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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

要旨認定

平成26(行ケ)10018  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年10月16日  知的財産高等裁判所

 コンピュータにおける処理について、クレームの”記憶装置”には、揮発性のRAMは含まないとして、審決を取り消しました。 
 審決は,本願発明の「記憶装置」は,その記憶するデータ内容や記憶構造を限定しない「記憶装置」と捉えることができることから,引用発明の「主記憶装置」に相当するとして一致点を認定した。しかし,前記1(2)及び(3)ウで判示したとおり,本願発明の「記憶装置」は,システム内に含まれ,ファイル・システムを含む記憶装置であるところ(請求項1),本願明細書の発明の詳細な説明に照らして,その技術的意義を理解すると,ハード・ディスク等の不揮発性の大容量記憶手段であり,少なくとも揮発性のRAMはこれに含まれないものと解される。これに対し,引用発明の「主記憶装置」は,「オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムをプログラム格納手段から読み出して一時的に記憶する揮発性の主記憶装置」(【請求項1】)で,【発明の実施の形態】の図1の「RAM103」(【0037】)に相当するものであって,「RAM103はCPU101がプログラムを実行するとき,必要なデータを一時的に記憶させる作業領域として使用される揮発性の記憶装置であり,例えばDRAMからなる。」(【0038】)と記載されており,ファイル・システムによって,プログラム等のファイルをフォルダやディレクトリを作成することにより管理したり,ファイルの移動や削除等の操作方法を定めたりすることは記載されていない。そうすると,本願発明の「記憶装置」と,引用発明の「主記憶装置」は相違するものであるから,両者を一致するとした審決の認定は誤りである。そして,引用発明が,「プログラム起動時,起動時間を短縮できる演算装置および演算装置を利用した電子回路装置を提供することを目的」(【0015】)とし,前回終了時に,主記憶装置に記憶されているデータを不揮発性記憶装置に待避させ,演算装置の再起動時に,当該データを主記憶装置に転送することによって,前回の電源オフ時のオペレーティング・システム及びアプリケーション・プログラムの実行状態を再現するものであることからすれば,引用発明における演算装置の再起動時の不揮発性装置からのデータの転送先は,必ず主記憶装置でなければならず,引用発明における揮発性の「主記憶装置」をファイル・システムを含む不揮発性の記憶装置に置き換えることには阻害要因があるというべきである。したがって,審決には,「記憶装置」に関して,本願発明は「ファイル・システム」が含まれる不揮発性の記憶装置であるのに対し,引用発明は,揮発性の「主記憶装置」であるという相違点を看過した誤りがあり,同相違点の看過は,容易想到性の判断の結論を左右するものである。
(3) 被告の主張について
被告は,請求項1を引用する請求項5には,揮発性か不揮発性か限定されていない「固形メモリ装置」(solid state memory),すなわち,RAMのように揮発性だが高速な固形メモリ装置,及び,メモリカードのように不揮発性だが低速の固形メモリ装置の双方が含まれることが記載されているから,本願発明の「記憶装置」にはあらゆる記憶装置が含まれる旨主張する。しかし,そもそも本願明細書には,「固形メモリ装置」について,「RAMのように揮発性だが高速な固形メモリ装置」が含まれるとの記載はないから,被告の主張は理由がない。

◆判決本文

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平成25(行ケ)10236  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年9月24日  知的財産高等裁判所

 36条違反とした審決が取り消されました。
 前記本件審決は,a及びbの各記載部分においては,本件発明1の要旨を本件訂正後の請求項1の記載に従い,「インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体よりなり,第1および第2の面を有する活性層を備え,該活性層の第1の面に接してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,該n型窒化物半導体層に接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層を量子井戸構造とし,活性層を構\成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光することを特徴とする窒化物半導体発光素子。」と記載しているものの,これに続く部分では何らの根拠も示さないまま,請求項及び明細書の記載について,本件訂正を認めているにもかかわらず,本件発明1の発明特定事項から,「n型窒化物半導体層に接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備え」る点を除外し,本件発明1を「活性層の第1の面に接してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する,窒化物半導体発光素子」と言い換え,その後は,hの記載部分に至るまで一貫して,本件発明1が「活性層の第1の面にn型InGaN層が接し,該活性層の第2の面にp型AlGaN層が接し,該活性層を構\成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する窒化物半導体発光素子」であることを前提に,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるか否か,すなわち,実施可能\要件を充たすものであるか否かを判断している。
以上によれば,本件審決は,本件発明1の要旨を,その発明特定事項から「n型窒化物半導体層に接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層」を備える点を除外した構成,すなわち,「活性層の第1の面に接してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,活性層を構\成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する,窒化物半導体発光素子」と認定し,これを前提に本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充たすものであるか否かを判断しているといえる。 一方,本件発明1の要旨は,前記イ求項1の記載,すなわち,その発明特定事項に基づいて,「インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体よりなり,第1および第2の面を有する活性層を備え,該活性層の第1の面に接してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,該n型窒化物半導体層に接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層を量子井戸構造とし,活性層を構\成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光することを特徴とする窒化物半導体発光素子」であると認められるから,本件審決は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が本件発明1について実施可能要件を充たすものであるか否かを判断するに際し,本件発明1の要旨の認定を誤ったものというべきである。 ところで,本件審決は,前記のとおり,形式的には,本件発明1の要旨を本件訂正後の請求項1の記載に従って記載した上で,その「特徴的構成」が「活性層の第1の面にn型InGaN層が接し,該活性層の第2の面にp型AlGaN層が接し,該活性層を構\成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する窒化物半導体発光素子」であるとして,当該構成について,実施可能\要件を判断している。 前記イ認定のとおり,本件発明1は,LED素子の発光波長は,その活性層のInGaNのInの組成比を大きくするか又は活性層にドープする不純物の種類を変えることにより,紫外領域から赤色まで変化させることが可能であるが,LED素子には発光波長が長くなるに従って発光出力が大きく低下するという問題があり,また,不純物がドープされたInGaN活性層には,In含有量が増えると結晶性が悪くなり発光出力が大きく低下するという問題があったことから,本件発明1は,上記課題を解決し,窒化物半導体発光素子の長波長域の出力を向上させることにより,窒化物半導体で全ての可視領域の波長での発光が実現することを目的とし,その解決手段として本件訂正後の請求項1記載のとおりの構\成を採用し,熱膨張係数の小さいクラッド層で熱膨張係数の大きい活性層を挟むことで,両クラッド層と活性層の界面に引っ張り応力を発生させ,かつ,活性層を量子井戸構造とすることで,引っ張り応力を活性層に弾性的に作用させ,これにより活性層のバンドギャップエネルギーを本来のそれより小さくして活性層の発光波長を長波長化し,しかも,Inを含む窒化物半導体よりなる活性層に接して,熱膨張係数の小さいInを含む窒化物半導体又はGaNよりなる第1のクラッド層を備えることで,この第1のクラッド層が新たなバッファ層として作用することにより,活性層が弾性的に変形して結晶性が良くなり発光出力が格段に向上するという効果を奏するものである。\nそして,本件明細書の段落【0037】の「窒化物半導体において,AlNの熱膨張係数は4.2×10−6/Kであり,GaNの膨張係数は5.59×10−6/Kであることが知られている。InNに関しては,完全な結晶が得られていないため熱膨張係数は不明であるが,仮にInNの熱膨張係数がいちばん大きいと仮定すると,熱膨張係数の順序はInN>GaN>AlNとなる。」との記載によれば,熱膨張係数の順序は,InGaN>AlGaNとなること,段落【0039】及び【0040】の記載によれば,InGaNを主とする活性層をAlGaNを主とする2つのクラッド層で挟んだ構造を有する従来の窒化物半導体発光素子では,Alを含むクラッド層が結晶の性質上非常に硬い性質を有しており,薄い膜厚のInGaN活性層のみではAlGaNクラッド層との界面から生じる格子不整合と,熱膨張係数差から生じる歪をInGaN活性層で弾性的に緩和できないことから,活性層の厚さを薄くするに従って,InGaN活性層,AlGaNクラッド層にクラックが生じるという傾向があったが,本件発明1では,InとGaとを含む活性層6に接する層として,新たに第1のn型クラッド層5を形成し,この第1のn型クラッド層5が,活性層とAlを含む第2のn型クラッド層4の間のバッファ層として作用し,活性層を薄くしても活性層6,第2のn型クラッド層4にクラックが入りにくいと推察され,活性層の膜厚が薄い状態においても活性層の結晶性が良くなるので,発光出力が増大するとされていることからすれば,本件発明1が「n型窒化物半導体層に接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層」を備える点は,その発明の特徴を構\成するものであるというべきであり,これを「特徴的構成」から除外する点においても,本件審決の上記認定は誤りであるといわざるを得ない。\n

◆判決本文

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