2024.08.26
令和5(行ケ)10019 特許権 行政訴訟 令和6年8月7日 知的財産高等裁判所
薬の特許について、進歩性・サポート要件・実施可能要件が争われました。特許庁は無効理由無しと判断しました。裁判所も「どの範囲の実施例等の裏付けをもって十\分とするかについては、当該課題解決の認識がいかなるロジックによって導かれるかという点を踏まえて検討されるべき」と、同じ判断です。
以上の本件明細書の記載及び技術常識を総合すると、本件明細書には、
1)mAb1は、抗IL−4Rアンタゴニスト抗体であって、IL−4Rに結
合し、IL−4のシグナルを遮断する作用を有するものであること、2)mA
b1が投与された本件患者では、アトピー性皮膚炎における臨床症状が改善
したこと、3)mAb1が投与された本件患者では、アトピー性皮膚炎のバイ
オマーカーであり、IL−4によって産生・分泌が誘導されることが知られ
ているTARC及びIgEのレベルが低下したことが開示されていることか
ら、これに接した当業者は、本件患者にmAb1を投与した際のアトピー性
皮膚炎の治療効果は、mAb1のIL−4Rに結合しIL−4を遮断する作
用、すなわち、アンタゴニストとしての作用により発揮されるものと理解す
るものといえる。そうすると、IL−4Rに結合しIL−4を遮断する作用を有する抗IL
−4Rアンタゴニスト抗体(本件抗体等)であれば、mAb1に限らず、本
件患者に対して治療効果を有するであろうことを合理的に認識でき、前記
(2)に記載した本件訂正発明の課題を解決できるとの認識が得られるものと
認められる。
(6) ところで、本件明細書に開示された薬理試験結果はmAb1に関するも
ののみであることは、原告の指摘するとおりである。しかし、サポート要件
の適合性につき、「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明
に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課
題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」等を判断するに当
たって、どの範囲の実施例等の裏付けをもって十分とするかについては、当\n該課題解決の認識がいかなるロジックによって導かれるかという点を踏まえ
て検討されるべきであり、特許の権利範囲に比して実施例が少なすぎると
いった単純な議論が妥当するものではない。
これを本件についてみるに、本件においては、1)mAb1は、抗IL−
4Rアンタゴニスト抗体であって、IL−4Rに結合し、IL−4のシグナ
ルを遮断する作用を有するものであること、2)mAb1が投与された本件患
者では、アトピー性皮膚炎における臨床症状が改善したこと、3)mAb1が
投与された本件患者では、アトピー性皮膚炎のバイオマーカーであり、IL
−4によって産生・分泌が誘導されることが知られているTARC及びIg
Eのレベルが低下したことが開示されていることから演繹的に導かれる推論
として、本件患者にmAb1を投与した際のアトピー性皮膚炎の治療効果は、
mAb1のIL−4Rに結合しIL−4を遮断する作用、すなわち、アンタ
ゴニストとしての作用により発揮されるものと理解されるものであって、課
題を解決できると認識できる範囲が幅広い実施例から帰納的に導かれる場合
とは異なる。上記作用機序は、本件抗体の一つであるmAb1がIL−4R
に結合し、IL−4のシグナルを遮断する作用を有するものであり、mAb
1が投与された本件患者では、アトピー性皮膚炎における臨床症状が改善し、
アトピー性皮膚炎のバイオマーカーも低下したのであるから、mAb1以外
の抗IL−4Rアンタゴニスト抗体である本件抗体等(mAb1以外の32
種)も同様の作用効果を有すると当業者が理解できることは明らかである。
本件明細書に開示された薬理試験結果はmAb1に関するもののみであ
るとの原告の指摘は、上記認定判断を左右するものではない。
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2024.06.16
令和5(行ケ)10086 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年6月5日 知的財産高等裁判所
無効理由なし(進歩性、明確性等)とした審決が維持されました。
(2) 原告は、仮に相違点5が認められるとしても、周知技術1(皮膚に電気刺
激を与えるブラシ型の美容機器において、ブラシの櫛歯を肌の形状に合わせ
て屈曲できるようにすること)を考慮して相違点5に係る構成を採用するこ\nとは容易であると主張する。
ア しかし、甲1公報の「動作する際には、通常の髪をとかすように髪をと
かして、シリコンスリーブ9の底端が頭皮に接触すると、ばね8が圧縮
され、スライドスリーブ4がシリコンスリーブ9を収縮させ、シリコン
スリーブ9全体の底端が頭皮に接触し」([0023])の記載などか
ら明らかなように、甲1発明では、櫛としての通常の使用により櫛歯の
底端が頭皮に接触することで櫛歯がスムーズに伸縮することが前提とさ
れているところ、スライドスリーブ4を径方向に屈曲する構成とすると、\nスライドスリーブ4と電流ガイドロッド3及びストッパー5との間の抵
抗・摩擦の増大等により、スライドスリーブ4が電流ガイドロッド3に
沿ってスムーズにスライドすることを妨げることは明らかである。そう
すると、原告主張の周知技術1を甲1発明に適用することには阻害要因
があるというべきである。
イ これに対し、原告は、電流ガイドロッド3及びストッパー5の摺動(ス
ライド)とスライドスリーブ4及びシリコンスリーブ9が径方向に屈曲す
ることは両立する旨主張するが、根拠を欠くものといわざるを得ない。す
なわち、原告が挙げる甲2公報は、「電極41が配設された先端部40」
が上下左右に動くことが可能な「育毛剤導入装置」に係るものであり、軸\n方向に摺動する構成を有するものとは認められない(甲2)。\nまた、原告は、スライドスリーブ4が屈曲できない部材であればストッ
パー5と磁石6の位置を「固定」する必要がないと主張するが、本件審決
が認定する甲1発明のとおり「電流ガイドロッド3の底端にストッパー5
が固定して接続され」ていなければ、シリコンスリーブ9からなる櫛歯が
電流ガイドロッド3から抜けることになるし、製造時の手間を考慮しても
ストッパー5を電流ガイドロッド3に、磁石6をスライドスリーブ9に固
定する方が自然といえるから、スライドスリーブ4が屈曲することの根拠
にはならない。
原告は、その他、髪をとかす動きをする際や「頭部の曲率の変化に応じ
て、シリコンスリーブ9の底部が常に頭皮にフィットするように調整する」
([0022])ためには径方向に屈曲することが必要である等主張する
が、シリコンスリーブ9の屈曲により底部の放電孔が常に頭皮にフィット
するとは認め難いし、いずれにせよ甲1公報の記載に基づく主張ではなく、
上記アの認定を左右するものではない。
(3) したがって、本件発明1は、甲1発明及び原告主張の周知技術1に基づい
て当業者が容易に想到できるものではないから、本件発明1の発明特定事項
を全て含み、更に減縮したものである本件発明2〜10についても同様であ
って、本件審決の甲1発明に基づく進歩性の判断の誤りはなく、原告が主張
する取消事由2には理由がない。
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2024.06. 9
令和4(行ケ)10057等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年4月25日 知的財産高等裁判所
サポート要件違反・実施可能性違反(36条6項1号、同4項))の無効理由なしとした審決が維持されました。
ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲
の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、
発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆によ
り当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、ま
た、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題
を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するものと解す
るのが相当である。
本件明細書における本件各発明の課題及び解決手段は、前記2(2)のとおりであ
る。ここで、前記2(2)のとおり、本件パラメータは、直線近似式であるところ、そ
の統計的な性質上、予測値にすぎないものであることは、当業者の技術常識の範ちゅ\nうであるといえる。
かかる技術常識に照らして、当業者は、本件パラメータが規定する関係を満たす
場合には、1.09≦y/x≦1.21の数値範囲において85%から90%程度
の輝度均斉度が、1.21≦y/x≦1.49の数値範囲において90%から95%
程度の輝度均斉度が、1.49≦y/xの数値範囲において95%程度の輝度均斉
度がおおよそ得られることが期待できることが本件明細書に記載されていると理解
するものであるといえる。
また、輝度均斉度が、おおむね85%程度を超えていると、粒々感は、解消でき
ることも周知の技術であるといえる(甲10【0001】【0024】【0074】)。
そうすると、本件明細書に接した当業者は、上記技術常識も踏まえて、本件パラ
メータが1.09<y/xであれば、粒々感を抑制するという課題を解決できると
認識するものである。
他方、本件訂正後の特許請求の範囲に特定された本件各発明における本件パラ
メータについてみると、1.09<y/xの範囲で、y/xの下限や上限を適宜特
定し、さらには、x値(請求項5〜8)の範囲を特定するものであるから、本件訂
正後の特許請求の範囲に記載された発明は、輝度均斉度がおおよそ85%以上とな
る範囲を特定するものであることを理解できる。
以上を踏まえて、本件訂正後の特許請求の範囲の記載と本件明細書の記載とを対
比すると、同特許請求の範囲に記載された本件各発明が、本件明細書に記載された
発明であって、発明の詳細な説明の記載により、当業者は、同特許請求の範囲に特
定された全数値範囲で、粒々感を抑制するという課題を解決できると認識できる範
囲のものであるといえるから、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法36
条6項1号のサポート要件を満たすものであるといえる。
イ この点、原告は、本件明細書の実験結果【図7A】には、y=1.09xの
段階で輝度均斉度が85%に達していない試料(上段から10番目及び13番目)
が記載されていること等から、実験結果から当業者が課題を解決できると認識でき
ないなどと主張するが、前記2(2)オのとおり、当業者は、直線近似式と実測データ
には残差が存在するという出願時の技術常識を踏まえて、本件各発明を理解すると
ころ、原告が指摘する試料番号10、13等についても、このような技術常識を踏
まえて、おおよそ所望の輝度均斉度が得られ、本件各発明の課題を解決できると理
解できるものである。よって、原告の上記主張には理由がない。
したがって、サポート要件に違反しないとした本件審決の判断に誤りはない。
(2) 実施可能要件について\n
物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから
(特許法2条3項1号)、物の発明について実施可能要件を充足するか否かについ\nては、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づい
て、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程
度の記載があるかどうかで判断するのが相当である。
前記2(2)オのとおり、本件パラメータは、直線近似式であって、発光中心間隔x
と半値幅yが、本件パラメータの数式の範囲内にあれば、おおよそ所望の輝度均斉
度が得られるとしたものである。
ここで、粒々感を解消した直管形LEDを得ることは、本願出願前に周知の技術
的課題であるし(甲1の3、甲47、甲52)、この課題を解決して粒々感を抑制す
るためには、輝度均斉度がおおよそ85%程度以上であればよいことは技術常識で
ある(甲10)。
さらに、直管形LEDにおいて、LED素子を選定し、コストの関係でLEDの
個数を適宜決定し(x値を変えること)、その上で、拡散カバーを適宜選択すること
(y値を変えること)で、粒々感を解消することが、本件特許の出願当時の技術常
識であったこと、また、x値やy値の計測やy/x値の計算(【0080】)も格別
困難なものではないことに照らすと、当業者は、本件明細書等の記載及び技術常識
に基づいて、過度の試行錯誤を経ることなく、使用するLED素子、拡散部材、又
は素子と拡散部材の距離などにつき、粒々感を抑制し得るような組合せを適宜選択
して、本件各発明に係る本件パラメータを充足するy値及びx値を備えるランプを
実施することができるというべきである。
この点、原告は、過度な試行錯誤を経なくては、発明の課題とする所望の輝度均
斉度を得ると当業者が理解できないと主張するが、上記判断に照らし、原告の主張
は採用できない。したがって、実施可能要件に違反しないとした本件審決の判断に誤りはない。\n
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2024.04.10
令和5(行ケ)10056 承継参加申立事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月25日 知的財産高等裁判所
サポート要件違反および進歩性違反の無効理由無しとした審決について、知財高裁は後者の無効理由有りとして審決を取り消しました。
(エ) 本件適用に係る動機付けの有無
a 技術分野
(a) 前記アの甲11の記載によると、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュ
バントのエマルジョンを製造する技術の分野に属する発明であると認められる。
他方、前記(イ)のとおり、甲65には、「導入」として、「合成ポリマーの微小
多孔性膜を使用する通常のフローフィルタ等は、多種多様なバイオ医薬液体の濾過
用途に広く使用され、これらのフィルタの主な目的は、製品中の細菌汚染の可能性\nを減らすことである」旨の記載、「濾過膜は、血液分画、血清の処理、大容量非経
口剤(LVP)等の従来の製薬用途でも日常的に使用され、ここでの目標は、バイ
オ医薬品プロセスと同じであり、製品の細菌汚染の可能性を低減させることである」\n旨の記載等があり、甲65は、これらの膜を備えた具体的な製品として、本件製品
に言及している。また、前記(ア)のとおり、丙4には、本件製品が「広範囲の医薬
製品を濾過できるように設計されたものであり、広範囲の化学的適合性を備えるも
のである」旨の記載がある。これらによると、本件製品は、少なくとも上記の「従
来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも
当然に適用し得るものであると認められるから(なお、前記(ア)のとおり、丙4に
は、本件製品の用途の例として「バルク医薬品」が挙げられている。)、本件周知
技術は、甲11発明(認定)が属する技術分野を包む技術分野に属する技術である
と認めるのが相当である。
以上のとおりであるから、甲11発明(認定)と本件周知技術とは、その属する
技術分野を共通にするといえる。
(b) 参加人は、甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用いて製造
したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであるところ、ワ
クチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらない、丙4には本
件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンの滅菌フィルタに使用し得る旨の記
載がないとして、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知技術が属する技
術分野とが異なる旨主張するものと解される。
しかしながら、前記(a)のとおり、本件製品は、少なくとも甲65にいう「従来
の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製造にも当
然に適用し得るものであるから、甲11発明(認定)が属する技術分野と本件周知
技術が属する技術分野とが異なるとはいえない。参加人の主張は失当である。
b 甲11発明(認定)が有する課題
(a) 甲11には、前記アにおいて認定した箇所を含め、本件適用を動機付ける
ような課題の記載はみられない。
しかしながら、甲20(日本ワクチン学会編「ワクチンの事典」(平成16年))
の「無菌性の保証 ワクチンは通常、…無菌製造、無菌充填が行われる。」との記
載、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「プレフィルタと最終フィルタの組合せを
正しく選択することで、流速、濾過時間及び全体的な濾過コストの最適なバランス
が得られる」旨の記載、「膜濾過の主な目標である滅菌濾液の提供を評価する基準
として、1)細菌の効果的な保持がされること、2)高い総処理量を有することによる
濾過コストの削減がされること、3)許容可能な範囲の流速による妥当な時間枠にお\nけるバッチ全体の濾過がされることなどが挙げられる」旨の記載、「本件製品の製
造業者が製造する本件製品と同種の製品のプレフィルタ層は、非常に高い処理量を
実現し、10インチエレメント当たりの有効濾過面積を30%以上向上させ、0.
2μmの最終フィルタ層は、本件製品の組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を
提供する」旨の記載等)に加え、甲11発明(認定)と本件周知技術とがその属す
る技術分野を共通にすること(前記a)に照らすと、ワクチンアジュバントのエマ
ルジョンの製造に用いられる濾過膜については、その品質を向上させるため、1)細
菌を効果的に保持すること、2)総処理量が大きいこと及び3)流速が妥当なものであ
ることが求められているものと認められる。それのみならず、そもそもワクチンア
ジュバントのエマルジョンの製造に用いられる濾過膜において、上記1)から3)まで
の要請が達成されることにより当該濾過膜の品質の向上につながることは、これら
の要請の内容に照らし、本件優先日の当業者にとって自明であったというべきであ
る。したがって、甲11発明(認定)には、これらの要請を達成するとの課題(以
下「本件課題」という。)が内在しており、甲11発明(認定)に接した本件優先
日当時の当業者は、甲11発明(認定)が本件課題を有していると認識したものと
認めるのが相当である。
(b) 参加人は、ここでも甲65は「バイオ医薬品」(遺伝子組換え技術等を用
いて製造したたんぱく質を有効成分とする医薬品)について言及するものであり、
ワクチンアジュバントのエマルジョンは「バイオ医薬品」に当たらないから、甲6
5の記載をもって甲11記載の発明の課題を認定することはできないと主張する。
しかしながら、甲11発明(認定)は、ワクチンアジュバントのエマルジョンを
製造する技術の分野に属する発明であり、甲65は、従来の製薬用途でも日常的に
使用され、製品の細菌汚染の可能性を低減させることを目的とする濾過膜について\n述べた文献であるから、甲65記載の事項(本件課題)は、少なくとも甲65にい
う「従来の製薬」に該当すると解されるワクチンアジュバントのエマルジョンの製
造にも当然に当てはまるものというべきである。それのみならず、そもそもワクチ
ンアジュバントのエマルジョンの製造に用いられる膜において、本件課題が本件優
先日当時の当業者にとっての自明の課題であったことは、前記(a)のとおりである。
参加人の主張を採用することはできない。
c 本件課題の解決手段
(a) 前記(ア)のとおりの丙4の記載(「本件製品のフィルタカートリッジは、現
存する滅菌フィルタカートリッジのいずれと比較しても優れた特性を持ち、広範囲
の化学的適合性、高耐熱性、高処理量、高流速の特性を全て備えている」旨の記載、
「本件製品のカートリッジは、0.45μm膜を用いた「組み込み予備濾過」によ\nる分画濾過のため、非常に高い総処理能力を持ち合わせている。ポリエーテルスル\nホン膜の非対称的孔構造は、低い圧力下で、高い流速を提供する」旨の記載、「本\n件製品のフィルタカートリッジは、HIMAやASTM F−838−83ガイド
ラインに従う滅菌グレードのフィルタエレメントとして十分検証されている」旨の\n記載、95%閉塞時における総処理量において本件製品が最も優れている旨のグラ
フ等)、前記(イ)のとおりの甲65の記載(「本件製品の製造業者が製造する本件
製品と同種の製品の0.2μmの最終フィルタ層は、本件製品の0.45μm/0.
2μmの組合せと同じで、信頼性の高い細菌保持を提供する」旨の記載等)及び弁
論の全趣旨によると、本件製品が備える親水性異質二重層ポリエーテルスルホン膜
をワクチンアジュバントのエマルジョンの製造(濾過)に用いることにより、本件
課題をいずれも解決することができるものと認めるのが相当である。
(b) 参加人は、丙4の記載は本件製品の特性に関する一般論を述べるものにす
ぎず、丙4には本件製品がスクアレン含有水中油型エマルジョンを含む水中油型エ
マルジョンの滅菌濾過を用途とし得るものである旨の明記がないとして、丙4記載
の本件製品の特性をもって甲11記載の発明が有する課題を解決することができる
ものであると認めることはできないと主張する。
しかしながら、本件製品は、広範囲の医薬製品を濾過することができるように設
計され、広範囲の化学的適合性を備えるものであり(前記(ア))、また、ワクチン
アジュバントのエマルジョンの製造にも当然に適用し得るものである(前記a)と
ころ、甲65及び丙4には、本件製品をワクチンアジュバントのエマルジョンの製
造に用いた場合に、本件製品が持つ本来の性能が十\分に発揮されないものとうかが
わせる記載は一切なく、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はないから、
甲65及び丙4に記載された本件製品の性能は、本件製品をワクチンアジュバント\nのエマルジョンの製造に用いた場合にも発揮されるものと認めるのが相当である。
参加人の主張を採用することはできない。
d 本件適用に係る動機付けの有無についての参加人のその余の主張に対する判
断
参加人は、1)甲11記載の発明における第1の濾過工程と第2の濾過工程は段階
を異にする別個の工程である、2)前者の工程と後者の工程は濾過の条件(高温高圧
条件下での実施の要否)、用いる濾過膜の性質(細菌保持力の強弱)及び濾過のタ
イミング(バルクの充填工程の前後)を異にするものであるとして、甲11記載の
発明に接した当業者において、前者の工程と後者の工程を1つの濾過工程(本件製
品の膜を用いた工程)に置き換えることが容易であったとはいえないと主張する。
しかしながら、前記イ(イ)において説示したとおり、参加人が主張する工程(III))
(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)は、アジュバン
トエマルジョンを抗原溶液と組み合わせる場合とこれらを組み合わせない場合とが
あることから便宜上設けられた工程とみる余地があり、少なくとも後者の場合にお
いては、当該工程を経ることが技術的に必須であるとまでいえないと考えられるの
であるから、甲11記載の発明において第1の濾過工程と第2の濾過工程を連続し
て行うことは、同発明の技術的思想と何ら背馳するものではない(この評価は、甲
11(前記ア)に、第1の濾過工程(大きな粒子を除去する工程)につき「安定性
を有するエマルジョンの製造のために重要である」旨の記載が、第2の濾過工程に
つき「滅菌濾過を行った上、アジュバントを単回投与用のバイアルに充填する」旨
の記載がそれぞれあることによっても妨げられるものではない。)。そうすると、
甲11記載の発明の第1の濾過工程と第2の濾過工程が連続して行うことができな
い別個の工程であるということはできないから、上記の1)の点を根拠とする参加人
の主張を採用することはできない。
また、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第1の濾過工程におけ
る濾過と第2の濾過工程における濾過がどのような温度や圧力の下で行われなけれ
ばならないかについての記載はなく、その他、濾過が行われるべき温度又は圧力を
第1の濾過工程と第2の濾過工程とで別異にすべきであることを認めるに足りる証
拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者において、第1
の濾過工程における濾過は高温高圧下で行う必要があるが、第2の濾過工程におけ
る濾過は高温高圧下で行う必要がないなどと認識するものとは認められない。細菌
保持力の点についてみても、前記アにおいて認定した箇所を含め、甲11には、第
1及び第2の濾過工程において使用される各膜につき、これらの細菌保持力の強弱
についての記載はなく、その他、細菌保持力を第1の濾過工程において使用される
膜と第2の濾過工程において用いられる膜とで別異にすべきであることを認めるに
足りる証拠はないから、甲11記載の発明に接した本件優先日当時の当業者におい
て、第2の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要があるが、
第1の濾過工程において使用される膜の細菌保持力は強くする必要がないなどと認
識するものとは認められない。濾過のタイミングの点についてみても、参加人が主
張する工程(III))(アジュバントエマルジョンのバルクを大きな瓶に充填する工程)
を経ることが技術的に必須であることを認めるに足りる証拠がないことは、前記イ
(イ)において説示したとおりであるから、甲11記載の発明に接した本件優先日当
時の当業者において、第1の濾過工程はアジュバントエマルジョンのバルクの大き
な瓶への充填の前に行う必要があり、第2の濾過工程は当該充填の後に行う必要が
あるなどと認識するものとも認められない。したがって、上記の2)の点を根拠とす
る参加人の主張も採用することはできない。
e 本件適用に係る動機付けの有無についての小括
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者において、甲11発明(認定)
に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
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2024.04.10
令和5(ワ)70114 不当利得返還等請求事件 特許権 民事訴訟 令和6年3月27日 東京地方裁判所
自動二輪車のブレーキに関する特許について、ヤマハ発動機に対して損害賠償等を求めました。争点は均等侵害等多数有りますが、東京地裁46部は、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。本件特許は出願時から弁理士無しの本人出願ですが、訂正時に代理人がついてます。無効審判も同時継続しています(無効2023-800055)
2 サポート要件違反があるか(争点4−1)について
本件発明1について
ア 本件発明1の構成要件1Fは、「前記信号演算として、横加速度を検出す\nる加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横
G(Ghosei)の導出方法を少なくとも有し、」というものであり、構\n成要件1Hは、「当該車両において、前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の
横G(Ghosei)の組合せにより、車両挙動が判断され、・・・」とい
うものであり、本件発明1は、算出された補正後の横G(Ghosei)を
利用するECUによって車輪を適切に制動し、これによってロール方向の挙
動の抑制を図る車両ブレーキ制御装置(構成要件1I)であるとされている。\nそして、本件発明1は、前記1のとおり、自動二輪車等の制御装置につ
いて、従来は、正確な傾斜角の検出ができなかったという課題を解決して、
車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたというものである。
これらからすると、構成要件1F及び1Hの「横G(Ghosei)」は、\n従来はできなかった正確な傾斜角の検出を行うなどした上で算出された、
車両の傾斜走行状態での正確な横Gであると認められる。
ここで、制動指令の前提となる「横G(Ghosei)」は、「横加速度を
検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った」(構\n成要件1F)ものであるとされていることから、「横G(Ghosei)」
は、横加速度を検出する加速度センサーの検出値を基に、これに補正をか
けて得られる値であると理解できる。もっとも、本件発明1の特許請求の
範囲には、「横G(Ghosei)」について、単に加速度センサーの値か
ら「ロールによる影響を取り除く演算を行った」(構成要件1F)と記載す\nるのみで、どのような演算をするかは明示されていない。そうすると、特
許請求の範囲には、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載さ
れ、その解決のための構成は記載されていないといえる。\n
イ 本件明細書には本件発明の意義として前記1のとおりの記載があり、車両
の正確な傾斜角の検出ができず、正確な横Gを検出できなかったという課題
を解決して、車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたという
ものであるとされている。
もっとも、本件明細書には、従前は検出できなかった正確な傾斜角の検出
をどのようにするかや、その傾斜角が判明した場合に正確な横Gを算出する
ためにどのような補正を行うかについての記載はない。
他方、本件明細書には、センサーによる検出結果を補正して横Gを算出す
る方法として、Ghosei = Gken − (Ψ・Rhsen) (式A)
との記載がある(【0073】)。本件明細書の【0073】では、「Gken」
は、実際の走行傾斜時に検出される検出横Gであるとされ、「Ψ」は傾斜角
速度、「Ghosei」はΨを用いたGkenの補正後の横Gであるとされ
ていて(なお、「Rhsen」について、本件明細書には定義がないものの、
「hsen」について路面とセンサとの距離であることを示唆する記載があ
ったり(【0050】【0058】【0061】、図8、9)、「RはGセンサー
#23の実車取付けの高さ(図8b hsen)」(【0063】)との記載、
Ψ・Rhsenについて、Rhsenに1を代入した上で「但し、センサー
取り付け高さ Rを1mとする。」との記載(【0074】)があったりする
ことから、「Rhsen」車体を垂直にしたときのセンサ取り付け位置の高
さであることを一応推測できる。)、その「Ghosei」は、本件発明の課
題として言及されている「正確な横G」であると理解することができる。そ
して、式Aは、その体裁から、本件発明の意義(前記1参照)として記載さ
れている、「横Gセンサー」で検出されたGkenと「角速度センサー」で
検出されたΨを用いて「正確な横G」を算出する方法を記載した式であると
理解できる。
しかしながら、「Ψ・Rhsen」からは、傾斜角は算出されないし、式
Aから、傾斜角を算出することなく「正確な傾斜角の検出ができなかった諸
問題」が解決されていると理解することもできない。さらに、Ghosei
及びGkenは、加速度の次元(長さ/時間2)を有し、Ψ・Rhsenは
速度の次元(長さ/時間)の次元を有していることから、式Aは物理学上、
明らかに意味を持たない式である(弁論の全趣旨)。
そして、本件明細書には、式Aの他に、センサーによる測定値を基に「正
確な横G」を算出する方法についての記載はない。
ウ 本件明細書によれば、本件発明は、車両制御のためには「正確な横G」の
取得が必要であるところ、横加速度を検出する加速度センサーの値をその
まま用いることができないこと、当該値から正確な横Gを算出するために
は傾斜角度を取得することが必要だがそれができないことが課題として記
載され、本件発明はその課題に対して、車両の傾斜走行状態での正確な横
Gを算出したものであるとされており、「横加速度を検出する加速度セン
サーのロールによる影響を取り除く演算を行った」という「横G(Ghos
ei)」についての、当該演算が、本件発明の課題解決の根幹に当たる部分
であるといえるといえる。
しかしながら、特許請求の範囲には、その演算について、従来の課題を
解決するに足りる構成は記載されていない。また、本件明細書の発明の詳\n細な説明をみても、関係する記載は前記イのとおりである。本件明細書の
式A(【0073】)が、一応、上記の演算であると理解することはできる
が、他に、関係する記載はない。そして、前記イのとおり、式Aは本件発明
の課題とされている傾斜角を算出しない上、そもそも物理学上意味をなさな
い式であり、当業者はおよそ式Aを用いて車両制御に利用可能な横G(Gh\nosei)が算出できると理解できるものではない。
エ 原告は、本件明細書の記載は、別紙対比表のとおり誤記があり、正しく\nは同表の「訂正後」欄記載のとおりであると主張する。構\成要件1Fの「演
算」については、式Aのみが当たり得るところ、式Aは前記イで認定した
とおり、次元の異なる物理量の差し引きをしていることから物理学上意
味をなさない式であり、当業者は、式Aに何らかの誤りがあると理解する
ことができるといえる。この点について式Aについて、原告が主張すると
おりGhosei=Gken−(Ψ.・Rhsen) (式A´)(ただし、「Ψ
.」は傾斜角加速度)の誤記であると理解すれば、減算される物理量の次元が異なるという問題については解消される。しかし、次元を整える目的のみであれば、その訂
正の方法は式A´とすることに限られるものではないのであり、他に解消
方法を考え得るのであり、その考え得る解消方法が物理法則やそれを踏ま
えた技術常識等に照らして不合理であることを認めるに足りる証拠はな
い。そうすると、式Aの記載のみから、どのような誤記であるかのかが一
義的に定まるものであるとはいえない。
さらに、原告は、式Aについて「Ψ」を「Ψ.」に訂正するに当たって、
そのままでは式Aに関する説明が記載されている【0073】のその他の
記載と矛盾が生じるため、式Aのみならず、同段落における他の「Ψ」の
記載も「Ψ.」に訂正し、1か所の「傾斜角速度」との記載も「傾斜角加速
度」に訂正するものとしている。
しかし、原告が主張する訂正により、訂正後の【0073】は、「この補
正後の横G(Ghosei)は、(0063)式のGkenから傾斜角加速
度(Ψ.)を用いた補正であり、(0067)の式に対して、傾斜角が変化しない状況である。すなわち、式の「Ψ.・Rhsen」の項については、ゼロとなることから二つの式を整理し記述すると、・・・」との記載を含むことになるが、傾斜角加速度(Ψ.)がゼロであっても、傾斜角速度(Ψ)がゼロでないとき(定速傾斜時)は傾斜角が変化する状況なのだから、傾斜角加速度(Ψ.)に関する項「Ψ.・Rhsen」がゼロであることは直ちに「傾斜角が変化しない状況」を意味するものではないから、原告が主張する訂正をすると同記載部分の趣旨が理解できなくなってしまう。他方で、当該箇所について、「Ψ」を「Ψ.」に訂正しなければ、その内容は理解可能である。\n
同様に、原告が主張する訂正後の【0073】の「・・・この様に、式
の「Ψ.・Rhsen」の項について、ゼロにしたデーターは、定常円旋回
時に得られたデーターと呼ばれることがある。・・・」との記載についても、
定常円旋回時には、傾斜角が一定になるため、「傾斜角速度」が0になると
ころ、「傾斜角加速度」に関する項が0になっても、「傾斜角」が変化しな
いとは限らない(傾斜角加速度が0の場合には、定速傾斜の場合も含まれ
る。)のであるから、訂正すると同記載部分の趣旨が理解できなくなって
しまう。この点についても、当該箇所について訂正しなければその内容は
理解可能である。\n
さらに、式Aは、測定された加速度(Gken)を角速度(Ψ)の値に
よって補正する式であるといえるが、これは、「走行時の横Gセンサーと
角速度センサーを関連付けることによって、従来は、正確な傾斜角の検出
ができなかった諸問題を解決」(前記1)という本件明細書に記載されて
いる課題解決の基本的な方法として明示されている手法に文言上最も沿
うものである。他方、式Aを式A´に訂正すると少なくとも直接的にはこ
れに文言上最も沿うものとはいえない内容になってしまう。
また、原告は、誤記を訂正した後の【0063】の記載によれば、傾斜
走行時に検出される検出横G(Gken)には、ロール速度の変化の影響
である加速度成分(Ψ.・Rhsen)が重畳されていること、重畳された
当該加速度成分は、傾斜角速度センサーの速度変化である傾斜角加速度
(Ψ.)を減算することで取り除くことができることが分かるなどと主張す
る。
しかし、前記イで説示したとおり、本件明細書においてセンサーで取得
した加速度の値を修正して得られる制御に用いる加速度として言及され
ているのは【0073】の横G(Ghosei)のみであり、【0063】
には、本件発明1の「横G(Ghosei)」の算出方法は記載されてい
ない。仮に、【0063】に本件発明1に係る「加速度センサーのロール
による影響を取り除く演算」が「Ψ.・Rhsen」を減算する趣旨であることを示唆する記載があると評価できるとしても、【0073】の方がより直接的な制御に用いる修正後の加速度を算出する方法に関する記載であると評価できるにもかかわらず、式Aについては、前記イで説示した問題がある。
また、【0063】には、Gken=g・cosΦ・tanρ−Ψ・Rhen
(訂正後は「Gken=g・cosΦ・tanρ+Ψ.・Rhsen」)という式が記載されており、訂正後の式には「Ψ.・Rhsen」という項が含まれているものの、これを減算(訂正後は加算)した「g・cosΦ・tanρ」が物理学上、本件発明で算出することが課題とされている「正確な横G」に当たり、同物理量が判明すれば「正確な傾斜角の検出ができなかった諸問題」を解決できるものと理解できると認めるに足りる証拠はない。そうすると、仮に【0063】の記載が原告の主張するとおりの誤記であると認定できるとしても、当該式のみからでは、センサーによる検出値である「Gken」から「Ψ.・Rhsen」を減算することが課題解決につながり、構成要件1Fの「ロールによる影響を取り除く演算」に当たるものであると理解できるとはいえない。\n
また、原告の主張中には、【0063】より前の【0061】、【0062】の記載から【0063】の記載が誤記であることが理解できると主張する部分があるが、【0061】、【0062】にも多数の誤記があり、「Ψ」と「Ψ.」に関する誤記のみならず「−」と「+」に関する誤記まであり、どの部分が誤記であるのか容易に理解できるとは認め難い。もともと、本件明細書では、その全体にわたって、その説明の当初から基本的に一貫して加速度の次元の物理量から角速度(周速度)の次元の物理量を加算ないし減算するという式を前提とする内容で説明が記載されていて、前記エで説示したとおり、当該式に直接関連しない部分についてもこれと矛盾しない内容になっていた。そのような本件明細書について、当該式を訂正すると別の部分と矛盾が生じる内容になっている。これらからすると、当業者は、本件明細書に記載の誤りがあることを理解するとしても、本件明細
書において、本来どのようなことが記載されようとしていたのかや、どの部分がどのような誤記であるかを理解することができるとは認められない。
以上のとおり、当業者は、式Aに含まれる項の次元が異なることから何らかの誤りがあることは理解できるものの、次元の違いによる問題を解消する方法は原告が主張する訂正に限られるものではなく、また、式Aの内容等から、次元の違いによる問題を解消するためには、式A´に訂正する以外の方法はないと当業者が理解できると認めるに足りる証拠はない。さらに、式Aの訂正と整合するように、本件明細書の式Aに関する記載部分を訂正していくと、それまで問題なかった明細書の記載の趣旨が理解できなくなったり、整合しなくなってしまうことが認められる。
これらの事情からすると、本件明細書の記載から、式Aが式A´の誤記であると理解できるとはいえない。よって、式Aについて式A´の誤記であると理解できることを前提とする原告の主張はその前提を欠く。
オ 本件発明1の意義は前記1のとおりである。そして、本件発明1の構成\n要件1Fには、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載され、
その解決のための構成は記載されていないといえるところ、前記ウのと\nおり、その課題の解決のための構成について、本件明細書に記載がある\nとはいえない。また、その記載がないにも関わらず、当該課題について、
当業者がそれを解決できると認識できることを認めるに足りない。そう
すると、本件発明1は、本件明細書に記載された説明で、本件明細書の発
明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認
識できる範囲のものであるとはいえないし、当業者が技術常識に照らし発
明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。よって、本
件発明1は、本件明細書に記載された発明であるとはいえない。
本件発明2について
ア 本件発明2は、算出された補正後の横G(Ghosei)を利用する、自
動二輪車の車両解析装置であるとされており、横G(Ghosei)の算出
方法については、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと傾斜
角速度の積との差分を求めるものとされている。
本件明細書においてこれに関する記載としては式Aに関する記載がある
が、当該記載は本件明細書に記載された課題を解決する発明であると理解で
きないものであることについては、前記 で説示したとおりである。他に本
件明細書には当該部分に係る記載があるとはいえない。よって、本件発明2
は本件明細書に記載されている発明であるとはいえない。
イ この点について、原告は、構成要件2Eの補正後の横G(Ghosei)\nの算出方法について、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと
「傾斜角速度」の積との差分との記載は、横加速度から加速度センサーの
車両取り付け高さと「傾斜角加速度」の積との差分の誤記であると主張す
る。
しかし、本件明細書には、補正後の横Gに関する記載は式Aに関する記
載しかなく、ここには、「傾斜角加速度」の積との記載はない。原告は、式
Aが式A´の誤記であると主張するが、これが誤記であると理解できない
ことについては前記 エで説示したとおりである。そうすると、仮に構成\n要件2Eが2E´の誤記であると理解できるとしても、本件発明2が本件
明細書に記載された発明であるとは認められない。
よって、本件発明のいずれについても、本件明細書に記載された発明であ
るとはいえず、サポート要件を欠くものであると認められる。
◆判決本文
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2024.03.28
令和4(行ケ)10127等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和6年3月18日 知的財産高等裁判所
争点は、発明特定事項「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり」がPBPクレームか否か、その他、第1次判決の拘束力、不可能・非実際的事情の有無、明確性要件、サポート要件などです。知財高裁(4部)は、「不可能\・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の請求項の記載は明確性要件に違反する」と判断しました。
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2は、「セレコキシブ粒子が、
ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事項
(以下「本件ピンミル構成」ということがある。)を含む(削除された請求\n項を除く他の請求項も、請求項1又は2を直接又は間接的に引用することで
本件ピンミル構成を含むことになっている。)ところ、本件ピンミル構\成を
巡っては、そのクレーム解釈(PBPクレームといえるか否か、「ピンミル
のような」は衝撃式ミルの単なる例示か、衝撃式ミルの一部に限定する構成\nかなど)と、当該クレーム解釈を前提とした明確性要件の適合性の議論が重
層的に争われているので、以下、順次検討していく。
(3) まず、本件ピンミル構成がPBPクレームに当たるかについて検討するに、\n本件ピンミル構成に関する本件明細書の【0024】、【0190】の記載\nが、セレコキシブ粒子を粉砕する製造工程、製造方法を開示していることは
明らかであり、したがって、本件訂正によって特許請求の範囲の発明特定事
項とされるに至った本件ピンミル構成についても、「ピンミルのような衝撃\n式ミルで粉砕」するという製造方法をもって物の構造又は特性を特定しよう\nとするもの(その意図が成功しているかどうかはともかく)と理解される。
この限度では、被告が主張し、本件審決が判断を示しているとおりである。
第1事件原告は、製薬組成物の製造には複数の工程が必要であるなどとし
てこれを争うが、そのような工程の全てを特定することがPBPクレームと
しての必須条件とはいえない。実質的に製造方法の明確性を問題にしている
とすれば、この点からの検討は後に示すこととする。
(4) 次に、本件ピンミル構成の意味するところ(例示か限定か)を検討するに、\n「ピンミルのような衝撃式ミル」との特許請求の範囲の文言自体に着目して
考えた場合、1)ピンミルは単なる例示であって衝撃式ミル全般を意味すると
いう理解、2)衝撃式ミルに含まれるミルのうち、ピンミルと類似又は同等の
特性を有する衝撃式ミルを意味するという理解のいずれにも解する余地が
あり、特許請求の範囲の記載のみから一義的に確定することはできない。
そこで、本件明細書の記載を参照するに、本件明細書の【0024】には、
「セレコキシブと賦形剤とを混合するに先立ち、ピンミル(pin mil
l)のような衝撃式ミルでセレコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作
製することは、改善された生物学的利用能を提供するに際して効果的である\nだけでなく、かかる混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性
と関連する問題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミル
を利用して粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネ
ルギーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ
よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体には容
易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が高くなり、
このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合において、非常に
重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合する際のエアージェッ
トミルのような液体エネルギーミルの有用性に予期せぬ結果をもたらす。特\n定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕により長い針状からより均一な結
晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質させ、ブレンド目的により適するよ
うになるが、長い針状の結晶はエアージェットミルでは残存する傾向が高い
と仮定される。」との記載が、【0135】には、「セレコキシブは先ず粉
砕される若しくは所望の粒子サイズに微細化される。さまざまな粉砕機若し
くは破砕機が利用することが可能であるが、セレコキシブのピンミリングの\nような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組成物に改善さ
れたブレンド均一性がもたらせる」との記載がある。
以上の記載に上記(3)の解釈を併せて考えると、本件ピンミル構成は、被\n告が主張(第3の3(6)ア)するように、本件訂正発明に係る薬剤組成物の含
むセレコキシブ粒子が、ピンミルで粉砕されたセレコキシブ粒子に見られる
のと同様の、長い針状からより均一な結晶形へと変質されて、凝集力が低下
し、ブレンド均一性が向上した構造、特性を有するものであることを特定す\nる構成であって、したがって、「ピンミルのような衝撃式ミル」とは、ピン\nミルに限定されるものではなく、上記のような構造、特性を有するセレコキ\nシブ粒子が得られる衝撃式ミルがこれに含まれ得るものと理解するのが相
当である。
(5) 以上を前提に、本件ピンミル構成を含む本件訂正発明の特許請求の範囲の\n記載が明確性要件を満たすかどうかを検討する。
ア 衝撃式粉砕機に分類される粉砕機としては、本件審決も認定していると
おり、多種多様なものがある(ハンマーミル、ケージミル、ピンミル、デ
ィスインテグレータ、スクリーンミル等が知られており、ハンマーの形状
によっても、ナイフ型、アブミ型、ブレード型、ピン型等がある。甲イ1
11、112、136)ところ、上記(4)で示したクレーム解釈によると、
衝撃式粉砕機によって粉砕されたセレコキシブ粒子を含む薬剤組成物で
あっても、本件特許の技術的範囲に属するものと属しないものがあること
になるが、本件明細書に接した当業者において、「ピンミルで粉砕された
セレコキシブ粒子に見られるのと同様の、長い針状からより均一な結晶形
へと変質されて、凝集力が低下し、ブレンド均一性が向上した構造、特性\nを有するセレコキシブ粒子」を製造できる衝撃式粉砕機がいかなるものか
を理解できるとは到底認められない。すなわち、一般に、明細書に製造方
法の逐一が記載されていなくても、当業者であれば、明細書の開示に技術
常識を参照して当該製造方法の意味するところを認識できる場合も少な
くないと解されるが、本件の場合、本件明細書には、「ピンミルで粉砕さ
れたセレコキシブ粒子」の凝集力の小ささ、改善されたというブレンド均
一性が、ピンミルのいかなる作用によって実現されるものかの記載がない
ため、衝撃式ミル一般によって実現されるものなのか、衝撃式ミルのうち、
ピンミルと何らかの特性を共通にするものについてのみ達成されるもの
なのかも明らかとなっていない。そのため、技術常識を適用しようとして
も、いかなる特性に着目して、ある衝撃式ミルが本件ピンミル構成にいう\n「ピンミルのような衝撃式ミル」に当たるか否かを判断すればよいのかと
いった手掛かりさえない状況といわざるを得ない。
イ そうすると、本件明細書等に加え本件出願日(明確性要件の判断の基準
時)当時の技術常識を考慮しても、「ピンミルのような衝撃式ミル」の範
囲が明らかでなく、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕」するというセ
レコキシブ粒子の製造方法は、当業者が理解できるように本件明細書等に
記載されているとはいえないから、本件訂正発明は明確であるとはいえな
い。
ウ ところで、PBPクレームは、物自体の構造又は特性を直接特定するこ\nとに代えて、物の製造方法を記載するものであり、そのような特許請求の
範囲が明確性要件を充足するためには、不可能・非実際的事情の存在が要\n求されるのであるが、本件においては、不可能・非実際的事情を検討する\n以前の問題として、前記ア、イに示したようにそもそも特許請求の範囲に
記載された製造方法自体が明確性を欠くものである。
(6) 本件審決は、「ピンミルのような衝撃式ミルは、いわゆる衝撃式粉砕機で
あり、粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機と
は異なる粒度分布の粉体を作製する装置であることが理解できるから明確
である」としており、これは、「ピンミルのような」について、「いわゆる
衝撃式粉砕機」のなかでも、さらに、「粉砕された粉体は、ジェットミルの
ような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」こと
のできる装置であるとの意味づけを与えた認定であると解される。
そして、「ピンミルによる」粉砕が、「粉砕された粉体は、ジェットミル
のような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」も
のであることについて、本件審決は、本件明細書の、ピンミルと、エアージ
ェットミルのような他のタイプのミルとの粉砕物の凝集力の違いに関する
記載(【0024】)、及び、粉砕装置の粉砕機構が異なれば得られる粒子\nの粒度分布が異なるという技術常識を認定したことにより、導き出している
ものと認められる。
しかし、本件明細書には、凝集力の違いが、粉砕装置の違いに基づく粒子
の粒度分布の違いに起因するものであるとの記載も示唆もない。粉砕装置の
違いが、粒度分布の違い以外の粒子特性を導くことも当然考えられるところ
である(これを否定する技術常識があるとは認められない。)。そうすると、
「ピンミルのような」が、「衝撃式ミル」に対して、さらに「粉砕された粉
体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の
粉体を作製する装置」であるとの意味づけを与えた本件審決の解釈は、本件
明細書等の記載及び技術常識を考慮しても、無理があるものといわざるを得
ない。
(7) 以上より、不可能・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の\n請求項1、2、4、5、7〜13、15、17〜19の記載は明確性要件に
違反するものであり、取消事由3は理由がある。
3 取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)について
上記2のとおり、取消事由3が認められる以上、本件審決(原告らが取消しを
求めている請求項に関する部分)は既に取消しを免れないものである。しかし、
明確性要件違反の原因となった本件ピンミル構成は、前訴判決がサポート要件\n違反を肯定する判断をしたことを受けて、その瑕疵を回避するために特許請求
の範囲に加えられたという本件の経過を踏まえると、本件訂正後の特許請求の
範囲を前提としたサポート要件の適合性の問題(取消事由2)についても、併せ
て判断を示すことが適切と考えられることから、以下に当裁判所の判断を示し
ておくこととする。
なお、その場合、本件ピンミル構成を含む特許請求の範囲は明確性要件を欠\nくことが前提となるから、サポート要件の判断においても、本件ピンミル構成\nを発明特定事項として考慮しない前提で検討することとする。
(1) 前訴判決がサポート要件違反を認めて第1次審決を取り消したことは前
述のとおりであるところ、本件においては、前訴判決の拘束力がいかなる範
囲に及ぶかが問題となっているので、まずこの点を検討する。
ア 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判
決が確定したときは、審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判
事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は
行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法3
3条1項の規定により、上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束
力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる
ものであるから、審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断を
することは許されない(最高裁判所昭和63年(行ツ)第10号平成4年
4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。
この拘束力は、行政庁が裁判所の判断に反して同一の処分を繰り返し、
同一の案件が行政庁と裁判所の間を往復することを避けるためのもので
あり、原則として主文についてのみ生ずる既判力と異なり、判決理由中の
判断であっても、主文に直結する認定判断、すなわち主要事実の認定及び
その法規範への当てはめの判断にも及ぶものである。他方、判決の結論と
直接関係のない傍論の説示はもとより、主要事実を確定する過程における
間接事実の認定やその評価にまで及ぶものではなく、また、結論に至る推
論過程を基礎づける論拠、反対主張を排斥する理由等の説示についても同
様である。取消判決の理由中の説示の全てが拘束力を有するとした場合、
結論に影響する意味合いや程度も様々な議論が独り歩きを始め、その解
釈・適用を巡って新たな紛争を拡大させることとなり、そのような状況は、
行政事件訴訟法33条1項の想定するところではないというべきである。
イ 以上を前提に、前訴判決(甲イ86)の判断構造をみておく。\n
(ア) 前訴判決は、まず、サポート要件適合性について、「所定の数値範囲
を発明特定事項に含む発明について、特許請求の範囲の記載が同号所定
の要件(サポート要件)に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な
説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含まれる数値範囲の
全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認識できるか
否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である」とし、「これ
を本件発明1についてみると・・・『粒子の最大長において、セレコキ
シブ粒子のD90が200µm未満である粒子サイズの分布を有する』こ
とを特徴とするものであるから、所定の数値範囲を発明特定事項に含む
発明であるといえる。」としているので、「D90が200µm未満であ
る粒子サイズの分布を有する」本件発明1について、その数値範囲の全
体にわたりその課題を解決できるものであるかどうかを検討している。
(イ) そして、前訴判決は、(a)一方で、本件明細書の【0022】、【01
24】、【0135】の記載から、未調合のセレコキシブを粉砕し、「セ
レコキシブのD90粒子サイズが約200μm以下」とした場合には、セ
レコキシブの生物学的利用能が改善されること、セレコキシブのピンミ\nリングのような衝撃粉砕により、他のタイプの粉砕と比較して、最終組
成物に改善されたブレンド均一性がもたらせることを示したものとい
えるとしつつ、(b)他方で、1)本件発明1の請求項1には、セレコキシブ
を微細化する具体的な方法は記載されておらず、本件発明1の「微粒子
セレコキシブ」が「ピンミリングのような衝撃粉砕」により粉砕された
ものに限定する旨の記載もなく、かえって、本件明細書の【0135】
には、さまざまな粉砕機・破砕機が利用可能とされていること、2)本件
明細書の【0008】には、長く凝集した針を形成する傾向を有する結
晶形態を有する未調合のセレコシブは、錠剤成形ダイでの圧縮の際に、
融合して一枚岩の塊になり、他の物質とブレンドさせたときでも、セレ
コキシブの結晶は、他の物質から分離する傾向があり、セレコキシブ同
士で凝集し、セレコキシブの不必要な大きな塊を含有する、非均一なブ
レンド組成物になるとの記載があること、3)本件優先日当時、粉砕によ
り溶出は改善されるが、難溶性薬物は凝集して溶解速度が遅くなること
があることが周知又は技術常識であったことを踏まえると、(c)難溶性
薬物であるセレコキシブについて、「『セレコキシブのD90粒子サイズが
約200μm以下(「未満」の誤記と認められる。)』の構成とするこ\nとによりセレコキシブの生物学的利用能が改善されることを直ちに理\n解することはできない」(以下「説示(c)」という。)とした。
また、本件明細書には、(d)「D90」の値を用いて粒子サイズの分布
を規定することの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との関係\nが説明されていないことを述べた上で、(e)難溶性薬物の原薬の粒子径
分布が化合物によって種々の形態を採ることに照らすと、「200μm
以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分布がどの
ようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解するこ\nとはできない」(以下「説示(e)」という。)とした。そして、(f)本件
明細書の例11及び例11−2の実験結果の記載は、微粉化したセレコ
キシブを含有する「組成物A」及び「組成物B」(これらに含まれるセ
レコキシブのD90粒子サイズは約30μmと推認される。)の生物学的
利用能は、未粉砕、未調合のセレコキシブである「組成物F」の生物学\n的利用能より高いことを示しているが、「組成物A」及び「組成物B」\nに加湿剤として含まれるラウリル硫酸ナトリウムが、生物学的利用能の\n実験結果に影響した可能性が高いものと認められ、この実験結果から、\n本件発明1の「セレコキシブ粒子のD90が200μm未満」の数値範囲
の全体にわたり、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善\nするものと認識することはできないとした。
(ウ) 前訴判決は、以上を踏まえた結論として、本件明細書の発明の詳細な
説明の記載及び本件優先日当時の技術常識から、当業者が、本件発明1
に含まれる「粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD90が200
μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明1の課題を解決できると
認識できるものと認められないから、本件発明1は、サポート要件に適
合するものと認めることはできないとした。
(エ) 前訴判決の本件発明2〜4のサポート要件の適合性に関する判断は、
以下のとおりである。
本件発明2は「前記粒子の最大長において、前記セレコキシブ粒子の
D90が100μm未満であること」を、本件発明3は同40µm未満で
あることを、本件発明4は同25µm未満であることをそれぞれ発明特
定事項とするものであるところ、セレコキシブ粒子のD90が200µm
未満である本件発明1がサポート要件に適合するものと認めることが
できないことは前記のとおりであると指摘した上で、例11及び例11
−2の実験結果も、ラウリル硫酸ナトリウムが生物学的利用能の実験結\n果に影響した可能性が高いものと認められることに照らすと、上記実験\n結果から、D90が約30µmよりも小さい値とした場合において、未調
合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善するものと認識する\nことはできないとして、本件発明2〜4はサポート要件に適合するもの
と認めることはできないとした。
(オ) 前訴判決は、本件発明5、7〜19については、請求項1記載の製薬
組成物を発明特定事項に含むものであるところ、「本件発明1がサポー
ト要件に適合するものと認めることができないことは前記‥のとおり
であるから」という理由により、サポート要件に適合するものと認める
ことはできないとした。
ウ 取消判決の拘束力の範囲に関し上記アで述べたところに従って、前訴判
決の拘束力の生ずる部分を検討するに、主文に直結する認定判断(主要事
実の認定及びその法規範への当てはめの判断)は、本件訂正前の特許請求
の範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識(主要事実
の認定に当たる。)を前提に、本件訂正前の特許請求の範囲によって特定さ
れる発明(本件発明)が特許法36条6項1号の要件に適合しないとした
判断(法規範への当てはめに当たる。)にほかならず、前訴判決中、拘束力
が生ずるのは当該部分であると解される。
他方、前訴判決の判断過程では、結論に至る推論過程を基礎づける論拠
として、説示(c)、(e)等の様々な理由が示されているが、その逐一について
拘束力が生ずるものではないことは、上記アで述べたとおりである。
エ そもそも、サポート要件は、明細書の記載(特許を受けようとする発明の
開示)から見て広すぎる特許請求の範囲を防ぐ役割を果たすものであると
ころ、被告は、本件訂正前の本件発明につきサポート要件違反を認めた前
訴判決を受けて、特許請求の範囲の減縮を目的とする本件訂正の請求をし
ており、これが訂正要件を充足することは前記1のとおりである。
その結果、本件では、本件訂正後の特許請求の範囲(ただし、本件ピンミ
ル構成は発明特定事項として考慮しない。)に基づく本件訂正発明のサポ\nート要件の適合性が問題となっているのであって、同じサポート要件の適
合性の問題であっても、本件訂正前の特許請求の範囲を前提とする前訴判
決とは判断対象が異なる。それにもかかわらず、「前訴判決の説示(c)、(e)
等に照らせば、本件訂正後の本件訂正発明についても、前訴判決と同様の
判断が妥当する(はずである)」といった推論を戦わせるのは、取消判決の
拘束力の問題とは異質の議論といわざるを得ない。
オ 本件審決は、前訴判決の説示(e)(難溶性薬物の原薬の粒子径分布は・・・、
200μm以上の粒子の割合を制限しさえすれば、90%の粒子の粒度分
布がどのようなものであっても、生物学的利用能が改善されるものと理解\nすることはできない旨の判示)について、これは、生物学的利用能の改善の\n観点では、90%の粒子の粒度分布も重要であることを述べたものである
との理解を示している。そして、ピンミルのような衝撃式粉砕機(衝撃式ミ
ル)により粉砕された粉体と、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕
機により粉砕された粉体は、異なる粒度分布の粉体となるという一般的な
知見をもとに、この粒度分布の差異は粉砕機構の差異に由来するものであ\nり、本件明細書に記載されたピンミルのような衝撃式ミルでの粉砕は、他
のタイプのミルとは異なる粒度分布を形成することにより、凝集性及びブ
レンド均一性の改善に寄与するとして、説示(c)、(e)を本件訂正発明1が
サポート要件に適合する理由の1つにしている。
これに対し、原告らは、D90を30μmにし、「セレコキシブ粒子が、
ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事
項を加えても、90%の具体的な粒度分布は明らかにならないとして、説
示(c)、(e)を本件訂正発明1がサポート要件に適合しない理由としている。
これらは、いずれも、前訴判決の説示(c)、(e)を独立して取り上げ、同判
断に拘束力が生じることを前提とするものと解されるが、失当というべき
である。
拘束力の問題を離れて考えても、前訴判決の当該部分の判示は、製薬組
成物の特徴が、実質的に「D90が200µm未満である粒子サイズの分布を
有する」ことで特定されていた本件発明1について、未調合のセレコキシ
ブに対して生物学的利用能が改善されるという課題を解決できるものであ\nるかどうかを検討する過程において、上記特定事項で特定しさえすれば、
課題を解決できるものと理解することはできないと判断したものであって、
前訴判決が、本件発明1がサポート要件に適合するには、90%の粒度分
布を示すことが必須の要請であると判断しているとの趣旨まで読み込むこ
とには無理がある。
カ よって、前記ウのとおり、前訴判決の拘束力は、本件訂正前の特許請求の
範囲及び本件明細書の記載並びに本件優先日当時の技術常識を前提に、本
件訂正前の特許請求の範囲によって特定される発明(本件発明)が特許法
36条6項1号の要件に適合しないとした判断について生じることを前提
に、サポート要件の適合性について判断する。
(2) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細
な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を
定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な
説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な
説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明
の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳
細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該
発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して
判断すべきものと解される。特に、所定の数値範囲を発明特定事項に含む発
明について、特許請求の範囲の記載が同号の要件に適合するか否かは、当業
者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含ま
れる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認
識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。
ア 前記第2の2(3)の本件明細書の開示事項によれば、本件訂正発明の課題
は、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固体の経\n口運搬可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供することであり、\n取り分け、水溶液に溶解しにくいセレコキシブ粒子の特質から、混合中に
セレコキシブ同士で凝集し、非均一なブレンド組成物になるとの問題の解
決にあるものと認められる。
具体的には、本件明細書の【0008】では、「・・・セレコキシブは、
水溶性媒体には異常なほど溶解しない。例えば、カプセル形態で経口投与
させた場合、未調合のセレコキシブは胃腸管にて急速に吸収されるために、
容易には溶解せず、分散もしない。加えて、長く凝集した針を形成する傾
向を有する結晶形態を有する未調合のセレコシブは、通常、錠剤成形ダイ
での圧縮の際に、融合して一枚岩の塊になる。・・・」として、セレコキシ
ブが、水溶性媒体には異常なほど溶解しないこと、未調合のセレコシブが
長く凝集した針を形成する傾向を有することを解決すべき問題として挙げ
ている。
イ 上記課題に関係する技術常識として、証拠(甲イ7、16、23、65〜
68、80、103)及び弁論の全趣旨によれば、本件出願日当時、1)粉砕
によって薬物の粒子径を小さくし、比表面積(有効表\面積)を増大させるこ
とにより、薬物の溶出が改善されるが、他方で、難溶性薬物については、溶
媒による濡れ性が劣る場合には、粒子径を小さくすると凝集が起こりやす
くなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速度が遅くなることがあるこ\nと、2)疎水性の難溶性物質であっても、界面活性剤が存在すると、微粒子は
凝集せずに均一に溶液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は
大きくなることは、周知又は技術常識であったものと認められる。
ウ 上記技術常識を踏まえて、本件訂正発明が上記課題を解決できると認識
できる記載が本件明細書に開示されているかどうかにつき、さらに検討す
る。
(ア) 本件明細書の【0022】には「本発明の組成物は微粒子の形態のセ
レコキシブを包含する。セレコキシブの一次粒子は、例えば、製粉若し
くは粉砕により、又は溶液から沈殿させて生成させ、凝集して二次の集
合体粒子が形成される。本願で利用する用語「粒子サイズ」とは、特に
本願で指摘しない限り、一次粒子の最長の大きさのことをいう。粒子サ
イズは、セレコキシブの臨床的効果に影響を与える重要なパラメータで
あると考えられる。よって、別の実施例では、発明の組成物は、粒子の
最長の大きさで、粒子のD90が約200μm以下、好ましくは約100
μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは約40μm
以下、最も好ましくは約25μm以下であるように、セレコキシブの粒
子分布を有する。通常、本発明の上記実施例によるセレコキシブの粒子
サイズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改良される。」、\n【0124】には「カプセル及び錠剤中でのセレコキシブの粒子サイズ
カプセル若しくは錠剤の形で経口投与されると、セレコキシブ粒子サイ
ズの減少により、セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見し\nた。したがって、セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下、
好ましくは約100μm以下、より好ましくは約75μm以下、さらに
好ましくは約40μm以下、最も好ましくは25μm以下である。例え
ば、例11に例示するように、出発材料のセレコキシブのD90粒子サイ
ズを約60μmから約30μmに減少させると、組成物の生物学的利用
能は非常に改善される。加えて又はあるいは、セレコキシブは約1μm\nから約10μmであり、好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均
粒子サイズを有する。」としており、セレコキシブの粒子サイズを減少
させることで、セレコキシブの生物学的利用能が改善されることが記載\nされている。
(イ) また、本件明細書の【0024】の「セレコキシブと賦形剤とを混合
するに先立ち、ピンミル(pin mill)のような衝撃式ミルでセ
レコキシブを粉砕させて、本発明の組成物を作製することは、改善され
た生物学的利用能を提供するに際して効果的であるだけでなく、かかる\n混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特性と関連する問
題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピンミルを利用し
て粉砕されたセレコキシブは、未粉砕のセレコキシブ又は液体エネルギ
ーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコキシブ
よりは凝集力は小さく、ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合体に
は容易に凝集しない。減少した凝集力により、ブレンド均一性の程度が
高くなり、このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合に
おいて、非常に重要である。これは、調合用の他の製薬化合物を調合す
る際のエアージェットミルのような液体エネルギーミルの有用性に予\n期せぬ結果をもたらす。特定の理論に拘束されることなく、衝撃粉砕に
より長い針状からより均一な結晶形へ、セレコキシブの結晶形態を変質
させ、ブレンド目的により適するようになるが、長い針状の結晶はエア
ージェットミルでは残存する傾向が高いと仮定される。」との記載から、
粉砕により粒子サイズを減少させるについて、ピンミルのような衝撃式
ミルを使用して長い針状からより均一な結晶とし、ブレンド目的により
適するものとすることが記載されている。
(ウ) 本件明細書の【0075】には「加湿剤 セレコキシブは水溶液にか
なり溶解しにくい。したがって、本発明の製薬組成物は、任意であるが、
好ましくは、キャリア材料として、一つ又はそれ以上の薬剤学的に許容
な加湿剤を含む。かかる加湿剤は、水と親和性があるようにセレコキシ
ブを維持させるように選択することが好ましく、その状態が製薬組成物
の相対的生物学的利用能を改善させると考えられる。・・・」、【00\n76】には「ラウリル硫酸ナトリウムは好ましい加湿剤である。存在す
るならば、ラウリル硫酸ナトリウムは、組成物の全重量の対して、約0.
25%から約7%、好ましくは約0.4%から約6%、より好ましくは
約0.5%から約5%の量を含む。」として、セレコキシブは水溶液に
かなり溶解しにくいために、水と親和性があるようにセレコキシブを維
持させる加湿剤を含むことが好ましいこと、好ましい加湿剤はラウリル
硫酸ナトリウムであること、そのような加湿剤を添加することにより相
対的生物学的利用能を改善できることが記載されている。\n
(エ) 例11−2では、犬モデルでの調合の相対的生物学的利用能の試験\nがされている。
組成物A、Bは微粉化され、ラウリル硫酸ナトリウムが添加されてい
る(【0173】、【0174】、表11−2A)。本件明細書の【0\n124】に「・・・例えば、例11に例示するように、出発材料のセレ
コキシブのD90粒子サイズを約60μmから約30μmに減少させる
と、組成物の生物学的利用能は非常に改善される。・・・」と記載され\nていることから、組成物A、BのD90粒子サイズは約30μmと認めら
れる。他方、参考例である組成物Fは、未粉砕、未調合のセレコキシブ
である(【0172】)。
生物学的利用能は、メス犬について、組成物Fが16.9%であるの\nに対し、組成物Aは31.2%、組成物Bは24.9%であり(【01
76】、(表11−2C)、オス犬について、組成物Fが16.9%で\nあるのに対し、組成物Aは49.4%、組成物Bは54.2%である(【0
177】、表11−2D)とされ、D90粒子サイズを約30μmに減少\nさせた組成物A、Bにおいて生物学的利用能が明らかに高い結果が示さ\nれている。
エ 以上を総合すると、本件訂正発明1は、粒子の最大長においてD90が3
0μmであるセレコキシブ粒子、及び加湿剤としてのラウリル硫酸ナトリ
ウムを含有することを特定するものであるところ、これは、1)セレコキシ
ブが長い針状の結晶形態を有することに対応するため、粉砕によって薬物
の粒子径を小さくし、比表面積を増大させることにより、薬物の溶出を改\n善させるために、セレコキシブの粒子サイズを「D90が30μm」に減少
させ、また、2)セレコキシブのような難溶性薬物については、粒子径を小さ
くすると凝集が起こりやすくなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速\n度が遅くなるが、界面活性剤が存在すると、微粒子は凝集せずに均一に溶
液中に分散され、粒子サイズが小さいほど溶出速度は大きくなることから、
セレコキシブに、界面活性剤同様水に親和性を持たせる湿潤剤であるラウ
リル硫酸ナトリウムを含有させることとしたものである。そして、3)具体
的な実験結果においても、D90粒子サイズは約30μmとし、ラウリル硫
酸ナトリウムを含有させたセレコキシブ組成物が、未粉砕、未調合のセレ
コキシブに対して優れた生物学的利用能を示しているのであるから(例1\n1−2)、本件訂正発明1は、本件ピンミル構成を発明特定事項として考慮\nしなくても、本件明細書及び技術常識から、「未調合のセレコキシブに対し
て生物学的利用能が改善された固体の経口運搬可能\なセレコキシブ粒子を
含む製薬組成物を提供する」という課題を解決できると当業者が認識でき
る範囲の発明であるといえる。
本件訂正発明2は、D90が30μmよりも減少した数値範囲である「D
90が30μm未満」と特定されたものであるから、上記本件訂正発明1に
ついて述べたところと同様、本件明細書及び技術常識から、上記課題を解
決できると当業者が認識できる範囲の発明であるといえる。
本件訂正発明4、5、7〜13、15、17〜19も、本件訂正発明1及
び本件訂正発明2を直接的又は間接的に引用してこれらをさらに限定する
発明であるから、本件訂正発明1及び本件訂正発明2と同様に、本件明細
書及び技術常識から、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲の
発明であるといえる。
◆判決本文
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2024.02.19
令和4(行ケ)10081 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟__全文__知的財産裁判例 令和5年7月13日 知的財産高等裁判所
パラメータ特許について、異議申立があり、特許庁は、サポート要件違反として特許を取り消しまし。裁判所は、審決を維持しました。\n
クレームは、「・・・前記バイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に、0.05≦A/B≦0.12を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に、1.0≦A/C≦1.8を満たす・・
本件明細書(【0014】)には、B/(B+S)を構成3の数値範囲(0.5\n≦B/(B+S)≦0.8)とすることにより所与の効果(技量が高いゴルファー
やスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクを生み出
し、シャフトがねじれすぎること又はねじれないためにシャフトが折損してしまう
ことを防止するとの効果(以下「【0014】記載の効果」という。))が得られ
ると記載されているのみであって、【0014】記載の効果が得られる理由は記載
されていないし、B/(B+S)を構成3の数値範囲とすることで被告主張の課題\nを解決できるとする理由も記載されておらず、当該数値範囲のいずれの点において
も被告主張の課題を解決できるとする理由も記載されていない。特に、B/(B+
S)の境界値を0.5及び0.8としたときに【0014】記載の効果が得られる
根拠並びに被告主張の課題を解決できるとする根拠については、本件明細書に何ら
の記載もない。原告は、本件出願日当時の当業者はストレート層の重量の割合を2
0%以上としておけば、シャフトが曲げにより折損すること(ねじれがないために
シャフトが折損すること)を防ぎ得るものと理解できると主張するが、ストレート
層の重量の割合を20%以上とする根拠はなく、本件出願日当時の当業者であって
も、当該割合につき20%以上を選択することが容易であるとはいえない。また、
【0014】記載の効果と被告主張の課題との関係及びストレート層の重量の割合
を20%以上とすることと被告主張の課題との関係も不明である。さらに、実施例
1及び比較例1をみても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とする理由は理解で\nきない(なお、比較例1におけるバイアス層の重量の割合は40%であり、実施例
1におけるバイアス層の重量の割合は60%であるところ、原告は、B/(B+S)
の下限値が0.5であることの根拠を示していない。)。原告が挙げる証拠(甲1
2、21、23)をみても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とする理由は理解\nできないし、これらの証拠には、当該数値範囲とすることで被告主張の課題を解決
できるとする理由及び当該数値範囲のいずれの点においても被告主張の課題を解決
できるとする理由は記載されておらず、当該数値範囲とすることで【0014】記
載の効果が得られることについても記載されていない。
以上のとおり、本件明細書の記載に加え、原告が技術常識であると主張する内容
を踏まえても、B/(B+S)を構成3の数値範囲とすることで被告主張の課題を\n解決できるとは理解できず、また、当該数値範囲のいずれの点においても被告主張
の課題を解決できるものと評価することもできない。当該数値範囲により【001
4】記載の効果が得られる理由も不明である。
◆判決本文
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2024.01.19
令和4(行ケ)10081 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟__全文__知的財産裁判例 令和5年7月13日 知的財産高等裁判所
ゴルフシャフトの数値限定発明(バラメータ)について、サポート要件違反とした審決が維持されました。
a バイアス層の合計重量(B(g))をバイアス層の合計重量とシャフト全体
にわたって位置するストレート層(以下、単に「ストレート層」という。)の合計
重量の和(B(g)+S(g))の50%以上とすることにより得られる効果等に
関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明のゴルフクラブ用シャフトは、
シャフトに使用するバイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置
するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦
0.8・・・(1)を満たすことが重要である。(1)は、技量が高いゴルファー
やスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクTq(°)
を生み出す要素を示している。つまり、(1)を満たさないゴルフクラブ用シャフ
トは、シャフトが捩じれすぎたり、または捩じれないがためにシャフトが折損して
しまう原因につながる。」との記載(【0014】)があり、また、本件効果が得
られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例1における
各B/(B+S)がそれぞれ0.6及び0.4であるとの記載(【表4】)がある。\nしかしながら、これらの記載は、本件各発明におけるB/(B+S)に係る0.5
との数値が実施例1における0.6及び比較例1における0.4の中間値であるこ
とを含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重
量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切
に説明するものとはいえず、したがって、構成3のうちバイアス層の合計重量をバ\nイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とするとの点につ
いては、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本
件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、バイアス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小
さくできることは自明であり本件出願日当時の技術常識であるとして、本件出願日
当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、バイアス層の合計重量をバイア
ス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上としておけば、その他
の条件を技術常識の範囲内で適宜調整して決定することで、容易にTq≦4.0°
の構成(構\成2)が得られるものと理解し得ると主張する。しかしながら、バイア
ス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小さくできることが本件
出願日当時の技術常識であったとしても、原告の上記主張は、実施例1と比較例1
を比較する点を含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート
層の合計重量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかに
ついて適切に説明するものとはいえず、その他、バイアス層の合計重量をバイアス
層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とすることにより本件課
題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、
構成3のうちバイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計\n重量の和の50%以上とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当
時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるという
ことはできない。
◆判決本文
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