知財みちしるべロゴマーク
知財みちしるべトップページへ

更新メール
購読申し込み
購読中止

知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

実施可能要件

平成25(行ケ)10061 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年11月12日 知的財産高等裁判所

 切り餅事件とは別の特許です。こちらは無効理由無しとした審決が維持されました。
 相対的に強度が低い部分(切り込みが存在する部分)は,一定程度の圧力がかかると,変形して伸びやすいともいえる。切餅の内部空間の圧力は,切り込みが存在する部分に限らず,全方向,例えば上下方向にもかかるから,切り込みが存在する部分が変形して伸びることにより,切り込みの上側が下側に対して持ち上がることになる。その持ち上がりにより,最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態(上下の焼板状部が平行に近い対称な状態で持ち上がる場合もあるが,非平行な片持ち状態に持ち上がる場合も多い。)に自動的に膨化変形する。このような膨化変形によれば,切餅の内部空間の体積は大きくなり,その分だけ圧力が高くなるのを抑えられること,また,それにより,膨化による噴出力(噴出圧)が大きくなるのも抑えられることは明らかであるから,上記のように膨化変形することでも,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを一定程度抑制できることは,当業者にとって明らかといえる。 ウ 以上によれば,本件発明における「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制する」について,以下のとおり認めることができる。側周表面に所定の切り込みを設けた切餅をオーブントースターで焼くと,切餅の内部が軟化するとともに,切餅の内部に含まれる水分が蒸発して水蒸気となる等により,切餅の内部空間の圧力が高くなり,膨化するが,その圧力によって切り込みが存在する部分が変形して伸びることにより,切り込みの上側が下側に対して持ち上がる。その持ち上がりにより,最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い。以下同じ。)に自動的に膨化変形する。切餅の側周表\面に所定の切り込みを設けたことにより,膨化による噴出力(噴出圧)を小さくすることができるため,上記切り込みを設けない場合と比べて,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを抑制できるが,上記のように膨化変形することでも,膨化による噴出力(噴出圧)が大きくなるのを抑えられるため,上記切り込みを設けない場合と比べて,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを一定程度抑制できる。

◆判決本文

◆関連事件です。平成25(行ケ)10062

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> 明確性
 >> サポート要件
 >> 実施可能要件

▲ go to TOP

平成24(行ケ)10178 審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成25年07月23日 知的財産高等裁判所

 36条違反(実施可能要件)とした審決が維持されました。\n
 そこで,本願明細書の発明の詳細な説明がかかる要件を満たすかにつき検討するに,まず,本願発明の優先日当時の技術常識は上記3のとおりである。しかるに,本願発明におけるサファイア基板の上部表面は,「光を散乱または回折するための突出部及び/または陥凹部が含まれるように」「粗面にされ,突出部及び/または陥凹部はLEDによって生じる光の前記第1の層における波長より大きいか,あるいは,その程度の大きさ」というものであるところ,本願明細書に記載の上記突出部又は陥凹部の形成方法(【0018】〜【0020】),及び公知の可視光線に相当する電磁波の波長(下界が360〜400nm,上界が760〜830nm)に照らすと,本願発明におけるサファイア基板の上部表\面は,突出部又は陥凹部が不規則に存在し,かつ,研磨により表面粗さが1nm程度の極めて平滑な状態にされたサファイア基板に比して極めて高い表\面粗さを有することになる。そうすると,半導体の技術分野における上記の技術常識に照らせば,本願発明におけるサファイア基板の上部表面にエピタキシャル成長により半導体材料の第1の層を堆積しようとしても,サファイア基板の不規則な凹凸を結晶核生成の元とした島状結晶の形成や不規則な凹凸の斜面による異種結晶粒の生成が著しく増大するために,半導体材料の結晶を一定の方位関係をもって成長(エピタキシャル成長)させることは技術常識からは困難と理解される。しかるに,上記2に認定のとおり,本願発明の発明の詳細な説明には,実質的には,『サファイア基板の上部表\面上に陥凹部又は突出部を被うように半導体材料の層をエピタキシャル成長させる。』との記載があるだけであり,半導体材料の層をエピタキシャル成長させる際の手順及び条件を示した具体的な説明が記載されていない。したがって,本願発明の優先日当時の技術常識に照らして,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から本願発明を実施し(本願発明のLEDの生産),本願発明にいう「改善されたLED」を得ることは,当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ない。以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明は実施可能要件を満たさないというべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> 実施可能要件

▲ go to TOP

平成24(行ケ)10365 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年06月06日 知的財産高等裁判所

 実施可能性違反およびサポート要件違反を主張しましたが、無効理由無しと判断した審決が維持されました。
 なお,仮に原告の主張の趣旨が,本件各具体例の個々の構成について本件明細書の発明の詳細な説明に記載がないことのみを問題とするのではなく,請求項2及び3の記載が本件各具体例の構\成を全て備えた特定の発明を含むものであることを前提として,発明の詳細な説明には当該発明の記載がない上,本件具体例6の構成(「完全には溶着されていないものの部分的に又は工程進行的に溶着されつつある状態」で切除するもの(「溶着ヘッドが素線を台座とで挟んで密着した位置にあるときに,溶着機による溶着部分の中心部を台座の下側から切除するもの」))を有する当該発明においては本件各発明の課題を解決することができないことを理由に,本件各発明はサポート要件に違反する旨を主張するものであるとしても,以下に述べるとおり,原告の主張は理由がない。\n・・・・
ところで,本件明細書の上記各段落が示す実施例は,回転ブラシに回転軸を挿入するためのブラシ単体の孔を形成するために,溶着機6による溶着の動作が終了した後に,ノズル4の先端に形成した切除手段7が下動し,台座に固定された開かれた素線群1の溶着部の中心部分を台座の上側から切除する構成のものであるのに対し,本件具体例6は,ブラシ単体の孔を形成するために,台座に固定された開かれた素線群に対する溶着機による溶着動作の進行中に台座の下側から切除の動作を開始し,溶着部分の中心部を台座の下側から切除する構\成のものであり,本件明細書には,本件具体例6の構成に関する記載はないのみならず,本件各発明において台座の下側から切除することができることを明示した記載もない。しかしながら,回転ブラシに回転軸を挿入するためのブラシ単体の孔を形成するために,開かれた素線群を台座に固定した状態でその素線群の中央部分を切除する場合における切除の方向は,通常は,台座の上側から下側に向けて切除するか,台座の下側から上側に向けて切除するかのいずれかであるから,本件明細書に接した当業者であれば,本件各発明の「切除する第4の工程」(請求項2)及び「切除する切除手段」(請求項3)における切除の方向は,本件明細書の実施例の構\成のほかに,台座の下側から上側に向けて切除する構成をも含むことを容易に理解するものといえる。加えて,当業者であれば,ブラシ単体の孔を形成するために溶着された部分を切除する切除手段として先端が円形又は円筒状の切除刃,治具等を用いることができ,この切除手段を挿通孔を介して上下にスライドすることでブラシ単体の孔を形成することができることを容易に理解するものといえるから,本件各発明において,本件具体例6のような台座の下側から切除する切除手段を設けることには格別の困難はないものと認められる。そして,前記のとおり,本件各発明において溶着による固化がされた状態で切除が行われるのはブラシ単体の孔を均一の形状に保つ必要があることからすると,本件明細書に接した当業者であれば,開かれた素線群の中央部分を溶着する工程を開始し,溶着による固化がある程度の範囲で進行し,切除後に中心部分に形成される孔(本件審決にいう「環状部」)が維持される程度に固化している段階であれば,当該固化している部分を切除することができることを理解し,固化の進行状況,切除手段の動作速度,切除手段を構\成する部材の強度等を考慮し,切除のタイミングを適宜設定することにより,切除により形成される孔を一定の形状(均一の形状)に保つように当該固化している部分を切除することに格別の困難はないものと認識するものと認められる(原告が指摘するように溶着機の振動構造と切除刃との接触による切除刃の摩耗等が生じ得るとしても,それは切除刃の寿命等の問題であって,切除刃の部材の強度を高めること等によって対処し得るものであり,当該固化している部分を切除すること自体ができなくなるものではない。)。以上によれば,本件明細書に接した当業者は,請求項2及び3の記載に含まれる本件具体例6の構\成を有する上記発明においても,従来のブラシ単体の製造方法のようにブラシ単体の厚みを均一とするのに熟練を要することなく,均一な厚さのブラシ単体の量産化を可能とし,しかも素線の重なりを少なくしたブラシ単体を高速度で効率良く製造することができるという本件各発明の課題を解決できると認識できるものと認められるから,原告の上記主張は,理由がない。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> サポート要件
 >> 実施可能要件

▲ go to TOP

平成24(行ケ)10321 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月16日 知的財産高等裁判所 

 実施可能性を満たしていないとした審決が取り消されました。\n
 このとおり,訂正明細書では,吸湿による中間膜の白化の原因となるアルカリ(土類)金属塩の「粒子径」を一定値以下に保つことや(段落【0024】,【0042】),この「粒子径」をTOF−SIMS(Time of flight secondary ion mass spectrometry,飛行時間型二次イオン質量分析装置)の二次イオン像イメージングで計測することが記載されているだけで,測定条件等の詳細は開示されていない。しかしながら,A大学理工学部物質生命理工学科教授B作成の意見書(甲1)によれば,TOF−SIMSは,超真空下に試料を置き,この試料に対してガリウムイオン等の一次イオンのパルス化されたビームを照射し,一次イオンが試料表面の原子等と衝突した結果,試料表\面から空間に向けて発生,放出される二次イオン(試料表面の原子によるイオン)を質量分析計にかけ,二次イオンが検出器に到達するまでの飛行時間に応じて,二次イオンの質量を測定した上で,一次イオンビームの被照射位置の情報に照らして二次イオンの質量分布(質量スペクトル)を画像処理し,地図状の画像データを得る装置であると認められるところ,0.1μm(原告主張によると,本件優先日当時でも0.2μm)の面的解像度を有しているものであって,本件発明の「粒子径」の上限3μmに比して十\分に細かな分析ができるものである。そして,訂正明細書の段落【0093】には,炭素数6ないし10のカルボン酸等のマグネシウム塩は,中間膜中で電離せず塩の形で存在し,かつ凝集することなく膜表面に高濃度で分布していることが記載されている。そうすると,訂正明細書に接した当業者において,TOF−SIMSを用いて中間膜表\面のアルカリ(土類)金属塩の粒子の大きさを測定すること,より具体的には二次イオン像のイメージングにより粒子の最大径を測定することが可能であったことは明らかである。\n
(2)
審決は,TOF−SIMSでアルカリ(土類)金属塩ばかりでなくアルカリ(土類)金属イオンをも検出していることを実施可能要件違反の根拠の1つとするが,まず,前記のとおり,訂正明細書の段落【0093】では,例えばアルカリ土類金属塩の1種であるマグネシウム塩が中間膜中で電離せず塩の形で存在することが示されているから,本件発明において,アルカリ(土類)金属塩が相当程度(相当割合)電離してイオンを生成することが予\定されているものではない。そして,原告のグローバルテクニカルセンターのC作成の実験成績証明書(甲64)によれば,中間膜表面の赤外線分光法測定で,本件発明の技術的範囲に属する中間膜(実験例3)では,遊離している酢酸(イオン)に特有の吸収スペクトルが確認されなかったから,添加された酢酸マグネシウムの電離(解離)の度合いはごく低水準であったものと認めることができる(なお,添加された酢酸マグネシウムの量が多かったとしても,解離する酢酸マグネシウムの絶対量が少なくなるわけではないから,検出すべき吸収スペクトルの観点では問題がない。)。そして,上記Cが作成した別の実験成績証明書(甲28)によれば,中間膜をFE−TEM(電界放射型透過電子顕微鏡)で撮影した写真でみられる凝集物の像とEDS(エネルギー分散型X線分析)で撮影した写真でみられるマグネシウム,酸素の像とが位置的に符合するから,酢酸マグネシウムは中間膜表\面で凝集していることが認められる。これらのとおり,本件発明の中間膜,とりわけその表面では,ポリビニルアセタール樹脂を製造するときに中和工程に用いる薬剤あるいは接着力調整剤に起因する残留アルカリ(土類)金属塩の大部分が電離せず塩の形で残っており,電離してアルカリ(土類)金属イオンとなる割合はごく小さい。そうすると,TOF−SIMSの二次イオン像のイメージングの分析において,アルカリ(土類)金属イオンの存在を考慮外としても差し支えないというべきである。したがって,TOF−SIMSがアルカリ(土類)金属イオンをも検出していること,ないしその可能\性があることを根拠に,当業者において本件発明を実施可能でないとはいえない。\n
この点,被告は,本件発明の中間膜の含水率がナトリウム等の含有率に比して十分大きいことから,アルカリ(土類)金属塩は溶解,電離(解離)してイオンの形で高濃度に存在し得ると主張する。しかしながら,本件発明のような合わせガラス用中間膜は,吸湿による白化の問題を解決するために,耐湿性を確保することが課題とされており(段落【0003】〜【0019】),含水率を小さくすることが予\定されている。本件発明の中間膜も,その水分の含有率(含水率)は,ナトリウムやカリウムの含有率よりは相当大きいが,0.5重量%以下にすぎないのであって,ごく微量のものと評価することができる。したがって,製造時の含水率で考えれば,中間膜中の水分がアルカリ(土類)金属塩の電離に与える影響は必ずしも大きいものとはいえない。また,上記Cが作成した実験成績証明書(甲82)では,酢酸マグネシウムを添加した中間膜と酢酸マグネシウムを添加していない中間膜とで,電気伝導度に差がみられないことが示されているが,この実験結果は,中間膜中のアルカリ(土類)金属塩が電離する割合がごく小さいことを裏付けるものである。なお,アルカリ(土類)金属イオンがTOF−SIMSの二次イオンイメージング画像上の連続した領域にまたがるように存在するときに,この連続した領域分の大きさの輝点として検出されることが原理的にあり得るとしても,本件発明の中間膜のアルカリ(土類)金属塩の含有率程度の含有率でも,本件発明で特定される「3μm」との最大径の基準に比して,上記イオンが有意な大きさを占める輝点の像を実際に示すことを認めるに足りる証拠はない。アルカリ(土類)金属塩とそのイオンとが,2次イオンイメージング画像の連続した領域にわたって接続して存在し,両者があたかも1つの粒子のようにみえる可能性に関しても,実際にかかる事態が生じ,凝集物の大きさが相当の規模において過大に大きくみえる事態が生ずる蓋然性(なお,小さな輝点が塩粒子の周囲に付着してみえる程度であれば,粒子の最大径の測定に影響を与えない。)があることを証拠上認めることができない。結局,TOF−SIMSがアルカリ(土類)金属イオンをも検出していることを根拠に,本件発明に実施可能\要件違反があるとした審決の判断は誤りである。
(3)審決は,輝点として検出される二次イオンとサンプル中の金属量とが一般には比例せず,中間膜のTOF−SIMSによる粒子径の測定には定量性がないことを実施可能要件違反の根拠の1つとするが(17,18頁),本件発明の特許請求の範囲上,アルカリ(土類)金属(塩)の量(金属量)が特定事項となっているわけではなく,アルカリ(土類)金属塩の粒子の大きさが特定されているにすぎないから,上記の定量性をもって本件発明に係る実施可能\要件違反の裏付けとすることはできない。
(4)審決は,閾値の設定により測定値が変化すること等を根拠に,本件発明には実施可能要件違反があると判断するが,前記甲第1号証の資料1や,甲第35ないし第43,第76号証によれば,TOF−SIMSを用いた測定は,一般にバックグラウンド(1次イオンビームを照射しないときに検出される値)が低く,絶対感度がごく高いため,通常,2次イオンビームの測定結果(カウント数)を輝点と評価するかに関する設定値である閾値をゼロにして測定することは,当業者に広く行われている取扱いであると認められる(技術常識。審決も19頁でこの旨認定する。)。そして,本件発明の中間膜のTOF−SIMSを用いた測定では,かかる通常の取扱いと異なる取扱いを採用する理由は存しない。そうすると,訂正明細書にTOF−SIMSの閾値に関する記載がないからといって,当業者が本件発明を実施することができないとすることはできず,閾値を変化させたときに2次イオンのイメージング画像が異なり得る可能\性をもって実施可能要件違反があるということはできない。なお,TOF−SIMSの2次イオンの検出には,2次イオンの個数をカウントする上限である飽和点があるところ,TOF−SIMSでは試料の損傷を抑えるために,単位時間当たりに照射する1次イオンビームの強度を大きくしないのが通常であるから,かような飽和点は問題となりにくい(乙4)。仮に飽和点が問題となるとしても,当業者であれば,可能\な限り飽和点に近いが,飽和点を超えない積算回数を採用して試験を実施することが容易であり,かつかような手法で試験することが当業者に一般的である(甲79)。したがって,訂正明細書にTOF−SIMSの1次イオンビームの照射回数ないし積算回数に関する記載がないからといって,当業者が本件発明を実施することができないものではない。また,被告のPVB研究開発グループのD作成に係る実験報告書(甲18)は,2次イオンイメージングのドット(輝点)の大きさが1μmと大きすぎ,積算回数等に係る発明の実施の困難性の論拠として採用し難い。結局,「ポリマーのTOF−SIMS分析では閾値をゼロにすることが当業者の技術常識であるとしても,合わせガラス用中間膜中のアルカリ(土類)金属塩の粒子径の測定において,閾値をゼロとすることが当業者にとって技術常識であるとすることはできない。」との審決の認定,判断は誤りであり,測定条件の詳細が訂正明細書に明示的に記載されていないことを根拠に,本件発明に実施可能要件違反があるとした審決の判断は誤りである。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> サポート要件
 >> 実施可能要件

▲ go to TOP

平成24(行ケ)10299 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月11日 知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が、サポート要件違反ありとして取り消されました。
 被告は,本件明細書には液体調味料に対するACE阻害ペプチドの配合量について,「血圧降下作用及び風味の点から液体調味料中0.5〜20%,更に1〜10%,特に2〜5%が好ましい。」との具体的な数値の記載があり(【0030】),これがACE阻害ペプチドを配合した場合に風味変化が改善されることを確認した結果に基づくものであると主張する。しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明によれば,前記1オに記載のとおり,本件発明1ないし5及び9に利用可能なACE阻害ペプチドは,乳,穀物又は魚肉等の食品原料由来のものであり,かつ,その種類も多岐にわたるところ,これらの多種類の原料に由来するACE阻害ペプチドの風味が共通し,かつ,加熱処理によって同等の風味変化を生じ,あるいは生じないという技術常識が存在することを認めるに足りる証拠はない。しかも,ACE阻害ペプチドの配合量の数値に関する上記記載も,概括的なものであるから,仮にこれがACE阻害ペプチドを配合した場合の風味変化の改善を確認した結果に基づくものであるとしても,上記多種類の原料に由来するACE阻害ペプチドのいずれについて風味がどの程度改善されたのかを明らかにするものとは到底いえない。したがって,上記配合量の数値の記載があるからといって,本件明細書の発明の詳細な説明に接した当業者は,血圧降下作用を有する物質としてACE阻害ペプチドを液体調味料に混合して加熱処理した場合に,風味変化の改善という本件発明の課題を解決できると認識することはできず,サポート要件を満たすことになるものではない。\n
・・・・
以上によれば,血圧降下作用を有する物質として専らコーヒー豆抽出物を使用した本件発明6ないし8は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できるものであるから,サポート要件を満たすものといえる一方,血圧降下作用を有する物質として,コーヒー豆抽出物に加えてACE阻害ペプチドを使用する場合を包含する本件発明1ないし5及び9は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるが,発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できるものではなく,また,当業者が本件出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるともいえないから,サポート要件を満たすものとはいえない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> サポート要件
 >> 実施可能要件
 >> 補正・訂正
 >> 新規事項

▲ go to TOP

平成24(行ケ)10200 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月27日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反とした審決が取り消されました。\n
 審決は,1)本願明細書の発明の詳細な説明(段落【0031】)に記載された「表面が黒く処理された」金属は,例えば,顔料の素材のように導電性を持たないものを含むところ,そのような物質では,「電磁波遮断機能\を効率的に具現することができる」との効果を発揮することができない,2)本願明細書の発明の詳細な説明には,「表面が黒く処理された」金属を金属粉末として樹脂に添加した後も,「黒色の金属」という物理的性質を保持するための具体的手段が開示されていないとして,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十\分に記載されたものではなく,特許法36条4項1号に違反すると判断する。しかし,審決の上記判断には,以下のとおり,誤りがある。すなわち,上記のとおり,本願発明は,特許請求の範囲において,「前記金属粉末は,黒色の金属である」とし,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「表面が黒く処理された」金属と「黒色の金属」のうち,「黒色の金属」に特定したものと解される。そして,上記のとおり,金属粉末として黒色のものが存在することは,技術常識というべきであり,当業者は,黒色の金属粉末が具体的にどのようなものであるか理解することができるものと認められる。そうすると,「金属粉末の表\面が黒く処理された」金属について実施可能要件を満たすか否かにかかわらず,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「黒色の金属」については,特許法36条4項1号に違反しないものと認められる。
イ 被告の主張についてこれに対し,被告は,1)鉄やコバルト,ニッケル,クロム等の白い光沢を持つ金属の金属粉末は,外光遮断機能を具現化することができない,2)本願明細書の発明11の詳細な説明に記載された「金属粉末の表面が黒く処理された」金属について,「12〜20μm」よりはるかに小さな微粒子とした場合にも,依然として電磁波遮断機能\及び外光遮断機能を備えた「黒色の金属」として存在し得るのかが明らかでなく,その表\面処理の方法も明らかでないと主張する。しかし,上記のとおり,本願発明は,樹脂に添加される金属粉末が,黒色の金属粉末であるとするものにすぎず,金属の種類(鉄など)を特定するものではない。また,本願発明は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「表面が黒く処理された」金属と「黒色の金属」のうち,「黒色の金属」に特定したものと解される。したがって,被告の上記主張は,その前提に誤りがあり,採用することができない。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> 実施可能要件

▲ go to TOP

平成24(行ケ)10071 審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成25年02月12日 知的財産高等裁判所

 実施可能性要件を満たしていないと判断されました。出願人は、MITです。
 請求項7に係る本願発明は,(a)ウリジン,ウリジン塩,リン酸ウリジン又はアシル化ウリジン化合物,及び,(b)コリン又はコリン塩,の2成分を組み合わせた組成物が人の脳シチジンレベルを上昇させるという薬理作用を示す経口投与用医薬についての発明である。そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したといえるためには,薬理試験の結果等により,当該有効成分がその属性を有していることを実証するか,又は合理的に説明する必要がある。本願明細書には,例2として,アレチネズミに前記(a)成分であるウリジンを単独で経口投与した場合に,脳におけるシチジンのレベルが上昇したことが記載されているものの,(a)成分と(b)成分を組み合わせて使用した場合に,脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験の結果は示されておらず,(b)成分単独で脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験結果も示されていない。また,(b)成分であるコリン又はコリン塩を(a)成分と併用して投与した場合,又は(b)成分単独で投与した場合に,脳のシチジンレベルを上昇させるという技術常識が本願発明の優先日前に存在したと推認できるような記載は本願明細書にはない。そうすると,詳細な説明には,本願発明の有効成分である(a)及び(b)の2成分の組合せが脳シチジンレベルを上昇させるという属性が記載されていないので,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十\分に記載したということはできない。したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に規定する要件を満たさない。この趣旨を説示する審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,取消事由1において,本願明細書の記載を援用するが,いずれも上記判断を左右するものではない。取消事由1における原告のその余の主張も,脳シチジンレベルを上昇させるという薬理作用に関して裏付けるものではない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> 実施可能要件

▲ go to TOP

平成24(行ケ)10020 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月31日 知的財産高等裁判所

 開示不十分とした審決が取り消されました。
 確かに,前記2(2)アのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,赤色蛍光体及び緑色蛍光体として使用できる具体的な物質が,内部量子効率を含む各特性を含めて記載されているところ,本件明細書に開示されている緑色蛍光体の内部量子効率は80%以上であるが,赤色蛍光体の内部量子効率は80%未満であり,したがって,本件明細書には,内部量子効率が80%以上の緑色蛍光体については記載されているが,内部量子効率が80%以上の赤色蛍光体については,直接記載されていないというほかない。しかしながら,前記1(8)のとおり,本件明細書には,赤色蛍光体及び緑色蛍光体の製造方法について,その原料,反応促進剤の有無,焼成条件(温度,時間)なども含めて具体的に記載されているのみならず,赤色蛍光体の製造方法については,本件出願時には製造条件が未だ最適化されていないため,内部量子効率が低いものしか得られていないが,製造条件の最適化により改善されることまで記載されているものである。そうすると,研究段階においても,赤色蛍光体について60ないし70%の内部量子効率が実現されているのであるから,今後,製造条件が十分最適化されることにより,内部量子効率が高いものを得ることができることが記載されている以上,当業者は,今後,製造条件が十\分最適化されることにより,内部量子効率が80%以上の高い赤色蛍光体が得られると理解するものというべきである。
イ 証拠(甲5,12〜17)によれば,蛍光体の製造方法において,製造条件の最適化として,結晶中の不純物を除去すること,結晶格子の欠陥を減らすこと,結晶粒径を制御すること,発光中心となる付活剤の濃度を最適化すること等により,蛍光体の効率を低下させる要因を除去することは,本件出願時において当業者に周知の事項であったと認められる。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に内部量子効率が80%未満の赤色蛍光体が記載されているにすぎなかったとしても,当業者は,蛍光体の製造方法において,製造条件の最適化を行うことにより,赤色蛍光体についても,その内部量子効率が80%以上のものを容易に製造することができるものと解される。実際,証拠(甲18)によれば,本件出願後ではあるが,平成18年3月22日,内部量子効率が86ないし87%のCaAlSiN3:Euの赤色蛍光体が製造された旨が発表されたことが認められる。
 ウ 以上によると,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が内部量子効率80%以上の赤色蛍光体を製造することができる程度の開示が存在するものというべきである。 

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> サポート要件
 >> 実施可能要件

▲ go to TOP