訂正要件を満たさない(新規事項)とした無効審決が取り消されました。
前記1の認定事実によれば,実施例2においては,醸造酢(酸度10%)15部,
スクラロース0.0028部等を含有する調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6
の割合で合わせて瓶詰めをしてピクルスを得た結果,当該ピクルスは,スクラロー
スを添加していないものに比べて,酸味がマイルドで嗜好性の高いものに仕上が
り,ピクルスに対する酸味のマスキング効果が確認されたことが認められる。そう
すると,醸造酢を含有する製品として,酸味のマスキング効果を確認した対象は,
調味液ではなくピクルスであるから,当該効果を奏するものと確認されたスクラ
ロース濃度は,上記調味液におけるスクラロース濃度ではなく,これに水分等を含
むきゅうりを4対6の割合で合わせた後のピクルスのスクラロース濃度であると
認めるのが相当である。
これに対し,本件明細書に記載された0.0028重量%は,調味液に含まれる
スクラロース濃度であるから,当該濃度は,酸味のマスキング効果が確認されたピ
クルス自体のスクラロース濃度であると認めることはできない。
他方,ピクルスにおけるスクラロース濃度は,実施例2において調味液のスクラ
ロース濃度を0.0028重量%とし,この調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6
の割合で合わせ,瓶詰めされて製造されるものであるから,きゅうりに由来する水
分により0.0028重量%よりも低い濃度となることが技術上明らかである(き
ゅうりにスクラロースが含まれないことは,当事者間に争いがない。)。そして,0.
0028重量%よりも低いスクラロース濃度においてピクルスに対する酸味のマ
スキング効果が確認されたのであれば,ピクルスにおけるスクラロース濃度が0.
0028重量%であったとしても酸味のマスキング効果を奏することは,本件明
細書の記載及び本件出願時の技術常識から当業者に明らかである。そのため,スク
ラロースを0.0028重量%で「醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品」に
添加すれば,酸味のマスキング効果が生ずることは当業者にとって自明であり(実
施例3の「おろしポン酢ソース」では,スクラロース0.0035重量%で酸味の\nマスキング効果が生じ,実施例4の「青じそタイプノンオイルドレッシング」では,
スクラロース0.0042重量%で酸味のマスキング効果が生じることがそれぞ
れ開示されている。),このことは本件明細書において開示されていたものと認め
られる。
そうすると,製品に添加するスクラロースの下限値を「製品の0.000013
重量%」から「0.0028重量%」にする訂正は,特許請求の範囲を減縮するも
のである上,本件訂正後の「0.0028重量%」という下限値も,本件明細書に
おいて酸味のマスキング効果を奏することが開示されていたのであるから,本件
明細書に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。
したがって,訂正事項1は,当業者によって本件明細書,特許請求の範囲又は図
面(以下「本件当初明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導か
れる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものといえる
から(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号同20年5月30日
特別部判決参照),特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定
に適合するものと認めるのが相当である。
◆判決本文