経緯が複雑です。2つの無効審判が請求され、いったん併合すると通知されましたが、結局、分離されました。1つ目の無効審判では、訂正を認めたうえ、無効理由なしと判断されました。その後、2つ目の無効審判が開始され、特許権者は2回目の訂正をしましたが、審決は訂正を認めず、無効と判断しました。知財高裁はこの審決を維持しました。
無効理由は特段の効果なしです。
c 訂正明細書の【0075】には、基剤として使用可能な多糖類が、少\n量の水に溶解されると糊状になる「曳糸性を有する物質」であるとの記
載はあるが、その技術的意義の記載はない。また、訂正明細書の【00
93】では、引離法による経皮吸収製剤製造の初期段階で、フッ素樹脂
等からなる平板92の上に、目的物質を含有する基剤91を載せたと
き、基剤として、水に溶解させると曳糸性を示す物質からなるものを用
い、糊状とすることが好ましいとの記載があるが、これは、目的物質を
含有する基剤を針状又は糸状に成形するという引離法における製造上
の便宜を示したものと解される。さらに、鋳型法による場合について
は、訂正明細書の【0095】に、目的物質を含有する基剤が糊状であ
れば孔から取り出した後に乾燥又は硬化させることができることが記
載されているところ、これも、粘度が低い場合には鋳型内で乾燥又は硬
化した後に取り出すことを要することと対照した製造上の利便性の記
載であると解される。
したがって、訂正明細書には、経皮吸収剤が「基剤、目的物質及び水
を含む曳糸性を示す糊状物が乾燥した物」であることと、経皮吸収剤そ
れ自体の構造や特性との技術的関係についての記載は一切存在しない。\nd 甲2−1文献には、「液体溶液の粘度ならびに他の物理的および化
学的特性に依存して、さらなる力(例えば、遠心分離力または圧縮力)
が、鋳型を満たすために必要とされ得る」(【0025】)と記載され、
さらに、粉末形態のマトリクス材料についての記載ではあるが、「粉末
形態がマトリクス材料のために使用される場合、この粉末は、有利に
は、鋳型にわたって分離され得る。粉末の化学的および物理的特性に依
存して、次いで、粉末の適切な加熱が適用されて、鋳型内に粘稠性の材
料を融解または挿入し得る。」(【0026】)との記載もある。この
ような記載に接した当業者であれば、鋳型で液体溶液を乾燥させる場
合、粘度が1つの重要な要素となり、粘度に応じた製法の調整をして対
応するほか、粘度自体も調整の対象となり得ること、粘稠性の材料であ
っても鋳型に充填し得ることを理解するものといえる。
鋳型で乾燥させる液体溶液の粘度の調整については、当業者であれ
ば、乾燥するという目的や、鋳型に充填する際の作業効率といった観点
から行うものであり、ヒアルロン酸水溶液が糊状であるか否かは、ヒア
ルロン酸水溶液の粘度によって決定され、粘度がある程度以上高けれ
ば、糊状になるといえることは前記bのとおりであるところ、上記のよ
うに、甲2−1文献の記載から、粘稠性であっても鋳型に充填し得るこ
とを理解することができるのであるから、乾燥するという目的も勘案
して、液体溶液の粘度を高いものとすることは容易に想到し得ること
である。
そして、そのような液体溶液は粘度によって糊状にも粘稠な液体に
もなり得るのであって、その差は相対的であり、いずれの状態になるよ
うに調整するにしても、それは、当業者が適宜設定し得た事項にすぎな
い。
ヒアルロン酸は曳糸性を有することは前記aのとおり技術常識であ
る以上、当業者においてこのように適宜調整された液体溶液は、曳糸性
を示すものになるといえる。なお、甲57実験成績証明書及び乙19実
験報告書からみれば、希薄なヒアルロン酸水溶液は曳糸性を示さない
が、鋳型で乾燥させてマイクロニードルを作るに当たって、乾燥させる
という目的からみて、そのような希薄な溶液を使用することは想定さ
れない。
以上によれば、引用発明2において、甲1−1文献に記載のヒアルロ
ン酸を採用する際に、ヒアルロン酸と薬剤を含む液体溶液を、「曳糸性を
示す糊状物」とすることは、当業者が容易になし得たことというべきで
ある。
◆判決本文
薬について、無効審判において、訂正請求がなされ無効理由なしと判断されました。知財高裁は、予測できない効果ではないとして、これを取り消しました。\n
本件明細書を見ると、実施例1において、高リスク患者
では、100単位週1回投与群における新規椎体骨折の発生率は、い
ずれも実質的なプラセボである5単位週1回投与群における発生率に
対して有意差が認められるが、低リスク患者では、100単位週1回
投与群における新規椎体骨折の発生率は、いずれも、5単位週1回投
与群における発生率に対して有意差が認められなかったと記載されて
いるのにとどまる(【0086】ないし【0096】、【表6】ないし【表\
11】)ところ、誤記等を修正して再解析したとする数値(前記1(2)オ)
に基づいても、低リスク患者の新規椎体骨折についていえば、100
単位週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人について、それ
ぞれ、ただ1人の骨折例数があったというものであり、このような少
ない症例数のもとでは、上記プラセボ投与群の骨折発生率と対比した
場合の骨折発生率の低下割合(RRR)は、骨折例数が1件増減した
だけでその値が大きく変動することは明らかであるし、そもそも、低
リスク患者を対象とした場合は、5単位週1回投与群であっても骨折
例数が少なく、5単位週1回投与群の骨折発生率に対する、100単
位週1回投与群の骨折発生率の低下割合であるRRRの値が、高リス
ク患者に対するそれに対して小さいのは当然のことといえる。
この点、被告は、3条件充足患者における骨折抑制効果がプラセボ
に対する関係で有意差があり、非3条件充足患者における骨折抑制効
果がプラセボに対する関係で有意差が無ければ、直ちに、本件発明1
の骨粗鬆症治療剤が3条件充足患者に対して優れた効果を有するとい
える旨主張する。しかしながら、有意差が無いということは効果が優れているかどうか不明であるということにすぎず、効果が優れていないということを直ちに意味するものではないし、有意差が無かったことが症例数が不足していることによることも否定できない(甲30、35)から、上記のような結論の導出は適当でない。したがって、実施例1をみても、高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が、低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
◆判決本文
関連事件です。
◆令和3(行ケ)10115