2015.11.30
平成27(行ケ)10026 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年11月24日 知的財産高等裁判所
審決はサポート要件違反なしと判断しましたが、知財高裁はこれを取り消しました。
ア 審決は,磁気検出素子の位置について,「図8に示されるように,スロッ
トルボディー1及びその下側部に組み付けられたモータ4を一括して覆う縦長の形
状をしたカバー9において,ホールICを固定したステータコアが,カバーの中心
から所定距離だけ長手方向にずれた位置にモールド成形されている」として,磁気
検出素子がカバーの中心から所定距離だけ長手方向にずれた位置にあることを前提
とし,これを前提に,横すべりが短尺方向よりも長手方向に大きいのであれば,磁
気検出素子と磁石との位置ずれも生じるとする。
しかし,前記のとおり,訂正発明1に係る特許請求の範囲には,磁気検出素子の
位置を特定するような記載はない。また,カバーの形状自体,特許請求の範囲には,
縦長形状であることの特定はあるものの,長方形とは限定されておらず,左右非対
称の形状も含むのであるから,「カバーの中心から所定距離だけ長手方向にずれた位
置」を特定できるものでなく,さらに,その位置が磁気検出素子と磁石との間の位
置ずれを生じさせるか否かも明らかとならない。しかも,訂正発明1の回転角検出
装置は,自動車のスロットルバルブの回転角の検出に利用される旨の特定もないか
ら,自動車の回転角検出装置におけるカバーに関する技術常識を補って解釈するこ
ともできない。
なお,訂正明細書の発明の詳細な説明には,磁気検出素子の位置を特定する本文
中の記載はなく,図2,7,8のカバ−の図によっても,磁気検出素子と磁石との
位置ずれが生じる範囲を認識することはできない。
イ また,審決は,カバーの長手方向と短尺方向でどのような熱変形が生ず
るかは,カバーの全体形状や各部の形状,各部の肉厚,凹凸の有無やその形状,ス
テータコアが設けられる位置等の諸条件に依拠するが,あらゆる条件を検討して,
カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい条件をもれなく特定
することは事実上不可能であり,そのような条件をすべて特定しなくても,訂正発\n明1は,カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向より大きいものを前提としており,
その前提に係る構成も特許請求の範囲に記載されているのであるから,上記諸条件\nのうちこの前提を満たすもののみが訂正発明1に含まれるのであり,このような前
提が満たされれば,特許請求の範囲に記載されている上記配置に係る構成により,\n訂正発明1の課題は解決されるとする。
しかし,訂正発明1に係る特許請求の範囲は,縦長形状のカバーであることを特
定しているのみであり,前記(3)ウのとおり,カバーが均質組成の長方形で内部温度
分布は均一であり,3次元的変形を2次元的に均一に膨脹したと仮定し,長手方向
が短尺方向よりも熱変形(延び)するとしても,磁気検出素子と磁石の位置ずれが
起こるとは限らないのであるから,特許請求の範囲の記載が,審決が述べるように
「カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きいものを前提」とし
ているとはいえず,特許請求の範囲に記載されている配置に係る構成から,訂正発\n明1の課題を認識しこれが解決されると理解することはできない。
ウ 審決は,あらゆる条件を検討して,位置ずれが不可避に生じる条件をも
れなく特定することは不可能であるから,あらゆる条件を検討することは,過度の\n試行錯誤を強いるものではあるが,上記構成において,ある条件,例えば,訂正明\n細書に従来の技術として記載されたものを参考に立てた条件について,上記位置ず
れが生じるか否かを,当該条件を設定した上で実験を行ったり計算をしたりするこ
とにより確認はできるから,これらの条件について記載されていなくても,発明の
詳細な説明や特許請求の範囲に上記構成が記載されていれば,位置ずれが生じる前\n提となる構成が記載されているといえるとする。\n確かに,特許請求の範囲において,位置ずれが不可避的に生じる条件をすべて特
定して記載することまでは要しないとしても,訂正発明1に係る特許請求の範囲の
記載では,上記に述べたとおり,当業者が,磁気検出素子と磁石との位置ずれが生
じる場合が理解できるものでないことは明らかである。
また,審決は,参考資料2(甲10)における各メーカーの製品写真に示されて
いるように,カバーの四隅等の周縁部においてスロットルボディーにボルトで固定
することが一般的であるとして,これを前提として技術理解をするようであるが,
訂正発明1の特許請求の範囲には,自動車のスロットルバルブの回転角を検出する
発明であることは記載されておらず,特定の製品を参考に前提条件を限定して技術
理解を行うこと自体が誤りである。
エ 被告は,計算により課題に直面するか否かが判断できるとし,審決が被
告の主張を支持して,ボルト固定力がカバー内力を下回る可能性に関して,ボルト\n軸線と直角方向の荷重を受けた場合にすべりが生じる可能性があることは技術常識\nに反するものではなく,熱応力によってカバーがボルトを押す力F とボルト固定力
L とを具体的に検討したことは合理的であり,この検討に用いた数式は力学の法則
に基づき,パラメータの数値は実際のカバー,スロットルボディー,ボルトの特性,
寸法等に即したものであって,合理的なものであると主張する。
しかし,審決は,以下の数式を基礎に検討しているところ,これは,ボルトに対
する固定力とカバーに生じる熱応力とを比較し,単に,カバーに生じる熱応力がボ
ルトの固定力を上回る場合があり得ることを計算上,導けるというにすぎない。
・・・
この計算式には,ボルトの位置は反映されておらず,当該ボルト付近において横
すべりが生ずる可能性の有無を示すにすぎないのであり,熱変形がどの方向に向か\nって生じるかは明らかではない。また,カバーに熱応力による変形が均一に生じ,
固定された磁力検出素子が位置ずれを起こすと仮定しても,磁力検出素子が固定さ
れた箇所における位置ずれは,長手方向が短尺方向と比較して大きくなければなら
ないところ,どの部分がどのように変形し,磁気検出素子と磁石との位置ずれに影
響するかは,ボルト固定の数や位置,磁気検出素子の位置,ボルトまでの距離など
を具体的に検討しなければ,明らかにならない。すなわち,上記計算によっても,
訂正発明1の課題は一義的に導かれるものではない。
また,審決は,この計算において,ボルト及びカラーには亜鉛メッキがされてお
りこのメッキにより摩擦係数μが低下すること,エンジンルーム内での使用環境を
考えると摩擦面に水分,油分,又は異物が入り込むおそれも無視はできず,その場
合は摩擦係数μが低下すること,エンジンの振動により機械設計便覧(甲15)に
示されるようにボルト軸直角方向に振動外力が作用するおそれがあることを考慮し
て,すべりの発生の可能性があると認定しているところ,前記のとおり,訂正発明\n1がエンジンルーム内の使用に限定されるものではない上,このような摩擦に影響
を及ぼす事情は,すべてのボルトについて,一様に,しかも,均一に生じるとは考
え難い。そうすると,訂正発明1が,長手方向において,短尺方向に比して,なお,
磁石と磁気検出素子の位置ずれが大きいといえるのか,必ずしも明らかではない。
(5) 小括
以上によれば,当業者は,訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載から,いかな
る場合において課題に直面するかを理解できないのであり,したがって,特許請求
の範囲に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載等や,出願当時の技術常識に
照らしても,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えたもの
である。
◆判決本文
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2015.11.30
平成27(行ケ)10017 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年11月24日 知的財産高等裁判所
審決は36条違反(実施可能要件、サポート要件)としましたが、知財高裁はこの判断については取り消しました。ただ、審決が進歩性なしとした判断については維持され、結局審決は維持されました。
審決は,本願発明のうち,間隔保持部材を有さない構成において,各分\n離ディスク間に精度よく間隔を形成する方法が,発明の詳細な説明に,当業者が実
施可能な程度に記載されていない,とする。\nイ しかしながら,複数の部材を相互にはんだ付け又は溶接により接合する
場合に,当該複数の部材は,一定の時間相互に近接保持される必要があるが,様々
な治具等によって空間内の特定の位置に固定されることは,技術常識といえる。例
えば,従来,・・・が開示されており,このことは,本件発明のように,多数の分離ディスクが含
まれる場合も同様である。そして,当業者にとって,各分離ディスクの間隔をどの
程度とするか,また,その間隔の精度をどの程度とするかは,各分離ディスクの固
定手段により適宜調整可能なことである。\nしたがって,審決の特許法36条4項1号に関する判断には,誤りがある。
ウ これに対して,被告は,本願発明において,間隔保持部材を設けること
なしに,はんだ付け又は溶接するだけで,遠心分離機の分離ディスクとして回転す
る場合でも回転に関して動的に安定したものとすること,及び,適切に遠心分離を
行うために必要な薄い流動空間を正確に形成できることまでは,明細書の記載から
明らかではなく,技術常識でもない,と主張する。しかしながら,本願発明のよう
な遠心分離機において,間隔保持部材を設けることが必須であるといった技術的知
見の存在を裏付けるに足る適切な証拠は提出されていない。
・・・
ア 審決は,本願発明のうち,間隔保持部材を有さない構成が発明の詳細な\n説明に記載されていない,とする。
イ 確かに,発明の詳細な説明中,実施例においては,間隔保持部材を有さ
ない構成は挙げられておらず,かかる構\成が含まれることは明示されてはいない。
しかしながら,本願発明は,分離ディスクの凹部内に配置されている封止部材によ
る摩耗などに起因するディスク強度の問題や(【0003】),これを回避するためね
じ接続を採用し,さらに,分離ディスクを圧縮する構成によった場合の各分離ディ\nスクの対称性や相互の位置合わせへの悪影響といった問題(【0004】)を解消す
るために,金属製のディスクをはんだ付け又は溶接によって接合するという構成を\n採用したものであるところ,間隔保持部材の有無は,上記各課題の解決には関連し
ないのであるから,間隔保持部材がない構成が記載されていないと解することはで\nきない。
よって,審決の特許法36条6項1号に関する判断には,誤りがある。
ウ 被告は,遠心分離機においては遠心分離を受ける液体用に分離室を多く
の薄い流動空間に分け,分離ディスク間の隔離部材(間隔保持部材)を配置するこ
とが一般的であり,適切に遠心分離を行うために分離ディスク間の薄い流動空間を
正確に形成する必要があることは明らかである,と主張する。
しかしながら,被告の摘示する特表平11−506385号公報(甲2)には,\n間隔保持部材を機能させる場合,すなわち,間隔保持部材が必要な場合には,分離\nディスクに固定するとの記載しかなく,間隔保持部材が必須ということは読み取れ
ないし,他にこの点を認めるに足る証拠もない。
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2015.08.28
平成26(行ケ)10238 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年8月5日 知的財産高等裁判所
薬剤投与に用いる活性発泡体について、実施可能要件違反であるとした審決が取り消されました。
特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発
明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすること
ができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。\n特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実
施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の
技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。特許法36条
4項1号が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当
業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されて\nいない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許
法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことにあると解される。
そして,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする
行為をいうから(特許法2条3項1号),同法36条4項1号の「その実施
をすることができる」とは,その物を作ることができ,かつ,その物を使用
できることであり,物の発明については,明細書にその物を生産する方法及
び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載が
なくても,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき,当業
者がその物を作ることができ,かつ,その物を使用できるのであれば,上記
の実施可能要件を満たすということができる。\n
さらに,ここにいう「使用できる」といえるためには,特許発明に係る物
について,例えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることが
できるなど,少なくとも何らかの技術上の意義のある態様で使用することが
できることを要するというべきである。
これを本願発明についてみると,本願発明は,前記第2の2に記載のとお
りの活性発泡体であるから,本願発明は物の発明であり,本願発明が実施可
能であるというためには,本願明細書及び図面の記載並びに本願出願当時の\n技術常識に基づき,当業者が,本願発明に係る活性発泡体を作ることができ,
かつ,当該活性発泡体を使用できる必要があるとともに,それで足りるとい
うべきである。
(2) 活性発泡体を作ることができるかについて
まず,当業者において,本願明細書の記載に基づいて,本願発明に係る活
性発泡体を作ることができるかどうかを検討する。
前記1によれば,
・・・・
これらの記載に接した当業者であれば,本願明細書に記載された各種
のゴム又は合成樹脂と,各種のジルコニウム化合物及び/又はゲルマニ
ウム化合物とを組み合わせ,実施例に記載された製造方法に従って,本
願発明の「天然若しくは合成ゴム又は合成樹脂製で独立気泡構造の気泡シ\nートを備えた活性発泡体であって,前記気泡シートは,ジルコニウム化合物
及び/又はゲルマニウム化合物を含有」する活性発泡体を製造することがで
きるというべきであり,また,当該活性発泡体を,例えば,敷きマットのよ
うな,「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」ことが
できる形態とすることもできるというべきである。
(3) 活性発泡体を使用できるかについて
次に,当業者において,本願明細書の記載及び本願出願当時の技術常識に
基づいて,本願発明に係る活性発泡体を使用できるかどうかについては,活
性発泡体を前記(2)のとおりの形態とすることができる以上,当該活性発泡
体を「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」こと自体
は当然にできると考えられることから,かかる用い方にどのような技術上の
意義があるのかについて検討する。
ア 本願明細書には,本願発明が解決しようとする課題として,「血行を促
進し,体質改善や,癌等の病気の治癒を促進することができる活性発泡体
を提供すること」との記載がある([0007])。しかしながら,これ
らの効果については「そのメカニズムは解明されていない」とあり([0
009]),その作用機序に関しても,ジルコニウム化合物及びゲルマニ
ウム化合物によって活性発泡体外へ発生させた特定波長の赤外線と人体の
波長とが共振する結果,人間の自然の治癒力が増進される旨の記載はある
([0010])ものの,これも本願明細書自体が認めるとおり,推測の
域を出るものではない。
イ そして,本願明細書では,<試験1>として,被験者1名が活性発泡体
を敷いた椅子の上に30分間静止状態で座った後の血流量,血液量,血流
速度及び体圧を,活性発泡体を敷いていない椅子の上に30分間静止状態
で座った後のそれらと比較した結果を踏まえ,「本活性発泡体を使用すれ
ば,血行がよくなり,体圧が下がることが分かる。」と結論付けている
([0035]ないし[0040])。
しかしながら,この試験は,活性発泡体を「人体に直接又は間接的に接
触させて用いる」態様で行われた試験ではあるものの,この試験において
用いられた活性発泡体がどのようなものであるのか(特に,ジルコニウム
化合物及びゲルマニウム化合物のどちらを,あるいはその両方を,どの程
度含有するのか)については,本願明細書に記載がなく定かではない。ま
た,本願出願当時の当業者の技術常識に照らしても,被験者は50代の女
性1名のみであるから,その試験結果を人体一般に妥当する客観的なもの
として評価することが可能であるともいい難いし,試験条件の詳細も明ら\nかではないから,この試験における血流量や体圧の計測結果から導かれる
とされる「本活性発泡体を使用すれば,血行がよくなり,体圧が下がる」
との効果が,活性発泡体を使用したことによるものであるのか,それ以外
の要因に基づくものであるのかどうかについても,直ちに検証することは
できない。
そうすると,<試験1>の結果のみから,活性発泡体を「人体に直接又
は間接的に接触させて用いる」ことに,人体の血行を促進することが期待
できるという技術上の意義があるというのには疑問がある。とはいえ,例
えば,<試験1>に係る諸条件の説明や,他の試験結果の存否及びその内
容次第では,本願発明に係る活性発泡体の使用に,かかる技術上の意義が
あることが裏付けられたということのできる余地もあるというべきである。
ウ また,本願明細書は,<試験2>に基づき,「活性発泡体は,ガン細胞
のアポトーシス回路を立ち上げ,ガン細胞の働きを弱体化する作用を促進
する。」とする([0051])。
しかしながら,<試験2>は,前立腺癌細胞を培養した培養皿を上下か
ら活性発泡体で挟んだ状態で培養し,活性発泡体なしの状態で培養したも
のとの比較を行ったというものであり,活性発泡体を,「人体に直接又は
間接的に接触させて用いる」場合として想定されるような態様とはおよそ
異なる態様で用いているから,本願出願当時の当業者の技術常識を踏まえ
ても,かかる試験結果から,活性発泡体を「人体に直接又は間接的に接触
させて用いる」ことに,癌細胞の弱体化を期待できるという技術上の意義
があるということはできない。
エ さらに,本願明細書には,本願発明の効果や産業上の利用可能性に関し\nて,「本活性発泡体は,薬剤投与の際に,人体に直接又は間接的に接触さ
せて用いれば,その薬剤の効果を上げることができる。また,大量に使え
ば副作用のある薬剤であっても,本活性発泡体を併用すれば少量ですむの
で,副作用を抑えることができる。」との記載がある([0024],
[0061])。そして,これらの効果に関して,<試験3>に基づき,
「活性発泡体とHDACIとを同時に用いることにより,活性発泡体は,
HDACIのヒト前立腺癌細胞の増殖抑制効果を促進することができる。
原理的には,この方法は全ての癌に有効な治療法と考えられる。」とする
([0059])。
しかるに,<試験3>についても,前立腺癌細胞を培養したマイクロプ
レートにSB(酪酸ナトリウム)を添加し,プレートを活性発泡体で上下
から挟んだものと,活性発泡体を用いずに前立腺癌細胞を培養し,SBを
添加したものとの比較を行ったというものであり,活性発泡体を,「人体
に直接又は間接的に接触させて用いる」場合として想定されるような態様
とはおよそ異なる態様で用いているから,本願出願当時の当業者の技術常
識を踏まえても,これらの試験結果から,活性発泡体を「人体に直接又は
間接的に接触させて用いる」ことに,薬剤の効果を増強させることが期待
できるという技術上の意義があるということはできない。
(4) 審決の判断について
以上を踏まえて,審決の判断の適否を検討する。
審決は,活性発泡体の薬剤との併用効果について当業者が理解し認識でき
るような記載がないことを理由に,本願明細書が特許法36条4項1号所定
の要件を満たしていないと結論付けている。
しかしながら,本願発明の請求項における「薬剤投与の際に」とは,その
文言からして,活性発泡体を用いる時期を特定するものにすぎず,その請求
項において,薬剤の効果を高めるとか,病気の治癒を促進するなどの目的な
いし用途が特定されているものではない。よって,本願明細書に,活性発泡
体の薬剤との併用効果についての開示が十分にされていないとしても,活性\n発泡体を「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」こと
に,それ以外の技術上の意義があるということができるのであれば,少なく
とも実施可能要件に関する限り,本願明細書の記載及び本願出願当時の技術\n常識に基づき,本願発明に係る活性発泡体を「使用できる」というべきであ
る。そして,検討次第では,少なくとも,本願発明に係る活性発泡体を,血
行促進効果を発揮させることができるような形で「使用できる」と認める余
地があり得ることは,前記(3)イにおいて説示したとおりである。
よって,審決には,かかる点についての検討を十分に行うことなく,上記\nのような理由により本願明細書が特許法36条4項1号所定の要件を満たし
ていないと結論付けた点で,誤りがあるといわざるを得ず,審決は,取消し
を免れない。
◆判決本文
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2015.08. 7
平成26(行ケ)10047 特許権 行政訴訟 平成27年7月16日 知的財産高等裁判所
審決は、明確性違反なしとしましたが、知財高裁はこれを取り消しました。理由は、本件発明の作用効果を奏するためには,〜との関係でその方向が限定されていなければならないというものです。
ここで,本件訂正発明1の炭化珪素質複合体は,反り量について,
「穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(Cx;μm)と,
それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(Cy;μ
m)の関係が,|Cx|≧|Cy|,50≦Cx≦250,且つ−50
≦Cy≦200である(Cy=0を除く)こと」を発明特定事項とする
ものであるが,「穴間方向(X方向)」とはどのような方向を意味する
のかについては,特許請求の範囲(請求項1)の記載からは,一義的に
明らかであるとはいえない。
(イ) そこで,本件明細書の記載を参酌すると,本件明細書には,「穴間方
向(X方向)」又は「穴間」につき,「一般にここで,前記穴間方向
(X方向)とは,図9(a)〜(d)に例示した,放熱板表面の一方向\nを示し,Y方向は,前記表面内のX方向と垂直な方向を示している。」\n(段落【0031】)との記載がある。
上記記載から,「穴間方向(X方向)」には,図9に例示されたX方
向が含まれることは理解できるが,「穴間方向(X方向)」は「放熱板
表面の一方向を示」すとしか記載されていないから,図9に例示された\nX方向以外にどのような方向が含まれるのか判然としない。
また,図9に例示されたX方向については,穴と穴とを結ぶ直線とX
方向を示す直線が明らかにずれているもの(図9の左から2番目の図)
があるが,このような場合に穴間方向とX方向がどのような関係にある
のかについては,これを明らかにする記載も見当たらない。
(ウ) ところで,本件訂正発明1は,「穴間方向」であるX方向の長さ1
0cmに対する反り量(Cx)と,X方向と直交する方向であるY方向
における長さ10cmに対する反り量(Cy)の数値範囲をそれぞれ定
め,さらに,Cxの絶対値とCyの絶対値の関係を,|Cx|≧|Cy
|と定めたものである。
そして,本件明細書の段落【0032】に,「本発明者らは,従来技
術における前記課題の解決を図り,いろいろ実験的に検討した結果,反
り量(Cx;μm,並びにCy;μm)が前記特定の範囲にあるときに,
複合体から成る放熱板を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定するこ
とができるという知見を得て,本発明に至ったものである。本発明の複
合体から成る放熱板を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定する場合,
一般には,放熱板と放熱部品との間に放熱グリス等を介して固定される。
このため,Y方向の反り量(Cy)に関しては,その絶対値が放熱グリス
厚より小さいことが好ましい。また,締め付け時の放熱板の変形を考慮
した場合,Y方向の反り量(Cy)はX方向の反り量(Cx)より小さ
い方が好ましい。前記の反り量が前記特定範囲を満足できないときには,
必ずしも密着性良く放熱板を他の放熱部品にネジ止め固定することがで
きないことがある。」と記載され,段落【0035】に「また,板状複
合体の主面内に他の放熱部品にネジ止め固定できように,穴部を有して
いる場合,その穴間距離が10cm以下の小型形状では,密着性良く放
熱板を他の放熱部品にネジ止め固定するためには,複合体の主面の長さ
10cmに対しての反り量が100μm以下であることが好ましい。」
と記載されているように,反り量を規定する上記条件は,本件訂正発明
1に係る板状複合体を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定するため
の条件であると認められる。
ここで,本件訂正発明の複合体は,特定量の反りを有していて,例え
ば,放熱板として用いた場合に,セラミックス基板を放熱フィン等の放
熱部品に密着性良くネジ止め固定することができ,放熱性が安定した,
高信頼性のモジュールを形成することができるという効果を奏するもの
であるところ(段落【0081】),板状複合体(放熱板)を放熱部品
に密着性よくネジ止め固定できる長さ10cmに対する反り量であるC
x及びCyについて異なる数値範囲が規定されている本件訂正発明1に
おいて,本件明細書の段落【0035】の記載から,本件訂正発明にお
ける好ましい長さ10cmに対する反り量は穴間距離の影響を受けるも
のと解され,X方向(ひいては,Y方向)が,放熱板表面の一方向であ\nればどの方向であっても他の放熱部品と密着性良くネジ止め固定できる
とは考えられないことからすると,本件訂正発明1が上記作用効果を奏
するためには,「穴間方向(X方向)」は,板状複合体のネジ穴または
外形との関係でどの方向を示すものであるかが定義されていることを要
するものというべきである。
(エ) しかるに,前記(ア)及び(イ)のとおり,特許請求の範囲(請求項
1)にも,また,本件明細書にも,「穴間方向(X方向)」について,
板状複合体のネジ穴または外形との関係でどのような方向をいうものか
が明確に記載されていないことから,「穴間方向」であるX方向の長さ
10cmに対する反り量(Cx)と,X方向と直交する方向であるY方
向における長さ10cmに対する反り量(Cy)の数値範囲をそれぞれ
定め,さらに,Cxの絶対値とCyの絶対値の関係を定めた本件訂正発
明1の技術的意義を理解できないものにしているといわざるを得ない。
◆判決本文
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2015.08. 2
平成26(行ケ)10243 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年7月28日 知的財産高等裁判所
36条違反ではないとした審決が維持されました。その一つが、水洗便器における「棚」という用語です。裁判所は、明細書の記載に基づき合理的に解釈しました。
「棚」とは,一般的には,「平らで物を載せる機能を有するもの」を意味するが,\n本件発明の「棚」が,これとは異なり,洗浄水を載せて流すとともにその一部を流
下させることを目的としていることは自明であり,また,「棚」が,本件発明の属す
る大便器の分野で一般的に使用される用語とも認められない。
そこで,前記1(1)に認定の本件発明の内容を踏まえて,本件明細書の記載全体や
技術常識などにかんがみて,「棚」の意義を合理的に解釈するとすれば,本件発明の
「棚」は,ボウル内面上部に設けられて段差などにより他と区別できる部分があっ
て,平らで洗浄水を載せる機能を有し,ノズルより吐出された洗浄水をボウル部の\n全周に導く経路といった程度の意味を有するものと認められる。
原告は,本件発明の「棚」が平らなものである必要はない旨を主張するが,棚の
形状をもって発明特定事項としている以上,その形状を全く考慮しない用語の解釈,
すなわち,物を載せる部分が平らである必要はないとする解釈は,相当とはいえな
い。また,上記2(2)に判断のとおり,本件発明2の「棚」は,その幅がゼロとなる
場合もあるが,ボウル側の前方部で「棚」の一部をなくすという構成をしたからと\nいって,その余の部分が棚でなくなるものではない(本件発明1の特定事項は,洗
浄水を全周に導くことを規定しているが,棚を全周にわたり設けることは規定して
いない。)。
原告の上記主張は,採用することができない。
イ 「棚」及びその構成の開示
上記アにおける「棚」の技術的意義にし照らすと,甲1発明には,本件発明1の
「棚」に相当するものは見当たらない。
原告は,境界部3の下側の乾燥面12の上側部分(領域A)が,本件発明の「棚」
に相当する旨を主張するが,本件発明1の「棚」が,ノズルより吐出された洗浄水
をボウル部の全周に導く経路であればよいとの解釈を前提とするものであるから,
その主張は,前提において誤りがある。領域Aに相当する部分は,汚物受け面10
からボウル部導水路16にかけての滑らかに連続する湾曲面の一部にすぎず(明細
書9頁20〜23行目),何らかの段差を有していなければならない「棚」とは,相
容れない形状である。
原告の上記主張は,採用することができない。
◆判決本文
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2015.06. 6
平成24(受)1204 特許権侵害差止請求事件 平成27年6月5日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄差戻 知的財産高等裁判
一部の構成を製法で特定した物の発明について、知財高裁は「発明の要旨は,当該物をその構\造又は特性により直接特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときでない限り,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物に限定して認定されるべき」としましたが、最高裁はこれを破棄差戻しました。
特許法36条6項2号によれば,特許請求の範囲の記載は,「発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならない。特許制度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものであるところ(特許法1条参照),同法36条6項2号が特許請求の範囲の記載において発明の明確性を要求しているのは,この目的を踏まえたものであると解することができる。この観点からみると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして発明の要旨を認定するとするならば,これにより,第三者の利益が不当に害されることが生じかねず,問題がある。すなわち,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において,その製造方法が記載されていると,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構\\造若しくは特性を表しているのか,又は物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができず,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予\測可能性を奪うことになり,適当ではない。他方,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物についてその構\造又は特性を明記して直接特定することになるが,その具体的内容,性質等によっては,出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能\であったり,特許出願の性質上,迅速性等を必要とすることに鑑みて,特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情がある場合には,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として発明の要旨を認定しても,第三者の利益を不当に害することがないというべきである。
以上によれば,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\\であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁平成24年(受)第1204号平成27年6月5日第二小法廷判決・裁判所時報1629号登載予定参照)。 以上と異なり,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,そのような特許請求の範囲の記載を一般的に許容しつつ,その発明の要旨は,原則として,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本判決の示すところに従い,本件発明の要旨を認定し,更に本件特許請求の範囲の記載が上記4(2)の事情が存在するものとして「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否か等について審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
◆判決本文
◆原審はこちらです。 平成22(ネ)10043
◆関連訴訟です。平成24(受)2658
◆関連事件の原審はこちらです。平成23(ネ)10057
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2015.05. 7
平成25(行ケ)10250 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成27年4月28日 知的財産高等裁判所
実施可能要件を満たしていない範囲について、サポート要件違反が成立すると判断されました。
一般に,膜厚を薄くすると熱膨張係数が小さくなることが知られているから(甲9。訳文1頁),甲8及び甲10のような熱イミド化によるポリイミドフィルムにおいて,膜厚を薄くすることでさらに熱膨張係数を下げることが可能であるとはいえるものの,どの程度まで下げることができるのかについて,本件明細書には具体的な指摘がされていない。\nまた,熱イミド化によるポリイミドフィルムの場合には,固形分量が多くなり延伸することが困難とされている(甲13の段落【0018】)。そして,甲29の実施例5のように,約1.04倍程度の延伸が可能であるとしても,45.6ppm/°Cの熱膨張係数を3〜7ppm/°Cという低い数値まで下げることが可能であるとする根拠はなく,本件明細書にも何ら具体的な指摘がない。\nさらに,4,4’−ODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムを化学イミド化により製造して,膜厚や延伸倍率等を調節したとしても,3〜7ppm/°Cという低い数値まで下げることが可能であるとする根拠はなく,本件明細書にも何ら具体的な指摘がない。\n被告は,この点について,ポリイミドフィルムについて最終的に得られる熱膨張係数は,延伸倍率に大きく影響されるほかに,延伸に際しての,溶媒含量,温度条件,延伸速度等多くの条件に影響され,またフィルムの厚さにも影響されることが甲9に記載されているから,ODA/BPDAの2成分系について,甲8のデータのみに基づいて,本件発明9の熱膨張係数の数値範囲を実現することができないと断定することはできない旨主張する。しかし,本件明細書は,具体的に溶媒含量,温度条件,延伸速度等をどのように制御すれば熱膨張係数が本件発明9の程度まで小さくできるのかについて具体的な指針を何ら示していない。本来,実施可能要件の主張立証責任は出願人である被告にあるにもかかわらず,被告は,本件発明9の熱膨張係数の範囲を充足するODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムの製造が可能\であることについて何ら具体的な主張立証をしない。
したがって,本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識を考慮しても,4,4’−ODA/BPDAの2成分系フィルムについては,本件発明9の熱膨張係数の範囲とすることは,当業者が実施可能であったということはできない。\n
・・・・
しかし,前記2(5)のとおり,少なくともODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムについては,当業者が,本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づき,これを実施することができない。そ
うすると,上記2成分系のポリイミドフィルムの構成に係る本件発明9は,本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識によっては,当業者が本件発明9の上記課題を解決できると認識できる範囲のものということはできず,サポート要件を充足しないというべきである。\n
◆判決本文
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