定の上記アの判断は、RBの値が、0.40以上では面内配向して
おり、0.40未満では面内配向していないことを表す旨の本件明細書等\nの記載(【0104】)から、本件発明1のRB0.4以上事項が、CNT
のバンドルが面内配向していることを特定するものであり、引用発明1は
面内配向しているものを想定しているから、RB0.4以上事項を満たすこ
とになるとの理解に基づくものと解される。
しかし、本件発明1の特許請求の範囲に照らすと、CNTバンドルが面内配向しているという定性的構成(構\成1C)と、RB0.4以上事項とい
うパラメータによる定量的構成(構\成1D)は独立の構成となっており、本\n件明細書の【0104】等の記載を踏まえても、引用発明1のCNTバンド
ルが面内配向の特性を有しているからといって、RB0.4以上事項を当然
に満たすと判断することはできない。
エ 被告は、通常の発想のもとで、通常の性状のSWCNT及び通常用いら
れるプロセスで製造された薄膜自立無秩序SWCNTシートであれば、膜
厚、バンドル径及び自立性のいずれの観点においても、本件明細書等にお
ける比較例1よりは実施例1に相当程度似通っているといえる上、比較例
1のRBの値(0.353)がRB0.4以上事項の下限である0.4に相
当程度近いこと等を考慮すれば、比較例1よりも実施例1に相当程度似通
っている薄膜自立無秩序SWCNTシートであれば、RB0.4以上事項を
満たしている旨主張する。
しかし、被告の主張する「通常の発想のもとで、通常の性状のSWCNT
及び通常用いられるプロセスで製造された」との薄膜自立無秩序SWCN
Tシートの製造方法や、当該薄膜自立無秩序SWCNTシートの「膜厚、バンドル径及び自立性」について具体的に特定する主張立証はされておらず、
したがって、「比較例1よりも実施例1に相当程度似通っている薄膜自立
無秩序SWCNTシート」の内容も明らかではないというよりほかない。
かえって、原告ら提出に係る甲40によれば、原告らが引用文献2記載
の方法で作製したCNT自立膜(サンプル1、2)ではそれぞれRBが−0.
38、−0.26であったのに対し、本件発明の完成当時に製造されたCN
T自立膜では1.04だったのであり、薄膜自立無秩序SWCNTシート
であれば、RB0.4以上事項を満たしているともいえない。
被告は、甲40について、1)RB測定サンプルの保管が実際にどのような
条件で行われていたか確認できず、サンプルの実在も確認できない、2)本
件明細書等に記載された実施例及び比較例と実験条件が異なる、3)当該各
RB測定サンプルは、特性が位置的にみて不均一となっている、4)RB0.
4以上事項を満たさないとされるサンプル1、2は一部破損がみられるか
ら自立膜とみられないなどと論難するが、1)については、サンプル1、2は
平成29年4月の開発時に作製したものと推認され、2)については、甲4
0は、「面内配向していてRBが0.4未満の膜が存在するかどうか」の点
を検証する実験であるから本件明細書等の実施例及び比較例の条件によら
ねばならないものではない。また、3)については、もともとRBの測定方法
は局所的な断面に対するものであり、RB0.4以上事項は、少なくとも一
つの断面で0.4未満以上となることを意味するのであるから、被告主張
の点をもって甲40に基づく上記判断は左右されない。さらに、4)につい
ては、甲40では、サンプル1、2について製造過程で一部破損があったとしても、自立膜となったものを測定しているのであるから、やはり被告の
主張は採用できない。
(4) 以上のとおりであって、本件決定には、RB0.4以上事項を含む相違点1
Aが実質的なものであることを看過し、引用発明1に基づき本件発明1、3
〜5が新規性を欠くとした誤りがあり、取消事由1は理由がある。
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2024.09.16
令和5(行ケ)10110 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年6月27日 知的財産高等裁判所
進歩性無しと判断された拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟です。
争点の一つが「登録を通じてまたは登録を通じずに前記カラー反射率画像とOCTデータコンテンツとを結合する」の意義でした。審決では「登録を通じてまたは登録を通じずに」は、意味が無いと判断されました。知財高裁も同様です。
「登録を通じて」と「登録を通じずに」で、処理が異なる場合には技術的意義があると認定できる場合もあると思いますが、何か別の意図があったのでしょうか。
ちなみに分割出願もありません。
(1) 本願発明の認定について
ア 構成要件Dの「登録を通じてまたは登録を通じずに」の技術的意義について\n本願発明における「カラー反射率画像とOCTデータコンテンツ」の「結合」に
おいて、本願明細書には、「カラー反射率画像とOCTデータコンテンツ」が同じ光
路を共有して取得され固有的登録がもたらされる形態では、「登録」するための追加
の処理が必要ではなく(【0035】、【0058】)、一方で、代替的アプローチである前記光路が共有されていない形態では「登録」を行うこと(【0059】、【0065】)が記載されているところ、前者の形態が本願発明の「登録を通じずに」に、後
者の形態が「登録を通じて」に、それぞれ該当する形態であると認められる。
そうすると、引用発明の特定事項が、少なくとも「前記カラー反射率画像とOC
Tデータコンテンツとを結合すること」を満たすのであれば、そのような特定事項
は「登録を通じてまたは登録を通じずに」のいずれか一方を必ず満たすものといえ
る。したがって、「登録を通じてまたは登録を通じずに」の有無により本願発明の特定
事項は実質的に何も変わらないとした本件審決の認定は、原告主張のように本願明
細書を拡張して行われたものとはいえず、誤りがあるとはいえない。
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2024.08.26
令和5(行ケ)10146 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年7月25日 知的財産高等裁判所
進歩性なしとした審決(拒絶査定不服審判)が維持されました。
原告は、甲1には卵パックの搬送方向を変更することにつき、記載も示唆もない
と主張する。しかし、上記(2)イのとおり、引用発明に係る装置において、コンベア
や関連する装置の配置を最適化することは、当業者において自明の課題といえると
ころ、同一の技術分野及び作用機能に係る甲2には、パックの搬送方向を変更でき\nる旨が明記されているから、引用発明及び甲2に接した当業者が、引用発明におけ
る卵パックの搬送方向につき、甲2に記載された構成を適用する動機付けが認めら\nれる。原告の主張は採用することができない。
原告は、引用発明ではラベルが空気抵抗の影響を受けて挙動が不安定になり落下
位置がずれやすいのに対し、甲2発明ではラベルが空気抵抗の影響をほとんど受け
ないとして、前提の異なる甲2記載の構成を引用発明に採用することはできないと\n主張する。しかし、甲1には、従来の装置の課題として「ラベルを水平方向にしたま
ま落下させるとラベルは空気抵抗でどこに落下するか予測できない」(明細書2頁1\n3〜15行目)ことを挙げ、引用発明は「ラベルを水平方向にしたまま落下させな
いで、ラベルを斜めにした状態で落下させると、ラベルはその傾斜の下方延長方向
に確実に落下すると云う原理に基(づ)いている」(同3頁1〜4行目)として課題
を解決する旨が記載されている。甲1の記載を総合しても、このようにして課題を
解決することとした引用発明において、それにもかかわらず、ラベルが空気抵抗の
影響を受けて挙動が不安定になり、ラベルの落下位置がずれやすいと認められるも
のではなく、少なくとも、引用発明における卵パックの搬送方向を変更することに
阻害要因があるとは認められない。原告の主張は採用することができない。
原告は、引用発明では、ラベルが落下していく傾斜の下方延長方向と、コンベア
による卵パックの搬送方向とが交わるようにすることで、発明の目的を達成してい
るところ、卵パックの搬送方向を変更することはその目的に反することになり、阻
害要因があると主張する。しかし、甲1には、ラベルが落下していく方向と卵パッ
クの搬送方向とが交わるようにすることにより発明の目的を達成している旨の記載
はないし、甲1の記載を総合しても、卵パックの搬送方向が変更された場合に、引
用発明の目的が達成されないと認めることはできない。また、パックが輸送される
タイミングに合わせてラベルを投入することは、当該技術分野における技術常識と
いえ、パックの搬送方向を変更させた上で、タイミングに合わせてラベルを投入で
きるようにすることは、当業者が通常採用し得る事項といえる。引用発明における
卵パックの搬送方向を変更することに阻害要因があるとはいえない。
原告の主張は採用することができない。
・・・
原告は、本件審決が引用発明につき、「ラベルLは、保持を解除された後も、上ベ
ルト3と接してベルトの駆動方向に押し出されるようになる」とした点につき、ラ
ベルLは、上下ベルト3、4の挟持が解除された後、再び上ベルト3に接すること
はないから、本件審決の認定は誤りであると主張する。しかし、本件審決の上記認
定部分は、ラベルLが上ベルト3との接触を離れた後に再び上ベルト3に接触する
旨をいうものとは解されない。引用発明において、ラベルLは、上下ベルト3、4の
運動によって輸送されていくから、その前端部分から後端部分にかけて、徐々に上
下ベルト3、4の挟持から離脱していくこととなるが、その間も、少なくとも後端
部分は上ベルト3に接してその運動により駆動方向に押し出されていく。本件審決
の上記認定部分は、これと同旨をいうものと理解できる。原告の主張は採用するこ
とができない。
原告は、卵パックにラベルを投入する直前にラベルを一旦保持する構成は技術常\n識であるから、引用発明においても、ラベルLの後端部がプーリ7、10の位置に
到達した際、上下ベルト3、4は駆動を止めてラベルLを一旦保持し、その後、上下
ベルト3、4が駆動を再開することで保持が解除され、ラベルLは、傾斜の下方延
長方向(ラベルの短辺に沿った方向)に落下すると主張する。しかし、仮に引用発明
において上下ベルト3、4が駆動を止めてラベルLを保持し、その後駆動を再開し
てラベルLの保持を解除するとしても、上下ベルト3、4の駆動の再開により、ラ
ベルLには上下ベルト3、4の駆動による同駆動方向への駆動力が働くのであるか
ら、ラベルLがその長辺に沿った方向に押し出されることは否定できない。原告の
主張は採用することができない。
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2024.08.21
令和5(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年5月14日 知的財産高等裁判所
数値限定発明について、進歩性違反なしとした審決が取り消されました。被告(特許権者)は、動機付けがないと主張しましたが、裁判所は設計事項と判断しました。
ア 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕(1)アのとおり、相違点2が設計事
項であるとは認められない旨主張する。
しかし、前記(1)イのとおり、本件明細書の記載からは、「(A)成分以外
の界面活性剤」という意味での(G)成分は、含まれていてもよいという
位置付けの成分であって、重要性が高くなかったものであり、本件発明1
で特定された(G)成分に含まれるG−2、G−2’及びG−3について
も、本件防臭効果評価において、これらの成分を用いた実施例が他の実施例に比べて優れた防臭効果を得られていないことからすれば、本件発明1
において、(G)成分を一般式(I)又は一般式(II)に特定したことに
格別な技術的意義があるとは認められず、少なくとも、ノニオン界面活性
剤((G)成分)の含有量を、甲1発明における含有量の範囲内で検討し、
「20〜25質量%」としたことは、当業者における設計事項であると認
められる。したがって、被告の上記主張は採用することができない。
イ 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕(2)イのとおり、甲1発明における
ノニオン界面活性剤成分を本件発明1の(G)成分に置き換える動機付け
がない旨主張する。
しかし、甲1発明のNI(7EO)と、本件発明1の(G)成分の式(I
I)で表される化合物とは、一般式において共通し、R4(炭素数12及び\n14の天然アルコール由来の炭化水素)の部分においてのみ異なるが(前
記2(2)イ)、炭素数12及び14の天然アルコール由来の炭化水素は、甲1
発明のNI(7EO)のRである「C12からC15のアルキル鎖」に包
含されるものであることが明らかであり、かつ、天然アルコール由来の炭
化水素と合成アルコール由来の炭化水素とで、いずれか一方が他方よりも
衣料用洗浄剤の組成物に適しているとの技術常識があるとは認められな
いから(前記(1)ア、ウ)、甲1発明のNI(7EO)において、「C12か
らC15のアルキル鎖」の原料として、天然アルコール(炭素数12及び
14の直鎖アルコール)を選択する動機付けがなかったとはいえず、相違
点2に係る構成を想到し得ないとも解されない。\nしたがって、被告の上記主張は採用することができない。
ウ 被告は、相違点1に関し、甲1発明において(C)成分の含有量を特定
することによって本件各発明に係る特定の洗浄剤組成物に至る動機付けはないと主張する。この点、甲1発明において(C)成分に相当する成分であるMGDA(T
rilon M)について、甲1は、製剤の抗菌効果を向上させる添加剤
の一つであるとしており(別紙3「文献の記載」1(5))、MGDAのような
添加剤の使用はDCPPによる殺菌効果を高めるものであると記載して
いる(別紙3「文献の記載」1(8))。
そうすると、甲1発明において、DCPPによる殺菌効果ないし抗菌効
果を高め、臭気の抑制効果を高めるのに十分となるように、その含有量を\n甲1発明の範囲(0.1〜5wt%)内で設定し、0.1ないし1.5質
量%にすることは当業者が適宜なし得たことにすぎないというべきであ
り、甲1発明の上記数値範囲の中から本件発明1の(C)成分の割合を選
択する動機付けがないとはいえず、相違点1に係る構成を想到し得ないと\nも解されない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
エ 被告は、相違点3に関し、相違点3が設計事項にすぎないとはいえない
とか、甲1発明においてA/C比を調整することによって本件発明1に係る特定の洗浄剤組成物に想到する動機付けはないなどと主張する。
しかし、上記ウのとおり、甲1の記載によれば、甲1発明において(C)
成分に相当するものであるMGDAは、DCPPによる殺菌効果を向上さ
せるための添加剤として配合され、その含有量の範囲が示されているので
あるから、その含有量の範囲内で数値の範囲を選択することは、当業者の
設計事項であるといえる。また、甲1発明には(A)成分に相当するアニ
オン界面活性剤が配合されているところ、甲31(別紙3「文献の記載」
7)、甲33(別紙3「文献の記載」8)には、それぞれ別紙3「文献の記
載」7及び8のとおりの記載が存在し、これらの記載によれば、アニオン
界面活性剤は、衣類の洗浄の成分であり、他の成分による消臭効果を向上
させる効果も有することが、本件出願日時点における技術常識であったと
認められるから、甲1発明のアニオン界面活性剤の含有量を、その洗浄等
の効果を高めるのに十分なように、甲1発明における範囲内(合計で12\n〜32wt%)で検討することも、当業者の設定事項であるといえる。
そうすると、(A)成分と(C)成分を甲1発明に記載の各含有量の数値
範囲内で設定した結果として、A/C比を最小で2.4、最大で320(前
記2(4)ア)の範囲内である「10〜100」とすることも、当業者にとっ
て格別の創意工夫を要するとはいえず、当業者の設計事項であるといえる
し、A/C比を「10〜100」とする動機付けがないともいえないから、
相違点3に係る構成を想到し得ないとは解されない。\n
◆判決本文
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2024.08. 9
令和5(行ケ)10084等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年7月17日 知的財産高等裁判所
審判では訂正要件充足、訂正後の発明について進歩性違反無しと判断されました。知財高裁は、訂正自体は有効だが、進歩性無しと判断しました。
被告(特許権者)は、「甲2発明に甲1発明を適用して、甲2発明のインナロータ型モータをアウタロータ型モータに置き換え、さらに周知技術を適用して磁石を筒缶部の内周面に貼設されるようにするという複数のステップを求めるものであり、容易の容易として認められない。」と主張していました。
甲8文献は、平成15年9月19日公開された発明の名称を「ロータおよびその製造方法」とする特許出願の公開公報(特開2003−264963)である。甲8文献に記載された技術は、ロータ軸に接着剤を用いて焼結磁石を固定したロータおよびその製造方法に関するものであり(甲8文献の段落【0001】)、甲8文献の図1(a)及び(b)には、ロータ10は、ロータ軸12の外周面上に周方向に沿って配列された複数の磁石片20と、複数の磁石片20を外周面に固定する接着剤層14とを備えていること(甲8文献の段落【0021】)が記載され、甲8文献の図1において、複数の磁石片20がロータ10に互いに隙間を空けて貼設されていることが記載されている。\n
(エ) 甲9文献(日本接着学会誌 Vol.39、No.9〔2003/9/1〕「構造接着技\n術の応用展開と最適化技術の構築」原賀康介)には、モーターの磁石接\n着について、甲9文献の図7は、モーターのロータ―の構\造を示してお
り、スパイダーにセグメント状の永久磁石が接着されており、磁石の接
着には、従来から加熱硬化型エポキシ系接着剤が使用されてきたが、ネ
オジウム系磁石は線膨張係数が0からマイナスであるため、加熱硬化では熱応力が大きく耐ヒートサイクル性に劣ることや加熱硬化で作業性に劣るため、最近は生産性に優れた2液室温硬化型の耐熱性アクリル系接着剤に変わりつつあることが記載されている。
(オ) 甲5文献は、平成17年6月2日公開された発明の名称を「回転電機
のロータ」とする特許出願の公開公報(特開2005−143248)
である。甲5文献に記載された技術は、発電機やモータ等の回転電機に
使用されるロータに関するものであり(甲5文献の段落【0001】)、
その実施形態である甲5文献の図1及び図3のアウターロータ5は、ロ
ータ本体50と、ロータ本体50に固定された複数個の磁石部7とを有
し、磁石部7は、ロータ本体50のリング部55の内周領域57におい
て周方向に間隔を隔てて保持された永久磁石で形成されていること(甲
5文献の段落【0030】〜【0034】、図3)、磁石部7は接着剤
等により 方向に間隔を隔てて形成された着座溝61に接合されている
(甲5文献の段落【0034】)、上記実施形態は、回転電機として働
くモータのアウターロータ、インナーロータに適用しても良いこと(甲
5文献の段落【0072】)が記載されている。そして、甲5文献の図
1には実施形態の発電機の断面図が、甲5文献の図3には発電機のアウ
ターロータのうち磁石部をリング部が保持している状態の異なる方向の
部分断面図が、それぞれ記載されている(甲5文献の段落【007
8】)。
(カ) すなわち、甲5文献においては、磁石を保持する態様として、アウタ
ロータ型電動モータでは、ステータの外周側(ロータの内周側)に複数
の磁石が相互に隙間を空けて配置されることが記載されている。また、
甲8、9文献においては(甲70、71文献にも同様の記載があること
から、当時の技術常識と認められる。)、接着剤固定法では、通常、エ
ポキシ系やアクリル系などの接着剤で固定する方法により貼設されるこ\nとが、それぞれ記載されている。
イ 以上を踏まえ、相違点II)について検討すると、アウタロータ型電動モー
タにおいて、磁石を保持するために、複数の磁石をステータの外周側(ロ
ータの内周側)に沿って配置し、接着剤固定法等により「貼設」すること\nは、周知技術であると認められる(甲5、8、9)。したがって、上記周知技術を適用して、相違点II)の構成とすることは当業者にとって容易想到であったというべきである。\n
ウ この点について、被告は、主引例の甲1発明と、副引例(甲5、8、9)
の各技術の課題は相互間でも異なるから、組み合わせることに動機付けを
肯定する余地はないなどと主張する。しかしながら、前記のとおり、これ
らの副引例(甲5、8、9)に記載された磁石の配置及び固定方法は、周
知技術であると認められるから、これを適用することの動機付けを肯定す
ることが困難ということはできない。
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2024.07.29
令和3(ネ)10086 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年4月25日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
パナソニックの知財信託会社による侵害訴訟の控訴審判決です。1審は技術的範囲外または新規性なしとして権利行使不能と判断しました。知財高裁も同様です。該当特許は7件あり、判決文は400頁を超えます。
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すると、402W製品は、遅くとも被控訴人
からカナデンに納品された平成24年4月17日頃には、同社に譲渡されたことに
よりその構造が解析可能\な状態に至ったものと認められる。
これに対し、控訴人パナソニックは、上記アの認定事実を認めるに足りる証拠が\nないことを指摘すると共に、仮に平成24年4月17日頃に被控訴人からカナデン
に対して402W製品が納品されたとしても、被控訴人とカナデンとの間に秘密を
保持することが暗黙のうちに求められていたため、公然実施されたとはいえないな
どと主張する。
しかし、本件申請書は、その書面の体裁等に鑑みると、被控訴人において内部的\nに定形化された書式に基づき作成されたものと見られ、日常的な業務の一環として
作成されたものであることがうかがわれる。また、その記載内容並びに「申請者印」\n欄及び「完了印」欄の押印は、平成24年4月16日付け「見本品引取書」(乙7
8)及び同月17日付け「判取票」(乙88)の記載又は押印と一致ないし整合す
ることから、本件申請書の作成日は、上記認定のとおり、同年2月10日と認めら\nれる(なお、同様の理由及び筆跡の字体そのものから、判取票の作成日付は、同年
9月17日ではなく同年4月17日であることも認められる。)。また、上記「判
取票」は、カナデン担当者(乙148)の姓と同一の印影が存在することから、平
成24年4月17日に同社に402W製品が納品されたことを裏付けるものといえ
る。
また、本件申請書には、「処理方法」の「渡し切りサンプル(点灯試験・分解テ\nスト)」欄にチェックがされているものの、カナデンは、電気工事業等の建設業許
可を得ている事業会社であり(乙76)、また、被控訴人による402W製品の商
品開発に共同研究その他の形で関与していたことをうかがわせる事情も見当たらな
いこと、本件チラシ及び本件カタログの記載からは、カナデンに納品された平成2
4年4月頃又はこれに極めて近接した時点で、402W製品は既に一般向けに販売
されていたことがうかがわれることによると、カナデンに対する402W製品の納
品が、その構成等につき同社に守秘義務を負わせることを前提として行われたもの\nであるとは考え難い。その他控訴人パナソニックが主張する点を考慮しても、この点に関する控訴人パナソ\ニックの主張は採用できない。
ウ 小括
以上によると、402W発明は、本件原出願日2より前に日本国内において公然
実施された発明といえる。
◆判決本文
原審はこちら。
◆平成29(ワ)1390
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2024.07.29
令和3(ワ)18031等 特許権 民事訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月22日 東京地方裁判所
特許権侵害訴訟において、サブコンビネーション発明の要旨について、”「請求項4記載の携帯電話」との記載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認めることはできない。”として、新規性無しとして権利行使不能(104条の3)と判断されました。
ウ 乙12の各構成が本件発明の構\成要件JないしMの構成にそれぞれ相当\nするか否かを検討する前提として、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電\n話との間で送受信するための」との記載の性質について検討する。
原告らは、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信す\nるための」との記載は、本件発明の受信装置の構造及び機能\を特定して
いるから、請求項1ないし4の解釈を踏まえて請求項5に係る本件発明
の構成を認定すべきであると主張するものと解される。\n
そこで検討すると、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の各記
載によれば、本件発明は、受信装置が、携帯電話との間で送受信するた
めのRFIDインターフェースを介して同携帯電話に対して個別情報の
発信要求をし、これに対し、同携帯電話が、要求された個別情報を送信
し、受信装置が、同携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報
であるか否かを判断し、受信した判断情報が前記要求した個別情報であ
ると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行うという、二つ
以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し、それに組み合わ
される受信装置の発明すなわちサブコンビネーション発明であって、本
件発明に係る特許請求の範囲の請求項5には、受信装置とは別の他の装
置すなわち他のサブコンビネーションである携帯電話に関する事項が記
載されているものと理解できる。
そして、サブコンビネーション発明においては、特許請求の範囲の請求
項中に記載された他の装置に関する事項が、形状、構造、構\成要素、組成、
作用、機能、性質、特性、行為又は動作、用途等の観点から当該請求項に\n係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握し、発明の技術的範囲
を画する必要があるところ、他の装置に関する事項が、当該他の装置のみ
を特定する事項であって、当該請求項に係る発明の構造、機能\等を何ら特
定していない場合には、他の装置に関する事項は当該請求項に係る発明を
特定するために意味を有しないといえる。
本件特許の特許請求の範囲において、構成要件Jの「RFIDインター\nフェースを有し、」との記載は、受信装置が「RFIDインターフェース
を有し」ていることを、構成要件Kの記載は、受信装置が「個別情報の発\n信要求を前記携帯電話に発信する発信手段」を有していることを、構成要\n件Lの記載は、受信装置が「前記携帯電話から受信した個別情報が要求し
た個別情報であるか否かを判断する判断手段」を有していることを、構成\n要件Mの記載は、受信装置が「前記判断手段で受信した判断情報が、前記
要求した個別情報であると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理
を行う」ことを、それぞれ特定していると認められるのに対し、構成要件\nJの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するための」との記載は、
上記の構造、機能\等を有する受信装置と送受信をする携帯電話の構造、機\n能等を請求項4記載の構\成に限定するものにすぎず、受信装置の構造、機\n能等自体を何ら特定していないから、「請求項4記載の携帯電話」との記\n載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認
めることはできない。
以上によれば、上記の「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するた
めの」を除外して請求項5に係る本件発明の要旨を認定することが相当で
あるというべきであって、原告らの上記主張を採用することはできない。
・・・
以上によれば、本件発明は、乙12発明と同一の構成を有しているから、\n新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの
と認められ、原告らは被告に対してその権利を行使することができない(特
許法104条の3第1項、123条1項2号、29条1項3号)。
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2024.07.29
令和6(行ケ)10002 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年5月23日 知的財産高等裁判所
進歩性違反なしとした無効審決が取り消されました。審決では、設計書で定まっている事項を変更することには阻害要因がありと判断されていましたが、裁判所はこれを否定しました。
本件明細書等における、白色繊維と黒色繊維の混合比率を変えた実施例
1ないし7と比較例1及び2による試験によれば、この混合比率と、繊維
の縦及び横の強度及び伸度とは、相関関係はないといえる(段落【004
8】の試験結果)。また、光の反射性は、黒色繊維の混合比率を高めるほど
眩しさを感じにくくなる(段落【0050】)。そして、本件明細書等にお
いて、黒色繊維を10%未満の割合で混合した比較例との対比は行われて
おらず、比較例1及び2は、全て白色繊維のもの及び全て黒色繊維のもの
であるから、白色繊維と黒色繊維の混合比率を、10ないし90%の範囲
とした場合と、10%未満とした場合との効果の差異は、本件明細書等に
記載された実施例及び比較例による試験からは明らかでない。
以上によれば、本件発明2について、黒色繊維の混合比率を高めると、
1)斑が形成され、これを用いて不織布の伸び率を把握することが可能とな\nり、2)光の反射を抑えて眩しさを感じにくくなり、3)耐候性及び耐摩耗性
が高まり、他方、黒色繊維の混合比率を高くしすぎると、全体の色が濃く
なって斑を識別するのが困難になるという結果が生じるが、本件発明2に
おいて黒色繊維の混合比率を10ないし90%の範囲としたことに特段
の技術的意義があるとは認められない。
エ 上記ア及びイのとおり、カーボンブラックが、耐候性、耐摩耗性及び遮
光性の向上、光の反射による作業者への作業上の障害の防止、景観を損な
うことの防止等を目的として、所望の効果が発揮できる量で土木工事用不
織布を含む土木工事用シートに添加されているものであること、及び、土
木工事用の防砂シート(不織布又は織布)として用いられる製品の色の濃
さが一様でなく、白色の製品、灰色の斑模様の製品とともに濃灰色ないし
黒色の製品も使用されていることが、本件出願日の時点における技術常識
であったと認められ、白色繊維と黒色繊維を混合した土木工事用不織布に
おける黒色繊維の混合比率が多様なものであると当業者が認識していた
ということができる。
また、上記ウのとおり、本件発明2についても、黒色繊維の混合比率を
10ないし90%の範囲としたことに特段の技術的意義があるとは認め
られない。
そうすると、引用発明1の土木工事用不織布において、耐候性、耐摩耗
性及び遮光性の向上、光の反射による作業者への作業上の障害の防止、景
観を損なうことの防止、並びに不織布の伸び率測定のための斑模様の明確
さを好適なものとするために、カーボンブラックにより着色した黒色繊維
の比率を増減することは、当業者の設計事項にすぎないというべきである。
また、白色繊維と、カーボンブラックにより着色した黒色繊維を混合し
た土木工事用不織布において、黒色繊維の割合を高めれば、斑模様が濃く
なって、斑点の間の距離の測定に基づく不織布の伸び率の測定が容易にな
るほか、耐候性、耐摩耗性及び遮光性の向上、光の反射の抑制といった効
果があることが、上記のとおり本件出願日の時点における技術常識であっ
たといえるから、黒色繊維の比率を7.5%より高める動機付けがあった
ということができる。
以上によれば、引用発明1について、黒色繊維の混合比率が7.5%と
されているところ、これを10ないし90%の範囲とすることによって、
相違点2に係る構成を導くことは、当業者が容易に想到することができた\nものというべきである。
オ 本件審決は、800Z製品は一定の品質を保って製造されるものであり、
白色繊維と黒色繊維の比率を変えるような設計変更は通常行わないとか、
800Z製品の製品仕様書(甲22)では黒色の綿の混率が5%と記載さ
れていることを指摘した上で、製品仕様における黒色繊維の比率5%を桁
の異なる10%以上にすることには阻害要因があると判断している。
しかし、800Z製品について、製品の同一性あるいはその品質を維持
するために、仕様書で定められた仕様の遵守が求められるとしても、同製
品を基に、仕様の一部を変更して、新たな仕様の土木工事用不織布の製品
を開発、製造しようとすることは当然に行われることであって、800Z
製品の仕様として黒色繊維の比率が特定の値に定められているからとい
って、この値を変更することに阻害要因があると認められることにはなら
ず、800Z製品の使用における黒色繊維の比率が1桁である5%とされ
ていることから、この比率を2桁の10%にすることに阻害要因があると
解することもできない。
そして、前記ウ及びエのとおり、黒色繊維の比率を特定の割合又は特定
の範囲に定めることについて特段の技術的意義があるとは認められず、か
つ、カーボンブラックにより着色した黒色繊維の比率を高める動機付けが
あったといえることからすれば、引用発明1について、その黒色繊維の比
率を、上記仕様書に記載された数値から変更することに阻害要因があると
は認められない。
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2024.06.16
令和5(行ケ)10086 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年6月5日 知的財産高等裁判所
無効理由なし(進歩性、明確性等)とした審決が維持されました。
(2) 原告は、仮に相違点5が認められるとしても、周知技術1(皮膚に電気刺
激を与えるブラシ型の美容機器において、ブラシの櫛歯を肌の形状に合わせ
て屈曲できるようにすること)を考慮して相違点5に係る構成を採用するこ\nとは容易であると主張する。
ア しかし、甲1公報の「動作する際には、通常の髪をとかすように髪をと
かして、シリコンスリーブ9の底端が頭皮に接触すると、ばね8が圧縮
され、スライドスリーブ4がシリコンスリーブ9を収縮させ、シリコン
スリーブ9全体の底端が頭皮に接触し」([0023])の記載などか
ら明らかなように、甲1発明では、櫛としての通常の使用により櫛歯の
底端が頭皮に接触することで櫛歯がスムーズに伸縮することが前提とさ
れているところ、スライドスリーブ4を径方向に屈曲する構成とすると、\nスライドスリーブ4と電流ガイドロッド3及びストッパー5との間の抵
抗・摩擦の増大等により、スライドスリーブ4が電流ガイドロッド3に
沿ってスムーズにスライドすることを妨げることは明らかである。そう
すると、原告主張の周知技術1を甲1発明に適用することには阻害要因
があるというべきである。
イ これに対し、原告は、電流ガイドロッド3及びストッパー5の摺動(ス
ライド)とスライドスリーブ4及びシリコンスリーブ9が径方向に屈曲す
ることは両立する旨主張するが、根拠を欠くものといわざるを得ない。す
なわち、原告が挙げる甲2公報は、「電極41が配設された先端部40」
が上下左右に動くことが可能な「育毛剤導入装置」に係るものであり、軸\n方向に摺動する構成を有するものとは認められない(甲2)。\nまた、原告は、スライドスリーブ4が屈曲できない部材であればストッ
パー5と磁石6の位置を「固定」する必要がないと主張するが、本件審決
が認定する甲1発明のとおり「電流ガイドロッド3の底端にストッパー5
が固定して接続され」ていなければ、シリコンスリーブ9からなる櫛歯が
電流ガイドロッド3から抜けることになるし、製造時の手間を考慮しても
ストッパー5を電流ガイドロッド3に、磁石6をスライドスリーブ9に固
定する方が自然といえるから、スライドスリーブ4が屈曲することの根拠
にはならない。
原告は、その他、髪をとかす動きをする際や「頭部の曲率の変化に応じ
て、シリコンスリーブ9の底部が常に頭皮にフィットするように調整する」
([0022])ためには径方向に屈曲することが必要である等主張する
が、シリコンスリーブ9の屈曲により底部の放電孔が常に頭皮にフィット
するとは認め難いし、いずれにせよ甲1公報の記載に基づく主張ではなく、
上記アの認定を左右するものではない。
(3) したがって、本件発明1は、甲1発明及び原告主張の周知技術1に基づい
て当業者が容易に想到できるものではないから、本件発明1の発明特定事項
を全て含み、更に減縮したものである本件発明2〜10についても同様であ
って、本件審決の甲1発明に基づく進歩性の判断の誤りはなく、原告が主張
する取消事由2には理由がない。
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2024.06. 9
令和5(行ケ)10002 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年4月25日 知的財産高等裁判所
審決は無効理由無しと判断しましたが、知財高裁は本件発明の認定誤りがあるとして、これを取り消しました。
ア 本件発明1について
まず、本件発明1の要旨認定につき当事者間に争いがあるため、以下検討する。
(ア) 本件発明1の特許請求の範囲の記載によると、「取付部材」は、構成要件B\n「前記LED基板が取り付けられる取付部材と」、構成要件C「拡散性を有し且つ前\n記LED基板を覆うようにして前記取付部材に取り付けられるカバー部材とを備え
た」、構成要件E「前記カバー部材は、前記取付部材に取り付けられる一対の突壁部\nと」、構成要件F「を有し」、構\成要件I「前記取付部材は、前記複数のLEDが前
記収容凹部の外側を向くようにして前記LED基板を前記器具本体に取り付けるた
めの部材であり」と特定されているところ、「取付(け)」とは、「1)機器・器具など
をとりつけること。装置すること。」(広辞苑第六版)を意味する名詞であるから、
「取付部材」とは、機器・器具などをとりつけること、装置することに関わる部材
であると理解できる。
また、「取り付ける」とは、「1)機器などを一定の場所に設置したり他の物に装置
したりする。」(広辞苑第六版)を意味する動詞であり、構成要件Bにおいて、「られ\nる」という受け身を表す文言とともに用いられているから、構\成要件Bにより、「取
付部材」は、LED基板が装置される対象物であると理解できる。
さらに、構成要件Cにおいて、「取付部材」は、LED基板を覆うようにしてカバー\n部材が取り付けられる対象物であることが特定されており、そのための構成として、\n構成要件E及び構\成要件Fによると、カバー部材が一対の突壁部を有することが特
定されている。そして、「にして」とは状態を表すものであり、「ため」とは「目的」を意味するものである(広辞苑第六版)から、構\成要件Iによると、「取付部材」は、複数のLEDが収容凹部の外側を向いた状態でLED基板を器具本体に取り付ける
ことを目的とした部材であることが特定されていると理解できる。
以上によると、本件発明1の各構成要件の特定事項から、本件発明1の「取付部\n材」は、カバー部材が装置されて一体となること、及び、LED基板が取り付けら
れ、それが収容凹部の外側を向く状態で器具本体に取り付けることを目的とした部
材であると認められる。
他方、本件発明1では、カバー部材を取付部材に取り付けるための手段として、
カバー部材が一対の突壁部を有することが特定されている(構成要件E)ものの、\n「取付部材」を器具本体に取り付けるための具体的な構成、例えば、ボルトやフッ\nクなどの構成についての特定はされていないものといえる。\n
そうすると、本件発明1では、「取付部材」を器具本体に取り付けるための具体的
な構成の特定がない以上、当業者は、「取付部材」を器具本体に取り付けるための構\
成として、技術水準を踏まえて任意のものを採用し得るものと解される。例えば、
本件出願日前に公開された甲2の図13の「係止部材4」、甲202(実用新案登録
第3126166号公報)の「取付部材4」、甲204(特開2012−18598
1号公報)の「係止部材40」及び「係止穴84」、甲205(ワイドキャッツアイ
器具ERK8775W/WEHP108Mに係る報告書)の「キックバネ3」、乙1
の「取付ばね18」及び「取付金具13」(乙2、3も同様)の取付部材と器具本体
の間に係止又は嵌合させる手段を介在させる構成を含め、カバー部材を介在するよ\nうな態様を排除するものではないと解することができる。
(イ) もっとも、特許請求の範囲の記載の意味内容が、本件明細書において、通常
の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されていれば、異なる解釈をする余
地があるため、以下検討する。
この点、本件明細書によると、「取付部材」については、従来技術の説明(【00
03】)、課題を解決するための手段(【0007】、【0008】、【0012】)、実施形態(【0021】、【0024】〜【0028】、【0030】、【0032】〜【0035】、【0037】、【0044】、【0046】、【0047】、【0051】など)に、それぞれ記載があるが、いずれの記載によっても、前記(ア)の特許請求の範囲の記載の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されているものとはいえない。
ここで、更に本件明細書の実施例についてみると、取付部材について以下のよう
に説明されている。図1に係る実施形態における取付部材21は、複数のLED基板22が取り付けられ、LED基板22を覆うようにしてカバー部材23が取り付けられること(【0021】)、板金に曲げ加工を施すことで形成され、所定の形状、穴、LED基板を取り付けるための係止爪(図示せず)を有すること(【0024】〜【0026】)、電源装置24や端子台ブロック25を取付部材21に取り付けるための構成を有す\nること(【0030】、【0032】〜【0035】)、さらに、例示として、器具本体1と取付部材21にそれぞれ設けた嵌合構造(図示せず)により光源ユニット2を\n器具本体に取り付ける(【0037】)ものである。
また、図5に係る実施形態の別の例における取付部材21は、器具本体として構\n成された反射板5及び取付部材にそれぞれ設けた嵌合構造(図示せず)により光源\nユニット2を反射板5(器具本体)に取り付ける(【0044】)ものである。
このように実施形態では、図示はないものの取付部材21と器具本体には嵌合構\n造が設けられていることが理解でき、「嵌合」とは、「〔機〕軸が穴にかたくはまり合ったり、滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語」(甲201)である
から、取付部材21と器具本体とは、はまり合うための構造を有し、これにより取\nり付けられることが記載されているものと理解できる。もっとも、かかる実施形態
における取付部材21と器具本体が、はまり合うための具体的な構造については図\n示されておらず、何ら具体的な構造が開示されていないことに照らすと、実施形態\nにおいて取付部材21と器具本体との間にカバー部材を介する態様も包含している
といえる。
(ウ) 被告は、本件発明における「取付部材」は、特許請求の範囲の文言上、直接
器具本体にLED基板を取り付ける部材として特定されており、この点に関する本
件審決の認定に何ら誤りはないと主張するが、上記(ア)のとおり、かかる主張は首肯
できない。
また、被告は、実施形態において開示されているのは、カバー部材を介すること
なく、取付部材と器具本体に設けられた嵌合構造により両者が取り付けられている\n構造のみであって、カバー部材を介する構\造は存在しないとも主張するが、上記(イ)
のとおり、かかる実施形態における取付部材21と器具本体が、はまり合うための
具体的な構造については図示されておらず、何ら具体的な構\造が開示されていない
ことに照らすと、実施形態において取付部材21と器具本体との間にカバー部材を
介する態様も包含しているといえるから、被告の上記主張も採用できない。
・・・
(ア) 本件審決は、相違点1−1−3(1)として、「LED基板を器具本体に取り付
けるための部材について、本件発明1では、これが「取付部材」であるのに対して、
甲3−1発明では、これが「蓋部3」であって、絶縁板13は基板10をこの蓋部
3に取り付ける部材である点。」を認定しているところ、原告はこの相違点の認定を
争っていることから、以下検討する。
(イ) 相違点1−1−3(1)について
本件審決は、本件発明1と甲3―1発明との対比において「後者の「絶縁板13」\nと前者の「取付部材」とは「部材」において共通する。」としながらも(本件審決8
3頁末から2行目〜末行)、相違点1―1―\3(1)の判断において「甲3−1発明で
は、「絶縁板13」は、基板10を蓋部3に取り付けるためのものであって、器具本
体に取り付けるための部材(取り付ける機能を有する部材)は「蓋部3」である。」\n(同86頁4〜7行目)と認定・判断しており、本件発明1では、「器具本体」と「取
付部材」との間に取り付けに資する構造が介在することが排除されていることを前\n提としている。
しかしながら、前記(1)の本件発明1の要旨認定のとおり、「器具本体」と「取付
部材」との間に取り付けに資する構造が介在することを含むものであってこれが排\n除されていると解することはできない。
以上を前提とすると、本件発明1は、甲3−1発明のように「絶縁板13」と「取
付ベース1」との間に「蓋部3」が介在する取付構造を排除するものではないし、\n甲3−1発明の「絶縁板13」には、LED2を配設した基板10が配設されてい
るのであるから、「絶縁板13」が存在しなければ、LED2は「取付ベース1」に
配設することができないことに照らしても、「絶縁板13」は、「LED基板を器具
本体に取り付けるための部材」に相当するものと認められる。
そうすると、本件発明1と甲3−1発明と対比において、相違点1−1−3(1)は、
相違点とはいえない。
(ウ) 相違点2−1−3(1)について
次に、カバー部材に関して、本件発明1では、「拡散性を有」するのに対して、甲
3−1発明では、「アクリル樹脂やガラス等の透明な絶縁材料からできて」いるもの
の、拡散性を有するか否かは不明であるとの相違点2−1−3(1)についてみると、
LED照明器具のカバー部材が拡散性を備えることは周知技術であり(甲1[00
32]、甲2【0022】、甲6)、甲3−1発明において、適宜採用して相違点2−
1−3(1)に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることで\nある。
(エ) 小括
そうすると、本件発明1は、甲3−1発明に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものと認められるから、本件審決は、進歩性の判断において、結論に
影響を及ぼす誤りがあったものといえる。
987/092987
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2024.06. 9
令和5(行ケ)10056 承継参加申立事件 特許権 行政訴訟 知的財産裁判例 令和6年3月25日 知的財産高等裁判所
審決は無効理由無しと判断しましたが、知財高裁は、進歩性なしと判断しました。
d 本件適用に係る動機付けの有無についての参加人のその余の主張に対する判断
参加人は、1)甲11記載の発明における第1の濾過工程と第2の濾過工程は段階
を異にする別個の工程である、2)前者の工程と後者の工程は濾過の条件(高温高圧
条件下での実施の要否)、用いる濾過膜の性質(細菌保持力の強弱)及び濾過のタ
イミング(バルクの充填工程の前後)を異にするものであるとして、甲11記載の
発明に接した当業者において、前者の工程と後者の工程を1つの濾過工程(本件製
品の膜を用いた工程)に置き換えることが容易であったとはいえないと主張する。
しかしながら、前記イ(イ)において説示したとおり、参加人が主張する工程(III))
(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)は、アジュバン
トエマルジョンを抗原溶液と組み合わせる場合とこれらを組み合わせない場合とが
あることから便宜上設けられた工程とみる余地があり、少なくとも後者の場合にお
いては、当該工程を経ることが技術的に必須であるとまでいえないと考えられるの
であるから、甲11記載の発明において第1の濾過工程と第2の濾過工程を連続し
て行うことは、同発明の技術的思想と何ら背馳するものではない(この評価は、甲
11(前記ア)に、第1の濾過工程(大きな粒子を除去する工程)につき「安定性
を有するエマルジョンの製造のために重要である」旨の記載が、第2の濾過工程に
つき「滅菌濾過を行った上、アジュバントを単回投与用のバイアルに充填する」旨
の記載がそれぞれあることによっても妨げられるものではない。)。そうすると、
甲11記載の発明の第1の濾過工程と第2の濾過工程が連続して行うことができな
い別個の工程であるということはできないから、上記の1)の点を根拠とする参加人
の主張を採用することはできない。
また、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第1の濾過工程におけ
る濾過と第2の濾過工程における濾過がどのような温度や圧力の下で行われなけれ
ばならないかについての記載はなく、その他、濾過が行われるべき温度又は圧力を
第1の濾過工程と第2の濾過工程とで別異にすべきであることを認めるに足りる証
拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者において、第1
の濾過工程における濾過は高温高圧下で行う必要があるが、第2の濾過工程におけ
る濾過は高温高圧下で行う必要がないなどと認識するものとは認められない。細菌
保持力の点についてみても、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第
1及び第2の濾過工程において使用される各膜につき、これらの細菌保持力の強弱
についての記載はなく、その他、細菌保持力を第1の濾過工程において使用される
膜と第2の濾過工程において用いられる膜とで別異にすべきであることを認めるに
足りる証拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者におい
て、第2の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要があるが、
第1の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要がないなどと認
識するものとは認められない。濾過のタイミングの点についてみても、参加人が主
張する工程(III))(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)
を経ることが技術的に必須であることを認めるに足りる証拠がないことは、前記イ
(イ)において説示したとおりであるから、甲11記載の発明に接した本件優先日当
時の当業者において、第1の濾過工程はアジュバントエマルジョンのバルクの大き
な瓶への充填の前に行う必要があり、第2の濾過工程は当該充填の後に行う必要が
あるなどと認識するものとも認められない。したがって、上記の2)の点を根拠とす
る参加人の主張も採用することはできない。
e 本件適用に係る動機付けの有無についての小括
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定)
に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
(オ) 本件適用に係る阻害要因の有無
a 参加人は、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用いられる膜の孔サ
イズが0.22μmであるのに対し、本件周知技術の予備濾過膜の孔サイズは0.\n45μmであるところ、甲11記載の発明における第1の濾過工程の目的(安定性
を有するエマルジョンのバルクを得るために径が1.2μmを超える大きな粒子を
十分に除去すること)に照らすと、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用\nいられる膜に代えて、孔サイズが2倍以上になる本件周知技術の予備濾過膜を適用\nすることには阻害要因があると主張する。
しかしながら、前記(イ)c(a)のとおり、甲65には、「膜の実際の孔径よりも大
きい粒子や微生物は、効果的に除去される。」との記載があり、孔サイズが0.4
5μmである本件周知技術の予備濾過膜を採用した場合であっても、径が1.2μ\nmを超える大きな粒子を十分に除去し、もって、安定性を有するエマルジョンのバ\nルクを得ることができるものと認められる。また、前記(エ)bのとおり、甲11発
明(認定)は、1)細菌を効果的に保持するとの課題のほか、2)総処理量を大きくす
るとの課題及び3)流速を妥当なものにするとの課題を内在しているところ、当該2)
及び3)の課題の解決のためには、目詰まりの防止等の観点から、適当な範囲で膜の
孔サイズを大きくすることも十分に考え得ることであるから、甲11発明(認定)\nに接した本件優先日当時の当業者は、本件課題を解決するため、甲11発明(認定)
において用いられる各膜の孔サイズを適当な範囲で大きくすることも小さくするこ
とも検討するものと認められる。
以上のとおりであるから、本件周知技術における予備濾過膜の孔サイズが0.4\n5μmであることは、本件適用に係る阻害要因ではない。
b 参加人は、本件製品の膜につき、丙4にはこれをスクアレン含有水中油型エ
マルジョンを含む水中油型エマルジョンの滅菌濾過に用い得る旨の記載がないとし
て、甲11記載の発明の第1の濾過工程において用いられる膜に代えて、本件周知
技術の予備濾過膜を適用することには阻害要因があるとも主張する。\nしかしながら、甲11発明(認定)と本件周知技術とが技術分野を共通にしてお
り、甲11発明(認定)が本件課題を有しており、かつ、本件製品が備える膜を用
いることにより本件課題を解決することができることは、前記(エ)aからcまでに
おいて説示したとおりであるから、丙4に参加人が主張する記載がないことは、本
件適用に係る阻害要因があることを根拠付けるものではない。
c なお、参加人は、本件製品が製品歩留まりの点で他の製品に劣るとして、本
件優先日当時の当業者による本件適用に阻害要因がある旨の主張をするが、丙4の
102頁及び110頁の各「Highest product yield」の記載は、高価なたんぱく
質溶液や吸着(adsorption)に敏感な医薬品を高い回収率(product recovery
rates)で濾過するのに適した膜に係る記載であると解されるから、これらの記載
が、たんぱく質を含有しないMF59C.1の製造方法に係る甲11発明(認定)
に本件周知技術を適用することを否定したり、その阻害要因になったりするなどと
認めることはできない。
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2024.06. 9
令和1(ワ)24736 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月15日 東京地方裁判所
空調服の特許について、進歩性無しとして、権利行使不能と判断されました。\n
前記aないしdの各記載によると、本件出願当時、被服の技術分野
においては、二つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、
そもそも二つの紐状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容
易ではないとの周知かつ自明の課題が存在したものと認められる(な
お、前記1(1)のとおり、本件明細書にも、本件出願当時に存在した課
題として、一組の調整紐を結んで所望の長さになるようにすることは
非常に難しく、ほとんどの着用者は空気排出口の開口度を適正に調整
することができないとの記載がみられるところである。)。
そうすると、被服の技術分野に属する本件公然実施発明の構成\n(「前記空調服の服地の内表面であって前記襟後部又はその周辺の第\n一の位置に取り付けられた紐1と」、「前記紐1が取り付けられた前記
第一の位置とは異なる前記襟後部又はその周辺の第二の位置に取り付
けられた紐2とを備え」、「2本の紐(1、2)を結ぶことによって、
空気排出量を調節することができる」との構成)自体からみて、また、\n乙46説明書に「首と襟足の間隔を広くし」との記載及び紐が首の後
ろにある旨の図示(前記(1)イ )があることからすると、本件公然実
施発明に接した本件出願当時の当業者は、上記の課題を認識するもの
と認めるのが相当である。
乙33発明’が解決する課題
前記(3)アの記載のとおり、乙33発明’は、「帯紐6a」に「ボタン
7a」を、「帯紐6b」に複数の「ボタン7b」をそれぞれ設け、「ボタ
ン7a」を複数ある「ボタン7b」のいずれか一つにはめ込むとの構成\nを採用することにより、「帯紐6a」及び「帯紐6b」の装着長さを調
整し、もって、個人差のある腰回りの大きさに応じて介護用パンツ1を
装着することを可能にするというものであるところ、乙33公報に装着\nの容易さについての記載(【0008】、【0009】、【0011】)があ
ることや、前記 eのとおりの周知かつ自明の課題が本件出願当時に被
服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、本件出願当
時の当業者は、乙33発明’につき、これを二つの紐状部材を結んでつ
ないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手
段として認識するものと認めるのが相当である。
課題の共通性についての結論
前記 及び のとおりであるから、本件公然実施発明から認識される
課題と乙33発明’が解決する課題は、共通すると認めるのが相当であ
る。
ウ 本件公然実施発明に乙33発明’を適用することについての動機付けの
有無
前記ア及びイのとおりであるから、被服の技術分野に属する本件公然実
施発明に接した本件出願当時の当業者は、空気排出スペースの大きさを調
整するための手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調
整することが手間で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するた
め、同じ被服の技術分野に属する乙33発明’を採用するよう動機付けら
れたものと認めるのが相当である。
エ 原告の主張について
原告は、本件公然実施発明は、排出する空気の量に応じて、中に支え
る物体がない、空気を排出するスペースを調整するのに対して、乙33
発明’は、体型等に応じて中に支える物体があるものの周りを調整する
ものであるから、その目的や機能が異なると主張する。\nしかしながら、本件公然実施発明と乙33発明’とは、紐状の部材の
締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし
する。
しかしながら、本件公然実施発明と乙33発明’とは、紐状の部材の
締結により被服が形成する空間の大きさを調整するとの目的ないし機能\nにおいて異なるものではないから、本件公然実施発明が空調服の首回り
の空気排出スペースの大きさを調整するものであるのに対し、乙33発
明’が介護用パンツの腰回りの大きさを調整するものであること、すな
わち、両者が何を調整するのかにおいて異なることは、前記ウに係る結
論を左右するものではない。
また、原告は、1)空調服は、世の中に存在しなかった革新的技術であ
ることや、2)本件発明1は従来技術に比して有利な効果を有しており、
本件公然実施発明と異なる技術的意義を有することを主張している。
しかし、上記1)について、本件発明1は、本件公然実施発明等によっ
て既に実用化されている空調服における空気排出口の開口度の調節方法
に係る発明であり、従来技術の延長線上に位置付けられるものと評価で
きるところ、上記の調節方法が被服の技術分野で周知といえることは前
記(3)で説示したとおりである。そうだとすれば、空調服という製品自体
が革新的技術であることは、本件発明1の進歩性を基礎付ける事情とは
ならないというべきである。
上記2)について、本件全証拠によっても、本件発明1がその進歩性を
基礎付けるほどの有利な効果や技術的意義を有しているとは認められな
い。
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2024.06. 7
令和5(ネ)10063 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年5月15日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
特許権侵害について、原審は約4500万円の損害賠償を認めましたが、知財高裁はこれを取り消しました。争点は、主引発明に副引用発明を適用し、さらに周知技術を適用できるかです。知財高裁(2部)は、本件では相互に関連する技術ではなく、適用可能と判断しました。\n
イ 本件適用2に係る動機付けと阻害要因の有無
前記(4)イ(ア)のとおり、乙15発明は、回転駆動源に電動モータを使用したトル
ク制御式パルスツール(ねじ締めツール等)の技術分野に属するものである。また、
前記アによると、本件周知技術は、電動モータに使用される磁石の固定方法に関す
るものであるから、電動モータの技術分野に属するものである。そして、相違点B
に係る本件発明等の構成の内容は、磁石がステータに隙間を設けて貼\設されている
ことであるから、本件適用2との関係では、乙15発明(電動モータに係る部分)
と本件周知技術は、その属する技術分野を共通にするものである。さらに、乙15
発明(乙6発明Aを適用したもの)に接した本件優先日当時の当業者は、磁石をど
のようにして筒状のロータの内周面に保持するかという課題に直面することになる
ところ、接着剤を用いて磁石をロータに隙間を設けて貼設する技術である本件周知\n技術は、当該課題を解決することのできる手段(技術)となる。したがって、本件
優先日当時の当業者において、乙15発明(乙6発明Aを適用したもの)に本件周
知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
本件適用2をするに当たり、阻害要因があることを認めるに足りる証拠はない。
ウ 相違点Bに係る本件発明等の構成の容易想到性についての小括\n
(ア) 以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者は、乙15発明に乙6
発明A及び本件周知技術を適用することにより、相違点Bに係る本件発明等の構成\nに容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
(イ) この点、原告は、乙15発明に乙6文献記載の発明を適用し、その後に周
知技術を適用して相違点Bに係る本件発明等の構成を導出することは「容易の容易」\nに当たるから、本件優先日当時の当業者において、相違点Bに係る本件発明等の構\n成に容易に想到し得たとはいえないと主張する。
確かに、前記イのとおり、本件適用2は、乙6発明Aを適用した乙15発明を前
提とするものである。しかしながら、電動式衝撃締め付け工具において、電動モー
タをアウタロータ型のものとすること(相違点A関係)と当該電動モータにおいて
磁石を筒状のロータの内周面に隙間を設けて貼設すること(相違点B関係)は、そ\nれらの内容に照らし、相互に関連する技術ではなく、互いに独立した別個の技術で
あるといえるから、原告の主張は、相違点Bに係る本件発明等の構成の容易想到性\nを左右するものではない。
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1審はこちらです。
◆令和2年(ワ)4913
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2024.05.16
令和5(行ケ)10091 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年4月22日 知的財産高等裁判所
特許異議申立がなされて取消審決がなされましたが、知財高裁は、相違点1−2と相違点1−3は一体として検討すべきとして、これを取り消しました。
(2) 相違点の容易想到性についての判断の誤りについて
ア 原告は、本件決定が相違点1−1から同1−3までを関連付けずに判断
している点が誤りであると主張するところ、当裁判所は、相違点1−1は
ともかく、少なくとも相違点1−2と相違点1−3は一体として検討する
必要があると判断する。その理由は、以下のとおりである。
本件発明の内容は前記第2の2のとおりであって、ポリプロピレンフィ
ルムと蒸着膜との間に、密着性に優れた極性基を有する樹脂材料を含む表\n面コート層を備えることにより、層間の剥離を防止し、また、シランカッ
プリング剤とともに用いられる場合も含め金属アルコキシドと水溶性高
分子との樹脂組成物からなるバリアコート層を蒸着膜上に設けることで、
蒸着膜のクラック発生をも防止し、さらには、ボイル又はレトルト処理が
行われる場合であってもガスバリア性の低下の抑制が図られるように、バ
リアコート層表面の珪素原子と炭素原子との割合を特定の範囲にしたも\nのであって、高いガスバリア性を有するボイル又はレトルト用バリア性積
層体を提供するという技術的意義を有するといえる。そして、本件明細書
によれば、珪素原子と炭素原子の比(Si/C)の上限は、バリア性積層
体を屈曲させてもガスバリア性の低下を抑制できるという観点から定め
られ、下限は、バリア性積層体を加熱してもガスバリア性の低下を抑制で
きるという観点から定められているのであるから(【0076】、表5〜\n表7)、ボイル又はレトルト用であるか否かに係る相違点1−3と、珪素\n原子と炭素原子の比の数値範囲に係る相違点1−2は、一体として検討さ
れるべきものである。
イ 以上を前提に、相違点1−2と相違点1−3に係る容易想到性につき一
括して判断するに、まず、本件決定が副引用例とする甲4には、別紙6の
記載があり、ここから本件決定の認定に係る甲4記載事項(別紙4の1(2))
を認定できることについては争いがない。
甲4は、電気製品等の機器の消費エネルギーを削減するための真空断熱
材用外包材等に関するもので、外包材により形成された袋体内に芯材を配
置し、上記芯材が配置された袋体の内部を減圧して真空状態とし、上記袋
体の端部を熱溶着して密封し、上記袋体内部を真空状態とすることにより、
気体の対流が遮断されるため、真空断熱材は高い断熱性能を発揮すること\nができるというものである(【0001】〜【0003】)。
甲4記載事項は、第1フィルム(金属酸化物リン酸層付きフィルム。第
1樹脂基材と金属酸化物リン酸層から成る。)、オーバーコート層付きフ
ィルム(樹脂基板、無機層、オーバーコート層から成る。)、熱溶着可能\nなフィルムから構成される真空断熱材用外包材のうち、オーバーコート層\n付きフィルムの中のオーバーコート層及び無機層をもとに抽出されたも
のである。
ウ 本件決定は、甲3発明に、甲4記載事項のオーバーコート層における炭
素原子に対する珪素原子の比率を適用するものである。
しかし、甲4記載事項は、前提とする積層構造が、甲3発明と異なる上、\n以下のとおり、甲4は、甲3発明とは技術分野が共通するものとはいい難
く、さらに、相違点1−3に係る構成(ボイル又はレトルト用)を開示又\nは示唆するものでもない。すなわち、甲4は、高温高湿な環境においても
長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材用外包材等の提供を\n目的とするものであるが(【0008】)、高温多湿な「環境」を想定す
るにとどまり、物を入れて積極的に加熱殺菌処理をする行為であるレトル
トやボイル(一例として、優先日前の公知文献である特開2007−13
7438号公報〔乙4〕では、レトルト処理について110゜C)〜130゜C)
位、圧力、1〜3Kgf/cm 2 ・G位で約20〜60分間程度の加熱加
圧殺菌処理、ボイルについて90゜C)位で30分間位の加熱殺菌処理〔【0
002】〕等が挙げられている。)を想定しているとはおよそ考えられず、
実際、甲4には、レトルトやボイルを前提とする記載はない。
その上、甲3の【0044】には、「炭素の割合が50%より多い場合、
バリア性が温度、湿度の影響を受け易く、15%より少ない場合、バリア
性が悪くなり、膜質が脆くなる。」として、炭素が少なすぎると膜質が脆
くなることが示唆されているのに対し、甲4の【0111】には、「オー
バーコート層を構成する原子における、炭素原子に対する金属原子の比率\n(金属原子数/炭素原子数)は、0.1以上、2以下の範囲内であり、中
でも0.5以上、1.9以下の範囲内、特には0.8以上、1.6以下の
範囲内であることが好ましい。」という炭素原子に対する金属原子の比率
(金属原子数/炭素原子数)を示す記載に引き続いて、「比率が上記範囲
に満たないと、オーバーコート層の脆性が大きくなり、得られるオーバー
コート層の耐水性および耐候性等が低下する場合がある。一方、比率が上
記範囲を超えると、得られるオーバーコート層のガスバリア性が低下する
場合がある。」として、金属原子に対して炭素原子の数が過剰に多くなる
とオーバーコート層の脆性が大きくなって、ガスバリア性の低下につなが
る旨の記載があるところ、これは、上記甲3の【0044】の記載と正反
対の内容である。
そうすると、当業者において、甲3発明の食品包装材料についてボイル
又はレトルト用途とすることを想起したとしても、甲4におけるオーバー
コート層を構成する原子における金属原子の比率は加熱によってもガス\nバリア性が維持されるかどうかとは関わりのないものであること、甲4に
は、炭素原子と金属原子の比率と、膜質の脆性について、甲3と正反対の
記載があることに鑑みても、甲3発明とは技術分野も積層構造も異なる真\n空断熱材用外包材に関する甲4の積層体の中から、オーバーコート層付き
フィルムの中のオーバーコート層及び無機層に関する記載に着目した上、
オーバーコート層における炭素原子に対する金属原子の比率(金属原子数
/炭素原子数)を参酌して、甲3発明に適用する動機付けを導くには無理
があるというほかなく、本件決定の判断には誤りがある。
エ 被告は、Si/Cの数値範囲に特段の技術的意義はなく、層構成に係る\n共通の技術について「Si/C」を用いて数値範囲を検討することが甲4
にあるとおり公知であることを併せると、甲3発明において甲4記載事項
を参考にして、相違点1−2に係る本件発明の構成とすることは、当業者\nが容易に想到し得た旨主張する。
被告が、Si/Cの数値範囲に特段の技術的意義はないと主張する根拠
は、1)本件発明1の発明特定事項が「バリアコート層が、金属アルコキシ
ドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜で\nあるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリ
ング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜」と択一的なも\nのになっており、シランカップリング剤には珪素が含まれるにもかかわら
ず、本件明細書上効果が確認されているのはシランカップリング剤を含む
バリアコート層だけであるという点、2)本件発明1の数値範囲は甲3から
簡単に算出でき、甲4にも同数値範囲内のものが例示されているという点
にある。
しかし、上記1)についていえば、シランカップリング剤が珪素を含むと
いうような一般論だけで、シランカップを含むものであるバリアコート層
の効果に係る【表4】〜【表\7】の結果、及びSi/Cの数値範囲の効果
に係る【表5】〜【表\7】が、シランカップ剤を含まないバリアコート層
について技術的意義がないとは直ちにいえないし、そもそも、技術的意義
が裏付けられているかどうかと、構成が容易想到といえるかどうかの問題\nは直結するものではない。
また、上記2)についていえば、甲3発明の「X線光電子分光分析法」の分
析における「炭素と酸素と珪素が、それぞれ15〜50%、30〜65%、
5〜30%の割合で存在すること」から、珪素原子と炭素原子の比(Si/
C)は、0.1以上、2以下と算出することができ、この数値範囲は、本件
発明1の数値範囲である「0.90以上1.60以下」を包含するからとい
って、炭素と酸素と珪素の数値範囲で一定の技術的意義を示している甲3
の記載から、炭素と珪素だけを抽出すべき合理的な理由、技術的な必然性
は認められない。
甲4の表1には、30質量部(Si/C比率1.58)、38.5質量部\n(同比率1.25)及び50質量部(同比率1.03)という、本件発明1
の数値範囲内のものが開示されているが、同表では膜特性は示されておら\nず、このSi/C比率で、本件発明1の数値範囲外の他の質量部より優れ
ていることが示されているわけでもないから、当業者が当該数値に着目す
るともいえない。
そして、甲3とは「層構成に係る発明である」という程度の共通性しかな\nい甲4に「Si/C」を用いて数値範囲を検討することが記載されていた
からといって、当業者において甲4記載事項を参考にして相違点1−2、
相違点1−3に係る構成とすることが容易に想到できるとはいえない。\n
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2024.04.22
令和5(ネ)10010 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年2月27日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
1審では、技術的範囲に属するが新規性違反の無効理由有りと判断されました。控訴人は訂正審判を請求するとともに、控訴しました。被控訴人は訂正要件違反の無効理由を主張しましたが、知財高裁は訂正要件違反なしと判断し、差止と約50万円の損害賠償を認めました。
(イ) 乙18分析及び乙24分析における分析対象物である公然実施発明
(引用発明)に基づく進歩性欠如の主張について
a 公然実施発明は、公然実施品の具体的な構成又は組成等に基づいて認\n定されるため、通常、その公然実施品自体に課題が記載されていること
はなく、何らかの課題があることを認識することは困難であるから、公
然実施発明に基づく容易想到性の有無を判断するにあたっては、公然実
施品から出願日(優先日)当時の技術常識を前提にして技術的思想や課
題を認識できるかどうか、その構成又は組成を変更する動機付けがある\nか否かを検討すべきである。
・・・
c 被控訴人の主張について
(a) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕イ・ウのとおり、
本件特許の優先日前に公然実施された被控訴人製品「無限七星FIS
H」の重量平均分子量4.5×104との比較において、「1500
0」という上限値が技術的にいかなる意義を有するのかが不明であ
り、本件優先日において、ポリアリルアミンの重量平均分子量上限値
の「15000」と、公然実施発明に係る同「45000」は、いず
れもポリアリルアミンの重量平均分子量として広く知られ、一般的に
利用されている範囲内のものであるから、本件発明は、公然実施発明
に基づいて当業者が当然に予測することができたもので、進歩性を有\nしない旨を主張する。
この点につき、乙13(特開昭58−201811号公報)は、モ
ノアリルアミンの重合体の製造方法について記載されたものである
ところ、アリル化合物が通常のラジカル系開始剤によっては重合し難
いという問題があったことから、ラジカル系開始剤を用いて、モノア
リルアミンの高重合度の重合体を製造する方法を提供することを目
的とするものであり、請求項1に記載の特定のラジカル系開始剤(分
子中にアゾ基とカチオン性の窒素原子を持つ基とを含む。)を用いれ
ば、モノアリルアミンの無機酸塩が、極性溶媒中で極めて容易に重合
し、高収率で高重合度の重合体が得られることを見出したものであっ
て(特許請求の範囲の記載、2頁左上欄及び3頁左下欄)、実施例に
は、乙13記載の製造方法によって製造された数平均分子量(Mn)
が「6500〜45000」のポリアリルアミンが記載されている。
しかし、乙13は、ポリアリルアミンを水に含有した際の機能につい\nて、また、数平均分子量の違いによる機能の差異について記載ないし\n示唆するものではないから、乙13の記載から、公然実施発明(引用
発明)の「無限七星FISH」について、含有成分であるポリアリル
アミンの重量平均分子量等の物性を変更することが動機付けられる
ものとはいえない。
また、乙12の1(メディカル社のウェブサイト)には、「PAA
🄬(ポリアリルアミン)」の製品紹介が記載されており、「日東紡が
世界で初めて工業的製法を確立したポリアリルアミン(PAA🄬)は、
一級アミンを主成分とする機能性カチオンポリマー」であり、「様々\nな素材のカチオン化や高機能化に最適」であることや、「お客様の使\n用目的・用途に応じてのご提案も可能」であることが記載され、「ア\nリルアミン塩酸塩重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量
平均分子量(M.W.)が「1,600」(PAA−HCL−01)、
「15,000」(PAA−HCL−3L)、「100,000」(P
AA−HCL−10L)等の製品が、また、「アリルアミン(フリー)
重合体[1級アミン単独、水溶液]」として、重量平均分子量(M.
W.)が「1,600」(PAA−01)、「15,000」(PA
A−15C)、「25,000」(PAA−25)等の製品が、それ
ぞれ記載されている(1/3−2/3頁)。
また、乙12の2には、メディカル社の研究・開発の歴史について
記載され、「PAA🄬」に関して、「1984(昭和59)年 PA
A🄬の(ポリアリルアミン)の重合方法発明および販売開始」、「1
991年(平成3)年 低分子PAA🄬を直接染料用固着剤として用
途開発・販売開始」等の記載がある。
しかし、乙12の1及び乙12の2も、ポリアリルアミンを水に含
有した際の機能や、重量平均分子量の違いによる機能\の差異について
記載ないし示唆するものではないから、乙12の1の記載から、公然
実施発明(引用発明)の「無限七星FISH」について、含有成分で
あるポリアリルアミンの重量平均分子量等の物性を変更することを
動機付けられるものとはいえない。
そうすると、乙13、乙12の1及び乙12の2の各記載を考慮し
ても、前記公然実施発明(公然実施品)の構成又は組成について、技\n術的思想や課題を認識できるような、本件優先日当時の技術常識があ
ったとはいえないから、たとえ、重量平均分子量が「15000」又
は「45000」であるポリアリルアミンが市販されたものであり、
当業者に広く知られ、一般的に利用されているものであったとして
も、そのことを根拠に、当業者が公然実施発明のポリアリルアミンの
重量平均分子量等の物性を変更することを当然に予測できるとはい\nえない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(b) 被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕エのとおり、本件
明細書にはポリアリルアミンの重量平均分子量につき本件訂正に係
る数値範囲は記載されていないから、当該数値範囲に特別な技術的意
義は認められず、本件明細書には重量平均分子量と発明の効果との間
に因果関係があることも記載されていないから、市販品として容易に
入手可能な重量平均分子量のポリアリルアミンを採用することに困\n難性はなく本件発明は進歩性を有しないと主張する。
そこで本件発明の技術的意義について検討すると、前記アのとお
り、本件明細書には、簡便に調製でき、且つ優れた機能を有する機能\
水を提供することを課題とし(段落【0002】ないし【0010】)、
当該課題を解決するために、機能水に、式(3)(式(3’)を包含\nする。)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含むポリマー
等の多価アミン及び/又はその塩を機能成分として含有することを\n特徴とし、当該機能成分の機能\として、魚介類又は精肉の鮮度保持を
含む種々の機能を有することが開示されている(段落【0012】、\n【0013】、【0015】及び【0026】)。
また、式(3)で表される不飽和アミンに由来する構\造単位を含む
ポリマーとして、本件発明のポリアリルアミン又はジアリルアミン重
合体に該当するポリマーBが例示されており、その重量平均分子量が
「例えば100〜200,000、好ましくは300〜100,00
0、さらに好ましくは500〜50,000である」こと(段落【0
052】ないし【0055】)、ポリマーBの市販品として、重量平
均分子量が「1600」であるポリアリルアミン(PAA−01)、
「15,000」であるポリアリルアミン(PAA−15C)及び「5,
000」であるジアリルアミン重合体(PAS−21)が開示されて
いる(段落【0065】)。
そして、実施例において、具体的に、重量平均分子量が「1600」
若しくは「15,000」であるポリアリルアミン又は重量平均分子
量が「5,000」であるジアリルアミン重合体及び精製水を配合し
た試験液を用いて、魚介類又は精肉の鮮度保持を含む種々の機能を確\n認したことが開示されている(段落【0108】ないし【0237】)。
そうすると、本件明細書の記載から、「重量平均分子量500〜1
5000」のポリアリルアミン又はジアリルアミン重合体を含有する
機能水である本件発明には、前記のとおりの機能\を有する点で技術的
意義があることが認められる。
そして、前記(a)のとおり、公然実施発明(引用発明)に基づいて、
その含有成分であるポリアリルアミンの組成に着目し、重量平均分子
量等の物性をあえて変更することについて動機付けがあるとはいえ
ないから、前記本件発明との相違に係る重量平均分子量の数値範囲の
ものに置換することが容易に想到できたものとはいえない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和3(ワ)4920大阪地裁
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2024.04.17
令和5(行ケ)10034 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月27日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決が取り消されました。知財高裁は、新規性違反、冒認出願違反であると判断しました。
(2) 甲53の1文書について
ア 甲53の1文書は、ベルベット織りの立毛シートの製造工程を示すものとし
て交付されたものであり、別紙2のとおり、「「生機投入」→「スチームセット」→
「ドライセット」→「糊抜き」→「脱水」→「染色」→「脱水」→「乾燥(ブラシ)」
→「ブラシ※ブイテック様」」との工程が記載されている。
イ 「生機投入」の部分により、製織工程と切断工程が開示されているといえる
かという点について争いがあるので検討するに、「生機」とは「織り上げて織機から
はずしたままの織物」を意味するところ(甲114・大辞林第四版)、ベルベット織
りの織り機は、織ると同時に切断も行うことから一度に2枚分が織り上がるもので
あって、「織り機からはずしたままの織物」は、切断後の織物であると認められるか
ら(甲40、112)、「生機投入」との記載から、甲53の1文書を受領した当業
者は、当然に、製織工程と切断工程を経た生機が投入されると理解すると認めるの
が相当である。そして、甲53の1文書の「生機投入」の使用機器欄に記載された
「ZQ40 4mm」はパイル長4mmのポリエステル製パフ用の立毛シートの生
機の品番を意味するものと認められ(証人C〔28頁〕)、ポリエステルは熱可塑性
繊維であるから(本件明細書【0020】等)、甲53の1文書の「生機投入」工程
の記載により、本件各発明の製織工程と切断工程が開示されていると認められる。
ウ そして、甲53の1文書の「スチームセット」は本件各発明の「蒸し工程」
に、「ドライセット」は本件各発明の「プレセット工程」に、「糊抜き」は本件各発
明の「精練工程」にそれぞれ相当する(証人A〔5〕)。また、「染色」は本件各発明の「染色工程」に相当し、「染色」の次に記載された「脱水」は、真空脱水とあるか
ら脱水機を用いたものであることが明らかであって、本件各発明の「脱水機により
前記染料を脱水する脱水工程」に相当する。さらに、「乾燥(ブラシ)」はドライセ
ッターで150゜C)で乾燥させるものであるから、本件各発明の「前記立毛シートを
熱風で乾燥させる乾燥工程」に相当する。なお、特許請求の範囲の記載及び本件明
細書の記載を総合しても、本件発明1の乾燥工程から、ブラシを用いるものが除外
されているとは認められない。
エ そうすると、甲53の1文書に記載された工程は、本件発明1を構成する工\n程を全て含むものであるから、本件発明1を開示するものといえる。
オ この点、被告は、甲53の1文書記載の工程では、精練工程の後に脱水をし
ていること、タンブラー乾燥をしていないこと、使用液剤に酸性の液剤が含まれて
いないこと等から、本件各発明とは異なると主張する。しかしながら、本件発明1
の特許請求の範囲の記載に照らすと、請求項1に記載された工程を全て含む必要が
あるとはいえるものの、同工程のみを含むものに限定されており、別の工程が付加
されたものが除外されているものと理解することはできない。そして、本件明細書
の記載に照らしても、本件発明1は、請求項1に記載された工程のみを含むものに
限定されていると理解することはできない。そうすると、「精練工程の後に脱水」を
していることをもって本件各発明とは異なるということはできない。また、タンブ
ラー乾燥は本件発明3を構成する要素ではあるものの、本件発明1を構\成するもの
ではない(なお、前記2(5)(8)のとおり、タンブラーを利用した乾燥工程は、平成
18年頃から新栄染色で行われていたものと認められるが、当時、当該乾燥工程の
存在及び内容が秘密事項として管理されていたことをうがわせるような主張立証は
ない。そもそも、甲12(パイル織編物の仕上げ方法に関する公開特許公報(昭6
2−191566号))中にもパイル織物の染色加工後、タンブラー乾燥機で乾燥す
る旨の記載があることにも照らすと、本件各発明の出願時において、少なくとも、
熱可塑性繊維のパイル織物についてタンブラーを利用して乾燥する工程自体は公知
であったと考えられる。)。さらに、酸性の液剤を使用することは本件各発明の技術
的範囲に含まれるものではなく、その他の被告の指摘する事項はいずれも本件各発
明を構成する事項ではない。したがって、上記被告の主張はいずれも前記エの判断\nを左右するものではない。
被告は、甲53の1文書の工程は開発途中のものであって技術として確立してい
なかったとも主張するが、前記2(9)のとおり、同工程は、平成23年10月頃、新
栄染色において、現に商品の製造に用いられていた工程なのであるから、これが発
明に当たるとすれば、発明として完成していたのは明白である。
(3) 甲2文書について
甲2文書は、前記2(11)のとおり、ベルベット織りによる立毛シートの製造工程
を示すものとして交付されたものであり、別紙3のとおり、「織り」→「蒸しセット」→「PS」→「精練」→「染色」→「乾燥」の各工程が記載されたものである。甲
2文書に記載された工程について前記(2)と同様に検討すると、甲53の1文書に
記載された工程と同じであり、本件発明1を開示するものであると認められる。な
お、「織り」が製織工程と切断工程を含むことについては前記(2)イと同様であり、
「PS」はプレセットを意味するものと認められる(証人A〔34頁〕)。また、甲
2文書の工程には「乾燥」の前の「脱水」が記載されていないものの、乾燥する前
に脱水を行うことは当然であるから、当業者は、甲2文書により、脱水工程を含む
ものが開示されているものと理解すると認められる。
(4) 小括
そうすると、本件発明1は、平成23年10月頃には公然知られていたと認めら
れるから、本件発明1に係る特許は特許法29条1項1号の規定に違反してされた
ものであって、特許法123条1項2号の無効理由がある。
したがって、甲2生産工程(甲2文書に記載された工程であり、かつ甲53の1
文書に記載された工程)が公然知られたものとはいえず、本件発明1が特許法29
条1項1号に該当しないとする本件審決の判断には誤りがあるから、取消しを免れ
ない。
4 取消事由4(冒認出願についての判断の誤り)について
(1) 冒認出願を理由として無効審判請求をすることができるのは特許を受ける権
利を有する者に限られるから(特許法123条2項、1項6号)、原告は、自らが特
許を受ける権利を有する者であることを証明する必要がある。そして、原告が主張
する本件各発明に係る特許を受ける権利は、Bが発明者として有していた本件各発
明に係る特許を受ける権利に由来するものであるから、原告が特許を受ける権利を
有する者であるといえるためには、Bが本件各発明の発明者であると認められる必
要がある。
(2) ここで、発明者とは、発明の技術的思想の創作行為に現実に加担したもので
あって、課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与した者をいう
ところ、前記1(2)によると、本件各発明の特徴的部分は、蒸し工程と乾燥工程の双
方を用いることにより、高い立毛性を得ることにあり、本件発明3については、こ
れに加えて、タンブラーを使用することでブラッシング付き乾燥機を要しないもの
となったことにあると認められる。
(3) 前記2(9)及び前記3(2)のとおり、本件発明1は平成23年10月までに完
成していたということができる。前記2の経緯及びAが、新栄染色のAとして作成
した平成21年7月1日付け文書(甲128の3)に、「現況のB流を60点とする
と80点迄は持っていける」と記載していたことからすると、新栄染色では、平成
21年7月当時、Bが指導した工程により染色加工が行われていたことが認められ、
これに反する証拠はない。そして、前記2のBの職歴や本件訴訟に提出されたBが
作成したメモ(甲132)、Bが、新栄染色設立以前にも昌和染色に対し染色工程を
指導するなどしていたこと(甲1の1、証人C〔29頁〕)に照らすと、Bは、立毛
シートの染色加工に関し、創意工夫を凝らして発明をするに足る十分な知見を有し\nていたことが推認されるのであり、Bが、その陳述書(甲1の1)において、昭和
40年代の後半、プレセットの前に蒸し工程をするという工程を開発した経緯等と
して、株式会社杣長からポリエステルなど合成繊維のパフ用ベルベット織物(立毛
シートの半製品)の製造委託を受けたが、ポリエステルでは、シルクやレーヨンと
は異なり、ピン式ヒートセッターでピン止めして吊るしてプレセットを行うとピン
付近とそれ以外の部分が不均質になるという問題があったことから、プレセット前
に蒸し工程を行い、ポリエステルを収縮させてからプレセットをしたところ、パイ
ルが立毛になるという効果があったこと、蒸しは蒸し箱内にベルベット織物を垂下
させて高温水蒸気で蒸すものであり、Bが条件を90〜110゜C)、2時間と指示し
て行ったこと、パイル長が2〜3mmであったことなど、開発の経緯及び内容を具
体的に陳述していることは、これと整合するものである。
また、Bは、昭和50年代から、京都において、日本化工有限会社の従業員とし
てハセガワベルベットから委託を受けた染色加工工程に関与し、平成元年に有限会
社新栄テキスタイルを設立した後も、同社において被告から染色加工の委託を受け
ていたこと、同年頃までにBが作成したとされるメモ(甲132の2)には、染色、
脱水後の乾燥をタンブラーで行う旨の記載があること、平成18年に、新栄染色が
設立された際、BはAからの誘いにより代表取締役に就任したこと、その頃、Bが\n京都からタンブラー乾燥機を新栄染色に持ち込んで設置したこと、新栄染色におい
ても、Bは染色加工業務を担当し、被告代表者であったCに対し、染色加工の具体\n的内容を指導していたことは、前記2(3)から(6)までのとおりである。以上を総合
すると、Bは、遅くとも新栄染色を退職する平成21年3月よりも前に、本件各発
明をいずれも完成させていたものと推認するのが相当である。
なお、被告は、Bの陳述書(甲1の1)にパイル長が2〜3mmであったとある
から、Bには短いパイル長のものに係る知見しかなかったと主張するが、本件各発
明の特許請求の範囲(請求項4)には「切断工程後のパイル糸の長さを、織物基布
から3〜10mmの範囲で突出させる」とあるから、パイル長が3mmのものは、
本件各発明の技術的範囲に含まれるものであり、上記被告の主張は、Bが本件各発
明をするに必要な知見を有していたとする上記判断を左右しない。
(4) これに対し、Aは、本件の審判手続における尋問では、本件各発明のキーポ
イントは蒸し工程であり、蒸し工程の後にヒートセット(プレセット)を加えるこ
とにたどり着いた、長い間、蒸し工程をいれないでやっていた(甲74の3・06
4項目、130項目、131項目、149項目)と述べ、本件訴訟においても、被
告は、令和5年11月8日付け被告準備書面(2)2頁においては、本件各発明をする
前の短いパイル糸のベルベットに関する新栄染色の染色工程には蒸し工程及びプレ
セットが含まれておらず、長いパイル糸のベルベットを製造することができなかっ
た旨主張し、それに沿う内容のAの陳述書(乙8)を提出した。ところが、被告は、
同年12月19日付け被告準備書面(3)5頁では、本件各発明をする前にも新栄染
色では長いパイル糸のベルベットの製造をしており、その工程には蒸し工程が含ま
れていたがプレセットが含まれていなかったと主張を変更し、更に、令和6年1月
22日付け被告準備書面(4)では、短いパイル糸の染色工程にも蒸し工程が含まれ
ていたと主張を変更し、変更後の主張に沿う内容のAの陳述書(乙11)を改めて
提出した。この主張内容及び陳述内容の変更は、発明の課題そのものや発明の必要
性、発明の創作過程に極めて大きな影響を与えるものであるから、真にAが発明者
であるのであれば、単なる記憶違いなどによって上記のごとくその内容を変遷させ
るとはおよそ考え難い。なお、前記2(6)のとおり、新栄染色では当初は外注により、
遅くとも平成19年からは自社で蒸し工程を実施していたのであるから、新栄染色
が以前は「蒸し工程をしていなかった」との被告の従前の主張は事実とは認められ
ない。
さらに、被告の主張によると、従前の新栄染色の染色工程においてはプレセット
を行っていなかったことになるが、Aが述べる試行錯誤の内容は、プレセットにつ
いては、それを行う順番を試行錯誤したというものであって、プレセットを入れる
こととした理由については何ら説明をしていない。このことは、当時、既にプレセ
ット工程自体は存在しており、Aは専らその工程の順番について試行錯誤していた
ことをうかがわせるものである。また、Aが蒸し工程について試行錯誤した内容と
して述べる条件は、「90゜C)の蒸気で、0分、30分、60分、120分」と試した
というものであって、「95〜110゜C)で2〜3時間蒸す」(【0022】)という本
件明細書の記載と合致しない。Aは、本件の審判手続の尋問において、自ら発明ノ
ートを作成したことはないことを前提とした発言をしているが(甲74の3・13
5項目)、これは試行錯誤を繰り返していたはずの発明者としておよそ不自然とい
うほかない。
被告は、本件各発明においては乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いることが重要
である旨主張する。しかし、前記2(5)(8)のとおり、新栄染色には、平成18年頃
から既にタンブラー乾燥機が設置されており、平成23年頃にはその台数が3台に
増加していたことが認められる。Bらが作成し、平成21年8月20日に被告大阪
営業所からFAX送信されたものと認められるメモ(甲106)によっても、遅く
とも同日までには、新栄染色では、乾燥工程にタンブラー乾燥機を用いていたこと
がうかがえる。前記2(10)のとおり、A自身が作成した平成24年1月10日付け
メモ(甲100の3)にも、新栄染色に関し、タンブラー方式はコストが高いこと
から平成24年中旬にテンター方式へ変更する旨の記載がある。これらの点に照ら
すと、遅くとも、平成24年までには、ベルベット織物の製造分野において乾燥工
程にタンブラー乾燥機を利用することは普通に行われていたと認めるのが相当であ
るから、本件各発明において創作されたものとは認められない。Aは、中和剤を用
いることで精練工程の後の脱水工程を省略し、ウィンス機で精練工程と染色工程が
できるようになったと証言しているが(証人A〔6頁〕)、そもそも中和剤を用いる
ことは本件各発明の特許請求の範囲に記載された事項ではなく、本件明細書には「ウ
ィンス機を使用して、」「立毛シートを処理液(例えば、アルカリ剤、非イオン活性
剤)中に順次送り込んで洗浄する」(【0024】)との記載があるものの、中和剤を
用いることで脱水工程を省略することができる旨の記載はないから、結局、上記A
の証言は、それが発明について述べたものだとしても、本件各発明とは関係のない
別の発明について述べるものにすぎない。Aは、小型、大型、中型のタンブラーで
試し、中型のタンブラーを用いることで目的を達成することができたとも証言して
いるが(証人A〔9頁〕)、本件発明3の特許請求の範囲にはタンブラーの大きさに
ついての言及はなく、本件明細書の記載を考慮しても、「タンブラー」の大きさは不
明であり、特許請求の範囲に記載された「タンブラー」が「中型のタンブラー」で
あり、タンブラーの大きさが何らかの技術的意義を有するものであると解すること
ができるような記載もない。
以上を総合すると、Aが染色工程につき様々な工夫をしたことがあったとしても、
いずれも本件各発明に係る特許請求の範囲の内容に含まれるものではないから、本
件各発明の発明者がAであるとの被告の主張を採用することはできない。他にBが
平成21年3月よりも前に本件各発明をいずれも完成させていた旨の前記認定を覆
すに足りる主張立証はない。
(5) したがって、本件各発明に係る発明者はBであると認めるのが相当であるか
ら、本件の出願は冒認出願に当たり、本件特許には特許法123条1項6号の無効
理由がある。また、原告は、Bから特許を受ける権利の一部について譲渡を受け(甲
16)、残部はBの相続人の全員が相続放棄したことにより原告に帰属したから(甲
110、111)、本件各発明に係る特許を受ける権利を有する。
よって、本件特許について冒認出願の無効理由がないとした本件審決の判断には
誤りがある。
◆判決本文
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2024.04.11
令和5(ネ)10086 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月27日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
「化合物自体が公知文献に明記されており、当該化合物を初めて製造できたことに技術的意義が認められる物質特許の発明については、化合物自体は公知であるから、その発明は新規性を欠く」と無効主張しましたが、知財高裁は1審と同じく、技術的範囲に属すると判断しました。
控訴人は、化合物自体が公知文献に明記されており、当該化合物を初めて
製造できたことに技術的意義が認められる物質特許の発明については、化合
物自体は公知であるから、その発明は新規性を欠くと解すべきであり、仮に
新規性を有するのであれば、その発明の技術的意義は当該化合物を製造でき
たことについて認められるものであるから、その技術的範囲は、発明者が現
実に発明した製造方法によって製造された物か、単離された高純度の化合物
に限定されるべきであると主張するが、以下に述べるとおり採用できない。
ア 発明が技術的思想の創作であること(特許法2条1項参照)にかんがみ
れば、特許出願前に頒布された刊行物(同法29条1項3号)に物の発
明が記載されているというためには、同刊行物に発明の構成が開示され\nているだけでなく、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の
創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその\n技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術的思想が開示されてい
ることを要する。
特に当該物が新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製造
方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから、
刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に、当
該物質の構成が開示されていることにとどまらず、その製造方法を理解\nし得る程度の記載があることを要するというべきであり、刊行物に製造
方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に接した当業
者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時\nの技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見出すことがで
きることが必要であるというべきである。
そして、本件において、公知文献である本件引用例に5−アミノレブ
リン酸リン酸塩の製造方法に関する記載は見当たらず、乙16〜18の
各論文によっても、特許出願時の技術常識に基づいて当業者がその製造
方法その他の入手方法を見出すことができたとは認められない(以上は
原判決「事実及び理由」第3の3(1)イ〔14頁〜〕に同じ。)。
イ 他方、本件明細書には、5−アミノレブリン酸リン酸塩の物質の構成が\n開示されている(【0009】、【0014】〜【0016】)にとど
まらず、当業者がその製造方法を理解し得る程度の記載があるところ
(【0007】、【0019】〜【0028】、【0034】〜【00
36】)、これは、新規の化学物質の発明である本件発明について、当
業者が実施し得る程度の発明の技術的思想を開示するものであって、単
なる製造方法としての技術的意義にとどまるものではない。
そして、特許が物の発明についてされている場合には、その特許権の
効力は、当該物と構造、特性等が同一である物であれば、その製造方法\nにかかわらず及ぶこととなる(最高裁平成24年(受)第1204号同
27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁参照)。
ウ なお、控訴人が指摘するような、本件特許の出願の際に製造等していた
者については先使用による通常実施権(特許法79条)により、本件特
許の出願後に製造方法等の発明をした者については通常実施権の設定の
裁定(同法92条)により、特許権者との利益の調整が図られることに
なる。
◆判決本文
1審はこちら。
◆令和4(ワ)9716
本件特許の無効審判に関する審決取消訴訟です。
結論は本件と同じです。
◆令和4(行ケ)10091
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2024.04.10
令和5(行ケ)10056 承継参加申立事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月25日 知的財産高等裁判所
サポート要件違反および進歩性違反の無効理由無しとした審決について、知財高裁は後者の無効理由有りとして審決を取り消しました。
(エ) 本件適用に係る動機付けの有無
a 技術分野
(a) 前記アの甲11の記載によると、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュ
バントのエマルジョンを製造する技術の分野に属する発明であると認められる。
他方、前記(イ)のとおり、甲65には、「導入」として、「合成ポリマーの微小
多孔性膜を使用する通常のフローフィルタ等は、多種多様なバイオ医薬液体の濾過
用途に広く使用され、これらのフィルタの主な目的は、製品中の細菌汚染の可能性\nを減らすことである」旨の記載、「濾過膜は、血液分画、血清の処理、大容量非経
口剤(LVP)等の従来の製薬用途でも日常的に使用され、ここでの目標は、バイ
オ医薬品プロセスと同じであり、製品の細菌汚染の可能性を低減させることである」\n旨の記載等があり、甲65は、これらの膜を備えた具体的な製品として、本件製品
に言及している。また、前記(ア)のとおり、丙4には、本件製品が「広範囲の医薬
製品を濾過できるように設計されたものであり、広範囲の化学的適合性を備えるも
のである」旨の記載がある。これらによると、本件製品は、少なくとも上記の「従
来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも
当然に適用し得るものであると認められるから(なお、前記(ア)のとおり、丙4に
は、本件製品の用途の例として「バルク医薬品」が挙げられている。)、本件周知
技術は、甲11発明(認定)が属する技術分野を包む技術分野に属する技術である
と認めるのが相当である。
以上のとおりであるから、甲11発明(認定)と本件周知技術とは、その属する
技術分野を共通にするといえる。
(b) 参加人は、甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用いて製造
したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであるところ、ワ
クチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらない、丙4には本
件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンの滅菌フィルタに使用し得る旨の記
載がないとして、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知技術が属する技
術分野とが異なる旨主張するものと解される。
しかしながら、前記(a)のとおり、本件製品は、少なくとも甲65にいう「従来
の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも当
然に適用し得るものであるから、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知
技術が属する技術分野とが異なるとはいえない。参加人の主張は失当である。
b 甲11発明(認定)が有する課題
(a) 甲11には、前記アにおいて認定した箇所を含め、本件適用を動機付ける
ような課題の記載はみられない。
しかしながら、甲20(日本ワクチン学会編「ワクチンの事典」(平成16年))
の「無菌性の保証 ワクチンは通常、…無菌製造、無菌充填が行われる。」との記
載、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「プレフィルタと最終フィルタの組合せを
正しく選択することで、流速、濾過時間及び全体的な濾過コストの最適なバランス
が得られる」旨の記載、「膜濾過の主な目標である滅菌濾液の提供を評価する基準
として、1)細菌の効果的な保持がされること、2)高い総処理量を有することによる
濾過コストの削減がされること、3)許容可能な範囲の流速による妥当な時間枠にお\nけるバッチ全体の濾過がされることなどが挙げられる」旨の記載、「本件製品の製
造業者が製造する本件製品と同種の製品のプレフィルタ層は、非常に高い処理量を
実現し、10インチエレメント当たりの有効濾過面積を30%以上向上させ、0.
2μmの最終フィルタ層は、本件製品の組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を
提供する」旨の記載等)に加え、甲11発明(認定)と本件周知技術とがその属す
る技術分野を共通にすること(前記a)に照らすと、ワクチンアジュバントのエマ
ルジョンの製造に用いられる濾過膜については、その品質を向上させるため、1)細
菌を効果的に保持すること、2)総処理量が大きいこと及び3)流速が妥当なものであ
ることが求められているものと認められる。それのみならず、そもそもワクチンア
ジュバントのエマルジョンの製造に用いられる濾過膜において、上記1)から3)まで
の要請が達成されることにより当該濾過膜の品質の向上につながることは、これら
の要請の内容に照らし、本件優先日の当業者にとって自明であったというべきであ
る。したがって、甲11発明(認定)には、これらの要請を達成するとの課題(以
下「本件課題」という。)が内在しており、甲11発明(認定)に接した本件優先
日当時の当業者は、甲11発明(認定)が本件課題を有していると認識したものと
認めるのが相当である。
(b) 参加人は、ここでも甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用
いて製造したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであり、
ワクチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらないから、甲6
5の記載をもって甲11記載の発明の課題を認定することはできないと主張する。
しかしながら、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュバントのエマルジョンを
製造する技術の分野に属する発明であり、甲65は、従来の製薬用途でも日常的に
使用され、製品の細菌汚染の可能性を低減させることを目的とする濾過膜について\n述べた文献であるから、甲65記載の事項(本件課題)は、少なくとも甲65にい
う「従来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製
造にも当然に当てはまるものというべきである。それのみならず、そもそもワクチ
ンアジュバントのエマルジョンの製造に用いられる膜において、本件課題が本件優
先日当時の当業者にとっての自明の課題であったことは、前記(a)のとおりである。
参加人の主張を採用することはできない。
c 本件課題の解決手段
(a) 前記(ア)のとおりの丙4の記載(「本件製品のフィルタカートリッジは、現
存する滅菌フィルタカートリッジのいずれと比較しても優れた特性を持ち、広範囲
の化学的適合性、高耐熱性、高処理量、高流速の特性を全て備えている」旨の記載、
「本件製品のカートリッジは、0.45μm膜を用いた「組み込み予備濾過」によ\nる分画濾過のため、非常に高い総処理能力を持ち合わせている。ポリエーテルスル\nホン膜の非対称的孔構造は、低い圧力下で、高い流速を提供する」旨の記載、「本\n件製品のフィルタカートリッジは、HIMAやASTM F−838−83ガイド
ラインに従う滅菌グレードのフィルタエレメントとして十分検証されている」旨の\n記載、95%閉塞時における総処理量において本件製品が最も優れている旨のグラ
フ等)、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「本件製品の製造業者が製造する本件
製品と同種の製品の0.2μmの最終フィルタ層は、本件製品の0.45μm/0.
2μmの組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を提供する」旨の記載等)及び弁
論の全趣旨によると、本件製品が備える親水性異質二重層ポリエーテルスルホン膜
をワクチンアジュバントのエマルジョンの製造(濾過)に用いることにより、本件
課題をいずれも解決することができるものと認めるのが相当である。
(b) 参加人は、丙4の記載は本件製品の特性に関する一般論を述べるものにす
ぎず、丙4には本件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンを含む水中油型エ
マルジョンの滅菌濾過を用途とし得るものである旨の明記がないとして、丙4記載
の本件製品の特性をもって甲11記載の発明が有する課題を解決することができる
ものであると認めることはできないと主張する。
しかしながら、本件製品は、広範囲の医薬製品を濾過することができるように設
計され、広範囲の化学的適合性を備えるものであり(前記(ア))、また、ワクチン
アジュバントのエマルジョンの製造にも当然に適用し得るものである(前記a)と
ころ、甲65及び丙4には、本件製品をワクチンアジュバントのエマルジョンの製
造に用いた場合に、本件製品が持つ本来の性能が十\分に発揮されないものとうかが
わせる記載は一切なく、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はないから、
甲65及び丙4に記載された本件製品の性能は、本件製品をワクチンアジュバント\nのエマルジョンの製造に用いた場合にも発揮されるものと認めるのが相当である。
参加人の主張を採用することはできない。
d 本件適用に係る動機付けの有無についての参加人のその余の主張に対する判
断
参加人は、1)甲11記載の発明における第1の濾過工程と第2の濾過工程は段階
を異にする別個の工程である、2)前者の工程と後者の工程は濾過の条件(高温高圧
条件下での実施の要否)、用いる濾過膜の性質(細菌保持力の強弱)及び濾過のタ
イミング(バルクの充填工程の前後)を異にするものであるとして、甲11記載の
発明に接した当業者において、前者の工程と後者の工程を1つの濾過工程(本件製
品の膜を用いた工程)に置き換えることが容易であったとはいえないと主張する。
しかしながら、前記イ(イ)において説示したとおり、参加人が主張する工程(III))
(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)は、アジュバン
トエマルジョンを抗原溶液と組み合わせる場合とこれらを組み合わせない場合とが
あることから便宜上設けられた工程とみる余地があり、少なくとも後者の場合にお
いては、当該工程を経ることが技術的に必須であるとまでいえないと考えられるの
であるから、甲11記載の発明において第1の濾過工程と第2の濾過工程を連続し
て行うことは、同発明の技術的思想と何ら背馳するものではない(この評価は、甲
11(前記ア)に、第1の濾過工程(大きな粒子を除去する工程)につき「安定性
を有するエマルジョンの製造のために重要である」旨の記載が、第2の濾過工程に
つき「滅菌濾過を行った上、アジュバントを単回投与用のバイアルに充填する」旨
の記載がそれぞれあることによっても妨げられるものではない。)。そうすると、
甲11記載の発明の第1の濾過工程と第2の濾過工程が連続して行うことができな
い別個の工程であるということはできないから、上記の1)の点を根拠とする参加人
の主張を採用することはできない。
また、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第1の濾過工程におけ
る濾過と第2の濾過工程における濾過がどのような温度や圧力の下で行われなけれ
ばならないかについての記載はなく、その他、濾過が行われるべき温度又は圧力を
第1の濾過工程と第2の濾過工程とで別異にすべきであることを認めるに足りる証
拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者において、第1
の濾過工程における濾過は高温高圧下で行う必要があるが、第2の濾過工程におけ
る濾過は高温高圧下で行う必要がないなどと認識するものとは認められない。細菌
保持力の点についてみても、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第
1及び第2の濾過工程において使用される各膜につき、これらの細菌保持力の強弱
についての記載はなく、その他、細菌保持力を第1の濾過工程において使用される
膜と第2の濾過工程において用いられる膜とで別異にすべきであることを認めるに
足りる証拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者におい
て、第2の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要があるが、
第1の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要がないなどと認
識するものとは認められない。濾過のタイミングの点についてみても、参加人が主
張する工程(III))(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)
を経ることが技術的に必須であることを認めるに足りる証拠がないことは、前記イ
(イ)において説示したとおりであるから、甲11記載の発明に接した本件優先日当
時の当業者において、第1の濾過工程はアジュバントエマルジョンのバルクの大き
な瓶への充填の前に行う必要があり、第2の濾過工程は当該充填の後に行う必要が
あるなどと認識するものとも認められない。したがって、上記の2)の点を根拠とす
る参加人の主張も採用することはできない。
e 本件適用に係る動機付けの有無についての小括
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定)
に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
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2024.04.10
令和5(行ケ)10069 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月25日 知的財産高等裁判所
無効審判の判断について争いましたが、第一次判決の拘束力により、請求理由なしと判断されました。
前記第2の1(特許庁における手続の経緯等)並びに証拠(甲39、乙22)及
び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(1) 原告は、令和元年11月12日、本件各発明に係る本件特許について特許
無効審判の請求をした。
(2) 特許庁は、令和3年10月8日、本件訂正を認めた上、本件発明1等に係
る本件特許を無効とし、本件発明4に係る本件特許に対する審判請求は成り立たな
い旨の第一次審決をした。第一次審決においては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて
容易に発明をすることができたものである。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明
をすることができたものとはいえない。
(3) 被告は、令和3年11月13日、第一次審決のうち本件発明1等に係る本
件特許を無効とした部分の取消しを求める訴えを提起し、原告は、同月16日、第
一次審決のうち本件発明4に係る本件特許に対する審判請求は成り立たないとした
部分の取消しを求める訴えを提起した。
(4) 知的財産高等裁判所は、被告の訴えに係る事件及び原告の訴えに係る事件
を併合審理した上、令和4年8月31日、被告の請求を認容し、第一次審決のうち
本件発明1等に係る本件特許を無効とした部分を取り消すとともに、原告の請求を
棄却する旨の第一次判決を言い渡し、第一次判決は、その後確定した。第一次判決
においては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて
容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明
をすることができたものとはいえない。
(5) 特許庁は、令和5年5月22日、本件訂正を認めた上、本件各発明に係る
本件特許についての審判請求は成り立たない旨の本件審決をした。本件審決におい
ては、次の点がその理由とされた。
ア 本件発明1等は、いずれも本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて
容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明
をすることができたものとはいえない。
(6) 原告は、令和5年6月29日、本件審決のうち審判請求を不成立とした部
分の取消しを求めて本件訴えを提起した。本件訴訟における原告の主張は、前記第
3のとおりであるが、結局、次のとおり要約することができる。
ア 本件発明1等と甲1引用発明との間に本件構成に係る相違点2及び相違点4\nは存在しないというべきである。しかるところ、本件審決は、このような相違点が
あることを前提に、本件発明1等に係る本件構成は、いずれも本件出願日前に当業\n者が甲1引用発明に基づいて容易に想到し得たとはいえないと判断した点において
判断を誤っている。
イ 本件発明4は、本件出願日前に当業者が甲1引用発明に基づいて容易に発明
をすることができたものであるから、その進歩性を認めた判断は誤りである。
2 本件発明1等に係る本件特許について(審決取消判決の拘束力)
(1) 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が
確定したときは、審判官は、特許法181条2項の規定に従い、当該審判事件につ
いて更に審理を行って審決をすることとなるが、審決取消訴訟は、行政事件訴訟法
の適用を受けるから、再度の審理又は審決には、同法33条1項の規定により、当
該取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに
必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は、取消判決の当該
認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって、再度の審判手
続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につき、こ
れを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、あるいは、当該主張を裏
付けるための新たな立証をすることを許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束
力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟におい
てこれを違法とすることができないのは当然である。
このように、再度の審決取消訴訟においては、審判官が当該取消判決の主文のよ
って来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上、その拘束力に従ってされた
再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは、確定した取消判
決の判断自体を違法として非難することにほかならず、再度の審決の違法(取消)
事由たり得ない。
以上を特許発明の進歩性判断が問題となる特許無効審判事件の審決の取消訴訟に
ついて具体的に考察すると、特許無効審判の対象とされた特許発明が、特許出願前
に当業者において特定の引用例に記載された発明に基づき容易に発明をすることが
できたとはいえないとの理由により、当該特許発明に係る特許を無効とした審決の
認定判断が誤りであるとして当該審決を取り消す旨の判決がされ、これが確定した
ときは、再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果、審判官は、同一の引用例
に記載された発明に基づく進歩性の判断に当たり、当該判決と異なる認定判断をす
ることは許されない。したがって、再度の審決に係る審決取消訴訟において、関係
当事者が、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断が誤りである
(当該特許発明は特許出願前に当業者において同一の引用例に記載された発明に基
づき容易に発明をすることができた)として、これを裏付けるための新たな立証を
し、また、裁判所が、これを採用して取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決
を違法とすることは許されないと解するのが相当である(前掲最高裁平成4年4月
28日第三小法廷判決参照)。
(2) これを本件についてみるに、前記認定のとおり、第一次審決(本件発明1
等に係る本件特許を無効とした部分。以下、この(2)及び後記(3)において同じ。)
は、本件発明1等につき、これらがいずれも本件出願日前に当業者において甲1引
用発明に基づき容易に発明をすることができたものであると判断して、本件発明1
等に係る本件特許を無効としたところ、第一次判決(第一次審決を取り消した部分。
以下、この(2)及び後記(3)において同じ。)は、本件発明1等につき、これらがい
ずれも本件出願日前に当業者において甲1引用発明に基づき容易に発明をすること
ができたものとはいえないと判断して、第一次審決を取り消したものである。また、
第一次判決の確定後にされた本件審決(本件発明1等に係る本件特許に対する審判
請求は成り立たないとした部分。以下、この(2)及び後記(3)において同じ。)は、
本件発明1等に係る甲1引用発明に基づく進歩性について、第一次判決と同様の判
断をして、本件発明1等に係る本件特許に対する審判請求は成り立たないとしたも
のである。
ここで、前記(1)によると、再度の審判請求において、本件発明1等が本件出願
日前に当業者において第一次判決が認定判断した同一の引用例(甲1)に記載され
た発明に基づき容易に発明をすることができたか否かにつき、審判官が第一次判決
とは別異の事実を認定して異なる判断を加えることは、第一次判決の拘束力により
許されないのであるから、本件審決は、第一次判決の拘束力に従ってされた限りに
おいて適法であるとされなければならない。
そして、前記(1)によると、第一次判決の拘束力に従ってされた本件審決の取消
訴訟(本件訴訟)において、第一次判決の認定判断(本件発明1等が本件出願日前
に当業者において甲1引用発明に基づき容易に発明をすることができたものとはい
えないとの認定判断)を否定する関係当事者の主張立証は許されないことになるか
ら、原告は、本件訴訟において、このような主張立証(本件発明1等の甲1引用発
明に基づく進歩性欠如の主張立証)をすることができないというべきである。
したがって、甲1引用発明に基づいて本件発明1等が進歩性を欠く旨原告が主張
することは許されない。
(3) 原告は、本件訴訟における原告の主張(取消事由1及び2)につき、これ
は「相違点2又は4に係る本件発明1等の構成のうち本件構\成に係る部分は、本件
発明1等と甲1引用発明との相違点ではない」との第一次判決が判断していない事
項についての本件審決の判断の誤りを指摘するものであるから、本件訴訟において
取消事由1及び2を提出することは第一次判決の拘束力に反しないと主張する。
確かに、乙22によると、第一次判決においては、原告が本件訴訟において取消
事由1及び2として指摘する事項(相違点2又は4に係る本件発明1等の構成のう\nち本件構成に係る部分の実質的相違点性)についての判断がされなかったものと認\nめられる。しかしながら、本件発明1等に係る甲1引用発明に基づく進歩性の判断
は、本件発明1等及び甲1引用発明の各認定並びにこれを前提とする一致点及び相
違点の認定を踏まえて行われる法律判断である。前記のとおり、拘束力は、判決主
文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、甲1
引用発明に基づく進歩性欠如を否定した第一次判決の法律判断の前提となった本件
発明1等と甲1引用発明との間の相違点に係る事実認定についても、第一次判決の
拘束力は及ぶというべきである。したがって、本件審決の審判官が、同じ甲1引用
発明に基づく進歩性の判断に当たり、第一次判決とは別異の事実を認定して異なる
判断を加えることは、第一次判決の拘束力により許されず、第一次判決の拘束力に
従ってされた本件審決は適法なものである。原告の主張は、第一次判決の拘束力が
及ぶ事実認定及び法律判断部分について、本件審決が誤りである旨主張し、本件審
決の取消事由とするものにほかならず、前掲最高裁平成4年4月28日第三小法廷
判決に照らし、採用することはできない。
3 本件発明4に係る本件特許について(請求棄却判決の既判力)
行政処分の取消訴訟については、請求棄却判決が確定すると、処分に違法性がな
いことについて既判力(行政事件訴訟法7条、民事訴訟法114条)が生じるから、
審決取消訴訟についても、請求棄却判決が確定すると、審決に違法性がないことに
ついて既判力が生じる。
しかるところ、最高裁昭和51年3月10日大法廷判決(昭和42年(行ツ)第
28号)民集30巻2号79頁の趣旨を踏まえると、特許発明の進歩性判断が問題
となる特許無効審判事件の審決の取消訴訟における請求棄却判決の既判力は、審決
に違法性一般がないことではなく、特許無効審判事件において審理された特定の引
用例に記載された発明(公知技術)に基づく進歩性の有無について判断した審決に
違法性がないことに関して生じるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、前記認定のとおり、第一次判決(原告の請求を棄却
した部分。以下同じ。)は、本件発明4につき、これが本件出願日前に当業者にお
いて甲1引用発明に基づき容易に発明をすることができたものとはいえないと判断
して、これと同じ判断をした第一次審決を是認し、原告の請求を棄却したものであ
る。そして、第一次判決は、その後確定したのであるから、甲1引用発明に基づき、
本件発明4が進歩性を欠くとはいえないとした第一次審決に違法性がないことは、
既判力をもって確定されているというべきである。
本件で問題となっているのは、本件審決の違法性であって、第一次審決の違法性
ではないが、原告が、本件訴訟において、甲1引用発明に基づき、本件発明4が進
歩性を欠く旨主張(取消事由3)し、進歩性欠如を否定した本件審決の判断部分が
違法である旨主張することは、実質的にみれば、第一次審決の違法性に関し既判力
が生じている部分(同じ引用発明に基づき進歩性がないとはいえないとの判断)に
ついて、これと異なる判断を求めるものとして、許されないというべきである。
仮にこの点を措くとしても、甲1発明の半田鏝は、先端部の開口部の径が1.0
mmであり、後端部の貫通孔の径が2.5mmであり、この貫通孔内に半田片が落
下し溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構成され、これにより、半田片は、途\n中で引っかかって溶融してしまうことなく、そのまま先端まで落下して溶融するも
のである(甲1の段落【0006】、【0031】、【0034】)。そうすると、
甲1発明の半田鏝については、甲11から13までに記載されたように半田鏝先端
部の内径を半田鏝後端部の内径より大きくすることには、阻害要因があるというべ
きである。したがって、いずれにせよ、本件発明4について、甲1引用発明に基づ
いて進歩性を欠くとは認められない旨の本件審決の判断に誤りはない。
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2024.04.10
令和4(行ケ)10084 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月21日 知的財産高等裁判所
治療薬に関する発明について、進歩性無しとした審決が維持されました
(4) 相違点に係る容易想到性について
ア 相違点1について
(ア) 「心不全の患者」及び「心不全の治療薬」について
前記2(1)、(2)、(5)及び(6)のとおり、本件優先日当時、利尿薬は、心不全の症
状の一つである体液貯留、うっ血、浮腫等を改善する治療薬として、急性心不全(慢
性心不全の急性増悪期を含む。)と慢性心不全とを問わず、また心不全の重症度を問
わず、広く用いられていた薬剤である。また、代表的な利尿薬として用いられるフ\nロセミド等のループ利尿薬は、利尿作用が強い反面、塩化ナトリウムの再吸収を抑
制するために低ナトリウム血症等の電解質異常をきたし得るとの副作用がある上、
利尿薬抵抗性の問題も認識されており、加えて、特に重症心不全患者においては、
体液貯留の管理が重要とされていた。
そして、前記(2)ア(ア)のとおり、甲2には、体液貯留のある心不全患者(NYH
AクラスI)〜III))に対し、フロセミドに上乗せして、異なる部位に作用し、また、
ナトリウムを排泄せずに水のみを排泄する選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬と\nしてのトルバプタンを投与したところ、良好な忍容性とともに、血清電解質の有害
な変化なく、体重減少、尿量増加及び浮腫改善等の効果が得られた旨が記載されて
いる。
そうすると、本件優先日当時、甲2発明及び甲2の記載に接した当業者において、
前記2に認定した技術常識も考慮して、甲2発明のトルバプタンを、「急性心不全ま
たは慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IV)の患者」
における体液貯留等を改善するための治療薬とすることには、十分な動機付けがあ\nり、容易に想到し得たということができる。
(イ) 「活性成分の投与」について
甲2発明における「安定したフロセミド用量(20〜240mg/日)」が、フロ
セミドを必要に応じて投与することを制限する趣旨と読み取れないことは、前記
(2)ウ(イ)bのとおりであるから、この点は実質的な相違点とはいい難い。また、前
記(2)ウ(ウ)のとおり、対象患者の症状や投与方法等を捨象した、単に治療薬を投与
する際に患者が入院下であるか否かという点も、実質的な相違点とはいい難い。
次に、前記2(1)ウのとおり、本件優先日当時、トルバプタンは、経口投与で強力
な水利尿薬として作用する薬物として知られていたのであるから、甲2発明では経
口投与されたか不明であるトルバプタンを本件発明1の対象患者に投与するに当た
り、これを経口投与とすることは、当業者が適宜なし得た事項というべきである。
(ウ) 原告の主張について
原告は、1)医薬分野における容易想到性は、「当該発明の治療及び治療効果につい
て、優先日当時における科学的根拠をもって当業者がこれを容易に評価・確認でき
るか」という観点から判断されるべきであるとした上で、本件優先日当時の技術常
識として、2)ADHFの重症患者と慢性心不全の慢性期の軽症〜中等症患者とは、
その症状、治療内容・態様、治療薬の適応・治療効果が大きく異なっていた、3)同
じ心不全治療薬であっても、NYHAクラスI)〜III)の患者には有効だがクラスIV)の
患者には効果がない又は悪化させる例があった上、NYHAクラスIV)の患者は利尿
薬抵抗性の問題がより深刻であって治療に限界が生じており、トルバプタンにも利
尿薬抵抗性の問題が認識されていた、4)既存の利尿薬の作用機序・薬理作用と、ト
ルバプタンの作用機序・薬理作用は異なるものである、5)ADHFの重症患者に対
して、トルバプタンを含む選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬の投与実績は存在\nしていなかったところ、選択的バソプレシンV2受容体拮抗作用は、内因性バソ\プ
レシンレベルの上昇を誘引し、それがバソプレシンV1a受容体を刺激することに\nより、心血管系や腎臓に悪影響を及ぼすことが理解されていたから、選択的バソプ\nレシンV2受容体拮抗作用を有するトルバプタンを、NYHAクラスIV)のような重
症患者に投与すれば、心不全の症状をさらに悪化させ、最悪の結果にもつながりか
ねないと認識されていた、6)本件試験のような「最適の治療」(併用薬の用量増加、
投与経路変更を含む。)に対する上乗せ試験では、甲2試験のような併用薬の用量固
定・経口投与のみ等の制約されたデザインの試験と比して、上乗せ治療薬の治療効
果が得られにくいと理解されていたなどと主張し、これらの技術常識によると、甲
2発明から相違点1に係る本件発明1の構成に想到する動機付けはなく、又は阻害\n要因があると主張する。
しかし、1)について、進歩性についての判断基準として独自の見解というほかな
く、採用の限りではない。2)について、急性心不全(慢性心不全の急性増悪期を含
む。以下この項において同じ。)と慢性心不全とで、また重症患者と軽症〜中等症患
者とで、治療の内容が異なる点は指摘のとおりであるが、前記2のとおり、利尿薬
に関していえば、急性心不全と慢性心不全とを問わず、また重症と軽症〜中等症と
を問わず、心不全の症状の一つである体液貯留、うっ血、浮腫等を改善する治療薬
として広く用いられていたのであるから、甲2に記載されたトルバプタンの水利尿
効果が、体液貯留等の症状を呈する急性心不全の患者や重症患者にも得られるであ
ろうことを、当業者は当然に想起するというべきである。3)について、NYHAク
ラスI)〜III)の患者とクラスIV)の患者とで取扱いを異にする例として原告が挙げてい
る例(甲38、43、47、70〜77、88)には、利尿薬とは異なる心不全治
療薬が含まれているほか、利尿薬に関するものであっても、NYHAクラスIV)であ
ることを理由に利尿薬の取扱いを異にすべき旨が記載されているとは読み取ること
はできない。前記2(6)のとおり、重症心不全患者では、特に体液貯留等の管理が重
要とされており、重症度の高さや利尿薬抵抗性の問題から利尿薬が十分に効果を発\n揮しない場合があるとしても、また、仮にトルバプタンにも利尿薬抵抗性の問題が
あるとしても、当業者は、NYHAクラスによる重症度を問うことなく、体液貯留
等の症状を改善するために利尿薬の使用を試みるというべきである。4)について、
既存の利尿薬とトルバプタンとの作用機序・薬理作用が異なることは、上記(ア)のと
おり、むしろ動機付けとなるといえる。5)について、本件優先日前に頒布された刊
行物である甲149(Florence Wongほか「A Vasopression Receptor Antagonist
(VPA-985) Improves Serum Sodium Concentration in Patients With
Hyponatremia: A Multicenter, Randomized, Placebo-Controlled Trial 」37
Hepatology 182 (2003))には、NYHAクラスIV)のうっ血性心不全患者に対し、ト
ルバプタンと同じ選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬である「VPA−985」\nを既存の利尿薬と組み合わせて投与したところ、低用量群(25mgを1日2回投
与)では、起立性血圧、血清クレアチニン値及び血清バソプレシン濃度の有意な変\n化なしに、プラセボ対照群と比して有意な水利尿反応及び血清ナトリウム値の増加
が得られた旨が記載されている。同記載からすると、原告が主張するように、選択
的バソプレシンV2受容体拮抗薬につき、血中バソ\プレシン濃度上昇による悪影響
がある可能性を指摘する文献があったことを考慮しても、適切な用量設定等により\n安全に効果を得られることが示されていたのであるから、トルバプタンをNYHA
クラスIV)の重症患者に、また急性心不全の患者に適用することが禁忌であったとは
いえず、阻害要因となるべきものとは認められない。6)については、前記(3)ウ(ウ)
のとおり、トルバプタンと組み合わされる本件発明1の「最適の治療」と甲2発明
の「水分制限なしの標準治療」に実質的に異なるところはなく、また、前記(2)ウ(イ)
bのとおり、甲2発明における「安定したフロセミド用量(20〜240mg/日)」が、治療の制限を意味するものとは読み取れない。
したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
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2024.02.24
令和5(行ケ)10054 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年2月13日 知的財産高等裁判所
一致点・相違点の認定に誤りがあるものの、動機付けなしとの審決が維持されました。
カ 甲8発明と本件発明1との相違点として本件審決が認定したもの(前記
第2の4(2)ア(イ))のうち、甲8相違点2は、前記エの説示によれば、甲8
発明と本件発明1との相違点となるとは認められない。
また、甲8相違点3は、甲8発明における台車用安全カバー及び本件発
明1における保護部材の用途を特定する物としての手押部材の違いを述
べるものであって、甲8発明における台車用安全カバーと本件発明1にお
ける保護部材との相違点とはいえない。したがって、甲8発明と本件発明
1との相違点は、甲8相違点1及び取付位置に係る相違点のみであると認
められる。
キ 前記第2の2(3)のとおり、1)本件発明2は、本件発明1の構成要件1A\nないし1Fを全て含み、2)本件発明3は、本件発明1の構成要件のうち、\n1Eを「前記保護部は、円板状である。」(構成要件2E)に変更したもの\nであり、3)本件発明4ないし7は、本件発明1の構成要件1Aないし1F\nを全て含むか、又は本件発明3の構成要件1Aないし1D、2E及び1F\nを全て含むものである。
そうすると、本件発明2ないし7は、いずれも、甲8発明との関係で、
甲8相違点1及び取付位置に係る相違点があると認めることができる。
ク 以上のとおり、甲8発明と本件各発明との一致点及び相違点に係る本件
審決の判断には相当でない部分があるものの、これによって直ちに本件審
決の判断が違法となることはなく、甲8相違点1を前提に、当業者が、本
件優先日の技術水準に基づいて、これらの相違点に対応する本件各発明を
容易に想到することができたかどうかを判断すべきである。
(3) 容易想到性について
前記(1)のとおりである甲8発明の内容によれば、甲8発明の台車用安全カ
バーは、その本体、すなわち甲8発明の全体が保護部を構成しており、作業\n者の手挟み事故を防止するとともに、手押部材の掌握部、すなわち台車のコ
字状のハンドルのグリップ部の位置を使用者に認識させる作用をもつもので
あるといえる。このことは、甲8商品2と同一の構成の商品を含む甲8商品\n1に係るパンフレット(甲8の2)に、「台車に取り付けることで、作業員の
手挟み事故を防止!掌握部もわかりやすくなり、安全指導がしやすくなりま
す」との記載があることからも裏付けられる。
このように、甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルの水平部
分をグリップ部とすることを前提として、コ字状のハンドルのカーブ部分に
取り付ける台車用安全カバー(保護部材)であって、これによって手挟み事
故の防止を図るものであるから、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)
にグリップ部を設けることは全く想定されていないといえる。
そうすると、仮に、台車の手押部材にグリップ部を設けること、又は台車
等の保護部をグリップ部と一体化したものとすることが、本件優先日の時点
で周知技術であったとしても、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)に
接した当業者において、これらの周知技術を甲8発明に適用する動機付けが
あったとは認められない。
したがって、引用発明である甲8発明に基づいて、甲8相違点1に係る本
件各発明の構成が容易に想到できたとは認められず、甲8発明を前提とする\n進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとは認められない。
(4) 前記第3の1〔原告の主張〕について
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)のとおり、甲8発明の台車用安
全カバーは、直線の棒にも装着可能であり、コ字状のハンドルのカーブ部\n分に対してのみ取り付け可能な製品ではないから、本件審決における甲8\n発明の認定は誤りであると主張する。
この点、長岡産業代表取締役である甲の陳述書(甲53)には、甲8商\n品2は、甲8商品1とともに、カーブ部分に装着することに特化した形状
(特に孔の形状)となっておらず、曲がっていない直線の棒にも装着可能\nなものであった旨の陳述がある。
しかし、甲8商品2の本体及び取付穴の形状から、物理的には直線の棒
に装着することが可能であるとしても、甲8商品2のパンフレット(甲8\nの3)及び甲8商品2と同一の構成の商品が含まれる甲8商品1のパンフ\nレット(甲8の2)の各記載及び掲載された写真からすれば、甲8商品2、
すなわち甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルのカーブ部分
に取り付けることにより、使用者の手がハンドルの上下方向の直線部分に
掛からないように規制し、これによって手挟み事故を防止するものである
と認められる。
上記各パンフレットに掲載された、各商品が台車のハンドルに装着され
た状態の写真は、いずれもコ字状のハンドルのカーブ部分に装着されたも
のを撮影したものであって、直線の部分に装着した写真ではないと認めら
れる。また、甲8の2には、「ハンドルのカーブ部分に挟み込み、テープを
はがして包むだけ!」と表記されているのであって、カーブ部分に挟み込\nむことが単なる使用の一例にすぎない旨の記載はされていない。
以上のとおり、甲8発明に関する本件審決の認定に誤りがあるとは認め
られない。
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2024.02.23
令和5(行ケ)10015 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年12月11日 知的財産高等裁判所
進歩性違反無しとした審決が維持されました。甲2発明を組み合わせる動機づけ無しです。
ウ 甲1発明と甲2の技術的事項とを組み合わせる動機付けについて
前記イのとおり、甲2発明の気体吹込羽口の周囲に使用するマグネシ
ア−カーボン煉瓦は、酸素吹込みによって生じるホットスポットによる
高熱や不活性ガス吹込みによる冷却作用により、激しい温度勾配や熱衝
撃が加えられるという過酷な環境下の内張煉瓦として使用される前提に
おいて、目地損傷原因の目地開きを生じせしめるクリープ変形を防ぐこ
とによって、損傷防止が図られるものとなっている。
これに対し、甲1発明のN2ガスを吹き込むガス吹き込み用マグネシ
ア・カーボン質耐火物は、前記第2の2(3)アの[甲1発明の内容]記載の
とおり、それ自体が気体を吹き込む部材となっている点において、甲2
発明の内張煉瓦とは態様が異なる上に、甲2発明の気体吹込羽口のよう
にホットスポットによる高熱を生じさせる酸素を吹き込むことは想定さ
れていないものということができる。
そうすると、温度勾配や熱衝撃の点において、甲2発明の煉瓦のほう
が甲1発明の耐火物よりも損傷しやすい過酷な環境にさらされる蓋然性
が高いということができ、そのような甲2発明の煉瓦では目地開きを生
じせしめるクリープ変形を防ぐことが特性として重要であるとしても、
それとは使用態様や使用環境の異なる甲1発明の耐火物にも、当然同じ
特性が求められるものとはいえないというべきである。
そうすると、当業者であっても、甲1発明と甲2の技術的事項とを組
み合わせて、相違点2に係る特定事項を得る動機付けがあるとはいえな
いということができる。
なお、この点につき、甲3には、前記第2の4記載のとおり、「ごく一
部の大型煉瓦などは800゜C)から1200゜C)程度の還元雰囲気下で焼成
し」、「焼成後に消化防止、低気孔率化のためピッチ含浸されることが多
い。」と記載されているのであって、その記載内容が相違点2に係る特定
事項を得る動機付けについての認定を左右しないというべきである。
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2024.02.23
令和5(ネ)10026 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和6年1月31日 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
特許権侵害訴訟の控訴審判決です。原審は、被告製品は本件発明2の技術的範囲に属さない、本件発明1は公然実施発明Bであって新規性を欠くとして請求棄却しました。控訴審も同様です。
ア 控訴人は、構成要件2Bを「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であることを要する」と解する根拠は、特許請求の範囲の文言にも本件発明2の課題にも
なく、当業者の技術常識等からみても非現実的である旨主張する。
イ しかし、構成要件2Bは「前記排水溝の壁面の表\面粗さが、算術平均粗
さ(Ra)で、2.0μm以下であることを特徴とする」と規定してお
り、本件発明2の特許請求の範囲の文言全体をみても、排水溝壁面の表面粗さについて、一部は2.0μmを超えるが製品の一定範囲や所定の\n測定箇所が2.0μm以下であるものを含む、あるいは全体の算術平均
粗さ(Ra)の平均値が2.0μm以下であるものを含むと解すべき文
言はない。
この点は、本件明細書2の記載をみても同様である。控訴人が指摘す
る本件明細書2の記載や図面は、従来技術や実施例に係る排水溝の性状
等を特に留保なく説明するものであり、控訴人が主張するように、作業
過程で異常(イレギュラー)が発生した箇所があることを前提とし、こ
れを除いた「任意の箇所」を示すものであることを窺わせる記載はない。
控訴人は、1)製紙用弾性ベルトの排水溝は、作業前に設定した加工条
件に基づいて均一的に連続加工されるものであること、2)作業時の諸要
因によって加工結果にばらつきが生じることが避けられないこと、3)排
水溝の壁面を全長にわたって測定する作業は現実的に不可能であり、任意に選定された排水溝の壁面を測定する作業によって製品の性状を把握\nするという、当業者の技術常識を考慮すべき旨主張する。
しかし、上記のとおり明確な構成要件2Bの文言について、明細書にも記載がなく、その範囲も不明確な例外を含むと解することは、不当な\n拡張解釈というべきであって、特許請求の範囲の解釈に当たって当業者
の技術常識を考慮するという枠組みを超えるものといわざるを得ない。
控訴人の主張は、当業者が定める自社製品の品質基準としてはともかく、
独占権が付与される特許請求の範囲の解釈としては採り得ない。
なお、控訴人が指摘する大阪地方裁判所平成15年(ワ)第10959号
同17年2月28日判決は、控訴人の主張を裏付けるものではない。
ウ したがって、原判決判示のとおり、構成要件2Bは「排水溝の『全長にわたって』、その壁面の表\面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下であること」を要すると解するのが相当である。
そうすると、控訴人が主張する<ステップ1>から<ステップ2の2
B>まで、すなわち「各測定結果に係る9溝ないし18溝のデータ数値
を参照し、特定の溝壁面の表面粗さ数値が他の溝の同一壁面に比して突出して高くなっている」ものを「当業者からみて明らかに溝加工作業時\nに生じた異常(イレギュラー)」として除外すること、及び「測定結果
に係る各壁面の表面粗さの平均値が算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下である結果が得られているか否か」(控訴人の他の主張と併せると、\n任意の測定箇所の算術平均粗さの「平均値」が2.0μm以下であるこ
とを意味すると解される。)により充足性を判断する判断手法は、構成要件2Bを逸脱する独自の解釈に基づくものといわざるを得ず、採用で\nきない。
・・・
(2) 公然実施発明Bに基づく本件発明1の新規性欠如の有無について
イ 公然実施をされた発明に当たるかについて
(ア) 控訴人は、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面にD
MTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可能な分析方法によって知ることができなかった旨主張する。\n
(イ) しかし、まず、証拠(乙37、124、128、129)によれば、
エタキュアー300は、本件特許1の出願前から実用化され、ウレタン
用の硬化剤として注目されていたことが認められる(原判決44頁〜)。
控訴人は、上記文献等はシュープレス用ベルトに使用される硬化剤に
ついて言及するものでないと主張するが、上記文献等はポリウレタン全
般向けの硬化剤としてエタキュアー300を説明するものであるところ、
シュープレス用ベルトに利用される硬化剤が他の一般的なポリウレタン
の硬化剤と異なるとみるべき根拠はない(上記文献等には、代表的な従来品が本件明細書1【0003】に従来のシュープレス用ベルトの硬化\n剤として記載されているMOCAである旨の記載も複数ある。)。
また、被控訴人は、遅くとも平成9年7月時点ではエタキュアー30
0を使用していたところ(原判決45頁)、上記ア(イ)の認定事実によ
れば、被控訴人は硬化剤としてDMTDAを使用することを独自に見出
したのではなく、エタキュアー300を製造販売するアルベマール社の
国内関連会社との取引を契機として知ったと認められる。この事情は、
他の当業者が硬化剤の候補としてエタキュアー300に着目する蓋然性
を裏付ける事情となることは明らかである。
控訴人は、さらに、ポリウレタンの硬化剤はDMTDAの他にも約8
0種類存在し(甲43)、その全てについて標準品を準備して分析依頼
を行うことは非現実的であると主張する。
しかし、「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(乙128)に「実用化
されている熱硬化PUエラストマー用芳香族ジアミン架橋剤」として記
載された5種類、あるいは特開2000−248040号公報(乙12
7)にポリウレタンプレポリマーと反応させるアミン硬化剤組成物とし
て記載された芳香族ポリアミンの15種類、その中でも好ましいと記載
された4種類には、いずれもエタキュアー300又はDMTDAが含ま
れており、当業者は、従来用いられているMOCA(本件明細書1【0
003】)と同類であるこれらの硬化剤を想定するとみるのが自然であ
る。
(ウ) 控訴人は、ベルトの外周面に着目し、外周面のみを切り出して分析を
依頼することは、当業者が通常に利用可能な分析技術とはいえない旨主張する。\nしかし、本件特許1の出願日前において、外周層、内周層等の複数の
層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリマーと硬化剤と
を混合してベルトの弾性材料とすることは技術常識であり(原判決44
頁)、自由に解析等をなし得る状態に置かれたベルトを解析して構造等を特定することは可能\であったと認められる(このことは甲25に記載された断面写真から明らかであり、原判決の認定に問題はない。)。
したがって、ベルトBの外周層を切り出して分析を依頼することは、
本件訴訟において控訴人(甲10の1〜4)及び被控訴人(乙1〜3)
が行ったのと同様、本件特許1出願前の当業者にも可能であったと認められる。\n
なお、当業者が仮に外周層と内周層に異なる硬化剤を用いる製造方法
を認識せず、これらを区別せずに分析を依頼した場合、全体について硬
化剤としてDMTDAが使用されているという分析結果を知ることにな
り、この結果はベルトBの正しい構成なのであるから(乙32)、「外周面を構\成するポリウレタンは、」「ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている」との構成を含め、本件発明1の内容を知り得たといえることに変わりはない。\n
(エ) したがって、本件特許1の出願当時、当業者は、ベルトBの外周面に
DMTDA(エタキュアー300)が使用されていることを通常利用可
能な分析方法によって知ることができたと認められる。ベルトBが公然実施された発明とはいえない旨をいう控訴人の主張は採用できない。\n
◆判決本文
原審はこちら。
◆大阪地裁平成29(ワ)4178
原審では、被告は、一旦、損害論に入ってから、2.0μm以下である」との構成要件を充足しないとして、非侵害の主張を行いましたが、これは「時機に後れた」とは認定されませんでした。
原告は、第15回弁論準備手続期日から損害論の審理が開始されたにもかかわ
らず、被告は、被告製品1〜3及び5と同じシリーズの製品等における排水溝壁
面の表面粗さの測定結果(乙152〜159)を新たに証拠提出するとともに、非侵害の主張を行ったことが時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨を主張する。\nしかし、被告が前記証拠等を提出したのは、原告が、訴状においてはイ号製品
が本件発明2の技術的範囲に属する旨を主張しつつも、被告製品1〜3及び5の
排水溝壁面の表面粗さに限定して立証活動をしていたが、裁判所が本件発明2については損害論に入る旨の心証開示を行ったことを受けて、被告製品1〜3及び\n5の各製品と同じシリーズの製品等についても本件発明2の技術的範囲に属する
旨を改めて主張したことに対応するものであって、必ずしも時機に後れたものと
は認められない。したがって、原告の前記主張は採用できない。
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2024.02.19
令和5(行ケ)10049 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年1月31日 知的財産高等裁判所
進歩性無しとした審決が維持されました。争点は、相違点の認定誤り、動機付け、阻害要因です。
(1) 原告は、引用例2及び引用例3に開示されたイメージファイバを介して照
明光を導く周知の方法はイメージファイバを振動させないものであるのに対
して、引用発明はイメージガイド2の接眼側の端部を振動させるものである
から、イメージファイバの前提構成が異なるものであって、引用発明に上記\nの周知の手法を適用する動機付けがあるとはいえない旨主張する。
(2) しかし、引用例2及び引用例3によれば、集光レンズを介して入射した光
源からの光をイメージファイバにより伝送することは、本件審決が認定する
とおり周知の手法であると認められるところ、引用例3の【0008】、及
び特開2000−121460号公報(乙2)の【0018】、【001
9】、【0029】の記載によれば、内視鏡の技術分野において挿入部を細
径化することは周知の課題であると認められるから、その課題は引用発明に
も内在していると認められる。
そして、本件審決の認定する周知の手法は、引用発明にも内在する上記の
課題の解決手段となるものであるから、引用発明にこれを適用する動機付け
はあるというべきである。
(3) 原告は、さらに、照明光を被観察物体に導くイメージガイド2の接眼側の
端部を振動させると、被観察物体の撮像にどのような影響を与えるのかが不
明であることを考慮すれば、上記周知の方法を引用発明に採用することには
阻害要因がある旨主張する。
しかし、イメージファイバを振動させる技術と、光源からの光をイメージ
ファイバにより伝送する技術とを同時に採用できないとする技術的根拠は見
当たらず、上記(2)のとおり周知の課題を解決する手段である周知の方法を
採用することは、当業者であれば容易に着想して試みるものと認められる。
(4) したがって、引用発明に引用例2及び引用例3の周知の手法を適用するこ
とによって、相違点1及び相違点2に係る構成は容易に想到し得るとした本\n件審決に誤りは認められず、原告主張の取消事由2は理由がない。
◆判決本文
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2024.02.16
令和5(行ケ)10016 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年12月21日 知的財産高等裁判所
車の部品について、進歩性違反無しとした審決が維持されました。理由は動機付け無しです。
原告は、スカッフプレートにおいて電池の交換は必要不可欠であるから、
電池交換のための電池カバーを設ける動機がある、電池カバーを表示部の表\
側に設けることはさまざまな事情から好ましなく、甲8公報の技術常識等を
適用して、裏側に電池カバーを設ける動機がある、本件審決指摘の(a)〜(d)
の変更は、電池交換のため必要であれば当業者は容易に想到し得る旨主張す
る。
しかし、甲1公報によれば、甲1公報の「実用新案登録請求の範囲」に記
載された考案は、外部電源が完全に不要な自動車スカッフプレートに適用さ
れる発光モジュールを提供することを課題とし(【0004】)、この課題
を解決するための発光モジュールは、発光素子及びリードスイッチが設けら
れた「ランプ板」、及び電線を介してランプ板に接続される「電池」が、い
ずれも「導光板」に埋設される構成を有し(【0005】、【0015】〜\n【0017】)、この構成により「導光板10の内部に発光素子20に必要\nな電力を供給することができる電池40を設置するため、完全に外部電源が
不要となる」(【0019】)ことで、上記の課題を解決するものと認めら
れる。
甲1公報には、上記課題の解決の手段として、上記以外の構成は記載され\nていない。
そして、本件審決が認定した甲1発明の構成は、外部電源が完全に不要な\n発光モジュールである上記「導光板10」に、これに埋設された「ランプ板
50」、「電池40」等を密封するための「収容溝カバー70」を設け、本
件発明1の「底板」に相当する「スカッフプレート80」の上面には「凹部」
を設け、この「凹部」に発光モジュールである上記「導光板10」を収容す
るものである。
そうすると、甲1発明においては、電池40が導光板10内に埋設される
ことを含め、「導光板10」に係る上記構成は課題解決に直結した構\成であ
ると理解するのが自然であり、本件審決のいう「甲1電池収容構成」もこれ\nと同趣旨と認められる。
加えて、甲1公報には、電池の交換についての記載はなく、甲1発明に接
した当業者が仮に電池の交換という課題を着想したとしても、相違点1に係
る構成とするためには、(a)収納溝カバー70を除いた上で、(b)導光板10
に代えてスカッフプレート80に電池40を収容する収容孔を設け、当該電
池収容孔を底面側から開口するものとし、(c)該収容孔を覆うカバーを設け、
該カバーを取り外すことで電池40を交換可能とし、(d)スカッフプレート
80に収容することになった電池と、導光板10内に埋設されているランプ
板50等との電気接続を行うという変更が必要になることは、本件審決が認
定するとおりである。
甲1発明をこのように変更することは、課題解決に直結した構成である\n「甲1電池収容構成」を変更するものであることと併せると、動機付けはな\nいといわざるを得ず、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
また、甲8公報からは、表示部を有し電池を電源とする電子機器において、\n表示部とは反対の裏側に電池交換のための取り外し可能\なカバーを設けるこ
とは技術常識であるといえるが、甲1発明のように独立したモジュールが設
けられ、底板(スカッフプレート80)の凹部にモジュールを収容する電子
機器において、裏側からモジュール内部の電池を交換することまでが技術常
識であったとは認めるに足りない。
甲2公報については、甲1発明のスカッフプレート80、すなわち底板に
相当する部材がないから、下側から電池カバーを設けるという抽象的な点を
もって「甲1電池収容構成」と置換可能\ということはできない。
(2) 原告は、甲1発明において収容溝カバー70の取外しは想定されており、
外部から電池40を交換することは当業者が想起し得る旨主張するが、甲1
発明において収容溝カバー70の取外しが可能か否かは不明であるし、仮に\n取外しが可能であれば、取り外すことにより電池交換が可能\と考えられるか
ら、むしろ、電池交換のため底板(スカッフプレート80)に電池収容孔と
電池カバーを設ける構成に変更する必要性は乏しいといえる。\nそうすると、原告の上記主張を考慮しても、上記の構成変更に係る動機付\nけは否定せざるを得ない。
◆判決本文
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2024.02.16
令和4(行ケ)10123 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年12月21日 知的財産高等裁判所
周知技術であっても、適用する動機づけがないとした審決が維持されました。
相違点2〜4は密接に関連するものであるから、事案に鑑みこれを一括し、
甲1発明に周知の技術的事項1及び周知の技術的事項2を適用して、相違点
2〜4に係る本件発明1とすることが容易になし得るかについてまず検討
する。
ア 甲1発明への周知の技術的事項1の適用について
(ア) 周知の技術的事項1は、半導体ウェーハの表面を加工する際の焦点の\n位置を調節するものであり、甲3〜5には、半導体ウェーハの表面以外\nの部位を加工する際の課題や解決手段についての記載はない。また、周
知の技術的事項1は、加工対象物に反りがあることを課題とする解決手
段である。
一方、甲1発明は、前記(1)オのとおり、加工対象物の内部に集光点を
合わせて改質領域を形成し、切断予定ラインに沿って加工対象物を割る\nというものである。また、甲1には、加工対象物の反りについての記載
はない。加えて、甲1には、溶融処理領域を切断予定ラインに沿うよう\nに加工対象物の内部に形成する工程において、レーザ光の集光点につい
てZ軸方向の制御をすることについての記載もない。
そうすると、甲1発明に周知の技術的事項1を適用すべき動機付けは
認められないというべきである。
(イ) 原告は、前記第3の1(1)ア(ア)(イ)のとおり、焦点の位置が加工対象
の表面か、内部であるかにかかわりなく、振動などの外的要因により、\n集光が不安定になることから、加工中の集光点のAF制御が必要になる
のは、当業者の技術常識であり、甲1において、周知の技術的事項1(A
F制御)が明示的に記載されていないとしても、当業者であれば記載さ
れているに等しいと認識し、また、シリコンウェハは一般に反るもので
あり、当業者は反ったシリコンウェハが加工対象となることも認識する
旨主張する。
しかし、甲1発明は、加工対象物の内部に集光点を合わせて改質領域
を形成し、切断予定ラインに沿って加工対象物を割るというものであり、\nその目的や機序からして、加工対象物の表面からレーザ加工する従来技\n術と本質的に異なるのであるから、甲1に半導体ウェーハの表面の加工\nの際の技術である周知の技術事項1が記載されているに等しいとはい
えないし、甲1にはシリコンウェハの反りについて何らの言及もないの
であって、原告の主張は採用できない。
(ウ) 原告は、前記第3の1(1)ア(ウ)のとおり、本件審決が、甲1発明にお
ける集光点のZ軸方向のずれの許容幅の大きさを指摘し、これを根拠に
周知の技術的事項1の適用を否定する判断をしたのは誤りであるとし、
その理由として、1)本件出願日の時点において、厚さ30μmまでの薄
型シリコンウェハも甲1発明の加工対象となり得るところ、加工中の集
光点をウェハ内に収める必要があること、2)甲1の105頁15〜23
行に、比較的厚いウェハの場合にも、改質領域のZ方向の位置が割断精
度に影響を与える旨の記載があること、3)セミフルカットでも改質領域
の深度のばらつきによりクラック等の問題が生じることからすれば、セ
ミフルカットより改質領域以外の部分が大きいステルスダイシングに
おいて、改質領域の深度がばらつけば、チップ分割に支障を来すであろ
うことから、当業者がAF制御の必要性を理解する旨を主張する。
しかし、1)に関し、甲38、39は、薄型シリコンウェハがステルス
ダイシングの加工対象となることを示すものであるが、それが直ちに甲
1発明においてZ方向のAF制御の必要性を導くものではない。
また、原告が2)において引用する甲1の記載は、「クラック領域9と
表面3の距離が比較的長いと、表\面3側においてクラック91の成長方
向のずれが大きくなる。これにより、クラック91が電子デバイス等の
形成領域に到達することがあり、この到達により電子デバイス等が損傷
する。クラック領域9を表面3付近に形成すると、クラック領域9と表\
面3の距離が比較的短いので、クラック91の成長方向のずれを小さく
できる。よって、電子デバイス等を損傷させることなく切断が可能とな\nる。但し、表面3に近すぎる箇所にクラック領域9を形成すると、クラ\nック領域9が表面3に形成される。このため、クラック領域9そのもの\nのランダムな形状が加工対象物の表面に現れ、表\面3のチッピングの原
因となり、割断精度が悪くなる。」というものであるが、これは、改質
領域を形成する深さ方向の位置は加工対象物の表面に近いことが望ま\nしいが、近すぎてもいけないという程度のことを述べるにすぎず、形成
位置を特定したり、それが一定でなければならないとするものではなく、
まして、AF制御の必要性を示すものでもない。また、甲1には、「図
98に示すクラック領域9は、パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物
1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面(入射面)3に近い位\n置に調節して形成されたものである。クラック領域9は加工対象物1の
内部中の表面3側に形成される。」(105頁1〜4行)、「なお、パ\nルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半
分の位置より表面3に遠い位置に調節してクラック領域9を形成する\nこともできる。この場合、クラック領域9は加工対象物1の内部中の裏
面21側に形成される。」(105頁24行〜106頁1行)等の記載
もあり、甲1発明においては、シリコンウェハ内部の改質領域の位置は
シリコンウェハの厚み方向において厚みの半分の位置より表面に近い\n位置の近くから、厚みの半分の位置より表面に遠い位置まで、ある程度\nの幅をもって設定され得ると理解できるのであり、当業者が、甲1発明
において、X、Y軸ステージの振動やウェハの反りにより、レーザ光の
集光点がずれること、すなわち改質領域の位置がずれることが、直ちに
シリコンウェハの割れに影響を及ぼすと理解することはないというべ
きである。
そして、3)に関し、セミフルカットとステルスダイシングは切断の原
理、機序が異なるのであり、前者で改質領域の深度のばらつきにより問
題が生じるからといって、後者においても同様であると当業者が認識す
るとはいえない。
(エ) 以上のとおりであって、原告の主張するところを踏まえても、甲1発
明に周知の技術的事項1を適用することが当業者にとって容易になし
得たとはいえない。
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2024.02.16
令和5(行ケ)10046 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年12月21日 知的財産高等裁判所
除くクレーム「・・全量に対して0〜10体積%であるものを除く。」について、進歩性無しとした審決が維持されました。
以上の甲5の1〜3の記載を総合すれば、角栓除去用クレンジング組成
物において、クレンジング機能(洗浄性)、ウォッシュオフ機能\(水での
洗い流し性)、角栓除去機能、皮膚への負担を考慮して、界面活性剤を1\n0〜20質量%程度、すなわち10体積%を超える量で配合することは、
本件優先日前における当業者の技術常識であったと認められる。
他方、甲5の1には「5〜10質量%」、甲5の2には「10質量%」
の界面活性剤を含むクレンジング剤等が記載されていること自体は、原
告の主張するとおりであるが、本件除く構成における「0〜10体積%\nであるものを除く」との特定は、「0体積%〜100体積%」から「0〜
10体積%であるものを除く」範囲のものであるため、結局、「10体
積%超」の範囲である(「10体積%より多く配合する」)ことを意味す
るものにほかならない。そうすると、構成の容易想到性を判断するに当\nたっては、甲1発明において、界面活性剤の配合量を「10体積%超」
とする(「10体積%より多く配合する」)ことを、当業者が容易に想到
できたことの論理付けができるかを検討すれば足りる。甲5の1〜3が
「0〜10体積%」の界面活性剤を配合したものを含むとしても、その
ことが本件発明と甲1発明との相違点に係る容易想到性を判断する上で、
どのような意味を有するのか、原告の主張によっても明らかでない。
ウ また、本件除く構成の数値限定が顕著な効果を有するものであれば格別、\n本件発明はそのようなものとも認められない。
すなわち、本件明細書によれば、本件発明の効果は、「タンパク質を簡
便に抽出できるため、皮膚に付着したタンパク質を抽出洗浄することが
可能な液状化粧品(「タンパク質洗浄用の液状化粧品」)として好適に使\n用できる」というものであり(【0064】)、「また、本発明のタンパク
質抽出剤は、界面活性剤等を含まなくとも、優れたタンパク質抽出効果
を奏する」ことから、「本発明のタンパク質抽出剤によれば、皮膚への負
担を低減しつつ、所望の洗浄効果が得られる」というものである(【00
65】)。
しかしながら、界面活性剤配合量に関しては、本件明細書の実施例1
6、18及び20が界面活性剤(Tween 80、Span 80)を含む組成の溶液
であるが、「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」量で配合し
たものが存在しないことは前記のとおりである上、試験管内でタンパク
質抽出作用を確認しただけで、皮膚に対する洗浄効果は確認されていな
い。角栓の除去については、実施例13において角栓のある皮膚に対す
る洗浄効果を確認する唯一の実施例が記載されているものの、第2のタ
ンパク質抽出剤Aを含むタンパク質抽出剤を使用した結果、石けんと比
較して「高い洗浄効果を示した」こと、「本発明のタンパク質抽出剤は、
クレンジング剤として好ましく使用できる」ことが示されているのみで
(【0149】)、その組成は界面活性剤を含まないものである(【007
3】、【0138】〜【0141】、【0149】)。そうすると、本件発明
において界面活性剤を「全量に対して0〜10体積%であるものを除く」
量で配合することにより、「角栓除去用液状クレンジング剤」が具体的に
どのような顕著な効果を奏するのかは不明であるといわざるを得ない。
以上に加え、甲1には「角栓やメラニンを含む古い角質や酸化した汚
れもすっきり。」との角栓の除去機能についての記載があることからする\nと、本件発明による上記程度の効果は、当業者が予測し得たものにすぎ\nない。
◆判決本文
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2024.02.15
令和5(行ケ)10020等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年1月23日 知的財産高等裁判所
パラメータを含む特許について、無効審決が取り消されました。
クレーム1は「・・外力に対して鋼管杭に生じる曲率が大きい少なくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分を、前記鋼管杭の直径Dと前記鋼管杭の全塑性モーメントに対応する曲率φpが、φp≧4.39×10−3/Dという関係を満足するものとし、・・・」でした。
(3) 相違点3Aに係る容易想到性についての検討
前記1に認定した本件各発明の概要によると、本件発明3の相違点3Aに係る構\n成は、杭の全塑性の要求性能を満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に\n伴う建設コストの増加との課題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることに\nより解決を図るべく、変形性能の指標として曲率φpを用い、少なくとも陸側に対\n面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ変形性能の\n高い鋼管杭を用いて、当該鋼管杭が地中部において曲率φpを越えないようにした
ものである。
ここで、前記(2)のとおり、甲1発明が属する鋼管杭式桟橋においては、鋼管杭に
高強度鋼管を採用することは周知技術であって、また、本件出願日当時、技術1)(直
杭式横桟橋の性能照査では、杭に発生する応力、杭の支持力、変形量を適切に設定\nして検討すること、杭の断面力は深さ方向に変化し、地中部の深いところでは小さ
くなるのが一般的であるため、経済性の観点から鋼管杭の板厚又は鋼種を変更する
ことがあること)、技術2)(鋼管杭に生じる軸力及び曲げモーメントに応じて杭の曲
げ剛性を低下させて解析を行うこと)、技術3)(杭の断面力は、深さ方向に変化し、
地中部の深いところで小さくなるため、経済性の観点からは鋼管杭の板厚及び材質
を地中部の発生断面力に応じて変更することが望ましいこと)、技術4)(計画水深が
深い岸壁では、強度の大きいSTK490の鋼管杭を用いている例が多くなるこ
と)、技術5)(陸側の地中部において下杭よりも上杭の板厚を大きくすること)及び
技術6)(鋼管杭の部材として、一般に用いられているSKK400及びSKK49
0よりも基準降伏点の高い鋼管杭が、高支持力杭が普及し始めている建築分野にて
商品化されていること)等の技術が公知であったことが認められるが、いずれの技
術によっても、杭の全塑性の要求性能を満足させつつ建設コストの増加を回避する\nため、甲1発明の「鋼管杭」を、変形性能の指標として曲率φpを用いた上で、少\nなくとも陸側に対面して配置された鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分
にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該部分での発生曲率が曲率φ\npを越えないようにすることは導出できないといわざるを得ないし、このような構\n成を得ることが甲1発明及び上記周知技術又は各公知技術に接した当業者が通常行
うべき試行錯誤の範囲内のものということもできない。
したがって、当業者であっても、甲1発明の「鋼管杭」につき、相違点3Aに係
る構成にすることが容易想到であったということはできず、本件発明3は、甲1発\n明並びに上記周知技術及び各公知技術に基づいて当業者が容易に発明することがで
きたものということはできない。
(4) 相違点3Bに係る容易想到性についての検討
本件発明3の相違点3Bに係る構成は、前記(3)のとおり、杭の全塑性の要求性能\nを満足させようとする際に試みる板厚又は径の増加に伴う建設コストの増加との課
題に対し、鋼管杭の局所的な変形性能を上げることにより解決を図るべく、変形性\n能の指標として曲率φpを用い、鋼管杭の地中部における発生曲率が大きい部分に\nのみ変形性能の高い鋼管杭を用いて、当該鋼管杭が地中部において全塑性モーメン\nトに対応する曲率を越えないようにしたものである。
甲13発明の「鋼管杭」は、少なくとも陸側の鋼管杭の地中部は、φ1300m
m×16tのSKK490からなる上杭の下方にφ1300mm×13tのSKK
400からなる下杭で構成されており、技術3)及び4)によると、上杭部分の強度は
下杭部分よりも大きいといえる。しかし、前記(3)と同様に、前記周知技術及び公知
技術(技術1)〜6))によっても、杭の全塑性の要求性能を満足させつつ建設コスト\nの増加を回避するため、上杭と下杭とからなる甲13発明の「鋼管杭」を、変形性
能の指標として曲率φpを用いた上で、少なくとも陸側に対面して配置された鋼管\n杭の地中部における発生曲率が大きい部分にのみ、局所的に変形性能の高い鋼管杭\nを用いて、当該部分での発生曲率が曲率φpを越えないようにすることは導出でき
ないといわざるを得ないし、このような構成を得ることが甲13発明及び上記周知\n技術又は各公知技術に接した当業者が通常行うべき試行錯誤の範囲内のものという
こともできない。
したがって、当業者であっても、甲13発明の「鋼管杭」につき、相違点3Bに
係る構成にすることが容易想到であったということはできず、本件発明3は、甲1\n3発明並びに上記周知技術及び各公知技術に基づいて当業者が容易に発明すること
ができたものということはできない。
(5) 被告の主張について
ア 被告は、「杭の断面力(曲げモーメントを含む概念である。)は深さ方向に変
化するため、深さや発生断面力に応じ杭の材質・鋼種を変更することがある」との
周知技術が認定でき(技術1)、3)参照)、これは典型的には降伏強度の異なる鋼管杭
を用いることである上、「強度の観点のみならず経済性の観点から鋼管杭の板厚及
び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること」、「杭全体のうち、大きい曲げモ
ーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を用いること」、「杭に生じ
る曲げモーメントが大きい箇所において全塑性モーメントに達しないように設計す
ることが望ましいこと」がいずれも技術常識であり、鋼管杭の設計に際しどのくら
いの降伏強度の鋼管杭とするかは周知技術に基づき適宜設計されるものだから、相
違点3A又は3Bに係る構成は、周知技術又は技術常識から導出し得る旨主張する。\nしかし、本件審決が説示するとおり、被告は、「強度の観点のみならず経済性の観
点から鋼管杭の板厚及び鋼種をその設置位置や部位ごとに変更すること」や「杭全
体のうち、大きい曲げモーメントがかかる部分についてだけ高降伏強度の鋼管杭を
用いること」が技術常識であることをいかなる証拠の記載から認定できるかを具体
的に指摘していない上、仮に、これらが技術常識であるとしても、これらを組み合
わせる動機付けや、組み合わせた結果からどのようにして相違点3A又は3Bに係
る構成が導出されるかにつき、技術的視点に基づいた具体的な主張をしていない。\nそして、前記のとおり、周知技術及び公知技術(技術1)〜6))によっても、甲1発
明の「鋼管杭」又は甲13発明の「鋼管杭」を、相違点3A又は3Bに係る構成に\nすることは導出できず、そのような構成を得ることが、当業者が通常行うべき試行\n錯誤の範囲内ということもできない。
◆判決本文
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