2010.08. 3
平成21(行ケ)10304 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年07月28日 知的財産高等裁判所
実施可能要件(旧特36条4項)、サポート要件(旧36条6項1号)違反を理由に訂正を認めなかった審決が取り消されました。\n
上記(2)アの本件詳細説明の記載によれば,本件発明の課題は優れた光沢を出すことにあり,光沢を出すためには昇温結晶化温度が非常に重要とされる一方で,固有粘度は,容器の強度,形状,成形のしやすさの観点から設けられた条件であると認められる。そして,【表2】における実施例と比較例との比較においても,光沢の有無は検討されているが,容器の強度等については触れられていないのであって,固有粘度の差による影響は必ずしも明らかではない。そうすると,フェノールとテトラクロロエタンとの混合割合が50対50,60対40,75対25(3対1)のいずれであっても,固有粘度に最大で0.02程度の差しか生じないとすれば,そのような差が生じるからといって,直ちに当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が光沢を有する容器の製造を目的とする訂正前発明2を実施することができないとまではいえないというべきである。ところで,実施可能\要件に関しては,当業者が,発明の詳細な説明の記載から,成形時の熱履歴等の諸条件を考慮して,昇温結晶化温度128度以上,結晶化熱量20mJ/mg以上のシート層を含む本件発明を実施することが可能かどうかに関する議論は尽くされていないが,少なくとも,上記の点に関する審決の判断は誤りであり,取消事由4は理由がある。イなお,被告は,本件発明の発明特定事項である固有粘度0.55以上の数値に対して,比較例1では固有粘度0.54であって,0.01の差により発明の目的を達成できなくなるのであるから,0.02は大きな差であると主張する。しかし,上記アのとおり,実施例と比較例とは光沢の有無により比較されているのに対し,固有粘度は容器の強度等に関する数値であるから,固有粘度が0.54である比較例1で発明の目的を達成していないとしても,その原因が固有粘度にあるとは断定しがたく,被告の上記主張は採用することができない。
・・・上記(1)のとおり,実施例におけるシート層と外層シートとの厚さの割合は,シート層(中間層)が8μmであるのに対し,その両面に積層された外層シートは各1μmであって(【表1】の「層構\成」欄),外層シートの厚さはシート層の厚さに比べて薄い。したがって,実施例における固有粘度等の数値が多層シートについて測定されたとしても,これらの数値は,厚いシート層の影響を大きく受けるものと解される。(ウ) また,上記(1)のとおり,実施例においては,シート層の97(実施例1),86(同2),95(同3)重量パーセントがポリエチレンテレフタレート(「RE565」)により構成され,外層シートも100重量パーセントがポリエチレンテレフタレート(「RE565」)により構\成されていることから,シート層と外層シートとは,その材料の大部分が共通することになる。加えて,実施例では,シート層と外層シートとを一つの押出機でシート成形し,また,一つの成形機で成形している(段落【0022】)。このように,シート層と外層シートとで材料の大部分が共通し,かつ,同一の機械で成形等が行われていることからすると,シート押出の際の熱履歴や,成形加工時の加熱温度,延伸の程度,冷却条件等については,シート層も外層シートもほぼ同じになるものと解される。(エ) そうすると,実施例における固有粘度,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の各数値が多層シートについて測定されたものであっても,それらの数値は,シート層単独で測定された場合と近似した数値になる蓋然性が高いといえる。(オ) 以上のとおりであるから,実施例における固有粘度,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の各数値が多層シートについて測定されているからといって,訂正前発明2が本件詳細説明に記載されていないとまではいえず,この点に関する審決の判断には誤りがあり,取消事由5は理由がある。
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2010.07.28
平成21(行ケ)10244等 特許権 行政訴訟 平成22年07月20日 知的財産高等裁判所
記載不備について争われましたが、裁判所は無効理由無しとした審決を維持しました。この事件は進歩性違反で一旦無効審決がなされ、訂正によりこれを回避した案件です。
本件特許発明は,いずれも平成20年1月11日付け訂正審判請求が認められたことにより,ハッチや貫通孔といった構成が加えられ,それによって,進歩性が認められたものである。上記各構\成が加えられる前の本件特許発明は,原告が本訴で問題としている,流路の有効内径の数値限定部分等を発明の本質的事項の一部としていたといえるが,上記訂正により,同部分は,それによって進歩性が認められる事項ではなく,単に望ましい構成を開示しているにすぎないといえる。ウ以上を前提として,本件特許発明につき実施可能\要件違反の有無を検討するに,本件特許発明の目的の1つと解される「溶融金属を容器内から導出するために必要な圧力を小さくすること」を達成するためには,溶融金属の重量,流路の粘性抵抗等の条件を設定する必要があり,そのうち粘性抵抗については,溶融金属の性状,ライニングの性質,表面粗さ等のパラメータによって決定され,溶融金属の重量やそれによる影響は,金属の種類や流路の長さ,流速等のパラメータによって決定されるものである。そうすると,単に「溶融金属を導出するために必要な圧力を小さくする」との目的のみを達成するためであれば,流路の有効内径以外のパラメータも設定する必要があることは自明であり,その限りにおいて,原告の主張は誤りではない。しかしながら,「導出圧力の最小化」は,本件特許発明においては付随的な目的にすぎない。この点を措くとしても,被告が主張するように,公道を介して搬送する取鍋の内径は,取鍋を搬送するトラックの車幅との関係で,一定の限度内に収まらざるを得ないのであり,また,そのトラックの車幅も,公道の幅員等により,自ずから相当の限度内になるものということができる。この点につき,原告は,公道搬送可能\な取鍋の大きさは千差万別である旨主張するが,取鍋の標準的な大きさは一定の範囲で自ずから存在するものであり,逆に,単に「望ましい」事項を記載しているにすぎない部分においても,あらゆる大きさや種類のトラックに対して有効なすべてのパラメータを提供しなければならないとするのでは,特許権者や出願人に過大な要求をするものであって,相当ではない。また,作業に慣れた当業者(本件においては,溶融金属を取鍋等を用いて運搬する者)が出湯を行う場合であれば,その出湯時間や速度に,大きな差があるとは考えられない。そして,溶融アルミニウムを流路や配管を通じて排出する場合に粘性抵抗があること自体は,当業者にとって自明であり,望ましいとされる流路の有効内径が提供されれば,それを最大限に生かすべく,他の条件を設定するよう努めるのは当然であって,ここで必要とされる試行錯誤が過度なものであるとは認められない。また,導出圧力の最小化のみを目的とする場合の数値限定と,これが単に付随的な目的にすぎない場合の数値限定では,必然的に相違が生じ,後者の場合には,他の条件との兼ね合いにより,当該目的達成の程度が変化することは明らかである。
エ 以上からすれば,本件特許発明における,流路の有効内径に関する数値限定部分において,他のパラメータにつき記載がないことをもって,実施可能要件に違\n反するということはできず,原告の主張は理由がない。
(2) 明確性要件について
原告は,本件特許の明細書において,「溶融金属を導入する圧力を小さくする」との効果を達成する上で必要な条件がすべて記載されていないから,本件特許発明は不明確であると主張するが,前述の訂正によって「溶融金属を導入する圧力を小さくする」ことは,既に本件特許発明の主たる目的ではなくなっている上,特許請求の範囲や発明の詳細な説明に記載すべき事項については,特許出願人において適宜選択すべきものであって,本件特許発明についても,その効果が実際に存在するかどうかはともかくとして,特許請求の範囲に記載された流路の有効内径の記載自体は明確であって,他のパラメータの記載がないからといって直ちに,同発明が不明確になるとはいえない。・・・原告は,本件特許発明が,ストーク等の部品交換を行う必要のない容器を提供することを目的としながら(段落【0005】参照),他方で,配管474は「ストーク」に相当するものと解され(段落【0123】,図11参照),以上からすれば,特許を受けようとする発明が明確ではなく,特許法36条4項違反であると主張する。確かに,明細書の段落【0123】や図11において,「ストーク」に相当する配管474が記載されており,これは,段落【0005】の記載とは整合しないといえる。しかし,本件特許発明は,その特許請求の範囲の記載からすれば,いずれも流路を内在するものを指すことが一義的に明らかであって,流路を有さずストークにより溶湯を外部に供給するものは,本件特許発明の対象に含まれない。そもそも,特許出願人において,必ずしも,発明の詳細な説明に記載したものすべてにつき,特許として出願しなくてはならないものではない上,本件での特許請求の範囲の記載が,この点に関して明確であることからすれば,本件において,発明の詳細な説明の段落【0123】の記載や図11が存在することによって,実施可能要件に違反するとはいえず,原告の主張は理由がない。\n
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2010.05.11
平成21(行ケ)10170 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年05月10日 知的財産高等裁判所
実施可能要件(特36条4項)違反であるとした審決が維持されました。
そこで,これを本願についてみると,本願請求項の構成は,前記のとおり,「(A)・(B)・(C)の定める各検出方法いずれか又はこれらを組み合わせたことによるADP受容体P2T アンタゴニスト等を検出すACる工程」と「製造化工程」と含む「抗血小板用医薬組成物の製造方法」とするものである。上記構成は,概ね,原告が前記特許第3519078号(甲13)により取得した特許権請求項1〜4の記載に「製造化工程」を付加し「抗血小板用医薬組成物の製造方法」としたものである。そして,検出方法(A)・(B)・(C)については具体的な技術内容が特定されているものの,その余の「製造化工程」・「医薬組成物の製造方法」には具体的な技術内容の記載が見当たらない。一方,本願請求項1は,その記載内容からして,末尾にある「医薬組成物の製造方法」であるから,「製造方法」の観点か,又は「物」の観点,すなわち製造原料の観点や製造された医薬組成物の観点若しくはその組み合わせに発明的な特徴があるのが通例であるが,本願請求項1には上記発明的特徴を窺わせる記載が見当たらない。上記によれば,本願請求項1は旧36条6項2号にいう「特許を受けようとする発明が明確であること」(明確性要件)の要件を満たすか問題となる余地があるが,審決は本願につき旧36条4項の実施可能\要件についてのみ判断しているので,以下その当否に限って検討する。エ(ア) 本願請求項1(本願発明)の場合,「製造される物」は有効成分である化合物と製剤化に必要な汎用の成分とからなる「抗血小板用医薬組成物」であるから,当業者がかかる医薬組成物を製造するためには,明細書の記載から有効成分たる化合物が何であるかを理解・把握する必要があり,その際は,有効成分たる化合物を化学構造の観点から化合物自体として把握する必要があるというべきである。すなわち,本願発明の製造方法において製剤化工程を行うためには,その前提として,抗血小板用医薬組成物における有効成分となるものを化合物自体として特定して把握する必要があるというべきである。そうすると,審決が「当該製造方法において,製剤化工程を行うには,当該製剤化工程に先立って,当該(A)〜(C)のいずれか1つの検出方法,又は,それらの組み合わせによるスクリーニングでもって,公知のものに限ってみても,種々の化合物,ペプチド等の,広範かつ無数に近い試験化合物の中より,抗血小板剤として有用なものを化合物自体として特定して把握する必要がある。」(5頁30行〜6頁1行)としたことに誤りはない。(イ) そこで,かかる見地から本願発明をみるに,本願明細書(甲3)には,(A)〜(C)として特定される検出方法によって抗血小板医薬となり得る化合物たるADP受容体P2T アンタゴニストをスクリーニACングすることができること,すなわち抗血小板医薬の有効成分となる可能性のある化合物を選び出すことが可能\であること,抗血小板作用を示す物質として知られている化合物(具体的には2MeSAMP又はAR−C69931MX)が,(A)〜(C)として特定される検出方法によってアンタゴニスト活性を示すことが確認できたことが記載されている(段落【0012】)。また,抗血小板剤として公知のチクロピジンやクロピドグレルの体内での代謝物がADP受容体P2T を阻害するACことで効果をもたらしていると考えられていることなどが紹介され,血小板のADP受容体P2T に対する拮抗薬は,抗血小板剤となる期待ACのあることが記載されている(段落【0007】,【0008】)。そして,実施例では,上記2つの化合物(2MeSAMP,AR−C69931MX)についての検出実験が行なわれている(段落【0114】〜【0121】)。しかし,上記2つの化合物は抗血小板作用を示すことが知られていたものであるからADP受容体P2T のアンタゴニストである蓋然性ACが高く,これらがアンタゴニスト活性を示すことが確認されたという結果は,単に(A)〜(C)として特定される検出方法が有効な検出方法であることの証左になるにすぎない。しかも,実施例は単に上記2つの化合物からADP受容体P2T アンタゴニスト活性が検出されたことACを示すのみで,検出される化合物が共通して持つ化学構造や物性など「物」の観点からの説明はなく,このような実施例の記載から他にいかなる化合物が検出されるか当業者が理解することはできない。すなわち,この2つの化合物以外にどのような化学構\造や物性の化合物が(A)〜(C)として特定される検出方法によって有効成分として検出されるか,当業者は理解することができない。そして,本願明細書(甲3)には,何ら新規な化合物からなるリガンド,アンタゴニスト,アゴニストを発見したことは記載されておらず,したがって,新規な医薬組成物を製造することも記載されていない。以上のとおり,本願明細書(甲3)は,実施例で検出が行われた個別の2つの物質に関してADP受容体P2TACアンタゴニスト活性が確認された旨の記載があるに止まるものであり,どのような化学構造や物性の化合物が有効成分となるかについての具体的な記載はない。したがって,当業者は,本願明細書の記載からある化学構\造の化合物を含む組成物が本願発明に該当するかどうかを認識・判断することはできない。そして,本願発明の特許請求の範囲全体を実施するためには,特定されていない無数の化合物を無作為に製造し,特許請求の範囲に記載された検出方法を適用して試験化合物からADP受容体P2TACリガンド,アンタゴニスト又はアゴニストが検出されるかどうかを確かめ,ADP受容体P2T アンタゴニスAC トたる化合物を見つけ出さなければならないが,このことは当業者に過度の試行錯誤を強いるものというべきである。すなわち,本願明細書の記載からは,スクリーニング工程を経てアンタゴニストとなる化合物が発見された場合に限り,その化合物を用いた抗血小板用医薬組成物を認識できるということが示唆されているのみであり,このことは特定の医薬組成物を認識しうることの単なる期待を示しているにすぎないのであるから,アンタゴニストとなる化合物を発見し,その化合物を用いた抗血小板用医薬組成物を認識するまでにはなお当業者に過度の負担を強いるものである。(ウ) これに対し,原告は,本願優先日(平成12年11月1日又は平成13年1月11日)時点での技術水準を正確に認識し,本願明細書の発明の詳細な説明の記載からHORK3タンパク質が有する特徴的な結合特性を正確に把握すれば,HORK3タンパク質をGPCRとして用いる本願発明において「特定の医薬組成物を認識しうること」には極めて高い蓋然性が認められるから,当業者はHORK3タンパク質をGPCRとして用いる本願発明方法によって「特定の医薬組成物を認識しうること」が極めて高い蓋然性を有することは自明であると主張する。しかし,前記のとおり,本願発明の場合,「製造する物」は有効成分である化合物と製剤化に必要な汎用の成分とからなる抗血小板用医薬組成物であるから,当業者は明細書の記載自体から抗血小板用医薬組成物における有効成分となるものを化合物自体として特定して把握することができること,いいかえれば,明細書の記載自体からある化学構造の化合物を含む組成物が本願発明に該当するかどうかを認識・判断することができなければならないというべきである。そうすると,当業者がスクリーニング工程を含む検出過程を経なければ有効成分となる化合物を把握することができないという点において,候補化合物の多寡,スクリーニング対象となる化合物群ないしライブラリーの入手のしやすさ,検出に要する時間の長短,スクリーニング操作が簡便であるかなどにかかわらず,本願明細書の発明の詳細な説明は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十\分に記載されているとはいえない,即ち本願における発明の詳細な説明は実施可能要件(旧36条4項)を充足していないと認めるのが相当である。\n
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2010.03.31
平成21(行ケ)10158 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年03月30日 知的財産高等裁判所
明確性違反および実施可能性違反とした審決が維持されました。
当裁判所は,本願明細書の発明の詳細な説明には,請求項1,11に係る発明の「補助エステル」の特定に関し,当業者が,同発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載はないので,本件審決には,少なくとも,原告の主張に係る取消事由2及び5の違法はないと判断する。その理由は,以下のとおりである。・・・本願明細書には,本願発明による課題解決をするに当たり,当業者において,本願発明で規定したLogP値の範囲内の化合物群の中から,どのような補助エステルを選定すべきかについて,明確かつ十\分な記載がされていないと解される。その理由は,以下のとおりである。すなわち,エステル化合物については,原告が書証として提出する皮膚外用剤に関する文献について見ただけでも,例えば,甲4の10には,パラヒドロキシ安息香酸エステル類の例が挙げられ,アルコール残基の炭素数1ないし12のエステルとしてメチルパラベン等12種類のエステル化合物が示され,甲4の8には,皮膚軟化剤(25頁,26頁),浸透向上剤(26頁〜29頁),乳化剤(30頁〜34頁),他の化粧品用添加剤(43頁,44頁)として,多種のエステル化合物が示されているように,多種多様なものを含む。なお,本願発明の「補助エステル」について,親油性に関してLogP値がニコチン酸アルキルエステルのLogP値より小さく,その差がLogP値において0.5ないし1.5との条件を充足するエステルとの限定がされている。しかし,本願明細書の【0026】【表1】記載の,微量栄養素としてのニコチン酸アルキルエステルだけでも,LogP値1.0の幅の中に複数の炭素原子数のニコチン酸アルキルエステルが含まれることから明らかなように,本願明細書の補助エステルに関するLogP値(0.5〜1.5)を満たすエステル化合物は,膨大な種類のものを含む。ところで,発明の詳細な説明の【0020】では,「栄養素をヒトに送達する」という解決課題を達成するためには,補助エステルは,i)プロ栄養素の角質層からのフラックス(透過性)が類似するという性質と,ii)生物変換に関してプロ栄養素と効果的に競合するという性質の両者が必要であると記載されている。このうち,ii)の生物変換に関して微量栄養素(プロ栄養素)と効果的に競合するという性質は,請求項1,11で規定されたLogP値の範囲の補助エステルのすべてが当然に備えているものではなく,当業者が,試行錯誤を繰り返して,生物変換に関して微量栄養素と効果的に競合する補助エステルを選別しない限り,本願発明の目的を達成することができず,本願明細書には,その選別を容易にするための記載はない。この点について,原告は,補助エステルが,LogP値の範囲内であれば,すべて,前記ii)の性質を有するように主張するが,同主張は根拠を欠くものであって,採用できない。・・・・以上のとおり,本願発明1,2を実施しようとする当業者は,本願発明のLogP値を満たし,かつ生物変換に関して微量栄養素(プロ栄養素)と効果的に競合する補助エステルを選択するためには,過度の試行錯誤を要することになる。本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。\n
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2010.03.29
平成21(行ケ)10281 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年03月24日 知的財産高等裁判所
実施可能要件違反、明確性違反を理由として無効とした審決が取り消されました。
ところで被告は,本件発明1・2に関する特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない旨主張するが,特許法36条6項2号にいう「特許を受けようとする発明が明確であること」とは,特許請求の範囲における構成の記載からその構\成を一義的に知ることができれば特定の問題としては必要にして十分であると解すべきところ,上記イで認められる技術常識及び上記アの記載に照らせば,本件発明1・2における,フェライト中に体積率で3%以上20%以下のマルテンサイトおよび残留オーステナイトが混在するとの点は,加工性を担うフェライト中におけるマルテンサイトおよびマルテンサイト化せずオーステナイトのまま残った残留オーステナイトの体積率を規定したものであり,強度を担うマルテンサイトと,加工時の変形性及びマルテンサイト化した後の強度を担う残留オーステナイトについて,それらの技術的意義は明確であるから,本件発明1・2の特許請求の範囲の記載において,特許法36条6項2号にいう明確性要件違反はないというべきである。エ この点審決は,「訂正明細書には,金属組織としてフェライトに注目し,これが存在することの技術的意義が,高強度とプレス加工性の良いことの両立にあるとは,記載されていない。…」(17頁4行〜6行)とし,「してみると,訂正明細書には,高強度とプレス加工性の良いことの両立という技術的意義は,本来的に,マルテンサイト及び残留オーステナイトを体積率で3〜20%含む金属組織としたことによるものとして記載していると認められる。」(17頁16行〜19行)とした上で,「してみると,高強度とプレス加工性の良いことの両立という技術的意義は,本来的に,マルテンサイト及び残留オーステナイトを3〜20%含む金属組織としたことによるものであるとの技術的内容を認めることはできず,結局のところ,訂正明細書の記載からは,金属組織として,フェライト中に『体積率で3%以上20%以下のマルテンサイトおよび残留オーステナイトが混在する』としたことの技術的意義を見出すことができない。」(18頁23行〜28行)として,本件発明1・2は不明確であると判断した。しかし,上記ア(イ)で摘記したとおり,訂正明細書(甲41の2)には,「鋼帯は焼鈍後,引き続きめっき浴へ浸漬する過程で冷却されるが,この場合の冷却速度は…650℃までを平均0.5〜10℃/秒とするのは加工性を改善するためにフェライトの体積率を増す…」(段落【0023】),「本発明では…むしろフェライトが緩慢に成長することにより,鋼板の引張強さを安定させている。…」(段落【0027】)等の記載があり,フェライトが鋼板の加工性に寄与している旨が示されていることになる。以上の検討によれば,審決の本件発明1・2の明確性要件に関する判断は誤りというべきである。
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2010.03.11
平成20(行ケ)10235 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月14日 知的財産高等裁判所
36条違反により無効であるとした審決が取り消されました。リパーゼ最高裁判決にも触れています。
以上のとおり,当業者であれば,本件訂正明細書の記載から,本件発明に係る共沸混合物様組成物の全範囲が空調用又はヒートポンプ用の冷媒として使用できることが理解可能であって,実施例4として記載されていた具体例が本件訂正によって本件発明の対象外となってもなお,本件発明が実施可能\要件に欠けることはないというべきである。(5) 審決は,実施例4の記載からは,訂正後の請求項1に記載された共沸混合物様組成物について,すべての範囲に渡ってCOP 等の性能が同等又は優れているとはいえず,また他に具体的な性能\評価の記載もないから,本件訂正明細書には,本件発明について当業者が実施することができる程度に発明の目的,構成及び効果が発明の詳細な説明中に記載されているとすることはできないとしている。しかし,本件発明は,前記(1) ウ記載のとおり,その組成範囲が限定された組成物であって,本件訂正明細書において,同組成物が共沸混合物様に挙動し,かつ,同組成物が空調用又はヒートポンプ用の冷媒として使用可能であることが開示されている。本件発明は,共沸混合物様に挙動する組成物の組成範囲を開示した点において既に新規性があるものであって,「すべての範囲に渡ってCOP 等の性能が同等又は優れている」ことの開示が必要であるとまではいえない。(6) 被告は,本件訂正明細書には,本件発明の具体的な性能評価(温度勾配が0.3°C未満であること,難燃性を有すること,空調用又はヒートポンプ用に適した熱力学的性能\を有すること)は記載されていない旨主張する。しかし,そもそも,温度勾配については,本件発明を特定するために必要な記載事項とはいえない。・・・・・・被告は,最高裁平成3年3月8日判決(いわゆるリパーゼ事件判決)を引用して,請求項1の後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧」について,それが誤記であるとしても,それは同判決が判示するような「一見して誤記であることが明らかな場合」には当たらないと主張し,また,誤記ではないとしても,「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない」場合にも当たらないと主張するので,念のために,所論の判例との関係につき付言することとする。上記判示のとおり,本件発明の請求項1の文言は,前段では,組成物の物質の名称が特定の数値(重量パーセント)とともに記載され,後段では,特定の温度における特定の数値の蒸気圧が記載されており,それぞれの用語自体としては疑義を生じる余地のない明瞭なものであるが,組成物の発明であるから,構成としては前段の記載で必要かつ十\分であるのに,後者は,さらにこれを限定しているようにも見えるものの,真実,要件ないし権利の範囲として更に付された限定であるとすれば,その帰結するところ,権利範囲が極めて限定され,特許として有用性がほとんどない組成物となり,極限的な,いわば点でしか成立しない構成の発明であるという不可思議な理解に,当業者であれば容易に想到することが必定である。そうすると,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,前段と後段との関係,特に後段の意味内容を理解するために,明細書の関係部分の記載を直ちに参照しようとするはずである。そうであってみれば,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧を有する」の記載に接し,その技術的な意義を一義的に明確に理解することができないため,明細書の記載を参照する必要に迫られ,これを参照した結果,その意味内容を上記判示のように理解するに至るものということができる。したがって,本件発明の請求項1の解釈に当たって明細書の記載を参照することは許され,上記の判断には,所論のような,判例の趣旨に反するところはなく,被告のこの点に関する主張は採用することができない。
(3) 以上のとおり,本件発明における請求項1の「32°Fにて約119.0 psiaの蒸気圧を有する」との記載(後段記載)は,「真の共沸混合物が有する蒸気圧」を記載したにとどまり,本件発明の対象はあくまで「約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタン」との組成範囲の記載(前段記載)によって定まると解釈すべきことになるから,本件発明の前段記載と後段記載は実質的に矛盾しないことになり,本件特許には,審決が説示したような実施可能要件違反はない。\n
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2010.01.29
平成21(行ケ)10033 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月28日 知的財産高等裁判所
サポート要件違反とした審決が取り消されました。
当裁判所は,審決が,法36条6項1号所定の「特許請求の範囲の記載は,・・・特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」との要件を満たすためには,医薬の用途発明では「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をする」ことが必要であると同項を解釈し,本願の特許請求の範囲は,同項1号の要件を満たさないとした点には,誤りがあると判断する。その理由は,以下のとおりである。・・・「特許請求の範囲の記載」が法36条6項1号に適合するか否か,すなわち「特許請求の範囲の記載」が「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」か否かを判断するに当たっては,その前提として「発明の詳細な説明」がどのような技術的事項を開示しているかを把握することが必要となる。そして,法36条6項1号の規定は,「特許請求の範囲」の記載に関してその要件を定めた規定であること,及び,発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除するために設けられた規定であることに照らすならば,同号の要件の適合性を判断する前提としての「発明の詳細な説明」の開示内容の理解の在り方は,上記の点を判断するのに必要かつ合理的な方法によるべきである。他方,「発明の詳細な説明」の記載に関しては,法36条4項1号が,独立して「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の・・・技術上の意義を理解するために必要な事項」及び「(発明の)実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載した」との要件を定めているので,同項所定の要件への適合性を欠く場合は,そのこと自体で,その出願は拒絶理由を有し,又は,独立の無効理由(特許法123条1項4号)となる筋合いである。そうであるところ,法36条6項1号の規定の解釈に当たり,「発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除する」という同号の趣旨から離れて,法36条4項1号の要件適合性を判断するのと全く同様の手法によって解釈,判断することは,同一事項を二重に判断することになりかねない。仮に,発明の詳細な説明の記載が法36条4項1号所定の要件を欠く場合に,常に同条6項1号の要件を欠くという関係に立つような解釈を許容するとしたならば,同条4項1号の規定を,同条6項1号のほかに別個独立の特許要件として設けた存在意義が失われることになる。したがって,法36条6項1号の規定の解釈に当たっては,特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明の記載の範囲と対比して,前者の範囲が後者の範囲を超えているか否かを必要かつ合目的的な解釈手法によって判断すれば足り,例えば,特許請求の範囲が特異な形式で記載されているため,法36条6項1号の判断の前提として,「発明の詳細な説明」を上記のような手法により解釈しない限り,特許制度の趣旨に著しく反するなど特段の事情のある場合はさておき,そのような事情がない限りは,同条4項1号の要件適合性を判断するのと全く同様の手法によって解釈,判断することは許されないというべきである。・・・・審決は,その理由中において,「医薬についての用途発明においては,一般に,有効成分の物質名,化学構\造だけからその有用性を予測することは困難であり,発明の詳細な説明に有効量,投与方法,製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても,それだけでは当業者が当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから,特許を受けようとする発明が,発明の詳細な説明に記載したものであるというためには,発明の詳細な説明において,薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることにより,その用途の有用性が裏付けられている必要があ(る)」(審決書2頁22行〜29行)と述べている。同部分は,法36条4項1号の要件充足性を判断する前提との関係では,同号の趣旨に照らし,妥当する場合があることは否定できない。すなわち,法36条4項1号は,特許を受けることによって独占権を得るためには,第三者に対し,発明が解決しようとする課題,解決手段,その他の発明の技術上の意義を理解するために必要な情報を開示し,発明を実施するための明確でかつ十\分な情報を提供することが必要であるとの観点から,これに必要と認められる事項を「発明の詳細な説明」に記載すべき旨を課した規定である。そして,一般に,医薬品の用途発明が認められる我が国の特許法の下においては,「発明の詳細な説明」の記載に,用途の有用性を客観的に検証する過程が明らかにされることが,多くの場合に妥当すると解すべきであって,検証過程を明らかにするためには,医薬品と用途との関連性を示したデータによることが,最も有効,適切かつ合理的な方法であるといえるから,そのようなデータが記載されていないときには,その発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとされる場合は多いといえるであろう。しかし,審決が,法36条6項1号の要件充足性との関係で,「発明の詳細な説明において,薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることにより,その用途の有用性が裏付けられている必要があ(る)」と述べている部分は,特段の事情のない限り,薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることが,必要不可欠な条件(要件)ということはできない。法36条6項1号は,前記のとおり,「特許請求の範囲」と「発明の詳細な説明」とを対比して,「特許請求の範囲」の記載が「発明の詳細な説明」に記載された技術的事項の範囲を超えるような広範な範囲にまで独占権を付与することを防止する趣旨で設けられた規定である。そうすると,「発明の詳細な説明」の記載内容に関する解釈の手法は,同規定の趣旨に照らして,「特許請求の範囲」が「発明の詳細な説明」に記載された技術的事項の範囲のものであるか否かを判断するのに,必要かつ合目的的な解釈手法によるべきであって,特段の事情のない限りは,「発明の詳細な説明」において実施例等で記載・開示された技術的事項を形式的に理解することで足りるというべきである。したがって,審決が,発明の詳細な説明に「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることにより,その用途の有用性が裏付けられている」ように記載されていない限り,特許請求の範囲の記載は,法36条6項1号に規定する要件を満たさないとした部分は,常に妥当するものではなく,そのことのみを理由として,法36条6項1号に反するとした判断は,特段の事情があればさておき,このような特段の事情がない限りは,理由不備があるというべきである。イ そして,審決は,理由中において,発明の詳細な説明の具体的な記載の検討をし,「本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明の医薬としての有用性を裏付ける薬理データも薬理データと同視すべき程度の記載もなされていない。」として,本願は,法36条6項1号所定の要件を満たさないと結論付けた。しかし,審決は,発明の詳細な説明の記載によって理解される技術的事項の範囲を,特許請求の範囲との対比において,検討したのではなく,「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載」があるか否かのみを検討して,そのような記載がないことを理由として,法36条6項1号の要件充足性がないとしたものであって,本願の特許請求の範囲の記載が,どのような理由により,発明の詳細な説明で記載された技術的事項の範囲を超えているかの具体的な検討をすることなく,同条6項1号所定の要件を満たさないとした点において,理由不備の違法があるというべきである。また,本件においては,「特許請求の範囲」が特異な形式で記載され,法36条6項1号の要件を充足しないと解さない限り,産業の発展を阻害するおそれが生じるなど特段の事情は存在しない。ウ 被告は,知財高裁大合議部判決が,特性値を表\す複数の技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を含む発明に係る「特許請求の範囲の記載」に関して,平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項1号(現行法36条6項1号)の規定に適合しないとした判決の理由を,医薬用途発明に適用するならば,発明の詳細な説明に「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載」をすることが,法36条6項1号の適合性を充足するための要件になると主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり,採用できない。すなわち,知財高裁大合議部判決は,前記のとおり,特性値を表す複数の技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を含む発明に係る「特許請求の範囲の記載」が,平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項1号所定(現行法36条6項1号)の要件に適合するか否かについて,同争点に対して判示した事案である。同判決は,判決理由中の第6の1(4)において,「発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比」との項目を設けて,「発明の詳細な説明の記載」で示された実施例と比較例とを検討した上で,「当該数式が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載しているとはいえ」ないと判示し,さらに,同判決理由中の第6の1(5)において,「特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに,・・・その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し,明細書のサポート要件に適合させることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されない」と判示した。以上のとおり,知財高裁大合議部判決の判示は,i)「特許請求の範囲」が,複数のパラメータで特定された記載であり,その解釈が争点となっていること,ii)「特許請求の範囲」の記載が「発明の詳細な説明」の記載による開示内容と対比し,「発明の詳細な説明」に記載,開示された技術内容を超えているかどうかが争点とされた事案においてされたものである。これに対し,本件は,i)「特許請求の範囲」が特異な形式で記載されたがために,その技術的範囲についての解釈に疑義があると審決において判断された事案ではなく,また,ii)「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載とを対比して,前者の範囲が後者の範囲を超えていると審決において判断された事案でもない。知財高裁大合議部判決と本件とは,上記各点において,その前提を異にする。したがって,被告が,知財高裁大合議部判決の判示内容を医薬用途発明に適用すれば,発明の詳細な説明に「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載」をすることが,法36条6項1号の適合性を充足するための要件になると主張する点は,本件において,同様に適用されるための前提を欠く。したがって,知財高裁大合議部判決の判示を論拠として,医薬品の用途発明である本件について,発明の詳細の記載に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がないから,法36条6項1号の要件を満たさないとすべきであるとの被告の主張は,採用の限りでない。エ 以上検討したとおり,審決は,法36条6項1号の要件を満たすためには,常に「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がないこと」が必要であるとの前提に立って,本願では,「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がないこと」のみを理由に,同条6項1号の要件を充足しないとしたものであって,審決の判断には,理由不備の違法がある。(2) 以上のとおり,審決の判断には,法36条6項1号についての誤った前提に基づいて,その要件を満たさないとした点において理由不備の違法がある。のみならず,具体的な事案に照らしても,以下のとおり,法36条6項1号に適合しないとした審決の判断には誤りがある。
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2010.01.22
平成21(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月20日 知的財産高等裁判所
審決は、補正が新規事項、サポート要件違反、進歩性なしとしました。これに対して裁判所は、いずれも否定して上記審決を取り消しました。
以上によると,当初明細書に記載される抗酸化作用を有する組成物は,単なる焼酎蒸留廃液からなる抗酸化物質と比べて,優れたヒドロキシラジカル消去活性を有するものであること,同組成物は,それ故,老化や動脈硬化等の種々の生活習慣病の予防に極めて良好であることが記載されているものであって,そうすると,本件補正による新請求項1に係る組成物が,補正事項(b)「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」ものであって,また,同(c)「ヒドロキシラジカル消去剤」との用途に用い得るものであることは,当初明細書に記載された事項の範囲内のものというべきである。エもっとも,被告は,当初明細書には,「ヒドロキシラジカル消去剤」との文言は存在せず,単に「抗酸化剤」又は「抗酸化作用」と「活性酸素によって誘発される生活習慣病」との関係に係る従来技術が示されたものにすぎないから,当初明細書の記載では,本願補正発明に係る「組成物」からなる「ヒドロキシラジカル消去剤」について実体的に記載されたものではないと主張する。しかしながら,上記イのとおり,当初明細書の【0040】には,ヒドロキシラジカル消去活性を有する抗酸化作用を有する組成物及びこれが活性酸素によって誘発される種々の生活習慣病の予防に有効であることが記載されているのであって,被告の主張は採用することができない。また,被告は,当初明細書の記載においては,本願補正発明に係る「組成物」の「活性酸素によって誘発される生活習慣病」に対する有効性についても全く確認されておらず,有効性が不明であるとして,新請求項1には新規事項の追加があると主張するが,これは,記載不備や進歩性の判断における発明の効果の問題であって,新規事項の追加の有無の問題ではないから,被告の主張は採用し得ない。オしたがって,新請求項1に係る本件補正について,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということができないとした本件審決の判断は誤りである。\n・・・,特許請求の範囲が,特許法36条6項1号に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。・・・オ 以上によると,上記ウのとおり,当業者が,ヒドロキシラジカル消去活性の大小や本願発明の抗酸化作用を有する組成物が強力なヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有して種々の生活習慣病の予防に好適であること等を記載する本願明細書に接し,上記エの公知の知見をも加味すると,本件補正発明の組成物が,活性酸素によって誘発される生活習慣病の予\防に対して効果を有することを認識することができるものであって,本件補正発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,その記載によって,生活習慣病などの疾患に対して有効である抗酸化物質を提供しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。カ この点に関し,本件審決は,本願明細書の発明の詳細な説明には,(活性酸素によって誘発される)生活習慣病(の予防)に対する効果の有無及び当該効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係(例えば,どの程度の抗酸化作用を有していれば,生活習慣病(の予\防)に対する効果を有するとするのかなど)に係る記載又はそれらを示唆する記載はないと説示する。しかしながら,本願明細書には,本件補正発明の組成物が活性酸素によって誘発される生活習慣病の予防に対して効果を有することを当業者が認識することができる記載があることは上記のとおりであり,また,新請求項1には,どの程度の抗酸化作用を有していれば生活習慣病(の予\防)に対する効果を有するかなどの生活習慣病の予防に対する効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係についてまで記載されておらず,このような対応関係について発明の詳細な説明中に記載されている必要があると解されるものでもない。\n
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2010.01.15
平成20(行ケ)10235 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月14日 知的財産高等裁判所
実施可能要件違反ありとした審決が取り消されました。
本件発明は,「約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり,32°Fにて約119.0psia の蒸気圧を有する,空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物。」と特定されており,「空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物」が「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧を有する」ことが明確に特定されているため,これが訂正前の請求項1の発明と全く同一内容の発明であるということはできず,訂正に伴う相応の変更があったものといわざるを得ない。しかしながら,本件発明は,訂正前と同様,共沸混合物様組成物に関するものであって,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の技術的意義についても,訂正前と実質的な変更はないものというべきであるが,本件訂正による特許請求の範囲の減縮は,発明の用途を限定するとともに,ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンからなる組成物の組成範囲を減縮することを目的としてされているものの,後段記載の部分がそのまま維持されたこともあって,前段記載と後段記載の矛盾関係が発生したものといえる。そうであれば,本件訂正後の本件発明は,発明の用途や組成範囲が限定された点を除けば,本件訂正前の発明と基本的に同一であるが,本件訂正明細書の発明の詳細な説明を参照しつつ,上記のような矛盾が生じないように解釈すべきであるから,「空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての組成物であり,約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタンからなり,32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧を有する共沸混合物のような組成物」(ここで「共沸混合物のような組成物」とは「共沸混合物のように挙動する組成物」であるという意義)であると解するのが相当である。すなわち,本件発明の後段における蒸気圧の記載は,「真の共沸混合物」が有する属性を記載したものにすぎないと解すべきであって,本件訂正明細書の発明の詳細な説明を参照した当業者であれば,本件発明が上記認定どおりの組成物であると理解することができるものと認められる。そして,前記アで検討したとおり,本件訂正明細書には,本件発明の特徴について記載されており,当業者がこれらの記載を見れば,本件発明が「空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての組成物であって,約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり,『32°Fにて約119.0 psia という真の共沸混合物の蒸気圧を有する,共沸混合物』のように挙動する組成物」であるものと理解し,その旨実施することができるものと認められる。したがって,本件発明の前段記載と後段記載とは実質的に矛盾するものではなく,両者が矛盾するものであると解釈し,これを根拠に本件発明につき実施可能要件違反があるとした審決の認定判断には誤りがある。・・・エ 被告は,最高裁平成3年3月8日判決(いわゆるリパーゼ事件判決)を引用して,請求項1の後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧」について,それが誤記であるとしても,それは同判決が判示するような「一見して誤記であることが明らかな場合」には当たらないと主張し,また,誤記ではないとしても,「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない」場合にも当たらないと主張するので,念のために,所論の判例との関係につき付言することとする。上記判示のとおり,本件発明の請求項1の文言は,前段では,組成物の物質の名称が特定の数値(重量パーセント)とともに記載され,後段では,特定の温度における特定の数値の蒸気圧が記載されており,それぞれの用語自体としては疑義を生じる余地のない明瞭なものであるが,組成物の発明であるから,構成としては前段の記載で必要かつ十\分であるのに,後者は,さらにこれを限定しているようにも見えるものの,真実,要件ないし権利の範囲として更に付された限定であるとすれば,その帰結するところ,権利範囲が極めて限定され,特許として有用性がほとんどない組成物となり,極限的な,いわば点でしか成立しない構成の発明であるという不可思議な理解に,当業者であれば容易に想到することが必定である。そうすると,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,前段と後段との関係,特に後段の意味内容を理解するために,明細書の関係部分の記載を直ちに参照しようとするはずである。そうであってみれば,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧を有する」の記載に接し,その技術的な意義を一義的に明確に理解することができないため,明細書の記載を参照する必要に迫られ,これを参照した結果,その意味内容を上記判示のように理解するに至るものということができる。したがって,本件発明の請求項1の解釈に当たって明細書の記載を参照することは許され,上記の判断には,所論のような,判例の趣旨に反するところはなく,被告のこの点に関する主張は採用することができない。(3) 以上のとおり,本件発明における請求項1の「32°Fにて約119.0 psiaの蒸気圧を有する」との記載(後段記載)は,「真の共沸混合物が有する蒸気圧」を記載したにとどまり,本件発明の対象はあくまで「約35.7〜約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3〜約50.0重量%のジフルオロメタン」との組成範囲の記載(前段記載)によって定まると解釈すべきことになるから,本件発明の前段記載と後段記載は実質的に矛盾しないことになり,本件特許には,審決が説示したような実施可能要件違反はない。\n
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