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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

新たな技術的事項の導入

平成23(行ケ)10415 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年11月29日 知的財産高等裁判所

 新規事項およびサポート要件違反でないとした審決が維持されました。
 本件補正によって当初明細書の請求項1(請求項1を引用するその他の請求項も同様である)に「Ag3Sn金属間化合物を有する無鉛ハンダ合金であって」,「前記Ag3Sn金属間化合物がネットワークを形成して相互に連結されている」との事項が追加された(前記第2,2(1)で下線を付した部分のとおり。)。
イ 当裁判所の判断
 当初明細書の【0017】には,「Sn−Ag系合金においては,凝固組織の中にAg3Sn金属間化合物のネットワークが生成し」ていること,Sn−Ag系ハンダ合金にCuを0.3質量%以上添加したハンダ合金においても同様に,「Ag3Sn金属間化合物のリング状ネットワーク」が存し,これが「密にな(る)」ことが記載されている(前記1(1)イ)。また,Sn−Ag系ハンダ合金において,Ag3Sn金属間化合物がネットワークを形成すること,そのネットワークがリング状であること,その他合金元素が数%添加された場合でも基本的にAg3Snの組織は維持されることは,いずれも技術常識と認められるものでもある(前記1(3)アないしウ)。このような当初明細書の【0017】の記載及び技術常識によれば,当初明細書の請求項1に係る合金が「Ag3Sn金属間化合物を有する無鉛ハンダ合金であ(る)」こと,「前記Ag3Sn金属間化合物がネットワークを形成して相互に連結されている」ことは,いずれも自明な事項として把握できる。また,Sn−Ag合金に,他の元素を添加した場合にも,Ag3Snの微細分散組織が維持されることは技術常識(前記1(3)アないしウ)と認められるから,請求項1の合金に,Ni,Sb及びZnをさらに添加する請求項2,3に係る合金についても,「Ag3Sn金属間化合物を有する無鉛ハンダ合金であ(る)」こと,「前記Ag3Sn金属間化合物がネットワークを形成して相互に連結されている」ことは自明である。以上よりすると,本件補正は,当初明細書の【0017】に記載した事項の範囲内においてしたものといえるのであって,この点に関する審決の判断に誤りはない。
ウ 原告の主張について
原告は,当初明細書には,「Ag3Sn金属間化合物を有する無鉛ハンダ合金であって」という明示的な記載はなく,当該補正は,「Ag3Sn金属間化合物」を「有する」として,上位概念化をしたものであるから,当初明細書の記載から自明ではない新たな技術的事項を導入するものであると主張する。しかし,上記イのとおり,Sn−Ag合金においては,Ag3Sn金属間化合物がネットワークを形成するのであって,「Ag3Sn金属間化合物」を「有する」との補正は,その前提として,当該合金にAg3Sn金属間化合物が存することを確認的に示したにすぎないと解される。また,原告は,「前記Ag3Sn金属間化合物がネットワークを形成して相互に連結されている」との補正は,当初明細書の【0017】の「Ag3Sn金属間化合物のリング状ネットワークが密になり」との記載から,「リング状」という形状の規定を削除して上位概念化するものであると主張する。しかし,上記イのとおり,Sn−Ag系ハンダ合金において,Ag3Sn金属間化合物がネットワークを形成すること,そのネットワークがリング状であることは,技術常識と認められるから,請求項1に「リング状」という形状の規定が存在しないからといって,上位概念化されているということはできない。さらに,原告は,当初明細書には本件発明2,3について合金の組織がどのようなものであるかについては一切開示がないとも主張するが,上記イのとおり,Sn−Ag合金に,他の元素を添加した場合にも,基本的にはAg3Snの微細分散組織が維持されることは技術常識であるから,原告の主張は採用の限りではない。

◆判決本文

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平成23(行ケ)10383 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月10日 知的財産高等裁判所

 補正が新規事項であるとした審決が取り消されました。
 上記記載によれば,引用例の図2及び図3には,図1に示すダイヤフラム式ポペット弁体とは異なるロールダイヤフラム式ポペット弁体122が示されていること,ロールダイヤフラム式ポペット弁体122は,ポペット弁体の頭部126と一体で頭部からポペット弁体フランジ128へ軸線方向に延在するスリーブ124を具備すること,スリーブ124は「ロール及び非ロール動作」をすること,ピストンの頭部82の壁表面はスリーブ124の内側表\面を支持することが理解できる。ダイヤフラム式ポペット弁体とは異なるロールダイヤフラム式ポペット弁体の存在は引用発明の前提とされており,ロールダイヤフラム式ポペット弁体自体は詳細に説明されていないことからすると,ダイヤフラム弁の技術領域において,通常のダイヤフラム弁と,それとは異なり「ロール及び非ロール動作」を伴うローリングダイヤフラム弁とが存在することは,引用例が公開された平成13年6月29日時点において,特段の説明を要しない技術常識であったことが理解できる。
3 上記の「反転」の一般的意味及び技術常識に照らし,また,審判請求書における原告の主張を合わせると,本件補正によって追加された「前記膜部を反転させることなく,前記閉鎖または開放を行うこと」の構成は,「膜部の一部が天地を逆転することがなく,具体的には,ロールダイアフラム式ポペット弁のような開閉時に薄膜のロール・非ロール動作を伴うことなく」との意味であることが明らかである。
4 以上によれば,「前記膜部を反転させることなく,前記閉鎖または開放を行うこと」とは,ロールダイアフラム式ポペット弁のような開閉時に薄膜のロール・非ロール動作を伴うものではないものである,という程度の意味で膜部の一部で天地が逆転しないものであることと理解すべきであり,係る事項を加えることは,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものといえる。
・・・
被告は,ダイアフラム弁の技術分野において「反転」の用語は,非ローリングダイアフラム弁においても通常用いられており(乙1〜3),それは当業者にとって技術常識といえるものであるから,「前記膜部を反転させることなく,前記閉鎖または開放を行うこと」という補正事項は,原告が限定したとする通常型をも除く意味を有することとなるから,「ローリングダイアフラム弁を除く」ことと同義とはいえない,と主張する。しかしながら,乙1〜3に記載された「反転」の意味は,乙1においては,図3に示されるように,膜体6の周囲の支持部と凸球面状の弁体3の下端との位置関係が逆になることをいい,乙2においては,ダイアフラムの外周部の湾曲方向が上向きの凸形状と下向きの凸形状に変化することをいい,乙3においても乙2と同様のことをいうと理解でき,本件補正における「前記膜部を反転させることなく,前記閉鎖または開放を行うこと」とは次元が異なるから,乙1〜3の記載をもって,本件補正を不適法とすることはできない。

◆判決本文

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平成24(行ケ)10018 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月10日 知的財産高等裁判所

 新規事項であるとした審決が取り消されました。
   当初明細書等の段落【0027】,【0028】,図3及び図4の記載によれば,本件特許にかかる発明の第2の実施形態として,赤,緑,青の三原色によるカラー表示を行うアクティブマトリクス型カラー液晶表\示装置であって,各画素領域12が,列単位で赤,緑,青のいずれかの色を表示するストライプ状配列となっており,赤,緑,青の各色が3列おきに繰り返し配置されているものが記載されていることが認められる。次に,段落【0029】及び図3には,第2の実施形態は,各列に補助容量連結ライン16を配置した第1の実施形態の変形例であって,ドレインライン10の3本につき1本の補助容量連結ライン16を配置するものであることが記載され,また,段落【0030】には,第2の実施形態は,第1の実施形態より補助容量連結ラインの本数が少なくても,近くに配置された補助容量連結ラインを介して他の補助容量ラインから電荷を補い,信号電圧を矯正することができ,さらに,第1の実施形態よりも補助容量連結ラインが少ないため,補助容量連結ラインによる開口率の低下を抑えることができるという効果を奏するものであることが記載されているといえる。そうすると,第2の実施形態は,赤,緑,青の各色が3列おきに繰り返し配置されている画素領域の3列につき1列に補助容量連結ラインを設けることによって,上記効果が得られるものであって,その効果は,補助容量連結ラインを赤,緑,青のいずれの画素領域の列に設けても得られるものであるということができる。そして,補助容量連結ラインによる開口率の低下が問題となっていることから,透過型の表\示装置について記載したものであると認めることができる。以上より,当初明細書等には,補助容量連結ラインが,赤,緑,青の三原色のうちの緑に限定されない特定の色を表示する画素電極を有する画素領域にのみ選択的に形成される,カラー表\示を行う透過型のアクティブマトリクス型表示装置,すなわち,技術的事項Aが記載されているものと認められる。したがって,本件補正によって導入された技術的事項Aは,当初明細書等の記載から把握できる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものとはいえない。よって,本件発明1,3〜6に係る特許は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであるとの審決の判断は誤りであり,取消事由1は理由がある。
なお,審決は,「本件発明1の『ストライプ状に配列』することは,RGBが一定の周期で出現する配列のみを意味するものではなく,例えば,特開平10−54959号公報(甲16)の【0116】及び図67に記載されているような『RGB/BGR/RGB・・・』の配置のように,画素の色が異なる周期で現れるものもストライプ状配列としてよく知られているから,当初明細書等にストライプ状配列が記載され,かつ,補助容量連結ラインが3本につき1本配置されることが記載されていることのみをもって,画素領域の色の配列パターンと補助容量連結ラインの配列パターンとを関連付けて,補助容量連結ラインを緑以外の赤や青を含む特定の色の画素領域にのみ選択的に配置する,という技術的事項を把握することはできない。」(25頁13行〜27行)とした。しかし,前記のとおり,当初明細書等(甲2)の【0027】,【0028】,図3及び図4には,第2の実施形態は,赤,緑,青の三原色によるカラー表示を行うアクティブマトリクス型カラー液晶表\示装置であって,各画素領域12が,列単位で赤,緑,青のいずれかの色を表示するストライプ状配列となっており,このストライプ状配列は赤,緑,青の各色が3列おきに繰り返し配置されていることが記載されており,このような配列の記載を受けて,段落【0029】では,「ドレインライン10の3本につき1本の隣に補助容量連結ライン16が配置され,」と記載されているのであるから,これらによって技術的事項Aを把握することができる。「ストライプ状配列」という用語に,図3の具体的配列と異なる意味に用いる例があるからといって,補助容量連結ラインを緑以外の赤や青を含む特定の色の画素領域にのみ選択的に配置する技術的事項を段落【0028】,【0029】の記載から把握することはできないとの審決の判断は誤りである。
・・・上記のとおり,・・・第2の実施形態では,赤,緑,青の各色が3列おきに繰り返し配置されている画素領域の3列につき1列に補助容量連結ラインを設けることによって,第1の実施形態より補助容量連結ラインの本数が少なくても,信号電圧を矯正することができ,また,第1の実施形態よりも補助容量連結ラインによる開口率の低下を抑えることができるという効果(以下「任意の色の効果」という。)を奏するものであり,その効果は,補助容量連結ラインを赤,緑,青のいずれの画素領域の列に設けても得られることは明らかである・・

◆判決本文

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平成23(行ケ)10351 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月26日 知的財産高等裁判所

 補正が新規事項と認定されました。
 本件補正は,請求項1の特許請求の範囲に,一対の冷蔵室扉のうちのいずれか一方の後面(背面)に製氷室を取り付けるとの限定を加えるものであるが,願書に添付された当初明細書(甲1)の発明の詳細な説明には,冷蔵室扉よりも後方(内側)に位置する冷蔵室の内部に製氷室を設けることが記載されているのみで,扉自体に製氷室を内蔵させることは記載も示唆もない。また,当初明細書に添付の図面を見ても,扉自体に製氷室を内蔵させる構成を見て取ることができない。この点,原告は,当初明細書の段落【0019】,【0020】中で,かかる技術的事項(限定事項)が開示されていると主張するが,段落【0019】には,「前記製氷室は,前記冷蔵室の内部に着脱可能\に設けられる。」と記載されているのみで,冷蔵室扉自体に製氷室を内蔵させる構成が含意されていると見るのは困難である。段落【0020】にも,「前記扉の一側には,前記製氷室が備えられる。」との記載があるが,この1文に引き続いて,「前記冷蔵室を開閉する扉は,それぞれ異なる幅を有する。前記冷蔵室を開閉する複数の扉の先端には,それぞれガスケットが備えられ,扉が閉まった時,相互密着される。」との記載があることにかんがみると,上記「前記扉の一側」との文言も,冷蔵室の一対(複数)の扉相互間で構\造に違いがあることに着目した表現であるとみるのが合理的であって,単に一対の扉のうちの片方の側(より正確にはこの片方の扉の後方(内側))に製氷室が位置することを意味するものにすぎないというべきである。したがって,上記「前記扉の一側」が冷蔵室の扉の後面(内側の面)を指すとか,上記段落が冷蔵室扉自体に製氷室を内蔵させる構\成を意味するということはできない。さらに,当初明細書の発明の詳細な説明に係る段落【0026】,【0031】,【0056】,【0060】,【0074】には,給水タンクが冷蔵室内部における冷蔵庫本体の一側又は扉の一側に設けられることが記載されているものの,これらの段落では製氷室の設置箇所は特定されていないし,段落【0082】でも,給水タンクを冷蔵室内部又は冷蔵室扉裏面に設ける場合のメリットが記載されているだけで,製氷室を冷蔵室扉に内蔵させる場合の作用効果が記載も示唆もされていない。これら発明の詳細な説明の記載に照らしても,扉自体に製氷室を内蔵させる構成が新たな技術的事項の導入でないと認めることはできない。\n

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平成23(行ケ)10317 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年08月30日 知的財産高等裁判所

 裁判所は、訂正要件を満たしているとした審決を維持しました。明細書には、「前後左右に回動」と記載されているが、「前後左右に揺動」との記載は有りませんでしたが、図面から明らかであると認定されました。
 原告は,願書に添付した明細書及び図面には「揺動」という文言に関する説明が一切なく,本件発明において「揺動」という動きの意味が確定しない以上,訂正事項1−クが新たな技術的事項を導入するものであるのか否か自体の判断ができないし,被告自身が「回動」と「揺動」を異なる概念として用いていると説明している以上,訂正事項1−クは,回動を根拠としての訂正では別の技術的事項を導入することになるのは明らかであって,特許法134条の2第5項において準用する同法126条3項の規定に違反すると主張する。しかしながら,「揺動」とは,文字どおり「揺れ動くこと。揺り動かすこと。」(「広辞苑」第五版)を意味する。そして,本件訂正に際して基準とすべき本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の段落【0019】の「……図8(a)(b)に示す腹骨格部C1は,両端に設けた夫々の第一玉部(図面上で下側)52と第二玉部(図面上で上側)53を,夫々回動可能に嵌め込んだ断面視略U字状の腰部骨格連結部51と胸部骨格連結部56からなり……本実施形態では,胴部骨格Cを,腹骨格部C1と胸骨格部C2の二部構\成とし,かつ腰部骨格Bと腹骨格部C1との連結部およびこの腹骨格部C1と胸骨格部C2との連結部を夫々玉52,53を介して回動可能な構\造とした……本実施形態において,第一玉部52と第二玉部53を嵌め込む夫々の嵌め込み部51a・51aと56a・56aは,各第一玉部52と第二玉部53を嵌め込んだ時に,腰部骨格連結部51および胸部骨格連結部56が所望位置でその状態(例えば,左右いずれかの方向に所望角度をもって傾斜している状態)を維持できるように,各第一玉部52と第二玉部53が夫々緊密に摺接するよう構成するのが好ましい。このとき,嵌め込み部51a・51aと56a・56aは,夫々の曲面の曲率が各第一玉部52と第二玉部53の曲率と同一若しくは近似するものとする。……腰部骨格連結部51と胸部骨格連結部56は,夫々が前後左右に回動可能\(図8中,矢印Y1乃至Y4 で示す前後方向,矢印Y5 乃至Y8 で示す左右方向)……」との記載,及び【図2】,【図8】(本件特許の願書に添付した図面については,別紙参照)に記載されている「腰部骨格連結部51」,「胸部骨格連結部56」の構造からすると,それぞれの連結部が,前後にも左右にも揺れ動くことが可能\であること,すなわち,前後・左右に揺動可能であることは明らかである。したがって,本件発明の「揺動」の意味は明確であり,また,訂正事項1−クは,上記特許明細書等に記載した事項から自明な事項の範囲内において訂正したものと認められるから,新たな技術事項を導入するものとはいえない。\n

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平成22(行ケ)10402 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年12月26日 知的財産高等裁判所

 新規事項、且つ、サポート要件違反ありとした審決が維持されました。
 原告は,「1,2−ジヒドロキノン」や「1,4−ジヒドロキノン」などの「ヒドロキノン」は容易に酸化されて「1,2−ベンゾキノン(オルソベンゾキノン)」や「1,4−ベンゾキノン(パラベンゾキノン)」などの「ベンゾキノン」に変化し,「ベンゾキノン」が還元されると「ヒドロキノン」に変化するという関係に鑑みれば,「ヒドロキノン」,すなわち「1,2−ジヒドロキノン」や「1,4−ジヒドロキノン」はキノン類に属することは明らかであるとも主張する。しかし,特許法17条の2第3項の「明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができるというべきところ,当初明細書等の全ての記載を総合しても,本願補正発明の抗菌,抗ウイルス及び抗真菌組成物において,酸化能\力を有する試剤である過酸化水素やアズレンキノン等のキノンが,さらに酸化を受けた後に組成物中でその作用を発揮するということはできないので,当初明細書等に,酸化を受けて酸化能力を有する試剤に変換される物質を酸化能\力を有する試剤に含めることが記載されているということはできない。
・・・
 本願の当初明細書には,「抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物に用いられる(A)は,触媒機能を有する金属イオン化合物で,一般式は,M+aX−bで,Mは,ニッケル(Ni),コバルト(Co),・・・クロム(Cr),・・・鉄(Fe),銅(Cu),チタン(Ti),・・・白金(Pt),バラジウム(Pd),…からなる群から選択された金属元素・・・である・・・」(段落【0005】)と記載されているものの,M+aX−bで表\される成分(A)のMとして「銅」以外の金属を使用する組成物については,発明の詳細な説明に具体的データの記載がなく,また,本願の組成物が脂肪酸やDNAを分解するメカニズムを説明する記載もなく,脂肪酸やDNAの分解において組成物中の各成分が果たす役割を実証する記載もない。他方,本件補正後の請求項1の記載によって特定される3つの成分を組み合わせることにより,脂肪酸やDNAが分解でき,その結果,バクテリア,ウイルス及び真菌類を破壊,殺菌できることについて,具体例をもって示さなくとも当業者が理解できると認めるに足りる技術常識はない。そうすると,本願の組成物の成分(A)のMとして「銅」以外の金属を使用するものが,脂肪酸やDNAを分解でき,バクテリア等を破壊,殺菌するという課題を解決できるということはできないので,本願における発明の詳細な説明は,本件補正の請求項1の記載によって特定される成分(A)のMの全ての範囲において所期の効果が得られると当業者において認識できる程度に記載されているということができない。したがって,本件補正後の請求項1(本願補正発明)の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」(サポート要件充足)ということはできない。

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