無効理由なし(進歩性、明確性等)とした審決が維持されました。
(2) 原告は、仮に相違点5が認められるとしても、周知技術1(皮膚に電気刺
激を与えるブラシ型の美容機器において、ブラシの櫛歯を肌の形状に合わせ
て屈曲できるようにすること)を考慮して相違点5に係る構成を採用するこ\nとは容易であると主張する。
ア しかし、甲1公報の「動作する際には、通常の髪をとかすように髪をと
かして、シリコンスリーブ9の底端が頭皮に接触すると、ばね8が圧縮
され、スライドスリーブ4がシリコンスリーブ9を収縮させ、シリコン
スリーブ9全体の底端が頭皮に接触し」([0023])の記載などか
ら明らかなように、甲1発明では、櫛としての通常の使用により櫛歯の
底端が頭皮に接触することで櫛歯がスムーズに伸縮することが前提とさ
れているところ、スライドスリーブ4を径方向に屈曲する構成とすると、\nスライドスリーブ4と電流ガイドロッド3及びストッパー5との間の抵
抗・摩擦の増大等により、スライドスリーブ4が電流ガイドロッド3に
沿ってスムーズにスライドすることを妨げることは明らかである。そう
すると、原告主張の周知技術1を甲1発明に適用することには阻害要因
があるというべきである。
イ これに対し、原告は、電流ガイドロッド3及びストッパー5の摺動(ス
ライド)とスライドスリーブ4及びシリコンスリーブ9が径方向に屈曲す
ることは両立する旨主張するが、根拠を欠くものといわざるを得ない。す
なわち、原告が挙げる甲2公報は、「電極41が配設された先端部40」
が上下左右に動くことが可能な「育毛剤導入装置」に係るものであり、軸\n方向に摺動する構成を有するものとは認められない(甲2)。\nまた、原告は、スライドスリーブ4が屈曲できない部材であればストッ
パー5と磁石6の位置を「固定」する必要がないと主張するが、本件審決
が認定する甲1発明のとおり「電流ガイドロッド3の底端にストッパー5
が固定して接続され」ていなければ、シリコンスリーブ9からなる櫛歯が
電流ガイドロッド3から抜けることになるし、製造時の手間を考慮しても
ストッパー5を電流ガイドロッド3に、磁石6をスライドスリーブ9に固
定する方が自然といえるから、スライドスリーブ4が屈曲することの根拠
にはならない。
原告は、その他、髪をとかす動きをする際や「頭部の曲率の変化に応じ
て、シリコンスリーブ9の底部が常に頭皮にフィットするように調整する」
([0022])ためには径方向に屈曲することが必要である等主張する
が、シリコンスリーブ9の屈曲により底部の放電孔が常に頭皮にフィット
するとは認め難いし、いずれにせよ甲1公報の記載に基づく主張ではなく、
上記アの認定を左右するものではない。
(3) したがって、本件発明1は、甲1発明及び原告主張の周知技術1に基づい
て当業者が容易に想到できるものではないから、本件発明1の発明特定事項
を全て含み、更に減縮したものである本件発明2〜10についても同様であ
って、本件審決の甲1発明に基づく進歩性の判断の誤りはなく、原告が主張
する取消事由2には理由がない。
◆判決本文
争点は、発明特定事項「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり」がPBPクレームか否か、その他、第1次判決の拘束力、不可能・非実際的事情の有無、明確性要件、サポート要件などです。知財高裁(4部)は、「不可能\・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の請求項の記載は明確性要件に違反する」と判断しました。
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2は、「セレコキシブ粒子が、
ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事項
(以下「本件ピンミル構成」ということがある。)を含む(削除された請求\n項を除く他の請求項も、請求項1又は2を直接又は間接的に引用することで
本件ピンミル構成を含むことになっている。)ところ、本件ピンミル構\成を
巡っては、そのクレーム解釈(PBPクレームといえるか否か、「ピンミル
のような」は衝撃式ミルの単なる例示か、衝撃式ミルの一部に限定する構成\nかなど)と、当該クレーム解釈を前提とした明確性要件の適合性の議論が重
層的に争われているので、以下、順次検討していく。
(3) まず、本件ピンミル構成がPBPクレームに当たるかについて検討するに、\n本件ピンミル構成に関する本件明細書の【0024】、【0190】の記載\nが、セレコキシブ粒子を粉砕する製造工程、製造方法を開示していることは
明らかであり、したがって、本件訂正によって特許請求の範囲の発明特定事
項とされるに至った本件ピンミル構成についても、「ピンミルのような衝撃\n式ミルで粉砕」するという製造方法をもって物の構造又は特性を特定しよう\nとするもの(その意図が成功しているかどうかはともかく)と理解される。
この限度では、被告が主張し、本件審決が判断を示しているとおりである。
第1事件原告は、製薬組成物の製造には複数の工程が必要であるなどとし
てこれを争うが、そのような工程の全てを特定することがPBPクレームと
しての必須条件とはいえない。実質的に製造方法の明確性を問題にしている
とすれば、この点からの検討は後に示すこととする。
(4) 次に、本件ピンミル構成の意味するところ(例示か限定か)を検討するに、\n「ピンミルのような衝撃式ミル」との特許請求の範囲の文言自体に着目して
考えた場合、1)ピンミルは単なる例示であって衝撃式ミル全般を意味すると
いう理解、2)衝撃式ミルに含まれるミルのうち、ピンミルと類似又は同等の
特性を有する衝撃式ミルを意味するという理解のいずれにも解する余地が
あり、特許請求の範囲の記載のみから一義的に確定することはできない。
そこで、本件明細書の記載を参照するに、本件明細書の【0024】には、
「セレコキシブと賦形剤とを混合するに先立ち、ピンミル(pin mil
l)のような衝撃式ミルでセレコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作
製することは、改善された生物学的利用能を提供するに際して効果的である\nだけでなく、かかる混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性
と関連する問題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミル
を利用して粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネ
ルギーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ
よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体には容
易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が高くなり、
このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合において、非常に
重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合する際のエアージェッ
トミルのような液体エネルギーミルの有用性に予期せぬ結果をもたらす。特\n定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕により長い針状からより均一な結
晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質させ、ブレンド目的により適するよ
うになるが、長い針状の結晶はエアージェットミルでは残存する傾向が高い
と仮定される。」との記載が、【0135】には、「セレコキシブは先ず粉
砕される若しくは所望の粒子サイズに微細化される。さまざまな粉砕機若し
くは破砕機が利用することが可能であるが、セレコキシブのピンミリングの\nような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組成物に改善さ
れたブレンド均一性がもたらせる」との記載がある。
以上の記載に上記(3)の解釈を併せて考えると、本件ピンミル構成は、被\n告が主張(第3の3(6)ア)するように、本件訂正発明に係る薬剤組成物の含
むセレコキシブ粒子が、ピンミルで粉砕されたセレコキシブ粒子に見られる
のと同様の、長い針状からより均一な結晶形へと変質されて、凝集力が低下
し、ブレンド均一性が向上した構造、特性を有するものであることを特定す\nる構成であって、したがって、「ピンミルのような衝撃式ミル」とは、ピン\nミルに限定されるものではなく、上記のような構造、特性を有するセレコキ\nシブ粒子が得られる衝撃式ミルがこれに含まれ得るものと理解するのが相
当である。
(5) 以上を前提に、本件ピンミル構成を含む本件訂正発明の特許請求の範囲の\n記載が明確性要件を満たすかどうかを検討する。
ア 衝撃式粉砕機に分類される粉砕機としては、本件審決も認定していると
おり、多種多様なものがある(ハンマーミル、ケージミル、ピンミル、デ
ィスインテグレータ、スクリーンミル等が知られており、ハンマーの形状
によっても、ナイフ型、アブミ型、ブレード型、ピン型等がある。甲イ1
11、112、136)ところ、上記(4)で示したクレーム解釈によると、
衝撃式粉砕機によって粉砕されたセレコキシブ粒子を含む薬剤組成物で
あっても、本件特許の技術的範囲に属するものと属しないものがあること
になるが、本件明細書に接した当業者において、「ピンミルで粉砕された
セレコキシブ粒子に見られるのと同様の、長い針状からより均一な結晶形
へと変質されて、凝集力が低下し、ブレンド均一性が向上した構造、特性\nを有するセレコキシブ粒子」を製造できる衝撃式粉砕機がいかなるものか
を理解できるとは到底認められない。すなわち、一般に、明細書に製造方
法の逐一が記載されていなくても、当業者であれば、明細書の開示に技術
常識を参照して当該製造方法の意味するところを認識できる場合も少な
くないと解されるが、本件の場合、本件明細書には、「ピンミルで粉砕さ
れたセレコキシブ粒子」の凝集力の小ささ、改善されたというブレンド均
一性が、ピンミルのいかなる作用によって実現されるものかの記載がない
ため、衝撃式ミル一般によって実現されるものなのか、衝撃式ミルのうち、
ピンミルと何らかの特性を共通にするものについてのみ達成されるもの
なのかも明らかとなっていない。そのため、技術常識を適用しようとして
も、いかなる特性に着目して、ある衝撃式ミルが本件ピンミル構成にいう\n「ピンミルのような衝撃式ミル」に当たるか否かを判断すればよいのかと
いった手掛かりさえない状況といわざるを得ない。
イ そうすると、本件明細書等に加え本件出願日(明確性要件の判断の基準
時)当時の技術常識を考慮しても、「ピンミルのような衝撃式ミル」の範
囲が明らかでなく、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕」するというセ
レコキシブ粒子の製造方法は、当業者が理解できるように本件明細書等に
記載されているとはいえないから、本件訂正発明は明確であるとはいえな
い。
ウ ところで、PBPクレームは、物自体の構造又は特性を直接特定するこ\nとに代えて、物の製造方法を記載するものであり、そのような特許請求の
範囲が明確性要件を充足するためには、不可能・非実際的事情の存在が要\n求されるのであるが、本件においては、不可能・非実際的事情を検討する\n以前の問題として、前記ア、イに示したようにそもそも特許請求の範囲に
記載された製造方法自体が明確性を欠くものである。
(6) 本件審決は、「ピンミルのような衝撃式ミルは、いわゆる衝撃式粉砕機で
あり、粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機と
は異なる粒度分布の粉体を作製する装置であることが理解できるから明確
である」としており、これは、「ピンミルのような」について、「いわゆる
衝撃式粉砕機」のなかでも、さらに、「粉砕された粉体は、ジェットミルの
ような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」こと
のできる装置であるとの意味づけを与えた認定であると解される。
そして、「ピンミルによる」粉砕が、「粉砕された粉体は、ジェットミル
のような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」も
のであることについて、本件審決は、本件明細書の、ピンミルと、エアージ
ェットミルのような他のタイプのミルとの粉砕物の凝集力の違いに関する
記載(【0024】)、及び、粉砕装置の粉砕機構が異なれば得られる粒子\nの粒度分布が異なるという技術常識を認定したことにより、導き出している
ものと認められる。
しかし、本件明細書には、凝集力の違いが、粉砕装置の違いに基づく粒子
の粒度分布の違いに起因するものであるとの記載も示唆もない。粉砕装置の
違いが、粒度分布の違い以外の粒子特性を導くことも当然考えられるところ
である(これを否定する技術常識があるとは認められない。)。そうすると、
「ピンミルのような」が、「衝撃式ミル」に対して、さらに「粉砕された粉
体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の
粉体を作製する装置」であるとの意味づけを与えた本件審決の解釈は、本件
明細書等の記載及び技術常識を考慮しても、無理があるものといわざるを得
ない。
(7) 以上より、不可能・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の\n請求項1、2、4、5、7〜13、15、17〜19の記載は明確性要件に
違反するものであり、取消事由3は理由がある。
3 取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)について
上記2のとおり、取消事由3が認められる以上、本件審決(原告らが取消しを
求めている請求項に関する部分)は既に取消しを免れないものである。しかし、
明確性要件違反の原因となった本件ピンミル構成は、前訴判決がサポート要件\n違反を肯定する判断をしたことを受けて、その瑕疵を回避するために特許請求
の範囲に加えられたという本件の経過を踏まえると、本件訂正後の特許請求の
範囲を前提としたサポート要件の適合性の問題(取消事由2)についても、併せ
て判断を示すことが適切と考えられることから、以下に当裁判所の判断を示し
ておくこととする。
なお、その場合、本件ピンミル構成を含む特許請求の範囲は明確性要件を欠\nくことが前提となるから、サポート要件の判断においても、本件ピンミル構成\nを発明特定事項として考慮しない前提で検討することとする。
(1) 前訴判決がサポート要件違反を認めて第1次審決を取り消したことは前
述のとおりであるところ、本件においては、前訴判決の拘束力がいかなる範
囲に及ぶかが問題となっているので、まずこの点を検討する。
ア 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判
決が確定したときは、審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判
事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は
行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法3
3条1項の規定により、上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束
力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる
ものであるから、審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断を
することは許されない(最高裁判所昭和63年(行ツ)第10号平成4年
4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。
この拘束力は、行政庁が裁判所の判断に反して同一の処分を繰り返し、
同一の案件が行政庁と裁判所の間を往復することを避けるためのもので
あり、原則として主文についてのみ生ずる既判力と異なり、判決理由中の
判断であっても、主文に直結する認定判断、すなわち主要事実の認定及び
その法規範への当てはめの判断にも及ぶものである。他方、判決の結論と
直接関係のない傍論の説示はもとより、主要事実を確定する過程における
間接事実の認定やその評価にまで及ぶものではなく、また、結論に至る推
論過程を基礎づける論拠、反対主張を排斥する理由等の説示についても同
様である。取消判決の理由中の説示の全てが拘束力を有するとした場合、
結論に影響する意味合いや程度も様々な議論が独り歩きを始め、その解
釈・適用を巡って新たな紛争を拡大させることとなり、そのような状況は、
行政事件訴訟法33条1項の想定するところではないというべきである。
イ 以上を前提に、前訴判決(甲イ86)の判断構造をみておく。\n
(ア) 前訴判決は、まず、サポート要件適合性について、「所定の数値範囲
を発明特定事項に含む発明について、特許請求の範囲の記載が同号所定
の要件(サポート要件)に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な
説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含まれる数値範囲の
全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認識できるか
否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である」とし、「これ
を本件発明1についてみると・・・『粒子の最大長において、セレコキ
シブ粒子のD90が200µm未満である粒子サイズの分布を有する』こ
とを特徴とするものであるから、所定の数値範囲を発明特定事項に含む
発明であるといえる。」としているので、「D90が200µm未満であ
る粒子サイズの分布を有する」本件発明1について、その数値範囲の全
体にわたりその課題を解決できるものであるかどうかを検討している。
(イ) そして、前訴判決は、(a)一方で、本件明細書の【0022】、【01
24】、【0135】の記載から、未調合のセレコキシブを粉砕し、「セ
レコキシブのD90粒子サイズが約200μm以下」とした場合には、セ
レコキシブの生物学的利用能が改善されること、セレコキシブのピンミ\nリングのような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組
成物に改善されたブレンド均一性がもたらせることを示したものとい
えるとしつつ、(b)他方で、1)本件発明1の請求項1には、セレコキシブ
を微細化する具体的な方法は記載されておらず、本件発明1の「微粒子
セレコキシブ」が「ピンミリングのような衝撃粉砕」により粉砕された
ものに限定する旨の記載もなく、かえって、本件明細書の【0135】
には、さまざまな粉砕機・破砕機が利用可能とされていること、2)本件
明細書の【0008】には、長く凝集した針を形成する傾向を有する結
晶形態を有する未調合のセレコシブは、錠剤成形ダイでの圧縮の際に、
融合して一枚岩の塊になり、他の物質とブレンドさせたときでも、セレ
コキシブの結晶は、他の物質から分離する傾向があり、セレコキシブ同
士で凝集し、セレコキシブの不必要な大きな塊を含有する、非均一なブ
レンド組成物になるとの記載があること、3)本件優先日当時、粉砕によ
り溶出は改善されるが、難溶性薬物は凝集して溶解速度が遅くなること
があることが周知又は技術常識であったことを踏まえると、(c)難溶性
薬物であるセレコキシブについて、「『セレコキシブのD90粒子サイズが
約200μm以下(「未満」の誤記と認められる。)』の構成とするこ\nとによりセレコキシブの生物学的利用能が改善されることを直ちに理\n解することはできない」(以下「説示(c)」という。)とした。
また、本件明細書には、(d)「D90」の値を用いて粒子サイズの分布
を規定することの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との関係\nが説明されていないことを述べた上で、(e)難溶性薬物の原薬の粒子径
分布が化合物によって種々の形態を採ることに照らすと、「200μm
以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分布がどの
ようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解するこ\nとはできない」(以下「説示(e)」という。)とした。そして、(f)本件
明細書の例11及び例11−2の実験結果の記載は、微粉化したセレコ
キシブを含有する「組成物A」及び「組成物B」(これらに含まれるセ
レコキシブのD90粒子サイズは約30μmと推認される。)の生物学的
利用能は、未粉砕、未調合のセレコキシブである「組成物F」の生物学\n的利用能より高いことを示しているが、「組成物A」及び「組成物B」\nに加湿剤として含まれるラウリル硫酸ナトリウムが、生物学的利用能の\n実験結果に影響した可能性が高いものと認められ、この実験結果から、\n本件発明1の「セレコキシブ粒子のD90が200μm未満」の数値範囲
の全体にわたり、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善\nするものと認識することはできないとした。
(ウ) 前訴判決は、以上を踏まえた結論として、本件明細書の発明の詳細な
説明の記載及び本件優先日当時の技術常識から、当業者が、本件発明1
に含まれる「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が200
μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明1の課題を解決できると
認識できるものと認められないから、本件発明1は、サポート要件に適
合するものと認めることはできないとした。
(エ) 前訴判決の本件発明2〜4のサポート要件の適合性に関する判断は、
以下のとおりである。
本件発明2は「前記粒子の最大長において、前記セレコキシブ粒子の
D90が100μm未満であること」を、本件発明3は同40µm未満で
あることを、本件発明4は同25µm未満であることをそれぞれ発明特
定事項とするものであるところ、セレコキシブ粒子のD90が200µm
未満である本件発明1がサポート要件に適合するものと認めることが
できないことは前記のとおりであると指摘した上で、例11及び例11
−2の実験結果も、ラウリル硫酸ナトリウムが生物学的利用能の実験結\n果に影響した可能性が高いものと認められることに照らすと、上記実験\n結果から、D90が約30µmよりも小さい値とした場合において、未調
合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善するものと認識する\nことはできないとして、本件発明2〜4はサポート要件に適合するもの
と認めることはできないとした。
(オ) 前訴判決は、本件発明5、7〜19については、請求項1記載の製薬
組成物を発明特定事項に含むものであるところ、「本件発明1がサポー
ト要件に適合するものと認めることができないことは前記‥のとおり
であるから」という理由により、サポート要件に適合するものと認める
ことはできないとした。
ウ 取消判決の拘束力の範囲に関し上記アで述べたところに従って、前訴判
決の拘束力の生ずる部分を検討するに、主文に直結する認定判断(主要事
実の認定及びその法規範への当てはめの判断)は、本件訂正前の特許請求
の範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識(主要事実
の認定に当たる。)を前提に、本件訂正前の特許請求の範囲によって特定さ
れる発明(本件発明)が特許法36条6項1号の要件に適合しないとした
判断(法規範への当てはめに当たる。)にほかならず、前訴判決中、拘束力
が生ずるのは当該部分であると解される。
他方、前訴判決の判断過程では、結論に至る推論過程を基礎づける論拠
として、説示(c)、(e)等の様々な理由が示されているが、その逐一について
拘束力が生ずるものではないことは、上記アで述べたとおりである。
エ そもそも、サポート要件は、明細書の記載(特許を受けようとする発明の
開示)から見て広すぎる特許請求の範囲を防ぐ役割を果たすものであると
ころ、被告は、本件訂正前の本件発明につきサポート要件違反を認めた前
訴判決を受けて、特許請求の範囲の減縮を目的とする本件訂正の請求をし
ており、これが訂正要件を充足することは前記1のとおりである。
その結果、本件では、本件訂正後の特許請求の範囲(ただし、本件ピンミ
ル構成は発明特定事項として考慮しない。)に基づく本件訂正発明のサポ\nート要件の適合性が問題となっているのであって、同じサポート要件の適
合性の問題であっても、本件訂正前の特許請求の範囲を前提とする前訴判
決とは判断対象が異なる。それにもかかわらず、「前訴判決の説示(c)、(e)
等に照らせば、本件訂正後の本件訂正発明についても、前訴判決と同様の
判断が妥当する(はずである)」といった推論を戦わせるのは、取消判決の
拘束力の問題とは異質の議論といわざるを得ない。
オ 本件審決は、前訴判決の説示(e)(難溶性薬物の原薬の粒子径分布は・・・、
200μm以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分
布がどのようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解\nすることはできない旨の判示)について、これは、生物学的利用能の改善の\n観点では、90%の粒子の粒度分布も重要であることを述べたものである
との理解を示している。そして、ピンミルのような衝撃式粉砕機(衝撃式ミ
ル)により粉砕された粉体と、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕
機により粉砕された粉体は、異なる粒度分布の粉体となるという一般的な
知見をもとに、この粒度分布の差異は粉砕機構の差異に由来するものであ\nり、本件明細書に記載されたピンミルのような衝撃式ミルでの粉砕は、他
のタイプのミルとは異なる粒度分布を形成することにより、凝集性及びブ
レンド均一性の改善に寄与するとして、説示(c)、(e)を本件訂正発明1が
サポート要件に適合する理由の1つにしている。
これに対し、原告らは、D90を30μmにし、「セレコキシブ粒子が、
ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事
項を加えても、90%の具体的な粒度分布は明らかにならないとして、説
示(c)、(e)を本件訂正発明1がサポート要件に適合しない理由としている。
これらは、いずれも、前訴判決の説示(c)、(e)を独立して取り上げ、同判
断に拘束力が生じることを前提とするものと解されるが、失当というべき
である。
拘束力の問題を離れて考えても、前訴判決の当該部分の判示は、製薬組
成物の特徴が、実質的に「D90が200µm未満である粒子サイズの分布を
有する」ことで特定されていた本件発明1について、未調合のセレコキシ
ブに対して生物学的利用能が改善されるという課題を解決できるものであ\nるかどうかを検討する過程において、上記特定事項で特定しさえすれば、
課題を解決できるものと理解することはできないと判断したものであって、
前訴判決が、本件発明1がサポート要件に適合するには、90%の粒度分
布を示すことが必須の要請であると判断しているとの趣旨まで読み込むこ
とには無理がある。
カ よって、前記ウのとおり、前訴判決の拘束力は、本件訂正前の特許請求の
範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識を前提に、本
件訂正前の特許請求の範囲によって特定される発明(本件発明)が特許法
36条6項1号の要件に適合しないとした判断について生じることを前提
に、サポート要件の適合性について判断する。
(2) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細
な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を
定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な
説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な
説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明
の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳
細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該
発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して
判断すべきものと解される。特に、所定の数値範囲を発明特定事項に含む発
明について、特許請求の範囲の記載が同号の要件に適合するか否かは、当業
者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含ま
れる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認
識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。
ア 前記第2の2(3)の本件明細書の開示事項によれば、本件訂正発明の課題
は、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固体の経\n口運搬可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供することであり、\n取り分け、水溶液に溶解しにくいセレコキシブ粒子の特質から、混合中に
セレコキシブ同士で凝集し、非均一なブレンド組成物になるとの問題の解
決にあるものと認められる。
具体的には、本件明細書の【0008】では、「・・・セレコキシブは、
水溶性媒体には異常なほど溶解しない。例えば、カプセル形態で経口投与
させた場合、未調合のセレコキシブは胃腸管にて急速に吸収されるために、
容易には溶解せず、分散もしない。加えて、長く凝集した針を形成する傾
向を有する結晶形態を有する未調合のセレコシブは、通常、錠剤成形ダイ
での圧縮の際に、融合して一枚岩の塊になる。・・・」として、セレコキシ
ブが、水溶性媒体には異常なほど溶解しないこと、未調合のセレコシブが
長く凝集した針を形成する傾向を有することを解決すべき問題として挙げ
ている。
イ 上記課題に関係する技術常識として、証拠(甲イ7、16、23、65〜
68、80、103)及び弁論の全趣旨によれば、本件出願日当時、1)粉砕
によって薬物の粒子径を小さくし、比表面積(有効表\面積)を増大させるこ
とにより、薬物の溶出が改善されるが、他方で、難溶性薬物については、溶
媒による濡れ性が劣る場合には、粒子径を小さくすると凝集が起こりやす
くなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速度が遅くなることがあるこ\nと、2)疎水性の難溶性物質であっても、界面活性剤が存在すると、微粒子は
凝集せずに均一に溶液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は
大きくなることは、周知又は技術常識であったものと認められる。
ウ 上記技術常識を踏まえて、本件訂正発明が上記課題を解決できると認識
できる記載が本件明細書に開示されているかどうかにつき、さらに検討す
る。
(ア) 本件明細書の【0022】には「本発明の組成物は微粒子の形態のセ
レコキシブを包含する。セレコキシブの一次粒子は、例えば、製粉若し
くは粉砕により、又は溶液から沈殿させて生成させ、凝集して二次の集
合体粒子が形成される。本願で利用する用語「粒子サイズ」とは、特に
本願で指摘しない限り、一次粒子の最長の大きさのことをいう。粒子サ
イズは、セレコキシブの臨床的効果に影響を与える重要なパラメータで
あると考えられる。よって、別の実施例では、発明の組成物は、粒子の
最長の大きさで、粒子のD90が約200μm以下、好ましくは約100
μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは約40μm
以下、最も好ましくは約25μm以下であるように、セレコキシブの粒
子分布を有する。通常、本発明の上記実施例によるセレコキシブの粒子
サイズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改良される。」、\n【0124】には「カプセル及び錠剤中でのセレコキシブの粒子サイズ
カプセル若しくは錠剤の形で経口投与されると、セレコキシブ粒子サイ
ズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見し\nた。したがって、セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下、
好ましくは約100μm以下、より好ましくは約75μm以下、さらに
好ましくは約40μm以下、最も好ましくは25μm以下である。例え
ば、例11に例示するように、出発材料のセレコキシブのD90粒子サイ
ズを約60μmから約30μmに減少させると、組成物の生物学的利用
能は非常に改善される。加えて又はあるいは、セレコキシブは約1μm\nから約10μmであり、好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均
粒子サイズを有する。」としており、セレコキシブの粒子サイズを減少
させることで、セレコキシブの生物学的利用能が改善されることが記載\nされている。
(イ) また、本件明細書の【0024】の「セレコキシブと賦形剤とを混合
するに先立ち、ピンミル(pin mill)のような衝撃式ミルでセ
レコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作製することは、改善され
た生物学的利用能を提供するに際して効果的であるだけでなく、かかる\n混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性と関連する問
題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミルを利用し
て粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネルギ
ーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ
よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体に
は容易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が
高くなり、このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合に
おいて、非常に重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合す
る際のエアージェットミルのような液体エネルギーミルの有用性に予\n期せぬ結果をもたらす。特定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕に
より長い針状からより均一な結晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質
させ、ブレンド目的により適するようになるが、長い針状の結晶はエア
ージェットミルでは残存する傾向が高いと仮定される。」との記載から、
粉砕により粒子サイズを減少させるについて、ピンミルのような衝撃式
ミルを使用して長い針状からより均一な結晶とし、ブレンド目的により
適するものとすることが記載されている。
(ウ) 本件明細書の【0075】には「加湿剤 セレコキシブは水溶液にか
なり溶解しにくい。したがって、本発明の製薬組成物は、任意であるが、
好ましくは、キャリア材料として、一つ又はそれ以上の薬剤学的に許容
な加湿剤を含む。かかる加湿剤は、水と親和性があるようにセレコキシ
ブを維持させるように選択することが好ましく、その状態が製薬組成物
の相対的生物学的利用能を改善させると考えられる。・・・」、【00\n76】には「ラウリル硫酸ナトリウムは好ましい加湿剤である。存在す
るならば、ラウリル硫酸ナトリウムは、組成物の全重量の対して、約0.
25%から約7%、好ましくは約0.4%から約6%、より好ましくは
約0.5%から約5%の量を含む。」として、セレコキシブは水溶液に
かなり溶解しにくいために、水と親和性があるようにセレコキシブを維
持させる加湿剤を含むことが好ましいこと、好ましい加湿剤はラウリル
硫酸ナトリウムであること、そのような加湿剤を添加することにより相
対的生物学的利用能を改善できることが記載されている。\n
(エ) 例11−2では、犬モデルでの調合の相対的生物学的利用能の試験\nがされている。
組成物A、Bは微粉化され、ラウリル硫酸ナトリウムが添加されてい
る(【0173】、【0174】、表11−2A)。本件明細書の【0\n124】に「・・・例えば、例11に例示するように、出発材料のセレ
コキシブのD90粒子サイズを約60μmから約30μmに減少させる
と、組成物の生物学的利用能は非常に改善される。・・・」と記載され\nていることから、組成物A、BのD90粒子サイズは約30μmと認めら
れる。他方、参考例である組成物Fは、未粉砕、未調合のセレコキシブ
である(【0172】)。
生物学的利用能は、メス犬について、組成物Fが16.9%であるの\nに対し、組成物Aは31.2%、組成物Bは24.9%であり(【01
76】、(表11−2C)、オス犬について、組成物Fが16.9%で\nあるのに対し、組成物Aは49.4%、組成物Bは54.2%である(【0
177】、表11−2D)とされ、D90粒子サイズを約30μmに減少\nさせた組成物A、Bにおいて生物学的利用能が明らかに高い結果が示さ\nれている。
エ 以上を総合すると、本件訂正発明1は、粒子の最大長においてD90が3
0μmであるセレコキシブ粒子、及び加湿剤としてのラウリル硫酸ナトリ
ウムを含有することを特定するものであるところ、これは、1)セレコキシ
ブが長い針状の結晶形態を有することに対応するため、粉砕によって薬物
の粒子径を小さくし、比表面積を増大させることにより、薬物の溶出を改\n善させるために、セレコキシブの粒子サイズを「D90が30μm」に減少
させ、また、2)セレコキシブのような難溶性薬物については、粒子径を小さ
くすると凝集が起こりやすくなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速\n度が遅くなるが、界面活性剤が存在すると、微粒子は凝集せずに均一に溶
液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は大きくなることから、
セレコキシブに、界面活性剤同様水に親和性を持たせる湿潤剤であるラウ
リル硫酸ナトリウムを含有させることとしたものである。そして、3)具体
的な実験結果においても、D90粒子サイズは約30μmとし、ラウリル硫
酸ナトリウムを含有させたセレコキシブ組成物が、未粉砕、未調合のセレ
コキシブに対して優れた生物学的利用能を示しているのであるから(例1\n1−2)、本件訂正発明1は、本件ピンミル構成を発明特定事項として考慮\nしなくても、本件明細書及び技術常識から、「未調合のセレコキシブに対し
て生物学的利用能が改善された固体の経口運搬可能\なセレコキシブ粒子を
含む製薬組成物を提供する」という課題を解決できると当業者が認識でき
る範囲の発明であるといえる。
本件訂正発明2は、D90が30μmよりも減少した数値範囲である「D
90が30μm未満」と特定されたものであるから、上記本件訂正発明1に
ついて述べたところと同様、本件明細書及び技術常識から、上記課題を解
決できると当業者が認識できる範囲の発明であるといえる。
本件訂正発明4、5、7〜13、15、17〜19も、本件訂正発明1及
び本件訂正発明2を直接的又は間接的に引用してこれらをさらに限定する
発明であるから、本件訂正発明1及び本件訂正発明2と同様に、本件明細
書及び技術常識から、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲の
発明であるといえる。
◆判決本文
漏れていたのでアップします。特許権侵害訴訟で、差止と10億を超える損害賠償が認められました。特102条2項の覆滅は無しと判断されました。請求項6、9がPBPクレームでしたが、これについては明確性違反と判断されました。
本件発明6は、電鋳管についての物の発明であるところ、特許請求の範囲に
おいて、当該電鋳管について、細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物
を形成する工程(メッキ工程)、細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小
さくなるよう変形させる工程(引っ張り工程)、変形させた細線材を除去する工
程(分離工程)を経て製造されることが記載されている。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載
されている場合、その発明の要旨は、当該製造方法により製造された物と構造、\n特性等が同一である物として認定される。そして、物の発明についての特許に
係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、
当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表\しているのか、又は
物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法により製造された物に限
定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当
該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占
権を有するのかについて予測可能\性を奪うことになる。したがって、出願時に
おいて当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、
又はおよそ実際的でないという事情が存在するなどの第三者の利益を不当に
害しない事情が存在するのでない限り、物の発明についての特許に係る特許請
求の範囲にその物の製造方法が記載されている特許請求の範囲の記載は、特許
法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するとは
いえない(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷
判決・民集69巻4号700頁参照)。本件発明6の特許請求の範囲において
は、物の製造方法が記載されているところ、出願時において製造された物をそ
の構造又は特性により直接特定することが不可能\であるか、又はおよそ実際的
でないという事情についての主張はなく、また、同事情を認めるに足りる証拠
もない。
・・・
本件明細書には、本件発明6の電鋳管と同様の形状等を有する電鋳管につい
て本件発明6の方法以外の複数の方法で製造できると記載されている【004
1】、【0042】)。そして、本件発明6の引っ張り工程及び分離工程の方法に
よった場合の電鋳管の内面精度について、特許請求の範囲、本件明細書、図面
には記載はない。また、原告が主張する本件発明6の技術的範囲に属するとい
う場合の電鋳管の客観的な内面精度自体が必ずしも明確ではなく、また、本件
特許の出願当時、引っ張り工程及び分離工程により製造された電鋳管の内面精
度を含む構造又は特性が、技術常識により明らかであったことを認めるに足り\nる証拠はない。
そうすると、電鋳管の発明である本件発明6について、少なくとも引っ張り
工程及び分離工程に関して電鋳管のどのような構造又は特性を表\しているの
かが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明らかであるとは
いえない。原告の主張は採用することができない。
・・・
被告は、本件発明1、5は、被告製品1、2の製造工程のうち、長尺の電鋳
管を半製品として製造する過程に係るものであり、被告製品1、2は、この後
の切断加工する工程を経て完成するのであるから、本件発明1、5を使用して
製造されたのは切断前の製品であると主張するほか、切断加工に係る付加価値
分については損害の推定額は覆滅されるべきであると主張する。また、被告は、
被告が被告方法による電鋳管を製造する前、製品の仕入後、切断等をして、仕
入額の倍額で販売していたため、上記製品の製造工程と切断、洗浄による付加
価値は1対1として計算すべきであると主張する。
しかし、被告が販売する被告製品1、2は、本件発明1、5を使用した後に
切断工程等があるとしてもその工程は販売する被告製品1、2に対する一連の
ものといえ、本件発明1、5を使用して製造されたものといえる。そして、被
告が過去に仕入れていたという製品がどのように製造されていたかは不明で
あり、その製品と被告方法1、2によって製造した切断加工前の製品の品質、
価格、価値等の関係も不明である。被告製品1、2を製造するに当たり、前記
イで認定したとおり、被告は切断加工工程の少なくとも一部は外注して、利
益の算定に当たりその外注加工代は経費として控除されているところ、その控
除後の被告の利益とされる部分に、切断加工により得た被告の利益が存在する
ことやその額を認めるに足りる証拠はない。
また、被告が主張する、原告に係る親子会社関係に関する主張は推定を覆滅
すべき事情に当たるとはいえない。
◆判決本文
なお、本件については、控訴審判決はなさそうですが、対応する審決取消訴訟にて、請求項6は不可能・非実際的理由がなくても、PBPクレームだから自動的に明確性違反だとはならないと判断されてします(内面精度との技術的関係が不明として明確性違反と判断されています)。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載
されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に
いう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時
において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\である
か、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁
判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集
69巻4号700頁)。
もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許
請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・
プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造され
た物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判\n決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表\して
いるのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法に
より製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を
読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者が
その範囲において独占権を有するのかについて予測可能\性を奪う結果となり、
第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。
そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製
造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願
時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表\
しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義
的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不
可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解さ\nれる。
・・・
そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、1)電着物等を
加熱して熱膨張させ、又は細線材を冷却して収縮させることにより、電着
物等と細線材の間に隙間を形成する方法、2)液中に浸して又は液をかける
ことにより、細線材と電着物等が接触している箇所を滑りやすくする方法、
3)一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細
線材と電着物等の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引す
るか、物理的に押し遣るか、気体又は液体を噴出して押し遣る方法、4)熱
又は溶剤で溶かす方法が記載されている(【0041】、【0116】)が、
これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても
一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法(上記
3)の方法に含まれる。)が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の
内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上
記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在し
たとも認められない。
そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電
鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。\n
◆令和3(行ケ)10140