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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

新たな技術的事項の導入

平成26(行ケ)10227  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年7月29日  知的財産高等裁判所

 補正が新規事項であるとした審決が維持されました
 これに対し原告は,1)当初明細書等の段落【0041】には,ミキサの 「混合信号」が,「m(t)=γcos(2πfct)cos(2πfct+φ(t)) (3)」の式( 式(3)」)で示されており,式(3)中の「cos(2πfct)」は送信信号,「cos (2πfct+φ(t))」は受信信号(甲15の1,2),「φ(t)」は,「送信お よび受信信号の経路差(単一の反射体により反射が決定される場合)」で あること(段落【0041】),2)当初明細書等の段落【0039】には, 「パルス波形」の「無線周波数信号」である送信信号が「s(t)=u(t)cos(2 πfct+θ) (1)」の式(式(1))で示されており,式(1)(送信信号s(t)) と式(3)(混合信号m(t))とを対比すると,式(1)中の位相角θと式(3)中の 経路差φ(t)が形式的に同等であることは明確であるから,位相角θと経路 差φ(t)は,いずれも,余弦関数の引数の中の瞬時位相として現れており, 信号の位相に関する情報を伝えるものであること,3)「φ(t)」は,一般に 「位相シフト」,「位相オフセット」,「位相差」(甲17の1,2)と呼 ばれていることからすると,「φ(t)」は,「位相シフト」,すなわち,「 位相差信号」を意味すること,4)送信された信号が反射して帰ってくると, その経路距離,すなわち経路差に応じて位相がずれており,「経路差」と「 位相差」は同じものを別の表現で表\したものであることは,当業者にとって 自明であり(甲20の1,2),「経路差(path difference)」と「位相差 (phase difference)」が密接に関連していることは,本願の優先権主張日 当時,一般的な技術常識であったこと,5)当初明細書等の段落【0072】 には,「反射信号に送信信号を乗じ,それより呼吸,心活動,および身体 機能または動作を示すベースバンド信号を出力するように乗算回路を設け\nてもよい。」との記載があること,及び6)当初明細書等の段落【0041 】及び図1(別紙明細書図面参照)の記載によれば,当初明細書等には, 式(3)中の「φ(t)」は,「送信および受信信号の経路差(単一の反射体に より反射が決定される場合)」を表すものであるが,「ベースバンド信号」\nから得ることのできる「位相差信号」でもあり,また,ローパスフィルタ のフィルタリングにより混合信号から2fcを中心とする成分が除去された 後の出力信号は,位相差信号である「φ(t)」となり,この位相差信号に「 動作,呼吸,および心活動に関する情報」を含んでいることが開示されて いるといえるから,位相差信号である「φ(t)」から,「動作,呼吸,およ び心活動に関する情報」を導出できることが記載されているなどとして, 当初明細書等に,補正発明の本件構成に係る技術が記載されている旨主張\nする。 しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア) 当初明細書等の段落【0041】中には, 「受信信号と送信信号は,ミキサと呼ばれる一般的な電子機器(アナロ グあるいはデジタル方式)により混合することができる。たとえばCW の場合,混合信号は以下に等しい。 【数3】 m(t)=γcos(2πfct)cos(2πfct+φ(t)) (3) ここでφ(t)は送信および受信信号の経路差(単一の反射体により反射が 決定される場合),γは反射信号の減衰量である。反射体が一定の場合 φ(t)およびm(t)は一定となる。我々に該当する例では,反射体(胸部な ど)が動作しており,m(t)が時間とともに変化する。簡単な例として, 呼吸により胸部が正弦動作している場合, 【数4】 resp(t)=cos(2πfmt) (4) 混合信号は,fm成分(およびフィルタリングにより簡単に除去可能な2f cを中心とする成分)を含んでいる。混合後のローパスフィルタの出力側 の信号を未処理センサ信号と称し,動作,呼吸,および心活動に関する 情報を含んでいる。」との記載があり,「φ(t)」は「送信および受信信 号の経路差(単一の反射体により反射が決定される場合)」であること が示されている。 しかるところ,「位相差」とは,同じ周波数を有し,同じ時点に属す るとされる二つの波の位相の差を意味し,0°〜360°の角度に相当 する値で示されるのに対し(甲17の1(訳文甲17の2),乙2), 「経路差」とは,二つの波の間における波の源と干渉が起きる点との間 の経路の長さの違いを意味するものであり,「経路差」は「位相差」が 生じる一般的な要因となるが(甲22の1(訳文甲22の2)),「位 相差」と「経路差」は,概念的に異なるものである。 また,当初明細書等には,補正発明の特許請求の範囲(本件補正後の 請求項1)の「位相差信号」が「経路差」と同義であることについての 記載はなく,「φ(t)」が本件補正後の請求項1の「位相差信号」あるい は「前記生体対象から反射された前記反射信号と前記生体対象に向けて 送信された前記無線周波数(RF)のパルス信号との位相差を示す位相 差信号」に相当することについての記載も示唆もない。もっとも,原告 が主張するように,式(1)(送信信号s(t))(当初明細書等の段落【00 39】)と式(3)(混合信号m(t))(同段落【0041】)とを対比する と,式(1)中の位相角θと式(3)中の経路差φ(t)が形式的に同等のもので あり,いずれも,余弦関数の引数の中の瞬時位相として信号の位相に関 する情報を伝えるという点で共通するといえるとしても,このことから 直ちに「φ(t)」が本件補正後の請求項1の「位相差信号」に相当するこ とを認めることはできない。
(イ) 仮に「φ(t)」が送信信号及び受信信号の「経路差」を表すとともに,\nその位相差を示す「位相差信号」を表したものと解する余地があるとし\nても,式(3)(m(t)=γcos(2πfct)cos(2πfct+φ(t)))は,ミキサから 出力された混合信号m(t)に位相差信号としての「φ(t)」の成分が含まれ ていることを示したものにすぎず,プロセッサが「ベースバンド信号」 を分析し,「φ(t)」を決定したことを示したものとはいえないし,当初 明細書等の記載事項全体をみても,プロセッサが「ベースバンド信号」 を分析し,「φ(t)」を決定し,又は決定することができることを示す記 載はない。 また,当初明細書等には,プロセッサが,「φ(t)」又は「位相差信号」 から「呼吸,心活動,および身体機能または動作のうち1つ以上の測定\n結果を導出」し,又は導出することができることについての記載はない。 (ウ) 以上によれば,当初明細書等には,式(3)中の「φ(t)」が,本件補 正後の請求項1の「位相差信号」あるいは「前記生体対象から反射され た前記反射信号と前記生体対象に向けて送信された前記無線周波数(R F)のパルス信号との位相差を示す位相差信号」に相当することについ ての開示があるものとはいえないし,また,プロセッサが「ベースバン ド信号」を分析し,「φ(t)」を決定し,「φ(t)」から「呼吸,心活動, および身体機能または動作のうち1つ以上の測定結果を導出」すること\nについての開示があるものともいえないから,当初明細書等に補正発明 の本件構成に係る技術が記載されているとの原告の主張は,理由がない。\n

◆判決本文

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平成26(行ケ)10087  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年1月28日  知的財産高等裁判所

 訂正要件(新規事項)を満たしていないとした審決が取り消されました。
 以上のような本件明細書の記載,特に本件発明7に関する記載とその技術的意義からすれば,本件明細書の記載を見た当業者であれば,可動アームに測定ユニットをどのように取り付けるかは本件発明における本質的な事項ではなく,測定ユニットは,その機能を発揮できるような態様で可動アームに保持されていれば十\分であると理解するものであり,そして,本件特許の出願時における上記技術常識を考慮すれば,可動アームに測定ユニットを取り付ける態様を,「懸下」以外の「埋設」等の態様とすることについても,本件明細書から自明のものであったと認められる。 したがって,本件明細書の記載を総合すれば,測定ユニットを「保持」する可動アームを含む本件訂正は新たな技術的事項を導入するものではなく,本件明細書に記載された事項から自明のものであると認められる。
(2) 審決の判断及び被告の主張について 審決は,測定ユニットを可動アームに取り付ける態様として,「保持」が上位概念,「懸下」,「埋設」及び「立設」がその下位概念であり,本件訂正は,「懸下」に加えて「埋設」や「立設」等の取付態様を含むものであり,本件明細書には「保持」について直接の記載はなく,「保持」が本件明細書における「懸下」の記載から自明な事項でもない理由として,次のアないしウのとおり述べている。しかし,審決のアないしウにおいて述べることは,次のとおり,理由がない。
ア 審決は,測定ユニットを可動アームに埋設した場合,「懸下」に比して「埋設」の態様によって,より速度の速い移動に対応できるとともに,懸下部材が不要となり,部品点数が少なくなるなどの一応の作用効果が生じることについて当事者間に争いがないから,「懸下」に比して「埋設」の態様が自明な事項,すなわち新たな技術的事項を導入しないものとまでいうことができない旨判断した(被告も同旨の主張をする。)。 しかし,審尋(甲32)に対する原告の平成26年1月23日付け回答書(甲34)の記載をみても,原告が上記作用効果が生じることを争っていないと認めることはできない。また,測定ユニットの可動アームへの「懸下」や「埋設」は,その具体的態様によって作用効果が異なるのであるから,測定ユニットの「懸下」を「埋設」にしたからといって,直ちに,より速度の速い移動に対応できるとともに,懸下部材が不要となり,部品点数が少なくなるなどの一応の作用効果が生じると認めることもできない。さらに,測定ユニットの「懸下」と「埋設」に関して,その作用効果において具体的な差異が生じるとしても,そのことは,本件明細書に記載された本件発明7の前記技術的意義とは直接関係のないことであり,また,本件特許の出願時における前記技術常識を考慮すれば,本件訂正発明2が本件明細書に記載された事項から自明であるとの前記認定判断を左右するものではない。 したがって,審決の上記理由から,本件訂正は新たな技術的事項を導入するものであるということはできない。
イ(ア) 審決は,測定ユニットが光照射によるものであれば,通常の構成では「埋設」した場合は原理的には測定ができないことになるが,特別の「配置,構\成」を用いるか,「撮像素子」等の手法を用いて測定することにより,測定が必ずしも不可能ではないということができるから,「測定可能\」な「埋設」の態様は,限定的なものであり,自明な事項であるとはいいきれず,新たな技術的事項を導入しないものとまでいうことはできない旨判断した(被告も同旨の主張をする。)。 しかし,前記(1)で判示したとおり,甲42文献ないし甲45文献によれば,バー コードラベルを斜め方向から読み取ったり,撮像素子で読み取ったりすることは,本件特許の出願当時,技術常識であったと認められる。 そうすると,当業者であれば,可動アームに測定ユニットを「埋設」した場合であっても,測定ユニットの機能が発揮することができるよう,光照射部がバーコードラベルの方向に向くように設置するものと認められ,このような「埋設」の態様は,本件明細書の記載と前記技術常識から自明であるから,「懸下」を「埋設」の態様にしたとしても,新たな技術的事項を導入するものとはいえない。\n

◆判決本文

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平成26(行ケ)10114  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年1月28日  知的財産高等裁判所

 構成要件の一部のみ取り出して特定事項とし,当該特定事項を含む補正発明が発明の詳細な説明に記載された事項の範囲内にあるかを検討することは、間違いであるとして、拒絶審決が取り消されました。
 審決は,「当該最終レンズの射出側の一部に,前記射出面が他の部分に対して突出して形成される突出部を有し」との特定事項を含む補正発明は,発明の詳細な説明に記載された事項を超えた事項を含むと判断した。 これに対し,原告は,審決が突出部に関する要件の一部を看過したと主張する(前記第3の1)。そこで,当該突出部の構成要件の内容について,以下,検討する。 補正発明は,「前記最終レンズは,前記液体と接する面であって前記照明光が通過する射出領域を一部に含む射出面と,当該最終レンズの射出側の一部に,前記射出面が他の部分に対して突出して形成される突出部を有し,前記第1方向の幅に基づいて規定される,前記突出部の中心は,前記第1方向に関して前記光軸から離れており,前記光軸に対して前記投影領域の中心と同じ側にある」との構成要件(以下「突出部の構\成要件」という。)を備えている。 ここで,「最終レンズ」に形成される「前記突出部の中心は,前記第1方向に関して前記光軸から離れており,前記光軸に対して前記投影領域の中心と同じ側にある」から,その突出部(射出面)は,その形状がどのようなものであれ,光軸から第1方向に関して投影領域の中心と同じ側に離れた位置に中心を有する。さらに,「第1方向」とは,「投影領域の中心は,前記光軸と直交する第1方向に関して前記光軸から離れて」いるという補正発明の構成要件における「第1方向」であり,投影領域の中心が光軸から離れる方向のことである。したがって,光軸から第1方向に関して投影領域の中心と同じ側に離れた位置とは,要するに,光軸から投影領域の中心に向かって離れた位置のことである。\n そうすると,突出部の構成要件は,全体として,最終レンズの突出部(射出面)が,それ自体の形状を問わず,光軸から投影領域の中心に向かって離れた位置に中心を有するという一つの事項を特定するものであるということができる。\n補正発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるか否かを判断するに当たっては,突出部の構成要件が全体として特定する上記の一つの事項が発明の詳細な説明に記載されているかどうかを検討すべきである。\nこれに対して,審決は,前記のとおり,突出部の構成要件の一部のみ取り出して特定事項とし,当該特定事項を含む補正発明が発明の詳細な説明に記載された事項の範囲内にあるかを検討している。したがって,その判断手法には誤りがあるといわざるを得ない。\n

◆判決本文

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