2017.12.11
平成27(ワ)23087 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成29年12月6日 東京地方裁判所
医薬品について、薬理データが記載されていないとして、実施可能性違反、サポート要件違反で無効と判断されました。\n
特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は「その発明
の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることが
できる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めると\nころ,この規定にいう「実施」とは,物の発明においては,当該発明にかか
る物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,\n明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が当該発明に係る物を生産し,
使用することができる程度のものでなければならない。
そして,医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示さ\nれることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効
量を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができ\nないから,医薬の用途発明において実施可能要件を満たすためには,明細書\nの発明の詳細な説明は,その医薬を製造することができるだけでなく,出願
時の技術常識に照らして,医薬としての有用性を当業者が理解できるように
記載される必要がある。
(2) 本件の検討
本件についてこれをみるに,本件発明1では,式(I)のRAが−NHC
O−(アミド結合)を有する構成(構\成要件B)を有するものであるところ,
そのようなRAを有する化合物で本件明細書に記載されているものは,「化
合物C−71」(本件明細書214頁)のみである。そして,本件発明1は
インテグラーゼ阻害剤(構成要件H)としてインテグラーゼ阻害活性を有す\nるものとされているところ,「化合物C−71」がインテグラーゼ阻害活性
を有することを示す具体的な薬理データ等は本件明細書に存在しないことに
ついては,当事者間に争いがない。
したがって,本件明細書の記載は,医薬としての有用性を当業者が理解で
きるように記載されたものではなく,その実施をすることができる程度に明
確かつ十分に記載されたものではないというべきであり,以下に判示すると\nおり,本件出願(平成14年(2002年)8月8日。なお,特許法41条
2項は同法36条を引用していない。)当時の技術常識及び本件明細書の記
載を参酌しても,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有したと当業
者が理解し得たということもできない。
・・・
すなわち,上記各文献からうかがわれる本件優先日当時の技術常識と
しては,ある種の化合物(ヒドロキシル化芳香族化合物等)がインテグ
ラーゼ阻害活性を示すのは,同化合物がキレーター構造を有しているこ\nとが理由となっている可能性があるという程度の認識にとどまり,具体\n的にどのようなキレーター構造を備えた化合物がインテグラーゼ阻害活\n性を有するのか,また当該化合物がどのように作用してインテグラーゼ
活性が阻害されるのかについての技術常識が存在したと認めるに足りる
証拠はない。
・・・
以上の認定は本件優先日当時の技術常識に係るものであるが,その
ほぼ1年後の本件出願時にこれと異なる技術常識が存在したことを認め
るに足りる証拠はなく,本件出願当時における技術常識はこれと同様と
認められる。このことに加え,そもそも本件明細書には,本件特許化合
物を含めた本件発明化合物がインテグラーゼの活性部位に存在する二つ
の金属イオンに配位結合することによりインテグラーゼ活性を阻害する
2核架橋型3座配位子(2メタルキレーター)タイプの阻害剤であると
の記載はないことや,本件特許化合物がキレート構造を有していたとし\nても,本件出願当時インテグラーゼ阻害活性を有するとされていたヒド
ロキシル化芳香族化合物等とは異なる化合物であることなどに照らすと,
本件明細書に接した当業者が,本件明細書に開示された種々の本件発明
化合物が,背面の環状構造により配位原子が同方向に連立した2核架橋\n型3座配位子構造(2メタルキレーター構\造)と末端に環構造を有する\n置換基とを特徴として,インテグラーゼの活性中心に存在する二つの金
属イオンに配位結合する化合物であると認識したと認めることはできな
い。
以上によれば,本件出願当時の技術常識及び本件明細書の記載を参酌して
も,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有したと当業者が理解し得
たということもできない。
したがって,本件明細書の記載は本件発明1を当業者が実施できる程度に
明確かつ十分に記載したものではなく,本件発明1に係る特許は特許法36\n条4項1号の規定に違反してされたものであるので,本件発明1に係る特許
は特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無効にされるべきも
のである。
3 争点(1)イ(イ)(サポート要件違反)について
上記2で説示したところに照らせば,本件明細書の発明の詳細な説明に本件
発明1が記載されているとはいえず,本件発明1に係る特許は特許法36条6
項1号の規定に違反してされたものというべきである。
◆判決本文
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2017.12. 6
平成28(行ケ)10222 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年11月29日 知的財産高等裁判所(3部)
サポート要件違反とした無効審決が取り消されました。
前記(2(1)〜(3))のとおり,本件各発明は,焼鈍分離剤用の酸化マグネ
シウム及び方向性電磁鋼板に関するものであるところ,方向性電磁鋼板の磁
気特性及び絶縁特性,並びに市場価値は,脱炭焼鈍により鋼板表面に SiO2被
膜を形成し,その表面に焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含むスラリーを塗\n布して乾燥させ,コイル状に巻き取った後に仕上げ焼鈍することにより,
SiO2 と MgO が反応して形成されるフォルステライト(MgSiO4)被膜の性能,\n具体的には,その生成しやすさ(フォルステライト被膜生成率),被膜の外
観及びその密着性並びに未反応酸化マグネシウムの酸除去性の4点に左右さ
れるものであり,このフォルステライト被膜の性能は,これを形成する焼鈍\n分離剤用酸化マグネシウムの性能に依存するものということができる。\nそこで,焼鈍分離剤用酸化マグネシウム及びこれに含有される微量成分
についての研究が行われ,複数の物性値を制御し,フォルステライト被膜の
形成促進効果を一定化させ,かつフォルステライト被膜の品質を改善する試
みが多く行われてきたが,焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに課せられた要求
を完全に満たす結果は得られていない。
このような状況の下,本件各発明は,磁気特性及び絶縁特性,更にフォ
ルステライト被膜生成率,被膜の外観及びその密着性並びに未反応酸化マグ
ネシウムの酸除去性に優れたフォルステライト被膜を形成でき,かつ性能が\n一定な酸化マグネシウム焼鈍分離剤を提供すること,更に本件各発明の方向
性電磁鋼板用焼鈍分離剤を用いて得られる方向性電磁鋼板を提供することを
目的としたものである。
(3) 検討
ア 本件各発明は,上記のとおり,方向性電磁鋼板に適用される焼鈍分離剤
用酸化マグネシウム粉末粒子を提供するものであるところ,本件課題を
解決するための手段として,焼鈍分離剤用酸化マグネシウム中に含まれ
る微量元素の量を,Ca,P 及び B の成分の量で定義し,更に Ca,Si,P 及
び S のモル含有比率により定義して(前記2(4)イ),本件特許の特許請求
の範囲請求項1に記載された本件微量成分含有量及び本件モル比の範囲
内に制御するものである。
そして,焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに含有される上記各微量元素
の量を本件微量成分含有量及び本件モル比の範囲内に制御することによ
り,本件課題を解決し得ることは,本件明細書記載の実施例(1〜19)
及び比較例(1〜17)の実験データ(前記2(5)〜(11))により裏付けら
れているということができる。
そうすると,当業者であれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載
に基づき,焼鈍分離剤用酸化マグネシウムにおいて,本件特許の特許請
求の範囲請求項1に記載のとおり Ca,P,B,Si 及び S の含有量等を制御
することによって本件課題を解決できると認識し得るものということが
できる。
・・・
これらの記載によれば,焼
鈍分離剤用酸化マグネシウムの CAA とサブスケールの活性度とのバラ
ンスが取れていない場合,フォルステライト被膜は良好に形成されない
こととなるのは事実であるといえる。
(イ) しかし,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から把握し得る発明
は,焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに含有される Ca,Si,B,P,S の含
有量に注目し,それらの含有量を増減させて実験(実施例1〜19及
び比較例1〜17)を行うことにより,最適範囲を本件特許の特許請
求の範囲請求項1に規定されるもの(本件微量成分含有量及び本件モ
ル比)に定めたというものである。その理論的根拠は,Ca,Si,B,P
及び S の含有量を所定の数値範囲内とすることにより,ホウ素が MgO
に侵入可能な条件を整えたことにあると理解される(本件明細書の\n【0016】。前記2(4)カ)。
他方,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を見ても,CAA 値を調
整することにより本件課題の解決を図る発明を読み取ることはできない。
むしろ,これらの記載によれば,本件明細書の発明の詳細な説明中に
CAA 値に関する記載があるのは,第1の系統及び第2の系統それぞれ
において,実施例及び比較例に係る実験条件が CAA 値の点で同一であ
ることを示すためであって,フォルステライト被膜を良好にするために
CAA 値をコントロールしたものではないことが理解される。
そして,CAA の調整は,最終焼成工程の焼成条件により可能である\n(特開平9−71811号公報(甲7)「この発明の MgO では40%
クエン酸活性度を30〜90秒の範囲とする。…かかる水和量,活性度
のコントロールは最終焼成の焼成時間を調整することにより行う。」
(【0026】)との記載参照。)から,焼鈍分離剤用酸化マグネシウ
ムにおいて,本件微量成分含有量及び本件モル比のとおりに Ca,P,B,
Si 及び S の含有量等を制御し,かつ,焼成条件を調整することによって,
本件各発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムにおいても,実施例におけ
る110〜140秒以外の CAA 値を取り得ることは,技術常識から明
らかといってよい。
したがって,本件審決は,本件各発明の課題が解決されているのは
CAA40%が前記数値の範囲内にされた場合でしかないと判断した点に
おいて,その前提に誤りがある。
(ウ) そもそも,本件明細書によれば,本件特許の出願当時,焼鈍分離剤
用酸化マグネシウムについては,被膜不良の発生を完全には防止でき
ていないことなど,十分な性能\を有するものはいまだ見出されておら
ず,焼鈍分離剤用酸化マグネシウム及び含有される微量成分について
研究が行われ,制御が検討されている微量成分として CaO,B,SO3,F,
Cl等が挙げられ,また,微量成分の含有量だけでなく,微量成分元素を
含む化合物の構造を検討する試みも行われていたことがうかがわれる\n(前記2(2))。
・・・・
そうすると,本件特許の出願当時,フォルステライト被膜の性能改善\nという課題の解決を図るに当たり,焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに含
有される微量元素の含有量に着目することと,CAA 値に着目すること
とが考えられるところ,当業者にとって,いずれか一方を選択すること
も,両者を重畳的に選択することも可能であったと見るのが相当である\n(なお,微量元素の含有量に着目する発明にあっても,焼鈍分離剤用酸
化マグネシウムの CAA 値とサブスケールの活性度とのバランスが取れ
ていない場合には,その実施に支障が生じる可能性があることは前示の\nとおりであるが,この点の調整は,甲1,5〜7,67,乙4等によっ
て認められる技術常識に基づいて,当業者が十分に行うことができるも\nのと認められる。)。
(エ) 以上を総合的に考慮すると,当業者であれば,本件明細書の発明の
詳細な説明には,本件微量成分含有量及び本件モル比を有する焼鈍分
離剤用酸化マグネシウムにより本件課題を解決し得る旨が開示されて
いるものと理解し得ると見るのが相当である。
ウ 以上によれば,CAA 値について何ら特定がない酸化マグネシウムにお
いて,本件微量成分含有量及び本件モル比のみの特定をもってしては,
直ちに本件課題を解決し得るとは認められないとした本件審決には誤り
があるというべきである。
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2017.11.10
平成28(行ケ)10215 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年10月26日 知的財産高等裁判所(2部)
審決は、36条違反の無効理由無しと判断しましたが、知財高裁はサポート要件違反として審決を取り消しました。
前記第2の2の認定事実及び前記(1)の本件明細書の記載によると,本件
発明について,以下のとおり認められる。
高速連続鋳造において,鋳造速度が大きくなると,凝固シェル厚みが薄くなり,
これに伴って,バルジングが大きくなることから,バルジング性湯面変動が発生し,
モールドパウダーの巻き込みが発生する原因となっている。鋳片表面にモールドパ\nウダーが付着していない方が二次冷却における冷却効率が良く,凝固シェル厚みが
厚くなるので,バルジング性湯面変動を抑制するには,鋳片からの剥離性の良いモ
ールドパウダーが望ましい。
そこで,本件発明は,二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可能\とす
る,鋳片表面からの剥離性に優れる,鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供する\nことを,その目的とするものである。
2 取消事由1(サポート要件についての判断の誤り)について
・・・・
(2) 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比すると,前記
1(1)ウの【0010】及び【0011】における第1の発明についての記載は,請
求項1の記載と一致する。
また,同【0012】の記載のうち,「前記モールドパウダー・・・特徴とする」
という部分は,請求項2において,本件発明1をさらに特定する事項の記載と一致
する。
(3)ア 前記1(1)イのとおり,本件発明の課題は,二次冷却帯における鋳片の
冷却能を高めることを可能\とする,鋳片表面からの剥離性に優れる,鋼の連続鋳造\n用モールドパウダーを提供することである(【0009】)。
イ そして,前記(2)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明【0010】,
【0011】及び【0012】には,課題を解決する手段として,「第1の発明」及
び「第2の発明」のモールドパウダー,すなわち,本件発明が記載され,また,前
記1(1)オのとおり,剥離性の試験結果を示した図1及び図2に基づき,請求項1に
記載された式(1)及び(2)を満たすモールドパウダーが,剥離性に優れること
が分かったとされている(同【0018】〜【0024】)。
具体的には,
・・・・
この記載は,モデル実験の結果を示す図1及び図2から導かれ
た式(1)及び(2)を満たすモールドパウダーは,連続鋳造に用いた場合に,実
際に鋳片からの剥離性に優れ,二次冷却帯における鋳片の冷却能を高めることを可\n能とするものであるかどうかを,バルジング湯面変動の抑制効果によって評価する\nことを意図したものであると認められる。
ウ 実施例について
(ア) 証拠(甲3,5,7,8,10,19)及び弁論の全趣旨によると,
次の技術常識が認められる。
a バルジング性湯面変動は凝固シェルの厚みが薄くなることに起因し
て激しくなる。凝固シェルは溶鋼が鋳型内で冷却されて形成されるものであり,鋳
型内抜熱強度が低い場合(鋳型に抜けていく熱が少なく,鋳型内が冷却されにくい
場合)には凝固シェルの厚みが薄くなる。
b 鋳型内における冷却強度の指標としてモールドパウダーの凝固温度
が用いられる。このパウダーの凝固温度は,一定温度に保持した坩堝中において円
筒を回転するなどして粘性を求め,測定温度に対し粘性をプロットした図において,
温度の低下に伴って急激に粘性が高くなる温度とされている。この急激な粘性の変
化は温度の低下に伴いパウダーが結晶化し,見掛けの粘性が高くなるためであると
考えられており,この凝固温度が高い場合はパウダーフィルム内の結晶相(固着相)
厚みが厚いため鋳型−凝固シェル間の熱抵抗が大きくなり,緩冷却が実現されると
されている。
c モールドパウダーの凝固温度は,その組成によって変化する。
(イ) これらの技術常識を考え合わせると,凝固シェルの厚みは,鋳型直下
でのモールドパウダーの鋳片表面からの剥離性及びそれに伴う二次冷却帯での冷却\n効率のみによって決まるものではなく,モールドパウダーの組成によって異なる凝
固温度にも影響されると認められる。
(ウ) 本件明細書記載の実施例において,モールドパウダーBとモールド
パウダーAについて,鋳型内における冷却強度の指標となる凝固シェルの厚みに影
響を与え得る凝固温度は記載されていない。また,モールドパウダーAとモールド
パウダーBの組成が記載された表1には,化学成分として,SiO2,Al2O3,C\naO,MgO,Na2Oのみが挙げられ,それらの量を合計しても,モールドパウダ
ーAで80.6%,モールドパウダーBで78.7%であり,残りの成分が何であ
ったのか不明であるから,その組成から凝固温度を推測することもできない。
また,本件明細書記載の実施例において,(1)式及び(2)式を満たすものと満
たさないものについての連続鋳造の際のバルジング性湯面変動の測定は,それぞれ,
モールドパウダーBとモールドパウダーAの一つずつで行われたにとどまる。
これらのことから,本件明細書の発明の詳細な説明において,モールドパウダー
BがモールドパウダーAよりもバルジング性湯面変動を抑制できたことが示されて
いても,モールドパウダーBがモールドパウダーAと比較してバルジング性湯面変
動を抑制することができたのは,モールドパウダーが(1)式及び(2)式を満た
す組成であることによるのか否かは,本件明細書の発明の詳細な説明からは,不明
であるといわざるを得ない。
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2017.10.30
平成28(行ケ)10189 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年10月25日 知的財産高等裁判所(3部)
サポート要件違反とした審決が取り消されました。
・・・以上のような発明の詳細な説明の記載を総合してみれば,
本願発明における本願組成要件と本願物性要件との関係に関して,次のよ
うな理解が可能といえる。すなわち,まず,Nb2O5成分は,屈折率を高\nめ,分散を大きくしつつ部分分散比を小さくし,化学的耐久性及び耐失透性
を改善するのに有効な必須の成分であること(段落【0033】)から,本
願組成要件において,その含有量が40%超65%以下とされ,組成物中で
最も含有量の多い成分とされていることが理解できる。また,ZrO2成分
は,屈折率を高め,部分分散比を小さくする効果があり(段落【0031】),
他方,TiO2成分は,屈折率を高め,分散を大きくする効果がある反面,
その量が多すぎると部分分散比が大きくなること(段落【0029】)から,
「部分分散比が小さい光学ガラス」を得るためには,ZrO2及びNb2O5
の含有量に対してTiO2の含有量が多くなりすぎることを避ける必要が
あり,そのために,TiO2/(ZrO2+Nb2O5)の値を一定以下とす
るものであること(段落【0073】)が理解でき,これが,本願組成要件
において,各成分の含有量とともに規定される「TiO2/(ZrO2+N
b2O5)が0.2以下であり」との特定に反映され,本願発明の課題の解決
(高屈折率高分散であって,かつ,部分分散比が小さい光学ガラスを提供す
ること)にとって重要な構成となっていることが理解できる。
ウ 他方,本願明細書の発明の詳細な説明における実施例の記載をみると,本
願組成要件を満たす実施例(No.8,9,21,24〜38,41,44,
45,48〜57,60〜66)に係る組成物が,本願物性要件の全てを満
たすことが示されているが,これらの組成物の組成は,本願組成要件に規定
された各成分の含有比率,「TiO2/(ZrO2+Nb2O5)の値」及び
「SiO2,B2O3,TiO2,ZrO2,Nb2O5,WO3,ZnO,Sr
O,Li2O,Na2Oの合計含有量」の各数値範囲の一部のもの(具体的に
は,別紙審決書4頁23行目から5頁8行目までに記載のとおりである。)
でしかなく,上限から下限までの数値範囲を網羅するというものではない。
すなわち,本願組成要件に規定された各数値範囲は,実施例によって本願物
性要件を満たすことが具体的に確認された組成の数値範囲に比して広い数
値範囲となっており,そのため,本願組成要件で特定される光学ガラスのう
ち,実施例に示された数値範囲を超える組成に係る光学ガラスについても,
本願物性要件を満たし得るものであることを当業者が認識できるか否かが
問題となる。
そこで検討するに,まず,光学ガラスの製造に関しては,ガラスの物性が
多くの成分の総合的な作用により決定されるものであるため,個々の成分
の含有量の範囲等と物性との因果関係を明確にして,所望の物性のための
必要十分な配合組成を明らかにすることは現実には不可能\であり,そのた
め,ターゲットとされる物性を有する光学ガラスを製造するに当たり,当該
物性を有する光学ガラスの配合組成を明らかにするためには,既知の光学
ガラスの配合組成を基本にして,その成分の一部を,当該物性に寄与するこ
とが知られている成分に置き換える作業を行い,ターゲットではない他の
物性に支障が出ないよう複数の成分の混合比を変更するなどして試行錯誤
を繰り返すことで当該配合組成を見出すのが通常行われる手順であること
が認められ,このことは,本願出願時において,光学ガラスの技術分野の技
術常識であったものと認められる(甲5,6,17,18,21,22。以
上のような技術常識の存在については,当事者間に争いがない。)。
そして,上記のような技術常識からすれば,光学ガラスの製造に当たっ
て,基本となる既知の光学ガラスの成分の一部を,物性の変化を調整しなが
ら,他の成分に置き換えるなどの作業を試行錯誤的に行うことは,当業者が
通常行うことということができるから,光学ガラス分野の当業者であれば,
本願明細書の実施例に示された組成物を基本にして,特定の成分の含有量
をある程度変化させた場合であっても,これに応じて他の成分を適宜増減
させることにより,当該特定の成分の増減による物性の変化を調整して,も
との組成物と同様に本願物性要件を満たす光学ガラスを得ることも可能で\nあることを理解できるものといえる。そして,前記イのとおり,当業者は,
本願明細書の発明の詳細な説明の記載から,本願物性要件を満たす光学ガ
ラスを得るには,「Nb2O5成分を40%超65%以下の範囲で含有し,
かつ,TiO2/(ZrO2+Nb2O5)を0.2以下とする」ことが特に
重要であることを理解するものといえるから,これらの条件を維持しなが
ら,光学ガラスの製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で上記のよ
うな成分調整を行うことにより,高い蓋然性をもって本願物性要件を満た
す光学ガラスを得ることが可能であることも理解し得るというべきであ\nる。なお,これを具体的な成分に即して説明するに,例えば,本願発明の最
多含有成分であるNb2O5についてみると,当業者であれば,実施例中最
多の含有量(53.61%)を有する実施例50において,TiO2/(Z
rO2+Nb2O5)を0.2以下とする条件を維持しながら,必須成分であ
るTiO2(6.48%),ZrO2(1.85%)又は任意成分であるNa
2O(9.26%)から適宜置換することによって,本願物性要件を満たし
つつ,Nb2O5を増やす調整を行うことも可能であることを理解するもの\nと考えられ,同様に,実施例中Nb2O5の含有量が最少(43.71%)で
ある実施例24において,TiO2/(ZrO2+Nb2O5)を0.2以下
とする条件を維持しながら,もう1つの主成分であるSiO2(24.76
%),必須成分であるZrO2(10.48%)又は任意成分であるLi2O
(4.76%)への置換により,本願物性要件を満たしつつ,Nb2O5を減
らす調整を行うことも可能であることを理解するものと考えられる(以上\nのことは,本願組成要件に係るNb2O5以外の成分についても,同様にい
えることであり,この点については,原告の前記第3の2⑵記載の主張が参
考となる。)。
してみると,本願明細書の実施例に係る組成物の組成が,本願組成要件に
規定された各成分の含有比率,「TiO2/(ZrO2+Nb2O5)の値」
及び「SiO2,B2O3,TiO2,ZrO2,Nb2O5,WO3,ZnO,
SrO,Li2O,Na2Oの合計含有量」の各数値範囲の一部のものにす
ぎないとしても,本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時に
おける光学ガラス分野の技術常識に鑑みれば,当業者は,本願組成要件に規
定された各数値範囲のうち,実施例として具体的に示された組成物に係る
数値範囲を超える組成を有するものであっても,高い蓋然性をもって本願
物性要件を満たす光学ガラスを得ることができることを認識し得るという
べきであり,更に,そのように認識し得る範囲が,本願組成要件に規定され
た各成分の各数値範囲の全体(上限値や下限値)にまで及ぶものといえるか
否かについては,成分ごとに,その効果や特性を踏まえた具体的な検討を行
うことによって判断される必要があるものといえる。
エ これに対し,本件審決は,本願明細書の実施例に記載されたガラス組成の
数値範囲については,本願物性要件を満たす光学ガラスが得られることを
確認することができるが,実施例に記載されたガラス組成の数値範囲を超
える部分については,本願物性要件を満たす光学ガラスが得られることが,
実施例の記載により裏付けられているとはいえないとし,また,その他の発
明の詳細な説明のうち,部分分散比に影響を与える成分であるTiO2,Z
rO2,Nb2O5,WO3及びLi2Oの記載(段落【0029】等)につい
ても,好ましい範囲等として記載される数値範囲が実施例に記載されたガ
ラス組成の数値範囲より広い範囲となっていることから,実施例の数値範
囲を超える部分について,本願物性要件を満たす光学ガラスが得られるこ
とを裏付けるとはいえないとし,更に,本願出願時の技術常識(光学ガラス
の物性は,ガラスの組成に依存するが,構成成分と物性との因果関係が明確\nに導かれない場合の方が多いことなど)に照らしても,本願組成要件の数値
範囲にわたって,本願物性要件を満たす光学ガラスが得られることを当業
者が認識し得るとはいえないと判断したものである。
このように,本件審決の判断は,本願組成要件に規定された各成分の含有
比率,「TiO2/(ZrO2+Nb2O5)の値」及び「SiO2,B2O3,
TiO2,ZrO2,Nb2O5,WO3,ZnO,SrO,Li2O,Na2O
の合計含有量」の各数値範囲のうち,当業者が本願物性要件を満たす光学ガ
ラスが得られるものと認識できる範囲を,実施例として具体的に示された
ガラス組成の各数値範囲に限定するものにほかならないところ,上記ウで
述べたところからすれば,このような判断は誤りというべきである。本件審
決は,上記ウのとおり,本願のサポート要件充足性を判断するに当たって必
要とされる,本願物性要件を満たす光学ガラスを得ることができることを
認識し得る範囲が本願組成要件に規定された各成分における数値範囲の全
体に及ぶものといえるか否かについての具体的な検討を行うことなく,実
施例として示された各数値範囲が本願組成要件に規定された各数値範囲の
一部にとどまることをもって,直ちに本願のサポート要件充足性を否定し
たものであるから,そのような判断は誤りといわざるを得ず(更に言えば,
上記のような具体的な検討の結果に基づく拒絶理由通知がされるべきであ
ったともいえる。),また,その誤りは審決の結論に影響を及ぼすものとい
える。
◆判決本文
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2017.06.30
平成28(ネ)10047 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成28年10月19日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
少し前の事件ですが、漏れていたのでアップします。特許侵害事件において、無効理由無かつ技術的範囲に属するとした1審判断を維持しました。同一特許に係る審決取消請求事件の判決の理由中の判断は,侵害訴訟における技術的範囲の確定に対して拘束力を持たないとも言及しました。
ところで,特許発明の技術的範囲の確定の場面におけるクレーム解釈と,当該特
許の新規性,進歩性等を判断する前提としての発明の要旨認定の場面におけるクレ
ーム解釈とは整合するのが望ましいところ,確かに,本件特許2に係る審決取消請
求事件の判決(甲12)には,控訴人が指摘するとおり,「本件特許発明2は,ケ
ーブルコネクタの回転のみによって,すなわち,ケーブルコネクタとレセプタクル
コネクタ間のスライドなどによる相対位置の変化なしに,ロック突部の最後方位置
が突出部に対して位置変化を起こす構成に限定されていると解される。」旨の記載\nがある(39頁)。しかし,上記判決は,主引用例(本件における乙3)の嵌合過
程について,「…肩部56で形成される溝部49の底面に回転中心突起53が当た
り,ここで停止する状態となる。…この状態で相手コネクタ33を回転させるので
はなく,回転中心突起53を肩部56に沿って動かすことで,相手コネクタ33を
コネクタ31に対してコネクタ突合方向のケーブル44側にずらした状態にして,
相手コネクタ33をコネクタ突合方向に直交する溝部方向に動かすことができない
ようにし,その後,回転中心突起53を中心に相手コネクタ33を回転させている」
(36〜37頁)との認定を前提に,本件特許発明2と乙3発明とを対比するに当
たり,乙3発明には,「回転によって,回転中心突起53の最後方位置が回転前に
比較して後方に位置するという技術思想が記載されているとはいえない」,「回転
中心突起53の上方に肩部56の上面が位置するように,相手コネクタ33が傾斜
している状態で肩部56の前側から後側(ケーブル側)へ回転中心突起53を移動
させているものであって,相手コネクタ33の回転により回転中心突起56の最後
方位置が後方(ケーブル側)へ移動するものではない」(38頁)として,乙3発
明は,「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケー
ブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位
置が,上記ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に
位置するものではないという点において,本件特許発明2と相違する。」旨認定し
ている(38頁)。上記のように,乙3発明においては,ロック突部の突部後縁の
最後方位置の変化に,ケーブルコネクタの上向き傾斜姿勢からコネクタ嵌合終了姿
勢への回転を伴う姿勢の変化が関係していないこと(「回転によって,回転中心突
起53の最後方位置が回転前に比較して後方に位置するという技術思想が記載され
ているとはいえない」こと)に照らせば,本件特許発明2と乙3発明とが相違する
ことを認定するについては,本件特許発明2におけるロック突部の突部後縁の最後
方位置の変化が,ケーブルコネクタの上向き傾斜姿勢からコネクタ嵌合終了姿勢へ
の回転を伴う姿勢の変化によって生じるものであれば足り,「回転のみによって」
生じること,言い換えれば,ケーブルコネクタを上向き傾斜姿勢からコネクタ嵌合
終了姿勢へと変化させる際に,姿勢方向を回転させることに伴って生じる「ケーブ
ルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドなどによる相対位置の変位」が一
切あってはならないことを要するものではないというべきである。なお,同一特許
に係る審決取消請求事件の判決の理由中の判断は,侵害訴訟における技術的範囲の
確定に対して拘束力を持つものではない。
したがって,控訴人の上記限定解釈に係る主張は,理由がない。
(イ) 控訴人は,被控訴人が,特許の無効を回避するために,自ら,「本件特許
発明2は,「ロック突部の突部後縁の最後方位置」が,「ケーブルコネクタが上向
き傾斜姿勢にあるとき」はロック溝部の溝部後縁から溝内方に突出する突出部の最
前方位置よりも前方に位置し,また,「ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢
にあるとき」は上記突出部の最前方位置よりも後方に位置することを規定している」
旨構成要件e及びfを限定解釈すべきことを主張しているのであるから,その技術\n的範囲の解釈に際しては,被控訴人の上記主張が前提にされるべきである旨主張す
る。
しかし,特許発明の技術的範囲を解釈するについて,相手方の無効主張に対する
反論として述べた当事者の主張は,必ずしも裁判所の判断を拘束するものではない。
そして,本件特許発明2に係る特許請求の範囲には,控訴人が主張するような限
定は規定されていないし,前記(1)イ記載の本件特許発明2の課題及び作用効果は,
ロック突部の突部後縁の最後方位置が,ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にある
とき,すなわち,コネクタ嵌合終了姿勢に至る前は,常にロック溝部の溝部後縁か
ら溝内方に突出する突出部の最前方位置よりも前方に位置しているのでなければ奏
し得ないというものではない。また,そもそも,本件明細書2には,本件特許発明
2に係る実施例の嵌合動作について,「ロック突部21’の下部傾斜部21’B−
2が,ロック溝部57’の後縁突出部59’Bの位置まで達すると,該後縁突出部
59’Bに対して下部傾斜部21’B−2が該後縁突出部59’Bの下方に向けて
滑動しながらケーブルコネクタ10はその前端が時計方向に回転して水平姿勢とな
って嵌合終了の姿勢に至る。」(【0053】)と記載されているように,ケーブ
ルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるときであっても,嵌合終了姿勢(水平姿勢)に
近づくと,ロック突部の突部後縁の最後方位置が,ロック溝部の溝部後縁から溝内
方に突出する突出部の最前方位置よりも後方に位置することが開示されているとい
えるから,構成要件eを,「ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるときは,ロ\nック突部の突部後縁の最後方位置が,ロック溝部の溝部後縁から溝内方に突出する
突出部の最前方位置よりも前方に位置する」ことを規定したものと解釈することは,
誤りである。
・・・・・
ア 控訴人の明確性要件違反並びに新規性及び進歩性欠如に係る主張は,控訴人
が請求した無効審判請求(無効2014−800015)と同一の事実及び同一の
証拠に基づくものであるところ,上記無効審判請求については,請求不成立審決が,
既に確定した(甲8,12)。したがって,控訴人において,本件特許2が,上記
明確性要件違反並びに新規性及び進歩性の欠如を理由として,特許無効審判により
無効にされるべきものと主張することは,紛争の蒸し返しに当たり,訴訟上の信義
則によって,許されない(同法167条,104条の3第1項)。
イ なお,控訴人は,本件特許発明2が「ケーブルコネクタの回転のみによって,
すなわち,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドなどによる相対
位置の変化なしに,ロック突部の最後方位置が突出部に対して位置変化を起こす構\n成に限定されている」ものと解釈されないとすれば,本件特許発明2は進歩性を欠
く旨主張する。
しかし,本件特許発明2の要旨を上記のように限定的に認定しない場合であって
も,乙3発明における嵌合動作は,相手コネクタ33の回転中心突起53をコネク
タ31の溝部49に肩部56で停止する深さまで挿入し,次いで,回転中心突起5
3を肩部56に沿って動かし,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56
のケーブル44側に当接している状態にして,その後,回転中心突起53を中心に
相手コネクタ33を回転させ,嵌合終了姿勢に至るというものであり,本件特許発
明2と乙3発明とは,本件特許発明2では,「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブル
コネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,
上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタがコネクタ嵌合
終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し」ているのに対し,乙3発明では,コ
ネクタ嵌合過程にて相手コネクタ33の前端がもち上がって該相手コネクタ33が
上向き傾斜姿勢にあるときのうち,少なくとも,コネクタ突合方向のケーブル44
側の端までずらした状態で回転中心突起53を中心に相手コネクタ33を回転させ
るとき,回転中心突起の突部後縁の最後方位置が,相手コネクタ33がコネクタ嵌
合終了姿勢にあるときと同一の地点に位置している点,すなわち構成要件eの点で\n相違する。そして,乙3には,乙3発明の上記嵌合動作に関し,回転によって,回
転中心突起53の最後方位置が回転前に比較して後方に位置するという技術的思想
が記載されているとはいえず(甲12・38頁),また,乙3発明と乙7ないし1
0に記載された各コネクタとでは,その構造や形状が大きく異なるから,乙3発明\nにおいて,上記各コネクタの嵌合過程における突起部と突出部との位置関係を適用
しようとする動機付けがあるということはできないし,仮に適用を試みたとしても,
乙3発明において,上記相違点に係る本件特許発明2の構成を備えることが容易に\n想到できたとは認められない。
◆判決本文
◆原審はこちら。平成26(ワ)14006
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2017.06.16
平成28(行ケ)10147 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年6月8日 知的財産高等裁判所
伊藤園のトマトジュース製造方法に関する特許に対して、カゴメが無効と争いました。審決は、全ての請求項について無効理由なしと判断しましたが、知財高裁は全ての請求項について、サポート要件違反の無効理由ありとして、審決を取り消しました。
前記(3)で検討したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,濃
厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制された,
新規なトマト含有飲料及びその製造方法,並びに,トマト含有飲料の酸味抑制方法
を提供するための手段として,本件発明1,8及び11に記載された糖度,糖酸比
及びグルタミン酸等含有量の数値範囲,すなわち,糖度について「9.4〜10.
0」,糖酸比について「19.0〜30.0」,及びグルタミン酸等含有量について
「0.36〜0.42重量%」とすることを採用したことが記載されている。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明に開示された具体例というべき実施例1
〜3,比較例1及び2並びに参考例1〜10(【0088】〜【0090】,【表1】)には,各実施例,比較例及び参考例のトマト含有飲料のpH,Brix,酸度,糖\n酸比,酸度/総アミノ酸,粘度,総アミノ酸量,グルタミン酸量,アスパラギン酸
量,及びクエン酸量という成分及び物性の全て又は一部を測定したこと,及び該ト
マト含有飲料の「甘み」,「酸味」及び「濃厚」という風味の評価試験をしたことが
記載されている。
(イ) 一般に,飲食品の風味には,甘味,酸味以外に,塩味,苦味,うま
味,辛味,渋味,こく,香り等,様々な要素が関与し,粘性(粘度)などの物理的
な感覚も風味に影響を及ぼすといえる(甲3,4,62)から,飲食品の風味は,
飲食品中における上記要素に影響を及ぼす様々な成分及び飲食品の物性によって左
右されることが本件出願日当時の技術常識であるといえる。また,トマト含有飲料
中には,様々な成分が含有されていることも本件出願日当時の技術常識であるとい
える(甲25の193頁の表−5−196参照)から,本件明細書の発明の詳細な\n説明に記載された風味の評価試験で測定された成分及び物性以外の成分及び物性も,
本件発明のトマト含有飲料の風味に影響を及ぼすと当業者は考えるのが通常という
ことができる。したがって,「甘み」,「酸味」及び「濃厚」という風味の評価試験を
するに当たり,糖度,糖酸比及びグルタミン酸等含有量を変化させて,これら三つ
の要素の数値範囲と風味との関連を測定するに当たっては,少なくとも,1)「甘み」,
「酸味」及び「濃厚」の風味に見るべき影響を与えるのが,これら三つの要素のみ
である場合や,影響を与える要素はあるが,その条件をそろえる必要がない場合に
は,そのことを技術的に説明した上で上記三要素を変化させて風味評価試験をする
か,2)「甘み」,「酸味」及び「濃厚」の風味に見るべき影響を与える要素は上記三
つ以外にも存在し,その条件をそろえる必要がないとはいえない場合には,当該他
の要素を一定にした上で上記三要素の含有量を変化させて風味評価試験をするとい
う方法がとられるべきである。
前記(3)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,糖度及び糖酸比を規定す
ることにより,濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みを有しつつも,トマト
の酸味が抑制されたものになるが,この効果が奏される作用機構の詳細は未だ明ら\nかではなく,グルタミン酸等含有量を規定することにより,トマト含有飲料の旨味
(コク)を過度に損なうことなくトマトの酸味が抑制されて,トマト本来の甘味が
より一層際立つ傾向となることが記載されているものの,「甘み」,「酸味」及び「濃
厚」の風味に見るべき影響を与えるのが,糖度,糖酸比及びグルタミン酸等含有量
のみであることは記載されていない。また,実施例に対して,比較例及び参考例が,
糖度,糖酸比及びグルタミン酸等含有量以外の成分や物性の条件をそろえたものと
して記載されておらず,それらの各種成分や各種物性が,「甘み」,「酸味」及び「濃
厚」の風味に見るべき影響を与えるものではないことや,影響を与えるがその条件
をそろえる必要がないことが記載されているわけでもない。そうすると,濃厚な味
わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制されたとの風味
を得るために,糖度,糖酸比及びグルタミン酸等含有量の範囲を特定すれば足り,
他の成分及び物性の特定は要しないことを,当業者が理解できるとはいえず,本件
明細書の発明の詳細な説明に記載された風味評価試験の結果から,直ちに,糖度,
糖酸比及びグルタミン酸等含有量について規定される範囲と,得られる効果という
べき,濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制
されたという風味との関係の技術的な意味を,当業者が理解できるとはいえない。
(ウ) また,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された風味の評価試験の
方法は,前記(3)のとおりであるところ,評価の基準となる0点である「感じない又
はどちらでもない」については,基準となるトマトジュースを示すことによって揃
えるとしても,「甘み」,「酸味」又は「濃厚」という風味を1点上げるにはどの程度
その風味が強くなればよいのかをパネラー間で共通にするなどの手順が踏まれたこ
とや,各パネラーの個別の評点が記載されていない。したがって,少しの風味変化
で加点又は減点の幅を大きくとらえるパネラーや,大きな風味変化でも加点又は減
点の幅を小さくとらえるパネラーが存在する可能性が否定できず,各飲料の風味の\n評点を全パネラーの平均値でのみ示すことで当該風味を客観的に正確に評価したも
のととらえることも困難である。また,「甘み」,「酸味」及び「濃厚」は異なる風味
であるから,各風味の変化と加点又は減点の幅を等しくとらえるためには何らかの
評価基準が示される必要があるものと考えられるところ,そのような手順が踏まれ
たことも記載されていない。そうすると,「甘み」,「酸味」及び「濃厚」の各風味が
本件発明の課題を解決するために奏功する程度を等しくとらえて,各風味について
の全パネラーの評点の平均を単純に足し合わせて総合評価する,前記(3)の風味を評
価する際の方法が合理的であったと当業者が推認することもできないといえる。
以上述べたところからすると,この風味の評価試験からでは,実施例1〜3のト
マト含有飲料が,実際に,濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつ
トマトの酸味が抑制されたという風味が得られたことを当業者が理解できるとはい
えない。
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2017.05.31
平成28(行ケ)10059 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年4月12日 知的財産高等裁判所(3部)
原審は、一部の請求項のみ無効と判断しましたが、知財高裁は無効理由なしとした請求項についても無効(明確性・サポート要件違反)と判断しました。
このような一部認容・一部非認容の場合に、双方が不服がある場合、実際の提訴はどうやるのでしょうか?、第1、第2事件みたいにはなってないし。。。
以上の検討結果を併せ考えれば,文言解釈のみによるのでは,構成要件\nC−2の「ファンの径方向外側」なる記載は多義的に解釈し得るもので
あるというべきである。
(2) 特許発明1の構成要件C−2の技術的意義に基づく解釈
ア 上記(1)のとおり,文言解釈のみによるのでは,構成要件C−2の「フ\nァンの径方向外側」なる記載は多義的に解釈し得るものであるとすれば,
当該構成要件の技術的意義に基づきその解釈を検討すべきこととなる。
イ 本件特許発明は,小型軽量化,高効率化を目的としてブラシレスモータ
を使用した携帯用電気切断機において,その回路基板の配置スペースの
確保及び冷却が問題となっていること,また,操作性を妨げないハウジ
ング形状である必要があることを背景に,モータを収容するハウジング
の形状を大きく変更せず,かつ,操作性を損なわずに,モータ駆動用の
回路基板の配置スペースを確保するとともにその冷却を良好に行うこと
を目的とするものである(前記1(3)イ,ウ)。
このような目的を達成するために,本件特許発明は,本件実施例にお
いて,ハンドルを把持する作業者による作業の妨げとならないように,
回路基板収容部をハンドルとベースとの間の高さ位置に設け,かつ,フ
ァンの回転によりファンガイド内側が負圧になることを利用して回路基
板冷却用窓からファンガイド内側に至る冷却風を発生させるために,回
路基板収容部をファンの径方向外側に配置している(前記1(3)エ,オ)。
このうち前者が小型化の目的を達成するための手段,後者が冷却の目的
を達成するための手段として把握される。
ウ(ア) しかし,これらの手段のみによって実際に上記各目的が達成される
か否かは,以下のとおり,本件明細書等の記載からは必ずしも明らかで
ない。
(イ) 小型化の目的に関しては,本件明細書には従来の携帯用電気丸鋸の
具体的な構造についての言及がないため,本件実施例の構\造との比較
において目的達成の有無ないし程度を評価することはできない。本件
実施例の構造それ自体から,これらが小型化の目的を達成しているか\n否かを客観的に評価することもできない。
また,仮に本件実施例の構造が小型化の目的を達成しているとしても,\n回路基板収容部をハンドルとベースとの間の高さ位置に設けさえすれば
自ずと目的が達成されるものではなく,前提として当該スペースを有効
活用し得るような合理的な構造を有することが必要と思われるが,本件\n明細書にはこの点に関する説明はない。
(ウ) 冷却の目的に関しては,上記手段により当該目的を達成する上で,
回路基板が冷却風の通路に配置されることは必須と思われるけれども,
その具体的方法として回路基板をファンの径方向外側に配置すること
は,ファンの径方向外側が冷却風の通路となるような構造を一体的に\n伴わない限り,回路基板の冷却とは直接関係しない。このことは,回
路基板がファンの径方向外側である真横にあったとしても,隔壁その
他により回路基板とファンとの間の冷却風の移動が遮断されているよ
うな場合を考えれば明らかである。
ここで,本件実施例においては,回路基板収容部の4側面のうち,そ
の2側面に回路基板冷却用風窓が多数形成され,これらとは別の側面に
風通路となる間隔が1つ設けられ,それら以外の側面は隔壁により囲ま
れる構造となっている。このうち,上記間隔は,ファンガイドの背面と\nハウジングの外壁部との間に設けられ,これによってモータ収容部と回
路基板収容部とが連通している。このような構造とともに,モータ収容\n部とファンの位置とがファンガイドによって連通する構造が採用されて\nいるからこそ,回路基板収容部内に設置された回路基板がファン風の通
路に位置して冷却の目的が達成されることとなっている。このような回
路基板収容部からファンに至る連通構造が,回路基板の一部が(a)領域
に位置することと無関係に実現し得ることは明らかといってよい。
(エ) これらの点を踏まえると,本件特許発明の目的を達成するための手
段は,本件実施例においてすら合理的に説明されているとはいえない。
そうすると,本件実施例を上位概念化したものである本件特許発明に
おいてはなおさら,その目的を達成し得るとは認められないことにな
る。したがって,構成要件C−2が本件特許発明の目的を達成するた\nめの構成であるとして,その技術的意義から同構\成要件の示す意味内
容を把握することはできない。
そもそも,小型化の目的に関し,本件実施例における小型化の目的達
成手段である「回路基板収容部をハンドルとベースとの間の高さ位置に
設けること」は,特許発明3及び4並びにその従属発明である特許発明
5にしか具体的には表れておらず,また,構\成要件C−2とは無関係で
ある。冷却の目的に関しても,上記(ウ)を踏まえると,その目的を達成
する構成としては,端的に構\成要件C−3「前記回路基板の少なくとも
一部は,前記ファン風の通路内に配置されており,」が設けられている
以上,構成要件C−2は無関係と見られる。
(3) 以上によれば,構成要件C−2の「ファンの径方向外側」は,特許請求\nの範囲の文言によれば(a)領域又は(b)領域のいずれとも解釈し得るものであ
り,また,その技術的意義に鑑みてもいずれの解釈が正しいのか判断し得な
いものということができる。
したがって,構成要件C−2は不明確というべきである。そうである以\n上,この点に関する本件審決の認定・判断には誤りがあり,取消事由2には
理由がある。
3 取消事由1(記載要件(特許発明6〜8及び10に関するサポート要件)に関する認定,判断の誤り(無効理由1の2))について
更に進んで,取消事由1についても検討する。
(1) 特許発明6は,「モータの側方位置において,前記モータの回転軸と平
行に延びるように配置されている」回路基板(構成要件I)のみを有したも\nのであり,当該回路基板は,さらに,「前記回路基板の少なくとも一部は,
前記ファンの回転軸に直交する方向を径方向としたとき,前記ファンの径方
向外側に配置され」る(構成要件C−2)ものである。\n本件明細書の発明の詳細な説明において,「モータの側方位置」に配置
された回路基板(縦置き基板)としては,第2の実施の形態の第2の回路基
板60B及び第3の実施の形態の第1の回路基板60C(いずれも,モータ
収容部2aの内壁面とモータ1の固定子1B間の隙間に配置されたもの)が
記載されているが(前記1(2)カ),縦置き基板のみを有する発明は明示的
に記載されていない。そこで,縦置き基板のみを有する構成が,本件特許発\n明の課題(前記2(2)イ)を解決できると当業者が認識し得る程度に,本件
明細書の発明の詳細な説明に記載されているか否かを検討する。
(2) 第2の実施の形態について
ア 第2の実施の形態の縦置き基板(第2の回路基板60B)による効果は,
以下の3点に集約される(前記1(3)キ)。
1) 制御回路30を別基板(縦置き基板)としたことで,駆動回路20
及び整流平滑回路40を搭載した第1の回路基板60Aの面積を小さ
くし,ハウジング2のソーカバー5側への突出量を少なくでき,操作\n性の面で有利となる。
2)制御回路30を別基板(縦置き基板)としたことで,駆動回路20
や整流平滑回路40の発熱部品の影響を受けないようにできる。
3) 制御回路30を搭載した第2の回路基板60B(縦置き基板)をセ
ンサ基板51の近くに配置することで,回転位置検出素子52と制御
回路30との電気接続を短縮して,ノイズ等の影響を受けにくい構造\nにできる。
イ(ア) このうち,前記1)の効果は,ハウジング2に設けられた凸部69A
(ソーカバー5側へ突出)が小さくなることをいうものである。しかし,\nこのとき,一方で縦置き基板を収容するためにモータ収容部2aが大き
くならざるを得ないことを考えると,前記1)の効果は,一概に小型化に
寄与するといってよいか定かではない。また,凸部69A及びモータ収
容部2aの形状のこのような変化が,それぞれ携帯用電気切断機の操作
性に及ぼす影響については,本件明細書の発明の詳細な説明に記載され
ていない。
したがって,第2の実施の形態においては,縦置き基板を設けること
により小型化の目的を達成できるとは必ずしも認識し得ないし,まして,
縦置き基板のみとした場合に,携帯用電気切断機の操作性の面で有利で
あることないし操作性が損なわれないことを認識することもできない。
(イ) 前記2)の効果は,冷却の目的に関わるものである。この目的の観点
から見ると,制御回路30を別基板である縦置き基板とすることで,
前記2)の効果を期待できるとしても,ブラシレスモータの固定子が熱
源となることは技術常識であるところ,そのモータの側方に縦置き基
板を設置することにより,かえってモータの固定子の発熱の影響を受
けやすくなることも予想される。そうすると,制御回路30を縦置き\n基板としたとしても,必ずしも冷却の目的を達成できるとは認識し得
ない。まして,駆動回路と制御回路の両者を搭載した縦置き基板のみ
とした場合に,基板の冷却を効果的に実現し得ると認識することもで
きない。
(ウ) 前記3)の効果は,小型化の目的とも冷却の目的とも独立したもので
あり,本件特許発明の課題解決に寄与しないことは明らかである。
・・・
(4) そうすると,特許発明6〜8及び10は,本件明細書の発明の詳細な説
明に記載されたものではなく,また,特許発明6〜8及び10が,その課題
を解決できると当業者が認識し得る程度に,本件明細書の発明の詳細な説明
に記載されているともいえない(なお,この点は,本件特許発明において横
置き基板が必須であるか否かとは関わりない。)。
したがって,特許発明6〜8及び10は,いわゆるサポート要件を満た
しているとはいえない。
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2017.05.31
平成28(行ケ)10190 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年5月30日 知的財産高等裁判所(4部)
特36条、29条2項の無効理由はそれぞれ無効理由無しと判断されました。なお、「明確性を満たしているかについても、クレームだけでなく明細書を考慮する」との判断基準を示しています。かかる判断基準は、平成21(行ケ)10434(3部)、平成25(行ケ)10335(4部) でも言及されてます。
(1) 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だ
けではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願
当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不
当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
原告は,本件特許の特許請求の範囲請求項1の記載のうち,「当該分離して使用
するもの(4)の上部,下部,左側部(右側部)の内側及び外側に該当する部分(5,
6)((7,8))」の各部分が明確ではない旨主張する。
(2)「内側及び外側に該当する部分」の明確性
ア 「内側及び外側」の範囲
(ア) 請求項1には,分離して使用するもの(4)の上部,下部,左側部(右側
部)の「内側及び外側」に該当する部分との記載がある。
請求項1の記載によれば,印刷物の中央面部(1)の所定の箇所に,所定の大き
さを有する分離して使用するもの(4)が印刷されており,分離して使用するもの
(4)は,周囲に切り込みが入っているものである。そして,請求項1には,「内
側及び外側」の範囲を直接特定する記載はない。
したがって,分離して使用するもの(4)の上部,下部,左側部(右側部)の「内
側及び外側」に該当する部分とは,印刷物の中央面部(1)における,分離して使
用するものの周囲に設けられた切り込みの「内側及び外側」に該当する部分と特定
され,その範囲は特定されていないものである。
(イ) なお,本件明細書の【0014】ないし【0017】の記載によれば,本
件発明1を実施する際には,一過性の粘着剤が塗布されている部分となる「内側及
び外側」の範囲について,分離して使用するものが欠落することなく,また左側面
部と右側面部を中央面部からはがして開いた場合には左側面部又は右側面部の一方
に分離して使用するものが貼着されるなどして,これを自動的に手にすることがで\nきる程度の範囲に限定されることになる。しかし,当該範囲は,中央面部(1),
左側面部(2),右側面部(3)及び分離して使用するもの(4)の形状や材質,
分離して使用するもの(4)の周囲の切り込みの程度,粘着剤の強度等に応じて,
適宜決定されるにすぎないから,特許を受けようとする発明において,「内側及び
外側」の範囲を特定していないからといって,それが明確性を欠くことにはならな
い。
・・・
(4) 小括
以上によれば,本件特許の特許請求の範囲請求項1の記載のうち,「当該分離し
て使用するもの(4)の上部,下部,左側部の内側及び外側に該当する部分(5,
6)」とは,印刷物の中央面部の所定の箇所に印刷された所定の大きさを有する,
その外形は特定されない分離して使用するもの(4)の,上部,下部又は左側部の
いずれかのうち,その周囲に設けられた切り込みの内側及び外側であって,その範
囲は具体的には特定されない部分に該当する部分であって,請求項1の記載のうち,
「当該分離して使用するもの(4)の上部,下部,右側部の内側及び外側に該当す
る部分(7,8)」も同様であって,これらの記載が,第三者の利益が不当に害さ
れるほどに不明確であるということはできない。
したがって,「当該分離して使用するもの(4)の上部,下部,左側部(右側部)
の内側及び外側に該当する部分(5,6)((7,8))」との各記載は明確であ
るから,本件特許の特許請求の範囲請求項1の記載が明確性要件に違反するという
ことはできない。請求項2及び請求項3の各記載も同様であるから,明確性要件に
違反するということはできない。
よって,取消事由1は理由がない。
(1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲
の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,
発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当
該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳
細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課
題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと
解される。
そして,原告は,一過性の粘着剤が塗布される位置について,分離して使用する
ものの上部,下部,左(右)側部の内側及び外側に該当する部分のいずれかでよい
とすると,サポート要件に違反すると主張する。
(2) 前記2(4)のとおり,特許請求の範囲請求項1に記載された発明において,左
側面部(2)の裏面の「一過性の粘着剤が塗布されている」部分は,分離して使用
するものの,上部,下部又は左側部のいずれかのうち,その周囲に設けられた切り
込みの内側及び外側であって,その範囲は特定されない部分に該当する部分であっ
て,右側面部(3)の裏面についても同様である。
そして,前記1(2)イのとおり,本件発明1は,分離して使用するものについて,
その周囲に切り込みが入っているにもかかわらず,広告等の印刷物に付いていて紛
失させることなく,しかも,広告等の印刷物より切り取る手間をかけずに利用する
ことができる印刷物を提供することを課題とするものである。そして,前記2(2)イ
のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載(【0014】〜【0017】)
により,当業者は,一過性の粘着剤の塗布が,左側面部2の裏側のうち,分離して
使用するものの上部,下部,左側部の少なくともいずれかに該当する部分であって,
分離して使用するものの内側及び外側のいずれにも該当する部分にされれば,本件
発明1の上記課題を解決できると認識できるものといえ,右側面部3についても同
様である。
そうすると,一過性の粘着剤が塗布される位置において,本件発明1は,発明の
詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明
1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
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2017.04.24
平成28(ワ)20818 特許権侵害差止請求事件 特許権 平成29年4月19日 東京地方裁判所(29部)
差止請求が認められました。サポート要件違反もなしと判断されました。
被告らは,仮に,構成要件1Gの「切り残し突起(16)」が,本件明細書等の【図8】(b)に示す形態に限られず,例えば下図(平成23年6月27日付\nけ意見書〔乙19〕の参考図1)の符号16のような形態のものまでも含むという
のであれば,かかる形態は,発明の詳細な説明に記載されたものでも示唆されたも
のでもないから,本件発明1(並びに本件発明1の構成要件を発明特定事項として引用する本件発明2及び同3)についての特許は,発明の詳細な説明に記載されて\nいない発明についてされたものとして,サポート要件違反の無効理由があると主張
する。
イ 特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明に記載したもの(特許法36条
6項1号)といえるか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載と
を対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発
明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識
できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時
の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか
否かを検討して判断すべきものである(知財高裁平成17年(行ケ)第10042
号同年11月11日特別部判決参照)。
ウ 本件特許の特許請求の範囲の請求項1には,前記前提事実(2)のとおり,連続
貝係止具において,「隣接する基材(1)同士はロープ止め突起(3)の外側が可
撓性連結材(13)で連結されず,ロープ止め突起(3)の内側が2本の可撓性連
結材(13)と一体に樹脂成型されて連結され,可撓性連結材(13)はロープ止
め突起(3)よりも細く且つロール状に巻き取り可能な可撓性を備えた細紐状であり,前記2本の可撓性連結材(13)による連結箇所は,2本のロープ止め突起(3)\nの夫々から内側に離れた箇所であり且つ前記2本のロープ止め突起(3)間の中心
よりも夫々のロープ止め突起(3)寄りの箇所として,2本の可撓性連結材(13)
を切断すると,その切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に
残るようにした」旨が記載されている。
エ 本件明細書等の発明の詳細な説明には,次の記載がある(末尾の【】は,段
落番号を示す。)。
「本発明の連続貝係止具は,隣接する貝係止具11の2本のロープ止め突起3間
が2本の可撓性連結材13で連結され,2本の可撓性連結材13は貝係止具11が
差し込まれる縦ロープCの直径よりも広い間隔で2本のロープ止め突起3寄り箇所
を連結するので,貝係止具11を一本ずつ切断するときに可撓性連結材13の一部
が図8(b)のように切り残し突起16となって基材1に残って基材1から突出し
ても,図8(a)のように貝係止具11を縦ロープCへ差し込むときに切り残し突
起16が邪魔にならず,縦ロープCが2本のロープ止め突起3間におさまり安定す
る。又,貝係止具11を手で持って貝へ差し込むときに手(指)が切り残し突起1
6に当たらないため手が損傷したり,薄い手袋を手に嵌めて前記差込作業をしても
手袋が破れたりしにくい。」【0008】
「(連続貝係止具の実施形態1)本発明の連続貝係止具は図8(a)のように前
記実施形態の貝係止具11を間隔をあけて数千〜数万本平行に配置し,上下に隣接
する貝係止具11の基材1間を丸紐状の可撓性連結材13で連結して樹脂成型して
図12(a)(b)のようにロール状に巻くことができるようにしたものである。
図8(a)の場合はハ字状の2本のロープ止め突起3の間を2本の可撓性連結材1
3で連結してあり,しかも,2本の可撓性連結材13をロープ止め突起3寄り箇所
に配置して,2本の可撓性連結材13の間隔を縦ロープCの直径よりも広くしてあ
る。このようにすると貝係止具11を一本ずつ切断する場合に可撓性連結材13の
一部が切り残されて図8(b)のように基材1に切り残し突起16が発生しても,
それが縦ロープCへの差込時に邪魔になることがない。また,一本ずつ切断された
貝係止具11を貝の孔に差し込むために手で持っても切り残し突起16の部分が手
に当たらないため手が怪我したり,手に嵌めた作業用手袋が破れたりしにくい。」
【0026】
オ 上記に認定したところによれば,本件明細書等の発明の詳細な説明には,2
本の可撓性連結材による連結箇所を,2本のロープ止め突起の間で,かつ,2本の
ロープ止め突起寄りの箇所とする構成により,可撓性連結材を切断したときに切り残し突起が残ったとしても,貝係止具を縦ロープへ差し込むときに切り残し突起が\n邪魔にならず,また,貝係止具を手で持って貝へ差し込むときに手(指)が切り残
し突起に当たらないため手が損傷したり,薄い手袋を手に嵌めて前記差込作業をし
ても手袋が破れたりしにくいとの作用効果を奏することが明確に記載されている。
そうすると,本件明細書等の発明の詳細な説明に接した当業者において,本件発
明1に係る特許請求の範囲に記載された構成,すなわち,2本の可撓性連結材(13)による連結箇所を,2本のロープ止め突起(3)のそれぞれから内側に離れた\n箇所であり,かつ,2本のロープ止め突起(3)間の中心よりもそれぞれのロープ
止め突起(3)寄りの箇所とする構成を採用することにより,可撓性連結材(13)を切断した際の切り残し突起(16)の高さにかかわらず,本件発明1に係る課題\nを解決できると認識できることは明らかであるから,本件発明1が,発明の詳細な
説明に記載されていないものということはできない。同様の理由により,本件発明
2及び同3が,発明の詳細な説明に記載されていないものということはできない。
したがって,被告らの主張する無効理由2は認められない。
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2017.02.27
平成27(行ケ)10231 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年2月22日 知的財産高等裁判所(3部)
サポート要件違反なしとした審決が取り消されました。
これらの記載によれば,本件明細書は,「油脂を含むコート剤」の材
質,被覆方法,被覆の量や程度について,好ましいあるいは望ましい例
を示しているものの,それ以外の構成をとることも特に制限していない\nものと認められる。
したがって,「油脂を含むコート剤」については,材質に特に制限が
ない以上,従来例のように吸収促進のための成分が含まれているものと
は異なる態様のものも包含されているというべきである。
(ウ) 以上を前提に本件明細書の実施例(段落【0044】〜【0054】,
表1及び図1)の記載をみると,実施例1として,パーム油でコートし\nた黒ショウガの根茎の乾燥粉末(黒ショウガ原末)をコーン油と混合し
て150mg/mLとし,懸濁することにより調製した被験物質(以下
「実施例1被験物質」という。),実施例2として,黒ショウガ原末を
ナタネ油でコートした以外は,実施例1と同様にして調製した被験物質
(以下「実施例2被験物質」という。),及び比較例1として,黒ショ
ウガ原末をコーン油と混合して150mg/mLとし,懸濁することに
より調製した被験物質(以下「比較例1被験物質」という。)を,それ
ぞれ,6週齢のSD雄性ラットに,10mL/kgとなるように,ゾン
デで強制経口投与し,投与の1,4,8時間後(コントロールはブラン
クとして投与1時間後のみ)に採血して,血中の総ポリフェノール量を
測定したところ,実施例1被験物質及び実施例2被験物質を摂取した群
の血中ポリフェノール量は,いずれも比較例1被験物質を摂取させたも
のに比べて高い値を示したことが記載されている。
ここで,本件明細書の段落【0028】に,「油脂」の具体例として,
パーム油,ナタネ油と並んで「とうもろこし」から得られる油脂,すな
わち「コーン油」も記載されていることからすれば,上記実施例で用い
たコーン油についても,黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の
体内への吸収性を高める効果を期待し得る一方で,上記実施例の結果か
らは,単にコーン油に混合,懸濁しただけの比較例1被験物質では,そ
のような効果がないことも認識し得るといえる。
したがって,当業者は,本件明細書の実施例の記載から,「黒ショウ
ガ成分を含有する粒子」が,パーム油あるいはナタネ油と混合,懸濁さ
れた状態とするのではなく,パーム油あるいはナタネ油により被覆され
た状態とすることにより,本件発明の課題を解決することができると認
識するものと認められる。
(エ) そして,本件出願当時,一般に摂取されたポリフェノールの生体内に
取り込まれる量は少ないという技術常識があるにもかかわらず(前記(2)
エ),本件発明には,「黒ショウガ成分を含有する粒子」自体に吸収性
を高める特段の工夫がなされていない態様が包含されており(前記(ア)),
また,「油脂を含むコート剤」にも吸収促進のための成分が含まれてい
ない態様が包含されている(前記(イ))ことからすれば,当業者は,本件
発明の課題を解決するためには,パーム油あるいはナタネ油のような油
脂を含むコート剤にて被覆することが肝要であると認識するといえる。
しかし,その一方,ある効果を発揮し得る物質(成分)があったとして
も,その量が僅かであれば,その効果を発揮し得ないと考えるのが通常
であることからすれば,当業者は,たとえ,「黒ショウガ成分を含有す
る粒子」の表面を「油脂を含むコート剤」で被覆することにより,本件\n発明の課題が解決できると認識し得たとしても,その量や程度が不十分\nである場合には,本件発明の課題を解決することが困難であろうことも
予測するといえる。
(オ) ところが,本件明細書においては,実施例1の「パーム油でコートし
た黒ショウガ原末」の被覆の量や程度について具体的な記載がなされて
おらず,実施例2についても同様であるから,これらの実施例によって
コート剤による被覆の量や程度が不十分である場合においても本件発明\nの課題を解決できることが示されているとはいえず,ほかにそのような
記載や示唆も見当たらない。すなわち,コート剤による被覆の量や程度
が不十分である場合には,本件発明の課題を解決することが困難であろ\nうとの当業者の予測を覆すに足りる十\分な記載が本件明細書になされて
いるものとは認められないのであり,また,これを補うだけの技術常識
が本件出願当時に存在したことを認めるに足りる証拠もない。
したがって,本件明細書の記載(ないし示唆)はもとより,本件出願
当時の技術常識に照らしても,当業者は,「黒ショウガ成分を含有する
粒子」の表面の僅かな部分を「油脂を含むコート剤」で被覆した状態が\n本件発明の課題を解決できると認識することはできないというべきであ
る。
ウ 以上のとおり,本件発明は,黒ショウガ成分を含有する粒子の表面の一\n部を,ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆する態様,すな
わち,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の僅かな部分を「油脂を\n含むコート剤」で被覆した態様も包含していると解されるところ,本件明
細書の記載(ないし示唆)はもとより,本件出願当時の技術常識に照らし
ても,当業者は,そのような態様が本件発明の課題を解決できるとまでは
認識することはできないというべきである。
そうすると,本件発明の特許請求の範囲の記載は,いずれも,本件明細
書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識に照らして,当
業者が,本件明細書に記載された本件発明の課題を解決できると認識でき
る範囲を超えており,サポート要件に適合しないものというべきである。
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2017.02. 8
平成27(行ケ)10201 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年1月31日 知的財産高等裁判所
サポート要件違反なしとした審決が取り消されました。
このような技術常識を有する当業者が,本件明細書の記載に接した際には,【00
07】に記載された「顕在化した色調変化」,すなわち,比較例において観察された
b*値の変化(Δb*)は,L−アスコルビン酸の褐変に起因する色調変化を含む可
能性があると理解し,イソ\クエルシトリン及びその糖付加物の色調変化のみを反映
したものであると理解することはできないと解される。
そうすると,実施例において,アルコール類を特定量添加しpHを調整すること
により,比較例に比べて飲料の色調変化が抑制されていることに接しても,当業者
は,比較例の飲料の色調変化がL−アスコルビン酸の褐変に起因する色調変化を含
む可能性がある以上,イソ\クエルシトリン及びその糖付加物の色調変化が抑制され
ていることを直ちには認識することはできないというべきである。
そして,本件明細書の実施例のb*値の変化(Δb*)は,0.9〜2.0であっ
て,0ではないことから,L−アスコルビン酸に起因するb*値の変化(Δb*)は
アルコール類の添加によってもマイナスに転じること(製造直後よりも黄色方向の
彩度が減じて青色方向に傾くこと)がないものと仮定しても,当業者は,実施例に
おける飲料全体の色調変化の抑制という結果から,イソクエルシトリン及びその糖\n付加物の色調変化の抑制を認識することはできないというほかない。
また,前記(1)イ(オ),(カ)bのとおり,本件出願日当時,イソクエルシトリン及びそ\nの糖付加物が水溶液中のL−アスコルビン酸の分解を抑制することが知られていた
ものと認められる。しかし,乙18によれば,イソクエルシトリン及びその糖付加\n物に相当するフラボノイド配糖体A又はBの配合によるアスコルビン酸を含む3
0%エタノール水溶液のL値の減少率の抑制の程度は,これらを配合しない場合を
100%として41.5%又は39.5%に止まり,L値の減少率を0%としたも
のではない(すなわち,L値の減少が解消していない。)し,明度を示すL値(L*
値)の変化を示すものであって,本件明細書で測定している黄色方向の彩度を示す
b*値の変化を示すものでもなく,また,エタノールの含有量も本件明細書の実施
例・比較例(0.01〜0.50質量%)とは大きく異なるから,当業者において,
本件明細書の実施例・比較例の条件において,L−アスコルビン酸に加え,イソク\nエルシトリン及びその糖付加物が配合されていることから,L−アスコルビン酸の
褐変が生じない(したがって,本件明細書の実施例・比較例の飲料の色調変化には,
L−アスコルビン酸の褐変に起因する色調変化は含まれない。)と理解するものとは
いえない。
ウ 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願日当
時の技術常識に照らして,本件訂正発明9〜16は,容器詰飲料に含まれるイソク\nエルシトリン及びその糖付加物の色調変化を抑制することにより,当該容器詰飲料
の色調変化を抑制する方法を提供するという課題を解決できるものと,当業者が認
識することができるとはいえない。
エ 被告は,甲40及び甲69は,審判手続において審理判断されなかった
事実に関する新たな証拠であるから,本件訴訟において,これらの証拠に基づく審
決の違法性を主張することは許されず,取消事由3−4は,本件訴訟の審理の対象
にはならないと主張する。
しかしながら,被告も自認するとおり(前記第4の1(1)),原告は,審判事件弁
駁書(乙8)において「アスコルビン酸が酸化により黄色となることは周知の技術
的事項である」ことを指摘して本件訂正発明9〜16がサポート要件及び実施可能\n要件を欠くと主張しているから(20〜21頁),「アスコルビン酸が酸化により黄色
となることは周知の技術的事項である」ことを根拠として,本件訂正発明9〜16
がサポート要件及び実施可能要件を満たす旨の審決の判断が誤りであることを主張\nすることは当然に認められ,取消事由3−4は,そのような主張を含むものと認め
られる。
そして,本件訂正発明9〜16は,被告も自認する「L−アスコルビン酸を含有
する飲料が経時変化により褐変すること」という事実(被告第2準備書面3頁,被
告第3準備書面16頁)を考慮すると,甲40及び甲69を検討するまでもなく,
被告が立証責任を負担するサポート要件の充足を認めることができないことは,前
示のとおりである。なお,被告は,「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有す\nる容器詰飲料が,L−アスコルビン酸の非存在下においても色調変化を生じ,その
色調変化がアルコールによって抑制されること」を立証趣旨として,乙14の実験
成績証明書を提出するが,乙15(技術説明資料)及び本件訴訟の経過に照らすと,
乙2の実験成績証明書と同様に,甲69の信用性を弾劾する趣旨であり,本件明細
書において開示が不十分な発明の効果を実験結果によって補充しようというもので\nはないと解される(仮に,乙14が,甲69の信用性を弾劾するにとどまらず,こ
れによりイソクエルシトリン及びその糖付加物を含有し,L−アスコルビン酸を含\n有しない容器詰飲料の色調変化を立証する趣旨であったとしても,そのような立証
は,本件明細書の記載から当業者が認識できない事項を明細書の記載外で補足する
ものとして許されない。)。被告の主張は,理由がない。
オ 被告は,「アスコルビン酸を含む」という条件において実施例と比較例は
同一であることを理由として,サポート要件の充足を認めた審決の趣旨は,アスコ
ルビン酸を除けば,実施例と比較例のb*値やΔb*値の絶対値は変わるかもしれな
いけれども,アスコルビン酸の有無にかかわらず,アルコールの添加によってイソ\nクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化が抑制されるという傾向自体は不変で
あることを当業者が理解できると判断したものであり,その判断に誤りはないと主
張する。
この点について,審決は,アルコールを添加した実施例と,アルコールを添加し
ない比較例の双方に,L−アスコルビン酸が含まれているとしても,このような実
施例と比較例の色調変化によって,L−アスコルビン酸の非存在下におけるイソク\nエルシトリン及びその糖付加物の色調変化に対するアルコール添加の影響を理解す
ることができると判断するところ,L−アスコルビン酸が褐変し,容器詰飲料の色
調変化に影響を与え得るという本件出願日当時の技術常識を踏まえると,このよう
に判断するためには,少なくともL−アスコルビン酸の褐変(色調変化)はアルコ
ール添加の影響を受けないという前提が成り立つ場合に限られることは明らかであ
るが,そのような前提が本件出願日当時の当業者の技術常識となっていたことを示
す証拠はない。したがって,本件明細書の実施例と比較例の実験結果をまとめた【表\n1】により,イソクエルシトリン及びその糖付加物に起因する色調変化の抑制とい\nう本件訂正発明9〜16の効果を確認することはできない。なお,念のため付言す
れば,以上の検討は,特許権者である被告が,本件明細書において,イソクエルシ\nトリン及びその糖付加物の色調変化がアルコールにより抑制されることを示す実験
結果を開示するに当たり,同様に経時的な色調変化を示すことが知られていたL−
アスコルビン酸という不純物が含まれる実験系による実験結果のみを開示したこと
に起因するものであり,そのような不十分な実験結果の開示により,本件明細書に\nイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化がアルコールにより抑制されるこ\nとが開示されているというためには,容器詰飲料の色調変化に影響を与える可能性\nがあるL−アスコルビン酸の褐変(色調変化)はアルコール添加の影響を受けない
ということが,本件明細書において別途開示されているか,その記載や示唆がなく
ても本件出願日当時の当業者が前提とすることができる技術常識になっている必要
がある。したがって,特許権者である被告において,本件明細書にこれらの開示を
しておらず,また,当該技術常識の存在が立証できない以上,本件明細書にL−ア
スコルビン酸という不純物を含む実験系による実験結果のみを開示したことによる
不利益を負うことは,やむを得ないものというべきである。
カ 以上によれば,取消事由3−4のうち,サポート要件の判断の誤りをい
う点は,理由がある(実施可能要件の判断の誤りをいう点は,必要がないから,判\n断しない。)。
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