2018.12.13
平成30(ワ)3018 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成30年11月29日 東京地方裁判所(46部)
美容器について、特許権に基づく差止が認められました。争点は、「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さえる」の技術的意義の解釈です。
本件発明は,前記1のとおり,「ホルダ」に該当する部材によって回転体を支
持する支持軸を固定するものであるところ,原告は,被告製品のソーラーパネ\nル取付台が支持軸を固定していると主張するのに対し,被告はこれを否定する。
証拠(甲10,14)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,回転体の支
持軸の本体側先端部分にフランジが形成されていること,被告製品の本体内部
のソーラーパネル取付台の支持軸側先端部分には一対の段差及び半円形状の\n凹部が形成され,それらは回転体の支持軸及び支持軸に形成されたフランジの
形状に係合すること,ソーラーパネル取付台の先端部で回転体の支持軸を覆っ\nてソーラーパネル取付台を被告製品本体にネジで固定するとソ\ーラーパネル
取付台に支持軸のフランジが引っかかり,支持軸の先端部分がソーラーパネル\n取付台の段差及び半円形状の凹部に組み付けられること,その組付け後は回転
体を支持する支持軸に接着剤の塗布などはなかった被告製品においても支持
軸が本体から直ちには外れることがなかったことが認められる。これらによれ
ば,被告製品のソーラーパネル取付台の先端部分の段差及び半円形状の凹部は,\n回転体の支持軸を固定するための構成であり,同部分が回転体の支持軸を覆い,\n支持軸を押し付けることによって支持軸を固定し,支持軸が抜けないようにし
ていると認められる。
そうすると,被告製品のソーラーパネル取付台は構\成要件B及び構成要件C\nの「ホルダ」に該当し,被告製品は構成要件Bの「前記各支持軸の基端側をホ\nルダの両端部で押さえる」及び構成要件Cの「ホルダ」を充足するといえる。\nこれに対し,被告は,ソーラーパネル取付台の半円形状の凹部はリード線の\nハンダ付け部分をカバーするためのものであり,ソーラーパネル取付台をかぶ\nせただけでは支持軸は固定されず,支持軸を接着剤で被告製品本体内部に接着
固定しなければ,支持軸は簡単に抜けることからもソーラーパネル取付台は支\n持軸を固定する機能を有していないなどと主張する。\nしかしながら,ソーラーパネル取付台の段差及び半円形状の凹部の形状は,\n回転体の支持軸に係合する形状に形成されていて,リード線のハンダ付け部分
をカバーするために形成されていると認めるに足りる証拠はない。また,回転
体の支持軸を固定するために接着剤が塗布されている被告製品があるとして
も,その塗布がされたことをもってソーラーパネル取付台が回転体の支持軸を\n固定する機能を有していることが直ちに否定されるものではなく,前記のとお\nりのソーラーパネル取付台の先端部の構\造,接着剤の塗布がなかった場合の回
転体の支持軸の被告製品本体からの着脱の状況等からすれば,ソーラーパネル\n取付台は回転体の支持軸を固定する機能を有しているということができ,被告\nの主張は採用することができない。
3 争点 −ア(乙11文献に基づく新規性欠如)
争点を検討するに当たり,まず,本件発明の「前記各支持軸の基端側をホル
ダの両端部で押さえる」(構成要件B)の意義について検討する。\nア 「押さえる」とは,物に力を加えて,動かないように固定するという意味
を一般的に有する(乙3の1ないし3)。
そして,本件明細書には,前記1 アないしオの記載のほか,「発明を実施
するための形態」として,「図4及び図5に示すように,前記ベース体13の
両支持筒18には,金属製の一対の支持軸20がシールリング21を介して,
交差軸線L1,L2上に位置するとともに外側に突出した状態で嵌合支持さ
れている。このシールリング21は,支持軸20の周りからハンドル12の
内部へ向かう水の侵入を防止している。各支持軸20の基端には,大径状の
抜け止め頭部20aが形成されている。図4及び図9に示すように,両支持
軸20の基端部間においてベース体13上には,ホルダ22が配置されてい
る。このホルダ22の両端部には,各支持軸20の基端側を押さえるための
ほぼ半円筒状の押さえ部22aが形成されている。ホルダ22の中間部には,
円筒状のネジ止め部22bが形成されている。そして,ホルダ22の両端の
押さえ部22aにより両支持軸20の基端が押さえられた状態で,ホルダ2
2の中間のネジ止め部22bがネジ23によりベース体13に固定される
ことによって,各支持軸20がベース体13の支持筒18に対する嵌合支持
状態に抜け止め固定されている。すなわち,支持軸20の組み付け時には,
ハンドル12のベース体13に形成された一対の支持筒18に外側(図4の
左側)から支持軸20をそれぞれ嵌挿して,交差軸線L1,L2上に位置す
るように配置する。次に,図5及び図9に示すように,両支持軸20の基端
間におけるベース体13上にホルダ22を配置し,そのホルダ22の両端の
押さえ部22aにより両支持軸20の基端側を押さえる。これにより,図4
及び図9に示すように,各支持軸20の基端の抜け止め頭部20aが押さえ
部22aの端縁に係合される。この状態で,ホルダ22の中間のネジ止め部
22bをネジ23によりベース体13に固定すると,一対の支持軸20がベ
ース体13に対して同時に抜け止め固定される。」(段落【0013】),「従っ
て,この実施形態によれば,以下のような効果を得ることができる。(1)こ
の美容器においては,ハンドル12の先端部に交差軸線L1,L2上に位置
する一対の支持軸20が設けられている。各支持軸20の先端側には回転体
27が回転可能に支持され,それらの回転体27により身体に対して美容的\n作用が付与されるようになっている。前記ハンドル12における両支持軸2
0の基端部間の位置には,ホルダ22がその中間部において固定されている。
そして,このホルダ22の両端の押さえ部22aにより,各支持軸20の基
端側がハンドル12に対して押し付け保持されるようになっている。このた
め,1つのホルダ22からなる簡単な固定構成により,一対の支持軸20を\nハンドル12に対して容易に固定することができて,製造コストの低減を図
ることができる。」(段落【0019】)との記載がある。
上記のとおり,本件明細書の段落【0013】,【0019】には,ホルダ
の両端部に各支持軸の基端側を押さえるためのほぼ半円筒状の押さえ部が
形成され,この押さえ部が支持軸の基端に接し,それをハンドルに押し付け
ることによって支持軸を保持し,支持軸が抜けることがないように固定する
という実施形態が記載されており,これは,前記のとおりの「押さえる」の
一般的な意味とも整合する。
そうすると,本件発明の「前記各支持軸の基端側をホルダの両端部で押さ
える」とは,支持軸の基端部をホルダの両端部に接するようにし,ホルダの
両端部から支持軸の基端部に対して押し付けること,すなわち力を加えるこ
とによって,支持軸を抜けることがないように固定することを意味するもの
と解するのが相当である。
イ これに対し,被告は,本件明細書の【図4】や段落【0013】の記載か
ら,「押さえる」とは,支持軸の基端に設けられた抜け止め頭部や押さえ部,
その他支持筒等の部材との勘合・係合によって固定される構成を包含するも\nのであると主張する。
しかし,本件明細書の段落【0013】の記載は前記アのとおりであり,
ホルダが支持軸に力を加えずに,部材の勘合・係合のみによって固定する態
様が記載されているとはいえず,本件明細書のその他の記載中にも被告の主
張するような固定態様に関する記載はない。また,本件明細書の【図4】か
らもそのような固定態様を看取することはできない。被告の主張は,「押さ
える」の一般的な意味と一致するものでは必ずしもなく,かつ,本件明細書
にその主張を裏付ける記載はないといえるのであり,採用することができな
い。
(2)。乙11発明と本件発明の対比
ア 本件特許の出願日前に公開されていた乙11文献には,1)ハンドルの先端
部に交差軸上に位置する一対の支持軸が設けられていること(乙11文献の
【図6】〜【図8】),2)腕部の先端側にマッサージを行うためのローラが回
転可能に支持されていること(乙11文献の段落【0001】【0013】),\n3)ローラ取付部材の左右両端部にそれぞれ腕部を含むローラ連結部の一端
を回転軸により軸支固定すること及び当該回転軸をローラ取付部材の穴に
挿通してEリングによって抜け止めすること(乙11文献の段落【0008】
〜【0010】),4)ローラ取付部材の中間部をローラ連結部を介してハンド
ルに固定すること(乙11文献の段落【0008】【図1】【図2】),5)以上
の構成を有する美容器である乙11発明が開示されていることは当事者間\nで争いはない。
そこで,本件発明と乙11発明を対比すると,本件発明は,支持軸の基端
部をホルダの両端部で力を加えて支持軸を抜けないように固定する構成で\nあるのに対し(構成要件B),乙11発明の支持軸の固定方法はそのような\n構成を有していない点で相違する。
イ 被告は,本件発明の構成要件Bの「押さえる」とは支持軸の基端に設けら\nれた抜け止め頭部や押さえ部,その他支持筒等の部材との勘合・係合によっ
て固定される構成を包含するものであることを前提として,本件発明の構\成
要件Bと乙11発明の構成3)とが同一であると主張する。
しかし,構成要件Bの「押さえる」に関する被告の主張を採用することが\nできないことは とおりであり,乙11発明の構成3)が本件発明の構\n成要件Bと同じであるということはできない。
したがって,乙11文献には構成要件Bの構\成が開示されているとはいえず,
乙11発明と本件発明は同一ではないから,本件発明が新規性を欠くというこ
とはできない。
◆判決本文
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2018.12.13
平成30(行ケ)10041 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年12月6日 知的財産高等裁判所
サポート要件および進歩性について、いずれも誤りであるとして拒絶審決を取り消しました。
(1) 審決は,本願発明1は,少なくともセシウム及びストロンチウムを含む放
射性物質を,1382℃未満の温度(例えば1000℃)で焼成する場合を
含むと解され得るが,1382℃未満の温度で焼成をすると,「前記放射性
物質として含まれるセシウム及びストロンチウム」のうちのセシウム(沸点
671℃)が気化するため,本願発明1の効果である「放射性物質の気化温
度未満で焼成」し,「放射性物質や灰分が残渣として残り,放射性物質が気
化されて大気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しく
は無機化させること」を実現できないとして,特許請求の範囲の記載はサポ
ート要件に適合しないと判断した。
(2)ア そこで検討するに,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか
否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対
比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載され
た発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明
の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記
載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を
解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも
のと解される。
イ 本件についてみると,本願発明1は,焼成汚染材を「測定下限値を超え
る放射能濃度で放射性物質を含んだ動植物類,焼却灰,汚泥スラッジ,海\n洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき,汚染水,土砂のうちの何
れか一つ以上を含む汚染材を,前記放射性物質として含まれるセシウム及
び/又はストロンチウムの気化温度未満で焼成した放射性物質を含有する」
ものと特定するものである。
そうすると,本願の請求項1にいう,「汚染材に放射性物質として含ま
れるセシウム及び/又はストロンチウム」には,汚染材に放射性物質とし
て「セシウム及びストロンチウム」の両者が含まれる場合のみならず,「セ
シウム又はストロンチウム」,すなわち「セシウム」,「ストロンチウム」
のいずれか一方のみが含まれる場合も含まれているというべきである。
ウ また,本願明細書には,前記1(1)カのとおり,「前処理工程1001で
は,図15に示すように,汚染材を地殻様組成体20の原料として使用す
る前に,汚染材の焼成処理を行う。ここでの焼成温度は,放射性物質の気
化温度未満とし,放射性物質や灰分が残渣として残り,放射性物質が気化
されて大気中に放出されないようにする。このように,汚染材は,焼成処
理されることで,有機物を気化若しくは無機化させることが出来る。」(【0
133】),「セシウム−134は,沸点が671℃である。従って,例
えば,焼成温度を671℃未満としたときには,大分部分(判決注:原文
のまま)の放射性物質が気化することを防止することが出来る。」(【0
135】)と,焼成温度を汚染材に含まれる放射性物質の気化温度未満と
することにより,放射性物質の気化を防止できることが記載されている。
これに対し,本願明細書には,汚染材に含まれる放射性物質の気化温度以
上の温度で焼成することについての記載はない。
このような本願明細書の記載に鑑みれば,本願発明1の上記特定事項に
ついては,セシウム及びストロンチウムを放射性物質として含む,すなわ
ち,セシウムとストロンチウムの両者を同時に放射性物質として含む場合
には,セシウム及びストロンチウムの気化温度未満で汚染材を焼成,すな
わち,両者の気化温度に共通する部分となる(より低い気化温度である)
セシウムの気化温度未満で焼成するものと解するのが自然である。また,
セシウム又はストロンチウムのいずれか一方のみを放射性物質として含む
場合には,当該放射性物質の気化温度未満で焼成するものと解される。
エ したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載さ
れた発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解
決できると認識できる範囲のものであるというべきである。
4 取消事由2(引用発明の認定の誤り)について
(1) 審決は,引用文献には引用発明が記載されていると認定し,本願発明1は
引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたと判断した。
(2)ア そこで検討するに,進歩性の判断に際し,本願発明と対比すべき特許法
29条1項各号所定の発明は,通常,本願発明と技術分野が関連し,当該
技術分野における当業者が検討対象とする範囲内のものから選択されると
ころ,同条1項3号の「刊行物に記載された発明」は,当業者が,出願時
の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明をすることができたかどうか
を判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し
得る具体的な技術的思想でなければならない。
イ 本件についてみると,引用文献は,その表題から,放射性物質が検出さ\nれた下水汚泥焼却灰等の処分に向けた検討状況を1枚の資料にまとめたも
のと認められる。
そして,引用文献の「1 これまでの経緯と今後の予定」の項の記載か\nら,1)平成23年9月から,「放射性物質対策検討特別部会」において下
水汚泥焼却灰等の安全な処分に向けた検討が開始されたこと,2)同年10
月から,下水汚泥焼却灰等の処分に関する安全性評価検討業務委託がされ,
委託先の有識者委員会である汚染焼却灰等処分安全性評価委員会が3回開
催されたこと,3)平成24年3月に東日本大震災対策本部会議が開催又は
予定され,処分に向けた検討の方向性について確認されること,4)同年4
月以降,実現に向けた課題の抽出や整理が行われる予定であることが理解\nできる。
また,「2 第1〜3回汚染焼却灰等処分安全性評価委員会での有識者
からの主な意見」の項の記載は,上記有識者委員会での主な意見をまとめ
たものと理解できるところ,「(前提)」の欄に,「今回の安全性評価の
中では,セシウム(Cs134,Cs137)を対象としたことを前提条
件として明示することが望ましい」との記載があることから,放射性物質
としてセシウムが検討対象になっていたことが把握できる。
さらに,「(方針)」の欄に,「再利用(下水汚泥焼却灰のセメント原
料化)の再開を目指すことは望ましい」,「めやす値より低いからそれで
良しとするのではなく,さらに,できる限り影響が小さくなるよう対策す
る姿勢が重要」との記載があることから,上記有識者委員会において,放
射性物質としてセシウムを含む下水汚泥焼却灰のセメント原料化の再開を
目指すこと,放射線の影響はできる限り小さくするよう対策すべきことが,
方針に関する有識者の意見として存在したことをそれぞれ理解できる。
その一方で,引用文献には,放射性物質が検出された下水汚泥をどのよ
うに焼却するか,下水汚泥焼却灰はどの程度の放射性物質を含むものであ
るか,下水汚泥焼却灰をセメント原料化する際,できる限り影響が小さく
なるようにどのような対策をするのか等,下水汚泥焼却灰を処分するに当
たっての具体的な方法,手順,条件など,技術的思想として観念するに足
りる事項についての記載は一切存在しない。
そうすると,引用文献には,単に放射性物質が検出された下水汚泥焼却
灰等の処分に向けた方針,及び当該方針に関する有識者の意見が断片的に
記載されているにすぎず,下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法というひと
まとまりの具体的な技術的思想が記載されているとはいえない。
ウ したがって,その余の点について認定,判断するまでもなく,引用文献
に審決が認定した引用発明が記載されているとはいえない。
(3) 被告の主張について
被告は,引用文献の記載から,「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」が再
開されていないことがうかがわれるからといって,引用文献に「下水汚泥焼
却灰のセメント原料化」を行う方法が開示されていないことにはならないし,
「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」を行う方法は一般的に確立されていた
技術といえるから,原告の主張は失当であると主張する。
しかし,引用文献中の「再開を目指すことが望ましい」との記載からは,
下水汚泥焼却灰のセメント原料化が引用文献の作成時点において中止されて
いたことが明らかであるところ,上記(2)のとおり,引用文献には下水汚泥焼
却灰を処分するに当たっての具体的な方法など,技術的思想として観念する
に足りる事項についての記載は一切存在しないのであるから,同文献に「下
水汚泥焼却灰のセメント原料化」を行う方法が開示されているとはいえない。
また,被告が証拠として提出した乙4〜6は,いずれも「下水汚泥焼却灰
のセメント原料化」技術に関する刊行物であるものの,放射性物質を含む下
水汚泥焼却灰のセメント原料化についての記載はないから,これらの証拠を
もって,引用文献が対象とする「放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等」
におけるセメント原料化が確立された技術ということはできない。
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2018.11.13
平成29(行ケ)10191 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年10月29日 知的財産高等裁判所
審決は、記載不備(明確性、サポート要件、実施可能要件)と判断しましたが、知財高裁(2部)は、これを取り消しました。
イ(ア) 本願明細書には,前記(1)イのとおり,中間水について,少なくとも−
40度付近の温度において,規則化(コールドクリスタリゼーション)する傾向を
強く有するものと推察されること,規則化する強い傾向の存在により,不規則な状
態で凝固した状態からの加熱において,−40度付近で規則化に伴う発熱がみられ
ること,規則化に伴う発熱量は,規則化を生じている水の量,すなわち,中間水の
量に比例するものと推察されることが記載されている。
(イ) 前記(1)ウの甲1〜5の記載によると,中間水の量(Wfb)は,次の式
のとおり,低温結晶化した水におけるエンタルピー変化量(ΔHcc)と,水の融解熱
(Cp)から得ることができることが理解される。
Wfb=ΔHcc/Cp
この式を変形すると,ΔHcc=Cp×Wfb となり,低温結晶化した水におけるエン
タルピー変化量(ΔHcc),すなわち,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量
は,比例定数を Cp として,中間水の量(Wfb)に比例するといえる。
このことも,前記アと同様の理由により,日本バイオマテリアル学会の構成員や\n関係者には,平成21年の時点において,知られていたと認められるのであって,
本願明細書に記載された内容の「中間水」の量の計算方法は,本願出願時において,
当業者の技術常識になっていたと認められることができるというべきである。
そして,Cp は,純水の融解熱と等しいと考えられ,純水の融解熱が 334J / g であ
ることも,前記ウの甲2及び甲4の記載並びに証拠(甲11)及び弁論の全趣旨に
よると,当業者の技術常識であったと認められる。
したがって,当業者は,中間水の量の算出方法については,本願明細書の記載及
び本願出願時の技術常識に基づいて明確に理解することができたというべきである。
(3)ア 被告は,本願明細書から,「コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量
は,中間水の量に比例するものと推察される。」という認定aだけではなく,「中間
水の量は,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱ピークの挙動(コールドクリ
スタリゼーションに伴う発熱量は含水量の増加に伴って増加するが,ある含水量以
上では変化しなくなること)と,全含水量とから求めることができる。」という認定
b及び「中間水の量は,各含水量におけるコールドクリスタリゼーションに伴う発
熱量と0度付近の吸熱量の関係から中間水の最大量を求めてW0(試料の乾燥重量)
で除することにより求められる。」という認定cも認定できるところ,これらの認定
が共存するため,本願明細書から,当業者が中間水の量をどのように算出したらよ
いのか明確に理解することはできない旨主張する。
認定bは,前記(1)イ(イ)b(b)の本願明細書の記載に基づくものであり,認定cは,
前記(1)イ(イ)b(c)の本願明細書の記載に基づくものであるが,いずれも,中間水の量
を求める方法についての具体的な内容の説明はされていない。
一方,認定aは,前記(1)イ(イ)b(a)の本願明細書の記載に基づくものであるが,前
記(2)イのとおり,上記記載を含む本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識から,
中間水の量の算出方法を明確に理解することができる。
そうすると,当業者は,本願明細書に前記(1)イ(イ)b(b)及び(c)の記載があるからと
いって,本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識から明確に理解できる中間水
の算出方法を理解できなくなるというものではないというべきである。
イ 被告は,当業者は,発明の詳細な説明の記載に基づき,中間水のコール
ドクリスタリゼーションは通常の水の凍結とは異なる相転移であると理解されるか
ら,中間水のコールドクリスタリゼーションの単位潜熱(中間水の量を算出するた
めの比例定数)は,通常の水の凍結の場合の単位凝固潜熱334J/gとは異なる
値であると考えるのが自然である旨主張する。
しかし,前記(2)イのとおり,比例定数(Cp)は,純水の融解熱に等しいと考えら
れている。本願明細書に記載されたPMEAのコールドクリスタリゼーションに伴
う発熱量の最大値を中間水量で除した値が313J/gであるとしても,純水の融
解熱が334J/gであることは,当業者の技術常識である以上,当業者は,31
3J/gの方が誤差を含む数値であると考えるのか通常であると解されるのであっ
て,このことにより,当業者が,中間水のコールドクリスタリゼーションの単位潜
熱(中間水の量を算出するための比例定数)が,純水の単位凝固潜熱334J/g
とは異なる値であると考えるとはいい難い。
ウ 被告は,甲1〜5は,本願発明者やその共同研究者による文献であり,
中間水の概念は,本願発明者らの研究グループが独自に提唱したもので,本願発明
者らの研究グループ以外の当業者に,本願出願時までに広く知れ渡り,技術常識に
なっていたことを示す証拠はない旨主張する。
「中間水」の概念が本願発明者であるAにより構築されたことは,前記(2)アのと
おりであるが,前記(2)ア,イのとおり,「中間水」の概念及びその量の算出方法は当
業者の技術常識となったことが認められる。
エ 被告は,甲5は本願明細書で引用したものではなく,仮に当業者が甲5
を本願明細書の記載から探し当てることができたとしても,その記載内容が実質的
に発明の詳細な説明に記載されたに等しいものであるということはできない旨主張
する。
しかし,本願明細書の【0007】には【先行技術文献】として,「【非特許文献
1】バイオマテリアル 28−1,2010」と記載されているから,当業者であれ
ば,これは,バイオマテリアルという雑誌の28巻1号(出版年2010年)とい
うものであると理解する。そして,甲5は,その雑誌のその号に掲載されている。
しかも,上記の「非特許文献1」は,本願明細書の【0013】においても,「所定
量の水を含水した水和性組成物を一旦十分に冷却し,その後に比較的ゆっくりした\n速度で加熱した場合に,0℃以下の特定の温度域において所定の発熱を生じると共
に,−10度近辺から0度までの広い温度範囲において吸熱が観察されることが明
らかにされている(例えば,非特許文献1等を参照)。」という形で引用されている。
そうすると,当業者は,本願明細書の記載から,容易に甲5に行き着くものと考え
られるから,甲5は本願の発明の詳細な説明【0007】で引用されたものである
と認められる。
そして,甲5が,「中間水」の概念及びその量の算出方法が当業者の技術常識とな
ったことを裏付け得るものであることは,前記(2)ア,イのとおりである。
オ 被告は,本願発明の「中間水の量が1wt%以上,且つ30wt%以下」
がどの時点の中間水の量を意味するかについて,発明の詳細な説明に,発熱量が最
大値になる含水量の場合と飽和含水になった時点での含水量の場合という,相異な
る二通りの記載があるから,本願発明の技術的範囲が定まらない旨主張する。
しかし,前記(2)イのとおり,当業者は,本願明細書の記載及び出願当時の技術常
識に基づいて,中間水の量は,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量と水の
融解熱から得ることができることが理解されるから,当業者が本願補正発明を実施
するに当たり,水和性組成物について,発熱量が最大値の中間水の量と,飽和含水
になった時点の中間水の量の二通りが記載されているとしても,水和性組成物の中
間水の量は,含水量にかかわらず,コールドクリスタリゼーションに伴う発熱量と
水の融解熱から一義的に決まるものであって,本願補正発明の技術的範囲が定まら
ないということはできない。
・・・
本件審決は,当業者が本願出願時の技術常識に照らしても本願明細書の記載から
中間水の量の算出方法を理解することができないから,表2に中間水量が記載され\nた具体的な組成物以外のものについては課題が解決できると認識することはできな
い旨判断したが,当業者が本願出願時の技術常識に照らして本願明細書の記載から
中間水の量の算出方法を理解することができることは,前記2のとおりであるから,
本件審決のサポート要件の有無の判断は,前提を欠き,誤りがある。
4 取消事由3(実施可能要件違反)について
本件審決は,当業者が本願出願時の技術常識に照らしても本願明細書の記載から
中間水の量の算出方法を理解することができないから,本願補正発明1及び4を当
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2018.10.31
平成29(行ケ)10129 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年5月24日 知的財産高等裁判所
少し前の事件ですが漏れていたのでアップします。サポート要件を判断する前提としての課題の認定について誤りがあるとして、知財高裁第3部は、サポート要件違反ありとした審決を取り消しました。注目は「出願時の技術水準等との比較は,行うとすれば進歩性の問題として行うべき」という判断です。
前記のとおり,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否か
は,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請
求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発
明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決
できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がな
くとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると
認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
また,発明の詳細な説明は,「発明が解決しようとする課題及びその解
決手段」その他当業者が発明の意義を理解するために必要な事項の記載が
義務付けられているものである(特許法施行規則24条の2)。
以上を踏まえれば,サポート要件の適否を判断する前提としての当該発
明の課題についても,原則として,技術常識を参酌しつつ,発明の詳細な
説明の記載に基づいてこれを認定するのが相当である。
かかる観点から本件発明について検討するに,本件明細書の発明の詳細
な説明には,米糖化物含有食品であるライスミルクの製造時に各種酵素を
制御することなく加えると,プロテアーゼによりアミノ酸,オリゴペプチ
ドが生成し,うまみ調味料様の雑味がついてしまい,用途が限られたこと
(【0002】),食感が滑らかで雑味がなくすっきりした味を持つ米糖
化液としてアミノ酸濃度が一定範囲である米糖化液が開発されたが,甘味,
コク(ミルク感)等の風味は十分に改善されておらず,必ずしも満足でき\nるものではなかったこと,さらに,グラノーラ,パンケーキ等が流行する
一方,牛乳アレルギー,大豆アレルギーの人口は増加傾向にあり,風味が
改善された牛乳や豆乳の代用品が求められていたこと(【0003】)な
どが背景技術として記載されている。その上で,発明の詳細な説明には,
発明が解決しようとする課題として,「本発明は,米糖化物含有食品のコ
ク,甘味,美味しさ等を改善するという課題を解決すべく鋭意研究を重ね
た結果見出されたものである。すなわち,本発明は,コク,甘味,美味し
さ等を有する米糖化物含有食品を提供することを目的とする。さらに,従
来牛乳や大豆を用いて製造又は調理されていた多数の食品を作ることを可
能にする食品を提供することも目的とする。」との記載がある(【000\n6】)。
これらの記載からすれば,本件発明は,「コク,甘味,美味しさ等を有
する米糖化物含有食品を提供すること」それ自体を課題とするものである
ことが明確に読み取れるといえる。
イ これに対し,異議決定は,「本件発明1の課題は,本件特許明細書の『コ
ク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること』(【0
006】)との記載及び実施例(【0031】〜【0043】)において,
『コク(ミルク感)』,『甘み』及び『美味しさ』の各評価項目について
評価を行っていることから,『コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物
含有食品を提供すること』と認められる。」と,一旦は上記アと同様に本
件発明1の課題を認定しながら,最終的なサポート要件の適否判断に際し
ては,「本件発明1の課題は,上記aのとおり,具体的には,実施例1−
1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて
優位な差を有するものを提供することであ(る)」とその課題を認定し直
し,課題の解決手段についても,「本件発明1が課題を解決できると認識
できるためには,…実施例1−1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),
甘味及び美味しさについて優位な差を有することを認識できることが必要
である。」としている(異議決定12頁16〜25行)。
この点について,被告は,発明が解決しようとする課題とは,出願時の
技術水準に照らして未解決であった課題であるから,本件発明1の「コク,
甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」という課題
は,本件出願時の技術水準を構成する米糖化物含有食品(具体的には,実\n施例1−1のライスミルク)に比べて,コク,甘味,美味しさ等を有する
米糖化物含有食品を提供することであり, したがって,異議決定において
は,本件発明1の課題について,「具体的には,実施例1−1のライスミ
ルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有
するものを提供すること」としたものである(したがって,異議決定の課
題の認定に誤りはない)と主張する。
確かに,発明が解決しようとする課題は,一般的には,出願時の技術水
準に照らして未解決であった課題であるから,発明の詳細な説明に,課題
に関する記載が全くないといった例外的な事情がある場合においては,技
術水準から課題を認定するなどしてこれを補うことも全く許されないでは
ないと考えられる。
しかしながら,記載要件の適否は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明
の記載に関する問題であるから,その判断は,第一次的にはこれらの記載
に基づいてなされるべきであり,課題の認定,抽出に関しても,上記のよ
うな例外的な事情がある場合でない限りは同様であるといえる。
したがって,出願時の技術水準等は,飽くまでその記載内容を理解する
ために補助的に参酌されるべき事項にすぎず,本来的には,課題を抽出す
るための事項として扱われるべきものではない(換言すれば,サポート要
件の適否に関しては,発明の詳細な説明から当該発明の課題が読み取れる
以上は,これに従って判断すれば十分なのであって,出願時の技術水準を\n考慮するなどという名目で,あえて周知技術や公知技術を取り込み,発明
の詳細な説明に記載された課題とは異なる課題を認定することは必要でな
いし,相当でもない。出願時の技術水準等との比較は,行うとすれば進歩
性の問題として行うべきものである。)。
これを本件発明に関していえば,異議決定も一旦は発明の詳細な説明の
記載から,その課題を「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食
品を提供すること」と認定したように,発明の詳細な説明から課題が明確
に把握できるのであるから,あえて,「出願時の技術水準」に基づいて,
課題を認定し直す(更に限定する)必要性は全くない(さらにいえば,異
議決定が技術水準であるとした実施例1−1は,そもそも公知の組成物で
はない。)。
したがって,異議決定が課題を「実施例1−1のライスミルクに比べて
コク(ミルク感),甘味及び美味しさについて有意な差を有するものを提
供すること」と認定し直したことは,発明の詳細な説明から発明の課題が
明確に読み取れるにもかかわらず,その記載を離れて(解決すべき水準を
上げて)課題を再設定するものであり,相当でない。
以上によれば,異議決定における課題の認定は妥当なものとはいえず,
被告の主張は採用できない。
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2018.10.29
平成29(行ケ)10113 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年10月25日 知的財産高等裁判所
記載不備(明確性、サポート要件、実施可能要件)の無効理由無しとした審決が維持されました。
特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確
でない場合に,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となることによ
り生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで,特許を受
けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,
願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時にお
ける技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不
利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものと解
される。
(3)ア そこで検討するに,本件明細書には,泡に関し,「本明細書で用いられ
る「泡」は,混合されて,可変長の時間持続する構造を有する小さい気泡\nのマスを形成する液体及び気体を意味する。」(【0036】),「気泡
は,液体のフィルムで取り囲まれた気体のセルである。」(【0037】)
との定義が記載されている。また,本件発明の発泡性組成物の作用効果に
関し,本件発明の組成物は,発泡性であるために,適用された部分に留ま
ることができ(【0015】),表面上に容易に広がる泡として分配でき\nる(【0018】)ものであって,空気と混合されるときに安定な泡を与
え,この泡は,個人的洗浄用又は消毒目的のために使用でき,例えばユー
ザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊れること(【0\n041】),本発明の重要かつ驚くべき成果は,消毒に適する組成物が40%
v/vより多量のアルコールを含有すること,そして低圧容器及びエアゾール
包装容器の両者から化粧品として魅力的な泡として分配され得ること(【0
044】)がそれぞれ記載されている。
イ この点に関連して,泡に関する技術常識についてみると,「入門講座 泡
の化学」と題する論文(オレオサイエンス第1巻第8号。2001年発行。
甲12)には,「深い井戸からくみ上げた水に生ずる泡はきわめて微小な
気泡が多数水中に分散している。このように気体が液体または固体に包ま
れた状態を気泡(Bubble)という。泡は各種界面活性物質,または界面活
性剤の気・液界面への吸着によって起こる現象であって,洗濯時の洗濯機
の中の液やビールの泡のようにこれが多数集まって薄膜を隔てて密接に存
在するものを泡沫(Foam)と呼ぶ。気泡と泡沫の区別は形態的であるが前
者はただ一つの界面を有するのに対し,後者は2つの界面を有する。」(8
63頁左欄)との記載がある。
この論文の公開時期に鑑みれば,泡には,形態的に区別される気泡と泡
沫とがあり,気泡(Bubble)は,気体が液体又は固体に包まれた状態を指
し,ただ1つの界面を有するのに対し,泡沫(Foam)は,気泡が多数集ま
って薄膜を隔てて密接に存在し,2つの界面を有するものであることは,
親出願の出願日当時における当業者の技術常識であったと認められる。
ウ 以上のとおり,上記アに摘示した本件明細書に記載された定義と,本件
発明における泡の作用効果に関する記載からすると,本件発明における「泡」
との語は,上記イ記載の泡沫を意味するものであることは明らかである。
そして,本件明細書の記載及び親出願の出願日当時における当業者の技
術的常識を基礎とすると,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載が,第
三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(4) 原告の主張について
原告は,本件明細書の段落【0036】における1)「可変長の時間持続す
る構造」が表\す時間の長さ,2)「構造」とは,気泡と気泡のマスのいずれを\n指すのか,3)「小さい気泡」とは,何と比較して小さいのか,がいずれも不
明であるから,請求項1の記載が不明確であると主張する。
しかし,上記(3)において説示したとおり,当業者は,本件発明における「泡」
との語が泡沫を意味すること,泡沫とは,気泡が多数集まって薄膜を隔てて
密接に存在するものであるから,これはすなわち気泡のマスであること,そ
して,本件明細書の段落【0036】における「構造」とは気泡のマスであ\nることをそれぞれ理解できるというべきである。
また,当該段落の「可変長の時間持続する」との語については,本件発明
の組成物が発泡性組成物であることによる作用効果に関する本件明細書の記
載からすると,本件発明の組成物は,適用された部分に留まることができ,
かつ,表面上に容易に広がる泡として分配できるものであって,例えばユー\nザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊れる程度の安定\n性を有するほどに,泡の持続時間が様々であることと理解できる。
さらに,「小さい」との語についても,上記本件明細書における本件発明
の作用効果に関する記載に照らせば,化粧品として魅力的な泡といえる程度
の大きさをいうものと解するのが相当である。
したがって,この点についての原告の主張を採用することはできない。
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2018.09.26
平成29(行ケ)10045 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年9月18日 知的財産高等裁判所
異議申立について応答せずに取消決定がなされました。これに対する取消訴訟です。\n知財高裁は、実施可能要件違反、サポート要件違反として異議決定を維持しました。なお、審決書に理由が記載されていなかったことは、取消理由通知に対する応答がなかったという特殊性もあり、実質問題なしと判断されました。\n
ア 実施可能要件適合性について
(ア) 原告は,「当業者が,エピトープについて具体的に特定する記載がな
い本件明細書の記載に基づいて,エピトープを決定してLRP6結合分
子を得るためには,過剰な実験を行う必要がある。」との本件異議申立\n書記載の主張に対し,本件明細書には,LRP6に関連するエピトープ
が示されており,当業者であれば,本件特許の優先日当時に利用可能な\n技術を用いることにより,インビトロで,エピトープを含む特定のペプ
チド(すなわち,プロペラ1領域又はプロペラ3領域のアミノ酸配列)
に結合する本件発明の候補となるLRP6抗体を十分な数で特定するこ\nとができ,また,本件明細書の記載及び本件特許の優先日当時の周知技
術を用いることにより,製造された結合分子の結合性及び活性を調べ,
その有用性を確認することができたと主張する。
(イ) 検討
a 物の発明について,明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要\n件に適合するというためには,当業者が,明細書及び図面の記載並び
に出願時の技術常識に基づいて,その物を生産でき,かつ,使用する
ことができるように具体的に記載されていることが必要であると解す
るのが相当である。
b 本件明細書の記載について
上記1(2)において認定したとおり,本件明細書には,本件発明に係
るLRP6結合分子のLRP6上の結合部分や結合によるWntリガ
ンドの結合阻害についての説明(【0015】,【0033】等)と
ともに,実施例1には,優先的にWnt1又はWnt3a誘導Wnt
シグナル伝達を阻害する抗LRP6アンタゴニストFabs(実験時
のプライベートネームであるFab003,Fab004,Fab0
15など7つのFabで記載)が同定された旨が記載されている(【0
226】〜【0228】)。
しかし,本件明細書には,上記各Fabがいかなる抗原結合部分を
含んでいるのか,すなわち,抗原結合部分やそれが認識するエピトー
プがいかなるアミノ酸配列等によって特定されるのかについて,これ
を具体的に示す記載はなく,その手掛かりとなる記載も見当たらない。
また,実験結果が記載されていたと推測される図は,全て欠落してい
る。
c 本件発明1〜22,31〜33は特定のアミノ酸配列の抗原結合部
分を含むLRP6結合分子,すなわち化学物質の発明である。そして,
上記bにおいて説示したとおり,本件明細書の記載から,実施例で得
られた各Fabのアミノ酸配列等の化学構造や認識するエピトープを\n把握することはできない。また,本件明細書には,Wnt1特異的等
の機能的な限定に対応する具体的な化学構\造等に関する技術情報も記
載されていない。そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明におけ
る他の記載及び本件特許の出願時の技術常識を考慮しても,特許請求
の範囲に規定されている300程度のアミノ酸の配列に基づき,Wn
t1に特異的である等の機能を有するLRP6結合分子を得るために\nは,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をする必要があると認
めるのが相当である。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,本件明
細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて,本件発明に
係る物を生産でき,かつ,使用することができるように具体的に記載
されているとはいえない。
(ウ) 原告の主張について
a 原告は,特定のエピトープに対応する抗原結合部分を有する抗体は,
汎用のファージディスプレイ法により取得することができるから,本
件発明に係る結合分子を得るために,当業者が期待し得る程度を超え
る試行錯誤は要しないし,本件明細書記載の機能アッセイにより得ら\nれた抗体の機能(Wnt特異性)についても,当業者は容易に確認す\nることができると主張する。
確かに,原告が主張する技術は,いずれも本件発明が属する技術分
野における一般的な技術である,抗体類の製造方法やリガンド・受容
体の結合アッセイ法であって,例えば,抗原又はエピトープが特定さ
れている場合に,ファージディスプレイ法等の周知の技術を適用する
ことによって,それに対応する抗体が得られることは技術常識である
といえる(この点,当事者間に争いはない)。しかし,本件発明に係
る「モノクローナル抗体の抗原結合部分がWnt1特異的であり,優
先的にWnt1誘導シグナル伝達経路を阻害するが,Wnt3a誘導
シグナル伝達経路を阻害しない」「LRP6結合分子」を生産するた
めには,まず,本件発明に係るLRP6の第1又は第3プロペラに相
当するそれぞれ300程度のアミノ酸の配列から,本件発明に係る特
異性を満たすエピトープになり得ると予想される特定の塩基配列を選\n定した上で,ファージディスプレイ法などの周知の手法によってそれ
らに対応する化学構造(アミノ酸配列)を有するペプチド(すなわち\nFab)を取得し,得られた多数のFabの中から,「Wnt1特異
的であり,優先的にWnt1誘導シグナル伝達経路を阻害するが,W
nt3a誘導シグナル伝達経路を阻害しない」との機能を有するFa\nbを特定することが必要である。
これに対し,本件明細書には,本件発明に係る特異性を満たすエピ
トープとなり得ると予想される特定の塩基配列の具体的な選定方法に\nついて何ら記載がないから,本件明細書に基づいて本件発明のLRP
6結合分子を得ようとする当業者は,結局,発明者が本件発明を発明
した際に行ったのと同程度の試行錯誤をしなければならないところ,
これは当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を強いるものという
べきである。
すなわち,エピトープを特定すれば,それに対応する抗体は周知の
手法により得ることができるとはいえるものの,本件明細書には,そ
のエピトープについて,具体的なアミノ酸配列等のその構造に関する\n技術的特徴が実施例として開示されておらず,また,本件明細書にお
ける他の記載及び出願時の技術常識に基づいても,エピトープ又はそ
れに対応する抗体結合部分の具体的構造等を特定することができない\n以上,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて本
件発明に係る結合分子を容易に生産することができるとはいえない。
・・・
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請
求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範
囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明
の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認
識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも
当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認
識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解する
のが相当である。
b これを本件についてみると,本件発明1の技術的特徴は,原告が主
張するとおり,特定のWntとLRP6におけるその特定の結合部位
との関係(例えば,Wnt1の結合部位はプロペラ1の領域であるこ
と等)を有し,具体的な抗原結合部分(Fab)を備える「Wnt1
アンタゴニスト抗体」及び「Wnt3aアンタゴニスト抗体」にある
と認められる。そして,特許請求の範囲に記載されているとおり,「抗
原結合部分が,配列番号:1のアミノ酸20−326;または…のい
ずれかに含まれるか,またはいずれかと重複しているヒトLRP6(配
列番号:1)のエピトープに結合し」,「モノクローナル抗体の抗原
結合部分がWnt1特異的であり,優先的にWnt1誘導シグナル伝
達経路を阻害するが,Wnt3a誘導シグナル伝達経路を阻害しない」
等の主として機能によって特定される広範な化学物質の発明について\n特許を受けようとするものである。
一方,上記ア(イ)bにおいて説示したとおり,本件明細書には,具
体的な抗体の抗原結合断片Fabを得たことをうかがわせるプライベ
ート番号(Fab003,Fab015など)が記載されているもの
の,それらの具体的なFabの構造(アミノ酸配列)も,当該抗原結\n合断片が認識するエピトープ(LRP6中の数個のアミノ酸配列)も
記載されていない(なお,上記のとおり,実験結果が記載されていた
と推測される図が全て欠落しているため,これらのFabが有する詳
細な機能・特性の検証自体が事実上不可能\である。)。そして,特許
請求の範囲には,「モノクローナル抗体の抗原結合部分がWnt1特
異的であり,優先的にWnt1誘導シグナル伝達経路を阻害するが,
Wnt3a誘導シグナル伝達経路を阻害しない」という機能的な特徴\nを有することが記載されているものの,これらの機能と得られたFa\nbの構造上の特徴等を関連づける情報も何ら記載されていない。\n
そうすると,本件発明1について,特許請求の範囲に記載された発
明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記
載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のも
のであるとも,また,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の
課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
このことは,本件発明2〜22,31〜33についても同様である。
・・・
そこで検討するに,特許異議の申立てについての決定には,決定の結論及\nび理由を記載しなければならない(特許法120条の6第1項4号)。
この点に関連して,特許法157条2項4号は,審決をする場合には審決
書に理由を記載しなければならないと定めている。この趣旨は,審判官の判
断の慎重,合理性を担保しその恣意を抑制して審決の公正を保障すること,
当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与
えること及び審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にすることにあ
るというべきであり,したがって,審決書に記載すべき理由としては,当該
発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の技術上の常識又は
技術水準とされる事実などこれらの者にとって顕著な事実について判断を示
す場合であるなど特段の事由がない限り,前示のような審判における最終的
な判断として,その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示
することを要するものと解するのが相当である(最高裁昭和59年3月13
日第三小法廷判決・集民141号339頁)ところ,このことは特許異議の
申立てに係る決定についても同様と解される。\n
(3) 本件についてみると,上記第2の5において認定したとおり,本件取消決
定に係る決定書そのものには,結論に至った具体的な判断過程も,その根拠
となるべき証拠による認定事実も何ら記載されていない。
しかし,当該決定書には,「平成28年5月13日付けで取消理由を通知
し」,「上記の取消理由は妥当なものと認められる」との記載がされており,
本件取消理由通知書には,取消理由の要旨と,詳細については本件異議申立\n書を参照のこととの記載がされ,本件異議申立書には,本件特許が取り消さ\nれるべきであることについての理由が,証拠を具体的に摘示して,詳細に記
載されているのであるから,本件異議申立書,本件取消理由通知書及び本件\n取消決定に係る決定書の全体をみれば,当該決定書の記載が,審決の公正を
保障し,当事者が決定に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに
便宜を与え,決定の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にするという趣
旨に反するものとはいえない。また,本件異議申立手続において,被告が本\n件取消理由通知をしたのに対し,原告が応答をしなかったという経緯も踏ま
えれば,本件取消決定に係る決定書そのものに,結論に至った具体的な判断
過程や,その根拠となるべき証拠による認定事実が何ら記載されていないと
しても,上記の結論に変わりはないものというべきである。
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2018.09.21
平成29(行ケ)10172 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年9月4日 知的財産高等裁判所(1部
無効審判において、原告は訂正をしましたが、訂正後のクレームについて実施可能要件およびサポート要件違反として無効と判断されました。知財高裁は、サポート要件違反であるので無効と判断しました。
特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の
記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,
発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当
該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か,また,発明の詳
細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課
題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2) 特許請求の範囲の記載
本件各発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2【請求項1】ないし【請求項
3】のとおりである。
・・・
そうすると,当業者は,原出願日時点において,キレート配位子となり得る構造\nを有する分子が,何らかの方法により,インテグラーゼ阻害作用に関与する可能性\nがあることは認識していたものの,キレート配位子となり得る構造を有する分子が\nインテグラーゼ阻害作用を有するとは限らないとの技術常識を有していたというべ
きである。
(6) 当業者が本件各発明の課題を解決できると認識し得るかについて
本件各発明の課題は,インテグラーゼ阻害作用を有する化合物を含有する医薬組
成物を新たに提供するというものである。
しかし,本件明細書には,本件各発明に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を
有することを示す薬理データは,一つも記載されておらず,本件各発明に係る化合
物がインテグラーゼ阻害作用を示すに至る機序についても記載されていない。
また,原出願日時点におけるインテグラーゼ阻害剤の構造に対するわずかな修飾\n変化によって,そのインテグラーゼ阻害作用に大きな差異が生じ得るとの前記の技
術常識に照らせば,A群等試験例化合物及びB群等試験例化合物がインテグラーゼ
阻害作用を有することを示す薬理データをもって,当業者が,本件各発明に係る化
合物についてもインテグラーゼ阻害作用を有すると認識することはできない。
さらに,原出願日時点におけるキレート配位子となり得る構造を有する分子がイ\nンテグラーゼ阻害作用を有するとは限らないとの前記の技術常識に照らせば,本件
各発明に係る化合物がキレート配位子となり得る構造を有することをもって,当業\n者が,本件各発明に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有すると認識すること
はできない。
その他,本件各発明に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有すると当業者に
認識させ得るような原出願日時点における技術常識も見当たらない。
したがって,本件各発明に係る化合物は,当業者がインテグラーゼ阻害作用を有
する化合物を含有する医薬組成物を新たに提供するという本件各発明の課題を解決
できると認識し得る範囲のものとはいえないというべきである。
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こちらは対応の侵害訴訟です。
◆平成29(ネ)10105
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2018.09.14
平成29(行ケ)10189 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年9月4日 知的財産高等裁判所(3部)
「概ね面一」との用語が不明確性(36条6項2号)違反が争われました。第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確ではないとして、無効理由なしとした審決が維持されました。判決の最後に図面があります。
特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確
でない場合に,特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となることによ
り生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで,特許を受
けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,
願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時に
おける技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不
利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであ
る。
(2) この点,原告は,審決が,特許請求の範囲の「カバーが水槽の底部面に概
ね面一」について,「面一」とは,止水時において,水槽の底部面とカバー
の頂部とがつまずくことを防止できる程度にほぼ同じ高さになることを意味
するものと解釈できると説示したのに対して,「止水時において,水槽の底
部面とカバーの頂部とがつまずくことを防止できる程度」というのは,排水
口のために水槽の底部面に形成された円筒状陥没部のR面を含む傾斜面の形
状等やカバー自体の形状でも異なるほか,当該傾斜面の形状や傾斜角度とカ
バーの形状の組合せによっても異なり,さらには,使用者の年齢や性別,体
格等によっても異なる以上,「カバー(特にカバーの頂部)が水槽の底部面
に概ね面一」が「つまずくことを防止できる程度」という趣旨であるとすれ
ば,権利の及ぶ範囲が不明確であり,本件発明に接した第三者は不測の不利
益を被る,などと主張する。
しかしながら,本件明細書の【0013】には,「カバーにつまづくこと
を防止するため,カバーの頂面60が水槽の底部1面と概ね面一になるよう
円筒状陥没部10の縁とカバー6の縁との位置を略一致させることがよい。」
との記載があるものの,【0008】には,「カバーが水槽の底部面と概ね
面一にされ,排水口部を覆うことになって排水口部内の汚れを覆い隠すこと
ができ,見栄え良くできる。」との記載もあり,かかる記載を根拠にすると,
「概ね面一」とは,「排水口部を覆うことになって排水口部内の汚れを覆い
隠すことができ,見栄え良くできる程度」と定義していると理解することも
可能である。\nそもそも,本件発明の排水栓装置は,洗面化粧台,浴槽,流し台などあら
ゆる水槽が含まれるところ,「カバーにつまづくことを防止できる程度」と
いうのは,飽くまで浴槽の観点からみた理解であるから(この定義が明確と
いえるかどうかの点はひとまず措く。),このように理解できたとしても,
浴槽以外の,例えば,洗面化粧台における「概ね面一」の範囲が直ちに明ら
かになるわけではない。
したがって,原告の主張は,「カバー(特にカバーの頂部)が水槽の底部
面に概ね面一」が「つまずくことを防止できる程度」を意味するとの理解を
前提とする限りにおいて正当な指摘を含んでいるが,それでは足りないとい
うべきである。
(3) そこで,さらに進んで検討するに,本件明細書には,「概ね面一」の意味
するところを説明する確たる定義はないけれども,本件明細書の図1には,
水槽の底部面とカバーの頂部(頂面60)とがほぼ同じ高さになる状態が示
されており,この状態をもって「カバーが水槽の底部面に概ね面一」と理解
することは自然である。そして,寸法誤差,設計誤差等により,水槽の底部
面とカバーの頂部(頂面60)とが完全に同じ高さとならない場合が存する
ことは技術常識であるといえるから,カバーと水槽の底部面との高さの差が,
このような範囲にとどまるものを「概ね面一」と理解するなら,洗面化粧台,
浴槽,流し台などあらゆる水槽について,「カバーが水槽の底部面に概ね面
一」の意味内容を統一的に理解することができる。
審決の,「概ね面一」とは,「止水時に,カバーを水槽の底部面に対し積
極的に出没させた位置に設けようとするものではない」との説示もこうした
趣旨と理解できる。
そうとすれば,「概ね面一」の語を用いているがゆえに特許請求の範囲の
記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず,これ
に反する原告の主張は採用できない。
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2018.09.14
平成29(行ケ)10210 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年9月6日 知的財産高等裁判所(3部)
経緯がややこしいです。無効理由無しの第1次審決が第1次審取で取り消され、本件原告は訂正をしました。第2次審決は訂正を認めた上、無効と判断しました。裁判所は、明確性違反なしと判断しました。
本件訂正後の特許請求の範囲にいう「平均分子量が2万〜4万のコンド
ロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,重量
平均分子量,粘度平均分子量,数平均分子量等のいずれを示すものである
かについては,本件訂正明細書において,これを明らかにする記載は存在
しない。もっとも,このような場合であっても,本件訂正明細書における
コンドロイチン硫酸又はその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を
合理的に解釈し,当業者の技術常識も参酌して,その平均分子量が何であ
るかを合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきで
ある。
イ 上記1(2)カのとおり,本件訂正明細書には,「本発明に用いるコンドロ
イチン硫酸又はその塩は公知の高分子化合物であり,平均分子量が0.5
万〜50万のものを用いる。より好ましくは0.5万〜20万,さらに好
ましくは平均分子量0.5万〜10万,特に好ましくは0.5万〜4万の
コンドロイチン硫酸又はその塩を用いる。かかるコンドロイチン硫酸又は
その塩は市販のものを利用することができ,例えば,生化学工業株式会社
から販売されている,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万,
平均分子量約2万,平均分子量約4万等)が利用できる。」(段落【00
21】)と記載されている。
上記の「生化学工業株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナ
トリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等)」
については,本件出願日当時,生化学工業株式会社は,同社製のコンドロ
イチン硫酸ナトリウムの平均分子量について重量平均分子量の数値を提供
しており,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として当
業者に公然に知られた数値は重量平均分子量の数値であったこと(上記(3)
イ(ア))からすれば,その「平均分子量」は重量平均分子量であると合理的
に理解することができ,そうだとすると,本件訂正後の特許請求の範囲の
「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平
均分子量も重量平均分子量を意味するものと推認することができる。加え
て,本件訂正明細書の上記段落に先立つ段落に記載された他の高分子化合
物の平均分子量は重量平均分子量であると合理的に理解できること(上記
(2)イ),高分子化合物の平均分子量につき一般に重量平均分子量によって
明記されていたというのが本件出願日当時の技術常識であること(上記(2)
ウ)も,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万〜4万のコン
ドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が重量平均分子量である
という上記の結論を裏付けるに足りる十分な事情であるということができ\nる。
ウ よって,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は明確性要件を充足するも
のと認めるのが相当である。
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2018.07. 8
平成29(行ケ)10143 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年7月5日 知的財産高等裁判所
実施可能要件およびサポート要件に違反するとした無効審決が維持されました。\n
ところで,本件訂正発明のような有機アンモニウム化合物を含有するレジ
スト除去・洗浄剤では,レジスト除去は塩基の作用によるものであって,塩
基の濃度が高い,あるいは,pHが高いほど,その除去作用が強いという傾向
にあることは当業者における技術常識である(弁論の全趣旨)。また,回路
に用いられる代表的な導電性金属である銅やアルミニウムの腐食性が,接触\nする組成物・溶液の種類とそのpHに依存することも,当業者における技術常
識であり,例えば,アルミニウムは,接触する溶液の種類によるものの, pH
が12以上で不安定化する傾向にあることは周知の技術常識である(甲48)。
これらの技術常識に照らせば,当業者は,一般論として,塩基の濃度とpH
を調整することにより,レジスト除去に代表されるポリマー,エッチング・\nアッシング残渣の除去作用の強弱と,回路材料である金属の腐食作用の強弱
とを変化させることが可能であると一応理解できるというべきである。さら\nに,当業者は,本件明細書の段落【0089】の記載から,レジスト除去を
より高温で,より長時間行うと,より完全となる傾向があることも理解する
ことができる。
しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,実際のpHが明らかにされた
具体的な組成物の記載は一切存在しないし(例えば,W3,W11〜W13
はpH<7,W5及びW6はpH>12であることが記載されているものの,具体的に
pHがいかなる値であったのかは明らかでない。),上記(3)において説示した
とおり,訂正後発明1に係る成分を含有し,基板からのポリマー,エッチン
グ・アッシング残渣除去と金属で形成された回路の損傷量を許容し得る範囲
に抑えることが両立している具体的な組成物の例も記載されていない。
また,本件明細書に記載されているその余の組成物についても,基板から
のポリマー,エッチング・アッシング残渣の除去作用と回路材料である金属
の腐食作用の各程度を,同一の組成物について具体的に評価した例は発明の
詳細な説明に記載されておらず,実際のpHの値が具体的に明らかにされた組
成物すら記載されていない。
(5) 以上検討したところによれば,本件明細書に接した当業者は,塩基の濃度
及びpHと,基板からのポリマー,エッチング・アッシング残渣の除去作用,
及び回路材料である金属の腐食作用との間に関係性があるとの技術常識を考
慮して,pHを調整することにより,ポリマー,エッチング・アッシング残渣
の除去と金属で形成された回路の損傷量を許容し得る範囲に抑えることの両
立が可能であることを一応理解できるとはいえるものの,反面,本件明細書\nの発明の詳細な説明においては,当該調整の出発点となるべき具体的組成物
の実際のpHの値が一切明らかにされていない上,基板からのポリマー,エッ
チング・アッシング残渣の除去作用と回路材料である金属の腐食作用との関
係において,どの程度のpHの調整が必要であるのかについての具体的な情報
が余りにも不足しているといわざるを得ない。そのため,当業者が,本件明
細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,本件訂正発明に係る組成物を生
産しようとする場合,具体的に使用するレジストや回路材料等を念頭に置い
て,基板からのポリマー,エッチング・アッシング残渣の除去と回路の損傷
量を許容し得る範囲に抑えることとが両立した適切な組成物を得るためには,
的確な手掛かりもないまま,試行錯誤によって各成分の配合量を探索せざる
を得ないところ,このような試行錯誤は過度の負担を強いるものというべき
である。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,訂正後発明1〜7
の組成物を生産でき,かつ,使用することができるように具体的に記載され
ているものとはいえない。
・・・
しかし,上記2において説示したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明
には,上記2つの性質が両立していると具体的に評価された実施例に関する
記載はなく,技術常識を併せ考慮したとしても,当業者が本件訂正発明に係
る組成物を生産しようとする場合,過度の試行錯誤によって各成分の配合量
を探索せざるを得ない。
したがって,本件訂正発明1〜7に係る特許請求の範囲の記載は,技術常
識を考慮しても,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,集
積回路基板等から,ポリマー,エッチング残渣,アッシング残渣,又はそれ
らの組合せの除去と回路の損傷量を許容し得る範囲に抑えることとを両立さ
せることのできる組成物と認識できる範囲内のものであるとはいえない。
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2018.07. 2
平成29(行ケ)10178 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年6月27日 知的財産高等裁判所
進歩性違反、サポート要件違反、明確性違反の無効主張について、「無効理由無し」とした審決が維持されました。
(1) サポート要件の適合性について
ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1に関し,「医薬品や食品
のような経口投与用組成物等の品質を損なわずに優れた識別性を有する経
口投与用組成物を得ることができ,かつ,生産性にも優れたマーキング方
法を開発するという課題」を解決するための手段として,「本発明」は,酸
化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少な
くとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の表面に,所\n定のレーザー光を走査することにより,変色誘起酸化物を凝集させること
に起因した変色が生じるようにした構成を採用したことの記載があること\nは,前記1(1)イ認定のとおりである。
イ 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,1)実施例1ないし16にお
いて,表1のレーザー装置及び照射条件(波長355nm,平均出力8W),\n表3のレーザー装置及び照射条件(波長266nm,平均出力3W)又は表\
4のレーザー装置及び照射条件(波長532nm,平均出力12W)で,酸
化チタン,黄色三二酸化鉄又は三二酸化鉄錠剤を配合した,フィルムコー
ト錠等に対し,文字又は中心線をマーキングしたこと(【0038】〜【0
056】,表1,表\3及び表4),2)表1のレーザー装置及び照射条件かつ\n走査速度1000mm/secで,実施例13のフィルム錠にレーザー照
射を行い,レーザー照射前後の二酸化チタンの粒子の状態を透過型電子顕
微鏡(TEM)により観測した結果,レーザー照射後に二酸化チタンの粒子
が凝集していることが確認されたこと(【0057】〜【0059】,図3,
図4),3)レーザー波長に関し,レーザーは,その波長が200〜1100
nmを有するものを用いることができ,好ましくは1060〜1064n
m,527〜532nm,351〜355nm,263〜266nm又は2
10〜216nmの波長であり,より好ましくは527〜532nm,3
51〜355nm又は263〜266nmの波長であること(【0022】),
4)レーザー出力に関し,レーザーを走査する際の平均出力は,対象とする
経口投与用組成物の表面がほとんど食刻されない範囲で使用することがで\nき,例えば,その平均出力は,0.1W〜50Wであり,好ましくは1W〜
35Wであり,より好ましくは5W〜25Wであるが,単位時間あたりの
レーザー照射エネルギーが強すぎると,アブレーションにより錠剤表面で\n食刻が発生し,変色部分まで剥がれてしまい,また,出力が弱いと変色が十\n分ではないこと(【0023】),5)レーザーの走査速度(スキャニング速
度)に関し,スキャニング速度は,特に限定されるものではないが,20m
m/sec〜20000mm/secであり,また,スキャニング速度は,
高いほどマークの識別性に影響を与えることなく生産性を上げることがで
きることから,例えば,レーザー出力5Wでは,スキャニング速度は,80
mm/sec〜10000mm/sec,好ましくは90mm/sec〜
10000mm/sec,より好ましくは100mm/sec〜1000
0mm/secであり,レーザー出力が8Wの場合には,スキャニング速
度は,250mm/sec〜20000mm/sec,好ましくは500
mm/sec〜15000mm/sec,より好ましくは1000mm/
sec〜10000mm/secであること(【0024】),6)単位面積
当たりのエネルギーに関し,単位面積当たりのレーザーのエネルギーは,
マーキングの可否及び経口投与用組成物の食刻の有無の観点から,390
〜21000mJ/cm2であり,好ましくは400〜20000mJ/c
m2,より好ましくは450〜18000mJ/cm2であり,また,390
mJ/cm2より低い場合には,マークを施すことができないのに対し,2
1000mJ/cm2より大きい場合には,食刻が生じるため,好ましくな
いこと(【0025】)の記載がある。
上記1)ないし6)の記載を総合すると,本件明細書に接した当業者は,請
求項1記載の波長(200nm〜1100nm),平均出力(0.1W〜5
0W)及び走査工程の走査速度(80mm/sec〜8000mm/se
c)の各数値範囲内で,波長,平均出力及び走査速度を適宜設定したレーザ
ー光で,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択
される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の
表面を走査することにより,変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させ\nてマーキングを行い,「医薬品や食品のような経口投与用組成物等の品質
を損なわずに優れた識別性を有する経口投与用組成物を得ることができ,
かつ,生産性にも優れたマーキング方法を開発する」という本件発明1の
課題を解決できることを認識できるものと認められる。
したがって,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載され
たものといえるから,請求項1の記載は,サポート要件に適合するものと
認められる。同様に,請求項2ないし22の記載も,サポート要件に適合す
るものと認められる。
◆判決本文
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2018.06.27
平成29(行ケ)10153 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年6月19日 知的財産高等裁判所
「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の明確性、本件発明の課題が解決できるのかについてサポート要件違反が争われました。
上記記載事項によれば,めっき処理を行った亜鉛又は亜鉛系め
っき鋼板において,酸化性雰囲気中で加熱を行うことによって,亜鉛の蒸
発を阻止するバリア層として酸化皮膜層が形成されるが,亜鉛又は亜鉛系
めっきの共通成分は亜鉛であり,亜鉛又は亜鉛系めっき鋼板がいずれも均
一な酸化皮膜を形成し,塗膜密着性,耐食性が良好という共通の性質を有
することが理解できる。そうだとすれば,当業者であれば,当然,本件発
明1の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は「亜鉛の酸化皮膜」
であると理解すると認められる。
してみると,本件発明1の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」
が,亜鉛系めっきに由来する亜鉛の酸化皮膜を意味することは明確である
といえる。このことは,本件発明1を引用する本件発明2ないし6及び(同
様の文言を有する)本件発明7についても同様である。
ウ 原告の主張について
原告は,本件訂正によって,特許請求の範囲の記載にあった「亜鉛また
は亜鉛系合金のめっき層」に代えて,「スズ−亜鉛合金めっき層」などの
具体的な合金めっき層が記載されたこと,本件明細書においては,「スズ
−亜鉛合金めっき」の具体例としては,「スズ−8%亜鉛合金めっき」の
みが記載されている(【0038】)こと,「スズ−8%亜鉛合金めっき」
を加熱した場合に生ずる変化については本件明細書に全く記載がないこと
などを挙げて,「亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」が亜鉛の酸化皮膜でな
ければならないと当然に解釈できるとはいえないから,金属酸化物の種類
が不明確であると主張する。
しかしながら,本件明細書の記載から,亜鉛又は亜鉛系めっき鋼板がい
ずれも均一な酸化皮膜を形成し,塗膜密着性,耐食性が良好という共通の
性質を有することが理解でき,当業者であれば,本件発明1の「加熱時の
亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は「亜鉛の酸化皮膜」であると理解する
と認められることは,前記ア,イのとおりである。他方,「スズ−8%亜
鉛合金めっき」についてのみ,これと異なる理解をすると認めるべき合理
的事情はない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(2) 酸化皮膜の形成時期について
ア 原告は,本件訴訟におけるのと同様に,先行事件訴訟においても,「亜
鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期が明らかでないと主張して明確
性要件を争っており,その結果,原告の主張を排斥する先行事件判決がな
され,同判決は既に確定しているものである(当裁判所に顕著な事実)。
そうすると,原告が本件訴訟において再びこの点を争うことは,実質的
に前訴の蒸し返しに当たり,訴訟上の信義則に反するものとして許されな
いというべきである。
よって,この点に関する原告の主張も採用できない。
イ 念のため,中身について検討してみても,この点に関しては,先行事件
判決が示すとおり,本件明細書の【0018】には,酸化皮膜は熱間プレ
スに先立つ加熱前にある程度形成されることが必要で,その後熱間プレス
加工のための700〜1000℃の加熱によっても形成が進むと推測され
ることが記載され,【0042】及び【0043】には,酸化皮膜は,熱
間プレス加工のため700〜1000℃に加熱する前に,予め形成されて\nいる場合と形成されていない場合があることを前提として,予め酸化皮膜\nが形成されている材料の場合には,酸化皮膜の維持に悪影響がない限り熱
間プレスのための加熱方法については特に制限がないことが記載され,さ
らに,【0064】及び【表5】には,実施例No.2,3として,電気\nめっきを施した後,熱間プレスに先立つ加熱を大気炉で850℃,3分間
行ったものについて均一な酸化皮膜が形成されたことが記載されていると
ころ,電気めっきにおいては,めっき層は加熱されないことから,上記実
施例はいずれも熱間プレスに先立つ加熱前に予め酸化皮膜が形成されてい\nない場合であって,この場合の酸化皮膜は,熱間プレスのための加熱(大
気炉で850℃,3分間)により形成されたものと理解することができる。
そうすると,本件発明の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」は,
熱間プレスの加熱前に,予め形成されている場合,ある程度形成されてい\nてその後熱間プレスの加熱時に形成が進む場合,予め形成されていないが\n熱間プレスの加熱により形成される場合のいずれでもよいことから,その
形成時期は熱間プレスの直前までであればよいと解するのが相当である。
したがって,本件発明1及びこれを引用する本件発明2ないし6並びに
本件発明7の「加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜」の形成時期は,
本件明細書の発明の詳細な説明を参照すれば明確というべきであるから,
原告の主張はいずれにしても失当である。
(3) 「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス
用」について
ア 本件明細書の【0016】ないし【0018】,【0029】,【00
34】,【0042】,【0044】,【0048】,【0050】及び
【0064】には,熱間プレスは700〜1000℃という温度で加熱す
ることを意味すること,熱間プレス成形の特徴として成形と同時に焼き入
れを行うことから,そのような焼き入れを可能とする鋼種を用いること,\n熱間成形後に急冷して高強度,高硬度となる焼き入れ鋼,例えば表1にあ\nるような鋼化学成分(鋼種A等)の高張力鋼板が実用上は特に好ましいこ
と,700〜1000℃の温度で加熱してから熱間プレスを行い,めっき
層表面に亜鉛の酸化皮膜が,下層の亜鉛の蒸発を防止する一種のバリア層\nとして全面的に形成されていること,具体的には,表1に示す鋼種Aを,\n大気雰囲気の加熱炉内で950℃×5分加熱して,加熱炉より取り出し,
このままの高温状態で円筒絞りの熱間プレス成形を行うこと,また,熱間
プレスに先立つ加熱を,大気炉で850℃,3分間行うことが記載されて
いる。
そして,これらの記載によれば,本件発明1の「700〜1000℃に
加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用」という文言において,
1)「700〜1000℃に加熱されて」は,熱間プレスの加熱条件であり,
2)「プレスされ焼き入れされる」は,成形と同時に焼き入れを行う熱間プ
レス成形の特徴であり,3)「用」という文言の意味は,「(接尾語的に)
…に使うためのものの意を表す」(広辞苑第六版)であることからすると,\n「熱間プレス用」は,後に続く,本件発明1の「鋼板」を修飾し,鋼板が
熱間プレスに使うためのものであることを意味するものと理解できる。
してみれば,「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れさ
れる」は,「熱間プレス」の加熱条件及び特徴を表現するものと理解でき\nるから,本件発明1の「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き
入れされる熱間プレス用」という文言は明確である。このことは,本件発
明1を引用する本件発明2〜6及び(同様の文言を有する)本件発明7に
ついても同様である。
イ 原告の主張について
原告は,本件発明は用途発明であるとした上で,種々理由を述べて,「7
00〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用」
という記載の意味が不明確であると主張する。
しかしながら,前記アのとおり,「700〜1000℃に加熱されてプ
レスされ焼き入れされる」は,「熱間プレス」の加熱条件及び特徴を表現\nするものと認められるから,その余の点について判断するまでもなく,本
件発明1の「700〜1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる
熱間プレス用」という文言の意味は明確である。
また,本件発明1が用途発明であるか否かは,その結論を左右するもの
ではない。
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◆平成26(行ケ)10201
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2018.05.30
平成29(行ケ)10129 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年5月24日 知的財産高等裁判所
知財高裁(3部)は、サポート要件の判断の前提となる課題の認定自体を誤ったとして、サポート要件違反の異議理由ありとした審決を取り消しました。
前記のとおり,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否か
は,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請
求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発
明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決
できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がな
くとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると
認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
また,発明の詳細な説明は,「発明が解決しようとする課題及びその解
決手段」その他当業者が発明の意義を理解するために必要な事項の記載が
義務付けられているものである(特許法施行規則24条の2)。
以上を踏まえれば,サポート要件の適否を判断する前提としての当該発
明の課題についても,原則として,技術常識を参酌しつつ,発明の詳細な
説明の記載に基づいてこれを認定するのが相当である。
かかる観点から本件発明について検討するに,本件明細書の発明の詳細
な説明には,米糖化物含有食品であるライスミルクの製造時に各種酵素を
制御することなく加えると,プロテアーゼによりアミノ酸,オリゴペプチ
ドが生成し,うまみ調味料様の雑味がついてしまい,用途が限られたこと
(【0002】),食感が滑らかで雑味がなくすっきりした味を持つ米糖
化液としてアミノ酸濃度が一定範囲である米糖化液が開発されたが,甘味,
コク(ミルク感)等の風味は十分に改善されておらず,必ずしも満足できるものではなかったこと,さらに,グラノーラ,パンケーキ等が流行する一方,牛乳アレルギー,大豆アレルギーの人口は増加傾向にあり,風味が改善された牛乳や豆乳の代用品が求められていたこと(【0003】)などが背景技術として記載されている。その上で,発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題として,「本発明は,米糖化物含有食品のコ\nク,甘味,美味しさ等を改善するという課題を解決すべく鋭意研究を重ね
た結果見出されたものである。すなわち,本発明は,コク,甘味,美味し
さ等を有する米糖化物含有食品を提供することを目的とする。さらに,従
来牛乳や大豆を用いて製造又は調理されていた多数の食品を作ることを可
能にする食品を提供することも目的とする。」との記載がある(【000\n6】)。
これらの記載からすれば,本件発明は,「コク,甘味,美味しさ等を有
する米糖化物含有食品を提供すること」それ自体を課題とするものである
ことが明確に読み取れるといえる。
イ これに対し,異議決定は,「本件発明1の課題は,本件特許明細書の『コ
ク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること』(【0
006】)との記載及び実施例(【0031】〜【0043】)において,
『コク(ミルク感)』,『甘み』及び『美味しさ』の各評価項目について
評価を行っていることから,『コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物
含有食品を提供すること』と認められる。」と,一旦は上記アと同様に本
件発明1の課題を認定しながら,最終的なサポート要件の適否判断に際し
ては,「本件発明1の課題は,上記aのとおり,具体的には,実施例1−
1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて
優位な差を有するものを提供することであ(る)」とその課題を認定し直
し,課題の解決手段についても,「本件発明1が課題を解決できると認識
できるためには,…実施例1−1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),
甘味及び美味しさについて優位な差を有することを認識できることが必要
である。」としている(異議決定12頁16〜25行)。
この点について,被告は,発明が解決しようとする課題とは,出願時の
技術水準に照らして未解決であった課題であるから,本件発明1の「コク,
甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」という課題
は,本件出願時の技術水準を構成する米糖化物含有食品(具体的には,実\n施例1−1のライスミルク)に比べて,コク,甘味,美味しさ等を有する
米糖化物含有食品を提供することであり, したがって,異議決定において
は,本件発明1の課題について,「具体的には,実施例1−1のライスミ
ルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有
するものを提供すること」としたものである(したがって,異議決定の課
題の認定に誤りはない)と主張する。
確かに,発明が解決しようとする課題は,一般的には,出願時の技術水
準に照らして未解決であった課題であるから,発明の詳細な説明に,課題
に関する記載が全くないといった例外的な事情がある場合においては,技
術水準から課題を認定するなどしてこれを補うことも全く許されないでは
ないと考えられる。
しかしながら,記載要件の適否は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明
の記載に関する問題であるから,その判断は,第一次的にはこれらの記載
に基づいてなされるべきであり,課題の認定,抽出に関しても,上記のよ
うな例外的な事情がある場合でない限りは同様であるといえる。
したがって,出願時の技術水準等は,飽くまでその記載内容を理解する
ために補助的に参酌されるべき事項にすぎず,本来的には,課題を抽出す
るための事項として扱われるべきものではない(換言すれば,サポート要
件の適否に関しては,発明の詳細な説明から当該発明の課題が読み取れる
以上は,これに従って判断すれば十分なのであって,出願時の技術水準を\n考慮するなどという名目で,あえて周知技術や公知技術を取り込み,発明
の詳細な説明に記載された課題とは異なる課題を認定することは必要でな
いし,相当でもない。出願時の技術水準等との比較は,行うとすれば進歩
性の問題として行うべきものである。)。
これを本件発明に関していえば,異議決定も一旦は発明の詳細な説明の
記載から,その課題を「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食
品を提供すること」と認定したように,発明の詳細な説明から課題が明確
に把握できるのであるから,あえて,「出願時の技術水準」に基づいて,
課題を認定し直す(更に限定する)必要性は全くない(さらにいえば,異
議決定が技術水準であるとした実施例1−1は,そもそも公知の組成物で
はない。)。
したがって,異議決定が課題を「実施例1−1のライスミルクに比べて
コク(ミルク感),甘味及び美味しさについて有意な差を有するものを提
供すること」と認定し直したことは,発明の詳細な説明から発明の課題が
明確に読み取れるにもかかわらず,その記載を離れて(解決すべき水準を
上げて)課題を再設定するものであり,相当でない。
以上によれば,異議決定における課題の認定は妥当なものとはいえず,
被告の主張は採用できない。
(2) 課題を解決できると認識できる範囲について
ア 上記のとおり,本件発明の課題は,コク,甘味,美味しさ等を有する米
糖化物含有食品を提供することであると認められるので,本件発明が,発
明の詳細な説明の記載から,「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物
含有食品を提供する」という課題を解決することができると認識可能な範\n囲のものであるか否かについて検討する。
・・・
(エ) そして,上記試験例1,2及び4の結果を総合すれば,本件発明4に
ついても,課題が解決できる範囲のものであることが裏付けられている
といえる。
エ 以上によれば,本件発明は,いずれも,発明の詳細な説明の記載から,
「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供する」という
課題を解決することができると認識可能な範囲のものであるといえる。\n
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2018.05. 9
平成27(ワ)21684 特許権 民事訴訟 平成30年4月20日 東京地方裁判所(40部)
特許権侵害事件です。争点は、本件発明「アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法」は製造方法の発明か、サポート要件違反、実施可能要件違反などです。製造会社だけでなく、商社、コンビニが被告とされています。裁判所は、製造方法の発明かについては判断することなく、サポート要件違反・実施可能\要件違反として無効と判断しました。
ところで,耐食コーティングに用いる材料の種類や成分の違いにより,
缶内の飲料に与える影響に大きな差があることは,本件特許の出願日当時,
当業者に周知であるということができる(乙34〜36)。例えば,特開平
7−232737号公開特許公報(乙36)には,「エポキシ系樹脂組成物
を被覆した場合,ワイン系飲料に含まれる亜硫酸ガス(SO2)をはじめと
するガスに対するガスバリヤー性が劣っており,かつフレーバー成分の収
着性が高い。例えば,ワイン系飲料等を充填した場合,含有する亜硫酸ガ
ス(SO2)が塗膜を通過して下地の金属面を腐食する虞があり,場合によ
っては内容物が漏洩することもある。この亜硫酸ガスは下地の金属と反応
して硫化水素(H2S)を発生させるが,この硫化水素(H2S)は悪臭の
主要因となるばかりでなく,飲料の品質保持のため必要な亜硫酸ガス(S
O2)を消費するため飲料の品質を劣化させフレーバーを損なうこととな
る。また,この樹脂組成物は飲料中のフレーバーを特徴付ける成分を収着
しやすく,飲料用金属容器の内面に被覆するには官能的に充分満足のでき\nるものではない。」(段落【0004】),「一方,ビニル系樹脂組成物を被覆
した場合,…エポキシ系樹脂組成物と同様に亜硫酸ガス(SO2)等に対す
るガスバリヤー性に乏しく,やはり腐食や漏洩の危険性及び官能的な問題\nがある。」(段落【0005】)との記載がある。これによれば,耐食コーテ
ィングに用いる材料や成分が,ワイン中の成分と反応してワインの味質等
に大きな影響を及ぼすことは,本件特許の出願日当時の技術常識であった
ということができる。
上記のとおり,耐食コーティングに用いる材料の成分が,ワイン中の成
分と反応してワインの味質等に大きな影響を及ぼし得ることに照らすと,
本件明細書に記載された「エポキシ樹脂」以外の組成の耐食コーティング
についても本件発明の効果を実現できることを具体例等に基づいて当業
者が認識し得るように記載することを要するというべきである。
この点,原告は,本件発明の課題は,ワイン中の遊離SO2,塩化物及び
スルフェートの含有量を所定値以下にすることにより達成されるのであ
り,耐食コーティングの種類によりその効果は左右されない旨主張する。
しかし,塗膜組成物の組成を変えることにより塗膜の物性が大きく変動し,
缶内の飲料に大きな影響を及ぼすことは周知であり(乙34の第1表,乙\n35の第2,3表等),ワイン中の遊離SO2,塩化物及びスルフェートの\n含有量を所定値以下にすれば,コーティングの種類にかかわらず同様の効
果を奏すると認めるに足りる証拠はない。
(4) 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,具体例の開示がなく
とも当業者が本件発明の課題が解決できると認識するに十分な記載があると\nいうことはできない。そこで,本件明細書に記載された具体例(試験)によ
り当業者が本件発明の課題を解決できると認識し得たかについて,以下検討
する。
ア 本件明細書には,「パッケージングされたワインを,周囲条件下で6ヶ
月間,30℃で6ヶ月間保存する。50%の缶を直立状態で,50%の缶
を倒立状態で保存する。」(段落【0038】)との方法で試験が行われ
た旨の記載がある。しかし,本件明細書には,当該「パッケージングされ
たワイン」の「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度,そ
の他の成分の濃度,耐食コーティングに用いる材料や成分等については何
ら記載がなく,その記載からは,当該「パッケージングされたワイン」が
本件発明に係るワインであることも確認できない。
イ また,本件明細書には,試験方法について,「製品を2ヶ月の間隔を置
いて,Al,pH,°ブリックス(Brix),頭隙酸素及び缶の目視検査に関
してチェックする。…目視検査は,ラッカー状態,ラッカーの汚染,シー
ム状態を含む。…官能試験は,味覚パネルによる認識客観システムを用い\nる。」(段落【0039】)との記載がある。「頭隙酸素」については,
乙29文献(4頁下から2行〜末行)に「ヘッドスペースの酸素は,アル
ミニウムの放出に関して非常に重大である」との記載があるとおり,ワイ
ンの品質に大きな影響を与え得る因子であり,「官能試験」はワインの味\n質の検査であるから,いずれもその方法や結果は効果の有無を認識する上
で重要である。しかし,本件明細書には,「頭隙酸素」のチェック結果や
「目視検査」の結果についての記載はなく,「官能試験」についても「味\n覚パネルによる認識客観システム」についての説明や試験結果についての
記載は存在しない。
ウ さらに,本件発明に係る特許請求の範囲はワイン中の三つの成分を特定
した上でその濃度の範囲を規定するものであるから,比較試験を行わない
と本件発明に係る方法により所望の効果が生じることが確認できないが,
本件明細書の発明の詳細な説明には比較試験についての記載は存在しな
い。このため,当業者は,本件発明で特定されている「遊離SO2」,「塩
化物」及び「スルフェート」以外の成分や条件を同程度としつつ,「遊離
SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度を特許請求の範囲に記載
された数値の範囲外とした場合には所望の効果を得ることができないか
どうかを認識することができない。
加えて,耐食コーティングについては,試験で用いられたものが本件明
細書に記載されている「エポキシ樹脂」かどうかも明らかではなく,まし
て,エポキシ樹脂以外の材料や成分においても同様の効果を奏することを
具体的に示す試験結果は開示されていない。
エ 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された「試験」は,
ワインの組成や耐食コーティングの種類や成分など,基本的な数値,条件
等が開示されていないなど不十分のものであり,比較試験に関する記載も\n一切存在しない。また,当該試験の結果,所定の効果が得られるとしても,
それが本件発明に係る「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の
濃度によるのか,それ以外の成分の影響によるのか,耐食コーティングの
成分の影響によるのかなどの点について,当業者が認識することはできな
い。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明に実施例として記載された
「試験」に関する記載は,本件発明の課題を解決できると認識するに足り
る具体性,客観性を有するものではなく,その記載を参酌したとしても,
当業者は本件発明の課題を解決できるとは認識し得ないというべきであ
る。
オ この点,原告は,本件発明の特徴的な部分は,従来存在しなかった技術
思想であり,「塩化物」等の濃度には臨界的な意義もないので,その裏付
けとなる実験結果等の記載がないとしてもサポート要件には違反しない
と主張する。
しかし,前記判示のとおり,特許請求の範囲に記載された構成の技術的\nな意義に関する本件明細書の記載は不十分であり,具体例の開示がなくて\nも技術常識から所望の効果が生じることが当業者に明らかであるという
ことはできない。また,「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」
に係る濃度については,その範囲が数値により限定されている以上,その
範囲内において所望の効果が生じ,その範囲外の場合には同様の効果が得
られないことを比較試験等に基づいて具体的に示す必要があるというべ
きである。
・・・
(5) 以上のとおり,本件発明に係るワインを製造することは困難ではないが,
本件発明の効果に影響を及ぼし得る耐食コーティングの種類やワインの組成
成分について,本件明細書の発明の詳細な説明には十分な開示がされている\nとはいい難いことに照らすと,本件明細書の発明の詳細の記載は,当業者が
実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできず,特許\n法36条4項1号に違反するというべきである。
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2018.04.24
平成29(行ケ)10138 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年4月18日 知的財産高等裁判所
サポート要件、実施可能要件について、無効理由なしとした審決が維持されました。\n
原告は,図1に示された気体溶解装置は,加圧型気体溶解手段3によって生成さ
れ,溶存槽4に貯留された水素水を気体溶解装置の内部で循環させるようには構成\nされておらず,図3に示された気体溶解装置は,その内部に,「溶存槽4(41,4
2)」に貯留された水素水を「加圧型気体溶解手段3」に送出する「加圧送水通路」
を備えてはいないから,本件発明1は,図1に示された気体溶解装置,図3に示さ
れた気体溶解装置のいずれによってもサポートされていない旨主張する。
しかし,本件明細書には,図1に示された気体溶解装置について,「溶存槽4に保
存された液体は,降圧移送手段5である細管5a内で層流状態を維持して流れるこ
とで降圧され(S6),水素水吐出口10から外部へ吐出される(S7)。」(【003
4】)との記載がある一方で,「本発明の気体溶解装置1は,加圧型気体溶解手段3
で加圧して気体を溶解した液体を,排出せずに循環して加圧型気体溶解手段3に送
り,循環した後に,降圧移送手段5に送る」(【0037】)との記載がある。したが
って,図1に示された気体溶解装置は,加圧型気体溶解手段3によって生成され,
溶存槽4に貯留された水素水を気体溶解装置の内部で循環させるように構成されて\nいると認められる。
また,本件明細書には,前記イのとおり,本件発明1の「溶存槽」と「加圧型気体
溶解手段」との間に水素水を循環させる経路として,ウォーターサーバーを用いる
場合,水槽を用いる場合,加圧型気体溶解手段で加圧して気体を溶解した液体を,
排出せずに循環して加圧型気体溶解手段に送る経路を用いる場合の開示がある一方,
これらの場合に循環の経路が限定されるとの記載や示唆はない。したがって,当業
者であれば,本件発明1においては,水素水が,これらの場合を含む何らかの経路
で循環すればよく,図3に示された気体溶解装置は,水素水を「送出し加圧送水し
て循環させ」る経路の例示にすぎないことを理解できる。
よって,原告の主張は採用することができない。
・・・
原告は,請求項1及び8はウォーターサーバーを発明特定事項としていないが,
実施例1,3ないし13には,図3に示すウォーターサーバーに気体溶解装置を接
続した場合の実験条件しか記載されていない,また,実施例2は,図1に示す気体
溶解装置を用いたものであるが,どのように水素水を生成,循環させたのか不明で
あるから,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1及び8を実施できる程度
に明確かつ十分に記載されているとはいえない旨主張する。\nしかしながら,本件発明1及び8は,本件明細書に例示された,ウォーターサー
バーを用いる場合,水槽を用いる場合,加圧型気体溶解手段で加圧して気体を溶解
した液体を,排出せずに循環して加圧型気体溶解手段に送る場合を含む,何らかの
経路により水素水を循環させるものであることは,前記2(3),(4)で検討したとおり
である。そして,本件明細書には,ウォーターサーバーを用いた実施例1,3ないし
13の実験条件が,他の経路により循環させる構成について当てはまらないと解す\nべき根拠となる記載はない。
また,実施例2についても,加圧型気体溶解手段で加圧して気体を溶解した液体
を,排出せずに循環して加圧型気体溶解手段に送る場合を含む,何らかの経路によ
り水素水を循環させるものであると理解することができる。
そうすると,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明を参考にして,本件発明
1及び8を実施することができるといえるから,原告の主張は採用できない。
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2018.04.24
平成29(行ケ)10051 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年4月12日 知的財産高等裁判所(3部)
暗号化回路について、実施可能要件違反とした審決が維持されました。\n
そうすると,本願発明の目的である「サイドチャネルを利用した攻撃
から回路を保護すること」は,段落【0009】,【0010】及び
【0041】で言及されているサイドチャネルを利用した攻撃から関数
鍵 kc を保護することを意味し,この保護は関数鍵 kc を第2の鍵(又は
非機能の鍵)ki でマスクする,すなわち kc と ki を XOR 演算することに
よって達成されるものと理解される。換言すれば,本願発明の暗号回路
においてサイドチャネルを利用した攻撃の目標として想定されているの
は関数鍵 kc であり,この関数鍵 kc をそのような攻撃から保護するため
に第2の鍵 ki を必要とし,関数鍵 kc を第2の鍵 ki と XOR 演算すること
によってマスクする(マスク鍵 kc(+)ki とする)という方法によって,関
数鍵 kc の保護が達成されるものと把握される。
さらに,本願明細書等には,サイドチャネルを利用した攻撃の具体的
な目標として関数鍵 kc 以外のものは記載されていない。
このように,本願発明が想定している攻撃目標は関数鍵 kc であり,
それ以外の攻撃目標を想定しない以上,本願発明の暗号回路が出力する
暗号文 y の秘密性は関数鍵 kcに依拠し,暗号文の計算手順(すなわち本
願発明の「暗号化アルゴリズム」)に依拠するものではないと認められ
る。そうであれば,関数鍵 kc が判明すれば,本願発明により出力され
る暗号文 y を解読し得ることになる。これは,本願発明の暗号回路が出
力する暗号文 y の暗号鍵が関数鍵 kcであることを意味する。すなわち,
本願発明は,秘密情報である関数鍵 kcを用いて平文 x から暗号文 y を計
算する関数を F で表したとき,y=F(x,kc)を満たす暗号文 y を出力す
る暗号回路であると認められる(以下,この技術思想を「本願技術思想
1)」という。)。
このように理解することは,本願明細書等の「関数鍵 kc が回路21
の暗号化を実施する役割を果たす。この暗号化は例えばレジスタ22の
内部で入力変数 x を暗号化された変数 y=DES(x,kc)に変換する DES
アルゴリズム23である。」(【0040】)との記載とも整合する。
・・・
上記本願技術思想1)及び2)によれば,本願発明の暗号回路を具現化
するためには,暗号回路によって実際に計算された暗号文と,暗号化ア
ルゴリズム F に基づいて計算された暗号文とが等しいこと,すなわち
G(x,kc(+)ki)=F(x,kc)
を満たすことが要求される(以下,この要求を「本願発明の技術的要求」
という。)。
しかし,本願発明の技術的要求を満たす関数 G を構成する計算方法\nが,当業者の技術常識に鑑みて自明であると認めるに足りる証拠はない。
そこで,G(x,kc(+)ki)の具体的な計算方法が本願明細書等に示されて
いるかについて,以下検討する。
・・・
以上のとおり,本願明細書等の図1及び2に示される回路において
は,そもそもマスク鍵 kc(+)ki が計算されているとは認められないこと
から,両図の回路をもって関数 G(x,kc(+)ki)の具体的態様を開示し
たものということはできない。
d また,段落【0028】記載の「【数2】K(+)M」は,2つの値が
XOR 演算されているという点で本願発明のマスク鍵と共通するもの
の,記号が異なることから,本願発明を説明したものとは認められな
い。
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2018.04.13
平成29(行ケ)10127 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年3月29日 知的財産高等裁判所
明確性違反および実施可能要件違反の無効を主張しましたが、審決、知財高裁とも無効理由無しと判断しました。
原告は,平成13年(2001年)以降でさえ,先行技術(甲20)と
技術常識に基づいて,外部から侵入した水分による劣化を防止しているとはいえ
ない程度に蛍光体の沈降が抑えられた濃度分布の実現は不可能であったのであり,\n本件明細書の「フォトルミネセンス蛍光体を含有する部材,形成温度,粘度やフ
ォトルミネセンス蛍光体の形状,粒度分布などを調整することによって種々の分
布を実現することができ」(【0047】)との記載は,本件構成に対応する技\n術的手段が単に抽象的に記載されているだけで,当業者が発明の実施をすること
ができない記載にすぎないことを意味するものに他ならないから,実施可能要件\nを欠くというべきであって,審決の結論には明らかな違法がある旨主張する。
明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができ
る程度に明確かつ十分に記載したものであることを要する(特許法36条4項1号)。\n本件発明は,「発光装置と表示装置」(発光ダイオード)という物の発明であるとこ\nろ,物の発明における発明の「実施」とは,その物の生産,使用等をする行為をい
うから(特許法2条3項1号),物の発明について実施をすることができるとは,そ
の物を生産することができ,かつ,その物を使用することができることであると解
される。
本件明細書には,「蛍光体の分布は,フォトルミネセンス蛍光体を含有する部材,
形成温度,粘度やフォトルミネセンス蛍光体の形状,粒度分布などを調整すること
によって種々の分布を実現することができ,発光ダイオードの使用条件などを考慮
して分布状態が設定される。」(【0047】)との記載があることから,蛍光体の濃
度分布を適宜調整することにより,本件発明の「コーティング樹脂中のガーネット
系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高く\nなっている」発光ダイオードを生産することができ,かつ,使用することができる
ことは,本件明細書に接した当業者にとって明らかであると認められる。
したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明を実施することがで
きる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められるから,その旨の審決の\n判断に誤りはない。
これに対し,原告が主張する,外部から侵入した水分による劣化を防止している
とはいえない程度に蛍光体の沈降が抑えられた濃度分布とは,本件構成に係る「コ\nーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側から\nLEDチップ側に向かって高くなっている」ものではない状態を示すものである。
そうすると,仮に,このような濃度分布について,発明の詳細な説明や出願時の
技術常識を考慮しても実現することができない,又は,その実現に過度の試行錯誤
を要するとしても,このことは,本件明細書の発明の詳細な説明が,当業者が本件
発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとの前記認定を左右するも\nのではない(発光ダイオードの製造工程において,蛍光体がコーティング樹脂中を
沈降することによって,本件構成を満足するものを製造することができることにつ\nいては,当事者間に争いがないものと解される。)
◆判決本文
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>> 記載要件
>> 明確性
>> 実施可能要件
>> ピックアップ対象
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2018.03.28
平成29(行ケ)10085 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年3月26日 知的財産高等裁判所(4部)
異議理由ありとした審決が取り消されました。訂正は新規事項であるとした審決の判断は維持されましたが、訂正前の発明について、明確性違反および進歩性違反との判断は取り消されました。
本件決定は,本件発明1の特許請求の範囲のうち「寄生ダイオード(131)の
立ち上がり電圧」は「上記ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高」いとの記載が,
いかなる電流が流れる場合のことを表したものであるか不明であるから,明確性要\n件に適合しないと判断した。
(2) 前記2(3)イのとおり,請求項1において,寄生ダイオード(131)の「立
ち上がり電圧は,上記ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高く」と特定されてい
るのは,本件発明1の構成として,同期整流を行う際,寄生ダイオード(131)\nの立ち上がり電圧を,ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高くするという技術的
事項を採用する旨特定するものである。
そして,本件発明1に係る電力変換装置において使用される還流電流の程度が限
定されていないことと,同期整流を行う際には,常に,寄生ダイオード(131)
の立ち上がり電圧を,ユニポーラ素子本体のオン電圧よりも高くすることとは,関
係がない。
(3) したがって,「寄生ダイオード(131)の立ち上がり電圧」は「上記ユニ
ポーラ素子本体のオン電圧よりも高」いとの本件発明1の特許請求の範囲の記載が,
第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。同記載
が明確ではないから,本件各発明の特許請求の範囲の記載は,明確性要件に適合し
ないとする本件決定の判断は誤りである。
・・・・
引用発明は,モータの回生モードにおいて,回生電力の消費能力を高めると\nいう課題に対して,順方向電圧降下が高いボディダイオードに電流を流し,回生電
力を消費させるというものである。
このように,引用発明は,モータの回生モードにおいて,ボディダイオードに電
流を流し,ボディダイオードにおいて回生電力を損失させるという課題解決手段を
採用したものである。一方,本件周知技術は,寄生ダイオード側に電流を流さず,
発熱損失を低減させるというものであるから,引用発明の課題解決手段と正反対の
技術思想を有するものである。したがって,当業者は,引用発明におけるモータの
回生モードにおいて,正反対の技術思想を有する本件周知技術を適用することはな
い。
そして,引用例には,引用発明の電力変換装置において,力行モードを回生モー
ドから切り離し,力行モードの動作のみを変更することを示唆するような記載はな
いから,当業者は,力行モードにおける動作のみを変更することを容易に想到する
ことはない。
したがって,引用発明に本件周知技術を適用する動機付けはないというべきであ
る。
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2018.02.17
平成28(行ケ)10218 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年1月30日 知的財産高等裁判所
実施可能要件、サポート要件違反とした拒絶審決が取り消されました。なお、意見を述べる機会を与えなかった点について、手続違背もありと認定されています。
本願明細書の上記記載によれば,同配列アンタゴニスト化合物は,
アゴニスト作用を示していたIMOについて,「GACG」部分に化学修飾を導入し
て同部分をN2N1CGモチーフにすることにより,アンタゴニスト作用を示すに至
ったことが認められる(以下,当該作用変化を「本件反転作用」という。)。
このような記載に接した当業者は,本件反転作用を生じさせた原因となる部分は,
その他の配列が同一である以上,化学修飾を導入したN2N1CGモチーフに存在す
るものと理解するのが自然である。のみならず,本願明細書の前記a(c)の記載に接
した当業者は,細菌性及び合成DNAの塩基配列には様々なものがあるにもかかわ
らず,TLR9がそれらに存在する非メチル化CpGモチーフを認識するのである
から,IMOの「GACG」部分にある非メチル化CpGモチーフがTLR9に結
合するものと理解するといえる。そのため,本件反転作用の原因は,TLR9に結
合する「GACG」部分に化学修飾を導入し,これをN2N1CGモチーフとするこ
とによって,上記の結合部分に何らかの変化が生じたことによるものと理解するの
が自然である。
そうすると,12種類化合物の配列は,N2N1CGモチーフの5’末端側に隣接
するオリゴヌクレオチド部分配列(以下「5’末端側隣接配列」という。)が全て「C
TATCT」という一つの配列のみであり,かつ,N2N1CGモチーフの3’末端
側に隣接するオリゴヌクレオチド部分配列(以下「3’末端側隣接配列」という。)
が「TTCTCTGT」又は「TTCTCUGU」という類似する二つの配列のみ
であるものの,当業者は,本件反転作用を生じさせた部分は,N2N1CGモチーフ
自体であって,5’末端側隣接配列又は3’末端側隣接配列ではないと理解するの
であるから,N2N1CGモチーフを有する本願IRO化合物も,12種類化合物と
同様に,アンタゴニスト作用を奏する蓋然性が高いものと論理的に理解するのが自
然である。そして,当業者は,TLR9のアンタゴニストとして作用し得る本願I
RO化合物が,少なくともTLR9のアゴニスト作用が原因となる癌,自己免疫疾
患,気道炎症,炎症性疾患,感染症,皮膚疾患,アレルギー,ぜんそく又は病原体
により引き起こされる疾患を有する脊椎動物を治療的に処置し得ることを十分に理\n解することができるといえる。
したがって,本願明細書に接した当業者は,本願IRO化合物が高い蓋然性をも
ってTLR9のアンタゴニスト作用を奏し,かつ,TLR9のアンタゴニストとし
て作用し得る本願IRO化合物がTLR9のアゴニスト作用を原因とする上記各疾
患を治療的に処置し得ることを理解することができるのであるから,本願明細書中
の発明の詳細な説明の記載は,当業者によって本願出願当時に通常有する技術常識
に基づき本願発明の実施をすることができる程度の記載であると認めるのが相当で
ある。
以上によれば,本願明細書の記載により,本願IRO化合物が全て,TLR9の
アンタゴニスト作用を有するものであることを当業者が認識できるとはいえないな
どとして,本願発明が実施可能要件に適合するものではないとした審決の判断には\n誤りがあり,TLR9についての原告の取消事由3は,理由がある。
c これに対し,被告は,実施例11に示されている同配列アンタゴニス
ト化合物につき,5’末端側隣接配列が「CTATCT」であり,かつ,「N1N2N
3−Nm」が「TTCTCTGT」である化合物が示されるのみであって,それ以外
の本願IRO化合物は示されていないことからすると,アンタゴニスト作用が「C
pGジヌクレオチド」に結合した結果であるのか,あるいは,それ以外の共通する
部分に結合した結果であるのかは定かでなく,また,本願明細書の発明の詳細な説
明には,本願IRO化合物のうち,実施例11に示された化合物以外のものが,実
施例11に示された化合物と同様にアンタゴニスト作用を有することを示唆する記
載もなく,この点が技術常識であるともいえないなどと主張する。
しかしながら,同配列アンタゴニスト化合物は,上記bにおいて説示するとおり,
アゴニスト作用を示していたIMOについて,「GACG」部分についてのみ化学修
飾を導入して同部分をN2N1CGモチーフにすることにより,本件反転作用を奏す
るに至ったのであるから,このような記載に接した当業者は,本件反転作用を生じ
させた部分は,化学修飾を導入したN2N1CGモチーフに存在するものと論理的に
理解するのが自然であるといえる。そうすると,当業者は,実施例11に示された
化合物以外のものであっても,少なくともTLR9については,N2N1CGモチー
フが存在すれば,高い蓋然性をもってアンタゴニスト作用を示すものと理解すると
認めるのが相当である。
したがって,被告の主張は,その他の主張を含め,本件反転作用の技術的意義を
正解しないものに帰し,採用することができない。
このような適正な審判の実現と特許発明の保護との調和は,複数の発明が同時に
出願されている場合の拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定の理由が解消さ
れている一方,複数の発明に対する上記拒絶査定の理由とは異なる拒絶理由につい
て,一方の発明に対してはこれを通知したものの,他方の発明に対しては実質的に
これを通知しなかったため,審判請求人が補正により特許要件を欠く上記他方の発
明を削除する可能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充\n足する上記一方の発明についてまで拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れ
る機会を失ったといえるときにも,当然妥当するものであって,このようなときに
は,当該審決に,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手続違背の
違法があるというべきである。
イ これを本件についてみると,前提となる事実に後掲各証拠及び弁論の全
趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
・・・
(ウ) 原告は,本件拒絶査定不服審判において,平成27年9月16日付け
の拒絶理由通知(甲16)を受けた(以下,当該拒絶理由通知を「本件拒絶理由通
知」といい,本件拒絶理由通知に係る拒絶理由を「本件拒絶理由」という。)。請求
項1,請求項8及び請求項13に対する本件拒絶理由は,大要次のとおりである。
a 請求項1,3,4及び7ないし17(請求項3を追加する前のもの)
証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば,本件拒絶理由通知では,実施例にお
いてアンタゴニスト作用を有することが証明された化合物のうち,本願IRO化合
物に含まれるものは,IRO5,10,17,25,26,33,34,37,3
9,41,43及び98であるとして,これらの12種類化合物に限定して検討を
加えていること,12種類化合物は,いずれもTLR9に対してアンタゴニスト作
用を有するものであるが,IRO5に限り,TLR9のほか,TLR7及び8に対
してもアンタゴニスト作用を有するものであること,本件拒絶理由通知では,12
種類化合物を全体として比較して,N2N1CGモチーフの5’末端側に隣接する部分
の塩基配列及びN2N1CGモチーフの3’末端側に隣接する部分の塩基配列が,それ
ぞれ類似の二通りのみであることを根拠として,請求項1,3,4及び7ないし1
7に係る各発明の実施可能要件及びサポート要件違反を示していること,そのため,\n本件拒絶理由通知では,IRO5に固有の問題を検討するものではなく,TLR9
に対するアンタゴニスト作用を有する12種類化合物のみの問題を検討しているこ
と,以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば,本件拒絶理由通知は,TLR9に対してアンタゴニスト
作用を有する12種類化合物のみの問題を検討するにとどまり,TLR7及び8に
対してもアンタゴニスト作用を有するIRO5に固有の問題を検討した上で拒絶理
由を通知するものではないから,実質的にはTLR7及び8に対する拒絶理由を示
すものではないと認めるのが相当である。
b 請求項8,13,16及び17(請求項3を追加する前のもの)
証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば,本件拒絶理由通知は,請求項8に係
る発明につき,「本願明細書ではTLRとして「TLR7」,「TLR8」及び「TL
R9」に対する各種IROのアンタゴニスト作用を確認しただけであって,他のT
LRに対してもアンタゴニスト作用を有することは確認されていない。」,「請求項
8の「TLR媒介免疫反応」のうち,「TLR7」,「TLR8」又は「TLR9」の
媒介免疫反応以外の免疫反応については,本願発明のIRO化合物が阻害効果を示
すことが確認できない。」と記載し,また,請求項13に係る発明につき,「請求項
13の「TLRにより媒介される疾患」のうち,「TLR7」,「TLR8」又は「T
LR9」によって媒介される疾患以外の疾患については,本願発明のIRO化合物
が治療効果を示すことが確認できない。」と,それぞれ記載していることが認められ
る。
上記認定事実によれば,本件拒絶理由通知は,文言上,少なくとも,TLR7な
いし9については,アンタゴニスト作用及びその治療効果を有することが確認され
たことをいうものと理解するのが自然である。
・・・
(オ) その後,特許庁は,原告に対し,改めて拒絶理由を通知することなく,
平成28年5月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
ウ 前記イ(ウ)aによれば,本件拒絶理由通知は,TLR9に対してアンタゴ
ニスト作用を有する12種類化合物のみの問題を検討するにとどまり,TLR7及
び8に対してアンタゴニスト作用を有するIRO5に固有の問題を検討した上で拒
絶理由を通知するものではないから,実質的にはTLR7及び8に対する拒絶理由
を示すものではないことが認められる。のみならず,TLR7及び8については,
本件反転作用を裏付ける実施例はない上,そもそも認識するアゴニストの対象が,
TLR9とは異なり,一本鎖RNAウイルスであると認められるのであるから,T
LR7及び8の拒絶理由には,TLR9の拒絶理由とは異なる固有の理由が存在す
ることは明らかであるにもかかわらず,本件拒絶理由通知は,これを通知していな
いことが認められる。
そして,前記イ(エ)によれば,原告は,本件拒絶理由を受けて,その理由を解消す
るために,TLR1ないし6に係る発明部分を削除しているのであり,このような
経緯に鑑みると,原告は,TLR7及び8についても拒絶理由を実質的に通知され
ていた場合には,TLR7及び8に係る発明部分についても,TLR1ないし6に
係る発明部分と併せて補正によって削除した可能性が高いものと認められる。\nのみならず,前記イ(ウ)bによれば,請求項8,13,16及び17に係る各発明
に対する本件拒絶理由通知は,文言上,少なくとも,TLR7ないし9については,
アンタゴニスト作用及びその治療効果を有することが確認されたことをいうものと
理解するのが自然であるから,このような記載に接した原告が,少なくともTLR
7ないし9については,アンタゴニスト作用を有することが確認されたため,実施
可能要件及びサポート要件違反はないものと理解したのもやむを得ないところであ\nる。現に,原告は,前記イ(エ)によれば,本件拒絶理由通知を踏まえ,請求項9及び
14においては,TLR1ないし6を削除して,TLR7ないし9に限定する補正
をしている事実が認められるのであるから,このような事実からも,上記の原告の
理解が十分に裏付けられるといえる。そうすると,TLR7ないし9についてもア\nンタゴニスト作用を有するものであるとすることはできないとして,本願発明が実
施可能要件及びサポート要件に適合しないとした審決の判断は,実質的にみれば,\n上記の経過に照らし,原告にとっては,不意打ちというほかなく,不当であるとい
うほかない。
これらの事情の下においては,本件拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定
の理由とは異なる拒絶理由について,TLR9に係る発明に対してはこれを通知し
たものの,TLR7及び8に係る各発明に対しては実質的にこれを通知しなかった
ため,原告が補正により特許要件を欠くTLR7及び8に係る各発明を削除する可
能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充足するTLR9\nに係る発明についてまで本件拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れる機会
を失ったものと認められる。
したがって,審決には,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手
続違背の違法があるというべきであり,当該手続違背の違法は,審決の結論に影響
を及ぼすというべきであるから,取消事由1は,理由があるものと認められる。
エ これに対し,被告は,前記イ(ウ)aのとおり,サポート要件違反と実施可能\n要件違反をいう請求項1に係る本件拒絶理由は,旧請求項3及び4,7なしい17
についても存在する旨通知されているのであるから,審決が本件拒絶理由とは異な
る新たな拒絶理由に基づき実施可能要件及びサポート要件に適合しないと判断した\nとする原告の主張は,前提を欠くものであるなどと主張する。
しかしながら,上記ウで説示したとおり,本件拒絶査定不服審判において,本件
拒絶理由通知では,TLR9に関する拒絶理由のみを通知し,実質的にはTLR7
及び8に関する拒絶理由を通知しなかったため,原告はTLR7及び8に係る各発
明を削除するなどの補正をする機会を失うことになり,実施可能要件及びサポート\n要件をいずれも充足するTLR9に係る発明まで最終的に特許を受けることができ
ないことになったものと認められる。このような結果は,原告にとって,不意打ち
となるため,原告に過酷というほかなく,審判請求人の手続保障を規定する特許法
159条2項の趣旨に照らし,相当ではないというべきである。
かえって,被告は,本件訴訟に至っては,そもそもTLR7及び8が認識するも
のと,TLR9が認識するものが異なるという技術常識に基づけば,TLR9に対
して本願IRO化合物がアンタゴニスト作用を奏するとする原告の作用機序の説明
が,TLR7及び8には妥当し得ないことは明らかであるなどとして,現にTLR
7及び8に固有の拒絶理由を具体的に主張しているのであるから(準備書面(第1
回)13頁),実質的にみても,上記のように,本件拒絶査定不服審判においてTL
R7及び8に固有の拒絶理由を通知することが,審判合議体にとって困難なもので
あったとは認められない。
したがって,被告の主張は,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2
項の意義を正解しないものに帰し,採用することができない。
なお付言するに,本願IRO化合物が治療効果を有するかどうかの点につき,本
件拒絶理由では,TLR7ないし9によって媒介される疾患以外の疾患については
治療効果を示すことが確認できないとしているところ,原告は,本件拒絶査定不服
審判においては,TLR7ないし9によって媒介される疾患については治療効果を
示すことが確認されたものと理解した上,本件拒絶理由を踏まえてTLR1ないし
6を削除する補正をし,さらに,その後の意見書において,この点に係る拒絶理由
が解消されたとまで述べているのであるから,審決においてTLR7ないし9によ
って媒介される疾患についても治療的に処置することができるといえる根拠がない
と判断するのであれば,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2項の法
意に照らすと,本件拒絶査定不服審判において,この点についても改めて拒絶理由
を通知することが相当であったものと認められる。
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2018.01.19
平成28(行ケ)10278 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成30年1月15日 知的財産高等裁判所(4部)
異議理由ありとした審決が取り消されました。理由は、新規事項か、サポート要件違反か、実施可能要件違反かです。知財高裁は、当初明細書の範囲内と判断しました。\n
ア 本件出願当初明細書等の記載
結晶多形Aについて,本件出願当初明細書等には,おおむね,次のとおり記載が
ある。
・・・・
イ 本件出願当初明細書等に開示された結晶多形Aに関する技術的事項
(ア) 本件出願当初明細書等にいう結晶多形Aは,本件出願当初明細書等におい
て名付けられたものである(【0007】)。
(イ) そして,本件出願当初明細書等【0008】には,結晶多形Aに該当する具体的な結晶多形として,【0008】(1)は,本件出願時の特許請求の範囲【請求
項1】で特定される結晶多形を挙げるほか,【0008】(5)は,2θで表して,構\
成要件Eで特定されるのと同様の26個の角度において,ピークを有する特徴的な
X線回析図形を示し,FT−IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量
が3〜15%であるピタバスタチンカルシウムの結晶多形を挙げており,後者の結
晶多形は,構成要件Eで特定される結晶多形を含むものである。このように,本件\n出願当初明細書等【0008】の記載は,結晶多形Aには,構成要件Eで特定され\nる結晶多形だけではなく,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定される
結晶多形も,該当する旨説明するものである。
(ウ) また,本件出願当初明細書等【0009】は,「結晶多形Aの一つの具体
的形態」として,2θで表して,構\成要件Eで特定されるのと同様の26個無偏差
相対強度図形を示す結晶多形を例示しており,この結晶多形は,構成要件Eで特定\nされる結晶多形を含むものである。そうすると,本件出願当初明細書等【0009】
の記載は,構成要件Eで特定される結晶多形は,結晶多形Aの具体的な態様の一つ\nである旨説明するものである。
(エ) さらに,本願出願当初明細書等【0047】には,【0047】に記載さ
れた製造方法によって,結晶多形Aが得られること,当該結晶多形AのX線粉末回
析図形は,構成要件Eと同様の26個無偏差相対強度図形を示したことが記載され\nている。本件出願当初明細書等【0047】の記載は,特定の製造方法によって生
成された結晶多形AのX線粉末回析図形を説明するにとどまり,構成要件Eで特定\nされる結晶多形のみが結晶多形Aである旨説明するものではない。
(オ) したがって,本件出願当初明細書等の記載を総合すれば,構成要件Eで特\n定される結晶多形Aだけではなく,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特
定される結晶多形Aも,導くことができる。
(4) 新規事項の追加の有無
本件出願当初明細書等の記載を総合すれば,構成要件Eで特定される結晶多形A\nだけではなく,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定される結晶多形A
も,導くことができるから,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定され
る結晶多形Aから,構成要件Eで特定される結晶多形Aを除くものを,本件出願当\n初明細書等の全ての記載を総合することにより導くことができるというべきである。
したがって,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】に,構成要件Eを追加す\nる本件補正は,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件出願当初明細書等
に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。
(5) 被告の主張について
被告は,本件出願当初明細書等に記載された結晶多形Aを,26個のピークの回
折角2θ及びその相対強度で特定しなくても,6個のピークの回析角2θ等によっ
て特定し得るということは技術常識ではないと主張する。
しかし,本件出願当初明細書等の記載を総合すれば,26個のピークの回折角2
θ及びその相対強度で特定される結晶多形Aだけではなく,6個のピークの回析角
2θ等によって特定される結晶多形Aも導くことができる。本件補正は,26個の
ピークの回折角2θ及びその相対強度で特定される結晶多形を,6個のピークの回
析角2θ等によって特定することを前提としてなされたものではないから,被告の
上記主張は,前提を欠く。
(6) 小括
以上のとおり,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】に,構成要件Eを追加\nする本件補正は,新たな技術的事項を導入するものではない。そして,本件補正の
その余の部分について,被告は,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件
出願当初明細書等に記載した範囲内においてしたものであることを争わない。した
がって,本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たす。
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2018.01.18
平成29(ネ)10027 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成29年12月21日 知的財産高等裁判所(2部) 東京地方裁判所
CS関連発明について、控訴審で差止請求が認められました。無効理由については「時機に後れた」として採用されませんでした。1審は、均等侵害も第1、第2、第3要件を満たさない、分割要件違反、および一部のクレームについてサポート要件違反があると判断していました。
引用発明1は,前記ア(イ)のとおり,「毎度の自動売買では自動売買テーブルでの
約定価より真下の安値の買取り及び約定価より真上の高値の売込みが同時に発注さ
れるよう設定されたものであって,それにより,先に約定した注文と同種の注文を
含む売込み注文と買取り注文を同時に発注することで,株価が最初の売買価の値段
の範囲から上下に変動する場合に,所定の収益を発生させることに加え,口座の残
高及び持ち株の範囲において,株の現在価を無視して株の値段への変動を一向に予\n測することなく,従前の株の買取り値より株価が下落すると所定量を買い取り,買
取り値より株価が上がると所定量を売り込むこと」を特徴とするものである。
このように,引用発明1において,従前の株の買取り値より株価が下落すると所
定量を買い取り,買取り値より株価が上がると所定量を売り込む,という,連続し
た買取り又は売込みによる口座の残高又は持ち株の増大をも目的とするものである
から,このような設定に係る構成を,約定価と同じ価格の注文を含む注文を発注対\n象に含めるようにし,それを「繰り返し行わせる」設定に変更することは,「約定価
より真下の安値の買取り」及び「約定価より真上の高値の売込み」を同時に発注す
ることにより,「従前の株の買取り値より株価が下落すると所定量を買取り,買取り
値より株価が上がると所定量を売込む」という,引用発明1の特徴を損なわせるこ
とになる。
そうすると,引用発明1を本件発明の構成1Hに係る構\成の如く変更する動機付
けあるといえないから,構成1Hに相当する構\成は,引用発明1から当業者が容易
に想到し得たものとはいえない。
エ 被控訴人の主張について
被控訴人は,本件発明1と引用発明1との相違点は,引用発明1が本件発明1の
構成1Fのうち「前記一の注文価格を一の最高価格として設定し」ていない点であ\nり,その余の点では一致していることを前提に,本件発明1は,引用発明1から容
易想到である,と主張する。
しかし,前記イのとおり,本件発明1と引用発明1とは,引用発明1が本件発明
1の構成1Hの構\成を有していない点について相違している。被控訴人の主張は,
その前提を欠き,理由がない。
・・・・
4 なお,被控訴人は,口頭弁論終結後に,本件発明1が無効とされるべきであ
ることが明白である事由があるとして,口頭弁論再開を申し立てるが,無効事由の\n根拠となるべき資料は10年以上前に作成されていたものであり,上記無効事由は,
被控訴人が重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法であって,
これによって訴訟の完結を遅延させることとなるから,却下されるべきものである
から,口頭弁論を再開しない。
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2018.01.11
平成29(行ケ)10029 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年12月26日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとした審決が取り消されました。理由は、サポート要件違反・委任省令違反、進歩性違反です。委任省令違反である以上、サポート要件違反でもあるという理由です。
前記アのとおり,本件明細書には,「EVOH層の界面での乱れに起因す
るゲル」は,ロングラン成形により発生するゲルとは異なる原因で発生するゲルで
あると記載されているものの,本件明細書には,「EVOH層の界面での乱れに起因
するゲル」が,乙15における「ゲル状ブツ」の原因となるゲルと,その形状,構\n造等がどのように異なるのかを明らかにする記載は見当たらない。
また,本件明細書においては,前記イのとおり,「EVOH層の界面での乱れに起
因するゲル」は,目視観察できるものであるとされ,乙15における「ゲル状ブツ」
は,前記ウのとおり,肉眼で見ることができるものとされているところ,本件明細
書には,「目視観察」の定義は見当たらず,後者は肉眼で見分けられ,前者は肉眼で
見分けられないものを含む旨の特段の記載はないから,本件発明における「EVO
H層の界面での乱れに起因するゲル」と背景技術(乙15)における「ゲル」を,
観察方法において区別することができるとは,理解できない。
このように,本件明細書には,本件発明における「EVOH層の界面での乱れに
起因するゲル」は,本件特許出願前の技術により抑制することができるとされてい
るロングラン成形により発生するゲルとは異なる原因で発生する旨の記載があるも
のの,その記載のみでは,ロングラン成形により発生するゲルと区別できるかどう
かは,明らかでないというほかない。
この点について,被告は,「不完全溶融EVOH」が発生する機序について主張し,
これは,従来から知られていた「熱架橋ゲル」とは異なる旨主張する。しかし,本
件明細書には,被告が本訴において主張するようなことは何ら記載されておらず,
被告が本訴において主張するような技術常識が存したとも認められないから,本件
発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」が被告が本訴において
主張するようなものと認めることはできない。
そうすると,本件発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」の
意義は明らかでないというほかなく,本件特許出願時の技術常識を考慮しても,「成
形物に溶融成形したときにEVOH層の界面での乱れに起因するゲルの発生がなく,
良好な成形物が得られ」るという本件発明の課題は,理解できないというほかない。
オ したがって,本件明細書の記載には,本件発明の課題について,当業者
が理解できるように記載されていないから,「特許法第三十六条第四項第一号の経\n済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解
決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明
の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければなら
ない。」と定める特許法施行規則24条の2の規定に適合するものではない。
(2) 以上のとおり,本件発明についての本件明細書の発明の詳細の説明の記
載は,特許法36条4項1号の規定に適合しないから,審決のこの点に係る判断に
は誤りがあり,取消事由3には理由がある。
・・・
前記2(1)オのとおり,本件明細書には,本件発明の課題について,当業者が理解
できるように記載されていないから,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の
詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲の
ものであると認めることはできないし,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも,
当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲
のものであるとも認められない。
この点について,被告は,「本件発明は,粒径500μm(0.5mm)未満の微
粉の含有量を0.1重量%以下に制御すること(新規な解決手段)により,『不完全
溶融EVOH』に起因する界面での乱れによるゲル(点状に分布する透明な粒状の
不完全溶融ゲルであり,EVOHの一部が極端な場合には他の樹脂層に突出するよ
うな形態)の発生(斬新な課題)を抑制することができる(新規課題解決効果の奏
効)という特別な効果を得る」ものであると主張するが,前記2(1)のとおり,この
課題は,本件明細書及び技術常識から理解することができない。
◆判決本文
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