2023.12.12
令和4(行ケ)10109 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年11月30日 知的財産高等裁判所
実施可能要件・サポート要件違反があるとの異議理由を認め、特許を取り消す旨の審決がなされましたが、知財高裁は、かかる審決を取り消しました。\n
(1) 特許法36条4項1号は、特許による技術の独占が発明の詳細な説明をも
って当該技術を公開したことへの代償として付与されるという仕組みを踏
まえ、発明の詳細な説明の記載につき実施可能要件を定める。このような同\n号の趣旨に鑑みると、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足するた\nめには、当該発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、
当業者が過度の試行錯誤を要することなく、特許を受けようとする発明の実
施をすることができる程度の記載があることを要するものと解される。
(2) そこで検討するに、まず前提として、本件明細書記載の第1実施形態によ
り本件3条件を満たす防眩フィルムを製造することができることは争いが
ないところ、被告は、本件特許発明は第2実施形態に係る防眩フィルムであ
って、第1実施形態は本件特許発明に含まれない旨主張する。
しかし、本件明細書で第1実施形態を説明する【0056】の「防眩層3
は、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子(フィラー)を含んでいて
もよい。」との記載、【0058】の「微粒子の平均粒径は特に限定されず、
例えば、0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定できる。」との記載
及び【0059】の「微粒子の平均粒径が小さすぎると、防眩性が得られに
くくなり、大き過ぎると、ディスプレイのギラツキが大きくなるおそれがあ
るため留意する。」との記載を参酌すれば、第1実施形態には、スピノーダ
ル分解による凝集と微粒子の凝集の両方により表面に凹凸の分布構\造が形
成されている防眩層を備える防眩フィルムが含まれているといえる。したが
って、本件特許発明においては、スピノーダル分解による凝集のみにより表\n面に凹凸の分布構造が形成されている防眩層は含まないが、スピノーダル分\n解による凝集と微粒子の凝集の両方により表面に凹凸の分布構\造が形成さ
れている防眩層は排除されていないのであり、第1実施形態に係る防眩フィ
ルムが本件特許発明に含まれないとする被告の主張は採用できない。
(3) 以上を前提に実施可能要件の充足性について検討するに、第1実施形態は、\n防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を
急峻化するとともに、凹凸の数を増やすことにより、ディスプレイのギラツ
キを抑制しながら防眩性を向上させるものである(【0078】)。第1実
施形態と、第2実施形態とは、上記原理を共通にし、第1実施形態では、ス
ピノーダル分解によって凹凸を防眩層に形成するのに対し、第2実施形態で
は、複数の微粒子を使用し、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶
剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことで、微粒子の適度
な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形成\nするという点において異なる(【0079】、【0080】)。
そして、本件明細書には、第1実施形態に関して本件3条件に係る防眩層
の特性は、溶液中の樹脂組成物の組み合わせや重量比、調製工程、形成工程、
硬化工程の施工条件等を変化させることで形成できるものであることが記
載されており(【0068】)、第2実施形態について、微粒子や、防眩層
を構成するマトリクス樹脂の材料(【0086】〜【0094】)、マトリ\nクス樹脂と微粒子との屈折率差(【0081】)、粒径(【0082】)、
防眩層におけるマトリクス樹脂と微粒子の割合(【0085】)、製造方法
(【0095】〜【0102】)、調製に使用する溶剤(【0096】)が
具体的に記載されるとともに、実施例5においては、シリカ粒子がブタノー
ルに対して斥力相互作用を生じたことにより、凹凸構造が強調されること\n(【0188】)が、記載されているから、当業者は、第1実施形態に係る
【0186】及び【0187】の記載に加え、【0068】及び【0079】
の記載を併せ考えれば、各生産工程における条件の適切な設定や、アクリル
系紫外線硬化樹脂とアクリル系ハードコート配合物Aを共存させること等
の調整を行うことによって、第2実施形態に関して、実施例として記載され
た防眩フィルムをはじめとする様々な特性の防眩フィルムを得られること
を理解するものということができる。したがって、仮に本件特許発明が、微
粒子の凝集のみにより表面に凹凸の分布構\造が形成された防眩層を備える
防眩フィルムであるとしても、当業者は本件特許発明に係る防眩フィルムを
製造することができるといえる。
被告は、凹凸を形成する方法(原理)が異なれば凹凸の形成に適した材料
は異なり、それに伴い斥力相互作用が生じる材料の組み合わせも異なるから、
微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選
定についての手がかりは本件明細書に開示されていないと主張する。しかし、
微粒子の凝縮によって形成される凹凸構造の形状は、スピノーダル分解の凝\n集が進行したことによる上記液滴相構造の形状と同様のものであると解さ\nれるから、第1実施形態の凹凸構造を参考にできるものと解される。そして、\n上記のとおり、本件明細書には、本件特許発明に係る特性を導く上で主要な
構造となる凹凸の急峻性を生み出す原理とその具体的方法、原材料から製造\nの工程に係る記載があり(特に【0079】)、当業者は、微粒子の凝集を
用いてより急峻な凹凸を形成する場合には、微粒子の重量部を大きくし、さ
らに必要に応じてブタノールの重量部を大きくし、斥力を大きくするなどし
て、通常の試行錯誤の範囲内で、シリカ粒子やブタノールの量などを具体的
に決定し、その実施品を作ることができるものというべきである。
(4) 被告は、本件明細書の【0005】、【0008】の記載から、本件特許
発明の目的のうち、「高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルム
を提供すること」とは、外光の映り込みを防止すること(高いヘイズ値とす
ること)と、ディスプレイの表示性能\を維持すること(高い透過像鮮明度と
すること)とのトレードオフの相関関係に起因して、従来、透過像鮮明度の
設計自由度が制約を受けていたところ、ギラツキを所定の範囲にまで抑制さ
れるとともに、前記制約を克服した領域ともいうべき領域である本件高ヘイ
ズ・高鮮明度領域における透過像鮮明度を備えた防眩フィルムを提供するこ
とであると当業者は理解するから、本件高ヘイズ・高鮮明度領域について製
造方法の記載が求められると主張する。
しかし、まず、本件明細書の【0005】の記載からは、外光の映り込み
の防止とディスプレイの表示性能\の維持の間に厳格なトレードオフの関係
があるとまで認めることはできない。本件特許発明の第1実施形態に係る実
施例1〜4、比較例2〜3、10及び11、第2実施形態に係る実施例5、
比較例1、4〜9における防眩フィルムのヘイズ値及び透過像鮮明度の数値
(本件明細書【0183】の【表1】、【0184】の【表\2】)からは、
ヘイズ値が同程度であっても透過像鮮明度が異なる防眩フィルムや、透過像
鮮明度が同程度であってもヘイズ値が異なる防眩フィルムが製造できるこ
とが示されている。なお、被告は、本件明細書には本件特許発明に対応する
実施例としては実施例5しか記載されていない旨主張するが、これは、第1
実施形態が本件特許発明に対応するものでないという誤った前提に基づく
ものであるし、仮に被告の前提によるとしても、ここで問題となるのはヘイ
ズ値と透過像鮮明度の相関関係であるから、実施例5以外の実施例を排除す
る理由はない。また、被告は、比較例1に関しては、「平均粒径が0.5μ
m以上5.0μm以下の範囲の値に設定された」本件特許発明の前提条件で
あるμmオーダーの表面凹凸構\造を備えた防眩層ではなく、nmオーダーの
表面凹凸構\造を備えた防眩層を有するから、参酌すべきではない旨主張する
が、仮に比較例1を参酌しなかったとしても、上記認定が左右されるもので
はない。
加えて、JIS規格(K7374)(甲43)の「附属書(参考)像鮮明
度測定例」では、像鮮明度の透過測定例として「ヘーズ値によって像の鮮明
さを評価できないアンチグレアフィルムなどのフィルムの測定例」があり、
附属書表1の試料1−2「ヘーズ値14.11、像鮮明度80.0%」と試\n料1−4「ヘーズ値14.67、像鮮明度5.9%」を示すとともに、ヘー
ズ値は像の鮮明度とは異なり視感を反映していないのに対して、像鮮明度は
視感と一致していることが記載されていることからみて、防眩フィルムのヘ
イズと透過像鮮明度の間には一定の相関関係があるものの、強い相関性まで
認められているものではなく、製造条件などで調整が可能であり、設計自由\n度があるといえる。
さらに、本件明細書の【0008】には「そこで本発明は、ディスプレイ
のギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しな
がらディスプレイのギラツキを抑制できると共に、高い透過像鮮明度の設計
自由度を有する防眩フィルムを提供することを目的としている。」と記載さ
れ、本件特許発明は、防眩性、ギラツキの抑制、高い透過像鮮明度の設計自
由度という三条件の均衡を目的とするものと理解される。そして、本件明細
書の【0011】の「また、前記標準偏差を所定値に設定すると共に、防眩
層のヘイズ値を50%以上99%以下の範囲の値に設定することにより、デ
ィスプレイのギラツキを抑制しながら、良好な防眩性を得ることができる。
また、防眩フィルムの光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度を0%以上60%
以下の範囲の値に設定することで、防眩フィルムの透過像鮮明度の設計自由
度を広く確保できる。」との記載は、良好な防眩性を示すヘイズ値が50%
以上であることを示すものであり、したがって、ヘイズ値は、ギラツキの抑
制や高い透過像鮮明度という他の条件との関係で上記数値範囲内で変動し
てよいものである。上記のとおり、高いヘイズ値とすることとディスプレイ
の表示性能\を維持することとの厳格なトレードオフの関係は認められず、甲
13添付の実験成績証明書3頁ではサンプル1(ヘイズ値96%、透過像鮮
明度65%)とサンプル2(ヘイズ値45%、透過像鮮明度2.0%)の防
眩フィルムが製造できたことが示されており、本件高ヘイズ・高鮮明度領域
の製造方法が具体的に記載されていなければ、本件特許発明が実施可能要件\nを欠くなどということはできない。
(5) 以上によれば、本件明細書には、当業者がその記載及び出願当時の技術常
識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明に係る物を
製造し、使用することができる程度の記載があるものと認められ、当業者が
本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載された\nものであると認められる。したがって、本件明細書につき実施可能要件を充足しないとした本件決定の判断には誤りがあり、取消事由2には理由がある。\n
3 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)について
(1) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細
な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を
定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な
説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な
説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明
の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳
細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該
発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して
判断すべきものと解される。
(2) 本件特許発明は、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑
制できると共に、高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提
供することを目的とする(【0008】)。
ヘイズ値が50%以上あれば良好な防眩性は確保でき(【0011】)、
ヘイズ値と透過像鮮明度との間には一定の相関関係があるから、適宜ヘイズ
値を変動させることにより、透過像鮮明度も調整することができる。
ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させるには、 防眩
層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻
化すると共に、凹凸の数を増やせばよい(【0078】)。
そして、上記のような防眩フィルムについて、本件明細書には、凹凸の急
峻性を生み出す原理とその具体的方法、原材料から製造の工程、実施例等が
記載されていることは前記2(3)のとおりであるから、当業者は、その記載
及び技術常識に基づき、特許請求の範囲に記載された範囲において、本件特
許発明の課題を解決できると認識できるということができる。
◆判決本文
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2023.10.10
令和4(ネ)10094 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 令和5年10月5日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
原審は、分割の遡及効が認められず、親出願から新規性違反の無効理由有りと判断していましたが、知財高裁はサポート要件違反ありとして権利行使不能と判断しました。
当裁判所は、本件発明に係る特許請求の範囲の記載には、分割出願が適法である
か否かにかかわらず、サポート要件違反があり、本件訂正が有効であったとしても、
サポート要件違反があることが認められるから、結局、本件特許は特許法36条6
項1号違反により無効にされるべきものであり、同法104条の3第1項により、
原告は被告に対し、本件特許権を行使することはできないと判断する。その理由は、
以下のとおりである。
(2) 本件についてみると、本件明細書(以下、原出願当初明細書も同じ。)には、
「発明が解決しようとする課題」として、「出願人は、1234yf等の新たな低地
球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在すること
を見出した。」(【0003】)との記載がある。また、「本発明によれば、HFO−1234yfと、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HCFC−243
db、・・・caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化
合物とを含む組成物が提供される。組成物は、少なくとも1つの追加の化合物の約
1重量パーセント未満を含有する。」(【0004】)、「HFO−1234yfには、いくつかある用途の中で特に、冷蔵、熱伝達流体、エアロゾル噴霧剤、発泡膨張剤
としての用途が示唆されてきた。また、HFO−1234yfは、V.C.Pap
adimitriouらにより、Physical Chemistry Che
mical Physics、2007、9巻、1−13頁に記録されているとお
り、低地球温暖化係数(GWP)を有することも分かっており有利である。このよ
うに、HFO−1234yfは、高GWP飽和HFC冷媒に替わる良い候補である。」
(【0010】)といった記載に、【0013】、【0016】、【0019】、【0022】、【0030】、【図1】の記載を総合すると、本件明細書には、HFO−1234yfが低地球温暖化係数(GWP)を有することが知られており、高GWP飽和HF
C冷媒に替わる良い候補であること、HFO−1234yfを調製する際に特定の
追加の化合物が少量存在すること、本件発明の組成物に含まれる追加の化合物の一
つとして約1重量パーセント未満のHFC−143aがあること、HFO−123
4yfを調製する過程において生じる副生成物や、HFO−1234yf又はその
原料(HCFC−243db、HCFO−1233xf、HCFC−244bb)
に含まれる不純物が、追加の化合物に該当することが記載されているということが
できる。
しかるところ、HFO−1234yfは、原出願日前において、既に低地球温暖
化係数(GWP)を有する化合物として有用であることが知られていたことは、【0
010】の記載自体からも明らかである。したがって、HFO−1234yfを調
製する際に追加の化合物が少量存在することにより、どのような技術的意義がある
のか、いかなる作用効果があり、これによりどのような課題が解決されることにな
るのかといった点が記載されていなければ、本件発明が解決しようとした課題が記
載されていることにはならない。しかし、本件明細書には、これらの点について何
ら記載がなく、その余の記載をみても、本件明細書には、本件発明が解決しようと
した課題をうかがわせる部分はない。本件明細書には、「技術分野」として、「本開
示内容は、熱伝達組成物、エアロゾル噴霧剤、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニ
ング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよ
びポリウレタンの膨張剤、ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にあ
る消火剤として有用な組成物の分野に関する。特に、本開示内容は、2,3,3,
3,−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)また
は2,3−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243db
または243db)、2−クロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−
1233xfまたは1233xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフ
ルオロプロパン(HCFC−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有
用な組成物に関する。」(【0001】)との記載があるが、同記載は、本件発明が属
する技術分野の説明にすぎないから、この記載から本件発明が解決しようとする課
題を理解することはできない。
そうすると、本件明細書に形式的に記載された「発明が解決しようとする課題」
は、本件発明の課題の記載としては不十分であり、本件明細書には本件発明の課題が記載されていないというほかない。そうである以上、当業者が、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することができるというこ\nともできない。
(3) 仮に、上記【0001】の記載をもって本件発明の課題を説明したものと理
解したとしても、次に述べるとおり、本件明細書の記載をもって、当業者が当該課
題を解決することができると認識することができるとは認められない。
すなわち、この場合の本件発明の課題は、「2,3,3,3,−テトラフルオロプ
ロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)または2,3−ジクロロ−1,
1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243dbまたは243db)、2−ク
ロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xfまたは123
3xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(HCFC
−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有用な組成物を提供すること」
と理解されることとなるはずである。
そして、本件発明は、1)HFO−1234yf、2)0.2重量パーセント以下の
HFC−143a、3)1.9重量パーセント以下のHFC−254ebを含む組成
物によって、当該課題を解決するものということになる。
しかるところ、本件明細書には、上記1)〜3)を含む組成物についての記載がされ
ているとはいえない。すなわち、【0121】〜【0123】(表5(【表\6】))には、実施例15として、HCFC−244bbからHFO−1234yfへ、触媒無しで変換したところ生じた、HFO−1234yf、HFC−143a及びHFC−
254ebを含む組成物が4例記載されており(加熱された温度(゜C))がそれぞれ
550、574、603、626)、当該組成物に含まれるHFC−143aの量が
それぞれ、0.1、0.1、0.2、0.2モルパーセントであること、及び同H
FC−254ebの量がそれぞれ1.7、1.9、1.4、0.7モルパーセント
であることが記載されている。しかしながら、表5(【表\6】)に記載された組成物
には「未知」のものが含まれており、その分子量を知ることができないから、同表において、モルパーセントの単位をもって記載されたHFC−143a及びHFC−254ebの含有量を、重量パーセントの含有量へと換算することはできない。\nそうすると、本件明細書には、上記1)〜3)の構成を有する組成物についての記載がされていないというほかない。それのみならず、本件明細書には、このような構\成を有する組成物が、HFO−1234yfの前記有用性にとどまらず、いかなる意
味において「有用」な組成物になるのか、という点について何ら記載されておらず、
示唆した部分もない。したがって、当業者が、本件明細書の記載から、上記1)〜3)
の構成を有する組成物が、熱伝達組成物として「有用な」組成物であるものと理解することもできない。したがって、当業者は、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することはない。
(4) 以上のとおり、分割出願が有効であり、出願日が原出願日(平成21年5月
7日)となると考えたとしても、本件発明に係る特許請求の範囲の記載が、サポー
ト要件に適合するということができないから、本件発明に係る特許は、無効審判請
求により無効とされるべきものである(特許法123条1項4号、36条6項1号)。
そして、このことは、分割出願が無効であり、出願日が分割出願の日(令和元年9
月4日)となる場合でも同様である。
3 争点3(訂正の再抗弁の成否)について
本件訂正発明についても、本件発明に係る請求項1のHFO−1234yfにつ
いて「77.0モルパーセント以上」という下限が設定されただけで、本件訂正後
の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合しても、当該下限にどのような技術
的意義があり、これによりどのような課題を解決することができるのかは明らかに
されていない。また、前記2(2)及び(3)と同様、本件訂正発明に係る組成物の構成により解決しようとしている課題や、その解決方法が本件明細書に記載されていないことには変わりはない。したがって、訂正が有効だとしても、本件訂正発明に係\nる特許請求の範囲の記載には、前記2(2)及び(3)と同じ理由により、サポート要件
違反の無効理由が存在することとなるので、訂正の再抗弁によりサポート要件違反
の無効理由を解消することはできない。
そうすると、本件訂正の適法性及びその余の争点につき判断するまでもなく、特
許法104条の3第1項により、原告は被告に対し、本件特許権を行使することが
できない。
本件特許の無効審決審決取消訴訟です。
◆令和4(行ケ)10126
◆令和4(行ケ)10125
侵害訴訟の1審はこちらです。
1審は、新規性違反を理由として、権利行使不能と判断していました(特104-3)。
◆令和3(ワ)29388
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2023.09.28
令和3(行ケ)10152 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年9月20日 知的財産高等裁判所
無効理由無しした審決について、知財高裁は、サポート要件違反ありと認定し、審決を取り消しました。
(4) 本件発明についてのサポート要件の検討
ア 従来技術の問題2を解決するための手段として、本件発明1は、前記2(2)ア
のとおり、回転子積層鉄心を押圧する際の上型及び下型に対する回転子積層鉄心の
配置及び上型と下型との位置関係又は状態を特定する発明であるのに対し、本件明
細書の発明の詳細な説明に記載された発明は、前記2(3)ウのとおり「回転子積層鉄
心12の下面25が当接する矩形板状のトレイ部26と、トレイ部26の中心部に
立設され、回転子積層鉄心12の軸孔11に嵌入する直径固定型で棒状のガイド部
材27とを有している搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を下型1
7上に搬送し」、「搬送トレイ16を回転子積層鉄心12と共に、下型17から取り
外し、回転子積層鉄心12が搬送トレイ16から取り外される」ものであるから、
本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると、搬送トレイを不可欠の構成として\nいるものと解される。そうすると、本件発明1には、回転子積層鉄心を搭載する搬
送トレイを含む構成の発明だけでなく、この搬送トレイを含まない構\成の発明も含
まれており、搬送トレイを構成に含まない特許請求の範囲の記載を前提にした場合、\n上記発明の詳細な説明の記載から、当業者が、積層鉄心を下型の有底穴部に嵌挿し、
加熱後、積層鉄心を下型の有底穴部から取り出す作業は、人手又は機械によっても、
時間を要するもので、作業性が極めて悪いこと(従来技術の問題2)を解決して、
生産性及び作業性に優れており、安価に作業ができる永久磁石の樹脂封止方法を提
供するという本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
そして、この点は本件発明2及び本件発明3も搬送トレイを構成に含まない発明を\n含むため、同様であるといえる。
イ また、段落【0010】には、「本発明に係る永久磁石の樹脂封止方法におい
て、前記回転子積層鉄心は中央に軸孔を有し、前記回転子積層鉄心を前記軸孔に嵌
入するガイド部材を備えた搬送トレイに載せて、前記上型及び前記下型の間に配置
してもよい。」との記載があり、搬送トレイを不可欠の構成とはしていないことを前\n提とした発明の詳細な説明の記載があるが、前記2(4)アのとおり、本件明細書の発
明の詳細な説明の記載によると、従来技術の問題2を解決するために搬送トレイを
不可欠の構成としているから、搬送トレイを用いずに本件発明の課題を解決するた\nめには搬送トレイに代わる構成が必要となるものと解されるところ、本件明細書の\n記載によっても搬送トレイの具体的構造に関する記載(【0047】【0048】)は\nあるものの搬送トレイに代わる構成を具体的に示唆する記載はなく、これに代わる\n構成が当業者にとって明らかであることを認めるに足りる証拠もないから、当業者\nが出願時の技術常識に照らしてみたとしても、発明の詳細な説明に具体的な記載が
ないまま、回転子積層鉄心を下型上に固定し、また下型から取り外す工程に係る課
題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。この点、本件発明2
及び本件発明3も同様である。
ウ そうすると、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていな
い発明を含むから、特許法36条6項1号の要件を満たさない。
エ この点、本件審決は、本件発明の課題は、本件発明1に係る特許請求の範囲
に記載された「前記回転子積層鉄心を、上型及び下型の間に配置して、前記上型及
び前記下型同士が当接することなく、前記下型及び前記上型で前記回転子積層鉄心
を押圧し・・・前記永久磁石を樹脂封止する」ことにより、解決すると認識できる
から、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであると判断し、
被告も、搬送トレイを備えなくとも、サポート要件を満たすとした本件審決の認定
に誤りはないと主張する。
しかしながら、上記判断の前提は、本件明細書において、「このような課題を解決
する発明の実施の形態として、「(a)前工程から送られてきた、永久磁石14が磁
石挿入孔13に挿入され搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を別途
搬送手段等を用いて下型17上に搬送し、上型21(以下、キャビティブロック7
4も含む)に対して位置決めして固定」(【0039】)し、「(b)下型昇降手段33により昇降プレート32を介して下型17を少し上昇し、回転子積層鉄心12とキャ
ビティブロック74とを密着させ・・・」(【0040】)、「(c)原料18が加熱されて粘度が下がると、更に、下型昇降手段33により昇降プレート32を介して下
型17を上昇して、搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を上型21
に押し付け」(【0041】、熱硬化性樹脂によって永久磁石を磁石挿入口に固定させ
た上で、「下型昇降手段33により昇降プレート32を介して下型17を下降させ」
(【0044】)、「その後、搬送トレイ16を回転子積層鉄心12と共に、下型17
から取り外し、回転子積層鉄心12が搬送トレイ16から取り外され、搬送トレイ
16は別途搬送手段により後工程に送」(【0044】)ることが記載されており、こ
れにより、「複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心に形成された複数の磁石挿入
孔に挿入された永久磁石を、樹脂部材を磁石挿入孔に注入して固定する際、上型及
び下型により回転子積層鉄心を押圧し、樹脂部材を磁石挿入孔に充填することによっ
て、・・・簡単な工程で、短時間に行うことができ、生産性及び作業性に優れており、安価に作業ができる」(【0011】)との効果を奏する発明が記載されている。」といえるものであるから、本件審決は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された
上記工程からなる本件発明の実施の形態が課題を解決できることを判断しているも
のと認められる。
そうすると、本件審決は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された本件発明
の実施の形態について、当業者が課題を解決できると認識できることをいうにとど
まり、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範
囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当
業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、
その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解
決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断したものとはいえな
い。したがって、本件審決は、特許法36条6項1号に規定される「特許を受けよう
とする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を判断したものとはい
えない。
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2023.07.20
令和4(行ケ)10064 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年7月13日 知的財産高等裁判所
進歩性違反・サポート違反として無効審判を請求しました。審決は無効理由無し、裁判所も同様です。進歩性については、「非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを考慮すると、・・・結晶の平均粒径を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであったと認めることはできない」と判断しました。
(イ) また、甲7、9、52、61、63、71及び73並びに乙7によると、
薬物の安定性を高める方法として、結晶の結晶化度を高めること、遮光、湿気の遮
断等を目的として薬剤に保護コーティングを形成すること、遮光を目的として遮光
剤(酸化チタン)を含むコート液をコーティングすることなどは、本件優先日当時
の周知技術であったと認められる。
(ウ) しかしながら、甲5、7、52、54及び61によると、本件優先日当時、
非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在し、そのため、水難溶
性の薬物の溶解性を改善するとの目的で、かえって結晶化度を低くすることが一般
に行われていたものと認められるところ、前記(ア)及び(イ)のとおり、本件優先日当
時、経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術として、結晶
の粒子径を小さくすること以外の方法も存在し、また、薬物の安定性を高めるため
の周知技術として、結晶の結晶化度を高めること以外の方法も存在していたのであ
るから、化合物1の溶解性及び安定性を高めるとの課題を認識していた本件優先日
当時の当業者において、化合物1の溶解性を追求するとの観点から、経口投与され
る水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術(結晶の粒子径を小さくすると
の周知技術)を採用し、かつ、化合物1の安定性を追求するとの観点から、薬物の
溶解性を低下させる結果となり得る周知技術(結晶の結晶化度を大きくするとの周
知技術)をあえて採用することが容易に想到し得たことであったと認めることはで
きない。
(エ) この点に関し、原告らは、結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持するこ
とは特段の処理が不要で薬剤をそのまま使用するという最も基本的な態様を含むも
のであり、他の手段よりはるかに容易な態様のものであると主張する。しかしなが
ら、前記(ア)のとおり、本件優先日当時、結晶の粒子径を小さくするための主たる
手段として、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル等を利用した粉砕が考えら
れていたところ、甲52によると、粉砕により結晶の結晶化度が低下し、結晶が非
晶質化することは、よく経験される事象であったものと認められるから、結晶の結
晶化度を一定の数値以上に維持することが特段の処理を要しないものであるという
ことはできず、原告らの上記主張は、前提を誤るものというべきである。
また、原告らは、本件優先日の当業者であれば、薬物の安定性を向上させるとの
課題に基づいて結晶の結晶化度を一定の数値以上に維持することを検討しつつ、粒
子の微細化等の手段により溶解度を向上させるなど、結晶の結晶化度や平均粒径と
いったパラメータを適宜調整することを十分に動機付けられると主張するが、上記\nのとおり、非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在したことを
考慮すると、原告らの上記主張によっても、本件優先日当時の当業者において、相
反する効果を生ずる事項同士であると認識されていた、化合物1の結晶の平均粒径
を小さくし、かつ、その結晶化度を大きくすることが容易に想到し得たことであっ
たと認めることはできないといわざるを得ない(この点に関し、本件明細書には、
実施例(試験例2、実施例2)として、化合物1の微細結晶Aの結晶化度が84.
6%であり、粒径がD100=8.7μmである場合(後記5(4)ア(ア)のとおり、化
合物1の平均粒径が数μmである場合)においても、結晶が凝集することなく、良
好な溶解性及び分散性を示したとの記載があるが、前記(2)イ(ウ)において認定した
技術常識(非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識)並びに甲6及び
52によって認められる技術常識(特に薬物が疎水性のものである場合には、結晶
の粒子径を小さくすればするほど凝集が起こやすくなり、その有効表面積がかえっ\nて小さくなる結果、溶解性が低下することがあるとの技術常識)に照らすと、上記
実施例が示す効果は、甲1結晶発明及び本件優先日当時の技術常識から予測し得な\nかったものといえる。)。
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2023.07.20
令和4(行ケ)10081 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年7月13日 知的財産高等裁判所
特許異議申立にて、サポート要件違反として取り消された特許の取消を求めました。知財高裁はサポート要件違反とした審決を維持しました。発明はゴルフクラブのシャフトで、\n「・・・シャフトのトルクをTq(°)とした場合に、1.6≦Tq≦4.0を満たし、前記バイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に、0.05≦A/B≦0.12を満たし、前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に、1.0≦A/C≦1.8を満たす」
というパラメータ発明です。
前記(2)アによると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件各発明について、
次のとおりの記載がされているということができる。すなわち、本件各発明は、繊
維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト(以下、単に「シャフト」ということがあ
る。)に関するものである。ゴルフのスコアを良くするためには、打球の飛距離の
安定性及び左右への方向安定性を得ることが非常に重要であり、そのためには、三
つの要素(ボールの初速、打ち出し角度及びスピン量)のばらつきを減少させてこ
れらを安定させる必要があるところ、ボールを打撃する瞬間のシャフトの変形(特
にシャフトの細径部の変形)がこれらの要素の安定性に大きな影響を及ぼすため、
シャフトの細径部のねじり剛性を上げることによりこれらの要素を安定させ得るこ
とが従来から知られていた。しかしながら、単にシャフトの細径部のねじり剛性を
上げると、フィーリングが硬くなったり、ヘッドの返りが極端に悪くなったり、ヘ
ッドのトゥダウンが抑制されすぎて飛距離が小さくなったりするなどのデメリット
が生じるほか、弾性率の高い炭素繊維の使用量を多くしすぎることによるシャフト
の強度の低下を招き、シャフトの折損が生じやすくなるという問題があった。本件
各発明は、このような問題を解決し、特にねじり剛性が高いシャフトにおいても、
スイングの安定性が高く、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されること
なく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたシャフト(ねじり剛性の高いシャ
フト(ロートルクのシャフト))を提供することを目的とするものである。本件各
発明は、前記第2の2のとおりの構成とすることにより、プレーヤーの力量に左右\nされることなく、飛距離の安定性及び左右へのばらつきの少ない方向安定性の双方
に優れたシャフトが得られるとの効果を奏する。
以上によると、本件各発明の課題は、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴル
フクラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)で
あって、スイングの安定性が高く、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右さ
れることなく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたものを提供すること」
(以下「本件課題」という。)であると認めるのが相当である。
(4) 決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)について\n
ア 構成2について\n
(ア) Tq≦4.0°について
a シャフトのトルク(Tq)を4.0°以下とすることにより得られる効果等
に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「トルク(Tq)を4.0°以下と
することによって、ゴルファーの力量が飛距離の安定性や左右への方向安定性に与
える影響を低減させることができ、これらの両立を達成できる傾向にある。」との
記載(【0021】)があり、また、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴルフ
クラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)であ
って、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されることなく飛距離の安定性
と方向安定性の双方に優れたものが得られる」との効果(以下「本件効果」とい
う。)が得られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例
1の各トルク(°)がそれぞれ2.4及び4.8であるとの記載(【表4】)があ\nる。しかしながら、これらの記載は、シャフトのトルクを4.0°以下とすること
によりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、し
たがって、構成2のうちシャフトのトルクを4.0°以下とするとの点については、\n本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を
解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、低トルクのシャフト(ねじり剛性が高いシャフト)が飛距離の安定
性及び方向安定性において優れていることは本件出願日当時の技術常識であり、本
件出願日当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、シャフトのトルクを4.
0°以下とすることにより飛距離の安定性及び方向安定性(比較例1よりも優れた
飛距離の安定性及び方向安定性)が得られるものと理解し得ると主張する。しかし
ながら、原告の上記主張並びに原告が上記技術常識に係る証拠として提出する甲1
2及び21ないし23は、シャフトのトルクを4.0°以下とすることによりなぜ
本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、シャ
フトのトルクを4.0°以下とすることにより本件課題が解決されるとの本件出願
日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成2のうちシャフトのトル\nクを4.0°以下とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の
技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということ
はできない。
c なお、原告は、本件各発明が構造力学に基づく物理学的な発明であって、発\n明の実施方法や作用機序等を理解することが比較的困難な技術分野(薬学、化学等)
に属する発明ではないとして、構成2の境界値の厳密な根拠が本件明細書に記載さ\nれている必要はないと主張するが、本件各発明が構造力学に基づく物理学的な発明\nであることをもって、シャフトのトルクを4.0°以下とすることにより本件課題
が解決される理由を本件明細書の発明の詳細な説明において適切に説明する必要が
ないということはできないから、原告の上記主張を採用することはできない(この
点については、以下の構成2のうちシャフトのトルクを1.6°以上とするとの点\n及び構成3ないし5についても同じである。)。\n
・・・
b 原告は、本件各発明は細径部のトルクを小さくすることが飛距離の安定性及
び方向安定性を高めるとした甲6発明の効果を前提としつつ、更に非熟練ゴルファ
ーにとってのデメリット(フィーリングが硬くなったりヘッドの返り(トゥダウン)
が悪くなったりすること)を克服するとの課題を解決するものであり、加えて、本
件各発明におけるA/Bに係る0.05以上0.12以下との数値範囲が実施例1
におけるA/B(0.08)をほぼ中央値とするものであることも併せ考慮すると、
本件出願日当時の当業者は細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%
以上とすることで、上記のデメリットを回避しつつ、飛距離の安定性及び方向安定
性を高め得るものと理解し得ると主張する。しかしながら、甲6によっても、本件
出願日当時の当業者において、細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の
5%以上とすることにより上記のデメリットを回避しつつ、飛距離の安定性及び方
向安定性を高め得るものと理解し得たとの事実を認めることはできず、その他、そ
のような事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件各発明におけるA/
Bに係る0.05以上0.12以下との数値範囲が実施例1におけるA/B(0.
08)をほぼ中央値とするものであることを考慮しても、原告の上記主張は、細径
側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることによりなぜ本件
課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、細径側バ
イアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることにより本件課題が解
決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成4\nのうち細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とするとの点に
ついては、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決
できると認識できる範囲のものであるということはできない。
オ 原告のその余の主張(決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)に関\n連するもの)について
(ア) 原告は、低トルクのシャフト(ねじり剛性が高いシャフト)が飛距離の安
定性及び方向安定性において優れているとの技術常識並びにバイアス層を増やすこ
とにより低トルクのシャフトが得られるとの技術常識を有する本件出願日当時の当
業者が本件明細書を読めば、実施例1及び比較例1における各トルクから、トルク
を比較例1のそれよりも有意に小さい4.0°以下とし、実施例1及び比較例1に
おける各バイアス層の割合(B/(B+S))から、バイアス層の割合(B/(B
+S))を比較例1のそれよりも有意に大きい0.5以上とすることにより、比較
例1よりも良好な飛距離の安定性及び方向安定性が得られるであろうことを当然に
理解し得ると主張する。しかしながら、実施例1及び比較例1の記載から、本件出
願日当時の当業者において、トルクを比較例1のそれ(4.8°)よりも有意に小
さい角度とすること及びバイアス層の割合(B/(B+S))を比較例1のそれ
(0.4)よりも有意に大きい値とすることにより、比較例1よりも良好な飛距離
の安定性及び方向安定性を示すであろうと推測し得るとしても、当該当業者におい
て、トルクを具体的に(1.6°以上)4.0°以下とすること及びバイアス層の
割合(B/(B+S))を具体的に0.5以上(0.8以下)とすることにより、
本件課題を解決できると認識できるとは認められない。
(イ) 原告は、本件出願日当時の当業者は本件明細書の記載により、本件各発明
の構成要件を充足し、その他の条件につき当該当業者が技術常識の範囲内で決定し\nたシャフトであれば、その飛距離及び方向が比較例1のシャフトにおける飛距離及
び方向と比較してより安定したものとなることを容易に理解し得ると主張する。し
かしながら、前記アないしエにおいて説示したところに照らすと、仮に本件各発明
の課題が飛距離及び方向において比較例1のシャフトよりも安定したシャフトを得
ることであるとしても、実施例1及び比較例1を含む本件明細書の発明の詳細な説
明の記載により、本件出願日当時の当業者において、本件各発明の構成要件を充足\nするシャフトであれば当該課題を解決できると認識できると認めることはできない
というべきである。
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2023.06.25
令和4(行ケ)10059 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年6月15日 知的財産高等裁判所
知財高裁(4部)は、サポート要件違反の無効理由なしとした審決を維持しました。
前記1(2)に下線を付したように、本件発明1の各構成要件の数値範囲は、いずれも発明の詳細な説明に記載されたものである。ただし、構\成要件A7)
の上限値である「0.828」は、本件明細書【0026】の【表2】に記載された最も好ましい上限である「0.85」を下回るものであるから、や\nはり好ましい上限値といえ(【0020】参照)、構成要件A(12)の上限値であ
る「0.50」は、本件明細書【0063】の【表22】に記載された最も好ましい上限である「0.6」を下回るものであるから、やはり好ましい上限値といえる(【0020】参照)。\n なお、本件発明は本件明細書に記載の数値範囲から望ましい数値範囲を請
求項に記載したにすぎないと認められるから、数値範囲の上限及び下限が本
件明細書に記載の上限及び下限と一致しなければサポート要件に適合しない
とはいい得ず、上限値及び下限値として、本件明細書に記載の数値範囲に含
まれる数値が記載されていれば足りると解される。
(3) 前記 2)について
ア 本件発明の課題について
前記1(1)の本件明細書の記載によれば、本件発明の課題は、次のとおり
のものと理解できる。色収差の補正、光学系の高機能化、コンパクト化のために有用な光学素子用の材料となる、屈折率ndが1.800ないし1.850の範囲であり、
かつアッベ数 νdが41.5ないし44の範囲にあり(【0004】、【00
05】)、安定供給可能とするため、希少価値の高いGd、Taのガラス組成に占める割合が低減されており(【0006】)、近赤外域に吸収を有し、\nガラスの比重を増大させる成分であるYbのガラス組成において占める
割合が低減されており(【0007】)、熱的安定性に優れていてガラスを製
造する過程での失透が抑制され(【0008】)、機械加工に適するガラスを
提供すること(【0012】)。
イ 本件発明1の課題解決手段について
本件明細書には、Gd、Taがガラス組成に占める割合を低減させるた
め、Ta2O5の含有量を5%以下とすること(【0034】)、La2O3、
Y2O3、Gd2O3及びYb2O3の合計含有量に対するGd2O3含有量
の質量比を0ないし0.05の範囲とすること(【0042】)を定め、Yb
のガラス組成において占める割合を低減させるため、上記の、Yb2O3含
有量を3%以下とすること(【0038】)、熱的安定性に優れたガラスを提
供するため、液相温度が1150°C)以下であることがより一層好ましいと
すること(【0206】)、機械加工に適するガラスを提供するため、ガラス
転移温度が640°C)以上であることが好ましいこと(【0198】)が記載
されており、これら本件明細書に記載からみて、本件組成要件及び本件物
性要件を満たすガラスは本件発明の課題を解決し得るものと認められる。
ところで、本件明細書には、本件組成要件及び本件物性要件の全部を満
たす実施例がそもそも記載されていない。さらに、本件発明の光学ガラス
は多数の成分で構成されており、その相互作用の結果として特定の物性が実現されるものであるから、個々の成分の含有量と物性との間に直接の因\n果関係を措定するのが困難であることは顕著な事実である。そうすると、
前記(2)の好ましい数値範囲等の開示事項から直ちに、本件組成要件と本件
物性要件とを満たすガラスが製造可能であると当業者が認識できるものではなく、具体例により示される試験結果による裏付けを要するものとい\nうべきである。
そこで、そのような裏付けがされているといえるのかとの観点から、具
体例として掲記されている参考例1ないし33について検討を加える。
ウ 参考例について
本件明細書に記載された参考例1ないし33のうち、参考例1、5、1
6、21ないし24、27、28、30ないし32の12例は、本件組成
要件の全てと、本件物性要件のうち、構成要件C(ガラス転移温度)以外の3つの構\成要件を満たす具体例である。ここで、本件出願当時、光学ガラス分野においては、ターゲットとなる
物性を有する光学ガラスを製造する通常の手順として、既知の光学ガラス
の配合組成を基本にして、その成分の一部を当該物性に寄与することが知
られている成分に置き換える作業を行い、ターゲットではない他の物性に
支障が出ないよう複数の成分の混合比を変更するなどして試行錯誤を繰
り返すことで、求める配合組成を見出すという手順を行うことは技術常識
であったと認められ(乙3ないし6)、また、この手順を行うに当たって、
当業者が、なるべく変更の少ないものから選択を開始することは、技術分
野を問わず該当する効率性の観点からみて自明な事項である。そして、前
記1(2)のとおり、本件明細書には、本件発明1の各組成要件に係る成分の
物性要件に対する作用について記載されており、当業者であれば、本件明
細書には本件発明1の物性要件を満たすような成分調整の方法が説明さ
れていると理解できる。そうすると、当業者において、本件明細書で説明
された成分調整の方法に基づいて、参考例を起点として光学ガラス分野の
当業者が通常行う試行錯誤を加えることにより本件発明1の各構成要件を満たす具体的組成に到達可能\であると理解できるときには、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らし
課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
そこで、次に、参考例の成分調整について具体的にみてみる。
エ 参考例の成分調整について
そうすると、本件明細書には、各成分と作用についての説明を基に、A
1)及びA7)のSiO2を増量し、又はA(12)のZnOを減量する成分調整す
ることにより、上記各参考例のガラス転移温度を本件物性要件を充足する
範囲内に調整できることが説明されているといえ、光学ガラス分野の当業
者であれば、上記いずれかの方法に沿って技術常識である通常の試行錯誤
手順を行うことで本件組成要件及び本件物性要件を満たすガラスが得ら
れ、それにより本件発明の課題を解決できると認識できるものといえる。
なお、実際に、甲11実験成績証明書には、(i)参考例5のガラスについ
て、ZnO(3.5質量%)の1質量%分を、Nb2O5に置換する改変例
(5改α)又はB2O3とSiO2に0.5質量%ずつ置換する改変例(5
改β)、(ii)参考例16のZnO(3.8質量%)の1質量%分を、Nb2
O5に置換する改変例(16改α)又はB2O3とSiO2に0.5質量%
ずつ置換する改変例(16改β)、(iii)、参考例24のZnO(3.6質量%)
の1質量%分を、Nb2O5に置換する改変例(24改α)又はB2O3と
SiO2に0.5質量%ずつ置換する改変例(24改β)が、乙1実験成績
証明書には、(iv)参考例22のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、N
b2O5に置換する改変例(22改α)又はB2O3とSiO2に0.5質
量%ずつ置換する改変例(22改β)、(v)参考例30のZnO(3.5質
量%)の1質量%分を、Nb2O5に置換する改変例(30改α)又はB2
O3とSiO2に0.5質量%ずつ置換する改変例(30改β)、(vi)参考例
31のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、Nb2O5に置換する改変
例(31改α)又はB2O3とSiO2に0.5質量%ずつ置換する改変例
(30改β)、(vii)参考例32のZnO(3.5質量%)の1質量%分を、
Nb2O5に置換する改変例(32改α)又はB2O3とSiO2に0.5
質量%ずつ置換する改変例(32改β)のように、いずれもZnOを減量
してSiO2を増量する改変において、本件組成要件と本件物性要件を全
て満たすガラスが得られたことが示されている。
・・・
原告の上記主張は当を得たものとはいえず、採用することができない(な
お、原告は、知的財産高等裁判所がした別件判決(甲7)で示された「組
成要件で特定される光学ガラスが高い蓋然性をもって当該物性要件を満
たし得るものであることを、発明の詳細な説明の記載や示唆又はその出願
時の技術常識から当業者が認識できること」を本件におけるサポート要件
充足の判断基準とすべき旨を指摘するが、サポート要件の充足の有無は、
発明の課題との関係において認定されるべきものであるところ、同判決で
は発明の課題を「所定の光学定数を有し、高屈折率高分散であって、かつ、
部分分散比が小さい光学ガラスを提供すること」としているのであり、こ
のような、異なる発明における異なる課題において事例判断として示され
た別件の理由中の判断を、そのまま本件に適用することは相当ではない。)。
エ 原告は、前記第3の1(4)イ及びウのとおり、本件明細書には、ガラス転
移温度や液相温度の測定条件等が十分には開示されておらず、本件明細書\nにおける試験の結果と甲11実験成績証明書又は乙1実験成績証明書に
おける試験の結果とを単純に比較することはできない旨主張する。確かに、本件明細書には、ガラス転移温度の測定については、「示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、昇温速度を10°C)/分にして測定した。」(【0224】)と、液相温度については、「ガラスを所定温度に加熱された炉内に入れて2時間保持し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の有無から液相温度を決定した。」(【0224】)と記載されており、その余の測定条件、判定条件等についての記載をうかがうことはできない。
しかしながら、本件明細書において、測定条件、判定条件等に特に記載
がなければ、それは技術常識に従い標準的な測定方法によってされたもの
と理解されるべきものであるといえる。他方、甲11実験成績証明書及び
乙1実験成績証明書におけるガラス転移温度の測定は、ネッチ・ジャパン
株式会社製の示差走査熱量計「DSC3300SA」を用い、昇温速度を
10°C)/分にし、その他の測定条件については同熱量計の取扱説明書に記
載された条件において測定し、液相温度については、光学ガラスを5cc
ずつ白金製坩堝に入れ、1140°C)に加熱された炉内に入れて2時間保持
し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の有無を
確認して測定したものと認められる(甲11、乙1、2)から、標準的な
機器を用いて標準的な手法を用いたものということができる。そうすると、
本件明細書における試験と甲11実験成績証明書及び乙1実験成績証明
書における試験とは当業者が自然において選択する同一の測定条件・判定
条件の下に行われたと推認することができるのであり、これと異なる認定
をすべき事情もうかがわれない。したがって、本件明細書に試験条件、判
定条件の詳細の記載がないからといって甲11実験成績証明書又は乙1
実験成績証明書と対比ができないものではないし、本件明細書の記載から
課題が解決できる範囲と認められる当業者の認識を左右するものでもな
い。よって、原告の上記主張を採用することはできない(なお、1140°C)
で結晶が析出したにせよ、その後の冷却過程で結晶が析出したにせよ、い
ずれにせよ、少なくとも1140°C)を超える温度では結晶が析出したとは
判定できない以上、液相温度を1140°C)以下と判定することの支障にな
るとはいい難い。)。
・・・
(5) 小括
以上のとおり、本件明細書で説明された成分調整の方法をもとに、光学ガ
ラス分野の当業者が通常行う試行錯誤により参考例を起点として本件発明1
の各構成要件を満たす具体的組成に到達可能\であると理解できるといえるか
ら、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術
常識に照らし課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
4 本件発明2、3、6、7、9、10、12ないし14について
上記各発明は、本件発明 1 の従属項に係る発明であるところ、原告は、これ
ら発明について、引用に係る本件発明1についてサポート要件違反がある旨主
張し、これら各発明が本件発明 1 を限定した固有の部分に対する別個のサポー
ト要件違反の主張はしていないから、本件発明 1 にサポート要件違反がないの
であれば、これら発明についてもサポート要件違反は認められない。
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2023.04.18
令和4(行ケ)10010 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年4月6日 知的財産高等裁判所
無効理由無しとの審決がなされました。知財高裁も結論は同様です。なお、審判では基礎出願2に基づく優先権は認められていましたが、知財高裁はこれを否定しました。
6 取消事由1(優先権に関する認定判断の誤り)について
(1) 優先権について
ア 本件出願について、被告が基礎出願1又は2に基づく優先権を主張できるか
否かについて検討する。
イ(ア) 基礎出願1及び2がされた平成22年6月ないし7月頃時点で、一定のリ
ソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素の一定量をリソソ\ーム蓄積症の患者のし
かるべき組織等に送達することができれば、治療効果を生ずること自体は技術常識
となっていた一方で、どのような方法で補充酵素を有効に送達することができるか
について検討が重ねられており、本件出願がされた平成29年9月においても、そ
のような状況がなお継続していたものと認められる(甲1〜4、16、17、55、
56、弁論の全趣旨)。
本件発明1は、リソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物
であって、脳室内投与されることを特徴とするものであるところ、上記の技術常識
及び前記1(2)の本件発明の概要を踏まえると、本件発明1の薬学的組成物につい
ても、中枢神経系(CNS)への活性作用物質の送達をいかに有効に行うかという
点がその技術思想において一つの重要部分を占めているものというべきである。
(イ) この点、本件明細書の【0005】には、「髄腔内(IT)注射または脳脊髄
液(CSF)へのタンパク質の投与・・・の処置における大きな挑戦は、脳室の上
衣内張りを非常に堅く結合する活性作用物質の傾向であって、これがその後の拡散
を妨げた」、「脳の表面での拡散に対するバリア・・・は、任意の疾患に関する脳に\nおける適切な治療効果を達成するには大きすぎる障害物である、と多くの人々が考
えていた」との記載があり、【0009】には、「リソソ\ーム蓄積症のための補充酵
素が高濃度・・・での治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接的に導
入され得る、という予期せぬ発見」という記載がある。\nまた、甲17の「発明の背景」においても、高用量の治療薬を必要とする疾患に
ついて髄腔内ルートの送達に大きな制限があり、濃縮された組成物の調製にも問題
がある旨が記載されていた(前記5(2)カ及びキ)。
さらに、基礎出願2がされた翌年である平成23年に発行された乙6(「Drug
transport in brain via the cerebrospinal fluid」Pardridge et al., Fluids
and Barriers of the CNS 2011 8:7)においても、CSFから脳実質への薬物浸透
は極めて僅かであり、脳への薬物の浸透がCSF表面からの距離とともに指数関数\n的に減少するため、高濃度の薬物を投与する必要があるが、上位表面は非常に高い\n薬物濃度にさらされており有毒な副作用を示す可能性があることなどが記載されて\nいた。その更に翌年である平成24年に発行された乙13(「CNS Penetration of
Intrathecal-Lumbar Idursulfase in the Monkey, Dog and Mouse: Implications
for Neurological Outcomes of Lysosomal Storage Disorder」 Calias P. et al.
PLoS One, Volume 7, Issue 1, e30341)には、「本研究は、組換えリソソ\ームタン
パク質の直接的なCNS投与によって、投与されたタンパク質の大多数が脳に送達
され、カニクイザル、イヌ両方の脳および脊髄のニューロンに広範囲に沈着するこ
とを、初めて示した研究である。」と記載されている。
そうすると、少なくとも基礎出願2がされた平成22年7月頃においては、CN
S送達のための組成物として特定の組成物の組成等が開示された場合であっても、
当該組成等から直ちにその脳への送達の程度や治療効果を推測等することは困難で
あることが技術常識であったものと認められる。
このことは、甲17に、「本明細書で用いる場合、「中枢神経系への送達に適して
いる」という語句は、それが本発明の薬学的組成物に関する場合、一般的に、この
ような組成物の安定性、耐(忍)容性および溶解度特性、ならびに標的送達部位(例
えば、CSFまたは脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのよう
な組成物の能力を指す。」(前記5(5)ナ)として、「標的送達部位(例えば、CSF
または脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのような組成物の能\n力」が「送達に適している」ということの意味内容に含まれることが明記されてい
ることとも整合するものといえる。
(ウ) 他方で、本件明細書の【0085】には、「いくつかの実施形態では、本発明
による髄腔内送達は、末梢循環に進入するのに十分な量の補充酵素を生じた。その\n結果、いくつかの場合には、本発明による髄腔内送達は、肝臓、心臓および腎臓の
ような末梢組織における補充酵素の送達を生じた。この発見は予期せぬものであ・・・\nる。」との記載があり、標的組織への送達について、【0132】には、「本発明の意
外な且つ重要な特徴の1つは、本発明の方法を用いて投与される治療薬、特に補充
酵素、ならびに本発明の組成物は、脳表面全体に効果的に且つ広範囲に拡散し、脳\nの種々の層または領域、例えば深部脳領域に浸透し得る、という点である。さらに、
本発明の方法および本発明の組成物は、現存するCNS送達方法、例えばICV注
射では標的化するのが困難である脊髄の出の組織、ニューロンまたは細胞、例えば
腰部領域に治療薬(例えば、補充酵素)を効果的に送達する。さらに、本発明の方
法および組成物は、血流ならびに種々の末梢器官および組織への十分量の治療薬(例\nえば、補充酵素)を送達する。」との記載があり、【0133】においては、実施形
態により、「治療用タンパク質(例えば、補充酵素)」が、対象の「中枢神経系」に
送達され、あるいは「脳、脊髄および/または末梢期間の標的組織のうちの1つ以
上」に送達され、また、「標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織および/または末
梢標的組織であり得る。」などと記載された上で、【0134】以下で特に「脳標的
組織」について説明がされ、そして、実施例においても、例えば、実施例1ではI
T投与が、実施例3ではICV投与及びIP(腹腔内)投与が、実施例5、実施例
10及び実施例13ではIT投与及びICV投与が用いられるなどしている。
そして、証拠(甲2〜5。後記7(1)〜(4)参照)のほか、本件明細書の記載内容
に照らしても、CNSへの酵素の送達においては、ICV投与とIT投与とは、そ
れぞれ別個の投与態様として取り扱われ、組織への酵素の送達に関する実験やその
結果の評価においても、それらは別個に取り扱われること、換言すると、ICV投
与とIT投与の相応に密接な関連性を考慮しても、ICV投与による実験データと
IT投与による実験データとを直ちに同一視することはできないことが、平成22
年7月頃における技術常識であったことが認められるというべきである。
(エ) 前記(イ)及び(ウ)の技術常識を踏まえると、本件発明1が甲17に記載されて
いた発明であると認められるためには、甲17に、本件発明1の組成物が実質的に
記載されていたものと認められるのみならず、甲17に、本件発明1の組成物によ
る送達の効果が、ICV投与した場合のものとして、実質的に記載されていたと認
められる必要があるというべきである。
ウ(ア) その上で、甲17の記載を見るに、まず、「発明の背景」の記載(前記5(2))
は、専ら背景技術について説明するものである。「発明の概要」の記載(同(3))に
は、本件発明1の組成物に含まれる組成物の記載があるといえるが、当該組成物が
どのように送達されて治療効果を奏するのかについては記載がない。そして、「発明
の詳細な説明」(同(5))を見ても、組成物の構成やその使用方法に関する一般的な\n記載はみられるものの、どのように送達されて治療効果を奏するのかについて具体
的な記載はない。
(イ) 甲17の実施例1(前記5(6))には、15mg/mLのタンパク質濃度のリ
ソソ\ーム酵素を含む組成物で、pH6〜7であってリン酸塩を含むものが記載され
ていると見ることができるが、具体的にどのような酵素が用いられたかは不明であ
り、また、どのような領域まで送達されて治療効果を奏するかについても記載がな
い。
(ウ) 甲17の実施例2(前記5(7))には、「酵素治療薬の使用による繰り返しI
T−脊椎投与の毒性及び安全性薬理を評価」や「酵素投与群」との記載はあるが、
酵素の種類も濃度も不明であり、また、どのような領域まで送達されて治療効果を
奏するかについても記載がない(なお、対照群との差異もみられていない。)。
(エ) 甲17の実施例3(前記5(8))には、用量1.0mL中酵素14mgとして
調製された酵素と、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0.
005%のポリソルベート20をpH7.0で含むビヒクルにより作成された製剤\nが髄腔内投与されたことの記載があるが、図5を含めて見ても、主に有害な副作用
の有無等が検討されたものと解され、治療効果については記載がない。
(オ) なお、甲17の図2には、30mg用量の髄腔内投与後のリソソ\ーム酵素の
ニューロンへの分布が示され、尾状核のニューロンにリソソ\ーム酵素が認められた
ことが示されているが、どのような組成物が投与されたのかも不明である。
(カ) さらに、甲17には、投与の態様としてICV投与とIT投与とが選択的な
ものである旨は記載されているといえる一方で、いずれの方法によっても同様に送
達され得る旨等を明らかにする記載もないから、前記(ウ)〜(オ)は、ICV投与した
場合のものとして、本件発明1の組成物による送達の効果を記載するものでもない。
エ 以上によると、甲17には、本件発明1が記載されているものとは認められ
ず、本件発明2〜8及び12についてこれと異なって解すべき事情も認められない
から、本件出願について、基礎出願2に基づく優先権を主張することはできない。
基礎出願1についても、基礎出願2と異なって解すべき事情はない。
これと異なる被告の主張は、いずれも採用することができない。ICV投与とI
T投与において、組成物はいずれの場合でもCSFに投与されるものであり、その
ためそれらの間に処方としての共通性や標的組織等への送達における相応の関連性
があるということができたとしても、そのことをもって、具体的な送達の程度や治
療効果についてまで、一方の投与態様についての実験結果等の記載をもって直ちに
他方についての記載と実質的に同視することができるとの技術常識は認められない。
被告の主張は、甲16及び17の記載内容を、本件明細書の記載内容を前提にしな
がら解釈しようとするものであって相当でない。
(2) 甲6が公知文献とされなかったことが直ちに取消事由に当たるかについて
ア 原告は、取消訴訟の審理範囲を根拠として、本件審決に当たり甲6を副引用
例として考慮しなかった本件審決は、優先権に係る判断の誤りによって直ちに取り
消されるべきである旨を主張するので検討する。
イ(ア) 証拠(甲61、62)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件審判請求においては、本件発明1の進歩性に係る無効理由として、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ甲5〜10を適用すること(甲5の適用については、甲5技術と実質的に同一の内容が主張されていた。)により容易想到である旨を主張し、その中で、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を主張する一方、甲6発明(ビヒクル)については主張していなかったことが認められる。本件審決は、基礎出願2に基づく優先権の主張を認めたことから、副引用例としての甲6記載の発明の適用について検討するには至らなかったが、上記のとおり、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を副引用例とする範囲で、審判手続においても審理の対象となっていたものであって、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ上記副引用例を組み合わせることにより進歩性を欠くという無効理由自体は、審判手続において審理対象となっていたものである。
(イ) そして、本件審決は、甲2発明ないし甲4発明と本件発明の相違点について、
甲5及び7〜10を適用して容易想到であるといえるか否かについて判断した一方、
優先権主張を認めたことから甲6は除外し、それゆえ相違点に係る本件発明の構成\nについての甲6発明(製剤)の適用について具体的には判断しなかったものの、甲
2発明ないし甲4発明に甲6発明(製剤)を適用することにより本件発明は容易想
到であるという旨の原告の主張自体については、これを認めることができないとの
判断を示したものである。
(ウ) 原告は、本件訴訟において、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とした上で、
前記(ア)及び(イ)のとおり本件審決で排斥された甲5技術の適用による容易想到性の
主張のほか、甲6に基づき、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を副引用
例として主張するとともに、甲6が技術常識(エリオットB溶液の技術常識及び高
濃度化の技術常識)を補足するものである旨を主張しているところ、本件訴訟にお
いて、容易想到性が争いとなっている本件発明の構成(甲2発明ないし甲4発明と\nの間の各相違点)は、本件審決で判断されたものと基本的に同じであり、甲6発明
(製剤)や甲6発明(ビヒクル)の適用に当たり、本件審決で判断されたもの以外
の相違点が問題になるなどといった事情はない。
(エ) 前記(ア)のとおり、甲6の適用については審判手続においても問題とされ、当
事者双方において攻撃防御を尽くす機会はあったといえる。この点、証拠(甲6、
16、17、乙14、24。なお、訳文として甲6の2・3、乙36)及び弁論の
全趣旨によると、甲6は、基礎出願1及び2がされて間もない平成22年7月2日
に公衆に利用可能となった雑誌「注射可能\なドラッグデリバリー2010:製剤フ
ォーカス」に掲載された「CNSが関与する遺伝学的疾患を治療するためのタンパ
ク質治療薬の髄腔内送達」と題する論文であるところ、同論文は、基礎出願1及び
2に関わった研究者も関与して行われた研究発表に係るものであって、本件発明と\n同様の技術分野に属するもの、すなわち、酵素補充療法において、中枢神経系(C
NS)病因を有する疾患の処置に係るリソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素
を含む薬学的組成物に関連するもの(前記1(2)ア)と解されるほか、その記載内容
は、かなりの部分甲16及び17と重なり合うものである。そのような甲6の性質
や、甲16及び17と本件発明との関係についても優先権主張の可否という形では
あるが各当事者において攻撃防御を尽くす機会があったというべきことを考慮する
と、上記のように審判手続において各当事者に与えられていた甲6の適用について
攻撃防御を尽くす機会は、実質的な機会であったといえる。
(オ) 以上の事情の下では、本件審決においては副引用例としての甲6発明(製剤)
の適用が具体的には判断されるに至らず、また、甲6発明(ビヒクル)については
そもそも審判段階で問題となっていなかったこと(この点、被告は、甲6発明(ビ
ヒクル)を適用しての容易想到性に係る原告の主張について、特にそれが審理範囲
外であるとして争ってはいない。)を考慮しても、本件訴訟において、審判手続にお
いて審理判断されていた甲2発明ないし甲4発明との対比における無効原因の存否
の認定に当たり、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を適用することによ
って容易想到性の有無を判断することが、当事者に不測の損害を与えるものではな
く、違法となるものではない。最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月1
0日大法廷判決・民集30巻2号79頁は、本件のような場合について許されない
とする趣旨とは解されない。
(3) 以上によると、取消事由1は、優先権の判断の誤りという限度において理由
があるが、それをもって直ちに本件審決を取り消すべきという結論において、理由
がない。そこで、以下、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とする容易想到性の主張に係る取消事由5〜7について、検討する。
◆判決本文
当事者が同じ関連事件です。
◆令和4(行ケ)10022
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2023.03.31
令和4(行ケ)10029 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年3月27日 知的財産高等裁判所
特許異議申し立てにより、取り消された特許権について、知財高裁は、審判の判断を破棄しました。特許異議申\立で取り消しが成立することも珍しいですが、さらにその審決が取り消されることも珍しいです。争点は、進歩性、サポート要件・実施可能要件です。\n
発明の詳細な説明が物の発明について実施可能要件を満たすためには、当\n業者が発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の
試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の
記載があることを要するものと解される。
(2) 本件では、長細状凸部ループ構造を有し、光学三特性を有する防眩層を備\nえる第1実施形態に係る防眩フィルムにより本件各発明を実施できることは
当事者間に争いはない。しかし、本件各発明は、光学三特性を満たす防眩層
を備えることを要するものの、特許請求の範囲においては、その構造は限定\nされておらず、長細状凸部ループ構造以外の構\造のものも本件各発明に含ま
れるものと解される。そこで、本件明細書等の記載に長細状凸部ループ構造\n以外の構造のものが含まれているといえるか否かを検討する。\nまず、本件明細書等の段落【0034】には、[防眩層の構造]として、「第\n1実施形態の防眩層3は、複数の樹脂成分の相分離構造を有する。防眩層3\nは、一例として、複数の樹脂成分の相分離構造により、複数の長細状(紐状\n又は線状)凸部が表面に形成されている。長細状凸部は分岐しており、密な\n状態で共連続相構造を形成している。」と記載されている。それに続く段落\n【0035】には、「防眩層3は、複数の長細状凸部と、隣接する長細状凸部
間に位置する凹部とにより防眩性を発現する。防眩フィルム1は、このよう
な防眩層3を備えることで、ヘイズ値と透過像鮮明度(写像性)とのバラン
スに優れたものとなっている。防眩層3の表面は、長細状凸部が略網目状に\n形成されることにより、網目状構造、言い換えると、連続し又は一部欠落し\nた不規則な複数のループ構造を有する。」として、長細状凸部ループ構\造につ
いて記載されているが、この段落【0035】の記載は、第1実施形態の防
眩層として、長細状凸部ループ構造以外の相分離構\造を否定しているものと
は認められない。
また、本件明細書等には、第1実施形態において、共連続相構造だけから\nなる形状のほかに、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構\造(球
状、真球状、円盤状や楕円体状等の独立相の海島構造)との中間的構\造も形
成できることが記載されているし(段落【0072】)、相分離により層表面\nに微細な凹凸を形成することで、防眩層中に微粒子を分散させなくても防眩
層のヘイズ値を調整できることが記載されており(段落【0073】)、共連
続相構造に限定しない微細な凹凸を形成することが示唆されているといえる。\nそして、本件明細書等の段落【0134】には「実施例1〜6は、相分離
構造を基本構\造として防眩層3を形成するものである。」と記載されている
ものの、全ての実施例が長細状凸部ループ構造であるとは記載されていない\nし、甲47(実施例3及び6の防眩フィルムの顕微鏡写真)の実施例3の防
眩フィルムの表面形状・構\造を撮影した写真からは、長細状凸部ループ構造\nとまではいえない凹凸形状が形成されていることが認められるから、第1実
施形態の凹凸構造として、長細状凸部ループ構\造以外の凹凸構造をも製造す\nることができると認められる。さらに、長細状凸部ループ構造以外の凹凸構\
造が形成され、かつ光学三特性を備える防眩フィルムとして、甲47の実施
例3の凹凸構造しか製造できないことを示す証拠はない。\nそうすると、第1実施形態の防眩層には、長細状凸部ループ構造以外の凹\n凸構造のものが含まれており、そのようなものも含め、当業者であれば、少\nなくとも第1実施形態により、光学三特性を満たす本件各発明に係る防眩層
を、過度の試行錯誤なく製造できるものと認められる。
したがって、本件明細書等には、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出
願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を
製造し、使用することができる程度の記載があると認められる。
(3) この点に関し、被告は、本件各発明は、第1構造防眩層を備えた防眩フィ\nルムのみならず、第2構造防眩層及び第3構\造防眩層を備えた防眩フィルム
を含むにもかかわらず、本件明細書等には、実施例として第1構造防眩層に\nついて示されているにすぎず、第2構造防眩層及び第3構\造防眩層について
は、具体的製造例や光学三特性の測定結果等の記載はなく、凹凸をどのよう
に形成すればよいか等について何らの示唆もない旨、原告が光学三特性を得
るための構造として主張する構\造は、第1構造防眩層を上位概念化したもの\nであり、それによって直ちに光学三特性を得られるものではない旨主張し、
そのため、光学三特性のパラメータの数値範囲を満たす第2構造防眩層及び\n第3構造防眩層を製造するには過度の試行錯誤を要すると主張する(前記第\n3の2〔被告の主張〕)。
しかし、第2実施形態または第3実施形態により、第1実施形態では製造
できない防眩フィルムを製造することは、本件明細書等には記載されていな
い。むしろ、本件明細書等の段落【0079】には、「第1実施形態において
前述したスピノーダル分解によって、このような凹凸を防眩層に形成できる
が、その他の方法によっても、このような凹凸を防眩層に形成できる。例え
ば第2実施形態のように、防眩層の表面の凹凸を形成するために複数の微粒\n子を使用する場合でも、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤と
の斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことによって、微粒子の適
度な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形\n成できる。」と記載され、第1実施形態のような凹凸を他の方法で形成できる
とした上で、その一例として第2実施形態の方法で形成することが示されて
いるし、また、本件明細書等の段落【0079】には、上記の記載に続けて、
「そこで以下では、その他の実施形態の防眩層について、第1実施形態との
差異を中心に説明する。」と記載され、以下に、第2実施形態(段落【008
0】ないし【0102】)、第3実施形態(段落【0103】ないし【011
5】)の説明が続けてされているから、第3実施形態は、第1実施形態によっ
て得られる凹凸を形成する「その他の方法」の一つであると解するのが自然
である。そして、本件各発明に含まれる防眩フィルムであって、第1実施形
態以外の方法により作成できない防眩フィルムの存在やその態様を裏付ける
証拠はない。そうすると、第1実施形態により作成できる防眩フィルムを、
第2実施形態や第3実施形態によっても作成できるものと認められ、仮に、
第1実施形態により作成できる防眩フィルムの中に、第2実施形態や第3実
施形態により作成できないものがあったとしても、それにより、第1実施形
態により本件各発明が実施可能であることが否定されるものではない。\n
なお、第2実施形態により製造された第2構造防眩層、第3実施形態によ\nり製造された第3構造防眩層の中に、第1構\造防眩層とは異なる形状・構造\nを有するものがあり、それらが本件各発明の光学三特性を満たさなかったと
しても、それらは本件各発明を実施するものではないというにとどまり、そ
れによって本件各発明の実施可能性が否定されるわけではない。\n
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2023.03.24
令和3(行ケ)10094 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年1月26日 知的財産高等裁判所
無効理由無し(サポート要件)とした審決が取り消されました。なお、別訴と結論が異なる点については付言で、鑑定書等の新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたので問題ないと説明されています。
これらの開示事項を踏まえると、本件明細書の発明の詳細な説明には、
31H4抗体と競合するものであり、かつ、PCSK9とLDLRタン
パク質の結合を中和する抗体として、31H4抗体とアミノ酸配列が異
なる互いにアミノ酸配列の同一性が高いグループの抗体が開示されてい
ることが認められる。
ア 以上を前提に検討すると、前記 において説示したとおり、サポート要
件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載
とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記
載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題
を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示
唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決で
きると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであ
ると解するのが相当であるところ、前記1 において示したとおり、本件
発明は、LDLRタンパク質の量を増加させることにより、対象中のLD
Lの量を低下させ、対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を
奏し、また、この効果により、高コレステロール血症などの上昇したコレ
ステロールレベルが関連する疾患を治療し、又は予防し、疾患のリスクを\n低減すること、そのために、LDLRタンパク質と結合することにより、
対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの量を増加させるP
CSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗体又はこれを含む医
薬組成物を提供することを課題とするものであり、PCSK9とLDLR
タンパク質との結合を強く遮断する中和抗体である参照抗体と競合する抗
体は、PCSK9への参照抗体の結合を妨げ、又は阻害する単離されたモ
ノクローナル抗体であることを明らかにするものであると理解される。
そして、前記 によれば、本件発明における「中和」とは、タンパク質
結合部位を直接封鎖してPCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作
用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節する以外に、間接的な手段(リ
ガンド中の構造的又はエネルギー変化等)を通じてLDLRタンパク質に\n対するPCSK9の結合能を変化させる態様を含むものであるが、前記1\nのとおり、参照抗体自体が、結晶構造上、LDLRのEGFaドメイン\n(PCSK9の触媒ドメインに結合するものであり、その領域内に存在す
るPCSK9残基のいずれかと相互作用し、又は遮断する抗体は、PCS
K9とLDLRとの間の相互作用を阻害する抗体として有用であり得る
とされるもの)の位置と部分的に重複する位置でPCSK9とLDLRタ
ンパク質の結合を立体的に妨害し、その結合を強く遮断する中和抗体であ
ると認められることを踏まえると、本件発明における「PCSK9との結
合に関して、31H4抗体と競合する」との発明特定事項も、31H4抗
体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、L
DLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して(具体的には、抗体が結晶構\n造上、LDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置でPCSK9に
結合して)、PCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮
断し、低下させ、又は調節することを明らかにする点に技術的意義がある
ものというべきであり、逆に言えば、参照抗体と競合する抗体は、このよ
うな位置で結合するからこそ、中和が可能になるということもできる。こ\nの点は、被告自身が、前記第3の3 ウにおいて、本件明細書の発明の詳
細な説明によれば、当業者は、出願時の技術常識に照らし、参照抗体との
競合によってPCSK9上の複数の結合面のうち特定の領域内の特定の
位置(LDLRのEGFaドメインと結合する部位と重複する位置(又は
同様の位置))に結合する抗体は、PCSK9とLRLRタンパク質の結合
を中和することができると理解するものであり、発明の技術的範囲の全体
にわたって発明の課題を解決できると認識することができたといえる旨
主張していることからも裏付けられるところである。
また、前記1 において認定した甲1文献の開示事項によれば、家族性
高コレステロール血症は、血漿中のLDLコレステロールレベルの上昇に
起因するものであるところ、PCSK9は、細胞表面に存在するLDLR\nタンパク質の存在量を低下させるものであるため、PCSK9が治療のた
めの魅力的な標的であり、血漿中のPCSK9に結合し、そのLDLRタ
ンパク質との結合を阻害する抗体等が効果的な阻害剤となり得ることが
既に示されていたものと認められるのであるから、このような観点から見
ても、本件発明の技術的意義は、31H4抗体と競合する抗体であれば、
31H4抗体と同様のメカニズムにより、上記のようなLDLRタンパク
質との結合を阻害する抗体、すなわち結合中和抗体としての機能的特性を\n有することを特定した点にあるということもできる。そもそも本件発明の
課題は、前記1 イにおいて認定したとおり、LDLRタンパク質と結合
することにより、対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの
量を増加させるPCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗
体又はこれを含む医薬組成物を提供することであり、このような課題の解
決との関係では、参照抗体と競合すること自体に独自の意味を見出すこと
はできないから、このような観点からも、上記のとおり、本件発明の技術
的意義は、31H4抗体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同様の
メカニズムにより、結合中和抗体としての機能的特性を有することを特定\nした点にあるというべきである。
イ さらに検討すると、前記 イ のとおり、本件明細書の発明の詳細な説
明には、エピトープビニングを行った結果、31H4抗体と同一性が高い
とはいえないアミノ酸配列を有するグループの抗体が31H4抗体と競
合するものとして同定されたことが開示されている。本件明細書には、上
記競合する抗体として同定された抗体の中で中和活性を有すると記載さ
れる抗体がPCSK9上へ結合する位置についての具体的な記載はなさ
れておらず、31H4抗体とアミノ酸配列が異なるグループの抗体につい
ては、エピトープビニングのようなアッセイで競合すると評価されたこと
をもって、抗体がPCSK9上に結合する位置が明らかになるといった技
術常識は認められない以上、PCSK9上で結合する位置が明らかとはい
えない。
また、本件発明の「PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する」
との性質を有する抗体には、上記本件明細書の発明の詳細な説明に具体的
に記載される数グループの抗体以外に非常に多種、多様な抗体が包含され
ることは自明であり、また、前記2 イのとおり、このような抗体には、
被告が主張するように、31H4抗体がPCSK9と結合するPCSK9
上の部位と重複する部位に結合し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻
害する(例えば、低下させる)抗体にとどまらず、参照抗体とPCSK9
との結合を立体的に妨害する態様でPCSK9に結合し、様々な程度で参
照抗体のPCSK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下
させる)抗体をも包含するものである。そうすると、その中には、例えば、
31H4抗体がPCSK9と結合する部位と異なり、かつ、結晶構造上、\n抗体がLDLRのEGFaドメインの位置とも異なる部位に結合し、31
H4抗体に軽微な立体的障害をもたらして、31H4抗体のPCSK9へ
の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)もの等も含ま
れ得るところ、このような抗体がPCSK9に結合する部位は、抗体が結
晶構造上、LDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置ではないの\nであるから、LDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して、PCSK9
とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は
調節するものとはいえない。
なお、本件明細書には「例示された抗原結合タンパク質と同じエピトー
プと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質及び断片は、類似の機能的\n特性を示すと予想される。」(【0269】)との記載があるが、上記のとお\nり、「PCSK9との結合に関して31H4抗体と競合する」とは、31H
4抗体と同じ位置でPCSK9と結合することを特定するものではない
から、31H4抗体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同じエピト
ープと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質(抗体)であるとはいえ
ず、このような抗体全般が31H4抗体と類似の機能的特性を示すことを\n裏付けるメカニズムにつき特段の説明が見当たらない以上、本件発明の
「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する抗体」が31H
4抗体と「類似の機能的特性を示す」ということはできない。\n前述のとおり、本件発明の技術的意義は、31H4抗体と競合する抗体
であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、PCSK9とLDL
Rタンパク質との結合を中和する抗体としての特性を有することを特定
する点にあるというべきところ、前記のとおり、31H4抗体と競合する
抗体であれば、LDLRのEGFaドメインと相互作用する部位(本件明
細書の記載からは、EGFaドメインの5オングストローム以内に存在す
るPCSK9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相
互作用界面の特異的コアPCSK9アミノ酸残基(コア残基)、EGFaド
メインの5オングストロームから8オングストロームに存在するPCS
K9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相互作用界
面の境界PCSK9アミノ酸残基と理解され得る。)に結合してPCSK
9とLDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖するとはいえず、他には、
31H4抗体と競合する抗体であれば、どのようなものであっても、PC
SK9とLDLRのEGFaドメイン(及び/又はLDLR一般)との間
の相互作用(結合)を阻害する抗体となるメカニズムについての開示がな
い以上、当業者において、31H4抗体と競合する抗体が結合中和抗体で
あるとの理解に至ることは困難というほかない。
ウ 以上のとおり、「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する
抗体」であれば、31H4抗体と同様に、LDLRタンパク質の結合部位
を直接封鎖して(具体的には、抗体が結晶構造上、LDLRのEGFaド\nメインの位置と重複する位置でPCSK9に結合して)、PCSK9とL
DLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節
するものであるとはいえないから、「PCSK9との結合に関して、31H
4抗体と競合する抗体」であれば、結合中和抗体としての機能的特性を有\nすると認めることもできない。なお、前記 アのとおり、本件発明におけ
る「中和」とは、PCSK9とLDLRタンパク質結合部位を直接封鎖す
るものに限らず、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー変化\n等)を通じてLDLRタンパク質に対するPCSK9の結合能を変化させ\nる態様を含むものではあるが、「PCSK9との結合に関して、31H4抗
体と競合する抗体」であれば、上記間接的な手段を通じてLDLRタンパ
ク質に対するPCSK9の結合能を変化させる抗体となることが、本件出\n願時の技術常識であったとはいえないし、本件明細書の発明の詳細な説明
に開示されていたということもできない。
エ こうした点は、前記1 においてその信頼性を認定した【A】博士の実
証実験の結果及び同実証実験を踏まえた【B】博士の供述書 からも裏付
けられる。すなわち、この実証実験は、リジェネロンの63の抗体につい
て参照抗体との競合及び結合中和性を実験したものであるが、競合に関し
て50%の閾値を用いた結果、34の抗体が参照抗体と競合するが、うち
28の抗体(80%よりも多く)は結合中和性を有しないことが確認され
ており(別紙3の資料B1及び前記1 ア b)、参照抗体と競合する抗体
であれば結合中和性を有するものとはいえないことが具体的な実験結果
として示されている。さらに、この実験結果に加え、「本件特許によれば、
31H4抗体の結合部位はhPCSK9上のLDLRの結合部位と部分
的にしか重複しないから・・別の抗体の結合部位は、LDLRの結合部位
と重複することなく31H4結合部位と重複し得るのであり、このように
して、別の抗体は、hPCSK9−LDLRの結合部位と重複することな
く31H4結合部位と重複し得」る(前記1 ア b)として、【B】博士
が、「31H4抗体と競合する抗体・・・の全てが結合を中和する効果を有
するだろうというのは確実に誤りである。」旨の意見を述べているところ
である(前記1 ア c)。
オ 被告は、前記第3の3 ウにおいて、31H4抗体(参照抗体)と競合
するが、PCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和できない抗体が
仮に存在したとしても、そのような抗体は、本件発明1の技術的範囲から
文言上除外されているなどとして、本件発明がサポート要件に反する理由
とはならない旨主張する。しかし、既に説示したとおり、31H4抗体と
競合する抗体であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、PCS
K9とLDLRタンパク質との結合中和抗体としての機能的特性を有す\nることを特定した点に本件発明の技術的意義があるというべきであって、
31H4抗体と競合する抗体に結合中和性がないものが含まれるとする
と、その技術的意義の前提が崩れることは明らかである(本件のような事
例において、結合中和性のないものを文言上除けば足りると解すれば、抗
体がPCSK9と結合する位置について、例えば、PCSK9の大部分な
どといった極めて広範な指定を行うことも許されることになり、特許請求
の範囲を正当な根拠なく広範なものとすることを認めることになるから、
相当でない。)。なお、被告が主張するように、本件発明1の特許請求の範
囲は、PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する抗体のうち、「P
CSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」る抗体のみ
を対象としたものであると解したとしても、前示のとおり、本件発明のP
CSK9との競合に関して、参照抗体と競合するとの発明特定事項は、被
告が主張するような、参照抗体が結合する位置と同一又は重複する位置に
結合する抗体にとどまるものではなく、PCSK9とLDLRタンパク質
の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体をも含
むものであるから、このような抗体についても結合中和抗体であることが
サポートされる必要があるところ、参照抗体が結合する位置と同一又は重
複する位置に結合する抗体の場合とは異なり、PCSK9とLDLRタン
パク質の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体
が結合を中和するメカニズムについては本件明細書には何らの記載はな
く、また、ビニングによる実験結果(前記 イ )に基づく結合中和抗体
は、いずれも結合中和に係るメカニズムが開示されている、参照抗体が結
合する位置と同一又は重複する位置に結合する抗体である可能性が高く、\nその点を措くとしても、少なくともこれらが立体的に妨害する抗体である
ことを示唆する記載はない。そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明
には、参照抗体と競合する抗体のうちPCSK9とLDLRタンパク質と
の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体が結合
中和活性を有することについて何らの開示がないというほかなく、この点
からも、本件発明はサポート要件を満たさない。
また、前記第2の3 のとおり、本件審決は、本件明細書には、本件明
細書記載の免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫化マウ
スの作製及び選択、選択された免疫化マウスを使用したハイブリドーマの
作製、本件明細書記載のPCSK9とLDLRとの結合相互作用を強く遮
断する抗体を同定するためのスクリーニング及びエピトープビニングア
ッセイを最初から繰り返し行うことによって、十分に高い確率で本件発明\nの抗体をいくつも繰り返し同定することが具体的に示される旨判断する
が、【F】(【F】)教授(【F】教授という。)の第2鑑定書(甲230)に
「特定のマウスが特定の抗体を生成するかどうかは運に支配されるため、
候補となり得る抗体を全て生成しスクリーニングすることは不可能であ\nる」と記載されているように、本件明細書に記載された抗体の作製過程を
経たとしても、免疫化されたマウスの中でPCSK9上のどのような位置
に結合する抗体が得られるかは「運に支配される」ものであって、抗体の
抗原タンパク質への結合を立体的に妨害する態様で抗原タンパク質に結
合する抗体を製造する方法が本件出願時における技術常識であったとも
いえないことからすると、本件明細書に記載された抗体の作製方法に関す
る記載をもって、本件発明に含まれる多様な抗体が本件明細書の発明の詳
細な説明に記載されていたとはいえない。
カ そして、本件発明1のモノクローナル抗体を含む医薬組成物に係る発明
である本件発明5も、上記同様の理由から、サポート要件を満たすもので
はない。
以上によれば、本件発明1及び5は、いずれもサポート要件に適合するも
のと認められないから、これと異なる本件審決の判断は誤りである(なお、
原告の主張のうち前記第3の3 イ の「EGFaミミック抗体」に係る点
は首肯するに値するものを含み、サポート要件が満たされているとする被告
の主張に疑義を生じさせるものと考えるが、この点に関する判断をするまで
もなく、上記のとおり、本件発明1及び5は、いずれもサポート要件に適合
するものとは認められないから、更なる判断を加えることは差し控えること
とする。)。
以下、念のために付言する。
ア 本件発明を巡る国際的状況について、原告は、欧州では、異議申立抗告\n審において、令和2年に、本件発明と実質的に同じ対応欧州特許について、
進歩性欠如により無効であると判断されており、また、米国では、合衆国
連邦巡回区控訴裁判所において、令和3年2月11日に、本件発明より限
定された対応米国特許につき、実施可能要件違反により無効であると判断\nされており、現在、我が国は、本件特許の有効性が裁判所により維持され
ている世界で唯一の国である旨主張し、他方、被告は、上記連邦巡回区控
訴裁判所の判断につき、連邦最高裁判所は、令和4年11月4日に、裁量
上告受理申立てを認めたので、上記判断が覆される可能\性が極めて高い旨
主張するが、もとより、他国における判断が本件判断に直ちに影響を与え
るものではないことは明らかである(なお、米国については、仮に、連邦
巡回区控訴裁判所の無効判断が覆されたとしても、対応米国特許は、参照
抗体との「競合」を発明特定事項とするものではないと認められるから(例
えば、米国特許8829165特許の請求項1は、「PCSK9に結合する
とき、次の残基:配列番号3のS153、I154、P155、R194、
D238、A239、I369、S372、D374、C375、T37
7、C378、F379、V380、又はS381の少なくとも1つに結
合し、PCSK9がLDLRに結合するのを阻害する、単離されたモノク
ローナル抗体」との発明特定事項である(甲19)。)、いずれにしても本件
発明に係る判断に直接関係しない。)。
イ 本件発明に係る別件審決取消訴訟においては、前記第2の1 のとおり、
サノフィによるサポート要件違反に関する主張は退けられている。しかし、
これは、当時の主張や立証の状況に鑑み、31H4抗体と競合する抗体は、
31H4抗体とほぼ同一のPCSK9上の位置に結合し31H4抗体と
同様の機能を有するものであることを当然の前提としたことによるもの\nと理解することも可能である。これに対し、本訴においては、【A】博士や\n【B】博士の各供述書、【F】教授の鑑定書等(甲18、230)による構\n造解析、「EGFaミミック抗体」に係る関係書証(甲4の1及び2)等の
新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたにもかかわらず、
この前提を支える判断材料が見当たらないのであるから、別件判決の結論
と本件判断が異なることには相応の理由があるというべきである。
◆判決本文
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2023.03. 1
令和4(行ケ)10011 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年2月15日 知的財産高等裁判所
実施可能要件違反で拒絶審決がなされました。知財高裁は審決を維持しました。\n
原告は、本願明細書等の段落【0222】及び【0223】の記載のほ
か、段落【0014】の記載によれば、本願明細書等には、本願各発明
が従来のジョセフソン効果の原則を超越する存在であることが示唆され\nており、その他の段落において発明の構成例や各実施例も開示されてい\nるから、当業者は、電子対の生成過程や巨視的波動関数の位相特定の情
報が不明であっても、本願明細書等の記載を参照して、本願各発明を容
易に実施することができる旨主張する。
そこで検討するに、上記イで検討したとおりの本願明細書等の段落
【0014】の記載からすれば、本願各発明においては、「第1導体」及
び「第2導体」の抵抗値がゼロではない場合であっても、上記のような
範囲の抵抗率であれば、ジョセフソン効果を得ることができる旨が記載\nされているとみることもできる。
しかしながら、前記(2)のとおり、ジョセフソン接合が超伝導体である\n二つの導体を用いた接合であることは、本件原出願日当時の技術常識で
あったと認められることからすれば、導体の抵抗値がゼロではない場合
であっても、上記のような範囲の抵抗率であればジョセフソン効果が得\nられるというのは、技術常識に反する現象である。そうすると、本願明
細書等において、このような現象が生じ得ることを裏付ける試験結果等
が記載されていなければ、当業者は、本願各発明を実施することができ
ると認識するものではないというべきである。そして、上記イで検討し
たとおり、本願明細書等の段落【0051】ないし【0068】及び図
14Aないし21Bには、いずれも各実施例における導体が段落【00
14】に記載されているような範囲の抵抗率であることを示す試験結果
は記載されていないというべきである。そして、このほか、本願明細書
等において、導体の抵抗値がゼロではない場合であっても、上記のよう
な範囲の抵抗率であればジョセフソン効果が得られることを裏付ける試\n験結果等は記載されていない。
以上によれば、本願明細書等において、本願各発明が従来のジョセフ
ソン効果の原則を超越する存在であることが示唆されているとはいえな\nいし、当業者が、本願明細書等の記載を参照して、本願各発明を容易に
実施することができるともいえない。
・・・
(ア) 原告は、本願明細書等の図7、15ないし21から明らかなとおり、本
願各発明は、従来の技術常識としてのジョセフソン接合ではなく、抵抗\n値をゼロにしなくとも、極めて低い抵抗値の範囲内でジョセフソン接合\nを実現することを目的とする発明であるから、本願明細書等に抵抗値が
ゼロの場合の記載がないことは当然の帰結であり、当業者は、本願各発
明につき、電流が非常に低い抵抗状態で流れる条件でジョセフソン接合\nを実現したものとして捉えることにより、本願各発明を実施することが
可能である旨主張する。\nしかしながら、上記ウで検討したところに照らせば、本願明細書等に
おいて、本願各発明が、従来の技術常識としてのジョセフソン接合では\nなく、抵抗値をゼロにしなくとも、極めて低い抵抗値の範囲内でジョセ
フソン接合を実現することは、何ら試験結果等により裏付けられていな\nいというべきである。そうすると、当業者が、本願各発明につき、電流
が非常に低い抵抗状態で流れる条件でジョセフソン接合を実現したもの\nとして捉えることにより、本願各発明を実施することが可能であると認\n識するものではないというべきである。
◆判決本文
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2023.02.17
令和4(行ケ)10072 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年1月12日 知的財産高等裁判所
審決は、発明該当性違反、実施可能要件違反として拒絶しました。知財高裁も同じ判断です。
本願発明は、前記第2の2のとおりの構成を有するものであって、前記1(1)の【図
1】のような液体を入れた容器中に浮体を浮かべ、同浮体を鉛直方向に大きなもの
とすることにより(同【図2】の3参照)、駆動動力が一定であっても、同浮体が上
下運動することによる発生動力を拡大させることで、「発生動力>駆動動力の関係」
が成立するというものである。
そして、本願明細書の段落【0036】によると、本願発明における駆動動力と
は、液位を増減させて、浮体を上下運動に導く駆動方法を実行する装置を駆動する
動力のことをいい、電力が主体であるが、流水、圧縮空気、人力等も利用可能であり、具体的な駆動方法としては、浮体(例えば【図3】の6)を浮かべる容器中に\n物体(例えば【図3】の9)を挿入することが想定されているものと認められる。
次に発生動力についてみると、本願明細書の段落【0035】には、「浮体の上下
運動を「発生動力」とする」との記載があり、同段落【0018】〜【0020】
では、容器中への水の注入量が同一である場合の仕事(W)を、(浮体上の錘の重さ)
×(持ち上げられた距離)により計算しているところ、ここでいう仕事(W)は、
浮体の上下運動をいうものと推認されるから、本願発明における発生動力は、錘を
載せた浮体が移動する運動を指していると理解される。
ところで、本願明細書の段落【0018】〜【0020】に3つの例が記載され
ているところ、同段落【0021】の記載と併せると、上記3つの例は、「発生動力
>駆動動力の関係」が成立することを説明するために記載されているものと認めら
れる。そこで検討するに、上記3つの例においては、注入した水の量は一定である
ものの、どのように水を注入するのか、また、その際に、水を注入するために要し
た動力、すなわち本願発明における「駆動動力」に相当する液位を増減させる動力
の大きさや、それが、上記3つの例において一定であるかについては本願明細書に
記載がなく、示唆もない。さらには、【図2】の場合に浮体が浮かぶことが可能な程度に、十\分な浮力が生じているかも明らかではない。そしてその他の本願明細書の記載を総合しても、当業者が、どのようにして、本願発明の「発生動力>駆動動力
の関係」が成立する動力発生装置を製造することができるか理解できるとはいえな
い。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施するこ
とができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。\n
◆判決本文
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2023.02.17
令和3(行ケ)10093 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和5年1月26日 知的財産高等裁判所
無効理由なしとした審決を、サポート要件違反の無効理由ありとして取り消しました。最後に、別件判決の結論と本件判断が異なることには相応の理由ありと付言されています。
以上を前提に検討すると、前記 において説示したとおり、サポート要
件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載
とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記
載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題
を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示
唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決で
きると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであ
ると解するのが相当であるところ、前記1 において示したとおり、本件
発明は、LDLRタンパク質の量を増加させることにより、対象中のLD
Lの量を低下させ、対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を
奏し、また、この効果により、高コレステロール血症などの上昇したコレ
ステロールレベルが関連する疾患を治療し、又は予防し、疾患のリスクを\n低減すること、そのために、LDLRタンパク質と結合することにより、
対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの量を増加させるP
CSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗体又はこれを含む医
薬組成物を提供することを課題とするものであり、PCSK9とLDLR
タンパク質との結合を強く遮断する中和抗体である参照抗体と競合する抗
体は、PCSK9への参照抗体の結合を妨げ、又は阻害する単離されたモ
ノクローナル抗体であることを明らかにするものであると理解される。
そして、前記 によれば、本件発明における「中和」とは、タンパク質
結合部位を直接封鎖してPCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作
用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節する以外に、間接的な手段(リ
ガンド中の構造的又はエネルギー変化等)を通じてLDLRタンパク質に\n対するPCSK9の結合能を変化させる態様を含むものであるが、前記1\nのとおり、参照抗体自体が、結晶構造上、LDLRのEGFaドメイン\n(PCSK9の触媒ドメインに結合するものであり、その領域内に存在す
るPCSK9残基のいずれかと相互作用し、又は遮断する抗体は、PCS
K9とLDLRとの間の相互作用を阻害する抗体として有用であり得る
とされるもの)の位置と部分的に重複する位置でPCSK9とLDLRタ
ンパク質の結合を立体的に妨害し、その結合を強く遮断する中和抗体であ
ると認められることを踏まえると、本件発明における「PCSK9との結
合に関して、21B12抗体と競合する」との発明特定事項も、21B1
2抗体と競合する抗体であれば、21B12抗体と同様のメカニズムによ
り、LDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して(具体的には、結晶構\n造上、抗体がLDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置でPCS
K9に結合して)、PCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨
害し、遮断し、低下させ、又は調節することを明らかにする点に技術的意
義があるものというべきであり、逆に言えば、参照抗体と競合する抗体は、
このような位置で結合するからこそ、中和が可能になるということもでき\nる。この点は、被告自身が、前記第3の3 ウにおいて、本件明細書の発
明の詳細な説明によれば、当業者は、出願時の技術常識に照らし、参照抗
体との競合によってPCSK9上の複数の結合面のうち特定の領域内の
特定の位置(LDLRのEGFaドメインと結合する部位と重複する位置
(又は同様の位置))に結合する抗体は、PCSK9とLRLRタンパク質
の結合を中和することができると理解するものであり、発明の技術的範囲
の全体にわたって発明の課題を解決できると認識することができたとい
える旨主張していることからも裏付けられるところである。
また、前記1 において認定した甲1文献の開示事項によれば、家族性
高コレステロール血症は、血漿中のLDLコレステロールレベルの上昇に
起因するものであるところ、PCSK9は、細胞表面に存在するLDLR\nタンパク質の存在量を低下させるものであるため、PCSK9が治療のた
めの魅力的な標的であり、血漿中のPCSK9に結合し、そのLDLRタ
ンパク質との結合を阻害する抗体等が効果的な阻害剤となり得ることが
既に示されていたものと認められるのであるから、このような観点から見
ても、本件発明の技術的意義は、21B12抗体と競合する抗体であれば、
21B12抗体と同様のメカニズムにより、上記のようなLDLRタンパ
ク質との結合を阻害する抗体、すなわち結合中和抗体としての機能的特性\nを有することを特定した点にあるということもできる。そもそも本件発明
の課題は、前記1 イにおいて認定したとおり、LDLRタンパク質と結
合することにより、対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDL
の量を増加させるPCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する
抗体又はこれを含む医薬組成物を提供することであり、このような課題の
解決との関係では、参照抗体と競合すること自体に独自の意味を見出すこ
とはできないから、このような観点からも、上記のとおり、本件発明の技
術的意義は、21B12抗体と競合する抗体であれば、21B12抗体と
同様のメカニズムにより、結合中和抗体としての機能的特性を有すること\nを特定した点にあるというべきである。
イ さらに検討すると、前記 イ のとおり、本件明細書の発明の詳細な説
明には、エピトープビニングを行った結果、21B12抗体と同一性が高
いとはいえないアミノ酸配列を有する数グループの抗体のみならず、21
B12抗体と同一性が高いアミノ酸配列を有する抗体群が21B12抗
体と競合するものとして同定されたことが開示されている。本件明細書に
は、上記競合する抗体として同定された抗体の中で中和活性を有すると記
載される抗体がPCSK9上へ結合する位置についての具体的な記載は
なされていないものの、21B12抗体と同一性の高いアミノ酸配列を有
する抗体群については、21B12抗体と同様の位置でPCSK9に結合
する蓋然性が高いといえるとしても、それ以外のアミノ酸配列を有する数
グループの抗体については、エピトープビニングのようなアッセイで競合
すると評価されたことをもって、抗体がPCSK9上に結合する位置が明
らかになるといった技術常識は認められない以上、PCSK9上で結合す
る位置が明らかとはいえない。
また、本件発明の「PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する」
との性質を有する抗体には、上記本件明細書の発明の詳細な説明に具体的
に記載される数グループの抗体以外に非常に多種、多様な抗体が包含され
ることは自明であり、また、前記2 イのとおり、このような抗体には、
被告が主張するように、21B12抗体がPCSK9と結合するPCSK
9上の部位と重複する部位に結合し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は
阻害する(例えば、低下させる)抗体にとどまらず、参照抗体とPCSK
9との結合を立体的に妨害する態様でPCSK9に結合し、様々な程度で
参照抗体のPCSK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低
下させる)抗体をも包含するものである。そうすると、その中には、例え
ば、21B12抗体がPCSK9と結合する部位と異なり、かつ、結晶構\n造上、抗体がLDLRのEGFaドメインの位置とも異なる部位に結合し、
21B12抗体に軽微な立体的障害をもたらして、21B12抗体のPC
SK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)もの
等も含まれ得るところ、このような抗体がPCSK9に結合する部位は、
結晶構造上、抗体がLDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置で\nはないのであるから、LDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して、P
CSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下さ
せ、又は調節するものとはいえない。
なお、本件明細書には「例示された抗原結合タンパク質と同じエピトー
プと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質及び断片は、類似の機能的\n特性を示すと予想される。」(【0269】)との記載があるが、上記のとお\nり、「PCSK9との結合に関して21B12抗体と競合する」とは、21
B12抗体と同じ位置でPCSK9と結合することを特定するものでは
ないから、21B12抗体と競合する抗体であれば、21B12抗体と同
じエピトープと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質(抗体)である
とはいえず、このような抗体全般が21B12抗体と類似の機能的特性を\n示すことを裏付けるメカニズムにつき特段の説明が見当たらない以上、本
件発明の「PCSK9との結合に関して、21B12抗体と競合する抗体」
が21B12抗体と「類似の機能的特性を示す」ということはできない。\n前述のとおり、本件発明の技術的意義は、21B12抗体と競合する抗
体であれば、21B12抗体と同様のメカニズムにより、PCSK9とL
DLRタンパク質との結合を中和する抗体としての特性を有することを
特定する点にあるというべきところ、前記のとおり、21B12抗体と競
合する抗体であれば、LDLRのEGFaドメインと相互作用する部位
(本件明細書の記載からは、EGFaドメインの5オングストローム以内
に存在するPCSK9残基として定義されるLDLRのEGFaドメイ
ンとの相互作用界面の特異的コアPCSK9アミノ酸残基(コア残基)、E
GFaドメインの5オングストロームから8オングストロームに存在す
るPCSK9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相
互作用界面の境界PCSK9アミノ酸残基と理解され得る。)に結合して
PCSK9とLDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖するとはいえず、
他には、21B12抗体と競合する抗体であれば、どのようなものであっ
ても、PCSK9とLDLRのEGFaドメイン(及び/又はLDLR一
般)との間の相互作用(結合)を阻害する抗体となるメカニズムについて
の開示がない以上、当業者において、21B12抗体と競合する抗体が結
合中和抗体であるとの理解に至ることは困難というほかない。
ウ 以上のとおり、「PCSK9との結合に関して、21B12抗体と競合す
る抗体」であれば、21B12抗体と同様に、LDLRタンパク質の結合
部位を直接封鎖して(具体的には、結晶構造上、抗体がLDLRのEGF\naドメインの位置と重複する位置でPCSK9に結合して)、PCSK9
とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は
調節するものであるとはいえないから、「PCSK9との結合に関して、2
1B12抗体と競合する抗体」であれば、結合中和抗体としての機能的特\n性を有すると認めることもできない。なお、前記 アのとおり、本件発明
における「中和」とは、PCSK9とLDLRタンパク質結合部位を直接
封鎖するものに限らず、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギ\nー変化等)を通じてLDLRタンパク質に対するPCSK9の結合能を変\n化させる態様を含むものではあるが、「PCSK9との結合に関して、21
B12抗体と競合する抗体」であれば、上記間接的な手段を通じてLDL
Rタンパク質に対するPCSK9の結合能を変化させる抗体となること\nが、本件出願時の技術常識であったとはいえないし、本件明細書の発明の
詳細な説明に開示されていたということもできない。
エ こうした点は、前記1 においてその信頼性を認定した【A】博士の実
証実験の結果及び同実証実験を踏まえた【B】博士の供述書 からも裏付
けられる。すなわち、この実証実験は、リジェネロンの63の抗体につい
て参照抗体との競合及び結合中和性を実験したものであるが、競合に関し
て50%の閾値を用いた結果、13の抗体が参照抗体と競合するが、うち
10の抗体(約80%)は結合中和性を有しないことが確認されており(別
紙3の資料B1及び前記1 ア b)、参照抗体と競合する抗体であれば
結合中和性を有するものとはいえないことが具体的な実験結果として示
されている。さらに、この実験結果に加え、「本件特許によれば、21B1
2抗体の結合部位はhPCSK9上のLDLRの結合部位と部分的にし
か重複しないから・・別の抗体の結合部位は、LDLRの結合部位と重複
することなく21B12結合部位と重複し得るのであり、このようにして、
別の抗体は、hPCSK9−LDLRの結合部位と重複することなく21
B12結合部位と重複し得」る(前記1 ア b)として、【B】博士が、
「21B12抗体と競合する抗体がLDLRに対する結合を中和」するだ
ろうと言うのは、科学的に誤りである旨の意見を述べているところである
(前記1 ア c)。
オ 被告は、前記第3の3 ウにおいて、21B12抗体(参照抗体)と競
合するが、PCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和できない抗体
が仮に存在したとしても、そのような抗体は、本件発明1の技術的範囲か
ら文言上除外されているなどとして、本件発明がサポート要件に反する理
由とはならない旨主張する。しかし、既に説示したとおり、21B12抗
体と競合する抗体であれば、21B12抗体と同様のメカニズムにより、
PCSK9とLDLRタンパク質との結合中和抗体としての機能的特性\nを有することを特定した点に本件発明の技術的意義があるというべきで
あって、21B12抗体と競合する抗体に結合中和性がないものが含まれ
るとすると、その技術的意義の前提が崩れることは明らかである(本件の
ような事例において、結合中和性のないものを文言上除けば足りると解す
れば、抗体がPCSK9と結合する位置について、例えば、PCSK9の
大部分などといった極めて広範な指定を行うことも許されることになり、
特許請求の範囲を正当な根拠なく広範なものとすることを認めることに
なるから、相当でない。)。なお、被告が主張するように、本件発明1の特
許請求の範囲は、PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する抗体
のうち、「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」
る抗体のみを対象としたものであると解したとしても、前示のとおり、本
件発明のPCSK9との競合に関して、参照抗体と競合するとの発明特定
事項は、被告が主張するような、参照抗体が結合する位置と同一又は重複
する位置に結合する抗体にとどまるものではなく、PCSK9とLDLR
タンパク質の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する
抗体をも含むものであるから、このような抗体についても結合中和抗体で
あることがサポートされる必要があるところ、参照抗体が結合する位置と
同一又は重複する位置に結合する抗体の場合とは異なり、PCSK9とL
DLRタンパク質との結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で
競合する抗体が結合を中和するメカニズムについては本件明細書には何
らの記載はなく、また、ビニングによる実験結果(前記 イ )に基づく
結合中和抗体は、いずれも結合中和に係るメカニズムが開示されている、
参照抗体が結合する位置と同一又は重複する位置に結合する抗体である
可能性が高く、その点を措くとしても、少なくともこれらが立体的に妨害\nする抗体であることを示唆する記載はない。そうすると、本件明細書の発
明の詳細な説明には、参照抗体と競合する抗体のうちPCSK9とLDL
Rタンパク質との結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合
する抗体が結合中和活性を有することについて何らの開示がないという
ほかなく、この点からも、本件発明はサポート要件を満たさない。
また、前記第2の3 のとおり、本件審決は、本件明細書には、本件明
細書記載の免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫化マウ
スの作製及び選択、選択された免疫化マウスを使用したハイブリドーマの
作製、本件明細書記載のPCSK9とLDLRとの結合相互作用を強く遮
断する抗体を同定するためのスクリーニング及びエピトープビニングア
ッセイを最初から繰り返し行うことによって、十分に高い確率で本件発明\nの抗体をいくつも繰り返し同定することが具体的に示される旨判断する
が、【F】教授(【F】教授という。)の第2鑑定書(甲230)に「特定の
マウスが特定の抗体を生成するかどうかは運に支配されるため、候補とな
り得る抗体を全て生成しスクリーニングすることは不可能である」と記載\nされているように、本件明細書に記載された抗体の作製過程を経たとして
も、免疫化されたマウスの中でPCSK9上のどのような位置に結合する
抗体が得られるかは「運に支配される」ものであって、抗体の抗原タンパ
ク質への結合を立体的に妨害する態様で抗原タンパク質に結合する抗体
を製造する方法が本件出願時における技術常識であったともいえないこ
とからすると、本件明細書に記載された抗体の作製方法に関する記載をも
って、本件発明に含まれる多様な抗体が本件明細書の発明の詳細な説明に
記載されていたとはいえない。
カ そして、本件発明1のモノクローナル抗体を含む医薬組成物に係る発明
である本件発明9も、上記同様の理由から、サポート要件を満たすもので
はない。
以上によれば、本件発明1及び9は、いずれもサポート要件に適合するも
のと認められないから、これと異なる本件審決の判断は誤りである(なお、
原告の主張のうち前記第3の3 イ の「EGFaミミック抗体」に係る点
は首肯するに値するものを含み、サポート要件が満たされているとする被告
の主張に疑義を生じさせるものと考えるが、この点に関する判断をするまで
もなく、上記のとおり、本件発明1及び9は、いずれもサポート要件に適合
するものとは認められないから、更なる判断を加えることは差し控えること
とする。)。
以下、念のために付言する。
ア 本件発明を巡る国際的状況について、原告は、欧州では、異議申立抗告\n審において、令和2年に、本件発明と実質的に同じ対応欧州特許について、
進歩性欠如により無効であると判断されており、また、米国では、合衆国
連邦巡回区控訴裁判所において、令和3年2月11日に、本件発明より限
定された対応米国特許につき、実施可能要件違反により無効であると判断\nされており、現在、我が国は、本件特許の有効性が裁判所により維持され
ている世界で唯一の国である旨主張し、他方、被告は、上記連邦巡回区控
訴裁判所の判断につき、連邦最高裁判所は、令和4年11月4日に、裁量
上告受理申立てを認めたので、上記判断が覆される可能\性が極めて高い旨
主張するが、もとより、他国における判断が本件判断に直ちに影響を与え
るものではないことは明らかである(なお、米国については、仮に、連邦
巡回区控訴裁判所の無効判断が覆されたとしても、対応米国特許は、参照
抗体との「競合」を発明特定事項とするものではないと認められるから(例
えば、米国特許8829165特許の請求項1は、「PCSK9に結合する
とき、次の残基:配列番号3のS153、I154、P155、R194、
D238、A239、I369、S372、D374、C375、T37
7、C378、F379、V380、又はS381の少なくとも1つに結
合し、PCSK9がLDLRに結合するのを阻害する、単離されたモノク
ローナル抗体」との発明特定事項である(甲19)。)、いずれにしても本件
発明に係る判断に直接関係しない。)。
イ 本件発明に係る別件審決取消訴訟においては、前記第2の1 のとおり、
サノフィによるサポート要件違反に関する主張は退けられている。しかし、
これは、当時の主張や立証の状況に鑑み、21B12抗体と競合する抗体
は、21B12抗体とほぼ同一のPCSK9上の位置に結合し21B12
抗体と同様の機能を有するものであることを当然の前提としたことによ\nるものと理解することも可能である。これに対し、本訴においては、【A】\n博士や【B】博士の各供述書、【F】教授の鑑定書等(甲18、230)に
よる構造解析、「EGFaミミック抗体」に係る関係書証(甲4の1及び2)\n等の新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたにもかかわら
ず、この前提を支える判断材料が見当たらないのであるから、別件判決の
結論と本件判断が異なることには相応の理由があるというべきである。
◆判決本文
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2023.01. 3
令和3(行ケ)10156 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 令和4年9月29日 知的財産高等裁判所
発電方法の発明について、実施可能要件を満たしていないとした審決が維持されました。個人発明です。拒絶理由通知の段階では発明該当性も指摘されていました。\n公開公報は下記です。
◆特願2015-176188
ア 「下方導水路250内の液体がその管内を落下し、その落下により揚水
路200の頂上部が真空域に保たれ、その結果、大気圧によって貯液部1
00の液体が揚水路200に揚水される」との点について
(ア) 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には、「少なくとも下部が液
体で満たされた貯液部(100)と、下部が前記貯液部(100)の前
記液体の液面下部に沈み、上部が該液面上部に出る様に設置され、上端
部近傍の前記液面より所定の高さ位置に液取り出し口が設けられた揚
水路(200)と」、「発電開始前に前記圧縮気体貯蔵タンク(600)
に圧縮した気体を貯蔵するとともに、前記ゲート(300)を閉めて前
記揚水路(200)および前記下方導水路(250)内に前記液体を充
填しておき、発電時に前記ゲート(300)を開けて」との記載がある。
また、本願明細書には、「本システムの起動前に不図示の揚水ポンプで水
槽の水を揚水棟200の中全てを満たす様に揚水して揚水棟内を真空
域にしている」との記載(【0040】)がある。
これらの記載によれば、本願発明において、発電の開始前には、揚水
路200等に存在する液体(以下では、「液体」は「水」であるとする。)
は、「一端」が貯液部100の水面下にあり、そこから、揚水路200、
(実施例【0038】では上部導水路210を介し)下方導水路250
を経て、「他端」はゲート300まで存在しており、揚水路200等は水
で満たされていることが理解できる。また、本願明細書の「大気圧室4
00の水面は下部導水路260の下部より低く保つ」との記載(【004
1】)から、上記水の「一端」を上流側、「他端」を下流側とすると、ゲ
ート300よりも下流側の管内には水が存在しないことが理解できる。
(イ) 前記(ア)を踏まえ、ゲート300を開けたときの前記(ア)の水(「一
端」が貯液部100の水面下にあり、そこから、揚水路200、(上部導
水路210を介し)下方導水路250を経て、「他端」がゲート300ま
で存在する水)の挙動を検討する。
揚水路200内にある水と下方導水路250内にある水は、その上部
が(実施例(【0038】)では、上部導水路210内の水を介して)つ
ながっている。
そして、乙2に示されている考え方(被告はこれを「サイフォンの原
理」として説明し、原告もその説明を争っていない。)によれば、揚水路
200の下部が存する貯液部100の水面(図1の水槽100の水面)
には、大気圧(その圧力を「A」とする。)と貯液部100の水面から揚
水路200の頂部まで存在する水の圧力(水の重さによる圧力。その圧
力を「B」とする。)がかかる。他方、下方導水路250の下端には、水
平導水路260内の平均気圧(その圧力を「C」とする。)と下方導水路
250の下端から頂部までに存在する水の圧力(水の重さによる圧力。
その圧力を「D」とする。)が働く。
ここで、本願発明では、「発電時に前記ゲート(300)を開け」た際
に、「前記圧縮気体貯蔵タンク(600)に貯蔵されている圧縮気体」が
「前記水平導水路(260)から前記集液部(400)に射出される」
ため、水平導水路260内の平均気圧(C)は大気圧(A)より大きく
なる(C>A)。また、水による圧力については、貯液部100の水面か
ら揚水路200の頂部までの長さの方が下方導水路250の下端から頂
部までの長さよりも長いから、貯液部100の水面から揚水路200の
頂部まで存在する水の圧力の方が大きくなる(B>D)。
そうすると、水を持ち上げる向きを正の向きとして、揚水路200の
下部が存する貯液部100の水面に働く圧力(A−B)と、下方導水路
250の下端に働く圧力(C−D)とを比較すると、後者の方が大きい
から、ゲート300を開けると、下方導水路250内の水は、一旦上方
に持ち上がった後、揚水路200に流れ落ちていくものと考えられる。
なお、ゲート300を開けた際に、水平導水路260及び大気室40
0から空気が下方導水路250内に入り込むと、下方導水路250内の
ゲート300付近にあった水が水平導水路260側へ落下することがあ
り得るが、これは、入り込んだ上記空気と上記水が入れ替わることによ
って生じる現象であって、このことによって、下方導水路250や揚水
路200に真空域が生じることはなく、貯液部100から揚水路200
に向かって水が引き揚げられるといった現象も生じないものと理解され
る。したがって、本願明細書の記載から、原告が主張する「発電時に、重
力落下エネルギーの作用によって下方導水路250内の液体がその管内
を落下し、その落下により揚水路200の頂上部が真空域に保たれ、そ
の結果、大気圧によって貯液部100の液体が揚水路200に揚水され
る」ことが起こることを理解することはできない。
イ 「大気圧室400内において大気圧より低い低圧力空間が生成される」
との点について
原告は、本願発明では発電時、圧縮気体供給路670の出口より集液部
(大気圧室)400へ圧縮気体を射出することで、大気圧室400内にお
いて、その圧縮気体の体積分の大気圧の気体が押しのけられて、大気圧よ
り低い低圧力空間が生成されると主張し、更にその説明として、圧縮空気
の保有エネルギーが、大気圧の気体を押しのけるためのエネルギーよりも
大きいため、圧縮空気を大気圧室400へ連続的に供給することによって、
大気圧室400内の空気を常時押しのけることが可能となる旨主張する。しかしながら、本願明細書には、大気圧より高い圧力を有する圧縮気体\nを大気圧に維持された空間に放出することによって、当該空間に大気圧よ
り低い低圧力空間が形成されることについての記載はなく、また、これを
裏付ける技術常識についての立証もない。
さらに、前記アのとおり、ゲート300を開けた場合、下方導水路25
0内の液体は、水平導水路260の方向に流れないものと考えられるとこ
ろ、原告が主張する大気圧室400内の低圧力空間が、下方導水路250
内の液体を、水平導水路260を通って大気室400の方向に引き出すほ
どの力を生じさせることを認めるに足りる証拠もない。
そうすると、本願明細書の記載から、原告が主張する「大気圧室400
内において大気圧より低い低圧力空間が生成される」ことを理解すること
はできず、さらに、その低圧力空間の作用によって下方導水路250内の
液体がその管内を落下することが生じるものと理解することもできない。
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