改正前の特許法36条3項違反として拒絶した審決に対する審決取消訴訟です。特許庁は、「本件明細書に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,本願発明の目的,構成及び効果が記載されているとはいえない」として、拒絶審決をしました。裁判所は、記載不備との審決を維持しました。訴訟では、専門家による鑑定書が複数提出されましたが、本件出願前に容易に実施できるとはいえないとされました。
◆H15.12.22 東京高裁 平成13(行ケ)99 特許権 行政訴訟事件
2003.11. 9
特許庁、裁判所とも、実施可能要件を満たしていないと認定しました。
「審決は,「消費資源要素と生産資源要素との間の製造関係を示すデジタル信号」についての本件明細書の記載を摘記(審決謄本3頁4行目〜30行目)した上,「これらの記載からは,具体的に,消費資源と生産資源との間の製造関係を示すデジタル信号が,どのような構成の信号として入力され,その結果,どのようにして,消費資源及び生産資源を表\すデジタル信号とそれらの製造関係を表すデジタル信号とが処理されて,生産モデルが作成されるのか,理解できない」(同頁30行目〜34行目)と判断したものであり,本件明細書には,審決が指摘するとおり,製造関係を示すデジタル信号がどのような構\成の信号として入力されるのか,また,どのようにして生産モデルが作成されるのか,その記載のみにより当業者が理解可能な程度に明りょうに記載されていない。そうであれば,特許出願人である原告としては,本件特許出願当時の技術水準を示すなどして本件明細書の記載から当業者が理解可能\であることを証明すべき必要があるところ,本件説明書は上記技術水準を示すものではなく,また,その記載から審決が不明であるとした点を明らかにするものでもないし,他に,上記技術水準を示すこともなく,審決が摘記した記載と同一の記載を引用して単に当業者が理解し得ると主張するにとどまるのであるから,その主張は理由がないものといわざるを得ない。なお,原告は,審決の判断脱漏の違法も主張するが,その理由のないことは,以上の説示に照らして明らかである。(6) したがって,本願発明に係る本件明細書の詳細な説明には,「消費資源要素と生産資源要素との間の製造関係を表すデジタル信号を入力すること」に関して,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その構\成が記載されているということはできないから,旧法36条3項に規定する要件を満たしていないとした審決の判断に誤りはないというべきである。」
◆H15.11. 5 東京高裁 平成14(行ケ)513 特許権 行政訴訟事件
2003.04. 9
明細書における実施可能要件が争われました。
無効審判では実施可能要件を満たしていると判断されましたが、裁判所は、”ドアの端面に露出する側板からボルトを出し入れしてドアロックを開閉するアクチュエータ”との構\成について,当業者がこれを容易に実施することができる程度に,その構成についての記載がないと判断しました。 当業者が実施できる程度について、裁判所は「本件考案は,上記のようなものである以上,単に,乙1文献及び乙2文献等から,ドア用電気錠において,ドアの内部に収容することができる往復の駆動力を発生するソ\レノイド,及び,ソレノイドの駆動力をボルトに伝達してボルトを出し入れする伝達機構\が周知であることを示すだけでは足りないのであり,これらのソレノイド及びソ\レノイドの駆動力をボルトに伝達してボルトを出し入れする伝達機構が,ドアの内部に収納することができる程度の数量の電池による小さな電力によって,ドア用電気錠のボルトの出し入れに必要な力を発揮することができるものである必要があり,かつ,このような小電力用のソ\レノイド及び伝達機構が,本件出願時において,当業者にとって,本件明細書の考案の詳細な説明に記載するまでもなく明らかな技術常識となっている事項であることが少なくとも必要なのである(このような場合でも,考案の詳細な説明に十\分な記載がなければ旧実用新案法5条4項に反するとの考え方もあり得る。この考え方は採用しないとしても,少なくとも,上記のような小電力用のソレノイドとその伝達機構\が本件出願時において当業者にとって技術常識となっているといえるものでなければ,本件明細書の考案の詳細な説明の記載は,同条項に反することが明らかである。)。」
◆H15. 4. 8 東京高裁 平成13(行ケ)332 実用新案権 行政訴訟事件
請求項1で用いた文言「所定の筬打ち角」および「筬打ち角」が、発明の詳細な説明で定義されているにもかかわらず、不明瞭とした審決が維持されました。
裁判所は、「特許発明の構成に欠くことができない事項を明確に記載することが容易にできるにもかかわらず,殊更に不明確あるいは不明りょうな用語を使用して特許請求の範囲を記載し,特許発明に欠くことができない構\成を不明確なものとするようなことが許されないのは,当然のことというべきである。」と判断しました。
問題となった請求項
「織機停止信号により,緯入れを阻止しながら制動停止した織機を再起動するに際し,筬が
所定の筬打ち角以上となるようなクランク角に織機を停止し,開口装置を主軸から切り離し,主軸の1回転相当だけ開口装置を逆転し,開口装置を主軸に連結することを特徴とする織機の再起動準備方法」というものです。
審決では以下のように表示するべきであったと述べ、裁判所の上記理由からすると、これを維持したこととなります。
「織機停止信号により,緯入れを阻止しながら制動停止した織機を再起動するに際し,筬が,
スレイ上に搭載するサブノズルまたはエアガイドが経糸開口から抜け出るときの筬打ち角以上となるようなクランク角に織機を停止し,開口装置を主軸から切り離し,主軸の1回転相当だけ開口装置を逆転し,開口装置を主軸に連結することを特徴とする織機の再起動準備方法。」
◆H15. 3.13 東京高裁 平成13(行ケ)346 特許権 行政訴訟事件
実施可能要件を満たしているか否かが争われました。無効審判では審判請求理由無しと判断されましたが、裁判所は「請求項1発明が特許されたのは,構\成要件Aが,従来の畳縫着機にない新規な構成であり,かつ,当業者が容易に想到することができないことによると解される。このように,構\成要件Aが請求項1発明の進歩性を基礎付ける本質的な構成である以上,本件明細書の発明の詳細な説明において,その実施を可能\とすべき記載がない限り,当業者が容易にこれを実施することは不可能なはずであり,逆に,このような記載がないにもかかわらず,当業者の技術常識を参酌することのみにより構\成要件Aの容易な実施が可能となるならば,請求項1発明の進歩性は否定されざるを得ないこととなる。」と、審決を取消しました。
◆H15. 3.10 東京高裁 平成13(行ケ)140 特許権 行政訴訟事件