2016.12.14
平成27(行ケ)10150 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成28年12月6日 知的財産高等裁判所
数値限定発明について、実施可能性違反なしとした審決が維持されました(知財高裁3部)。
特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発
明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすること
ができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。\nその趣旨は,特許制度が,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当
該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであることに鑑み,その制
度趣旨が損なわれることがないよう,発明の詳細な説明に当該請求項に係る
発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載を求めるとした\n点にある。
そして,特許法上の実施とは,1)物の発明にあっては,その物の生産,使
用等をする行為であり,2)物を生産する方法の発明にあっては,その方法に
より生産した物の使用等をする行為であるから(特許法2条3項1号,3号),
実施可能要件を満たすためには,それぞれ,明細書及び図面の記載並びに出\n願当時の技術常識に基づき,当業者が,1)当該物を生産できかつ使用できる
ように具体的に記載すること,2)当該方法により物を生産できかつ使用でき
るように具体的に記載することが必要である。
本件訂正発明は,同1,3,5,7,8が炭酸飲料という物の発明であり,
同9が炭酸飲料の製造方法という物の生産方法に関する発明であるから,こ
れらの発明が実施可能要件を満たすためには,それぞれ,上記1)又は2)を満
たす必要がある。
(2) かかる実施可能要件に関し,原告は,「可溶性固形分」,「高甘味度甘味\n料によって付与される甘味の全量」及び「甘味量」の技術的意義が本件訂正
明細書の記載から把握できず,また,甘味の相対比が不明確であるため,甘
味の相対比に基づいた本件訂正発明における「全甘味量」,「高甘味度甘味
料によって付与される甘味の全量」及び「スクラロースによって付与される
甘味量」の数値範囲も不明確であって,そのような不明確な数値範囲の技術
的意義も理解できないため,実施例で用いられている甘味料以外の甘味料を
使用して,植物成分を10〜80重量%,及び炭酸ガスを2ガスボリューム
より多く含む炭酸飲料を調製する場合に,甘味料をどの程度の量添加すれば,
「植物成分由来の重い口当たりと炭酸ガスに起因する苦味や刺激を軽減」し
た炭酸飲料が得られるのか不明であるから,本件訂正発明を実施する際に,
本件訂正明細書の記載及び本件出願時の技術常識を考慮しても,当業者に期
待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものであり,
実施可能要件が満たされていないと主張する。\n(3) そこで検討するに,まず,本件訂正発明の「砂糖甘味換算」及び「砂糖甘
味換算量」という文言の意味が不明確であるとはいえず,本件訂正発明にお
ける砂糖甘味換算量は,必要に応じて,換算又は測定可能なものといえるこ\nとは,前記1(取消事由5)で検討したとおりである。
また,植物成分,炭酸ガス及び可溶性固形分の含量,甘味量,並びに高甘
味度甘味料によって付与される甘味の全量については,それぞれの数値範囲
を逸脱した場合に,本件訂正発明の課題が解決できない旨が本件訂正明細書
に十分記載されており,換言すれば,それらの数値範囲内であれば,当業者\nは,本件訂正発明の課題が解決できると理解するものといえ,また,そのよ
うな理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があったとは認められない
こと,他方で,スクラロースによって付与される甘味量については,その数
値範囲を逸脱した場合に,本件訂正発明の課題が解決できないことまでが本
件訂正明細書に記載されているわけではなく,単に,その数値範囲が好まし
い旨が本件訂正明細書に記載されているのみであるが,この記載に接した当
業者は,その数値範囲を少々逸脱した場合でも本件訂正発明の課題が解決で
きるであろうと理解するといえること,換言すれば,その数値範囲内であれ
ば,当業者は,本件訂正発明の課題が当然解決できると理解するといえ,ま
た,そのような理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があったともい
えないことは,前記4(取消事由3)で検討したとおりである。
そして,本件出願時の技術常識からみて,本件訂正発明の炭酸飲料を調製
するに当たり,果物又は野菜の搾汁を10〜80重量%の割合とすること(請
求項1の構成要件(1)),炭酸ガスを2ガスボリュームより多くすること(同
(2)),全甘味量を砂糖甘味換算で8〜14重量%とすること(同(4)),高
甘味度甘味料によって付与される甘味の全量を,砂糖甘味換算で全甘味量の
25重量%以上とすること(同(6)),全ての高甘味度甘味料によって付与さ
れる甘味の全量100重量%のうち,スクラロースによって付与される甘味
量を,砂糖甘味換算量で50重量%以上とすること(同(7))自体が,当業者
にとって困難なことであるとは認められず,可溶性固形分含量を屈折糖度計
で測定して4〜8度のものとすること(同(3))も,当業者にとって困難な操
作であるとは認められない。
さらに,前記のとおり,本件訂正明細書には,実施例1として,ぶどう果
汁含有量50重量%,炭酸ガス3.0ガスボリューム,スクラロース0.0
065重量%,可溶性固形分含量5.1度の「グレープ炭酸飲料」を,実施
例2として,りんご果汁,レモン果汁及び人参の搾汁を合わせて31重量%,
炭酸ガス2.5ガスボリューム,スクラロース0.0075重量%及びアセ
スルファムカリウム0.0035重量%,可溶性固形分含量4.5度の「果
汁入り炭酸飲料」を,実施例4として,リンゴ果汁33重量%,炭酸ガス2.
6ガスボリューム,スクラロース0.0067重量%,可溶性固形分含量6.
0度の「アップル炭酸アルコール飲料」を,それぞれ調製したことが,具体
的に記載されている(前記1(1)ス〜ソ)。また,本件訂正明細書には,甘味\n料について多数の例示があるとはいえ(同ケ),スクラロースと組み合わせ
る高甘味度甘味料について具体的に例示されており(同)コ),搾汁とすべき
果物や野菜についても具体的に例示されている(同カ)。
以上を考慮すれば,本件訂正発明の(方法で)炭酸飲料を調製するに当た
り,当業者が特段の困難な操作を要するとは認められず,また,その調製に
当業者の過度の試行錯誤を要するとも認められない。
よって,当業者は,本件訂正発明の(方法で)炭酸飲料を作ることができ
るというべきであり,「(当該方法により)物を生産でき…る」の要件を満
たすといえる。
(4) また,そのようにして作られた本件訂正発明の数値範囲を満たす炭酸飲料
は,本件訂正発明の課題を解決する,すなわち,果汁等の植物成分と炭酸ガ
スの両者を含有する飲料であって,植物成分の豊かな味わいと炭酸ガスの爽
やかな刺激感(爽快感)をバランス良く備えた植物成分含有炭酸飲料である
といえる一方,そのような理解を妨げるような本件出願当時の技術常識があ
ったとも認められない。
よって,本件訂正発明の数値範囲を満たす炭酸飲料は,技術上の意義のあ
る態様で使用することができるというべきであり,「物を…使用できる」の
要件も満たすといえる。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 記載要件
>> 実施可能要件
>> 数値限定
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2016.12.13
平成28(行ケ)10036 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成28年11月28日 知的財産高等裁判所(2部)
無効理由なしとした審決が維持されました。分割要件、訂正要件、サポート要件など各種争われていますが、中心争点は明細書における発明の開示です。
前記(1)によれば,本件明細書には,1)技術分野につき,【0002】に
は,「この開示は全体的に,リンクされたアイテムを作成するための方法とデバイス
に関する。より特定には,この開示は,リンクされた装着可能なアイテムを弾性バ\nンドから作成するための方法とデバイスに関する。」と記載され,2)背景技術につき,
【0003】には,「独自に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るため
の材料を含むキットは,常にいくらかの人気を博してきた。しかしながら,そのよ
うなキットは通常,異なる色に色付けされた糸およびビーズのような原材料を含む
だけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人の技量と才能に依存す\n
る。従って,独自の装着可能なアイテムを作成するための材料を提供するのみでな\nく,望ましく耐久性のある装着可能なアイテムを成功裡に作成することを多くの技\n量および芸術的レベルの人々にとって容易するする(原文ママ)ように構築を簡略化\nもするキットについての必要と願望がある。」と記載され,そして,これに対応して,
3)発明の概要として,【0004】には,「ブルニアンリンク(Brunnian link)とは,チ
ェインを形成するために,別の閉じたループを捕捉するようにそれ自体上で二重化
された閉じたループから形成されたリンクである。そのようなリンクを望ましいや
り方で形成するのに,弾性バンドが利用されることができる。例示的キットおよび
デバイスは,複雑な構成のブルニアンリンク物品の作成を提供する。しかも,例示\n的キットは,ブルニアンリンク組み立て技術を使って独自の装着可能な物品の成功\nする作成を提供する。」と記載されるとともに,4)発明を実施するための形態の説明
の総括として,【0027】には,「従って,例示的キットおよび方法は,ブレスレ
ット,ネックレスおよびその他の装着可能なアイテムの作成のためにブルニアンリ\nンクの多くの異なる組み合わせおよび構成の作成を提供する。しかも,例示的キッ\nトは,潜在的なブルニアンリンク作成の能力を更に作り出して拡張するために拡張\n可能である。更には,例示的キットは,そのようなリンクおよびアイテムの簡単な\nやり方での作成を提供して,様々な技量レベルの人々に独自の装着可能なアイテム\nを成功裡に作成することを許容する。」と記載されている。
これらの記載によれば,本件明細書には,ブレスレットやネックレスなどの「独
自の装着可能なアイテム」を作成するキットは,通常,異なる色に色付けされた糸\n及びビーズのような原材料を含むだけであり,アイテムを構築することは個人の技\n量と才能に依存するため,このように材料を提供するのみでなく,アイテムを成功\n裡に作成することを多くの技量及び芸術的レベルの人々にとって容易にするように
構築を簡略化もするキットについての必要と願望があったことに鑑み,アイテムを\nブルニアンリンクアイテムとし,ブルニアンリンク組み立て技術を使ってブルニア
ンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技量レベルの人々にブルニアンリ
ンクアイテムを成功裡に作成することを許容するキットを提供することが記載され
ていると認められる。
イ また,本件明細書において,発明を実施するための形態として,次の(ア)
〜(エ)といった複数のキットが記載されているととともに,前記アのとおり,いずれ
のキットによっても,ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技
量レベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成することを許容するこ
とが記載されている(【0027】)
(ア) 単一の列に規定された複数のピン26を有し,各ピン26に,リンク
の作成中にゴムバンドの誤った開放を防止するために外向きにフレアー状になった
フランジ状上部38と,ピン26の間でゴムバンドの端部を動かすために利用され
るフックツール16の挿入のための間隙を提供する前方アクセス溝40が形成され
たピンバー14を,3つ横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造と\nしたキット(【0009】〜【0015】,【0020】〜【0022】)
(イ) (ア)のキットに対しピンバー14を追加して,例えば5つのピンバー1
4を横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造としたキット(【001\n9】)
(ウ) 6つのピンバー14を横並びに揃えてベーステンプレート66上にサ
ポートさせて一体構造としたキット(【0024】)
(エ) ベーステンプレート66のサイドに形成されたジョイント80,82
を用いて,例えば2つの(ウ)のキットを縦方向あるいは横方向に連結させて一体構造\nとしたキット(【0025】及び【0026】)
ウ そして,いずれのキットも,複数のピンバー14をベース12ないしベ
ーステンプレート66上にサポートさせて一体構造としたものは,ピンバー14及\nびベース12ないしベーステンプレート66が一体をなして複数のピン26をサポ
ートする構造にほかならず,このことは,段落【0011】に,「ピン26を望まし\nい揃えでサポートするために,・・・1つまたはいくつかのピンバー14がいくつか
のベース12に載置されている。」との記載,すなわち,「ピン26」をサポート対
象とする旨の記載があることからも明らかである。そして,ベーステンプレート6
6も「ベース」の概念であると認められることから,いずれのキットも,複数のピ
ンバー14をベース12ないしベーステンプレート66上にサポートさせて一体構\n造としたものは,ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技量レ
ベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成するための,複数のピンが
(ピンバーの本体部を介して)ベースに(間接的に)サポートされた構造のもので\nあると理解できる。
そうすると,いずれのキットも,特に「ピンバー」の限定がない,本件発明1の
「一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって,/ベースと,/
ベース上にサポートされた複数のピンと,を備え,/前記複数のピンの各々は,リ
ンクを望ましい向きに保持するための上部部分と,当該複数のピンの各々の前面側
の開口部とを有し,複数のピンは,複数の列に配置され,相互に離間され,且つ,
前記ベースから上方に伸びている/装置。」,又は,本件発明6の「一連のリンクか
らなるアイテムを作成するためのキットであって,/リンクを望ましい向きに保持
するための上部部分と,複数のピンの各々の前面側の開口部を含み,ベースにより
お互いに対してサポートされた複数のピンを備え,/前記複数のピンは,複数の列
に配置され,相互に離間され,且つ,前記ベースから上方に伸びている,/キット。」
の構成を充足するものであり,いずれのキットも本件発明の実施形態であると認め\nられる。
エ 以上によれば,本件発明の課題は,審決が認定するとおり,個人の技量
に依存することなく,様々な技量レベルの人々に,「ブルニアンリンクアイテム」を
簡単に作成するキットを提供することにあると認められる。
オ そして,本件訂正により,本件明細書は訂正されておらず,前記ア〜エ
に記載の点は,本件訂正発明についても該当するものと認められる。
したがって,本件訂正によって本件発明の課題が変更されたとは認められないか
ら,これを根拠とする原告の主張は理由がない。
カ これに対し,原告は,本件訂正の前後を問わず,本件発明及び本件訂正
発明〔全部〕の本質は,「ベースとピンバーを様々な向きに組み合わせることにより,
無尽のバリエーションの編み物製品を容易に作成することができる編み機を提供す
ること」にあるが,仮に,本件訂正後の発明の本質が審決認定のとおり「個人の技
量に依存することのない『ブルニアンリンク』作成方法を『提供』する」ことに発
明の本質があるのであれば,本件訂正により発明の本質が変更され,特許請求の範
囲を実質的に変更するものであると主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件明細書の背景技術(【0003】)には,「独自
に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るための材料を含むキット
は,・・・原材料を含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人
の技量と才能に依存する」という課題があり,「望ましく耐久性のある装着可能\\なア
イテムを成功裡に作成することを多くの技量および芸術的レベルの人々にとって容
易」となるように,「構築を簡略化もするキットについての必要と願望がある」こと\nのみが記載されており,原告主張の編み物製品のバリエーションに関する課題(バ
リエーションに乏しいこと)は記載されていない。また,発明の概要についてみて
も,その冒頭(【0004】)には,ブルニアンリンクの説明や,その作成に弾性バ
ンドが利用可能であることに続けて,「例示的キットは,ブルニアンリンク組み立て\n技術を使って独自の装着可能な物品の成功する作成を提供する。」として,「原材料\nを含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人の技量と才能に\n依存する」という前記課題を解決したことが記載され,原告主張の編み物製品のバ
リエーションについて記載されているものではない。
そうすると,本件明細書には,発明の概要に「ベースとピンバーは,完成された
リンクの向きの無尽のバリエーションを提供するように,様々な組み合わせおよび
向きに組み立てられ得る。」と記載され(【0005】),また,ベース12ないしベ
ーステンプレート66とピンバー14との組合せにより,前記イ(ア)〜(エ)のいず
れのキットをも構成し得ることが記載されていることを考慮しても,これらは拡張\n的な機能であって,ベース12とピンバー14を様々な向きに組み合わせることに\nより,無尽のバリエーションを提供することは,本件明細書において必須の技術事
項であるとは認められない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 記載要件
>> サポート要件
>> 実施可能要件
>> 補正・訂正
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2016.12.13
平成27(行ケ)10226 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成28年11月24日 知的財産高等裁判所
発明未完成、明確性違反、実施可能性違反として拒絶された出願について、審決取消訴訟が提起されました。知財高裁(第1部)は、実施可能要件違反として審決を維持しました。
ア 前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例1)では,本願マトリ
ックスを通過した白昼光に対し蒸留水を24時間常温で暴露する実験を行ったとこ\nろ,水が同期化したことが認められ,この点については当事者間に争いがないとこ
ろである。しかしながら,上記実験は,実験条件の詳細が明らかではなく,本願明
細書の表1における「基準」に関する実験条件も具体的に記載されていないことか\nらすると,本願マトリックスを使用した場合とこれを使用しなかった場合における
比較実験を行ったものと認めることはできない。のみならず,水の同期化の理論的
なメカニズムは十分に解明されていない上,特開2004−2514985)公報(乙
2の【要約】,【0006】,【0011】)によれば,かえって,マイクロウェーブ,超音波,マイクロ波超音波,赤外線(遠赤外線,中間赤外線,近赤外線を含む。)な
どを使用することによって,水分子の回転運動を促進し,本願水特性のように,凝
固点における水温をマイナス10度以下に降下させることが可能になるとされてお\nり,しかも,上記近赤外線(780nm〜2500nm)は,本願発明にいう入射光の
範囲(360nm〜3600nm)に含まれるのであるから,本願マトリックスを通過
しない入射光であっても水を一定程度同期化し得ることが認められ,水の同期化が
本願マトリックス以外の実験条件によって生じた可能性も残るといわざるを得ない。\nそうすると,本願明細書にいう上記実験は,水が同期化された原因が,その他の実
験条件によるものではなく,専ら入射光が本願マトリックスを通過したことによる
ことまでを立証するものとはいえない。
したがって,立証事項Aが立証されたということはできない。
イ また,前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例14)では,男
性2名及び女性2名に対し,本願マトリックスを耳鳴り症状を示す耳の後部の頭蓋
基底部に,皮膚に穏やかな接着剤で局所的に配置する実験を行ったところ,このう
ち3名の耳鳴り症状が24時間以内に消失し,1名の耳鳴り症状が1週間以内に消
失したことが認められる。しかしながら,上記実験における被験者は僅か4名にと
どまり,しかも本願マトリックスを使用しない場合との比較試験を行うものではな
いことからすれば,耳鳴り症状が自然治癒又はいわゆるプラセボ効果(乙11)に
より消失した可能性も残るというほかない。のみならず,証拠(乙6ないし9)及\nび弁論の全趣旨によれば,キセノンが発する光のうち近赤外線を利用した耳鳴り治
療法(いわゆるキセノン光線療法)が現に実施されていることが認められることか
らすれば,上記実施例における実験においても,被験者の耳の後部に照らされた光
が耳鳴り治療に一定程度有効に作用した可能性も残ることが認められる。したがっ\nて,本願明細書にいう上記実験は,耳鳴り症状が本願マトリックス自体によって消
失したものであることまでを立証するものとはいえない。
したがって,立証事項Bが立証されたものとはいえない。
ウ 以上によれば,本件立証事項が立証されたものと認めることはできず,本願
明細書は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載\nたものとはいえない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,本願明細書にいう上記各実験結果はA宣誓書によって裏付けられて
いる旨主張する。しかしながら,本願マトリックスを使用した実験がA教授の研究
室で行われたことはうかがわれないことからすれば,A宣誓書は,本願明細書にい
う実験によって同期化された水の性質が,A教授の研究室での実験結果と同一であ
るというにとどまり,水を同期化するとされる入射電磁エネルギーが本願マトリッ
クスによって形成されることまでを裏付けるものとはいえない。したがって,原告
の上記主張は,A宣誓書を正解しないものであって,採用することができない。
イ 原告は,人に対する治療を目的とする発明に対し,特許出願前のごく僅かな
期間に厳格な実験を行うことを求めるのは困難を強いるものであって現実的ではな
く,また,本願明細書の耳鳴り治療に関する実験はA宣誓書によっても裏付けられ
ている旨主張する。しかしながら,比較実験の被験者となる耳鳴り患者の人数が少
ないことを認めるに足りる証拠はなく,耳鳴り症状の比較実験の方法についても,
例えば耳鳴り症状を示す両耳のうち片耳に限り本願マトリックスを配置すれば足り
るのであるから,格別困難を強いるものとはいえず,原告の主張は,その前提を欠
く。また,A宣誓書は,「例14は,パイロット臨床実験におけるTGMの適用が4
人のヒト被験者における耳鳴り症状に対して有利な効果を有したことを実証してい
る」(甲11〔53頁4行目ないし5行目〕参照)として,単に実験結果を追認する
ものにすぎず,A教授の研究室で本願マトリックスによる耳鳴り症状の改善に関す
る実験が行われていない以上,A宣誓書によっても本願マトリックスによって耳鳴
り症状の改善効果があることを認めることはできない。さらに,原告主張に係る報
告書(甲22)における実験も,上記(3)イで説示するところと同様に,比較試験を
行うものではなく,本件立証事項を裏付けるものとして適切ではない。したがって,
原告の主張は,その裏付けを欠くというほかなく,採用することができない。
(5) まとめ
上記によれば,本願明細書は当業者が本願発明の実施をすることができる程度に
明確かつ十分に記載したものではないとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張\nする取消事由3(特許法36条4項15)〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)は\n理由がない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 記載要件
>> 明確性
>> サポート要件
>> 実施可能要件
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2016.10.20
平成27(行ケ)10176 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成28年10月12日 知的財産高等裁判所
知財高裁は、請求項1,2及び4の数値範囲について、実施可能要件を満たしていないと判断しました。また、請求項3について、審判では主張していなかったサポート要件は、本来審理の対象とはならないが、念のため判断するとして、最終的にはサポート要件を満たしていると判断しました。\n
(カ) 以上によれば,本件出願日当時,パルスレーザー蒸着法により,アモ
ルファスのInGaO3(ZnO)m(m=1〜4)を形成することが可能であるこ\nとは確認できるものの(甲3,4,6,7),mが5以上の場合は開示されておらず,
mが5以上のZnOに近い組成ではアモルファス相は得られないとの指摘もされて
いた(甲3)から,当業者は,mが5以上の薄膜の作成は極めて困難と認識してい
たものと認められる。
エ そして,本件明細書には,かかる当業者の認識にもかかわらず,mが5
以上50未満であるアモルファスの本件化合物薄膜を作成する方法についての記載
はない。
(3) したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,mが5以上50未
満の整数である場合を含む本件発明1,2及び4について,当業者が,アモルファ
スの本件化合物薄膜を形成することができる程度に明確かつ十分に記載されたもの\nであるということはできないから,実施可能要件を欠くものと認められる。\nそうすると,その余の点について検討するまでもなく,取消事由3には,理由が
ある。
(4) これに対して,被告は,本件発明は,InGaO3(ZnO)m膜につい
て電界効果トランジスタの活性層に適するという未知の属性を発見し,その属性は
アモルファスでも奏されることを見出したものであり,mの値の数値限定にのみ意
義のある発明ではないから,透明薄膜電界効果型トランジスタという物品の活性層
を構成する材料についてmの値の全範囲にわたって物品を作製する実施例の記載が\n必要であるということにはならない,と主張する。
しかし,被告の主張するとおり,本件発明がmの値の数値限定にのみ意義がある
のではないとしても,本件発明の請求項の記載には,mが5以上のアモルファス薄
膜も含まれているから,かかるアモルファス薄膜を形成することができる程度の記
載が,本件明細書に求められるというべきである。しかも,上記(2)のとおり,本
件出願日当時には,mが5以上の組成ではアモルファス相は得ることが極めて困難
であるという当業者の認識があったにもかかわらず,本件明細書にはmが5以上5
0未満であるアモルファスの本件化合物薄膜の作成方法についての記載がない以上,
本件発明1,2及び4について,当業者が,アモルファスの本件化合物薄膜を形成
することができる程度に,その作成方法が明確かつ十分に記載されたものであると\nいうことはできない。
・・・・
(2) 原告は,本件発明3に関しては,本件明細書の発明の詳細な説明に記載さ
れている実施例は,単結晶のInGaO3(ZnO)5に関するものたった 1 つであ
り,本件明細書の発明の詳細な説明には,MがIn,Fe,Alの場合の本件化合
物も,m=5以外の場合の本件化合物も開示されていないから,サポート要件を欠
く,と主張する。これに対し,被告は,原告は上記主張を無効審判請求時にしていなかったから,本件訴訟において主張するのは不適法である,と反論する。
(3)ア 特許法は,特許無効の審判について,そこで争われる特許無効の原因が
特定されて当事者らに明確にされることを要求し,審判手続においては,上記特定
された無効原因をめぐって攻防が行われ,かつ,審判官による審理判断もこの争点
に限定してされるという手続構造を採用していることが明らかである。したがって,\n特許無効審判の審決に対する取消しの訴えにおいて,その判断の違法が争われる場
合には,専ら審判手続において現実に争われ,かつ,審理判断された特定の無効原
因に関するもののみが審理の対象とされるべきである(最大判昭和51年3月10
日,民集30巻2号79頁参照)。
イ 本件において,審判段階では,原告が主張していた本件発明3に関する
無効理由6の概要は,以下のとおりである(甲40)。
本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載に接した当業者は,高温で反応性
固相エピタキシャル成長させて形成した本件化合物単結晶薄膜を,活性層に用いる
と,ノーマリーオフの透明薄膜電界効果型トランジスタを得ることができると認識
する。一方,本件発明3には,YSZなどの酸化物単結晶基板上のZnOエピタキ
シャル薄膜上に,高温である800℃以上,1600℃以下で反応性固相エピタキ
シャル成長して形成した本件化合物単結晶薄膜を,活性層に用いたことが規定され
ていない。そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は,
本件発明3がノーマリーオフになると認識できないというべきである。
ウ そうすると,原告が本件訴訟において取消事由4と主張する,本件明細
書の発明の詳細な説明には,MがIn,Fe,Alの場合の本件化合物も,m=5
以外の場合の本件化合物も開示されていないことが,サポート要件を欠くというべ
きか否かについては,審判においては現実に争われたものではなく,審理判断され
たものではないといわざるを得ない。
(4) これに対して,原告は,サポート要件があることの立証責任は特許権者で
ある被告にあるから,審判請求人である原告はサポート要件違反があるという争点
を指摘すれば足り,取消事由4に係る主張は不適法ではない,と主張する。
しかし,上記(3)アのとおり,審決取消訴訟における審理範囲は,立証責任の所在
ではなく,実際に審理判断された特定の無効原因といえるか否かによって画される
のである。原告の主張には,理由がない。
(5) 以上のとおり,原告の取消事由4の主張は,主張自体失当であるが,念の
ため,原告主張の理由により,本件発明3はサポート要件を欠くかについて判断す
る。
ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,単結晶の本件化合物薄膜を形成す
る方法について,「YSZ(イットリア安定化ジルコニア)基板上に育成したZnO
単結晶極薄膜上に,アモルファスのホモロガス化合物薄膜を堆積し,得られた多層
膜を高温で加熱拡散処理する「反応性固相エピタキシャル法」により,ホモロガス
単結晶薄膜を育成する」(【0007】),「上記のホモロガス単結晶薄膜の製造方法と
同様に,ZnO薄膜上にエピタキシャル成長した複合酸化物薄膜を加熱拡散する手
段を用いる」(【0008】)と記載され,ZnO薄膜上に形成する本件化合物薄膜に
ついては,「MBE法,パルスレーザー蒸着法(PLD法)等により成長させる。」
(【0019】),「得られた薄膜は,単結晶膜である必要はなく,多結晶膜でも,ア
モルファス膜でも良い。」(【0020】)との記載がある。
そして,実施例1として,単結晶InGaO3(ZnO)5薄膜(m=5の場合)
を活性層としたトップゲート型MISFET素子の作製方法が記載されている(【0
028】〜【0031】,図1〜4)。
エ したがって,本件発明3は,サポート要件を満たしているものと認めら
れ,いずれにしても,取消事由4には,理由がない。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 記載要件
>> 実施可能要件
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP
2016.08. 8
平成27(行ケ)10148 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成28年8月3日 知的財産高等裁判所
コンピュータにおける処理について、実施可能性違反とした審決が維持されました。最後に審判手続きについて付言がなされています。
本願明細書には,「複数のプロセッサコア」という分散された環境に備えられた
「プレディケート予測器」において行われる「プレディケート命令の出力」の「予\
測」処理の内容に関し,【0026】ないし【0029】の記載があり,ここには,
「概略プレディケート経路情報」を用いて,2つの履歴レジスタ,すなわち,コア
ローカル履歴レジスタとグローバル分岐履歴レジスタを生成し,それを用いて「プ
レディケート命令の出力」の予測を行うこと(【0026】,【0027】),並\nびに,上記グローバル分岐履歴レジスタに対応するグローバル履歴レジスタとして,
「コアローカルプレディケート履歴レジスタ」を用いる実施例(【0028】,図
6A)及び「グローバルブロック履歴レジスタ」を用いる実施例(【0029】,
図6B)が記載されている。
しかし,上記記載からは,「概略プレディケート経路情報」からコアローカル履
歴レジスタとグローバル分岐履歴レジスタという二つの履歴レジスタをどのような
処理により分けて生成するのか,また,当該二つの履歴レジスタをどのような処理
により「プレディケート命令の出力」の「予測」において使い分けるのか,さらに,\n上記二つの履歴レジスタを用いた「プレディケート命令の出力」の「予測」を信頼\n性の高く正確なものとするために「概略プレディケート経路情報」として具体的に
どのような内容が必要とされるのか,把握することはできない。
したがって,本願明細書の上記記載から,「複数のプロセッサコア」という分散
された環境に備えられた「プレディケート予測器」において,信頼性の高いプレデ\nィケートの正確な予測に役立ち得るプレディケート履歴を生成し,コア間の通信を\n最小にするために,「概略プレディケート経路を表す情報」に基づく「予\測」の処
理が具体的にどのように行われているのか明らかであるということはできない。
そして,当業者にとって,本願の優先日当時の技術常識に基づき,「複数のプロ
セッサコア」という分散された環境に備えられた「プレディケート予測器」におい\nて,信頼性の高いプレディケートの正確な予測に役立ち得るプレディケート履歴を\n生成し,コア間の通信を最小にするために,「概略プレディケート経路を表す情\n報」に基づいて行われる「予測」の処理内容が自明であることを認めるに足りる証\n拠はない。
そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,「複数のプロセッサ
コア」という分散された環境に備えられた「プレディケート予測器」において,信\n頼性の高いプレディケートの正確な予測に役立ち得るプレディケート履歴を生成し,\nコア間の通信を最小にするために,「概略プレディケート経路を表す情報」に基づ\nいて行われる「予測」の処理内容を理解することができるように記載されていると\nいうことはできない。
エ 以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明は,「複数のプロセッサコ
ア」という分散された環境において,「プレディケート予測器」が「概略プレディ\nケート経路を表す情報」に基づいて「プレディケート命令の出力を予\測する」とい
う処理を行うことにより,信頼性の高いプレディケートの正確な予測に役立ち得る\nプレディケート履歴を生成することができ,同時にコア間の通信を最小にするとい
う作用効果を奏するコンピューティングシステムを製造し,使用することができる
程度に記載されていない。
したがって,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明1の実施をす
ることができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。\n
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本願明細書には,1)対象のアーキテクチャは,EDGEアーキテク
チャのようなハイブリッドなデータフローのアーキテクチャであること,2)コンパ
イラが,各ブロックの分岐命令に,プログラム内での分岐命令の順序にしたがって,
3ビットの「終了コード」(「出口コード」ともいう。)を割り当てること,3)
「概略プレディケート経路情報」は,コンパイラによって,分岐命令に符号化され,
特定のブロックの具体的な分岐を識別可能であること,4)予測器が,分岐命令に符\n号化された「概略プレディケート経路情報」を用いてプレディケート予測を行うこ\nとが記載されているところ,EDGEアーキテクチャにおいて,分岐命令に出口を
識別する例えば3ビットの識別子を割り当て,それを分岐命令に符号化することは,
本願の優先日前に技術常識であったから,当業者であれば,本願の「概略プレディ
ケート経路情報」は,出口を識別する例えば3ビットの「終了コード」として分岐
命令に符号化された情報であると理解し,コンパイルのタイミングでコンパイラに
よって,分岐命令の分岐先を,例えば3ビットの終了コードで表した形式で,分岐\n命令に符号化された情報であり,予測器によってプレディケート予\測に用いられる
情報であると理解する旨主張する。
イ しかし,原告が挙げる甲9(「Analysis of the TRIP
S Prototype Block Predictor」平成21年4月)及
び甲10(「Distributed Microarchitectural
Protocols in the TRIPS Prototype Proc
essor」平成18年12月)は,EDGEアーキテクチャの一例である「TR
IPS」という特定のアーキテクチャについて,「分岐命令に出口を識別する例え
ば3ビットの識別子を割り当て,それを分岐命令に符号化すること」を記載したも
のにすぎず,EDGEアーキテクチャ一般について記載したものではない。したが
って,上記証拠(甲9,10)から,本願の優先日前に「EDGEアーキテクチャ
において,分岐命令に出口を識別する例えば3ビットの識別子を割り当て,それを
分岐命令に符号化すること」が技術常識であったと認めるに足りず,他にこれを認
めるに足りる証拠はない。
ウ また,前記イの点を措き,仮に当業者において,本願明細書の「概略プレデ
ィケート経路情報」は,出口を識別する例えば3ビットの「終了コード」として分
岐命令に符号化された情報であると理解し,コンパイルのタイミングでコンパイラ
によって,分岐命令の分岐先を,例えば3ビットの終了コードで表した形式で,分\n岐命令に符号化された情報であり,予測器によってプレディケート予\測に用いられ
る情報であると理解したとしても,本願発明1の「概略プレディケート経路を表す\n情報」に相当する「概略プレディケート経路情報」について,1)そのデータ形式,
2)その形式に「終了コード(出口コード)」という,本願明細書全体の記載から見
ても内容が不明なコードが関連していること,3)分岐命令への符号化という処理が
コンパイラによってされること,4)予測器によるプレディケート予\測に用いられる
ことが把握できるにすぎず,「出口を識別する例えば3ビットの「終了コード」と
して分岐命令に符号化された情報」が,「プレディケート命令の出力」の「予測」\nを信頼性が高く,正確なものとする上で,具体的にどのような内容のものであるの
かを把握することはできない。
したがって,「複数のプロセッサコア」という分散された環境に備えられた「プ
レディケート予測器」において,信頼性の高いプレディケートの正確な予\測に役立
ち得るプレディケート履歴を生成し,コア間の通信を最小にするために,「概略プ
レディケート経路を表す情報」に基づく「予\測」の処理が具体的にどのように行わ
れているのかが,明らかであるということはできない。
(4) 小括
以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明1の実施を
することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできないから,\n本願発明1を特許請求の範囲に含む本願は,拒絶すべきものである。
・・・・
以上によれば,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,理
由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
本件審決は,最終的な結論において誤りはなかったことから,取り消すべきもの
とはされなかったが,以下の問題があるから,事案に鑑み,本件審決書について付
言する。まず,本件審決は,その判断において,平成25年9月6日付けで通知し
た拒絶理由及び同年12月27日付けでした拒絶査定の内容を引用した上で,本願
発明が,拒絶査定で示された理由を解消しているか否かを判断するという体裁で,
しかも,前記第2の3のとおり,本件補正前の請求項と本件補正後の請求項が混在
したまま,審決の理由を示している。しかし,本件審決における判断対象は,本件
補正後の請求項であり,本件補正後の本願発明に拒絶理由が存在するか否かを判断
すべきである。また,本件審決におけるサポート要件に係る判断は,その結論部分
において,本件補正後の請求項の全てについてサポート要件を満たさない旨判断し
ていながら,本件補正後の請求項1についてしかその具体的理由が言及されておら
ず,実施態様の異なる他の請求項についても,サポート要件を満たさないことにな
る理由は,何ら具体的に述べられていない。以上のとおり,本件審決書は,適切と
はいい難いものであって,判断対象を明確にして,結論を導くに足りる理由を示す
ことが望まれる。
◆判決本文
関連カテゴリー
>> 記載要件
>> 実施可能要件
>> 審判手続
>> ピックアップ対象
▲ go to TOP