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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

明確性

平成26(行ケ)10047    特許権  行政訴訟 平成27年7月16日  知的財産高等裁判所

 審決は、明確性違反なしとしましたが、知財高裁はこれを取り消しました。理由は、本件発明の作用効果を奏するためには,〜との関係でその方向が限定されていなければならないというものです。
 ここで,本件訂正発明1の炭化珪素質複合体は,反り量について, 「穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(Cx;μm)と, それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(Cy;μ m)の関係が,|Cx|≧|Cy|,50≦Cx≦250,且つ−50 ≦Cy≦200である(Cy=0を除く)こと」を発明特定事項とする ものであるが,「穴間方向(X方向)」とはどのような方向を意味する のかについては,特許請求の範囲(請求項1)の記載からは,一義的に 明らかであるとはいえない。 (イ) そこで,本件明細書の記載を参酌すると,本件明細書には,「穴間方 向(X方向)」又は「穴間」につき,「一般にここで,前記穴間方向 (X方向)とは,図9(a)〜(d)に例示した,放熱板表面の一方向\nを示し,Y方向は,前記表面内のX方向と垂直な方向を示している。」\n(段落【0031】)との記載がある。 上記記載から,「穴間方向(X方向)」には,図9に例示されたX方 向が含まれることは理解できるが,「穴間方向(X方向)」は「放熱板 表面の一方向を示」すとしか記載されていないから,図9に例示された\nX方向以外にどのような方向が含まれるのか判然としない。 また,図9に例示されたX方向については,穴と穴とを結ぶ直線とX 方向を示す直線が明らかにずれているもの(図9の左から2番目の図) があるが,このような場合に穴間方向とX方向がどのような関係にある のかについては,これを明らかにする記載も見当たらない。 (ウ) ところで,本件訂正発明1は,「穴間方向」であるX方向の長さ1 0cmに対する反り量(Cx)と,X方向と直交する方向であるY方向 における長さ10cmに対する反り量(Cy)の数値範囲をそれぞれ定 め,さらに,Cxの絶対値とCyの絶対値の関係を,|Cx|≧|Cy |と定めたものである。 そして,本件明細書の段落【0032】に,「本発明者らは,従来技 術における前記課題の解決を図り,いろいろ実験的に検討した結果,反 り量(Cx;μm,並びにCy;μm)が前記特定の範囲にあるときに, 複合体から成る放熱板を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定するこ とができるという知見を得て,本発明に至ったものである。本発明の複 合体から成る放熱板を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定する場合, 一般には,放熱板と放熱部品との間に放熱グリス等を介して固定される。 このため,Y方向の反り量(Cy)に関しては,その絶対値が放熱グリス 厚より小さいことが好ましい。また,締め付け時の放熱板の変形を考慮 した場合,Y方向の反り量(Cy)はX方向の反り量(Cx)より小さ い方が好ましい。前記の反り量が前記特定範囲を満足できないときには, 必ずしも密着性良く放熱板を他の放熱部品にネジ止め固定することがで きないことがある。」と記載され,段落【0035】に「また,板状複 合体の主面内に他の放熱部品にネジ止め固定できように,穴部を有して いる場合,その穴間距離が10cm以下の小型形状では,密着性良く放 熱板を他の放熱部品にネジ止め固定するためには,複合体の主面の長さ 10cmに対しての反り量が100μm以下であることが好ましい。」 と記載されているように,反り量を規定する上記条件は,本件訂正発明 1に係る板状複合体を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定するため の条件であると認められる。 ここで,本件訂正発明の複合体は,特定量の反りを有していて,例え ば,放熱板として用いた場合に,セラミックス基板を放熱フィン等の放 熱部品に密着性良くネジ止め固定することができ,放熱性が安定した, 高信頼性のモジュールを形成することができるという効果を奏するもの であるところ(段落【0081】),板状複合体(放熱板)を放熱部品 に密着性よくネジ止め固定できる長さ10cmに対する反り量であるC x及びCyについて異なる数値範囲が規定されている本件訂正発明1に おいて,本件明細書の段落【0035】の記載から,本件訂正発明にお ける好ましい長さ10cmに対する反り量は穴間距離の影響を受けるも のと解され,X方向(ひいては,Y方向)が,放熱板表面の一方向であ\nればどの方向であっても他の放熱部品と密着性良くネジ止め固定できる とは考えられないことからすると,本件訂正発明1が上記作用効果を奏 するためには,「穴間方向(X方向)」は,板状複合体のネジ穴または 外形との関係でどの方向を示すものであるかが定義されていることを要 するものというべきである。 (エ) しかるに,前記(ア)及び(イ)のとおり,特許請求の範囲(請求項 1)にも,また,本件明細書にも,「穴間方向(X方向)」について, 板状複合体のネジ穴または外形との関係でどのような方向をいうものか が明確に記載されていないことから,「穴間方向」であるX方向の長さ 10cmに対する反り量(Cx)と,X方向と直交する方向であるY方 向における長さ10cmに対する反り量(Cy)の数値範囲をそれぞれ 定め,さらに,Cxの絶対値とCyの絶対値の関係を定めた本件訂正発 明1の技術的意義を理解できないものにしているといわざるを得ない。

◆判決本文

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平成26(行ケ)10243  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年7月28日  知的財産高等裁判所

36条違反ではないとした審決が維持されました。その一つが、水洗便器における「棚」という用語です。裁判所は、明細書の記載に基づき合理的に解釈しました。
 「棚」とは,一般的には,「平らで物を載せる機能を有するもの」を意味するが,\n本件発明の「棚」が,これとは異なり,洗浄水を載せて流すとともにその一部を流 下させることを目的としていることは自明であり,また,「棚」が,本件発明の属す る大便器の分野で一般的に使用される用語とも認められない。 そこで,前記1(1)に認定の本件発明の内容を踏まえて,本件明細書の記載全体や 技術常識などにかんがみて,「棚」の意義を合理的に解釈するとすれば,本件発明の 「棚」は,ボウル内面上部に設けられて段差などにより他と区別できる部分があっ て,平らで洗浄水を載せる機能を有し,ノズルより吐出された洗浄水をボウル部の\n全周に導く経路といった程度の意味を有するものと認められる。 原告は,本件発明の「棚」が平らなものである必要はない旨を主張するが,棚の 形状をもって発明特定事項としている以上,その形状を全く考慮しない用語の解釈, すなわち,物を載せる部分が平らである必要はないとする解釈は,相当とはいえな い。また,上記2(2)に判断のとおり,本件発明2の「棚」は,その幅がゼロとなる 場合もあるが,ボウル側の前方部で「棚」の一部をなくすという構成をしたからと\nいって,その余の部分が棚でなくなるものではない(本件発明1の特定事項は,洗 浄水を全周に導くことを規定しているが,棚を全周にわたり設けることは規定して いない。)。 原告の上記主張は,採用することができない。
イ 「棚」及びその構成の開示
上記アにおける「棚」の技術的意義にし照らすと,甲1発明には,本件発明1の 「棚」に相当するものは見当たらない。 原告は,境界部3の下側の乾燥面12の上側部分(領域A)が,本件発明の「棚」 に相当する旨を主張するが,本件発明1の「棚」が,ノズルより吐出された洗浄水 をボウル部の全周に導く経路であればよいとの解釈を前提とするものであるから, その主張は,前提において誤りがある。領域Aに相当する部分は,汚物受け面10 からボウル部導水路16にかけての滑らかに連続する湾曲面の一部にすぎず(明細 書9頁20〜23行目),何らかの段差を有していなければならない「棚」とは,相 容れない形状である。 原告の上記主張は,採用することができない。

◆判決本文

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平成24(受)1204  特許権侵害差止請求事件 平成27年6月5日  最高裁判所第二小法廷  判決  破棄差戻  知的財産高等裁判

 一部の構成を製法で特定した物の発明について、知財高裁は「発明の要旨は,当該物をその構\造又は特性により直接特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときでない限り,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物に限定して認定されるべき」としましたが、最高裁はこれを破棄差戻しました。
 特許法36条6項2号によれば,特許請求の範囲の記載は,「発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならない。特許制度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものであるところ(特許法1条参照),同法36条6項2号が特許請求の範囲の記載において発明の明確性を要求しているのは,この目的を踏まえたものであると解することができる。この観点からみると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして発明の要旨を認定するとするならば,これにより,第三者の利益が不当に害されることが生じかねず,問題がある。すなわち,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において,その製造方法が記載されていると,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構\\造若しくは特性を表しているのか,又は物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができず,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予\測可能性を奪うことになり,適当ではない。他方,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物についてその構\造又は特性を明記して直接特定することになるが,その具体的内容,性質等によっては,出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能\であったり,特許出願の性質上,迅速性等を必要とすることに鑑みて,特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情がある場合には,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として発明の要旨を認定しても,第三者の利益を不当に害することがないというべきである。
以上によれば,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\\であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁平成24年(受)第1204号平成27年6月5日第二小法廷判決・裁判所時報1629号登載予定参照)。 以上と異なり,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,そのような特許請求の範囲の記載を一般的に許容しつつ,その発明の要旨は,原則として,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本判決の示すところに従い,本件発明の要旨を認定し,更に本件特許請求の範囲の記載が上記4(2)の事情が存在するものとして「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否か等について審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

◆判決本文

◆原審はこちらです。 平成22(ネ)10043

◆関連訴訟です。平成24(受)2658

◆関連事件の原審はこちらです。平成23(ネ)10057

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