2022.08.23
令和2(ワ)33027 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 令和4年2月25日 東京地方裁判所
特許侵害事件において、出願経過時の補正が新規事項であるとして、権利行使不能(104条の3)と判断されました。
上記(2)によれば、本件特許の出願当初の請求項においては、本件発明の構成\nとして「有料自動機の動作を検知するセンサー」が含まれており、当該「セン
サーの検知信号に基づいて前記有料自動機の動作状態」についての監視結果を
管理サーバへ送信することが規定されていた。ところが、本件補正により、「有
料自動機の動作を検知するセンサー」が本件特許の構成から除外されるととも\nに、「ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置」によって生成
された「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報」
を管理サーバに送信するという構成に変更されたことが認められる。このよう\nに、本件補正に補正された事項は、管理サーバに送信すべき情報が、有料自動
機の動作を検知するセンサーの検知信号に基づくものに限られることはなく、
当該センサーの検知信号以外の情報に基づくものであっても、これに含まれる
というものと解するのが相当である。
これに対し、上記(2)の当初明細書等の記載内容によれば、有料自動機の動作
を検知するセンサーの検知信号以外の情報に基づき、有料自動機が運転中であ
るか否かを判定したり、当該結果を推測したりする方法については、何ら開示
されていないことが認められる。そして、当初明細書等の記載に接した当業者
において、出願時の技術常識に照らし、上記補正された事項が当初明細書等か
ら自明である事項であるものと認めることはできない。
そうすると、本件補正は、当初明細書等に記載した事項との関係において新
たな技術的事項を導入するものであると認めるのが相当であり、「願書に最初
に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」におい
てするものということはできない。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項に違反するものと認めら
れる。
これに対し、原告らは、本件特許の審査段階において、本件補正が新たな技
術的事項を導入するものと判断されておらず、本件異議申立ての審理において\nも訂正請求が認められているほか、当初明細書(【0038】)には、ICカ
ードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置が接続されている前記ラン
ドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を生成し、出力するという技術内
容が記載されている旨主張する。
しかしながら、本件補正により補正された事項が当初明細書等に記載されて
おらず、これが自明である事項ということもできないことは、上記において説
示したとおりである。そうすると、原告らの主張は、上記審査及び審理の経過
を踏まえても、上記判断を左右するものとはいえない。また、原告らが指摘す
る上記当初明細書の内容は、上記(2)において認定したところによれば、電流セ
ンサーの検知信号に基づき有料自動機の動作状態を監視する構成のみを記載\nするものであり、センサーの検知信号によらずに動作状態を判定する構成を記\n載するものではないから、原告らの主張は、上記認定と異なる前提に立って主
張するものにすぎない。
◆判決本文
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2020.11.21
令和1(行ケ)10165 特許権 行政訴訟 令和2年11月5日 知的財産高等裁判所
補正が新規事項か否か争われました。知財高裁(3部)は、新規事項であるとした審決を取り消しました。クレームに追加した「透光性を有する」との記載について、明細書に明示的な記載がありませんでしたが、裁判所は自明事項である認めました。
2 本件補正の適否について
(1) 前記第2の2のとおり,本願発明に係る特許請求の範囲については,本件
出願時には「通気性が確保された不織布又は織布からなるカバー体」と記載
されていたものが,本件補正後には「通気性及び通水性が確保され且つ透光
性を有する不織布又は織布からなるカバー体」へと記載が変更されたもので
あり,本件カバー体につき,「通水性」及び「透光性」を有する旨の記載が追
加されたものといえる。
そして,上記1のとおり,本件当初明細書等には,本件カバー体が通水性
を有する旨の記載(【0035】)は存するものの,「透光性を有する」との事
項に対応する明示的な記載は存しない。
そこで,本件カバー体が「透光性を有する」との事項が,本件当初明細書
等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて,以下,検討する。
(2) 工業分野一般において,透光性とは,物質を光が透過して他面から出るこ
とをいう(JIS工業用語大辞典第5版(乙1))ところ,本願発明の技術分
野における「透光性」の用語が,これと異なる意味を有するものとみるべき
事情は存しない。
そうすると,本件カバー体が「透光性を有する」とは,本件カバー体が光
を透過させて他面から出す性質を有することを意味するものといえる。
(3) 次に,上記1のとおり,本件カバー体は織布又は不織布から構成されると\nころ,本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する技術常識につい
て検討する。
証拠(甲23,24)及び弁論の全趣旨によれば,本件出願よりも前の時
点において,遮光カーテンの生地に遮光性能を付与するために,有彩色の生\n地に黒色の生地を重ねて二重にする,有彩色の糸と共に黒色の糸を使用して
生地を製造する,黒色顔料を配合した塗料を生地に塗布積層する,黒色顔料
を配合したプラスチックフイルムを生地に張り合わせるなどの方法が採られ
ていたことが認められる。また,証拠(乙4,10)及び弁論の全趣旨によ
れば,本件出願よりも前の時点において,織布である樹木の萌芽抑制シート
の遮光性を高めるために,糸材にカーボン粉末が練り込まれた黒色糸を使用
する方法が採られたり,織布又は不織布である野生動物侵入防止用資材の遮
光率を高めるために,繊維間又は糸条間の間隔を小さくして光を通しにくく
する方法が採られたりしていたことが認められる。
このように,本件出願よりも前の時点において,織布又は不織布に遮光性
能を付与するために,特殊な製法又は素材を用いたり,特殊な加工を施した\nりするなどの方法が採られていたことからすれば,本件出願時において,織
布又は不織布に遮光性を付与するためにはこのような特別な方法を採る必要
があるということは技術常識であったといえる。そうすると,このような特
別な方法が採られていない織布又は不織布は遮光性能を有しないということ\nもまた,技術常識であったとみるのが相当である。
そして,繊維分野において,遮光性能とは,入射する光を遮る性能\をいう
(「JISハンドブック 31 繊維」(乙8))から,遮光性能を有しないと\nいうことは,入射する光を遮らずに透過させること,すなわち上記(2)の意味
における「透光性」を有することを意味することとなる。
以上検討したところによれば,織布又は不織布について遮光性能を付与す\nるための特別な方法が採られていなければ,当該織布又は不織布は透光性を
有するということが,本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する
技術常識であったとみるのが相当である。
(4) 以上を前提として,本件カバー体が「透光性を有する」との事項が,本件
当初明細書等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて検討する。
上記(3)によれば,本件出願時における当業者は,織布又は不織布について
遮光性能を付与するための特別な方法が採られていなければ,当該織布又は\n不織布は透光性を有するものであると当然に理解するものといえる。
そして,上記1のとおり,本件当初明細書等には,織布又は不織布から構\n成される本件カバー体につき,遮光性能を有する旨や遮光性能\を付与するた
めの特別な方法が採られている旨の明示的な記載は存せず,かえって,本件
カバー体が通気性や通水性を有する旨の記載(【0035】)や,本件カバー
体の表面の少なくとも一部は本件カバー体を構\成する材料がそのまま露出し,
通気性や通水性を妨げる顔料やその他の層が形成されていない旨の記載(【0
036】)が存するところである。
このような本件当初明細書等の記載内容からすれば,当業者は,本件カバ
ー体を構成する織布又は不織布について,特殊な製法又は素材を用いたり,\n特殊な加工が施されたりするなど,遮光性能を付与するための特別な方法は\n採られていないと理解するのが通常であるというべきである。
そうすると,本件当初明細書等に接した当業者は,本件カバー体は透光性
を有するものであると当然に理解するものといえるから,本件カバー体が「透
光性を有する」という事項は,本件当初明細書等の記載内容から自明な事項
であるというべきである。
(5) 以上によれば,本件補正は,本件当初明細書等の全ての記載を総合するこ
とにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入す
るものではなく,本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたも
のといえるから,特許法17条の2第3項の要件を満たすものと認められる。
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2017.08.11
平成28(行ケ)10157 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成29年7月19日 知的財産高等裁判所
訂正要件を満たさない(新規事項)とした無効審決が取り消されました。
前記1の認定事実によれば,実施例2においては,醸造酢(酸度10%)15部,
スクラロース0.0028部等を含有する調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6
の割合で合わせて瓶詰めをしてピクルスを得た結果,当該ピクルスは,スクラロー
スを添加していないものに比べて,酸味がマイルドで嗜好性の高いものに仕上が
り,ピクルスに対する酸味のマスキング効果が確認されたことが認められる。そう
すると,醸造酢を含有する製品として,酸味のマスキング効果を確認した対象は,
調味液ではなくピクルスであるから,当該効果を奏するものと確認されたスクラ
ロース濃度は,上記調味液におけるスクラロース濃度ではなく,これに水分等を含
むきゅうりを4対6の割合で合わせた後のピクルスのスクラロース濃度であると
認めるのが相当である。
これに対し,本件明細書に記載された0.0028重量%は,調味液に含まれる
スクラロース濃度であるから,当該濃度は,酸味のマスキング効果が確認されたピ
クルス自体のスクラロース濃度であると認めることはできない。
他方,ピクルスにおけるスクラロース濃度は,実施例2において調味液のスクラ
ロース濃度を0.0028重量%とし,この調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6
の割合で合わせ,瓶詰めされて製造されるものであるから,きゅうりに由来する水
分により0.0028重量%よりも低い濃度となることが技術上明らかである(き
ゅうりにスクラロースが含まれないことは,当事者間に争いがない。)。そして,0.
0028重量%よりも低いスクラロース濃度においてピクルスに対する酸味のマ
スキング効果が確認されたのであれば,ピクルスにおけるスクラロース濃度が0.
0028重量%であったとしても酸味のマスキング効果を奏することは,本件明
細書の記載及び本件出願時の技術常識から当業者に明らかである。そのため,スク
ラロースを0.0028重量%で「醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品」に
添加すれば,酸味のマスキング効果が生ずることは当業者にとって自明であり(実
施例3の「おろしポン酢ソース」では,スクラロース0.0035重量%で酸味の\nマスキング効果が生じ,実施例4の「青じそタイプノンオイルドレッシング」では,
スクラロース0.0042重量%で酸味のマスキング効果が生じることがそれぞ
れ開示されている。),このことは本件明細書において開示されていたものと認め
られる。
そうすると,製品に添加するスクラロースの下限値を「製品の0.000013
重量%」から「0.0028重量%」にする訂正は,特許請求の範囲を減縮するも
のである上,本件訂正後の「0.0028重量%」という下限値も,本件明細書に
おいて酸味のマスキング効果を奏することが開示されていたのであるから,本件
明細書に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。
したがって,訂正事項1は,当業者によって本件明細書,特許請求の範囲又は図
面(以下「本件当初明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導か
れる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものといえる
から(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号同20年5月30日
特別部判決参照),特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定
に適合するものと認めるのが相当である。
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2008.04.15
◆平成19(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年03月25日 知的財産高等裁判所
訂正要件を満たさないとして訂正を認めなかった審決が取り消されました。
「本件訂正が,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書きの「ただし,その訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず,・・・」との規定に違反していると判断しており,その理由は,転記した訂正拒絶理由と示したものと同じとしている。そして,審決は,前記1(2)エ(ア)ないし(ウ)を転記しているので,訂正発明が,「文章が日本語として明確でなく,かつ意味不明である。」から,「それ自体意味不明な訂正発明は,特許明細書に記載がなく,また,特許明細書の記載から自明なものとは認められない。」として,本件訂正が,明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないと判断したものと認められる。そして,そのように認定判断した理由は,訂正拒絶理由通知書に記載した(1)ないし(7)の理由であると認められる。そこで,(1)ないし(7)の理由について検討する。・・・したがって,上記(7)の理由も失当である。(5) 以上によれば,本件訂正が,明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないと判断した審決の判断は誤りであり,原告主張の取消事由2は理由がある。」
◆平成19(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年03月25日 知的財産高等裁判所
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2007.07. 5
◆平成18(行ケ)10436 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年06月27日 知的財産高等裁判所
最終的には、進歩性無しとの審決は維持されましたが、新規事項であるとの取消理由1については、誤りであると認定しました。
「上記アの認定事実及び各図を総合すると,図6は,支持部材40が取り外された状態,又は支持部材40のスライド部を基礎部材30のスライド部に取り付ける前の状態のいずれかを図示したものであることは自明であり,また,図6aのようにスライド係合させ,支持部材40を基礎部材の下方に移動させると,「しるし38」は支持部材により覆われ,支持部材40の下部は,基礎部材30の下部の突出部(図5参照)に接触して係止することも自明である。そうすると,「引き伸ばすための手段が『スライド手段をスライドさせて支持部材を基礎部材から取り外す際に露出する』ことについては,本件特許に係る願書に添付した明細書又は図面(すなわち,本件明細書)に記載されている事項から自明であると解される。
ウ これに対し被告は,「支持部材が基礎部材に完全に取り付けられた状態では,支持部材40の下部がつかみ手段22なる引き伸ばすための手段に重なっている」ことは読み取ることができないなどと主張する。しかし,前記ア?@のとおり本件明細書には「そのようなしるしは,支持部材が基礎部材に取り付けられているときは見えないように隠れており,支持部材が取り外されたときは見えるような場所に置かれているのが特に好ましい。」と記載されていることに照らすならば,図6は,支持部材40が取り外された状態,又は,支持部材40のスライド部を基礎部材30のスライド部に取り付ける前の状態のいずれかを図示したものと理解できる。また,図5及び図6からは,支持部材の下部が,基礎部材の下部の突出部に接触して係止した際には,支持部材の下部は,引き延ばすための手段22を隠す寸法になっているかどうかは,必ずしも明確ではないが,本件明細書の上記記載を併せ考慮すると,支持部材の下部が,基礎部材の下部の突出部に接触して係止した際には,引き延ばすための手段22が支持部材の下部に隠れ,図6のように,支持部材が上方に移動すれば,引き延ばすための手段22が露出し,しるしも見えるようになると理解するのが合理的である。」
◆平成18(行ケ)10436 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年06月27日 知的財産高等裁判所
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2006.06.23
◆平成17(行ケ)10608 特許取消決定取消請求事件 平成18年06月20日 知的財産高等裁判所
本件特許明細書に記載されていない事項に訂正するものであるので訂正要件を満たしていないとした審決が、維持されました。
「要するに,本件特許明細書において,これに接した当業者が,「アルミニウム」として,いいかえると「不可避的不純物として含まれる量のアルミニウムを含まない」ものとして,個別具体的に明示されているに等しいと認識し得るようなものではなく,存在する一群の不可避的不純物の中に含まれているかもしれないし,含まれていないかもしれないというにとどまるものである。したがって,本件特許明細書には,鉄系材料におけるアルミニウムの含有量が「不可避的不純物として含まれる量を超える量」であるかについての記載は,一切存在しないというほかない。
以上によれば,鉄系材料におけるアルミニウムの含有について,本件訂正事項のように限定することは,本件特許明細書に記載していない事項であるし,本件特許明細書の記載に接した当業者であれば,本件出願時の技術常識に照らして,そのような限定が記載されているのと同然であると理解する自明な事項であるともいえない。」
◆平成17(行ケ)10608 特許取消決定取消請求事件 平成18年06月20日 知的財産高等裁判所
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2004.05.21
◆H16. 5.19 東京高裁 平成14(行ケ)358 特許権 行政訴訟事件
異議申立では、いわゆる新規事項として訂正が認められませんでしたが、裁判所はこれを取り消しました。
「これら記載を総合考慮すれば,本件明細書に接した当業者は,本件特許出願時の技術常識に照らし,内壁と外壁との空間部に通常の雰囲気空気が存在した状態で充填口をシールしても,一定の吸湿防止及び酸化防止という本件発明1〜3の効果を奏することが可能であり,本件明細書には,「空気」のみを封入することが記載されているのと同然であると理解するものと認めるのが相当である。」
◆H16. 5.19 東京高裁 平成14(行ケ)358 特許権 行政訴訟事件
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2003.10.23
◆H15. 7. 1 東京高裁 平成14(行ケ)3 特許権 行政訴訟事件
補正事項が要旨変更であるとして補正却下され、補正却下不服審判でも同様に判断され、出訴しましたが、裁判所も要旨変更と認定した事例です。
裁判所はこの事案で、「当初明細書に記載されている」とは、「現実には記載がなくとも,現実に記載されたものに接した当業者であれば,だれもが,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解するような事項であるといえなければならず,その事項について説明を受ければ簡単に分かる,という程度のものでは,自明ということはできない」と述べています。
この事件は、当初は見過ごしていました。しかし、特許庁の補正に関する審査基準案に対して出されたパブリックコメントに対する事例として説明されているので、取り上げてみました。特許庁は、条文上は「当初明細書に記載された範囲内」というように文言が同じにもかかわらず、平成6年前後で補正の内容的制限が変わったというスタンスをとっています。ですから、本来的には、この判決をあげるのはおかしいわけです。それとも、今回の基準改定で変わったんでしょうか?
裁判所は、「当初明細書に記載された「各家庭内等」とは,前記認定の(1)エ(発明が解決しようとする課題)及びケ(発明の効果)の記載に照らすならば,「屋外」を包含しないと解するのが相当である。上記補正後発明の請求項1に記載された技術的事項(d)のうち,実行したデータ情報を「屋外」に伝送する点については,当初明細書に記載されているということはできない。」、「 (5) 原告は,本件補正書において補正した事項は,当初明細書の請求項1,2中の「等」及び「など」の語によって,すべて記載されていると解すべきである,と主張する。しかしながら,・・・・そこで現実に記載されたものから自明な事項であるというためには,現実には記載がなくとも,現実に記載されたものに接した当業者であれば,だれもが,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解するような事項であるといえなければならず,その事項について説明を受ければ簡単に分かる,という程度のものでは,自明ということはできないというべきである。本件補正に係る事項のうち,上記(2)ないし(4)で指摘した事項は,いずれも当初明細書の記載から上記の意味で自明な事項ということはできず,「等」及び「など」の語によって記載されているに等しい事項であるということができないことは明らかである。」と述べました。
◆H15. 7. 1 東京高裁 平成14(行ケ)3 特許権 行政訴訟事件
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2003.10. 8
◆H15.10. 6 東京高裁 平成15(行ケ)120 特許権 行政訴訟事件
1つの争点として、新規事項に該当するかが争われました。
裁判所は、本件補正は特許庁と同様に、新規事項と判断しました。特許庁の代理人である指定代理人は、補正できる範囲について、”直接的かつ一義的に導き出せるものだけでなく、当初明細書等の記載に基づいて当業者が自明でないので、本件補正は,当初明細書等の範囲外の事項を含むものして許されない”と03年夏に発表された審査基準案を先取りした形で、本件補正は新規事項だと主張しました。
裁判所は、これをそのまま認め、「そうすると,本願発明の蒸留装置に回転ドラム等を設けることは,当初明細書等に直接記載されていないばかりでなく,当初明細書等に記載した事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項であるとも,また,当業者に自明な技術事項であるとも認められないから,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということはできない。」と判断しました。
◆H15.10. 6 東京高裁 平成15(行ケ)120 特許権 行政訴訟事件
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