2009.10. 3
”研磨しうる弾性体”という用語の明瞭性が争われました。知財高裁は、不明瞭とした審決を維持しました。
「・・原告は,本願補正発明は,除くクレームであり,除くクレームにおいて,引用発明を除くために挿入された用語は,引用発明の記載された特許公報等で使用されたとおりの内容のものとして理解すべきであるとして,大合議判決の判示を引用する。そして,本願補正発明の「研磨しうる弾性体」の語は,特公平3−74380号公報(甲7)記載の発明を除くために挿入されたものであるから,甲7の特許請求の範囲に記載された「研磨しうる弾性体」を意味するものであり,その意味は明確であり,本願補正発明にいう「研磨しうる弾性体」でない「金属板又は合成樹脂板」及び「樹脂凸版を構成するその他の材料」の意味も,明確であると主張する。しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。すなわち,本願補正発明が特許法36条6項1,2号の要件を充足するか否かは,本件補正後の特許請求の範囲の記載及び本願補正明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて判断されるべきである。原告(出願人)が,本願補正発明から甲7記載の発明を除く意図で,「研磨しうる弾性体」の語を用いたものであったとしても,本願補正発明における,「研磨しうる弾性体」の語が甲7記載のとおりの技術内容を有するものと理解すべき根拠はない。したがって,この点において,原告の主張は,理由がない。のみならず,仮に甲7を参照したとしても,「研磨しうる弾性体」との文言の意味が明確であるとはいえない。すなわち,甲7の特許請求の範囲の請求項1では,「研磨しうる弾性体」は,定義されることも限定されることもなく用いられ,請求項3ないし7では,「研磨しうる弾性体」が,請求項1等を引用した上で材質,硬度,厚さ等をより限定した内容で示されている。甲7の発明の詳細な説明の6欄3ないし25行には,「研磨しうる弾性体」について,「通常に入手しうるゴム,例えばポリブタジエン,ブタジエン−アクリロニトリル,ブタジエン−スチレン,イソ\プレン−スチレン,シリコーン,又はポリスルフイドゴムのいずれかであつてよい。好ましくは弾性体は天然ゴム,ポリクロルプレンゴム又はポリウレタンゴムである。弾性体は,より容易に研磨しうるために通常の充填剤を含有しうる。弾性体は少くとも30,但し80 を越えないシヨアA硬度を有すべきである。好ましくはその硬度は40 〜 60 シヨアAである。・・・・好ましくは,弾性体は100〜500ミクロンの厚さを有し,最も好ましくは厚さが約400ミクロンである。」と,「研磨しうる弾性体」の材質,硬度,厚さ等の性質から,好ましい実施態様は挙げられているものの,「研磨しうる弾性体」の意義・外延について,これを明確にする定義・規定はない。したがって,甲7を参照してもなお,「研磨しうる弾性体」の意味・外延は明確ではないので,「研磨しうる弾性体ではない」との意味も明確とはいえない。原告の主張は,この点においても,採用することができない。」
◆平成21(行ケ)10041 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年09月30日 知的財産高等裁判所