2018.11.13
平成29(行ケ)10191 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年10月29日 知的財産高等裁判所
審決は、記載不備(明確性、サポート要件、実施可能要件)と判断しましたが、知財高裁(2部)は、これを取り消しました。
イ(ア) 本願明細書には,前記(1)イのとおり,中間水について,少なくとも−
40度付近の温度において,規則化(コールドクリスタリゼーション)する傾向を
強く有するものと推察されること,規則化する強い傾向の存在により,不規則な状
態で凝固した状態からの加熱において,−40度付近で規則化に伴う発熱がみられ
ること,規則化に伴う発熱量は,規則化を生じている水の量,すなわち,中間水の
量に比例するものと推察されることが記載されている。
(イ) 前記(1)ウの甲1〜5の記載によると,中間水の量(Wfb)は,次の式
のとおり,低温結晶化した水におけるエンタルピー変化量(ΔHcc)と,水の融解熱
(Cp)から得ることができることが理解される。
Wfb=ΔHcc/Cp
この式を変形すると,ΔHcc=Cp×Wfb となり,低温結晶化した水におけるエン
タルピー変化量(ΔHcc),すなわち,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量
は,比例定数を Cp として,中間水の量(Wfb)に比例するといえる。
このことも,前記アと同様の理由により,日本バイオマテリアル学会の構成員や\n関係者には,平成21年の時点において,知られていたと認められるのであって,
本願明細書に記載された内容の「中間水」の量の計算方法は,本願出願時において,
当業者の技術常識になっていたと認められることができるというべきである。
そして,Cp は,純水の融解熱と等しいと考えられ,純水の融解熱が 334J / g であ
ることも,前記ウの甲2及び甲4の記載並びに証拠(甲11)及び弁論の全趣旨に
よると,当業者の技術常識であったと認められる。
したがって,当業者は,中間水の量の算出方法については,本願明細書の記載及
び本願出願時の技術常識に基づいて明確に理解することができたというべきである。
(3)ア 被告は,本願明細書から,「コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量
は,中間水の量に比例するものと推察される。」という認定aだけではなく,「中間
水の量は,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱ピークの挙動(コールドクリ
スタリゼーションに伴う発熱量は含水量の増加に伴って増加するが,ある含水量以
上では変化しなくなること)と,全含水量とから求めることができる。」という認定
b及び「中間水の量は,各含水量におけるコールドクリスタリゼーションに伴う発
熱量と0度付近の吸熱量の関係から中間水の最大量を求めてW0(試料の乾燥重量)
で除することにより求められる。」という認定cも認定できるところ,これらの認定
が共存するため,本願明細書から,当業者が中間水の量をどのように算出したらよ
いのか明確に理解することはできない旨主張する。
認定bは,前記(1)イ(イ)b(b)の本願明細書の記載に基づくものであり,認定cは,
前記(1)イ(イ)b(c)の本願明細書の記載に基づくものであるが,いずれも,中間水の量
を求める方法についての具体的な内容の説明はされていない。
一方,認定aは,前記(1)イ(イ)b(a)の本願明細書の記載に基づくものであるが,前
記(2)イのとおり,上記記載を含む本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識から,
中間水の量の算出方法を明確に理解することができる。
そうすると,当業者は,本願明細書に前記(1)イ(イ)b(b)及び(c)の記載があるからと
いって,本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識から明確に理解できる中間水
の算出方法を理解できなくなるというものではないというべきである。
イ 被告は,当業者は,発明の詳細な説明の記載に基づき,中間水のコール
ドクリスタリゼーションは通常の水の凍結とは異なる相転移であると理解されるか
ら,中間水のコールドクリスタリゼーションの単位潜熱(中間水の量を算出するた
めの比例定数)は,通常の水の凍結の場合の単位凝固潜熱334J/gとは異なる
値であると考えるのが自然である旨主張する。
しかし,前記(2)イのとおり,比例定数(Cp)は,純水の融解熱に等しいと考えら
れている。本願明細書に記載されたPMEAのコールドクリスタリゼーションに伴
う発熱量の最大値を中間水量で除した値が313J/gであるとしても,純水の融
解熱が334J/gであることは,当業者の技術常識である以上,当業者は,31
3J/gの方が誤差を含む数値であると考えるのか通常であると解されるのであっ
て,このことにより,当業者が,中間水のコールドクリスタリゼーションの単位潜
熱(中間水の量を算出するための比例定数)が,純水の単位凝固潜熱334J/g
とは異なる値であると考えるとはいい難い。
ウ 被告は,甲1〜5は,本願発明者やその共同研究者による文献であり,
中間水の概念は,本願発明者らの研究グループが独自に提唱したもので,本願発明
者らの研究グループ以外の当業者に,本願出願時までに広く知れ渡り,技術常識に
なっていたことを示す証拠はない旨主張する。
「中間水」の概念が本願発明者であるAにより構築されたことは,前記(2)アのと
おりであるが,前記(2)ア,イのとおり,「中間水」の概念及びその量の算出方法は当
業者の技術常識となったことが認められる。
エ 被告は,甲5は本願明細書で引用したものではなく,仮に当業者が甲5
を本願明細書の記載から探し当てることができたとしても,その記載内容が実質的
に発明の詳細な説明に記載されたに等しいものであるということはできない旨主張
する。
しかし,本願明細書の【0007】には【先行技術文献】として,「【非特許文献
1】バイオマテリアル 28−1,2010」と記載されているから,当業者であれ
ば,これは,バイオマテリアルという雑誌の28巻1号(出版年2010年)とい
うものであると理解する。そして,甲5は,その雑誌のその号に掲載されている。
しかも,上記の「非特許文献1」は,本願明細書の【0013】においても,「所定
量の水を含水した水和性組成物を一旦十分に冷却し,その後に比較的ゆっくりした\n速度で加熱した場合に,0℃以下の特定の温度域において所定の発熱を生じると共
に,−10度近辺から0度までの広い温度範囲において吸熱が観察されることが明
らかにされている(例えば,非特許文献1等を参照)。」という形で引用されている。
そうすると,当業者は,本願明細書の記載から,容易に甲5に行き着くものと考え
られるから,甲5は本願の発明の詳細な説明【0007】で引用されたものである
と認められる。
そして,甲5が,「中間水」の概念及びその量の算出方法が当業者の技術常識とな
ったことを裏付け得るものであることは,前記(2)ア,イのとおりである。
オ 被告は,本願発明の「中間水の量が1wt%以上,且つ30wt%以下」
がどの時点の中間水の量を意味するかについて,発明の詳細な説明に,発熱量が最
大値になる含水量の場合と飽和含水になった時点での含水量の場合という,相異な
る二通りの記載があるから,本願発明の技術的範囲が定まらない旨主張する。
しかし,前記(2)イのとおり,当業者は,本願明細書の記載及び出願当時の技術常
識に基づいて,中間水の量は,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量と水の
融解熱から得ることができることが理解されるから,当業者が本願補正発明を実施
するに当たり,水和性組成物について,発熱量が最大値の中間水の量と,飽和含水
になった時点の中間水の量の二通りが記載されているとしても,水和性組成物の中
間水の量は,含水量にかかわらず,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量と
水の融解熱から一義的に決まるものであって,本願補正発明の技術的範囲が定まら
ないということはできない。
・・・
本件審決は,当業者が本願出願時の技術常識に照らしても本願明細書の記載から
中間水の量の算出方法を理解することができないから,表2に中間水量が記載され\nた具体的な組成物以外のものについては課題が解決できると認識することはできな
い旨判断したが,当業者が本願出願時の技術常識に照らして本願明細書の記載から
中間水の量の算出方法を理解することができることは,前記2のとおりであるから,
本件審決のサポート要件の有無の判断は,前提を欠き,誤りがある。
4 取消事由3(実施可能要件違反)について
本件審決は,当業者が本願出願時の技術常識に照らしても本願明細書の記載から
中間水の量の算出方法を理解することができないから,本願補正発明1及び4を当
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2018.10.29
平成29(行ケ)10113 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年10月25日 知的財産高等裁判所
記載不備(明確性、サポート要件、実施可能要件)の無効理由無しとした審決が維持されました。
特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確
でない場合に,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となることによ
り生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで,特許を受
けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,
願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時にお
ける技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不
利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものと解
される。
(3)ア そこで検討するに,本件明細書には,泡に関し,「本明細書で用いられ
る「泡」は,混合されて,可変長の時間持続する構造を有する小さい気泡\nのマスを形成する液体及び気体を意味する。」(【0036】),「気泡
は,液体のフィルムで取り囲まれた気体のセルである。」(【0037】)
との定義が記載されている。また,本件発明の発泡性組成物の作用効果に
関し,本件発明の組成物は,発泡性であるために,適用された部分に留ま
ることができ(【0015】),表面上に容易に広がる泡として分配でき\nる(【0018】)ものであって,空気と混合されるときに安定な泡を与
え,この泡は,個人的洗浄用又は消毒目的のために使用でき,例えばユー
ザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊れること(【0\n041】),本発明の重要かつ驚くべき成果は,消毒に適する組成物が40%
v/vより多量のアルコールを含有すること,そして低圧容器及びエアゾール
包装容器の両者から化粧品として魅力的な泡として分配され得ること(【0
044】)がそれぞれ記載されている。
イ この点に関連して,泡に関する技術常識についてみると,「入門講座 泡
の化学」と題する論文(オレオサイエンス第1巻第8号。2001年発行。
甲12)には,「深い井戸からくみ上げた水に生ずる泡はきわめて微小な
気泡が多数水中に分散している。このように気体が液体または固体に包ま
れた状態を気泡(Bubble)という。泡は各種界面活性物質,または界面活
性剤の気・液界面への吸着によって起こる現象であって,洗濯時の洗濯機
の中の液やビールの泡のようにこれが多数集まって薄膜を隔てて密接に存
在するものを泡沫(Foam)と呼ぶ。気泡と泡沫の区別は形態的であるが前
者はただ一つの界面を有するのに対し,後者は2つの界面を有する。」(8
63頁左欄)との記載がある。
この論文の公開時期に鑑みれば,泡には,形態的に区別される気泡と泡
沫とがあり,気泡(Bubble)は,気体が液体又は固体に包まれた状態を指
し,ただ1つの界面を有するのに対し,泡沫(Foam)は,気泡が多数集ま
って薄膜を隔てて密接に存在し,2つの界面を有するものであることは,
親出願の出願日当時における当業者の技術常識であったと認められる。
ウ 以上のとおり,上記アに摘示した本件明細書に記載された定義と,本件
発明における泡の作用効果に関する記載からすると,本件発明における「泡」
との語は,上記イ記載の泡沫を意味するものであることは明らかである。
そして,本件明細書の記載及び親出願の出願日当時における当業者の技
術的常識を基礎とすると,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載が,第
三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(4) 原告の主張について
原告は,本件明細書の段落【0036】における1)「可変長の時間持続す
る構造」が表\す時間の長さ,2)「構造」とは,気泡と気泡のマスのいずれを\n指すのか,3)「小さい気泡」とは,何と比較して小さいのか,がいずれも不
明であるから,請求項1の記載が不明確であると主張する。
しかし,上記(3)において説示したとおり,当業者は,本件発明における「泡」
との語が泡沫を意味すること,泡沫とは,気泡が多数集まって薄膜を隔てて
密接に存在するものであるから,これはすなわち気泡のマスであること,そ
して,本件明細書の段落【0036】における「構造」とは気泡のマスであ\nることをそれぞれ理解できるというべきである。
また,当該段落の「可変長の時間持続する」との語については,本件発明
の組成物が発泡性組成物であることによる作用効果に関する本件明細書の記
載からすると,本件発明の組成物は,適用された部分に留まることができ,
かつ,表面上に容易に広がる泡として分配できるものであって,例えばユー\nザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊れる程度の安定\n性を有するほどに,泡の持続時間が様々であることと理解できる。
さらに,「小さい」との語についても,上記本件明細書における本件発明
の作用効果に関する記載に照らせば,化粧品として魅力的な泡といえる程度
の大きさをいうものと解するのが相当である。
したがって,この点についての原告の主張を採用することはできない。
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2018.09.14
平成29(行ケ)10189 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年9月4日 知的財産高等裁判所(3部)
「概ね面一」との用語が不明確性(36条6項2号)違反が争われました。第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確ではないとして、無効理由なしとした審決が維持されました。判決の最後に図面があります。
特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確
でない場合に,特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となることによ
り生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで,特許を受
けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,
願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時に
おける技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不
利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであ
る。
(2) この点,原告は,審決が,特許請求の範囲の「カバーが水槽の底部面に概
ね面一」について,「面一」とは,止水時において,水槽の底部面とカバー
の頂部とがつまずくことを防止できる程度にほぼ同じ高さになることを意味
するものと解釈できると説示したのに対して,「止水時において,水槽の底
部面とカバーの頂部とがつまずくことを防止できる程度」というのは,排水
口のために水槽の底部面に形成された円筒状陥没部のR面を含む傾斜面の形
状等やカバー自体の形状でも異なるほか,当該傾斜面の形状や傾斜角度とカ
バーの形状の組合せによっても異なり,さらには,使用者の年齢や性別,体
格等によっても異なる以上,「カバー(特にカバーの頂部)が水槽の底部面
に概ね面一」が「つまずくことを防止できる程度」という趣旨であるとすれ
ば,権利の及ぶ範囲が不明確であり,本件発明に接した第三者は不測の不利
益を被る,などと主張する。
しかしながら,本件明細書の【0013】には,「カバーにつまづくこと
を防止するため,カバーの頂面60が水槽の底部1面と概ね面一になるよう
円筒状陥没部10の縁とカバー6の縁との位置を略一致させることがよい。」
との記載があるものの,【0008】には,「カバーが水槽の底部面と概ね
面一にされ,排水口部を覆うことになって排水口部内の汚れを覆い隠すこと
ができ,見栄え良くできる。」との記載もあり,かかる記載を根拠にすると,
「概ね面一」とは,「排水口部を覆うことになって排水口部内の汚れを覆い
隠すことができ,見栄え良くできる程度」と定義していると理解することも
可能である。\nそもそも,本件発明の排水栓装置は,洗面化粧台,浴槽,流し台などあら
ゆる水槽が含まれるところ,「カバーにつまづくことを防止できる程度」と
いうのは,飽くまで浴槽の観点からみた理解であるから(この定義が明確と
いえるかどうかの点はひとまず措く。),このように理解できたとしても,
浴槽以外の,例えば,洗面化粧台における「概ね面一」の範囲が直ちに明ら
かになるわけではない。
したがって,原告の主張は,「カバー(特にカバーの頂部)が水槽の底部
面に概ね面一」が「つまずくことを防止できる程度」を意味するとの理解を
前提とする限りにおいて正当な指摘を含んでいるが,それでは足りないとい
うべきである。
(3) そこで,さらに進んで検討するに,本件明細書には,「概ね面一」の意味
するところを説明する確たる定義はないけれども,本件明細書の図1には,
水槽の底部面とカバーの頂部(頂面60)とがほぼ同じ高さになる状態が示
されており,この状態をもって「カバーが水槽の底部面に概ね面一」と理解
することは自然である。そして,寸法誤差,設計誤差等により,水槽の底部
面とカバーの頂部(頂面60)とが完全に同じ高さとならない場合が存する
ことは技術常識であるといえるから,カバーと水槽の底部面との高さの差が,
このような範囲にとどまるものを「概ね面一」と理解するなら,洗面化粧台,
浴槽,流し台などあらゆる水槽について,「カバーが水槽の底部面に概ね面
一」の意味内容を統一的に理解することができる。
審決の,「概ね面一」とは,「止水時に,カバーを水槽の底部面に対し積
極的に出没させた位置に設けようとするものではない」との説示もこうした
趣旨と理解できる。
そうとすれば,「概ね面一」の語を用いているがゆえに特許請求の範囲の
記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず,これ
に反する原告の主張は採用できない。
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2018.09.14
平成29(行ケ)10210 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年9月6日 知的財産高等裁判所(3部)
経緯がややこしいです。無効理由無しの第1次審決が第1次審取で取り消され、本件原告は訂正をしました。第2次審決は訂正を認めた上、無効と判断しました。裁判所は、明確性違反なしと判断しました。
本件訂正後の特許請求の範囲にいう「平均分子量が2万〜4万のコンド
ロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,重量
平均分子量,粘度平均分子量,数平均分子量等のいずれを示すものである
かについては,本件訂正明細書において,これを明らかにする記載は存在
しない。もっとも,このような場合であっても,本件訂正明細書における
コンドロイチン硫酸又はその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を
合理的に解釈し,当業者の技術常識も参酌して,その平均分子量が何であ
るかを合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきで
ある。
イ 上記1(2)カのとおり,本件訂正明細書には,「本発明に用いるコンドロ
イチン硫酸又はその塩は公知の高分子化合物であり,平均分子量が0.5
万〜50万のものを用いる。より好ましくは0.5万〜20万,さらに好
ましくは平均分子量0.5万〜10万,特に好ましくは0.5万〜4万の
コンドロイチン硫酸又はその塩を用いる。かかるコンドロイチン硫酸又は
その塩は市販のものを利用することができ,例えば,生化学工業株式会社
から販売されている,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万,
平均分子量約2万,平均分子量約4万等)が利用できる。」(段落【00
21】)と記載されている。
上記の「生化学工業株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナ
トリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等)」
については,本件出願日当時,生化学工業株式会社は,同社製のコンドロ
イチン硫酸ナトリウムの平均分子量について重量平均分子量の数値を提供
しており,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として当
業者に公然に知られた数値は重量平均分子量の数値であったこと(上記(3)
イ(ア))からすれば,その「平均分子量」は重量平均分子量であると合理的
に理解することができ,そうだとすると,本件訂正後の特許請求の範囲の
「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平
均分子量も重量平均分子量を意味するものと推認することができる。加え
て,本件訂正明細書の上記段落に先立つ段落に記載された他の高分子化合
物の平均分子量は重量平均分子量であると合理的に理解できること(上記
(2)イ),高分子化合物の平均分子量につき一般に重量平均分子量によって
明記されていたというのが本件出願日当時の技術常識であること(上記(2)
ウ)も,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万〜4万のコン
ドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が重量平均分子量である
という上記の結論を裏付けるに足りる十分な事情であるということができ\nる。
ウ よって,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は明確性要件を充足するも
のと認めるのが相当である。
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2018.07. 2
平成29(行ケ)10178 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年6月27日 知的財産高等裁判所
進歩性違反、サポート要件違反、明確性違反の無効主張について、「無効理由無し」とした審決が維持されました。
(1) サポート要件の適合性について
ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1に関し,「医薬品や食品
のような経口投与用組成物等の品質を損なわずに優れた識別性を有する経
口投与用組成物を得ることができ,かつ,生産性にも優れたマーキング方
法を開発するという課題」を解決するための手段として,「本発明」は,酸
化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少な
くとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の表面に,所\n定のレーザー光を走査することにより,変色誘起酸化物を凝集させること
に起因した変色が生じるようにした構成を採用したことの記載があること\nは,前記1(1)イ認定のとおりである。
イ 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,1)実施例1ないし16にお
いて,表1のレーザー装置及び照射条件(波長355nm,平均出力8W),\n表3のレーザー装置及び照射条件(波長266nm,平均出力3W)又は表\
4のレーザー装置及び照射条件(波長532nm,平均出力12W)で,酸
化チタン,黄色三二酸化鉄又は三二酸化鉄錠剤を配合した,フィルムコー
ト錠等に対し,文字又は中心線をマーキングしたこと(【0038】〜【0
056】,表1,表\3及び表4),2)表1のレーザー装置及び照射条件かつ\n走査速度1000mm/secで,実施例13のフィルム錠にレーザー照
射を行い,レーザー照射前後の二酸化チタンの粒子の状態を透過型電子顕
微鏡(TEM)により観測した結果,レーザー照射後に二酸化チタンの粒子
が凝集していることが確認されたこと(【0057】〜【0059】,図3,
図4),3)レーザー波長に関し,レーザーは,その波長が200〜1100
nmを有するものを用いることができ,好ましくは1060〜1064n
m,527〜532nm,351〜355nm,263〜266nm又は2
10〜216nmの波長であり,より好ましくは527〜532nm,3
51〜355nm又は263〜266nmの波長であること(【0022】),
4)レーザー出力に関し,レーザーを走査する際の平均出力は,対象とする
経口投与用組成物の表面がほとんど食刻されない範囲で使用することがで\nき,例えば,その平均出力は,0.1W〜50Wであり,好ましくは1W〜
35Wであり,より好ましくは5W〜25Wであるが,単位時間あたりの
レーザー照射エネルギーが強すぎると,アブレーションにより錠剤表面で\n食刻が発生し,変色部分まで剥がれてしまい,また,出力が弱いと変色が十\n分ではないこと(【0023】),5)レーザーの走査速度(スキャニング速
度)に関し,スキャニング速度は,特に限定されるものではないが,20m
m/sec〜20000mm/secであり,また,スキャニング速度は,
高いほどマークの識別性に影響を与えることなく生産性を上げることがで
きることから,例えば,レーザー出力5Wでは,スキャニング速度は,80
mm/sec〜10000mm/sec,好ましくは90mm/sec〜
10000mm/sec,より好ましくは100mm/sec〜1000
0mm/secであり,レーザー出力が8Wの場合には,スキャニング速
度は,250mm/sec〜20000mm/sec,好ましくは500
mm/sec〜15000mm/sec,より好ましくは1000mm/
sec〜10000mm/secであること(【0024】),6)単位面積
当たりのエネルギーに関し,単位面積当たりのレーザーのエネルギーは,
マーキングの可否及び経口投与用組成物の食刻の有無の観点から,390
〜21000mJ/cm2であり,好ましくは400〜20000mJ/c
m2,より好ましくは450〜18000mJ/cm2であり,また,390
mJ/cm2より低い場合には,マークを施すことができないのに対し,2
1000mJ/cm2より大きい場合には,食刻が生じるため,好ましくな
いこと(【0025】)の記載がある。
上記1)ないし6)の記載を総合すると,本件明細書に接した当業者は,請
求項1記載の波長(200nm〜1100nm),平均出力(0.1W〜5
0W)及び走査工程の走査速度(80mm/sec〜8000mm/se
c)の各数値範囲内で,波長,平均出力及び走査速度を適宜設定したレーザ
ー光で,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択
される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の
表面を走査することにより,変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させ\nてマーキングを行い,「医薬品や食品のような経口投与用組成物等の品質
を損なわずに優れた識別性を有する経口投与用組成物を得ることができ,
かつ,生産性にも優れたマーキング方法を開発する」という本件発明1の
課題を解決できることを認識できるものと認められる。
したがって,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載され
たものといえるから,請求項1の記載は,サポート要件に適合するものと
認められる。同様に,請求項2ないし22の記載も,サポート要件に適合す
るものと認められる。
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2018.06.27
平成29(行ケ)10153 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年6月19日 知的財産高等裁判所
「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の明確性、本件発明の課題が解決できるのかについてサポート要件違反が争われました。
上記記載事項によれば,めっき処理を行った亜鉛又は亜鉛系め
っき鋼板において,酸化性雰囲気中で加熱を行うことによって,亜鉛の蒸
発を阻止するバリア層として酸化皮膜層が形成されるが,亜鉛又は亜鉛系
めっきの共通成分は亜鉛であり,亜鉛又は亜鉛系めっき鋼板がいずれも均
一な酸化皮膜を形成し,塗膜密着性,耐食性が良好という共通の性質を有
することが理解できる。そうだとすれば,当業者であれば,当然,本件発
明1の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は「亜鉛の酸化皮膜」
であると理解すると認められる。
してみると,本件発明1の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」
が,亜鉛系めっきに由来する亜鉛の酸化皮膜を意味することは明確である
といえる。このことは,本件発明1を引用する本件発明2ないし6及び(同
様の文言を有する)本件発明7についても同様である。
ウ 原告の主張について
原告は,本件訂正によって,特許請求の範囲の記載にあった「亜鉛また
は亜鉛系合金のめっき層」に代えて,「スズ−亜鉛合金めっき層」などの
具体的な合金めっき層が記載されたこと,本件明細書においては,「スズ
−亜鉛合金めっき」の具体例としては,「スズ−8%亜鉛合金めっき」の
みが記載されている(【0038】)こと,「スズ−8%亜鉛合金めっき」
を加熱した場合に生ずる変化については本件明細書に全く記載がないこと
などを挙げて,「亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」が亜鉛の酸化皮膜でな
ければならないと当然に解釈できるとはいえないから,金属酸化物の種類
が不明確であると主張する。
しかしながら,本件明細書の記載から,亜鉛又は亜鉛系めっき鋼板がい
ずれも均一な酸化皮膜を形成し,塗膜密着性,耐食性が良好という共通の
性質を有することが理解でき,当業者であれば,本件発明1の「加熱時の
亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は「亜鉛の酸化皮膜」であると理解する
と認められることは,前記ア,イのとおりである。他方,「スズ−8%亜
鉛合金めっき」についてのみ,これと異なる理解をすると認めるべき合理
的事情はない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(2) 酸化皮膜の形成時期について
ア 原告は,本件訴訟におけるのと同様に,先行事件訴訟においても,「亜
鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期が明らかでないと主張して明確
性要件を争っており,その結果,原告の主張を排斥する先行事件判決がな
され,同判決は既に確定しているものである(当裁判所に顕著な事実)。
そうすると,原告が本件訴訟において再びこの点を争うことは,実質的
に前訴の蒸し返しに当たり,訴訟上の信義則に反するものとして許されな
いというべきである。
よって,この点に関する原告の主張も採用できない。
イ 念のため,中身について検討してみても,この点に関しては,先行事件
判決が示すとおり,本件明細書の【0018】には,酸化皮膜は熱間プレ
スに先立つ加熱前にある程度形成されることが必要で,その後熱間プレス
加工のための700〜1000℃の加熱によっても形成が進むと推測され
ることが記載され,【0042】及び【0043】には,酸化皮膜は,熱
間プレス加工のため700〜1000℃に加熱する前に,予め形成されて\nいる場合と形成されていない場合があることを前提として,予め酸化皮膜\nが形成されている材料の場合には,酸化皮膜の維持に悪影響がない限り熱
間プレスのための加熱方法については特に制限がないことが記載され,さ
らに,【0064】及び【表5】には,実施例No.2,3として,電気\nめっきを施した後,熱間プレスに先立つ加熱を大気炉で850℃,3分間
行ったものについて均一な酸化皮膜が形成されたことが記載されていると
ころ,電気めっきにおいては,めっき層は加熱されないことから,上記実
施例はいずれも熱間プレスに先立つ加熱前に予め酸化皮膜が形成されてい\nない場合であって,この場合の酸化皮膜は,熱間プレスのための加熱(大
気炉で850℃,3分間)により形成されたものと理解することができる。
そうすると,本件発明の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は,
熱間プレスの加熱前に,予め形成されている場合,ある程度形成されてい\nてその後熱間プレスの加熱時に形成が進む場合,予め形成されていないが\n熱間プレスの加熱により形成される場合のいずれでもよいことから,その
形成時期は熱間プレスの直前までであればよいと解するのが相当である。
したがって,本件発明1及びこれを引用する本件発明2ないし6並びに
本件発明7の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期は,
本件明細書の発明の詳細な説明を参照すれば明確というべきであるから,
原告の主張はいずれにしても失当である。
(3) 「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス
用」について
ア 本件明細書の【0016】ないし【0018】,【0029】,【00
34】,【0042】,【0044】,【0048】,【0050】及び
【0064】には,熱間プレスは700〜1000℃という温度で加熱す
ることを意味すること,熱間プレス成形の特徴として成形と同時に焼き入
れを行うことから,そのような焼き入れを可能とする鋼種を用いること,\n熱間成形後に急冷して高強度,高硬度となる焼き入れ鋼,例えば表1にあ\nるような鋼化学成分(鋼種A等)の高張力鋼板が実用上は特に好ましいこ
と,700〜1000℃の温度で加熱してから熱間プレスを行い,めっき
層表面に亜鉛の酸化皮膜が,下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア層\nとして全面的に形成されていること,具体的には,表1に示す鋼種Aを,\n大気雰囲気の加熱炉内で950℃×5分加熱して,加熱炉より取り出し,
このままの高温状態で円筒絞りの熱間プレス成形を行うこと,また,熱間
プレスに先立つ加熱を,大気炉で850℃,3分間行うことが記載されて
いる。
そして,これらの記載によれば,本件発明1の「700〜1000℃に
加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用」という文言において,
1)「700〜1000℃に加熱されて」は,熱間プレスの加熱条件であり,
2)「プレスされ焼き入れされる」は,成形と同時に焼き入れを行う熱間プ
レス成形の特徴であり,3)「用」という文言の意味は,「(接尾語的に)
…に使うためのものの意を表す」(広辞苑第六版)であることからすると,\n「熱間プレス用」は,後に続く,本件発明1の「鋼板」を修飾し,鋼板が
熱間プレスに使うためのものであることを意味するものと理解できる。
してみれば,「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れさ
れる」は,「熱間プレス」の加熱条件及び特徴を表現するものと理解でき\nるから,本件発明1の「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き
入れされる熱間プレス用」という文言は明確である。このことは,本件発
明1を引用する本件発明2〜6及び(同様の文言を有する)本件発明7に
ついても同様である。
イ 原告の主張について
原告は,本件発明は用途発明であるとした上で,種々理由を述べて,「7
00〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用」
という記載の意味が不明確であると主張する。
しかしながら,前記アのとおり,「700〜1000℃に加熱されてプ
レスされ焼き入れされる」は,「熱間プレス」の加熱条件及び特徴を表現\nするものと認められるから,その余の点について判断するまでもなく,本
件発明1の「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる
熱間プレス用」という文言の意味は明確である。
また,本件発明1が用途発明であるか否かは,その結論を左右するもの
ではない。
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◆平成26(行ケ)10201
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2018.04.13
平成29(行ケ)10127 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年3月29日 知的財産高等裁判所
明確性違反および実施可能要件違反の無効を主張しましたが、審決、知財高裁とも無効理由無しと判断しました。
原告は,平成13年(2001年)以降でさえ,先行技術(甲20)と
技術常識に基づいて,外部から侵入した水分による劣化を防止しているとはいえ
ない程度に蛍光体の沈降が抑えられた濃度分布の実現は不可能であったのであり,\n本件明細書の「フォトルミネセンス蛍光体を含有する部材,形成温度,粘度やフ
ォトルミネセンス蛍光体の形状,粒度分布などを調整することによって種々の分
布を実現することができ」(【0047】)との記載は,本件構成に対応する技\n術的手段が単に抽象的に記載されているだけで,当業者が発明の実施をすること
ができない記載にすぎないことを意味するものに他ならないから,実施可能要件\nを欠くというべきであって,審決の結論には明らかな違法がある旨主張する。
明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができ
る程度に明確かつ十分に記載したものであることを要する(特許法36条4項1号)。\n本件発明は,「発光装置と表示装置」(発光ダイオード)という物の発明であるとこ\nろ,物の発明における発明の「実施」とは,その物の生産,使用等をする行為をい
うから(特許法2条3項1号),物の発明について実施をすることができるとは,そ
の物を生産することができ,かつ,その物を使用することができることであると解
される。
本件明細書には,「蛍光体の分布は,フォトルミネセンス蛍光体を含有する部材,
形成温度,粘度やフォトルミネセンス蛍光体の形状,粒度分布などを調整すること
によって種々の分布を実現することができ,発光ダイオードの使用条件などを考慮
して分布状態が設定される。」(【0047】)との記載があることから,蛍光体の濃
度分布を適宜調整することにより,本件発明の「コーティング樹脂中のガーネット
系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高く\nなっている」発光ダイオードを生産することができ,かつ,使用することができる
ことは,本件明細書に接した当業者にとって明らかであると認められる。
したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明を実施することがで
きる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められるから,その旨の審決の\n判断に誤りはない。
これに対し,原告が主張する,外部から侵入した水分による劣化を防止している
とはいえない程度に蛍光体の沈降が抑えられた濃度分布とは,本件構成に係る「コ\nーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側から\nLEDチップ側に向かって高くなっている」ものではない状態を示すものである。
そうすると,仮に,このような濃度分布について,発明の詳細な説明や出願時の
技術常識を考慮しても実現することができない,又は,その実現に過度の試行錯誤
を要するとしても,このことは,本件明細書の発明の詳細な説明が,当業者が本件
発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとの前記認定を左右するも\nのではない(発光ダイオードの製造工程において,蛍光体がコーティング樹脂中を
沈降することによって,本件構成を満足するものを製造することができることにつ\nいては,当事者間に争いがないものと解される。)
◆判決本文
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2018.03.28
平成29(行ケ)10085 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年3月26日 知的財産高等裁判所(4部)
異議理由ありとした審決が取り消されました。訂正は新規事項であるとした審決の判断は維持されましたが、訂正前の発明について、明確性違反および進歩性違反との判断は取り消されました。
本件決定は,本件発明1の特許請求の範囲のうち「寄生ダイオード(131)の
立ち上がり電圧」は「上記ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高」いとの記載が,
いかなる電流が流れる場合のことを表したものであるか不明であるから,明確性要\n件に適合しないと判断した。
(2) 前記2(3)イのとおり,請求項1において,寄生ダイオード(131)の「立
ち上がり電圧は,上記ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高く」と特定されてい
るのは,本件発明1の構成として,同期整流を行う際,寄生ダイオード(131)\nの立ち上がり電圧を,ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高くするという技術的
事項を採用する旨特定するものである。
そして,本件発明1に係る電力変換装置において使用される還流電流の程度が限
定されていないことと,同期整流を行う際には,常に,寄生ダイオード(131)
の立ち上がり電圧を,ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高くすることとは,関
係がない。
(3) したがって,「寄生ダイオード(131)の立ち上がり電圧」は「上記ユニ
ポーラ素子本体のオン電圧よりも高」いとの本件発明1の特許請求の範囲の記載が,
第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。同記載
が明確ではないから,本件各発明の特許請求の範囲の記載は,明確性要件に適合し
ないとする本件決定の判断は誤りである。
・・・・
引用発明は,モータの回生モードにおいて,回生電力の消費能力を高めると\nいう課題に対して,順方向電圧降下が高いボディダイオードに電流を流し,回生電
力を消費させるというものである。
このように,引用発明は,モータの回生モードにおいて,ボディダイオードに電
流を流し,ボディダイオードにおいて回生電力を損失させるという課題解決手段を
採用したものである。一方,本件周知技術は,寄生ダイオード側に電流を流さず,
発熱損失を低減させるというものであるから,引用発明の課題解決手段と正反対の
技術思想を有するものである。したがって,当業者は,引用発明におけるモータの
回生モードにおいて,正反対の技術思想を有する本件周知技術を適用することはな
い。
そして,引用例には,引用発明の電力変換装置において,力行モードを回生モー
ドから切り離し,力行モードの動作のみを変更することを示唆するような記載はな
いから,当業者は,力行モードにおける動作のみを変更することを容易に想到する
ことはない。
したがって,引用発明に本件周知技術を適用する動機付けはないというべきであ
る。
◆判決本文
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