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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

記載要件

令和2(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月20日  知的財産高等裁判所

 補正が新規事項の追加、および実施可能要件違反であるとした審決が維持されました。

 本件補正によって,当初明細書等の段落【0002】,【0008】及び【0 010】に追加された事項並びに図3〜8には,本願発明の原理に関する事項が記 載されているところ(甲9),これらの事項は,当初明細書等には記載されておらず (甲4,16),また,自明な事項ということもできないから,新規事項を追加する ものといえる。 したがって,本件補正は,当初明細書等に記載された範囲内においてするものと はいえず,特許法17条の2第3項に違反するものである。
(2) 原告は,本件補正は,先行技術文献に記載された内容を「発明の詳細な説 明」の【背景技術】の欄に追加する補正であると主張する。 しかし,本件補正は,「高周波超伝導電磁エンジンは,磁石となるループと超伝導 磁石を重ね合わせたものである。二つの磁石は離れないように固定する。その二つ の磁石の中の一つは,常伝導の磁石である。但し,この常伝導の磁石は一回巻きで 芯が無く,高周波数かつ低電圧の脈流を流す。脈流の周波数は,その波長がループ の一周の長さと一致する程度の高周波数とする。もう一つの磁石は,超伝導磁石で あり,超伝導状態となるので永久電流が流れる。磁石と磁石を重ねたので,磁石と 磁石の間には,図3で上下方向の矢印で表した反発力もしくは吸引力(どちらも磁\n力)が生じる。しかし,この特殊な構造ゆえに生じる打消しの力により,図4のよ\nうに,超伝導磁石に働く反発力もしくは吸引力は打ち消される。従って,常伝導磁 石に働く反発力もしくは吸引力のみが残り,これを推進力として利用する」,「図8 のように,脈流の周波数は,その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周 波数としているので,高周波超伝導電磁エンジンの超伝導磁石には,各瞬間におい て,脈流により生じるローレンツ力がゼロの部分がある。これにより,電磁力の偏 りが生じる。よって,この電磁力の偏りのために,運動量秩序に従った動きを電子 対はすることができない。ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことが できないので,重心運動の運動量に変化せずに,各超電子の散乱を通じて,最終的 には熱エネルギーとして外部に放出される。超伝導磁石の超電流を構成する電子対\nの重心運動が生じないので,超伝導磁石に働く電磁力(ローレンツ力)は磁力となら ず,超伝導磁石の磁力は打ち消された形となる。その結果,常伝導のループに働く 電磁力,即,磁力だけが残り,これを直線的運動エネルギーとして利用できる。」と の記載及び図4,8(以下「本件追加部分」という。)を加えるものであるところ, 本件追加部分は,特許文献1の記載の一部及び甲2文献の記載の一部から成るもの である。当初明細書等には,特許文献1及び甲2文献が先行技術文献として記載さ れているものの,それのどの部分を引用するかは記載されておらず,上記各文献を 見ても,それから直ちに本件追加部分を把握できないことからすると,本件補正は, 新規事項を追加するものということができる。
(3) 原告は,本願発明の原理は,甲2文献に記載されているところ,甲2文献は 出版されてから年数が経過しているため,上記原理は技術常識となっていると主張 する。 しかし,本願発明の原理が甲2文献に記載されており,甲2文献が出版されてか ら相当の年数が経過していたとしても,それだけで,本願発明の原理が技術常識と なっていたと認めることはできない。
(4) したがって,本件補正が,特許法17条の2第3項に違反するとした本件 審決の判断に誤りはない。
3 実施可能要件違反について\n
(1) 本願発明は,磁気シールドで半分程度を覆った「超伝導磁石」に対して固 定された位置にあるループに直流電流を流して,同ループに電磁力を発生させ,「超 伝導磁石」の永久電流に働く電磁力を無効とすることにより,ループに発生する電 磁力を推進力,制動力,浮力として利用するというものであるところ,当初明細書 等には,「超伝導磁石」の永久電流に働く電磁力を無効とすることにより,ループに 発生する電磁力を推進力,制動力,浮力として利用する原理についての説明が記載 されておらず,また,このような原理が技術常識であるということもできない。 なお,本件補正によって追加された事項では,上記の原理について説明されてい るが,磁石となるループと超伝導磁石を固定した場合,仮に,超伝導磁石に働く磁 力が常伝導ループに働く磁力より小さいとしても,互いに固定された超伝導磁石と ループ間の力は,作用・反作用の法則によって釣り合うことになり,結局,本願発 明の装置を動かす力は発生しないと考えるのが自然であるから,本件補正後の明細 書及び図面を前提としても,本願発明の原理について,当業者が理解し実施できる 程度に裏付けがされているとはいえない。この点について,原告は,作用・反作用 の法則が保障するのは,超伝導磁石に働く電磁力と常伝導ループに働く電磁力が釣 り合うことまでであり,発生した電磁力がそのまま磁力となって,釣り合うことま では保障しないと主張するが,上記のとおり,作用・反作用の法則により,超伝導 磁石に働く力と常伝導ループに働く力は釣り合うと解されるから,原告の上記主張 は理由がない。 また,原告は,本願発明の原理を利用して製造されたストレンジクラフトが存在 すると主張して,その証拠として写真集「ストレンジクラフトの写真」(甲3)を提 出するところ,甲3には,飛行する物体を撮影した写真が掲載されているものの, 同物体が,本願発明の原理を利用したものであると認めるに足りる証拠はないから, 原告の上記主張は理由がない。

◆判決本文

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令和2(ネ)10045 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審と同様に、104条の3の無効理由(新規事項、サポート要件違反)があるので、権利行使不能と判断されました\n

(ア) 図105ドットパターンにおいては,情報ドットは,四隅を格子ドッ トで囲まれた領域の中心からずれた位置に置かれるところ,本件補正1 1)部分に当たる構成要件B1の情報ドットは,「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点の中心」からずれた位置に置かれる。\n図105には,水平又は垂直の格子線の中間に各格子線と平行な線が引 かれているが,当初明細書1に,「格子状に配置されたドットで構成されている。」(【0185】),「格子ブロックの四隅(格子線の交点\n(格子点)上)には格子ドットLDが配置されている」(【0186】), 「4個の格子ドットLDの正中心に配置したドットである(図106(a) 参照)」(【0197】)と記載されているとおり,格子ドットは等間 隔に配置されたドットにより構成された水平ラインと垂直ラインの交点であり,格子線は格子ドットを結ぶラインであるから,図105に示さ\nれた各格子線の中間に引かれた線は格子ドットで囲まれた領域の中心を 示すために参考として引かれた補助線にすぎず,格子線とは認められな い(図106(a)のように,格子ドット同士を対角線で結べば,その 交点は「格子線の交点」となるが,その線は構成要件B1に規定する「縦横方向」のラインではない。)。\n そうすると,「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格 子点の中心」を基点として情報ドットが位置付けられることを構成要件とする本件補正11)部分は,図105のドットパターンとは似て非なる ものであり,そもそも図105ドットパターンに基づく補正であるとは 認められない。
(イ) 図5ドットパターンにおいては, 情報を表現するドットは,格子ドットから上下左右の格子線上にずらした位置に配置されるところ,構\成要件B1の情報ドットは「格子点の中心から等距離で45°ずつずらし た方向のうちいずれかの方向」に配置されるものであるから,本件補正 11)部分は,図5ドットパターンに基づく補正であるとは認められない。
(ウ) そのほか,当初明細書1に本件補正11)部分に対応する記載は認め られないから,本件補正前発明1の本件補正11)部分に対応する部分と 構成要件B1とを対比するまでもなく,本件補正11)部分は新たな技術 的事項を導入するものというべきである。
・・・・
(ア) 本件発明3の特許請求の範囲の記載(分説後のもの)は,次のとおり である(引用に係る原判決の「事実及び理由」第2の2(5)ウ参照)。
A3 等間隔に所定個数水平方向に配置されたドットと,
B3 前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから 等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドットと,
C3 前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ライ ンと,前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定さ れた水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点からのずれ方でデータ 内容が定義された情報ドットと,からなるドットパターンであって,
D3 前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位置 からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している E3 ことを特徴とするドットパターン。
(イ) 構成要件B3の「前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」と,\n構成要件C3の「前記垂直方向に配置されたドット」と,構\成要件D3 の「前記垂直方向に配置されたドット」とは同じものを指すと解される から,この一つの「垂直方向に配置されたドット」は,垂直方向に「等 間隔」に配置される一方で(構成要件B3),「本来の位置からのずらし方」によってドットパターンの向きを意味するとされており,その「ず\nらし方」について特に限定はされていない。同一方向に等間隔に配置さ れながらその位置がずれているのは文言上整合していないが,これを合 理的に解釈するならば,「等間隔」はこの一つの「垂直方向に配置され たドット」以外のドットに係り,この一つの「垂直方向に配置されたド ット」は他のドットと異なり「等間隔」に配置されなくてもよいもので あり,そのずらされる方向,距離とも何ら限定はないと解するほかない。 また,本件発明3は,「ずらし方によって前記ドットパターンの向き を意味している」(構成要件D3)としているから,「ずらし方」,すなわち,本来の位置からずらされた別の位置に配置された一つの「垂直\n方向に配置されたドット」が当該位置に配置されていることが認識され, 本来の位置とその実際の位置との間の位置関係に基づいてドットパター ンの向きが意味されることを規定していると解釈すべきものである。
イ 図105ドットパターンとの関係について
(ア) 本件明細書3には,図103ないし106のほか,次の記載がある。
「【0239】 また,本発明のドットパターンでは,キードットのずらし方を変更す ることにより,同一のドットパターン部であっても別の意味を持たせる ことができる。つまり,キードットKDは格子点からずらすことでキー ドットKDとして機能するものであるが,このずらし方を格子点から等距離で45度ずつずらすことにより8パターンのキードットを定義でき\nる。
【0240】 ここで,ドットパターン部をC−MOS等の撮像手段で撮像した場合, 当該撮像データは当該撮像手段のフレームバッファに記録されるが,こ のときもし撮像手段の位置が紙面の鉛直軸(撮影軸)を中心に回動され た位置,すなわち撮影軸を中心にして回動した位置(ずれた位置)にあ る場合には,撮像された格子ドットとキードットKDとの位置関係から 撮像手段の撮像軸を中心にしたずれ(カメラの角度)がわかることにな る。この原理を応用すれば,カメラで同じ領域を撮影しても角度という 別次元のパラメータを持たせることができる。そのため,同じ位置の同 じ領域を読み取っても角度毎に別の情報を出力させることができる。
【0241】 いわば,同一領域に角度パラメータによって階層的な情報を配置でき ることになる。
【0242】 この原理を応用したものが図74,図76,図78に示すような例で ある。図74では,ミニフィギュア1101の底面に設けられたスキャ ナ部1105でこのミニフィギュア1101を台座上で45度ずつ回転 させることでドットパターン部の読取り情報とともに異なる角度情報を 得ることできるため,8通りの音声内容を出力させることができる。」 (図74,76及び78については本判決への添付を省略する。)
(イ) 上記(ア)の記載は,構成要件D3との関係においては,確かに,格子ドットとキードットとの位置関係によってドットパターンの向きを意味\nすることを記載するものといえる。 しかしながら,構成要件C3との関係について見れば,本件発明3は,「格子点からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」との構\成を有するところ,前記2(1)ウのとおり(引用に係る原判決の「事実及び 理由」第3の1(補正後のもの)のとおり,当初明細書1と本件明細書 3の関連部分の記載はいずれも同じである。),図105ドットパター ンにおいては,情報ドットを四隅を格子ドットで囲まれた領域の中心か らずらすことによってデータ内容を定義するものであって,格子ドット からのずらし方によってデータ内容を定義するものではない(構成要件C3は格子点を垂直ラインと水平ラインの交点と定義しているから,構成要件 C3が図105ドットパターンに基づくものと仮定する余地はな い。)。 そうすると,本件発明3は,図105ドットパターンに関する記載に 係るものとはいえない。
ウ 図5ドットパターンとの関係について
(ア) 本件明細書3には,図2,5ないし8のほか,次の記載がある。 「【0069】 ・・・図5から図8は他のドットパターンの一例を示す正面図である。
【0070】 上述したようにカメラ602で取り込んだ画像データは,画像処理ア ルゴリズムで処理してドット605を抽出し,歪率補正のアルゴリズム により,カメラ602が原因する歪とカメラ602の傾きによる歪を補 正するので,ドットパターン601の画像データを取り込むときに正確 に認識することができる。
【0071】 このドットパターンの認識では,先ず連続する等間隔のドット605 により構成されたラインを抽出し,その抽出したラインが正しいラインかどうかを判定する。このラインが正しいラインでないときは別のライ\nンを抽出する。
【0072】 次に,抽出したラインの1つを水平ラインとする。この水平ラインを 基準としてそこから垂直に延びるラインを抽出する。垂直ラインは,水 平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことから上下方向を認識する。\n
【0073】 最後に,情報領域を抽出してその情報を数値化し,この数値情報を再 生する。」 (イ) また,引用に係る原判決の「事実及び理由」第3の4(2)(補正後のも の)とおり,図5及び図7では,左端の垂直ラインに配置されたドット の一つが他の同一の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ライ ンに沿って左側に配置され,「x,y座標フラグ」とされていることが 示され,図6及び図8では,左端の垂直ラインに配置されたドットの一 つが他の同一の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ラインに 沿って右側に配置され,「一般コードフラグ」とされていることが示さ れている。
(ウ) 本件発明3は,「前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ド ット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意 味している」(構成要件D3)ことを特徴とするドットパターンであるところ,図5ドットパターンに関し,本件明細書3には,前記(ア)のとお り,「垂直ラインは,水平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことから上下方向を認識す\nる。」(【0072】)との記載がある。しかしながら,これは,垂直 ライン上の特定位置(本来の位置)にドットがないことによってドット パターンの上下方向を認識するとの意味の記載であって,「ドット本来 の位置からのずらし方」によってドットパターンの向きを意味する記載 とはいえない。 また,前記(イ)のとおり,図5ないし8には,他のドットから形成され る垂直ラインから左右にずれたドットが示され,それらドットが「x, y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」との意味を有するフラグ であることが記載されている。しかしながら,引用に係る原判決の「事 実及び理由」第3の4(2)(補正後のもの)によれば,「x,y座標フラ グ」(図5及び7)がある場合には,情報を表現する部分のドットパターンはXY平面上の特定の座標値を示し,「一般コードフラグ」(図6\n及び8)がある場合には,情報を表現する部分のドットパターンはある特定のコード(番号)を示すものと認められる。そうすると,「x,y\n座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」とされたドットは,情報を 表現する部分のドットパターンのデータ内容の定義方法を示すというデータ内容を定義するドットの一つにすぎず,フラグとしてその位置を認\n識され,ドットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によって ドットパターンのデータの内容を定義しているが,ドットパターンの向 きを意味しているものではない。そして,そのほか,図5ないし8には, ドットパターンの向きを意味するドットは記載されていないし,データ の内容を定義しているドットがドットパターンの向きを意味するドット を兼ねるとの記載もない。
さらに,「垂直方向に配置されたドット」の一つにつき,その本来の 位置からのずらし方によってドットパターンの向きを意味することを特 徴とする本件発明3の実施形態について,上記ドットがどのような方向, 距離において配置されるのかについては,本件明細書3にはその記載は ない。 以上によると,図5ドットパターンは,「ずらし方によって前記ドッ トパターンの向きを意味している」(構成要件D3)との構\成を有しな い。 そうすると,本件発明3は,図5ドットパターンに関する記載に係る ものともいえない。
エ 控訴人は,1)図5ないし8において,「x,y座標フラグ」又は「一 般コードフラグ」はドットパターンの向きを意味するドットと兼用され ている,2)本件明細書3の段落【0239】ないし【0241】,【図 105】,【図106】の(d)の記載を参酌すれば,キードットにデータ 内容を定義する機能とドットパターンの向き(角度)を意味するという機能\を持たせ得ることが示されている,3)本件明細書の段落【0230】 の記載から,「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」もキード ットと同様の機能が備わると理解できる,4)本件明細書3の【0072】 では格子ドットを非回転対称の配置にして上下方向も認識できるように しているし,本件明細書3の図5ないし8には「x,y座標フラグ」又 は「一般コードフラグ」が本来の位置からずれることで本来の位置と実 際に配置されたドットの位置関係に基づいてドットパターンの向きが表現されている,5)「x,y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」 がキードットと同一の機能を有するものであることは当業者にとって自明である旨を主張する。\n
しかしながら,前記ウで認定したとおり,図5ないし8においては, ドットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によってドットパ ターンの向きを認識することについては何ら説明されておらず,控訴人 主張のドットの兼用を認めるに足りる根拠は見当たらないないから,上 記1)の主張は採用することができない。 また,【0239】ないし【0241】,【図105】,【図106】 の(d)の記載は,図105ドットパターンに関する記載であり,図105 ドットパターンと図5ドットパターンを組み合わせることは新規事項の 追加となることは前記2にて判断したとおりであるから,そのような組 み合わせをしたのであれば,それ自体からしてサポート要件を欠くこと になり,上記2)の主張は失当である。
次に,図105ドットパターンに関する記載である段落【0230】 (引用に係る原判決の「事実及び理由」第3の2の【0230】III)部分 参照)には「本発明におけるドットパターンの仕様について図103〜 図106を用いて説明する。」との記載があるだけであり,これにより 「x,y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」が図105ドット パターンのキードットと同様の機能が備わると理解することはできないから,上記3)の主張は採用することができない。 さらに,控訴人の上記4)及び5)の主張については,確かに,ドットパ ターンの方向を意味するドット又はドット群を設けてこれらを非回転対 称の配置にすればドットパターンの向きを認識できることは明らかであ り,また,図5ないし8に記載された「x,y座標フラグ」又は「一般 コードフラグ」は非回転対称の位置に配置されているとはいえるから, これをドットパターンの向きを意味するドットとして兼用することも可 能である。しかしながら,本件明細書3は,そのような構\成としたもの と理解すべき記載となっておらず,「本来の位置からのずらし方」とし てどのような選択に従い本件発明3を構成したのかがそもそも記載されているとはいえないことは,前記ウで示したとおりである。したがって,\n上記4)及び5)の主張も採用することができない。
オ 以上のとおり,技術常識を踏まえても,当業者において,本件発明3 が本件明細書3の発明の詳細な説明に記載したものと理解することはで きないというべきであるから,本件発明3に係る本件特許3は,特許法 36条6項1号に違反し,特許無効審判により無効とされるべきもので ある。

◆判決本文
原審はこちら。

◆平成30(ワ)10126

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令和2(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月24日  知的財産高等裁判所

 機械系の発明について、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」というクレームの文言が実施可能要件を満たすのかが争われました。地裁高裁3部は、実施可能要件を具備していないとした審決を取り消しました。

 本件審決は,前記2(1)イ〔本判決22頁〕のとおり,原告が主張する式及 び説明に基づいて本件発明を実施するとしても,当業者に過度の試行錯誤を 要するものと判断した。
(2) 判断の誤りの有無とその理由
ア しかし,本件審決の前記(1)の判断は誤りである。その理由は,次のイの とおりである。
イ(ア) 前記2(3)イ(エ) 〔本判決27頁〕のとおり,前記2(3)イ(ウ) 〔本判 決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外の項目を適宜設定し,Fsが, θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成を実\n現することにより,構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要\nする力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」 するとの構成は実現されるものと認められるところ,前記2(3)イ(ウ〔本) 判決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外の項は複数存在することか ら,それらについて適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作業 機を作成して本件発明を実施するために過度な試行錯誤を要するかを 検討することが必要となる。
この点に関し,原告は,【図2】に記載された各支点の基本的な位置関 係に基づき,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力」と「エ\nプロン角度」の変化曲線をシミュレーションし,甲60(審判乙14) の7頁のグラフ(別紙図4)の結果を得た。そして,同グラフによれば, 【図2】に記載された作業機の位置関係を基礎にして,第3の支点15 2の位置を,第1の支点140を中心として25°下方に移動させた「第 1の作業機」において,「第1の姿勢」(作業機が水平より33°前傾し た状態)の場合(同グラフの青色線)には,エプロンを跳ね上げるのに 要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化する間に,250N から0Nに徐々に減少したことが認められ,「第2の姿勢」(作業機が水 平より18°前傾した状態)の場合(同グラフの黄色線)には,エプロ ンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化 する間に,約230Nから約75Nまで徐々に減少したことが認められ る。また,甲64(審判乙18)の6頁のグラフ(別紙図5)によれば, 「第1の作業機」において,「最上姿勢」(トラクタ油圧機構で作業機を\n最も持ち上げた位置,入力軸が水平より30.5°前傾した状態)の場 合,エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から6 0°に変化する間に,約230Nから約20Nまで徐々に減少したこと が認められる。そして,前記4(2)イ(ア)〔本判決43頁〕のとおり,これ らの場合は,エプロンを跳ね上げるのに要する力が,一般的な作業者が 感じることができる程度に徐々に減少したものと認められる。そうする と,これらのシミュレーションにより,構成要件Gの実施が可能\である ことが立証されたものと認められる。 これらのシミュレーションは,コンピュータを用いたものと推認され るが,その実施が特に困難であったとは認められず,上記の結果を得る ために過度の試行錯誤が必要であったことを窺わせる事情はない。 したがって,前記2(3)イ(ウ)〔本判決27頁〕の式中の各項目のうち, θ以外の項目について適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作 業機を作成して構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,\nエプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの 構成を実施するために,当業者は過度の試行錯誤を要しないものと認め\nられる。
(イ)a 被告は,本件明細書の【0028】には「上記実施例の各支点の位 置関係からこのような荷重の傾向が観察される。」と記載されており, 【図2】の作業機の支点の位置により【図7】のグラフが得られたこ とが明らかにされているとした上,原告が,力学的なシミュレーショ ンにより「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度が 増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する変化曲線を得たと する「第1の作業機」(別紙図2の青色で記載された構造)は,【図2】\nの作業機とは第3の支点(152)の位置が異なり,本件明細書,本 件特許の特許出願の願書に添付された図面に記載されていないもの であるから,「第1の作業機」を用いて得た甲60(審判乙14)の7 頁のグラフ及び甲64(審判乙18)の6頁のグラフに基づいて,本 件発明の構成要件Gが実施可能\であるとする原告の主張は誤りであ ると主張する。
しかし,【図2】の作業機は,本件発明の構成を説明するための作業\n機の一例であるところ(【0016】),本件発明の特許請求の範囲にお いて,支点の位置に関しては,第2の支点及び第3の支点の位置につ いて,アシスト機構が両支点を通る同一軸上で移動可能\であること (構成要件E)が定められているのみであることからすると,その定\nめを充たしていれば,本件発明の作業機における第2の支点及び第3 の支点の位置は,【図2】に示される具体的な位置と同じである必要は ない。そして,特許出願の願書に添付される図面は,設計図のように 寸法等が正確なものが求められるものではなく,発明の技術内容を理 解できる程度の精度で表現されていれば足りるものであり,【図2】も,\n本件発明の構成を説明するために示されたものであって,設計図のよ\nうに厳密な形状や寸法等を具体的に示したものとは認められないか ら,【図2】の作業機とは第3の支点(152)の位置が異なるのみで 全体の構成が同じであり,構\成要件Eも満たしている「第1の作業機」 において,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エ\nプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとい う構成が実施可能\であることが示されていれば,本件発明の構成要件\nGは実施可能であると認められる。本件明細書の【0028】には「上\n記実施例の各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観察され る。」と記載されているが,本件発明の構成が特許請求の範囲により特\n定されていることからしても,上記の【0028】の記載は,本件発 明の作業機における第2の支点及び第3の支点の位置が【図2】に示 される具体的な位置と同じであることまでを要求するものとは認め られない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
b 被告は,「第1の作業機」の計算に用いたガススプリング(甲65(審 判乙19))は,直径をφ16mmにした「オールガスタイプ」のもの であり,【図5】及び【図6】に記載された「フリーピストンタイプ」 のものでないところ,【図5】及び【図6】に記載された「フリーピス トンタイプ」のピストンでは【図7】のグラフが得られないことは明 らかであると主張する。
しかし,本件発明におけるアシスト機構で用いるガススプリングに\nついて,本件訂正後の請求項1には,「ガススプリング」と記載されて いるのみであり,「オールガスタイプ」であるか「フリーピストンタイ プ」であるかについての特定がない。また,本件明細書の【0029】 には,「上記実施例においては,ガススプリングとして,フリーピスト ンを有するものを用いたが,フリーピストンを用いない従来型のガス スプリングを用いることも可能である。」と記載されており,本件発明\nのガススプリングが「フリーピストンタイプ」のものに限られない旨 記載されている。そうすると,「オールガスタイプ」のガススプリング (甲65(審判乙19))を計算に用いて,前記(ア)のとおり,「第1の 作業機」により構成要件Gが実施可能\であることが示されていること (甲60(審判乙14)1〜2頁,甲64(審判乙18)1頁,甲6 5(審判乙19))からすれば,構成要件Gは実施可能\であると認めら れる。そして,「オールガスタイプ」のガススプリング(甲65(審判 乙19))は,その構造に照らし,本件特許の原出願時に実施可能\であ ったものと推認され,本件特許の原出願時に実施できなかったことを 裏付ける具体的な証拠はない。したがって,被告の上記主張は,採用 することができない。
c 被告は,本件発明に係る作業機を自ら開発した原告ですら,【図7】 のグラフのデータを得た日に存在していた「当時の作業機」を再現で きないのであるから,構成要件Gが実施不可能\であることは明らかで あると主張する。 しかし,特許発明が実施可能性であるか否かは,実施例に示された\n例をそのまま具体的に再現することができるか否かによって判断され るものではないから,本件特許の原出願時に当業者が本件明細書の記 載に基づいて本件発明を実施することができたか否かは,【図7】のグ ラフのデータを得た「当時の作業機」自体を再現できるか否かによっ て判断されるものではない。前記(ア)のとおり,甲60(審判乙14), 甲64(審判乙18)によれば,構成要件Gが実施可能\であることが 認められる。したがって,被告の上記主張は,採用することができな い。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10106  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月4日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明についての無効審判の取消訴訟です。知財高裁も審決同様、無効理由無しと判断しました。無効理由としては進歩性、実施可能要件、サポート要件と全て争点とされています。\n

 原告は,本件発明1において,代入用スクリプトと自ノード変数データと が,同一のノードデータに含まれるのに対し,甲1発明ではそうではないこ とが相違点に当たるとした場合であっても,甲1発明において,直系上位ノ ードに含まれている代入用スクリプトを,直系上位ノードではなく,自ノー ドに含ませることとすることは,当業者の技術常識ないし周知技術に基づく 設計事項であるから,当業者は,相違点2及び相違点3に係る構成を容易に\n想到することができると主張する。 しかし,前記2において判示したとおり,甲1には,本件発明1の構成要\n件Fの代入用スクリプトに相当する事項自体が開示されていないから,原告 が主張するように,単に代入用スクリプトを自ノードに含むか含まないかと いう点のみが相違点となるのではない。
そして,甲1には,ノードデータに当該ノードデータに含まれる変数デー タである自ノード変数データと,当該ノードの直系上位ノードのノードデー タに含まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行っ て,前記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプトが含まれるよう にする方法について記載も示唆もない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,当業者が,甲1発 明において,「スクリプトは「当該ノードデータに含まれる変数データであ る自ノード変数データと,当該ノードの直系上位ノードのノードデータに含 まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行って,前 記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプト」を含む」という相違 点2に係る本件発明1の構成及び「前記代入用スクリプトの実行により,前\n記自ノード変数データの値を更新する」という相違点3に係る本件発明1の 構成を容易に想到することができたとはいえない。\n
同様に,当業者が,甲1発明において,本件発明1の発明特定事項を全て 含む本件発明14について,前記相違点2に係る本件発明14の構成及び前\n記相違点3に係る本件発明14の構成を容易に想到することができたとはい\nえない。

◆判決本文

侵害訴訟はこちらです。 1審、2審とも技術的範囲に属しないと判断しています。

◆平成31(ネ)10034

◆平成29(ワ)31706

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