2008.11. 3
CS関連発明について、記載不備、進歩性なしとした審決を維持しました。ただ、36条の記載不備については下記のような付言がなされています。
「なお,審決が特許法36条6項2号該当性の有無について判断した点について付言する。特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載において,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定する。同号がこのように規定した趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許発明の技術的範囲,すなわち,特許によって付与された独占の範囲が不明となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあるので,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。
ところで,審決は,請求項1(1)についての「コード番号を付してコード化し」,「暗号化し」,「転送する」などの記載,請求項1(2)についての「平文化できる範囲を設定し」などの記載,請求項1(3)についての「顧客個人情報を登録し」,「再暗号化して登録する」,「階層別に管理する」などの記載,請求項1(5)についての「登録してデーターベース化し」などの記載が,「人間がPCを操作して行う処理であるとも,PCが人間を介さず自動的に行う処理であるとも解することができ,そのいずれを意味しているのかが不明であるため,その特定しようとする事項が明確でないから,特許法36条6項2号に規定する要件を満たさない」と判断した。
しかし,審決の上記判断は,その判断それ自体に矛盾があり,特許法36条6項2号の解釈,適用を誤ったものといえる。すなわち,審決は,本願発明の請求項1における上記各記載について,「人間がPCを操作して行う処理であるとも,PCが人間を介さず自動的に行う処理であるとも解することができ(る)」との確定的な解釈ができるとしているのであるから,そうである以上,「そのいずれを意味しているのかが不明であるため,その特定しようとする事項が明確でない」とすることとは矛盾する。のみならず,審決のした解釈を前提としても,特許請求の範囲の記載は,第三者に不測の不利益を招くほどに不明確であるということはできない。むしろ,審決においては,自らがした広義の解釈(それが正しい解釈であるか否かはさておき)を基礎として,特許請求の範囲に記載された本願発明が,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものといえるか否か(特許法2条1項),産業上利用することができる発明に当たるか否か(29条1項柱書)等の特許要件を含めて,その充足性の有無に関する実質的な判断をすべきであって,特許法36条6項2号の要件を充足しているか否かの形式的な判断をすべきではない。前記のとおり,その判断の結果にも誤りがあるといえる。」
◆平成20(行ケ)10107 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年10月30日 知的財産高等裁判所
特許法36条6項2号違反のみを理由とした拒絶審決が取り消されました。
「現明細書の【0033】によれば,「撚成されたモノフィラメント撚糸」について,「撚成されたモノフィラメント」が2本以上で撚られて「シングル撚糸」となったものであると定義されている。そして,これに続く,【0034】ないし【0035】の各記載は,【0033】で定義された趣旨を前提として,「撚成されたモノフィラメントからなるシングル撚糸」の内容の詳細を説明している。そうすると,現明細書の記載によれば,?@「撚成された」の語はそれに続く「モノフィラメント」を修飾し,?A「モノフィラメント」は複数本を意味すると,それぞれ理解するのが合理的である。(イ) この点,請求項1において「撚成されたモノフィラメント」が複数本であることは明示的に示されていない。しかし,上記ア記載のとおり,「撚成されたモノフィラメント」は「モノフィラメント」に撚りをかけたものであるところ,「モノフィラメント」は「1本の繊維」(甲1,乙3)を意味し,また,「シングル撚糸」は1本又は2本以上の糸で撚られたものを意味することは明らかである(甲2,甲3,乙2)。そうすると,「撚成されたモノフィラメント」について,更に撚りをかけて「シングル撚糸」とする場合,仮に「撚成されたモノフィラメント」が1本であることを前提として,その1本のモノフィラメントを対象として再度撚りをかけるということは,およそ技術常識に照らして,意味のない解釈となるから,当業者は,請求項1記載の「シングル撚糸」について,複数本の「撚成されたモノフィラメント」に撚りをかけたものであると理解するのが合理的であるといえる。すなわち,請求項1項の「シングル撚糸」の意義について,「撚成されたモノフィラメントが1本である場合」は,およそ技術常識から離れた解釈であるから,そのような場合を含まないと理解して差し支えない。以上のとおり,請求項1記載の「撚成された・・・シングル撚糸」とは,「撚成されたモノフィラメント」を複数本集めて撚られたシングル撚糸を指すものと理解されるべきである。」
◆平成19(行ケ)10299 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年08月26日 知的財産高等裁判所
CS関連発明(?)について、「〜手段」の記載がサポート要件違反(36条6項1号)、不明瞭(同2号)、29−2違反が争われましたが、裁判所は、36条6項1号、2号については、審決の判断は誤りであると認定し、一部の審決を取り消しました。
「本件請求項1の記載のうち「ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」という文言の解釈につき当事者間に争いがあるので,まずこの点について検討する。ア 本件請求項1の記載を全体として捉えると,本件請求項1の「着脱式デバイス」は,「所定の種類の機器が接続されると,その機器に記憶された自動起動スクリプトを実行するコンピュータ」の汎用周辺機器インタフェースに着脱されるものであって,前記汎用周辺機器インタフェースに接続された際に「前記コンピュータからの機器の種類の問い合わせ信号に対し,前記所定の種類の機器である旨の信号を返信」するなどして,「前記コンピュータに前記自動起動スクリプトを起動させる手段」を備えるものである。したがって,「自動起動スクリプト」は,「所定の種類の機器」を用いる場合にはその機器に記憶され,コンピュータによって起動されるものであり,同様に,本件請求項1の「着脱式デバイス」を用いる場合には,着脱式デバイスに記憶され,コンピュータによって起動されるものである。そして,本件請求項1の「着脱式デバイス」は,「主な記憶装置としてROM又は読み書き可能\な記憶装置を備え」るものであり,「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する」と記載されていることに照らせば,「自動起動スクリプト」は着脱式デバイスの主な記憶装置であるROM又は読み書き可能\な記憶装置に記憶されるものである。イ ところで,一般に「手段」とは,「目的を達するための具体的なやり方」を意味するものである(広辞苑第6版)ところ,本件請求項1における「ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」との記載が,「前記コンピュータに前記自動起動スクリプトを起動させる手段」,「前記コンピュータから前記ROM又は読み書き可能\な記憶装置へのアクセスを受ける手段」とともに併記されたものであることからすれば,上記「記憶する手段」が,「ROM又は読み書き可能な記憶装置に前記自動起動スクリプトを記憶する」という目的を達するための具体的なやり方を意味するのか,それとも本件特許発明1全体の目的を達するための構\成要素の一つを意味するのか,いずれに解することも可能であって,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない場合に当たる。ウそこで,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,本件請求項1の「ROM又は読み書き可能\な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」の解釈につき検討する(なお,被告は,特許法36条6項1号該当性の判断をするに当たって発明の詳細な説明の記載を参酌すべきではないと主張するが,最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決〔民集45巻3号123頁〕も判示するように,特許を受けようとする発明の要旨を認定するのに特許請求の範囲の記載のみではその技術的意義が一義的に明確に理解することができない場合には,発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されると解する。・・・以上の記載によれば,本件特許発明1は,USBメモリ等の着脱式デバイスをコンピュータに接続した際に,煩雑な手動操作を要することなく自動起動スクリプトに記述された所定のプログラムを自動実行させることを課題とするものであり,かかる課題の解決手段として,自動起動スクリプトを着脱式デバイスの記憶装置内に予め記憶し,コンピュータからの問い合わせに対してCD−ROMドライブなど自動起動スクリプト実行の対象機器である旨の信号(擬似信号)を返信することによって,コンピュータが着脱式デバイスの記憶装置内に記憶された自動起動スクリプトを起動させるという構\成を備えたものであることが認められる。そして,かかる解決手段を実現するためには,自動起動スクリプトは,着脱式デバイスがコンピュータに接続されたときにコンピュータから読み出すことが可能な状態でデバイスの記憶装置内に記憶されていることが必要であり,かつ,それで足りる。そうすると,ROM等の記憶装置が,その製造時に自動起動スクリプトを記憶するものであっても,上記解決手段を実現するのに何ら差し支えなく,また,ROM等の記憶装置の製造後に自動起動スクリプトを記憶させなければならないとすることは,上記解決手段の実現にとって特段の意味を有しないものである。(ウ) したがって,本件請求項1の「ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」という文言は,「ROM又は読み書き可能\な記憶装置に自動起動スクリプトを記憶する」という目的を達するための具体的なやり方を意味するものと解すべきではなく,本件特許発明1の目的を達するための構成要素の一つとして「自動起動スクリプトがROM又は読み書き可能\な記憶装置に記憶されている状態であること」を意味するものと解釈すべきである。」
◆平成19(行ケ)10403 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年07月23日 知的財産高等裁判所